千早「私、春香のことが好きかもしれない」 雪歩「そっか」 (66)

んあ

雪歩「じゃあわたしは愛人だね」

千早「え」

千早「あの…萩原さん」

雪歩「ふたりきりなんだから雪歩でいいのに」

私は二人きりなのに『萩原さん』と呼ばれたことが何故か無性に悔しくて
ちょっと冷たい口調でそう言ってしまいました。

千早「雪歩…」

雪歩「私のこと嫌いになった?」

私の口からその言葉がこぼれた途端に、千早ちゃんは大きく首を横に振りました。

千早「そんなわけ…ないじゃない」

千早「雪歩を嫌いになるなんて…」

その言葉でちょっとでも救われた気がするのは自分でも馬鹿だなって思います。

雪歩「でも春香ちゃんの方が好きなんだよね」

ああ、私はどこまでずるいんでしょう。
分かってたはずなのに、知ってたはずなのに。
千早ちゃんがいつも目で追っている存在がいることを。
リボンがトレードマークの明るい女の子のことを堪らなく好きだってことを。

千早ちゃんと身体を重ねた日からこんな日が来るって、千早ちゃんが春香ちゃんへの
恋心に気付く日がやって来るって分かってたのに。

千早「雪歩のことも好きなの…もうどうしていいか分からないくらいに」

雪歩「…」

千早ちゃんもずるいね。私たち案外似た者同士なのかも。

千早ちゃんは瞳にいっぱい涙をためていました。
普段はクールな千早ちゃんのそんな表情を見れるのは私だけ。
ああ、そっか。私は千早ちゃんの他人に見せない表情が見たかったんだ。

雪歩「千早ちゃん」

千早「なに」

雪歩「千早ちゃんが春香ちゃんのことを好きなら、私が春香ちゃんになるから」

千早「えっ」

自分でも何を言っているのか分からなくなってしまいました。

雪歩「春香ちゃんの明るいところが好きなら私も明るくなる」

千早「…きほ」

雪歩「春香ちゃんのリボンがすきなら私もリボンをつける」

千早「ちょっとまって…雪歩」

雪歩「お菓子だって…作るよ」

だから私のことだけ見て…。

千早「雪歩…」

私を見ている千早ちゃんの目は酷く悲しそうでした。

その目をそれ以上見るのが怖くて、私は咄嗟に千早ちゃんの唇を塞ぎました。

千早「んっ」

千早ちゃんの唇はちょっとかさついていて、いつもみたいにひんやりしていました。

雪歩「ねえ、千早ちゃん。ちょっと待っててね」

私は千早ちゃんから離れて、洗面所からタオルを持ってきました。

千早「雪歩…なに」

雪歩「今からちょっとだけ目をふさぐね」

千早「えっ、なんで」

雪歩「大好きな春香ちゃんとさせてあげるから」

千早「そんなの無理にきまって…」

千早ちゃんが言葉を紡ぐ間に私は千早ちゃんの目をタオルで覆いました。
汚い現実なんて見ない方がいいでしょう?

雪歩「ううん、千早ちゃん。春香ちゃんはここにいるよ」

千早「えっ…」

雪歩「千早ちゃんと私の関係もずっと見てたよ」

千早「は…春香が」

雪歩「春香ちゃんがね、千早ちゃんのこと好きって言ってるよ」

千早「うそ…でしょ」

雪歩「嘘じゃないよ、大好きだって」

千早「んっ」

雪歩「今、千早ちゃんに触れてるのが春香ちゃんの指だよ」

千早「ん、春香…」

指を往復させるだけで余裕なくなっちゃって…可愛い。

雪歩「春香ちゃんがね、千早ちゃんのこと可愛いっていってるよ」

千早「恥ずかしい…」

雪歩「千早ちゃん、脱いでって」

千早「…ん」

雪歩「ううん、春香ちゃんが脱がせてあげるって」

もうそこには私の入り込む余地なんてないようでした。
この部屋には私と千早ちゃんしかいないはずなのに。

私はわざとぎこちない手つきで千早ちゃんのシャツのボタンを一つ一つ外していきました。
三個目のボタンを外したあたりで、淡いブルーの下着が顔を覗かせました。
小ぶりな胸にそれはとても良く似合っていて、まるで人魚姫の貝殻のよう…。

千早ちゃんはこちらに身体を預けて為すがままの状態でした。

そして、千早ちゃんはとうとう身に纏うものをなくしてしまいました。
こうして見ると、千早ちゃんは本当にスレンダーなモデル体型です。
真ちゃんとは違う方向の中性っぽさを仄かに感じます。

千早ちゃんの胸を揉んでみます、あくまでぎこちなく。

千早「んっ、あっ」

それから先端を口に含みました。
舌で感じる感触はとても心地よく、幼いころに夢中になって舐めた飴玉のようです。
口の中で堅くなってきたそれに優しく吸いつきました。

千早ちゃんと初めて身体を重ねた夜は、お互いぎこちなくてどうしたらいいのか戸惑って…
なんかもうすごく昔のことみたいです。
千早ちゃんもちょっとは感じていたと思うけど、今ほど大胆じゃなくて。
私も探り探りの感じで…。
あの頃に戻ったらやり直せるのかなあって思ったけど、それは無理みたいです。
だって思ってたよりずっと私は千早ちゃんのこと好きみたいだから。

雪歩「千早ちゃん、春香ちゃんがここ触っていい?って」

千早ちゃんはこくんと頷きました。
それと同時に私は千早ちゃんの秘所に触れました。
そこからはもう蜜が溢れていて…私はそれを舐めとるように顔を埋めました。
舌を使って、千早ちゃんが感じるところを刺激して…

千早「んっ、雪歩」

雪歩「えっ」

私はびっくりしてしまいました。
目隠しをされた千早ちゃんが今想っているのは春香ちゃんのことだったはず。
なのに私の名前を呼ぶなんて…

千早「ゆきほぉ…すき」

雪歩「千早ちゃん…」

それがトリガーでした。
もう私は私の中の春香ちゃんを捨てて、ただただ千早ちゃんの身体を求めていました。
私の身体も千早ちゃんの身体も互いの愛液で濡れていて、もうこのまま死んでしまうんじゃ
ないかなって思うほどの快楽の波にふたりとも溺れていました。
こんな刹那的な行為、私が止めれば終わってしまうのに。

行為が終わった後の部屋はいつも静かです、窒息しそうなくらいに。
千早ちゃんが窓を開けてくれて、涼しい秋の風が部屋に入ってきます。
いつも私はお茶を入れて、千早ちゃんと一緒に飲みます。

千早「美味しい…」

雪歩「ありがとう」

私はこの時間が堪らなく好きです。
二人で肩を並べてお茶を飲める幸せに勝るものはないと思うからです。
縁側でお茶を飲む老夫婦も同じような幸せを噛みしめているのでしょうか。

千早「ありがとう、雪歩」

雪歩「えっ?」

千早「春香になってくれてありがとう」

雪歩「ええっ」

千早「でも、雪歩は雪歩のままが一番いいと思う」

それは残酷な言葉でした。

雪歩「でもそれじゃ、千早ちゃんに本当に好きになってもらえないもん…」

私の視界がぼんやり滲んでいくのが分かりました。
駄目、泣いたりしちゃ…そう思っても涙は止まらなくて…
とうとう私はしゃくり上げて泣いてしまいました。

千早「雪歩…泣かないで」

千早ちゃんはぎゅっと私を抱きしめました。
千早ちゃんから抱きしめて貰ったのは初めてで、不器用な抱き締め方が
彼女らしいなと思いつつ泣いていました。

雪歩「千早ちゃん…、窓の外みてみて」

千早「外?」

雪歩「うん」

千早「なにかあるの?」

雪歩「ねえ、千早ちゃん。月が綺麗だね」

千早「ええ、とっても綺麗」

本当に今夜のお月さまは綺麗で、それ故にこれが夢じゃないのかと思い始めてしまって。

雪歩「ねえ、千早ちゃん。私と付き合って下さい」

千早「…」

雪歩「春香ちゃんには好きな人がいるんだよ…?」

どこまでも卑怯な私は千早ちゃんの目にどう映っているんだろう、怖いです。

千早「知ってる、春香に好きな人がいることも」

千早「そしてそれが私じゃないことも」

雪歩「…」

千早「雪歩、ごめんなさい。」

千早「私…貴女のこと好きなのに、どうしたらいいのか分からないの」

千早ちゃんは端正な顔をとても苦しそうに歪めていた。
ごめんね、そうさせちゃったのは私のせいだよね。
私が最初に千早ちゃんと二人きりにならなければ、キスしてなだれ込むように身体の
関係を持たなければこんなことにはならなかったのにね。
もうやめなくちゃ、こんな関係。

雪歩「千早ちゃん、もうやめ…」

その言葉を遮って千早ちゃんは話し始めた。

千早「私、最初に雪歩にキスされたとき嫌じゃなかった。むしろ嬉しかったの」

千早「こんな私を受け入れてくれて好きになってくれる人がいるんだって」

千早「拒もうと思えば拒めたのに、拒みたくなかった…」

雪歩「千早ちゃん…」

千早「だから最初の関係のことで責任を感じる必要はないの。私たち共犯なんだから」

雪歩「なんで分かったの…?」

千早「雪歩はいつも責任を感じてるみたいだったから」

そういって千早ちゃんは私に軽くキスをした。

千早「ごめんなさい、雪歩。私、優柔不断で」

雪歩「だいじょうぶ」

千早「春香のことは友達だと思うようにする、そして春香の恋は応援する」

雪歩「…いいの?」

千早「ええ」

千早ちゃんは伏し目がちでそう言った。

千早「ねえ、雪歩」

どこか吹っ切れたような眼差しで千早ちゃんは私に声をかける。

雪歩「なあに、千早ちゃん」

千早「毎日美味しいお茶を淹れてくれる?」

雪歩「もちろん。なんだかプロポーズみたいだね」

私たちはクスリと笑い合った。
なんだか随分久しぶりに笑ったような感じがする。
お仕事ではいつも笑顔なのに…変だなあ

千早「今度は私から言わなくちゃいけないわね」

千早「雪歩、付き合って下さい」

ああ、千早ちゃんからのこの言葉を私はずっと待ってたんだ。

雪歩「私こそよろしくお願いしますぅ」

月明かりの綺麗な夜に私たちは付き合い始めることになった。
壊したいくらいに大好きな千早ちゃんは私の隣に確かにいて、ぬくもりを感じることができる。

千早「雪歩、ふたりでどこまでいく?」

雪歩「死ぬところまでかなあ」

千早「ふふ」

雪歩「えへへ」

あれ、冗談に取られちゃったかな…ちょっぴり本気だったのに。

千早「おやすみなさい、雪歩」

雪歩「おやすみなさい、千早ちゃん」

夜が明けたらまたいつもの日常が始まる。
お仕事の時は恋心も捨てなくちゃ。
その夜はふたり指を絡めながら、未来を祈りながら眠った。
 
                    END

不完全燃焼ちはゆき
はるちはしか書いたことなかったから難しかった
ねむい

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