コナン「コロシアイ学園生活?」 (178)

※このSSは「ダンガンロンパ」および「スーパーダンガンロンパ2」、「ダンガンロンパゼロ」についての深刻なネタバレを含みます。
※このSSは「名探偵コナン」について、>>1の個人的考察や展開予想、独自解釈が含まれます。実際の作品の設定とかけ離れてしまう可能性がある事をご理解下さい。
※また、キャラ崩壊・原作レイプ等の要素を含みます。
※作中に登場する、人物・団体・企業等はすべてフィクションのもので、実在の物とは一切関係がありません。

※苦手な方はブラウザバックを推奨します。

※展開予想、感想、ネタ潰し等書き込みはご自由になさって下さい。
※ですが、他人への攻撃的な書き込みはなるべく避けてください。らーぶらーぶ!

それでは、お楽しみ下さい。


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 ■ □

――モノクマげきじょう――


オマエラ!
久しぶりだね。ボクの顔が見たくて見たくて夜も寝られなかったって?
ボクの体ナシじゃ生きられないって?
そこまで言ってないって? ちぇ…ま、いいや。

今日はオマエラに、学園長としてのアドバイスをしにきてやったんだ。
感謝しろ! 褒めろ! 称えろ! 銅像を立てろ! …銅像はいいや。
どっかの希望大好きクンと同じになっちゃうしね。
サファリパークでもクマ一倍謙虚だったボクだから、褒め称えるだけで勘弁してやるよ。

…うん、オマエラの言いたいことはよくわかるよ。

「さっさと要件を話して消えろ」

わかるよ、そう言いたいんだね?
いかにもかませの十神クンあたりが言いそうな台詞じゃない?

でもダメーッ! だってオマエラの絶望する姿が見たいのに、
そのオマエラが望む通りにしたら、意味ないじゃん。意味不明だよ全く。

まあでも、オトナの都合って奴があるからさ…
今日の所は勘弁してやるよ。ほら、部屋綺麗にしとけよ。
うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ


…じゃなかった。しょうがないからオマエラにアドバイスだよ。
一度しか言わないからよーく聞いてよね?

「バックアップは取っておけ」

「バックアップは取っておけ」

どう? ありがたすぎて涙がちょちょ切れるよね?
大事なことだから2回も言ってあげたよ。ボクって人格者? この場合クマ格者かな?
え、何その表情は… 

「常識すぎて話にならんな」

うん、確かに常識中の常識、非常識中の非常識だよね。
でも、ボクも夏場はオーバーヒートで故障することがあるからさ…
お手元のスマートフォンなりパソコンなり、ゲームのセーブデータなり、
大事な情報はちゃんとバックアップを取っておくことをオススメするよ。

後でデータが消えて絶望するオマエラの顔も、悪くないけどね…うぷぷ。

それじゃあオマエラのせいで長くなったけど、ここらで始めようかな。
また後でね。メタな発言をすると、ボクの次の登場はレス番でいうと100番くらいになるかも。

モノクマげきじょうでした!


――閉幕――

オレは高校生探偵、工藤新一。幼馴染で同級生の毛利蘭と遊園地に遊びに行って、
黒ずくめの男の怪しげな取引現場を目撃した。
取引を見るのに夢中になっていたオレは、背後から近付いてくるもう一人の仲間に気づかなかった。
オレはその男に毒薬を飲まされ…目が覚めたら、体が縮んでしまっていた!

工藤新一が生きていると奴らにバレたら、また命を狙われ、周りの人間にも危害が及ぶ。
阿笠博士の助言で正体を隠すことにしたオレは、蘭に名前を聞かれて、
とっさに江戸川コナンと名乗り、奴らの情報を掴むため、父親が探偵をやっている蘭の家に転がり込んだ。

オレは毛利のおっちゃんを名探偵に仕立てるべく、時計型麻酔銃でおっちゃんを眠らせ、
蝶ネクタイ型変声機を使って、おっちゃんの声でかわりに事件を解いている。
この二つのメカは、阿笠博士の発明品だ!
博士は他にも…ターボエンジン付きすケードボードや、犯人追跡メガネ、キック力増強シューズ、
ボール射出ベルトなど次々とユニークなメカを作り出してくれた!

蘭もおっちゃんも、オレの正体には気づいていない。知っているのは阿笠博士と、
西の高校生探偵、服部平次、それに同級生の灰原哀…。
彼女は黒ずくめの男の仲間だったが、組織から逃げ出す際、
オレが飲まされたのと同じ薬を飲んで体が縮んでしまった!
他にも怪盗キッドや俺の両親なんかも正体は知っている。



「小さくなっても頭脳は同じ!迷宮なしの名探偵!…真実はいつも一つ!」

…というのが少し前までのオレの話だ。
現在はというと、黒の組織をぶっ潰して、灰原が完全な解毒剤を作ってくれたお陰で、
元の高校生の体に戻れて、今は蘭と同じ帝丹高校に通っている。

ようやく…ようやく、奴らとの戦いが終わり、これから人並みに学園生活を送ろうとした矢先、
この奇妙な「入学案内」が届いた。





「工藤 新一 様

今回、我が校では

『超高校級の探偵』の才能を持つ貴方を、

我が校に招き入れる事になりました。

つきましては、入学するにあたり

希望ヶ峰学園の入学案内パンフレット

を同封いたします。」

『私立希望ヶ峰学園』…
あらゆる分野の超一流高校生を集め、
育て上げる事を目的とした、政府公認の超特権的な学園…

この学園を卒業すれば、
人生において成功したも同然…とまで言われている。

何百年という歴史を持ち、
各界に有望な人材を送り続けている伝統の学園らしい…

国の将来を担う“希望”を育て上げる事を目的とした、
まさに、“希望の学園”と呼ぶに、ふさわしい場所だ。

そんな学園への入学資格は2つ…

“現役の高校生であること”
“各分野において超一流であること”

新入生の募集などは行っておらず、
学園側にスカウトされた生徒のみが入学を許可される。
噂には聞いていたが、まさか実在するとは…

最初は慣れ親しんだ皆のいる帝丹から転校するのは抵抗があったし、
何より蘭と離れ離れになるのは嫌だったから、辞退しようと思った。

だが、どうやら蘭も「超高校級の空手家」として、
希望ヶ峰学園に招待されたらしい。
まぁ、素手で電柱を破壊するあの強さは、確かに超高校級だよな…。

その蘭は結構ノリ気のようだし、親友である園子も泣きながら背中を押してくれたから、
結局俺達はこの学校に転入する事になった。
そして今、入学式のためにやってきた俺達は、そびえ立つ校舎の前に立っていた。


蘭「…なんか、帝丹高も小さくはなかったけど、ここはもっとすごいね」

そうだな…パンフレットの写真で見て想像していたよりはるかに大きい。
さすがは政府公認の超特権的な学園といったところか。

「蘭、オメー、迷子になんなよ?」

蘭「バ、バカにしないでよ! 子供じゃないんだから…」

蘭「それより、集合時間までもう時間があんまりないみたいだよ。急がないと!」

そう言われて腕時計を確認すると、時刻は7時50分。
集合時間は8時だから…確かにあまり時間は残されていないようだ。

「やっべぇ、走るぞ! 蘭!」

蘭「あ、ちょっと待ってよ新一!」

そうしてオレは滑り込むように希望ヶ峰学園に、最初の1歩を踏み出した。

新しい学園生活の始まるとなる、希望に満ちた1歩…となるはずだった。

「!?」


だが、その1歩目を踏み出したのと同時に…
オレの視界は、ぐるぐると歪み始めた。

やがて、世界は飴細工のようにドロドロと溶け、混ざり合う…

ぐるぐるぐるぐるぐると、
ドロドロドロドロドロドロとなり…

その次の瞬間には…

ただの暗闇。

それが始まり…

そして、つかの間の日常の終わり…

この時点で…オレは気付いても良かったのかもしれない…

オレが希望ヶ峰学園にやって来たのは、
“超高校級の探偵”として、ではなくて…
“超高校級のXXX”として、だったって事に…

prologue:ようこそ絶望学園



……
…………

…ん?

「あ…れ…? ここは…?」

オレは硬い学習机の上で目を覚ました。
体がやけにダルい。
だがそれ以上に、何か“違和感”があった。

…机が、高い。
机だけじゃない。椅子も。
違和感の正体に気付く。

…浮遊感。
足が地についていない。
もちろん、本当に浮いているわけではない。
身に覚えのある感覚の正体、その確信を得るために手の平を見た。

そこには、せいぜい小学生低学年程度の小さい手が二つ。
目を見開き、ぼやけていた意識が覚醒する。

「な…なんで……、オレ…、また…小学生の……コナンの体に……?」

そんなバカな。ついさっきまで、元の高校生の体だったじゃないか!
灰原が作った解毒薬が完全な物ではなかったのか?
いや、そんなはずはない。元の体に戻ってから数ヶ月は経ったが、
何の問題もなく過ごしてきたはずだ。

じゃあなんで…どうして…?
そもそも、ここはどこだ?

謎が謎を呼び、頭がごちゃごちゃに混乱する。
落ち着け。こんな時こそ冷静沈着、かつ慎重になるべきだ。

「すーっ はぁ」

深呼吸して落ち着きを取り戻し、周囲を見渡すとそこは、見慣れない教室だった。
机と椅子の高さから、おそらくは中高生の使う教室だろう。
もしかして、希望ヶ峰学園の中、なのか?

…だが普通の教室とは、いくつか違った点があった。

まずは窓だ。
窓には内側から分厚い鉄板のようなものが打ち付けられ、外界から完全に遮断されている。
そのせいで今が朝なのか夜なのかすらはっきりしない。

「そうだ、時計……あれ、さっきまでしてた腕時計がないぞ」

あれは阿笠博士がオレのために作ってくれた、
ある意味思い出深い麻酔銃でもあるから、なくしたくなかったのに…

幸い教室に備え付けられた置時計で、現在の時間を確認する事はできた。
今は午前8時30分、てとこか…
結構な時間、ここで寝ていた事になるな…

次に天井からぶら下がる監視カメラだ。
防犯のために監視カメラを設置する学校は今時そう珍しくもない。
政府公認の超特権的な学校であれば尚更だ。
だが、このカメラはさっきからずっとオレの方ばかりを撮影している。
誰かが監視しているのか…?

と、周囲を見渡してみて改めて気付いた。
さっきまでオレが突っ伏していた机の上に、紙切れが置かれている。

「なんだコレ…入学案内……?」

安っぽいパンフレットだった。しかも、手書きで、字も汚い。

『新しい学期が始まりました…』

『心機一転、これからは、この学園内がオマエラの新しい世界となります。』か…

オマエラ、ってなんだよ…誰かの悪ふざけか?


この状況から察するに、入口で解毒剤の効果が切れて意識を失ったオレを、
誰かが教室まで運んでくれた…とか? 一体誰が?

服もわざわざ小学生用のものに着替えさせてくれたみたいだし、
会った事もない誰かが、わざわざそこまでしてくれたのか?

…考えても仕方ない。
とりあえず、集合場所だった1階玄関ホールへ行ってみるか。
もしかしたら、誰かが集合場所にいるかもしれない。
まだ少しダルい体を無理矢理動かして、教室を後にした。

オレが玄関ホールへと足を踏み入れると、そこには…彼らの姿があった。

??「オメーもここの新入生か?」

ドレッドヘアーで下駄を履いた妙に胡散臭い男が、オレを見るなり話しかけてきた。

「じゃあ…キミ達も…!?」

??「うん。今日、希望ヶ峰学園に入学する予定の…新入生だよ」

次に話しかけてきたのは、ライトブラウンの髪をした、背の低い女子だった。
といっても、小学生の姿をしたオレからすれば、ここにいる全員が俺より背が高いのだが。

??「これで15人ですか…キリがいいし、これで揃いましたかね…」

そう口を開いたのは元太がそのまま高校生になったような体型をした、丸眼鏡をかけた男子だ。

彼らが…希望ヶ峰学園に選ばれた“超高校級”の生徒達…
その場に揃った顔を、ゆっくりと見回してみる。
体型から髪型、服装まで個性的な姿格好の面々だった。

「えっと、はじめまして…江戸川コナンって言います…」

この姿で工藤新一を名乗るわけにもいかず、オレは再びコナンを名乗る事にした。
幸い、事件を解決し、テレビや新聞に出た事もあったオレの顔を知っている者はいないようだった。

「気が付いたら、教室の中にいて…それで遅れちゃって…」

??「え? オメーもそうなんか?」

ドレッドヘアーが驚く。するとゴスロリ姿の浮世離れした少女が顎に手を当て、訝しむ。

??「とすると、ますます妙ですわね…」

??「異常だ…これは間違いなく異常事態宣言発令ですぞ!」

と、丸眼鏡の男子が言う。

「ん…どういう事? よく状況を把握出来ていないんだけど…」

3人から詳細を聞こうとした所で、透き通るような威勢のよい声が飛んできた。

??「ちょっと待ちたまえ! その前にだ!」

軍服のような白い服を第一ボタンまでしっかりと着込んだ、
いかにも規則に厳しそうな委員長タイプの男子が目の前に立ちはだかった。

??「江戸川くんッ! 遅刻とはけしからんじゃないか!!」

??「8時集合と知らされてあったはずだろう!」

??「入学初日に遅れるなど言語道断! 学校側に連絡した後、厳正なる処罰を…」

そこまで言いかけた彼を遮ったのは、桃色の髪をした少しケバい、いかにもギャルといった感じの女の子だ。

??「アンタ、何言ってんの…? しょうがないじゃん、こんな状況なんだからさ…」

??「それより、改めて自己紹介しない!? 遅れてきたクラスメイトくんの為にもさ!」

赤いジャージを着た日焼け肌の女子が、急にそう提案してきた。
絡まれていたオレに助け舟を出してくれたのか、それともただの天然なのか、とにかく助かった。

??「…自己紹介だぁ? んな事やってる場合じゃねーだろ!!」

リーゼントに学ランを着た、いかにも暴走族やワルといった感じの目つきの悪い男子が言い放つ。
機嫌が悪いのか、語気に怒りや苛立ちが見え隠れする。

口を挟んだのは、ゴスロリの彼女だ。

??「ですが、問題について話し合う前に、お互いの素性はわかっていた方がよろしいでしょう」

??「なんてお呼びしていいのかわからないままでは、話し合いも出来ないじゃありませんか…」

確かにそうだ。テキストが??で埋め尽くされて、誰が誰だかわかったものじゃない。

??「それも、そうだよねぇ……」

ライトブラウンの髪をした背の低い少女が賛同した。
心なしか、少し怯えているようにも思える。無理もない。状況が状況だしな。

??「じゃあ、まず最初に自己紹介って事でいいですか? 話し合いは、その後という事で…」

そう提案したのは青いロングヘアーの少女だ。容姿端麗、そんな言葉がぴったりの彼女は、
もし街中ですれ違ったなら、誰もが思わず振り向き、見とれるほど魅力的だった。

イマイチ、この状況が理解出来てないけど、とりあえずは自己紹介って事でいいんだよな?
なら…これも、ちょうどいい機会か。
そして、オレ達は改めてお互い自己紹介をした。

訂正

×そう提案したのは青いロングヘアーの少女だ。容姿端麗、そんな言葉がぴったりの彼女は、

○そう提案したのは黒いロングヘアーの少女だ。容姿端麗、そんな言葉がぴったりの彼女は、

石丸「それにしても…キミは本当に高校生なのか!?」

さっきオレを問い詰めてきた熱血系男子は、石丸清多夏。
“超高校級の風紀委員”で、ここに来る前の学校でも風紀委員を務めていたらしい。
なるほど、確かに優等生を絵に描いたような印象だ。
いい意味でも悪い意味でも真っ直ぐな性格で、少しめんどくさそうだが、悪い奴じゃなさそうだ。

「…よ、よく言われるよ。小学生扱いなんて日常茶飯事だし」

山田「ンフフ…三次元とはいえロリショタはやはりいいものですなぁ~。日本の、いや世界の宝ですぞ!」

元太がそのまま高校生になったような体格をした、丸眼鏡の男子は山田一二三。
「全ての始まりにして終わりなる者」、だそうだ。
“超高校級の同人作家”で、彼の書く同人誌は学園祭で1万部を完売させたという。
風貌はいかにもオタクといった感じだが、作劇や作画の技術、漫画やアニメの知識はかなりのものだとか。
正直、同人誌にはあまり興味がなかったけど、1万部も売れたという伝説の同人誌というのは、少し見てみたい気もするな。
それに何故だろう、コイツとは何か前世からの縁があるような気もする。

「あ、あはは…」

腐川「幼年期の少年少女に欲情するなんて…け、汚らわしい…」

長いおさげ髪に眼鏡、脚が隠れる程長いスカートに地味な制服の彼女は、腐川冬子。
“超高校級の文学少女”で、10歳のときに書いた小説が話題となり、それをきっかけに文壇デビュー。
その後数々の文学賞を受賞するほどの天才高校生作家である。
しかし、その性格はというと…

腐川「な、なにジロジロ見てるのよ… あたしがブスだから? ブスだからでしょ!?」

腐川「どうせ…ここまでのブスは… 初めて見たとか…そう思って笑ってるんでしょ…?」

「い、いや…そんな事…」

自虐的で、被害妄想が強い。作家としての想像力がそうさせるのか?
…自分で言うほど、容姿に問題があるとは思わないし、むしろ中の上以上はあると思うが。
ただ、気のせいかもしれないが…少し体臭がきついかもしれない。

十神「目障りな奴だ…」

腐川「ひっ…」

自分以外の全ての人間を見下したような、そんな錯覚さえ覚える威圧感。
腐川を黙らせた声の主の名は、十神白夜だ。
“超高校級の御曹司”である彼は、鈴木財閥に並ぶ巨大財閥「十神財団」の後継者。
幼少期から帝王学を叩き込まれ、高校生にして既に系列企業の運営に携わり、多くの利益を上げていると聞く。
プライドが高く、石丸とは別の意味でめんどくさそうだ。

十神「ところで…お前。江戸川といったな。…お前の“超高校級の才能”は何だ? 言ってみろ」

朝日奈「そうそう! さっきから気になってたんだよね! 教えてよ!」

元気よく声をかけてきたのは、赤いジャージに日焼けの彼女…朝日奈葵だ。
彼女の持つ才能は、見た目の通り…“超高校級のスイマー”。
水泳部で数々の高校記録を塗り替え、オリンピック候補生でもある。
肩書きこそスイマーであるものの、実際はスポーツ万能で、他の運動部でも活躍しているとか。

「あぁ、オレの才能は…“超高校級の探偵”だ」

霧切「!?」

“探偵”と口にした瞬間、視線を感じた。
その先にいたのは、長い銀髪を片側だけ三つ編みにした少女、霧切響子だ。
正直、彼女のことはまだよくわかっていない。
自分の“超高校級の才能”を明かさず、自己紹介も名前だけの簡単なものだった。
謎の美少女、なんて肩書きがお似合いなのかもしれない。

…今感じた視線は、彼女のものだったのだろうか?
既に彼女は、別の方を向いており、真偽は謎のままだ。

葉隠「たたた、探偵…!?」

“探偵”という言葉に過剰に反応した者がもう一人いた。
最初にオレに話しかけてきたドレッドヘアーの胡散臭い男、葉隠康比呂。
“超高校級の占い師”で、どんな占いでもぴったり30%の確率で的中させるらしい。
だが、その占いの才能にかこつけて、色々ときな臭い噂も絶えない。
多額の料金を請求された、とか、高額な壺や置物を買わされそうになった、とか。
過剰に反応したのも、何か後ろめたいことがあるからだろうか。

大和田「フン…コソコソ人の粗を探すなんて男らしくねえな」

そう言い放つのは刺繍の入った学ランとリーゼントが特徴的な大和田紋土。
“超高校級の暴走族”である彼は、関東最大の暴走族、「暮威慈畏大亜紋土」の二代目総長。
全国の不良から尊敬と畏怖の眼差しを向けられる、ワルの中のワル。それが彼だ。
…どうして暴走族が、希望ヶ峰学園に入ろうと思ったんだろう。という疑問は今はおいておこう。

江ノ島「へぇー! 探偵なんて…なんか超カッコいいじゃん!」

歓声を上げたのは、“超高校級のギャル”江ノ島盾子だ。
人気ファッション誌で読者モデルを務めるカリスマ系女子。
見た目通りのギャルで、流行の最先端を行く今ドキの容姿にはオーラがあり、
確かに多くの学生達が魅了されるのもわからなくはない。

江ノ島「やっぱ“超高校級の探偵”って言うからにはさ、事件とかって解決したことあんの?」

「ああ、そりゃもう数え切れない程…」

不二咲「すごいや…そんな小さな体で……逆上した犯人に、襲われたりしなかったの?」

気弱そうな茶髪の少女の名は不二咲千尋。
オレがいうのも変な話だが、一見すると小学生に見間違うほど小柄である。
“超高校級のプログラマー”であり、様々な革新的プログラムを作る、文字通りの天才少女だ。
なんでも科学雑誌によれば、今は人工知能、いわゆるAIの開発を進めているとか。
それだけの才能があるなら、もっとどっしりと構えてもいいと思うんだけど、それも個性だ。

「その時はまぁ…その場にあるものを蹴ったりしてなんとか…」

桑田「蹴るって…サッカー選手じゃねぇんだから…」

冷静なツッコミをしたのは桑田怜恩…
“超高校級のチャラ男”、じゃなくて“超高校級の野球選手”だ。
アクセサリや髪型…見た目からしてチャラそうな奴だが、実際チャラいようで、女の子が大好きだとか。
しかし、才能は本物らしく、全く練習せずとも母校を甲子園優勝に導いたという伝説がある。

大神「見た目によらず、なかなかできるようだな。…いつか我と、手合わせ願いたい」

そう口を開いたのは、見るからに人間離れした姿をした女子高生、大神さくら。
まるで某格闘ゲームから飛び出してきたかのような、筋骨隆々の容姿は“超高校級の格闘家”を象徴している。
厳つい見た目だが、セーラー服を着ており、れっきとした女性だ。
アメリカの総合格闘技大会でチャンピオンになり、未だに無敗の経歴を持つ。

「あ、あはは…」

さすがに大神相手だと、ただじゃ済まないな…

舞園「さすがに大神さん相手だと、ただじゃ済まないですよ」

「!?」

一瞬、思考を読まれたのかと思い、驚きを隠せなかった。
オレが考えていたことと全く同じことを口にしたのは、舞園さやかだ。
国民的アイドルグループのセンターマイクを務める彼女は、“超高校級のアイドル”。
黒髪ロングで清楚な出で立ちの彼女には熱狂的ファンが数多くいるらしい。
実際直接こうして見てみると、江ノ島とは違った意味でオーラがあり、見るものを魅了する。

セレス「さて、これで自己紹介は全員終わりましたわね」

大和田に怯みもせず、自己紹介を提案したゴスロリ姿の彼女は、セレスティア・ルーデンベルク。
“超高校級のギャンブラー”であり、それ以外の経歴や本名は謎に包まれている。
ギャンブルで数多くの対戦相手を破産させ、破滅に導いたという噂もあるが…
どこかこの世界からはかけ離れた容姿で、まるで絵本に出てくるお姫様のようだ。
流暢な日本語を話すし、生粋の日本人だとは思うが、それについてツッコミを入れるのは勇気が要るな…

十神「なら、そろそろ本題に入るぞ。仲良く“はじめまして”ばかり、やっている場合でもないんだ…」

腕を組んだ十神が、やや苛立った声でそう言った。

「さっきも言ってたけど、それってどういうこと?」

舞園「えっと…それがですね…」

全員が口々に、自分の遭遇したこの奇妙な体験を語っていく。
…どうやら話をまとめると、ここにいる全員が、オレと同じようにこの学園に足を踏み入れた瞬間、
気を失って、目が覚めたら教室の中にいたらしい。

問題はそれだけではない。
教室や廊下の窓、至る所に鉄板が打ち付けられていた。
おまけにそれぞれの鞄や携帯電話、PDA等身につけていた荷物がどこにもない。
この玄関ホールだってそうだ。
入口が、妙な鉄の塊で塞がれてしまっている。まるでそう…銀行の金庫のような扉。
石丸が言うには、入ってきた時には…あんな物はなかったらしい。

入口は現住にロックされ、窓一つ開いておらず、しかも携帯電話なども奪われてしまった。
この状況が指し示す事実は…もしかして…
最悪の事態を想像した時、青ざめた江ノ島がそれを口にする。

江ノ島「もしかして… 犯罪チックな事に巻き込まれたんじゃ…?」

――誘拐。拉致監禁。嫌な予感がする。

「その可能性は高いと思う。一人だけならまだしも、ここにいる全員が同じ状況…明らかに異常だ」

オレの言葉に、全員に衝撃が走る。
しかし、反論する者もいた。葉隠だ。

葉隠「まぁまぁ…どうせ、学園が企画したオリエンテーションかなんかだべ?」

不二咲「…そっかぁ。みんなを驚かせる為のドッキリイベントだね?」

前向きな葉隠の言葉に、何人かは賛同し、その場の緊張した空気が少しほぐれたかけたかに思えた。
だが…オレの嫌な予感は当たってしまった。
突然、“それ”は始まった。

訂正

×入口は現住にロックされ、窓一つ開いておらず、しかも携帯電話なども奪われてしまった。

○入口は厳重にロックされ、窓一つ開いておらず、しかも携帯電話なども奪われてしまった。

「キーン、コーン… カーン、コーン…」

気の抜けた、チャイムの音。
学生生活の中で何度も耳にした、馴染み深いはずのその音が、
今は何かとても恐ろしいものの前兆に思えたのはオレだけではなかったはずだ。
そして、チャイムの音が鳴りやんだ矢先。“そいつ”はオレ達の前に姿を現した。

??「あー、あー…! マイクテスッ、マイクテスッ! 校内放送、校内放送…!」

声がしたのは、壁に備え付けられた液晶からだ。
一瞬画面ノイズが走ったかと思えば、次の瞬間には何かのシルエットがそこには映し出されていた。
どうやら声の主はそいつらしい。

??「大丈夫? 聞こえてるよね? えーっ、ではでは…」

それは緊迫したこの場にふさわしくないほど、能天気で明るい声…
それゆえに… オレは、その声に強烈な違和感と不快感を覚えた。
まるで、この状況を楽しんでいるかのような、不快感。

??「えー、新入生のみなさん… 今から、入学式を執り行いたいと思いますので…」

オレ達全員が、その場から動けず、何も話せず、画面の方を凝視している。

??「至急、体育館までお集まりくださ~い …って事で、ヨロシク!」

そう言い終えると、声は止み、静寂だけが残された。

…やがて現実に引き戻された者が、疑問の声を口にする。

江ノ島「なに…? なんなの、今の…?」

わけがわからない。あっけに取られるというのは、こういう事を言うのだろう。
…だが、「入学式」と声の主は言っていた。
葉隠が言ったように、希望ヶ峰学園側が用意した、オリエンテーションの一環なのか?
だとしたら手が混みすぎているような気もするが…

思考を巡らせていると、俺は先に行くぞ、と十神が歩いていった。
それに釣られるように、一人、一人とこの場から去っていく。
一方でオレはまだ、そこから動けずにいた。
さっきからする“嫌な予感”…探偵としての勘が、アラーム音のように警告をやめない。
もしかしたら、何か罠があるかもしれない。
同じ考えの人間もいるようだった。

舞園「本当に…大丈夫なんですかね…?」

江ノ島「今の校内放送にしたって、妙に怪しかったしね…」

漠然とした、不安。
今の状況を一言で言い表すならそれが最もふさわしいだろうか。
それも普通の高校生達が抱くような、新学期への不安なんて生ぬるいものじゃない。
戸惑うばかりの二人に霧切が声をかけた。

霧切「でも、ここに残っていたとしても、危険から逃げられる訳じゃない…」

霧切「それに、あなた達だって気になるでしょ? 今、自分達の身に何が起きているのか…」

その言葉に大神も呼応する。

大神「先に進まぬ限りは何もわからぬままという事か… ならば、行くしかあるまい」

確かに大神の言うとおりだ。
不安も警戒心も消える事はないが、ここは行くしかない。
そう意を決して、オレ達も体育館へと向かった。

■ □

体育館の入口には既に他の連中が到着していた。
それぞれが、希望ヶ峰学園に対する不信感を口にしている。
大和田は鑑別所より辛気臭い場所だ、と言い、
舞園は自分達以外の生徒が誰もいない事に疑問を感じている。
そんな皆を、石丸は風紀委員らしく諭し落ち着かせようと努力するが、手応えはなさそうだった。

やがてしびれを切らした大和田が一番槍に立つ。

大和田「チッ、別にビビってる訳じゃねーんだ… 行ってやろうじゃねえか…!」

大和田「オラァ! 俺様を呼び出しやがったのは、どこのどいつだぁ!!」

大きな音を立てて体育館の扉を開き、勢いよく駆けていく。

石丸「おい、大和田くんッ! 校内を走ってはいけないぞ!」

大和田を追うように石丸も続く。
二人が先陣を切ったおかげか、大神や山田、他の者たちも次々に館内へと入っていく。

一方で霧切はまだ入口にいた。
他と違って、彼女は妙に落ち着いているようにも見える。
無言で表情も涼しげなままだから、単に感情を表に出さないタイプなのかもしれないが。
そんな事を考えていると、彼女は向こうから話しかけてきた。

霧切「ねえ、江戸川君…?」

「…何だ?」

霧切「あなたはどう思う? …この状況を」

「そうだな…。オレには葉隠のような楽観視はできない。オレ達の置かれているこの状況は、明らかに異質で異常だ」

「が、さっきお前が言ったように、じっとしていている事が正解ってわけでもないと思う」

「…気に食わねーけど、今はさっきの放送の奴に従っておくのが無難だろうな。今のところは、危害を加えてくる様子もないし」

そう考えを述べると、

霧切「そう… 江戸川君は冷静ね。さすがは“超高校級の探偵”」

褒められると、少し照れ臭くなる。

「お前だって冷静じゃないか。他の誰よりも」

霧切「そうかしら? …単に感情を表に出さないだけよ」

それを冷静と言うんじゃないか? と思ったものの口には出さなかった。

霧切「それじゃ、行きましょう」

「ああ」

そうしてオレ達も、体育館の扉をくぐった。

■ □

体育館内は、意外な事に一見ただの「入学式」といった様相だった。
屏風や校旗、赤絨毯にパイプ椅子…見慣れた品々が見慣れたように設置されていた。

葉隠「ほら、俺の言った通りだべ? 実際のトコ“普通”の入学式じゃねーか」

と、得意顔で葉隠が言った直後だった。
オレ達が“普通じゃない”光景を目の当たりにする事になるのは…

??「オーイ、全員集まった~!? それじゃあ、そろそろ始めよっか!!」

先程の放送と同じ、底抜けに明るい、違和感しかない声。
声がしたのははるか前方の壇上、“普通”の入学式では校長や来賓が立って長ったらしい話をする場所だ。
全員の視線がそこに集中するやいなや、“そいつ”は唐突に、下から現れた。

(ボヨヨヨーン)

もしここがゲームや漫画の世界だったら、そんな間抜けなオノマトペがお似合いな登場。

――それは、せいぜい子どもくらいの背丈しかないヌイグルミのようだった。

不二咲「え…? ヌイグルミ…?」

デベソでやや膨らみのある腹、右半身が白、左半身が黒でカラーリングされ、
体の中央が境界線となってその白と黒が縦一文字に別れている以外は、普通のヌイグルミだった。
猫にしては体格ががっしりしすぎているし、狸型のヌイグルミだろうか?
そして、さも当然のようにそいつは…人の言葉を話した。

??「ヌイグルミじゃないよ! ボクはモノクマだよ!」

モノクマ「キミたちの…この学園の…学園長なのだッ!!」

全員の視線がモノクマ、と名乗った訳のわからない物体に釘付けとなった。
それは場違いなほど明るい声…
それは場違いなほど能天気な振る舞い…
オレが抱いていた不快感は、いつの間にか、言いようのない恐怖へと変わっていた。

人語を話すヌイグルミが、この学園の学園長?
あまりに現実離れした出来事に、誰もが言葉を失う。
やがて冷静さを欠いた山田が、絶叫する。

山田「う…うわわわ…ヌイグルミが喋ったぁぁぁ!!」

それを石丸がなだめる。

石丸「落ち着くんだ…! ヌイグルミの中にスピーカーが仕込んであるだけだろう…!」

モノクマ「だからさぁ… ヌイグルミじゃなくて…」

モノクマ「モノクマなんですけど! しかも、学園長なんですけど!」

モノクマ、と名乗ったどうみてもヌイグルミにしか見えないそいつは、
両腕を上げ、顔を強ばらせて怒りをあらわにした。

やはり山田が驚愕の悲鳴を上げる。

山田「うわぁぁぁぁ! 動いたぁぁぁ!!」

今度はそれを大和田がなだめる。

大和田「落ち着けっつってんだろ! ラジコンかなんかだ…」

最近のラジコンは表情まであるのか、と感心している場合ではない。

モノクマ「ラジコンなんて子供のおもちゃと一緒にしないで。深く深く…マリアナ海溝より深く傷つくよ…」

今度は落ち込んで見せた。何なんだこいつは一体…!?

モノクマ「ボクには、NASAも真っ青の遠隔操作システムが搭載されてて…」

モノクマ「…って、夢をデストロイするような発言をさせないで欲しいクマー!!」

自慢するかと思えばノリツッコミ。しかも語尾がクマだなんて、時代錯誤すぎるキャラ付けだ。
そのハイテンションな情緒不安定さにツッコミが追いつかない。

モノクマ「じゃあ、進行もおしてるんで、さっさと始めちゃうナリよ!」

江ノ島「キャラがブレてない…?」

言うまでもなく、ブレブレだ。
しかし江ノ島のツッコミには脇目もくれず、モノクマは続ける。

モノクマ「ご静粛にご静粛に… えー、ではではっ!」

大神「…諦めたな」

モノクマ「起立、礼! オマエラ、おはようございます!」

石丸「おはようございますっ!!」

さすがは超高校級の風紀委員、自称とはいえ学園長を名乗る相手には礼儀正しい。

腐川「言わなくて…いいわよ…」

モノクマ「では、これより記念すべき入学式を執り行いたいと思います!」

モノクマ「まず最初に、これから始まるオマエラの学園生活について一言…」

モノクマ「えー、オマエラのような才能溢れる高校生は、“世界の希望”に他なりません!」

モノクマ「そんな素晴らしい希望を保護する為、オマエラには…“この学園内だけ”で、共同生活を送ってもらいます!」

モノクマ「みんな、仲良く秩序を守って暮らすようにね!」

どういう事だ? 確かに希望ヶ峰学園は、全国から生徒をスカウトしているから、下宿できるように学生寮があってもおかしくはない。
だが、“この学園内だけ”で…? 外に出てはいけないというのか?

モノクマ「えー、そしてですね… その共同生活の期限についてなんですが…」

モノクマ「期限はありません!」

モノクマ「つまり、一生ここで暮らしていくのです! それがオマエラに課せられた学園生活なのです!」

腐川「何て…言ったの? 一生ここで…?」

モノクマ「あぁ…心配しなくても大丈夫だよ。予算は豊富だから、オマエラに不自由はさせないし!」

そういう問題じゃなくてだな…

舞園「そ、そういう心配じゃなくて…!」

江ノ島「つーか、何言ってんの…? ここで一生暮らすとか… ウソ…でしょ?」

冗談にしては手が混みすぎているが、冗談であって欲しかった。
だがモノクマはそんな淡い希望すら破壊する。

モノクマ「ボクはウソつきじゃない! その自信がボクにはある!」

モノクマ「あ、ついでに言っておくけど…外の世界とは完全にシャットアウトされてますから!」

モノクマ「だから、汚れた外の世界の心配なんて、もう必要ないからねっ!!」

「シャットアウトって… じゃあ、教室や廊下にあったあの鉄板は…!」

最初にいた教室や廊下で見かけた、鉄板で厳重に封鎖された窓が脳裏に浮かぶ。

「オレ達を閉じ込めるための?」

モノクマ「そうなんだ。だから、いくら叫んだところで、助けなんて来ないんだよ」

モノクマ「そういう訳で…オマエラは思う存分、この学園内だけで生活してくださーいっ!」

誰もが耳を疑った。わけのわからない物体が飛び出してきたと思えば、今度はそのわけのわからない物体がこの学園の学園長で、しかも一生ここで暮らせ、だと?

桑田「おいおい… 希望ヶ峰学園が用意したにしては、いくらなんでも悪ふざけが過ぎるんじゃ…」

大和田「テ、テメェ…大概にしろよ、コラ… それ以上は冗談じゃすまさねぇぞ…」

拳をわなわな震わせながら、大和田が必死に怒りを制している。一歩間違えば超高校級のパンチがモノクマへと振るわれそうな剣幕だ。
だがそんな大和田の尖った神経を逆撫でするかのように、モノクマはマイペースに言葉を発する。

モノクマ「さっきからウソだの…冗談だのって… 疑い深いんだからっ…」

モノクマ「でも、それもしょうがないかぁ。隣人を疑わなきゃ生き抜けないご時世だもんね」

モノクマ「まぁ、ボクの言葉が本当かどうかは、後でオマエラ自身が確かめてみればいいよ」

モノクマ「そうすれば、すぐにわかるから。ボクの言葉が、純度100%の真実だって事がさ!」

セレス「そんな…困りますわ…こんな学校でずっと暮らすなんて…」

セレスの言葉はもっともだ。オレ達の誰もが、一生この学園で暮らすなんて嫌に決まってる。

モノクマ「おやおや…オマエラもおかしな人達だねぇ…」

モノクマ「自らすすんでこの学園にやってきたはずなのに、入学式の途中で帰りたいとか言い出すなんてさぁ……」

モノクマ「まぁ、だけど… ぶっちゃけた話、ない訳じゃないよ。ここから出られる方法…」

その言葉に、全員が反応する。
だが、ここまでの事をしたヤツが、簡単にオレ達を帰すとは、どうしても思えなかった。

腐川「ほ、本当…?」

モノクマ「学園長であるボクは、学園から出たい人の為に、ある特別ルールを設けたのですっ!」

モノクマ「それが『卒業』というルール!!」

モノクマ「では、この特別ルールについて、説明していきましょーう」

『卒業』……聞こえは良いが、それは最低最悪のルールだった。
外に出たければ、他の誰にも知られずに、生徒のうちの一人を殺害する。
誰かを殺した生徒…『クロ』だけが『卒業』し、外に出られる――
こんなふざけたルール、あってたまるか!!

十神や霧切を除いた他の連中の顔が、血を抜かれたかのように青ざめる。
一方でオレは猛烈な熱気が体中を駆け巡り、血液が脳内に集中した。

「ふ、ふざけるな! 人の命をなんだと思ってるんだ!」

だがモノクマは怒りに震えるオレを無視し、殺人を煽る言葉をやめない。

モノクマ「うぷぷ…こんな脳汁ほとばしるドキドキ感は、鮭や人間を襲う程度じゃ得られませんな…」

モノクマ「さっきも言った通り、オマエラは言わば“世界の希望”な訳だけど…」

モノクマ「そんな“希望”同士が殺し合う、“絶望”的シチュエーションなんて…ドキドキする~!」

桑田「な、何言ってんだっつーの!? 殺し合うって……なんなんだよ…」

モノクマ「コロシアイはコロシアイだよ。ほら、辞書ならそこらに…」

朝日奈「意味なら知ってるって! そうじゃなくって、どうして私達が殺しあわなきゃいけないの!?」

山田「そうだ、そうだ! ふざけた事ばっかり言うな! さっさと家に帰せー!!」

モノクマ「…ばっかり? ばっかりってなんだよ、ばっかりって…ばっかりなんて言い草ばっかりするなっての!」

モノクマ「いいかい? これからは、この学園が、オマエラの家であり世界なんだよ? 殺りたい放題、殺らして殺るから、殺って殺って殺って殺りまくっちゃえっつーの!!」

大和田「殺し合いをしろだぁ? テメーの悪ふざけは度がすぎんぞッ!!」

モノクマ「悪ふざけ? それってキミの髪型の事?」

大和田「ンだとコラァ!!?」

逆鱗に触れたモノクマを大和田が掴み、持ち上げる。
力ずくでもここから出るつもりか。

大和田「ラジコンだかヌイグルミだか知らねーがバッキバキに捻り潰してやんよ!!」

モノクマ「うわぁー! 学園長への暴力は、校則違反だよぉ~!」

そう言うとモノクマの左目、傷のような形状をした赤く鋭い目が――おそらくは内部にあるランプが点灯する。
アラームのような機械音も鳴り、ランプは点滅を始める。
まさか…これは…!?

「今すぐそれを遠くに投げろッ!!」

霧切「危ない、投げて…ッ!」

オレと霧切がそう指示したのはほぼ同時だった。
機械音とランプの点滅の間隔が短くなっていく。

大和田「あ…?」

「「いいから早く…ッ!」」

オレと霧切の言葉に気圧されたのか、大和田は言われるままに、モノクマを放り投げた。
と、次の瞬間…!!

爆音。

モノクマだったそのヌイグルミは…周囲を1メートルを巻き込んで粉微塵に爆散した。
もしとっさに大和田が投げ捨てなければ、確実にその自爆に巻き込まれていたに違いない。

大和田「しゃ、洒落んなってねーぞ… ば、爆発…しやがった…」

痛みを伴う激しい耳鳴り… むせ返る火薬の匂い…
オレ以外の誰もがおそらくは一度も経験したことのない、爆発という感覚。

不二咲「でも、爆発したって事は… あのヌイグルミ…死んじゃったの…?」

モノクマ「ヌイグルミじゃなくてモノクマ!」

いけしゃあしゃあと、先程あらわれた場所からモノクマは再びあらわれた。
どうやらスペアがあるらしい。

モノクマ「今のは警告だけで許すけど、校則違反者を発見した場合、今みたいなグレートな体罰を発動しちゃうからねっ!」

モノクマ「うぷぷ…次からは外さないから…そうならないように気をつけてね!」

モノクマ「じゃあ…最後に、入学祝いとして、オマエラにこれを渡しておきましょう」

そう言うとモノクマは、オレ達一人ひとりに生徒手帳を手渡していき、

モノクマ「電子化されたこの学園の生徒手帳、その名も…なんとっ!!電子生徒手帳!!」

モノクマ「電子生徒手帳は学園生活に欠かす事の出来ない必需品だから、絶対なくさないようにね!!」

モノクマ「それと、起動時に自分の本名が表示されるから、ちゃんと確認しておいてね」

そう説明を終えると、モノクマは出てきた場所から消えていった。
…後に残されたのは、唖然とするオレ達。
置かれた状況は、想像を遥かに超えていた。

そして次に押し寄せるのはパニックだ。
桑田や、腐川、石丸、山田がしきりに叫びとも独り言ともとれない言葉を発する。

「みんな…落ち着けよ…」

霧切「とりあえず、今の話をもう一度まとめてみましょう」

この状況でそんな事を提案できるとは、やはり霧切は冷静だ。

霧切「あのモノクマとやらの発言によると、私達には“2つの選択肢”が与えられた事になる」

霧切「1つは、みんなと共に、この学園内で“期限のない共同生活”を送るか…」

「…もう1つは、生きて出る為に、“仲間の誰かを殺す”だったな…」

不二咲「こ、殺すなんて…そんな……」

「本気にしちゃダメだ。あんなヤツの言うことなんか、ウソに決まってる。真に受ける必要はどこにもないんだ」

十神「本当かウソかが問題なのではない。問題となるのは…」

十神「この中に、その話を本気にするヤツがいるかどうかだ…」

「くっ…」

その言葉に、オレ達は再び押し黙った。
押し黙ったまま…互いの顔を見回していた。
互いの胸の内を探ろうとする視線からは、薄っすらとして敵意まで感じ取れた。
そして、そこでオレはモノクマが提示したルールの本当の恐ろしさを知ったんだ。

『誰かを殺した生徒だけがここから出られる…』

その言葉は、オレ達の思考の奥深くに、“恐ろしい考え”を植え付けていた。
『誰かが裏切るのでは?』という疑心暗鬼を…

だが…

「そんな事は、オレがさせない!」

全員の視線が集中する。
どんな目を向けられたって、怯むものか。

「…探偵の目の前で、みすみす事件を起こさせてたまるか!」

そうだ、オレは今まで散々見てきたじゃないか。
目の前で行われた悲惨な犯行の数々、そしてその犯人達の悲しき末路を。
オレが止めなければならないんだ!

「オレがいる限り、絶対にコロシアイなんて起こさせない!」

「“超高校級の探偵”の、名にかけて…!」

その決意とも心の叫びともつかない声は、体育館中に響き渡った。


こうして、オレの新たな学園生活は始まった。
でも、期待に胸をふくらませてやって来たこの学園は…
“希望の学園”なんかじゃなかった。
ここは…“絶望の学園”だったんだ。

prologue:ようこそ絶望学園 END

Chapter01:絶望ディテクティヴ (非)日常編

 □ ■


「オレがいる限り、コロシアイなんて起こさせない!」

重苦しい雰囲気――それを打ち破ったオレに続いて言葉を口にしたのは、霧切だった。

霧切「それで、これからどうする気? このままずっとにらめっこしてる気?」

彼女のトゲのある言葉は、その場の全員に向けられていた…
だが、そのトゲが…オレ達を現実へと引き戻した。

石丸「そうだな、確かにその通りだ!」

他の者も口々に賛同する。
気づけば、さっきまでの緊迫した雰囲気が嘘のように吹き飛んでいた。
天才や芸術家にありがちな、他人との協調性なんて持ち合わせていないような連中だと思っていたが、
今みたいな不測の事態でも自然とひとまとまりになれるのは、さすがは超高校級の才能の持ち主といった所か。
こうしてオレ達は、モノクマから与えられた電子生徒手帳の校則をチェックしてから、
脱出口や外部との連絡手段を求めて、全員で手分けして学園内を探索する事になった。

十神「…オレは一人で行くぞ」

前言撤回。一人を除いて、だ。


 □ ■

結局、後で食堂にて報告会を行い、知り得た情報を共有化するという石丸の案で十神も一応は納得した。
最初はそれすらも断ろうとしていた十神だったが、石丸の半ば強引な説得で渋々承諾したようだ。
こういう場合は、あいつの暑苦しいまでの真っ直ぐな性格が役に立つのだな、と感心する。

それぞれが良く言えば自由に、悪く言えば好き勝手に校内を探索している。
オレはといえば、どうにかして外と連絡が取れないか、と通信手段を探して視聴覚室にいた。

山田「調査の方はどうですかな? 江戸川コナン殿」

たまたま同じ部屋を調べていた山田が、話しかけてくる。

「ダメだ。ないとは思っていたが、電話や無線どころか、パソコンのような電子機器すら見当たらない」

視聴覚室には、DVDを再生するためのデッキとモニターが設置されていたが、あくまでも再生専用らしく、他の用途には使えそうにもない。

山田「ウーム…困りましたな。まだまだ最終回まで見ていないアニメや漫画が山ほどあったというのに……」

“入学式”の際、おそらくは一番取り乱していた山田だったが、今はそんな事を心配できるほど落ち着きを取り戻している。

山田「それにして、江戸川コナン殿。…先程は痺れましたぞ!」

「痺れた?」

山田「そこに痺れる憧れるゥ!…ってヤツですな! 疑心暗鬼になっていた我々を、奮い立たせるあの一喝! まさにラノベや漫画の主人公のようでしたぞ!」

それは褒めているのか貶しているのか判断に困る喩えだったが、山田としては褒めているのだろう。少し照れくさくなる。

「あの時は、夢中で…」

山田「ここだけの話、恥ずかしながらボクは一瞬『卒業』したい、と思ってしまいました…… ですが、江戸川コナン殿の言葉で目が覚めました!」

意外だな。失礼かもしれないが、喧嘩すらしたことがなさそうなコイツが、そんな事を考えていたなんて。

山田「それに……」

「それに?」

山田「“超高校級の探偵”の目を欺けるほど、拙者の灰色の脳細胞は優れてはいないので…」

頭を掻きながら、山田は苦笑いしてみせる。釣られてオレも微笑を浮かべた。

「買いかぶりすぎだ、それは」

そうは言うものの、推理に関して自信がないと言えば嘘になる。
モノクマが寄越してきた電子生徒手帳――その中に記されている“校則”には、「自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません」とあった。
つまり外に出たければ、他のみんなやオレを出し抜き、完全犯罪をする必要がある。
曲がりにも“超高校級の探偵”と評されたオレの目から逃れるのは客観的に見ても難しい。
そういう意味では、オレの存在やさっきの宣言は、抑止力として効果があったかもしれない。

山田「…だからこそ気をつけてくだされ! 疑いたくはありませんが…」

右手で眼鏡をずらしながら、彼はいつになく真剣な眼差しでこちらを見ていた。
普段のおちゃらけた感じからは想像できない声だ。

山田「もし仮にですぞ? もし仮に誰かが『卒業』したいと思った場合、一番狙われるのは江戸川コナン殿…ズバリ君ですぞ!」

「…ッ!」

キレのない体から出た、キレのある指摘だ。
強がるわけじゃないが、言葉を返す。

「そんな事はないと思いたいし、そんな事は絶対にオレがさせないさ」

ただ、山田の言う事にも一理ある。
好奇心旺盛な探偵が犠牲者になるというのは、クローズドサークル系の推理小説では語り尽くされた話だ。
「クロ」からしてみれば、一回の殺人で外に出るために必要な「他人の殺害」と、「厄介な探偵の排除」を同時に実行できる。
加えてオレは今、小学生の体だ。力ずくで何かされそうになったら、抵抗できない。
そんな事を考えた途端、背筋が少し寒くなる。

「でも気をつけるよ。ありがとな」

山田「いえいえ… 願わくは、江戸川コナン殿の活躍の場がない事、ですな」

「…それに賛成だ」

こうしてオレ達は、視聴覚室の調査を終えた。
収穫は… 山田と少し仲良くなった事くらいか。


 □ ■

山田と別れたオレは、寄宿舎にある自分の部屋に来ていた。
モノクマが気を利かせたのか、部屋のネームプレートは「エドガワ」になっている。
そういえば、電子生徒手帳の起動時も、「江戸川コナン」と表示される。
ここではオレは、自分の正体について心配する必要はなさそうだ。

一応部屋を一通り調べてみたが、当然出口やそれに繋がる手がかりはなかった。
強いて気になる点を挙げれば、机の引き出しの中にあった「工具セット」くらいか。

「こんなもの、何に使うんだ…?」

モノクマ「そりゃあ勿論、あんなコトやこんなコトに…うぷぷぷぷぷ」

誰もいないはずの方向から、ついさっき聞いたばかりの底抜けに明るい声がかけられた。

モノクマ「やあやあ江戸川クン、探索は進んでるかい?」

気がつけば背後にモノクマが立ち、にししと不快な笑みを浮かべていた。
どういう仕組みかは解らないが、どこにでも現れるようだ。
見かけはヌイグルミだが、相変わらず表情豊かで、まるで生きているようだ。
先程の爆発を思い出し、体がこわばる。

モノクマ「ああ、心配しなくても何もしないよ!」

モノクマ「ボクは熊一倍ルールにはうるさいからねぇ… キミ達が“校則”を破ったりしない限りは、身の安全を保証するから安心してよ!」

「こんな所に閉じ込めておいて、安心しろもクソもないだろ! オレ達を監禁して、お前の目的は一体何なんだ?」

“入学式”のこいつの話を本気と捉えるなら、営利目的の誘拐ではない。
自らは手を下さず、オレ達にコロシアイを強要させる…ゲーム感覚の愉快犯か?
だとしたら交渉が通じるような相手ではない。だがせめて、目的くらいは聞き出すべきだ。

モノクマ「目的? 目的なんてないよ」

「は?」

モノクマ「目的とか意味とかさぁ… そんなことばっかり考えてると頭の硬いつまんない大人になっちゃうよ?」

モノクマ「でもまぁ、オマエラにして欲しい事ならあるよ?」

「して欲しい事だと?」

それは、不快なほど場違いで明るい声だった。
にもかかわらず、凍りつくほどに冷たく暗い声。

モノクマ「“絶望”」

本当にこの世の全てに絶望しきったような、そんな声だ。
傷のような左目が鋭く赤く、獲物を見据えて光った錯覚すらした。

モノクマ「ボクはね、キミ達のような“希望”溢れる才能の持ち主達が、“絶望”する姿が見たいだけなんだよ」

「何だよ、それ…」

モノクマ「うぷぷぷぷぷぷぷ、江戸川クンには解らないよねぇ… でもこれから、嫌というほど解らせてやるよ」

モノクマ「アッハッハッハッハッハッハ」

そう一方的に吐き捨てると、高笑いしながらモノクマは消えていった。

「クソッ、何なんだよ…!」

オレ達を“絶望”させるだと…そんな事、絶対にさせない。
やり場のない感情に、地団駄を踏み、忌々しげに監視カメラの方を睨みつけた。

 □ ■


他に調べる事もないので、オレは部屋を後にした。
まだ少し時間があるが、皆で集まる為に食堂へ向かう。

…本音を言えば、落ち着かなかった。
モノクマの言葉が釣り糸のように絡み、自室でじっとしていられなかったんだ。

誰もいないと思っていたが、意外にも先客がいた。

舞園「あ、江戸川君…」

彼女は、食堂の椅子に座りうつむいていた。
超高校級のアイドルらしくない姿だが、こんな状況だ。気が滅入るのも仕方ない。

「横、いいか?」

舞園「ええ…いいですよ」

オレの存在に気付いてからは、心なしか表情が穏やかになったが、無理をしているようにも感じる。

舞園「どうも落ち着かなくて…」

「オレもだ」

舞園「あの…もし江戸川君がよかったらでいいんですけど、少し話しませんか?」

オレは快く承諾し、少しの間、10分か20分くらいだったか、舞園と話をした。
舞園の夢、希望、仲間――
“外”の世界に置いてきてしまった大切なものの話だった。
その為に今まで、舞園はどんな事でもしてきたという。たとえ汚い事でも。
か弱そうに見えて、芯の部分では彼女は強い… だが、どこか危なげな儚さもある。

そんな事を考えていると、集合時間になっていたらしく、石丸がやってきた。
間を置かず、次々と他の連中も集まってくるが、霧切だけが来ていない。
まさか…いや、あの霧切に限ってそんな事はありえない。
ただの遅刻だろうと石丸が結論付け、定例報告会が始まった。

皆の調査結果をまとめるとこうだ。
1人1部屋、寄宿舎に部屋が用意されている。
食料はこの食堂の奥に厨房があり、そこに食材が補充されるそうだ。
洗濯するためのランドリーも完備されているし、備品庫には大抵の生活雑貨が揃っている。
衣食住、ここで生活していくのに必要な最低限のものは準備されている。
だが、やはり外部への連絡手段や脱出口は存在しない。
学校と寄宿舎の廊下には、2階へと続く階段が存在したが、シャッターが降りており先へは進めない。
窓や扉の破壊を試みたが、“超高校級の格闘家”である大神の拳ですら、ビクともしない。

そうこうしている内に、霧切がやって来た。
どこへ行っていたんだと問い詰める石丸を無視して、彼女はどこから手に入れてきたのか、この建物の見取り図を取り出した。
曰く、ここは妙な改築が入っているものの、基本的には希望ヶ峰学園と同じ構造らしい。
オレ達は他の場所に連れ去られた訳ではないとわかったものの、今度は別の疑問が浮かび上がる。

ここが希望ヶ峰学園であるなら、どうしてオレ達の他に生徒が誰もいないのか。
そもそも、“希望”溢れる才能を育てる超特権的な学校が、何故オレ達を監禁するのか。
そしてモノクマ…操っているのは一体何者なのか。

十神「結局、謎が深まるばかりで何の成果も得られなかったわけか…」

セレス「あら、調査したおかげで判明したじゃないですか」

セレス「逃げ場のない密室に閉じ込められたというのが、紛れもない事実だという事が…」

セレス以外「ッ!!」

言葉という形を得てあらためて、その事実が全員に重くのしかかってくる。
オレ達はその言葉に、押し黙るしかなかった。

腐川「言わないでよ… 忘れようとしてたのに…」

頭を抱えた腐川が、今にも取り乱しそうになっている。

腐川「出口もない所に…閉じ込められて… ど、どうすればいいの……」

それを鼻で笑ったのは、十神白夜だ。

十神「簡単な事だ。ここから出たければ殺せばいい…」

江ノ島「冗談でもやめろって!!」

「江ノ島の言う通りだ、そんな事はオレがさせない!」

十神「では全員を不眠不休で見張ってみるか? そもそも、小さい体のお前が犯行を未然に阻止できるとは思えないがな」

「くっ…」

反論できない。オレ一人で全員を監視するなんて、とてもじゃないが不可能だ。
不可能だと解ってて十神はそう言ってきたのだ。
険悪なムードに、舞園が仲裁に入る。

舞園「みなさん落ち着いてください…!」

舞園「もっと冷静に… これからどうすべきか考えましょうよ…」

桑田「なんか…いい方法ねーのかよ…」

セレス「“適応”ですわ… ここでの生活に適応すればいいのです」

不二咲「それって、ここで暮らす事を受け入れろって事?」

セレス「適応力の欠如は…生命力の欠如…」

セレス「生き残るものは、強い者でも賢い者でもありません。変化を遂げられる者だけなのですよ」

十神とは別の意味で、他者を威圧する彼女の力強い主張に、また全員が閉口する。
完全に彼女のペースだった。

セレス「…それを踏まえた上で、わたくしから、みなさんに提案があるのです」

その提案は、校則にある夜時間、つまり夜10時から朝7時までの間、外出を禁じるというものだった。
無論モノクマが作ったルールのような強制力はないが、全員がこれを守れば、確かに少しは安心して眠れるかもしれない。
特に反対する理由もないため、協力を惜しまない者の方が多そうだ。

そのルールを提案すると、セレスは部屋へと帰っていった。
夜時間になると、シャワーが出ないから、だそうだ。
確かに、女子にとってそれは死活問題になりかねないな。
優雅に歩く彼女の後ろ姿は、隙を見せず、まるでここにいるのが当然だと言わんばかりにしっかりとした足取りだった。
これが、「適応」というやつなのか。

欠員が出たため、石丸も今日の会議はこれくらいにしておこうと閉会を宣言した。
明日以降については、今日と同様に調査し、何か発見があれば皆に知らせるという事でまとまった。
セレスに続くように皆が重い足取りで食堂を後にしていく。

オレも自分の部屋へと戻り、そのままベッドに横たわった。
今日は色々な事が起きすぎて、考えすらまとまらず、未だに混乱しているといってもいい。
だが、体は眠りを求めており、気がつけば意識は霧散していた。

「キーン、コーン… カーン、コーン」

『えー、校内放送でーす。午後10時になりました。』

『ただいまより、“夜時間”になります』

『間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま~す』

『ではでは、いい夢を。おやすみなさい…』


 ■ □

――モノクマげきじょう――


適応力ってなんだろうね?
21世紀の変な光線を浴びたら身に付くのかな?
それとも、自分のタイプと同じタイプなら2倍になるのかな?
タイプってなんだよ… タイプって…
もしボクにタイプがあるなら、「あく」と「フェアリー」かな?
…版権的にアウトだよ。ギリギリアウトのゲッツーだよ!

ボクはね、思うんだ。
セレスティアなんとかさんのいう「適応力」って、
結局は自分を騙す事なんじゃないかな、って。

適応するって簡単に言うけど、簡単な事じゃないよね!
ましてや初めて会ったばかりの男女15人で、コロシアイを強要された監禁生活なんて!
えっ? お前がそれを言うのかって?
まぁその話は置いておいて、棚の山にでも置いておいて。

そんなワックワクドッキドキの異常事態、簡単に受け入れられる方がどうかしてるんだよ。
だからこそ、受け入れるために自分に言い聞かせるんだ。

「自分は大丈夫」

「自分はこの場に適応してる」

そう自分に嘘をつくんだよ。暗示みたいなものだね。
そんな事したって、本当に受け入れられた訳じゃないから、いつかは限界が来るのにねぇ…
馬鹿な生き物だよね、人間って。ボクはクマで本当によかったよ!
まぁボクは、限界を迎えた人間の「絶望」が見られれば、それで大満足ウハウハなんだけどね!

モノクマげきじょうでした!


――閉幕――


 ■ □

今日はここまで。
事件まで行けなかった。

「ねぇ…」

暗闇の中で声がする。
女性の声だ。
それも、聞き覚えのある声。
勝気で、強くて、でも時々弱さも見せる…そんな声だ。

「新一?」

オレの名を、そいつは確かに呼んだ。
けれど、オレは何故か言葉が出ない。
目も開かず、暗闇のままだ。

…ああそうか、これは夢だ。
オレは夢を見ているんだ。
コロシアイだとか、モノクマだとか、どう考えたって現実離れしてる出来事ばかりだった。
これが夢なら、ありきたりで退屈なオチだけど、最高のオチに違いない。
目が覚めたら、何もかもが嘘で、退屈で平凡な毎日がまた戻ってくる。
そんなハッピーエンドでいいじゃないか。

「新一ってば…!」

聞こえてるよ。
オレは…ここにいる。
お前の事を知っている。

…知っている?
何を知っている?
オレは、お前の何を知っている?
誰だ…お前は…?
誰なんだ…!?

「新一! いい加減起きてよ!」

誰なんだ!! お前は!!

「ハァ…ハァ…」

息が荒くなっている事に気付く。鼓動も早い。
シーツもシャツも汗でびっしょり濡れ、肌に触れる感触が不快だ。
夢を見ていたのか…
どうやら気がついた時には眠ってしまっていたらしい。

「キーン、コーン… カーン、コーン」

チャイムの音が、オレを現実に引き戻す。
余韻が消えず部屋で響く中、部屋に設置されたモニターから、見たくもない“あいつ”の姿が映し出された。

『オマエラ、おはようございます!』

『朝です、7時になりました! 起床時間ですよ~!』

『さあて、今日も張り切っていきましょう!』

どうやら、朝らしい。窓がないので確かめようもないが…
アナウンスによってこの監禁生活が、紛れもない現実なのだと突きつけられる。

ドンドン、とうるさく部屋の扉を叩く音がする。
その音で、まだ寝ぼけ眼だったオレの意識は完全に覚醒した。

気だるい体を起こし、その間にもやかましく叩かれるドアに向かう。

「誰だ?」

石丸「僕だ!」

…超高校級の風紀委員は、朝から張り切っているようだった。
10分の1でいいから、その元気を分けて欲しい。

 □ ■


唐突にやってきた石丸が、唐突に提案したのは、朝食を全員でとる事だった。
わざわざ全員の部屋を回り、オレにしたのと同じように朝食会への参加を要請したらしい。
まだ眠っていた者もいたとは思うが、そんな事はお構いなしだ。

こうして半ば強制的に全員が食堂に集まり、朝食会が始まった。

石丸「よーし、みんな集まったな! では、さっそく朝食会を始めるとしようかッ!」

石丸「諸君、わざわざ集まってくれてありがとう!!」

桑田「断ったのに、オメーが無理矢理、連れて来たんじゃん…」

そんな桑田のぼやきにも似たツッコミを無視して、石丸が話を進める。

石丸「さっきも話したと思うが…ここから脱出する為には、僕らが一層互いに協力し合う事が必要不可欠だ!」

石丸「その第一歩として、仲間同士の信頼を築き上げる為の朝食会を開催する事と相成った!」

石丸「これからは、朝の起床を知らせる校内放送後、この食堂に集まるように、よろしく頼むぞ!!」

石丸「では、さっそく朝食を頂くとしようではないかッ!」

こうして、オレ達は食事をとり、まだぎこちないなりに会話を交わした。
名前と“超高校級の才能”くらいしかお互い知らないままよりは、こうやって親交を深めたほうが良いに決まってる。
多少強引なやり方ではあったものの、石丸のお陰で少しずつ全員がまとまっていく事ができそうだった。


だが、誰かが「調査に進展はあったか」という話題を出した途端、温まっていた空気が急速に冷めるのを感じた。
やがて、「ここでの生活に適応する」というセレスに賛同できない大和田や、その考え方自体を理解できないという江ノ島の間に険悪な雰囲気が起こる。
仲裁に入る者もいないと思われたが、意外にも桑田が話題を逸らした。

桑田「で…手掛かりは何もねーの?」

朝日奈「犯人はきっと異常で猟奇的なヤツだよ! でなきゃこんな事しないもん!」

桑田「いや、そんな感想的な事はどーでもいいから、実際のところ、手掛かりは…」

不二咲「あ…あのぉ…」

「どうした、不二咲? 何か思い当たる事でもあるのか?」

不二咲「異常で猟奇的な犯人って線から… 考えるとさぁ…」

不二咲「ひょっとして、犯人って… 【例の殺人鬼】だったりしないよね…?」

「例の殺人鬼?」

不二咲「うん… ひょっとしたらって程度なんだけど…」

不二咲「みんな…“ジェノサイダー翔”って知ってる?」

知らない名だった。しかし、意外な事にオレ以外の皆は知っていたらしく、なんでも猟奇的かつ残忍な手口で殺人を繰り返す、凶悪殺人鬼らしい。
現場には必ず被害者本人の血で“チミドロフィーバー”の血文字を残すという、まさしく異常犯罪者だ。
…どうしてオレだけが知らなかったんだ?
そんなに有名なヤツなら、絶対にテレビや新聞で名前くらいは聞いた事があるはずなのに。

大和田「そんな超ド級の変態殺人鬼なら… こんな事を仕組んだとしても不思議じゃねーってか…」

不二咲「でも、確証はないって言うか… ただの推論だけど…」

桑田「つーか、そんなヤツが犯人だとしたら… ものっそいクリミナルな問題じゃね?」

朝日奈「大丈夫だって! もう私達が監禁されてから結構時間も経ってるんだし、そろそろ警察も動き出す頃なんじゃない?」

確かにそうかもしれない。十人以上の高校生が、突然音信不通になるなんて、異常事態だ。
それが世間やマスコミも注目する“超高校級の才能”の持ち主であれば、尚更。
だが、そんな朝日奈の期待を嘲笑うかのように、いや、実際に嘲笑いながら、“あいつ”がやってきた。

モノクマ「…アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

モノクマ「警察だって…! 警察なんてあてにしてんの?」

モノクマ「あいつらは所詮引き立て役だよ。悪の組織や悪役やダークヒーローの」

モノクマ「そんな安直な役割しかない警察をあてにするなど、お約束と言えども、どうかと思いますぞ」

そう言ってのけると、モノクマは、黒くカラーリングされ凶悪な顔が描かれている左半身をオレ達に向ける。

モノクマ「…ていうかさぁ、そんなに出たいなら、殺しちゃえばいいじゃーん!」

「そんな手には乗らないぞ!」

モノクマ「それだよそれ…江戸川クンのせいでもあるんだよ! ボクの演説を頭のてっぺんから足の指先まで完全否定してくれちゃって…原稿考えるのも大変だったのに…ぶつぶつ」

「お前が何を言おうが、コロシアイなんて起こさせない…」

モノクマ「またまたカッコいい事言っちゃって…主人公キャラみたいな主人公キャラだね!」

モノクマ「そんな江戸川クンに対抗する為には、やっぱり悪役キャラみたいな悪役キャラが必要だよね!」

モノクマ「そこでボクは考えました! どうしたらゆとり世代のオマエラが、そこのメガネ坊やの言う事を信じず、コロシアイを始めてくれるかを…」

メガネ坊やだと。酷い言われようだ。

モノクマ「これだけミステリー要素が揃ってるのに、どうして殺人が起きないのかと思ったら…」

モノクマ「そっか、足りてないものが1つあったね!!」

「足りないものってなんだよ?」

モノクマ「ズバリ、“動機”だよ!」

モノクマが嬉しそうに右手でオレの方を指差す。指はないが。

モノクマ「うぷぷ、だったら簡単! ボクがみんなに“動機”を与えればいいだけだもんね!」

モノクマ「そういう訳で、“動機”を視聴覚室に用意させてもらいました!」

モノクマ「それもただの映像じゃないよ…? オマエラが知りたがっていた“学園の外の映像”でもあるんだ!」

「外の映像だと? 何の映像だそれは…?」

モノクマ「へへッ、そいつは見てのお楽しみじゃねーですかッ! そういう訳でまたなッ!」

そう言い残すと、ヤツはどこからともなく消えていった。
後に残されたのは、入学式の時と同じような、静まり返ったオレ達。

「視聴覚室か…」

…行ってみるしかなさそうだ。


 □ ■


『新一、見てるか?』

『新ちゃん、見てるー?』

『新一、見とるかのう?』

モノクマが、オレに寄越してきた“動機”…それは親しい人達の映像だった。
父さんと母さんと阿笠博士が写っていた。
場所は、見覚えのあるオレの家だ。
一見ただのビデオレターのようにも見えるが…嫌な予感がする。

『お前が希望ヶ峰学園に選ばれるとはな…いや、私の息子なのだから当然か…』

『もう、優作ったら素直に喜べばいいのに…』

『新一、しばらくは会えんかもしれんが、電話くらいは寄越すのじゃぞ!』

父さん達から、オレに向けた、ただのメッセージ…いや、それで終わるはずがない。

案の定、画面にノイズが走ったかと思うと、次に映し出されたのは阿鼻叫喚の図だった。

「な、なんだよこれ…」

予想はできていたものの、思わず声が漏れる。
父さん達がいた場所…つまりオレの家が、荒らされている。
荒らされているなんて生易しいものじゃない。
窓は全て割られ、家具は原型をとどめない程に破壊されている。まるで竜巻でも通り過ぎたかのような、酷い有様だった。
不幸中の幸いでもないが、父さん達が怪我をしている様子は映像にはなかった。

けれど、これは一体何なんだ…!?
父さん達は…無事なのか!?

そんな疑問に答えるかのように、“あいつ”の声がする。

『希望ヶ峰学園に入学した江戸川コナンクン…いや、工藤新一クン…』

『そんな彼を応援していたご家族やご近所のみなさん』

『どうやら…その大切な人達の身に何かあったようですね?』

『では、ここで問題です! 彼らの身に何があったのでしょうかっ!?』

“正解発表は『卒業』の後で!”

最後にそうテロップが映し出され、映像は黒くフェードアウトした。


「ど、どういう事だよ…」

いや、違う。これはただの捏造だ。父さん達に限って、こんな事があるはずがない。
そう言い聞かせるように、騒ぐ心を沈める。
モノクマは、オレ達をここに監禁したような奴だ。映像をでっち上げるなんて、造作もないはず。
…でも、もしこれが本当だったら?
そんな疑念をぬぐい去れず、オレはその場に立ち尽くした。

間髪入れずに、他の者達の悲鳴が聞こえる。
皆も内容こそ違えど、同じような映像を見せつけられたに違いない。

大和田「な、なんだよ…こりゃ…?」

朝日奈「こ、これ…本物じゃないよね…? 捏造…だよね?」

隠す事のできない恐怖、そして混乱。
だけど、そんな中でも、霧切だけは冷静なままだった。

霧切「なるほどね… これが、あいつの言っていた“動機”の意味…」

霧切「私達の“出たいという気持ち”を煽って、殺し合いをさせようとしているのね…」

セレス「囚人のジレンマ…ですわね」

今の状況は、セレスが言う通り、まさに囚人のジレンマだった。

山田「囚人の……ジレンマ?」

知らない者の為に、オレとセレスが説明をする。

ある所に共犯関係にある容疑者AとBがいて、それぞれ別の取調室に捕まっている。
二人共が黙っていれば懲役3年になる所なのだが、もし自白したら司法取引で懲役1年にしてやろうと検事から提案される。
自白すれば自分は1年だが、相手は10年は出られないだろう、そして、もし二人共が自白すれば二人共懲役6年だ、とも検事は言う。
この場合二人が選択すべき最適な解は、「二人共が黙秘する事」だ。
しかし、“もし相手が自分を売ったら?”という疑心暗鬼が生まれる。
そして、二人共が“裏切られて懲役10年になる位なら、自分から裏切った方がマシだ”と考えるようになり、
最終的には二人共が自白、二人仲良く6年の刑になる、という話だ。
二人共がお互いを信じていれば懲役3年で済んだにも関わらず、自分の利益を優先した結果、最悪の結果になってしまった。

今の状況はこれに酷似している。
均衡状態の最大の敵。それは見えない裏切りの恐怖だ。

全員がお互いを信頼し、何も起こさない事が、最適な答えのはずだ。
しかし、“もし誰かが『卒業』する為に他の誰かを殺そうとしているとしたら?”という疑心暗鬼がそれを邪魔する。
そして、“殺されるくらいなら、いっそ自分が”と、最悪の結果を招いてしまう。
モノクマはそうやって、オレ達にゆさぶりをかけてきているのだ。
現に、既に言い争いが始まってしまっていた。

石丸「だ、だが、変な考えを起こすんじゃないぞ。それこそ黒幕の思う壺だぞ!」

桑田「…んな事言って、オメーこそ、みんなを油断させた隙にって考えてるんじゃ…」

石丸「な、なんだとっ!?」


争う石丸と桑田を、大神が制す。

大神「そうやって争う事こそ、黒幕の狙いだとわからんのか?」

不二咲「そ、そうだよ…冷静にならないと…」

しかし、冷静さを一番欠いていたのは、舞園さやかだった。
表情は凍りつき、いまだに震えが止まっていない。

「お、おい… 舞園… 大丈夫か?」

心配するように舞園に話しかけ、近づこうとすると…

舞園「…やめてッ!!」

手で周囲を振り払い、彼女は走り出していた。

「待てよ!」

青ざめた彼女の顔、わなわなと震える全身。今のアイツは尋常じゃない……!
追うようにオレも視聴覚室を後にする。

朝日奈「江戸川まで…!」

十神「放っておけ…」

……背後から不穏な空気を感じつつ。


 □ ■


「ハァ…ハァ…」

舞園のヤツ、いったいどこへ行ったんだ?
そんなに遠くには行っていないはずだ。
校舎側の建物を、しらみつぶしにオレは探す。

幸い、調べられる部屋は限られていたので、彼女を見つけるのにそう時間はかからなかった。

オレがこの学園に来てから最初に目覚めた部屋…鉄板で窓を覆われた教室の片隅に、舞園はいた。
イスに腰掛け、膝の上で手を組んだ手に、ぼんやりとした視線を落としている。
泣いているようにも見えるし、怒っているようにも見える。
いや…表情はそこにはなかった。まるで、仮面がそぎ落とされたかのように…
とりあえず無事を確認したオレは、おそるおそる話かける。

「ま、舞園…… 大丈夫か?」

舞園「はい…大丈夫…… な訳ないじゃないですか…」

消え入りそうな声だった。

舞園「私達が…何をしたって言うの…? どうして…酷い事をするの…?」

それは、オレ達の誰もが抱いた、怒りの声だ。

舞園「出してッ! 今すぐ私をここから出してよッ!」

"超高校級のアイドル"が見せた、仮面の裏に隠された本心からの激情。
オレ達をこんな所に監禁した"黒幕"への、怒り、憎しみ、憤り。
明らかに冷静さを欠く彼女を見かねたオレは、説得を試みる。


「…舞園! 落ち着くんだ!!」

暴れる彼女を止めようと、オレは必死だった。
こんな時、元の身体だったら両肩を掴み、無理矢理にでも抑える事が出来たのに、ともどかしくなる。

「気持ちは…わかるさ… オレだって、家族や大事な人に何かあったらと思うと…」

「でも、こんな時だからこそ冷静になるんだ! オレ達の冷静な判断を奪う事こそが、黒幕の狙いなんだよ…!」

「大体、あんな映像… でっち上げに決まってる」

脳裏に、ついさっき見たあの映像が浮かぶ。
破壊された家。消えてしまった父さんや母さん、阿笠博士。
けれど、オレにはどうしても父さん達が簡単にどうにかなるとは思えなかった。

「もしあんな事が現実に起こっていたとしたら、それこそ警察が黙ってないさ」

「だから……冷静になるんだ。舞園」

それは…なかば自分に言い聞かせるような言葉だった。
冷静沈着、かつ慎重に……。
もしホームズなら、こんな状況に置かれても、きっと冷静さを欠く事はないはずだ。
そして、見事な推理で黒幕を暴き、ここから脱出してみせるだろう。


「きっと…みんなで協力すれば、逃げ道を見つけられるはずだ。それに、もしかしたらその前に助けが来るかもしれない」

楽観的すぎるかもしれないが、今の舞園を落ち着かせるには、それくらい前向きな言葉でもいいはずだ。
しかし、舞園は悲観的な言葉でそれを否定する。

舞園「でも…逃げ道もなくて助けも来なかったら…?」

「その時は……」

決まっている。

「オレが、お前をここから出してみせるさ! 黒幕のヤローの企みを暴いてな!」

「オレがいる限り…コロシアイなんて起こさせない。ゼッテーな…」

と、オレの言葉はそこで途切れた。
一瞬、自分の身に何が起きているのか、わからなかった。

「舞園……?」

しゃがみこみ、両腕でオレを包み込むようにもたれかかる舞園。

舞園「お願い…助けて…」

彼女の声は…小さく震えていた。
今にも消えてしまいそうな灯火のように、小さく、弱々しく。
身体はオレよりもずっと大きいのに、ひどく縮んだような錯覚すら感じるほどに。


舞園「どうして…こんな事になっちゃったの…」

舞園「殺すとか、殺されるとか… そんなの……もう堪えられないッ!!」

「舞園……」

崩れ落ちるように、泣き出す彼女。
オレにできたのは、そんな舞園が落ち着きを取り戻すまで…ただ待ち続ける事だけだった。


そうして彼女に胸を貸しながら、どれくらい時間が経っただろう。
ようやく、心に平穏が戻ってきたのか、オレの小さすぎる胸から顔を上げると…大きな濡れた目を前に向けた。
声はまだ震え、絞り出すように言葉を紡ぐ。

舞園「さっきの言葉…信じてもいいですか…?」

「ん?」

舞園「江戸川君が…私をここから出してくれるって言葉…」

舞園「信じても、いいですか…?」

「バーロー、探偵は嘘をつかねぇよ」

舞園「信じられるのは…江戸川君だけなんです… だから…お願い…」

舞園「江戸川君だけは…何があっても…ずっと私の味方でいて……」

「当たり前だ。…何があっても、オレ達は味方同士だ」


舞園「ありがとう…江戸川君。そう言ってくれると…なんだか頑張れそうな気がします…」

舞園「…そうだ、私、江戸川君の"超高校級の助手"になってもいいですか?」

「助手……?」

舞園「"超高校級の探偵"である江戸川君には、助手なんて必要ないかもしれないですけど…私、少しでも力になりたいんです!」

それは唐突な提案だった。

舞園「ほら、ホームズにも優秀な助手がいるじゃないですか!」

いつもの彼女の笑顔が、戻りつつあった。
まだ少しぎこちない笑顔だったけれど……

舞園「推理とかはちょっと苦手ですけど…でも、お茶を汲んだりとかなら…」

けれど、それは少しでも前を向こうとした舞園なりの、強がりだったのかもしれない。
だからオレは……

「ああ…よろしく頼むよ。ワトソン君?」

そう言って、彼女の笑顔に釣られるように、得意げな微笑を浮かべていた。


 □ ■


どうにか"超高校級のアイドル"の笑顔を取り戻したオレは、彼女と寄宿舎エリアへと戻った。

夜時間までには時間があったが、顔色もまだ悪いし休んだ方が良いだろう。
そう提案すると、彼女は承諾し、小さくお辞儀をして部屋へと消えていった。

残されたオレは、他のみんなに舞園の無事を説明した後…

一旦、自分の部屋へと戻る事にした。

あの映像を見せられたせいで混乱した思考を…少しでも落ち着かせる必要があったしな。
…無論、オレは今でも冷静のつもりだ。
しかし、少なからず動揺を隠せていないのも事実だった。
かけがえのない、大切な人達の事を思うと、心が騒ぐ。

父さん、母さん、博士……


……

…………

………………………ん?

「“大切な人”?」

なぜだろう。
そのフレーズを口にする度に、オレは妙な違和感を覚えずにはいられなかった。
まるで、ジグソーパズルの真ん中部分だけが、すっぽりと抜け落ちてしまったような、そんな感覚。

頭の中で、その違和感は疑念へと姿を変えていく。

…オレには、他にも“大切な人”がいたんじゃないか?

そんな気がして仕方がなかった。

あの時…舞園がオレに泣きついてきた時…
今までに同じような事があったんじゃないか、そんなデジャヴに囚われた。
ひょっとしてその既視感の正体こそが、オレの“大切な人”との思い出だったんじゃないか……?

そこまで思考を巡らせながら…
気がつけば、オレは眠りについていたんだ。
決して疲れていた訳じゃない。
本当は夜時間まで、少し休んだらパトロールでもしようと考えていたんだ。

しかし、そんなオレの意思とは裏腹に……
まるで、非常ブレーキで列車が急停止するように……
急激な睡魔と共に、意識は遠のいていった。


「キーン、コーン… カーン、コーン」

『えー、校内放送でーす。午後10時になりました。』

『ただいまより、“夜時間”になります』

『間もなく食堂はドアをロックされますので、立ち入り禁止となりま~す』

『ではでは、いい夢を。おやすみなさい…』


 ■ □



――モノクマげきじょう――


一番有名なネタバレってなんだろう。


「犯人は(自主規制)」?

いやいや、「コナン=(自主規制)」?

それとも、「次回、(自主規制)死す!」かなぁ……?


ネタバレって実に絶望的だよねぇ。
一度知ってしまえば、決して知る前に戻ることができないのが、人間だもの。
最後の最後にどんでん返しが待っている物語ほど、それを先にバラされるのが絶望的な物もないよね。
だからこそボクはネタバレをするんだけどさ!


「オマエラの世界の外は(自主規制)とかさ!」

「実はこの世界は、(自主規制)とかさ!」

「あるいはあのカワイイ主人公が、実は(自主規制)だったとかさ!」


うぷぷぷぷぷぷぷぷ!

いいよ、いいよその絶望顔。ハァハァ……


そんなオマエラは、こう思ったことはないかな?

「ああ、記憶をリセットして最初からこのゲームをやり直したい!」

…そんなことができたら誰も苦労しないよね。
忘れることができるのが人間のよい所だって言うけど、忘れたくても忘れられないのも人間だもの。


モノクマげきじょうでした!


――閉幕――


 ■ □

今日はここまで。

ペースが遅くて申し訳ない。

「キーン、コーン… カーン、コーン」

朝が来た。

『オマエラ、おはようございます!』

最悪な朝だ。

『朝です、7時になりました! 起床時間ですよ~!』

ああ、何度だって言ってやるさ。

『さあて、今日も張り切っていきましょう!』

…最低で最悪な、朝が来た。



 □ ■

最初に言い出したのは、誰だっけな…
そう、確か石丸だったんじゃないかな。
「本来なら、規則正しい部類に入る彼女が遅れるなんて、おかしい」って。
…オレも同意見だった。
協調性のない十神はともかく、舞園が時間を過ぎても食堂にやってこないというのは不自然だ。

そして、十神と舞園以外にもう一人。

セレス「そういえば…桑田君も見ませんわね」

“超高校級の野球選手”、桑田怜恩も来ていない。
どちらかと言えば時間にはルーズな方だったが、朝食会をボイコットするようなヤツだろうか?
オレの知る限りでは、こういった集まりには何かと協力的だったはずだ。

…胸騒ぎがする。嫌な予感がする。

「まさか!?」

気がつけばオレは、食堂を飛び出し、廊下を全力疾走していた。
オレの探偵としての勘が、そうさせたんだ。

息も絶え絶えにたどり着いたのは、「マイゾノ」と書かれたルームプレートの部屋。
インターホンを何度鳴らしても、ノックを繰り返しても、返答はない。

頼む…オレの勘違いであってくれ…!

そう祈るように、扉を開けた。



…けれど、そこにあったのは、


一番目にしたくなかった“絶望”。


“超高校級のアイドル”舞園さやかと、


“超高校級の野球選手”桑田怜恩。


二人の…変わり果てた姿だった……!








 Chapter01 : 絶望ディテクティヴ 非日常編



「そんな……ウソ…だろ……?」

受け入れがたい事実が、オレの脳裏にのしかかってきた。
目の前に広がる惨状が…現実だとは信じたくなかった。

いや、もしかしたら、まだ息があるかもしれない。
そう思い二人に駆け寄り、脈を調べた。


だけど……

淡くはかないその“希望”は……あっさりと砕かれた。

二人は……触って一瞬でわかるほど……冷たくなっていたんだ。

「…クソッ!!」

なんでだよ……
昨日まで、二人とも元気そうにしてたじゃないか。
楽しそうに笑ってたじゃないか。

それがどうして…

「どうして死んじまったんだよ!!!」

うなだれるオレの背後に、ようやく他のみんなが駆けつけた。

…後は絶叫と悲鳴が飛び交うだけだった。
けどその声はもう耳には入ってなんていなかった。
茫然自失、まさにそんな状態で…オレは立ち尽くしていた。

『オレがいる限り、コロシアイなんて起こさせない』

そう言ったはずなのに…
そう決めたはずなのに…

オレは……オレは……何もできなかったんだ。

目の前が真っ暗になったような気分だった。


『死体が発見されました!一定の操作時間の後、“学級裁判”を開きまーす!』

『死体が発見されました!一定の操作時間の後、“学級裁判”を開きまーす!』



 □ ■


その後は、最悪続きだった。
ようやく冷静さを取り戻し、舞園と桑田が死んでしまった、という事実を受け入れつつあったオレ達に、モノクマはさらなる“絶望”を突きつけてきた。

……“学級裁判”。

『誰かを殺した者だけが卒業できる』というルールに基づき、殺人を行った者が、
自分が殺人を犯したクロだと、他の生徒に知られてはいないかを査定するために行う、私的裁判だ。

“学級裁判”には、裁判官も弁護士も、検事もいない。
オレ達希望ヶ峰学園の生徒だけで、仲間を殺したクロが誰なのかを議論し、投票する。

そして投票の結果、殺人を犯したクロを指摘する事ができれば、秩序を乱したクロは“おしおき”される。
だが、もし間違ったクロを指摘してしまった場合…クロ以外のシロ全員が“おしおき”される。
“おしおき”なんて、軽い表現を使ってはいるが、その実は…“処刑”だ。

「こんな…こんな事認められるか!」

モノクマ「認めるも何も…強制参加に決まってんじゃん?」

江ノ島「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!! あたし、そんなのに参加するのヤだからね…!」

モノクマ「なんとっ! そんな事言う人には罰が下るよ!!」

江ノ島「うるせーんだよッ!! なんて言われても、あたしは絶対に参加しねーからッ!」

威圧する江ノ島。拒絶の声は…オレ達の誰もが感じた“理不尽”への怒りそのものだ。
“超高校級のギャル”と思えないほどの剣幕に気圧されるモノクマ。

モノクマ「目の前の圧倒的な悪の迫力に…正直ブルッてるぜ。だ、だけどなぁ…」

モノクマ「ボクは悪に屈する気はない… 最後まで戦い抜くのがモノクマ流よ… どうしても通りたければ、ボクを倒してからにしろーーッ!!」

そう言いながらヤツは赤い目を光らせて、トテトテと江ノ島に向かって突撃する!

しかし、


江ノ島「はい、これで満足?」

体格差は歴然、モノクマはあっさりと江ノ島に踏み潰されてしまった。
…いや、モノクマは……わざと……まさか!?

モノクマ「そっちこそ」

江ノ島「は?」

寒気。昨日部屋に現れた時モノクマが見せた、冷たい殺意をオレは感じ…
既に江ノ島のいる方へ走り出していた。

モノクマ「学園長ことモノクマへの暴力を禁ずる。校則違反だね…」

モノクマ「召喚魔法を発動する!」

「江ノ島ァッ!!」

モノクマ「召喚魔法を発動する! 助けて! グングニルの槍ッ!!」

「……逃げろッ!!!」

オレが叫ぶのと、モノクマが“召喚魔法”を発動したのは、ほぼ同時だった。

訂正

>>114
×モノクマ「召喚魔法を発動する! 助けて! グングニルの槍ッ!!」

○モノクマ「助けて! グングニルの槍ッ!!」

声に反応したのか、それとも、危険を察知したのか、江ノ島は背後に飛び退く!

次の瞬間、聞こえたのは鋭い金属音だ。

江ノ島盾子が立っていたその場所には……何本もの金属の槍が現れていた!
間一髪、ギリギリの所で江ノ島はそれを避けたのだ。

江ノ島「なに……これ……」

一歩間違えば、全身を貫かれていたという事実に、江ノ島は顔を青くする。
しかし、次の瞬間にはファイティングポーズを取り、周囲を警戒していた。
突然の事に、オレ達も驚きを隠せない。
けれどその場で一番驚いていたのは、ほかならぬモノクマだった。

モノクマ「な、なんだよこれ! …また江戸川クンの仕業か!! いい加減にしてよね!!」

「お、お前…今本気で江ノ島を殺そうと…!?」

モノクマ「あったり前じゃーん! 校則違反者には、ビシバシ体罰を与えるのが、ボクの方針だからね!」

モノクマ「けど江戸川クンのせいで台無しだよ…… 全く。まぁいいや、なんか飽きちゃったし、今回も見逃してやるよ…今度こそ次はないからね」

モノクマ「ボクは本気だよ……? 逆らう者は容赦なく殺っちゃうからね!」

そう言うとモノクマはまたトテトテと体育館入口の方に歩き出す。
去り際に、江ノ島に向かって捨て台詞を吐きながら。

モノクマ「うぷぷ……命拾いしたね……」

未だに江ノ島は警戒態勢を絶やさず、その場に立っていた。
彼女に、オレは近寄り問いかける。

「大丈夫か?」

江ノ島「……だ、大丈夫」

口ではそう言うものの、表情はどこか困惑したような…自分の身に起こった事が信じられない、といった感じだった。
死線を垣間見たんだ、誰だってそうなるさ。

江ノ島「あ……江戸川……その、ありがと」

普段のノリノリな“超高校級のギャル”からはかけ離れた、ぎこちないお礼の言葉。

オレはホッ、と胸をなで下ろす。張り詰めた緊張が解けていく。

「お前が無事で…よかったよ」

本当に心からそう思う。
もうこれ以上、誰かが死ぬのは見たくなかった。


けれど、これで終わりじゃないんだ。
むしろ、始まったばかりだ。

「“学級裁判”…か」

もし、オレ達の中に、舞園と桑田を殺したヤツがいるなら……それを暴かなくてはならない。
こんな私刑のような方法は、認めるわけにはいかない。
けれど、拒否すればさっきの江ノ島のように、“あいつ”の殺意が向けられる。

「やるしか…ないのか……」

オレの“助手”になると言ってくれた、舞園さやか。
置かれた現実や、突きつけられた外の世界に恐怖しつつも、前を向こうとしていた彼女。
その命を奪った犯人を、決して見逃すわけにはいかない。
もちろん、桑田礼恩もだ。
チャラチャラして調子のいいやつだったが、死んでいいわけがないんだ!

「真犯人は……オレが必ず見つけ出す……!」

「必ず……!!」




  ――――――――――――――――

       捜査 開始

  ――――――――――――――――


今日はここまで。

…うわ、ズレた。


まずオレ達は、現場である「マイゾノ」の部屋へ向かった。
部屋の中央には、遺体が二つ。
辛い現実から目を背けたくなるが、犯人を明らかにしなければ、二人も浮かばれない。
霧切の提案で、現場の保存をするため、見張り役を決める。

大和田「俺は、頭使うのはどうにも苦手だしよぉ… 江戸川、オメーに任せるわ」

大神「…我も見張りをしよう。餅は餅屋に、捜査は探偵にだ」

「頼りにしてくれるのは嬉しいけど、“学級裁判”は全員で投票するんだ」

「だから、先入観を持たないためにも、オレの推理はあくまで参考に留めておいてくれないか?」

大和田「そりゃどういう意味だ?」

さらに説明しようとするのを、十神が遮る。

十神「フン…これだからプランクトンは。江戸川が言いたいのは可能性の話だ」

十神「もし江戸川が犯人だったら…お前達は犯人が用意した誤った推理を信じ込んでしまう事になる」

十神「そうなれば、学級裁判の結果がどうなるか…想像するまでもないだろう」

十神「自分からそれを言うという事は、どうやら江戸川も馬鹿ではないらしいが」

霧切「そうね… 江戸川君を信じていないわけじゃない、むしろ、この中では一番信用できると思うけど…」

霧切「人を信じすぎるのは、人を疑いすぎるのと同じくらい悲惨な結果を生むわ」

「ああ、二人の言う通りだ。“学級裁判”では、なるべく自分の考えを話して欲しいんだ」

「だから、オレの推理だけを頼りにせず、それぞれで捜査して欲しい」

大和田「なるほどな… わかったぜ!」

大神「…うむ。我もそうさせてもらおう」

そうして、オレ達はそれぞれで捜査を開始する。


しかし、突然の来訪者によって出鼻をくじかれてしまった。

モノクマ「おい、オマエラ! 捜査は順調ですかな?」

相変わらず人をイラつかせるのが得意な話し方だ。

十神「何の用だ?」

モノクマ「そうおっかない顔すんなよ~ リラックス、リラックス。ほら、深呼吸、深呼吸~」

「…用がないなら帰ってくれ」

モノクマ「焦らない焦らない。せっかくボクが素人のオマエラのために、捜査の役に立つ物を持ってきてやったんだからさ」

「役に立つ物?」

モノクマ「ホントはさっき渡そうと思ってたんだけど、江ノ島さんが邪魔してきたからね…と話が逸れたね」

モノクマ「ジャジャーン!“ザ・モノクマファイル”!!」

そう言ってモノクマが寄越してきたのは、殺害された二人の死因や死体の状況が記されたファイルだった。
食い入るように、オレ達はファイルを見る。


【モノクマファイル・1】コトダマゲット!!

被害者は桑田怜恩。
死亡時刻は午前1時半頃。
死体発見現場は葉隠康比呂の部屋。
死因は長細い棒状のものによる頭部への殴打。


【モノクマファイル・2】コトダマゲット!!

被害者は舞園さやか。
死亡時刻は午前1時半頃。
死体発見現場は葉隠康比呂の部屋。
死因は長細い棒状のものによる頭部への殴打。
即死だった模様。


ん…? 何か引っかかる。
その違和感の正体を掴む前に、セレスが何かに気付いたようだ。

セレス「あら… 死体発見現場が“葉隠康比呂の部屋”になっていますわ。これはどういう事でしょう?」

「本当だ。確かこの部屋は舞園の部屋のはずなのに……」

霧切「いいえ、電子生徒手帳の地図を見て。この部屋…表記上では葉隠君の部屋になってるわ」

十神「…なるほど、そういう事か」

大和田「どういう事だ?」

十神「それを今お前達に言う必要はない… が、葉隠から詳しく話を聞く必要がありそうだな」

そう言うと、十神は部屋から去っていく。
オレもすぐに後を追い、葉隠に話を聞きたい所だが、まだこの部屋には調べるべき事が山ほどある。

まずは二人の死体からだ。


桑田の死体は、ベッドの側面にもたれかかるように倒れていた。
頭から血を流しており、他に致命傷になるような傷はない。
どうやら、モノクマファイルに書かれている死因…頭部への殴打は正しいようだ。

一応、服やズボンのポケットを調べてみたが、手掛かりになりそうな物は何もなかった。
代わりに、右手から妙な“物”を発見する。

「ん……桑田の手に、何かくっついてる」

わずかだが、金色に光る粉がくっついていた。

セレス「金粉、でしょうか…?」

「ああ。多分そうだろう。でもなんで金粉なんかくっついてるんだ?」


【桑田の手についた金箔】コトダマゲット!!
桑田の右手には、金箔が付着していた。


霧切「江戸川君、その金粉の正体は、“あれ”のようね」

彼女が指差す方向……桑田の死体のすぐ傍には、抜き身のままの刀が落ちていた。

「これは……!」

それは、悪趣味なほど金色に彩られた刀だった。鞘も近くに落ちている。
刀身は少し曲がっており、血がべったりついてる。
という事は、凶器はこれ、なのか?

セレス「あら……これは模擬刀のようですわ」

試しに刀の部分に指を当ててみるが、切れない。確かに模擬刀のようだ。
そして、持ち手の部分と刀の部分の金箔がところどころ剥がれている。
特に柄の部分は塗装の剥がれが激しい。
試しに柄の、まだ金箔が残っている部分を触ってみる。

「…ちょっと触れただけでも手に付くな……」

どうやら、少し触れただけでも金箔が手に付いてしまうようだ。


【金箔の模擬刀(抜き身)】コトダマゲット!!
桑田の死体の傍に落ちていた。
刀の部分と、持ち手の柄の部分の塗装がところどころ剥がれている。
特に柄の部分は塗装の剥がれが激しい。
また、刀の部分は少し曲がっており、血液が付着している。


という事は、桑田は模擬刀を握ったのか? 何の為に?
…いや、模擬刀を手にする理由なんて、数えるほどしかないはずだ。

霧切「…次は舞園さんの死体を調べましょう」

顔色一つ変えずに死体を調べる霧切に促され、次は舞園の死体に近寄る。


舞園の死体は、丁度部屋の中心あたりに、うつぶせで倒れている。
後頭部から出血の痕があり、身体に他の外傷はない。
どうやらこちらも、モノクマファイルに書かれている死因は正しいようだ。

おそるおそる彼女の持ち物を調べてみる。

「悪いな…舞園…」

すると、ポケットからハンカチが出てきた。
白と青のコントラストが美しい、少し大人びたレースのハンカチだ。
けれど、広げてみるとそこには驚くべきものが付着していた。

霧切「……血ね」

「ああ……しかもまだ乾ききっていない。つい最近付いたものだ」

という事は、事件に関係がある可能性が高い。
しかし、なぜ舞園のポケットからこんなハンカチが?
疑問を感じつつ、さらにハンカチを詳しく見ると、

「ん…? キラキラしてる…もしかしてこれって」

それは、ついさっき見たばかりの金粉だ。
どうして舞園のハンカチに付着してるんだ?


【舞園のハンカチ】コトダマゲット!!
舞園のポケットに入っていたハンカチ。
まだ乾ききっていない血が付着している。
わずかだが、金粉も付着していた。


霧切「江戸川君……この部屋、少し綺麗すぎないかしら?」

指摘を受け、部屋をくまなく調べてみると、確かに少し変だ。髪の毛一本すら落ちていない。
床に放置された粘着テープクリーナーには、使用された跡がある。

「これを使って掃除したのか?」

どうやら、葉隠に聞かなければならない事が一つ増えたようだ。


【葉隠の部屋の清掃状況】コトダマゲット!!
葉隠の部屋には、髪の毛一本落ちていなかった。
粘着テープクリーナーには、使用された痕跡がある。


そして、部屋を調べてみて新たに発見した事がある。

「ん、このメモ……破った跡があるな」

霧切「何かの手掛かりになるかもしれないわ。…古典的な方法だけど、これで…」

そういうと霧切は鉛筆を取り出し、一番上のメモを塗りつぶしていく。
破く前に書かれたメモの筆圧を、浮かび上がらせようとしているのだ。
しかし、

「……何も浮かび上がらないな」

霧切「そうみたいね。……何枚か破いて、この方法ではわからないようにしたのかしら」

セレス「随分、用心深いですわね…」

確かに。ただのメモなら、そこまで神経質になる必要があるだろうか?
事件に関係しているとしたら、なんとしてもメモを探したい所だが……


よし、この部屋で調べられる事はだいたい調べられた…と思う。
オレも葉隠に話を聞きに行こう。
後は…トラッシュルームもだ。もしかしたら、ゴミの中に手掛かりがあるかもしれない。

部屋を後にしようとすると、

霧切「…私はまだ調べたい事があるから、江戸川君、先に行って」

「調べたい事? オレも一緒じゃダメなのか?」

霧切「別に構わないけど……」

言葉を濁す霧切。

「なんだよ?」

セレス「なるほど、そういう事ですか。では、大和田君にも席を外して貰った方がよろしいのでは?」

大和田「俺がか?」

…そういう事か。

「わかった。その代わり何か見つかったら後で教えてくれよ」

霧切「ええ。任せて」

大和田「どういう事だよ?」

「いいから。とにかく一旦部屋から出よう」

そう言って、状況が読めない大和田を無理矢理連れて部屋を出る。

大和田「で、どういう事なんだ?」

「多分…霧切は舞園の身体を調べてるんだ。ほら…舞園は、女の子だろ?」

そこまで説明してようやく理解したらしく、大和田はハッとする。

大和田「……なるほど」

それだけ言うと、彼は黙り込んでしまった。
時間を無駄にしないためにも、大和田をその場に残し、オレは次の場所へ向かった。


 □ ■


食堂に、葉隠康比呂はいた。
いや、連れてこられた、といっても相違ないだろう。
葉隠は椅子に座り、周囲を石丸、十神、朝日奈が囲んでいる。
どうやら、尋問中のようだ。

葉隠「だからぁ、俺じゃないって!」

石丸「しかし、死体発見現場は葉隠君、君の部屋じゃないか!」

葉隠「そ、それは…」

十神「言い逃れはできんぞ。なぜお前の部屋で舞園と桑田は死んでいた?」

十神「…納得のいく説明をしてもらおうじゃないか。できるものならな」

葉隠「……わ、わかったべ。じ、実は昨日の夜、舞園っちが俺の部屋に来たんだべ」

葉隠「それで、扉を無理矢理開けようとするヤツがいるから、部屋を交換しようって話になったんだべ」

朝日奈「舞園ちゃんが?」

十神「それは何時頃だ?」

葉隠「た、確か夜時間のアナウンスの直前だから…午後10時くらいだべ…」

十神「それを証明できる証拠か証言は?」

葉隠「あるような…ないような…」

石丸「ハッキリしたまえ!」

葉隠「それはその……あ、江戸川っち!! 助けてくれー!」

葉隠はオレを見るなり泣きついてきた。

葉隠「と、とにかく俺は犯人じゃない! 占いでもそう出てるべ!」

朝日奈「それってあんたが7割犯人って事じゃん!」


葉隠「う、うぅ……」

さすがに可哀想になってきたので、助け舟を出す事にした。

「3人とも、まだ葉隠が犯人って決まったわけじゃないんだ。そんなに感情的になったら、見えるものまで見えなくなる」

葉隠「さすが江戸川っち!」

石丸「う、うむ……確かに、証拠もないのに疑ってかかるのはよくないな! 葉隠君、すまなかった!」

十神「だが、現場は葉隠の部屋…それは曲げようのない事実だ」

朝日奈「そうだよ! 一番怪しいのは葉隠で決まりじゃん」

「怪しいってだけなら全員がそうさ。アリバイがない以上は、誰にでも犯行は可能だったんだから」

朝日奈「アリバイなら…私とさくらちゃんならあるよ!」

大神と朝日奈は、事件のあった日…つまり昨日は視聴覚室の一件以降ずっと食堂にいたらしい。

十神「だがお前と大神が共犯関係にあったなら、お互い口裏を合わせているという事も…」

「いや、その可能性は低いだろうな。校則には、卒業できるのは“仲間の誰かを殺したクロ”とある」

十神「…卒業できるのは実行犯だけ、共犯のメリットは皆無という事か」

「ああ」

十神「…まあいい。大体の事はわかったしな」

そう言うと、十神はまたどこかへと去っていく。


「なあ、葉隠、聞きたい事があるんだ」

葉隠「な、なんだべ? さ、詐欺ならやってないべ」

「この学園生活が始まってから、自分の部屋を掃除したか?」

葉隠「…なんでそんな事聞くんだ?」

「もしかしたら、事件を解くための重要な手掛かりになるかもしれないんだ」

葉隠「俺は……まだ一回もやってないべ」

「!」

朝日奈「えー、不潔!」

石丸「清掃は生徒の義務だろう。僕は毎朝毎晩欠かさず行っているぞ!」

葉隠「ひ、ひどい言われようだべ。…で、江戸川っち、これで何がわかるんだ?」

「ああ、もしかしたら葉隠の無実を証明できるかもしれない」

葉隠「マジで!?」

「まだ決まったわけじゃないけど、少しだけ事件が見えてきた」

葉隠の証言と、部屋の清掃状況。
これは重要な手掛かりになりそうだ。


【葉隠の証言】コトダマゲット!!
葉隠は事件のあった夜、被害者である舞園さやかから部屋の交換を持ちかけられ、承諾した。


【葉隠の部屋の清掃状況】コトダマアップデート!!
葉隠の部屋には、髪の毛一本落ちていなかった。
粘着テープクリーナーには、使用された痕跡がある。
部屋主の葉隠は、ここに寝泊りし始めてから一度も清掃していないらしい。

「そうだ、もう一つ」

葉隠「まだあるんだべか?」

「お前の部屋にあった模擬刀、あれはどこから持ってきたんだ?」

葉隠「あー、あの模擬刀は…体育館入口に飾ってあったのを、舞園っちに勧められて部屋に持ち帰ったんだべ」

石丸「舞園君に?」

葉隠「『この模擬刀、部屋に飾ると幸運になれる気がします。わかるんです…私、エスパーですから!』って言われて…」

朝日奈「なんだか壺の押し売りみたいだね…」

葉隠「よくよく見てみるとなかなかカッコいい模擬刀だったんで、部屋に飾ってたんだべ」

「それっていつの話だ?」

葉隠「確か……昨日の夕方の話だべ」

「……なるほどな」


【金箔の模擬刀】コトダマゲット!!
事件が起こる前、葉隠が舞園に勧められて部屋に持ち帰ったらしい。


少しじゃない。事件の全貌が、ある可能性に収束していく。
けれど、それは信じがたい推理だ。
…まだ、調べていない事がある。結論を出すのは、それからでも遅くないはずだ。

そう言い聞かせるように、オレはトラッシュルームへと足を運んでいた。


 □ ■

トラッシュルームには、山田と江ノ島、不二咲と腐川がいた。
鉄格子のシャッターは上がっている。
前に来た時には、通れなかったはずだが……

山田「おや、江戸川コナン殿……どうですかな、捜査は」

「ああ、なんとなくだけど、解ってきたよ」

江ノ島「マジで!? やっぱ葉隠?」

腐川「と、当然よね……現場はあいつの部屋だったんだから」

不二咲「け、けどぉ…決めつけはよくないよぉ」

「ああ、まだ決まったわけじゃない。それより…」

オレは4人に、昨晩のアリバイと何か変わった事がなかったかどうかを確認した。
しかし、4人ともアリバイもなければ、特に手掛かりを見つけたわけでもない。

「ところで、ここのシャッターって前来た時は下りてなかったっけ?」

山田「それなら、僕がついさっき開けたんですよ。昨日の昼間、“掃除当番”になって…」

「掃除当番…?」

山田「掃除当番がいないと、学園中がゴミだらけになってしまうとの事でしたので…わたくしめが立候補したのです!」

山田「今朝から始める予定だったのですが…あんな事があったせいで実働はまだですがね」

「そうか。…って事は、誰にも犯行の証拠を処分できなかった、という事だよな?」

腐川「や、山田が犯人でなければね…」

山田「なぬ……僕を疑うなんて心外ですぞ!」


江ノ島「けど、掃除当番に自分から立候補するなんて怪しいじゃん。あたしなら絶対やらない! メンドイから!」

山田「それは… ぼ、僕も本当はやるつもりはなかったんですが…」

「どういう事だ?」

山田「……実は舞園さやか殿が、モノクマからその話を聞いているのを、偶然立ち聞きしてしまったのですよ」

不二咲「ま、舞園さんが?」

山田「けれど、紳士たるもの、女子が手を汚すのを黙って見過ごすわけにはいきません故…」

山田「僕が彼女の代わりに掃除当番に立候補した、というわけですな」

「…舞園は、その時何か言ってたか?」

山田「最初は丁重に断られたんですがね……1週間ごとの交代制なので、いずれ全員に順番が回ってくるから、と力説して、僕がここのキーを貰いました」

腐川「ご、強引になんてやっぱり怪しいじゃない!」

江ノ島「もしかしてあんた…あたし達のゴミから何か漁ろうとして…!?」

不二咲「や、山田君……」

山田「な、何をおっしゃるウサギさん! 僕の愛は2次元限定ですぞっ!!」

口論になる4人は放っておいて、オレはトラッシュルームを後にしていた。
そろそろ、葉隠の部屋の捜査が終わる頃かもしれない。

そして、オレの中である疑惑は…確信に変わりつつあった。


【山田の証言】コトダマゲット!!
舞園は、事件のあった日の昼間、モノクマから掃除当番を頼まれ、立候補していた。
だが、強引に山田がその役を買って出たらしい。


 □ ■


そうだ。部屋を交換したという葉隠の証言を確かめる為にも、舞園の本当の部屋を確認しておこう。

オレは、電子生徒手帳を片手に、寄宿舎を調べる。
すると、地図に記された舞園の部屋には「ハガクレ」のネームプレートがかかっていた。


【個室のネームプレート】コトダマゲット!!
葉隠の部屋のネームプレートは、舞園の部屋のネームプレートと交換されていた。


…これで、調べたい事は調べ終わった、と思う。
後は、霧切から話を聞くだけだ。
葉隠の部屋で、オレは大和田と大神、二人と話をしながら霧切が戻るのを待つことにした。


大和田「なあ、オメーは誰だと思う? いや、そもそも俺らの中に、二人を殺ったヤツがいると思うか?」

「それは…まだわからない。オレだって信じたくないさ…オレ達の中に、仲間を殺したヤツがいるなんて」

大神「同感だ……」

大和田「そうだよな…」

大和田「…女を手にかけるなんざ“漢”の風上にも置けねえ…犯人がわかったら俺がぶっ殺す! 絶対殺す!」

「おいおい、まだ犯人が男と決まったわけじゃ…」

大和田「それもそうだがよぉ、舞園はともかく、桑田はあんなナリでも“超高校級の野球選手”だったんだぜ?」

大神「我はともかく、ほかの女子では犯行は難しい、という事か…」

力づくでは、確かに無理だろう。
けれど、不意を突かれたら? そして…相手に気を許し、油断していたら?

残された手掛かりが、一本の糸に繋がっていく。
あらゆる可能性を排除して、最後に残ったものは、どれほど信じ難くとも……それが真実だ。

そして、霧切の調査結果を知れば…確信を得る事ができるだろう。

けれど、それを待たずして、捜査は唐突に終わりを告げる。


「キーン、コーン… カーン、コーン」

『えー、ボクも待ち疲れたんで… そろそろ始めちゃいますか?』

『お待ちかねの…』

『学級裁判をっ!!』

『ではでは、集合場所を指定します!』

『学校エリア1階にある、赤い扉にお入りください』

『うぷぷ、じゃあ後でね~!!』


…どうやら、タイムアップのようだ。
後は学級裁判で明らかにしろ、という事か。
正直、こんな仲間内で糾弾し合うような事は、したくない。
けれど…逆らえば、何をされるかわからない。

「……行くしか、ないのか」


オレ達は重い足取りで指定された場所へと向かった。
そこで、エレベーターに乗り込む。

エレベーターは、学級裁判を行う“裁判場”へと降りていく。
ごうん、ごうん、と耳障りな音を立てながら。


霧切「江戸川君…」

霧切が語りかけてくる。

「捜査の件…どうだ?」

霧切「恐らく……あなたの想像通りよ」

「そうか……」

霧切「後は学級裁判で明らかにしましょう」

「…ああ」


エレベーターが止まり、扉は開かれる。

いよいよ始まる。

命がけの裁判…命がけの騙し合い…命がけの裏切り…

命がけの謎解き…命がけの言い訳…命がけの信頼…

命がけの…学級裁判が……!



   学 級 裁 判   開 廷 !



 

今日はここまで。


学級裁判場。

そこは、閉塞感に満ちた希望ヶ峰学園の中では、珍しく縦横に広い空間だった。
シロとクロのチェックで彩られた床の上に、赤い絨毯が敷かれ、
部屋の中央には、円を描くように木製の証言台が設置されている。
オレ達はその証言台の前に、お互い向かい合うように立っていた。
青い外壁を赤いカーテンが覆い、部屋全体の鮮やかさには、ポップな印象すら受ける。

だが、これからここで行われようとしている出来事は、その正反対と言ってもいい。

誰もが平静を失い、落ち着きなさげに互いや、あるいは周囲を見渡している。
心が踊る者がいるはずもない。……1匹を除いて。

モノクマ「まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう!」

玉座のような椅子にふんぞり返り、モノクマは相変わらず不快な明るさで口を開く。

モノクマ「学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます」

モノクマ「正しいクロを指摘できれば、クロだけがおしおき」

モノクマ「だけど…もし間違った人物をクロとした場合は…」

モノクマ「クロ以外の全員がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけが晴れて卒業となりまーす!」

そう楽しげに説明するモノクマに、オレは当然の疑問を投げかける。

「本当に…"この中"に犯人がいるんだよな?」

モノクマ「当然です」

わずか一言。その答えに、オレは胸を締め付けられる。
出会ったばかりとはいえ、同じ希望ヶ峰の仲間を殺したヤツがいる。
その事実が、そして、それをこれから解き明かさなければならないという現実が重たくのしかかる。

オレ以外の皆も、心なしか表情が険しくなる。
そんな中、石丸が言う。

石丸「よし、みんなで目を閉じよう! そして、犯人は挙手したまえ!」

真っ直ぐな彼らしい提案だ。
しかし、石丸の声は裁判場に虚しく響くだけで、賛同する者はいない。
そもそもその案に従うような人間が犯人なら、最初からこんな事件が起こりはしないだろう。
やれやれ、と呆れたように大和田が言う。

大和田「アホか、挙げる訳ねーだろ…」

口にはせずとも、そう感じている者は少なくないはずだ。
石丸を馬鹿にするつもりはないが、彼ほど正直な人間は、なかなかいない。
自らの罪を認め、告白する事など、大半の人間が出来はしない。それが普通なのだ。


霧切「…ちょっといい? 議論の前に聞いておきたいんだけど…」

霧切がモノクマに問う。

霧切「あれって…どういう意味?」

手袋をした人指し指が示す先にあるのは、桑田と舞園、それぞれの顔写真が貼られたプレートだ。
もし二人が生きていたら、今立っているはずの位置に、証言台の前に、それらは置かれていた。
まるで撃墜マークのように、顔写真には血のような赤い×がされている。

死者を冒涜するモノクマの所業に、オレは苛立ちを隠せない。
だが奴は、悪びれるどころか、こう言ってのけた。

モノクマ「死んだからって仲間外れにするのはかわいそうでしょ?」

モノクマ「友情は生死を飛び越えるんだよ!」

思わずふざけるな!と叫びそうになったオレの言葉を、セレスの疑問が遮る。

セレス「それでしたら…あの空席は…?」

セレス「わたくし達は15人なのに…なぜ、席が16個もあるのですか?」

確かに、1つ席が多い。
だがモノクマは、抑揚のない声で淡々と答えるだけだ。

モノクマ「…深い意味はないよ。最大16人収容可能な裁判場っていうだけ」

……本当にそうだろうか?
わざわざ余分な席を設けたのには、何か他の理由があるんじゃないか?

そう疑念は浮かぶものの、考え込むより先にモノクマがはやし立てる。

モノクマ「さてと、前置きはこれぐらいにして…そろそろ始めよっか!」

モノクマ「まずは、事件のまとめからだね! じゃあ、議論を開始してくださーい!!」

やや強引な始め方に、怪しいと感じるものの…今は事件の事に集中するべきか。
オレだけじゃない……みんなの命がかかってるからな…!

そうして、学級裁判は始まった。

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