勇者「この美しき世界で」少女「生きていこうか」(368)


 世界は美しい、と思う。
 

 悲しい事や、汚い事もあるのはしってる。

 でも、その中で。

 明日を信じて生きている人たちが居るこの世界が。

 俺は、美しいと思う。


 俺は、勇者としての勤めを果たした。

 魔王を封印する事に成功して、俺たちの旅は終わったんだ。



 戦士、僧侶、魔法使いは別の道を歩むらしい。

 寂しい気もするが、そうも言っていられないよな。


少女「なにやら寂しそうな顔をしてるね?」


 俺には守らなきゃならん家族もいるしな。



勇者「ん? 気にすんな、大した事じゃない」


 それよりも考えなきゃならん事が山ほど在るし。


少女「とりあえず、住む所用意しなきゃ」

 そうだ、少女が居た城はボロボロになってしまったし。

 悲しい思い出も在り過ぎるだろうしな。


少女「安心してくれ、わが国の領土は広大、大地はどこも肥沃だ。 ゆっくりと安住の地を探そう」
 頼りになる事だ。 コイツは尻に敷かれないように気をつけなきゃならんかもしれん。


 晴れ渡る紺碧の空の下、街道を徒歩で歩く。


少女「あー、馬が欲しいな」

 目的地は特に無い旅だしな。

 別に馬が居なくても大丈夫だと思ったんだけどなー。


少女「やれやれ、計画性の無い奴だなぁ」

 節目がちに見上げられる。
 この深紫色の瞳にこんな風に見られる日が来るとは思わなかったぜ。

勇者「お前が馬に乗れるかどうかも分からんかったしなー」

魔女「こう見えても王族の出自だからな。 馬術なんかは幼い頃から嗜んでいたさ」

 農家出身の俺とはえらい違いだ。

少女「まぁ、国が滅んだ今王だなんだと言っても仕方ないがな」

 あー畜生、こんな時なんて声かけりゃ良いかさっぱり分からん。

今回の更新は以上になります。

この作品は、戦闘もほとんど無いし、結末も前作を見れば分かってしまいます。

それでも良い方はお付き合い下さい。


僅かですが更新します。


 歩き続けて、日も沈んだ頃。


 少女「ずいぶん歩いたな」

 結局、なんて声をかけて良いかも分からず、歩き続けてしまった。

 あー、こんなん初めてだから分からんぞ。

 沈黙が辛すぎる。

少女「なぁ……どうしたんだ? お昼から苦虫を噛み潰したような顔してるぞ?」

勇者「そ、そんな事無いぜ?」

 
 鋭いなー。 いや、俺が鈍いのか?


少女「やれやれ」

 少女が街道から外れて草原の中に歩いていく。

少女「ほら」

 両手を広げて空を仰ぎながら少女は笑った。

少女「せっかくの満天の星空だ。 下を見てるのは勿体ないぞ?」

 風を拾った白いワンピースがたなびく。

 背の低い草が、静かな音を立てた。

少女「何をそんなに考え込んでいるかは分からんが、難しい考え事は私に任せておけ? お前はただ、私の側に居てにっこり笑って居てくれればそれで良い」


 少女が手招きをしている。

勇者「かなわないな、お前には」

 臑の辺りまで伸びた草のくすぐったい感触がした。


少女「私を誰だと思っている? 今は亡き魔術の王国の第一王女にして、封印された魔王の実妹だぞ? 勇者如き一ひねりだ。 とうっ」


 うわっ!? 飛び込んで来やがった!?

 避けたら怪我するし仕方ない。
勇者「おわっ!?」

 諦めて、せめて少女が怪我をしないように押し倒される。

勇者「痛てて、無茶すんなよ?」

少女「無茶なんかしてない、勇者なら絶対に受け止めてくれるだろう?」


 やれやれ、本当にこいつは。


勇者「ったく、ほら退いてくれ」

少女「断る。 今日はこのまま星空を眺めながら眠る」

勇者「いやいや、退いてくれ。 重たいから」

少女「ふんっ」

 脇腹に鈍痛。 殴りやがった。

少女「淑女に重いと軽いは禁句だ。 分かったかい?」

 少女の柔らかな温もりを全身に感じながら「先が思いやられるな」なんて考えている内に眠りについた。


今回の更新は以上になります。

若干更新します。

 目が覚めると少女の姿がない。

 いくら魔物が居なくなったとはいえ、野生動物だって居る訳だし。

勇者「少女ーっ! どこに行ったんだ!?」

 くそ、油断しすぎだろ俺……。
 草原を見渡しながら、少女の姿を探す。

 駄目だ、見晴らしが良いってのに影も形も見えやしない。

少女「くっくっく」

 足元からガサガサと音が聞こえる。

少女「うりゃっ!!」

勇者「うぎゃっ!?」


 足元から少女がいきなり飛び出してきた。

 思わず情けない声を出してしまう。

少女「油断大敵だぞ勇者?」


勇者「何がしたいんだよ? 心配したじゃねーか」

 本当に心配するんだぞまったく……。

少女「その言葉が聞きたかったのさ」

 にっこり笑って自信満々に言い放った少女。 頭に葉っぱがついている。

勇者「分かった分かった、ほら動くな」

少女「なんだ、キスでもするの? よし来い、どんと来い、なんなら舌を入れても良いぞ? いや、むしろ入れろ」

勇者「違うわ、頭の葉っぱをとってやるから動くなって言ってるんだよ」

 朝から何を言ってるんだよコイツは……。

少女「残念、もう遅い……ん」


 頬に触れる柔らかい感触。

 こ、こいつ、ほほ、本当にしやがったっ!?


勇者「おま、何してくれんだよ!?」


少女「御馳走様、ふふん」


 朝から頭がどーにかなりそうだ。


少女「さて、行くか。 住むなら良い場所が在るんだ」


勇者「どんな所なんだ?」

少女「国境の近くにある小さな村が在ったところだ。 確か小さいながら領主の城もあったはずだぞ?」


 国境といえば、隣の国は割とでかい国だったよな。

少女「さぁ行こうか私達の愛の巣へ」

 大体半日くらいで着くな。

 何事もなく着けばいいんだが。


 街道を歩居ていると、 秋も近いのか秋虫の寂しげな鳴き声が聞こえてきた。

 つまり夕暮れだ。

勇者「なのになぜ着いてないんだろうな?」

少女「なぜだろうな?」

 少女が明後日の方向を見ながら答えた。

勇者「誰だったっけなぁ 「私に任せろ」 とか言って自信満々に先に歩いた挙げ句に道に迷ったのは?」

少女「仕方がないだろう? その村に行ったのは私が三歳くらいの時だ。 しっかり覚えていろというのも無理な話だろ?」

 少女は悪びれなく言う。

 普通に向かって迷うならまぁ許せるけど。


勇者「なら、近道を探して草原突っ切るなよ」

 どうしてこう無鉄砲なんだか。

少女「こらこら、そんな顔は似合わないぞ?」

勇者「誰のせいだっつーの」

少女「まぁまぁほら、村も見えてきたし……ん?」

勇者「どうした? て、村に明かりが点いているな」

 明かりが星や月位しかない草原で、それは良く目立っていた。

 村の入り口の簡素な門には一対の篝火が焚かれている。

勇者「村は、無人じゃなかったのか?」

少女「その筈だ……。 兄さ、魔王がこの村の住人だけ生かしておく理由がないからな……」

勇者「と、言うことは」

少女「誰かが私に何の断りもなく入り込んでいるな……しかもこんな辺境にこっそりと住み着いているんだ」

 いつでも抜けるように、背の剣に意識をやる。

勇者「ろくな奴じゃあないな」


少女「あぁ、そういう事だ」

 長い夜になるかもな。

今回の更新は以上になります。

割と大量に更新します。


 村の入り口には人の影はなかった。

 だが、入り口の篝火には真新しい木ぎれが多く、数時間前までは人が居たようだ。


 勇者「さて、こっからどうするか」

 辺境、しかも魔王が討伐されたというのもまだ知れ渡っていないと言うのに、こんな場所にいる輩だ。

 善良な市民と言うのは考え辛い。

少女「……勇者、私に考えがある」

勇者「考え?」

 正面突破以外に何かあるんだろうか?


少女「先ずは私に話を合わせていてくれ」

 そう言うと少女はどんどん村に入っていく。

勇者「お、おい!?」

 そんな事したら――。


中年「こんな夜遅くにどうなされましたかな? 旅の人」


 なんだコイツ? 農家みたいな格好している割に……

勇者「少女……こい、痛ぅっ!?」

 少女に脇腹を抓られた。

 話を合わせろってことか。

 というか、思い切り抓らなくてもいいだろ、絶対痣になってるぞこれ……。


少女「すみません、私達は夫婦で各地を渡り歩いている商人なのですが、馬車の車輪が壊れてしまい……」

勇者「え?」

 今度は中年から見えないように小突かれる。

勇者「あ、あぁ、困り果てて歩いている内にこの村を見つけて」


中年「……ふむ、それは大変でしたね。 馬車は今どこに? 高額な物は積んでいませんか? 最近はこの辺りにも野盗が出るらしいので漁られるやも知れませんよ」

 案外親切じゃないか。 何でも疑うのは良くないな。


少女「ここから北、国境を越えて街道沿いに馬車は置いています。 なにぶん二人とも乗馬が苦手でして馬も繋いだままなんですが……。 野盗が出るんですね、恐ろしい」

 野盗がこの村を襲わないか心配だな……。

 夜が明けたら軽くぶっ飛ばしに行こうかな?

中年「馬……ですか?」

 中年はなんだか残念な顔をしている。 馬の心配までしてくれているのかな? 世の中捨てたもんじゃあないな。

少女「えぇ、あとは西の国の生地と果実くらいです」

 西の国の生地ねぇ……そんな高級品積んでいるなんて見栄張ってどーするつもりなんだろ?

 あ、そうか。

 元王族だもんなぁ。 自然と高級品が浮かんじまうのか。

 俺もがんばって稼がなきゃな。


中年「それはそれは……。 部品を用意しておきましょう。 今日はこの村に泊まって行って下さい。 空き家が在りますのでそこをお使い下さって結構です」


少女「……お気遣いありがとうございます」

 なんだか騙すのも気が引けるなぁ……。

勇者「あ、だったらこれを受け取って下さい」

 へそくりに金貨を何枚か持っていて良かった。

少女「……」

 少女が睨んでいる気がするな、へそくりをしていた事を黙っていたから怒ったかな?

 この村に長く住むんだ。 そんな痛い出費じゃないだろ。

中年「……こんな大金頂けませんよ。 気持ちだけで結構です。 さぁ、部屋に案内しますので着いてきて下さい」

 雰囲気が変わった?

 なんか嫌味みたいになっちまったかな? 後で少女に相談してみよう。



 案内された部屋は、古い建物なのは仕方がないが、作り自体はしっかりしていた。

勇者「少女……何してるんだ?」

 部屋に入るなり少女は扉や窓を調べていた。

 戸締まりをしているみたいだけど、そこまで必死にやらなくても大丈夫だと思うんだけど、心配性な奴だな。 


少女「どこかの誰かさんが余計な事しなければ、少なくとも今晩はここまで用心しなくても良かったんだけど……」

 少女が節目がちに睨んでいる。 この目で睨んでいるのは怒っているんじゃなく、呆れてる時だった筈だ。

勇者「何かしたか、俺?」

 金貨出したのが不味かったかな? あのおっさんもなんか雰囲気変わったし。


少女「あの中年を見て何か違和感を感じなかったい?」


 少女が溜め息をつきながら椅子に腰掛けた。

 戸締まりが終わったらしい。

勇者「違和感か……。 ん、そう言えばあの人昔は兵士か何かだったんじゃないかな。 足運びとか初対面の俺達を見る時の目つきとかがそんな感じがしたんだけど」
 聞かれてみて、改めて最初に見た中年の違和感の正体に気がつく。

勇者「でもそれが?」

少女「まだわからないのかい? さっき話に出た野盗。 あの中年がその野盗だよ」

勇者「えぇっ!? でも良い人そうな……」

少女「あんなあからさまに馬車の位置と積み荷を確認してただろ? 今頃何人かで在りもしない馬車を探してるんじゃないか?」

勇者「そんな風には見えなかったけどなぁ」

 金貨だって受け取らなかったし。

少女「でもそれだけなら今日はゆっくりできたんだ。 どっかの誰かさんがこれ見よがしに現金を持って居るなんて知らせてしまったから、多分待ちきれずに夜の内に襲ってくるんじゃあないか?」

 だから金貨を出した時少女は睨んでたのか。

少女「本当なら今夜は勇者と記念すべき初夜の筈だったんだぞ。 安全日だし不慣れな私達でも安心して事に至れたんだ」

勇者「ぶっ!? いきなり何言ってんだよお前は!!」

 真顔で少女が言う。

 恥とかそういった物がないんだろうか?

少女「ん? いや、勿論勇者との赤ちゃんは欲しいぞ? そりゃあもう二桁は欲しい。 だが、まだ生活の基盤も出来ていないのに赤ちゃんを作ったとしても辛い思いをさせてしまうだろう?」

 …………。

 少し照れだしたな。 照れ隠しに髪を手櫛で直しながら呟いてる。

 うん、可愛い。


少女「でも私は勇者に抱かれたい。 これでもかと言うほど愛し愛されたい。 足腰が立たなくなるくらい」

 …………。

 ちょ、寄らないで頼むから。

 そんな風に頬を染めて潤んだ瞳で見られたらやばいって。


少女「抱かれたいが子供は少し困る、しかし未経験故に避妊を失敗するかもしれない。 そんな初めての二人なのだからこそ、失敗しても大丈夫な安全日の今日は初体験に最適ではないかと思っていたのだ」

 あ、うん? 終わった?

 後半は耳を塞いでたからさっぱり聞こえなかったぜ。

 いや、本当に。

 ムラムラなんてしてないぜ?

 少ししか、うん。


少女「うん、いっぱい出し……」
 少女が大変な事を口走りかけたその時。

 ガタンッ。 と、大きな物音が外から聞こえた。


少女「だというのに、無粋な輩だ。 勇者、六人くらいだ。 一人でも大丈夫か?」

 どうやら外にはお客さんらしい。 正直この桃色な空気にも堪えられなかった所だ。

勇者「不埒な欲求不満は運動で払うのが一番だ、ちょっくら暴れてくるよ」

 暴れてやるぜ。

少女「早く片付けたら……朝までに何回かはできる……な?」

 何ができるかは分かんないけど取り敢えず、慎重に時間をかけて朝ぐらいまで闘おう。 そうしよう。

少女「やれやれ、愛しの君は世界まで救った筈なのに随分と……ヘタレだな」

 落胆みたいな溜め息を大げさにしやがって……。

勇者「取り敢えず部屋には近づけないつもりだ。 おとなしく部屋を戸締まりして待っててくれよ?」

少女「あぁ、いってらっしゃいのちゅーしてやろうか?」

 無視しよう。

 部屋を出て内側から閂をかけた音を確認して敵の大まかな位置を確認。 暗くてよく見えないが、どうやら正面にいるのは四人か。

 深く息を吸い込み集中する。
勇者「かかって来いやぁぁあああッ!!」

 吸い込んだ息を全て使い切るように雄叫びを上げた。

 『対人戦で大切なのは相手を気迫で圧倒する事だ』戦士が教えてくれた事だ。 相手が未熟ならこれだけでも戦闘がだいぶ楽になる、が。


「囲んで殺るぞ」

「ならば陣形一だな」

「了解」


「いくぞ、かかれッ」


 夜盗の癖に随分と訓練されてるじゃねーか。 なら――。

勇者「~~」


 閃光の魔法を放つ。

 予め目を細めて置かなければ視覚を奪える程の明るさだ。


 は、混乱してやがるぜ。

勇者「こっちははっきり見えたぜ短剣に、戦棍に、長剣か。 夜盗にしちゃあ良い武器使ってんじゃねえか」

短剣「ぐぁっ!?」

長剣「コイツ、魔法を使うのか!?」

戦棍「ただの商人という話ではなかったのか!?」
?」

 目を押さえて距離を取る三人。
 さて、残り一人は。

勇者「んで、お前は毒針か。 えげつないな」

 頭上に向くて刃を寝かせて剣を振り上げる。 手応え有り、だ。

毒針「気付かれただと……ぐはっ」


 どうやら一発で毒針の奴の意識は奪えたようだ。 他の奴らはそろそろ視覚が戻るか?

勇者「残念ながら、俺って結構強いぜ?」

 世界を救えるくらいにはな。

長剣「嘗めるなよ、商人風情がぁッッ!!」

 長剣が振りかぶりながら突っ込んでくる。 怒りに任せてかと思いきや、踏み込み自体は鋭く無駄がない。

勇者「野盗にしとくには勿体ないな」

 突っ込んでくる長剣の左右後方には短剣と戦棍も機を窺うように追従。

 中々厄介な陣形だな。

勇者「でもまぁ、余裕だ」


 全身の無駄な力を抜く。 余計な力は剣筋を鈍らせる。

 必要な力を必要な箇所に使う。

 それが正しくできれば――。

 勇者「ッラァアア!!」


 隼が翔るが如きって奴だ。

長剣「ぬぐぁっ!?」
 
 先頭の長剣の脇腹に剣の腹を叩きつける。

短剣「うごっ!?」

 倒れ込んだ長剣の後ろから飛びかかって来た短剣を返す剣で叩き落とす。

戦棍「取ったぁッッ!!」

 戦棍の一撃が顔面に迫る。


勇者「当たらねえよっ」

 それを避け、懐に飛び込むと、空いている左拳を相手の顎に叩きつけた。

戦棍「が……」

 戦棍は糸が切れた人形のように崩れ落ちる。


勇者「後二人居るって少女は言ってたよな。 この場に居ないって事は……少女狙いか!?」

 気づいたのと同時に、部屋から少女の声が聞こえた。


少女「お前ら!! 暖炉からだと!?」


 くそっ、部屋に入られたっ。

勇者「少女に何すんだてめぇ等っ!!」

 扉を閂ごと蹴破ると中には短剣を持った短髪の男と長髪の男が少女を襲おうとしてやがった。

少女「勇者!」

勇者「悪い、遅れた」

短髪「チッ、表の奴らしくじりやがったな」

長髪「ただの商人に遅れを取るなんて最低だな」

 短剣を構えながらこっちを睨む二人。

 隙だらけだ。

勇者「てめぇ等だって、すぐやられんだから、悪く言うなよ、なっ!!」

短髪「速……ぐぁ!?」

長髪「ぐはっ!?」

 手加減無しに全力でぶっ叩いてやった。

 死にはしないから良いだろう。


少女「流石だ、嬉しかったぞ」

勇者「あー待て待て、取り敢えず表の奴らとこいつ等縛っておこうぜ」

 抱き締めようと寄ってきた少女を制止して、野盗共を縛る。
 何にせよ少女が無事で良かった。

少女「こんな奴ら外に放り出せば良いだろう。 二人の空間にこいつ等は邪魔なだけだ」

 いやー、良かった。 こいつ等部屋に置いておかなきゃ大人の階段上る所だった。


勇者「それより、暖炉から入ってきたんだって?」

少女「あぁ、しかもこいつ等は一丁前に気配を消す技術まである。 最近の野盗は恐ろしいな」


勇者「この暖炉……ちょっとおかしくないか?」

 部屋に入った時は気にしていなかったが、部屋に対して明らかに大きいし不釣り合いに立派な作りの暖炉だ。


少女「これは……隠し通路か」

 散らばった薪の下には、蓋をされた大きな穴があった。 人が一人楽にはいれる程の穴の底には明らかに人為的な通路がある。


少女「これじゃあ初夜はお預けだな、やれやれだ」

 少女は、薪を一つ蹴飛ばして今日何度目かわからないため息を吐きながら呟いた。

今回の更新は以上になります。
今回はイチャラブを頑張ってみようかと考えては居るんですがどうにも難しいですね。

おっぱい。

少し更新します




勇者「結構深いんだな」

 隠し通路は割と長く続いていた。


 警戒していた罠等は特に無く、ただ地下特有の湿度の高さが不快なくらいだ。

少女「げぇ、壁に触ったら苔やら埃やらで手のひらが汚くなってしまったじゃないか……」

勇者「だからって俺の外套で拭うのは止めてくれないか? 汚れるんだけど」

 少女は俺の外套で丁寧に手を拭りやがった。 何しやがる、お気に入りなんだぞこれ。


少女「まぁまぁ、後で私を勇者の手で汚せばいいだろう?」


 何を言ってるのか俺にはさっぱりわからないな。


勇者「ん、出口みたいだ」

 突き当たりは梯子が架かっていた。

少女「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

勇者「絶対に離れんなよ?」


少女「あぁ、互いの髪が白髪交じりになってよぼよぼの老人になって死別する最後の時まで離れないぞ」

 あー……。

 うん、まぁいいか。



勇者「これは……教会か?」


 梯子が続いていたのは、なにやら聖堂みたいな所だった。

 僧侶の所の宗教によく似ている。

少女「いや、これは村の外れの城にある礼拝堂のようだ」

 結構な距離の隠し通路みたいだな。 いったい何の為に?


勇者「取り敢えずは探索だな。 ただ、あいつ等みたいな奴がいるかも知れないから気を付けていこう」


少女「人の所有地を許可なく改造するとは言語道断。 しかるべき報いを受けさせてやろう」

 地下道を作った事か。 それにしても目が本気だ。 怖い怖い。


 聖堂を出ると割としっかりとした城だという事が分かる。 ただ、石造りの廊下は掃除がされていないのか埃っぽい。

少女「野盗め、掃除のやり方も分からないようだな」

 形の良い眉を顰めて少女は窓枠の埃を指で拭った。


勇者「先ずはどうするつもりだ?」


少女「ふむ、奥の別塔に結構な人数の気配がするな。 しかし、どれもかなり弱っているみたいだな」

勇者「なら行ってみるか」


 野盗がさらって来た人達か?


 別塔には何の問題もなく着いた。

勇者「国はずれの村にしてはずいぶん立派な城だな」


少女「ここは国境だからな。 安穏と暮らし続ける事ができる程、世界は平和じゃないって事さ」

勇者「軍事的な拠点だったって事か」

 人間同士で世界を舞台に陣取り遊び、か。

勇者「本当に怖いのは人間、か」

 どうにもやるせないな。

今回の更新は以上となります。


少量ですが更新します。



勇者「誰か居るのか!?」

 別塔の入り口の扉を叩き切りながら叫ぶ。

少女「これは……」

 扉の先には、大勢の痩せこけた人間が虚ろな目で座っていた。


勇者「隣国の……貧民街の奴らか?」

少女「そのようだが、なんにせよ惨いな」

 こんな狭いところに押し込んでいたのか……。


勇者「助けに来たぞ」

 何が世界を救った勇者だ……。

 どう見たって救われちゃ居ないだろうが。



勇者「あんた達が、どうしてここに捕まっているかは後で良い。 取り敢えず」

 背の長剣に手をかける。

 扉を叩き切った時から、粘着質な殺気を感じていた。

勇者「そこで見てんだろ? 叩きのめしてやるから出て来やがれ」

 振り返り剣を構える。


 そこに立っていたのは身なりのそこそこに良い、貴族のような甲冑の男だった。

甲冑「族奴が……。 何処の国の間者かは知らぬが」


 甲冑の男が背の長剣を抜いた。

 研ぎ澄まされた刀身、華美な装飾の無い簡素な拵え。

勇者「随分と良い得物だな。 あんたがここの黒幕か?」

 人攫いして人身売買か。

 儲けてるんだろうな。


甲冑「黒幕……? とぼけている訳ではないようだが。 本当に単純に腕が立つだけの行商か?」


勇者「何を言っているのかよく分からねえけどまぁいいか」

 雰囲気的に見かけ倒しって事は無さそうだな。

勇者「外道の言葉なんざ聞くに及ばねぇ。 ぶっ飛ばしてやるからかかってこい」


甲冑「まぁいい、死ね」

勇者「ッ!?」

 速いっ!?


 言葉と同時に鋭い一撃が喉に迫る。

 身体を捻りその一撃を避けると、その勢いで蹴りを入れる。



 甲冑越しに蹴りを入れてもダメージは期待できない。

 体勢を崩せりゃそれで良い。

 と、思ってたんだけどな。

甲冑「ん、どうした?」

 大木にでも蹴りを放ったような手応え。

勇者「随分と重てぇな、鉄でも食って育ったのかオイ」


 この蹴りは戦士直伝、戦士が使えばオーガだって沈むっつーのに。


甲冑「生憎だが、教えを守り菜食主義者だ、ぬんッ!!」


 蹴り足に振り下ろされる刃。

勇者「危ぶねっ!?」


 甲冑の男の腹を足場にして後ろに飛び退く。


勇者「お前んとこの神様は善良な行商の足を躊躇なくぶった斬る教えもあんのか!」

甲冑「あるさっ! 勇敢に敵を討ち滅ぼす戦女神の教えではな!」


 神様信じてる癖に随分な野郎だ。

 我らが慈愛の塊、僧侶さんの爪の垢でも飲ませてやりたいね。


また更新します。

番外編のタイトル教えていただけませんか?

>>97

チワワで検索すればあります。
暖かい意見、厳しい意見、どちらもしっかりと受け止め頑張りたいと思いますのでお付き合い頂ければありがたいです。

更新します。


 チッ、コイツかなり強ぇ。


甲冑「貴様の剣は何かおかしいな、我流か?」

 何度か切り結ぶと甲冑が言った。


勇者「あ? 世界一の戦斧使いに稽古付けてもらったっつーのっ!!」

甲冑「まるで、人以外と戦う事を前提とした剣運びだな」

勇者「随分よく見てんじゃねーか」

 剣を握る手に力を込める。

勇者「っらぁ!!」

 切り結んだ相手の長剣を力任せに弾くと距離をとり構え直す。


甲冑「……大した膂力だな」


 今ので崩しきれないか。 そこらの国の師団長クラスよりよっぽどやるな。 

 異常に対人戦が上手いぞこいつ。


勇者「なんでテメェその腕で野盗なんかやってやがる」

甲冑「野盗……ね。 これから死ぬ貴様に話した所で意味はないだろう」


 甲冑越しだがわかる。

 コイツ、自分の勝利を確信して笑ってやがる。

 俺より自分の方が強いと思ってやがるのは若干腹立たしいが、問題なく倒せるか、と言えばそうでもないんだよな。


少女「いつまで遊んでいる。 君なら本気を出せば軽く捻れる筈だろう?」

 確かに全力で闘えばすぐに終わるだろう。 が、下手すれば殺してしまう。

 偽善だなんだかんだと言われるかも知れんが、なるべくなら人を殺したくない。

 この力は、人を守る為に磨いたのだから。

甲冑「軽く捻れる? やってみるが良いぞ見窄らしく浅ましい商人の小僧めがッ!!」

 好きに言いやがって。

勇者「なんだとこの野――」

少女「訂正しろ小悪党が。 言っておくが、私の旦那は世界一だ。 貴様のような凡愚が口汚く罵って良いと思ってるのか? 身の程を弁えろ見窄らしく浅ましい野盗擬きが」

 言い返す前に、少女の声が響いた。

 けして大きな声ではなかった。
 だが、良く通る澄んだ声。

 堂々たる威厳を帯びた、人の上に立つ者の声だった。


甲冑「ぬ……」

 甲冑もいきなりの少女の啖呵に呆気にとられてやがる。

少女「ちなみにダーリンの魔力を借りれば回復魔法くらいは私でも使える。 安心してぶっ飛ばせ」

 そいつは助かるな。
 というか、ダーリンて俺の事か? まぁ良いけどさ。


甲冑「小娘……物珍しい髪で高く売れると生かしておくつもりであったが……。 もう良い、この侮辱の代償、貴様の死の間際の後悔で払ってもらおうか」

 甲冑も正気に戻ったらしい。

 だが、刃を向ける先を間違えてやがるなこの野郎。


少女「ふん、やれるものならやってみろ!! なんなら……、もう一度言ってやろうか?」

 殺気を向けられて居るというのに少女はいっさい怯まない。

甲冑「小娘がぁ!!」

 少女に襲いかかる甲冑。

 あと数瞬で刃が振り下ろされるというのに、少女は微動だにせず、腕組みをしたまま甲冑を見据えていた。

少女「ふっ、私の旦那は世界一だ」

 俺の事をここまで信用してくれているんだ。

 刃が振り下ろされる数瞬という時間に。

勇者「照れるぜまったく」

 少女の前に立ち、甲冑の剣撃を受け止めるくらいには格好付けなくちゃな。

甲冑「速い!?」


勇者「んじゃ次はこっちの番だな」

 重傷くらいなら治せるらしいし。

勇者「ちょっとキツいの行くぞ?」

 切り結んだ甲冑の剣をいなし、体勢を崩す。

 その隙に最上段に剣を構え力を込め、刃を寝かせて振り下ろす。

甲冑「チィッ!!」

 甲冑はなんとか防ごうと剣を構えた。


勇者「無駄だっ!! オラァッ!!」

 振り下ろす剣に更に力を込める。

甲冑「なっ!?」

 金属音を立て砕ける剣と兜。

甲冑「あ、ぐぉ……」

勇者「残念ながら、ゴーレムだろうがぶった斬る剛剣だ。 あんたにゃ止められねえよ」

少女「世界を滅ぼせる程の腕前になってから出直すが良い」


 流石にそんなのが来たらひとりじゃ無理だ。

少女「?」

 ま、何があっても少女一人くらいなら守り通して見せるけどな。


勇者「コイツこのまんまじゃ障害残るかも知れん。 早いとこ回復してやろう」


少女「そうだったな、では魔力を分けてもらうぞ。 とうっ!!」

 少女が胸に飛び込んでくる。

少女「この体勢が一番魔力を分けて貰いやすいんだ。 勿論他意もあるがな! ついでに頭を撫で回しながら愛を呟いてくれれば完璧だ」

 こうも直球だと恥ずかしさを通り過ぎてなんか不思議な気分だな。

勇者「あー……よしよし」

少女「物足りないが、この愚か者一人回復する位なら大丈夫だろう」

 少女は「勇者の優しさに感謝しろ」とかなんとか言いながら甲冑に回復魔法をかけ始めた。


少女「起きろ凡愚、尋問の時間だ」

 少女が爪先で甲冑の脇腹を軽く蹴る。

甲冑「糞……まさかこんな所で……」

少女「愚痴を聞くつもりは無い。 貴様の目的と背後にどんな勢力があってこんな事をしている」

甲冑「……一つだけ聞かせろ、貴様等は何者だ? この実力、どこかの国の密偵なんだろ?」


 野盗の癖に何だか小難しい話をしだしたな。

 いや、実力的にもしかして――。

 いや、流石に……。

少女「私は今は無きこの国の第一王女、そして私の旦那である彼は救世の英雄、勇者だ」

甲冑「……なる程な。 勝てぬ訳だ」

少女「では貴様……なっ!?」

 甲冑が大量の吐血をした。

勇者「こいつ、毒を!?」

甲冑「勇者か……魔王無き今の世では貴様のような輩は疎ましいだけだな……ごふっ」


少女「死んだ……余程強力な毒だ。 野盗如きが扱える物ではないが……」


勇者「奥歯に致死の猛毒を仕込む……国の密偵なんかが良くやる手だけど」

 結局死なせちまった。

 どうすれば良かったんだ?

 思考に薄く靄がかかっていく。
少女「勇者……大丈夫か? 酷い顔色だ」

 少女が心配そうな顔で覗き込んでいる。

少女「いきなりぼーっとして、まさか……」

勇者「大丈夫だ、コイツを弔って、今日は休もう」

 畜生……。


 目が覚めると、すぐ目の前に少女の端正な寝顔があった。

 安心しきったような表情で規則正しい寝息を立てている。


勇者「もう驚かねーぞ」

 艶のある黒髪をわしゃわしゃと撫で回す。

勇者「なんで一緒に寝てるんだ?」

少女「眠る瞬間まで、そして目が覚めた瞬間。 愛しい人の顔がある程幸福な事はないからな」

 こいつには照れという感情はないのだろうか?

少女「さ、今日は捕まって居た人達に話を聞いて、更に今後の生活を支援して、生活の基盤を整える下準備もしなければならない。 名残惜しいが、ベッドから出て活動を始めようか」

 そうだ、やる事はまだ山ほどあるしな。

今回の更新は以上になります。


更新します



 一晩過ごしたのは領主の部屋だったらしい。

 荒らされていたのか調度品もなく、ベッドにはシーツしか無い。

 粗末な場所で寝る事は旅で慣れているとはいえ、良く熟睡できたと自分の疲労具合に感心してしまった。

 捕らえられていた人達は、城の元々兵舎だった建物で一晩過ごして貰った。

 使われて居なかったらしく少しかび臭かったのは申し訳ないが、纏まった寝具や相応の個室の数がそこしかなかったから仕方がない。


少女「あー……邪魔するよ」

 兵舎に入り、捕らわれた人達を一瞥する。

 老若男女問わず居たが皆、痩せこけていた。

 いきなり現れた俺達を不安げな瞳で見つめている。

 上手い言葉が見つからない。 少女を見ると、彼女は何か難しそうな顔をしていた。

少女「魔王よりも……先に滅ぼすべき相手が居たねかもしれないな」

 少女はそう呟くと、囚われていた中で最年長であろう年老いた男性の前にたった。

少女「貴方達は今三つの扉の前にいます」


老人「あ……ぁ?」

少女「一つは、元の国へかえり、ここへ囚われる前と同じ生活をする」

老人「……ぃ……や……だ……もぅ……」

 老人はかすれ声で呟いた。

少女「一つは、今までの全てを捨て、新天地を目指す」

農娘「新天地なんてないわ……この世界はどこまで行っても悲しいくらい残酷だもの」

 部屋の隅でしゃがみ込んでいた農娘が嗚咽混じりに答えた。


少女「一つは……」

 何でみんなこんな悲しい目をしてるんだよ……

農青年「俺達みたいなのは、どこに行ったって幸福なんてありゃしない、どうでも良いよ」

 違う。

 違うッッ!! 

勇者「俺達とこの村で生きよう!! 悲しいだけの世界にしてたまるかッッ!! 俺は絶対に守ってみせるから……みんなで笑おう……」


農青年「え……?」


少女「ふふん、一つは……、私達と共に生きよう。 かつてこの土地には民と共に生き、笑う良き国があったんだ」

農娘「それは……素敵ね」


きっと守る。

 守ってみせる。

少女「何難しい顔をしている? 皆で笑おうと誓ったばかりだろう」

勇者「あぁ、そうだな。 みんな、これからよろしく」


 よし、頑張ろう。

また更新します

保守してくれた方、ありがとうございます。

更新します。



少女「さて、ここで暮らすに当たりどうしても必要な物が多々あるな」

 少女は、城の広間に捕らえられていた人達を集めると言った

勇者「わかった!!食いもんだ」

少女「二十点」

農娘「わかりました、畑と家畜です。 村で生きていく為に必要ですよね?」

 農娘が手を挙げて言った。
 雀斑が少しあり、濃い赤茶の髪は西方の国の生まれに多いんだよなー。

少女「農娘、正解っ!!。 いちいち買っていたら切りがないからね、第一そんなんじゃ生活破綻してしまうよ」

 うーん、確かに。


農青年「どちらも用意するには金がかかるんじゃ……」

老人「儂等はもともと農奴じゃ。 金などないぞい」


少女「そこが問題なのさ、 私と旦那の蓄えをでなんとか用意する事はできても、それじゃあ君達は場所を変えて農奴をやってるだけだ、それじゃあ意味がない」

 別に無償であげれば良いんじゃないか?

 でも少女の事だしな、何か考えがあるんだろうな。


農娘「勿論用意していただいた分は収穫の後に返します……。 ですがそういう事を仰っているわけでは無いのですよね」


少女「存外に頭が切れるじゃないか、その通りだよ」

勇者「つまりどういう事だよ」



少女「農奴の仕組みを知って居るかい?」

勇者「いや、うーん、こき使われて粗末でひもじい生活を送りながら農業に従じる人?」

 たぶんこんな感じか。

少女「なぜひもじく粗末な生活を送らねばならないんだ?」

 なる程、そういう事か。

勇者「生活の全てを使役する人間に任せている、からだな」

少女「さすがダーリンだ、ご名答」

少女「農奴の生活は良くも悪くも他者に依存した上で成り立っているんだ。 笑顔で居る為に自立は必要だと私は考えている」

農青年「現金化しろって事か?」
少女「それも手だ。 君達は作った農産物だけを食べて生きて行く訳ではないだろう? ならば農産物を何かに変えるノウハウを持つべきだ」

農娘「それが、自立?」

少女「期限は……うーんそうだな。 私の寿命が尽きるまでに、様々な形で返してくれ。 そして最後に一つ」

老人「……あんたらを敬えばよいかの……?」

少女「逆だ、ご老人」

勇者「みんなで仲良く、同じ立場で頑張ろうって事だ」

 これで良し。


少女「それじゃ、買い出し行ってくるよ」

 村の出口に立ち農娘達に手を振る。

勇者「取り合えずは当面の日用雑貨と苗、種、余裕があれば家畜か」

農娘「ありがとうございます、お気をつけて」

勇者「おう、そっちも頑張ってな」

 みんなは残って畑と大工仕事をするらしい。

老人「物心付いた頃よりやっていたのじゃ、任せておけ」

 老人は鍬を片手に張り切っていた。 怪我しないようにな。


勇者「さて、国越えて買い物かー」

少女「ん? まさか歩いていく気か?」

勇者「え? そのつもりだけど」

少女「馬車もないのにどうやって運ぶつもりだ? 君の転移魔法を使えばよいだろう」

 そういえばそうだな。

勇者「でも苦手なんだよな、アレ」

 魔王から逃げた時、全然違う所に飛んだし。


少女「何の為に私が居ると思っている。 私が調整してやるから問題ない」

 さすがは元魔女だ。 魔力は無くても魔法の類はお手の物か。

少女「さあ、後ろから優しく抱きしめてくれ。 それが一番やりやすい。 少し強めに抱きしめてくれれば尚良いな、具体的には君の筋肉質な身体を私が堪能できるくらいだ。 なんなら後ろから胸を揉みし抱いてくれても構わない、むしろ頼む、揉んでくれ」

 ……。

 揉むわけ無いだろう。


勇者「はぁ、これで良いか?」

 後ろから軽く抱き寄せる。 照れくさくて仕方ない。

少女「どうした? 私の背中に君の逞しい胸板をもっと感じさせてくれ」

勇者「……」

少女「? 早くしてくれ、あーたいへんだーこのままじゃしっぱいしてしまうなーたいへーんだー!」

 腕の中でバタバタと暴れながら棒読みで少女がごねている。

 あ、今甘い匂いがした。

 少女の黒髪から漂ってるんだろうなー。 女の子ってみんな良い匂いすんのかなー。


少女「こら! 現実逃避してないで早くぎゅっとしてくれ!」

 恥ずかしくないのかなー。 俺はもう顔面真っ赤なんだけどなー。
そう言えば魔王討伐の旅の途中に逢った物凄い筋肉質の魔人の男は全身真っ赤だったなー。

 戦士に迫ってボコボコにされてたなー。 魔ッスルって名前だったっけなー。

少女「……何とか言ってくれ、私だって、その、恥ずかしいんだぞ?」

勇者「っ!? あ、うん、ごめん今やる」

 視線を逸らしつぶやく少女。
 普段と違う一面にドキッとしてしまう。

 その気持ちを誤魔化す為に少女を抱き寄せた。



少女「ひゃあっ!?」

 え?

勇者「ごめん、俺なんか変な事しちまったかっ!?」

 少女のこんな声は初めて聞いた。

少女「いや……問題ない。 ただその、急に抱きしめられると……あの、何というか、あれだ。 胸が高鳴り過ぎる……から、うん」


 俯いている少女の長い黒髪の隙間から見える耳は真っ赤になっている。

勇者「そ、そうかー! うん、取り敢えず移動魔法しよっかなー」


少女「う、うん! そうしよう!よーし私張り切っちゃうぞー!」
勇者「よし、じゃあ! ~~」

 呪文を唱えて魔力を込める。

少女「あっしまっ――」

 
 光に包まれた瞬間、少女の口から不安になるような声が聞こえたのは気のせいだと信じよう、うん。


 多分。

今回の更新は以上になります。

おっぱい。

魔人の平均寿命は500年位だと脳内では考えています。

魔ッスル現在320歳

魔人現在400歳

魔女現在215歳(塔魔女時213歳)

少年現在13歳(塔魔女時11歳)
更新します。

勇者「お、割としっかり着いたな」

 無事に目的地、隣国の帝都の市場に着いた。

少女「ふふん、流石は私だろう? 惚れ直してくれ」

 うん、まぁ。

 勿論惚れているさ。

 恥ずかしくて言えないけどな。
勇者「善処するよ」


少女「それじゃあ買い物を済ませちゃおうか」

勇者「苗探してくるよ」

少女「じゃあ私は適当に食料品とか雑貨類を探してこよう。 昼にまたこの市場の広場に集まろうか」

勇者「あいよ」


 さて、一人で彷徨くのも久しぶりだ。 それにしてもこの国に来るのも久しぶりだな。

 帝政らしい豪華な国だったけど、貧民街有ったりもしたし、良い思い出はねーんだよなぁ。


市娘「さぁさぁ、この種芋はそこらの種芋とは違うよ! 土地の豊かさに加えて大地の気が満ちていると、なんと成長が通常の三倍!!!大きさも二倍にはなる優れものさ!!! そんな優れもの、お値段も高いと思うでしょう? ねぇそこの若そうな旦那!!!」

勇者「え?俺!?」


市娘「ええ、そうです蒼髪の旦那。 あんたはお目が高そうだ、この種芋がいくらだと思う?」

 うーん、みた感じ一回り大きい種芋なだけだしな。

 少し魔力を含んでいる気もするけど微弱だ。

勇者「ちょいと高めで普通の種芋の三割り増し位か?」

市娘「ほほぅ旦那、あんた農家の出か、もしくはそれなりの商人かい?」

勇者「正解か?」

 市娘は頭をポリポリとかいて手招きをする。

市娘「確かにそれくらいだけど、その値で周りに買われたらうちの店は赤字になっちまう、あんたにゃ二割り増しで売るから話を合わせておくれよ」

 こっそりと耳打ちをする市娘。 まあ商売ってのは大変なんだろう。


市娘「流石に三割り増しじゃあ作ったお百姓さんに失礼さ旦那、正解は六割り増し。 でも、収穫する頃には充分元は取れるはず!!さぁみんな買った買った!!」

 しかし、若いのにしっかりしてるな。

 種芋もどんどん売れているみたいだし。


市娘「いやぁ、助かったよ旦那。 旦那は福の神だね、いつもの売り上げの三倍は売れたよ」


 快活に笑う市娘。みた感じは少女より同じくらいの年齢か?


勇者「いや、何にもしてないよ」

市娘「いやいや、商人はゲン担ぎしたいもんさ。 ほら、約束の種芋」

 一抱えもあるような麻袋二つに種芋がぎっしりと詰まっている。

 ……ん?


勇者「これ、普通の種芋じゃないか?」

市娘「……本当にやるね旦那。 どうやってわかったんだい?」

 魔力って言っても信じるかな?
勇者「いや、何となく感じるんだ」

市娘「旦那はもしや、名のある商人だったりするのかい?」

 商売なんてした事無いんだけどなぁ。

勇者「いや、只の剣士?かな」

 今じゃそんなもんじゃないかな。

市娘「へぇ、意外。 旦那、もしよかったらうちで働かないか?」

勇者「いや、向いてないと思うから」

市娘「そ、残念だ。 まぁ気が向いたらいつでも言ってくれ」

 生活に困ったらそうしよう。 俺に商才なんてあるとは思えないけど。


―――――――――――――――――――――

少女「ふむ、小麦が今年は豊作か。 随分値も下がっているな」

 確かこの国の麦畑は世界有数の広さらしいが。 ふむ。

少女「相変わらず不味そうな小麦だ」

 品種の問題か、はたまた生育方法の問題か。 私はこの国の小麦を美味しいと思った事がない。

 各国の評価も軒並み低めだった筈だ。


少女「背に腹は変えられないか、うーむ。 ん? これは珍しい」


商人「おお、お嬢さんはコイツがわかるのかい?」

 立派な髭の商人だ。 西南の国の者だろうか?

少女「あぁ、これは蕎麦の実だろう。 一度見たことがある」

商人「博識だ、髪の色も珍しい。 あんた異国のどっか良い所のお嬢さんかい?」

 商魂逞しいな。 富裕層を目敏く見分けようとしている。

少女「いや、大した家ではないよ。 それと、お嬢さんは止めてくれ。 既婚(のつもり)だ」

 いや、その内勇者から正式に求婚される筈だ。 嘘ではないだろう。 うん、嘘ではない。


商人「それはそれは御婦人。 失礼致しました」

少女「蕎麦の実は安定して穫れないんじゃなかったか? 裏から微かに蕎麦の実の香りがする。 かなりの量があるのだろう?」

商人「御婦人、あんた本当は知っているんじゃないかい?」

少女「……だとしたら?」

 どういう意味? まぁ乗ってみて様子を探ろう。


商人「いや、それなりにサービスするからまだ黙って居てくれよ、なんなら一枚噛ませてやっても良い。 国に知られたら儲けも全部持ってかれちまうしよ」

 なる程。


少女「成功したのはどこの国だい?」

商人「国って程じゃ……いやいや、そいつを教えろってのは流石に無茶だ。 料理人にレシピを教えろって言っているようなもんでさぁ」

 やはり思った通り。 蕎麦の栽培に成功した所が有るようだ、

 話しぶりを見るに、成功したのは個人の農家かな?

少女「まぁいいよ、君の努力に無遠慮に手を突っ込む程浅ましくは無いつもりだ。 まぁ今回の買い物で少しサービスしてくれたら私は満足だ」

商人「話の分かる御婦人だ。 旦那様が羨ましい限りで」

少女「……」


商人「どうしたんで? にやけたまま固まっちまって」

 良い妻か。 悪くない。

少女「……むふふ、また来るよ」

商人「そいつはどうも! 今後ともご贔屓に頼みまさぁ」

 さて、良妻の私が買い物してる間、旦那様はしっかり買い物してくれているかな?

――――――――――――――――――――

今回の更新は以上になります。

保守感謝です。

少し更新します。


――――――――――――――――――――


 転移魔法で村の蔵にこっそりと買い物を運び、少女との待ち合わせ場所に向けて歩く。

 しっかり者だとは知ってはいるが、やはり心配だ。

 そんな事を考えている内に待ち合わせの広場につく。

少女「あ、勇者。 無事買い物は終わったのかい」

 少女の脇には麻袋が幾つか置かれていた。

勇者「ああ、それなりに良さそうだ。 それより、その麻袋を少女が運んだのか?」

 俺ならば問題ない程度の重さだけど、少女の細腕では些か無理な気がする。

少女「ん? お店の人にここまで運んで貰ったぞ。 旦那と待ち合わせてるからってな」

 ……旦那、か。

 俺だよな、うん。


勇者「そうか、なら良かった。 少女に重たい物を持たせるなんて旦那失格だしな」

少女「ッッ!? 勇者、もう一度言ってくれ!!」

 あっ。

勇者「いや、そのなんて言うか、言葉の綾と言うか……その内ちゃんと言うから」

 うん、少女と俺は所謂そういう関係、の筈だからな。

少女「期待していいんだろうな? あ、指輪は特に高価な物は要らないからな!! なんなら花の輪でも良い」

 ……。

 指輪位は良い奴やりたいよな。

 幾ら位するんだろうか?


勇者「あ、その、あれだ。 荷物置いたら……その」


少女「?」

 覚悟を決めろ勇者っ。 世界まで救ったんだ。 俺なら言える。

勇者「ゆび、ゆ、指輪……見に行きませんか?」

 なんで敬語なんだよ俺!?

少女「……」

 あー……苦笑いコースかなぁ。

 今のが少女に対してのプロポーズみたいな物なのに申し訳ないな……。

少女「……ゆ、勇……者ぁ……」
 な、泣いてる?


勇者「ごめんヘタレでっ!! まさか泣くなんて……」

少女「ちが……、私……嬉、嬉しくて……こんな幸せで……ぐす……嬉しいよ勇者、うわぁぁんっ」

 これは、抱きしめ……いや、恥ずかし……。

 違う、今は抱き締める時だ。 絶対引いちゃ行けない時だ!!


勇者「もっと幸せにする」

 少女を抱きしめた瞬間、辺りから歓声が上がる。


 『よく言ったぞ兄ちゃん!』

『幸せにして貰いなさいね~』

『広場でプロポーズたぁ粋な事するじゃねーかぁっ!!』

 『えんだああああぁぁぁあああっ!』

 『やれやれ見せつけてくれるね、どうも』


 周りに人だかり……。

 うわ、恥ずかしいっ!?

勇者「~~~!!」

 焦るあまり、麻袋をひっ掴んで転移。

少女「うわぁぁん幸せだよ勇者ぁー!!」


 当分あの広場には行けないな……。

また更新します。

これと同じ人があんな品の無いスラップスティック(誉め言葉)を書いてるなんて未だに納得できんw

酉で捜しても、前作が見つからない
差し支えなければ教えていただけないでしょうか

>>181
この人が自分だって発表しとる奴は全部読んでいるつもりけど、案外ギャグも面白いぞ?
はだしのゲンやら阿部さんやらはこの人のまた別の味わいがある。
オリジナルの短編はもっと文学的で綺麗な話もあるし遅筆なだけで結構な文才かもしらんな。

>>182
前作
魔女「果ても無き世界の果てならば」
前々作
少年「あなたが塔の魔女?」

↑どちらも暇つぶしにある。

前々作を読んで、前作を読んで、もう一回前々作を読むと三倍楽しめる。


つか続き早よ、いい加減待ちくたびれたわ。

>>183
まだあるぞ
少年「魔女と魔法の修行をする」
こっちは真面目な話

衛兵、チワワ、ハムスター「俺たちで裏ダンジョン攻略!」
衛兵、チワワ、ハムスター「また隠しダンジョン攻略かよ……」
こっちは同世界のギャグ
ほぼ別物だけど、キャラとか繋がってる

マジキチだけど癖になる

>>184

チワハムは面白いけどわからないネタが多すぎるしキャラが本編よりめちゃくちゃ濃いwwwチワハムに出てくるネタを全部わかる奴っているんかwww

催促支援

ご迷惑おかけしました。

少しずつですが、これから更新しようと思います。

必ず完結させますので、付き合ってくださる方はよろしくお願いいたします。

諦めてしまった、失望された方は、申し訳ありませんでした



ある程度荷物を村の納屋に片付けて一段落ついた。

少女「あ、……なんでもない、気にしないでくれ」

少女は落ち着かない様子でうろうろしている。

いくら鈍い俺でもわかる。

勇者「そ、そろそろ行こうかっ!!」

指輪を買いに行くのが楽しみなんだろう。

大丈夫、世界まで救ったんだ 。 指輪をかって求婚するくらい俺にかかればおちゃのこさいさいだ。

少女「勇者、お茶を溢しすぎじゃないか?」



 転移魔法で先ほどの広場から少し離れた場所に移動する。


 転移魔法は元々かなり高位の魔法だから衆人環視の中使えば要らないトラブルを呼び込むかもしれない。

 というか、だ。

少女「随分と離れた場所に出たな」

あんな事あった後に広場に行くのは恥ずかしいんだ。

勇者「まぁ良いだろ?」

少女「まぁいいさ。 私はどこであろうと勇者に着いていくだけだから」



 指輪を買いに行く為に、城下でも比較的富裕層の利用する区画を歩く。

少女「流石にこの大陸で一番の大国だな。 良い物が揃っている」

 そう言う少女の目は、チラチラと俺の手元を見ている。

 成る程。 いや、でも恥ずかしいんだよな。

 もしかしたら勘違いなのかもしれないし、一応確認しておこう。

勇者「あー……、どうした?」


少女「っへ?……あ、うん、なんでもないぞ?……いや、嘘をついたな、何でもなくはない……」

 伏し目がちに少女が言葉を続ける。

少女「その……あれだ。 もし勇者が嫌でなければ……うん。 手を、繋ぎたいんだけど……駄目か、な?」



勇者「だ、ダメなんかじゃないぜ!? よし繋ごう今繋ごう!!」



 まずいな、ここまでときめくとは……。

まぁ良い。 繋ぐぞ。

じょ、女性と初めて手を繋ぐぞ。

少女「あんまり言わないでくれ、なんだか恥ずかしいだろう……」

 そう言って手を伸ばした少女。

その小さな手を握ろうとした瞬間。


勇者「ごふっ」


 誰かが俺の背中に全力で体当たりしやがった。


貧少年「ごめんな兄さん、ちょいとばかし急いでたもんで」

勇者「いや、べつに大丈夫だ。 それよりそっちこそ怪我はないか?」


貧少年「……へ? 今俺の心配してくれたのか?」

勇者「あぁ、結構な勢いだったからな。 元気な事は良いけど、怪我したら母ちゃん心配するぞ?」

 まぁ子供の頃は俺もしょっちゅうぶつかったり転んだりして怪我したもんだしな。

貧少年「……優しいんだな……。 そこの姉ちゃん幸せもんだな、彼氏がこんな優しい奴で」

少女「正しくは、旦那だ」

貧少年「そっか、じゃあ俺も妹が待ってるから……お幸せにな!」
貧少年が走り去っていく。

少女「ところで……勇者財布はあるか?」

 ん?

あるに決まってるだろ。 指輪を買いに来て財布を忘れたりする程抜けちゃいない。

来る時にちゃんと後ろのポケットに入れて……

少女「あったか?」

勇者「……ない」

少女「あの子供、多分この辺の貧民街のスリだぞ?」

 ……。

勇者「追うか」

少女「もちろん」

勇者「待てええぇぇええっ!!」

今回の更新は以上になります。

待っていてくださった方、ありがとうございました。

これからは少しでも更新できるように努力します。

ごめんなさい、更新します



なんだあの子供!?

めちくちゃ走るの速いぞ!?

走るのにはそれなりに自信があった。 この健脚のお陰でそれこそ命を救われた事だってある。


なのに、一向に距離は縮まらない。

勇者「あぁ、くそっ!! どこに行きやがった」

 ちょろちょろと小路に入り込み追跡を撒こうとする貧少年。


少女「大丈夫、気配は覚えている。 この街に居る限りは追えるぞ」

くっそ、どうしてこう邪魔が入るんだよ……。


数分後、二手に別れる小路で完全に撒かれた。

勇者「こんな早さで走れる子供が居るなんて……」

少女「まったく、鈍ったんじゃないのか?」

 少女は伏し目がちに俺を見ている。

面目ない。

勇者「鍛え直す事にする……」


少女「殊勝だな、流石は救世の英雄様だ。 汚名返上の機会を与えてあげよう」

勇者「?」

少女「右だ。 右に三十歩。 赤い煉瓦の崩れかけた二階建ての建物の奥の部屋。 箪笥が入り口の隠し部屋に居る」

 流石は元魔女。 たぶんこいつに隠し事はできんんだろうな……


少女の言う通りに進む。 確かに箪笥があり、その奥から気配がする。 二つ程。

勇者「なんか入り辛いな、押し込み強盗みたいだ」

少女「遺跡やら洞窟に群生した魔物群を討伐していたのは誰だっけ? 彼等には彼等なりに生活があっただろうに……」

勇者「それは……」

なんか違うとは思うけど上手く言葉にはできない。

少女「冗談だよ、あまりそういった顔はしないでくれ。 私が酷く悪い事を言ったと罪悪感をかんじてしまう、ふふ」

 小さく唇の端を歪めて笑う少女。

たまに出てくるこの性格の悪さは魔女だからなのだろうか?

まぁ、良いさ。

盗られたものを返して貰うだけ。

むしろ、憲兵に突き出したりしない分だけ良心的ですらあるだろう……


勇者「さて、お邪魔しますか……っ!?」

箪笥を退かし、隠し部屋に繋がる引き戸を開けた瞬間、視界が鉛色に支配された。

避ける?

少女「……っ!?」

ダメだ、避けたら当たる。

歯を喰いしばれ、なに、獣鬼のこん棒に比べれば……

 ゴンッ!! 鈍い音が自らの鼻から聞こえた。



勇者「痛ぅあ……」


少女「うわ、痛そうだ……」

眼前に転がる鉄製の鍋。

鼻孔からは生暖かい液体が伝う感覚。

聞こえたのは、二人の子供の声。


貧少年「ざまぁみろ! 妹には指一本触れさせないからな!」

 この乱暴小僧め。めっちゃくちゃ痛いぞこん畜生……


貧妹「……痛いよね、あれ…… 大丈夫かな?」

大丈夫だけど、鍛えてるから、いや、めっちゃくちゃ痛いけど。

少女「……むぅ」

あーあ、少女に幻滅されたら恨むからな。

勇者「まったく、妹大事なら終われるようなことすんじゃねーよ」
まぁ事情がありそうだから訳くらいは聞いてはやるけどな。

とりあえずはここまで。 待っていてくださった方には申し訳無い程少量の更新です。

ご迷惑お掛けしました。

待たせてすみません。本人です。
もう少し更新します


貧少年「あんた等どうやってここを見つけたんだよ?」

なかなかにふてぶてしい奴だ。
勇者「あの程度見つけるなんて訳ないぜ。 さぁ盗ったもん返せ、今なら怒らないから、な?」

うん、まぁ隙があった俺も悪かったし。

少女「……鼻血、拭いた方が良くないか? 流石に格好が悪い」


やっぱり、あれくらい叩き落とすか掴み取るくらいはできなきゃなー。 戦士なら口さえ動けば受け止められそうなのに。

修行が足りないな。

少女「そう落ち込むな、私を庇ってくれたのだろう? 嬉しかったよ、ありがとう」

さすが、少女。 分かってくれると思ってたよ。

少女「まぁ、君が犠牲になるのは身を裂かれるように辛いので今後は互いに無傷にすむように精進してくれ」

……修行しようかな。


貧少年「盗ったもの? なんの事か分からないぜ?」

勇者「ったく、最近の若い奴は……」

少女「勇者、年寄りみたいだ」

勇者「っ!?」

軽く辛い一言だ。 まだ若いのに……


少女「なぁ、君のその右側のポケットの膨らみを見せてくれないか?」

貧少年がピタリと凍りつく。

貧少年「なんで見せなきゃならないのさ?」

少女「もう一度言おう、見せろ。 私はそこの男みたいに優しくはないからね?」

貧少年「……」

こう言う時の少女の迫力はとんでもないんだよなー。

 俺なら無条件に謝っちまうな。


貧少年「……これは、拾ったんだよ、そもそもあんた達の物だって証拠はあるのかよ!」


よく考えたら、日々の生活の為に仕方なくやっているんだよな。
俺たちはまだ少し余裕がある、少し大人げなかったな。


少女「生意気な小僧だな、巾着の裏地に勇者、と名前が書いてある。 見てみろ」

え?初耳なんだけど。 少女に秘密のへそくりだったし。


少女「勇者、私に隠し事は不可能だよ?」


少女……、怖くない?

貧少年「……るさい」

少女「ん?」

貧少年「ごちゃごちゃうるさいんだよ!!幸せな癖に!!」

 貧少年の叫び声が響く。

少女「……言い訳があるなら聞こうか」


貧少年「そーだよあんたらの金だよ!! だからどーしたんだよ!? 綺麗な服着て、幸せそうに商業地区歩きやがって!! 俺たちなんか明日食う金もない、妹に至っては薬すら買えないんだぞ!?」

また更新します。

おっぱい

おっぱい
揉みたい
更新
します


貧少年の叫び声が部屋に響く。

持つ者、持たざる者。

貧困に喘ぐ人間、平民が一生をかけても得られない額を一晩の夜会で使う貴族。


消して恵まれていた訳ではないが、食うに困る事は無かった自分が、彼等にどんな言葉をかけられると言うのか。

少女「まぁ正論ではないが、一理無くは無い」

少女はあまり感情を込めずに言葉を発した。


少女「だが、現状を変える努力もせずに、不平不満を漏らし、あまつさえ無関係な人間に噛みついて……」

意思の強そうな少女の墨染の瞳は貧少年を真っ直ぐに見つめている。

少女「甘えるな、甘えるだけで何もしない人間に世界は優しくない」


貧少年「俺に何ができるっていうんだよ……」


涙を流す貧少年。


少女「何ができるか?できることしかしないつもりか?」

貧少年「……」


少女「できるできないではないだろ、やるかやらないか、だ」

貧少年「そんなこと言ったって……」


少女「人間は、諦めなければ世界だって救えるんだ、特別なことじゃあない。 強い意思、自分を諦めない事。 できるだろう? 君だって。 なぁ、勇者」


 確かにな。

勇者「護るべき者が居るんだ、それに、男だからな」

少女「まぁ、まだ男の子、て感じだけどな」

貧少年「……す」


勇者「ん?」

貧少年「金は返すよ、もう少し頑張ってみる」


少女「うむ、良い子だ」


さて、一件落着かね。


「やっと見つけたぜ糞餓鬼」

「やれやれ、まるで溝鼠みたいですね、臭くて汚くて、吐き気がする」

 開けっぱなしにしていた扉から、下品なまでにきらびやかな格好をした神経質そうな中年の貴族と、素行の悪そうな男達が何人か入ってきた。


勇者「誰だ、随分と物騒じゃねーか」

突然の来訪者。 殺意なんて鋭いものじゃなく、乱雑に発散された暴力的な気配。

貧少年「俺の客だ……」

中年「そうそう、私が用があるのはそこの薄汚い糞餓鬼よ、貴方たちは関わらないで頂戴?」

少女「気持ち悪い喋り方、オカマ?」

中年「だまらっしゃい、小娘」

勇者「あ゛ぁ゛?」

このオカマ、誰を小娘扱いしやがったか分かってんのか?


貧少年「待って!」

オカマをぶん殴ってやろうと思った所で、貧少年に制止される。
貧少年「悪いのは俺だから、変えなきゃ、自分を」

 根は悪くないんだな。


中年「ふーん?じゃ、私から盗った金貨を返すの?」


貧少年「今はない、でも必ず返すから……」

中年「なるほど、じゃあ返さなくても良いわ、あんな端金。 私は金を返して貰いたいんじゃなくて……」


中年は杖を振り上げた。

中年「盗みを働く溝鼠を躾たいだけなのよ」

バキッ。

肉に硬い物を叩き付ける音。

吹き飛ぶ貧少年。

このくされオカマ、待った無しだぞこん畜生。

今回の更新は以上になります。

ついオカマを出すくらいギャグに餓えてます。

おっぱい。


中年「珍しいわねぇ、蒼髪碧眼に若干の北方の訛り……」

 品定めするかのような中年の目付き、正直竜種なんかよりもよっぽど背中に悪寒がする。

中年「更に、感じた事のない珍しい波長の魔力、連れ合いは……幻の中にしか住まないと言われる艶黒髪に漆紫の瞳……」

勇者「なんだ、気持ちわりぃな」

中年「帰るわよ、あんた達」

中年は連れ合いに声をかけると早々と帰り支度を始めた。

中年「たぶん、勇者よね? 慈善事業をまだ続けているのかしら?奇特な人ねぇ。 引く手数多でしょうに」


勇者「あんたほど奇特じゃねえよ」

中年「そこの糞餓鬼救ったところでどおするの? 救うの? じゃあ他の貧困街の餓鬼たちは? その両手じゃあ差し出された手の全ては握り返せないわよ?」


……

少女「勇者をなめるな!オカマ風情が!」


勇者「少女、ありがとう。まぁそう言う事だ」

勇者的にはやるしかないしな。



中年は不満げにこちらを一瞥する

中年「偽善者」

そう呟き去っていった。



貧少年「ごめん……」

勇者「きにすんなよ?……そうだ」

 ふとある考えがよぎる。

あーあ、少女には悪いけどもう少し我慢してもらうか。

少し更新します


 うちの村に子供って居なかったよな……

 村の面積や空いた耕作地を考え、更に当面の生活を考える。

勇者「なぁ少女、悪いんだけどさ……」

 指輪は諦めてもらおう。

長い睫毛を伏せ彼女もまた、思慮に耽っているようだ。

 あいかわらず考える姿が絵になる。 なんてつい見とれていると少女がこちらを見ずに口を開いた。


少女「なぁ勇者、差し出された手の総てを握り返す覚悟はあるか?」


やっぱりこいつは凄いな、と少女を見て思う。

言い出したくて、でも言い出し辛い事を、そっと言いやすいように肩を押してくれる。


勇者「もちろんだ」

断言する。

迷うくらいなら進もう。

道に迷ったところで立ち止まったままじゃあ進めない。

間違えたって、新しく道を切り開けば良いだけだ。

少女「さすがだな」

勇者「少女が着いて居てくれるからな」

少女「照れ臭い、止してくれ」

照れたりするんだな。

勇者「なぁ貧少年、うちの村に来るか?妹ももちろん一緒だ」

貧少年「それは……良いなー、でも無理だ。 この街からは離れられないよ」

勇者「そんな、どうして?」

貧少年「貧民街はただの貧乏人が集まる場所じゃない」

勇者「どういう事だ?」


少女「……知っている、気にするな」

勇者「知っている、て何を?」

貧少年「この貧民街は、一人残らず……罪人で奴隷みたいなもんだから……」

勇者「どういう意味だ?」

確かに貧困が原因で犯罪に手を染める人間はこの貧民街には多く居る。

しかし、奴隷?

少女「君は世界を救った割に世界に疎いね」

少女がやれやれといった様子で、朽ちかけた土壁の窓際にもたれ掛かり説明を始めた。


少女は言った。

この国は少し前まで奴隷制度があったのだと。

勇者「それはしっている、でも奴隷制度はこの国ではなくなったはずじゃ!?」

魔王が現れた頃、貧民の暴動が起こり、魔王との戦いで手が回らなかったほとんどの国で済し崩し的に奴隷制度が無くなった。

この国もその一つだったはずなのだ。

少女「表面上はな」

勇者「え?」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年02月23日 (月) 14:58:27   ID: OtjpwnAO

応援してるから書いてくれ〜

2 :  SS好きの774さん   2015年05月07日 (木) 20:03:53   ID: PtTAaozf

期待

3 :  SS好きの774さん   2015年09月26日 (土) 16:15:12   ID: fNjoBXRU

自演大好き主のSSwww

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