削板「一緒に暮らさないか、百合子。」 (742)


削板「一緒に暮らさないか、百合子。」



このスレは以下のスレの続きとなっております。

削板「久し振りだな、百合子!」
削板「久し振りだな、百合子!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1349606218/)



【使用上の注意】
削板と一方通行♀が幼馴染だったら萌えるなーという>>1の妄想の産物です。以下の成分に対してアレルギーをお持ちの方は申し訳ありませんがバックプリーズ。

・一方さんが生まれついて百合子たん♀。
・第三次世界大戦終了後から原作とは別のルート入った設定。新訳?何それおいしいの?
・削板はじめ色々とキャラが行方不明。反省はしている、後悔はしていない。
・削百合スレのはずなのに、なぜか>>1が土百合を倍プッシュ。
・10032号や御坂など、一方通行と因縁のあるキャラも軒並み一方通行に対して好意的。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1377916907


※このスレの主な登場人物

【一方通行】
本名:鈴科百合子な感じの女の子。面と向かって数分も話せば「こいつ女なのか」って分かるくらいのボーイッシュ加減。遠目では、はいむらーのサイトに掲載されている新約2巻のキャラデザ「一通さんハワイ仕様」がほぼドンピシャ、というくらいのイメージ。近付いて見ると更に若干女性的。
女性ということで性格は原作より若干おとなしめに書いているつもり。おんなじようなことでgdgd悩むのは原作通りか?料理はかなり上手いが如何せんジャンキー嗜好。その他の家事もプロ並みに熟せるハイスペックちゃんだが、面倒くさいのでやらない。
ソギーに対する恋愛感情は割とはっきり認識している。前スレ>>600曰くソギーにならエロいことされてもいいらしい。が、その発言の真意は不明。ツンデレとかツンギレとかいう機能は>>1が可愛く書ける気がしないので搭載していない。

【削板軍覇】
このスレのヒーロー。一方通行の幼馴染且つ旦那。昨今流行っているようなタイプのイケメンではないが、断然男前。>>1の思い切ったキャラ捏造により、あんまり「根性」言わなくなった。
比較的常識的&良心的な人間であるが、そうは言っても研究所盥回し生活が長いため根本では一方通行並みにぶっ飛んでる。一方通行と付き合いが長いためか、何だかんだ彼女と似ている部分も多く、上条&御坂曰くキレると一方通行そっくりらしい。
何だかんだ言って健康な男子高校生なので一方通行に対してエロい欲求は持っているようだが、実行するという点については彼女ほど吹っ切れてない。そんな一方で、既にお風呂でバッタリ&添い寝&二人っきりでお泊りは経験済みのリア充。もげればいいのに。
一方通行に対する好意はフルオープンで、常にデレ。案外独占欲があったりするらしい。


【打ち止め】
一方通行大好きな幼女。削板と並んで一方通行の最大の理解者であるが、(一方通行に対して)ヤンデレな妹に色々と出番取られ気味という説が有力。一方通行が保護者だったり、番外個体が同居人だったりするため、案外お腹の中身は真っ黒けだったりするがミサカはミサカはそんなことはないよって無邪気を装ってみたり。

【番外個体】
一方通行大好きなヤンデレ末っ子ちゃん。色々あって捻くれた愛情表現は止めることにしたが、元の性格からしてあまりまともとは言い難いため、素直に愛情表現したところで結局ヤンデレ。ヤンデレ愛好家の>>1により大分贔屓されており、幼女な姉こと上位個体の出番を食い気味か。割と素でソギーは氏ねばいい、むしろ殺す、と思っているが、第一位が悲しむので実行はしていない。

【上条当麻】
そげぶ。一方通行の良き理解者ではあるが、如何せんこのスレではソギーがヒーローを担当しているため美味しい場面は少ない。意外とハーレムしておらず、浜面や削板などの男性キャラとの絡みが多かったりする。

【インデックス】
出番が多いとは言い難いが、>>1の個人的な趣味より存在感は強い。基本聖母で一方通行専用のお悩み相談所と化している感がある。既に黄泉川家の面々とはたっぷり交流を深めており、いっそ上条さんの家を出て黄泉川家に住んじゃいなよyouって感じである。

【御坂美琴】
残念ながらこのスレでは恋愛要素ほぼ皆無。ソギーの次に男前との説が有力。お姉さまマジイケメン。
一方通行とは色々蟠りを感じつつも、良好な関係を築こうと努力しているらしい。一方通行も決してそれを拒んでいるわけではないのだが、如何せん彼女がそういうのに慣れていないため、好感度は遅々として上がらない。

【垣根帝督】
嘗ての一方通行との戦闘での後遺症により、肉体の殆どを失い、能力で生み出された分身のようなものが自立して活動している。記憶や能力の使い方も忘れており、原作と違ってカブトムシ形態を取ることすらできない。
すっかり毒気が抜けて、一方通行のことが好きかもしれないなどと言い出したが真意は不明。

今日は取り敢えずスレ立てのみで失礼致します。
次の書き込みはこのスレのざっくりとした予告的な内容の予定です。

2スレ目もご愛顧いただきありがとうございます。
では、新スレの導入+予告投下します。


「あれ、何で神裂がうちにいるんだ?」

上条当麻が補修から自室に帰ると、長い黒髪を頭の後ろで一つに結い上げ、原宿でもそうそうお目にかかれないような奇天烈な服装―ちょっと変えれば普通に見えるようになるだけに、まるっきりコスプレにしか見えない他の魔術師連中より却って違和感が強いと上条は思っている―に身を包み、長い日本刀を携えた女がいた。因みに今は冬休みで、よっぽど成績が悪くたって補修などある筈がないのだが、彼の場合出席日数の足りなさをカバーするために特別に担任に呼び出されていた。
ふと部屋の中を見渡すと、大きなダンボール箱が幾つか無造作に置かれていて、そのうちの一つに同居人のシスターが齧り付いている。食料でも持ってきたのだろう、食べ盛りの高校生だって食べ切るのには苦労しそうな量に見えたが、このシスターなら一昼夜とかからずに空けられるのだろうなと思って、酷く悲しくなった。

「年始の挨拶か?でもそれにしちゃ、」

義理堅いところのある彼女は、昨年末にもお歳暮のつもりらしい食料品を幾らか送ってくれてきている。18歳がお歳暮を贈るというのもよくよく考えれば奇妙な話なのだけれど。しかしそのお歳暮と比べると、この食料品の量はあまりにも多すぎる。そもそもお年賀のつもりなら単なるダンボール箱に入っただけのそれは奇妙だった。
そして何より、部屋の隅できっちりと正座する神裂の表情が硬かった。

「何か、他にも用事があるんだよな。きっと。」

その幾らか緊張した面持ちは、鈍い鈍いと周囲に散々に言われ続けている上条にすら、重要な要件のついでに食料品を持ってきたとしか思えなかったのだ。


「この人物に、心当たりはないですか?」

彼女が取り出したのは一枚の写真だった。その写真の質感が何とも言えず古臭くて、きっとデジカメなんていうものは使っていないのだろうな、と思うのよりも先に、そこに映った意外な人物に驚いた。
白い髪に、白いジャケット、白い細身のパンツ。ただ、赤い目だけが、その人物の表面で唯一色がついているところだった。

「あれ、あくせられーただ。」

上条が答えるよりも先に、インデックスがその名を口にした。

「まさか、あなたの知り合いなのですか?」

「とうまと私のお友達だよ。でも、何でかおりがあくせられーたを探しているの?」

魔術師が超能力者第一位を探している―その理由は上条には全く想像がつかなかったけれど、喜ばしいものではないだろうという気がした。探し人がインデックスや自分の知り合いだと知った神裂が、酷く困ったような表情を見せたからだ。

「探しているのは、私だけではないですよ。」

「恐らく、世界中の魔術結社がこの人物を探しています。」

彼女は、何を言ってもやたらと重苦しく聞こえるその口を開いて、事実、どう考えても重苦しいようにしか受け止められないことを告げたのだった。


「……、これ、もしかしてロシアで撮られた写真か?」

上条は神裂の持ってきた写真の背景が、どこかで見たことのあるものだということに気付いた。何もないのだ。真っ白で、灰色で、もっと奥まで行っても。こんなグレースケールの濃淡だけで構成されたような場所に、ただひとつ心当たりがあった。
そしてその場所で起きた出来事にも。

「第三次世界大戦か……。」

第三次世界大戦、その戦場で彼女は大きな役割を果たしたらしい、ということは何となく知っていた。あの愛想の悪い第一位から詳しい話は聞けなかったけれど、魔術サイドとも関わりを持ったのだろうと伺わせる話もあった。

「あなたの予想通りですよ。」

「この人物は、第三次世界大戦のキーマンとして注目されています。」

「一方通行は戦争で何をしたんだ?」

「お知り合いなのに、ご存じないんですか?」

「あくせられーたはあんまり自分のことを話したがらないからね。」

あの戦争の核心的な部分に深く関わっていた上条だが、上空高く浮かび上がったベツレヘムの星にいたために、むしろ戦争の全体的な流れに関してはあまり詳しく知らなかった。ロシアでの一方通行について知っていることと言えば、番外個体と出会って、打ち止めを救うことに成功した、それくらいのものだ。

「大天使ミーシャと戦闘をしたり、ベツレヘムの星から放たれようとした黄金の光を食い止めたり―これだけ言えば、魔術師が彼女に注目する理由も分かるでしょう。」

「多くの協力者や様々な幸運が重なった結果のようですが。そこで彼女が見せた奇妙な力こそが問題なのです。」


そう言うと神裂はポケットからピンポン玉程のサイズのガラス玉を取り出した。中には色とりどりの妙な靄のようなものが浮かんでいて、ビー玉が大きくなったような外観である。神裂がそれを床に置くと、ガラス玉は映写機のレンズのように壁に映像を映し出した。
魔術的な方法で記録された映像なのだろう、そこにはロシアの空を自在に飛び回る一方通行がいた。

「これ、本当に一方通行か、」

白い髪に赤い目、人形のように整った顔、華奢な体、そのどれもが間違いなく彼女のものであるけれども、上条はそれでもその映像を信じ切れなかった。
彼女が行使している力が、明らかに『超能力者』の域を超えていたからだった。
超能力者は、上条のような人間には想像もできない力を発揮する。それは御坂美琴などとの付き合いからもよく知っている。だけれども、映像に映る彼女が行使している力は、御坂美琴と数字がふたつだけしか違わない筈の人物に、そして自分がよく知る友人に秘められているとは到底思えないものだった。そしてその映像から感じる印象は、超能力というよりか、魔術に近いものであった。

背中から生えた白い翼のようなものは数百メートルほどのサイズになっているだろう、比較対象となるものの少ないロシアの雪原でのことだから正確には分からないが。単純に視覚的な大きさが強さと等号で結べるわけではないと分かっていても、その大きさに驚かずにはいられなかった。
上条は、彼女の「黒い」翼なら目撃して、そして触れたことがある。だけれどこの「白い」翼はそれと比べ物にはならないものだと本能的に理解した。例えば、「竜王の殺息」を目にしたときの感覚と近い。この右手ですら、あれに気軽に触れてはいけないと、体のどこかが叫んでいた。


「これは、どういうこと………?」

上条以上に驚いていたのは、インデックスだった。その両目は驚きに大きく見開かれていて、ともすると『自動書記』起動時の彼女を彷彿すらさせた。

「インデックス、一方通行のこれは魔術なのか?」

「分からない、」

「実際にその場に居合わせなければ魔力を感じることはできないから、この映像だけでは判断できないよ。」

インデックスは、変わらず淡々とした口調で答える。その目は壁に映し出された一方通行の様子を瞬きもせずに見詰めていた。

「でもインデックスの知識なら、映像からだってある程度判断できるんじゃないか。」

実際、これまでにも彼女はその場に居合わせずとも、電話などで上条が伝える断片的な情報からその魔術の正体を解き明かすことに何度か成功している。言葉だけでもそれだけの判断ができる彼女であれば、映像からも十分な情報を得られるのではないかと上条は首を傾げた。

「本当だったら、そうだと思う。」

「魔力を感じることができなくても、これだけの映像があれば私はきっと魔術の正体を予測することができる。」

「それができないんなら、やっぱり魔術じゃないんだろ。」

超能力者に魔術が使える筈がなく、あらゆる魔導書を記憶している『禁書目録』が知らないのだからやはりこれは魔術ではないのだ。何か、理屈は全く分からないが、一方通行という能力は自分たちには想像がつかないような使い方ができるということなのだろう。
上条がそうやって納得しかけたとき、インデックスが呟いた。






「でも、」

「私が記憶している10万3千冊の中にはないだけで、全く新規の魔術である可能性は捨て切れないんだよ。」





「どういうことだ?インデックスが知らない魔術なんてあるのか?」

「私が覚えている魔術というのは記録に残っているもの。記録に残っているということは過去に使われたことがあるものってこと。」

上条は、インデックスがどこか寂しげに言った言葉を飲み込むまで、少しの時間を要した。しかし彼女の言葉に秘められた裏の意味を理解すると、驚きの表情を浮かべた。

「……じゃあ、今まで誰も使ったことのない、新しい魔術は、」

「私には、分からないんだよ。」

インデックスはふるふると、力なく首を振った。

「でも、今までどんな魔術だって対応してきたじゃないか。」

「そうだね、」

「全く新しい魔術なんて、百年にひとつだって生まれないから。」

新しい魔術というものが、どれほど凄いものなのかは分からない。百年の間に一体何人の人間が生まれるのだろう。どれだけの魔術師が存在するのだろう。途方もない数の人間がいて、それでも生まれる筈のないもの。

「殆どの魔術師というのは過去に生まれた魔術をアレンジして使っているだけなんだよ。だから私の知識で対応できる。アレンジの仕方にも法則性はあるし。」

「だけど、過去のどんな魔術にも影響されずに創り出された魔術があるとしたら、それは私には分からない。」

「一方通行のこの力は、その『新しい魔術』だって言うのか?」

「確信は持てないけれど、」

「でも、それに近いものであるとは思う。」


インデックスは一度、これに似た力を行使する一方通行と遭遇したことがある。去年の9月30日のことだ。
あのとき彼女が見せたものは天使の力によく似た力を押し込めたような黒い翼。あれが天使の力だったとすれば、聖人にも御し切ることができないレベルのものだった。だが一方でその制御はあまりにも拙く、荒削りだった。
今見た映像から感じたものはまるで違う。使っている力は同質のものであるだろうけれど、ずっと洗練されたものに変わっていた。そして力の規模自体も、恐らくずっと大きくなっている。

「ねぇ、とうま、」

「学園都市は、何を創ろうとしているの。」

それがまるで『創ってはいけないものを創り出してしまった』ことを責めるような口振りに聞こえて、上条当麻は口を噤んだ。


三人が黙り込んだまま、数分が経過しただろうか。壁に映像を映し出していたガラス玉は既に光を失っていて、ただの濁ったプラスチック玉のようなものに変貌していた。

「神裂、」

「さっき、世界中の魔術結社が一方通行を探しているって言ってたよな。」

「そいつらは一方通行を探し出して、何がしたいんだ。」

彼女はその質問に直ぐには答えなかった。その素振りを見る限り、答えを知らないわけではなかったのだろう、ただ、どう伝えればいいか逡巡しているように見えた。

「…それは、それぞれで目的が違うと思います。」

漸く彼女が口にしたのは、酷く曖昧なことであった。

「彼女を利用しようと思う者、或いは抹殺してしまおうと思う者、様々でしょう。」

「だけれど、多くの魔術サイドの人間がこの人物を探し出そうとしているのは確かです。」

彼女が行使した力が何なのかは分からない。だがそれは聖人にも扱うことが難しい程の大きな力である。それだけの力を扱うことのできる人間が存在を知られていなかったということが、そもそもこちらの世界では大変な驚きであったのだと彼女は言った。

「普通これだけの力を持っていれば、その存在が知られている筈なのです。例えばローマ正教の最高機密である神の右席だって、使用する魔術などの詳しい情報はともかく、こちらの人間であれば誰もがその存在を知っています。」

「彼女のような存在が見つかったこと自体が、想定外なのですよ。」

どこかの魔術結社が隠し持っていた切り札なのだろうか、それとも個人で活動している魔術師なのか、そもそも人ではなく魔術師が生み出した存在なのではないか。魔術師たちの間にはそんな憶測が飛び交っているらしい。
例えば既にどこかの魔術結社に所属しているというのなら、大概の魔術結社はそれを見付けたとしても手出しをするようなことはしないだろう、と神裂は続けた。それは魔術結社同士の抗争に発展するからだ。第三次世界大戦という大きな争いを終えたばかりの彼らは、新たな揉めごとを必要以上に忌避していた。
逆に個人で活動している魔術師だったなら、壮絶な引き抜き合戦が始まる筈だ。やはりこちらも揉めごとの種になりかねなから、「壮絶」とは言っても水面下の争いになるだろうが。

「未だ殆どの魔術師は学園都市の超能力者であるという可能性には気付いていないでしょう。」

「でも、いつかは気付かれますよ。」

「そうなったら、どうなる?」

「分かりません。」

良い結果は、生まないでしょうけれど。と彼女は悲しげに告げた。


「……じゃあ、イギリス清教はどうするんだ?」

ふと、上条は気付いた。未だほとんどの魔術師が一方通行を見付け出すことができていない―だけど、神裂は?イギリス清教は?彼女は、彼女らはそれに成功した。

「今回、彼女についてあなた方にお訊きしたのは私の個人的な行動です。最大主教の指示などではありません。」

既に十分な戦力を有するイギリス清教には、リスクを犯してまでこの人物を獲得するようなメリットは然程ないのだと彼女は続けた。最大主教は対抗勢力の手に渡りそうになったら妨害する程度の考えしか持っていないだろうとも。

「しかし、その状況も彼女が『超能力者』であるということを知られたなら全く変わります。」

「どういうことだ?」

「エリス、」

「この名前を忘れてはいないでしょう?」

神裂の口にしたその名には覚えがあった、ある魔術師が使役したゴーレムの名前、或いはそのゴーレムにその名前をつける理由となった少年の名前。

「彼女が本当に魔術と超能力の両方を使える人間なのだとしたら、」






「むしろ、その身を狙われない理由があるでしょうか。」





「他の魔術結社も、彼女が超能力者だと知ったなら方針を変えることでしょう。」

他の魔術結社に所属しているというのならともかく、相手は学園都市だ。彼女を獲得しようとすることに遠慮する必要はないと考える者が殆どだろう。むしろ第一位を奪うことで、ついでに学園都市の弱体化を狙うくらいのことは誰もが企むのではないだろうか。
神裂はいっそ非情にも聞こえるほどに淡々と述べたが、その表情には幾らか苦悶の様子が浮かんだ。嘗てイギリス清教と学園都市が起こした悲劇を思い返しているのかもしれないし、インデックスの友人であるという人物をそのように扱うであろう自身の所属組織に苦々しい思いを感じているのかも分からなかった。

「どうしたらいい?」

上条は殆ど身を乗り出すようにして訊ねた。

「それは、ご本人の意志にも依るのでは?」

それが例えば、延命を望むか、安楽死を望むか、最早本人にしか選びようのない選択肢を提示しているように聞こえたのが上条の気のせいではなかったのだと気付いたのは、ずっと後のことだった。




「ちょうどいい機会かもな。」

上条とインデックスを介して神裂を紹介され、彼女に大まかな話を聞いた一方通行が最初に呟いたのは、そんな言葉だった。

第三次世界大戦の経験から魔術の存在を認識しており、加えてインデックスから基本的な知識については与えられていたからだろうか。普通の人間が聞いたら笑い飛ばすか、呆れるか、とにかく質の悪い冗談だとしか思わないようなことも彼女は比較的あっさりと受け入れた。

「何が、ちょうどいいんだ?」

上条は恐ろしくなって訊ねた。
その表情が久し振りに見るもの―とある少年が彼女の前に再び現れてからは大分存在が薄れていた、『第一位』のそれ―だったので、上条は寒気すら感じたのだった。こういう表情をしているときの彼女は、大概いいことを考えていない。

「これのテストだよ、」

彼女はとんとん、と首元を戒める奇妙な機材を叩いた。その笑顔はぞっとするほど美しかった。

「オマエには見せてやってもいいか。」


「これ、何だ?」

どこか上機嫌な彼女が見せてくれたのは、ハリウッド映画に出てくるような隠し部屋だった。彼女は気軽に「俺の秘密基地だ」と言ったが、幼稚園児か小学生の作るそれとはあまりにも乖離していた。

「MNWの代わりだ。」

「ガキどものお陰でプログラム作ンのには苦労しなかったぜ?散々データ蓄積してたからな。」

「まァ、壊れたら困るから、ハード面には色々細工したが。」

元から器用な人間なのだろう。最早上条にはその凄さを正確に理解することはできなかったが、少なくとも外見だけならそれは一個人の構築するものの規模を遥かに超えていた。

「全然分かんねぇよ、お前が何言ってるのか。」

「………これからは俺の代理演算はコイツがやるってンだよ。」

彼女が愛おしげに見詰めていたのは、空色のワンピースを着た幼い少女でもなく、大きなゴーグルがトレードマークの少女でもなく、ただの鈍く銀色に光る箱の集合だった。




「絶対嫌だよ、ってミサカはミサカは駄々を捏ねてみる!」

「バカ言うんじゃないよ、最終信号。今この瞬間、ミサカたちは第一位の足枷にしかならないってこと、アンタだって分かってるんでしょ。」

「でも、それでも。」

少女は知っている。自分が我が侭を言っているだけだということを。でもそれでも言ったっていいじゃないか、未だ生まれたての、初めて空気に触れてから1年も経っていない生き物なのだ。彼女は生きている。だから、間違いだって、ただの我侭だって、主張する権利がある。それはひとつの真理であった。

それに対して一方通行の行動も、非常に理に適っていた。
自分の身が危ないという状況で、自分の身だけを守るだけというならともかく、9971人もいる妹達を守り切るというのは非常に困難である。妹達は一方通行を捉える糸として狙われているだけであり、あくまで本命は一方通行だけであるというなら、彼女と妹達の共存関係を切ってしまえば妹達に迫るそのリスクはあっさりと消え去る。
そう考えた一方通行が実行したのは、MNWに代わる代理演算装置の制作であった。

彼女は元々考えていたのだと言った。いつまでも彼女たちに頼ってばかりではいられないからと―むしろ頼って欲しかった、助けになりたかった、私達にとって重荷なんかじゃないって分かっててくれてるんだと思ってた。幼い少女は様々な言葉を使って彼女を思い留まらせようと努力したが、それが無意味に終わることを周囲の誰もが気付いていたと思う。学園都市第一位の表情は、もう全てを捨てることを決心し終えたそれだった。

「ごめンな、」

そのとき少女は、尊大な彼女が謝るのを、初めて聞いた。でもそんな言葉より、続けて呟かれた言葉の方が、もっと悲しかった。

「今まで、ありがとな、」

「お別れなんだね、ってミサカはミサカは、」

その言葉を聞いて、彼女は全てを諦めざるをえないことを否応なしに理解したらしかった。




「あくせられーたの気持ちも、分かるんだよ。」

「自分のためにらすとおーだーやみさかわーすとが危険に晒されるなんてことがあったら、私だったら嫌だもの。」

「だから皆が狙われる理由を失くした。」

「らすとおーだーたちが、あくせられーたの能力の核なんでしょう?だからそのままじゃ、らすとおーだーたちは狙われる。」

「らすとおーだーの代わりになるものを作った。今はもう、あくせられーたの能力に関してらすとおーだーの果たす役割は何もない。」

「でもね、本当にそれだけで終わったと思う?」

「らすとおーだーはもう『あくせられーたの能力の要』ではないかもしれない。」

「でも今だって、同居人で、大切な人だよ。」

「能力に関係していなくたって、同居人なら、十分な人質になりうるでしょう。」

「あくせられーたがその可能性に気付いてない筈がない。」

「だから。」

「きっと、あくせられーたはその先まで考えている。」

「きっとあくせられーたは、」

「あの家を、出て行くよ。」





「お前、あの家を出るって本気か、」

上条は心配を通り越して怒っているようにすら見える表情でそう言った。
それはきっと、打ち止めや番外個体、或いは彼女たちの保護者二人を守るために必要なことなのだろう。だけれど、それなら―

「……お前は、一人でどうするってんだ?」

「お前は、誰にも、頼らないつもりか、」

「一方通行、」

「お前、30分しか、能力使えないんだろう……?」

彼は、殆ど彼女の答えなど予想していたと思う。知っていたから、その声は震えていた。どんな手助けも、申し出も、彼女にすげなく断られるだろうと知っていたからこそ、彼は恐れていた。

「じゃあどォしろってンだ、」

彼女は何も期待していない、そう言わんばかりの光のない目でそう言った。

「能力の使えない間、ずっと守ってくれる奴でもいるのか。」

「オマエは無理だ、シスターがいる。俺に四六時中かかずらってはいらンねェだろ。」

「あ、………」

上条は自分がどれほど考えなしに発言をしていたのか、遅ればせながら気が付いた。彼女が誰も巻き込まず、誰にも迷惑をかけずに済ませようとしていることを気付けなかった自分に気が付いた。

「第一、 俺を守ってくれるとかいうそいつが俺の重荷にならねェ保証はあるか。」

「俺の足を引っ張らねェ人間が、この世にどンだけいると思ってンだ?」

下手な協力関係なら願い下げだと彼女は言った。確かにそこらのちょっと腕が立つぐらいの人間なら、彼女にとっては何のサポートにもならない。却って面倒事を巻き起こす可能性があるかも知れないと危惧するのも当然のことだった。

「お前は本当にそれでいいのか……?」

「いいとか、悪いとかじゃねェだろ、」

「それしか方法がねェだろォが。」

そこらのスーパーコンピューターをも凌ぐ頭脳を持つ第一位が弾き出した答えを否定する術を、無能力者は持たなかった。







「黄泉川先生の家、出るんだろ?上条に聞いた。」

「それだったら、」

「一緒に暮らさないか、百合子。」





「馬鹿言ってンじゃねェよ。」

「つっても、1から10まで丁寧に言って聞かせたところで、素直に聞く質でもねェか。」

「後悔ってのは、死ンでからするンじゃ遅いンだぜ?」

「いいよ、」

「お前のためなら死んでも。」

「お前のせいなら殺されても。」


「学園都市第一位、」

「スーパーコンピューターとやらも凌駕するような頭脳の持ち主だと聞きしこと。」

「それは例えば、10万3千冊の本の内容を丸々覚えることができるようなものではなくて?」


「最大主教、お前は何を考えている……?」

「……土御門、」

「大人しく学園都市第一位を差し出せばその不便な体に悩まされることもなくなりしのに。」

「あの子供、超能力者なのに、魔術を行使できると聞きしけど。」




どこか印象の薄い、金髪の男は呟いた。

「そのつもりのない人間を、利用するなんてことはあまりしたくないし、」

「美しい友情や愛情を切り裂くのも趣味ではないけれど。」

「でも、彼女がイギリス清教の手に渡るのは絶対に避けたくてね。」

「悪いけれど、今回は牽制では済まないよ、」







「君に会うのは、二度目だね。」





「お前は言ったな、」

「俺と違って、戦う理由くらいならある、って。」

「なら、」

「戦う理由を持った俺と、同じく戦う理由を持ったお前なら、」

「どちらが強いんだ?」


「何で、アンタは傍にいられるの。」

「ミサカは、ミサカたちは拒絶された。」

「足手纏いだから?弱いから?後から出てきたから?」

「何で、」

「何でアンタは、ミサカたちと違って、こんなになっても第一位の隣にいられるの。」

「アンタなんて、ほんと、いなくなればいいのに。」


「いつになったら、」

「オマエは、」

「俺を、諦めてくれるんだ……?」

彼女はもう、殆ど泣きそうな調子で言った。彼女が泣くところなんて殆ど見たことのなかった少年は、思考を停止させた。

「百合子……?」

「もう、」

「俺に構わないで、」

「嫌だ、」

「無理だ。」

「そんなことになるくらいなら、」

「死んだ方がマシだ。」






少年がはっきりと口にした瞬間、彼女の背から生えた、不気味な黒い翼が、彼の左胸を貫いた。


















「―第七位?」

「アンタ、一方通行に殺されたんじゃ……。」





「俺、内臓逆位だから。」

内蔵逆位とは先天性の異常である。一種の障害であるが、単に内蔵が普通の人間とは左右逆転して配置されているだけなので、不便な症状などがあるわけではない。病気などになれば、色々と面倒はあるのだけれど。
その告白を聞いた御坂は、心底呆れたように呟いた。

「アンタ、どこまでも天然物の異常者なのね。」

「一方通行はそれを知っていて?」

「うん、あいつは知ってる。俺の心臓が左胸にないこと。」

「じゃあ、アイツは最初っからアンタを殺したように見せかけて助けるつもりだったってわけ。」

一方通行の黒い翼は正確に彼の左胸を貫いた。そう、誰もが、第一位が自分の意志で第七位を殺したように見せかけたのだ。


「アンタ、わかってるの。」

「あいつがどんな思いして、アンタの右胸をさしたのか。」

「私だったらできないわよ。」

「好きな男の胸を指すだなんて。それがたとえ致命傷にならないと知っていたって。」

「あいつがそうすることでどれだけ傷ついたか、アンタは分かるの。」

「アイツは、自分がどれだけ傷ついたっていいから、アンタを助けたかったのよ。」

「何でこれ以上、アイツに関わろうとするの、」

内蔵逆位とはいえ、反対側にある心臓を傷つけずに左胸を貫くという芸当が容易である筈がない。心臓というのは、一般に左側にあるなどと言われるが、実際には少し左に寄っているだけでほぼ体の中心に存在するのだ。
その心臓を貫いたように見せかけつつ、少年の命を救うことがどれだけ困難であるのか、御坂も、そして救われた少年自身も正しく理解していた。




「俺の我侭だよ。」

「あいつが隣にいないなら、もう、」

「生きてる意味なんてないんだ、俺には。」

「それができないならいっそ、」

「右胸を貫かれたいくらいだ。」







「なぁ、女」

「あの男、生きてるのだろう?」

「俺様たちの目を誤魔化そうと、大層な芝居を打ったようだが。」





「俺様の狙いはお前だけだ。」

「お前が手に入れば、あの男が生きていようが死んでいようが関係ない。」





「こちらに、手出しさえしなければ、な?」





「あの男が、それほど聞き分けがいいとは思わないが。」

「あのガキが、」

「大人しくしているか、賭けようか。」

「なに、」

「結果なら、直ぐに出るだろうよ。」

















っていうのが全部嘘だって言ったらおまいらどうするよ?




一生に一度はやってみたかった嘘予告ができて満足気味な>>1ですこんばんは。
前スレ投下中に「あ、これ1スレで終わンねェな」って思った瞬間からずっと暖めていた企画です。本編そっちのけで2,ヶ月くらい練ってました。本当に楽しかったです。ありがとうございます。

前スレ>>781でもコメントしていますが、このスレ、オッレルス再戦ルートを選択するとこんな流れになるはずでした。絶対収集つかないと思ったので止めました。あとこのルート選択したら99.99%バッドエンドになるので……。
酔っ払いながら投下したので細々誤字ありますが、気にしないで下さないな。いつものことだけど。あとかなり素で>>45書いたので、MNWか?って訊かれてびっくりしました。確かにMNW書くときのテンションと一緒だったけれども。

というわけで>>10>>43は完璧にネタです。お付き合いいただきありがとうございました。

これは屋上レベル

俺のトキメキをかえせー

そういやシスコン軍曹も能力者
でありながら魔術を使う
稀有な人間(棒

>>1
おいふざけんなww

>>57
屋上行ったら俺のセロリたんに踏んでもらえますか(;゚∀゚)=3ハァハァ

ありゃ、間違えて書き込んでしまった。ダメな>>1を踏んでくれるセロリたんについては引き続き募集中です。

>>63
いやふざけてないです超大真面目です。これ以上ないくらいに真剣に取り組みました。その結果がこれです(`・ω・´)ゞ


さて、今日は小ネタ投下します。新スレ本編を投下開始しようかと思ったのですが、本編始めちゃうと前スレで書けなかった残りの小ネタをいつまでも消費できなくなる気がしたので…。今現在消化しきれてない小ネタは以下のとおりです。

・超能力者の超能力者による超能力者のための女子会
・百合にゃんとインデックスの絡み
・垣根VS白垣根
・剣呑としたつっちー&百合にゃん
・美琴に世話を焼かれる百合にゃん

以上の小ネタ全部消化しきってから本編投下しますね。小ネタにところどころ今後の伏線織り交ぜるつもりなので、気長にお付き合い下さい。
今日は百合にゃんとインデックスの絡みを投下しまーす。


「……オマエ、何でここにいンの?」

ある日、学園都市第一位が昼寝から目覚めると目の前にいる筈のない修道女がいた。簡潔に状況を説明するとこんな感じである。

「遊びに来たららすとおーだーが出てね、あくせられーたは今寝ていて、自分はちょうど出掛けるところだって言うから、それだったらあくせられーたが起きるまで留守番するね、って言ったんだよ。」

そういえばあの少女、今日は超電磁砲と出掛けるとか言っていたか。色々と過保護で打ち止めが一人で出歩くことに目くじらを立てることの多い第一位だが、さすがに第三位が保護者を買って出てくれるというのであればその限りではない。彼女が同行していて防げないトラブルなど、それこそ一種の天災みたいなもので、そんなものを心配していたらキリがない。

「それにしたって起こせばいいだろォが。」

現在黄泉川は仕事であるし、芳川は知り合いの論文の手伝いだとか言って半月ほど前から絶賛どこぞの大学に缶詰中である。番外個体はどこほっつき歩いているかは知らないが、彼女について他の妹達と同じレベルで心配していると心臓が持たないので、努めて考えないようにしている。つまりこの家には先ほどまでリビングのソファで寝こけていた自分と、客である彼女しかいなかったというわけだ。

「でも、私が来て未だ10分くらいなんだよ。あくせられーたの本を借りて読んでたし。」

「人んちに遊びに来て一人遊びねェ…。」

「でも、あくせられーたを起こしたところでお話か読書くらいしかしないでしょう?あんまりやること変わらないよ。」

修道女はそれが嫌いじゃないという風なことを匂わせて、客がいながら寝こけていたことに少しばかり申し訳なさのようなものを感じ始めている一方通行にフォローを入れた。そもそも連絡もせず勝手に訪ねてきたこちらも悪いのだし。
打ち止めや番外個体がいるときならテレビゲームやらカードゲームやらで遊ぶことも多いのだけれど、一方通行と二人で遊ぶとなるとむしろただ話しているだけのことの方が多かった。それぞれが知識の塊である彼女たちは、何気ない会話をしているだけで得るものが多いらしい。


「あくせられーたは夜更かしさん?睡眠不足はお肌の大敵かも。」

くぁ、と大きなあくびをして猫のように伸びた彼女を見ながら修道女は訊ねた。

「俺の場合、どうとでもリカバリできるしなァ、」

事実赤子のように瑞々しく肌理の細かい白い肌を持った彼女は、然程興味がなさそうに呟いた。どんなに不摂生な生活をしていても去年の夏頃までは能力のお陰で何の問題もなく、筋力に乏しいこと以外はお手本のような健康優良児であったし、今だってたまの能力使用時についでに体のケアをしているので然程劣化はしていないと思う。学園都市の最先端技術で全身隈なく検査したところで、筋力と脳の損傷以外はほぼ100点満点のスコアを弾き出す自信があった。

「あくせられーたはきっと、自分の状態をよく理解しているだろうし。しちゃいけない無理と、してもいい無理の線引をできているのだろうけれど、」

「でもそれは、あいほやらすとおーだーには伝わっていないんだよ。」

「説明したって分かりゃしないだろ。」

事実彼女の複雑な能力が、その体内でどのような働きをしているか、黄泉川愛穂はもちろん、その能力を支える代理演算を行っている打ち止めや、曲がりなりにも一線級の科学者であった芳川桔梗にだって正確には理解できないだろう。だから彼女は語らない。ただ、問題ないから心配すンな、と気遣っているのか突き放しているかも曖昧な言葉を掛ける。

「そうだね、きっと分からない。だからもっと別の方法で安心させてあげないと。」

「俺のこと、アイツらは信用できねェってのか。」

「そうじゃないよ、ちゃんと信じてる。」

「でもそれでも不安になるのが人間じゃあないの?あくせられーただって、分かる筈だよ。」

「らすとおーだーのこと、信じていないわけじゃないでしょう。でも、時々不安になる。そういうこと、あるでしょう。」

一方通行は何も言い返さなかった。学園都市第一位を心配するというのと、色々とトラブルに巻き込まれやすい幼い子供を心配するのでは全然状況が違うと思うのだが、そう言い返すとこの修道女には「お互い様」と言われるのがオチだったからだ。
自分がどれだけ強かろうが、事実色々なトラブルを解決してきた実績があろうが、心配なんぞしてくれる物好きというものはいるらしくって、自分もそういう連中が嫌いではなかったから、鬱陶しく思うことはありつつも受け入れていた。


「そうそう、今日はね、お菓子を持ってきたの。」

「?上条の財布をまた軽くしてきたのか?」

「違うよ、こもえとあわきと一緒に作ったから!ちゃんと味見もしたからね、一緒に食べよ。」

そう言えば、どこぞの合法ロリ教師が家事全般を苦手とする結標のために、一通りのことを教え込んでいるという話をしていた気がする。常盤台と違って能力開発にばかり力を入れている霧が丘での学生生活はそれでも一切困らないらしい。大能力者だけあって飲み込みは悪くないから、教え甲斐がありますよー、と世話好きな教師が嬉しげに呟いていた。

「お菓子って、何作ってきたんだ?」

「クッキーだよ。あくせられーたのために甘さ控えめのコーヒー味もあるんだよ。」

「そォかい、なら茶でも淹れるか。」

そう言って彼女は気怠そうに立ち上がると、手際よく自分用にコーヒーを、客用に紅茶を淹れた。その様子を後ろから見ていた修道女は、改めて感心したように呟く。

「一家に一台あくせられーたが欲しいかも。」

「お前そォいう言い回しどこで覚えてくンの?」

一家に一台なんたらかんたら、という言い回しは非常に日本人的な表現であると思っていた第一位は、如何にも日本的通俗とは無縁ですと言わんばかりの西洋人の修道女から出てきた言葉にコーヒーを噎せかけた。

「お昼すぎのわいどしょー?ってので聞いたんだよ。褒め言葉だと思ってたんだけど。」

「褒め言葉っちゃあ、そうかもしンねェが。絶対超電磁砲とかに言うンじゃねェよ。」

あのやたらと自尊心の強い彼女なら、「一家に一台」などと一般家庭の家電と同等の扱いをされた日には、比喩でなく事実雷を落としかねない。そうでなくとも修道女と彼女の関係は穏便とは言い難い部分があるので。

「たんぱつ?たんぱつは家に要らないかなぁ、前食べさせてもらった料理は上手だったんだけど、マナーがどうのとか、食べる順番がどうのとか、色々細かったんだよ。」

確かに自分は好きなものを好きなように食べればいい、という思考の人間であるから、彼女のような食道楽には自分の方が付き合いやすいだろうけれども。それでも「要らない」呼ばわりはあの少女を十分に怒らせることに成功するだろうなと思って、一方通行は念入りに「他所では絶対そンな言い方はするな」と約束させた。


「ねぇ、どうかな?結構自信作なんだけど。」

「あ?旨いンじゃねェの。」

少し前であれば美味しいと思っても「悪くねェ」とか素直でない表現をしたり、或いは素直に旨いと言ってもその後に「オマエにしてはな」なんて皮肉を付け加えたりするのが常だった彼女が、あまりにも素直に褒め言葉を口にしたものだから修道女は呆然とした。それがまた、くすりと微かに笑みを零しながらだったものだから、彼女はびっくりしたというよりも、どきりとしたと言った方が適切なほどに動揺したのだ。

「……あくせられーた、それ男の人にやっちゃダメだよ?」

「?何のことだ?」

「説明しても分からないと思うけど。でもとにかく、男の人の前でそんな嬉しそうな顔しちゃダメなんだよ。」

元は結構な美人なのである。まるで男のような口ぶりや、表情のきつさ・乏しさ、独特の色彩、態度の大きさなどであまり意識はされないだけで。それだって今のような笑顔を異性が見たなら、一発で「惚れた!」とまではいかなくても、「気になる異性」くらいには昇格しそうな勢いである。

「男の前で、嬉しい顔ねェ……、あのバカ相手にぐらいしか、見せてねェと思うけど。」

自分でも最近幾らか表情が柔らかくなってきたらしいことに自覚のある彼女は呟いた。それだってごく一部の心を許した人間相手のことだから、同居人と、精々が上条とシスター。それに加えてあのバカな幼馴染ぐらいのものだ。因みに上条当麻は幸か不幸か「男」の勘定に入っていない。

「それはそれで一撃必殺レベルの殺し文句なんだよ……。」

きっとこんな具合でらすとおーだーやみさかわーすとも無意識でたらし込んでいるのだろうなぁ、と修道女は目の前の愛されっぷりも第一位な少女に対して、いっそ空恐ろしい物すら感じたのだった。

今日はここまでです。

この通り、このSSは前スレから継続して愛されキャラ百合子ちゃんで貫きますので。一方通行は悪役じゃないとダメですたい!って人はもう諦めて下さい。百合にゃんを愛したい人は是非ご一緒にprprして下さい。因みに>>1は断然インデックスさんもprprしたいです。



あんまり愛され系でいくと
シスコン軍曹の出番が減りませんか
と心配してみる

乙ですた!
軍曹もミサワ並みに百合にゃん愛してるから大丈夫。ちょっと病んでるだけで

皆様いつもご愛顧いただき有難うございます。百合にゃんとインさんをprprし隊の入隊希望の方が自分以外にもいるようで嬉しいです。

>>74, >>75
皆に愛されたことで百合にゃんが普通の女の子らしい感覚を取り戻してきた頃に、ふらっと現れてはわざと百合にゃんが傷つくようなことを言い、どん底に突き落とすのがシスコン軍曹の仕事であり生き甲斐であり存在意義です。そうです、ちょっと病んでるだけなんです。シスコン軍曹のヤンデレは百合にゃんが皆に愛されるほどどす黒い輝きを放ちます(`・ω・´)ゞ


さて、今日の投下は「美琴に世話を焼かれる百合にゃん」です。



「お姉様いらっしゃい、ってミサカはミサカはお出迎え。」

ある日、御坂美琴は黄泉川愛穂宅を訪ねた。
打ち止めや番外個体が彼女の家に世話になっているという話は何となく聞いていた。元から黄泉川愛穂とは知り合いで信頼できる人物であると思っていたから、打ち止めからその話を聞いて幾らかほっとしたのを覚えている。
それから妹たちの暮らし振りを見てみたいとは思っていたのだが、なかなか機会に恵まれずにいた。

というのもその家には一方通行も一緒に住んでいたからである。

彼女が最早嘗てのような悪人ではないことは重々承知しているのだが、それでも10031人を殺した事実がなくなるわけではない。一方通行本人もそれは痛いほど理解しているらしく、彼女の方からこちらへ接触を図ろうとすることもなかった。つまりはあの実験が中止になって半年は行かないまでも大分経った今ですら、第一位と第三位の距離感は8月21日の頃のまま殆ど変わっていないというわけである。


そんな彼女も色々あって、今こそ歩み寄りのとき!と意を決して敵のアジトならぬ黄泉川宅に訪問することを決意したのだ。別に上条やシスターがこの家に入り浸りになっているだとかいうのに嫉妬したとかでは決してない。あわよくばこの家に遊びに来るのを習慣化させてしまって、上条と鉢合わせしちゃったりなんかしてを目論んでるなんてことでも全くない。

「ってあれ、打ち止め、今アンタ一人で留守番なの?」

案内されたリビングは伽藍堂で、てっきり番外個体や一方通行がいるものだと思っていた御坂は拍子抜けした。因みに黄泉川愛穂がこの日警備員の仕事で留守にしていることは予め聞かされている。

「あの人は今、お昼寝というか、夜更かしが過ぎての昼夜逆転生活というか、ってミサカはミサカは弁解してみる。」

「因みに番外個体は1週間くらいまともに家に帰ってこなくって、帰ってきたと思ったら1週間くらい部屋から出てこないで眠りまくる、を繰り返す不良娘生活を絶賛エンジョイ中だよってミサカはミサカは付け足してみたり。」

番外個体はともかく、一方通行はそのうち起きてくると思うよ、と打ち止めは付け足した。

「黄泉川先生はその生活態度を怒らないわけ?一方通行にしろ、番外個体にしろ。」

打ち止めは、あまり気にしてないかな、全く注意しないわけではないけれど。と若干呆れ気味の姉に対して答えた。

「ヨミカワは、もっとどうしようもないことを危惧していたから。だから、これぐらいは些細なことなんだと思う、ってミサカはミサカは自分なりの解釈を伝えてみたり。」

「あの二人が、ここを家だと認識していること自体が奇跡なんだよ、ってミサカはミサカはフォローしてみる。」

言わんとしていることは分からないでもない。
今の一方通行ならともかく、9982号を殺し、10032号にも手をかけようとしたその当時の一方通行が他人の家に居つくところなど想像ができない。番外個体だって最初はその頃の一方通行とそっくりな、何もかもを諦めているような目をしていたらしい。だからそんな彼女たちが、いつの間にやらこの家に馴染んで、この家に当たり前に帰ってくるようになったということは、確かにそれだけで稀有なことなのだろう。


「あ、あの人起きたいみたい、ってミサカはミサカは電波を受信してみたり!」

打ち止めがぴこんとそれこそ何かを受信したかのようにソファーから勢い良く立ち上がった。確かに廊下を歩く微かな足音と、金属の擦れ合うようなかしゃかしゃという音が聞こえた。

「あ、ほんとね、」

今日自分が遊びに来ることは一方通行の耳にも入っている筈である。しかしそれなりの覚悟を決めてこの家に足を踏み入れて、そうして通されたリビングに誰一人いなかったことで気が抜けてしまっていた御坂は、一方通行と相見える覚悟を再び固めることができなかった。そのうちに廊下からリビングに続くドアが開いた。
そうして姿を現した人物の出で立ちに、御坂は声を荒げた。

「………アンタ、何て格好してんのよ!!?」

「…はァ?」

果たしてリビングに姿を表した学園都市最強にして最凶、傲岸不遜で唯我独尊な第一位、一方通行様は、タンクトップに男物にしか見えないボクサーパンツというあられもない姿であった。


「そォ言えば、今日オマエ来るンだっけか。悪かったな、客にこンなナリ見せて。」

客の前に出る格好ではないということは理解しているらしい。しかしはっきり言わせてもらえば家族や同居人にも堂々とは見せられないレベルだ。自分があられもない姿をしているという自覚があるなら、端から着替えるなり何なりしてから現れて欲しい、というのが御坂の率直な感想であった。
そういった文句を言い連ねたところ、返ってきた言葉は恐ろしく素っ気ないものだった。

「別にいいじゃン。女しかいねェし。」

「女しかいなくたって気になるもんは気になるわ!何よりアンタ第一位なのよ!!どこで誰に監視されてるか分かんないでしょーが!!!」

何だコイツ黒子の仲間か同類か。いやそれにしちゃ下着が素っ気ない、露出度は大差ないが。しかし明らかに性的な意図を感じさせる白井の下着よりも、素っ気ない男物を身に付けているこの女の方が妙に艶っぽく感じられるのはなぜだろう。
同性ながら御坂が妙にどぎまぎしているところに、彼女はくァ、と猫のようなあくびを一つしてから気のない返事をした。

「まァ、監視はされてるだろォけど。別に見られてもよくね?」

「いいわけあるかぁ!!!」

堂々と、それこそリビングの大きなガラス戸に向かって胸を張るようにして言った第一位にマジでラリアット仕掛けようかと思ったと、後々御坂は語った。例え高層マンションの上層階であっても、大きなガラス戸越しに誰に監視されているか分からない、それが学園都市である。


それこそ火事場から大切なものだけを持って逃げ出す人間のような勢いで、御坂はリビングから一直線に一方通行の部屋へ飛び込んだ―一方通行を抱えるように引き摺って。
この家に来るのは初めてであったが彼女の部屋を探すのは簡単で、何でも酔っ払った黄泉川愛穂がよく間違えて他の住人の部屋に突貫してはそのまま寝こけてしまうので、間違えようのないようにドアのところに各自の名前のプレートをぶら下げたていたらしかった。

「……監視されてるのが分かってて、堂々と、あんな格好をする馬鹿があるか、っての、…はぁ、」

さすがに細いとはいえ、自分より背の高い人間を引き摺って歩くのは辛かったのだろう、息を切らせながら御坂は言った。

「裸見られるの恥ずかしがるような人生歩ンでねェし。」

当たり前に、それどころか至極つまらなそうに言う彼女に、それ以上問い詰めていいものか迷った。御坂だって馬鹿ではない、彼女の台詞がつまりは「研究のために裸くらい何度も晒している」と解釈できることくらいは分かっている。そんな分かりきったことを問い詰めても詮無いし、詳細に訊ねても当たり前の顔をして質問に答えてくれるだろう彼女を想像して胸が痛むだけであった。

「取り敢えず、せめてブラとボトムスくらい着てちょうだい…。」

「ブラとか持ってねェし。」

「はぁ!!?」

ようやく落ち着きかけたというのに、一方通行は御坂の頭にまた血が上るような台詞をさらりと吐いた。

「…じゃ、アンタ、普段どうしてるわけ?外出するのにブラなしって……?」

「晒巻いてるけど。」

「知り合いがやってンの見て、あァ、この手があったか、と、」

「ねぇよそんな手!!??」

思わず上方の芸人のようにタイミングよく突っ込んでしまった自分を、御坂は後から思い返して相当に恥じたという話であるが、本当のところは誰も知らない。


よくよく問い詰めたところ、そもそも去年の夏の終わりに脳を損傷するまでは常時能力使用状態にあって女性ホルモンが機能していなかったらしく、胸も所謂つるぺた状態であったらしい。だからブラジャーを身に着ける必要が発生したのは去年の秋頃の話であったのだけれど、その頃出会った女性の知り合いがそんな出で立ちをしていたものだから、自分もこれでいいのかと納得したということだ。

(っていうか、名前伏せてても誰だか分かるわ、その「知り合い」…)

とは思っても口にはしない。どこぞの霧が丘のブレザーを羽織っただけのサラシ女の影が脳裏を過ったが。

「アンタ、仮にも女なんだから、もうちょっとどうにか……、」

まさか自分が誰かに『女らしくしろ』だとかいう台詞を吐くだなんて思っていなかった御坂は、たかだか数分の遣り取りで大層疲労していた。常盤台で生活していて大分麻痺していたが、自分より女らしくない女というのも確かにいるらしい。この通り、目の前に。

「制服のスカートの下に短パン穿いてあっちこっち飛び回ってる奴に言われたかねェ。」

「私だって晒巻いてる奴に言われたくないわよ。」

「アンタ、素材は悪くないんだから。別にピンク着ろだの、レース巻けだの言わないけど。」

呆れながらそれでも御坂は手近にあったブランケットを彼女の体に巻きつけた。何せこの部屋も、カーテンが開けっ放しの状態であったから。

「皆面白いこと言うのなァ、」

「皆?」

「黄泉川、上条、浜面、滝壺に原子崩しもかァ?オマエら全員目が腐ってるわけ?俺が綺麗だとか、美人だとか。」

彼女は酷く楽しそうに、邪気もなくけらけらと笑った。その顔がまた酷く美しかったので、御坂はその場で泣き出してしまいたくなった。結局この女は、未だに自分の中に実験動物としての価値以外のものを見出していないのだと分かってしまったから。

女としての仕合わせも、歓びも、或いは哀しみすらも知らないのだ。惚れた男に『女』として褒められる、その冥加すら。幾らか年下の自分ですら、朧気に理解しているのに。




「私は、それでも、」

「アンタが綺麗だって言われて喜ぶような日が来るのを、信じてるから。」

御坂が唇だけで呟いた言葉は、果たして現実のものとなるのだろうか。それは、誰も知らない。


本日の投下は以上です。

みこっちゃんに世話焼かれる百合にゃんということでリクエストいただいたのですが、こういう感じでよかったのでしょうか。どうしてもインさんと違って、美琴と百合にゃんが何の考えもなしにイチャイチャできるとは思えず、このような若干シリアス気味の小ネタとなってしまいました…。


そう言えばシリアス落ちにしたから使いどころなかったんだけど、百合にゃんが履いてたボクサーパンツは前スレ>>606でソギーから無理やり借りたものだったという要らん設定があります。



御坂「ブラはまぁ事情が理解できたけど(それでも若干納得行かないが)、何でパンツが男物なの?」

一方「借り物だからなァ。」

御坂「借り物?下着って人から借りるものなの?第一、借り物ってんなら返すのよね??」

一方「洗って返そうとしたら顔真っ赤にして怒鳴られたンだよなァ。洗わない方が好みだったンかねェ。」

美琴(洗わない方が好みって、好みの問題?)←一方通行の発言に込められた性的な意図を全く理解していない

一方(それならそれで目の前で脱いでやってもいいンだけど…)←ソギーは女の子がそんなことしちゃいけないという意味で怒ったのに、逆に物足りなかったんだと勘違いなう

打止「何かお互いとんでもない勘違いしてる予感、ってミサカはミサカは電波を受信してみたり。」

打止(お姉様、あの下着が第七位さんのだって知ったら卒倒するんだろうなぁ…)



百合にゃんの脱ぎたてパンツ欲しいですhshs

台風だからって引き篭もって小ネタ書いてたら、雨上がっちゃったよ?
まぁ、せっかくなので今投下しちゃいます。このまんまだとこのスレ、いつまでもソギー登場しないので。残りの小ネタちゃっちゃと片付けて削百合書かないと最早何のスレだか分からない。ソギー書くのが一番苦手とかそんなことは秘密さ。

『剣呑としたつっちー&百合にゃん』



「そこのお兄さん!匿って、ってミサカはミサカは助けを求めてみたり!」

ある日土御門元春が街中を歩いていたところ、年端もいかぬ幼い少女の声で、どこかで聞いたことがあるような口調で話しかけられた。

「へ?」

そもそも背の高い彼にとっては幼い子供を視界に入れるのも実はそれなりに苦労である。驚いて足元を見下ろしてみれば、視界には空色のワンピースの裾がひらりと過っただけで、声を掛けた張本人は自分の後ろ側にいた。

「あれ、お兄さんあの人のお仕事仲間さんだね、ってミサカはミサカは偶然に驚いてみたり。」

少女はこちらを見て自分が偶然にも話しかけた男の正体に気付くと、外見年齢に似合わぬ理知的な表情を見せた。その目は雄弁に語っていた―あなたが「あの人」を引き摺り込んで何を仕出かしたのかちゃんと知っているよ、と。それを痛いとも痒いとも思わないのが、自分という人間であったけれど。

「面倒くさいから否定はしないけど。何でそんなこと知ってるのかにゃー?」

「ミサカたちの情報網を甘く見ないでほしいな!ってミサカはミサカは胸を張ってみたり!」

上条当麻の隣室に住んではいるが、一方通行や打ち止めが彼の家に遊びに来ているときに出くわすようなヘマはしたことがない。当然、グループとして活動していた頃もそれぞれの知り合いと接触するようなことは避けていたから、この幼いクローンの少女が自分の存在を知る筈はないのだが―さすがに9千人以上の発電系能力者が挙って、しかも体系的に一方通行のストーキングをしているのだと思えば仕方のないことか。


「で、匿えっつーのは何のことかにゃー?お兄さん面倒事は嫌いですたい。」

「あの人と鬼ごっこ中なの!ってミサカはミサカは秘密を打ち明けてみたり。」

一方通行がそのような子どもの遊びに付き合うとも思えない。大方、過保護な一方通行が鬱陶しくなって、勝手に逃げ出してきたのを「鬼ごっこ」などという遊びにすり替えているだけなのだろう。実年齢は0歳だけあって気分次第で大好きな第一位のことも単なる口煩い保護者にしか思えなくなる瞬間があるらしいというのは、上条辺りから聞かされていた。
ふと、土御門の視界の一番下の方で、明るい茶色の髪がぴこぴこと元気よく跳ねた。

「ミサカたちの情報網によるとお兄さんロリコンさんだからミサカは近付くなって、ミサカはミサカは9千人のミサカたちからの指示を伝えてみたり。」

「ミサカばっかりで何言ってるんだか分からんにゃー。そして俺はロリコンじゃなくシスコンですたい。」

「年下の女の子に欲情する変態さんってことには変わりないかも、ってミサカはミサカはずばりと言ってみたり。」

「「欲情」なんて単語知ってる幼女には興味ないですにゃー。」

第一位と生活を共にしているだけあって歯に衣着せぬというか、身も蓋もないというか、ともかく子供が口にしてはならぬようなことをさらりと吐く子供である。そんなことを言っている割にはこちらを怖がる素振りも、気持ち悪く思っているような様子もなく、無邪気に纏わり付いているのだから肝が据わっているというか、危機感が薄いというか。

「うむ!あの人が近付いて来る気配!ってミサカはミサカは電波受信!!」

なるほど、鬼ごっこの鬼がこちらへやってくるらしい。彼は耳を澄ませたが、さすがに学園都市の雑踏、あの独特な杖の金属音は聞こえない。

「じゃあお兄さんまたねー、ってミサカはミサカは脱兎のごとくこの場を逃げ出してみたり!!」

そう言うが早いか、少女は人混みに消えていった。


少女の背中が見えなくなるのを確認してから、土御門が気を取り直して歩き出そうとしたところ、なるほど、彼女の予想通りに一方通行の姿が見えた。
向こうもこちらに気が付いたらしい、赤い目が一瞬こちらに据えられたかと思うと途端に眉を顰めた。雑踏の喧騒に紛れて聞こえなかったが、どうせ舌打ちでもしているのだろう、土御門は彼女の細い唇が歪むのを認めた。

「一方通行、こんなところで何やってんだ?」

普段のふざけた声を改めて、幾らか繕った声音で女を呼び止める―女が嫌う、「暗部時代の元同僚」の声である。この声で話しかけてやると面白いほど不機嫌な表情を見せることに気付いてからは、怒る猫をからかうような気分で態と声音を繕うことがあった。

「…オマエにゃ関係ないだろ、」

こちらのにやにやとした表情を見て、自分が彼女の「探しもの」と関わりを持ったらしいということには気付いたらしい。それでも女は打ち止めの行き先を自分には訊ねない。それは打ち止めが男のような暗部の人間と関わったことを認めることになるからだ。あの子供には綺麗な世界にだけ身を晒していて欲しいと考えている女は、自分のせいであの子供が薄汚れた人間と関わっただなんて認めたくないのだ。

「放っておいてやるのも優しさだろ。」

せっかく自立心を持って行動しているのだ。まるで非力な子供というわけでもない。強能力者で、かつ、いざとなれば9千人の援軍を集められるのだから、むしろ余程のことがない限り安全である。まぁ、その「余程」が度々起こるのがこの街であるけれど。

「知ったような口利きやがる。」

「お前のお姉ちゃん歴より、俺のお兄ちゃん歴の方が長いし?」


「いつまでも一緒にいられるわけじゃないし、ずっと守ってやれるわけでもないし。」

自分だって義妹をそうしてやりたいのは山々だけれど、それ以外の何かを優先せざるをえないことの方が余程多い。「義妹以外の何か」を優先することで、彼女が守られている部分も多々あるのだ。
女だってそういう取引のあることは重々承知している筈だ。少なくとも去年の秋頃はそういう取引に乗ってあの子供と離れて生活することを選んだのだろうに、この女はそんなことも忘れてしまったらしい。子供と片時も離れていられない、育児に手慣れぬ若い母親のようだ。
―そう、まるで普通の苦悩を識る、当たり前の『女』のようだ。

「オマエはそうかも知らねェけど、」

「俺は違う。」

女は男の皮肉を単なる男の能力不足から発生するものだと思ったらしい。自分なら、ずっと、あの子供を守れると言いたかったらしかった。その見当違いが、驚くほど『学園都市第一位』らしくない。ほんの少し前には、自分の現状だって正確に理解していた筈なのに。

「何言ってんだ、」

「お前の方が俺よりよっぽど非道い。」

せっかく覚えた暗部のルールもあっという間に忘れてしまって、俺と顔を突き合わせていないときには全く険のない顔をしやがって。
9千人以上のクローンに雛鳥のように慕われても、女教師に母親のような愛情を注がれても、どこまでも『学園都市第一位』であったくせに。たかだか男の一人で、すっかり腑抜けやがって。

「子供に守ってやるだなんて甘い言葉を掛けといて、そのくせ男を優先しやがって。」

「自分の中の優先順位も整理できてないくせして、」


男はそこまで吐き出して、はっと口を噤んだ。何重にも丁寧に塗り込めた自分の化けの皮が殆ど剥がれかけていることに気付いたこともあったけれど、何より目の前の女が酷く驚いていたからだった。
慌てふためいているというわけではない、女はむしろ呆然として、何も言うことができないとでも言うように固まっていた。

「あ、」

母親に捨てられた子供のように。誤って子供を殺めた母親のように。これまで信じてきたもの全てに裏切られたように、女は赤い目をいっぱいに見開いて男に縋るような視線を向けてきていた。

「あ、」

意味をなさぬ音は、最早どちらが口にしたものかも分からなかった。どうしようもない事実を突き付けられた女も動揺していたし、それを突き付けた男自身も狼狽していた。

この女は気付いていなかったのだ。男はてっきり気付いて素知らぬふりをしているだけかと思っていたのだけれど―自分の中で男の優先順位が高くなりつつあり、遠くない将来に子供のことばかりを考えていられなくなること。子供たちがそれに気付いて、自立しようとしていること。その全てを、女は「別の男」に当り散らされて初めて知った。


女は自分のせいで生まれた2万とんで2人の内、10031人を殺した。残りの9971人を救うだなんて約束して、だけれど男のためにこれから捨てることになる。捨てるだなんて言い方は大袈裟だが、だけれど優先順位の一番ではなくなるのはほぼ確実だろう。こんな不義理があるだろうか。
でも女は知らずのうちにその道を歩み始めていて、今更気付いたところでもうやり直すことはできないところまで来てしまっている。慕ってくる子供らも捨て難いが、もうそれ以上に底抜けに明るい男のことが大切になっていた。
女は知らず自分が下した判断に、今更恐れをなしているのだ。きっとこの後ろ向きな人間のことだから、こんなことになるくらいだったら余程暗部での生活の方が良かったなどと考えているのだろう。だから自分に縋るような目を向けているのだ―なぜあの夜に引き止めてくれなかったのだと。オマエはこうなることを知っていたのだろうと。

でもどうせ、その哀しみも、葛藤も、自分ではない別の男が癒やすのだ。それを知っているから、男は手を伸ばさない。ただ、彼女自身も気付いていなかったその感情を自分が突き付けてしまったことを後悔するだけだ。
きっと、気付いてしまった後の転がるスピードは、もっと速くなるだけだから。

男は柄にもなくその場を取り繕うことも忘れて、逃げ出すように早足で立ち去った。一度ならず二度までも、惚れた女の背を態々自分から離れていくように押したのだから自分の臍曲りも始末に終えない。
女はそれでも、その場に立ち止まったままだった。


はい、書きながら『剣呑』ってなんだっけかなぁ、ってまじまじ考えてみました。分からなくなって、個人的な萌えに走った結果がこれです。
何かもう…このスレ、何だっけ…

乙です
もう土百合でスレを立ててもいいと思うの

こんばんわ。今週末は家を留守にするので今のうちに投下してしまいます。
次レスから「超能力者の超能力者による超能力者のための女子会(女子力低し)」です。

>>103
だが断る。今温めているネタは上百合(そして懲りずにつっちー当て馬ポジ)です(`・ω・´)ゞ
つっちーは主人公にならないほうが格好いいと信じています。


「あらぁ、第一位さんじゃなぁい☆」

ある日、一人で街を歩いていたところを妙に舌っ足らずな声に呼び止められた。

「……第五位か、オマエこンなとこで何してンの?」

学舎の園からは結構離れた、繁華街などでもない極普通の街中である。常盤台のお嬢様が一人でいるのはいっそ違和感を通り越して異常にすら感じられた。

「あらぁ、そんな顔しないでほしいわぁ。私、あの二人に巻き込まれただけだもの。」

彼女は勿体ぶった仕草で視線を横にずらした。そこにはチェーン店などではない落ち着いた雰囲気のカフェがあって、テラスで第三位と第四位が睨み合っていた。

「うげェ、」

「第一位さん、品がないわよぉ。気持ちは分かるけど。」

この状況に対して、「うげェ」以外の反応を返す方が難しい。第三位と第四位といえば犬猿の仲というか、それどころではない間柄である。そんなもの同士が睨み合っているところに巻き込まれて堪るか、というのが大方の意見だった―大方というのは、上条とか、浜面とか、絹旗とかだ。


超能力者としての順位が一個違いというのがそもそもの問題で、更には「色々目を瞑れば第四位が第三位を撃破することも可能」という微妙な実力差がその関係を険悪にしていた。それなりに似た性質の能力を使うせいか性格的にも案外似たところがあって、お互いに若干の同族嫌悪も抱いている。

「巻き込まれたって逃げろよ。生産性の欠片もねェぞ、アイツらの睨めっこなンか。」

「でも私、あの二人に実力行使に出られたら勝てないしぃ。」

「こンな街中で実力行使に出るわけが、」

「ないとは言えないでしょお、あの雰囲気。」

腹立ち紛れにお互い軽く一発くらいは能力行使してもおかしくない雰囲気である。そうなったとき割を食うのは、直接的な戦闘能力を持たない食蜂だろう。

「あ、」

そのとき睨み合っていた二人の視線がはたとこちらに向けられた。大方トイレに行くとでも言って姿を消した食蜂がなかなか戻らないのに気付いて周囲を見渡してみたら、というところであろう。

「第一位さん、気付かれちゃったわねぇ。」

「うげェ」

第一位はその日二回目の、大層品のない声を上げた。


「くっそ、何で俺まで……」

「私を助けると思って。ねぇ、第一位さん☆」

「ぜってェやだ。」

第三位と第四位に見付かった彼女は、調度良かったと言って二人にカフェまで引きずり込まれたのだ。所詮非力な彼女なので、電極のスイッチを切り替えられないよう両手をがっしりホールドされたら手も足も出ない。何せこの二人、超能力者のくせして腕っ節強すぎるし。

「で、今日の睨めっこの原因は何なンだよ?」

睨めっこという物言いが癇に障らないでもなかったのか、二人の表情に一瞬険しい色が差したが、下らないことをしているという自覚が全くないでもなかったらしい。はぁ、と一つ自身を落ち着かせるように溜息を吐いてから麦野が答えた。

「このガキ、人の男に色目使いやがって。」

「だから誤解だって言ってるでしょ!」

このまんまだとまた睨めっこ再開である。こんなところさっさと出て家に帰りたいところであるが、そんなことしようもんなら食蜂含めて3人に必死で引き止められるに決まっている。主に物理的に。
となると、一方通行が助かる道はこの二人の喧嘩を穏便に収めることなのだが…

「てか第四位、オマエ男できたのか?」

そもそも一点気になることがあった。あれ、「人の男」とか言ってるけど第四位って彼氏いたっけ?


いや別に一方通行には麦野を馬鹿にするような意図は一切ない。むしろ美人だしおっぱいでかいし何だかんだお嬢さま系で、暗部なんて後ろ暗いところにいなけりゃモテる口だろうと思っている。だがしかし一方通行の知る限りでは第四位に彼氏なる存在はいない筈なのである。

「…いや、私のじゃなくて。浜面。」

「そりゃ人の男にゃ違いねェが、オマエが怒る筋合いじゃねェだろ。」

少し話が見えてきた。つまり「人の男」もとい「滝壺の男」である浜面に美琴が色目を使って麦野が切れているということらしい。何じゃそりゃ。滝壺じゃねェのかよおい。第一浜面は御坂の好みからは明らかにウン光年レベルで離れている男なので、そもそもの「色目を使った」というのが言いがかりである可能性が高い。

「大体、色目なんて使ってないから!滝壺さんに手作りのチーズケーキ差し入れただけだし!!」

「第五位、解説宜しく。」

「御坂さんが差し入れたチーズケーキをその男の人が食べてべた褒めしたらしくって、麦野さんにもこれくらい作って欲しい、みたいなことを言ったらしいわよぉ。」

「ああ、なるほど。」

そりゃあ第四位も怒るだろうな、というのが一方通行の素直な感想であった。
アイテムの面々は何かあったときのためにとほぼ一つ屋根の下に暮らしているのだが、4人の食事は専ら外食か麦野の手作りだと聞いたことがある。麦野が料理下手ということはなく、むしろ上手い方なのであるが、如何せん体のリハビリついでに料理をしているだけあって繊細な料理は苦手としている。お菓子作りなどその最たるものだろう。
ちなみに浜面の彼女であるところの滝壺は料理下手というわけではないのだがぼんやりした性格が災いして失敗することが多く、彼氏が他の女性の料理を褒めたところで嫉妬するようなことはない。


てか、これって悪いの超電磁砲じゃなくって浜面じゃね?

とは思ったが一方通行は黙っていた。麦野の怒りが浜面に向いたらそれはもう大変なことになるので。それはそれで自分に被害が及ぶ可能性が高いので。
浜面に怒りを向けるのも危険だし、だからといって元から仲の悪い二人が納得するよう水を向けるというのもなかなか難しい。こういうときはそもそも話題を変えてしまうに限る。

「てか第五位、オマエは料理できンのか。」

「え、私?」

彼女は最初きょとんとしていたが、直ぐにこちらの意図を理解したらしい。いたずらっぽく唇を歪めた。さすがに精神操作系能力者最高峰というだけのことはある。

「私もできないことはないけど、学校だと大抵取り巻きの子たちにやらせてるかしらねぇ。洗い物で肌荒れしちゃうの嫌だし。」

「いい根性してるよ、オマエ。」

「あらぁ、第一位さんに褒められるだなんて嬉しいわ☆と言うか、そういう第一位さんはどうなのぅ?」

「コイツはプロ並みよ。何だって器用にこなしちゃってムカつくわ。」

一方通行と食蜂の会話に御坂が食いついてきた。話題そらし作戦は成功しそうだが、あれ、これ俺に矛先向いてねェ?

「私も滝壺からそんな話を聞いたことあるわね…。」

ほら、瞬きも疎かに第三位を睨みつけてた第四位もこっちに視線を向けてきたし。

「そのくせちゃっかり彼氏持ちだしね。」

「え、何それ?私知らないわぁ!!」

あ、これダメな展開だ。もっと逃げらンなくなったっぽい。
根掘り葉掘り尋問されるくらいなら、と第一位の全身全霊をかけてその場を逃げ出したのは決して間違いではなかったと一方通行は自負している。


てか、これって悪いの超電磁砲じゃなくって浜面じゃね?

とは思ったが一方通行は黙っていた。麦野の怒りが浜面に向いたらそれはもう大変なことになるので。それはそれで自分に被害が及ぶ可能性が高いので。
浜面に怒りを向けるのも危険だし、だからといって元から仲の悪い二人が納得するよう水を向けるというのもなかなか難しい。こういうときはそもそも話題を変えてしまうに限る。

「てか第五位、オマエは料理できンのか。」

「え、私?」

彼女は最初きょとんとしていたが、直ぐにこちらの意図を理解したらしい。いたずらっぽく唇を歪めた。さすがに精神操作系能力者最高峰というだけのことはある。

「私もできないことはないけど、学校だと大抵取り巻きの子たちにやらせてるかしらねぇ。洗い物で肌荒れしちゃうの嫌だし。」

「いい根性してるよ、オマエ。」

「あらぁ、第一位さんに褒められるだなんて嬉しいわ☆と言うか、そういう第一位さんはどうなのぅ?」

「コイツはプロ並みよ。何だって器用にこなしちゃってムカつくわ。」

一方通行と食蜂の会話に御坂が食いついてきた。話題そらし作戦は成功しそうだが、あれ、これ俺に矛先向いてねェ?

「私も滝壺からそんな話を聞いたことあるわね…。」

ほら、瞬きも疎かに第三位を睨みつけてた第四位もこっちに視線を向けてきたし。

「そのくせちゃっかり彼氏持ちだしね。」

「え、何それ?私知らないわぁ!!」

あ、これダメな展開だ。もっと逃げらンなくなったっぽい。
根掘り葉掘り尋問されるくらいなら、と第一位の全身全霊をかけてその場を逃げ出したのは決して間違いではなかったと一方通行は自負している。

さて、これで残す小ネタは「垣根VS白垣根」のみですね。通常の工場長を書いた経験がないのですが頑張ってみます。次回は小ネタと本編一気に上げられるといいな。

乙!みさきちと一方さんの絡みいいな!
しっかし美琴からしてみりゃ第一位(因縁あり)、第四位(戦ったかつ険悪)、第五位(険悪)というwww



どっちも短気じゃなきゃ
いい女なのにねぇ…

短気で攻撃的だからあの能力かつLv5なんだろうな

二人ともまさに更年…
いやなんでもない

追いついた!
このスレの削板さん、さっぱりしつつ男前な性少年で好きだな。
タイトル回収して百合子と一緒に住むのかなーと今から楽しみだ!
乙です!

>>118
個人的にみさきちと百合にゃんは何だかんだ仲良くできるタイプだと思ってます。共通点は少なく見えるけど二人とも体力ナシだし、お互い色々割りきって付き合っていけそうだと思います。

>>120, >>121, >>122
おまいら背後注意しろよ

>>123
「性少年」は誤字でしょうかマジでしょうか。どちらでも間違ってはいないですが。


さて、今日は「垣根VS白垣根」を投下して、そのまま新スレ本編突入します。






『―誰だ、お前?』





「僕、ですか?」

訊ねられた少年は、答えに戸惑った。
簡単な問いである―英語に直したところで「Who Are You?」の3単語で済むような。だけれど過去の記憶を持たず、「自己」の認識に乏しい彼には難しい質問でもあった。何より訊ねてきた相手が、


「垣根、提督ですが―」





『そりゃあ、俺のことだろ?』





自分と同じ容姿をしていたので、尚更答えに迷ったのだった。


『そんな貧相なナリで、俺の名を騙ってもらっちゃ、困るな。』

『ほら、まともに能力だって使いこなせてない。』

少年はにやりと笑って、だけれど目には感情の色がなかった。そう言えば、自身が何者なのかを調べていたときにもこんな表情を見たことがある。実験の映像に映っていた『自分』はいつもこんな、酷くつまらなそうな表情を見せていた。






『第二位が、二人もいたら困るよなぁ。』





ぶわり、とその場の空気が震えたような気がした。ふと気がついたときには向かいの少年の背に、6枚の大きな白い翼が広がっていた。彼―自分と呼ぶべきなのかもしれないが―が能力を使用するとき、それが展開されるのは知っていた。ただ自分はそもそもが能力によって生産された塊であったから、彼と同じような翼が生じたことはなかったのだ。

ぞくり、寒気のようなものが走った。

『情けねぇなぁ、テメェの体なのに。』

自身の体が霧のように揺らめく。自分の意志でそのように変化させることもあったが、今はそうではない。恐らく彼の能力がこれを引き起こしているのだ―そもそもの成り立ちを考えれば、この体は彼が生み出したものなのだから、細かい理屈は分からないがそういうこともできるのだろう。

『俺一人で、十分だよな。』

『お前、要らないんだよ―』




はっ、

として目を開ければ、自分は自室のベッドの上で横になっていた。
この体には睡眠も食事も必要ないのだが、果たしてその気になればできるものなのだろうかと試してみたらこの悪夢である。慣れないことはやるものではないな、と垣根は額の汗を拭いながら考えた。
第一、この体が汗をかいているというのがおかしい。代謝機能などある筈がないが、この体は肉体のあった頃の経験を覚えているのだろうか。うたた寝をしてみたり、息を乱してみたり、汗をかいたり、意外にも自分という存在は人間らしくできているらしい。
やはりこの家で過ごすのはやめようか。自分がこの部屋の主であるとも思えないし、だからと言って行くあてもないのだけれど、ここまで肩身の狭い思いをさせられ続けるのも精神衛生上よくない。誰を頼ればいいだろうかと考えたところで、愛想のない第一位の顔が思い浮かんで、彼は首を振った。

「冥土返しにでも相談してみましょうか、」

気を取り直して、彼は実に人間らしく、玄関で靴を履く動作を手際よくこなして外出したのであった。




安定の夢オチ\(^o^)/
このSSでの白垣根って非常に曖昧というか、不安定な存在だと思います。原作でもそうですが、このSSだと特に「嘗ての記憶がなく、能力使用もままならない」という二重苦が加わりますので…結構精神的に虐めぬけるキャラだと思うのですが、いかんせん>>1は百合にゃんいじm…可愛がりで手一杯という状況です。

さて、次レスからは漸く本編開始です…前振り長かったな…


御坂に極々短いメールを貰っただけで家を飛び出して一晩行方知れずだった上条が、翌日昼近くなって帰ってきても、インデックスは珍しく然程怒らなかった。どうも上条がほぼ無傷で帰ってきたのが余程嬉しかったらしい。

「結局昨日はどこ行ってたの?もとはるは、お姫様を救出する王子様のお供だって言ってたけど。」

『お姫様を救出する王子様のお供』というジョブを初めて耳にした上条は、訳が分からなかったので適当に相槌を打った。まず、『お供』という単語からは桃太郎の猿鳥犬雉くらいしか連想できない貧相な頭である。若しくは、水戸黄門の角さん助さんだろうか。そういった和風な単語と、『お姫様を救出する王子様』というグリム童話めいたポジションは、何ともちぐはぐにしか聞こえなかったのだ。
その一方で、今回救われるべき女性は一方通行であり、彼女を救うべき男性は第七位であるということはしっかり理解していたので、色々な違和感を全力でスルーした結果、お姫様=第一位で、王子様=第七位らしいということは辛うじて理解できた。

「お姫様が全部解決してくれましたけどね…。学園都市第一位様には三下の手助けなぞ要らなかったらしいです……。」

何がびっくりって、お姫様が最強であらせられたことである。白雪姫自力で目覚めたし。ラプンツェル自力で塔を脱出したし。グレーテルは魔女倒したし。全部解決。
って言うか、土御門も知ってたんなら協力してくれればいいのに。と上条は思ったが、口にはしなかった。あいつにはあいつの事情があって手が出せないのだろう、と思うのだ。実際には、まあそれはもう非常に個人的で同情のしようもない事情があったのだが(惚れた女への意地とか、臍曲りとか、意趣返しとか)。

「?お姫様はあくせられーただったの?」

「あ、そっか。それも話してなかったっけ。」

実はこんなことがあって、と話し始めようとした上条を静止して、修道女はどこか寂しげな笑顔を浮かべて言った。

「別にいいよ。あくせられーたの事情だもの、とうまから聞くのは筋違いだよ。」

それはいかにも修道女らしい理屈であった。あくまで彼女は告解に来た罪人からしか話を聞くことができないのだ。一方通行が自分に救いを求めたのでなければ、自分は何も知る権利がない。彼女はどこまでも職務に忠実な生き物であった。


「そう言えばインデックスは、一方通行の本名って知ってるか?」

ふと思い出したように、上条は訊ねた。自分よりも彼女と親密であるように思える彼女なら、或いはその『本当の名前』を知っているかと思ったのだ。それに対して、修道女は無邪気に質問を返してきた。

「?あくせられーたは本名を持ってるの?」





「私と、同じようなものかと思っていたのだけれど。」





『私と同じ』―彼女が当たり前のように口にしたことについて、上条は一瞬考えねばならなかった。
禁書目録、彼女も本名で呼ばれることはない。それは何故か?―彼女が記憶を失ってしまっているが故である。最早彼女は自身の本名で呼ばれたところでそれが自分を指すとは思えない。彼女が持つ「名称」と言えば禁書目録という役職名か、或いは魔法名だけだろう。

「あくせられーたも、私と同じように名前を失くしてしまったのではないの?」

無邪気に首を傾げる彼女に申し訳ないと思った。彼女が自分の同類だと思っていた少女は、恐らく本名を失ってはいないのだ。好んで使わないだけで、恐らく彼女は「ゆりこ」という名前が自分を指すものだと理解している。最早本来の名前を自分の名前と思うこともできなくなった彼女とは、状況が異なるのだ。

「あ、………」

自分は何て非道いことをしたんだろうか。彼女が同類だと思っていた相手が、実はそうでないという事実を迂闊にも口走ってしまった。ここでそんなことはないんだと取り繕っても、賢い彼女のことだ、自分の嘘など直ぐに見破られるに決まっている。彼女はこの街で得た希少な友人の一人を、再び失いかねないのだ。

「ごめん、」






「私のために、泣いてくれているんだね。とうま。」

「いいんだよ、きっと『名前を持っていた私』は、そういうことも織り込み済みでこの役目を受け入れた。」

「あくせられーたは、そうではないんだね。」





頬に冷たいものが伝う感触で、初めて自分が泣いているのだと気が付いた。そして気付くよりも先に修道女が慰めてくれていたものだから、それは一粒落ちたきりでお終いになってしまった。

「魔術師の世界にも、忘れてしまったとかではなくて、敢えて名前を捨てる人はいるよ。」

「理由は色々だね―親類縁者に類が及ぶのを避けるため、過去の自分と決裂するため、その他にもあるのかも。」

「名前を捨てなければいけなかった理由を、私もずっと考えているの。何で私はそれを選択したんだろうって、」

「ねえ、とうまはどう思う?」




幻想殺しの少年が帰宅する少し前、第一位と第七位の壮絶な鬼ごっこは終わりを迎えていた。

「……百合子?」

二人はある廃ビルの屋上で動きを止めた。少女ははあはあと息を切らせてコンクリートの上に座り込んだかと思うと、寒さに苛まれるようにその華奢な両肩を抱え込んだ。
息は乱れているが、動き回ったことだとかそういうのには関係のない、精神的なものだろう。彼女のチョーカーについているランプは未だ赤く光っていて、未だ彼女が能力使用状態であることを示していた。

「その、名前で呼ぶなって、」

「じゃあ、何て呼べってんだ。俺に、お前を能力名で呼べって?」

そう問われた彼女は、はっとして少年の方を振り返った。その目は何か知らない生き物を見るような目だった。

「お前だって、俺にそんな風に呼んで欲しくないんじゃないか?」

赤い目がふるふると揺れて、零れそうなほどに見開かれている。その様子を見る限り、自分に「一方通行」と呼ばれるのを想像してみて、そして酷くショックを受けたのだろう。


「その名前は、捨てたンだ、」

「捨てた理由は何なんだ?俺じゃあないのか。」

「その俺がいいって言ってんだから、いいだろ。違うのか。」

少し前なら自分だって、そう思っていた。彼が認めてくれるのであれば、元の通りの『鈴科百合子』に戻ってもいいのではないかと思った。
だけれど、特力研で再びあの日の映像を見てしまったら恐ろしくなって、その場から逃げ出したくなった。自分はきっとあの日から何も変わっていない、何かの拍子に彼を傷つけてしまいかねないと、そう思ったのだ。
彼女は乱れた息の合間にどうにかして、その恐怖を伝えようとした。その瞬間のことだった。



とすり、



人間が倒れたとは思えぬ酷く軽い音を立てて、彼女は廃ビルの、打ちっぱなしのコンクリの屋上に倒れ込んだ。




という感じで、今日はここまで。
スレタイからほのぼの期待した人ごめんなさい…しばらくシリアスロード突っ走るから…

こんにちは、急に寒くなりましたね。昼間からホットカクテルで体を温める>>1です。
>>135, >>136あたり書きながら、上条さんは泣いたりしない!なんて言われるかと思いましたが、それよりインさんのがインパクト強かったんですかね?

さて、今日も投下していきますよー


ビルの屋上、煤けた無機質なコンクリートに白くて細い体が倒れている。細い眉は苦しげに寄せられていて、息は酷く乱れている。

「ゆ、りこ……?」

少年は最初何が起きたのか理解できなかった。人が倒れたということと、その人物が一方通行と呼ばれる―或いは鈴科百合子という少女であること、その2つの事実を結びつけることができなかった。なぜなら、彼女の能力を支える電極のランプは未だに赤く光っていたからである。
事実、慌てて駆け寄り、勢い良く手を伸ばしたらその手が弾かれた。この事実から判断するに、彼女の能力は今現在も正しく健在である。しかしながら能力の堅牢な檻に守られている彼女は脂汗すら浮かべていた。

「百合子、百合子!!」

手が届かないならば、と大声で名前を呼んだ。幼い日のままであるならば、一般的な音声は通常反射対象にしていない筈だということを彼は知っていた。しかし意識がないのか、あってもこちらの声に反応するだけの余裕がないのか、彼女の反応はない。


(どういうことだ…?反射が働いているのに、苦しそうにしてる……)

能力が機能しているならば、息苦しさも、暑さ寒さも彼女を脅かさない筈なのだ。
纏まらない思考がありえないほどのスピードで頭の中をぐるぐると巡って、彼女のそれに釣られるように自分の息までもが乱れ始めた。つう、と冷や汗が額を伝う。そうか、酸素が足りないってのはこういうことか、とエベレストの頂上でも全力疾走で100 m走ができるだけの心肺能力を持つ少年は、初めて当たり前の人間が感じる息苦しさを知った。そして目の前で倒れている彼女は、それ以上に苦しい筈なのだと改めて認識した。
病院に運ぶのがベストなのだろうが、反射の働いている彼女に触れることができない。30分待てば電極のバッテリーが切れて彼女にも触れることができるようになる筈だが、彼女の状況は30分という遅れを許してくれるようには見えなかった。

(落ち着け、何か方法がある筈だ、慌てるな、狼狽えるな、)

たかだか高校生に、惚れた少女が突然倒れたという状況を冷静に取り扱える筈がない。それでも彼は懸命に、暴走してとんでもないことをしでかしそうな思考を叱咤しながら、この状況を打開する術を探していた。


(そうだ、らすとおーだー、)

そう思うが早いか、彼はポケットから携帯電話を取り出した。幸い彼女の同居人全てとは言わないが、何人かとは連絡先を交換し合っていた。

(頼む、出てくれ!)

電話帳から少女の名前を探し出し、通話ボタンを押す。コール音が鳴り出して、少なくとも彼女の携帯が今電池切れだとか、圏外にあるだとかではないことが判明した。発電系能力者であるからか、ミサカの携帯に着信があったら別の部屋に置きっぱなしにしていても直ぐ気付くの、と自慢していた少女の無邪気な顔を思い出しながら、祈るような気持ちでコール音が途切れるのを待った。

『ソギイタ?電話なんて珍しいね、ってミサカはミサカは応答してみる。』

果たして電話口に出た少女は常にない着信を訝しむような様子を見せた。少年がメールの方を好むことを知っていたからだ。いつも通りの無邪気な口調は、狼狽のあまり大声を張り上げそうになっていた少年をぎりぎりのところで留まらせた。

「打ち止め、今、MNWであいつの演算の補助してるよな?」

『ああ、…うんそうだね。いきなりそんなこと訊くなんてどうしたの?ってミサカはミサカは困惑してみたり。』

打ち止めは質問にふと考えるような間を空けた。基本的に一方通行の演算補助に関して、妹達各個体の負担は『意識する程でもないレベル』にまで抑えていると聞いたことがある。それは打ち止めにおいても例外ではないようだ、特別に意識しなければ演算補助が働いているとも気付かないらしい。


「……今、こいつ、能力使用状態のままぶっ倒れたんだ。」

電話回線の向こうからはっと息を呑む音が届いた。無闇に動揺させるようなことは本意ではない、少年はなるたけ落ち着いた口調で説明を続けた。

「脂汗かいてて、息も乱れてて、明らかに危ない状態なんだけど、反射が働いてて病院にも運べない。打ち止め、演算の補助を一旦止めてくれないか?」

回答は直ぐには返って来なかった。少年はそれも当然だろうと考えた。
この申し出に従って演算補助を一時的に止めたなら、一方通行に危険が迫る可能性もある。―少年の言葉に嘘があったなら?そもそも電話で会話しているのが少年ではなかったら?
この街の中には声色を繕うような機械も能力も存在するのだ。少年の番号で、少年の声で電話を掛けてきたからといって、それが少年であるとは断言できない。一方通行の電極はあくまでMNWの受信機能しかなく、彼女の状態が打ち止めたちに伝わるわけではないから、一方通行が少年が言う通りの状況にあるのか、打ち止めには確かめる術がない。
電話の向こうの少女が、少年の言う通りに行動すべきか否か、逡巡するような間があった。

『分かった、今17600号からも似たような情報が入ってきたの、ってミサカはミサカは答えてみる。』

『今、演算を切るから病院に運ぶのは17600号がそこに行くのを待っててくれないかな。』

電話がぷつりと切れて直ぐ、倒れ込んだままの少女の首を戒める電極からぴっと機械音がした。


「大丈夫ですよ、もう演算補助は止まりました、とミサカ17600号は第七位を安心させます。」

待つまでもなく、気が付いたときには真後ろに常盤台の制服を着た少女が立っていた。常ならば寝ていたってこの距離に人が近付けば気付くのだけれど、少女の一大事にそれどころではなかったらしい。

「呼吸、脈もある。何が起きてるか分かるか?」

少年は17600号に訊ねた。反射の解けた彼女に触れて状態を確認したところ、苦しそうにしているが、人工呼吸だとか心肺蘇生を必要とする状況ではないことが分かった。となると脳神経系だろうか?―原因によっては素人が病院に運ぼうとするのはむしろ危険となる場合もあるから、この判断は非常に重要な分かれ道となる可能性もあるのだ。

「いえ、何が原因かは分かりません、とミサカは一方通行の体を確認しながら答えます。」

どうもその能力で体の状態を調べているらしい17600号は答えた。まさかCTスキャンや超音波検査のような精密な情報までは得られないだろうが、発電系能力を応用すれば大雑把な体調の把握ぐらいはできるということなのだろう。


「俺が病院運んでも大丈夫かどうか、分かるか?」

「その心配はありません。今10039号が結標淡希と接触中です、とミサカは空間移動系能力者の協力を取り付けたことを説明します。単なるスピードではあなたに劣るかもしれないですが、安全性では彼女の方が上でしょう?とミサカは確認します。」

17600号は少年の危惧していたことの解決法を示した。確かに急いで運ぶというだけなら自分は適任だろうが、病人の運搬には適さないだろう。背負うにしたって抱きかかえるにしたって繊細な扱いは得意でない―病状によってはちょっとした振動すら生死の分け目となる可能性があるのだから、そういう意味では結標淡希は適任であろう。
幾らもしないうちにやってきた結標の協力により、一方通行は無事冥土返しの下に送り届けられた。




「もう大丈夫だよ。未だ寝ているから、面会はもう少し待ってて欲しいけどね。」

ここ数日働きっぱなしの名医は、それでも疲れを見せずに穏やかな物言いで告げた。白井黒子が能力の暴走で運び込まれたり、黄泉川愛穂が精神的な問題で運び込まれたり、というのが一昨日。昨日の夜中には垣根帝督の体の一部が運び込まれてきて、滝壺理后が念のための検査入院。ごく一部の人間に振り回されっぱなしであるのだが、それでも一切嫌な顔を見せないというだけでも彼の人間性が窺えた。

「けど、何が原因で、ってミサカはミサカは聞いてみる。」

少年からの連絡を受けて、急いで自分も病院に駆けつけた打ち止めは訊ねた。昨年の終わり頃には風邪に臥せったりもしていたが、それでも能力使用状態にある一方通行が病院に緊急搬送されるような事態が発生するとは考えにくい。

「それが、分からないんだよ。」

「症状はアナフィラキシーショックに酷似していた。念のため訊くけれど、彼女アレルギー持ちとかじゃないね?」

「ミサカは聞いたことないかも、ってミサカはミサカは首を振ってみたり。」

「俺も知らない。」

絶対能力進化実験の開始時期から考えればそれなりに長く、そして深い付き合いをしている妹達の情報網にはそのような情報がなく、そして幼馴染の少年が知らないというのだから、恐らく他の誰に訊いても分からないだろう。医師ははぁ、と軽く溜息を吐いた。

「そもそもあの人がアレルギーを持っていたとしても、反射が生きている状態のあの人には意味がないよ?ってミサカはミサカは首を捻ってみる。」

「そうだね、だから分からないんだけれど。」

「意識が戻ったら、彼女自身に訊いてみるのもありかもしれないね。あの子のことだから、案外原因は把握しているかもしれない。」

「そうだといいんだけど、ってミサカはミサカは心配してみる。」

今日はここまで~♪百合にゃんは包帯とか点滴とか病衣似合いますよね…いや、萌のためにこんな展開にしてるんじゃないんだけど…

そういえば大事なこと訊き忘れてた!
>>1がやたらと贔屓していることでお馴染みな土百合ですが、このスレ終了まではっきり決着つかないのと、どっかしらでちゃんと区切りをつけるのとどっちがいい?区切りをつけると、自然とつっちーが振られる展開になるんだけど。

あー何ていうか訊き方が悪かったかもしれません。このまま険悪な感じが続くのと、どっかですっきりするのとどっちがいいか、みたいな。

決着つかないパターン:相変わらずつっちーは百合にゃんいじめに余念がなく、百合にゃんは何で俺こんな扱いなの、って訳がわからない感じ。
区切りをつけるパターン:つっちーが遠回しでなく割とはっきりと告る予定。振られるけど、おかげでつっちーの中の屈折してた諸々がすっきりさっぱりなくなって、割と良好な関係を築ける展開。

ほとんどネタバレだな…これ…

どうもこんにちは。この連休は出かけまくっていた>>1です。
土百合の今後についてはどちらでもいいと言ってくれた方が多かったので、自分の好きなようにします。どちらの展開にするかは明言しませんので、お好きに妄想していただけますと嬉しいです。

さて、今日も投下していきますよー。


「気分はどうだい?」

病室でつきっきりになっていた19090号から一方通行が目覚めたという知らせが届いて、先ずその部屋に医師が出向いた。
「診察したいので、君たちは一旦外で待っててくれないかな?19090号くんも。」と医師が言ったので、打ち止めも削板も、元々は病室内にいた19090号も今は廊下のベンチで待っている。廊下に面した扉からは、こちらの会話を盗み聞きすることはできないだろうかと伺うような、どこか不穏な息遣いが感じられた。

「………。」

少女は医師の問いにも難しい表情のまま、躊躇いがちに唇を動かすことすらしなかった。つまりは、薄く、そしてどことなく血色の悪い唇は横一文字に結ばれたままである。
恐らく本当のことを伝えて周囲を心配させることを忌避しているのだろう―その一方で彼女の無言は、医者に本当のことを伝えても彼女の体の問題が解決しないことを意味している。解決することなら、彼女は遠慮なくそれを教えてくれるだろうから。

『その様子だと自分の体調も、原因も把握しているのだろうけれど、僕には話せないかい?』

医者は声を出さずに唇だけで訊ねた。廊下で待ってて貰ってはいるが、五感の鋭敏な第七位には壁越しにも会話が聞こえるだろう。だから彼女も医者も声を発さない。声が聞こえなかったならそれはそれで不審がられるだろうが、それでも会話の内容が伝わるよりはいい。

『答えなくていい。頷くか、首を振るか、どちらかだけしてくれ。』

医者は彼女のように唇を読むなどという芸当はできないから、イエスノーで答えられるクローズドクエスチョンしか発することができない。それを理解してか、彼女は小さく頷いた。


『僕の知識では君の不調の原因を突き止めることができなかった。未だ、根本的な問題は除かれていないんだろう?』

少女の細い頤は小さく頷いた。

『何が必要だい?僕に用意できるものはあるかな。』

寂しげに彼女は首を振った。こういう動作が最近頓に女性らしくなってきたと思う。少女らしいというのではない、もっと大人びた女性らしさだ。幼い少女を保護しながら母親のように振る舞う生活をしているというのも一因だろうが、それでもそういった女性的な面を自分に見せることはなかったと思う。それは彼女が守りたいと願う少女たちだけに向けられていた筈だ―こういう雰囲気がふと何気ない瞬間に漏れるようになったのは、やはり彼が現れてからだと思う。

『君は解決方法に心あたりがあるのかい?』

彼女は頷きも、首を振りもしなかった。確信はないが、何となく見当がついているというところだろうか。自分にはどうすることもできず、だが彼女は何となく解決の糸口を掴んでいるということならば、或いは科学とは別の理論を持つ世界に関わることなのかと思ったが、医者はそれについては訊ねなかった。

『…とにかく様子を見るために3日ほど入院してもらうから。大人しくしていてくれよ?』

彼女は申し訳なさそう少しだけ眉を下げて頷いた。ただイエスノーしか返さない非協力的な患者に対して、それでも協力を惜しまないと言ってくれる医者への感謝を、彼女なりに示しているのだと理解していたから、医者は彼女の髪をそっと撫でてやった。

『どうしようもなくなったら、僕には弱音を吐いていいから。』

唇だけで呟いた言葉は彼女には伝わった筈だ。それを受け入れるかどうかは彼女の自由だけれども。
患者が大切な家族のため、少年のため、何の問題もない振りをして過ごしたいと願うなら、それに協力を惜しまないのも自分の仕事である。勿論、彼女を救うための働きを止めないことが前提であるけれども。




「愛穂が帰ってきたと思ったら、今度はあの子が入院だなんて。」

愛車のハンドルを何気なく操りながら芳川桔梗は呟いた。黄泉川愛穂が大分回復したという知らせがあったので迎えに行ってみたら、入れ違いに一方通行が病院に運び込まれたのだ。比較的物事に動じず常に冷静な芳川も、さすがに何が何やら訳が分からなくなったと溜息を吐いた。
黄泉川は病気というわけではないが未だ精神的なダメージを引き摺っているのだろう、普段からは想像もできない覇気のない表情で答えた。

「正直助かったじゃんよ、今あの子の顔見たらフラッシュバックしそう…。」

「そんなこと言ったらあの子相当ショック受けるわよ。」

「それくらい分かってるじゃんよ…。」

助手席の黄泉川はぐったりしたまま答えた。心根の優しく、また精神的にも肉体的にも非常に逞しい彼女が弱音を吐くのなど、長い付き合いがある芳川でも初めて耳にした気がする。今更ながらこの街は彼女が生きるには酷であると思った。だがその一方で彼女がいなければ救われることのなかった子供も数多く存在するのだろう。


「結局あなたが何を見たのか、私、知らないのよね。」

「…地獄。」

研究者魂と言えば聞こえはいいが、どちらかと言うと野次馬根性といったほうが当たっている―彼女をここまで追い詰めたものが何なのか知りたくて訊ねたところ、非常に簡潔な回答が返ってきた。
「地獄」―つまりそれは彼女が最も憎むものである。何と言っても、この街からそのようなものを失くすために日夜身を粉にして働いているのだから、彼女がその存在を認めてしまうことは敗北を意味する。彼女が見たものは「最初から負けている試合」のリピート映像だったということなのだろう。

「でも蜘蛛の糸とやらはあるらしいわよ。」

一方通行が地獄に生きていて、そして黄泉川愛穂がそれを救えなかった過去があったとして、それでも確かに垂れてくる救いの糸は存在した。果たして本当にそれが彼女を完膚なきまでに救い切れるのかどうかは現時点ではっきりしないが、少なくとも今現在彼女を託すことのできる存在はただ一人である。

「大分頑丈な蜘蛛の糸じゃんね。」

「まぁ、あれって密度や断面積を考慮に入れると元から相当頑丈なものではあるのだけれど…。」

「そういう夢のないこと言うもんじゃないじゃん?」

幾らか息を吹き返したらしい彼女が笑顔を見せたので、取り敢えずこちらのケアはこれくらいで十分だろうと芳川桔梗は判断した。




「原因がよく分からねェから、3日くれェ検査入院しろってさ。」

医者と入れ違いに入ってきた打ち止めと19090号、少年相手にはこう嘯いた。医者は口裏を合わせてくれるだろう。色々とお節介に感じることも多いが、「患者に必要な物は何でも用意する」と豪語するだけあって、自分が身体的な問題を解決することを第一に考えている場合にはこれ以上の協力者はないであろう、と思う。その必要があると判断すれば患者の家族を謀ることにも、果ては患者自身を欺くことにも遠慮がないのだから。

「あなたにも心当たりはないの、ってミサカはミサカは訊いてみる。」

「呼吸困難で酸欠なってた人間に分かって堪るか、ンなもン。」

彼女はベッドの上で呆れるように言った。その表情や口振りに不自然なところはなく、顔色も元から血色の良い見た目ではないことを踏まえるといつも通りと言えるだろう。少なくとも表面的には回復しているように見えた。
彼女が言う通り、酸欠状態になっているというのにまともにモノを考えろというのは無理がある。彼女はむしろ危機的状況においてもかなり冷静に物事を考えられる質なのであるが、酸欠となるとそもそもの思考も生理的に鈍るのだから冷静だとかそういうレベルの問題ではない。突然倒れ込んだ原因に心当りがないというのも、むしろ普通のことだろう。

「世話掛けたな、」

そう言って彼女は打ち止めと19090号の頭を撫でた。打ち止めは小型犬のように嬉しそうにその手に纏わり付いて、一方妹達の中でも引っ込み思案な性格らしい19090号は少し照れくさそうにしている。

「オマエも。」

少女たちから一歩後ろに立ってその様子を見守っていた少年にも言葉が掛けられた。素直に感謝しないところは彼女らしいが、元を糺すとこういった遠回しな表現ですら口にするのは珍しいので、彼は少し驚いた。

「17600号にはお礼しなくていいの、ってミサカはミサカは意地悪してみる。」

「アイツはそォいうの苦手だろォが。」

「最新型の追尾機能付き小型カメラが欲しいとのリクエストが届いています、とミサカは17600号からのコメントを伝えます。」

「謝礼の枠を超えてるし、俺のストーキングに使われるから却下。」


軽口を叩く様子にもおかしなところはない。だけれど、一歩引いたところで少女たちの会話を見ていた少年は、確かにその和やかな光景に違和感を覚えた。
―敢えていつも通りを演じているように見えた、というのが第一印象であった。そもそもが、学園都市第一位ともあろう者が「自身の識らないこと」をそのままにしておく筈がないのだ。
彼女のように賢い人間というのは押し並べて好奇心が強く、また、自身の識らないことを積極的に吸収したがるようなところがある。それどころか、今回起きたトラブルは自身の体の不調である。その身を以て妹達を守り続けたいと思っている以上、彼女が最大の資本である自身の体の不調を放って置く筈がないのだ。

(冥土返しでは、力不足ってか、)

少年は、敢えていつも通りに振る舞おうとしている彼女の様子から、決して彼女が完全に回復したわけではないことを悟った。
医師と彼女の面会はほんの数分で終わった。あの医師が自分の力不足を悟って大人しくしているとも思えないけれど、それでも普通の病室に彼女を寝かしたままで、薬を渡すでも面会を禁じるわけでもないということは、少なくとも彼に今直ぐにどうにかできる事態ではないということなのだろう。

(じゃあ、何だ、)

(今、コイツに必要な物は何なんだ。)

彼女は知っている筈だ。今自身に必要なもの―慌てた様子もなく妹達を宥めすかしているところを見る限り、彼女は自身の体の問題を解決する糸口ぐらいは掴んでいる筈だ。だけれどその弱音を、打ち止めにも、自分にも吐く様子がない。むしろ安心させて、この病室から遠ざけようとしている気がしていた。

(俺じゃ、ダメってか、)

少年はその質問を口にすることができないまま、苦虫を噛み潰したような表情で病室を後にした。




「あくせられーた、大丈夫?」

翌日、なぜか自分と同じ入院患者である筈なのに、病院の指定の服ではなくいつも通りのピンクジャージを羽織っている見舞い客が来た。オマエこそ、と訊いてやりたいところだが、そんなことを言っても話しているうちに結局こちらの心配をする話題に戻ってくるだけだということを知っているので、一方通行は何も言わなかった。

「様子見のための入院だからな。もう血液検査したってCTスキャンしたって何の異常も見付かンねェよ。」

嘘は言っていない。自分の体に今起きている『異常』はそんなものでは検出できない筈だ―異常がない、とは言っていないのだから、嘘ではない。もしかしたら勘働きの優れている彼女は一方通行が裏に込めたそういった意図まで読んだかもしれないが、それでも無闇矢鱈に言い触らしたりはしないだろう。

「食べ物制限とかない?私、お菓子持ってきた。」

「ねェ。つゥかあっても無視する。」

滝壺がコンビニのビニール袋から取り出したポテトチップスを当たり前のように受け取って、サイドテーブルの上できっちりと観音開きにする。がさつに見えて、何気ない動作すらこうやって細かいのが彼女らしいな、と滝壺は思った。

「ふふ、一方通行ってば悪い子。」

「俺がイイ子だったことなンてあるかよ。」

「あくせられーたはいい子だよ?」

「さっきと言ってること正反対だぞ、オマエ。」


「それはあくせられーたが臍曲りだから、仕方がないよ。」

まるで自分の子供か、そうでもなければ親戚の子供にでも言い聞かせるように、酷く優しく、だけれどどこか突き放すように彼女は笑った。それは自分が責任を持つべきことではなくて、誰か他に適任がいるとでも言うような口振りだった。

「俺のせいにするってか。」

「だって、そうして欲しいんでしょう。」






「あくせられーたは、全部自分の責任だって、全然関係のないことだってそうやって擦り替えるつもりでしょう?」





「皆、分かってるんだよ。」

「あくせられーたが無理してること。」

「全部、自分のせいだってごまかしてること。」

「ぼろぼろになってること。」

「でも違うの。あくせられーたを見捨ててるわけじゃないんだよ。」

「あくせられーたに必要とされたいんだよ。」

「あくせられーたが誰を選ぶか、皆きっと待ってる。」

今日はここまでです。今後の展開への重要な分岐点なので、非常に分かりづらい、観念的なパートになりましたが。ここで今後数回分の投下の展開を読めかねな
いパートでもあります。以前から少しずつ、ソギーへの恋心を意識し始めてから、百合にゃんは誰かれ構わず色気を振りまくようになってきた、という描写を挟んでいます。女の子って誰かへの恋心を意識してからの方がエロいよね、その恋心の対象ではない異性にとっても。と思っています。

どうもこんにちは、また台風が来るそうですね。今日の投下はちょっと短めですがよろしくお願いします。


「明日11時に手伝いに来るから。」

少年が見舞いの帰り際、背中越しに言った。表向き検査のための入院とされた3日間の内、2日間は既に消化されようとしている。つまり、彼女は明日退院することとなっている。

「手伝いっつったって、何すンだ。」

荷物は殆どない。マメな同居人やその他見舞い客がこの部屋を訪れる度に必要な物を持ってきて、不要となったものを持って帰るようなことを日に数度も繰り返しているものだから、この部屋にはそれこそ彼女自身以外に持ち帰られるべきものなどなかった。大層な重病人であるというならともかく、たかだか検査入院、帰りの足元が覚束ないというわけでもない。

「でも、黄泉川先生に頼まれたし。」

明日は平日であるから黄泉川愛穂が迎えに来ることはできない。芳川は相変わらずどこかの大学の研究室に手伝いに行っているらしい―然程金になるわけでもあるまいし、それでもマメに通うところを見ると根っから研究者体質なんだろうな、と思う。
彼女より年下の妹達や打ち止めが退院の手伝いをするというのも変な話だ。外見的には同年代の番外個体はそういったことに不向きであるし、彼女の知人の中で彼は比較的「退院する少女の手伝い」に適役であると言える。しかしながら、彼女はそれを正面から肯定することができなかった。


「オマエ、ホントにいつ学校行ってるの。俺が言えたこっちゃねェけど。」

「正直出席日数なんてどうにでもなる。」

明日は平日であって高校教師である黄泉川愛穂が出勤であるのだから、当然高校生である少年も登校日である筈なのだ。しかし彼はそれを蔑ろにすることに抵抗がない。周囲には真面目な好青年だと思われているが、学校はサボって、立入禁止のビルに立ち入って、勝手に不良少年共をブチのめして、考えようによっては問題行動ばかり仕出かしているとも言える。
それでも何でこの少年の目は今でも美しいのだろう。そして、何で自分はそう在れなかったのであろう―彼の真っ黒く飲み込まれそうな虹彩を見ていると余計なことを考えてしまいそうで、彼女は懸命に思考を逸らそうとした。


「オマエ、」

ベッドの上で少女は酷く難しい顔をしていた。きっと何かよからぬ思考に囚われているのだろう―彼女の悪い癖だ、じっとしていると悪いことばかり考えてしまう。少年はそれを知っていたから昨年秋に再会してからことあるごとに彼女を外に連れ出そうとしていたけれど、さすがに病人ともなるとそうも行かない。ここ数日ベッドの上で大人しくしていた彼女の頭の中など、それはもう酷くごちゃごちゃになっていることだろう。

「…何だ?」

呼び掛けたっきり、口篭ってしまった彼女の気持ちを解すように、その手にそっと触れた。小さな手は酷く冷たく、強ばっていた。

「何かまた、良くないこと考えてるんだろ。」

「何でも話してくれ、なんて言わないけど。」

彼女の手を解すように、両手でそっと包む。自分の手は随分と大きくなっていて、彼女の小さな手なら片手でも包み込めるほどになっていた。こういうとき、自分は男なのだな、と思う。女だからどうだとか男だからどうだとか、性差別的なことを言うのではないが、やはり別の生き物だと理屈ではなく思うのだった。


「本当は、体も何でもないことなんてないんだろ。冥土返しは何も異常は見つからなかったら大丈夫だなんて言ったけど。」

「なあ、俺ができることってないのか。」

窓の外の陽が、雲に隠れた。蛍光灯を点けていない部屋の中はたちまち陰った。

「―なァ、」

少し間が空いて、彼女が口を開いた。

「オマエ、俺のためなら何だってできるか?」

「?できる限りのことはするけど。」

何でもできるとは言わない。自分にできることには限りがあるし、それこそ医療行為となったら自分より冥土返しの方が適任である。そうでなくて自分にできることがあるというのなら、それを出し惜しみするようなことはないけれど。
少年が思うところを素直に伝えたら、彼女は困ったように笑ってみせた。

「じゃあ、やっぱりダメだ。」

じゃあ何て答えれば正解だったんだろう―結局それを彼女自身に問うことができなくて、見舞いの帰り、彼はぼんやり考えていた。




「お出掛けですか?」

「こンな夜更けに女の部屋に忍び込ンでくるたァ、随分不躾なやつだな、」

部屋に入ってくる足音も、それどころか息遣いすら気付かなかったが、なるほど彼ならそんな芸当も可能だろう。一方通行は振り返ってその人物を認めた。

「―第二位。」

「あなたに比べたら。」

少年は彼女の悪態に対して穏やかな表情のまま答えた。
確かに彼が指摘した通り、右足を窓枠に掛けて今にもそこから飛び降りようとしているその姿は、「不躾」と評されても仕方のないものだろう。

「どこに行くんですか?」

「誰にも見つからないところだよ。」

窓から冷たい夜風が吹き込んできた。真っ暗な病室に学園都市の街灯やら何やらが映り込んで仄白く照らす。相変わらず窓枠に乗り上げたままの彼女の表情は逆光でよく見えなかった。






「そんなところ、ありませんよ。」

「―例え、月の裏側にだって。」





「なら、本当に見つからねェかどォか、」

「先ずは月にでも行って確認してみるか。」

彼女は勝ち気に笑ったかと思うと、窓の外に消えてしまった。

「お気を付けて。」

見えなくなった彼女に、届く筈もない言葉をかける。
明日までの期間限定ではあるものの、部屋の主を失った病室は酷くがらんとして見えた。

「何だか、大変な女性に惚れてしまったみたいですね。分かってはいましたが。」

そもそも第七位という存在がいるからには、自分のような者など彼女にとっては道端の小石にも劣るような存在なのだろうし、そこに割って入るつもりもないのだけれど。でも何となく彼女が放って置けなくって、こうやって勝手に首を突っ込んでしまうことがこの後もありそうな気がして、彼は小さく溜息を吐いた。




翌朝のことである。
第七位の少年が日課にしているジョギングから帰ってくると、携帯が着信だらけになっていて、メールも何通か届いていた。

(こんな朝早くに誰だろう、)

時刻は未だ7時前である。
携帯を開いて確認すると、履歴の電話番号は複数あってそのどれもが電話帳に登録していないものだったので何が何やら分からないが、メールは打ち止めからのものだった。
その文面を読んだ少年は、ジョギングで汗まみれになったシャツを着替えることすら忘れて家を飛び出したのだった。


あの人が病室から抜け出してしまったみたいなの
朝様子を見に行ったら病室が空で
窓が開けっ放しだったんだって
ってミサカはミサカは他の妹達からの報告を慌てて伝えてみる

はい、今日はここまで。
もしかしたら今日明日に小ネタ投下するかもしれません。



ここは名探偵滝壺さんに
依頼を…

いつもどもです。今日は小ネタ投下しますよー

>>196
だがしかし滝壺に頼れない理由があるのさ…次回明かされる予定ですが。


一方通行:オマエら何やってンの?

ミサカA:何って第一位の看病ですが、とミサカは答えます

一方通行:俺検査入院だし。看病するような要素ねェんだけど

ミサカB:そんなこと言ってミサカの楽しみを奪うのですね、とミサカは嘘泣きをしてみます

一方通行:楽しみって、何これ楽しンでンの?

ミサカC:むちゃくちゃ楽しんでますよ、とミサカはいわゆる氷枕というものを取り出してみます。何これここに氷水入れるの?

ミサカD:ていうか冷えピタシートで代用すればいいのでは、とミサカは文明の利器を差し出してみます

一方通行:って言うか俺熱出してねェし

ミサカE:初体験に浮足立つミサカたちを見守ってはくれないのですか、とミサカは悄気げてみます

一方通行:明らかに間違いと思われることは逐次訂正しねェと俺の安全がヤバい

ミサカA:因みに間違いとは、とミサカは参考までに確認してみます

一方通行:取り敢えずそこの抜身のネギは何だ。風邪対策か、しかもおばァちゃンの知恵袋レベル

ミサカB:じゃあ一緒に紹介されてた生姜湯も間違いですか、とミサカは片付けようとしてみます

一方通行:それは好きだから飲む

ミサカC:何だ好き嫌いかよ、とミサカは悪態をついてみます

一方通行:好き嫌いあって何が悪い。病人なら尚更嫌いなもンには接触したくねェもンだ

ミサカD:さっきまで検査入院だって言い張ってたのに病人にクラスチェンジしたんですか、とミサカは嫌味を言ってみます

一方通行:オマエらが構いたがってたンじゃねェか

ミサカE:やだなぁ拗ねないで下さいよ第一位、ミサカたちは健康な第一位だって専ら構い倒したいです、とミサカはありのままの気持ちを告げてみます

ミサカA:普段は上位個体や末っ子に邪魔されて第一位とスキンシップできませんからね、こんなときくらい…、とミサカは手をわきわきさせてみます

一方通行:わきわき止めろ

ミサカB:よいではないかよいではないか、とミサカは第一位に迫ってみます

一方通行:オマエら看病しに来たの、セクハラしに来たの

ミサカC:敢えて言うなら後者ですが、とミサカは包み隠さず回答します

ミサカD:最近男ができて頓にエロくなってきた第一位を集団レイプするミサカたち…とミサカは最近プレイしたエロゲのシチュを模していることを明かします

ミサカE:因みに録画準備もばっちりです、とミサカは17600号の協力を得ていることを明かします

一方通行:オマエらもうこの病室に立入禁止な、あとエロゲも



削板:(何で妹達は廊下でバケツ持たされてんだろう…)←見舞いに来た

以上、百合にゃんの入院に変な方向で発する妹達でした。
シリアス書いていると偶に下らないもの書きたくなるよね…ロリ百合子とか…


妹達エロゲすんのかよww
ロリ百合子ぜひ!

ロリ百合子にセットで
青ピは如何でしょうか

「おはようございます」なのかな、今の時間帯って。
こんな朝早くに何で起きてるのかって?チャンピオンズリーグ見てるからだよ。んで俺のバイエルンが勝ってるので、余裕ぶっこいて試合見ながら投下するよ。

>>201
妹達がエロゲをするというか、20000号が…(ry

>>202
セット売りすると犯罪になります。購入者じゃなくって、青ピが。
というのは冗談で、小さくなってしまった百合にゃんといつも通りのソギーが元に戻る方法を探すため、色んな人に接触するシリーズ物の小ネタを作ろうと思っているので、青ピと接触させること事態は難しくないです。未だ妄想しているだけだけど。

では、今日の分投下しちゃいまーす。


「アイツがいないってどういうことだ。」

少年が駆け付けたときには病室付近は病院にあるまじき騒ぎになっていた。病院でこんな騒ぎを起こすのは好ましいことではないだろうが、特別病棟に入院していた彼女の病室の近辺には、そもそも他の入院患者がいる部屋は少なかったらしい。怪訝な顔をして通り掛かる入院患者が時折ぽつりといるだけだった。

「ソギイタ、」

少年の姿を見付けてほっとしたように打ち止めが呟いた。その傍らには芳川桔梗が立っている。未だ年が明けて半月も経たないというのに、お気に入りの薄手のワンピースに上着を羽織っただけの格好で、自分と同様に慌てて駆け付けたことがよく分かる。妹達に連絡を受けて着の身着の侭、といった具合だろう。

「黄泉川先生は、」

「愛穂なら仕事に出たわ。随分心配そうにはしていたのだけれど、あんまり大人数で騒いでも意味がないし、私が行くからあなたは仕事に行きなさいって説得したの。」

その様子が想像できるようだった。一人の子供の一大事と、何人もの子供たちの当たり前の一日を天秤にかけて、叶うことならそのどちらも優先してやりたいと考えるような女性である。結局大人数で騒ぎ立てても意味がないと判断して、自身の代わりを見付けることが難しい仕事を優先したのであろう。


「上位個体、」

ふと後ろから声がした。妹達の一人である。

「数台の監視カメラを確認しましたが、昨晩第一位の姿を捉えたカメラはありませんでした。この階の廊下のカメラにも映っていませんでしたから、やはり開きっぱなしの窓から出て行ったのでは、とミサカは報告します。」

「ありがとう、ってミサカはミサカはお礼をしてみる。」

「更に言えばこの部屋に入る人物も映っていませんでした。第一位は自分の意志で病室を抜け出した可能性が高いです、とミサカは付け足します。」

妹達の一人は廊下の天井に付いた一つのカメラを指さした。彼女が入院していた部屋の入り口からほんの5メートルほどしか離れていない場所である。空間移動系の能力者などが存在するから100%とは言い切れないのがこの街の面倒なところであるが、それでも昨夜この部屋を訪問した人物がいる可能性が低いのは確かだった。

「部屋の中、見てもいいか?」

打ち止めは小さく頷いた。




スライド式のドアを開けてみる。
犯行現場、というわけではないが、見付かったときのままにしているのだろう。窓は開けっ放しで、ドアを開けた拍子に朝の冷たい風が吹き込んできた。
ベッドは小奇麗に整っていて、昨日見舞いに来たときのままと言っても差し支えないレベルだ。こうなると、そもそも彼女が昨夜少しでもベッドで微睡むようなことがあったのかどうかも分からない。

「MNWも何だか不調で、あの人の居場所がよく分からないの、ってミサカはミサカは困惑してみる。

「MNWが不調って、妹達同士が上手く通信できてないとか?」

「ミサカたち同士の接続に問題はないんだけど。でもあの人の電極との接続が何だかイマイチで、何かに邪魔されてるみたいな感じ、ってミサカはミサカは正直に告げてみる。」

「それってアイツは大丈夫なのか?」

「完全に遮断されているわけじゃないから、能力使用とかしなければ問題ないとは思うけど。それならそれで尚更あの人の居場所が分からないのが不思議なの、通信できていないわけじゃないのに。ソギイタにはあの人の居場所分かる?ってミサカはミサカは相談してみる。」

少年はそう言えば、とふと考え込んだ。MNWという明確なもので繋がれた彼女たちとは条件が違うが、自分も彼女の居場所を何となく察知することができた筈だ。あまりに慌てていてそんなことも忘れていた少年は、ひとつ小さな深呼吸をして自身の感覚を研ぎ澄ませた。


「………、分からない、」

元からそれほどはっきりした感覚ではなかった。何となくそんな予感がする、その程度のものだった。だけれど少年は全く彼女の気配を感じられないことに酷く動揺した。まるで彼女がこの世からふっと消えてなくなってしまったような感覚に陥った。
ありきたりな表現ではあるが、足元が崩れていくような気がした。こんなにも自分は彼女という存在に支えられていたのだと今更ながら実感する。彼女は常日頃、こちらに迷惑をかけてばかりで申し訳ないというようなことを考えているようだったけれど、彼女が自分に頼るよりもずっと、自分が彼女に依存していたところの方が大きかったのだと理解した。
一瞬遠くなりかけた彼の意識を呼び戻したのは、一人の女性の冷静な声音だった。

「…滝壺さんに協力をお願いすることはできないかしら。MNWを利用して能力が使えることは分かったのでしょう?」

そう言ったのは芳川桔梗だった。
彼らは藁にも縋る思いで、「一度補足した能力者であれば地球の裏側にいても居場所が分かる」とまで言われる能力者に助けを求めることとした。




「あくせられーたが行方不明?」

彼らは彼女と同日に退院する予定であった滝壺理后の部屋を訪ねた。未だ朝も早いからか、元からぼんやりしたところのある彼女は最初打ち止めたちの告げた事実を正確には理解できなかったらしい。打ち止めの言葉を噛み砕くような間があった。

「MNWでも居場所がよく分からないから、タキツボにあの人を探すの手伝って欲しいんだけど、ってミサカはミサカはお願いしてみる。」

「未だあなたがMNWに接続することが100%問題ないと断言できる状況ではないから、無理強いはできないけれど。協力して貰えると嬉しいわ。」

補足するように芳川は言った。それに対して、滝壺は躊躇うような間を見せた―一方通行と仲のよい彼女がこの申し出を断るとはあまり考えていなかったので、打ち止めたちは逡巡するような表情を見せた彼女に首を傾げた。
そして彼女が告げたのは、意外な事実であった。






「それは、できないよ。」

「あくせられーたのためにも。」





「あいつのため?どういうことだ?」

思わず少年が口を挟んだ。それこそベッドの上で上体だけ起こした彼女を揺さぶってでも問い詰めたい気持ちであったのを、必死で抑えていることが誰にでも分かるような有り様だった。
そんな少年の様子にも慌てず、滝壺はぽつりぽつりと答え始める。

「あくせられーたの体調が悪くなったのは、私がMNWに接続したことが原因だから、」

「だからきっと、もう一度同じことをしたら一方通行がまた危ない目に遭ってしまう。」

少年も打ち止めも芳川も、咄嗟には彼女の言っていることを理解できなかった。だけれど彼女の様子から、嘘を言っているだとか、そういうことでないことだけは感じていた。

「どういうこと?タキツボがMNWに接続したせいであの人が具合を悪くしたって、それ、ミサカたち何にも知らないよ?ってミサカはミサカは困惑してみる。」

「あくせられーたはみさかたちに秘密にしてたから。」

「滝壺さんだけには話したということ?」

彼女は小さく首を振った。

「私にも話してくれなかったけど。でも、一昨日お見舞いに行ったとき気が付いたの。」

「………詳しく、説明してもらえないかしら。」

芳川の言葉に、滝壺は頷いた。




「………、私がMNWを借りたとき、ほんの一瞬だけだったけれど、私とあくせられーたのAIMがごちゃごちゃに混ざり合うような感覚があったの。」

「私は元から人のAIMに干渉するような能力だから平気だったけれど。あくせられーたのAIMは一昨日お見舞いに行ったときにも未だ、具合が悪いみたいだった。」

AIMとは非常に微弱な力場で、たとえ一方通行のような超能力者のそれであっても観測は容易でない。AIMの持ち主である一方通行自身の行方が知れない現状では、実際にそのようなことが起きたのかどうか、確認する術はなかった。

「具合が悪いというのは、具体的にどういう状態なのかしら。私の研究分野は超能力ではないから、あまりイメージできないのだけれど。」

芳川は詰問するような態度ではなく、あくまで穏やかな口調で訊ねた。

「私もそのときには体晶を使ってたわけではないから、科学的にどういった状態だったとかはあまりよく分からないの。ただ何となく、いつもと違っていたというだけで。」

「でもあの状態で能力を使うのはよくない、それは間違いないと思う。あくせられーたはこの病院に運ばれる前に能力を使ってたんだよね?」

「…確かに、あいつが倒れたのは能力を使ってたときだった。」


「でも、AIMがいつもと違うからって能力使って体調を崩すようなことってあるのかな、ってミサカはミサカは疑問に思ってみたり。」

「超能力の根源は「自分だけの現実」であるから、他者の「自分だけの現実」に干渉されたような状態で不調を来すのは考えられないことじゃないわ。要するに、「いつも通りの自分」であることが非常に重要な意味を持つものなのよ、超能力というのは。」

芳川は思案するように言った。専門分野でないながら、必死に科学的な考察を試みているのだろう、最早視界には何も入っていないかのように見えるほどに集中していた。

「あなたたち、滝壺さんの能力をサポートするときどうしてた?例えばあの子の支援をする個体と滝壺さんの支援をする個体とをグループ分けしたりとかしていた?」

「―明確に区別はしてなかった、ってミサカはミサカは正直に答えてみる。」

「タキツボとあの人のサポートを同時にこなしてる個体がほとんどだったんじゃないかな。それにタキツボの支援をする個体と、あの人の支援をする個体を分けたところで、結局このミサカが両方管理してる以上2つの支援系統を全く別の回路にはできないし、ってミサカはミサカは考察してみる。」

「だったらお互いのAIMがMNWを介して干渉し合っていたというのは十分考えられる事態ね。」

「でも、それなら普段ミサカたちがあの人の演算補助をしていることだってAIMの干渉にならないのかな、ってミサカはミサカは疑問に思ってみる。」

「恐らくそれは滝壺さんの能力の性質の問題でしょう。あなた達の能力は他者のAIMに干渉するものではないし。」




「でも、本当に滝壺さんの言うようなことが起きていたとして、あの子が行方不明になった理由は何かしら。」

もぬけの殻となった病室に争ったような跡はなかった。彼女一人の為したことか、或いは他の人間が関わったことかは分からないが、少なくとも彼女が望んだことである可能性が高い。彼女が拒んだり、抵抗したりしたならば、ベッドだってあれほど整ったままではなかっただろう。

「多分、治す方法を探しに行ったんだと思う。」

「この病院では治療できないようなことなのかしら。」

「私やらすとおーだーがロシアで経験したような、ちょっと変わった方法が必要なんじゃないかな。だって、この病院で検査しても何も見付からなかったんでしょう?」

「あくせられーたは言ってた。「異常は見付からなかった」って。「異常がなかった」とは言ってなかった。」

「ここで異常が見付からないものを、ここで治せるわけがないと思う。」

彼女自身も魔術というものをよく理解しておらず、一方でそれを無闇矢鱈に口にしてはいけないことを何となく悟っている滝壺は、その存在をはっきりとは告げなかった。

「学園都市には存在しない技術を探しに行った、ということかしら。」

意外なことに、学園都市の研究者である芳川は、滝壺が「学園都市に存在しない技術」の存在を仄めかしても然程驚いたような様子はなかった。或いは冷静な科学者であるからこそ、自分の知らない未知の領域があって当然だと考えているのかも分からなかったが。

「だとすると、あいつは学園都市にいないってことか?」

少年は呟いた。
だが、その答えは誰も持っていなかった。彼のよく通る声が、その場に居合わせた人物全ての頭の中で木霊した。






『私を月に連れてって』





「案外ロマンチックな曲知ってるんだにゃー。」

「オマエは俺の血圧上げるようなことしか言えないのな。」

「だって、それが生き甲斐だから。」

簡単に血圧上がって、しょっちゅう舌を打って、そして気紛れに人を殺すのが元々お前の性だろう。そうではない、ただの女でしかないお前になんか、興味が湧くもんか―男は心の中でだけ唾を吐いた。

「月になんか、連れてって貰わなくたっていいくせに、」

「自力で行けるくせに、」

「可愛らしい女みたいなこと言うのな。」




「その方が嬉しいンだろ?」

「男って生き物は、」

彼女がまるで恋の駆け引きを熟知した女のようなことを言うものだから、男は心の中でだけ唾を吐いた。

「それの何が悪い、」

「俺は、」






「女だ。」







正しく少年のもとに戻るため、彼女は一人で戦うことを選んだ。


今日はここまでです。
さて、百合にゃんは今どこにいるのか?突然現れた男は百合にゃんの共犯かそれとも…??
みたいな煽り文は置いといて。週末は小ネタ投下するかもしれません。

ではまた。


百合にゃんが自分のことを女だと断言したことになんか衝撃を受けた

皆さんこんにちは、いつもありがとうございます。

>>225
ここまで1.2スレ掛かりましたね…長かったです。ここに至る百合にゃんの心境変化は後々語る予定ですが、書きながら「俺は女だ」って一人称と性自認が余りにもちぐはぐすぎるなーとぼんやり思った次第です。

さて、小ネタ投下しますねー。




目が覚めたら、愛しの彼女が幼女になっていた。



目が覚めて直ぐに彼女の様子が目に入るってどんな状況だよ?とか、って言うか「愛しの彼女」と言うからには結局お前らって付き合ってるんだな?そこんとこはっきりしろ、とか第七位に言ってはいけない。ただでさえ明らかにトラブルが発生しているとしか言えない状況に、余計なトラブルを持ち込むことになるので。

「え、ちょ、……!??」

驚きのあまり、それこそ体の中にばねでも仕込まれていたんじゃないかという勢いで飛び起きた少年は、未だ眠りの中にある彼女(※幼女)を起こそうとして―



ぱちん



―反射されたのだった。

そうして彼は彼女(※幼女)の首元に電極が存在しないことに気が付いて、どうも単純に彼女(※幼女)が外見的に幼くなってしまっただけではない様々なトラブルが起こっているらしいことに気が付いたのだった。



「ン、ゥ……?」

反射が生きている状態の彼女(※幼女)をどうやって起こそう、と悩んでいたところ、彼女(※幼女)が自発的に目覚めそうな気配がした。

ぱちり

今にも零れそうな大きな赤い瞳が開く。

「おまえ、だれ?」

目を擦りながら覚醒し切らない彼女が最初に発した言葉は、一応は少年の予想の範囲内であった。

「軍覇だけど、俺のことは分からないか?」

「ぐんは?」

少女はきょとんと首を傾げた。外見年齢から察するに、彼女の精神は様々な辛い出来事を経験するその前にまで戻っているらしい。その仕草は年齢相応に幼かった。

「たしかににてるけど、なンでいきなりおっきくなってンの?」

彼女は然程驚いてもいない様子だった。この街ならいきなり成長することもあるかもしれないとか、寝起きでもそういった突飛な可能性を想像できる程度には頭が働いているのだろう。


「どっちかって言うと、多分お前が小さくなったんだと思う。」

「おれが?なンだそりゃ?」

「俺だって訊きたいんだけど。」

ベッドから降りた彼女(※幼女)は少年の手にぴとりと触れる。

「うそいってるようすはねェし…」

嘘発見器の原理を応用しているらしい。脈がどうのとか、体温がどうのとか、汗腺が云々かんぬんだとか、所謂「嘘を吐いているときに変化が出やすい場所」をモニタリングしているんだろう。
続けて小さな両手でこちらの掌をぐいぐい広げてみたり、目をじーっと見つめてきたりした。

「しもンも、ゆびじょうみゃくも、こうさいぱたーンもぐんはなンだよなァ。ほンとにおれ、ちいさくなったのか?」

「むしろ幼少期からそんな場所チェックされてたことに驚いてる。」



「とにかく、どうにかしないとまずいよなぁ。」

そうして少年は彼女(※幼女)を連れて頼りになりそうな人の元へ行くことにした。

以上、幼女ゆりことソギーのドタバタほのぼのコメディ小ネタ序章です。

実はこれから1ヶ月ほど仕事が忙しくなる予定です。どれほど忙しくなるか見通しが立たないのですが、基本的には本編投下を一時中止し、小ネタのみ投下しようかと思っています。(思ったより仕事の調子が良かったら、本編投下再開も在り得ます)
新スレ入ってからあんまり話が進んでいなくて申し訳ございませんが、ご了承下さい。

ロリ百合子はいいものですね…
ソギーはロリ子も百合子も同じくらい可愛いと思っている極普通(或いはツマラナイともいう)の精神の持ち主なので、ロリ子に対して特別テンション上がったりとかはしません。だがしかしこれから先にはロリ子に特別テンションが上がる人たちがたくさん登場し、危ないテンションを見せる予定です…

「なァ、いまどこむかってンの?つゥかここどこ?」

酷く小さな体に変わり果ててしまった少女を肩に背負って歩く。最初は共に歩いていたのだが、歩幅が合わずに酷く難儀した。能力についても外見年齢が幼くなるに伴ってその頃に逆戻りしているようで、思いのままに移動できるほどには扱いに長けていない様子である。大人というほどではないが、それなりに成長した今になって改めて幼かった頃の彼女を観察してみると、新しい発見が多くあった。

「ここは第七学区だけど…」

きっとこの第七学区は、彼女の記憶に在るものとはまるで違う形をしているのだろう。不安を感じているのかもしれないし、或いは好奇心を刺激されているのかもしれない―肩に負った彼女の表情を伺うことはできなかった。

「これからな、お前の大切な人たちに会いに行くんだ。」

「おれの、たいせつなひと?」

「おれ、しらないよ。」

「いいんだ、それで。」

「いつか、絶対会えるんだから。」

或いは、それはどうしようもなく酷な過程の果ての出会いであるかもしれないけれど。




彼女(※幼女)を実家にまで連れて帰ってみると、同居人たちは削板が状況を説明するよりも先に勝手に騒ぎ立てた。

「いつの間に子供産んだの、ってミサカはミサカは大慌て!」と目を回す幼女があり。

「ちゃんと避妊はしろって言ったじゃん?」と問題発言をさらっと口にする女教師あり。

「それより肝心の母親が見当たらないんだけれど。」と辺りを見回す研究者あり。

「ょぅι゛ょキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!って違う違う、ミサカそんなんじゃない!!20000号の変態がいけないの!!」と相克する感情に振り回される末っ子に至っては見なかったことにしたい。

やっぱりここに連れて来ない方が良かったかも、と彼には本当に珍しいことに、少年は心底自身の決定を後悔することとなった。自分もよく分かっていない突然の出来事を、どうやってこの人たちに説明したらいいのだろうか、少年は酷く悩んだのである。

まぁソギーが百合にゃんそっくりの幼女を連れていたら勘違いする人もいるよね、という話。
この小ネタに登場予定なのは、上条さん、インデックス、つっちー、青ピ、みこっちゃんなのですが、その他にも出してほしい人いますか?

青ピはやばい何がやばいってソギーに殺されないか心配

乙です
>「おれ、しらないよ。」
ロリ百合子かわいいなあ
しゃべりかたに幼さが出ててかわいい

浜面も遭遇させてほしい

乙です。そぎーいいパパだなあ
グループの残り2人とも会ってほしい

当然 アレイスターと駒場さんは
はずせないだろwwww

あとは名探偵滝壺さん
あたりか

>>240
大丈夫、ソギーは情けをかけられるやつです。って思ってたけど、百合にゃんの危機に関しては容赦なかったですごめんなさい。何とか青ピ死亡ルートを回避できるよう善処いたします。

>>241
出すとしたら浜面は滝壺とセットですかねぇ。何だかんだ面倒見のいい男のなので、ロリにゃんと相性良さそうです。

>>242
多分結標がロリにも目覚めます。海原はいつも通りなんだろうな…

>>243
このSS上だと駒場さんは既に亡き人なわけですが…小ネタなのでそういうこと全部スルーもありですかね。
そしてアレイスター…正直>>1はアレイスターをどう扱ったらいいか分かりません。本編にも一切出さない予定だし(このSSの作風上ギャグキャラにするわけにも行かないし、だからといってシリアスに扱うと話が半端なくややこしくなる予感しかしないので)
小ネタ限定だし、ギャグキャラにすればいいの??でもソギー、多分相手が百合にゃんのあらゆる苦労の元凶だって気付いたらガチギレするよ??


さて、今日の分も投下します。


「っていうのは冗談で、その子は何者じゃん?まさか一方通行だとか言わないじゃんね?」

「そのまさかなんだけど…」

ひと通り騒ぎ立てて満足したらしい、黄泉川愛穂は表情を真面目なものにころっと替えてから訊ねた。打ち止めも芳川桔梗も落ち着いた表情に変わっていたが、ただ一人頭がパンクした番外個体だけソファで寝込んでいる。彼女がどういった体質であるかは以前聞いたことがあるけれど、こうやって目の当たりにしてみると難儀なものだなと思う。

「能力者の仕業かしら?削板くん、この子がこうなるときにおかしなところとかなかった?」

「おかしなところも何も…起きたときにはこうなってたから。」

「でも物音だとか、人が近付く気配があったなら絶対俺は起きる。」

「近付かないでも有効?それとも時間差で発動するタイプかしら。そもそもこんな能力、研究者の間でも聞いたことがないしね。」

芳川桔梗は腑に落ちない様子である。こんな特殊な能力の持ち主がいたら、世間一般には表沙汰にならなくても研究者界隈では話題になるものなのだろう。人を若返らせる能力など、それこそ医学や美容の分野に引っ張りだこになるだろうし。

「私もないじゃん。警備員の情報網にないってことは、この街で過去に似たようなトラブルが起きていないってことじゃんね。」

勿論、警備員の目の届かないトラブルもこの街には山ほどあるのだけれど、と彼女は小さく付け足した。


因みに大人2人と、子供ばかりのこの街の中では比較的大人寄りだと言っていいだろう高校生の少年が難しい顔をして話し込んでいる間、幼女2人は微笑ましく親交を深め合っていた。

「ねえあなた、ミサカより小さいのね?歳はいくつ、ってミサカはミサカは訊いてみる。」

「…7さい。」

自分より幼い外見の一方通行に対してお姉さんぶりたいらしい。番外個体は年下であってもあの通り体が大きく打ち止めを子供扱いすることがあるから、貴重な体験なのであろう。普段からふとした瞬間に敏い表情を見せる打ち止めが、年下の少女相手に庇護欲とも母性とも似た感情を見せていても、然程違和感はなかった。

「人見知りさんなのかしら?コーヒー味の飴はいかが?あんまり甘くないからあなたもお気に召すかも、ってミサカはミサカは太鼓判。」

「うン、あまいのにがて。ここのひとたちは、ほンとうにおれのことしってるの?」

「そうだよ、あなたはこの家に住んでるの、ってミサカはミサカは答えてみる。」

「あなたはミサカの大事な家族なの、ってミサカはミサカはあなたの小さな手に飴を握らせてみる。」

打ち止めは彼女の手に飴を渡すとき、改めて自分よりも小さな手をしている彼女に少し驚いたらしい。ぱちり、と大きな目を確認するように瞬きさせた。小さく柔らかく、恐らくは未だ一度も血に汚れたことのないだろう掌を見て、思うところがあったのだろう。
未練を断ち切るようにすっくと立ち上がると、未だ話し込んでいた保護者2人と少年に向かって手を振ってみせた。

「ねえ、このミサカにナイスアイディアがあるかも、っってミサカはミサカは挙手。」

「こういうときはカミジョウかシスターさんを頼ってみるといいかも、ってミサカはミサカは提案してみる。」

というわけで少年は再び少女を肩に背負って、人探しに出て行ったのであった。

という訳で今日はここまで。
この通り、上条さんとインデックスに会いに行く話ですが、あのトラブルメーカー2人にすんなり会えるわけもなく、その道中でいろんな人達と出くわす予定です。さて、次は誰と会うかなぁ。

フィアンマも捌いた1の
技量に期待してるぜ

おつ!
もしかしてソギーとつっちーの修羅場展開来たり?

>>250
フィアンマ捌いたのはシリアス展開だぜ!!ギャグ展開は苦手です!!!

>>251
まぁ本編再開までお待ち下さいな。


さて、今日の分も投下します。蟲師配信見ながら書いてるので、うっかりするととんでもなくシリアス展開になりそうだよ。


ファミリーサイドを出て幾らも歩かないうちに、次のエンカウントはやってきた。これ以上のトラブルは御免だというときに限って、そういうものは立て続けにやってくるものである―誰が言ったことは知らぬが、非常に的を射た、世の真理であると少年はこのとき改めて感じた。
エンカウントの相手は学園都市第三位、超電磁砲こと御坂美琴であった。

「アンタたち、いつの間に子供なんか…!!?」

打ち止めと全く同じ反応を示した御坂美琴を見て、少年はぶっちゃけちょっと面倒臭いとすら思った。文字にしてみれば口にしていることは打ち止めとほぼ同じであるが、明らかに冗談と分かる口調で言っていた打ち止めとは異なり、こちらは本気臭かったからである。

「不潔!変態!!痴漢!!!」

(何だろう…俺は潔白な筈なのに女子中学生にこんなこと連呼されると冤罪でも実刑食らいそうな気がする……。)

どうやってこの面倒くさい子大人しくさせよう、何か今何言っても逆効果にしかならない気がする―第七位が彼らしくもなく非常に冷めた思考に逃げつつあったとき、耳を塞いだまま最早聞き取れない暴言を吐き続ける少女の周りで、何やらばちばちと不吉な音がした。

「えっ、もしかして…この感じ……?」

「落雷!!?」

俄に明るかった空に鈍い色の雲が蔓延り、ごろごろと特徴的な音がした。ここまで来ると最早落雷を呼び起こしている御坂自身にも止めることはできない状況だろう。彼女の放つ超電磁砲を止めることはできる少年であっても、さすがに幼い少女を庇いつつ落雷を処理する自信はなかったので慌てふためいた。

ぴしゃ、と甲高い破裂音がした。


続いて、ぱちん、と小気味の良い音。

「へ??」

削板と御坂が同時に声を上げた。少年の肩の上では小さな少女が動じることもなく得意気な表情を見せている。

「きゃは、」

「なァぐんは、おれすごいか?」

「そっか、お前か……。」

少年はほっとした拍子に腰が抜けてしまいそうだった。
よくよく考えてみれば、この頃の少女は単純な攻撃であれば然程苦労なく反射ができるようになっていたのだ。移動に応用するだとか、複数種類の攻撃を同時に処理するだとかいうことには未だ不安があったが。エネルギー量は多くとも、シンプルな電撃であるそれを処理するのは彼女にとっては最早難しくないのだろう。

「反、しゃ…?」

御坂も自分の為したことの大きさと、何事もなく過ぎ去った安堵感にか、へたりとアスファルトの上に座り込んだ。

「その子、本当に何者なの……?」

「おれののうりょくすげェだろ!あくせられーたっていうンだ!」

自分の能力に周りの人間が驚いているのに気をよくしたらしい、少女は元気よく手を挙げた。


「へ?」

「てっきりアンタが一方通行に良からぬことしてできた子供かと…。」

勝手に強姦魔か何かに仕立て上げられたらしい少年は幾らか憤慨しながら答えた。

「この子の大きさ見てみろよ、一体何歳のときに産んでるんだよ…?」

「確かに…。」

明らかに幼稚園児は過ぎている年頃の少女を見て、御坂は思い直したように呟いた。この年頃の少女を産んだとしたら、その頃の一方通行は10歳にも満たない少女であったことだろう。この街の中には生まれたばかりのクローンを2週間で女子中学生にまで育て上げる技術も存在するわけだから、別の可能性を考えることもできるのだけれど。

「って言うかどうしたの、アンタ?こんなに小さくなっちゃって。」

少年の肩に背負われたままの少女を見上げて御坂は心配そうに訊ねた。それに対して少女は無邪気な表情で首を傾げた。

「おまえもおれのしりあいなのか?」

「知り合いっちゃ知り合いだけど……、記憶も子供に戻っちゃっているのね?」

「そォいうことらしいけど、おれ、よくわかンない。」

聡い少女はこれまで接してきた人の様子から、何となく自分の状況を理解しているらしい。自分が忘れてしまっているだけで―そもそも忘れる以前に知り合う以前の状態に戻っているというのが適切な表現なのだろうが―少年も、先ほど会った「家族」と名乗る人々も、落雷を発生させた少女も成長した自分の知り合いらしい、ということを。

「不安じゃないの、アンタ?」

「よくわかンねェけど、ぐんはいるし。なァ?」

御坂は幼い少女が少年に対して全幅の信頼を寄せるのを見て、色々なことの理由に思い当たった気がした。
一方通行―御坂が知る自分よりも背が高くて青白くって無愛想な、こんな小さな子供ではない第一位―が、彼にだけは打ち止めに向けるものとも、黄泉川愛穂に見せるものとも違う、不器用な信頼を寄せるのを不思議に思っていた。ただ単に、幼い頃はこうしてもっと素直に信頼を寄せていたということなのだろう。ただ、色々な不幸が重なって、あんなふうな、遠回しな表現しかできなくなってしまったのだ。
それに思い当たったとき御坂は、大きな彼女だってもっとちゃんと甘えたっていいのにと、当人には言わでもの愚痴を心の中でだけ、呟いた。

今日はここまで。
御坂さんの次は誰に会うのかなー



横須賀さんにロリコン呼ばわれ
するソギーなんてどうだぃ

勘違いして嫉妬で殴ってくる上条とか
見た目が明らかに違うのにAIMが同じであれ…?ってなる滝壺は思い付いた

乙。
垣根に出会ってみてほしいな。
このスレの白垣根でもいいし普通にていとくンでも。

どもです、今日の投下分は浜面・滝壺夫妻です。

>>259
横須賀さんを書いたことがないばかりか、出てくるSSも読んだことがない…多分書けないです…

>>260
このSSの上条さんは百合にゃんに恋愛感情持ってませんから、嫉妬とかはないでしょうね。ゴール地点が上条さんとインさんなので、出てくるのは間違いないですが。

>>261
垣根いいですねぇ。多分出すとしたら白垣根ですが。


「あ、あくせられーたとそぎいた。」

次のイベントは一方通行や少年と同じくらいに希少な能力を持つ大能力者と、こう言っちゃ悪いが冴えない見た目のスキルアウトという凸凹カップルであった。

「え、第一位?何言ってんだ、滝壺。子供じゃないか。」

彼女の発言に首を傾げる少年。残念な話ではあるが、浜面仕上の反応の方がこの場合では普通のものである。突然現れた一方通行そっくりの子供と、彼女の不思議な発言とに混乱したらしい彼は酷く訝しげな表情を見せた。

「ううん、あくせられーただよね。私分かるよ、AIMが一緒だもの。」

白い髪をふわふわと撫ぜる仕草に、第七位の肩に乗ったままの少女が猫のように懐く気配があった。殆ど本能的に彼女を好もしい人物だと判断したらしい。

「滝壺は直ぐ分かるんだな。」

少年がほっとしたように呟くと、浜面は「え、じゃあこの子供ホントに第一位なのか!?」と目を丸くした。しかし腐っても学園都市の住人らしい、そうと分かると誰かの能力か?それともトンデモ新技術か?などと考え始めた。
少女の方はと言うと、自分を矯めつ眇めつ観察する不良少年の髪をむんずと捕まえて不満気に言い放った。

「なァ、このさえないおとこだれだ?」

「痛っ!!ちょ、ちょっと離せって!!」

少年が制すると、少女はさして惜しむ様子もなく彼の脱色していたんだ髪を手放した。

「何でお前こんなことするんだ?」

少年がそれこそ娘にでもするように窘めると、少女は鼻をふんと鳴らしてから答えた。

「なンかきにくわない。」

「…、何かもう紛れもなく第一位だわこの子供……」


「あくせられーた、可愛いね。お人形さんみたい。」

げんなりする浜面仕上に対し、滝壺理后はというと犬猫でも愛でるように少女を見詰めた。
彼女にふわふわと髪の毛を撫ぜられて少女はきゃは、とはしゃいだ。今となっては可愛いと称されることに抵抗のある彼女であるが、この年頃にはある程度素直に受け止められていたようだ。

「でも、こんなになってどうしたんだ?」

「原因はよく分からないけど。でも、上条とインデックスに頼ればどうにかなるだろうって打ち止めが言ってたから。」

「ああ、そりゃ間違いないな。」

超能力を無効化する力を有する上条当麻だけでなく、学園都市の学生ではないらしいシスターの方も何故か打ち止めや黄泉川愛穂、或いは浜面仕上などの人物に多大なる信頼を寄せられているらしい。その理由がいまいち分からない少年は不思議に思いつつも、根は素直なので不審に思うだとか、そういうことはなかった。

「上条の学生寮がこの辺りだって聞いたんだけど、知ってるか?」

「それなら次の角右に曲がると直ぐだよ。気を付けてね。」

そうして2組の2人組は別々の方向に歩み出した。

取り敢えず浜面・滝壺編は終了。
筆が乗れば今日中に青ピ編上げるかも…

上条が元にもどすときにラッキースケベがおきて削板にみんちにされないか不安

青ピ…とりあえず通報は
確定で

横須賀さんはとりあえず
ソギーサイドのメンツも
みたいかなと…

>>266
オチばらさないでくださいよー(嘘

>>267
幼女は人類の宝です。青ピだって立派な変態紳士でありますから、百合にゃんの嫌がることはいたしません。
横須賀さん……研究が追いつけば出します…


「あれ、確かお兄サン、」

上条の寮と思しきところの目の前まで来たところ、擦れ違ったのは頭一つ飛び抜けた長身で、髪を学園都市でも目につく真っ青に染めた男。単純馬鹿に思われがちだが、案外と記憶力の良い少年はその男を覚えていた。

「お前、上条のクラスメイトの、」

「あ、俺のこと覚えててくれたんやね。青髪ピアスやで、第七位サン。」

「削板でいいよ。」

一端覧祭で少し会っただけの仲であるが、関西弁が示す通りフランクな性格であるらしい。にこにこと、ほとんど地顔になってしまったらしい笑顔に嘘は感じられなかった。

「ほな、削板クンで。ところで、その肩に乗った第一位ちゃんにそっくりな子は?親戚の子とか?」

「…えっと、あいつの妹なんだけど。」

少年は口を濁した。彼女の同居人や深い付き合いである御坂、滝壺、浜面などには真実を伝えたが、この少年とは自分だけでなく彼女も殆ど付き合いがなかった筈である。事実を伝えて徒に混乱を招くのは避けたい。
賢い少女はその辺の事情を察したらしい、少年の苦しい言い訳に口を挟むようなことはなかった。

「ふぅ~ん、妹ちゃん、ねぇ。」

青髪は食い入るように幼くなってしまった少女の顔を見詰めた。もしかしたら彼も滝壺のように個人を特定できる能力の持ち主なのかと、少年が少し冷や汗をかく間があるくらいには。
しかし一瞬の後にはまるで雰囲気が変わってしまった。


「妹ちゃんも可愛い子やなぁ!第一位ちゃんはあのつんとした雰囲気が堪らんけど、無邪気な妹ちゃんもええわぁ!!」

「なぁなぁ妹ちゃん、お兄ちゃんと遊ばんか?自分、パン屋さんでバイトしてるんやけど、好きなパンとかある?あんぱん?クリームパン、メロンパンとか??」

「ぱン?おれ、やきそばぱンがすき。」

「せやったら今から自分のバイト先に遊びに来ぉへん?自分の下宿先、パン屋の上だから遊んでいってもええで?」

「でも、かみじょう、ってやつにようがあるンだよな?」

イマイチ事情は飲み込めていないが、現在の最優先事項は理解しているらしい。少女は不安げに自身を肩に持ち上げる少年の顔を斜め上から覗き込んだ。そもそも彼女は黄泉川宅で散々に歓待され、お菓子をたらふく食わされているのであまりお腹も空いていない筈であり、今更焼きそばパンでもなかろう。

「あ、そんなら仕方ないなぁ。でも、カミやんなら留守っぽかったで?自分ついさっきまでカミやんの隣に住んでる友達んとこいたけど、お隣静かやった。」

「そっか、でも行ってみるだけ行ってみるよ。遅寝してるだけかもしれないし。」

「せやね、気を付けて。」

大きな背中が去っていくのを待って、少女がぽつりと呟いた。

「なンかへンなやつだったなァ。」

(目ぇ笑ってなかったけどね…)

自宅に遊びに来ないかと言ったときの表情。あれはあわよくば、をちょっと通り越して若干マジが入っていた目だ、と思い返しながら少年は気を取り直して上条の部屋を訪ねることにした。

という訳で今日はここまで。
次の登場人物は>>1の趣味と、今ろリにゃん&ソギーの2人がいる場所を考えれば自然と導き出せるはずです…

>>262

いや、自分は女と関わるとボコられるのにガキ作ってるからって意味の嫉妬です

メイド服を勧められてる
姿しか想像できねぇ

皆様全体的にノリ良すぎですよー。「にゃー」とか、「だぜい」とか、「グラサンアロハ」とか。

>>276
このSSの上条さんはそういう感情も持ち合わせないだろうなという風に思っています。そもそもが勝手に「女性にモテない」と自認している上条さんは、「自分が女性に関わるとボコられる」ということも認識できていないと思うので。
あとこの小ネタ自体が、ほのぼの平和なテンションで行きたいので、御坂のような勘違いによる攻撃はあっても、嫉妬だとか憎しみだとかは織り交ぜないように意図しております。

>>278
メイド服は、身分の違いだとか、それでも乗り越えたい恋心とか、でもそうは行かない社会の仕組みだとかを理解し始める、そんな思春期から着るべき服装です。幼女の服装ではございません。


さて、仕事の修羅場Aが昨日終了しました。修羅場Bは来週の予定です。なので取り敢えず金髪猫野郎編、今日のうちに上げてしまいます。


「やっぱり留守みたいだな。」

部屋の前まで来たが、呼び鈴を鳴らしても応答がない。上条もインデックスも二人して呼び鈴に気付かず遅寝ということはないだろう。

「そもそも家にいるか聞いてから出ればよかったな。折角連絡先交換したのに。」

以前交通事故に巻き込まれそうになった上条を助けたときに、一方通行を抜きにしても成立する友人関係にまで昇格した少年2人は連絡先を交換し合っていた。携帯の電話帳から上条当麻の名を呼び出して通話ボタンを押す。

「なァ、ぐんは。けいたい、へやンなかでなってる。」

「あ、マジだ!!」

普通の人間の聴覚であれば、幾ら学生寮の安普請であったってドアの向こうのバイブレーション音を聞き取れる筈もないが、そこは第一位と第七位である。上条が携帯を忘れて出かけたらしいことに気が付いた。

「どこに出掛けたんだろ、困ったな。」

そのとき、がちゃりと隣の部屋の玄関が開いた。


「あれ、カミやんにお客さんだにゃー?」

出て来たのは目に痛いほどの金髪にサングラスという、青髪ピアスに負けず劣らずの目立つ外見を持った男である。こちらもまた背が高く、只でさえ目立つ外見をこれでもかと主張している。

「何だお前、一方通行か。ちっちゃければそれなりに可愛いもんだにゃー。」

説明するまでもなく小さくなってしまった少女の正体をあっさりと見破った男に、少年は一瞬ぽかんとした表情を見せた。少年自身ですら一瞬信じられなかったものを、彼はさして珍しいものでもないと言わんばかりに受け入れている。
少女はこれまでどんな見知らぬ人にあっても人懐っこく対応していたのだが、髪を撫でようとする男の手をぱしりと拒んだ―とは言っても子供の力であるから、痛いというほどのものでもなかっただろうが。拒まれた男の方は子供の我が侭を往なすように何とも曖昧な笑顔を浮かべるだけで済ませた。

「その様子だと、カミやんにちっちゃくなった一方通行を助けてもらおうって話かにゃー?カミやんなら今日はインデックスと一緒に古本屋行くって言ってたぜい?」

「古本屋、か。」

学問の街である以上、自然な帰結としてこの街で最も在庫の多い書籍のジャンルは教科書である。教科書は大概が1年か、もしかするともっと短い期間しか使わないものであるから、古本屋に売られる数も多い。結果としてこの街には古本屋が多くあった。つまり、土御門から得られたヒントだけで上条とインデックスの外出先を予想することは難しかった。

「あ、みけねこ。」

悩んでいる少年を他所に、幼い彼女は気儘なものである。手摺の上を歩く猫を見付けたかと思うと、するりと少年の肩から降りて追い掛けていった。

「あんまり遠くに行くなよ、」

少年は猫を追いかけてぱたぱたと走り去った背中に優しく声を掛けた。


「土御門、だったっけ。上条の出掛け先、もうちょっと詳しく分からないか?」

「インデックスが読む本買いに行った筈だからにゃー。洋書が大量に置いてあるところだとは思うぜい?」

古本屋というのは何故か普通の本屋とは違って、在庫についてジャンルを絞って厳選する店が多い。この街でも物理専門だとか、化学専門だとか、或いはもっと細かいジャンル分けに従って運営している古本屋が多くある。洋書専門となると、まず間違いなく留学生が多く済む第十四学区の古本屋だろう。

「第十四学区かな、遠いな……。」

第十四学区は第七学区からだと大分遠い。しかしあの学区で古本屋といえば大分数は絞れてくる上に、文化圏ごとに住み分けがされているので尚更予想がつきやすい。インデックスはイギリスの出身だと聞いたことがあるから、ヨーロッパ文化圏の店に行っていることだろう。となると思い当たる古本屋はせいぜい2, 3個である。

「色々ありがとな、って、あれ?」

少年が礼を言ったときには、金髪の男はもう背中を向けて歩き始めていた。元から出掛けるところであったようだから、隣人を訪ねてきた人物に一言かけただけで歩き始めてしまうこと自体には然程不自然なところはない。しかし人の気配に聡い少年が、考え込んでいたとはいえ人の歩き出す気配に気付かないなどということは滅多にないことだった。

(何かあいつ苦手なんだよなぁ、)

既に大分小さくなった背中に向けて、少年はぼんやり考えた。基本的に、第一印象で好き嫌いなどは感じない質であるのだけれど、初めて会ったときから何となく落ち着かない相手だった。

「そう言えば、百合子、どこ行ったんだ?」

猫を追い掛けていった少女の姿は、見えなくなっていた。




「ぐんは?」

猫を抱いた少女は、この姿になってからというもの唯一の馴染みの存在である少年と逸れてしまったらしく、ぽつりと立ち止まった。


ほら!!ちゃんと駒場さんと白垣根出したんだから!!
っていうかそんなことより、またトリ間違えたわー嫌だわ恥ずかしい



まだだ!まだ☆が残ってるぜ

あれ、ロリ百合子ってどんな格好なんだ?

どうも、こんばんわ。最近修羅場を乗り越えたので、今週末には更新できそうです。

>>293
☆さんはオオトリに決まってるじゃないですかー

>>295
自由に想像していただくため、敢えて服装には言及していません。一応自分の中である程度の設定はあるのですが。

どうもこんにちは。久々の心安らかな週末にのんべんだらりとしている>>1です。
一応大雑把に注釈をつけると、ロリ子の服装は『怪人チビ毛布』よりは大分まともです。服装として成立しています。


『元第二位』と呼ぶべきか、一応現在でも第二位とされた能力は一部分のみではあるが健在であるから『元』を取っ払うべきなのか、最早哲学的な問であるが、能力はともかく人間性は大分豊かになった少年は、心配そうに少女に声を掛けた。

「随分可愛らしくなってしまったんですね、何があったんですか?」

第二位という能力ゆえか、小さな少女が他人の空似ではなく、ましてや親類などでもなく、第一位一方通行本人であるとしっかり認識できているらしい。或いは自身が姿形を容易に変えられるからか、相手の容姿にもあまり頓着しないのだろうか。

「おれ、わかンない、あさおきたらこォだった。」

「それでかみじょーってやつならなおせるかもしンないって、ぐんはといっしょにここにきたンだけど。」

「ぐんは、って削板さんですよね。逸れてしまったんですか?」

「そォみたい。」

少女はベンチに座って猫を撫でながら、落ち着いた様子で答えた。ふっくらと丸く物怖じしないその猫は、誰かの飼い猫だろう。ごろごろと喉を鳴らし、見知らぬ人に容易に肉球を触らせるその様子からは野性の欠片も見当たらなかった。あるいはこの猫も、本来の彼女と慣れ親しんだ間柄なのかも分からないが。


「じゃあ、削板さん探すのお手伝いしますよ。」

彼女は落ち着いているが、逸れてしまった少年の方はきっと今頃気が気でないだろうと思った。こんな子供の姿になってしまった彼女を放っておいてのんびりできるような人間ではない筈だ。

「うわ、」

少年が5人ほどに分身すると、少女は元から大きな目を零れ落ちんばかりに見開いた。怖いものを見るというよりかは、純粋に興味を惹かれている様子である。

「すっげェ…なンにンまでできるンだ?」

「そう言えば…、何人までできるんでしょうかね…。」

少年はふと、10人位の分身を作ったことはあるがそれ以上はどうだったかな、と考えた。100でも200でも作れそうな気はするのだが、何となくそれを実際にやってはいけない気がする。

「どちらにしろ、今はこれくらいで十分でしょう。削板さん、見付ければいいんですよね。」

5人の少年のうち4人は、本体らしい少年の言葉に合わせてどこぞかに霧のように飛んでいってしまった。1人だけ残った彼は彼女の話し相手のつもりか、あるいは護衛兵のつもりか、とすり、と彼女に並んでベンチに座り込んだ。


「どォした?オマエもこいつさわりたいのか?」

幼くなってしまった彼女の様子をしげしげと見ていると、何か思い違いをされたらしい、膝に抱えた猫をひっくり返して招き猫のようなポーズを取らせ、こちらに肉球を向けさせてきた。というかこの猫はこれだけされても嫌がる素振りひとつ見せないのだが、色々と大丈夫なのだろうか。

(小学校低学年くらいですかね……)

彼女の嘗ての実験映像を探し回っていたときに得た情報から、大体の年齢に当たりを付ける。自分で覚えていない自分の過去より、いっそ彼女の幼少期の方が余程身近に感じる程度には調べ回ったのだから、それは容易であった。

(何だか、映像で見たよりも随分幼いような、)

外見が、ではない。性格的なものだ。自分が見た映像の中の同じ年頃の彼女は、表情に乏しく、既に周囲の人間から距離を置いているような印象があった。研究所の閉鎖的な空間で撮られた映像と、開けた空間で猫とじゃれあいながらの今では単純に比較できるわけでもないだろうが。

(単純に若返ったとか、それだけではないような、)

きっとそれを深く追求するのは、自分の仕事ではないだろうな、と思って少年はそれ以上考えるのはやめた。

白垣根パート終わりー(∩´∀`)∩
次はストーカーとショタコンの元同僚コンビの予定です☆

そう言えば「ぐんは」については固有名詞ということで「ん」をカタカナにしていないんですが、いかがでしょう。「ぐンは」で書いてみようとも思ったんですが、一瞬何のことか分からないんですよね。



次回は意外とまともか…
ロリ百合子は対象外だろし

ふと思ったんだが
春厨 ドM 変態が
百合子みたらどうなるんだろ

いつの間にやら年の瀬ですねぇ。>>1は正月に飲むお酒と箱根駅伝のことばかり考えています。

>>306
奴らを出すと確実に収集がつかなくなるので敢えてスルーしていましたが…小ネタが完結したあとオマケとしてちょっとつけようかな、と思ってます。

さて、今日の分投下しますねー。


「助かった、垣根!」

幾らもしないうちに慌てた様子で彼女の下に駆け寄ってきたのは、馴染みの深い少年だった。垣根の分身のうちの一人と何処かで出会ったようで、彼女に傍らに座っていた本体らしい彼に頻りに礼を述べている。

「心配しただろ、1人であんまり遠くに行くなよ?」

「うン、ごめン。」

少女は膝に抱えていた猫を手放して立ち上がると、素直に謝った。その様子を見て、やはり垣根は「あれ?」と違和感を覚えた。少年の方も同じだったらしい、彼女が記憶を保ったまま幼い容姿に変わってしまったのであればここは悪態をつく場面だったし、記憶まで幼い頃に戻ってしまっていたとしてもこんなあどけない様子で謝ることはなかっただろう―少なくとも第七位の少年は、この年頃の彼女の在り様をよくよく理解していた。

(…妙に人懐っこいんだよな)

今現在の彼女も、幼かった頃の彼女もどちらかと言えば人見知りの激しい性格である。彼女が記憶を失ってしまっているのならば、「本当は自分の知り合いである人物たち」が相手であったとしても幾らか距離を持って対応しそうなものであるが、そういった様子は見受けられない。そのいっそ不安になるほどに人懐こい様子は、打ち止めを彷彿とさせた。

「とにかく、上条に会うしかないか、」

自分が悩んだところでイマイチ回答には辿り着ける気がしなかったので、少年は当初の目的通り不思議な右手を持つ少年を頼ることにした。

「ほんとにありがとな。」

ほんの少し過去に遡れば、第二位と第七位は少女の過去の記録を巡って結構なドンパチを繰り広げた間柄である。しかしながら、ちょっとどうかと思うくらいあっさりした性格の第七位はそんなこと気にならないようで、第二位に対して心からの感謝の念を告げて手を振った。


「で、けっきょくどォすンの?」

元の通りに肩に乗せると、少女は彼の頭の上から訊ねた。

「それなんだよなぁ、」

上条の隣人から彼らが古本屋に行ったらしいという話を聞くことができたが、具体的な場所までは分からなかった。可能性としては洋書の多い第十四学区の何処かの店が考えられるけれど、第七学区からは大分遠い。自分たちがそちらに向かっている間に彼らはどこかへ移動してしまうだろう。普段ならそんな擦れ違いは気にせず全速力で第十四学区へ向かうところなのだが、未だ能力の応用に長けていない彼女はそれに耐えられないだろう。

「しかもいろいろ遠回りしてるうちに昼近くなってるしな…。」

「あンがい、りょうのまえでまってたほォがはやくあえたりして。」

「あり得る…。」

しかしながらじっとどこかで待つということが苦手な少年は、特に考えがあるわけでもなく歩き出した。そして学生寮の建ち並ぶ静かな通りを抜けて大通りに出たところで、意外な出会いがあった。

「あらほんと、ちっちゃいわ。」

意外なものを見たような表情の中に、ほんのり可愛らしいものを愛でるような穏やかな色を織り交ぜた結標淡希。

「見間違いじゃないですよね…。」

いつもは涼やかな表情がきょとんとしたものに変わっていて、幾らか幼く見える海原光貴。

彼らは結標が手ぶら、海原の方が女性物ブランドのショップバッグをいくつも持っている状態であったから、所謂「女性の買い物に付き合わされている男性」の構図にあることが一目で知れた。以前2人でいたのを見かけたときも今回も付き合っているという雰囲気ではなかったから、どうして海原がそのような憂き目に遭っているのかいまいち理解できなかったけれど。


「おまえら、だァれ?」

少女はことりと首を傾げて訊ねた。その様子を見て結標が「中性的な幼女もアリね…」と思ったかどうかは誰も知らない。

「私は結標淡希よ、あなたの大親ゆ…っ」

彼女の言葉を途中で遮ったのは傍らの海原だった。

「結標さん、嘘はいけませんよ。」

「嘘ってほどじゃないでしょ。大親友は言い過ぎかもしれないけど、友人には違いないわ。」

「まあ、そうですが。」

「そっちのおとこはへンなの。なンでひとのかわかぶってンの?」

少女は2人のやりとりには一切興味がないらしく、嘘がどうのと言い争っていた彼らに対して全く関係のないことを口走った。それが大層な問題発言であったので、その場はぴしりと凍りついたのだけれど。

「えーっと、これには事情がありまして、というかよく分かりますねあなた…。」としどろもどろになる少年あり。

「やっぱりそれ借りもんだったのか。ずっと違和感あったんだよなー。」と妙に納得する少年あり。

「こんなに簡単にバレちゃうならもうその借り物の皮意味がないわよね。」と辛辣な少女あり。

余談であるが、まさか第七位にも借り物であることがバレているとは思っていなかった「海原」はこの後暫く凹んだままであったという。


「凹むのはいい加減にして、あなた、これどう思う?」

結標は小さくなった少女の手をとって矯めつ眇めつ見詰めた。或いは案内人として顔の広い彼女であればこういった珍しい能力を持つ人間にも心当たりがあるのかもしれない。

「超能力というよりか、どちらかと言うと僕の専門分野であるかとは思いますが…それ以上は何とも。」

彼らの会話は、海原が超能力ではない、だけれど何変えたいの知れぬものの専門家であるような言い振りだった。自分の知らない世界があるのも当然だと考えている少年は、それについて態々深く追求するようなことはしなかったが―何せそれよりも、今は少女のことの方が優先事項であったので。

「上条さん、探していらっしゃるんでしょう?彼でしたらそこのファミレスでシスターさんとご飯食べてましたよ。」

そうして2人は長い旅路の果てに目的の人物に辿り着くことになったわけである。

さて、この小ネタも漸くクライマックスに近付いています…新スレ入ってから本当に本編進んでねぇなこれ…

ところで昨晩酒飲んでうとうとしていたときに「未亡人臭のするアラサー百合にゃんと高校生つっちー」という頭湧いた土百合が降ってきたんですけど、絶対文章化しない。

アラサー百合子と高校生シスコン…

その発想はなかったwwww

その百合子は土御門の住むアパートの管理人さんだったりするんだろうか

こう、つっちーが舞夏と同年代の別の女の子好きになるわけないじゃん?同年代も考えにくいじゃん?じゃあお姉さんだよねって酔っ払った頭で考えた。反省はしていない、後悔はしている。
でも何より怖いことってさ…無茶苦茶な思いつきですら泣きSSに昇華しようとして綿密に設定練ろうとしている自分がいることだよね…

>>316
ないと思うじゃん?俺もそう思った。

>>317
惜しい!孤児院の職員さん兼女医さんです!!

こんにちはー、今日でこの小ネタ完結させます。元々仕事が忙しい間、投稿間隔を減らさないために始めたことだったのですが、仕事の山場は疾うの昔に過ぎてしまったので。上条さん、インさん、アレイスターまで、今回眺めだけど一気に行っちゃいますよー。

土百合談義は小ネタ投下終わった後にしよう、そうしよう。


「はあ、何でまたこんなことに。」

とんでもない事態に巻き込まれた人間に頼られるのは慣れているのか、ファミレスにいた上条は少しばかりきょとんとした表情を見せながらも、さして驚くことなく一方通行の現状を受け入れた。その隣で冬の新メニュー全制覇に挑戦していたインデックスは面食らった様子で、彼女にしては珍しく食事の手が止まっていたけれど。

「でも右手で触っても何も起きないな。」

一方通行の白い髪を右手でふわふわ撫ぜてみたが、特に何も起こらない。こんなところで突然元の一方通行に戻ったらそれはそれでまずいんじゃないだろうか、とか考える余裕のある人間はこの場にいなかった。
因みに上条が本来の一方通行の頭を撫でた日にゃあ、上条の右手以外は見事にずたぼろになったことだろう。彼女の頭を撫でるなど、打ち止めと黄泉川愛穂、今この場にいる第七位の少年くらいにしか許されていない行為である―その3人相手だって彼女はあまりいい顔をしないだろうが。

「それ、多分とうまの右手も役に立たないと思うよ。」

パスタを啜るのを止めたその体勢のまま、シスターは冷静に言い放った。
上条の右手は便利に見えて色々と制限も多く、異能そのものに触れなければ効力を発揮しない。つまり一方通行がこんな体になった原因そのものに触れる必要があった。インデックスの言葉はその原因はここにはないという意味で、かつ彼女がそのような判断ができるということから上条はこれが魔術によるものだと理解した。


「大丈夫だよ、何もしなくても1日経てば元に戻る筈だから。」

「え、そうなのか!?」

上条の右手では簡単に戻らないようだと悟って一瞬暗い表情を見せた第七位は、インデックスの言葉で表情をぱっと明るいものに変えた。

「けどちょっと不思議かも。普通、記憶まで遡った状態になったりはしない筈だから。」

インデックスは冬限定のデザートを一方通行に分け与えながら呟いた。少年が知る限り、彼女はこの年頃には既に甘い菓子類を苦手としていた筈である。しかし今この瞬間、ベリーのソースが掛かったチョコレートのタルトを満足気に頬張っていた。

「元々脳に障害があったからなぁ、小さくなった拍子で変な負担がかかったのかもな。」

少年は彼女の頬についたソースを拭いながら呟いた。上条の右手はともかく、これまでの数時間、彼女の記憶にない筈の人間にも簡単に触れさせているし、根本的に警戒心に乏しい様子である。記憶まで幼いころに戻ったというよりも、何かの拍子に全く別の作用が加わったと考えた方が納得がいく。

「体が元の通りになったとして、記憶の方も問題なく戻るといいんだが。」

「大丈夫だよ、そぎいたのこと、ちゃんと覚えてるもの。」

「そういや、そっか。」

少しだけ不安な顔を見せた少年は、シスターの言葉にほっと息を吐いた。

「じゃあ、明日になっても様子が変わらないようなら、また相談させてくれよ。」

そう言って少年はファミレスを出て行った。


結局その日、少女は昨晩と同じように彼の家に泊まることとなった。本来彼女の帰るべき家は黄泉川愛穂のマンションだが、今の彼女にとっては勝手もよく分からない他人の家である。少年の自宅も馴染みがあるというわけではないが、少なくとも彼自身のことは認識できているのだからこちらの方が幾らかましだと言えるだろう。

「ねておきたら、おれ、もとにもどってるのか?」

「そうだよ、インデックスが言ってたろ。」

彼女がどうしてそんなことを知っているのかは分からないけれど。だけど上条が信頼している様子で、インデックス自身の口調にも不思議な説得力があったから、少年はさしたる理由もなく信じることとした。本能的にそういうものだと納得したのだ―彼のそういった勘は動物的である。

「きょうのこと、わすれちまうのかな。」

暗い部屋で少年のベッドに横になったまま、彼女は不安げに呟いた。今の彼女にとっては元に戻れないことよりも、今の自分がどうなってしまうのか、そちらの方が不安なのだろう。

「忘れるの、嫌か?」

「だって、みンなやさしくしてくれたンだ。」

「しンぱいしてくれて、わらいかけてくれて、おかしもくれたし。また、あいたいなァ。」

「そんな顔しなくたって、また会えるよ。」

「ううん、俺が頑張って絶対会えるようにしてやるから。」

「そっか、」

「ぐんはがそォいうなら、へェきだな。」

彼女はそう言って、子供らしくすう、と眠りに入った。




「難しい顔をしてどうした、アレイスター?」

「………」

男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える人間は、古い友人からの問に何も答えなかった。何の面白みもない表情でビーカーの中に逆さまに浮いている様はいつも通りではあるが、異様である。その表情に感情は見えず、少なくとも傍目には「難しい顔」をしているようには思えなかった。

「君は面白みがない。大事なメインプランがあんなことになって、少しは慌てるものかと思ったが。」

「……あれは君の仕業かね、エイワス。」

「いや、違う。そんなことは君が一番良く知っているだろう。」

「君が幼気な子供の様子を見て、これまでの自分が為したることに少しくらいの罪悪感を抱えるような可能性があったなら、私もあれくらいのイタズラを仕掛けたかもしれないが。」

妻や娘すら自分のために利用したような人間である。他人の、それもそもそもが自身が利用するつもりで用意した子供相手に、彼は目的を果たすため以外の興味を持っていないだろう。だから彼が一方通行に対して罪悪感を抱くようなことはなく、それならばエイワスがこんなイタズラを仕掛ける理由も存在しない。
となるとこれは、どこかの不得要領な魔術師がやらかしたことなのだろう。意図も何も不明であるが。


「あの魔術には怪我や障害を回復するような効果はない。当然彼女の脳の損傷もそのまま保たれていた筈だ。」

アレイスターから何の相槌も得られないことを理解しながらエイワスは続ける。

「しかし幼くなった彼女は現在の彼女と脳の構造が違うのだから、妹達の補助演算を受けることはできない。そもそも、電極を装着すること自体が難しかったようだが。」

「損傷を受けた脳で、且つ補助演算なしという状態で生き残るために、本能的に記憶を切り捨てたのだろうな。それでも第七位のことを覚えていたというのだから、涙ぐましいことだ。」

本来は脳の一部に損傷を受けたのであれば、他の部分が健在であったとしてもその部位の機能を脳の別の部位で肩代わりすることはできない。脳の機能というのはそれぞれの部位でかなり細分化しているためだ。
逆に軽度の障害が切っ掛けで、普通の人間は持たないような能力を持つことになった人間というのも存在する。この場合、彼女の不完全な脳が魔術を受けたショックで新たな機能を獲得したということなのだろう。元に戻ったときにはリセットされているだろうし、再び同じ魔術にかかったとして同じ現象が起こるとも限らない。

「欠けた脳でそれでも従前の機能を果たそうとしたせいか、能力も精神面も随分幼くなってしまったようだが。」

一部が欠けた機械で、これまで通りの複数の役割を果たそうとしたら、それぞれの役割の質は当然下がるだろう。結果、本来の彼女とは似ても似つかない小動物的な別の人格を獲得するに至った。荒っぽい口調やどこか傲慢な性格は健在であったから、まるで別物というわけでもないのだろうが。

「……障害に加えて、最終信号のことも無意識下では覚えていたのだろう。あの性格は彼女に近い。」

エイワスの推理にアレイスターが口を挟んだ。
明るく朗らかな打ち止めは一方通行にとって大切な存在であると同時に、一種憧れを抱く対象でもある。打ち止めのようにいるだけで周りを幸せにするような存在になりたかった、という願望も彼女は抱えていて、だけれど臍曲りな性格がその願望を隠させていた。今回、精神が幼くなった拍子にそういった隠れた願望が表に現れ、どこか打ち止めに似た振る舞いを見せたのだろう。

「何だ、君も興味ない振りをして案外気にしているものだな。」

エイワスはからかうように言った。それは普通の人間には淡々とした声音にも聞こえただろうが。

「………。」

そして結局、アレイスターが再びこの話題を口にすることはなかった。




「ン、……?」

翌朝のことである。
夢うつつに、妙に体が重いと感じた。より正確に表現するのであれば、何か強い力で抑えつけられているような感覚があった。何だろう、また打ち止めにしがみつかれたまま寝入ってしまったのだろうか、と思考を巡らせたところで、そもそも昨夜のことをよく覚えていないことに気が付いた。
学園都市第一位が寝惚けていたにしたって昨夜のことを覚えていないとは大事件である。これは精神感応系能力者の仕業か、或いは魔術師か、と慌てて飛び起きようとしたところ、重みの正体が判明した。

「あ、おはよう。」

朝は鬱陶しいくらいに寝起きスッキリタイプの第七位である。彼女が動き出したのと同時に目が覚めたらしい。

「へ??」

一方通行は状況が飲み込めず、素っ頓狂な声を出した。何で俺、こいつにがっちりホールドされたまま寝てたンだろう。っていうかそもそも、こいつの部屋に泊まってたっけ。とにかく彼が傍にいるならば、魔術師とか能力者とかそういった脅威は存在しない状況なのだろうと安心もしたのだけれど。

「朝から珍しく随分積極的みてェだけど、何なのこの状況?」

彼女は少年の両腕にがっちりホールドされたままで、見ようによっては一晩を過ごした恋人同士が朝になっても未だ熱冷めやらぬままいちゃついているようにも見える体勢である。少女がからかうような意図も含めて訊ねると、少年は慌てて手を離した。

「いや何か、昨日は大変だったんだって!お前がいきなり子供になって、黄泉川さんとか、打ち止めのことも忘れてて。」

「お前、覚えてないか?」

少年はとんでもないことを言い出したが、嘘を言っている様子はない。学園都市の暗いところだとか、魔術の存在だとかを知ってしまった今となっては、そんなことがあってもおかしくないとも思えた。
それで彼女は昨日あった出来事を少年から聞くことにしたのだが、当然というか、残念というか、全く覚えていなかった。

「本当に覚えてないのか。」

どこか悄気げたように少年は呟く。大変だったとか言うわりに名残惜しげなのは、何かいいこともあったのだろうか。

「よくわかンねェ。珍しくいい夢見た気もするけど、覚えてねェし。」

「いい夢か、それならよかった。」

そうして一日限りの不思議な出来事は、慌ただしい毎日を過ごしているうちにいつの間にやら彼らの記憶から忘れ去られることとなったのであった。

以上、ロリ百合にゃん小ネタ完結です。アレイスターさん入れるの苦労したわぁ…口調これで合ってるかどうか自信ない。年内に誰かがコメントしてくれてたロリにゃんと一方厨ミサカたちとの絡みあげられるといいな。


土百合の方はいつの間にかすっごい設定練ってた。正直このスレ立てたときよりよっぽど設定練り上がってる。でも「これどっかで見たことあるストーリーだなー」って思った。そして自分が無意識に好きな作品のパロを作りたがっていたことに気が付いた。無意識ではあるんだけど、考えようによってはパクったようなものだから、凹んでいるなう。というわけで文章化はしない気がする。
設定だけなら、何人かリクエストあったらこのスレに投下するよ。



よく☆さんだせたわねwwww
さすがに邂逅までは
無理っぽでしたね

次はショタ御門に挑戦だぜ

どもです。リクエスト多いので土百合の設定だけ投下します。年内にMNW×ロリ百合子の話も投下したかったけど難しそう…

>>334
ショタ御門は…>>1の力量ではどんなに頑張っても可愛くならないなぁ…
そして根本的な問題があって、実はこのスレ、削百合メインなんだぜ…?ショタ化させるとしたらどっちかっつーとソギーだろ…

次レスから未亡人土百合の設定です。何のパロか分かる人いるかなー。


百合にゃん:28歳、未亡人。亡くなった旦那は上条さん(同い年)。素養格付で絶対能力者になれる可能性を示されたものの、彼女の能力は高い出力を出そうとすると直ぐに暴走する性質があり、絶対能力者として安定的に能力を行使できる可能性はほぼゼロ。暴走せずに行使できる出力は強能力者程度で、それすらも精神状態や体調で簡単に左右される。
学生結婚した数年後に冥土返しの病院で医師として働き始めたが、新婚熱の冷めやらぬ間に上条さんに先立たれる。その結果自暴自棄となり、常に自殺願望を抱えているような状態に。冥土返しに「後追い自殺なんかしたら、旦那さんは怒ると思うよ」と説き伏せられ、夢も希望もないけれど何とか生きている状態。
色々あって医師をしながら、生前上条さんが語っていた夢である孤児院を運営することにした。親に捨てられた子供を100人育て上げることができたら、上条さんのところに行こうとか考えてる系女子。

つっちー:高校1年生。魔術師とか暗部とかややこしい設定はなくって、単に嘘吐きで臍曲りな面倒くさいガキ。でも自分は同年代のバカ共よりよっぽど世間見えてると思ってるし、女に入れ込んで人生棒に振ったりなんかしないし、とか思っちゃってる系男子。
色々縁があって義兄妹となった舞夏の実家(孤児院)に行ったところ、孤児院の創設者である百合にゃんに出会う。その後の展開は想像にお任せします。

上条さん:故人。右手は概ね原作通りで、ちょっとしたことで簡単に能力を暴走させる百合にゃんのお守役として幼い頃から一緒に過ごしているうちに恋仲になった。百合にゃんとは非常に仲の良い夫婦であったが、色々と質の悪い人間に狙われがちであった彼女を守るために結構な苦労をした人でもある。亡くなった原因にも間接的に百合にゃんが絡んでおり、それもあって百合にゃんの自殺願望を加速させている。


一方通行:百合にゃんのクローンなのに何故か♂(笑うところ)。因みに外見的にはつっちーと同い年くらい。百合にゃんを利用して何とか安定した絶対能力者を作ることができないかと画策した大人たちの作品であるが、結局超能力者止まりだった(それでも十分じゃねえかという気がしないでもない)。クローンを作る過程で色々加工して、百合にゃんが絶対能力者になれない理由を潰していった結果♂になったという非常に適当な設定。
百合にゃんの自殺願望を加速させるように彼女の大切な人たちを傷つけて回る(物理的に)ような生活をしているが、真意は不明。

みこっちん:百合にゃんと上条さんより幾つか年下であるが、2人の昔馴染み。ちょっとした切っ掛けで能力を暴走させる百合にゃんと、百合にゃんの暴走を間近で受け止めるせいで右手以外は傷だらけな上条さんを見続けているうちに自分が何かの役に立てないかと思い、過去に「2人の為なら何したっていい」といった旨の発言をしている。その発言が(勿論質の悪い大人たちの画策によるものであるが)妹達生産に繋がったと思っており、上条・百合にゃん夫妻を要らない面倒に巻き込んだ責任も感じている。
上条さんが亡くなった今でも百合にゃんには幸せになってほしいと思っているが、土御門をその相手として認めるのは正直無理。生理的に無理。何か知らんがとにかく無理。

10032号:百合にゃんと一緒に孤児院を運営している。彼女を含めた2万体の妹達は、当初暴走しやすい百合にゃんの能力を制御する装置として作られた。しかし彼女らのサポートをもってしても百合にゃんが安定した絶対能力者になることはなく、「学園都市の失敗作」という烙印を押された。
現在では上条さんの死後、ますます精神的な問題で能力を暴走させる頻度の多くなった百合にゃんのストッパー役。色々と改良を重ねた結果、MNWは現在百合にゃん専用のキャパシティダウンのようなシステムを備えている。
因みにこのパロ内での妹達は「公に存在を知られているが、実際に見たことがある人は少ない」といった感じのポジショニングにしたい、という>>1の願望がある。

まぁ、上記の設定を見れば分かると思うんだけどさ、一番手を抜いてるのが土御門なんだよ。何かアイツ、どんな設定しても何にも変わらなそうというか。

もしかしたらこれが今年最後の書き込みになる可能性もあるけど、皆さん良いお年を~ノシ

あけましておめでとうございます。本日実家から自宅に戻ってきました>>1です。昨年中は当スレを応援して頂きありがとうございました。お陰で1年以上の長きにわたってほぼ週1更新を続けることができ、2スレ目にも到達いたしました。過去、オリジナルを作っていた時も別ジャンルの二次創作をしていた時も、自分の創作意欲だけでこれほど続いた作品はありませんでしたから、割りかし気紛れな自分がここまでできたのは皆さんのレスポンスがあってのことだったと思います。

さて、話を更新するわけでもないのに長口上では嫌われるでしょうから、簡単に今後の予定だけお伝えいたします。
昨年ラストに『ロリゆりことドM、春厨、変態の絡み』をうpすると宣言したのですが、新年最初の投下がそれではあまりにも酷いと思ったので、取り敢えず少なくとも次回は本編投下します。MNWネタは合間合間で投下しますので、ご心配なく。

何はともあれ、本年も変わらぬご愛顧の程宜しくお願い申し上げます。

どもです。今日は本編投下します。
本編が>>219から途切れているんで、内容忘れているという方はその少し前あたりから御覧下さい。

ではでは次レスからどうぞ~




「って言うか、よくこの部屋が分かったな。」

皮肉っぽく歪めた唇をふと緩めて、サングラスの男は何の感情も篭っていないような表情を見せた。部屋の明かりは点いておらず、窓から入り込む街頭の明かりがぼんやりと2人の形を浮かび上がらせているだけだから、黒い色硝子の向こうは窺えない。口調は普段のふざけたものではなく、仕事用のそれだ。
この部屋は彼らが暗部として活動していたときの隠れ家の一つである。当時こういった部屋は複数用意されていて、殆どが学園都市側から提供されたものであったが、ここは男が自ら調達したものであった。だから暗部などという組織がなくなった現在でも使えるかもしれないと彼女は考えたし、現実にそうであった。

「入り口、隠しておいたつもりなんだが。」

「ああ、アレか。山勘だったンだが、何とかなった。」

本来4LDKの部屋であった。だけれど彼女はこの部屋を使っていた当時、つまり去年の秋頃には全く同じ間取りの部屋を3LDKだと認識していた―正しくは、「させられていた」。
2人が今現在会話をしているこの一部屋だけ、人払いの術式が施されていたのだ。

「山勘で破られたなんて聞いたら、海原泣いちゃうな。」

「さして手の込ンだもンでもなかったろ。」

彼女は手にした本から目を逸らさずに、つまらなそうに言った。


部屋は海原と土御門が魔術に使用する道具や、或いは所持している魔導書(扱いの容易な偽典や写本ばかりであるが)を保管するために使用されていて、今もそれらが置きっ放しになっている。暗部時代にはこういう部屋を幾つか作ってそういったものを分散させて保管していたのだが、暗部を離れた今でも使い勝手が良いということでそのままにしているのだ。
土御門の場合こういったものを持っていても使用するにはリスクがあるし、海原は普段使用する霊装や大切な原典については常に身に付けている状態で、要するにこの部屋にあるのは緊急で使用することはないものばかりだ。今となっては仲間どころか同僚ですらない互いの荷物が相変わらず同居していることにもやもやとした違和感を覚えないのでもないけれど、こういったものは運び出すにも壊れ物などとはまた違った注意が必要で手間がかかる。お互いの専門分野が違いすぎて相手の持ち物を使うことも、そもそも理解することすらも困難だから、何とも不安定な状態ではあるが悪用されることはないだろう、とお互い希望にも似た予想の下、こういった奇妙な部屋は今も存在している。

「単に人払いを破っただけには見えなかったが、あれは何のつもりだ?」

彼女がこの部屋の中に侵入できたということは、人払いの術式を破ったということである。確かに部屋の外にある『鍵』の代わりとなっているものには動かされた形跡があった。しかし鍵は単に開かれただけでなく、何か別のものを防ぐ鍵として今も機能しているような様子があった。


「ガキにもバカにも滝壺にも見付からないようにしたかったんだが、アレで合ってるかどォかオマエ分かるか?」

ガキとは打ち止め、バカは第七位だろうか。滝壺理后も含めて、彼らは能力を用いて大まかな一方通行の居場所を探ることができると聞いている。それを防ぎたかったということはつまり、彼女は単に「人目につかない部屋」であったこの部屋を「学園都市の能力を以ってしても感知することのできない空間」に変えたかったということである。それで海原の作った魔法陣に上書きを施したというわけだ。
元々この部屋に施されていた人払いの術式は、単に部屋を人目につかないようにするだけでなく、中にあるものの魔術的な気配を外に気取らせないような機能も付いていた。応用すればAIM拡散力場を遮断するようなこともできるだろう。具体的にどのような工夫をすればそのような芸当が達成できるのか、男には全く想像ができなかったが。

「海原が作ったもんだから、専門分野が違う俺には分からんよ。禁書目録とかなら話は別だが。」

「そォいうもンか。」

「そういうもん。そもそも魔術師ですらないオマエが山勘でどうにかできることが異常なんだが。」


この部屋に施されていた人払いは確かにかなり簡単なもので、魔術師であれば容易にタネに気付くことができるだろう。そもそもこの部屋に立ち入る可能性のある一方通行と結標の目だけごまかせればよかったのだから、壁に飾ってある幾つかのつまらない風景写真をある順番で並び替えるだけで解除できるように設定してあった。
だけれど彼女は超能力者であって魔術師ではない。並び替えの順番を間違えたら怪我では済まない事態になっただろうし、単に破るのではなく自分なりにアレンジしてまた別の意味を持つ魔術として成立させるのはどれだけ困難なことだろうか。彼女が手を加えたそれの使用者はあくまで原型を作った海原のままのようであるから、彼女は魔術を使用したことにはならず、「超能力者は魔術を使用できない」というルールを越えることもしていない。

「お前ホント嫌な奴だなぁ。」

そんな簡単にこれだけのことを為されてしまっては、必死に勉強してここまでやってきた自分達はどうしたらいいというのだろう。いつも如才ない笑顔を貼り付けているこの魔方陣の本来の所有者だって、こんなことを知ればさすがに一瞬真顔を見せるんじゃないだろうか、と男はその表情を想像した。
結局魔術というのは「凡人」が「才能ある者」に少しでも近付こうとした結果できあがったもので、そして「才能ある者」の頂点に立つ彼女はそういった努力をいとも容易く超えてしまうらしい。その恵まれた能力故の苦労があったことももちろん承知の上だが、最早男には彼女の存在自体が嫌味にしか思えなかった。


「お前、それ読めるのか?」

感情のままに嫌味を言ったところで彼女には通じまい。そう思った男が次の話題として定めたのは、彼女が手にしている本―海原が所有している魔導書の偽典だった。

「どうにか、ってところか。不慣れな言語ってのもあるけど、一々暗号やら何やらギミック噛ましやがって面倒臭ェ。」

「そういう意味じゃないんだがな。」

はぁ、と男は溜息を吐いた。そりゃあ言語は不慣れだろう、南米で現在使われている欧州由来の言語ではなく、もう使われなくなった土着の古語を用いて書かれているものだ。現地の人間にだって読める者は殆どいないだろう。男が訊ねたいことはそんなことではなかった。

「頭痛いとか、気持ち悪いとか、息苦しいとか、そういうのないのかって訊いてんだが。」

彼女はふと思い出したようにこめかみに掌を当てた。男には、その細くて青白い手首が妙に目について仕方がなかった。

「あァ、こりゃこの本のせいなのか。元から体調悪ィせいで、何が原因だか分かンねェンだよ。」

さして慌てる様子もなく彼女は言った。まるでそこらの石に躓いた程度のことを振り返るように素っ気のない態度で、今この瞬間に自身の体調不良に気付いたような具合であった。

「この手の本ってのはそういうもんだ。禁書目録から聞いていないのか。」

「いや、知らなかった。」


上条から「インデックスと一方通行がお互いの持てる知識を交換し合っていることがある」と聞かされていた男は、てっきり彼女が魔導書がどういったものなのかという知識も授けられているものだと思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。彼女がインデックスの話したことを忘れていたとも思えないから、聞いていないのは確かなのだろう。
或いは好奇心が強くて一旦のめり込むと自身の危険を顧みないようなところのある一方通行を気遣って、インデックスは敢えてそういった情報を与えていないのかもしれないな、と男は勝手に推察した。
心優しいシスターで在り続けるのは結構なことだが、この女に対してはそんな気遣いも意味がない。無茶するなと言えば言うだけ無茶をするし、どこぞの学園都市理事長が仕組まなくたってこうやって勝手に危なっかしいことに近寄っていく。もう、そういう風に生まれついている。
人間というのは、こんな科学の街の中ですら、そんな得体の知れない業に振り回されて死んでいくものだ。この女の場合は、その業に引き摺られて死に急いでいるところを必死に現し世に引き留めようとする人間が、それこそごまんといるわけだが。

「大分薄めてあるもんだから、命に関わるレベルじゃない筈だが。それでも睡眠と食事は十分に摂れよ。」

男の言うことは珍しく嘘ではなかった。原典のような濃いものならともかく、薄めに薄めた偽典が持つ魔術的な毒など、健康的な生活をしていれば十分回復する程度のものである。この女が男の忠告を素直に聞くとも思えなかったが。
結局、それだけ言うと男は部屋を出て行った。






「アイツ、何しに来たンだ?」

てっきりこの部屋を勝手に使うなと怒られるのだと思っていた彼女は、男が去っていった後も開けっ放しのままにされていたドアを見て、ぼんやりと呟いた。







「………ン、」

男がこの部屋を去ってから2時間ほど経っているだろうか、気が付いたら寝入っていたらしい。普段はこんなことはないのだが、さすがに疲れているのだろう。これも男が言っていた、魔術書の毒とかいうものだろうか。

眠りの中で、久し振りに夢を見た。その内容は最早定かでないが、最後に少年が出てきたような気がする。彼のことを考えると、酷い状態である筈の体にも生気が宿るような気がしてくるのだから、精神状態というものの為せる業は偉大だと思う。自分のような理屈っぽい人間ですら、簡単に感情に左右されるということに気付いたのはつい最近のことだった。

そもそも彼女は、夢など滅多に見なかった。見るようになったのは打ち止めを救ってからのことだった。その内容はいつも同じで、嘗て自分が犯してしまった罪をただ録画映像を再生するように淡々と繰り返すだけのものだった。なまじ記憶力に優れているからか、酷く詳細なそれを夢に見続けているうちに、自分は更に倍の数の少女たちを殺してしまったような気分になった。
こんなことを繰り返しているうちに、夢は必然的に恐ろしいものだと思うようになった。寝るという行為自体が恐ろしかった、というのがより正確な表現であるかもしれない。


ある日を境に、それがまるで様変わりした。

切っ掛けはクリスマスイヴの出来事だったと思う。妹達が仕組んだことだとは気付いていたが、大雪に閉じ込められて彼の自室で一晩過ごすこととなった。その晩彼女は第七位の少年と手を繋いだまま寝た。
あれから同じ夢を見ても、最後には必ず自分の手を引いてくれる少年が現れるようになった。大きくてごつごつした、自分よりずっと体温の高い手の感触が夢とは思えないほどにリアルだった。それからは、1人で寝ることも恐ろしくなくなった。そうしていつしか、悪夢を見る回数自体が減っていった。

あの少年といると、自分はまるで様変わりしてしまう。嘗ては変わっていくことが、変えられていくことが、何より恐ろしかった筈なのに、それでも彼といることが心地よいと感じてしまう。彼と共に在れるならばもっと変わっていきたい、彼にこそ自分という人間を変えて欲しい、そう思う自分がいることに気付いたときは、自身のことながら大層驚いた。






それで彼女は結局のところ、自分も「女」という生き物なのだと悟った。




今日はここまで。
以前百合にゃんに「俺は、女だ」と言わせてみたら、びっくりした、みたいなコメントがありましたが。そこに至るまでにそんなに葛藤はなかったという感じで書きました。ある日すとんと、「あァ、俺って女なンだなァ…」って腑に落ちたというか。つっちーは、その原因がソギーにあることを何となく感づいているから、苛々気味というか。
ご覧のとおり、暫く百合にゃんとソギーのいちゃらぶはありませんけどね。それでも臍を曲げるつっちー。

いかんせん本編がシリアスモードなので自分もシリアスモードに染まりつつあり、変態どもとロリ百合子の絡みを書くのが辛い…
ドMは何となくできあがってますので近日中に上げられるかも。変態と春厨も大筋やることは決まっているので、書くだけなんだ……!!

という訳で今日は引き続き本編上げてきますね~ノ


病院で滝壺理后から話を聞いた後、直ぐにでも彼女を探しに飛び出そうとした少年を止めたのは、意外にも打ち止めであった。

「ソギイタ、ちょっと待って、ってミサカはミサカは制止してみる。」

「あの人は今ミサカたちが探して見付け出せたとしても、帰って来てはくれない気がするの、ってミサカはミサカは不安を告げてみる。」

恐らくは自分たちを巻き込まないためにこんな夜逃げめいたことをした一方通行が、隠れんぼでもあるまいし、見付けたところで仲良く手を繋いで帰って来てくれるというわけでもないだろう、と打ち止めは言った。一方通行は自身の体の状態を回復する為に行方を晦ませたのだから、彼女を回復させる方法が見付からなければ意味がないという彼女の忠告は、彼にも容易に理解できるものであった。

「でもだからって、帰りをじっと待つなんて、」

「もちろん、ミサカだってそんなつもりはないよ。」

「でも、あの人を探すより、ミサカたちもあの人の体を治す方法を探した方がいいんじゃないかな。あの人もきっと同じ所に辿り着くでしょう?ってミサカはミサカは提案してみる。」

彼女が何かを探しているというのなら自分たちも同じものを探したらいいのではないか、と打ち止めが提案した内容はなるほど尤もなことであった。だけれども、肝心の問題がある。
恐らく彼女が探しに行ったものは「学園都市にはない技術」だろう、ということである。そんなものには心当たりのない少年は、結局彼女を探すのも、彼女の探しものを探すのも、
どちらにしろ途方もなく困難であるように思えた。


「大丈夫だよ、そんな顔しないで。」

打ち止めは彼を元気づけるように、その大きな手を小さな両手でぎゅっと握った。
こんな幼い子供に慰められるだなんて、情けないとは思うのだけれど。だけれど少女がいないというだけで、不安で仕方がない。
だって仕様がないのだ、自分には彼女しかいない。出会ったその日から、今までずっと。ただずっと隣にいて欲しいと思った人物が、そこにいないことをまじまじと認識すると、彼にはただ息をすることすら困難に感じられた。

「少しだけ心当たりがあるの、ってミサカはミサカは秘密を打ち明けてみる。」

だけれど、彼女はその「心当たり」の正体を少年には教えてくれなかった。

「きっとあの人は、ソギイタに知られたくない筈だから。」

「ごめんね、でも少し待っていて欲しい、ってミサカはミサカはお願いしてみる。」

打ち止めは穏やかな表情で、立っていることすら難しいような様子で呆然としている少年を励ますように言った。




「らすとおーだー、本当にそぎいたを連れてこなくってよかったの?」

翌日、予定通りに退院した滝壺理后と打ち止めはある学生寮を訪ねた。

「いいの。多分、あの人がいなくなった一番の理由はソギイタだから。あの人は、ソギイタに関わって欲しくなかったんだよ、ってミサカはミサカは予測してみる。」

打ち止めはそれでもその予想には幾らか自信を持てていないのだろう、どこか自分を励ますように強く小さな手を握り締めていた。

「魔術、……」

「それは本当にあるのかな。私達は、それに助けられたらしいけれど。」

打ち止めはロシアから帰国して後に、「魔術」という学園都市にはない技術に自分の体が救われたらしいことを聞いた。ロシア国内にいる間は意識もまともになかった状態で、その間の情報は番外個体であったり、御坂美琴と行動を共にしていた10777号の記憶などで補完している。
滝壺理后は打ち止めよりは幾らかましな状態であったが、それでもエリザリーナ独立国同盟にて一方通行の手引を受けた時点で張り詰めた糸がぷつりと切れたような状態になってしまったので、打ち止め同様覚えていることは余り多くない。


「でもカミジョウや、インデックスや、ましてやあの人が嘘を言っているだなんて思えないし、ってミサカはミサカは自分も若干信じきれていないことを暗に伝えてみる。」

「でもきっと、あの人が冥土返しにも治せなかったものを治そうと思っているのなら、「それ」を頼る筈だよ、ってミサカはミサカは断言してみる。」

一方通行はあれでいて医療行為に関しては冥土返しに全幅の信頼を寄せている。そして事実、彼の技術と知識は科学の世界における最高峰であるだろう。その彼にすら彼女の不調の原因も、その解消法も分からなかったのだから、一方通行が魔術に救いを求めた可能性は高い。

「いんでっくすが何か知ってるといいんだけれど。」

「カミジョウは、インデックスのことを魔術の辞書みたいな人だって言ってた。魔術のことなら何でも知ってるって。ミサカたちが頼る相手は他にないと思う、ってミサカはミサカは学生寮に足を踏み入れてみる。」




「らすとおーだーとりこう?何だか不思議な組み合わせだね、あくせられーたがいないなんて。」

突然の2人の訪問に驚きながらも、敬虔なシスターは彼女らを快く部屋に迎え入れた。本来の家主である少年は今頃学校だろう、そもそも2人は騒ぎを大きくしないために敢えて彼がいない時間の訪問を選んだ。

「それがね、あくせられーた、行方不明なの。」

「どういうこと??」

「ミサカたちにもよく分からないの、ってミサカはミサカはありのままを打ち明けてみる。」

「そして、あくせられーたを探すのにいんでっくすの知識が必要なの。」

いつもの明るさのない打ち止めの様子は、ただ単に一方通行の行方が知れないというだけにしては異様な落ち込みようである―元から一方通行はふらりと数日家を留守にすることが多かったのだ。打ち止めをそれを口では咎めていても、大事に捉えている様子はなかった。
恐らく単に行方知れずになっただけではない、もっと別の問題が発生しているのだろうと察したインデックスは静かに、どこか厳かさすら感じさせる声音で答えた。

「私が、力になれるなら。」




「―というわけなの、ってミサカはミサカは説明を終えてみる。」

「いんでっくす、何か分かることはないかな?」

聖職者の少女は滝壺と打ち止めの説明を長い間口を挟むこともなく聞いていた。彼女たちが語り終えてからも暫く考え込むような仕草を見せ、2人がもしかしたら何も手掛かりが得られないのではないかと不安になるその直前になって口を開いた。

「あくせられーたは超能力で魔術に干渉することができたって言ってた。だから逆に、魔術で超能力に影響を及ぼすこともできると思う。」

そう言いながらも、インデックスは「魔術が超能力に及ぼす影響」とやらがどのようなものであるのかは理解してはいない。それと同様に、果たしてその現象を一方通行が正確に理解しているか、ということも不明であった。

「あくせられーたからAIMってものについて説明されたときに、私は魔力みたいだなって思ったの。使う能力によってまるで性質が違うって。」

「そもそもが1人にひとつしかないAIMと、1人の人間で複数を使い分けることができる魔力は必ずしも同一視できるものではないけれど。」

彼女はそう付け加えてから、淡々と自身の考えを述べた。


「魔力は使いたい魔術に合わせてそれぞれ違うものを精製する必要がある。使用したい魔術と魔力の性質が合わないと、術者に色々な反動が返ってくるの。勿論複数の魔術を使い分ける魔術師は、「魔力と魔術の性質が合わない」なんていう基礎的なミスをしないように訓練をしているけれど。」

「けれど、そのミスをわざと誘発させるような魔術というのもある。魔術と魔力の組み合わせのミスを起こさないための努力と、それを起こさせようとする工夫は、もう長い間いたちごっこのように続いている。何せどんな魔術にでも共通する弱点だから。」

「そんな鬩ぎ合いが続いているということは、当然不適切な魔力を用いて魔術を発動させてしまった経験を持つ魔術師も過去にたくさん発生している。その後遺症をリカバリする方法も発達している。」

インデックスが何を伝えようとしているかは分からないながらも、打ち止めと滝壺は彼女の言葉を黙って聞いていた。恐らくそこに、一方通行を探すヒントが隠れているのだと信じながら。

「りこうのAIMが混じり込んだという状態は、「魔術と魔力の性質が合わない」という状態に近いんじゃないかと私は思う。本来自分が使用する魔術には適さない魔力が流れ込んできているような。」

「なら、あの人の探しているものは、」

「うん、あると思う。こっちの世界に。」

その言葉を聞いてぱあと表情を明るくした打ち止めに対して、インデックスは難しい、何か悩んでいるような表情を変えなかった。


「―でもね、とても沢山あるんだよ。」

「沢山?」

「そう、沢山。らすとおーだーたちはあくせられーたが探しているものを見付けて、それをヒントにあくせられーたを探そうとしているんでしょう?」

「この場合、あくせられーたが探しているものの候補は沢山あるから、それをヒントにあくせられーたを探すのは凄く難しいと思う。」

出口が沢山ある迷路に入り込んだ一方通行が、どの出口に辿り着くかは分からない。インデックスは恐らく、どの出口でも一方通行の望むものは得られる可能性があると付け加えた。その出口側から一方通行を探そうとすることは困難で、当てずっぽうと変わりないのだとも。

「沢山、ってどれくらい沢山あるの、ってミサカはミサカは藁にも縋るような気持ちで訊いてみる。」

「……えっとね、例えば空を飛ぶように移動できる能力ってどんなものがある?」

インデックスは逆に打ち止めと滝壺に訊ねた。彼女らは首を傾げつつもその質問に答える。

「空力使いとか、身体能力を強化するタイプとかかな、ってミサカはミサカは考えてみる。」

「あくせられーたも、そぎいたも似たようなものだよ。みさかだって、状況さえ整えば飛べるんだよね?」

彼女らは質問に答えながら、自分たちがした質問の答えにも気が付いたらしい。


「……本当に、色々な方法があるんだね、ってミサカはミサカは確認してみる。」

敬虔なシスターは、いっそ厳かにすら見える表情で頷いた。

「例えば私は十字教の、その中でもイギリス清教に属している。」

「イギリスは元々土着の魔術も多い土地で、イギリス清教に属する魔術に限って言ってもあくせられーたが求めるものは両手に足りないほどにあるんだよ。」

「十字教にはローマ正教も、ロシア成教も、天草式十字凄教も、その他にも色々な分派がある。それぞれにそれだけの数の答えがあるとしたら?」

「更に言えば、魔術というのは十字教だけのものではない。世界中、各地の伝承や土着の宗教、そういったものに基づいて作られている。あくせられーたがその気になって探せば、それは道端の石ころからも見付かるくらいに、有り触れたものなんだよ。」

川原にある大量の石の中から、一方通行がどれを拾うものか、それは誰にも分からない。同じ川原を探したとして、打ち止めと滝壺が同じ石に辿り着く可能性は低かった。


「なら、どうしたらいいの、ってミサカはミサカは途方に暮れてみる……。」

愕然とした様子の打ち止めに、インデックスは救いの手を差し伸べた。

「同じ石を探すのは難しいかもしれないけれど、石の持ち主を探すのなら、見当がつくかも。あくせられーたが知っている魔術師はそんなに多くないでしょう?」

魔術そのものを探るより、その魔術に縁のある人を探した方が早いとインデックスは告げた。確かに一方通行と接点のある魔術師など片手に足りるほどしかいない筈だ、少なくとも打ち止めの知る限りでは。

「魔術の世界は先導する人なしで入ることは難しいよ、例えあくせられーたのように賢い人であっても。あくせられーたもそれを分かっている筈だから、きっと1人で探るのではなくて、誰か魔術師を頼っている筈。」

インデックスがそれを言い切るか言い切らないかのうちに、打ち止めは立ち上がった。彼女なりに、一方通行を探し出す道標を見出したのだろう。「インデックスありがとう、ってミサカはミサカは」と慌ただしく学生寮を出て行くのを滝壺が慌てて追い掛けていった。

「きっと、私にも何かできることがある筈。」

ただ1人、彼女を残して静まり返った学生寮の中で、その言葉は協会に響く聖歌のように木霊した。

今日はここまでです。
かなり魔術について捏造の設定を入れました。が、一応原作描写と食い違うような内容ではないはず…と信じたい。どうしてもこういう説明はセリフばっかりになりますね。


探しに行けないってのはつらいなソギー

どもです。好きなバンド同士の対バンイベントのチケット入手に成功してご機嫌な>>1ですこんにちは。
取り敢えず本編のシリアス落ち着くまでは変態×ロリ百合子をうpする気分になれない自分に気がついたので、ちゃっちゃか本編進めようと思います。

>>375
ソギーが大人しく捜さないで待ってると思うかい…?っつってもソギーの出番今回投下分にはないんですけどね。


「打ち止めさんですね、初めまして。」

如才ない雰囲気のある少年は、初めて会った彼女に対して穏やかな笑顔を向けた。南米の、全く違う文化圏から来た人物だという話だけれど、その控えめな雰囲気は寧ろ驚くほどに日本人的である。器用な人物なのだろうな、というのが打ち止めが感じた第一印象だった。

「ミサカのこと、あの人から聞いてた?ってミサカはミサカは質問してみる。」

「いいえ、あの人は自分たちに対してあなたのことも、あなたのお姉さんたちのことも殆ど口にすることはありませんでしたよ。」

昨年の終わり頃、あることが切っ掛けで妹達の何人かと接触を持ったことがあるが、上位個体と呼ばれる彼女と面と向かって話すのは初めてのことである。海原光貴は一方通行が最も大切に思う彼女に対して距離を詰めることを、幾らか躊躇っていた。
その様子を打ち止めは悪い意味に解釈したのだろう。「一方通行が自分たちのことを話すことがなかった」という彼の言葉と併せて、少しばかりショックを受けたような表情を見せたが、すかさず彼はごく自然にフォローを入れた。

「あなた方のことが、足手纏だったとか、ましてや邪魔だったとかそういうことではないと思いますよ。自分たちがいたのは、いつ誰が敵になるとも知れないところでしたから。」

一方通行は打ち止めのことが大切だからこそ、自分たち相手に彼女のことを話そうとしなかったのであろう。溺愛する子供を自慢して回るような、そんなことができる心安い立場ではない。そしてそれは今も、昔も、変わらない。
お互いの心の中に誰がいるのか、それを誰もが理解していたけれど、誰も追及しようとは思わなかった。或いは自分たちは他の暗部たちに比べても酷く距離のある人間関係を築いていたにも見えただろう―それだからこそ、今も「元同僚」として成立していられるのだ。


「そんなことより、上位個体と呼ばれるあなたが直々に自分と話したいと仰るだなんて、一方通行さんに何かあったのでしょう?」

「……あの人を探すのを、手伝って欲しいのってミサカはミサカは白状してみる。」

そう訴える幼い少女の背後には、よく似た面影を持った幾らか年嵩の少女が5人ほど、ボディーガードのようにきっちりとした姿勢で立っていた。感情に任せて行動してしまいがちな妹が妙なことに首を突っ込まないか、変な輩に狙われないか、目を光らせて見守っているのだろう。
それは本来一方通行の仕事で、もちろん彼女たちにも責任がないわけではないけれど、普段は彼女たちの出る幕がないほどの些細な問題である筈だった。彼女たちがこうして前面に立ってこの仕事を果たしていることが、第一位の不在をより印象付ける。
彼女たちの厳しい表情には単に妹を守るというだけではない、今ここにいない誰かの代わりを果たすのだといういっそ悲壮にすら見える決意が滲み出ていた。

「一方通行さんの行方が知れないという話は、自分も聞いています。しかしながら、あなたなら彼女の居場所が分かるのでは?」

「それが何故か、わからないのって、ミサカはミサカは弱音を吐いてみる。」

MNWを利用している以上、一方通行は彼女たちとの繋がりを完全に断ち切ることができない。それが例え蜘蛛の糸のように細い糸であったとしても、確かに繋ぐものはある。

「今、一方通行さんはあなた方の補助演算を利用していないということですか?」


「そういうわけではないのです。能力使用モードではありませんが、確かにミサカたちは第一位の補助しています、とミサカはMNW内の電気信号の流れを確認しつつ回答します。」

「しかも運動機能の補助は殆ど行われておらず、殆どが言語機能の補助であるようです、とミサカは解析結果を口にします。」

打ち止めの背後に立つ少女たちがリレーでもするように代わる代わる口にする。

「確かに繋がっている筈なのに、でも、あの人の居場所を探ろうとした途端に、何も分からなくなるの、ってミサカはミサカは途方に暮れてみる。」

その感覚に、覚えがある。超能力に関する知識は乏しいが、それはむしろ、

「あの人が、魔術を頼りにしているのではないかと思って、ってミサカはミサカはあなたに相談を持ちかけた理由を打ち明けてみる。」

自身のバックボーンとも言える、超能力とはまた違った異能の存在を連想させた。

「これでいい?ってミサカはミサカは確認してみる。」

「どうでしょう、自信を持って問題ないとは言えませんね…。」

打ち止めが差し出したのは、入院中に一方通行が着ていた病衣だ。海原は一方通行を探すにあたって、可能な限り彼女が最近まで使用していた、彼女のものを提供して欲しいと言った。

「何がいけないの?ってミサカはミサカは訊いてみる。」

「魔術の概念を説明するのは難しいのですが、」

そう前置いてから彼は訥々と語った。

「その人の『所有物』を媒介にして対象の居場所を探るのは基本中の基本の魔術です。ここで重要なのは、媒介になる『所有物』ですね。」

「単にその人が使っているもの、というだけでは弱いのです。誰かに借りて使っているということもあり得るでしょう?」

「住まいを例に挙げると、一方通行さんは居候ですね?一方通行さんが使っている部屋は、決して彼女のものではありません。彼女の部屋を媒介にして一方通行さんを探す魔術を使用したならば、必ず家主の気配がそれを邪魔するでしょう。」

「なるべく彼女以外の人物の接触が少ないこと、それと併せてつい最近まで彼女が使用していたことが、この魔術の成功の条件になります。そういう意味で言えば、多くの人が使用しているこの病衣は、些か頼りないと思います。」

やるだけはやってみますが、と少年は付け加えた。


対象の持ち物を媒介に相手の居場所を探る魔術というのは、然程難しいものではない。むしろ基礎的なものだと言えるだろう。大概の魔術師は所有物に対してそういう魔術を防御する機構を備わせているものだから、魔術師相手にこの魔術を使用することは滅多にない。

(洗濯された後ですよね、これ、)

変な意味ではなく、単に対象が使っていた時の状態から遠ざかれば遠ざかるほど、魔術の効果が弱まるのだ。衣服であれば、対象が余程気に入って繰り返し着ていたものでない限りは、一回洗ってしまえば殆ど効果は期待できないと言っていい。病院にいる今、「一方通行が最近触れたもの」として用意されたそれは、間違いなく最も手早く用意できるものであったけれど、魔術的には非常に頼りないものであった。

そうしてもうひとつ、彼の頭に引っかかり続けていることがあった。

(きっと一方通行さんは、彼女たちが自分を頼ることを予想している)

ほんの少し前の出来事が頭を過る。彼女は予め知っていたかのように何もかもをタイミングよくコントロールしていた。妹達が自分に協力を求めること、万策尽きた自分が結標淡希を頼ること、白井黒子を囮にして妹達を問題の中心地から遠ざけること―それだけのことを寸分の狂いもなく予定通りやってのけた彼女が、今この流れを予想できない筈がない。
打ち止めが禁書目録を頼り、その上で自分に助けを求める、そこまで予想した彼女は、どんな手を打ったのだろうか。自分は、彼女が規定した路線を辿っているだけなのだとしか思えなかった。

(例えば彼女の自室に戻ったところで、大した材料は得られないでしょう)

この魔術を成功させる鍵は『対象の人物の宝物』を媒介に使用することである。たとえ彼女個人の部屋に行って媒介に適したものを探したところで、彼女が執着を示したものなど見付からないだろう。彼女があの部屋で暮らした理由は、偏にモノではなく、ヒトに執着したからである。この魔術は『ヒト』を媒介にすることはできないから、失敗をすることなど既定路線だ。


(だからって、手を抜いていいとも限らないのが厄介ですね)

裏の裏の裏を読むのは、殆ど生業である。それで言えば、彼女は「海原光貴が一方通行の思惑に踊らされていることに気付く」ことまで予想していただろう。その上で、海原光貴がどのような行動に出るかまで、考えた筈だ。
失敗することがほぼ確実であるからと言って諦めるか、それとも何とかして食いついてみるか、自分がそのどちらの役割を求められているのか、未だ彼には分からない。
どんな影響があるか分からないので、と言って妹達や打ち止めを遠ざけた病室で、海原光貴は諦めたように魔術を発動させた。


ばちり、

何に触れたわけでもないのに、勢い良く弾かれるような感触があった。或いは現代的な日本人であれば、強い静電気でも発生したのかと思うのかもしれない。

「これは、」

覚えのある感触だ。魔術を、魔術によって妨害されたときに感じるものである。しかもその感覚は、

「南米系の、魔術です、よね、…?」

単に魔術であるというだけでなく、その中でも自身のよく知った世界の匂いがした。

「何だか凄い音がしたけど大丈夫、ってミサカはミサカはそろーっと様子を窺ってみたり。」

病室のスライドドアをほんの数cmだけ開けて、打ち止めがこちらの様子を覗きこんでいる。つい昨日まで一方通行が入院していた部屋だ。

「打ち止めさん、残念ですが、」

どこか期待したような表情を浮かべる彼女に対して、酷なことを告げなければならない。

「既に彼女は、誰かしら魔術師の協力を取り付けているようです。」

「自分の探索魔術は、妨害されました。自分の技倆では恐らく一方通行さんの居場所を探ることは無理でしょう。」

恐らくこれで合っている筈だ―学園都市第一位の頭脳が書いたシナリオに、何もかも従って進んでいる。




インデックスはこれまで魔術に関する極々基本的で一般的な知識しか、一方通行には語っていなかった。実際に役立つ魔術の詠唱だとか、霊装だとか、魔法陣だとか、そういった具体的な知識を説明したことは一切ない。それは、彼女が実際に行使する危険性を考慮してのことであった。
一方通行もインデックスが具体的な方法を話題に挙げようとしないことには気付いていただろう。だけれど彼女はそれに対して不満を述べるようなことはしなかった。インデックスが語る一般論だけでも彼女にとっては興味深く、また、膨大な量の知識であったし、そのときには再び自分がそんな世界に首を突っ込むとは思っていなかったのだろう。
これまでがそういう調子であったから、今回彼女はインデックスを頼ることをしなかった。自分が使うにしろ、誰かを頼るにしろ、この街で行使するにはリスクの高い『具体的な方法論』を、インデックスが授けてくれることはないだろうと考えたのだ。

一方通行は恐らく魔術を使うことのリスク―単純に身体的なものだけではない、本来能力者が使える筈のないそれを行使することによって発生する余波まで考えて、その上で行方を晦ますという方法をとったのだろう。冥土返しも、妹達も、黄泉川愛穂や芳川桔梗も、上条当麻にも自分にも、誰にも迷惑をかけまいと考えたのだ。彼女自身の抱えるリスクを思うと考えなしと言えるし、周囲に対する配慮を見ると思慮深いとも思える。少なくとも、誰かを大切にすることと、自分を大切にすることのバランス感覚がないのだけは間違いないが。


がちゃり、シスターと猫だけが過ごす学生寮の扉が開く音がした。こちらもまた、自分を大切にすることと、周囲を大切にすることのバランス感覚が大分危うい家主のお帰りであるらしい。

「ただいま、インデックス。舞夏でも遊びに来たのか?」

「舞夏?何で?」

「湯呑み出てるから。あ、でも3つあるな、誰が来てたんだ?」

インデックスが一人きりで過ごす時間帯にこの部屋に訪ねてくる人物は然程多くない。彼が殆ど条件反射のように隣人の義妹を連想したのも仕方のないことであろう。

「違うよ。らすとおーだーと、りこう。」

「不思議な組み合わせだな、一方通行は一緒じゃなかったのか。」

彼も自分と同じように、その2人を繋げる人物である一方通行がいなかったことを指摘した。しかしそれ以上は気にする様子もなく、学生服を脱いで手際よくハンガーに吊るすと出しっ放しであった湯呑みを片付け始めた。
その様子から察するに、上条は一方通行が行方を眩ませたことを知らないらしい。打ち止めが彼を頼るつもりであれば、メールなり黄泉川愛穂を介してなり、既にコンタクトを済ましている頃だろう。そうでないというなら、今回打ち止めは上条に関わって欲しくないのだ。そう察したインデックスは、ただ彼の質問に「うん」とだけ答えた。彼はその何となく含みのある物言いに違和感も覚えなかったようで、いつものように足元にじゃれつく猫に餌をあげていた。




翌朝、珍しいことにインデックスが目覚めたときには、上条当麻は未だうとうとと風呂桶の中でまどろんでいた。

「とうま、お寝坊さんなんて珍しいね。」

「隣のせいだ…」

「隣、ってもとはるのこと?」

インデックスは風呂場の壁に目をやった。ちょうどこの薄い壁の向こうが土御門元春の部屋である。

「何か知らないけど昨日、ってか今日?あいつ深夜2時とか3時とかにドタバタしててさ、目が覚めちゃったんだよ。あいつほんと何してんだ。」

隣人はあんなふざけたなりをしているが、案外体調管理はしっかりしており、健康的な生活リズムを保っている。体は重要な資本だということを重々理解しているのだ。深夜に何か物音を立てていたというのなら、単なる若者にありがちな夜更かしをしていたというのではなく、何か退っ引きならない理由があったと考えるのが妥当である。
しかし多重スパイをやっている彼には、その退っ引きならない理由にも様々なパターンがあるわけで、上条にもインデックスにも全くその内容を予想することができないのが常であった。

「ま、訊いたところで教えてくれないか。」

上条も同じことを考えていたらしい。隣人が深夜に活動しているなら何か事情があるに違いないが、問うたところで適当にごまかされれるのが関の山である。考えたって仕方がないと気を取り直して、彼は狭い浴槽の中で伸びをした。

?



「じゃあ学校行ってくるな。お昼はチャーハン用意してあるから、レンジで1分半だぞ。」

「うん。」

がちゃり、と玄関のドアが閉まるのとほぼ同時に隣の部屋の呼び鈴が鳴るのが聞こえた。上条が先に家を出てから隣人に誘いをかけて一緒に登校するのは常のことである。しかしいつもだったら呼び鈴のすぐ後に出てきて軽口を叩きながら遠ざかっていく筈の2人分、4つの足音が聞こえない。それどころかインデックスが居間に戻ろうとしたところで再び玄関の扉の開く音がした。

「どうしたの、とうま。忘れ物?」

「いや、土御門が風引いたらしくってさ。夕方には舞夏が来るって言ってるんだけど、インデックス、時々様子見てやってくれないか。」

インデックスは同居人の言葉を聞いて、風邪をひかないのだろうか、と常日頃気になっていた隣人の薄着を思い出した。土御門さんは鍛えているからそんなの平気なんだぜい、と軽口を叩いてた様子は逆に不安になるほどで、わざとそういう危なっかしい雰囲気を演出しているのではないかと疑ったほどだ。「風邪をひいた」という話を聞いた今でも、演技ではないのだろうかという疑念が抜けないのは仕方のないことだろう。疑う気持ちを隠して、敬虔なシスターは曖昧な表情を浮かべた。

「それは構わないけど。何かあっても私で対応できるかな?」

「どうしたらいいか分かんなかったら、俺に電話でもメールでもいいからくれよ。俺も小萌先生に今日は補習なしにして貰えるよう頼むから。」

「分かった、そうする。」

「じゃ、行ってきます。」

「うん、行ってらっしゃい。」

そうしていつもと少しばかり違う一日が始まった。

本日はここまでです。時系列が分かりづらいかもしれないので、簡単に解説を

【百合にゃん入院3日目】
・ソギーが見舞いに来る(>>185あたり)
・夜中百合にゃんが部屋を抜け出す(>>189あたり)

【退院予定日】
・百合にゃんが脱走したことが発覚(>>205あたり)
・打ち止めとソギーが滝壺に相談(>>209あたり)
・滝壺予定通り退院(特に描写なし)

【滝壺退院翌日】
・打ち止めと滝壺がインデックスを訪問(>>365あたり)
・インデックスを訪問直後、打ち止めが海原に突撃(>>378
・海原が幼女に振り回されている頃、上条さん帰宅(>>386あたり)
・つっちーが百合にゃん発見(>>215>>347あたり)
・つっちーの帰宅が深夜になり、上条さん寝不足(>>387あたり)

という感じで、つっちーと百合にゃんの会話は大分前半に書きましたが、時系列的にはかなり後の方です。複数の舞台を同時並行に書くことの難しさを実感しております。

いつもどもです、こんにちは。
納得できるものがなかなか書けずにいて、今日は投下できないかもと思っていたのですが、どうにか満足とまではいかなくとも及第点と言えるものができあがったのでさっさと投下します。今投下しないとやっぱりこれじゃダメ、って気分になりそうなので。
あとこの場面にこれ以上凝りだすと、最早削百合スレではなくなるし…

いつもより長めですが、お付き合いください。


家主に頼まれたからというわけでなく、単に自分が気になるだけであった。10時のおやつを済ませた後に、シスターは意を決したように隣室を訪ねた。
ぴんぽん、と安っぽい呼び鈴の音が鳴った。ひゅう、とからっ風が学生寮の通路を通り過ぎる音が響く。義妹の気配がないときはいつもそうで、この部屋には体温がない。記憶を失ってしまった上条とはまた別の理由で、彼の部屋には感情が篭っていなかった。

「何ですかにゃー。」

少し間を置いて玄関のドアを開けた男は、いつも通りの薄着でこれといって体調を崩している様子はなかった。そもそもインデックス相手に体調不良を装うつもりもなさそうである。

「風邪、ひいてるんじゃないの。」

「インデックスちゃんは嘘も方便って知らないのかにゃー。」

男はからかうように言った。絶対記憶能力を有する彼女は当然観察眼にも優れており、目の前の人間が本当に風邪なのか仮病を使っているのかなど直ぐ判断できるだろう。口先だけの嘘なら自信があっても、インデックス相手に体調までは装う自身がなかった彼は嘘を素直に認めた。


「…今日は何のお仕事なの。」

「お仕事じゃなくって、個人的趣味ですたい。」

彼が個人的な感情を理由に行動するだなんて珍しいことだ、と彼のいたずらっぽい表情を見ながらインデックスは思った。義妹に関することですら感情を滅多に表に出さないというのに―彼の珍しい行動に思うところがあって、インデックスは頭に引っ掛かり続けていたことを訊ねた。

「あくせられーたの居場所、知ってるんだよね。」

インデックスが訊ねると、彼はふと真顔を見せた。彼が義妹に向けるのとはまた違った執着心を一方通行に向けている、そのことに気付いている人間は殆どいなくって、敬虔なシスターはその数少ない人物のうちの一人であった。
一方通行の行方が知れなくなった途端に深夜に活動してみたり、仮病で学校を休んでみたり―怪しいことこの上ない彼に対して脈絡もなく彼女のことを訊ねたのは、カマをかけたというよりも殆ど確信していたからだ。

「そうだとしたって、俺は必要以上のことは口にしないぜい?」

彼は質問に対する明確な回答を避けた。その曖昧な物言いが、彼が仮病を使ってまで学校を休んだ理由が一方通行にあることを却って明確にさせた。自身と彼女の関わりを隠したいならどんなに嘘っぽくてもそれを否定してみせただろうし、「必要以上のことは口にしない」と言うからには、逆に必要なことは話すのだろう。
つまり、彼はインデックスに話すべき事実を持っているということだった。


「あくせられーたは、無事に戻ってくるの。」

インデックスは一つだけ訊ねた。本当だったら確認したいことなど山程ある―いつ戻ってくるのか、今はどこで、何をしているのか、だけれど向かい合う男はそんな矢継ぎ早な質問に逐一答えてくれるような親切な男ではない。一番肝心なことだけ、彼女は口にした。

「それは保証する。俺の目的は最初っからそれだしな、」

「本当にそうなら、いいのだけれど。」

「最悪の事態にはならんよ、あいつが間違えなければ。」

男が嘘を吐くつもりのないことは分かる、だけれどその未来を確信することができなくてインデックスは俯いた。彼の口振りからして、一方通行が男を頼りにしているというわけでもないのだと悟ったからだ。
魔術的な知識を求めた一方通行が彼を頼って、それで昨夜彼の帰宅が遅くなって上条の寝不足の原因を作ったのだろう、というインデックスの予想は裏切られた。彼の言葉から察するに、一方通行は1人で行動している様子である。彼はそんな彼女に接触しているのだろうが、思うように誘導できているという状況ではないのだろう。声色には少しばかり苦々しいものが混じっていた。


「間違えないように助けてあげるのも、もとはるの仕事ではないの。」

俯いたまま訊ねた彼女の頭を、大きな掌が軽く撫ぜた。それは酷く優しい仕草であったけれど、救いを示してくれるものではなかった。

「いーや、それは違う。あの女が、俺の言うこと聞くと思うか。」

「俺のアドバイスなんか、耳に届きもしないさ。あいつは自分がしたいようにしたその末にしか、戻ってこない。」

「私は未だ、出番ではないんだね。」

インデックスの、禁書目録の知識が必要なのであれば、既に彼はそれらしい誘導を示してくれている頃合いだ。そうでないということは、未だ自分は舞台に上がるべきタイミングではないということなのだろう。
一方で、彼がこれだけの情報を開示したというからには、確実に自分の役どころは在る。そのタイミングは、彼が示すのか、それとも別の存在から示されるのか、それすらも彼女には分からなかったけれど。

「慌てるほどのもんでもない。明日か、明後日には全部、片付いている筈だ。」

それ以上の長期戦が許されないことを、彼と、一方通行本人だけが知っていた―彼女の体が、それ以上は保たないことを。




夕方、インデックスが独り過ごす部屋の呼び鈴が鳴った。

「まいか、」

隣室に訪ねてきたのだろうか。玄関扉を開けた先には、いつものように清掃ロボットに跨ったクラシカルなメイド服の少女がいた。

「出てくるの遅かったなー。もしかしてお取り込み中だったか?」

「お祈り中だったの、けど、もう終わったから大丈夫。」

「お祈り?邪魔しちゃったんでないなら、良かったが。」

そういう世界もあるもんなんだな、と素直に感心するように彼女は呟いた。彼女自身、一般的な日本人にはあまり馴染みのない世界に生きているから、そういう自分の知らない考え方に対してさして抵抗感を覚えないかもしれない。


「今日はどうしたの?」

「いや、兄貴が風邪をひいたって連絡貰ったから、見舞いに来たんだけどなー。今ちょうど病院に行ってて留守らしい。」

「私はもう戻らなくちゃならないから、これ、兄貴に渡しといては貰えまいか。」

彼女は差し入れらしいタッパーの入った紙袋を差し出してきた。中身はスープやら何やら消化によさそうなものばかりだった。気合が入った料理とは違う、素朴な温かさのある品々である。病気で心細いときには、豪勢な食事よりこういったものの方が余程心に染み入る。
こっちはインデックスと上条当麻の分な、と別の紙袋も手渡された。病人用のそれとは違うしっかりした料理も用意してきたらしい。態々別に作ったのだろうか、と顔を上げたインデックスに対して、彼女は問われるよりも先にこう言った。

「実習で作ったんだが、独りじゃ食べきれなくてなー。勿体ないから、食べてやってはくれまいか。」

彼女はこうやって、こちらの申し訳ない気持ちだとか、遠慮をすっかり取り払ってしまう―それを計算だとか、そういうのなしに自然にできるのが彼女だった。なるほど、これならあの気難しい義兄も気を許すわけだ。

「兄貴の分、食べちゃダメだからなー。」

「うん、分かった。」

土御門舞夏は気軽に言って、その場を去っていった。しかしながら果たして今日、土御門元春は家に戻ってくるのか―それは誰も知らない。




色々と用事を済ませているうちに、夕方に家を出た筈がいつの間にやら完全下校時刻どころか、不良が活発に活動しているような時間すらも過ぎていた。自ら望んで入り込んだ世界ではあるが、多重スパイというのは面倒なものである。

「さぁて、第一位サマの探しものは見付かったかにゃー。」

そこは訳ありの用途ばかりに用いられているらしく、立地も造りもいいというのに恐ろしいほど人気のないマンションであった。彼は軽口を叩きながら、その一室に足を踏み入れた。

「ん?」

玄関を入って直ぐにダイニングがある。そこには昨夜彼が差し入れのつもりで置いて行ったコンビニの袋が、触れられた様子もなく放置されていた。
度々好みの代わる缶コーヒーについては彼女の口に合わなかった可能性も考えられるが、その他の食品に関しては若干ジャンキーなものを好む彼女に合うものを用意した筈だ。しかし中身は消費されるどころか、触れられた様子もなくダイニングテーブルの上に置かれたままだ。気付いていて放置したというより、そもそも気付かれなかったのだろうと思わせるその様子に、嫌な予感がした。

慌てて冷蔵庫を開けると、何も入っていないどころか、そもそも電源が入っていなかった。直ぐそこにあったゴミ箱を覗き込んでも、紙屑一つ入っていない。まさか、

(あいつ、ここに来てから飲まず食わずってわけじゃあ、ないよな、」

思ったことの最後の方は、思わず口から出て音になっていた。確かに人間が数日間滞在している筈なのに全く人の気配がしないその空間に、薄ら寒いものを感じた。

(そりゃあ、人払いをしているんだから、人の気配なんかする筈がないんだけど)

それにしたって当たり前の生活の痕跡まで消せるわけではない。生活していればゴミは出るし、水は使われるし、物は動かされる。今のこの部屋は、いっそモデルルームの方が余程生活臭がすると思えるほどに人の存在を感じさせない。


―能力を使用すれば、1ヶ月くらいは飲まず食わずで生きてけンじゃねェの。

いつだったか、未だ同僚という単語の上に「元」がつく前、彼女はそう嘯いたことがあった。能力に制限がついた今じゃそうもいかないでしょう、と別の同僚が口を挟んだが、1日のうち5分も能力使用に割ければ残りの23時間55分の身体的トラブルなんざ全てチャラにできる、と彼女は自信満々に言ってのけた。

彼はそんな他愛もない会話を思い出しながら、つう、と冷や汗を流した。
万全の状態であったらその言葉通りのことができたかもしれないが、彼女は今、魔導書や霊装だらけの部屋に籠りっきりである。偽典や写本であっても、傍にあるだけで魔術的な防壁を持たない人間はごく僅かな毒を受け続ける。
しかも現在、彼女は能力を使用するには問題がある状態ではなかったか。彼が家探し紛いのことをしているにもかかわらず、彼女が例の部屋から出てくる様子がないことも、彼の嫌な予感をより強めた。

「あーくっそめんどくさい、」

慌てて人払いが施されている例の部屋に向かう。こんなときでも順番を踏んで一定の手続きを行わねば入れないというのが鬱陶しい。自分と海原がしたことではあるが、もうちょっと別の方法もなかったのかと今更ながら思う。

「オイ、っ…」

火事場に踏み込むような勢いで「手続き」を終えたあとの扉を開けると、予想していた中でも最悪に近い光景が広がっていた。


「オイ、オイってば、意識あんのかお前、」

咄嗟に壁に背を預けてぐったりと座り込んでいた彼女を抱き起こした。その体は酷く細く―それは元からかもしれないが―その上、芯を失ったようにぐにゃりとしていた。息はか細く、100m走をした後のように乱れている。心臓がばくばくと煩いほどに動いていることに却って安心した。
彼女の傍らには、ついさっきまで読まれていたらしい魔導書が転げ落ちていた。咄嗟に取り上げて適当なページを開いてみたが、見知らぬ分野のことであるからか、魔術師である自分ですら毒の影響を幾らか受けるような感覚があった。まさか彼女はこんなものを、まともに飲み食いもせず、睡眠すらも摂らずに読み耽っていたのだろうか。

「ン、…」

幾らもしないうちに、抱きかかえた彼女の意識が戻る気配がした。声は酷く掠れていて、何故か自分が責められているような気がした。無意識に男の胸元に縋りつくような仕草を見せた女に、相手を間違えてるぞ、と頭の隅っこに辛うじて残っていたどこか冷静な部分が皮肉を言う。

「な、ン、だよ、オマエか…」

そんな短い言葉ですら、はあはあと途切れ途切れに呟きながら、彼女は瞼を開けた。自分の体を支えている人物を認めると、その手を振り除けようとしたが、ただでさえ非力な彼女が息も絶え絶えに振るった腕は蚊を振り払うのにも頼りないほどだった。そもそも自力で起き上がってすらいられないことを理解していた彼女は、らしくもなく、甘んじて彼の手に支えられ続けることを受け入れた。
俺以外の誰だと思ったんだ、とは訊ねなかった。


「お前、睡眠と食事は摂れって言っただろうが。」

「正に今、寝てたろォが。」

「気を失ってるっつーんだよ、こういうのは。」

何度か大きめの息を吐いて、彼女はどうにか息を整えた。それでも顔色は酷く、彼女の状態が切迫していることを物語っていた。

「ダイニングにコーヒーとか色々差し入れ置いといたんだが、気付かなかったのか。」

「そもそもここ来てから、この部屋から出てねェよ。知るか。」

「飲み食いはともかく、トイレとかどうしてたわけ?」

意識がはっきりしてきたらしい彼女に安心して、彼は嘗て同僚であったときに軽口を叩き合っていたような調子でそのとき浮かんだ些細な疑問を思わず口にした。それすらも能力使用で解決できるのだろう、ということを理解してはいたのだが。

「下衆。」

彼女がいつも通りの人の神経を逆撫でするのに最適な、それでいてうっかりすると見惚れてしまいそうな笑顔を浮かべたので、こちらもつられて笑ってしまいそうになる。
うっかりとかつての調子で会話が盛り上がってしまいそうな雰囲気であるが、相変わらず彼女の体はぐったりと男の方に凭れ掛かっており、気軽な話を続けていられる状況でもないことは重々承知していた。
男はふっと気軽な表情を消して、肝心のことを訊ねることにした。


「病院か、それとも誰か呼ぶか。」

今彼女に必要なものは医者ではないだろう、と思いながら男は言った。あの冥土返しにだって治療できなかったものを治せる医者などいないだろうし、一時凌ぎのことならともかく現代の医学で根本的な解決はできまい。
だからといって自分がどうにかできる状況でもない。魔術師としても能力者としても中途半端な体である。多少のリスクを承知で魔術を使用するという手もなくはないが、自身の専門である風水は人の治療などには向かない。風水は空間や建物など比較的大きなものを対象とする魔術であるから、空間などを介して人に影響を与えることは可能だけれども、繊細な作業は得手ではないのだ。だから昨夜だってさして長居もせずに差し入れを置いて帰るだけ、という何とも情けないことしかできなかった。
ならば上条当麻なり、禁書目録なり、頼りになりそうな人間のところに無理やり連行するという考えも浮かばないではなかったのだが、そこまでお節介な人間にはなりきれない。つまりこの質問は彼なりの最大限の世話焼きだったのであったけれど、彼女はそれをいつものような愛想のない表情で拒んだ。

「要らン、放っとけ。」

「そういうわけにもいかないだろ。第一これが完成したところで、誰が発動させるってんだ。」

彼は部屋の床に大きく描かれた不思議な模様を見ながら、彼女に訊ねた―この街に暮らす人間にしてみれば単なる迷信の産物でしかなかろうが、それは立派に意味と機能を持った魔法陣であった。しかしながらそれは彼女が読んでいた南米系の魔導本に従って作られているために、土御門には全く理解ができない。

「それくらい、考えてある。とにかくオマエにゃ関係ねェ。」

その答えを聞いて幾らか渋い表情を見せた男を宥めるように、彼女はよく知った人間にしか分からない程度の、微かな笑顔を浮かべた。

「死にゃしねェよ。」

その表情が、言葉が、死んだように滅多に動かない彼の心に、柔い傷を付けた。その傷からじんわりと血が滲むように、彼自身も忘れ去っていたような本音が、口を突いて出た。


「なぁ、」

「お前は何でそこまでするんだ。」

「もっと簡単に済ませる方法だって在っただろう、お前は知ってる筈だ。」

自分で調べるなんて無茶はせず、最初から海原に頼ったってよかっただろう。知識が欲しいだけなら魔術を使用できない自分だって役には立てる。母親のように色々と煩く言ってくるだろうし、上条当麻の介入は避けられないが、禁書目録だって力になってくれただろう。
そう指摘する一方で、そういった方法を彼女が選ばなかった理由も彼はよく理解していた。

「ンなこと、できるわけねェだろォが。」

それがどんな影響を及ぼすか、誰も分からない。当然戦争が終わった後も魔術と科学の対立は続いているし、寧ろお互いの領分を守りながら不可侵を装っていた以前よりも、些細なことで導火線に火が点いてしまいかねない状況になっている。彼女が要らぬトラブルを避けるように単独で行動したことも、確かに理に適っているのだ。

「お前、そんなの気にするタマじゃなかっただろうが。」

ほんの少し前だったなら、彼女は自分の利になるものは利用し尽くしていただろうと思う。それがどんなに多くの人間を巻き込んで、大きな影響を及ぼすことであっても、自分とごく一部の大切な存在に必要なことであればそれを実行していた筈だ。
そんな自己中心的な人間が、こんな風に変わってしまった理由に心当たりがありすぎて、男は苛々を募らせた。


「誰かを気遣ったって、それで自分が死にかけてりゃ、世話ないだろ。」

「そうかもしンねェけど、やってみなきゃ分かンねェ。」

そんなギャンブルめいたこと、考える人間じゃなかっただろうに―そんな皮肉を言ったところで、最早彼女に響くことはないのだろうと理解していたから、彼は思ったままを口にすることはなかった。
その代わり、思ってもない言葉が、口を突いて出てきた。

「お前は、変わった。」

「は、ァ?」

独白のように呟く男に対して、彼女は怪訝な表情を浮かべた。しかし彼はそんなものを気にする様子もなく、言葉を続ける。

「元から大して自分のことを大切にしない奴だったけど、資本としての自分はちゃんとメンテナンスしてた。」

「こんなになるまで、考えなしに突っ走るだなんて、そんな奴じゃなかった。」

「……オマエが俺を語るンじゃねェよ。」

「いーや、何度だって言ってやるね。」

だって彼女は、こんなことを繰り返しているうちに、ぼろぼろになってしまうだろうから。それを黙って見ているのは、酷く辛いことであるから。

―だって、お前はそんなになってもそれがいいんだと笑って、あの男とともに在ろうとするんだろう?

それがどうしても彼には納得できなかった。


「おキレイな世界に馴染もうとしたって、結果はこれだ。ボロボロになっただけだろ。」

「俺の勝手だ。オマエにどうこう言われる筋合いは、ねェ。」

「いや、」

「俺にだって、文句を言う権利ぐらいある。」

ここまでなら、冗談だと何だと茶化して引き返すこともできただろう。だけれど彼のどこか人間臭い部分が、いっそこのまま全てぶち撒けてしまいたいと、密かに願っていた。
感情の濁流に飲まれるように、そのままの勢いで、彼は思うよりも先に言葉にする。






「そんなにあの男がいいか、」

「俺だったなら、」

「俺を選んでくれたなら、」

「もうちょっと楽に息をさせてやれる。」





「………、は、」

持ち上げるのも容易でないと言わんばかりに薄く伏せられていた彼女の瞼が、ぱちりと見開かれていた。照明も点いていない、窓の外の街灯が漸く差し込むだけの薄暗い部屋の中で、彼女の赤い目だけが男のサングラスの向こうを見通そうとしていた。

「何、言ってンの、オマエ。」

彼女は、彼に嘘を吐く機会を与えた。単に男の発言を咄嗟に信じられなかっただけかも分からないが、彼にこれまでの発言をごまかすつもりがあったなら、彼女の否定するような物言いはいっそ助け舟となっただろう。
だけれど男は、最早ごまかしを必要としない。

「そのまんまの意味だ。」

「化け物だって、道具だって、何だっていいじゃないか。」

「その方がお前は楽なんだろう、人間でなんか、ない方が。」

「それだっていい。俺だって大差ない、人間らしく生きる方がよっぽど辛い。」

「あの男といる方が、よっぽど息苦しいんだろ。」

自分だって義妹と共に、何のしがらみもなく明るい世界で生きていきたいと思う瞬間がある。だけれども、実際にそうしようとしてみると、余程そちらの方が息苦しくて制約が多いのだ。彼は暗い世界に囚われていると同時に、そこでだけ自由を得られるのであった。女だって大差ないことを、彼は知っていた。
どちらが幸せなんか、分からない。息苦しさはあっても、得られる達成感で全てがご破産に出来る可能性があることも知っている。だけれど男は、いつまで続くとも知れない息苦しさと、いつ得られるとも分からない幸福感を引き替えにすることはできなかったし、目の前の女がそれを達成できるほどに強いとは、思いたくもなかった。単純にそれは、男の敗北を意味した。






「でも、」

「俺はもう、間違えたくはない。」

「嬉しいって思ったことも、辛いって思ったことも、それは俺のものだから、」

「もう、俺は手放さない。」





安っぽい飴のようにぎらぎらと光を湛えているだけのように思っていた女の目が、確かに違った色を見せた。宝石のようだ、という表現も当たらない。そんな無機質な光ではない。それは意思を持って生きているものにしか宿らない色だった。

「お前は、」

「俺を全否定したいのかよ。」

喜怒哀楽も、何もかもごまかして、まるで自分には縁のないもののように振る舞うことで自分が自分で在れる男は、ひとりごとのように呟いた。女にそのつもりはなくっても、間違いなくその決意は男にとっての暴力であった。
しかし彼女は何も言わなかった。そんなつもりはないと否定するつもりだったのか、それとも追い打ちを掛けるように皮肉を言うつもりだったのかは分からないが、かは、と声にならない声を出して、そこから先は続けることができなかったらしい。はあ、と酷く苦しげな息を吐いた。

「少しは寝ろ。まだやることは残ってるんだろうが、そんな状態じゃどうにもならないだろ。」

こんな状態で問答を続けたって何の意味もない、と判断した男は、ギブアップを告げた。説得は諦めたから好きにしろ、というほどの意味である。
男は抱きかかえたままにしていた彼女を床に寝かせた。本当であったら柔らかいベッドに寝かせてやりたいところだが、彼女は滝壺理后の能力からも逃げられるように作ったこの空間から出たくはないのだろう。この部屋は本棚があるだけであるから、寝るのに適しているとはお世辞にも言えない。


男は立ち上がって部屋を出たかと思うと、コンビニのビニール袋と厚手の毛布を持って戻ってきた。コンビニ袋からミネラルウォーターのボトルだけを取り出して横になったままの彼女の頭の脇に置いたところを見ると、飯食うのはしんどいかもしれないが、水分くらい取れ、と言いたいのだろう。厚手の毛布もそれはもう丁寧に彼女の体に被せてやったのだが、らしくないことをしている自覚はあったらしく、難しい表情をしたまま口を開こうともしなかった。

「ありがと、」

気まずい空間から逃げ出すようにさっさと部屋を出ていこうとした男の背に、彼女がぽつりと声を掛けた。ごく一般的な謝意を示す単語であるが、彼女がそんな言葉を口にするのを初めて聞いた男は、嬉しくなったというよりもまず驚いた。
体調の悪化に伴って気が弱くなっているというわけでもないだろう。それならそもそも誰か呼ぶか、という彼の提案を断るほどの気概はなかった筈だ。体調などにはかかわりなく、素直に礼を言えるような人間になった、ということなのだろう。
ベクトル変換という万能の力を「反射」という何もかもを拒絶するだけの形に集約させたということからも伺える、酷く頑なな性格である彼女に、こんなにも簡単に大きな影響を与えることができる人物に嫉妬する気持ちは少なからずあった。だけれども天変地異かと思うほどに珍しく素直な彼女相手にその嫉妬心をぶつける気分にもなれなくって、男は全く冗談ではないことを、なるべく冗談に聞こえるように言って部屋を出て行った。

「そんな可愛いこと言われちゃったら、お前のこと諦めらんなくなっちゃうかもにゃー。」


部屋を出て直ぐに家に帰る気にもなれなかった男は、冷たい風に晒されるのも厭わずたまたま通りがかりに見つけたベンチに座り込んだ。振られる以前に最初っから負けていた試合ではあるが、こんな臍曲がりの男であっても失恋というのは堪えるものなんだなぁ、と他人ごとのように思う。
最初っから成就なんてすることはないと分かっていた。ショックなのは振られたことではなく、置いて行かれたことだ。異性として求められることはなくとも、同じ穴の狢として慰めあうことぐらいはできると思っていた。彼女はいつの間にやら、そんなものも必要としないほどずっと向こうを歩いていた。

(たまには感傷に浸るのも悪くないけど、)

(やることはやんないと、)

そもそも今の目的は恋愛の成就ではなく、能力使用もままならず得体の知れぬ不調に悩まされて死の淵に近づいている彼女を無事に本来の環境に戻すことである。
しかし彼女は彼の助けを必要としないらしい。恐らく既に、彼女は解決のための道筋を見付けているのだろう。だけれど道を知っていたとしても、あの状態ではその道を辿ることすら容易でない筈だ。




「さあて、」

「振られた腹いせに、あいつの大っ嫌いなお節介でもしてやろうかねえ。」







「お姫様は素直に王子様に助けられるもんだぜい?」





―自分の手助けは要らないらしいが、第七位が手を差し伸べてくれば、無下にもできないだろう

彼を魔術だとか暗部だとかそういったものに関わらせたくないらしい第一位に対する最高の嫌がらせを、彼は思いついたようだった。


はぁ、やってしまった…
これ色々と大丈夫だろか…

>>155あたりで話題にした「つっちー振られるか振られないか」問題の>>1なりの答えがこれです。>>155訊いたときには既にこの流れは考えておりました。
つっちーが素直に「好きです付き合ってください」なんぞ言うわけはないんだけど、明らかな告白ではないにしろ、どう考えてもそうとしか聞こえないことを思わず言っちゃうような、そういう演技しきれない部分があってほしいなあ、とは常々思っていて。
もうここのパート語りだすと長くなるのでこれ以上は何も言いませんが。

次からはちゃんと削百合するよ!

どうも>>1です、こんばんわ。
つっちーのキャラ捏造しすぎたか、と内心gkbrでしたが概ね好評みたいでほっと安心しております。

純情というか熱血というか、そういう部分を装いつつ、ギリギリでつっちーのズルさは演出しているつもりです。「お前が好き」という自発的なことは言わずに、「俺を選べ」って言い方をして、百合にゃんの行動を要求しているんですよ。その後のセリフも含めて、自分は何もせずに百合にゃんに選ばせて行動させようとするという、しっかり自分の逃げ道は作ってるダメ男です。
その一方で、つっちーのキャラ作りには新約7巻をかなり反映させました。あれを読むまでは舞夏に何かあっても平静を装おうとするタイプだと思っていたのですが、新約7巻以降、一回スイッチ入ると感情のままに行動することに抵抗ない人物だと思うようになりました。感情に流されるというのではなく、確信を持って感情に従うことができるというイメージですね。ある意味ではソギーと似た性格にも集約できるなぁ、と書きながら思っていました。

さて、次回からは漸くソギーの出番です。
土百合に関しては本編で描くことはもうない筈です。小ネタではちょくちょく扱うと思いますが。

ではでは、次の投下までノシ

凄い雪ですなぁ。北国出身の都心住まいなので出歩けないということはないのですが、引き篭もっています。

某地獄アニメでつっちーの中の人が稲●淳二風に怪談していたのが妙にツボに嵌まってしまい、「つっちーが淳二風に怪談話する夢とか見そう…」とか思っていたのですが、毎晩夢も見ぬほどに爆睡です。因みに一方さんの中の人につられてアニメを見ると、大概予想していたのと違う感じの演技で勝手に裏切られたような気分になりますが、自分だけではないと思いたい>>1です。


「インデックスちゃーん。」

翌日のことである。
昼近くなった頃、昨日と同じように仮病で学校を休んだらしい隣人が上条のいない部屋に訪ねてきて、聞きようによっては愛嬌があるのかもしれない猫撫で声を上げた。




まずは昨日からの彼の行動について、インデックスが知る限りを思い返してみよう。

義妹が訪ねてきたときには彼が部屋を留守にしていたのは御存知の通りで、夕方頃心配した上条がメールをすると「病院行ったらそのまま一晩入院しろって言われたんだぜい」などという気軽なメールが返って来た。因みに学園都市内の医療機器は外のそれより優秀であり、携帯の電波なぞものともしないので、彼が本当に入院していたとしても携帯が使えていることに不思議はない。そもそもインデックスは入院している人間が携帯を使用していることに違和感を感じるほど電子機器に馴染んでいないけれども。
そして今朝、上条が学校に行った後にどこからか帰って来たらしく―少なくともインデックスは病院からではないと思っている―隣の部屋の玄関ががちゃがちゃと鳴る音がした。

以上がインデックスが把握している土御門元春の昨日から今日にかけての行動である。



「どうしたの?まいかから差し入れ受け取ってるけど。」

なるべく平静を装うつもりだったけれど、幾らか刺のある声色になってしまった、とインデックス自身は思った。彼が自分に隠れてこそこそと何かやっているのはいつものことであり、普段ならなるべく気にせず過ごそうと努めているのだが、大切な友人である一方通行が関わっているらしいとなれば別である―因みに彼がこそこそと何かをやっているときは上条を巻き込むことが多いのだが、上条に関しては土御門が画策するまでもなくトラブルに巻き込まれるので、上条に振りかかるトラブルについて土御門に対して怒りを覚えるようなことはないらしい。

「食べないでくれてありがとにゃー。」

「私ととうまの分は、別にあったからね。」

実際には病人でない彼に病人食を渡したところで物足りなく感じるのではないかと思ったが、彼はタッパーの中身を確認するとふっと穏やかな笑顔を浮かべた。本当の兄のような表情ができるのに、何で―インデックスはそう思っても、訊ねられなかった。
自分だって、似たようなものなのだ。思うままには生きられなくて、今現在はたまさか恵まれているために望むように上条当麻と暮らしていられるだけなのだ。思うままに生きることを選べない彼を否定することは、或いは1年前や、そのまた1年前の自分を否定することでもあったから、彼女は疑問をそのまま言葉にすることを躊躇った。


「食べないで取っておいてくれたお礼に、これ。」

彼が差し出してきたのは、彼女の小さな掌に収まるほどの手書きのメモだった。どこかの建物の住所と、部屋番号が書かれている。

「これは、」

問い正すまでもなく分かっている。「彼女」の居場所を記した宝の地図だ。

「昨日言ったろ?慌てるな、って。」

「今直ぐ、行っても大丈夫なの?」

「むしろ今直ぐ行ってやらないと大変なことになるかもにゃー。」

彼がそう答えるが早いか、彼女は家の鍵も閉めずに飛び出して行ってしまった。その小さな背中に、彼は一応忠告しておいた。

「そこに行く手前に不良だらけの地域があるから気をつけるんだぜい、」




「って、聞こえてるわけ、ないんだけどにゃー。」

聞こえていない方がありがたい、と言わんばかりに彼は大層意地の悪い笑みを浮かべた。
何せこれで、彼の嫌がらせは十中八九達成したと言えるのだから。





その十数分後、土御門元春の予想通りというか、別に彼が何か画策したわけではないのだが、インデックスは不良の多く屯する裏道で迷っていた。
完全記憶能力を有する彼女が道に迷うことなど、そもそも行き先が不明瞭でもない限りはありえないことなのであるが、何故かこの街に来てからは珍しくない。この街には奇妙な力が蔓延していて―それこそAIM拡散力場であるとか―彼女の鋭敏な感覚はそういったものに惑わされているのかもしれないのだけれど、今はその原因を突き止めることよりも優先すべきことがあった。
因みに上条の学生寮からメモの場所に行く場合、余程迂回しなければ不良の多い地域を避けることができない、ということは土御門元春だけが知っている事実であった。

細い路地の入り組む地域で本格的に彼女が途方に暮れ始めた頃、遠くで複数の男性が怒鳴り合うような声が聞こえた。どこか、そう遠くない何処かで誰か喧嘩でもしているらしい。魔術師同士の争いであるとか、荒事には案外慣れている筈の彼女も、ただ一人きりの状況に肩をびくりと揺らした。
どちらに進もう、いっそ今来た道を戻ろうか―入り組んだ廃ビルの壁に人の声が谺して、喧嘩しているらしい人物たちがどちらの方向にいるかもよく分からず、あたふたとしているうちに声が近付いてきた。その途中で声が途切れ、足音が1人分だけ近付いてくるのが分かったが、近付いてくるその方向が特定できたときにはもうすぐ後ろにその足音が迫っていた。
は、とインデックスが息を呑む。


「―インデックス?」

背中の方から聞こえたのは、知っている声だった。

「お前こんなところで何やってるんだ。」

咄嗟に背中の方を振り返ると、タンクトップに白い学ランを羽織っただけの軽装の少年が立っていた。迫ってくる足音の間隔は明らかに全速力で走っているものだったけれど、彼の息は全く乱れておらず、頬にも上気したようなところはない。いつか一方通行に訊ねたとき、彼の能力は身体能力強化に近い―それ以外にも色々できるらしいが―と言っていたのを思い出した。

(そうだ、あくせられーた、)

混乱していた彼女は、自分が今一方通行を探していること、そして彼が一方通行と非常に親しい関係であることを思い出した。

「本当にどうしたんだ、」

答えもできずに狼狽えるこちらを心配しているのだろう。ここで何をしているんだという簡単な問いに即座に答えられなかったインデックスを、少年は困ったような表情で覗き込んだ。

「それは、その、」

果たして彼にこんな場所を彷徨っていた理由を告げていいものか、彼女は躊躇った。一方通行が行方を眩ませた理由に、彼も含まれていると思ったからである。これから自分が行こうとしている場所を彼に知られてもいいのだろうか、彼女は咄嗟にそれを判断することができなかった。


「どうした?何か人に言いづらいことでもあるのか。」

普段だったなら彼はそれ以上問い詰めず、それでもインデックスを安全な場所まで送り届けてくれただろう。けれども幸か不幸かその瞬間、頑なに握られていた彼女の右手から、小さな紙切れのようなものが零れ落ちた。

「何だ、これ。」

「あ、」

インデックスが止めるまでもなく、彼はそのぐしゃぐしゃになった紙切れを開いた。

「それ、」

見ちゃダメ、とインデックスが言うよりも先に彼はその内容をはっきりと理解したようだった。

「これ、大事なものだよな。」

「そこ、俺も一緒に行っていいか?」

彼の表情が今まで見たこともないものに変わるのを、インデックスははっきりと目撃した。




「ぐんはは、最初から気付いていたの?あくせられーたが、そこにいること。」

「そういうわけじゃないけど、あいつが学園都市から出てるとは思えなかったから、ずっと探してた。」

一方通行の性格ならば例え自身にどんな危機が迫ろうとも、容易に打ち止めたちを置き去りにするようなことはないだろう。入念に準備をした末ならともかく、こんなに慌ただしく行方を眩ませたなら、まだ打ち止めたちの状況を把握できるこの街の中にいる筈だ―彼はそう考えていた。
学園都市内で、かつ捜索の目を掻い潜れる場所に彼女は身を隠している。そんな場所を新しく用意するような余裕もなかっただろうし、そうなると疑わしいのは嘗て使っていた暗部時代の隠れ家であった。
いつか自分を突き放そうとして洗い浚い当時のことをぶち撒けた彼女の言葉から、そういう場所が幾つかあるのは予想できていた。暗部時代の同僚である結標や海原との面識もあったけれど、彼らに直接彼女の行方を確認することはなかった。彼らは必要とあらば自分を相手取っても一方通行の居場所を隠し通すだけの胆力と理由があると思ったからだった。
だから彼が先ず手を付けたのは、運転だとか後始末だとかをしていただろう下っ端共だ。彼らに隠れ家の場所を聞いては忍びこむを繰り返していて、つい先程入手した情報の中に、インデックスが握っていたメモの住所も含まれていたのだ。

その場所がなかなか特定できなかったのは、学園都市から提供されたわけではなく、土御門が個人的に用意した部屋だからであった。つまり学園都市から用意された運転手などがそこに彼らを送り届けることは殆どなかったのだ。偶然に、たった一度だけ誰かに頼まれた道具を送り届けたことのある人物が見付かって、彼はその場所を知った。それがついさきほどのことである。


「私が、このメモを誰から貰ったのか、訊かないんだね。」

インデックスを背に負って走る少年の背中に、ぽつりと呟く。

「訊かれたら困るんだろ?あのメモ、そもそも俺に見せたくなかったみたいだし。」

「俺は勝手にそこに行くだけだから、インデックスと会ったことも、たまたま見ちゃったメモも関係ない。そうだろ?」

彼はインデックスがそれ以上を問われても答えられないことを予め知っているかのように、酷く優しい嘘を吐いた。

「ぐんは、」

「何だ?」

「多分、あなたはこれから行く場所で見慣れぬものを見ることになると思う。」

「だけれど、私にもあくせられーたにも、それについて何も訊かないでほしいの。」

「それがあくせられーたにとっても、あなたにとっても、必要なことだから。」

インデックスが予想する通りの状況なら、その場所はこの街の常識というよりも、別の世界の常識に染まった場所の筈である。それは彼には見慣れぬもので、当然疑問に思うことがたくさんあるだろうけれど、それを深く知ることは彼にとって危険なことでもある。
その危険を避けんがために単独行動に出たのだろう一方通行の気持ちを尊重するために、これは必要な約束だった。

「そっか、」

「分かった。」

ごく当たり前のことのように、それを受け入れた彼が、酷く眩しかった。




メモに書かれていた場所は、セキュリティのしっかりしたマンションであった。
鍵を持っている人間か、インターホンを使って招き入れられた人間にしか立ち入ることはできない。非常階段は外側から忍び込むことができるような場所にはなく、外廊下など、とにかく他にも外から入り込めるような構造物はない。打ち止めか、誰かしら妹達がいれば大分状況は違うのだが、色々と便利に使える能力を有するとはいえさすがに発電能力は持たない彼には侵入の難しい状況であった。

「インデックス。部屋、何階だっけ。」

「え、3階だけど?301号室。」

「分かった、」

「舌噛まないように気をつけてな。」

そう言うが早いか、彼はインデックスを小脇に抱えて3階のベランダに飛び移った。

「ひゃ、」

そこそこ荒っぽい扱いに慣れている彼女の反応は、可愛らしい声を一つ上げただけであった。


咄嗟に閉じた瞼を恐る恐る開けたインデックスは、ベランダと目的の部屋を隔てるガラス戸に、奇妙な気配を感じた。

「ぐんは、ここ、」

「この部屋、何でもいいから、入り込んで!」

インデックスは元から大きな目を溢れんばかりに見開いて、強い口調で訴えた。少年は、急に様子の変わったインデックスに戸惑っている様子だった。

「何でもいいって、」

「本当に、何でもいいの!!」

幸いにも、その部屋に施されていた人払いは物理的な破壊には弱い性質のものだった。
魔術が働いている今の状況では、インデックスと削板に見えているガラス越しの部屋の中の様子は、実際の部屋の中の状況と異なるに違いない。実際にこの部屋の中にどんな光景が広がっているのか、想像を巡らしたインデックスは怖気すら感じた。

「何でもって言うなら、ガラス割っても大丈夫か?」

「うん、速く!急いで!!」


かしゃん、

硝子が澄んだ音を響かせて崩れた後に見えたものは、窓の外から見えていたものとまるで違っていた。

「何だこれ、」

窓の外から見えていたのは、何もない空き部屋であった筈なのに、実際部屋に入り込んでみると、狭い部屋は本棚で埋め尽くされていた。光学系の偽装を可能とする能力者の仕業だろうか、だけれども彼にとってそんなことはどうでもいいことで、一番肝心なのはその部屋の隅っこにこんもりと作られていた毛布の山である。

「百合子、」

その中身を確かめるよりも先に、彼は慌てた様子で名を呼びかけた。中身を確かめるまでもなく、彼にはその正体が自身の宝物であることが分かったのだろう。

「大丈夫か。」

咄嗟にめくり上げた毛布の端から、酷く青白い顔が覗いた。寝ているというよりも気を失っているといった方が当たっているような状態で、息はしているが酷くか細い。元から低い体温は、人形か何かかと思うほどに冷え切っていた。


「インデックス、この部屋、」

何なんだ、と訊ねようとした少年の声はそれ以上続くことがなかった。彼女とこの部屋に来る前の約束を思い出したのであろう。

「ごめんなさい、私には答えることができない。」

本棚に収められている本は、どんな知識でも収集している筈の学園都市ですら見掛けないような本ばかりである。それ以外にもそもそも現代では見掛けないような巻物やら妙な調度品ばかりが並ぶ部屋は、科学の申し子である一方通行が身を隠していた場所としてはあまりにも奇妙である。
滝壺理后が話していた「学園都市にはない技術」がここには蓄えられているのだろうか、という考えも当然彼の頭に過った。それどころか、インデックスがその技術に詳しい可能性すらも考えた。だけれど彼は約束に従って、それを訊ねることをしなかった。

「ちょっと待って、人を呼んでくる。」

「ぐんはは、ついていてあげて。」

インデックスがそう言って部屋を飛び出た後、こんな部屋の隅っこではなく、楽に寝かせてやろうと思い、邪魔な毛布を一旦どかそうとしたところ、床に奇妙な模様が描かれているのに気付いた。


「何だ、これ。」

直径は1メートルほどだろうか、大小2つの同心円の内側にそれぞれ奇妙な文字や記号が描かれている。文字は歴史の教科書で見るような、ピラミッドだとかの古代遺跡の壁に刻み込まれている記号的なそれに似ている。もちろん考古学だってこの街の研究対象の範疇ではあるが、それを模倣したような図形が現代的なマンションの床に描かれる必要性はないだろう。しかも何とも大雑把なことに、それは油性ペンで描かれているようだった。

もしかしたら外の世界ではこういった奇妙な模様を忌避するのかも知れなかったが、狭い部屋の中で背の高い彼女をゆったり寝かせようとするとその模様を避けることは難しく、奇しくも彼女は同心円のほぼ中央に横たわる形となった。
彼女を寝かせて再び毛布をかけてやり、彼女の直ぐ傍の床に両手をついた。
途端に高圧電流だとか、或いはそれよりももっと暴力的な力が全身に流れ込むような気配があって、少年は意識を失った。


今日はここまで。

こんなシリアス展開の最中にアレなんだけどさ、最近「おっぱいは寂しいけど結構下半身はエロい」り●ちよ様体型の百合にゃんをずっと妄想している。パロするんなら蜻さまは垣根がドンピシャだと正直思っているんだが、双熾はソギーとかぶる要素がなさすぎてそれ以上の妄想が進まない。
何のパロだか全くわからない人には本当に申し訳ない。


あれのパロだと削百合じゃなくて他のCPでやった方が違和感少ないからなぁ

双熾は清々しいヤン忠過ぎてなかなか他キャラを当てにくいというか
しかし>>1がパロるなら是非原作版でやってほしいです(ゲス顔)

とまれ乙

乙ー
一方さんっぽい岡本ボイス聞きたいなら、ゲームだけどセブンスドラゴンとかどう?


>>448
うちのソギーはヤンデレではないけど、百合にゃん以外はカボチャかキュウリかってくらいに百合にゃん以外に興味ない人間なので、被せようと思えば被せられるんですけどね…こう…百合にゃんの写真で壁が埋め尽くされた部屋で飯も食べずに3日ぐらいは行ける気が…

>>449
そもそも>>1が妄想しているいぬぼくパロが、学園都市で悲劇的な最期を迎えた超能力者とその身近な人間たちが転生し、今度こそ仕合わせを追求する物語なので、スタート時点で第2章です(ゲス顔)だがそんな日々すらもアレイスターの思惑によって生み出されたものだった…!!みたいな。
百合にゃんが「違う、軍覇じゃない」とか言っちゃったり、垣根が「第七位を悼んでやらないのか」とか言っちゃったりするところからスタートする物語です。

>>451
セブンスドラゴンは一方さんボイスで有名ですよね。岡本のゲームでの仕事だとロリポップチェーンソーも割と好きです。


さて、今日も投下しますよー


インデックスが慌てて部屋を飛び出してマンションのエントランスを抜けたところで、近くで魔術が使われる気配がした。彼女は立ち止まって振り返った。

(まさか、)

そんなことある筈がない―そう願いたいところではあるが、それは確かに彼女が先ほどまでいた部屋の方から感じられた。慌てて部屋に取って返そうとしたが、既にマンションのエントランスを抜けてしまっていた彼女は、オートロックの自動ドアに阻まれた。

(あくせられーた、)

(ううん、もしかしてぐんは…?)

世の中には触れただけでその人物に魔術を使わせるような機能を持つ霊装などもある。少年に魔術の知識がないからといって彼が魔術を使用したわけではない、と判断することはできなかった。むしろ、酷く弱って十分な生命力を供給できない状況にあるだろう一方通行よりも、彼の方がよほど術者としての資格はある。

(どうしたら、中に、)

このマンションは空き部屋が多い。その上、今は平日の昼間である。学園都市の人間は大概が学校の授業に出ている時間だから、当然人の出入りは更に少ない。それでもインデックスがインターホンの使い方を知っていれば状況は違っただろうが、現実にはこの自動ドアの仕組みを知る人間が通りかからない限りは彼女が部屋に戻ることは難しかった。
慌てて上条の部屋から飛び出してきたものだから携帯も持っていない。事情を知っている土御門や、事情を知らなくても力になってくれるだろう上条に助けを求めることもできず、インデックスは途方に暮れた。




嫌な夢を見た。



昨夜遅く、土御門がこの部屋を訪ねてきた。
実はそのとき既に、彼女が求めていた魔法陣は完成していた。では何故それを発動させることなく部屋で気を失っていたかというと、彼女にそれを行うだけの生命力が残されていなかったからである。土御門は魔法陣が完成したところで誰に発動してもらうつもりだ、などと訊ねてきたが、そもそも彼女には誰かに頼るつもりなどなかった。
もちろんインデックスには重々言い含められていたから、能力者が魔術を行使する危険性については理解していた。その上で、彼女なりにリスク回避もしたつもりである。
生命力を増幅させる段階か、その生命力を魔力に精製する段階か、或いはもっと先の精製した魔力を霊装や魔法陣に流しこむ段階か―そのいずれで能力者の身体に負担がかかるのか判然としないが、とにかくこういった疑わしい段階を可能な限り省けるように工夫した。


インデックスが推理したのと同じように、一方通行もAIM拡散力場と魔力の類似に気付いていた。自身の体が滝壺の干渉を受けたAIM拡散力場に蝕まれていることに気付いた彼女は、外部から魔力に干渉するような魔術を加工すれば、AIM拡散力場に干渉することもできるのではないかと考えたのだった。

彼女が描いた魔法陣には、大きく二つの機能が備わっていた。

一つは力の向きを変える機能。これは中心を同じくする二つの円の内側に描かれている。元々は外部の力に干渉するような別の使い方もされていたようだったが、今では主に人体の中の力の流れを変える機能が発達しており、その結果インデックスが滝壺と打ち止めに語ったような「魔力の精製に失敗した人の身体を元に戻す機能」を得ていた。一方通行はこれで滝壺の干渉を受けた自身のAIM拡散力場を元の通りに復帰させようと考えていた。
自身の能力も力の向きを変えることであるからか、この機能の部分を自分に適したように書き換えるのに然程苦労はしなかった。対象となる力の特定と、どの方向に向きを変えるのかの指定―どの記号にどういった意味が付随しているのかを理解してみればいつもやっていることと変わらない、というのが彼女の感想であった。


もう一つの機能は、術者が両手で触れただけで魔法陣がその生命力から魔力を自動で精製する機能であった。これは外側の円に付随していて、元の魔術から一切加工しなかった。
元々が魔力を精製するのも儘ならない状態に陥った魔術師が使用する魔術であるから、この機能は必要に迫られて備わったものなのだろう。能力者でありながら魔術を使わなければならなかった一方通行には好都合だった―魔力の精製過程を魔法陣が担うことで能力者への負担が軽減されるのではないかと予想したのだ。もちろん、生命力を自身が供給すること自体には変わりがなく、一切のダメージを回避できるとは思っていなかったけれど。

しかし一見大きな問題もなく完成されたように見えた魔法陣も、酷く衰弱して十分な生命力を備えていなかった彼女には発動させることができなかった。
滝壺の能力の干渉による体調不良に加え、数日に亘って昼夜を分かたず資料を読み耽っていたことによる純粋な疲労、魔術的な毒の蓄積―原因は様々考えられたが、解決方法については皆目見当がつかなかった。少なくとも睡眠だとか、食事だとか、一般的な手法で回復できるラインはとうに超えているだろうと思った。


土御門が部屋を訪ねてきたのはその頃だった。
彼はこんなにリスクの高いことを単独で成し遂げようとした彼女の心理について何だかんだと勝手に推理していたようだった。彼の推理も当たらずとも遠からずであったけれど、最大の理由は他にあった。
ずっと、妙な感覚に苛まれていた。そしてそれは、幼い日に能力を暴走させてたくさんのものを傷つけたときと酷く似ていた。何だかふわふわして、でも妙に重くって自由にならない体。揺れる水面でも介して見ているのかと思うような、ぐわんぐわんと歪む視界。何もかもが、誰もいない街を独りで彷徨った、あの日に似ていた。
あの頃よりかは余程能力の制御には自信があるし、そもそもこの体は演算能力を失っていて首元の電極のスイッチを切り替えない限りは能力が使えない。それでもMNWと切断された状態で暴走に似た能力の発現を経験したことがある彼女は、あの日のように自分の能力が暴走することはないと自信を持って言い切ることができなかった。

だから身を隠した。
いつどんな切っ掛けで暴発するとも知れぬから、貴重な友人であるインデックスや上条を頼るわけにもいかないし、自分と似たり寄ったりのクソッタレである土御門や海原を巻き込むことにも気が引けた―何せあまりにもリスクが大きすぎて、どんな条件を提示したところで取引として成立しないだろう。
況してや少年を頼ることなど、できる筈もなかった。先日特力研であの映像を見てしまった日から彼を傷つけてしまったときの感覚が繰り返し鮮明に蘇ってきて、近くで息をすることすら困難に感じらていた彼女の中で、彼に頼りたいという気持ちよりも、再び同じようなことを引き起こしてしまうことに対する恐怖心が勝った。




そうだ、
そんなことばかり考えているから、
アイツをまた壊してしまうことばかり怖がっているから
だから、嫌な夢を見た。



突然ベランダに続くガラス戸が割れて、その向こうから少年が飛び込んでくる夢。後ろの方ではインデックスの慌てたような声がして、少年の大きな手が自分の体を確かめるように撫ぜた。




『酷い、
これ以上ないほどに、嫌な夢だ。』



窮屈な部屋の隅っこで更に窮屈そうに寝ていた自分を、彼が部屋の真ん中に横たえてくれる。単に広い場所の方が描きやすいかと思って自分が描いた魔法陣の中心だ。少年が自分から手を離したあとも、体の距離までは離してくれそうになかった。


いやだ、
触らないで、
それに触ったらオマエは、


そうだ、
夢じゃない。


そうだ、
夢じゃない。






これは、夢じゃない。





夢うつつの境目をふらふらと彷徨っていた彼女は、はっと起き上がった。彼女自身が驚くほど体は軽くって、先程まで息をするのにも胸が痛むほどであったのが逆に夢だったのだろうかと訝しむほどだった。
曇っていた視界も俄に開けていった。視界に入ったのは、ぐったりと床に倒れこむ少年の姿だった。

「ぐんは、」

見た目には然程外傷はなかった。しかし魔術を使用したことがある彼女は、外見的なダメージとは全く別に、内臓や全身の血管に夥しい損傷が加わっているだろうことを知っていた。事実、出血など殆どしていない筈の少年は、彼らしくない酷く青褪めた顔色に変わっていた。
うつ伏せに倒れこんでいた彼ににじり寄り、バイタルサインを確かめる。息もあるし、脈もある。しかし、彼女の脈拍が動揺により普段の倍ほどになっていることを加味しても、彼の心拍は酷く遅かった。何も手を打たなければ、10分も持たないだろうと思った。

(冥土返し、は、もう、間に合わない)

病院に運ぶ時間すら惜しい。結標のような人間の協力を取り付けたところで然程状況は好転しないだろう―彼女の優秀すぎる頭脳は、いっそ非情にも思える判断を下した。


彼女は生死の境を彷徨う人間をその能力を以って救ったこともある。天井亜雄に撃たれた芳川桔梗然り、埋め込まれたセレクターを使って自殺にも似た行為をとった番外個体然り。
今現在の少年の容態を見ても、自分は彼を救える筈だと思う。魔術で身体にどんな作用が起きるかは身を以て体験しているし、普通の人間とは少し異なった作りをしている彼の身体的特徴についても把握している。
でもそんな積み上げてきた事実より、ただ一度少年を傷つけてしまった過去が彼女の精神を苛んだ。そうでなくても、また自身のトラブルに巻き込んでこんな酷い目に遭わせてしまったというのに、その上救おうとして失敗してしまったときにはどうすればいいのだろう、そんな考えばかりが頭を埋め尽くす。
もし上手くできなかったなら―そう考えただけで途端に息が苦しくなる。胸が痛む。心臓をぐいと掴まれたような心地になって、体が芯から冷える。でもそれ以上に、彼が苦しんでいることが分かって、頭の中が真っ白になる。



ロシアンルーレットの引き金でも引くような気持ちで、彼女は自身の首元に纏わり付く機材に手を掛けた。




「ゆりこ、」

その声が聞こえてくるまで、5分とかからなかったと思う。
元から回復力に長けた彼の体は、彼女の能力でほんの少し修復機能を活性化させただけで見違えるような回復を見せた。文章にしてみれば酷く簡単に見えるが、それは当然容易なことではない。例えば誤って妙な細胞の増殖を促してしまったなら、癌などの病気にも繋がりかねないし、活発な生命活動は大概が行き過ぎると病気を齎す。人体に60兆個あると言われる細胞の状態はそれぞれまるで異なるし、ましてやそれぞれの理想的な状態に回復する手段も違っている。大切な存在を一度ならず二度までも命の危機に晒したショックにより混乱状態にあった彼女が、寸分の狂いもなくそれを成し遂げたのは奇跡にも近かった。

「ゆりこ、」

少年は彼女の名前をもう一度繰り返した。その声は掠れていて、いつもの少年のそれと比べれば酷く弱々しかった。

「もう、体は大丈夫なのか、」

まだ幾らか顔色の悪い少年に、心配そうに訊ねられて、彼女は思わず笑ってしまった。

「ンなこと、俺が訊きてェっつーの。」

こんなになってまで自分の心配をするなんて、どんな神経をしているというのだろう。でも、そんないつも通りの少年が戻ってきてくれたことが酷く嬉しくて、彼女は仰向けに倒れたままの少年の胸に顔を伏せて嗚咽した。

「そっか、」

「ごめんな、泣かせちゃって。」

「嬉し泣きくらい、させろっての、馬ァ鹿。」

彼女は少年を救うだけでなく、過去に少年を傷つけた記憶に苛まれる自身をも救うことに成功した。

ごめんなさい、>>465二重投稿しちゃった。

よかった、半年どころではなく妄想していた箇所をようやく書き終えた。もう>>1の生涯に一片くらいしか悔いはない…



一片の悔いとは…

 

どもです。PCの調子が悪くアクセスできませんでした。

>>473
いや、本音はソギーを救う過程で白翼を出させたかったのです。でも非戦闘シーンでそれは明らかにやり過ぎだよなぁ、と思って断念しました。

今日の分含めて2回投下したら、ずっと保留してたドM春厨変態xロリ百合子の小ネタ投下しますね。そのあとに新章というか、本題に戻る予定です。


「オマエ、あれは何だったのか、とか訊かねェの。」

既に役目を果たした魔法陣は、まるで何年も放置されているかのように所々が掠れていた。この模様に手を触れた瞬間彼の体に不調が起き、逆に酷い苦痛に苛まれていた一方通行は何事もなかったように回復した。単に考えるより行動する方が得意なだけで決して愚かではない少年は、あの不思議な模様にそういう機能が付いていたのだろうことを理解していた。

「ここに来る前にそういうことしないって、インデックスと約束したから。」

「そォか。」

少年は自分の好奇心を優先させて約束を違えるような人物ではない。一方通行やインデックスに直接訊ねることができないのなら自分で調べるという行動に出そうな極端なところはあるが、そのすっきりした表情を見る限りそういったことにすら興味がなさそうである。

「起き上がれそうにないんだけど、俺、未だどっかおかしいのか?お前が能力で怪我治してくれたんじゃないのか。」

不自由そうに床の上で藻掻く少年。腕を突いて起き上がろうとしているらしいが、上半身が床から離れることすらなかった。

「致命的な損傷は修復したけど、それ以上のことはやってない。俺の能力が介入すればするほどミスの発生確率も上がるからな。」

元から回復力に長けた体だから、無茶しなければ1ヶ月もすれば完全回復する筈だ、と彼女は付け足した。さすがの彼女でも瀕死の人間をノーミスで何の問題もない状態にまで復帰させることは難しいのだろう。

「つっても本当に今の状態で問題ねェのか自信はねェ。今から冥土返しンとこ行く。」

「未だしンどいンだろ?その間、寝てろ。」

彼女の能力によって回復機能を活性化させられた体は、その分疲労も溜まっている筈である。疲労回復には様々な手法があるが、一番手っ取り早いのは食事睡眠だ。生物的なごく当たり前の反応として、彼も喋りながらだんだんと眠気を覚えたようだった。

「…うん、そうする。」

彼がすう、と穏やかな寝息を立て始めたのを確認してから、彼女は電極のスイッチを入れ直し、彼の体を背負った。




「あ、」

インデックスは思わず声を上げた。

少年の背に背負われて前もよく見えぬままここに来たので、完全記憶能力を持つとはいえ正確な現在地が分からず、誰かに助けを求めに行っても迷ってしまう可能性があった。だからといって部屋に戻ることもできなかった彼女は、途方に暮れたようにオートロックの直ぐ外側に座り込んでいた。
そんな彼女が誰かが近付いてくる気配に顔を上げると、オートロックの自動ドアから出てきたのは意外な人物だった―くうくうと気持ちよさそうに寝ている少年を、当たり前の顔をして背負った一方通行である。

「ぐんはは、どうしたの?」

ついさっきは死人かと思うほどに酷い顔色をしていた筈の一方通行は飄々とした様子で、逆に少年は赤子のように寝入っている。彼の体に大きな怪我はないが、それでも全身に細々とした掠り傷のようなものが見えた。

「無茶しやがったから、念の為病院に連れてく。」

一方通行の一言で、聡い彼女は自分があの部屋を飛び出してから起きたことを大まかに察したらしい。少年がそうと知らずに魔術を使用してしまったのだろうこと、それによって一方通行は回復したのだろうこと。

「インデックス。途中まで送ってってやるから、これ、返しといてくれ。」

一方通行はインデックスに妙に可愛らしいチャームの付いた鍵をぽいと投げて寄越した。「誰に」返しといてくれ、とは明言しなかったが、何となく予想はつく。
そもそも鍵なんぞなくてもセキュリティを突破して部屋に入ることなぞ造作でもない彼女は、この部屋に来たときも当然不法な侵入方法を取ったのであるが、何故かリビングのテーブルにはこの鍵が置かれていた。土御門のものだとは思うが、暫くはここには来ないとでもいう意味だったのだろうか。しかしその態とらしさが彼女には妙に厭味ったらしく感じられたので、インデックスを介して返却することにした。




それから十数分後のことである。とある病院の診察室で、優秀な医師が何とも渋い顔をしていた。

「色々突っ込みたいところはあるんだけど、」

「先ず最初に、君の退院手続き完全には終わってないんだけどね。」

気持ちよさそうにくうくうと寝息を立てている第七位を背負って来た第一位に対して、冥土返しはなるべく分かりやすく嫌味を吐いた。

「俺はいいからこの馬鹿見てくれ。」

そんなもの意にも介さないというふうに彼女は診察台に転がした―本当に転がしたとしか言いようがなく、とても重病人に対する扱いには見えなかった、というのが冥土返しの証言である―少年を睥睨した。彼女なりに心配しているからこそ、この不機嫌な態度であるのだということが、この医師のような彼女と親しい人間には辛うじて分かるというレベルである。

「何があったのかは訊かないけれど、」

そう前置いてから、医師は彼なりの診断を述べた。

「君の応急処置は適切だったのだと思うよ。これ以上のことは僕にもできなかっただろう。更に言えば、今から僕に預けて貰えたところで大した治療はできないと思う。」

「生活に不便を感じる箇所に対するサポートはできるけど、完治を早めることはできないだろうね。極論を言えば介護はできるが、治療はできないといったところかな。」

医師の提案は非常にシンプルだった。彼に対する治療は難しい、自然に治癒するだろう。しかし暫く生活には不便があるだろうから、そちらのサポートはさせてもらうよ、というほどの意味である。

「まあ、彼は病院があまり好きでないみたいだから、起きたら家に帰るとか言い出すかもしれないね。」


以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090

おい
セロリって今失踪中の筈だよな



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10039

何当たり前のこと言ってんだ
お前ダイエットのし過ぎで頭まで馬鹿になったのか



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090

いや
でも確かに廊下でセロリとしか思えない白髪をちらと見かけたんだが

つうか馬鹿って言うな馬鹿って
何かこのやりとり前にもやった気がすんぞ



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14889

天然の白髪は珍しいけど脱色してる奴はいるだろ
人違いじゃね?

それともあの特徴的な服とか着てたのか



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090

いや
何人か人がいてその向こうに後ろ頭だけ見えたから
そこんとこよく分かんなかったんだよ

そんときの視覚情報共有するから誰か解析してくれね?

http::///misaka.uploda.190901234567890.jpg



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20000

セロリたんだな



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14510

俺のセロリたんです



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka18264

うむ
間違いない



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka17600

何で俺より解析早いんだよおまいら…



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka13577

セロリへの歪んだ愛情の成果だろうな…



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090

でもセロリ何で病院にいるんだ?
もしかして失踪してたのが家帰って来たとか?



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10032

いやそんな情報誰も受け取ってないけど
家帰って来てたら上位個体か末っ子から報告あるだろ?



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090

あるぇー?
じゃあ俺が見たのは見間違いか



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10039

いや
一方派個体がセロリだって断定したんだから見間違いはねえだろ
お前アホか
ダイエットのし過ぎで(ry



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20001

あの人が病院にいたってどういうこと?



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10039

あっ



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14889

運営様ちーっす



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka17600

運営様お疲れさんっす



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka19090

やっぱり運営様も知らないの?
じゃあ人違いだったのかな



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka17600

だから一方派個体が挙って人違いじゃないって断定してただろうが
何でそこループするんだよ



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20001

ちょっと誰か早く調べてきて
病院にいたってことはまた何かあったのかもしれないし



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10032

そりゃそのつもりだけどさ
19090号がちらっと見たってだけじゃ
今病院内にいるかどうかも怪しいんだが



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14889

病院にいたってんならカエル医者が何か知ってんじゃねえの?
誰か探ってこいよ





冥土返しが少年のために部屋を用意してくれるというので案内の看護師について行ったところ、つい数日前まで自分が使っていた部屋に通された。自分の治療から逃げ出した患者に対する冥土返しなりの嫌味かとも思ったが、この部屋のある5階は特殊な病室が多くてあまり人通りがなく、この病院の中でも特別静かなフロアであるから、同時に少年に対する気遣いのようなものも感じられた。
ベッドに寝かされた少年の様子を見てほっと一息を吐き、付き添い用の椅子に座ろうとしたところ、案内の看護師が備え付けの丸椅子ではなく、背凭れのあるパイプ椅子を持ってきた。よく見かける顔であるから、彼女が背凭れなしに長時間座っていることが難しいのを知っていたのであろう。彼女は物言わぬ黒子のようにベッド脇にパイプ椅子を据え付けると、にっこりと笑って部屋を出て行った。
安っぽいパイプ椅子ではあるが、疲れていたのだろう。深く腰を掛け背中を預けると、俄に眠気に襲われた。

しかし、彼女が寝入るよりも先に扉越しに廊下側から妙な気配を感じたため、彼女は眠気をおしてその気配の主に声を掛けた。

「こそこそしてねェで入って来い、」

「10032号だろ。」

彼女が声を掛けると、する、とごく静かにスライド式のドアが開いた。


「気配に気付かれるのはまだいいとして、何故気配だけでこのミサカだと分かるのか腑に落ちません、とミサカは不満を露わにします。」

「お前のは分かりやすいンだよ。」

椅子に座ったまま、彼女は薄い唇の端を片方だけ持ち上げて笑った。嘗ては威圧的で攻撃的に感じたその表情は驚くほど柔らかくなっており、悪戯っぽい子供のように愛らしくすら見えた。
ほんの数ヶ月でこんなにも表情が変わるというのだから、やはり彼女は人形でも科学の結晶でもなくて、元より人間であったのだろう。自分たちは未だ自然に笑うことができないから、それを酷く羨ましく思った。「それを羨ましく思えるのなら、ミサカたちはやっぱり人間なんだよ、ってミサカはミサカは言い張ってみる」―いつか幼い上位個体が願うように祈るように言った言葉を、10032号も心の中で繰り返した。

「分かりやすいとは具体的にどういうことでしょう。後々のために参考にします、とミサカはアドバイスを求めます。」

「そンなン後にしろ。別の用事があったンじゃねェのか。」

10032号は不本意ながら彼女の言葉に従った。本題が別にあったのは事実だし、後にしろ、というからには本題を済ませた後なら答えてくれるのだろうと思ったからだ。彼女は妹達に対してそういった言葉だけの逃げを使わない。

「では先ず、上位個体に頼まれたお使いから済ませましょう。」


「どこに行ってたのかとか、何をしていたのだとか、そういった細かいことは訊きません。もう体は何ともないのですか、家には帰って来てくれるのですか、とミサカは矢継ぎ早に訊ねます。」

「もう何ともねェよ、体の方は。滝壺から聞いたのか。」

「…家には、帰りてェところだが、この馬鹿がなァ、」

彼女はベッドで寝息を立てている少年の方をちらりと見た。10032号はその能力で、彼の心拍も呼吸も、その他様々な生命反応がいつもより酷く弱いことを認識していた。寝顔は穏やかそのものに見えるが、バイタルサインだけで判断するのであれば少年のそれは不治の病に冒されて長いこと入院している子供のようである。

「第七位はどうしたのですか、とミサカはさして興味がないながらも話の流れに沿って訊ねます。」

彼女はあまりにも正直な10032号の物言いに対して、ほンとその口調不便だなァ、と呟いてから質問に答えた。

「俺を助けてくれたンだ。こいつがいなけりゃ、俺は今頃ここにいられなかった。」

10032号も打ち止めと記憶を共有しているから一方通行の身にどんな危険が迫り、どのような助けを求めていたのかは大まかに理解している―一方通行が恐らく魔術の助けを必要としていたこと、魔術とは能力者が使えるものではないということ、今第七位の少年が病弱な子供のように弱り果てていること―そこから導き出せる可能性というのは然程多くない。

「ついていてあげたいのでしょう?とミサカは一方通行に確認します。」

「そりゃあ俺のせいだし…、でも、ガキどもや黄泉川にいつまでも心配かけてもいらンねェだろ。」

彼女は、自身が少年を心配するのと同様、今も自分を心配している人間がいることを理解していた。打ち止めは今10032号と感覚を共有しているから一方通行の様子が伝わっているが、それでも肉眼で確認することによる安心感に勝るものはない。一方通行もそれを理解しているのだろう、少年に付き添っていたいという一方で、家族に無事な姿を見せる必要があるとも考えているようだった。

「第七位についていてあげて下さい。上位個体もそう言っています、とミサカは上位個体の言葉を代弁します。」

「…明日にゃ、家に顔見せに帰るって、伝えてくれ。」

彼女はほっと息をついて、パイプ椅子の背凭れにぐったりと寄りかかった。体が不自由であるとは言え、ソファーならともかく、椅子に埋もれそうになるほど体を預けることは珍しい。


「そう言えば本題はこれで終わりですが、」

10032号は思い出したように言った。

「このミサカの気配が分かりやすいというその理由を教えてくれませんか。普段から気配を消すことには慣れているつもりなのに、あんなにあっさりと気付かれたのは癪です、とミサカは話題をスタート地点に戻します。」

はァ、とうんざりしたように溜息を吐いてから一方通行は質問に答える。

「生きてる人間なんだから、気配がなくなるわけねェだろ。オマエがここにいるってことを、オマエ自身が隠そうとして何になるンだ。」

「そういう、ものでしょうか、とミサカは一方通行の言葉を肯定しかねます…」

「そォいうもンだ。別にこれ以上学園都市第一位と殺し合いをしなきゃなンねェンでもねェ、学園都市の言いなりに後ろ暗いことやらされるわけでもねェ。気配を殺すなンて芸当、オマエたちにはもう要らねェだろ。」

「そう、でしょうか、とミサカは、」

きっと欲しかった言葉なのだと思う。自分たちは、自分は、この言葉を待っていたのだと思う。でもそれを素直に受け止めることは難しい。
自分たちが、自らをクローンとか学園都市の創造物であるとか以前に、生きている一人の人間なんだと主張したところで、それを受け入れてくれる人間は極僅かしかいないだろう。目の前の学園都市第一位だとか、自分たちの遺伝子提供者、いつか自分を救ってくれた無能力者、自分たちを容易に見分けてくれる記憶力に優れたシスター、この病院の優秀な医師、上位個体が世話になっている女教師―こういった人間を除いた世間一般には、結局自分たちは学園都市第三位を模した人工物にしか思われないのだろうということも、10032号は理解していた。


「そうだ、」

それでも彼女は落ち着いた口調ではっきりと肯定する。10032号の迷いを拭い去ろうとしてくれているのだろう。

「未だオマエたちは堂々と街中を歩くことは難しいかもしれねェ。それがいつかできるようになるとも、そうさせてやるとも俺は言い切れない。だけどせめて、俺の前ではフツーの人間でいろよ。」

その言葉の後ろに、お願いだから、と続いたような気がしたのは、10032号だけが感じたものだったのだろうか。少なくとも10032号には、一方通行は殺し合いなんてしていた頃の実験動物に戻らないでほしいと、懇願しているのだと感じられた。

「17600号は今だって気配を消して人をストーキングすることに精を出していますが、とミサカは反論を試みます。」

「あいつの場合はそれが個性だろ。オマエそれを売りにしたいわけ?」

一方通行が言う通り、10032号にとって気配を消して誰かに近付くというのはあくまで科学者たちにインプットされた「道具」であって、17600号の場合のような自身を表す記号ではない。そもそも17600号の気配を殺す技術は科学者たちに植え付けられたプリインストールではなく、後天的に身につけた紛れもない彼女自身の特技であって、10032号が持つ「道具」とは異なるものである。それこそが17600号を形作る個性だという一方通行の言葉に誤りはなかった。

「とにかく、俺の前でこそこそすんな。却って気が散るっつーの。」

裏を返せば、自分の前では堂々としていろ、という意味なのだろう。壮大な愛の告白のようにも聞こえたのは、10032号の思い違いだったのだろうか。しかしその言葉を吐いた本人が纏う雰囲気は決して気負ったものではなく、親しい友人に極々有り触れた頼みごとをするように自然であった。


10032号が言葉を失っていたのはほんの数秒のことだったろうか。沈黙は一方通行の、くァ、という猫のような欠伸で途切れた。打ち止めや番外個体との感覚共有で彼女もそういった仕草をすることを知っていたが、10032号が一方通行の欠伸を目にするのは初めてだった。

「疲れているのですか?付き添いたい気持ちも分かりますがせめて一眠りしてみては、とミサカは一方通行に睡眠を勧めます。第七位に何かあっても同じ部屋にいれば寝ていても分かるでしょう。」

「…そうする。」

どこかぼんやりとした様子で彼女は頷いた。徐ろに立ち上がり、少年が寝ているベッドの掛け布団を持ち上げる。10032号は咄嗟に彼女が何をしようとしているのか理解できずにぼんやりとその様子を見ていたが、一方通行の足がベッドの端に乗り上げたところで慌てて声を上げた。

「ちょ、ちょっと、待って下さい。あなたは何をしようとしているんですか、とミサカは慌てて問い質します。」

「何って、寝ろって言ったのはオマエだろォが。椅子で寝ても大して疲れ取れねェし。」

「付添人用の簡易ベッド借りてきますから!子供じゃないんだから第七位だって添い寝されても困るでしょう!とミサカは第一位を何とか押し留めようとします!」

そうは言いつつも、10032号には一方通行を止められるとは思えなかった。付添人用のベッドを借りれるのはこの病室から随分離れた場所で、当然彼女はそこまで行くのを面倒臭がるだろうし、自分が借りに行ったところで戻ってくるまでに彼女は第七位のベッドに潜り込んでいるだろう。

「知らン、とにかく俺は寝る。」

結局眠気によって機嫌が急降下した彼女に押し切られる形になって、10032号は何も見なかったことにして病室を去った。

本日の投下はここまでです。

勝手に妄想膨らんでいく土百合とか、このスレの最初に投下したソギーVSオッレルス再戦ルートの続きとか、長さ的に最早このスレに投下すべきではない(しかし別スレ立てるほどでもない)小ネタが溜まっているんですが、そういうのってどうやって消化するのがいいんでしょうか。ロム専でアカウント取得したきり何もいじってない支部とか使えばいいんだろうか。

おつ
>>477
PCのせいじゃなくてSS速報自体が死んでた

乙です。
支部で書くなら読みにいくよ!

いつもどもです。

>>491
そうなんですか?自分のPCが不調だったのもマジな話で、修理に出してたんです。一部の設定がぶっ飛んだままで、未だに若干苦労しております。

>>493, 494, 496
どもです。支部は一度も投稿したことがないので、先ず使い方を学習するところから始まる予定です。なんで今直ぐどうこうって話ではないのですが、このスレ読んでないと意味が通じないネタを当たり前のように投稿していいものかどうか…支部からリンク貼ったり、逆にこのスレからリンク貼ったりしていいものなんか?誰か偉い人教えて下さい。

こんにちはー、>>1ですよー。垣根がちょっかいかけてきた辺りから長らく続いてた、イチャラブに乏しいシリアス展開も今日で一段落ですよー。
今日投下して、幾つか小ネタ挟んで、それから新章?的なものを開始する予定です。

では今日の分どうぞ つ旦


「一方通行には会えたかい?」

冥土返しは廊下で偶然行き会った10032号に訊ねた。19090号が一方通行らしき人物を病院内で見掛けたらしいが何か心当たりはないか、と10032号が彼の居室を突然訪ねてきたのはほんの30分ほど前のことである。

「ええ、ありがとうございます、とミサカはぺこりと頭を下げます。」

「しかしまさか打ち止めにも報告せずに先ずこの病院に来るとはね。」

彼女が第七位を背負って彼の診察室に現れたとき、少なくとも打ち止めか黄泉川愛穂のどちらかには状況の報告を済ませていると医師は思ったのだ。まさかその十数分後に彼の診察室を訪ねてきた10032号が何の情報も持っていないとは予想もしていなかったわけである。

「それだけ、第七位が大切だということでしょう、とミサカは推測します。」

「君たちはそれに対して、悲しいだとか、悔しいだとか、考えないのかい?」

淡々と答える少女に、医師はいっそ嫌味にも聞こえる質問をする―悪い言い方をすれば、その分君たちは軽んじられているとも言えなくはないのだと。辛い感情であるかもしれないが、感情に乏しい彼女らに自覚を促すことは子供の成長の過程に必要なことであると信じるが故の発言だった。

「分かりません、もしかしたらミサカたち自身が自覚しないところでそういった感情もあるのかもしれません。」


「あの日だってそうでした。ミサカたちは、ミサカたちが生きたいと願っていることにすら気付いていなかった。」

「そういった無自覚が、末っ子を苦しませているのも分かっています。あの子はミサカたちが気付かない、ミサカたちの感情そのものです。あんな極端な行動を取るのも、第一位に気付いてほしいという以上に、ミサカたちに気付いてほしいと願っているが故でしょう。」

そこまで自分たちのことが分かっているのというなら、もっと自身の感情を的確に表現する方法だってあるのではないか―そう思っても、医師はそれを言葉にできなかった。それを彼女たちに問うのはあまりにも酷すぎる。
泣くだとか、四肢を力一杯振り回すだとか、赤児にすらできる感情表現すら許されずに生まれた彼女たちには、それは酷く難しい。それと同時に、彼女たちにそれを教えるのは少なくとも自分の仕事ではないのだろう、とも思う。

「そもそも悲しいとか、悔しいとか、ミサカたちにはよく分からないのです。最初、壊されて奪われるために作られたミサカたちには、不要な感情だったのでしょう。」

「でも、きっと寂しいのだと思います。9971人もいるのに。ミサカたちは寂しい。」

「誰かに必要とされたかった。ミサカたち以外の、誰かに。」

「じゃあ、今は寂しい?」

「ほんの少しだけ、とミサカは心境を吐露します。」

10032号は医者が何も言えないでいる間に、薄暗い廊下の向こうに消えていった。




「え、一方通行は見付かったじゃん?」

今日も今日とて高校教師と警備員の二束の草鞋に忙しい黄泉川愛穂が帰宅したのは、お世辞にも早いとは言えない時間だった。

「そうみたい、それで今病院にいるって、ってミサカはミサカは報告してみる。」

「病院?また怪我でもしてたじゃん?」

彼女はさして驚いた様子もなく軽い口調で訊ねた。打ち止めの口振りからして、怪我などを負っていたにしても大したことはないのだと判断したのだろう。
一方通行が突然家を開けることは珍しくなく、止めろと言っても聞くわけがないので黄泉川にはある程度諦めがついていた。心配してもキリがないから信じて待つことにした、というのは第3次世界大戦中の彼女の言である。それでも今回は原因不明の症状に苛まれる中の病室からの脱走という少しばかり深刻な状況だったために、いつもより不安は大きかったのだけれど。

「第一位が怪我したんじゃなくって、第七位だってさ。」

「それでずっとこの子拗ねてるのよ。」

ソファーで俯せになって不貞腐れている番外個体がそう言うと、芳川が茶々を入れるように続けた。彼女が拗ねているのは、自分が怪我をしたわけでもないのに少年のために彼女が病院に泊まりこんでいることが気に食わないからなのだろう。


「どうせミサカは子供ですよー。でもさ、ミサカたちだってヨシカワだってヨミカワだって、第一位のこと心配してたんだよ。そりゃ第七位が気になるのも分かるけどさ、放ったらかしは気に喰わないよ。」

確かに無事に帰って来たのであれば、病院で少年に付き添っていたい気持ちがあっても家族の誰かしらに連絡を入れるべきであろう。聞くところによると、無事の報せは彼女らの姉である10032号と呼ばれる少女から齎されたものであるらしく、打ち止めですら直接彼女と言葉を交わしたわけではないらしい。
「ミサカ」が心配していたのではなく、「ミサカたちもヨシカワもヨミカワも」心配していたと言った番外個体は、一方通行の無事の報せを受け取りながら何となくすっきりしない面持ちの彼女ら全員の感情を代弁していた。

「でも、明日には顔見せるって言っていたんでしょう?」

「顔見せるって何さ、帰ってくるわけじゃないの?ちらっと顔見せてまた第七位の付き添いに戻るつもりでしょ、第一位。」

黄泉川は同居人たちの会話を聞きながら、炊飯器の中に一人分だけ残っていた夕飯を食器に手際よく盛り、そんなことよりこっちが大事と言わんばかりに缶ビールをぷしゅ、と小気味良く開けた。

「何か、あの子は良い意味で家に居付かなくなったじゃんね。」

くい、と軽くビールを口に含んでから彼女は呟いた。

「良い意味って?」

「元は不良娘だったけど、良い友人を見付けて活発になったって感じじゃん。結果的に家にあんまりいないのは同じだけど。」

「まあ、不良の家出とは違うわね、最近のは。」


以前は1人で何やら危なっかしいことに首を突っ込むことが多かったが、最近では同じように危険なことに関わっていても信頼できる友人たちと助け合っているのだろうと想像できる。
大人に愛され守られるという経験を経た彼女が次に必要としたことは、同年代の子供達に認められることだったろうから、考えようによっては最近の家に居付かない様子は極々当たり前の更生段階を経ているとも言える。様々な子供の成長過程を見てきた女教師にしてみれば、大騒ぎするようなことではないのかもしれない。

「大人たちは何か納得してるけど、ミサカは全然すっきりしない。」

「逆にあんたたちの成長のためには、あの子がいない生活が必要だと思うじゃんよ。いつまでもべったりではいられないじゃん。」

不貞腐れたままの番外個体に対して、彼女は諭すように言う。一方通行を殺すか、もしくは彼女に殺されるか、そのどちらかしか想定されずに生まれた彼女は妹達の中でも断トツに彼女への依存度が高い。
妹達は失敗こそしたものの量産型能力者計画という一方通行とは無縁の存在意義を持って生まれたし、打ち止めに至っては絶対能力進化実験にすらそもそも関わりがない。彼女が一方通行を愛するのは生まれた理由によるものではなく、死にかけたところを救われたという後天的な経験によるものだ。
殺すか殺されるか、というかなり暴力的な切っ掛けではあるが、結果的にどの妹達よりも番外個体は酷く一方通行に依存している。

「ミサカは、べったりでいたい。」

「赤ん坊みたいね。」

「赤ん坊だもの、ミサカ。」

「あの子の独り立ちと違って、あなたのは大変そうね。」




少年は夢を見た。
その夢の中では自分は幼い子供の頃に戻っていて、何故か殺風景な病室で包帯やらギブスやらを巻かれていた。

ああ、あの日の夢だ。

きっとこれから自分と同じくらいに幼い彼女が現れ、見舞いに来たというのに酷く沈鬱な面持ちで何も話さずに30分以上も過ごすことになる。退院した後も似たような日々が続いて、ある日突然に彼女に会えなくなる―彼は自身の経験として知っていた。
いやだなあ、夢の中でだってそんな思い、もう二度としたくないのに。




おねがい、いかないで。
おれ、
はしりまわるのもとびまわるのもとくいだし、
けがしたっていいし、
だけどそのかわり、
おれにはおまえしかいないから、

どこにもいかないで。



は、

と酷く浅い息をして少年は目を覚ました。目を開けたところで視界は暗く―とは言っても彼の視力は優れていて、一般的な人間には真っ暗闇に見えるような状況でもかなり見通しがいいのだが―夢の中とよく似た病室にいることだけが分かった。
夢の中の風景は曇りの日の昼間だったような気がするが、目覚めてみるとすっかり日も昏れた夜であった。建物の外からの物音も殆ど聞こえないのだから、そうとう遅い時間に違いない。
先程まで見ていた夢と今この瞬間には何も関わりがないのだ、と自分に何度か言い聞かせ深呼吸をしてから、ふと、何故自分は病室にいるのだろうかと疑問に思った。ベッドから起き上がろうにもどうしようもなく体が重く、それ以前に四肢の感覚が酷く鈍い。体の上に覆いかぶさっている布団の感触すら覚束なくて、何かが触れていても余程強い圧力がかかっていなければ気付かないのではないか、と思うほどだった。
だから少年がその存在に気付かなかったのも仕方がなかったのかもしれない。或いは、よく知った体温とその匂いを、最早自分の体の一部のように感じ始めていたのだ、というのは些かロマンチックにすぎる言い訳だろうか。

とにかくどんな詭弁を弄するともその状況に変わりはないのだが、病院のとても余裕があるとは言えないベッドの中で、少年は愛しい少女に添い寝されていた。


「、!」

自分の隣でくうくうと穏やかな寝息を立てている少女に気付いた少年は、驚きのあまり大声を出しそうになったが、それ以上に自分の驚きがまるで声にならなかったことに驚いた。
咄嗟に、あ、あー、と風邪で喉を傷めた人間のように発声練習を試みるが、まるで音らしいものは出てこない。体が動かないことよりも、声すら出せないほどに弱り切っている自分にいっそ新鮮にすら思える衝撃を受けた。
彼女はいつからこうして自分の隣で寝ていたのだろうか。ふと不自由な体をどうにか動かして窓の方を見やると、カーテンが開けっ放しになっていた。カーテンを閉めることにすら思い至らぬ程の明るいうちに、こうして寝入ってしまったのだろうか。彼女らしくない、と思うと同時に、それだけ心を許されているのだろうかと嬉しくも思う。例えば、こんなに体が不自由な状態でなければ、思わず抱き締めてしまうだろうと思うほどに。
そうこうしているうちに、自分がなぜこんな不自由な体になってしまったのか、何となく思い出してきた。彼女を救うためであったのだから、少年はこの状態に不満はないし、後悔もしていない。でも彼女はそうでないのかもしれない―少なくとも幼かったあの日、彼女は勝手に首を突っ込んで大怪我をした自分に負い目を感じて、姿を消してしまったのたのだから。

―でも、今度は違うんだ

あのときの少女は、怪我をした自分に対してこんな穏やかな表情を見せてくれることはなかった。また壊してしまうのではないかと恐れているように、指先一本触れることすら躊躇っていた。だけれど今回、彼女は指先どころか全身をこうして寄り添わせてくれているのだから、あの日とは違うのだ、と少年が期待を抱くのも無理はない。残念ながら、そうと知らずに魔術に冒された体にはその感触を詳細に知覚することができなかったのだけれど。

ずっと、まってた。

彼女の耳元に口を寄せることすら難しい上に、声にならない声で、囁きかけた。

百合にゃんがソギーを傷つけてしまったことをトラウマに思っているように、ソギーにとっても自分の怪我が切っ掛けで百合にゃんがどこかに行ってしまったことがトラウマで。その2つのトラウマを垣根で一回抉って、百合にゃんの行方不明で再現して、最終的に払拭して、という流れが書きたかった。

あと、気が付くと妹達絡めてシリアス展開混ぜ込みたくなる病気がイマイチ治らない。>>508辺りが顕著ですが、時折妹達の「~とミサカは云々」口調を意識して取っ払っています。単に書くのがしんどいというのもあるのですがw普通の人間らしい感情に目覚めつつある感じを表現したい。あと19090号たんぺろぺろしたい。


ところで…
実はこの後の展開あんまり考えてないんだ、とぶっちゃけてみる。
いや、書きたい単発エピソードは山ほどあるんだけれど、最終的な着地点が決まっていない。もともと>>10>>43のようなバッドエンドありきで書き始めた話だったので、それ以外のルートを正直想定していなかったんですよね。エンディング決まってないからいつまでもgdgd続けようと思えば続けられるし、あと少し書いてすぱっとエンディングを設定することも可能なんだけど………。
せめてこのスレは埋めようと思っているんですが、そういう事情だから今後更新頻度がばらつくかもしれない。

乙です
とりあえずイチャイチャさせてから考えよう
まずはイチャイチャだ


好きなようにやるたまえ

俺はソギーとフィアンマの
対決をあきらめてないで

にいはお。最近はツンデレ虎ちゃんとコワモテ竜くんのアニメの無料配信見て(;゚∀゚)=3ハァハァしてた。ハァハァしたら次は削百合パロを妄想する辺り、どこまでも節操がない。

>>518
イチャイチャはさせる。メープルシロップに砂糖溶かした液体を吐き出したくなるくらいイチャイチャさせる。だけどエロエロはさせない!

>>520
アキラメロン…戦闘シーン書くの苦手なんだよ俺…


「あんたが勝手にいなくなるのなんて慣れっこだけど、せめてもう少しマメに連絡入れるもんじゃんよ。」

翌日の日が暮れた頃、女教師はふらりと帰って来た少女を受け入れた。
打ち止めは突然行方を眩ませた彼女に対する文句を言うほどの余裕もなかったらしく、安心のためか喜びのためか、こちらにがっしりと抱き付いたきり離れないので、腰の辺りにしがみつかれたまま家主と居候は向かい合っている。

「今回は説教しねェのか。」

「説教されたいんじゃん?物好きじゃんねぇ。」

「違うっつゥの。」

子供のような仕草でそっぽを向いた一方通行に対し、黄泉川は宥めるように言った。

「前の家出は戦争と時期が被ってたじゃん。血文字まで残して。それでもオマエは帰って来たから、今度からは何があったってオマエは帰ってくるって信じることにしたじゃんよ。」

家主に怒られることを想定した上で顔を見せた彼女は、それがないと知って安心したというよりも、少し不満に思っていることを伺わせる表情を見せた。怒られ、心配されていたんだということを表現されることで家族の愛情を確かめるような行為も、子供の情緒発達の上では然程珍しいことではない。これまで比較的黄泉川に口煩くされていた一方通行にしてみれば、叱られもしないことを彼女に関心を持たれなくなったことの現れのように感じるのも至極当然の反応であろう。


暫く沈黙があって、それから気不味さに追い立てられたように一方通行の方が話題を変えた。

「そォいや、番外個体はどうした。またほっつき歩いてンのか。」

「いや、あの子は、」

黄泉川愛穂が言い淀んだ。何でもきっぱりはっきりものを言う彼女にしては珍しいな、と一方通行は思った。

「あの子はあなたのやることなすこと気に食わないって言って家出中、ってミサカはミサカは妹の恥ずかしい行為をバラしてみたり。」

今まで一方通行が帰って来たことを全身で確かめるように胸元に顔を埋めて顔を上げることすらしなかった打ち止めが、それまでの行動とは打って変わったあっけらかんとした調子で言った。


「何じゃそりゃ。」

「あなたがいなくなったあと妹達に不安な気持ちが伝染して、それが全部番外個体に流れ込んできたみたいなんだよね。で、無事と分かったのに今度は面と向かって報告されないことに不満を感じてみたり、ってミサカはミサカは親切に解説。」

「そりゃ、直ぐ帰ってこれなかったのは悪かったと思うが。」

一方通行は自分に対する妹達の様々な感情が、番外個体に集積しているらしいことは朧気ながら理解していた。何で態々同胞の敵に執心しているのか未だよく理解できないが、助け合って生きていれば特別な感情が生まれてくるという理屈は分からなくもない。だから、番外個体が自身の行動に大げさなほど一喜一憂することも、なるべく受け入れようと努めていた。

「ソギイタも心配だったんでしょ?ソギイタがいなければあなたがこうして家に帰ってくることもなかったかもしれないから、ってミサカはミサカは物分りの良い子供を演じてみる。」

「演じてみるって、口にしたらオシマイだろ。」

彼女が直ぐに答えることができなかった、「家に真っ直ぐ帰らなかった理由」を打ち止めは淡々と語る。家族や妹達よりも少年を優先したことは事実であったし、彼女には打ち止めの口調を茶化す以上のことはできなかった。


「でも、こうとしか、表現ができないんだよ。ミサカたちはあなたがソギイタを優先することに心から納得できているのか、表面上そういう風に装っているのか、分からない。分かるのは、番外個体だけ、ってミサカはミサカは断じてみる。」

「なら、アイツに直接訊けばいいってか。俺が探しに行くのは構わねェけど、行き先に当てはあるのか。」

「今回は放っておいてやって欲しいじゃん。」

打ち止めと一方通行の会話に、黄泉川愛穂が口を挟んだ。口調は軽いが、懇願するような表情であった。

「はァ?ガキがこンなこと言ってンのにか。」

「だからこそ、じゃんよ。お前があの子の極端な感情表現を許すから、打ち止めや他の子達はあの子を介して感情表現することを止められないんじゃないかって、桔梗は考えてる。」

「番外個体もそれでいいって思ってる。他の子達の勘定の捌け口にされたって、アンタに可愛がられるって役得があるんなら、それでいいって思ってる。だから、アンタは番外個体を甘やかしちゃいけないじゃんよ。」

例えば解離性同一性障害などが似たようなものだろうか。不満や恐怖や怒りを発散するための別人格があれば、主人格はそういった感情から解放されて生活することができる。それどころか自身の中にそういった感情があることにすら気付きはしない。確かに妹達全体を大きな一つの人格と仮定すれば、番外個体はそういった感情の「捌け口」に相当する一人格なのだろう。


「そンなこと言ったって、一緒に暮らしてンのに冷たく当たれってンのか。」

一緒に暮らしている以上、彼女の感情表現を一切合切無視するのは難しい。甘やかすという以前に、自分の生活に支障を来す可能性もある。そういった不安も込みで訊ねた彼女に対して、黄泉川は意を決するように、強い口調で言った。

「違うよ。だからね、」






「お前、この家を出る気はないじゃんか?」





「、は?」

彼女は形の良い細い眉をぎゅうと寄せて、怒っているのか、不満に思っているのか、とにかくいい感情は持っていないとはっきり分かる表情を見せた。

「オ、マエ、俺を追い出したいってか、」

明確な表現ではないものの、母親のように慕う女教師の口から出た拒絶にも似た言葉に、息を詰まらせながら彼女は答える。親に捨てられる瞬間の子どもとは、こんなものなのだろうか、とどこか冷静に彼女の様子を伺っていた女教師は、そんなことはないんだと抱き締めてやりたい衝動にかられていた。
彼女は以前から一方通行に対して母親のように振る舞っていながら、時折突き放すような瞬間もあった―本当に、「時折」であったけれど。本当の血縁でもない、長い付き合いがあるわけでもない自分にできることの範囲をはっきりと線引していた。優しい彼女は目一杯甘やかしてやりたい一方で、それが彼女のためになるとも限らないことを理解していた。
もはや理解してくれる友人を複数得られた今、賢い彼女には自分のような「保護者」が必ず必要ではないことも弁えていた。この愛らしい娘から、自分から離れていく覚悟を既に決めていた。

「勿論、違うじゃんよ。」

「もともとこの街の子供は学生寮で一人暮らしか、精々同年代の子供と同室の寮生活が基本だ。こんな風に年代の違う人間が寄り集まって暮らすことの方がよっぽど珍しい。」

「この家にあんたを住まわせてたのは、トラブルに巻き込まれがちなあんたを守るのと同時に、人と助け合うことを覚えて欲しかったからじゃんよ。」

能力が万全であった頃にすら、スキルアウトたちの小競り合いに巻き込まれたり、腕試しのつもりの不良に絡まれたりすることは珍しくなかった。彼女が体を壊した前後は特に酷く、幾ら妹達の支えがあったとしても嘗ての住まいではまともに生活することはできなかっただろう。
だから不本意ながらも彼女は黄泉川との同居を受け入れたし、家主がそれ以上のことを考えて自分を家に招き入れたなどという可能性には考えが及ぶことはなかった。


「あんたの体はもう、誰かの助けなしには生きていけない。でも、そうなったばかりのあんたには、それを受け入れることが難しかっただろうから。」

「あんたはほんの半年程度でその体を受け入れられるようになっていた。助けてくれる友人も得た。だから、この家はもう必要ないじゃんよ。」

それは酷く無責任にも聞こえただろう。受け入れて、大切にして、甘やかして、それで今こうして捨てようとするのだ。或いは気難しい彼女なら、一生口も聞いて貰えぬほどに嫌われるかも分からないと、黄泉川は覚悟していた。事実、彼女は言葉にもできぬというほどに目を見開いて、何かをこらえるように薄い唇を噛んでいた。

「もちろん、直ぐに出てけってんじゃない。未だお前は、一人で暮らすことに不安があるだろうし。実際、リスクもあると思う。」

「でも賢いお前なら、いつまでもここで暮らしていられるだなんて、思ってなかっただろ。そのタイミングを、お前にちゃんと見極めて欲しいじゃんよ。」

結局その日、一方通行はそれ以上何も言わずに、少年に付き添うためなのだろう、病院に戻っていった。




「オマエ何やってンの?」

「天井のタイル数えてる。体動かないから、やることなくって。」

家主に告げられた言葉と自分の気持ちに折り合いをつけることができなくて、ぼんやりと、それこそ今だったならスキルアウトに隙を見せたかもしれないと思うほどに呆然としながら、病院に戻ってきた。
「戻ってきた」―奇妙な言葉だ。結局自分は、どこが戻るべき先なのか、未だによく分かっていない。結局、あの女教師が言うように、いつかあの部屋を立ち去るべきなのだろうと、初めから心のどこかで折り合いをつけていた自分自身に気が付く。戻るべき場所はあのマンションではないし、この病室でもないし、況してや障害を負って以来必要最低限の荷物を取りに行くことしかしていない嘗て住んでいた学生寮でもない。
そんなもやもやした感情は、指先を動かすことすら難しい少年が天井を親の敵でも睨みつけるように険しい顔で見詰めていたことで、どこかに吹っ飛んでいってしまった。自分も大概無愛想だと言われるが、何かに熱中しているときの彼も普段の人当たりの良さなどどこかに行ってしまったように気難しい表情を見せる。

「具合はどォだ。」

「自分では体が全然動かないから治ってる気はしないんだけど、冥土返しはまるで逆のこと言ってた。体が治す方に集中しているから、動かす方にエネルギーを回してないらしい。」

「直ぐに、家の中歩くくらいなら難しくなくなるって言ってたから、そうしたら退院させてもらおうと思う。」

そうしたら、と言うよりかは、今直ぐにでもそうしたいのだと誰の目にも分かる表情で少年は言った。少年のそういった子供っぽさ、あどけなさを笑うように、彼女はベッド脇、もはや定位置となってしまったパイプ椅子に座ってはァ、と溜息を吐く。


「そォは言ったって、不便さは暫く残るだろ。一人暮らしじゃあ休まりゃしねェ。」

「それ、お前が言うのか。ちょっとは世話焼いてくれるかなぁ、って期待してたんだけど。」

「ここにいたってオマエの家に行ったって俺のすることは同じだから、構わねェけどよ。オマエはこっちのが楽だろォが。」

そうかも知れない。彼女だって病院にいた方が他の人の手を借りられるし、立ち上がるのを補助するにしてもその後歩くのに肩を貸すのにも、狭い学生寮より広い病棟の方が楽に決まっている。家の中を歩けるようになるということと、それに助けが要らなくなるということはイコールではなくて、そういう状態まで回復しても誰の手も煩わせずに生活ができるわけではないと少年も理解していた。

「だけど、病院は苦手だから。」

「オマエ注射とか薬とか嫌いだっけ?昔っから研究者が差し出すそォいうの嫌っちゃいたけど、アレはどっちかっつゥと大人への反抗心だと思ってたンだが。」

「別に注射も薬も平気だけど、っていうか注射の針って俺の肌通るの?って感じだし。でも病室は嫌い。お前がどっか行っちゃう気がするから。」

今日みたいな薄曇りの日だったかもしれない、季節は違ったと思うけれど、屋内に入ればそんなことは実感として残らない、そもそも彼らは季節の変化に疎い体をしていたし、この病室から見える景色だけでは季節を特定することは難しい。とにかく今日みたいなある日、彼女は、少年の元を去ることを決心した。
最早その時自分がどんなことを考えていたのか、少年にも少女にも分かりはしない。何度もその場面を夢に見て、その度に少しずつ違う感情を抱くから、そのどれがそのとき本当に感じたものだったのか分からなくなっているのだ。ただ、あのときの選択肢をもう一度選び直せたなら、と何度も思ったことだけは変わりがなかったけれど。


「別に、今直ぐに家に帰れなくたっていいんだ。お前の言う通り、未だ一人で暮らすには無理があるだろうし。いつか、いつかそうなったらいい、っていう夢物語のようなものでいい。」

「もしかしたら叶わない約束になるかもしれない、でも俺はきっとそれを支えにずっと生きていくことができるから。」

「何言ってンだ、オマエ。冥土返しもオマエは治るって太鼓判押してるンだろォが。」

「そういうことじゃないんだ。俺が欲しい確信は、そんなんじゃない。」

「?」

少年の中で、単に病院から家に帰るという話がどんな飛躍を見せているのか、彼女には分からなかった。首を傾げる彼女に対して、不自由な体をどうにか動かして、仰向けになったまま少年は目を合わせようとする。東洋人でも虹彩は多少茶色みを帯びていることが多く、真っ黒ということは滅多にないのだけれど、彼の目は不思議なほど黒く、それでいて澄んでいた。






「一緒に暮らさないか、百合子。」





「今直ぐでなくたっていいんだ、1年後でも2年後でも、いっそ10年後でもいい。いつか、なんていう口約束だって構わない。」

「一緒に暮らそう、何も言わずに、ただ頷いてくれるだけでいいから。」

真剣な少年の面持ちを見て、彼女はいっそ恐ろしさすら感じた。彼は自分が嘘でも頷いたなら、それで報われるだとか、そう思っているのだろうか。それは酷く寂しい。彼だけではない、報いてくれると期待されるわけでない自分もどうしようもなく悲しい。

「いつか、とか、オマエ、そンな控えめなやつだったっけ。」

声が震える。声だけで済めばいいが、ほんの少し気を緩めれば体ごとその震えを表現してしまいそうだった。

「欲張っていいんなら、そうするけど。」

「好きなようにしろよ。つゥかオマエ、タイミング悪すぎ。」

黄泉川愛穂に家を出て自立することを勧められたその日に、彼に一緒に暮らそうと誘われるだなんて、お伽話にしたって都合がよすぎる。少年と助け合って生活することは、大人に保護されるのではない暮らしをして欲しいと言っていた彼女の希望にも外れていないのだろう。どちらにしろ、この体では誰かの助けなしに暮らせないだろうと、彼女自身も言っていたし。それにしたって、自分から頼る先を探すより前に声が掛かるとは何とも傑作だ―けらけらと腹を抱えて笑う少女の様子を少年が不思議そうに見ていた。

「?とにかく、よく分かんないけど。」

「欲張れって言うんなら、俺が退院したら、一緒に暮らすか。」


スレタイ回収に半分以上スレ消費するとは思ってもいなかった。自分にお疲れ様を言いたい。最早読者の皆様方もスレタイ忘れてるんじゃないかって思う。この機会に思い出していただけると嬉しい。

次はいきなり同棲生活とか、そんな都合のいい話はない。小ネタ挟むから。焦らすから。


変態ネタに焦らされてますが
どうしたらよいでしょうか

こんばんは、週末の海外サッカーを観戦しつつの小ネタ投下です。大分以前にリクいただいた、ドM春厨変態×ロリ百合子。というわけで>>539は今夜救われます。

こんばんは、週末の海外サッカーを観戦しつつの小ネタ投下です。大分以前にリクいただいた、ドM春厨変態×ロリ百合子。というわけで>>539は今夜救われます。

あ、サーバーのレスポンス遅くって2回投稿してしまった…



【10033号の場合】

ろり:あれ、オマエれーるがン、だっけ?あいつとそっくり。

えむ:そうですよー、ミサカはその人と姉妹なのです、とミサカはにじりにじり幼女に歩み寄ってみます。

ろり:ふゥン、ずいぶンそっくりなしまいだなァ。

えむ:そんなことは置いておいて、あのですね、一方通行にお願いがあるのですが、とミサカは徐ろに土下座してみます。

ろり:どげざだ、どけざだ。おれ、はじめてみた!

えむ:初めてついでにですね、こう、土下座しているミサカを踏んでみたりはしませんか、とミサカは願望を口にします。

ろり:ふむ?なンで??

えむ:ご褒美だからです、とミサカはきっぱり言い切ります。

ろり:へンなごほォび。ふむってどこを?

えむ:頭、ですかね。じゃなかったらこう横っ面を、ぱーんってはっ倒してくれるのもありです、とミサカは多様なバリエーションを示します。その場合には某兵長ばりのインサイドキックでオナシャス。

ろり:それもごほォびなのか?

えむ:いえす。マゾヒストの世界は複雑なのです、とミサカは大雑把なコメントで説明を放棄します。

ろり:まぞひすと?ひぎゃくしこうもってンの、オマエ。

えむ:幼女の口から被虐嗜好なんて出てくるとは…そのギャップがまた堪らんですはい、とミサカは全く答えになっていない言葉を口走ります。

ろり:よくわかンないけど、こォいうやつとかかわりあいになっちゃいけないってぐんはがいってたきがする。

えむ:第七位の言うことを聞く素直ないい子だと…!?とミサカは新たな一方通行の側面を発見して身悶えます。

ろり:なンかめンどくさいからほっておこ。

えむ:放置プレイもまた乙です、とミサカは懲りずに興奮を覚えます…!


【14510号の場合】

ろり:あ、またおンなじかお。

はる:同じ顔だと思うのに、別の人だと認識しているわけですか?とミサカは幼女に確認をとります。

ろり:でも、さっきのとちがうやつだろ?なンかいろいろちがうぞ、うまくいえねェけど。

はる:はあ、こんなちっさい頃から一方通行は一方通行だったのですね、とミサカは感心します。

ろり:オマエはわりとふつう?

はる:何が普通かはよく分かりませんが、一方通行への愛は普通ではありませんよ、無差別級でベルト保持できると自負しております、とミサカは胸を張ります。

ろり:あ、ふつうじゃなかった。じゃあオマエもさっきのやつみたいにおれにふンでほしいとか、そォいうのあンの?

はる:あ、あのですね、ほっぺちゅーしてもいいですか、されるのでも構わないんですが、とミサカはMNW内の野次を無視しながら正直な気持ちを伝えます。おい10032号「ガチ百合www」とか笑ってんじゃねぇよ。

ろり:そォいうのはけっこンするまでダメだってきはらくンいってた。

はる:第七位の次は木原数多かよ!?幼女素直だな、とミサカはミサカも何か教えこんだりできるのかね、と思案してみます。

ろり:おれにぶンなげられてもへェきなやつのいうことなら、たまにきく。

はる:ぅゎょぅι゛ょっょぃ。ってえか判断基準そこなの?耐久性なの?とミサカはぶん投げられたくないのでそーっとこの場を立ち去ります…。10033号と違ってマゾヒストではないですし…。


【20000号の場合】

ピーー:というわけで満を持しての登場、変態こと20000号ですよグヘグヘ、とミサカは息を乱しながら幼女に対して声かけ事件。

ろり:なまえらン、きせいかかってンぞオマエ。

ピーー:何ならセリフも規制かかるようなこと言っちゃうぅ?ピーーーとか、ピーピーピーとか、ピーーーーーーーーーーーとかって、とミサカはハイテンションを隠さず隠語を連発します。

ろり:だめだこいつ。

ピーー:そんなダメなミサカにセロリたんは日々演算をサポートされているわけですよ、とミサカは悲しい事実を告げます。ミサカの脳内で日々どんな風に犯されているかも知らずに…グヘグヘ

ろり:ビクッ ←怯えている

ピーー:ってか幼女に優しいからセロリたんって呼んでたけど、今はセロリたん自身が幼女ですねハァハァ、とミサカは興奮を隠さず怯えているセロリたんににじり寄ります。

ろり: ←首にかけてた犬笛を思いっきり吹いてる

ピーー:犬笛?セロリたん犬飼ってたっけ、とミサカは首をひねります。っていうかセロリたんの手ちっこい笛咥えてるの可愛いミサカにも犬笛の口のところぺろぺろさせてハァハァ。

いぬ:どうした、百合子!!

ピーー:うわあ第七位という名の忠犬来ちゃったよこれ、っていうかお前犬笛の音聞こえんの?とミサカは第七位の下僕っぷりに感嘆と悲哀を感じます。

いぬ:何だ、妹達じゃないか。お前の友達だぞ?

ろり:フルフル ←無言で首を振っている

いぬ:え、こいつだけは無理って?何だよそれ?

ピーー:第七位と幼女、これはこれで萌えますねジュルリ、とミサカは舌舐りをしますハァハァ。

いぬ:何となく分かった…。つっても妹達相手に手荒なことできないし…。

ろり:? ←ソギーの脇に抱えられる

いぬ:逃げるが勝ち!! ←猛ダッシュ

ピーー:あっアイツ逃げやがった!とミサカの足ではとても追いつけないことを自白します!


以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20000

ってな感じで幼女セロリたんの動画いっぱい撮ったけど
これで満足かおまいら



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10801

おうよ
これで夏コミ女装ショタ本作れるぜ



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20000

俺が言うのも何だけど
おまいら性別:♂から離れられねぇの?



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka11801

いや幼女でも美味しくいただけますが



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka12801

でもやっぱ女装したショタって超倒錯的じゃん



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka13801

ショタだと攻めに着せられてる感が出てとてもいいと思います



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka14801

何か要するにギャップがあればいいんじゃね、とも思います
主に第一位に



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka15801

俺ら801スレとか言って
第一位妄想しかしてないからな…



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka20000

まあ俺もセロリたんならショタだろうがロリだろうが全身prprしちゃいたいから
分からなくもないけど



以下、名無しにかわりましてミサカがお送りしますID:Misaka10801

いや多分それ俺らと違うから




以上、MNW×ロリ百合子でした。

こんばんは。最近かなりラッキーな目に遭ってハイテンションな>>1です。
今日は小ネタ2つ投下しますね。んでもって次回投下からは新章という名のイチャラブ同棲生活に入ります。


【彼女の名】



とある古本屋に白い修道服姿の少女が猫を抱えたままやってきた。扱っているものが古本だから動物連れでも頓着しないのか、はたまたその猫が案外大人しいことを既に知っているのか、年老いた店主は猫の鳴き声に気付きながらも咎めたりはしなかった。
小柄な体と、見慣れぬ西洋人の外見のせいで年齢は判然としない。鼻歌を歌いながら歩く様子も彼女を幼く見せているが、難解な本が所狭しと並ぶこの店内で目当ての本を容易に見付ける様子からすると、見た目のままの年齢ではないだろう。

「あった、あった。」

彼女が手に取った本は、極ありきたりな命名辞典だった。学生ばかりのこの街で命名辞典にどれほどの需要があるのかは分からないし、事実この本がこの古本屋に持ち込まれてからある程度の年月が過ぎているのにもかかわらず買い手はついていない。少女も購入を考えているというよりは、少し調べごとをしたいといった様子である。立ち読みだけして帰る客など珍しくないし、平日の昼間で他の客も疎らであるから邪魔にもならない。店主は先日仕入れたばかりの本に値札を付ける作業に戻ることにした。

「ゆりこ、ゆりこ、―」

日本語の辞書の掲載順には未だ不慣れであったが、いくらか四苦八苦しているうちにその名前を見付けた。数百ページもある分厚い辞書のかなり後ろの方である。

「漢字のバリエーションがいっぱいあるけど、「こ」は多分「子」だよね。」

小さく独り言を呟きながら同じ読みを持つ幾つもの漢字の並びを眺める。「友理子」「悠里子」「由梨子」―漢字の読みも意味もある程度は理解しているが、20個以上もあるだろうかというバリエーションのそれぞれに込められている少しずつ違った意味を読み取るのは、ネイティブではない彼女には容易でなかった。

「ん?」


「『百合子』…これもゆりこ、って読むのかな。」

彼女の知る限り百という字に「ゆ」という読みはないし、合という字にも「り」という読みがあったようには思わない。日本語の漢字は中国語におけるそれとはまた違った特徴があって、意味に合わせて本来全く持ち得ないような読みが発生することがあった。それらはほとんど頓智やなぞなぞと変わらないような由来を持っており、彼女のような記憶力を持っていても容易に理解することはできないようなものだった。彼女は命名辞典を元の通りの場所に戻すと、近くにあった漢和辞典を手に取ってめくり始めた。

「百合…ユリ科ユリ属の多年草の総称。ああ、lilyのことだね。」

花の名前などは日本国内でも英名で十分通じることが多く、桜のように日本固有のイメージが強いものは別として、あまり日本での呼び方を意識していなかった。しかし宗教的にも様々な意味を持つ―とくに白いものは十字教において非常に重要な花だ―その花のことはよく知っていた。
果たして彼女の本名と思しき「ゆりこ」が「百合子」と書くものなのか実際には分からないが、華美ではないが凛として美しい花やすっと伸びる葉、冷淡に見えてどこか優しげな印象もある姿は彼女自身の印象と相通じるものがあった。

「ああ、でもだからかなあ、」

日本におけるユリの意味合いはよく知らないが、西洋、特に十字教の世界では女性的な美徳を象徴する存在として知られている。科学の申し子であると同時に知識の宝庫である彼女は、学問としての宗教にも通じているようだったから、その花の持つ宗教的な意味もきっと理解しているだろう。

―だから、名前を捨てたんだね。

修道女の予想が合っているのかどうか、それは最早当の本人にも分からないかも知れなかった。


ソギーが最近人前でもフツーに「百合子」って呼ぶので、周囲の人は大体分かってる。けど百合にゃんがそう呼ばれたくないのを何となく察して周囲はノータッチ。
最初はソギーにもなるべく「百合子」って呼ばせないようにしてたのですが、少しずーつ地が出てくるという。割と長編になってきたからこそ生かせる設定を盛り込めるようになってきたので、最近楽しいです。

次はちょっとホラー?な小ネタ。


【向こう岸の花】



「オマエ、何拾ってきてンだ。」

それが少し困惑したような物言いだったので、幼い少女は自分は何かいけないものでも持って帰って来てしまったのだろうか、と少し不安に思った。

「お花、摘んできたけどダメだった?川原に咲いてたやつで、人のお庭とかから取ってきたわけじゃないのよ、ってミサカはミサカは弁明してみたり。」

「別に花摘むのは勝手だが、花の種類がなァ、」

「この花?葉っぱがなくって、真っ直ぐひょろーって伸びてて、花びらの形も何だか不思議で、とっても気になったんだけど。毒があるとかなのかな、ってミサカはミサカは首を傾げてみる。」

彼女が持って帰って来た花はその通り、葉がついておらず、茎も一本まっすぐに伸びているだけの、赤い不思議な花弁がついた花であった。可愛らしい外見とは言い難いが、目に付くといえば確かにそうかも知れない。

「…毒もあるっちゃァるが、それ以上に縁起が悪ィ。」

「縁起?アナタそういうこと気にする人だっけ?ってミサカはミサカは一方通行の意外な一面を発見してみたり。」


「俺は気にしねェが、大人どもは嫌がるだろ―「彼岸花」なんて。」

暗に元にあった場所に戻してこようと提案しているのだろう、帰って来たばかりの少女の手をとって彼女は家の外に連れ出した。その足取りは戸惑いがちで、彼女自身もどう説明したらいいか迷っているのだろうということが知れた。

「ヒガンバナ?それがこのお花の名前なのね?ってミサカはミサカは確認してみる。」

「彼岸の頃に咲くからとか食べたら毒で彼岸に行ってしまうから、とか名前の由来は色々あるらしいがな。死人花とか地獄花とか異名も多いし、家に持ち帰ると火事になるっつゥ迷信もある。」

「何だかとにかくおどろおどろしいのね。でも確かにヨミカワは嫌がりそうかも、ってミサカはミサカはしょんぼり顔。」

迷信や何かを馬鹿正直に信じるというわけではないが、家主である女教師は案外としきたりだとか古い習慣だとかを大事にする質である。今でも残っているそういったものには何かしら意味があるのだろう、と考えているようなところがあって、この街では珍しいその性質はそういうものに疎いクローンの少女にとっては却って好ましくも思えた。

「川原っていつもの散歩コースのか。ったく、普段そこらの花なンて持って帰ってこねェのに、何だってンなもン選ンだンだ。」

彼女の言う通り、打ち止めは普段そこらに咲いている花に興味を示すことはあっても、摘んで持って帰ってくるようなことはなかった。この街で咲いている花が自然なものとは限らない―何か妙な実験の結果生み出された植物かもしれないし、未だ一般に流布してない栄養剤とかを投与されているかもしれないし―他の街でこんなことを言ったら心配症だと揶揄されるだろうが、この街では極普通の発想である。打ち止めも幼いながらそういった危険性は理解していて、無闇矢鱈と野外にある見慣れぬものに触れ回るようなことはない筈だったのだが。

「確かに、何でだろう。でもね、不思議なんだけど、何となく身近に感じたの。このお花が一杯集まって咲いているのを見て、ミサカたちみたいだな、って。」


はァ、と彼女は困ったように溜息を吐いた。呆れだとかもっと他の感情から溜息を吐くことは多いが、何と言ったらいいか分からない、と言わんばかりの彼女のそういった様子は珍しかった。

「まァ、確かにオマエらには似てるかもな。」

「どういうこと?ってミサカはミサカは疑問形。」

「こいつら、三倍体だからな。種子で増えることが無ェ。」

遺伝子工学の第一人者と同居している打ち止めは、「三倍体」という聞き慣れぬ言葉の意味を頭の中でほんの数秒検索した。三倍体―昨年の夏に種なしスイカを食べたときに聞いた覚えがあるから、なるほどこの花もあれと同じように種ができないのか、と細かい理論は分からないながら納得することができた。

「種で増えないなら、どうやって増えるの?」

「植物だと珍しくないンだがな、球根だとか枝だとか植物体の一部を切り取ったら、その一部分が新しい植物体になるっての。栄養生殖ってやつだが。」

「人だと腕とか足とかを切り取ったら、そこからもう一人の人ができる感じ?何だか気持ち悪いけど、それがどうミサカたちと似ているの?ってミサカはミサカは不思議に思ってみたり。」

打ち止めの手を引く人は、一度立ち止まった。3月も終わりに差し掛かって昼間は暖かいが、日の傾きかけたこの時間帯になると風が冷たい。沈みかけた日を背に立った背の高い少女は、打ち止めの方に暗い影を落としていて、ただ双眸だけが彼岸花みたいに静かに燃えていた。

「全部クローンだからだよ―同じ川原に咲いてたやつだけじゃねェ、理論的には日本中にあるこの花は全く一緒の遺伝子を持ってる。」

「っつってもソメイヨシノも三倍体じゃねェが栄養生殖だし、植物にクローンなんて珍しくねェのにオマエなンで態々彼岸花なンてもンにシンパシー感じてンのか。」

彼女は途端にその静かな雰囲気を脱ぎ去って、口早に捲し立てた。打ち止めはその雰囲気の変わり様に些か戸惑った。
でも、自分たちがこの花に似ているというのなら、彼女だってそうだと思った。


本日はここまで。
2つ目の小ネタはこのスレ自体とはあまり関わりないので総合スレにでも投下しようかとも考えたのですが、たまにはこういう話も。

切ったら増殖していくミサカ達…

自分でこんな小ネタ書いといて>>561読んでぞっとしたわ。百合子ちゃんの夢に出そう、と思った自分は薄情だ。

今回から新章というか、新生活というか。わくわくドキドキ同居生活だぜ。と言っても今日投下分にはソギー殆ど出ないけど。




『削板との同棲生活はどうじゃん?』

電話口からからかっているのか真面目なのか分からない、酔っ払っているには違いない声が聞こえて、彼女ははあ、と溜息を吐いた。少年が退院すると同時、約束通りに少年とのルームシェアを開始したのだが、それを聞いた元同居人たちは「それってルームシェアってか同棲じゃん?」と曰わったのだ。どうもそれをネタに彼女をからかう欲求は未だに維持されているらしい。

「まさかそンな下らねェこと訊きに電話かけてきたわけでもねェだろ。用件は何だ。」

『詰まらないじゃんねー、確かに本題は別にあるけど。』

それから彼女は陽気な声を真面目なものに改めて、周囲に憚っているようにも聞こえる低い声で本題を切り出した。

『例のもの、見付かったらしいじゃんよ。どうする?』

「…親船も忙しいだろ、向こうの都合訊いて俺の方から会いに行ってやらァ。」

『分かった。じゃあ、削板が全快したなら、二人で顔見せに来るじゃんよ。』

こちらの返答も待たずに、ぷつりと電話を切る音がした。

携帯をソファーに放り投げてから視線を上げると、少年が不思議そうな顔をして廊下の方からこちらを覗き込んでいるのに気が付いた。退院後も1週間は外出禁止を言い渡された少年は帰宅してからというもの、使わなくなった私物などを詰め込んでいた物置代わりの部屋を整理するのをリハビリ代わりにしている。無論、その部屋を彼女の私室とするためだった。

「黄泉川先生から電話か?」


件の女教師は本来男女の学生、しかも高校生が一つ屋根の下で暮らすということに対して反対すべき立場なのだろうが、アンタたちが自分で決めたことなら構わないじゃんよ、とだけ言ってあっさりと了承した。まあそンなもンだろォなと思っていた少女はともかく、鉄拳制裁の一発くらいは覚悟してた少年は却って拍子抜けしたほどである。
その彼女の保護者から電話が掛かってきたと知って、やっぱりいざとなると心配だったのだろうか、と少年は不安になったのだが、電話の用件はまるで違うことだったらしい。

「俺のID、見付かったんだと。」

「?」

「『鈴科百合子』のIDが。」

それは随分前に彼女が捨てた、人間であった頃の証だった。




それは数日前のことであった。
彼女が「元」同居人たちに対して家を出て少年と暮らすつもりだということを告げた日、彼女はもう一つ、保護者たちに対して自身のある考えを伝えていた。

「芳川、オマエは俺のもォ一個のIDが今どォなってるかなンて知らねェよな。」

「もう一つのID?そんなものがあるの?」

主に妹達の調整・管理を担当していた芳川は、一方通行の生活周辺のことにはあまり関わりがなかったのだ、彼女のIDになど詳しいわけがない。しかし彼女は度々学校を変えたり住居を変えたりしていて、その手続を彼女自身がやっていた様子はないから、IDだとかそういった公的なサポートをしていた人間がいただろうとは思う。彼女のIDについて詳しい人間がいるとすればそちらの担当の方だろう。

「もう一つのIDってどういう意味じゃん?」

「俺のID、『一方通行』だろ。あの実験に参加するタイミングで新規発行したんだよ、これ。」

「新規発行って、名前の変更ではなくて?それなら…、」

「元々持っていた最初のIDは別に残ってる筈なンだが。」


『一方通行』のIDは彼女が『鈴科百合子』という個人であることを忌避して単なる実験動物であろうとしたことが切っ掛けで作られたものであるが、これは学園都市上層部にとっても非常に都合のいいものであった。IDはこの街における様々な手続きに利用され、これによって公的機関の入退場すら詳細に記録されている。それ故、『鈴科百合子』のIDを『一方通行』に書き換えるよりかは、全くの別人として扱われる新規のIDを用意した方が何かと後ろ暗いことには向いていたのだ。当時の彼女は、これまでの生活の軌跡を全て抹消できるそれを歓迎すらしていた。
IDはあくまで学園都市内でだけ使用するものであるから、戸籍や住民票の偽造などとは違い、学園都市の上層部が関わればダミーを用意することも然程難しいことでもないのかもしれない。だがそういった偽造が当たり前に行われていたという事実は、目の前の少女がどこまでも『一人の人間』ではなく『道具』として扱われていた過去を想像させて余りある。
そういった大人の都合に振り回される子供を減らすために日夜身を粉にしている女教師は怒りを堪えて―彼女自身に対して怒っても意味がない、罰されるべきはそんな状況を看過した大人たちだろう、芳川桔梗はその状況を知らなかったのだから彼女もその怒りの対象ではない―彼女が『一人の人間』としてのIDを探している理由を想像した。

「…削板と一緒に暮らすなら、『一方通行』ではないそっちのIDを使用した方が安全じゃないか、ってことじゃんね。」

「まァ俺はこの通りの見た目だから、IDが『一方通行』でなくなったところでどこまで意味があるかは分からねェが。そもそも頭を怪我した時点でそれを考えるべきだったンだろォしな。」

彼女は暗に能力を自由に使えない自身の体を嘲るような口振りで言った。だが実際のところ、彼女にとって怪我をした時点で『一方通行』を捨てることが非常に難しかったことは誰もが理解していた。それまで能力に固執していた彼女にとって、最早普通の人間であるということを受け入れることは難しいという以上に、恐怖すら感じられることであった筈だからだ。だから、寧ろそれが半年ほどで可能になったことを喜ぶべきなのだろう。


「そういう込み入った事情なら公的機関を頼るのは正解じゃないじゃんよ。そうだな、ちょっと裏技になっちゃうけど、親船さんにでも相談してみるじゃん。」

彼女が言う通り、数年にわたってダミーのIDを使用していたが本来のIDの利用を再開したい、なんて間違っても公的機関に相談できる内容ではなかった。学園都市上層部が関わったのは間違いのない事実であるから、ルール違反ではあるかもしれないが、そういった情報にアクセスすることのできる人物を頼るのが手っ取り早いだろう。
そうして黄泉川は同僚の母親であり、警備員として面識もある学園都市統括理事の一人、親船最中のことを思い出した。彼女の性格ならばこういった事態には熱心に対応してくれるだろうし、何より一方通行とも見知った仲であると聞いているから、彼女の複雑な事情も知らぬではないだろう。
早速彼女にメールでも送ろうかと思って立ち上がった矢先、この件の提案者である筈の一方通行が寧ろ不安げな表情をしているのが目に入った。早々に行動に移そうとしている大人たちの視線から隠れるように、そっと傍らに座ってこれまで一切発言をしていなかった少女の頭を撫でる。

「ごめンな、」

「いいの、ってミサカはミサカは首を振ってみる。」

IDも本名も持たぬ子供は、健気にも笑ってみせた。単に彼女らと違って自分がそれを持つことを謝っただけではないのかもしれない。彼女らには同居している大人たちには分かり得ぬ妙な繋がりがあって、それに踏み込むことは躊躇われた。大人たちは二人の会話にも触れ合いにも気付かなかった風を装って、リビングから出て行った。




「つゥか、オマエ何でこの部屋にいンの。」

最近はまともに帰っていなかった自室に入ってみると、不貞腐れた様子の番外個体がベッドに突っ伏していた。

「アナタもうこの部屋使わないんでしょ、何だっていいじゃん。ミサカだって自分の部屋欲しいし。」

元から自分がこの部屋を出て行ったなら番外個体が使うことになるだろうと思っていたので、彼女はその発言に対してそれ以上反論しようとも思わなかった。それどころか机だの本棚だのベッドだのは運ぶのが面倒くさいから、そのまま置いて行って彼女の好きにさせようかと思っていたほどだ。

「男と暮らすなンてキモいだとか言われるかと思ってたが。」

「言ってやってもいいけど、そんなんじゃ心変わりしないじゃん、第一位。」

先ほどまでの会話の内容は、打ち止めを通じて既に把握しているのだろう。彼女はいきなり持ち出された新しい話題にも当たり前のように対応した。

「そりゃ最初は第一位のこと殴ってやろうかと思ったよ。ミサカたちを放ったらかすのか、捨てるのか、邪魔になったのか、色々頭の中ぐるぐるした。」

一方通行は手早く数日分の着替えを纏めて手頃な旅行鞄に詰め込むと、それから手を止めて番外個体の小さな声に耳を傾けた。


「でもそういう勢いのまま怒鳴り散らすのが第一位は嫌になったのかもなって思ったら、もうぷしゅーってその場で力抜けちゃった。」

番外個体は以前から怒りのまま暴れだしたかと思ったら、突然空気が抜けてしぼんだ風船のようにその場に座り込んで暫く動かなくなるようなことがあった。今もそのような状態なのだろうか。それにしては口振りも表情もしっかりしている、と一方通行は思った。

「別にオマエのこと嫌になってなンかねェけど、」

そう前置いてから一方通行もぽつりぽつりと語った。

「俺だって色々考えた。ここを出ることだってIDのことだって、オマエらから、『一方通行』のしたことから、逃げることになるンじゃねェかって。」

「でも、そンなンじゃ逃げられねェだろ。どうやったって。」

物理的な距離を置いたぐらいでは、名前を変えたぐらいでは、何も変わらない。死んだ10031人。生きていく9971人。彼女たちは未だ訳の分からぬ因果に縛られていて、それはきっとどうしようもなく続いていく。彼女たちはいっそそれに救われてもいた。
『一方通行』ではなく、『鈴科百合子』として生きていくことは、その現実から目を逸らすことには繋がらないだろう。実験動物である『一方通行』が誰かの定めたプロトコル通りに同じ実験動物を殺したのではない、『鈴科百合子』という一人の少女が同じ年頃の少女たちを殺したということが明らかになるだけだ。彼女は学園都市第一位でも何でもなく、ただの子供でありながら10031人を背負っていく覚悟を決めたというべきなのだろう。その重みは、自分自身の重みすら見定められていない番外個体には分からない。


「そうだね、ミサカたちと第一位は、そんなんでは離れられないね。」

番外個体は俯せになった状態のままベッドから少しだけ状態を起こし、一方通行の耳の横で揺れる黒いコードに指を引っ掛けた。一方通行はそれを嫌がる様子はない。

「ミサカたちにとって、あなたにとって、これは良かったのかなぁ。」

一方通行はきゅっと眉を寄せて、怒っているとも悲しんでいるともつかぬ表情を見せた。

「そんな顔しないでよ、ミサカまで悲しくなっちゃう。あなたの考えるような意味ではないんだから。」

彼女が、一方通行の補助演算などしなければよかったなどと考えているわけではないことは知っていた。だけれど、一方通行自身もこの電極が在ってよかったのだと肯定することはできていないから、その言葉に色々なことを考えさせられてしまう。
これがなければ、ただ自分は報いを受けて廃人となるだけだ。或いは自分を利用せんとする輩が現れて妹達を介さない似たようなシステムを構築しようとするかもしれないが、自分はそれを拒むだろう。良くも悪くも自身を支えているのが妹達だと思えばこそ、一方通行は自罰的にこの宙ぶらりんな体を受け入れてきた。
逆に妹達にとってもいい面と、悪い面があったのだろうか。一方通行はそれを知らない。彼女らの助けになれている自分を知って、満足してしまえるようなことがあってはならないと思っていたから、敢えて確認することはしないでいた。今だって、それはしたくない―その答えを知ってしまったなら、これまで半年以上の間自身を突き動かしてきた感情が消え去ってしまいそうに思えたからだった。

「…週に一度くらいは顔見せるから、お前も定期的に帰ってこいよ。」

「そんなの約束できないや。」

番外個体は毛布に顔の半分以上を埋めて、それから何も言わなくなった。




「この家を出て行かないかって言ったのは私だけど、こんなにあっさりコトが進むと寂しいもんじゃんね。」

玄関に腰掛けてブーツのファスナーを閉めていると、後ろから家主に声を掛けられた。手には何かの詰まったタッパーが透けて見えるコンビニ袋を持っていて、自分と少年の夕食に、とでも言って持たせてくれるつもりだったのだろう。

「未だ娘二人残ってンぞ、寂しがってる場合じゃねェンじゃねェの。」

「あの二人の独り立ちはまだまだ先そうじゃん。」

彼女がこの広い家に一人で暮らしていた頃のことを想像する。今とはいい意味でも悪い意味でもまるで違った生活だったろう。こんなトラブルメーカーを何人も引き入れて、血の繋がりもないのに家族だ何だと嘯く彼女を当初こそ鬱陶しく思ったが、確かに一方通行は家族というものを初めて知った。

「いつでも帰って来ていいから、って言うと逆にお前の独り立ちが上手くいかないって予想してるみたいに聞こえるか。でも本当に、いつでも帰って来ていいじゃんよ。」

彼女はそれから一方通行が着替えを詰め込んだ旅行鞄の隙間に、タッパー入りのビニール袋を押し込んだ。

「いつか―直ぐにって話じゃないけど、いつか、お前の本当の名前、お前の口から教えて欲しいじゃんよ。」

「一応、考えとく。」

その日一方通行は、初めてこの家を出るときに「行ってきます」という当たり前の挨拶を告げた。


自分番外個体好きなんだなーと思いながら投下してました。一方さん♂よりかは百合子ちゃんを扱ったCPの方が好きなんですが、一方さん♂なら番外通行が一番好きかもしれん。土一も捨てがたいが。

先週は更新できずスミマセン。エタるほど切羽詰まってはおりませんが、実は複数作品並行させようと準備中です。発表できるのは直ぐというわけではないと思うんですが。
来週もまた投下できない予定なのですが、ご了承下さいな。


「あなたから訪ねてきてくれるだなんて嬉しいですね。最近は酷く忙しいようでしたし。」

久々に会った彼女に先ずこんな挨拶をされたのだが、当の一方通行は忙しかったのか、と問われればさして考える間もなく首を振っただろう。彼女と知り合った当初の方が余程面倒なことには巻き込まれていたと思うからだ。
或いは家族や友人に振り回される方がそんなことよりも余程面倒で忙しいことなのだと年長者に諭されてしまえば、否む材料は特に持たないのだが。

「痩せたンじゃねェの。たまにゃあ休めよな。」

「そんなことを言って、休んだら休んだで嫌味を言われてしまいそうですね。」

「俺はどンだけ性悪に思われてンだかねェ。」

この街の子供を守るため、黄泉川愛穂や月詠小萌とはまた違った方法で戦う女性―親船最中は、不躾にも思える学園都市第一位の口振りをくすりと笑って受け流した。
黄泉川愛穂から連絡を受けた後、彼女へのアポイントを取るのは思ったよりも容易かった。彼女相手に秘書だの何だの訳の分からぬ人間たちを介してそういった約束事を取り付けるのは非常に時間も手間もかかるし、正直面倒くさがりな一方通行の領分ではない。ひょんなことから―と言ってしまうには中々大げさな出来事だったが―彼女と縁を持ち、個人的に連絡を取り合えなくもない関係になっていたのは幸運と呼ばれることなのだろうな、と思う。人と人の縁だとか、そういうものを殆ど気にも留めず過ごしてきた一方通行にとって、こういった感覚は新鮮であった。


「貰い物なんですが、食べますか。甘いものは苦手だと聞いていましたが、こういうのは平気でしょう?」

いつか必死の形相で一方通行を門前払いにしようとしていた秘書らしい小男が、幾らか訝しげな顔をしながらも茶と米菓の盛られた器を持ってきた。嘗て対峙したときには小物にしか見えなかったが、こうして半年後にも同じポジションにいるところを見ると骨のある男なのだろう。彼女のような人間に付き従うには、単純な能力だけではなく運のようなものを身に付ける必要がある。
例えば上条当麻に同じことをさせたら、あっという間に彼女のトラブルに巻き込まれて、それどころかいつの間にやら事態をより大きいものにして、さっさと命に関わる怪我でもするのだろう。優秀な人間だったとしても、命の関わる場面ではその能力を発揮できない場合もある。
いっそこういった仕事は誰の目にも付かないような地味なつまらない、それでいて根性だけはある男の方が余程嵌まりがいいのだ。今も彼がうだつの上がらない小男そのままにこの仕事をこなしているというのなら、これは彼には向いた仕事だということだろう。


「俺も手土産の一つでも持って来るべきだったンかねェ。」

一方通行は淹れたての煎茶で手を温めながら呟いた。2月も近付いて、日本では古くから一年で一番寒い季節だとされている頃合いである。手袋もせずに歩いてきた手は悴んでいて、茶碗の熱が少し刺すようにすら感じられた。
こういった様子を見かねた黄泉川に手袋を与えられたこともあるのだが、どうにも思うように手指を動かせない窮屈さが苦手である。繊細な能力を持つが故だろうか、以前調べたところ感覚も人より過敏らしいのだが、手指は特にその傾向が強かった。その手指を覆われると、まるで視界すら奪われたように感じる。

「そんな気遣いは要りませんよ。これも仕事の付き合いで頂いたものですし、そういう貰い物がたくさんあって無駄にしないのにも苦労しているくらいですから。」

「ふゥン。」

彼女は、そォいうの羨ましがりそうな奴知ってるなァ、などと思いながらどこぞの暴食シスターを思い浮かべて気のない返事をした。
親船はそれから最近風邪をひいて仕事を空けてしまっただの何だの当り障りのない世間話を持ちかけて、それに面白くも可笑しくもない相槌を打つ一方通行を嬉しげに眺めていたが、それも然程長くは続かなかった。短気な一方通行が、早々に痺れを切らしたからである。


「世間話も悪かねェけどよ、さっさと本題済ませねェか?オマエ、暇ってわけでもねェだろォが。」

「まあ。偶には息抜きしたいという私の気持ちを尊重してくれてもいいと思うのですが。」

「俺との会話が息抜きになるって思ってンなら、おめでてェ頭だ。」

「私にとって利害関係のない相手というのは貴重ですから。協力関係であると言っても、信用していいかどうかは別の問題ですしね。」

「利害関係がねェのは確かだが、人殺しを信用するのもどうかと思うがねェ。」

「それは私にも責任のあることですから。あなたを、大人たちの都合に巻き込んだことは。それであなたが私に危害を加えるというのであれば、それは仕方のないことだとも思います。」

「…俺はそォいうことを言いたいンじゃねェ。」

いつもの軽い皮肉が、妙に神妙に受け取られて一方通行は気まずい気分になった。この街の子供を救うため、黄泉川愛穂や月詠小萌とはまた違った方法で日夜奮闘している彼女には耳の痛い話だったのかもしれない。
一方通行はその責任が彼女に一部でもあるとはまるで思えなかったが、そう言っても納得する人物ではないのでそれ以上のことは言わなかった。


「あなたの探しもの、見付けられたんですよ。」

「…黄泉川から聞いた。」

「鈴科百合子」としてのID―本人は捨てたつもりで、今になって突然必要になったのだから「探しもの」という妙に美しい表現はそぐわない気もした。

「もう何年も前に、協力機関への交換留学の為この街を出たっきり、ということにされて放棄されていたようです。あなたが望むのであれば、留学先から戻ってきたということにして、再発行できますが。」

「少し、考えさせて欲しい。」

「構いませんよ。そう簡単に決められるものでもないでしょう。」

「これは、私からの提案なのですが、」

親船は口調を少し緊張したものに変えた。「交渉」を生業とする彼女にしては、珍しいものだった。

「期間限定で2つのIDを並行して使ってみる気はありませんか。」

『一方通行』と『鈴科百合子』の二つのIDを同時に持ち続ける、その都合のいい提案に彼女は眉を顰めた。確かにそのどちらも現在の彼女には必要なものだろう、『一方通行』を捨てて『鈴科百合子』になりきれるほど彼女は人間性を取り戻すことはできていないし、だからと言って『鈴科百合子』を捨て置けるほど非情になりきれもしない。だけれどこの街の誰もが一つしか持たない筈のものを、自分だけが特別に二つだけ持つことの後ろめたさのようなものを感じていた。


いや、後ろめたいのはそんなことではない。
周囲が持たないものを持つことなんてこれまで当たり前であった彼女にとって、それは背徳感を生む原因になどなりはしない。胸が痛むのは、都合よくその二つを使い分けることを勧められているような気がしたからだ。
無論、親船最中がそんなことを考えているわけではないことは分かる。それでも、漸くこれまで自分の為してきたことは自分自身に責任がある、と受け止める決意を固めた彼女にとって、その『自分自身』が曖昧になるようなその特例は、自分の責から目を逸らすことのように感じられた。

「…違法行為なンじゃねェのか?」

「IDはこの街の中でだけ通用するものですから、それを制限する「国の法」はありませんよ。言葉の綾と言われてしまえばそれまでですが、少なくとも違法行為ではありません。」

「この街のルールとしてのそれはありますが、それを破ってあなたにもう一つのIDを与えたのはこの街ですしね。」

快くその提案を受け入れる様子のない一方通行に、困り果てたように親船は溜息を吐いた。

「最初に言ったように、あくまで期間限定でその状況を認める、というだけの話です。その間に、「どちら」として生きるか決めて欲しいのですが。」

「ゆっくり考えて下さい。簡単に決められることではないでしょうから。」

彼女は温くなってしまった煎茶に口をつけると、打って変わって久しぶりに会った孫に近況を訊ねる祖母のような調子に戻った―一方通行の祖母としては、些か若いが―恐らく、今日明日に結論の出ることではないだろうと見て、今日はこれ以上この話をするつもりはないと暗に伝えようとしたのだろう。


「そう言えば黄泉川先生の家を出たと聞きましたが、一人暮らしに不便にありませんか。」

「一人暮らしじゃねェンだがな。」

「誰かと一緒に暮らしているんですか?ご友人と一緒なのであれば心配はありませんが。」

「ああ、オマエも知ってるかも知れねェけど。第七位。」

一方通行がさらりと告げた同居人の名前に、彼女は目をぱちくりとさせた。

「ええっと、一点だけ確認しても宜しいですか?」

「私が知っている第七位は、男性だったと思うのですが。念の為に確認しますが、あなたは女性ですよね?」

「それがどォした?」

些か狼狽する親船最中は何の含みもなく首を傾げた一方通行を見て、それ以上の追及を諦めた。




「親船に第七位と一緒に暮らしてるって言ったら、とンでもなく驚かれたンだが。」

彼女と上条当麻、浜面仕上は全員が第3次世界大戦中のロシアでそれぞれの目的を果たすために奔走していたという縁があって、今でも同居人やら彼女やらを放ったらかしにして三人だけで集まることがある。
今日もその延長線上で、第七学区のファミレスに来ていた。
その席で思い出したように紅一点の―上条も浜面も、彼女がそうであることをあまり気にしていないのだが―一方通行が口にした新事実に、男二人は暫く言葉を忘れた。

「あのさぁ、第一位。俺が何言っても怒らないでくれよ?」

「あァ?」

普段理不尽な怒りを向けられている冴えない不良は、「第七位」に関する話題がどんな風に彼女の逆鱗に触れるか分からないので、恐る恐るといった具合に口を開いた。彼女はその言葉に眉間に皺を寄せたが、これは怒っているのではなく単に彼の発言の意図が分からないというだけだ―怒っているときはもっと刺がある表情をする―それくらいは浜面も理解している。

「俺と上条も腰が抜けそうなくらいびっくりしてる。」


「何だそりゃァ?」

「あー先ず、上条さんは最初に大事なこと確認したいんですが。削板さんは男性で、一方通行は女性ですよね。」

「あァ?そォだが。」

「そういうの、世間では恋人同士が同棲しているように見えるかと思いますが。」

オマエたちもそんなことを言うのか、と一方通行は内心思ったが、懸命にも口には出さなかった。妙に否定しようとすると余計に騒がれるものらしい、というのは黄泉川家の面々の反応で理解している。
彼らの場合、噂好きの女性たちとはまた違った反応が帰ってくる可能性には気付いていなかったが。

「オマエたちだって女と同居してるじゃねェか。」

「俺は複数人だしなぁ。恋人と同棲ってか、仲間とルームシェアって感じだろ。」

「それって寧ろハーレムってやつなんじゃないのか?」

茶化したのは上条である。そんな面白おかしい状況でないことは、彼もよく知っている筈なのだが。

「俺に麦野や絹旗をどうこうする勇気があると思うか。」

二人は考える間もなく、はあ、と溜息を吐いた。

「無いわなァ。」

「灰も残らないだろうなぁ。」

「お前ら二人揃って酷い!俺もそう思うけど!!」

上条に至っては手を合わせる仕草すらしている。未だ頼んだ料理来てないからな、と皮肉る気もしない。

「そういう上条の方がよっぽどヤバイだろ。聖職者と同居だぜ。」

「だから上条さんはお風呂場で寝てるんですよ。」

つまりは彼らはどちらもそんな色っぽい関係ではないと言いたいらしい。それならば自分と第七位の同居だって許容されそうなものであるが、と一方通行は思った。


「まあでも、安心したかも。」

ファミレスで会計を済ませた帰り際―浜面とは別方向だったので、店の前で別れた―上条にまるで年上の身内のように言われたから、彼女は首を傾げた。

「安心って、何が。」

「一方通行も、ちゃんと仕合わせになろうとしてるってことだろ。」

「少し前のお前は、自分が仕合わせになることなんて、全然興味がなさそうだったから。」

上条に酷く優しげにそう言われて、彼女は堪らず形の良い細い眉をきゅうっと寄せた。泣かせてしまった、或いは怒らせてしまったと勘違いしたのだろうか、上条は途端に慌てた。

「あ、一方通行、?」

「俺何かマズイこと言ったよな、そうなんだよな!?」

「……違う、」

背丈は然程変わらないが、肩を震わせて俯く彼女は酷く小さく見える。怒ったときの彼女は寧ろその体を何倍も大きく見せることを知っているから、上条はその様子に違和感を覚えた。

「…オマエは、俺が仕合わせになった方が嬉しいか?」

「当たり前だろ?何言ってんだ、お前。」

上条は何て当たり前のことを訊ねるんだ、と言わんばかりの確信を持った口調で答えた。それが彼女には酷く眩しい。
自身の感覚も、それどころか妙に自分に甘い妹達の言葉もどこか信用しきれていない彼女は、自身が仕合わせになりたいと思っても、妹達に仕合わせになって欲しいと言われてもそれを肯定することができない。身も世もなく彼女を肯定する同居人たちや第七位とは別に、一方通行を罰することのできる―本人にその意識はなくとも―上条は、彼女にとって必要な存在であった。
彼にそう言って貰えて初めて、彼女は普通の人間の仕合わせを知ることができるのかも分からなかった。


支離滅裂になってきましたなあ…すごく断片的に書きたいことが散在しているので、話が落ち着かないわ。

妹達、打ち止め、番外個体が全員口をそろえて「許す」って言っても、上条さんが「許さない」って言ったらそれだけで百合子ちゃんどん底に落ちる子だと思うんですよ。百合子ちゃんを振り回せるのはソギーだけど、一方通行を振り回せるのは上条さんかなと思うんですよね。つっちーはそのどちらも第三者として楽しむ。

ところで自分は物書きしている最中BGMが必須な生き物なのですが、皆さん削百合に合うような音楽何か知らないですか。自分のライブラリでは如何せんマンネリになってきた今日このごろです。

ごめんなさい知識不足でした
上の書き込みは気にしないでください

乙。親船も3Hも>>1の書く人間性?みたいのが優しくて好きだ
他の並行のも楽しみにしてる

どうも今晩は。GWは前半かなりアクティブに活動したので後半引きこもり生活な>>1です。ご無沙汰しております。

>>593
某少女漫画の影響で「しあわせ」を「仕合わせ」と書く癖がございます。ややこしくて済みません。

>>596
親船は原作での登場シーンが凄く少ないので(親船に化けた海原とかいうパターンもあるし)口調に大分苦労しました。正直、これで合ってるのか分かりません…

さて、今日の分投下しますよー




少年は、学園都市に来る前のことは酷くぼんやりとしか覚えていない。

だけどこの街に預けられることが決まって、どこか元いた場所からこの街へ連れて来られるその車中のことから先は、不思議なことに酷く鮮明に覚えている。それまで車に乗ったことがなかったわけでもなかろうに、確かにその道中、新しい生活が始まる予感を小さい体全身で受け止めていた自分を、覚えている。


5歳のとき―それすら周囲にそう言われているからそういうことにしているだけの年齢で、書類に書いてある誕生日もイマイチ自分自身のものだとは思えていない―どこかから不思議な力を持った子供の噂を聞きつけた大人たちに連れられてこの街に来た。子供を安心させるためか、迎えに来たスーツ姿の男たちの中に一人だけ、恐らく自分の母親に近い年齢を意識したのだろう女性がいた。彼女が研究者であったことに気付いたのは、学園都市に着いた後、私がきみの研究を担当するわ、告げられたときのことだった。

それ以前から、子供心に自分が周囲と違っていることは理解していた。
この街に来る前は、自分は「自分とは違う生き物たち」と暮らしているんだと思っていたような、酷くぼんやりとした記憶がある。きっと一緒に暮らしていた人たちは両親だとか家族だとか呼ばれる人たちだったのだろうけれど、自分はそのものたちが自分と同じ存在だとは思っていなかった。
子供らしい思い出を持っていないのは偏にこれが理由だと思う。自分は自分と違う「得体の知れないものたち」が与えてくれるものを、「愛情」だと理解できていなかったのだ。そこに篭もる感情に気付くことがなければ、思い出などできよう筈もない。だから自分はこの街に来る前のことを何も覚えていない。

そういうことであるから、学園都市が気を遣ったのか何なのか分からないが、母親に近い年齢の女性を自分の担当研究者にしたことも結果的には余り意味がなかった。彼女も自分にとっては「得体の知れない自分とは違うもの」でしかなかったからだ。反抗するようなことはなかったが、特別懐くこともなかったと思う。
結局、自分に普通の子供らしい感覚を与えたのは、自分と同じように普通ではない子供たちだった。自分と似たような存在がいると気付いてから、自分も、彼らも、これまで得体が知れないと思ってきた大人たちも、同じ人間なのだと漸く理解することができた。

その一方で、彼らが自分と同じ生き物であることは理解できたが、全く同じではないことも理解し始めていた。大人たちは勿論、似たような境遇であると思っていた同年代の子供達ですら、少年とは違っていた。その後学園都市が10年以上かけても詳細については理解できず、暫定的に超能力者とされた彼の能力は、幼いその頃から他の子供たちのそれとはあまりにも違っていた。




「難しい顔してどォした?らしくねェな。」

彼女の声に気が付いて、視線を上げた。同じ年頃の少女に比べたら少し低い声が―男の振りをして態と声を低く繕って喋っているうちに、そちらが普通になってしまったらしい―不思議と耳に心地いい。自分の感情に波を立てるのは望むと望まないとにかかわらず、何もかも彼女に関わることだけだ。もう何年も前からそうだった。

「…昔のこと、考えてた。」

少年は思わず「お前のこと」と言いかけたが、取り繕った言葉に不自然さはなかったと思う。彼女もこの生活になってから昔を思い出すことが増えたようだったから、こちらが同じようなことをしていたとしても不思議ではないのだろう。
自分の言う「昔のこと」は彼女のことで埋め尽くされているけれど、彼女のそれも同じであればいいのに―だけれどそれを確かめる勇気を少年は持っていなかった。

「似合わねェことしてンじゃねェよ、オマエ。」

彼女が唇の端を吊り上げる独特の笑い方をする。昔は笑うにしても表情は酷く控えめで、彼女のことをよく知らない人物から見たら全く表情が変わっていないようにも見えただろうと思うのだが、今となっては数日一緒に暮らしているだけでも表情がころころ変わる様子が見れた。癖のある表情ではあるが、気まぐれな彼女の性格を表しているようなそれが少年は好きだった。

「そんなことより、俺に何か用事があったんじゃないか。」

「あァ、ちょっと出掛けてくるから一声掛けてからにしようと思って。」

「?買い物だったら俺一緒に行くけど。」

「いや、違う。充電してくるわ。」

彼女は首もとの機械をとんとんと人差し指で叩いた。

「…ああ、そっか。気を付けてな。」

彼女はこの部屋での生活が始まってからも、その機材の扱いに関しては少年を頼ることがなかった。




「やはり腑に落ちないんですが、とミサカはこの状況に文句を言います。」

「周りくどい表現してンじゃねェ、何が言いたい?」

ベッドから起き上がり、乱れた髪を乱雑に手櫛で撫で付けながら彼女は舌を打つ。元々寝起きは悪い質であるが、充電後のそれは一段と酷い。

「上位個体も番外個体も最早あなたの同居人ではありません。この充電作業を未だにミサカたちが担っているのは不自然だと思います、とミサカは正直に思うところを述べます。」

彼女の言う通りだとは思う。二日に一度必ず発生し数時間を要するこの作業を、同居しているわけでもない彼女たちに頼り切りというのは不自然極まりない。より身近な存在である同居人にこの役目を任せるべきだろうという彼女の訴えは当たり前のものだ。
電源を切らずに装着したまま充電することもできなくはない。その状況であれば誰かの助けを必要とすることもないのだが、時折エラーが発生するので―精々が言語機能障害といったレベルで、能力の暴発だとかいう大袈裟な問題ではないのだが―彼女はあまりそれを好まなかった。装着したまま充電をしたくないというのであれば誰かに頼る他はないのだが、問題はその「頼る相手」である。

「オマエたちにゃ、負担か。」

「そういうわけではありません。気軽に外出できるわけでもないミサカたちにしてみれば、病院に来るたび何かを差し入れてくれるあなたの存在はありがたいです、とミサカは一方通行のマイナス思考を否定します。」


電極を外した状態では普段のタイトな服装が気に入らないらしく、やたらと引っ張ったり脱ごうともがいたりするため、病院で充電作業をする際には入院しているわけでもないのに病衣を借りるのが習慣になっている。
幾つかの結び目を解けば簡単に脱ぐことができる服は、さすが病人用というだけあって体の不自由な彼女にとっても扱いが容易だ。2人だけがいる病室で人目を気にすることもなく下着一枚になった彼女を咎めるように、10032号がカーテンを閉めた。

「第七位に電極を外した状態を見られたくないとか、そういうことでしょうか?とミサカは勝手に一方通行の心情を推測します。」

「見られたくないってわけじゃあねェけど、」

「アイツは嫌なンじゃねェのか、それ。」

「第七位がですか?彼が一方通行に関することで嫌がるところなんて想像ができませんが、とミサカは素直に思ったところを述べます。」

「…オマエたちにはそう見えてンのかもしれねェが、アイツは「一方通行」には興味がねェよ。」

幼かった頃にはそれが喜ばしかったが、今では少し心苦しくも感じる。彼女自身それを疎ましく感じていても、最早「一方通行」を捨てることはできないからだ。恐らく、彼もそのことについては理解しているのだろう、だから自分以外の人間に「一方通行」として扱われている彼女を否定しない。
そう思えば、これまで彼が「一方通行」を受け入れてきたのは他者もいる状況に限ってのことだったようにも思う。一対一の状況で、彼と自分のふたりきりの生活で、彼が「一方通行」を受け入れてくれるかどうかは未だに分からないままだった。

「どういう意味でしょうか?とミサカは首を傾げます。」

「分かンねェままでいいよ、オマエたちは。」

彼女は身支度を終えるとかしゃりと音を立てる不思議な形の杖を使って立ち上がった。

「助かった。次からは、お前たちの世話にならねェように考えとくわ。」

そう言うが早いか、彼女は扉の向こうに早足で消えてしまった。




当初は少年の看病をするという明確な目的があったから然程気にならなかったが、彼が回復して数日経った頃からこの生活に違和感を覚えるようになった。彼との関係に「一方通行」を持ち込むことに対する抵抗感、というのが一番正確な表現だろうか。
一緒に暮す以上、電極のこと、妹達のこと―そういった「一方通行」の問題から彼を切り離して考えることは酷く難しい。これまでもそういった問題と彼が全く無関係だったわけではないが、それでも一定の線引はできていたと思うし、少年の方も一歩引いて関わってくれていたように感じる。

今朝、彼は「昔のことを思い出していた」と言っていた。それが昔に戻りたいという意味だったらどうしたらいいのだろうか。自分もそう考えることがあるけれど、それは土台無理な話だ。あの実験に関わる前の自分にはどうやったって戻れない。全てを巻き戻して何も間違いを犯していなかった頃から2人でやり直せたならどれほどいいかとは思うけれど。




充電を終えて自室に戻ったのは、昼過ぎのことだった。
少年は思うところがあるらしく、怪我が治ってからは学校に通っていた。サボって別のことをしている日もあるし、遅刻や早退をせずにきっちり授業を受けているというわけでもない。今朝だって、彼女が家を出た後に学校へ行ったのだろうからどう考えても2つは授業をサボっている。それでも月に何回か顔を出す程度だった頃に比べれば大変な変化と言えるだろう。
クラスメイトや担任に突然の変わり振りを訝しまれたりしないのかと訊ねたが、「俺、昔っから突然学校に来るようになったり、元に戻ったりしてたからなー」とのことで、結局のところ相変わらず変なやつだということで誰にも気にされていないらしい。

自分も将来のことを考えると復学なり転校なりをすべきだろうが、妙なトラブルが起きる可能性が高いので今直ぐに、とは思っていない。幸い、曲がりなりにも「学園都市」と名乗るだけあって、この街には学位を取得するにしても資格を得るにしても様々な方法が用意されている。一般的な学校生活を送るには身体的にも立場的にも問題がある彼女にも適しているだろう、と思われる選択肢は既に幾つか見つかっていた。機会を見て黄泉川や冥土返しに相談して準備を進めようと思っていたが、ここで生活しているからには最初に相談すべき相手は彼なのだろうか。

(何か、あっちもこっちも考えなくちゃなンねェことだらけだ)

これらは今になって急に降って湧いた問題ではない。彼との付き合い方にしろ、この街の学生としての身の置き方にしろ、問題としては以前から存在していた。もっと大きな問題や急いで解決しなければならないトラブルがあって、それらを優先してこれらを後回しにしてきたツケが回ってきたという方が正確な表現だろう。
後回しにしたところで、何も変わらずにはいられないのだろう。妹達との関係にしろ、少年との関係にしろ。それなら、自分でよりよい方向に進むよう行動するしかないのだ。少年にも「一方通行」を受け入れてほしいと思うのなら、自分がそのための努力をするべきなのだろう。




その翌々日、土曜日のことであった。毎朝の日課であるトレーニングを終えた少年は、帰って来てから先ずシャワーを浴びる。そのついでに洗濯機を回すのが彼の習慣だ。

「オマエ、今日暇か?」

「?別に用事はないけど、どうかしたか。」

シャワーを終えた少年は、短く、彼女のそれと比べたら随分硬い手触りの髪をがしがしとタオルで拭いていた。大雑把な動作に見えるが、彼女と違って床に水滴を零したりしないところは几帳面な彼らしい。

「だったら俺に付き合え。」

「どこか出掛けるのか?」

「そォじゃねェよ。」

彼女はそう言うと、ポケットに入れていたらしい何かをぽいと少年の方に投げて寄越した。コンセント部分と長いコードが付いただけの酷く単純な機材だ。これは何だ、と少年が問うよりも先に少女はソファーに少年を押し付けた。それから彼女もソファーに乗り上げる。

「困ったら10032号に電話しろ。」

「―これからオマエに、俺を預ける。」

そう言って彼女は自身の首元を戒める機材を放り投げた。




「10032号か?俺だ、削板だ。」

『第七位ですか?ミサカに電話なんて珍しいですね、というか一方通行の携帯からですよねコレ、とミサカは番号を確認します。』

幸い彼女が直ぐ傍のテーブルに自身の携帯を置いていたので、10032号との連絡は容易にとれた。電話帳で予め彼女の番号を表示した状態のまま携帯が放置されていたことを考えると、何がしたかったのかは分からないが計画的な行動には違いないのだろう。

「困ったら10032号に電話しろって言って、いきなり電極外して。困るも何も、何も説明されてないんだが。」

『一方通行の様子は今どんな感じですか?とミサカは状況を確認します。』

前回の充電から約2日経っている。その間能力を使用することはなかったから、丁度充電が切れる頃合いだ。少年の言葉を聞いて、10032号は一方通行が何をしようとしていたのかを瞬時に理解した。

「しがみついたまま寝ちまった。俺が風呂あがりで温かいから気持ちいいらしい。」

少年はソファーで仰向けになったまま、少女に腰の少し上の辺りをしっかりとホールドされていた。華奢で軽いとはいえ、手脚の長い彼女にしがみつかれたまま身動きするのは容易ではない。


『恐らく昨日は殆ど寝なかったのでしょう、充電が必要になる前日に態と睡眠時間を減らすことも多いので、とミサカは一方通行の習慣を解説します。』

「何でそんなことを?」

『電極を外した状態で起きていると周囲に迷惑をかけると思っているんでしょうね。充電の間寝ていれば付き添う人間にも然程手間は掛けませんから、とミサカは一方通行の考えを推察します。』

「態々そんなことしなくても、」

『そう思ったなら、本人に言ってやって下さい。ミサカたちが言っても聞きませんが、或いはあなたなら、とミサカは他人に丸投げします。』

彼女は妹達を信頼して充電という命を預けているのにも近い作業を任せているのかとも思っていたが、10032号の口振りから察するに完全には彼女たちを頼りきっていなかったようだった。それが自分相手なら違うのだろうか、想像してはみるものの全くイメージはできない。

「で、結局オレはどうしたらいいんだ?」

『電極を充電するしかありませんね。一方通行があなたに何か渡しませんでしたか?とミサカは充電器の有無を確認します。』

「あー、これがそうなのか。初めて見た。普通にコンセントに刺して電極繋げばいいのか?」

『ええ、極普通の電化製品と同じで、特に扱いに気をつけるべきところはありませんよ。一、二時間で済む筈です、とミサカはアドバイスします。』

充電器らしい機材を繋げると、いつも緑色に―時折赤く変わるが―光っているLEDがオレンジ色に光った。これがいつもの緑色に戻ったら充電完了ということらしい。

「しかし一時間以上このままか、なかなか辛いな。」

『寝ているのなら引き剥がしてみては?あなたの力なら然程難しくはないでしょう。では、問題はないようなのでミサカはこれで、とミサカは電話を切ります。』

その少し後、彼女の携帯には「念のため何か様子が変わったなら連絡を下さい」というメールが届いた。




「俺の力ならそんなに難しくないって、」

「そりゃあ、いつも通りに能力使えたらそうなんだろうけれど。」



この街の上層部が超能力者同士が親しくなるのを看過するわけがない。

そういった考えを少年が持つようになったのは、彼女が行方を眩ませて少しした頃であった。
高位の能力者の殆どはこの街での生活に満足しているだろうが、一方で無能力者などとは比べものにならない鬱憤を抱えている者もある。この街の大人たちは強い能力を持ち、且つ現状に不満を抱えている子供たちが接触するのを忌避しているようだった。そういった子供たちが共謀して何事かを引き起こすことを恐れていたのであろう。
それなら長いこと幼馴染同然に育った自分たちは何だったんだろうか、と少年は考えたことがあった。その答えはあるとき自分の担当研究者から齎された。


「あなたの能力の研究、中々進まないのよね。第一位と共同研究できてた頃はよかったんだけど。」

「?どういう意味だ?」

「あら、やっぱり無意識だったのね。あなたの能力、彼女相手だと全く出力が変わっていたのよ?」

「そりゃあ、親しい人間相手に全力出すわけがないだろ。」

そもそも人相手に能力を振るうのと、機械を相手に能力を振るうのでは精神状態が全く異なっている。彼女の場合は自分が何をしたって傷つくことはないと知っていたから然程手加減をしていたつもりはないが、それでも実験の為に発揮した能力とまるで違う出力だったとしても不思議はないだろう。

「そういうことじゃないのよ。あなたの脳波もその他のパラメータにも、彼女を相手にしたときとそうでないときに出力に影響するような有意な差は見られなかった。それでも、結果として現れる出力はまるで違っていた。」

「精神的な状態とか、そういう以前の問題としてあなたの能力は彼女に干渉されているのよ。」

その女性―彼を担当していた研究者だった―は随分前からそのことに気付いていたらしいが、それを彼に告げたらまた精神的な働きが発生して数値が変わるかもしれないと危惧し、彼に告げることは避けていたらしい。


それから知ったことなのだが、この街が研究している能力の中には、特定の相手にだけ出力や性質が変わるものが極稀に存在するらしい。これまで見付かったそういった能力はいずれもさしたる出力を持たなかったため、研究の対象としての注目を集めることは殆どなかったが、彼の存在はその前提をひっくり返したのだと研究者は言った。

「でも、第一位の協力が得られないならこの研究は進まないわね。」

少年とは全く違う理由で、彼女は心底残念そうに第一位と会えないことを嘆いた。




言われてみれば、少年にもそのような現象の心当たりがないでもなかった。
今でも制御の難しい能力であるが、幼い頃はそれこそ「うっかり」能力を発揮してしまうことが多かった。感情の起伏に左右されやすいのは超能力の常で、自分のような原石においてもそれは例外でない。特に幼い頃は、好きなものやお気に入りのものほど壊してしまうことが多かった。それらに触れているときに感情が大きく揺れて、それが能力として現れたということなのだろうと思う。
だけれど不思議と、「大好きなもの」であった筈の彼女に対してはそういった能力の暴発が起きることは一切なかったし、一方で能力が思ってもみない現象を起こすことも多かった。それに何より、自分は幼心に自身の能力が彼女を傷つけるように働くことはないと確信を持っていた。
自分は彼女の能力がそれを防いでくれるからだと思っていたが、もしかしたらそれは自身の能力が持った元々の性質だったのだろうか。離れ離れになってしまった今となっては確かめようもない―だけれど彼は、それを確かめなければならないと思った。

その後の過程は彼女も知っての通りだ。絶対能力進化実験のことを知って、驚かなかったわけじゃない。だけれど彼女の前では化け物だとか実験動物だとか、そんな風に呼ばれるような自分が、何も傷つけない普通の人間で在れたことが忘れられなかった。彼女相手にただの普通の人間の、男でしかあれない自分が、嬉しかった。
彼女を思う理由なんて、それだけだった。

もう色々と捏造しまくった今、ソギーの過去を捏造することなんて全く怖くない。あんな松●修造みたいな熱い男が、実は子供の頃無味乾燥な生活してたら萌える、なんていう>>1の屈折した欲望がありありと見て取れる過去捏造っぷりです。
このスレ長いこと書いてきたけれど、ソギーが百合にゃんを好きな理由って書いてこなかったと思っていて。あと以前に土百合ネタを書いたときにコメントしたんですが、つっちーは「一方通行」も(大分屈折してるが)好きだけど、ソギーは「一方通行」をイマイチ受け止めきれていない、というのが前提にあって。ソギーがそれを乗り越えていく過程が書きたいというか。

しかし読者の方が考えている削百合ソングが自分のそれと全く違って新鮮です。というか多分、自分が創作中に使ってる曲は読者の皆様が聞いたらびっくりするんだろうなぁ、と思う。しかし引き続き僕・私の考える最強削百合ソングはコメントして欲しいです。

こんばんわ、新約10巻読んだら頭の中が上百合一色になって中々削百合に戻ってこれませんでした。本編投下した後荒ぶった上百合感想書き込んでも生暖かい目でスルーして下しあ…


偶々手近にあった延長コードに充電機を繋ぐことができた為、充電作業自体はできた。ただ、10032号の言葉通りであればこの状態があと1時間以上は続くということが―つまりは、すっかり寝入った少女にしがみつかれたままソファーに押し付けられている状況が問題であった。

「「俺を預ける」―っちゃあ、言い得て妙だな。」

信頼によるものではなく、寝入っているという生理的な理由ではあるが、彼女は言葉通り彼に全身を預けている。細く華奢な体は伸し掛かられたところで然程重いものではないが、長い手脚は彼の身動きを制限するには十分だ。押し退けることもできなくはないだろうが、眠りの浅い質の彼女を起こしてしまったときにどんな反応が返ってくるのか分からない。




この状態の彼女のことを、自分は何も知らない。



彼女自身も妹達も電極を外した状態について語ることはあまりなかったし、少年も人の隠しごとを暴く趣味はないから、積極的に訊ねることはなかった。このように生活を共にするようになる前に、自分から積極的に関わっていくべきだったのかもしれないと、この上京を鑑みれば思わないでもない。

「彼女」について彼が知っているのは極僅かなことだ。

この状態でも意識がないわけじゃない。
物事を記憶できないわけではないから後からこの間に起きていることを思い返すこともできるらしい。ただ意思を持って物事を見つめているわけではないから、覚えていることは支離滅裂だったりするようだが。
電極を付け直した後に思い返すという形でなくても、今この瞬間でも好き嫌いといった単純な判断はできるという話も聞いた気がする。

「そりゃあ、能力使えば難なく引き剥がせるんだろうけど。」

更に言えば普通に椅子に座っているだとか、立った状態であるだとか、そういう状況ならば能力を使わずともそれは可能だったろう。しかし、関節が妙な具合に曲がったままソファーに押し付けられているこの状況では、能力を使う使わないは別にしておいて多少乱暴な方法でなければこの拘束を解くことはできないと思う。

「どけていいのか、これ。」

怖がらせたりしないだろうか。能力を使わないにしても、力づくで引き剥がしていいのだろうか。起こしたり、怖がらせたり、悲しませたりしないだろうか。そもそも意識ある状態では滅多にこんなことしてくれないくせしてこういう対処の難しいときに限って何でこんなこと、と恨み言が漏れそうになったとしても、彼に然程非はあるまい。
この状態を黄泉川愛穂や打ち止めに目撃されたなら、どんな反応をされるか分かったものではない。幾ら超能力者第七位とは言えど、強能力者相手に武器を使わず拘束できるような歴戦の警備員の怒りを買いたくはないのだが。


「ァ…?」

そのとき彼の胸の少し下辺りで、か細い寝息とは違う、しっかりとした息遣いが感じられた。それから、もぞり、とか細い腕が藻掻く気配がある。

「…起きたのか、百合子。」

「?」

声を掛けられて、彼女は少年と目を合わせた。自分の名を呼ばれたという自覚はないのだろう。ぱっちりと見開かれた赤い目がしっかりと少年を見据えていることから察するに、怖がられてはいないらしいが奇妙には思われているらしい。赤ん坊などは、起きた瞬間泣き喚くようなイメージがあるのだけれど、彼女の反応はそれと違った。
例えば未だ人見知りを知らない赤児が知らない人間と会ったときのような、或いは初めて犬猫に接したときのような、いいも悪いもない単なる「好奇心」「興味」だけの篭った表情だ。

「あ、ン」

彼女はぺたぺたと少年の胸や、髪や、頬に触れる。妹達以外にこの状態の一方通行に接触したことのある人間はあまりいないようだったから、妹達ではない人間、或いは男性が珍しいのかもしれない。その念入りな確認作業は、子供の気紛れというよりも彼女の几帳面さを彷彿とさせる。
改めて考えてみれば、別に精神が退行しているわけではない。彼女の歳相応以上に賢い(とかいうレベルでは収まりきらない)頭脳はそのままで、その一部分が機能しなくなっているというだけだ。残りの部分は相変わらずあの「学園都市第一位」のものなのだから、彼女の性質が見た目そのままのものだと思う方が余程失礼だろう。


さて、彼女が動くことで拘束は緩んだが、こうもきっかりと見詰められて跨がられたままでは身動きが容易でないことに変わりはない。彼女がぱっちりと目を覚ましてしまった今となっては起こすのを危惧する必要性もないし、多少の状況の改善を試みてもいいだろう。

「百合子、とりあえずソファーから降りないか?」

彼女はぱちり、と大きく瞬きをした。普段は眉間に皺を寄せてばかりいるから分かりづらいが、その赤い目は何かの拍子に零れてしまいそうなほどに大きい。
こちらが何を言っているかは分かるまい。だがこの様子を見る限り、自分が他の誰でもない彼女に何かを伝えようとしていることは認識しているようだった。仰向けにソファーに押し付けられたまま、空いた手で床をぽんぽんと叩く。彼女の視線が床に移動し、それに伴って体も少し傾いだタイミングで彼女の体を持ち上げ―実際にはほんの少し体を浮かせて軽く滑らせたような感じだが―ソファーに凭れるように床に座らせ、自分もその隣に座り込んだ。
ほっと息を吐く。ソファーに押し付けられ、普段使わない筋肉に力が入っていたり、関節が妙な方向で固定されていた状態から開放された体に、途端にしっかりと血が巡るような感覚があった。


「酷い目に遭った…後でマッサージ要求するぞコラ。」

とんとん、と彼は自身で肩の後ろ辺りを叩いた。無茶苦茶な身体能力を持ってはいるが、あくまで能力を使ってこそのものであり、身体的な疲労を全く感じないわけではない。例えば四六時中上条の右手に触れられていたら、少しスポーツの得意な当たり前の高校生くらいのことしかできない筈だ。本人もほとんど無意識に発動させている能力だから、そうは見えづらいだけのことである。

「ゥ、あ?」

どうやら少年が自身の肩を叩く動作を見て不思議に思ったらしい。彼女の方に背中を向けると真似をするように握った左手でぽんぽんと叩かれた。叩く場所はまるで見当違いだったのでマッサージとしては全く意味がないが、その一方で全く力が入っていないので痛みもない。

(やっぱり)

(あいつは赤ん坊みたいなもんだって言ってたけど、それにしちゃ賢い)

赤ん坊なんて映像の中だとか教科書の文章だとかを通じてしか知らないから、酷く曖昧な感覚ではあるけれど。それでも全く知識を持たない赤児と、知識を持っているがそれを引き出す方法のない彼女とでは状況が違うのだと思う。
脳の損傷が回復するメカニズムについては不明なことも多い。成長期の子供であれば彼女のように重症な例でも日常生活に支障がないレベルまで回復し、他人には障害の有無など分からなくなったという例も稀に存在する。彼女の複雑に発達した脳が受けたダメージは常人のそれと比べることはできないだろうが、その分受けた障害を補う能力が高い可能性もある。


「今のお前に言って分かって貰えるのか、分からないけど。」

あちらこちらに視線の移ろう彼女の頬にそっと触れて、こちらを向かせる。突然の少年の行動に驚いたようだったが、嫌がったり怖がったりしている様子はなかった。

「俺な、スポーツ科学系がある大学行って、リハビリの研究しようと思ってるんだ。」

「お前は自分の為にそこまでしなくたっていいって言うのかもしれないけど、元々スポーツ科学には興味があったし。」

今の彼女には理解できないだろうし、後々意識が回復した際にもどこまで思い出せるものかは分からない。だからこれは少年の独り語りのようなものだ―いや、予行練習と言ってもいい。いつかは、ちゃんと理解できる状態の彼女にも伝えなくちゃならないのだから。

多分、自分は「一方通行」である彼女を遠ざけていたと思う。それは意識的なことではなかったが。


嘗ては、実験動物として扱われる彼女を一人の人間として扱うことこそが自身の使命であるように思っていた。そしてそれは、何年か前の二人にとっては紛れもない事実だったと思う。
だけど彼女は、今となっては「一方通行」と分かちがたくなってしまった。彼女が「一方通行」として振る舞ったこと、為したこと、それはなかったことにはならない。これまでは彼女が触れてほしくないのであれば、と積極的に関わってこなかったけれど、生活を共にする以上見て見ぬ振りもできないのだろう。そして彼女もそれを理解していて、こんな突飛な行動に出たに違いない。

「綺麗ごとだけじゃなくて、欲だとか、嫉妬とかも多分に入り混じった感情だとは思うんだけど。」

進むことも戻ることもできずにただ同じことを繰り返すことしかできなかった彼女を、多少乱暴な手法ではあるが救い出した上条当麻。沢山のものを持っていたけれど、そのどれにも愛着を持てずにいた彼女に守るものを与えた打ち止め。日々言葉を話すにも手を動かすにも、四六時中彼女を支えているに違いない妹達。大人から与えられる愛情を知らなかった彼女に、殆ど無縁の関係でありながらそれを惜しみなく与えた黄泉川愛穂。許されることをどこかで恐れている彼女を、償いだと称しては気侭に振り回す番外個体。
そのどれかを、自分が成り代わることはできない。でも、それらと並びたいと思うのなら、自分は「一方通行」と関わることを恐れてはいけない筈だ。


「ずっと、元の通りになりたいと思ってた。」

「でも、元通りなんてどこにもない。例えあの実験がなかったとしても、過ぎた時間はなかったことにはならない。」

「俺はこの通り、大きくなった。大きくなってしまった。」

「お前は多分、俺の気持ちに気付いていたんだろう?」

一方通行として振る舞うときと、彼のよく知った嘗ての彼女を彷彿とさせる表情を見せるときと、これまでそれらは比較的はっきりと区別されていたように思う。
よくよく考えれば、二面性のある人間というのは珍しくないが、それでもその二つの面がきっちりと分かれているなんてそんなことはない筈だ。解離性同一性障害の人間だってそれぞれの人格は別物であるように見えて、その実互いのストレスであったり欲望であったりを互いに分散しているものだ。況してやそんなものを抱えている筈もない彼女の中で「鈴科百合子」と「一方通行」が厳然としてベツモノとして存在するわけはない。

多分、彼女は意識してそれらを使い分けていた―彼の為に。
いや、もしかしたら彼にそれを知られることを忌避していた彼女自身の為にかも知れないけれど。だけれどそれは少年には知る由もない。
どちらにしろ、彼女はそれを長く続けることは難しいと判断したのだ。だからこうやって極端にも見える方法で彼に問うている―オマエは俺を受け入れるつもりがあるのかと。

「俺だって大分様変わりしてるのに、お前にだけ変わっていてほしくないだなんて、虫が良い話だ。」

「変わってたって、お前はお前だって分かったから。」


「俺は何度だって、お前を好きになるよ。」

きっと必死に理解しようとしてくれているのだろう。本来であったらあちらこちらに興味の移り変わる筈の彼女は、彼が独り言にも近い告白をしている間、ソファーの座面にことりと頭を預けたままその様子を見守っていた。

「ごめんな、」

「「お前」にもっと、ずっと前に会っていなくちゃいけなかった。」

白い、絹糸のような前髪を払って彼女の額を露わにして―嘗てここに銃弾を受けたらしいが、酷く滑らかでそんな気配は微塵も残っていない―唇を寄せる。くすぐったかったのだろうか、くふ、と彼女の喉が鳴る。その動作は、赤児というよりかは気侭に振る舞う猫のような印象だ―人間のさがも欲も知っていて、それでいて全て知らぬ振りで過ごすような。

「ン」

彼女もきっと「お返し」をしようとしてくれたのだろう。こちらの額に触れて、それから少年のそれが自分のそれとは違っていることに気付いたらしい。

「これが邪魔か?」

少年はいつも、室内であっても巻いていた鉢巻を解いた。

「お前が付けた傷、ここのだけわざと残してたんだけど…覚えてるか?」

返事は返ってこなかったが、酷く柔らかいものが触れる感触があって、それは十分に返事の代わりという役目を果たしていた。


今日はここまでです。

ソギーの性癖はドストレートなので(別に性的欲求がないわけじゃないけど)電極オフ中にイタズラしようとか全く考えない。>>1やつっちーと違って白痴萌えとか全くない。百合子ちゃんは電極戻ってから「思った以上に反応つまンねェ」って思ったとか思わないとか。

さて、ここから新約10巻の感想?です。まだ読んでなくてネタバレ嫌な方、上百合苦手な方、変態でない方はスルーして下さい。





挿絵のご機嫌斜めな一方さんマジ天使。第一声「つーかよォ」の一方さんマジ天使。一面のガラスと雪の中に立つ一方さんマジ天使。ましてやその中心で気を失うだなんて天使以外の何物でもない。白いとか細いとか、女子みたいな形容詞つく一方さんマジ天使。え、っていうか女子だよね?うん知ってる。1億年と2千年前から知ってる。
別スレ立てて上百合投下しようと思って書き始めてたところにこれだもんね。最初のメール開いた時点で上条さんの事情を察して、その上で呆れてる一方さんマジ上条さんの嫁…うんそうだよねあんな旦那持つと苦労するよね、でも好きなんだよね知ってる(迫真)
きっと一方さん、上条さんが石を手にした時点でどうやって自分を倒すつもりか分かってたと思う。それなのに胸を強打された瞬間(あ)ってなったってことは、ぱいたっちされたんだよね、知ってる。え、ぱいたっちだけじゃない?ちゅーされたし押し倒されたし犯された?うんうん知ってる。
いや、冷静に考えても下半身的に考えても(あ)って可愛すぎじゃないですか。犯されても文句言えない。(あ)ですよ、(あ)。今までこんなにも可愛い一方さんがあっただろうか。ローマ字に直しても「a」の一文字ですよ、これ。一文字の破壊力ヤバイ。あらゆる萌コンテンツ制作者がこれまで萌える嫁の台詞を日夜捻り出してきたと思うんですけどね、この一文字に敵うものなんてありましたか?いいえありません。
だから>>1が上百合に萌えすぎて中々削百合書き進まなかったことも自然の道理であって、寧ろ神の意志?みたいな。とにかく百合にゃんぺろむしゃあ。

ご無沙汰しております。旧に引っ越しをすることになってドタバタしており、ちょっと投稿開いてしまいました。
今週末引っ越しなので、来週末にはなんとか投稿したいと思っております…
でもなんかPCの調子が悪くって怖い…

生存報告のみで済みません!次の投下は常盤台組ですぜ!

削百合の日

てすてす

良かったトリ合ってた。

>>637でコメントしたとおり、引越しを終えたあと案の定パソコンが瀕死の重体に陥り、新しいの買って必死でデータ移したり色々してました。Windows8使い方よく分かってない…
>>640さんが素敵なコメントくれたので、削百合小ネタ投下したあと本編投下します。本編がしばらく回想続きになる予定なので、削百合シーン暫く出て来ないんよ…




「ということなので、いちゃいちゃしようと思います。」

「どォいう経緯なのか分かンねェし興味もねェけど、いちゃいちゃって具体的に何すンの?」

「一緒に買物行ったりとか?」

「むしろ別々に買い物行くことの方が珍しいじゃねェか。」

「夕飯の買い物っていちゃいちゃ感足りなくないか?服選びっことかしたい。」

「そォいうもンか?結標は生活共にしてるって雰囲気がいいわー、って言ってたけど。」

「ああ、そういう考え方もあるのか。」

「で、他に具体的ないちゃいちゃ例ねェの?」

「一緒にご飯作ったり?」

「夕飯は大概一緒に作ってンな。」

「百合子がめっちゃてきぱき指示出しするから何かの訓練してるみたいな感じだけどな。」

「料理しながら余計な会話してる暇ねェだろ。炒め物とか揚げ物とかスピード命じゃねェ?」

「普段ファーストフードでも平気な癖して、自分で作るのは凝り性だよな。」

「自分が旨いと思うもン食べたいなら自分で作るのが一番だろ。人が作るもンには腹満たす以上のこと期待しねェ。」

「じゃあいちゃいちゃって何があるかなー。映画のDVD見るのも昨日やったよな。」

「お前のいちゃいちゃの引き出し少ねェなあ。」



以上、ソギーの自室ベッドの上より膝抱っこ状態にてお送りいたしました。


無自覚にいちゃいちゃする二人。番外個体なんかがこの光景を見たら「これ以上いちゃいちゃするって、ミサカは18禁的なものしか思い浮かばない」ってなります。

次から本編投下しますー。




「先日もお話いたしましたけれども、お姉様、毎回付き添っていただかなくとも構いませんのよ?」

白井黒子は自身の少し先を歩く御坂美琴の背中に向かって躊躇いがちに言った。そう言われた方の御坂は全く意に介さないという様子で、そもそも歩みを止めることすらない。

「アンタのためだけじゃないって言ったでしょ。いいから付き添わせなさい。私一人でしょっちゅう病院に通っていると怪しまれるんだから。」

白井はある事件がきっかけで、週2回冥土返しのもとに通院している。そして御坂はそれに付き添い、待ち時間の間に妹達との面会を重ねていた。

「そりゃあお姉様は健康優良児ですもの、病院に通い詰めていたら何事かと思うのが道理ですの。」

「それだとなかなかあの子達に会えないじゃない。まさか人目のあるところで会うわけに行かないし。知り合いが入院しているだとか、こんなときでもないと。」

白井が勝手な行動を取って妹達の存在を突き止めたことについて、御坂は怒ったり戸惑ったりはしなかった。少なくとも白井の目にはそう見えた。「いつかはアンタにも話さなくちゃいけないと思ってたし」と、彼女は少しだけ年に似合わぬ落ち着いた表情で言った。


「どうかしたの、黒子?」

「いいえ、何でもないですの。」

回想に耽って何も答えなかった白井の様子を訝しんだらしい、彼女は初めてそこで後ろを振り返った。

以前から妙に知り合いの見舞いだの何だのに熱心に通っていることには気付いていた。大抵その相手は白井が「類人猿」と呼ぶ少年で、御坂はその少年のことを好いているとはいえ、単なる友人関係に過ぎない相手の見舞いに通うにしては頻度も多く、面会時間も長いように感じていた。
或いはその少年の見舞いを口実に、今日のように妹達たちに会いに行っていたのかもしれない。少年は彼女のクローンたちの存在を知っているようだったから、口裏を合わせるにも都合がよかっただろう。照れ屋の彼女のことだから、少年に対して「妹達に会いに来たついでよ」などと可愛げのないことを言っていたかもしれない、それこそ今、白井に対してそういう態度を装っているように。

「では、私先生とお話して参りますので、また後ほど。」




「やあ、白井くん。調子はどうかな?」

いつでも忙しそうにしている医師は和やかに言った。大量の患者を抱えている筈なのに、彼からその疲れやストレスといったものを感じ取ったことはなかった。医師としての腕や知識量がどうこうというより、彼のそういった部分こそが名医と謳われる理由なのだろう。

「体調という意味なら、相変わらず健康そのものですの。」

「能力仕様には未だ、不安がある?」

「不安というほどはっきりしたものではありませんが、少し、違和感がありますの。」

特力研の跡地で、特殊すぎる能力が引き起こす負の側面というものを嫌になるほど目にした。この街で50人ほどしかいない空間移動能力を有する自分ともまるで関係のない世界ではないと気付いた瞬間に、恐怖というほど明確なものではなかったが、漠然とした心許なさを覚えた。
それ以来、能力を使用する際に少し演算の乱れのようなものを感じることが増えた。自分の能力は「自分に触れたものを、自分の触れない場所に動かす」ものであるから、自身の転移でもしない限りは演算をミスしたところで自分に被害はないが、周囲のことを考えると気が引けた。
何かをきっかけに能力が突然全く使えなくなったり、或いは正反対に強度が上がったり、などということは決して珍しいことではない。身体的にも精神的にも大きな成長をする思春期には猶のことで、例え名門常盤台の生徒であろうとそういった現象とは無関係でなかった。
しかしそういった「有り触れた現象」も、希少な空間移動系能力者である彼女の場合は慎重な対処が求められると見えて、彼女の主治医は当面の間週2回の通院を指示していた。


「あれから自分の転移はしたかい?」

「いいえ、風紀委員も今は後方支援に回して頂いておりますし。」

「その方がいい、もしものことがあったら大変だからね。結標くんは何年も自分の転移ができなかったようだし。」

「あ、…」

「ああ、済まないね。君にとってはあまり聞きたくない名前だったかもしれないけど、僕にとっては彼女も患者には違いないからね。」

少し表情を翳らせた白井に、彼は苦笑いしながら言った。

「いえ、構いませんわ。」

あの件があって、結標淡希があんな行動に走った背景をほんの一部には過ぎないだろうが想像することができた。
以前は、一度自身の転移に失敗したくらいで大袈裟な、と思っていた。全て能力のせいにして、自分自身の問題を省みることのできない弱い人間なのだと断じた。その考えは今でも然程変わっていないが、それでもそれが相手にとっては酷く暴力的な、正論に過ぎる論理だっただろうことは想像ができる。
事の真偽は知らないが「案内人」だという噂が立つような、しかも「残骸」の存在を知り得たような人物なのだから、この街の薄暗い陰謀と無関係ではないのだろう。つまり自分の知らない、例えばあの特力研で見た映像を幾らかソフトにしたような出来事を、彼女が経験していた可能性もある。


彼女は今現在自身の転移も問題なくこなせるまで回復したと聞く。それもこういったカウンセリングなどを使わず、自分自身で立ち直ったらしい。加えて絶対能力進化計画を再開させようなどと考えていた筈の彼女が、特力研の一件では妹達を助ける立場であったという話も聞いた。白井はそれを喜びたいのか、或いは腹を立てたいのかも分からなかった。
自分で自分の気持ちが分からないというのは聡明で迷いのない白井には殆ど経験したことのないことで、そのはっきりしない感覚がそのまま能力に影響を及ぼしているように感じていた。
結標淡希が自分の転移にトラウマを覚えたというのが今なら理解できるように思う。超能力は結局「意識」の具現化だ。もしかしたら失敗してしまうかも、そんな思いが簡単に反映される。失敗を知らなかった頃はそんな恐怖を持ち得なかった筈なのに。

診察が終わる頃、医師が思い出したように言った。

「話は変わるけれど、白井くん、僕以外の医師のカウンセリングを受けるつもりはあるかい?」

「他の先生、ですの?」

「能力の不調も心理的なことも、厳密には僕の専門ではないからね。こういう状態になってしまった原因があまり人に話せることではないから、僕が担当しているけれど。」

「もし君が望むなら、そういった部分も含めて信頼できる先生を紹介するよ。次の診察までに考えておいてくれないかな。」

「分かりましたわ。」

「そういえば今日、御坂くんは来ているかい?彼女とも話したいことがあるのだけれど。」

妹達のことだろうか、或いは自分のことだろうか。御坂は白井の付き添いは次いでで、本命は妹達と会うことだと言い張っているが、自分の知らないところで自分の状態についても熱心に聞いているらしいということを知っている。

「多分、妹さんたちとお会いしている筈ですの。私、呼んで参りますわ。」

「ありがとう、助かるよ。」




「失礼致しますの。」

妹達の部屋は使われなくなったスタッフの居室を改装したものらしい。病院の奥まったところにあるので同じ顔をした人間が何人も頻繁に出入りしても人目に付かないのだろう。そこに行く手前にはナースステーションがあるので、事情を知っているスタッフたちは部外者がそちらへ向かおうとするとやんわりと制止するという話だった。しかし自分を呼び止める声はなく、そこを通り過ぎようとする自分ににこやかに会釈をする看護師がいただけだった。

「お姉様、先生が呼んでらっしゃいますの。診察室まで来ていただけますか?」

扉を開けると、同じ顔をした少女が5人ほど一斉にこちらを向いた。扉を開ける前から分かっていたことではあるが、何度か経験した今でも少しぎょっとしてしまう風景だ。御坂も最初は慣れなかったと聞くし、彼女たちはそういった反応に慣れているので気にもならないらしいが。

「そう?じゃあすぐ行くわ、アンタはどうする?」

その内の1人、最も容易に見分けの付く少女がすくりと立ち上がって言った。確かに顔はそっくりだというのにこんなにも印象が違って見えるのはなぜだろう。表情で印象が変わるというのはよく言われていることであるし、自分でもそういうものだと思っていたが、実際に目の当たりにしてみると自分が考えていた以上にその効果は絶大だった。

「私、こちらで妹さんたちとお話していてもよろしいでしょうか。」

「私は別にいいけど。アンタたちも大丈夫よね。」

「ええ。ミサカたちも色んな方とお話してみたいですし、とミサカ10032号は回答します。」

答えたのは次に区別の付きやすい少女である。彼女だけは上条当麻に貰ったらしいペンダントをいつも大事そうに着けているからそれで見分けられる。彼女たちに対しての御坂や冥土返しの問いかけに代表して返答するのも、彼女であることが多い。

「じゃあ、ちょっと待っててね。」

「ええ。」




ぱたり、と静かに扉が閉まるのを待ってから、妹達の一人がおずおずと白井の様子をうかがいながら10032号に話し掛けた。

「10032号、先ほどお姉様と話していた件について訊いてみなければならないのでは?とミサカ19090号は促します。」

「何でこのミサカに押し付けるのですか、10039号とかでもいいでしょう、とミサカ10032号は反論を試みます。」

「いつもこういうことは10032号の仕事ですし、とミサカ10039号は暗に拒否します。」

何かを押し付けあっているらしいが、当の白井には彼女から少し離れたところで円陣を組むように相談しあっている妹達らの様子を窺い知ることはできない。

「何か私に訊きたいことがございますの?」

少し焦れったくなってその円陣に外側から声を掛けると、少しの間口を噤んで、それから観念したように10032号が口を開いた。

「お姉様が、人のことをフルネームで呼ぶのを止めた方がいいと…、嫌がる人が多いだろうから、と。」

「しかし黄泉川愛穂や芳川桔梗は気にしている様子はありませんが、とミサカ100039号は反論を試みます。」

「あの二人は一方通行にも呼び捨てにされて気にしていないようですし、元からそういう質なのでは?とミサカ13577号は相手の気質も影響するのではないかと推測します。」

「あァ?俺がどォした。」


白井の返答も待たずにああでもないこうでもないと議論を始めた彼女らの耳に、掠れて年頃の少女としては低すぎるくらいの声が届いた。特別声を張り上げているわけではないのに、不思議と他のどんな音より耳に届く。

「こんにちは、一方通行。とミサカ10032号は挨拶をします。」

礼儀正しくお辞儀をした彼女らに、一方通行と呼ばれた人物はああ、とか何とかはっきりしない気のない返事をした。

「お邪魔してますの。」

白井も挨拶をすると、彼女はそこで初めて白井の存在に気が付いたような反応を見せた。実際にはそんなことはなく、あまり接触のない人物に対してどういう対応をしたらいいか分からないだけなのだろう。

「…別に俺は家主じゃねェンだから、挨拶とか要らねェよ。」

彼女は白井に目線も合わせずに言った。

「一方通行、今日は何の用ですか?番外個体も上位個体も調整の日ではなかったかと思いますが。とミサカ13577号は質問します。」

「『俺』の調整だよ。2ヶ月に一度は検査しろとさ。」

彼女はとんとん、と指で自身の頭を軽く叩いた。その白い髪よりも、光の加減の問題だろうか、更に白く透けて見えるような細い指が白井の目に焼き付くようだった。


「ついでにこの間食べたいって言ってたやつ持ってきたからオマエたちで食え。黄泉川ンとこには別に置いてきたから、クソガキや番外個体にゃ遠慮しなくていい。」

「あ、ありがとうございます。貰ったばかりで何なのですが、今度は有名なお菓子屋さんのバレンタイン限定チョコが欲しいです、とミサカ19090号は厚かましくおねだりします。」

「オマエたちがチョコ貰ってどォすんだ。やる側だろ。」

「どうせ第七位にはあげるんでしょう?そのついでで構いませんから、とミサカ10039号も食い下がります。」

「あのバカがチョコレート食うと思うか?もう検査の時間だし、俺は行くわ。」

彼女が扉を閉めて、かしゃかしゃという独特な杖の音が遠ざかるのを待ってから妹達は口を開いた。

「あんなこと言って絶対買ってきてくれますよ、とミサカは一方通行のツンデレっぷりに苦笑します。」

傍から見ていた白井には酷く無愛想でぶっきらぼうな態度に思えたが、彼女たちにはそこに隠された感情が分かるのだろうか。御坂と話していたときとも違う、不思議な高揚感のものが彼女たちの中に存在するのが分かった。

「愛想は悪いし、口も汚いですが、こちらに害意がなければ至極安全な人間ですよ。」

「え?」

「一方通行のことです。白井黒子が、一方通行を怖がっているように見えたのですが、トミサカ10032号は余計なお世話を焼いてみます。」

自分は彼女が怖いのだろうか。
確かに恐ろしい能力の持ち主だとは思う。恐らく自分では彼女に傷ひとつつけることはできまい。御坂に聞いたり、或いは自分で調べたりした彼女の過去のことを考えても、恐怖を覚えるのが当然のように思う。
だけれど彼女に対しても、例えば結標淡希がトラウマを克服したと聞いたときと同じように、いい感情とも悪い感情ともつかないもやもやしたものが腹の底の方に溜まるだけで、明確な恐怖や憎悪を覚えているわけではなかった。
ただ、自分が知らないことがたくさんあって、それを知らないことには彼女を嫌うことも憎むこともできないのではないかと思う。きっとたくさんの人に敵意を向けられて、敵意を返すことしかしてこなかっただろう彼女の人生を想像することは、白井にはあまりにも難しかった。




「一方通行に会った?」

病院からの帰り道、妹達と過ごしていた間のことを話すと御坂は驚いたようだった。

「アイツ、私にも声掛けてくれたっていいのに。」

「お姉様が先生とお話していたときのことですし、ご自身の検査の時間が近いって仰っていましたから、それは難しかったのではないかと思いますの。」

「自分の検査?」

「頭を指さしていらっしゃいましたが、何か?」

「ああ、そういうこと…。」

御坂は苦虫でも噛み潰したかのような表情を見せた。彼女が受ける「検査」とやらにどんな意味があるのか白井には分からないが、御坂は知っているのだろう。そしてそれは御坂にも無関係なことではないのかもしれない。


「お姉様は、以前あの方と余り親しくなかったとお聞きしておりますが…。」

「そりゃあ親しいわけないでしょ、自分のクローンを殺しまくってた人間と。今だって友人とは呼べないんじゃないかしら、知人ではあるけれど。」

既に絶対能力進化実験の経緯を聞かされた白井相手だから言えたことであろうが、御坂はそれでも「自身のクローンが殺された」という事実を口にするのを幾らか躊躇っているように感じた。

「だけれどお姉様は、あの方と親しくなろうとしているように見えますわ。」

「そりゃあ、今となっては妹達が生きていくために一番必要なのはアイツだもの。悔しいけど、私の知らないところでたくさんあの子たちを助けてた。きっと私では力になれなかっただろうって思う話もあの子達からたくさん聞いた。」

「だから私はアイツを許さないけれど、認めてる。」

「何かきっかけはございましたか?そんなふうにお考えが変わったことに。」

白井に訊ねられて、御坂はそんなこと考えたこともなかった、というような表情を見せた。そういえばどうしてだっけ、と呟いた表情は妙にあどけない。

「ロシア、行ったときかな…。きっかけっていうのか分からないけれど、そこでアイツと会って…。」

「そう言えば、あのときお姉様がロシアで何をしてらっしゃったのか、私お聞きしておりませんの。」

第3次世界大戦中、行方の知れなかった御坂は帰ってきたかと思えばロシアにいたと言った。しかしそこでどんなことをしていたのか、どんな出来事を体験したのか、そのときは白井が何を聞こうと答えてくれなかった。今考えれば、妹達に関わることもあったのだろう。

「話してもいいけど、面白い話じゃないわよ?」

「構いませんわ、お姉様の体験したこと、お考えになったことを知りたいだけですの。」

御坂はそれから暫く難しい顔をしていて、寮の部屋に戻った頃ぽつぽつと語り始めた。


今日はここまでです。ここから暫く捏造ロシア編が続くので、ソギーは全然出て来ないよ!御坂と百合にゃんが殺伐してる頃なので明るい話でもないよ!

こんばんはー、大分暑くなってきましたねぇ。
ワールドカップがあったのでアニヲタ活動そっちのけでサッカーヲタクやっておりました。この三連休でじんわりとアニヲタに戻ってきております。

さて、次レスから回想ロシア編です。




「さて、アシは確保したけど…さすがに真っ直ぐ学園都市に戻るのは辛いわね。」

麦野沈利は振り返り、一組の男女に視線を向けた。
どういった方法をとったのか分からないが、長年体晶に蝕まれ続けていた滝壺理后はそのくびきを脱したらしい。それでもこのロシアで度々命の危険に晒されたのだろう、その顔に浮かぶ疲労の色は濃かった。
無能力者であり、ロシアに逃亡する以前から滝壺を庇い続けていた浜面仕上の状態も良くない。『交渉材料』になりそうなものを見付けたときはどこにそんな元気が残っていたのかと思うほどにてきぱきと行動していたが、それも精神力のなせる業だったのだろう、今では体を支える両の足にさえまともに力が入っていない様子だった。
自分だって酷い有様である。適性のない体晶を使い、第二位本人でこそないものの彼の能力で作り上げられた武器を手にした部隊を相手に戦った。こちとら第四位で、更に言えば万全の状態とは言い難い。ロシアに来る以前から片腕と片目を失っていたのである、外見的に一番ぼろぼろなのは間違いなく自分だろう。

「治療をしてくれそうな場所に心当たりがある。借りばっかり作るのは心苦しいが、拒否されることはないと思う。」

浜面はエリザリーナを思い返しながら言った。
ディグルヴの集落の世話になることも一瞬考えたが、治療の設備はあまり整っていないだろう。エリザリーナは戦力として頼りになる一方通行はおろか、見返りを期待できないだろう浜面と滝壺にも手を貸してくれた女性である。一方的に頼りにしてばかりなのは申し訳ないが簡単な治療と少しの休憩場所くらいは提供してくれるだろう。

「むぎの、はまづら。多分これ運転できるよ。」

滝壺が学園都市の輸送機の中から顔を出した。あの後追撃に来た部隊を迎え撃ち、強奪したものである。スーツ女から『交渉材料』を得た後、更に追撃部隊の情報も訊き出した上で待ち伏せたのだ。襲撃してくる場所も方法も持っている武器も知っていたのである、これまでの戦闘に比べれば格段に容易だった。


「―はまづら、あくせられーたはどうやって帰るのかな。」

「第一位?あいつもロシアに来てるの?」

滝壺の言葉に麦野は少し驚いた顔をしただけであったが、浜面は苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

浜面仕上は、一方通行に対してあまりいい感情を持っていない。
それも仕方のないことである。無能力者であることに絶望し、世を拗ねていた自分に生き方を教えてくれ、生きる場所も提供してくれた人物、駒場利徳を彼女は殺したのだ。スキルアウトという間違っても褒められた存在ではなかったけれど、確かに浜面はそこに居場所を見出していた。
彼女にも事情があったことは理解している。あの後アイテムの下っ端として走り回る生活に身を落とした浜面は、一方通行も同様に『学園都市の駒』でしかなかったことを知った。ただ、そういった理解と感情は別物であった。
一方で、エリザリーナ独立国同盟に入国する際、彼女が自分と滝壺を助けてくれたのも事実である。エリザリーナにだって、彼女の介入がなければ会えていなかったかもしれないのだ。その後もどんな方法を取ったのかエリザリーナやその側近たちの信頼を得たらしい彼女のお陰で、浜面と滝壺はあの場所でかなり快適に過ごすことができたのだ。


「さっきの空の変なのと戦ってたのも、あくせられーただったよ。」

「アンタ体晶使わなくても分かるの?私は遠くて何も見えなかったわよ。」

「あくせられーたのAIMは強くって、不思議な雰囲気だから何となく。」

滝壺の言う「空の変なの」とは「神の力」あるいは「ベツレヘムの星」のことであるが、魔術的な知識を持たない彼らは知る由もなかった。ただ、あれが危険な存在であり、自分たちでは何ら対処ができなかったであろうことは理解していた。
つまり、もし滝壺の言う通り「空の変なの」と戦っていたのが一方通行であるならば、彼らは再び彼女に助けられたことになる。事と次第によってはロシアの国土とともに彼らは吹き飛んでいたかもしれないのだ。
つまり浜面仕上はエリザリーナ独立国同盟への入国の経緯も含めて、一方通行に借りを作ってばかりであるということらしい。理屈では彼女に学園都市に帰るための方法を提供するくらいは当然のことなのだろうと思うのだが、浜面の感情はそれを否定する。

「滝壺、ひとつ確認していいか?」

滝壺は無言で浜面を見詰め返した。浜面はそれを肯定だと受け取った。

「個室サロンで、一方通行はお前に何か危害を加えようとしたか?」

滝壺は無言で首を振った。いっそ悲しげにすら見える表情だった。

「あくせられーたはテロリストを制圧しただけだよ。私に近付いてきてたのは、具合が悪くて倒れていた私を怪我した人質か何かだと思ったんだと思う。」

浜面はあのとき一方通行が滝壺に危害を加えようとしていると勘違いし、一方的に攻撃をした。その結果、一方的に嬲られることとなったのだが。
恐らくあの場に一方通行が登場するよりも早く浜面が辿り着いたところで、彼はテロリストを無力化することはできなかっただろう。むしろ浜面が死んでいた可能性の方が高い。
確かに滝壺理后そして浜面仕上は、幾度となく一方通行に救われていた。


「ああ!!分かったよ、もう!!!」

「あんなクソッタレに借りを作ったまんまってのも気に食わねぇしな!借りを返してから恨みでも何でも晴らしてやるよ!!」

滝壺はふふ、と愛らしく笑みを零した。そんなはまづらを応援してる、彼女がそう言うのであれば浜面は何だってできそうだった。

「とは言っても、第一位だよ?案外アシぐらい確保してるんじゃない?」

麦野はこの会話にほとんど参加できなかった。何せ個室サロンでの浜面と一方通行との戦闘も、ロシアに来てからの彼らの関わりも何も知らない。麦野沈利の中に存在する『一方通行』とは、はっきりした輪郭を持たない想像上の生き物でしかなかった。

「ううん、それはないと思う。さっきから一方通行のAIM、あんまり動いてないみたい。」




「アイツ、海に落ちたの…?」

学園都市第三位、超電磁砲こと御坂美琴は途方に暮れていた。上条当麻はあの訳の分からない浮遊要塞とともに北極海に沈んだらしい。
妹達とともに乗り込んでいたVTOL機では彼を見つけ出すことができなかった。そもそもこういった機体に搭載されているレーダーは人を見付けることを想定して設計されていないだろう、彼を発見できない理由がレーダーの性能の問題なのか、海に落ちてしまった故なのかも判別ができない。しかし、超能力を無効化する右手を持つ少年相手では彼女の能力を応用したレーダーも使えない。
自分一人では対処しきれないと判断し、御坂は協力者を探すことにした。とは言っても、ここは敵地ロシア。闇雲に探したところで学園都市の人間に協力してくれる人間はそうそう見つからないだろうと考え、彼女は10777号に話を振った。

「アンタの仲間、この近辺にいない?アイツをどうにかして見付けなきゃ。」

「いることにはいますが…。」

10777号は彼女たちにしては珍しいことに、言葉を躊躇うような仕草を見せた。御坂がその様子に首を傾げると、おずおずと言い難いであろうことを口にする。

「この近くに妹達が二人います。但し、お姉様が嫌っているであろう人物も一緒です、とミサカは注意事項を告げます。」

「?私が嫌ってる人間?つまりソイツは私とアンタたち共通の知人ってこと?」

御坂には10777号の言う『お姉様が嫌っているであろう人物』が誰なのか瞬時には分からなかった。「妹達と行動を共にし、かつ自分も知っている人物」が思い当たらなかったのだ。そもそも学園都市の最高機密である彼女たちは、世界中の研究所に預けられることになった今でも存在を知る者が酷く少ない。
況してや世界各地に散らばっている妹達の交友関係など、御坂には知る由もない。しかしながら自分も知っている人物となると、学園都市内の人間だろう。それこそ今行方知れずとなっている上条当麻か―
そこまで考えて、彼女はもう一人、確かに妹達と自分の両方が見知っており、かつ自分が嫌っている人物に思い当たった。


「恐らくその人物の能力を以ってすれば上条当麻を探すこともできるかと思いますが、とミサカは付け加えます。」

確かに御坂の思い浮かべた人物であれば、それは可能かもしれない。様々な応用力を有する第三位超電磁砲の遥か上を行く第一位であれば。あの憎たらしい右手を回避する術を持ている可能性がある。
しかし確かめなければならないことがある。あの女は確かに数ヶ月前、妹達を殺そうとしていなかっただろうか。

「何でそいつが、妹達と一緒にいるのよ?」

「お姉様にも色々思うところはあると思いますが、現在彼女は妹達を庇護する立場にあります。既に何度か命がけでミサカ達を守ってくれていますし、とミサカは複雑な現状を掻い摘んで説明します。」

「詳細を話すと長くなるので割愛しますが、彼女が上条当麻に対して危害を加える可能性もないと思います。恐らく彼の捜索にも協力してくれることでしょう、とミサカは早急な決断を促します。」

時間がない。
本当に彼が北極海に落ちたというのであれば、直ぐにでも引き摺り上げないと低体温症で命が危うくなる。今この瞬間にも波に流されどこへ行ってしまうか分からない。今は藁に縋ってでも彼を助けなければならないのだ。
しかし提示された手段は藁どころか、得体の知れぬパンドラであった。

「…分かったわよ!いいからその妹達とムカつく第一位のところに案内しなさい!!」

彼女は腹を括った。
もしアイツが上条当麻に対して危害を加えたり、あるいは妹達に攻撃するようなことがあれば今度こそ刺し違えてでも殺してやる、と思いながら。




「クソガキ、ウイルスとか射ち込まれてねェだろうな。」

一方通行は学園都市側の工作部隊から奪い返した打ち止めの額に手を載せて訊ねた。

「大丈夫だと思うけど、ってミサカはミサカは心配性のあなたを安心させてみたり。」

「最終信号、この手合いは自分で確認しないと安心しないよ。今だって能力使って確かめてるじゃん。」

番外個体の言う通り、一方通行は自身の能力を使って打ち止めの脳内の電気信号を解析していた。嘗て芳川に提供してもらった彼女の人格データを思い出す。
現在の打ち止めの脳内は、あの頃と同一ではない。人工的に作られ人格すら植え付けられたクローンと言えど生きている人間である、数ヶ月も生きていればその脳内の有様はまるで様変わりしていた。当然、一方通行はそれぐらいのことは想定していた。しかし彼女はその状態でも、打ち止めが正常なのか異常なのか程度は判断できる自信があった。
今こうして打ち止めの脳内信号を解析していても分かる、自身の能力が以前より格段に進化していることが。8月31日に同じようなことを試みたときよりも、自身の演算パターンが格段に洗練されている。これならば照らし合わせるべき元データがなかろうが、彼女の脳内の妙な挙動を感知することができる、と一方通行は感じた。


「さて、どォやって学園都市に帰るか。」

ロシア国内の輸送機関がまともに運行しているのか甚だ怪しいし、学園都市側の手が迫ってくる可能性もある。軍用機を強奪して番外個体に操縦させるのが手っ取り早いが、さすがにロシア軍のものを奪ったところで日本国内に着陸できるとも思えない。だからと言って既に撤退を始めているであろう学園都市の機体を探すのは骨が折れる。
一方通行が派手に壊さなければ、彼女や打ち止め達を回収した機体を使うという手もあったのだが―彼女はちょっとばかり調子に乗ってエンジン系統まで丹念に破壊したことを悔やんだ。

「また学園都市の機体がやってきたよ。第一位に殺されるってぇのに健気だね。」

番外個体が遠くの空を見遣る。確かにロシア軍のものではない、異様な形状をしたものがこちらに近づいてくる。あの機体の中に詰まっているクソッタレ共を排除して、機体を無傷のまま奪えばいいか、と一方通行はまるで近所のコンビニに行くときのような気軽さでもって大層酷いことを考えた。
となれば空を飛んでいる今、攻撃するのは得策ではない。機体にダメージが加わらないとも限らない。着陸し中身のクソッタレを吐き出してからが勝負だ。




果たして機体から吐き出されたクソッタレは、ピンクのジャージの上にもこもことセーターを着込んだ少女であった。

「あくせられーた、一緒に帰ろ?」

「はァ?」

突拍子もなく間抜けなことを口にする少女を前に、一方通行は呆気にとられた。彼女にしては珍しいことに全く状況を理解できないでいると、機体の中から冴えない顔をした男も顔を出した。

「エリザリーナ独立国同盟での借りを返すって言ってんだよ、さっさと乗れ!」

確かに一方通行はエリザリーナ独立国同盟国境付近で学園都市の連中に追われていた彼らを助けたが、ほとんどは自分の為であった。何せ打ち止めの周囲にあんなクズ共を近付けさせるわけには行かなかった。彼女にしてみれば、その結果として彼らが助かったのは単なるオマケだった。

「俺はオマエらを助けたわけじゃねェンだが。」

「知るか!こっちはそれじゃ納得できねえんだよ。黙って乗ればいいだけだ!」

「まぁ、タダで帰れるっていうんだから甘えてみてもいいんじゃない?見たところ直ぐに帰れる手段を持っているようにも見えないし?」

続いて姿を見せたのは知らない顔だった。片腕と片目を失った奇妙な姿だったが、学園都市の人間ならこんなこともあるだろう。一方通行は然程気にしなかった。
一方通行は行動を共にする少女二人の方を見遣る。

「いいんじゃない?ミサカ達は後部座席でふんぞり返っていていいんでしょ?」

「ミサカも賛成!この人達悪い人に見えないし!ってミサカはミサカは早速中に乗り込んでみたり!」

先ほどエイワス顕現の負荷から漸く脱したばかりだというのに元気な打ち止めは搭乗口に足をかけ、そして一瞬停止した。

「突然立ち止まってどうしたの?」

滝壺は何か考え事でもしているような雰囲気の打ち止めの表情を覗きこんだ。

「ちょっと出発を待ってもらっていい?この近くにミサカ達の知り合いがいるみたいなの。ってミサカはミサカはお願いをしてみる。」




「アレが落ちた位置は分かってンのか。」

「舐めないでよ、バッチリ記憶してるわ。」

浜面仕上は酷い冷や汗を流していた。
学園都市の追手から強奪した輸送機には今、超能力者の第一位、第三位、第四位が揃って搭乗している。一人一人を相手にするのであればまだマシなのかもしれないが、七人しかいない超能力者の約半数がこの狭い鉄の塊の中に密集しているのである。
実際にはこの機体は十数人を載せても比較的余裕のある作りをしているのだが、それでもこの空気のぎすぎす感は錯覚ではない。彼らが能力を行使したらこの機体など一瞬で吹き飛ぶだろうが、さまでせずともぎすぎす感だけで何か爆発しそうである。
そんな浜面の不安に対して、滝壺は何故か超電磁砲の妹のように見える少女とじゃれあっていた。因みにもう一人、超電磁砲の姉に見える少女はこの状況で呑気に寝ていた。

彼らが揃って乗り込んだ機体は現在北極海上を移動していた。
御坂曰く、ロシア上空に現れていた謎の飛行要塞ともどもある少年が海に落ちてしまったらしい。彼を探すのを手伝って欲しいとのことであるが、さほど時間は経ってないとはいえ荒れ狂う北極海、引き上げるどころか所在を探すのも一苦労に思えた。
見付けたところで命が無事か―凍傷や低体温症の類は時間との勝負だ。発症から一定の時間が経過すると恐ろしいほど急激に生存率が低下する。命が無事でも障害が残る場合が多い。信頼できる機関に相談し、捜索部隊を組んで、という段階を踏んでいる余裕がないのは確かだが、浜面には第一位だからってこの状況をどうにかできるとも思えなかった。


「……この辺りよ、アイツが落ちた座標。」

その場所は岸からは1キロ以上離れていた。こうなるとどこに流されているか、沈んでいるか、検討もつかない。北極海は巨大な要塞が沈んだこともあってか酷く荒れていた。
そんな海の様子には興味もないといった感じで一方通行は大儀そうに立ち上がると、「しっかり捕まってろ」と言って首元のスイッチを入れ替えた。機内の全員が彼女の意図を理解するかしないかの内に乗り込み口を開け放ち、上空数百メートルに浮いた機体から飛び降りた。
そうして吹き込んだ強い風に他の者たちが瞬きしている間に、彼女は海水面ギリギリのところ、背中にいくつもの竜巻を背負うようにして浮いていた。

「アイツ、何やってんの?」

御坂は冷たい風の吹きこむ搭乗口を漸く閉めると、訝しげに海水上に浮く白い少女の様子を見つめた。如何せん窓が小さく距離もあるためによく見えない。
ただ、次の瞬間には彼女の疑問は払拭された。

「!!」

海が大きくうねりだした。
まるで海底から湧き上がったかのような大きな流れは何もかも攫うようにして、あ、と思う間もなく津波かと見紛うばかりの大きな波が岸に押し寄せていた。見る見るうちに海を漂っていただろう人工物やら何やらが岸に打ち上げられて、ちょっとした山を築き始めている。
確かにこれならば上条の位置が分からずとも、岸に打ち上げられた彼を探すだけで事足りる。海の中を探すよりは余程簡単だし、探してから引き上げるより、引き上がった状態のものを探す方が低体温症などのリスクも幾らか下がるだろう。
比較的常識人寄りの御坂としては、上条どころかその他魚やら海に流された廃棄物やらも共々岸に打ち上げられているこの状況はマズイんじゃなかろうか、とも不安になるのだが、よくよく考えるとここは第三次世界大戦終戦後のロシア。あの訳の分からない要塞や化け物どものせいだということで片付けられるのだろう、と高を括ることにした。


いつの間にやら一方通行は何もない顔をして機体の側まで戻って来ていた。滝壺理后が搭乗口を開けると猫のようにするりと滑りこむ。

「アイツが超電磁砲の言う通り超能力をキャンセルするっつったって、波に流されないってことはねェだろォよ。」

彼女の言う通り、上条当麻の右手は超能力そのものを消し去るが、超能力で引き起こされた現象までもをなかったことにはできない。彼女の考えは酷く大雑把にも思えるが、御坂から人伝に彼の能力を聞いただけにしては的確すぎるとも言える。彼女自身、彼と対峙した経験から何かしら学んでいたということなのだろう。

機体のぶ厚い壁すら震わせる音がどこまでも響いている。海のうねりはずっと向こうまで続いていて、範囲は数キロ四方に及ぶだろう。

「落ちた座標と周囲の海流から、流されていそうな範囲を試算した。念のためプラス20%の範囲の海流を操作したからまず間違いなく見付かるだろ。これで見付からなかったら個人でどォこォできるレベルを超えてる。諦めろ。」

一方通行はあっさりと言い切り、能力に疎い浜面は「スゲー」などと安易に驚いていたが、同じ超能力者の御坂と麦野は彼女が息をするように当たり前に行った行為の凄さを正確に理解していた。
これだけ広範囲の波の流れを演算に組み込み、操作するというのは並大抵のことではない。結果として引き起こす現象は「海中に漂っている物質を岸に打ち上げる」という大雑把なものであるからさほど細かい作業は要求されないが、それにしたって範囲が広い。

「後はオマエたちでどうにかしろ。俺は寝る。」

何者にも興味がないというふうに彼女は目を閉じ、実際にあっという間に眠りに就いてしまったようだった。その両隣には、打ち止めといつの間にか目が覚めたらしい番外個体がまるで体を張って生まれたばかりの子犬を守る母犬のようにきっちりと寄り添っていた。




そうして海岸を上空から探していると、海藻が絡みついた流木の上に学ランの少年が気を失って倒れていたのであった。

今日はここまで。

最近土百合封印してたんだけど、ふと思い浮かんだネタ書き込んでいいかなぁ…ダメって言われても書き込むけどさぁ…

梅雨が明けましたが、ゲリラ豪雨とか皆さん大丈夫ですかー?自分は出張の多い仕事なので、飛行機乗ってる最中豪雨で引き返します、みたいな事態にならないかハラハラする毎日です。

今日は土百合で思いついたの2つ投下しますねー。1つ目はあらすじだけなんですけど、好き嫌いが分かれるというか恐らく苦手な人の方が多いだろうっていうストーリーなんで態と目が滑るような改行なしで書きます。無理だと思ったら次レスから別の土百合なので、そこから読んで下さいね。




暗部時代に肉体関係(しかも複数回)持っちゃった土百合で、つっちーはこいつどうせ女性機能欠落してるしって思ってて、百合にゃんも自分の生殖機能が8月31日以来働き始めつつあることなんて気付いてない頃だから避妊とかしてなくて、そのまま第三次世界大戦も終わって二人の接点がなくなった頃に芳川が「そう言えばあなた、生理は来てないの?」って訊くんだ。それに百合にゃんは「元々俺半年に一回来ればいい方だけど。オマエだって知ってるだろ?」って答えるんだけど、芳川は「あら、能力を失ってからホルモンバランスが戻って、胸だって膨らんできているじゃない。生理だって一般的な周期になっていいと思うけれど。」って言うんだ。でも百合にゃんは(まさかな…)って思ってて、それ以上考えないようにする。
でもやっぱりそのまさかで、百合にゃんはバレないように何だかんだ言い訳して黄泉川の家から出て一人暮らしを始めて、別につっちーの子供が大切だとかいうわけじゃないけど、絶対能力進化実験の過去もあって何の罪もない腹の子を下ろす覚悟も決められなくて、ぐだぐだしているうちに下ろせる時期を過ぎてしまって、このまま黄泉川とか妹達とかに隠れて出産してしまおうと漸く決心した頃に番外個体に妊娠を気付かれちゃって、番外ちゃんに「人殺しが妊娠とかウケる」「第一位に子育てとか絶対無理だし」とか色々嫌味言われて、番外ちゃん的には百合にゃんに妹達より大切になるかもしれないものができるのが怖くって牽制のつもりだったんだけど、元からあまり状態の良くなかった百合にゃんはストレスも相まって流産してしまう。
流産したあとも栄養状態とか精神状態とか悪くって、百合にゃんは冥土返しのところに暫く入院することになるんだけど、流産したことがバレたあとも黄泉川にも打ち止めにも相手の男の話とかしようとしないし、それどころか二人は百合にゃんに避けられてるし、いっつも威勢のいい番外ちゃんは自分のせいで大変なことになったらしいと分かってあわあわしてて「ミサカそんなつもりじゃなかったし!」って言い訳するばっかりで、芳川さんはそういうの苦手な人だし、百合にゃんを世話できる人がいなくって百合にゃんの精神状態は一向に改善しなくって、そんな頃に何かの事件に巻き込まれた上条さんが同じく入院してきて百合にゃんと再会するの。
上条さんは百合にゃんが入院してる理由知らないし、百合にゃんも態々上条さんを遠ざける理由がなくって入院中度々会って話したりするようになって、そしたら上条さんのお見舞いに来てたインデックスとも交流するようになって、少しずつ回復してきた頃に、上条さんのお見舞いという名目で厄介事を持ち込もうとしていたつっちーが偶然入院中の百合にゃんを見かけて、百合にゃんはつっちーに目撃されたことに気付いてないんだけど、つっちーは(アイツ何で入院なんかしてるんだ?)ってなって調べてみたら…



ってその後は考えてない。

次は土百合というか、グループ。しょーもない話。



【プライバシー保護のため、匿名でお送りいたします】

ショタコン:「そう言えば一方通行にホクロってあるのかしら。白色人種でも全くないわけじゃないわよね。」

ストーカー:「白色人種でもメラニン色素がないわけじゃないですからね。でも一方通行さんの場合はそもそもその色素がないのでは?」

ショタコン:「でもあの子後天的な色素異常でしょう?生まれつきじゃないなら、一つくらいあってもよさそうなものだけど。」

ストーカー:「どうですかねぇ。あ、土御門さんはどう思います?」

シスコン:「何がだにゃー?」←たまたま通りがかった

ストーカー:「一方通行さんにホクロがあるかどうか。議論するより本人に訊く方が早い気もしますが。」

シスコン:「あー、確かなかったような…」

ショタコン:「目につく部分だけじゃなくって、服に隠れる部分もよ?」

シスコン:「いや、それも含めて。」

ショタコン:「………」

ストーカー:「………」

ストーカー:「まさか、確かめたことがあるんですか?全身?」

ショタコン:「嫌だわ不潔…義妹一筋じゃなかったのね、がっかりだわ。義妹一筋でもがっかりだけど。」

シスコン:「いや、隠れ家で偶々風呂上がり全裸の一方通行に出くわしただけだからな?俺に罪はない。」

ストーカー:「それにしたって全身ホクロがあるかどうか確認できるくらいには見たってことでしょう?不潔です犯罪です。」

シスコン:「だって服全部洗濯中だとか言ってそのまんま歩き回るし。」

ショタコン:「隠れ家ってどこの?」

シスコン:「確かセカンドだった気がする。」

ストーカー:「セカンドなら部屋複数あるじゃないですか。別の部屋に移動するとか気を遣うべきだったのでは?」

シスコン:「これって俺が悪いのかにゃー?全裸で堂々と風呂あがりのコーヒー飲んでるあいつにだって問題あると思うぜい?つるぺただし。」

ショタコン:「あんたつるぺた好きでしょーが、シスコン。」

シスコン:「ひんにゅーだから義妹を愛しているんじゃない、義妹ならきょぬーだって愛せる。」


ストーカー:「ここにとある会話の録音があるんですが…」


『にゃー。ひんにゅー白ウサギばんざーい。』


ショタコン:「ダウトを通り越して完全にアウトね…。」

ストーカー:「証拠は完璧ですね。愛想はだいぶ足りないですが、白い肌に髪に、赤い目―まあ白ウサギを連想させる容姿と言えるでしょう。」

シスコン:「…寧ろその音声データどこで入手したんだにゃー?」

シロウサギ:「オマエら寄って集ってアホ面並べて何やってンの?」

ショタコン:「噂をすれば。それにしても随分口の悪い白ウサギね。」

ストーカー:「そういうのがお好きな方もいますし…。」

シロウサギ:「なァに、俺の噂でもしてたわけ?」

ストーカー:「あ、気になります?」

シロウサギ:「いや、全く。」

シスコン:「こういうやつだよ、分かってただろ。俺に非はない。」

ショタコン:「あなた今発言権ないから。」

ストーカー:「率直にお訊ねしますが、一方通行さん、あなたお風呂上がりに全裸で土御門さんと出くわしたことありますか?」

シロウサギ:「3回位なら。」

ストーカー:「1回じゃない…だと…?」

ショタコン:「複数回に渡って平気で見られている一方通行にも確かに問題があるわね…。」

ストーカー:「そこら辺の教育は結標さんにお任せします。それよりも先ず、そのときの土御門さんに妙なところはありませんでした?前屈みとか前屈みとか。」

ショタコン:「すんごい舐めるようにあなたの体を見るとか。」

シロウサギ:「こいつの観察とかしてるわけねェじゃン。何ソレ面白いの?」

ストーカー:「むしろあなたが観察されていたわけですがね…。」

ショタコン:「この子に何言っても無駄な気がするわ…。」

シスコン:(あ、俺の糾弾忘れ去られたっぽい…?)

シロウサギ:(結局なンだったンだ…?)



以上です。お目汚し失礼いたしましたー。

すみません、ご無沙汰をしております。とりあえず生存報告をば。

ちょうど前回の投下をした後に大きな仕事が降って湧いてきて、暫く透過しに来られなさそうです。多分、来月末には肩がついていると思うのですが。
待っていて下さる方には申し訳ないのですが、しばしご辛抱いただけますと幸いです。

ご無沙汰しております。>>687で言っていた仕事の修羅場が一応一段落しました。
プライベートの諸々を暫くほったらかしてたので直ぐ再開とは行かなそうですが、来月中頃には本編投下したいと考えております。

しかしこの2スレ目が立ってからもう1年以上経ってたんですね…そんなに長く続けてんのかと自分でびっくりしました。


こんばんわー、長いこと待って頂いてありがとうございます。ちょっと久々に書いているので文体が安定せず、難儀しております。書く内容自体はほぼ固まっているのでそのうち投下できると思うのですが、あまりお待たせするのも申し訳ないのでお茶請け程度に小ネタ落としておきます。台本形式SSは書き慣れないので苦手なのですが、地の文の文体気にしなくって書けるのでこういう時は助かりますね…。

とりあえずハロウィンでいちゃつく削百合どぞ つ旦



削:トリック・オア・トリート。

一:………ポカーン

削:あれ百合子、もしかしてハロウィン知らないか?

一:いや知ってンけど…そこまで世間に疎くねェよ。

一:ただ、仮装もせずにハロウィンだと言い張るお前の図太い神経に感動すら覚えてただけだ。

削:褒めても何も出ないぞ!

一:褒めちゃいねェ。

削:んで?

一:ンで?って何が。

削:だから、トリック・オア・トリート。

一:はい。

削:コロッケ?こういうのって飴とかチョコとかじゃないのか。

一:食えば分かる。つゥかお前、飴とか食べないだろォが。

削:まあな。あ、中身かぼちゃだ。ムグムグ

一:そゆことォ。ガキどもが中身繰り抜いた残り食いきれねェっつうから貰ってきた。

削:っていうかこの何て言うの、コロッケとかメンチカツとか手で食べるときの紙の袋、これいいよな。

一:買食いしてるような背徳感が堪ンねェ。

削:大層なことやらかしてる割に百合子の背徳感はちっさいなあ。

一:嫌味かお前。

一:まァイイ、ンで?

削:んで?って何が。

一:今度は俺の番だろォ?トリック・オア・トリート。

削:俺何も持ってないけど。

一:知ってる。

削:甘んじてトリックの方を受け入れよう!

一:へェ…イイ度胸じゃねェか…




「ねえ黄泉川。」

『どうしたじゃん、番外個体。』

家主に一方通行の揚げたかぼちゃコロッケを分けてもらってこいと仰せつかった番外個体は、眼前に広がる光景に溜息を吐いた。携帯を耳に当てながらどうしたもんかと首を傾げる。

散々かぼちゃ料理を食べさせられて飽きていたが、一方通行の作る揚げ物となれば話は別だ。何故かあのいけ好かない第一位様は、揚げ物料理に天才的な才能を持っていた。

しかし目の前の光景は、せっかくかぼちゃコロッケのために空かせたお腹も甘ったるい砂糖で瞬時にいっぱいになりそうな代物であった。

「言われた通りオツカイに来たんだけど、現場じゃ盛りのついた思春期の雄と雌が互いの体くすぐり合って息も絶え絶えだぜ。ミサカどうすればいい?」

『死ぬまでやってろ、って言っておけばいいじゃん。但しコロッケの回収は絶対じゃん。』

電話の向こうの家主はまるで警備員の部下に指示でもするような強い口調で言って電話を切った。ミサカはこんなほのぼの第一位見たくなかったよ、と番外個体は思いながら、黄泉川家用に別に取っておいたらしいコロッケを勝手に拝借して2人の住まいを去ることにした。


そろそろ鳥さんとかの新約キャラ出ないかな
百合にゃんの妹的立ち位置な鳥さんなんかが見てみたい…

ご無沙汰しております&長らくお待たせしました…orz
回想シーンで百合にゃん全然出てこないところですがお納め下さいませ。




「ここでできる限りの治療はしたけれど、完治には程遠いものよ。ある程度2人の体力が回復したらお家に帰ることをお勧めするわ。」

何だか顔色の悪い痩せぎすの女が―衛兵らしい男がエリザリーナと呼んでいたから、御坂の聞き間違いでなければこの国のトップだろう―顔見知りらしい浜面という男に伝えるのを聞いて、御坂はほっと息を吐いた。

「色々と世話になりっぱなしで済まねーな。」

「そんなことはないわ、彼らがいなければこの辺り一帯は消し飛んでいただろうし。」

彼女の言う言葉が「彼がいなければ」というものであればすんなり聞き流すことができたのだろうが、「彼らがいなければ」というのは御坂にとって俄には理解し難いものであった。信じる信じないという以前に、その「彼ら」という言葉に一方通行も含まれるのかと純粋に疑問に思う。

「今は状況が状況だからこの部屋から出歩くことは許可できないんだけれど、何かあったら外の見張りに声を掛けて頂戴。彼は日本語が分かるから。」

先ほど戦争が集結したばかりで何かと慌ただしいのだろう、部屋の外には沢山の人の忙しない足音や興奮気味のロシア語が響いている。戦争に敗北したロシアと対立していたとはいえ小さな独立国の集合体だ、今この瞬間の身の処し方を誤れば戦争に負けたのよりも酷い結末を迎える可能性もある。突然彼らを頼りにしてやってきた戦争の勝者側の人間を好き勝手に行動させるほどの余裕がないのは当然のことと思えた。むしろ、2人の治療をしてもらえただけでも万々歳というところだろう。2人ほどではないが外傷や疲労が見られた他の人物たちも応急処置的ではあるが十分に誠意の感じられる待遇を受けた。


「けれど、彼女は何をどうしたらあんな状態になったの?外傷こそ男の子よりも目立たなかったものの、内傷はとんでもない状態だったわよ。」

「俺達は別行動だったから何も分からない。そっちの子たちの方が何か知ってるんじゃないか。」

浜面がくい、と妹達2人の方に視線を向けた。指名された2人は予想に反して困惑顔である。

「ミサカはずっと意識がなかったから分からない、ってミサカはミサカは正直に打ち明けてみる。」

「ミサカだってよく分かんないよ。あの人が何か変な歌を歌ったらずっとぐったりしてたこのおチビが復活して、逆にあの人がぶっ倒れたんだ。それだけ。」

「歌?」

「歌って言っても、歌詞とか音程とか滅茶苦茶だよ。フツーの音楽って感じじゃなかった。多分幻想御手みたいな人体に干渉する特殊な波長なんだと思うけど。」

番外個体は科学で説明できない現象について自分なりに仮説を立てていた。幻想御手事件は学園都市中を巻き込んだ事件だったので、その解決に奔走した御坂だけでなく暗部として街の後ろ暗い部分に生活していた麦野や滝壺、スキルアウトをやっていた浜面にも理解がしやすい。

一方、エリザリーナは打ち止めが数時間前までどのような状態であったか知っているため、それが科学的な技術ではなく、魔術的な力であっただろうことを即座に理解した。しかし彼らに説明しても理解を得にくいだろうと思ったのか、その不可思議な現象を説明することはなかった。

「彼らの状態がもう少し安定したら、あなたたちに声を掛けるように部下に伝えておくわ。そうしたらなるべく早く学園都市に戻るようにしなさい。この状況ではさすがに帰り道までの世話をすることはできないわ。」

そもそも学園都市の子供たちがここにいること自体がおかしいのだ、彼らに安全な帰り道を提供できなかったとしても彼女の責任ではないだろう。御坂を始めとしたその場の面々は特に不満があるということもなくその言葉に頷いた。


「そもそも疑問だったのだけれど、」

エリザリーナが立ち去って再び沈黙が訪れた室内に、意を決したような御坂の声が響いた。

「何で一方通行と妹達が一緒に行動してるのよ?さっきの10777号も何か事情を知っている風だったし。」

先ほどまで行動を共にしていた10777号は、エリザリーナ独立国同盟に入国する手前で分かれた。学園都市生まれの彼女が敗戦国となったロシア内でこれからも生き続けていくことを考えると、あまり長時間学園都市の人間と接触を持つことは好ましくない。戦闘が継続している間は彼女の所属先も彼女の行動を気にする余裕がなかっただろうが、そのうち指示に従わずに勝手な行動をしていたことも知られるだろう。

「ミサカたちはあの10777号とはそもそも作られた目的が違うもの。」

「どういう意味よ?」

「このちっこいミサカは第一位に殺されることも、第一位を殺すことも想定せずに作られたミサカ。そしてこのミサカは、第一位を殺すために作られたミサカ。」

「…一方通行を殺すって、そんなこと妹達にできるわけないじゃない。」

「正攻法ではね。ミサカは特殊な成長剤を使って大能力者にまで引き上げられているけれど、それでもお姉様には勿論劣る。お姉様ができなかったことをミサカができる筈がないと思うのは当然だ。」

10032号や10777号のいかにもプログラミングされたと言わんばかりの語り口調も苦手だが、この番外個体と名乗る妹達の口調は態と人の機嫌を逆立てるようなそれだ。御坂は自分よりも寧ろ母親の若い頃を連想させるその容姿と、それに合わぬちぐはぐな口調にストレスにも似た違和感を蓄積させていた。


「でもミサカはそういうレベルの話をしているんじゃないんだよ。例えるならゲームだ。」

「ミサカと一方通行が同じゲーム内のキャラになって戦闘するのであればそれはどうやったって敵わない。だけどミサカがやることは、そのゲームの電源を落とすことだ。」

「ゲーム内のキャラクターである一方通行を完全に一方的にシャットアウトできる、そんな裏技をミサカは持ってるってわけ。」

「そんなことができるとして、じゃあ何故実際にやらないの?」

御坂は一方通行が死んでしまえばいいと思っているわけではない。だが、先程までのやりとりを聞いている限り必ずしも一方通行と信頼関係を結んでいるわけではないらしいこの妹達が、それでも一方通行と行動を共にすることを選んだ理由が分からなかった。

「簡単に言えば、殺すメリットがなくなった。」

「あの人を殺すのに成功したところで馬鹿な研究者共に処分されることになっただろうから、元々殺すメリットがあったかと言われると微妙だけど。だけど殺意は持っていたからね。」

「その殺意がなくなったってわけ?」

「いんや、未だ残ってるよ。だけど殺さない場合に得られるメリットを提示されて、ギブアンドテイクが成立したからね。馬鹿研究者共に使い捨てにされない可能性を明示されて、それに乗っただけだ。ミサカと第一位が持つものは極々打算的な関係だよ。」

「じゃあ、その相手が私ではいけないわけ?」

「お姉様といるメリットはないよ。ミサカは今のところ単なる超電磁砲の劣化コピーでしかない。お姉様と一緒に過ごしたところでオリジナルの超電磁砲に近付く可能性はあるけれど、超電磁砲を超えることはないだろうね。」

「一方通行から技術を盗もうってこと?」

「実際できるかどーかは分からないけどね。ミサカがミサカしかない独自のものを、しかも科学者に使い捨てにされないだけの魅力的なものを持つとしたら、そこに一番可能性がある。」

彼女が淡々と語る言葉を素直に解釈すれば、一方通行と彼女の間に信頼関係や友情関係、その他の人の体温が通う温かな関係は一切ないということのように思える。そういった打算的な関係に馴染みのない御坂は、やはり未だ不満顔で立っていた。


「じゃあ逆に聞くけど、お姉様はミサカたちと一方通行がどういう関係であれば満足?」

「ミサカたちは一方通行を憎んで、嫌って、殺してしまいたいって思い続けていればいーのかな?」

「そういうことじゃ!」

「そうだよね、キレイゴト好きのお姉様ならそう言うと思ったよ。」

「ただ私は、一方通行に自分のしでかしたことを正確に理解して欲しいだけよ。」

「そういうことなら、第一位はまさにその最中だと思うけどね。このミサカや、ちっこいのと向き合いながら。ま、このミサカとしては勝手にすれば、って感じだけど。」

呆れたように言い放った番外個体に対し、ずっと黙っていた打ち止めという名の妹達がすくりと立ち上がって御坂に向けて頭を下げた。

「お姉様、今のところはミサカたちと一方通行のこと、見逃して欲しいなってミサカはミサカは懇願してみる。」

「10031人のミサカは、確かにあの人に殺されてしまった。だけど、ここの2人と他の9969人のミサカはあの人に助けられた部分もあるんだ。ミサカたちにはこの関係がどうしても必要なんだ、ってミサカはミサカは断じてみる。」

「…分かったわ。事情は何にも分かんないけど、アンタたちがどうしたいのだけは分かった。」

そうして御坂はその日、それ以上妹達と一方通行の関係について詰問することはなかった。




「これが、ロシアで一方通行と私が再会したときの話。」

御坂の話を黙って聞いていた白井はいつの間にか冷め切っていた紅茶を口に運んだ。どんな理由があって一方通行と御坂が友人とは言わないまでも知人と呼べるだけの間柄になったのか興味があったのだが、ロシアで起きたことを聞いただけではその経緯を知ることはできなかった。

「そのときは違和感がある、ってだけだった。一方通行に懐いてるちっさい妹達のことも何も知らなかったし。でも多分、絶対能力進化計画が終わったあとも私が知らないところであの子たちに色々あって、それに一方通行が関わったんだろう、ってことくらいは分かったのよ。」

先日の垣根との一件の前に白井が妹達について調べ上げた情報の中に、御坂の言うところの「色々」もあったのだろう。よくもまあ学園都市第一位とはいえ一人でこれだけのことをやったものだ、と思える事件もあった。彼女が能力を発揮する様子を記録した映像を見た白井は、第三位ですら子供扱いするという第一位の力の片鱗を知っている。あれだけの能力を持った人間が、それでも体をぼろぼろにしながら殺しそびれた9971人を守ってきたのだと、10032号は言っていた。

「帰国したらいつの間にかアイツと一方通行が仲良くなってたりして、それから漸く少しずつ、って感じよ。」

アイツ、というのは御坂がいつも追い掛けている無能力者の高校生のことだろう。絶対能力進化実験を止めるために大きな働きをした彼は、それなのに一方通行と親しいらしい。時折妹達の会話にも彼が登場していて、彼らが強い信頼関係を結んでいるらしいことは何となく知っていた。

一見すると善性の塊のような男であるが、どちらかと言うと清濁併せ呑む、というのが彼の本質なのだろう。未だに過去の一方通行の行いを頭の端で意識してしまっている御坂に対し、彼が一方通行に対して過去の所業を責めるような様子を見たことがない。御坂の反応の方が普通だと思うのだが、彼の場合は現在の彼女の行いにしか彼は関心がないのだろう。


「最初はアイツを許したいとか、認めたいとかそんなこと考えてなかった。私は、私の知らないとこで何か起きてたってことだけが嫌だった。」

「だから、あの子たちや打ち止めに実験が終わった後のこと、全部聞いたわ。一方通行自身は私には関係のないことだって言って絶対に教えてくれなかったし。」

関係ないはずはないと御坂は言い張ったが、一方通行がそれを聞き入れることはなかった。一方通行は自分の行いについて御坂に理解されたいとは思っていなかったし、自分と関わることで妙なトラブルに巻き込む可能性もあると考えていたのだろう。

「今だって10031人を殺したこと、許しちゃいない。だけど、あの子たちに一方通行が必要だってことも、否定はしない。」

「私はただ見極めたいだけなのよ。一方通行が、妹達を任せるに足る人物なのか。」

「それにしては親しげというか、もうある程度の信頼関係があるように見受けましたの。」

「信頼関係っていうか、放っとけないだけよ。」

「放っとけない?」

「…アイツ案外危なっかしいっていうか、自分のことは二の次っていうか、そーいうとこあのバカそっくり。妹達が心配してるのを見たら手を出さずにいられないじゃない。」

こういうところが彼女の芯の強さ、そして能力の強大さにも繋がっているのだろう。迷うことや間違うこともあるが、それでも行動することを止められない。それが白井の敬愛する御坂美琴である。

そして多分今の自分は、そういうものを失ってしまっているのだろうと白井は思った。自分がこれまでしてきたこと、これからするであろうこと、出会うもの、人、こと、そういうものにまるで自身を持てなくなっている。それがそのまま能力の不調に繋がっている。

御坂だってそれらの何もかもを自身を持って日々を生きているわけではあるまい。ただ、今この瞬間を後悔したくない、という強い意志だけは一貫している。今この瞬間の自分の行動が何を起こそうとも責任を取ろうとする気概がある。嘗ては自分も持っていた筈のものを取り返したいと、白井は改めて彼女の光を目の当たりにして思う。

「何か言った?」

「いいえ、何でもございませんの。ただ、お姉様は素晴らしいと改めて思ったまでですわ。」

白井は久々に心からの笑顔を浮かべながら、御坂の質問に首を振った。




初春飾利は風紀委員の第一七七支部に所属する中学1年生である。能力は低能力者だが、ある分野においてはそれこそ超能力者に引けをとらないほどの価値を有する技術を持つと言える人物だ。彼女はその特殊性とは裏腹に驚くほど穏やかで当たり前の少女であったけれど、そのときある特殊な存在に再び相見えようとしていた。






「アホ毛ちゃん?お久し振りですね。」

「あれ、お花のお姉ちゃん、ってミサカはミサカは返事をしてみる。」

初春飾利は「打ち止め」と呼ばれるクローンの少女と再会した。



今日はこれまで。次回で黒子の自分探し編は終わるはず。

>>698
この話は新約入る前に別ルート入っている設定なので、新約キャラの登場させ方が難しいんですよね…。番外編というか、小ネタというかで、土御門と黒夜ちゃんが絡むネタを妄想していたりはするのですが。

皆さんスレ保守ありがとうございます…不甲斐ない自分が申し訳ないばかりです。
書こうと思えばいくらでも書ける設定ではあるのですが、仕事の都合上定期的な更新が難しくなっているので、このスレでの完結を目指しています。度々おまたせしていますが、他スレのお茶請け程度にお待ち下さい。

トリ合ってますかね?
ご無沙汰してすみません、>>1です。多分ゴールデンウィーク終わり頃に続き投下できると思うので、保守がてらご報告まで。長々お待たせしてしまって済みません。

こんばんは、>>1です。済みません、投稿が遅くなってしまいました。てっきりGW中に投下したつもりでいたのですが、手元のメモ帳に全部データ残ってたよというお恥ずかしい話です…orz
今回の投下分は黒子のトラウマ克服完結編です。非常に観念的で曖昧なお話で申し訳ないのですが、よろしくお願いします。


「こんなところに一人では危ないですよ?この公園はそうでもないですが、少し行くと治安が悪い地域が広がっていますし。」

「うん、知ってるの。だからミサカはお迎えを待ってる、ってミサカはミサカは現状を把握していることを告げてみる。」

以前会ったときも思ったが、少し癖のある話し方をする子供だな、と初春は思った。この街では珍しい例ではないかもしれないが、極当たり前の子供らしい振る舞いとその口調は何となくちぐはぐにも感じられる。この街では外見の年齢と実際の年齢が一致しないことも考えられるし、風紀委員として様々な能力者と接している初春が彼女に対して少し穿った見方をしてしまうのも無理のないことであった。

しかし、少なくとも彼女が悪人であるとか自分に危害を加えるだとか、そういう可能性は考えられない。それならば外見と中身が一致しなかろうと、もしかしたら自分より強い能力者だったとしても、風紀委員として彼女を保護するのが自分のすべきことだと初春飾利は判断した。

「ここは安全地帯というわけではないんですよ。風紀委員としてはアホ毛ちゃんが1人でお迎えを待っていることを見過ごすわけには行きません。」

スキルアウトのたむろする危険な地域と、そうでない安全地域を綺麗に区切ることができるわけではない。ここはまさにそんな場所で、直ぐそこの路地に入れば一気に治安が悪くなるようなポイントである。例えば小学校低学年や未就学児であったとしたら保護者抜きでは近付かぬように指導されるような場所だ。風紀委員の初春にはそんな場所で子供が危険な目に遭う可能性を知りながら見て見ぬ振りをすることができないし、保護者が迎えに来るといってももっと安全な場所で待つべきだろうと思う。

「ミサカを心配してくれてるの?ってミサカはミサカは首を傾げてみる。でもミサカ、一応強能力者なんだけどな、ってミサカはミサカは自分の以外な逞しさを主張してみたり。」

「強能力者とは言っても、能力を封じるための道具もいっぱいありますからね。能力を過信しすぎるのはよくないですよ!」

「そんなに言うなら、お花のお姉ちゃんがミサカのボディーガードになってくれるの?ってミサカはミサカは疑問に思ってみたり。」

「そうできたらよかったんですけど、私はこれから用事があってアホ毛ちゃんの保護者さんが迎えに来るまで一緒にいることは難しそうです…。」

初春は本日非番でこれからプライベートな用事を控えており、風紀委員として彼女につきっきりでいられるわけではなかった。うーん、と彼女が首を傾げながら悩む様子を打ち止めが他人ごとのように見ていた。

「この近くに風紀委員の支部がありますから、そこまで保護者さんに迎えに来てもらいましょう。保護者さんと待ち合わせの場所、変更になるって連絡できますか?」

「うん、大丈夫だよってミサカはミサカは頷いてみる。風紀委員の支部ってミサカ入ったことないから興味津々!」

打ち止めの所有する携帯電話には、保護者たる黄泉川愛穂から「トラブルに巻き込まれたから迎えに行くのが少し遅くなる」というメールが入ったばかりだった ― 今日は警備員の当番ではないと聞いていたけれど、彼女の性格から判断するにきっと自分から何事かに首を突っ込んだのだろう。もちろん彼女の言うトラブルが警備員の業務とは全く関係のないものである可能性も考えられるが、黄泉川は上条とはまた違った妙な引きを持った人間で、何かとこの街の根幹を揺るがすような事件に立ち会うことが多いのだ。今日この街で起きた何事かがミサカたちの大切な人を苦しめることがないように ― 打ち止めはそう祈り、この街に散らばっている何人かの姉妹たちに情報収集を依頼しながら初春のあとを着いて行った。


風紀委員第一七七支部の扉を開くと、中では白井黒子が液晶の画面と向き合っていた。その液晶画面にはつい先程起きたスキルアウト同士の小競り合いが無事解決したことを示すウィンドウが表示されているが、入口の辺りに立っている初春と打ち止めには肉眼で確認できるほどのものではなかった。黄泉川が巻き込まれたのはそのトラブルだろうか ― 打ち止めは彼女らに怪しまれないように極々さり気なく能力を使用してその端末に示された情報を読み込んだが、彼女が危惧するような事態は何も起きていないようだ。読み込んだデータは学園都市在住の妹達から届く情報とも矛盾しないし、今日この学園都市を騒がせた事件は超電磁砲のクローンたちや彼女らと縁ある超能力者、不思議な無能力者、海外からの尊いお客人、いずれにも影響しないようなよくある些細なものだったのだろう ― そう結論づけて打ち止めは一旦姉妹たちとの通信を中断した。黄泉川が首を突っ込んだのもその事件なのであれば、多少の後始末は残っているかもしれないが、直に打ち止めを迎えに来てくれるだろう。

「初春?今日は非番じゃありませんの?」

「そうだったんですけど、この子を保護者の方が来るまで預かって貰おうと思って。」

「お邪魔しまーす、ってミサカはミサカはご挨拶!」

振り返った白井が目にしたのは、初春の後ろからぴょこんと飛び出してきた10歳ほどの少女であった。茶色のもこもことした防寒着に包まれた、一種のマスコットのような立ち姿は彼女の小柄さを際立たせている。明るい茶色の髪と大きくくりくりとして好奇心に溢れた瞳、愛らしい小振りな唇は彼女の敬愛してやまない1つだけ年上の少女を彷彿とさせた。


御坂美琴のクローンと思われる少女と自分の友人が連れ立っている様子を見て白井は一瞬ぎょっとしたが、初春は特段大きな問題事に巻き込まれている様子ではない。それどころか打ち止めと名乗る少女が何者なのか気付いていない様子で、もちろん風紀委員に属するとはいえ一介の中学生が学園都市の重要機密に属する彼女の存在を知っているはずがないのだが、それでも知人とよく似た少女を見ても何の疑問も抱いていない様子だった。純粋に一人でふらふら歩いている子供を見かけて不安に思って保護しただけなのだろう、と白井は判断して、一度こほん、と咳払いをしてから口を開いた。

「そういうことなら構いませんけれど、もう保護者の方には連絡ついてますの?」

「それは平気、ってミサカはミサカは返事してみる!」

「そういうわけなので白井さん、お願いできますか?私これから用事があって。」

「ええ、分かりましたの。初春もお気を付けて。」

「お花のお姉ちゃん、またね、ってミサカはミサカは手を振ってみたり。」

2人で初春が出て行くのを見送ったあと、白井は近くのデスクから用紙を取り出した。ある事件がきっかけで他の妹達には何度か会う機会を得られる間柄になっていたが、彼女らに上位個体と呼ばれるこの幼い少女と面と向かって話すのは初めてのことだった。

「えっと、打ち止めさんですわよね。初めまして、白井黒子と申します。」

「ミサカ知ってるよ、お姉様のルームメイトさんで空間移動系能力者さんだよね、ってミサカはミサカは確認してみる。10032号や番外個体には会ったことがあるよね、ってミサカはミサカは姉妹たちのことを思い出してみたり。」

妹達同士は電気的な方法でお互いの記憶や感覚を共有できるらしい、ということは当然白井も知っている。この幼く見える少女も例外ではなく、しっかりと発電系能力者としての実力を有しているようで、既に白井に関する情報を持っている様子だった。

「迷子を保護した場合には記載して頂く書類があるんですけれど、書けますか?」

「ミサカ、学校通ってないからどうすればいい?ってミサカはミサカは首を傾げてみる。」

打ち止めは先ほど白井が引き出しから取り出した用紙を見つめて困惑した。その用紙には氏名や住所、学園都市のID番号、通っている学校名などを記載する欄がある。些か非合法な存在である彼女の場合、そもそも書くべき情報が存在しないものもあるし、正直に書くわけにはいかない情報もある。見た目よりも賢しい子供なのだろう、この用紙に自分の情報を記載することで何か困った事態が起こりやしないかと悩む姿は外見の年齢よりも更に2~3歳上の、むしろ自分たちと然程変わらない年齢の少女を連想させた。


「あくまでご本人が書ける範囲のことを書いていただければ構いませんから、書きたくないことは書かなくても問題ありませんの。それに保護者の方がお迎えにいらっしゃったらその時点でシュレッダーにかけますわ。」

白井が用意したのは風紀委員で保護している間に怪我などのトラブルがあった場合に使うだけの書類である。個人情報保護の問題もあり、単なる学生組織である風紀委員がこの情報を長期保管するようなことはない。打ち止めが危惧するような問題はないだろうと説明すると、安心したかのように彼女は「ラストオーダー」という呼称を一番左上の氏名欄に記載した。少女はその用紙を両手で名刺を渡すかのように持って白井に差し出した。

「改めまして、初めまして。ミサカは御坂美琴お姉様のクローン、シリアルナンバー20001号、打ち止めっていうの、ってミサカはミサカは自己紹介をしてみる。何度かミサカたちのために戦ってくれたのよね?ありがとう、ってミサカはミサカはミサカたちを代表して感謝の意を述べてみる。」

白井は思いがけぬ丁寧な挨拶に、暫し目を瞬かせた。まるで命の恩人に礼を述べるような態度は自分自身が彼女らに対して為したことを思い返してみても些か大袈裟に感じる。

「いえ、風紀委員として、美琴お姉様を慕う者として、当然のことをしたまでですの。」

何度か彼女らを助けたというのは、結標淡希が残骸を利用して絶対能力進化実験を再開させようと暗躍したときや、つい先日科学結社の残党が再び学園都市に対して何事かを企てていたのを阻止したことだろうか。いずれにおいても白井の行動は彼女ら妹達に利するものとなったが、そもそも前者の場合、彼女らの存在など知らず単に御坂に関係のある何かよからぬ計画を阻止しただけのつもりであったし、後者も科学結社から妹達の存在を知らされたときには御坂に害をなす存在ではないかと疑ったほどだったのだ。結果として彼女らを助けるものとなった行動ではあったけれど、彼女から礼を受け取るのは筋違いだ、という気がした。

「でも、ミサカたちが助けられたのは事実だから。」


「ミサカたちはそういう、全くミサカたちのことを知りもしない人が結果的にミサカたちの生活に影響を及ぼす、そういう事象を徹底的に排除されてきたから、あなたは特別な人なの、ってミサカはミサカは説明してみる。」

「情けは人の為ならず?って言うのかな。あの人に教えてもらったの、誰かにした親切は廻り回って自分の元に返ってくる、って。」

「シライにはそんなつもりなかったかもしれないけれど、それでもシライのしたことが間接的にミサカたちのためになったことを嬉しく思っているから、ミサカたちも誰かにそれを受け渡すことができて、そしていつかシライに返る日があればいいな、ってミサカはミサカは思っている。」

「それはとても途方のない話かもしれない、いつになるかも分からないし、そうなったとしてミサカやシライが気付かないものかもしれない。だけれどミサカたちをそういう人間らしいサイクルに組み入れてくれたこと、感謝してます、ってミサカはミサカは謝意を伝えてみる。」

果たして打ち止めの意図したことは、正確に白井に伝わっただろうか。打ち止めの特徴的な口調も相まって、非常に観念的なその言葉は些か伝わりづらいものだったろう。中学1年生ながら大能力者たる白井なら表面的な意味は捉えられたかもしれないが、本当のところ、その奥の奥までは伝わらなかったのではないかと思う。打ち止めはそれでも構わないとも思う。

妹達の世界は非常に閉じられた世界であった。学園都市の上層部、研究者たち、出資者たち、一方通行、芳川桔梗、天井亜雄、布束砥信、そういった限られた人物としか接することがなく、また、彼らの囲った枠線から外に逸脱するということがなかった。普通の人間の場合、ある一人の人間と関わり合いになればその関わった相手の交友関係からまた新しい人間関係を築くことも珍しくない。上条当麻などがそのいい例で、彼はたった一人のインデックスという少女を救ったことがきっかけで世界中にたくさんの知人を持つことになった。しかし、妹達が嘗て持っていた人間関係にはそういう広がりがなかった。

絶対能力進化実験の中断に至っても、それは変わりがなかった。天井亜雄の企てに際して打ち止めが助けを求めたのは嘗て自身の同胞を害した一方通行であった。打ち止めが頼る先に彼女を選んだのは本当は彼女に妹達を傷つける意図などなかったのだろうという持論を持っていたからだったが、それだけでなく単に他に頼るべき相手を持っていなかったというのも理由の一つであった。

閉鎖的な妹達の世界に介入した最初の部外者が上条当麻で、2人目の部外者が白井黒子だったのだろう、と打ち止めは思う。そして、白井自身は全く別のことを意図して行動していたのにもかかわらず、結果として妹達に利するものを残したというのが上条との差異であった。上条のように妹達を救おうという明確な意図があったわけではない、ただ御坂がよからぬことに利用されようとしているらしいのを阻止したい、という非常に不明瞭で全く妹達の存在を意図していなかった行動が結果妹達の生活に影響を及ぼした。それは妹達にとって全く未体験のことであったのだ。




「人間なンてそンなもンだ」

打ち止めは彼女が吐き捨てるように言ったのを思い出す。

「日本人的な表現で言やァ縁、っつーのかね。」

「えにし?ってミサカはミサカは首を傾げてみたり。」

打ち止めが首を傾げると、彼女は手元にあった紙に几帳面で神経質そうな右肩上がりの字で「縁」という字を書いてみせた。学習装置で様々な知識を授けられている妹達だが、一方でたかだか実験動物である彼女らには必要ないと判断されたのか、案外一般常識に分類されるようなことでも彼女らの知識には組み込まれていないことがある。だからこの見覚えのない漢字一文字が意味することは、ただのクローンには必要のない酷く人間臭い知識なのだろうと打ち止めは判断した。そして打ち止めはそういう「実験動物には必要のない」知識を授けようとしてくれる一方通行の意図を理解しており、それを受け止めたいと思っていた。

「お前に分かりやすく説明すンにはどうすりゃいいかねェ。」

ぐしゃ、と特徴的な白髪を乱雑に乱すのは彼女の癖だ。怒っているときにも恥ずかしがっているときにも面倒くさいと思っているときにもこの癖を披露するので、その時々でこの仕草の意味を探るのはなかなか骨が折れるのだが、今回の場合、彼女自身も得意ではない分野の話だから何と言っていいか分からず悩んでいるのだろう。やや間があって、それから彼女が口にしたのは、一見すると全く関係がないようにも思える喩え話だった。

「例えばお前の電撃にしたって結果として齎す現象は色々あンだろ。発光、発熱、磁気やら何やら。お前は単に電撃を放ったつもりでも、結果として生じるベクトルは種類も向きも大きさも様々だ。ここまでは分かるか?」

打ち止めが頷く。ベクトルは専門外だが、長いこと彼女の演算を補助している関係から全く知らぬ世界でもない。エネルギー保存の法則、この街では下手をすれば小学生どころか幼稚園児ですら理解している場合もあるような基礎的な物理の概念である。打ち止めが放った電撃というエネルギーは一瞬にして消えてしまうように見えるが、何かしら他の形で維持され、また何か別のものを生み出すのだ。


「面倒くせェから発熱一本に絞って考えてみるか。お前が電撃を放って、熱が発生したとして、その熱はどこへ行く?」

「お前が軽く、触れても火傷しない程度の電撃を放ったとする。それを9971人のお前ら全員がやったとする。一個一個は大したこたァねェが、10000万人近いとなりゃ結構な発熱だな。」

「お前、熱エネルギーが起こす現象の中で、どデカいもンって何が思い浮かぶ?」

「お湯沸かすとか?」

「むしろそれはすげェミニマムでローカルだな。」

「じゃあなぁに、ってミサカはミサカは素直に訊いてみる。」

打ち止めは口を尖らせながら彼女に訊いた。学園都市第一位は時々大人ぶりたい自分をこうやって子供扱いしたがるところがある。いくら学園都市第三位のクローンとはいえ、経験値は全く劣る生まれたての子供がそんな難易度の高いクイズに容易に正答できるはずもないことを知っていて、態とそれを再確認させるような意地の悪い仕打ちをする。まるで「やっぱりお前たちは未だガキだから大人しく俺に守られとけ」とでも言われているようで、嬉しくもあり、悲しくもある。

一方通行は打ち止めのそんな感情に気が付いているのだろうか、彼女特有の、薄い唇を釣り上げるいっそ酷薄にも見える笑顔を浮かべてから、ぽんと一つ打ち止めの頭を雑に撫でてから、クイズの応えを授けてくれた。

「気象現象だよ。暖かい空気と冷たい空気の密度の差が、気圧の差を生み、風を生み、雲を生む。夏場のアジアだったら最終形態は台風やらモンスーンやらだろうな。大雨と、強風。もしかしたら超電磁砲だって一苦労するような大量の雷も落ちるかもしンねェ。」

「バタフライ・エフェクトって言ってな、詳しく説明しだすとカオス理論イチから説明しなきゃなンねェから省略すっけど。」

「それと、最初の「えにし」っていうのはどんな関係があるの、ってミサカはミサカはちんぷんかんぷん。」

「ヒトも同じっつー話だ。誰かの行動が分散して、細切れになって、他の誰かの行動と寄り集まったり離れたりを繰り返して、最後また途轍もない大きな流れになったりする。俺やお前が認識してんのは本当に極一部のことだけだ。」

「それが、「えにし」なの?何だかすっごい大げさな喩え話だったけど、最初からそう言ってくれればよかったのに、ってミサカはミサカは遠回しなあなたの表現に文句をつけてみたり。」

打ち止めは文句をつけたが、最初からそう言われたとして表面的な意味は理解できたとしても、恐らく彼女が伝えようとした内容の本質的なことは分からなかっただろうとも思う。一人一人の些細な行動が自然災害のような大きな出来事を巻き起こす場合がある、という例えは人の何気ない行動の齎す予想外の一面を至極端的に表していた。


「お前が誰かの為を思ってしたことが、実は全然関係のない誰かも纏めて助けるかもしれない。逆に嫌がらせのつもりでしたことだって、結果はどうなるか分かんねェンだ。」

「嫌がらせでも?」

「別に誰かに嫌がらせしろっつー意味じゃねェからな。」

「それは分かってるけど、あなたがそんな話をするなんて意外かも、ってミサカはミサカは新鮮に感じてみたり。」

打ち止めの言葉は嫌味などではない。妹達同様、一方通行もそういう有機的な繋がりを極力避けて生活しているように思っていたという理由で出た言葉だ ― 妹達の場合は避けているというよりもそもそもそういう繋がりを持つことが難しかったというのが正確な表現だが。相変わらずどこか臍曲がりで厭世的な彼女が、今更自分の無愛想な態度を改めて人と人との繋がりを大切にして生きていく決意をしたということではないだろう。ただ、苦手でも厭わしくても様々な人と関わりあう覚悟を固めつつある、或いはそうしなければならないと考えているのではないだろうかと思った。

最近では臍曲がりの彼女も、妹達が成長していくのを喜ばしく思っているのと同時に少し寂しく感じているようなところを見せてくれるようになっていたが、それで言えば妹達も彼女に対して同じ感情を抱いている。

少し前までは妹達に対して献身的に振る舞う一方である意味妹達を守ることに固執し妄執し依存すらしていたような彼女は、今では守るべきものをたくさん持っている。黄泉川や芳川のような嘗ての同居人たちはもちろん、インデックスや上条、御坂だって最早一方通行にとって十分に庇護対象となっているだろう ― 上条や御坂については守るのと同時に守られている部分もあるのだろうが。極めつけは第七位の存在だ。今となっては妹達と同じくらい彼女の心を占めているだろう少年の存在に対して、打ち止めを始めとした妹達が嫉妬心を抱かなかったわけではない。その結果が番外個体の奇妙な行動であったりもする。

妹達から心が離れているというわけではないだろうが、心の裡に妹達以外のものを抱えるようになった一方通行に対して寂しく思う気持ちはある。だけれど、変わっていくのが人間で、自分たちも「人間」と同じように変わっていけるのだと信じているから、9971人の妹達は今日も自身の脚でしっかりと立っている ― 彼女や同居人たちや上条が繋いでくれた、「縁」というものに報いるために。




「ミサカたちは、ミサカたちの信じるものを信じ続ける。それは未だお姉様やあの人やカミジョウ、ヨミカワなんかの受け売りでしかないかもしれないけれど、でもいつかそれらが本当に一人一人のミサカたちを作るんだ、ってミサカはミサカは信じてる。」

「ミサカたちの行いが、誰かにとってのプラスになるように、そう願ってる。」

保護者が迎えに来たと言って出て行く直前、年端もいかぬ少女はまるで一世一代の告白をするみたいに白井に告げた。話の前後を全く理解できなかった白井は思わずぽかんと呆けてしまったが、ずっと黙り込んで何か考え込んでいた様子だったから、彼女には彼女なりに思うところがあったのだろう。

幼い少女と入れ違いに入ってきたのは、風紀委員の先輩だ。いつになく困惑した様子の白井を見て違和感を覚えたらしい、訝しげな瞳が眼鏡の向こうから白井の様子を見詰めていた。

「白井さん、何かあったの?」

「いえ、何でも、」

「そう、なら構わないけど。」

何でもない、そういう答えが返ってくるのだと判断した彼女は、それ以上の追及をしなかった。白井は何事も自分一人で解決しようとしがちな傾向があるが、それを指摘しても反発することが多いので本人がキャパシティオーバーを自覚するまではある程度好きに行動させている。もちろん何かあったときに直ぐサポートできるような体制を築くことに手は抜いていないが ― しかし、白井から返ってきた言葉は固法にとって全く以て意外なものだった。

「何でも、ありますわ。」

「へ?」

「固法先輩、私、近々前線に復帰できるやも知れませんの。」

がたん、と椅子から立ち上がった白井はいつになく自信に満ちた表情をしている。いや、本来の彼女は常日頃こういった自信に満ちた表情をしていた気もする。むしろここ最近の方がおかしかったのだ。

風紀委員の活動とは全く別のところで何事かに首を突っ込み、能力の暴走で入院するほどまでのことになったという話は固法も聞いている。そのときの精神的な後遺症からか今でも能力が安定しないため、最近では後方支援任務が主だ。固法自身は経験したことがないが、能力が全てと言っても過言ではないこの街において「能力の暴走」という経験はその後の人生を大きく変えてしまうものだという認識をされている。エリートに属される大能力者レベルでも一度の暴走がきっかけでのちに犯罪に手を染めたり、トラウマを解消できないまま無理に能力を行使しようとして廃人のようになってしまったりすることもあるのだ。一歩間違えればそちら側に踏み込んでいたかもしれない彼女が自分から復帰できるかもしれないと力強く言うのだから、それは様々な能力者を見てきた固法にとって風紀委員の戦力云々関係なく喜ばしいことだった。

「私、明日病院行ってきますわ。先生にご相談してきます。」

「思いついたら行動が早いのは白井さんのいいところね。」




「随分な心境の変化だね。」

翌日病院を訪れた白井に対し、カエル顔の名医は目を瞠った。問診すらしないうちに彼女の心持ちが昨日までと全く変わっていることに気付くことができるほどに、それは大きな変化であった。元から中学生らしからぬ堂々とした振る舞いを見せる彼女は、更に洗練されてそこにいた。

「結局人間、自分の信じたいものを信じるしかないのだと思いましたの。」

「それはそうかもしれないけれど、白井くんはそれだけじゃ割り切れないことも経験したんじゃないのかい?」

白井自身、特力研の跡地である映像を目撃するまで挫折などは自身の哲学を貫くだけのことができない弱い人間のすることだと思っていた。彼女はそれまで負けたことはあっても、それで挫けたことはなかった。次は、次が駄目でもそのまた次は、そうやってそう信じて必ず成長してハードルを超えてきたのだ。だから彼女は特力研で幼い学園都市第一位に振りかかる不幸を目撃し、この世にはいくら力ある人間でも致し方ならない天災が在ることを初めて知ったのだ。

「結果がどうあろうと、信じるのは自由ですの。」

この広い世界で、自身の行いの結果がどこに行き着くかなどと分からない。何年も、或いは何十年も先になって自分の全く知らないところで全く知らない何かを齎していることもあるだろう。だけれど、だからこそ、白井は自身の行動が善い結果を齎すことを祈って、信じるしかない。どうせ過程も結果も見えないのだから、信じてさえいれば実際の結果がどうなろうと白井の知ったことではない。

「それだけ言えるのなら、もう能力の使用にも問題ないだろうね。念のため連続での使用は、そうだな、3回くらいまでに収めておいてくれると嬉しいんだけど。」

「それは難しい注文ですの。」

「そう言えるなら、もう本当に大丈夫だよ。」

それはつまり、セーブするとかいう選択肢をそもそも持ち得ないくらいに自身の行動の結果に確信を持っているということだ。能力というのは才能よりも知識よりも自身の心の持ち様がものを言うものである。ここまで自身の行いに対する矜持を回復した彼女を脅かすものなど、もう何もないはずだった。




今日はここまで。努力や苦労をしてこなかったわけではないけれど、どこかで幸運に守られてきた黒子が努力では如何ともし難い苦難とどう向き合っていくのか、という一幕。元の黒子と新しい黒子に大きな違いはなくって、変わらずいっそ尊大なほどに自分に自信を持っているのだけど、その過程には大きな違いがある、という。

次からは最終章なのですが、その前に別分岐エンディングの土百合小ネタを投下するかもしれません。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年10月05日 (土) 20:28:43   ID: PduzCtcl

乙です。

2 :  SS好きの774さん   2014年03月26日 (水) 14:14:26   ID: C1MootDZ

この作品最っ高やでぇ

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