男「猫の目レンズ」 (10)

女「一生に一番しか恋をしない鳥のこと、知ってるかい? もっとも、キミには二つの意味で無縁の話だろうが」

男「……」

女「とは言え、ボクもあまり詳しくは知らないんだけどさ。ただ、そういうフレーズを耳にしたことがあるっていうだけで」

男「……」

女「まあでも、ボクとしてはロマンチックでそういう話好きだなぁ。世俗の性生活は乱れ過ぎてると思うよ。脳内麻薬に恋をするぐらいなら、覚醒剤でもやった方がまだマシだってね。いや、これはさすがに言い過ぎかな」

男「……」

女「要するにボクとしては、愛を理解できない豚は麻薬でも吸ってた方が満たされるんじゃあないかと思うってことだよ」

男「……」

女「いつもキミみたいに、言を左右しただけで人間の真似ができたと思い込んでいる愚鈍な人外が大っ嫌いなのさ」

男「……」

……三日前……

女「やあ、男くんじゃあないか」

男「女か。どうしたんだ、こんなところをほっつき歩いて」

女「なんとなくこの辺りにキミが歩いてきそうな気がしてね、待ち伏せしていたのさ。少々湾曲して言えば、ギリギリストーカーの部類に入るかもしれないね」

男「お、おう……」

女「……冗談さ、そんな顔をしないでおくれ。ボクはこんなオタク街を一人で歩くような寂しい趣味は持ち合わせていないのだけれども、待ち合わせ……まあ、デートだね」
「あ、今ちょっと焦ったね。焦っただろう? フフッ、安心しなよ、ただの待ち合わせさ」

女「実はネットのサークル仲間で、珍しいオカルトグッズを譲ってくれるという寛大な人がいてね。今日はその受け取りをするために、わざわざこんなところ奇特なところまで足を運んだというわけさ」

男「ちょいちょい俺の趣味の否定を挟むのはやめてくれないか?」

男「で、今度はまたどんなけったいなものを貰うつもりだよ。こっくりさんシートか、それとも必ずこっくりさんの降霊する五円玉か?」

女「……人の失敗談をつつかないでくれ、確かにあれは紛いものだったけど、今回のはすごいよ。猫の目レンズって知っているかい?」

男「猫の目レンズ?」

女「猫の目レンズっていうのは……」

チョイチョイ

茶髪「その格好、女さんだよねえ」

女「はい、茶髪さん、こんにちは。今回はありがとうございます」ペコペコ

男(変わり身はえーなぁ……どんだけそのレンズ欲しいんだよ)

茶髪「……」ジロッ

男(こっち見んなよ、気味の悪い奴だな)

茶髪「じゃあ、確かに渡したよ」ヒヒッ

女「あれ、もう行っちゃうんですか?」

茶髪「輸送できる代物じゃあないから、直接会っただけさ。それとも、俺が理由こじ付けて会って、無理やり女を喰っちまうような、そんな輩に見えたか?」

女「……」

男(妙に具体的だな、俺がいなかったらそのつもりだったんじゃないかこいつ)

茶髪「……それじゃあ、そのブツは頼んだぜ」タッタッタッ

男「!」

女「ちょっと、信号まだ……」

茶髪「ひひひ……」ニヤッ

ドンッ

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