夏に降る雪の色(140)


六月に君と見た雪は、サヨナラの色をしていた。


抱き締めるには、遠すぎて。

忘れてしまうには、近すぎて。



亜麻色の髪をした君は、いつも笑っていた。



蜂蜜色した髪のあの娘は、拗ねたような目で見上げた。


いつも一緒にいてくれるのが普通だと思っていたのに。


東北の田舎で起きた、一夏の奇跡。


防波堤の上から見たあの景色は、今も胸の中にありますか?



夏に降る雪の色――。







誰か、続きお願いします――。

なんでやねん!


亜麻色「高校を卒業したら、君はどこに行くの?」


 亜麻色は寂しそうに呟いた。

 二人で歩く、この寂れた漁師町の片隅は。

 その時まで、世界の全てだったんだ。


『僕は、この町を出るよ』

 何気なく言ったつもりだった。

 でも、声は震えていた。


亜麻色「そっか、あんたはこの町が好きだった?」


 二歩程先を歩く亜麻色の顔は見えない。

 ただ、夕暮れに照らされたその腰まで伸びた髪が綺麗で息をのんだ。

>>6
適切なツッコミだ


亜麻色「あんたは、私の後ろをずっと歩いていると思ってたんだけど」



『……亜麻色』


 亜麻色が振り返る。


 笑っているのに、何だか泣いている気がした。


亜麻色「もう……姉さんとは、呼んでくれないんだね」

 胸が痛い、気がした。

 潮風がもう一度、亜麻色の髪を揺らした。


 今度こそ。


『続き……頼むよ』

なんでやねん!


女が援交しまくってオヤジ達とやりまくる展開にするぞ!



亜麻色「あの噂……気にしているの?」


 亜麻色はまた歩き出してしまった。


 少し声が上擦っている。


亜麻色「馬鹿だよね……援助交際して、遊び歩いているなんて」


 蹴飛ばされた空き缶が乾いた金属音を立てて転がる。


 それは、少しの間転がると防波堤にぶつかって、もう一度小さく音を立てて止まった。


『亜麻色……俺は……』


亜麻色「顔見知りのおじさんしか居ないのにね、それとも片道三時間以上かけて援助交際しに行っていたとでも?」


 潮風に混じり、夏の臭いがしていた。

亜麻色「そんな噂に踊らされて、居づらくなっちゃったのに、私がこの町に居た理由、分かる――?」

亜麻色「あんたが居たからよ」

 夕日が徐々に宵闇に変わる中、放たれた言葉の意味を受け止める事ができなくて。


『……』

 視線を泳がすと、遠くから自転車の影が見えた。

 濃蜂蜜色の短めの二つ結いが自転車に併せて揺れている。


蜂蜜「こんな所に居たんですね二人とも……帰りましょう」

亜麻色「……良いタイミングだよ」

『ごめんね、さぁ帰ろう』

蜂蜜「兄さん、姉さん、何だか悲しそうですね。 どうかしたんですか?」

亜麻色「……何でもないわ」

『何でもないよ』

 そう、何でもないんだ。

 小さな古い民家に、亜麻色と蜂蜜と三人で暮らしている。

 ひとりも血はつながっちゃ居ない。

 作るだけ作って棄てる。

 俺は親父にそんな印象しかなかった。

 俺の母さんは、そんな亜麻色と俺と蜂蜜を面倒見続けて、ある冬の日、あっさりと逝った。
 くそ親父は援助を申し出た。

 亜麻色は、それを断った。

亜麻色「私が食わしていくから、私たちの人生に今後一切関わるな!!」

 それ以降、亜麻色には頭が上がらない。

 ここから一時間半かけて、お土産屋で働いて、俺たちを食わしてくれている。


 本当なら高校だって卒業したかっただろうに。


 彼女は、俺たち全員で幸せになろうと言ってくれたんだ。


 それが、私の幸せだって。

あのーほら、あれ思い出したアレ

ほら、ギャルのブログだよ

うん、これは>>1が最後まで書くべきだな
俺が代わると大変なことになるぞ多分

支援

『亜麻色……さっきの事なんだけど』

亜麻色「何?……手の掛かる弟と妹が居るから地元を離れるわけには行かないってだけよ」

 夜、亜麻色の部屋を訪ねると彼女はもう就寝間近なのか、寝具に身を包んでいた。

『……ごめん』

亜麻色「謝らないでよ、気にしちゃいないわ」

亜麻色「あんたは、とっとと田舎からでて幸せになっちゃいなさい? 私はそれが幸せなの」
 亜麻色は、部屋の入り口に立っている僕を手招きする。

亜麻色「あんたは、あんたと蜂蜜は、私の宝物だから」

 雑に撫で回された頭が心地よい。

『亜麻……姉さん』

亜麻色「なぁに? 甘えたくなったの。 ふふっ、一緒に寝てあげましょうか?」

『またからかって、じゃ、おやすみ、亜麻色』

亜麻色「……本気だったんだけどな」


『なんか言った?』


亜麻色「別に」


 続き、頼んでも良いのかな?

だーめ
>>1
ちゃんとしなさい!



蜂蜜「姉さん、兄さん。 朝食」



 家事全般は蜂蜜がやってくれている。

 亜麻色は働いてくれている。

 僕は……。


蜂蜜「兄さん、箸が止まっている」


 蜂蜜はあまり良いとは言えない目つきで僕を見ている。


 亜麻色は、僕と蜂蜜よりも30分程早く家を出る。


 その後は家の戸締まりを済ませ、蜂蜜と二人で学校へ向かう。

 蜂蜜が高校生になってからはいつも朝は二人だった。


蜂蜜「昨日は姉さんと何を?」

 自転車は一台しかないので、登校は二人乗り。

 蜂蜜は同年代と比較しても華奢な部類なので、けして壮健とは言えない僕でも苦もなく車輪は回る。

『進路について、かな』

蜂蜜「ん……そう」


 肩を掴む力が少し強くなった気がした。



 学校までの道のりは嫌いじゃなかった。

 海沿い、防波堤が続く通学路には顔馴染みの猫が退屈そうに防波堤の上でくつろいでいる。


 寂れた商店のベンチではお婆ちゃんがうたた寝している。

 変わらない、変わる事の無い日常風景。

 僕の世界が変わっていないと確信する為の確認作業。

 今日も空はきれいだ。

ねる

続き頼んでも――

――よか?――

続き待っとったばい
>>1
ちゃんとせんね!



自転車で20分も走ると、僕や蜂蜜が通う高校に着く。

高校といっても、都市部の高校の分校。

平屋の木造の校舎は、とても平成の今の世とは思えない趣だ。

嫌いじゃないけど。

「相変わらず仲が良いな」

声をかけられて振り返る。


 墨染の如き黒髪。

 腰まで伸ばした墨染の髪は光を乱反射して艶やかだ。

墨染「おはようお二人さん」


『墨染、おはよう』


蜂蜜「おはようございます。 先輩」


墨染「今日は暑くなりそうだ。 水分補給を怠るなよ」

 墨染はどんな目線で僕を見ているのか、三年間過ごしているが未だに分からない。


蜂蜜「ありがとうございます。 先輩も気をつけて」


確かに、今日も暑くなりそうだ。

>>1には期待している
ゆっくりで良いから完走を、な?


 数人しか居ない教室。

 教科書を黒板に写す教師。

 黒板をノートに写す生徒。


 空は蒼くて、 雲は白くて。

 校庭に生えた欅は緑で、蝉の声は五月蝿いくらいだ。

 汗ばんだ手がノートに張り付くあたりで板書を止めて窓の外をぼんやりと眺める。

 たまに吹く生ぬるい風は校庭の先にある海から潮の臭いを運んできた。


「ノート、とんなくて良いんだか?」


隣の席に座っている橙色の髪の同級生に声をかけられた。

橙色「しっかりせねばまいよ(しっかりしなきゃダメだよ)、親友」


そーいう橙色、君は教科書の種類が違う。

『やっと終わったね』

蜂蜜が自転車で先に帰宅しているから帰りは基本的に徒歩だ。

橙色「なぁ親友、今日あたりいいべやな?」

教室で鞄に荷物を纏めていると、橙色に声をかけられた。

墨染「どうした? 宵闇の逢瀬の相談か、隅におけないな」

したり顔の墨染。

墨染「夜遊びは、どうせなら楽しく、だ。 勿論私を誘ってくれるのだろう?」

橙色「んだな、へば迎えさいぐはんで家で待っててけろじゃな(そうだね、なら迎えに行くから家でまってて頂戴ね)」

墨染「世通しヤるつもりかい? やれやれ」


『なんだい?にやにやして』

墨染「いや、君の‘竿’が朝までもつか心配で、ね?」

 はは、それは中々うれしい心配だ。

この雰囲気好き
>>1頑張って



『今日の夜、ちょっと出かけるから』

 家に帰って、蜂蜜と亜麻色に出かける胸を伝えた。

亜麻色「誰と?」

『ん、橙色と墨染』


蜂蜜「へぇ」

 若干空気が重い。

 何故かは分からないけど。


亜麻色「変なことしちゃ駄目よ」

『するつもりはないよ』

 何の心配しているんだか?



 重い空気を打ち破るようなエンジン音が聞こえた。


 続いて、抜けるような明るい声。


橙色「親ー友っ!! 遊ーっぼ!!」

 橙色が来たようだ。
 エンジン音は彼女の愛車、スーパーカブの音だ。

『今行くよ』


 続いてもう一台のエンジン音。

 ブンブンと雀蜂の羽音のような音。

 昔の有名な探偵のドラマで使われていたスクーターで、‘ベスパ’というイタリア製の物。
 そんなマニアックなスクーターを乗り回しているのは。

『墨染も来たみたいだね』

 墨染。 やっぱり彼女は変わり者だ。


 二人が到着したので出発する事にする。


橙色「さぁ親友、わぁの後ろさ乗りへ(わたしの後ろに乗りなよ)!」


墨染「勿論私の後ろに乗っても良いが、揉むなら優しくだぞ?」


『君のベスパは二人乗りしちゃいけないって、国の偉い人が決めている筈だけど?』


墨染「こんな本州最北端の田舎だ、国の偉い人も気にしちゃ居ないさ」

 まぁ、うん。


橙色「どんでもいいじゃよ? 親友、わぁもう我慢できねぇじゃ(どうでも良いよ。親友、私はもう我慢できないよ)」


『ごめん橙色、それじゃ後ろ失礼するよ』

 スーパーカブの後ろに腰掛けて橙色の肩を掴む。

橙色「しっかり掴まねば、落ちてまるはんでな、親友?」

 安全運転を願おう。


 海沿いの道をしばらく走ると寂れた漁港に着く。


橙色「へば始めるか」

 橙色はスクーターに括り付けていた長い包みから日本の細い棒を取り出した。

 それを組み立てて、二メートルを少し越える程度の棒にする。


『気合い十分だね』

橙色「これがわぁの青春だばん♪」

墨染「やれやれ、飛ばしすぎだぞ橙色。 私のベスパちゃんは繊細なんだ。 そう急がせるな」


 風を切る音が堤防の上に響く。

数秒後ポチャン、という水音が響く。


墨染「む、腕を上げたな」

橙色「なんも、釣れねば意味ねぇべしょ?」

 そう、今行っているのは。


『さて、尺クラスのメバルでもねらおうかな』

 堤防ギリギリ、海藻が張り付いている場所にイソメをつけて静かに落とす。


墨染「詰まらない釣り方だな」

 墨染は、三メートル近い竿の先に天秤という釣り具をつけて、餌は房掛けにした大量のイソメ。

 全身を使いそれを遙か遠くまで投げ飛ばした。


 狙いは夏の高級魚、鱸【スズキ】。

 シーバスとも呼ばれ、80センチメートルを越える物も釣れる。


本格釣りSSに――

なっても良いべか?――

それだばそれでもいいばって……


 橙色はどうやらルアーで鱸を狙うらしい。

 忙しなく竿を小刻みに煽る。

 一見何もない所にルアーを投げ込んで適当にアクションを付けているように見えるが、それは大間違いだ。

橙色「来たッ」

 竿を立てアタリに合わせる。

 竿のしなりを見た所、かかったのは鱸。 サイズは60前後といった感じだ。

『さすが橙色。 海を知り尽くしてるね』

 彼女は小さい頃から父と一緒に船で漁に着いて行っていたらしい。

 さらに彼女はこの辺りの海を泳ぎ尽くしている。


橙色「今の時間はあっこが潮目だはんでな。 多分鰯ば追って鱸居るって思ったんだいな~♪(今の時間はあそこが潮目だからね。 たぶん鰯を追って鱸が居るって思ったんだよね~♪)」

>>36 訂正

日本の細い棒×

二本の細い棒○


橙色「ふっ……んぁ」



橙色「あぁ、んぅ」

 橙色は必死に竿を操りながら鱸を岸まで寄せていた。

 ただ、なんて言うか。


墨染「なんで橙色は魚を上げる時にあんな艶やかな声を出すのだろうな?」


『え、あぁ、うん』

 どうやら僕の勘違いでは無かったらしい。


橙色「あ、もう……んぅ」


 素早く背に負った三メートル近いタモを伸ばし、鱸を上げる。

 予想より大きい。 70センチはある。

橙色「にひ、まんずまずだな(ふふ、まずまずの大きさだね)」



 暫くして。


橙色「眠い……」


 さすがに夜通しは無理だよね。


墨染「中々釣れないな」


『メバルなら尺上上がったから僕は満足かな。 帰ったら蜂蜜に煮付けにして貰おう』


墨染「なる程、それでメバル狙いだったのか」


 夏とはいえ、この辺は夜は肌寒い。


 墨染は着ていたジャージのファスナーを上まであげてぼんやりと海を眺めていた。


墨染「君に、少し重たい話をして良いかな? 君のご家族についてだ」


 いきなり何を言っているんだ。


墨染「私が小さい頃から君、亜麻色さん、蜂蜜ちゃんとは仲良くさせて貰っているつもりだ」
 ……。


墨染「仲の良い姉弟だし、見ていて微笑ましい。 そう思っていたんだが……」



 随分と星が綺麗だった。

 欲と織る墨染の声が、何故か遠くから聞こえているように感じる。


墨染「最近は何か、おかしくないか? まるでお互いを気にし過ぎているように感じる」


 あぁ。

 気のせいじゃなかったのか。
墨染「何かあったのならば、私でよければ相談に乗るぞ? 話は以上だ」



墨染「これはアドバイスなんだけどな。 君はもう少し自分を出すべきだ。 じゃないといつか亜麻色さんも、蜂蜜ちゃんも――」


墨染「サヨナラ☆べいべぇ、て奴さ」


 変な表現だ。

 やっぱり墨染は少し変わっている。

ニ-ア=レプリカント/ゲシュタルトの話かと思った



 家に帰ると、蜂蜜が今で本を読んでいた。


蜂蜜「お帰りなさい兄さん、釣れた?」

 おでこで前髪を纏めてメガネをかけた蜂蜜。 なんて言うかすごい久しぶりに見た気がする。

『うん、メバルが三匹釣れたよ』

蜂蜜「じゃあ煮付けかな? それともお刺身にできるくらい大きいの?」


 少しだけいつもより明るい蜂蜜。


『いや、煮付けに丁度良い位だよ』

蜂蜜「そっか、じゃあやっとくから兄さんは潮臭いからシャワー浴びてきて」

 クーラーボックスを受け取る蜂蜜が僕の顔をじっと見上げた。

蜂蜜「それとも、一緒に入る? お兄ちゃん?」

>>46

タイトルはそれやってて思いついたのは内緒。



蜂蜜「なんてね、兄さんはからかうと面白いから……」

 しばらく見て無かった蜂蜜の笑顔。


 年齢の割に幼い彼女の笑みは、なんだかほっとした。


 胸が高鳴っている気がするけど、それは気のせいだろう。


さて、誰をメインヒロインにせば良いべ?

それじゃあ、白塩化症候群登場にて全員脱落で。

仕事でしばらく見ないうちに…
俺はこのSSの全体の雰囲気が好きだから続けて欲しい
ヒロインなんて誰でも良いよ
>>1が好きな様に書いてよ!

あげ



 熱の籠もる浴室でぼんやりと考える。

 今日のこと、昨日のこと、墨染の言葉、蜂蜜の言葉。


 その発端。
 二歳上の、綺麗な亜麻色の髪の女性。

 優しい、僕の姉さん。


色々な事を考えている内に、気づいてしまった。

 こんなに考え込む理由。

 一生懸命、これからの事を考えないように思考を別に向けて誤魔化している。

 入り込む余地などないように、付属品の悩みを、まるで一生を左右する程の大問題であるかのように。

 きっと、たぶん。



 いっそまったく違う事を考えようか?


 橙色の進路とか。

 割と本気でどうでも良い事だからきっと上手く悩めないな。

 人間の脳はなかなかどうして、人間の心に対して反抗的だ。

蜂蜜「兄さん……シャワーが長いようだけど、大丈夫なの?」


 思考を割る、高い抑揚の少ない無機質な声。


『ん?あぁ、蜂蜜が来るのを待ってたんだ。 さ、一緒に入ろうか』

 先程のお返しに少しからかおうか。

蜂蜜「今まで築き上げてきた家庭内、級友との絆、社会的地位、人間としての道徳観念。 兄さんが全てを投げうる程に私の裸に執着があるのなら……」

蜂蜜「今すぐ全部脱ぎ捨てて、浴室に入ってあげる」

 どうじないね、どうも。

『やめとくよ』

蜂蜜「……意気地なし。 冗談なんだから、そこは最後まで貫き通してくれても良いじゃない」

 笑いのセンスが余りないのはお互い様じゃないかとおもうんだけどね。

 お互い年中仏頂面な訳だし。



 朝食は、メバルの煮付けが出てきた。


亜麻色「昨日は釣りに言ってたんだってね」

 亜麻色は休日らしく、いつもに比べていくらか柔らかい空気だ。

蜂蜜「墨染先輩と橙色先輩と漁港の堤防の方で鱸とか狙ってたんだって」

亜麻色「おかしいね、ならここに並んでいるのは鱸の塩焼きであるべきなんじゃない?」

『あれは運が良くて腕が良くて潮が良くないと釣れないからね。 簡単に釣れて美味しいメバルを釣っていた方が建設的だよ』


 そう、手軽に満足できる方が無駄がなくて良いと思うんだけど。

亜麻色「ふーん」

待ってたよー


亜麻色「ま、夜更かしは良くないわね。 学生なんだし」


蜂蜜「私も?」

亜麻色「えぇ」



 なんだか空気が重いや。



亜麻色「んじゃ、行ってらっしゃい。 あ、蜂蜜は車で送るから少し残って」


蜂蜜「ん?」


 『じゃ、行ってくるよ』

―――――――――――――――――――



蜂蜜「で?私に何の話があるの姉さん」


亜麻色「約束したよね。 あの雪の日の後」

蜂蜜「破ったつもりはないよ」

亜麻色「そっか……これから言うのは独り言なんだけど」

蜂蜜「……」

亜麻色「アイツが蜂蜜を選ぶなら私は少し泣く位で済むけどさ、アイツの友達をアイツが選んだら、私のきっと……すんごい泣く」

亜麻色「蜂蜜……あの約束、今日までにしちゃおうか」

蜂蜜「……姉さん……」

亜麻色「普通の兄弟姉妹じゃなくたって……」

蜂蜜「……もう少し、考えさせて」

亜麻色「そっか、急にごめんね……」

待ってたよ

――――――――――――――――――……

墨染「おや、珍しいね? 妹さんが君の後ろにいないのは」

 学校の近くで声をかけられた。 声の主は墨染。

 女性にしては低めのそれは墨染の声だとすぐにわかった。

『姉妹水入らずで話したい事があるそうだよ』

墨染「なる程、それにしても君の後ろには誰かが乗っていないと寂しいな」

 そういい終わる前に墨染は自転車の後ろに腰掛けた。

墨染「ふむ、なかなかの座り心地だ。 運転手さん、出してくれ」

墨染が乗った事により小さく軋む自転車。

『蜂蜜がいかに華奢か分かるね』

墨染「もう少しオブラートに包んだ方がよいと思うが?」

『誰も墨染を重いとは言っていないけど?』

墨染はスタイルが良いからね。 まぁそんなほめ言葉はむず痒くて使えないけど。


 教室には蝉の声が響く。

狂ったように鳴き続ける蝉達。 もしかして、鳴いているのではなく、一週間しか残っていない寿命を嘆いて泣いているのかもしれない。

『虫にしては長生きだし欲張りな奴だよね、蝉って』

墨染「はぁ、君はたまによく分からない事を言うね」

 君ほどじゃないさ。

墨染「良いと思うけどな私は」

『何が?』

墨染「蝉だよ、長年地中で孤独に過ごした後、晴れの舞台で彼らは声高に歌うんだ。 人生の全てを捧げたラブソングを」

 なる程、そんな考えもあるのか。

墨染「狂おしい程の愛の歌。 君も少し見習ったらどうだい?」

 狂おしい程の愛、ね。



 昼食は、数少ない男子生徒と窓際でとる。

 刈上げの体格のいい彼は漁師の息子だ。 橙色の従兄でもある。

刈上げ「今日蜂蜜ちゃん見ねぇけど……」

 刈上げは蜂蜜に惚れていると公言している。

『うん、なんか亜麻色に送って貰ったみたい』

刈上げ「蜂蜜ちゃんに会わないと調子でないぜ、はっはっは」
 彼は中学生の頃から蜂蜜一筋なんだ。 凄いと思う。

 もっとも。 実際に会うと赤面してまともに話せないような奥手なんだけどね。



刈上げ「お前は相変わらずだな」

『何の事?』

 不意に刈上げが僕を見つめる。


刈上げ「あん時から踏み出せずに居んのか。 俺、知ってんだぜ……今でもあいつの事――」

『よしてよっ!!』


 今更過ぎるんだ。 それに、僕はこの町を離れる。

 もう、済んだことなんだ。


刈上げ「……すまん」

支援

しえ


 刈上げと気まずくなったまま、放課後。


 なんだかすぐに帰る気にもなれなくて、教室でぼんやりと校庭を眺めている。

 うるさいくらいに蝉が鳴いている筈なのに、やけに遠くで鳴いているようだ。

 長く伸びる朱い影。

 このまま時間が止まれば良い。 なんて、思ってしまう。


 訳は、自己嫌悪半分、自己陶酔半分位か。


墨染「ふむ、中々絵になる」

 『墨染……?』

 なぜ彼女はこうも狙い澄ましたタイミングで現れるのだろうか?

 ナニを考えているか今一分かりづらい笑みを常に浮かべた同級生を見つめながら考えてみた。

 答えは出なかった。

墨染「忘れ物を取りに来たら、何やら黄昏ている級友に遭遇した。 うん、忘れ物をするのも悪くはないな」


『あまり良い趣味とは言えない』

墨染「……」

 急に墨染から表情が消えた。

墨染「君に言われるのは心外だな」

 え?

墨染「君ほど悪趣味ではないよ……。 あ、いや、忘れてくれ。 若干虫の居所が良くないみたいだ」

 去っていく墨染。


 一体僕が何をしたっていうのか?

墨染「何をした? って疑問を顔に張り付けて。 教えてあげよう、何をした、ではない。 何もしないから、だ」

 『意味が分かんないよ』

墨染「やっぱりな、もういい。 虫の居所が悪いついでに言ってしまおう――」



墨染「私は君が好きだ」










,




墨染「まぁそう言う事だ」


墨染「ちなみに、なぜ今まで君に告げなかったか分かるかい?」


 ……。

墨染「君は諦めが早いし、合理的だし冷めている。 私はこれでも容姿は良い方だと自覚しているし、案外簡単に受け入れる気がしてね」

 …。

墨染「だけど、愛しい君。 欲しいのは妥協じゃない。 私は心が欲しい」

 。

墨染「だから、君の心に要る誰かさんを無理やり意識させようかと思ってね」


墨染「じゃ、返事は当分いらないよ? そうだな、雪が降るまでに答えてくれればそれで良いや。 では、健闘を……祈らないでおくよ。 私の恋愛成就の為に、ね」


 去る墨染。 何を言っているか分からない。 いや、分かりたくなかった。


 遠くで鳴いている筈の蝉の声が、やけに近くで響き始めた。

見てるよ
支援

あげる



 墨染の告白を受けた後、僕は海を見に来た。

 墨染の言葉を消化したくてとりあえず、気分を落ち着けようと歩いていたら、結局着いたのはいつもの防波堤。

 上に登って眺めていると、徐々に太陽は海に沈んでいく。

 僕はどうすれば良いんだろう?


 墨染は大切な友人だ。 多少変わったところは歩けど、優しいし、美人だとも思う。


 なら受け入れる?

 苦笑いを浮かべながらも墨染にリードされている自分が容易に想像できた。

 きっと僕は楽しそうに笑えるだろう。
 そしてその後、きっと僕は自己嫌悪に襲われる。

 理由は――。


蜂蜜「兄さん……こんな所で何をしているの?」


うん。 だいぶ整理がついてきたから帰ろうかな。

『海が見たくてね』

支援あげ



 二人で歩く帰り道。

 足音と波音しか聞こえない。
蜂蜜「……」

 蜂蜜が立ち止まった。

『どうしたの蜂蜜?』

蜂蜜「それはこっちの台詞だよ兄さん……」

『え?』

蜂蜜「何でそんな顔してるの? 何かあったの?」

 顔にでてたみたいだ……。

『あ……いや、何にもなかったよ』

僕は妹に嘘を吐いた。

 嘘を吐いたのは、これで‘二度目’だった。

上げときますね

ほしゅ

支援

支援



 家に帰ると亜麻色が夕食の支度をしていた。

『珍しいね』


 彼女が台所に立つのを見るのは数年ぶりだ。

亜麻色「まぁね、休みだったしたまには良いかなって」

『うん、いいと思う。 亜麻色の料理も僕は好きだ』


亜麻色「……」

 料理の手を止めて、亜麻色が僕を見つめている。

『何か?』

亜麻色「いや、何だか随分長い間あんたの顔をしっかり見てなかった気がして」

 そういうと、亜麻色は顔を近づける。


 吐く息が当たる程の距離。

『亜麻……色?』

蜂蜜「何を……してるんですか?」

 蜂蜜の抑揚の少ない声が台所に僅かに響く。

亜麻色「……別に。 ちょっとからかっただけよ?」

蜂蜜「だとしても」

 二人は悲しそうな顔で見つめ合っていた。


亜麻色「あんた、少し冷静になりなよ」

蜂蜜「冷静です」


亜麻色「冷静じゃないわよ。 初めて会った時みたいな他人行儀な敬語……、あんたむきになるとそうなるのよね」

 駄目だ。

蜂蜜「他人行儀もなにも……」
 それ以上は駄目だ……。

蜂蜜「元々他人じゃないですかっ!!」

 頬を叩く乾いた音。 走り去る足音。

 俺にはそれが、大切だった物が崩れ落ちる音に聞こえた。



亜麻色「何やってんのよ私は……」


 亜麻色がその場にしゃがみ込んで涙をこぼす。

 気丈な彼女が涙を流すなんて初めて見た。

亜麻色「私……家族にはなれなかったみたいだね。 そりゃそうか、お姉ちゃん失格だもんね」


 家を飛び出した蜂蜜。

 その場で泣き崩れている亜麻色。


 俺はどうすれば……。


亜麻色「あんたはお兄ちゃんなんだから、蜂蜜を追いかけてあげなよ。 あの子、きっと泣いてるから」


『亜麻色は蜂蜜の姉さんじゃないのかよ!?』


亜麻色「あんたと蜂蜜は父親で血が繋がっているでしょ? 私は、違うから」

 どういう事だよ。

亜麻色「あんたの父親と私の母親と結婚した時、母親の連れ子だったのよ。 私の母親はすぐに私を置いてどっか行っちゃったんだけどね」

『蜂蜜は、それを知っていたのか』


亜麻色「うん、今年の最後の雪が降った三月の……‘あの日’の後にね」

 あの日、か。



 三月のも終わる頃のある日――。


 亜麻色は、父と会っていた。

 僕たちに黙って。


 見知らぬ中年男性と歩いている亜麻色を見た町の住人の下衆な憶測は彼女の名誉を深く傷つけた。

 蜂蜜は、泣きながら事の真偽を問い詰めていた。


 その時、亜麻色と蜂蜜が何を話していたかは分からない。


 きっと、その時だろう。

『行くぞ亜麻色、あんたは俺と蜂蜜の姉さんだ。 誰が何と言おうと』

 不器用で、優しくて、頼りになる。 そんなあんただから。


 俺は――。

亜麻色「昔みたいな喋り方してる。 あんたも冷静じゃなくなると口調が戻るんだね」

 亜麻色が柔らかく笑う。

『茶化さないでよ、蜂蜜が嫌がるんだ。 父さんみたいな強い口調は』

亜麻色「私の‘弟’は、優しいね」

 亜麻色と二人で家を出る。

 自転車も置いたままの所を見ると、蜂蜜は徒歩だ。

 蜂蜜は運動が苦手だから、きっとそんなに離れて居ない筈。
 冷静に考えていると胸が少し痛んだ。

 亜麻色の‘弟’と言う言葉を聞いたから?

 それ所ではないと頭を振る。
 そう、今はそれ所じゃあない。

『弟、か……』



 僕は自転車、亜麻色は車で蜂蜜を探す。


 夜の海は静かにうねり、時折波が砕ける音だけが聞こえた。

橙色「そったらに急いでなした?(そんなに急いでどうしたの?)親友」

『橙色?』

自転車を漕いでいる内に、思いがけない人物に会った。

橙色「釣りだばまいねーよ、多分今日あだりから時化てくるびょんさ(釣りなら駄目だよ? たぶん今日辺りから時化てくると思うから)」

『蜂蜜見なかったか!?』


橙色「家出だか?」

『ちょっとね』

支援上げ

更に支援


 町のはずれの公園のベンチに蜂蜜は居た。


 蜂蜜は泣いていた。

 小さい頃みたいに。

 声を出さないように唇を噛みしめて、大粒の涙だけが静かに零れ落ちる子供らしくない泣き方。

 蜂蜜は泣いていた。

 『蜂蜜……』


蜂蜜「見ないで下さい……」


橙色「こったらとこさきて泣ぐなんてなしただ?(こんな所に来て泣くなんてどうしたの?)」


蜂蜜「私……最低です……あんなに優しい姉さんに酷い事を言ったんです」

落とさせないぜ

ほしゅ

ほしゅ

絶対保守

上げる

もう来ないのか
無理ならもう書かないとレスして欲しい
そしたらもう上げないから

俺はあきらめないぜ!

蜂蜜「私は……羨ましかったんです……姉さんは……」

 蜂蜜は途切れ途切れに言葉を零した。

 俯いている為に表情は見えない。

 ただ、蜂蜜が言葉を零す度、街灯に照らされたコンクリートの地面に黒い跡が出来ていた。

 『泣かないで、蜂蜜。 きっと姉さんだって許してくれるよ』

 華奢な肩を震わせている蜂蜜。
 まるで二人で父親の顔色を窺って暮らしていた頃みたいに弱々しい彼女を見ると、自らの不甲斐なさを浮き彫りにされているみたいで嫌だった。


蜂蜜「兄さんは嘘吐きです……」

 顔を上げた蜂蜜。

 泣いているような、笑っているような、怒っているような、怒られているような。

 そんな表情をして、蜂蜜は僕の瞳をじぃっ、と見ていた。


蜂蜜「私には……兄さんしか居ないのに……兄さんだって言ってくれたじゃないですか?……ねぇ? 二人で生きていこうって? ねぇ?兄さん」

きた!待ってた!

保守

まだまだ支援

ほしゅ

保守

保守


蜂蜜の言葉には答えられなかった。

 
蜂蜜「ごめんなさい……ごめん……なさい……ん……さ…い」



『蜂蜜……』


 遠くから波の砕けた音が聞こえた。
橙色の言った時化るというのは当たったみたいだ。

 蜂蜜の言葉を待つ間、こんなどうでも良い事を考えてしまった。

 蜂蜜の事をしっかりと考えてあげたいのに、思考は楽な方に逃げてばかりだ。 つくづく嫌な人間だと思う。


蜂蜜「ごめ……な……さい……にいさ……」


『ごめん蜂蜜、こんな兄さんで』

 気づいている筈の思いに目を背けて……。


蜂蜜「……兄さんは、謝らないで?」


蜂蜜「あと……聞いてほしい言葉があるんです……」


 聞きたくない。

蜂蜜「ごめんなさい兄さん」

 聞かなきゃ駄目だ。

蜂蜜「私は……」






蜂蜜「兄さんが、好きです」



,

待っていた


蜂蜜「ごめんなさい兄さん……私は駄目な妹ですね……ごめ……んなさ……ぐすっ……」

『……蜂蜜』


 返す言葉が無い。

蜂蜜「……うぅ……っ……くっ…」

 辺りには蜂蜜の小さな嗚咽だけが聞こえている。

 たった一人の妹が泣いているのに、どうして言葉ひとつ出てこないんだろう。


『……』


橙色「……今日はもう止めさするべし」

 橙色が着ているジャージを蜂蜜にかける。

橙色「……蜂蜜ちゃん、わぁのとこさ来い(私の所に来い)」


蜂蜜「……はい……」


橙色「親友……あんまみったぐねぇ事ばして見損なわせねぇでけえ……答えば出すまで蜂蜜ちゃんには会うな(あまりみっともないことをして見損なわせないでくれ……答えを出すまでは蜂蜜ちゃんにはあうな)」



 …………。

……。

 。

俺は、何をしているんだろう。


大事な妹を泣かせて。


大事な姉貴には気を使わせて。


最低だ。




『ただいま……』


 家に変えると家には誰にも居なかった。

 当たり前だ。

 もう日はそれなりの高さまで上っている。

 学校だって完全に遅刻だ。


 構うもんか。

 結局一晩中公園で過ごしていたせいか酷く気だるい。


 リビングのソファに身体を預けると瞼を閉じる。

 また逃げるのか。


 考える事を放棄して眠ろうとしている自分に嫌悪を抱きつつ意識を手放した。



「やぁ、おきているか?」



 ……。

『……ん?』

低めの落ち着いた声。

『墨染……か?』


墨染「相変わらず情けないな、愛しの君?」

墨染「ご名答だ。 なにやら随分と情けない顔をしているな」

 鋭いね。

『特に問題はないよ? 少し体調が悪いだけだ』

 そう、寝不足だからだ。

墨染「誤魔化すつもりなら、もう少し上手く嘘をついてくれ」


『Janne Da Arc? 墨染っぽくないね』

 何て曲名かは忘れちゃった。 でも、たしかにこんなフレーズがあった筈。


墨染「そうかい? 割りと好きなんだけどな」

『そんな話をしにわざわざ来たの?』

 若干腹がたった。

墨染「いや、強いて言うなら抜け駆け……かな?」

 そう言う割に、墨染の顔は何故か沈んで見えた。



墨染「なんだか寒いね、“やませ”かな」

 やませ。

 冷夏なんかはよくある冷たい風。

 どんな意味かも知らないし、どんな風に書くかも知らない。 具体的にどうなるのかも僕は知らない。

 でも、夏なのに寒く強い風が吹きつけるとやはり“やませ”だと思う。


墨染「なぁ、君はいつまでそうしているつもりなんだい?」


 『いつまでも変わらなければ良いと、思ってたんだ……』

 自分でも驚くほど簡単に溢れたのは、酷く自分勝手な感情だった。

ちゃんと読んでるからね


墨染「君は自分勝手だな」

 墨染は抑揚無く言った。

 『ごめん、俺は卑怯だ……』


墨染「俺は……か。 はじめて聞いたよ。 それが本当の君なのかい?」


 『幻滅したよね』

墨染「まぁね。 ただ誰もが利己的、自己中心的な所があるし、私も私のエゴを君に押し付けるつもりだし」

 墨染は言った。

 そして、僕の頬を撫でた。


墨染「私は君の総てが欲しい」

 『ん……』

 墨染の細い指先が一瞬唇に触れた。


墨染「天気予報を見てみるが良いよ」


 墨染は離れながら言った。

墨染「君は案外早く答えを出さなきゃいけないかもしれないよ?」
『どういう事?』

墨染「さてね、愛しい君。 時間は有限、選択の時は近い。 恋する乙女らしく不安に胸を高鳴らせて待つことにするよ」



 墨染が去ったあとテレビを点ける。

 昼過ぎのニュースをぼんやりと眺めていると気になる出来事が。


 どうやら、近いうちに雪が降るらしい。



亜麻色は、蜂蜜が帰ってくるまで家には帰らないそうだ。


 携帯電話にはその旨を伝えるメッセージが残されていた。


 残り数日の内に答えを出さなきゃ行けないのか……。

 墨染。

 この寂れた漁師町に越してきた十年前からの付き合いの少女。

 少し達観したような物言いで大人びて見える。

 大切な友人だった。

 ただ、彼女の事をよく知っているかと聞かれればそうではない。

 向こうから手を伸ばさない限りには触れられない程度の距離をひらひらと保っている。

そんな、不思議な少女。


蜂蜜。

 血の繋がった妹。

 少しひねくれてはいるけど、本当は誰よりも優しくて、臆病な少女。

 ずっと、僕が護り続けようと誓った子。


蜂蜜は僕の事を兄としてではなく、一人の異性として好意を寄せて居たらしい。


拗ねたような目を良くする可愛い妹だ。

大切な、妹だ。


 亜麻色。

 頼れる姉さん。

自分を犠牲にしても僕と蜂蜜を守ってくれている女性。

血も繋がっていないのに。

 優しくて、強くて、でも寂しげな、僕が――。


 僕が初めて想いを伝えた女性。


亜麻色の髪をした彼女はいつも笑っていてくれた。

蜂蜜色をしたあの娘は拗ねたような目でこちらを見上げる。

少し引いた場所から墨染の長髪を揺らした少女がそれを静かに見つめている。


三人の顔が浮かんでは消える。

最後に浮かんだのは――。


彼女を防波堤に呼び出して数分。



六月だと言うのにひどく肌寒い。



防波堤に足音が響く。

どうやら駆け足できたらしい。


吐く息が白く何度も浮かんでは風に消されていく。

 「……」

彼女は喋らない。


 何かを待っているような瞳がこちらを見つめている。

『……』

さんざん考えて、考えて。

 考え抜いて出した答え。

それを伝えるだけなのに。

彼女を見た瞬間、喉元につかえて出てこない。

「……」


『……』

音が消えていく。

風が止んで、徐々に波音が静かになっていく。

 小さな吐息が漏れる。

 胸が痛い。



答えは出ている。


あと必要なのは、それを口にする勇気だ。

 『答えが出たんだ聴いて欲しい』

 「……うん」


 ふわり、と。

 優しげな風が吹き抜ける。

小さな結晶が彼女と僕の間を漂う。

「……奇麗」


 雪が、降っていた。


それは、白く儚げな雪ではなくて。


 『今度こそ逃げないよ。 俺は今までも、これからも……』


「ごめん、やっぱり駄目だよ。 私のせいで回りを悲しませる事になる。 だって――」


『絶対俺は誰も悲しいままにはさせないから』

 寂しがりやの妹も、変わり者の友人も。

それに――。

がんばり屋で、優しい姉さんも。


『亜麻色、今度は俺が返す番だ』

亜麻色「もう、姉さんとは呼んでもらえないね」

 照れ臭そうに彼女は、亜麻色は笑った。


 亜麻色と二人で、防波堤の上から海を眺める。

舞い落ちる雪は、赤みが強く、まるで彼女の髪の色のように優しげな亜麻色をしていた。


 何かで聞いたことがある。

 雪の結晶ができる際に、黄砂や花粉なんかが混じると色が着いた雪ができる、と。



『僕はこの町をでるよ』

夏に降る雪の色は、サヨナラの色をしていて。


亜麻色「私はこの町で生きていく」

 亜麻色は僕の手を握る。

 『待っていてくれるかな?』

 抱き締めるには遠すぎて。

亜麻色「ずっと待っているからね」

サヨナラするには近すぎて。



『うん、かならず戻ってくるよ』



夏に降る雪の色。



 おわり。


諦めずに読んでくれた人、ありがとうございました。

仕事忙しかったりじいさん死んだりで放置していてすみませんでした。

次は、

勇者「この美しき世界で」少女「生きていこうか」

を更新していこうと思います。

良かったら読んでくださいね

超乙でした!
諦めず保守した甲斐あった!
完走してくれて、ありがとうと言いたい
ありがとう

おぉ、完走乙
良かったよ

勇者と少女もあなたなのか
頭から読んでくる


しかし話を忘れてしまったよ

乙。面白かったよ

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom