比企谷「八十稲羽に転校…え?マジで?…」(1000)

番長ポジションで後ろ向きにペルソナ出して後ろ向きに仲間と戯れつつ事件解決したり

まさかの足立ポジションで「世の中クソだな」とか言っちゃう八幡がみたい!

なぁ!みんな!?

どうしてはまちのssスレたてる奴にまともな奴がいないのか

>>2逆に考えるんだ。
「まともじゃない奴がはまちのssスレを立てている」と考えるんだ。

誰か書いてよ!


比企谷「……だいたいどこなんだよ?」

母「日本のどこか」

比企谷「広すぎるだろ」

母「とにかく、小町は私達と一緒に連れて行くけど」

母「あんたは社会勉強にもなるし、いい事でしょ?」

母「私のいとこの、しかも刑事さんが面倒を見てくれるから、尚の事安心だしね」

比企谷「なら何故、小町は連れて行くんだ?」

母「じゃ、そういう事で~」

比企谷「人の話を聞け、マイマザー」


―――――――――――

比企谷(……で、着きました、と)

比企谷(見事なまでの発展途上村っぷり)

比企谷(田んぼを肉眼で確認したのも小学校以来だ……)

比企谷(…………)

比企谷(で? 俺を迎えに来てくれる親戚の刑事のおじさんとやらは?)

比企谷(…………)

     ブロロロロ……キキィ

??「やぁ、君かい? 母さんの息子さん、って?」

比企谷「……あ、はい、そうですけど」

??「そう! これから一年間、よろしくね」

比企谷「あ、はい……」


比企谷(…………)

比企谷(作り笑い、だな)

比企谷(推測に過ぎないが……こいつは俺を歓迎していない)

比企谷(……まあ、そうだよな)

比企谷(突然に一年間高校生の面倒を見ろ、と言われて)

比企谷(喜ぶ奴は居ないわな)


??「まあ、ちょっと突然で、いきなりだったから」

??「少し困ったけどね」

比企谷「すみません」

??「母さん、昔からあんな感じでもう慣れたよ。 君も大変だろうね」

比企谷「全くです」

??「おおっと、まだ名乗ってなかったね」

??「僕は足立。 足立透。 改めてよろしく」

比企谷「こちらこそ、よろしくお願いします、足立さん」

すまん、アニメでしか俺らま知らん。
こんな感じでおk?

いいんじゃないかな!つづければいいと思うよ

あ!後書くときはsage外したほうがええで!

返レスありがとう。ちょっと時間もらうね。書きためるわ。


     ブロロロロ……

比企谷「…………」

比企谷(……この人、確か独身って聞いてたけど)

比企谷(それにしちゃ大きな車だな……)

比企谷(レンタカーにしちゃ私物が多いし……誰かから借りたのだろうか)

足立「……ああ、この車、借り物なんだ」

比企谷「!?」

足立「はは、ごめん、驚かせちゃった?」

足立「バックミラー越しにしげしげと車内を見回す君を見て」

足立「たぶん、疑問に感じたんだろうと思って」

比企谷「……いえ」

足立「で、続きだけど、この車」

足立「僕の上司の車なんだ」


比企谷「そうなんですか」

足立「ちょっと怖いけど、いい人でね」

足立「君を迎えに行く事を話したら、貸してくれたんだ」

比企谷「いい上司ですね」

足立「普段は怒鳴られてばかりだけどね~」

比企谷「…………」


比企谷(……こいつもぼっちか?)

比企谷(初対面で無理やり話題を作り出し、明るく振舞おうとしている)

比企谷(となれば)

比企谷(次に聞いてくるのは、十中八九……俺の事)


足立「ところで、君は前の学校、どうだったの?」

足立「きっと友達との別れは辛かっただろうね」

比企谷「ええ……まあ……」

足立「ええまあって……君くらいの年頃なら、彼女くらい居るでしょ?」

比企谷「あいにくと、そんな奇特な女の子は居ませんでした」

足立「あらら……さみしい高校生活送っているね~。 ダメだよ、そんなんじゃ」

足立「ここはご覧の通り少々田舎だけど、きっといい娘が居ると思うよ!」

比企谷「はあ……」


比企谷(間違いない)

比企谷(こいつはぼっちだ)

比企谷(それも見下しタイプ)

比企谷(……それとなくエグってやるか)


比企谷「足立さんはモテたんでしょうね」

足立「え? い、いや、それ程でも無いかな……アハハ」

比企谷「謙遜はいいですよ」

比企谷「俺なんかとは違って、友達も多そうですし」

比企谷「彼女もきっといらっしゃるでしょう」

足立「そ、それは、その……」

比企谷「今度、ぜひ紹介して下さいね」

足立「そ、そうだね、こ、今度、ね……」


比企谷(これくらいで止めといてやるか)

比企谷(とりあえず人間関係の話題は出さなくなるだろう)


足立「おっと、いけない」

足立「堂島さんに給油をしといてくれって、頼まれていたんだっけ」

足立「ああ、堂島って言うんだ、僕の上司」

比企谷「はあ……」

比企谷(聞いてねーよ)

足立「じゃあ、スタンドに寄ってくからね」

     ブロロロロ……


ガソリンスタンド


足立「レギュラー、満タンで」

店員「はい、わかりました」

足立「ふう……あ、やばい、もよおしてきちゃった」

足立「ちょっとトイレに行ってくるね」

比企谷「どうぞ」

     テク テク テク…

比企谷「…………」

比企谷「俺も背伸びくらいするか」

     キィ……パタン

比企谷「う、うーん……」

比企谷「ふう……」


店員「やあ、こんにちは」

比企谷「……?」

比企谷「はあ……こんにちは」

店員「フフ、そんなに警戒しないでくれ」

店員「俺、地元のバイトだから」

比企谷「……そうですか」

店員「君、見ない顔だけど、今日ここに来たのかい?」

比企谷「ええ……諸事情で」

店員「そうかい」 クス

店員「なんて言うか、本当に田舎だけど、歓迎するよ」

店員「このスタンド、随時バイト募集してるから良かったら来てくれ」

     スッ…


比企谷「…………」

比企谷(握手……?)

比企谷(ったく、手が油臭くなるだろうが……)

比企谷(…………)

比企谷(とは言え)

比企谷(会話の流れでしょうがない状況だな)

比企谷(仕方ない……手は後で洗えばいい)

     スッ… グッ

比企谷「……まあ、よろしく」

店員「うん、よろしくね」

店員「さて、仕事しないと」



―――――――――――


足立「やあ、お待たせ、比企谷君」

足立「それじゃ行こうか」

比企谷「……そうですね」

足立「……?」

足立「どうかしたのかい? 顔色が優れないみたいだけど?」

比企谷「……多分、疲れが出たんだと思います」

足立「そっか、長旅だったもんね」

足立「じゃあ急ぐとしよう。 着いたら休むといい」

比企谷「……お願いします」


比企谷(…………)

比企谷(……変だな)

比企谷(さっきまで何ともなかったのに)

比企谷(…………)

比企谷(そうか)

比企谷(きっと、油の匂いだ)

比企谷(それに当てられたに違いない……)

比企谷(……きっと……そうだ……)

     ブロロロロ……


????


比企谷「…………」

比企谷「……ん?」

比企谷「ここは……?」

比企谷「…………」

比企谷「霧で真っ白だ……」

     テク テク テク

比企谷(行けども行けども霧の中……)

比企谷(……まるで)

比企谷(俺の人生の様だ……)

比企谷(…………)



     ――本当にそう思うのかい?――


比企谷「!?」

比企谷「……誰だ?」


     ――自分の可能性を否定してるんじゃないのかい?――


比企谷「…………」

比企谷「……どういう意味だ」


     ――聞くまでも無いだろ?――

     ――何故なら――


比企谷「……やめろ」








     ――君は――







比企谷「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」








     ガバッ!

比企谷「はっ!!」

比企谷「はあ……はあ……」

比企谷「…………」

比企谷「……夢」

比企谷「か……」

     ガラッ

足立「おや、目が覚めたかい?」

足立「何かうなされてたみたいだけど」

比企谷「……嫌な夢でした」

足立「そう」

足立「一応ご飯を用意したけど、食べられるかい?」

比企谷「……いただきます」


足立「そっか、食欲があるのなら大丈夫だね」

足立「ご飯と言っても、コンビニの弁当だけど……」

比企谷「大丈夫です」

足立「じゃ、お茶を用意するよ」

比企谷「すみません」

足立「いいっていいって♪」

―――――――――――

比企谷「ごちそうさまでした」

足立「ごちそうさまでした」

足立「それじゃ、こっちの部屋は君が自由に使っていいから」

足立「ボロアパートで悪いけど、安月給なんでね」

比企谷「いえ……元々無理を言ってるのはウチの母親ですし」

足立「ははは……じゃ、一年間よろしくね」

比企谷「よろしくお願いします」










     こうして、俺の八十稲羽での生活が始まった。







短いですけど、今日はここまでです。
投下が遅くなってすみませんでした。次は早く出来るといいなぁ……。

おつおつ
これは期待

おもしろいです。


もしヒッキーが落とされる側なら最難関になってるだろうな、ついでに受け入れられるか微妙



―――――――――――


翌日の朝


     サアアアア……

比企谷「…………」

比企谷「……ん」

比企谷「ふああああ……」

比企谷「…………」 ボリボリ…

比企谷「…………」

比企谷「あ……そうだった」

比企谷「ここは八十稲羽だった」

比企谷(そして、今日から学校に……)


比企谷(…………)

比企谷(今何時だ?)

比企谷(……7時半か)

比企谷(…………)

比企谷(そういえば、人の気配がしないな)

比企谷(足立さん、もう出かけたんだろうか?)

     ムクリ… ガラッ

比企谷「……居ない」

比企谷「ん?」

比企谷「書置きがある……」

比企谷(なになに……?)



     比企谷くんへ


君が眠った後、電話がかかってきて仕事をする事になった。

すまじきは宮仕え、ってやつさ。


君を学校まで案内しようと思っていたけど、どうやら出来そうもない。

悪いけど、地図を頼りに頑張って行ってくれ。

道がわからなくなったら、その辺の人に聞くといい。

みんなきっと教えてくれると思うから。 じゃ、カギ締めを忘れずに。

健闘を祈る。


     足立


比企谷「…………」 チャラ…

比企谷(これが家の鍵ね)

比企谷(……じゃ)

比企谷(顔を洗って、着替えて、飯食って、歯を磨いて行くとしますか)

―――――――――――

     オハヨー ゲンキシテター?

比企谷(…………)

比企谷(こういう光景は、どこも変わらないな)

比企谷(新学期の雰囲気……)

比企谷(春休み明けの顔合わせ……クラス替えの期待と不安……)

比企谷(正真正銘ぼっちの俺には関係のない事だが)


??「うおおおわあああっ!!」

     ガッシャーン!

比企谷「…………」

比企谷(そして)

比企谷(こういうドジが一人くらい居るのも)

比企谷(一緒だ……)

     テク テク テク…


―――――――――――


職員室


諸岡「ほう……貴様が転校生の比企谷八幡か」

比企谷「はい」

諸岡「…………」 ジロジロ

比企谷「…………」


比企谷(……何だよ、この見るからに偏見の塊みたいな教師は)


諸岡「……ふん」

諸岡「紹介状に転校前の学校担任からの意見があったが」

諸岡「ここじゃあ容赦はせんからな!」

比企谷「……はあ」


比企谷(平塚……何書きやがったんだよ)


教室


     ガヤ ガヤ

諸岡「ようし!貴様ら!静かにしろ!」

諸岡「今日から新学期だが、浮かれて不純異性交遊などはするなよ!」

諸岡「この俺が担任になったからには容赦はしない!覚悟しておけ!」

諸岡「そして、世俗にまみれ、ただれた都会から転校してきた生徒を紹介する!」

諸岡「いかにも汚れた都会に毒され、ふてぶてしい顔だが」

諸岡「内面もこの通りだと思って接してやれ!」

比企谷「…………」

諸岡「何しろ、都会からわざわざこんな辺鄙な田舎に転校してきたのだ」

諸岡「言わば脱落者!落ち武者に過ぎんからな!」

比企谷「…………」


諸岡「ほれ、貴様も挨拶しておけ」

比企谷「…………」

比企谷「あー、ただ今ご紹介に預かりました」

比企谷「落ち武者こと、比企谷八幡です」

比企谷「ただ……戦国時代、落ち武者はそのまま野盗となる事が多い」

比企谷「戦う事を生業(なりわい)としてきているので」

比企谷「仕返しはお手の物です」

比企谷「ねえ? 諸岡先生」 ニヤ…

諸岡「……!」

諸岡「き、貴様……! 何が言いたい!?」

比企谷「挨拶は以上です」


諸岡「……よく覚えておけ、比企谷」

諸岡「貴様は、俺の”腐ったミカン帳”にしっかりと記しておいてやるからな!」

比企谷「そうですか」

比企谷「なら、その事を教育委員会に報告してもいいですか?」

諸岡「!?」

比企谷「きっと、先生の仕事ぶりに感銘を受ける事でしょう」 ニヤ…

諸岡「き、貴様……!」

??「せんせーい!」

??「あたしの隣、空いているので比企谷くんの席、ここでいいですかー?」

諸岡「! ……よ、よし」

諸岡「さっさと席に付け! 比企谷!」

比企谷「…………」

     テク テク テク… スチャ(着席)


??「……いや~キミも災難だね」

??「よりにもよって、モロキンに目をつけられるなんてさー」

比企谷「…………」


比企谷(馴れ馴れしい女だな……)

比企谷(…………)

比企谷(どことなく……由比ケ浜を思い出す)



     ……それ以降は、普通に時間が過ぎていった。



放課後


諸岡「よし! 貴様ら! 本日はこれで終了だ!」

諸岡「早い時間だからといって、くだらない寄り道などせずに」

諸岡「まっすぐ家に帰って、予習をしておけ!」

諸岡「明日からビシバシしごいてやるから、そのつもりで……」

     ピン ポン パン ポン

スピーカー『学校教員に業務連絡』

スピーカー『只今より、緊急の職員会議を始めますので』

スピーカー『速やかに職員室にお戻りください』

スピーカー『また』

スピーカー『生徒は、下校を止め、教室で待機してください』

スピーカー『繰り返します……』


諸岡「よし! 貴様ら、聞いたな!?」

諸岡「大人しくここで待機しておく様に!」

     ガララ……ピシャ

     エー? イッタイナニー? ザワ ザワ

比企谷「…………」


比企谷(何かはわからんが……)

比企谷(転校生にありがちな、【質問攻め】という名の羞恥プレイは)

比企谷(避けられたみたいだな)

     ピン ポン パン ポン

比企谷(……?)


スピーカー『全校生徒へ連絡』

スピーカー『ただ今、この学校の近くで』

スピーカー『事件が発生した模様です』

     ザワ……!

スピーカー『安全が確認されるまで、教室に待機していてください』

スピーカー『繰り返します……』

     ウ―― ウ――

     オイ、アレ、サイレンジャネ? ソト、ミテミヨウゼ!

比企谷「…………」

     クッソ、ナンダヨ、コノ霧……! ゼンゼンミエネー

     ソウイヤサイキン、雨ノ後トカ、オオイヨナ?


比企谷(…………)

比企谷(何でもいいけど、早くしてくれよな……)

     ピン ポン パン ポン 

スピーカー『全校生徒へ連絡』

スピーカー『警察の協力の元、安全の確認が取れました』

スピーカー『道すがら、警察官が立っていると思われますが』

スピーカー『それらの邪魔にならない様、本校生徒として、恥ずかしくない……』

     ケイサツー? ナニガオコッテイルノー? コワーイ

比企谷(何はともあれ、これで帰れるな)

??「ねーねー、比企谷くん」

比企谷「は?」

??「良かったら一緒に帰らない?」


比企谷(……おいおい)

比企谷(何を言っているんだ、この女……)

比企谷(初対面の、しかも、男を誘うだと?)

比企谷(体操で言えばウルトラE難度の技だぞ……ぼっちにとって)


??「あー、そんな警戒しないでよ」

??「ここ来たばっかで不案内でしょ?」

??「だから案内も含めて、って意味なんだけど……」


比企谷「…………」

比企谷(違うな……この女は由比ケ浜じゃない)

比企谷(葉山タイプの人間だ)

比企谷(常にみんな仲良く!を信条とする理想主義者)

比企谷(もちろん、相手がそれを望んでなくともお構いなし……)


比企谷(…………)

比企谷(だが、俺もわざわざ波風を立てたい訳じゃない)

比企谷(転校初日だし、あえて従ってみるか……)


比企谷「そういう事なら……」

??「そう! じゃあ決まり!」

??「そういえば、自己紹介まだだったね?」

??「あたしは里中千枝。 よろしくね!」

比企谷「よろしく」

里中「で、こっちが雪子。 天城雪子っていうんだ」

天城「よ、よろしく……」

里中「それじゃ帰ろっか!」


     サアアアア……

里中「へえ~親御さんの都合なんだ」

比企谷「そう」

里中「キミも大変だね~」

里中(ちょっとひねくれた感じがするのは、そのせい?)


校門付近


??「雪子!」

比企谷・里中「ん?」

天城「え……? 私?」

里中「誰? 知ってる人?」

天城「……ううん」


??「雪子……僕と一緒に遊びに行こう?」

天城「え……」

里中「ちょっとあんた! 雪子、嫌がってんじゃん!」

??「う、うるさい! 邪魔すんな!」

??「これは僕と、雪子の問題だ!」

里中「はあ!?」


比企谷(……おいおい)

比企谷(ずいぶん痛い奴が出てきたな……なんだよ、こいつ。 他校の制服着てるけど)


??「さあ、雪子……僕と一緒に」

天城「……え、えと、行かない」

??「!!?」


??「……っ」 ギリッ…!

里中「ほらほら、結果は出たんだから、さっさと帰んなさいよ」

??「この……! あ、後で、後悔しても、し、知らないからな!」

     バシャ バシャ バシャ…

里中「…………」

里中「何だったんだろ?」

天城「さあ?」


比企谷(まさに)

比企谷(究極のぼっちだな)

比企谷(てか、この街、ぼっちを呼び寄せる何かでもあんのかよ……)


     チリン チリン

??「よう! 里中、天城!」

里中「花村」

花村「何してんだよ、こんなとこで?」

里中「別に。 変な奴が雪子に告白して玉砕しただけ」

花村「は、そりゃまた無謀な奴がいたもんだ」

花村「この俺も去年告って玉砕してるしなー」

花村「天城も身持ち硬すぎだって」

天城「え? そ、そんな事、無い、と思うけど……」

花村「お? じゃあ、これから俺と付き合ってくれるか?」

天城「それは無理」

花村「ぐ……少しでも期待した俺がバカだった」


花村「じゃあな! あんまし転校生いじめんなよ!」

     チリン チリン…

里中「人聞きの悪いこと言うなぁー!」

里中「ったく……」

比企谷「…………」

里中「ああ、あいつ? 花村って言うんだけど」

里中「半年前、キミと同じく、都会から転校してきたんだ」

里中「だからどっか垢抜けた感じ、あるでしょ?」

比企谷「あ、ああ……まあ」


比企谷(ああいうのを【垢抜けた】と言っていいのか?)

比企谷(……雪ノ下ならもっと)


比企谷(…………)

比企谷(いや、止めておこう)

比企谷(あいつの事を考えるのは)


里中「そんじゃ行こっか!」

天城「う、うん」

比企谷「…………」


     サアアアア……



―――――――――――


里中「それにしても何にも無いところで、驚いたでしょ?」

比企谷「そんな事は」

里中「それなりに特産品とかあったりするんだけどね」

里中「八十神山で取れる……なんとかっていう染物や焼き物とか」

比企谷(……アバウトすぎだろ)

里中「後は、何と言っても天城屋旅館ね」

里中「ひなびた温泉旅館で、地元の人でも結構宿泊してるって聞いてるよ?」

比企谷「……天城屋?」

里中「そう! この雪子の実家なの!」

天城「ち、千枝……!」

里中「いーじゃん雪子。 ちょっとくらい自慢したって」


比企谷「…………」


里中「でさ! 比企谷くん!」

里中「雪子って、綺麗だと思うよね?」

天城「……千枝」

比企谷「…………」

里中「どう思う?」

比企谷「…………」

比企谷「ブッサイク」

里中・天城「!?」

比企谷「……と」

比企谷「言えるわけない質問の仕方だ」

比企谷「それは」


里中「あ、あんた、何を言って……」

比企谷「まともな人間なら、フツーは当たり障りのない返答をするだろうけど」

比企谷「たまに」

比企谷「そうじゃない人間もいる」

比企谷「そうなった時、傷つくのはお前じゃないんだぞ? 里中」

里中「……!」

天城「…………」

比企谷「その辺を分かっているのか?」

里中「……っ」

天城「ひ、比企谷くん、千枝も悪気があって言ったんじゃないと思うから……!」

比企谷「…………」

比企谷「まあ……それでいいのなら、俺がとやかく言う事じゃないな」

天城「う、うん……」


比企谷「…………」

比企谷「?」

比企谷「何だ? あの人だかり?」

天城「……さあ?」

天城「千枝、知ってる?」

里中「……知らない」

比企谷「パトカーとかあるし、事件現場ってやつか」

天城「どうしよう……ここを通りたいんだけど」

比企谷「……まあ、ダメもとで行ってみるか」

天城「そうだね」

里中「…………」


     ダダダダダダダダッ!

足立「うおっえっぷッ……!」

     ゲェー ゲェー

比企谷「」

比企谷「……足立さん」

足立「はあ……はあ……え?」

足立「! 比企谷くん!?」

天城「……比企谷くんの知り合い?」

比企谷「あ、ああ……お世話になってる、刑事さん」

天城「そ、そうなんだ……」

足立「あちゃ~……カッコ悪いところ見られちゃったな……」

比企谷「いえ……」

??「おい! 足立!」


足立「あ……ど、堂島さん……」

堂島「いつまで新人のつもりなん……ん?」

堂島「お前達、八十神高校の生徒か?」

天城「は、はい、そうですけど……」

堂島「……ったく、あの校長、ここは通すなと言っておいたのに」

比企谷「…………」

堂島「いいか、お前達」

堂島「さっさと帰れ。 そして、今日だけは出歩くんじゃない」

堂島「わかったか?」

里中「は、はい……」

堂島「よし」


堂島「足立! いつまでも休んでいるんじゃない!」

足立「ひいっ!」

堂島「さっさと地取りに行くぞ!」

足立「わかりましたァ!」

足立「……そんな訳で比企谷くん」

足立「僕はいつ帰れるか、わからない」

足立「ご飯とか、先に済ませてていいからね!」

比企谷「はあ……」

堂島「足立ぃ!」

足立「い、今行きます!」

     タッ タッ タッ…

比企谷・天城・里中「…………」


天城「……ど、どうしよっか?」

里中「ここでお開き、で、いーじゃん?」

天城「そ、そっか……そうだよね、千枝」

天城「じゃ、私たち、こっちだから……」

天城「また明日、比企谷くん」

比企谷「……ああ」

     テク テク テク…

比企谷「…………」

比企谷「……帰るか」


     サアアアア……


足立宅


テレビ『皆さん、今晩は。 今日のニュースです』

テレビ『まずは静かな街で起こった、何とも奇妙な事件をお伝えします』

テレビ『本日午前10時頃、稲羽市、鮫川付近の住宅街で』

テレビ『女性の変死体が発見されました』

比企谷「!」

テレビ『被害者は、地元テレビ局の人気アナウンサー山野真由美さん(27才)とみられ』

テレビ『大型テレビのアンテナに引っかかった状態で発見されました』

テレビ『警察は死因などを公表しておりませんが』

テレビ『事故・事件両面の方向で捜査をする、との事です』

比企谷「…………」

比企谷(……これか)

比企谷(そりゃピリピリもするわな)


テレビ『また山野真由美アナは』

テレビ『議員秘書の生天目太郎氏と不倫関係が取り沙汰されており』

テレビ『警察は、近く、事情聴取をするものと思われます』

比企谷(……大人はただれているな)

比企谷(ま、俺には関係のない事だけど……)

比企谷(……さて)

比企谷(飯は食ったし、風呂にも入ったし)

比企谷(歯を磨いて寝るか……)



     ひとごと……そう、俺にとってこの事件は

     ひとごとでしかなかった


今日はここまでです。ヒッキー、予想以上に特捜隊メンバーと絡ませづらい……
えらい立て逃げスレに手を出したかも……

遅くなったけど乙
妙にヒッキー荒れてるね、あの夢かそれともあっちで何かあったのか
小町とか戸塚ポジが居ないと危ないかもねー

頑張れ!超応援している!

保護者が違うだけでヒッキーは番長的ポジションかな?
続き期待!

乙!



―――――――――――


翌日の朝


比企谷「……ふあ」

比企谷「…………」

比企谷(今朝も人の気配がしない)

比企谷(足立さん……帰って来れなかったのか)

比企谷(…………)

比企谷(さて……起きますか、と)


通学路


     テク テク テク

比企谷(雨こそ降っていないものの……重そうな空だ)

比企谷(傘が手放せないな)


花村「うおおおわああああっ!!」


     ガッシャーン!


比企谷(…………)

比企谷(昨日……これと同じ光景を見た様な……)

花村「だ、誰か……! た、助けて……!」

比企谷(ポリバケツに頭から突っ込むって……どんな漫画だよ)

比企谷(……馬鹿らしいが、あの状況、一人で何とかするのは難しい)

比企谷(助けてやるか……)



―――――――――――


花村「……っは! 死ぬかと思った……」

比企谷「大丈夫だ。 生きてる」

花村「おっ? よく見たら転校生じゃねーか」

花村「すまねえな、助かったぜ」

比企谷「礼はいらない」

比企谷「それよりも自転車は『車両』扱いだ」

比企谷「人身事故を起こしたら、それ相応の報いを受ける」

比企谷「気をつけて運転しろ」

花村「お、おう……」

比企谷「じゃあな」

花村「…………」


昼休み

屋上


花村「よう! お二人さん!」

里中「ん? 花村?」

里中「どうかしたの?」

花村「いや、たいした用事じゃないんだけど……」

花村「里中と天城、昨日転校生と帰ってただろ?」

里中「……それがどうかした?」

花村「……何で若干キレてんだよ?」

花村「まあ、だいたい予想つくけど、あの転校生ってどんな奴なんだ?」


里中「ちょっとかと思ったけど、だいぶひねくれている奴かなー」

花村(里中が初対面でこれほど悪態つくとは……)

花村「そ、そうか……」

花村「天城はどう思った?」

天城「え? えーっと……」

天城「……そんなに悪い人じゃないと思う」

里中「へー雪子も少しは悪い奴だと思っているんだ」

天城「そ、そこまでは言ってないよ、千枝……」

花村「……なんつーか、とっつきにくい奴だってのはわかった」

花村「サンキューな」

里中「そんな事聞いて何するつもり?」

花村「ま、いろいろあって……じゃ」

里中・天城「…………」


放課後


比企谷(さて……帰るか)

花村「よう! 比企谷!」

比企谷「……今朝の」

花村「花村陽介ってんだ、よろしくな!」

比企谷「……よろしく」

花村「でよ、今朝の礼をしたくてよ」

花村「ビフテキ奢るぜ?」

比企谷「いや……気にしなくていいから」

比企谷(ビフテキって……今時そんな単語が生息してるとは)


里中「花村」

花村「ん? なんだよ里中」

里中「ならあたしが代わりに奢られてあげる♪」

花村「は? 何言ってんの、里中さん?」

比企谷「そうしてやってくれ」

花村「いやいやいや! それじゃ意味ねーし!」

里中「雪子ー! 一緒に行こうよ!」

花村「おまっ!? 何勝手に人数増やそうとしてるんだよ!」

天城「……ごめん、千枝」

天城「私、家の手伝い、あるから」

里中「そうなの? それじゃ仕方ないっか」

里中「あたしが雪子の分まで食べてきてあげるね♪」

花村「やらねーよ!? つーか、何、この流れ!?」


比企谷「……じゃ」

花村「さらっと帰ろうとすんな! 比企谷!」

花村「目的はお前なんだし!」

里中「ほら行くよー? 花村」

花村「ちょ! 引っ張んな里中!」

花村「比企谷! 見てないで助けてくれ!」

比企谷「…………」


ジュネス フードコート


里中「ちょっと花村ー」

里中「ここジュネスじゃん。 ビフテキないじゃん」

花村「うっせーよ。 強引について来て、何でそんなに偉そうなんだよ」

里中「はいはい、妥協してあげる」

花村「ったく……すまねえな比企谷」

比企谷「いや……なんて言うか、諦めた」

花村「ハハハ……なんつーか、グダグダになっちまったけど……」

花村「ささやかながら、お前の歓迎会をしたかっただけなんだよ」

花村「……こっちの邪推かも知んねーけど」

花村「環境が急激に変わりすぎて、色々ついて行けないんじゃないのか?」

比企谷「…………」

里中「……!」


花村「俺はそうだった」

花村「どうにもこうにもここの『空気』に馴染めなくてよ」

花村「最初は、ギクシャクしちまったもんさ」

比企谷「…………」

里中「…………」

花村「時間はかかると思うけどよ」

花村「こうやって出会ったのも何かの縁だ」

花村「少しずつ、仲良くなろうぜ! 比企谷!」

里中「花村……」

比企谷「…………」


比企谷「……わかった、花村」

比企谷「そこまで言うなら、よろしく頼む」

花村「おう! よろしくな! 比企谷!」

里中(花村……いいとこあんじゃん) クスッ

花村「じゃ、新たなクラスメイトの歓迎を込めて……」 スッ…

里中「込めて!」 スッ…

比企谷(そういうのは恥ずかしい……) スッ…

     カンパーイ! アハハ…

―――――――――――

里中「――にしても」

里中「商店街の方、行かなくなったよね~」

里中「この前立ち寄ったら、シャッター降りてる店、結構あってさー」

花村「…………」

里中「あ……ごめん、花村」


花村「別にいいって、里中」

花村「俺のせいって訳じゃねーし」

里中「う、うん」

比企谷「……?」

花村「……お! 小西先輩だ」

花村「ちょっと挨拶してくる」

     タッ タッ タッ…


比企谷(……恋人?)

比企谷(いや……恋人なら『先輩』を付ける可能性は低い)

比企谷(片思いか……)


里中「ああ、あの人……さっき言った商店街の酒屋の娘さんでね。 同じ学校の三年生」

里中「ここで……ジュネスでバイトしてるんだ」


里中「ジュネスが出来てから商店街は寂れる一方だけど」

里中「そのジュネスで商店街関係者が働いてる」

里中「……商店街の人たちには、裏切り者だ、なんて言う人もいたり……」

比企谷「…………」

里中「そして、花村はジュネスの店長さんの息子だったりするのよね」

比企谷(そういう事ですか……)

里中「シチュエーション的には燃える展開よね~」

里中「敵対関係の中、恋する二人……!」

里中「ちょっと憧れちゃう!」

比企谷(当事者になったら、そう言ってられるとは思えんがな)


里中「あ、こっちに来た」

小西「こんにちは、比企谷くん」

比企谷「……こんにちは」

小西「花ちゃんって、ちょっとウザイでしょ?」

花村「ちょ、小西先輩……」

比企谷「そんな事は」

小西「そう? でも、ウザイと思ったら正直に言ってあげなよ?」

小西「本人の為にもね」

比企谷「はあ……」

小西「ふふふ、じゃ、私、仕事に戻るね、花ちゃん」

花村「か、かなわねーな……小西先輩には」

     テク テク テク…


花村「はあ……疲れた」

比企谷「……大変だな」

花村「もう慣れたよ。 いい加減、子供扱いは止めて欲しいけどな」

里中「あ、そうだ、花村」

花村「ん?」

里中「あれ、試してみたら? ほら、今流行りの……」

花村「ああ、何だっけ? 雨の夜中にテレビ見るっていう?」

里中「そうそう! 【マヨナカテレビ】ってやつ!」

比企谷「……都市伝説か何かか?」

里中「まあそのたぐい」

里中「雨の夜中、0時キッカリに電源の入ってないテレビを見ると」

里中「自分の運命の人が見えるっていうの!」


比企谷(…………)

比企谷(……おい)

比企谷(どうして”運命の人”の単語で)

比企谷(雪ノ下や由比ケ浜、川崎に戸塚の顔が浮かぶんだよ)

比企谷(ねーだろ……)

比企谷(特に雪ノ下は……)

比企谷(…………)


比企谷「オカルトもいいところだな……」

里中「まあ、眉唾なのは否めないけどね」

里中「でも、見たって子も多いんだよ?」

花村「バカバカしい与太話だろ……」

比企谷「俺もそれに一票」

里中「ムカ! そんなに言うなら今晩試してみようじゃん!」

里中「天気予報じゃ今晩雨だし」

花村「一人でやってくれ……」

比企谷「俺は早めに寝るタイプ」

里中「とにかく! 今晩! 夜0時! テレビ見る事!」

花村「へいへい、分かりましたよ、里中さん。 気が向いたらな」

里中「比企谷くんもいい!?」

比企谷「わかった、わかった……」


足立宅


比企谷「ふう……」

比企谷(足立さん……今日も帰らないのかな)

比企谷(警察だもんな)

比企谷(…………)

比企谷(メールでもチェックしとくか) ピッ

     Re:材木座

  同士比企谷! 元気にやっておるか!?

  吾輩はすこぶる元気だぞ!


     Re:戸塚

  八幡、元気かな? まだ数日しか経ってないけど

  ちょっと寂しいかな……良かったら返事、もらえると嬉しいな。


比企谷「…………」

     Re:小町

  お兄ちゃん、連絡はまだ? 小町的には大きなマイナスポイントだね

  私も出来たらお兄ちゃんと一緒に居たかったんだけど……

  ……雪ノ下さんは、きっと急用が入ったんだよ。

  だから、気にしちゃダメだよ?


比企谷「…………」

     Re:由比ケ浜

  ヒッキー、元気してるー?

  全然返事が来ないから、そろそろ不安だよー。 何でもいいから、返事して?

  ……そりゃゆきのんの事、ショックだったのは解るけど

  きっと何か訳があるんだよ。

  ゆきのんも元気ないし……ちょっと時間かかるかもだけど

  理由、聞いておくから。


比企谷「…………」

比企谷(返事……)

比企谷(…………)

比企谷(とりあえず、『元気です』でいいか)

比企谷(…………) ピッピッ

比企谷(送信……送信、と) ピッ

比企谷(…………)

比企谷(…………) クスッ…



―――――――――――


     サアアアア……

比企谷「…………」

比企谷(……もうすぐ0時か)

比企谷(…………)

比企谷(なんで俺、こんな事しているんだろ……)

     チッ チッ チッ

比企谷(…………)

比企谷(……5……4……3……2……1)

     カチッ

比企谷(…………)

テレビ「…………」


比企谷「…………」

比企谷「……ま、そうだよな」

比企谷「さっさと寝よ……」

     ピィ~ウィ~……

比企谷「!?」

比企谷(え……!?)

比企谷(なぜ!? 電源は入れてないのに……)

比企谷(…………)

比企谷(……どうやら女みたいだが)

比企谷(不鮮明すぎて、誰だかよく解らない……格好は八十神高校の制服みたいだが)

比企谷(…………)

比企谷(少なくとも……雪ノ下達じゃない事は確定したな)


     ブツンッ……

比企谷「……終わった?」

比企谷「…………」

比企谷「まさに……怪現しょ」


    ――我は汝――

    ――汝は我――


比企谷「ぐっ!?」


    ――汝は扉を開く者なり――


比企谷「あ、あああっ、頭、がっ……!」

比企谷「う、ああああああっ……!」


比企谷「はあっはあっはあっ……」

比企谷「はあっ……はあっ……」

比企谷「…………」

比企谷(なん……だったんだ……)

比企谷(…………)

比企谷(あの妙な声……)

比企谷(そして、電源の入ってないテレビの映像……)

     スッ…… ピィィィンッ

比企谷「!?」

比企谷「何だ……今のテレビ画面の感触……それに波紋?」

     グッ……ズズズズズッ


比企谷「!!?」

比企谷「は……ははは……ありえないだろ」

比企谷「テ、テレビに手を突っ込める、とか……」

     グイッ!

比企谷「!?」

比企谷「なっ!? ひ、引っ張られる!?」

比企谷「こ、このっ! くっ……!」

     スポンッ

比企谷「うわっ!」

     ガスッ!

比企谷「……っ!」

比企谷(目から火が出る、とは、この事……! 痛てて……)

比企谷(後頭部……穴空いてないだろうな……?)


比企谷(…………)

比企谷(どうすんだよ……)

比企谷(明日……これを説明すんのかよ……)

比企谷(…………)

比企谷(…………) (後頭部を)スリスリ…

比企谷(この痛みは本物だ)

比企谷(……だけど)

比企谷(確実に痛い奴だと思われる……)

比企谷(…………)

比企谷(……まあ、それでもいいか)

比企谷(ぼっちには慣れているしな……)

比企谷(はあ……)


翌日の朝

教室


比企谷「……ふあ」

比企谷(そういや足立さん、結局昨日も帰って来なかったな)

比企谷(あの堂島とかいう刑事に、こき使われているんだろうか)

比企谷(…………)

比企谷(それよりも昨日のアレ……)

比企谷(みんなも同じ様になったのか……?)

比企谷(…………)

花村「……おはよう、比企谷」

比企谷「! 花村」


比企谷(……?)

比企谷(何か様子が変だな?)

比企谷(花村も同じ目にあった……?)


比企谷「おはよう」

花村「お、おう」

花村「…………」

花村「と、ところで、よ」

花村「昨日のアレ……試してみたか?」

比企谷「……ああ」

花村「!!」

花村「そ、そうか……」


里中「おはよー、花村、比企谷くん」

天城「おはよう、二人共」

花村「おはよう、里中、天城」

比企谷「同じく、おはよう」

花村「……でよ、里中。 昨日のアレなんだが……」

里中「あ、うん。 それはまた後で……放課後にでも」

天城「千枝、何の話?」

里中「何でもないよ、雪子。 昨日のビフテキ奢るって話の続き」

花村「ちょ!? 里中さん!?」

里中「はいはい、放課後にね~」

花村「ったく……あいつどんだけ肉、好きなんだよ……」

比企谷(……ごまかしで言っただけだと思うが、黙っておこう)



―――――――――――


放課後


天城「じゃ……千枝」

里中「あ、うん。 また明日」

     テク テク テク…

花村「天城、何かあったのか?」

里中「旅館、忙しいんだって」

花村「そうなのか……大変だな」

里中「で……昨日の【マヨナカテレビ】の事なんだけど」

花村「! ……お、おう」


里中「なんか……見える事は見えたんだけど」

里中「女の子ぽかったんだよね」

花村「!」

比企谷「!」

花村「お、俺も見た! 多分、同じ映像だ……」

里中「比企谷くんは?」

比企谷「……同じだと思う」

里中「へえ~みんな同じの見たんだ」

里中「でも、あたしの運命の人が女の子ってどういう事?」

比企谷「不鮮明だったけど……あれ、ここの制服じゃなかったか?」

里中「あ! うんうん、そうだよ、比企谷くん!」

花村「…………」


里中「どうしたの? 花村?」

花村「……あれ、たぶん、小西先輩だと思う」

里中・比企谷「!!」

里中「言われてみれば……うん、確かにそんな感じだった!」

里中「じゃあ、花村だけハッピー?」

花村「よくねーよ! ……上手く言えねーけど」

花村「小西先輩……何か、得体の知れないモノに追いかけられて」

花村「逃げ惑っている感じだった……」

里中・比企谷「…………」

里中「あたしの方は、そこまでわからなかったけど……」

比企谷「……こっちもだ」


比企谷「…………」

比企谷「二人は、他に何か起きなかったのか?」

里中「え?」

花村「他にって?」

―――――――――――

里中「変な声……それに」

花村「テレビに引きずり込まれそうになった?」

比企谷「…………」

里中「さ、さすがに……それは無かった、かな……」

花村「こう言っちゃ何だが……寝落ちじゃないのか?」

比企谷「……だけど考えてもみろ」

比企谷「『電源の入っていないテレビ』に映像が映るだけで」

比企谷「相当な寝落ちネタじゃないか?」


里中「…………」

花村「…………」

比企谷「…………」

花村「た、確かに……揃っておんなじ夢を見た寝落ちってありえねーよな」

里中「それに、比企谷くんのテレビ画面が小さくて」

里中「難を逃れたっていうのもリアリティある話だよね……」

比企谷「…………」

里中「…………」

花村「…………」

里中「なんか、モヤモヤする」

花村「だな……」


花村「どうだろ? 比企谷」

花村「確認のために大画面テレビで試してみるか? 人が入るくらいの」

比企谷「持ってるのか?」

花村「俺んちじゃねーよ」

花村「ジュネスの家電売り場のテレビだ」

比企谷「……人の目があるのは、ちょっと」

花村「大丈夫」

花村「店の関係者としてはどうかと思うが、あんまやる気のない売り場でな」

花村「そんなに人は来ねえよ」

比企谷「そうなのか」

比企谷「……じゃ、行ってみるか」

里中「だね!」


ジュネス 家電コーナー


花村「えーえー、お客様、こちらのテレビは最新型の大型テレビで……」

里中「……悪乗りはいいから」

花村「ハハハ……すまん」

比企谷「本当に客がいないな」

花村「悲しくなるくらいに、な……さて、里中?」

里中「うん……画面に触れてみる」

     グッ……

花村「……やっぱり」

里中「……無理だよね」

花村「比企谷には悪いが……寝落ちの線が強くなったな」


比企谷「…………」

比企谷「……じゃ、試すぞ」

     スッ……ブウウウウウンッ

里中・花村「」

里中「え!? ええっ!?」

里中「ちょ!? どんなイリュージョン!?」

花村「う、裏側突き抜けてねーし! マ、マジ、どんな手品だっての!?」

比企谷「お、おい……お前ら、騒ぎすぎじゃ」

里中「ご、ごめん!」

花村「げ!? や、やべえ! 人! 人が来る!!」

花村「比企谷! 早く引き抜けよ!」

里中「ちょっ! 花村! どこ触ってんの!?」 ///


花村「え!? わ、悪い……」

     グラ…… ドンッ!

花村「」

里中「」

比企谷「」




     わああああああああああ……




―――――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――

―――――――――

―――



     ゴスッ!

花村「――っだ!」

     ドサッ!

里中「いがっ!」

     ボスッ!

比企谷「がふっ!」

花村「痛つ……」

里中「いったぁ……」

比企谷「うぐぐ……」


花村「ケツの財布が……モロに……大丈夫か? お前ら……」

里中「な、何とか……」

比企谷「若干ケツが割れた……」

里中「元からでしょ! ……ったく」

里中「って、ここってどこ?」

比企谷「……ジュネスのどこかか?」

花村「こんなとこ知らねーし……つーか、何だよ、この霧は?」

里中「…………」

比企谷「…………」

花村「…………」


里中「もうやだぁ! こんなとこ、さっさと出ようよ!」

花村「ああ、その意見には賛成だな」

比企谷「…………」 キョロキョロ…

里中「比企谷くん? 何キョロキョロしてるの?」

比企谷「出口……どこなんだ?」

花村「」

里中「」

比企谷「…………」

花村「ど、どこって……確か上から落ちてきたから」

里中「う、上って、どうやって登るの!?」

花村「知らねーよ!」

比企谷「落ち着け……慌てたって事態は変わりそうもない」

里中「…………」

花村「…………」


里中「な、なんか比企谷くんって冷静だね……」

花村「俺たちが慌てすぎなのか……?」

比企谷「…………」 ピッピッピッ…

比企谷「……ダメだ、圏外」

比企谷「そっちは?」

里中・花村「!」

     ピッピッピッ…

里中「……ダメ、こっちも圏外。 花村は?」

花村「おんなじ……お手上げだな」

比企谷「…………」

比企谷「だったら、探索するしかないな」


花村「……だよな」

里中「うう……」

比企谷「まあ、入って来れたんだ」

比企谷「出口もきっとある……たぶん」

里中「たぶんを付けないでよ……たぶんを」

花村「しっかし、すごい霧だな……」

花村「見えにくくてしょうがねぇ」

比企谷「……とりあえず、この見えている道を進むか」

花村「出口につながっているといいが……」

里中「比企谷くん、くじ運いい方?」

比企谷「……小学校で4等の鉛筆1ダースが最高記録」

花村「……手分けした方がいいか?」

里中「そ、そんな! か弱い女の子一人にしないでよ!」


比企谷「冗談はこれくらいにして……」

比企谷「俺としてもバラバラに行動するのは良くないと思う」

花村「わ、わかってるって」

里中「……早く帰りたい」

―――――――――――

花村「……お?」

花村「ここ、少し霧が薄くね?」

比企谷「確かに……けど」

里中「ちょっと! ここ行き止まりじゃん!」

花村「見りゃわかるし、しょうがねーだろ……」


比企谷「どこかの部屋みたいだ……が」

花村「あ、ああ……」

里中「なにここ……気持ち悪い」


比企谷(部屋一面に貼られた、顔の部分だけを切り取られた同じポスター群……)

比企谷(飛び散ったように見える赤い液体……)

比企谷(そして……)


花村「お、おい……この赤いスカーフ。 輪っかになってぶら下がってるけど」

花村「なんか……下のイスとの位置関係がヤバくね?」

比企谷「……自殺の首吊り現場みたいだな」

花村「おまっ! はっきり言うなよ! せっかくビブラートに包んで言ったのに!」

里中「それオブラート!」

里中「っていうか、ハズレなんだから最初のところに戻ろうよ……」


比企谷「その通りだな」

比企谷「…………」

比企谷「……?」

比企谷「どうした? 花村?」

花村「い、いや……」

花村「この顔のないポスター、どっかで見たような気がして……」

比企谷「…………」

里中「花村、比企谷くん……さっさと行こう?」

里中「な、なんかあたし、体が重い気がして……」

花村「そういや……なんか俺も調子が悪いような」

比企谷「……言われてみれば、俺も……」



―――――――――――


花村「……ふう、戻ってきたな」

里中「……疲れた」

比企谷「……少し休もう」

花村「ああ……賛成だ」

花村「つーかマジここ、ヤバイ場所なのかよ……」

     キュム キュム キュム

里中「……!?」

里中「何あれ!?」

花村「お、おい、なんか近づいてくるぞ!?」

比企谷「くっ……!」


??「……あれぇ? 騒がしいと思ったら」

??「こんな所で何しているクマ?」


一同「!?」

一同(ぬいぐるみが喋った!?)


??「……あ! そういえば最近、よくここに人間を落としているのは」

??「お前達クマねー!」

一同「!??」

花村「何の事だよ……人間を落とす?」

??「そうクマ! クマは、ただここで静かに暮らしたいだけなのに……」

クマ「君らが人間を落とすから【シャドウ】が暴れて困っているクマ!」


花村「おいおいおい! 何の事だよ!? んなもん知らねっつーの!」

クマ「ぼ、暴力は反対、クマ……」

花村「あん? ……何だよ、威勢がいいのは最初だけかよ」

里中「なんか怯えてるみたいだし……優しく話しかけた方がいいみたいね」

里中「ええと……クマくん?でいいのかな?」

クマ「クマ!」

里中「ええと……その人間を落とすって意味がわからないんだけど……」

クマ「そのままの意味クマ」

クマ「誰かがここに人間を落としているクマ」

クマ「そのせいでクマ、迷惑しているクマ!」

里中「……やっぱり訳 分かんないね」

比企谷「…………」


クマ「さ! もう用はないクマね!?」

クマ「さっさと帰るクマ!」

花村「だからその出口がわかんねーんだよ!」

クマ「およ? 出口が分からない?」

花村「そうだよ」

クマ「じゃあクマが用意するクマ」

クマ「そして、さっさと帰るクマ!」

     ボフン

一同「!?」

一同(え!? テレビ!?)


クマ「ホラホラ、さっさと帰るクマー!」

花村「ちょ!? クマ、押すな!」

里中「うわわっ」

比企谷「おいおいおい!」



     わあああああああああああああっ……



―――――――――――

     ドササッ!

花村「っは!」

里中「いったぁ……」

比企谷「……ここは?」

一同「…………」


里中「ジュネスだ!」

花村「家電コーナーだ!」

比企谷「……帰って来れたか」 ホッ…

里中・花村「よ、良かったぁ~……」

     ピン ポン パン ポン

店内放送『お客様へご連絡します』

店内放送『まもなく、一階のお惣菜コーナーで』

店内放送『半額のタイムサービスを開始します』


花村「げっ!? もうそんな時間かよ……」

里中「あたし達……結構長い事あそこに居たんだ……」


花村「……あ!」

比企谷「どうしたんだ?」

花村「ほらあれ! あのポスター!」

比企谷「……!」

比企谷「柊みすず……?」

花村「あの妙な部屋の顔無しポスター。 たぶんあれだ」

比企谷「……どういう事?」

花村「……俺に聞かれても困る」

比企谷「…………」


比企谷(確か……変死体で見つかった山野アナの不倫相手)

比企谷(生天目とかいう奴の正妻だったな……柊みすず)

比企谷(……山野アナの事件と何か関係している?)


里中「……う」

里中「とりあえず、詳しい事は明日にしない……?」

里中「なんか……真面目に体が重い」

花村「ああ……俺もマジでヤバイ……」

花村「早いとこ帰って、眠りたいわ……」

比企谷「……俺も疲れたな」

花村「じゃ……また明日」

里中「んー……」

比企谷「…………」


―――――――――――


足立宅


     ドサッ……

比企谷「……っは」

比企谷(ダメだ……)

比企谷(なけなしの根性で帰ってこれたけど……)

比企谷(飯も風呂にも入る気力がない……)

比企谷(……寝よう)




     俺の……恐らく生まれて初めてであろう

     濃ゆい一日が終わった……



本日はここまで。ヒッキー、丸くしすぎかなぁ……
後、今更ですがP4(PS2版)ネタバレありです。ありまくりですので。

乙ー


続きが楽しみだ



―――――――――――


翌日の早朝


比企谷「……ん」

比企谷「……ふあ」

比企谷「…………」 ボリボリ…

比企谷「…………」

比企谷(今は……5時半か……)

比企谷(ずいぶん早く……ああ、昨日はそのまま倒れ込んだんだっけ)

比企谷(通りで……)


比企谷(……今日は人の気配がするな)

     ガラ……

足立「…………」 zzz

比企谷(足立さん、帰ってきたのか)

比企谷(…………)

比企谷(腹も減ったし、朝ごはん作るかな……足立さんのも込みで)

比企谷(冷蔵庫に何かあるだろうか?)

     ゴソゴソ…

比企谷(キャベツ、卵に……牛乳……飲み物は豊富だけど、料理の材料は乏しいな)

比企谷(お? テーブルの上に食パンがある)

比企谷(…………)

比企谷(よし、下ごしらえをして)

比企谷(先にシャワーを浴びよう)



―――――――――――


     ジュウウウ……

足立「…………」 zzz

足立「……ん?」

足立「ふああああ……」

足立「…………」

足立「何か、いい匂いがするな……?」

     ガラ…

足立「!」

比企谷「あ、おはようございます、足立さん」

足立「おはよう、比企谷くん」


足立「いい匂いだけど、何を作っているんだい?」

比企谷「フレンチトーストです」

足立「へえ……すごいね」

比企谷「いえ……ウチじゃ小町……妹の面倒を見てたんで」

足立「それで料理が出来るのか……感心するよ」

足立「僕も自炊はたまにするけど、朝は普通のトーストしか しないなぁ」

比企谷「俺だってそうですよ」

比企谷「今日は、たまたま早く目を覚ましたので……」

足立「そうだったのか」

比企谷「もうすぐ出来ますから」

足立「そっか、僕の分もあるのか。 嬉しいね」

足立「顔を洗ってくるよ」


足立「いただきます」

比企谷「いただきます」

     モグモグ…

足立「うん! 美味いね!」

比企谷「ありがとうございます」

足立「上手だね~。 実はフレンチトースト、初めて食べたんだけど」

足立「すごく美味しいと思うよ!」

比企谷「……作るたびに妹に点数つけられて鍛えられましたから」

足立「あははは……ちなみに今日のは何点をつけると思う?」

比企谷「う~ん……60点くらい、ですかね」


足立「あらら……き、厳しいね、キミの妹さん」

比企谷「妹言わく、甘いものは妥協しない、だそうです」

足立「はははは、しっかりしてるね」

     モグモグ…

比企谷「足立さんは昨日、何時頃帰られたんですか?」

足立「日付が変わる直前くらいかな?」

比企谷「そんなに遅かったんですか……」

足立「まあ、ここ数日の忙しさは しょうがないよ」

足立「こんな田舎じゃ考えられないような凶悪事件だしね」

比企谷「…………」

足立「っと、捜査上の事は言えないからね?」

比企谷「わかってますよ」

     モグモグ…


足立「ごちそうさまでした」

比企谷「お粗末さまでした」

足立「いや~ありがとう、比企谷くん」

足立「久しぶりに人間らしい食事をした気がするよ~」

比企谷「大げさですよ」

足立「ホントだって……本来は僕が君の面倒を見なくちゃいけないのに」

足立「すまない気持ちで一杯だよ」

比企谷「気にしないでください」

足立「ははは」

     ピピピ……ピピピ……

足立「お……携帯……」


     ガチャ

足立「はい、足立です」

足立「はい……はい……」

足立「……え!?」

比企谷「…………」

足立「……そう……ですか」

足立「はい……はい……」

足立「わかりました、すぐ向かいます」

     ガチャ…

比企谷「……また、事件ですか?」

足立「ん!? ……ま、まあ、そうかな」


足立「これ以上は言えないけど……どうやら、またしばらく帰れそうもない」

比企谷「大変ですね」

足立「そういう仕事だからね……」

足立「はあ……すぐに行かないと」

比企谷「お気を付けて」

足立「ああ、キミも寄り道とかしない様にね」

足立「後、朝ごはんありがとう。 本当に美味しかったよ」

足立「じゃ!」

     パタン……

比企谷「…………」

     ウ―― ウ――

比企谷(……嫌な予感しかしないな)


通学路


     サアアアア……

比企谷(……今日も雨、か)

比企谷(…………)


教室


比企谷「……おはよう」

里中「おはよう、比企谷くん」

比企谷「天城は?」

里中「お店が忙しくって午前中休むって。 午後には顔を出すって言ってた」

比企谷「そうか……」


里中「……昨日のアレ」

里中「何だったのかな?」

比企谷「俺に聞かれても分からない……」

里中「そ、そうだよ、ね……」

     ガララ…

花村「……よう、お前ら」

比企谷「花村」

里中「……? どうしたの? 元気が無いみたいだけど……」

花村「い、いや……たぶん、俺の思い込みだと思うから」

花村「気にしないでくれ……」

比企谷・里中「……?」


午後

体育館


     ザワ…… ザワ……

比企谷(……午後の授業を取りやめて、緊急の全校集会)

比企谷(いったい、何が起こった……?)

里中「…………」 ピッピッピッ……

里中「おっかしいなー……雪子、午後には顔を出すって言ってたのに……」

花村「…………」

比企谷「どうした? 花村?」

比企谷「顔色が悪いみたいだけど……」

花村「……大丈夫だ、比企谷」

比企谷「…………」


女教師『えー、生徒の皆さん、お静かに』

女教師『只今より、校長先生から大事なお話があります』

校長『あーあーううんっ……』

校長『えー……本日は、皆さんに非常に残念な報告をしなければなりません』

校長『今朝、本校生徒である、3年3組の小西早紀さんが……』


校長『亡くなられました』


比企谷・里中・花村「!!!!」


校長『詳しい事は、まだ分かっていませんが』

校長『今、警察の方々が全力で捜査をして……』


比企谷(…………)

比企谷(……偶然?)

比企谷(いや……そんな訳、無いよな……)

比企谷(【マヨナカテレビ】で映し出された人間が……死んだ)

比企谷(……くそ)

比企谷(何がどうなってやがるんだよ……!)


花村「…………」



―――――――――――



     ガヤ ガヤ

モブ美「それにしても驚くよねー」

モブ美「まさかこんな田舎で連続殺人事件が起こるなんて」

モブ子「えー? まだそうと決まった訳じゃないんでしょ?」

モブ美「だってー、前の山野アナも今回のも」

モブ美「宙ずり状態で見つかっているんだよ?」

モブ美「おんなじ犯人としか思えない」

モブ子「うんうん、確かに解るけどー」

     ハハハ……

里中「……なんか人ごとだね」

比企谷「…………」


花村「……なあ、比企谷」

比企谷「ん?」

花村「頼みたいことがある」

比企谷「……何だ?」

花村「……もう一度、あの世界に行きたいんだ」

里中「ちょ、ちょっと花村! 何言ってんの!?」

花村「…………」

花村「実はよ……俺」

花村「小西先輩が亡くなる瞬間を見ちまった……」

比企谷・里中「!?」

比企谷「……まさか、昨夜の【マヨナカテレビ】を?」

花村「……ああ。 もしかしたら、と思ってな」


花村「見終わった後……恐ろしくなって布団に入って」

花村「疲れてた事もあって、すぐに寝ちまったが……」

花村「俺、嫌な胸騒ぎがして、朝一で小西先輩の安否を確かめてみようとしたら」

花村「昨日の夕方から居なくなっていたらしい……」

比企谷・里中「!!」

花村「……バカだよな」

花村「校長の話聞くまで、きっと大丈夫だ、取り越し苦労だって」

花村「思い込もうとしてたんだぜ……俺」

比企谷・里中「…………」

比企谷「どんな映ぞ……いや……」

比企谷「あの世界に行って、何をするつもりだ?」


花村「確かめたいんだよ……小西先輩の為にも」

花村「【マヨナカテレビ】と事件、そしてあの世界との”関係”を」

花村「何をどう調べたらいいかなんて、もちろん分からないが……」

里中「や、止めなよ、花村!」

里中「警察に任せようよ!」

花村「捕まえられんのかよ……こんな怪現象がらみの事件の犯人を」

里中「そ、それは……」

花村「頼む、比企谷!」

花村「あの世界には、お前がいないと絶対に行けない」

花村「頼む! 力を貸してくれ!」

比企谷「…………」

比企谷(……えらい事になってきた)


ジュネス 家電コーナー


花村「さて……ここに縛って、と」

比企谷「そのロープは命綱か」

花村「ああ……念のためにな」

里中「や、止めなよ、二人共……」

里中「絶対、危ないって……」

花村「わかってるって、里中」

花村「危なく思ったら、すぐこのロープを手繰(たぐ)って戻るさ」

里中「…………」

花村「じゃ……頼む。 比企谷」

比企谷「……わかった」


     ブウウウウウン……

里中「…………」

里中「……大丈夫かなぁ」

里中「…………」

里中「花村ー?」

     クイッ クイッ

里中「…………」

里中「花村?」

     スル……スルスルスル……スルッ

里中(ちょっと……なんでこんなスルスル手繰(たぐ)れるのよ……)

     スポンッ!

里中「」

里中「切れてる……。 ほら……やっぱりダメじゃん……」

里中「どうすんのよぉ……」 クスン…



―――――――――――


     ドサドサッ

花村「――っだ!」

比企谷「――っと」

花村「いてて……うっかり忘れてたぜ」

比企谷「……間違いない、昨日のあの場所だ」

花村「ああ、確かにな……相変わらずひでぇ霧だ」

     キュム キュム キュム

クマ「クマ! ま~た君たちクマねー!」

花村「!」

比企谷「!」


クマ「昨日、迷惑してるって言ったクマに~!!」

花村「おい、クマ!」

クマ「……何クマ?」

花村「聞きたい事がある」

クマ「クマ?」

花村「昨日、お前は『誰かが人間を落として迷惑している』」

花村「とか言ってたな?」

クマ「そうクマ。 その犯人は、君たちクマ!」

花村「ちげーよ!」

花村「それよりも、だ……ここに落とされた人間は、どうなるんだ?」

比企谷「…………」

クマ「たいてい【シャドウ】に殺されてしまうクマ……」


比企谷・花村「!!」

クマ「クマは『どうやって殺されるか』までは知らないクマ」

クマ「落とされた人間が殺される時は、ここの霧が晴れて」

クマ「【シャドウ】がものすごく凶暴になる時クマ」

花村「霧が晴れる……?」

比企谷「こっちの天候とは逆になるのか……?」

クマ「クマは、そんな【シャドウ】が怖いから、霧が晴れる日は隠れて静かにしているクマ」

比企谷・花村「…………」

花村「それじゃあ、さっきから言ってる【シャドウ】って何だ?」

クマ「【シャドウ】は【シャドウ】クマ」

クマ「元々は『人間の心から生まれた存在』で……」

クマ「最近、人間が放り込まれたせいか、数が増えて困っているクマ」


比企谷・花村「…………」

花村「……比企谷、こいつの言ってる事、わかるか?」

比企谷「全然分からん……が」

花村「が?」

比企谷「ここに長居すると、ヤバイって事は理解した」

花村「……なるほど」

花村「! そうだ、クマ!」

クマ「な、何クマ?」

花村「ここに放り込まれた人間が、どこに行ったかわからないか?」

花村「特に、昨日放り込まれた奴とか!」

クマ「昨日? それなら知ってるクマ」


比企谷・花村「!!」

クマ「でもちょっと待つクマ」

クマ「さっきから質問攻めだけど、君たちは何者クマ!?」

花村「あん?」

クマ「昨日から言ってるけど、クマは迷惑しているクマ!」

クマ「君たちが人間を放り込んでいないのなら、証拠を見せて欲しいクマ!」

比企谷「……そう言われてもな」

花村「証拠なんて出せねーよ……」

クマ「むむむ~! という事は、やっぱり君たちが犯人クマねー!」

花村「だから違うって! ああもう、いいかげんムカついてきた!」

クマ「そ、そんなこと言っていいクマ?」

クマ「クマが居ないと、帰れないクマよ?」


花村「はあ? あいにくとだな、こっちは命綱を……」

花村「!?」

比企谷「……見事に切れてるな。 スパッと」

花村「…………」

花村「と、ともかくだ! 用事が済んだら、ちゃんと無事に送り届けてもらうからな!」

比企谷(……精一杯の強がりだな)

クマ「まあまあ、落ち着くクマ」

クマ「クマも鬼じゃないクマ」

クマ「クマがここで静かに暮らせる様に手伝うと約束してくれるなら」

クマ「協力をしなくもないクマ!」

比企谷・花村「…………」


花村「……どうするよ?」

比企谷「……ここで断る勇気、俺には無いな」

花村「……だよなぁ」

花村「はあ……しょうがねえ、クマ」

花村「どこまで出来るかわかんねぇけど……協力するわ」

クマ「クマ! よろしいクマ~♪」

花村「……えらい事になったなぁ」

比企谷「…………」

比企谷「それじゃクマ」

比企谷「昨日の人間が行ったところに案内してくれ」

クマ「わかったクマ」


クマ「けど、その前にこれを渡しておくクマ!」

花村「あん? ……なんだこのメガネ?」

クマ「いいから、付けてみるクマ!」

比企谷「…………」

     スチャ…

比企谷・花村「!!」

花村「おお! 霧が薄くなって見える! すげぇ!」

比企谷「だいぶ見渡せる様になったな」

クマ「ぬふふ……どうクマ? クマがコツコツと暇つぶしで作ったクマ」

比企谷「コツコツの使い方を間違っているぞ……」

クマ「さあ! 案内するクマ~」

比企谷「おい無視すんな」

花村(……細かいところを気にするんだな)



―――――――――――


花村「……ここって!?」

比企谷「知ってるのか?」

花村「ああ……ここは商店街にそっくりだ」

花村「クマ、これはどういう事なんだ?」

クマ「わからないクマ……」

花村「……役に立たねーな」

クマ「ムキー! クマだって、何が何だかわからないクマよ!」

クマ「元々クマが行ける場所は、小さかったクマ!」

クマ「いつの間にか『世界』が広がって行ってるクマよ!」


花村「世界が広がってる……?」

比企谷「…………」

比企谷「……もしかして」

比企谷「人間が放り込まれてからか?」

クマ「そうクマ」

花村「……!」

花村「どういう事だ? 比企谷?」

比企谷「いや……なんとなくそう思っただけだ」

花村「…………」

クマ「そっちは”ひきがや”って言うクマか?」

比企谷「ん? そうだが……」

花村「そういや、まだ名前を言ってなかったっけ」


花村「俺は花村。 花村陽介ってんだ。 覚えとけ。 んで……」

比企谷「比企谷。 比企谷八幡だ」

クマ「花村ヨースケに 比企谷ハチマン、クマね」

クマ「覚えたクマ!」

花村「……それにしても何で商店街なんだろう?」

比企谷「……被害者に関係している……から?」

花村「!」

比企谷「推測だけどな」

比企谷「なんか……人が落ちてからこうなったと聞いて」

比企谷「そういうことを考えた」


クマ「ふむふむ、ありえるクマ」

クマ「ここは『ここに居る者にとっての現実』クマ」

クマ「そう考えると、入り込んだ人間のゆかりある『世界』になる事もあるクマ!」

花村「……相変わらず訳分かんねー」

比企谷「……同感だ」

花村「と、どもかく、俺の知ってる商店街なら、小西先輩の家はこの先のはずだ」

比企谷「行ってみよう」

     タッ タッ タッ

―――――――――――

比企谷「ここがそうなのか?」

花村「ああ……小西酒店。 小西先輩の家だ」

     ザワ…… ザワ……

比企谷・花村「!?」

クマ「何か聞こえるクマ」



ちょっと聞いた?小西さんとこの娘さん
ジュネスで働いているそうよ?

  知っていますとも……商店街が寂れていくのは
  あの店のせいなのに……親不孝よねぇ

    私も見ました……ジュネスでヘラヘラ笑って
    楽しそうに仕事しているのを……どういう育ち方をしたんだか


比企谷・花村「…………」

花村「……んだよ、これ」

クマ「多分……ここに放り込まれた人間の『現実』クマ」

比企谷・花村「!?」

クマ「クマが感じるのは……抑圧されてた『心の気持ち』クマ」

花村「……小西先輩」


花村「ともかく、中に入って――」

クマ「待つクマ!」

比企谷「どうした?」

クマ「……いるクマ」

花村「いる? 何がいるってんだよ?」

クマ「【シャドウ】クマ!」

比企谷・花村「え!?」

クマ「お、おかしいクマ! 【シャドウ】は普段、何もしないはずクマ!」

クマ「何故か敵意満々で襲いかかってくるクマー!」

比企谷「ウ、ウソだろ?」

花村「ひ、比企谷! あ、あれ!」

比企谷「!!」


     ズルッ…… ズルッ……

     ズルルッ……

花村「ひ、ひいっ!」

比企谷「くっ……逃げ」

     ドクンッ……!

比企谷「ぐがっ!?」 ズキンッ!

花村「比企谷!?」


比企谷(こ、こんな時に……頭痛がっ)


     ――我は汝――

     ――汝は我――


比企谷(また……あの声……)



     ――その双目を見開きて発し――



比企谷「ぐ……ああああああああっ!!」



     ――今こそ欲せよ!――



花村「しっかりしろ! 比企谷!」

比企谷「はあ……はあ……」

比企谷「…………」

花村「比企谷……?」

比企谷「……っ!」 グッ……!




     ペ   ル   ソ   ナ   !!




花村「!?」

花村「な――」


比企谷「――イザナギ!!」 ジオ!(単体 電撃魔法)

     バリ バリ!

     ヒャアアアアアア……

花村「!!」

花村「す、すげぇ……」

比企谷「イザナギ!! 斬りつけろ!」

     ズバァッ!

     ヒャアアアアアア……

比企谷「はあっ……はあっ……」

     シュウウウウ……

花村「……全部、片付けた」

花村「おいおいおい! なんだよお前、凄すぎるじゃねーかよ!」


比企谷「…………」

花村「どうやったんだ? ペルソナ、とか言ってたけど……」

比企谷「……分からん」

比企谷「頭痛がして……気がついたら……」

花村「そ、そうなのか……」

比企谷「…………」

クマ「いや~センセイは凄いクマね~」

クマ「ヨースケとは全然違うクマ!」

花村「おいこら、ちょっと待てクマきち」

クマ「何クマ?」

花村「何でいきなり俺だけ、タメ口きいてんだっつーの!」


     ポコン ゴロゴロリン

クマ「や、やめれ~」

花村「アホくさ……戦闘の時はどっか行っちまうし」

花村「役に立たねーな、こいつ」

クマ「ムキ~! ヨースケだって役に立ってなかったクマ!」

花村「さ、さあ! 中に入ろうぜ! 比企谷!」

比企谷「…………」

比企谷「……そうだな」 クスッ

―――――――――――

花村「……店内の作りも変わらないが」

比企谷「散らかっているな……色々と」

花村「ああ……」


     ザワ…… ザワ……

花村「ちっ……! またこれかよ……!」


  早紀! 分かっているのか!
  よりにもよって、ジュネスで働くなんて……この親不孝者が!

     俺はご近所さんにどう顔向けすればいいんだ!
     とっとと辞めてこい! 今すぐにだ!


比企谷「…………」

花村「……嘘だろ、小西先輩」

花村「ジュネスで働いてる時は、こんな事少しも見せなかったのに……」

花村「…………」




     私―― ずっと言えなかった


花村「!」

花村「小西先輩!?」


     私……花ちゃんのこと……


花村「…………」


     ウザイと思ってた


花村「え……」



     仲良くしたのは、ジュネスの店長の息子だから


花村「…………」


     その方が、色々都合いいと思ってたから


花村「…………」


     なのにあの子、勘違いして、一人で盛り上がって、ほんとウザイ


花村「小西……先…輩……」


     ジュネスなんて、どうでもいい。 あんなので潰れそうなウチの店も

     怒鳴る親も 好き勝手言う近所も……全部、無くなればいい!!


花村「…………」


比企谷「…………」

比企谷(……女なんて)

比企谷(こんなもんだろ……)


     哀しいなぁ……可哀想だなぁ……俺


比企谷・花村「!?」

クマ「およよ!? ヨースケが二人ー!?」


影・陽介『てか、何もかもウザイと思ってるのは』

影・陽介『俺の方だっつーの! アハハ!』


花村「だ、誰だお前!? 小西先輩は……」


影・陽介『はっ! よく言うぜ。 いつまでそうやってカッコ付けてる気だよ?』

影・陽介『商店街も ジュネスも 全部うぜーんだろ?』

影・陽介『そもそも田舎暮らしが うぜーんだよな!?』


比企谷「……!」

花村「ウ、ウソだ! でたらめだ!」


影・陽介『お前は孤立すんのが怖くて、うまく取り繕ってヘラヘラしてんだよ』

影・陽介『一人はさみしいもんなぁ……みんなに囲まれてたいもんなぁ!』


比企谷(…………)

比企谷(……由比ケ浜)

花村「も、もう黙れよ!」


影・陽介『ハハハ……何焦ってんだよ』

影・陽介『お前がここに興味を持った、本当の理由は』

影・陽介『単純にこの世界にワクワクしたからだ!』


比企谷「…………」

花村「うるさいうるさい! 黙れよ! 黙ってくれぇ!」


影・陽介『ど田舎暮らしには、ウンザリしてるもんな!』

影・陽介『それをカッコつけやがってよ……』

影・陽介『大好きな先輩が死んだっていう らしい口実もできたしなぁ!』


花村「何なんだよ!? お前!! いったい誰なんだよ!?」


影・陽介『俺か?』

影・陽介『俺はお前だよ』


比企谷「…………」

花村「ウソだ! そんな訳あるかよ!」


影・陽介『嘘なもんか。 だからお前の事は、何でもお見通しなんだよ!』


比企谷「…………」

花村「ち、違う! お前が俺な訳がねえ!」

花村「お前なんて……お前なんて……!」

花村「俺じゃ――」

比企谷「何言ってるんだ、花村。 あれは間違いなくお前だろ」

花村「ひ、比企谷!?」


比企谷「むしろ……あんな程度でキョドってんのかよと呆れてる」

花村「な、何を言って……」

比企谷「田舎暮らしにウンザリしてる……だからこそ」

比企谷「俺の事を人ごとに思えず、気遣う事が出来た。 違うか?」

花村「……!」

比企谷「孤立するのが嫌で……周りに合わせようとするのだって」

比企谷「普通の人間なら、当たり前だろ」

花村「…………」

比企谷「結論を言うと……」

比企谷「あいつはお前だが……お前の全てじゃない」

花村「!!」


比企谷「……俺も」

比企谷「俺の中にも、ああいうのが居ると思う」

比企谷「きっと……お前のなんて、比べ物にならない程 嫌な奴だと思うぜ?」

花村「…………」


影・陽介『何黙ってんだよ?』

影・陽介『ムカついてんだろ? 早くスッキリしたらどうだ!』


花村「……いや」

花村「認めるよ……お前は俺だって」


影・陽介『……なんだ…と?』


比企谷「…………」


花村「そうさ……俺はここが……この街が好きじゃなかった」

花村「急激な変化について行けなかった……何もかもにうんざりしてた」

花村「この世界へ来るのにワクワクしてたのも事実だ」


影・陽介『…………』


花村「けど」

花村「それだけじゃねぇ」

花村「比企谷が気づかせてくれた」


影・陽介『…………』


花村「小西先輩の事も……そうさ、口実にしてたさ」

花村「だが」

花村「小西先輩への気持ちも嘘じゃねえ」


影・陽介『…………』


花村「…………」

花村「これが……俺の本音だ」

花村「間違っているか?」


影・陽介『…………』


花村「……へっ」

花村「こんな自分と向き合うって……難しいもんだ」

花村「みっともねえけど……確かに俺はお前で」

花村「お前は俺だったんだな……」


影・陽介『…………』

影・陽介『…………』 クス


     ヒィイイイイイインッ!


比企谷・花村「!!」

クマ「何が起こったクマ!?」


花村「ペル……ソ…ナ?」

花村「はは……ペルソナ・ジライヤだってさ」

花村「うっ……」

比企谷「花村!」

花村「ちょっと……疲れたな……」


比企谷「…………」

比企谷「クマ」

クマ「何クマ?」

比企谷「さっきの……あの花村は何だったんだ?」

クマ「う~ん……よく分からんけど……たぶんヨースケの心の一部クマ」

比企谷「…………」

比企谷「クマ……【シャドウ】は人の心から生まれた、とか言ってたけど」

比企谷「あれがそうなのか?」

クマ「クマ! さすがセンセイクマ!」

クマ「きっとそうクマ!」


比企谷「…………」

比企谷(詳しい事は分からずじまい、か……)

比企谷「……ともかく、花村の事もある」

比企谷「いったん戻ろう」

クマ「わかったクマ!」

―――――――――――

花村「ふう……」

比企谷「体調はどうだ?」

花村「さっきよりはマシ……ってとこかな」

比企谷「クマ、例の出入口を出してくれ」

クマ「クマ~」

     ボフン

クマ「あ! でもでも、クマとの約束も忘れないで欲しいクマ!」


比企谷「わかってるよ」

花村「忘れてないって」

クマ「それから、こっちに来る時は、同じ入口を使って欲しいクマ!」

比企谷「なぜだ?」

クマ「違う入口だと、この世界のどこに出るか、わからないからクマ!」

クマ「もし、クマが行けない様な所だと、もう帰れないクマ!」

花村「うへぇ……それは御免被(こうむ)りたいな」

比企谷「次もジュネスのあの場所からじゃないと、まずいって事か……」

比企谷「わかった、クマ。 また今度」

花村「またな! クマきち!」

クマ「バイバイ、クマ~!」



―――――――――――


花村「――っと!」

比企谷「ふう……」

里中「!!」


花村「よう、ただいま、里中」

里中「……よ」

比企谷「よ?」

里中「よがっだぁぁっ……がえっでぎだぁぁっ……」 グスグス…

比企谷・花村「」

里中「心配したんだからっ……!」

里中「なのに、のほほんと帰ってきて、信じらんないっ!」

     バシッ!


花村「いてっ! ロープ投げんなよ!」

里中「フンッ!」

     タッ タッ タッ…

比企谷・花村「…………」

花村「……なんか、悪い事したみたいだな」

比企谷「……らしいな」

花村「ま、まあ、里中には明日謝るとして……」

花村「俺たちも もう休んでおこうぜ」

比企谷「いろいろあったしな……正直賛成だ」

花村「じゃあな、比企谷」

比企谷「ああ……」

     テク テク テク…

―――――――――――


帰り道


     サアアアア……

比企谷(ちくしょう……降ってやがる)

比企谷(やな雨だな……)

比企谷(…………)

比企谷(……ん?)

比企谷(あれは……天城?)

比企谷(…………)

比企谷(何で和服を着ているんだ?)

比企谷(……ああ、旅館の手伝い、とか言ってたな)

比企谷(よく似合っている……けど、近寄りがたい雰囲気だ)

比企谷(そっとしておくべきだな)

     テク テク テク…


足立宅


テレビ『皆さん、今晩は』

テレビ『本日は番組の内容を一部変更して、お送りいたします』

テレビ『まずは霧に煙る街、稲羽市で起きた連続殺人事件の続報です』

比企谷「…………」

テレビ『今朝7時頃、稲羽市の住宅街で遺体で発見された地元高校3年生の』

テレビ『小西早紀さんですが』

テレビ『警察は小西早紀さんの遺体の状況や』

テレビ『彼女が先の山野アナの事件の 遺体第一発見者である事から』

テレビ『連続殺人事件の可能性が高い、と、公式見解を発表しております』

比企谷「…………」


テレビ『また、小西早紀さんの死亡推定時刻は、昨晩午前1時頃と推定されておりますが』

テレビ『事件現場は当時、濃い霧に見舞われており、発見が遅れたものと見られております』

比企谷「…………」

比企谷(遺体の第一発見者……昨夜午前1時頃……)

比企谷(……霧)

比企谷(…………)

テレビ『……不幸な連続殺人事件で気が滅入りますが』

テレビ『この街は、魅力もあります』

テレビ『例えばこの『天城屋旅館』!!』

比企谷「!」

テレビ『どうも~○○テレビです~』

比企谷(……空気読まなさすぎだろ、テレビ局)


テレビ『……なる程! それは素晴らしいですね~』

テレビ『おや? あれは……カメラさん、あっちを写して!』

テレビ『君、若そうだけど、もしかして高校生?』

テレビ『え……? そ、その……困ります』

比企谷「……天城だ」

テレビ『ああ、さっき聞いた、現役女子校生女将って君のこと?』

テレビ『あの……そういう質問は、ちょっと……』

テレビ『いや~君みたいな若女将なら是非ともここに泊まりたいね~』

テレビ『あの……その……』

比企谷(……さっきの天城、これを悩んでたのかな)


比企谷「…………」

比企谷「……そうだ」

比企谷「…………」 ピッポッパッ

比企谷「…………」 プルルルルル……プルルルルル……

     ガチャ

由比ケ浜『は~い。 結衣でーす』

比企谷「……由比ケ浜」

由比ケ浜『!? ヒッキー!?』

由比ケ浜『うそ……! どうしたの!?』

比企谷「大げさに驚きすぎだろ……」

由比ケ浜『だ、だって……元気にしてる? そだ! また周りに敵を作ってたりしてない!?』

比企谷「してねーよ。 それどころか、妙な知り合いが出来ちまった」

由比ケ浜『うそ!? あのヒッキーが!?』

比企谷「傷ついた。 俺、今、もの凄く傷ついた」


由比ケ浜『ご、ごめん……』

比企谷「冗談だ」

由比ケ浜『そっか。 冗談が言えるなら大丈夫だね。 ふふっ』

比企谷「……今、大丈夫か?」

由比ケ浜『うん! 大丈夫だよ?』

比企谷「そうか……少し、頼みたい事があってな」

由比ケ浜『ええっ!? ヒッキーが私に!?』

比企谷「いちいち驚くなよ……」

由比ケ浜『だ、だって……それで? どんな事?』

比企谷「大した事じゃない」

比企谷「メールで、雪ノ下に事情を聞く、とかってあったけど」

比企谷「そっとしておいてやって欲しいんだ」


由比ケ浜『…………』

比企谷「……別段怒ってるわけじゃない」

比企谷「お前が言う様に何か事情があったんだろう……」

比企谷「でも……」

比企谷「それは、あいつが話してくれるのを待ってやってくれ」

由比ケ浜『……ヒッキー』

由比ケ浜『やっぱり、変……』

比企谷「何がだよ?」

由比ケ浜『こんなにあからさまに優しいヒッキー、らしくないんだもん』

比企谷「……本当に傷つくぞ」

由比ケ浜『でも、言いたい事はわかったよ』

比企谷「……そっか」


由比ケ浜『ひょっとしたら、さっき言ってた妙な知り合いさんの影響?』

比企谷「かもしれない」

比企谷「お前に似ているんだ、そいつ」

由比ケ浜『え!? 私似の女の子!?』

比企谷「男だよ、そいつ」

由比ケ浜『なあんだ……って!』

由比ケ浜『どういう意味なのよ! 男で私に似てるって!』

比企谷「主に性格方面で、な」

由比ケ浜『うう~……なんか傷つく~』

比企谷「ははは……意外に気が合うかもしれないぞ?」

由比ケ浜『…………』


比企谷「……由比ケ浜?」

由比ケ浜『今、ヒッキーの居る街……凶悪事件が起きてるんだよね?』

比企谷「…………」

由比ケ浜『大丈夫……だよね?』

比企谷「大丈夫だよ」

由比ケ浜『で、でも! ヒッキーの通ってる学校の生徒さんが……!』

比企谷「由比ケ浜」

由比ケ浜『……うん』

比企谷「できるだけ、メールを送る」

比企谷「これで安心しておけ」

由比ケ浜『……うん。 毎日でもいいよ。 私、待ってるから』

比企谷「ああ……じゃ、またな」

由比ケ浜『うん……またね、ヒッキー。 お休み』


     ガチャ…… ツー ツー

比企谷「…………」

比企谷「……すまねえ」

比企谷「由比ケ浜……」



     いつだったか……交通事故の事を隠してた由比ケ浜を思い出していた

     あの時の……あいつの気持ちを俺は分かったのかもしれない



―――――――――――

     サアアアア……


里中(……今日も雨。 そして)

里中(もうすぐ……夜中の0時)

里中(…………)

     ……ピウィ~……

里中(……!)

里中(映った!)

里中(…………)

里中(……!!!)

里中「うそ……これって……」

里中「雪…子……」

     サアアアア……

長々とすみません……P4のキモとも言える重要な部分なので
こうなってしましました。
後、ガハマさんと雪乃、もう少し先ですが登場予定してますので。

乙ー

来てた!
打ち切りでも、カットしても、何でもいいから終わらせてくれ!
終わらない作品を待つのはもうこりごりだ
でも一番は綺麗に終わらせることだからな

楽しみしてる



―――――――――――


????「……おや?」

????「これはこれは……随分と珍しい運命(さだめ)をお持ちの方でございすな」

????「ようこそ、ベルベットルームへ……」

????「おお……これは失礼」

????「わたくしは、イゴール、と申します……」

イゴール「こちらは助手のマーガレットでございます」

マーガレット「よろしく」

イゴール「以後、お見知りおきを……」

イゴール「…………」

イゴール「ふふふ……結構」


イゴール「ふむ?」

イゴール「おお……ご心配 召されるな、お客人」

イゴール「誘拐などではなく、ここはお客様の夢の中にございます」

イゴール「別段、御身に何かしよう、という訳ではございませぬ……」

イゴール「わたくし共は、ここを訪れた『ワイルド』の持ち主に対し」

イゴール「いささかアドバイスを申し上げているのでございます……」

イゴール「…………」

イゴール「ふふふ、話しが早いですな……」

イゴール「わたくし共がお客様に求める『対価』はただ一つ」

イゴール「お客様の持つ『ワイルド』の成長を見せていただく事でございます……」

イゴール「…………」

イゴール「ふむ……『ワイルド』とは……」


イゴール「平たく言えば、大きくもあり、小さくもある、『無限の可能性』……」

イゴール「持ち主の意志の力の根源……と、でも申しましょうか……」

イゴール「…………」

イゴール「申し訳ございませぬ」

イゴール「概念を説明しにくいものですので……どうかご容赦を」

イゴール「…………」

イゴール「……そうでございますな」

イゴール「お客様は、すでに独自のコミュニティーをお持ちの様ですが」

イゴール「さらに新たな土地においてもコミュニティーを持つと良いでしょう……」

イゴール「む……? ぼっち?」


イゴール「…………」

イゴール「ほう……なる程……ふふふ」

イゴール「やはりお客様は、少々変わった運命(さだめ)をお持ちの様でございますな」

イゴール「おお……これは失礼……」

イゴール「お客様を笑ったのではなく……珍しい運命(さだめ)に出会えて」

イゴール「喜んだのでございます……」

イゴール「…………」

イゴール「ふむ……? 十分失礼?」

イゴール「それは申し訳ございませぬな……謝罪いたしましょう」

イゴール「…………」

イゴール「ふふふ……ありがとうございます」

イゴール「おお……そろそろお目覚めの時刻の様ですな」


イゴール「さて……最後に」

イゴール「お客様は、節目の年を迎えられておりまする……」

イゴール「この一年をどう過ごされるか……」

イゴール「あなた様の持つ、『ワイルド』は、どの様な成長をとげるのか……」

イゴール「わたくし共と、ともに歩んでまいりましょう」

イゴール「それでは、いずれまた」

イゴール「夢の中で、お会いいたしましょう……」


―――――――――――


翌日

足立宅


比企谷「…………」

比企谷「ふあ……」

比企谷(……なんか、変な夢を見たような)

比企谷(…………)

比企谷(……ダメだ、思い出せねぇ)

比企谷(まあ、いいか……)

比企谷(さて、起きるとするかな)


     ガラ…

比企谷「あ……おはようございます、足立さん」

足立「ああ、おはよう、比企谷くん」

比企谷「昨夜も遅かったみたいですが……」

足立「帰ったのは日付が変わってからだよ」

比企谷「大変ですね」

足立「まあね……現場検証はだいたい済ませたし」

足立「何とか間が出来たんで、仮眠ついでに帰ってきたんだ」

足立「さて、朝ごはんにするかな」

足立「トーストだけど、君も食べるかい?」

比企谷「いただきます」


―――――――――――


通学路


比企谷「ふあ……」

     チリン チリン

花村「よう! 比企谷」

比企谷「花村。 おはよう」

花村「なんだ? 眠れなかったのか?」

比企谷「いや……少し寝すぎたんだと思う」

花村「……お前はすごいな。 あきれるくらいに」

比企谷「褒めるか、けなすか、どっちかにしてくれ」

花村「ハハハ……」


花村「そうだ、比企谷」

比企谷「ん?」

花村「昨日、もしかして……と思って、テレビにさわったら」

花村「俺もテレビの世界に行ける様になってたんだ」

比企谷「!」

花村「やっぱり……アレのせいだと思うか?」

比企谷「……他に思い当たるフシはない」

花村「ともかく、だ」

花村「これで俺も事件の謎を追う事ができる」

比企谷「…………」


花村「だけど出来たら、お前にも手伝って欲しい」

花村「頼めないか?」

比企谷「…………」

比企谷「……ま、クマとも約束したしな」

花村「相変わらず素直じゃねーな、お前」

比企谷「ほっとけ」

花村「でも、サンキューな!」

     ハハハ……

花村「じゃ、昨日の事、詳しく振り返ってみようぜ」

比企谷「だな」


教室


     ガヤ ガヤ

花村「……ふう」

花村「結局、良くわかんねーって事が、再確認できたってだけか」

比企谷「事柄はそうだが……」

比企谷「どうなるのか、という事はわかったな」

花村「まあな……」

比企谷「あの世界は入った人間の『現実』が浮き彫りになる」

比企谷「それも、出来れば見たくない方向のベクトルで」

花村「クマの言う【シャドウ】は、俺達、人間から生まれた存在」

花村「そしてどういうわけか、こっちで霧が出た時、向こうは晴れて……」

比企谷「その時、入った人間は【シャドウ】に殺される」

比企谷「……要するに、あそこに長居するのは超危険、って事だな」


     ガララ……

里中「…………」

花村「お、里中。 遅かったな?」

比企谷「……天城は?」

里中「……雪子は、今日、旅館の手伝いをするから休むって」

花村「……? 何でそんなに暗いんだ?」

里中「…………」

里中「あたし、昨日……【マヨナカテレビ】を見てみたの」

比企谷・花村「!」

里中「そしたら……ボヤボヤの映像だったけど……」


里中「雪子が映ってたのよ!」

比企谷・花村「!!」

里中「あたし、心配で……今朝、天城屋まで行ってきたの」

花村「それで遅くなったのか……」

比企谷「……でも、さっき天城は旅館の手伝いをするって」

里中「そう……雪子はちゃんと居た」

比企谷・花村「…………」

里中「けど、全然安心できない」

里中「だから、昨日あの世界に行った、あんた達から事情を聞こうと思って」

花村「……ああ、わかってる」

―――――――――――


里中「……そんな事が」

花村「ま、まあ、俺の痛い体験とかは、置いといて、だ」

花村「話を総合すると、山野アナと小西先輩は」

花村「あの世界を『凶器』として使っている『誰か』に殺された可能性がある」

里中「犯人……って事?」

花村「だな……」

里中「いったい誰が……そもそも、どうしてその二人を殺す必要があるの?」

花村「そこまではわかんねー」

比企谷「テレビニュースだと、山野アナは不倫相手である」

比企谷「生天目、とかいうのが怪しいと言っていたが……」

比企谷「本妻の柊みすずとの関係は冷え切ってて、山野アナを殺す動機が薄い」

花村「貴重な癒しをくれる人を殺すわけないよな」


比企谷「それに、小西早紀も同様だ」

比企谷「仮に生天目が犯人だとして……あの世界を凶器にした人間が」

比企谷「遺体の第一発見者、というだけで殺すだろうか?」

里中「う~ん……もしかして犯人にとってまずい『何か』を知られたんじゃ?」

花村「何かって、なんだよ?」

里中「知らないわよ……」

里中「でも小西先輩、テレビでインタビュー受けてたし」

里中「それを見て、そう思ったんじゃない?」

比企谷・花村「!!」

花村「……ありえそうだな」

比企谷「動機は不明だが……あの世界を使えばアリバイは完璧だし」

比企谷「状況的には一番怪しいな」


     ガララ……

諸岡「こらあっ! 貴様ら! 席に付け!」

里中「うあちゃ……ここまでだね」

花村「また後で……放課後にでも話そう」

比企谷「ああ……」


比企谷(…………)

比企谷(だが……どうにも引っかかる)

比企谷(それだと【マヨナカテレビ】は、何なんだ?)

比企谷(山野アナも 小西早紀も 【マヨナカテレビ】に映っていた)

比企谷(それもタイムラグからして、犯行予告かの様に……)

比企谷(…………)


放課後


花村「あ~終わった終わった」

花村「さて……どうする? 比企谷?」

比企谷「……そうだな」

比企谷「まず、場所を変えよう」

花村「じゃ、ジュネスにでも行くか?」

里中「うん、そっちの方が落ち着いて話せそうだしね」

花村「決まりだな」


ジュネス・フードコート


花村「……犯行予告?」

比企谷「そうだ」

比企谷「【マヨナカテレビ】の仕組みなんざ知らないが……」

比企谷「これまでの被害者は、いずれも【マヨナカテレビ】に映った直後」

比企谷「テレビの中に入れられている」

比企谷「それを鑑(かんが)みると……」

花村「…………」

里中「…………」

花村「……なる程。 被害者の共通点でもあるし」

花村「ありえるかもな」

里中「やめてよ花村! 比企谷くん!」

里中「それだと、次のターゲットは雪子って事じゃん!」


花村「まあ落ち着けよ、里中」

花村「まだそうだって決まった訳じゃねえ」

花村「だけど……備えはするべきだと思う」

里中「…………」

比企谷「……この後だが」

比企谷「俺としては、もう一度クマに話を聞いてみようと思っている」

花村「俺も賛成だ」

里中「…………」

比企谷「そして天城には、注意喚起か……」

比企谷「泊まりがけでも何でもして、身辺警護をした方がいいと思う」

里中「!!」


比企谷「……だが」

比企谷「相手は”殺人犯”だ」

花村「…………」

比企谷「正直、あまりオススメできない。 警察は当てにならないし」

比企谷「こっちはただの高校生3人のみだからな……」

里中「…………」

比企谷「あくまで一つの考えだが」

比企谷「天城には囮になってもらって、犯人の特定を――」

     パァンッ!

里中「冗談じゃない……!」

里中「そんな事、あたしが許さない!!」

     ダッ!


花村「……比企谷」

比企谷「…………」

花村「さすがに言い過ぎだ」

花村「確かに一つの策だが……友達を囮に、なんて出来るわけがねえよ」

比企谷「…………」

比企谷「だが、もっとも安全、かつ、確実性が高い方法だと思う」

花村「お前にも家族が居んだろ?」

花村「大事な人が”殺人犯”に連れ去られるのを黙って見てろ」

花村「と、言われて……はい、やりましょう、なんて言えねえよ」

比企谷「俺はやる」

比企谷「殺害方法はわかっているからな」

比企谷「【シャドウ】が凶暴化する前に、救出すればいいだけの事だ」


花村「…………」

花村「よし、この話はもうおしまいだ」

花村「クマに話を聞きに行こう」

比企谷「…………」

比企谷「……そうだな」


―――――――――――


クマ「誰かの気配?」

クマ「全然してないクマ」

クマ「昨日センセイ達が帰ってから、クマはずっと寂びしん坊クマ」

花村「そうか……」


花村「どうやら今のところ、まだみたいだな」

比企谷「…………」

比企谷「クマ」

クマ「何クマ?」

比企谷「【マヨナカテレビ】って知っているか?」

クマ「【マヨナカテレビ】? 知らないクマ」

比企谷「……じゃあ、撮影とか出来るところ、知らないか?」

クマ「サツエイー? 何それクマ?」

花村「…………」

比企谷「…………」

花村「はあ……まあ、予想はしてた」

比企谷「……戻るか」



―――――――――――


比企谷「今は、成り行きを見守るしかないみたいだな」

花村「……まあ、そうだな」

花村「そうだ、比企谷」

比企谷「ん?」

花村「携帯の番号交換しとかね?」

比企谷「ああ……今後、必要になりそうだしな」

     ピピッ

花村「これでよし……と」

花村「念のため天城屋にも行ってみるか?」

比企谷「そうだな」


天城屋旅館


花村「……おお」

比企谷「聞いてはいたが、大きな旅館だな」

花村「それに忙しそうだ」

比企谷「旅行のシーズンには早い気もするが……明日は日曜だしな」

花村「あ、すみませーん」

中居「はい?」

花村「天城雪子さん、いらっしゃいますか?」

中居「あなたは?」

花村「ああ、俺は花村って言います。 こっちは比企谷」

花村「俺達、同じ学校のクラスメイトで友達です」

花村「先に里中が来てると思うんですけど……」


中居「ああ、千枝ちゃんとも知り合いなのね」

中居「二人とも一緒に旅館の仕事を手伝ってくれてるわ」

花村「ああ……そうですか」

花村(……こりゃ本気で犯人撃退するつもりらしいな)

比企谷(…………)

中居「どうしましょ? 呼んできましょうか?」

花村「いえ、忙しそうですし……頑張れ、とだけ伝えておいてください」

中居「そう? わかったわ。 花村くんに 比企谷くんね」

     テク テク テク…

比企谷「…………」

花村「…………」


花村「帰るか……」

比企谷「そうだな……」

花村「……あ」

     ポッ ポッ…

     サアアアア……

花村「ちっ……降ってきやがったか」

比企谷「天気予報通りだな」

花村「…………」

花村「何も起こらなきゃいいが」

比企谷「それについては、同感だ」

花村「……じゃあな。 今夜、忘れずに見ろよ?」

比企谷「……ああ。 【マヨナカテレビ】のチェックをしておく」



―――――――――――


足立宅


     サアアアア……

比企谷「…………」

比企谷(もうすぐ午前0時)

比企谷(…………)

     チッ チッ… カチッ

     ……ピウィ~……

比企谷「……!」

比企谷(映ったか……!)

比企谷(……!?)


テレビ『みっなさ~ん! 今晩はー!』

比企谷(間違いなく……天城だ)

テレビ『今夜は~……私、王子様探しをしたいと思いまーす!』

テレビ『もう逆ナンしまくって、ホストクラブおったてるくらいの勢いでやっちゃうよー!』

テレビ『みんなもぉ~応援してね♥』

テレビ『じゃ、行ってきまーす!』

     ブツン……

比企谷「…………」

     ピピピ……ピピピ……

比企谷「……!」

     ガチャ

比企谷「はい」


花村『お、おい、見たか? 今の!』

比企谷「ああ、見た」

花村『間違いなく天城だよな?』

比企谷「間違いない」

花村『けどよ……何て言うか、感じ、ずいぶん違ってなかったか?』

比企谷「同感だ」

花村『どういう事なんだよ……だあ! もう訳分かんねー!』

比企谷「落ち着け……まず、里中に電話してみろ」

花村『! ……そ、そうだな』

花村『じゃ、いったん切るぞ?』

比企谷「わかった」

     ブッ……


比企谷「…………」

比企谷「…………」

     ピピピ……ピピピ……

比企谷「!」

     ガチャ

比企谷「もしもし」

花村『比企谷! 里中に繋がらねえ!』

比企谷「!?」

花村『……も、もしかしたら、ふ、二人共……』

比企谷「…………」

比企谷「かもしれない」


比企谷「ともかくだ、明日、ジュネスであの世界に行ってみよう」

花村『く……それしかないな』

花村『畜生……予測はしてたのに』

比企谷「……起こってしまったものは、しょうがない」

比企谷「今は、二人を救う事に集中するんだ」

花村『……そうだな』

花村『じゃ、明日ジュネスで』

比企谷「ああ……」

     ブッ……

比企谷「…………」


比企谷「…………」

比企谷(……しかし)

比企谷(なぜ、【マヨナカテレビ】に映っていない里中も……?)

比企谷(…………)

比企谷(普通に考えたら)

比企谷(誘拐現場に居合わせたから……だろうが)

比企谷(【マヨナカテレビ】が犯行予告だとしたら、矛盾する)

比企谷(まあ……あんな怪現象を予告に使うのも変な話だが)

比企谷(…………)


比企谷(【マヨナカテレビ】が犯行予告でない、となると)

比企谷(ただの怪現象……)

比企谷(犯人は、その怪現象に従って犯行をしている事になる)

比企谷(…………)

比企谷(だが、それだとメリットがない)

比企谷(そんな事をして、何の得になるんだ?)

比企谷(…………)



     ……俺はふと、外を見た

     しとしとと降り続ける雨。 霧こそ出ていなかったが

     不気味に思えてしょうがなかった


今日はここまでです。
投下が遅れてすみません……エタらさないように頑張ります。

乙ー


ヒッキーは小町以外ならガチで囮にしかねないから困る

乙!


翌日 日曜の朝

ジュネス・フードコート


花村「! 比企谷!」

比企谷「花村。 待たせたな」

花村「いや……俺も今来たばかりだ」

比企谷「そうか……」

比企谷「携帯は相変わらずか?」

花村「ああ、朝から何度もかけているが……里中につながらねぇ」

比企谷「…………」

花村「じゃ、さっそくテレビの世界に行くか」


比企谷「……いや、ちょっと待ってくれ」

花村「え?」

比企谷「その前に天城屋へ行っておきたい」

花村「天城屋へ?」

比企谷「二人の安否確認はもちろんだが、直接現場を確認したい」

花村「一理あるな……」

花村「けど、あの世界に長居するのはやべぇんだし……」

花村「二人を助け出してからでいいんじゃないか?」

比企谷「……確かにな」

比企谷「だが、天気予報によれば、今日からしばらく晴れ続きになる」

比企谷「あの世界にすぐ殺される事はないだろう」

花村「…………」


比企谷「俺としては、何かしらの痕跡や目撃情報が聞き出せる内に……と思うんだが」

花村「…………」

花村「……そうだな」

花村「よし、ここは比企谷の案に従おう」

比企谷「すぐに行こう」


―――――――――――


天城屋


     ガヤ ガヤ ガヤ

比企谷「……遅かったか」

花村「……みたいだな」


花村「あのパトカー。 警察がすでに来てやがる……」

花村「どうする? ジュネスに戻るか?」

比企谷「せっかくだ。 周りの人に何があったのか聞いておこう」

花村「そうだな」


??「……あれぇ? 比企谷くん?」


比企谷「!?」

比企谷「足立さん……」

足立「どうしたの? こんな所で?」

比企谷「いえ……何か騒ぎがあったみたいなんで、野次馬に……」

足立「ははは……意外と騒がしいのが好きなのかい?」

足立「けど、あまり感心しないね」


比企谷「すみません」

足立「まあいいよ……あ」

足立「そういや君、八十神高校の生徒だっけ」

足立「じゃあ、ここの娘さんの天城雪子って娘、知ってるかい?」

比企谷「!」

花村「!」

花村「あ、天城がどうかしたんですか!?」

足立「君は?」

花村「え、ええと……比企谷の友達の花村っていいます」

花村「それよりも天城は!? 俺達、クラスメイトなんです!」

足立「! そ、そうなの……」


足立「……う~ん。 これ言っちゃっていいのかなぁ……」

足立「実はね……天城雪子さん」

足立「昨日から行方不明みたいなんだよ」

比企谷「!」

花村「!」

足立「あんな事件の後だしね」

足立「親御さんが心配して、誘拐じゃないかって……」

比企谷「…………」

花村「…………」


??「おい足立!」


足立「は、はい!」


堂島「目撃者の証言は……ん?」

堂島「お前達は?」

足立「ああ、すみません、堂島さん」

足立「この前話した、親戚の子供です」

堂島「ああ……そういや一年間 面倒を見る事になった、とか言ってたな」

比企谷「比企谷です。 足立さんにお世話になっています」

堂島「そうか」

堂島「だが何故、こんな所にいる?」

足立「野次馬だそうです」

堂島「……あまり感心しないな」

堂島「まあいい、ともかくもう帰れ。 ここは子供が居ていい所じゃない」


比企谷「……わかりました」

比企谷「行こう、花村」

花村「お、おう……」

     テク テク テク…

堂島「…………」

足立「どうしたんですか? 堂島さん?」

堂島「ん……気になってな」

堂島「昨日……ここの中居の一人が、二人連れの男子高校生が訪ねてきた、と証言している」

足立「や、やだなぁ……まさか比企谷くん達を疑っているんですか?」

堂島「その中居は、仕事が忙しく名前を忘れてしまっていたが……」

堂島「捜索願の対象者を訪ねた、というのがどうにも引っかかる」

足立「彼らは、クラスメイトですし……たとえそうだったとしても」

足立「友達なら普通に遊びに来たんじゃないですか?」

(友達って単語が出る度にちょっとビクってくる、ヒッキーに変な感情移入しちゃってる)


堂島「……まあな」

堂島「単なる偶然、とも言えるが……」

足立「が?」

堂島「あいつの目が気に入らない」

足立「ちょ、ちょっと堂島さん……そりゃ確かにふてぶてしい目つきですけど……」

堂島「そうじゃない」

堂島「何かを隠している……そんな目だった」

足立「お! 刑事としての”カン”ってやつですね!」

堂島「ふん……おい、足立。 それよりも車を回せ」

堂島「これからもう一人の行方不明者、里中千枝の家に向かうぞ」

足立「わかりました」



―――――――――――


花村「……あ、焦った」

比企谷「動揺しすぎだ」

花村「んな事 言ってもよ……あの無精ヒゲの刑事、スゴ味ありすぎだぜ」

比企谷「それは否定しないがな」

花村「……さて」

花村「俺たちのやる事は決まったな」

比企谷「ああ」

比企谷「ジュネスに向かおう」



―――――――――――


クマ「た、大変クマ!」

クマ「センセイ達が帰ったあと、誰かが放り込まれたクマ!」

花村「……そうか」

比企谷「クマ、何人放り込まれたか、わかるか?」

クマ「そこまではわからないクマ……」

クマ「でも、方向はわかるクマ!」

比企谷「よし、さっそく向かおう」

花村「待ってろよ、天城、里中……!」


雪子城


クマ「着いたクマ!」

花村「…………」

比企谷「城だな……」

花村「見りゃわかる」

花村「けど、何で西洋風の城なんだよ?」

比企谷「俺に聞かれても困る」

比企谷「ただ、言えるのは【マヨナカテレビ】に映っていた建物に間違いない」

花村「これも……天城か里中の『現実』って事か……」

比企谷「ともかく、中に入って二人を探そう」

花村「おう!」

クマ「クマもお手伝いするクマ!」



―――――――――――


里中「…………」

里中「……う」

里中「…………」

里中「ここは……?」

里中「! ……霧。 って事は」

里中「あの世界の……中……?」

里中「……!」

里中「そうだ! 雪子!」

里中「雪子はどこ!?」


里中「……あたしは確か」

里中「旅館で雪子の手伝いをしてて……」

里中「…………」

里中「……あれ?」

里中(どうしてか……そこからの記憶がない)

里中(雪子の姿が見えなくなって……探して……)

     ――赤が似合うねって……

里中「!?」

里中「雪子!?」

     私、『雪子』って名前が嫌いだった

     雪なんて……冷たくて、すぐ溶けてしまう……

     はかなくて、意味のないもの……

里中(雪子……)


     でも、私にはぴったりよね

     旅館の跡継ぎって事以外に 何の価値もない私には……

里中「違う! 雪子は、雪子は……!」

     千枝だけが……私に意味をくれた

     『雪子は、赤が似合うね』って、言ってくれた……嬉しかった

里中「雪子……」

     千枝は明るくて、強くて、何でも出来て……

     私に無いものが一杯だった……羨ましかった

     なのに千枝は……そんな価値のない私をいつも守ってくれた

     やさしい千枝……

里中「…………」



     『やさしい千枝……だってさ。 笑える』


里中「!?」

     バァーン!

花村「! 里中! 無事だったか!」

クマ「! あれを見るクマ!」

比企谷「……【シャドウ】か」


影・千枝『雪子が、『あの』雪子が!?』

影・千枝『あたしに守られているって!?』

影・千枝『ふふふ……そうでなくっちゃね?』


里中「あ、あんた、何言ってるの!?」



影・千枝『雪子ってば……美人で、色白で、女らしくて』

影・千枝『特に男子からいっつもチヤホヤされてる』

影・千枝『その雪子が、時々あたしを卑屈な目で見てくる……』

影・千枝『それが、たまんなく嬉しいんだよねぇ?』


里中「ち、違う! そんな事、あたしは思っていない!」

花村「里中!」

里中「!!」

里中「は、花村……比企谷くん……!」

里中「来ないで……! 見ないで!」



影・千枝『あはは……なに慌ててるの?』

影・千枝『いい加減正直になりなよ』

影・千枝『あたしは、雪子より上で、ずうっと見下していたって!』


里中「嘘よ! そんな事、あたしは考えてなんかいない!」


影・千枝『おっと……そうだよねぇ』

影・千枝『本当はちゃんと理解してる……』

影・千枝『人としても、女としても、雪子に勝てていないって』

影・千枝『どうしようもないのは、自分の方だって、ね!』


里中「!!」


影・千枝『あはは! でも、そんな自分を雪子は頼ってくれる』

影・千枝『だから雪子はトモダチ。 手放せない。 雪子が大事になるの!』


里中「違う! あたしは……雪子をちゃんと……!」


影・千枝『まーだ、そんなこと言うの?』

影・千枝『あんたは、あたしなのよ』

影・千枝『どうごまかしたって、お見通しなんだから!』


里中「黙れ! あんたなんか……あんたなんか!」

花村「止めろ! 里中!」

比企谷「俺は知ってたけどな。 里中がこんな奴だって」

里中「!?」

花村「……比企谷」


里中「な、何を言って……」

比企谷「転校初日の帰り道」

比企谷「やたらと天城を自慢してただろ」

里中「……!」

比企谷「自分は『天城』という『ブランド』と友達なんだぞ、と言ってる様にしか聞こえなかった」

比企谷「言葉のどこかに、天城を見下している印象を受けたよ」

里中「……っ」

比企谷「けどな、里中」

比企谷「昨日ジュネスで俺をひっぱたいたのは、間違いなく天城の心配からだと感じた」

里中「!」

花村「結論を言うぜ?」

花村「あいつは……確かにお前だ」

花村「でも、お前の『全て』じゃない」

里中「…………」


花村「……言いたかないが、俺にもああいうのがあったんだよ」

花村「でも……上手く言えねーけど」

花村「人間って、誰でもああいうの抱えてるもんじゃないのか?」

里中「花村……」

里中「…………」


影・千枝『どうしたの? お友達ごっこは終わった?』


里中「…………」

里中「……確かに」

里中「あんたは、あたしだね」


影・千枝『!?』


里中「そう……あたしは、雪子が羨ましかった」

里中「小さい頃からの付き合いで、大きくて立派な天城屋の跡取りで……」

里中「まるで、お姫様みたいな雪子が……羨ましかった」


影・千枝『…………』


里中「そんな雪子が、あたしを頼ってくる」

里中「嬉しかった……完璧だと思ってた雪子が自分を頼って来てくれる事が」

里中「でも……あたしはそれを利用してた」


影・千枝『…………』


里中「だけど――」

里中「それだけじゃない」


里中「今、思い出した」

里中「あたしは、雪子の笑顔が好き」

里中「他愛のない会話で、ふと笑ってくれる雪子の笑顔……」

里中「あたしはこんなだけど……雪子と過ごした時間は」

里中「すべてが偽りだったわけじゃない」


影・千枝『…………』


里中「あんたは、確かにあたしで」

里中「あたしは、あんただったんだね……」


影・千枝『…………』

影・千枝『…………』 クスッ


     ヒィイイイイイインッ!

クマ「【シャドウ】が……!」

花村「俺の時と同じだ!」

比企谷「ペルソナ……か」


里中「……何? これ?」

里中「ペルソナ……トモエ?」

里中「あはは……トモエだってさ」

里中「う……」 フラ……

花村「! 大丈夫か? 里中?」

里中「大丈夫……ちょっと疲れただけ」

比企谷(…………)


比企谷「……里中」

里中「ん?」

比企谷「ここに残って休んだ方がいい」

花村「そうとも」

花村「天城の事は、俺たちに任せておけ」

里中「……じょーだん言わないでよ」

里中「当然、あたしも行くつもり」

比企谷「……言うと思った」

花村「どうするよ、比企谷?」

花村「クマに預けておいた方がいいと思うが?」


比企谷「……連れて行くしかないだろう」

比企谷「こういう奴は、絶対に突っ走る」

比企谷「予定外の行動に出られてピンチになるより」

比企谷「目の届く範囲に置いておいた方が、いくらかマシだ」

花村「……言いたい事はわかるけどよ、比企谷」

里中「……その腹の立つ言い方。 直した方がいいと思う」

比企谷「事実は事実だ」

里中(きっと……友達、少ないんだろうな)

花村(俺たちでこんななら……比企谷の【シャドウ】は、どんななんだろう……)

比企谷「さ、急ぐぞ」

クマ「あ~ちょっと待って欲しいクマ」

比企谷「何だ?」

クマ「こちらのお嬢さんにプレゼントクマ!」


里中「なにこれ? ただのメガネじゃん」

花村「あーそれな。 いいからかけてみろよ、里中」

里中「そういや花村と 比企谷くんも かけてるね」

比企谷(気づいてなかったのかよ……)

     スチャ

里中「!」

里中「凄い! よく見えるようになった!」

クマ「ぬふふ~」

里中「サンキュー、クマくん!」

里中「あたし、里中千枝っていうの。 よろしくね!」

クマ「チエちゃんクマね。 よろしくされるクマ~」

花村「何この扱いの違い」

比企谷「ベタな反応だろ……気にするな」


クマ「で、チエちゃんは、誰に突き落とされたクマ?」

里中「……ごめん」

里中「雪子の姿が見えなくなって探してた……と思うんだけど」

里中「そこからの記憶がなくなってる」

花村「そうか……」

比企谷「手がかりは、無し、か……」

花村「ま、くよくよしても始まんねーし」

花村「さっさっと天城、助けようぜ!」

里中「うん!」

比企谷「だな……」

     タッ タッ タッ…


雪子城 最上部


     バァーン!

里中「雪子!」

花村「!」

花村「見ろ……比企谷。 天城が二人いる」

比企谷「ああ……」

比企谷「たぶん、【マヨナカテレビ】に映っていた」

比企谷「ドレス姿の天城が【シャドウ】だな……」


天城「! ち、千枝……!」



影・雪子『あら? あららぁ~?』

影・雪子『もしかして、サプライズ・ゲスト~?』

影・雪子『やぁ~ん、雪子、モッテモテ!』


花村「……頭じゃ分かってんだけど、ずいぶん印象違うな」

比企谷「…………」


影・雪子『わたし、王子様をずっとずっと待ってるの!』

影・雪子『だって……ここから出て行きたいから!』

影・雪子『さあ、王子様候補の三人さん!』

影・雪子『早く連れ出して~!』


天城「や、止めて……」

里中「……出て……いきたい?」



影・雪子『んふふ……千枝には期待してたんだけどぉ』

影・雪子『千枝じゃダメ』


里中「え……?」


影・雪子『千枝じゃ私をここから連れ出せない』

影・雪子『千枝じゃ、私を救えないの』


里中「…………」

天城「止めて……止めて!」


影・雪子『老舗旅館? 女将修行?』

影・雪子『そんなウザイ束縛、まっぴらなのよ!』


影・雪子『たまたまここに生まれただけ……なのに!』

影・雪子『生き方! 死ぬまで、全部決められてる!』

影・雪子『もうホント、嫌!』


天城「そ、そんな事、ない……!」


影・雪子『だから出て行きたい。 ここじゃないどこかへ』

影・雪子『でも……私だけじゃ無理。 弱い私だけじゃ』

影・雪子『だから、私を連れ出してくれる、王子様を待ってるの!』


天城「止めて……もう止めて……」


影・雪子『どうしてよ? それが本音でしょ?』


天城「違う!」


花村「!」

里中「!」

比企谷「…………」


影・雪子『うふふ……嘘ばっかり』

影・雪子『私は、何でもお見通しよ?』

影・雪子『だって……私は、あなたなんだから!』


天城「ち、違う! あんたなんか……」

花村「よせ! 天城!」

里中「自分を否定しちゃダメ!」

比企谷「! バカ! 里中!」


天城「千枝!?」

天城「違う! こんなの、私じゃない!!」



     ズブウウウウウウンッ……!



影・雪子『……うふふ』

影・雪子『あーはっはっはっ!!』



     ド   ン  !!



比企谷「!?」

花村「な、なんだ!?」

里中「雪子――!」


天城「」 ドサッ……


里中「雪子ッ!」

花村「里中! 待て!」

花村「うかつに動くな!」

比企谷「……マジかよ」


影・雪子?『我は影……真なる我……』

影・雪子?『うふふ……ああ、いい気持ち……!』

影・雪子?『これでいい……これでいいの』

影・雪子?『このまま……何もかも、壊してやるんだから!』


花村「おいおい! この化物、物騒な事、言ってるぞ!」

里中「……こ、こんな」

比企谷「…………」


比企谷(……まさか)

比企谷(そういう事なのか!?)

比企谷(…………)

比企谷(だが、詮索は後回しだ!)


比企谷「花村! 里中!」

花村「!」

里中「!」

比企谷「今は、生き残る事を考えろ!」

比企谷「ペルソナ!」 イザナギ!


花村「そ、そうだな! ……頼むぜ! ペルソナ!」 ジライヤ!

里中「雪子……今、助けるから! ペルソナ!」 トモエ!


影・雪子?『あららー?』

影・雪子?『王子様たち、私と遊んでくれるの~?』

影・雪子?『いいわ……めちゃくちゃにして、あ・げ・る・♥』


     グワァッ!!


―――――――――――


花村「はあっはあっはあっ……」

比企谷「くっ……ぜえ……ぜえ……」

里中「はあっ……はあっ……」


花村「い……生きてるか……」

比企谷「な、何とか……な……」

里中「ゆ、雪子……!」


比企谷「…………」

比企谷(……三人がかりで……かろうじて勝った)

比企谷(暴走した【シャドウ】が、こんなに強いとはな……)


天城「……う、ううん」

里中「! 雪子! 良かった……」

天城「! ……千枝」


花村「……!」

花村「お、おい! 比企谷!」

比企谷「! 天城の【シャドウ】……」


影・雪子『…………』


天城「ち、違うの、千枝……あれは……」

里中「待って、雪子」

里中「……あたしにもあったの。 ああいう気持ち」

天城「! 千枝も……?」

里中「……うん」


里中「あたしは……雪子を利用してきた。 一人じゃ何もできないから」

里中「自分の事ばっかりで、雪子の事、全然理解してなかった」

里中「雪子が、こんなに苦しんでいたなんて……! ごめん……雪子」

天城「千枝……」

天城「…………」

天城「それを言うなら……私も同じ」

天城「私も自分の事ばかりで、誰かに頼ることしか、考えてなかった」

里中「雪子……」


影・雪子『…………』


天城「……そう」

天城「私は……ここが嫌だった」

天城「ここ以外の場所に連れ出してくれる、頼りがいのある人が現れるのを」

天城「ただ、待っていた……」



影・雪子『…………』


天城「嫌なら一人でどこかに行けばいいのに……」

天城「その勇気すらなかった」


影・雪子『…………』


天城「……結局」

天城「『何か』に頼らないと生きていけない自分を」

天城「私は、認めたくなかった」


影・雪子『…………』


天城「そう……私は、あなたで」

天城「あなたは、私だったのね……」


影・雪子『…………』

影・雪子『…………』 クスッ


     ヒィイイイイイインッ!


花村「【シャドウ】が……」

比企谷「…………」

天城「……あ」

天城「ペル……ソナ?」

天城「コノハナサクヤ……だって」

天城「……うっ」

里中「雪子……!」


天城「ちょっと……疲れちゃった」

花村「顔色が良くないな……」

花村「とにかく、この世界から出よう」

クマ「ちょーっと待つクマ!」

クマ「帰る前に、ここへ誰に突き落とされたか、教えて欲しいクマ」

天城「……へ? あなた誰? っていうか、何?」

クマ「クマはクマクマ!」

クマ「で? 放り込んだのは誰クマ?」

天城「…………」

天城「ええと……誰かに呼ばれた気がして……」

天城「…………」

天城「ごめんなさい……思い出せない」


クマ「そうクマか……」

天城「ごめんね、クマくん」

天城「私は雪子。 天城雪子」

天城「よろしくね」 ナデナデ

クマ「ク、クマ~ん」 ///

花村「ったく、デレデレしやがって」

花村「いい加減、その着ぐるみ脱いでみろっての!」

クマ「!? や、やめれ、ヨースケー!」

     ガポンッ!

比企谷・花村・里中・天城「」

比企谷・花村・里中・天城(中身が……無い!?)


     シパッ!

クマ「ぷはっ! 全く失礼な奴クマ!」

花村「お、おま、おまっ……ええっ!?」

里中「な、なんで……!?」

天城「ク、クマくん……どうやって生きてるの?」

クマ「知らないクマ!」

比企谷「…………」

比企谷「もういいだろ」

比企谷「とにかく、今は 天城と 里中を 早く休ませないと」

花村「そ、そうだった」

花村「そういや里中、お前、大丈夫なのか?」

里中「え? ……そういえば、あんまりしんどくない。 どうしてだろ?」


比企谷「ほらほら、考えるのは後回しだ」

比企谷「早くここを出るぞ」


―――――――――――




足立宅


比企谷「…………」

     タダイマー

比企谷(お……今日は帰ってきた)

比企谷「足立さん、お帰りなさ……」

比企谷「!」


足立「やあ、比企谷くん。 午前中会ったけど、改めて」

足立「こちらは、僕の直接の上司、堂島さん」

堂島「……よろしく」

比企谷「……どうも」

比企谷「夕飯は、足立さんの分しかありませんが……買ってきましょうか?」

堂島「いや……気を使わないでくれ」

堂島「少し、君と話をしたいだけだ」

比企谷「俺と……ですか?」

堂島「ああ」

足立「ど、堂島さん……取り調べじゃないんですから」


堂島「そんなつもりじゃない」

足立「はあ……」

堂島「……午前中、君がいた天城屋の娘さん」

堂島「一緒に行方不明になってた友人の里中千枝、という娘と共に見つかったそうだ」

比企谷「そうなんですか」

堂島「…………」

堂島「……あまり驚かないんだな」

比企谷「そう見えないだけですよ」

比企谷「二人共同じクラスで、知り合いですし……安心しました」

堂島「…………」

堂島「足立」

足立「は、はい」

堂島「邪魔したな……これで帰る」


足立「え? あ、はい……お疲れ様でした」

堂島「ああ……しばらく忙しかったしな」

堂島「今日はゆっくり休め」

堂島「じゃ……」

     パタン……

足立「…………」

比企谷「…………」

足立「……な、なんか、ごめんね」

比企谷「いえ」

比企谷「ジュネスで買った弁当、温め直しますね」

足立「ああ、頼むよ」


―――――――――――

     ブロロロロ……

堂島「…………」

堂島(……考え過ぎか?)

堂島(一連の殺しと、今回の行方不明事件)

堂島(全く別なのか?)

堂島(…………)

堂島(あの比企谷、とかいう高校生)

堂島(行方不明の二人の事を聞こうとしなかった。 知り合いの事なのに……)

堂島(”知っている”事を隠している……?)

堂島(…………)

堂島(高校生まで疑うなんて……俺もヤキが回ったのかもな)

     ブロロロロ……




     ……それからの数日

     天城の体調は、なかなか回復せず

     学校をずっと休んでいる


     これはやはり、あの世界で天城の【シャドウ】が

     暴走した為……なのだろうか?





     もう一つ

     こちらが霧の夜……むこうで【シャドウ】が暴れて殺される

     それは、あくまで、『あの世界にいる【シャドウ】』に殺されると思っていた



     だが……天城の暴走した【シャドウ】を見てわかった

     今までの被害者は、自分の暴走した【シャドウ】に殺されていたんだ……!

     山野アナも 小西早紀も……!



     ……結局、天城も 里中も 犯人につながる事は思い出せず

     事件解決の糸口すら見えていなかった……




―――――――――――

ある日の夜

雪ノ下宅


     ルルルルル……ルルルルル……ガチャ

陽乃「はい、雪ノ下ですけど?」

陽乃「……ああ、伯父様」

陽乃「…………」

陽乃「え?」

陽乃「…………」

陽乃「それは……わかりますけど」


陽乃「大事な妹をそんな事に使うのは……」

陽乃「…………」

陽乃「そうですね。 それは伯父様のせいじゃありません」

陽乃「ですけど……」

陽乃「!」

陽乃「今……何処だとおっしゃいました?」

陽乃「…………」

陽乃「八十稲羽………はい…はい……」

陽乃「わかりました」

陽乃「説得はしてみますけど、期待はしないでくださいね?」

     チン……

陽乃「…………」


陽乃「雪乃ちゃん」

雪ノ下「……何でしょう? 姉さん」

陽乃「実は、ね」

陽乃「今、観光事業の社長をしている伯父様から電話があってね」

雪ノ下「はあ……」

陽乃「提携してる天城屋っていう旅館が」

陽乃「殺人事件の舞台になっちゃって、お客さんが来なくなって困ってるんだって」

雪ノ下「…………」

陽乃「それで、その旅館の娘さんを『現役、女子校生女将』として宣伝して」

陽乃「イメージアップさせようとしたんだけど」

雪ノ下(その娘はいい迷惑ね……)


陽乃「今度はその娘が、倒れちゃったんだって!」

雪ノ下「……それと私と何の関係が?」

陽乃「ふふふ~」

陽乃「もう察しがついているんでしょ?」

雪ノ下「お断りします」

陽乃「そっか~残念ね~」

雪ノ下(……こういう時の姉さんは、何か企んでる)

陽乃「ひなびた、いい場所なんだけどなー」

陽乃「八十稲羽って所なんだけど……」

雪ノ下「……!!」

陽乃「どうする? 雪乃ちゃん」

雪ノ下「………っ」

今日はここまでです。ようやく雪ノ下出せた……

乙ー

多少強引でもちゃんとクロスさせていく姿勢が好ましいな
期待してる
乙!



―――――――――――


ゴールデンウィーク

八十稲羽駅


由比ケ浜「ふう……遠かった~」

由比ケ浜「さて……」

     ピッポッパッ

     プルルルルル……プルルルルル…… ガチャ

由比ケ浜「あ、もしもし? ヒッキー?」

由比ケ浜「うん、そう。 結衣だよ~?」


比企谷「……ああ。 まあ、暇だけど」

比企谷「…………」

比企谷「……は?」

比企谷「八十稲羽に来てる?」

比企谷「……面白い冗談だな」

比企谷「…………」

比企谷「福引でペアチケット、ゲットした?」

比企谷「天城屋に二泊三日……だと?」

比企谷「……マジっすか」

比企谷「…………」

比企谷「ところで、もう一人は誰……」

比企谷「平塚!?」


平塚「そうだ、比企谷」

平塚「未成年の、しかも女子生徒が」

平塚「単独で旅行など危なっかしいからな!」


由比ケ浜(ホントはゆきのん誘ってたら)

由比ケ浜(肝心のゆきのんには断られて、その場にいた平塚先生が)

由比ケ浜(強引にしゃしゃり出てきたんだけどね……)


平塚「まあそいう事だ、比企谷」

平塚「諦めてさっさと出て来い」

平塚「どうせこっちでも、引きこもっているんだろう?」


比企谷(……何勝手に決め付けてんだよ、平塚)

比企谷(こっちに来てから、否応なしに人間関係形成してますっての)


比企谷「……色々言いたい事は分かりましたけど」

比企谷「GWに生徒と二人で旅行って、さみしいっすね」

比企谷「…………」

比企谷「……?」

比企谷「どうしました? 平塚先……由比ケ浜?」

比企谷「…………」

比企谷「は? 泣いてる? 平塚が?」

比企谷「……知らねーよ。 フツーに会話してただk」

比企谷「わかったわかった……今行くから……」

     ブッ……ツー、ツー

比企谷「ったく……」


ジュネス フードコート


花村「よう、里中」

里中「ああ、ごめん、花村。 急に呼び出して」

花村「別にいいけどな。 暇してたし」

花村「で? どうしたんだ?」

里中「……うん」

里中「比企谷くんの事、なんだけどさ」

花村「惚れたか?」

里中「じょーだん。 地球が終わっても、ない」

花村「ハハハ」

里中「……でも、さ」


里中「結局、雪子も助けてもらったし」

里中「それに、比企谷くんの意見に従ってたら」

里中「犯人の特定にもつながってたし……」

花村「…………」

里中「あたし……謝るべき、なのかな?」

花村「……そうだな。 難しい問題だ」

里中「…………」

花村「俺の立場から言わせてもらうと……複雑だぜ」

里中「複雑?」

花村「そ。 比企谷の言ってる事は、確かに正しい」

花村「けど……なんて言うか、『血』が通っていない」

里中「あ~……」


花村「どうしてそう言えるのか、不思議だが……」

花村「常に『第三者』的な意見を言う」

花村「自分の事も含めてな」

里中「そうそう!」

花村「……しかし、今のところ」

花村「あいつの言う事は、間違っていない」

花村「心情的に賛成できなくてもな」

里中「……言い方も腹立つし」

花村「そうだよな」

花村「わざわざ嫌われたくてそう言ってる、としか思えねぇよな」

里中「…………」


花村「ま……俺に言える事は」

花村「自分がそうしたくなったら、やればいい、って事かな?」

里中「…………」

花村「なあ、里中」

里中「うん?」

花村「あいつがここに来て、まだ慣れてない様に」

花村「俺たちも、『比企谷』に慣れるまで時間がいるって事じゃねえのかな?」

里中「!」

里中「そっか……そうだよね」

里中「ありがとう、花村。 なんかすっきりした気がする」

花村「どういたしまして」

     ハハハ……


花村「そういえば、天城は?」

花村「この前やっとこさ学校に来てたけど……」

里中「うん……」

里中「なんか、旅館、ちょっとヤバイみたい」

花村「ヤバイ?」

里中「かきいれ時のGWを前にして、殺人事件とかあったじゃん?」

里中「それでキャンセルとか結構あったみたいで……」

花村「え? この前は忙しそうにしてたのに」

里中「あたしも手伝ったけど、あれは提携してる旅行会社?が」

里中「料金とか無理して強引に企画してたみたい」

里中「なんか社長とか、影響力の大きい人たちだったとか……」


花村「わちゃ……それで天城の失踪騒ぎ見ちまったのか」

花村「完全に逆効果だな……」

里中「うん……」

里中「でも雪子、これからは『現役・女子高生女将』でも何でもいいから」

里中「お店の為になるなら、できるだけの事はしたいって、言ってた」

花村「そっか……天城、強くなったな」

里中「あたしも協力したいって言ったら」

里中「どうしても必要になったらお願いするね?って言われちゃった」

花村「その時は、俺にも言ってくれ。 出来る事はやるぜ?」

里中「うん! 雪子も喜ぶと思うよ、花村!」

     アハハハ……


里中「それにしても……犯人誰で、何の目的があるんだろ……」

花村「それについては、正直、まだまだ謎だな」

花村「共通点として、被害者は全員女性」

花村「動機は不明だが、あの世界を凶器にしている」

花村「そして……」

里中「全員【マヨナカテレビ】に映っている」

花村「だな」

花村「とにかく、次に動きがあるまで何とも出来無いのが悔しいが」

花村「あの世界に単独で入らねえ、という決まりができた事以外」

花村「進展は無いな……」

里中「うん……そうだね」

里中「……!?」


里中「は、花村! あ、あれ! あれ見て!」

花村「あん? 何だよ、いったい……」

花村「って!?」

里中「あれって……比企谷くん、だよね!?」

花村「あのふてぶてしい目つき……間違うわけがねえ」

里中「どーいう事!?」

里中「あの比企谷くんが、女の子と女の人、二人を連れて歩いてる!?」

花村「……いや、どう見ても荷物持ちさせられてるだろ」

花村「けど、気になるな……」

里中「追いかけてみよう!」

花村「おっしゃ!」


比企谷「ぜえ……ぜえ……」

比企谷「お、おい……平塚……」

平塚「あ~ん? 聞こえんなぁ?」

比企谷「……平塚先生」

平塚「何だ、比企谷」

比企谷「ボストンバッグ、異様に重いんですけど……」

平塚「情けない……その程度で重いのか」

平塚「普段から鍛えておかないからだ」

比企谷「俺は荷物持ちとして、この世に生を受けたわけじゃない」

平塚「引きこもる為でもないよな?」

比企谷「それは俺の自由意思だろ」


由比ケ浜「ま、まあまあ、平塚先生……そのくらいで」

由比ケ浜「ヒッキーも、もう少し抑えよう?」

比企谷「俺はこれでも抑えてるけどな」

平塚「気が合うな、比企谷。 私もだ」

     バチバチバチッ!

由比ケ浜(ひーん……私のライフはゼロだよう……)

由比ケ浜「え、えと……そだ!」

由比ケ浜「ヒッキーの通ってる学校ってどう?」

比企谷「フツーだ」

由比ケ浜「短ッ! もうちょっと詳しく言ってよ!」

比企谷「んなこと言われてもなぁ……」

由比ケ浜「知り合いとか、出来たんでしょ?」

比企谷「……まあな」


平塚「ほう、それは興味深いな」

平塚「ぜひ聞かせてくれ」

比企谷「……まあ、何となく、という感じで」

平塚(……やれやれ)

平塚(どうやら、ここでも変わりないみたいだな)

由比ケ浜「…………」


比企谷(……詳しくは言えないよな)

比企谷(ペルソナの事とか話したら……由比ケ浜はともかく)

比企谷(平塚は間違いなく、こいつ悪化してる!とか思うだろうし)

比企谷(はあ……)


里中「…………」

花村「…………」

里中「見た?」

花村「見た」

里中「女の人とは険悪そうだけど、女の子の方は親しげだったね……」

花村「世の中、ぜってー間違ってる……」

花村「何で比企谷に、あんな可愛い彼女がいるんだよ!」

里中「花村……気持ちはわかるけど、彼女って決まった訳じゃないし」

花村「お、おう……そうだな……」

里中「でも二人共、美人さんだったねー」

花村「全くだ! 比企谷……後で小一時間ほど問い詰めてやる!」

里中「……ていうか、こそこそ隠れる必要、無いじゃん?」

花村「……そういやそうだな」


     タッ タッ タッ

花村「おい、比企谷」

比企谷「げえっ! 関○!」

花村「誰が○羽だよ……」

里中「やっほー、比企谷くん」

由比ケ浜「ヒッキー、誰なの?」

比企谷「……クラスメイトです」

由比ケ浜「そっか! 友達なんだね!」

比企谷(一言も言ってねえだろ……)

由比ケ浜「はじめまして! 私、由比ヶ浜結衣って言います」

由比ケ浜「前の学校で、ヒッキーの友達やってます!」


里中「へえ、そうなんだ」

里中「あたし、里中千枝って言うの。 よろしくね、由比ケ浜さん」

花村(由比ヶ浜結衣っていうのか……近くで見ると改めて可愛い娘だと思うなぁ)

花村「お、俺、花村陽介って言います!」

花村「よろしく!」

由比ケ浜「よろしくね、里中さん、花村くん」

里中「ところで、比企谷くん。 こちらの人は?」

比企谷「暴力教師の平塚だ」

平塚「衝撃のぉ…ファー○ト・ブリットォォッ!!」


     バゴォッ!!


比企谷「ぶべらっ!?」


花村・里中・由比ケ浜「」

平塚「失礼した。 総武高校の教師、平塚静」

比企谷「……三十路の独s」

平塚「抹殺のぉ! ラ○ト・ブリットォォォォッ!!」


     ドグゥオッ!!


比企谷「ぎゃあああああああっ!!」

由比ケ浜「あは、あははは……」

里中「撃滅のセカ○ド・ブリット、飛ばしてる……」

花村「突っ込むところ、そこじゃねえだろ!?」


―――――――――――


里中「なる程、福引でペアチケットが当たって……」

花村「天城屋へ行く途中だったのか」

比企谷「おう……」 ボロッ…

平塚「全く……でもまあ、少し安心した」

平塚「人付き合いもそこそこには、こなしている様だな」


里中(……なんか向こうの比企谷くん、想像できちゃう)

花村(……付き合いにくい奴だもんなぁ)


由比ケ浜「でさ、ヒッキー」

由比ケ浜「旅館に荷物置いたら、観光案内してくれる?」

比企谷「ヤダ。 めんどくさい」


花村「おま!? せっかく訪ねてきた友達になんて事言うんだよ!?」

由比ケ浜「あ、いいんだよ花村くん」

由比ケ浜「ヒッキー、いつもこんな感じだったから」

由比ケ浜「かえって安心してるんだ」

花村(由比ケ浜さん、マジ天使……!)

里中「じゃ、あたしで良かったら案内するけど?」

花村「その手があったか!」

里中「花村……声に出したらダメでしょ……」

由比ケ浜「ううん、花村くんも一緒でいいよ?」

由比ケ浜「人数居た方が、楽しいと思うし!」 ニコ

花村「ぐはっ……! 俺のハート、打ち抜かれたっ!」

比企谷(やれやれ……)


天城屋


天城「いらっしゃいませ」

天城「……あ」

花村「よう! 天城」

里中「雪子、こんちわー!」

比企谷「……よう」

天城「千枝にみんな……どうしたの?」

里中「それがさ、いろいろあって比企谷くんの友達の道案内をしてきたんだ」

天城「そうなんだ」

天城「ようこそ天城屋へ。 ごゆっくりおくつろぎください」


由比ケ浜「お、お世話になります……」

平塚「これ、チケットです」

天城「はい。 ペアチケットですね……あら?」

里中「どうしたの? 雪子?」

天城「いえ……その……」

天城「駅に着いた時に ご連絡頂けたら、送迎車を向かわせたんですけど……?」

由比ケ浜「…………」

平塚「…………」

比企谷「…………」

比企谷「おい……由比ケ浜……」

由比ケ浜「あ、あはは……」

由比ケ浜「ごめん! ヒッキー!」


平塚「まあいいじゃないか、比企谷」

平塚「私たちの元気な姿をいち早く見れたんだから」

比企谷「荷物持たせといて、どの口が言うか……!」

平塚「それじゃ、チェックイン済ませるとするか」

由比ケ浜「そ、そうですね」

天城「はい、こちらへどうぞ……」


里中「あはは」

比企谷「何が可笑しい……里中」

里中「いや~何て言うの? やっぱり比企谷くんと顔を付き合わせるには」

里中「あれくらいじゃないと、いけないんだなって」

比企谷「止めてくれ……あれを真似するのは……」


天城「お待たせしました」

天城「それでは、お部屋へご案内いたします」

天城「雪ノ下さん、お願いしてもいいかな?」


比企谷「!?」

由比ケ浜「え!?」

平塚「…………」


雪ノ下「……わかりました、天城さん」

雪ノ下「お客様、どうぞこちらへ」

由比ケ浜「ちょ、ちょっと、ゆきのん! どうしてここに!?」

雪ノ下「……どうぞこちらへ」


平塚「由比ケ浜……部屋へ行こう」

由比ケ浜「え? で、でも、先生……」

平塚「いいから……ほら」

由比ケ浜「……はい」

     スタ スタ スタ…

比企谷「…………」

花村「……知り合いか? 比企谷?」

比企谷「…………」

里中「……雪子、今の女の子、どういう人なの?」

天城「え? う、うん」

天城「ウチの旅館が提携してる、観光会社の紹介で入った」

天城「私と同じ高校生の人だよ?」


里中「高校生? 何でそんな人が?」

天城「……その、『現役・女子高生女将』として」

天城「私が倒れている時に、代わりに頑張ってくれたんだ」

里中「そうなの? ……知らなかった」

天城「GWに入ってからだけどね……」

花村「つー事は、あれか?」

花村「旅館のイメージアップ、というか、宣伝、というか……」

天城「……うん」

天城「表向きは『女将修行に来た女子高校生』って事になってるけどね」

花村「そっか……」


天城「口数は少ないけど、とっても良く仕事をしてくれててね」

天城「私も随分助けられているんだ」

花村「しっかし、すげぇ美人だよな……」

花村「天城と同じで、黒髪のロングがよく似合ってるし」

花村「二人並ぶと、ものすごく絵になる感じだ」

天城「ありがとう、花村くん」

天城「それにもう一つ偶然があってね」

天城「雪ノ下さん、雪乃って名前なんだ」

里中「おおー、雪つながりだね」

天城「ふふふ、少し、親近感を持っちゃった」



??「あれー? 君たちは……」


比企谷「……!」

比企谷「足立さん……」

足立「どうしたの? こんな所で?」

比企谷「その……」

花村「いろいろあって、比企谷の友達の案内をしてたんです」


里中(花村……誰?) ヒソヒソ

花村(比企谷の保護者の刑事さん) ヒソヒソ

里中(ああ! 思い出した……山野アナの時にもどしてた……) ヒソヒソ


足立「そうなんだ。 それはご苦労さん」

比企谷「足立さんは?」


足立「最終的な事情聴取をしてたとこ」

足立「まあ、行方不明者は見つかってるから」

足立「ゆる~い感じだけどね」

比企谷「そうだったんですか」

足立「今日は久しぶりに定時で上がれそうだよ~」

比企谷「わかりました。 夕飯、準備しておきます」

     スタ スタ スタ

平塚「おーい、比企谷」

平塚「さっそくだが、この街の案内を……ん?」

足立「?」

平塚「比企谷、こちらは?」


比企谷「この街で保護者になってもらってる、刑事の足立さんです」

平塚「!!」


平塚(刑事……という事は、公務員!)

平塚(安定した職業……見た目、20代前半……!)

平塚(釣り合わない事は……ない!)


平塚「あの、足立さん、はじめまして!」

平塚「私、比企谷の前の学校で担任をしていました、平塚静、といいます!」

足立「は、はい?」

平塚「ところで、あなたは独身? 独身ですよね!?」

平塚「奇遇です! 私もそうなんですよ! あっはっはっ!」

足立「え? は? はい?」



里中(うわぁ……)

花村(黙ってりゃ美人なのに……)

比企谷(がっつきすぎだ……平塚)


平塚「そうだ! ぜひ、ここの案内をしてください!」

平塚「警察の方なら、詳しいですよね!?」

平塚「っていうか、困っている一般市民を助けてくれますよね!? ね!? ね!?」

足立「そ、それ……は?」

平塚「じゃ、行きましょう! 今すぐに! ゴートゥヘブン!!」

足立「わわわわ、わかりましたから、引っ張らないでぇぇぇっ!!」

     ドドドドドドドドド……

一同「…………」


由比ケ浜「ヒッキー、お待たせー」

由比ケ浜「ん? どうしたの?」

比企谷「……なんでもねえ」

由比ケ浜「そ、そう……」

比企谷「じゃ……俺は帰る」

由比ケ浜「あ……うん」

     スタ スタ スタ…

里中「……ホントに帰っちゃった」

花村「いいのかい? 由比ケ浜さん」

由比ケ浜「うん。 いいの」

由比ケ浜「それじゃ観光案内、お願いするね?」


比企谷「…………」

比企谷(……雪ノ下)

比企谷(変わってなかったな)

比企谷(和服も似合っていた)

比企谷(…………)

比企谷(期待すんなよ、俺……)

比企谷(どうせ陽乃さんあたりが、強引に押し付けたんだろうよ)

比企谷(でなきゃ、こんなところ来るわけがねえ……)

比企谷(…………)


由比ケ浜「――って感じで」

由比ケ浜「強引にお姉さんに頼まれたんだって……」

由比ケ浜「平塚先生は、ゆきのんがヒッキーみたいに」

由比ケ浜「来年の春まで転校する事を知ってたみたいだけど」

由比ケ浜「…………」

由比ケ浜「ただ……ここに誘った時に言ってくれなかったのは」

由比ケ浜「ちょっとショックだったかな……」


里中「…………」

花村「…………」


里中(……どー思う? 花村) ヒソヒソ

花村(……筋は通ってるけど) ヒソヒソ

花村(どうもしっくり来ねえ……) ヒソヒソ


里中「……由比ケ浜さん」

由比ケ浜「うん?」

里中「あんまり口出ししちゃいけないかもしんないけど……」

里中「なんか、比企谷くんと 雪ノ下さんって」

里中「妙な雰囲気だったよね?」

花村「なんつーか……二人共、壁を作ってるっていうか……」

由比ケ浜「……うん」

由比ケ浜「ホントはね」

由比ケ浜「二人共、よく憎まれ口を言い合っていたけど」

由比ケ浜「仲は良かったんだ」


由比ケ浜「いろいろあって、ゆきのんも ヒッキーも」

由比ケ浜「お互い信頼してたと思う」

里中「…………」

花村「…………」

由比ケ浜「……けど」

由比ケ浜「ヒッキーが、ここ……八十稲羽に一年間、転校する事になって」

由比ケ浜「みんなで集まって、送別会開いたりして……」

由比ケ浜「そして、いよいよ別れの日がやってきた」

里中「…………」

花村「…………」

由比ケ浜「……ゆきのん、今だに理由を話してくれないの」

由比ケ浜「あの日……ゆきのんは――」


比企谷「…………」

比企谷(期待はしてなかった)

比企谷(相変わらず腐った魚の目みたいね、とか)

比企谷(向こうでも勘違いするな、とか)

比企谷(おおよそ罵られると思ってた)

比企谷(……だが)

比企谷(…………)

比企谷(どうして……予想しなかったんだよ)

比企谷(……俺もまだまだって事なんだろうけど)

比企谷(…………)







     あの日、雪ノ下は……俺を見送りに来なかった





今日はここまでです。お付き合い、ありがとうございます。

乙ー
ヒッキー…


続き気になる

ゆきのんのシャドウも気になるが、それより八幡のシャドウってマジでどんなことぶちまけるんだろう……

かなりワクワクしてるわ

八幡のシャドウかー、さっぱりわからないな多過ぎて
でも戦うとしたら死神ぐらいの覚悟は必要かも、そのぐらい強いイメージがある

続き楽しみすぎなんだが

十分わかってるだろうけど、未完だけはほんっっっとにやめてね?

八幡のシャドウ死神レベルはげど

乙!
未完は勘弁



―――――――――――


翌々日の朝

足立宅


比企谷「おはようございます、足立さん」

足立「……おはよう、比企谷くん」 ゲッソリ…

比企谷「……平塚の相手、大変だったでしょ?」

足立「まあね……って」

足立「今の無し。 無しだから……」

比企谷「いいですよ、今更」

比企谷「本人に悪気がない分、タチが悪いですし」

足立「あはは……」


比企谷「まあそれも今日までです」

比企谷「お疲れ様でした」

足立「……君も言うね。 ちょっと羨ましいよ」

比企谷「さ、トーストも焼き上がりましたし」

比企谷「朝メシにしましょう」

足立「その意見には賛成だね」

     イタダキマス

足立「そういえば比企谷くん」

比企谷「はい?」

足立「君、彼女居ない、みたいな事 言ってたけど」

足立「由比ヶ浜さんっていう、可愛いガールフレンドが居るじゃないか」


比企谷「……成り行きで人間関係が出来ただけですよ」

足立「…………」

足立「……ま、僕から口出しすべき事じゃないけど」

比企谷「これからもその方向でお願いします」

足立「そ、そう……」

足立「それにしても、ここのところ平和だね~」

比企谷(……おかげで足立さん、平塚に引きずり回される羽目になってるがな)

比企谷(俺の方も由比ヶ浜はもちろん)

比企谷(花村や里中にまで、何かと付き合わされてるし……)

比企谷(…………)

比企谷(ま、それも今日までだが)


     ピンポーン

比企谷「?」

足立「誰だろう? こんな朝に……はーい」

     ガチャ…

足立「」

比企谷「」

平塚「おはようございます! 足立さん!」

足立「ひ、平塚……先生……」

平塚「嫌だわ、足立さん。 昨日、静、と呼んでくださいって」

平塚「お願いしたじゃないですか♥」

比企谷(ハート付けるな……ハートを……)

比企谷(つーか、何で住所知ってんだよ……怖すぎだろ)


足立「い、いやその……ですね」

平塚「それじゃあ……今日はどこに行きますか?」

足立「そ、それが、僕の知ってるところは……だいたい見せちゃったんで……」

平塚「だったら! 昨日紹介してくれたジュネスで、デートしましょう! デート!」

平塚「きゃ♪ 私ったら、デート、だなんて!」

足立「…………」


比企谷(その辺にしてしておけ、平塚……)

比企谷(足立さん、盛大に引いてるぞ……)


足立(ひ、比企谷くん……!)

比企谷(無理です……俺に救いを求めても何とも出来ません) (首)フルフル

足立「」


平塚「それじゃあ、行きましょう! ジュネスへ!」

平塚「エブリディ、ヤングライフ、ジュ・ネ・ス♪」

足立「ひ、引っ張らないでぇぇぇぇ!!」

     パタン

比企谷「…………」

比企谷「足立さん」

比企谷「健闘を祈ります」

     ピピピ……ピピピ……

比企谷「ん?」

     ガチャ

比企谷「はい、もしもし」


比企谷「花村か……いったい何の用だ?」

比企谷「…………」

比企谷「昨日、さんざん付き合っただろ……」

比企谷「……は?」

比企谷「口実が欲しい?」

比企谷「…………」

比企谷「由比ヶ浜なら、そんなもん必要ないだr」

     ブッ……

比企谷「おい!?」

     ツー、ツー…

比企谷「切りやがった……ったく」

比企谷「…………」

比企谷「高台で待ち合わせ、ね……」



―――――――――――


高台


     テク テク テク

比企谷「……よお、由比ヶ浜」

由比ヶ浜「あ、ヒッキー」

比企谷「花村と里中は?」

由比ヶ浜「里中さんは、飲み物を忘れたから買ってくるって」

由比ヶ浜「花村くんは、知らない」

比企谷「そうか……取り敢えず、そこのベンチに座るか」

由比ヶ浜「うん!」


比企谷「…………」

由比ヶ浜「…………」

     ピーヒョロロロー……

比企谷「…………」

由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜「……なんか、平和な街だね、ここって」

比企谷「ん?」

由比ヶ浜「だってさ、大きな事件が起きてたから」

由比ヶ浜「もっと物々しいのかな、って……」

比企谷「最初の頃は、そんなイメージだったな」

由比ヶ浜「ふふ、そうなんだ……」


由比ヶ浜「ところで、さ、ヒッキー」

比企谷「ん?」

由比ヶ浜「私を見て、何か気がつかない?」

比企谷「……?」

比企谷「どこから見ても、ただの由比ヶ浜だが?」

由比ヶ浜「『ただの』付けるなし!」

由比ヶ浜「全く……」

比企谷「何で俺は怒られているんだよ……」

由比ヶ浜「温泉」

比企谷「は?」

由比ヶ浜「一昨日から、天城屋自慢の『美人の湯』に入り続けてるの!」

由比ヶ浜「だから、結構綺麗になったでしょ?」

比企谷「…………」


由比ヶ浜「もー、黙んないでよ、ヒッキー」

比企谷「お世辞は言わない主義」

由比ヶ浜「ムキー! 平塚先生呼んじゃうぞ!」

比企谷「それだけはやめろ!」

由比ヶ浜「ふふ、やーいやーい」

比企谷「……ったく」

比企谷「…………」

由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜「……昨日、ね」

由比ヶ浜「私、ゆきのんと話……したんだ」

比企谷「…………」


由比ヶ浜「肝心な事は聞けなかったけど……」

由比ヶ浜「八十稲羽に行く事、私に黙ってたの、謝ってくれた」

比企谷「…………」

比企谷「……そうか」

由比ヶ浜「でも……やっぱりちょっと元気がなかったかな」

由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜「どうして……なんだろうね」

比企谷「……さあな」

由比ヶ浜「早く話してくれるといいんだけど」

比企谷「…………」


由比ヶ浜「それにしても……里中さん、遅いね?」

由比ヶ浜「花村くんも」

比企谷「そうだな……」


花村「…………」

里中「…………」

花村「里中さん里中さん、聞こえてますか? どうぞ」

里中「聞こえてますよ、どうぞ」

花村「こっちからはフツーに会話してる様にしか見えません、どうぞ」

里中「こっちもそう見えるじゃん、どうぞ」

花村「…………なあ」

里中「何ですか? どうぞ」


花村「この会話、意味あんのか?」

里中「疑問に感じたら負けじゃん、どうぞ」

花村「いい加減にしろって! 俺ら、2mも離れてねーじゃねーか!」

里中「こういうのは気分が大事だし」

花村「傍から見たら、どう見ても間抜けだっつーの……」

里中「それを言ったら おしまいじゃん! どうぞ!」

花村「もういいから!」

花村「だいたい、あの2人を2人っきりにしたら、退散すればいいんじゃね?」

里中「だって……気になるじゃん?」

花村「わかるけど……ああ、腹も減ってきたし、何やってだ俺?感、すげー半端ない」

里中「それ言わないで……」

里中「昨日の由比ヶ浜さん見てたら、何かしてあげたくなったの」

八幡が平塚先生じゃなくて平塚って呼ぶのは、もう自分の学校の先生じゃないから?


花村「それもわかるけど……」

里中「あたしには、これっぽっちも理解できないけど」

里中「明らかに由比ヶ浜さん、比企谷くんにベタ惚れじゃん? 応援したいじゃん?」

里中「なのに比企谷くんときたら……」

花村「そうなんだよなぁ……蓼喰う虫も好きずき、を、地で行ってるからなぁ」

花村「あんな可愛い娘にキラキラした目で見られて、何とも思わねーのかよ……比企谷」

花村「俺ならソッコー落ちてるレベルだっての! 羨ましい!」

里中「花村は節操無いからねー」

花村「うっせーよ!?」


比企谷「……おい」


花村「」

里中「」

比企谷「納得のいく説明をしてもらおうか?」

花村「い、いや、これは、その……!」

里中「べべべべ 別に、ふ、2人きりにしてあげよう、とか、思ってないから!」

花村「バ、バカ! 里中!」

比企谷「…………」

由比ヶ浜「あは、あはは……」///

由比ヶ浜「ええと、ちょっと早いけど……お昼にします?」

里中「さんせー!」

花村「全面的にさんせー!」

比企谷「……まあいいか」



―――――――――――


花村「あー旨かった。 さすが天城屋の弁当!」

里中「景色もいいし、最高だったね」

由比ヶ浜「うん! 私の街には、こんな景色のいいとこ無いから」

由比ヶ浜「本当に気持ちよかったよ~」

花村「いや~それ程でも~」///

里中「……なんで花村が照れてんのよ」

     アハハ……

由比ヶ浜「さて……そろそろ、帰る準備しないと」

里中「もうそんな時間?」


花村「名残惜しいなぁ……な、比企谷?」

比企谷「…………」

比企谷「……まあ、な」

里中「おお~比企谷くんがデレた!」

花村「明日は槍が降るな♪」

比企谷「……お前らなぁ」

由比ヶ浜「…………」 クス


由比ヶ浜(良かった……ヒッキー、いい人達と知り合えてて)

由比ヶ浜(ちょっと妬けちゃうけど……ふふっ)


由比ヶ浜「じゃあ、最後に……ジュネスでお土産買っていこうかな?」


ジュネス


     グスン グスン…

比企谷「……何してんだ平塚」

平塚「比企谷か……グスン」

平塚「透さん……ケータイが鳴って、仕事に行っちゃった」

比企谷「……いろいろツッコミたいが、こんな所で泣くなよ。 営業妨害だろ」

平塚「うわあああああんっ!」

由比ヶ浜「ひ、平塚先生、言いにくいんですけど……」

由比ヶ浜「そろそろ電車の時間が……」


花村(……すげぇキャラの先生だな)

里中(……ああは成りたくないなー)



―――――――――――


八十稲羽駅


由比ヶ浜「ヒッキー、今回はありがとうね」

比企谷「いや……まあ、楽しんだんなら、良かったな」

由比ヶ浜「ふふふ」///

花村(由比ヶ浜さん、マジ天使)///

里中(恋する乙女さんだねー)

由比ヶ浜「里中さんと 花村くんも いろいろありがとう」

由比ヶ浜「とっても楽しかったよ~」

花村「由比ヶ浜さんにそう言ってもらえると、本当に嬉しい!」

里中「お安い御用だよ。 またね、由比ヶ浜さん」


由比ヶ浜「うん!」


???「……由比ヶ浜さん」


比企谷「……!」

由比ヶ浜「!!」

由比ヶ浜「ゆきのん!!」

雪ノ下「その……いろいろごめんなさい」

由比ヶ浜「ううん、もういいんだよ、ゆきのん」

由比ヶ浜「見送りに来てくれて、ありがとう!」

雪ノ下「向こうでも元気でね……」

由比ヶ浜「うん!」


比企谷「…………」


花村(比企谷……あからさまに顔をそむけているな……)

里中(自分には見送りに来てくれなかった訳だしね……)


平塚「……そろそろ出発するぞ、由比ヶ浜」

由比ヶ浜「あ、はい、平塚先生」

由比ヶ浜「ヒッキー!」

比企谷「あん?」

由比ヶ浜「向こうのみんなに、ヒッキー、元気でやってるって伝えるから!」

比企谷「……おう」

由比ヶ浜「ゆきのんも元気でね!」

雪ノ下「うん、由比ヶ浜さん」

     ジリリリリリリリリリリンッ


由比ヶ浜「私……私、またここに来るk」

     プシュー バタン☆

     ガタンゴトン ガタンゴトン…

比企谷「…………」

花村「……行っちまったな」

比企谷「……ああ」

里中「また来るって。 良かったじゃん」

比企谷「平塚は、もうゴメンだがな」

花村「ははは……まあ、わかる」

里中「あの人……望み薄そうだよねー」


雪ノ下「…………」


雪ノ下「比企谷くん」

比企谷「! ……おう」

雪ノ下「じゃ、これで……」

比企谷「……あ、ああ」

     スタ スタ スタ…

花村「…………」

里中「…………」

里中(……花村) ヒソヒソ

花村(おう……) ヒソヒソ

里中(いけない事かもしんないけど……ちょっとワクワクしてる。 あたし) ヒソヒソ

花村(気にすんな、里中) ヒソヒソ

花村(俺もだ♪) ヒソヒソ



―――――――――――




足立宅


テレビ『……それでは、次のニュースです』

テレビ『稲羽市で起きた、連続殺人事件ですが』

テレビ『現在も警察の捜査に進展はなく……依然として犯人の行方は分かっておりません』

比企谷「…………」

     タダイマー

比企谷「お帰りなさい、足立さん」

比企谷「お疲れ様です」

足立「いや~……正直、助かった、とも思ったけどね」


比企谷「ケータイの番号、平塚に教えていないですよね?」

足立「これは警察の物だから……って、はぐらかしたよ……」

足立「バイタリティ豊か、とういうか、強引というか……」

足立「肉食系?って、ああいうのなのかなー」

比企谷「婚期を逃して焦ってるだけですよ」

足立「あ、あはは……」

比企谷「それじゃ晩御飯、用意しますね?」

足立「ああ、すまないね~。 本当に助かるよ」

比企谷「いえ……」


テレビ『八十稲羽に漂う不穏な空気……でも!』

テレビ『それを吹き飛ばす、明るい話題がやってきました!』

テレビ『それは、以前ご紹介した天城屋旅館!』

テレビ『そこの看板とも言える、現役・女子高生女将に頼もしい助っ人が現れたんです!』

比企谷「……!」

テレビ『なんと! その助っ人も現役・女子高生!』

テレビ『都会から、わざわざ女将修行の為に、ここ八十稲羽に来た、との事です!』

足立「ああ……あの娘ね」

足立「確かに綺麗な娘だったな。 ちょっと冷たい感じしたけど……」

テレビ『それでは、インタビュー映像をご覧下さい!』


テレビ『どうも、こんにちは。 ○○テレビです』

テレビ『あなたが、女将修行に来られた現役・女子高生の雪ノ下雪乃さんですか?』

テレビ『……そうです』

テレビ『八十稲羽を選んだ理由は、何でしょうか?』

テレビ『……親族に、知り合いが居まして』

テレビ『なる程~』

テレビ『やはり、夢は旅館の女将を?』

テレビ『……できれば、と、思っています』

テレビ『大きな夢ですね~。 では彼氏とかは、居るんですか?』

テレビ『!? ……あ、あの……』

テレビ『はい、そこまででお願いします~』

比企谷「」

比企谷(は、陽乃さん……!?)


テレビ『え? ちょ、ちょっと、あなたは誰……』

テレビ『雪ノ下雪乃の姉、雪ノ下陽乃です』

テレビ『彼女の保護者として……』

比企谷(…………)

比企谷(陽乃さんまで、ここに来てるのか……)

足立「へえ~姉妹そろって綺麗だね~」

比企谷「…………」


比企谷(……ま)

比企谷(夢見せといてやるか……)


テレビ『それにしても、天城屋の現役・女子高生女将』

テレビ『天城雪子さんと並ぶと本当に絵になりますね』

テレビ『なお本日は、番組の内容を一部変更してお送りしました』


比企谷(……暴走する若者、ってのだな)

比企谷(どうでもいいけど)



―――――――――――



ゴールデンウィーク明け

学校


     ガヤ ガヤ

諸岡「貴様ら! 黙っていろ!」

諸岡「今から転校生を紹介する!」

諸岡「彼女は、貴様らと違って本物の上流階級者だ!」

諸岡「失礼の無い様にな!」

     ガラッ…

雪ノ下「……初めまして、みなさん」

雪ノ下「雪ノ下雪乃です。 どうぞ、よろしく」


     オオ―――――!!

     ダンシ ウルサイー

比企谷「…………」

里中「あの娘だ……すっごい偶然だね」

天城「ホントだね」

花村「美人な娘は大歓迎!」

里中「花村、うるさい」

比企谷(…………)

比企谷(……どうしてだ)

比企谷(陽乃さんが仕組んだと確信してやがる……俺)

比企谷(根拠は全くないが、100%偶然じゃねえと)

比企谷(俺の中の何かがそう伝えている……!)




     その後、転校生によくある質問攻めという名の羞恥プレイが雪ノ下を襲うが

     天城が色々と間に入って何かと助けていた。

     クラスに溶け込めたかどうかは微妙だが、ホッとしている様だった。



     そして、午後には告白する男子まで現れるが、そこは雪ノ下。

     徹底的に言葉で相手の心をえぐり、完膚なきまで叩き伏せていた。

     さすがである。





     ……そして、彼女に告白する事は、『雪ノ下くぐり』というプレイ名になり

     撃沈した時は『雪崩た!』、もしくは『崩落した!』という

     ゲームオーバー名までできていた。



     これは、天城の『天城越え』をならったみたいだが

     少しも洒落てないと思うのは、俺だけだろうか?





     ……ついでに

     俺は、雪の下と、まだまともに話していなかった。     



数日後




     サアアアア……

比企谷「…………」

比企谷(今日は久しぶりの雨……)

比企谷(…………)

比企谷(【マヨナカテレビ】……映るだろうか)

     ……ピウィ~……

比企谷「!」

比企谷(……映ったか)

比企谷(…………)

比企谷(……和服?)


比企谷(…………)

     ……ブツン

比企谷(……天城? また?)

     ピピピ……ピピピ…… ガチャ

比企谷「もしもし?」

花村『比企谷……見たか?』

比企谷「見た。 和服みたいだったな」

花村『…………』

比企谷「どうした? 花村?」

花村『比企谷……あれ、たぶん雪ノ下さんだと思う』

比企谷「!?」


比企谷「……根拠はあるのか?」

花村『天城屋で見た、彼女の着てた和服の柄と同じだった』

比企谷「それだけか?」

花村『確かに顔はわからなかったが……あれは天城じゃない』

花村『ボヤボヤだったけど、赤いヘアバンドしてなかったからな』

比企谷「……!」

花村『里中にも聞いてみるが……まあ、明日学校で話そう』

比企谷「……わかった」

花村『じゃあ明日』

比企谷「ああ」

     ブッ…… ツー ツー


比企谷「…………」

比企谷(そうだ……当然、考えるべき可能性だ)

比企谷(…………)

比企谷「くそっ!」



     俺は、訳も分からず

     イライラした。


というところで、今日はここまでです。

後、ヒッキーが平塚先生を呼び捨てにするのは
その方がらしいかな?と思ったからです。
アニメしか知らないから、こんなイメージを抱いてます。
八幡って、親しい人(認めている人)は、大抵呼び捨てにしてるので。

最後に、投下遅れてすみません……暑いのがいけないんや……。

そうだ……もう直しようがないけど、前回の投下
ガハマさん、『由比ケ浜』になってました。
正しくは、『由比ヶ浜』ですよね……重ねてすみません。

おつ
ペルソナなのにオサレなBGMが聞こえてこないな(誉め言葉)


でも流石に平塚先生は呼び捨てしないと思う、命と貞操の危機になっちゃう

>>385 答えてくれてサンキュー!
八幡って礼儀はわきまえてるから敬語と敬称はちゃんとしてるはずなのになーと思っただけなので、気にしないでください!

めちゃくちゃ面白いので!

乙!



―――――――――――


翌日の昼休み

学校の屋上


里中「うん……あたしも雪ノ下さんだと思う」

天城「着てた和服の柄、間違いなく雪ノ下さんの物だった……」

比企谷「…………」

花村「……決まりだな」

花村「さて、今後の方針だが」

花村「どうする? 比企谷」

比企谷「…………」


比企谷「……囮にする」

一同「…………」

比企谷「と、言いたいが……」

比企谷「よくよく考えたら、いろいろ無理がある作戦だったな」

花村「……と言うと?」

比企谷「まず、24時間体制で見張る事ができない」

比企谷「今回の事例で言えば、天城が適任だろうが……」

比企谷「犯人がいつ来るか分からない状況では」

比企谷「前回の里中の様になるか、出し抜かれる可能性も多分にある」

花村「なる程」

里中(……素直じゃないねー。 まあ、らしいっちゃらしいけど)


天城「前回って……私、囮にされてたの?」

花村「そういう意見が出たってだけだ、天城」

花村「まあ? 比企谷がそう言った瞬間、里中のビンタがキレーに決まったけどな♪」

里中「は、花村……」///

天城「千枝……ありがとう」

比企谷「……ともかく」

比企谷「警察を頼れないのと、俺たちの日常を鑑みて」

比企谷「一番の方策は……注意喚起が妥当だと思う」

花村「そうだな……」

里中「本人に”狙われてる”って伝えるだけでも、ずいぶん違うよね」

天城「そうだね……」


天城「じゃあ、それを伝えるのは、比企谷くんの役だね」

比企谷「……え?」

花村(ナイス天城!)

花村「だな。 転校したてだし、知り合いがやるのが効果的だよな」

比企谷「い、いや……ちょっ」

里中「そうだよ、比企谷くん」

里中「この際だから、仲直りしちゃいなよ!」

比企谷(何……この超アウェーな空気……)


花村(由比ヶ浜さんには悪いけど……面白くなってきたぜ!)

里中(どうなるのかなぁ……ふふふ)

天城(良かった。 これで雪ノ下さん、話すきっかけができた)

天城(陽乃さんにお願いされてたから、役に立てて嬉しいな♪)


放課後

教室


比企谷「…………」

比企谷「……雪ノ下」

雪ノ下「……!」

雪ノ下「何かしら? 比企谷くん」

比企谷「話がある」

比企谷「少し付き合ってくれないか?」

雪ノ下「!?」

     ザワ…… ザワ…… ナニナニー

     雪ノ下クグリカ…… 転校生……


比企谷(……ちっ)

雪ノ下「……」///

雪ノ下「わ、わかったわ、比企谷くん」///

比企谷「……じゃ、来てくれ」

比企谷「帰りながら話す」

     テク テク テク…

花村「…………」

里中「…………」

天城「…………」

一同(気になる……)


     テク テク テク…

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」

比企谷「……そういえば」

雪ノ下「……!」

比企谷「雪ノ下は、今、どこに住んでいるんだ?」

雪ノ下(い、いきなり私の住処の話!?)

雪ノ下「……天城屋の一室を貸してもらってるわ」

比企谷「そうか……陽乃さんもか?」

雪ノ下「……姉さんも天城屋の別の一室を貸してもらってる」

比企谷(一人ずつ個室を専有か……セレブだな)


比企谷(だが、ある意味では好都合)

比企谷「雪ノ下」

雪ノ下「何かしら」

比企谷「まず最初に言っておくが……」

比企谷「俺は気がふれた訳でもなく、気が狂った訳でもなく」

比企谷「正常で、極めて大真面目に。 だが、深刻に考えている事を話す」

雪ノ下「……何なの?」

―――――――――――

雪ノ下「…………」

雪ノ下「要するに」

雪ノ下「不審者が現れるかもしれないから、気をつけろ……と?」

比企谷「そうだ」


雪ノ下「……そう」

雪ノ下「その死んだ魚の目みたいに変わっていないのかと思ってたけど」

雪ノ下「どうやら、思い違いだったみたいね」

比企谷「雪ノ下……」

雪ノ下「話はそれだけ?」

比企谷「……ああ」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「そう」

雪ノ下「じゃあね、比企谷くん」

比企谷「…………」

     テク テク テク…


雪ノ下「…………」

雪ノ下(何の話かと思ったら……)

雪ノ下(期待した私がバカだった)

雪ノ下(…………)

雪ノ下(そもそも……あんな仕打ちをしておいて)

雪ノ下(期待する方がおかしいわ)

雪ノ下(…………)

雪ノ下(私……こんな所に来てまで)

雪ノ下(何をしているんだろう……)

     テク テク テク…


天城屋


陽乃「あ、雪乃ちゃん」

雪ノ下「……姉さん」

雪ノ下「何でしょう?」

陽乃「あなたにお客様よ」

雪ノ下「私に?」

??「初めまして、雪ノ下雪乃さん」

??「僕の名前は白鐘直斗といいます」

白鐘「少しお話を伺いたいのですが」

雪ノ下「はあ……」



―――――――――――


ジュネス フードコート


比企谷「……という感じだ」

花村「……なんかビミョーだな」

比企谷「そもそも、だ」

比企谷「ペルソナや、あの世界の説明なしで説得するなんて」

比企谷「至難の業だろ……」

里中「そりゃ確かに」

天城「普通は信じられないよね……こんな話」

比企谷「…………」

比企谷「とは言え……他にいい手が思いつかない」

比企谷「後は祈るばかりだな」


天城「それと、【マヨナカテレビ】を見ないとね」

花村「だな」

里中「何も映らないといいんだけど……」

比企谷「その意見には同感だな」

比企谷「……そうだ」

比企谷「里中、天城」

里中「ん?」

天城「何? 比企谷くん」

比企谷「ケータイの番号交換をしておかないか?」

比企谷「今後、連絡を取らないと困るかもしれないし」


里中「そういやそうだね。 わかった」

天城「うん。 そういう事なら」

     ピピッ

花村(比企谷の奴……さりげなく天城の番号まで)

比企谷「よし」

比企谷「じゃあ今夜、【マヨナカテレビ】をチェックしよう」

比企谷「後はそれからだ」

花村「OK」

里中「うん」

天城「じゃあ、また明日」

比企谷「ああ」

比企谷「…………」


―――――――――――


足立宅


     サアアアア……

比企谷(……天気予報通り、か)

比企谷(…………)

比企谷(…………)

     ……ピウィ~……

比企谷「……ちっ!」


テレビ『みなさん、今晩は』

テレビ『天城屋で絶賛☆売り出し中のスケープゴート』

テレビ『雪ノ下雪乃です』

比企谷「」


テレビ『全く、迷惑な話』

テレビ『自分の意志でも無いのに、こんな ど田舎に転校して』

テレビ『ほとほと嫌気がさす』

比企谷「…………」

テレビ『っていうのは建前!』

テレビ『ホントは~……やりたい事、あるんだ! 私!』

テレビ『ふふふ……それは何か? だって?』

テレビ『ナ・イ・ショ・♥』

テレビ『今後の展開に、乞うご期待! キャハ!』

     ブツンッ

比企谷「…………」


     ピピピ…… ピピピ…… ガチャ

比企谷「……もしもし」

花村『……見たか? 比企谷』

比企谷「ああ」

花村『俺……ふと思ったんだが』

花村『今回、鮮明な映像だったよな?』

比企谷「結論を言おうか? ……薄々は俺も思ってたが」

比企谷「【マヨナカテレビ】で鮮明な映像が流れた時」

比企谷「映ってた人物は……既にテレビの中に入れられてる」

花村『…………』

花村『……相変わらず冷静だな』


比企谷「……何、やる事は決まっているからな」

比企谷「あの世界に行って雪ノ下を助ける」

比企谷「それだけだ」

花村『…………』

花村『……ああ、そうだな。 比企谷』

花村『じゃ、明日、学校で』

比企谷「じゃあな」

     ブッ…

比企谷「…………」

     ピピピ…… ピピピ…… ガチャ

比企谷「天城か?」

天城『! 比企谷くん……』


天城『ごめんなさい……私、それなりに注意してたんだけど』

比企谷「謝るのはいい」

比企谷「状況を教えてくれ」

天城『…………』

天城『【マヨナカテレビ】を見た後』

天城『雪ノ下さんをすぐに確認してみたけど……居なかったわ』

比企谷「…………」

天城『雪ノ下さん……2時間くらい前に自分の部屋へ行くのを見たの』

天城『……あの後、すぐ休んだものだとばかり思ってた』

天城『お姉さんの陽乃さんには……まだ伝えてない』

比企谷「……そうか」


天城『……本当にごめんなさい、比企谷くん』

比企谷「天城のせいじゃない」

天城『私、明日、あの世界で頑張るから』

比企谷「ああ……頼りにしてる」

天城『じゃ……』

     ブッ…

比企谷「…………」

     ガラッ

足立「…………」zzz

比企谷「…………」

     ガチャ……キィ……パタン



―――――――――――


天城屋


     サアアアア……

比企谷「…………」

比企谷(……何やってんだよ、俺)

比企谷(こんな真夜中に天城屋に来たって……)

比企谷(開いてる訳ないだろ……)

比企谷(…………)

比企谷(……くそ)

比企谷(くそっ……くそっ!)

比企谷(くそったれがっ!!)



―――――――――――


翌日

学校


比企谷「……おはよう」

花村「お、おう……?」

里中「おはよ……どうしたの?」

天城「目の下のクマ、凄いね……って」

天城「ぷふ……クマだって、あははは!」

天城「あっちの世界のクマくんの事じゃないからねっ、あははは!」

一同(いや……わかってますから)


比企谷「それで天城」

比企谷「旅館の方はどうなんだ?」

天城「……うん」

天城「陽乃さん、取り乱してね……」

天城「普段のあの人からは想像できない落ち込み様だった」

比企谷「…………」

天城「一応、警察には通報して、でも、表面上は何でもない感じで営業してる」

天城「……事情聴取ですぐ一般客にバレると思うけど」

花村「そっか……天城屋、不幸続きだな」

里中「くっそー……犯人憎たらしい~」

比企谷「じゃあ放課後、ジュネスで」



―――――――――――


テレビの中の世界


花村「お~い、クマ?」

里中「ん? どうしたの?」

天城「クマくん……?」

比企谷「…………」


クマ「…………」 ズーン……


花村「何一人で落ち込んでんだ?」

クマ「……みんなはいいクマね」

クマ「楽しそーにワイワイやってて……」


花村「あん? ……そんな事よりもだな、クマ」

クマ「そんな事じゃないクマ!」

クマ「みんなやって来ないから、クマ、一人でずっと寂びしん坊で」

クマ「いろいろ考えて、悩みまくって……押しつぶされそうクマ!」

里中「あ~……そりゃごめん」

天城「そっか……クマくんは、ここにずっと一人なんだね」

比企谷「…………」

比企谷「クマ……悪いが、その話は後だ」

比企谷「また、人が放り込まれたと思う……力を貸してくれ」

比企谷「頼む」

クマ「セ、センセイ……」


花村(……おいおい)

天城(こんな比企谷くん、初めて見た)

里中(由比ヶ浜さんには悪いけど……こりゃ望み薄かも?)

クマ「わかったクマ!」

クマ「センセイの頼みとあれば! 断る理由はないクマ!」

クマ「むむむむむむ~……燃えろクマの鼻センサー……!!」

比企谷「…………」

クマ「……!!」

クマ「キタ――! クマ!」

花村「……何で織○裕二、知ってるんだよ?」

クマ「こっちクマ!」

花村(やべ……こいつ殴りてぇ)

比企谷「よし、案内頼む!」



―――――――――――


雪ノ下のマンション


花村「……何? この場違いなビル……」

里中「高そう……」

天城「100mくらいかな?」

里中「そういう意味じゃないんだけど……」

花村「比企谷、これは?」

比企谷「雪ノ下の自宅マンションだ」

花村「……都会の超高級マンション住まいかよ」

里中「セレブねぇ~」

天城「長周期地震動が怖そうだけどね」

比企谷「とにかく、行くぞ!」


????


雪ノ下「…………」

雪ノ下「……う」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「ここは……?」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「それにしても、すごい霧ね……」

雪ノ下「…………」

雪ノ下(私……昨夜……)

雪ノ下(そうだ)


雪ノ下(ノートを切らして、コンビニに……)

雪ノ下(でも途中で、ここに詳しくないし引き返そうとして……)


     ――雪乃ちゃん――


雪ノ下「!?」

雪ノ下「姉さん!?」


     ――うん! やっぱり雪乃ちゃんは、その服が似合うと思う!――

     ――それにしちゃいなよ!――


雪ノ下「…………」


     ――そう! それがいいと思うな、私――


雪ノ下「……止めて」



     ――どうしたの? 雪乃ちゃん?――

     ――お姉ちゃんが何でも相談に乗るよ?――


雪ノ下「止めて!!」


     どうして? あなたが選んだ結果でしょ?


雪ノ下「!? 誰!?」


影・雪乃『うふふ……』

影・雪乃『悲しいわよねぇ……優秀な姉を持つと』


雪ノ下「……!」


雪ノ下「な……何を言ってるの?」


影・雪乃『あら? とぼけるんだ?』

影・雪乃『まあ、その方が面白いからいいけどね』


雪ノ下「…………」


影・雪乃『いいかげん、はっきりさせた方がいいと思うけど?』

影・雪乃『陽乃が邪魔で鬱陶しいってね!』


雪ノ下「ち、違う!」



影・雪乃『否定しても無駄』

影・雪乃『いつもいつも偉そうに、常に上から目線で、私に何かと指図する』

影・雪乃『それが、どこまでも私を苦しめる』


雪ノ下「違う! そんな事、私は思っていない!」


影・雪乃『嘘ばっかり……本当は殺したいんでしょ?』

影・雪乃『あんな奴、居なくなって欲しいんでしょ?』


雪ノ下「違う!」


影・雪乃『うふふ……ああ、そうだった』

影・雪乃『だって、陽乃には利用価値があるものね』


雪ノ下「!!」



     バァーン!


比企谷「雪ノ下!」

花村「!」

里中「まずいよ、もう【シャドウ】が出てる!」

天城「雪ノ下さん!」


雪ノ下「!!」

雪ノ下「比企谷……くん……」


影・雪乃『ふふふ……ギャラリーも来てくれたんだ?』

影・雪乃『最高のステージね♪』


雪ノ下「な、なにがよ! もう止めて!」



影・雪乃『いいじゃない、別に』

影・雪乃『陽乃を利用してここに居るだけなんだし』


比企谷「!?」

雪ノ下「止めて!!」


影・雪乃『ああ……比企谷くん。 会いたかったわ』

影・雪乃『あなたのその死んだ魚の様な目、たまらなく好きなの』


花村(ゆ、雪ノ下さんって、そっち系?)

里中(……うわぁ)

天城(私も……あんな感じだったのかぁ)



影・雪乃『……陽乃もそうだけど』

影・雪乃『どいつもこいつも、私を聖女か何かみたいに見てくる』

影・雪乃『そのくせ』

影・雪乃『私が何かすると遠ざかる……見た目やイメージと少し違うってだけでね!』


雪ノ下「止めて……もう止めてっ」


影・雪乃『その点、比企谷くんは違った』

影・雪乃『初めから何にも期待してない……そのくせ、一定の距離を保ってくれる』

影・雪乃『最高の『しゃべる玩具』だわ!』


雪ノ下「止めて! 何なの!? あなた!?」



影・雪乃『私? ふふふ……とっくに気づいているんでしょ?』

影・雪乃『私はあなたよ。 雪ノ下雪乃』


雪ノ下「違う! ……あなたなんて」

比企谷「――そこまでだ、雪ノ下」

雪ノ下「むぐっ!?」


花村「おお……口を手で塞ぎやがった」

里中「必死ね」

天城「こういう時、映画ならキスで塞いじゃったりするよね」

クマ「およよ? キス?」

比企谷「……ギャラリー、少し黙ってろ」


比企谷「いいか? 雪ノ下……」

比企谷「かいつまんで説明する」

雪ノ下「…………」

比企谷「あいつは……確かにお前だ」

比企谷「だが、雪ノ下の全てじゃない」

雪ノ下「……!」

比企谷「『しゃべる玩具』ってのは正直心外だが……」

比企谷「はたして、俺はお前をどう思っているんだろうな?」

雪ノ下「…………」

比企谷「そういうもんだ……人間ってのは」

比企谷「俺も、お前も、そして、そこに居るその他大勢もな」


花村「……扱い酷くね?」

里中「まあ、我慢してやるじゃん?」

天城「後で何か奢ってもらえばいいと思う」

クマ「クマ!」


比企谷(聞こえる様に言いやがって)

比企谷「……じゃ、手を離すぞ、雪ノ下」

比企谷「どうするかは……お前に任せる」

     スッ……

雪ノ下「……っは」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「女性を後ろから羽交い絞めにするなんて……明らかにセクハラ行為よ、比企谷くん」

比企谷「……悪かった」


雪ノ下「……珍しく素直ね」

比企谷「TPOくらいわきまえてるっての」

雪ノ下「ふふ……」

雪ノ下「…………」


影・雪乃『どうしたの? 私を否定するんでしょ?』


雪ノ下「……そうね」

雪ノ下「確かにあなたは私だわ」


影・雪乃『!?』


雪ノ下「私は……ずっと姉が鬱陶しい……いえ」


雪ノ下「ある意味では、殺したいくらい憎んでた」

雪ノ下「優秀で、美人で、そして……眩しいくらい社交的」

雪ノ下「周りはいつも……私に対して『お姉ちゃんみたいになりなさい』だった」


影・雪乃『…………』


雪ノ下「……姉は、ほとんど間違いを犯さない」

雪ノ下「私は、いつか姉さんを見返してやるつもりだったけど」

雪ノ下「どんなに追いつこうとしても、追いつけない……」

雪ノ下「私のする判断は、大抵、姉とかぶる」

雪ノ下「たまに違った時は、いつも私の方が間違いだった……」


影・雪乃『…………』


雪ノ下「そして、いつしか……」


雪ノ下「私は、自分の考えを姉に話さなくなった」

雪ノ下「それどころか、姉の判断を利用した」

雪ノ下「姉さんの判断が私の考えと同じだと、安心できたから」


影・雪乃『…………』


雪ノ下「今回もそう」

雪ノ下「姉に踊らされているとわかっていたけど……」

雪ノ下「『しゃべる玩具』で遊びたかったから」

比企谷「……おい」


影・雪乃『…………』


雪ノ下「そうね……確かにあなたは私で」

雪ノ下「私は……あなただわ」



影・雪乃『…………』

影・雪乃『…………』 クスッ


     ヒィイイイイイインッ!


比企谷「……ふう」

花村「やったな、比企谷」

比企谷「何とかな」

天城「私たち、役に立たなかった……」

里中「そんな事無いよ、雪子」

里中「ここに来るまでのザコは、あたしらの活躍で排除できたじゃん?」


雪ノ下「……?」

雪ノ下「何……これ?」

雪ノ下「ペルソナ……?」

雪ノ下「ペルソナ、『イザナミ』……」

雪ノ下「う……」 クラッ……

比企谷「大丈夫か?」

雪ノ下「……ええ、何とか」

クマ「ムホー! これまた可愛い女の子クマ!」

雪ノ下「……何? この着ぐるみは?」

比企谷「今説明する。 ペルソナも含めて、わかっている事全てな」

―――――――――――

雪ノ下「【マヨナカテレビ】……【シャドウ】……」


比企谷「正直、まだまだ分からない事も多いがな」

花村「まあ、そんな訳でよろしく、雪ノ下さん!」

里中「よろしくー」

天城「改めてよろしくね、雪ノ下さん」

クマ「よろしくクマ!」

雪ノ下「ええ、よろしく」

雪ノ下「メガネもありがとう、クマくん」

クマ「ク、クマ~ん」///

比企谷「……で、だ。 雪ノ下」

比企谷「ここに入れられた時の記憶はあるか?」

雪ノ下「……ごめんなさい」


雪ノ下「コンビニで買い物をしようと出かけて……」

雪ノ下「暗かったし、雨も強くなってきたから止めようと、引き返そうとして」

雪ノ下「そこからの記憶がないの……」

花村「そっか……」

比企谷「つーか夜遅く、雨の中、何を買いに出かけたんだよ」

里中「それにコンビニ無いしね、この街……」

雪ノ下「え? そうなの?」

花村「改めて田舎だって思わされるよなぁ……」

天城「そ、その内、できるよ……たぶん」


比企谷「……とりあえず、戻ろう」

花村「そうだな」

里中「さんせー!」

里中「あたし、ビフテキがいい!」

天城「私、愛屋の肉丼かな」

里中「あ! やっぱあたしも肉丼にする!」

花村「俺はラーメンでいいぜ!」

比企谷「何この流れ……ついて行けないんですけど?」

雪ノ下「じゃあ私も、その肉丼?というのをお願いね、比企谷くん」

比企谷「乗っかるなよ!? 雪ノ下!」

     アハハハ……

クマ「…………」




     ……結局、俺は商店街の飲食店『愛屋』で

     おのおのの食いたいモノをおごらされた……ちくしょう。



     騒ぎを大きくしない為に、雪ノ下は昨夜、買物しようと出かけ

     道に迷って山中をさまよっていた事にしてもらった。

     体中を泥で汚す偽装工作も施したし、まずバレないだろう。





     しかし……犯人の特定にはつながらず、謎は深まるばかりだった。





足立宅


     タダイマー

比企谷「お帰りなさい、足立さん」

足立「ああ、比企谷くん」

比企谷「今日も少し遅かったですね?」

足立「うん……例の天城屋でね、また失踪騒ぎが……」

足立「おおっと……捜査上の事は言えないよ?」

比企谷「失踪……ですか」

足立「…………」


足立「まあ、行方不明者は見つかったし、いっか……」

足立「ここだけの話……女将修行に来た、噂の女子高生なんだけどね」

足立「今日の朝、居なくなってたんだ」

比企谷「ああ……転校してきた娘ですね」

足立「そっか。 比企谷くん、同じ学校だったっけ」

足立「ところが……夕方くらいにひょっこり戻ってきたんだよ、その娘!」

比企谷「どうしてたんですか?」

足立「夜中にコンビニで買物しようと出かけて、道に迷って、山の中に入ったんだって」

足立「ここに来たばかりだし……蓋を開けてみれば、ってやつさ」

比企谷「そういう事だったんですか」

足立「ははは、ピリピリしてる時期だし、天城屋で失踪騒ぎがあったばかりだからね」

足立「言い方悪いけど……もう少し気を配って欲しいよね~」

比企谷「ですね」



―――――――――――


比企谷(……どうやら、警察は上手くごまかせたみたいだな)

比企谷(…………)

比企谷(……それにしても)



雪ノ下「『しゃべる玩具』で遊びたかったから」



比企谷(ありゃどういう意味だ?)

比企谷(…………)

比企谷(……まさかな)




     もしかしたら、俺に――

     いやいや、と、俺は頭を振った。


今日はここまでです。
後、雪ノ下のペルソナ・イザナミは>>5の考えた創作ペルソナです。
みなさんの知ってるイザナミとは、全く別ものですので。
ストーリー上、少し意味がある、と思っててください。

強さ的にはパールバティ→イシスくらいの強さだと思って頂ければいいかと……
お付き合いありがとうございました。

乙ー
ファンタジーレベルの達人ゆきのんに気配すら察せずにテレビに放り込む
何者なんだマジで



自分のシャドーに殺されるってわかるなら
落とされる前にペルソナ化させるとか出来ないのだろうか

むしろ危険じゃないかな、ペルソナ使いだと普通のシャドウにも襲われるんだろうし



―――――――――――


数日後の放課後

学校の屋上


比企谷「林間学校?」

里中「うん」

里中「ああ、花村含めて、転校してきた3人は知らないんだっけ」

花村「林間学校って、どんな事をするんだ?」

天城「1、2年生合同でやるんだけど、一泊二日かけて行うんだよ?」

里中「午前中はキャンプ場のゴミ拾いして終わり。 午後にテント張って……」

里中「昼と夜は自炊して、翌日の午前中には解散すんの」


天城「夜は結構楽しいよ?」

天城「去年はトランプとか、ゲーム持ち込んでワイワイやったんだ」

花村「へえ! そいつは楽しみだな!」

花村「テントという密室の中……女の子と楽しくゲーム! むふふ」

雪ノ下「あなた、バカなの?」

雪ノ下「高校生の男女を一つのテントに押し込める訳ないわ」

雪ノ下「ここまで常識のない人だとはね」

花村「じょ、冗談ですとも、雪ノ下さん……」

里中(雪ノ下さんも、比企谷くんに負けじ劣らじねー)

天城(旅館での態度と全然違う……)

比企谷(ぼっちには苦行とも言えるイベントだな……)


比企谷「……まあ、それはさて置き」

比企谷「雪ノ下、事件について思い出した事って何だ?」

雪ノ下「そうだった……今、話すから」

雪ノ下「先日、比企谷くんに注意を受けて天城屋に帰ったら」

雪ノ下「白無垢 直江?……とかいう男の子が私と話がしたい、と、待ってたの」

花村「しろむく~?? ……変わった苗字だな」

里中「名前も女の子みたい」

雪ノ下「顔立ちもすっきりしてて、女装とか似合いそうだったわ」

比企谷「で? どんな話をしたんだ?」

雪ノ下「他愛のない話よ」

雪ノ下「身の回りにおかしな所はないか?とか」

雪ノ下「誰かに恨まれていないか?とか」


天城「……何だか、雪ノ下さんが被害者になるかも、と、思ってそうな言い方ね」

雪ノ下「まあ」

雪ノ下「その質問に、何故か比企谷くんの顔が真っ先に思いついたけど」

比企谷「……泣いていいか?」

雪ノ下「取り敢えず思いつかない事にして、そう言ったら」

雪ノ下「白無垢くんは帰って行ったわ」

里中「う~ん……怪しいっちゃ怪しいけど……」

花村「言動を聞いた限りじゃ、どうにも薄そうだな」

比企谷「…………」


比企谷(だが……少し引っかかる)

比企谷(俺たち同様、【マヨナカテレビ】の法則に気がついたのだろうか?)

比企谷(しかし、あれは俺たちの様に【ペルソナ】を使えないと、ただの怪現象)

比企谷(どうやって雪ノ下が『危ない』という『根拠』につながったんだ?)


雪ノ下「……比企谷くん、聞いてる?」

比企谷「! ……すまん」

雪ノ下「全く……」

里中「ともかく、しばらくは あの世界で修行かなー?」

里中「梅雨に入ったら忙しくなりそうだし」


花村「ああ……そういう心配もあるな」

天城「天気予報の長期予測では、今年はカラ梅雨になりそうだって言ってたけどね」

比企谷「まるまる一週間【マヨナカテレビ】をチェック、とかは勘弁して欲しいな……」

雪ノ下「それはお肌に悪そうね」

里中「うう~……ちょっと所じゃなく、嫌かも」

天城「録画とか出来たらいいのにね」

比企谷「……!」


比企谷(そういや、ためした事がなかったな……)

比企谷(今度、やってみよう)



―――――――――――


天城屋


陽乃「お帰りなさい、雪乃ちゃん」

雪ノ下「ただいま、姉さん」

陽乃「…………」

陽乃「ねえ、雪乃ちゃん」

雪ノ下「何かしら?」

陽乃「本当にこの前の……道に迷ったの?」

雪ノ下「何度もそう言ってるでしょ?」

雪ノ下「だから……ここから帰らなくても大丈夫よ、姉さん」

陽乃「…………」


陽乃(……だけど)

陽乃(上手く言えないけど……)

陽乃(雪乃ちゃん、変わった気がする)

陽乃(…………)

陽乃(天城さんが、比企谷くんと話をする様になった、と言ってたけど……)

陽乃(そのせい……なのかしら?)

陽乃(…………)


八十稲羽 警察署


堂島「…………」

足立「堂島さん、例の資料、持ってきまし……」

足立「……また、この前の失踪事件、気になってるんですか?」

堂島「……まあな」

足立「行方不明者の証言に不審な点は見当たらないし……」

足立「第一、虚偽の証言をして、彼女に何の得があるんです?」

堂島「…………」

堂島「確かにその通りだ」


堂島「だが……疾走騒ぎ直後」

堂島「俺たち警察も山の中に入った可能性を考えたが……」

堂島「その形跡を少しも発見できなかった」

足立「事件が発覚する直前まで雨が降ってましたし……」

足立「そのせいで足跡や匂いが流されたと、結論づけられたじゃないですか」

堂島「……そうなんだかな」

足立「気にしすぎですよ、堂島さん」


堂島(……だが、どうにも腑に落ちない)

堂島(一番引っかかるのは……あの高校生……)

堂島(足立が世話をしている、比企谷、とかいう奴の名前を)

堂島(関係者欄で見たからだ)

堂島(…………)

堂島(偶然にしちゃ、出来すぎていないか?)



―――――――――――


数日後 林間学校前日

ジュネス


里中「さてと! 明日の昼食と夕食」

里中「メニューは何にする?」

天城「一応、カレーか、ラーメンにしようか?」

天城「くらいまでは、突き詰めたんだけど……」

花村「はいはい! 俺カレー! カレーがいい! キャンプはカレー!」

里中「うっさいよ花村」

天城「比企谷くんは何がいい?」


比企谷「……俺もカレーでいい」

比企谷「昼食と夕食を一緒に作れるしな」

里中「続いちゃうけどいいの?」

比企谷「2食くらいなら、大丈夫だろ」

比企谷「食事を作る手間も省けるし、一石二鳥だ」

天城「合理的ね」

天城「雪ノ下さんもそれでいい?」

雪ノ下「構わないわ」

天城「じゃ、カレー2食分の予定で、材料を買う事で決定ね」

花村「……そういやよ」

花村「林間学校、翌日の午前中で解散、とか言ってたけど」

花村「ずいぶん早くね?」


里中「まあ、基本、すぐ帰る奴は居なかったよね」

天城「緩やかな渓流が近くにあって、そこで遊んで帰る子、多かったよ?」

花村「ゆるい渓流……」

花村「!」

花村「もしかして、泳げんの!?」

里中「ああ、そいや居たね。 泳いでるの」

天城「ちらほらだったけど」

花村「お、俺、急用思い出した!」

花村「悪いけど、買い物、任せたぜ!」

里中「ちょ!? 花村!?」

     ドドドドドドドドド……

天城「……行っちゃった」


比企谷「さて……悪いんだけど」

比企谷「少しの間、雪ノ下、借りてもいいか?」

雪ノ下「!?」

里中「え」

天城「どういう事?」

比企谷「ちょっとだけだ。 すぐ済む」

里中「……まあ、そういう事なら」

里中「行こ、雪子!」

天城「うん、千枝」

     テク テク テク…

雪ノ下「…………」


雪ノ下「……それで? 何かしら?」

比企谷「大した用じゃない……ケータイの番号交換と」

比企谷「陽乃さんについてだ」

雪ノ下「ああ……緊急用にって事ね。 じゃあ、ケータイから済ませておく?」

比企谷「そうだな」

     ピピッ

比企谷「よし」

比企谷「で? 陽乃さん、どんな様子だ?」

雪ノ下「……私が失踪から帰ってきてすぐ」

雪ノ下「八十稲羽を出ていこうって言ってたわ」


比企谷「……フツーそうだよな」

比企谷「何しろここは、殺人事件のあった街でもある」

雪ノ下「でも、私の不注意だし」

雪ノ下「天城さんにも迷惑かけるからって、押し通したけどね」

比企谷「不審に思われてないのか?」

雪ノ下「たぶん……としか、言い様がないかな」

比企谷「そうか……」


比企谷(鋭い人だし……今後、俺に対して)

比企谷(何かのアプローチがあるかもしれん)

比企谷(注意しておくに越した事はないな……)


比企谷「……旅館の仕事はどうだ?」

雪ノ下「そうね……」



―――――――――――


比企谷「……って、随分話し込んじまったな」

雪ノ下「…………」

雪ノ下(ちょっと、楽しかったけど)///

花村「おおーい、比企谷!」

比企谷「花村。 ……どうした? その荷物?」

比企谷「何か買ったのか?」

花村「へへっ! ま、後のお楽しみってやつだ!」

雪ノ下「……?」

花村「それよりも食材の方は どうなったんだ?」


比企谷「……里中と天城が買ってると思う」

比企谷「まあ、天城も居るし、心配はないだろう」

花村「だな!」

花村「旅館の弁当、旨かったし」

花村「旅館仕込みの天城のカレー、楽しみだぜ!」

雪ノ下「…………」

雪ノ下(何故かしら?)

雪ノ下(嫌な予感がするんだけど……)




足立宅


     タダイマー

比企谷「お帰りなさい、足立さん」

足立「ああ、比企谷くん」

比企谷「……? 何ですか? その荷物?」

足立「はは……これ、堂島さんにもらった水着なんだけど」

足立「僕には派手すぎて……比企谷くん、どうだい?」

比企谷「水着……ですか」

足立「若い方が似合うだろ……って渡されたんだ」

比企谷「……ハイカラですね」

足立「モノは言いようだね」


比企谷「堂島……って、足立さんの上司の方ですよね?」

足立「うん」

足立「なんか、普段のねぎらいを込めて……とか言ってたけど」

比企谷「正直……微妙ですね」

足立「あははは……」

足立「まあ僕はどの道、泳ぐ機会なんてないし」

足立「良かったら使ってやってよ」

比企谷「はあ……」

比企谷(水着、ねぇ……)

比企谷(…………)


林間学校 当日


     ガヤ ガヤ

比企谷「……?」

     アイツラカ…… カワイソウニ……

花村「……何だ? この空気?」

比企谷「心当たりあるか? 花村」

花村「いや……全くねえ」

比企谷「…………」

??「……ちぃース」

比企谷・花村「」


??「俺ァ、巽完二って一年だ」

比企谷・花村(でか!? どんな一年だよ!?)

完二「ここか? 俺の班ってのは?」

比企谷「あ、ああ……そう、なる、かな」

花村「き、気合、入ってる、ね……」

完二「舐められんの、嫌いなんで」

比企谷「…………」

花村「…………」

比企谷「よ、よろしく……」

花村「た、巽くん、で、いいか?」

完二「ウッス」



―――――――――――


完二「……あーダリー」

比企谷(……だったら不良らしくバックレてろっての)

完二「ちっ……担任のヤロー……バックレたら留年させるっつーし」

花村(……そういう事ね)

完二「先輩もダリィっすよね?」

比企谷「ま、まあ……」

花村「い、今時、ゴミ拾いって、ねーよなぁ」

完二「っすよねー」

比企谷「…………」

花村「…………」





比企谷・花村「」 ズーン……

雪ノ下「……どうしたの?」

比企谷「何でもねえ……」

里中「そういや合同の一年生、どんなやつだったの?」

花村「……金髪に染めて、気合の入った、やたらガタイのいい巽完二って奴だった」

天城「え? 完二くん?」

里中「知ってるの? 雪子」

天城「うん。 巽屋っていう染物屋さんの息子さん」

天城「小さい頃は可愛かったんだよ?」

天城「今は……いい噂聞かないけど」


比企谷「……それは一目瞭然でわかった」

花村「んな事より! メシ! メシはどうなった!?」

里中「あ~うん」

天城「できてるよ」

雪ノ下「……今、よそうから」

花村「おう! 待ってるぜ!」

比企谷「…………」

比企谷(なんだ? 今の雪ノ下の『間』は……)


     ド ン !

里中「さ、召し上がれ!」

比企谷「…………」

花村「ひょー! 待ってましたぁ!」

比企谷「……おい、ちょっと待て、花m」

花村「いっただきまーす! あむ……」

     ……ブフォッ!! ドサッ

花村「」 チーン…

一同「…………」

比企谷「…………おい」

比企谷「どういう事なんだ……これは?」

里中「さ、さあ?」

天城「あまりに美味しくて、気絶したんじゃない?」

雪ノ下「その可能性が高いわね」


比企谷「さらっと嘘つくなよ!?」

比企谷「どう見ても、カレーに何らかの異常……」

雪ノ下「比企谷くん、あーん」

比企谷「んがっ!」

     ……ブフォッ!! ドサッ

比企谷「」 チーン…

―――――――――――

花村「……あんじゃこりゃー!!?」

比企谷「カレーで死にかけるとは思わなかった……」

里中「あは、あははは……」


比企谷「……味見はしたのかよ?」

里中「その勇気は無かった……」

天城「……美味しいと思ったんだけど」

花村「ベタベタで、ドロドロで、ジャリジャリで、えげつなく辛い割に、妙に甘いし……」

花村「要するに、くっせー上に、恐ろしくカレーじゃねーんだよ!!」

天城「なんか、上手く混ざらなくて……」

里中「いや~ははは……愛情はたっぷり入れたんだけどね」

花村「愛情って、いったい何突っ込んだんだよ!?」

雪ノ下「片栗粉、強力粉、唐辛子に黒胡椒……」

雪ノ下「コーヒー牛乳になまこ……」

花村「」

比企谷「」


比企谷「……雪ノ下、何で止めなかった?」

雪ノ下「私、飯ごうの担当だったの」

雪ノ下「あの食材、何に使うのかな? とは思ったんだけど」

雪ノ下「ふと見たら、その材料が消えてたの」

比企谷「…………」

花村「はあ……どーすんだよ、こんな物体X……夕食もこみなんだぜ?」

花村「俺ら明日までメシ抜きかよ……」

里中「……ごめんなさい」

天城「……反省してます」

雪ノ下「これ、私も謝らないとダメ?」


比企谷「……はあ」

比企谷「まあ、済んだ事はしょうがない」

比企谷「とりあえず、余った食材はあるか?」

雪ノ下「お米くらいかしら?」

雪ノ下「本来は夕食分の、だけど……」

比企谷「マジかよ……全部あの物体Xになっちまったのか」

花村「よし、俺、他の班に何か余ってないか聞いて回ってくる」

里中「あたしも女子に聞いてみる」

天城「千枝、私も行く」

雪ノ下「後は……切れっ端の野菜くらい?」

比企谷「調味料は大丈夫だな……食材さえあれば、何とかなりそうなんだが」

比企谷「物体Xも何かに……さすがに無理か」

比企谷「とりあえず、よそった無事なご飯部分は無事回収っと……」



―――――――――――


比企谷「何とか、昼の分は確保した」

里中「おお、おにぎりじゃん!」

天城「これ……何のおひたし?」

雪ノ下「人参の葉っぱよ」

花村「……いただきます」

     イタダキマス

一同(……わびしい)

里中「はあ……結局、食材集まんなかったねー」

雪ノ下「仕方ないわよ……大抵、必要分しか持って来ない物だもの」


天城「夕飯は、天城屋に頼んで届けてもらう事にしたから……」

天城「それまで我慢だね」

雪ノ下「……物体Xはどうなったの?」

比企谷「後で土葬します」

雪ノ下「公害被害が出ないといいけど」

比企谷「出るわけ無いだろ。 ソースは俺と花村」

雪ノ下「冗談の通じない人って付き合いにくいわ」

比企谷「今、冗談に付き合う余裕がねえんだよ」

里中「ところで、花村。 なんか元気ないね?」

花村「! ……そ、そうか? そんな事ないぜ?」

里中「そう? ならいいんだけど」

花村「…………」


夕方


陽乃「はぁーい! お待たせー♥」

比企谷「」

雪ノ下「」

天城「陽乃さん? わざわざすみません……」

陽乃「いいのよ、これくらい。 可愛い妹の為でもあるしね」

里中「助かりました~」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「……ありがとう、姉さん」

陽乃「……!」

陽乃「うん、雪乃ちゃん」



―――――――――――


陽乃「……ちょっと隣、いいかな? 比企谷くん」

比企谷「断っても座るんでしょ?」

陽乃「ふふ」

     ストン

陽乃「……雪乃ちゃん」

陽乃「あの日……道に迷って帰ってきてから」

陽乃「何だか、変わっちゃってね……」

比企谷「悪い方に、ですか?」

陽乃「…………」

陽乃「私にとっては、かなー」


陽乃「あの日以降……あの娘は、私にはっきりと意見を言う様になったの」

比企谷「…………」

陽乃「たとえ合理的でなくても、理性的でなくても」

陽乃「自分はこうしたい、って、はっきり言って来る様になった」

比企谷「……いい事なんじゃないですか?」

陽乃「そうよね」 クス

陽乃「でも……何だか階段をいくつか駆け上がったみたいに」

陽乃「突然、大人になった気がするの……」

比企谷「…………」

陽乃「何だかねー。 置いてかれちゃったみたいな気になっちゃって……」

陽乃「姉失格よね……妹の成長を喜べないなんて」


比企谷「いつまでもガキのままの方が、よっぽど良くないですよ」

陽乃「ふふ、そうよね」

陽乃「で? どうやったの?」

比企谷「藪から棒になんです?」

陽乃「絶対、君が関わってるって思うからよ」

陽乃「雪乃ちゃんを大人にしてくれたんでしょ?」

比企谷「お願いしますから、その言い方止めてください。 割とマジで」

陽乃「んんー? どうしてかなぁー?」 クスクス

比企谷「わかっててやってるでしょ……」

陽乃「あはは……」

陽乃「ま……これからもよろしくね? 比企谷くん」

比企谷「へいへい」




男子・テント内


完二「……ウッス」

比企谷「」

花村「…………」


比企谷(おい……花村。 何でヤンキーがここに居る!?) ヒソヒソ

花村(食材集めの時に聞いた話じゃ、モロキン(諸岡:担任)が) ヒソヒソ

花村(問題児を一人、何とかしてくれって泣きつかれたらしい……) ヒソヒソ

比企谷(あの野郎……全部俺達に丸投げしやがったな……) ヒソヒソ

花村(それから、もう一つ……ヤな噂話があってよ) ヒソヒソ


完二「……さっきから何、こそこそ話してんだァ?」

比企谷「! い、いや……大した事じゃない」

花村「き、気にするな……」

完二「……ちっ」

完二「まあいいや……俺ぁもう寝るっスよ?」

比企谷「あ、ああ……」

花村「…………」

花村「……と、ところで、巽くん」

完二「……ああ?」

花村「君って……お、女の子が苦手って、聞くけど……」

比企谷「……!」

比企谷(……ま、まさか……こいつって!?)


完二「……ちっ。 くだんねー噂信じんなよ」

花村「だ、だよねー。 女の子が嫌いな男なんて、居ないもんなー」

完二「まあ……女なんてどうでもいいっスけど」

花村「…………」

比企谷「…………」

花村「えーと……巽くん」

花村「割と真面目に聞くんだけど……君って、そっち系?」

完二「ああ? そっち?」

比企谷「……はっきり言うと」

比企谷「俺たち、貞操の危機か?」


完二「んな!? ななななな、んな訳あるかぁ!?」

花村「どうして豪快にキョドるんだよ!?」

比企谷(認められたら認められたで、激しく嫌だが……)

完二「てめーら……人をおちょくるのもいいかげんにしろよ?」

完二「俺は普通だ! どっからどう見ても、普通の男だ!」

完二「女には興味がないってだけのなぁ!!」


花村(何で、そこを力説する!?)

比企谷(なおさら本物っぽいな……)


花村「わ、わかった、悪かった……謝るからもう寝ようぜ?」

完二「ったく……」

比企谷「…………」


女子・テント内


里中「」

天城「」

雪ノ下「」

花村「よ、よお……」

比企谷「今晩は……」

里中「あ、あ、あ、あんたら――」

花村「待て! 里中!」

花村「ボコるのは、とりあえず話を聞いてからにしてくれ!」

比企谷「頼む……」



―――――――――――


花村「――って訳で」

花村「とにかく、あいつと密閉空間に居たくねえ……」

比企谷「手足を縛るとか、す巻き状態でも何でもいい……」

比企谷・花村「朝まででいい……ここに居させてくれ、頼む……」

里中「…………」

天城「…………」

雪ノ下「…………」


―――――――――――


里中「変な事したら、ただじゃ置かないからね?」


花村「わかってますとも……」

比企谷「大真面目に感謝する……」

雪ノ下「まったく……人騒がせな上に、犯罪スレスレの行為ね」

天城「まあまあ……雪ノ下さん」

天城「じゃ、明かりを消すよ?」

     パチン…

比企谷「…………」

花村「…………」

里中「…………」

天城「…………」

雪ノ下「…………」





全員(眠れない……)




     こうして……夜は更けていくわけで……




―――――――――――




翌日 午前中


比企谷「ふあ……やっと終わったな」

花村「あー ……疲れが取れてねぇ」

里中「それはこっちも同じじゃん……」

雪ノ下「全く……いい迷惑だわ」

天城「で? 完二くんはどうしたの?」

比企谷「朝、戻ったら、グースカ寝てた……」

里中「……ウチらんトコ、来る必要なかったんじゃない?」

花村「冗談じゃねえよ……精神的にもたねぇって……」


花村「さて。 それはもう忘れて、だ」

里中「なによ? 急に元気になって?」

花村「お前ら、これからどうすんだ?」

天城「特に予定はないけど……?」

花村「だったら……泳がね?」

雪ノ下「……泳ぐ?」

花村「そーだよ! せっかく来たんだし。 泳いで帰ろうぜ!」

里中「残念ねー花村。 あいにくと、水着とか持ってきてないの」

     ババーン!

花村「ジャジャーン! ジュネス・オリジナル新作水着!」

花村「初夏のうるおい、だ!」

女性陣「」

比企谷「それか……あの時の買い物は……」


里中「……バカバカしい。 付き合ってらんない」

天城「花村くん……それはさすがに」

雪ノ下「ただのケダモノね」

花村「ぐあっ! 三人からの視線が痛ぇ! 超痛ぇ!」

花村「比企谷からも何か言ってくれ! な、な!」

比企谷「無理強いは良くないだろ……でも、ま……」

比企谷「こんな事もあろうかと水着持ってきたし、俺は付き合ってやるがな」

花村「……それは嬉しいけど、嬉しくない」

比企谷「どっちなんだよ」

??「あらぁ? 比企谷くん、水着持ってきてたの?」


比企谷「! ……陽乃さん」

雪ノ下「姉さん……どうしてここに?」

陽乃「うふふ、実は~車中泊したんだ」

陽乃「まあ? せっかくキャンプ地に来たんだし」

陽乃「比企谷くんと思い出を作ろうかな? と、思ってね」

比企谷「……何で俺となんです?」

花村「そ、それはともかく、陽乃さん、泳いでくれるんですか!?」

陽乃「うん! こういうのは楽しまないとね♪ 花村くん♪」

花村「おっしゃー!!」

里中「……はあ。 付き合ってらんない」

陽乃「さあ、自信のない小娘たちは置いといて、楽しみましょ?」

比企谷(わざとだ……絶対わざとだ)

女性陣「……」 カッチーン


雪ノ下「……誰も泳がない、とは言ってないわ」 ゴゴゴ…

天城「そうよね……せっかくなんだし」 ゴゴゴ…

里中「楽しまないとね……」 ゴゴゴ…


比企谷・花村(怖い怖い怖い)

陽乃「うん! そうこなくっちゃ!」


―――――――――――


陽乃「お待たせー♪」

里中「あんましジロジロ見るなっ」///

天城「サイズ……どうしてピッタリなんだろう……」///

雪ノ下「後で小一時間程、問い詰めたいわね……」///


花村「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――!!」

比企谷「……喜びすぎだろ」

花村「おまっ! この状況を喜ばずにどうしろってんだよ!?」

花村「俺……俺……」

花村「生きてて良かった……!」 ウルウル…

比企谷「そこまで言う事か?」

花村「クラスメイトの女子3人に、陽乃さんの生水着姿まで拝めたんだぞ!?」

花村「逆にどうしてお前は、そこまで感動薄いのか聞きたいわ!」

比企谷「グラビアとかあるし」

花村「アホか! すぐそこ! すぐそこに! 手の届く所に!」

花村「水着姿の女の子がいるんだぞ!?」

比企谷「わかったわかった……」


花村「それにしても陽乃さん……群を抜いて素晴らしいプロポーションだ」///

花村「可愛らしいベビーフェイス……」///

花村「推定93はあろうか、豊満な美乳……」///

花村「くびれたウェストに、柔らかそうなヒップ……」///

花村「スラリと伸びた、長い脚……」///

花村「モデルで、充分やっていけるレベルだぞ!!」///

  ※画像でお見せ出来ないのが残念です

比企谷(腹は黒いけどな)

里中(花村ァ……)

天城(私達にはコメントすら無し……?)

雪ノ下(後でお仕置きが必要ね……)


比企谷「…………」

比企谷「……まあ、みんな似合っていると思うぞ」

比企谷「なんか、妙な事になったが……」

比企谷「そろそろ泳ぐか?」

里中「うん! もうこうなったら、とことん楽しむんだから!」

天城「そうだね、千枝」

雪ノ下「……足はつくわよね?」

比企谷「底が見えてるだろ? 安心しろ」

     ヒャッホー! ザブン!

     ツメテェェェ! コラー!

     キャハハハ……




     初夏……本格的な暑さは、まだまだこれからだが

     一足早い、水泳を楽しんだ。

     ……陽乃さん、ふざけて抱きつくの止めてください。 割とマジで。



     チラ見だが……雪ノ下の肌は白くて……日差しが少し心配になった。

     それだけだ。 それ以外、何も考えなかった。 うん。




―――――――――――




足立宅


比企谷「ただいまー」

足立「やあ、お帰り、比企谷くん」

比企谷「足立さん……今日は休みでしたか」

足立「ははは、毎週曜日通り、とはいかないけどね」

足立「林間学校は楽しかったかい?」

比企谷「ええ……まあ」

足立「そう! それは良かった」

足立「今日は僕が夕食を作るね? 君ほど上手くないけど」

比企谷「楽しみです」




     足立さんが作ってくれたのは、イタ飯だった。

     もちろんフツーに旨かった。




―――――――――――


クマ「…………」

クマ「センセイ達……今日も来なかったクマ……」

クマ「…………」

クマ(……分かっているクマ)

クマ(センセイ達は、あっちの世界に住んでいるから)

クマ(どうしても、あっちの用事を優先してしまうって……)

クマ(…………)

クマ(クマは……どうして生まれたクマ?)

クマ(クマは、何であっちに生まれなかったクマ?)

クマ(この世界は……いったい何クマ?)

クマ(…………)

クマ(クマは……クマは………)

今日はここまでです。なんかフツーに青春してるな……ヒッキー。


ヒッキーもそうだけど、雪ノ下もぼっちがデフォだから・・・

乙!

乙!
次が楽しみ


はよ続きが読みたいな

乙!



―――――――――――


数日後

学校


比企谷「…………」

花村「なに難しい顔してんだよ、比企谷?」

比企谷「事件を振り返っているんだ」

比企谷「最初の山野アナ、小西早紀……そして、未遂に終わったが」

比企谷「天城・里中に雪ノ下」

花村「全員女性で、【マヨナカテレビ】に映ったよな」

比企谷「そうだ」

比企谷「だが……それ以外に何か……共通点はないか?」

花村「共通点……ねぇ」


花村「年齢……は、山野アナが外れるし」

花村「同郷……というのは、雪ノ下さんが違うな」

花村「後は……『あの世界』を凶器にしている、か?」

比企谷「そうなんだ……」

比企谷「俺たちは、ペルソナ絡みで『あの世界』という『共通点』がある事を知っている」

花村「だな」

比企谷「じゃあ白無垢 直江?は、どうやって雪ノ下が危ないと気がついたんだ?」

花村「! ……確かにそうだな」

比企谷「何かあるはずなんだ……『あの世界』を知らない一般人にもわかる」

比企谷「被害者の『共通点』が……」


花村「う~ん……」

花村「そう言われても、すぐには出てこねぇな……」

花村「犯人の目的もさっぱりわかんねぇし」

比企谷「……そうだな」

比企谷「強引に言えば、被害者は全員『若い女性』というカテゴリーに入るし」

比企谷「通り魔的な動機で行動している、とも言える」

花村「最近続報見ねぇけど……警察はどう見てるんだろう?」

比企谷「おそらく……最初の二件と、後の二件は」

比企谷「全く別の事件として扱われているだろうな」

比企谷「特に雪ノ下の時は、意図的にそうしたし……」

花村「……はあ、頭痛くなってきた」

比企谷「……俺もだ」


花村「じゃ、話、がらっと変えるけど」

花村「最近話題の久慈川りせ、見に行ってみねぇ?」

比企谷「芸能活動、休業宣言したってやつか?」

花村「そう!」

花村「現役トップアイドル、突然の休業!で、騒がれてる、あの久慈川りせだよ!」

比企谷「この街にいるのか?」

花村「おう! 噂じゃ、商店街のマル久豆腐が実家らしいぜ?」

比企谷「ふーん」

花村「相変わらずそっけねぇな……」

比企谷「興味ねぇし」

花村「いいじゃねーかよ。 気分転換に行ってみようぜ!」

比企谷「…………」


マル久豆腐店


     ガヤ ガヤ

花村「うはー」

比企谷「人がいっぱいだな……」

花村「こんな田舎じゃ、生芸能人なんて滅多に拝めないし」

花村「考える事は、皆同じって事か……」

比企谷「……俺は帰る」

花村「ちょ、ここまで来たんだから、もう少し待とうぜ?」

比企谷「俺は元々興味ない」

花村「比企谷ぁ……」

??「はぁーい! そこ! 押さないでねー!」


比企谷「!」

比企谷「あの声は……」

花村「比企谷の保護者の足立、とかいう刑事さんか?」

比企谷「間違いないな」

比企谷「……足立さん」

足立「! 比企谷くん」

比企谷「何か事件ですか?」

足立「いや……無用の混乱を避けるために、警察が警備やる事になってね」

足立「本来は制服がやるべき事なのに……人手が足りないからって」

足立「僕にお鉢が回ってきたんだよ……はあ」

比企谷「……大変ですね」

足立「あはは……」


足立「で? 君たちはまた野次馬かい?」

比企谷「ええ……でも、これじゃ無理そうですし」

比企谷「もう帰るところです」

足立「そうしてくれると助かる」

足立「正直、もう目が回りそうなんだよ……」

比企谷「だってさ、花村」

花村「ぐ……仕方ない、帰るか」

比企谷「それじゃ、足立さん」

足立「ああ、気を付けてね」

足立「あ、そこの人! 強引に入ろうとしないで!」


―――――――――――


足立「ふう……やっと人が少なくなってきた」

堂島「おい、足立」

足立「あ、堂島さん」

堂島「ご苦労だった」

堂島「後は制服がやるから、もう引き上げていいぞ」

足立「そうですか! いや~助かりましたよ~」

堂島「何か変わった事は無かったか?」

足立「いえ? 特にありませんけど……」

足立「強いて言えば、比企谷くん達が来たくらいですかね。 あはは」

堂島「……そうか」

足立「いつも通り、野次馬で来たみたいですってば。 気にしすぎですよ~やだなぁ」

堂島「…………」


足立宅


足立「……って訳でさ~」

足立「堂島さん、どうも君たちを疑ってるみたいなんだよね~」

比企谷「……そうですか」

足立「まあ、そんな事無いって説明しといたけど」

足立「あまり野次馬根性出すのも良くないと思うよ?」

比企谷「そうですね。 気をつけます」


比企谷(……と言われてもなぁ)

比企谷(どうしたものか、な……)



―――――――――――

深夜


     サアアアア……

比企谷「…………」

比企谷(外は雨……そして)

比企谷(もうすぐ時間だな)

     ……ピウィ~……

比企谷(映ったか)

比企谷(…………)

比企谷(……女……水着?)

比企谷(だが、この前の雪ノ下達の物じゃない)

比企谷(髪の色も長さも該当しない……)

     ブツン……


比企谷(…………)

比企谷(俺には全くわからないな……誰だろう?)

比企谷(とりあえず明日、花村たちと話をしてからだな)

比企谷(…………)

比企谷(……?)

比企谷(何か忘れてる気がする……)

比企谷(…………)

比企谷(あ)

比企谷(そうだ……録画できるかどうか、実験しようと思ってたんだっけ……)

比企谷(まあ……次だな)


翌日の放課後

学校の屋上


花村「あれはりせちーだって!」

里中「そう? なんか感じ、違くなかった?」

花村「何言ってんだよ! あの胸! あの腰つき!」

花村「そして、あの無駄のない脚線美!」

花村「間違いなくりせちーだ!」

雪ノ下「だ、そうだけど? 比企谷くん」

比企谷「俺は芸能界に疎い。 全くわからん」

雪ノ下「健全な男子高校生としては、ちょっとどうかと思う発言ね」

比企谷「じゃあもっとスケベになれと?」

雪ノ下「過大解釈しすぎよ、エロガヤくん」

比企谷「うるせーぞ、シモノシタ」


天城「ふ、二人共、その辺りで……」

天城「ともかく、久慈川りせ?という娘が、危ないって事だよね?」

花村「だな」

花村「しっかり注意喚起しないと!」

花村「そして、りせちーとお近づきに……むふふ」

雪ノ下「考え方が最低よ、エロ村くん」

比企谷「全くだな、エロ村」

天城「女性として、下心が見えちゃうとね……エロ村くん」

里中「女性の敵ね、エロ村」

花村「……すんません、マジで止めて、それ」


比企谷「それじゃ、さっそく行くか」

里中「ああ、ごめん比企谷くん」

里中「あたし、ちょっと用事があって、これから職員室に行かないといけないの」

天城「千枝、そうなんだ……」

天城「実は私も、天城屋で団体客を迎える準備をしなくちゃいけなくて」

比企谷「……という事は」

雪ノ下「その通りよ、比企谷くん」

雪ノ下「必然的に私もね」

花村「そっか。 ま! 人数多すぎても何だし、ちょうどいいんじゃね?」

比企谷「それもそうか」

比企谷「じゃ、行くか、花村」

花村「おう!」


商店街 マル久豆腐


     ガヤ ガヤ

比企谷「今日も人が多いな……」

花村「だけど今日は、絶対会わねーとな!」

比企谷「へいへい」

―――――――――――

花村「やっと俺たちの番だぜ……」

比企谷「長かったな……」

??「……いらっしゃい。 と言っても、豆腐は売り切れだから」

花村「あ~その、そうじゃなくて、久慈川りせさんに会いに……」

??「……そういうの、お断りしてるんだけど」


比企谷「じゃあ、客なら文句無いだろ」

比企谷「そこのがんもどき、6つくれ」

花村(ナイス! 比企谷!)

??「まいどー」

     ゴソ ゴソ…

花村「でー ……久慈川りせ、さんは?」

比企谷「お前何言ってるんだ?」

比企谷「さっきから話してるのが久慈川りせじゃねーの?」

花村「はあ!?」

りせ「はい、がんもどき6つ。 630円ね」

花村(げっ、本当だ! 割烹着に地味な髪型してるからわからんかった……)


りせ「で? あたしに何か用?」

花村「あ、ああ、そうなんだ!」

花村「その……もしかしたら君、危ないかもしれなくて」

りせ「危ない?」

比企谷「身の回りに気をつけておけって事だ」

りせ「……何の事か知らないけど」

りせ「ストーカーとかなら慣れてるし」

比企谷「ならいい。 邪魔したな」

花村「い!? お、おい、比企谷! もう帰んのかよ!?」

比企谷「もう用はないだろ。 行くぞ」

花村「比企谷~!!」


??「……ちょっと邪魔するぞ」

りせ「いらっしゃいませ」

比企谷「……!」

堂島「……!」

堂島「君は……比企谷、とかいう」

比企谷「どうも」

比企谷「夕飯にがんもどきを買いに来ただけですので」

比企谷「じゃ……」

花村「はは……それじゃ」

     テク テク テク…

堂島「…………」

りせ「……あの?」


堂島「ああ、すまない」

堂島「俺は警察のものだ。 堂島、という」 スチャ(警察証開示)

りせ「はあ……」

堂島「最近、この街で起こっている事件は知っているか?」

りせ「ええ」

堂島「残念ながら、まだ犯人は捕まっていない」

堂島「君は有名人でもあるし、注意しておいてくれ」

りせ「わかりました」

堂島「ならいい。 用事はそれだけだ」

堂島「……ところで」

りせ「はい?」


堂島「さっきの高校生……彼らと、どんな話を?」

りせ「刑事さんと同じですよ」

りせ「身の回りに注意しろって……」

堂島「!?」


堂島(……どういう事だ?)

堂島(今回の殺しじゃ、まだ動機そのものすら分かっていない)

堂島(俺がここに来たのは、いわば”カン”にすぎん……)

堂島(なのに……ただの高校生が、なぜ……?)

堂島(…………)


堂島「そうですか……それじゃ、失礼します」

りせ「どうも」



―――――――――――


堂島「…………」 ピッポッパッ

     プルルルルル……ガチャ

堂島「足立か? 今、どこにいる?」

堂島「…………」

堂島「そうか、ならいい」

堂島「お前の世話してる、比企谷という高校生」

堂島「あいつをそれとなく見張っておけ」

堂島「…………」

堂島「ああ、それは分かっている」

堂島「犯人として疑っているわけじゃない」


堂島「だが……”何か”を隠している」

堂島「根拠? そんなものはない」

堂島「…………」

堂島「いい気持ちしないのもわかるがな」

堂島「今回のヤマは、まだ謎が多い。 少しでも情報が欲しいんだ」

堂島「お前だって、あの少年探偵とかいうのに、でかいツラされたくないだろう?」

堂島「…………」

堂島「自分は気にしないだと?……ったく」

堂島「とにかくだ、比企谷をそれとなく監視しておけ。 これは命令だ」

堂島「切るぞ」

     ブッ……ツーツー

堂島(これで何か分かればいいが……)


数日後

休日の午前中


里中「さすがに落ち着いたみたいね」

花村「おう。 人もそんなに居なくなったな」

比企谷「そういや、なんで休業するって言い出したんだ?」

花村「さあ……だからこそ、突然の休業宣言として騒がれてんだけど」

比企谷「…………」

里中「ともかく、前の雪ノ下さんみたいに ならない様にしないとね!」

花村「ああ、確かにな」

花村「早く犯人捕まえねーと!」


比企谷「…………」

比企谷「なあ……」

雪ノ下「何かしら?」

比企谷「さすがにこの人数で見張ると、目立つんじゃね?」

天城「大丈夫だよ。 通りすがりの人も気がついて ないみたいだし」

比企谷「……かかわり合いたくないと思って、見て見ぬふりしてるだけだろ」

花村「深く考えたら負けだ、比企谷」

比企谷「いや俺が言いたいのは、犯人にもモロバレじゃね?って事で……」

里中「……あ!」

里中「ほら、あそこ! 電柱の影!」

雪ノ下「怪しい……似合わないバンダナに、似合わないグローブつけて」

雪ノ下「いかにも引きこもりで、今回の犯罪を起こしそうなキモオタ風の男がいるわ」

比企谷「……外見で判断するなよ」


天城「あ! りせちゃん、出てきた!」

花村「あいつには気がついて無いみたいだな」

里中「どうする? もう捕まえる?」

足立「う~ん……それはまずいんじゃないかな」

足立「容疑が固まっていない以上、別件逮捕するなら現行犯確保しかないからね~」

天城「なる程、疑わしきは罰せず、ですね」

足立「そうそう♪」

雪ノ下「ちょっと意味が違うような……」

比企谷「俺は明らかに違うと思う」

里中「む! 怪しい男がりせちゃんに駆け寄っていく!」


花村「よし! 確保だ!」 ダッ!

里中「こらぁ~!!」


??「ふひぇ!?」

??「な、な、な、なんだぁ~!?」

     ドドドドドドドドド!

雪ノ下「念の為 比企谷くんは、久慈川りせを見てて!」

比企谷「おい!?」

     タッ タッ タッ…

比企谷「…………」

りせ「…………」

りせ「で? 何なの?」


―――――――――――


りせ「ふうん……」

りせ「連続殺人事件の犯人、ね……」

比企谷「まだ本物かどうか、わからんけどな」

りせ「そう……」

りせ「あんたも暇ね。 わざわざ他人の為に体張って……」

りせ「……ああ、もしかして、あたしとお近づきになりたいとか?」

比企谷「芸能人に興味ねえよ……」

比企谷「俺としては……そうだな」

比企谷「…………」

比企谷「そう、何となく、なし崩し的に巻き込まれたんだ」

りせ「そうなの。 本当に暇人ね」


比企谷「ほっとけ」

比企谷「だいたい、お前が芸能界休業とかしなけりゃこんな事に……」

りせ「あたしが悪いって言うの!?」

比企谷「公の影響力っての?」

比企谷「お前はそういう立場に居たって自覚がねーのかよ……」

りせ「うるさい!」

りせ「何も……あたしの事、何にも知らないくせに!!」

比企谷「ああそうさ。 知らねーし、知りたいとも思わねえ」

比企谷「だからチヤホヤされて、それが鬱陶しくなっただけだと思ってるんだよ」

りせ「……!!」

比企谷「それとも違うのか?」

りせ「……違う」


比企谷「ふうん」

りせ「違う……あたしは……違う!」

比企谷「何が違うんだよ?」

りせ「……あんたなんかに言うつもりはない」

比企谷「さいですか」

     ピピピ……ピピピ……ガチャ

比企谷「……もしもし」

比企谷「……ん……そうか」

比企谷「わかった」 ピッ

比企谷「終わったってさ」

りせ「…………」


比企谷「一応、帰るまで見送ってく」

りせ「いらない」

比企谷「社交辞令でボランティアだ」

比企谷「ありがたがる必要はない」

りせ「…………」

りせ「……そう、勝手にしたらいいわ」

比企谷「ああ、そうさせてもらう」

     テク テク テク…


―――――――――――


ジュネス フードコート


比企谷「お疲れさん」

花村「……おう」

比企谷「……どうした? なんか納得してない顔だな?」

天城「うん……捕まえた犯人、何だか手応えがなくて」

里中「あっさりしすぎてね……」

雪ノ下「本人は違うって、言ってたけど」

花村「足立さんに引き渡して帰ってきた」

比企谷「足立さん? 何で足立さんが出てくるんだ?」

花村「いや、気がついたら一緒にいてさ」

花村「これで事件解決だね!って、意気揚々と引き上げてった」


比企谷「そうか……」

天城「ま、まあ、一段落着いた……かな?」

雪ノ下「いいえ」

雪ノ下「【マヨナカテレビ】を見るまでは油断できないと思う」

比企谷「今日の夜、降るって予報だし」

比企谷「何もない事を祈るばかりだな」

里中「そうだね」

里中「じゃあ、今日はこれでお開き?」

花村「だな」

花村「じゃ、また明日!」


―――――――――――




足立宅


     サアアアア……

比企谷「…………」

比企谷(降っているな)

比企谷(足立さん、遅いし)

比企谷(犯人だったのだろうか……)

比企谷(…………)

比企谷(そろそろ時間だ)

     ……ピウィ~……

比企谷(……映ったか)

比企谷(とりあえず録画、と……) (●REC)ピッ

比企谷(という事は、あいつは犯人じゃな……)

比企谷「」




     そこに映し出された久慈川りせは

     黄色の水着姿だった。



     しかし……なんと言うか……胸とか強調したカメラアングルで

     どうにもエロっぽ……色っぽい。



テレビ『はぁ~い♥ みんな大好き! りせちーだよ~♥』 ウフン♥

比企谷「」 (●REC)ピッ (●REC)ピッ (●REC)ピッ (●REC)ピッ…

テレビ『今日は~……みんなに~……大事なお知らせがあるんだ~♥』

テレビ『そ・れ・は~……ス~ト~リッ、プ♥』

     ジャジャーン!

     ドキッ! 現役女子高生アイドル! 生ストリップショー!!

比企谷(ス、スト……!?)

テレビ『いや~ん♥ りせちー、困っちゃう♥』

テレビ『でもぉ……やるからには、大胆にしちゃうから!』

テレビ『お楽しみに♥』

     ブツン


比企谷「…………」

     ピピピ……ピピピ……ガチャ

比企谷「……もしも」

花村『スト! 今、ストリップって言ってたよな!?』

比企谷「ああ……どうやら今回も」

花村『マジっすか! もう楽しみでしょうがないんですけど!?』

比企谷「……いいから落ち着け」

花村『んあ?……お、おう……』

比企谷「ともかく、今回も防げなかった……」

比企谷「久慈川りせは、すでにテレビの中だ」

花村「ああ……確かにな」

>>546修正↓


比企谷「…………」

     ピピピ……ピピピ……ガチャ

比企谷「……もしも」

花村『スト! 今、ストリップって言ってたよな!?』

比企谷「ああ……どうやら今回も」

花村『マジっすか! もう楽しみでしょうがないんですけど!?』

比企谷「……いいから落ち着け」

花村『んあ?……お、おう……』

比企谷「ともかく、今回も防げなかった……」

比企谷「久慈川りせは、すでにテレビの中だ」

花村『ああ……確かにな』


花村『ともかく、俺は今回張り切るぜ!』

比企谷「……期待してるが少し抑えろ」

花村『ははは! じゃ、明日の放課後、ジュネスでな!』

比企谷「ああ」

     ブッ……ツーツー

比企谷「…………」

     ピッ(録画再生)

比企谷「…………」 ドキドキ

     ザザー……

比企谷「…………」

比企谷「……ですよね」


     テレビとDVDレコーダーの電源を切ると、俺はそのまま寝た……

一週間ぶりの投下になってしまった……遅れてすみません。
ちょっとリアルが荒れまして……次回は早めに投下できるといいなぁ。

乙ー

先に完二じゃなかったっけ?
とりま乙!

テレビの特集が雪乃に替わたから完二はターゲットにならないんじゃないか?

乙です!

>>553
正解です。


翌日の放課後

ジュネス フードコート


花村「よし! それじゃテレビの中に行こうぜ!」 フンフン!

里中「……花村、鼻息荒すぎ」

雪ノ下「本能の赴くままに行動してるわね」

天城「今回は、比企谷くんと二人だけで頑張ればいいんじゃない?」

比企谷「俺とこいつを一緒にするなよ……」

花村「比企谷! お前だって見ただろ!? あのりせちーを!!」 フンフン!

花村「あれで何で、奮い立たねーんだよ!!」 フンフン!

比企谷(……お前は別のもん、おっ立ててるんじゃねーのか?)


比企谷「ともかく被害者だし、救出しないと」

比企谷「あの世界は今だに分かっていない事も多い」

比企谷「俺たちの常識は通じないからな……」

雪ノ下「そうね……」

比企谷「だから出来うる限り、望めるだけの戦力で行く」

比企谷「これが大事だ」

里中「わかってるよ。 ちょっとした冗談じゃん?」

天城「うん。 早く久慈川さん、助けてあげないとね」

花村「じゃ! レッツゴー!」 フンフン!

一同「…………」


―――――――――――


テレビの世界


花村「――到着、っと!」

里中「……あれ? クマくん?」

天城「どうしたの?」


クマ「…………」 ズーン…


比企谷「クマ?」

クマ「……みんなはいいクマねー」

クマ「こっちは、クマ一人だけだから寂しさ倍増で、卑屈してたクマー」

天城「ご、ごめん……クマくん」

里中「忘れてた訳じゃないのよ?」


花村「それよりもクマ! ここにまた人が落とされたみたいなんだ!」

雪ノ下「エロ村くんは少し黙ってて」

花村「黙ってられるか! おい! クマ吉!」 フンフン!

花村「新しくここに落とされたのは、とびっきり可愛い女の子だ!」 フンフン!

花村「しかも水着姿で、ス、ス、ス、ストリップをする! とか言ってるんだよ!」 フンフン!

クマ「すとりっぷって何クマ?」

花村「目に前で女の子が服をぬ――」

     ドカッ バキッ ゴスッ

里中「クマくんになんて事教えるのよ!」

花村「……おう」 ボロッ…

クマ「服をどうするクマ?」


雪ノ下「忘れなさい、クマくん。 いいから忘れなさい。 わかった?」

クマ「ク、クマ……」

比企谷「……はあ」

比企谷「で、だ、クマ」

比企谷「落とされた人間の場所……わかるか?」

クマ「ちょ、ちょっと待つクマ……」

クマ「う~ん……」

一同「…………」

クマ「…………」

クマ「駄目クマ……クマの鼻センサー、調子が悪いクマ」

花村「そ、そんな!」


花村「クマ吉! 頑張ってくれよ! なあ!」

クマ「そ、そんな事言われても……」

花村「くそぉ……りせちーのストリップ……見れねーのかよ」

里中「花村! いい加減そこから離れなさい!」

比企谷「…………」

比企谷「……クマ」

クマ「センセイ……何クマ?」

比企谷「ゴニョゴニョ……」

クマ「ほえ?」

クマ「…………」

クマ「!!」

クマ「そ、それは本当クマ!?」

比企谷「ああ」


クマ「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

クマ「何か……いきり立ってきたクマァァァァァァァ!!」


雪ノ下「……だいたい分かってるけど」

雪ノ下「何を耳打ちしたの?」

比企谷「ノーコメントです」


クマ「キタ―――! クマ!」

花村「おっしゃあ!」

クマ「ストリップショーは、こっちクマ!」


天城「さいてー」

里中「男子の評価ダダ下がり中……」

雪ノ下「嫌悪感しかないわ」

比企谷「なんとでも言え。 行くぞ」



―――――――――――


比企谷「ここか……」

花村「こ、これって……よく温泉旅館とかにあるっていう」///

天城「ウ、ウチには無いからね!?」///

クマ「ストリップ! ストリップ!」

里中「……クマ。 ちょっと黙れ」

クマ「ク、クマ……」

花村「嫌が上にも盛り上がってきたぜ!」

雪ノ下「私たちは凍りつきそうなくらい盛り下がってるわ……」

比企谷「それくらいにしておけ……人の命がかかってる」

比企谷「入るぞ!」



―――――――――――

     バァーンッ!

里中「いた!」

比企谷「久慈川りせ……の【シャドウ】だな」

花村「本物はどこだ?」

天城「見当たらないね……」


影・りせ『レディース・エン・ジェントルメン!』

影・りせ『ようこそ! あたしのオンステージへ!』


雪ノ下「え? な、なに? 何が始まるの?」

クマ「ストリップクマ!?」



影・りせ『うふふ……そんなに焦らないでお客様?』

影・りせ『ゆっくりと、本当のあたしをご覧あれ♪』


比企谷(……本当のあたし?)

花村「おおおおおおおおおっ!」

花村「あ、あれって! ポ、ポ、ポ、ポールダンスってやつ!?」///

クマ「ムホー!! りせちゃんが、あんな刺激的なポーズををををを!」///

里中「少し引っ込んでなさい!」

     バキッ! ゴインッ!

花村「」 チーン…

クマ「」 チーン…


雪ノ下「使えないケダモノは置いといて……」

雪ノ下「比企谷くん」

比企谷「ああ……」

比企谷「本人がどこにいるのか、さっぱりわからん」

雪ノ下「とか言いながら何故、【シャドウ】を凝視してるのかしら?」

里中「……さいてーね」

天城「……もう男の子が信じられないレベル」

比企谷「気のせいだ」

雪ノ下「あら……それなら微妙に前かがみになってるのはなぜ?」

比企谷「……キノセイダ」

里中「……ホントにさいてー」

天城「……こういうのムッツリって言うんだよね」



影・りせ『……んもう、なんかノリ悪~い』

影・りせ『じゃあ、ここで特別ゲスト!』

     ジャカジャカジャカジャカ……

     ジャン!!

影・りせ『久慈川りせちゃんで~す♥』


一同「!!」

りせ「う……うう……」

比企谷「ステージの奈落にいたのか……分からない訳だ」

雪ノ下「冷静に分析してないで助けないと!」


影・りせ『あん……邪魔は、な・し・よ♪』


     バッシャーン!


里中「きゃあ!?」


天城「な、何これ?」

花村「水? ……いや、ほんのり暖かいな?」

クマ「何クマ?」


影・りせ『うふふ♥ せっかくなのでぇ~』

影・りせ『お客さんも楽しんでね♥』


里中「楽しむ? いったいこれがなんだっ」

     ヌルンッ

里中「うひゃあ!?」

天城「! 千枝!」

     ズルルルンッ


里中・天城「ひゃああああっ!」

雪ノ下「ちょ!?」


     バシャン!


天城「い、痛たた……」

雪ノ下「……これ、ヌルヌルする」

里中「やだぁ……全身ベトベト……」


比企谷「」///

花村「」///

  ※画像でお見せ出来ないのが残念です。


花村「ひ、比企谷! なんか録画できるもん、持ってきてねーか!?」///

比企谷「くっ……ないっ!」///

里中「あんたら、いい加減にっ……うひゃ!?」/// バシャン!

天城「た、立てない……んっ」///

雪ノ下「どうしよう……着替えなんて持ってきてないし」///


影・りせ『あはは! 特製ローション、気に入ってくれた?』

影・りせ『さぁーて皆さんお待ちかね!』

影・りせ『いよいよ、りせちーのありのままの姿、見せちゃうよー!!』


りせ「や、やめて!」



影・りせ『どうして? 本当の自分、見つけたいんでしょ?』

影・りせ『だったら何もかもさらけ出さないとね!』


りせ「違う! あたしはそんな事、望んでない!」


影・りせ『はん! ずいぶんお高くとまって……ざけんじゃないわよ!』


りせ「!?」


影・りせ『マネージャーやプロデューサー』

影・りせ『そして得体の知れないファン共の要望に応え続け』

影・りせ『ありもしない『りせちー』を作り上げて嫌になっただけだって』

影・りせ『はっきり言いなよ!』


りせ「ち、違う!」



影・りせ『嘘つかないの』

影・りせ『内心うんざりしてたんでしょ?』

影・りせ『本音を聞いてくれる人も、わかってくれる人も』

影・りせ『誰ひとりとして居なかったもんね!』


りせ「止めて……もう止めてよ……」


影・りせ『あははは! 何言ってるの?』

影・りせ『あたしは、あんたなのよ?』

影・りせ『あたしがやりたい事は、あんたのやりたい事なんだから!!』


りせ「違う! こんな事……あたしは望んでない!」

りせ「あんたなんか……!」


一同「!!」

比企谷「止めろ! 久慈川りせ!」

花村「それ以上、言う……」

     ズルンッ

比企谷・花村「どわあああっ!」

     バッシャーン!




りせ「あんたなんか、あたしじゃない!!」





     ズウウウウウウウウウンッ……!


影・りせ『アハハハ……! 来た来た来たァ!!』



     ド   ン  !!



りせ「」 ドサッ…


影・りせ?『我は影……真なる我……』

影・りせ?『ああ……この力……たまんない♥』

影・りせ?『これで、あたしは自由に何でもできる!』


比企谷「ちっ……こうなったら仕方ない!」


比企谷「ペルソナ!」 イザナギ!

花村「ああ、やるしかねえな!」 ジライヤ!

里中「行くよ! トモエ!」

天城「コノハナサクヤ!」

雪ノ下「イザナミ!」

比企谷「クマ!」

クマ「ク、クマ?」

比企谷「久慈川りせを頼むぞ!」

クマ「わかったクマ!」


―――――――――――


     ドカッ!

比企谷「があああっ!!」

雪ノ下「比企谷くん!」

花村「くそっ……!」

里中「ど、どうして!? こっちの攻撃が全く当たらない!」

天城「はあ……はあ……」


影・りせ?『なあに? もう打ち止め?』

影・りせ?『じゃ、そろそろ止め、行っちゃうよー!』


     ババババババババッ!!


比企谷・花村「うわあああああっ!!」

里中・天城・雪ノ下「きゃあああああっ!!」


クマ「セ、センセイ――!」

比企谷(こ、こいつは……ヤバイ……)

比企谷「ちっ……立てるの……俺だけかよ……」 ヨロッ…

比企谷「…………」

比企谷「……クマ」

クマ「な、何クマ!?」

比企谷「久慈川りせを……頼む」

クマ「!?」

比企谷「ついでに……他の連中もな」

クマ「な、何言ってるクマ!?」


比企谷「時間稼ぎくらいなら、何とかできる……頼む」

雪ノ下「私も手伝うわ……比企谷くん……」 ヨロッ…

比企谷「アホか……立てるなら他の連中を……」

雪ノ下「回復役、居た方が……時間、稼げるもの」

比企谷「……!」

比企谷「…………」

比企谷「なるほど……合理的、だな」

雪ノ下「でしょ?」 クスッ

比企谷「何笑ってるんだよ」 クスッ

     ハハハ……

影・りせ?『なあに? いよいよ気でも狂れた?』

影・りせ?『それじゃ、もう一発ぅ!』

     ググッ…


比企谷「無駄話は、ここまでだ! 頼むぞ、クマ!」

雪ノ下「長くは持たない、急いで!」

クマ「ク、クマ……」


クマ(そんな……センセイ達が……)

クマ(センセイ達が、居なくなってしまうクマ!)

クマ(そんなの嫌クマ! 嫌クマよ!)

クマ(だ、だけど、クマは……クマには、何の力も無いクマ……でも)

クマ(でも!!)


影・りせ?『発射ー!!』 ドォン!!


比企谷「くっ……!」

雪ノ下「うっ……!」



     ババババババババッ!!


比企谷「……!!」

比企谷「…………」

比企谷「あれ? 痛くない……?」

比企谷「!!」

雪ノ下「クマくん!!」


クマ「おおおおおおおおおおおおっ!」

クマ「センセイは……センセイ達は、消させないクマァァッ!」


比企谷「嘘だろ……生身?で、あの攻撃受けてるそ……」

雪ノ下「クマくん……うっすら光ってる?」



影・りせ?『嘘!? 何なの!? こいつ!?』

影・りせ?『解析不能!!』


クマ「むあああああああああああっ! なんかわからんけど、力が溢れるクマァァァッ!」

クマ「今なら、何でも出来る気がするクマァァァッ!」

クマ「ちぇすとぉぉぉっ!!」


     キュムキュムキュム!


影・りせ?『く、来るなぁっ!』


     ズガァァァァァァァンッ!



―――――――――――


比企谷「――っという訳だ」

花村「俺らが気絶してる間にそんな事が……」

里中「そうだったの……」

天城「クマくん……ペラペラ」


クマ「あばば……みんな無事で、良かったクマ……」


比企谷「死にそうじゃないが……ったく、無茶しやがって……」

比企谷「けど、助かった。 ありがとう、クマ」

雪ノ下「うん……本当に命の恩人ね、クマくん」


クマ「クマ、センセイ達の役に立てて嬉しいクマ」

比企谷「今は、ゆっくり休んでいろ……後で運んでやるから」

クマ「出来れば女の子にお願いしたいクマ」

雪ノ下「……ま、この程度のわがままくらい聞いてあげるわ」

里中「まったく……ブレないわね」

天城「ホントだね」 クス


りせ「……う……ううん」

比企谷「気がついたか、久慈川りせ」

りせ「ここは……。 そうだ……確か……」

比企谷「落ち着け、手短に話すぞ?」

比企谷「さっき、お前が認めなかった存在……あれは確かにお前なんだ」

りせ「! ち、違……」


比企谷「だが、お前の全てじゃない。 あくまで一部分、一面に過ぎない」

りせ「……!」

比企谷「クマの話だと……どうも本人にとって認めたくないもの、抑圧した感情……」

比企谷「そういったものが、ここでは具現化してしまうらしい」

りせ「……本人にとって認めたくないもの……抑圧した感情……」

りせ「…………」

りせ「あたしは……どうしたらいいの?」

比企谷「わからん……だが」

比企谷「ここに居る俺以外の人間は、それらを受け入れてきた」

りせ「受け入れる……」

比企谷「言い方を変えれば、みんなお前と同じで」

比企谷「似たような嫌な部分があったって事だ」

りせ「…………」



影・りせ『…………』


りせ「そうだね……確かにあたしは自分を探してた」

りせ「もっと正確に言うなら、本当の自分のキャラを売り出して欲しかった」

りせ「テレビに映し出されるのは……キャラ付けされた偽りの自分ばかり」

りせ「本当の自分なんて、どこにも居ない。 居る訳がない」

クマ(本当の自分なんて……居ない……?) ビクンッ


影・りせ『…………』


りせ「そういった、『りせちー』も含めて……初めて」

りせ「あたしは……『あたし』だったんだ」



影・りせ『…………』


りせ「そうだね」

りせ「あんたの言うとおり、あんたはあたしで」

りせ「あたしは、あんただったんだね……」


影・りせ『…………』

影・りせ『…………』 クスッ


     ヒィイイイイイインッ!


りせ「……え? 何これ?」


比企谷「ペルソナだ」

りせ「ペルソナ……」

りせ「…………」

りせ「ふふ、ヒミコだって……」

りせ「う……」 クラッ…

花村「おおっと、大丈夫か?」

りせ「うん……何とか」

里中「これでとりあえず、ひと段落ね!」

天城「うん。 早く帰ろう? 私たちもボロボロだし……」

雪ノ下「そうね……体中ベトベトだし、早く着替えたい」

比企谷「よし、それじゃ帰るか」

比企谷「クマ、待たせ……」

比企谷「!?」




     本当の自分なんて……無い……

     探しても……無駄……



里中「……嘘でしょ」

天城「そ、そんな……!」

花村「まさか……クマにも!?」

クマ「……およ???」

クマ「みんな、何に驚いてるクマ?」

雪ノ下「クマくん……後ろ」

クマ「後ろ? ……なんじゃこりゃあああああ!?」



影・クマ『何もない……自分は……まさに……』

影・クマ『からっぽ……だ!!』


     ズウウウウウウウウウンッ……!


比企谷「……!?」


     ド   ン  !!


クマ「およよ―――!!」

花村「うわあああああっ!」

女性陣「きゃあああああっ!」

比企谷「ぐっ!!」

比企谷(今の違和感……いったい何だ!?)



影・クマ?『我は影……真なる我……』

影・クマ?『真実を追い求めるから……傷つく……』

影・クマ?『何も知らなければ……良かったと思える程に……』


クマ「な、何を言ってるクマ!?」


影・クマ?『どこまで行っても……無……』

影・クマ?『探しても……徒労……無駄な事だ……』


クマ「それでも……クマは、自分を探し続けるクマ!!」

クマ「絶対無駄じゃ無いクマ!!」



影・クマ?『……理解に苦しむ』

影・クマ?『困難や徒労が待っていると解っていながら……』

影・クマ?『それでもその道を行こうと言うのか……』


クマ「そうクマ!」


影・クマ?『ならば……ひとつだけ真実を教えてやろう……』

影・クマ?『お前達は……ここで死ぬ……!』


     グ  ワ  ァ !!


比企谷「くそっ! 来るぞ!」

りせ「ペルソナ!」 ヒミコ!

比企谷「! 止めろ! 久慈川りせ! 疲れてる状態じゃ――」

りせ「大丈夫! あたしのペルソナは、探索や探知に特化してるタイプ!」


比企谷「!」

りせ「戦いには参加できないけど……サポートなら任せて!」

花村「四の五の言ってる場合じゃねえ、比企谷!」

花村「使えるもんは何でも使わねえと……へばってる俺たちもやべえ!」

比企谷「……確かにな」

比企谷「よし! 頼むぞ、久慈川りせ!」

りせ「任せて!」

比企谷「イザナギ!」



―――――――――――



比企谷「はあ……はあ……」

花村「ぜえっ……ぜえっ……」

里中「く……はあ……はあ……」

天城「満身……創痍ね……」

雪ノ下「危なかった……久慈川さんのアナライズ無しだったら……」

雪ノ下「どうなっていた事か……」


影・クマ『…………』


里中「それにしても……クマくんにも抑えてたモノがあったなんて」

花村「ヘビー級に とんでもない【シャドウ】化したけどな」

天城「大丈夫? クマくん?」

クマ「大丈夫じゃ無いクマ! クマの自慢の毛並みがぁぁ……」


比企谷「……とりあえず、無事みたいだな」

雪ノ下「クマくんは、自分を探してるの?」

クマ「!」

クマ「…………」

クマ「クマは……自分がどうしてここに……この世界に居るのか」

クマ「全然覚えてないクマ」


影・クマ『…………』


クマ「探しても見つからないかもしれない……無駄かも知れない」

クマ「でも、諦めたら、そこで終わってしまうクマ」



影・クマ『…………』


クマ「クマは……ここに居るクマ」

クマ「生きて、考えて、笑ったり、泣いたり、楽しかったり、悲しかったりしてるクマ!」

クマ「だから……上手く言えないけど……」

クマ「『探し続ける事』は、絶対無駄にならないと思うクマ!」


影・クマ『…………』


     ヒィイイイイイインッ!


比企谷「ペルソナ……か」

クマ「クマにもペルソナが……!?」

里中「りせちゃんみたく、探索型?」

りせ「ううん……そのペルソナ、凄い力を持ってる」


比企谷「という事は戦闘型か……」

花村「良かったじゃねーか、クマ」

クマ「クマ! これでクマも役に立てるクマ!」

雪ノ下「ペラペラのままでも元気ね……クマくん」

比企谷「じゃ……そろそろ元の世界に戻るか」


―――――――――――


商店街 マル久豆腐店


りせ「ここでいいよ」

比企谷「……そうか」


りせ「じゃ……」

比企谷「昨日」

りせ「え?」

比企谷「昨日……悪かったな」

りせ「何の事……あ」

りせ「ううん。 世間からしたら比企谷先輩の言う通りだと思うし」

りせ「あたしの【シャドウ】が言ってた事も、子供っぽい内容で」

りせ「ちょっと恥ずかしい……」///

比企谷「だとしても、だ」

比企谷「昨日は言いすぎた。 謝る」

りせ「はいはい……ていうか、そんな素直な比企谷先輩、気持ち悪い」

比企谷「……やっぱ止めときゃ良かった」

りせ「あはは!」




     久慈川りせの失踪事件は、こうして幕を閉じた。

     りせの祖母が捜索願いを出すかどうか迷っていたところに

     本人が帰ってきた為、今回は警察に通報すらされていない。

     もっとも相当怒られた様だが。



     肝心の犯人像だが……俺が見送った後、買い物に出かけ

     トラックの影から何者かに羽交い絞めにされた様なのだが……

     一瞬で気を失ったので顔などは見ていない、との事だった。

     力や体格から、犯人は男だと思うと彼女は言っている。





     ほんの少しだが……犯人に近づけたと

     この時の俺は思った。




―――――――――――


数日後の夜中

足立宅


     サアアアア……

比企谷「今日で3日目連続雨……霧になってるな」

比企谷(だが、久慈川りせは助けた)

比企谷(これまでの法則通りなら、【マヨナカテレビ】には何も映らないはず)

比企谷(…………)

     ……カチッ(午前0時)

比企谷(…………)

比企谷(…………)


比企谷(……よし)

比企谷(テレビは何も映さない)

比企谷(この瞬間が一番安心するな)

比企谷(……もう寝よう)


―――――――――――


     ピピピ……ピピピ……

比企谷「……ん?」

比企谷「誰だ? こんな朝から……」 ガチャ

比企谷「はい、もしもし?」

花村『比企谷! 大変だ!』


比企谷「花村か……どうした?」

花村『とにかくテレビをつけろ! チャンネルはどこでもいい!』

比企谷「……?」 ピッ


テレビ『……ており、警察は一連の殺人事件との関連性を調べております』

テレビ『また、被害者の諸岡金四郎さんは、地元高校の教師をしており……』


比企谷「!!」

比企谷「……おい、花村。 これって……」

花村『ああ……遺体の状況が、今までと同じらしい』

比企谷「…………」




     どういう事なのか……寝起きの脳みそでは到底

     理解できなかった……。


今日はここまでです。ちょっと端折りました……。

乙ー
しかしワイルドの特性全然発揮されない、流石ぼっち

>>607
ヒッキーらしくて良いな

乙!
次も楽しみにしてるよ!

保守

保守


警察署


堂島「…………」

足立「堂島さん、お待たせしました」

堂島「どうだった?」

足立「死亡推定時刻は、昨夜午後10時から日をまたいで午前2時の間だそうです」

堂島「……随分開きがあるな?」

足立「雨ざらしになっていたのと、死んでから移動させたのが原因で」

足立「はっきりした時間の特定は難しいそうです」

堂島「そうか……死因はどうだ?」

足立「背後から鈍器で頭部を殴られたのが、致命傷みたいですね」

堂島「! 本当か?」

足立「ええ。 これが鑑識の所見です」


堂島「…………」

堂島「……妙だな」

足立「何がですか?」

堂島「先の二件の殺しじゃ、死因の特定が出来なかった」

堂島「遺体の発見状況から他殺は間違いないが……」

堂島「今だにどうやって殺したのかが分からん」

足立「そうですよね」

堂島「だが今回は、はっきりとした死因が特定できた……どういう事だ?」

足立「確かに不可解ですね……」

堂島「ともかく……ガイ者の周辺を洗うぞ、足立」

足立「分かりました」



―――――――――――


数日後の放課後

ジュネス フードコート


花村「……どういう事なんだよ」

花村「モロキン、【マヨナカテレビ】に映ってねーのに……」

比企谷「現時点では全くわからん」

比企谷「模倣犯の可能性もあるしな……」

雪ノ下「確かにね……でも、一連の連続殺人犯の仕業だとしたら」

雪ノ下「何があったのかしら?」

天城「……もしかしたら」

里中「何か心当たりあるの? 雪子」


天城「うん……」

天城「犯人は、りせちゃんも入れると」

天城「連続4人も失敗してるんだよね?」

りせ「……あ」

りせ「テレビに入れても死なないから、業を煮やして」

りせ「自分の手で、って事?」

比企谷「なる程……ありえるな」

比企谷「だが、それだと生き残っている人間の方を」

比企谷「先に始末したいと考える方が自然じゃないか?」

里中「こ、怖い事、言わないでよ!」


比企谷「落ち着け、里中」

比企谷「俺が言いたいのは 里中たちが生きているという事は」

比企谷「天城の言う理由ではない可能性が高い、という事だ」

里中「ああ……そういう事」

花村「じゃあ……結局振り出しに戻るわけか」

花村「犯人の目的……それが全くわからねーと、手詰まりって事だな」

花村「はあ……」

     ズーン……

雪ノ下「で? どうするの?」

花村「は?」

雪ノ下「わからないから、と言って諦めるの?」


花村「!」

花村「……いや」

花村「元々、警察じゃ手に負えないと思って始めた事だし」

花村「それに、クマとも約束したしな。 必ず犯人捕まえるって」

雪ノ下「だ、そうよ? ヒキガエルくん」

比企谷「さらっと悪口言うな」

比企谷「まあ……俺も花村と同意見だ。 降りるつもりはない」

雪ノ下「そう。 あなたと意見が合うのは釈然としないけど」

雪ノ下「私も拉致られた報いを受けさせたいしね」

比企谷「発想が怖えーぞ……」

里中「それじゃ、これからどうすんの?」

比企谷「俺としては、まず、クマに会って今回の一件」

比企谷「あの世界と関係があるのかどうか、聞いてみたいと思う」



―――――――――――


ジュネス 家電売り場


     ガヤ ガヤ

天城「……なんだか店員の人、多いね?」

りせ「妙にざわついてるけど……何かあったのかな?」

花村「ちょっくら聞いてみるわ」


花村「ちぃーす! 何かあったんですか?」

従業員「ああ、陽介くん」

従業員「熊田って人が来てるんだけど……君、知ってるかい?」

花村「はあ? 熊田?」


クマ「およよよよよよよよよよ……これがマッサージ椅子クマねー」

里中「おわぁ!? 何で居るの!?」

天城「て言うか……こっちに来れるんだ」

クマ「そりゃあ来れるクマよ」

クマ「今まではそういう発想が無かったって、だけクマ!」

りせ「それにしても……もう怪我とかはいいの?」

クマ「りせちゃんは優しいクマ~。 もう問題ないクマ!」

比企谷「マジっすか……」

クマ「あっ! そうそう。 さっき名前聞かれたから”クマだ”って言っといたクマ!」

花村「はは……クマだ……ね」


―――――――――――


ジュネス フードコート


クマ「だから誰も来てないクマ!」

比企谷「ここのところ、ずっと調子悪かっただろう?」

クマ「だとしても『誰かが入れられた事』くらいは、分かるクマ!」

比企谷「という事は……今回の事件」

比企谷「一連の犯行とは全く異質なモノ、という事か」

里中「あーもう……全くわかんない」

天城「いったい何が起こっているのかしら……」

クマ「う~……それにしてもこっちは暑いクマね~」

クマ「取ろ」

     コス コス


花村「ちょ!? おま、こんな所で がらんどう見せるとかねーから!」

花村「見てる子供、トラウマレベルだっての!」

クマ「はなすクマ、ヨースケ!」

クマ「クマ、もう空っぽじゃ無いクマ!」

     スポン!

クマ「ふう~……いい風~」


一同「」


花村「おまっ……おまっ……ええっ!?」

里中「な、中身が……!?」

雪ノ下「ありえない……ありえないわ、こんな事……」

比企谷「ど……どど、どういう事……何だよ……!?」


クマ「いやぁ~こっちの世界に興味深々で」

クマ「その為には、センセイ達みたいな格好の方が都合がいいと思ったから」

クマ「クマ、頑張って生やしたクマ!」

天城「……生やしたいからって、生えるものなの?」

花村「俺らの常識は通じねえとは思ってたけど……」

花村「人間生やしたってのかよ……マジありえねえ」

雪ノ下「全くもってその通りよ。 常識はずれもいいところ」

雪ノ下「というか圏外よ、圏外。 信じられない、ありえない、おかしいし理解できない」

比企谷「落ち着け、雪ノ下」

クマ「ところで~、何か着るもの持ってないクマ?」

クマ「クマ、生まれたままの姿クマよ~」


天城「ちょ!?」///

里中「こ、こんなところで全開とか、絶対ダメだから!」///

雪ノ下「服売り場に急ぐわよ!」///

クマ「およ!? ひ、引っ張ると、ちょっと痛いクマ~!!」

     ドドドドドドド……

花村「…………」

比企谷「…………」

りせ「…………」

りせ「な、なんか……賑やかだね!」

比企谷「……まあその内慣れると思う」

りせ「あたしは楽しくていいと思うけど?」

花村「りせちーがそう言ってくれるなら、問題は無さそうだな」


??「……ちょっとすみません」

比企谷「……?」

??「そちらの……久慈川りせさんにお話があるのですが」

りせ「あたしに?」

??「はい。 僕の名前は白鐘直斗と言います」

比企谷「……!」

花村「……!」

りせ「それで? いったい何の用かしら?」

白鐘「単刀直入にいいます」

白鐘「ここ最近……おかしな事は無かったですか?」


りせ「……」 チラ

比企谷「…………」

りせ「……いいえ。 特にないけど?」

白鐘「…………」

白鐘「そうですか」

白鐘「あなたは有名人でもあります。 くれぐれも身の回りにはお気を付けて」

白鐘「では……」

     テク テク テク…

花村「……比企谷、今のって」

比企谷「ああ……たぶん雪ノ下を訪ねた『白無垢直江』だろうよ」

花村「白鐘直斗っていうのか……何者なんだろうな」

比企谷「わからん……が」

りせ「が?」

比企谷「敵じゃないかもしれないな」


りせ「じゃあ……本当の事、言うべきだった?」

比企谷「いや、あれはあれでいい」

比企谷「何者かわからないし、あくまで敵じゃないが『味方』であるかは微妙だしな」

花村「ま、あの世界の話は信じてくれないか……」

比企谷「そういう事だ」

りせ「それはともかく比企谷先輩、これからどうするの?」

比企谷「警察の立場なら、被害者の周辺を調べるところだな」

花村「聞き込みでもするか?」

比企谷「やりたいところだが、今目立つのはちょっとな……」

比企谷「例の……足立さんの上司に俺は目をつけられているみたいなんだ」

花村「うげ……あの無精ヒゲの怖い刑事さんか。 厄介だな」


里中「お待たせー」

花村「おう、里中。 ご苦労さん」

比企谷「……何で胸に赤いバラつけてるんだ、クマ」

クマ「ふぁっしょんクマ!」

比企谷「…………」

雪ノ下「そのくらいは許容しなさい。 いろいろ大変だったんだから」

天城「なんか……目に映るもの全部珍しいみたいでね」

天城「あれこれ質問攻めにあって……」

里中「ランジェリー売り場から、なかなか離れ様としないし……」

比企谷「……どうやら、しばらく『教育』が必要みたいだな」

クマ「クマ?」

     ハハハ……


白鐘「…………」

白鐘(あれは……この前、行方不明になった)

白鐘(雪ノ下雪乃……)

白鐘(そして里中千枝に天城雪子……か)

白鐘(…………)

白鐘(明らかに不自然な集まりだ)

白鐘(今回の殺人事件に関わりがあるのかは不明だけど……)

白鐘(これまでの件には関係している可能性が高い)

白鐘(少なくとも、何かを隠している)

白鐘(…………)

     テク テク テク…


翌日

教室


     ガヤ ガヤ

花村「今日からだっけ? 新しい担任が来るの」

里中「うん。 そう聞いてるじゃん?」

天城「誰なんだろうね?」

比企谷「モロキン以上の人材はなかなか居ないだろ」

雪ノ下「それもそうね」

     ガラッ

??「みっなさ~ん♥」

一同「!!?」

??「今日からぁ、亡くなられた諸岡先生に代わりまして」

??「このクラスのぉ担任になったぁ、柏木典子でぇす♥ んふっ♥」


比企谷「」

雪ノ下「」

花村「うげぇ……モロキンから柏木って、どんな強烈コンボだよ……」

比企谷(平塚に勝るとも劣らねえな……)


―――――――――――


放課後

屋上


花村「はあ……疲れた」

雪ノ下「あの先生、いちいち鬱陶しいわ」

比企谷「反論できないな」


天城「そういえば、もうすぐ期末試験だね」

里中「うひゃあ……すっかり忘れてたぁ」

花村「事件にかかりっきりで、試験勉強なんてまるっきりやってねえ……」

花村「比企谷はどうだ?」

比企谷「俺はそれなりに」

花村「マジかよ……良かったら勉強教えてくれねえか?」

比企谷「いいだろう」

比企谷「愛屋の肉丼で手を打つ」

花村「ぐ……ちゃっかりしやがって。 まあいい、頼むわ」

里中「ね、ね。 雪子、頼める?」

天城「うん。 いいよ、千枝」

花村「な!? 天城、俺も頼む!」


里中「だーめ、花村」

里中「あんた比企谷くんと契約したんでしょ?」

花村「そ、そりゃそうだけど……」

雪ノ下「…………」

比企谷「……雪ノ下はしてるのか? 試験勉強」

雪ノ下「! な、何を……してるに決まってるじゃない、比企谷くん」

里中「へえ! じゃあさ、雪ノ下さんも一緒にどう?」

雪ノ下「え……わ、私は……」

天城「迷惑なら、はっきりそう言ってね?」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「ううん。 そんな事ないわ」


里中「よし! 決まり!」

里中「ぬふふ~優秀な講師が二人も来てくれるとは、ツイてるじゃん!」

花村「ぬぐぐ……比企谷!」

花村「肉丼の分、しっかり働いてもらうからな!」

比企谷「もちろんだ」

比企谷「もらった報酬分の働きはしてみせるとも」

花村「その言葉、忘れんなよ!」

比企谷「…………」

比企谷「話を変えるが、クマの奴はどうしてる?」

花村「ああ、あいつならとりあえず俺ん家で面倒見てる」

花村「もちろん時々だがな。 大抵あっちの世界に帰っているし……」

花村「せっかくなんで、着ぐるみバージョンでジュネスでバイトさせてる」

比企谷「なる程……いい社会勉強させてるみたいだな」



―――――――――――


下校時

八十神高校 校門前


     ガヤ ガヤ

花村「はあ……気が重いなぁ」

比企谷「今からそんなでどうする」

花村「わかってる……わかってるけど」

花村「何が悲しくて、これからお前と二人っきりで勉強せにゃならんのか、と思うとなぁ……」

比企谷「止めろ……なんか気持ち悪くなってきた」

雪ノ下(……こういうのが好きな人、居たわよね)



??「雪子!」


天城「え?」

花村「……?」

雪ノ下「……誰?」

里中「さあ?」

     ガシッ!

??「さあ、僕と一緒に行こう、雪子!」

天城「ちょ……!? やだ!」

     バシッ!

??「うわっ!」

??「な、何するんだよ!?」


里中「それこっちのセリフ!」

里中「だいたいあんた誰なのよ!?」

比企谷「…………」

比企谷「……あ、思い出した」

比企谷「俺の転校初日、天城に声かけてきた痛い奴か」

??「なっ……」

里中「あー ……居たね、そんな奴」

雪ノ下「という事は……知り合いでも何でもないって事なの?」

天城「……ええと」

天城「ごめん。 誰だっけ?」

??「っ!?」


比企谷(うわぁ……)

里中(雪子、まったく覚えてないのね……)

花村(こりゃ本気で痛い奴だな……)

雪ノ下(逆に哀れになってきた)

りせ(なんだか知らないけど、こういう人多いよねー)


??「く……くそっ!」

??「お、お前ら! 覚えてろよっ!」

     タッ タッ タッ…


天城「…………」

天城「なんなの? あれ?」

比企谷「ま……暑くなってるし、ああいう奴も出てくるだろ」



―――――――――――


期末試験最終日の放課後

ジュネス フードコート


花村「は~……やっと試験、終わった」

里中「雪子、どうだった?」

天城「まあまあかな?」

里中「そっかぁ……あたしは理科と国語がヤバすぎ」

花村「俺は英語と国語がやべえ……」

りせ「先輩たちも大変みたいですね」

比企谷「久慈川はどうだった?」

りせ「……英語なんて必要ないもん。 通訳雇うし」


りせ「比企谷先輩はどうだったんですか?」

比企谷「簡単すぎてあくびが出た」

花村「俺もそんなセリフを言ってみてぇ……」

比企谷「ヤマは当たってたし、どうして出来なかったんだよ」

花村「そ、それは……まあ……」

花村「ゆ、雪ノ下さんはどうだった?」

雪ノ下「簡単に出来たけど?」

花村「……な、なんて言うか、頭の出来が違うのかな……」

里中「それ言ったら惨めなだけじゃん……」

天城「つ、次、頑張ろう? 千枝、花村くん」


里中「もうすぐ夏休みかぁ~」

花村「今年は何して遊ぶかな?」

クマ「なになに? 遊ぶって何で遊ぶクマ?」

花村「おわっ! いきなり出てくんなよ、クマ吉!」

クマ「クマは~是非ともストリッ」

     バキッ!

里中「…………」

クマ「な、何でもないクマ……イタタ」

花村「まあ? このメンツなら、フツーに合コンとかじゃね?」

里中「いきなり何言ってんのよ花村」

天城(合コンって何だろう?)

雪ノ下「冗談にしても笑えないわよ、エロ村くん」


花村「何でだよ……比企谷はどうするつもりだ?」

比企谷「健全にゲームでもやって過ごすわ」

花村「どこが健全だよ!?」

雪ノ下「極めて不健全ね」

里中「太陽の下には出ようよ……」

天城「普通は読書とか言わない?」

りせ「らしいと言えば、らしいけどね」

クマ「センセイ~みんなと遊ぶクマよ~」

比企谷「……何で俺のやりたい事、非難されてるんだよ」

比企谷「別にいいだろ」

花村「はは……ま、お前はそういう奴だよな」


花村「けど」

花村「そんなだから、モロキンに『腐ったミカン』とか言われるんだぞ?」

比企谷「ほっとけ」

里中「…………」

里中「モロキン、か……」

里中「あたし……苦手だったなー」

天城「私も……」

比企谷「初対面からムカつく奴だと思ったな」

雪ノ下「小物臭が酷い人物だったわ」

花村「好きだった奴なんて多分いねーよ」

花村「けど……あんな死に方、ねーよな」


里中「うん……」

天城「少なくとも……死んでいい人じゃない」

比企谷「何かしら恨みは買ってそうだけどな」

雪ノ下「比企谷くん……死人に鞭打たない」

花村「犯人。 絶対俺らで捕まえようぜ!」

りせ「うん! あたしも頑張るね!」

クマ「クマ!」

     アハハハ



??「その必要は、もう無いですよ」



比企谷「!?」


比企谷「白鐘直斗……」

花村「……おい、必要ないってどういう意味だよ?」

白鐘「そのままの意味です」

白鐘「警察は犯人の目星を付けた様ですので」

一同「!」

白鐘「ですから、遊び半分で警察の真似事をしなくてもいいんですよ」

比企谷「…………」

花村「こっちは大事な人が殺されてんだ。 遊びなんかじゃねえよ」

白鐘「……関わった事は否定しないんですね」

花村「……!」


りせ「ちょっと! 遊び遊び言ってるけど」

りせ「あんたこそ探偵気取りで、遊び半分でやってんじゃないの!?」

白鐘「…………」

白鐘「僕にそのつもりはありませんが……」

白鐘「みなさんから見たら、そう見えるのかもしれませんね」

比企谷「…………」

比企谷「で? お前は探偵なのか?」

白鐘「……世間では『少年探偵』などと呼ばれています」

白鐘「警察に助力を依頼されましたが、どうやらそれも終わりみたいです」

白鐘「いつもの事ですが……」

白鐘「必要な時にしか呼ばれないのは、時々虚しく感じてますよ」

白鐘「もう慣れましたけどね」

比企谷「…………」

白鐘「しかし――」


比企谷「しかし……何だ?」

白鐘「…………」

白鐘「いえ……何でもありません」

白鐘「機会があれば、またお会いしましょう」

白鐘「では……」

     テク テク テク…

りせ「何アレ!? 失礼しちゃうわ!」

比企谷「落ち着け、久慈川」

比企谷「ともかく、だ。 これで新たな犯行が増えないのならそれでいい」

比企谷「だが……あいつは」

花村「あいつが何だって言うんだ?」

比企谷「これで終わったと思っていないのかもしれん……」

一同「…………」


     ポッ… ポッ……

     サアアアア……

天城「あ……降ってきたね」

雪ノ下「天気予報通りだわ」

比企谷「…………」

比企谷「ともかく、今夜の【マヨナカテレビ】を見てから、だな」

花村「ああ。 クマ吉との約束もあるし!」

クマ「およよ、ヨースケ~」

花村「こら! 抱きつくんじゃねえ! 暑苦しいだろーが!」

     アハハハ……



―――――――――――




足立宅


足立「え? 容疑者が固まったって?」

比企谷「違うんですか?」

足立「う~ん……そういう時もあったんだけどね」

足立「というか、どこからそんな情報 掴んできたんだい?」

比企谷「少年探偵から聞きました」

足立「ああ……あの子、ね」

比企谷「何かあったんですか?」


足立「ははは。 まあ頭が切れる、と言ってもまだまだ子供だしね」

足立「警察としては参考程度に聞いていたんだけど……」

足立「彼、かなりこの件に入れ込んでてね」

比企谷「…………」

足立「現場も知らないガキのくせに あれやこれや口出ししてきて……」

足立「あ、ちなみに今のは堂島さんが言ってた事だよ?」

比企谷「はあ……」

足立「ともかく、色々と鬱陶しくて邪険に扱われたのは間違いないね」

足立「そういうのの腹いせに君にある事ない事、吹き込んだんじゃないのかな~?」

比企谷「…………」


―――――――――――


深夜


     サアアアア……

比企谷「…………」

比企谷(どういう事だ?)

比企谷(腹いせ? あの白鐘が?)

比企谷(わざわざ『俺』に……?)

比企谷(…………)


     ……ピウィ~……


比企谷「!」

比企谷「映った、か……」


テレビ『…………』

テレビ『僕は……ここだ』

テレビ『捕まえたければ、捕まえてみればいい』

テレビ『どうせ……無理なんだろうけど』

テレビ『フフ……フ……』

テレビ『フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ……』


     ブツン!


比企谷「……」 イラッ…

     ピピピ……ピピピ…… ガチャ

比企谷「比企谷だ」


花村『……映ったな。 【マヨナカテレビ】』

比企谷「ああ……」

花村『しかし、なんつーか……気味の悪いのが映ったな』

比企谷「全くだ」

花村『でも、助けないわけにもいかないよな……』

比企谷「……そうだな」

比企谷「いずれにしても明日、ジュネスで」

花村『ああ』

     ブッ… ツー ツー

比企谷「…………」




     この時――

     俺は雪ノ下の時とは違ったイラつきを感じていた。


今日はここまでです。畜生……またしても一週間かかってしまった。
連休中に投下出来るといいなぁ……

乙ー
痛い奴か、ヒッキーはわりと弱者には優しいから思ってはいても言葉には出さないんじゃないかなぁ
ただし材木座は除く

弱者といっても悪意ありまくりな奴に優しくするほど甘くは無い

乙!
連休中楽しみにしてるけど、無理しないようにね!

おつ



―――――――――――


????


イゴール「……ようこそ、ベルベッドルームへ」

イゴール「お久しぶりでございますな、お客様」

イゴール「今回もお客様の夢の中にてお招きしておりまする」

イゴール「…………」

イゴール「ふふふ……結構」

イゴール「それで、いかがお過ごしでございますかな?」

イゴール「…………」

イゴール「ほう……それは興味深い」


イゴール「困難に立ち向かう現状にあり、それでいて」

イゴール「独自の解釈と意思を貫き通しておられる……」

イゴール「いやはや……まことに希少な『ワイルド』を拝見させていただいております」

イゴール「…………」

イゴール「ふむ? アドバイス?」

イゴール「ふふふ……道は幾筋もあり、時には重なる事も 交わる事も」

イゴール「そして途切れる事も有りましょう……」

マーガレット「節目の年を迎えられたお客様の行く道は」

マーガレット「深い霧に覆われ、道を探す事も困難」

マーガレット「しかし……」

イゴール「目的地は、ただの一つにございます……」


イゴール「…………」

イゴール「意味がわからない……左様でございますか」

イゴール「”今”は……それで良いのかもしれませぬ」

イゴール「いずれにしても……」

イゴール「お客様の望む未来は、その手に託されており」

イゴール「道半ば……といったところでしょうか」

イゴール「また、困難に立ち向かう方法も一つではございませぬ」

イゴール「その事は お忘れなき様お願いいたします」

イゴール「…………」

イゴール「ふふふ……それはお客様次第でございますな」

イゴール「わたくしめにその選択を左右させる意義も、意味も、ございませぬので……」

イゴール「すみませぬな……」


イゴール「おお……そろそろお目覚めの時刻にございますな」

イゴール「最後に」

イゴール「お客様の持つ力、『ワイルド』は」

イゴール「御身の制御下にある訳ではありませぬ」

イゴール「例えるならば……お客様にまとわりつく」

イゴール「目に見えない意思を持った頑丈な羽衣、とでも申しましょうか……」

イゴール「…………」

イゴール「……すみませぬ。 そうですな……お客様風に言うのならば」

イゴール「『気にしたら負けだ』、という事にございます」

イゴール「…………」

イゴール「ふふふ……それでは いずれまた」

イゴール「夢の中でお会いいたしましょう……」



―――――――――――


テレビの中の世界


     ピピピ……ピピピ……

りせ「うん。 こっちの方向だわ。 間違いない」

クマ「ほわぁ~。 りせちゃん、すごいクマ」

クマ「クマの鼻センサーより強力クマよ」

りせ「えへへ。 ありがと、クマ」

クマ「クマ!」

比企谷「よし、行ってみるか……」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「……?」



―――――――――――


ボイドクエスト


里中「何? ここ?」

花村「ちょいと昔に流行った、ゲームみたいだな」

天城「比企谷くんもそう思う?」

比企谷「ん? ……まあ、な」


雪ノ下(……気のせいかしら?)

雪ノ下(比企谷くん……機嫌が悪そう)


花村「にしても今回の被害者、気味の悪いヤツだったな」


里中「そうそう! どっかで見た事あるな~と、思ってたんだけど」

里中「ほら、この前、いきなり「雪子~」って言い寄って来たあいつじゃん?」

花村「ああ! そういやそうだわ」

花村「俺もどっかで見た様な……って思ってたんだ」

花村「そっか、あの痛い奴か」


比企谷「…………」 イラッ


天城「それに【マヨナカテレビ】で言ってた事もひっかかるよね?」

天城「『捕まえたければ、捕まえればいい』なんて……」

天城「まるで自分が犯人みたいな言い方だった」


里中「あいつ~! きっとこれまでの事件の犯人なんだよ!」

里中「顔面靴跡の刑にしてふん捕まえてやる!」

花村「ま、その辺も身柄を確保してからだな……」

花村「ようし、相手がゲーム感覚で来るなら、こっちも完全クリアを目指しますか!」

花村「行くぜ、比企谷!」

比企谷「……ああ」

花村「男はみんなゲーム好き!」

クマ「女の子は全員クマが好き!」

     ハハハ……

雪ノ下「…………」



―――――――――――


     久保くん? 来てたんだ?

     影薄いから気がつかなかった! ゴメーン



     しょうがないよー 久保なんだもん



     止めろ……


里中「これって……」

花村「ああ……きっとあの気味悪い奴の『現実』ってやつだろ」

比企谷「…………」 イライラ…




     はあ? 何それ? 告白ぅ?

     マジキモいから止めて欲しいんだけど



     てか、もう話しかけないでよね



     止めろよ! 何なんだよ、これ!!


りせ「……おおよそ想像つくけど」

りせ「かなり嫌われてたみたいね」

花村「ま、しょうがねーんじゃね? あんなキモい奴、俺だって願い下げだ」

比企谷「…………っ」 イライライライラ

雪ノ下「…………」




     久保美津雄っつーのかよ。 名前からして出来が悪そうだな。

     まあその辺で座ってろ。 何もしなくていいから。


     ちっ……店長も何でこんな役立たず入れんだよ……ったく。



     止めろ……止めろ! もう止めてくれ!


花村「久保美津雄っていうのか……」

里中「なんか、かわいそうな奴だね」

クマ「クマには意味が分からないクマ」

比企谷「…………」 イライライライライライライライライラ

雪ノ下「…………」



     バァーン!


久保「!?」

久保「誰だ!?」

花村「はっ! 正義の味方、参上!」

花村「久保美津雄! お前を連続殺人事件の容疑者として、身柄を確保しに来た!」

久保「連続殺人……犯人……」

りせ「観念しなさい!」

久保「く……ふふふ……ははは……」

久保「ハハハハハハハ!! そうさ! 僕がやったんだ!」


一同「!?」



影・美津雄『……何を言っても……無だ』


久保「!」

久保「お前! さっきから何なんだよ!?」


影・美津雄『僕は……君だ』


久保「ふざけんな!」

久保「僕は僕だ! お前なんかであってたまるかよ!!」


一同「!!」


影・美津雄『認めないんだね……僕を』


     ズウウウウウウウウウンッ……!


久保「」 ドサッ…



影・美津雄?『僕は…………影だ……』


     ド   ン  !!


花村「ちっ……!」

花村「止める間もなく戦闘かよ!」

花村「行くぞ! みん」


比企谷「ああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


一同「!!?」

雪ノ下「ひ、比企谷くん!?」



比企谷「ペルソナァッ!!」 イザナギ!


花村「ど、どうしたんだよ!? 比企谷!?」

クマ「セ、センセイ!?」

里中「と、ともかく、援護しないと!」

天城「来て! コノハナサクヤ!」

雪ノ下「イザナミ!」

りせ「ヒミコ!」


比企谷「ざけんなっ! ざけんなああああああああっ!」

比企谷「現実はそんな甘かねーんだよ!!」

比企谷「てめえは! 何、一人でイキってんだああああああああっ!」


一同「」



―――――――――――


比企谷「ハアッ ハアッ ハアッ ハアッ…」

花村「……」

里中「……」

天城「……」

りせ「……」

クマ「……」

雪ノ下「……」


久保「……う……ううん」


久保「……!?」

久保「な……なんなんだ……?」

花村「……っとすまん」

花村「久保美津雄……だったな」

久保「あ、ああ……」

花村「お前が犯人で間違いないんだな?」

久保「……!」

久保「……ああ、そうさ!」

久保「全部僕だ! 僕がやったんだ!」


花村「そうかよ……ところでお前、自分の【シャドウ】……いや」

花村「あそこにいる自分と向き合わないのか?」

久保「じ、自分……?」


影・美津雄『…………』


里中(っていうか……どっちが【シャドウ】かわかんないくらいね)

久保「あれが……あんなのが僕だって言うのかよ!?」

花村「落ち着け。 言っとくがあれは確かにお前だが……お前の全てじゃねえ」

花村「誰もが持っている自分の嫌な一面ってだけだ」

久保「う、うるさい! そんなわけあるか! 僕は僕だ!」

久保「あいつが僕の一部!? 絶対違う!!」

花村「お、おい、落ち着けって……」

久保「うるさい うるさい うるさい!」

久保「認めない……あんなの……絶対僕じゃない!」



影・美津雄『』


     シュウウウウウ……


一同「!!?」

花村「お、おい!?」

里中「【シャドウ】が……崩れて、消えてく」

     ウウゥゥ……

久保「ハ……ハハハ……消えやがった」

久保「ざまあみろ! 偽者め! ハハハハハハハッ!」

久保「うぐっ……!」

天城「大丈夫……なのかな?」

りせ「…………」

りせ「あたしのペルソナで見た限りじゃ問題ないみたいだけど……」

比企谷「…………」


花村「ともかく戻ろう」

花村「本人がやったって認めているし……」

花村「こいつを突き出して後は警察に任せよう」

里中「じゃあ……これで終わり?」

天城「そうなる……のかな?」

クマ「…………」

りせ「…………」

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」


―――――――――――


夕方

河川敷


比企谷「…………」

比企谷「…………」

雪ノ下「比企谷くん」

比企谷「…………」

雪ノ下「隣、座るわよ」

比企谷「…………」

     ストン…

雪ノ下「…………」

雪ノ下「らしくないわね」

比企谷「…………」


雪ノ下「みんな……気にはなったみたいだけど」

雪ノ下「あえて聞かなかったみたい」

比企谷「…………」

雪ノ下「……私もあんな比企谷くん、初めて見た」

雪ノ下「今回……テレビの中に入ってからずっと変だったし」

雪ノ下「何かあったの?」

比企谷「……何もねぇよ」

比企谷「少し虫の居所が悪かっただけだ」

雪ノ下「そう。 ”少し”ね」

比企谷「そういう事にしておけ」

比企谷「……いや、しておいてくれ」

比企谷「頼む、雪ノ下……」


雪ノ下「…………」

雪ノ下(よっぽど……言いたくないのね)

雪ノ下(…………)

雪ノ下(下手に問い詰めても自体を悪化させるだけ)

雪ノ下(私は……)

雪ノ下(どうしたらいいんだろう……)

雪ノ下(…………)


比企谷「…………」

比企谷「もういいだろ」

比企谷「しばらく一人にさせてくれ」

雪ノ下「…………」




足立宅


     ピピピ……ピピピ…… ガチャ

比企谷「……もしもし」

比企谷「ああ……足立さん」

比企谷「…………」

比企谷「そうですか……犯人捕まったんですね」

比企谷「…………」

比企谷「ああ、いいですよ」

比企谷「ゆっくり堂島さんと打ち上げしてください。 こっちは何とでもできますから」

比企谷「はい……はい……」

比企谷「それじゃ……」

     ブッ……


翌日

学校


     ガヤ ガヤ

花村「おはよーさん」

里中「おはよう」

天城「おはよう、花村くん」

雪ノ下「……おはよう」

花村「…………」

花村「比企谷……休みか」

雪ノ下「ええ……」

花村「雪ノ下さん、後で話を聞かせてくれるか?」

雪ノ下「わかってるわ」


放課後

屋上


里中「今日で一学期もおしまいかぁ」

里中「事件も解決して明日から夏休みだっていうのに……」

里中「なんかすっきりしない……」

天城「…………」

花村「…………」

りせ「…………」

     ガチャ

雪ノ下「おまたせ」

里中「あ、雪ノ下さん」


雪ノ下「結論から言うわね?」

雪ノ下「何かを抱えているみたいだけど……何も聞き出せなかった」

花村「そっか……」

天城「…………」

天城「ちょっと……変な事言うけど」

天城「私、安心してたりするの」

りせ「え!?」

りせ「どういう事ですか? 天城先輩」

天城「なんて言うかさ……比企谷くんて」

天城「鉄で出来ているのかな?とか思ったりしてたから」

花村「はは、まあ分かるわ」


天城「いつも冷静で、常に客観的で、どこか冷たく分厚い壁を作ってる」

天城「そんな風に見てたんだけど……」

天城「あの時の比企谷くんは、全然違った」

里中「あたし比企谷くんの叫び声、初めて聞いたじゃん?」

天城「私もびっくりした……でも」

天城「全然冷静じゃない、ああいう一面もあるって……」

天城「人間らしいところ、あるんだなって思ったんだ」

一同「…………」

花村「……人間らしい、か」

花村「本人聞いてたら「うるせーぞ」とか「ほっとけ」とか言いそうだな」 クス

天城「ふふ、たぶんね」

花村「けど……言いたい事はわかるぜ、天城」


りせ「何か……出来る事ないかな?」

花村「俺はもう考えてるぜ」

雪ノ下「……どうせロクでもない事でしょうけど」

雪ノ下「どんな事?」

花村「決まってんだろ? 明日から夏休みなんだぜ?」

花村「遊ぶんだよ! 盛大にな!」

里中「花村らしいね」 クスッ

花村「おうさ! あいつがどんなに嫌がっても遊びに連れ出す!」

花村「今の比企谷は一人にしちゃいけねぇと思うからな」

花村「遊んで遊んで遊び尽くして、明るい比企谷にしてやる!」

天城「そんな比企谷くん、ちょっと想像できないけどね……」 クスッ


雪ノ下「……でも」

雪ノ下「今はそっとしておくべきなんじゃないかしら?」

雪ノ下「かえって逆効果の様な気がするんだけど……」

花村「それでもいい」

雪ノ下「え?」

花村「俺は比企谷から逃げねえ。 確かに嫌がるかもしんねーけど」

花村「その時は殴り合ってでも遊びに連れて行くさ」

雪ノ下「……それは本末転倒じゃないの?」

花村「卑下するわけじゃねーけど……」

花村「こういうのは男じゃねぇと分かってもらえないかもしんねぇな」

雪ノ下「…………」

里中「あたしは少し分かるじゃん?」


里中「シェル○リットのカ○マと○鳳みたいな?」

花村「衛星軌道上でやり合う奴らと一緒にすんなよ……」

雪ノ下(何の話?)

花村「ともかくだ。 これは俺の意見だけど他にいい方法があるか?」

一同「…………」

花村「うし。 じゃあ何して遊びたい?」

里中「うーん……格闘技の訓練とか?」

花村「それ遊びじゃねーだろ」

天城「バトミントンやバレーボールなんてどうかな?」

花村「それそれ! そういうの健康的でいいな! 天城!」

りせ「あたしはカラオケとかいいと思う! 歌いまくってスッキリしよう!」

     ハハハ……


雪ノ下「…………」


     ――俺は比企谷から逃げねえ――


雪ノ下(私は……逃げている?)

雪ノ下(比企谷くんは、そっとしておいて欲しいんじゃないの?)

雪ノ下(…………)


     ――確かに嫌がるかもしんねーけど――

     ――その時は殴り合ってでも遊びに連れて行くさ――


雪ノ下(…………)

雪ノ下(どうしてだろう……?)

雪ノ下(そうすべきだと思っている自分がいる)

雪ノ下(…………)


翌日 夏休み初日

足立宅


     ピンポーン

足立「はーい」

     ガチャ…

足立「おや? 君は……」

花村「こんちわっス! 比企谷、居ますか?」

足立「ああ、居るけど……」

足立(この前の先生といい、どうしてここの住所知ってるの?)

足立「じゃ、ちょっと呼んでくるから待ってて」


     ガラッ

足立「比企谷くん。 友達が遊びに来てるけど?」

比企谷「……寝込んでるって事にしといてください」

足立「……喧嘩でもしたのかい?」

比企谷「そういうわけじゃ……もういいです」

     スタ スタ スタ…

足立「…………」


―――――――――――


比企谷「何の用だ?」

花村「何の用? 決まってるだろ!」

花村「夏休みに入ったんだ。 遊ぶ以外の用事があるかっての!」


比企谷「……悪いがそんn」

花村「いいから来いよ! 比企谷!」 グイッ!

比企谷「お、おいっ!?」


河川敷


天城「あ! 来た来た!」

里中「おーい!」

花村「待たせたな。 引っ張り出してきたぜ!」

比企谷「……俺を道具扱いすんな」

クマ「うほほーい! センセーイ! 一緒に遊ぶクマ!」

天城「きっと楽しいよ?」


比企谷「…………」

雪ノ下「さ、バレーボールから始めるわよ?」

比企谷「雪ノ下まで参加してんのか……」

雪ノ下「いけないかしら」

比企谷「そうは言ってねーだろ」

雪ノ下「あらかじめ言っておくけど」

雪ノ下「この後サッカーやってバトミントン」

雪ノ下「そして隣町?に繰り出してゲーセン、カラオケに行く予定」

比企谷「何その強行スケジュール……聞いてないんですけど?」

雪ノ下「言ってないから当たり前ね」

比企谷「今日は平和にゲームして過ごす予t」

りせ「はーい! いっくよー! 比企谷先輩!」

りせ「えいっ!」


     ポーン! トス! トス! レシーブ!

クマ「クマ! 根性見せるクマよ~!」 ダダダッ!

里中「ナイス! ええーい!」

天城「比企谷くん! 行ったよ!」

比企谷「そりゃ」

雪ノ下「少しはやる気出しなさい。 えいっ」

比企谷「雪ノ下も似た様なもんじゃねーかよ」

花村「うし! 任せな! おりゃ!」

クマ「ヨースケ、ナイスクマ! アターック!」 バシッ!

     バコンッ! テン テン テンッ…

比企谷「…………」 ヒリヒリ…

一同「」


クマ「あわわわわわ……」

比企谷「……クマアアアアアアアッ!!」

クマ「およよ―――――――――――!!」

クマ「センセイ、ごめんなさいクマ―――――――――――!!」

     ダダダダダダダダッ!

里中「……ぷっ」

里中「あはははははは!」

天城「ち、千枝……笑ったら失れ……ぷふっ」

りせ「あはははは!」

花村「ハハ! 元気いいじゃねーかよ、比企谷!」

雪ノ下「…………」 クスッ




     ……くそったれ。

     結局うまく乗せられた気がするが……俺はその日一日

     悔しさもあって、遊びに遊び倒した。



     でもまあ……気持ちとしてはすっきりした。

     感謝なんてしてやらねぇけどな。 花村、覚えてろ……

     試験前になったら地獄の勉強会を開いてやる。




―――――――――――


数日後

拘置所


     コッ コッ コッ…

拘置所員「久保美津雄。 飯だ」

久保「…………」

拘置所員「…………」

拘置所員「早く受け取れ。 後がつかえている」

久保「…………」

拘置所員(……ったく)

     ガチャ ガチャ…… キィ……

拘置所員「飯、ここに置くぞ」


久保「…………」

拘置所員「聞いているのか? 久保……」

久保「…………」

拘置所員「……? 久保?」

拘置所員「どうした? 気分でも悪いの……」 スッ…

     ズルル…… ドサッ

久保「」

拘置所員「!? 久保!?」

拘置所員「…………」

拘置所員「!!」

拘置所員「嘘だろ……どうして!?」

拘置所員「誰か! 救急車! 救急車を呼んでくれ!」

拘置所員「久保が……久保美津雄の脈が無い!」




     八十稲羽で起きた連続殺人事件の容疑者、久保美津雄は

     拘置所内で謎の変死体となって その生涯を閉じていた――


今日はここまでです。
ヒッキー改変しすぎかもしれませんが、どうかご容赦を……。

美津雄については本編見ててこれくらいあるんじゃね?とか思ってたのを
やってみたかったので……。本編も(生死的な意味で)その後が語られてないですし。

それから次回はちょっと時間がかかりそうです……リアルの事情的な意味で。
来週中にできるかなぁ……とは思っているのですが。進行亀ですみません……。

おつおつ!

おつおつー

乙ー

保守

保守

保守

お待たせしてすみません……
今度の土日には何とか投下できると思います。
本当にすみません……

あいあいさー



―――――――――――


警察署


堂島「ったく! どうなってやがる!」

足立「ど、堂島さん! 落ち着いてください!」

堂島「あいつにはまだ聞きたい事や 不明な点が山程あったというのに……」

堂島「これじゃ振り出しに戻ったも同じだ」

足立「で、ですけど……」

足立「久保美津雄はすべての事件に関与したと自供してるじゃないですか?」

堂島「確かに諸岡殺しはあいつの犯行だ。 裏も取れた」

堂島「だが先の二件になると途端にあいまいになる」

堂島「供述も二転三転するし、何よりも『動機』や『接点』が無さすぎだ……」


堂島「……まあいい。 それで? あいつの解剖所見は出たのか?」

足立「それが……」

足立「監察医は 死因の特定が全く出来なかった様で……」

足立「絞殺や打撲の様な外傷も無く、薬物反応も検出されなかったとの事です」

堂島「…………」

足立「死亡推定時刻は、午前1時頃で」

足立「拘置所員が発見する およそ6時間前だそうです」

堂島「……不可解すぎるな」

足立「久保美津雄は特に持病があった訳でもなく」

足立「前日まで出された食事もきちんと取り、元気だったそうなんですが……」

堂島「自殺も考えにくいな……」


足立「それにしてもまずい事になりましたね」

足立「容疑者とはいえ、未成年者が警察の拘置所内で死んだんですから」

堂島「マスコミか……ったく」

堂島「お前が間違えて引っ張ったのも火種の一つなんだぞ……」

足立「す、すみません……」

堂島「ともかく、マスコミの対応は上のやる事だ」

堂島「俺たちは俺たちのやるべき事をやるぞ」

足立「わかってます、堂島さん」

堂島「よし。 車を回しておけ」

足立「はい!」



―――――――――――


ジュネス フードコート


比企谷「…………」

比企谷「久保美津雄が死んだ……」

花村「……どういう事なんだろうな」

天城「やっぱり……自分の【シャドウ】と向き合わなかったから……?」

里中「他に原因 思いつかないじゃん……」

りせ「私のペルソナで見た限り、問題は無かったのに……」

雪ノ下「でも……これまでの事件の死者もそうだけど」

雪ノ下「どうやって……ええと……」

雪ノ下「”死因”は何になるの?」

比企谷「実は、その辺も良くわからない」


比企谷「俺たちの推測で、これまでの死者は」

比企谷「自分の【シャドウ】の暴走で死んでいる、と、結論づけているだけだしな」

雪ノ下「久保美津雄も……ある意味【シャドウ】の暴走で死んでいるって事?」

比企谷「全くわからん」

比企谷「今回のケースは、俺たちにとっても初めての事だ」

雪ノ下「そう……クマくんはどう思う?」

クマ「ごめんクマ……クマにも全然わからないクマ……」

雪ノ下「…………」

比企谷「いずれにしても あの世界は……人間にとってかなり危険だと再確認できた」

比企谷「本人の供述通りなら、これで殺人事件はおしまいだし」

比企谷「この街はやっと平和になる」




一同「…………」



花村「なーんか……すっきりしねぇな」

花村「テレビじゃ久保美津雄の供述で単なる愉快犯、とされているし」

花村「小西先輩……そんな事で殺されたのかよって、無性にモヤモヤするぜ……」

天城「理由があればいいって事でもないけど……酷い話だよね」

りせ「亡くなった人が浮かばれないよね……」

里中「…………」

雪ノ下「どうしたの? 里中さん?」

里中「え? ……う~ん」

里中「あたし、何かが引っかかってるんだけど」

里中「いまいち形に出来なくて……」


雪ノ下「そう……」

     ピピピ……ピピピ……

比企谷「お……すまん」

     ガチャ

比企谷「もしもし……ああ、由比ヶ浜か」


一同「!?」


比企谷「……は? 最近メールが少ない?」

比企谷「いろいろあったんだよ……で? 何か用か?」

一同「……」

比企谷「…………」


比企谷「はあ!? 出来るわけねーだろ!?」///

比企谷「だいたい男しか……冗談?」

比企谷「…………」

比企谷「……はいはい、天城屋ね。 そうでしょうとも」

一同「……」

比企谷「わかった……みんなにも伝えておく」

比企谷「じゃあな」

     ブッ……

比企谷「ったく……由比ヶ浜のやつ」

一同「……」

雪ノ下「比企谷くん」

比企谷「何だ?」


雪ノ下「由比ヶ浜さん、どうかしたの?」

比企谷「夏休みだし、こっちに遊びに来るってさ」

雪ノ下「……へえ」

比企谷「あいつ、『ヒッキーのところに泊めて』とか言って 俺をからかいやがった」

比企谷「もう天城屋に予約を取ってるんだと」

雪ノ下「……そうなんだ」


クマ(ヨースケ、ユイガハマって誰クマ?)

花村(比企谷の前のガッコの女の子友達)

花村(これが結構可愛くて、しかも比企谷に惚れてるっぽいんだぜ?)

クマ(およよ~……センセイも隅に置けないクマ♪)

りせ(へえ。 比企谷先輩、そんな人が居るんだ)

花村(けど……)


雪ノ下「それにしても……由比ヶ浜さんとメールのやり取りしてるのね?」

比企谷「挨拶程度だ」

雪ノ下「どうして私には無いのかしら?」

比企谷「お前には ほぼ毎日会ってるだろ……」


花村(由比ヶ浜さんが来るの、楽しみでしょうがねえ♪)

クマ(可愛い娘は大歓迎クマ!)

天城(血の雨が降る?)

里中(雪子……怖い事言わないで)

りせ(むふふ~確かにワクワクするかも!)



―――――――――――


数日後の昼

足立宅


比企谷(こんにちは、みなさん。 比企谷八幡です)

比企谷(しばらくは平穏そのものでした)

比企谷(封書作りや翻訳のアルバイトで地味に稼ぎつつ)

比企谷(時折 夏休みの宿題やゲームをやったりして本当に静かでした)

比企谷(しかし……)


花村「おーい比企谷。 お前の番だぞ?」

クマ「センセイ、早くするクマよ」


比企谷(事件解決の打ち上げ話が持ち上がり)

比企谷(何故か足立さんのアパートに全員集結しています)

比企谷(ちなみに女子は、遊びに来た由比ヶ浜を加えて)

比企谷(全員昼飯を勝負事で作っている状態)

比企谷(なんでそんな話になったのか……問い詰めてもやめる気配はなく)

比企谷(林間学校時の記憶も新しい俺と花村は 現実逃避の人○ゲームをプレイ中)

比企谷(ただ待つのも暇、という事で、クマと非番の足立さんも参加している)


比企谷「わかってるよ……ほい」 カラカラカラ……

比企谷「うげ……車で事故った。 治療に1000万だと?」

比企谷「ぼったくりにも程がある」

花村「じゃ……次は足立さんっすね」


足立「ほいほい……とりゃ」 カラカラカラ……

足立「うへ……嫁さんが怒って離婚だって」

足立「あちゃ~総資産半分も持って行かれた!」

花村「女って、勝手ですよねー」

足立「トホホ……踏んだり蹴ったりだよ……」

足立「ラブラブで学生結婚したのになぁ」

花村「じゃ、次は俺……と」 カラカラカラ……

花村「株で大損……げっ不動産全部処分かよ!」

花村「お先真っ暗だぜ……」

足立「そんな状態だけど離婚されてないだけマシだね」

クマ「クマの番クマ!」 カラカラカラ……



―――――――――――


クマ「ウッホホーイ! クマ、一番クマ!」

比企谷「……小さな工場経営者で終わった」

足立「……僕は一流企業の社長だけど、離婚した嫁さんへ慰謝料払う日々」

花村「……暖かな家庭を築くも学校の用務員で定年」

クマ「クマは石油王になって、世界経済を引っ張ってるクマ!」

比企谷「しょ、所詮ゲームだ」

足立「そ、そうとも!」

花村「だ、だな!」

クマ「センセイ、もう一回やるクマ?」

比企谷「いや……さすがにもういい」

足立「…………」


足立「ところで比企谷くん」

比企谷「はい」

足立「その……彼女たち、何を作ってるのかな?」

比企谷「一応オムライスです」

足立「一応って……さっきから漂ってくるこのニオイの正体は……?」

花村「一口食べて明らかにおかしかったら遠慮なく吐いちゃってください」

足立「あ~……何となく分かったよ……」


比企谷(さっきから漂ってくるこの異臭)

比企谷(焦げ臭いのは もはや当たり前)

比企谷(オムライスなのに生臭かったり、煮物の匂いがしたりと、本当に得体が知れない……)

比企谷(かすかにケチャップの匂いがするのは唯一の救いだが)


里中「はーい盛り上がってるとこ悪いけど お待たせ!」

天城「お昼ご飯、できたよ!」

クマ「ウホホーイ! 待ってたクマ!」


比企谷(……ついに来たか。 この時が)

花村(もしものゲ○用ゴミ箱は近くにセット……)

足立(こんな気持ちで食事するのは初めてだ……)


     ドドンッ!


天城「それじゃ私から行くね?」

花村「そ、そうか……へ、へえ! う、旨そうだな!」

比企谷「……見た目は問題なさそうだな」

足立「ホワイトソース?のオムライスって初めて見たね」


比企谷「じゃあ……」

花村「行きますか……」

足立「い、いただきます……」

クマ「ムッホホーイ!」

     パク……

男性陣「…………」

天城「ど、どうかな?」

比企谷「? ……これ」

花村「……どう言えばいいんだ?」

足立「……味がしないんだけど?」

クマ「オトーフを何もなしで食べてるみたいクマ!」


天城「せ、繊細な味付けなのよ!」

里中「はいは~い。 次はあたしの行ってみるじゃん?」

     パク……

クマ「モグモグ……うん!」

クマ「まずいクマ!」

里中「え」

花村「……確かにフツーにまずいな」

足立「……調味料、入れ間違えたんじゃ?」

比企谷「……火の入れ方も良くない感じだな」

里中「」 ガーン……

りせ「じゃ、次はあたしの!」


比企谷「……見た目でもう異常の様な気がするんだが」

花村「……こんなに真っ赤っかなオムライス、初めて見た」

足立「か、辛そうだね……」

クマ「いただきますクマ!」

     パク……

クマ「むほほほほほほほほほほほほほほほっ!!?」

比企谷「あががががががががががががががっ!!?」

花村「みずみずzみずzみずずいずmっ!!」

足立「痛い痛い痛いっ! 辛いじゃなくて、痛いっ!!」

りせ「……え?」

りせ「これくらいフツーでしょ?」


花村「どこがだ!? お年寄りが食ったら、ぽっくりイっちゃうレベルだぞ!?」

比企谷「かかってるのケチャップかと思ったら……タバスコだし」

足立「……ごめん。 無理」

クマ「」 チーン…

りせ「」 ガーン…

由比ヶ浜「じゃ、次は私だね!」

     ドンッ!

男性陣「…………」

比企谷「おい……由比ヶ浜」

由比ヶ浜「なに? ヒッキー?」

比企谷「お前は何を作ったんだ?」

由比ヶ浜「オムライスだよ?」

比企谷「首をかしげながら言うなよ!?」


比企谷「だいたい何で紫色がかっているんだ!?」

花村「ニオイも生ぐ……磯の香りがするし」

足立「かかってるソースも得体が知れ……ケチャップの色じゃないね……」

クマ「」 チーン…

由比ヶ浜「えー。 フツーだよ」

由比ヶ浜「とりあえず食べてみて?」

比企谷「…………」

花村「…………」

足立「…………」

クマ「」 チーン…


     パク……モグモグ……

比企谷「……味は悪くねえな」

由比ヶ浜「でしょ!」

花村「……だな。 味は」

足立「……けど、口に含んだ時に感じる生臭さが全てを台無しにしてる……かな」

由比ヶ浜「えー」

比企谷「だがそれ以前、見た目でスプーンを入れるのに もの凄く勇気がいる」

花村「正直……オムライスに見えねぇ」

足立「ケーキだと言われても ある意味納得してしまうかもね……」

由比ヶ浜「うふふ、それほどでも~♪」

比企谷「褒めてねえからな!?」

花村(由比ヶ浜さんって、そっち系?)

足立(個性的すぎる娘だなぁ……)


雪ノ下「最後は私ね」

     トン…

比企谷「……ほう」

花村「……うん、見た目といい、匂いといい、オムライスだ」

足立「これは期待できそうだね」

クマ「」 チーン…

     イタダキマス

比企谷「!」

花村「!」

足立「!」

男性陣「旨い!」

女性陣「!!」


花村「これだ! これこそオムライスだっての!」

比企谷「フツーなのかもしれんが……今までが今までなので」

比企谷「格別に旨く感じる……」

足立「美味しい~」

りせ「……なに? この高評価」

里中「……全然オリジナリティが無いじゃん」

花村「だったら自分たちで作ったもん、食ってみろ」

由比ヶ浜「え~……」

比企谷「え~じゃない。 食べてみなさい」

天城「う、うん。 わかった……」

     パク…


天城「ああ、ホントだ。 これフツーにまずいわ」

里中「なっ!? 雪子のなんて、まずいとすら言えないじゃん!」

由比ヶ浜「みみみみみみみmっ!!!」

りせ「うえっ……生臭っ」

由比ヶ浜「ありえないよ! りせちゃんの!」

りせ「由比ヶ浜さんのだって酷いじゃない!」


比企谷「はいはい、その辺りでいい」

比企谷「で、雪ノ下の食ってみろ」

     パク…

雪ノ下以外の女性陣「……!!」


比企谷「という訳で……雪ノ下のオムライスが一番だ」

比企谷「異議のある人」

雪ノ下以外の女性陣「……ありません」

比企谷「よし」

     チワーッス

比企谷「お、来たか」

     マイドー

雪ノ下「比企谷くん、それは?」

比企谷「こんな事もあろうかと……」

花村「愛屋に出前を頼んでたんだよ」

比企谷(……正直、100%こうなると思ってたけどな)

足立「さ、さすがだね!」


里中「ちょっと! それってあたしらの料理が」

里中「食べられない物になるかもって、予想してたって事!?」

花村「当たり前だろ!?」

花村「林間学校での物体Xをもう忘れたのかよ!」

天城「……ごめんなさい」

由比ヶ浜「にしてもちょっと酷いよ、ヒッキー」

比企谷「自分は関係ないみたいに言うな……」

りせ「でも傷つくぅー」

比企谷「やかましい」

比企谷「お前は一度 口腔内科に見てもらって、ちゃんと味覚を直してこい」

りせ「なっ!? あたしはおかしくないもん!」



クマ「」 チーン…


比企谷「この↑クマの様子を見て、まだ言うか……」

りせ「……見てもらいます」

足立「ま、まあまあ、比企谷くん」

足立「そのくらいにして店屋物をいただこう?」

比企谷「ですね」

雪ノ下「……私が作ったオムライスの残りは、どうなるのかしら?」

比企谷「みんなで手分けして食べればいい」

雪ノ下「……そう」

比企谷「……何で嫌そうな顔をするんだよ?」

花村(ホントに女心をわかってねえな……比企谷)

里中(見ててちょっとイライラするかも)



―――――――――――


夜 宵の口


比企谷「……そろそろか」

花村「お? もうそんな時間か……」

花村「結局ババぬき、一番になれなかったな」

花村「神経衰弱は雪ノ下さん圧倒的に強いし」

天城「どうやったらあの記憶力を得られるんだろう……」

里中「訓練とかのレベルじゃないじゃん?」

由比ヶ浜「ゆきのんは、あったまいいからねー」

由比ヶ浜「常に学年トップだったし」

雪ノ下「……べつに特殊でも何でもない」


比企谷「自分の体たらくを『才能の無さ』のせいにするのは」

比企谷「感心しねぇがな」

りせ「出た!」

りせ「比企谷先輩のツンが!」

花村「けどま、比企谷の言う通りだな」

比企谷(……やりにくいな)

雪ノ下「…………」

天城「それじゃ女の子のみんな。 天城屋に来てくれる?」

天城「陽乃さんが私たちの浴衣を用意してくれてるはずだから」

比企谷「マジっすか……」

雪ノ下(玄関ロビーで夜店祭りの話を天城さんとしたのは 失敗だったわ)


花村「……ところで」

花村「クマ吉……どうする?」

比企谷「あれから全然目を覚まさないな……」

比企谷「ここに置いておく訳にもいかないし、花村の家まで送り届けるの手伝おう」

足立「ああ、それならタクシーを呼ぶといい」

足立「そんなに遠くじゃないんだろう? 運賃くらい僕が出すよ」

花村「マジっすか! すみません……すげぇ助かります」

足立「はは、いいっていいって」

足立「こんなに賑やかなのは久しぶりだったし」

足立「僕も楽しかったから」

足立「じゃ、タクシー呼んでおくね?」

比企谷「はい、足立さん」



―――――――――――


神社の境内


里中「お待たせ! 花村、比企谷くん!」

花村「おう! 待ってたぜ」

天城「ど、どうかな?」

比企谷「よく似合ってる」

花村「ああ。 いいもんだな……やっぱり夏の女の子は浴衣がいい」

花村(つーか、由比ヶ浜さんや雪ノ下さんまで居るから)

花村(何げにレベルたけぇ……)///

りせ「むふふー。 惚れちゃダメだからね? 比企谷先輩♪」

比企谷「うわー。 りせちーの魅力にめろめろー(棒)」


りせ「ホントに腹立つ言い方、得意よねー」

由比ヶ浜「……慣れちゃってる私たちの方がおかしいのかな?」

雪ノ下「考えたら負けよ、由比ヶ浜さん」

陽乃「おお~。 こうして見ると、壮観ね~」

天城「陽乃さん」

花村「うおお―――! は、陽乃さんの浴衣姿、ちょ、超イケてるッす!」///

里中「花村。 うるさい」

陽乃「うふふ、ありがとう。 花村くん」

陽乃「じゃあ……私と回る?」

花村「い、いいんですか!?」///

花村「来た! 俺の青春やっと来た!」///

比企谷(……せいぜいケムに巻かれて終わって来い、花村)


陽乃「ほかのみんなは どうするの?」

里中「花村が陽乃さんに付いていくのなら……あたしら三・三に別れる?」

りせ「じゃああたし、天城先輩と里中先輩と一緒がいい!」

天城「うん。 私はいいよ?」

天城「比企谷くんは、由比ヶ浜さんと雪ノ下さんをお願いね?」

比企谷「……え?」

陽乃「うん! ちょうどいい感じ♪」

雪ノ下(姉さん……計ったわね)

由比ヶ浜(えへへ……ヒッキーと一緒だ)///

陽乃「じゃあねー、比企谷くん♥」

比企谷「…………」



―――――――――――


     テク テク テク

由比ヶ浜「うふふ~楽しい~」

比企谷「良かったな」

雪ノ下「あら比企谷くん。 女の子を二人連れ歩きながら不満でもあるのかしら?」

比企谷「いちいち俺の胃に負担をかけてくるな……」

雪ノ下「負担? この状況が負担?」

比企谷「はははーたのしいなぁー(棒)」

雪ノ下「だったら楽しそうな顔をしなさい」


由比ヶ浜「…………」


由比ヶ浜(やっぱりだ……)

由比ヶ浜(ヒッキーも、ゆきのんも)

由比ヶ浜(元通りになってる……気のせいなんかじゃない)

由比ヶ浜(…………)

由比ヶ浜(何があったんだろう……?)

由比ヶ浜(…………)

由比ヶ浜(……考えてみればGWから夏休みまで2ヶ月も過ぎてるんだし)

由比ヶ浜(時間が解決してくれてたって事なのかな)

由比ヶ浜(…………)

由比ヶ浜(私も……ここに転校できたらいいのに……)

由比ヶ浜(ゆきのん……ずるい……)


雪ノ下「……由比ヶ浜さん?」

由比ヶ浜「ん? なに? ゆきのん」

雪ノ下「いきなり黙っちゃったけど……どうかした?」

由比ヶ浜「……ううん」

由比ヶ浜「ただ……懐かしいなって、思って」

比企谷「懐かしい?」

由比ヶ浜「うん」

由比ヶ浜「こうやって三人で居るの、久しぶりだから……」

雪ノ下「…………」

由比ヶ浜「だってさ? 奉仕部の部室でいつも三人だったし」

由比ヶ浜「このまま……部活できちゃいそうじゃない?」


比企谷「……かもな」

雪ノ下「……そうね」

由比ヶ浜「えへへ」

由比ヶ浜「来年の今頃は……きっとまた元通りだよね?」

由比ヶ浜「来年の春、二人とも総武高校に帰ってきて、あの部室で」

由比ヶ浜「ゆきのんがいて、ヒッキーがいて」

由比ヶ浜「そして、私がいて……」

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」


     どうしてなのか。 俺と雪の下はだまっていた……


由比ヶ浜「……あれ?」

比企谷「どうした? 由比ヶ浜?」


由比ヶ浜「ほらあそこ。 小さな女の子がうずくまってる」

雪ノ下「……転んだのかしら? 膝を擦りむいてるみたい」

     タッ タッ タッ

由比ヶ浜「ねえ、大丈夫?」

???「え!? ……う、うん」

由比ヶ浜「どうしたの? お友達とはぐれちゃったのかな?」

???「ううん……お父さんと」

由比ヶ浜「そっか。 じゃあお姉ちゃんが探してあげるね」

由比ヶ浜「お名前は、なんて言うのかな?」

???「菜々子……堂島菜々子、小学一年生です」


比企谷「……!」

由比ヶ浜「菜々子ちゃんか! いいお名前だね!」

由比ヶ浜「それじゃあ……」

比企谷「待て。 由比ヶ浜……」

比企谷「俺に心当たりがある」

由比ヶ浜「え?」

比企谷「菜々子ちゃん」

比企谷「お父さんって……もしかして刑事さんだったりする?」

菜々子「!?」

菜々子「……どうして知っているんですか? お兄さん?」

比企谷「…………」

比企谷「足立さんって刑事さんも知ってたりする?」

菜々子「お兄さん……菜々子のお父さんの事、知ってるの?」


由比ヶ浜「ヒッキー?」

比企谷「事情は後で説明する……」

比企谷「とにかく今は、足立さんに中継してもらって」

比企谷「この子のお父さんに来てもらおう……」 ピッポッパッ

比企谷「もしもし、足立さんですか?」


―――――――――――


堂島「菜々子!」

菜々子「お父さん!」

堂島「心配したぞ……手を離すなと言ったのに」

菜々子「ごめんなさい……」


比企谷「…………」

堂島「…………」

堂島「……礼を言う、比企谷くん」

比企谷「いえ……」

比企谷「それから菜々子ちゃんの膝の擦り傷」

比企谷「一応、水で洗って応急処置はしておきました」

比企谷「家に帰ったら、ちゃんと手当てしてあげてください」

堂島「わかった」

堂島「行くぞ、菜々子」

菜々子「うん! ありがとう! お姉ちゃん、お兄ちゃん!」

由比ヶ浜「うん! 菜々子ちゃん、バイバーイ!」


―――――――――――


比企谷「――という訳だ」

由比ヶ浜「…………」

比企谷「こっちとしては 単なる偶然なんだから」

比企谷「迷惑な話でしかないがな」

由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜「……ヒッキー」

比企谷「あん?」

由比ヶ浜「メール! どうして今の、メールで伝えてくれなかったの!?」

比企谷「そう言われましても」

由比ヶ浜「ごまかさないで! 私だけ除け者にしないでよ!」

比企谷「……由比ヶ浜」


雪ノ下「由比ヶ浜さん。 比企谷くんは、あなたに心配をかけたくなかったのよ」

雪ノ下「悪気があったわけじゃない」

由比ヶ浜「…………」

比企谷「由比ヶ浜?」

由比ヶ浜「そ、そっか……それなら、まあ、許してあげる」

由比ヶ浜「でも傷ついたんだから! ヒッキー、たこ焼きおごってよね!」

比企谷「へいへい」

雪ノ下「…………」


由比ヶ浜(……どうしよう。 ヒッキーとゆきのん)

由比ヶ浜(二人だけの秘密を共有してる……)

由比ヶ浜(このままじゃ……ヒッキーは)

由比ヶ浜(ヒッキーは……)



―――――――――――




神社前


里中「あー! 楽しかった!」

天城「やっぱりお祭りって いいものだね、千枝」

りせ「屋台って、どうしてつい買ってしまうのかなぁ」

花村「…………」

比企谷「……?」

比企谷「どうした? 花村?」

花村「! な、何でもねえ!」


花村「さ、さあ! もう帰らねーと!」

花村「じゃ、また今度な!」

比企谷「あ、ああ……」

雪ノ下「……?」


比企谷(……あれ? そういや陽乃さんは?)


天城「それじゃ私たちも帰るね?」

里中「途中まで一緒に行こ、雪子」

りせ「あたしも!」

雪ノ下「私たちも行きましょう? 由比ヶ浜さん」

由比ヶ浜「うん! ゆきのん!」

     バイバーイ



―――――――――――


深夜

足立宅


     ピピピ……ピピピ……

比企谷「……ふあ」

比企谷「誰だよ……こんな時間に……」

     ピッ…

比企谷「はい……比企谷ですけど」

陽乃『やっほー。 比企谷くん♥』

比企谷「……何で俺の携帯の番号知ってるんです?」

陽乃『こんな夜遅くにごめんね』

比企谷「……要件は何なんですか?」


陽乃『うふふ、せっかちね』

陽乃『そうね……ま、優しく言えば』

陽乃『警告かな?』

比企谷「!?」

陽乃『まあね? たぶん比企谷くんに責任は無いと思うの』

陽乃『関わったのは雪乃ちゃんの方で、助けてもくれた訳なんだし』

比企谷「…………」

比企谷「……花村ですか?」

陽乃『んふふ』

比企谷「…………」


比企谷「それで……警告、というのは?」

陽乃『…………』

陽乃『約束して』

陽乃『これから何があっても雪乃ちゃんを守るって』

比企谷「…………」

陽乃『もうあの娘は、自分の意思を曲げない。 どんな事があっても……』

陽乃『その上であなたに関わると決めているわ』

比企谷「…………」

陽乃『もし』

陽乃『雪乃ちゃんに何かあったら』

陽乃『問答無用であなたを殺す』

比企谷「…………」


比企谷「分かりました」

陽乃『……!』

比企谷「その時は遠慮なさらずにどうぞ」

比企谷「でも……約束はさせてもらいます」

比企谷「必ず雪ノ下を守ると」

陽乃『…………』

陽乃『……そう』

陽乃『それだけ聞ければいい』

陽乃『けど……誰かに頼る事も忘れないでね、比企谷くん』

陽乃『殺人事件なんて……高校生が首を突っ込んでいい事柄じゃないわ』

比企谷「…………」


比企谷「ペルソナ」

陽乃『ん? 何?』

比企谷「……何でもありません」

比企谷「要件はそれだけですか?」

陽乃『……今のところは』

比企谷「そうですか」

比企谷「お休みなさい、陽乃さん」

陽乃『……お休み、比企谷くん』

     ブッ…… ツーツー

比企谷「…………」

比企谷「は~な~む~ら~……」




     陽乃さん相手だ。 花村くらいの高校生が太刀打ち出来る相手じゃない。

     そんな事は分かりきっている。

     ペルソナやあの世界の事を黙っていられたのは奇跡に近いだろう。

     だが……

     翌日の朝、花村の家に怒鳴り込んだのは言うまでもない。


今日はここまでです。夏休み編、もう少し続きます。
お待たせしてすみませんでした。

乙ー
八幡、やっぱ違和感が強くなるね
久保のダンジョンが感情を引き出したのを差し引いても

好きに書いて終わらせてくれるなら自由にやって良いさ

乙!

違和感なんて言い出したらデレデレな雪乃だってありえない
面白けりゃいいのよ

保守アゲ

追い付いたー 面白いな 乙



―――――――――――


数日後の朝

天城屋


天城「あら? 由比ヶ浜さん。 こんな朝からお出かけ?」

由比ヶ浜「あ……天城さん」

由比ヶ浜「うん。 ちょっと散歩してくるね」

天城「道、わかる?」

由比ヶ浜「大丈夫だよ、遠くに行くわけじゃないし。 じゃ……」

天城「あ……」

天城「…………」


     テク テク テク…

由比ヶ浜「ふ~」

由比ヶ浜「気持ちいいなぁ……確かに何にも無い所だけど」

由比ヶ浜「空気は断然こっちのが美味しいね」

由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜(明日……いよいよ帰らないといけない)

由比ヶ浜(ヒッキーは相変わらずで、ゆきのんと元通りになってて)

由比ヶ浜(こっちの人たちと、びっくりするくらい仲良くなってた……)

由比ヶ浜(…………)

由比ヶ浜(こんなはずじゃ……なかったのにな)

由比ヶ浜(ヒッキー、きっと総武高校の時みたいに誰とも距離を置いて)

由比ヶ浜(表面上何でもない顔をしながら……寂しく過ごしてると思ってた)


由比ヶ浜(…………)

由比ヶ浜(……これじゃ……むしろ……)

由比ヶ浜(私の方が……)

由比ヶ浜(…………)


??「おぜうさん……何かお悩みデスかー?」


由比ヶ浜「!?」

由比ヶ浜「クマ……くん」

クマ「ムホホーイ! おはようクマ!」

由比ヶ浜「あはは……おはよう」


クマ「さあさあ、悩み事を言ってごらん?」

クマ「クマの胸は、いつでもオープンしてるクマよ?」

由比ヶ浜「えっと……別に大丈夫だし」

クマ「そうクマ? ならいいんだけど」

クマ「ユイちゃん、元気がだんだん無くなっている気がしたから」

由比ヶ浜「そんな事ないもん」

クマ「クマ! それでいいクマ!」

由比ヶ浜(見た目、私たちと同じくらいに見えるんだけど)

由比ヶ浜(小学生と話してる気がするなぁ……)

クマ「じゃあ……」

クマ「クマとデートするクマ!」

由比ヶ浜「……え?」

クマ「ほらほら、こっちクマ!」

由比ヶ浜「ちょちょちょ! クマくん!?」



―――――――――――


足立宅


     ピンポーン

比企谷「はーい」

     ガチャ

比企谷「……花村」

花村「よう! 比企谷」

比企谷「何か用か?」

花村「ああ。 用も用。 大用だ」

比企谷「いったい何だよ?」

花村「まあいいから顔かせ」



―――――――――――


川原


比企谷「……で? 何なんだ?」

花村「単刀直入に言う」

花村「お前……由比ヶ浜さんの事、どう思ってるんだ?」

比企谷「かつてのクラスメイトであり、来年、またクラスメイトになる予定の人物」

花村(……あらかじめ返答を考えてやがったな。 可愛くねぇ)

比企谷(この手の質問あるかもと思って用意しといて正解だったな)

花村「……クラスメイト、ね」

比企谷「……話はそれだけか?」


花村「いや。 まだだ」

比企谷「…………」

花村「天城屋ってさ」

比企谷「会話の流れを無視してるぞ」

花村「いいから黙って聞け……天城屋ってさ」

花村「宿泊料、一番安い部屋っていくらか知ってるか?」

比企谷「…………」

花村「夕食付きで一泊7000円だとよ」

比企谷「…………」

花村「もう一週間になる。 ここに来る交通費もそうだが」

花村「由比ヶ浜さん……お金持ちでも何でもない普通の女の子なのに」

花村「どうやってそのお金を捻出したんだろうな?」


比企谷「……俺が知るわけないだろ」

花村「そう言うと思ったぜ」

花村「確かにその通りだ。 お前の知った事じゃない」

花村「けどよ……お前に会いに来たのは間違いねえ」

比企谷「…………」

花村「ゲームする時間があるなら、彼女と話してやれよ」

比企谷「……プライベートな」

花村「別に付き合えとか言ってるわけじゃねえ」

花村「彼女の気持ちに答えるかどうかは、お前の自由だ」

花村「そこは強制しないし、そんな権利も実力も俺にはねえよ」

比企谷「…………」


花村「だが」

花村「ないがしろにするのは許さない」

花村「お前と殴り合ってでも阻止する」

比企谷「…………」

比企谷「言いたい事はそれだけか?」

花村「もう一つだけ」

比企谷「……まだあるのかよ」

花村「比企谷」

花村「お前……いつまでもこのままでいられると思ってるのか?」

花村「『ある日』ってのは唐突に来るもんだぜ……」

花村「俺みたいにな」

比企谷「……!」


比企谷「…………」

花村「…………」

花村「これで俺の話はおしまいだ」

花村「どうするのかは、お前次第……」

花村「俺みたいに後悔する事が無い事を祈ってるぜ」

花村「じゃあな、比企谷」

     テク テク テク…

比企谷「…………」

比企谷(人の気も知らないで好き勝手言いやがって……)

比企谷(…………)

比企谷(俺は……)

比企谷(…………)



―――――――――――


天城屋


りせ「こんちはー」

天城「りせちゃん。 それに千枝も」

天城「どうしたの?」

里中「大した事じゃないんだけど……ヒマだったし」

里中「ちょっとだけ気になってさ」

天城「気になる?」

りせ「もち! 雪ノ下先輩と 由比ヶ浜さんの事!」

天城「ああ~」


陽乃「あら、何だか楽しそうなお話ね?」

天城「陽乃さん」

里中「え、えっと……」

りせ「その……」

陽乃「いいのよ、そんなに こわばらなくて」

陽乃「私の部屋で話さない?」

天城「いいんですか?」

陽乃「もちろん! 雪乃ちゃんの姉として興味があるわ」

一同「…………」

りせ「じゃあ、お邪魔します」

里中(ペルソナの事とか気をつけなくっちゃ……)

陽乃「うん! 飲み物用意するわね」


雪ノ下「…………」

雪ノ下「…………」 パラ…

雪ノ下「…………」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「…………」 パラ…

雪ノ下「…………」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「…………」 パラ…

  ※注 読書中です。 決して手抜きではありません。


高台


クマ「着いたクマ!」

由比ヶ浜「ああ、高台だったのね」

クマ「およ? 知ってたクマ?」

由比ヶ浜「うん。 ちょっと前に来た事があって」

クマ「そうクマか……」

由比ヶ浜「ク、クマくん、落ち込まないで!」

由比ヶ浜「綺麗な景色だし、嬉しいから!」

クマ「でしょでしょ!」

クマ「クマはここも大好きクマ!」

由比ヶ浜「ここも……?」

クマ「そうクマ!」


クマ「クマは、こっちの世界の景色、みんな好きクマ!」

由比ヶ浜(こっちの世界?)

クマ「青い空も 白い雲も 緑の山も 流れる川も」

クマ「みんな、みんな、綺麗でとっても和むクマ!」

由比ヶ浜(意外と都会育ちなのかな……?)

由比ヶ浜「そっか」

クマ「クマ……ひとりでいた時間 長かったから」

クマ「自分がいた世界の事も、一人だった事にも特に疑問に思わなかったクマ」

由比ヶ浜「うん」

クマ「でも」

クマ「センセイ達に出会って……みんなと過ごす内に」

クマ「だんだん疑問に思ったクマ」


クマ「どうしてクマは、一人なんだろうって……」

由比ヶ浜「…………」

クマ「だからクマ、いろいろ考えたけど……」

クマ「みんなと一緒にいたいって気持ちに正直になったクマ!」

由比ヶ浜「…………」

クマ「そしたら、なんて言うか……今まで見ていたモノが」

クマ「全然違って見える様になったクマ!」

由比ヶ浜「……そう」

クマ「ユイちゃんは、センセイの事 好きクマか?」

由比ヶ浜「ふえっ!?」///

由比ヶ浜「ななななっ、何で、そんな事っ」///


クマ「ヨースケから聞いたクマ」

クマ「他のみんなも知ってるみたいクマよ?」

由比ヶ浜「」///

クマ「どうしたクマ?」

由比ヶ浜「だって……恥ずかしいし」///

クマ「恥ずかしいクマ? 好きだって事がクマ?」

由比ヶ浜「わ、私達くらいなら、そう思うのがフツーなのっ」///

クマ「クマはみんな大好きクマ!」

クマ「ユイちゃんも センセイも 知り合ったみんな、大好きクマ!」

由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜(そういう事じゃないんだけどな……でも)


由比ヶ浜「……そうだね。 私もみんな好きかな」

クマ「クマ!」

由比ヶ浜「ふふふ♪」

由比ヶ浜(クマくんを見てたら……悩んでるのがバカバカしく思えてきちゃった)

由比ヶ浜「クマくん、お腹空いてない?」

クマ「クマのお腹は、常にグウグウ言ってるクマよ!」

由比ヶ浜「そっか! じゃ、ちょっと早いけど……お昼にする?」

由比ヶ浜「私、おごっちゃうから!」

クマ「ウホホーイ!」

由比ヶ浜「えと……愛屋でいい?」

クマ「もちろんクマ!」



―――――――――――


りせ「あたしは雪ノ下先輩だと思うなー」

里中「いやいや、由比ヶ浜さんも可愛いし」

里中「全く芽がないって事もないじゃん?」

天城「それに……すごく一途だし」

天城「単身ここに来るってだけで、想いが伝わってくるよ」

りせ「確かにそうだけど~……男の人って一途っていうの」

りせ「重く感じるんじゃないのかな?」

里中・天城「あ~……」

里中「ましてや比企谷くんだもんね……」

天城「そういうの迷惑に思うかも……」


陽乃「ほうほう……由比ヶ浜さん、やや出遅れている感じに見てるのね?」

りせ「まあ……あたしはここ数日の彼女しか知りませんけど」

陽乃「ううん。 的確によく見てると思う」

陽乃「以前の彼女を知ってる私としても、ほぼ同意見かな」

天城「ほぼ……ですか?」

陽乃「うん」

陽乃「正直言うとね……」

陽乃「私は、彼女がこんなに行動的だと思わなかった」

陽乃「本当に一生懸命で……雪乃ちゃんの姉としては失格かもしれないけど」

陽乃「由比ヶ浜さんの事、応援したくなっちゃう」

里中「そう! あたしも全くそうなんですよ!」


りせ「…………」

りせ「あのう……陽乃さん」

陽乃「うん。 何かな?」

りせ「こう言っちゃ何ですけど……」

りせ「比企谷先輩の事、気に入ってるんですか?」

陽乃「ふふふ、どうなのかな?」

陽乃「実を言うと……私自身、よく分かっていないかも」

天城「そうなんですか?」

陽乃「そうよ? ……ただ」

陽乃「雪乃ちゃんを変化させている存在は、後にも先にも」

陽乃「彼だけなんだ」


りせ「変化せてる存在……」

陽乃「そいう意味では、高く評価してる」

陽乃「もっとも……ついこの前、少し評価を下げたけどね」

里中「え? どうしてですか?」

陽乃「ふふふ、ナイショ♪」

天城(気になる……)

陽乃「それはそうと、あなた達にいい人はいないの?」

りせ「うーん……」

里中「今のところは……ハハハ」

天城「いません……」

陽乃「そうなの? もったいない。 みんな可愛いのに」


陽乃「花村くんとかどうなの?」

陽乃「可愛いところとか、あるわよ?」

りせ「花村先輩かぁ……悪くはないんだけど」

里中「あたしはそれなりに付き合いがあって、そういう対象に思えなくて……」

天城「私も……」

陽乃「あらら……散々な評価ね」

陽乃「花村くんも可哀想に」 クスッ

りせ「そんな事言われても……」

陽乃「ま、そうよね」

陽乃「けど、みんなも恋はしておいた方がいいわよ?」

里中「そ、それは、そうなんですけど……」///

天城「なかなかいい相手が居なくて……」///

     アハハハ……


比企谷「…………」

比企谷「はあ……」

比企谷「…………」



花村「彼女の気持ちに答えるかどうかは、お前の自由だ」



比企谷「…………」



花村「ないがしろにするのは許さない」



比企谷「…………」




花村「『ある日』ってのは唐突に来るもんだぜ……」

花村「俺みたいにな」



比企谷「…………」

比企谷「うるせーよ……」

比企谷「…………」

比企谷「由比ヶ浜が俺を……?」

比企谷「ねーっての」

比企谷「あいつは……俺と雪ノ下が居ない環境に」

比企谷「戸惑ってるだけだ」

比企谷「……それだけだ」


比企谷(…………)

比企谷(今までもそんな素振りに俺は騙され続けてきた)

比企谷(もう……あんな思いは)

比企谷(たくさんだ……)

比企谷(…………)

     ピピピ……ピピピ……

比企谷「……?」

     ガチャ

比企谷「もしもし?」

比企谷「……由比ヶ浜?」

比企谷「…………」

比企谷「……は? 金を貸してくれ?」


商店街 愛屋


比企谷「…………」

比企谷「……何してんだ、由比ヶ浜にクマ」

クマ「あ! センセイ! ゲプッ……」

由比ヶ浜「ヒ、ヒッキー ……」

由比ヶ浜「わざわざごめんね?」

比企谷「この丼の数……軽く14,5人前ってとこか」

由比ヶ浜「こんなに食べる人だと思わなくて……」

比企谷「事情はだいたいわかった」

比企谷「ここは俺が払っておく」

由比ヶ浜「うん……」


比企谷「クマには後でキツイお灸を据えてやる。 気にするな」

クマ「むほっ!? ク、クマ、急に用事を思い出したクマ!」

クマ「バイバイクマー!」

     バビュン!

由比ヶ浜「…………」

比企谷「…………」

由比ヶ浜「なんて言うか……ちょっと変わった人だね。 クマくんて」

比企谷「いろいろ事情があってな……悪い奴じゃないんだが」

比企谷「世間と隔絶した場所で生まれ育ったから、とだけ言っとく」

由比ヶ浜「…………」

     マイドアリー

比企谷「じゃ、行くか」



―――――――――――


川原



由比ヶ浜「え、えと……ヒッキー」

比企谷「ん?」

由比ヶ浜「お金は来月まで待っててね! 必ず返すから」

由比ヶ浜「今……ちょっと持ち合わせなくて」

比企谷「…………」

比企谷「気にするな」

由比ヶ浜「ううん! こういう事は、ちゃんとしておかないと」


比企谷「…………」

比企谷「……そうだな」

比企谷「そういう事なら……ちゃんと働いて返してもらおう」

由比ヶ浜「……え?」

比企谷「ちょっと来い、由比ヶ浜」

由比ヶ浜「う、うん」


―――――――――――


足立宅


由比ヶ浜「お、お邪魔します……」

比企谷「足立さん、夕方まで帰ってこないから遠慮するな」

由比ヶ浜「……へ!?」


由比ヶ浜(そ、それって……も、もしかして!?)///

由比ヶ浜(か、体で払え、的な!?)///

比企谷「どうした? 由比ヶ浜?」

由比ヶ浜「や……ちょ、ちょっと、ヒッキー!」///

比企谷「封書貼りのバイトくらいできるだろ?」

由比ヶ浜「わ、私、心のじゅ……へ? 封書?」

     ドサドサッ

由比ヶ浜「」

比企谷「ほい。 お前に貸した分は、このダンボールの箱半分位だ」

由比ヶ浜「え、えっとぉ……」

比企谷「俺も作業する。 一緒にやってくれると助かるんだが?」


由比ヶ浜「一緒に?」

比企谷「ああ」

由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜「そういう事なら、やる!」


―――――――――――


由比ヶ浜「……飽きたぁ」

比企谷「早すぎだろ……」

由比ヶ浜「だって……ヒッキー黙々と作業するだけだし」

由比ヶ浜「つまんなーい」

比企谷「わがまま言うんじゃありません」

由比ヶ浜「ぶぅー」


由比ヶ浜「ヒッキーは よく飽きないね……こんな地味な作業」

比企谷「何を言う、由比ヶ浜」

比企谷「自宅に居ながら金を稼げる上に根気を養えられる」

比企谷「最高だと思うぞ、俺は」

由比ヶ浜「もっと……こう、変化が欲しい」

由比ヶ浜「同じ大きさ、同じ紙、同じ作業……」

由比ヶ浜「せめて違う色や大きさくらいの変化が欲しい」

比企谷「一理あるな」

由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜「ねえ、ヒッキー」

比企谷「ん?」


由比ヶ浜「さっき、『根気を養えられる』って言ってたけど」

由比ヶ浜「もしかして……こっちの人達と無理して付き合ってる?」

     ピクッ

比企谷「…………」

比企谷「そうでもない……が」

由比ヶ浜「が?」

比企谷「戸惑っている」

由比ヶ浜「…………」

比企谷「……上手く言葉にできねーけど」

比企谷「クマを含めて、今まで会ってきた連中とは微妙に違う奴らなんでな」

由比ヶ浜「……私は?」

比企谷「由比ヶ浜や雪ノ下とも違うかもな」

由比ヶ浜「何よそれー」


由比ヶ浜「てか、それみんなに言ってたりするの?」

比企谷「言える訳ねーだろ」

由比ヶ浜「ゆきのんには?」

比企谷「言ってねーよ。 お前だけだ、こんな話したの……」

由比ヶ浜「!」

由比ヶ浜「……そっか。 ふふふ」

比企谷「……いきなりどうした? ニヤニヤして」

由比ヶ浜「何でもない。 さっ! 頑張って借金返すぞ、っと!」

比企谷「……?」


由比ヶ浜(ふふふ……)

由比ヶ浜(ヒッキーと二人だけの秘密だ……)

由比ヶ浜(嬉しい)///



―――――――――――


     タダイマー

比企谷「あ、足立さん。 お帰りなさい」

足立「あー疲れたぁ……先にお風呂入っ」

由比ヶ浜「こ、今晩は。 お、お邪魔してます……」

足立「」

足立「……比企谷くん」

比企谷「はい?」

足立「ちょ、ちょっとこっちに!」

比企谷「え?」

由比ヶ浜「…………」


足立「き、君ねぇ」

足立「い、いくらなんでも早すぎるよ!」

足立「高校生なんだろ? 君のやるべき事は勉強であって……」

比企谷「……やましい事はしてませんよ」

足立「え?」

比企谷「見てください。 窓、網戸にして全開にしてるでしょ?」

比企谷「玄関も半開きにしてましたし……」

比企谷「そんな状態で大人の階段登る根性、俺にはありません」

足立「…………」

足立「……な、なる程」

足立「そ、それなら……って、そういう事じゃなくて!」

比企谷「すみません。 もうしませんから」


足立「…………」

足立「と、とにかく! わかっているみたいだから、もう怒らないけど」

足立「気をつけてくれよ?」

比企谷「はい」


―――――――――――


     テク テク テク…

由比ヶ浜「……怒られたの?」

比企谷「俺も軽率だった。 気にするな」

由比ヶ浜「ごめん……」

比企谷「だからいいって。 由比ヶ浜のせいじゃない」


由比ヶ浜「…………」

比企谷「…………」

比企谷「由比ヶ浜」

由比ヶ浜「!?」

由比ヶ浜「な、何?」

比企谷「お前ってさ……今回も天城屋の温泉入りまくってるのか?」

由比ヶ浜「え? そ、そりゃあ もちろん」

比企谷「……そっか」

由比ヶ浜「それがどうかした?」

比企谷「…………」

比企谷「……たぶん、だけど」

比企谷「効果……少し出てると思うぞ」


由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜「!!」

由比ヶ浜「ヒ、ヒッキー、それって……GWの時の!?」///

比企谷「たぶん、だからな」

由比ヶ浜「うわあ……! ヒッキーに美人さんだって褒められた!」

比企谷「だからたぶんって言ってるだろ」

由比ヶ浜「ね、ね! もう一回、言ってよ! ヒッキー!」

比企谷「言わねーから!」

由比ヶ浜「えー! よく聞いてなかったし」

由比ヶ浜「言ってよ、ヒッキー!」

比企谷「ほら、もう天城屋に着くぞ」

由比ヶ浜「ぶぅー」


天城屋 玄関ロビー


雪ノ下「!!」

雪ノ下「由比ヶ浜さん!」

由比ヶ浜「ああ、ゆきのん。 ただいまー」

雪ノ下「ただいま、じゃないでしょ?」

雪ノ下「朝、出かけたまま 連絡をくれないから、何かあったの、か……と?」

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」

比企谷(……何故か嫌な予感)

雪ノ下「比企谷くん」

比企谷「何だ」


雪ノ下「こんな時間まで由比ヶ浜さんと何をしていたのかしら?」

比企谷「アルバ」

由比ヶ浜「借金を体で返せって言われて、やってましたー(棒)」

比企谷「由比ヶ浜さん!?」

由比ヶ浜「えへへ」 ニコニコ

雪ノ下「……詳しく聞かせてくれる?」

雪ノ下「事と次第によっては、国家権力の人に来てもらうから」

比企谷「早まるな、雪ノ下」

由比ヶ浜「あ! 後ね」

由比ヶ浜「ヒッキーに美人になったね!って言われちゃったんだよー♪ うふふ♪」

比企谷「」

雪ノ下「…………」 ゴゴゴ…


里中(うわぁ……)

天城(どうしよう千枝……私、すごくわくわくしてる)

りせ(修羅場ってやつね♪)

陽乃(おおー。 由比ヶ浜さん、一気に攻勢を仕掛けてきたわね)

陽乃(やっぱり恋する乙女はそうでなくっちゃ♪)

里中(これでアドバンテージは無くなったっぽい?)

天城(どうかな……? 明日、由比ヶ浜さん帰っちゃうし)

りせ(でもメールのやり取りしてるんだよね?)

りせ(何かあったのなら、わからないかも!)

陽乃(さあ、雪乃ちゃん。 どうするのかなー?)

陽乃(うふふ♪)




     俺が何をしたっていうんだ。

     いつも平和を望み、静かな時間が欲しいだけなのに……。

     この後、俺は逃げる様に天城屋を後にした。

     勝つとか負けるとかじゃない、そうしなければならないと判断したからだ。

     戦略的撤退、というやつに過ぎん。




     それから……先に言うと、これは間違いなく八つ当たりだ。

     俺は翌日、また花村の家に怒鳴り込んだ。





―――――――――――


夏休み明けの朝

八十神高校 校門付近


     ヒサシブリー ゲンキー?

花村「あ~あ。 終わっちまったな、夏休み」

花村「今朝、うっかり道を間違えそうになった……」

雪ノ下「たるみきってる証拠ね」

花村「あ、相変わらずキツイね、雪ノ下さん」

雪ノ下「事実を言ってるだけだけど?」

花村「お願いします……もう心エグるの止めてください」


里中「おはよう! みんな」

比企谷「里中。 おはよう」

天城「おはよう、千枝」

里中「今日から新学期かぁ……」

比企谷「里中も道を間違えた口か?」

里中「な、何の事かしら?」

天城(間違えたんだね……千枝)

里中「そ、それより、もうすぐ修学旅行だし」

里中「楽しいイベント、盛り沢山じゃん?」

花村「おう! そうだな、里中!」

花村「事件も解決したし、これからの高校生活、エンジョイしなきゃな!」

     ハハハ……




??「おはようございます。 みなさん」



比企谷「……!」

里中「え!? あれって?」

雪ノ下「確か……ちびっこ探偵?」

??「白鐘です。 妙な名前を付けないで下さい」

花村「で? 白鐘は俺たちに何の用だ?」

白鐘「別に深い意味はありません。 単なる挨拶です」

白鐘「ただ……あの事件は、まだ終わっていない」

白鐘「まだ解明されていない謎もいくつかありますし」

比企谷「…………」


白鐘「警察はもう解決したと判断している様ですが……」

白鐘「僕はここに残っていろいろ調べたいと思っています」

比企谷「…………」

白鐘「自分には家の事情もあって、この学校に通うのが適切だと判断しました」

白鐘「そういう訳で、今日から八十神高校の一年生としてお世話になります」

白鐘「これから よろしくお願いしますね?」

白鐘「先輩方」

比企谷「…………」




     厄介な事になった。 だが……それ以上に何故か

     事件はまだ終わっていないという白鐘の言葉に

     妙に納得している自分が居た――


という所で今日はここまでです。 もはや週一ペースも守れてない……すみません。

後、いろいろフラグに気がついた人も居るかもしれませんが
ここは一つ、内密にしてください……。
それではまた。

乙ー

保守

乙!

無理せず走り続けてくれ

保守



―――――――――――


数日後

新幹線 車両内


     ガタンゴトン ガタンゴトン

花村「ついにやってきた、修学旅行!」

花村「可愛い女の子と一緒に観光地回ったり」

花村「可愛い女の子と一緒に写真撮ったり」

花村「可愛い女の子と一緒にゲームしたりできる、一大青春イベント!」

比企谷「それなんてギャルゲ?」

雪ノ下「見つかるといいわね。 可愛い女の子、とやらが」

里中「それって花村にとっては、ほぼ無理ゲーじゃん?」

天城「千枝、本当の事言ったら花村くん可愛そうだよ」

花村「……最近、俺の扱いだけ酷くね?」


花村「つーか、定番の京都や奈良とかじゃねーんだな。 目的地」

里中「初日は、都会の高校と交流授業やって」

里中「二日目は工場見学して自由行動……んで、翌日帰るって予定の二泊三日」

花村「げっ! 何だよそれ!? ほとんど社会見学じゃねーか!」

里中「ちなみに企画・立案バーイ、モロキン(諸岡:元担任 故人)らしいよ?」

花村「……モロキン。 死してなお、俺たちを苦しめるのか……はあ」

天城「でも、都会の高校の選定で結構もめたんだって」

里中「そうなの? 初耳なんだけど?」

天城「聞いた話じゃIS学園や武帝高校、希望ヶ峰学園や月光館学園という」

天城「そうそうたる都会の高校が候補に挙がったんだけど……」

天城「PTAの鶴の一声で全然知らない高校に決まったとか」


比企谷「…………」

雪ノ下「…………」

比企谷・雪ノ下(まさか……)


里中「後、今年から生徒数少なくて1・2年合同になったっけ」

花村「それにしてもIS学園か~。 行きたかったぜ……」

花村「女の子しか居ない学校なんだよな?」

里中「一人だけ例外の男子が居るって聞いてるけど?」

花村「マジかよ……羨ましすぎるだろ、そいつ」

比企谷(俺は地獄だと思うけどな……)

天城「武帝高校もいいよね♪ 拳銃とか打たせてくれたかも?」

雪ノ下(……どんな高校なの?)

     ガタンゴトン ガタンゴトン…



―――――――――――


バス車内


     ブロロロロ…

雪ノ下「…………」

比企谷「…………」

雪ノ下「……比企谷くん」

比企谷「なんだ、雪ノ下」

雪ノ下「気がついているかしら?」

比企谷「何をだ? もしかして何か見た事ある景色だな~とか思ってるのか?」

雪ノ下「私は車からの景色だけどね」

比企谷「……頼むから否定してくれ」


総武高校 校庭


雪ノ下「」

比企谷「」


比企谷「……おい、雪ノ下」

雪ノ下「……何かしら」

比企谷「陽乃さんって、何者なんだ?」

雪ノ下「私の姉よ……」

比企谷「…………」

比企谷「4Dポケット持ってる自称キャット型ロボットでも、かなわない気がする……」

雪ノ下「当たらずとも遠からず……という気がするわ」


戸塚「皆さん、よく来られました」

戸塚「初めまして、あなた方のご案内をさせていただく」

戸塚「戸塚彩加(とつかさいか)です」


花村「うおおおっ! レベル、超高ぇぇっ!」

花村「ヤバイ……俺史上、空前の美少女だ……!」///

比企谷「……落ち着け、花村」

比企谷「信じられないだろうが……あれは男だ」

花村「ハハハ! 何冗談言ってんだ、比企谷」

花村「全然面白くないっての!」

比企谷「…………」



―――――――――――


戸塚「え~っと、それではこの教室で授業を受けてもらいます」

戸塚「担当は歴史の先生です」

歴史の先生「あ~遠いところからご苦労様です」

歴史の先生「旅行中に勉強とは……感心ですが、少々可哀想でもありますね」


一同(全くだよ……)


歴史の先生「それでは……まあ、気分転換、というか」

歴史の先生「神話の話でもしましょう」

歴史の先生「皆さんは、この国の……日本を作った、と言われる神様を知っていますか?」

     シーン…

歴史の先生「そうですか。 これはちょうどいい様ですね」


歴史の先生「それは国生みの二神」

歴史の先生「男神イザナギと女神イザナミです」

比企谷「!」

雪ノ下「!」

歴史の先生「ある日」

歴史の先生「女神イザナミは火の神を産み落として亡くなり……」

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」


―――――――――――


花村「はー ……やっと終わったな」

里中「どうする? バスの出発までしばらく時間あるけど?」

花村「学校の見学なんてあんまし興味ねe」

戸塚「皆さん、我が校の授業はいかがでしたか?」

花村「! あ、ああ……ええと」

里中「とっても良かったです!」

天城「内容は、私たちの学校より難しい事柄を習っているみたいですね」

戸塚「それ程でもないと思いますが……」

戸塚「……それで、あの」

戸塚「さっき八ま……比企谷くんを見かけたんですけど」

花村「え? 比企谷の事、知ってるの?」

里中「どゆこと?」

戸塚「どういう事も何も……今年の春までこの学校に居ましたから」

天城「え? ええっ!?」


花村「おいおい……里中。 これは偶然……なんだよな?」

里中「そ、そうなんじゃん? 偶然だよ、偶然」

天城「すごい偶然だね!」

戸塚「僕もそちらの学校名を聞いてびっくりしました」

戸塚「それで、八ま……比企谷くんは?」


―――――――――――


比企谷「…………」

     ガララ……

比企谷「!」

比企谷「雪ノ下……」

雪ノ下「…………」


雪ノ下「……ここ、変わってないわね」

比企谷「……ああ」

比企谷「誰だか知らないが、掃除もされているみたいだ」

雪ノ下「…………」


     誰だか知らない? そんなのはウソだ


雪ノ下「由比ヶ浜さん……見かけないわね」

比企谷「…………」


     見慣れたはずの奉仕部の部室

     放課後、何をする訳でもなく……俺と雪ノ下、由比ヶ浜がいつも居た


比企谷「…………」





     時間にして約半年……ほんの半年前まで居たそこは

     どうしてか異質な空間に思えた




雪ノ下(…………)


     ふと……私は、ここに一人で居る

     由比ヶ浜さんを想像してみた


     彼女は……他に誰もいないこの部室で一人……

     いつもと変わらない笑顔で何を考えていたのだろう?


     ……そんなはず、無い

     笑顔で、なんて……いられる訳がない

     彼女は誰よりも一人で居る事を恐れているのだから





由比ヶ浜「来年の今頃は……きっとまた元通りだよね?」

由比ヶ浜「来年の春、二人とも総武高校に帰ってきて、あの部室で」

由比ヶ浜「ゆきのんがいて、ヒッキーがいて」

由比ヶ浜「そして、私がいて……」



     夏休みの八十稲羽ですごしたお祭りでの一言

     あれがすべてを物語っていた


     彼女は……時間を止めている

     私と比企谷くんが居た、奉仕部・部室で……



     ガララ…

比企谷「……!」

雪ノ下「川崎さん?」

川崎「久しぶり」

川崎「元気そうだね」

比企谷「……まあな」

川崎「由比ヶ浜には会ったかい?」

雪ノ下「ここかな?と思って来たんだけど……」

川崎「そっか」

川崎「教室で誰かと話してるの見たから」

川崎「その内来ると思う」

比企谷(葉山あたりか?)


川崎「最近……と言ってもGW明けくらいだけど」

川崎「バイト紹介してくれって頼まれてさ」

比企谷「!」

雪ノ下「…………」

川崎「おっと……言っとくけど健全なファーストフード店だから」

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」

川崎「その様子だと、聞かされてなかったみたいね」

川崎「どうしてお金がいるのか聞かなかったけど……」

川崎「毎週、土日を含めて、結構無茶なシフト組んでるみたいだよ?」

比企谷「………っ」

雪ノ下「…………」


川崎「何て言うか、さ」

川崎「ときおり耳にしちゃうんだ」

川崎「由比ヶ浜、付き合いが悪くなったって」

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」

川崎「たぶんだけど……止められるのはあんた達二人だけだと思う」

川崎「話だけでもしてあげてよ」

比企谷「……言われなくてもそのつもりだっての」

川崎「そ。 安心した」

     ガララ!

由比ヶ浜「!!」

由比ヶ浜「居た! ヒッキーにゆきのん!」


比企谷「由比ヶ浜……」

雪ノ下「由比ヶ浜さん……」

由比ヶ浜「あ……川崎さん」

由比ヶ浜「ヒッキー達に用だったの?」

川崎「ううん。 少し話したかっただけ。 もうすんだから」

川崎「じゃあね、比企谷、雪ノ下さん」

比企谷「お、おう……」

雪ノ下「…………」

     スタ スタ スタ… ガララ……パタン

由比ヶ浜「でさ! もうびっくりだよ!」

由比ヶ浜「まさかヒッキーの学校が修学旅行でここに来るなんて!」

比企谷「そ、そうだな、由比ヶ浜……」


由比ヶ浜「えへへー。 それにしてもここ、変わってないでしょ?」

由比ヶ浜「今すぐにでも部活動できる気がしない?」

雪ノ下「…………」

比企谷「……あのな、由比ヶ――」

     ガララッ!

材木座「同士比企谷! この様なところに隠れておったか!」

戸塚「八幡! もう……探したんだから」

比企谷「」

雪ノ下「」

材木座「聞いてくれ! 吾輩、また作品を書き上げたのだ!」

材木座「ぜひ! 読んで感想を……」


戸塚「それよりも八幡、向こうの学校の話をしてくれない?」

戸塚「花村くん達にあらかた聞いたけど、やっぱり八幡の口から聞きたいんだ」

     ワーワー ギャーギャー

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」

由比ヶ浜「あは……あはは……はあ」


花村(意外に慕われてんな、比企谷……)

里中(濃ゆい人ばかりな気がするけど……)

天城(そろそろお腹すいたな……)


花村「ところで……部室って聞いたけど、何部なんだ?ここ?」

由比ヶ浜「奉仕部だけど?」

花村「はあ!? 奉仕!?」

由比ヶ浜「……? そんなに驚く事?」

花村「だ、だって……アレだろ?」

花村「ご主人様、ご奉仕いたします♥みた――」

     ゴスッ!

里中「花村ァ……いつからそんな いかがわしい発想する様になったァ……」

花村「さ、里中も実力行使しすぎじゃね? イテテ……」

天城「それはともかく、どういう活動してたの?」

由比ヶ浜「平たく言えば、お悩み相談室みたいな?」

里中「そうなんだ」

花村「じゃあさ、俺、彼女欲しいんだけど」


雪ノ下「無理ね」

比企谷「諦めろ」

由比ヶ浜「そういう相談はちょっと……」

花村「即答かよ! つか、由比ヶ浜さんも酷くね!?」

里中「それ解決できんの神様くらいじゃん?」

天城「私もパスで」

花村「ぐぐ……覚えてろよ、お前ら……」

戸塚「八幡~」

材木座「同士比企谷!」

比企谷「あ、ああ……」

雪ノ下「…………」


―――――――――――




白川通り


柏木「はぁ~い、皆さ~ん」

柏木「ここが今日の宿よ~♥」

比企谷「」

雪ノ下「」

花村「お、おい。 これって……もしかしなくても」///

りせ「この辺り……その、白川通りって言って……」///

りせ「たぶん、潰れたところを居抜きで営業してるんだと思うけど……」///

比企谷(……どう見てもラブホだよな)///

雪ノ下(……これも姉さんの仕業?)///


天城「何だか怪しい感じだね、千枝?」

里中「あたしらには良く分かんないじゃん?」

里中「まあ今日と明日 寝るだけだし、さっさと行こう?」

比企谷「……そうだな」


     ふっふっふっ……暗い夜道で会う人には気をつけなよ……


雪ノ下「!?」

花村「誰だ!?」


     例えば……ヨースケとかは、ワタシの顔を見たら

     どんな顔をするのデしょーカァー?


里中「上から……あれ見て!」



     トウッ……!


天城「飛び降りた!? い、いったい……!?」


     ――ッン、ドゴォ!!


??「ぶげあっ!!」


一同「」


??「……フ、フフ~ん。 シュビ、ドゥバ~」(イタタ……クマ)

比企谷「……何しに来た。 クマ」

クマ「そりゃあクマの中の寂しんボーイが突き動かしたクマよ~?」

花村「つか、どうやってここまで来たんだ?」


クマ「もちろん電車クマ!」

クマ「クマ、ヨースケの旅のしおり見て、コツコツ貯めたバイト代はたいて来たクマ!」

クマ「けど……オール鈍行だったから、めちゃくちゃ時間かかって」

クマ「その上、時々捨てられそうになったクマ。 よよよよ……」

花村「そりゃ着ぐるみ着てりゃそうなるだろ……」

雪ノ下「怪しすぎるものね……」

りせ「……ところで」

りせ「クマの泊まる所、どうするの?」

クマ「もっちろん、りせちゃん達と一緒でいいクマよ!」

里中「あんたが良くてもこっちがお断りよ!」

クマ「な、なんで~!?」


天城「そういう訳だから比企谷くん達、クマくんお願いね?」

花村「しゃあねぇーなぁ……」

比企谷「静かにしてろよ、クマ?」

クマ「この際我慢するクマ!」

花村「……何なんだよ、このイミフな展開」

比企谷「……諦めろ、花村」


―――――――――――


クマ「ウッホホーイ!」

クマ「おっきいベッドクマ~」

     ボフン ボフン

花村「言ってるそばから騒いでんじゃねーよ、クマ吉!」

比企谷「…………」


比企谷(あれ? 何か忘れている様な……?)

     コン コン

花村「あん? 誰だ?」

     ガチャ…

完二「……ちーッス」

比企谷「」

花村「」

比企谷・花村(そ、そうだ! 1・2年合同だったの忘れてた!)

クマ「およ? 誰クマ?」

完二「ああぁ? お前こそ誰だ?」

花村「ああーっと! すまん巽くん!」


花村「こいつ他校生徒で俺のダチなんだけどさぁ……」

花村「連れてけ連れてけ、うるさくって……とうとう自腹でここまで来ちまったんだよ」

完二「…………」

花村「悪い! この事は黙っててもらえねーかな?」

完二「…………」

完二「まぁ……いいっスけど」

花村「すまねえ! 恩に着るぜ!」

完二「その代わり、ベッドは俺が使わしてもらっていいスか?」

花村「おう! 構わねーぞ!」

花村「俺たちは床で寝るから!」

完二「ウッス」

比企谷(……何とか切り抜けたか)


クマ「えー!? 一個しか無いのにー!?」

クマ「こんなにおっきいベッドなんだから、みんなd」

比企谷「ふんっ!!」

     ドゴォッ!!(みぞおち)

クマ「おぶふうッ!?」

クマ「」 チーン…

比企谷「あ、危なかった……」

花村「今一瞬、本気で殺意が沸いたぜ……」

完二「どーしたんスかぁ?」

花村「あー、何でもない。 何でもないから」

完二「……じゃあ、俺はもう寝ますんで」


比企谷「あ、ああ……お休み」

花村「お休み……」


―――――――――――


里中「…………」

天城「…………」

雪ノ下「…………」

りせ「…………」

比企谷「……かいつまんで言うと」

花村「……林間学校時と全く同じ理由です」


―――――――――――


里中「……何かしたら本当に殺すからね?」


比企谷「こんな所で死ぬつもりは ありませんので」

花村「はぁ……せっかくの修学旅行なのに……」

雪ノ下「それはこっちのセリフよ、エロ村くん」

天城「ところで……クマくんは?」

比企谷「いきなり眠ってしまったんで置いてきた」

りせ「危なくない?」

花村「呼ばれてもねーのに来るあいつが悪い」

里中「確かにそうだけど……花村、比企谷くんに毒されてない?」

花村「何とでも言え……とにかく、クマには神経すり減らされたんだ」

花村「つか、ここにクマ来てたら騒ぎまくって面倒起こすだけだろ?」


里中「……あー」

天城「……確かにね」

雪ノ下「……容易に想像できるわ」

りせ「……しょうがないか」

比企谷「……疲れた。 お休み」



     その日は本気で疲れてた事もあってすぐに寝た……

     由比ヶ浜の事は、可及的速やかに対処しないといけないが

     それは明日に持ち越した……


今日はここまでです。修学旅行編、いっぺんに終わらせるつもりだったのに……
さて、ヒッキー、どうハッチャケさせよう……?
それではまた。

乙ー

乙!


戸塚がいれば自然にテンション上がるんじゃないか?

あの八幡が戸塚を相手にローテンションだと……!?

戸塚に名前を呼ばれるだけで他のこと全てを放り投げて幸せに浸るあの八幡が!?

バカな、とつかわいいをどこへ放り捨てたんだ!

保守



―――――――――――


翌日の午後

修学旅行2日目の街中


花村「さて、ここから自由行動だけど」

花村「里中達は女同士でどっか行っちまうし……どうする?」

比企谷「すまん花村」

比企谷「俺はちょっと抜けさせてもらう」

花村「ん? どこに行くんだ?」

比企谷「少し用事が出来たんでな」

比企谷「そんなに時間はかからないと思うが……」


花村「ふうん? まあ昨日、元々通ってた学校に行ったんだし」

花村「そういう事もあるわな」

花村「わかった、比企谷。 集合場所はそこの駅前で17:00くらいにしとくか」

比企谷「悪いな。 何かあったらケータイで連絡する」

花村「ああ」

花村「じゃ、クマ。 俺とゲーセンにでも行くか?」

花村「……ってあれ?」

比企谷「……居ないな」

     ピピピ……ピピピ……

花村「お……はい、もしもし」

花村「里中か……おう……」

比企谷「…………」


花村「そっか……そっちに行きました、か……」

花村「わかった。 クマ、任せた。 じゃあな」

     ブッ……

比企谷「……里中達について行ったのか」

花村「そうみたいだ……」

花村「……つか、俺、これから一人で過ごすの確定かよ」

花村「はあ……修学旅行、なんでこんな事に……」

比企谷「…………」


??「あら? 偶然ね、花村くん、比企谷くん」


比企谷「!?」


花村「……え?」

比企谷「……どうしてここに居るんですか、陽乃さん」

陽乃「んー? 休学届け出してる大学に用事があってね」

陽乃「本当に偶然だよ?」 クスクス

花村「…………」

陽乃「それよりもさ」

陽乃「花村くん、一人でどうの……とか言ってたけど」

花村「おねーさんとデートしない?」

花村「え!? い、いや、その……」

陽乃「いいじゃない、ここで会ったのも何かの縁だし。 行こう?」

花村(ひ、比企谷っ……!)

比企谷「じゃ、俺はこれで」 メクバセ(花村……情報を漏らすなよ?)

花村(比企谷~~~!!)



―――――――――――


とある公園


比企谷「…………」

比企谷(さて、昨日メールで伝えた待ち合わせ場所に来たが)

比企谷(遅いな……由比ヶ浜)

比企谷(…………)

比企谷(昨日は由比ヶ浜の事で頭が一杯だったが)

比企谷(戸塚……川崎……後、ついでに材木座。 元気そうだった)

比企谷(特に戸塚は可愛さに磨きがかかっていた……)///

比企谷(比べるまでもないが、あのヤンキーと同性などとは全く思えん)



??「!? ひ、比企谷くん!?」


比企谷「あん?」

比企谷「! 雪ノ下!?」

雪ノ下「……どうしてあなたがここに居るの?」

比企谷「……昨日、由比ヶ浜と話をする為、15:00にここを待ち合わせ場所にしたんだ」

比企谷「雪ノ下は?」

雪ノ下「私も同じ……でも」

雪ノ下「時間指定が15:20なんて中途半端なのが気になった」

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」


??「やっはろー!」


比企谷「由比ヶ浜……」

雪ノ下「由比ヶ浜さん……」

由比ヶ浜「えへへ……二人からお誘いがあったから」

由比ヶ浜「どうせな三人で会おうと思って!」


     くったくのない笑顔を見せる由比ヶ浜……

     これから話す事を思わず躊躇(ちゅうちょ)させるには十分だった


由比ヶ浜「で? 何なの? 私に話って?」

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」

比企谷「その、な……由比ヶ浜」


由比ヶ浜「うん!」

比企谷「……バイト、頑張ってるみたいだけど」

由比ヶ浜「そだよー?」

由比ヶ浜「結構いい社会勉強になるんだ♪」

雪ノ下「……でも」

雪ノ下「無理は良くないと思う」

由比ヶ浜「え……?」

比企谷「土日だけじゃなく、平日もやってるって聞いた」

由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜「川崎さん?」

比企谷「誰って訳じゃねーよ……由比ヶ浜、付き合いが悪くなったって耳にしたからな」

由比ヶ浜「…………」


比企谷「八十稲羽に来る交通費や天城屋に泊まる宿泊費……」

比企谷「高校生が捻出する金額としては、高額だ」

由比ヶ浜「…………」

由比ヶ浜「別にいいじゃない」

由比ヶ浜「私が稼いだお金なんだし……」

由比ヶ浜「それとも――」

雪ノ下「それとも……何?」

由比ヶ浜「…………」


      ――私が八十稲羽に行くのと、迷惑なの?――


由比ヶ浜「……ううん。 何でもない」

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」


比企谷「ともかくだ。 バイトを止めろ、とは言わないが……」

比企谷「せめて、土日と平日、どっちかにした方がいい」

比企谷「こっちでの人間関係をおろそかにしていい訳がない」

由比ヶ浜「……ヒッキーに言われたくないなぁ」

雪ノ下「まったくもって同感ね」

比企谷「……お前らなぁ」

由比ヶ浜「でもわかったよ、ヒッキー、ゆきのん」

由比ヶ浜「心配してくれてありがとう」

雪ノ下「由比ヶ浜さん……」

比企谷「わかってくれたか……」 ホッ…


由比ヶ浜「じゃ、この話はもうおしまい!」

由比ヶ浜「天気もいいし、どっか遊びに行こうよ! 三人で!」

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」

     ピピピ……ピピピ……

比企谷「っと。 すまん」

     ガチャ

比企谷「もしもし……ああ、花村か」

比企谷「どうしたんだよ? 待ち合わせ時間には……」

比企谷「……は?」

雪ノ下「……?」


比企谷「…………」

比企谷「お、おい……なんでそこに戸塚とか居るn」

     ブッ……ツーツー

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」

由比ヶ浜「どうしたの? ヒッキー?」

比企谷「……わからねぇ」

比企谷「繁華街のクラブ○○で待ってるとか言って切れちまった」

雪ノ下「……どうしてそんな いかがわしい所に?」

比企谷「だからわからねーよ……ただ」

由比ヶ浜「ただ?」


比企谷「花村……陽乃さんと行動していたハズなんだが……」

雪ノ下「…………」

由比ヶ浜「?」



     由比ヶ浜はキョトンとしていたが

     雪の下はわかってくれた様だ……はっきり言って

     不安しかねぇ……



比企谷「……ともかく、行くしかないな」

雪ノ下「……その様ね」

由比ヶ浜「みんな居るんだよね? 楽しみ♪」



―――――――――――


花村「ひ、比企谷! 待ってたぜ!」

比企谷「ったく、どうしたんだよ花村?」

花村「俺にもわかんねーよ!」

花村「あの世界の事バレねーようにするのが精一杯で」

花村「いつの間にかここに来てたんだよ!」

比企谷「……いろいろ端折(はしょ)ってないか?」

花村「お、俺も何を言ってるのかわかんねーけど、手品とか、そんなチャチなものじゃねぇ」

花村「もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分だぜ……」

雪ノ下「なんのコピペよ」

花村「ともかく、VIPルームに来てくれ!」


由比ヶ浜「わあ、さいちゃん!」

戸塚「由比ヶ浜さんに雪ノ下さん、それに八幡!」

材木座「待っていたぞ! 同士比企谷!」

比企谷「お、おう」///

比企谷(や、やべぇ……私服の戸塚……かわいすぎだろ)///

陽乃「来たわね、比企谷くん。 ふふふ♪」

雪ノ下「……姉さん。 高校生をこんなところに連れ込んでいいの?」

陽乃「んー? この場所を知ってたの私じゃないわよー?」

雪ノ下「え?」

りせ「あたしです。 雪ノ下先輩」

りせ「芸能界に居た頃知って、それから顔なじみなんだ♪」


雪ノ下「だからって……」

里中「まあまあいいじゃん? 雪ノ下さん」

天城「こういう雰囲気のお店、八十稲羽にはないし……結構面白いかなって」

クマ「クマ、こういうのも良くってよー?」

白鐘「…………」

雪ノ下「……え?」

比企谷「なんで居るんだよ……少年探偵」

白鐘「……僕は元々カウンター席に一人でいたんですけど」

比企谷「……どんな高校生だよ」

白鐘「祖父に連れられて来ている内に 顔なじみになりました」

白鐘「こういった場所の方が色々と情報が聞けて都合がいいんです」

りせ「修学旅行中見かけるたび、ずっと一人っぽかったし」

りせ「それで声かけてみたんだ♪」


陽乃「まあ私は保護者兼、監督者って事で」

陽乃「おおいに飲みましょう!」

雪ノ下「ね、姉さん、未成年者の飲酒は……」

りせ「大ジョブ大ジョブ! ノンアルコールで注文しといたから!」

比企谷(……本当に大丈夫なのか?)


―――――――――――


りせ「王様ゲェェェェム!」///

花村「バリバリに酔ってるじゃねーか!?」

里中「うそ……これお酒?」

雪子「んふふふ、いーきもちー♥」///


陽乃「ああ……これチューハイね」

陽乃「私の注文、間違えて飲んじゃったのか」

花村(間違えて……?)

花村(後から来たドリンク、やけに数と種類が多いと思ったら……確信犯じゃねーかよ!?)

花村(って! 冷静に分析してる場合じゃねー!)

花村「比企谷! お前は大丈……」

比企谷「ハッハッハッ」///

比企谷「おかわり……」///ヒック

花村「」

花村「ゆ、雪ノ下さ」

雪ノ下「私もおかわり……」///ヒック

花村「」 オワタ


りせ「くぉらぁ、愚民どもぉ……準備はどうしたァ!?」///

材木座「ははっ! 僭越(せんえつ)ながら吾輩が……!」つ(割り箸の束)

花村「いつの間に……」

りせ「んっふっふっ……では、始めるぞよー!」///

     王様ダーレダ!

クマ「ムホー!!」

クマ「クマが王様クマー!」

花村・里中(いきなりヤバいの来た!!)

戸塚「さ、クマくん。 命令して?」

クマ「ふっふっふっ……クマが命ずるクマ」


クマ「3番にクマがチッスをプレゼントするクマ!」

材木座「なぬぅ!?」

クマ「やっぱり、5番で」

里中「変更はなし!!」

クマ「んもう、仕方ないクマね……」

クマ「クマの熱いベーゼ、受け取って……!」

材木座「ちょちょちょ! 待ちたまえ、クマ殿!」

材木座「吾輩の初めては貧乳つるペタのロリ美少女と決めておっ」

     イヤ! マッテ! ジュウシンガヤキツクマデ……

     アッー!

りせ「早くも二人脱落ぅ~♪」///

里中「そういうゲーム!?」


りせ「さっ! 続けるわよ~」///

     王様ダーレダ!

由比ヶ浜「私だ!」

雪ノ下「……」/// チッ…

花村(……え?)

里中「ソ、ソフトな命令でよろしく、由比ヶ浜さん」

由比ヶ浜「んーとね……4番が6番に抱きつく!」

戸塚「ええ~!?」

花村「マジかよ……」

比企谷「…………」///


戸塚「えと……じゃ、じゃあ、花村くん」///

花村「お、おう……」///

花村(……あれ? 何この気持ち)///

     ギュ…

戸塚「……」///

花村「」///

     オオー!

花村(え!? ちょっと!? なにこれ!?)///

花村(すっごくいい匂いなんですけど!?)///

花村(めちゃくちゃ可愛いんですけど!?)///

比企谷「……っのけーい! 花村ァッ!」///

戸塚「わ!?」///

花村「どわぁ!?」


花村「イテテ……なにすんだ比企谷!」

     ギュ…

花村「」

比企谷「戸塚は俺のもんだ……」///

戸塚「は、八幡……」///

由比ヶ浜「ちょ!? さいちゃんもまんざらじゃない顔しないでよ!?」

比企谷「んはっ……クンカクンカ」///

比企谷「戸塚の匂い、たまらねぇ……」///ハアハア

戸塚「~~~~~っ」///

一同「」


花村「やめろ! 比企谷! いろんな意味でヤバイッ! それ!」///

由比ヶ浜「そそそ、そうだよ! ヒッキー!」///

比企谷「うるせぇ! 俺は戸塚の為に スーパーパイロットになるんだ!」///

里中「比企谷くんが壊れた!?」

陽乃「あはは! 楽しい~♪」

天城「ホントそうですよねぇ~♪」///

りせ「いいぞぉ! 比企谷先輩!」///

りせ「そこにシビれるッ! 憧れるゥッ!」///

花村「……だめだ、こいつら」

花村「もう、雪ノ下さんだけが頼り……」

雪ノ下「まったく、なってないわね」///

雪ノ下「と、私はキメ顔で言った」///ヒック

由比ヶ浜「ゆきのんも壊れた!? ゆきのん、戻ってぇ!!」



―――――――――――


りせ「続いて、三回せ~ん!」

花村「……まだやんのかよ」

由比ヶ浜「こ、これで終わり……だよね?」

     王様ダーレダ!

一同「…………」

比企谷「……フッ」///

     ババッ! キラーン☆

比企谷「キングだ……」///ヒック

里中(うわぁ……)

花村(割り箸(クジ)持って、ポーズ決めた上にドヤ顔してやがる……)

由比ヶ浜(ちょっと引いちゃうよ……ヒッキー)


里中「ま、まともな命令でよろしく」

天城「らめよぉ~、千枝~」///

天城「せっかくだからぁ、もっと過激なの行こうよぉ」///ヒック

天城「例えばぁ~……膝の上に座って見つめ合うとかぁ」///

りせ「もうそのままキッスしちゃえい!」///

天城「時代は肩車よねぇ~」///

花村「マジかよ……」

由比ヶ浜「わ、私……ス、スカートなんだけど……」///

戸塚「ぼ、僕もさすがに恥ずかしいよ、八幡」///

比企谷「…………」///ヒック


比企谷「ふふふ……」///

比企谷「戸塚の力(匂い)を得て、スーパーパイロットとなった俺は」///

比企谷「さらに戸塚とひとつになって……」///

比企谷「スーパーパイロット2に変化してみせる!!」///ヒック

花村「……なんかいろいろ混ざってなくね?」

里中「あたしには良くわからないじゃん……」

比企谷「それじゃいくぜ……」///

一同「……」 ゴクッ

比企谷「…………」///

比企谷「……2番」///

比企谷「2番が、俺の膝に座るッ……!」///ヒック


里中「……!!」

里中「あ、あたしだ……」///

花村「マジかよ……」

由比ヶ浜「ヒ、ヒッキー! いくらなんでもやりすぎ……」///

比企谷「戸塚じゃなかった……」///シュン…

里中「……なんかすごい腹立つんだけど?」

由比ヶ浜「……擁護できないし」

陽乃「それはともかく、早くやってみて♪」

里中「ぐ……わ、わかってます、じゃん」///

     ストン… オオー

天城「おおう……千枝~大胆~」///

里中「……めちゃくちゃ恥ずかしい」///


     スクッ…

由比ヶ浜「へ?」

戸塚「どうしたの? 雪ノ下さん?」

雪ノ下「…………」///

雪ノ下「どきなさい」///

雪ノ下「と、キメ顔で私は言った」///ヒック

     ドンッ

里中「ちょっ!?」

     ストン…

由比ヶ浜「」

戸塚「」

陽乃「おお~。 雪乃ちゃん、比企谷くんの膝に座った上に抱きつくなんて……大胆♪」


雪ノ下「当然よ。 里中さんもこれくらい やるべきね」///

雪ノ下「と、私はキメ顔で言った」///ヒック

由比ヶ浜「ゆゆゆ、ゆきのん! は、離れてよ! 大胆すぎるでしょ!?」///

陽乃「んふふ~♪」 パシャ パシャ

花村「ちょ!? 陽乃さんも何、写メ撮ってるんですか!?」

陽乃「いいじゃない♪」

陽乃「大事な妹の成長記録よ♪」

花村「バレたら俺、間違いなく比企谷と雪ノ下さんに殺される!!」

陽乃「あはは~♪」 パシャ パシャ

花村「陽乃さん、マジやめてー!!」

     ワアアア……



―――――――――――


天城「じゃあ次~私が王様~、女王様~♪」///

花村「クジ引けよ……つか、もういろんな意味で限界なんですけど……」

天城「じゃ、命令~」///

天城「直斗くん、何か面白い話してぇ~」///

白鐘「え……僕が、ですか?」

花村「白鐘……気にすんな。 無視していいから」

白鐘「…………」

白鐘「……そうですね。 面白いかどうか、わかりませんが」

白鐘「してもいいですよ。 話くらい」


花村「え!? マジで!?」

白鐘「ただし、条件があります」

白鐘「皆さんが隠している事を話してください」

天城「いいよ~」///

りせ「洗いざらい言ったらぁ!」///

比企谷「俺のスーパーパイロット武勇伝を語ってやる」///ヒック

雪ノ下「構わないわ。 と、私はキメ顔で言った」///ヒック

花村「ちょ!? お前ら!?」

陽乃「ほうほう」

由比ヶ浜(隠してる……事?)

戸塚(いったい何だろう?)

白鐘「交渉成立ですね」


白鐘「……僕の生まれた白鐘家は、代々探偵を生業(なりわい)としてきました」

白鐘「長年、警察に協力し、事件解決の知恵を貸していたんです」

白鐘「しかし……表に出る事も少なく、まさに影の立役者、といったところ……」

白鐘「けど、それが当たり前なので特に気にする事はありませんでしたが」

白鐘「僕は幼い頃から祖父の後をついて行き、様々事件を間近に見聞きして学び」

白鐘「ついには、いくつかの事件を解決に導く事が出来る様になりました」

白鐘「そして、今に至ります」

花村「…………」

花村「……? それから?」

白鐘「これで終わりですが?」

     ガタタッ!

花村「お、終わりって……オチも何もなしかよ!」


白鐘「だから、面白いかどうか、わからないと言っておいたでしょう?」

花村「そ、そりゃそうだけどよ……」

白鐘「さて」

白鐘「今度は皆さんの番ですよ?」

白鐘「話してください。 隠している事を」

花村「そ、それは……だな」

天城「んー。 私たちねー。 誘拐された人を助けにテレビに入ってるのー♪」///

花村「」

りせ「そいでね! 襲いかかるシャドウをちぎっては投げ、ちぎっては投げ!」///

花村「バ、バカ……! お前ら……!」

天城「んで、強敵にはペルソナを使うんだよ? ペルソナー!って!」///ヒック


陽乃(…………)

由比ヶ浜(うわぁ……相当酔っ払ってるなぁ)

戸塚(でもなんか楽しそう)

白鐘「……はあ」

白鐘「どうやら、まともに取り合う気はない様ですね……」

花村「ははは……す、すまねぇな」

比企谷「そこでだ! 俺のスーパーパイロット能力が開花する!」///

雪ノ下「私も新たな力の目覚めに身震いしたわ」///

雪ノ下「と、私はキメ顔で言った」///ヒック

白鐘「……バカ軍団ですか」

里中「……言わないで欲しいじゃん」 シクシク…



―――――――――――


翌日 修学旅行最終日の午後

大衆食堂 はがくれ


     ズルル……ズルル……

花村「ふう……ここのラーメン旨いな」

りせ「でしょ! ロケとかでたまに食べてたんだけど、お気に入りなんだ♪」

りせ「本当は炭水化物、厳禁だったんだけど……」

里中「アイドルは大変ね」

天城「……千枝」

里中「ん? 何? 雪子?」

天城「私……昨日あのお店でドリンク飲んでから、今朝までの記憶がないんだけど……」


里中「そ、そうなんだ? 残念じゃん。 楽しかったのに」

天城「うん……それは何となく覚えてる」


比企谷「…………」

雪ノ下「…………」

比企谷「雪ノ下」

雪ノ下「何かしら?」

比企谷「俺も天城と同様、全然記憶がない」

雪ノ下「まったく不愉快だけど、私も全く同じ」

比企谷「……花村の反応から、なんかヤバイ事している気がするんだが」

雪ノ下「私も里中さんの反応が気になって仕方ないんだけど……」


比企谷「…………」

雪ノ下「…………」

比企谷「どうしてか……楽しかった気がするんだよな」

雪ノ下「非常にまったく不愉快極まりないけど……比企谷くんと同じ」

比企谷「…………」

雪ノ下「…………」


クマ「おかわりクマ!」

花村「……おいおい、よく食うな、クマ」

クマ「だって美味しいんだものクマ!」

花村「まあ……お前が稼いだ金だから、何に使おうが構わないが」

花村「足りるのか?」

クマ「たぶん大丈夫クマ!」


花村「んじゃ、そろそろ行くか」

里中「もうすぐ集合時間ね」

りせ「なんだかんだ言って、楽しかったね!」

比企谷「……まあな」

雪ノ下「少し疲れた気もするけど」

天城「あははは……」

     ゾロ ゾロ…

クマ「……ちょっとマッテ~」

花村「あん? どうした? クマ?」

クマ「食べ過ぎて……動けんクマ~!」



一同「…………」


里中「どうしよっか?」

花村「う~ん……」

比企谷「置いて行けばいい」

クマ「え?」

比企谷「勝手にここまで来れたんだ。 帰りも大丈夫だろ」

クマ「ちょ!? センセイ! 酷いクマ!」

クマ「クマ、ぬいぐるみのフリして、センセイ達に便乗するつもりクマなのに!」

花村「……お前、まさか」

花村「それ見越して帰りの電車賃、メシに使いこんだのか?」

クマ「…………」

一同(使ったんだ……)


花村「ま……食後のいい運動になるんじゃね? じゃあな、クマ!」

クマ「ヨ、ヨースケ!?」

天城「八十稲羽でまた会おうね」

クマ「ユユユ、ユキちゃん!?」

雪ノ下「可愛い子には旅をさせろ、とも言うしね」

クマ「ちょっと! 真面目にお金もう無いの!」

クマ「助けてクマ―――――――――――!!」



     クマの断末魔、とも言える叫びを無視して

     俺たちは大衆食堂を後にした……

     そうだ、足立さんに何かお土産を買わないとな。





     ……その後のクマ?

     次の日にはちゃっかり八十稲羽に帰ってきてた。

     ヒッチハイクしたらしい。 ずいぶんたくましくなったものだ……




―――――――――――


白鐘直斗 自宅の部屋


     プルルル……プルルル……ガチャ

白鐘「……もしもし。 白鐘です」

白鐘「以前、依頼されてたTV出演の話」

白鐘「お受けします」

白鐘「…………」

白鐘「はい。 では後ほど……」

     ブッ……

白鐘「…………」

白鐘(賽は投げられた……)

今日はここまでです。結局中の人ネタ……ギャグは難しい……
比企谷、アセムだったんですね……知らんかった。

乙太郎!

乙!

そろそろ次スレかな?

乙!とても面白いです。
次回楽しみにしてます!

おつー

毎週楽しみ!

保守



―――――――――――


????


イゴール「ふふふ……ようこそ、ベルベットルームへ」

イゴール「しばらくぶりでございますな、お客様」

イゴール「はい……今回も夢の中にてお呼びだてをしておりまする」

イゴール「ところで、いかがお過ごしでございますかな?」

イゴール「…………」

イゴール「ほお……それはそれは……」

イゴール「…………」

イゴール「なるほど……左様でございますか」


イゴール「確かに平穏は心に安らぎをもたらし、心地の良いもの」

イゴール「しかし……それ故に例え様もなく抜け出しにくいものである事もまた事実」

イゴール「わたくしめからは……少々お気を緩めすぎているかと思われまする」

イゴール「…………」

イゴール「ふふふ……これは失礼」

イゴール「それでは本題に入りましょう」

イゴール「マーガレット」


マーガレット「はい」

マーガレット「お客様はもうすぐ……」

マーガレット「大いなる危機に直面なさるでしょう」

マーガレット「それもそのはず……」

マーガレット「目に見える道は幾筋もあり、遠くからやってくる深い霧が」

マーガレット「身近な者に差し迫る危険すらも見えなくしている」

マーガレット「そして……霧は払う事はできず、大きく横たわり続ける……」

マーガレット「どうかお気を付けくださいませ」


イゴール「ふふふ……お分かりいただけましたかな?」

イゴール「…………」

イゴール「……左様にございますか」

イゴール「いずれにしても残された時間は、まだございます」

イゴール「焦りは禁物」

イゴール「お客様の思うがまま、歩まれればよろしいでしょう……」

イゴール「…………」

イゴール「おお……そろそろお目覚めの時刻の様ですな」

イゴール「それでは、いずれまた……」

イゴール「夢の中にて お会い いたしましょう……」


―――――――――――


足立宅


テレビ「本日は緊急報道特番として」

テレビ「お手柄、探偵王子!を、お送りします!」

テレビ「ゲストはもちろんこの方!」

テレビ「現役高校生探偵こと、探偵王子!」

テレビ「白鐘直斗さんです!」

テレビ「……どうも」


比企谷「……!?」


テレビ「さっそくですが、八十稲羽市で起きた、何とも奇妙な殺人事件」

テレビ「話せる範囲で構いませんので、解決のあらまし等をお聞かせください」


テレビ「……そうですね」

テレビ「警察はこの事件を解決したと見ている様ですが」

テレビ「僕の見解は違います」

テレビ「え?」


比企谷「…………」


テレビ「まだ解き明かされていない謎かいくつかあるのです」

テレビ「例えば……」


比企谷(…………)

比企谷(……あいつ)

比企谷(何を考えているんだ?)


警察署


     ルルルルル……ルルルルル……

足立「あーはいはい。 もしもし、こちら八十稲羽警察署……」

足立「……ええ、そうですね、その件につきましては、ですね……」

     ……ガチャ

足立「ふう……まったく、あの子供、やってくれますねぇ」

足立「あの放送後、問い合わせがひっきりなしですよ……」

堂島「…………」

足立「堂島さん?」

堂島「……ん? いや、何でもない」

堂島「電話は上が記者会見でもすれば、すぐ収束するだろう……」


足立「そんなもんですかね~」

     ルルルルル……ルルルルル……

足立「……はあ。 もう出るのも面倒ですね……」

堂島「…………」


堂島(確かに褒められた事じゃない)

堂島(だが……白鐘の言っている事は的を射ている)

堂島(……正直、俺が疑問に思っている事とほぼ同じ内容だった)

堂島(…………)

堂島(足立の言う通り、俺たち警察へのあてつけとも取れるが)

堂島(どういう意図でこんな事をしでかした?)

堂島(……どうにも引っかかる)

堂島(…………)


翌日の放課後

ジュネス フードコート


     ガヤ ガヤ…

雪ノ下「……なんだか意外ね」

里中「白鐘くんの事?」

雪ノ下「そう」

雪ノ下「目立つ事が、好きな様に見えなかったから」

天城「確かに。 そんなタイプには思えなかったけど……」

花村「心境の変化、とか、あったんじゃね?」

りせ「……そうなのかな」


比企谷「…………」


比企谷(……多分違う)

比企谷(あいつは、あいつなりに考えて、今回の行動に出た)

比企谷(以前から怪しい、おかしい、腑に落ちない、と)

比企谷(言い続けていたし……)

比企谷(…………)

     ガヤ ガヤ…

比企谷「……それにしてもうるさいな」

里中「しょうがないじゃん?」

里中「今日ばかりは、どこ行っても探偵王子の話題でもちきりになるっしょ」

天城「…………」

花村「? どうかしたのか? 天城?」


天城「……うん」

天城「上手く言えないんだけど……」

天城「最近……何かおかしくない?」

りせ「どういう意味ですか?」

天城「その……この街の様子……というか、雰囲気、というか……」

天城「確かにね? 白鐘くんがテレビに出た事がきっかけなのはわかるよ?」

天城「でも……こんなに大げさに広まるのって……変だと思わない?」

比企谷「……言わんとする事はわかる」

比企谷「けど、噂って大抵そういうもんだろ?」

比企谷「根も葉も 根拠もない、推測や尾ひれがついてまわるもんだ」

天城「そう、なんだけど……みんなまるで……」

里中「まるで?」


天城「薄々感じている恐怖から、噂話に逃げ様としてるみたいに思えて……」

一同「…………」


??「……ここに居ましたか、みなさん」

一同「!?」


比企谷「白鐘……」

白鐘「少し話したい事があるのですが……」

     ガヤ ガヤ…

     タンテイオウジダ…… ワービケイー

白鐘「……まず、場所を変えましょう」

一同「…………」



―――――――――――


河川敷


白鐘「わざわざすみません」

花村「いや……それで? 話したい事ってなんだ?」

花村「昨日テレビに出た事と関係あんのか?」

白鐘「…………」

白鐘「そうですね。 結論から言えば」

白鐘「その通りです」

比企谷「…………」

白鐘「ですが、理由を話す前に」

白鐘「現時点での僕の考えを聞いてください」

一同「…………」


白鐘「まず……今回の事件」

白鐘「僕は昨日、テレビであらかたの疑問を言いましたが」

白鐘「ひとつだけ言ってない事があります」

雪ノ下「それは何かしら?」

白鐘「……被害者の共通点です」

りせ「…………」

白鐘「警察は、久保美津雄による単独犯で三人が殺害された」

白鐘「という見方になっています」

白鐘「その方向で事件を収束させようと躍起になってすらいる」

天城「……白鐘くんの考えは違うの?」


白鐘「はい」

白鐘「『殺された』被害者だけでくくると」

白鐘「共通点は『この街の住人』という事になりますが……」

白鐘「この事件、二件目と三件目の間に大きなブランクがありました」

白鐘「しかし……『何も無かった』訳ではありません」

比企谷「…………」

白鐘「ブランク期間に起こった事件は、当該の被害者が割とすぐに発見されている為」

白鐘「それ程大きく扱われませんでしたが……」

白鐘「殺害された被害者と同様の共通点があります」

白鐘「必ず、一定時間『失踪する』という点が」

花村「…………」


白鐘「皆さんの中に心当たりの方が、いらっしゃいますよね?」

白鐘「天城雪子さん」

白鐘「里中千枝さん」

白鐘「雪ノ下雪乃さん……」

一同「…………」

白鐘「僕が調べた限りで、殺人事件と似通った失踪は続いており」

白鐘「そして……第三の殺害事件が発生した」

比企谷「…………」

花村「何が言いたい? 俺達が犯人だと言いたいのか?」

白鐘「……確かにそう考えた時もありました」

りせ「今は違うの?」

白鐘「そうです」


白鐘「最初の話に戻りますが」

白鐘「被害者の共通点……『失踪騒ぎ』のあった人を含め」

白鐘「なおかつ、同一人物の犯行と仮定すると」

白鐘「この街に居て、直前に大きくテレビ報道されている人物……」

白鐘「という可能性が高い」

一同「……!!」

白鐘「ですが……この推理にも穴があります」

白鐘「まず、里中さんはテレビ報道されていないし」

白鐘「逆に久慈川りせさんは、大きく報道されたのに失踪騒ぎがなかった」

一同「…………」


白鐘「そして……三人目の殺人被害者である諸岡さん」

白鐘「彼には、彼『だけ』の違和感が多々あるのです」

比企谷「……と言うと?」

白鐘「一番の疑問点は『死因がはっきりしている』事です」

白鐘「諸岡さんは頭部を鈍器で殴られ、それが致命傷になっていますが」

白鐘「先に殺害された二人は、今だにどうして亡くなったのか全く分かっていません」

比企谷「…………」

白鐘「そして……直前にテレビ報道もされず、疾走騒ぎも起きていない」

白鐘「諸岡さんだけ、明らかにこれまでの共通点から外れてしまうんです」

雪ノ下「…………」

白鐘「しかし諸岡さんに関しては、ほぼ久保美津雄の犯行とみて間違いないでしょう」

白鐘「本人が謎の死を迎えているので動機などは不明のままですが……」

白鐘「おそらく、今回の事件の模倣をした単独犯です」



     ヒュウウウウ……


比企谷「……ひとつ聞かせてくれ」

白鐘「何でしょう?」

比企谷「どうしてそんな話を俺達にした?」

白鐘「…………」

白鐘「みなさんは修学旅行の時、面白い事を言ってましたね?」

白鐘「誘拐された人をテレビの中に入って助ける……とか」

比企谷(花村ァ……) ギロッ

花村(俺のせいじゃねーっての……) 睨み返しっ

白鐘「……僕には何の事だか見当もつきませんが」

白鐘「ある仮説を立ててみました」


りせ「仮説?」

白鐘「あなたがたは犯人などではなく」

白鐘「むしろ……犯人を追い詰める、何らかの手段を持った人達……」

一同「」

白鐘「荒唐無稽ですが、そう考えるといろいろ納得できるんです」

白鐘「失踪した人を助け、それが縁で仲間になってゆく」

白鐘「この集まりは、そうやって出来ていったのではないか、と……」

花村(……すげぇ。 さすが探偵王子……)

比企谷「ちょっと待て」

比企谷「実に名推理だが……今までの話を総合すると」

比企谷「お前は次のターゲットに自分を差し出した、って事なのか?」

一同「!!」


白鐘「…………」

白鐘「否定はしません」

白鐘「この事件は謎が多い」

白鐘「警察は久保美津雄の自供で事件の幕引きをはかりたい様ですが」

白鐘「もし」

白鐘「彼が真犯人でないのなら、いずれ新たな殺人事件がまた起こるかもしれない」

一同「…………」

白鐘「結果がどう出るか……」

白鐘「失踪が起きなくても、恥をかくのは僕だけです」

りせ「でも、だからって!」

白鐘「……遊びのつもりじゃありませんから」

りせ「……!!」

白鐘「それでは、これで失礼します」

     スタ スタ スタ…


里中「何か……圧倒されちゃったね」

天城「さすがは少年探偵、って事なのかな……」

比企谷「本職には敵わないって事だろ……しかし」

比企谷「あいつのおかげで、いろいろわかったな」

花村「ああ……被害者の共通点」

花村「俺らは【マヨナカテレビ】だけだと思っていた」

花村「山野アナも 小西先輩も 確かに直前、テレビ報道されている」

里中「あたしは ついでか何かかもしれないけど……」

里中「雪子も 雪ノ下さんも、そしてりせちゃんも」

里中「見事にテレビ報道されてるね」


雪ノ下「でも待って」

雪ノ下「諸岡先生以降、何度か雨の日があったけど……」

雪ノ下「いずれも【マヨナカテレビ】は映っていないわ」

雪ノ下「犯人は久保美津雄という事じゃないの?」

比企谷「白鐘は言ってだだろ? 被害者の共通点は」

比企谷「『この街に居る』『テレビ報道された』人物としている」

比企谷「政治家や芸能人のスキャンダル等はあったが」

比企谷「モロキン以降のテレビ報道で、この条件を満たす奴は間違いなく居ない」

雪ノ下「…………」

りせ「……どうしよう」

比企谷「? 何がだ?」


りせ「あたし……以前」

りせ「白鐘くんに『遊びのつもりでやってるのはそっち』とか言ったの……」

りせ「あたしが彼を追い詰め」

比企谷「それはたぶん違うな」

りせ「え?」

比企谷「あのな……白鐘は何で俺達にあそこまで話したんだと思う?」

比企谷「保険なんだよ、俺たちは……」

里中「保険?」

比企谷「あいつ……確証がある訳じゃないだろうが」

比企谷「自分が犯人に拉致られたら、その時はよろしくって暗に言ってるんだよ」

比企谷「唯一、自分の考えを信じてくれそうな俺達に」

一同「……あ」

比企谷「食えない奴だぜ……探偵王子」




     その数日後。 天気予報通り、雨が降ってきた。

     この天気は少なくとも今日、明日中は続く見込みで

     今までの法則と同じならば、真犯人は【マヨナカテレビ】に従って

     白鐘の誘拐に動くだろう。



     だが、今回は事前予測している白鐘が相手だ。

     仮に真犯人が居たとしても 安安と捕まる様な事は無いはず……



     俺は、そう思っていた。




―――――――――――


さらに二日後の深夜

足立宅


影・直斗『ふっふっふっ……ようこそ、皆さん』

影・直斗『探偵王子こと、白鐘直斗です』


比企谷「…………」


影・直斗『僕は今、ある施設に居て、偉大な実験の被験者になるつもりです』

影・直斗『その名も』

影・直斗『人体完全改造計画、『ゲノムプロジェクト』!!』


比企谷「…………」



影・直斗『ふふふ……皆さんは運がいい』

影・直斗『新たな科学 新たな進化 そして』

影・直斗『完全なる、新たな人類の誕生の瞬間を目の当たりにするのだから!!』


     ブツン! ……ザー


比企谷「…………」

     ピピピ……ピピピ…… ガチャ

比企谷「花村か?」

花村『おう……』

花村『映っちまったな……鮮明な映像が』

比企谷「ああ……」


比企谷「だが、これではっきりした」

比企谷「事件は白鐘の言う通り、終わっていない」

比企谷「久保美津雄ではなく、真犯人は別に居た」

花村『動機は不明だが、今も【マヨナカテレビ】に従い』

花村『被害者を作り続けている……』

比企谷「…………」

花村『…………』

花村『昨日、不鮮明な映像が出た時点で伝えときゃ』

花村『何とかなったかもしれねーのに……』

比企谷「白鐘は 話した翌日からずっと休んでいるから仕方ない」

花村『あいつの連絡先、聞いておかなかったのは失敗だったな』

比企谷「……まあな」


比企谷「だが、今回の救出は大きな意味を持つ」

比企谷「推測だが、何の備えも無しに真犯人に立ち向かう奴じゃない」

比企谷「少なくとも顔を見るくらいはしているはずだ」

花村『だな』

花村『じゃ、明日ジュネスで』

比企谷「ああ……」

     ブッ…… ツー ツー

比企谷「…………」


―――――――――――


翌日の放課後

テレビの中の世界


     ※りせのペルソナ『ヒミコ』発動中

りせ「……居る」

りせ「白鐘くん、この世界に居るわ」

比企谷「そうか」

比企谷「さっそく救出に向かおう」

りせ「……ちょっと待って」

りせ「この世界、また広くなってる」

クマ「ほえ~りせちゃんはすごいクマね」

クマ「クマの鼻センサーじゃ、そこまではわからないクマ」

花村「遠すぎるって事なのか?」


りせ「ううん。 そうじゃない」

りせ「なんて言うか……広くなって、雑音がすごく多くなってるの」

りせ「そんな中で白鐘くんの声のみを拾うのが難しくなってて……」

りせ「この世界に居るのはわかるんだけど……場所の特定ができない」

雪ノ下「方向もわからないの?」

りせ「うん……ごめんなさい」

比企谷「……どうすればいい?」

比企谷「どうすれば、白鐘の『声』だけ拾える?」

りせ「う~ん……」

りせ「性格……とか?」

里中「は?」


りせ「ええと……白鐘くんらしさ、っていうか」

りせ「何か、白鐘くんが『こういう人なんだ』って、わかる情報が欲しい」

天城「どういう意味?」

りせ「簡単に言うと、声の色分けがしやすくなるの」

りせ「白鐘くんの性質がある程度分かれば、そのカテゴリーだけを拾って」

りせ「判別しやすくなる」

花村「……なんかよく分からねぇな」

比企谷「クマの鼻センサーが段々調子を落としたのは世界が広がったせいで」

比企谷「『声』の色分けを匂いでしていたって事か」

りせ「うん! たぶんそんな感じだよ、比企谷先輩」

花村「…………」


花村「……まあとにかく」

花村「白鐘の情報ねぇ……いったん外の世界に戻るか?」

比企谷「少し待ってくれ、花村」

比企谷「前に足立さんから聞いたんだが……」

比企谷「どうも白鐘は、警察内部じゃ相当疎(うと)まれていたみたいだ」

比企谷「ガキのくせに……という陰口を叩かれるのも日常茶飯事らしい」

里中「何それ……呼んだの警察の方なのに」

天城「修学旅行じゃ、そんなのもう慣れた、みたいな事 言ってたね」

比企谷「他には、今回の事件への入れ込み度は凄いとか何とか……」

りせ「ふうん……普段の白鐘くんからは随分違う印象を受けるね」

りせ「とりあえず、その情報を参考に調べてみる」



―――――――――――


秘密基地


比企谷「……あっさり見つかったな」

雪ノ下「尺の関係かしら?」

里中「メ、メタな発言は止めようじゃん?」

里中「で? ここで間違いないの?」

りせ「うん。 確実にこの建物の地下に居るわ」

花村「つーかこれ、戦隊ヒーローとかに出てくる敵方の施設みたいだな」

天城「ショッ○ーとかゴ○ゴムとか?」

花村「そのチョイスは渋すぎるぞ、天城……」

比企谷「よし、行くぞ!」



―――――――――――


     バーンッ!

花村「大丈夫か! 白鐘!?」

天城「!」

里中「あっちの……白衣着てる方が【シャドウ】かな?」


白鐘「当たり前です。 僕があんなダボダボの白衣を着る訳がないでしょ?」

白鐘「それにしても遅かったですね。 待ちくたびれましたよ」


りせ「……なーんかこういう態度、どっかの誰かさんを思い出すね」

比企谷「言われてるぞ雪ノ下」

雪ノ下「その都合のいい解釈できる脳みそが羨ましいわ」



影・直斗『やだやだ! 行っちゃやだ!』

影・直斗『僕を置いていかないでよ!』


白鐘「正直助かりました」

白鐘「ここで目を覚ましてからこの子、ずっとこんな調子でうんざりしてたんです」


影・直斗『…………』

影・直斗『……クスッ』

影・直斗『よく言うよ。 警察でうんざりされてたのは、お前なのにね』


白鐘「……!?」


影・直斗『フフフ……』


白鐘「何を言ってる。 僕は君みたいに泣き喚いたりしていない」


影・直斗『知ってるとも』

影・直斗『その代わり、自分を認めてもらおうと』

影・直斗『寝る間も惜しんで、この事件に取り組んでいた事もね』


白鐘「な、何を言っている。 僕は、ただ、疑問に思って……」


影・直斗『ああ、そうさ。 最初は疑問に思っただけさ』

影・直斗『でも……大人は誰も聞いてくれない。 聞き入れ様とすらしない』

影・直斗『頭のいい『ガキ』が言ってるだけだからね!』


白鐘「だ、だまれ!!」



影・直斗『どうしたのさ? いつもの事なんだろ?』

影・直斗『必要な時に呼ばれ、必要な分だけ知恵を貸し』

影・直斗『用が無くなれば去る……いつもの事じゃないか?』

影・直斗『尊敬するお爺さまと同じようにね!』


白鐘「っ!!」


影・直斗『おおっと。 どうしたんだい? 顔色が変わったね?』


白鐘「や、やめろ……」


影・直斗『フフフ……君の夢だよね』

影・直斗『小説に出てくる様な、カッコイイ大人のハードボイルドになる』

影・直斗『でも……現実は厳しいよね』


白鐘「う、うるさい! それ以上言うな!」


影・直斗『尊敬していたお爺さまの本当の姿……』

影・直斗『想像していたハードボイルドとは、かけ離れているし』

影・直斗『自分より無能な警察の意見に従わなければならない屈辱』


白鐘「……っ」


影・直斗『まあね? 子供なのはしょうがないと思うよ?』

影・直斗『それはいずれ時間が解決してくれる』

影・直斗『……けど』


白鐘「!!」

白鐘「や、やめろ!! それは……それだけはっ!!」



影・直斗『アハハハ、何を焦っているのさ?』

影・直斗『どうやったって解決できない問題なのにさ!』

影・直斗『そんなに『女』だっていう事実が嫌なのかい?』


白鐘「……っ!」


里中「ええっ!?」

花村「おいおいおい! い、今あいつ、すげー事カミングアウトしたぞ!?」

天城「お、女の子……なの!?」

クマ「という事は……ストリップをしてくれるクマ!?」

     ガスッ!

雪ノ下「いい加減、そこから離れなさい!」



影・直斗『フフフ……だからどうやったって』

影・直斗『カッコイイ”男”のハードボイルドには、なれないんだよ』


白鐘「ち、違う! 僕は……僕は、そんな事考えてない!」


一同「!!」

花村「やめろ、白鐘! そいつを否定するな!」

天城「そうだよ、白鐘くん!」


影・直斗『違う? 何が違うのさ?』

影・直斗『僕は君なんだよ? 君の考えている事は、何でもお見通しさ』


白鐘「違う!!」



影・直斗『何をそんなに怖がっているの?』

影・直斗『それが分かっているから、僕は君の為に』

影・直斗『『ゲノムプロジェクト』を用意したんだよ?』

影・直斗『これを受ければ、君は今すぐ、大人の男になれる』

影・直斗『まさに望んだ通りにね!』


白鐘「僕はそんな事を望んでいない!」

白鐘「君なんて――」


比企谷「あー ……ちょっといいか?」

白鐘「!」


影・直斗『何だい? 藪から棒に』


比企谷「少し気になったんでな」

比企谷「今回の場合、特殊な例だが……」

比企谷「手術及び治療をする際、必ず本人か、その親族の同意を得る必要がある」

比企谷「違うか?」


影・直斗『僕はこいつだ。 法律上何の問題もない』


白鐘「だ、だから……」

比企谷「まあまあ落ち着け、二人とも」

比企谷「確かに両方共、白鐘直斗だろうさ。 でも事実、意見が分かれている」

比企谷「法律上何の問題もないと言ったが、本来書類に署名捺印が必要なはずだろ?」


白鐘「…………」


影・直斗『…………』


天城(……何か比企谷くん、普通に【シャドウ】と話してるね)

花村(こっちから見たら異様な光景に思えるが……)

里中(そういや、これまで説得してきたのも比企谷くんだったね)

雪ノ下(……とういう事は)

雪ノ下(これまでも私の時みたいに セクハラ行為をしてきたの?) ゴゴゴ…

花村(一応言っておくけど、違いますから)

雪ノ下(そう) ホッ

クマ(ユキノン、何で嬉しそうクマ?)

雪ノ下(!?)///

花村(いろいろツッコミたいが、二人ともいい加減静かに見ていろ……)



影・直斗『……で? 君は何が言いたいの?』

影・直斗『邪魔をするのなら容赦しない』


比企谷「そう慌てるな」

比企谷「本来、同意書が要る所だが」

比企谷「俺がその代わりに証人として、立ち会おうと言いたいんだよ」

白鐘「何、勝手に話を進めようとしてるんですか!?」

比企谷「いいから落ち着け、白鐘。 ちゃんと説明する」

白鐘「……くっ」


影・直斗「…………」


比企谷「お前も自分を納得させて、事に及びたいだろ?」

比企谷「今ならサービスで、こいつを説得してやるが?」



影・直斗『……いいだろう』

影・直斗『だけどそんなに待てないよ?』


比企谷「ああ。 すぐに終わらせる」

白鐘「…………」

比企谷「さて、白鐘。 とりあえず最後まで聞いてくれ」

比企谷「いろいろ言いたいだろうが、途中口を挟むなよ?」

白鐘「……わかりました」

比企谷「よし」

比企谷「まず、あいつは確かにお前だ」

白鐘「……っ!」


比企谷「だが、お前の一面に過ぎない」

白鐘「え……?」

比企谷「犯罪に関わってきたお前なら」

比企谷「人間の暗い部分をそれとなく見てきたはずだ」

白鐘「…………」

比企谷「誰にだって見せたくない部分がある、嫌な自分が居る」

比企谷「この世界は、それが具現化してしまうんだ」

白鐘「……見せたくない……自分……」

比企谷「そこに居る連中は、みんなそれを受け入れてきた」

比企谷「そういう部分も含めて自分なんだ、ってな」

白鐘「…………」


比企谷「正直……俺にお前の悩みはわからん」

白鐘「!」

比企谷「男とか女とか……小説やテレビのヒーロー像と違うからって」

比企谷「それがどう嫌なんだ?」

白鐘「…………」

比企谷「俺たちは数人がかりで何とかやっているが」

比企谷「お前は、たった一人でここまで来た 凄い奴じゃねーか」

比企谷「俺も含めて、ここに居る誰かで、そんな事 出来る奴はお前しか居ない」

白鐘「比企谷……先輩……」

比企谷「どうするのかは、白鐘に任せる」

比企谷「自分と……向き合ってこい」

白鐘「…………」



影・直斗『……もう済んだのかい?』


白鐘「……ああ」


影・直斗『そう! それじゃさっそく手術を……』


白鐘「いや」

白鐘「手術は受けないよ」


影・直斗『……何?』


白鐘「だって……君は僕だから」


影・直斗『!?』


白鐘「そう……君の言う通り」

白鐘「僕は、すぐにでも大人の男になりたい」

白鐘「そんな事は不可能だと知りつつも……」


影・直斗『だから『ゲノムプロジェクト』受ければ……』


白鐘「その後はどうする?」


影・直斗『え……?』


白鐘「明日、大人の男になったとして……」

白鐘「それだけで周りは僕を認めてくれるんだろうか?」


影・直斗『あ、当たり前だろ!』


白鐘「君は僕なんだ」

白鐘「そんな事はないって、もうわかっているんだろう?」


影・直斗『…………』


白鐘「そう……僕が本当に望んでいる事」

白鐘「それは、誰かに認めてもらいたいって事……」

白鐘「自分の存在を、ただ、ありのまま受け入れて欲しいと願う」

白鐘「小さな……子供みたいな、わがまま……」


影・直斗『…………』


白鐘「みっともないけど……君は確かに僕で」

白鐘「僕は君だったんだね……」



影・直斗『…………』

影・直斗『…………』 クスッ


     ヒィイイイイイインッ!


比企谷「ふう……」

花村「おっしゃあ!」

里中「やったね! 比企谷くん!」

天城「何とかなったみたいだね」

クマ「さっすがセンセイクマ!」

りせ「どうなる事かと思ったけど、良かった!」

雪ノ下「とりあえず褒めてあげるわ」

比企谷「……何でお前はそんなに偉そうなんだよ」


白鐘「……これは?」

白鐘「…………」

白鐘「……ペルソナ、スクナヒコナ」

白鐘「うっ……」 クラッ

     ガシッ

比企谷「おっと、大丈夫か? 白鐘」

白鐘「ええ、なんとか……」

白鐘「それにしてもずるいですよ、みなさん」

白鐘「こんな事を隠していたなんて……」

白鐘「これじゃ警察の手に負えないのも無理はない」

雪ノ下「…………」

雪ノ下「……いつまでそうしているつもり?」


比企谷「しょうがないだろ。 フラフラなんだし」

雪ノ下「もう忘れたの? サルガヤくん」

雪ノ下「白鐘くんは女の子なんだけど?」


一同「……あ」


比企谷「そ、そうだったな……すまん」

白鐘「い、いえ……」

白鐘「……僕は、そんなに嫌では無いですけど」///


一同「え」


雪ノ下「……何を言ってるのかしら? 白鐘くん」


白鐘「ふ、深い意味ではなく、その……」///

白鐘「さっき、僕の事を凄いって言ってくれて嬉しくて……」///

白鐘「僕の事……受け入れてくれたんだと思って、その……」///


雪ノ下「……どう判断したらいいのかしら?」

比企谷「知らん。 俺に聞くな」


花村(……チョロすぎだろ)

天城(千枝……どういう事?)

里中(あたしにも分かんない……)

りせ(フラグってやつじゃないの?)

クマ(およよ~。 これは面白くなってきたクマ!)


―――――――――――




足立宅


     タダイマー

比企谷「お疲れ様です、足立さん」

足立「あ~疲れた……」

比企谷「……そういえば、例の高校生探偵のテレビ以降」

比企谷「忙しそうですね」

足立「そうなんだよ……まったく」

足立「おかげでここ数日、住民からの問い合わせで、てんてこ舞いだったんだから」

足立「おまけに本人はお気楽に雲隠れしちゃうし……いい迷惑だよ」

比企谷「…………」


比企谷「それじゃ晩御飯にしましょう」

足立「うん、そうだね。 今日の献立は何かな?」

比企谷「そろそろいいかと思って、湯豆腐に味噌汁……」

比企谷「メインにジュネスで買った、とんかつとキャベツのみじん切りです」

足立「おお、これは旨そうだね!」

足立「じゃ、さっそく……いただきます!」

比企谷「いただきます」




     こうして、白鐘の一件は幕を閉じた。

     詳しい事情を話し合い、情報交換をした後、白鐘に犯人の事を聞いたのだが

     白鐘は犯人の顔を見ていないと言う。



     正直……これは誤算だった。

     部屋の中に隠しカメラを仕掛けるとか、方法はいくらでもあるだろうに

     期待が大きかった分、がっかりもでかかった。



     ただ、犯人はクロロホルム系薬品を使う事

     被害者を拉致した後、ものの1~2分でテレビの中に入れる事を

     朦朧とした意識の中、白鐘は冷静に分析していた。

     この辺りはさすが、と言うべきだろう。



足立「あっ、そうそう」

比企谷「どうかしました?」

足立「いや、郵便受けに君宛ての手紙があったの思い出して……はい」

比企谷「どうも……」

比企谷(差出人は……書いていないな)

比企谷(いったい誰からだ?)

     ガサ ガサ…

比企谷「……!?」

足立「? どうかしたのかい?」

比企谷「い、いえ……何でもありません」

足立「そう? ならいいけど……」

比企谷「ははは……」


比企谷「…………」つ(手紙) チラッ




     コ レ イ ジ ョ ウ  タ ス ケ ル ナ




比企谷(……どういう……事なんだ……)





     俺の背中に冷たい汗が流れる――





長らくお待たせしてすみませんでした。今日はここまでです。
P4の原作で白鐘くんは『直斗』と呼ばれていましたけど、このスレでは
ヒッキーに毒さ……影響されて、白鐘、と、他人行儀に呼んでいます。
その代わり、ちょっとだけ直斗のキャラを変えてみました。

……なんて言ってますが、デレる直斗を書きたかったので。
それではまた今度。早めにお会い出来る様、がんばります。

乙ー
8巻出たみたいだねー

次スレ立てました。


比企谷「八十稲羽に転校…え?マジで?…」2スレ目 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1385034028/)


残りは埋めてもらっても構いませんので。

乙!
埋めるかね

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ウメェ~

績め

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やべ俺P4ここまでしかやってない

なら次からネタバレになるから気を付けてね

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ポゥ!

うまるね

うめ

うめ

うめ

カウント4

3

2

1

1000なら完結する

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年11月01日 (金) 00:46:46   ID: KE0A5a-O

はよ

2 :  SS好きの4ERU   2013年11月02日 (土) 01:00:10   ID: eYGGZE7v

はよ

3 :  SS好きの774さん   2013年11月09日 (土) 14:22:47   ID: GG-LIaJ2

楽しみにしてます

4 :  SS好きのsieru   2013年11月11日 (月) 02:10:04   ID: DUMadWwI

ガンバ

5 :  SS好きの774さん   2014年01月09日 (木) 06:56:20   ID: cxIDxYXh

八幡キャラぶれすぎ。
先生呼ぶときは先生だろ。
あとイザナミとか出しちゃって、ラスボスどうすんの?

6 :  SS好きの774さん   2018年10月21日 (日) 02:04:08   ID: setdAYIE

八幡の心理描写が絶妙だね!転校、新しい出会いに戸惑い、雪&結衣と再開してから
少しずつヒッキーに戻っていく様が違和感なく表現されてたと思う。
そして少しずつP4原作?、から逸れていく展開にワクワクします。

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