騎士「百年後の世界?」(219)


騎士「おかしくないか?」

勇者「何が?」

騎士「魔王、倒したじゃん? 俺たちがさ」

僧侶「そうですね」

騎士「英雄じゃん? 俺たちはさ」

魔法使い「まぁ、そうっすね」

勇者「それがどうかした?」

騎士「いやね、魔王を倒した英雄で、で、強いじゃん? 俺たち」

勇者「そりゃあ魔王を倒したぐらいだし」

騎士「それで、だ。近接戦闘で言えば、俺が最強じゃん? 近接で言えばだよ?」



勇者「それは、まぁ……」

僧侶「否定は出来ませんが……」

魔法使い「でも確かにその距離なら最強でいいんじゃないっすか?」

騎士「だろ? そうだろ?」

騎士「魔法も使えないし、距離とられたら何もできないけど、自分の間合いの中なら、俺は強い。そうだろ?」

勇者「それが、どうかした?」

僧侶「貴方の実力なら、当然皆が認めてますし、誇りにも思っていますよ?」

騎士「待て待て。で、ここで一旦話を変えて、だ」

魔法使い「はぁ……?」



騎士「……ううん」

騎士「……俺、カッコいいじゃん?」キリッ



勇者「……」

僧侶「……」

魔法使い「……」



騎士「沈黙は肯定と見なすぜ」


騎士「で、話を纏めると」



騎士「強い俺」

騎士「近接最強な俺」

騎士「魔王を倒した英雄の俺」

騎士「カッコいい俺」

騎士「大国に勤め、騎士部隊の隊長に任命された俺」

騎士「強さも栄誉も地位もあれば、金もあるしおまけに顔もいい」



騎士「そう、俺は凄いのだ」

騎士「そんな俺が……」



騎士「なんでモテないんだよぉ!」バンバン!



勇者「ああ、そう言う……」

僧侶「今更ですね」

魔法使い「今更っすね。そして相変わらずっす。久しぶりに会ったのにこれっすよ」

騎士「なんで!? どうして!?」バンバン!

騎士「世界を救ったのに!? 強くてイケメンなのに!?」バンバン!

騎士「どうしてモテないの!? くそっ損した! 世界を救って損した!」バンバン!

勇者「机を叩くのやめなよ……あ、店員さん、お酒追加で」


騎士「俺、何か悪いことしたかなぁ……ぐすっ」

魔法使い「悪いと言えば……」

僧侶「……そう言う、損得で世界を救おうとする心、でしょうか」

騎士「くそっ、くそくそ! ふん、お前らはいいよなぁ! 充実してるよなぁ!」

勇者「いや、私たちは別にモテたい訳じゃないし、そもそも女だし」

僧侶「それぞれパートナーもいますしね」

魔法使い「もういっそ私たちみたいに隠居したらどうすか?」

騎士「俺はお前らと違って出世したいの! あの村で一生終えるなんて御免だね! せっかくただの剣士から大国の騎士になれたんだからさ!」

勇者「ああ、そうだ、君の初恋のあの女の子、君が振られたあの子、先月結婚したよ。幸せみたいだね」

騎士「……ぐすっ、近いうちにそうなるとは思ってたよ……店員さん酒持ってきて……ひぐぅっ」

僧侶「だからあの村に戻りたがらなかったんですね……」


魔法使い「心中お察しするっすよ……私もお酒飲もうっすかね。店員さ……」

騎士「やめとけ」

魔法使い「へ?」

勇者「……いや、この子、前よりはお酒飲めるようになったんだよ?」

僧侶「まだ弱いと言えば弱いですけどね」

魔法使い「そうっすよ? 前みたいに飲んですぐ吐くってことはなくなったんすよ?」

騎士「いや、そう言うことじゃあ……ああ、やっぱり気づいてないのか。何時までもその話題にならないし」

魔法使い「何がっすか?」

騎士「お前、妊娠してっぞ」

勇者「へ?」

僧侶「あら」

魔法使い「え、ええええええええええええ!?」


僧侶「見えたんですか?」

勇者「相変わらず、その眼は便利だね」

騎士「命を見極めるからな。微弱だが、お前の中にもう一つ命が見える」

魔法使い「ま、マジッすか……」

騎士「俺は嘘をつか……ううん、ともかく本当だ」

僧侶「すっと言えないところがまた何とも」

騎士「なんだよ」

僧侶「なんでも」

勇者「まぁまぁ」



姫巫女「ああ、お待たせ致しました! お姉さまがた!」



勇者「おお、久しぶり! 大きくなったね!」

僧侶「あらあら。姫様。お元気なようでなによりです」

魔法使い「いやー、それにしても久しぶりっすねー。もう立派なレディっすね」

姫巫女「えっへへへへへ! ありがとうございます!」

騎士「……なーにがレディだ。ケツの青いガキんちょの癖によ……」ボソッ

姫巫女「聞こえてんぞクソ野郎」

騎士「それはどうもクソ申し訳ありませんでしたぁ! クソ姫様にクソ迷惑を掛けてしまったようですねぇクソが!」



姫巫女「はい決定。お前、クビな。私が決めた。もう決めた」

騎士「バーカ! この俺をお前がどうこうで出来るワケねーだろ! ザマーミロ!」

姫巫女「じゃあ城の皆にお前の悪評流すわ。夜の街。一晩六件。全裸。身に覚えは?」

騎士「ささ、姫様、こちらの席へ。ただ今姫様の好物を取り寄せます故、少々お待ち下さい」

姫巫女「うむ、苦しゅうない」

騎士「ははー」





姫巫女「まぁもうとっくの昔に流したんだけどな」

騎士「!?」


姫巫女「ぷっ、変な顔」

勇者「あ、だから『モテない』のか」

僧侶「上っ面は果てしなく良いですからね。中身が知れ渡ってしまった、と言うのが真相ですか」

魔法使い「見てくださいよ、この顔芸。信じられますか? これ、国の英雄なんすよ?」

騎士「クソがぁ! どうりで城のメイドとかが俺の事ムシケラを見るような目で見てると思ったよぉ! 酒持って来い、酒!」

姫巫女「きゃははっ!」

勇者「ふふっ、楽しそうでなによりだ」

僧侶「全くですね」

魔法使い「何事も平和が一番っす。ああそうだ姫様聞いて下さいっす! 私、どうやら……」



…………………………………………………………………………

 ――とある村


騎士「あれからもう……何年だっけ? 二、三年ぐらいか? まぁいいや。あの飲み屋で会ったのが、結局最後だったな」

騎士「三人とも子供を授かったと聞いた時は、顔出しぐらいはしたかったんだけどな。何分忙しくなっちまって」

騎士「……それぞれの子供に会った。いい面構えだった。お前らは、多分幸せだったんだろうな。旦那たちも、含めてさ」

騎士「……」

騎士「お前らは、やっぱスゲーよ。このちんけな村を守りきるなんて」

騎士「お前らぐらいの実力だったら、親しいやつらだけと一緒に逃げ切ることも出来た筈なのに」

騎士「スゲー、本当、スゲーよ」

騎士「……」

騎士「……俺は」

騎士「……」


騎士「俺はさ、相変わらずモテなくてさ、元々天涯孤独だったけど、今でも『家族』がいなくてさ」

騎士「……この村は、孤児の集まりで、見せ掛けの家族、見せ掛けの繋がりだ、なんて俺は思ってたよ」

騎士「まぁ嫌いな訳じゃなかったんだけど、どうしてもな」

騎士「でも、お前らは違ったんだな。新しい家族が、血の繋がった家族が出来ても、お前らは、この全ての繋がりを、守り抜いたんだな」

騎士「……」

騎士「……魔王の次は竜王、か。あっという間に世界の危機パートツーだ」

騎士「だから、ここが竜王直々に狙われたんだろうなぁ。魔王を倒したのが、三人も居るんだから」

騎士「……俺が」

騎士「俺が、この村に残っていたら」

騎士「…………」

騎士「ああ、そうだな。過ぎたことで、どうしようもないことだ。村の人も、誰も俺を責めなかったよ」

騎士「…………」


騎士「竜王は、かの英雄達を真っ先に狙い、暮らしていた村を襲いました」

騎士「竜王は圧倒的な力を振るいました。英雄達が英雄だったのは、昔の話。力が全盛期より衰えてしまっていた三人の英雄は、竜王に」

騎士「……」

騎士「…………殺されてしまいました」

騎士「しかし、竜王もかなりの傷を負いました。英雄の子供が居ると言うのに、引いていったのがその証拠です」

騎士「だけれども、それでもそこは竜を統べる王。竜王は、配下のドラゴンを操り、全世界に攻撃を仕掛けています」

騎士「かつての英雄は死んで、世界は竜に侵食されています」

騎士「だけど、竜王はミスを犯しました」

騎士「そのミスは正しく致命傷で、竜王のクソみたいな野望を打ち払うことになるでしょう」


騎士「……英雄は、もう一人いる」



騎士「強くて」

騎士「近接最強で」

騎士「魔王を倒した英雄で」

騎士「カッコよくて」

騎士「大国に勤め、騎士部隊の隊長に任命されていて」

騎士「強さも栄誉も地位もあれば、金もあるしおまけに顔もいい」

騎士「だけど女の子には全然、それはもう全然モテない、かわいそうな田舎剣士上がりの男が居たのです」

騎士「その男は華麗に竜王をぶっ殺し、その後は二度も世界を救った英雄としてウハウハしながらハーレムを築いたのでした」

騎士「めでたし」


騎士「……なんてのはどうだ? 姫様。これを後世にきちんと伝えてくれ」

姫巫女「……ん? つまんないポエムは終わったか? 寝てた」



騎士「ははは、まぁ、それでもいいさ。些細な事だ」

姫巫女「……っ」

騎士「ううん、まぁそんな目をすんなって。トカゲの親玉の一匹や二匹、この俺様ならどうってことはない。それより帰った後のハーレムの準備をだな……」

姫巫女「……帰ってくるつもりなんて、ない癖に」

騎士「………はは」

姫巫女「……もう少しすれば、竜王の根城に、集中攻撃を掛けることが出来る。それまで……!」

騎士「ああ、そりゃ駄目だ。魔王のときと一緒だ。頭数を揃えるより、人間やめました的なヤツが少数精鋭で攻め込んだ方がいいんだよ」

騎士「……今は、そんなヤツ、俺一人しかいないけど。それに、グズグズしてたらせっかく竜王に与えた傷が癒えてしまうかもれない……あいつらが与えた、傷が」


姫巫女「……竜王は、お姉さまたち三人を殺した。お前は一人だ」

騎士「三人は隠居生活で、俺は今が全盛期だ」

姫巫女「竜王は様々な呪いを操ると古い文献に載っていた。単純な戦闘力で図るな」

騎士「俺には魔眼がある」

姫巫女「大したことが出来ない魔眼だろうが! それが、なんの役に……!」



騎士「命の尊さを、知っている」

姫巫女「っ!」



騎士「……目の前で人が死ぬときな、なんとなく、分かるんだ。その人がどういう風に死んだか。何を思って死んだのか」

騎士「天寿を全うした奴らは、皆、幸せそうにを逝っていた……志半ばで倒れた奴らは……まぁ、お察しだ」

騎士「なぁ姫さん。俺はもう見たくねぇんだよ。そんな光景をさ。竜王さえ潰せば、配下のドラゴンなんざ烏合の衆だ。魔王のときもそうだったしな」

女「……ろう」

騎士「ん?」



姫巫女「この……クソ野郎が……!」ポロポロ

騎士「……」



姫巫女「お姉さまたちも、お前も……なんで、残される者の気持ちを……! クソ、クソ……」ポロポロ

騎士「残される者を残したいからこその、選択だ……後は頼んだぞ」

姫巫女「なんでっ……ひっ、く……私、私……」ポロポロ

騎士「お前が次代の国を引っ張れ。もう16歳だし、そろそろその言葉遣いも……いや、俺がいなくなれば」

姫巫女「馬鹿……っ! いなくなるなんて、言うなよぉ……!」ポロポロ

騎士「……もし、俺が帰ってこなかったら、ここに墓を建ててくれ。せめて、最後はこいつらの隣に」

ミス

×→女「……ろう」

○→姫巫女「……ろう」


姫巫女「うっ……ぐすっ……ひっ、ぅぅ………うぅああああああ」ポロポロ

騎士「……よっしゃ! ここで俺が竜王を潰せば真の英雄だ! モテる為に、いっちょ本気出すわ!」


姫巫女「……帰って、こい」

騎士「……ううん」

姫巫女「絶対に……帰ってくるんだ……! これは命令だ……!」

騎士「……おお、最高にカッコよく馳せ参じてやるよ。俺は嘘はつか……ううん、まぁ、本当だ!」




姫巫女「……」

騎士「……」




姫巫女「……天の加護があらんことを…………勝てよ」

騎士「この剣に誓い、必ず」


 ――とある村


姫巫女「……まぁ、お前が嘘つきだと言うのは、知ってたよ」

姫巫女「帰ってこないどころか、竜王は生きてるし。なんなのお前」

姫巫女「……でも、竜王は更なる深手を負った」

姫巫女「竜王は、よくわかんない『呪い』を放ってさ」




姫巫女「それが、世界中の『男』を弱体化させる、とか言う意味分かんないものでさ」




姫巫女「……竜からすれば、人間はみな同じに見えるらしい……明確に差別化するのは、性別ぐらいしかないわけだ」

姫巫女「竜王は深手を負って、そして更に、こんな滅茶苦茶な呪いを放って、かなり衰弱していた」



姫巫女「よっぽどお前が脅威だったんだな。対峙した時に言ってたよ。『男』と言う生き物に『あんなの』が居るから呪いを仕掛けた、って」

姫巫女「……お前みたいなのがそう何人もいて堪るかよ。お前はただ一人だ。そうだろ? お前の代わりはいないんだ」

姫巫女「ホント、よっぽどお前は、竜王との戦いで強くあったんだろうな。お姉さまたち三人よりも、お前の方が脅威だったから、『男』に呪いを放ったんだ」

姫巫女「そのお陰で、竜王はもう、ボロボロだった」

姫巫女「……だけど、やっぱり私達だけじゃあ駄目だった」

姫巫女「弱っても竜の王。こんだけお前がお膳立てしてくれても、結局、私達じゃあ倒せなかった」

姫巫女「……だから、私は」

姫巫女「……」

姫巫女「目には目を。呪いには呪いだ。私は姫であり巫女。世界ぐらい、私も守らせてくれよ」

姫巫女「竜王に呪いを掛けた。弱っていたから、呪い自体は上手くいった。死んだわけじゃないが、死んだも同然だ……早い話が封印だな。今、城の地下に封じている。ま、表向きには倒したことにしているけどな」



姫巫女「ははは、お陰で、私は……」

姫巫女「……成長も、老いもない。そんな存在になってしまった。殺せば死ぬから、不死ではないけど」

姫巫女「これが、呪いの代償だ。呪いを解くことは、すぐ出来る。その代わり、竜王も解き放たれる。私が死んでも、それは同じだ」

姫巫女「……」

姫巫女「守るよ。私は。国と、世界と、繋がりを。お前と、お姉さまたちが守り抜いた、全てを」

姫巫女「ははははは、結局、胸は小さいまま、か。お前は大きい胸が好きなんだろ? 知ってるぞ、私は」

姫巫女「もう何年かして、大きくなったら、とか思ってたんだけどなぁ……」

姫巫女「……ふふ」

姫巫女「……言葉遣いも、直すよ。まぁ、もともとお前だけだったからな。こんな汚い言葉を使うのは」

姫巫女「…………」



姫巫女「……うん」



姫巫女「さようなら、私の騎士。貴方は正しく世界の英雄でした」


…………………………………………………………………………

 ――とある廃墟


 バチン


騎士「終わりだクソトカゲ! 必殺、超強い俺が上から剣を振るうだけ!」ブン! スカッ


騎士「……あり?」


騎士「……」キョロキョロ

騎士「……ううん?」

騎士「……」


騎士「…………そこか!」ブン! スカッ

騎士「ううん」

騎士「……」キョロキョロ



騎士「おーい、クソトカゲー」


騎士「おおい、おおい」



騎士「……っ!」バッ!


騎士「……」


騎士「こっちか!」ババッ!



騎士「……」キョロキョロ


騎士「……」



騎士「竜王いねぇ!」ドーン




騎士「というかここ何処!?」バーン



騎士「あ、よく見ればトカゲの根城だ、古いし、壊れかけてるけど」




騎士「……」




騎士「なんで!?」ドドーン



騎士「な、なぜだ……さっきまで普通に戦ってたのに……」

騎士「というかなんでこれこんなボロイの。コケとか生えてるし」

騎士「それより竜王は何処行ったし」

騎士「……」

騎士「もしかして……」

騎士「……いや、まさか」



 ――姫巫女『竜王は様々な呪いを操ると古い文献に載っていた。単純な戦闘力で図るな』



騎士「……そう言うことなのか?」


 ――森


騎士「……」

騎士(廃墟からの道中は、特に何もなかった。元から隔離されていた場所だ。だが、俺が来た時と、若干風景が違っていた)

騎士(まだ誰とも会ってないから、確証はない。おまけに、この森もまぁ『普段どおり』だ)

騎士(……恐らく、竜王は俺に呪いを掛けた)

騎士(……多分、封印術か、それに近いものだ。マトモに戦ったら勝てないと踏んだのだろう。戦局は俺が圧倒していたしな。流石俺)

騎士(ともかく)

騎士(……予想が正しければ、今、相当の時間が経過しているはずだ。十年か、二十年か。なんにせよ、あのコケの生え具合からして、結構経っているだろう。竜王の呪いが四、五年ぐらいしか持たないとも思えない)

騎士(……情報が必要だ)

騎士(この森を抜ければ、国に着く。そこで、確かめなければ)


騎士(……俺がちゃんと英雄になっていることを!)ババーン


騎士(きっとモテモテに違いない!)ドドドーン


騎士(あと竜王が生きてるか死んでるか)シレッ



 ――国


騎士「……」

騎士「……ううん」

騎士「……」キョロキョロ


騎士(……なんか)

騎士(滅茶苦茶発展してないか……?)


騎士(あんな服装見たことないぞ……なるほど、短いスカートが流行っているのか)

騎士(グッジョブ)

騎士(……いやいや、と言うか)


モニター『今、城ではセレモニーに向けての大々的な準備が……』



騎士(……なにあれ)

騎士(なんだ、魔水晶の超デカイ版? なんか、そう言うのを研究していた奴らが城にはいたが……」

騎士(十年、二十年でここまでのを作れるのか?)

騎士(……)

騎士(……やるじゃん)

騎士(そして、更に)


少女「ママー、なんであの男の人、鎧着て剣なんかもってるのー? 男の人なのにー」

母「人を指ささないの。芸人さんかなんかでしょ、ほら、行くわよ」



騎士(さっきから視線が凄い)

騎士(……芸人ときましたか。英雄どころか騎士扱いもされねぇとは)

騎士(いや、俺のことを知らないのは、まぁいいとして)

騎士(……芸人? なんで? この格好が? いや、皆オサレな服なのに俺だけ騎士甲冑で街をうろついているから、か?)

騎士(……『男の人なのに』? ……どう言うことだ?)

騎士(……と言うか、街に女が多いな。いや、全然アリだけど)

騎士「……」



騎士「ううん」

騎士「わから……あ?」






モニター『今年で、竜王討伐より百年を迎えました。今の平和を尊びましょう』

騎士「……」


騎士「ううん」

騎士「……ううん?」

騎士「……うん」

騎士「ううん……」

騎士「……」


騎士「百年後の世界?」


騎士「……ううん、ううん」

騎士「……」




騎士「あばばばばばっばばばばばああっばばばばばばば」




少女「ママー、あの人、やっぱり芸人さんみたいだねー」

母「そうね、近寄らないでおきましょう」

とりあえずここまでー




 ――街の中

ザワザワザワザワ
ワイワイガヤガヤ

ママー マタ アノ ゲイニン サン ガ イルー
アラホントウ ナンダカ ゲンキ ナイワネ


騎士「はぁ……」

騎士「……ううん」

騎士(……とりあえず、現状を纏めてみよう)

騎士(今は、俺と竜王が戦ってから百年が経過している。これは確定。暦もきっちり百年後だった)



騎士(竜王は死んだ。これもほぼ確定。絶対と言う訳ではないが、少なくとも竜王の脅威はないだろう。あのデッケぇ魔水晶に映ったヤツもそう言ってたし)

騎士(世界は平和そのものだ)

騎士「……」

騎士(百年……半端ねぇな、マジでさ)

騎士(…………まぁいい)

騎士(……で、俺)



騎士(俺のことは、知られていない。少なくとも今は。ジロジロ見られているが、それは俺が、と言うわけではなくて、どうやら『男』がこんな格好をしているのが珍しいみたいだ)

騎士(どう言う訳か、今は女尊男卑が激しいらしい。いや、ちょっと違うか? 男の立場が低いっつーより、女が逞しくなっているっつーか、男がなよなよしてるっつーか)

騎士(……暫くあの魔水晶モドキを見ていたが、その理由は分からなかった。今更語られることさえない、当たり前の事実として認識されているのだろう。この不自然に思える男の軟弱化は、百年の中での自然の流れか、もしくは何か偶発的な何かが起こったか……)

騎士(気にはなるが……誰かに聞くしかないか……まぁこれはとりあえず置いとくとして)



騎士「……ううん」



騎士(……これからどうしようか。いやマジで)

騎士(これが、十年後とかだったら、お前ら待たせたな、ドヤァ、で済むけど……済まないか? まぁどうでもいいか)

騎士(百年、百年かぁ……救いがあるとしたら、そこまで文化とかがダイナミックに変わってはないことかなぁ。色々『発展』は見られるけど、それは元ある技術が進化しているだけで、なにこれ意味がわからへん、俺生きていけへんわ、さいなら、みたいな展開にはならない訳だ)

騎士(俺自体、明確な目的があって生きていた訳ではない。平和な時代でダラダラ生きるのも、まぁ悪くないだろう。それが許されるのならば)



騎士(……うん、まぁそれはいいんだ。俺、適応力のある生き物だし)

騎士(それはいいんだ、け、ど)


騎士「……」チラッ




モニター『セレモニー当日には、かつて魔王を倒し、竜王に挑んだ『三人の英雄』の末裔である子孫の方々がこの国に来られます』



騎士(俺の存在が歴史から消えている件)





騎士「ぬぅああああああああああああああああああああああ!」

少女「!?」

母親「!?」



騎士「三人!? なんだよ三人って! おかしいだろうよどう考えてもよぉ!」

騎士「そりゃあれだよ? 俺は子供作ってないから、俺の子孫がいないのは、まぁ当たり前だよ? そもそも俺と繋がっている血筋はねぇし」

騎士「だから子孫云々の話で、俺のことが話題にならないのはまぁ分かる」

騎士「……じゃあなんであのデッケェ映像に、俺の名前や姿が映らないわけ!? 他の三人はあるのに!」

騎士「ほら、あの三人の写真! あれ、大分色褪せてるけど魔王倒した時に『み・ん・な』で魔映機でとったやつじゃん! 右端の俺が完全に削除されてんじゃん! なんだよこれぇ! この写真の俺は『世界最高のドヤ顔』と言う称号を貰った程なのに! 程なのにぃ!」



騎士「姫さんにも部下にも言ったのによぉ! 俺のことをちゃんと後世に残せってよぉ! 王様にも言っといたのに!」




 ――騎士『歴代最強とかなんとかはこの際どうでもいいので、国一番のイケメンだったということにしといて下さい』
 ――王様『お前マジか』




騎士「死地に行く俺が周りに気を使った故のジョークとでも思ったか!? マジだよ俺はよぉ! 大マジだよ! ド本気だよ!」



騎士「クソッ! 確かに俺は『きんせつさいきょう(笑)』とか『あれ、魔王は倒せても女の子は落とせないんですか(笑)』とか、そこはかなとなく馬鹿にされていたけどよぉ!」

騎士「それは愛情の裏返しだと思ってたよ! なんだよこの仕打ち! ストレートに嫌われてんじゃん! なかったことにされてんじゃん!」


騎士「命の尊さを、知っている」キリッ


騎士「……今となってはもの凄い恥ずかしいわ! 俺がキメていたとき城では『あいつ竜王倒せますかね?』『どうでもいいけどあいつ臭くね?』『(爆笑)』みたいな会話してたんちゃうんか!? ああ!?」

騎士「くそっ損した! 世界の為に戦って損した!」

騎士「……あ、俺、臭います!?」


母「え、あ、ダイジョウブ、だと」

少女「お花の香りがするー」


騎士「ですよねぇ!? だってこの鎧特注だもん! フローラルな香りがする鎧だもん! 王様に作らせた、魔王討伐の褒賞だもん!」



 ――騎士『褒美、ですか。でしたら良い香りが永遠に続くカスタムメイドの鎧が欲しいです。鎧って蒸れちゃうんで。耐久はどうでもいいです。全部避けるんで』
 ――王様『お前マジか』



騎士「……」

騎士「…………」

騎士「あ、その所為か!?」

騎士「冷静に考えればおかしいよな! 花の香りがする騎士って! どう思います!?」


母「正直ないと思います」

少女「ドン引きだよー」

騎士「くそっ百年越しの突っ込み!」


騎士「だって汗の臭いって気になるじゃん! 鎧を着れば汗かくじゃん! でも鎧がなければ騎士っぽくないじゃん!」

騎士「あの時はこれが正解だと思ったんだよ! 今思えば仲間三人全員苦笑いしてたわ! 温かい目を向けてたわ!」

騎士「つーかつーか! 色々言いたい事あるんだけどよぉ!  一番ワケわかんねーのは!」




モニター『えー、ではここで、『時の巫女』様からお言葉を……』

姫巫女『……皆様こんにちは。本年で竜王の討伐から百年を迎えました。これも当時の勇敢なる戦士達の……』



騎士「ううん」


騎士「…………?」

騎士「…………??」

騎士「…………???」




騎士「…………で」ガチャ

少女「……剣を抜いて?」



騎士「…………んで」グッ

母「……振りかぶって?」



騎士「な、ん、で! 生きてんだよぉおおおおおおおお!」ドドドドドドーン



母「振り下ろした瞬間雲が割れた!?」

少女「わーすごーい」



騎士「あるぇ!? なんで!? 今年で116歳!? んな馬鹿な!」

騎士「若いと言うかまんまじゃねーか! つーかなんで生きてんの!?」

騎士「子孫? いやいや、激似ってレベルじゃねーぞ! 遺伝子働き過ぎだろ! 過労死するわ!」

騎士「……本人だよな!? いや、いやいやいや! 駄目だこれ駄目だよ」

騎士「百年? 女尊? 三人の英雄? 不死の姫? もう情報量多すぎぃ!」

騎士「あああああああ! もうわけわかんない! 俺こう言うの嫌いなんだよぉ! 俺だけ何も分からないみたいなぁ! だってハブられてるみたいじゃん! 仲間はずれみたいじゃん!」




騎士「……」チラッ

母親「」ビクッ

少女「」ビクッ



騎士「……あーあ、どこかに懇切丁寧に一から色々教えてくれる親切な『親子』、居ないかなー」チラッチラッ


母親「っ……!」ダッ

少女「あたしたちは逃げ出した!」ダッ

騎士「しかし回り込まれてしまった」ヒュン

母親「!?」

少女「……はやーい」

騎士「茶番に付き合ってくれたノリのいい御婦人とお嬢さん、ちょっと俺とお茶でもしないかい?」イケメンスマイル

騎士「おっと、俺に惚れちゃあ、駄目だぜ。なんせ、俺は国の至宝だから、な。ふっ」キメッ






母親「それはねーわ」

少女「ぬかしおる」

騎士「!?」

短くてアレですが、とりあえずここまで。仕事なう。
更新は不規則になると思います。
気長に待って下さい。



 ――城

姫巫女「……」

メイド「巫女様、失礼致します」

姫巫女「如何致しましたか?」

メイド「いえ……それそれ時間なのですが、何やら考え事をなさっていたようなので……」

姫巫女「あら、もうそんな時間ですが……気を使わせてしまい、申し訳ありません」

メイド「滅相も御座いません。御用意の方は?」

姫巫女「出来ています。では行きましょうか」

メイド「御意に」


 ――街


メイド「いつも外出の度に思うのですが……」

姫巫女「どう致しましたか?」

メイド「いえ、失礼ながら、外出の際に護衛が私一人と言うのは、些か無用心ではないか、と」

姫巫女「ふふふ、そうでしょうか? 私はそうは思いませんが。貴女と私がいれば、大概の脅威は物ともしないでしょう」

メイド「……巫女様ならともかく、私は、そんな。買いかぶり過ぎです」

姫巫女「そうでしょうか? 私からすれば、貴女こそ女中に留まる器とは思えませんが」




メイド「……確かに、雑務などは男共に一任すればいいでしょうか、身の回りの世話は、任せられません」

姫巫女「だとしても、それをわざわざ貴女がする必要はないでしょう。騎士に相当する実力を持っていながら」

メイド「……」


姫巫女「私の価値は薄れ、城の連中にとっては『生きている』ことだけが、私の存在理由です」

姫巫女「精々がセレモニーに呼ばれる程度……あとは、今日みたいに、年若い子の為にに魔法や剣技を教える教室を開くぐらいの、毎日」

姫巫女「……ふふふ、閑職もいいところですね」

姫巫女「……」

姫巫女「……貴女も、いつまでも私に――」



メイド「緒戯れを。私の一族は、代々巫女様に仕える故に」

姫巫女「……そうですね。思えばずっと、貴女の家系はずっと、私について来てくれました……如何なる時でも」

メイド「それに」

姫巫女「……」

メイド「家を抜きにしても、私は、ずっと御仕え致します……今までも、そして、これからも……ずっと、です」

姫巫女「……世界は変わって、様々な物事に変革があり、私も変わり……しかし、そんな中、変わらないものがあると言うのは……ふふふ、恵まれていますね、私は」

メイド「私のこの想いは。誓いは。変わることはございません……巫女様」

姫巫女「……ありがとうございます」

メイド「……いえ」




モニター『三人の英雄の御子孫は、それぞれの国で要職に勤めておられ――』




姫巫女「……」



メイド「……巫女様?」

姫巫女「……」ボー

メイド(……また、か)

姫巫女「……三人――三人の英雄、ですか……」

メイド「仰りたい事は存じ上げておりますが、それも時代の流れ故、致し方ないのでしょう」




姫巫女「だとしても、どうして私が忘れられましょうか……国を救った、英雄を」

メイド「……」

姫巫女「ふふふふ、貴女は、この話が嫌いなのですね。不機嫌な顔をしています」

メイド「っ、申し訳、ありません」

姫巫女「ふふふ……」

メイド「巫女様……?」

姫巫女「いえ、少し、思い出してしまって……」

メイド「……?」



姫巫女(……『あの子』も『あの人』とは馬が合わなかった……)


 ――騎士『ちっーす。姫さん、ちょっと聞きたいこ、と、が……おっと』

 ――姫巫女『わ、わー! わー! おま、お前ぇ! ひ、人が、き、着替えをてる最中に……み、見るなぁ!』

 ――騎士『いいじゃねぇか、減るもんでもねぇし。しかし相変わらず胸が、うぉっ!?』

 ――メイド『ちっ、外したか……』

 ――騎士『……なぁアンタ、前も誘ったけど、やっぱり騎士にならない? この俺にここまで気配を感じさせないのはスゲェって』

 ――メイド『お断りします』

 ――騎士『今なら副隊長の座を……』

 ――メイド『貴方の部下なんて、死んでも御免です』

 ――騎士『ならそのデカイおっぱいをな』

 ――メイド『死ね』

 ――姫巫女『い、いいから早く出てけよぉ! このクソ野郎!』



姫巫女「……ふふ」

姫巫女(今は遠き……懐かしい夢、か)



メイド「……」

メイド(忘れられた英雄……なかったことにされた、最強の騎士)

メイド(政策上、それは止むを得なかったこと。仕方がないことだ)

メイド(……だが、巫女様は、それを良しとはしなかった)

メイド(今や、四人目の英雄のことを知るものは、市井の中にはいない)

メイド(それは、城から教えることを止められているから)



メイド(もう、誰もその『男の人』を知らない。私だって、こっそり巫女様から少しだけ教えてもらった程度だ)

メイド(だけど、巫女様は、ずっと……)

メイド(ずっと、その人のことを……)

メイド(だから、私は……それでも、私は……)

メイド(時代は流れて、あれから百年……それでも、巫女様の『想い』は、きっと変わらない)

メイド「……」

メイド(……私は、巫女様を)




姫巫女「……何かありました?」

メイド「っ、いえ、少し考えことを」

姫巫女「あら、珍しい……もうすぐ着きますよ」

メイド「はい。今日は何を?」

姫巫女「そうでね……私は何時も通り魔法を。貴女は……そうですね、今日は体術ではなく、近接戦闘、でも」

メイド「……近接、ですか? まぁ出来なくはないですが……」

姫巫女「ふふ。ええ、お願いします」



 ――広場


 ザワザワ


姫巫女「皆様、こんにちは」

少女「あ、巫女様だ!」

少女剣士「こんにちは!」

少女魔法使い「こんにちはー」

少女武道家「先生もこんにちは!」

メイド「はい。こんにちは」

騎士「今日は何をするのー?」

姫巫女「ふふふ、今日は炎の魔法を勉強しましょうね」




騎士「えー俺、魔法使えないんだけど、大丈夫かなー」ニヤニヤ

姫巫女「ふふふふ、ちゃんと魔力を込めれば、だ、い、じょ…………」

姫巫女「…………」


騎士「」ニヤニヤ

姫巫女「………………え?」


騎士「そもそも俺魔力ねぇんだよなー。いいよなー魔法、憧れるよなぁー」

姫巫女「」

騎士「しっかし、相変わらずお前は貧相な……うぉっ!?」



メイド「避けられた!? くっ、貴様! 巫女様から離れろ!」

騎士「あっぶねぇな……ん? このクナイは……」

メイド「巫女様、御下がり下さい」

姫巫女「え、あ、なん、なんで、え」

メイド「巫女様!?」

騎士「……あー、ちょっといいか」

メイド「近づくなと言ったぁ!」

騎士「ううん」



メイド「巫女様! 巫女様、しっかしりして下さい!」

姫巫女「なん、なん、で……え、あ……?」


騎士「……ふぅ」

騎士「おらッ!」ゴッ

メイド「うっ!?」ガクッ


メイド(な、なんだ、これ、は……さ、殺気だけ、で、こんな、私が、男、なんかに……!)ガクガク

騎士「なんか気当たり的なアレだ。ちょっとジッとしていてくれ」



騎士「……さて」チラッ

姫巫女「」ビクッ



騎士「……」

姫巫女(これは、夢に違いない。近づいて来ているのは、ただの幻影、その筈だ)


騎士「……」

姫巫女(だって、あの人は、あいつは。あの時、だって、でも、そう言えば、死体は、でも、だって)

姫巫女「なんで」

騎士「……封印されていたんだ、この百年」


姫巫女(なんで、でも、全くあの時のままで、無駄に整った顔も、無駄に良い低い声も、無駄にする花の香りも、あおの時の)



騎士「……姫様」

姫巫女「あ……」



騎士「……時間は掛かりましたが、ただ今戻りました……剣の誓いは、きちんと果たせませんでしたが」


姫巫女(だって、偽者? え、あ、だって、こんな、こんな、夢、みたいな)






騎士「お久しぶりです、我が姫」ウゥゥゥゥァアアアアアアオレカッコィイイイイイイイイイドヤァァァァァァァァァアアアアアアア!

姫巫女(あ、このウザさは本物だわ)

今日はここまでー
続きは、ううん。
では、また。

――ちょっと前。街中


母親「……」

少女「……」

騎士「なるほどね、大体分かった」

騎士「……ううん」

騎士「男の『血』を弱体化する呪い、ねぇ……そして、竜王を倒す為の『時の呪い』、か」


騎士(……なんで俺が『なかったことにされたか』は……まぁ想像はつく。それより……)

騎士「……ふぅ」

騎士(……なーにやってんだか、あいつは)


騎士(時の呪い……確か、あいつの切り札中の切り札だ)

騎士(切り札だが、いや、だからこそ、それは使われないものの筈だった。メリットの分だけ、身に降りかかるデメリットが、大きすぎる)

騎士(寂しがり屋のあいつが、不老になってどーすんだよ……ったく)

騎士「……」

騎士
……いや


騎士(残されるものを残したいからこその、選択、か)

騎士(そうでもしないと、全滅の可能性もあったんだろうな。どれだけ消耗しても相手は竜王だ。しかも、自軍は呪いで戦力が低下)

騎士(あの三人や俺が居なくなって、挙句、男が弱体化する呪い……)

騎士(……仕方なかった、のか)

騎士「……」

騎士(……俺が)

騎士(俺が、竜王をスカッと倒していたら)

騎士(そもそも、あいつらだって、村に俺が居れば……)

騎士(……俺は強い)

騎士(魔王よりも、竜王よりも、誰よりも何よりも)

騎士(だけど、それだけだ)

騎士(ただ強いだけ)

騎士(どれだけ強さを求めても)

騎士(俺は、何時だって間に合わない)

母親「……貴方は」

騎士「……ん?」

母親「本当に、百年間、封印されていたんですか?」

騎士「……俺は嘘はつか……ううん、まぁ本当だよ」

母親「……にわかには、信じられませんが」

騎士「そりゃあな。俺だって、まさかこんなことになるなんて思わなかったよ」

騎士「ま、それでも信じてもらうしか……ん?」

少女「……」ジー

騎士「……どうした?」

少女「ねぇ、おじさ」

騎士「お兄さん」

少女「……」

騎士「……」


少女「おじ」

騎士「お兄さん」


少女「……」

騎士「……」


少女「カッコいいお兄さん!」バッ

騎士「なんだい、可憐な少女よ!」ババッ

母親「……」

少女「お兄さんって、強いの?」

騎士「……なに、急に」

少女「だって、男の人って、みんな、弱いし、情けないし、パパだって、そうだしー……」

騎士「……」

少女「でもね、あたしはねー」



少女「カッコいい男の人が好きなの! 強いイケメンがいいの!」

騎士「……ううん」

母親「我が娘ながら立派に育ってくれました」キリッ


少女「お兄さんは、結構イケメンだし、まぁまぁ面白いし、なんか良い匂いするし、でも歳の割りに落ち着きがないから、八十点ぐらいかなー? 今の所は」

騎士「なにこの子ハンパない」

母親「将来が楽しみです」キリッ

騎士「全くだよ」

少女「だからねー」 

騎士(……ん?)

少女「もし、お兄さんが強ければー……」

騎士(……おいおい、マジかよ)

少女「九十点をあげてもいいかなっ、てー」ゴッ!

騎士(この俺に、この俺にだぞ?)

少女「あたしの中のガイアが囁いているんだ、け、どっ!」ヒュバッ!

騎士「素手で向かって来るとかねぇわ」パシ


少女「!? あ、あたしの『魔力で強化してどーんパンチ』が、片手で……」

騎士「そのネーミングセンスは認めるよ」

騎士「……ちなみに、だ」

少女(っ! ……ガード!)

騎士「俺は、『世界一大人気ない騎士』と呼ばれていたこともある」スッ

少女「まずっ……」

騎士「2%デコピン!」ピン!

少女「あぶっふぅううううううううううううう!」ドドドドドドーン、バシャーン

騎士「そこの噴水の水で、頭を冷やすんだな」

少女「……ほうこーく、メッチャ強いでーす……多分ホンモノでーす。いじょう。うぐぅ」

騎士(なんかアレだな。この技、どっかで見た覚えが……ん)



母親「……」

騎士「あっ」



母親「……」

騎士「……」


騎士「……すまない、やりす」

母親「やりますね。しかし、私はあの子の様にはいきませんよ?」ゴッ

騎士「なにこの親子こわい」

んで。

母親「ま、参りましたー……」バタンキュー

騎士「そこそこ強かった件について」

騎士(今の世界観がますます分からない)

騎士(そうか、最近の母親は魔力で剣を生成出来るのか……)

騎士「あるある」


騎士「いや、ねぇよ」



少女「ママを倒すとは、かなりの良い男だねー!」ザバァ

騎士「おう、君も水が滴る良い女だよ。思ってたよりも復活が早いし」

少女「えへへ、照れるー」

騎士「ううん、謎親子」



母親「ふ、ふふふ」ユラリ

騎士「……」サッ

母親「……いや、もう分かりました。そう身構えなくて下さい」

騎士「……?」


母親「……先ほど説明する時にはわざと惚けましたが、私は貴方のことを知っています。と言っても、話だけですが」

騎士「は?」

母親「……世界でも最強と呼ばれるに相応しい、歴史に名を残す筈だった、伝説の騎士……幼少の折、巫女様に話を聞いたときには、眉唾ものでしたが……」

母親「まさか、これ程の実力とは。いやはや恐れ入りました。まさか、この私が男に手も足も出ないとは」

騎士「は?」

母親「御案内しましょう、『時の巫女』様のところまで」

騎士「は?」

少女「あのねー、ママはねー、この国の騎士部隊の隊長なんだよー凄いでしょー」

母親「こう見えて、国中最強です」キリッ

騎士「は?」

 ――んで。



母親「と、言う訳で案内しました。今日は丁度『教室』の日で、私は非番でしたし」

騎士「案内されました」

姫巫女「……」ポカーン

メイド「隊長!」

母親「ん?」

騎士「ん?」

メイド「貴様じゃない! ……どう言うつもりですか! こんな、得体の知れない奴を巫女様に会わせるなんて!」

母親「どう言うつもりと言われても。嘘をついている様には見えない。昔聞いた『最強の騎士』と一致する。しかし、決定的な証拠がない」

母親「だとすれば、『かつて』のことを知っている巫女様に会わせるのが妥当だと思うわよ」

メイド「そんな……! 巫女様をむざむざ危険に晒す様な真似を……よりによって貴女が!」

母親「だけど、私を倒す程の実力の持ち主、それも『男』を野放しにして、情報が全くないのも、それはそれで問題だと思うけど」

メイド「しかし! 万が一と言う事も!」

母親「その時は責任を取って自爆するわ」

メイド「えっ!?」

少女「あたしもー」

メイド「!?」

母親「二人で魔力全開して自爆すれば、片腕ぐらいは持っていけるかもしれないもん、ねー」

少女「ねー」

騎士「こわいこわいこわい」

姫巫女「昔から、『国中最強』はとんでもない方ばかりでした…………」

騎士「ああ。とんでもねぇ国だよな。馬鹿ばっかだ」

姫巫女「…………」

騎士「ううん。言わんとしていることは分かる」


姫巫女「……貴方は、変わりませんね」

騎士「……まぁ百年経ったと言われても、俺は封印されていただけだからな」

姫巫女「……」

騎士「そう言うお前は、変わったな。見た目はともかく」

姫巫女「……百年、経ちましたから」

騎士「……そっか」

姫巫女「……」

騎士「……後悔は?」

姫巫女「あると思いですか?」

騎士「……俺は、ある。何時だって、俺は後悔ばかりだ」

姫巫女「……」

騎士「……あの時、俺が村に居れば」

姫巫女「……過ぎた話です」

騎士「……あの時、俺が、俺達が、『もう少し早く着いていれば』そもそも、お前は……」

姫巫女「!」



騎士「……強かろうが、最強だろうが、なんだろうと俺は何時だって、そうだった」

騎士「強さの果てに到達しても、それだけだった。力をこの手に入れても、それ以外が逃げていく」

騎士「……なぁ、姫さん。俺、間に合ったと言えるか? 今からでも、まだ間に合うか?」

姫巫女「な、何を……」

騎士「……多分、城の地下」

姫巫女「っ!? なぜ、それを……!」

母親「……?」

メイド「……?」

少女「あ、ちょうちょだー。ん? 話を聞け? だってちょうちょうがいるんだよ? 追っかける以外の選択肢はないでしょ。でしょ」


騎士「表向きには『そうしたこと』にしているんだろうが……ならなんで時の呪いは解けない? あれは、そう言うものじゃないだろ?」

姫巫女「……知って、いたのですか」

騎士「今までの百年を抜きにすれば、一番お前と長く居たのは俺だ。知らないはずがないだろう」

姫巫女「……このままでも、私は、別に」

騎士「俺は強い」

騎士「世界で一番強い」

騎士「俺は、負けない」

姫巫女「……」


騎士「……信じられないか? 負けると思うか? 言っとくが、あの時、遥かに俺が優勢だったぞ? だから『封印』せざるを得なかった。だから、男を恐れた」

姫巫女「……私は」

騎士「怖いんだろ」

姫巫女「……っ」

騎士「俺が負けるのが怖いんだろ。いや、俺だけじゃなくて、挑んだ『誰か』が殺されるのが、怖くて仕方ないんだ。だから、『倒した』ことにした。余計な被害が、出ないように」

騎士「自分の時が止まったままで済むなら、それでいい。そう思っているんだろ?」

メイド「み、巫女様、それは、どう言う……!」

姫巫女「……『貴方』が強いことは、誰よりも知っています」

騎士「……」

姫巫女「しかし、貴方は封印された。優勢でもなんでも、結果、貴方は封じられてしまった」

騎士「言い訳はしないさ」

姫巫女「アレを倒すには、呪いを解除しなければいけません。そして、一度解除してしまったら、もう呪いを掛けることは出来ません」

騎士「……ま、そうだろうな」

姫巫女「……アレは相当弱っています。その状態で呪いを掛けましたから。ですが、私の見立てでは、それでも尚、アレに勝てるものはいない。そう判断しました」


姫巫女「無意味なのです。確実性もないのに、無碍に危険を冒すことは」

母親「……」

メイド「な、何の話を……」

少女「……すぅー、ふごー、ふぐぃ!? 寝てないよ!? 聞いてたよ! あ、ダメ! 中からはらめぇええええええ!」


騎士「……それは今の奴らの話だろうが。俺なら、勝てる」

騎士「だから俺に……」

姫巫女「……ろう」ボソッ

騎士「っ!」


姫巫女「この……クソ野郎が……!」ポロポロ


メイド「っ!?」

騎士「……」


姫巫女「なんっ、で、お前、は、お前たち、は、そうやって! いつも、いつもいつもいつも! 死に近い方へ走りたがるんだ……!」ポロポロ

姫巫女「お姉さまもお前も! ……母さんだって! みんなだって! どいつもこいつもクソばかりだ! どうして死にたがる! どうして犠牲になりたがる!」

姫巫女「お前の部下だってそうだ! 弱体化しても、一線をに居続けて死んでいった! 私は、止めるように行ったのに! 聞きもしなかった!」


騎士「あいつら……」


姫巫女「命あっての物種だろ! なのに、どうしてそれを容易く捨てるんだよっ!」

姫巫女「いいじゃないか! せっかくこうしまた会えたんだ! せ、世界だって、今は平和だ!」

姫巫女「私のことならいい! 不老不死だって、もう慣れたさ! 辛い別ればかりだったけど、それは私が我慢すればいい!」

姫巫女「国や……お前を! お前が! リスクを冒す必要なんて、どこにもない!」

姫巫女「は、はは、なぁ、いいんだよ。お前がそんなことしなくても。この百年、色々あったけど、外敵はなかった。平和なんだよ。これからも」

騎士「……」

姫巫女「そうだ! お前ぐらいの実力があるなら、女にモテモテだ! 今はこんな状況だから、きっと何もしなくても寄ってくるぞ! ハーレムだ!」

姫巫女「だから、だから……!」


騎士「……」


騎士「俺が守るから」

姫巫女「……っ!?」



 ――――遅かったか……!

 ――――酷い……!

 ――――魔物がこんなにも居たなんて、聞いてないっすよ! こんな有様じゃあ、生きている人なんて……

 ――――……いや、居る! 微かに命が視える! ……こっちか!

 ――――あ、ちょっと!

騎士「守るから。君のことを」

姫巫女「……めろ」



 ――――はっ……っぁ、ああああああああああ!

 ――――っ、これは……!

 ――――女の、子? それに、これは魔力で出来た、壁?

 ――――……とてつもない魔力を感じるっす。多分、これで魔物から身を守ったんすね……でも。

 ――――あ、あああああああああああああああ……あ。

 ――――あの子が、倒れて……!

 ――――あんな魔力を放出し続けたら、そうなるっす! 早くやめさせないと!

 ――――寄る……な!

 ――――っ!


騎士「守るから。全ての辛いことから。君を守るから」

姫巫女「……やめろ」




 ――――お前らも……私の魔力、を! 狙っているんだろ! もう真っ平だ!

 ――――何を……!

 ――――人間も、魔物も、みんな、私の魔力を求めた! この村の人は……母さんは! それを拒否したから、抵抗したから! 魔物に殺された!

 ――――そんな、ことが……!

 ――――……今はそう言う時代っす。下手な魔力を持ってたら、ただ利用されだけ。魔物からも……人からも。私も、そうっすから。

 ――――……ちっ。

 ――――……胸糞悪いですね。

 ――――死んでやる。利用されるぐらいなら、これ以上、辛い目に合わない内に!

 ――――……おいおい


騎士「だから……」

姫巫女「やめろっ!」

 ――――ぅ、う……

 ――――あっ!

 ――――いや、気絶しただけみたいです。今、治療を。

 ――――……どうしようか、この子。

 ――――……連れて行って、私達で保護したほうがいいと思うっす。これだけの魔力だと、それこそヒトからだって狙われちゃうっすよ。その子が言ってたみたいに。

 ――――だけど、相当不信になっている。魔物以外でも、ヒトからも、辛い目に遭わされたんだろう。村や家族が守ってくれていても、今は、それも……

 ――――じゃあ、俺達が守ればいいだろう。

 ――――……簡単に言うね、君は。この子自身が、それを拒否するかも知れないよ?

 ――――そうだとしても、俺達はそうするしかないんだ。なら、どこか適当なとこに預けるか? 体中弄くり回されるぞ、俺達みたいにな。

 ――――……そう、だね。

 ――――ま、なんとかなるっすよ!

 ――――また随分とお気楽ですね……

 ――――深刻になる必要もないさ。俺達は、この子が起きた時、ただ『一言』だけ伝えればいい。あとの判断は、この子に任せよう。



騎士『信じろ』

姫巫女「っ……う、うううううう!」



 ――――ってな

 ――――どうでもいいですけどキャラ崩れていません?

 ――――軽く別人だよね。

 ――――信じろ(キリッ)

 ――――いや、この子、多分スゲェ可愛くなるよ。俺が言うんだから間違いない。だから今のうちにだな……

 ――――ああ、なんだ君か。誰だと思った。

 ――――本人でしたね。

 ――――スゲェ可愛くなる(ゲス顔)


騎士「ま、それから、王様の養子になったり姫様になったり、色々あったけどさ」

騎士「俺は……いや、俺達は、今でも思っているよ。『お前を守る』って」

騎士「どっからどう見ても……不老不死は『辛い目』だと思うけどな。なら、守らなきゃダメだろう」

姫巫女「どうせ……!」

騎士「……ううん」


姫巫女「また……嘘、なんだろ! 結局、この世界は辛いことばかりで! みんな、私から離れていく!」

騎士「そうだな。結果として、三人は殺されて、俺は無様に封印さ。つまり、嘘になっちまった訳だ。だからこそ、もう一度言う。いや、言わせてくれ」



騎士「信じろ。俺に、お前を守らせてくれ」

姫巫女「っ――――――」フラ



メイド「巫女様!?」

母親「……いや、今はただ見てなさい」

少女「ん、んんん。うん、りょーかい。じゃあ出ないほうがいいね。お兄さん、視えるんでしょ? あとはあたしが……あ、ちょうちょー」


姫巫女「……」ダキッ

騎士「……」

姫巫女「……撫でろ」

騎士「仰せのままに」ナデナデ

姫巫女「……相変わらず、妙な鎧だな」

騎士「フローラルだろ?」ナデナデ

姫巫女「お前の頭の中がな」

騎士「ううん」



姫巫女「……高潔なる私の騎士に命じます」

騎士「はっ」


姫巫女「……助けて」

騎士「我が命と友の魂に誓い、必ず」

と言う訳でお久しぶりです。すいません。ちなみに今日はここまで。

言い訳は腐る程あるんですが、とりあえず、頑張ります、とだけ。

完結はしたい所存

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