女「終電逃したから歩いて帰る」 (109)

たて

女A「……って、どこだろここ」

女A「うー、飲みすぎかな。全然道が分からない」

女A「電車で四駅のとこだから一時間ちょいで着くはずなんだけど……」

女A「これは本格的に迷子かもしれない」

女A「あ、人がいる。これはもう道訊いた方が早いな」

女A「すみませーん」

女B「はい?」

女A「ちょっと道に迷っちゃって」

女B「どちらまで?」

女A「○○市の方なんですけど……」

女B「かなり遠いですね。歩きだと一時間半くらいかかりますよ」

女A「(あたしは逆走してたのか……)」

女B「こんな時間ですし、歩いて帰るより漫画喫茶とかで時間潰された方がいいのでは?
   そういった施設なら案内できますけど」

女A「うーん、始発で明日の用事間に合うか微妙なんだよな……」

女B「○○市へ通じる道は大方検討がつきますが、あれだけ長い道のりだと途中でまた迷うことも」

女A「大いにあるなー」

女B「だいぶ酔ってられるようですし」

女A「もう酔ってないら」

女B「あ、でも歩いて帰ろうなんて思うくらいだから所持金も……」

女A「満喫で夜越せるほどありません」

女B「迂闊すぎるだろう……」

女A「どうしよう~」

女B「あの、寝たいですか?」

女A「え?」

女B「明日に備えて睡眠をとっておきたいですか?」

女A「できれば……。でも金ないから野宿するしかないし」

女B「じゃあ、徹夜ですね」

女A「そうなるのかな。家にたどり着けない限り」

女B「夜が明けるまで、この街を散歩しませんか?」

女A「……ん?」

女B「もちろん疲れたらベンチなどで休んで。それなら退屈も紛れるでしょう」

女A「は、はあ」

女B「じゃあ一緒に歩きましょう」

女A「はい……」

女A「(……何となく頷いてしまったが)」

女A「(知らない女の子と夜が明けるまで散歩?)」

女A「(何か変な子だな)」

女A「(そもそもあなた自身そんなことして明日大丈夫なのかっていう)」

女A「(……でも女独りで歩くよりは心強いし、いい……のかな?)」

女A「(あー、駄目だ。酔ってるからまともな判断できなくなってる)」

女A「あ、あのー……。おいくつですか?」

女B「先月二十歳になりました」

女A「ああ、じゃあタメだ。あたしも二十歳で」

女B「大学生?」

女A「そう。あなたは?」

女B「……」

女A「?」

女B「やっぱり、地元っていいですよね。落ち着く」

女A「この辺りに住んでるの?」

女B「はい。小さい頃から」

女A「地元かー」

女B「こんな真っ暗な住宅街、普通なら心細いはず。でも見慣れた風景だからどこか安心する」

女A「現にあたしはちょっと心細いですけどね。こんな暗い道、女独りで」

女B「あはは。夜に道に迷って辿り着いた先って得体のしれない感じがしますよね」

女A「そうそう。正直、あなたと歩いている今の状況だって少し怖いよ。あなたが何者なのか全然分からない。
   ひょっとしたら幽霊かも知れない」

女B「あ、分かります?」

女A「え……」

女B「怖いの苦手なんですね」

女A「ホントそういうのやめてください」

女B「それにしてもこの状況、面白いと思いません? 面白いだろうと思ったから提案したのだけど」

女A「と言いますと?」

女B「道に迷って行きついた街に留まるなんて、なかなかやらないでしょう」

女A「そりゃねー。いつもなら通過点でしかないもの」

女B「あなたにとってここは全然知らない得体の知れない土地。本当は一刻も早く抜け出したい。
   一方私にとってはすごく安心できる見知った地。そんな二人がこの街を散歩している。
   面白くないですか?」

女A「ああー……」

女A「(やっぱり変な子だな)」

女B「あなたを連れて歩く以上、うんと不安にさせてやりたいです。
   一方で奇妙な安心も与えたい」

女A「何言ってるの?」

女B「正直、結構なボランティアだと思うんですよ。私があなたにしてること」

女A「……まあ、夜明けまで一緒にいてくれるというのはありがたいです」

女B「その見返りと言ってはなんですが、私の個人的な欲望も満たしていく方向で行きたいなーと」

女A「あたしは無事夜を越せればそれで……」

女B「不安ですよね? この状況」

女A「そりゃまあ」

女B「そうですよね。家から徒歩二時間の見知らぬ街で夜を明かすなんて」

女A「……?」

女B「私、旅ってすごいと思うんです」

女A「(ポンポン取りとめもなく話題が出てくるなー、この子)」

女B「特に、昔の人がやってたような歩いてする旅」

女A「奥の細道みたいな?」

女B「そう。私もよく長い距離を歩くんです。そのときの街の見え方がすごく好きで」

女A「はあ」

女B「私は道を歩いてその街に辿り着く。そこでふと立ち止まる。周りを見渡す。
   今まで道という直線的なものしか見えてなかったのが、街という立体的な広がりが立ち上がる。
   これって、電車で言うところの途中下車みたいな」

女A「(ひょっとして、随筆めいたことを言ってるのかな。そういう話ならちょっと好きだけど)」

女A「あなたのやりたいこと、ちょっと分かった気がする」

女B「本当?」

女A「あなたはそういう街の見え方を知っている。そんな中、
   今度は自分の地元がそのような形で訪ねられた。
   あたしにとってあなたは見慣れぬ風景として立ち上がった。そんな状況に面白さを感じてる」

女B「すごい。まさにそんな感じだよ」

女A「繰り返すけど、あたしにとっては見知らぬ地でも、あなたにとっては慣れ親しんだ地元なんだものね」

女B「そう。あなたにとっては地元から徒歩二時間半の見知らぬ地でも」

女A「確かに、そんなよそ者と長く話す機会なんてあまりないからなあ」

女B「酔っ払い相手じゃないとできないよ」

女A「ははは、まったく」

女B「今やどこにでも人は住んでいる。どんな街も、誰かにとっての温かい地元なんだ。そういう感覚がさ」

女A「そういえば、今何時くらいだろう」パカッ

女B「ガラケー」

女A「スマホなんて持ってるなら地図アプリでとっくに帰ってるよ。……2時か。始発まではまだまだ」

女B「せっかくだから、少しこの街を案内しようか」

女A「ぜひ」

――公園

女B「ここがこの街で一番大きな公園」

女A「グラウンドが広いね」

女B「私が初めて自転車に乗れるようになったのもここです」

女A「どうでもいいな」

――商店街

女B「この街の主婦はだいたいここで買い物をするね」

女A「夜中の商店街ってすごく寂しいな」

女B「私も小さい頃はお母さんに着いて買い物に来たけど、
   大きくなってからはコンビニばっかりで、あまり寄らなくなったなー。
   今でも実家暮らしだから夕飯の買い物とか自分でやることないしねー」

女A「うん。同じスネかじりとしてはよく分かる」

――神社

女B「ここが……」

女A「ちょ、怖いんだけど」

女B「そりゃ雰囲気は物々しいけどさ、霊とかそういう話をするなら一番安全な所なんじゃないの?
   詳しくは知らないけど」

女A「理屈ではそうかもしれないけど、怖いものは怖い」

女B「一応紹介しておくと、千年以上の歴史をもつ由緒正しい神社だそうです。
   お祭りとかもよくやるよ」

女A「さ、次行こう」

――移動途中

女A「次はどこ?」

女B「えーと、私が小さい頃お世話になった小児科の前に……」

女A「明らかにネタ切れ感あるよね?」

女B「別にそんなことはないよ。私がこの街で育った思い出を辿ってるので」

女A「うーん……。ほら、その前に駅とかあるじゃん!」

女B「駅は駄目!」

女A「ひっ!?」ビクッ

女B「……あ、いや、帰るときのお楽しみってやつで」

女A「大きい声、びっくりするよ」

女B「ごめんごめん」

――公園

女A「あれ、ここさっき来たよね?」

女B「うん。もう歩き疲れたでしょ? しばらく休憩」

女A「そうだねー。あ、上等なベンチ……」ドサッ

女B「いい公園だと思わない?」

女A「うん。広いし、緑も多くて気持ちいい。あー、座ったら何だか眠くなってきたなー」

女B「……え」

女A「ここなら野宿も悪くないかも」

女B「めったなこと言うものじゃないよ」

女A「あなたが見張っててくれるなら、身の安全も大丈夫だし。ふぁー……」

女B「寝ちゃ駄目! 帰れなくなるよ!」

女A「えっ」

女B「こんな、あなたの地元から徒歩三時間のところで!」

女A「……さっきから思ってたんだけど」

女B「うん?」

女A「その徒歩何時間ってやつ。だんだん時間が延びてない?」

女B「……」

女A「適当なの?」

女B「あなたは遠い遠いところにいるんだよ」

女A「どういう意味?」

女B「引き止めたのは私の趣味だけど、あなたで遊んだ分、あなたの帰途には責任をもちたい。
   だから、言うこと聞いて。ね?」

女A「(何かおかしいぞ……)」

女A「今何時だろ」パカッ

女A「……三時か。あと一時間ちょい?」

女B「じゃあ、そろそろ行かなきゃね」

女A「え? 始発にはまだ……」

女B「ついてきて」

女A「あ、うん……」

女B「ガラケーでよかったね。電波時計なら使えなくなってたかも」

女A「(そういえば、圏外……)」

――数十分後

女A「ずいぶん歩くね。駅ってそんなに遠いの?」

女B「駅なんて、行っちゃいけないよ」

女A「どういうこと? 今は駅に向かってるんじゃないの?」

女B「歩いて帰るんだよ。あと二時間半もあれば着くでしょ」

女A「いや、それなら電車に乗った方が早いよ!」

女B「ところで、酔いは醒めてきた?」

女A「……?」

女B「周りが見えてきたと思うんだけど」

女A「……!」

女A「(何、これ……)」

女A「(周りにあるのは街。何の変哲もない街、なんだけど……)」

女A「(言いようのない違和感がある! 何だか、あたしの知ってる世界じゃないような)」

女A「(酔ってたから気付かなかったのか……。確かにここは見知らぬ地)」

女A「どこに連れていくつもり!?」

女B「あなたの地元へ」

女A「でも、あなたのやってること、明らかに変だよ!」

女B「……そうかもしれない。でも、着いてきてほしいの。絶対、送り届けるから」

女A「……」

女B「あなたと出会って数時間。本当に短い時間だったけど、色々お話をした。
   そんな中で、私という人間について、ちょっとでも何か分かったのなら」

女A「あなたという人間……」

女B「私は、どんな人間に見えた?」

女A「……全然分からないけど、この街が好きなんだね。それは感じた」

女B「そうだよ」

女B「あたしはこの街が好き。だからあなたにも、この街について悪い印象はもってほしくない」

女B「あなたにとって私は、この街の住人の代表。私がまともな案内をしないと、あなたはこの街を嫌いになってしまう」

女B「だから、ちゃんと送り届けるって、そう言ってるの」

女A「……分かったよ。ついていく」

女B「……ありがとう」

女A「ちゃんと道案内してよね」

――二時間後

女A「……あれ、ここらへん……」

女B「見覚えがある?」

女A「うん。もう完全に酔いは醒めてる。ここ、知ってるところだ」

女B「……よかったぁ」

女A「ちょっと、どうしたの? いきなり座り込んだりして。はい、手」スッ

女B「ありがと」スック

女B「残念だけど、ここから先、私は行けない」

女A「うん、大丈夫。ここからなら絶対迷わない」

女B「じゃあお別れか。ちょっと寂しい気もするけど、もうすっかり明るいしね」

女A「朝日に向かって歩いていく感じになるね」

女B「どうかな。私が案内して、ちょっとはあの街のこと分かった?」

女A「あなたにとって大切な地元だってことくらいは」

女B「なら、良かったよ。あなたにとっては見知らぬ土地だし、
   特に酔いが醒めた後はかなり気味悪く感じただろうけど、少なくとも私のような住人にとっては、
   かけがえのない地元なのだと、感じてくれれば」

女A「おんなじ話ばかりするね。あなたも酔ってたんじゃないの?」

女B「大事な話だから」

女B「最後に、言ってなかったね。あの街の名前」

女A「そういえば」

女B「どうせ今聞いても忘れるだろうから、紙に書いて渡すよ」カキカキ

女B「△△市だよ。はい」

女A「どうも。帰ってインターネットで検索してみる気にはなったよ」

女B「ぜひ、調べてほしいな」

女A「あはは。観光ガイドみたい」

女B「そういうわけじゃないのだけどね」

女B「お別れに。もう一度だけ同じ話をさせて」

女A「うん」

女B「どんな街にだって、そこを地元だと感じる人はいる。
   たとえ旅人にとってどれほど得体が知れなくて不気味なところだとしても、
   そこで生活している人がいる。そこで育った人がいる。そこに帰ると安心する人がいる」

女A「ほんとに同じ話……。分かったよ。何だかあたしも地元愛に目覚めそう」

女B「それじゃ、さようなら。楽しかったよ」

女A「さようなら。ありがとうね。長い時間」

――翌日、○○市、女Aの自宅

女A「ただいまー」

父「おかえり。今日はまともに帰ってきたな」

母「大学生活が楽しいのは分かるけど、あまりハメ外しちゃだめよ」

女A「へーへー」

――女Aの部屋

女A「ふー、やっぱ電車は偉大だわ。こんなにスムーズに帰れるとは」

女A「昨日のことのせいか、帰ってきたときの安心感がいつもより大きい気がする」

女A「地元だものねー」

女A「そういえば、あの街についてちょっと調べてみるか」

女A「メモもらっといてよかった。△△市……と」カタカタ

女A「……!」

女A「検索結果、0件……?」

女A「0件の言葉なんて逆に珍しいだろ……。あの子が書き間違えたのかな」

女A「いや、あれだけ地元愛に溢れてたあの子が間違えるはず……」

女A「……」

女A「色々とおかしいとは思ってたんだよね」

女A「まあ、おかしい点を挙げるとキリがないからやめとくけど」

女A「何だか、だいぶ見知らぬ土地に行ってしまってたよーな……」

女A「ああ、なるほど」

女A「そりゃあれだけ念を押すわけだ」

女A「どんな街にもそこを地元だと感じる人はいる……」

女A「自分の好きな街を嫌ってほしくない……」

女A「あたしにとってどれだけ気味が悪かろうと、あの子にとっては一番安心する地元」

女A「あたしもこの街に住んで長いけど」

女A「やっぱり帰ってくると安心するなー。地元」


おわり

なんかあとがき系って晒されそうで怖いけど

さっき終電逃して隣町から歩いて帰ってきたときに思いついた話です
途中で指摘のあった異世界系のスレは話の流れ的に意識した面はありますが
別に異世界系である必要のない話でもあります
あくまで地元っていう感覚がテーマってことで

読んでくださった方はありがとう

蛇足を重ねると
行きついた街が結局どこだったのかっていう細かい設定は考えてないというか割とどうでもいいので
好きに受け取ってください

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