勇者「魔王を倒したっていうのに」 (126)

勇者「大魔王がいるなんて聞いてないぞ!」

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のんびり書いていきたいと思います

※雑談とか好きにしてもらって構いませんが、予想だけは控えてくれると嬉しいかなーって
※他人のレスに「氏ね、くず、○○厨」というような煽り、過剰反応だけは止めてくださいねー

1章 魔王

—— 荒野の町 酒場 ——


青年「……魔王が倒されたっていうのに、平和にならない。魔物は大人しくなったのにさ」

黒衣の少女「仕方あるまいよ。魔王軍との戦争の傷跡が残っておるんじゃから。貧困や飢えだってまだまだ残っておるんじゃ」


青年「この町だって、まだ人攫いとか強奪が絶えない」

少女「そうは言っても主様。それが人間というもんじゃろう? 他人から物を奪おうと考える貧困の層がいてもなんら可笑しくない」


青年「魔王と呼ばれる者が倒れて、早5ヶ月。季節はすっかり暖かくなったというのに、なんでだろうな」

少女「あーもう! じゃから言っておるじゃろ? 魔王が死んだ程度では犯罪が減るもんじゃないと」


青年「ままならない……。魔物が大人しくなったら、犯罪も減ると思ったのに……」

少女「人間の問題を魔物のせいにするんじゃない。それに加えて、大魔王が蘇っておるんじゃ」


青年「それも5年前にだろ? 誰も知らない所でこっそり大魔王が復活していたなんてな。……魔王とは一体なんだったんだ」

少女「カッカッカ!」


青年「笑い事じゃないぞ!」

少女「分かっておる主様」


青年「その主様ってのは止めてくれ……」

少女「それは無理じゃな。妾の飼い主は主様じゃからの!」


青年「いつ飼い主になったんだよ」

少女「あのとき、妾を助けてくれたときからじゃ」


青年「……」

少女「ん、なんじゃ? 何か言いたそうな顔じゃぞ主様」


青年「いや。あれは助けたというか、なんと言うか……。それに、そういう風に呼ばれるのもくすぐったいっていうか……」

少女「呼び名程度で首をかしげるようでは、立派になれんぞ?」


青年「立派になんてならなくても別にいいんだけどな」

少女「それはいかん! 妾のように気品溢れる立派なレディにならんとな!」


青年「レディにはなりたくないなぁ」

少女「むっ。今のは言葉のあやじゃよ?」


青年「わかってるわかってる」


少女「はぁ……。して、どうして妾はこれほど視線を集めておるんじゃろうな」

酒場のマスター「そりゃあお嬢ちゃんが貴族のような服を着ているからだろうな!」


少女「お、これはマスター」

マスター「ほれ。ご注文のスープだ」


少女「おお! これを待っておったんじゃ!」

マスター「ゆっくりと食べてくれ! うちの自慢のスープなんだ!」


少女「かたじけない!……んー、上手いぞこれ!! 牛の濃厚な白いスープ、じゃがそれでいて喉越しがよく、臭みがない!」

マスター「よぉく分かってるじゃねえかお嬢ちゃん!」


少女「お主、いい腕を持っておるんじゃな!」


マスター「へへっ、なんだかケツが痒くなってくるぜ」


青年「ところでマスター。聞きたいことがあるんだが」

マスター「ん、なんだ?」


青年「銀の髪色をした剣士と、小さい女の子の二人連れを見かけたことはないか?」

マスター「あー……。すまん。俺の記憶にゃねえわ」


青年「そうか……」

マスター「人探しか?」


青年「まぁそんなところ」

マスター「魔王が死んで魔物の動きが大人しくなったから、旅に出る人も増えたからねぇ」


青年「そうなんだ」

マスター「ここ2、3ヶ月で一気に客も増えたよ! でもその分、余所者が暴れるから治安も悪くなってきているって噂だけどな」


青年「本当にままならないな」

マスター「しょうがないだろよ」


少女「おい、折角妾がこの特上スープに舌鼓をうっておるのに辛気臭い話はやめるんじゃ」


青年「なんだそれ」

マスター「おっと、すまんなお嬢ちゃん」


少女「あと、妾はお嬢ちゃんではないぞ!! 妾は——」

青年「うおーっと!! 今日は雲っていやな天気だなぁー!」


マスター「なんだそりゃ?」

青年「なんでもない! すまんマスター、手を煩わせたな!」


マスター「いや、別にいいさ。また注文があったら読んでくれや」

青年「ああ!」






少女「どうして邪魔をしたんじゃ!」

青年「お前の正体がバレたら色々と面倒だろ!」


少女「なんじゃなんじゃ……。いじけるぞ……ずずっ」

青年「いじけながらもスープは食べるんだな」


少女「んー、まいっ!」


青年「しっかしまぁ……。見た目は貴族の令嬢なのに」

少女「ん、なんじゃ? 文句でもあるのか?」


青年「いや。貴族の令嬢みたいな女の子が黒いひらひらしたドレスを着て、牛のスープを食べている絵がすごくシュールだなと思ってさ」

少女「気にするな! 小さいことばかり気にしておったら、成長せんぞ?」


青年「……はぁ」

少女「ため息か? なんじゃ、悩み事か主様?」


青年「なんでもない」

少女「そうか?……やっぱり上手いな、これ」


青年「お前は食べることに一番興味あるのか?」

少女「いや、そうでもない。じゃが、数百年も眠っておったんじゃ。見るもの食うもの、全部ぜーんぶ新鮮で心が躍っておる!」


青年「そういえばそうだったっけ?」

少女「なんじゃ……。妾を起こしてくれたのは主様じゃというのに……」


青年「数百年も寝すぎなんだよ。寝ぼすけ」

少女「主様!! ずっと思っておったんじゃが、主様は妾に少し冷たい気がするぞ!」


青年「いや、まぁ……」

少女「気持ちは分かるが……妾、泣いちゃうぞ?」


青年「……」

少女「うるうる」


青年「マスター! 俺にお茶をくれ!」

マスター「あいよ!」


少女「なんじゃそれ!!」

青年「まったく。下手糞な演技をするな……。俺は、こんな奴を……はぁ」


少女「し、失礼じゃぞ!!」


青年「世界って、うまく回らないもんなんだなぁ」

少女「そこまで言うか!?」


青年「やっとたどり着いた旅の果てが、これじゃあなぁ」


少女「ほほう。そこまで言うならば、ここで主様を火炎魔法で燃やし尽くしてもいいんじゃぞ?」


青年「……手加減はしないぞ?」

少女「カッカッカ。本気のようじゃな……」








青年「……なんてな。お前が悪いんじゃないことも知ってる。ちょっといじわるし過ぎた、ごめん」

少女「なんじゃつまらん」


青年「それに、本当にここで戦ったら町が崩壊する」

少女「くくく、それは一理あるの!」


青年「とりあえず頑張って仲良くするつもりだよ」

少女「本人の前で言うのかそれを!?」


青年「それに、お前をからかうのもおもしろい」

少女「いつからそんなひねくれ者に……。やっぱり、荒んだ世界が主様を変えて……」


青年「いや、ただなんとなく? 普段はこんなことしないんだけどなー」

少女「どういうことじゃ!」


青年「ははは。……まさかこんな事になるなんてな。まさか、お前みたいな奴と二人旅なんて想像もしなかった」

少女「妾もびっくりじゃ。おとぎ話を嘲笑っておるかのようじゃの、カッカッカ!」


マスター「ほれ、お茶だ」


青年「ありがとう」

マスター「それと喧嘩はよしてくれよな?」


青年「見てたのか。すまない」

少女「全部こやつが悪い!」


青年「なっ!」

マスター「そうだな。お前さんよ、女の子には優しく。それがモテる男の第一条件だぜ!」




客A「独り身が何を言ってるんだー!」

ガハハハハハ




マスター「お前ら!! ええい! 次から値段を10倍にすっぞごらあ!」

客A「ちょっ、まっ!」




少女「じゃが……。みんな楽しそうじゃな」

青年「ああ、そうだな」


少女「大魔王が復活したことが知られていなくても、魔王が死んだことが知られているだけで、みんな安心しておるんじゃよ」

青年「……ああ」


少女「まあ妾には関係のないことじゃがな」

青年「おい。台無しだぞ」


少女「妾にとって、愛する人間は一人だけじゃからな。あ、主様じゃないから勘違いするでないぞ?」

青年「わかってるよ」


少女「じゃが、妾は人間を殺しすぎたかもしれん」

青年「だからこうしていっしょに旅をしてくれているんだろ」


少女「まあな」

青年「そして、人間を救う為にも」


少女「ん? それは違うぞ主様?」

青年「え」


少女「妾は、この世界を救うために動いておるのじゃ!」

青年「ああ……そういう……」


少女「別に人間を救うつもりなどないわい。主様といっしょにいるのは、確かに罪滅ぼしのつもりじゃ」

少女「じゃがな? だからと言って、それ以上のことをするつもりだと毛頭ない」


青年「そうか。まあ、それでもいいさ。結果的に人間を助けてくれるんだし」

少女「そういう考え方は嫌いではないぞ主様」


青年「そうなのか?」

少女「目的と求める結果までの過程と経過なぞ、本当にどうでもいいと妾は思っておる」


少女「大事なのは、自分の求む結果が伴うことじゃよ」

少女「違うか?」


青年「その考えには少しだけ納得できないな」

青年「大事なのは、結果だけじゃない。過程と経過があるからこそ、考えが生まれるし、よりよくしようと考える」


青年「結果だけを求めた場合、大事な何かを忘れたままだと思うぞ」


少女「なんとも人間らしい考えなことよ」

青年「ある意味で人間代表だからな俺」


少女「カッカッカ。確かに言えておる!」

青年「ああ……」


少女「さてと、妾はスープも食べきったことじゃし。行くか?」

青年「そうだな」


青年「マスター、勘定だ!」

マスター「あいよー」







少女「んー、食った食った!」

青年「食費が……。もう少し食べる量を減らせないか?」


少女「やっ、じゃ!」

青年「……はぁ」


少女「くくく、主様は優しいの!」

青年「なんとでも言え……」


少女「それにしても、人間とはなんとも呑気な。大魔王が復活したというのに」

青年「大魔王が復活したのは、俺たちくらいしか知らないんだから仕方ないんじゃないか」


少女「王族に報告して、無駄に混乱させても仕方ないからの」

青年「ああ。あいつが本格的に活動を始める前にどうにかして討伐しないと」


少女「じゃが此処にはおらなんだ。まったく、こういう治安の悪そうな所にいるかもしれんと言ったのは誰じゃったかな」

青年「面目ない」


少女「まぁ、あやつがどこにいるのか分からんからどうしようもないのも確かじゃが」

青年「……銀の色の髪を持つ剣士、それと従者の女の子」


少女「おや、勘違いしておるな。従者は剣士のほうじゃぞ」

青年「そうなのか?」


少女「そうじゃ。妾らとはまったく逆じゃな主様よ!」

青年「そうだな」


少女「……やはり、夜伽をした方がよいか?」

青年「やはりって何だやはりって!」


少女「こんないたいけな女の肉体を弄び、心を蹂躪し、恥辱まみれにするというのじゃな……」

青年「そんなことするか!」


少女「ん、なんじゃ? 妾は構わんのじゃぞ?」

青年「俺が構うわ! 数千年生きているくせに!」


少女「じゃが肉体はぴっちぴちじゃ!」

青年「そういう問題でもないんだが……」


少女「それとも何じゃ? 置き去りにしてきた恋人をまだ引きずっておるのか?」

青年「それは……」


少女「なんじゃ! 主様もちょっとは可愛い所があったんじゃな! カッカッカ!」

青年「くぅ、無性に腹が立つ!」


少女「さっきいじわるした仕返しじゃ!」

青年「なっ!」


少女「ところで主様」

青年「ん?」


少女「店を出てから、付いてくる輩がおるんじゃがの」

青年「わかってるよ」


少女「あやつら、燃やしてもいいか?」

青年「だめ」


少女「なんでじゃ!」

青年「まだ敵だって決まったわけじゃないだろ?」


少女「このお人よしが! どう考えても殺気びんびんじゃろうが!」

青年「それでもだよ」


少女「はぁー……。この甘ちゃんが妾の主とはな……」

青年「うっさいぞそこ」


少女「そんなんでいいと思っているのか? 絶対に身包み剥がしにくるぞあやつら」

青年「試してみるか?」


少女「如何様にして?」

青年「そこの裏路地に入ってみる」


少女「ふむ。人気の少ない所で、あやつらがどんな行動をとるか確認すんじゃな」

青年「もし、お前の勘違いだったら食事の量を減らしてもらうぞ」


少女「妾が言っていることが本当だったら?」

青年「今日の夕飯は豪華に肉を食べよう」


少女「乗った!」

青年「じゃあ行くか」


少女「くくく、本当は主様もあやつらがゴロツキだと知っておるのに」

青年「言うなそれを……」


少女「難儀な性格じゃな。誰かを疑わないというのは」

青年「そうでもないぞ? それに、疑いはちゃんと持っているさ」


少女「真か?」

青年「だからこそ、裏路地にまで行こうって言ったんじゃないか」


少女「そうじゃな」

青年「さてと、あの連中がどんな事をしてくるか……」


—— 裏路地 ——



少女「……ほれ見ろ。やっぱりこうなったじゃろ……」

青年「……あー」




ゴロツキ「うひっひっひ。ちょいとそこの旅人さんよォー」

ゴロツキ「へっへっへ」

ゴロツキ「ひゃっはっは!」




少女「見ろあやつらの顔。まるでけだものじゃな」

青年「否定はしない……」




ゴロツキ「おいおいあんちゃん。それにそこのお嬢ちゃんよぉー」

ゴロツキ「金目のもとのと、そこの女の子を渡してくんねーかなー?」

ゴロツキ「そうすりゃ、悪いことはしないぜぇ」




少女「どうするんじゃ?」

青年「決まってるだろ」


ゴロツキ「何を話し込んでるだぁ? おらおら、さっさとどうするか決めやがれ」

少女「その前に一つ聞きたい!」


青年「少女?」


少女「妾はいい女か?」

ゴロツキ「こんなちんちくりん、一部マニアには絶賛だろうねぇ!」


ゴロツキ「特に幼女趣味の貴族なんかに売りさばけば、がっぽがっぽだろうな!」

ゴロツキ「でもがっばがっばになるのはお嬢ちゃんだけどよぉ!」


ゴロツキども「「はははははは!!」」






少女「構わん。殺せ」

青年「俺がか!? それでも俺の従者か!?」


少女「じゃあ妾に殺せというのか? こんないたいけな女の子になんて酷いことをさせるんじゃ……鬼畜じゃぁ……」


青年「いや、そういう意味じゃないんだけどさ!?」

少女「妾はやる気が失せた。なぁんにもしないもぉん」


青年「なんだよそれ……!」


ゴロツキ「おいおいおい! 俺たちを無視すんじゃねぇぞ!」

ゴロツキ「いくらなんでも、そりゃー酷いぜぇ?」


ゴロツキ「んで、どうすんだよ兄ちゃん。ああん?」


青年「どうもうちのこれは、嫌みたいだぞ」

ゴロツキ「じゃあ説得しろよてめぇ」


青年「説得? 俺が? もちろん断る」


ゴロツキ「じゃあ仕方ねぇよな!? 野郎ども、やっちまうぞ!」

ゴロツキ「腰の剣を抜かないってことは、どうせお飾りなんだろぅ!?」


青年「数は、ひぃふーみぃ……。5人か」

青年「全員武器持ち……よしっ」


ゴロツキA「うおおおお!!」




ゴロツキAは こうげきした!

青年は ひらりとかわした!……▼




ゴロツキA「うえ?」

青年「背中ががら空きだ! うおりゃ!」


ゴロツキA「いでえええ!? がはっ……——」

青年「一人目終了!」


ゴロツキB「お、おい……あいつ強ぇぞ!」

ゴロツキC「かまわねぇ、一斉にやっちまうぞ!」


青年「連携を組んでくるのか?」

少女「ふぁいとー」


青年「お前もちょっとは手伝えよ! 魔法使えるだろうが!」

少女「いーやーじゃー。やる気ないもーん!」


青年「こ、こんのっ!」


ゴロツキB「どこ見てんだ!!」

ゴロツキC「うおおおお!」

ゴロツキD「死に晒せよなああ!!」






ゴロツキB
ゴロツキC
ゴロツキDは れんけいこうげきをした!

青年は ひらりとかわした!

ゴロツキEは じかんさこうげきをした!

青年は ひらりとかわした!……▼






青年「遅い!! おりゃあ!!」


ゴロツキB「うおおお!? この俺を投げ飛ばすだと!?」

ゴロツキC「ちょ、こっちに飛んでくるな!?」


ゴロツキB「ぐわあああ!!」

ゴロツキC「わああああ!!」


少女「カッカッカ! いいぞいいぞ!」

青年「……はぁ」


ゴロツキD「す、すまんかった! 俺たちが悪かった!」

ゴロツキE「どうか見逃してくだせえ!!」


青年「……もうこんなことするんじゃないぞ?」

少女「なっ!? 主様!?」


ゴロツキD「も、もちろんでござあせぇ!」

ゴロツキE「これからは真っ当に生きるって決める!!」


青年「それならいいんだ……」


青年「じゃあ行くか」

少女「まったく……」





ゴロツキD「へへへ……今だ!!」

ゴロツキE「死ねやごらああ!!」


ゴロツキたちは こちらが みがまえるまえに
おそいかかってきた!……▼





青年「気付いてたぞ」

カキン!!


ゴロツキD「け、剣!? お前、それお飾りじゃ……!?」

ゴロツキE「ぐはっ……っ!」


青年「お飾りでこんな大そうな物を腰にたずさえるか」

少女「バカじゃなぁー」


ゴロツキD「ぐはっ……——」

ゴロツキE「……——」


少女「これで全員気絶じゃな」

青年「じゃあ今度こそ行くか」


少女「殺さんのか?」

青年「腕や足の骨は折ったんだ。これくらいでいいだろ?」


少女「喉元過ぎれば熱さを忘れる。どうせ傷が癒える頃には同じことをしておるぞこやつら」

青年「そんときはもう一回懲らしめるだけだよ」


少女「犠牲者は増えるだけというのに」

青年「……」


少女「じゃあ妾が燃やそう」

青年「止めろ」


少女「なんじゃなんじゃ!! 主様はあまあまじゃ! そんなんでよいのか!?」

青年「そうは言ってもなぁ」


少女「むぅー! でも、主様がそう言うなら、妾は何もせんよ……」

青年「ありがとうな」


少女「わわ!? なんじゃ、妾の頭を撫でるとはいい度胸をしておるの主様や」


青年「ちっこいと、つい」

少女「ちっこい言うでない! これはあくまでも仮の姿じゃ!」


青年「知ってるよ。でも、今は少女なんだしいいだろ?」


少女「むーむー!」

少女「……でも、たまにはこういうのも悪くはないかの。くくく」


青年「そうかそうかー」

少女「んにゅー……。ちょっと強い……」


青年「うりうりー」

少女「ちょ、ちょっと待て!! 明らかに強すぎじゃ!!」


青年「そうか?」

少女「からかうのもいい加減にせいよ主様!」


青年「はいはい。わかったよ」

少女「まったくもう……」


青年「とりあえず、ここに目的の人物は居なかったし、次の町へ行くか」

少女「そうじゃな!」


青年「今日は宿屋に戻って。明日、錆びた町を目指して出発するか」

少女「わかった!……ところで、今日の夕飯は肉じゃぞ?」

とりあえずここまでー
ちょこちょこ書いて行きますー


—— 宿屋 ——
——
——


少女「——んー、あの肉はいまいちじゃったな」


青年「あれだけ食べておいてよく言う……」

少女「それはそうと、どうして一部屋なんじゃ?」


青年「旅費の節約だ」

少女「世知辛いのぉ」


青年「誰のせいだと……っ」

少女「カッカッカ!」


青年「……ったく」

少女「んー、それで次はどこに行くんじゃったかな?」


青年「だから錆びた町だって言ってるだろ」

少女「そうじゃったな」


青年「俺の話を聞いてないな」

少女「カッカッカ!」


青年「はぁ……」

少女「錆びた町もどうせ治安が悪いんじゃろ?」


青年「まあ、そうだけど」


少女「どんな町なんじゃ?」


青年「寂れた町だ。人も少ない」

少女「つまらなそうな町じゃなー」


青年「仕方ないさ」

少女「でも、次こそあの剣士が見つかるといいんじゃが……」


青年「本命は女の子の方だろ?」

少女「もちろんじゃ。あやつを早く見つけねば、世界は大変なことになるぞ」


青年「いつも言っているけど、それは本当なのか?」

少女「もちろんじゃ。……だから!」


青年「まあ安心しろ。絶対に見つけてやる」

少女「信じてもよいのか?」


青年「もちろんだ」

少女「頼りにしているぞ主様」


青年「頼られるのは慣れてるからな」

少女「流石は主様!」


青年「でもその前に、旅費が尽きそう……」

少女「なんと!」


青年「お前、食べすぎだ……」


少女「じゃ、じゃが……食べたい!」


青年「そこまで食べなくても維持できるくせに!」

少女「それでもじゃ!」


青年「食うなとは言わん! せめて抑えろ!」

少女「主様は酷すぎじゃ!」


青年「酷いのはどっちだ!」


少女「ガルルル!」

青年「吼えるな!」


少女「くーん……」

青年「犬か!」


少女「違う!」


青年「……まったくもう」

少女「おお! じゃあ認めて」


青年「認めない! これからは、無理やりでも食べる量を減らす!」

少女「そんなぁ! 殺生じゃぞ……」


青年「知るか!」

少女「ぐぬぬ……」


青年「あれだけあった旅費も、旅を始めて2ヶ月足らずでほとんど尽きたんだぞ?」


少女「……ぬ、主様! 妾はすごく良いことを思いついた!」


青年「なんだ?」

少女「さっきのゴロツキどもを町の役人に差し出せば!」


青年「この町の役所はほとんど機能してない。もちろん、謝礼金ももらえない」

少女「どういうことじゃ!」


青年「お役所が腐ってるんだよ。この町にきて、すぐに情報収集したろ」

少女「そうじゃったかな?」


青年「お前という奴は……」

少女「お、覚えておるぞ! あれじゃろ? あの、村人Aに聞いた!」


青年「ここは町だ! 村人はいない!」

少女「あ」


青年「……知能まで子供か」

少女「むぅ!」


青年「それにゴロツキを役所に突き出しても、この町じゃそのほとんどが懲罰されずに厳重注意で追い出されるだけ」

青年「この町の治安はそういう理由もあって、どこよりも一番酷い」


少女「なるほど、わからん!」

青年「……」


少女「なんじゃ? 頭がいたいのか? カッカッカ!」

青年「お前のせいだ……お前の……」


少女「よわっちいぞ!」

青年「ほほう……。じゃあ、アレをするか……」


少女「な、なんじゃ? もしかして!」

少女「いやじゃ!! あれはもういやじゃ!!」


少女「魔法を使うぞ!? 火炎魔法じゃぞ!?」


青年「知るか! うりゃあ!!」

少女「ぐりぐりはいやぁあああああ!!」








少女「ぐすっ……」

青年「はぁはぁ……」


少女「頭ががんがんするぞぉ」

青年「自業自得だろ」


少女「……でも、なんでこの町はこんなに治安が悪いんじゃ」

青年「王国の軍が在中してないからだな」


少女「ん? なんでじゃ」

青年「教えてなかったか?」


少女「それは全く知らんぞ。教えてくれ、主様」


青年「最近、魔王軍と王国連合軍の大決戦があったというのは言っただろ?」


少女「うむ。妾が眠っている間に起きたんじゃよな」

青年「そうだ」


少女「それがどう関係するんじゃ?」


青年「王国連合軍を形成するために、ある国は周辺地域の派遣軍を集結させたんだ」

青年「でも、決戦でそのほとんどの兵士は死んでしまった。だから今、兵士が不足しているんだよ」


少女「なんとも空しいの」

青年「そうだな。まさかこんな事になるなんて想像もしてなかった……」


少女「治安が悪くなったのは、戦争の傷跡というわけじゃな。何も貧困や飢えが残っているだけではなかったんじゃな」

青年「ああ。でも、魔物による農作物の被害が減ったらしく、飢えは少しだけマシになったらしい」


少女「あとは人間同士の問題というわけか」

青年「でも、それだけじゃないのが現状」


少女「大魔王じゃな……」

青年「ああ。だからこそ早く銀の髪を持つ剣士を探さなくちゃいけない」


少女「問題は山積みか」

青年「でも治安問題に関して、俺たちは何もできないけどな……」


少女「当たり前じゃ。これは人の上に立つもの。王族の仕事じゃろ」

青年「その通りだ」


少女「ならば、決戦に参加した国の治安はかなり悪くなっておるのか?」


青年「いや、治安が一気に悪化したのは御祭りの国という王国だけだ」

少女「なんでじゃ?」


青年「決戦に参加したのは、御祭りの国と山岳の国、この二つだけだったんだ」

少女「ほう」


青年「そのうち、御祭りの国だけは周辺地域に派遣していた兵すらも集めていたんだ」

少女「ふむふむ」


青年「そして決戦でほとんどが死んだ。それからの経過で今に至るというわけになる」

少女「賢いの、主様は!」


青年「頭悪いってずっと言われ続けてきたからな……」

少女「ばーか」


青年「もっかいいくか?」

少女「すまん。じゃからぐりぐりは止めろ」


青年「まったく……」

少女「くくく」


青年「……まあいいや。この荒野の町は、ぎりぎり御祭りの国の領土内にある。そのため、兵の派遣が中々間に合わないらしい」

少女「他国からの助力は無理なんじゃろうか」


青年「どうなんだろうな。そこは国同士の問題だから俺にはわからん」


少女「人間とは複雑な世界に生きているんじゃな」

青年「俺も最近になって痛感するよ」


少女「なるほど」

青年「まさかこんな事になるなんて、誰も考えすらしなかっただろうな」


少女「そうなのか?」

青年「ああ。魔王が死ねば世界は平和になる、って誰もが信じていたからな」


少女「それはどうかと……」

青年「それだけ魔王という存在は大きかったんだ」


少女「戦争が始まって300年じゃったか?」

青年「ああ。およそ半年前にその戦争が終結したんだ」


少女「魔王と呼ばれるものの死によってか」

青年「ああ」


少女「じゃが、今まさに大魔王が下級の魔物たち支配して、何かを企んでいると知ったらどうなるのやら」

青年「それこそ再び大混乱だろうな。ましてや治安が悪くなった国もあるのに、そんなことになったら国の崩壊にもつながる」


少女「今は嵐の前の静けさという訳じゃな」

青年「そういうことだ。いつ大魔王が活動を始めるか分からない」


少女「そうなる前に、どうにかしてあの二人を探し出さねば」

青年「そうだな……」


少女「錆びた町にはどうやって行くんじゃ?」

青年「荒野を東南へ歩いていくんだ」


少女「それから?」

青年「それだけだ」


少女「なんとも簡単じゃな!」

青年「途中、小さな森に当たるけど、突っ切る」


少女「……」

青年「また野宿だな」


少女「そんな……。飛んで行ければ幸せなんじゃが……」

青年「できればいいな。できないけど」


少女「いじわる!!」

青年「もし飛んで行けたら、目立ちすぎるだろ!」


少女「うぅー!」

青年「唸らないの」


少女「……あい」


青年「偉い偉い」

少女「……撫で撫でだけで許してやる。じゃから、優しくしてくれ」


青年「仰せのままに」


少女「ところで、主様」

青年「なんだ?」


少女「恋人がいるのに、他の女にこんなことをしてもよいのか?」


青年「お前は子供だろ」

少女「見た目の年齢だけじゃよ」


青年「中身も子供っぽいくせに」

少女「それは演技かもしれんぞ?」


青年「まさか」

少女「くくく」


青年「あと、恋人って訳でもないさ」

少女「なんでじゃ。両想いじゃないか」


青年「思いを伝えた後、すぐに俺が去ってしまったからな」

少女「せめて一発くらいすればよかろうに」


青年「なななんっ!」

少女「これじゃから主様はよわっちぃんじゃ」


青年「そ、そういうのは違うだろ!」

少女「子孫を残すことは重要じゃぞ主様?」


青年「まあ……確かにそうだけど……っておい!」


少女「さてと、妾はそろそろ寝ようと思う」

青年「投げっぱなしか! まったく……。お前はそっちのベッドだからな?」


少女「同衾せんのか?」


青年「するか!」

少女「いいではないか! 今夜は少し冷える、主様の温もりをくれぬか……?」


青年「生憎様、俺の温もりは安くないんでな」


少女「女に恥をかかるのか?」

青年「は、はじ!?」


少女「見た目は年端のいかぬ女子がここまで言っておるのに……」

青年「バカか!」


少女「むっ! バカとはなんじゃバカとは! あと寒いのは本当じゃ!」


青年「……他意はないんだな?」

少女「そうじゃ! じゃからいっしょに寝てくれぬか?」


青年「はぁ……。わかったよ」

青年「でも、変なことをしたら斬る」


少女「普通逆じゃろ、こういうのは……」

青年「信用ならんからな」


少女「悲しいのぉ」


青年「……ほら、こっちにおいで」

少女「わーい」


青年「わ、わーい?」

少女「誰かと眠るのは好きなんじゃ! 妾が愛した人間もよくいっしょに寝てくれたものじゃ!」


青年「……本当に子供だな」

少女「どうもこの体じゃとそうなってしまう。……認める」


青年「でも今はそっちのほうが都合がいいかな」

少女「そうか?」


青年「もし大人だったら、かさ張って邪魔だ」

少女「そういう意味か!! 妾は、子供じゃから理性の抑えが効く、みたいな意味かと思ったぞ!」


青年「はいはい」

少女「むー! いいもん、寝てやる!」


青年「はぁ……よいしょ」

少女「ひあ!?」


青年「なんだ、変な声を出すな」

少女「だ、だっていきなり後ろから抱きしめるなんて! びっくりしたぞ!」


青年「寒いんだろ?」

少女「で、でもな……っ! 心の準備というものがっ……」


青年「……ははは」


少女「な、何が可笑しいんじゃ!」

青年「いや、思い出し笑いだ」


少女「何を思い出したんじゃ?」

青年「好きな人のこと」


少女「ああ。あの女の魔術師か。主様の恋人の」


青年「恋人じゃないって。そう……あいつはよく、でも、だって、って言うからさ。その度に、でも、だっては禁止って言ったんだよ」

少女「……」


青年「元気だといいんだけどな」

少女「……なんじゃ、惚気か」


青年「の、惚気じゃない!」

少女「いいや、十分惚気じゃ」


青年「ぐっ」

少女「カッカッカ」


青年「……」

少女「でも、いつか大魔王を倒したらまた会いにいくんじゃろ?」


青年「当たり前だ。もう、泣いているあいつを見たくない」

少女「泣かしたのはどこの誰なんじゃ、って感じじゃがなー」


青年「……確かに」

少女「女泣かせは罪じゃぞ、主様」


青年「反省してるよ」

少女「ならばよし」


青年「……あーあ。本当に何もかもがままならないな」

少女「人生とはそういうもんじゃよ。妾も、そうじゃ」


青年「そうなのか?」

少女「久遠も昔の話じゃよ。もうほとんど思い出せぬがな。唯一愛した人間も、遥か記憶の彼方じゃ……」


青年「そうか」


少女「じゃからこそ、妾が愛した人間の最後の頼みは聞いてやりたい」

少女「世界の秩序を保ちたい」


青年「……いっしょにやっていこう」

少女「そうじゃな……」


青年「……」

少女「主様?」


青年「くぅ、くぅ……」

少女「寝たのか。くくく、まだまだ小僧じゃな……」


少女「じゃあ、妾も眠ろうかのぉ。おやすみじゃ、主様……」


—— 夜中 ——


少女「んむ、トイレ……」









少女「ふああ……まだ夜中ではないか」

少女「ん……?」


ガタガタ


少女「ほほう」

少女「くくく、これは面白いことになりそうじゃ!」








青年「……ふあー、どうした?」

少女「起こしてしまったか? すまん」


青年「気にするな……」

少女「ご不浄に行っておったのじゃ」


青年「そうか……おやすみ……」

少女「んー、おやすみじゃ!」


—— 翌朝 ——




青年「じゃあ早速行くか」

少女「そうじゃな!」


少女「……」


青年「どうかしたか?」

少女「いんや、なんでもない」


青年「それならいいんだけど」


少女「主様主様!」

青年「なんだ?」


少女「もしも妾が危機に面したとき、助けてくれるか?」

青年「……お前が危機に面するようなら、俺にはどうしようもないぞたぶん」


少女「むっ」

青年「でも、助ける努力だけはしてやるよ」


少女「流石じゃ主様!」


青年「うお!? 突進してくるな!」

少女「抱きついているだけじゃよ!」


青年「まったくもう」

少女「カッカッカ!」


青年「今日は昨日と打って変わっていい天気だ」

少女「そうじゃな。太陽が眩しいくらいじゃ……まったく」


青年「町の出口はあっちだったよな」

少女「その通りじゃ。小さな町じゃ、迷うこともないじゃろ?」


青年「確認を取りたかっただけだよ」

少女「そういうことか」


青年「錆びた町か……。久しぶりに行くな」

少女「そうなのか?」


青年「ああ。ちょっと前に、悪人退治をしたことがあったんだよ」

少女「ほう、すごいの」


青年「俺がやったわけじゃないんだけどな」

少女「なんじゃそれ」


青年「頼りになる当時の仲間がやってくれたんだよ」

少女「なるほど。仲間とはいいものじゃな」


青年「ああ、そうだな」

少女「妾たちは仲間じゃよな?」


青年「もちろんだ」

少女「くくく、嬉しいぞ主様!」


青年「はいはい。っと、そうこうしているうちに町の出口に到着したぞ」


少女「近いようで遠いの」

青年「これから錆びた町に行くんだ。もっと遠いぞ」


少女「歩いていくのか?」

青年「仕方ないだろ。馬がないんだから」


少女「買えばよかろうに」

青年「お金がないの!! 誰かさんのせいで!!」


少女「……お、蝶々!」

青年「誤魔化すな!」


少女「だってー! 食べたいんじゃもん!」

青年「だだをこねるな!」


少女「なぁー、本気で食事の量を減らすつもりなのかー?」

青年「食べすぎはよくないからな」


少女「妾の胃袋は竜並じゃ!」

青年「わーそれはすごいなー」


少女「むー! 信じてないじゃろ主様!」

青年「信じてる信じてる」


少女「絶対に嘘じゃ!」


青年「そんなことよりも、出発の準備はいいか?」

少女「誰にものを言っておる? 妾はいつだって準備万全じゃ!」


青年「はは。そうか。じゃあ錆びた町に向けて、出発だ!」

少女「おー!」


少女「っと、ちょっと待て」

青年「なんだよ、締まり悪いなぁ」


少女「聞き耳を立てるんじゃ。静かにせい」

青年「なんで聞き耳を立てるんだ?」


少女「もちろん、追っ手がいないかを調べるためじゃな」

青年「そうか。まあ、お前の聞き耳は人間離れしているしな……。頼んだ」


少女「くくく、任せろ」





少女「うむ! 問題ない!」

青年「そうか。なら今度こそ行くぞ」


少女「了解なのじゃ!」










???「…………」
???「…………」
???「…………」
???「…………」
???「…………」


—— 少し前 荒野の町 酒場 ——


エルフ族の女「マスター、聞きたいことがある」

人間の女の子「…………」


マスター「おお! こりゃあエルフ族じゃねぇか! すげえな!」


エルフ族「今はそんなことどうでもいい。聞きたいことがあるんだ」

マスター「なんだ? なんでも聞いてくれ!」


エルフ族「ここに、女の子連れの男が来たと聞いたんだが、本当か?」

マスター「んー。……男って言われてもなぁ」


エルフ族「気高そうで誇り高き容姿をしている。なにせ、我が主、我が君なのだからな!」


マスター「んー……。あ、そういえば」

マスター(貴族風の少女がいたなー……)」


女の子「何か思い出した?」


マスター「ああ。昨日の昼過ぎ、そういう二人連れが居たような……。って、なんだそのでっかい鉄の筒は」

女の子「二人はどこへ?」


マスター「お、おう。この町には数える程度しか宿屋がないから、そこに行ったんじゃねーかな?」

マスター「客一人一人の動向なんざわからねぇよ!」


エルフの騎士「そうか……。感謝する。行くぞ魔法使い」

魔法使い「わかった、エルフの騎士」


エルフの騎士「絶対に見つけてやるからな、我が君!」

魔法使い「やっとここまで追いつけた……勇者さま」


エルフの騎士「次は虱潰しに宿屋を廻るぞ!」

魔法使い「うん!」


エルフの騎士「感謝するマスター! ではさらばだ!」

魔法使い「ども」




マスター「お、おうよ……。なんだったんだありゃ……。あ、情報料を取るの忘れてた……」






















青年「はっくしょん!」

少女「汚いぞ主様!」


青年「すまんすまん。誰か俺の噂でもしてるのかな……」

ここまでー
予定では1章は半分くらい終わったー

投稿します。これから、投稿宣言のときだけ上げることにしました


—— 草原 ——


青年「いい天気だなー」

少女「なにを呑気な」


青年「でも、魔物もいないし平和だからいいだろ?」

少女「そのようであれば、いずれは腕が訛りそうじゃな」


青年「そうならないように、鍛錬は欠かしてないさ」

少女「そうじゃったな」


青年「お前が寝ているときにしているんだけどな」

少女「カッカッカ。毎夜よくやると思っておるぞ」


青年「どうだか」

少女「くくく」


青年「このまま何の問題もなく錆びた町に行ければいいんだけどな」

少女「それはつまらんじゃろ! もっとこう、心躍るような出来事が欲しいぞ」


青年「平和が一番だよ」

少女「もー! つまらんつまらん!」


青年「つまらないくらいが一番いいさ」

少女「むぅ!」


青年「ははは!」


少女「……じゃが、このまま平和のままではいかんようじゃな」

青年「なに?」


少女「カッカッカ」

青年「笑ってないで、どういうことを説明しろ」


少女「なぁに、主様じゃったら何の問題もない」

青年「そういう問題じゃない!」


少女「かっかするなよ主様よ?」

青年「あーもう!」


少女「ほら、聞こえるじゃろ?」

青年「なにだが」


少女「おや、まだ聞こえぬか」

青年「だから何が!」


パッカパッカパッカ


青年「馬の足音?」

少女「来たようじゃな」


青年「どういうことだ?」

少女「ほれほれ、見てみろ」


青年「あれは……」


ゴロツキA「おやびん! あいつですぜ!」

ゴロツキB「あれが俺たちをこんなにした旅人だ!」


頭領「あれがそうか!」




青年「多いな……」

少女「そうじゃな」


青年「お前、こいつらが着いてきているの知ってたろ」

少女「もちろんじゃ。妾を誰じゃと思っておる」


青年「でも町を出るとき問題ないって言ってただろ!」

少女「妾にとっては問題ないぞ?」


青年「俺にとっては問題なんだよ!」

少女「カッカッカ! ほれほれ、相手を無視していると……」




頭領「この俺を無視するとは、いい度胸しているなぁーお前!」




少女「ほれ」

青年「ああ……めんどい……」


頭領「めんどいとは何だめんどいとは!!」


少女「むさっ苦しい男じゃなー!」

少女「それに臭い!」


頭領「このあま!」


青年「いちいち煽るな」

少女「カッカッカ」


青年「……とりあえず、相手にしてやるか」


ゴロツキA「今度は負けねえぞ!」

ゴロツキB「そうだそうだ!」


青年「お前らも戦うのか?」


ゴロツキA「見学だ!」

ゴロツキB「お前のせいで、立つのやっとなんだからな!!」


青年「じゃあなんで此処にいるんだよ……」

少女「くくく、バカは本当におもしろいの!」


ゴロツキA「頭領!!」

頭領「わーってらあ! お前ら、こいつを叩きのめしてしまえ!!」


ゴロツキたち「おうよ!!」

ゴロツキたち「うおおおおお!!」


パカラパカラ


青年「……相手は騎馬か」

青年「余計にめんどくさいっ」


ゴロツキ「行くぞ!!」

ゴロツキ「うおおお!!」


青年「うおおおお!!」




ゴロツキは こうげきした!
ゴロツキは こうげきした!

ゴロツキは こうげきした!

青年は ひらりとかわした!……▼




青年「あっぶねえ!!」

青年「くっそ、どうやって攻撃するかな……」


青年「馬が邪魔だ!」


ゴロツキ「はっはー! おらおら、轢き殺してやるぜェ!」

ゴロツキ「死ねやおらあ!!」


青年「ちょっとまっ!」


少女「カッカッカ! 後ろががら空きだぞ主様!」

青年「だからお前も手伝えって!」


少女「妾が? 嫌じゃ!」

青年「なんでだっ! くっそ!」


ゴロツキ「おらおらおらー!」

ゴロツキ「ひゃっはー!」


青年「うおおお! ちょっと待て! 流石に卑怯だぞ!」

ゴロツキ「卑怯で結構! それが俺らだ!」


青年「ちっ!」

少女「カッカッカ!」


青年「お前! 俺が苦戦してるからって笑いすぎだろ!」

少女「だって楽しいんじゃから仕方ないじゃろ? 主様が苦戦するなんて滅多にないからの!」


青年「だから手伝えって言ってるだろ!」

少女「だから嫌じゃと言ってる」


ゴロツキ「会話すんな!」

青年「うおっ!?」


少女「だって妾が出る幕でもないじゃろ?」

青年「そういう問題でもないだろーが!」


少女「えー!」

青年「ぐりぐりすんぞ!」


少女「ええええ!!」


頭領「おう貴族のお嬢ちゃん」

少女「それは妾のことか?」


頭領「お前以外に誰がいんだよ」

少女「で、なんじゃ?」


頭領「ちょっち浚われてくれや!」

少女「うわー、さらわれるんじゃー!」


頭領「は?」

少女「ほれほれ、さっさと連れて行け」


青年「ちょ、はあ!?」


頭領「あ、ああ! お前は特殊な奴らに大うけだろうよ!」

少女「わー、はーなーせー」


頭領「なんか調子狂うけど、まあいい! お前らはそいつをやっちまえ!」

頭領「俺はアジトに戻る!」


少女「わー」


青年「ま、待て!」

ゴロツキ「おっと、行き止まりだぜー!」


ゴロツキ「はっはー!」

青年「くそが」


ゴロツキ「よし、頭領は行ったな!」

ゴロツキ「俺たちも早く行って、あの少女を味わいたいねー!」


青年「変態どもが!」


ゴロツキ「へへへ!」

ゴロツキ「その前に、死ねやお前!」


青年「あーもう! 後悔すんなよ!」



青年は こうげきした!……▼



ゴロツキ「うおおお!?」

ゴロツキ「馬の首を切り落としただと!?」


青年「次、そこ!」








青年「はあ……」


ゴロツキ「ば、化物っ!」

青年「人間だ!」


ゴロツキ「お前みたいな人間がいるかよ!」

ゴロツキ「そうだそうだ!」


青年「……まったく」

青年「とりあえず、これ以上悪さできないように片足の腱くらいは斬らせてもらうからな」


ゴロツキ「へ?」


青年「とりゃ」

ゴロツキ「う、うぎゃああああああ!!」


ゴロツキ「悪魔、悪魔かお前!!」

青年「お前たちが襲った相手にすれば、お前こそが悪魔だったんだろうな」


ゴロツキ「止めてくれ、止めろ……うわあああ!!」

青年「うりゃ」


ゴロツキ「ギャアアア!!」







青年「……はあ」

ゴロツキ「……」


青年「とりあえず、あいつを追いかけるか」

青年「わざと捉まりやがって……。もしかしてこれって、危機に面している状況のつもりか?」


青年「でも、アジトってどこだろ」

青年「お前、教えろ」


ゴロツキ「ハァハァ……」


青年「教えてくれないか?」

ゴロツキ「だ、誰が!」


青年「頼む、な?」

ゴロツキ「舐めるんじゃねえ!!」


青年「これ以上傷付けたくないんだ」

ゴロツキ「はっ!」


青年「……しゃーない。去勢するか」

ゴロツキ「は?」


青年「男のズボンを下ろすのは趣味じゃないんだけどな」

ゴロツキ「お、お前!! 待て、考え直せ!!」


青年「アジトの場所教えてくれるか?」

ゴロツキ「わ、わかったから!」


青年「そうか! 助かる!」

ゴロツキ「くそ……」


青年「で、どこだ?」

ゴロツキ「あの森の中だ!」


青年「そうか!」

ゴロツキ「こ、これで見逃してくれるんだよな!?」


青年「もちろんだ! 去勢だけはしないでやる」

ゴロツキ「あ、ああ!」


青年「でも、寝てろ」

ゴロツキ「がっ!?……——」




青年「さてと、行くかな」

青年「どうせあいつの事だから、俺を試しているんだろうな」


青年「いや、単純に遊びのつもりか」


青年「とにかく迎えに行くか……」

青年「乱暴なことされてないといいんだけど」


青年「お、一匹馬が無事なのがいるな! これを拝借しよう」





—— 森の中 ——


パカラパカラパカラ


頭領「はっはー!」

少女「臭い! 息をするな!」


頭領「すまんなぁー! あんまり身だしなみに気を配らん性質でよぉ!」


少女「おまけに体臭すらも臭いとはなんたることじゃ!」

少女「匂いが移るではないか!」


頭領「どうせアジトに行ったら、嫌というほど俺たちの匂いを付かせるんだからいっしょだろ?」

少女「もう今の時点で嫌じゃと言っているんじゃ!」


頭頂「はっはー! 知らねえな!」

少女「くそ……。こんなことじゃったら、わざと捉まるんじゃなかった」


少女「ちゃんとあやつに追ってがいることを伝えておくべきじゃった」

少女「……臭い」


頭領「なんだお前、怖くないのか?」

少女「なんでじゃ?」


頭領「つまんねえガキだな! 普通は小便ちびって泣き喚くところだろ!」

少女「うわーん」


頭領「できもしねえ泣きまねしてんじゃねえ!」

少女「……妾にどうしろと言うんじゃ」


頭領「変なガキだ」

少女「ところで妾はガキではない! 妾は——」


ヒヒーン


少女「うわっと!」


頭領「どうしやがった!」

ゴロツキ「後ろから、あの男が追いかけてきやす!」


頭領「なあに!?」

ゴロツキ「もうすぐそこにいます!」


青年「やっと見つけたぞ!」

頭領「もう追いつきやがったのか!?」


頭領「おい、うちの手下どもはどうした!」

青年「倒した!」


頭領「ぬわぁに!? ええい! お前ら、こいつを引きとめろ!」


ゴロツキ「え」

頭領「俺のいう事が聞けないってのか!?」


ゴロツキ「わ、わかったおやびん!」


青年「次はお前らか」

ゴロツキ「こっから先は行かせねえ!」


青年「ああもう!」

ゴロツキ「へっへっへ!」


青年「とりあえず、馬を降りるか……」


ゴロツキ「ああん? なんでだ」

青年「馬上での戦いには慣れてないんだ」


ゴロツキ「そうかよ! でも俺らは慣れてるんだぜー!」

ゴロツキ「死ねよおらああ!!」


青年「また馬の首を切り落とす作業が始まるのか……」








頭領「くそが! 誰かがアジトの場所をバラしやがったんだな!」

頭領「だからすぐに追いつかれたのか!」


少女「どこに行くんじゃ?」


頭領「知るかよ! とにかく身を隠すだけだ!」

少女「ふーん」


頭領「あいつは何だ!? 化物か!?」

少女「人間じゃ」


頭領「あんな人間がいるかよ!」

少女「なんでそう思うんじゃ?」


頭領「あれだけいた手下を倒して追いかけてきやがったんだぞ!?」

頭領「それが化物じゃなくて何だって言うんだ!」


少女「カッカッカ! そりゃあお主らが弱いだけじゃろ」


頭領「うるせえ!!」

少女「っ! わ、妾を殴ったな!?」


頭領「黙ってろ!」

少女「お主、あまり妾を怒らすなよ?」


頭領「ガキが何を言ってやがる!」

少女「……」


頭領「へへ、やっと黙りやがったか!」

少女「……後悔するなよ、お前」


頭領「ああ? なんだって?」

少女「……」


頭領「はん! ただのガキが調子に乗りやがって!」

少女「……くくく」


頭領「何を笑ってやがる、気持ち悪いガキだ」

少女「いやな、なんでもない……くくく……」


青年「……どんだけいるんだよ」


ゴロツキ「ひっはー!」

ゴロツキ「おらおら!」


青年「殺さないように手加減するの難しいんだぞ!?」


ゴロツキ「知るかよ!」

青年「ちっ」


ゴロツキ「うおおお!!」

ゴロツキ「りゃあああ!」


青年「うおお! そりゃあ!」

青年「次はそこだあ!」


ゴロツキ「うわああ!」

ゴロツキ「いってええ!」







ゴロツキA「へへへ、大枚叩いて買ったボウガンだ」

ゴロツキA「これでも喰らいやがれ!」


ゴロツキAは ぼうがんをはなった!


青年「はっ!」


ゴロツキA「へ?」

ゴロツキA「なああんだあいつは!! ボウガンの弾を真っ二つにしやがっただと!?」


青年「それくらい訳ないさ」

青年「あのときの戦いと比べたらな……」


ゴロツキA「何をわけの分からないことを言ってやがる!」

ゴロツキA「まだまだ弾は残ってるんだよ!」


青年「……」

ゴロツキA「うおらああああ!!」







ゴロツキA「ぜ、全部切り落とすとか……」


青年「弾道が読みやすいんだよ」

ゴロツキA「くそが!!」


青年「うおりゃああ!!」

ゴロツキA「え? うわああああ!!」


青年「……はぁ」

ゴロツキA「あ、あへ……」


ゴロツキ「ど、どうする?」

ゴロツキ「でも逃げ出したらおやびんに殺されちまう」


ゴロツキ「やるしかねえか!」

ゴロツキ「うおおおお!!」


青年「変なところで団結力あるんだな」

ゴロツキ「わああああ!!」




青年「ちょっと気合い入れるか……」

青年「——はぁ」






シュ!!

シュシュシュ!!


ゴロツキたち「うぎゃああああ!!」



青年「……矢?」


青年「どこから……」

青年「……まさか!!」


エルフの騎士「大丈夫か旅の者!……あ」

青年「あ」


パカラパカラ
パカラパカラ



頭領「くっそ! 次はこっちだ!」


少女「くくく」

頭領「いつまで笑ってやがる!!」


少女「人の上に立つお主が、恐怖に慄きながら逃げている様を見ているとな」

少女「なんでお主が頭領なのか可笑しくなっての」


頭領「黙りやがれ糞ガキがああ!!」

少女「なっ! ま、また殴りよったな……」


頭領「黙れないお前が悪いんだ!」

少女「ほほう……」


頭領「なんだその目は!」

少女「……くくく」


頭領「こんな時まで笑いやがって!」

少女「こんな程度で妾が怖がるとでも思ったか?」


頭領「てめえ!!」

少女「また殴るのか? ならば、殴るがよい……くくく……」


頭領「……く、くそっ!」

少女「なんじゃ? こんな子供の睨みが怖いのか?」


頭頂「だまれえええええ!!」

少女「——っ!」




ズバァァァンッ!!




馬「ヒヒーーン……——!」


頭領「馬が!?」

少女「なんと!」


頭領「うわあああ!」

少女「いたい……」


人間の女「……」


頭領「だ、誰だてめえ!!」

女「っ!」


少女「びくつくなよ女……」

女「えと……、だいじょうぶ?」


少女「ああ、お主がその銃で撃ち抜いた馬がこけて、おかげで馬から落ちた」

少女「それだけは痛かったが、あとは無事じゃ」


女「よかった」


頭領「なんだてめえはよぉ!!」


魔法使い「魔法使い」

頭領「そういう意味じゃねェ!」


魔法使い「……」


頭領「と、とりあえず俺を見逃せ! じゃねえとおめぇも無残な目にあってもらうことになるぞ!?」

魔法使い「……」


頭領「ええい! なんか言ったらどうなんだ!」

魔法使い「えと……」


頭領「しゃらくせえ!」

魔法使い「……そんな」


少女「おい、彼女が困っておるではないか」

頭領「お前は喋るんじゃねえ!」


少女「はぁ、やれやれじゃ」

魔法使い「……」


少女「妾は大丈夫じゃよ。心配するな娘」

魔法使い「助ける」


少女「カッカッカ、それは嬉しいの!」


頭領「させるかよ!」

少女「妾を解放すれば、助かるというのに」


頭領「ここまで偽性を払ったんだ!」

頭領「何がなんでもてめえを売りさばいてやる!」


少女「お主程度にできるのか?」

頭領「うっせえええ!! 減らず口を叩くんじゃねえガキが!!」


少女「——っ!」

頭領「ハァハァ!」


魔法使い「その子を叩かないで」

少女「なあに、平気じゃよ」


頭領「強がりも大概にしろよな!」


魔法使い「……」

少女「さて、どうする?」


魔法使い「助けるよ」

少女「どうやって?」


魔法使い「これを使って……」


頭領「なんだそりゃ! そんな鉄の筒で何をするつもりなんだよ!」


魔法使い「これは、銃」


頭領「ああ? 銃ってことは鉄砲ってことだよな!?」

頭領「そんな馬鹿でかいもんが銃のはずねェだろうが! 寝言は寝ていいやがれ!」


少女「カッカッカ!」

頭領「なにがおかしい!」


少女「主は無知なんじゃな。無知は、それだけで罪じゃ」

頭領「何を言って!」


ズバァァァンッ!!


頭領「……へ?」


魔法使い「次は当てる」

少女「……もしや、その銃」


頭領「うおおおお!? やべぞこれ、逃げるぞ!!」

少女「え? うわわ! 引っ張るでない!」


魔法使い「逃がさない」


頭領「ええい、こっちだ! さっさとしろガキ!」

少女「……あの銃を使う者がいるとは。これは見ものじゃな」


頭領「ぼさっとすんな!」


魔法使い「逃がさないと言った」


頭領「は、速い!」


魔法使い「重力魔法で、自分を軽くしているから」

少女「ほほう」


頭領「くそが!」

頭領「切り殺してやる!」


魔法使い「……」

少女「ふむ。どう対処する?」



ズバァァァンッ!!



頭領「俺の剣が!?」

魔法使い「武器は破壊した」


頭領「おめえ!!」

魔法使い「降参して」


頭領「舐めんじゃねえぞ小娘が!!」

魔法使い「……」


頭領「に、逃げるぞ!」

少女「小物が……」


魔法使い「待って!」


頭領「待つかよ!!」

少女「そっちは危ないぞ!」


頭領「は? うわあああ! 落ちるうううう!」

少女「妾を道連れにするなあああ!!」







魔法使い「しまった……どうしよう……」

魔法使い「と、とにかく探しに行かなきゃっ」















エルフの騎士「待て!!」

青年「追いかけられて待つ奴がどこにいるんだよ!」


エルフの騎士「いいから待ってくれ!!」

青年「断る!」


エルフの騎士「あなたは私の——」

青年「違うぞ!?」


エルフの騎士「無気になるのが怪しい! もっとちゃんと顔を見せろ!」

青年「恥ずかしがりやな者で!」


エルフの騎士「嘘をつくな! ああもう、流石に追いつけない!」

青年「じゃあな!」


エルフの騎士「待て、待てーー!!」












エルフの騎士「ハァハァ……」

魔法使い「あ、エルフの騎士」


エルフの騎士「魔法使いか……」

魔法使い「どうしたの? 息が荒いみたい」


エルフの騎士「……見つけたぞ」

魔法使い「え?」


エルフの騎士「とうとう見つけたんだ!」

魔法使い「本当?」


エルフの騎士「嘘をついてどうする!」


魔法使い「じゃあ!」

エルフの騎士「だが……逃げられた」


魔法使い「そんな……」


エルフの騎士「どうして逃げるんだ……」

魔法使い「……わからない」


エルフの騎士「……ところで、魔法使いは何をしていたんだ?」


魔法使い「女の子が、悪い人にさらわれて」

魔法使い「助けようと思ったんだけど……そこを転がり落ちて行っちゃった……」


エルフの騎士「それは危ないじゃないか!」

魔法使い「うん。……先に、こっちを助けよう」


エルフの騎士「そうだな……。きっと我が君もそうするだろう」

魔法使い「何たって勇者さまだからね」


エルフの騎士「ああ。勇者である我が君の考えを背くような真似はできない」

魔法使い「じゃあ、行こう」


エルフの騎士「あっちなんだな?」

魔法使い「うん」


頭領「いつつ……」


少女「はぁ……。大人しくしておけばよかった」

頭領「なんでてめえは無事なんだよ!」


少女「お主とは体の造りが違うんじゃよ」

頭領「どこまでもからかいやがってっ」


少女「頭に血が上ったか?」


頭領「むしゃくしゃする!!」

少女「くくく」


頭領「……」

少女「なんじゃ?」


頭領「憂さ晴らしに、てめえを……」

少女「主はロリコンか?」


頭領「そんな趣味はねえんだがよ、この際だ! どうせここまで追ってはこれねえしな!」

少女「はあ……。どこまで愚かな……」


頭領「観念しやがれ!」

少女「……」


頭領「うっひっひ……おらおら、逃げねえとその柔肌が太陽の下に晒されちまうぞ?」

少女「逃げるものか……はぁ……」


頭領「うおりゃあ!!」


ビリビリビリ


少女「ふん……服を破いたか……。こんな体を見て、欲情するのか?」

頭領「穴さえあればそれでいいんだよ!」


少女「下らん」


頭領「へへ、おっぱいが小せえなぁ」

少女「……」


頭領「ああ? なんか言ったらどうなんだ?」

少女「……」


少女「そろそろ、妾も限界じゃ」


頭領「お? 怖いのか怖いのか? うぇっへっへ」

少女「違う」





少女「妾は、主様に力の解放をするなと言われておる」

少女「じゃからこそ、普段は最低限の力しか使わん」


少女「でもな? 息も体も臭い」

少女「この妾を平気で殴る」


少女「あまつさえ、その汚らしい手で妾に触れた」

少女「もう、耐え切れん」


少女「お前を殺す」




頭領「へ?」




少女「————!!」




頭領「……え、体がどんどん黒く、大きく……」




黒竜(少女)「妾は黒竜」

黒竜「冥土の土産じゃ。妾の姿を見れて良かったの」


頭領「……あ、あ」


黒竜「じゃあ死ね」

黒竜「……重力魔法!!」


頭領は じゅうりょくに押しつぶされた!……▼
グシャッ……


黒竜「……ふん」


青年「お前!!」


黒竜「あ」

青年「その姿になるなとあれだけ言っただろうが!!」


黒竜「じゃがこれは仕方のないことじゃ」

青年「それでもだ!」


黒竜「ならば主様は妾がこの男に抱かれても良かったというのか?」

青年「そうとは言ってないだろ!」


黒竜「じゃが、こうしておかねば妾は汚らしいそやつに」

青年「全部自業自得だろ!」


黒竜「う……」

青年「まったく」


黒竜「ところで、後ろの人間とエルフはなんじゃ?」

青年「え?」





エルフの騎士「ふふふふ」

魔法使い「やっと、見付けた……」





青年「しまった!」


黒竜「どうするんじゃ?」

青年「逃げるぞ!! 背中に乗せろ!」


黒竜「嫌じゃ!」

青年「な!?」






エルフの騎士「もう逃がさないぞ」

魔法使い「うん」


エルフの騎士「2ヶ月も探し続けたんだ」

魔法使い「そう」


エルフの騎士「観念しろ!」

魔法使い「お願い、勇者さま」






勇者「……わかった」

黒竜「カッカッカ!」


勇者「笑い事じゃない!」

黒竜「くくく……」


—— 無人のアジト ——


勇者「おー、ここがあの連中のアジトだったのか」


エルフの騎士「……」

魔法使い「……」


勇者「そ、そんなに睨むなよ」

少女「女とは怖ろしい生き物じゃの」


勇者「お前が言うな」


エルフの騎士「我が君」

魔法使い「勇者さま」


勇者「う……」


魔法使い「どういうことですか! どうして私たちを置いて行ったのですか!!」

エルフの騎士「そうだぞ我が君!!」


勇者「そ、その話をすると長くなるんだけど……」

魔法使い「それでもして下さい!」


少女「カッカッカ」

エルフの騎士「……」


少女「なんじゃ?」

エルフの騎士「貴様は、人間か? それとも、別の何かか?」


少女「なんじゃエルフ。妾が気になるのか?」


エルフの騎士「私はエルフの騎士だ」

少女「わかったエルフの騎士。して、気になるんじゃな……妾のことが」


エルフの騎士「当たり前だ」

魔法使い「うん」


少女「さあどうするんじゃ主様」


エルフの騎士「あ、主様!?」

魔法使い「どういうことですか!」


勇者「ああもう……」


エルフの騎士「説明して貰えるのだろうな?」

魔法使い「……」


少女「どうするんじゃ?」

勇者「くっ……」


エルフの騎士「それに、その少女は竜になったぞ」

魔法使い「それも黒い竜」


少女「かっこいいじゃろ!」


エルフの騎士「そんな話、今はどうでもいい!」

魔法使い「そう」


少女「……」

勇者「……はぁ」


少女「こ、この二人怖いな」

勇者「さっきのは空気の読めないお前が悪い」


エルフの騎士「先に、その少女は誰だ!」

魔法使い「そうです」


勇者「あー……こいつか……」

勇者「こいつはな……その、なんて言うか……」


エルフの騎士「もったいぶるな!」

魔法使い「早く」












勇者「……はぁ。こいつは魔王だ。あのとき倒した分身じゃなくて、本物の魔王」

魔王(少女)「妾は魔王。宜しくな」


エルフの騎士「……なに」

魔法使い「嘘……」


魔王「本当じゃ! カッカッカ!」


—— 1章 魔王 終わり ——

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勇者「出来損ないの魔法使い?」2 - SSまとめ速報
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前スレでは迷惑をかけてすまなかった。反省している。ではー

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