シロ「こんなに可愛い小蒔が」豊音「こんなに可愛い小蒔ちゃんがー」 (50)

宮守・永水短編

50レス前後で終わります


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1377958717


 降り注ぐ日差しはダルく、焼けた砂浜もダルかった。


 しかしその先にある海面は澄んでおり、波はいい具合に凪いでいる。


 あそこに行きたい。


 しかし、砂浜を歩くのはダルい。


 そこで私、小瀬川白望は、豊音の背におぶさり、海を目指すことにした。


塞「シロ……20メートルもないんだから自分で歩こうよ……」


シロ「いやだ。豊音に連れて行ってもらう」


 豊音はいつも厚着だから、素肌の感触を楽しめる機会なんてそうそうないし。



豊音「シロー、重いし背中がもにもにするよー」


シロ「それは私のおっぱい」スンスン


豊音「やめてよー、首筋の匂い嗅がないでー」  


胡桃「シロ、豊音を困らせない!」


シロ「……豊音、困ってる?」


豊音「おんぶはいいけどー……セクハラは困るよー、恥ずかしいからー」


エイスリン「トヨネ! ツギ、ワタシ!」


シロ「エイスリン、もうちょっと待ってね」


 このまま海にダイブして、濡れた豊音の肌を堪能してからね。



エイスリン「ワカリマシタ! ツギ、ヨヤク!」


胡桃「じゃあその次は私ね」


塞「え? 皆おんぶしてもらう流れ? あ、じゃあ最後は私?」


豊音「勝手に決めないでよー、別にいいけどー」


シロ「さぁ、豊音。永水のみなさんんが待ってるから、早く行こう」


豊音「そうだったよー、神代さんたち待ってるよー」


 ウキウキと豊音の体が踊る。


シロ「行こうか」


豊音「行くよー、暑苦しいから、さっさと海にダイブだよー」


 私を背負ったまま走り出す豊音。  

 皆もそれに続いた。


 団体戦敗退後の慰労会、のような何か。

 永水女子の皆さんと一緒に、海水浴を楽しむのだ。


   *



小蒔「海ですね、霞ちゃん」


霞「海ねぇ、小蒔ちゃん」


 団体戦敗退後、個人戦までの4日間の休日を利用して海にやって来ました。


 いま私は、霞ちゃんと2人、波に揺られてぷかぷか浮かんでいます。


 全力で膨らませた浮き輪の威力を試すべく、一人沖に出ようとしたのですが、霞ちゃんに浮き輪を掴まれ阻止されてしまいました。


 ――浮き輪があるからって、泳げない人が一人で沖に出るのは危ないわ


 とのことでした。


 納得です。


 もしなんらかのアクシデントで浮き輪の空気が抜けてしまった場合、私は溺れてしまいます。

 
 霞ちゃんの言うとおり、とても危険です。


 私はハッちゃんの遠泳についていくことを諦め、浅瀬で霞ちゃんと一緒に遊ぶことにしました。


 しましたのですが……。



霞「日差しが強いわね~」


小蒔「はい……」


 霞ちゃんは、大きなお胸を浮袋に波に揺られるばかりで、何もしようとしません。


 全然遊んでくれません。


 せっかくの海だというのに、まるで温泉に浸かるマダムのような有り様の霞ちゃんです。

 巴ちゃんはハッちゃんの遠泳の付き添いに行っていますし、春ちゃんは波打ち際で黒糖をかじりつつマイペースに砂遊びに興じています。

 仕方なく私は、霞ちゃんの周りを一人パチャパチャと泳いでいたのですが、やはり退屈です。

 せっかく頑張って膨らませた浮き輪も、浅瀬ではいまいち威力を実感できません。


 危険なのは承知していますが、ここはやはり沖に……。



 ボーッ



小蒔「あっ、霞ちゃん、お船ですよ!」


霞「あら、本当ねぇ。貨物船かしら?」


 霞ちゃんをどう出し抜こうかと考えていると、水平線の彼方に大きなお船が見えました。

 
小蒔「すごいです! 大きいです! ちょっと近くで見てきますね!」バシャ


霞「待ちなさい小蒔ちゃん、近くでって、あなたどれだけの距離を泳ぐつもりなの……」ガシ


小蒔「? けっこう近くにいると思いますが、お船……」


霞「あれはお船が大きいから近くに見えるんであって、すごく遠くにいるのよ? 十キロくらい離れてるかも」


小蒔「! そうなんですか……十キロも……」


霞「それに、航行中のお船に身一つで近づくなんて危険すぎるわ」


小蒔「そうなんですか?」


霞「水流に巻き込まれて溺れたり、スクリューでスライスされたりしちゃうわよ。危ないのよ」


小蒔「スライス……!」


 なんと……!


 そんなに危険なものだったのですね、お船は……!


霞「小蒔ちゃんは私とこの辺で遊んでましょうね」


小蒔「はい……わかりました……」


 そんなこと言って、さっきから全然遊んでくれないじゃないですか……。


 でも……。 


 想像以上に海というのは危険が一杯で、好き放題に遊べるものではないようです……。


 私程度の者には、浅瀬でパチャパチャやっているのがお似合いということでしょうか。



 ここは一つ、本日ご一緒している宮守女子の皆さんのご到着を待つことにしましょう。


 宮守女子の皆さんなら、巨大なお胸をブイの如く海に浮かべる霞ちゃんと違って、もっと活動的で……。


 私とも、たくさん遊んでくれるかもしれません。


 
 ダイブダヨー



霞「あら、小蒔ちゃん、宮守のみなさんがいらしゃったわよ」


小蒔「うわぁ、本当です。大きいと近くにいるように見えます」


 姉帯さん、大きいです!

 遠くにいるのにすぐ分かりました!


霞「それはさすがに失礼だから、姉帯さんに直接言っちゃだめよ」


小蒔「? はい」


霞「それにしても姉帯さん、なんだか一段と大きく見えるわねぇ……」


小蒔「ええ、なんだか頭の辺りに白くてホワホワしたものが見えます」


霞「お日様を背負っていてよく見えないけど、誰かをおんぶしているのかしら」


小蒔「では、あれは小瀬川さんでしょうか……?」


霞「そうでしょうね」


 こちらに走ってくる人影が四つしかありませんし、きっとそうなのでしょう。

 先鋒戦でご一緒した、あのお名前も髪の毛も白い方。

 ちょっとお行儀が悪いのに、不思議に格好いいあの方です。



豊音「お待たせだよー」

シロ「お待たせ……」


小蒔「お待ちしておりました!」


霞「待ってたわー」


 宮守さんのみなさんのご到着です。


 小瀬川さんをおぶったまま、スイスイと泳いで姉帯さんがやって来ました。

 小瀬川さん、姉帯さんの首に手を回して足を海中に投げ出しています。

 とっても楽しそう。

 イルカの背びれに捕まって泳ぐあれみたいです。

 お願いしたら私にもやらせてくれるでしょうか。


豊音「シロー、もう着いたんだから離してよー」

シロ「いやだ」


塞「もー、シロはー……」


胡桃「やっぱりシロはシロだね」


霞「小瀬川さんは海に来てもだらけてるのねぇ」


小蒔「……」

 海に来てもマダムな霞ちゃんは人のことは言えないと思いますが。


シロ「……シロでいいよ」


霞「?」


シロ「みんなそう呼ぶから、シロでいい」


霞「そう? じゃあ私のことも霞でいいわ」


小蒔「で、では私も! 小蒔で構いません」


豊音「私も名前呼びがいいよー」


エイスリン「エイチャンデ!」


塞・胡桃「じゃあ私らもそんな感じでー」


小蒔「はい! ふふふ」


 いいですね……! 

 盛り上がってきました……!

 やっと楽しくなってきましたよ!


豊音「ていうかシロー、もう離してよー。これじゃ遊べないよー」


エイスリン「ソウダソウダ! イイカゲン、コータイ!」


シロ「いやだ。ていうか無理」


胡桃「無理……?」


塞「どういうこと?」


シロ「私は泳げない。離すと溺れる」


豊音「…………」


エイスリン「…………」


霞「まぁ、小蒔ちゃんと同じね」


小蒔「はい……」


 と、いいますか。

 それじゃあ、なんで……。


塞「何であんなに乗り気だったの……控室で……」



シロ「……泳げなかったら、海に来ちゃいけないの?」


胡桃「いけなくはないけど……」


エイスリン「シロノアホ! サキニイエ!」


豊音「どうするー? 一旦戻るー?」


シロ「そんな殺生な。私も皆と遊びたい」


霞「じゃあ、海の家で浮き輪を買ってきたら?」


豊音「それがいいよー、砂浜でぼっちは寂しいよー、悪夢だよー」


シロ「そうする。豊音、悪いけど浜まで送って」


豊音「仕方ないよー」


 またスイスイと泳ぎだす姉帯さ……豊音さん。


霞「そうだ、小蒔ちゃん。あなたも行ってらっしゃいな」


小蒔「へ? なんでですか?」


霞「もう結構な時間海に浸かってるからちょっと休憩。それと、その浮き輪だと掴みにくいから、紐がついてるやつに買い換えてきなさい」


小蒔「えー……」


 霞ちゃん、どうあっても私を沖に出さないつもりのようです……。


豊音「小蒔ちゃんも一緒に行くー?」


小蒔「! はい、ご一緒します!」


 しかしこれは、霞ちゃんの過保護から逃れるチャンス……!


霞「いってらっしゃ~い」


小蒔「いってまいります」


シロ「じゃあ、行こうか」


豊音「シロが言わないでよー」スイー


 こうして私、シロさん、豊音さんの三人は、海の家に向かったのでした。


   *


 豊音に掴まり、浜に帰還。

 
 本当は海に入る前に泳げないと告げるつもりだったんだけど、濡れ豊音の感触を楽しむという思いつきで黙っていた私だった。


 濡れ豊音は感触は、想像を超えたものだった。

 具体的な感想はダルいので省くけど。


小蒔「シロさん、もう着いたのに降りないんんですね……」


豊音「シロはいつもこうだよー」


シロ「まだ、もうちょっとだけ……」スリスリ


小蒔「仲良しなのですね」


豊音「仲良しだけどー、最近ちょっと甘えん坊で困るよー」


小蒔「そうなのですか」


シロ「地区予選とインハイ本戦で消耗気味なんだ……ちょっとくらいいいじゃない」


豊音「私もその地区予選と本戦、一緒に出てるのにー……」


小蒔「ふふ、でもいいですね、宮守の皆さんは。私たちなんて、せっかく海に来たのにバラバラで……」


シロ「そういえば、あの日焼けの子と眼鏡の子の姿が見えないね。あそこに中堅の子がいるけど……」



春「……」ポリポリ



 何かをかじりながら、黙々と砂の山を積み上げてる……。

 でも、あんな波打ち際で砂山なんか作ったって……。


 ザザー


春「……」



 ほら、波に攫われちゃった。



春「……」ザッザッ



 あ、すぐに新しい山を……。



豊音「めげないねー」

シロ「がんばるなぁ」



小蒔「あそこにいるのは春ちゃんですね。初美ちゃんと巴ちゃんは、皆さんが来るまで遠泳に行くと言っていました」


豊音「あとで紹介して欲しいよー」


小蒔「はい、お昼までにはハッちゃんたちも戻ってくるでしょうし」


シロ「遠泳……聞くだけでダルい……」


 綺麗に水着焼けしてたし、泳ぐの好きなんだろうな……。


小蒔「あ、あのお店。私たちあそこに荷物置いてるんです」


シロ「私たちもあそこ」


豊音「ちょうどいいよー」


小蒔「じゃあ、あそこにしましょうか。たしか、売店で浮き輪も売っていました」


 私たちが着替えた更衣室がある、ちょっと大きめの海の家……的な何かだ。

 夏季限定の仮設店舗ではなく、浜を上がった所にある、地元の観光協会が運営している大きな設備。

 更衣室、浴場完備、タオルや財布などのちょっとした荷物だけ浜の海に持っていけばいい仕組みになっていた。


豊音「私お財布取って来るからー、2人はここで待っててよー」


シロ「お願い……」


 豊音から離脱……名残惜しいけど。


小蒔「あ、私も行きます」


豊音「いいよー、みんなで行くと手間だしー、シロを連れてくと無駄に時間食うからー。立て替えとくよー」


小蒔「す、すいません。ではお願いします」
 

豊音「すぐ戻るよー」


 小走りに駆けていく豊音。


シロ「……」


小蒔「……」


 沈黙。

 特に話すこともないが、さすがにだんまりは良くないだろう。


シロ「……小蒔」


小蒔「! は、ハイ……!」


 ……?
  
 なんだ……?


シロ「どうかした……?」


小蒔「い、いえ……なんでも///」


 なんか、小蒔の顔が赤い……?


シロ「小蒔はたしか、紐付きのやつに――――って」


小蒔「コマキ……コマキ……」


シロ「……」


 ブツブツと自分の名前を呟きながら、顔を真っ赤にする小蒔。


シロ「小蒔……?」


小蒔「は、はい! 小蒔です!」


シロ「ははぁ……」


 これは、名前の呼び捨てに照れているのか……?

 自分で小蒔でいいって言ったのに……。



シロ「呼び捨てはまずかった……?」


小蒔「いえ! とんでもない! ただ慣れていないもので……! みんなは小蒔ちゃんとか姫様って呼ぶので……!」


シロ「姫様……?」


小蒔「あ、えと、姫様といっても、私なんかみんなに助けて貰ってばかりで、全然、その、偉くもなんともないのですが……!」


シロ「……?」


 まぁ、ニックネームみたいなものなのかな?

 姫っちゃあ姫だよね、小蒔って。


シロ「それで、呼び捨ては嫌?」


小蒔「いえ! 嫌ではないです! むしろ嬉しいくらいで!」


シロ「そう? なら、小蒔って呼ぶね?」


小蒔「はい!」

 
シロ「うん……小蒔」


小蒔「///」


シロ「……小蒔」


小蒔「////////」


 小蒔、もう首まで真っ赤。


シロ「ふふ、こ・ま・き?」ナデナデ


小蒔「はふぅ///」


 頭を撫でると、小蒔は気持ち良さげに目を閉じた。

 なんだかとろんとした顔をしている。

 浮き輪を両手で抱えたまま、私にされるがままになっている姿は大変に可愛らしい。



シロ「これは……浮気かな……」


 宮守のみんなには申し訳ないが、今日は小蒔で大いに楽しむとしよう。


小蒔「なにか言いましたか?」


シロ「いや、なんでもないよ」ナデナデ


豊音「ただいま戻ったよー……ってシロー! ずるいよー私も小蒔ちゃんの頭撫でたいよー!」


シロ「……豊音」


 豊音のご帰還。


 ふむ。


 こうして離れて見ると豊音も相当だ。

 格好いい系の外見なのに可愛い系の水着に身を包んでいるところとか堪らない。

 水に入るために髪を両サイドでアップにしているところとか最高だ。


 よし……。


 ここは、皆の所に戻るまでに、豊音と小蒔を独り占めに色々と楽しんでやろう……。


シロ「ふふ……」


小蒔「……?」


豊音「シロが笑ってるよー、珍しいー」


 ダルくない……。


 ダルくないよ、豊音、小蒔……。


   *


 その後、豊音さんの持ってきてくれたタオルで体を拭き、施設内の売店へ向かいました。

 
小蒔「紐付き……」


 シロさんに下の名前を呼び捨てにして頂き、てんしょん上がっていた私ですが、霞ちゃんの言葉を思い出してだうなー入ってしまいます。


シロ「小蒔は紐付き嫌?」


小蒔「嫌というわけではないのですが……」


豊音「霞ちゃん、お母さんみたいだったよー」


小蒔「そうなんです……」


 的確です、豊音さん。

 霞ちゃんは正確には、マダムですが。


小蒔「霞ちゃん、ちょっと過保護と言いますか……私が沖に出てみたいと言っても、全然聞いてくれないんですよ」


 霞ちゃんは海で小さな子供を遊ばせるマダム、そしてこの私こそが、その小さな子供なのです。


 私は子供ではありません。

 もう高校二年生なのです。


 海の危険は承知していますし、少しくらい自由に遊ばせてくれてもよいではありませんか。


 私は浮かんでいるだけで海を楽しめるほど、熟れてはいないのです。


 先ほどから溜め込んでいた不満を、そうシロさん、豊音さんのお二人にぶちまけたのですが……。



シロ「……無理もない」


豊音「……無理もないよー」


小蒔「なぜですか……! せっかく浮き輪を買ったのに! 性能を試してみたいと思うのは人情でしょう!」


シロ「でも、小蒔を一人で沖に出すなんて……。私にだって、そんなことは出来ない」


小蒔「なぜ……」


豊音「不安すぎるよー。小蒔ちゃん、なんだかそのまま流されていっちゃいそうだよー」


小蒔「そんな……」


シロ「まぁ、霞は小蒔のことが心配なんだよ」


豊音「愛だよー、可愛くて仕方ないんだよー」


小蒔「……だからって、子供扱いが過ぎると思うんです……」


 愛ですか……。

 しかしそれだって、怪しいものです。

 霞ちゃんもみんなも、お務めで私に付き合ってくれているだけかもしれませんし……。

 今日だってみんなバラバラに遊んでいて、霞ちゃん以外は私のことはほったらかしですし……。


 ああ、いけません……。

 まただうなー入ってきちゃいました……。

 せっかくの海なのに、宮守の皆さんがいらっしゃるのに……。

 
小蒔「ダウーン……」


シロ「ふむ……」


小蒔「?」


 シロさん、黙り込んで私をじっと見ています。



シロ「確かに、この胸で子供扱いは無理があるよね」タプン


小蒔「ひゃあ!」ビクッ


豊音「!」


 ペシッ


シロ「痛い、豊音……」


豊音「他校の下級生にセクハラしないー! めっ!」


小蒔「ひゃー……///」


 お胸を……おもちを下から、こう、グイッと持ち上げられました……!


シロ「腰のラインなんか、もう完全に子供じゃないよね……」ソー


小蒔「……! シロさん、お触りはちょっと……!」


豊音「シロー……? えっちぃのは駄目だよー?」


シロ「じゃあ、豊音で我慢する」ナデ


豊音「ひえ!」ビクンッ


 豊音さんの腰を撫でるシロさん。

 触り方が絶妙です。

 一撫でしただけで豊音さんの体が大きく痙攣しました。 


小蒔「なんという妙技……!」


 これはちょっと、私も試してみたくなりました……!



小蒔「……!」ナデ


豊音「? 小蒔ちゃんー? くすぐったいよー」

 
小蒔「あれー?」ナデナデ


豊音「あははー、やめてよー。ほらシロー、小蒔ちゃんに悪影響が出てるよー」


シロ「小蒔、そうじゃない。豊音はこの辺が弱い」ツンツン


豊音「うわわ!」ビクンッ


小蒔「この辺ですか?」ナデナデ


豊音「ひう!」ビクンッ


小蒔「あ! ビクンてなりました!」


シロ「人ぞれぞれ弱点があるんだよ。それを探るのが大事」ツンツン


小蒔「なるほどー」ナデナデ


豊音「うあう! ひゃう!」ビクン ビククンッ


小蒔「すごいすごい」


 豊音さんをシロさんと二人で両サイドから攻め立てます。

 
豊音「はぁ、はぁー/// もうやめてよー……おかしくなっちゃうよー」


小蒔「おお……///」


 もう立っていられないとばかりに膝を折り、赤くなった顔をこちらに向ける豊音さん。

 その潤んだ瞳を見ていると、なんだかいけないことをしているような気がして……。


 なんでしょう……この気持ちは……。


 あとで霞ちゃんにもやってみましょうか……。


シロ「さて、豊音で遊ぶのはこのくらいにして、浮き輪選ぼうか……」


小蒔「! そうでした。浮き輪を買いに来たんでした」


豊音「遊びとか酷いよー……」



シロ「私も紐付きにしようかな……」 


小蒔「シロさんもですか?」


シロ「ほら、紐付きだと、みんなに引っ張ってもらえるし」


小蒔「ははぁ、なるほど」


 ダルがりのシロさんらしいですね。


小蒔「私は……」


 霞ちゃんの言いつけどおり、紐付きに買い換え……。


 いや、しかし、霞ちゃんの支配から脱却したいという思いも捨てきれません。


シロ「紐付きにするなら、私たちが沖に連れてってあげる……」


小蒔「! 本当ですか?」


シロ「うん……ダルいけど。霞も付き添い有りなら許してくれるんじゃないかな……」


豊音「泳げない二人がなんの相談してるのかなー」


シロ「もちろん、豊音も一緒」


小蒔「うわぁ、嬉しいです!」


 やはり期待どおり、宮守の皆さんは話せます!


豊音「まぁいいけどー、無理はさせないよー」


シロ「心配しなくても、私は無理なんてしない」


豊音「シロの心配はしてないよー」


小蒔「そうと決まれば早く買って戻りましょう!」


 張り切って行きましょう!

 
 永水の皆の庇護から抜け出し、宮守の皆さんとともに大海に漕ぎ出すのです!



   *



 売店のおばちゃんは言う。


「ごめんねー、空気入れの貸し出しもしてるんだけど、今ちょっと壊れちゃっててー」


 首尾よく浮き輪をゲットしたはいいものの、空気入れはないらしかった。


「もしあれだったら、空気入った展示品と取り替えるかい?」


豊音「どうするー? 私は別にそれでもいいと思うけどー」


小蒔「私もそれで構いませんが……」


シロ「…………ッ!」


 その時、私に電流走る。


シロ「いや、せっかく買うんだから綺麗な新品にしよう。これから沖に出るんだし、念には念を入れて……」


豊音「それもそうだねー、新品の方にしますー」


「あいよー」


 商品を受け取り、会計を済ませる。


豊音「しょうがないから空気は自分で入れよー」


小蒔「はい、がんばります!」


シロ「……」


 空気入れがないのだから、当然こうなる。


 そして……。


シロ「豊音……」


豊音「はいはいわかってるよー。シロのはまかせてー」


シロ「お願い……」


 ふふ……。

 計算通り、豊音は優しい。


小蒔「では、さっさと膨らませてしまいましょう!」


シロ「ちょいタンマ」


小蒔「?」


シロ「小蒔のは私が膨らませてあげる。小蒔は豊音を手伝ってあげて」


豊音「それだったら、私が小蒔ちゃんの膨らませるからー、シロは自分のやりなよー」


シロ「いやだ。私は小蒔の浮き輪を膨らませてあげたい。そして豊音と小蒔に私の浮き輪を膨らませて欲しい……」 


小蒔「なんだか、仲良しっぽくて素敵ですね」


豊音「? なんか引っかかるけどー、小蒔ちゃんがそう言うならそれでいいよー」


シロ「……」


 よし……これで……。


豊音「それじゃ、私からいくよー」


小蒔「ふぁいとです、豊音さん」


 これで――――


豊音「ふーっ、ふーっ! ぶはぁ! これ案外きついよー」


小蒔「ちょっと交代しましょう」


豊音「頼むよー」


小蒔「ふーっ、ふーっ」


 これで、豊音と小蒔の呼気が詰まった浮き輪が手に入る。



シロ「フーッ フーッ」


 加えて、注入口に二人が思い切り口をつけるというおまけ付き……。


 我ながら、恐ろしいことを思いついたものだ……。


 思わぬところで海の至宝を手に入れてしまった。


 ふふ……。


シロ「フーッ フーッ」


 小蒔の浮き輪を一人で膨らませる労力も、今だけは惜しくない。

 これであの浮き輪が手に入るのなら、これくらいの苦労には耐えてみせよう。


シロ「フーッ フーッ」ニヤ


豊音「シロー? なにニヤついてるのー?」


小蒔「浮き輪を膨らませるのが楽しいのでしょうか?」


シロ「プハ いや、なんでもない、続けて。早く膨らませて、海に戻ろう」


小蒔「はい!」


豊音「?」



 そして数分後、豊音小蒔浮き輪が完成。

 私もなんとか小蒔の浮き輪を膨らませた。


 ちなみに小蒔が使う浮き輪に不備があるとまずいので、手は抜いていない。


小蒔「はーっ、疲れました」


豊音「意外と疲れるよー」


シロ「ふぅ……」


 二人共、赤い顔をして息を荒らげている……。


 なんとも、すばら。 


 本当に素晴らしい、浮き輪というものは。


 泳げない私たちを海にいざなってくれるばかりか、こんな素敵な贈り物までくれるなんて……。


小蒔「ありがとうございます、シロさん」

 
 小蒔に浮き輪を渡す。


シロ「いや、こちらこそありがとう。がんばったね、お礼に――――」


小蒔「?」



シロ「キスしてもいいかな?」



小蒔「は……?」


豊音「な、な……!」


シロ「……」


 しまった……。

 
 口に出しちゃった。


 小蒔に浮き輪を返す時、これ小蒔が次に使う時、もし口で空気を入れた場合、関節キスすることになるよな……とか考えていたら、つい。



小蒔「」


豊音「」


 小蒔は私の突然の申し出に固まっている。


 なぜか豊音も。


 まずいことになった。


 引かれちゃったかな……。


 私としても、同性同士でキスまでは、いくらなんでも望んでいない。


小蒔「……ああ!」ポム


シロ「……?」


 小蒔は「なるほど!」とでも言うように、左の手の平を右の握り拳で叩いた。

 
小蒔「ご褒美のキスですね! えへへ」サッ


シロ「…………え?」


 前髪をかき上げ、おでこを出す小蒔。


 えと、これはなに?


 私に、どうしろと……?


   *



シロ「キスしてもいいかな?」
 

小蒔「……は?」


 シロさん、何を言っているのでしょう……。


 きす?


 鱚?


 Kiss。


 ちゅー?


 私たちは女同士……キスするのはおかしいのではないでしょうか……。


 シロさんはなんで、そんなことを?


 えと……キスしてもいいかなの一言の前に、お礼に、と言っていました。


 お礼……。


 浮き輪を膨らませたお礼……?


 私が豊音さんと一緒に、シロさんの浮き輪を膨らませるのをがんばったから……?


 そのお礼のキス……。


 ああ……。


小蒔「……ああ!」ポム


 ああ! 

 なるほど、ご褒美のキスというわけですね!


 今日初めてまともにお話する方が相手なので、咄嗟にその可能性に思い至りませんでした。


 そっかー。

 思わぬ方からの思わぬ申し出に、びっくりしてしまいました。



 なぁんだあ……。

 ああ、驚いた。

 シロさんは同性愛者なのかと思ってしまいました。


 がんばったご褒美のちゅー。


 試合で良い結果を出せた時とかに、いつも霞ちゃんにして貰っているやつですね!


 この間も、学校で――――



小蒔『霞ちゃん、霞ちゃん』


霞『あら、どうしたの? 小蒔ちゃん』


小蒔『ほら、これ見て下さい!』


霞『あら、英語のテスト。返ってきたのね。それにこの点数は……』


小蒔『はい! 80点です! 前回のテストから30点アップです!』


霞『すごいわ~、前回は赤点ギリギリだったのに。小蒔ちゃん、がんばってたものねぇ』


小蒔『勉強に付き合ってくれた霞ちゃんのおかげです!』


霞『それでも、がんばったのは小蒔ちゃんよ~。これはご褒美あげなきゃねぇ』


小蒔『! やた! 嬉しいです!』


霞『それじゃ、おでこ出して』


小蒔『はい!』サッ


霞『よくがんばりました』チュ


小蒔『えへへ』


霞『うふふ……』



 ――――といった具合に。


 なにかをがんばると貰えるご褒美のキス。


 それを、シロさんもして下さるというわけですね。


 これはがんばって膨らませた甲斐がありました!





小蒔「ご褒美のキスですね! えへへ」サッ


シロ「…………え?」


 
 ……『え?』



小蒔「……ち、違ったのでしょうか……?」



   *



小蒔「……ち、違ったのでしょうか……?」


シロ「……!」


 いけない……。

 なんだか知らないけど小蒔が不安そうな顔を……。


小蒔「すみません……勘違いしてしまったようで……」


シロ「いや……」


小蒔「?」


 漏れ出てしまった私の欲望。


 『ご褒美のキス』


 そして、差し出されたおでこ。


 そこから導き出される答え――――


 おそらく、間違ってはいないだろう。


シロ「勘違いじゃ……ないよ」サッ


小蒔「あ……」


 小蒔が戻してしまった前髪をかき上げ――――


シロ「ありがとね……」チュ


小蒔「ふあ……」


 おでこにキス……。


豊音「うわわー///」


シロ「……」


 どうだ……!?


 間違ってたらかなり恥ずかしダルい……!



小蒔「なんだか……霞ちゃんとは少し違う感じですねー……」


シロ「ど、どう違う……?」


 キス自体は、流れからして間違っていないはず。

 
小蒔「えっと、唇の感触とか……霞ちゃんにしてもらう時は私、自分で髪を上げるので……」


シロ「そう……」


 よかった、間違えてなかった……。


シロ「いつも霞にしてもらってるの?」


小蒔「はい、テストでいい点を取った時とかに」


シロ「それはそれは……」


 羨ましい習慣もあったものだ……。

 ご褒美と言っていたけど、するほうもご褒美だよ、これは……。



豊音「あ、あー、シロー? 私も膨らませるの頑張ったんだけどなー?」


シロ「豊音……」


 それはつまり、自分もして欲しいと……?

 しかたない、豊音もがんばったもんね。


シロ「しゃがんで……」


豊音「! やたー!」


 しゃがむというより、ほとんど膝立ちになる豊音。


シロ「ごくろうさま」チュ


豊音「えへへー……」


 豊音、満面の笑み。


 ああ……よかった。


 二人にドン引きされて嫌われてしまうかと思ったけど、霞のご褒美ちゅう習慣のおかげで助かった……。 


豊音「シロもがんばったからちゅーだよー」チュ


シロ「!」


小蒔「では、私も」チュ


シロ「!!」


豊音「じゃあ、行こうかー」


小蒔「はい」



シロ「…………」


 両頬にご褒美を貰ってしまった……。


 二人の呼気入り浮き輪、関節キス、ほっぺにちゅー……。


 ただ浮き輪を膨らませるだけのことで、こんなに幸せになれるなんて……。


シロ「うむ……」


 やはり、浮き輪、すばら。



   *



シロ「それにしても、小蒔と霞は仲がいいんだね」


小蒔「へ? はい、仲良しだと思いますが……」


 浜に戻る道すがら、シロさんが突然、そんなことを口にしました。


豊音「ご褒美のちゅーとかちょー羨ましいよー、仲良すぎるよー」


小蒔「? さっき、お二人もやっておられたではありませんか」


シロ「普段はやらない……」


豊音「シロにちゅーしてもらうとか初めてだよー」


小蒔「そうなのですか……」


シロ「そんなに仲がいいのに、霞と遊ぶのは嫌?」


小蒔「……」


 シロさん……。


シロ「ごめん……余計なお世話かな……」


小蒔「いえ……えと、霞ちゃんやみんなと遊ぶのが嫌というわけではないのですが……」


シロ「なにか事情があるの……?」


小蒔「はい……ええっと……私たちは、みんな、親戚同士なのですが……」


豊音「永水のみんな、全員ー?」


小蒔「はい。それで、えと……私の家が本家で、みんなの家が分家で、私だけ立場が上、みたいな感じで……」


 神代の家のことを説明するのは難しいですね。


シロ「それで姫様?」


小蒔「はい……と、言いましても、先ほど申し上げた通り、私など皆のお世話になるばかりで、姫という呼び名には相応しくはないのですが……」


シロ「……ああ」


小蒔「?」


シロ「いや、続けて」


 シロさん、なにか得心したように声を上げました。

 私は話を続けます。


小蒔「それで、皆は私と、しょうがなく一緒にいてくれるのではないかと、そんな風に考えてしまって……」


豊音「それはないよー」


シロ「私も、それはないと思う……」


小蒔「でも、今日だってみんな、バラバラに遊んでいて……霞ちゃんだって私の保護者みたいですし」


 意地でも、お母さんみたいとは言いません。


シロ「うーん……でもやっぱり、小蒔が言うようなことはないと思うよ?」


小蒔「そうでしょうか……」


豊音「ありえないよー」


シロ「うん、ありえない」


小蒔「……」


 お二人共、妙に確信に満ちた表情でそうおっしゃいます。


 二回戦の後、私とハッちゃんを置いていこうとした霞ちゃんの意地悪と、今日の永水女子のバラバラな様子を合わせて、言いようのないもやもやとした気分を抱えていたのですが……。


 お二人のお顔を見ていたら、なんだか少し落ち着いてきました。


豊音「早く戻ろうよー。きっと霞ちゃん、小蒔ちゃんのこと心配してるよー」

 
小蒔「……はい」


 そうですね……。


 お家のことは、皆それぞれ立場があるのですから、ある程度は仕方のないこと……。


 考えても、仕方のないことです。


 今日はとにかく、宮守の皆さんと海を楽しむとしましょう。   


シロ「たぶん……」


小蒔「?」


 シロさんは気だるげな瞳で私を見据え、言いました。


シロ「戻れば、わかるんじゃないかな……」


小蒔「なにがですか?」


シロ「いや、永水の皆が、小蒔と仕方なく一緒にいるわけじゃないってことが……」


小蒔「……どうしてそんなことが?」


シロ「うん……なんとなくなんだけどね。どうしても、そうとしか思えないんだ」


小蒔「……」



 そして、話している間に浜に到着。



豊音「あー、エイスリンさん、春ちゃんと遊んでるー」


小蒔「本当だ……」


 波打ち際で砂山を積み上げていた春ちゃんの横に、エイスリンさんが。



エイスリン「ア、オカエリ!」


シロ・豊音「「ただいま」ー」


春「おかえりなさい、姫様」


小蒔「春ちゃん、二人でなにをしていたのですか?」


春「これを……」


小蒔「まぁ……!」


 そう言って春ちゃんが指し示したのは、春ちゃんが先ほどから根気よく積み上げていた砂山……ではなく。


春「エイスリンさんに手伝ってもらって、完成した」


エイスリン「リッタイモ、イケルクチ!」


小蒔「すごい……上手ですね……!」


 二等身ほどの、巫女服を来た女の子の像でした。

 肩に接着する形で、おさげが二つ……。

 頭には他に、ツノのようなものもついていますが……。


 まさか、これは……。


春「姫様像」


小蒔「春ちゃん、ずっとこれを作っていたの……?」


春「うん。姫様に見せたくて……」


エイスリン「ツノハ、ワタシガ、ツケマシタ!」


小蒔「なんでツノ?」


春「寝てる時の姫様だって……私はいらないって言ったんだけど……」


エイスリン「コレハ、ユズレナイ! Japanese pretty demon! チャームポイント、デス!」


シロ「さすが、エイスリンはわかってるね」


豊音「可愛いよー」


エイスリン「デショ!」


春「ツノ、ないほうが可愛いと思ったんだけど……エイスリンさんの協力なしでは完成させられそうになかったから……」


小蒔「はぁ……? と、とにかく、ありがとう春ちゃん。すごく上手ですよ。可愛いです」


 春ちゃん、マイペースに砂遊びをしていると思ったら、こんなプレゼントを……。


シロ「小蒔……これは、あれだね。ご褒美あげないと」


春「?」


小蒔「! そうですね! 春ちゃん、おでこ出して下さい」


春「あ……! はい……!」


小蒔「ありがとう、春ちゃん……」チュ


春「……///」


 春ちゃん、嬉しそう。


春「いつも、霞さんが姫様にやってるやつ……」
 

 おでこを押さえ頬を赤らめ、レアな笑顔。



エイスリン「ゴホウビ?」


シロ「うん。春はがんばったから」


豊音「ご褒美とお礼のキスだよー」


エイスリン「! ジャア、ワタシモ!」サッ


小蒔「そうですね、エイスリンさんも、ありがとう」チュ


エイスリン「Oh……」


 エイスリンさん、天使の笑顔。


シロ「さぁ、それじゃ行こうか。霞たちが待ってる」


小蒔「はい!」



 にゅー浮き輪を装備して、再び海へ。



霞「あら、おかえりなさい」


小蒔「ただいま戻りました」


塞・胡桃「おかえりー」


シロ・豊音「「ただいまー」……」


霞「ちゃんと紐付きのやつにして来たのね」


小蒔「はい……それで、宮守の皆さんとちょっと沖に出てみようと……」


霞「そうね、それがいいわね。でもちょっと待ってね……」


小蒔「……?」


 あれ、霞ちゃん、反対しませんね……。


春「戻ってきた」


小蒔「あ、ハッちゃんと巴ちゃん」



 ザブザブザブザブ


 ザパーン


初美「ぷはー! ただいま戻りましたよー!」


巴「はぁ、はぁ、ひぃー。初美さん、速すぎですよー!」


 ハッちゃんと巴ちゃんが戻ってきました。

 巴ちゃんは両脇に浮袋を着けています。


霞「おかえりなさい。それで、どうだった?」


初美「潮の流れは緩やかですよー。波も見てのとおり凪いでいますし、絶好の遊泳日和ですよー」 
 

霞「だそうよ。小蒔ちゃん、皆さん、ちょっと沖にでてみましょうか」


小蒔「……ハッちゃんたちは、それを確認するために……?」


巴「地元の方に事前にリサーチして、危険な場所は把握していたのですが……初美さんがどうしても実地調査もするって……」ゼェゼェ


小蒔「まぁ……それはそれは。ご苦労様です」


初美「これくらいなんともないですよー。姫様を危ない目に合わせるわけにはいかないですよー」エヘン


 私を置いて遠泳に出たのはそういうわけがあったのですね。



小蒔「ありがとう、ハッちゃん、頼りになりますね」


初美「んふふー」


 ハッちゃん、なんだか得意げです。


シロ「これは……あれだね、小蒔」


豊音「あれだねー」


小蒔「あ、そうですね。ハッちゃん、巴ちゃん、おでこ出して下さい」


霞「あら」


初美「? はいですよー」サッ


巴「?」サッ


小蒔「ありがとう……」チュ


初美「ふわわー!?」


小蒔「ごうくろうさま……」チュ


巴「ひ、姫様……?!」


初美「ひ、姫様に霞ちゃんの悪影響がでてますよー!」


霞「悪影響とは失礼ね」


巴「姫様……これは……」


小蒔「ふふ、ご褒美とお礼のキスですよ」


 よかった。

 二人とも、すごく嬉しそうです。


霞「なら、私もご褒美貰えるようにがんばらないとね」グイッ


小蒔「霞ちゃん?」


 霞ちゃん、お胸を浮袋に背泳ぎの体勢で、私の浮き輪の紐を引っ張り始めました。


霞「やっぱり紐があると楽だわー」


小蒔「……もしかして、沖に連れて行ってくれるつもりだったのですか?」


霞「ええそうよー。小蒔ちゃん、昨日から浮き輪を膨らませて気合満点だったから、私たちで付き添いましょうって。皆で話してたのよ」


小蒔「そうだったのですか……」


 紐付きの浮き輪は、このために用意させたのですね……。


霞「宮守の皆さんも、よろしければ行きましょう?」


塞・胡桃「いこー」


エイスリン「イキマショ!」


シロ「豊音……」


豊音「わかってるよー、シロのは私が引っ張るよー」


シロ「ゆっくりやってちょうだい……」


豊音「えらそうだよー、でも後でまたご褒美もらうからいいよー」


シロ「……どんとこい」



小蒔「……」



 もしかして、霞ちゃんが温泉マダムになっていたのは、ハッちゃんたちの帰還と、宮守の皆さんを待っていただけなのでしょうか……。


 これはどうやら、シロさんの言うとおりだったようです。


 私が一人で勘違いして、勝手に拗ねていただけのようですね。


 安心しました……。


 永水のみんなは、宮守のみなさんのように仲良しです。


 私も姫だからといって、皆にハブられているわけで
はありませんでした。  


 ああ、よかった……。

 ほっとしました。


霞「それで、小蒔ちゃん」


小蒔「はい、なんでしょう?」


霞「私はどれくらいがんばったら、ご褒美貰えるのかしら?」 


小蒔「! そうですね、では、あの岩場まで連れて行ってくれたらちゅーです!」


霞「あらあら、じゃあがんばらないとね~」スイ~


小蒔「無理はしないでくださいね?」


霞「大丈夫よ。生まれてこのかた、水に沈んだことはないの~」


小蒔「ふふ、さすがです」



 ――――そうして。


 私たち永水女子と宮守女子のみなさんは、沖をのんびりと、楽しく遊泳したのでした。



   *



 
 数時間後――



 永水のみなさんと海水浴を満喫し、温泉に移動するバスの車中。


 私は海から上がった後の気だるい体をシートに投げ出し、例のアレを楽しんでいた。


 
シロ「ふふふ……」ボフゥー


塞「シロが笑ってる……」


胡桃「浮き輪の空気顔に当てながら笑ってる……」


シロ「ふふ、ビニールの匂い……」ボフゥー


エイスリン「シロ、オカシクナッタ?」


豊音「今日はシロ、なんだかおかしいんだよー」


 ビニールの匂い。

 しかし、ただのビニールではない。


 ビニールの匂いの中に、確かに感じる……。


 豊音と、小蒔の息遣いを……。


 ここに

 豊音と小蒔を感じる……!!



小蒔「シロさん」

 
 別の世界に旅立ちかけていたその時、小蒔の声が。
 

シロ「はい、なに……?」キュポ


 一旦キャップを閉じて、隣の席の小蒔に向き直る。


小蒔「シロさんは、わかっていたのですか?」


シロ「なにが……?」


小蒔「えっと、浮き輪の紐のこととか、ハッちゃんが遠泳に行っていた理由とか、春ちゃんの砂遊びのこととか……」


シロ「ああー……いや? そんな具体的なことなんて、わかるわけないじゃない……」


小蒔「では、なんで浜に戻る前、あんなことを?」


シロ「んー……あれは、本当になんとなくだったんだけど……」ナデ


小蒔「ふあ……」


 小蒔の頭を撫でながら、あの時のことを思い返す。


 なにか根拠があって、あんなことを言ったわけではない。


 ただ、あの時は――――


 あの時の小蒔は。


 家同士の関係に囚われず、永水のみんなと対等に仲良くしたい。


 そう考えているらしいのに、それが叶わず拗ねた様子が、私や豊音の目には妙に……。


 愛おしく、映ったのだ。



シロ「……ねぇ、豊音?」


豊音「そうだよー、こんなに可愛い小蒔ちゃんがー……」ナデ


小蒔「ほあ……」


シロ「みんなに疎ましく思われているなんて、そんあことありえないって……そう思っただけ……」ナデナデ


豊音「小蒔ちゃん、可愛いしー、良い子だよー」ナデナデ


小蒔「シロさん、豊音さん……」


 リンゴのように赤くなった小蒔。


シロ「ふふ……」ツンツン


小蒔「やぁ……」


 その頬をつつくと、小蒔はむずがるように顔を背けた。


 うん、やっぱり可愛い。


 こんな子が嫌われるなんて、ありえない。


豊音「うりうりー」ナデナデ


小蒔「やー」

 
シロ「ふふ……」


 そしてバスが温泉に着くまでの間、私は豊音とともに、小蒔を思う存分愛で続けた。


 個人戦までの束の間の休息。


 穏やかに時間が過ぎていく……。





シロ「……」



 豊音と小蒔の呼気が詰まった浮き輪は、旅館に着いてから、ゆっくりと、じっくりと楽しむとしよう……。  





   カン!
 



以上で終了です
ありがとうございました

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom