エレン「俺は弱虫じゃない!」(146)

壁が破られ内側へと逃げてきたその日。
彼は憲兵の腐り切った実態を見せつけられ、しかし彼らの施しを受けなければならないとたった一人の家族に叱責された。
彼には我慢出来なかった。家畜の様に扱われる事が。


エレン「俺は弱虫じゃない!」

そう言ってパンを捨てた。




そしてその次の日、彼は消えていた。

それから1週間が経ってもエレンは戻らなかった。


アルミン「ミカサ...」

エレンの家族であるミカサ=アッカーマンは酷く憔悴していた。
自分の言葉でまた家族を失ってしまったと思っていたから。

ミカサ「......エレン,,,」

自分はエレンにとって不要な存在だったのか。
もう会う事もないのだろうかとそんな考えばかりが頭を過る。


そしてミカサの状態が改善されないままの生活は半年が続いた。

エレンがいない生活は僕にとっても辛いものだった。
周囲の人達は絶望を顔に張り付かせ、希望なんか感じられない。
外の世界を見るという夢も無理だと認めてしまいそうになる。

アルミン「もう人類は負けたんだろうか...」


エレンがいればと思う。
彼ならこんな状況でも心が折れる事はなかったんだろう。

エレンを支えとしていたのはミカサだけじゃなかった。

アルミン「ぅッ...エレ..ン...」

涙が零れて来る。




「君、大丈夫?」

アルミン「ッ!だっ大丈夫です」

涙を拭って顔を上げると清潔な身なりをした女性が立っていた。

「そっかよかった。ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」

アルミン「はい」

「ここにミカサって女の子とアルミンって男の子がいるはずなんだけど知らないかな」

ミカサと僕?
知らない人のはずだ。
そう考えて警戒心を尖らせる。

アルミン「その2人になにか用ですか?」

「うん。エレンって子から手紙を頼まれててね。2人を知ってたら教えてくれないかな」


時が止まったと思った。
次の瞬間には又も涙が頬を伝う。
先と違うのはこれが喜びから来る物だという事だ。

アルミン「うあぁ....」

エレンはちゃんと生きていたんだ。
怒りも覚えたがそれ以上に嬉しかった。

アルミン「ふうッ..くぅ...」

ポロポロと大粒の涙が留めどなく流れる。

「き、君!本当に大丈夫なの?」

女性が優しく頭を撫でてくる。

アルミン「僕..です...」

「えっ?」

アルミン「僕が....アルミン..です...」

エレンからの手紙は自分の現状を表すものだった。
エレンは生きる為にある兵団に忍び込んだ所を捕まり、理由は解らないがそこで拾われ、戦う術を叩き込まれているらしい。
エレンはやっぱり折れる事は無かったと、信じていた自分が誇らしく思えた。


ミカサも元気を取り戻した。
手紙を読んだ直後は喜びだったり怒りだったり、やっぱり自分は必要ないという思いが混在し、複雑そうだったが、

「後ミカサって子に伝言なんだけどね。その...『あんな状況でお前を捨てる様な真似をして後悔してる。強くなったらお前の所に帰るからその時許してくれるか聞かせてくれ』だって」

これだけで完璧に以前の様な元気を取り戻した。
むしろエレンに必要だと明確に言われたせいか、以前に増して元気に見える。
そして、

ミカサ「私はエレンのお嫁さんになる!」

等と宣っている。

エレンからの手紙が届いてからもう直ぐ一年半になる。
開拓地での生活は辛いものだったが、エレンが頑張っていると思うと僕達も頑張れた。
でもそれももう終わりだ。
ミカサとは12歳になったら訓練兵を志願すると決めていた。
エレンに近付く為にはそれが近道であり、唯一だと思ったからだ。


そしてその一ヶ月後、訓練兵団入団式を迎えた。

キース「貴様等は本日より公に心臓を捧げる兵士となる!人類の糧となるか巨人の餌となるからこれからの貴様等次第だ!」


エレンもここにいる事を少し期待していたが、やはりいないようだ。
ミカサも心無しか残念そうに見える。


キース「敬礼は教えたな!104期訓練兵!心臓を捧げよ!!」


「ハッ!!!」




でもこれでエレンに一歩近づけた。

ようやく訓練兵になれたと思いきや、初っ端から強烈な頭突きをもらってしまった。

ジャン「くっそ、まだイテぇ,..」

「はは、大丈夫?」

ボヤいていると1人の男が話し掛けて来た。

マルコ「僕はマルコ。君と同じ憲兵団志望なんだ」

殆どがそういう奴等だろうがと口に出そうになるが、まあ知り合いを作る機会だと思い留まった。

ジャン「ほう、そうなのか。やっぱり安全な内地で暮らしてえよな」

出来る限り素直な言葉で話したが

マルコ「なっ、僕はそんな考えじゃない!王の下で働きたいから憲兵団を目指すんだ!」


...こいつとは合わないかも知れねえ。

折角話し掛けて来たかと思ったら自分とは真逆の奴とは

ジャン「(ツイてねえな)」

王の素晴らしさについて懇懇と語るマルコを前に、内心もっと素直な言葉で話してやろうかと思っていると

目の前を女神のような女性が歩いて来た。

ミカサ「...」

顔が火照るのが判る。
恋なんぞした事も無かったが、これが一目惚れなのだと直ぐに解った。

気付いた時には声を掛けていた。

ジャン「な、なああんた!」

呼び掛けると優雅な動きでこちらを振り返る。

ミカサ「...何?」

ジャン「(やべえ、何話すかなんて考えてねえよ...)」

少ない経験からとにかく褒めておこうと判断した。

ジャン「その...なんだ。見慣れない顔立ちだったもんでついな。」

ミカサ「...」

ジャン「そ、その。とても綺麗な黒髪だ...」

ミカサ「...?どうも」

それだけ言って去ってしまったが、とにかく話せたという事実で満足出来た。

ジャン「(あぁっ!なんて美しい...。)」

マルコ「ジャン?...どうしたっていうんだよジャン」


何も耳に入らなかった。

ミカサ「(ようやくここまで来た...)」

ここにエレンはいなかったが、
エレンを追い掛けて、エレンを守る為に、
そして一言許すと伝える為にここに来た。

ミカサ「(いきなり変な人に声を掛けられたけど)」


でも、

ミカサ「(ここを卒業すればきっとエレンに会える)」

それだけを心に刻んで、エレンの為にも必ず卒業すると決めた。


ミカサ「(そしたら結婚しよう...)」





この次の日立体機動の適性試験を教官も目を見張る結果で通過し、殆どの科目を1位の成績のまま、一年目の訓練期間を終えた。

訓練兵団に入り、基礎訓練のみの一年目を終えると当初より大分人が減っていた。
正直自分も危ない時もあったが、同室のライナー=ブラウン、ベルトルト=フーバーらの協力もあり、なんとか生き残る事が出来た。

アルミン「(こんなんじゃエレンに近付けないよ...)」

座学こそトップを維持しているものの、体力面では良くて平均、試験を通過出来るかも危ないモノだった。

アルミン「(でも諦めない。今日からまた訓練だ。絶対に卒業してみせる。)」




そして二年目の訓練が始まった。

キース「今日からまた訓練が始まる!」

正直面倒くさい。
目的の為とは言え、自分達に役に立つのかも解らない訓練は無駄としか思えなかった。

アニ「(さっさと終わんないかな...)」


キース「が!訓練が始まる前に貴様等に紹介する者がいる!」

アニ「(ふーん...)」

態々こんな場で紹介されるって事はそれなりの奴なんだろう。
少しだけ興味が湧いた。

キース「ではイェーガー!出て来い!」

教官がそいつを呼び出すと、1人の若い男が前に出て来た。
背はそれなりに高く、髪は黒い。
顔は悪くないが、あどけなさが残る顔立ちだった。

アニ「(これはまた...)」

アニを驚かせたのはその目だった。
金色に輝く眼は強い意志を感じさせ、折れない心を持っていると直感した。

アニ「(こいつも敵になるのか...)」

遠くない未来を見据え、ようやく悪くない男がいたと感慨に耽っていたが、少し周りが気になり見回した。

すると普段では有り得ない光景が目についた。

アニ「(ミカサとアルミン?)」

アニ「(あの二人があんなに狼狽えるのも珍しいね...)」

アルミンは信じられないとばかりに目を見開き、ミカサに至っては今にも泣き出しそうな顔をしていた。

アニ「(あいつに関係あるってことなのか)」


気になってふと前に立つ男を見ると、丁度声を発する所だった。


エレン「初めまして!本日より104期訓練兵の皆さんと共に訓練に励む事になりましたエレン=イェーガーです!」


アニ「(途中から?基礎訓練は必要ない程ってことかい...)」

アニ「(訓練が始まったら喧嘩吹っかけてやるか)」



あいつを蹴り飛ばす、と決めたところで教官による説明が始まった。

エレン「(ここに来る事になるとは思わなかったな...)」


エレンは二人の前から消えてから、金を有り余らせてる奴等の家に忍び込んだり、独自に学んだ狩りをして生活していた。
そして獲物が見当たらず、仕方無しに忍び込んだ調査兵団支部で運悪く滞在していたリヴァイ班の面々により捕縛されたが、巨人を狩る意志を認められ、調査兵団の者により育てられた。


エレン「(まあ立体機動と格闘しか教えられてないしな...)」

そういえばそれ以外は違う場所で学ぶ事になるとか言っていた。

エレン「(なる程こういう訳だったのか)」


ここに来た理由について考えていると先程紹介されたキース教官により呼び出された。


エレン「(...あいつらもいるのかな)」


ふと自分が捨ててしまった二人が頭を過る。


エレン「(気にしても仕方ない。行こう)」

前に出ると同年代の男女の視線が突き刺さった。

エレン「(兵長に較べたら大した事ねえな)」

訓練中に良く睨みに来ていた人物と比較して、少し落ち着いてから声を発した。


エレン「初めまして!本日より104期訓練兵の皆さんと共に訓練に励む事になりましたエレン=イェーガーです!」


自分の言葉に驚いたという顔が目に飛び込んでくる。

エレン「(はは、そりゃあそうなるよな)」

そしてふと見回すと


エレン「ッ!!」


数年前までよく見ていた二人の成長した姿が見えた。

リヴァイ班って壁外遠征でエレン守るために結成された班なのですがそれは
ああそうかエレン育てるために結成したのか

>>39
細かい所は気にしないでくれ

正直リヴァイらに拾われたとかはやり過ぎたと思ってるんだ


少しだけ投下して来ます

ーーーーーーーーーーーーーーー

目の前の光景が信じられない。
会えるのはまだ先の事だと半ば諦めていた。

でも、


エレン「初めまして!本日より104期訓練兵の皆さんと共に訓練に励む事になりましたエレン=イェーガーです!」


間違えるわけがない。


ミカサ「(エレン...!!)」

更なる確信が欲しくて凝視していると、ついと目が合った。

成長した自分を見ても私だと分かってくれた。
その事実に耐え切れず、涙が溢れそうになる。

キース「イェーガーは3年前より調査兵団の下で独自の訓練を受けてきた!」

キース「しかし分野を絞った訓練だった為、残りを補う為に貴様等と共に訓練に励む事になる!」


そんな事どうでもいい。


キース「だがイェーガーが身に付けている技術にはあのリヴァイ兵長はものも含まれている!貴様等は必死に技術を盗め!」


早くエレンに触れたい。

永遠にも思える時間が過ぎた。
その場に留まることなど出来ず、脇目も振らずにエレンの元へと急ぐ。


ミカサ「エレンッ!!!」


大声で呼び掛けると彼が振り向いた。

エレン「ミカサ...!」

彼に名前を呼ばれた瞬間、今まで堪えていた涙が溢れ出してくる。


ミカサ「エレン...エレン...エレン...」


そこにいる事が信じられなくて何度も名前を呼ぶ。
早く触れたい。その存在を確かに感じたかった。


しかし、

エレン「...済まなかった!」

エレンは唐突に頭を垂れた。

エレン「あんな状況でお前を捨ててしまった!お前が家族を失う事にどんな思いを持つかも分かってたのに!」

何を言ってるのか分からなかった。


エレン「俺は自分の事ばっかりで...。お前の事なんか何も考えてなかった...」


そんな事はいい。


エレン「リヴァイさん達に拾われてからも後悔ばかりで...」


もう我慢なんて出来ない。


エレン「強くなったらなんて言って、実際は拒絶されるのがこわかっ



エレンの言葉はそこで遮られた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

アルミン「エレーーっ!?」

漸くミカサに追いついた時。
その光景に目を耳を疑った。

ミカサ「んぅ!エレン!」
エレン「んむッ。み、ミカサ!?」

エレンはミカサに押し倒され、普段打撃音が響く訓練場からは、二人の接吻による卑猥な音が響いている。

ミカサ「んっ、チュゥッ」
エレン「んぅ!んー!」

一方的に吸い、流し込み、飲み込む様に唇を重ねる。

止めるべきだとは思う。
しかし気持ちが理解出来る分、静止に入るのも憚られた。

アルミン「(まぁこれくらいされたって文句は言えないでしょ)」

暫く見守っていると、周囲の雰囲気が異様な事に気が付く。


アルミン「ぁ...」


他の者からすればこれは受け入れ難い光景だった。
この一年ダントツの成績でトップにいた少女が、突如現れた少年の唇を貪っている。

流石に止めようと動き出すが。

アルミン「僕に止められるのか...」

これからの生活を想像し、溜息が漏れた。

アルミン「(なんとか止められたけど...)」

異様な雰囲気を纏ったまま、今期の最初の訓練が始まった。
今日からついに立体機動の実地訓練が始まる。


キース「では本日より立体機動装置を用いた訓練に入る!毎年死亡者が出る訓練だ!十分に注意しろ!」


皆言葉では理解している。
ただ知識による慢心が少なからずあった。


キース「まずはイェーガーに手本を見せてもらう。」

エレン「ハッ!」

しかしエレンの姿を見て、その認識は改められた。


エレン「ふっ!」


アンカーを射出し、巻取り、ガスを噴射する。

それだけの行為に皆、目を奪われた。


アルミン「..すごい...」

その動きは力強く速い。
これが僕達にも出来るのかと疑問に思う。
それ程に、僕の想像を遥かに凌ぐものだった。

アルミン「(実際に飛ぶ所を見たのはこれが初めてだ...でも)」

アルミン「(なんて自由な...)」


自由に空を舞う姿は、まるで翼が生えたかの様に見えた。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「すっげーなお前!どうやったらあんなん出来んだよ!?」

訓練が終わり、食堂へ戻ると彼に興味を持った人達が集まって来る。

エレン「どうやってって言われても困るけどな...。というか現状でそれ聞いても理解できるか?」

「う...。そうかまだはえぇか...」

エレン「そうだ。しっかり基礎を身に付けないと死ぬからな」

与えられる質問に一つずつ答えて行く。

「そういえばさ。お前って調査兵団で直接訓練受けたんだろ?どんな訓練だったんだ?」


その質問が投げられた時の顔は忘れられそうにない。



エレン「ひっ!」


あれだけ颯爽と空を舞っていた男が怯えた表情を見せた。

その反応を見て周囲は意味を察して追求しなかったが、先程からエレンに張り付いている一人の少女は違った。

ミカサ「エレン?一体何をされたって言うの...?」

恐ろしい。
化け物じみた身体能力を持つ彼女がここまで怒っているのを誰も見た事が無かった。

ミカサ「教えて?誰に何をされたのか。直ぐそいつの所に行って肉という肉を削ぎ落してくるから」

空気が凍るのを肌で感じた。

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聞かれるだろうと思ってたが、いざ聞かれると身が竦む。
調査兵団での訓練は正に地獄だった。


ある男には躾と称し痛みを与えられ。
ある女性には懇懇と巨人について語られ。
又ある女性には可愛らしい笑顔で扱かれた。
そしてある男には兵長に近すぎると絡まれては、舌を噛んで倒れられていた。


エレン「(オルオさんに会う度に血をぶっ掛けられるのは嫌だった...)」


地獄の期間に思いを馳せていると、周囲の空気がおかしい事に気が付く。


エレン「?なんだ?」


皆から漸く気付いたかという視線が向けられる。

エレン「(な、なんなんだ?)」

エレン「(く、空気が冷たい...)」

その場の雰囲気を正確に把握すると、その発生源に目が行く。

エレン「うおっ!?」

それは再開した直後に激しいキスを加えてきた少女だった。

ミカサ「エレン、早く教えて?」

端正な顔を歪ませて酷く怒っている。
だが原因が分からない。

エレン「な、なあ。なんでそんなに怒ってるんだ?」

そう言うと空気がさらに冷たくなった。

ミカサ「...そう。エレンは口外するなと脅されてる。わかった。全員削げば解決する」

そう言って席を立つ。

エレン「そ、削ぐって誰をだよ!?すんなよそんな事!?」

それでも尚彼女の怒りは増すばかりだ。

ミカサ「ここまでエレンを躾けるなんて許せない...!削ぐだけじゃダメ...。細かくしてからグチャグチャに...!!」



エレン「(どうなってんだよこれは...)」

もうほっとこうかと諦めかけていたが、周囲の怯えた視線がそれを許してくれない。

エレン「(とにかく今はこいつらが怯えないようにすればいい!)」

そう考えて

エレン「おらあっ!」
ミカサ「えっ?」

ミカサを担いで走り去った。


その時その場にいた者は一瞬で修羅から乙女に変わる瞬間を見て、その内に秘められた狂気に恐怖を募らせていた。

ここまででございます

お目汚しで申し訳ないがお付き合い頂けると幸いです


じゃあまたねノシ

ジャン出てこないし
まじで死んだな

>>58
次回の投下で出るんジャン




アルミン「ミ、ミカサ...」

二人が去っても周囲の空気は払拭されない。

何年も家族の様に過ごしてきた少女の恐ろしい一面に頬が引き攣った。
しかしその反面、エレンが消えた頃と比べ物にならない程活力に溢れる彼女を見て嬉しく思う。

アルミン「(今までの反動って事なのかな)」

エレンのいなかった数年間を思い返す。
ふと昔エレンと夢を語り合った事を思い出した。

アルミン「(そうだ...!外の世界!)」

今までエレン追いつく事ばかりを考えて来た。
それが再開した事で外の世界への憧れに再び火が付く。

また語り合いたいという思いが湧き出てきた。


椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がると、周囲から驚きの目を向けられる。


それを無視し、熱に浮かされる感覚を味わいながら二人の追い掛けた。

アルミン「エレン!」

呼び掛けると二人が振り向く。

エレン「アルミン!」
ミカサ「アルミン...」

ミカサは些か不満そうな顔をしていたが、気にならない。

感情のままに言葉を発する。

アルミン「思い出したんだ!僕達の夢!」

二人は少し驚いた顔を見せた。

アルミン「君に追い付く事ばかりで今まで忘れてた!氷の大地に砂の雪原!炎の水に採りきれない程の塩の湖!昔さんざん語り合った夢だ!」

少し笑ってから、嬉しそうな顔で言葉を返してくる。

エレン「そうだ外の世界だ!忘れた事なんてない」


泣きたくなるほど嬉しかった。

アルミン「よかったエレンが覚えててくれて...」

エレン「勿論だ、俺は必ず外の世界に行く」

その言葉に精一杯の思いを込めて返事を返す。

アルミン「ああ!行こう!」

また昔の二人に戻れた事が嬉しかった。


しかしその時、エレンの後に立っているミカサの表情が僅かながらに翳りを帯びたのに気が付いていた。




二人と別れて寝床に入っても、先刻の会話が頭に浮かぶ。

エレンとようやく再開できた喜びも、彼とその親友の会話で冷水をさされたように落ち込んだ。

昔エレンが頑として曲げなかった外への世界の憧れ。

3年前の惨劇を身を持って体験し、既に諦めていればと期待していたが、それは叶わなかった。

ミカサ「(変わってない...)」

それが悲しくもあり、嬉しくもあった。


ミカサ「(そうだ。私が守ればいい、元々そうするつもりだったはず)」

訓練所に来た理由を思い出す。

ミカサ「(エレンだけは死なせない。絶対に)


決意を新たに、一日の疲れをとる為目を瞑った。




皆が寝床の準備を始める頃、寮の自室に向かいながら、訓練が始まる前に唐突に現れた少年を思い出す。

ジャン「(あんのクソ野郎...!)」

一目惚れをして一年、恋慕の念を育み、いつか想いを告げようと思っていた少女とその少年の、卑猥な程に深く交わされた口付け。

それは一方的なものだったが、少なくともジャンには互いに求め合っていた様に見えた。

訓練が始まってもその光景が頭を離れず、
茫然自失のまま始まった初の立体機動装置を用いた訓練で事故を起こしてしまい、
一日を医務室のベッドで過ごす事になってしまった。


ジャン「(ぜぇんぶあのエレンとかいうクソ野郎のせいだ!忌々しい!)」


少年への怨嗟の念を抱きながら自分達の部屋のドアを開ける。

同室の者達から事故に対し、自分の身体を気遣う言葉が掛けられるが、
その中に一人見慣れない後ろ姿が見えた。

ジャン「(誰だありゃあ、こんな時間に)」

その後ろ姿が誰のものかと記憶を辿っていると、背を向けていた人物がこちらを振り向き言葉を発した。

エレン「よう、ジャンって言うんだって?今日から同室だ、よろしく」

顔を見ると件の少年だった。

今朝の光景がまたも、克明に蘇る。

嫉妬と苛立ちが体を支配する。
気付くとその対象に向かって身体が動いていた。

ジャン「てええめええええ!!!」

瞬時にエレンの下まで身を運び、その胸倉を掴み上げる。

エレン「ぐっ...。おい!いきなり何すんだよ!?」

エレンは突然の行動に驚いた様子を見せながらも、こちらを睨みつけてきた。

ジャン「ううううるせえ!!てめえミカサとなにしてくれてんだこのクソ野郎が!!!」

エレン「うっ...!思い出させんな馬鹿...」

そう言って頬を赤く染めて目を逸らすエレンに、更なる嫉妬が募る。

ジャン「こんのやろうが!!!!」

思わず拳を振り上げ、少年の顔面に向かって振り下ろすが、

エレン「おぉっ!?」

しかしその拳を取られ、前へと引かれる。

エレン「シッ!」

ジャン「あがっ」

そのまま肘で顎を打ち抜かれ、床へと崩れ落ちた。

アルミン「(うわあ...。ジャンの事すっかり忘れてたよ...)」

親友との再会ばかりが頭を支配し、ミカサにあからさまな恋心を示していた人物を失念してい た。

その恋が実る事は無いと分かっていたが、こうなるとも思ってもいなかった。

アルミン「エレンやりすぎだよ」

ジャンが悪いとは分かっていても一応は先の行為を嗜める。

エレン「いやそんな事言ってもよ...。これは純然たる正当防衛だろ」

アルミン「まあね...」

ジャンをベッドに移し、しばし談笑していると 、先程挨拶を交わした同室のライナー=ブラウンとベルトルト=フーバーが話し掛けてきた。

ライナー「見事な肘打ちだったなエレン」

ベルトルト「ジャンだって対人格闘は弱くないのにね。強くもないけど」

エレン「どうもな。でもお前らもまだ一年間とはいえ訓練を受けてきた身だろ?いくらなんでもこいつ弱すぎじゃねえか?」

白目を剥いて、ベッドに横になっているジャンを指差しそう言った。

エレンの言い分にライナーとベルトルトは苦笑し、
そのジャンより弱い自分が少々情けなく感じながらも答えを返す。

アルミン「まあ、ね。ジャンは憲兵団志望だからさ。得点の低い対人格闘はかなり手を抜いてるよ」

そう答えるとエレンは不思議そうな顔をした。

エレン「はあ?得点が低いって言っても憲兵団にこそ格闘技術が必要だろうが。何しに来てんだこいつは」

訳が分からないと言った表情でジャンが居る方向を見る。

アルミン「エレンは知らないのかな。訓練兵団に来る人の大半は12歳になっても開拓民でいると情けないって言われるからここに来てる様なものだよ。それであわよくば憲兵団に入って安全な内地で暮らしたいってね」

エレンはその言葉に落胆した様子だった。

エレン「なんだそりゃ...。訓練所ってもっとやる気のあるやつらがいるもんだと思ってたぞ... 」

ライナー「いやまあなあ。誰だって死ぬのは恐いってもんだ」

エレン「そんなもんか...」

ベルトルト「僕も憲兵団志望だしね。確固たる目的のない人には丁度いい目標になるんだよ。もし行けなくても駐屯兵団って道もある訳だしね」

それを聞くとなるほどなと納得する。


エレン「ところでなんであいつはあんなに怒ってたんだよ?」

分からないのかと親友の鈍感さに呆れたが、説明するのも一苦労だと思い、それぞれが寝床に戻っていった。

寝床に入り、先の会話を思い返す。

突然の事だったが、少なからず訓練兵団での生活は楽しみにしていた。 調査兵団は確かに自分の思想と一致する場所だったが、同年代の者がおらず、訓練兵になるのなら同じ考えを持った同期も見付かるだろうと考えていた。

エレン「(まさかほとんどが憲兵団志望だとは...。アルミンだけか...)」

確かに落胆こそしたが、勧誘等を行うつもりは微塵もない。
調査兵団に居た頃は、顔見知りが壁外遠征に出て帰ってこないなんて事は珍しい事じゃ無かっ た。

エレン「(本当はアルミンにも憲兵団を目指して欲しいんだが...。あんな顔で夢を思い出した!なんて言われちゃあなあ...。止めろなんて言えねえよ)」

それでも昔から外の世界について語り合った親友が一緒に目指すと言ってくれたのは少なからず嬉しかった。

エレン「(これから二年間、教えてもらった技術さらに磨き上げる。それにミカサとアルミンがどれくらいやるようになったのかも気になるし)」

今はとにかく強くなる事だと思考に決着を付け、これからの生活に期待しながら、眠りに落ちた。




エレンが訓練兵団にはいってから数週間が過ぎた。


アニ「(さて今日こそあいつと訓練できるかね )」

初日からエレンを蹴り飛ばすと決めていたが、その家族だというミカサが普段の生活だろうと訓練だろうと可能な限り張り付いていたため、中々チャンスが無かった。

組めないならば仕方がない、せめてどの程度か見極めようとサボりがてら二人の訓練を見ていたが、まさか抜きん出て優秀なミカサから一本取るとは驚かされた。

アニ「(今じゃほとんど負けてるみたいだけど)」

ミカサの成長の早さに呆れながらも、エレンとの訓練はこのつまらない訓練兵生活のいい暇つぶしになりそうだと期待していた。

アニ「(あ...)」

チャンスを伺いながら二人を見ていると言い合いをしているのに気がついた。

エレン「お前は!もういい加減にしろ、俺だって他の人と組んでみてえよ!」

ミカサ「で、でも!エレンと私はずっと離れ離れだったから一緒にいたい!」

エレン「ぐぅ...。それを言われるとな...」

どうやら何かしらの弱みがあるようだが、他の人との訓練を望んでるなら見込みはあるかと二人へ向かって歩き出す。

アニ「ねえあんた」

声を掛けると二人が振り向いた。

ミカサ「アニ...。何の用?」

アニ「いやあんたじゃないんだけど。そっちの男に用があるんだよ」

そう言うとエレンは意外そうな顔をし、ミカサはむっとした表情を見せた。

エレン「俺にか?なんだ?」

アニ「あんたの実力に興味があってね。他の人と組みたそうだったから声を掛けてみたのさ」

エレン「おお!いいぞ。確かアニって格闘の成績いいんだよな。楽しみだ」

自分を知ってる事を意外に思いながらも 、ようやく勝負出来るかと少しばかり気持ちが昂ぶる。

そしてミカサを見るとやはり先程よりもむっとした表情でこちらを見ていた。

エアコンの庇護の下うたた寝してしまった

いやありがたいお言葉を貰ってやる気が出る


もうちょっとだけ投下する

アニ「(ようやくだね)」

エレン「よし、それじゃミカサはライナーとでも組んでてくれ」

ミカサ「.............わかった」

エレンの言葉に了承すると、不満を顔に貼り付けたままライナーの元へと向かって行った。


アニ「じゃあ構えな」

両腕を頭まで上げ、膝を軽く曲げる。
長年の鍛錬により、身体に染み付いた構え。

エレン「...隙がねえな」

当たり前だ。

エレン「よし...」

エレンも構えを取る。
粗はあるが、堂に入った構え。
見ただけで充分な鍛錬を積んでいる事が解る。

アニ「本来はやり方があるんだけどね。一回位いいだろ」

エレン「そうだな。...じゃあこっちから行くぞ」

言葉を言い終えた途端に、アニに向かって走る。

アニ「(随分直線的だね...)」

エレンが右手で殴りかかろうとし、左脚に体重が掛かる。
その瞬間を狙い、蹴りを入れて倒そうとするが。

アニ「ふっ!」

エレン「ふんっ!」

技も何もない、単純に筋力のみで蹴りに耐える。
すると殴りかかろうとしていた右手で視界を塞がれた。

アニ「ッ!」

視界を回復させようと一歩後に下がる。

しかしそこを狙われた。

エレン「はっ!」

重心の移動を狙ったローキック。

バランスを崩したまま、後ろに倒れる。

アニ「ぅッ!」

追撃に備え直ぐ立ち上がろうとするが、
目の前に手が差し伸べられた。

エレン「訓練だしな。今ので俺の勝ちだろ」

勝ち誇った笑みで見下されるのが癇に障り、一瞬で立ち上がると、差し伸べられた手を取り、足に蹴りを入れてそのまま宙へと投げ飛ばした。

エレン「うおぉ...。いってえ...勝負はついたって言っただろ」

痛めたところを撫でながら、非難の目を向けてくる。

アニ「あんな勝ち誇られた顔されたら投げたくもなるさ」

エレン「あぁ、そりゃ俺が悪いのか」

アニ「まあね。それにしてもこう簡単に負けるとは思わなかった。正直ムカツクんだけど」

エレン「そりゃねえだろ...。まあ不意打ちってのは狩りの基本だからな。次はわかんねえよ」

狩りという単語に興味を惹かれたが、まあ関係ないかとその場を立ち去る。

アニ「良い暇つぶしになったよ。じゃあね」

次は勝てると考えながら、またサボるかと思っていたところを後から呼び止められた。

エレン「アニ!」

まだ何かあるのかと後ろを振り向く。

アニ「なんだい」


エレン「また、やろうぜ!」

その答えは予想してなかった。

とりあえずここまで
ほんとにちょっとでした


格闘って難しいね
記憶にある漫画のシーン想像したけど実際に経験無いとわからん

それではまたノシ




訓練兵団での訓練も一年が過ぎた頃、調査兵団にいた頃に世話になっていたペトラ=ラルから、次の休みにこちらへ来ないかと手紙が来た。

エレン「(ペトラさんか。そう言われればずっと会ってないな)」

訓練に夢中で、三年間養い、鍛えてくれた人達に久しく会ってない事に気が付く。

エレン「(悪いことしたか...)」

少しばかり自己嫌悪に陥るが、久し振りに皆に会える事が楽しみだった。

そういえばと二人の幼馴染みが頭に浮かぶ。

エレン「(そうだ、あいつらも連れて行ってやろう。変な人ばっかりだから驚くだろうな)」

二人の反応を想像し、口元が緩む。

エレン「(そうとなったら早速誘わねえとな)」

新しい楽しみが増えた事を喜びながら、二人の元へと向かって行った。




数日後、手紙を見た後に誘いを入れたミカサとアルミンを連れ、調査兵団本部を訪れた。

アルミン「うわあ...。ここが調査兵団かあ...」

エレン「はは、変な人がいっぱいいるぞ?」


ミカサ「ここにエレンを躾けた奴が...」

そう言いながら扉の奥を睨みつける。

エレン「お、おい?何度も説明したろうが。暴力じゃなくて訓練だったんだからな?」

ミカサ「....わかってる」

声に嘘が滲み出ている。

エレン「(こ、こいつは...。.本当にわかってんのか..)」

連れてきた事を後悔しながらも、中に入る為扉を開ける。

エレン「ミカサ、ほんとに変な事すんなよ」

目的地に向かいながら再度注意を促す。

ミカサ「理解はしている」

なんとも安心し難い言葉に溜息が出る。

エレン「ほんとにわかってんのかお前。...わかった。問題を起こさなかったら出来る限りの事をなんでも一つだけ言うこと聞いてやる。それでどうだ?」

アルミン「え、エレンそれは止め...」

アルミンが静止をかけようとするが、

ミカサ「わかった!何も変な事はしないと約束する!」

滅多に出さない大声でそれを遮った。

エレン「お、おうそうか。約束だぞ」

突然の大声に面食らったが、その言葉でようやく安心出来た。




エレン「さて着いたぞ」

目の前には重厚な雰囲気を纏う扉。
扉の右を見ると、[団長室]と書かれている。

アルミン「え、エレン...?」

縋るような目でこちらを見てくる。

エレン「なんだよ」

問い掛けると、なんだよじゃないよと言い、焦りを含ませた声で詰め寄ってきた。

アルミン「団長室ってなんだよ!?ペトラさんって人に会うだけじゃなかったの!?」

エレン「だからここで会うんだよ。もしかしたらリヴァイ兵長もいるかも知れないぞ」

そう言うと冷や汗を流しながら頭を抱える。

ミカサ「アルミン、相手も同じ人間。萎縮する事はない」

無理に決まってるだろと、とうとう蹲ってしまった。

エレン「もう入るぞ」

アルミン「待ってよう!」

構うのも面倒になり、さっさと入ろうと扉を叩く。

エレン「エレンです。入っても構いませんか?」

入室の許可を求めると、入ってくれと声が返ってきた。

エレン「失礼します」

ミカサ「失礼します」

アルミン「しっ、失礼します!」

扉を開けた奥の机から、微笑みで迎えたのは調査兵団団長エルヴィン=スミス。
エレンが拾われてから三年間エレンを見てきた人物だった。

更に部屋の中心にあるソファには兵士長リヴァイとその班員のペトラ、分隊長のハンジ=ゾエが座っている。

エルヴィン「久し振りだねエレン。」

エレン「お久し振りです団長、兵長。それにペトラさんとハンジさんも!」

家族の様に過ごして来た人達を前に笑顔が漏れる。

ペトラ「元気そうでよかったよエレン」

ハンジ「久しぶりかな?ちょっと大きくなったねー」

二人共笑顔で声を掛けて来た。

その二人の向かいの席では一目だけ視線を向けた兵長が紅茶を口に運んでいる。

エレン「兵長!お元気そうで何よりです!」

顔をこちらに向けると、ああ、とだけ返事を返して来る。

エレン「皆さん変わりなくてよかったです。それでこの二人なんですが、前に話した幼馴染みのミカサとアルミンです」

二人の背中を押し、前に進める。

ミカサ「訓練兵団所属、ミカサ=アッカーマンです」

アルミン「おっ同じくアルミン=アルレルトです!」

ミカサは相変わらず、アルミンはさっきより緊張が高まっているようだ。

エルヴィン「ああ、君達がそうか。話は聞いているよ。私は団長のエルヴィン=スミス」

ハンジ「あっははは。ミカサちゃんはエレンにべったりだね。私は分隊長のハンジ=ゾエ。よろしくね。で、私の向かいに座ってるのが、知ってるだろうけど兵士長のリヴァイだよ」

アルミン「よっ!よろしくおねがいします!」

固まったような声に苦笑が漏れる。
雲の上の人物達に囲まれ、身を固まらせているとハンジの隣に座っているペトラがアルミンに言葉を掛けた。

ペトラ「アルミンくんだよね。久し振り」

そう声を掛けられたアルミンは何の事かとあたふたしているのが可笑しくて、つい笑ってしまう。

エレン「ほらアルミン、二人が開拓地の頃に手紙を届けてくれた人がいただろ?」

指摘すると、はっとした顔をした。

アルミン「ああ!手紙の!」

ペトラ「そうだよ。ふふ、あんまり大きくなってないね」

気にしてる事を指摘され、少々落ち込んだようだ。

エレン「そういう事言わないであげてくださいよ...」


一年振りの再開も誰として欠けておらず、和気藹々とした雰囲気で会話が進む。
アルミンも周りの雰囲気を見て緊張が解れてきた様に見える。
ミカサも相変わらず引っ付いて来るが、楽しいと感じていた。

その空気もある男によって壊された。

リヴァイ「さてエレンよ。そろそろいいだろう。鍛えてやる」


顔が引き攣る。

エレン「い、いや今日は...」

言葉を濁すが、この男には通用しない。

リヴァイ「ああ?わざわざ時間空けといてやったってのになんもしねえで帰るつもりか?」

これはもうダメだと早々に諦めた。
了承の言葉を吐こうと思っていたが、挨拶を済ませてからずっと引っ付いている少女が何かを察したように顔を強張らせる。

ミカサ「もしかして、あなたがエレンを躾けた人でしょうか」
リヴァイを睨み付けながら普段より低い声調で問い掛ける。

するとその問い掛けの相手はニヤリと人の悪い笑みを見せ、言葉を返した。

リヴァイ「躾か。そう言う事なら俺がそうだろうな」

ミカサの目付きがさらに鋭くなる。

エレン「お、おいミカサ!変な事はしないって約束しただろ!?兵長も!あれは訓練だったじゃないですか!」

ペトラ「そうですよ!煽るような事言わないでください!」

二人掛かりで止めようとするが、ミカサは睨むばかり、リヴァイもそれを受け止めるのみで止まる気配がない。
それを止められる人物であるエルヴィンは困った様に笑い、ハンジは楽しそうに二人を見ている。

仕方ない、と思いながらミカサに近付く。

エレン「ミカサ」

名前を呼び、そのまま頭が前に来るようにミカサを担ぐ。

そうすると少しばかり落ち着いたようだが、肩の上からいまだにリヴァイを睨み付けている。

エレン「ちょっと落ち着かせてきますね...」
やっぱりこうなったかと思いながら、少し出ますと声を掛け、ミカサを担いだまま外へと出て行った。




アルミン「(またこうなるのか...)」

稀に起きるこの行いも、何度目かになれば慣れが来る。

アルミン「(そういえばアニとエレンが自由時間に二人きりで訓練してるって知った時はもっと大変だったな...)」

これくらいなら慣れたものだと小さく溜息を吐いた。

いつもの光景に軽く脱力していた所に楽しそうな笑い声が響く。

ハンジ「中々面白い娘だねーアルミン君。リヴァイに喧嘩売るなんてさ。エレンにお似合いだ」

その声で今自分が置かれている状況に頭が追い付いた。

アルミン「(この面子で僕だけ残すってなんなのさ!?だ、だめだ...)」

耐えられないと思い、「ちょ、ちょっと二人を見てきますね」と言って外へと歩を進めようとするが、

ハンジ「まあまあ二人はいいから話しようよ!」

という言葉で退路を塞がれてしまった。

戦々恐々とした心境のまま、ハンジの隣に座らせられる。

ハンジ「アルミン君だよね。エレンの訓練兵団生活でも教えてよ」

アルミン「はっはい!どんな話がいいですか?」
声が裏返りながらもなんとか返事を返した。

ハンジ「そうだねー。エレンの浮いた話とか聞いてみたいな」
と言って、ニヤニヤと笑う。

エルヴィン「はは、確かにエレンのそういう話は気になるな」

ペトラ「やっぱりさっきのミカサって娘なのかな?」

リヴァイ「...あいつがそんなもんに興味あるかよ」

それぞれが思い思いの言葉を並べる。

アルミン「う、浮いた話ですか。多分ですがない事はないかと...」

ペトラ「えっ!あるの!?」
信じられないという様な顔でそう言った。

アルミン「え、ええ。ミカサがそうなのは知ってますが、それ以外にも、恐らくですが」

ハンジ「そんな驚く事でもないよねえ。エレンだって男の子なんだからさ」
声を出して笑う。

ペトラ「でも意外ですよね。私の裸を見てもなんの反応も示さない様な子なんですよ」
その時を思い出したように、呆れた顔でそう言った。

ペトラさんの裸を見たって...と微かに羨ましく思う気持ちが湧き出る。

エルヴィン「まあそれはいいだろう。聞かせてくれないか」
アルミンの方を見てそう言った。

アルミン「は、はい。あの、同期のアニって娘なんですが」

それから自分の知る限り、問題ないだろうという部分について話し始めた。

アニが初めにエレンを格闘訓練に誘った事。それまではミカサが引っ付いていて僕ですら組んだ事が無かった事。夜の自由時間には二人きりで訓練をしている事などについてだ。



話終わるとペトラが口を開いた。

ペトラ「な、なんか夜に二人きりで訓練ていいですね」
惚けた様な顔でそう言った。

ハンジ「いやー中々いいじゃない。訓練兵団の青春っで感じだね」

エルヴィン「あのエレンがね。訓練にしか興味がないと思ってたいが」

リヴァイ「どっちにしろ訓練じゃねえか」

リヴァイの言葉に「だからいいんじゃないですか!」とペトラが返す。

思いの外楽しんでもらえたようで助かったと安堵する。

アルミン「あのお聞きしてもよろしいですか?」
取り敢えず落ち着いた所で、アルミンから質問を投げた。

ハンジ「なんだい」
こちらを向き言葉を求める。

アルミン「あの、エレンが調査兵団で訓練していたって言うのは本人から聞いて知ってるのですが、どうやったらあんな動きが出来るのかと疑問でしたので」

エレンの立体機動を初めて見てから思っていた事だ。
二年目から実際に装置を使用しての訓練が始まって随分経つが、立体機動においてはミカサですらまだエレンには至っていないと思っていた。

リヴァイ「あいつの立体機動を見たか」
微かに口元を歪ませてそう言った。

ハンジ「エレンに立体機動の基礎を叩き込んだのはリヴァイだよ。後は見て盗んだって感じじゃないのかな」

アルミン「り、リヴァイ兵長が指導なされたのですか!?」
まさかあの人類最強から直接とは思っておらず、つい声が大きくなる。

ペトラ「そうだよ。エレンの立体機動はね、私達から見ても独特なんだ」

アルミン「そ、それはどういう」

リヴァイ「あいつの立体機動の強みは力強さでも速さでもない。その自由度があいつの強みだ」

確かに納得出来る。初めて見た時、その自由な姿に感動したのを覚えている。

アルミン「...分かります。初めて見た時は驚きました」

ハンジ「そうだろう?空中でのワイヤーの扱いに限れば私達の中でも群を抜いてる」

まあリヴァイは別としてねと言いリヴァイへと目を向ける。

アルミン「それは、エレンにはそういった才能があったと言うことですか?」

そう言うと「そういう事じゃないんだ」と言葉が返ってきた。

ペトラ「こんなこと言うとエレンには申し訳ないけど、エレンには大した才能なんて無かったんだよ。多少は優れてたかも知れないけどそれくらい」
微笑みながらそう言った。

エルヴィン「そう。エレンにはリヴァイや君の幼馴染みのアッカーマン程の天賦の才は無い。それでも努力に努力を重ね、リヴァイや他の者の動きを盗み、試行錯誤を繰り返して自分だけの動きを身に付けた」

ミカサの事を知っていたのかと思ったが、それ以上にエレンに才能が無いという事実に驚いた。

アルミン「エレンに才能が無かったなんて思いもしていませんでした...」

予想外の答えに、暫しぼうっとしていると、ふと疑問が湧いてきた。

アルミン「そう言えば、何故エレンを調査兵団で保護する事になったのですか?手紙には、その、盗みに入った所を捕縛されたと書いてあったのですが...」

通常でしたら駐屯兵団へ引き渡すのが筋ではないのかと思いながら問い掛ける。

するとリヴァイから予想外の言葉が返ってくる。

リヴァイ「俺が気に入ったからだ」

驚いた。まさかあのリヴァイ兵長が気に入ったとは思ってもいなかったからだ。

アルミン「で、ですが。エレンにはそこまでする才能は無かったのではないのですか?」
理由が分からず困惑する。

エルヴィン「それについては私が話そう。」

リヴァイの気持ちは私にも分かると言って話始めた。

エルヴィン「エレンと初めて会ったのは調査兵団のある支部でたまたま会議を開いていた時でね。その時に盗みに入ったのを捕まえたのが最初だ」
楽しそうな表情で話し始めた。

エルヴィン「最初は駐屯兵団にでも差し出そうと思っていた。でも話をしていたら、シガンシナ区出身だと話してね。何故だと思った。あの時シガンシナに居たならば今頃は開拓地に居るはずだからね。そして何故こんな事をしているのか聞いたんだ」

その後に聞いた事といったらと楽しそうに微笑んでいる。

エルヴィン「当時シガンシナからの難民を担当していた憲兵の腐り様を見て『家畜からの施しなんか受けるのは我慢出来なかった。だから自分だけで生きてやるって決めたんだ』と言ったんだ。驚いたよ。シガンシナでの惨劇を身を持って体験したにも関わらず、人間としての尊厳を保ったままだった。誰よりも人間だと思った」

そして聞いたんだと言って顔を引き締めさせる。

エルヴィン「何故そこまで強くあろうとするのかとね。その答えは予想を超えていた」

一瞬の沈黙の後、言葉を繋げる。

エルヴィン「『強くならないと奪われるばっかりだ。もうあいつらに奪われるのなんかゴメンだ。だから強くなって今度は俺が巨人共から自由を取り戻す』と言った。そして巨人を一匹残らず駆逐すると私達を前に声高々に宣言してくれたんだ。なす術無く、母親が目の前で食われたにも関わらずね」

そこで一旦話しを区切ると、それだけじゃねえと言う言葉と共にリヴァイが話し始める。

リヴァイ「それを宣言しやがったのはまだ10にも満たないただのガキだった」

でもなと言い、口元を歪ませる。

リヴァイ「巨人を駆逐すると宣いやがった時の目はガキどころか、人間なんかじゃねえ。あれは獣だった」

ふとあの日、避難する為に乗った船の上で、一匹残らず駆逐してやると呪詛の言葉を紡いでいた時のエレンを思い出す。

アルミン「(獣...)」

あと時のエレン憎しみに満ちたの目を思い出し、微かに身が強張る。

リヴァイ「あいつは誰よりも人間でありながら飼い慣らすことなど出来ない獣でもある。そこが気に入った」

だから俺が調査兵団で引き取ると決めたと言い、話を締め切った。

アルミン「そう、だったんですか...」


思いもしなかった話に俯いてしまう。でもエレンならと納得出来る。
やっぱりエレンはすごい、小さく呟く。

エルヴィン「そう、確かにエレンは凄いと言っていい。でもね」

一旦言葉を区切り、言葉を繋げる。

エルヴィン「どれだけ力を付けても、どれだけ意思が固くてもまだエレンは子供だ。まだまだ足りないものも多く、危うい。それをきっと君達が教えてくれると思っている」

はっとして顔を上げる。

エルヴィン「彼を支える人物になれると期待している。アルミン」

アルミン「は、はい!勿論です!」

立ち上がり、右手の拳を心臓をへと持っていく。

ハンジ「さあそろそろ二人も戻ってくるだろう。エレンには聞かせにくい話もあるからね。ここまでにしよう」

ほら座りなよと、いって着席を促す。

エルヴィン「それじゃペトラ、お茶を頼めるか。世間話でもしながら二人を待とう」

すっかり冷めてしまったと笑いながら声を掛ける。


それからは最近の訓練兵団での生活についてや、調査兵団の実態、ハンジさんによる巨人についての熱弁に面食らいながらも穏やかな時間が過ぎた。

暫くして二人が戻ってきたが、エレンは少し疲れた様な、ミカサは何故がほっこりとした表情で微笑んでいる。

ミカサを貼り付けたまま、エレンは僕の隣に腰を下ろす。
見慣れた横顔だが、僕の目にはいつもより眩しく見えた。


そして、さっきからエレンに言いたかった事を言おうと、エレンの名前を呼ぶ。

すると、なんだ?と言ってこちらを振り向いた。

エレンの目を見て言葉を紡ぐ。

アルミン「やっぱりエレンは弱虫なんかじゃなかったんだね」

そう言うと、驚いた様な、それでも嬉しそうな顔をして

エレン「...アルミンだって弱虫なんかじゃねえよ」

そう言って目を逸らしてしまったエレンに、僕は胸が暖かくなるのを感じていた。

これにて完結



頂いたアドバイスを生かせたかは分かりませんが、なんとか完走出来た


読んで頂いた方はありがとうございました

昼寝したせいで眠れない

ので少しだけ投下

エレンが訓練兵団に入ってから2年が過ぎた。

今日の卒団式が終われば、後は兵団選択を残すのみ。

厳しい訓練を乗り越えた者達は、今日ばかりは酒に飲まれるのを良しとしていた。


ジャン「ようやくここまで来たぜ!明日からは内地だ!」

興奮気味に内地への希望を口にする。

コニー「おお!俺もこれで村の皆を見返してやれる!」

マルコ「はは、良かったね。僕も憲兵団だ。これで王にこの身を捧げる事が出来る」

それぞれが思いを吐ける。

ジャン「おいおい何言ってんだマルコ?」
そう言ってマルコの肩を掴む。

ジャン「漸くこんな糞ったれなとこから離れて安全快適な内地へ行けるんだろうが!お前だってそう思ってんだろ!?」
バンバンとマルコの背中を強めに叩きながら言った。

マルコはその言葉に反応し、手を払いながら反論する。

マルコ「なっ!?お前と一緒にするな!僕は純粋に王の為にこの身を...!」

ジャン「おっとすまねえ。お前は真面目なやつだったもんな」

そう言って周りを見る。

ジャン「だがお前らはどうだ!?10位以内に入ってたら俺と同じ事を考えていたんじゃねえか!?」
立ち上がり、右手に酒瓶を持ったまま、両手を大きく広げて周囲に問い掛ける。


皆はそれに曖昧ながらも肯定した。

すると、隣のテーブルで静かに頬杖をついていたアニが話し始めた。

アニ「私も憲兵団志望だけど」

ジャンを横目で睨み付ける様に見る。

アニ「あんたとは同じに思われたくないね」
冷えた口調でそう告げた。

そう言われたジャンは、然程も気にしていない様に大きな笑い声をあげながら酒を胃へと流し込んだ。


エレン「おいジャン」

その笑い声を遮り、エレンがジャンの名前を呼ぶと、
「あぁ?」といいながらエレンを振り向いた。

ジャン「おお、これは調査兵団育ち調査兵団志望の死に急ぎ野郎じゃねえか。なんだ?」

エレンの思想を揶揄する言葉を返す。

エレン「お前さっき内地が安全だって言ってたよな?」

エレンが話し始めると、不穏な空気を感じ取ったのか、向かいに座っているアルミンと隣に座っているミカサが止めようとするも、「今日だけだ」と言って話し始める。

エレン「なあジャン。5年前はここも内地だったんだぞ」

アルミンの静止を意に介さず、言葉を繋ぐ。

エレン「内地になんて行かなくても、お前の脳内は快適だと思うぞ?」

その言葉に反応したライナーが鼻から酒を吹き出し、
アルミンに直撃する。
「うわあああ」と悲鳴の様な声と、「す、すまん!」という謝罪の声などで一時騒然となるが、その空気を遮ってジャンが話し始める。

ジャン「俺の脳内が快適か...」

一瞬の沈黙の後に、「違うな」と言ってエレンの顔を見る。

ジャン「俺は誰よりも現実を見てる。3年前のマリア奪還作戦の時、人口の二割を投入したがそれでも勝てなかった」

そう言って椅子へと座る。

ジャン「誰だって分かってる。人類は」

「もう勝てない」、そう言って俯く。

ジャンとエレンの論争に反応し、周囲が静まり返る。

すると小さく舌打ちをしてジャンがエレンに言葉を掛けた。

ジャン「ほら見ろ。お前のせいでお通夜になっちまった」

エレン「それで?」

ジャンは一瞬のだけ呆けた様な顔をする。

ジャン「お前話聞いてたか?」

エレン「勝てないから諦めるって所まで聞いた」
拳を強く握る。

エレン「なあ、諦めていい事なんてあると思うか?確かに、二割の人口を投入しても勝てなかった。でもそれは巨人に対して無知だったからだ」

言葉に熱が篭る。

エレン「俺は二年間見てきた。知り合いが遠征に出て死んで行く。そんなことは当たり前だった。でもそれは無駄死になんかじゃない。誰一人として人類の勝利を疑わず、少しでも情報を残そうともがいてから死んで行った。自分の死が人類の勝利の役に立つならと、不確かな未来にその心臓を捧げていった」

そして、ジャンの目を見る。

エレン「だから俺達は、その人達の死に報いなければならない」

「と、俺はそう思う」と言って言葉を締め切らせた。

卒団式を抜け出し、日頃自主訓練をしていた場所に来ていた。


ミカサとアルミンの二人と再開し、仲間と思える者達との訓練ももう直ぐ終わる。

明後日の兵団選択を終えれば、皆それぞれの兵団へと進んでいく。

エレン「(もうすぐだ...)」

漸く巨人を殺せる。その為に強くなった。
意識せずとも拳に力が篭る。

エレン「(駆逐する...。一匹残らず...)」

五年前からずっと頭にこびり付いている母親が巨人に握り潰され、食われる光景。

血が熱くなる感覚が巡る。


ミカサ「エレン」


背後から掛けられた声にビクッと体が跳ねる。
ミカサかと後ろを振り向いた。

エレン「どうした?」

声を掛けるがミカサは何も言わず隣に腰掛ける。
暫し沈黙する。

ミカサ「...エレンがあんな事を言うなんて珍しい」

エレン「今日だけだって言ったろ。調査兵団に行くとまではいかなくても、無駄だとは思って欲しくなかっただけだ」

ミカサ「...エレンはやっぱり調査兵団に行くの?」

考えるまでもなく「そうだ」、と答えを返す。

ミカサ「そう...」

そう言って俯いてしまう。

エレン「お前はどうするんだ?」

ミカサ「私はエレンを守る。エレンが調査兵団にいくのなら私もそうする。憲兵団に行くなら私も憲兵団に行く」

迷う様子もなく、断言する。

エレン「...何言ってんだお前。自分の事だろ、自分で決めろよ」
ミカサを見て言った。

ミカサ「エレンを死なせない。自分で決めた事」

エレン「そうかよ...」
そう言って顔を前へと戻した。

終わり

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