クリスタ「ピアノの先生おわりました」(1000)

※10巻までネタバレあり
※捏造あり、進撃世界観無視

クリスタ「ピアノの先生はじめました」のおまけというか続きです。
前スレが落ちてしまったので別スレ立てました。すみません。

※ ※ 食堂 ※ ※

チャリティーコンサートを無事に終え、いつも通りの日常に戻った訓練兵たち。

集めた寄付金の使い道について議論が交わされていた。

アルミン「では、お金の使い道についてみんなにアンケートをとった結果を発表するよ」

ジャン「おお、待ってたぜ」

コニー「俺の意見、採用されたのか?」

マルコ「以前から言ってるけど、訓練兵団の文化的活動および教養を高めるために集めた資金だから。

    個人的な目的とみなされる案は、申し訳ないけどハネさせてもらったよ」

コニー「なにっ?じゃあ俺の意見は……」

アルミン「ごめん。却下」

エレン「コニー、アンケートに何書いたんだよ」

コニー「………秘密だ」


ジャン「俺はコニーが書いてるの見たぜ。確か身長が伸びるサプリメ、もがっ!!」ガシッ

コニー「余計なこと言うなよ!!」///

ライナー「ほぅ…やはり気にしてるんだな」ニヤリ

ベルトルト「あやしげな薬なんかに頼っちゃ駄目だよ」

アルミン「僕たちまだ成長期だしね。これからきっと伸びるよ……うん、伸びると信じたい」

サシャ「だったらコニー、ぶら下がるといいですよ」

コニー「は?」

サシャ「私子どもの頃、暇な時よく木の枝にぶらさがってぼーっとしてたんです。そしたらメキメキ伸びました」

コニー「マジか?」

サシャ「はい。後でいっしょにブランブランしましょう」

コニー「お前はすんな」

マルコ「はいはい。話進まないから、ちょっと静かにしてね」

アルミン「で、食品関係とか嗜好品とかそういう本とか欲丸出しの案を抜いたら……

     ほとんど意見が残らなかったんだよ」


トーマス「軍楽隊に楽器増やすんじゃないのか?」

フランツ「そうそう。前そんな話してたよね」

アルミン「うん。でもさよくよく考えたら兵団卒業まで半年しかないんだよね。

     もう隊員も増えないだろうし、今から新しい楽器加えてもね……」

サシャ「そうですね……。楽器を残しても105期生が軍楽隊をやってくれるとは限りませんから……」

コニー「えっ?楽器ってここに置いてくのか?」

アルミン「ファイフは自分で持ってていいよ。そんなに高い楽器じゃないし。

     それに他人の吹いてたやつはちょっと嫌だよね……」

トーマス「じゃあドラムは残していくのか?」

アルミン「もともとみんなのカンパで買ったものだし。個人的に持ってても使うことないかなって」

フランツ「そうだね……。卒業したらみんなバラバラになるし。集まって演奏することも無いか……」

アルミン「寂しいけどね……。でもドラムはここに置いとけば使ってもらえるかもしれないから」


クリスタ「じゃあ本当に寄付金の使い道が無いの?」

マルコ「いや、ちょっとおもしろい意見があってね。えーと、ハンナとミーナはどこかな?」

ミーナ「はーい。ここだよ」

ハンナ「もしかして私たちの案を採用してくれるの?」

マルコ「それはみんなの了承を得てから。その前にちょっと質問していい?」

ミーナ「なーに?」

マルコ「ハンナとミーナはアンケートに足踏みミシンが欲しいって書いてあったけど……。使用目的は?」

コニー「ミシンって何だ?」

ジャン「つーか、それも個人的な要望だろ?贔屓すんな」

ライナー「ジャン、お前はアンケートに何て書いたんだ?」

ジャン「俺か?集まった金は全員で山分けしようぜって書いた」

ベルトルト「あはは。それいいね」

ユミル「うわっ、ジャンとかぶっちまった」

クリスタ「でもあんなに頑張って集めたお金なんだから。ちゃんとしたことに使おうよ」

アルミン「そうだよ。分けたってどうせくだらないことに消えちゃうんだし」


マルコ「ね、君たちがミシンを有効利用するなら、この駐屯地に設置してもいいかなって思ってる」

ミーナ「利用目的ね……(そんなの自分の服作りたいだけなんだけどなぁ)」

ハンナ「えーと……(何かうまい言い訳ないかしら)」

ミーナ「ハッ!そうだ、カーテン!!」

マルコ「えっ?」

ミーナ「ほら、この間みんなで内地に行った時に見たよね。どの建物の窓にも布がぶらさがってたでしょ」

ハンナ「そうそう!!私たちカーテンを作ろうと思って。寮の窓にカーテンがあったほうがいいかなって……」

エレン「そんなの必要か?」

コニー「布がぶらぶらしてんだろ。邪魔なだけじゃねぇ?」

ミカサ「私は賛成。女子寮にはカーテンが必要だと思う」

アニ「私もだね。今はどんなに暑い日でも着替えるのにいちいち窓閉めなきゃいけないし」

コニー「はぁ?何で閉めるんだよ。暑いなら開けときゃいいじゃん」

ジャン「馬鹿は黙ってろ」


ライナー「だが自意識過剰だな。どこにお前らの着替えを覗くもの好きがいるんだ?」

アニ「あんただよ」ゲシッ!!

ライナー「ぐふっ………!!」

ユミル「そうだな。クリスタのためにもカーテンはあったほうがいい」

クリスタ「うん。日除けにもなるし。大賛成だよ」

マルコ「うーん、なるほどね……」

ミーナ「それに寄付金は文化的なことに使うって、さっきマルコ言ったよね」

マルコ「言ったけど…」

ミーナ「ここにいる女の子はみんな同じような服着てて地味だけど……。本当はもっとかわいい服着たいんだよ」

ハンナ「ミシンがあればどんなお洋服でもあっという間に作れるの」

ミーナ「音楽だけが文化じゃないよね。ファッションだって立派な文化でしょ?」

マルコ「ははっ。確かにね」

アルミン「うん。僕はミシン購入に賛成かな。訓練ばかりの味気ない生活なんだ。

     女の子たちが気分転換にお洒落するのもいいんじゃないかな」


エレン「服装なんてどうでもいいだろ。中身はいっしょなんだし」

ミカサ「エレン、ミシンがあれば服が破けても新しいものを作れるから」

エレン「そっか。服が破けちゃう心配をしなくていいのか………。じゃあ俺も賛成」

マルコ「まぁ、この駐屯地にあれば来期以降の訓練兵の役にも立つか………」

ミーナ「ねっ、いいでしょ。もちろん男子の破れたズボンとかも直してあげるから」

マルコ「分かったよ。じゃあミシン購入に賛成の人は拍手!!」

パチパチパチパチ……

アルミン「過半数は超えてるみたいだね」

マルコ「うん。決定だね」

ミーナ「やった!」

ハンナ「ありがとう」

マルコ「ミーナとハンナはミシンの見積もりとってきてね。あとカーテン製作にかかる費用もざっと出して」

ミーナ「了解だよ。今度の休日ハンナと一緒に街に行ってくるね」


アルミン「えーと、もう一つ謎な意見があがってたんだよね………」

マルコ「そうそう。サムエルとトムはどこにいるかな……」キョロキョロ

サムエル「ここだ」

トム「……やっぱりアンケートに書いた内容では意味不明だった?」

アルミン「うん。大量の石灰、砂、顔料が欲しいって………何に使うの?」

トム「……フレスコ画の材料なんだよ」

マルコ「フレスコ画って……確か古い建物の壁に描いてある絵のことだっけ?」

トム「壁画が全部フレスコ画ってわけじゃないけど……」

サムエル「ほら、トムは絵を描くのが得意だろ?」

アルミン「そういえば自由時間はずっとスケッチブック開いてるね」

マルコ「描いてるの見せてもらったことあるけど、確かにすごく上手だった」

サムエル「だろ?せっかくのトムの絵の才能を眠らせておくのはもったいないと思ってさ」


アルミン「でも、どこの壁に描くつもりなの?」

トム「……できればこの食堂の壁に描かせてもらいたい」

サムエル「ほら、食堂って飾りとか何もなくて殺風景だろ?雰囲気が変わればまずい飯も少しはうまく感じるはずだ」

マルコ「まぁ、サムエルの言うことにも一理あるね」

アルミン「トムはフレスコ画っていうものを描いたことあるの?」

トム「俺の親父が壁画修復士でさ。古い教会とか屋敷のフレスコ画の修復の手伝いはよくしてたんだ。

   でもあくまで修復だから。自分で描いたことはないんだ……」

アルミン「……トムは本当は画家になりたかったの?」

トム「そうだよ。子どもの頃からの夢だ。でもこのご時勢、画家なんかじゃ暮らしていけないだろ?

   兵士になるのは仕方ないと思ってる。けど一つくらい作品を世の中に残したいんだ」

サムエル「俺からも頼む。トムに絵を描かせてやってくれ」

マルコ「もちろん僕は賛成だよ。絵画は立派な文化だ。でも食堂の壁って板張りだけど……」

トム「そう、板には直接フレスコ画は描けない。けどそこはサムエルが何とかしてくれるって……」

サムエル「何を隠そう俺は左官職人の息子だからな。食堂の壁をすべて漆喰に塗り替えてやる」


アルミン「白壁の食堂か…。ちょっとしたレストランみたいだね」

トム「絵と一緒に104期生全員に名前を書いてもらおうと思ってる。ここで訓練した記念になるだろ?」

マルコ「ははっ、いわゆる卒業制作ってやつだね」

アルミン「いいねそれ。じゃあ壁画制作に賛成の人は拍手して!!」

パチパチパチパチ……

アルミン「決まりだね」

マルコ「でも、食堂の壁を勝手にいじるわけにはいかないから。教官に許可をとらないと」

トム「やっぱり許可が必要か……」

アルミン「大丈夫。文化的事業っていえば多分OKでるから」

サムエル「じゃあ、壁の塗り替えにかかる費用も含めて壁画制作費を見積もればいいのか?」

マルコ「うん。大体でいいからさ。算出してくれると助かる」


アルミン「あと、みんなに相談なんだけど……。

     今回集まった寄付金から、少しだけ教官方に謝礼として渡していいかな?」

コニー「はぁ?何でだよ。教官関係ねぇじゃん」

ジャン「そんなに金が余ってんだったら俺たちに寄こせよ」

アルミン「分かってる。みんなで稼いだ大切なお金なんだ。もちろん簡単には渡さないよ」

ライナー「どういうことだ?」

マルコ「教官方と交渉しようと思ってね。僕たちがもう少し自由に行動できるように」

アルミン「チャリーティーコンサートが成功して、中央からお褒めの言葉を頂いたらしくてね。

     教官方の機嫌がいいんだ。もう一押しすれば、門限の延長や外泊申請の許可基準が緩むかもしれない」

ライナー「なるほどな。俺は賛成だ。今の門限じゃ飲みにもいけないからな」

ベルトルト「外泊も実家以外は認められないから。僕たちみたいに帰る家を失った人は申請すらできなかったしね」


ミカサ「外泊……。アルミン、すばらしい考えだと私は思う」

エレン「そうか?俺は必要性を感じないが」

ジャン「それは良かった。てめぇは一生寮で寝泊りしやがれ」

アルミン「どうかな、みんな。賛成してくれるかな?」

パチパチパチパチ……

マルコ「ありがとう。良い結果が引き出せるよう頑張ってみるね」

アルミン「みんな時間とらせてごめんね。解散していいよ」

(支援しよ)


ベルトルト「ねぇ、ミーナ」

ミーナ「あ、ベルトルト。何か用?」

ベルトルト「今度の休日街に行くんだよね?」

ミーナ「うん。ミシン売ってるお店とか手芸用品屋さんとか回るつもりだよ」

ベルトルト「それならついでに買ってきてもらいたものがあるんだけど……」

ミーナ「いいよ。何を買ってくればいいの?」

ベルトルト「えーとね………ヒソヒソヒソヒソ………」

ミーナ「?」

>>14 ありがとうございます


※ ※ 数日後 ヴァイオリン工房 ※ ※

オヤジ「ご苦労さん。今日はもう上がっていいぞ」

エレン「やっとかよ。おっさん人使い荒いから疲れたぜ」

ミカサ「そんなこと言わないの。昼食まで出して頂いてありがとうございました」

エレン「飯は確かに訓練所の数倍はうまかったぜ」

オヤジ「そりゃあ良かった。また手伝いに来いよ」

エレン「おう。ユミルとの約束だしな。嫌でも来なきゃならねぇ」

ミカサ「ジャンとユミルはまだ帰らないの?」

ジャン「ああ。俺たちはこっからがメインなんだ」

ミカサ「どういうこと?」

ユミル「自分で楽器作るんだったら材料費だけでいいってオヤジがな………」

オヤジ「チェロもヴァイオリンも、お前らがたまに来てバイトするだけじゃ全然金額が足らんからな。

    しかし材料費分ぐらいにはなるだろう。欲しいものは自分で作るのが一番だ」

ジャン「そういうわけで仕事の後に自作ヴァイオリンをちびちび作ることになっちまった」


ユミル「エレンたちは結局ヴァイオリン習わないのか?」

エレン「ジャンがてめぇはやるなってうるせぇからな。それにヴァイオリンなんか弾いてる場合じゃねぇし」

ミカサ「エレンはもう少し座学の勉強をするべき」

エレン「分かってるよ。後少しでジャンの成績を抜けそうなんだ。

    お前がヴァイオリンと戯れてる間に俺は必ず順位を逆転してやるぜ」

ジャン「よく言うぜ。てめぇは一度も俺の上に立ったことねぇだろうが。この万年負け犬野郎」

エレン「うっせーな。最終的に勝ちゃあいいんだろうが」

ミカサ「エレン。喧嘩になる前に帰りましょう」グイグイ

エレン「ちょっ、ミカサ引っ張んな」

ミカサ「おじさん、お世話になりました。また次の休日に来ます」グイグイ

エレン「またうまい飯期待してるぜ。それじゃあまた今度」

オヤジ「ああ、気をつけて帰れよ」

ガチャ バタン


ユミル「で、何の作業から始めればいいんだ?」

オヤジ「とりあえず合板を楽器の形にくり抜かなきゃならんだろう」

ユミル「げっ。そっからやるのかよ」

オヤジ「当たり前だ。これがチェロ用の型。こっちがヴァイオリン用の型だ。

    そこに合板が置いてあるから適当な大きさのやつに写し取れ」

ユミル「もうカッティングしてある板が、そのへんにごろごろしてるじゃねぇか」

ジャン「本当だな。……あれは使っちゃいけねぇのか?」

オヤジ「一から作ってこそ自分の楽器に愛着が湧くもんだ。少しは手伝ってやるから文句を言わずにさっさとやれ」

ユミル「へいへい」

ジャン「あーーー面倒くせぇ……」

オヤジ「そうそう。あそこに置いてある練習用のヴァイオリンとチェロは自由に使っていいからな。

    作業でイライラしたら気晴らしに弾くといい」

ジャン「俺はまだ全然弾けねぇんだぜ?余計ストレス溜まりそうだ」


オヤジ「じゃあユミルにでも弾いてもらいな。あっ、そうそうユミルに仕事の依頼があるんだった」

ユミル「なんだ?」

オヤジ「前に商工会主催のサロンパーティーで演奏してもらっただろ。覚えてるか?」

ユミル「ああ、室内楽団に欠員が出たからって急に呼ばれたやつか」

オヤジ「また開催するらしいんだが、楽団からユミルにまた出て欲しいってオファーがあった」

ユミル「はぁ?なんでだよ」

オヤジ「若い姉ちゃんがいたほうが評判がいいらしい。ギャラもはずむってさ」

ユミル「まぁ、前回も報酬は良かったからな……。分かった引き受けてやる」

ジャン「お前……俺たちの知らないところで色々手広くやってんだな……」

オヤジ「そうだ。ジャンもユミルについて行くといい」

ジャン「冗談。そんなとこ誰が行くか」

オヤジ「馬鹿野郎。良い演奏を聴くのが上達への一番の近道なんだよ。師匠の言うことは聞きやがれ」

ジャン「誰が師匠だよ」

ピアノの話大好きだったから続き読めて嬉しい!
支援

>>21 ありがとう。がんばります


オヤジ「文句ばっか言ってるとヴァイオリンの作り方教えねぇからな」

ジャン「ちっ……分かったよ。ついて行きゃあいいんだろ……」

オヤジ「えーと……これが演奏予定の楽譜だ」バサッ

ユミル「ふーん………。で、いつ開催?」

オヤジ「二週間後の土曜日だ」

ジャン「そういやあ来週って雪山訓練だったな……」

ユミル「あまり練習する時間はねぇか……。まぁいいさ。一人で弾くわけじゃないし。適当にごまかせば」

オヤジ「じゃあ、頼んだぞ」

ユミル「了解」

オヤジ「俺はこれから用があって出かけるから。きりの良い所まで作業したら勝手に帰れよ」

ガチャ バタン


ユミル「さーて、はじめるか。……ちょっとこの板、作業台に運ぶの手伝ってくれ」ヨイショ

ジャン「いいけど」ヨイショ

ユミル「ふー……やっぱりチェロはでけぇな。型を書き写すのに手こずりそうだ」

ジャン「俺はっと……この板でいっか」ヨイショ

ユミル「……しかし、ジャンが本当にヴァイオリンを弾こうとするとはな……」カキカキ

ジャン「はぁ?てめぇが勧めたんだろうが」

ユミル「そんなにミカサに格好つけたいのか?」カキカキ

ジャン「ああ、格好つけてぇよ」カキカキ

ユミル「……無駄な努力だと思うぜ」カキカキ

ジャン「放っとけ」カキカキ

ユミル「だってよ、誰が見たって分かるだろ。ミカサがエレン以外の男に食いつくことはねぇって」カキカキ

ジャン「うるせぇよ」カキカキ

ユミル「大体なんでそんなにミカサにこだわるんだ?そんなにイイ女か、あれ」カキカキ

ジャン「てめぇよりは間違いなくイイ女だろ」カキカキ


ユミル「普段あれほど冷たくあしらわれててまだ好きとか………ドMだな」カキカキ

ジャン「ドMで悪ぃかよ」カキカキ

ユミル「あれれ、素直に認めるのか?」カキカキ

ジャン「反論するのが面倒くせぇ」カキカキ

ユミル「ちっ、面白くねぇな」カキカキ

ジャン「そういやお前チェロに持ち替えるんだよな。……ヴァイオリン俺に寄こせ」カキカキ

ユミル「やだね。苦労して手に入れたんだ。それに今度の仕事でも使うしな」カキカキ

ジャン「つーか、なんで今更チェロなんだよ」カキカキ

ユミル「クリスタが弾けって言ったからに決まってるだろ」カキカキ

ジャン「クリスタにだけは従順なんだな」カキカキ

ユミル「そりゃ愛してるし」カキカキ

うぉおお嬉しい!!!楽しみだ


ジャン「なぁ……今まで誰も深く突っ込まなかったことを聞いてもいいか?」カキカキ

ユミル「聞くなっつったら黙るのか?」カキカキ

ジャン「黙んねーな」カキカキ

ユミル「だよな」カキカキ

ジャン「ユミルは……その、あれだ。本物のレズ……なのか……?」カキカキ

ユミル「ぶっ……本物のレズってなんだよ」ゲラゲラ

ジャン「だから、女にしか興味ねぇのかって」カキカキ

ユミル「それを聞いてどうすんだよ」カキカキ

ジャン「どうもしねぇけど」カキカキ

ユミル「じゃあ聞くな」カキカキ

続編待ってましたー!!

>>26 ありがとう。前作より日常系なのでご期待に添えなかったらすみません

>>28 ありがとう。多分また長い話になります。すみません。


ジャン「……………」カキカキ

ユミル「…………ちょっとそっち側押さえててくれ」

ジャン「あ?……ここか?」

ユミル「そうそう。サンキュ」カキカキ

ジャン「…………」

ユミル「何黙ってんだよ」カキカキ

ジャン「いや……デリカシーの無ぇこと聞いちまったな。悪い」

ユミル「くくっ、そんなこと気にすんのか。意外だな」カキカキ

ジャン「だって答えたくねぇんだろ?」

ユミル「別にさ………、男だからとか、女だからとかじゃねぇんだよ」カキカキ

ジャン「……?」

ユミル「私はな自分以外の人間には興味ねぇんだよ」カキカキ

ジャン「じゃあ、クリスタは?」

ユミル「あいつだけは特別だ」カキカキ

ジャン「ふーん……」

>>30
いやいやむしろ長いの大好物です!
頑張ってください!


ユミル「よし、書き写せた。今度はお前の手伝ってやるよ」

ジャン「ああ。頼む」

ユミル「……お前、線ガタガタじゃねぇか。不器用だな」

ジャン「うるせぇ」

ユミル「ほら、型が動かねぇように押さえててやるから。さっさと書け」

ジャン「……なぁ」カキカキ

ユミル「なんだ」

ジャン「……もしクリスタが男だったら、お前はどうした?」カキカキ

ユミル「だから、男とか女とか関係ねぇつってるだろ」

ジャン「そうか」カキカキ

ユミル「そんなにレズ認定してぇのかよ」

ジャン「いや………、ユミルはカタツムリだな」カキカキ

ユミル「はぁ?」


ジャン「知ってるか?カタツムリって雌雄同体なんだぜ」カキカキ

ユミル「なんだそれ」

ジャン「オスでもありメスでもあるってな」カキカキ

ユミル「意味わかんねぇ…………じゃあカタツムリはどうやって増えるんだよ」

ジャン「どうすると思う?」カキカキ

ユミル「そりゃあ、な。テメェでテメェに突っ込むのか?」

ジャン「お前………やっぱり女じゃねぇな。品がねぇ」カキカキ

ユミル「けどそういう話だろ?」

ジャン「まぁ、そうだが。でもさすがに単体じゃ増えねぇよ」カキカキ

ユミル「じゃあカマ同士で掘りあうのか?」

ジャン「おっ、正解」カキカキ

ユミル「ぎゃはははは、マジで!?冗談で言ったのによ」ゲラゲラ

ジャン「ちょっ、揺らすな」

ユミル「悪ぃ、悪ぃ」

ジャン「………よし、俺も完成だ」

好きやったしこれも期待してる

>>35 ありがとう

ちょっと掲示板が重いようなので、投下はまたのちほど


ユミル「じゃあ、飲みに行こうぜ」

ジャン「はぁ?門限あるだろうが」

ユミル「お前のクソ真面目なダチのおかげで、門限がだいぶ遅くなっただろ?」

ジャン「ああ。そうだったな」

ユミル「飲みながらさっきのカタツムリの話聞かせてくれ。面白そうだ」

ジャン「腹も減ったしな……。いいぜ、飯がてら話してやる」


※ ※ 街の裏通り ※ ※

ユミル「こっちの通りに安い酒場があるんだぜ」

ジャン「ここは昼間しか通ったことねぇが………夜になるとなんかすげぇな」

ユミル「だろ?立ちんぼだらけだ。…ジャンも買ってみるか?」

ジャン「冗談。俺はミカサ一筋なんだぜ」

ユミル「一生童貞で過ごすのか、かわいそうに」

ジャン「なっ、勝手に童貞って決めつけんじゃねぇ」

ユミル「違うのか?」ニヤニヤ

ジャン「ぐっ……そんなことなんでてめぇに言わなきゃなんねぇんだよ」

娼婦A「あれ?ユミルじゃない?」

ユミル「ん?………あぁ、あんたか。久しぶりだね」

娼婦A「二年ぶりぐらいかな」

ユミル「河岸変えたんだ」

娼婦A「そう。内地じゃ若い同業者がどんどん増えて商売あがったりでさ」

ユミル「あんたもう三十路だしな」


娼婦A「そう。だからここまで流れてきたんだけど……やっぱりどこもシケてるね」

ユミル「いい加減足洗えば?」

娼婦A「大きなお世話。……そっちは今日のお客さん?随分若いの捕まえたんだね」

ジャン「!?」

ユミル「ちげぇよ。もう売りはしてねぇから」

娼婦A「じゃあ彼氏?」

ユミル「ただのダチ」

娼婦A「ふーん。でも良かった、元気そうで。急に姿が見えなくなったから心配してたんだよ」

ユミル「挨拶もせず去って悪かったね。……それじゃあ行くわ」

娼婦A「引き止めてゴメンね。そっちのボウヤもバイバイ」

ユミル「ほら、行くぞ」グイッ

ジャン「あ、ああ」


※ ※ 酒場 ※ ※

ユミル「はい、お疲れさん」

ジャン「おう、てめぇもな」カチャン

ユミル「ゴクゴクゴク………ぷっはー、やっぱ冷えたビールは最高だな」

ジャン「あー、腹減った。……おぉ、ここのジャガイモのパンケーキはなかなかいけるな」モグモグ

ユミル「なんだ、ジャンは酒は苦手なのか?」

ジャン「いや。でも空きっ腹でガンガン飲めるほど強くはねぇよ」モグモグ

ユミル「ふーん」ゴクゴク

ジャン「やべっ、このザワークラフト超すっぺー」モグモグ

ユミル「つまみだからな」ゴクゴク

ジャン「でも、肉類はさすがに店に置いてねぇか」

ユミル「肉なんて貴重品、こんな大衆酒場にあるわけがねぇだろ」モグモグ


ジャン「お前が今かじってるやつ、それ何?」

ユミル「乾燥いちじく。結構いけるんだぜ」ゴクゴク

ジャン「へぇ。つーか、ハイペースだな」ゴクゴク

ユミル「おーい、オヤジ!同じやつもう一杯頼むぜ!」

ジャン「本当におっさんみてぇだ」モグモグ

ユミル「あっ、言っとくが割り勘な」

ジャン「はぁ?ずるくねぇか」

ユミル「ずるくねぇし。料理は全部食っていいからよ」

ジャン「腹減ってねぇのか?」モグモグ

ユミル「おっ、ビールがきたきた。ん?何か言ったか?」ゴクゴク

ジャン「いや、いい」モグモグ

ユミル「そうか」ゴクゴク


ジャン「…………」モグモグ

ユミル「………」

ジャン「……」モグモグ

ユミル「………お前さ、何にも聞かねぇんだな」

ジャン「別に………。てめぇに興味なんかねぇし」

ユミル「さっきは私の性癖に興味津々だったくせにな」ゴクゴク

ジャン「うるせぇよ。…………ガキの頃な、カタツムリの正体を暴こうとしたことがあるんだ」ゴクゴク

ユミル「は?急になんだよ」

ジャン「カタツムリって殻を取ったらナメクジになるんじゃねぇかって一度くらい思ったことあるだろ?」

ユミル「ぶっ、思わねぇよ」ケラケラ

ジャン「俺は思ったんだよ。で、無理やり殻を引っ張った」

ユミル「ふーん、で?」ゴクゴク

ジャン「胴体と殻がちぎれてな。当然カタツムリは死んじまった」

ユミル「別にさぁ……過去がバレたぐらいじゃ死なねぇし」


ジャン「いや、俺がショックを受けたのは死なせたことより殻の中を見ちまったことだ」

ユミル「そりゃあグロいだろうな」ゴクゴク

ジャン「……本体が抜けたら殻の中は空洞になるって信じてたんだ。

    なのに殻の中はぐっちゃぐっちゃのドロドロだった。見るんじゃ無かったって後悔した…」

ユミル「お前のメルヘンに付き合わされて、体を引きちぎられたカタツムリのことを少しは考えろ」

ジャン「だからな、てめぇの過去なんざ俺は知りたくねぇんだよ。知ったところで後悔するに違いねぇし」ゴクゴク

ユミル「意外だな…。ジャンのことだから根掘り葉掘り聞き出して軽蔑するのかと思ってたぜ」

ジャン「そんなガキじゃねぇよ。………だってお前さぁ家族いねぇんだろ?」

ユミル「…ああ」ゴクゴク

ジャン「開拓地から来たって話も聞かねぇし……。

    この世の中、女が一人で生きていくってのはそれなりに苦労があんだろ」ゴクゴク

ユミル「ばーか。知ったよな口聞いて同情してんじゃねぇよ」

ジャン「同情じゃねぇし」


ユミル「お前の想像する通り兵団に入るまでの生活はろくなもんじゃ無かったぜ。

    ……盗みに売春、金になることは何でもやった」ゴクゴク

ジャン「………」

ユミル「だがな、後悔はしてねぇんだよ。やりたい放題の人生にむしろ満足してるぐらいだ。

    過去を恥じることもねぇし、隠す気もねぇよ」

ジャン「そうか……」ゴクゴク

ユミル「……なんだったら、ジャンの相手してやろうか?」

ジャン「ぶっっ!!?」

ユミル「うわっ、汚ぇな」

ジャン「おまっ、何言ってんだよ///」

ユミル「冗談だ。……耳まで真っ赤にして、やっぱり童貞だな」ニヤニヤ

ジャン「くっそ………」ゴクゴク


※ ※ 第二音楽室 ※ ※

ライナー「よし、今日は解散だ」

「アニキお疲れー」

「大声出してすっきりしたぜ」

ライナー「マルコも伴奏につき合わせて悪かったな。ご苦労さん」

マルコ「いいよ。コンサート終わって暇になったし」

ライナー「じゃあ、明日も頼む」

マルコ「いいけど……。次のステージの予定もないのにライナー軍団は練習熱心なんだね」

ライナー「まぁ、趣味みたいなもんだからな。…あと俺たちのことはデスクリと呼びやがれ」

マルコ「はいはい。僕はこれからピアノの練習するから、先に寮へ帰っててよ」

ライナー「そうか。じゃあ戸締り頼んだぜ」

マルコ「うん、了解」

ガラガラ ピシャッ


マルコ(さてと……クリスタへのリベンジの曲考えなきゃな………楽譜、楽譜)ゴソゴソ

マルコ(うーん、やっぱりロマンティックな曲だよね………そうなるとショパンかなぁ……)パラパラ

マルコ(エルガーの『愛の挨拶』とか?……駄目だ。直球すぎる……)パラパラ

マルコ(そういう曲、真面目に弾くの照れくさいな………)パラパラ

マルコ(また歌曲でごまかすか………さすがに怒られるよね………)パラパラ

マルコ(あっ、これいいかも……ちょっと練習してみるかな……)

♪♪♪♪~~

マルコ「あーーもう。なんでこんなに技巧的な編曲にするかな、リストの奴め……」

♪♪♪♪~~

マルコ「はぁ……これはかなり練習しないとね……」

♪♪♪♪~~


ガラッ

マルコ「!?クリスタ」

クリスタ「あっ、練習の邪魔しちゃった?ごめんね」

マルコ「いや、いいんだけどさ……(楽譜隠さなきゃ)」バサバサ

クリスタ「そんなに慌てなくていいよ。聴こえてたし………」

マルコ「そ、そう……できれば聴こえなかったふりして欲しいなぁ……」

クリスタ「シューマン=リストの『献呈~君に捧ぐ~』……」

マルコ「はぁ……スルーしてくれないのか」

クリスタ「難しいよね、この曲」

マルコ「まあね。僕には難易度が高すぎるかも」


クリスタ「シューマンが結婚前夜に婚約者に捧げた歌曲を、リストがピアノ用に編曲したんだよね」

マルコ「そう。リストのおかげで曲の後半はまるで超絶だよ」

クリスタ「ねぇ、このリストの編曲をシューマンの奥さんが聴いて何て言ったか知ってる?」

マルコ「いや、知らないけど…」

クリスタ「『愛に技巧なんていらないわ』って。素敵よね」

マルコ「……それはこの曲じゃ駄目ってことかな?」

クリスタ「…うん」

マルコ「はぁ…しょうがない。身の丈にあった曲を考えるよ」

クリスタ「違うの。マルコの技術に見合ってないとか言ってないからね……」

マルコ「?」

曲を流しながら読む楽しみ

>>49 個人的な趣味による選曲で申し訳ないです
   極力メジャーな曲を選んでいきます


クリスタ「その、マルコって捧げるの好きだなぁって……」

マルコ「ああ、僕の入団理由か…。クリスタまでからかうの?」

クリスタ「ふふっ、からかったりしないよ。立派な志だと思ってる」

マルコ「なんだ。君にまで‘貴様の体なんぞ欲しくない’って言われるのかと思ったよ」

クリスタ「そ、そんなこと言わないよ……」///

マルコ「あはは。冗談だよ」

クリスタ「むぅー…。でもね、そういう人任せなところがズルい」

マルコ「どういうこと?」

クリスタ「だって捧げるだけ捧げて後は好きにして下さいってことでしょ。

     判断を他人に任せてて……自分の意思が感じられない……かな」

マルコ「いや、僕だって捧げる相手は自分の意思で選んでるからね」

クリスタ「でも王様と半分こでしょ」

マルコ「ぷっ……はははっ、クリスタって発想が豊かだね」

クリスタ「もう、笑わないでよ」

マルコ「ごめんごめん」

ピアノのことあんまわかんないけど前スレ楽しく読ませてもらったから支援!


クリスタ「だからね、私はマルコがどうしたいのかがはっきり分かる曲がいいの」

マルコ「…難しいリクエストだね」

クリスタ「まだ兵団卒業まで時間はあるし頑張って考えてみて」

マルコ「はぁ…、クリスタって結構イジワルだよね」

クリスタ「ふふ。マルコの前ではね」

マルコ「もしかして僕は損な役回りを買って出ちゃったのかな」

クリスタ「後悔してる?」

マルコ「いや全然。むしろ嬉しいよ。僕に遠慮しないでいてくれて」

クリスタ「良かった。…それじゃあ、私は寮に戻るね」

マルコ「うん。おやすみなさい」

ガラッ  ピシャッ

>>52 ありがとう。あまりマニアックにならないよう気をつけます


マルコ(……僕がどうしたいのかはっきり分かる曲ねぇ……)

マルコ(……僕のしたいこと……)

マルコ(……駄目だ……破廉恥なことしか頭に浮かばないよ……)ブンブン


※ ※ 翌日 第三音楽室 ※ ※

コニー「なんで練習ねぇのにみんな集まってんだよ」

サシャ「そういうコニーこそ何でいるんですか?」

コニー「俺か?そんなの暇だからに決まってんだろ」

トーマス「俺たちも同じだ。軍楽隊の仕事が入るまで練習は週2回だけになったけど…」

ナック「寮にいてもやることねぇんだよな」

ミリウス「で、結局ここにたむろするわけだ」

サムエル「そんなに暇なら、食堂の壁の塗り替えする時手伝ってくれないか?」

サシャ「いいですよ。そういえば教官の許可がどうとか……」

サムエル「許可はもらえた。ただ、丸一日食堂を使えなくしちまうが……」

サシャ「えっ!?ご飯抜きですか?」

サムエル「大丈夫。教官に相談したら、野戦糧食を支給してくれることになった」

コニー「外で食えってか?」

サムエル「そうだ」

サシャ「……野戦糧食ですか。味気ないですね……」


サムエル「その代わり、夜は演習場でバーベキューしていいらしいぞ」

サシャ「本当ですか!?」

サムエル「ああ、でも肉は出ないがな」

コニー「じゃあ何焼くんだよ」

サムエル「食糧庫にあるものだったら何でもいいんじゃね?」

サシャ「焼き芋で決定ですね」

フランツ「野菜と穀類ばっかりだけど、みんなでバーベキューは楽しそうだね」

トーマス「キャンプファイヤーとかやっちゃう?」

ナック「ダンスとかしちゃう?」

ミリウス「いいねー」


サシャ「じゃあダンスの曲は軍楽隊が演奏ですね」

トーマス「それは断固として断る」

サシャ「何でですか?」

ナック「だって俺たちも踊りたいじゃん」

ミリウス「女子と手を繋ぎたいじゃん」

サシャ「音楽無しで踊るんですか?盛り上がりませんよ?」

フランツ「交代で演奏すればいいんじゃない?」

サシャ「さすがフランツ。ナイスアイディアです。どうですか?みなさん」

トーマス「まぁ、しょうがねぇか」

サムエル「つーか、キャンプファイヤーでダンスする曲ってなんだよ」

コニー「そんなもん知るか。こういうことはアルミンに聞くのが一番だな」

サシャ「でもアルミン、さっきからずっとピアノの前で頭かかえてますよ」

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コニー「おい、アルミン」

アルミン「ブツブツ……」

コニー「なぁ!!アルミン!!」

アルミン「うわっ!?びっくりした。……何か用?」

コニー「お前さっきから何やってんだ?」

アルミン「作曲中だよ。……この前のコンサートで訓練兵団の歌をみんなで歌ったでしょ」

サシャ「はい。大合唱楽しかったですね」

アルミン「評判が良かったみたいでさ。それを聞きつけた他の兵団から作曲の依頼がきたんだよ」

フランツ「すごいじゃないか!!」

トーマス「アルミン先生って呼ばなきゃいけないな」

アルミン「やめてくれよ。先生なんて……」


コニー「どこの兵団からの依頼なんだ?」

アルミン「調査兵団なんだけど……、兵団からってわけじゃなく個人的な依頼みたい……」

サシャ「どういうことです?」

アルミン「この手紙を見てよ。これが曲をつけて欲しい詩だってさ……」ガザガザ

コニー「……えーとタイトルが……きょじんナントカ……これ、なんて読むんだ?」

フランツ「どれどれ……『巨人賛歌』………ぶっ……あはははは、すごい詩だね」

サシャ「巨人と愛を育もう……巨人と夢を語ろう……ぷぷっ、何ですかこれ?」

トーマス「冗談で送られてきた手紙なんじゃないか?」

アルミン「でもさ、依頼の文面はいたって真面目だから……。調査兵団には変な人がいるみたいだね」


コニー「で、曲ができなくて悩んでんのか?」

アルミン「そう。‘雄大で荘厳、情熱的でかつ甘く切ないメロディーでよろしく’って手紙に書いてあってさ…」

サシャ「無茶苦茶ですね」

コニー「そんなもん断っちまえ」

アルミン「……そうだね。巨人への愛なんて僕には無いし。うん、お断りしよう」

コニー「で、何でアルミンに声かけたんだっけ?」

サシャ「ダンスの曲ですよ」

コニー「おぉ、そうだった。なぁアルミン。焚き火を囲んでみんなで踊る曲って知らねぇか?」

アルミン「? 知らないけど…」


サシャ「今度、星空の下でキャンプファイヤーするんですよ。みんなで踊ればきっと楽しいですよ」

アルミン「ははっ……僕にそういう曲を調べろと……」

コニー「いつも悪いな。でも頼れるのはお前しかいねぇんだよ」

サシャ「お願いします」ペコリ

アルミン「はぁ…。分かったよ。でも君たちも手伝ってよね」

コニー「いいぜ。多分役には立たんがな」

サシャ「そういえば……ハンナとミーナの姿が今日は見えませんね」キョロキョロ

フランツ「ああ。ミシンが設置されたらしくてね。二人はカーテン製作に忙しいみたい」

アルミン「そうそう。講義棟の物置部屋を片付けて洋裁室にしたんだ」

サシャ「そんな話聞いてませんよ」

アルミン「ごめん。みんなに告知するの忘れてた。後で食堂の掲示板にお知らせを貼っとくよ」

今日はここまでです。レスありがとうございました。
相変わらずのゆっくりペースになります。すみません。

続き楽しみだ

乙!
この前の話素敵だったから待ってた!

全レスは馴れ合いとみなされることがあるから
注意したほうがいいと思われ

投下前投下後に一括でとかでいいとおもうの

>>1です
>>68 ご指摘ありがとうございます。
久しぶりの投下でレスがついてちょっと浮かれすぎました。以後気をつけます。

では続きを少し


※ ※ 洋裁室 ※ ※

ハンナ「そうそう。足元の踏み板を前後に踏むの」

ミーナ「きゃっ。ちょっとどうやって止めるの?」ダダダダダダ

ハンナ「踏み板を動かすのをやめれば止まるよ」

ミーナ「はぁー、ミシンってヒヤヒヤするね」

ハンナ「慣れたら簡単だよ。急に止めたい時は、右側についてるはずみ車をバシッと手で押さえるの」

ミーナ「やっぱりミシンはハンナに任せるよ。私は布の裁断担当で」

ハンナ「そう?カーテンなんて直線縫いだけだから練習には持ってこいなんだけど…」

ミーナ「だってカーテンはみんなのものでしょ。失敗できないよ……」

ハンナ「分かった。じゃあ布のはじ切れとっとくから。それで練習すればいいよ」

ミーナ「うん、そうする」


ミカサ「ねぇ、こんな感じでどうかしら?」

ハンナ「どれどれ……すごい!!きれいな花刺繍!!」

ミーナ「きゃー!!めっちゃ可愛い!!すごいね、ミカサ」

ミカサ「…ありがとう///」

ハンナ「ミカサがカーテン作りの手伝いを申し出てくれた時はびっくりしたけど…」

ミーナ「まさかこんな特技があるとは…」

ミカサ「…刺繍はお母さんに教わったから……裁縫は好きではないけど刺繍だけはできる」

ハンナ「じゃあ、ミーナが裁断、私がミシン縫い、ミカサが仕上げにワンポイントの刺繍を入れる。

    流れ作業でサクサク仕上げようね」

ミーナ「うん」


ミカサ「…で、なぜベルトルトがここにいるの?」

ベルトルト「…ごめん。やっぱり邪魔かな」

ミカサ「邪魔ではない」

ベルトルト「寮でこんなことしてたらみんなに馬鹿にされそうで…」

ミカサ「…編み物なんてできるのね」

ベルトルト「…男が編み物なんておかしいよね…」

ミカサ「…珍しいとは思う」

ミーナ「ベルトルトに棒針と毛糸玉を買ってきて欲しいって頼まれときは驚いたよ」

ベルトルト「手芸店ってどうも入りにくくて…」

ハンナ「何を編んでるの?」

ベルトルト「……腹巻」

ミーナ「ぷっ、腹巻って……子どもじゃないんだから……」クスクス

ベルトルト「そんなに笑わないでよ…。僕、寝相が悪くて……お腹よく冷やすから……」


ミカサ「でも編み物のやり方なんてよく知ってるわね」

ベルトルト「僕もお母さんから教わったんだよ。内気な僕の性格にぴったりだろうって」

ミーナ「ミカサだけじゃなくベルトルトまで女子力高いなんて……」

ベルトルト「えっ、女子力?僕はそんなのいらないよ…」

ハンナ「でも、ベルトルトが編み物教えてくれるって言ったら女の子がたくさん集まりそうね」

ミーナ「うん。編み物王子ってもてはやされそう」

ベルトルト「やめてくれよ。頼むから僕が編み物してることは秘密にしといてね」

ミーナ「でもさぁ、あと半年で卒業だから。女子は焦りはじめてるよね」

ハンナ「そうそう。成績優秀な男の子捕まえようと必死になってる」

ミーナ「ベルトルトも被害にあってるんじゃない?」

ベルトルト「被害っていうか……手紙もらったり、食事に誘われたり……」

ミーナ「で、どうしてるの?デートとかしちゃってるの?」ワクワク

ベルトルト「ううん。全部お断りしてるよ」

ミーナ「なんで?もったいない」


ベルトルト「僕にだって相手を選ぶ権利はあるよ」

ミーナ「ふーん…ってことは好きな人がいるんだ」

ベルトルト「…そんなのいないよ///」

ミーナ「赤くなってるじゃん。やっぱりいるんでしょ。誰か教えなさいよ」

ハンナ「ミーナやめなよ。ベルトルト困ってるでしょ」

ミカサ「ねぇベルトルト…エレンも被害にあってるの?」

ベルトルト「うーん…。エレンとジャンとコニーはもらった手紙の数を競い合ってるね」

ミカサ「そんな…エレンを守らないと」ガタッ

ベルトルト「はは、大丈夫だよ。ジャンはともかくエレンとコニーは手紙の中身はろくに読んでないから」

ミーナ「男子って最低」

ハンナ「なんでも競争するんだね」


ベルトルト「だからさ、女の子たちに手紙を書いても無駄だよってそれとなく伝えてくれないかな…」

ミーナ「乙女の夢をぶち壊すようなこと私には言えないよ」

ベルトルト「もう断るのに疲れちゃって……お願い」

ミカサ「ベルトルトがはっきり嫌だって意思表示すれば済む問題だと思う」

ミーナ「そうだよ。中途半端な断り方してるんじゃない?」

ハンナ「例えば食事に誘われた時、どんなふうに断ってるの?」

ベルトルト「えーと…‘ごめん、また今度ね’って…」

ハンナ「それはベルトルトが悪いと思う」

ミーナ「うん。次回に期待しちゃうよ」

ミカサ「自業自得ね」


ベルトルト「じゃあ何て言えばいいの?傷つけるような断り方はしたくないよ…」

ミーナ「うーん、でも期待させたままっていうのもね…。それはそれで罪深いと思うけど?」

ミカサ「何をそんなに悩んでいるの?正直に言えばいいでしょう?あなたが嫌いですって」

ハンナ「ミカサ、それはちょっと……」

ミーナ「大体さぁモテ過ぎて悩むなんて贅沢すぎよ。なんか腹立ってきた」

ベルトルト「僕だって好きでモテてるわけじゃないよ」

ハンナ「まぁ無難なのは‘二人きりでの食事は遠慮するね’ってとこかしら」

ベルトルト「それいいね!やんわりと断りつつ期待も持たせない。ありがとう、ハンナ」

ハンナ「ふふ、どういたしまして」

ミカサ「エレンにも早急に教えなければ……」メモメモ


ハンナ「それより早く作業を続けましょう」

ミーナ「そうだね」

ハンナ「早くカーテン仕上げないと、自分用のものが作れないしね」

ミカサ「ハンナは何を作る気なの?」

ハンナ「うふふ。ちょっと待ってね……」ガサガサ

ミカサ「?」

ハンナ「じゃーん。見て、この生地」ファサッ

ミーナ「きゃー、すごい綺麗。真っ白でツヤツヤしてる」

ミカサ「光沢があって適度に張りがあって……シルク?」

ハンナ「そう、シルクサテン」

ベルトルト「シルクって超高級品じゃないか」

ハンナ「うん。…フランツからプロポーズされたってお母さんに手紙書いたらね…。この生地を送ってきたの」

ミーナ「もしかして……ウェディングドレス用?」

ハンナ「そうなの」///


ベルトルト「へぇー、ドレスまで手作りするんだ。すごいね」

ミカサ「おめでとう、ハンナ」

ハンナ「ありがとう。でも結婚するのはまだ先だからね。時間がある時にドレスだけはちょっとずつ作ろうかなって…」

ミーナ「ドレス作るの大変そうだもんね…」

ハンナ「だからカーテンが完成したら、先にミーナの服を作ろうね。ワンピースだっけ?」

ミーナ「そうワンピース。でも自分用じゃないんだ」

ミカサ「誰かにあげるの?」

ミーナ「うん。アニにプレゼントしようと思って」

ベルトルト「アニに?」

ミーナ「そう。以前アニに助けられたことがあって…。何かお礼がしたいってずっと思ってたの」


ハンナ「そっか。だからあんな薄いピンク色の生地買ったのね」

ミーナ「ハンナ、私には似合わないって大反対だったもんね。でも色白のアニにはぴったりでしょ?」

ハンナ「うん。…でも着てくれるかな。彼女がスカートはいてるの見たことないし…」

ミカサ「そういえばいつもズボンね」

ベルトルト「アニはワンピースなんて着ないと思うよ…」

ミーナ「そんなことないよ。アニは無愛想だけど本当は優しい子だから。プレゼントしたら着てくれるはず」

ハンナ「まぁ、いらないって言われたら自分で着るか他の人にあげれば済むことだし…」

ミーナ「だよね。作っても無駄にはならない」


ミカサ「…プレゼントね…」

ハンナ「ミカサも誰かにプレゼントしたいの?」

ミカサ「…マフラーを作りたい」

ベルトルト「エレンにかい?」

ミカサ「……」コクン

ミーナ「そういえばミカサっていつもマフラーしてるよね」

ミカサ「これは……昔エレンにもらったの」

ハンナ「なるほど。大切なものなのね」

ミカサ「でも私にマフラーを渡したせいで、エレンのマフラーが無くなってしまった……だからプレゼントしたい」

ベルトルト「いいよ。棒針と好きな色の毛糸玉買ってきたら編み方を教えるよ」

ミカサ「本当?ありがとう、ベルトルト」

ベルトルト「うん。その代わり手芸店でついでに買ってきてほしいものがあるんだけど…」

ミーナ「いい加減、自分で行きなよー」

ベルトルト「無理だって。やっぱり恥ずかしいよ…」


※ ※ 男子寮 ※ ※

ジャン「マルコ…」

マルコ(そうそう、これぐらいの肩幅で……)ギュゥ

ジャン「なぁマルコ!」

マルコ(びっくりするくらい華奢だったよなぁ……)ギュゥ

ジャン「おい!!!マルコ!!!」

マルコ「!?……なんだよジャン。大声出してうるさいなぁ」

ジャン「お前最近ニヤけたツラした枕に抱きついてばっかだなぁ……気持ち悪いぞ」

マルコ「放っといてくれ。邪魔するな」

ジャン「何の邪魔だよ」

マルコ「記憶の反芻」ギュゥゥゥ

ジャン「はぁ?…それよりこれを見ろよ。俺様は今日も女子にモテモテだぜ」

マルコ「ああ…また手紙もらったのか」

ジャン「これで通算18通だ。おい、エレン。てめぇは何通だ?」


エレン「…今勉強中だから絡むな」カキカキ


ジャン「ちっ、おもしろくねぇな」


ダズ「うぅぅぅ……グスッ……」メソメソ

エレン「あーもう、ダズ泣くなよ」カキカキ


ジャン「マルコ、ダズに何かあったのか?」

マルコ「それが聞いても理由を教えてくれないんだ。だから放置」

ジャン「ふーん…」


ダズ「うぅぅぅ……うわぁぁぁぁん……」メソメソ


ライナー「ダズうるせぇぞ。ったく、読書の邪魔だ」パラッ

ジャン「さーてと、手紙、手紙」ガサガサ

マルコ「…返事出す気ないのに一応読むんだ」

ジャン「別にいいだろ。……おぉ、俺めちゃくちゃ褒められてるぜ」

マルコ「そう、よかったね」

ジャン「なんだよその冷めた反応。自分が一つも女子から手紙もらえねぇからって拗ねんなよ」

ライナー「ばーか。マルコはもらえねぇんじゃなくて、受けとらねぇんだ」パラッ


ダズ「ぐすっ……うぅぅぅ……びぇぇぇぇぇん…」メソメソ


ジャン「ダズ黙れよ!…受け取らないって…お前冷たい奴だな」

マルコ「そうかな。答える気もないのに受け取るほうが失礼だと思うよ」

ライナー「それよりジャン…、この小説やばいな…」パラッ

ジャン「だろ。俺様秘蔵の官能小説だからな。

    生きてる間にみんなに見せようと思って、わざわざ実家から取ってきたやったんだ」

マルコ「その本が危うくジャンの遺品になるところだったしね」

ジャン「そうそう。あのステージを無事生還できて本当に良かったぜ。つーかマルコはもう読んだのか?」

マルコ「ああ。歴史的価値からしても興味深い古典文学だったよ」

ジャン「ぶっ、素直にエロかったって感想言えねぇのかよ」ゲラゲラ


ダズ「……うぅぅぅ…ぐすっ…ぐすっ……」メソメソ

エレン「はぁ…、ダズ本当にどうしたんだよ。黙ってちゃ分かんねぇだろ?」


マルコ「『ファニー・ヒル』。かなり昔に書かれた壁外の小説だ。そんな貴重な文献がよく手に入ったね」

ジャン「写本だけどな。古書店を漁ってたらたまたま見つけたんだよ。で、買ってみたら大当たり」

ライナー「女視点で丁寧な語り口ってのが、なかなかくるな…」パラッ

マルコ「主人公が娼婦だけど人生に絶望も悲観もしてなくて。読んでても罪悪感を感じなくて良かったよ」

ジャン「お前なあ、ただの官能小説に真面目に感想述べてんじゃねぇよ」

ライナー「まぁ、前向きすぎる娼婦だな。で、絡みの描写がやたら多い。実にけしからん」パラッ

ジャン「その話って最後どうなるんだっけ?」

マルコ「ジャンの本だろ。最後まで読んでないのか?」

ジャン「まぁ、抜粋して読んでるからな」

マルコ「最後は無理やりハッピーエンドにまとめてたよ」

ライナー「おい、俺はまだ読んでる最中なんだぞ。ネタばらしするんじゃねぇ」パラッ

マルコ「あっ、ごめん」

ジャン「ハッピーエンドか…。ライナー、読み終わったら俺に一旦返してくれ。最後まで読んでみたくなった」

ライナー「いいぜ」パラッ


エレン「なぁダズ。何があったんだよ」

ダズ「……彼女に…ぐすっ……振られたんだ……」メソメソ

エレン「は?お前彼女いたのかよ」

ダズ「……うん……ぐすっ……」メソメソ

エレン「なぁ、お前らダズの彼女って知ってるか?」


ジャン「はぁ?そんなもんいるわけねぇだろ」

マルコ「聞いたことないね」

ライナー「夢でも見たんだろ」


エレン「…だそうだ。お前は夢を見たんだよ。早く現実に帰って来いよ」カキカキ

ダズ「夢じゃねぇし……ぐすっ……」メソメソ


ライナー「しかし昔の人間が書いたにしては、斬新な内容だな」

ジャン「だろ。人類ってのは昔からエロい生き物なんだよ」

ライナー「このテクニックとか試してみてぇよな」

ジャン「どれだ……ぶっ、マジかよ。誰に試すんだよ」

ライナー「そりゃもちろんクリスタだろ」

ジャン「ぎゃはははは、絶対ドン引きするって」ゲラゲラ


エレン「ジャン、うるせぇよ!あー、集中できねぇ」カキカキ

ダズ「…どうして…誰も…信じてくれないんだよ…」メソメソ

エレン「そんなこと言われてもな…」カキカキ

ダズ「…そりゃあ、彼女の存在を隠してた俺が悪いんだけどさ…」メソメソ


マルコ「ライナー、クリスタはこう言ってたよ。‘愛に技巧なんていらないわ’って」

ライナー「何っ、下手に技術を駆使するなってことか?」

マルコ「多分そんなかんじ」

ジャン「つーか、どういうシチュエーションでそんなセリフを言わせたんだよ」

ライナー「ああ…、普通の会話じゃ出てこねぇな」

ジャン「お前……まさか……!?」

マルコ「ははっ、ピアノ弾いてて言われただけだよ」

ライナー「なんだ。てっきりお前の技術水準の低さが露呈したのかと思ったぜ」ニヤリ

マルコ「いや、ピアノの技術は低いけど……、って何の話だよ」

ジャン「マルコ技巧術の成績はいいのにな」

マルコ「関係無いし…」


エレン「…アルミンに技巧に進むのはやめとけって言っとこう…」カキカキ

ダズ「…うぅぅ…ぐすっ…ぐすっ……」メソメソ

エレン「クリスタのことかわいいって言ってたしな…」カキカキ

ダズ「……うわぁぁぁぁん……」メソメソ

エレン「あーーー、もう!ちょっとお前ら、ダズを何とかしてくれよ!!」


マルコ「しょうがないね」ヨイショ

ジャン「ちっ、面倒くせぇな」ヨイショ

ライナー「幻の彼女がどうしたって?」ヨイショ


ダズ「だから……現実にいたんだって……ぐすっ……」メソメソ

マルコ「ダズに仮に彼女がいたとして……」

ジャン「彼女(仮)になんで振られたんだよ」

ダズ「…彼女の存在をひた隠しにしてたら……私って一体何なのって怒って……」メソメソ

ライナー「お前はなんで彼女(仮)がいることを隠してたんだ?」

ダズ「だって…、俺みたいな男と付き合ってるってバレたら、きっと恥ずかしい思いをするかなって…」メソメソ

マルコ「馬鹿だなぁ。恥ずかしいと思うなら、彼女(仮)はダズと最初から付き合わないよ」

ダズ「…うん…。別れ際に同じことを彼女にも言われたよ……」メソメソ

ジャン「で、お前の卑屈な態度にうんざりしてサヨナラか」

ダズ「…そうだよ……グスッ……だって俺、自分に自信ないから……」メソメソ

エレン「お前にはビューゲルがあるだろ。自信もてよ」カキカキ

ライナー「そうだ。お前にしか吹けないんだぜ。胸を張れよ」


ダズ「…確かにビューゲルのおかげで彼女ができたけど……、結局振られるんじゃな……」メソメソ

マルコ「吹いてればきっと新しい彼女(仮)ができるよ。ほら、もう泣くなよ」ポンポン

ダズ「いい加減(仮)を取れよ。馬鹿にしてんのか…」

ジャン「しょうがねぇだろ。見たことねぇんだから」

エレン「でも、明後日から雪山訓練だろ?元気出さねぇと脱落するぞ」

ダズ「……そんなにすぐには立ち直れない……」

ライナー「しょうがねぇな。俺が元気の出る歌をうたってやるよ」

ジャン「は?」

ライナー「俺にはちょっとキーが高ぇんだが……あ~♪あ~♪……よし」


La donna e mobile qual piuma al vento♪  風に舞う羽根のように女は気まぐれだ
muta d'accento e di pensiero♪      言葉も気持ちもすぐに変えちまう


ジャン「ぎゃはははは、マジで歌いはじめたし」ゲラゲラ

マルコ「ここで大声出すなよ。他の人の迷惑になる」

ダズ「……」ポカーン


Sempre un amabile leggiadro viso♪  優しく可愛い顔をしてたって
in pianto o in riso, e mensognero♪  涙も笑顔もみんな偽りだ


エレン「ぷっ……ドヤ顔で歌うなよ」ゲラゲラ

ジャン「ひー、苦しい。マルコ、これ、何の歌だ?」ゲラゲラ

マルコ「ぷぷっ…ヴェルディ作曲、歌劇『リゴレット』の中の『女心の歌』っていうカンツォーネ」

ダズ「……」ポカーン


E'sempre misero chi a lei s'affida♪  女を信じる奴は馬鹿だ
chi le confida, mal cauto il core♪   女に心を捧げるなんざ愚か者のすることだ


エレン「あははは、ダズから視線を外してやれよ」ゲラゲラ

ジャン「ちょっ、少しずつ近づいてくるんじゃねぇ」ゲラゲラ

マルコ「いや、上手いんだけどさ、こんなところで本気出すなよ」ゲラゲラ

ダズ「……ぶっ、あははははは」


Pur mai non sentesi felice appieno♪ だが女の胸で愛に溺れない奴には
chi su quel seno, non liba amore♪  本当の幸せなんてものは分からねぇんだ


ライナー「ふぅー、どうだ。俺の歌は」

ダズ「ああ、まったく意味が分からなかったけど…笑えたよ」

ライナー「そりゃ良かった」

マルコ「まぁ、時間が経てば辛いことも少しずつ忘れるよ」

ジャン「そうだぜ。俺たちの人生はまだまだ先があるんだ。女(仮)の一人や二人でグジグジすんな」

ダズ「だから(仮)って付けるなよ」

エレン「ジャン(仮)」

ライナー「ぶっ…エレンやめろ。その使い方は反則だ」ゲラゲラ

マルコ「くっ…エレン、駄目だろ…そんなこと言っちゃ」プルプル

ジャン「てめぇ……!!今日は許さねぇ!!」

今日はここまでです。続きは後日

乙 ジャン(仮)

ダズの彼女。。。気になる( ゚д゚)

みんなの恋心の行方が気になるな
マルコとクリスタもだけど、エレンとミカサも付かず離れずっぽいし

>>1です。レスありがとうございます。
>>97 ダズの彼女は秘密ですw
>>98 さっさとくっつけてイチャイチャさせたいんですが……恋愛物は難しいですね


※ ※ 雪山訓練中 麓の基地 ※ ※

サシャ「ただいま戻りましたー」

ライナー「おう、お疲れさん。サシャの班も戻って来たってことは…」

アルミン「後はユミルたちの班だね」

エレン「ユミルの班ってクリスタとダズか」

ジャン「ちっ、やっぱりダズを行かせるんじゃなかったぜ」

マルコ「ああ。結局失恋のショックから立ち直れなくて、夜も眠れてないみたいだったから」

ライナー「俺の歌もまだまだってことだな」

マルコ「少しは励まされたんじゃないかな。人前で泣かなくなったし」

ジャン「まぁユミルがいれば何とかなるんじゃね?なんだかんだいって優秀だしよ」

ライナー「そうだな。普段手を抜いてても、きっちり10番キープしてるしな」

アルミン「なんで本気出さないんだろうね」

マルコ「出されたら僕の順位が一つ下がっちゃうだろうね」

エレン「捜索に出るか?」

ライナー「いや、もう少し待とう。自力で麓まで辿り着かないと点数にならんからな」


サシャ「あれれ、珍しい組み合わせですね」

コニー「お前らさっきから何やってんだよ」

ミカサ「…編み物」

サシャ「ベルトルトはそれを見学ですか?」

ベルトルト「う、うん(編み方を教えてるなんて言えないよ)」

コニー「へぇ、暖炉の前で編み物か……。母ちゃんみてぇだな」

サシャ「ミカサ、ちょっと毛糸を分けてくれませんか?」

ミカサ「分かった……切るから待ってて」

ベルトルト「駄目だよミカサ。編んでる途中で糸を切っちゃ…」

ミカサ「じゃあ、どうすればいいの?」

ベルトルト「ほら毛糸玉かして。……ここに反対側の糸端があるから、切るならこっちからにしてよ」

ミカサ「うん……」チョキッ


コニー「へぇ、ベルトルトは毛糸について詳しいんだな」

ベルトルト「い、いや、そんなことはないよ」アセアセ

サシャ「物知りなんですね。尊敬しますよ」

ベルトルト「そ、そうかな」アセアセ

ミカサ「はい、サシャ」

サシャ「わーい、ありがとうございます」

ミカサ「何に使うの?」

サシャ「へへん、あやとりです………よし、結べました」キュッ

コニー「ずっりー、俺もしたい」


サシャ「いいですよ。二人あやとりで勝負です」

コニー「よっしゃ!何賭ける?」

サシャ「それはもちろんパンでしょう」

コニー「お前そればっかりだな。たまには他のもん賭けようぜ」

サシャ「そんな!!パンより大切なものがあるんですか?」

ミカサ「集中できないから、悪いけど離れてあやとりしてくれる?」アミアミ

サシャ「分かりました。コニーあっちの椅子に移動しましょう」スタスタ

コニー「いいぜ」スタスタ


ミカサ「……はぁ」アミアミ

ベルトルト「溜息なんかついてどうしたの?」

ミカサ「…あの二人が少しうらやましい」アミアミ

ベルトルト「どうして?」

ミカサ「私も昔はエレンと一緒にああやってよく遊んでた」アミアミ

ベルトルト「幼馴染だっけ?」

ミカサ「…というより家族」アミアミ

ベルトルト「そう……あっ、ミカサここ目が飛んでる」

ミカサ「…どうすればいい?」

ベルトルト「ここまで糸を解いて戻るしかないね…。でも練習してるだけだからこのまま続けてもいいけど…」

ミカサ「…分かった。解く」スルスル

ベルトルト「勢いよく引っ張りすぎないでね。あっという間に全部ほどけちゃうから」

ミカサ「うん…。編むのは大変なのに…解くのは簡単なのね…」

>>99
連弾かわいかった
マルクリもエレミカもイチャイチャ期待
かわいくて音楽が好きになるようなやつを


ベルトルト「…僕が編み物が好きな理由はね…何度でも戻ってやり直しができるからなんだ…」

ミカサ「………ねぇ、棒針をもう一度通すの?」

ベルトルト「そう。かけ忘れがないように慎重にね」

ミカサ「…こんな風に簡単に過去に戻れればいいのに」

ベルトルト「ミカサは過去に戻りたいの?」

ミカサ「時々ね…。お父さんとお母さんと山で暮らしていた時のことを夢に見るの」

ベルトルト「そこからやり直したいのかな…」

ミカサ「ううん……何度そこに立ち返っても、私はエレンと出会う人生を選ぶと思う」

ベルトルト「そっか…。糸全部かけれたね」


ミカサ「うん。……ベルトルトは過去に戻りたいの?」アミアミ

ベルトルト「…そうだね。もう一度やり直せるならね」

ミカサ「そう…」アミアミ

ベルトルト「でも、人生は編み物みたいに一本の糸で成り立ってるわけじゃないから。

      他人の人生と複雑に絡まってて簡単には解けない…」

ミカサ「哲学者みたいなこと言うのね」アミアミ

ベルトルト「変かな」

ミカサ「いいんじゃない」アミアミ

ベルトルト「あっ、ミカサまた目をとばしてるよ」

ミカサ「…本当ね……ふふ……」

ベルトルト「何かおかしい?」

ミカサ「何度やり直しても、私はやっぱり同じ道をたどってしまう」

ベルトルト「…宿命ってそういうものなのかもね。でもこれは編み物だから。次はちゃんと注意してよ」

ミカサ「…ごめんなさい」


※  ※  ※  ※

コニー「…よっと。へへ、取れた」

サシャ「賭けるもの決めずにあやとり始めちゃいましたが…。何を賭けましょうか?」

コニー「うーん、そうだな…。とりあえず取れよ」ホレッ

サシャ「はい。えーと……こうかな?……よしっ」

コニー「おっ、難しいなソレ。……じゃあさ、俺が勝ったらお前は俺と同じ兵団を選べ」

サシャ「何ですかそれ?では私が勝ったらどうするんですか?」

コニー「そりゃあ…サシャの好きな兵団に行けばいいじゃねぇか…」

サシャ「そんな賭け、私には何のメリットも無いじゃないですか。…取って下さいよ」ハイッ

コニー「うー…っと、こうだ。よっしゃ、崩れなかったぜ。…じゃあお前は何を賭けたいんだよ」

サシャ「そうですね…。私が勝ったらコニーが私と一緒の兵団を選ぶってのはどうです?」

コニー「…い、いいのか?それで」パァァァ

サシャ「はい。コニーと一緒にいると楽しいですから」

コニー「よっしゃ!ぜってぇ負けねぇ!……ん?負けてもいいのか……?」


ミーナ(無自覚バカップル…)イラッ

アニ「…ミーナ顔が引き攣ってるよ」

ミーナ「あっ、アニ。丁度良かった。お願いがあるの」

アニ「…面倒なことはよしてよね」

ミーナ「大丈夫。簡単なことだから。……ちょっと身体のサイズ測らせて」ワキワキ

アニ「なっ、急になんなの?」

ミーナ「いいからいいから。……えーと」ゴソゴソ

ミーナ「あった、巻尺」ビーーーー

ハンナ「ミーナ駄目だよ。こんな所でサイズ測ろうとしちゃ…。男子だっているんだし」

ミーナ「あっ、そうだよね。…ごめん」


アニ「はぁ……何がしたいのアンタは」

ミーナ「…内緒。今は言えないの。でもサイズだけがどうしても知りたいの」

アニ「…変態なの?」

ミーナ「断じて違います」ブンブン

ハンナ「ミーナが変なこと言ってごめんね。あの…制服の号数だけでも教えてくれるかな?」

アニ「…7号だけど。それがどうかしたの?」

ハンナ「ううん、どうもしないよ」

ミーナ「うん。何でもないから。気にしないで」

アニ「?」


―数時間後

ライナー「もう外は真っ暗だな…」

ジャン「吹雪いてきたし…そろそろやばくねぇか」

ガチャッ

エレン「あっ、アルミンとマルコが戻ってきた」

ジャン「教官は何て?」

アルミン「捜索に出るのは許可できないって…」

マルコ「山頂の方は激しく吹雪いてるらしくって…。

    救助に向かった人間も遭難する可能性が高いって理由で認めてもらえなかった…」


ライナー「マルコ…お前はそれですごすご引き下がってきたのか?」グイッ

マルコ「…すまない」

アルミン「やめなよライナー。手を離して。…マルコも僕も必死に食い下がったんだよ。

     だけど…勝手な行動をとったら訓練兵全員の連帯責任にするって言われて…」

マルコ「そりゃあ僕だって今すぐ助けに行きたいよ。でも…今回の雪山訓練で必死に点数を稼いだ訓練兵もいるんだ。

    彼らの努力を無視することはできないだろ……」ギリッ

ライナー「……マルコ、ちょっと話をしようか。ついて来い」スタスタ

マルコ「?」


※ ※ ※ ※

マルコ「うぅぅ寒い。廊下はやっぱり冷えるね…」

ライナー「悪いな」

マルコ「話って何?」

ライナー「…マルコはクリスタが好きなんだろう?」

マルコ「はぁ…またその話。…もういいだろ。しつこいよ」

ライナー「ごまかすな。お前が何で隠そうとしてるのかは知らないが、見てれば分かる」

マルコ「……それで?」

ライナー「まぁ、お前がクリスタを好きだとして…。

     今の状況はクリスタ一人を助けるか訓練兵全員を助けるかの選択に迫られてるわけだ」

マルコ「いや、ユミルとダズもいるし。それに彼らの点数が人命に値するものだとは思ってないよ」


ライナー「まぁ聞け。例えばここに訓練兵が100人いたとする。で、雪山にはクリスタが1人。

     クリスタを助けに行けば100人全員死ぬ。

     助けにいかなければ100人は生き残り代わりにクリスタ1人が犠牲になる」

マルコ「極端すぎる例だね」

ライナー「お前はどっちを選ぶんだ?」

マルコ「……クリスタの命がかかっていたとしても……僕は…動けないだろうね……」

ライナー「…そうか。では逆に雪山に100人の訓練兵が取り残されていて、ここにはクリスタ1人がいたとしよう。

     100人を助けようとすればクリスタが死ぬ。助けにいかなければクリスタは無事で100人が犠牲になる。

     そういう状況だったらお前はどうする?」

マルコ「……そんなの……たとえ100人の命がかかってても……助けに行けるわけがない……」


ライナー「なるほどな…。結局お前は自分の手で犠牲者を出したくないだけだ」

マルコ「…それは…。死ななくてもいいはずの人間を死に追いやるなんてできないだろう?」

ライナー「放っとけば死ぬ命は見なかったことにするのか?」

マルコ「ぐっ……」

ライナー「お前は‘人の命を助ける’ことより‘自分が他人を犠牲にする状況を避ける’ほうを選んでんだよ」

マルコ「………」

ライナー「別にそれを悪いとは言わない。大半の人間はそうだろう」

マルコ「…でも今の状況はライナーの例とは少し違うだろう?」

ライナー「ああ、極論にしちまったな。

     だが上っ面の正義感で他人を切り捨てることのできない甘ちゃんは将来大物にはなれねぇな」

マルコ「…そんなの自分でも分かってるよ」

ライナー「で、好きな女も助けられない。情けねぇな」

マルコ「………」


ライナー「お前とクリスタがどういう関係なのかは知らん。だが俺だっていつまでも傍観してる気は無いんでな」

マルコ「ライナー…?」

ライナー「俺は救助に行く。努力した奴らの点数?そんなもん知ったことじゃねぇ」スタスタ

マルコ「おいっ、待てよ!!いくらライナーでもこの吹雪の中一人で捜索に出るのは危険だ」

ライナー「危険を冒して女を助ける…。救助に成功したら間違いなくクリスタは俺に惚れるな…」スタスタ

マルコ「ちょっと止まれって!本当に行くんだったらチームを組まなきゃ…」


ガチャ

ジャン「おい!!誰か帰ってきたみたいだぞ」

ライナー「本当か!?クリスタは無事か?」

ジャン「いや、窓から見えただけだからよく分かんねぇが…。人影は一つだけだ…」

マルコ「そんな……」

ジャン「だが、その人影は大きな荷物を引き摺ってた。多分……荷物は人間だ」

ライナー「誰か負傷したのか…?」

マルコ「それでも二人…。あと一人は?」

ジャン「分からねぇ…」

ライナー「とりあえず医務室に向かうぞ」

マルコ「そうだね。負傷者がいるならまずはそこに行くはずだ」


※ ※ 医務室の前 ※ ※

ライナー「おいユミル!!」

ユミル「ん?ああライナーか…」

ジャン「てめぇはやっぱり無事だったか……じゃあ負傷者は……?」

ユミル「…ダズ。今医務室に預けてきた」

マルコ「そう…。ダズの容態は?」

ユミル「別に怪我はしちゃいねぇよ。途中で高熱出してぶっ倒れやがった。最悪だ」

マルコ「なら…クリスタはどこにいるんだ?」

ライナー「そうだ、クリスタはどうした?」

ユミル「んー……置いてきた」

マルコ「えっ…?」

ライナー「どういうことだ?」


ユミル「はいはい、そんな恐い顔すんな。大丈夫だ。あいつは自力で下山できるから」

ライナー「ふざけるな!!この吹雪の中、お前はクリスタ一人残してきたのか!?」

ユミル「そうだ」

ライナー「てめぇ何を考えてんだ」グイッ

ジャン「ライナー落ち着けって」

マルコ「手を離すんだ。ユミルは理由もなくクリスタを置いてきたりしない。……一体何があったの?」

ユミル「別に…。お前らには関係ねぇし」

ジャン「関係ねぇって…。ちゃんと納得できる理由を話せよ」

ユミル「うるせぇな。大丈夫っつってるだろ。……私は外でクリスタ待つから……じゃあな」スタスタ


ライナー「…俺たちも外で待とう」

ユミル「やめときな。さっき医務室で教官に聞いたぜ。お前ら建物の外に出るの禁止されてんだろ?」

ジャン「そうなのか?」

マルコ「ああ…でもそれはユミルだって…」

ユミル「私の班はまだ全員生還してないからな。訓練途中だ。外に出て何が悪い」スタスタ

ライナー「本当にクリスタは無事なんだろうな?」

ユミル「当たり前だろ。……そんなに心配すんな。あいつはちゃんと戻ってくる……」スタスタ


※ ※ 数日後 第一音楽室 ※ ※

ユミル「なんだよクリスタ。こんな所に呼び出して」

クリスタ「…ユミルのためにピアノを弾きたいと思って…」

ユミル「マジ?私だけのために?」

クリスタ「んー、ユミルと私自身のためにかな…」

ユミル「どういうことだ?」

クリスタ「…雪山訓練の時ユミルが話してくれたこと、私なりに考えてみたの」

ユミル「…へぇ」

クリスタ「でもね、何でユミルが私に近づいてきたかなんてちっとも分からない…」

ユミル「まぁ、そうだろうな。自分でもよく分かんねぇんだから…」


クリスタ「だけどユミルも私も第二の人生を歩んでいることは確かでしょ?」

ユミル「クリスタと違って私は前向きだけどな」

クリスタ「…自分では前を向いて歩けてると思ってた。でも…心の奥底ではまだ人生に絶望してたのかな…」

ユミル「…死にたがりだもんな」

クリスタ「そう…、だから過去の自分とちゃんとお別れしようと思って…。ユミルみたいに強く生きたいから」

ユミル「…いいぜ。お前の決別の曲、聴いてやるよ」

クリスタ「ありがとう」

♪~♪~~♪♪♪♪~~


透明感のある儚げで美しい旋律がゆったりと流れる。

どこか郷愁を誘う音色。切なくほろ苦い感情が溢れ出し胸を締め付けていく。

ユミル「なんていう曲?」

クリスタは演奏の手を止めずに答える。

クリスタ「ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』」

ユミル「…まぁお前は貴族の出だが…、自分のこと王女とか言うかな…」

クリスタ「私のことじゃなくってユミルのことだよ」

ユミル「は?」

クリスタ「ヴァイオリンを弾いてるユミルは気品に溢れてて…、すごく高貴な感じがする」

ユミル「…そりゃ、どうも」


クリスタ「これは私とユミルの一度終わった人生へのレクイエムのつもり…。

     …この曲自体にはそんな意味は無いんだけどね…」

ユミル「レクイエム…か」

クリスタ「ねぇ、ユミル」

ユミル「なんだ?」

クリスタ「…ユミルが最初の人生を終える時…あなたのために誰か泣いてくれた?」

ユミル「…いや」

クリスタ「そう。……今から私が泣いてあげる」

ユミル「押し付けがましいな」

クリスタ「じゃあ…泣かせてね。人生を諦めなくてはならなかった最初のユミルのために…」


感傷的で甘美な情感を秘めたメロディーは二人を包み込む。

窓から差し込む光がピアノの前に座るクリスタに陰影を落とす。

涙を頬に伝わせながら演奏する姿はまるで宗教画のように神々しく、ユミルはその美しさに息を呑んだ。

ユミル(…ああ、やっと分かった。私がクリスタに近づいた理由が…)

ユミル(…もちろん利用してやろうっていう打算的な考えもあった…)

ユミル(……けど……それ以上に……)

ユミル(私と同じような境遇にあったこの少女に………)

ユミル(私のように………死んで欲しくなかったんだ………)

ユミル(クリスタには偉そうなこと言ったけど……)

ユミル(邪魔者扱いした奴らに完全に屈服したのは……私のほうだ……)

ユミル(私は……どんなに世界中から憎まれようと嫌われようと……)ジワッ

ユミル(……本当は……生きていたかったんだ……)ポロポロ


演奏が終わり、クリスタはユミルに歩み寄り優しく抱きしめた。

クリスタ「…ユミル」

ユミル「…はは……おかしいな……。勝手に涙が出てきてさ……」ポロポロ

クリスタ「…泣いたっていいんだよ。強がんなくったっていいんだよ…」

ユミル「……うぅぅ……悪い……ヒック、見なかった、ヒック、ことにして…くれ……」ポロポロ

クリスタ「うん。分かった……」ポンポン


――この時私は誓ったんだ

――クリスタのために生きようって 

――クリスタが幸せになるためなら

――私は悪に染まってもいいと思った

>>105 ありがとう。どっかに連弾ぶちこんでみます。

今日はここまで。続きは後日。

ユミルぅぅぅぅぅぁあああ(つД`)ノ
続き楽しみにしてます!

ユミル……
みんなの結びつきが強くなって織物のよう

続きも期待シテル

>>1です
レスありがとうございます。続きいきます


※ ※ 食堂 ※ ※

トム「みんな手伝ってくれてありがとう。助かるよ」

エレン「礼なんかいいって。俺もトムの壁画楽しみにしてんだから」

コニー「机と椅子は全部外に運び出したぜ」

サムエル「サンキュ。こっちも養生が終わったところだ」

アルミン「養生って何?」

サムエル「ああ。塗装する場所以外に漆喰を塗らないように、境界線をテープなんかで保護することだ」

アルミン「へぇ。勉強になるなぁ」

マルコ「ここでは兵士に必要な知識しか学べないからね。こういう作業は楽しいよ」


エレン「サムエルは兵士を引退しても手に職があっていいな」

サムエル「ははっ。左官屋を継ぐ気はないんだがな」

エレン「なんで?」

サムエル「だって地味だろ?女にモテない」

サシャ「そんなこと無いですよ。職人さんはかっこいいです」

サムエル「かっこいい…、本気かそれ?」

サシャ「はい。真剣に働く男の人の横顔はドキッとしますよ」

サムエル「そうか……兵士になるのやめようかな……」

コニー「……サムエルに弟子入りしようかな……」

アルミン「ははっ、二人とも馬鹿なこと言ってないでさ。次はどうするの?」

サムエル「次は下地材を塗る。木材には直に漆喰は塗れないんだ」

アルミン「そうなんだ」


サムエル「あそこのバケツに下地材用意してあるから」

マルコ「えーと……これを使えばいいのかな?」

サムエル「そうだ。実家からコテとコテ板を大量に借りてきた」

コニー「おお!まさに職人気分だな」

サムエル「…で、こっからは服を脱いだほうがいいな。塗装材が服に付くとなかなか落ちない」

エレン「分かった」ヌギヌギ

コニー「…ズボンも脱いじまうか。一張羅だし」ヌギヌギ

エレン「…そうだな…」ヌギヌギ

サシャ「ちょっ…、やめて下さいよ。何で普通にパンツ一丁になろうとしてるんですか!?」

アルミン「そうだよ。サシャがいるんだからズボンは履いときなよ」

コニー「えー、パンツも脱ごうかと思ったのによ…」

マルコ「…全裸でやるつもり?」

コニー「だって汚れたら困るし……俺そんなにたくさんパンツ持ってねぇもん」


アルミン「…あのさ、サシャ。塗装は僕たちに任せて大丈夫だから…」

マルコ「そうだね…。せっかくの休日なんだし女の子たちと過ごしなよ」

サシャ「そんな……私お邪魔ですか?」

マルコ「いや、全然邪魔じゃないよ。手伝ってくれる気持ちはすごくありがたいよ……でも、ね」

アルミン「うん。…裸見られるのはちょっと恥ずかしいかな…僕は…」///

サシャ「あっ…そういうことですか。分かりました。すぐに退散します」

アルミン「ごめんね」

サシャ「いえいえ。では、作業頑張ってくださいね」

ガチャッ バタン


コニー「……よし!脱ぐぞ」ヌギヌギ

エレン「ぷっ、マジでパンツ脱いでるし。頼むから履いてくれ」ゲラゲラ

アルミン「そういえばジャンは?」ヌギヌギ

マルコ「ああ、ヴァイオリン工房に行くってさ。ついでに適当に飲み物仕入れてくるように頼んどいた」ヌギヌギ

エレン「そっか。今日の晩飯は外でバーベキューの予定だもんな」

アルミン「そうそう。それにライナー軍団が演習場に丸太を組んでくれるって」

エレン「丸太を組む…。何のためだ?」

アルミン「キャンプファイヤー。みんなで歌って踊って騒ぐんだよ」

エレン「ふーん。よく分かんねぇけど楽しそうだな」

アルミン「チャリティーコンサートの打ち上げってしてなかったから。この機会に丁度いいかなって」

マルコ「全員参加できるしね」


サムエル「ほら脱いだらさっさと手を動かせよ」

コニー「わりぃわりぃ。…で、どうやんだ?」

サムエル「コテ板に下地材をのっけて、コテでそれをすくいながら壁に塗り広げるだけだ」

マルコ「注意点は?」

サムエル「できるだけ薄く均等になるように塗ってくれ」

アルミン「了解」

サムエル「そっち側の壁はトーマス達頼んだぞ!!」

トーマス「ああ、任せとけ!!」

エレン「おっ、結構簡単だな」ヌリヌリ

コニー「壁に落書きしてるみたいで楽しいぜ」ヌリヌリ


エレン「そういや最近ベルトルトってどこ行ってんだ?」ヌリヌリ

コニー「知らねぇ」ヌリヌリ

マルコ「確かに寮であまり見かけないね」ヌリヌリ

アルミン「今日も手伝ってもらおうと思ったのに…気付いたらいなかった」ヌリヌリ

エレン「背の高いベルトルトがいれば作業も楽なのにな」ヌリヌリ

コニー「高いところはマルコ頼むわ」ヌリヌリ

マルコ「僕だってそんなに背が高いわけじゃないからね…。椅子取ってこよう」スタスタ

サムエル「10時までに下地材を塗りおえるぞ。速乾性だから昼過ぎには乾くはずだ」

アルミン「じゃあ午後から漆喰を塗るんだね」

サムエル「ああ、その予定だ」


※ ※ 演習場 ※ ※

サシャ(あー暇ですね…。私もヌリヌリしたかったです…)テクテク

サシャ(あれは…ライナー軍団。キャンプファイヤーの準備ですね…)テクテク

サシャ(でも絡まれると面倒だからスルーしましょう)テクテク

サシャ(ん?木陰に誰か座ってますね……あれは……)ソロリソロリ

サシャ「だーれだ?」メカクシ

アニ「……サシャ。……声かけるなら普通にして」

サシャ「あれれ、すぐにばれちゃいましたね」

アニ「私にそんなことする物好きはアンタかミーナぐらいよ」

サシャ「…隣座ってもいいですか?」

アニ「好きにすれば」

サシャ「ではお言葉に甘えて…」ドッコイショ


アニ「…何か用?」

サシャ「用は無いですよ」

アニ「…じゃ何しに来たの?」

サシャ「えーと……世間話しにきました」

アニ「…なにそれ」

サシャ「ほら、アニってすぐどこかへ行っちゃうので。ゆっくりお話する機会が無かったじゃないですか」

アニ「…別にあんたと話すことなんて無いし」

サシャ「相変わらず冷たいですね。……ここで何をしてたんですか?」

アニ「…考え事してただけよ」

サシャ「そうですか。………って誰か馬に乗ってこっちに来ますね……」

アニ「演習場で馬って………あれは教官……?」

サシャ「ひぃぃぃぃ!!キース教官です!!アニ後ろに隠れさせて下さい」

アニ「…あんた何かやったの?」

サシャ「何もしてませんよ!でも無条件に恐怖を感じるんです…」


パカラッ パカラッ ブルルルル…

キース「……レオンハートにブラウスか。貴様ら暇そうだな。…ついて来い」クルッ

パカラッ パカラッ…

サシャ「…え?…え?何ですかこれ?」

アニ「…知らないわよ。でも教官命令。はぁ…面倒くさい」ヨイショ


※ ※ 演習場近くの小川 ※ ※

キース「やっと来たか。遅い」

サシャ「はぁ…はぁ…そんなこと言われましても…こっちは馬無いんですから…」

アニ「はぁ…はぁ…」

キース「今朝、狩をしたい気分でな…。出かけたら運よく獲物を仕留めれた」

サシャ「はっ!こ、これは大イノシシ!しかも二頭も!!」

キース「解体するから貴様らも手伝え」

アニ「今日は休日なので……教官の命令に従う義務は無いと思われます」

キース「そうだ休日だ。だからこれは命令ではない。貴様らに頼んでいる」

サシャ「あの…解体を手伝えば…イノシシのお肉少しはもらえるんでしょうか?」

キース「もちろんだ」

サシャ「はっ!!喜んでお手伝いさせて頂きます。……ほら、アニも手伝いましょう」

アニ「はぁ…仕方ないわね」


――数十分後

キース「ふぅ…こっちの内臓は取り出せたな。そっちはどうだ?」

サシャ「はい!問題ありません!」

アニ「…うぷっ…」

サシャ「アニ大丈夫ですか?顔色悪いですよ」

アニ「…あんたよく平気ね…こんなの見たら食べる気になれない…」

サシャ「命を頂くってことは残酷なことなんです。目を背けてはいけません」

アニ「…そんなの分かってるわよ…」

サシャ「食べることは命をうつしかえること…頂いた命の分、精一杯生きなければならない…

    ってお父さんにしつこいぐらい聞かされました」

キース「確かブラウスはダウパー村出身だったな…。なるほど手際がいいはずだ」

サシャ「はい。動物の解体には慣れています」


キース「そうか。では任せても大丈夫そうだな。次は皮を剥いでくれ」

サシャ「了解です。ではアニ、反対側の足首にナイフで切れ目を入れて少しづつ皮を剥いで下さい」

アニ「…分かった」

サシャ「絶対に皮にお肉を残さないで下さいよ!!」

アニ「はいはい」

サシャ「うふふ。イノシシなんて久しぶりですね~♪おいしく食べてあげますからね~♪」

キース「ブラウス…分かっているとは思うが貴様の欠点は食欲が旺盛すぎることだ」

サシャ「いけませんか?人生の最大の喜びはおいしいものを食べることです」

キース「…汝は生きるために食うべし、食うために生きるべからず」

サシャ「…?意味がよく分かりません」

キース「食うために生きるな、幸せに生きるために食えってことだ」

サシャ「…どっちも同じじゃないですか?結局は食べるんだし…」

キース「分からんならいい」

サシャ「はぁ…」


キース「レオンハートは…そうだな…、戦うために生きるな、幸せに生きるために戦えってところだな」

アニ「………チッ」

サシャ「教官、今日はいつもと違って優しいですね」

キース「今日は休日だからな。特別だ。…それに半年もすれば貴様らともお別れだ。

    どの兵団を選ぶのかは知らんが……少しでも話をしておきたいと思ってな」

サシャ「教官…本当は良い人なんですね。悪人面なので恐い人だと思ってました」

キース「…また晩飯抜きで死ぬ寸前まで走りたいのか?」

サシャ「…すみません」

キース「ふっ、まぁいい。…用事があってな、そろそろ出かけるんだが……イノシシの処分は貴様らに任せる」

サシャ「えっ?」

アニ「どういうことですか?」


キース「貴様らに全部くれてやる。……軍上層部である決定がされようとしててな……それは貴様らへの詫び代わりだ」

アニ「私たちに直接影響のある事案…ですか?」

キース「そうだ。…ではな。……たまには腹いっぱい肉を食え」バッ ブルルン…

キース「それとだ…レオンハートの孤立気味っていう報告書は訂正させないとな」

アニ「…別に訂正する必要は無いです。その通りですから」

キース「…友と酒は古いほど良い。訓練兵時代の友は一生の宝になる。大事にしろ…」ブルルン…

パカラッ パカラッ…

アニ「…ちっ、あのハゲ…余計なお世話だよ」

サシャ「まぁまぁ。こんなにたくさんお肉くれたんですよ。教官は今日から私の神様です」ジュルリ…

アニ「ったく、あんたは食べ物に左右されすぎだよ」


サシャ「でも…アニは何でわざと孤立しようとするんですか?」

アニ「…人とつるむのが嫌いなだけ」

サシャ「そうですか…。その割にはアニって一人ぼっちな感じがしませんよね」

アニ「…あんたやミーナ、クリスタが一方的に絡んで来るから…」

サシャ「私ね、思うんです。好かれる人は何もしなくても好かれるし、嫌われる人は何をやっても嫌われるって。

    アニは典型的な前者ですね」

アニ「…だから?」

サシャ「えーと、だから……私はアニのことが大好きですよ」

アニ「……あんたって恥ずかしい」///


サシャ「そうですか?思ったことを素直に口にした方がストレス溜まらなくていいですよ」

アニ「そんなんだからお馬鹿扱いされるんでしょ」

サシャ「お馬鹿で結構です。……さて、このイノシシどうやって運びましょうか…。一頭だけで80キロ前後ありそうですよ」

アニ「そこに荷台はあるけど……乗せるの大変そうね」

サシャ「こんな時は…」

アニ「むさ苦しいけどライナー呼ぼうか…」


※  ※  ※  ※

ライナー「よーし、お前らそうっと荷台に置けよ。レディを扱うように優しくイノシシに接しろ」

「レディなんか扱ったことねぇよ」ゲラゲラ

「これ丸焼きにすんの?」

「この大きさを仕留めた教官はやっぱただ者じゃねぇな」

ライナー「せーの…」ドスン

アニ「ありがと」

サシャ「助かりました」

ライナー「これぐらいどうってことない。で、どう調理するんだ、これ?」

サシャ「スライスして焼肉ってどうです?おいしいんですよ、イノシシの焼肉って」

アニ「いいんじゃない。どうせバーベキューやる予定だったんでしょ?」


ライナー「そうだな。…誰か調理場に行ってまな板と包丁持って来い!」

「了解だ!!」

サシャ「あっ、のこぎりもお願いします」

ライナー「のこぎりって何に使うんだ?」

サシャ「包丁じゃ骨は切れませんよ。とりあえずこの子たち真っ二つにしないと…のこぎりでギコギコするんです」

ライナー「サシャ…ワイルドだな…」

アニ「獣の解体をやらせたら右に出る者はいないんじゃない?」

ライナー「まぁいい。…野郎ども!今日は焼肉食い放題だ!!」

アニ「ちょっとライナー」ヒソヒソ

ライナー「ん?」

アニ「あんた連中と馴れ合い過ぎ」ヒソヒソ

ライナー「だから何だ……さてはアニもかまって欲しいのか?」


アニ「……あんた本当に大丈夫かい?」

ライナー「ああ。どこも調子は悪くないが……。何かおかしいか?」

アニ「思い出して……あんたは……‘戦士’でしょ?」

ライナー「はっ……そうだ!!お前ら!!俺たちは何だ?」

「「俺たちデス・クリーガーズ!!」」

ライナー「よーし!!歌いながら肉を捌くぞ!!」

♪♪♪♪~~

アニ「…何これ…」

サシャ「アニは知りませんでしたか?デス・クリーガーズって‘戦士’っていう意味らしいですよ」

アニ「……はっ……馬鹿じゃないの……」ギリッ

サシャ「アニ?」

アニ(ベルトルト助けて…。もう私の声は届かない。ライナーを正気に戻せるのはあんただけだよ…)


※ ※ 洋裁室 ※ ※

ベルトルト「うん。いい色だと思うよ」

ミカサ「本当?良かった」

ミーナ「見せて見せてー」

ハンナ「へぇモスグリーンね。上着の色にも合いそうだしね」

ミカサ「ではカーテン製作が完了したので、マフラーを編む作業に入りたい」

ハンナ「もちろん。素敵な刺繍をしてくれてありがとう、ミカサ」

ミーナ「うん。地味なベージュのリネンカーテンが一気に可愛くなったよ」

ミカサ「役に立てたのなら嬉しい」

ミーナ「じゃあ私もワンピース作ろうっと」

ハンナ「うーん…ポールの取り付けは各部屋でやってもらえばいいかな…」

ミカサ「…ベルトルト。頼まれたもの買ってきた」

ベルトルト「ありがとう」

ミカサ「腹巻はできたの?」

ベルトルト「うん。すでに使用してるよ」


ミカサ「仕事が早いのね…。で、今度はかぎ針とレース糸……」

ベルトルト「笑わないでね……レース編み……」

ミカサ「…どんどん乙女チックになるのね…」

ベルトルト「細かい作業が好きなんだよ…。集中してる間は煩わしいことを考えなくて済むから…」

ミーナ「ふん♪ふふーん♪…今日はピアノの音が朝からずっと聴こえるね」

ハンナ「そうそう。優雅な気分で作業ができる」

ミカサ「クリスタかしら?」

ベルトルト「こんなに上手いのはクリスタしかいないでしょ」


※ ※ 第一音楽室 ※ ※

クリスタ「…こんなにピアノに没頭するの久しぶり…次は何を弾こうかなー」

ガラッ

マルコ「こんにちは。お邪魔してもいいかな?」

クリスタ「どうぞ、入って」

マルコ「はい、今日のお昼ご飯。野戦糧食で申し訳ないけど」

クリスタ「ありがとう。食堂の壁は塗り終えたの?」

マルコ「いま下地材が乾くのを待ってるところ。午後からまた作業に戻るよ」

クリスタ「じゃあ休憩時間かな?」

マルコ「そう。クリスタと話がしたくてさ。筋肉自慢大会から抜け出してきた」

クリスタ「ふふっ、何してるの」クスクス

マルコ「ね、他にやることないのかって」


クリスタ「それで…何の話かしら?」

マルコ「雪山訓練のこと。ゆっくり話す機会がなかったから…」

クリスタ「…ごめんなさい。みんなに心配かけて…」

マルコ「謝るのは僕のほうだよ。…救助に行けなくてごめん…」

クリスタ「そんな…訓練なんだし。仕方ないよ…」

マルコ「…無事で本当に良かった」

クリスタ「うん。ユミルのおかげでね」

マルコ「そう…。どうしてあの時クリスタだけ遅れて戻ってきたの?」

クリスタ「…私にもよく分からないの…。気付いたらユミルとダズが消えてて…」

マルコ「そうなんだ…。吹雪が激しかったからホワイトアウトしたのかな…」

クリスタ「うーん、そこまで視界は悪くなかったんだけど…」


マルコ「…手を見せて」

クリスタ「え?いいけど……はい、どうぞ」

マルコ「…………しもやけやあかぎれはできてないね」

クリスタ「もう、私自身のことより私の手のほうが心配だったの?」

マルコ「はは、両方大切だよ。…今日はクリスタと連弾したいと思って。指の状態を確認させてもらっただけ」

クリスタ「嬉しい…。私ももう一度マルコと連弾したかったの」

マルコ「そう言ってくれて良かった。用意した連弾譜が無駄にならなくて済むよ…」ガサガサ

クリスタ「見せて」

マルコ「はい。…クリスタなら初見でいけると思う」

クリスタ「ブラームスの連弾曲ね…『ワルツ op.39-15』」

マルコ「通称『愛のワルツ』。クリスタがプリモで僕がセコンダでいいよね」


クリスタ「いいわ。…譜読みするからちょっとだけ待って…」ジーッ

マルコ「もちろん。…椅子を用意しなきゃね………僕は左側っと」ガタン

クリスタ「あっごめん。椅子を右に寄せるね……」ズズズ

マルコ「まさに‘愛に技巧なんていらないわ’って感じでしょ」

クリスタ「ふふ、そうね。純粋で優しくて飾らない曲。……マルコみたい」

マルコ「どうかな。最近の僕は腹黒いらしいから」

クリスタ「じゃあ騙されないように気をつけなくちゃ。……準備はいいよ」

マルコ「…テンポはこれぐらいで」トン  トン  トン

クリスタ「了解」

♪~~♪♪♪♪~~♪♪♪~


クリスタ(明るく優美なメロディー。まさにロマンティックって言葉がぴったりのワルツ…)

クリスタ(自由に旋律を歌わせても、マルコの刻む三拍子の伴奏が気持ちいいタイミングで入ってくる)

クリスタ(控えめだけど決して弱々しいわけじゃない。マルコの音って安心する…)

マルコ「ふぅ……いきなり合わせた割には上手く弾けたんじゃない?」

クリスタ「うん。…弾いてる間ずっと幸せな気分だった」

マルコ「…僕もだよ」

クリスタ「演奏中はすごく満たされた気分だったのに……現実に戻ると少し寂しい…

     …マルコは隣にいるのにね…何だか遠くに感じてしまう…」

マルコ「…こんなに近くにいるのに、近くにいる気がしないのは…きっと欲張りになってしまったんだろうね」


クリスタ「ふふ、そうかも。…最初は姿が見えるだけで良かった…。次はお話できて嬉しかった…」

マルコ「…一緒に過ごす時間が増えて…、今は友人より親しい関係で…」

クリスタ「…それで十分なはずなのに…心はもっと欲しがって乾いていくばかり…」

マルコ「…どうすれば君の渇きを癒せるかな…」(まずい…)

クリスタ「…マルコが考えて…」

マルコ「……」(引き寄せられる…)

クリスタ「……」

マルコ(止まれ!!)ジャーン♪ジャーン♪ジャーン♪

クリスタ「!? 何で急にカデンツ弾いてるの?」


マルコ「はぁ…僕はクリスタが思ってるほど紳士じゃないからさ…。…雰囲気に流されそうになる…」

クリスタ「…流されたくないんだ…」

マルコ「…流されてもいいの?」

クリスタ「……」

マルコ「……」

クリスタ「………やっぱり駄目」ニコッ

マルコ「だよね。あー…危なかった」

クリスタ「今度から連弾する時は、そういう雰囲気になる曲は選ばないでね」

マルコ「うん。コミカルな曲探してくるよ」


クリスタ「ふふっ。…そうそうさっきの曲。ブラームスを選らんだのには理由があるんじゃない?」

マルコ「そうだよ。前回シューマンの『献呈』で酷評されたから」

クリスタ「酷評なんてしてないし。…ブラームスってシューマンの奥さんに叶わぬ恋をしたんだよね」

マルコ「そう。ブラームスは彼女を思い続けて生涯独身だったらしいね。彼女に捧げた曲もたくさん残ってる」

クリスタ「二人の偉大な音楽家から愛されるなんて、どんな女性だったのかな」

マルコ「ピアノがすごく上手だったっていうし……きっとクリスタのような素敵な人だったんだよ」

クリスタ「ふふ、ありがとう。…じゃあマルコはシューマン?」

マルコ「さあ……ブラームスになるかもね……」

クリスタ「大丈夫。マルコはブラームスのイメージないから」

マルコ「ははっ、イメージで決まるんだ。確かにこの連弾曲は甘く優しい感じだけど…」

クリスタ「一般的なブラームスの印象って重厚で威厳があってダイナミックな感じだよね」

マルコ「…ブラームス…か。傍観しててくれないかな…」ポツリ


クリスタ「えっ何のこと?」

マルコ「ごめん、何でもない。…そういえば今日はユミルと一緒じゃないんだ」

クリスタ「うん。今朝はここにいたんだけど、ヴァイオリン工房に行くって出掛けちゃった」

マルコ「そう。…意外とジャンはユミルとうまくやってるみたい」

クリスタ「そうなの?」

マルコ「うん。遠慮なく言いたいことが言えるからストレス溜まらないって」

クリスタ「ふふっ、ユミルはどう思ってるか分からないけどね」

マルコ「はは、確かに。一方的に嫌われてるかもね」


※ ※ ヴァイオリン工房 ※ ※

ユミル「おい!お前、いい加減人の話聞けよ!」

ジャン「うっせぇな!練習ぐらい好きに弾いたっていいじゃねぇか」

ユミル「だからそんな練習じゃ効率悪いっつってんの。早く上手くなりたいんだろ?言う事聞けよ」

ジャン「放っとけよ。てめぇこそ黙ってチェロの練習しろよ」

オヤジ「はぁ、お前ら仕事しろよ。バイト代払わんぞ」

ユミル「あっ、そうそう。今度のサロンコンサートって夜だよな」

オヤジ「そうだ。20時からだ」

ユミル「外泊届け出さなきゃいけねぇんだが、宿泊先にここの住所書いといていいか?」

オヤジ「そりゃ構わんが…。寮に帰らんのか?」

ユミル「あまり遅くなると駐屯地行きの駅馬車が走ってねぇんだ」


ジャン「ちょっと待てよ。俺も外泊か?」

ユミル「そうだ。朝までつきあえ。とことん飲むぞ」

ジャン「勘弁しろよ。オッサン、この工房で寝させてもらってもいいか?」

オヤジ「ああ。好きに使え」

ユミル「おもしろくねぇ奴だな…」

ジャン「てめぇを楽しませる義理はねぇし」

ユミル「酒運ぶの手伝わねぇぞ」

ジャン「ああいいぜ。その代わりてめぇは飲むなよ」

ユミル「はぁ?お前の金で買うんじゃねぇだろうが。勝手に飲むし」

ジャン「だったら手伝えや!」

ユミル「はっ、いやだね!!」


※ ※ 食堂 ※ ※

サムエル「漆喰塗り完了!!みんなお疲れ!!」

エレン「ふぅー疲れた…」

コニー「素人がやったから表面ガタガタだけどいいのか?」

トム「大丈夫。フレスコ画を描く時にもう一度上から塗るから」

エレン「そうなのか?じゃあこの作業は意味ねぇじゃん」

トム「フレスコ画って漆喰を塗って乾く前に絵を描かなきゃいけないんだよ」

コニー「じゃあ今のうちに描けよ」

トム「いや…、その日のうちに描ききれる分だけ漆喰を塗るんだ」

サムエル「だからな、板壁には直接漆喰は塗れないんだよ。でも漆喰の上になら漆喰はのる」

コニー「…分かんねぇ。エレン分かるか?」

エレン「そうだな…。パンにバター塗ってさらにジャムを重ねたらうまいって話だろ?」

コニー「確かにうめぇな」


アルミン「ねぇ、トム」

トム「何?」

アルミン「どういう絵を描くか決めてあるの?」

トム「うん。…この世に一つだけ作品を残すとしたらこれにしようって決めてる絵があるんだ」

エレン「へぇー、どんな絵だ?」

トム「…人類が壁の内側から開放されて外の世界を取り戻していく…そんな感じの絵だよ」

アルミン「それって…僕たちのよく知ってる歴史書の挿絵とまるで正反対…」

トム「うん。僕はあの挿絵が大嫌いでさ」

エレン「俺も。見るたびに屈辱と怒りに震えちまう」

トム「もちろん人類が歩んできた道を忘れてはいけない。でも後ろばかり振り返ってちゃ前に進めないだろ?

   僕は人類の未来をこの壁いっぱいに描きたいんだ」


アルミン「すばらしいよ、トム。僕は大賛成だ。外の世界の風景とかも描くのかな」ワクワク

トム「もちろん。でも実際に見たことがあるわけじゃないから想像になっちゃうけど…」

アルミン「僕に何でも聞いてよ!一緒に想像させてよ!うわー楽しみだー」ワクワク

マルコ「ははっ、アルミン、子どもみたいに目が輝いてるよ」

エレン「外の世界を探検することがアルミンと俺の夢だから」

マルコ「…いつか本当に実現するといいね。…そうだ、トム。人物は描かないの?」

トム「一応入れていくつもり。だって人類の未来図だから」

マルコ「ならさ、無理を言って悪いんだけど…外の世界を探検するエレンとアルミンを入れてあげてよ」

トム「それぐらい構わないよ」


アルミン「本当!!じゃ、じゃあね氷の大地がいいかな…あっ、それとも砂の雪原にしようかな…」ワクワク

エレン「落ち着けよアルミン。後で俺と一緒に決めようぜ」

アルミン「うん!うん!そうだよねエレンも一緒だしね。二人で決めなきゃ」ワクワク

トム「描く前からこんなに喜んでもらえるなんて……」

コニー「期待を裏切んじゃねぇぞ」

マルコ「こらコニー。プレッシャーになるだろ」

トム「大丈夫。期待されればされるほど頑張れるから。楽しみにしといてよ」


※ ※ 演習場 ※ ※

コニー「すっげー!!!何だこの大量の肉!!!」

サシャ「へへん。頂いちゃいました」

エレン「頂いたって…誰が肉なんてくれるんだよ」

サシャ「誰だと思いますか?」

アルミン「そんなの……神様しか思い浮かばない」

サシャ「正解です!」

クリスタ「えっ?正解なの?」

サシャ「神様の正体はキース教官だったんです!!」

コニー「神様ってハゲてんのか?」

エレン「俺に聞くなよ」


アルミン「でも本当にキース教官がくれたの?」

サシャ「はい。嘘じゃありませんよ。ね、アニ」

アニ「ええ。…何か裏がありそうだけど」

サシャ「そういえば気になること言ってましたね…」

ミカサ「気になること?」

サシャ「そうです。この肉は貴様らへの詫びだって…」

コニー「キース教官、何かやらかしたのか?」

アニ「さあね。でも、軍上層部で何かが決まったみたい。その決定に対するお詫びって感じだったよ」

クリスタ「私たちにとって良くない決定なのかしら…」


エレン「まっ、考えても仕方ねぇし。さっさと肉焼こうぜ」

サシャ「そうですね。ライナー軍団がレンガ炉を三基も作ってくれたんです。どなたか火を起こすの手伝って下さい」

コニー「いいぜ。そういうのは得意だ」

ミカサ「私も手伝う」

エレン「…で、ライナーは?」キョロキョロ

アルミン「向こうでキャンプファイヤーに火をつける準備をしてる」

サシャ「…働いてる姿が子どもたちのために頑張るお父さんみたいですね…」

アルミン「あはは。確かに」

アニ「ベルトルトは?」

アルミン「ジャンの荷物が重いだろうからって、マルコと一緒に駅馬車の停留所まで迎えに行ったよ」


※ ※ 停留所 ※ ※

ユミル「おっ、出迎えご苦労さん」

ジャン「すっげー重てぇんだけど…」

ベルトルト「お疲れ様」

マルコ「おつかい頼んで悪かったね。ありがとう」

ジャン「俺はもうクタクタだ。ユミルの野郎、ほとんど荷物持たねぇし」

ユミル「ちょっとだけ手伝ってやったろ。ありがたいと思え」

ベルトルト「いいよ。僕たちが後は運ぶから」ヨイショ

ユミル「さすがベルトルさん。誰かさんと違って男らしいな」

ジャン「てめぇは一言多いんだよ。はぁ…俺も運ぶか…」ヨイショ

マルコ「…お酒ばっかりだね」ヨイショ

ジャン「酒飲めねぇ奴は水飲んどけってユミルが言い張ってよ」テクテク


ベルトルト「寄付金で仕入れたの?」テクテク

マルコ「ああ。みんなコンサート頑張ってくれたから、できるだけ還元したくてね」テクテク

ユミル「あとどれくらい金残ってるんだ?」テクテク

マルコ「ほとんど残って無いよ。ミシンとか高い買い物したからね」テクテク

ベルトルト「でもミシン購入は正解だったと思うよ。すごく役に立ってる」テクテク

ジャン「ベルトルト…お前…ミシン使ってんのか?」テクテク

ベルトルト「つ、使ってないよ…。便利だねって話してるのを聞いただけで…」ダラダラ

マルコ「最近ベルトルトって寮にいないよね。食堂の壁塗り手伝ってほしかったんだけど」テクテク

ベルトルト「…ごめん」テクテク

ユミル「…女か?」ニヤニヤ

ベルトルト「ち、ちがうよ!!」ブンブン


ジャン「ったく、ユミルはすぐそっちの話にしようとする。品がねぇな」テクテク

ユミル「お前ら相手に上品ぶって何の得があるんだよ」テクテク

ジャン「そうだな。てめぇに上品ぶられても気色悪ぃだけだ。おい、何手ぶらで歩いてんだよ。荷物もてよ」ドサッ

ユミル「ちょっ、急に渡すな。つーか男が三人もいるのにさ。女の私が持つ必要ねぇだろ」

ジャン「俺はマルコやベルトルトと違ってフェミニストじゃねぇんだ」

ベルトルト「僕はフェミニストじゃないよ…」テクテク

ジャン「それにてめぇのことは女だと思ってねぇし」テクテク

マルコ「ユミルに失礼だよ」テクテク

ユミル「ジャンは普通の女相手じゃ緊張してへらず口が叩けないからな。可愛いもんだ」テクテク

ジャン「うっせぇよ。カタツムリ野郎が」テクテク

ユミル「カタツムリは野郎じゃないんだろ?そうそう、あの話聞いてなかったな」テクテク

ジャン「何の話だ?」テクテク


ユミル「どうやってカタツムリが交尾するのか」テクテク

ジャン「おっ、聞きたいか?」テクテク

マルコ「普段二人でどんな会話してるんだよ…」テクテク

ユミル「ベルトルさんは知ってるか?カタツムリってバイセクシャルだって」テクテク

ベルトルト「そんなの知らないよ」テクテク

ジャン「バイじゃなくて雌雄同体だ」テクテク

ユミル「はいはい。で、カタツムリのアレってどこに付いてんだ?」テクテク

ジャン「普段は無い。だが交尾する時にニョキニョキ生えてくるんだよ」テクテク

ユミル「まじで?どこに生えるんだ?」テクテク

ジャン「顔面」テクテク

ユミル「ぎゃははははは。ひでぇなそれ」ゲラゲラ

マルコ(二人とも下品だね…)テクテク

ベルトルト(早く帰って編み物したい…)テクテク


ユミル「で、どこに突っ込むんだ?」テクテク

ジャン「相手の顔面」テクテク

ユミル「ぶっ…勘弁してくれ」ゲラゲラ

ジャン「でな、二時間ぐらいお互いに突っ込みあったまま動かねぇんだよ」テクテク

ユミル「へぇ、実際に観察したんだ」テクテク

ジャン「ああ、ガキの頃な。ガラスケースにカタツムリを二匹入れてよ。あれは衝撃的だった」テクテク

ユミル「ふーん。で、ジャン少年はその光景をおかずにしました、と」テクテク

ジャン「してねぇし」ナイナイ

ユミル「卵は…二匹とも産むのか?」テクテク

ジャン「そうだ。効率的に子孫を残すための生態なんだろう」テクテク


ユミル「なるほどね。…ジャンも子孫を残したいだろ?男女にこだわるなよ」テクテク

ジャン「は?」テクテク

ユミル「そうだな…お前の相手は…もうマルコでいいだろ」テクテク

ジャン「ふざけんな。気持ち悪ぃ」テクテク

マルコ「僕だって嫌だよ」テクテク

ベルトルト「それ以前に男は卵なんて産めないよ…」テクテク

ジャン「…俺は今カタツムリの生態について語っているうちに、一つの仮説にたどりついた」テクテク

ユミル「急になんだ?」テクテク

ジャン「いや…巨人って生殖器がねぇだろ」テクテク

マルコ「そうだね」テクテク

ジャン「カタツムリと同じ原理で増えてんじゃねぇかなって…」テクテク

マルコ「…生えるの?」テクテク

ジャン「…そう、ニョキニョキと」テクテク


ユミル「ぎゃははははは…ジャン、お前おもしろいな」ゲラゲラ

ベルトルト「う、うん。大胆な仮説だね…あははは…」テクテク

ジャン「やっぱ、この説は無理があるか…」テクテク

マルコ「一概には否定できないよ。巨人の生態は謎だらけなんだから」テクテク

ジャン「あいつらだって生物だしよ。本能的に子孫は残そうとするはずだろ?」テクテク

マルコ「子孫を残さず滅んでくれたほうがいいけどね」テクテク

ジャン「だよな。…さっさといなくなっちまわねぇかな…」テクテク

ユミル「……そうだな」テクテク

ベルトルト「……」テクテク


※ ※ 演習場 ※ ※

眼鏡教官「やぁ、楽しんでいるかね」

若い教官「君たちに任せていいんだけど…一応監督する義務があるからさ。ちょっとだけ様子見させてもらうよ」

マルコ「教官…。どうぞ、ゆっくりしていって下さい」

アルミン「キース教官に頂いたイノシシ、とってもおいしいです。教官方もいかがですか?」

眼鏡教官「ははっ、それじゃあもらおうか」

若い教官「僕も手伝わされたんだよ。イノシシ捕獲」

マルコ「それは知りませんでした。ありがとうございます」

若い教官「でもすごい盛り上がりだね。営火を囲んで音楽で踊る。僕が訓練兵の時には考えられなかったよ」

眼鏡教官「ははっ。私も長らく教官をやっているが…。

     演習場でバーベキューをやりたいなどと言ってきたのは君達が初めてだ」

マルコ「すみません…」

眼鏡教官「謝ることはない。君達の型破りな発想は実におもしろいと思っているよ」


アルミン「お肉取って来ました。どうぞ」

若い教官「おっ、ありがとう」

眼鏡教官「すまないね。…キースさんも104期生のことを気に入っていてね…」

マルコ「本当ですか?」

アルミン「全然そんなふうには見えませんけど…」

眼鏡教官「…君達、チャリティーコンサートで憲兵団に楯突いたそうじゃないか」

マルコ「…やはり耳に入ってましたか」

眼鏡教官「当然だ。憲兵団から叱責されたよ。責任者である君を処罰するように要求してきた。

     だがキースさんが退けたんだ。正しいことを言って何が悪いって」

マルコ「キース教官…」

若い教官「キースさん、憲兵団にあまり良い印象を持ってないから。胸がすく思いだったんじゃないかな」


アルミン「キース教官って前は調査兵団の団長を務めてたって本当ですか?」

眼鏡教官「ああ。人類のために命を捧げ続けた立派な人だよ。…だからだろうね、君達に厳しいのは」

アルミン「…僕たちが簡単に命を落とさないようにするため、ですか?」

眼鏡教官「そうだ。あの人はあまりにも多くの部下の死を見てきた…。

     知っているかい?この駐屯地が他の駐屯地と比べて開拓地送りになる人数がずば抜けて多いって」

マルコ「はい。そんな話を耳にしたことがあります」

アルミン「でもそれはキース教官の判定が厳しすぎるからで…」

若い教官「キースさんはね、兵士の適性に少しでも欠ける子は早めに開拓地に送ってるんだよ。

     …戦場で死なせないためにね」


眼鏡教官「戦場で命を落とすのはもちろん辛い。だが障害を負って戦えなくなった兵士はもっと辛い」

マルコ「…たとえ傷痍兵でも恩給は出ないと聞きました」

眼鏡教官「そうだ。戦えなくなった兵士はゴミのように捨てられる。

     戦う技術しか知らない彼らの残りの人生がどんなに悲惨なものか…想像できるだろう?」

アルミン「…人類のために戦った結果がそれですか?世の中おかしいです…」

眼鏡教官「ああ、私もそう思う。だが我々には体制を変える力が無いんだ。すまない…」

マルコ「いえ、教官方の責任ではないですから…」

眼鏡教官「ここでは戦闘に関すること以外は教えることができない。

     だが君達は様々な事に興味を持ち学ぼうとしている。兵士を辞めた時きっとその知識は役立つはずだ」


アルミン「あっ、そうだ」

マルコ「どうかした?」

アルミン「キース教官はこのイノシシを僕達へのお詫びにってくれたそうなんです。どういう意味かご存知ですか?」

若い教官「……ああ、後日分かると思う…」

眼鏡教官「…確かボットは憲兵団を志望してたな」

マルコ「はい。王の近くで働きたいと思っています」

眼鏡教官「…そうか。…ボット、卒業後はここに残って私の助手をやってみないか?まぁ教官見習いみたいなものだが」

マルコ「えっ?それは…どういう意味でしょうか?」

眼鏡教官「…憲兵団だけが人生じゃないからな。他にも選択肢はあるってことだ」

マルコ「はぁ…」

眼鏡教官「ではそろそろ引き揚げるとするか」スタスタ

若い教官「そうですね。じゃあな。あまり騒ぎすぎないように気をつけろよ」スタスタ

マルコ「はい………行っちゃった」

アルミン「結局何も教えてもらえなかった…。気になるなぁ…」


※  ※  ※  ※

♪~♪♪♪~♪♪♪~

ライナー(これは俺にとって人生最大のチャンスだ)

ライナー(公然とクリスタの手を握れる。誰からも変態扱いされずに、だ)

ライナー(自然にそしてクール且つエレガントに振舞うべきだな…)

クリスタ「あら、次はライナーなのね」

ライナー「ああ…」///

クリスタ「うふふ、ライナーの手ってやっぱり大きいね」

ライナー「クリスタの手は…綺麗だ」///

クリスタ「ありがとう」ニコッ

ライナー(ああ…ベルトルト、俺の勇姿を見てるか?ついにクリスタに綺麗だって言えたぞ…)


クリスタ「ライナーは偉いよ。今でもちゃんと休まずピアノのレッスン来てくれるから」

ライナー「そうか?一度やると決めたことは最後まで通すのが男ってもんだ」

クリスタ「うん。卒業まで私が責任を持ってレッスンするからね」

ライナー(…偉いって褒められた)

ライナー(…男らしさをさりげなくアピールすることに成功)

ライナー(そして…クリスタが俺の責任をとってくれる…?)

クリスタ「ねぇ…ライナー」

ライナー(いやいや、責任を持ってくれる、だな。どうも都合のいいように変換しちまう)

クリスタ「ねぇってば!」

ライナー「!?どうした?」

クリスタ「あのね…ライナーが隣にずれないからつっかえてるよ…」

ライナー「す、すまない…」


クリスタ「もう…。ちょっとダンス抜けようね…」グイッ スタスタ

ライナー「えっ?」

ライナー(クリスタに手を引かれてる…。これは夢か?)スタスタ

クリスタ(…ダンスの輪に全然マルコ入ってこないし。一緒に踊れると思って楽しみにしてたのに…)スタスタ

クリスタ「ちょっと休憩しよ。疲れちゃった…」

ライナー「分かった。俺が飲み物を取ってこよう。何がいい?」

クリスタ「あっ、自分で行くからいいよ」

ライナー「いやいや。その辺に座って休んでろ。じゃあ、行って来る」ダッシュ

クリスタ「あの、そんなに急がなくても大丈夫だよー………聞こえてないか…」

クリスタ(…とりあえず座ろうっと)ストン


クリスタ(みんな楽しそう…。ハンナとフランツなんて輪から外れてずっと二人で踊ってるし…)

クリスタ(エレンはずっとミカサに踊り方教えてるし…。ミカサ嬉しそう。リズム音痴が役に立つこともあるんだね)

クリスタ(コニーとサシャは大食い競争してるし……仲良しだよね、あの二人)

クリスタ(そういえばマルコって…人前であんまり話しかけてくれないんだよね…)

クリスタ(用事のある時しか話さないよね…。常に一定の距離を置かれてて…)

クリスタ(…恋人同士ってわけじゃないから仕方ないけど…寂しいな…)

ライナー「クリスタ、飲み物とってきたぞ。どれがいい?」

クリスタ「たくさん取ってきてくれたんだ。…でもお水でいいよ」

ライナー「そうか。じゃあ、これ」

クリスタ「うん。ありがとう」

ライナー「隣に座っても構わないか?」

クリスタ「いいよ」

ライナー(よし。今のところ良い流れだ…今、風は俺に向かって吹いている)ストン


ライナー「クリスタは…卒業後どの兵団にするか決めてるのか?」

クリスタ「ううん。まだ決めてない。でも私の成績じゃ憲兵団には入れないから…」

ライナー「そうなると、駐屯兵団か調査兵団だな…」

クリスタ(…あれ?マルコって憲兵団に行くんだよね…)

ライナー「だが調査兵団はやめたほうがいい…」

クリスタ(…私の返事は卒業後に聞きたいって言ってたけど…)

ライナー「クリスタには…危ないことはして欲しくないんだ…」

クリスタ(…それって…どんな返事をしたって一緒にいられないってことじゃない…?)

ライナー「その…もしクリスタが迷惑じゃなければ…」

クリスタ(…マルコはそれが分かってて……今返事はしないでって言ったのかな……)ジワッ

ライナー「俺と一緒に駐屯兵団に入らないか?」(よし!!言えた!!)

クリスタ(……本当は私の恋人になんかなりたくないのかな……)ポロポロ

ライナー「!?…クリスタ…泣くほど嫌なのか?」ガーン

クリスタ「…うん…ヒック…いやだよぅ…ヒック…うぅぅぅ…ずっと…一緒に…ヒック、いたいのに…」ポロポロ

ライナー「…どっちなんだ?…いや、とにかく泣かないでくれ…」アセアセ


※  ※  ※  ※

アルミン「あっ、ライナーがクリスタ泣かせてる」

マルコ「えっ?」

アルミン「ほら、あそこ…」

マルコ「……ライナー、何やってんだよ」ムカッ

アルミン「!!…マルコのそんな顔初めて見た。怒ることあるんだね…」

マルコ「…あぁ…悪い…スゥー……ハァー……よし、落ち着いた」

アルミン「深呼吸しただけで元に戻れるんだ。すごいね。でもさ、怒ってもいいんじゃない?」

マルコ「感情的になったら物事はこじれるだけだよ」


アルミン「クリスタの様子見にいかないの?」

マルコ「…ライナーの邪魔しちゃ悪いよ。…何でクリスタが泣いてるのかは分からないけど…

    ライナーは女の子を泣かせるような奴じゃないだろ?」

アルミン「そうだけど…。大丈夫かな…」

マルコ「気になるんだったらさ…アルミン様子見に行って来なよ」

アルミン「えっ、でも邪魔しちゃ悪いって…」

マルコ「いいからさ。行って来なよ。ほら、早く」

アルミン「ぷっ、あははっ、マルコめちゃくちゃ気になるんでしょ」

マルコ「……少しだけね」

アルミン「分かった。様子見てくるよ。ついでにちゃんと邪魔してきてあげるよ」テクテク

マルコ「…いや、そこまで頼んでないからね…」


※ ※ 演習場外れの林 ※ ※

ユミル「こんな時でも一人でいるんだな」

アニ「…何か用?」

ユミル「別に用なんてないし。静かに酒が飲みたくてこっちに来たら、お前がたまたまいただけだ」

アニ「酒瓶どんだけ抱えてきてんのさ」

ユミル「一本やるよ」

アニ「いらない」

ユミル「あっそ。ならやらない。…隣座るぞ」ストン

アニ「じゃあ私は向こう戻るわ」スクッ

ユミル「ひどい嫌われようだな」

アニ「別に嫌ってなんかないわよ」

ユミル「まぁ座れよ」グイッ

アニ「…」ストン


ユミル「…前から気になってたことがある。聞いていいか?」

アニ「何?」

ユミル「…どうして訓練所内の見回りをしてるんだ?」

アニ「…そんなことしてないわよ。ただの散歩だって前にも言ったでしょ」

ユミル「…理由は話せない…か。誰かに命令されてるとか?」

アニ「…憶測で話を進めないで」

ユミル「……無理やり口を割らすってのも悪くないね」

アニ「はっ、あんたにできるかしら?」

ユミル「腕力だけが口を割らす方法じゃないだろ………?」ガバッ

アニ「んーー…(ちょっと何すんのさ!!)」ジタバタ

ユミル「静かに」ヒソヒソ

アニ「なんなのよ」ヒソヒソ

ユミル「あそこ…木の陰に誰かいる」ヒソヒソ

アニ「!!」


※  ※  ※  ※

ユミル「おい、おっさん。てめぇこんな所で何してんだ?」

怪しい男「!?」ビクッ

ユミル「ここはな部外者立ち入り禁止なんだよ。知ってるか?」

怪しい男「」ダッシュ

ユミル「あっ、待てよ。そっちは危険だぞ」

怪しい男「」ダダダダダダ

怪しい男「…ぐふっ…!!」バタン

ユミル「忠告してやったのに…」

アニ「…どうするこいつ?」

ユミル「とりあえず金品を頂こうか」ゴソゴソ

アニ「え?ちょっと何やってるの?」

ユミル「…タバコにマッチ…、おっ懐中時計あんじゃん。…なんだメッキか…」ゴソゴソ


アニ「あんた…手馴れたもんね…」

ユミル「まぁな。…マント邪魔だな。脱がしちまおう……」グイッ

アニ「!?これって…」

ユミル「…この首飾り…ウォール教徒か…」ゴソゴソ

アニ「なんでここに…?」

ユミル「さぁ…。あった財布……ちっしけてんな……」ゴソゴソ

アニ「……」

ユミル「……ん、手帳か……」パラパラ…

アニ「何か書いてあるの?」

ユミル「……いや……暗くてよく見えない……」

アニ「渡して」

ユミル「駄目だ……その、暗くて読めないからさ……」


アニ「…あんたこそ何を隠しているの?」

ユミル「はっ、別に何も隠してねぇよ」

アニ「いいから渡しなよ」シュッ!!

ユミル「おっと、危ないねぇ。いきなり攻撃しなくてもさ。…何をそんなに必死になってるんだ?」

アニ「……」

ユミル「お前の格闘術は相手が向かってくる時は有効だ。…だが逃げちまえば恐くねぇんだよ」

怪しい男「……はっ」ガバッ

ユミル「ちっ、起きたか…」クルッ

アニ「…」シュッ!! ガスッ!!

ユミル「ぐっ……!!」ポトン

アニ「…」サッ

怪しい男「」ダダダダダダダ


ユミル「ちょっ、お前、何してんだ!!逃げられたじゃねぇか!!」

アニ「…どうせ簡単には口を割らないだろ?こっちの情報の方が有益そうだったから」

ユミル「ちっ…。手首蹴るとか…ひでぇことするな…」

アニ「取り返してみる?」

ユミル「…いや、もういい…。お前に素手で向かっていくほど馬鹿じゃない」

アニ「そう、怪我をさせずに済んでよかった」パラパラ

アニ「………!?」パラパラ


アニ「ねぇ…なんでクリスタがウォール教徒に監視されてるの?」

ユミル「知らない」

アニ「じゃあ、なんでこの手帳を隠そうとしたの?」

ユミル「…さぁな」

アニ「…クリスタって一体何者なの…?」

ユミル「…私の女神」

アニ「…ふざけないで」

ユミル「あのさ…、本当に知らないんだ。ただクリスタの名前があったからさ。思わず隠しただけ。悪かったな」

アニ「納得できると思う?」

ユミル「納得しとけ。……お互いこれ以上の詮索はやめといた方がいいと思うぜ」

アニ「…そうね」

ユミル「あとクリスタには…この事は秘密にしといてくれ…」

アニ「…分かった」


ユミル「さっき頂いたタバコは……あった……」シュッ ボッ

ユミル「…ふぅー…何か疲れたぜ…」モクモク

アニ「…駐屯地内は全面禁煙でしょ?」

ユミル「そんな固いこというな…」スゥ…

アニ「あんたさ…ろくでもない人生送ってきてそうね…」

ユミル「別に自慢する気はねぇよ…」フゥー モクモク

アニ「…いつか聞かせてよ…あんたの話…」

ユミル「…ごめんだね…」フゥー…

今日はここまで。続きは後日です

乙!
良かった
次も楽しみにしてる

ユミル26歳、ジャン22歳、アルミン18歳、、マルコ17歳、、ミカサ16歳
クリスタ15歳、エレン9歳

こんな感じの年齢設定かな

エレンが9才ならこにーは5才れべるか

忘れてた
乙!
次の投下も楽しみにしてる!

>>1です。レスありがとう
>>202一応これでも年齢設定はみんな10代のつもりです
 お酒ぐびぐびいってますが飲酒可能年齢は進撃世界では早そうだなって思いまして
 ユミルはあえて精神年齢高めで。ジャンは格好良くしようとしたら勝手に老けた
 エレンの取り扱いが苦手なんで、何か変ですよね。すみません
>>203 コニーは純粋にしようとしたら幼児化しました。何かがおかしい…

続きを少し。ここからがやっと話の中心です。前置きが長すぎた…


※ ※ 数日後 演習場 ※ ※

キース「整列!!…今日は貴様らに重大な話がある。聞く者によっては悪夢のような話になるだろう」

ザワザワ ザワザワ…

キース「先日、軍中央部から重大な決定事項が通達された。憲兵団への入団定員枠に関してだ」

キース「知っての通り訓練兵駐屯地はシーナ内に4つローゼ何に4つ、計8ヶ所存在する」

キース「これまでの規定では各駐屯地から10名ずつ憲兵団への入団が許可されていた」

キース「しかし王侯貴族の強い要望により、今期からは教養のある駐屯地のみが憲兵団入りを許されることとなった」

ザワザワ ザワザワ…

ライナー「どういうことだ…?」

コニー「また教養かよ…もういいよ…」


アルミン「教官!何をもって教養のある駐屯地と認定されるのでありますか?」

キース「約二年前にこの駐屯地にピアノが配備されただろう。その際、他の駐屯地にも同じように配備された」

キース「何の目的でピアノが配備されたかアルレルト、貴様覚えているか?」

アルミン「はっ!憲兵団を目指すものは教養を身につけなければならないからであります」

キース「なぜ教養が必要なのだ?」

アルミン「はっ!貴族の方々を楽しませるためであります」

キース「そうだ。貴様らが道化になるためにピアノは配備された」

キース「どれだけ立派な道化になれたか、つまりピアノの技術を競わせて教養のある駐屯地を決定する」

マルコ「教官!それは…ピアノコンクールを行い優劣を判断するということでありますか?」

キース「その通りだ。4位以内に入れば憲兵団入団枠が20名に増える。入れなければ入団枠は0になる」


ザワザワ ザワザワ…

ベルトルト「それって…ここにはクリスタがいるし…」

アニ「ええ…。入団枠増えるんじゃない?」

ジャン「なんだよ…びびらせんなよ…」

キース「…希望を持たせる言い方をして悪かった。…初めからこの駐屯地の入団枠は0に決定しているようなものだ」

マルコ「!? どういうことでありますか?」

キース「シーナ内の駐屯地には貴族や議員など有力者の縁者が多数所属している」

キース「頭のゆるいボンクラ共を一人でも多く憲兵団に入れるために制度は改変された」

キース「つまりコンクールとは形ばかりの出来レースだ。シーナ内の4駐屯地が上位を占めることはほぼ確定している」


ザワザワ ザワザワ…

マルコ「…そんな…」

ジャン「…ふざけんなよっ…何だよそれ…」

マルコ「…教官!コンクールの審査はどのように行われるのでありますか?」

キース「10名の審査員の評価点の合計値で競うらしい。審査員の半分は貴族から半分は軍部から選出された」

マルコ「…半分が貴族…」

キース「実施要項は後で配布する。コンクールへ挑むのも棄権するのも貴様らの自由だ。よく考えて決めるがいい」

進む意思を笑う豚貴族め………

クリスタの出自が有利になるか不利になるか…

>>1です。レスありがとうございます。続きです


※  ※  食堂  ※  ※

ジャン「くっそ!!なんなんだよ!!何のために今まで耐えてきたと思ってんだよ!!」ゴンッ!!

エレン「おい、壁に八つ当たりすんなよ。漆喰はげちゃうだろ?」

ジャン「…自分は関係ねぇからって…余裕だな」

エレン「ジャンは内地で暮らすことが目的だよな。憲兵団じゃなくったって内地で暮らす方法はあんじゃねぇの?」

ジャン「ふざけんなっ!てめぇに俺の気持ちが分かるか!?」ガシッ!!

エレン「手ぇ離せよ!慰めてやってんだろうが!!」グッ!!

ジャン「もう内地に手が掛かってたんだよ!後少しの我慢でバラ色の人生が待ってたんだ!」

エレン「そんなこと知らねぇし!」バシッ!!

ジャン「!?」グルンッ 

ジャン「……ってぇ」バタンッ!!

ジャン「何しやがんだ!!」


エレン「ったく、少し冷静になれよ。大声出して暴れて、それで事態は良くなるのか?」

ミカサ「エレンの言うとおり。…でも少しはジャンの気持ちも考えてあげて」

ジャン「…ミカサ」

エレン「…珍しいな。ジャンをかばうのか?」

ミカサ「エレンだって今期は調査兵団への入団を認めないって言われたら…悔しいでしょ?」

エレン「…そうだな。突然そんなこと言われたら目の前が真っ暗になりそうだ……。ジャン悪かった」スッ

ジャン「…放っとけよ」パシンッ

ジャン「これ以上俺を惨めにすんな……」スクッ スタスタ

エレン「…何だよ。謝ってやったのに」

ミカサ「今はそっとしときましょう…」


※  ※  ※  ※

コニー「なぁ、もう絶対に憲兵団に入れないってことなのか?」

マルコ「今、実施要項確認してるからちょっと待って…」ガサガサ

サシャ「コニーは駐屯兵団にたった今決定しました」

コニー「はぁ?何でだよ。なぁなぁマルコ、俺は駐屯兵団に決定したのか?」

マルコ「…ちょっと黙ってて」ジーッ

サシャ「だってコニーはあやとりで私に負けたじゃないですか。私の選ぶ兵団に入団するのが罰ゲームです」

コニー「罰なのか?それ。でも調査兵にはなりたくねぇしな。マルコ、俺駐屯兵団に入ることに決めたぜ」

マルコ「あー、もう!頼むからあっちに行っててくれ」イライラ

コニー「わ、わりぃ…。向こう行ってるわ…」スタスタ

サシャ「ごめんなさい。…こんなに余裕のないマルコ、初めてです…」スタスタ


※  ※  ※  ※

ベルトルト「……どうしよう……」

アニ「兵士辞めれば?」

ベルトルト「……アニ……それはできないよ……」

アニ「…私は辞めたい」

ベルトルト「!?…そんなこと言わないでくれよ…」

ライナー「二人ともどうしたんだ?なんか暗いぞ」

アニ「ライナー……あんたはどうすんだい?」

ライナー「俺か?俺はクリスタと一緒に駐屯兵団に入ることに決まった」

アニ「決まったって…。ねぇベルトルト、このライナーは正気なの?」

ベルトルト「…分からない…。でも僕はもうイヤなんだ…」

アニ「ベルトルト?」

ベルトルト「…壊れていくライナーを見るのが辛いんだ…」

アニ「…あんたが目を背けたら…ライナーは…」

ベルトルト「…大丈夫…その時が来たらちゃんと向き合うよ…」


ライナー「あのな…シリアスなところ悪いんだが…俺は正気だ」

ベルトルト「…そうなの?」

アニ「…本当に?」

ライナー「ああ。今は問題ない。心配かけてスマンな…」

ベルトルト「じゃあ、クリスタと一緒に、とか夢見たいなこと言わないでくれよ」

アニ「本当にいかれちまったのかと思うだろ」

ライナー「事実なんだが…。クリスタに涙ながらにずっと一緒にいたいって言われちまった」///

ベルトルト「……」

アニ「……」

ライナー「…なぜ憐れんだ瞳を向ける」

ベルトルト「…僕には分からないよ…ライナーの正気と狂気の境界線が…」

アニ「…思いっきり蹴れば夢から覚めるかしら?」


※  ※  ※  ※

ユミル「みんなざわついてんな。落ち着かねぇぜ」

クリスタ「…そうだね」

ユミル「成績上位者がへこむのは仕方ねぇけどさ…」

クリスタ「…うん」

ユミル「落ちこぼれ連中が‘ざまぁみろ’って感じで浮かれてんのが気に食わない」

クリスタ「…うん」

ユミル「…ここ数日ずっとその調子だな。…何かあったのか?」

クリスタ「別に…。ユミルは成績順10番だけど…憲兵団に入るつもりだったんじゃないの?」

ユミル「くくっ、私が憲兵?…全然そんな気無ぇよ」

クリスタ「…そう、じゃあ良かったね」

ユミル「…良かったねって…、お前変だぞ」

クリスタ「何が?」


ユミル「いや、良い子のクリスタなら‘こんなのひどいわ’とか‘みんなが可哀想’とか…ぎゃあぎゃあ騒いでるだろ」

クリスタ「…だって私悪い子だから…憲兵団に誰も入れないって聞いて…ちょっとだけ喜んじゃった…」

ユミル「お前…」

クリスタ「…自分が嫌で嫌でしょうがないよ。こんなに醜い心をしてたなんて…」

ユミル「気にするな。女神も普通の女の子だったってことだ」

クリスタ「初めから女神なんかじゃないもん…」

ユミル「…お前をたぶらかしてんのはマルコだろ?」

クリスタ「そんな言い方しないで」

ユミル「時々クリスタの周りをちょろちょろしてるから気にはなってたんだ」

クリスタ「ユミル、もしかして私のこと見張ってるの?」

ユミル「見張ってなんかいないさ。音楽室に二人でいるのを何度か見かけたから。私にバレてないと思ってたろ?」

クリスタ「…別に見られてもやましい事は無いから…。隠す気も無いし…」


ユミル「こんなこと聞くのはすっげームカツクんだけどさ。クリスタはこの先どうしたいんだ?」

クリスタ「どうって?」

ユミル「マルコと一緒にいたいのかって聞いてんだ」

クリスタ「…私はね。でもマルコは違うみたい…」

ユミル「マルコはどうでもいい。あんな奴知らん。とにかくクリスタは一緒にいたいんだな?」

クリスタ「…うん」

ユミル「じゃあ一緒に憲兵団行けよ」

クリスタ「…憲兵団は絶対に入れないじゃない。…もしコンクールで勝っても、私の成績じゃ無理だから」

ユミル「クリスタ今何番ぐらいだっけ?」

クリスタ「20番台前半」

ユミル「あとちょっとじゃねぇか」

クリスタ「でも成績が20番以内に入れたって…やっぱりコンクールで勝てないから…」

ユミル「ごちゃごちゃ言うな。何とかなるって」


クリスタ「…憲兵団…か。たとえ自由に所属先を選べたとしても…私は入りたくないな…」

ユミル「お前、内地恐怖症だもんな。チャリティーコンサートの時びびりまくってた」

クリスタ「…うん」コクン

ユミル「でもさ、過去とは決別したんだろ?お前の新しい人生だ。他人の目を気にせず好きなように生きろ」

クリスタ「…」

ユミル「私はな、クリスタに憲兵団に入ってもらいたいんだ」

クリスタ「どうして?」

ユミル「あそこだったら前線に駆り出されることもないだろ?」

クリスタ「そうだけど…」

ユミル「私の知らないところでクリスタが勝手に死んじまう確率が随分と下がる」


クリスタ「…ユミルも一緒に入ってくれる?」

ユミル「さっきも言ったろ。私は憲兵なんてガラじゃねぇって」

クリスタ「ユミルが一緒じゃないと嫌…」

ユミル「欲張り」

クリスタ「だって…」

ユミル「…本当は私がクリスタを幸せにしてやりたい。誰にも渡したくないさ…」

クリスタ「ユミル…」

ユミル「でも、私とじゃ幸せになれない。そうだろ?」

クリスタ「…女同士だしね」

ユミル「偏見あるほう?」

クリスタ「個人の自由だと思うけど…、私はそういうの無理だから…ごめん」

ユミル「謝んな。分かってるから。クリスタは普通の女の子だって」


ユミル「けどさぁ、もう少しマシな男に惚れろよ。あれのどこがいいんだ?趣味悪ぃな」

クリスタ「そう?だってユミルとそっくりでしょ。ブルネットの髪にチャーミングなそばかす」

ユミル「あんな奴と一緒にすんな」

クリスタ「一緒だよ。二人とも私にとって大切な人なの…」

ユミル「……お前さ、とりあえずコンクール出ろよ。出場しないことにはどうにもならないだろ?」

クリスタ「でもコンクールだよ?ピアノの練習にかかりっきりになっちゃう。そんなことしてたら成績が…」

ユミル「成績のことは心配するな」

クリスタ「どうして?」

ユミル「周りをよく見てみろ。みんなモチベーション下がってやがる。クリスタが普通にしとけば勝手に上がるよ」

クリスタ「そうかな…」


ユミル「大丈夫だって。それよりさ、コンクールの実施要項を確認しろよ」ポン

クリスタ「…うん」パラッ

ユミル「課題曲とかあるのか?」

クリスタ「…ええ。思ってたより本格的ね…」

ユミル「難しい曲なんだ」

クリスタ「こんなのまともに弾ける子ってなかなかいないと思う…」

ユミル「他の駐屯地に棄権させるためにハッタリかましてんじゃねぇのか?」

クリスタ「そうかもしれない…。でも内地には上手い子がたくさんいるんだろうな…」


ユミル「ふーん……審査員はもう決まってるのか?名前を聞いたところで誰か分かんないけど」

クリスタ「えーと……」

クリスタ「……!?」サァァァ

ユミル「どうかしたのか?顔が青いぞ…」

クリスタ「……」ブルブル

ユミル「おい、大丈夫か?震えてるぞ」

クリスタ「……できない……」ブルブル

ユミル「何が?」

クリスタ「……コンクールに出るなんてできないよ……」ブルブル

ユミル「…とりあえず寮にもどろう、な」


※  ※  ※  ※

アルミン「マルコ、コーヒー入れたよ」コトッ

マルコ「…ありがとう」

アルミン「ここ座るね」ガタッ

アルミン「…コンクールって開催はいつ?」

マルコ「約五ヵ月後。訓練兵団解散式のちょうど一ヶ月前…」

アルミン「最終試験の時期と重なるんだ…。…マルコはどうするの?」

マルコ「…僕は出場しようと思ってる」

アルミン「うん。そう言うと思ってた。憲兵団入りはずっとマルコの目標だったしね」

マルコ「無謀だとは分かってるんだ。けど何もしないで諦めたら一生後悔すると思うから…」

アルミン「コンクールってどんな規定なの?要項見せて」

マルコ「いいよ」パラッ


実施要項

・下記(a)(b)(c)の課題曲を含む25分以上35分以内のプログラムを組むこと

・課題曲以外の自由曲を1曲以上加えること。制限時間内であれば曲数は問わない

 (a)ショパンのエチュード作品10 または作品25 から任意の一曲

 (b)ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンのソナタから、1つ以上の楽章

 (c)リストの練習曲より任意の一曲
  (パガニーニ大練習曲、2つの演奏会用練習曲、3つの演奏会用練習曲、超絶技巧練習曲)

・演奏はすべて暗譜で行うこと

・各駐屯地1グループのみ参加を認める

・出場者は各駐屯地3名以内とすること

・当日本番前に抽選を行い演奏順を決定する

・出場者の服装はフォーマルとすること


アルミン「…なんだかよく分からないけど大変そうだね…」

マルコ「…ああ。頭が痛い…」

ミーナ「ねぇねぇ、私達にも要項見せて」

マルコ「いいよ」ピラッ

フランツ「……へぇ、3名まで出場できるんだね。でも誰か出る人いるの?」

マルコ「とりあえず僕だけ」

ハンナ「でも出場したところで、……上位には入れないんでしょ?」

マルコ「多分ね…。でもいいんだ。僕はピアノを弾くのが好きだから。楽しむつもりで出てみるよ」


アルミン「けど一人でこの曲数は大変なんじゃない?」

マルコ「そうなんだよ。アルミンも一緒に出ないか?」

アルミン「僕にはそんな難しそうな曲弾けっこないよ。クリスタに頼みなよ」

フランツ「そうだよ。クリスタが出れば奇跡が起こるかもしれないよ」

ミーナ「うん。だって彼女は女神だし」

マルコ「うーん…」

マルコ(コンクールの会場って内地だしな…。彼女は何か事情があるみたいだし…)

マルコ(出場して欲しいのはやまやまだけど…。無理にとは言えないよね…)

ハンナ「あっ、もしコンクールで勝てたら…、フランツも憲兵団に行けるじゃない!」

フランツ「20人まで枠が増えたらね。でも俺は行かないよ。だってハンナと離れ離れになるだろう?」

ハンナ「フランツ…」


ミーナ「ねぇ、クリスタに頼もうよ」

マルコ「いや…今回は憲兵団入りを目指す人が頑張るべきだと思う。出場するってなるとかなりの負担になるし…」

アルミン「あのさ…クリスタって憲兵団入りたくないのかな…」

ハンナ「そういえばクリスタから卒業後どうしたいのか聞いたことないわ…」

ミーナ「うん、私も」

アルミン「マルコも知らないの?」

マルコ「ああ、聞いてない」

アルミン「えっ、何で?気にならないの?」

マルコ「ゴホンッ!!」(みんながいるのに勘弁してよ…)チラッ

アルミン「…あっ…何でもないよ…。そうだ!エレンにお願いしようよ!」

マルコ「駄目だよ。エレンこそ憲兵団関係無いし…」

アルミン「エレンはきっとみんなが困ってるって知ったら手伝ってくれるよ!僕、頼んでみるよ」ガタッ

マルコ「確かにエレンが出場してくれれば随分楽になるけど…。無理強いはしないでくれよ」

アルミン「大丈夫。エレンは正義感の塊だから。きっと今回の仕打ちに腹が立ってるはずだし」スタスタ


ハンナ「…ねぇマルコ」

マルコ「ん、なに?」

ハンナ「コンクールってドレスコードがあるんだね」

マルコ「一応ね。会場がそれなりのホールだから。さすがに普段着じゃね…」

ミーナ「男子のフォーマルって…、何着るの?」

ハンナ「まさかモーニングコート?それとも燕尾服?」

マルコ「うーん、ジャケット羽織るだけじゃまずいよなぁ。やっぱりブラックタイはしなきゃ駄目かな…」

ハンナ「じゃあタキシードね」

マルコ「うん。考えただけで窮屈だよ」

ミーナ「マルコ、もしかしてタキシード持ってるの?」

マルコ「ははっ、持ってるわけないよ。どっかでレンタルしないとね」


ハンナ「…女の子が出場する場合はドレス着るの?」

マルコ「そうだね。フォーマルっていうとロングドレスになるのかな?」

ハンナ「うん。礼装は袖なしでかかとまで隠れる丈のドレスが一般的かな」

ミーナ「そっか…。クリスタが出るんだったら私たちがドレス作ってあげたかったね」

ハンナ「そうね……」

マルコ「代わりに僕のタキシード作ってみない?」

ミーナ「えー、真っ黒でしょ?フリルとか付けちゃ駄目なんでしょ?楽しそうじゃないからイヤ」

マルコ「はいはい。分かったよ。フリフリにされたら困るから大人しくレンタルするよ」

今日はここまで

好き
期待して待ってる

あげてたすまん

>>1です レスありがとうです 続きです


※ ※ 女子寮 ※ ※

ユミル「少しは落ち着いたか?」

クリスタ「…うん」

ユミル「クリスタ…、もしかして審査員に知ってる奴がいたのか?」

クリスタ「…」コクン

ユミル「…そうか。そいつと顔を合わせるのが嫌なんだな…」

クリスタ「…二度と会いたくない」

ユミル「…クリスタはそう思ってても、そいつはどうなんだろうな…」

クリスタ「…私はあの人にとって道端に落ちてる石ころと同じ。気にも留めないと思う」

ユミル「だったらいいじゃねぇか。クリスタが何したって」


クリスタ「…私が生かされてるのは目立たず慎ましく暮らしているから…」

クリスタ「…私の素性が公になったら権力争いや政争に利用される可能性があるの…」

クリスタ「…今は私に無関心でいてくれても、少しでも表舞台に立てば殺されるかもしれない…」

ユミル「殺される…か。物騒な話だな、本当に」

ユミル「だがクリスタ、お前はおとなしく殺される気なのか?そいつの思い通りになってやるのか?」

ユミル「少しは運命に抗えよ!お前はもう自由なんだ!逃げる必要も隠れる必要もねぇよ!」

クリスタ「そんなこと言ったって……恐いの……すごく恐いの……」ブルブル

クリスタ「…あの人の顔を思い出すだけで…震えが止まらなくなるの…」ブルブル


ユミル「…クリスタ」ギュッ

ユミル「心配するな。私が必ず守るから。もうそんな奴の顔忘れちまえ」

ユミル「それにここにはお前の仲間がたくさんいるだろ?」

ユミル「もしお前に何かあっても必ず誰かが助けてくれる。大丈夫だ」

クリスタ「…ユミル…ありがとう…」

ユミル「コンクールはさ…無理に出ろとは言わねぇよ。クリスタが自分で決めろよ」

クリスタ「…うん」コクン


ユミル「……」ジーッ

ユミル「…やっぱ、お前かわいいな」

クリスタ「ふふ、私もユミルが男の人だったら…きっと恋に落ちてたと思う…」

ユミル「…この先もし第三の人生が用意されてるなら、必ず男に生まれてくるからさ…」

ユミル「…その時は私を選んでくれよ…」

クリスタ「…うん。約束するよ…」ギュッ


※ ※ 男子寮 ※ ※

エレン「コンクールってやつ出てもいいぜ」

マルコ「本当かい!?」

エレン「ああ。貴族連中のやり方は気に入らねぇし、奴らの思い通りになるのはもっと癪だ」

マルコ「でも…エレンは調査兵団希望だよね。損得で動くような奴じゃないって分かってるけどさ…」

マルコ「コンクールまでピアノの練習にかなりの時間を割くことになるけど……それでもいいの?」

エレン「構わねぇよ。困ったときはお互い様だろ」

マルコ「ありがとう。恩に着るよ。…アルミンもエレンを説得してくれて助かったよ」

アルミン「僕は何もしてないよ。僕が頼むより先にミカサが説得してたから」

マルコ「ミカサが?」


アルミン「貴族に支配された世の中を変えることができないようじゃ、巨人の支配からは永久に抜け出せないだろうって」

アルミン「言ってることは筋が通ってんだか通ってないのかよく分からないけど、エレンの心には火が点いたみたい」

エレン「俺は巨人より先にまずは貴族を駆逐してやることにした」

マルコ「ははっ。いいねそれ。貴族を駆逐か…。僕らにできるかな…」

アルミン「諦めたらそこで終わりでしょ?やれるだけやってみようよ」

エレン「アルミンの言うとおりだ。コンクールで勝って、豚野郎どもをブヒブヒ鳴かせてやろうぜ」

マルコ「ああ。出来レースといえども何が起こるか分からないからね。最後まで奇跡を信じて頑張ろう」


アルミン「で、二人は出場が決まったけど…。どうするの?三人まで出れるんでしょ?」

マルコ「うーん…。エレンがいても正直言って厳しいんだよね…。あと一人出て欲しいところではあるね…」

エレン「そうか…。クリスタは?」

マルコ「えーと…、クリスタは……その……色々忙しいかもしれないしさ……」

アルミン「マルコ、一応お願いするだけしてみなよ。何で聞きもしないで除外するんだよ」

マルコ「いや、負担になるからさ……」

アルミン「負担に感じるかどうかは本人のやる気次第だよ。クリスタだって本当は憲兵団に入りたいのかもしれないし」


ライナー「お前ら、クリスタがどうしたって?」ムクリ

エレン「あっ、ライナーいたんだ」

ライナー「失礼だな。ベッドの上で静かに話を聞いてたんだよ」

ライナー「だがクリスタが話題にのぼったら、さすがに黙ってはおけないだろう」ヨッコラショ

エレン「何でだよ。別にライナー何の関係もねぇじゃん」

ライナー「大有りだ。今俺はクリスタに一番近い男といえるからな」

マルコ「えっ?」

アルミン「そういう夢を今見てたの?」

ライナー「……。お前らまで夢扱いするのか…。本当だってのに」

エレン「だってなぁ…。信じられねぇもん」


ライナー「この前のキャンプファイヤーの時にな、兵団卒業後どうするんだって聞いたらよ…」

ライナー「ずっと一緒にいたいって泣きながら言うんだぜ。これは間違いなく俺に惚れてるだろ」

マルコ「ははっ、何の冗談?」

ライナー「冗談じゃねぇよ。お前には傍観してる気は無ぇって言っといたろ?…悪いが女神は俺に微笑んだ」

マルコ「そんなのありえない。僕は信じないから」

ライナー「まぁ信じるも信じないもお前の勝手だ。だが人の女に手ぇ出すなよ」

マルコ「…誰がライナーの女だって?さすがに僕も怒るよ?」


アルミン「はい!!教官、報告したいことがあります!」

エレン「おっ。…何だ?アルレルト。貴様この緊迫した雰囲気が分かっているのか?」

アルミン「僕はブラウンとレンズの二名が語り合っている現場を直撃したであります!」

エレン「それがどうした?アルレルト」

アルミン「現場の状況から察するに、ブラウンの今の発言は妄言である可能性が高いと判断したであります!」

エレン「なぜそう思う?」

アルミン「レンズの発言は一貫して‘誰と’一緒にいたいのか不明瞭なままでありました!」

アルミン「よってブラウンの思い込みであるという結論に至ったであります!」

エレン「そうか。ご苦労だったな。では巨人の餌になってもらおう」

アルミン「はっ!!ってなんでだよ」


マルコ「ぶっ……教官ごっこは終わった?」クスクス

アルミン「うん。満足」

ライナー「アルミン…、言われなくてもそんなことは分かってんだ…」

ライナー「だが少しぐらい夢見たっていいだろう?」

アルミン「妄想するのは勝手だけど嘘をつくのは良くないよ。いつクリスタがライナーの彼女になったんだよ」

ライナー「…近い将来必ずだ」

アルミン「…こんな感じだからさ。安心しなよマルコ」

エレン「ていうか、マルコってクリスタのこと好きなのか?俺そんな話初耳だぞ」

マルコ「えっ?…いや、仲間としてね。…エレンだってクリスタのこと好きだろ?」

エレン「ああ、もちろん。仲間としてな」


ライナー「…マルコいい加減はっきりしろ」

アルミン「本当だよ。なんかもう色々とだだ漏れなのに」

マルコ「そんな…だだ漏れしてる…?」

ライナー「ああ、寝言でクリスタ、クリスタ言い過ぎなんだよ」

マルコ「うそ!?」///

ライナー「嘘だ」ニヤリ

マルコ「……」


アルミン「そんなに隠したいのならこれ以上つっこまないけどさ…」

アルミン「クリスタが泣くほど一緒にいたい相手ってマルコなんじゃないかなって僕は思ってる」

ライナー「そこはユミルにしとかないか?俺のために」

エレン「案外俺だったりしてな」

アルミン「…エレンが言うと冗談に聞こえないからやめてよ」

マルコ「…うん。ライナーが言うと冗談にしか聞こえないのにね」

アルミン「とにかくマルコはクリスタとちゃんと話さなきゃ駄目だよ。コンクールのことも、卒業後のことも」

マルコ「…そうだね。話してみるよ」


※ ※ 翌日 市街地 サロンパーティー会場 ※ ※

ジャン(あー疲れた。訓練終わって休む間もなくここへ直行だもんな。なんとか間に合ってよかったぜ)

ジャン(それなりの格好して来いっていうから一応ジャケット持ってきたが…)

ジャン(なるほど…。見た目だけは上品ぶった資産家気取りのクソ野郎ばっかじゃねぇか)

ジャン(ユミルの奴、控え室で着替えてくるって言ってたが……)

ジャン(そりゃあ、いつものみすぼらしいシャツとズボンじゃまずいんだろうけど…)

ジャン(おっせーなー。何やってんだ?こんな場所で一人にすんなよ。居心地悪すぎるぜ)


女「あら、つまらなそうね?」

ジャン「!?」(俺に話しかけてきた?…やっべ超いい女だ。どうしよう…)

女「何か飲む?取ってきてあげる」

ジャン「あっ、それじゃあシャンパンを…」(そのドレス胸元開きすぎだろ。谷間丸見えじゃねぇか…)

女「分かった。待っててね」クルッ スタスタ

ジャン(背中も開いてた…。すげぇスタイルいいな…)

ジャン(ボディライン丸出しの黒のドレス…。エロすぎだろ…)


女「はい、どうぞ」スッ

ジャン「あ、ああ…すまない」

女「ふふっ、何緊張してるの?」

ジャン「いや、その、…貴女が綺麗すぎて…」///

女「………」スッ

ジャン(ちょっ!?何で耳元に口寄せてくるんだよ!!)///

女「お前馬鹿か。私だよ」ヒソヒソ

ジャン「はぁ!?」

ユミル「静かにして」シーッ


ジャン「おまっ、お前………」アウアウ…

ユミル「下品な話し方は禁止。目立つ行動もしないで。おとなしく壁にくっついてなさい」

ジャン「いや、だって……何そのしゃべり方、気持ち悪ぃぞ…」

ユミル「お行儀よくしてないとこんな場所じゃ浮くでしょ?ジャンも気をつけて」

ジャン「確かにな…」

ジャン「それより…そばかすはどこへ消えた?」

ユミル「これが素顔。そばかすはメイク」

ジャン「マジで!?」

ユミル「冗談よ」


ジャン「……厚化粧過ぎてまったくどなたか分かりませんけど」

ユミル「10代の小娘には見えないでしょ?」

ジャン「30過ぎのマダムかと思った」

ユミル「正直ね」

ジャン「…髪型もいつもと違うし。それ自分でしたのか?器用だな」

ユミル「ああこれね。夜会巻きっていうの。見た目ほど難しくはないわ」

ジャン「そのドレスはどうしたんだ?」

ユミル「私物よ。昔の商売道具」

ジャン「……なるほどな」

ユミル「そろそろ演奏始まるみたいだから、適当に待っててね」スタスタ


ジャン(………………驚いた)

ジャン(あいつは本当に何者だ?口調も声色まで変えて完全に別人じゃねぇか)

ジャン(…あれなら室内楽団から声がかかるのも納得できる)

ジャン(楽団の編成は…ヴァイオリンが6人か。ユミルは第2ヴァイオリンつってたからパートが分かれてんだろうな)

ジャン(ヴィオラとチェロが2人ずつ。チェンバロが1台。で、独奏ヴァイオリンの禿げたおっさんが1人)

ジャン(…なんだっけ。弾くって言ってた曲。…ヴィなんとかの『四季』…名前が思いだせねぇ…)

ジャン(…演奏が始まった。…なんか腹が立つくらい明るい曲だな)


ジャン(…つーかさ…なんで俺ここにいるんだ?)

ジャン(もうヴァイオリンなんて弾く必要ねぇのに…)

ジャン(いや、ヴァイオリンはミカサのためか…)

ジャン(けどそれもどうでもよくなってきた…)

ジャン(どうせ頑張ったところでうまくいかねぇんだ…)

ジャン(何もかも努力するだけ無駄だって気付いちまった…)

ジャン(俺ら庶民がいくら足掻いたって上には行けねぇんだよ…)

ジャン(ここにいる連中にすらなれねぇんだよ…)

ジャン(くだらねぇな…俺の人生…)


パーティーはまだ続いていたが俺とユミルはさっさと会場を後にした。

ユミルと朝まで飲む気はなかったが、ギャラで奢ってやるって言うから一軒だけ付き合うことにした。

やさぐれてもよかったが、それも何だか癪で、くだらねぇことをひたすらしゃべりまくった。

ユミルに少しは黙れよって呆れられたが、から騒ぎしてねぇと気分がどんどん落ちてくんだよ。

無理やりあげたテンションとアルコールのせいで、気付けば二軒目に突入していた。

ああ、もうどうでもいいや…。今が楽しけりゃそれでいいや…。


※ ※ 街の裏通り ※ ※

ジャン「よし!次の店行こうぜ!」バシッ!!

ユミル「いってぇな!背中叩くな!手形がついたらどうすんだ」

ジャン「てめぇがそんな背中丸出しの服着てるから痛ぇんだよ」

ユミル「ちゃんと私の荷物は持ってるか?」

ジャン「おう!って何で俺が荷物持ちさせられてんだよ!」

ユミル「奢ってやってんだからそれぐらいしろ」

ジャン「つーかいつまでその格好でいる気だ?さっさと着替えろよ」

ユミル「面倒だし。いいだろ別に」

ジャン「いくねぇし。目のやりばに困るだろうが」

ユミル「じゃあ、目ぇつぶっとけよ。二度と開けんな」

ジャン「はっ、やなこった。開き直ってガン見してやる」

ユミル「好きにしろよ。ほら行くぞ」スタスタ

ジャン「…あー、はいはい」スタスタ


シャン「……ユミルさん、後ろをついて歩いていると気になるわけですよ」スタスタ

ユミル「何がだ?」スタスタ

ジャン「今ノーブラっすか」スタスタ

ユミル「それがどうした」スタスタ

ジャン「で、ノーパン」スタスタ

ユミル「パンツは履いてる」スタスタ

ジャン「ああ、残念」スタスタ

ユミル「なんなんだお前は?」スタスタ

ジャン「さっきからよ、頭の中をぐるぐる、ぐるぐる同じメロディーが流れるんだ」スタスタ

ユミル「ふーん。何の曲だ?」スタスタ

ジャン「ユミルたちがさっき弾いてたやつ」スタスタ

ユミル「ヴィヴァルディの『四季』」スタスタ

ジャン「そう、それ」スタスタ


ユミル「今、お前の頭の中はお花畑なのか?」スタスタ

ジャン「ちげぇし。最初のほうじゃなくてよ。後のほうで流れるフレーズ」スタスタ

ジャン「ジャンジャカジャカジャカ♪ジャン♪ジャン♪ジャン♪ジャンジャカジャカジャカジャンジャンジャンジャン♪っていうやつ」スタスタ

ユミル「ぶっ、ジャンジャンうるせぇよ」ゲラゲラ

ジャン「これがさ耳の奥でずっとリピートされてて。なんか気持ちがすっげー焦るんだ」スタスタ

ジャン「意味分かんねぇぐらい急き立てられて、何でもいいからしゃべらねぇと窒息しそうになる」スタスタ

ユミル「そのフレーズは『冬』の第一楽章。寒さに凍える人々が死なねぇように必死に足踏みしてんだと」スタスタ

ジャン「冬ねぇ。あーなるほど。俺の人生も冬に突入したからな」スタスタ

ユミル「必死にあがけよ。死なねぇように」スタスタ

ジャン「あがいたところで二度と春は来ねぇし」スタスタ

ユミル「あっそ、じゃあ死ねよ」スタスタ

ジャン「だな。どうせ近い将来巨人の餌になっちまうんだ。もうどうでもいい」スタスタ


ユミル「それなら悔いが残らないようにしねぇとな」スタスタ

ユミル「見ろよ、ジャン。今日も立ちんぼのお姉さんいっぱいいるぜ」ニヤニヤ

ジャン「こんな遅い時間になってもまだいるんだな」スタスタ

ユミル「世の中不景気だからな。人助けだと思って買ってやれよ」スタスタ

ジャン「そうだな…。どうせ死ぬんだし…」ピタッ

ユミル「おっ、その気になったか?」ニヤニヤ

ジャン「……チッ」


―馬鹿にしやがって むかつく女だ



ジャン「なぁ、ユミル」

ユミル「なんだ?」


―少しはびびりやがれ


ジャン「てめぇが相手しろよ」

ユミル「はぁ?」


―驚いてるな ざまぁみろ


ユミル「………」


―考えてるな さてどう返してくる  



ユミル「いいぜ。もちろんタダじゃねぇけど」


―いいのかよ


ユミル「何黙ってんだよ。やんのか?やらねぇのか?どっちだ?」


―男前すぎて俺がびびるわ


―何て返事すりゃいいんだよ


―ただの悪ふざけのつもりがよ


―くそっ


―どうにでもなれ




ジャン「…やる」



ユミル「…そうか」




―どことなく悲しそうに返事をするユミルの横顔を


―俺は一生忘れられない気がした



その後は軽口を叩く気にもなれず、黙ってユミルについて歩いた。

連れ込み宿に入るのも手馴れたもんで、本当にこういうことやってたんだなって改めて思い知った。

部屋に入ってからは、サロンで見せた‘俺の知らない大人の女’を徹底して演じていて。

それが俺のためなのか、ユミル自身のためなのか、それともただのお仕事モードなのかは知らねぇが

そんな演技をしているユミルがひどく憐れで。

そんな演技をさせてる自分がひどく情けなくて。



俺は最高に惨めな気分だった。



※ ※ 翌朝 ※ ※

ユミル「ジャン起きろ」ユサユサ

ジャン「ん……、うっせぇな……ばばぁ……」ムニャムニャ

ユミル「誰がばばぁだ、コラ!」ゲシッ!!

ジャン「って!何しやがる!」ガバッ!!

ユミル「帰るぞ。支度しろ」

ジャン「……ユミル………痛っ」ズキン!!

ジャン「頭がガンガンする…最悪だ…」ズキズキ

ジャン「……わりぃ、もうちょい寝させて。そして頭の中を整理する時間をくれ」バサッ!!


ユミル「じゃあ毛布かぶったままでいいから聞けよ」

ユミル「まだ報酬の話してなかったろ?」

ジャン「…俺の財布ならジャケットの内ポケットに入ってるから、必要なだけ取ってけ」フガフガ

ユミル「分かった。……ジャケットはこれか……」ゴソゴソ

ユミル「ふーん、結構入ってるし…」

ジャン「…全部は持ってくなよ」フガフガ

ユミル「金はここの宿代だけでいい」

ジャン「…金じゃねぇなら…何だ?…また例のごとく働かせる気か?」フガフガ

ユミル「正解。二日酔いの割には頭がよく回るじゃないか」


ジャン「今度は何させようってんだ?」フガフガ

ユミル「…クリスタの成績順を10番内に入れる。協力しろ」

ジャン「は?どういうことだ?」ガバッ!!

ユミル「…とりあえずパンツはけよ」ポイッ

ジャン「あ、ああ…すまん///」ゴソゴソ

ユミル「別にお前の順位を落とせって言ってんじゃない」

ユミル「私のいる10番をクリスタに譲ってやりたいんだ」


ジャン「けど…何のためだ?俺達の駐屯地は憲兵団には入団不可能ってほぼ確定してんのに」

ユミル「先のことは分からないだろ?」

ユミル「もしかしたらコンクールに勝つかもしれない。コンクールの話自体無くなるかもしれない」

ユミル「あらゆる結果を想定したら、やっぱり10番内で卒業させるのがベストなんだよ」

ジャン「…俺が協力したところで、そんな簡単に順位は上がらねぇだろ」

ユミル「さあ?どうだろう。…しばらくは私の言う通りに動いてもらうから。よろしく、ジャン」

今日はここまで

乙!
ユミルかっこいいようかかなしいような
楽しみだ

ユミル。。。。
大好きだ←

うーむむ。諫山先生も納得であろうジャンのリアルさ

あげ

>>1です
随分ご無沙汰してすみません。レスありがとうございます
あげてもらえて嬉しいです

>>273 批判覚悟してたのですっごい嬉しいです


※ ※ 洋裁室 ※ ※

ハンナ「せっかくの休日なのに朝早く呼び出してごめんね」

クリスタ「ううん、いいよ。話って何かな?」

ハンナ「あのね…ものすごく勝手なお願いで悪いんだけど…」

ハンナ「コンクールに出て!お願い!」ガバッ!!

クリスタ「ちょっとハンナ、頭を上げてよ…。急にどうしたの?」

ハンナ「…憲兵団の入団枠が20名に増えたら…フランツも入れそうなの…」

クリスタ「でもコンクールは私が出ても多分勝てないよ…」

クリスタ「それにハンナはいいの?入団枠が増えてフランツが憲兵団に行っても」

ハンナ「うん。フランツだけでも安全な内地に行ってもらいたいの」

ハンナ「私は駐屯兵団で頑張って後から追いかけるつもり」


クリスタ「そんなの…、何年かかるか分からないよ?その間ずっと離れ離れだよ?」

ハンナ「…もちろん離れるのは寂しいけど…。でも私は何よりもフランツが大切なの」

ハンナ「またいつ巨人が襲ってくるか分からないから…。駐屯兵は最前線で戦うことになるから…」

ハンナ「フランツが憲兵団に入れる可能性が少しでもあるなら、私は諦めたくないの…」

クリスタ「ハンナ…」

ハンナ「…ごめんね。私の都合を押し付けて。クリスタは関係ないのに…」

クリスタ「…ねぇ、どうしてフランツのことばかり優先するの?」

クリスタ「ハンナの気持ちはそれでいいの?本当は一緒にいたいんでしょ?」


ハンナ「……クリスタは恋人はいるのかな?」

クリスタ「えっ…?」

ハンナ「相手は誰とか聞かないから大丈夫。いるの?いないの?」

クリスタ「いないよ…」

ハンナ「好きな人は?」

クリスタ「…いる…かな///」

ハンナ「じゃあ、その人のことを思うと嬉しくなったり苦しくなったりするでしょ?」

クリスタ「うん…」

ハンナ「もっと話がしたい、もっと会いたい、もっと一緒にいたい…」

ハンナ「どんどん相手に求めて、でもそれが叶わないと悲しくて…」

ハンナ「クリスタは今そんな感じかな?」

クリスタ「…その通りだよ…」


ハンナ「私もねフランツと付き合い始めた頃はそうだった。その時はまだ恋をしていたから」

クリスタ「??? 今は恋をしていないの?」

ハンナ「んー、今は恋っていうより愛かな」

クリスタ「結局のろけるのね…」

ハンナ「違うって。私が言いたいのはね、恋は自分本位で愛は相手が中心になるってこと」

ハンナ「本当に愛してる相手には、求めるより与えたくなるの」

クリスタ「…ねぇ、どうしたらそんなふうに相手のことを思いやれるようになるかな…」

ハンナ「ふふっ、恋をしてる間は無理よ。胸がどきどきして周りが見えなくて、そんな余裕ないもの」

ハンナ「でもね、断言できるわ。恋をしている間が一番楽しい!」

クリスタ「そうなの?」


ハンナ「うん。今じゃフランツにときめくことがほとんど無いもの。一緒にいることに慣れすぎちゃった」

クリスタ「贅沢だよ、そんなの」

ハンナ「だからフランツには内地に行ってもらって…」

ハンナ「しばらく離れて暮らしてリフレッシュしてみたいなっていう本音があったりなかったり」

クリスタ「…ハンナ、正直すぎるよ」

ハンナ「もっとぶっちゃけると、フランツが憲兵だったら結婚相手に申し分ないわっていうのもある」

クリスタ「…ハンナのイメージが崩れちゃうよ…」

ハンナ「恋をしている間は純粋でも、愛を知った途端に女は打算的になるものよ」

クリスタ「やだハンナったら」クスクス


ハンナ「それにね。クリスタに無理なお願いをする以上、綺麗ごとばかり並べ立てたら悪いかなって…」

ハンナ「クリスタは優しいから、お願いされると本当は嫌でも引き受けちゃうでしょ?」

ハンナ「でもこんな裏があることを知れば断りやすい。断って当然。クリスタは気にする必要はないからね」

クリスタ「ハンナはやっぱり優しいね…」

ハンナ「…もしコンクールに出場する気が少しでもあるなら、前向きに考えて欲しいな…」

クリスタ「…ごめんね。いますぐ返事はできないよ…。少し考えさせて…」

ハンナ「もちろん。…もしコンクールに出る気になったら教えてね。私がドレスを作ってあげたいから」

クリスタ「ありがとう…ハンナ」


※ ※ 第一音楽室 ※ ※

マルコ「さてと…とりあえず課題曲をどうするか…」

エレン「悪ぃけどこの実施要項の内容、俺にはさっぱり分かんねぇぞ」

マルコ「それは仕方ないよ。ソナタ以外の課題曲は僕だってほとんど弾いたことないし」

エレン「とりあえず俺はどれを担当すればいいんだ?」

マルコ「そうだね…『(b)ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンのソナタから、1つ以上の楽章』か…」

マルコ「これエレンにお願いしようかな…。ショパンとリストは…『剣の舞』の時みたいに途中で投げそうだから…」

エレン「今回はやっぱり好き勝手に編曲して弾いちゃ駄目なんだよな」

マルコ「そう。楽譜を忠実に再現しなきゃいけないお堅いやつだよ。……ソナタ集は……あった」

エレン「はぁ…できっかな。ただでさえ楽譜読むの苦手なのに…」


マルコ「エレンってやっぱり速い曲がいいんだよね…」パラパラ

エレン「ああ。一気に突き抜けてゴールするやつで頼む。知ってると思うが俺は感情表現が苦手だからな」

マルコ「そうだね。ピアノもミカサに対しても表現力が乏しいよね」パラパラ

エレン「なんだよ。ミカサは関係ないだろ」

マルコ「うーん、音楽的表現力を磨けばもう少し素直に気持ちを表せるのかな…」パラパラ

マルコ「たまにはスローテンポな曲弾いてみない?」パラパラ

エレン「絶対に嫌だ。メロディーを歌うように弾けとか言われてもなぁ。なんか恥ずかしいだろ?」

マルコ「分かったよ。勢いだけで弾ける曲ね……長調がいい?短調がいい?」パラパラ

エレン「何の話だ?」

マルコ「…エレンは二年近くクリスタに何を教わってるのかな…」パラパラ

マルコ「明るい曲と暗い曲、どっちが好きなのって聞いてるんだよ」パラパラ


エレン「どっちでもいいけど…。そうだな、どうせ弾くならかっこいい曲を希望するぜ」

マルコ「かっこいい曲ねぇ……そうなるとベートーヴェンかな……」パラパラ

マルコ「『悲愴』や『テンペスト』の第三楽章もかっこいいけど…」パラパラ

マルコ「疾走感を優先するんだったら『月光』の第三楽章だね…」

エレン「ふーん。とりあえずさ、その『月光』っていういのがどんな曲か弾いてくれよ」

マルコ「分かった。お手本にはならないけど、大体こんな曲って分かればいいよね」

マルコ「…久しぶりに弾くな、ベートーベンのソナタなんて…。指動くかな…」


♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪~♪♪♪♪~


エレン「何だこれ!?すごい勢いで駆け抜けていくな…」

マルコ「ページめくって」♪♪♪~

エレン「お、おう」パサッ

エレン「…なるほどな。途中で曲調が大きく変わることなく常に全力疾走か…」

エレン「…俺の苦手な音の跳躍はあまり無いし…和音も複雑じゃないから音が聴き取りやすい…」

マルコ「ここまで」ジャーン♪

エレン「って途中でやめるのかよ」

マルコ「うん、後は似たようなことの繰り返しだから。まぁ、曲の感じは分かったよね?」

エレン「確かにかっこいい曲だ」

マルコ「本当はもっと速いテンポなんだけど…練習不足…」

エレン「十分速いし。マルコって結構指まわるのな」


マルコ「そう?まぁピアノ歴だけはエレンに負けてないから」

エレン「けどさ、マルコって普段速い曲弾かないよな。なんで?」

マルコ「人前ではね。陰では地味にエチュード弾いてテクニック鍛えてるよ」

マルコ「けど、ピアノもある程度は努力すれば何とかなるんだけどさ…」

マルコ「ベートーヴェンのソナタぐらいになると努力だけでは如何ともし難い壁が立ち塞がるんだよ」

エレン「そうか?マルコ今の曲ちゃんと弾けてたじゃん」

マルコ「あれは譜面通りに音を出してただけ。自分の目指している音では無いんだよね…」

エレン「言ってることがよくわかんねぇ」

マルコ「そうだね…。どんなに頑張ってもミカサのような立体機動はできないだろう?そんな感じかな」

エレン「あー、なるほど。すげー分かる」


マルコ「でもエレンはピアノに関しては天才だから大丈夫。期待してるよ」

エレン「うーん、けど基本的に耳コピだからさ。聴いた演奏のマネしちまうんだよな」

マルコ「それはまずいね。僕の今の演奏は忘れてよ」

エレン「もう頭に入っちまったし…」

マルコ「クリスタにもう一回ちゃんと弾いてもらってよ。そしたら僕の演奏なんて吹っ飛ぶと思うから」

エレン「そうだよ、クリスタ!マルコ、まだ声かけてないんだろ?」

マルコ「…あー、…うん」

エレン「何やってんだよ。俺が連れてきてやるからここで待ってろよな」スタスタ

マルコ「いや、いいって。クリスタにも都合があるだろうし…」


ガラッ!!

エレン「!! よう、クリスタ」

クリスタ「お、おはよう…」

エレン「そんな所にいないで教室入ってくればいいだろ」

クリスタ「お邪魔かなって…」

エレン「邪魔なわけねぇじゃん。ほら来いよ」グイッ

クリスタ「…そんな…ちょっとピアノの音がしたから気になっただけで…」

エレン「ごちゃごちゃ言うなよ。ほら、入れって」トンッ

クリスタ「……」

マルコ「クリスタ…」

エレン「じゃあな。俺は他の教室で練習しとくから」

ピシャッ!!


マルコ「…エレンが気を遣うなんてね」

クリスタ「…」

マルコ「とりあえず立ってないでさ。こっち来て座りなよ」

クリスタ「うん」スタスタ ストン

マルコ「えっと…元気してた?」

クリスタ「ええ元気だけど?」

マルコ「それは良かった…」

マルコ(…こうなったらもう逃げずに覚悟を決めよう…)


※ ※ 講義棟近くの木 ※ ※

サシャ「最近ずっとこの木にぶらさがってますね」

コニー「ユミルがさ、この木が身長を伸ばすのに一番効果があるって教えてくれたんだ」ブラブラ

サシャ「本当ですか?」

コニー「分かんねぇけど。まぁどうせぶらさがるんならどの木でもいっかなって」ブラブラ

サシャ「随分と高いところにある枝をチョイスしてるんですね」

コニー「一番効果のある枝まで教えてくれた。意外と親切なヤツかもな」ブラブラ

サシャ「…ちょっと私もそこまで登りますね」ヨジヨジ

コニー「おお、来いよ」ブラブラ

サシャ「……よいしょっと……なるほど、そういうことですか…」


コニー「ここからだと講義棟のピアノのある教室の中がよく見えるだろ?暇つぶしになって丁度いい」ブラブラ

サシャ「…ユミルに何かお願いされてません?」

コニー「お願いっつーか、教室内で誰が何をしてたか聞かれるぐらいだ」ブラブラ

サシャ「コニー、思いっきり利用されてますよ…」

コニー「そうなのか?まぁ俺が損することは何もねぇからいいけどな」ブラブラ

サシャ「のぞきは良くないと思いますよー」

コニー「でも教室だし。のぞいて何が悪い」ブラブラ

サシャ「確かに。…教室の中にいるのはクリスタとマルコですか…」

コニー「声は聞こえねぇけど、表情見てるだけでも結構笑えるんだぜ」ブラブラ

サシャ「ふーん…。私も暇だししばらく観察してみますか…」


※ ※ 第一音楽室 ※ ※

マルコ「さてと…何から話そうかな…」ウーム

クリスタ「何でそんなに難しい顔をしてるの?」

マルコ「結論を導くための過程を考えてるとさ……色々とはっきりさせる必要がありそうだから」

クリスタ「色々と?」

マルコ「そう、色々と」

クリスタ「いいよ。ゆっくり考えて」

マルコ「…大丈夫。…やっぱりここは避けては通れないみたいだね……よし」

クリスタ「?」


マルコ「今からリベンジの曲弾くからさ、クリスタの返事を聞かせてほしい」

クリスタ「突然だね」

マルコ「駄目かな?」

クリスタ「…憲兵団に入るまで返事がいらないって言ったのは誰?」

マルコ「僕だけど。でもそれは建前で本音はさ…クリスタのことで他人と争う勇気が無かったんだよ」

クリスタ「マルコ…?」

マルコ「ほら、クリスタに憧れている男子は多いから…」

マルコ「もし僕が君に好意を持っていることが周りにバレたら面倒だろうなって…」

マルコ「クリスタと付き合ったりしたら友人関係にひびが入るかなって…」

マルコ「そんなことばかり気にしてたんだ。情けないよね…」


クリスタ「…‘僕は臆病だから、他人と争うぐらいなら譲ってしまう’…」

クリスタ「初めて二人で出かけた時、マルコそう言ってたね…」

マルコ「覚えてたんだ…。その時クリスタから難しい質問をされてさ…」



――『だけど、どうしても譲れないものができたらどうするの?』



マルコ「僕はうまく答えれなかった」



――『その時になってみないと分からないな。欲しいものを欲しいって言える勇気があればいいんだけど…』




マルコ「でも、今なら答えることができる」

クリスタ「…答えを聞かせてくれるの?」

マルコ「一曲弾かせてね。…これが僕の答えであり、精一杯の君へのリベンジだよ」


♪♪♪~♪♪~♪♪~♪♪~


クリスタ(…サティの『ジュ・トゥ・ヴ』。…嬉しいけど…何だか恥ずかしいよ…///)

   

――Je te veux 



――あなたが欲しい



マルコ「…僕はクリスタを誰にも譲りたくないから、臆病者はやめるよ」

クリスタ「…うん///」

マルコ「言っとくけどこれ以上のリベンジの曲ねだられても僕には無理だからね」

クリスタ「…うん。十分すぎるよ///」

マルコ「僕の体は王に捧げても心はクリスタに捧げるから…」

マルコ「…僕も君の心が欲しい」

クリスタ「……」

マルコ「返事を聞かせてよ」


クリスタ「…その前にね、私もマルコに聞きたいことがあるの…」

マルコ「…訓練兵卒業した後どうするか、でしょ?」

クリスタ「…分かってて話してくれないんだ」

マルコ「えーとね、そのことを一番に話したかったんだけど…」

マルコ「その話をするにはクリスタの返事がないと困るっていうか格好がつかないっていうか…」

クリスタ「どういうこと?」

マルコ「いいからさ。とにかく答えを聞かせてよ」


クリスタ「ここでごめんなさいって断ったらどうするの?」

マルコ「開拓地に移動願い出すよ。作物育てながら君のことを忘れるように努力する」

クリスタ「ふふっ…生産者になっても優秀そうだね」クスクス

マルコ「ああ。農業技術を進歩させて生産効率を飛躍的に上げて見せるよ」

クリスタ「じゃあ開拓地に行ってもらおうかな」

マルコ「いいよ。クリスタが寂しくないのなら」

クリスタ「…そんなの…寂しいに決まってるよ…」


マルコ「じゃあ答えは?」

クリスタ「………はい」

マルコ「よし、第一段階クリア」

クリスタ「えっ?」

マルコ「ごめん。もっと感慨にふけりたいところなんだけど、まだまだ話さなきゃいけないことがあるから…」

クリスタ「…ロマンティックじゃない…」

マルコ「そういうのはまた今度ね」


※ ※ 講義棟外 ※ ※

ミカサ「エレン、こんな所に連れてきて何か用?」

エレン「悪いな。ミカサを見かけたから、ちょっといたずらを思いついて」

ミカサ「いたずら?」

エレン「結構前になるけど俺とミカサが連弾してる所、クリスタとマルコにのぞかれてたらしいんだ」

ミカサ「そう…。それで?」

エレン「今度はのぞき返す」

ミカサ「はぁ…、エレンそんなくだらないことはやめましょう」

エレン「だって暇なんだろ?第三音楽室でアルミンと無駄話してただけじゃん」

ミカサ「無駄話なんかじゃない。エレンがコンクールに出るって言うから、何か手伝えることはないか相談してた」

エレン「手伝ってもらうことなんかねぇよ」

ミカサ「…エレン」シュン


エレン「仕方ないだろ。こればっかりはミカサの手助けがあってもどうにもなんねぇし」

ミカサ「アルミンは…エレンのために作曲してる…」

エレン「はぁ?意味が分かんねぇぞ」

ミカサ「だから、こんな所で遊んでいる場合ではない。アルミンの側にいなくては」

エレン「…ミカサが居ても邪魔なだけだと思うけど」

ミカサ「もちろん私にできることは何もない……けど相談相手ぐらいにはなれる」

エレン「まぁまぁ。アルミンも集中したいだろうし…」

エレン「おっ、見てみろよ。マルコがピアノ弾いてるぜ」

ミカサ「だから…のぞくのはやめなさい」


エレン「隠れて盗み見るのってスパイごっこしてるみたいで面白いな。子どもの頃に戻った気分だ」

ミカサ「子どもの頃…」

エレン「ミカサと一緒にハンネスさんの後を気付かれないように付いて回ったのを思い出すぜ」

ミカサ「ふふっ、あれは楽しかった。ハンネスさん、仕事さぼってばっかりで」

エレン「だろ?ミカサも一緒にのぞこうぜ。教室だしな。見学して何が悪い」

ミカサ「…そうね。たまには童心に帰ってみるのもいいかも…」


※ ※ 講義棟近くの木 ※ ※

サシャ「何でぶらんぶらんするのやめたんですか?」

コニー「いや、何となく」

サシャ「だからって木の上に隠れなくてもいいじゃないですか。この枝二人も乗ったら折れますよ」

コニー「大丈夫だろ。しっかし、何だろうなこの状況」

サシャ「教室の中のクリスタとマルコをのぞいているエレンとミカサを盗み見ているコニーと私」

コニー「けど、あいつらより優位に立った感じで気分がいいな」

サシャ「まさに上から目線ですからね」

コニー「何かおもしれぇこと起こらねぇかなー」


※ ※ 第一音楽室 ※ ※

マルコ「次は、今まで敢えて避けてきた事を聞くから」

クリスタ「いいよ」

マルコ「単刀直入に聞くね。クリスタは卒業後どうするか決めてるの?」

クリスタ「決めてはないけど…。このままだと駐屯兵団か調査兵団に入ることになるよ」

マルコ「よし。決めてないんだね。それならいいんだ」

クリスタ「何がいいのよ?マルコは憲兵団に入るんでしょ?」

マルコ「現状は厳しいけどね…。できることなら憲兵団に入りたい」

クリスタ「…それがマルコの夢だしね」

    (やっぱり一緒にいたいって言ってくれないんだ…)ジワッ


マルコ「そう。僕の夢。でもその夢には続きがあって…」

クリスタ「…続き?」グスッ

マルコ「…僕の大切な人はすごくピアノが上手でね。兵士にするにはもったいないんだ」

マルコ「だから訓練兵が終わったら、兵士なんかすぐに辞めてもらって…」

マルコ「とりあえず僕の調律師のおじさんの家にでもいてもらって、ピアノの先生を続けて欲しいかなぁって」

クリスタ「…マルコ…?」

マルコ「僕は必死に働いてお金を貯めて、内地にピアノが置ける広い家を借りるから」

マルコ「一年先か二年先か…いつになるか分からないけど……一緒に暮らしたいと思ってる」ニコッ

クリスタ「……うん……うん……」ポロポロ

マルコ「泣かないで。…ずっと何も言わなくて、不安にさせてごめん」ヨシヨシ

マルコ「でもクリスタにまだ返事をもらってないのに、こんな夢を語るのはおかしいから…」

マルコ「だから今まで何も言えなかった」


クリスタ「…本当は内緒にしとくつもりだったの?」

マルコ「まぁね。でもクリスタに誤解されたままなのは嫌だったし…」

マルコ「またライナーの前で泣かれても困るから」

クリスタ「…知ってたの?」

マルコ「もちろん。ドヤ顔で話すライナーに生まれて初めてキレそうになった」

クリスタ「ふふ。温厚さが売りなのにね」

マルコ「最近余裕が無くってね。クリスタが絡むと周りが見えない」

マルコ「で、焦って青臭い夢をフライング気味に語ってみたものの……正直すごく恥ずかしいよ」

クリスタ「うん。プロポーズみたいだった」

マルコ「言わないで///」


クリスタ「私は嬉しかったよ。…ねぇ、いつからそんなふうに思ってたの?」

マルコ「クリスタが弾くリストの『愛の夢 第3番』を聴いた時から」

クリスタ「かなり前だよ、それ」

マルコ「そうだよ。あの日からずっと僕は醒めない夢の中にいるんだよ」

マルコ「こうして君を目の前にしていても現実感が無くってさ。時々夢じゃないのかって疑ってしまうよ」

クリスタ「頬っぺたつねったら起きるかな?」

マルコ「お姫様のキスで目覚めるほうがいいな」

クリスタ「…できないよ///」

マルコ「じゃあ…僕がしていい?」

クリスタ「…えっと…///」

マルコ「もう断られる理由は無いと思うけど」


クリスタ「…ちゃんと好きって言ってもらってないし」

マルコ「言ったことあるよ。二年ほど前に」

クリスタ「あれは……、友達としての好きだって完全否定してたじゃない」

マルコ「単なる照れ隠し」

クリスタ「…ずるいよ。ピアノにばっかり恥ずかしいこと言わせて。自分の口では何も言わない気なの?」

マルコ「でもさ、クリスタだって僕に何も言ってくれてないよ」

クリスタ「あれ?そうだっけ…」

マルコ「そうだよ。お互い様。だからいいよね…」



――チュッ


※ ※ 講義棟外 ※ ※

エレン「おーい、マルコ。クリスタをコンクールに誘えっつったのに何やってんだよ…」

ミカサ「…うらやましい」

エレン「えっ、お前マルコが好きなのか?」

ミカサ「違う!」

エレン「まさかクリスタ…?」

ミカサ「それも違う。…エレンは分かってるはず」

エレン「…んーと、…駄目だ」

ミカサ「どうして?少し前まではキスしてくれたのに…」

エレン「ミカサとキスしたら、クリスタにすっげー叱られる」

ミカサ「…エレン、なぜクリスタが出てくるのかしら?」ゴゴゴゴ…

エレン「恐いからその顔やめろ…」


エレン「クリスタが言うには、恋人同士じゃないとキスしちゃ駄目なんだと」

ミカサ「でもクリスタだってしてるじゃない。あの二人は恋人同士なの?」

エレン「うーん、…違うんじゃね?」

ミカサ「だったら…クリスタに叱られる謂れは無いと思う…から…その…///」モジモジ

エレン「えー、ここですんのかよ」

ミカサ「大丈夫…。誰もいない…多分…///」

エレン「本当かー?」キョロキョロ

ミカサ「………///」ギュッ

エレン(キス待ちの顔は可愛いんだけどなぁ…。いっつもこんな顔しとけよな…)


――チュッ



※ ※ 講義棟近くの木 ※ ※

コニー「やっべ。すっげーおもしれぇことが起こってる」

サシャ「…キスって感染するんですかね」

コニー「んな馬鹿な……」ハッ!!

コニー「……うっ!!サシャ、俺も感染した。助けてくれ…、苦しい…」チラッ

サシャ「ふぅー、コニーがさすがにそこまで馬鹿だとは思ってませんよ」ヤレヤレ

コニー「ちっ、つまんねぇな」

サシャ「ああいうことは簡単にしちゃ駄目ですよ」

コニー「簡単じゃねぇんだけどな…」


サシャ「…私って意外と察しがいいんですよ。だから…コニーの気持ちだって分かってます」

コニー「なっ、なんだよ俺の気持ちって///」

サシャ「でも私には早いんです。まだまだ子どもでいたいですから」ニコッ

コニー「ったく…早く大人になれよ…///」

サシャ「コニーにだけは言われたくありません」

コニー「何だよ…俺がチビだからって…」

サシャ「体の大きさが問題じゃないです」


コニー「そりゃ…お前は出るとこでっぱってて体だけは大人みてぇだけどさ」

サシャ「そういうことを平気で言うから子どもだって言ってるんです」

コニー「べっつにー、子どもでかまわねぇしー」

コニー「サシャが大人になりたいって思うまで俺も子どもでいてやるから、な」ニッ

サシャ「!?」ドキッ

コニー「ん?どうかしたか」

サシャ「な、なんでもないです…」

2828する


※ ※ 第一音楽室 ※ ※

マルコ「よし、第二段階クリア」

クリスタ「…もう、それやめてよ。雰囲気台無しだよ…」

マルコ「ごめんごめん。やっと本題に入れるから、つい…」

クリスタ「本題って?」

マルコ「僕の将来設計には一つだけ大きな障害があってさ…」

マルコ「それがクリスタをコンクールに誘えない理由でもあるんだけど…」

クリスタ「……マルコ……何か知ってるの……?」

マルコ「知ってるっていうか、単なる僕の想像なんだけど…」

マルコ「クリスタは…内地のそれなりの家柄のお嬢様だと僕は勝手に思ってる」

クリスタ「……」

マルコ「で、何か理由があって訓練兵をやっていて…。多分あまりよくない理由なんだろうね…」

マルコ「そのせいで内地に近寄りたくない。…違うかな?」


クリスタ「…答えなくちゃ駄目?」

マルコ「答えたくないならいいよ」

クリスタ「……ごめんね。素性を隠してて。でも…詳しくは話せない」

マルコ「無理に話す必要はないよ。クリスタはクリスタだから。素性なんて関係ない」

クリスタ(…マルコは優しい。自分のことより私のことを最優先に考えてくれる)

クリスタ(…私のことを大切に思ってくれてるのが伝わってくる)

クリスタ(…私もマルコのためにできることをしたい…)

マルコ「大丈夫?黙りこんで…」


クリスタ「…私がコンクールに出ると…演奏内容に関わらず必ず低い評価を受けると思うの…」

マルコ「…そう」

クリスタ「…それにね…恐くて弾けないかもしれない…」

マルコ「…うん」

クリスタ「…最悪の場合、私だけここには戻ってこれないかもしれない…」

マルコ「そんなことは絶対にさせない。クリスタのことは必ず守るから」

クリスタ「…マルコ」

マルコ「エレンだっているし。エレンが出場するってことはミカサは必ず応援に来るだろう?」

マルコ「ユミルだってクリスタを一人で送り出すわけがないし、ライナーは呼ばなくても多分来るし…」

マルコ「このメンバーを潜り抜けてクリスタに悪さできる奴なんて、なかなかいないと思うよ」

クリスタ「ふふっ、確かにそうかも」


マルコ「評価点は最初から低いのは分かってるんだ。点数なんて気にする必要はない」

マルコ「僕はさ、ピアノが好きだから、音楽が好きだから。ステージを楽しんでくるつもりなんだ」

マルコ「内地の大ホールで演奏できる機会なんて二度と無いだろうからね」

クリスタ「そうね」

マルコ「…弾くのが恐くなったら、その場でやめてもいいから…」

クリスタ「マルコ…」

マルコ「だから…僕の内地観光に付き合ってよ。行き先は王立芸術劇場」

マルコ「今回のツアーだけ特別に、気が向いたら大ホールのピアノを自由に弾いても構わないらしいよ」

クリスタ「あはは…マルコってば…」クスクス

マルコ「まぁ、そんな感じで気楽にさ…」


クリスタ(内地は恐い…あの人の前に立つなんて絶対に嫌…)

クリスタ(でも私の‘ピアノの先生になる’っていう夢を叶えてくれたマルコ)

クリスタ(今度は私がマルコの夢を叶えてあげたい…)

クリスタ「…うん。私も一緒に観光するよ」

クリスタ「…折角だからどんな立派なピアノが置いてあるのか、試しに弾いてみようかな」ニコッ

マルコ「クリスタ…。心から感謝するよ。ありがとう」

クリスタ「言っとくけど、私ピアノに関しては負けず嫌いだから。そのつもりでいてね」

マルコ「確かにね。…じゃあ観光ついでに勝ちに行こうか。…作戦会議をしよう」

レスありがとうです。今日はここまで。続きは後日。

乙!!!!
とうとうくっついたかーニヤニヤ

目からサティ
おつー続き楽しみにしてます

乙!
今回終始2828しっぱなしで自分が気持ち悪かった

やっとマルクリの回が来たか乙
ここのジャンはいけ好かんのでイライラしてたんで良かった

あげておく

>>1です。レスありがとうございます。あげて頂き感謝です

>>324 
イライラさせましたか。すみません。
ここからジャンを立て直したいところですが……できなかったらごめんなさい

続きです。曲選びのシーンとかつまらない部分が多いので読み飛ばして下さっても問題ないです


※ ※ 講義棟廊下 ※ ※

クリスタ「ねぇ、マルコ」テクテク

マルコ「何?」テクテク

クリスタ「私がコンクール出ないって言ったらマルコは何を弾く気だったの?」テクテク

マルコ「そうだねぇ、課題曲の中から選ぶとしたら…」テクテク

マルコ「ショパンの『別れの曲』弾いて、リストで『ため息』ついてただろうね」テクテク

クリスタ「ふふ、何よそれ。確かに両方ともきれいな曲だけど」クスクス

マルコ「冗談抜きにさ、あの課題の中から僕がまともに弾けそうなのはそれぐらいしか無いの」テクテク

クリスタ「そうかな?練習すれば他の曲も何とかなりそうだけど」テクテク

マルコ「僕はいいって。ショパンとリストはクリスタにお願いするよ。得意でしょ?」テクテク

クリスタ「うーん。確かに好きだけど…得意なのかな…?」テクテク

マルコ「あっ、洋裁室だ。そういえばミシン搬入してから一度も覗いたこと無いな…」

クリスタ「そうだった。私、ハンナにちょっと用事があるの」

マルコ「じゃあ入ってみようか」


ガラッ

マルコ「お邪魔するね」

クリスタ「こんにちは」

ミーナ「あっ、マルコとクリスタ。珍しいね、ここに来るなんて」

マルコ「うん。ミシンちゃんと役立ってる?…………ってベルトルト?」

クリスタ「本当だ。……しかもレース編み……?」

ベルトルト「や、やぁ…」(ついに男子に見つかっちゃったよ…どうしよう…)

ハンナ「ベルトルトってね、実はすっごく編み物上手なんだよ」

マルコ「へぇー、そんな特技があったなんて。全然知らなかったよ」

クリスタ「ねぇねぇ、何作ってるの?見せて見せて」ズイ

ベルトルト「い、いや…これは…」タジタジ

クリスタ「わぁ、すごく可愛い花のコサージュ。淡い色でまとめてあってセンスいいね」

マルコ「器用だね。こんなの作れるなんてすごいよ」


ベルトルト「あの…笑ってくれてもいいんだよ。男のくせにこんなことやってるの変だって分かってるから…」

クリスタ「どうして?一流の仕立て屋さんはほとんど男の人だよ?」

マルコ「ゴホンッ!!」

クリスタ「あっ、…そういう話を聞いたことがあるから。全然変じゃないよ、ベルトルトの趣味は」アセアセ

マルコ「そうだよ。服飾関係の専門家は男女問わずいるからさ。恥ずかしがることはないよ」

ベルトルト「そう…。でもやっぱり…照れ臭いから他の人たちには内緒にしといてくれないか?」

マルコ「いいよ。ベルトルトが内緒にしたいなら。コニーあたりは遠慮なく笑い転げそうだしね」

クリスタ「私も秘密にしとくよ。でも本当に素敵なコサージュ。私にも作って欲しいな」

マルコ「うん。クリスタに似合いそうだね」

クリスタ「本当?嬉しい」ウフフ

ベルトルト「いいよ。これが完成したら次はクリスタに作ってあげるよ」

クリスタ「本当!?ありがとうベルトルト」

ベルトルト「長い間ピアノの先生をしてもらってるから…。こんなのでお礼になるならいくらでも作るよ」


マルコ「けど、今作っているコサージュはどうするの?さすがに自分用ではないよね?」

ベルトルト「…えっと…自分用じゃないよ、もちろん…」アセアセ

クリスタ「あっ、分かったわ。誰かにプレゼントするのね?」

ベルトルト「いや…そんなんじゃないけど…その…」アセアセ

ハンナ「そのコサージュはね、私が作ってって頼んだの」

ミーナ「えっ?そうだっけ?」

ハンナ「そうよ。ほらミーナの作ったワンピースがシンプルだからワンポイントに丁度いいかなって」チラッ

ベルトルト「そ、そうなんだ。ハンナに頼まれたんだよ」(ハンナ助かった。ありがとう)

クリスタ「へぇ。どんなワンピースなの?」

ミーナ「いいよ。見て見て。私の自信作!!」バサッ

クリスタ「きゃー可愛い!!淡いピンクのフレアワンピース。すごく上品で清楚な感じがするよ」

ミーナ「パフスリーブがポイントなんだよ」

クリスタ「うんうん。お嬢様っぽくっていいと思う」


マルコ「意外だなぁ。ミーナ、洋裁なんてできたんだ」

ミーナ「失礼ね。…ほとんどハンナに手伝ってもらったけど」

マルコ「これミーナが着るの?」

ミーナ「どうせ似合わないって言うんでしょ」

マルコ「うん」

ミーナ「きーっ!!分かってるわよ、そんなこと。でもマルコに言われたくないですー!」

ハンナ「このワンピースはアニのためにミーナが一生懸命作ったのよ」

クリスタ「アニへプレゼントするの?」

ミーナ「そうだよ。私が訓練兵生活を楽しく過ごせてるのはアニのおかげなんだ。これは感謝の気持ちなの」

マルコ「なるほど。アニならばっちり似合いそうだね」

ミーナ「マルコなんて嫌いだよ」シクシク

マルコ「そう?僕はミーナのこと嫌いじゃないけど。面白いから」

ミーナ「面白さなんていらないしー。可愛いねとか言われたいしー」

マルコ「はいはい…。あーかわいいねー」

ミーナ「なにその棒読み…」


クリスタ「……」ムスッ

ハンナ「ふふっ、あれぐらいで拗ねないの」ヨシヨシ

クリスタ「ハンナ…!?」

ハンナ「見てたら何となく分かっちゃった」ニコッ

クリスタ「///」

クリスタ「そうそう!ハンナ、私コンクールに出ることにしたよ」

ハンナ「本当!?ありがとう!」

クリスタ「けどあまり期待しないでね…」

ハンナ「分かってる。クリスタも無理しないでね」

クリスタ「うん。やれるだけやってみるよ」

ハンナ「よし!ドレスは私に任せて。見た目だけでも内地の子に圧勝しようね」

クリスタ「ありがとう、ハンナ」


マルコ「じゃあ、そろそろ行こうか。エレンを捕まえに」

クリスタ「あっ、その前に…。ベルトルトに質問があるんだけど…」

ベルトルト「何かな?」

クリスタ「この前ね、アニがピアノ弾いてたの。びっくりして話を聞いたらベルトルトに教わってるって…」

ベルトルト「…ごめん。勝手なことして…」

クリスタ「あっ、違うの。教えるのは全然いいんだよ。むしろどんどん音楽を普及して欲しいぐらいだから」

クリスタ「でね、その時アニが弾いてた曲がすごく綺麗で…。曲名を知りたいんだけど…」

クリスタ「楽譜にも書いてないし、アニに聞いても知らないって言うし…」

クリスタ「ベルトルトが弾いてるのを聴いて良い曲だったから楽譜を借りてるだけだって言うからね…」

クリスタ「ベルトルトなら曲名知ってるかなって思って…」

ベルトルト「…えっと、その、僕も知らないんだ。本当に。…ごめん」アセアセ

クリスタ「そう、残念…。素敵なメロディーだったからタイトル知りたかったな…」


マルコ「…ねぇベルトルト。その楽譜はどこで手に入れたの?」

ベルトルト「…その…前にダンスを教えてくれたお婆さんがくれたんだ…」

マルコ「あー、ヴァイオリン工房のお婆さんね……ふーん……」

クリスタ「マルコ、何か分かるの?」

マルコ「いや…、多分古い民謡か何かだろうから曲名がはっきりしないのかもね」

ベルトルト「うん。きっとそうだと思うよ…」

クリスタ「お婆さんに直接聞けば分かるかな?工房に行ってみようかな」

ベルトルト「!!」ギクッ

マルコ「クリスタ。僕達もそんなに暇じゃないよね」

クリスタ「あっ、そうでした」

マルコ「それじゃあ失礼するよ」

ミーナ「はーい。また遊びにきてねー」


ガラッ ピシャッ


ベルトルト「ハンナ、えっと、コサージュのこと、ごまかしてくれてありがとう」

ハンナ「あら、ごまかしたつもりはないけど。だって正直に話したもの」

ベルトルト「えっ?」

ハンナ「ふふっ。確かに私は作ってって頼んでないけど…」

ハンナ「ベルトルトさえ良ければそのコサージュ使わせてもらえないかな?なぜかワンピースにぴったりの配色だから」

ベルトルト「も、もちろんいいよ。ぜひ使ってよ(ハンナ、察しが良すぎるよ)」アセアセ

ミーナ「本当だ。ワンピースの色にぴったり合うね。なんでだろう?」

ベルトルト「ぐ、偶然じゃないかな?」アセアセ


ハンナ「あっ、そうそう。ベルトルトにお願いがあるんだけど」

ベルトルト「何かな?」

ハンナ「クリスタのドレスを作るのに必要な材料を、街の手芸屋さんで買ってきて欲しいんだけど」

ベルトルト「えっ!?そんなの絶対に無理だよ。僕にはハードルが高すぎるよ」

ハンナ「一人で行くから恥ずかしいんでしょ。誰か誘えばいいと思うけどなぁ」

ミーナ「そうだよ。誰か女の子誘えば入りやすいんじゃない?」

ベルトルト「えっと…僕にはそんな気軽に誘えるような子いないから…」

ハンナ「ねぇミーナ。このワンピースいつアニに渡すの?」

ミーナ「もう出来上がってるからいつでも渡せるよ。あっ、でもコサージュどうしよう…」

ハンナ「じゃあワンピースだけは早めに渡そうね。コサージュはピンを付けるから後から渡しても問題無いし」

ハンナ「次の休日にはお洒落して出かけるアニが見れそうな気がするなー」ウフフ

ベルトルト(…僕も思わずコサージュなんて作っちゃったけど…アニは絶対にそんな服着てくれないよ…)


※ ※ 講義棟廊下 ※ ※

クリスタ「…ミーナと仲いいんだね」

マルコ「うん。僕がしばらくピアノ教えてたし。ノリが良いから話しやすいよね、ミーナって」

クリスタ「…そうだね…」

マルコ「へぇ…さっそく妬いてくれるの?嬉しいかも」

クリスタ「そ、そんなんじゃないよ///」

マルコ「そうだ。さっき言ってたアニが弾いてた曲ってさ…メロディー覚えてる?」

クリスタ「うん。えっとね…こんな感じ……ラララ~ララ~ラララ~♪」

マルコ(…なるほど。ベルトルトが曲名隠すのも分かる気がする…)

クリスタ「マルコ知ってる?この曲」

マルコ「んー…、僕も残念ながら知らないよ」


※ ※ 第三音楽室 ※ ※

アルミン「こんな感じはどうかな?」♪♪♪~

ミカサ「いいと思う」

エレン「もう少し迫力があってもいいかもな」

ガラッ

マルコ「エレン、クリスタもコンクール出場してくれるって」

エレン「おっ、やったじゃん」

クリスタ「よろしくね」

アルミン「ほらー、やっぱり誘ってみなきゃ分からないだろ?」

マルコ「ああ、アルミンの言うとおりだったよ」

クリスタ「みんなはここで何をしてたの?」

ミカサ「アルミンが作曲をしているので見学をしていた」


マルコ「へぇー、作曲ね。依頼されたの?」

アルミン「うん。一度断ったんだけど…。これを作曲すれば恩が売れるかなって…」

クリスタ「どういうこと?」

アルミン「コンクールで僕が何か手伝えることがないか考えたんだ」

アルミン「実施要項を見てたらさ、審査員の貴族5人はすでに名前があって確定してたんだけど」

アルミン「あとの5人は各兵団から数名ずつって書いてあって。まだ決まってないみたいなんだ」

マルコ「確かにそうだ…」

アルミン「今作ってる曲は調査兵団に所属している人からの依頼なんだ。どんな階級の人かは分からないけど…」

アルミン「楽譜と一緒に僕達の窮状を書いた陳情書を送りつけようと思ってるんだ」

アルミン「少しでも僕ら寄りの審査員を立てて貰えるように」


マルコ「そうだね。憲兵団には期待できないけど、調査兵団ならもしかしたら…」

ミカサ「貴族より訓練兵の味方をしてくれるかもしれない…」

エレン「その曲の依頼主次第だよな。歌詞をみる限り頭がいかれてそうだけど」

アルミン「うん。偉い人には思えないけどね。でも動かないことには始まらないから」

クリスタ「ふーん…『巨人賛歌』…」

マルコ「変わった人もいるんだね」

ミカサ「それでは私はハンネスさんに手紙を書こう」

アルミン「お願いするよ」

エレン「そっかハンネスさんも今や部隊長だもんな」

アルミン「もしかしたら駐屯兵団の上層部に口利きしてくれるかもしれない」

エレン「兵団に所属している知り合いに片っ端から手紙を書けばいいのか……」

エレン「駄目だ。俺はハンネスさんしか知り合いがいねぇ」

アルミン「僕もだよ。改めて人脈の少なさを感じて少しへこむよね」


マルコ「アルミン十分だよ。ありがとう。ミカサも協力してくれて感謝するよ」

ミカサ「…クリスタとマルコのおかげでとても良い事があったので気にしないで」

クリスタ「えっ?」

マルコ「なんだろう…?」

エレン「ゴホンッ、そんなことよりだ、クリスタが出るんだろ?曲決め直すのか?」

マルコ「そうそう。選曲も含めて作戦会議をしようと思ってね」

アルミン「作戦会議か…僕も参加していい?」

マルコ「もちろん。ミカサの意見も聞きたいから一緒に考えてくれるかな」

ミカサ「分かった」


マルコ「このコンクールの要は、アルミンが指摘したように軍部の審査員5名だ」

マルコ「貴族審査員からの点数が望めない以上、いかに軍部の審査員から高評価をもらえるかにかかってる」

アルミン「うん。その通りだね」

マルコ「で、僕が思うに貴族はともかく軍部の審査員は、音楽なんてはっきり言って興味無いだろう」

ミカサ「でしょうね。市井の人々ですら音楽に触れる機会がほとんど無いのに、兵士なんてなおさら無縁ね」

マルコ「だから僕たちは、音楽に無関心な人でも思わず聴いてしまうような曲を選ばなければならない」

ミカサ「それで私の意見が必要なのね」

マルコ「うん。この中ではミカサが音楽に関しては一番一般人の感覚に近いと思う」

エレン「すげーリズム音痴だけど。ミカサの感覚に頼って大丈夫か?」

クリスタ「うん。聴くだけなら何の問題も無いはず」


マルコ「ミカサ、君が聴いててつまらないって思うのはどんな感じの曲かな」

ミカサ「そうね…。ゆったりして長い曲は眠くなる」

アルミン「僕も。速くて短い曲の方が絶対にいいと思う」

ミカサ「あと最近洋裁室にいるとピアノの音がよく聴こえるんだけど…」

ミカサ「速くても落ち着くっていうのかしら、とにかく意識が飛びそうになる曲が聴こえてきて困ってる」

クリスタ「誰かしら…?私かな…」

ミカサ「多分マルコ…」

マルコ「えっ?そうなの…」

クリスタ「最近のマルコは…バッハばっかり弾いてたね」

マルコ「うん。パルティータにはまってずっと練習してた」

ミカサ「あれは洋裁メンバーにすごく不評。やめた方がいいと思う」

マルコ「バッハは不評なのか…。一曲ぐらい入れようと思ってたのに…」


ミカサ「嫌いではないのだけど、華やかさがないと思う」

クリスタ「確かにね。難しい割に演奏効果は高くないし」

アルミン「ということは、速くて、短くて、派手な曲ってことかな」

マルコ「そうだね。それを踏まえて、課題曲を決めようか」

エレン「俺はさっき決めたけど…あれって何分ぐらいの曲なんだ?」

クリスタ「何の曲にしたの?」

エレン「えっと……何だっけ?」

マルコ「ベートヴェンのソナタ第14番『月光』第3楽章。エレンならいけそうじゃない?」

クリスタ「うん。いい選曲だと思う。…エレンなら、7分を目標にしようか」

エレン「マジで?そんなに長いのかよ。全然短くねぇじゃん」

クリスタ「課題曲だから仕方ないよ。指定ソナタの中には2~3分で終わる楽章もあるけど…」

クリスタ「速くて派手って意味ではこれ以上の曲は無いと思う」

流石策士アルミン


マルコ「約30分のプログラムを組まなきゃいけないからね。エレンが尺を稼いでくれたらすごく助かる」

エレン「分かったよ。でも一曲しか弾かないからな」

クリスタ「余裕がありそうだったら他の曲もお願いするかも…駄目かな?」

エレン「…はぁ、余裕があったらな」

クリスタ「ありがとう」

マルコ「で、クリスタには残りの課題曲をお願いするよ」

クリスタ「マルコは?」

マルコ「僕は自由曲で」

クリスタ「ずるくない?」

マルコ「作戦だよ。クリスタとエレンは指定された課題の中から極力メジャーな曲を選んで…」

マルコ「他の駐屯地の出場者と選曲が被ることを狙うんだ」

マルコ「君達二人より才能のある人間なんてそうそういないから、実力差をはっきりと見せつけられる」


クリスタ「そうかな…。内地にはきっと上手い子たくさんいると思うよ」

エレン「俺だってピアノ歴浅いし。他人と比べられたら勝てる気がしねぇよ」

マルコ「大丈夫。間違いなく二人は特別だから。自信を持って」

クリスタ「もう一度課題曲を確認させて」

アルミン「はい、実施要項」ピラッ


 (a)ショパンのエチュード作品10 または作品25 から任意の一曲

 (b)ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンのソナタから、1つ以上の楽章

 (c)リストの練習曲より任意の一曲
  (パガニーニ大練習曲、2つの演奏会用練習曲、3つの演奏会用練習曲、超絶技巧練習曲)


クリスタ「そうね。この中で有名曲でかつ舞台栄えするってなると…」

クリスタ「ショパンだったら『革命』『黒鍵』『木枯らし』…ぐらいかな」

マルコ「リストは…演奏会用練習曲はこの中では難易度低い方だけど今ひとつ盛り上がらない…」

クリスタ「でも残りの二つは鬼だね…。パガニーニか超絶か…」

マルコ「パガニーニだったら『ラ・カンパネラ』か『主題と変奏』。超絶だったら『マゼッパ』かな」

クリスタ「リストは『ラ・カンパネラ』にする。これなら他の出場者と選曲が被るかもしれない」

マルコ「うん。その曲ならクリスタの音の綺麗さが際立っていいと思う」

クリスタ「あとはショパンか…。そうね…何でもいいんだけど…。ねぇマルコは何がいいと思う?」

マルコ「うーん、個人的にはクリスタには作品25-1が似合うと思うよ。メジャーではないけどさ」

クリスタ「『エオリアンハープ』ね」

エレン「おい、メジャーな曲っていう縛りはどこへ行ったんだよ」

ミカサ「他の出場者と同じ曲を演奏して叩き潰すんでしょ?」


マルコ「じゃあ、クリスタにとりあえず弾いてもらおうか。で、みんなで相談しよう」

アルミン「そうだね。聴かないことには判断できない」

クリスタ「何を弾けばいい?」

マルコ「今まで名前が挙がったやつと、そうだね…、10-4、25-12もお願いできる?」

クリスタ「いいよ」


――数十分後


アルミン「すごいとしか言いようがないね…」

エレン「本気のクリスタ初めて見たぜ…半端ねぇな」

ミカサ「神業…」


クリスタ「えっと、どの曲が良かったかな?」

エレン「うーん。俺は『革命』ってやつが格好良かったと思う。けど終わり方がなんだかなぁ」

ミカサ「私は10-4が良いと思う。体の中を音が駆け抜けていったみたい。とても気持ちいい」

アルミン「僕は…そうだな25-12が好きかな。音の渦に巻き込まれそうになる」

マルコ「さすがアルミンだね。25-12には『大洋』っていう標題が付いてるんだよ」

アルミン「『大洋』…って海のことかい?」

マルコ「正解。外の世界にあるっていう広大な水たまりだよ」

アルミン「あぁ…なんだかすごく感動するよ。本の知識だけで外の世界をイメージしてきたけど…」

アルミン「音で聴くともっとリアルに感じることができる…」

アルミン「…これが海なんだね。雄大でうねりながら押し寄せてくる…」


クリスタ「結局みんな好みが違うから、意見がバラバラになるよね。困ったな…」

マルコ「そうだね。どれも短くて速くて華やかっていう条件を満たしてるし…」

マルコ「じゃあ演奏しているクリスタが一番綺麗に見える曲にしようか」

エレン「その決め方おかしくねぇか?」

マルコ「けど軍部の審査員は音楽に詳しくないっていう前提だから…」

マルコ「いっそのこと見た目で勝負してもいいかなって。その方が評価が高そうな気がする」

クリスタ「そんなひどいよ。私の演奏内容はどうでもいいの?」

マルコ「クリスタは何を弾いても上手だから。だったら審査員に好印象を与える曲を選んだほうが得でしょ?」

アルミン「そうだね。クリスタなら間違いなく容姿は圧勝だろうし」

ミカサ「弾いてる姿が美しかったのは…『エオリアンハープ』かしら…」

アルミン「うん。僕もそう思う。天使が舞い降りたのかと思った」

エレン「確かに一番余裕のある感じがしたな。演奏しながら微笑んでたし」

マルコ「決定だね」

クリスタ「私もこの曲好きだからいいけど…。何だか納得できないな…」


エレン「で、課題曲は決まったわけだが…、マルコは何弾くんだよ」

マルコ「そうだね…とりあえず演奏順決めようか。最後はクリスタって確定してるけど」

クリスタ「えっ、そうなの?」

エレン「当然だろ?だってクリスタは先生だし」

クリスタ「…うん。先生だもんね。頑張るよ」

エレン「じゃあ、負けたほうが一番手な。…じゃんけんぽん」パー

マルコ「…」グー

エレン「…よっしゃ!最初に弾くのは嫌だったんだよな。良かったぜ」

マルコ「僕が一番か…。じゃあ前奏曲でも弾こうかな」

クリスタ「プログラム内で同じ作曲家は避けたほうがいいのかしら?」

マルコ「うーん。色んな作曲家の曲を弾いた方が、お客さんは飽きないだろうね」

アルミン「そうなると…。ベートーヴェン、リスト、ショパン以外の前奏曲…」

ミカサ「あとバッハも除いて」


クリスタ「最初だしインパクトのある演奏の方がいいわよね…」

マルコ「…よし。ラフマニノフにするよ。勇壮華麗な前奏曲op23-5で」

クリスタ「マルコ大丈夫?かなりの難曲だよ」

マルコ「練習すれば何とかなるんじゃない?僕だけ楽をするわけにはいかないからね」

エレン「それ何分ぐらいの曲なんだよ」

マルコ「えーと、4分ぐらい」

エレン「俺より短いとかずるくねぇか?」

マルコ「でも長い曲だと飽きるんだよね?」

クリスタ「もう一曲弾いたらいいんじゃない?」

マルコ「んー、名前の挙がってない作曲家で、短くて速くて派手な曲ね…」ウーン

クリスタ「シューマン弾いてほしいな。もう余計なことは言わないから」

マルコ「ははっ、じゃあ思いっきり技巧的なやつにするよ。…『クライスレリアーナ op16-7』」

クリスタ「確かに短くて速くて派手ね…」


エレン「何分?」

マルコ「3分ぐらいかな?」

エレン「クリスタは合わせて何分かかるんだよ」

クリスタ「えーと…7分ぐらいかな」

アルミン「ということは…トータル21分。全然時間余っちゃうね」

マルコ「練習重ねればもっと短くなるよ」

エレン「短くすんなよ」

クリスタ「とりあえず今決めた曲を練習して、一ヶ月間である程度形にすること。もちろん暗譜前提で」

クリスタ「一ヵ月後に余裕がありそうな人が曲を増やす。それでいいかな?」

マルコ「賛成だよ」

エレン「そうだな。俺の曲が増えることはなさそうだし、いいぜそれで」

クリスタ「うん。じゃあ練習開始だね」


※ ※ ヴァイオリン工房 ※ ※

ユミル「あー、もう削るの面倒臭い」シュッ 

オヤジ「手伝ってやってんだから文句言わず手を動かせ」

ユミル「なんでチェロにしろヴァイオリンにしろ板の表面に丸みをつけなきゃなんねぇんだよ」シュッ

オヤジ「そのほうがセクシーだろうが」

ユミル「ぶっ、なんだそれ」シュッ

オヤジ「結局、ジャンは昨晩ここには来なかったみたいだな」

ユミル「…ああ、朝まで一緒に飲んでた。で、眠いってあいつだけ駐屯地に帰ってった」シュッ

オヤジ「ふーん…。まぁ若ぇうちは色々あるわな」ニヤニヤ

ユミル「何もねぇよ」シュッ


オヤジ「そうか。…ジャンのヴァイオリン進めといてやるかな」ヨイショ

ユミル「無駄になるかもな」シュッ

オヤジ「何でだ?」ゴソゴソ

ユミル「あいつはもう来ないかも」シュッ

オヤジ「それでもいいさ。作りかけのまま放置されるこいつが可哀想だからな」

ユミル「……」シュッ

オヤジ「…ジャンの野郎、めちゃくちゃ不器用だな。表板と裏板が全然形が違うじゃねぇか…」

ユミル「……」シュッ

オヤジ「しょうがねぇ、削ってやるか……フンフン~♪」ガリガリ
    
ユミル「……」シュッ


オヤジ「Her brow is like the snowdrift♪ Her nape is like the swan♪~」ガリガリ
    (彼女の顔は雪のようで 彼女の首は白鳥のように美しい)

ユミル「……」イラッ シュッ

オヤジ「And dark blue is her E'e♪~ 」ガリガリ
     (彼女の瞳は深い青色)

ユミル「……」イライラッ シュッ

オヤジ「And for Bonnie Annie Laurie♪ I'd lay me doon and dee♪~」ガリガリ
    (愛しいアニーのためなら 命を捧げてもいい 死ぬ事も恐くない)

ユミル「オヤジうっさい。作業中いっつも同じ歌ばっかり歌いやがって。いい加減聞き飽きた」

オヤジ「そうか?いい歌だろ?ウチの婆さんが好きなんだよこれ。壁外から伝わる古い民謡でな…」

ユミル「『アニーローリー』だろ?そのうんちく何回も聞かされたっつーの」シュッ

オヤジ「そうか?でもいい話だろ?」ガリガリ

ユミル「別に。恋だの愛だの、そんなもんはどうでもいいし」シュッ

オヤジ「若ぇのにもったいない」ガリガリ

ユミル「恋愛しても金にならない。時間の無駄だ」シュッ

※ ※ 男子寮 ※ ※

マルコ「あっ、ジャン帰ってたんだ」

ジャン「…おう」

マルコ「……酒臭い」

ジャン「…今日は一日寝る」

マルコ「サロンパーティーってどんな感じだった?きっと豪華だったんだろうね」

ジャン「…そうでもねぇよ」
   (この誠実で優しい親友に…)

マルコ「室内楽団って何を演奏してた?」

ジャン「…ヴィなんとかの『四季』」
   (俺がユミルを買ってエロいことしましたって言ったら…)

マルコ「あぁ、ヴィヴァルディか。僕も聴きたかったな」

ジャン「…そうか」
   (軽蔑して二度と口を聞いてくれねぇんだろうな…)

マルコ「元気ないね。そんなに二日酔いがひどいのかい?」

ジャン「…なんでもねぇ」バサッ
   (一生誰にも言えねぇ秘密を持っちまった…。心が重たい…)


マルコ「…ジャン、僕はまだ憲兵団に入るのを諦めてないからね」

ジャン「…どうせ無理だろ」ボソボソ

マルコ「無理かもね。でもジャンみたいに腐っててもしょうがないだろう?」

ジャン「…腐ってねぇし」ボソボソ

マルコ「僕はやれるだけのことをやってみるからさ。ジャンも早く持ち直せよ」

ジャン「…放っといてくれ。このまま俺は深いところへ落ちていくんだ」ボソボソ

マルコ「ジャン!布団から顔を出す」バサッ!!

ジャン「…布団返せ」

マルコ「ちゃんとこっち見ろよ」

ジャン「…眩しくて見れねぇよ」

マルコ「はぁ?…いいからこっち向く」グイッ

ジャン「……」プイッ


マルコ「ジャンは僕に言ってくれただろ?二人で組めば敵無しだって」

マルコ「一緒に憲兵団に入るんだ。…簡単に夢を諦めないでくれよ」

ジャン「…お前が頑張ったところでどうにかなるのか?ならねぇだろ」

マルコ「そんなのやってみないと分からない」

マルコ「僕だけじゃない。他のみんなも諦めずに協力してくれてるんだ」

マルコ「それに…憲兵団に誰よりも入団したがってたのはジャン、お前だろう?」

ジャン「…頼むから…しばらく一人にしてくれ…」

マルコ「はぁ…分かったよ。これから昼メシ食べに行くけど…」

ジャン「…いらねぇ」


マルコ「……あのさ、報告したいことがあるんだけど。ジャンにだけは」

ジャン「…何だよ」

マルコ「でも、機嫌が悪そうだからまた今度にするよ」

ジャン「…もったいつけんな。いいから言えよ」

マルコ「…クリスタと付き合うことになった」

ジャン「…そうか」
 
マルコ「うん」

ジャン「…良かったな」

マルコ「ありがとう。じゃあ、ゆっくり寝て元気出せよ」

パタン

ジャン(くそっ、なんでもっと喜んでやれねぇんだよ…)

ジャン(一瞬マルコを妬んじまった……最低だな、俺……)

ジャン(…深い水の底にいるみてぇだ。あいつはどんどん浮上して俺は沈んでいく一方だ…)


※ ※ 女子寮 ※ ※

ミーナ「はい。アニにプレゼント」

アニ「…プレゼントなんてもらう理由が見当たらないけど」

ミーナ「アニには無くても私にはあるの。受け取ってよ」

アニ「…何これ?」

ミーナ「とりあえず袋を開けてみて」ワクワク

アニ「……」ガザガザ  

アニ「………悪いけど返すよ」ポン

ミーナ「わっ、と。投げないでよ。アニのために一生懸命作ったんだから」

アニ「私には必要無いから。ミーナが自分で着なよ」

ミーナ「だってアニのサイズで作ったから私には小さいの。アニが着てくれないと無駄になっちゃうよ…」

アニ「あのさぁ、なんでよりによってこんな物をプレゼントしてくるの?嫌がらせとしか思えない」


ミーナ「だって、アニって美人なのにちっともお洒落しないから…もったいないと思って」

アニ「駐屯地から出ることも無いしね。お洒落なんて私には必要無いよ」

ミーナ「だからさ、出かければいいじゃない。これを着て。良い気分転換になると思うよ」

アニ「そんな服着たらむしろ気分が滅入るわ。本当にいらないから」

ミーナ「お願い。受け取って。着なくてもいいからさ。これは私の精一杯のお礼なの…」

アニ「ミーナ…」

ミーナ「…あの時…、アニが止めてくれなかったら…、私は今ここにいないかもしれない…」

ミーナ「…ずっと卑屈なままで、人の言いなりになって、本当に家畜以下になってたかもしれない…」

ミーナ「アニが救ってくれたから…私は今こうして笑ってられるんだよ」ニコッ


――お願いやめて。救ったとか言わないで。笑いかけないで。優しくしないで。



アニ「…別に私はさ…何もしてないから…」

ミーナ「いいから。黙って受け取って。受け取るだけでいいから」ズイッ

アニ「…はぁ。しょうがないね。じゃあ預かっとくよ。欲しいって人が見つかるまで」

ミーナ「良かった。ありがとう、アニ。本当に感謝してるからね」ギュッ


――あぁ、もうやめて。心が崩れそうになる…




※ ※ 第三音楽室 ※ ※

アニ(昼食の時間帯だから講義棟には誰もいないね…)


♪♪♪~♪♪~♪♪~♪~


アニ(この曲を弾くと落ち着く…。……ん?)

アニ(ピアノの上に何か置いてある……書きかけの楽譜とアルミン宛の手紙?)カサッ

アニ(ふーん。調査兵団の連絡先ね…。一応メモっとこうか…)メモメモ


ガラッ

アニ「!?」ビクッ!!

アルミン「あれ?珍しいね。アニがここにいるなんて」

アニ「…いたら悪い?」

アルミン「全然。僕は忘れ物を取りに来ただけだから」スタスタ

アニ「…これ?」

アルミン「そうそう。やっぱりここに置きっぱなしだった」

アニ「また作曲してるの?」

アルミン「そうだよ。でもなかなか進まなくて困ってる」

アニ「…大変なんだろうね。新しいものを生み出すのって」

アルミン「うん。でもさ、作曲なんて本当は難しくないはずなんだよね…」

アニ「どういうこと?」


アルミン「だって、鍵盤で言うと…、ドレミファソラシの白鍵7音と間の黒鍵5音」

アルミン「簡単に言っちゃえば、たった12個の音の配列を考えるだけだから」

アニ「…並べ方は無限にありそう」

アルミン「そこが楽しくもあり頭を悩ませるところでもあるんだ」

アニ「けど…訓練兵団の歌は良かったよ」

アルミン「本当!?アニに褒められると嬉しいよ。だってお世辞は言わないでしょ?」

アニ「…さぁね」

アルミン「アニはさ、訓練兵団の歌の作詞の時も手伝ってくれたし…」

アルミン「冷たいふりをしてるだけで、本当は優しい心の持ち主だと僕は思ってるよ」ニコッ

アニ「…あんたの思い込みだよ」


アルミン「そういえば、作詞をした時集まったのって12人だよね。音数と一緒だ」

アニ「それがなに?」

アルミン「みんな個性的だからさ、12人をうまく並べるのは大変だろうなって」

アニ「…エレンとジャンは隣同士にしない方がいいだろうね」

アルミン「あははっ、そうだね。間にミカサを入れようか。ドがエレンでレがミカサ。ミがジャンってとこかな」

アニ「くだらない」

アルミン「ライナーとベルトルトは大きいから黒鍵にしよう。ド♯がライナーでレ♯がベルトルト」

アニ「……」

アルミン「うーん、クリスタは小さくて可愛いから一番高音のシかな。アニは隣のラってどう?」

アニ「…わたしはここ」ポーン♪

アルミン「ファ♯…黒鍵なんだ…。…何か意味があるの?」

アニ「…なんとなく」


アルミン「ふーん…。じゃあソ♯は誰だろう…?」

アニ「…ユミルかもね…」

アルミン「へぇー。何だろう?クイズを出されたみたいだ」ウーム

アニ「深い意味はないから。考えるだけ無駄よ」

アルミン「……あっ!分かったよ」

アニ「えっ!?」

アルミン「対人格闘術が得意な人ってこと?じゃあ残りの黒鍵はエレン?いやミカサかな…」

アニ「…そう思ってて」

アルミン「答えを教えてよ」

アニ「ただの思いつきで言っただけだから。忘れて」

アルミン「そうなの?でも気になるなぁ……うーん………」

アニ(……こんなことしたって気付くはずもないのにね……私までおかしくなってきたよ……)


ガラッ

エレン「アルミンおせぇよ。昼飯無くなっちまうぞ」

アルミン「あっ、ごめん今行くよ」

エレン「おっ、アニじゃねぇか。珍しいな」

ミカサ「本当ね。アルミンと何を話していたの?」

アニ「何だっていいでしょ」

エレン「ん?何だこの楽譜?」ヒョイ

アニ「あっ、それは…」

エレン「んーっと……………」ジーッ

エレン「なぁ、この楽譜どこにあった?」

アニ「…ベルトルトに借りてるだけだよ」

エレン「へぇー…」


アニ「…何か問題でもあるの?」

エレン「いや、何も問題はねぇけどさ。ミカサもこの曲知ってるよな。ちょっと弾くから聴いてろよ」


♪♪♪~♪♪~♪♪~♪~


エレン「な、どっかで聴いた覚えないか?」

ミカサ「ヴァイオリン工房のおじさんがしつこいぐらいに歌ってた曲…」

エレン「おっさんに長々と歌の意味を解説されて、あの時はうんざりしたぜ」

アニ「あんたたちこの曲を知ってるの?」

エレン「…アニは何も聞いてないのか?」

アニ「曲名すら知らないよ」


アルミン「この曲って歌詞がついてるの?」

ミカサ「そう。聞いてて恥ずかしいくらいのラブソングよ」

エレン「かわいいアニーのためなら俺はいつでも死んでもいいぜって内容だったかな」

アニ「!?」

アルミン「でもアニーって?」

ミカサ「曲名が『アニーローリー』っていうの。遠い昔に実在した人物らしいわ。アニーさんって」

エレン「アニーとアニって似てるよな」

アルミン「そうだね……って、あれ?ベルトルトに借りたって…」

ミカサ「ベルトルトは知ってたのかしら?この曲の意味を」

エレン「知ってたらあれだよな……なんか気持ち悪い」

アニ「……///」プルプル


アルミン「アニ、顔が真っ赤だよ。震えてるけど…照れてるの?怒ってるの?」

ミカサ「きっとベルトルトに悪気は無いはず。そんなに恐い顔をしては駄目」

エレン「何も知らないふりをしてやれよ。まさか俺達にネタバレされるなんて思って無かったろうし」

アニ「…だったらあんた達も知らないふりをするべきだろ?///」プルプル

エレン「いや、つい見ちゃったもんだから…」

ミカサ「照れ隠しでエレンに八つ当たりしないで」

アルミン「でもこんなに動揺してるアニって滅多に見れないよね。貴重だよ」

エレン「そうだな。なんかいつもより可愛い気がする」

アニ「!?///」クルッ タッタッタッタッ…

アルミン「あ、逃げちゃった。エレンが可愛いとか言うから」

ミカサ「…エレン、他の女に可愛いとか言っちゃ駄目でしょう」ゴゴゴゴ…

エレン「だからその顔やめろって。…普通にしとけばお前も結構可愛いんだから…」

ミカサ「分かった///」

アルミン(へぇ、エレンっていつの間にかミカサの扱い方が上手になってる。それとも…本心なのかな?)

今日はここまで。続きは後日

ジャンが男になったんだからさ
ベルもマルもエレも男にしてやらんと不公平だぞ>>1さん乙

>>1です

>>375 
ですよね。批判覚悟で挑戦してみます。


※ ※ 夕食時間 食堂 ※ ※

アルミン「やぁ、トム。壁画は順調に進んでるみたいだね」

トム「なんとかね。でも、ごめんね。僕が作業してる周りには食卓テーブルが置けなくて」

アルミン「ちょっとテーブルを端に寄せるだけだし。気にしなくていいよ」

トム「ありがとう」

アルミン「でもトムってやっぱり絵が上手だね。この巨人とかリアルすぎて本当に恐いよ」

トム「そう。リアルな巨人を倒すんだ。誰に倒してもらおうかな…」

アルミン「ん?どういうこと?」

トム「ほら、アルミンとエレンを絵の中に入れるからさ。だったら訓練兵全員描いちゃおうと思って」


アルミン「それいいね。でも大変じゃない?」

トム「まぁ遠景で描く人物は誰が誰やら判断がつかないだろうけど…」

アルミン「ははっ、それは仕方ないんじゃない?そうだ、僕とエレンが冒険したい場所が決まったよ」

トム「どこだい?」

アルミン「海。どこまでも広がる大海原。海の向こうに何があるのか僕は知りたいな」

トム「海か…。アルミン何か資料持ってる?」

アルミン「もちろん。寮に戻ったら渡すよ」

トム「お願いするね」


※ ※ ※ ※

マルコ「クリスタ、ここ空いてる?」

クリスタ「もちろん。どうぞ」

マルコ「珍しいね。一人?」ガタッ

クリスタ「ううん。後からユミルが来ると思うよ」

マルコ「そっか。残念」

クリスタ「うふふ。マルコも今日はジャンと一緒じゃないんだね」

マルコ「なんか調子悪いみたいでさ。晩御飯もいらないって。昼も食べてなかったし。大丈夫かな…」

クリスタ「それは心配ね。…あの、私のパンで良ければ寮に持って帰ってあげて」スッ


マルコ「駄目だよ。クリスタはちゃんと食べないと。それ以上細くなったら訓練に耐えられないよ」

クリスタ「でも…」

マルコ「僕のパン半分持って帰るから大丈夫だよ」

クリスタ「それじゃあ、私のパンを半分こしようよ。マルコのパンは丸々一個ジャンへ持って帰ってあげて」

マルコ「いや悪いよ、そんなの…」

クリスタ「いいの。私がマルコと半分こしたいの」ニコッ

マルコ「ありがとう///」


ユミル「あれ?何でマルコがいんだよ。クリスタの隣は私の特等席って決まってるんだけど」

クリスタ「決まってないし。それに反対隣は空いてるよ」

ユミル「いい。今日は向かいに座るから」ガタッ

マルコ「悪いね」

ユミル「で、マルコ何の用だ?」

マルコ「用って?」

ユミル「マルコは用事がある時にしかクリスタに話しかけないだろ?また面倒なことクリスタにさせる気か?」

マルコ「確かにそうだったね…。ごめんユミル、今後は用事が無くてもクリスタと一緒にいると思うから」

クリスタ「…うん///」

ユミル「はぁ?そんなん許すわけないだろ。あっち行け」シッシッ

マルコ「そんなに嫌わないでよ。ユミルとも仲良くしたいからさ」


ユミル「ごめんだね。…あっ、コニー良い所に来た。ここ座れよ」

コニー「何だ?」ガタッ

ユミル「今日も木にぶらさがってたのか?」

コニー「おう。午前中はずっとぶらんぶらんしてた。少しは背ぇ伸びたかな」

ユミル「大丈夫、そのうち伸びる。頑張って続けろよ」

コニー「そうだな。焦ってもしょうがねぇし。気長にやるぜ」

ユミル「それよりさぁ、今日の音楽室ってどんな様子だった?」

マルコ「ユミル…まさかコニーに監視させてるの?」

ユミル「監視だなんて言葉が悪いね。コニーが教室内の様子をなぜかよく知ってるから教えてもらってるだけだ」


ユミル「で、コニー、今日はどうだった?」

コニー「そうだ!!聞いてくれよユミル。すっげーおもしれぇことがあったんだ!!」

クリスタ(今日の午前中……音楽室……はっ!!)

クリスタ「コニー言っちゃダメーーーー!!!!」///

ザワザワ ザワザワ

コニー「うわっ!?大声で叫ぶなよ。みんながこっち見てるじゃねぇか」

ユミル「おい、聞かせろよ。何があったんだ?」

マルコ「コニー、今すぐ寮に帰ろう」ガタッ グイッ

コニー「えっ?俺まだメシ食ってないのに…」ズルズル

マルコ「いいから」グイグイ


ユミル「おい、マルコ。お前いつまでそうやって逃げるんだよ」

マルコ「逃げてない。クリスタが嫌がってるから…」グイグイ

ユミル「そういうはっきりしない男だから、クリスタの側にいさせたくねぇんだよ」

マルコ「…分かった」パッ

コニー「おっ、解放された。メシ食っていいか?」

マルコ「もちろん食べていいよ。でもその前に…コニー、今日見たこと言っていいよ」

クリスタ「マルコ!?」

マルコ「ごめん。でも僕は隠す気ないから。ちょっとだけ恥ずかしいの我慢してよ」

コニー「いいのか?本当に言っちゃうぞ?」

マルコ「ああ、思う存分暴露してくれ」


コニー「了解だ。…みんな聞いてくれ!!今日俺は見たんだ!!」

マルコ「いや…、そこまで大声じゃなくても…」アセアセ


ザワザワ ザワザワ


コニー「音楽室でクリスタとマルコがチュッチュしてたんだぜ!!」


オォォォォォォォォ ヒュ~♪ ヒュ~♪


ライナー「ブホッ!!」

ベルトルト「ライナー汚い!」


ミーナ「へぇー、やっぱりそうなんだ」

アニ「チュッチュって……何その言い方……」

サシャ「言っちゃいましたか…。コニーに口止めしとくの忘れてました…」


クリスタ「うぅ……マルコのばか///」

マルコ「照れてるクリスタも可愛いね」ナデナデ

ユミル「クリスタに触るな」ゲシッ!!

マルコ「いっ…た。蹴らないでよ。暴力反対」



コニー「そして…講義棟の外ではエレンとミカサがチュッチュしてた!!」


オォォォォォォォォ ヒュ~♪ ヒュ~♪


エレン「ぶっ!?」ゲホッ ゲホッ

ミカサ「大丈夫?エレン。喉につかえたかしら…」サスサス

アルミン「…ねぇ、僕二人から全然そんな話聞いてないよ…?」


クリスタ「…またやったのね、エレン…」

マルコ「ジャンがいなくて良かったよ…」



コニー「さらに…木の上で俺とサシャはチュッチュできなかった!!ちくしょう!!」


アハハハハハハ…


サシャ「わざわざ大声で報告が必要ですか、それ?」

ミーナ「よっぽどキスしたかったんじゃない?」

アニ「…馬鹿」


エレン「おいコニー、何でそんなこと大声で言うんだよ!///」ツカツカ

コニー「え?だってマルコが言えって」

エレン「マルコ、本当か?」

マルコ「本当だけど…。エレンたちのことはまったく知らなかったんだよ」

クリスタ「エレン!またミカサにキスして。そんなことしちゃ駄目だって言ったじゃない!」

エレン「いや、クリスタに怒られる筋合いはねぇだろ。お前らだってキスしてたんだし」

クリスタ「だってエレンとミカサは恋人同士じゃないでしょ?」

エレン「お前らだって違うだろうが」

クリスタ「ち、違わないもん…///」

マルコ「悪いね。僕たち付き合ってるから。エレン駄目だよ。恋人でもない女の子にキスしたら」フフン

エレン「うわっ、すっげーむかつく」

コニー「このマルコの班には入りたくねぇな」


ユミル「なぁ、クリスタ」

クリスタ「何?」

ユミル「いつから付き合ってんだ?」

クリスタ「…えっと…今日から…///」

ユミル「で、いきなりキスされたのか?」

クリスタ「…うん///」

ユミル「おい、マルコ。お前見かけに寄らず手が早いみたいだな」

マルコ「早くないよ。かなり待ったほうだと思うけど?」

ユミル「はぁ?交際初日でキスしといてどの口がそんなこと抜かしてんだよ」

マルコ「付き合うまでが、すーーーーっごく長かったんだよ。キスぐらいしたっていいだろう?」


ユミル「駄目だ。もう二度とするな。そして決して二人きりになるな」

マルコ「ユミルにどうしてそんな規制をされなきゃいけないんだよ?」

ユミル「私のクリスタだからだ」

クリスタ「違います」

マルコ「そもそも、コニーにクリスタを監視させてたのが僕は気に入らないんだ」

ユミル「教室の中をのぞいて何が悪い。見られたらマズイことをするお前がまぬけなんだよ」

マルコ「ぐっ…。…ピアノの練習に集中できないから、もう教室をのぞくのはやめてほしいんだけど」

ユミル「ピアノの練習だけなら見られたって問題ないはずだろ?」


マルコ「仕方ないね…」ツカツカ…

マルコ「ねぇ、ハンナ」ニコッ

ハンナ「な、何かなマルコ…」(笑顔が恐い…)

マルコ「音楽室用のカーテンを作ってくれないかな?」

ハンナ「えっ、でもね、そんなことしたら…」

マルコ「何か問題がある?」

フランツ「マルコ、冷静になるんだ。カーテンなんか吊るしたら…」

マルコ「吊るしたら?」

フランツ「カーテンが閉まってる=いちゃついてるってみんなに思われてしまうよ」

ハンナ「のぞきに行く人がもっと増えるんじゃないかしら?」

マルコ「そんなつもりで頼んでないから///」


ユミル「チッ……マルコ、ちょっと耳をかせよ」

マルコ「何?」

ユミル(…あいつはまだ初潮もきてない子どもなんだよ。そんな純粋無垢な少女をお前は汚すつもりか?)ヒソヒソ

マルコ「…………えっ!?///」

マルコ(…落ち着け…。きっとこれはユミルの策略だ。僕がクリスタに手を出せなくするための巧妙な罠だ)

マルコ(ユミルは嘘をついているはず…)チラッ

ユミル「……」アッカンベー

マルコ(くそっ、分からない。…けど…本当だとしたら…)チラッ

クリスタ「……」ニコッ

マルコ(…天使なのも納得できる…)

マルコ(…こんなこと失礼すぎてクリスタ本人に確認するわけにもいかないし…)

マルコ(…完全にユミルの術中にはまったな…)

今日はここまで

おつ!

ほぉしゅ

>>1です レス&保守ありがとうございます。続きです


※ ※ 翌日自由時間 第一音楽室 ※ ※

♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~

マルコ「へぇ、『ラ・カンパネラ』なんて手が大きくないと無理かと思ってたけど…」

マルコ「そうやって手をスライドさせれば弾けるんだね。手首柔らかすぎ…」

クリスタ「どうしても10度の和音は同時に弾けないけからアルペジオ気味だけど」♪♪♪~

マルコ「聴いてて違和感が無いから問題ないよ」

クリスタ「…昨日はユミルがごめんね」♪♪♪~

マルコ「いいよ。クリスタが謝ることじゃないし。ユミルが反対するのは予想してたから」

クリスタ「でも、マルコが堂々としてて嬉しかったよ。みんなには内緒にするのかと思ってたから」♪♪♪~

マルコ「内緒の方が良かった?」

クリスタ「それだと今までとあまり変わらないよ」♪♪♪~

マルコ「ははっ、そうだね。……ねぇ、クリスタ」

クリスタ「なーに?」♪♪♪~


マルコ「クリスタって…15歳だっけ?」

クリスタ「ううん。まだお誕生日が来てないから14歳だよ」♪♪♪~

マルコ「そっか…」

マルコ(…14歳。平均よりかなり小さく華奢な体型。…本当なのかな、ユミルの言ったこと)

クリスタ「そういえば、私もマルコの歳知らないよ」

マルコ(別に今すぐしたいってわけじゃないけど…。14歳か…。手を出したらいけないような気がする)

クリスタ「ねえ」

マルコ(…そもそも初潮ってきてないとできないのかな…。ダメだ、そんなこと考えるな)ブンブン

クリスタ「…マルコ?」

マルコ(…生理とか男の僕には不可侵領域だよ。こんな手を使うなんてユミルは賢いよ。まったく)

クリスタ「おーい!」

マルコ「あっ、何かな」

クリスタ「難しい顔してたよ。何か考え事してた?」

マルコ「い、いや…何でもないよ…」


クリスタ「そう?…ねぇ、マルコって何歳?」

マルコ「僕は16だよ」

クリスタ「やっぱりお兄さんだった」

マルコ「そう、僕は優しいお兄さんだから安心してよ」ポンポン

クリスタ「?」

マルコ「そろそろ自分の練習しに戻るよ」ガタッ

クリスタ「頑張ってね」

マルコ「……」スッ

――チュッ

クリスタ「えへへ…///」

マルコ「また後でね///」

マルコ(キスできるだけでも僕は十分幸せだよ)


※ ※ 深夜 教官詰所 ※ ※

ユミル(成績ってどうやって管理してんだろうな…)ガサゴソ

ユミル(直接評価を書き換えれたら一番楽なんだが…。そう簡単にはいかないか…)ガサゴソ

ユミル(キースの机……)ガタガタッ

ユミル(くっそ、引き出しに鍵かけてやがる。多分ここに入ってるな…)ガンッ!!

ユミル(キースか…。面倒だな。あのおっさんには関わりたくない…)

ユミル(ん?これは試験のグループ分け表…。これはあのへぼい教官の机か…)ガサガサ

ユミル(なるほどねぇ…。班編成なんかの雑務は一番下っ端の仕事ってわけか…)ガサガサ

ガラッ!!

ユミル「!?」サッ!!

若い教官「誰かいるのか!?」

ユミル(ちっ、見回りか。机の下に隠れたものの……このままだと見つかるな。気でも失ってもらうか…)


若い教官「そこにいるんだろう?出て来い!」

ユミル(下っ端君ね…。ご苦労さんだよ。真面目に巡回なんかして…)

ユミル(でも…こいつを押さえれば何とかなるかもしれない…)

若い教官「おい!!聞こえてるんだろう」

ユミル「はいはい。聞こえてますよ」スッ

若い教官「……その声はユミルか?」

ユミル「暗くてよく見えませんか?丁度いいですね」ヌギヌギ

若い教官「なっ!?何をしてる。なんで脱ぐんだ///」

ユミル「すいませんね。でもこうしないとあんたは人を呼ぶだろう?」ヌギヌギ

若い教官「ああ、今すぐ他の教官に連絡しないと」クルッ

ユミル「あれ?拘束しないのか?現行犯を逃がしたらキースさんに叱られるんじゃない?」

若い教官「逃げても後から捕まえる」

ユミル「あっそう。けど不法侵入の証拠は無いんだ。私はシラを切り通す」


若い教官「くっ……。いいか、じっとしてろよ。無駄な抵抗はするなよ///」ツカツカ

ユミル「…いらっしゃい」グイッ!! バタン!!

若い教官「ちょっ!!なっ…何をする!!///」

ユミル「やだぁ。教官に押し倒されちゃったー」ガッチリ

若い教官「は、離せ…///」ジタバタ

ユミル「今、ここで大声出してもいいんだぜ。レイプされそうになりましたって」ガッチリ

若い教官「そ、そんなベタな手、誰が信じる?///」ジタバタ

ユミル「やってみないと分からないだろう?いいのか?本当に大声出すぞ」ガッチリ

若い教官「くっ…///」

ユミル「そう。いい子にして。暴れるなよ」グルンッ!!

若い教官「うわっ!!…つっ!!」ゴンッ!!

ユミル「あはは、ごめんね。頭打った?」

ユミル「良い眺め。いつも偉そうな教官様に馬乗りできるなんてね…」

若い教官「今すぐどけろ!!///」


ユミル「ここで自分の経歴に傷をつけて将来を棒に振りたくはないはず…」プチッ プチッ

若い教官「おい、ボタンを外すな///」

ユミル「悪いけど見逃してよ。で、ちょっとお願いを聞いて欲しいんだけど」ギュッ

若い教官「は、離れろ///」

ユミル「あんたも可哀想にね。こんなシケた所に缶詰で。たまには楽しんでいいんじゃない?」サスサス

若い教官「その手はやめろ…///」

ユミル「ねぇ…簡単な頼みなんだよ。…あんたの裁量でなんとかなる程度の…」カチャカチャ

若い教官「うぅ…///」

ユミル「聞いてくれたらさ…、いつでも好きにしていいから…」

ユミル(…ちょろい男で助かった…。他の教官だったらこうはうまくいかなかったろうね…)


※ ※ 翌日 兵站行進中 ※ ※

クリスタ「はぁ…はぁ…」タッタッタッ

ユミル(クリスタの持久力の無さはいつも通りだな。もう遅れ始めてる…)

ユミル(兵站行進の評価はいかに集団に遅れず付いて行けるかだ)

ユミル(このグループには身体能力が低めの女子ばかり集めてもらったが…。それでも駄目か…)

ユミル「教官」タッタッタッ

若い教官「…何だ」パカラッ パカラッ

ユミル「ちょっと速度を落としてもらえませんか」タッタッタッ

若い教官「…これでも試験規定ぎりぎりのスローペースだ。これ以上速度は落とせない」パカラッ パカラッ

ユミル「今日に限ってすごく身体がだるいんですよ。…何ででしょうね?」タッタッタッ

若い教官「うっ……///」パカラッ パカラッ  パカラッ   パカラッ   パカラッ

ユミル(…よし、伴走がペースダウンした。これなら…)チラッ

クリスタ「はぁ…はぁ…」タッタッタッ

ユミル(何とか集団に付いて来てるな…)


※  ※  ※  ※

フランツ「ちょっと…ハッ…今日ペース…ハッ…早くないか…?」タッタッタッ

トーマス「ハッ…キース教官が伴走だと…ハッ…速い奴に合わせるから…ハッ…」タッタッタッ

サムエル「なんで…ハッ…ライナー、ベルトルト…ハッ…エレン、コニーが一緒なんだよ」タッタッタッ

フランツ「上位陣は…ハッ…バラしてよ…ハッ…」タッタッタッ

トーマス「ハッ…本当だよ…ハッ…俺達せっかく…ハッ…10番台キープしてんのに…」タッタッタッ

サムエル「もう今日は…ハッ…駄目だな…ハッ…完全に俺たち遅れてる…」タッタッタッ

ユミルさんさすがやで、BBAの年期ぱない


※  ※ 訓練終了後 ※  ※

マルコ「ジャン、お疲れ。はいタオル」ポンッ

ジャン「サンキュ」パシッ

マルコ「いつも通りに訓練してて安心したよ」

ジャン「やる気は無くっても体は勝手に動くんだ。慣れってこえぇな」フキフキ

マルコ「いいよ、それで。ジャンは優秀だから普通にしてれば成績はそんなに下がらない」

ジャン「…普通にしてればな」

マルコ「ジャン?」

クリスタ「あっ、見つけた。ねぇ、マルコ聞いてよ!」ニコニコ

マルコ「どうしたの?嬉しそうだね」

クリスタ「あのね、兵站行進で初めて集団から遅れずにゴールできたの!」エッヘン

マルコ「すごいじゃないか。頑張ったね」ヨシヨシ

クリスタ「えへへ///」

ジャン(…ユミルのやつ何かしたのか…?)


ジャン「…なぁ、クリスタは憲兵団に入りたいのか?」

クリスタ「えっ?そんなつもりは全然無いよ」

ジャン「無いのか…?」

クリスタ「うん」

ジャン「…んー、おかしくねぇ?」

マルコ「何が?」

ジャン「いや…、ユミルがな、クリスタを憲兵団に入れてやりたいとか言ってたから…。てっきり俺は…」

マルコ「クリスタが希望してると?」

ジャン「そう。でも違うんだな…。あいつ何であんなこと言ったんだ?」

クリスタ「…ユミルは私のこと心配してくれてて、卒業したら安全な内地へ行けって言うの…」

ジャン「確かにクリスタが戦場に出たらすぐに巨人の餌になりそうではあるな」

マルコ「ならないよ。戦場に出ないから」

ジャン「はぁ?だって憲兵団へは誰も入れねぇだろ」

マルコ「またそうやって決め付ける。前向きに考えろよ。何とかなるって」


ジャン「でもクリスタは憲兵団入る気ねぇって言ってるぞ」

マルコ「憲兵団に入らなくったって戦場に出ない方法はあるよ」

ジャン「…嫁にもらう気か?」

マルコ「そのうちね」

クリスタ「///」

ジャン「そのうちってそれまでどうすんだよ」

マルコ「兵士を辞めて自由気ままに過ごしてもらうよ」

ジャン「いいな、その選択肢。俺もマルコの嫁になるわ。養ってくれ」

マルコ「そんな悪人面の嫁はいらないよ」


クリスタ「…やっぱり私も憲兵団目指してみようかな…」

マルコ「えっ?だって…………内地だよ?」

クリスタ「マルコとジャンが一緒の職場なら安心できる。二人とも頼りになるから」

クリスタ「それにやっぱり…マルコと一緒にいたいな…///」

マルコ「そ、そっか///」テレテレ

ジャン「はぁ…。勝手にしろよ。…けどクリスタは憲兵団に入る気は少しでもあるんだな?」

クリスタ「…うん。入団枠が増えるよう頑張るから…。ジャンもまだ諦めないでね」ニコッ

ジャン(…ユミルのやろうとしてる事は無駄にはならないんだな…。俺も大人しく協力するしかねぇか…)


※ ※ 夜 屋外 ※ ※

アニ(今日も夜風が気持ちいい…)テクテク

アニ(あれから壁教の奴を見かけることはないけど…)テクテク

アニ(念のため見回りは続けたほうがいいね…)テクテク

アニ(……ん?講義棟の裏にいるでっかい人影…。間違いなくベルトルトだね。それともう1人誰かいる…)

アニ(あの楽譜のこと問い詰めたいけど…。ベルトルトも本当に知らないのかもしれないし…)

アニ(聞いて逆に突っ込まれたら面倒だね。知らないふりをしとこう…)


※  ※  ※  ※

女子A「あの…この前出した手紙の返事がもらいたいんだけど…///」

ベルトルト「えっと…その………ごめんなさい…」

女子A「ベルトルトは誰か好きな人がいるの?」

ベルトルト「い、いや特にそういう子はいないけど…」

女子A「だったら…私のこと好きじゃなくてもいいから…、付き合ってよ…///」

ベルトルト「あのね…、君のことを僕はよく知らないから…、付き合うとかそういうのは…できないよ」

女子A「…じゃあ私のこと知れば付き合ってくれるの?」

ベルトルト(しつこいなぁ…この子…)

女子A「ねぇ…、知りたくない?私のこと…///」ダキッ

ベルトルト(何を勘違いしてるんだろうね。色仕掛けとか気持ち悪いだけなんだけど)

女子A「ふふっ、固まっちゃって、緊張しなくてもいいよ…///」

ベルトルト(ぶん投げたい。でもそんなことしたら被害者面して騒ぎ立てるんだろうね)

女子A「ねぇってば…///」


アニ「…あのさぁ、散歩の邪魔なんだけど」テクテク

ベルトルト「アニ!」(助かった…)

女子A「…なんでわざわざここ通るのよ。他行けばいいでしょ」ムッ

アニ「あんたこそ何考えてんのさ。まさかここで押し倒す気だったの?恥知らずな女だね」

女子A「そ、そんなわけないでしょ///」

アニ「あんたさぁ、前はマルコに熱あげてたよね。マルコに恋人ができた途端、今度はベルトルト?節操なさすぎ」

女子A「ちょっ、余計なこと言わないでよ」

ベルトルト「ごめん。僕はマルコの代わりはできないよ。彼ほど優しくないから…」

女子A「チッ…もういい!」クルッ タッタッタッ

ベルトルト「………女子寮でさんざん悪口言われるんだろうな」

アニ「…あること無いこと言い触らすだろうね。でもこれで馬鹿な女が近寄って来なくなっていいんじゃない?」


ベルトルト「アニのおかげで助かったよ、ありがとう」

アニ「あんたさぁ、自分ではっきり断りなよ。何でされるがままになってんのさ」

ベルトルト「言葉にすると角が立つから。黙ってれば察してくれないかなって」

アニ「はぁ…。もう少しちゃんと意思表示しなさいよ。ただでさえ表情が乏しいんだから、察しろとか無理よ」

ベルトルト「分かった。…アニ、今度の休日一緒に出かけよう」

アニ「いいよって言うと思う?」

ベルトルト「はっきり意思表示してみたんだけど。駄目かな?」

アニ「どうしてあんたと一緒に出かけなきゃいけないのさ」

ベルトルト「ちょっと付き合ってもらいたい場所があるんだけど…」

アニ「どこ?」

ベルトルト「一つは手芸屋さん」

アニ「…あんた正気かい?」

ベルトルト「ハンナに買い物を頼まれてるんだ」

アニ「そんなの断りなよ」


ベルトルト「もう一つは…、トロスト区」

アニ「!?」

ベルトルト「…分かるよね、アニ」

アニ「…もう動くの?」

ベルトルト「いや、まだだけど…。一応下見をしておいた方がいいと思うんだ」

アニ「…分かった。それなら…次の休日付き合うよ…」

ベルトルト(こんな手を使わないとアニとデートできないなんて…僕は卑怯だ…)


※  ※  ※  ※

ジャン「何だよ。話って」

ユミル「明日、立体機動の試験があるだろ」

ジャン「そうだな」

ユミル「私とジャンそしてクリスタの三人が同じグループになる」

ジャン「…グループ分けが知らされるのは試験直前のはずだよな。何で知ってる?」

ユミル「さあな」

ジャン「しかもお前の思惑をそのまま反映した作為的な組み合わせだ。どう考えてもおかしいだろう?」

ユミル「偶然だろ」

ジャン「…教官相手に枕でもしてるのか?」

ユミル「どうだろうな」

ジャン「そういうの…もうやめろよ…」


ユミル「くくっ…、何だよそれ。お前に私を咎める資格はないだろ」

ジャン「そうだけど…」

ユミル「じゃあ口出しするな」

ジャン「…お前とあんなことしといて…無関心ってわけにはいかねぇだろうが…」

ユミル「は?何勘違いしてんだよ。あれは単なる取引だ。さっさと忘れろよ」

ジャン「…てめぇみてぇに簡単に割り切れれば楽なんだろうな…」

ユミル「ガキだな。…これだから童貞の相手するのは嫌なんだよ」

ジャン「悪かったな、ガキで」

ユミル「まぁ、しょうがねぇか。お前にとっては初めての女ってわけだしな。良かったな、最初がこんなイイ女で」

ジャン「自分で言うかよ」

ユミル「今は1/1の女だから気になるんだ。けど数年後には1/10にも1/20にもなるだろうよ」

ユミル「そうなったら、私の顔も名前も忘れるさ。…だから罪悪感なんて感じる必要はないんだよ」


ジャン「…あー、もう。…お前は本当にイイ女だよ。適わねぇ…」

ユミル「だろ?でも惚れるなよ」

ジャン「惚れねぇし。けど数年で20人っておかしいだろ」

ユミル「そうか?ジャンならいけそうだけど」

ジャン「経験人数が多ければいいってもんじゃねぇだろ」

ユミル「でも…初めてにしては上出来だった。ウテウテの素質十分ありそうだけど」ニヤリ

ジャン「なっ!?///」

ユミル「それじゃあ、明日よろしく頼むぜ。クリスタにさりげなく目標全部譲ってやってくれ」クルッ スタスタ

ジャン「…………」

ジャン「…ユミルさん、ウテウテって何…?」

ジャン「けど…目標全部譲れって…。俺の点数ボロボロじゃねぇか…」


※ ※ 翌日 訓練後 ※ ※

エレン「やった!!総合評価で初めてジャンの上に立ったぜ!!」

アルミン「おめでとう、エレン。努力がやっと実ったね」

ミカサ「…今日のジャンはおかしかった…」

エレン「そんなの知るか。今まで散々偉そうな態度とられたんだ。今度は俺が見下してやる」

アルミン「ほどほどにね。また喧嘩になっちゃうから…」

ミカサ(ジャンは……)キョロキョロ

ミカサ(…いた。演習場の隅っこで項垂れてる…)


※  ※  ※  ※

マルコ「すごいね!クリスタ。今日は僕より評価が高いじゃないか」

クリスタ「う、うん…」

マルコ「あれ?元気ないね。どうかした?」

クリスタ「何かおかしいの…。私なんかがこんな得点取れるわけない」

マルコ「…採点表見せて」

クリスタ「うん」ヒラッ

マルコ「…えっと、ジャンとユミルが同じグループか…」

マルコ「…機動技術、斬撃精度、これはいつも通りかな…?」

クリスタ「うん。…いつもそんな評価しかもらえないよ」


マルコ「…それに反して目標捕捉点だけが異常に高いね…。これって全部クリスタが第一発見したってこと?」

クリスタ「ユミルとジャンに付いて行くのが精一杯だったんだけど…。なぜか目の前に目標が現れるの…」

マルコ(ユミルが譲るのは分かる気がするけど…、ジャンは何をやってるんだ?)

マルコ「ははっ、今日は運が良かったんだよ。こういう日もあるよ」

クリスタ「そうかな…」

マルコ「気にしないの。素直に喜びなよ」

マルコ(ジャンは……)キョロキョロ

マルコ(…珍しいな、ミカサと二人で話してる。今は行かない方がいいな…)


※  ※  ※  ※

ミカサ「まだやる気を失くしたままなの?」

ジャン「…そういうわけじゃねぇけど…」

ジャン(せっかくミカサから話かけてくれたのに。…後ろめたくてまともに顔が見れねぇ…)

ミカサ「ジャン、私はエレンと違って優秀な人間が憲兵団に行くことに批判的ではないの」

ジャン「ミカサ…?」

ミカサ「…私がまだ子どもだった頃、私の両親は家に押し入ってきた賊に殺された」

ジャン「……」

ミカサ「…目的は母親と私を攫うことだった。東洋人は珍しいからって地下街で売り飛ばす気だったの」ブルブル

ジャン「おい、無理して話すな。震えてるじゃねぇか」

ミカサ「大丈夫だから…。お願い聞いて…」ブルブル

ジャン「あ、ああ」


ミカサ「両親は私の目の前で惨殺された…。何も悪いことをしてないのに…」ブルブル

ミカサ「今でもその光景が忘れられない…。思い出す度に恐怖と怒りで体が張り裂けそうになる…」ブルブル

ジャン「分かったから。もうやめろ!」ガシッ

ミカサ「…やっとこっちを向いた」

ジャン「顔色悪いぞ…」

ミカサ「…肩離して」

ジャン「す、すまん」スッ

ミカサ「それで…子どもながらに思ったの。あんな悪い人間がなんで野放しにされてるんだろうって」

ミカサ「地下街で人身売買が平然と行われてるのに、何で誰も止めないんだろうって」

ミカサ「誰かが元を断っていてくれさえすれば…、私の両親は死ぬこともなかったんじゃないかって…」

ジャン「…そうだな」


ミカサ「だから…、本当に優秀で正義感のある人間が憲兵団に行けば…」

ミカサ「私のような目に合う子どもが減るかもしれない…」

ジャン「…俺は正義感で憲兵団に入りたいわけじゃない。知ってるだろ?」

ミカサ「けどジャンは…本当は真面目で努力家。まっすぐすぎる性格だからエレンとぶつかる」

ジャン「結局エレンかよ」

ミカサ「違う。ジャンなら憲兵団に入って悪者を退治してくれると、私は密かに期待している」

ジャン「正義の味方になれって?」

ミカサ「そう。だから、こんなところで挫けないで。いつものジャンに戻ってほしい」

ジャン「…優しいんだな」

ミカサ「知らなかった?」

ジャン「いや、知ってたけど…。俺はミカサに優しくされたことが無かったから」

ミカサ「それは…ごめんなさい」


ジャン「いいって。お前の頭の中にはエレンしかいねぇの分かってるから…」

ミカサ「そ、そんなことは…///」

ジャン「あー!!うらやましいぜ。あの死に急ぎ野郎がよ!!」

ミカサ「ジャン…?」

ジャン「俺はもう大丈夫だ。心配かけて悪かったな」

ミカサ「そう。良かった」

ジャン(やっぱり俺はミカサが好きだ…)

ジャン(けどミカサのことを考えたら…俺は潔く諦めたほうがいいんだろうな…。やべっ…マジ泣きそう…)グスッ

レスありがとうございます。

ユミルがどうやってクリスタの順位をあげたのか考えたのですが…
お馬鹿な頭では色仕掛けしか思いつきませんでした。ベッタベタですみません

続きは後日

乙ー
ユミルさんにほだされて自分を見失うジャンが可愛い。
ユミルのBBAさにジャンのガキっぽさが浮き彫りになってすげぇいい

後、ウテウテってなんだろ

>>430 いわゆるヤリチンってやつです。少し昔のホスト用語だったかな?

>>1 ありがとうございます(`◇´)ゞ

あぁ、ウテウテってそっちのそういう……ねぇ/////
確かにジャンなら抜き身過ぎる性格を何とかすれば入れ食いも余裕だろうね
でも彼は一途だからねぇ

でもこのジャンさんが何言おうがもう笑いしか出ません(笑)
立て直しは傷口に塩を振りかけてる様なものです。
諦めてお笑い担当になってもらいましょうか

>>1です。 レスありがとうございます

>>432 包み隠さぬお下品発言ですみません。ジャンは一途です。だからついつい、いじってしまうのさ

>>433 こんなジャンでよければ笑ってやって下さいな


※ ※ 休日 市街地 ※ ※

ベルトルト「…やっぱり目立つよ、その格好…」

アニ「…しょうがないだろ。朝起きたらミーナに手持ちの服を全部洗濯されてた」

ベルトルト「だからって着てくるかな…」

アニ「帰る」クルッ

ベルトルト「ごめん、違うんだよ。そのおかしいとかそういうんじゃなくて…」

アニ「何?」

ベルトルト「…アニが彼女たちの好意を素直に受けるとは思わなかったんだ」

アニ「私だって好きで着てるわけじゃないよ」

ベルトルト「でも…、誰かに服を借りるとか、今日は行くのやめるとか…色々選択肢はあったわけだろう?」

アニ「何その言い草。こっちはドタキャンしたら悪いかなってイヤイヤながら来てやったのに」

ベルトルト「…僕はアニがどんどん周囲に馴染んでいくのが恐いんだ」


アニ「あんたのほうこそ馴染みまくってるじゃない。洋裁室に入り浸ってミーナたちと仲良くしてるし」

ベルトルト「寮にいるよりあそこにいる方が僕にとっては快適なんだよ」

ベルトルト「彼女たちは必要以上に関わってこないから…。心が乱されることが少なくてすむ」

アニ「はぁ…、で、編み物しながら自分の殻にこもってるわけ」

ベルトルト「単純作業は思考を停止するのに丁度いいんだ。アニもやってみる?」

アニ「やらない」

ベルトルト「だろうね。……とりあえず靴買いにいこうよ」

アニ「は?」


ベルトルト「その服にいつもの靴は変だよ」

アニ「あんたこの格好、気に食わないんじゃないの?」

ベルトルト「気に入らないよ。…でもアニによく似合ってる」

アニ「あんた言ってることがめちゃくちゃだよ」

ベルトルト「そうだね。僕もどうしたいのかよく分からない。…けど、その靴はおかしい」

アニ「変にこだわるんだね、靴に。まさかフェチ?」

ベルトルト「フェチではないけど、ハイヒールのフォルムは結構好きかな」

アニ「十分変態だよ」

ベルトルト「何と言われても構わないから、とにかく靴を買おう」


※ ※ 男子寮 ※ ※ 

マルコ「ジャン、ちょっと話があるんだけど」

ジャン「悪ぃけど後にしてくれ。俺はこれから出かけてくる」

マルコ「どこ行くの?」

ジャン「デートだ」

マルコ「えっ?誰と?」

ジャン「マルコ、俺はな前向きに生きることにしたんだ」

マルコ「うん」

ジャン「ミカサのことは諦める!……ように努力をすることにした」

マルコ「そう」

ジャン「俺にとっちゃミカサを諦めるってのは、ミカサに自分のことを好きになってもらうより難しいんだよ」

マルコ「いやいや。好きになってもらうほうが難しいって」


ジャン「うっさいな。とにかく俺は新しいカブトムシに会いに行って来る」

マルコ「だから、女の子をカブトムシに喩えるなよ」

ジャン「世界は広い。ミカサ以上に出会った瞬間に俺の心を鷲掴みにするカブトムシがどこかにいるはずだ」

マルコ「僕に言わせれば一目惚れは恋じゃないよ。ただの発作」

ジャン「発作じゃなくて直感だ。運命を感じないと燃えねぇだろ」

マルコ「はいはい。で、誰とデートするの?」

ジャン「昨日、手紙をくれた子」

マルコ「……同期の女の子って全員顔見知りだよね」

ジャン「そうだ」

マルコ「今さら運命を感じると思う?」

ジャン「ろくに話した事ねぇからな。話せば何か感じるものがあるかもしれねぇ」

マルコ「まぁ、行ってくれば。くれぐれも相手に失礼のないようにしろよ」

ジャン「おう。じゃあな」


※  ※ 公園 ベンチ ※  ※

ベルトルト「ハンナに頼まれた買い物もできたし。そろそろ移動しようか…」

アニ「…トロスト区?」

ベルトルト「うん」

アニ「…行かない」

ベルトルト「それが今日の一番の目的だよね」

アニ「…足が痛いから、行けない」

ベルトルト「えっ?」

アニ「あんたがヒールの高い靴がいいってうるさいから…、慣れない靴で足が痛い…」

ベルトルト「大丈夫?見せてごらんよ」ドッコイショ

アニ「ちょっ、やめてよ!跪いて靴を脱がせるとか///」

ベルトルト「こうしないと見れないよ」スポッ

ベルトルト「うーん……」ジーッ

アニ「…そんなに見ないでよ…///」


ベルトルト「…靴ずれとかしてる様子はないけど…」

アニ「…でも、痛いの」

ベルトルト「…反対の足かな…」スポッ

アニ「もういいってば///」バタバタ

ベルトルト「駄目だよ。そんなに足をバタつかせたら………見えるから」

アニ「見えた…?///」

ベルトルト「ごめん。不可抗力」

アニ「だからスカートなんて嫌いなんだよ///」

ベルトルト「おしとやかにしてれば問題ないよ。ほら、ちゃんと足見せて」

アニ「うぅ……///」

ベルトルト「…こっちも大丈夫そうだけど?」

アニ「…それでも痛いんだよ」

ベルトルト「…分かったよ。行きたくないんだね…」

アニ「違う。行けないだけ」


ベルトルト「どっちでもいいよ。…じっとして。靴履かせるから」

アニ「自分で履ける」

ベルトルト「駄目。僕にさせてよ」スッ

ベルトルト「…パンプスっていいよね。足が綺麗に見える」ウットリ

アニ「…あんた相当気持ち悪いよ」ゾワワ

ベルトルト「今度はもっと高いヒールの靴買ってあげるよ」

アニ「まさか…踏まれたいの?」

ベルトルト「そういう趣味はないよ。…反対の足も履かせるよ」スッ

アニ「…今日のあんたおかしいよ」

ベルトルト「…知ってる?女の人に靴をプレゼントしちゃ駄目だって言い伝え」ヨイショ

アニ「知らない」

ベルトルト「自分の元から離れていくための『足』を用意することに繋がるからタブーなんだって」ストン

アニ「へぇ…」


ベルトルト「アニは…僕たちから離れたがってるように思えたから…」

アニ「わざわざ『足』を用意してくれたの?」

ベルトルト「うん。その靴だと早く走れないでしょ」

アニ「それでヒールの高さにこだわって………はぁー、頭痛いよ」

アニ「ねぇ…報告したいことがあるんだけど」ガサゴソ

ベルトルト「何かあった?」

アニ「少し前に壁教の人間が駐屯地内をうろうろしててさ。…コレを頂いた」スッ

ベルトルト「手帳…」パラパラ

アニ「それを見れば分かると思うけど…、クリスタは壁教にとって重要人物らしいわ」

ベルトルト「クリスタが!?」パラパラ

アニ「例のレイス家と深い関係があるみたい」

ベルトルト「そう…」パラパラ


アニ「あのさ、クリスタがもし私達が探している人物だとしたら…、彼女に協力してもらって…」

アニ「…壁を壊さないで…故郷に帰ることはできないかな…」

ベルトルト「アニ!しっかりしてくれよ。何があっても実行するんだ。そうしないと僕らは…」

アニ「分かってるよ、…分かってるけど、もし他の道があるんならって…」

ベルトルト「他の道なんて無いんだよ。もう未来は決まってるんだ…」

アニ「…せめてさ…トロスト区はやめようよ…」

ベルトルト「…アニ、君はやっぱり僕たちを裏切る気なの?」

アニ「違う!!けど…助けたいんだよ。せめて同期からは犠牲者を出したくない…」

ベルトルト「今さら何を言ってるんだ。アニの手も僕の手もすでに血まみれなんだよ」

ベルトルト「この期に及んで命の選別をするなんて、君は神にでもなった気かい?」

アニ「そんなつもりは無いよ!…私はただの人間なんだ。だから苦しいんだよ…、辛いんだよ…」ジワッ


ベルトルト「アニ、僕は君に言ったはずだ。必要以上に他人と関わるなって」

アニ「そんなの分かってるよ。けど、あそこにいる人間は馬鹿ばっかりで…」ポロポロ

アニ「私がいくら壁を作っても勝手に越えてくるんだよ…。私なんかに優しくするんだよ…」ポロポロ

アニ「…私はあんたと違って弱いから…温かい手にすがりそうになる」ポロポロ

アニ「…すがって、すべて白状して、罰して欲しいと願ってしまう…」ポロポロ

ベルトルト「落ち着いて、アニ…」ガサゴソ

ベルトルト「…あった。…ちょっとごめん。じっとしてて…」パチン

アニ「…なによ」ポロポロ

ベルトルト「よし、ついた。…もっと素敵なアニになったよ」ニコッ

アニ「あんた…人が泣いてんのに…なんで笑ってんのよ…」ポロポロ

ベルトルト「気に入らなかった?僕がアニのために作ったんだけど、そのコサージュ」

アニ「だから…人の話聞いてたの?ヒック…まさか…ヒック…全然聞いてないとか?…うぅぅ……」ポロポロ

アニ「こんなことあんたにしか、ヒック、話せないのに、グスッ、ひどいよ……」ポロポロ


ベルトルト「ちゃんと聞いてたよ」ギュゥッ

アニ「うぅぅ…ヒック…どさくさにまぎれて抱きつくな…ヒック…」ポロポロ

ベルトルト「僕は誰よりもアニに優しいよ。僕の手だって温かいはずだ。…それで我慢してよ」

アニ「グスッ…嘘。あんたは冷たい。もう人間としての感情がほとんど残ってない」

ベルトルト「…ひどいね。何も感じないよう必死に心を閉ざしてるのに」

アニ「ベルトルト…」

ベルトルト「僕はアニを繋ぎとめる術を持ってないから、君が離れていくのを止めることができない」

ベルトルト「君にとって僕はただの同胞だ。裏切られても仕方がないんだろうね」

アニ「…裏切ったりはしない」

ベルトルト「ねぇ、その言葉を信用させてよ。アニは裏切らないって証を僕にくれよ」

アニ「…信じて…」



ベルトルト「…抱かせてよ」ギュウ


アニ「え…?」


ベルトルト「僕のものになってよ。そうしたらアニのこと信じられるから」


アニ「ふざけないで。離してよ!!///」ジタバタ


ベルトルト「お願い」


アニ「イヤ!!///」
  
  (耳元で囁くなんてずるい…)


ベルトルト「お願い」


アニ「無理!!///」
  
  (あんたのこと嫌いじゃないから…)


ベルトルト「お願い」グスン


アニ「ちょっ、なんで泣くのさ?」

  (冷たく突き放せないでしょ…)


ベルトルト「お願い」グスッ グスッ


アニ「…ずるい」

  (そんなふうにお願いされたら…)


ベルトルト「お願い」ヒック グスン


アニ「…頼むからさ。泣き止んでよ」

  (可哀想になってくるじゃないか…)


ベルトルト「お願い。僕を安心させて…」グスッ


アニ「…卑怯者…」


※ ※ 男子寮 ※ ※

マルコ「あれ?ジャン早かったね。もう帰ってきたの」

ジャン「……ああ」

ライナー「聞いたぜ。デートしてきたんだってな」

ジャン「……ああ」

アルミン「楽しかった?」

ジャン「……ああ」

エレン「で、相手は誰なんだよ?」

ジャン「…………………ダズの元カノ」

エレン「ぶっ…マジかよ?」

ライナー「幻じゃなかったんだな。ダズの彼女って」

アルミン「へぇ、意外。ダズって彼女いたんだ」

マルコ「想像以上に世界は狭かったね、ジャン」


ライナー「どんな子だった?」

ジャン「それがよぉ、普通にかわいいんだよ。マジありえねぇ」

アルミン「きっと性格がいい子なんだね…」

ジャン「おう。話をした印象は素直で優しい感じだったな。正直にダズと付き合ってたって言うしよ」

ライナー「じゃあ付き合えよ…ぷぷっ」

ジャン「お前、腹立つなぁ。ダズの元カノだぞ。ぜってー嫌だ」

アルミン「でもさ、誰とも交際したことのない子って条件は難しいんじゃない?」

マルコ「そうだね。今はまだしも、数年経てばそんな子は珍しいだろうね」

ジャン「けどよ、前の男が知ってる奴って嫌じゃね?」

ライナー「俺はクリスタなら全然いけるぞ。マルコ、期待して待ってるからな」

マルコ「残念。期待にはこたえられない」

アルミン「ジャンはさ、もしミカサが誰かと付き合った後にジャンのところへ来たらどうするの?」

ジャン「だから、俺は今ミカサを諦めようとしてんだからよ。そんな話を振るな」


アルミン「ごめんごめん。じゃあエレンは?」

エレン「俺?」

アルミン「ミカサが他の誰かと交際したとして。その後にエレンと付き合いたいって言ったら」

エレン「うーん………。駄目だ。まず、他の男と付き合ってるミカサが想像できねぇ」

ジャン「くっそ、てめぇ以外はふさわしくねぇって言いたいのか」

マルコ「ジャン、諦めるんだろ?怒るなよ」

ライナー「確かにミカサがエレン以外の男に興味を示すとは思えんな」

エレン「けど…なんか嫌だな。ミカサが他の男といちゃついてるって思ったら」

アルミン「エレン!すばらしいよ。やっと自分の気持ちに気付いたかい?」

エレン「は?」

アルミン「きっとそれが恋なんだ。エレンはミカサが好きなんだよ」

エレン「いや、ちょっと嫌だなってだけで…」

アルミン「僕は安心したよ。これでやっと二人が結ばれそうだ」ウンウン

エレン「勝手に納得するなよ」


ジャン「ったく、馬鹿馬鹿しい…あっ!!」

マルコ「どうかした?」

ジャン「そうだった。デートの途中ですげぇもん見ちまったんだ」

ライナー「何だ?」

ジャン「街の公園を散歩してたんだけどよ…。そこで…見たんだ」

アルミン「何を?」

ジャン「ベンチに座ったアニにひざまずくベルトルトの姿をよ」

エレン「すげぇな、アニ。あのベルトルトを従えてるのか」

ジャン「ああ。まさに女主人と下僕って感じだった」

ライナー「ベルトルトめ…。そんな楽しいプレイになぜ俺を誘わないんだ」 

マルコ「プ、プレイなのかな?」


アルミン「でも、ひざまずくポーズってさぁ……プロポーズする時にするんだよね」

エレン「そうなのか?」

ジャン「そりゃ貴族連中の話だろう?」

マルコ「そこそこ庶民にも浸透しつつあるけど」

エレン「ふーん。………って、そうか。プロポーズだなこれは。間違いなく」

アルミン「ね。エレンもそう思うだろ?」

マルコ「まぁ…そうかもね」

ジャン「何だよ、お前ら。何か知ってるのか?」

ライナー「俺は絶対にプレイだと思うぞ。晩飯全部賭けてもいい!」

エレン「よし!その勝負のった!」


※ ※ 宿屋 ※ ※

アニ「…まだ外は明るいのに何やってんだろ…」

ベルトルト「そうだね」

アニ「…宿屋ぐらい部屋にカーテンつけてよね…」

ベルトルト「…おかげでアニの顔が良く見れた」

アニ「……///」

ベルトルト「ふぁ……眠い……」ムニャムニャ

アニ「…いい加減離してよ。この手をどけて」

ベルトルト「やだ。しばらくこのままでいさせてよ」

アニ「…もうパンプスは脱いでもいいでしょ」

ベルトルト「ああ、ごめん。脱がせてあげる」ドッコイショ


アニ「…パンプスだけは履いといてって…ど変態」

ベルトルト「逃亡防止」スポッ ポイッ 

アニ「…それと?」

ベルトルト「僕の性癖」スポッ ポイッ

アニ「やっぱりあんたは変だよ」

ベルトルト「変でいいよ」ゴロン ギュゥ

アニ「だーかーら、ベタベタしてこないで」

ベルトルト「このまま昼寝したい」

アニ「あんたが寝たら勝手に帰るから」

ベルトルト「1人で歩ける?もう痛くない?」

アニ「誰のせいよ///」

ベルトルト「僕のせい」


アニ「はぁ…。これで私のこと信用できたの?」

ベルトルト「まだ不安かな」

アニ「…怒るよ」

ベルトルト「ねぇ、僕のために微笑んでよアニ」

アニ「やだ」

ベルトルト「君が笑って‘大丈夫’って言ってくれるだけで、僕は本当に大丈夫になるから」

アニ「…だったら最初からそう言ってよ。こんなことしなくても良かったじゃない」

ベルトルト「これはこれ。それはそれ」

アニ「殴っていい?」

ベルトルト「お願い」ヒソヒソ

アニ「もう、耳元でそれ言うのやめて///」

ベルトルト「お願い。笑ってよ」ヒソヒソ

アニ「うぅ……///」

アニ「…大丈夫だよ。ベルトルト///」ニコッ

ベルトルト「…うん。ありがとう」


アニ「これで気が済んだ?」

ベルトルト「とりあえずね」

アニ「もう絶対にあんたのお願い聞いてあげないから」

ベルトルト「いいよ。僕はこれ以上望むことはないから」

アニ「…そう」

ベルトルト「そうだよ。…ふぁー…本格的に眠くなってきた…」

アニ「…私もお昼寝しようかな…」

ベルトルト「そうしようよ…」

アニ「…私が寝るまで子守唄歌ってよ…」

ベルトルト「……いいよ」


♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~


アニ「ふふっ、下手な鼻歌」

ベルトルト「歌えって言ったのはアニでしょ」

アニ「…やっぱりその曲なんだね」

ベルトルト「…知らないふりをしといてよ」

アニ「……」

ベルトルト「…明日になったらまたいつも通りだよ。必要以上の干渉はお互いにしない」

ベルトルト「余計な感情は邪魔になるだけだから…、僕はアニに何も言わない」

アニ「分かってる。…今までと同じように黙って見守ってて」

アニ「ベルトルトは私に温かな無関心でいて…」


※ ※ 食堂 ※ ※

エレン「おせぇな、ベルトルト」

ライナー「あいつが戻って来ないと賭けの勝敗がつかないな」

エレン「あーもう、メシが冷めちまったぜ」

ジャン「おっ、ベルトルトが来たぜ」

アルミン「アニも一緒だ」

マルコ「ということは…エレンの勝ちかな…?」

ライナー「おーい!ベルトルト、アニちょっとこっちに来いよ!」


ベルトルト「何か用かな…?」スタスタ

アニ「……」スタスタ


ジャン「…アニ、相変わらず機嫌悪そうだな…。誰が聞くんだよ?俺はイヤだぜ」

アルミン「僕も遠慮しとくよ…」

エレン「ライナーまかせた」

マルコ「うん。お願いするよ」

ライナー「そうだな。俺にしかできない役割だな」

ベルトルト「どうかした?」

アニ「どうせくだらないことでしょ」

ライナー「お前ら今日は二人で何をしていたんだ?」

アニ「!?///」

ベルトルト「あ、ああ。ハンナに買い物を頼まれててね。アニに付き合ってもらったんだ」

ライナー「そうか…。とある情報筋によると、公園でお前がアニにひざまずいてたって言うもんだから…」

ベルトルト「見間違いじゃないかなぁ」アセアセ


ライナー「ごまかすなよ。で、そういうプレイを楽しんでいたのか?それともプロポーズしたのか?」

ベルトルト「…まったく意味がわからないよ」

エレン「いいから早く答えてくれよ。メシが食えねぇ」

ベルトルト「いや、でも…」

アニ「そういうプレイだよ。ベルトルトはど変態だから」

ベルトルト「アニ!?」

ライナー「よしっ!!俺の勝ちだ!!エレン、メシは全部頂くぞ」

エレン「マジかよ…。くっそ、ベルトルトが変態だったせいで晩飯抜きじゃねぇか!」

ベルトルト「えっ?……えっ?」

アニ「私はもう行くよ」クルッ スタスタ

ジャン「見損なったぜ、ベルトルト…」

マルコ「多趣味なんだね、ベルトルトは…」

アルミン「そういうの僕よく分からないから今度教えてよ、ベルトルト」

ベルトルト「…ナニコレ」



アニ(今日はあんたのわがまま聞いてあげたんだから、ちょっとだけ仕返ししたっていいでしょ…)


ミーナ「あっ、アニ。こっち、こっちー」ブンブン


アニ(ここにいると、また心が壊れそうになるかもしれない…)スタスタ


ミーナ「うふふ。デートはどうだった?楽しかった?」

アニ「…内緒だよ」ガタッ ストン

ミーナ「えー、教えてよー」


アニ(…その時はパンプスを履いてベルトルトをデートに誘ってみようかな…)


今日はここまで。

マイペースでちょっと気持ち悪いベルトルトを目指したんですが…玉砕しました

続きは後日

おつ!
ベルトルさんとアニいいな

ベルトルさん本当にいい変態だな

>>1です レスありがとうございます

>>464 ベルアニって難しかったんで、いいって言ってもらえて嬉しいです

>>465 最高の褒め言葉です


※ ※ 数日後 第一音楽室 ※ ※

ガラッ

マルコ「クリスタ、ちょっといいかな」

クリスタ「なーに?」

アルミン「お邪魔しまーす」

トム「ど、どうも」

クリスタ「あら、今日はお客さんがたくさんきてくれた。どうぞ、入って」

マルコ「よいしょ…、ほら椅子。適当に座ってよ」ガタン

トム「ありがとう…」

アルミン「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、トム」

クリスタ「トムがこの教室に来てくれるの初めてだよね。何か用事があるのかな?」

トム「あの、今食堂の壁に絵を描いてるんだけど…」

クリスタ「もちろん知ってるよ。いつもトムって絵が上手だなぁって関心してる」

トム「ありがとう。でね、壁外の風景を描こうとしてるんだけど、実際に見たことがないからイメージしづらくて」


アルミン「少し前にさ、クリスタが『大洋』っていう曲を聴かせてくれたよね」

クリスタ「うん。ショパンのエチュードね」

アルミン「あの時さ、僕は見たことがないのに、海っていうものを鮮明に感じることができたんだ」

マルコ「クリスタの技量のなせる業だね」ウンウン

クリスタ「私の腕じゃないよ。作曲した人がすごいんだよ」

アルミン「それでね、トムが壁外の風景描写で煮詰まってたから、クリスタに何か弾いてもらおうと思って」

トム「突然でごめんね…」

クリスタ「気にしないで。うーん、でも外の世界の様子が分かる曲ね…、何だろう?」

アルミン「トムは今、広い草原を描いていてね。そこに動物を入れたいっていうから壁外の動物について調べたんだ」

アルミン「そしたらね、外の世界には僕らの見たことがない生物がたくさんいて…」

アルミン「簡単な説明は書いてあるんだけど、それだけでは頭の中で形になりづらいんだ」


マルコ「で、僕がアルミンに相談を受けて、それらしい曲を探してみたんだ。はい、これが楽譜」バサッ

クリスタ「ありがとう。…サン・サーンスの組曲『動物の謝肉祭』…ガルバン編曲版?」パラッ

マルコ「本来は二台ピアノと室内楽の編成で演奏されるんだけど、連弾用の編曲を見つけたから」

クリスタ「第13曲の『白鳥』しか知らないな…」

マルコ「『白鳥』だけがオリジナルで、後は他の作曲家の作った曲を無断でパクッたらしいからね」

クリスタ「そんなことしていいの?」

マルコ「駄目なんじゃない?サーンスさんも生きてる間は『白鳥』以外は公表する気なかったらしいし」

アルミン「謝肉祭って…お肉に感謝するお祭りのことかな?そんな行事、壁内には無いからよく分からないよ」

クリスタ「ふふっ、サシャが張り切りそうなお祭りね」

マルコ「どうなんだろうね。この組曲にはさまざまな動物が出てくるけど…」

アルミン「壁外の人間にとってはその動物たちは食用だったのかな」


マルコ「いや…、違うと思いたいな。だってこの組曲の第11曲は『ピアニスト』だから」

クリスタ「…ピアニスト。確かに人間も動物だけど…」

アルミン「うん。食用じゃないね。もし食べる気で作った曲ならサーンスって人の正体は巨人だよ」

マルコ「はは、ピアニストを好む偏食家の巨人ね。クリスタが狙われそうだ」

クリスタ「もう、冗談言ってないで早く弾こうよ」

マルコ「そうだね。クリスタはいつも通りプリモで」

クリスタ「分かった」

マルコ「えっと、とりあえず第1曲『序奏と獅子王の行進曲』いこうか」ガタッ

クリスタ「獅子王って何?」

マルコ「ライオンって動物らしいよ」

クリスタ「ライオンって?」

マルコ「アルミン先生お願い」

アルミン「えっと、ライオンっていうのは本によると顔の周りに毛がいっぱい生えた獰猛な肉食獣だって」

クリスタ「うーん……よく分からないよ…」

トム「ね、イメージしにくいでしょ。どんな生物なのか」


マルコ「ははっ、確かにね。譜読みする?」

クリスタ「大丈夫」

マルコ「じゃあいくよ…1、2、3、4」


♪ ♪ ♪ ♪~


クリスタ「ふふっ、なんだかこの曲楽しい」♪♪~

マルコ「公表せずに友人たちと楽しむためだけに作られた曲だからね」♪♪~

アルミン「すごいっ!それ何?鍵盤の上を指が滑っていったよ」

クリスタ「グリッサンドって言うの。初めて見た?」♪♪~

アルミン「うん。びっくりしたよ」

マルコ「二人で同時にグリッサンドする曲って珍しいからね。演出が派手だよ、この編曲」♪♪~

トム「………」カキカキ

アルミン「あっ、トムがスケッチブックに絵を描き始めた。イメージが沸いたのかな」

クリスタ「お役に立てたみたいで良かった」♪♪~


――数十分後

マルコ「とりあえず見たことのない動物の曲を弾いてみたけど…」

トム「ありがとう。『象』も『カンガルー』も何となく形になってきたよ」

アルミン「僕は『水族館』がすごく良かったよ。海の生き物って神秘的なんだね」

クリスタ「うん。私も弾いててとっても気持ち良かった。冷たい水の中を泳いでる気分だった」

マルコ「クリスタが喜んでくれて僕も嬉しいよ」

クリスタ「…ねぇ、マルコ。コンクールの演奏時間って25~35分だったよね?」

マルコ「そうだよ」

クリスタ「…今考えてる曲目では25分に届かないんだよね?」

マルコ「………連弾曲入れたいの?」

クリスタ「うん。連弾しちゃ駄目っていう規定は無かったはず」

マルコ「確かにそうだけど…。いいのかなぁ…」ポリポリ


クリスタ「いいの。だってステージを楽しんでくるんでしょ。観光ついでに」ニコッ

マルコ「ははっ、そうだったね。…評価対象にはならないかもしれないけど…。いいよ、やろう」

クリスタ「やった。ありがとう、マルコ」

マルコ「何か弾きたい曲があるの?」

クリスタ「『動物の謝肉祭』の第14曲『フィナーレ』。まだ譜面しか見てないけど、すごく弾いてみたい」

マルコ「いいね。今まで登場した動物たちの旋律が再登場して華やかにフィナーレを迎えるんだ」

マルコ「僕達のプログラムの最後を締めくくるのにぴったりだね」

アルミン「良かったね。一曲決まって」

クリスタ「うん。アルミンとトムのおかげだよ。ありがとう」


※ ※ バイオリン工房 ※ ※

ジャン「俺のヴァイオリン、ほぼおっさんに作らせちまって悪ぃな。ありがとよ」

オヤジ「まだまだ工程は残ってんだよ。後は自分できっちりやれよ」

ジャン「ああ。…えっと、次ははネックを差し込むんだよな…」カタッ

ユミル「…お前さ、何しに来たんだよ」ペタペタ

ジャン「あ?何しにって、ヴァイオリン作りに」カタッ

ユミル「何のために?」ペタペタ

ジャン「そりゃ、ミカサに聴かせるために決まってんだろ」トントン

ユミル「…噂では、ジャンはミカサを諦めたって聞いたけど」

ジャン「…諦めきれてねぇよ。……そこのニカワと刷毛とってくれ」

ユミル「…ほら」トンッ

ジャン「サンキュ。…さっさとミカサが誰かさんとくっついちまえば諦めもつくんだろうけどよ」

ユミル「誰かさんに期待しても無駄だろうよ」ペタペタ

ジャン「…だよな」ペタペタ


ユミル「…矛盾してるな。諦めたいくせに、ヴァイオリンなんか作って。意味が分からん」ペタペタ

ジャン「んー、最終手段ってやつ?わざわざ手間かけてヴァイオリンなんか作ってよ、ヘタクソな演奏聴かせて…」

ジャン「で、告って振られたら、いい加減諦めもつくんじゃね」

ユミル「じゃあ、こんなまどろっこしいことせずに、今すぐ告って振られてこいよ」ペタペタ

ジャン「…今はまだ振られたくねぇんだ。振られちまったら、そこで終わりだろ?」ペタペタ

ユミル「だから、さっさと終われよ」ペタペタ

ジャン「…格好悪ぃだろ?振られたら。その後、どんな顔して訓練兵生活を過ごせってんだ」ペタペタ

ユミル「無駄にプライドが高いんだな。そんなもん捨てちまいな」ペタペタ

ジャン「プライドは自分を守るためにあるんだよ。笑い者になって平気でいられる程、俺の神経は太くねぇ」


ユミル「…お前、解散式が終わったら告る気でいるのか?」ペタペタ

ジャン「ミカサが誰ともくっついてなかったら…、そうするしかねぇな」

ユミル「ぶっ、アハハハハハ、青春だねぇ。最後に俺の気持ちを聞いてくれって、ベタベタだな」ゲラゲラ

ジャン「うるせぇよ///」

ユミル「くくっ…、協力してやるよ、お前が振られるの。面白そうだから」

ジャン「協力なんていらねぇし。もう放っといてくれ」ペタペタ

ユミル「ジャンは馬鹿だねぇ。ミカサなんかに惚れてさ。他の女だったらうまくいっただろうに」

ジャン「俺は志が高ぇんだよ。…あっ、そうだ。ちょっと待ってろ」スタスタ ゴソゴソ

ユミル「何だ?」


ジャン「この本、お前に貸してやるから黙って読め」スッ

ユミル「は?…何で本なんか…」

ジャン「自分の人生を悔い改めて、ぜひ前向きに生きてくれ。そうすれば幸せになれるはずだ」

ユミル「なんだ教訓本か。生憎そういう類の本は興味ないんだけど………!?」パラパラ

ユミル「って、ただの官能小説じゃん」ゴンッ!!

ジャン「ってーな、本で殴るなよ。貴重な文献なんだから丁重に扱えよ」

ユミル「…『ファニー・ヒル』?…お前は馬鹿か。こんなエロ小説から私に何を学べって言うんだよ」

ジャン「表向きはそういう内容だけどさ…、まぁ大して深い話でもないんだが…」

ジャン「最後はハッピーエンドだから、ユミルに読んで欲しいと思ったんだ」

ユミル「……まっ、くそ真面目に説教垂れる本よりはマシか。気が向いたら暇つぶしに読んでやるよ」

ジャン「絶対に他の女子には見せるなよ。もし見つかったとしても俺の名前は死んでも出すな。頼んだぞ」

ユミル「はいはい…」


※ ※ 数日後 女子寮 ※ ※

ミカサ「ふぅー、やっとできた」

サシャ「例の手編みのマフラーですね。見せて下さい」

ミカサ「いいわよ」

サシャ「うわぁ、もっふもふのぬっくぬくですね」

クリスタ「本当。これならどんなに寒い日でも首周りはぽっかぽかね」


ユミル「くっ…、ぎゃははははは…」ゲラゲラ


サシャ「さっきからユミルは何で爆笑してるんですか?」

クリスタ「ずっと本を読んでるんだけど…。よっぽど面白い本なのかな?」

サシャ「ミカサ、このマフラー巻いてみていいですか?」

ミカサ「うん。まだエレンが使用する前だからいいわ」

クリスタ「…使用後はダメなのね…」


サシャ「…よいしょっ」グルグル

サシャ「…あれ?このマフラー長すぎませんか?」


ユミル「ひー、腹いてぇ…くっくくく……」ゲラゲラ


クリスタ「もう、ユミル静かにしてよ!」

ミカサ「このマフラーはこうやって使う」グルグル

クリスタ「えっ?私も巻かれちゃった」

サシャ「…それでもまだ余ってますよ」

ミカサ「そして、私も巻く」グルグル

クリスタ「三人分の長さ…」

サシャ「あー、なるほど!ミカサとエレンとアルミンの三人が同時に巻けるんですね」

ミカサ「そう」コクン

クリスタ「うふふ。ミカサって優しいね。てっきりエレンのことばかり考えてるのかと思ってた」


ミカサ「…エレン用はちゃんと別に作ってある。これはあまり実用的ではないから」

サシャ「確かに。三人で同じマフラー巻いて立体機動したら、首が絞まって死んじゃいますね」

クリスタ「エレンにマフラーはいつ渡すの?」

サシャ「プレゼントしたら、すぐに巻いて欲しいですよね」

ミカサ「…駐屯地内ではエレンは恥ずかしがって使ってくれないと思う」

クリスタ「そうね…。そのマフラーどうしたの?って聞かれるのを嫌がりそう」

サシャ「だったら街に遊びに行けばいいじゃないですか。プレゼントした後すぐに使ってもらえます」

クリスタ「うん。それがいいと思う。エレンをデートに誘ってみたら?」

ミカサ「…デート///」


サシャ「そういえばミカサってエレンと仲良しなのに、一緒に遊びにいったりしませんね」

ミカサ「…誘っても断られ続けてる…ので、今回もきっと断られる」シュン

クリスタ「ミカサ…」

サシャ「そんなに落ち込まないで下さい。ほら、エレンは自主トレマニアですからね。きっと休日も忙しいんですよ」

クリスタ「…エレンがミカサをデートに誘えばいいのね…」

サシャ「それは難しくないですか?」

クリスタ「私に任せて。ミカサ、デートのお誘い楽しみに待っててね」ニコッ

ミカサ「クリスタ…?」


※ ※ 数日後 第一音楽室 ※ ※

クリスタ「うん、合格。みんな暗譜もできてるし、練習期間が一ヶ月にしては上出来だよ」

エレン「もうこの曲飽きた。っていうかすでに俺の演奏は完成形だろ?さらに上手く弾けって言われても無理」

マルコ「まだまだ細かい部分は詰めていけるよ。それにはちゃんと楽譜を読んでもらう必要があるけど」

エレン「あーもう、面倒だなぁ」ガシガシ

クリスタ「今ね、三人で通して弾いてみて、所要時間を計ってみたの」

エレン「何分だ?」

クリスタ「席の入れ替わりを含めて、やっぱり21分ぐらい」

マルコ「今日は弾いてないけど、そこに僕とクリスタの連弾曲を含めても…23分ぐらいか」

クリスタ「うん。あの曲予想以上に短かったね」

エレン「どうすんだ?規定は25分以上35分以内だろ?」

クリスタ「そこで私は考えたの。折角だから、みんなで連弾しちゃえばいいって」

マルコ「え?」

エレン「どういうことだ?」


クリスタ「だから、エレン&マルコ、エレン&私でデュオになるの」

マルコ「いや…、正直言ってエレンは連弾向いてないって。彼と合わせるのは至難の業だよ」

エレン「ああ、自分でもそう思う」

クリスタ「でも2曲も追加できるし。それにみんな平等に負担するから不公平感がないでしょ?」

マルコ「そうだけど…」

クリスタ「大丈夫。エレンはできる子だよ。ちゃんと曲も選んできたから」ガサガサ

エレン「クリスタ…。すでにお前の中では色々と決定してるんだな…」

クリスタ「まずは…エレン&マルコ組なんだけど…どっちにしようか悩んでる」

マルコ「何の曲?」


クリスタ「ドヴォルザーク『スラヴ舞曲op72-2』かブラームス『ハンガリー舞曲 第1番』」

マルコ「それだったら…男同士で連弾してても格好はつくかな」

エレン「俺は分かんねぇから、マルコ決めてくれよ」

マルコ「うーん、エレンがプリモをやるとして………」ウーム

マルコ「エレンはさ、簡単だけど色気を出さなきゃいけない曲と、難しいけど激しく情熱的な曲、どっちがいい?」

エレン「そりゃあ簡単な方がいいけどさ……色気ってなんだよ」

マルコ「内面から滲み出る男の苦悩とか人生の悲哀とか、そういうのを全身で表現するんだよ」

エレン「無理。難しいほうで頼むわ」

クリスタ「そう?色っぽいエレン見たかったな…残念。じゃあ『ハンガリー舞曲 第1番』のほうだね」


マルコ「クリスタ&エレン組は何を弾くつもりかな?」

クリスタ「ふふっ、多分予想外の曲だよ。…ドビュッシーの小組曲『バレエ』」

マルコ「……エレンにそれ弾かせるの?」

クリスタ「可愛いでしょ?」

マルコ「可愛すぎるし、これまでの選曲の中に入れるとちょっと浮くよ?」

クリスタ「だってね、なんだか重たい曲ばかりなんだもん。軽快で小粋な曲を一曲ぐらい入れたいの」

エレン「そんな微妙な曲なのか?」

マルコ「微妙じゃないよ。すごく素敵な曲だけど…、ウキウキ、ワクワクって感じで…」

クリスタ「そう。初めてデートする時の胸の高鳴りって感じの曲」

エレン「そんな曲、俺はやだよ」

クリスタ「そんなこと言わないで。お願いエレン。一緒に弾こうよ。きっと楽しいから、ね?」

エレン「……まぁ、ちょっとだけなら練習してもいいけど。本番で弾くかどうかは別だからな」

クリスタ「ありがとう、エレン。それで十分だよ」


クリスタ「で、早速エレンに来週までの宿題を出すね」

エレン「早いな、おい。まだどんな曲かも分かってねぇのに」

クリスタ「『バレエ』のルンルン感を出すためには、実際にデートするのが一番だと思うの」

クリスタ「だから、来週のレッスンまでにミカサとデートしてくること。これが宿題だよ」

エレン「何だよ、それ。意味分かんねぇよ」

マルコ「たまには街の空気吸ってきなよ。駐屯地にずっといると視野の狭い人間になるよ」

エレン「そうなのか?」

マルコ「ああ。世の中はできるだけ見といたほうがいいよ。社会勉強だと思って行っておいでよ」

エレン「マルコがそう言うんなら…。仕方ねぇな。社会勉強とやらをしてみるか」

クリスタ「良かった。…今日はもう解散だから。ちゃんとミカサを誘ってあげてね」ニコッ

エレン「はぁ…、分かったよ。じゃあな」スタスタ


ガラッ!! ピシャッ!!


クリスタ「…マルコ、ありがとう。エレンをその気にさせてくれて」

マルコ「いいよ。妙な選曲だなって思ったけど…そういう意図があったんだね」

クリスタ「うん。…ねぇマルコ」

マルコ「何?」

クリスタ「…私もルンルン感を出さなきゃいけないんだけどな…///」モジモジ

マルコ「…そ、そうだよね」(神様、僕は幸せです///)

マルコ「次の休日デートしてくれるかな?」

クリスタ「うんっ///」ニコッ


※ ※ 食堂前 ※ ※

エレン「ミカサ、ちょっといいか?」

ミカサ「ええ、何かしら」

エレン「あのさ……えっと……」ポリポリ

ミカサ「どうしたの?」

エレン「その…、次の休みに俺と社会勉強しないか?」

ミカサ「…社会勉強って…何をするの?」

エレン「うーん…、一緒に街へ行ってブラブラ歩く…みたいな?」

ミカサ「それは、デートというものではないかしら?」

エレン「そうともいう。…嫌か?」

ミカサ「ううん。嬉しい///」


※ ※ 女子寮 ※ ※

ガチャッ バタン

クリスタ「ただいまー。…あれ、誰もいないのね。みんな他の部屋かな?」スタスタ

クリスタ「…日記でも書こうかな」ガタッ

クリスタ(…ん?棚の上に無造作に置かれているこの本は…。ユミルが大爆笑してたやつだ…)

クリスタ(…そんなにおもしろいのかなぁ…)パラッ

クリスタ(とりあえず椅子に座って…)ギシッ

クリスタ(…『ファニー・ヒル』…。人名かな?)パラッ


――数分後

クリスタ(うぅ…可哀想なファニー…両親を亡くして一人ぼっちになって…)グスン

クリスタ(…15歳。私と歳の近い少女…。これからどうやって生きていくのかな…)パラッ


――数分後

クリスタ(……………急展開///)パラッ

クリスタ(……なんなのこれ……やだ、女の子同士で何やってるの……///)パラッ

クリスタ(…駄目よ、クリスタ。いますぐ本を閉じなきゃ///)パタン!!

クリスタ(…………)ソワソワ

クリスタ(………………もう少しだけ///)パラッ


――数分後

クリスタ(……良かった。好きな人ができて……)パラッ

クリスタ(……うんうん。抱きしめられたら嬉しいよね……)パラッ

クリスタ(……そうそう、キスされたら幸せだよね……)パラッ

クリスタ(……………///)

クリスタ(………キスで終わり……じゃないの……?///)パラッ

クリスタ(………これは………何をしてるの……?///)

クリスタ(……えっ………やだ………ウソ………!?////////)プシュゥゥゥ


ユミル「悪い子だな、クリスタは。人の本勝手に読んで」ヒョイ パタン

クリスタ「!?」ビクッ!!

ユミル「お前、私が部屋に戻ってきたの全然気付かないし。どんだけ集中してんだよ」

クリスタ「あ、あの、ごめんなさい///」アタフタ

ユミル「…ふーん。クリスタでもこういう本に興味があるんだな」

クリスタ「違うってば!ユミルが笑ってたから面白い本なのかなぁって思って、つい///」アセアセ

ユミル「まぁ、いいや」ヨイショ

クリスタ「きゃっ!!なんで持ち上げるのよ?」ジタバタ

ユミル「せいっ!!」ボフンッ!!

クリスタ「わっ!!ベットに投げないでよ!……って何するの!?やめてよ!!」ジタバタ

ユミル「何もしねぇから、ちょっと大人しくしろって」ガシッ

クリスタ「ちょっ!!ユミル!!スカートめくって、無理やり足開かないでよ!!!///」ジタバタ

ユミル「………へぇ。お子様でも濡れるんだな」ニヤリ

クリスタ「なっ!?/////」


ユミル「ほら解放してやるよ」

クリスタ「……ユミルの馬鹿……うぅぅ……ぐすっ……///」グスン

ユミル「泣くなって。悪かったな」ヨシヨシ

クリスタ「大っ嫌い。あっちへ行ってよ…///」グスン

ユミル「はぁ…、やっぱり気にしてるのか。…まだなこと」

クリスタ「…知ってるくせに…そのこと言われるの嫌だって…///」グスン

ユミル「…まぁお前は体が小さいんだし、人より遅くったって不思議はないさ」

クリスタ「でももうすぐ15歳だよ。病気なのかな…」

ユミル「大丈夫だって。放っときゃ嫌でもくるって」

クリスタ「……こんな子ども、マルコは嫌かな……」

ユミル「嫌なわけないじゃん。むしろ小躍りして喜ぶんじゃね?ちょっと変態入ってそうだし」

クリスタ「変態じゃないもん。紳士だもん」


ユミル「言っとくが、さっきの本はジャンのもんだ。私に貸すぐらいだから、マルコは確実に読んでるだろうな」

クリスタ「そんなことない!マルコはあんな本絶対に読まない」

ユミル「紳士だから?」

クリスタ「そう。マルコはあんな下品なものに興味ないもん」

ユミル「ばーか。いくら好青年のふりしてても、あの年頃の男の頭の中はああいうことでいっぱいなんだよ」

クリスタ「マルコは違うよ」

ユミル「…お前さぁ、そんなに否定してやるなよ。マルコが気の毒になってきた」

クリスタ「だって…」

ユミル「そのうちあいつだって本性剥き出しにして襲いかかって来るだろうよ。まぁ、その時は必死で逃げろ」

ユミル(今のところ私の刺した釘が効いてるみたいだけどな…)

クリスタ「襲いかかるって…。あの本の内容みたいに?」

ユミル「そうだ」


クリスタ「あのね…、ユミル。教えて欲しいんだけど…」

ユミル「何?」

クリスタ「ああいうことは…、その、世間一般では普通に行われていることなの?///」

ユミル「……?」

クリスタ「だから、…みんなしてることなの?///」

ユミル「ちょっと待て…。えっと……クリスタは子どもの作り方ぐらい知ってるよな?」

クリスタ「…男の人と女の人が愛し合ったらできるって聞いたことはあるけど…///」

クリスタ「…具体的にどうするかは知らないよ…///」

ユミル「あぁ、そっか。お前ここに来るまで同年代の友達いなかったんだよな…」

クリスタ「…友達なんて1人もいなかったよ」

ユミル「知らなくても仕方ないか…。この部屋で猥談することも無かったしな」

クリスタ「猥談?」

ユミル「気にするな。…子どもの作り方ってのは、その本に書いてある通りだ」

クリスタ「…嘘」


ユミル「嘘じゃない。潔癖気味のクリスタには受けいれ難い現実かもな」

クリスタ「…メルヘンではなかったのね…」

ユミル「残念ながら」

クリスタ「…どうしよう。その…マルコがしたいって言ったら…///」

ユミル「断固として拒否しろ」

クリスタ「でも…嫌われたくないよ…」

ユミル「……」ハッ!!

ユミル「なぁ、クリスタ。嫌われないためにも練習しとくか?」

クリスタ「えっ?練習って…」

ユミル「ほら、さっきの本だって最初は女同士でしてただろ?」ガバッ

クリスタ「やだっ、ユミル冗談はやめてよ。早くどいて///」ジタバタ

ユミル「いいのか?上手にできないと嫌われるかもなー」ナデナデ

クリスタ「そ、そうなの?///」

ユミル「そうそう」

ユミル(意外なところで役に立ったな、ジャンの本。また酒でも奢ってやるか)


クリスタ「…うぅ…こういうのっておかしいよね…?///」

ユミル「ふつうだって♪」


ガチャッ!!


クリスタ「!?」ビクッ

ミカサ「…何をしてるのかしら?」スタスタ

ユミル「チッ…見ての通りスキンシップだよ」

ミカサ「誰が入ってくるか分からないのに大胆ね」

クリスタ「ミカサ…。助かったよ…」ヘナヘナ

ミカサ「聞いて、クリスタ。エレンからデートに誘われた///」

クリスタ「本当!良かったね」


ミカサ「クリスタのおかげ。ありがとう」ナデナデ

ユミル「…惜しいな…あと一歩だったのに…」

ミカサ「…ん?これは…先日ユミルが笑い転げていた本…」スッ

クリスタ「ミカサ!読んじゃ駄目!」

ユミル「いいぜ、読んでも。その代わり読み終わったらジャンに返しといてくれ」

ミカサ「………」パラパラッ

ミカサ「……分かった。私から返しておこう」パラッ


※ ※ 数日後 食堂 ※ ※

ミカサ「ジャン」

ジャン「おっ、何か用か?ミカサ」

ミカサ「ありがとう。すごく勉強になった」スッ

ジャン「何だ?包装紙で包んであるが…。ま、まさか俺にプレゼントか?」

ミカサ「それじゃあ」クルッ スタスタ

ジャン「あっ、おい!……行っちまったな。照れてるのか?可愛いところもあるじゃねぇか」


ライナー「ジャン!!こっち来いよ!!」


ジャン「ライナー声でけぇよ。何か用か?」スタスタ

ライナー「今の見てたぞ。ミカサから何か受け取ったろう?」


ジャン「まぁな。ありがとうって渡された」

マルコ「うーん、何かのお礼?」

ベルトルト「一体何をもらったんだい?」

ジャン「まぁ待てよ。今、取り出すから」ビリビリ

ジャン「………!!!?」

ライナー「ジャン、それは……!?」

マルコ「……どういう経緯かは知らないけどさ。終わったね、ジャン」

ベルトルト「その本がどうかしたの?」

ライナー「あれはジャンの秘蔵の官能本だ。好きな女に読ませるとはな…。ジャンは罵られて喜ぶタイプか?」

ジャン「………ははっ、もう笑うしかねぇな………」グスン

今日はここまで

乙ジャンwwww
もうジャンのライフはZEROよぉ!!!!!!!(´;ω;`)

乙!!
ジャンもうやめてあげてwww

ジャンさんは自ら汚れ役となり
友人の彼女と恋敵の彼女に性知識を教え込むとかもはや聖人(笑)
救いが欲しいところだが負けフラグしか見えない
唯一?立て直しの鍵を握るユミル姉さんは実戦経験豊富な強者ときた
にわかの官能本の性知識(笑)が通用するとは思えんしなあ。うーむ。

てか、コンクールの話よりこっちの話題のが楽しくて
あのそのすいません乙



最初はまとめサイトで読んで、そこからここに来たキッカケのSSなので、大団円(?)に向かってる感じが楽しみでもあり…



ジャン救済してやれwww

>>1です またまた随分間が空いてすみません

レスありがとうございます。ジャンを何とかしたいが…どうやって救済すればいいのか分からないよ

>>503 コンクールつまらないですよね。書いてる本人もやっちまったって絶賛反省中です

>>504 キッカケSSとかすごく光栄です。でも続編がダメダメで申し訳ない


※ ※ 休日 市街地 ※ ※

マルコ(今日はクリスタとお出かけだ)

マルコ(付き合い始めてから、まともに二人で外出したことがないんだよね)

マルコ(つまり、これがクリスタとのラブラブ初デートのはずだったのに……)


クリスタ「もう!邪魔しないでよ!」プンプン

ユミル「そんな怒るなって。クリスタと一緒に外出するの私だって久しぶりなんだからさ」


マルコ(お義母さんが付いて来てしまったよ…)ガックリ


クリスタ「今度の休日はユミルと遊んであげるから。今日はお願いだから帰って」

ユミル「ひでぇな、クリスタ。男ができた途端に女友達には冷たくするのか?そういうの嫌われるぞ」

クリスタ「そ、そういうわけじゃないよ」


ユミル「なら、いいじゃん。マルコだって構わないよな?」

マルコ「…はぁ…もう好きにしなよ…」

ユミル「ほら、マルコもああ言ってるし。いいよな?」

クリスタ「…ごめん、マルコ」

マルコ「いいよ。気にしないで。クリスタの恋人になった以上、ユミルとも仲良くしないとね」

ユミル「いい心がけだな」

マルコ「よろしく、お義母さん」スッ

ユミル「だれがお義母さんだ」パシンッ!!

クリスタ「ふふっ、じゃあどこ行こっか」

ユミル「行き先考えてないのか?マルコ」

マルコ「ユミルが来なかったら、クリスタを僕の家に連れて行くつもりだったんだけど…」

ユミル「ぶっ、もう親に紹介する気か?やめとけって。別れた後、気まずいぞ」ゲラゲラ


クリスタ「違うよ。私がマルコの家に行きたいって言ったの。その…お友達の家とか遊びに行った事ないから」

ユミル「庶民の暮らしぶりを覗いてみたいのか?」

クリスタ「そんな言い方しないでよ」

マルコ(ユミルはクリスタの素性を知っているのかな…)

ユミル「そうだ。服買いに行こうぜ。いつも着てるシャツがヨレヨレになってきたんだよ」

クリスタ「いいね。私も新しい服欲しかったし…。マルコ、ちょっとだけ付き合ってもらってもいい?」

マルコ「ああ、構わないよ」


※  ※  ※  ※

エレン「とりあえず街に出てきたものの…、何をすればいいのかさっぱり分かんねぇ」

ミカサ「私も…。ハンナにデートの手順を聞いてくれば良かった」

エレン「仕方ねぇ。適当に歩くか」スタスタ

ミカサ「そうね」スタスタ

エレン「…うーん…」スタスタ

ミカサ「どうしたの?」スタスタ

エレン「いやさ、男連中はデートってものに興味があるみたいなんだけど、これの何が楽しいんだろうな?」スタスタ

ミカサ「…私はエレンと並んで歩くだけでも十分に楽しい…」スタスタ

エレン「ふーん。まぁミカサが満足してんならいっか」スタスタ

ミカサ「…もう少しゆっくり歩いて」スタスタ

エレン「おっ、悪ぃ」テクテク


ミカサ「今日はたくさんの人で通りが賑わっている」テクテク

エレン「そうだな」テクテク

ミカサ「時々、すれ違う人とぶつかりそうになるくらい」テクテク

エレン「相手をふっとばすなよ」テクテク

ミカサ「私とエレンの間を平気で人が通って行くのが悲しい」テクテク

エレン「混んでるからしょうがない」テクテク

ミカサ「このままではきっとはぐれてしまう」テクテク

エレン「はぁ…、分かったよ」スッ ギュッ

ミカサ「…手を繋ぐのは久しぶり///」

エレン「だな。…ガキの頃は平気だったのに。…今は何だか照れ臭い///」プイッ テクテク

ミカサ「ふふ。こっち向いてよ、エレン///」テクテク

エレン「嫌だ///」テクテク


※  ※  ※  ※

マルコ「ユミルは買い物終わったの?」

ユミル「まぁな。いつもと同じもの買うだけだし。お前は忠犬のごとく店の前で待ってるだけか」

マルコ「女の子の買い物が長いのは知ってるから。僕がいない方が気を遣わずゆっくり選べるよ」

ユミル「へぇ、分かってんじゃん。立ち話もなんだし、あそこのベンチに座って待とうぜ」スタスタ

マルコ「そうだね」スタスタ

ユミル「…さてと、ちょっとマルコに聞きたいことがある」ストン

マルコ「家族構成とか、既往歴とか?残念ながら、年収はまだ確定してないよ」ストン

ユミル「何の面接だよ」

マルコ「お義母さん的には気になるところかなと」

ユミル「…お前、実は相当私のこと嫌いだろ?」

マルコ「滅相もない。どういう手段でジャンを手懐けたのかは聞きたくも無いけど、僕はユミルのこと嫌いじゃないよ」

ユミル「…嫌味な奴」


マルコ「ユミルはジャンに協力させてクリスタの成績を作為的に上げてる」

マルコ「その事をジャンに聞いてもとぼけるだけだし。落ち込んでたはずのあいつがなぜか最近明るくなったし」

マルコ「不正は許さないって言いたいところだけど、見て見ぬふりをしてる僕も同罪だから黙っとく」

ユミル「ああ、そうしといてくれ」

マルコ「で、僕に聞きたいことって?」

ユミル「…クリスタのことどこまで知ってる?」

マルコ「…彼女の素性?残念ながら僕は何も知らないよ」

ユミル「うそつけ。あんなにコンクールを恐がっていたクリスタを出場させる気にさせたんだ」

ユミル「クリスタが内地を恐がっている理由に検討がついてるんだろう?」

マルコ「僕はクリスタが内地の令嬢だろうなっていう予測しかしてないよ」

ユミル「じゃあ、お前の予測ではその内地の令嬢がなぜ訓練兵をやってるんだ?」

マルコ「うーん…、例えば没落貴族の娘で、借金取りから逃げるために訓練兵に紛れて身を隠してる、とか?」

ユミル「能天気な頭だな。本当に知らないのか?」

マルコ「別に知りたいとも思わないよ」


ユミル(…クリスタに近づく人間は不用意に信用できない。壁教のスパイが訓練兵の中に紛れてる可能性もある)

ユミル(だが、教官室でマルコの身辺調査票を確認したが怪しいところは無かったし、こいつは白かな…)

マルコ「考えこんでどうかした?」

ユミル「別に。…そういえばお前、私にちっとも聞きに来ないのな」

マルコ「何を?」

ユミル「クリスタがお子様かどうか」ニヤニヤ

マルコ「…『結局てめぇはやりたいだけか』って罵倒されるのが目に見えてるから聞かないよ」

ユミル「なんだ、つまらん。思いっきりコケにしてやろうと思ってたのに」

マルコ「今までを振り返って見れば、ユミルって隠してる事も多いけど発言には嘘が無いんだよね」

ユミル「じゃあ信じるのか?」

マルコ「まぁね。お義母さんの言うことだし。そうなんじゃないの」

ユミル「あっさりしてるな」


マルコ「だから安心してよ。クリスタの嫌がることはしないから」

ユミル「…ふーん。まぁ、クリスタを泣かせたら強制的に別れさせるけど」スクッ

ユミル「ウチの門限は17時だから、それまでに寮に送り届けるように。じゃあな」スタスタ

マルコ「えっ、帰るの?」

ユミル「工房に行くんだよ。たまたま出がけにお前らと一緒になっただけ。後はよろしく」スタスタ

マルコ「…ああ、それじゃあ」

マルコ「…少しは認めてもらえたのかな。でも17時って…。早すぎだよ門限…」


※  ※  ※  ※

エレン「なぁ、もう手を離していいか?」

ミカサ「なぜ?」

エレン「汗ばんで気持ち悪ぃ」

ミカサ「……」シュン

エレン「そんな顔すんなよ。お前だってベトベトしてやだろ」

ミカサ「エレンの汗なら平気」

エレン「…そんなお前が俺はやだよ。手、離すぞ」パッ 

ミカサ「……」シュン

エレン「ちょっと休憩。あそこのベンチに座ってろよ。何か飲み物買ってきてやるから」

ミカサ「うん」


※  ※  ※  ※

エレン「ほらよ」スッ

ミカサ「ありがとう」

エレン「お前さぁ、もう少し普通にできないか?」ギシッ

ミカサ「何のこと?」

エレン「その…俺への執着心とか…。時々常軌を逸してて恐怖すら覚える」

ミカサ「それは…、エレンを心配してるからであって…」

エレン「頼むから他の奴と同じように接してくれよ」

ミカサ「無理」

エレン「今まで家族だったせいでお前との距離が近すぎてよく分かんねぇんだよ。一旦、他人に戻ってみようぜ」

ミカサ「…他人になりたいなんて…もう私とは関わりたくないってことなの?」

エレン「ちがうって」

ミカサ「そんなに迷惑なの?エレンは私のことが嫌いなの?」


エレン「落ち着けよ。だから…あれだ、…えっと……家族じゃ恋人になれないだろ?///」ゴニョゴニョ

ミカサ「!?///」

エレン「って、以前クリスタに説教されたんだ。あいつお節介だよな…ハハ…///」

ミカサ「…私も同じことを言われた///」

エレン「そういうわけだから、ちょっと距離感を普通に戻そう。そうすれば…」

ミカサ「そうすれば?」

エレン「普通の女子として見れるだろ?」

ミカサ「…それで?」

エレン「それで……さ、もしかしたら恋とかしちゃうんじゃねぇの?って、あーーーもう!!///」ガシガシ

ミカサ「…エレン///」

エレン「くっそ…恥ずかしい…///」

ミカサ「ふふっ、髪の毛ボサボサ///」ナデナデ


エレン「…分かってくれたか?」

ミカサ「うん。…そうだ、これ」ガサガサ

エレン「何?」

ミカサ「じっとしてて…」グルグルグル

エレン「…マフラー」

ミカサ「温かいでしょ?」

エレン「ははっ、そうだな」

ミカサ「エレンのマフラー私がもらっちゃったから…、新しいのをずっとプレゼントしたかった」

エレン「ミカサ、ありがとう…」スッ

ミカサ「…キスは駄目」グッ

エレン「何で?」ムゥ

ミカサ「はぁ…、エレン。たった今、他人に戻りたいって言ったばかりでしょ?」

エレン「…駄目って言われるとしたくなる」グイッ

ミカサ「こらっ…///」ジタバタ



ユミル「はーい!終了!!」


エレン「ユミル!?」

ミカサ「何でここに!?」

ユミル「そこの角曲がったところが工房だろ?忘れたか?」

エレン「あっ、そういえば」

ミカサ「ひたすら歩いてたから、工房の近くに来ているとは気付かなかった」

ユミル「天下の公道でバカップルがイチャついてやがるって思ったら…まさかお前らだったとはな…」

エレン「そうだユミル。教えてくれないか?」

ユミル「は?」

エレン「デートって何をするんだ?」


ミカサ「駄目よ、エレン。そんなことを聞いては。多分ユミルもデートしたことないから」

ユミル「失礼だな。…そんなに暇なんだったら仕事手伝え」グイッ グイッ

エレン「ちょっ、引っ張んなよ」

ミカサ「デートの邪魔は許さない」

ユミル「お前らアルバイトする約束だろ?最近ぜんぜん来ねぇし。ちゃんと働けよ」

エレン「そういやそんな約束してたな」

ミカサ「すっかり忘れてた」

ユミル「はい、デート終了。仕事するぞ」


※ ※ 夕方 街の裏通り  ※ ※

ユミル「よっ、久しぶり」

娼婦A「あら、今日は1人?この前のボウヤは?」

ユミル「別にいつも一緒にいるわけじゃないし」

娼婦A「残念。可愛い子だったからもう一度会いたかったのに」

ユミル「それより、ちょっと教えてもらいたいことがあるんだけどさ」

娼婦A「何?」

ユミル「あんた内地に随分長くいたんだろ?」

娼婦A「10年以上いたわ。若い頃は高級娼婦として名を馳せたもんよ」

ユミル「…この連中のこと何か知ってる?」パサッ

娼婦A「………中央の有力貴族ばかりじゃないか」

ユミル「知ってることがあったらどんな些細なことでもいいから教えて欲しいんだ」


娼婦A「この中の何人かは客として相手した事あるわ。彼らのゴシップネタも聞いたことがあるけど…」チラッ

ユミル「はぁー、やっぱりタダじゃ教えてくれないよな。…いくら?」

娼婦A「んー、あんたから金取るのも悪いしね。代わりにこの間のボウヤをお客として紹介してよ」

ユミル「あいつは駄目」

娼婦A「あら、どうして?」

ユミル「私のお気に入りだから」

娼婦A「ふふっ。あんまりおもちゃにしていじめちゃ駄目よ」

ユミル「まぁ、適当に若い男連れてくるからさ、それで勘弁してよ」

娼婦A「いいわ。最近じじいの相手ばかりでウンザリしてたから」

ユミル「取引成立?」

娼婦A「ええ。何をするのかは知らないけど、知ってる情報は全部教えてあげる」


※ ※ 数日後 食堂 ※ ※

ユミル「ライナーさんよ、ちょっと相談があるんだが」

ライナー「なんだ?」

ユミル「ここ座るぜ」ガタッ

ライナー「お前が俺に話しかけるとは、珍しいこともあるんだな」

ユミル「ああ、生理的に受け付けないからな。できれば近寄りたくない」

ライナー「俺が何をしたっていうんだよ、まったく」

ユミル「いいから、これを見てくれ」バサッ

ライナー「…地図?」

ユミル「そう。内地中心部の市外図だ」

ライナー「…赤い点が5つあるが。これは?」

ユミル「…今度のコンクールで審査員を務める貴族の屋敷」

ライナー「お前…、食堂なんかで話せる内容なのか?」キョロキョロ

ユミル「大丈夫。そんなに過激なことをするつもりは無いから」

ライナー「本当か?」


ユミル「人間生きてればいつ不幸な事故が起こるか分からないだろ?」

ライナー「十分過激じゃねぇか」

ユミル「最近、空気が乾燥してるから焚き火をしたらよく燃えるだろうね」

ライナー「俺に火を起こせと?」

ユミル「キャンプファイヤーは得意だろ?」

ライナー「ユミル、冷静に考えろ。例えばこの赤い点のどこかで偶然不幸が起こって屋敷の主が亡くなったとする」

ライナー「だが、そいつの代わりに別の審査員がたてられるだけだ。危険を冒す価値は無ぇな」

ユミル「やっぱりそう思う?」

ライナー「ああ。もしやるんだったらコンクール当日しかねぇ。けど…」

ユミル「疑いの目はウォールローゼ内の訓練兵に向けられるだろうね」

ライナー「コンクールに出場するクリスタ達が厳しい尋問を受けるだろうな。お前はそれでもいいのか?」

ユミル「全然よくないね。あー、もう。何か良い手はないかねぇ…」

ライナー「こういう時こそ参謀に意見を聞くべきだろ。……どこにいるかな……」キョロキョロ

ライナー「おーい!!アルミン、ちょっとこっちに来てくれ!!」


ユミル「アルミンね…。できれば巻き込みたくないんだけど。汚れ仕事には反対するだろ?」

ライナー「心配するな。見た目の可愛いらしさに騙されがちだが、実際はかなりゲスい…はずだ」

アルミン「何か用?ライナー」スタスタ

ライナー「お前に相談があるんだ。とりあえず座れ」

アルミン「うん」ガタッ

ユミル「例の貴族審査員をコンクール当日に参加できなくする方法を考えてんだけどさ…」

ライナー「この地図の赤い点が奴らの屋敷だ」

アルミン「…屋敷の位置だけじゃなんともね。他に情報はないの?」

ユミル「あるぜ。けどかなり下世話な内容になるからさ。…アルミンに聞かせていいものかどうか…」

アルミン「ははっ、大丈夫だよ。ライナーに鍛えられてるからその手の話は平気だよ」

ユミル「分かったよ。話してやるから、ちょっと場所を変えようか」


※  ※ 第三音楽室 ※  ※

ユミル「…以上だ」

アルミン「…予想を上回る濃さだね」クラクラ

ライナー「情報の出所は?」

ユミル「街の娼婦」

ライナー「あー、なるほどな。道理でそっち系の話に偏ってるわけか」

ユミル「あまり役に立ちそうな情報じゃなくて悪いな」

アルミン「いや、貴族の風貌とか性癖なんて普通僕たち訓練兵が知りえる情報じゃないからね」

アルミン「上手く利用すれば疑いの目をこちらに向けずに、1人ぐらい当日不参加に追い込めるかもしれない…」

ライナー「本当か?さすがアルミンだな」

アルミン「ちょっと考える時間をくれるかな。まだ頭の中で上手くまとまらないや…」

ユミル「もちろんいいぜ。ゆっくり考えてくれよ」

アルミン「ありがとう。それじゃあ、寮に戻ろうか」

ライナー「そうだな」


※ ※ 講義棟廊下 ※ ※

ミーナ「なんか…妙な気分になるね…」

ハンナ「うん。何とも言えない感じ…」

トム「これはある意味インスピレーションが湧くね…」

ミーナ「うわっ、トムいつからそこに」

トム「ちょっと前から。一緒に体育座りして並んでたよ」

ハンナ「気付かなかった。ごめんなさい」

トム「いいよ。僕、影薄いから」

ミーナ「何をしにここへ?」

トム「絵に煮詰まったからピアノの音を聴こうと思って。そしたら二人が音楽室前に座ってた」

ミーナ「だって、教室から聞こえてくる声が気になっちゃって…///」



マルコ「ちょっ、エレン出るの早いって」

エレン「だって待てねぇよ」

マルコ「もう少し我慢してよ」

エレン「マルコに合わせるの無理」

マルコ「僕がエレンに合わせたらどんどん速くなっちゃうよ」

エレン「その方が気持ちいいじゃん」

マルコ「駄目だよ。緩急つけてじっくりとね」



ハンナ「…これって連弾っていうものの練習なのよね///」

ミーナ「おかしい。言ってることが何かおかしい///」

トム「うーん。声だけ聞いてるとこんなイメージだよね…」サラサラ

ハンナ「スケッチブック…」

ミーナ「何か描きはじめちゃった…」


トム「こんな感じかな」スッ

ハンナ「どれどれ……!?///」

ミーナ「ぶほっ!?///」

トム「へ、変だったかな…?」

ミーナ「グッジョブ!!トム最高///」パチパチパチ

ハンナ「じ、人物画上手なんだね。その…表情とか体勢とか…リアルすぎて…///」

ミーナ「トム、これ別の人でも描けたりするのかなぁ…?///」

トム「いいよ。誰にしようか?」

ミーナ「えっとね、えっとね…、ジャンとエレンとか…///」

トム「分かった」サラサラ サラサラ…

トム「はい、これでどうかな」スッ

ミーナ「…トム、あなた天才だわ///」

ハンナ「でも、こういう絵って、その、描いてて恥ずかしくならないの?」


トム「うーん、裸体をいやらしいものとして考えるからそういう風に感じるのであって…」

トム「単なる芸術的対象と思って見れば、肉体ほど優れた造詣はないと思うよ」

ミーナ「その通りよ。私も芸術として見てるから。だから、その絵をぜひとも私にちょうだい///」

トム「いいよ。僕が持ってても仕方ないから」ペリペリ スッ

ミーナ「ありがとう!!これで彼氏がいなくても何だか頑張れそうな気がする!!」

ハンナ「ミーナ…」

アルミン「ねぇねぇ、廊下で一体何を騒いでるの?」スタスタ

ミーナ「あ、あははっ、何でもないよ」アセアセ

ユミル「ん?今何か背中に隠しただろ?見せろよ」

ミーナ「や、やだよ」アセアセ

ライナー「トム、ミーナは一体何を隠してるんだ?」

トム「僕の描いた絵だよ」

ミーナ「ちょっ!!何で言うのよ!!///」

トム「だって隠す意味が分からないから。ただのヌードデッサンみたいなものなのに」


ライナー「ヌードデッサン…!?」

ユミル「へぇ、おもしろそうだな。どんな絵だ?」

トム「さっき最初に描いたやつはまだスケッチブックにあるけど。見る?」

ライナー「ああ、ぜひ見せてくれ///」

トム「はい」パラッ

ユミル「ぶっ!?ぎゃはははは。お前、何描いてんだよ」ゲラゲラ

ライナー「…………男同士の絡みって………。期待した俺が馬鹿だった」ズーン

アルミン「これって、エレンとマルコだよね…?」

トム「そうだよ。結構似てるでしょ?」

アルミン「トム、ちょっとこっち来て」グイッ

トム「えっ、どこ行くんだよ」ズルズル

アルミン「ユミルとライナーもさっきいた教室に戻ろう」スタスタ

ライナー「何か名案が浮かんだのか?」スタスタ

アルミン「ああ。まだ思い付きの段階だけどね」スタスタ


※ ※ 第三音楽室 ※ ※

アルミン「…ねぇ、男同士じゃなくてもこういう絵ってトムは描けるのかな?」

トム「それは、男女でってこと?それとも女性同士?」

アルミン「その…男女で///」

ユミル「はっ…単にそういう絵が欲しいだけか。馬鹿馬鹿しい」

アルミン「違うよ。今浮かんでる案を成功させるためには必要なことなんだよ///」

トム「ごめん。女性のヌードデッサンってしたことないからうまく描けないんだ」

アルミン「想像でも?」

トム「僕はできるだけリアリズムを追求したいから。想像では嘘っぽくなるだろ?」

アルミン「そう…。困ったな…」

ライナー「アルミン、トムが裸の女を描けるって前提で、お前の案を教えてくれないか?」


アルミン「いいよ。えーと、さっきのユミルの話だと、A卿とB卿は派閥争いをしていて昔から仲が悪い」

アルミン「で、A卿は王都でも有名な好色家で稀代のマゾヒストとして名を馳せている」

アルミン「一方、B卿は篤実温厚な人柄だが、奥方が病的な遊び人で夜毎サロンに出かけては男漁りに夢中である」

ユミル「そうだ。その二人は利用できそうだが…。私には上手い方法が思いつかない」

アルミン「簡単だよ。コンクール当日の朝に、A卿とB卿の奥さんのスキャンダルをでっち上げればいいんだ」

アルミン「貴族なんて外面ばかり気にして生きてるんだろ?世間体を失えば表に出てくる勇気は無いはずだ」

ライナー「確かにてめぇの妻を寝取った相手には、すぐに会いたくねぇだろうな」

ユミル「A卿にしたって事実無根のゴシップだとしても、B卿の報復を恐れるだろうね」

アルミン「そのゴシップをいかにセンセーショナルに広めるかが、今回の作戦で一番重要な部分なんだ」

ライナー「なるほど!A卿とB卿の奥さんの絡み絵をビラにしてバラ巻く気か?」

アルミン「そんなところかな」

ユミル「アルミンは本当に悪い子だね。見直したよ」ナデナデ


アルミン「へへ、ありがとう。でもここには印刷機なんてないからビラは無理かな…」

トム「そうだね。木版画で手刷りのポスターでも作るしかないね。人手があればかなりの部数を作れると思う」

ユミル「そうなると問題は…」

ライナー「トムが裸の女を描けないってことだけだな。…ユミル、ここはお前が脱ぐべきだろう」

ユミル「はっ、やなこった」

トム「それにマゾヒストがどういうものなのかも、僕にはよく分からないよ」

ユミル「ライナー、出番だぜ。教えてやりなよ」

ライナー「人を変態扱いするな」

アルミン「困ったな…。そういう現場を実際に見れれば一番手っ取り早いんだろうけど…無理だよね…」


ユミル「…ライナーさんよ」

ライナー「何だ?」

ユミル「三十路の色っぽいお姉さんってアリ?ナシ?」

ライナー「俺は守備範囲の広さには定評があるぞ」

ユミル「よし決まりだな。次の休日、この面子で飲みに行くぞ」

アルミン「えっ、急になんで?」

ユミル「いいからいいから。あっ、トムはスケッチブック忘れるなよ」

トム「う、うん…」

ライナー「…ユミル、俺には嫌な予感しかしねぇんだが…」

ユミル「大丈夫だって。心配すんな、男だろ?」

今日はここまで。続きは後日

乙!
三十路の色っぽいお姉さんってやっぱり…www
続きも楽しみにしてる

いきなりここにきてライナーフラグがおっ立った
そして一番カワイソスな存在になるのかな(笑)
ジャンさんを上げるのが難しいなら他を下げればいいという事ですね
はい簡単な算数です納得。

真面目な話の中にあるから面白いのであり
反省する必要などありません。まあしてないと思いますが(笑)
とても楽しみにしてます。
後日に期待乙

>>1です レスありがとうございます

>>538 期待させてしまったようで、すまぬ。ユミル姉さんじゃないのだよ

>>539 これ以上話を広げたら収拾がつかないので、ライナーフラグはへし折りました


※ ※ 休日 連れ込み宿 ※ ※

ユミル「無理言って悪いね。追加料金はきっちり払うからさ、そこの大男が」

ライナー「俺がか!?」

ユミル「当たり前だろ。イイ思いをするのはお前なんだ」

ライナー「いや、むしろ屈辱的な気分なんだが…」

娼婦A「まぁこっちは仕事だから、金さえもらえれば何でもするけどさ。…本当にいいのかい?」

ユミル「ああ。A卿との麗しい思い出をできるだけ忠実に再現してほしい」

娼婦A「で、このボウヤたちは…見学?」

ユミル「そう。こいつは絵の練習。で、金髪のそいつは……何でいるんだ?」

アルミン「知らないよ。ユミルが連れてきたんじゃないか」

ユミル「悪い、そうだったな。アルミンは帰ってもいいぞ」

アルミン「ひどいな。ここまできて帰れとか言うの?」


ユミル「だってさ、他人の濡れ場なんて普通見たくないだろう?」

アルミン「…そ、そりゃあ、ちょっと嫌だけど。でもどんな知識でも無駄になることはないと思うし…」ゴニョゴニョ

娼婦A「別に私はギャラリーが何人いようと構わないよ。むしろこんな可愛い子に見られるなんてゾクゾクしちゃう」

ユミル「だそうだ。良かったなアルミン。あとこのお姉さんは節操無いから貞操は自分で守れよ」

ライナー「ユミル、俺にはやっぱり無理だ。他の奴に頼んでくれ」

ユミル「はぁ?ここまで来といて逃げんのかよ。ライナーさんともあろう男が」

ライナー「何も知らせずに連れてきたのはお前だろうが」

ユミル「ライナーなら平気だと思ったんだよ。こういうの日常茶飯事だよな?」

ライナー「お前は俺がどんな生活を送ってると思ってんだ…」

ユミル「そう暗くなるなよ。武勇伝が一つ増えると思って気楽にやれよ」

ライナー「くっそ、なんだこの状況は…」


ユミル「あっ、もしかして私が見てたら恥ずかしいとか?心配するな、私は撤収するから」

ライナー「…そこの二人も絵が描けたらすぐに出てってくれ」

トム「もちろんだよ。僕はデッサンがしたいだけで、変態プレイには興味ないから」

アルミン「僕はトムを1人で残すのが心配だから付き添うだけだし…」

ユミル「じゃあ、隣の酒場で待ってるから。姉さん、後はよろしくな」

娼婦A「ふふ、任せといて」

ガチャ バタンッ!!

娼婦A「じゃ、はじめよっか」

ライナー「お、お手柔らかに…」


※ ※ 二時間後 酒場 ※ ※

ユミル「お疲れさん。どうだった?」

トム「たくさんデッサンできたよ。これならリアルな絵が描けそうだ」

ユミル「良かったな」

トム「それにお姉さんにA卿とB卿夫人の容姿を詳細に教えてもらったから、かなり実物に近づけそうだよ」

ユミル「そうか。…アルミンはひどい顔色だが、大丈夫か?」

アルミン「…直視に耐えない醜悪な光景だったよ…。興味本位で見るんじゃなかった…」ブルブル

ユミル「だから帰れって言ったのに。馬鹿だな」

アルミン「ライナーの苦悶の表情が夢に出てきそうだ…。痛いよ痛いよって呻いてたよ…」ブルブル

ユミル「おかしいな。手加減するよう姉さんに頼んどいたんだがな…」

アルミン「けどライナーってさ…、勝手に経験豊富だと思い込んでたけど…」

ユミル「ん?違うのか?」

アルミン「いや…何ていうか、妙にギクシャクしてて。ああいうことに慣れていなそうっていうか…」

ユミル「マジで?」


アルミン「ライナーに被虐願望がないから無理をしてるように見えただけかもしれないけど…」

ユミル「そうか?あいつどう見てもMだろ」

アルミン「…もしかしたら…ライナー初めてだったんじゃないかなって……」

ユミル「………いやいやいや、それは無いって」ブンブンブン

アルミン「けどさ、勝手に僕達が経験者と決めつけてただけで、本人の口からは何も聞いてないじゃないか」

ユミル「…初めてが衆人環視のSMプレイ?ぶっ、ぎゃはははは、ひでぇなそれ」ゲラゲラ

アルミン「僕たちライナーにすごく悪いことをしてしまったような気がする。後で謝らないと…」

ユミル「本当に嫌なら断るだろ。ライナーが本気を出せば私らなんか振り切っていつでも逃げれたはずだ」

ユミル「けどあいつは自ら進んで汚れ役を引き受けてくれた。あいつの健闘をみんなで讃えてやろうぜ、な」

アルミン「…何きれいにまとめようとしてるんだよ…。ユミルって男子を馬鹿にしすぎだと思う」

ユミル「そう?」

アルミン「男の純情を何だと思ってるんだよ。ライナーだって商売女が初めてとか絶対に嫌だったはずだよ」

アルミン「けどライナーは仲間思いだから僕らが頼ると断れない…。可哀想だよライナーが…」


ユミル「あのなぁ、兵士の中には女も抱けずに死んじまう馬鹿がたくさんいるんだよ」

ユミル「どういう形にしろ、やることやれたら本望だろうよ」

アルミン「それが男を馬鹿にしてるって言ってるんだよ!僕らは性欲だけで生きてるんじゃない!」

トム「アルミン落ち着いて。他のお客さんがびっくりして見てるよ…」

ユミル「はぁ…どうせ好きな女じゃないと抱きたくないとか、きれいごとを並べるんだろう?」

アルミン「そうだよ。それの何が悪いの?」

ユミル「お前のような考えの人間ばかりだったら、娼婦なんて職業は存在してないだろうな」

アルミン「それは…、一部の人間が利用してるだけで…」

ユミル「ふーん、利用ね…。あんまり女を馬鹿にするなよ、アルミン」

アルミン「そんなつもりで言ったんじゃないよ」


ユミル「お前の発言の端々には娼婦への侮蔑が含まれてんだよ」

ユミル「性欲処理に利用するだけ利用するくせに、まるで汚い物を見るかのような目を向ける」

ユミル「商売女が初めてで可哀想?ふざけんな。売女を抱いたらてめぇの体が穢れるとでもいうのかよ」

アルミン「…そうだよ。売女は汚いよ。俗悪で下品で…、僕は絶対に関わりたくない」

ユミル「くくっ…、はははっ」

アルミン「ユミル…?」

ユミル「ああ、そうだ。それが世間一般の娼婦に対する認識だった。アルミンが正しいよ」

ユミル「軽蔑しない人間の方が珍しいんだよな…。つっかかって悪かったね」

アルミン「いや、気にしてないよ…」

トム「あっ、ライナーが戻ってきた」


ライナー「よう、待たせたな」

アルミン「ライナー大丈夫?怪我してない?」

ライナー「はは、心配すんな。あれぐらいどうってことない」

アルミン「でもさ、すごく痛がってたし…、叫び声あげてたし…」

ライナー「あれは演技だ」

アルミン「ふぇっ?」

ライナー「ああいう倒錯的なプレイは役になりきったほうが楽しいんだよ」

アルミン「じゃあ…ぎこちなかったのは?」

ライナー「人に見られてんだ。さすがに俺でも恥ずかしいわ」

ユミル「…今日のお姉さんで何人目だ?」

ライナー「そんなのいちいち数えてねぇよ」

ユミル「…アルミン、これのどこが初めてなんだよ」

アルミン「…僕は現状を正しく認識する能力が欠けているみたいだね…」


※ ※ 一ヵ月後 第三音楽室 ※ ※

アルミン「みんな集まってくれてありがとう」

ジャン「手伝ってほしい仕事があるっていうから来てみたが…、一体何をはじめるんだ?」

ベルトルト「大量の紙とインク…。後は木の板?」

コニー「なんか知んねぇけど、木の板をたくさん渡されてよ。指示書き通りに彫れって言うから彫ってみた」

トム「ありがとう。コニー。君の彫刻刀技術はすばらしいよ。一流の彫師になれそうだ」

コニー「一流のホリシってなんだ?」

ライナー「俺のことだろ」

ユミル「認めるんだ」

アルミン「今日はみんなに摺刷作業を手伝ってもらいたいんだ」

ベルトルト「摺刷作業?」

トム「うん。木版画の多色刷り。版木が10枚あるから、順番に刷ってインクを重ねていくんだ」


コニー「版木とかいうの彫ったけどさ、何の絵だかさっぱり分からなかったぞ」

トム「大丈夫。10枚の版木が組み合わさったら一つの絵が完成するようになってるから」

アルミン「じゃあ、トムの指示に従ってみんなで刷ってみよう」


ワイワイ ガヤガヤ


エレン「なぁ…、お前ら何でこの教室で作業するんだよ」

アルミン「ごめん。だって広い場所が必要だし、女の子には見られたくないし…」

コニー「ふーん、それでサシャとかいねぇんだ。でもユミルはいるじゃん」

ジャン「中身はおっさんだから問題ねぇだろ」

ユミル「そうだな。ジャンみたいに女々しくないしな」

エレン「俺はピアノの練習しなきゃいけねぇんだよ。他の場所でやってくれよ」

アルミン「他って言っても…。クリスタのいる教室は無理だし、マルコは‘恥を知れ’って怒りそうだし」

ユミル「悪ぃな。できるだけ静かに作業するからさ。気にせず練習を続けろよ」

エレン「ったく、しょうがねぇな…」


♪♪♪♪♪♪~♪♪♪~

ワイワイ ガヤガヤ


エレン「やっぱりうるせぇよ!!集中できねぇだろ」

コニー「なんでそんなにカリカリしてんだよ」

ベルトルト「カルシウム不足?」

ライナー「そういや最近ずっと機嫌悪いよな」

アルミン「それはミカサが側にいないのが原因なんだよ」

エレン「アルミン!余計なこと言うなよ///」

ユミル「言われてみれば、最近一緒にいるところを見かけないね」

ジャン「ついに愛想をつかされたか。…やべぇ、もしかして俺のターン?」

ベルトルト「喧嘩でもしたの?」

エレン「いや、そういうわけじゃねぇんだけど…」


アルミン「二人は今、他人ごっこをしてるんだよ」

エレン「だから、言うなよ!!///」

コニー「楽しそうな遊びだな。俺もまぜろよ」

エレン「まざるな」

ライナー「他人ごっこ…。放置プレイ的なものか?」

エレン「違う」

アルミン「一旦距離を置いて、改めてお互いを意識したいんだって。まどろっこしいよね」

エレン「アルミン!!頼むから黙れ!!///」


ユミル「同棲カップルがマンネリ防止のために一旦別居してみる的な?」

ライナー「確かに毎日よりも期間が空いた方が盛り上がるな」

ジャン「はっ、馬鹿馬鹿しい。何でわざわざ遠回りすんだよ。イラつくぐれぇならさっさとくっつきやがれ」

エレン「うるせぇな。てめぇには関係ねぇだろ」

ジャン「ああ、関係ねぇよ。けどな目の前で面白くもねぇ寸劇されたら鬱陶しいんだよ」

アルミン「そうだね。その寸劇にはジャンの出番は無さそうだしね」

ジャン「…はっきり言うなよ、へこむだろうが」

アルミン「ほら、さっさと作業続けようよ。エレンは放っといていいからさ」

エレン「放っとくのかよ」


※ ※ 数時間後 ※ ※

アルミン「みんなご苦労様。とりあえず今日はここまでにしよう」

ベルトルト「インクが乾くのを待たなきゃいけないから、なかなか作業が進まないね」

ライナー「まだ時間はあるし、少しずつやりゃあいいんだろ」

エレン「結局俺も手伝っちまった。なるほどな、貴族審査員を表に出て来れなくする作戦か…」

ユミル「うまくいけば二人欠席だ。そうなれば勝算が少しはあるんじゃないか?」

アルミン「そうそう。調査兵団の例の『巨人賛歌』の人から手紙の返事がきたんだよ」

エレン「おっ、何て?」

アルミン「作曲ありがとうって。すごく感激してくれてたよ」

エレン「いや、それはいいからさ」

アルミン「だよね。五名の軍部審査員枠の内、二名が調査兵団に割り当てられたって」

エレン「で、調査兵団は俺達の味方をしてくれるのか?」

アルミン「うん。貴族なんてクソ食らえだってさ」


エレン「よっしゃ!!すげーいい人だな、その手紙をくれた調査兵って。いつか恩返ししねぇとな」

アルミン「そうだね。僕も調査兵団に入ろうかな…。あっ、それとミカサもハンネスさんから返事をもらったって」

エレン「…俺は聞いてねぇし」

アルミン「しょうがないだろ。他人ごっこ中なんだから。ハンネスさん、一応上官に話しを通してくれたみたい」

エレン「話しただけかよ。相変わらずダメダメ親父だな」

アルミン「絶世の美女が出場するんだったら自分が審査員を引き受けてもいいってその上官は言ってるみたい」

エレン「それは…、俺達の味方なのか?敵なのか?」

アルミン「うーん、美女の味方?」

ライナー「ということは…、作戦がうまくいった場合、貴族寄りが3名、訓練兵寄りが2名、中立が3名…」

アルミン「憲兵団は貴族寄りと見たほうがいいだろうね。だから貴族寄り4名、中立が2名かな」

ユミル「クリスタが出るんだから美女好きのおっさんは味方だろ?貴族寄り4名、訓練兵寄り3名、中立1名だ」

ベルトルト「中立の1人って軍部から選ばれるんだよね。憲兵団から選出されたらどうしよう…」

アルミン「そうなると厳しいよね。一体どこの兵団から出てくるんだろう…」

続きキテルー!

>>540
いや、相手がユミルじゃなくて話をしてた娼婦の姐さんだってのは分かってたよw
ハッキリ書かなかったせいですまんかった


トム「ねぇ、一枚だけ全部の版木を刷ってみたよ。見る?」

コニー「おっ、見せてくれよ。俺の謎の作業の成果をよ」

トム「はい、これが完成形」パサッ

コニー「……なんだよこれ!?///」

ユミル「おっ、なかなかいい出来じゃないか」

ベルトルト「…発禁レベルだね」

ライナー「さすが俺をモデルにしただけはある」

エレン「ぶっ、マジであんなことしたのか?」ゲラゲラ

ジャン「確かに顔は違うが体型はライナーっぽいな」ゲラゲラ

ベルトルト「じゃあ、女性のモデルは……まさかユミル?」

ジャン「違うんじゃね?あいつあんなに乳垂れて、痛っ!!」ギュゥゥゥ!!

ユミル「あれは街の娼婦。ベルトルさんも興味あるなら紹介しようか?」

ベルトルト「い、いや、僕は遠慮しとくよ」

ジャン「くっそ、思いっきり足踏みやがって……ってぇなぁ……」


コニー「お前らひでぇよ。俺にあんなエロいもん彫らせやがって。騙されたぜ、ちくしょう」

アルミン「ごめんよ、コニー。けど木彫りが得意なコニーにしか出来ない仕事だったんだ」

コニー「けどよぉ、俺だけ知らねぇなんて…。仲間外れにされたみたいで嫌だ」

ジャン「大丈夫だ。俺もこの計画知らなかったぜ」

エレン「俺もユミルの乳が垂れてるなんて初耳だぜ」

ユミル「垂れてねぇよ」

ベルトルト「僕もライナーたちがこんな悪事を企んでるなんて知らなかったよ」

ライナー「秘密にしてて悪かった。けどできるだけ内密に事を進めたかったんだ」

アルミン「だからこの事は他の訓練兵にも絶対に内緒にしておいてね。外部に漏れると全て台無しになっちゃうから」


コニー「そうか。ここにいるメンバーだけの秘密か。わくわくしてきたぞ」

ユミル「コニー、絶対に黙っとけよ。お前が一番心配だ」

コニー「分かってるよ。とりあえずサシャに報告だな」

ジャン「全然分かってねぇし」

コニー「だってサシャを仲間外れにするのは可哀想だろ?」

ベルトルト「でもさ、このポスターは女の子には見せれないよ」

コニー「アニだって仲間外れは嫌だぜ、きっと」

ベルトルト「頼むから話さないでくれよ、コニー」

アルミン「とにかく、できるだけ多くポスターを製作しよう。目標は300枚だ」


※ ※ 女子寮 ※ ※

ミカサ「……エレン」ギュゥッ

アニ「…あんた何やってんの?」

サシャ「枕にマフラー巻いて抱きしめてるんです。かれこれ二時間ぐらいその状態ですね」

ハンナ「エレンと他人のふりをするようになって一ヶ月…。よく頑張ってるじゃない。偉いわ、ミカサ」

ミカサ「ハンナ…、私はもう限界。エレンを近くで見たい。エレンと話したい。エレンに触れたい…」

アニ「普通に話せばいいじゃないか」

ハンナ「そうはいかないのよ。今は我慢くらべの最中。先に話しかけたほうが負けになるわ」

サシャ「負けって…。他人ごっこって勝負なんですか?」

ハンナ「そうよ。今後の主導権を賭けた大事な勝負」

ミカサ「もう、私の負けでいい…」

ハンナ「駄目よ、ミカサ。もう少しでエレンが折れそうなんだから」


ミーナ「そういえば、エレンって最近やたらとミカサのことチラ見してるね」

アニ「それ以上にミカサがガン見してるけど」

ハンナ「ここでミカサが他人ごっこをやめたら今までの関係に戻るだけよ。もう少し頑張って」

ミカサ「…せめて3m以内に近寄りたい」

ハンナ「駄目よ。半径5m内には入らないこと」

サシャ「徹底してるんですね。でも他人ごっこですかー。面白そうですね。私もやってみましょうか」

ミーナ「コニーと?」

サシャ「そうです」

アニ「やめときな。サシャに無視されたって、あいつマジ泣きしそうだから」

サシャ「では、みんなでライナーと他人ごっこしましょう」

アニ「それなら賛成」

ミーナ「駄目だって。ただのいじめだよ、それ」


ミカサ「エレーーーーーン!!」ギュゥ!!

ハンナ「はいはい、落ち着いて」ポンポン

ミーナ「しょうがないなぁ、ちょっと待ってて」ガサゴソ

サシャ「机?…もしかしてお菓子ですか?」

ミーナ「違うよ。ほら、これでも見て元気だしてよ、ミカサ」ピラッ

ミカサ「………」ビリビリ

ミーナ「キャアアアア!!私の宝物に何てことするのよ!!信じらんない!?」

ミカサ「こんな不愉快極まりないものは、この世に存在してはいけない」

ミーナ「ひどいよ、ミカサ。テープで貼らなきゃ…」グスン

サシャ「エレンとジャンの絵ですか…」

アニ「…破ったミカサも悪いけど、そんなもの見せるミーナもどうかしてるよ、まったく」

ミーナ「だって…喜んでくれるかなぁって思ったんだもん」グスン


※ ※ 数週間後 第一音楽室 ※ ※

マルコ「コンクールまであと二ヶ月を切ったけど…」

クリスタ「エレン、大丈夫?ひどいスランプだね」

エレン「…気分がのらねぇ…」

クリスタ「陰鬱で抑揚が無く、ひたすら加速していく。聴いてるとすごく不安な気持ちになるよ」

マルコ「自分で原因は分かってるよね?」

エレン「…ミカサがずっと他人のふりを続けるんだ」

クリスタ「そんなにミカサが側にいなくて寂しいんだったら、素直に話しかければいいじゃない」

エレン「嫌だ。なんで俺から話しかけなきゃいけねぇんだよ」

マルコ「つまらない意地の張り合いするなよ。ミカサの手編みのマフラーまで巻いてるくせに」グイッ

エレン「引っ張んな。…マフラー巻けば向こうから寄ってくるんじゃないかって思ったんだよ。なのに全然来ねぇ」

クリスタ「ミカサも頑固なところあるしね…」

エレン「すげぇ恥ずかしいのにマフラーとか巻いて、俺は最大限の譲歩をしてやってんのによ。話しかけろっつーの」


マルコ「子どもの喧嘩みたいだね。仲直りのタイミングがなかなか掴めないって感じかな」

エレン「ガキの頃はさ、ミカサと喧嘩したって気付いたら自然と仲直りしてたんだ」

エレン「今は喧嘩してるわけでもねぇのに、なんでこんなに話しかけづらいんだよ」

クリスタ「でもミカサと仲良くなってくれないと演奏が…。困ったな…」

マルコ「大丈夫。僕に秘策があるんだ」ゴソゴソ

クリスタ「秘策って?」

マルコ「これ」ピラッ

クリスタ「…ピアノリサイタルのチケット?」

マルコ「そう。エレンって耳が良すぎて僕らの演奏の癖までコピーしちゃうでしょ」

マルコ「だから一度プロの演奏を聴いた方がいいと思って。調律師のおじさんにチケットを取ってもらったんだ」

クリスタ「6枚もあるよ」

マルコ「どうせ行くなら人数が多い方が楽しいと思ってさ。取れるだけ取ってって頼んだんだ」


クリスタ「じゃあ、エレンがミカサを誘えばいいのね」

マルコ「そういうこと」

エレン「ピアノを聴きに行くのは構わねぇけど、今はミカサを誘える状況じゃねぇし」

クリスタ「もう!意地っ張り!いいよ、ミカサは私が誘うから」

マルコ「ってことは、エレン、ミカサ、クリスタ、僕…。あと二人、誰を誘おうかな」

クリスタ「あの…、ユミルも誘っていいかな?」

マルコ「いいよ。誘わなくても付いて来そうだから。それじゃあ…僕はジャンに声をかけるよ」

エレン「ジャンかよ。あいつ喧嘩ばっかり売ってくるから面倒くせぇ」

マルコ「そう言うなって。喧嘩するほど仲が良いっていうだろ?ジャンは不器用なだけだよ」

エレン「はぁ…、しょうがねぇな。ジャンと一緒に行ってやるか」


マルコ「ちなみにリサイタルの会場はエルミハ区だから。泊りがけになるよ」

クリスタ「お泊り…」ドキドキ

マルコ「もちろん宿は男女別で部屋をとるから。ご心配なく」

クリスタ「そ、そうだよね…」

エレン「何がっかりしてんだよ」

クリスタ「してないよ///」

マルコ「これでエレンとミカサが何とかなればいいんだけど…」

>>556 分かってましたか。良かったです。正直、自分でもどっちにしようか迷ってたんで…

今日はここまで。続きは後日


※ ※ 第三音楽室 ※ ※

サシャ「……これはエグイですね」

ミカサ「……汚い」

アニ「……チッ」

ベルトルト「コニー!女子には内緒にしといてってお願いしたよね」

コニー「だってよぉ、隠し事とか俺苦手だし。ソワソワしてたらサシャに問い詰められちまって…」

サシャ「仲間はずれは良くありません。なので私がミカサとアニに話しました」

ライナー「軽蔑するならするがいいさ。だがすべてはクリスタのためだ。俺はどんな嘲笑も甘んじて受けよう」

アニ「…笑ってやる気も起きない」

ライナー「遠慮することはないぞ。さぁ俺を罵れ。屈辱的な言葉を浴びせろ。もっと冷たい目で見てくれ、頼む」ハァハァ

サシャ「本物の変態さんになったんですね、ライナーは」

ミカサ「こんな卑劣な手段を取るなんて。アルミンらしくない」

アルミン「ごめん、ミカサ。でも僕はみんなのために頑張っているエレンの努力を無駄にしたくないから…」

ミカサ「エレン…。ちゃんとご飯食べてる?風邪引いてない?座学の勉強真面目にしてる?」


アルミン「それぐらい自分で聞きなよ。ミカサが他人ごっこを続けるから、エレンは絶不調だよ」

ミカサ「…そう。では他人ごっこを今すぐやめなければ」

サシャ「駄目ですよ、ミカサ。ハンナと約束したじゃないですか。エレンが折れるまで他人の振りをするって」

ミカサ「でも…」

サシャ「ミカサが譲歩したら他人ごっこから家族ごっこに戻るだけですよー。恋人ごっこは諦めるんですか?」

アニ「ミカサの好きにさせればいいじゃないか。放っときなよ」

サシャ「そうはいきません。卒業するまでにミカサを幸せにしようってミーナたちと誓ったんですから」

アルミン「女の子たちって恋愛事が本当に好きなんだね」

サシャ「勘違いしないで下さい。私は恋愛には興味ないですよ。ただ幸せなミカサを見たいだけです」

アニ「お節介だね、まったく」

サシャ「私は幸せなアニも見たいですよ」

アニ「…人のことより、あんたが幸せになればいいでしょ」


サシャ「だって私は今のままで十分幸せですから。三食ご飯が食べれて、寝るところがあって、仲間がいる」

サシャ「私なんかがこれ以上望んだらバチが当たっちゃいますよ」

コニー「だよな。俺も愉快な奴らに囲まれて楽しい毎日を過ごせてる。だから幸せだ」

アルミン「まぁ欲を言い出すとキリが無いからね。でも僕もこの穏やかな日々がずっと続けばいいのにって思うよ」

アニ「……そうだね」

ベルトルト「……」

アルミン「とにかくさ。ポスターのこと知られちゃった以上は手伝ってもらうからね」

サシャ「もちろんです」

ミカサ「口は堅いので安心して」

アニ「…仕方ないね」


※ ※ 数日後 ヴァイオリン工房 ※ ※

ユミル「なんだ、ジャンもリサイタルに誘われたのか」

ジャン「悪ぃかよ」

ユミル「まぁ、お前は行ったほうがいいかもな。目の前でミカサとエレンがくっついたら、すっぱり諦められる」

ジャン「マルコにも同じこと言われたぜ。本当にお前らは残酷だよな。公開処刑する気かよ」

ユミル「これ以上ジャンをピエロにしたくないんだろ、マルコは。私は単にお前がへこむのを見たいだけ」

ジャン「つーか、何でエレンとミカサが次の外出でくっつくって前提でお前らは話をするんだよ」

ユミル「あいつら二人ともフラストレーション溜まりまくってるからね」

ユミル「一泊旅行なんかして、何かきっかけを与えればパーンってはじけ飛ぶだろうよ」

ジャン「…はぁ、その現場に立ち会うわけか…」


ユミル「けど、エレンもミカサもつまらない意地を張ってるみたいだし、放っとけば何も起こらないかもしれない」

ジャン「…ムラムラしてるミカサを俺が襲うってのはあり?」

ユミル「お前どこまで自分を可哀想なことにしたいんだよ」

ジャン「だよな。俺はピエロにもなれねぇただの傍観者で終わるんだ…くそっ」

ユミル「傍観者じゃなくて裏方に徹しろよ」

ジャン「裏方って何だよ」

ユミル「お前が恋の導火線に火を付けてドッカーンって爆発させてやるんだよ」

ジャン「恋の導火線って……くくくっ、ばばぁみてぇな言い回しだな」ゲラゲラ

ユミル「うるさいね。最後ぐらい良い人演じて、潔く身を引けよ」

ジャン「…そうだな。あいつらくっつけて、お前ら俺のおかげで幸せになったんだぞって一生言い続けてやる」


※ ※ エルミハ区 ※ ※

ジャン「久しぶりだな。この街来るの」

マルコ「ああ、チャリティコンサートの時以来だね」

エレン「リサイタルって何時からだ?」

クリスタ「えっと…19時開演かな」

ユミル「じゃあ先に宿屋でチェックイン済ませとくか。荷物も置きたいし」

ミカサ「そうね」

クリスタ「宿の予約ってジャンがしてくれたんだってね。ありがとう」

ジャン「それぐらいどうってことねぇよ」

マルコ「エレン、何でそんなにミカサから離れて歩くんだよ」ヒソヒソ

エレン「別にそんなつもりはねぇし」ヒソヒソ

マルコ「ここまで来て意地張るなよ」ヒソヒソ

エレン「…話しかけたら負けだ。俺はミカサに勝ちたい」ヒソヒソ


※ ※ 宿屋 ※ ※

エレン「へぇ、さすが内地。宿屋も立派だぜ」

ユミル「宿屋っていうかホテルだな。おっ、地下にはショットバーまであるみたいだぜ」

クリスタ「ねぇ、受付しに行ったマルコとジャンがフロントで揉めてるみたい」

ミカサ「何かトラブルかしら?」

※  ※  ※  ※

マルコ「ジャン!ダブルを3部屋とか、何考えてんだよ!ありえないだろ!」

ジャン「だってよ、こういう高級な宿は1人部屋か2人部屋しかねぇだろ?」

マルコ「そうだけどさ。1人部屋で予約入れるだろ、普通」

ジャン「二人部屋の方が割安じゃん」

マルコ「だったらせめてツインにしろよ。ダブルって何だよ…」

ジャン「フロントの人も予約がいっぱいで部屋の変更はできないって言ってるし、諦めようぜ」


マルコ「…ジャン、何を企んでるんだ?」

ジャン「…いつまでも店頭にいる可哀想なカブトムシを引き取らせるんだよ」

マルコ「エレンとミカサが素直に同室になるとは思えない」

ジャン「だからさ、マルコ協力してくれよ」

マルコ「協力って?」

ジャン「―――――――――――」ヒソヒソ

マルコ「はぁ!?何言ってるんだ。恥を知れよ。そんなの絶対に嫌だよ」

ジャン「そう言うなって。頼む。この通り」ペコリ

マルコ「………はぁ…最終手段だからね」

ジャン「サンキュ」

※  ※  ※  ※

ユミル「おい、まだ部屋には入れないのか?」

ジャン「待たせて悪ぃ。チェックインは済んだぜ。けど俺の手違いで微妙な部屋を取っちまってさ」

エレン「どういうことだ?」

ジャン「ダブルルームが3部屋」


ユミル「…あからさますぎだろ、裏方さんよ」ボソッ

ジャン「…他にどうしろっていうんだよ」ボソッ

ミカサ「部屋割りは……、クリスタとマルコは一緒でいいんじゃない。残りは男女別で」

クリスタ「そ、そんなの駄目だよ///」

ミカサ「恋人同士なんだから構わないはず」

マルコ「構うよ。二部屋は女の子で使って。男子は一部屋でいいから」

ジャン「マジで?ダブルベッドに野郎三人で寝る気かよ」

エレン「うわっ、最悪」

マルコ「エキストラベッドがあればいいけど。フロントで確認してみるよ」

ジャン「とりあえずさ、荷物置いて移動しようぜ」

ユミル「そうだな。会場に行く前に晩飯食べるんだろ?」

クリスタ「うん。早く出かけなくちゃ」


※ ※ リサイタル終了後 宿屋 ※ ※

エレン「やっぱりプロの演奏は違ったな。マルコより全然うまい」

マルコ「当たり前だよ。あの人たちはピアノでご飯食べてるんだから」

クリスタ「少しは参考になった?」

エレン「ああ。クリスタともマルコとも違う音。弾く人間によってあんなに違いが出るもんなんだな」

ジャン「はっ、俺には誰が弾いても同じ音にしか聴こえねぇけど」

エレン「耳垢溜まってるんだろ。汚ぇな」

ジャン「てめぇこそ知ったかぶりしてんじゃねぇよ!」

マルコ「静かに。他のお客さんの迷惑になる」


ユミル「じゃあ部屋に戻るか。今日はお疲れさん。ほらクリスタ行くぞ」スタスタ

クリスタ「うん。みんなおやすみなさい」スタスタ

ミカサ「それじゃあ、また明日」スタスタ

ジャン「……ユミルとクリスタが同室で、ミカサが1人で別室か。計算通りだな」

エレン「何が?」

ジャン「べっつにー」

マルコ「ほら、僕らも部屋に戻ろう」


※ ※ 男子部屋 ※ ※

ジャン「ダブルベッドふっかふかだぜー」ボヨン ボヨン

エレン「寮のベッドとはわけが違うなー」ボヨン ボヨン

マルコ「…エキストラベッドも予備が無いって言われたし…、狭いけど仕方ないね」

エレン「いいじゃん。寮でも雑魚寝状態なんだし」ボヨン ボヨン

ジャン「良くねぇよ。こんなに窮屈じゃ俺は眠れねぇ」ボヨン ボヨン

エレン「そうか。マルコ、ジャンは床で寝るってよ」ボヨン ボヨン

ジャン「はぁ?何言ってんだ。てめぇが部屋を出て行きゃ済むだろうが」ボヨン ボヨン

エレン「ふざけんな。廊下で寝ろっていうのかよ」ボヨン ボヨン

ジャン「廊下をもう少し歩いてだな、隣の部屋のドアをノックしろよ」ボヨン ボヨン

エレン「嫌だね」ボヨン ボヨン

マルコ「二人ともベッドの上で跳ねるのやめろよ。スプリングが壊れるよ」

ジャン「はいはい。分かったよ」


マルコ「ねぇ、エレン。結局一日中ミカサと口聞かなかったね。どういうつもり?」

エレン「どういうつもりもねぇよ。俺だって話したいぜ。けど、やっぱりなんか癪だし…」

マルコ「何が癪なんだよ。ミカサはずっとエレンのこと気にしてたじゃないか。話しかけてあげなよ」

エレン「なんかさぁ、当初の目的とずれてきちまって…」

マルコ「当初の目的って?」

エレン「…家族から他人に戻って…もう一度ちゃんとミカサのこと考えようと思ったんだけど…」

マルコ「意識しすぎて話しかけれなくなったんだね」

エレン「…ミカサはずっと知らんぷりするしさ…、俺嫌われちまったのかな…」

ジャン「てめぇ…マジで一回死んでこい!」ガシッ!!

エレン「ちょっ、急になんだよ!」

ジャン「誰がどう見たってミカサはずっとてめぇを待ってるだろうが!鈍すぎてイライラするぜ!」

マルコ「ジャン、落ち着けよ。…けど僕もがっかりしてるよ、エレンには」

エレン「なっ、マルコまでなんだよ」


マルコ「どうしてミカサの上に立とうとするんだよ。男なら負けてあげなよ」

エレン「…俺はミカサに負けっぱなしの人生だけど?」

マルコ「じゃあ今回も素直に折れてあげればいいじゃないか」

エレン「負けっぱなしだからこそ、ここは勝ちたいんだよ」

ジャン「お前マジ面倒くせぇ」

エレン「うるせぇな。ジャンには関係ねぇだろ」

マルコ「エレン、とりあえずミカサの部屋に行ってこいよ。二人きりになれば、どっちかが口を開くしかないだろ?」

エレン「えー、やだよ」

ジャン「俺はてめぇと一緒に寝るのは嫌だからな。さっさと出てけ」

エレン「ジャンが出てけばいいだろ。俺は動かねぇから」

マルコ「ふぅー、埒が明かないね」

ジャン「しょうがねぇな………マルコ」クイッ

マルコ「………はぁ………やるしかないね………」

エレン「ん?どうしたんだ?」


ジャン「こっちに来いよ、マルコ」

マルコ「ジャン、駄目だよ。エレンがいるのにさ」

ジャン「いいからいいから」グイッ

マルコ「きゃっ」ボスンッ!!

ジャン「もう待てねぇよ。いいよな?」ガバッ!!

マルコ「ふふっ、エレンが寝るまで我慢しなよ」

エレン「…………おい」ゾワワワワ

ジャン「こういうことだからよ、悪ぃけどこの部屋から出てってくれねぇか?」

エレン「いや……冗談だろ?俺を部屋から追い出すためにわざとやってるだろ、それ」

ジャン「………チッ」(さっさと出て行けよ、馬鹿)

マルコ「やだなぁ、冗談なんかじゃないし…」(やっぱり信じないよね)

ジャン「……見学したいならご自由に」プチッ プチッ

マルコ「こら、ジャン。エレンがいるのにやめてよ」(ちょっ、ボタン外すなよ)

ジャン「相変わらず綺麗な肌してるな」スベスベ

マルコ「そんな…恥ずかしいよ…」(くくっ…。変なこと言うなよ。笑っちゃうだろ)


ジャン「…マルコ」クイッ (よし、エレンは引いてるな。後一押しってとこか)

マルコ「…ジャン」(ちょっ、マジで?やめろよ!顔近づけるな!!)


――チュッ


エレン「……知らなかったぜ。お前らがそんな関係だったなんて……」ゾワワワ

ジャン「いつまでもそこにいるってことは…、エレンも仲間に入るってことだな?」(これ以上は無理だぜ…)

エレン「んなわけねぇだろ!」

マルコ「…エレンも僕を抱いてくれるのかい?」ニジリニジリ

エレン「ひっ!!近寄るな!!」ダッシュ


ガチャッ!! バタンッ!!


ジャン「よし!!追い出し成功!!鍵かけなきゃな」スクッ スタスタ ガチャッ

マルコ「う、うがいしないと…」ヨロヨロ


ジャン「それにしても…くくっ、ぎゃはははは、マルコお前キモすぎ」ゲラゲラ

マルコ「ジャンだって人のこと言えないよ。演技とはいえキスするとか、ぷっ、あははははは」ゲラゲラ

ジャン「悪ぃな。でもファーストキスじゃねぇんだろ?」

マルコ「そうだけど。でも嫌だよ。男とキスなんて」カタン

ジャン「俺だって勘弁だ。けどよ、あれでエレンが出てってくれなかったらお手上げだったな」

マルコ「そうだね。…あれ以上は無理」ガラガラガラ…ペッ

ジャン「無理やり部屋から追い出すことも考えたが、あいつ格闘術だけは得意だし」

マルコ「そうだね。宿で暴れるわけにはいかないしね」

ジャン「俺もうがいしよ」

マルコ「けどさ…ジャンの方こそファーストキスだったんじゃないのか?」

ジャン「ん?ちげぇよ」ガラガラガラ…ペッ

マルコ「……誰と?」

ジャン「内緒」

マルコ「ふーん…。じゃあ聞かない」


ジャン「あっさり引いてくれるんだな」

マルコ「まぁね。見当は付いてるし」

ジャン「何だよそれ」

マルコ「僕はジャンを信じてるから。非道徳的な行動は二度としないでね」

ジャン「…はぁ、バレてるのか…」

マルコ「何となくね」

ジャン「…俺のこと軽蔑するか?」

マルコ「意外だったけどさ。当人同士の問題だし。僕はどうこう言う気は無いよ」

ジャン「…俺さぁ、すげぇ後悔してんだよ」

マルコ「…うん」

ジャン「…あの時さ、俺自分のことで頭がいっぱいで、他人の気持ちなんて考える余裕は無かったんだ」

ジャン「あいつ平気な顔してるけどよ、仲間だと思ってた奴にそういう扱いされたら普通傷つくよな」

マルコ「どうだろう。彼女は僕達よりうんと大人だから。そのへんはうまく消化してるんじゃないかな」

ジャン「実年齢はそんなに違わねぇのにな。俺なんかマジでガキ扱いされるんだぜ、まったく」


マルコ「僕は二人を見てると微笑ましいけど。できる姉と駄目な弟って感じで」

ジャン「……よし、俺は失恋の痛手を姉ちゃんに慰めてもらってくる」スクッ

マルコ「えっ?」

ジャン「ユミル誘って酒飲みに行って来るわ」

マルコ「無理だって。クリスタを1人残してユミルが行くわけないよ」

ジャン「んー、今日はとことん裏方やるって決めたんだ。無理やりにでも連れてくさ」スタスタ

マルコ「ちょっと、ジャン。裏方って何だよ」

ジャン「気にすんな。ちなみに俺は朝までこの部屋に戻って来ねぇから、好きに使っていいぜ」ガチャッ

マルコ「なっ、何を言ってるんだよ///」

ジャン「マルコ、頑張れ。じゃあな」バタンッ!!

マルコ「……本当に行っちゃった。……頑張れって言われてもね……困ったな……」


※ ※ 時間を遡ること少々 廊下 ※ ※

エレン「…あいつらマジでこえぇよ…。部屋戻れねぇじゃん…」ウロウロ

エレン「…本当に廊下で寝るか…。それとも他に宿を探すか…」ウロウロ

エレン「やべっ、財布の入ったかばん、部屋の中に置いてきちまった」ウロウロ

エレン「…っくしゅん。あー、寒ぃ。廊下で一晩過ごすのは無理だな…」ウロウロ

エレン「…ユミルとクリスタの部屋には入れてくれねぇだろうし…」ウロウロ

エレン「はぁ…ミカサのところに行くしかねぇのか…」ウロウロ


※ ※ ミカサの部屋 ※ ※

ミカサ(…結局、今日も話しかけてもらえなかった……悲しい)

ミカサ(ここはやはり私から話しかけるべき……。でも応援してくれているサシャたちの期待を裏切りたくない…)

ミカサ(…今日は近くで顔が見れた。時々視線が合った。エレンの瞳は不満気で怒っているように見えた)

ミカサ(…胸が苦しい。エレンが私のことを意識しているのが痛いほど分かる。あともう少しの辛抱…)


コンコン…


ミカサ(…誰かしら。クリスタ?ユミル?)スクッ スタスタ


ガチャッ


ミカサ「!?」

エレン「………」ポリポリ

ミカサ(…来てくれた。嬉しい。でもすごく気まずそう…)

ラーヌン…


エレン「………」スッ…スッ…スッ…

ミカサ(……ゼスチャーで何かを伝えようとしている……。あっ、紙と鉛筆ね)

ミカサ(…廊下に立たせとくわけにはいかない。とりあえず入ってもらおう)グイッ

エレン「……!!」


バタンッ!!


ミカサ(…テーブルの上に鉛筆と紙を用意しなくては…)ガサガサ

エレン「……」キョロキョロ

ミカサ(…筆談する気ね。用があるなら口で言えば早いのに…)パサッ

エレン「……」ポスン

ミカサ(ソファーに座った。…私も隣に座ろう…)スタスタ ポスン

エレン「……」カキカキ

ミカサ(…何かしら)



『悪い。今日ここで寝させて』


ミカサ(!?///)カキカキ


『なぜ?』

『ジャンとマルコがホモだった』

『意味が分からない』

『とにかく男子部屋は危険だ。あの部屋には戻れない』

『分かった。でも一つだけお願い』

『俺からは口聞かねぇぞ』

『なら出てって』

『ミカサがしゃべれよ』

『みんなとの約束があるので無理』

『約束ってなんだよ』

『エレンが話しかけてくるまで我慢する』


『無理に我慢すんなよ。早く口を開け』

『エレンは私が側にいなくても平気だった?』

『平気なわけねぇじゃん。すっげー顔見たかったし、話したかったし、それに』

『それに?』

『ミカサに触れたかった』


エレン「……///」プイッ

ミカサ(…エレンが真っ赤になって照れている。このメモ用紙は一生取っておこう///)ドキドキ


『キスしてもいいか』

『恋人になってから』

『固いこと言うなって』

『駄目。また流されて曖昧になる』


エレン「………」カキカキカキカキ…

ミカサ(…字ではなく…絵を描き始めた…)

エレン「………」ヘヘン

ミカサ(…キース教官の似顔絵……駄目…ヘタウマすぎて笑いそう…)プルプル


『早く笑えよ。そしたら俺の勝ちで、他人ごっこは終了だ』


ミカサ(…負けられない)カキカキカキカキ…

エレン「…………!?」


『エレン、笑って。恋人になりたいから』


エレン「……ぶっ、くくくっ、何だよこの落書き、ミカサずりぃ」ゲラゲラ

ミカサ「…笑ってくれた///」

エレン「俺の描いた教官の似顔絵に、マッチョな体を付け足してブラジャー描くとか、ありえねぇよ」ゲラゲラ


ミカサ「ふふっ、久しぶりにエレンの笑顔が見れた」ニコッ

エレン「ミカサが笑ってるのも久しぶりだな」ヘヘッ

ミカサ「エレンが側にいないと安心できない。だから不機嫌になってしまう」

エレン「…これからは俺がずっと笑わせてやるよ」

ミカサ「…うん///」ジワッ

エレン「泣くなよ。笑ってるほうが可愛いぞ///」

ミカサ「…エレン、好き///」ポロポロ

エレン「……俺も好きだ///」ギュゥッ

ミカサ「…嬉しい…グスッ…幸せすぎてどうにかなりそう…」ポロポロ

エレン「どうにかなっちまおうぜ」ヨイショ

ミカサ「きゃっ!!ちょっとエレン下ろして!///」ジタバタ

エレン「ぐっ…予想外に重たい…」ヨイショ ヨイショ

ミカサ「…お姫様抱っこの間ぐらい体重にダメ出ししないで」

エレン「ふぅ…やっと到着。そりゃっ!」ポーン

ミカサ「あっ!」ボフン!!


エレン「言っとくけど俺はハンナとフランツみてぇに人前でいちゃつくとか無理だからな」ヌギヌギ

ミカサ「それは分かってる…って、エレン?も、もう脱ぐの?///」

エレン「あと恋人になったところで俺は何も変わらねぇけど、それでいいんだよな」ヌギヌギ ポイッ 

ミカサ「うん。エレンはエレンのままで十分。……だからそんなに勢いよく脱がないで///」

エレン「悪ぃ。すげーしたい///」ガバッ

ミカサ「で、でも…急すぎる…と思う…///」

エレン「これ以上待てねぇ///」


――チュッ


エレン「…駄目?///」

ミカサ「……駄目…じゃない…///」

>>1です。所詮、自己満と開き直りました。 続きは後日

ンな事無ぇよ乙
お前は最高

エレンがかわいい
のでもっとエレンをみたいとおもう

ジャンとマルコ頑張りすぎわろた
ジャンよ

最高です

はじめましたから追ってたけどすごいいいと思う。ベルユミ派だけど俺はこのジャンも好き
コンクールも楽しみだから>>1の帰還待ってる

このジャンには幸せを見せてあげたいと思えるくらいいいやつに見えるわ
期待
支援

>>1です。ご無沙汰しててすみません。実生活の忙しさ&萎えた気力で書けないヨ

レスありがとうございます。何とか完結まで持っていきたい


※ ※ 時間を遡ること少々 クリスタとユミルの部屋 ※ ※

クリスタ「ミカサ1人で大丈夫かな。寂しくないかな…」

ユミル「子どもじゃないんだから平気だよ」

クリスタ「…でも知らないところで1人ぼっちって心細いよ。私ミカサの部屋に遊びに行ってくる」スクッ

ユミル「やめとけって」ガシッ

クリスタ「何で止めるの?」

ユミル「…大人の事情。クリスタはここにいればいいの」

クリスタ「そうやってまた子ども扱いする。私をのけ者にして何か企んでるでしょ?」

ユミル「そう見える?」


クリスタ「だってジャンとコソコソ話してたじゃない」

ユミル「あれはさ、クリスタとマルコを二人きりにしないように相談してただけ」

クリスタ「…別に二人きりになったって、ユミルが心配するようなことは何も起きないよ…///」

ユミル「随分とマルコを信頼してるんだな。けど、あんな腑抜け野郎でも一応男だからさ。用心した方がいい」

クリスタ「…でもマルコって普通の男の子とはちょっと違うみたい…」

ユミル「どういうことだ?」

クリスタ「先日ね、食堂でミーナとハンナとおしゃべりしてる時に――――」


――クリスタの回想――

ミーナ「ねぇねぇ、クリスタってマルコと付き合ってもう3ヶ月ぐらい経つよね」

クリスタ「そうだよ」

ハンナ「何もかもが新鮮で一番楽しい時期よね。いいなぁ、私も戻りたいあの頃に」

クリスタ「そんなこと言ったらフランツが悲しむよ」

ハンナ「いいの、いいの。フランツだって同じこと言ってたし。今、倦怠期なのよね」

ミーナ「旦那の愚痴は後で聞いてあげるから。それよりクリスタの話が聞きたいよねー」

クリスタ「期待されても面白い話は出てこないよ」

ミーナ「またまたー。……どうだった?ちゃんとできた?」

クリスタ「えーと…何のことかな?」

ハンナ「隠さなくてもいいじゃない。初々しいクリスタの話で久しぶりにキュンキュンしたいな」

クリスタ「本当に何を言っているのか分からないんだけど…」

ミーナ「だって交際初日にキスしちゃったんでしょ?」

クリスタ「う、うん///」


ハンナ「その勢いなら………もうしてるよね?」

クリスタ「……してるって、何を?」

ミーナ「もー、クリスタったら察してよー」

クリスタ「???」キョトン

ハンナ「…ミーナ、本当に分かってないみたいよ」

ミーナ「うそっ!?えーと、クリスタ、ちょっと耳かしてね」

クリスタ「いいよ」

ミーナ「―――――――」ヒソヒソ

クリスタ「…………!!///」

ハンナ「やっと理解したみたい」

ミーナ「で、したの?してないの?」

クリスタ「そ、そんなこと…してないに決まってるでしょ///////」

ミーナ「なんで?もう3ヵ月も経つのに?」

ハンナ「……クリスタが嫌がってるとか?」

クリスタ「……嫌がるも何も、そんな状況にならないよ///」


ミーナ「マルコは…その、…しようとしてこないの?」

クリスタ「……う、うん///」

ハンナ「そっか。クリスタは大事にされてるのね。ちょっとうらやましいかも」

ミーナ「いやいや、おかしいって。だって健康な16歳男子だよ。普通彼女ができればすぐ手を出すでしょ」

クリスタ「そうなの?」

ミーナ「そうだよ。男子の頭の中はそういう妄想でいっぱいなんだから」

ハンナ「こら、ミーナ。適当なこと言わないの」

ミーナ「適当じゃないよ。本に書いてあったもん」

クリスタ「…確かにジャンの本でも好きな人とはすぐに…」

ミーナ「マルコってちょっと変わってるのかな…?」

ライナー「ああ、あいつは普通じゃないからな」

ハンナ「きゃっ!急に入ってこないでよ、ライナー」

ライナー「驚かせて悪かったな。面白そうな話が聞こえたんで、つい」


クリスタ「ねぇ、ライナー。…普通じゃないって…どういうこと?」

ライナー「気になるか?」

クリスタ「うん。マルコのことだし…」

ライナー「しょうがねぇな、教えてやろう。けどお前らここだけの秘密にしろよ」

クリスタ「分かったわ」

ミーナ「もったいぶらずに早く教えなさいよー」

ハンナ「何かしら…」

ライナー「いいかよく聞け。…マルコはインポだ」

ミーナ「ぶっ!?///」

ハンナ「ライナー、最低///」

クリスタ「……インポ?」

ライナー「ク、クリスタ、今のもう一回言ってくれ///」ハァハァ

クリスタ「えっ?えっと……イ」ハンナ「言わなくていいから!」

ミーナ「この変態ゴリラ!早くあっちに行きなさいよ!」


――クリスタの回想終了―― 

クリスタ「と、いうことがあったの」

ユミル「安定してるな、ライナーは」

クリスタ「でね、ハンナもミーナも教えてくれないんだよ。イn」ユミル「言うなって!」

クリスタ「何でみんな秘密にするの?言葉にすることさえタブー視される危険な何かなの?」

ユミル「いや…、危険っつーか、まぁ病気の一種だ」

クリスタ「そんな!マルコが病気を抱えていたなんて…」

ユミル(どうせライナーがクリスタに卑猥な言葉を言わせたいがために吐いた嘘なんだろうけど…)

クリスタ「全然知らなかった…。私、マルコに頼ってばかりで…。きっと無理をさせてたんだ…」

ユミル(面白そうだからこのまま放っとこうか…)

クリスタ「ねぇ、ユミル。その病気は命に関わる深刻なものなの?」

ユミル「死ぬことは無いだろうけど、将来的には困るだろうな」

クリスタ「将来が…。一体どんな病気なんだろう。ユミルは詳しく知ってるの?」

ユミル「さぁね。私も症状を実際に見たことは無いからさ。気になるんだったらマルコに直接聞けよ」

クリスタ「そうね…。こういう重大な話は本人から直接聞いた方が良さそう…」


コンコン!!


ユミル「ん?誰だ、こんな時間に」

クリスタ「きっとミカサだよ。寂しくなったのかな?」スクッ スタスタ

クリスタ「どうぞ、入って…」ガチャッ

ジャン「おお!サンキュ」ズカズカズカズカ…

クリスタ「ジャン!?」

ユミル「お前、何しに来たんだよ。つーか勝手に入ってきてんじゃねぇよ」

ジャン「そんなに照れるなよ。俺のハニー」ニジリニジリ

ユミル「……本格的に頭がイカれたか?」スクッ トン・トン・トン…

クリスタ「な、何が始まったの?ダブルベッドを挟んでお互いに隙を窺っている…」

ジャン「おとなしくベッドに横になれよ」ジリジリ…

ユミル「はっ、てめぇを床に沈めてやるよ」トン・トン・トン…


クリスタ「ユミルの軽快なフットワークに対し、ジャンは腰を低く落とし摺り足でユミルを徐々に追い詰めていく…」

ジャン「…ステップからのトリッキーな蹴り技。それがお前のフェイバリットだよな」ジリジリ…

ユミル「…早く間合いに入ってこいよ。タマ蹴り潰してやるからさ」トン・トン・トン…

ユミル「…私には分からない。何でこの二人は戦ってるの…?」

ジャン「ユミル!!愛してるぜ!!」ピョーン!!

ユミル「はぁ!?……ぐっ!!」ドサッ!!

クリスタ「ジャンのフライングタックルが決まった!」

ユミル「ちょっ、お前どけよ!!何考えてんだよ!!」グググッ

ジャン「今からやろう!!すぐやろう!!」ググッ…

ユミル「いい加減にしやがれ!!手ぇ離せ、この野郎!!」グググッ

クリスタ「ユ、ユミルがベッドに押し倒されてる…。これは襲われてる……のかな?」


ジャン「クリスタ!!よく見てろよ!!」

クリスタ「な、何?」

ユミル「ひっ!!やめろよ!!おいっ!!」ジタバタ


――ぶっちゅぅぅぅ


クリスタ「きゃっ///」

ユミル「んーーーーーー!!!!」バタバタ…

ジャン「…ぷはぁっ!!…今の見たろ?そういうことだから。悪ぃんだけど、出てってくれよ」

クリスタ「わ、わかったよ///」クルッ

ユミル「クリス、ふがっ!!ふー、ふぐっ、ふぐっ!!」(口塞ぐんじゃねぇ!!手ぇどけろよ!!)

ジャン「あっ、ミカサの部屋にはエレンがいるからよ。立ち入り禁止だぜ」

クリスタ「あっ………うん///」ガチャッ

クリスタ「そ、それじゃあ、お邪魔しました///」ペコリ


バタンッ!!


ジャン「よし!行ったな!」

ユミル「ふざけんな!!早くどけろ!!」ジタバタ

ジャン「まだ駄目だ。今どけると、ユミルはクリスタのこと追いかけるだろ?」ガシッ!!

ユミル「くっそ…、無駄に馬鹿力出してんじゃないよ…!!」グググッ

ジャン「無理だって。力勝負じゃ女のお前に勝ち目はねぇよ」グイッ!!

ユミル「ちっ…くしょ…、クリスタの前であんなことしやがって!!」グググッ

ジャン「すまん、謝る。けど他にクリスタとユミルを引き離す方法を思いつかなかった」グッ!!

ユミル「他にあるだろ!!少しは頭使え!!」ググッ

ジャン「だってエレンもこの方法で上手く追い出せたからさ、クリスタにも有効かなって」ググッ

ユミル「はぁ?エレンもこの方法って……」グググッ

ジャン「マルコとキスしたらびびって逃げてったぜ。すげぇだろ、俺」

ユミル「……ぶっ、くくくっ…あははははははっ」ゲラゲラ


ジャン「おっ、抵抗しなくなったな。…ほら、離してやるよ」スッ

ユミル「……ふんっ!!」ガスッ!!

ジャン「~~~~~~~ッッ!!!!!」ピクピク…

ユミル「ったく、裏方が目立ってどうする。本当に使えない奴だね」

ジャン「~~~~~~~ッッ」ピクピク…

ユミル「エレンがミカサの部屋に行ったんなら、それでお前の仕事は終わりだろ?」

ジャン 「~~~~~~~ッッ」ピクピク…

ユミル「なんでクリスタとマルコまで何とかしようとしてんだよ」

ジャン「~~~~~~~ッッ」ピクピク…

ユミル「…大袈裟だね。いつまで悶絶してる気だ」

ジャン「………マジ……痛すぎて……気持ち悪ぃ……」グッタリ

ユミル「…顔色悪いな。やりすぎたか…。ほら、立ってジャンプしろよ」

ジャン「……んなすぐに…動けねぇ…よ……バカ……」グッタリ


ユミル「はぁ、しょがないね。汗だくだし。でも潰れちゃいないだろ?」トントン…

ジャン「…もう……お婿に行けない……」グッタリ

ユミル「行くあてないだろ。…………どうだ?落ちた?」トントン…

ジャン「…おう…って、聞くなよ…んなこと…///」

ユミル「よし、仕返しは済んだし。飲みに行こうぜ、ジャン」

ジャン「…あと10分待ってくれ…」

ユミル「あー、まだ動けないか。一応手加減したんだけど」

ジャン「…金的だけは二度とすんな…」

ユミル「はいはい。じゃあ、二度とキスなんかするなよ」

ジャン「…すまん、もうしねぇから。悪かったな」

ユミル「…普通さぁ、売女にキスなんてしないんだぜ」

ジャン「…そうなのか?」

ユミル「…売女が求められるのは穴だけだ。わざわざ薄汚い女に口付けしようなんて物好きはいねぇよ」

ジャン「………」


ユミル「あの時はさ、お前相当飲んでたし、正体不明になってんだろうなって思ってたけどさ…」

ユミル「シラフの状態で売女にキスするとか、世間ズレしすぎだぜ」

ジャン「…別に…俺はお前のこと汚ぇとか思ってねぇし…」

ユミル「…教官と平気で寝る女でも?」

ジャン「そうやって自分を蔑むなよ。枕やってんのはクリスタのためだろ?好きで寝てるわけじゃねぇんだろ?」

ユミル「もちろんメリットがなければ寝たりしないさ。けど逆を言えば目的のためには誰とでも寝れるってことだ」

ジャン「…俺と寝たのも、クリスタの成績順を上げるためだしな」

ユミル「そうだ。誘ってくれて助かったよ、ジャン」

ジャン「…何だよ、それ。ふざけんなよ。俺が誘ったら悲しそうな顔してたじゃねぇか。本当は嫌だったんだろ?なぁ?」

ユミル「本当に何とも思わないんだよ。罪悪感も無ければ、嫌悪感も無い。売女扱いされることにも慣れちまった」


ジャン「違う。お前は売女じゃねぇ」

ユミル「はぁ?人のこと買っといて何言ってんのさ」

ジャン「返品する」

ユミル「……一度ご使用になったものは返品できませんって色んなもんに書いてあるよな」

ジャン「俺は…、お前を買うつもりなんてさらさら無かったんだよ」

ユミル「…の割りに、素直に金払おうとしてたけど」

ジャン「そりゃ…やっちまったことには責任とらねぇととか…、あの場でゴネたら格好悪ぃなとか…」

ジャン「とにかく誘ったのは酒の勢いだけど、俺は売女のつもりでユミルを抱いたんじゃねぇからな」

ユミル「じゃ、何のつもりだよ」

ジャン「………分からん」

ユミル「アホか」


ジャン「だからよ…、なんつったらいいかな…」ガシガシ

ジャン「俺があの晩一緒に過ごしたかったのは、俺の知らない綺麗なお姉さんじゃなくって…」

ジャン「俺の知ってる偉そうなそばかす女だったんだよ」

ユミル「…どういう意味かさっぱりだぞ、それ」

ジャン「だよな。…あーもう、何言ってんだろ」グシャグシャ

ユミル「…復活したみたいだな。飲みに行くぞ」スクッ

ジャン「ん、ああ」ヨイショ

ユミル「ミカサの幸せに乾杯してやろうぜ」スタスタ

ジャン「…俺の健闘も讃えてくれよ」スタスタ

ユミル「そうだな。ジャンがいなかったらあの二人はどうにもならなかったろうね」ガチャッ

ジャン「あー、俺ってすげぇいい奴じゃん」バタン!!

ユミル「…鍵かけてっと…」ガチャガチャ

ジャン「地下にバーがあるんだっけ?」スタスタ ピタッ

ユミル「そうそう…………ん?どうした止まって」スタスタ ピタッ


ジャン「……声が……でけぇんだよ……///」

ユミル「は…?…ってここはミカサの部屋の前……………ぶっ、ドア越しに丸聞こえだな」ククッ

ジャン「…くっそ、何でエレンまで変な声出してんだよ。ミカサの声が聞こえにくいっつーの」

ユミル「放っといて行こうぜ。他人の情事を盗み聞きするなんて悪趣味だぞ」スタスタ

ジャン「……マルコとクリスタは今頃どうしてんだろうな……」スタスタ

ユミル「そうだよ!クリスタ!」ダダダッ ピトッ

ジャン「…思いっきりドアに耳付けてんじゃねぇよ」ククッ

ユミル「…ちっ、何も聞こえないね…」

ジャン「そういうのは悪趣味なんだろ?ほら、行こうぜ」グイッ

ユミル「引っ張んなって。…あいつら部屋にいないのか?」ガチャガチャ

今日はここまで

書き溜めはもうちょいあるのですが…

読み返すとあまりにもマルコが変態すぎたので考え直してきます


変態マルコ見たかった残念

マルコが変態?

…クリスタのパンツ被って

マルコ「フォォォォッ!エクスタシィーッ!!むぅ、潜在能力が解放されたように力が湧いてくる…今なら、どんな曲でも弾けそうだ」

みたいな?

>>1です レスありがとうございます

>>622 変態性をさらけ出すには、まだまだ勇気がないもので…

>>623  やばい。ツボった(笑)

    マルコ「それは僕のおいなりさんだ」

    ブーメランパンツが果たして壁内にあるのか…


※ ※ 街の大通り ※ ※

マルコ「ローゼ内と違って、内地はガス灯のおかげで夜も明るいね」

クリスタ「うん。…マルコ寒くない?上着借りちゃってごめん」

マルコ「いいよ。…こうすれば暖かいし」ギュッ

クリスタ「……///」(肩を抱き寄せられて歩くなんて初めて…)

マルコ「駐屯地近くの街と違って、ここでは誰かに会うことも無いから堂々とイチャイチャできる」

クリスタ「こんな夜中に散歩に連れ出したのはそのため?」

マルコ「あんまり恋人らしいことしてなかったし。星空を眺めながらデートでもしようと思ってさ」

マルコ(…部屋に二人きりで居ると我慢できなくなりそうだし…)

クリスタ「あっ、今日は満月だね」

マルコ「うん。…思い出すな。クリスタにドビュッシーの『月の光』を弾いてダメ出しされたの」

クリスタ「ふふ。だってマルコがすごく甘くロマンティックに弾くから恥ずかしくなっちゃったんだもん」

マルコ「そりゃあ、ね。本気で口説いてたから」

クリスタ「そうだったの?」


マルコ「頼むから落ちてくれって必死になって弾いてた」

クリスタ「あはは。マルコでもそんなこと思うんだね」

マルコ「そうだよ。涼しい顔で悪い事考えるのは得意かな」

クリスタ「…じゃあ今も何か悪巧みしてたりして」ジーッ

マルコ「あっ、分かる?」

クリスタ「もう、何を企らんでるの?」

マルコ「内緒」

クリスタ「えー、気になっちゃうよ」

マルコ「いいから、いいから。あっ、見て時計塔があるよ」

クリスタ「…教えてくれないのね」ブゥー

マルコ「拗ねないで」スッ


――チュッ


マルコ「ほらベンチも置いてあるし、時計塔の前はちょっとした広場になってるみたいだね。少し休憩しようか」

クリスタ「…キスでごまかすとか…ずるいと思う…///」


※ ※ ペンチ ※ ※

マルコ「もうすぐ12時だね」

クリスタ「うん。こんな時間に外にいるのって初めて。なんだかわくわくしちゃう」

マルコ「夜の街って非日常的な感じがして、まるで知らない世界に来たみたいでテンション上がるよね」

クリスタ「そうそう。現実感が無くってふわふわして、ちょっぴり不安。でも楽しい」

マルコ「夜の散歩が気に入ったみたいだね」

クリスタ「うん。また誘ってね」

マルコ「もちろん。…あっ、あの時計塔見て」ゴソゴソ

クリスタ「え?……すごい!お人形が出てきた。カラクリ時計だったんだね」

マルコ「深夜12時に鳴り響くカリヨンの音…」パカッ チャラ

クリスタ「おとぎ話みたいだね。鐘を合図に夢の時間が終わって現実に連れ戻されるの」

マルコ「じゃあ鐘が鳴り終わる前の方がいいね。…ちょっとじっとしてて」スッ


クリスタ「えっ、何?…きゃっ、冷たい…………ネックレス?」チャラッ

マルコ「そうだよ。……って金具を留めるの難しいんだね。もう少し待ってね……」カチャカチャ

クリスタ「ふふっ。いいよ、自分で留めるから」

マルコ「…大丈夫。何とか……よし、できた。まだ鐘は鳴り終わってないね」

クリスタ「?」

マルコ「お誕生日おめでとう、クリスタ」ニコッ

クリスタ「えっ!?」

マルコ「あれ?今日じゃなかった?」

クリスタ「ううん。合ってるよ。けど、私マルコに誕生日を教えた記憶が無いんだけど…」

マルコ「ユミルに聞いたよ」

クリスタ「直接、聞いてくれたらいいのに」

マルコ「それじゃ面白くないでしょ」

クリスタ「ふふ、びっくりした。ありがとう、マルコ」

マルコ「どういたしまして。これで15歳だね」

クリスタ「うん。…あーあ、15歳になっちゃった…」


マルコ「ははっ、まだ歳をとるのを嫌がる年齢じゃないよ」

クリスタ「そうなんだけどね…」

マルコ「どうかしたの?」

クリスタ「ううん。気にしないで。…でも12時ぴったりにプレゼントもらえるなんてちょっと感動かな」

マルコ「ジャンのお節介のおかげだよ。本当は日中に隙を見てこっそり渡す予定だったから」

クリスタ「そうね。後でお礼言わなきゃ。…ふふふっ、さっきのジャンすっごくおかしかったんだよ」クスクス

マルコ「また思い出し笑いしてる。ジャンの奇行は忘れてあげてよ。彼なりに気を遣ってくれたんだから」

クリスタ「そうだよね。笑ったら失礼だね。……何の石かな?このペンダントトップ」

マルコ「ブルームーンストーン。…ダイヤじゃなくてごめん」

クリスタ「そんな。ダイヤなんていらないよ。…ほのかに青白く輝いて本当に月の光みたい。綺麗…」

マルコ「アクセサリーとか詳しくないからさ、お店の人と相談しながら決めたんだけど…気に入ってくれたかな?」

クリスタ「もちろんだよ。一生大切にする」

マルコ「良かった」


クリスタ「でも何でこの石を選んだの?」

マルコ「えっと…、ムーンストーンって別名『恋人たちの石』って言って、彼女に贈ると幸せになれるらしいよ」

マルコ(…身につけてると女性ホルモンのバランスが良くなるって聞いて即買いしたことは黙っとこう)

クリスタ「へぇ。でも今以上の幸せを望んだらバチが当たりそうで恐いな」

マルコ「そうそう。満月の夜にムーンストーンにキスしながら願い事をすると叶うんだって」

クリスタ「本当?」

マルコ「本当かどうかは知らないけどさ、お店のお姉さんが言ってたよ」

クリスタ「…ちょっとやってみようかな。心の中でお願いすればいいんだよね?」

マルコ「多分ね」

クリスタ「えっと…、――――――――――――――」チュッ

     (神様、もう15歳になってしまいました。いい加減オトナにして下さい)

マルコ「はは、真剣な顔してさ、一体何をお願いしたの?」

クリスタ「内緒」

マルコ「…ま、いっか。きっとクリスタのことだから人類の幸福とか世界平和とか願ったんだろうし…」

クリスタ「えっ?そんな期待をされてたの?ごめん、すっごく個人的なお願いをしちゃったよ///」


マルコ「ははっ、冗談。いいんだよそれで。クリスタはもっと自分のために生きるべきだよ」

クリスタ「マルコ…」

マルコ「お誕生日おめでとう。そして生まれてきてくれてありがとう。君と出会えた奇跡に感謝するよ」

クリスタ「…うん。…私もマルコに会えたから、この世界に生まれて良かったって思えるようになったよ…」

マルコ「…生まれて良かった、生きてて良かった。…過去形じゃなくてさ、この先も生きていたいって思ってよ」

クリスタ「…この先?」

マルコ「過去ばかり見ずにさ、未来を見ようよ。僕はクリスタと一緒に生きていきたいから」

クリスタ「……ありがとう」ウルッ

マルコ「うん。…随分と体が冷えてきたね。そろそろ戻ろうか。風邪を引くといけないから…」


※ ※ 宿屋 廊下 ※ ※

マルコ「おっかしいなぁ。ユミルたち部屋にいないみたい」ガチャガチャ

クリスタ「どこか出かけてるのかな?」

マルコ「…困ったな…。ごめん、クリスタ。僕の部屋で待ってって」スタスタ

クリスタ「うん。…どこ行くの?」

マルコ「外出してるならフロントに鍵預けてるでしょ。もらってくるよ」スタスタ


※ ※ マルコの部屋 ※ ※

クリスタ(…そんなに一緒の部屋にいたくないのかな…。ちょっと悲しいかも…)

ガチャッ

マルコ「お待たせ」

クリスタ「どう?鍵はあった?」

マルコ「それが、フロントは鍵を預かってないってさ。あの二人、鍵を持ったまま出かけてるみたい」

クリスタ「そっか…。えっと、じゃあ…」

マルコ「…はぁ…、しょうがないよね。クリスタはベッド使ってよ。僕はソファーで寝るから」

クリスタ「駄目だよ、マルコが風邪ひいちゃう。私がソファーでいいよ」

マルコ「クリスタが鼻水垂らしてたら、僕がユミルにシメられちゃうよ。お願いだから言うこと聞いて」

クリスタ「えっと、それなら…、その…、一緒にベッドで寝ればいいんじゃないかな…///」モジモジ

マルコ「…………///」ピシッ

クリスタ「…マルコ?固まってるよ。大丈夫?」

マルコ「う、うん。…けどね、やっぱりそういうのはよろしくないから、僕のことは気にしないでよ///」

クリスタ「でも…」


マルコ「いいからいいから。ジャンとエレンが荷物を置いたままだから、彼らの上着を布団がわりにするよ」

クリスタ「あっ、そういえば私もカバン部屋に置いてきちゃった…。困ったな…」

マルコ「…そっか。そのまま寝ると服がくしゃくしゃになっちゃうのか…」

クリスタ「うん。明日もこのスカート履くつもりで、着替えを持ってきてないんだ。パジャマはカバンの中だし…」

マルコ「…ちょっと待ってて…」ゴソゴソ

マルコ「はい。僕のシャツで悪いけど、使ってよ。もちろん洗濯はしてあるからさ」

クリスタ「えっ、でも…マルコは?」

マルコ「僕はこのままで大丈夫。あっ、心配しなくてもそのシャツ丈長めだから。その、パンツは見えないはず…///」

クリスタ「やだもう///」

マルコ「部屋出とくからさ。着替え終わったら声かけてね」スタスタ


※ ※ 宿屋 酒場 ※ ※

ユミル「なぁ、ジャン」

ジャン「あ?」

ユミル「お前さ、もうクリスタの成績上げるの手伝わなくていいわ」

ジャン「…何で?まだ10番になってねぇじゃん」

ユミル「ジャンはたいして役に立たなかったからね。あとは私一人で何とかする」

ジャン「はっ、ひでぇな。こっちは順位落としてまで協力してやったのによ」

ユミル「…買う気が無かったんなら、最初から協力なんかするなよ、バーカ」

ジャン「…ユミル…お前ツンデレだったんだな」

ユミル「…もう一回蹴られる?」

ジャン「いやん、マジで女の子になっちゃうからやめて」

ユミル「…やっば、ちょっと萌えたし。残りの人生ジャン子で通せよ」


ジャン「やなこった。それより、協力しなくていいってことは、あれだ、返品を受け付けてくれたんだろ?」

ユミル「返品って表現が合ってるのかは知らないけど、まぁそんな感じ」

ジャン「じゃあ、俺が支払った代金返せよ」

ユミル「はぁ?金はもらってないし」

ジャン「金じゃなくて労働だな。これまで俺が働いた分、今度はユミルに返してもらう」

ユミル「やだね。何が楽しくてお前のために働かなきゃならないんだよ」

ジャン「なんだかんだ言って、ユミルって律儀じゃん。きっと俺の頼みもイヤイヤながら聞いてくれるんだろうなー」ニッ

ユミル「勝手にそう思っとけば」

ジャン「まだ何を頼むかは考えてねぇからよ。そのうちきっちり働いてもらうぜ」


※ ※ マルコの部屋 ※ ※

クリスタ「…ふふっ。マルコのシャツ大きい。太ももまでちゃんと隠れるよ…」スタスタ

クリスタ「もう、入っても大丈夫だよ」ガチャッ

マルコ「…あっ、うん」バタン

クリスタ「これパジャマ代わりに丁度いいよ。このサイズのシャツ私も買おうかな…」

マルコ「…じゃあ、僕はソファーで寝るから」スタスタ

クリスタ「…やっぱりソファーなんだ…」

マルコ「ごめん。…ベッドは無理…///」

クリスタ「…無理って…」

マルコ「…ランプ消すね」フッ

クリスタ「……うん」

マルコ「…お休み」

クリスタ「…おやすみなさい」


――10分後


クリスタ「…グスン……ヒック……うぅ……ヒック…」ポロポロ

マルコ「…クリスタ?」ガバッ

クリスタ「…ヒック……ヒック……」ポロポロ

マルコ「なんで泣いてるの?」スタスタ

クリスタ「…ううん、ヒック、ごめん、なんでもないから、ヒック…」ポロポロ

マルコ「何でもなくないよ。どうしたの?」ボフンッ 

クリスタ「…うぅ…だって、ヒック、私のこと、避ける、グスン、から」ポロポロ

マルコ「避ける?誰が?」ヨシヨシ

クリスタ「…マルコが、ヒック、だから、グスン、悲しいの」ポロポロ

マルコ「…えっと、身に覚えがないんだけど。…僕が何か気に障ることをしたなら謝るよ」

クリスタ「…マルコのバカ、ヒック、鈍感、グスン、うぅぅぅぅ…」ポロポロ


マルコ「…ごめん。本当に分からないんだ。僕が何をしたのかはっきり言ってくれないかな」

クリスタ「…マルコは、ヒック、何もしないよ、グスン…」

マルコ「うん、何もしてないつもりだよ」

クリスタ「違うの…マルコは私に何もしようとしないよ…///」プイッ

マルコ「…え!?///」

クリスタ「…だって、みんながおかしいって…。その…何もないのは…///」グスン

マルコ「いや、それはさ、クリスタを思ってのことで…///」アセアセ

クリスタ「…一緒に寝ようって言ったのに…無理って断るし…///」グスン

マルコ「…僕だってできれば一緒に寝たいけどさ…、そうすると……ほら……ね///」アセアセ

クリスタ「…男の子は普通そういうことをしたがるものだって…。マルコは変わってるって…。そう言われて…」

マルコ「…えっと…」

クリスタ「…私って…胸小さいし…幼児体型だし…。…だから興味ないのかな…」グスン

マルコ「あのさ…、僕も男だから、もちろんそういうことに興味はあるよ。でも…できないっていうか…その…///」

   (…初潮がまだって聞かされたら、誰だって躊躇するよ…)


クリスタ「…できないんだ…。それってやっぱり病気のせいなの?」

マルコ「…え?」

クリスタ「マルコは病気を抱えてるって…」

マルコ「いや、全然健康だけど…」

クリスタ「隠さないで。私には正直に話してよ」

マルコ「何も隠してないよ」

クリスタ「嘘。……マルコはインポなんでしょ?」

マルコ「」

クリスタ「あの…、マルコがインポでも私は構わないよ。ただそのことを隠して欲しくないの」

マルコ「」

クリスタ「けど…インポだと将来的に困るって聞いて…。どうしたらいいのか…」

マルコ「……僕もどうしたらいいのか分からないよ。なんでそうなったの…?」

クリスタ「えっ?そんなインポの原因を私に聞かれても…」

マルコ「あー、もう!!インポインポ言っちゃ駄目!!!」クワッ!!


クリスタ「ご、ごめんなさい。…やっぱり気にしてるんだね…」

マルコ「本当に僕はそんな病気じゃないから。むしろ元気すぎるぐらいだから///」

クリスタ「そっか、良かった」

マルコ「…良かったって…、結構大胆なんだね…///」

クリスタ「え?何が?」

マルコ「何がって…」

   (…おかしいな。さっきから会話が噛み合っているようで噛み合ってない…)


※ ※ その頃 エレンとミカサの部屋 ※ ※


『あー、もう!!インポインポ言っちゃ駄目!!!』


エレン「ぶっ、マルコの奴、何を叫んでんだよ」ゲラゲラ

ミカサ「…思った以上に壁が薄い。大声を出すと隣の部屋に筒抜け…」

エレン「…ってことは、俺たちの声も聞かれてた?」

ミカサ「そんなに大声は出してないつもり。…エレンはうるさかったけど///」

エレン「いや、テンションあがっちまって。ついはしゃぎすぎた///」

ミカサ「ふふ。可愛い」ナデナデ

エレン「子ども扱いするなよ。…なぁ、もっかいしようぜ」

ミカサ「…嫌。何回すれば気が済むの?私はもう眠りたい」

エレン「そう言うなって。ミカサだって気持ちよかったろ?」

ミカサ「…ぜんぜん良くない。痛いだけ」

エレン「…マジ?」ガーン


ミカサ「…ジャンの本ではすごく気持ち良いと書かれていたのに…。期待を裏切られた…」

エレン「何だよ、ジャンの本って」

ミカサ「エレンも借りて勉強したほうがいい」

エレン「勉強って…。もしかして俺は下手くそなのか?」

ミカサ「他の人と比較できないので分からない」

エレン「くっそ…。俺は不器用だから努力しねぇと人並み以上にはできねぇんだよ…」

ミカサ「…」

エレン「だからミカサ、朝まで俺の特訓に付き合ってくれ。頼む」

ミカサ「…嫌よ」

――チュッ

エレン「…駄目?///」

ミカサ「…駄目…じゃない///」


※ ※ マルコの部屋 ※ ※

マルコ「あのさ、その話は誰に聞いたの?」

クリスタ「えっと…ライナーが教えてくれたよ」

マルコ「やっぱりライナーか。…彼の言うことは半分ぐらい冗談だと思ったほうがいいよ」

クリスタ「私、からかわれたんだね…」シュン

マルコ「帰ったら文句言っとくよ。クリスタに変なこと吹き込むなって」

クリスタ「その…インポって何?」

マルコ「だーかーらー、その言葉は禁止」

クリスタ「ごめん。でも誰も教えてくれないの…」

マルコ「くくっ…ははははっ…、意味も分からず話してたんだ。絶対に人前で言っちゃ駄目だからね」クスクス

クリスタ「そんなに笑わないでよ///」

マルコ「…まぁ、人に尋ねるより、医学書を読んだほうがいいと思うよ」

クリスタ「あっ、そっか。最初から自分で調べれば良かったんだね…」

マルコ「あー、何だか力が抜けたよ。…クリスタの前で緊張してたのが馬鹿らしくなった」

クリスタ「ふふ。私も言いたいこと言えてすっきりしちゃった」


マルコ「…こっちで寝ていい?」

クリスタ「うん。……はい、どうぞ」モゾモゾ

マルコ「よいしょっと…、あー暖かい。幸せ」モゾモゾ

クリスタ「やっぱりソファーは寒かったんでしょ?」

マルコ「やせ我慢してた」ギュゥ

クリスタ「きゃっ、冷たい。体が冷え切ってるよ」

マルコ「クリスタはぬくぬく」ギュゥ

クリスタ「ふふ、湯たんぽ代わりにしてもいいよ」

マルコ「…好きだよ」ゴソゴソ

クリスタ「…初めてまともに好きって言ってくれた。…って、どこを触ってるのかな…///」

マルコ「…あのさ、イヤだったらイヤって言ってね。そしたらやめるから…」モゾモゾ

クリスタ「えっと…その…す、するのかな…?///」

マルコ「だって何もしてくれないって泣かれたらさ…。しないわけにはいかないでしょ」モゾモゾ

クリスタ「あんっ…そんなつもりじゃなかったんだけど///」


マルコ「…もう15歳だし、いいよね?」モゾモゾ

クリスタ「…マルコ…んっ…もしかして…っ…私の歳を気にしてたの?///」

マルコ「それもあるけど…。さっき大笑いしてなんか色々吹っ切れた」モゾモゾ

クリスタ「…やんっ、くすぐったいよ…///」

マルコ「ちょっと体浮かせて。シャツ脱がせるから」ヨイショ

クリスタ「あの…マルコって経験あるの?」スルスルッ

マルコ「あるわけ無いでしょ」カチッ 

クリスタ「でも落ち着いてるっていうか、手際が良いっていうか…」

マルコ「そういう風に見えるだけ。かなりいっぱいいっぱいだよ」スルッ

クリスタ「あっ、ブラ取られちゃった///」

マルコ「クリスタこそよくしゃべるね」モゾモゾ

クリスタ「黙ってた方がいい?」

マルコ「うーん、静かだと緊張するから話し続けてよ」モゾモゾ

クリスタ「分かった…んっ…あんっ…そんなとこ触っちゃダメ///」

マルコ「……???」ピチャッ


クリスタ「…マルコ?///」

マルコ「…ごめん///」バサッ

クリスタ「やだ!!布団はがないで!!///」

マルコ「…暗くて分からないな…」カパッ マジマジ

クリスタ「っ!?そんなところ見ちゃやだ!!///」ジタバタ

マルコ「怒らないでよ。布団返すから///」バサッ

クリスタ「…マルコ?」

マルコ「ちょっと待ってね」スクッ スタスタ

クリスタ「な、何?」

マルコ「ランプつけるよ」ボッ

クリスタ「やだっ、恥ずかしいよ…///」アセアセ

マルコ「……やっぱり」

クリスタ「自分の手を見てる…?どうかしたの?」

マルコ「…参ったな…///」フキフキ

クリスタ「…?」


マルコ「こういう時って何て言えばいいのか…///」ウーム

クリスタ「…何で悩んでるの?」

マルコ「おめでとう、クリスタ。…これでいいのかな?///」

クリスタ「えっ?……えっ?」

マルコ「とりあえず、これで応急処置」ポン

クリスタ「…ティッシュ?」

マルコ「今からユミルを探して連れて来るから待っててね」スタスタ ガチャッ

クリスタ「どういうこと?意味が分からないよ…」

マルコ「…パンツ見て///」バタン!!

クリスタ「行っちゃった…。パンツ見てって…何よもう…」バサッ

クリスタ「~~~~~~~ッ!!!?」

クリスタ「…真っ赤…。やだ、シーツにも…///」アセアセ

クリスタ「…ど、どうしよう…。…恥ずかしくてマルコの顔が見れそうにない…////」アセアセ


※ ※ 宿屋の酒場 ※ ※

ユミル「なぁ、ジャン」フゥー

ジャン「…さっきから吸いすぎ。もう二箱目じゃん」

ユミル「ジャンの話がつまんないから、しょうがないだろ?」

ジャン「人のせいにすんなよ。つーかタバコなんて高級品、よく次から次へと吸えるな。もったいねぇ」

ユミル「あぁ、これはもらいもんだからいいんだよ」

ジャン「もらいもんって?」

ユミル「マルコに貢がせた」

ジャン「はぁ?」

ユミル「クリスタの誕生日を教えろって言うからさ、代わりにタバコ買って来いっつったらカートン買いしてきた」

ジャン「あいつお人好しなんだから、あんまりいじめんな」

ユミル「どこが。カートン渡しながら、肺癌って死亡率高いんだよって笑顔で言うんだぜ」

ジャン「さすがマルコ。俺にも一本くれよ」

ユミル「駄目」

ジャン「何だよケチ」


ユミル「最初は遊びで吸ったつもりでも、気付けばやめれなくなるんだよ」

ジャン「癖になるんだ」

ユミル「そうそう。吸ったところで後味悪いだけなのに、どっぷりハマって抜け出せない」

ジャン「…どっかの悪い女みてぇ」

ユミル「ジャンは簡単にひっかかりそうだから気をつけろよ」

ジャン「…もう手遅れだっつーの」

ユミル「…お前また相当飲んでるだろ」

ジャン「悪ぃが今日はまだ頭ははっきりしてるぜ。なんせタマがズキズキして飲んでる場合じゃねぇからな」

ユミル「くくっ…、腫れてたりして。診てやろうか?」

ジャン「セクハラ親父かよ」


マルコ「ユミル!!」タッタッタッ


ジャン「おっ?マルコじゃん。エラい慌ててんな」

ユミル「…クリスタは一緒じゃないのか…」


マルコ「ハァ、ハァ、宿屋の酒場にいてくれて良かったよ」

ユミル「…クリスタに何かあったのか?」

マルコ「そうなんだ。クリスタが…えっと、その……オトナになったんだよ!///」

ジャン「ぶはっ!!」

マルコ「うわっ!!ジャン汚いな。服にかかったじゃないか」

ジャン「いや、お前アホか。わざわざそんなことダッシュで報告しに来なくったってよ…///」

マルコ「違う、誤解だよ!そうじゃなくて…ほら…さ…アレだよ、アレ///」

ジャン「だからアレだろ?…自慢か?…自慢しにきたのか、この野郎」

マルコ「あー、もう、違うんだって///」

ユミル「落ち着けよ、マルコ。クリスタはどこ?」

マルコ「男子部屋にいる。…頼って悪いね」

ユミル「まっ、仕方ないんじゃない?クリスタは女子部屋に連れ帰るからさ、30分ぐらいそこで時間潰してな」


※ ※ 男子部屋 ※ ※

ジャン「……マルコ、生々しいだろ。このシーツの血はよ……」ドンビキ

マルコ「もう、うるさいな。いいからシーツ交換手伝ってよ」バサッ

ジャン「……処女ってこんなに血が出るもんなんだな……///」バサッ

マルコ「だから違うって言ってるだろ?残念ながら未遂に終わったよ///」シャッ シャッ

ジャン「……じゃあ、この血は何だよ?」シャッ シャッ

マルコ「………僕の鼻血」

ジャン「マジで?くくくっ、最低だな、マルコ」ゲラゲラ

マルコ「好きなだけ笑ってよ。ほら、そっち引っ張って」


ジャン「はいはい。…痛っ…!!…これはマジでやばいんじゃ…」カチャカチャ

マルコ「…人前でパンツの中を覗くなよ。何やってんの」

ジャン「………マルコ……すげぇことになっちまった………」ガタガタ

マルコ「何が?」

ジャン「…いつもの倍以上に腫れてるんだが…、俺、死なねぇよな?」ガタガタ

マルコ「…ジャン、そんなに腫れるまでユミルと何してたんだよ…」ドンビキ

ジャン「違ぇよ。蹴られたんだよ。…あー、ズキズキする…。氷かなんかねぇかな…」

マルコ「…くくっ、ははははは、最低だね、ジャン」ゲラゲラ

ジャン「…ぶっ、あはははは、くっそ、俺たちカッコ悪ぃな」ゲラゲラ

マルコ「ははっ、格好悪くても、僕たちは最高だよ」ゲラゲラ

修正前は マルコ「ふへへへへ、ほーら僕はインポじゃないだろ」ボロン って感じでした(汗)

あと、マルコに経血なめさせてたヨ。さすがにマズイと思って削除しました…

今日はここまで。続きは後日

マルコ豹変でも良かったんじゃ?
でもストーリーに影響しかねん可能性もあるのかうーむ乙

>>1さんは話繋げるのが上手くて怖いんだけど
ジャンさんの腫れたアレでアレするとかそういう事考えてないよねw

>>1です

>>655 豹変したマルコはクリスタに嫌われそうだったんで(汗)
   
   さすがに腫れたアレでアレするとジャンさん涙目になっちゃうのでやめました


※ ※ 翌日 ※ ※

ユミル「ほら、さっさと歩け。駅馬車の時間に間に合わなくなるぞ」スタスタ

ジャン「くっそ…動く度にズキズキして早く歩けねぇんだよ」ヒョコ ヒョコ

マルコ「ははっ、今朝見たけどひどいことになってたね。駐屯地戻ったら医務室に行かなきゃ」スタスタ

ジャン「勘弁してくれ。あんなところ医務官の前で出せるかっつーの」ヒョコ ヒョコ

エレン「……俺はてっきりマルコが下なんだと思ってたけど……ジャンが下だったのか」ゾワワワ

ミカサ「……エレン、世の中にはいろんな人間がいるの。差別してはいけない」スタスタ

クリスタ「…下って、どういうこと?」スタスタ

マルコ「な、なんだろうね?上下関係とかかな、ハハ…」スタスタ

クリスタ「……///」プイッ

マルコ(…やっぱり避けられるよね。相当恥ずかしかっただろうから…。後でフォローしないと…)

ジャン「あん?いつ俺がマルコより下になったんだよ。俺とマルコの間には上も下もねぇだろ?」ヒョコ ヒョコ

エレン「……どっちもいけるのか」ゾワワワ

ミカサ「……想像しては駄目」スタスタ


ユミル「くくっ、ひどい勘違いされてるぜ、いいのか?」スタスタ

ジャン「…なんかもう面倒くせぇ。放っとけば誤解もそのうち解けるだろ」ヒョコ ヒョコ

マルコ「まぁ、エレンとミカサはうまくいったみたいだし。汚れ役をやった甲斐があったよ」スタスタ

ジャン「……ミカサ」ヒョコ ヒョコ

ミカサ「何?」スタスタ

ジャン「よかったな」ニッ

ミカサ「…うん。…………ありがとう、ジャン」スタスタ

ジャン「にしてもよ、お前ら二人揃ってひでぇクマだな。朝まで頑張りすぎなんだよ」ヒョコ ヒョコ

エレン「うるせぇよ!…けど、感謝してるぜ。ジャンがホモだったおかげだからな」スタスタ

ジャン「ホモじゃねぇし。…くっそ、いつもみたいにつっかかって来いよ。礼とか言われたら殴れねぇじゃねぇか」

マルコ「…ジャン、最後ぐらい潔く、ね」


ジャン「…ちくしょう、俺がミカサを幸せにしたんだ。…隣に立ってるのは俺じゃねぇけどな」グスン

マルコ「うん。ジャンはミカサのために精一杯やったよ。誇りに思っていい」

ジャン「…ミカサを泣かせたら許さねぇからな!分かったか、この死に急ぎ野郎!」

エレン「…んなこと、お前に言われなくても分かってんだよ」スタスタ

ジャン「あー、マジむかつく…」

マルコ「まぁまぁ。善行は必ず自分に返ってくるさ。次はきっとジャンが幸せになる番だ」

ジャン「…マルコ…こんな俺にも幸せはやってくるのかな…」

マルコ「大丈夫。ジャンは最高にイイ男だよ。自信持ちなよ」ニコッ

ジャン「……一瞬、もうマルコでいいやって思っちまった」

マルコ「ははっ、…お断りだよ」


※ ※ 駐屯地 ※ ※

ジャン「くぁー、やっと着いた」

マルコ「とりあえず、ジャンは医務室行って来なよ」

ジャン「…そうだな。恥ずかしいとか言ってる場合じゃねぇな。…じゃあ行ってくる」ヒョコ ヒョコ

ユミル「ぷぷっ、何度見ても笑えるな、あの歩き方」クスクス

マルコ「…誰のせいだよ」

エレン「俺は寮に戻るぜ。眠くて死にそうだ。じゃあな。おつかれ」スタスタ

ミカサ「待って」ギュッ

エレン「何?」

ミカサ「…その、明日になって、何も無かったことにされると悲しいので…」

エレン「はぁ…、信用ねぇな。さすがにそこまで無責任じゃねぇよ」

ミカサ「…けどエレンはまた曖昧にしそうで不安…」

エレン「んー……」ポリポリ


エレン「なぁ!お前ら聞いてくれよ!」

クリスタ「なぁに?」

ユミル「うるせぇな」

マルコ「どうしたの?」

エレン「これ、俺の彼女。可愛いだろ?」ガシッ

ミカサ「!!///」

ユミル「……ふーん。お前にはもったいないくらいの美人だな」

クリスタ「ふふっ、とってもお似合いだよ」

マルコ「はは、わざわざ紹介してくれてありがとう」

エレン「…これで、いいだろ?じゃあな///」スタスタ

ミカサ「…うん。また後で///」

ユミル「あー、なんだこの初々しさ。見てるほうが恥ずかしい」

クリスタ「ミカサも寮に戻ってサシャたちに報告しないとね。みんな心配してたんだから」

ミカサ「そうね…。では私もお先に失礼する。みんなお疲れ様」スタスタ


クリスタ「じゃあ、私も寮に戻ろうかな…」

マルコ「あっ、待ってクリスタ。ちょっと話が…」

クリスタ「…あの……ごめん///」タタタッ

ユミル「こら、逃げんな」ガシッ

クリスタ「やだ。離してよ、ユミル」ジタバタ

ユミル「一生マルコの顔見ない気か?まぁ、そのほうが私は嬉しいけど」

クリスタ「…だって……だって……恥ずかしすぎてまともに見れないよ……///」

ユミル「じゃあ、顔は見るな。でも話ぐらい聞いてやれよ。ほら、荷物は私が持って返っとくから」

クリスタ「……うぅ……///」

マルコ「ありがとう、ユミル。でも後で何か要求されそうで恐いな」

ユミル「今回だけは特別サービス。クリスタの誕生日教えるだけで、カートンもらっちゃ悪いからな。それじゃ」スタスタ

マルコ「…立ち話も何だから場所を変えようか。音楽室でいいよね」

クリスタ「……うん……」


※ ※ 第一音楽室 ※ ※

マルコ「…とりあえず、ごめん」

クリスタ「…マルコが謝ることな何もないよ…」

マルコ「でも、逃げ出したみたいになちゃったから…」

クリスタ「…びっくりさせたよね…。…もうなんであのタイミングかな…///」

マルコ「気にしないでよ。僕もどうしていいか分からなくって、クリスタを一人残して部屋を出て悪かったよ…」

クリスタ「ううん…ユミルを呼んでくれて助かった。その……初めてきたから……私も動揺しちゃって…///」

マルコ「……うん」

クリスタ「…マルコは知ってたんだね。…‘おめでとう’なんて言ってたし…」

マルコ「…ごめん、軽率な発言だったよね。クリスタを傷つけたのなら謝るよ」

クリスタ「いいの。…マルコにもらったネックレスにね‘早く大人になれますように’ってお願いしたの…」

クリスタ「本当に願いが叶って驚いちゃった…」


マルコ「僕も石の効力なんて半信半疑だったけど…」

クリスタ「…石の効力?」

マルコ「正直に話すとね、その石には女性らしさを高める効果があるって聞いてさ…。それで買っちゃった」

クリスタ「…やっぱり私が子どもみたいだから…」

マルコ「違うよ。その…、クリスタが大人の身体にならないとさ…、どうしても罪悪感があるから…///」

クリスタ「…えっ///」

マルコ「僕はずっとクリスタに触れたいのを我慢してたんだよ。本当は早く君を抱いてしまいたかった///」

マルコ「けど軽蔑されると思ってたから、君に僕の思いを悟られないように平静を装うのは大変だったよ///」

クリスタ「…そうだったの…///」

マルコ「それで、勇気を出していざ手を出してみたものの…、やっぱりうまくいかなくって…///」

クリスタ「…ごめんなさい///」

マルコ「ううん。クリスタのせいじゃないよ。きっと神様が‘お前たちにはまだ早い’って言ってるんだよ」

クリスタ「ぷっ…ふふふっ…神様に邪魔されたら仕方ないよね」クスクス


マルコ「良かった。やっと笑ってくれた。……もう、僕の顔を見ても平気かな?」

クリスタ「…うん。大丈夫。マルコが自分の気持ちを正直に話してくれたから…」

マルコ「はぁ…、紳士じゃないのがバレちゃったね。…嫌いになった?」

クリスタ「…ううん。…大好き///」ギュッ

マルコ「…嬉しいよ。クリスタにやっと好きって言ってもらえた」ナデナデ

クリスタ「ふふっ、何度でも言うよ。…マルコ好き……だーい好き///」ギュゥ

マルコ「…ああ…もう、かわいすぎるよ!///」ムギュゥ!!


※ ※ 数日後 洋裁室 ※ ※

ハンナ「アニ、ごめんね。来てくれてありがとう」

アニ「…用って何?」

ミーナ「じゃーん!!このドレスを着てみて欲しいの」バサッ!!

アニ「…帰る」クルッ

ハンナ「待って。お願い、ちょっと着丈を見たいから…」

アニ「…それ、クリスタのドレスでしょ?本人に着てもらえばいいじゃない」

ミーナ「クリスタには完成するまで見せたくないの。できてからのお楽しみにしたいのー」

ハンナ「アニが一番クリスタと体型が近いから…」

アニ「…私はクリスタほど小さくないし、あんなに華奢じゃない」

ミーナ「いいから、いいから。ささっ、脱いで」グイグイ

アニ「もう、引っ張らないで。…分かったよ。着るよ。でも一瞬だけだからね」

ハンナ「ありがとう。すごく助かるよ」


――数分後

ミーナ「アレ…、おかしいな…」グッグッ…

ハンナ「どうかした?」

ミーナ「背中のファスナーが止まって上がらない…」グッグッ

アニ「…ちょっと苦しいんだけど」

ハンナ「あっ、そのドレスはクリスタのサイズで作ってるから背中は閉まらないかも」

ミーナ「なるほど。アニおっぱい大きいもんね」

アニ「…何それ///」

ハンナ「丈の確認だけだから、背中は開いてても問題ないよ。…ちょっとじっとしててね」

アニ「…分かった」


ガラッ!!


ベルトルト「…アニ?ドレスなんか着て何やってるの?」

アニ「…あんたには関係ないでしょ」


ハンナ「ごめん、ベルトルト。ちょっと外で待っててくれるかな?」

ミーナ「今、ドレスの丈の確認してるの。終わったら声掛けるから、廊下にいてよ」

ベルトルト「あ……うん」


ピシャッ!!


ミーナ「ふぅ…、危ない危ない。アニの綺麗な背中を見られちゃうところだったよ」

ハンナ「えーと…これぐらいの長さでいいかな…。ちょっと裾にマチ針を打っていくから動かないでね」

アニ「…それにしても、この生地すごく高級そうだけど…」

ミーナ「当然だよ。だってハンナのウェディングドレス用の生地だもん」

アニ「…そんな大切な布、他人のために使っても良かったのかい?」

ハンナ「いいの。布なんてお金さえあればまた買えるんだから。でも憲兵団に入る機会はなかなか巡ってこないでしょ?」

ミーナ「ハンナはね、フランツを憲兵団に入団させたいんだよ」

ハンナ「そう。何としてもクリスタにコンクールで勝ってもらって、入団枠を20名にしてもらわなくちゃ」


アニ「…あんまり期待するとさ、あいつらプレッシャー感じるかもね」

ハンナ「やっぱりそうかな…。とりあえずこの布のことはクリスタには黙っておいてね」

アニ「分かったよ」

ミーナ「けどさ、アニって色白だから純白のドレスがすごく似合うね」

ハンナ「うん。とっても綺麗ね。本物の花嫁さんみたいだよ」

アニ「…やめて」

ミーナ「どうして?…そうだ、アニが結婚する時には私たちにドレス作らせてよ」

アニ「…結婚なんかしないし」

ハンナ「今はその気が無くても未来のことは分からないでしょ?」

ミーナ「私たちね駐屯兵団で頑張ってお金を貯めて、一緒に仕立て屋さんを開くっていう夢があるんだ」

ハンナ「何年先になるか分からないけど、アニが結婚式を挙げるまでには実現させたいな」

ミーナ「アニに素敵なウエディングドレスを作れるように腕を磨いとくからさ。…はい、約束」スッ

アニ「…何よ、それ」

ミーナ「指きり。…お互いに長生きして、絶対に幸せになろうね」ニコッ

アニ「………ごめん。そんな約束できないから……」


ミーナ「えー、なんでよー。アニのケチんぼ」プンプン

ハンナ「…よし。マチ針は打てたからドレス脱いでいいよ。針が刺さらないように気をつけてね」

アニ「…もう、いいんだね」ヌギヌギ

ハンナ「ええ。ありがとう。…そういえば、ベルトルトとはあれからデートしてないの?」

アニ「…別にそんなんじゃないし」スルスル

ミーナ「ベルトルトの何が不満なのよ。格好良くって優秀で優しくって言うことないじゃない」

アニ「…格好悪くて馬鹿で冷たいただの変態だよ」バサッ

ミーナ「ん?それって誰の話よ…」

アニ「じゃあ、私はもう行くから」スタスタ

ミーナ「あっ、うん。協力してくれてありがとう」


ガラッ ピシャッ!!


アニ「…もう教室入れるよ」

ベルトルト「…アニ、大丈夫?最近また揺らいでそうだけど…」

アニ「…心配はいらないよ」スタスタ

ベルトルト「待って」ガシッ

アニ「何?」

ベルトルト「…次の壁外調査で調査兵団が不在になった隙に、僕らは行動を起こすから」ヒソヒソ

アニ「!!」

ベルトルト「まだ詳しい日程は決まってないみたいだけど…。アニもそのつもりで覚悟しておいて」ヒソヒソ


アニ「…まだ、早くないかい?そんなに急ぐ必要は…」

ベルトルト「……またトロスト区の下見に一緒に出かけたほうが良さそうだね」ヒソヒソ

アニ「…っ///」

ベルトルト「次の休日でいいよね」

アニ「…私は行かないよ。ライナーと二人で行けば?」

ベルトルト「それじゃあ行く意味が無いよ」

アニ「あいつこそブレまくってんだからハイヒール履かせて正気に戻してやりなよ。…じゃあね」スタスタ

ベルトルト「…アニ…」

今日はここまで。続きは後日


巨人組切ないな。けどまったり系ssみたく馴れ合ってたはずもないだろうしリアルに感じられていい

>>1です レスありがとうございます

>>674 捏造だらけのSSで申し訳ないのに、リアルって言って頂けるなんて。嬉しい限りです

   巨人組は何とか救ってみたいですね…。もちろん104期も


※ ※ 整備室 ※ ※

アルミン「おや、…珍しいね。クリスタが整備室にいるの」スタスタ

クリスタ「うん。整備ってあまり得意じゃなくって…」

マルコ「今までユミルがクリスタの装置まで勝手に整備してたんだって。びっくりしたよ」

アルミン「ははっ。それじゃあ技巧術の成績が伸びないはずだよ」

クリスタ「…おっしゃる通りです。反省してます」

アルミン「で、今度はマルコが手伝ってるの?」

マルコ「手伝ってないよ。教えてるだけ。自分の手で作業しないと、いつまでたっても覚えられないから」

クリスタ「整備とね、技巧術もついでに教えてもらってるんだ。…でも機械的なことはやっぱり苦手」

アルミン「女の子って技巧が苦手な子多いよね。はまるとすごく楽しいのに」

マルコ「そうなんだよね。クリスタも苦手意識ばかりが先行して、なかなか興味をもってくれないし」

クリスタ「…だって…私がいじって壊れちゃったらどうしようって、触るのが恐いんだもん」


ガラッ


アニ「…お邪魔するよ」スタスタ

アルミン「アニも整備?」

アニ「そうだけど」カタンッ

マルコ「アニは偉いよね。こまめに装置の点検してるから」

アニ「当然でしょ。事故りたくないし」カパッ カチャカチャ

クリスタ「…すごく手際がいい。…アニは機械が得意なの?」

アニ「得意も何も…、自分の命に関わることだからさ。嫌いでもやるしかないでしょ」カタッ カタッ

アルミン「アニはさすがだね。本体の内部は手入れされてるから新品みたいだし、外装もほとんど傷がない」

マルコ「立体機動が上手いからぶつけることが無いんだろうね。それに比べて僕のは傷みがはげしいな」

クリスタ「ふふ、私のも傷だらけだよ」

アルミン「いや、へこみの数なら僕も負けてないよ」


アニ「…でも整備の腕は確かだね」カチャカチャ

アルミン「分かる?本体内部の美しさだけは誇れるよ」

マルコ「はは、僕も動かなくなったら困るからメンテだけは欠かさないよ」

アニ「……そう」カタッ

クリスタ「…ここまで傷だらけなら、ちょっとぐらい落書きしても平気かな…」カリカリ

マルコ「こら、クリスタ。駄目だよ、装置本体を釘で削っちゃ…」

アルミン「何を書いてるの?」

クリスタ「…できた。見て見て、馬蹄のマーク」

マルコ「…アルファベットのUにしか見えないけど」

アニ「…何で馬蹄なんか落書きしたのさ」

クリスタ「馬の蹄鉄は悪魔を払い幸運を呼ぶって古くから言い伝えられてるの」

アルミン「へぇ、そうなんだ。巨人除けのお守りになりそうだね」

クリスタ「でしょ。だからみんなにも書いてあげる」


マルコ「ははっ、じゃあ目立たない所にお願い」

クリスタ「うん。…この辺でいいかな…。マルコが巨人に襲われませんように…」カリカリ

クリスタ「はい、どうぞ」ニコッ

マルコ「ありがとう」

アルミン「僕のもお願いしていい?」

クリスタ「もちろん。…えっと、ここでいいかな…。アルミンに素敵な恋人ができますように…」カリカリ

アルミン「やだな、そんなお願いしないでよ///」

クリスタ「ふふ。はい、応援してるよ」ニコッ

マルコ「……」チラッ

アルミン「……」チラッ

クリスタ「……」ジー

アニ「な、なによ、その目は。私には必要ないからね。ただの迷信でしょ」


マルコ「まあまあ、そう言わずにさ」

アルミン「アニだって巨人に襲われたくないでしょ?ちょっと装置借りるよ」ズルズル

アニ「余計なことしないでよ。返して」バッ

マルコ「捕獲!はい、ちょっと大人しくしてて」ガシッ

アニ「あんたねぇ、手ぇ離しなさいよ!蹴られたいの?」ジタバタ

アルミン「いいじゃないか。みんなで同じマークつけてさ、仲間って感じがするよね」

マルコ「そうそう。アニにはもう少し連帯意識を持って欲しいから。君は一人じゃないんだよ」

クリスタ「うん。アニも大切な友達だから。……アニに幸福が訪れますように……」カリカリ

アニ「………くっ」ジワッ

マルコ「…もういいかな?手を離すよ、悪かったね」

クリスタ「はい、どうぞ。背面部に小さく彫ったから人には見つからないはず……って、アニ?どうしたの?」

アニ「…なんでもないよ、早く返して」ウルッ


マルコ「そんなにきつく掴んだつもりは無かったんだけど…痛かった?ごめん」アセアセ

アルミン「それとも大切な装置に傷をつけられたのが嫌だった?勝手に奪ってごめんよ」アセアセ

アニ「…そんなんじゃないから。じゃあね」クルッ スタスタ


ガラッ ピシャッ!!


クリスタ「…どうしよう。余計なことしちゃったかな…」

アルミン「うーん、でも怒ってるようには見えなかったよ」

マルコ「…照れ隠しとか…?女心は難しいね…」


※ ※ 夜更け 食堂 ※ ※

アニ「…寒っ」カリカリカリ…

アニ「…はぁ…こんなことして何になるんだろう…」カリカリカリ…


ユミル「本当だな。何になるんだこれ?」ピラッ


アニ「!!!」ビクッ!!

ユミル「深夜に部屋を抜け出してどこ行くのかと思ったら…。何やってんだお前?」

アニ「…なんでわざわざ気配を消すのさ?普通に来なよ。…あと、それ返して」

ユミル「いいけど、もう読んだから。ほら、返すぜ」スッ

アニ「……」

ユミル「…不幸の手紙を書く趣味があるとはね、根暗だな」

アニ「…放っといて」

ユミル「…しかも調査兵団宛だ。ただのイタズラにしちゃ、タチが悪いんじゃないの?」

アニ「…あんたには関係ないし」


ユミル「…壁外調査を邪魔したいみたいだね。何を企んでるんだ?」

アニ「…何も」

ユミル「アニが素直になってくれないと、うっかりキースさんに報告するかもね」

アニ「そう。私もあんたが若い教官相手に枕やってること、あのハゲにチクっちゃうかも」

ユミル「…やっぱ、バレてた?」

アニ「やめてくれない?同室にビッチがいるとか、気分が悪くてしょうがない」

ユミル「ああ、もうやめたよ」

アニ「…クリスタのためだったんでしょ?今やめていいの?」

ユミル「何だよそれ。やめろって言ったくせに」

アニ「けど…、あっさりしすぎてて気持ち悪い」

ユミル「…まぁ、ね。こんな私のことをビッチじゃないって言い張る馬鹿がいるもんで」

アニ「ぷっ、のろけてるの?あんた男がいたんだ」

ユミル「そんなんじゃないけどね。つーわけで、アニ。クリスタの成績を上げるのに協力してくれよ」

アニ「は?何で私が。お門違いもいいところだね」


ユミル「…その手紙たくさん書く気なんだろ?手伝ってやるからさ」

アニ「…手伝ってなんかいらないよ。だからあんたにも協力しない」

ユミル「あっそ。じゃあこの手紙のことをさ……ベルトルさんに聞いてみようかなー」

アニ「…っ」ビクッ

ユミル「…図星のようだね。あんたらがグルだって確証は無かったんだけどさ」ニヤリ

アニ「……チッ。分かったよ、クリスタと試験で同じ班になった時に便宜を図ればいいんでしょ?」

ユミル「そうそう。素直なアニは可愛いね」

アニ「…その代わり、このことは絶対に誰にも言わないで。…ベルトルトにも」

ユミル「了解。…じゃあ、寒いから私は布団に戻るわ。風邪ひくなよ」クルッ

アニ「そうはいかないでしょ?」ガシッ

ユミル「あ、やっぱり?」

アニ「…はい、あんたのノルマ」ズイッ

ユミル「…腱鞘炎になりそうだね…」

アニ「…文句言わないで、手を動かして」


ユミル「…けどさ、この手紙の文面ひどいな…。お前って文章力無いのな」クスクス

アニ「うるさいね///」

ユミル「‘壁外調査を実施すると必ず不幸な出来事が起こる’って、こんな手紙誰が信じるんだよ」

アニ「…具体的には書けないんだよ…。…事情があってさ」

ユミル「…まぁ、事情は聞かないでいてやるよ。ただ、嘘でもいいからもう少し信憑性のある事を書こうぜ」

アニ「例えば?」

ユミル「そうだね…、調査兵団不在時に爆弾テロを起こすとか、クーデターを勃発させて体制を覆すとか…」

アニ「まるで犯行予告じゃないか。嘘でもそんなことを書いたら、バレた時に国家反逆罪で捕まるよ」

ユミル「今さら何びびってんだよ。どういう理由かは知らないけど、とにかく壁外調査を阻止したいんだろ?」

アニ「…そうだけどさ…。あんたに迷惑がかかるかもしれないし…」

ユミル「心配しなくても、そんなドジは踏まないよ。…ただこんな手紙ごときで中止になるとは思えないけど」

アニ「…分かってる。けど何かしないと自分の気持ちが済まないんだ…」

ユミル「…ふーん。まぁいいさ。付き合ってやるからさっさと書こうぜ」

支援しよ

差し支えなければでいいんだけど
このピアノシリーズの他に何か書いたのあれば知りたい

短いですが今日はここまでです

>>686 支援ありがとうございます

   実はあまり書いてないんです。一作目はひどく叩かれたリヴァペトなんで内緒にしときます(汗)

   他は息抜きで ハンジ「アラサーですけど」って超短編を書いたことがあるぐらいです

>>687
答えてくれてありがとう
読んでみるよ!

このSS大好きなんだけどなんか涙でてくる。
1さん頑張ってください!

面白い。乙。

1さん頑張ってください!!
応援してます( ^^)

>>1です。レスありがとうございます。もうね、亀みたいなペースで本当に申し訳ない

こんなSSでも、面白いって言ってもらえたり、応援してもらえたり、こっちこそ涙が出てきます

では続きです


※ ※ 数日後 第三音楽室 ※ ※

アルミン「ポスター完成!!みんなお疲れ様!」

コニー「くぅー疲れたぜ!」

ベルトルト「肩こっちゃったよ」

ライナー「これでやっと地味な作業から解放される」

エレン「ああ、俺もやっとピアノの練習に集中できるぜ」

ジャン「けど、もうコンクールって一週間後だろ?そんなんで本当に大丈夫か?」

ミカサ「エレンはきっと大丈夫。私は信じている」

マルコ「‘A卿の不倫熱愛現場!B卿夫人との爛れた関係に夢中’…ぷっ、タブロイド紙の見出しみたいだよ」ククッ

アルミン「今まで黙っててごめん。マルコはこんな卑劣な手段は反対すると思って黙ってたんだ…」

マルコ「確かに紳士的ではないけどさ、アルミンが折角考えてくれた策なんだ。そこは目をつぶるよ」

ライナー「おいおい、俺のことも忘れるなよ。ドMの豚野郎を演じたんだ。一番の功労賞は俺だろ?」

アルミン「…ノリノリだったくせに」

ユミル「つーか、それって素のライナーじゃん」

マルコ「ははっ、ライナーには感謝してるよ。それにみんなも。本当にありがとう」


アルミン「それじゃあ、ポスター貼りの担当エリアを決めたから。この地図を見てよ」バサッ

エレン「……あれ?俺の名前ねぇじゃん」

アルミン「当たり前だろ?コンクール出場者は外してるよ」

アニ「…一人当たりかなりの枚数が割り当てられてるね」

アルミン「情報漏洩を防ぐために、ここにいる面子だけで動いてもらうから…。負担が大きくてごめんよ」

コニー「コンクール前日には内地入りしてるんだよな?」

マルコ「うん。えっと、地図のここ、今は利用されていない憲兵団宿舎を使用していいことになってる」

ベルトルト「…ちょっと市街地から離れてるんだね」

アルミン「だからみんなには悪いんだけど、作戦開始は午前2時から。人目を避けつつ日が昇るまでに貼り終えて欲しい」

サシャ「そんな時間に起きる自信ないので徹夜したほうが良さそうですね」

ジャン「じゃあ飲み会しようぜ」

コニー「えー、俺はパス。酒は苦手だ」

ライナー「そうだぞ。酒なんか飲んだら上機嫌で歌いながらポスター貼るぞ。目立ってしょうがねぇ」

ジャン「ちっ、何だよ。よくつるんでる割にはこの面子で飲んだことねぇからさ。あー、つまんねぇ」


アルミン「大丈夫。コンクールが終わったら祝勝会が開けるはずだから。その時にみんなで飲もうよ」

エレン「そうだな。期待してるぜ、マルコ」ポン

マルコ「なんで他人事なんだよ。エレンも頑張ろうよ」

ミカサ「そういえばクリスタには最後までこの作戦は秘密にしとくんですか?」

ユミル「当然。私の女神にこんな卑猥なポスターは見せれねぇよ」

マルコ「うんうん。クリスタには練習に集中してもらいたいからね。余計なことは知らせなくていいよ」

ミカサ「…でもピアノの音が聞こえないけど…、クリスタは今どこにいるの?」

マルコ「ああ、ドレスができたらしいから洋裁室で衣装合わせしてるはずだよ。僕も後で見に行ってみようかな…」


ガラッ!!


ミーナ「あっ、マルコ発見。しかもみんな揃ってるし。おーい!!クリスタ、ハンナこっちこっち!!」ブンブン

ユミル「げっ、クリスタが来るのか。お前ら急いでポスターを隠せ!!」アセアセ

アルミン「う、うん」バサッ


サシャ「うわっ、どこにしまいましょうか」キョロキョロ

マルコ「と、とりあえず、ピアノの響板の中へ入れちゃおう」バサッ

コニー「おう。ほらみんな渡せよ」バサッ バサッ バサッ

マルコ「全部入れたね。…これで天屋根閉めとけば気付かないでしょ」バタン

ミーナ「……何をそんなに慌ててるの?」

ジャン「何でもねぇよ。気にすんな」


クリスタ「もうミーナ走って行かないでよ。このパンプス、サイズが大きくて脱げそうなんだから…」


ミーナ「クリスタ止まって。まだ教室には入らないで」

アニ「……パンプスって……もしかして……」

ミーナ「あっ、ごめん。適当な靴が無かったからアニのパンプス黙って借りちゃった」テヘ

アニ「…すぐ脱がせて。あの靴は…その…汚れてるからさ…///」

ミーナ「えっ?だって新品みたいに綺麗だよ」


アニ「…いや…変な菌がついてるかもしれないし…///」(あいつが舐めてたんだよソレ…)

ミーナ「…アニって水虫なの?」

アニ「ちがうよ!///」

ベルトルト「……ぷっ」プルプル

アニ「…何笑ってんのさ」イラッ

ベルトルト「はは、ごめんごめん。マルコ、クリスタに新しいパンプス買ってあげなよ」クスクス

マルコ「そうだね。靴のことまで頭が回ってなかったよ」

ミーナ「はーい!ちゅうもーく!クリスタ姫の登場でーす。ほら、入って入って」

クリスタ「なんだか恥ずかしいな……///」スタスタ

ジャン「ヒュ~♪マジ女神じゃん」

ユミル「さすが私のクリスタ。あまりの美しさに心臓が止まるかと思ったよ」

アルミン「うわー、きれいだねー。神々しさすら感じるよ」

コニー「ああ、俺の田舎に来たら、じじばば共が手を合わせて拝みそうだぜ」

ライナー「…マルコ、譲れ」

マルコ「断る」


サシャ「真っ白なドレスですか。なんだか花嫁さんみたいですねー」

ミカサ「…だってあの生地は…」

ハンナ「ミカサ」シーッ

ミカサ「……うん」コクン

クリスタ「…ドレスが立派すぎて…。本当に私なんかが着ていいのかな…///」

ミーナ「何言ってるの。すっごく似合ってるんだから」

エレン「そうだぞ。クリスタ以外の女子が着てたら『はぁ?』って思うけど」

ジャン「お前…結構辛辣なんだな…」

ミカサ「…エレンは正直なだけ」

ハンナ「ほら、クリスタ。マルコに感想聞きたかったんでしょ?」

クリスタ「う、うん。……どうかな?マルコ///」

マルコ「最高に素敵だよ。このまま教会へ攫ってもいいかな?」ニコッ

ユミル「いいわけねぇだろ」バシッ

マルコ「いてっ。…冗談だよ、冗談」


サシャ「…マルコってクリスタの前ではいつもあんな事言ってるんでしょうか?…背中がむず痒くなります」

アニ「…格好つけすぎだね」

ミカサ「…でもたまにはああいう事を言われたい」ジーッ

エレン「…無理」

クリスタ「ねぇ、ドレス着たままピアノを弾いてみてもいい?」スタスタ

ハンナ「ぜひお願い。演奏しにくかったら困るから。今ならまだ直せるし」

クリスタ「ふふ。ステージ上で破けたりしたら大変だもんね…。一応、天屋根開けて弾こうかな…」カタッ

アルミン「あっ、待って、クリスタ!」アセアセ

ユミル「今日はさ、無理に弾かなくてもいいって」アセアセ

クリスタ「えっ?別に無理なんてしてないけど…」

マルコ「えっと…、ほら、靴。サイズ合ってないんでしょ?」アセアセ

クリスタ「そうだけど…」

マルコ「よし、今から買いに行こう。靴まで揃えて衣装合わせした方がいいよ」

クリスタ「でも…」


マルコ「いいから、いいから。そういえばエレンは黒い革靴って持ってる?」

エレン「んなもん、持ってるわけねぇじゃん」

マルコ「じゃあ、エレンも行こう。靴のこと早めに気付いて良かったよ」

エレン「俺とマルコの服は?」

マルコ「貸衣装屋に頼んであるよ。ついでにそれも取りに行こうか」

エレン「だな。じゃあ、俺たち出掛けてくるわ。アルミン、後のことは頼んだぜ」スタスタ

アルミン「うん、いってらっしゃい」

マルコ「ほら、クリスタも着替えておいでよ。食堂前で待っとくから」スタスタ

クリスタ「分かった」スタスタ

エレン「……何ぼーっとしてんだよ。ミカサも行くんだろ?」スタスタ

ミカサ「……うんっ///」パァッ タタタッ


ガラッ ピシャッ!!


サシャ「ふふ、可愛いですね。幸せなミカサが見れて大満足です」

ジャン「ちっ、一丁前に彼氏ぶりやがって…」

サシャ「ジャンも拗ねてないで、早く自分の幸せを見つければいいじゃないですか」

ジャン「…だな。初心に帰って、とりあえず憲兵団入りを目指すとするか。女はその後でいいや」

ライナー「それにはクリスタ達に頑張ってもらわねぇとな。あいつら勝てそうなのか?」

ユミル「んー、クリスタからは良い感じに仕上がってるとは聞いたけど。実際に蓋を開けてみないとさ、分かんないよ」

アルミン「きっと大丈夫。僕はそう信じてる」


※ ※ 市街地 ※ ※

エレン「もうこれで用は済んだよな」

マルコ「ああ、靴も買えたし、衣装も受け取ったし。それじゃあ帰ろうか」

クリスタ「うん。ありがとう、マルコ。結局、靴買ってもらっちゃって…」

マルコ「それぐらいどうってことないから、気にしないで」

エレン「マルコは金持ってんだな」

マルコ「いや…、まぁ、…ごめん、実家があるから…」

ミカサ「謝らなくてもいい。それが普通だから」

エレン「そうだぜ。俺だって実は医者の息子だしな。家が無事ならマルコより金持ちだ、…多分」

マルコ「へぇ、そうなんだ。意外だね。医者の息子にしては……」

エレン「分かってるよ。座学が苦手って言いたいんだろ?放っとけよ」

マルコ「ははっ、冗談だよ。最近座学の成績もいいみたいだし。努力してるんだね」

ミカサ「では、そろそろ行きましょう」スタスタ

エレン「あー、うん…。……ミカサはこっち」グイッ 

ミカサ「えっ?でも、駅馬車の停留所は向こう…」


エレン「悪ぃ、マルコ。先に帰っててくれよ」ヒラヒラ

マルコ「はいはい。…あんまり遅くなるなよ」

エレン「分かってるよ。じゃあな」スタスタ

ミカサ「エレン…?」スタスタ


クリスタ「…エレンとミカサ、どこに向かったんだろう…?」

マルコ「あそこの角を曲がったから……多分裏通りだろうね」

クリスタ「裏通りって行ったことが無いんだけど…、何かあるの?」

マルコ「んー……行ってみる?」

クリスタ「……行かない。マルコ、悪い顔してるもん」

マルコ「はは、参ったね。あまり感情を表には出してないつもりなんだけど、クリスタには読まれてしまう」

クリスタ「もう…、先に帰っちゃうよ」スタスタ

マルコ「あっ、待ってよ」スタスタ


クリスタ「……今日はダメだから……///」スタスタ

マルコ「…何が?」スタスタ

クリスタ「……今日も神様が邪魔してるの……///」スタスタ

マルコ「あぁ…そういうこと…」スタスタ

クリスタ「……毎回タイミングが悪くて……ごめんなさい///」スタスタ

マルコ「謝らないでよ。別にそんな気があって外出したわけじゃないし…」ヒー、フー、ミー

クリスタ「…指折り何を数えているのかな?」スタスタ

マルコ「いいや、何でも」スタスタ

クリスタ「…日数かぞえてたでしょ」スタスタ

マルコ「はは、バレた?いつ神様は許してくれるのか知りたくてさ」スタスタ

クリスタ「…ちょっと屈んで」クイッ

マルコ「ん?どうしたの?」


クリスタ「…あのね、コンクールが無事終わったら…………しよ///」ヒソヒソ

マルコ「///」

クリスタ「あっ、赤くなってる」クスクス

マルコ「…クリスタ…、女の子がそういうこと言っちゃダメ///」

クリスタ「ふふ、でもコンクールで4位以内に入れたらね」

マルコ「えー、条件付きなの?」

クリスタ「もちろん」

マルコ「4位以下だと?」

クリスタ「うーん、向こう半年間はそういう話は無しで」ニコッ

マルコ「……よし、クリスタ急いで帰ろう。今から一週間死ぬ気で練習するよ」スタスタ

クリスタ「あっ、ちょっと待ってよ」スタスタ


※ ※ コンクール前日 駐屯地 ※ ※

マルコ「じゃあ、みんな行ってくるね」

ミーナ「頑張ってねー。おみやげ楽しみにしてるよー」

ハンナ「こらミーナ、遊びに行くんじゃないんだから…」

クリスタ「ハンナ、ミーナ本当にありがとう。良い報告ができるように頑張ってくるから…」

ハンナ「ふふ、いいのよ。もっとリラックスして。どんな時も笑顔を忘れないでね」

クリスタ「…うん」ニコッ

エレン「つーか、各駐屯地から出場者を合わせて15名までしか行っちゃいけねぇとか、誰が決めたんだよ…」

アルミン「仕方ないよ。宿舎の都合とかあるんだろうし…」

ミカサ「でも、例の作戦の実行部隊は全員内地入りできる。問題はない」



キース教官「貴様ら用意はいいか。馬で駆けて丸一日かかるからな。少しでも遅れたら容赦なく置いていくぞ」


コニー「げっ、キース教官も行くのかよ」

サシャ「引率らしいですよ」

ジャン「…他の奴らの訓練は?」

ライナー「今日、明日は座学中心だとよ」

アニ「うらやましいね。一日中居眠りできるなんて」

ベルトルト「でもおかげでこの期間に実技試験が実施されることはないから。助かったよ」

ユミル「そうだね。筆記なら後日、再試験も可能だろうし。…今の順位は保てるか…」


キース教官「では出発だ」


※ ※ ウォールシーナ内 中心部 憲兵団宿舎 ※ ※

コニー「やっべ、ケツ痛ぇわ、体中バキバキだわ、最悪だな」

ジャン「あんなに長時間馬に乗ったことはねぇからな。まだ視界が揺れてる感じがするぜ」

ライナー「とりあえず風呂入って夜中の2時まで仮眠するか」

ベルトルト「そうだね。少しは体を休めないと動けない」

マルコ「…やっぱり僕もポスター貼り手伝うよ」

アルミン「いいって。エレンとマルコは明日の本番に備えてゆっくり寝ててよ」

ジャン「そうだぜ。なんせ憲兵団に入れるかどうかはお前らにかかってるんだからよ」

エレン「あのなぁ、元から勝ち目のない戦いなんだよ。期待するのはやめてくれ」

ジャン「分かってるさ。けどよ、死ぬ気で足掻いた奴が報われねぇと世の中不公平すぎるだろ」

アルミン「そうだよ。僕たちはやれるだけの準備はしたんだ。あとは運を天に任せるしかないよ」

ライナー「じゃあ、2時に宿舎前集合だな」

アルミン「ああ。事前に渡してあるフード付きのマント、忘れずに着てきてね。もちろんポスターも持参して」

コニー「俺はファイフがいるんだよな」

アルミン「うん。今回の作戦はコニーの活躍にかかってるからね。頼んだよ」

※ ※ 深夜2時 宿舎前 ※ ※

アルミン「みんな集合したね」

サシャ「くぅ―、寒いですね」ブルブル

ミカサ「駐屯地よりここの方が標高が高いから夜の冷え込みが厳しい」

ライナー「まぁ、これから走り回るんだ。すぐに温まるさ」

アルミン「じゃあ事前に打ち合わせした通り…、ライナーと僕はA卿の屋敷周辺。できれば屋敷内へもポスターを投げ入れる」

ライナー「ちょっと敷地内にお邪魔して、玄関のドアに挟み込めばいいだろう」

アルミン「ベルトルトとジャンはB卿の屋敷周辺。この二つの屋敷はここから一番遠いから徒歩だとかなり時間がかかる」

ベルトルト「分かった。兵站行進のつもりで走っていくよ」

ジャン「ったく、内地まできて深夜に自主トレするとは思わなかったぜ」

アルミン「ミカサとサシャは王立芸術劇場周辺をお願いするね」

ミカサ「分かった。早めに済ませて他のエリアを手伝おう」

サシャ「ミカサ、やる気ですね。私も負けませんよ」

アルミン「劇場周辺は文化施設の集まってる地域だから深夜に人気はそんなに無いはずだよ。けど、注意はしてね」

ミカサ「了解」


アルミン「で、コニー、ユミル、アニは…、一番危険な場所で申し訳無いんだけど大通りをお願い」

ユミル「かまわねぇよ。なんせこっから一番近いから深夜にマラソンしなくて済む」

アニ「大通りは繁華街が近い…。夜警が巡回してる可能性は?」

アルミン「間違いなく警備はしてるだろうね。そこで、コニーの出番だ」

コニー「へへっ。俺がファイフ吹いて夜警の注意を引くからよ。その間にお前らがポスターを貼ってくんだ」

ユミル「あっさり捕まりそうだな」

コニー「心配はいらねぇよ。俺は鬼ごっこは得意なんだぜ。吹いては逃げて隠れる、の繰り返しだ」

アルミン「とにかく、人に僕らの姿を見られないこと。フードは深くかぶってね。作戦終了後はそのマントはすぐに廃棄して」

アルミン「あと危険と判断したらすぐに作戦を中止しても構わないから。そこは個々の判断に任せるよ」


サシャ「コニー、調子に乗って無茶しないで下さいね」

コニー「分かってるよ。サシャも拾い食いすんなよ」

サシャ「しませんよ」

アルミン「貼り終えたら宿舎にまっすぐ帰ること。絶対に酒場とか寄らないでよ」チラッ

ユミル「ライナー注意されてるぞ」

ライナー「いや、あの視線はどう見てもお前だろう」

アルミン「それじゃあ、作戦開始!!」


※ ※ A卿屋敷周辺 ※ ※

ライナー「……よいしょっと」ガチャン

アルミン「……さすがライナー。高い鉄柵も難なくクリアだね」ヒソヒソ

ライナー「じゃあ俺は玄関に投函して、ついでにお屋敷にも嫌がらせのように貼ってくるぜ」ヒソヒソ

アルミン「うん。無理はしないでね」ヒソヒソ

ライナー「…ついでに火でも付けとくか?」ヒソヒソ

アルミン「やめてよ。放火殺人は極刑だよ」ヒソヒソ

ライナー「冗談だ。…あの女はやれって言ってたけどな」ボソッ

アルミン「ライナー?」ヒソヒソ

ライナー「何でもない。それじゃあ行ってくる」ヒソヒソ

アルミン「気をつけてね。僕はここから大通りに向かう道沿いに貼っていくから…」ヒソヒソ


※ ※ B卿屋敷周辺 ※ ※

ベルトルト「…敷地内の侵入はジャンにお願いしてもいいかな…」ヒソヒソ

ジャン「…ここは公平にジャンケンで決めようぜ…」ヒソヒソ

ベルトルト「…いや、だって僕大きいから目立っちゃうし…」ヒソヒソ

ジャン「…ちっ、しょうがねぇな。じゃ、俺の真っ白な経歴に不法侵入罪って書き込んでくるぜ…」ヨイショ

ベルトルト「…待って、ジャン」ヒソヒソ

ジャン「何だよ」ヒソヒソ

ベルトルト「ジャンは…その、そんな悪人面してるのに…悪い事したことないの?」ヒソヒソ

ジャン「……面構えで人を判断すんなよ。兵団入る前はやんちゃしてたって、なぜか勘違いされるけどな」ヒソヒソ

ベルトルト「…そう。やっぱり僕が屋敷を担当するよ」ヒソヒソ

ジャン「別に無理しなくてもいいぜ」ヒソヒソ

ベルトルト「いや、いいんだ。…僕はこれ以上堕ちようが無いから…」ヒソヒソ

ジャン「…ベルトルト?」ヒソヒソ


※ ※ 王立芸術劇場周辺 ※ ※

ミカサ「人気がまったく無い。これなら余裕で任務を果たせる…」

サシャ「夜のしじまに浮かび上がる巨大建造物の群れ…。なんだか恐怖を感じます…」ビクビク

ミカサ「真夜中の森の方がよっぽど不気味だと思うけど」

サシャ「森は生きてるんです。真っ暗な中でもあらゆる生命の存在を感じとれます。けど、ここには人工物の冷たさしか無いです」

ミカサ「…そうね。多数の人間を押し込める巨大な棺みたいね…」

サシャ「…そういう表現やめて下さいよ」ビクビク

ミカサ「さっさと残りを貼るわよ」スタスタ

サシャ「…あ、あの、手を握ってもいいですか?」ビクビク

ミカサ「駄目。私の右手はエレン専用」

サシャ「じゃ、じゃあ左手で」ビクビク

ミカサ「…はい」スッ

サシャ「ありがとうございます」ギュッ

ミカサ「…恐がりすぎ」スタスタ


サシャ「ふふ、でもエレンと手を繋ぐときは右手なんですね」スタスタ

ミカサ「…そうね。気付けばいつもエレンの左側…」スタスタ

サシャ「知ってますか?人間って本能的に守りたい相手のために利き腕を自由にしとくって話」スタスタ

ミカサ「…初耳」スタスタ

サシャ「なんだかんだ言ってミカサは愛されてますね。ごちそうさまです」スタスタ

ミカサ「…///」スタスタ

サシャ「さて、次はどこに貼りましょうか」スタスタ

ミカサ「…サシャ」スタスタ

サシャ「何ですか?」スタスタ

ミカサ「ではサシャのことは私が守ろう。あなたのために利き腕は空いているので」スタスタ

サシャ「あはは、ミカサに守られるなんて最高に心強いですよ」スタスタ


※ ※ 大通り ※ ※


ピーピッピッピー♪ ピーピーピッピー♪


――こっちか ダダダッ

――お前は反対側から回れ ダダダッ

――さっきからちょこまか逃げやがって。一体何が目的なんだ ダダダッ 


アニ「…コニー、うまくやってるみたいだね」ペタペタ

ユミル「笛吹き男の本領発揮だな。夜警の憲兵引き連れて、そのまま川へ沈めてしまえ」バサッ

アニ「通りの北側でコニーが注意を引いて、私たちが南から貼っていく…。そろそろコニーに南側に移動してもらいたいね」

ユミル「3時30分になったら移動するように伝えてあるんだが…。あの様子じゃ忘れてるだろうな…」

アニ「完全に追いかけっこ楽しんでるしね。……って、コニーが猛ダッシュでこっちに来る」

ユミル「建物の影に隠れろ。憲兵に見つかるぜ」バッ!!

アニ「ええ」バッ!!


コニー(やべぇ。調子にのって近くで挑発しすぎた。どっか路地に逃げないと…)ダダダダダッ


「おい、止まれ!!発砲するぞ!!」ダダダダッ

「夜中に笛を吹いたぐらいで発砲するのはマズイんじゃないか?」ダダダダッ

「かまわん。我々憲兵は対する侮辱行為は王に反逆しているのと同じだ」ダダダダッ

「運悪く銃殺しちまってもお咎めなしってな。久々に人間相手に発砲できるぜ」ダダダダダッ



アニ「…まずいね」

ユミル「…撃たれるかもな」

アニ「…どうすんだよ」

ユミル「大丈夫じゃね?自分の命がかかってんだ。必死に逃げ切るだろうよ。……けど、ちょっと様子見てくる」タタッ

アニ「私も行くよ」

ユミル「いや、アニはこのままポスター貼り続けてくれよ。それが最重要任務だし」

アニ「…分かった。30分経って戻って来なかったら助けに行くよ」

ユミル「あぁ、そうしてくれ」タタタッ


※ ※ 路地裏 ※ ※

コニー(ハァ…ハァ…、ちっくしょう、路地に入ったはいいが袋小路じゃねぇか…)ゼェゼェ


「いたぞ!!こっちだ!!」ダダダッ

「ぜぇ、ぜぇ…手間取らせやがって」ダダダッ


コニー(…相手は4人。しかも拳銃を持ってやがる…。こっちは素手だ、こんちくしょう!!)ゼェゼェ


「ハァハァ…。ここの地理には詳しくないみたいだな。外の人間か」ゼェゼェ

「おら、さっさとフードを取って顔を見せないか」ハァハァ

コニー「……」

「素直に言うことを聞いた方がお前のためだぞ。フードを取って、両手を上げろ」チャキッ

コニー(…ここで言うことを聞いたら、俺のせいで全てが台無しになる…)


「ほら、早くしろ。こいつ発砲したくてウズウズしてるからな。死にたくはないだろ?」

コニー(…囲まれたな。…父ちゃん、母ちゃんごめん。…俺ここまでかも…)

「五秒だけ待ってやろう。…5…」

コニー(けどよ、巨人に食われるんじゃないんだ…)

「…4…」

コニー(仲間のために戦って死ねるんだ…)

「…3…」

コニー(…俺のこと誇りに思ってくれよ…)

「…2…」


コニー「うぉおおおおおお!!!!」ドガッ!!!


「ぐはぁっ!!!」バタン!!

「てめぇ、何タックルかましてんだ!!」ドガッ!! ガスッ!!

「悪あがきしやがって!かまわん、撃て!」

「ああ。……さよなら笛吹き小僧」チャキッ



ピーピピーピピー♪ ピーピピーピピー♪


「あん?…また笛の音…。…近いな」

「てめぇ、仲間がいやがんのか」ドガッ!!

コニー(ぐふっ!…ガスガス蹴りやがってマジ痛ぇ。…けど誰だ?ファイフの音じゃねぇし…)


ピーピピッピー♪ ピーピピッピー♪


「くっそ、挑発してやがるぜ。…俺が行って見て来る」スタスタ

「単独行動は危険だろ。俺も行くぜ。その小僧はお前ら二人に任せた」スタスタ

「あぁ、了解だ」

「さーてと…楽に死なせてもつまらねぇからな。俺の射撃訓練に付き合ってもらおうか」チャキッ

コニー(…二人か。…銃を構えてるやつを押し倒して、その隙に逃げてやる!!)


※  ※  ※  ※

「確かに笛の音はこの辺りから聞こえたんだが…」キョロキョロ

「へっ、どうせまた隠れたんだろうよ。かくれんぼに付き合ってやる義理はねぇよ。戻ろうぜ」

「…くっそ、馬鹿にしやがって。何なんだよ一体…」クルッ スタスタ

「今日はツイてねぇな。いつもの夜警なら、この時間はほろ酔い気分でスキップ踏んで、うっ!!!」ドサッ!!

「!!? おい、どうした!!しっかりし、ガッ!!!」ドサッ!!


ユミル(…ふぅー。ドブ掃除用のシャベルが転がってて助かったぜ…)

ユミル(…コニーはあっちか…。急がないとヤバそうだね…)

ユミル(けど、こいつらもこのままにしておけないしな…。何か縛るものないかね…)キョロキョロ

ユミル(…しょうがない。悪いけどあんたらズボン脱いでもらうよ…)カチャカチャ ズルズル

ユミル(…ズボンとベルトで取り合えず両手足結んでおこう……)ガサゴソ キュッ

ユミル(……拳銃ももらって行くか…?…駄目だね、足がつきそうだ…)ガサゴソ キュッ


パァ―ン!!!パァーン!!!


ユミル(発砲音!?まずい、手遅れか…)スクッ

ユミル(とにかく急ごう……ん、誰か走ってくる…)


コニー「くっそ、マジ撃ちやがった。こぇぇぇ」ダダダダダッ

ユミル「コニーこっちだ。隠れろ」

コニー「ユミル!!」ザザッ!!

ユミル「…大丈夫か?怪我は?」

コニー「蹴られた所が痛ぇぐらいだ。問題ない」

ユミル「そうか。…あちらさんは残り何人いるんだ?」

コニー「二人。…つーか、そこにパンツ丸出しでのびてる連中は……ユミルがやったのか?」

ユミル「そうだ」

コニー「ヒュー♪お前かっこいいな。じゃあよ、笛吹いてたのも?」

ユミル「ああ、私だよ。…コレ、何だか知ってるか?」スッ


コニー「……あっ!それって昔、楽器屋でクリスタがお前に土産だって買ってたヤツ。えっと何て名前だっけ…」

ユミル「オカリナだよ。女神がプレゼントしてくれたものだからさ、お守り代わりに持ち歩いてるんだ」

コニー「やっべ、クリスタの女神効果半端ねぇ。俺まで助けられちまった」

ユミル「…しっ!連中が来たよ」ヒソヒソ

コニー「…どうすんだ?」ヒソヒソ

ユミル「あいつら伸びてる奴らに気をとられるだろ?その隙に倒す」ヒソヒソ

コニー「…俺、素手だけど…。お前シャベル持っててずりぃ」ヒソヒソ

ユミル「何のために格闘術の訓練してんだよ。背後から絞め落とせ」ヒソヒソ

コニー「…よし、俺もかっこいいところ見せねぇとな。サシャに笑われる」ヒソヒソ



「おい!大丈夫か!しっかりしろ!」ユサユサ

「くっそ、一体誰が…。あの小僧も隠れやがったし…ぐっ!!」ギリギリ

「なっ!?待て、すぐ助ける」ガンッ!! 「がはっ!!」ドサッ!!

コニー「おら、早く落ちろよ!!」ギュゥゥゥ

「ちっく…しょ……、舐めや…がって……クソガキ……が……」ゴソゴソ

ユミル「手間取ってんな。シャベルで殴るか」ブン!!

「…ざ…まぁ……見…ろ……」チャキ


パァーン!!


「……ぐっ……」ドサッ

ユミル「!!!?」ゴフッ

コニー「えっ?……えっ?……おい!ユミル!?」

ユミル「…ゴホッ…ブハッ…」ダラダラ


コニー「ユミル!!しっかりしろ!!すげぇ血ぃ出てるぞ!どこ撃たれた?」オロオロ

ユミル「……当たってねぇ。気にすんな…ゴボッ」ダラダラ

コニー「いや、当たってるだろ!!何強がってんだよ!!」オロオロ

ユミル「…いいか、私は撃たれてない…はぁ…はぁ…誰にも絶対に余計なことは言うな…はぁ…はぁ…」ダラダラ

コニー「けど、お前死ぬぞ!?すぐに助けを呼んでくるからな!!」

ユミル「待て!!ゴホッ」ガシッ!!

コニー「ちょっ、離せよ!!」ブンブン!!

ユミル「…はぁ…私は大丈夫だから…はぁ…本当に撃たれてないから…、だからお前は戻ってポスター貼りを続けろ」

コニー「そんなわけに行くかよ!!」

ユミル「…こんなくだらない仕事でも私達に与えられた任務なんだ。私情を挟まず遂行しろ…ゼェ…ゼェ…」ダラダラ

コニー「…ユミル…」

ユミル「…かすっただけだ。ハァ…ハァ…他のヤツが心配するといけない…はぁ…から…黙っといてくれ…。頼む…」

コニー「くっ……本当に死なねぇか!?俺と約束できるか!?」

ユミル「…ああ」ニッ

コニー「…分かった。すぐにポスター貼り終えて戻ってくるからな。じっとしてろよ」ダダダッ


ユミル(あぁ、迂闊だったよ…。虫の息で発砲してくるとは思わなかった…)ゴホッ

ユミル(…銃弾は肺を貫通してるね…。このままだと5分も経たずに間違いなく死ぬ…)ゲホッ ゲホッ

ユミル(…あの力は使いたくないが…仕方ない…。クリスタのためにも、まだ私は倒れるわけにはいかない…)シュゥゥゥ

ユミル(…撃たれたのがコニーじゃなくて良かった。目撃者がコニーだけってのもラッキーだね)シュゥゥゥ

ユミル(さーて、どうやってごまかすか…)シュゥゥゥ


――10分後


アニ「ハァ、ハァ…あんた大丈夫なのかい?」タッタッタ…

ユミル「…ちっ、コニーの奴…」

アニ「…あんたが戻らないからコニーからは無理やり聞いたよ」ゼェゼェ

ユミル「…ポスターは?」

アニ「ミカサとサシャが自分たちの担当が終わって手伝いに来たから…。任せてきた」

ユミル「…そう」


アニ「そんなことより傷口見せな」グイッ

ユミル「触んな…。傷口なんかないから。そもそも撃たれてないし…」パシッ

アニ「はぁ?じゃあ、この大量の出血は何よ?」グイッ 

ユミル「うるさいね。多い日なんだよ」パシッ

アニ「…あんたこれじゃ月に一回確実に死んでるわね。いいから手当させて」グイッ バッ

ユミル「…やめとけよ」

アニ「黙ってて…。シャツが血みどろ。…銃弾の穴も空いてるじゃない!?」ビリビリッ!!

ユミル「わーお、破いちゃう?」

アニ「こんなシャツもう着れないでしょ?………!!!?」

ユミル「…やめとけって言ったのに」シュゥゥゥ

アニ「………」シュッ バサッ

ユミル「…アニ?」

アニ「…私のマントでも羽織っときな。もう出血は止まってるみたいだし」スッ

ユミル「…悪いね」


アニ「…で、先に帰って体洗いなよ。まだ誰も戻ってないだろうから」

ユミル「…お優しいことで。…いいのかい?私は、多分……お前の敵だよ?」

アニ「…勢力的にはそうかもね。……けど個人的にはあんたとは仲良くしたいと思ってるよ……」

ユミル「…この世界は複雑怪奇だね、まったく」

アニ「…ねぇ、あんたに一つ聞きたかったんだ…」

ユミル「ん?何を?」

アニ「…結末が決まっている運命に逆らい続けることに、何の意味があるんだい…?」

ユミル「…私はへそ曲がりだから人の言いなりにはなりたくないだけさ。生きたいように生きる。意味なんてないよ」

アニ「…そう」

ユミル「何をしたって結末が一緒なら、やりたいようにやればいいんだよ。そのほうが後悔が残らない」


アニ「…運命って変えられると思う?」

ユミル「さぁ…。けど諦めて何もしなかったら、変わることは無いだろうね」

アニ「…答えてくれてありがとう、ユミル」

ユミル「…この先、敵同士になったとしても情けなんてかけるんじゃないよ。アニにはアニの事情があるんだろ?」

アニ「…ええ。もちろんそのつもり。覚悟しときなよ」

ユミル「あぁーやだやだ、おっかないね。っと、じゃあ先に宿舎戻るから。後のことはよろしく」ドッコイショ

アニ「分かった。気をつけて帰ってよ」


※ ※ 宿舎ロビー ※ ※

コニー「だからよ、マジでユミルが撃たれたんだって!!」

アニ「…あんたの気のせいだよ。私が見に行ったらピンピンしてたし」

コニー「んなことねぇって。胸から血がダクダク出て、口からもゴボゴボ血を吐いてたんだぜ!!」

アニ「…あんた、憲兵に追いかけられて錯乱状態にでもなってたんじゃない?」

アルミン「まぁまぁ。ユミル本人に確認すれば済むことだよ」

ジャン「だな。そんなひどい状態なら動けるはずねぇもんな」

ライナー「で、その憲兵たちはどうしたんだ?」

ミカサ「私たちも手伝って、荒縄でぐるぐる巻きにした上、猿轡をはめてゴミ箱に放り込んでおいた」

サシャ「ちょっとやり過ぎでしたかねー。でもゴミを捨てにきた人が気付いてくれますよ、きっと」

ベルトルト「…気の毒だよ、その憲兵さんたち…」

アルミン「…物的証拠は何も残してないよね?」

アニ「ええ、抜かりないわ」

アルミン「なら、良しとしよう。作戦上、不可避な戦闘だったと言う事で…」


ベルトルト「…けど僕らに疑いの目が向けられるんじゃないかな…。コニーの話だと外地の人間ってバレたっぽいし」

ライナー「なーに、外から来てるのは俺達だけじゃないだろ?他のローゼの駐屯地の連中も来てるはずだしよ」

ミカサ「だけど…この宿舎内では私たち以外の訓練兵を見かけない…」

サシャ「んー、他の宿舎が割り当てられてるんですかね?」

コニー「あっ、ユミルが来た!」

ジャン「おい、ユミル、お前大丈夫か?」

ユミル「何がだよ?見ての通りいつもと変わらないけど」ワシャワシャ

アニ「…髪の毛ぐらい乾かしてから来なよ」

アルミン「コニーがさ、ユミルが撃たれたって大騒ぎしてるんだけど…」

ユミル「ちっ、まーたそんな作り話してんのかよ。コニーの嘘はつまらないね」

コニー「なっ、お前、人が心配してやってんのに。…お前らは俺の言うこと信じてくれるよな!」

ライナー「まぁ、コニーはこんな洒落にならない嘘を吐くような奴じゃないが…」

ベルトルト「目の前には元気なユミルが立ってるしね…」


コニー「何で誰も信じてくれねぇんだよ。だって…俺のせいで…ユミルが死ぬかと思ってよ…すげー恐かったんだぜ」グスッ

サシャ「私は信じてますよ。コニーは嘘つきなんかじゃありません」ヨシヨシ

コニー「うぅ……サシャ……」グスッ

ミカサ「…では一瞬にして傷を治した…?そんなことができる人間っているかしら」ウーン

アニ「…あんたなら精神力で治しそうだけど」

アルミン「僕もコニーを信じたいけど…。何かトリックがあるのかい?ユミル」

ユミル「…そんなもん無いし」(まずいね…。こいつらの疑念を晴らさなくちゃ…)

ユミル「はぁ…、分かったよ。そんなに言うならその目で確認しやがれ!」ガバッ!!

アニ「馬鹿!!何でいきなりシャツ脱いでんのさ!!」

コニー「おぉぉぉ!!母ちゃん以外のおっぱい初めてみたぜ!!」

サシャ「見ちゃ駄目です!!ユミル、早く服着て下さいよ!!」

ライナー「…素人の初ナマ乳をこんな形で拝めるとは…///」

アルミン(…ライナーって素人童貞だったんだ…)

ベルトルト(…アニの圧勝)


ミカサ「…確かにどこも怪我はしてない。傷跡すらないし…」ジー

サシャ「至近距離でまじまじと見ちゃ駄目です!!」

ユミル「なっ、分かっただろ?最初からどこも怪我なんてしてないんだよ」


パンッ!!


ユミル「っ痛。…おい、何しやがんだ」ギロッ

ジャン「お前馬鹿か。簡単に脱ぎやがって。さっさと服着ろよ」

ユミル「あ?お前には関係ねぇだろ?」

サシャ「あの、胸丸出しですごんでもですね…。とにかく隠してくださいよ」

ユミル「ちっ…、分かったよ…」スルッ

アルミン「…ジャンってエレンとはよく殴りあいするけど…、女の子に手を挙げたりしないよね…」

コニー「だな。…ってことは、ジャンの中ではユミルは女子認定されてないのか…?」


ジャン「あー、もうお前らうっせぇよ。…叩いたのは悪かった。すまん。…けど少しは自分を大切にしやがれ、バーカ」

アニ「……ふーん。そうなんだ」

サシャ「……意外と乗り換えが早いんですね。あっ、それが悪いとは言ってませんから」

ミカサ「……良かった。けどまた無謀な挑戦をするのね……」

ジャン「ばっ、お前ら何言ってんだよ!?勝手に決めつけんなよ!!///」


キース「貴様ら!!今何時だと思ってる!!」スタスタ


コニー「げっ、キース教官だ」ダラダラ

ユミル「ちっ、ジャンが大声で騒ぐからだろ?」

ジャン「俺一人のせいにすんなよ」

アルミン(…考えるんだ。穏便に済ませる言い訳を、今すぐに…)ウーン

キース「夜中に部屋の見回りをしたら、ほとんどの者が不在だった。貴様らどこへ行っていた?」

アルミン「はっ!中央に初めて来たので市内観光をしていたであります!」


キース「こんな真夜中にか?」

アルミン「はっ!自分たちの自由時間は深夜しかありませんので!」

キース「……」クンクン

キース「確かに酒の匂いはせんな。…何も問題は起こしてないだろうな?」

アルミン「はっ!住民に迷惑をかけぬよう、騒がず迅速に行動したであります」

キース「なぜ、出掛ける際に報告に来なかった?」

アルミン「はっ!教官は就寝されてると思いましたので、…勝手な行動をし、申し訳ありませんでした!」ペコリ

キース「まぁ…、いいだろう。今回だけは大目に見てやる。初めての中央で浮かれる気分も分かるからな」

アルミン「はっ!ありがとうございます」

キース「まだ夜明けまで時間がある。さっさと部屋に戻って寝るんだな。解散!!」

一同「はっ!!」


※ ※ コンクール当日 王立芸術劇場 ※ ※

ザワザワ ザワザワ

マルコ「うわぁ…、すごいなぁ。柱の彫刻にしても天井画にしても建物自体が芸術作品だよ」

クリスタ「…ここに来るとやっぱり緊張するっていうか…、恐いっていうか…」

マルコ「大丈夫。クリスタのことはみんなで必ず守るから」

クリスタ「…うん」

エレン「それにしても、お前らヒドイ顔だな…」

アルミン「うん…、ほとんど寝てないからね…」フラフラ

コニー「悪ぃ、エレン。俺は確実に爆睡するから、お前の演奏聴けねぇや。先に謝っとくぜ」フラフラ

ミカサ「…結局ポスターの効果はあったのかしら?」

ジャン「さぁな。大通りではあの貴族さん嘲笑の的になってたけど。当の本人の神経のず太さ次第だろ…」

サシャ「これで何食わぬ顔で登場されたら、みんなでやけ食いしに行きましょう」


ユミル「コニー」チョイチョイ

コニー「何だよ」テテテッ

ユミル「昨夜は悪かったな。お前は嘘つきじゃないよ。けど、夢だと思って、二度と人に話すな」ボソボソ

コニー「…いいぜ。どうせ誰も信じてくれないんだ。お前が夢にしたいんなら、夢にしといてやるよ」ボソボソ

ユミル「サンキュ」ペシペシ 


ライナー「…アニ、昨夜はユミルが銃撃された現場に居合わせたのか?」ボソボソ

アニ「…私は後から駆けつけただけ」ボソボソ

ベルトルト「…本当に傷が修復されたの?」ボソボソ

アニ「…違うよ。ユミルは撃たれてない。血痕も何も無かったし」ボソボソ

ライナー「…それならいいんだ」

ベルトルト「……」


キース「貴様ら!!重要な報告だ!!」スタスタ


マルコ「はっ!何でありますか!」

キース「今回のコンクール、ローゼ内で出場するのはウチだけだ。他の3駐屯地は棄権した」

アルミン「…やっぱり。宿舎で誰も見かけなかったはずだ…」

マルコ「ならば、シーナ内の4駐屯地と我々の駐屯地、計5チームで争うということでありますか?」

キース「ああ、そうだ。他は早々に諦めたらしい。確かに条件が悪すぎるからな。それが賢明な判断かもしれん」

キース「ウチが棄権すればこんな大会開く必要は無かったのに、と内地の駐屯地関係者にさんざん嫌味を言われたわ」

マルコ「…申し訳ありません…」

キース「貴様が謝る必要は無い。内地の連中に一泡吹かせてやれ。期待してるぞ」

マルコ「はっ!」

キース「それと本日審査員を務める予定だった貴族2名が、突然欠席すると言い出したらしい」

アルミン「本当でありますか?」パァァァ

キース「…何だ、目を輝かせて。確かに貴様らにとっては朗報だが…、まさか例のポスターに関与してるのではあるまいな?」

アルミン「いいえ。僕たちも今朝大通りであのポスターを初めて見ました」


キース「…ふんっ。それならいい。…ん?向こうから来るのは憲兵隊の警務科の調査員だな。やはり疑われるか…」

マルコ「…容疑をかけられて出場停止に追い込まれるかもしれませんね」

キース「心配するな。任せておけ」


調査員A「すみません。キースさん。ちょっとお伺いしたいことがあるのですが」

キース「今忙しいんだが…、何だ?」

調査員B「昨晩、大通りで夜警を務めていた憲兵4名が何者かに襲撃を受け、拘束された状態で今朝方発見されたんです」

キース「ふっ、相変わらず憲兵ってのは弛んどるな」

調査員A「大通りに貼られた大量のポスター。アレを貼るために夜警が邪魔だったんでしょう」

キース「…それで?」

調査員B「あのゴシップの槍玉に挙げられた貴族二名。彼らを陥れて得をする人物…。思い当たる節は無いでしょうか?」

キース「さあな。まったく分からん」

調査員A「襲撃を受けた憲兵は、犯人は内地の地理に疎く、また歳若い少年だったと証言しています」

調査員B「申し訳ないのですが、キースさん、ならびに訓練兵諸君にはご同行願いたいのですが」


キース「…証拠はあるのか?」

調査員A「…いえ、物的証拠は何も。しかし状況証拠は揃っています」

キース「はっ、アホらしい。疑わしいだけで連行されるわけにはいかんな」

調査員B「…正直に答えてください。昨夜、訓練兵はどこにいましたか?」

キース「もちろん宿舎にいたに決まってるだろう。わしが見張ってたからな。間違いない」

調査員A「…やはりご同行下さい。彼らから個別に話しを聞く必要があります」

キース「ふざけるな!!そもそも貴様ら憲兵が軟弱なのが原因だろう!!」

調査員B「ひっ…」ビクッ

キース「貴様らの無能っぷりを棚に上げて、罪を外地の人間に被せようとするその態度!!我慢ならん!!」

調査員A「…いえ、そういうわけでは…」

キース「内地勤務はそんなに偉いのか?憲兵団?それがどうした。わしに言わせればただの豚野郎の集まりだ!」

キース「貴様らでは話にならん!!そんなに我々を捕らえたいなら、逮捕状を取った上で憲兵団のトップに出向かせろ!!」

調査員A「くっ…、失礼します。…おい、一旦戻るぞ」クルッ スタスタ

調査員B「…あ、ああ」クルッ スタスタ


キース「……ふぅー。何とか追い払えたな」

エレン「教官!!最高です」キラキラ

アルミン「教官が僕らの指導者であることを誇りに思います」キラキラ

マルコ「キース教官のおかげで無事に出場できそうです。ありがとうございます」キラキラ

コニー「教官、マジかっけーっす」キラキラ

ジャン「教官の勇姿、俺は一生忘れないです」キラキラ

キース「…貴様ら…」

一同「教官!!」

キース「駐屯地に帰ったら全員演習場50周だ!!」

エレン「な、なんでだよ?」

キース「…憲兵を襲撃したなんて話、聞いてなかったぞ。まったく肝を冷やしたわい」

アルミン「……僕らの犯行ではありません」

キース「……そういうことにしておこう。貴様らのためにも、わしのためにも……」

今日はここまでです。キース教官の口調がおかしいのは大目に見てやってください

おつおつ!気になる

乙!
キースはいい教官だな
続きも待ってる

>>1です レスありがとうございます

残りレス数が心配になってきたので、今後はレスのお返事を省略させてもらいます

申し訳ないです。何とか1スレで終わらせたいので…


※  ※  ※  ※

ガヤガヤ ガヤガヤ

ジャン「今、何時だ?」

アルミン「えっと…、9時20分」

コニー「10時から開始だっけ?」

ライナー「そうだ。ロビーに随分と人が増えてきたな。早めに会場入りしないと座席の確保が難しいかもな」

ベルトルト「けど…ユミルがいないよ」キョロキョロ

アニ「ユミルなら、クリスタの着替えを手伝うって一緒に控え室に行ったよ。そろそろ戻ってくるんじゃない?」

ミカサ「…エレンは一人で大丈夫かしら?控え室ってどこにあるの?」

アルミン「控え室はそこの大階段上った先だけどさ。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

サシャ「そうですよ。エレンはもう15歳です。さすがに一人でお着替えできますよ」

コニー「あっ、クリスタが階段を降りてきたぜ」

ライナー「まさに女神降臨だな。眩しすぎるぜ」

アルミン「物語の世界みたいだね。絨毯敷きの大階段をお姫様がエスコートされて降りてくるなんて」

ジャン「エスコートしてるのはユミルだがな。ったくマルコの奴、何やってんだよ。頑張れよ」


ベルトルト「ははっ、階段降りながらマルコはエレンの服装直してあげてるみたい」

ミカサ「…やっぱりまだ一人ではまともに着替えもできないのかしら…」ズーン

アルミン「そ、そんなことないって。きっと、着るのが難しいんだよ。タキシードって…」


ユミル「おまたせー。このクリスタどうよ?私の持てる技術を全て使って完璧に仕上げてみたぜ」

クリスタ「…お化粧なんて初めてしたよ。…恥ずかしいな///」

マルコ「僕はすっぴんで十分綺麗だと思うけど」フンッ

ユミル「お前、まだそんなこと言って拗ねてんのか。さっきも言ったろ?舞台上では化粧しないと顔がぼやけるって」

ライナー「まぁ、俺もすっぴん派だが、…少し大人びたクリスタも悪くないな」

ユミル「だろ?さすがライナー。話が分かる」

サシャ「クリスタは何をしたって可愛いですよ。…ふふっ、ネックレスはやっぱり外さないんですね」

ユミル「そんな安物、ドレスに合わないから外せって言ってるのにさ、ヤダヤダって…」

クリスタ「いいでしょ。遠目からは安物かどうかなんて分からないし」

マルコ「…そこまで安く無いんだけどな…。石はともかくチェーンはプラチナだし…」ズーン

ジャン「マルコ、どんまい」ポン


アルミン「でもさ、エレンもマルコもタキシード姿が意外と様になっててびっくりしたよ」

コニー「ああ、今にも鳩出しそうだ」

サシャ「そういえば街角でたまに見かけますね。こういう服着て色々出すおじさん」

エレン「…変質者みたいに言うなよ」

ミカサ「…エレン、タイが歪んでる」クイッ

エレン「おっ、サンキュ。つーか、この服着るの超面倒臭ぇの。カフスボタンとか一人じゃ留めれねぇし」

マルコ「僕も慣れてないから手間取ったよ」

コニー「ぷっ、それより何だその頭。デコ丸出しじゃねぇか」クククッ

エレン「んな、笑うなよ。ユミルにやられたんだ。ボサボサのままじゃ格好がつかねぇって」

ユミル「前髪が鬱陶しかったからな。サイドとトップを自然な感じで後ろに流したんだ。ついでにマルコも同じにしといた」

ライナー「マルコはいっつもデコ出てるから何とも思わんが…」

ジャン「くくくっ、エレンの違和感半端ねぇし。お前、デコ広かったんだな」ゲラゲラ

エレン「なんだよ。そんなにおかしいのか?…じゃあ元に戻す」グシャ…

ミカサ「やめて、エレン。おかしくないから。そのままで」パシッ

サシャ「そうですよー。エレンって割と顔立ち整ってるんだなって思いましたよ」


ベルトルト「うん。黙ってればどこかの御曹司に見えるよ」

エレン「そ、そうか?」テレッ

ユミル「それに激しく演奏すれば少しずつ前髪が垂れてくる。そこがポイントだ」

サシャ「なるほど。男の色気ムンムンですね、それ」

クリスタ「確かに乱れていく髪は色っぽいかも…。さらにそれをサッとかき上げたらドキッってしそう」

コニー「…坊主頭をそろそろ卒業するかな…」

ジャン「やめとけって。お前のアイデンティティが『馬鹿』だけになるぞ」

サシャ「…けど軍部の審査員って誰が来るんでしょうね?」

マルコ「あぁ、さっき控え室で確認できたよ。ザックレー総統と憲兵団の師団長、それから…」

マルコ「駐屯兵団から一人、調査兵団から二人。そこは名前がまだ書かれてなった」

アルミン「きっと忙しいんだろうね。当日手が空いてる人が来るのかな?」

コニー「ロビーに居れば通るんじゃねぇか?憲兵団以外の制服着てたら間違いなく審査員だ」

ライナー「確かに。このコンクールは憲兵団が仕切ってるからな。他の兵団の奴が用も無いのに足を運ぶとは思えない」


ユミル「あっ、ホール入口付近にいる二人連れ…、あれって調査兵団の制服着てるよな…」

アニ「…確かに」

ミカサ「…ということは彼らが審査員なのかしら?」

サシャ「あっ、移動し始めました。このまま進めば私たちの目の前を通ってくれますね」


…ザッザッザッ

ハンジ「だからさー、毎日のようにテロだのクーデーターだの犯行予告文が私の元へ届くのよ」スタスタ

エルヴィン「ははっ、単なる嫌がらせだろう。巨人研究に反対する勢力は多いからな」スタスタ

ハンジ「別にさ、正直なところ私らがいない間に大爆発が起きようが国家が転覆しようが全然構わないのよ」スタスタ

エルヴィン「…構うと思うが」スタスタ

ハンジ「ただ犯行予告に混じって届く不幸の手紙がすっごいヤダ」スタスタ

エルヴィン「また古典的な手法だな」スタスタ

ハンジ「アラサーの独身女にこれ以上不幸になれとか、まさに鬼の所業だよ」スタスタ

エルヴィン「ふぅー、仕方がない。ハンジの幸せのために壁外調査を中止しようか」スタスタ

ハンジ「ちょっ、何言ってんの!?中止とかやめてよ!!私から巨人を取り上げたら何が残るのよ!!!」ムキー


エルヴィン「静かにしろ。声が大きすぎるぞ。そこの訓練兵諸君が奇声に驚いて固まってるぞ」シッ

ハンジ「…だって、私の生き甲斐は巨人だけなんだよ?」グスッ

エルヴィン「そうだな…、犯行予告が完全にデマだとは言い切れない以上、来月まで壁外は延期するか」スタスタ

ハンジ「しばらく様子見ってこと?」スタスタ

エルヴィン「そうだ。あまりにしつこいようなら兵団の総力を挙げて愉快犯をあぶり出そう」スタスタ

ハンジ「了解。ミケに手紙の匂いを嗅いでもらったら、書いたのは女性だって言ってたし」スタスタ

エルヴィン「はは、さすがミケだ。もう容疑者が全人類の二分の一に絞れた」スタスタ

ザッザッザッ……


アニ「……なんの成果もなかったみたい」ズーン

ユミル「…けど一ヶ月は延期できたみたいだぜ」ヒソヒソ

アニ「…これ以上手紙を書くのは危険ね」ヒソヒソ

ユミル「…だね。本格的に調査されるとマズイ。…けどさ、何であの眼鏡の人宛で手紙を出したんだ?」ヒソヒソ

アニ「…知らないよ。私はただアルミン宛ての手紙にあった連絡先を書き写しただけだから…」ヒソヒソ


アルミン「…今通った人だ」

エレン「何が?」

アルミン「僕に『巨人賛歌』の作曲依頼した人。間違いないよ、巨人が生き甲斐って言ってたし」

ミカサ「…やっぱり変人だったのね」

アルミン「挨拶したほうがいいかな…?」

エレン「やめとけって。また面倒なこと頼まれるかもしれないぞ?」

ミカサ「そうね。あまり関わりたくない感じ」

アルミン「…分かった。やめとくよ。けどあの人が僕らの味方をするって言ってくれたんだ。きっと良い人に違いないよ」



ハンジ「ねぇ、エルヴィン」スタスタ

エルヴィン「何だ?」スタスタ

ハンジ「さっき居た訓練兵の子たち…。あの子たちが今日の支援対象だよ」スタスタ

エルヴィン「なぜ分かる?他にも訓練兵の集団はあちらこちらにいるが…」スタスタ

ハンジ「制服のジャケットの下に何を着てるのか見れば一目瞭然だよ。…内地の子はもっと良い服着てる」スタスタ

エルヴィン「なるほど。女性は目の付け所が我々とは違うな」スタスタ


ハンジ「あの集団の中にきっと私のために作曲してくれた子がいる」スタスタ

エルヴィン「礼を言わなくていいのか?」スタスタ

ハンジ「今日は審査員だから。特定の団体と仲良くしてたら不正を疑われるよ。…依怙贔屓するつもりだけど」スタスタ

エルヴィン「私は不正を行う気は無いからな。各兵団の演奏を正当に評価するつもりだ」スタスタ

ハンジ「それで十分だよ。まともな評価をあの子達にしてあげてよ。……それよりエルヴィン」スタスタ

エルヴィン「何だ?」スタスタ

ハンジ「…ジャケットの下のシャツ、昨日と同じみたいだけど?」ニコッ

エルヴィン「……まったく女性は恐ろしいな」フゥー


※  ※  ※  ※


ハンネス「よっ、お前ら元気してるか?」スタスタ


エレン「ハンネスさん!?」

アルミン「えっ?…まさかハンネスさんが審査員?」

ミカサ「…何ていい加減な人選」

ハンネス「ははっ、残念ながら俺はただの付き人だ。ぷっ、エレン、今日はやけに色男だな」ククッ

エレン「放っとけよ。…じゃあ誰が駐屯兵団の審査員なんだよ」

ハンネス「ほれ、あそこでザックレー総統と談笑してる気の良さそうなじいさん」

ミカサ「…そもそもザックレー総統が分からない」

ハンネス「ああ、お前らはまだお会いしたことがないか…。立派な髭をたくわえた白髪で眼鏡の…」

アルミン「あの人がザックレー総統…。軍のトップだけあって威厳があるなぁ…」

エレン「ふーん。一緒にいるのはツルツルのじいさんだけど?」

ハンネス「お前、失礼だぞ。あちらが駐屯兵団代表で審査員を務めるピクシス司令だ」

ミカサ「…例の美女好き?」


ハンネス「そうだ。ミカサが手紙で女神が出場するって知らせてきたからな。司令はルンルンでここまで来た」

アルミン「…軍のお偉いさんは変人ばっかりだ」

ハンネス「出場する子は本当に美人なんだろうな?大したこと無かったら、司令プンプンで途中退席するかもしれん」

エレン「その目で確認すれば。…おーい、クリスタ!こっち来てくれ」


クリスタ「なあに?」テクテク


ハンネス「………ほぅ。こりゃまた美しいお嬢さんが訓練兵にいたもんだ」

アルミン「でしょ?美女だと評価にプラスアルファが付くって本当?」

ハンネス「ああ。これなら椅子に座ってるだけでも司令は満点付けるだろう」

エレン「クリスタ!お前美人に生まれて良かったな!」ニカッ

クリスタ「えっ?どういうこと?」

ミカサ「クリスタは存在するだけで価値があるということ」


クリスタ「??? よく分からないけど、ありがとう。ミカサに自分の存在を肯定してもらえたみたいで嬉しいよ」ニコッ

アルミン「ははっ、誰がクリスタの存在を否定するのさ?君はみんなに好かれてるよ」

クリスタ「…ありがとう。私もあなたたちのこと大好きだから…///」

ハンネス「…おじさんのことも?///」デヘデヘ

クリスタ「ひっ!?」ビクッ

エレン「こら、おっさん、調子にのるなよ」ゲシッ

ミカサ「早くここから立ち去って。不愉快」

ハンネス「はいはい。…ちょっと若い子と親睦を深めようとしたら、これだもんな。おじさんは悲しいなぁ…」スタスタ

アルミン「あっ、ハンネスさん色々とありがとうございました」ペコリ

ハンネス「おう、お前らも頑張れよ」ヒラヒラ


※  ※  ※  ※

マルコ「全員集合したね」

アルミン「うん」

マルコ「じゃあ円陣を組もうか。戦いを前に気合を入れよう」ザッ

ジャン「ぶっ、なんだよそれ。思いっきり体育会系じゃねぇか」ザッ

アルミン「あはは、気分が盛り上がってきた」ザッ

エレン「俺は好きだぜ、こういうノリ」ザッ

ミカサ「…エレンが楽しそうだと、私も嬉しい」ザッ

サシャ「思えばここまで長かったですねー」ザッ

コニー「けどよ、お前らといると楽しすぎて、時間が過ぎるのがあっという間だったぜ」ザッ

ライナー「まだまだ終わりじゃねぇぞ。こっからが本番だ」ザッ

アニ「…完全アウェイの大舞台」ザッ

ベルトルト「…泣いても笑っても一度きりの勝負だね。…僕まで緊張してきた」ザッ

ユミル「やれることはやったんだ。結果がどうなろうと悔いは残らない」ザッ


クリスタ「…あの、ちょっとだけ話を聞いてもらいたいんだけど…いいかな?」ザッ

マルコ「もちろん」

クリスタ「…私はずっと自分の居場所を探してた。誰かに必要とされることが私の存在意義だと思ってた…」

ユミル「……」

クリスタ「だけどみんなと過ごすうちに気付いたの。本当に必要なのは自分の居場所なんかじゃなくて…」

クリスタ「一緒にいたいと思える仲間がいることなんだって。みんながいるだけで私はすごく幸せな気持ちになれる」

クリスタ「みんながいるだけで私は強くなれる。…生きたいって思える…」

クリスタ「…だから何があっても負けない!明日も笑って過ごすために頑張ってくるからね!」

サシャ「はい!私もみんなと一緒にずっとずっとずーーーっと生きていきたいですよ」

コニー「当たり前だろ?俺だってお前らとずっと一緒にいるつもりだ!」

シャン「クリスタがああ言ってんだ。祝勝会の準備しといても良さそうだな」

アルミン「ははっ、そうだね。女神が勝利宣言してるんだ。間違いないよ」

ユミル「はぁ…何を言い出すのかと思ったら。…けど無理はするなよ」

クリスタ「…ありがとう、ユミル」


マルコ「じゃあ、みんな隣の人と肩を組んで」

ジャン「…こんな場所で大声出す気か?」

エレン「ちょっとぐらい大丈夫だろ」

アルミン「うん。みんな組めたね。…で、掛け声は?」

マルコ「んー、そうだな…。よし、訓練兵団の歌からワンフレーズ拝借しよう。…準備はいい?いくよ…」スゥー


マルコ「戦え、それが!!」

一同「「自由への道!!!!!」」


ザワザワ ザワザワ

ジャン「ぎゃはははは、ダサすぎんだろ、俺ら」ゲラゲラ

コニー「やっべ、めっちゃ見られてんじゃん。でもたっのしぃ~♪」ゲラゲラ

ライナー「ははは、気合は十分だな。頑張って来いよ」

マルコ「ああ、行ってくるよ」スタスタ

クリスタ「みんな観客席では静かにね」スタスタ

エレン「じゃ、応援よろしくな。…出番まで控え室で昼寝でもするかなー」スタスタ


※  ※  ※  ※

エレン「ん?クリスタどうしたんだ。階段の途中で止まって…」

クリスタ「……」ギリッ

マルコ「…どこ見てるの?……うわ、すごい警備の数だね、あの貴族……」

エレン「どんだけお偉いさんなんだよ。…あれって審査員か?」

マルコ「さぁ…。他にも貴族らしき人物は会場内で見かけたし、断定はできないね…」

クリスタ「…あの人は審査員よ」クルッ スタスタ

エレン「えっ?何で分かるんだよ」スタスタ

クリスタ「…何となく」スタスタ

マルコ「……顔色悪いけど……大丈夫かい?」タタッ

クリスタ「…うん、平気だから…」スタスタ

クリスタ(…大丈夫。私には仲間がいる。もう何も恐くない…)


※ ※ 大ホール内 観客席 ※ ※

ザワザワ ガヤガヤ

ジャン「何とか席は確保できたな」

アルミン「結構後ろの方になっちゃったけど」

コニー「クリスタたちの出番っていつだ?」

ユミル「一番最後らしいぜ。演奏順はくじ引きで決めたらしい」

サシャ「それって、運が良いのか悪いのか…、どっちなんでしょうね?」

ユミル「クリスタが言うには、一番目は不利だけどそれ以外だったら何番でも同じだとよ」

ライナー「じゃあ俺はクリスタの出番まで仮眠をとるかな。シートはふかふかだし、気持ちよく寝れそうだ」

ベルトルト「うん。客席は暗いしね。それに音楽まで流れてきたら僕も間違いなく居眠りするね」

アニ「寝るのは勝手だけどさ、いびきとか歯軋りとかしないでよ」

アルミン「…それにしてもステージの照明とかすごいね。あれ全部ガス灯だよね」

ミカサ「…ガスの無駄使い」

ジャン「内地ってのは資源も資金も溢れかえってんだろうよ。てめぇ達ばっかり贅沢しやがって、ムカツクぜ」

ユミル「おっ、そろそろ始まるみたいだね」


※ ※ 控え室 ※ ※ 

クリスタ「…ピアノの音が微かに聞こえる。一番目の演奏が始まったみたいね」

マルコ「そうだね。順当にいけば僕らの出番は二時間後ってとこかな…。暇を持て余すね」

エレン「ローゼ内の他の駐屯地が棄権したせいで、この無駄に広い控え室は俺達専用だけどさ。広すぎて逆に落ち付かねぇ」

クリスタ「トランプでも持って来れば良かったね」

マルコ「ははっ、クリスタ余裕があるね」

クリスタ「だって何もしないで待ってたら緊張しちゃうよ」

エレン「内地の奴らの演奏は聴かなくていいのか?」

マルコ「他人の演奏を聴くとさ、どうしても影響を受けるから…、エレンは特に」

クリスタ「私たちは私たちの演奏をするだけでいいの」

マルコ「けど、4番目の演奏が始まったら僕らは舞台袖で待機するから、嫌でも耳に入るんだけどね」


コンコン ガチャッ

「失礼。お邪魔するよ」ツカツカ


マルコ「あっ、はい。…えっと、何か?」スクッ

エレン「あいつもタキシード着てるな。…出場者か?」ヒソヒソ

クリスタ「ええ…、あの特徴的な髪形…。さっきくじ引きの時に見かけたよ」ヒソヒソ

マルロ「突然の来訪ですまない。俺はウォール・シーナ東方面駐屯地所属のマルロ・フロイデンベルクだ」スッ

マルコ「…僕はウォール・ローゼ南方面駐屯地所属のマルコ・ボット。はじめまして」ギュッ

マルロ「あぁ、よろしく。とりあえず、逃げ出さずにここまで来たお前達に敬意を表する」

マルコ「それで…、何の用かな?」

マルロ「お前たちの噂は耳にしたことがあったんでね、どんな連中か顔を見たかったんだ」

クリスタ「…噂?」

マルロ「軍楽隊を作ったり、チャリティーイベントを開催したりする変な駐屯地がローゼ内にある…。お前らのことだろう?」

エレン「変って…。お前、喧嘩売りに来たのかよ?」ガタッ


マルコ「まぁまぁ、エレン。落ち着いて。……そうだよ。僕らのことだ。けど、それが何か?」

マルロ「そうか…。いや、実を言うと羨ましいと思ってる。お前らの駐屯地の自由な精神と団結力を…」

クリスタ「えっと、フロイデンベルクさんのいる駐屯地はそんなに規律が厳しいのかな…?」

マルロ「マルロでいい。…規律なんてあって無いようなものだ。規律違反は教官への賄賂で揉み消せる」

マルロ「成績も親の資金力次第だ。金持ちの師弟は優遇され訓練だってサボり放題。自宅から通ってる奴さえいる」

マルロ「所属する訓練兵も個人主義者ばかり。協調性も社会性もあったものじゃない。まったくひどい状況だ」

エレン「…気にいらねぇな。同じ駐屯地にいるんだ。どんな奴らだろうとお前の仲間だろ?仲間の悪口は言うな」

マルロ「ふんっ、仲間だなんて思ったことは無いね。俺はあいつらみたいなクズとは違うんだ」

マルロ「俺は必ず憲兵団に入団する。そして数年後には上に立ち、この現状を正してやるんだ」

マルコ「…いろいろと大変そうだな、内地の駐屯地って…」

マルロ「おいおい、大変なのはお前らのほうだろう。憲兵団に入団できなくなるんだぞ?」

マルコ「ご心配なく。僕らは必ず入団枠を獲得するから」


マルロ「はっ、たいした自信だな。…さては知らないのか?このコンクールが出来レースだって…」

マルコ「知ってるよ。でも、もう出来レースじゃない。君も油断してると憲兵団への切符を逃すかもね」

マルロ「…どういうことだ?」

マルコ「さぁ…」

クリスタ「あの…、フロイデンベルクさんのチームは何番目に演奏するのかな?」

マルロ「マルロでいい。…うちは4番目だ。ちなみにチームじゃない。俺一人だ」ドヤ

エレン「ぶっ、くくくっ、お前、やっぱり友だちいねぇんだな」ゲラゲラ

クリスタ「こらっ、エレン笑ったら失礼だよ。ごめんなさい、フロイデンベルクさん」

マルロ「マルロでいいって。…駐屯地内に友人がいないのは確かだ。だが、俺が一人で参加したのは別の理由だ」

マルコ「どういう理由?」

マルロ「このフェアじゃない大会に、そのまま乗っかったら俺までクズになってしまう」

マルロ「過酷な課題曲をたった一人で負担することで、少しはお前らと平等に戦えるんじゃないかと思ってな」

エレン「…なんだ、結構いい奴じゃん」


クリスタ「フロイデンベルクさんは課題曲は何を選んだの?」

マルロ「マルロって呼べよ。…ベートーベンのソナタ『月光』、リストは『ラ・カンパネラ』、ショパンは『革命』」

マルコ「…『月光』は第三楽章?」

マルロ「当然」

エレン「よっしゃ!!きたーーーー!!」

マルロ「えっ?」

クリスタ「ふふ、狙い通りね」

マルコ「ごめんね。僕たち君に勝たせてもらうから。運が無かったと思って諦めてよ」ポン

マルロ「はぁ?」


※ ※ 大ホール内 観客席 ※ ※

♪♪♪~♪~ ♪~♪♪~

ユミル「やっと4番目か…。ふぁ~、眠い…」ヒソヒソ

ジャン「クリスタの演奏に慣れてるせいか、他の奴らがエラい下手糞に感じるな」ヒソヒソ

アルミン「確かにひどい演奏が多かったけど…、でも今弾いてる人はなかなか上手だと思うよ」ヒソヒソ

ミカサ「…これはエレンと同じ曲?」ヒソヒソ

アルミン「うん、『月光』だ。でも弾く人によってこんなに違うんだね」ヒソヒソ

ミカサ「エレンの演奏は冷たい月の光がどんどん膨張して溢れていく感じなのに…」ヒソヒソ

アルミン「決して下手では無いけど、コンパクトにまとまってるよね」ヒソヒソ

ジャン「ああ。こじんまりしてるな。きっと肝の小さい男だぜ、あれは」ヒソヒソ

ユミル「…ん?次に弾き始めた曲は…、また『ラ・カンパネラ』か」ヒソヒソ

ジャン「またこれかよ。今日で三人目だぜ。聴き飽きたっつーの」ヒソヒソ

アルミン「でも、クリスタの狙い通りだよ。圧倒的にクリスタのほうが上手い」ヒソヒソ


ミカサ「…けど弾いてる彼の全身から鬼気迫るものを感じる。必死さだけは伝わってくる」ヒソヒソ

ジャン「いくら必死こいたって、あれじゃあな。ちっとも鐘の音が心に響いてこねぇ」ヒソヒソ

ユミル「…ったく、コニーたちは完全に寝てるし」チラッ

アルミン「ぷっ…、審査員も半分ぐらいがウトウトしてるよ」ヒソヒソ

ミカサ「…本当ね。審査する気あるのかしら?」ヒソヒソ

ジャン「そんな気、最初から無ぇんだろ。無条件に内地の奴らには高得点を付ける気だ」ヒソヒソ

ユミル「けど、クリスタたちの演奏を聴いてもらわないことにはね…」ヒソヒソ

ミカサ「…起こしてこようかしら?」ヒソヒソ

アルミン「無理だよ。厳重な警備が審査員の周りを取り囲んでいるんだ。僕らじゃ近寄れない」ヒソヒソ

ユミル「…まいったね、こりゃ」ヒソヒソ


※ ※ ステージ袖 ※ ※

エレン「へぇー、あいつなかなか上手いじゃん」

クリスタ「うん。口だけじゃ無かったみたい」

マルコ「結局、出番がくるまで僕らの控え室に居たしな。本当は一人で寂しかったんだろうね」

エレン「悪い奴では無いんだが……、俺は苦手」

クリスタ「言ってることは正論なんだけど…。堅すぎるっていうか、他人に対する思いやりが足りないっていうか…」

マルコ「仕方が無いと思うよ。理解者がいない状況で三年近く一人で意地を張ってきたんだ。性格が尖りもするさ」

エレン「はぁー、そうやって優しくするから、あいつマルコのこと気に入って文通しようとか言い出すんじゃねぇか」

クリスタ「フロイデンベルクさん、すっかりマルコとお友達になった気でいるし…。本当に文通するの?」

マルコ「はは、しないよ。面倒だし。…けどさ、努力家なんだと思うよ。演奏聴いてたら真面目に練習してたのが分かる」

エレン「まぁ、でもクリスタの敵じゃねぇな」ニッ

クリスタ「エレンの敵でもないよ」ニコッ


※ ※ 大ホール 観客席 ※ ※

ザワザワ ザワザワ

ジャン「あー、やっと次か。マジ長ぇわ、退屈だわ、かなりの苦行だったぜ…」

アルミン「ほら、みんな起きてよ。クリスタたちの出番だよ」ユサユサ

コニー「…ん、あ…?」

サシャ「…ふぁぁぁ…、お腹空きましたね…ムニャムニャ」

ライナー「……あー、今何時だ?」

ベルトルト「……ふぁっ!?……ああ、そうだったね。…僕はホールに居たんだ…」

アニ「…眠い…」ウトウト

ユミル「今は正午過ぎ。私も腹減ってきたな…」

ミカサ「…審査員は起きる気配がない。アルミン、何か策は無いの?」

アルミン「うーん、さっきから考えてるんだけど、なかなか良い案が浮かばなくってさ…」

ジャン「あっ、審査員席へ誰か歩いて行ってる。…あれってキース教官じゃね?」

ユミル「…本当だね。…キースさん、今日は優しすぎだよ。帰りは雨に違いないね…」


※ ※ 審査員席 ※ ※

ザワザワ ガヤガヤ

キース「やあ!!!久しぶりだな、エルヴィン!!!」

エルヴィン「お久しぶりです。キースさん。…あの、そんなに大声を出さなくても聴こえるのですが…」

キース「最近、調子はどうだ!!!」バシッ!!バシッ!!

エルヴィン「は、はぁ。相変わらず資金不足に頭を悩ませていますが、それ以外は順調です」

キース「そうか!!!わしは絶好調だぞ!!!」

エルヴィン「はい…。見れば分かります」

ハンジ「…どうしちゃったの?この人…」ボソッ

キース「おぉ!!ハンジじゃないか!!相変わらず研究に精を出してるらしいな!!」

ハンジ「ど、どうも…」


キース「で、結婚したのか?」

ハンジ「してません。悪いですか!?」

キース「そうか…。まーだ独身か!!!」ハッハッハッ

ハンジ「ぎゃぁぁぁ!!!そんなこと大声で言わないで!!!」ガタッ!!

キース「もういい歳なんだから静かにしろ。周りの迷惑だろう。ではな」クルッ スタスタ

ハンジ「…はぁ?エルヴィン、何なのあれ?」

エルヴィン「…おはよう、ナイル。その顔はまだ夢の途中だったかな?」

ナイル「…放っとけ」ファァ

ハンジ「あっ、なるほど…。さっきまで居眠りしてた審査員が全員起きてるし…」キョロキョロ

エルヴィン「…一介の教官が貴族に直接声を掛けるわけにはいかないからな。ハンジはうまく利用されたってわけだ」

ハンジ「はぁ…、いつまで経ってもあの人には敵いそうにないや…」フフッ


※ ※ ステージ袖 ※ ※

マルコ「…そろそろステージに上がらないとけないんだけど。いつまで三人で手を繋いどけばいいのかな…」

クリスタ「…ごめん、もう少しだけ…。…私に勇気を分けて…」

エレン「緊張してるのか?」

クリスタ「ううん。今は平気なんだけど…。舞台に立ったらどうなるか分からないよ…」

マルコ「…ねぇ、クリスタ。今日の演奏を一番聴いてもらいたい相手は誰かな?」

クリスタ「もちろん…、私の大切な仲間に聴いてもらいたい」

マルコ「僕もだよ。だから彼らのことだけを考えよう。他人の評価なんてどうでもいい。彼らが喜んでくれれば十分だ」

エレン「そうだな。あいつらに聴かせるって思うと普段通りの自分でいられそうだ」

マルコ「…想像してごらん。ここは僕らの光差す音楽室。遠くからは訓練兵の賑やかな声が聴こえてくる…」

クリスタ「…時々、ミシンの音がピアノの音色と絡み合って…。窓から風がそよぎ楽譜を勝手にめくっていく…」

エレン「…クリスタ、遅れて悪いな。今日もレッスンよろしくな…。はは、そういや俺、毎回遅刻してたな…」

クリスタ「ふふっ、エレンってば…」

マルコ「さぁ、ピアノの先生、最後の発表会の開演だ」スクッ

いよいよか………胸が熱くなる


※ ※ ステージ上 ※ ※

マルコ(…ステージからって意外とお客さんの顔が良く見えるんだよね…)スタスタ

マルコ(…審査員席は中央5列目か。…なんか眼鏡の女の人が笑顔で手を振ってるし…)スタスタ

マルコ(…挨拶はお辞儀じゃなくて敬礼しろって憲兵団の人が言ってたよね…)ピタッ

マルコ(みんなは…、あっ、いたいた。ぷぷっ、客席で立ち上がっちゃ駄目だって。大丈夫、ちゃんと見つけたから)バッ!!

マルコ(…コンクールだから拍手は無しか…。敬礼も第一奏者だけでいいって言ってたし…)クルッ スタスタ

マルコ(…椅子の位置低いな。調節しないと。僕と身長変わらないのにさ、彼は胴体長いんだね…)ギッギッ ガタガタッ

マルコ(…前回ステージに立った時は、剣舞で死にそうになったんだ。…それを思えば今日は楽勝…)ズズッ ストン

マルコ(…みんな聴いててくれよ。君たちへの感謝の気持ちを音にのせるから…)スゥ…


――ラフマニノフ『前奏曲 op23-5』

♪ ♪♪♪ ♪♪ ♪♪~

マルコ(まずいな…。リハーサル無しだったから指が固い…。クリスタ気付いてくれるかな…)

マルコ(前半の和音連打で手が温まらないと、後半の速いパッセージに苦戦しそうだね…)

マルコ(けど、さすがコンサート仕様に調整されたピアノだ。鍵盤が軽い。自分が上手くなったと錯覚しそうだよ)


※ ※ ステージ袖 ※ ※

エレン「さすがマルコ、落ち着いてるな」

クリスタ「……エレン、両手を出して」

エレン「急に何だよ?」スッ

クリスタ「演奏前に指の体操しよう。…はい、まずは拳を作ってギュッと握る」ギュゥ

エレン「はいはい」ギュゥ

クリスタ「そして脱力。これを何回か繰り返して」ブラーン

エレン「おぉ、じんわり手が温もってきた」ギュゥ ブラーン

クリスタ「事前練習ができなかったから、急には指が回らないんだよね。うっかりしてた」ギュゥ ブラーン

エレン「…マルコの演奏で気付いたのか?」ギュゥ ブラーン

クリスタ「うん。いつもより弾き始めの音が強張ってた。…じゃあ次は指を一本づつ曲げて」

エレン「すげぇな。俺には全然分からなかったぜ」

クリスタ「ふふ、だって私はピアノの先生だから」


※ ※ 観客席 ※ ※

コニー「きたー、マルコのズンドコ節」ヒソヒソ

サシャ「相変わらず今日もいい調子でズンドコしてますね」ヒソヒソ

ジャン「…何だ?ズンドコって…?」ヒソヒソ

コニー「俺らさ、講義棟の近くの木にぶらさがりながら、あいつらの練習風景を時々眺めてたんだけどよ」ヒソヒソ

サシャ「この曲の始まりが、ズンドコドッド~♪ ズンドコ♪ ズンドコ♪にしか聴こえなくて…」ヒソヒソ

コニー「俺がマルコのズンドコ節と勝手に命名した」ヒソヒソ

ジャン「ぷっ…、やめろ…、マジにそうとしか聴こえてこなくなる」プルプル

アルミン「…確かに。和音の響きが重厚で壮大な曲だけど、…どことなく野暮ったいリズムだよね」ヒソヒソ

サシャ「そうなんですよ。ダサ格好いいんです。だからこそ気になってついつい聴いちゃうんです」ヒソヒソ

コニー「ドカチンのおっさんがズンドコズンドコ土掘ってるイメージなんだよなぁ」ヒソヒソ

サシャ「おっ、曲調が変わりましたね。突然おじさんがヘルメット脱いでロマンスを語り出しました」ヒソヒソ

コニー「やっべ、ヘルメット脱いだら実はイケメンだった」ヒソヒソ

アルミン「…コニーとサシャに解説させると、どんな名曲もコミックソングになっちゃうね」ヒソヒソ

ジャン「けど、こっからはマルコの独壇場だ。甘く切ない旋律を弾かせたらムカツクぐらい上手いからな」ヒソヒソ


※ ※ ステージ上 ※ ※

マルコ(ふぅー、何とか一曲目は弾き切った。いい感じに指のコンディションも整った…)

マルコ(…観客の反応が気になるところだけど…客席は見ないようにしよう。僕は僕の演奏をするだけだ)

マルコ(次の曲は…激情に駆られ怒りと悲しみに満ちたシューマンの小作品)

マルコ(…恋人の父親に交際を猛烈に反対されて、悲嘆に暮れている時に書いた曲らしいけど…)

マルコ(…クリスタのお父さんってどんな人なんだろう。…彼女の口から家族の話が聞ける時は来るのかな…)

マルコ(…そんなこと考えてる場合じゃないよね。…集中しないと…)スゥー…ハァー…

マルコ(…以前、エレンに‘速い曲を弾いてるところを見たことがない’って言われたけど…)

マルコ(…勢いだけの速い曲が嫌いなだけで、苦手なわけじゃないんだよ…)スッ…



――シューマン『クライスレリアーナ op16-7』

♪ ♪♪ ♪♪~♪ ♪♪ ♪~



※ ※ ステージ袖 ※ ※

エレン「…何だよ、マルコ。人のこと天才、天才って持ち上げといて…。全然俺より上手いじゃねぇか」

クリスタ「ふふっ、仕方ないよ。エレンとはキャリアが違うから。細かいテクニックはマルコの方が上だよ」

クリスタ「けど、二年ちょっとでここまで弾けるようになったエレンは、やっぱり天才だと思うよ」

エレン「…ピアノの才能なんか、巨人を倒すのに何の役にも立たねぇよ」

クリスタ「この世に無駄なことなんて一つも無いよ。エレンがピアノを弾くことで、何かが変わるかもしれない」

エレン「何だよそれ。…風が吹けば桶屋が儲かる的な?」

クリスタ「そう。エレンが弾けば巨人が倒れる」

エレン「はは、途中の過程がえらい長そうだな」

クリスタ「さぁ、次はエレンとマルコの連弾だよ。自分の座る椅子を持って出てね」ガタッ

エレン「分かった。…客席はマルコの演奏に圧倒されて静まり返ってるな…。この雰囲気の中出て行くのか…緊張するぜ」

クリスタ「大丈夫。最初は連弾だから。ソロよりは気が楽なはず。かっこいい所、みんなに見せてあげようよ」

エレン「そうだな。せっかく天から授かった才能だ。有効活用してくるか。…俺が弾けば巨人が倒れるんだろ?」ニッ

クリスタ「うん。巨人を殲滅させる勢いで弾いてきて」ニコッ


※ ※ 審査員席 ※ ※

ハンジ「…なんかすごい痺れたんだけど」

エルヴィン「…リウマチか?」

ハンジ「ちょっ、そんなババァじゃないし!!」

エルヴィン「静かに。ちょっとした冗談だろう。…確かに良い演奏だったな」

ハンジ「でしょでしょ。炸裂するリズム。爆発し噴出していく音の渦が狂気の世界へ私を誘う。くぅー、滾るぜ」

エルヴィン「…おや、次の奏者は椅子を持って出てきたな…」

ハンジ「…椅子を並べて座ったし…。まさか一緒に弾くのかな?…えっと、プログラムは…」ガサガサ

ハンジ「…連弾だって。…やだ!美少年二人が連弾するの?…うわっ、どうしよう。可愛すぎる」ハァハァ

エルヴィン「落ち着いてよく見てみろ。……あれは美少年なのか?」

ハンジ「もうね、10代半ばの少年ってだけで満足しちゃうから。細かい造詣は気にしない」

エルヴィン「……会場のご婦人方も色めきだってるな。…そういえば彼らの駐屯地は寄付金集めに成功したとか…」

ハンジ「そうだよ。チャリティーコンサート開いてガッポリ稼いだみたい。ほとんど憲兵団がピンハネしたらしいけど」

エルヴィン「…音楽で資金集めか。…ハンジ、我々も何か楽器をやってみるか?」

ハンジ「やらないし。おじさん、おばさんが楽器弾いて誰が喜ぶのさ。小銭じゃなくて石が飛んできそうだよ」


※ ※ ステージ上 ※ ※

マルコ「…ごめん、エレン。もう少し右に寄って。ペダルが踏みにくい…」ヒソヒソ

エレン「おっ、悪ぃ」ヒソヒソ ズズッ

マルコ「…会場がザワついてきたね」ヒソヒソ ズズッ

エレン「…いいんじゃね?これぐらいの方が俺は弾きやすいし。それよりアルミン達はどこだ?」ヒソヒソ

マルコ「客席の右後方。…また、立ち上がって猛烈にアピールしてるし…。手でも振っといてあげてよ」ヒソヒソ

エレン「…ははっ、憲兵に注意されてやがんの。…大丈夫。ちゃんと見つけたぜ」ヒラヒラ

マルコ「…エレン、この曲で唯一クリアできなかった課題は?」ヒソヒソ

エレン「…色っぽく身悶える」ヒソヒソ

マルコ「正解。今日こそクリアしてみようか。…始めるよ」ヒソヒソ

マルコ(…遠い昔、ジプシーと呼ばれた流浪の民の音楽が元になった曲…。安住の地を持たぬ民族の悲哀と激情…)

マルコ(…民族音楽独特のリズムの緩急の奔放さに、最初はエレンと合わせるのに苦労したけど…)スッ チラッ

エレン(…息遣い、体の揺れ、マルコは全身を使って合図をくれる。俺はそれにのっかるだけだ…)コクン


――ブラームス『ハンガリー舞曲 第1番』


※ ※ 観客席 ※ ※

♪~♪♪~♪ ♪~♪♪~♪♪~

サシャ「うわぁ、大迫力ですね」ヒソヒソ

ユミル「男が二人がかりで鍵盤しばいてんだ。ピアノもたまらず大声出すって」ヒソヒソ

ミカサ「……エレン素敵///」ヒソヒソ

アニ「…あいつなんであんなに苦しそうな顔してんだろうね?」ヒソヒソ

サシャ「眉間に皺が寄ってますよね。…けどたまにふっと力を抜いて上体を反らす時の表情がなんとも…」ヒソヒソ

ユミル「へぇー、あんな顔できるんだ。なかなか艶っぽいじゃん」ヒソヒソ

アニ「…演技しすぎだね。気持ち悪い」ヒソヒソ

サシャ「ミカサは見たことありますか?あんな顔したエレン」ヒソヒソ

ミカサ「……ベッドの中で……///」ヒソヒソ

サシャ「…すみません。聞いた私が馬鹿でした///」ヒソヒソ


※ ※ ステージ上 ※ ※

♪~♪♪~♪ ♪~♪♪~♪♪~

マルコ(…第一主題の再現部に入った。このまま一気に最後まで駆け抜ける…)♪♪~

エレン(…すっげー気持ちいい。風を切り裂いて走ってるような爽快感。どこまでも行けそうな気分だ)♪♪~

マルコ(…よし、これでラスト)ジャン ジャーン♪

エレン「……ふぅー」ハァ…ハァ…

マルコ「……はぁ……はぁ……、今日は完璧」グッ


パチ パチ パチ パチ…


マルコ「えっ?…拍手禁止じゃ…」キョロキョロ

エレン「…審査員席にいる眼鏡の人が立ち上がって拍手してるぜ…」

パチパチパチパチパチ… 
パチパチパチパチパチパチパチ…

マルコ「あの人に釣られて周りからも拍手が……。ははっ、嬉しいね」

エレン「…あいつらも立ち上がって拍手してるぜ。…プログラムに連弾入れて正解だったな」

悶えてピアノをしばくエレンをみたいぃいいい


※ ※ 審査員席 ※ ※

ザワザワ ザワザワ

貴族C「…まずいな、こうも盛り上がっては。彼奴らをあからさまに低く評価すると世間から悪し様に言われてしまう」

貴族D「…かといって、高得点を付けるわけにもいくまい。上位4つは内地の駐屯地に取らせるという約束だからな」

貴族C「…いかがいたしましょう、レイス卿…」

レイス「…世間の評判など捨て置けばいい。庶民など生まれつき下賎で口さがない連中だ。いちいち構ってはおれん」

貴族C「し、しかし…」

貴族D「…ナイル、貴様らの昨晩の醜態のせいで、我々は二名も同胞が欠席だ。事の顛末はどうなった?」

ナイル「…申し訳ありません。未だに容疑者の身柄を取り押さえられていません」

貴族C「…今、舞台に立っておる彼奴らが、最有力容疑者なんだろう?早く逮捕しないか」

ナイル「…しかし、証拠が無く…」

貴族D「ふぅー、まったく使えない連中だ。…憲兵団への資金援助も考え直さねばならぬかな…」


ナイル「…夜警の報告によると、三発発砲し、そのうち一発は確実に犯行グループの一人に命中したとのことです」

ナイル「後ほど、ここにいるローゼ南方面駐屯地の訓練兵全員を調査し、銃創が見つかり次第、即逮捕いたします」

貴族D「…銃創が見つかり次第?…そんなもの無くてもでっち上げろ」

ナイル「そういうわけには…」

貴族D「…万が一、このコンクールで彼奴らが4位以内に入ったとしても、不祥事があったとして失格にできる」

貴族C「名案ですな。我々の評判を落とさない程度の点数を彼奴らに与えても問題無いということですからな」

ナイル「……」

貴族D「どうした。事実の捏造、偽装はお手の物だろう?…それとも我々の援助無しでも兵団が成立するとでも?」

ナイル「……はっ、善処致します……」

貴族C「たかが訓練兵の数人が処罰された所で痛くも痒くも無いだろう。今さら何を善人ぶっているんだね」

ナイル「……申し訳ありません……」ギリッ


ハンジ「…あらら。大変そうね、憲兵団の師団長ってのも」ヒソヒソ

エルヴィン「我々よりも貴族との繋がりが強いからな。たとえ理不尽な要求でも無下にはできないのだろう」ヒソヒソ

ハンジ「けどさ…、このままだとあの子たちに罪が擦り付けられちゃうね」ヒソヒソ

エルヴィン「…冤罪かどうかはまだ分からないだろう?」ヒソヒソ

ハンジ「あの子たちを疑ってるの?」ヒソヒソ

エルヴィン「状況的に見て動機は十分だ。たとえ彼らに銃創が無くとも、実行犯が別にいる可能性もある」ヒソヒソ

ハンジ「…見捨てるつもり?」ヒソヒソ

エルヴィン「…いや、彼らは兵団にとって有益な人材になりそうだ。ここで終わらせる訳にはいかんな」ヒソヒソ

ハンジ「まさか調査兵団に入れて資金稼ぎさせる気じゃ…」ヒソヒソ

エルヴィン「…出場者3名全員が調査兵団への入団を確約するのなら、救いの手を差し伸べよう」ヒソヒソ

ハンジ「無理でしょ。だって憲兵団の入団枠を獲得するためにこんな舞台に立ってる子たちだよ」ヒソヒソ

エルヴィン「まぁ、間違いなく憲兵団希望者だろうが…。追い込まれれば少しは意志も揺らぐだろう…」ヒソヒソ


※ ※ ステージ上 ※ ※

エレン(…最初の曲が連弾だったおかげで大舞台でも萎縮せずに済んだ。ここでも認めてもらえるって自信がもてた)

エレン(会場も拍手が起こったせいで張り詰めていた空気が緩んできたな。観客から重苦しい雰囲気が消えたぜ)

エレン(…ここからが俺の本番だ。…技術的には以前弾かされた『剣の舞』の方がよっぽど難しかったから問題ない…)

エレン(…練習を積めば実際に音が響きだす、努力の結果がすぐに演奏に表れる曲…)

エレン(…うまく弾けば弾くほどピアノが良く鳴ってくれるから、嬉しくなってもっと練習したくなる…)

エレン(だからこそ満足できない。いくら上手く弾いても納得がいかない。もっと上を目指せるって思っちまう…)

エレン(…まだ俺の中では完成形じゃねぇけど、とりあえずこれが今の精一杯だ…)スゥー ハァー

エレン(……心の奥底で常に渦巻いている巨人への憎悪。…今解き放ち、俺は自由の翼を手に入れる……)スッ



――ベートーヴェン ピアノソナタ第14番 作品27-2『月光』第3楽章


♪♪♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪♪♪~


※ ※ 観客席 ※ ※

アルミン「…すごいね。超高速で駆け上がる分散和音。まるで突風だ。音が僕の体を切り裂いていく感じだよ」ヒソヒソ

ライナー「ははっ、俺の巨体も吹き飛ばされそうだ。暴力的なほどに音が迫ってきやがる」ヒソヒソ

ベルトルト「…なんだかすごく恐いよ。絶望的な感情が痛いほど伝わってくる」ヒソヒソ

コニー「これって音楽だよな?俺にはエレンが何かと戦っているようにしか思えん」ヒソヒソ

ジャン「…音楽の向こう側にいる敵と壮絶な死闘を繰り広げてるんだろう。見てみろよ。あいつの目…」ヒソヒソ

コニー「うわっ、完全に駆逐モードじゃん。こっえー」ヒソヒソ

ミカサ「…ここまで怒りを爆発させたエレンを見るのはあの日以来…」ヒソヒソ

アルミン「…無意識のうちにトラウマを克服しようとしてるのかな…」ヒソヒソ

ミカサ「…そうであって欲しい。いつまでも憎しみと悲しみにとらわれていては前へ進めない…」ヒソヒソ

ライナー「…他の観客はあまりの演奏の凄まじさに圧倒されて身じろぎ一つしないな」ヒソヒソ

ベルトルト「…さっきの変な髪形の人の時とは大違いだね。……でも、この曲のどこが『月光』なの?」ヒソヒソ

アルミン「作曲者本人が名付けたわけじゃないらしいよ。勝手に誰かがそう呼んだのが定着したんだって」ヒソヒソ

コニー「ジャンが命名した『死に急ぎ野郎』と同じだな」ヒソヒソ

ジャン「…そこまで普及してねぇだろ、それ」ヒソヒソ


※ ※ ステージ袖 ※ ※

マルコ「エレン、今日は一段と気合が入ってるね。ヒステリックなほどにクリアな音が鳴り響いてる」

クリスタ「…この曲ってベートーヴェンさんが耳が不自由になってきた頃作曲されたんだっけ?」

マルコ「確かそうだよ。絶望と孤独から立ち上がり、自分の過酷な運命と戦う決意を固めた曲だって話だけど」

クリスタ「…運命と戦う…か。…私にもその時が来たみたい…」

マルコ「…次はクリスタとエレンの連弾だね。…舞台に上がる覚悟はできたかな。…やめるなら今だよ」

クリスタ「…大丈夫。…私を支配し続けてきた過去の亡霊に、さよならの挨拶をしてくるから」スクッ

マルコ「クリスタ…?」

クリスタ「…これでやっと自由になれる気がする…」ガタッ ヨイショ…

マルコ「あっ、待って。ドレスを着てるのに椅子を運ぼうとしないでよ。僕がやるから…」


パチパチパチパチパチ… 


クリスタ「…エレンの独奏も無事終了ね。ふふっ、すごい拍手…」

マルコ「エレンには人を惹きつける特別な何かがあるんだろうね。彼が登場しただけで会場の雰囲気が変わったし…」

クリスタ「会場の雰囲気が良くなったのは二人のおかげだよ。…では行ってきます。椅子お願いするね」スタスタ


※ ※ ステージ上 ※ ※

クリスタ(…広い。…天井が高い。…こんな立派なホールで演奏できる日が来るなんて夢にも思ってなかった)スタスタ

クリスタ(…あっ、ユミルたちが手を振ってくれてる。ふふっ、みんなの顔を見るだけで勇気が湧いてくるよ)スタスタ

クリスタ(……審査員席向かって一番右側……この辺りが丁度正面……)ピタッ クルッ 

クリスタ(……およそ三年ぶりにお会いしますね……お父様)


マルコ「椅子はこの辺でいいかな…」ヒソヒソ ガタッ

エレン「…おい、マルコ。クリスタここまで来ずに途中で止まったぜ?」ヒソヒソ

マルコ「えっ?」グルン

エレン「…ここまで来てビビったとか…?」ヒソヒソ

マルコ「…そんなことは無いと思うけど…」ヒソヒソ

マルコ(…クリスタの視線の先…。あれは…ロビーで見かけた大勢の護衛を引き連れていた貴族…)

マルコ(そういえばクリスタは言ってたな。…自分が出場すると審査員から必ず酷評されるって…)

マルコ(…あの貴族がクリスタと関わりがあるのか…。…貴族側審査員のトップは確か……そう、レイス卿だ…)

乙!
とうとうクリスタの出番か…
何事もなく終われるといいんだが


クリスタ(…正直言って、二度とお会いしたくなかった…)

クリスタ(無知で幼かった当時の私にとって、世界はあの屋敷の中だけでした…)

クリスタ(その小さな世界を支配する貴方は、私にとって逆らうことのできない絶対的な存在でした…)

クリスタ(…私という存在のすべてを否定し、命さえ奪おうとした貴方…)

クリスタ(そのせいで、自分は生きる価値の無い人間なんだとずっと苦しんできました…)

クリスタ(貴方に疎まれるぐらいなら、この世から早く消え去りたいと願っていました…)

クリスタ(…けれど、あの屋敷から追い出されたおかげで、私の世界は広がりました)

クリスタ(…真っ暗闇の中でも、光差す温かい場所を見つけることができました)

クリスタ(…貴方の前に立つのは恐かった。…やっと掴んだ生きる希望が砕かれてしまうとこの舞台を怖れていました)

クリスタ(…でも、今こうして貴方と対峙しても、子どもの頃に感じていた威圧感や恐怖心はありません)

クリスタ(…むしろ、傲慢で尊大な生き方しかできない貴方に憐れみさえおぼえます)

クリスタ(…貴方を非難する気持ちはもうありません…)

クリスタ(…これは別れの挨拶。…貴方に捧げる最後のカーテシー…)スッ

クリスタ(…この世に生を授けて下さったことに感謝します…)ファサッ

クリスタ(……さようなら………お父様)ニコ


エレン「…なんだ?スカートつまんで膝を曲げたぞ…」ヒソヒソ

マルコ「…上流階級の女性が行う挨拶だよ」ヒソヒソ

エレン「…何でそんなもんクリスタが…」ヒソヒソ


パチ パチ パチ パチ…
チョット スワッテクダサイヨ ハクシュハ マダ ハヤイデスッテ


エレン「ぷっ、審査員席のハゲたじいさん、クリスタが挨拶しただけで立ち上がって拍手してるぜ」ヒソヒソ

マルコ「まったく美人は得だね。うらやましいよ」ヒソヒソ

クリスタ「…ごめん。お待たせ」ヒソヒソ スタスタ 

マルコ「…すっきりした顔してるね。…安心した」ヒソヒソ

クリスタ「ふふっ、勝手に言いたいこと心の中で呟いてきたから…。気持ちの整理がついたよ」ヒソヒソ ガタッ

マルコ「…そう、良かった。…それじゃ、僕は下がるね。二人とも頑張って」ヒソヒソ

エレン「…今だけはクリスタ借りるぞ。後で怒るなよー」ヒソヒソ

マルコ「はは、楽しいデートに連れてってあげてよ。頼んだよ」ヒソヒソ クルッ スタスタ


※ ※ 審査員席 ※ ※

ハンジ「もう、ピクシス司令ってば本当に美人に目が無いんだから…」

ピクシス「いやぁ、すまんすまん。天使がわしに微笑んで挨拶しおったもんだから、ついな…」ペチペチ

ハンジ「…いやいや、司令のこと見てなかったでしょ」ブンブン

エルヴィン「…ところで、ピクシス司令。…配下を一人お借りしたいのですが…」ヒソヒソ

ピクシス「…なんじゃ。お前のとこの部下の方が有能じゃろう?」ヒソヒソ

エルヴィン「…すみません。我々は二人だけで来てしまったもので…」ヒソヒソ

ピクシス「…わしの大事な部下に何をさせる気だ?」ヒソヒソ

エルヴィン「…今、舞台の上にいる美少女を、窮地から救いたいとは思いませんか?」ヒソヒソ

ピクシス「そういうことは早く言わんか。……おーい、ハンネス」ヒラヒラ


ハンネス「…もう次の演奏が始まるってのに…。…何の御用でしょうか?」スタスタ


ピクシス「…エルヴィンの使いを頼まれてやってくれんか?」ヒソヒソ

ハンネス「…はっ?…調査兵団の団長の使いですか…?」ヒソヒソ


エルヴィン「…突然で申し訳ない。このメモに書いてある指示通りに動いて欲しい」ヒソヒソ ピラッ

ピクシス「美女救出大作戦じゃ。わしも詳しいことは知らんがの。とにかく頼むぞ、ハンネス」ヒソヒソ

ハンネス「はぁ…」ヒソヒソ

※  ※  ※  ※

貴族C「あの小娘、我々の前で一丁前にカーテシーなど…。まったく庶民の分際で何を考えているのだか…」

貴族D「……レイス卿のお知り合いですかな?稀に見る美しいお嬢さんでしたが…」

レイス「…さぁ、見たことのない娘だ」

貴族D「おや、おかしいですな。数年前、貴卿が主催された舞踏会で見かけたような気がするんですがなぁ」

レイス「…知らぬ。人違いであろう」

貴族D「…そういえば貴卿の流行り病で亡くなったというご息女も、生きていればあれぐらいの年齢ですな…」

レイス「…何が言いたい?」

貴族D「いえ、何も。ただ、あのお嬢さんが貴卿の亡きご息女に見れば見るほど似ているもので…」

貴族D「くれぐれも情に流されぬようご忠告申し上げたまでです」


※ ※ ステージ上 ※ ※

クリスタ「…はい、笑って」ヒソヒソ

エレン「…こうか?」ヒソヒソ ニカッ

クリスタ「ふふっ、合格。エレンがプリモなんだから、楽しそうに弾いてね」ヒソヒソ

エレン「本当にいいのかよ、俺が客席側で…。後でライナーに怒られそうだ」ヒソヒソ

クリスタ「今さら交代できないでしょ?エレンが簡単な方やりたいって言うから…」ヒソヒソ

エレン「まっ、仕方ないか。…えっと、クリスタとデートするつもりで弾くんだっけ?」ヒソヒソ

クリスタ「うん。わくわく、どきどきさせてね。期待してるよ、エレン」ヒソヒソ

エレン「…ふーん。…どこまでならOK?」ヒソヒソ ニヤリ

クリスタ「…もう、手を繋ぐまでだってば///」ヒソヒソ

エレン「はは、冗談だって。たとえ曲の中でも浮気したらミカサに泣かれそうだ。…じゃ、一緒に出かけるか」ヒソヒソ


――ドビュッシー 小組曲より『バレエ』

♪♪~♪♪~♪~ ♪♪♪♪~


※ ※ 観客席 ※ ※

アルミン「うわぁ、ルンルンだね。こっちまで楽しくなってくるよ」ヒソヒソ

サシャ「はい。ウキウキしてきて、すごく幸せな気分になります」ヒソヒソ

ライナー「なぜエレンが手前に座るんだ。これではクリスタがよく見えないだろう」ヒソヒソ

ユミル「本当だぜ。クリスタが客席側にいないと得点にプラスアルファがつかないだろ?」ヒソヒソ

アルミン「基本的に連弾ってリードできる人が左側に行くらしいよ…」ヒソヒソ

ジャン「相変わらず情けねぇ野郎だぜ。クリスタに引っ張ってもらわねぇとまともに演奏できねぇのかよ」ヒソヒソ

アルミン「はは、しかもエレンとクリスタの二人でデートしてるって設定らしいよ」ヒソヒソ

ライナー「何?こんな可愛らしい曲弾きながら、頭の中ではお互いに全裸なのか?」ヒソヒソ

サシャ「いやいや、全裸でデートしませんから」ヒソヒソ

ユミル「違うぜ、サシャ。このゴリラの頭の中じゃ、デート=Hなんだよ。最低だね」ヒソヒソ

ライナー「何とでも言え。大半の男はそういう認識だ」ヒソヒソ

サシャ「そんなことないです。エレンは絶対に違いますよ。ね、ミカサ」ヒソヒソ

ミカサ「……恋人になってからは、外出すると必ず連れ込まれる……///」ヒソヒソ

サシャ「…すみません。もうミカサに話を振るのはやめます…///」ヒソヒソ


※ ※ 審査員席 ※ ※

パチパチパチパチ…

ハンジ「やだもう。二人とも可愛すぎて、すっごくキュンキュンしちゃったし」パチパチ…

エルヴィン「…拍手禁止と注意事項に書いてあるだろう。審査員の君が率先して拍手を送るのは褒められた行為ではないな」

ハンジ「だって、もう今さらでしょ。この子たちで最後だし。すばらしい演奏を賞賛して何が悪いのさ」

エルヴィン「………ハンジ、見てみろ。ナイルが動き出した」ヒソヒソ

ハンジ「…本当だ。部下を呼び寄せたね。……耳打ちしてるし。これは間違いなく何か指示を出してるね」ヒソヒソ

エルヴィン「…部下は指示を聞いてホールを出て行こうとしてるな。……さて、こちら側は……」ヒソヒソ チラッ

ハンジ「…大丈夫。ちゃんと付いて行ってる。…駐屯兵団隊長のお手並み拝見だね…」ヒソヒソ

ハンネスがんば~~~~!!

おっ続き来てた
乙!
というかエレン…お前…www

※ ※ ステージ上 ※ ※

クリスタ(…ここからは私の独奏…)

クリスタ(…私に生きることの素晴らしさを教えてくれたすべての人への感謝の気持ちを込めて…)

クリスタ(…私の初めての友達になってくれたユミルのために)

クリスタ(…お日様みたいな明るさでたくさんの元気をくれたサシャのために)

クリスタ(…お調子者でいつも笑顔にさせてくれたコニーのために)

クリスタ(…危ない時はどこからか駆けつけて体を張って守ってくれたライナーのために)

クリスタ(…冷たい振りをしてるけど困っている時には手を差し伸べてくれたアニのために)

クリスタ(…温かな眼差しと穏やかな言動で安らぎを与えてくれたベルトルトのために)

クリスタ(…機転をきかせて何度も助けてくれたアルミンのために)

クリスタ(…強い人ほど優しいんだって気付かせてくれたミカサのために)

クリスタ(…揺るぎない意志と信念で勇気をくれたエレンのために)

クリスタ(……そして……私に恋を教えてくれたマルコのために……)スッ


――ショパン エチュードop25-1『エオリアンハープ』

♪~♪~♪~♪~ ♪~♪~♪~♪~


※ ※ 客席 ※ ※

アルミン「…空に立ち込める分厚い雲の切れ間から一筋の光が差し、大地を温かく照らし出す…」ヒソヒソ 

ミカサ「…まるで天上から降り注ぐ光のよう……なんて神々しいのかしら…」ヒソヒソ

サシャ「…グスッ…あまりの美しさに涙が勝手に溢れてきます…」ヒソヒソ

コニー「…俺もだ…グスッ…なんでだろう…グスッ…なんでこんなに心が震えるんだろうな…」ヒソヒソ

ジャン「…難曲を難曲と思わせない技術の高さ。透明感のある音質。今までの出場者とは明らかに別格だな…」ヒソヒソ

ユミル「…キラキラした音の粒子が会場を満たしていくのが目に見えるようだ…」ヒソヒソ

アニ「…心地いい。広大な草原に立ち柔らかい風に頬を撫でられているみたい…」ヒソヒソ

ベルトルト「…うん、心が軽くなって風と共に空を駆け巡るような浮遊感に包まれる…」ヒソヒソ

ライナー「…俺のために毎日ピアノを弾いてくれないか…」ボソッ

ベルトルト「…ライナー、何を言ってるんだい?」ヒソヒソ

ライナー「…良いと思わないか?プロポーズの言葉として…」ヒソヒソ

アニ「…いかにもマルコが言いそうなセリフだね。…もう言ってたりして」ヒソヒソ

ライナー「くそ、被るわけにはいかないな。……毎日俺をペダル代わりに踏んでくれってのはどうだ?」ヒソヒソ

ベルトルト「………うん。それならマルコと被ることはないだろうね…」ヒソヒソ


※ ※ ステージ袖 ※ ※

パチパチパチパチ…
ワァァァァ…

エレン「拍手だけじゃなく歓声まで沸いてるぜ。やっぱクリスタはすげぇな」

マルロ「…不公平だ。観客の盛り上がりは演奏内容に関わらず、審査員に好印象を与えかねない」

エレン「うわっ、いつから居たんだよ」

マルロ「今来たところだ。…お前らのビッグマウスがハッタリかどうか確かめにな」

エレン「…どうせ、控え室に話し相手がいなくて寂しかっただけだろ?」

マルロ「断じて違う。……ほら、お前らの荷物だ。控え室からわざわざ持ってきてやった」ドサッ

マルコ「え?なんで…」

マルロ「…演奏が終わっても控え室には戻るな。すぐに仲間のところへ行け…」ヒソヒソ

マルコ「…どういうこと?」ヒソヒソ

マルロ「…さっき憲兵が来て、内地の出場者たちに控え室でお前らと派手に喧嘩するよう指示していった…」ヒソヒソ

マルコ「…騒ぎの責任を僕たちに押し付けて失格処分にする気か…」ヒソヒソ

エレン「くそっ、あからさまに妨害してきたな」ヒソヒソ


マルロ「…それからお前らの荷物を勝手にチェックして、その後にこんなものを忍ばせて行ったぞ…」ヒソヒソ パサッ

マルコ「……それ、会場の外で捨てといてね」ヒソヒソ

マルロ「何だ、このいかがわしいポスターは…。こういうものが世に出回るから社会の風紀が乱れる一方なんだ…」ブツブツ

エレン「知らねぇな。…欲しいなら持って帰れよ」ヒソヒソ

マルロ「はっ、こんな卑猥な絵、汚らわしくて触れることすら嫌悪を感じる」ヒソヒソ

マルロ「……だが社会を正そうと思ったら、まずは何が悪いのか冷静に見極める必要があるな……」ブツブツ クルクル

マルコ「…控え室に来た憲兵はその後どうしてる?」ヒソヒソ

マルロ「ああ、俺達に指示を出した後、また急いでどこかへ行ったな」ヒソヒソ

マルロ「…あっ、その後すぐに中年の駐屯兵が来て‘お前達の良心を信じる’とだけ残して去ってったな…」ヒソヒソ

エレン「中年の駐屯兵?……まさかハンネスさんじゃ……」

マルコ「とにかく、知らせてくれてありがとう。君がいてくれて助かったよ」ニコ

マルロ「…じゃ、じゃあ文通を…」モジモジ 

マルコ(…まずいな。昨夜の憲兵襲撃の件を捏造してでも今日中に立証する気だ…)

マルコ(…他にもきっと裏工作してくるだろう。用心しないと…)


エレン「おっ、クリスタが次の曲を弾き始めたぜ。お前と同じ曲だけど、不思議なことに同じじゃねぇんだよなー」


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪~

――リスト パガニーニによる大練習曲 第3番 『ラ・カンパネラ』嬰ト短調

 
マルロ「…彼女は一体何者なんだ…?」ボーゼン

マルコ「んー…、僕の将来の奥さん?」

マルロ「…寝言はいい。驚異的な腕前だ。プロのピアニストを除いて内地でもあれだけ弾ける人間は見たことが無い」

マルロ「さぞや高名な師に習っているんだろうな…。だが内地以外に優秀な指導者がいるとは思えないが…」

エレン「何言ってんだ?あいつが先生だっつーの」

マルロ「えっ?」

エレン「クリスタが俺たちのピアノの先生。そして俺が一番弟子」ニッ

マルロ「…彼女の先生は?」

エレン「さぁな。聞いたことがねぇ。誰に習ったんだろうなー。マルコは知ってる?」

マルコ「…天賦の才かな。きっと彼女は音楽の神様に祝福されて生を受けたんだよ」

マルロ「…確かにな。聴衆には感動を演奏者には絶望しか与えないこの曲を、あんなに嬉しそうに弾いているのだから…」


※ ※ ステージ上 ※ ※

クリスタ(ラ・カンパネラ…。人生の転機に鳴り響く鐘…)♪~

クリスタ(この曲を弾くとこれまでの人生が走馬灯のように頭の中を駆けていく…)♪~

クリスタ(辛いこと、悲しいこと、楽しいこと、さまざまな思い出が混ざり合って溶けていき…)♪~

クリスタ(そして最後に残るのは一番幸せだった頃……)♪~

クリスタ(…お母様が優しくピアノを教えて下さった幼い日々の記憶…)♪~

クリスタ(…甘い感傷は過ぎ去り、最後は未来へ向かって激しく打ち鳴らす鐘の音…)♪~

クリスタ(…もう後ろは振り向かない。私は自由。運命は自分の手で切り開く…)♪~ ♪

クリスタ「……ふぅー」ハァ…ハァ…


パチパチパチパチパチパチ…
ワァァァァァァ…


クリスタ「ふふっ、良かった。喜んでもらえたみたい」ニコッ


マルコ「最高だった。舞台袖でフロイデンベルク君が自信喪失するぐらいにね。はい、立って。椅子動かすよ」スタスタ ガタッ 

クリスタ「ありがとう。次でいよいよラストだね」スクッ 

マルコ「うん。……ちゃんと約束覚えてる?」ヒソヒソ ズズッ

クリスタ「…そういうことは紳士は舞台の上で言わないよ///」ヒソヒソ ストン

マルコ「はは、ごめん。…よし、最後は思いっきり楽しく連弾しようか」ガタッ ストン

クリスタ「うん。動物たちのパレードだから華やかに締めくくろうね」スッ

マルコ「動物たち…、いや駐屯地の愉快な仲間たちの賑やかで慌しい生活って感じかな」スッ

クリスタ「ふふっ、言えてる。……では……」スゥー


――サン=サーンス  組曲『動物の謝肉祭』より『フィナーレ』

♪♪♪~ ♪♪♪~


※ ※ 観客席 ※ ※

アルミン「…まさに大団円だね」ヒソヒソ

サシャ「はい。盛り上がるにも程があるって感じの曲ですね」ヒソヒソ

ミカサ「…二人の息がぴったり。リズムを合わせようとしてる素振りが全くないのに…」ヒソヒソ

コニー「あうんの呼吸ってやつか?全然ぎこちなさがねぇな」ヒソヒソ

ジャン「…単に遠慮が無いだけだろ。連弾してるとお互いに手がぶつかったりするからな」ヒソヒソ

アルミン「なるほど。恋人同士だと気を使わないで済むってわけか」ヒソヒソ

サシャ「きっと相性がいいんでしょうね」ヒソヒソ

ライナー「…体の?」ヒソヒソ

サシャ「性格です」ヒソヒソ

ユミル「けど、その辺どうなんだろうね。連弾の相性がいいと、体の相性もいいのか?」ヒソヒソ

ジャン「俺に聞くなよ。んなこと知らねぇし。…どうなんだ?アルミン」ヒソヒソ

アルミン「ぼ、僕だって分からないよ。…そうだ、ミカサはエレンと連弾したことあるよね?」ヒソヒソ

ミカサ「……相性は最近良くなってきた……///」ヒソヒソ

サシャ「もう、ミカサに話を振っちゃ駄目ですって///」ヒソヒソ


※ ※ ステージ上 ※ ※

パチパチパチパチパチパチ…
ブラボー!!  ブラボー!!


マルコ「ふぅー、何とか無事に終わったね」

エレン「ああ。すっげー達成感。もう結果なんかどうでもいいや」

クリスタ「うん。すごく楽しかった。ユミルたちも笑顔で拍手してくれてるし。それだけで十分だよ」

マルコ「それじゃ、三人で敬礼して舞台を降りよう」


バッ!!!


パチパチパチパチパチ…
ワァァァァ…


エレン「帰ろ帰ろ…」スタスタ

クリスタ「緊張感から解放されたら一気にお腹が空いてきたよ…」スタスタ

マルコ(…レイス卿、か。…厳しいお顔をしていらっしゃる。…クリスタとどういう関係なんだろう…)チラッ スタスタ

マルコ(…まさかお父さんとか?…勘弁してほしいな。ぶん殴られる自分の姿が目に浮かぶよ…)ハァ… スタスタ


※ ※ 講評室 ※ ※

ザワザワ ザワザワ

ザックレー「ゴホン、評価点の集計結果はこちらになります」バサッ


       シーナ北  シーナ東  シーナ西  シーナ南  ローゼ南
レイス     10     10     10     10     0  
                           
貴族C     10     10     10     10     5  
          
貴族D     10     10     10     10     5  

ザックレー   5      6      6     5     9  

ナイル     10     10     10     10     5  
         
ピクシス    6      1      3     4     10  
          
エルヴィン   5      6      4     3     10   
          
ハンジ     1      1      1     1     10  

合計      57     54     54     53     54  
       



ザックレー「ご覧の通りです。最下位はウォールシーナ南方面駐屯地に決定しました」

貴族C「…なんだこの偏った点数は…、おかしいだろう!!もう一度点を付け直せ!!」ワナワナ

ハンジ「申し訳ありません。私正直者なんで。何度点数を付け直してもこうとしか書きませんよ」フンッ

エルヴィン「私は純粋に演奏を評価したまでです。最終組以外は何の感動も覚えませんでした」

ピクシス「わしゃ、ピアノのことは良く分からんからな。出場者の美しさを評価させてもらった」ペチペチ

貴族D「ザックレー総統。…事前の協議とは随分と話が違うようだが…」ギロッ

ザックレー「はて、何のことですかな。これでも内地の駐屯地に十分配慮して点数を付けたつもりですが」

貴族D「……貴様……」ギリリ…

レイス「よさぬか。みっともない。世間体のためかどうか知らぬが、中途半端な点数を付けた貴公らの失態だ」

貴族D「…しかし、シーナ南駐屯地には名門の師弟も多く…」

貴族C「我々が激しく非難されますぞ」

レイス「…それは貴公らがそやつらから何らかの利益を享受しているからであろう。私にはまったく関係のないことだ」


ハンジ「…レイス卿だけ、本当にえげつない点数の付け方だね」ヒソヒソ

エルヴィン「…君も人のことは言えないだろう」ヒソヒソ

ザックレー「ご存知の通りこの会場には一般市民も多く入場しています。彼らもまた結果を楽しみに待っている…」

ザックレー「あれだけ会場を沸かせたローゼ南方面駐屯地を最下位にしては、貴殿らの品位が疑われますぞ」

貴族C「ぐっ……」

貴族D「…ナイル、首尾はどうなっておる…」ヒソヒソ

ナイル「はっ、ただ今手を尽くしております。もうしばらくお待ち下さい…」ヒソヒソ

貴族D「…分かった。順位はそれで良い。…だが発表はしばし後にしてもらおう」

貴族C「どこぞの駐屯地が不祥事で失格になる可能性もありますからなぁ」ニヤリ

流石は豚貴族、やり方が汚い。いや穢い


※ ※ ロビー ※ ※

ジャン「おっせーな。結果発表はまだかよ」

コニー「ステージの上で表彰式とかやんのか?」

マルコ「いや、ロビーのそこの壁に講評の結果が張り出されるだけらしいよ」

サシャ「あんなに頑張ったのに、トロフィーも賞状も無しですか?」

クリスタ「そんなのいらないよ。みんながたくさん褒めてくれたから、私はそれで十分満足してるよ」ニコッ

サシャ「はぅっ、何て良い子なんでしょう。もっと褒めてあげますね」ギュゥ イイコイイコ

クリスタ「ふふっ、ありがとう、サシャ」

ライナー「それより、お前たちはまだ着替えないのか?」

エレン「控え室に行くと内地の連中に喧嘩を売られるんだとさ」

ベルトルト「どういうこと?」

エレン「俺達に喧嘩の責任を押し付けて失格処分にする気らしいぜ」

アルミン「やり方が汚いね。自分達が負けそうだからって…」

ライナー「…だが、俺たちがやってきたこともキレイ事ばかりじゃ無いからな。一方的には責めれないさ」


マルコ「その事なんだけど…。多分もうすぐ憲兵団の人たちがやってきて僕らは取調べを受けることになると思う…」

ジャン「マジかよ…」

マルコ「結果を公表する前に、何としてでも僕らの尻尾を捕まえようとするだろう…」

コニー「やっべぇ。取調べとか超恐ぇんだけど。間違いなく俺はキョドるぜ」

アルミン「いいかい、みんな。憲兵に何を聞かれても‘知りません’って答えるんだ」

マルコ「うん。中途半端な嘘はつかないこと。僕らの話に食い違いが生じたら相手の思う壺だからね」

アルミン「あと、どんなに腹が立っても憲兵に噛み付かないこと。公務執行妨害で即終了になる」


ハンジ「はーい、君たち。おつかれさまー」タッタッタッ

エルヴィン「こら、いい大人が走るんじゃない」スタスタ


ミカサ「…あれは、先程見かけた巨人好きの調査兵…」

エレン「こっちに来るな。何の用だ?」

ジャン「おい、マルコ。憲兵じゃなくて調査兵が来たぞ。どういうことだ?」

マルコ「…ごめん、想定外…」


ハンジ「悪いね、突然。でも、時間が無いからさ。手短に話すよ」

クリスタ「あ、あの、講評はもう終わったのでしょうか?」

エルヴィン「ああ、たった今済んだところだ」

エレン「結果は?俺達は何位だ?」

エルヴィン「おめでとう。君たちは最下位を免れた。同率二位だ」ニコ

エレン「くぅー……、よっしゃー!!」

マルコ「やったな、みんなのおかげだよ!!」

クリスタ「…良かった。…本当に良かった…」ウルッ

ユミル「よしよし、クリスタ。よく頑張ったね。…けどさ、何で一位じゃないのさ」ナデナデ

ミカサ「そう。エレンたちの演奏が一番素晴らしかったのは誰が見ても明らかだったはず…」

アルミン「仕方ないよ。元から公平な審査は期待できなかったし。最下位にならなかっただけでも上出来だよ」

ハンジ「はい、静かに。ここからが本題だからね」パン パン

エルヴィン「悪いが健闘を讃え合っている時間はないぞ。もうすぐここへ憲兵団師団長がやってくる」

ジャン「師団長…って憲兵団のトップが?」


ハンジ「そう。君たちに昨夜の憲兵襲撃の罪を擦りつけにね。狡猾な男だからどんな手を使ってくることやら…」

エルヴィン「君たちは今捕まるわけにはいかないだろう?この大会の失格処分だけでなく犯罪者の汚名まで被ることになる」

ハンジ「それは嫌だよね。せっかくの努力がすべて水の泡だ。…そこで、君たちに提案があるんだけど」

マルコ「何でしょうか?」

エルヴィン「今日の出場者3名が調査兵団へ入団すると約束するなら、君たちを擁護してもいい」

マルコ「えっ…!?」

クリスタ「…調査兵団…ですか?」

エルヴィン「そうだ。…だが必ず守り切れるとは断言できない。ある男の働きにかかっているからな…」

ハンジ「無茶を言ってごめんね。憲兵団志望なのは分かってるんだけどさ。この人がどうしても君たちが欲しいって…」

エレン「はい!!俺は調査兵団へ入って巨人を駆逐したいです!!」

ハンジ「えっ?そうなの?」

エルヴィン「ほう…」

エレン「俺は元から調査兵団を希望しています。だから…俺だけじゃ駄目ですか?後の二人は見逃してやって下さい!」

クリスタ「エレン…」


エルヴィン「…駄目だ。今日一番盛り上がったのは連弾だ。せめて二人は入団してもらおうか」

マルコ「それって…資金集めのために僕らが必要ということですか?」

ハンジ「そうだよ。ピアノの腕でガッポリ稼いでもらうつもり。もちろん兵士としての仕事もしてもらうけど」

エルヴィン「さぁ、どうする?君たちだけでなくそこにいる仲間の将来もかかっているんだぞ」

マルコ「…くっ」

マルコ(…思わぬ所に敵がいたな。いや、味方なのか…?)

マルコ(調査兵団なんて考えたことも無かった。…憲兵団に入れなかったら駐屯兵団へ行こうと思ってたし…)

マルコ(けど…、僕一人のわがままでみんなの経歴に傷をつけるわけにはいかない…)

マルコ(折角勝ち取った憲兵団入団枠だ。……ジャン、必ず立派な憲兵になれよ……)

マルコ(…クリスタ、思い描いていた未来とは随分かけ離れてしまうけど…、君だけでも憲兵団に入ってくれ…)


マルコ「…分かりま」クリスタ「私が入団し」アルミン「僕が調査兵に」ミカサ「私が入団すれば問題ない!!」


ハンジ「ちょっとちょっと。同時に話さないでよ。えっと、誰が入団してくれるの?」


マルコ「あっ、僕が、モガッ!!」(…ジャン!?何で口ふざぐんだよ)ジタバタ

ジャン「…しーっ、いいから黙ってろよ」ヒソヒソ

クリスタ「ん~~~っ」(ユミルお願い、手を離して)ジタバタ

ユミル「お前、私のこれまでの苦労を全部無駄にするつもりか?頼むから出しゃばるな」ヒソヒソ

ミカサ「私が入団します。私はエレンと連弾経験があります。あなた方の求める条件に一致するのは私しかいない」

エレン「馬鹿。ミカサとの連弾で客から金が取れるわけねぇだろ。お前は主席なんだから大人しく憲兵団に入れ」

ミカサ「嫌。私はエレンと共に歩むと決めている」

ハンジ「…ローゼ南の主席って、10年に一人の逸材とかって噂されてる子じゃない?」

エルヴィン「ああ、聞いたことがあるな。…戦闘要員としては欲しいところだが…」ウーム

アルミン「あ、あの、僕も調査兵団に入団します」

エルヴィン「君はピアノが弾けるのか?」

アルミン「ピアノの腕前は素人と変わりませんが…、その代わり僕は作曲ができます。軍楽隊を結成した実績もあります」

アルミン「それにチャリティーコンサートの運営に携わったので、資金集めの際にはその経験を活かせると思います」

ハンジ「君なんだね。あの名曲を生み出してくれたのは。感動したよ!本当にありがとう!!」ガシッ ブンブン

アルミン「ど、どういたしまして」ブンブン


ハンジ「ねぇエルヴィン。この子は絶対にウチに必要だよ。資金稼ぎのノウハウもあるみたいだし」

エルヴィン「そうだな。確かに役立ちそうだ」

アルミン「これで調査兵団希望者が三人です。…僕らを救う手助けをして頂けないでしょうか?」

エルヴィン「…しかしこちらの出した条件は満たしてないからな…」(もう少しゴネればまだ志願者が集まりそうだ…)

ハンジ(もう十分でしょ。欲張り過ぎだよ、エルヴィン…)ハァ…

マルコ(…これ以上みんなを犠牲にすることはできない)グググッ… 

ジャン「おいっ、馬鹿力出すなよ。お前は引っ込んでろって」グググッ…

マルコ「…ぷはっ、…ぜぇ…ぜぇ…、僕が調査兵」サシャ「あ、あの、私でよければ調査兵団に入りますが!!」

マルコ「サシャ!?」

コニー「はぁ?お前何言ってんだよ!!」

サシャ「いいんです。私はもともと兵団の希望ありませんから。……壁外に出るのは恐いですけど…」ブルブル

クリスタ「んーーーー(サシャ…お願いだから無理しないで…)」ジタバタ

エルヴィン「君は何ができる?」

サシャ「はい、歌うのが得意です。それに軍楽隊でメジャーバトンをやってました。バトン捌きには自信があります」


ハンジ「メジャーバトンって何?」

サシャ「えっと…軍楽隊の指揮役です」

エルヴィン「ほう、指揮官候補生か…。これは期待できそうだ」

サシャ「え!?いやいや、全然そんなんじゃ無いですよ。むしろ指揮なんてまったく向いてないっていうか…」ゴニョゴニョ

マルコ「違います!!彼女は入団しません!!僕が調査」コニー「俺も調査兵になりますっ!!!」

マルコ「コニーまで何を言ってるんだ!?」

サシャ「そうですよ。コニーは憲兵団に入ってご両親を喜ばせるって目標があるじゃないですか」

コニー「いいんだ。父ちゃんも母ちゃんも俺にそこまで期待してねぇから。…それにサシャとの賭けもあるし」

サシャ「賭け…って、何か勝負してましたっけ?」

コニー「何だよ、忘れたのかよ。前にさ、あやとりで勝負しただろ?」

サシャ「…あやとり…。あー、そんなこともありましたね。でもあの賭けは無しでいいです」

コニー「そうはいくか。俺はサシャと同じ兵団に入らなきゃならねぇんだ!!」

コニー「サシャのいない人生なんて、俺には考えられねぇよ!!」

サシャ「コニー…」ウルッ


ハンジ「…なにこれ。目の前で青春恋愛ドラマが展開されてるんだけど…」

エルヴィン「若さとは勢いだ。君たちは素晴らしい。今名乗りを上げた5名は必ず調査兵団へ入団すると誓えるか?」

5人「「はっ!!」」バッ

エルヴィン「よし!君たちは我々の要求に十分に応えた。今度はこちらが君たちを救う番だ」

アルミン「ありがとうございます!!」ペコリ

マルコ「…みんな…ごめん…グスッ…本当に…すまない…グスッ…即決できなかった僕は…やっぱり弱い人間だ…」ボロボロ

コニー「気にすんな。みんなマルコが憲兵団に入りたがってたの知ってるしよ」ニカッ

サシャ「そうですよ。私の分まで、とことん王様に体を捧げて下さい」ニコッ

ミカサ「マルコは率先してこのコンクールの出場を決めた。そして自分の手でチャンスを掴んだ」

アルミン「君には憲兵団に行く資格が十分にあるよ」ニコッ

エレン「ほら、前に話しただろ?俺が調査兵団のトップになるから、マルコは憲兵団のトップになれって…」

エレン「それでアルミンは軍のトップになってさ…、3人で腐った世の中を変えるんだろ?」ニカッ

マルコ「…ありがとう…グスッ…本当にみんな…ありがとう…グスッ…」ボロボロ

クリスタ「…本当にごめんなさい。…みんなが優しすぎて…何だか辛いよ……うっ…うぅぅぅ」グスッ

ユミル「…お前が今まで人に優しくしてきた分が返ってきただけだ」ヨシヨシ


ハンジ「さぁ、君たち、感動に浸ってる場合じゃないよ。憲兵団師団長のお出ましだ。また大勢で来たねー」


ザッザッザッ…

ナイル「…エルヴィン、こんな所で何をしている?」ツカツカ


エルヴィン「なぁに、訓練兵のちょっとした意識調査だ。…何を始めるのかは知らないが我々のことは気にするな」

ナイル「…これは憲兵団の管轄だ。余計な口出しは遠慮願おうか」

エルヴィン「それは約束できないな。…不正をむざむざ見過ごせるほど大物では無いのでね」

なんて良い子たちなんだ


ナイル「…チッ、…そこの訓練兵、貴様らはウォールローゼ南方面駐屯地所属で間違いないな?」

アルミン「…はっ、そうであります」

ナイル「貴様らに傷害罪および猥褻物頒布罪の容疑がかかっている。…身に覚えがあるだろう?正直に話せ」

アルミン「はっ、何のことだかまったく分かりません」

ナイル「…そうか、残念だ。…おい、奴らの所持品を徹底的に調べろ。それに銃創が無いか確認しろ」


憲兵たち「「はっ!!」」


ツカツカツカ…
ガサガサ ゴソゴソ…

アニ「ちょっと、人の荷物勝手に開けないでよ」ギロッ

ベルトルト「しっ!我慢するんだ。抵抗しちゃ駄目だ」ヒソヒソ

憲兵「今すぐ衣服を脱げ。傷がないか確認させてもらう」グイッ

ライナー「おいおい、こんな場所で脱げっていうのか?」

憲兵「当然だ。犯罪者に人権など無い」


ハンジ「あのさぁ、女の子たちだけでも別室で調べてあげてよ。衆人環視で裸に剥くとかありえないんだけど」

エルヴィン「紳士のやることでは無いな。侮辱罪と名誉毀損で逆に訴えられても文句が言えない」

ナイル「…そこのお前。女性訓練兵を全員控え室へ連れて行け!そこで銃創は確認しろ!」

女性憲兵「はっ!」

ハンジ「私も同席させてもらうから。…女の子は付いてきて」スタスタ

サシャ「ふぅー、良かったです。ここで裸にさせられるかと思いました」スタスタ

ミカサ「そんなことは絶対にさせない。私がみんなを守ってみせる」スタスタ

クリスタ「ふふっ、やっぱり頼りになるね、ミカサは」スタスタ

アニ「……撃たれたのがあんたでラッキーだったね」ヒソヒソ スタスタ

ユミル「……ああ。ケツの穴まで調べたって誰からも銃創なんか出てこない。ざまぁみろ」ヒソヒソ スタスタ


憲兵「…ナイル師団長、出場者の荷物からポスターが出てきません」ヒソヒソ

ナイル「…事前に気付かれて抜かれたか。…拘置所に向かった兵士は?」ヒソヒソ

憲兵「…先程戻ってきて劇場裏口で待機しています。…もう呼び付けますか?」ヒソヒソ

ナイル「…いや、あれは最終手段だ。…もう少し様子をみよう」ヒソヒソ



憲兵「貴様!これは何だ?」ガサガサ バッ

アルミン(あれは…、コニーのファイフ!?まずい、すっかり忘れてた。どこかに隠してくるよう言ってなかった…)アセアセ

コニー(…えっと、何聞かれても答えちゃいけねぇんだよな…)

憲兵「このバッグは坊主頭の貴様の荷物だろう?これは何だと聞いているんだ」

コニー「し、知りません」

憲兵「…昨夜、憲兵を襲撃した実行犯は笛を吹いていたという証言がある。…これは笛というものではないのか?」

コニー「わ、分かりません」

憲兵「正直に答えろ!!」ガシッ

コニー「…くっ…、わ、分かりません…」

マルコ「すみません。その筒は僕のものなんです。間違って彼のバッグに入ってたみたいですね。ごめんよ、コニー」

コニー「マ、マルコ!?」ドサッ

憲兵「…ならば、貴様に聞こう。これは何だ?」

マルコ「穴の開いたタダの筒です」


憲兵「…嘘を吐くな。…仮にタダの筒だとして、なぜこのようなものを所持している?」

マルコ「僕はひどい肩こりなんです。自分で肩を叩くのに丁度いい長さと固さなんでいつも持ち歩いているんです」ニコッ

アルミン(マルコ無理だよ!いくら良い笑顔をしてもそんな嘘は通じないよ!)

憲兵「そんな言い訳が通用すると思ってるのか?これは笛だろう?」

マルコ「やだなぁ、言い掛かりは止して下さいよ。ただの筒から音が出るわけないじゃないですか」

マルコ「そんなに疑うならここで音を鳴らして笛だって証明して下さいよ」

コニー「……あっ」

アルミン(そうか!ファイフは吹き方を知らないと音は出ない。ここにいる憲兵には楽器の知識が無いって踏んだんだ…)

憲兵「…くそっ、…いいか見てろよ」スッ…

コニー(音を出すだけでも相当苦労したんだ。初めての奴が吹いていきなり鳴るわけがねぇ。…頼む、鳴るな、俺の相棒!)


憲兵「…スゥー…フスゥ……、おかしいな……フスゥー……スフゥ……」

コニー(ほっ…、セーフ…)

マルコ「だから無理ですって。ただの筒ですから。…それより体の傷を調べるんですよね?」シュルッ プチッ プチッ

アルミン「さすがに公衆の面前で裸を晒すのは恥ずかしいので、早く済ませて下さい///」ヌギヌギ

コニー「…はくしゅん!うー、さっびー。…風邪引きそうだから早く服を着させて下さい」ブルブル

憲兵「あ、ああ。…そうだな、では身体調査させてもらう。…ほら、筒は返すぞ」ポイッ

マルコ「ありがとうございます」パシッ


※ ※ 控え室前 廊下 ※ ※

ザワザワ ザワザワ

ハンジ「ほら、見世物じゃないんだから、君たちはそっちの控え室に入って大人しくしてなさい」シッシッ スタスタ

サシャ「…フォーマル軍団…。…内地の出場者たちですね…」スタスタ

ミカサ「…至近距離で見て、エレンが一番タキシードが似合ってたことを再確認した…」スタスタ

アニ「…内地に住んでると性格だけじゃなく顔も歪むのかい…?」スタスタ

ユミル「ぷっ、辛辣だねぇ」スタスタ

クリスタ「…ねぇ、ユミル昨日オカリナ吹いたって言ってたよね」ヒソヒソ スタスタ

ユミル「…そうだ。…やっぱり持ってたらマズイよな。…トイレにでも置いてくるか」ヒソヒソ スタスタ

クリスタ「…大丈夫。私に渡して」ヒソヒソ スタスタ

ユミル「いいけど…、どうする気だ?」ゴソゴソ スッ

クリスタ「…ありがとう。…えっと私のはカバンの中に……あった」ゴソゴソ

ユミル「…お前も持ち歩いてるのか?」ヒソヒソ スタスタ

クリスタ「もちろん。…だって、ユミルとお揃いだから。いつもユミルが側にいるみたいで安心するの」ニコッ 

ユミル「……クリスタ……、抱きしめていい?」


クリスタ「今は駄目だよ。……えっと……いた。……あの、フロイデンベルクさん」ヒソヒソ クイッ

マルロ「…マルロだ。…これは一体何の騒ぎだ。お前たち何かしでかしたのか?」ヒソヒソ

クリスタ「ごめんなさい。説明は後で…。とにかくこれを預かってください。お願いします」ヒソヒソ ズイッ 

マルロ「はぁ?…なんで俺がそんなこと…」ヒソヒソ

クリスタ「…頼れる人が……あなたしかいないんです」ジッ 

マルロ「…し、仕方ないな。預かっといてやろう///」ヒソヒソ プイッ

クリスタ「ありがとうございます」ニコッ ヒソヒソ

ハンジ「はーい、ローゼ南の女の子たちは早くこっちの控え室に入ってー」ガチャッ

ユミル「ほら、クリスタ行くぞ…」グイッ スタスタ

クリスタ「あのっ、後で取りに行きますから…」ヒソヒソ ズルズル

ユミル「……誰だ?あのセンスのかけらも無い男は」スタスタ

クリスタ「…内地に残った最後の良心、かな」スタスタ


※ ※ ロビー ※ ※

キース「エルヴィン!これは一体どういうことだ?なぜウチの訓練兵が憲兵に囲まれている」

エルヴィン「…キースさん、今までどちらに?」

キース「いや、あいつら腹を空かせてるだろうと思ってな、パンを買いに……ってそんなことはどうでもいい」ゴホン

キース「…憲兵団が本腰を入れて昨夜の一件を調べ始めたのか…。…ということは…」

エルヴィン「そうです。キースさんの駐屯地は見事2位になりました」

キース「…そうか。…はは…あいつらがな。…権力に屈せず…本当に…よくやったぞ…」ジワッ

エルヴィン「さすがはあなたの教え子、というところですか。しかし今窮地に立たされています」

キース「そのようだな。憲兵の連中、躍起になって粗探ししとるのか。…さてどうやって追い払おうか…」ウーム

エルヴィン「余計な手出しをするとキースさんの立場が危うくなります。ここは私に任せて下さい」


ハンネス「ハァ…ハァ…エルヴィン団長、遅くなり申し訳ありません。ただ今戻りました」タッタッタッ…


エルヴィン「…ありがとうございます。…首尾はいかに?」ヒソヒソ

ハンネス「…問題ありません。後を付けた憲兵は団長の予想通り中央拘置所に向かいました」ヒソヒソ 

エルヴィン「やはりな…。読み通りにナイルが動いてくれて助かった。…書類は?」ヒソヒソ

ハンネス「はっ。無事入手できました。こちらです」ヒソヒソ スッ

エルヴィン「お手数をおかけしました。感謝します。…どれどれ…」バサッ

キース「…これは、中央拘置所の身柄拘束者リスト…。拘置所職員が駐屯兵相手によくこんな重要書類を出したな」ヒソヒソ

ハンネス「団長の指示通り、ザックレー総統の緊急の使いだって言ったらあっさりくれましたよ」ヒソヒソ

キース「はぁ…、少しは疑え、馬鹿職員どもが…。しかしこんな物が何の役に…?」ヒソヒソ

エルヴィン「まぁ…見ててください。これがあの子たちを救う一手になる」


※  ※  ※  ※

女性憲兵「師団長、女子訓練兵には所持品及び身体に疑わしいところはありませんでした」

ナイル「…そうか」

憲兵「男子訓練兵も同じく物証は出てきませんでした」

ナイル「…ちっ」

ハンジ「おやおや、何も証拠が出てこなくて焦ってるようだね、ナイル師団長さん」

エルヴィン「もう調査は終了でいいだろう。総統は忙しいお人だからな。あまり待たせる訳にはいくまい」

ナイル(くそっ…こいつらが見張っているせいで、有無を言わさず強制連行することができない…)

ナイル「……仕方ない。……裏口にいる奴を呼んで来い」

憲兵「はっ!」クルッ タッタッタッ


ザックレー「…ナイルよ、まだ時間がかかるのか?」スタスタ


ナイル「はっ、申し訳ありません。今すぐに終わらせますので…」

ザックレー「皆、痺れを切らして待っておる。とにかく結論を早く出さんか」


憲兵「ナイル師団長。…重要参考人を連れて参りました」スタスタ グイッ

男「……」スタスタ

ナイル「…よし、訓練兵の顔を確認させろ」

憲兵「はっ!…ほら、こっちだ」グイッ スタスタ

ザックレー「重要参考人とな…」

ナイル「はっ、今朝方捕まえた猥褻物頒布の実行犯を名乗る男です。共犯がいると証言したので首検させるために連れて参りました」

ザックレー「…では、これで決着がつくんだな」

ナイル「…おまかせ下さい」


※  ※  ※  ※

憲兵「ほら、良く見ろ。…お前と一緒に昨夜ポスターを貼ったのはこの兵士たちで間違いないか?」

男「……」ジーッ

エレン(…何だ?このむさ苦しいおっさんは…)

ミカサ(…気持ち悪い。じろじろ見ないで…)

アルミン(…まずいな。偽の共犯者まででっちあげてきた…)

マルコ(…あの男が虚偽の証言をしても、それを覆す材料がこちら側には無い…)

男「…へい、間違いありやせん。そこの旦那に命令されてポスターを貼りやした」スッ

ライナー「はっ?…俺か!?ちょっと待ってくれ。俺はあんたと初対面だが…」アセアセ

憲兵「うるさい!少し黙ってろ!……お前はこの訓練兵に脅されて無理やり手伝わされたんだな?」

男「…へい」

憲兵「ここにいる兵士の中に他にも見覚えのある奴はいるか?」

男「……へい、…ここにいる皆さん全員で昨夜は犯行に及びやした…」

アニ「嘘吐くんじゃないよ!!私はあんたなんか知らないよ!!」ムカッ

ベルトルト「アニ、逆らっちゃだめだ。落ち着いて…」ハラハラ


ユミル「一体どっからこのおっさんは湧いてきたんだよ。大方お前らが偽証させてるだけだろう!」

憲兵「…貴様らが何と言おうと共犯者がゲロったんだ。共犯者の供述はそれだけで十分証拠となる」

クリスタ「…あの、おじさん、嘘は吐かないで。本当のことを話して下さい!お願いします!」

男「……」

ジャン「くそっ…、嘘の供述なんかしたらバレた時におっさんだって罰せられるんだぞ!?」

マルコ「…その人に何を言っても無駄だよ。…多分、すでに犯している罪の減刑と引き換えに偽証してるんだろうから…」

憲兵「…」ピクッ

マルコ「…軍事法廷は検察も裁判官もすべて内部の人間だ。つまり証拠をいくら捏造したって公になることは無い…」

ジャン「やりたい放題ってわけか…。大層なご身分だな、ええ?おいっ!!」

憲兵「うるさい、黙れ!!」

ナイル「…威勢のいいのがいるな。……首検、ご苦労だった」ツカツカ

憲兵「はっ!」

ナイル「……14時48分、容疑者の身柄を確保する」カパッ

アルミン「そんな、横暴です!単独証言は証拠能力が極めて低いはず。それだけで犯人と断定しないで下さい!!」


ナイル「…文句は留置所で好きなだけ垂れろ。…よし、連行するぞ」バッ


憲兵たち「「はっ!!」」ザザザッ

エルヴィン「君たち、待ちたまえ!!」ツカツカ


ナイル「エルヴィン…。これは憲兵団の管轄だ。余計な口は挟むなと言ってあるだろう」

エルヴィン「ザックレー総統。彼らを逮捕する前に確認したいことがあります。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

ザックレー「ふぅー…、手早く済ませろ」

エルヴィン「ありがとうございます」

ナイル「…チッ」

エルヴィン「この共犯者と名乗る男だが、…今朝逮捕してからここに来るまでの間、どこに拘留してたんだ?」

ナイル「…お前には関係無いだろう」

エルヴィン「…答えれないのか?…ならば、そこの憲兵に聞こう。君はどこからこの男を連れてきた?」

憲兵「…そ、そのですね…」チラッ

エルヴィン「余所見をするな!!君に聞いているんだ!!私の目を見て答えてもらおう!!」ガシッ

憲兵「ひっ!!…あ、あの……中央拘置所です……」


エルヴィン「ほう…、それは妙な話だな。逮捕直後でいきなり拘置所とは…。どういうことだ?ナイル」

ナイル「…憲兵本部の留置所に空きが無かったんだろう」

エルヴィン「では、この男は中央拘置所に収監されていたことに間違いないな?」

ナイル「ああ、一時的にではあるが…」

エルヴィン「ザックレー総統、この書類をご覧下さい」ガサガサ スッ

ザックレー「…これは…?……中央拘置所の身柄拘束者リスト……ふむ……」バサッ

ナイル「!?」

エルヴィン「つい先程、入手したリストですので最新の拘束者の情報です。総統には各人の収監日をご確認頂きたい」

ザックレー「……なるほどな。今日付けの収監者は誰一人としていないようだ……」ピラッ ピラッ

エルヴィン「…この件の一切の判断は総統にお任せします。…どうやら私は管轄外のようですので」チラッ

ナイル「くっ…」ギリッ

ザックレー「…ああ、もう良い。分かった。…貴族連中にかき回されて、軍内に軋轢を生むとは愚の骨頂だ」

ナイル「しかし…」


ザックレー「…今まで通りでいこう」

エルヴィン「…それはどういうことですか?」

ザックレー「貴族方はコンクールの順位などどうでも良い。憲兵団への入団枠が無くなることを問題視しているだけだ」

ナイル「そうですが…」

ザックレー「今まで通り、各駐屯地上位10名が憲兵団へ入団できる権利を持つ。これで納得して頂くしかあるまい」

エルヴィン「…くっ…ははは…、いや、失礼。…しかしこの大会を実施した意味がまったく無くなりますが」

ザックレー「ああ。貴族に振り回されてこんな愚かな制度改革を行おうとした自分が馬鹿らしいわ。…戻って説得するぞ」

エルヴィン「はっ!…されど革新的な催しで私はなかなか楽しめましたが」スタスタ

ザックレー「そうだな。美しい音楽に一時職務を忘れて癒されたわい。次期訓練兵でも実施してみるか?」スタスタ

エルヴィン「はは、いいですね。しかし、憲兵団入団枠を賭けるのは可哀想なので勘弁してやって下さい」スタスタ


ナイル「……貴族に一番踊らされたのは俺か……」ズーン


ハンジ「ねぇ、もうローゼ南の訓練兵は自由の身ってことでいいんだよね?」ツンツン

ナイル「……ああ、好きにしろ。…俺も講評室に戻る」クルッ スタスタ

ハンジ「君たち、良かったねー。エルヴィンに感謝するんだよ。じゃ、調査兵団で待ってるから」クルッ スタスタ


アルミン「あっ…、もう行っちゃったし。…お礼言わなきゃ…」アタフタ

マルコ「うん。…みんないい?…せーの…」


一同「「ありがとうございました!!!」」バッ!!


ハンジ「ふふっ。本当に良い子たちなんだから。一ヶ月後に会えるのを楽しみにしてるよ」スタスタ ヒラヒラ

乙!
良かったなあ…


※ ※ 王立芸術劇場外 ※ ※

アルミン「結局、このコンクールは何だったんだろうね…」パクパク

ミカサ「…大人の都合に振り回されただけね。憲兵入団枠は元の規定に戻っただけだし…」モグモグ

エレン「けどさ、俺らが頑張らなかったら、ローゼ内の駐屯地からは誰も憲兵団へ入れなった」ムシャムシャ

ライナー「そうだぜ。俺たちは訓練兵の星だ。英雄として讃えられるべきだ」モグモグ

ベルトルト「…元通り上位10名に入団権が与えられるだけでも良しとしないとね…」モグモグ

アニ「そうね。…納得できないことは多いけど」モグ…
 
ユミル「世の中なんて思い通りにならないことばかりだよ。社会の理不尽さにいちいち腹を立ててたらきりが無い」パクッ

クリスタ「…けど、ハンナになんて言おう…。私たちの勝利を信じてくれたみんなに申し訳ないな…」ショボン

マルコ「仕方がないよ。僕らは勝った。けど最終的にコンクール開催の目的自体を反故にしたのは上層部だ」モグモグ

ジャン「そうだぜ。初めから負け戦だったんだ。それを五分五分に引き戻したんだから誰も俺達を責めやしねぇよ」ムシャ

コニー「あれだよな。上位10名じゃなくてさ、せめて枠自体を10名に代えてくれりゃいいのにな」パクパク

サシャ「そしたら私達が憲兵団へ行かない分を他の希望者に回せるのに…。あっ、教官、このパンすっごくおいしいです!」

キース「当然だ。内地のパン屋は高かったからな。まずいわけがない」

サシャ「ふふ、何だかんだ言って教官って優しいですよね」ニコ


コニー「…あれ?教官は食わないんすか?」

キース「ああ、自分の分は買わなかったからな」

サシャ「…仕方ないですね」メリリッ 「……半分、どうぞ」スッ

コニー「…どっかで見たな、この光景…」

キース(…パン半分に割り、躊躇無く大きい方をわしに差し出したか…)

キース「……くっ、ははははは。では今回は有難く頂こうか。……成長したな、ブラウス」ポン

サシャ「…はいっ。…ありがとうございます…」ジワッ

キース「おい貴様ら!食い終わったらすぐに出立するぞ!ローゼ南駐屯地へ帰還する!」

ジャン「マジかよ!全然観光してねぇし」

アルミン「お土産だって買えてないよ…」

ユミル「…あっ、オカリナ!」

クリスタ「そうだ!受け取りに行かなくちゃ…!!」スクッ

マルコ「フロイデンベルク君のところ?僕も行くよ。改めてお礼を言いたいし」スクッ


※ ※ 劇場内 控え室 ※ ※

クリスタ「本当に助かりました。ありがとうございます」ペコリ

マルロ「いや、これぐらいどうってことはない。…しかし、話を聞くに憲兵団内部は相当腐敗してそうだな…」ウーム

マルコ「かといって、今から他の兵団に乗り換える気は無いんだろう?」

マルロ「当然だ。俺が入団して憲兵団を正しい姿に変えてみせる。…お前も協力してくれ」

マルコ「遠慮しとくよ。僕は長いものには巻かれるタイプだから」

マルロ「…お前まで奴らのように腐った人間になる気か?」

マルコ「僕はどこに行ったって僕のままさ。周りがどうであろうと自分の信念を曲げなければいいだけだ」

マルロ「そうか。…お前とは仲良くやれそうな気がする。……だから連絡先を……」

クリスタ「マルコ、そろそろ行かないと。みんなを待たせてるかも」

マルコ「そうだね。それじゃあ、僕達は失礼するよ。君も気をつけて帰ってね」クルッ スタスタ ガチャッ

マルロ「あっ、おい…!」

クリスタ「フロイデンベルクさん、本当にお世話になりました。失礼します」スタスタ

マルコ「…文通なんてしなくても、一ヵ月後には同じ職場だよ、マルロ」ニコッ バタン

マルロ「……ああ、そうだな、マルコ」


※ ※ 劇場 ロビー ※ ※

クリスタ「これで劇場も見納めね…。もう二度と来ることは無いかもね」

マルコ「クリスタが来たいって言うなら、また連れてきてあげるよ」

クリスタ「本当?」

マルコ「うん。新婚旅行で」

クリスタ「…さらっとそういうこと言うし…///」

マルコ「嫌かい?」

クリスタ「んー…新婚旅行は他の場所がいいな」

マルコ「行きたい所があるの?」

クリスタ「温泉!」

マルコ「ははっ、渋いね。もっと若い女の子が好きそうな場所を言うのかと思った」

クリスタ「年寄り臭くてもいいの。マルコと二人でのんびりしたいな」

マルコ「了解。…約束する。いつか必ず温泉に連れて行くよ」

クリスタ「ふふ、楽しみにしてるね」


マルコ「……おっ、向こうから護衛をぞろぞろ引き連れたお偉いさんが歩いてくるね。今お帰りなのかな」チラッ

クリスタ「……」チラッ サッ

マルコ「…背中に隠れなくてもさ。……そんなにレイス卿が恐い?」

クリスタ「…恐くないよ。平気だよ…」ギュッ

マルコ「…聞いてもいいかな。クリスタとあの人の関係」

クリスタ「…関係なんて何も無いよ…。あの人と私の間にあるのは無関心だけ…」

マルコ「…うん。今はそうなんだろうね。けど昔は……お父さんって呼んでたことがあるんじゃない?」

クリスタ「……」ギュゥッ

マルコ「何となくそう思っただけなんだけど…。否定しないってことは……そっか……」ウーン

クリスタ「…過去は気にしないって言ったよね…」


マルコ「もちろん。君の過去が、万引き常習犯だろうが薬物中毒だろうが夜の女王だろうが僕は気にしない」

クリスタ「ちょっ、何よそれ。そんなことしてないよっ」

マルコ「はは、分かってるよ。僕が言いたいのは今のクリスタが好きだってこと。けど…」

クリスタ「けど?」

マルコ「僕の知らない君の過去も含めて、君の事を大切にしたい。守りたい」

クリスタ「マルコ…」

マルコ「…というわけで、お父さんにご挨拶してくるよ。ちょっと待ってて」スタスタ

クリスタ「えっ!?やだ、やめてよ。今はもう関係ないんだから」アセアセ

マルコ「大丈夫。少し話をするだけだから。…それにさ、どんなに状況が変わっても父親は娘を愛しているものだよ」スタスタ


※  ※  ※  ※

ザッザッザッ

護衛「貴様、何の用だ?」

マルコ「突然申し訳ありません。レイス卿に本日審査員を務めて頂いたお礼を述べたく…」

護衛「邪魔だ。卿はお忙しい身。訓練兵に割く時間など無い」

レイス卿「…構わん。少しぐらい話を聞いてやろう。この者を前に」

護衛「はっ!」

マルコ「ありがとうございます。私はウォールローゼ南方面駐屯地所属のマルコ・ボットと申します」バッ!

レイス卿「…あぁ、最終組の。連弾など奇をてらった作戦で目立とうとした愚かな輩か」

マルコ「はっ!純然たる音楽の祭典で無粋な演奏をしてしまい申し訳ありませんでした」

レイス卿「もうよい。その場にふさわしい選曲もできぬような僻地の田舎者を舞台に立たせたこと自体が失策だ」

マルコ「…レイス卿は音楽に造詣が深いとお見受けしました。オペラにもご興味がおありでしょうか?」

レイス卿「しがない庶民がオペラを語るのか?」

マルコ「お許し下さい。分不相応な趣味を持っておりまして。ロッシーニの歌劇『ウィリアム・テル』をご覧になったことは?」

レイス卿「…ある。…圧制に苦しむ庶民を解放する救国の英雄ウィリアム・テルの話だな…」


マルコ「その通りです。かつて壁外にあったスイスという国が、隣国オーストリアの支配下にあった時の物語です」

レイス卿「よもや貴様がウィリアム・テルを名乗りはすまいな」

マルコ「滅相もございません。私にはとてもそのような大胆なことはできません。私の役どころはアルノルドです」

レイス卿「ほう…。アルノルドといえば祖国の自由より一人の女を選ぼうとした俗物だな」

マルコ「はい。盟主であるオーストリアの王女マティルデに身分違いの思いを寄せてしまった愚か者です」

レイス卿「…なるほど。だがそれを私に言って何の意味がある」

マルコ「貴人であるレイス卿の見解をお聞きしたかったのです。アルノルドはマティルデを幸せにする資格があるのかを…」

レイス卿「無い、と言ったらどうする?」

マルコ「資格が無いと判断されても、私は諦めません。必ずマティルデを幸せにします」

レイス卿「では聞くな。……好きに生きるがよい」

マルコ「はっ!ありがとうございます」バッ!!

レイス卿「一つ聞くが…。アルノルドは最終的にはウィリアム・テルと共に祖国解放運動に身を投じ反乱を起こした」

レイス卿「物語を踏襲して、体制を覆そうなどとは考えておるまいな」

マルコ「…私は臆病な人間ですので、一人では何もできません。ただ…」

レイス卿「…続けたまえ」


マルコ「私の友人にはウィリアム・テルに為り得る勇敢な者がいます。為政者の暴政を見過ごせない誠実な者がいます」

マルコ「もし彼らが蜂起すれば、私は……きっと悩みながらも合流するでしょう」

レイス卿「正直者だな。自ら反乱分子であることをこの私の前で露呈するか」

マルコ「今は違います。ただ社会的弱者への配慮を欠いた政策をこのまま続けると、いつか必ず民衆は立ち上がります」

マルコ「これは歴史的に見ても明らかです。民衆が飢えた時、幾多の帝国は崩壊し、いかなる強力政権も潰え去っています」

レイス卿「そのような事、言われなくとも分かっておる」

マルコ「私は王に心臓を捧げるつもりで努力して参りました。王に忠誠を誓うことが誇れる治世を切望します」

レイス卿「ふぅ…、図々しいにも程がある。もうよい、下がれ」

マルコ「はっ!失礼します」クルッ スタスタ


護衛「よろしかったのですか?訓練兵ごときに好き放題言わせて…」

レイス卿「ああ、馬鹿正直すぎて怒る気力も失せた。私が制裁を下さなくとも、そのうちどこかで痛い目を見るだろう」

レイス卿(…あれがヒストリアの…。絶縁しているとはいえ、一発ぐらい杖で打ちのめせばよかった…)


※  ※  ※  ※

クリスタ「もう!心配したんだから!何で突然あんな暴挙に出るのよ」

マルコ「ごめんって。ほら、お義父さんと話す機会なんてそうそう無いだろう?」

クリスタ「お、お義父さんって言わないでよ。あの人はもう無関係なんだから」

マルコ「そうだね。…でもさ、僕なんかの話をちゃんと聞いてくれて、…悪い人って感じはしなかったよ?」

クリスタ「…何にも知らないくせに…」

マルコ「うん。知らないから先入観を持たずに接することができた」

クリスタ「…一体何を話してたの?」

マルコ「そりゃあ、さ……お嬢さんを僕に下さい的な?」エヘ

クリスタ「~~~~っ!?」

マルコ「大丈夫。ちゃんと了承は頂いたから」ニコッ

クリスタ「ちょっと待って。順番がおかしいよ。何で私より先にあの人にOKもらってるの?」プンプン

マルコ「そんなに怒らないでよ。この機会に許可をもらわないと次はいつ会えるか…。事後承諾じゃ怒られそうだし」

クリスタ「別に私とは関係が無い人なんだから、承諾なんて必要ないのに…」

マルコ「勝手なことをして悪かったよ。でも、僕はあの人に知らせたかったんだ。今、クリスタは幸せですって」


クリスタ「マルコ…」

マルコ「まぁ、君が本当に幸せを感じてるかどうかなんて、僕には分からないんだけど。…ちょっとだけ自惚れてみた」

クリスタ「…ありがとう。…私、今とっても幸せだよ」ギュッ ベチャッ 「やだっ、背中ビチャビチャだよ」

マルコ「ごめんごめん。もうさ、心臓バクバクなのに格好つけて強気に出たから、緊張で滝のように汗かいちゃった」

クリスタ「もう、無理しちゃって…」

マルコ「男には引けない時があるんだよ。あっ、これはライナーの口癖なんだけどさ。…多分今がその時だったんだと思う」

クリスタ「そっか。男の子って大変だね。逃げずに頑張ってえらいえらい」

マルコ「そうだよ。男の子なんだよ」スッ

マルコ「…早く男にしてよ」ヒソヒソ

クリスタ「!!///」

マルコ「なーんてね。さぁ、随分みんなを待たせてるから早く行こうか」スタスタ

クリスタ「あっ、待って」ギュッ

マルコ「どうしたの?」

クリスタ「や、約束守ってくれたから…、次の休日にでも…その…デートして……///」モジモジ

マルコ「…うん。デートしよう」ニコニコ


※ ※ 夕暮れ時の草原 帰路 ※ ※

パカラッ パカラッ パカラッ…

マルコ「えっ?ユミル、今何て言ったの?」パカラッ

ユミル「だーかーらー、クリスタはしばらく外出禁止。休日返上で試験勉強しないとマズイんだって」パカラッ

マルコ「一日ぐらい息抜きしたっていいよね?」パカラッ

ユミル「駄目だ。最終試験で10位以内に入らなきゃ憲兵団に行けないだろ?」パカラッ

クリスタ「マルコ、ごめんね…。でも真剣に試験勉強に取り組まないと…マルコと一緒に憲兵団に入れないよ…」パカラッ

マルコ「あっ、じゃあ僕が勉強見るよ」パカラッ

ユミル「お断りだよ。マルコは勉強の邪魔をするだろう?」パカラッ

マルコ「邪魔なんてしないし」パカラッ


ユミル「はっ、どうだか。…コニー!マルコってクリスタと二人でいる時はどんな奴なんだっけ?」パカラッ

コニー「ん?ああ、マルコはすっげーキス魔だ。ピアノの練習にならねぇぐらいチュッチュしてたぜ」パカラッ

マルコ「コニー!!変な事言わないでくれよ!!///」パカラッ

コニー「えー、だって本当の事じゃん」パカラッ

ユミル「そういうわけだ。最終試験が終わるまでマルコはクリスタに近づくな」パカラッ

アルミン「マルコ、心配しなくても大丈夫だよ。クリスタの座学と技巧術は僕がみっちり教えるから」パカラッ

ミカサ「私とエレンは立体機動と格闘術をクリスタに教えるようユミルから頼まれた」パカラッ

エレン「へっへーん。今度は俺が先生だぜ。よろしくな、クリスタ」パカラッ

クリスタ「はい!みなさん、よろしくご指導のほどお願いします」パカラッ



マルコ「……はぁ」パカラッ

ジャン「そう落ち込むなって。…つーかお前、真面目にピアノの練習してんのかと思ってたら」ゲラゲラ パカラッ

マルコ「もちろん練習はしてたよ。けどさ、好きな女の子が隣に座ってるんだよ。…普通我慢できないよね?」パカラッ

ジャン「んなこと、彼女のいない俺に聞くか?性格悪ぃぞ」パカラッ

マルコ「…ごめん」パカラッ

ジャン「ばーか、謝んな。余計惨めになるだろ。それよりマルコに手伝ってもらいたいことがあるんだ」パカラッ

マルコ「なに?」パカラッ

ジャン「―――――――」ヒソヒソ パカラッ

マルコ「本当かい?うわぁ、嬉しいなぁ。僕で良ければ喜んで手伝うよ」パカラッ

ジャン「俺もお前も当分暇だろ?まぁ試験勉強は適当にしなきゃなんねぇけど。訓練兵最後の記念にさ」パカラッ

マルコ「うん。僕にとって最高の思い出になりそうだよ」パカラッ


>>1です
いつもレスくれる方、あと少ないとは思いますが見てくださってる方、感謝してます

何とか1スレで終わらせようと頑張ってたんだが…まとめるのが下手すぎて収まりそうに無い

でも無駄にスレ立てるのも気が引けるので、このスレを埋め尽くしたら終了するよ

乙!!!
第二スレにいってもいいから綺麗にまとめてほしい……


いつも更新楽しみにしてる

第二スレいってもかまわない。乙。

1スレに納めるために省いた結果すっきりしない終わり方になるくらいなら、
中途半端でも2スレにまたがった方が断然いい

乙です
埋めないように感想我慢してる人結構いると思う
後、オカリナ活躍して嬉しいです


※ ※ 翌日 女子寮 ※ ※

クリスタ「本当にごめんなさい。入団枠を増やせなくて…」

ハンナ「もう、謝らなくていいってば。クリスタのせいじゃないし。勝手にルール変更した上層部が悪いんだから」

クリスタ「でも…、ドレスまで作ってくれたのに…、期待にこたえられなくて…」グスッ

ハンナ「ほら、泣かないの。誰もクリスタのこと責めたりしないよ」ヨシヨシ

クリスタ「けどフランツが…」グスッ

ハンナ「いいの。彼はむしろ喜んでたから。私に憲兵団へ追いやられなくて済むって。だから笑って、ね」ヨシヨシ

サシャ「けど、ドレス勝負だったら間違いなくハンナが優勝でしたよ」

ミカサ「ええ。他の駐屯地の女の子たちのドレスはゴテゴテと装飾が多すぎて何だか安っぽく見えた」

アニ「きっと値段聞いたら目が飛び出るぐらい高いんだろうけどね」

ユミル「シンプルでラインが綺麗で、まぁ、中身がクリスタだからね。何着ても優勝だよ」

クリスタ「そんなことないよ。ハンナはセンスが良いと思う。着心地だって最高だし、縫製の腕前は一流だよ」

ハンナ「ありがとう。みんなに褒められると自信がわいてくるよ」

ミーナ「うんうん。やっぱりハンナは服飾関係の仕事をするべきだよ」

ハンナ「ふふ、ミーナも一緒にね」


クリスタ「それでね、作ってもらったドレス…、これってもらってもいいのかな?」

ハンナ「もちろん。クリスタサイズだから。返してもらっても私は着れないし」

クリスタ「ありがとう。じゃあ大切に保管して……、何年か先にまた着れたらいいな」

サシャ「あっ、ウェディングドレスにするつもりですね」

クリスタ「うん。たくさんの思い出がつまったドレスだから。絶対にこれを着たい」

ハンナ「うーん…、でもその頃には小さくなってるかも…」

クリスタ「太らないように気をつけるもん」

ミーナ「まだまだ成長する余地はありそうだし…」

クリスタ「残念ながら身長は止まったよ」

ユミル「ばーか、胸だよ、胸。さすがにそのサイズで止まったら悲しいだろう。私は全然構わないけど」

クリスタ「べ、別にいいもん。胸のことは放っておいてよ」プイッ

ユミル「揉んでやろうか?」

クリスタ「結構です!!」

ミカサ「揉んでもらえば、マルコに」

クリスタ「な、何てこと言うの、ミカサ///」


ミカサ「私は最近大きくなった……ような気がする」クイッ チラッ

サシャ「自分でシャツの中覗かないで下さいよ。あと、何で大きくなったかは絶対に聞きたくありませんからね」

ハンナ「揉まれても大きくならないから。ただのデマよ。胸の大きさなんて気にしないで、クリスタ」

ミーナ「そうだよ。マルコは巨乳より貧乳のほうが好きそうだし。何となく」

サシャ「あはは。確かにそうですね。何て慎み深いおっぱいなんだ!とか言って喜びそうです」

ユミル「ぷっ、マジで言いそうですげー嫌だ」ゲラゲラ

クリスタ「そんなこと言いませんから。…あっ、もう時間だ。行かなきゃ」スクッ 

ミカサ「どこへ?」

クリスタ「食堂に。今日はアルミンが勉強見てくれるって。えっと教本とノートと…」バタン ガサゴソ

ミーナ「何で食堂なの?勉強するなら資料室に行けばいいのに」

クリスタ「だってユミルが講義棟には近寄るなって言うから…」ガサゴソ

ユミル「講義棟にはピアノがあるし。クリスタは勉強そっちのけでピアノ弾きそうだからね」

クリスタ「うーん、否定できない。多分弾いちゃうかな。では、行ってきます」スタスタ

ミカサ「クリスタ、待って。……これを使って」ゴソゴソ ポイッ

クリスタ「うわっ、とと…。あっ、これってミカサお手製のロングロングマフラー」フワッ


ミカサ「もう食堂の暖炉に火は入ってないと思うから…。冷えるといけないのでアルミンと一緒に巻くといい」

クリスタ「ふふ、ありがとう。……ん?アルミンと一緒にって…」

ミカサ「そう。もうすぐ訓練兵生活が終了するので、アルミンに良い思い出を作ってあげて欲しい」

ミーナ「えっ?そうなの?アルミンってクリスタのこと好きだったの?」

ミカサ「それは分からない。でも入団した当時は、クリスタのことを可愛いと度々言っていた」

サシャ「それは男子全員が言ってることでは…」

クリスタ「このマフラーはミカサがアルミンとエレンのために編んだんだよね…。けど…一緒に巻くのはちょっと…」

ミカサ「ほんの一瞬でいい。アルミンはきっと喜ぶはず」

クリスタ「でも、アルミンに悪いよ。何だか、からかってるみたいで…」

ユミル「ちょっとぐらい巻いてやれよ。アルミンには色々世話になったんだ。礼がわりにさ」

クリスタ「…そうだね。三年間、みんなの中心になって頑張ってくれたんだよね…」ウンウン

クリスタ「分かったよ。ちょっとだけ一緒に巻いてみるね。では行ってきます」スタスタ

ガチャ バタンッ!


アニ「…意外ね。絶対駄目だって猛反対すると思ったのに」

ユミル「あぁ、今の?これが原因でマルコと大喧嘩して別れてしまえって思ってさ」

アニ「相変わらずひどい奴だね」スクッ スタスタ

サシャ「はは、マフラーを一緒に巻いたぐらいじゃ、きっとマルコは怒りませんよ」

ガチャ

ユミル「おや、今日も散歩かい?見回りご苦労さん」

アニ「…うるさい」

ガチャ バタンッ!

ミーナ「アニってば、未だに部屋に居つこうとしないね…」

サシャ「でも前よりは随分話に加わってくれるようになりましたよ」

ミカサ「ええ、入団当初はひどかった。無言で睨んでくるだけだったから」

ハンナ「ミカサとアニが女子寮で喧嘩しなくて本当に良かった。ここには二人を止められる人がいないから」

ユミル「確かに。男手が10人ぐらい要りそうだ。……私もちょっと出かけてくる」スクッ スタスタ


※ ※ 屋外 ※ ※

ユミル「アニ、ちょっと待てよ」タッタッタッ

アニ「…何か用?」ピタッ

ユミル「たまには一緒に散歩しようぜ」

アニ「嫌よ」スタスタ

ユミル「冷たいねぇ」スタスタ

アニ「今さらでしょ」スタスタ

ユミル「…壁外調査の阻止は諦めたのか?」スタスタ

アニ「…手紙はもうリスクが高いし。他に手段が思いつかない」スタスタ

ユミル「一ヵ月後っつってたから、調査実施は解散式前後か…。結局さ、何が目的で阻止しようとしてたんだ?」スタスタ

アニ「…薄々勘付いてるんでしょ?わざわざ聞かないで」スタスタ

ユミル「まぁね。けど、思い違いってこともあるしさ」スタスタ

アニ「…あんたは私たちと関係無いから。………私たちの存在を密告しても構わない」スタスタ

ユミル「ゴメンだね。……私も個人的にはお前と仲良くしたいと思ってるから」スタスタ

アニ「…じゃあ、もうすぐ敵同士ね」スタスタ


ユミル「お前さ、密告されて捕まってもいいって思ってるぐらいなら、他の道も選択できるだろ?」スタスタ

アニ「…できない」スタスタ

ユミル「どうして?捕まって殺される覚悟があるぐらいなら、自由に生きられるはずだよ」スタスタ

アニ「…あんたが羨ましいよ。縛られるものが無くてさ…」スタスタ

ユミル「…同胞とここにいる仲間、両方裏切りたく無いんだね…」スタスタ

アニ「私は…弱い人間だから、あんた達に気を許してしまった、心を開いてしまった…」スタスタ

ユミル「アニ…」スタスタ

アニ「誰とも関わりたく無かったのに、一人でいたかったのに。ここの連中は馬鹿だから、全然空気読んでくれなくて…」

アニ「気付いたら勝手に仲間の一人にされてて…。頼みもしないのに優しく接してきて…、笑いかけてきて…」グスッ

アニ「人並みに楽しい思い出なんか出来ちゃって…グスッ、そんなの辛くて悲しいだけなのに……」ポロポロ

ユミル「そうだね。ここにいるのは、お人好しばっかりだ。…アニも含めてね」ポンポン

アニ「…よしてよ、グスッ、私はお人好しなんかじゃない…」ポロポロ


ユミル「知ってるかい?涙で目が洗えるほどたくさん泣いた女は、視野が広くなるんだぜ」ニッ

アニ「…どういう意味?」グスッ

ユミル「辛い思いをたくさんしてきたんだ。それだけ強くなってるはずだし、世の中が前よりはよく見渡せるはずだ」

ユミル「正面だけじゃなく周りを見回してみなよ。きっと今のお前なら最良の道が見つけられるはずだぜ」

アニ「…偉そうに。だったら具体的に教えなよ、最良の道っていうのを」

ユミル「悪いね。私には見えないんだ。お前みたに泣き虫じゃないから」

アニ「…あっそ」イラッ 

ユミル「まっ、世界中の誰もが幸せになる道なんて無いんだ。開き直って自分が一番幸せになれる道を探しなよ」

アニ「…私は幸せになる資格なんて無いから…。それじゃ」スタスタ

ユミル「悲しい奴だね、まったく。あんまり遅くまで夜風に当たってると風邪引くよ」クルッ スタスタ


※ ※ 食堂 ※ ※

アルミン「…そうそう、動滑車でのエネルギー保存の問題だから…」

クリスタ「うー……」カリカリ

アルミン「そこ違うよ。物体の位置が下がっても、下がった分の半分しか滑車は上がらないんだよ」

クリスタ「……もう、目の前に動滑車用意してもらわないと分からないよ……」ゴシゴシ カリカリ

アルミン「はは、女の子は物理苦手だよね」

クリスタ「……数字と公式には夢もロマンも感じないから……、はぁ、やっと解けた」カリカリ カタッ

アルミン「うん、正解。ちょっと休憩しようか」

クリスタ「賛成。じゃあ温かい飲み物を用意してくるね。ちょっと待ってて」ガタッ スタスタ

アルミン「ありがとう」

クリスタ「トムも温かい飲み物いるよね?」スタスタ

トム「あっ、お願いするよ」ヌリヌリ

アルミン「ご苦労様。後少しで完成しそうだね」

トム「うん。後一週間ぐらいで仕上がりそうだよ」ヌリヌリ


アルミン「あっ、この船の上にいるのって僕とエレンじゃないかな?」

トム「正解。海の向こうを目指して旅立ってもらったよ」ヌリヌリ

アルミン「感激だよ、トム。僕の想像より遥かに鮮明な外の世界だよ。耳を澄ませば大地の音が聴こえてきそうだ」

トム「ははっ、褒めすぎだよ」ヌリヌリ

アルミン「あのさ…ミカサはどこに描いたのかな…?」

トム「…やっぱりエレンと一緒に描かないとまずかった?」

アルミン「うーん、どうだろう。僕だけエレンと一緒でズルイって拗ねるかなぁ…」

トム「ミカサはここ。壁外へ進軍した人類の先頭に立つ戦いの女神ってところかな」

アルミン「本当だ。白い布を纏い長槍を持って…。もしかしてモチーフは壁外の神話の…えっと…アテナだっけ?」

トム「さすがアルミン。ギリシャ神話の戦いの女神アテナ。美しさと賢さと強さを備えたミカサにぴったりでしょ?」

アルミン「うん、これならミカサも納得してくれるかも」

トム「良かった。彼女以外適任がいないからね」ヌリヌリ

アルミン「けどさ、食堂中の壁の中から自分がどこにいるのか探し当てるゲームみたいで楽しいね」

トム「そう言ってもらえたら嬉しいよ」ヌリヌリ


クリスタ「飲み物用意できたけど、トムも一緒に休憩する?」スタスタ カチャカチャ

トム「ごめん。今、手が離せそうにないから、そこのテーブルに置いといてもらえるかな」

クリスタ「いいよ」カチャ

アルミン「それより、トムはずっと絵にかかりっ放しだけど、試験勉強はしなくてもいいの?」

トム「いいんだよ。僕は駐屯兵団に入りたいから。そこで叶えたい夢があるんだ」ヌリヌリ

アルミン「あっ、もしかして…」

トム「うん。僕達人類は広大なキャンバスに囲まれてるだろう?」

クリスタ「城壁に絵を描きたいのね。すごく素敵な夢だと思う」

トム「あの真っ白で巨大な壁のせいで、人類は必要以上に閉塞感を感じていると思うんだ」

トム「壁一面に風景でも描けば、少しは明るい気分になるんじゃないかな」

アルミン「それ、すごく分かるよ。僕はシガンシナ区出身だからさ。どこを見ても視界に必ず壁が入るんだ」

アルミン「いつも圧迫感と息苦しさを感じていたよ。だからかな、僕が外の世界へ憧れたのも…」

トム「まぁ、壁教の人たちが許してはくれないだろうけど。でも許可がおりるまで何十年でも粘ってみるつもりだよ」

アルミン「僕も応援するよ」

クリスタ「私も。トムならきっと素晴らしい絵を描いてくれると思うから」


アルミン「あっ、せっかくクリスタが用意してくれた飲み物が冷めちゃうね。じゃ、先にお茶にさせてもらうよ」

トム「どうぞ」ヌリヌリ

クリスタ「では、アルミン先生、こちらへお座り下さい」

アルミン「よしてよ、先生だなんてさ」スタスタ ガタッ

クリスタ「だってアルミンは座学トップだし。教え方だって上手だし。本当に先生みたいだよ。…はい、どうぞ」カチャ 

アルミン「これ、何かな?」クンクン

クリスタ「グリューワイン。温まるよ」ガタッ

アルミン「本当だワインの香りだ…」

クリスタ「大丈夫。十分火にかけたからアルコールは飛んでるはずだよ」フーッ フーッ

アルミン「…あっ、おいしい。シナモンの風味と後は何だろう?」ゴクッ

クリスタ「クローブとオレンジピールを入れてみたよ。本当はお砂糖入れたいところだけど…」ゴクッ

アルミン「まぁ、高級品だからさ。でも甘くなくても全然いけるよ」フーッ

クリスタ「本当?良かった。…そうだ、ちょっと待ってね…」ゴソゴソ

アルミン「どうしたの?」


クリスタ「はい。もっと暖まろうね」グルグル

アルミン「えっ?…このマフラーって、エレンがミカサにもらったのと同じ毛糸…?」

クリスタ「うん。ミカサがね、エレンとアルミンと三人で巻くつもりで編んだんだよ。…で、こっちは私が」グルグル

アルミン「…あ、あの、クリスタ?」

クリスタ「ふふ。知ってる?二人で一つのマフラーを巻くことを、恋人巻きっていうらしいよ」ニコッ

アルミン「はは…そうなんだ///」(クリスタの意図が分からないよ…。でもちょっと嬉しいな)

クリスタ「ミカサのマフラーはぬっくぬくだね」フーッ ゴク…

アルミン「うん。グリューワインでぽっかぽかだし」フーッ ゴクゴク

クリスタ「アルミン先生、私もう勉強モードに戻れそうにないです」フーッ ゴクッ

アルミン「だよね。もう今日は終わりでいいよ」ゴクッ


ガチャ!! バタン!!


アニ「……本当に巻いてるし」スタスタ

クリスタ「あっ、アニどうしたの?」


アニ「…寒いから温かいお茶でも飲もうと思って」スタスタ

クリスタ「それなら一緒に飲もうよ。グリューワイン作ってあるから」スクッ

アルミン「ぐぇっ!!」ビーン

クリスタ「きゃっ!ごめんなさい。離れちゃいけないの忘れてたよ。ちょっと外すね」グルグル

アニ「…ぷっ、何やってんだか」

クリスタ「すぐ持ってくるから、アルミンの隣に座って待ってて」スタスタ

アニ「悪いね」スタスタ ガタッ

アルミン「……」ジーッ

アニ「…何よ?」

アルミン「目が赤いよ。…もしかして泣いてた?」

アニ「…泣くわけないでしょ。気のせいよ」ゴシゴシ

アルミン「あっ、そんなに擦っちゃ駄目だって。目に傷が入るよ」

クリスタ「はい、お待たせ。どうぞ、温まって」カチャッ

アニ「…ありがとう」


クリスタ「アルミンもおかわりする?」

アルミン「うん。まだ残ってるならぜひ」

クリスタ「ワイン一本空けたから、まだまだあるよ」コポコポ カチャ

アニ「…おいしいね、これ。すごく温もるし」フーッ ゴクッ

クリスタ「アニも気に入ってくれたみたいで嬉しいな。…そうだ。ちょっとアニ、じっとしててね」グルグル

アニ「…何で私にマフラー巻くのさ?」

クリスタ「いいからいいから」グルグル

アルミン「えっ?今度は僕?」

クリスタ「うん。最後は私。…ほら、三人でも十分巻ける長さだよ」グルグル

アニ「はぁ…、クリスタ、あんたは何がしたいの?」フーッ フーッ

クリスタ「ほら、私達って髪の毛と瞳の色がお揃いでしょ?こうやったら兄妹みたいに見えるかなって思ったの」

アルミン「そう言われたらそうだね。みんなチビッ子だし」フーッ ゴクッ

アニ「…馬鹿馬鹿しい」フーッ ゴクッ

クリスタ「…あれ?アニの目が赤い。…泣いてたの?」


アルミン「やっぱりそう思うよね。…何かあったの?良かったら話を聞くよ」

アニ「だから、私が泣くわけないでしょ。何でもないから」ゴクッ

クリスタ「そう?でもアニの瞳って綺麗だよね。ねぇ、知ってる?たくさん涙を流した人ほど美しい瞳をしてるんだって」

アニ「…流行ってるの?眼に関する格言が」ゴクッ

クリスタ「えっ、流行ってるの?」

アルミン「僕は初耳だよ。けどさ、この駐屯地の女の子たちが綺麗な瞳をしてる理由が分かったよ」フーッ フーッ

クリスタ「そうね。辛い人生を送ってきた子がたくさんいるから…」フーッ

アニ「じゃあ、クリスタが一番涙を流してきたってことになるよ」ゴクッ

クリスタ「どうして?私はアニの瞳が一番綺麗だと思うよ」フーッ ゴクッ


トム「君たち、ちょっとそのままでいてくれる?」スタスタ ガタッ カパッ 


アルミン「どうしたの?スケッチブックなんか開いて」フーッ

トム「いやさ、三人のその姿があまりに愛らしいからスケッチさせてもらおうと思って」


アニ「…やめて」ゴクッ

クリスタ「いいじゃない。記念になるよ」ゴクッ

アルミン「スケッチしてもいいけど、僕もその絵が欲しいな」

トム「了解。何枚か描くね」スラスラ

クリスタ「ふふ、何だか楽しい気分になってきたよ」ゴクッ

アルミン「…クリスタ、ほんのり顔が赤いし…、まさか酔ってる?」

アニ「おいしいね、このワイン。勝手におかわりもらうね」トポトポ

アルミン「…アニまで…。全然アルコール抜けてないんじゃ…」

クリスタ「ちゃんと沸騰させたもん。ぐつぐついってたもん」ゴクゴク

アルミン「う、うん」

アニ「…私はさ、アルミンの瞳が一番綺麗だと思うよ」クイッ

アルミン「はは、ありがとう…」

クリスタ「アニずるいよ。アルミンは私の先生なんだから独り占めしないでよ」ギュッ

アルミン(何だろう、この状況…。まぁ悪い気はしないんだけど…)フーッ ゴクッ


アニ「あら、マルコはいいの?」ゴクッ

クリスタ「マルコが一番だけど、アルミンは二番なの」ゴクッ

アルミン(…そっか、二番なんだ。憧れてた女の子の二番になれたのなら満足かな)

アニ「ユミルは?」ゴクッ

クリスタ「んー、そんなの決められないよ。ユミルは別枠だよ」トポトポ

アルミン「二人ともお酒弱いみたいだから、もう飲まないほうがいいよ」

アニ「なんで?全然弱くないし。………眠い」コテン

アルミン「…アニ?…えっ!?本当に寝てるし」

アニ「…」スースー

クリスタ「ずるいなぁ、もう。アルミンの肩にもたれて寝るなんて」ゴクゴク

アルミン「だから、飲んじゃ駄目だって」


クリスタ「…むぅ、私も寝る」コテン

アルミン「ちょっと、クリスタ嘘寝しないでよ」

クリスタ「……寝てるので話しかけないで下さい。グーグー…」

アルミン「ぷっ、何だよそれ」

トム「ははっ、両手に花で羨ましいよ」

アルミン「まぁね。たまには僕が良い思いしてもバチは当たらないよね」

アルミン(…右側にはかつて憧れた女の子。左側にはちょっと気になる女の子)

アルミン(僕は三年間、恋なんてしなかったけど、二人のことは結構好きだった)

アルミン(何年経っても今日のことはきっと忘れないんだろうな…)

アルミン(…ミカサのマフラーがくれた僕へのご褒美かな。ありがとう、ミカサ)


>>1です
レスありがとうございました
とりあえず綺麗に終わることを目指します、ので多分2スレ目行きそうです

ではまた後日

乙乙
ここまで来たんだからやっぱり綺麗に終わって欲しい


※ ※ 数日後 第一音楽室 ※ ※

マルコ「けどさ…本気だったんだね」

ジャン「あん?なにが」

マルコ「いつの間にかヴァイオリン完成させてて、しかもそこそこ弾けるようになっててさ」

ジャン「俺はやると決めたらやる男だからな」

マルコ「そう?無駄なことはしない男だろ?」

ジャン「無駄って決めつけんな」

マルコ「ジャンが持ってきた楽譜見てさ、ピンと来たよ。…やっぱり綺麗な黒髪に惹かれるんだね」

ジャン「初恋は男の一生を左右するってな。けど、ミカサの影を求めてるわけじゃねぇからな」

マルコ「分かってるよ。全然タイプが違うし。共通点は黒髪でスレンダーでジャンに冷たいってところだけ」

ジャン「はっ、言ってくれるね。自分は初恋が実ったからって偉そうに」

マルコ「ん?僕は訓練兵になる前に好きな女の子いたし。その子とはどうにもならなかったけど」

ジャン「マジか。なんだよ、お前も初恋でコケてんじゃねぇか」

マルコ「ジャン、恋はすべて初恋だよ。だって相手が違うから」ニコ

ジャン「ポジティブすぎて腹が立つな」


マルコ「でもさ、この楽譜どこから見つけてきたんだい?」

ジャン「ヴァイオリン工房の親父によ、振り向かせたい女がいるから何か良い曲ねぇかって聞いたら、無言で差し出された」

マルコ「はは、親父さんにはバレバレなわけね」

ジャン「けど、なかなか格好いい曲だろ?俺の中のあいつのイメージにぴったりだ」

マルコ「どんなイメージを抱いてるのかは知らないけどさ、確かに大人の雰囲気がある曲だよね」

ジャン「だろ?官能的で情熱的。それでいてスタイリッシュでスリリング。まさにあいつそのものだ」

マルコ「どんな目で見たら彼女のことをそう表現できるんだよ。僕にはさっぱり分からない」

ジャン「いいんだ。俺だけ知ってれば」

マルコ「ふーん。でも少しは進展してるの?」

ジャン「全然。相変わらずクソガキ扱いだ」

マルコ「まっ、事情はどうあれ、僕はジャンと二重奏できるのが嬉しいよ。いつ彼女に聴かせるつもり?」


ジャン「一番最後。解散式後の祝賀会の席で」

マルコ「大胆だね。訓練兵が全員いるんだよ?」

ジャン「分かってる。けどよ、あいつ自分のこと卑下しちまってる部分があってさ。俺も知らずに傷つけてたみたいだし…」

ジャン「堂々とを胸を張ってみんなの前で好きだって言ってやりてぇんだ」

マルコ「照れ隠しに殴られそうだけどね」

ジャン「殴られようが笑われようが構わねぇ。一番恐ぇのは無反応だ。あいつマジで無視しそうだぜ」

マルコ「それでもやるんだ」

ジャン「ああ。報われない人生には慣れっこだ」

マルコ「はは。じゃあ、祝賀会場にピアノが用意できるかどうか教官に確認しとくよ」

ジャン「頼むわ。よし、そろそろ練習するか」


マルコ「そうだね。弾けないと話にならないし。ジャン、知ってる?男は目で恋に落ち、女は耳で恋に落ちるって」

ジャン「目の前に成功例がいるからな。あながち嘘じゃねぇんだろうな。…俺も頑張ってみるか。A音くれ」

マルコ「うん」ポーン♪

ジャン「…」ギュィィィン♪

マルコ「OK?」

ジャン「ああ」コクン


♪♪♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪~

――ピアソラ『リベルタンゴ』


――数分後

マルコ「……ジャン、死ぬ気で練習しないと、人前で演奏できるレベルにはならないよ」ハァ…

ジャン「うっせぇな。お前だって途中結構間違えてたじゃねぇか」

マルコ「だって僕は初見だから。それにこういうリズムってクラシックばっかりやってる人間は苦手なんだよ」 

ジャン「ばーか。何がクラシックだ。世の中には二種類の音楽しかねぇんだよ。良い音楽か悪い音楽か。それだけだ」


※ ※ 格闘演習場 ※ ※

ミカサ「世の中には二種類の人間がいる。努力する人と人の努力に頼る人」

クリスタ「うん」コクン

ミカサ「エレンは前者。圧倒的に前者」

クリスタ「うん」コクン

ミカサ「そして私は…どちらでもない」

クリスタ「うん…?」

ミカサ「努力せずとも何事もできる」

エレン「ミカサは人間じゃねぇらしいぜ」ヒソヒソ

クリスタ「ぷっ…あはは、笑わせないでよ、エレン」クスクス

ミカサ「エレン、私が真剣に格闘術を教えようとしているのに邪魔をしないで」

エレン「何で精神論から叩き込もうとしてんだよ。時間の無駄だろ。それにお前にだってできない事があるじゃねぇか」

ミカサ「…そう。私は極度のリズム音痴。いくら努力しても改善できなかった」ズーン

クリスタ「落ち込まないで、ミカサ。リズム感なんて無くったって日常生活に何の支障もないから」


ミカサ「…けれどクリスタにピアノを教わらなかったら、私は自分がリズム音痴だと一生気付かなかったと思う」

エレン「その方が幸せだったんじゃねぇか?」

ミカサ「エレンは黙って。…生まれて初めて挫折して、自分が完璧な人間で無いことを知った。すごく悔しかった」

クリスタ「ミカサ…」

ミカサ「でもそのおかげで、できない人の気持ちが分かるようになった。エレンのことをもっと理解できるようになった」

エレン「お前さぁ、遠まわしに馬鹿にしてるだろ?」

ミカサ「してない。…できない人間は努力が足りない怠け者だと思ってた。でもそうじゃない。才能が無いだけだった」

エレン「うわっ、腹立つ」

ミカサ「なので、クリスタが格闘術が苦手なのは仕方がない。才能と体格に恵まれていないから」

クリスタ「うん、それは分かってるよ。でも強くならないと…」

ミカサ「力が弱くても強い相手に対抗できる技は、エレンのほうがよく知っている。…エレン、教えてあげて」

エレン「ったく、前置き長ぇは、人に投げるは、何なんだよ」

ミカサ「私は強引に力でねじ伏せれるので、小技を覚える必要が無かった。だからクリスタの指導には向かない」


エレン「はいはい。どうせ俺はお前とくらべて貧弱だよ。けど力が無い分、技術を磨けた。クリスタだって同じだろ?」

クリスタ「えっ?」

エレン「俺思うんだ。もしクリスタの手が大きかったら、そんなにピアノが上手じゃ無かったかもなって」

クリスタ「あっ…」

エレン「小さい手でも人より上手く弾こうと必死に技術を磨いたんだろ?」

クリスタ「うん。手が小さい分、他の人の何倍も練習してたかも…」

エレン「才能や体格に恵まれて無いほうが、最終的には勝つんだぜ。恵まれてる奴は努力を怠るからな」

クリスタ「そっか…。ずっと小さな手がコンプレックスだったけど、この手のおかげで頑張れたのかな…」ジッ

エレン「きっとそうだぜ。考え方を変えればコンプレックスは武器になる」

ミカサ「…けど私のコンプレックスは何の役にも立たない」

エレン「んー、割と役に立ってるぜ」

ミカサ「どこで?」

エレン「…少しぐらいできないことがあった方が可愛いんじゃね?」ポリポリ

ミカサ「エレン…///」

クリスタ「ふふ、仲が良いのはいいんだけど…。早く特訓してください」


※ ※ 演習場外れ 林の中 ※ ※

♪♪♪♪~ ♪♪♪♪~

コニー「何か音が聴こえるって思ったら…、お前こんな場所で何やってんだ?」

ユミル「…何やってるように見える?」♪~

コニー「…ヴァイオリンって成長するのか?」

ユミル「馬鹿。これはチェロっていう楽器だよ。しかも手作りなんだぜ。すごいだろ?」♪~

コニー「マジか?こんなもん自分で作れんのか?すげぇな」

ユミル「昔の人間はよっぽど暇だったんだろうね。たかが娯楽のために色んな楽器を生み出してさ」♪~

コニー「確かにな。俺にはそんな無駄なもん考えてる時間も余裕もねぇからな。今日の飯にありつくだけで精一杯だ」

ユミル「昔は巨人がいなかったからね。暇をもてあましてる人間がゴロゴロしてたんだろ」♪~

コニー「いいよなー。巨人中心の生活してる俺らには考えられねぇ世界だぜ」

ユミル「まっ、そんな世界じゃ、兵士なんか必要なくって私もお前もお払い箱だ」♪~

コニー「兵士を首になっちまうのか。そしたらさ、俺はどんな人生送るんだろうな」

ユミル「さぁね。田舎へ帰って家業を継いで適当に嫁さんもらって…。ありきたりの人生を過ごしてそうだね」♪~

コニー「ふーん、そうか…………うん。いいなそれ。そういう人生も悪くねぇかもな」ポン


ユミル「…お前さ、嫁さんをサシャ前提で考えてないか?」♪~

コニー「当たり前だろ。サシャ以外もらう気ねぇし」

ユミル「ばーか。巨人のいない世界なんだぜ?訓練兵にもなってないし、サシャと出会うこともないんだよ」♪~

コニー「あっ、それすっげー嫌な世界だ。訓練兵にならなかったら、サシャだけじゃなくてお前らとも会えねぇ」

ユミル「けど巨人はいない。怯えて暮らす必要が無いんだぜ」♪~

コニー「巨人はいてもいいから、俺はお前らと友達でいたい。お前だってクリスタと出会えない世界なんて嫌だろ?」

ユミル「んー、私はどんな世界でだってクリスタを見つけ出すさ」♪~

コニー「そんなんずりぃ。…それより、そのチェロとかって楽器、なんで練習してんだ?」

ユミル「クリスタがさ、私にチェロ弾いてほしいって言ったから」♪~

コニー「だったらこんなくそ寒ぃとこで練習せずに、講義棟で弾けばいいじゃねぇか」

ユミル「内緒にしといて喜ばせたいだろ?だから秘密にしとけよ」♪~

コニー「いいけど…。もしかしてヴァイオリンもここで練習してたのか?」

ユミル「そうだ。ヴァイオリンの時は蚊が多い季節で苦労したな」♪~


コニー「ユミルは何でそこまでクリスタに尽くすんだ?ただの友達だろ?」

ユミル「別に尽くしてるわけじゃないさ。クリスタから貰ったものを返してるだけだ」♪~

コニー「何だ?そんな良いモノもらったのか。…お前のことだから…酒か?それともダバコか?」

ユミル「確かに酒もタバコも好きだけどね、それよりもっと良いものをくれるんだよ、あいつは」♪~

コニー「何だよ、それ。教えろよ」

ユミル「やなこった」♪~

コニー「ちっ、つまんねぇな」

ユミル「コニーこそ、こんな林の中で何やってたんだ?」♪~

コニー「俺か?俺は適当な長さと太さの枝を探してた。どっかに1mぐらいの木の枝落ちてねぇかな」キョロキョロ

ユミル「剣劇ごっこでも始める気か?」♪~

コニー「ちげぇよ。前にさ、サシャと約束してて。メジャーバトンをもう一本作ってやるって」

ユミル「あぁ、あれね。確か一本目の時は勝手に団の備品使って、罰としてジャンと一緒に演習場を走らされてた…」

コニー「そうだ。もう走りたくねぇからな。材料は自分で調達しねぇと」


ユミル「けど、今さらじゃないか?兵団解散した後で使うことないだろ?」

コニー「分かってるよ。でも約束は約束だからな。解散式までには作って渡したい」

ユミル「律儀だねぇ。……いっそのこと調査兵団で軍楽隊やってみれば?」

コニー「はぁ?やだよ、面倒くせぇ」

ユミル「お前とサシャとアルミンの三人が揃ってれば、適当に人を集めりゃ結成できそうなもんだけどね」

コニー「簡単に言うなよな。見た目以上に大変なんだぜ?軍楽隊って」

ユミル「だろうね。他人と歩調を合わせるってだけでも私は無理だし」

コニー「気心の知れた仲間同士じゃねぇとできねぇよ」

ユミル「まっ、新しい仲間を作ればいいんじゃない?調査兵団にだって気の良い奴はいるだろうし」


コニー「そういうお前はどうすんだよ。どの兵団へ行くのか決めたのか?」

ユミル「いいや。そんな焦って決める必要は無いしね。それより、バトンの材料探すの手伝ってやるよ」スクッ

コニー「おっ、悪ぃな」

ユミル「コニーはあの時の秘密を守ってくれてるからね。借りを返さないとさ」

コニー「別にそんなん気にすることはねぇのに」

ユミル「性分ってやつだろうね。人に借りを作ったままじゃ落ち着かないんだよ」

コニー「お前の方がよっぽど律儀じゃねぇか。なんだかんだ言ってやっぱいい奴だな、ユミルは」ニカッ

ユミル「はいはい。勝手に言ってな」


※ ※ 数日後 第三音楽室 ※ ※

ライナー「頼む!ベルトルト。お前の力が必要なんだ」

サシャ「私からもお願いします。ほら、みなさんも頼んで下さい」

「ベルトルトやってくれよー」

「お前しかいねぇんだよ」

「最後ぐらい一緒に楽しもうぜ」

ベルトルト「そんなに頼まれたって僕には無理だよ…」

ライナー「そんなことは無い。お前はやる時はやる男だ。俺は知っている」

サシャ「そうですよ。あの大舞台でメインダンサーをはったんですから。それに比べれば…」

ベルトルト「やめてくれよ。その事には二度と触れないでほしいんだ。思い出すだけでも恥ずかさで死にそうになる…」

ライナー「じゃあ、二択だ。どっちか選べ。解散式の祝賀会でダンスを披露するか…」

サシャ「私たちの歌の伴奏をするか。さぁ、どっちにします?」


ベルトルト「おかしいよ。何でその二択?僕はどっちもやらないから。伴奏なら今まで通りクリスタに頼めばいいし」

ライナー「ああ、クリスタなら間違いなく引き受けてくれるだろう。だがな、それが俺の失策だったと気付いたんだ」

ベルトルト「失策って?」

ライナー「クリスタに伴奏を頼むとな……歌っている俺の姿を見てもらえないんだよ!!」

サシャ「チャリティーコンサートの時、舞台で歌ってたライナーはなかなか男らしくて素敵だったんですけどね…」

ライナー「後でクリスタに感想を聞いたら‘ごめんね、よく見てなかったよ’って言われちまって…」

ベルトルト「だったらマルコに頼みなよ」

ライナー「馬鹿野郎!!マルコが伴奏したら、クリスタの視線は俺よりマルコに集中するだろうが」

サシャ「エレンとジャンは伴奏向かなそうですし…。ミカサは…リズム感が…」

ライナー「消去法でいったらな、ピアノがそこそこ弾けて且つ伴奏向きの奴はベルトルト、お前しかいないんだ」

ベルトルト「…そもそも、祝賀会をやる場所にピアノはあるの?」

ライナー「ああ、ピアノが置いてある会場を用意してくれるらしい。マルコが言ってたから間違いないだろう」

サシャ「どうですか?伴奏、引き受けてくれる気になりましたか?」

ベルトルト「…アカペラじゃ駄目なの?」


ライナー「はぁー、冷たい奴だな。昔は俺の頼みならなんでも聞いてくれてたのに。……反抗期か?」

サシャ「そうなんですか?でも良かったです。ベルトルトにも反抗期がきて。安心しました」

ベルトルト「反抗期って…。そんなんじゃないよ。それになんで安心するの?」

サシャ「それはですね、反抗期の無い子供時代を過ごすと、自分を持ってない大人に成長するって本で読んだからです」

ライナー「それはマズイな。ベルトルトはただでさえ自分の意見が無いのに。よし!もっと反抗してみろ」

ベルトルト「元々こういう性格なんだよ。放っておいてよ」

サシャ「何かに抑圧されてたり支配されてると反抗期ってこないらしいですよ。抵抗することを諦めちゃうらしいです」

サシャ「ベルトルトを観察してるとですね、何となく怯えながら生活してるように見えるんですけど…」

ベルトルト「…怯えてなんかないよ」

サシャ「じゃ、ライナーと一緒にいるのがストレスになっているとか?ライナーは図々しいですからね」

ライナー「そうなのか?俺と一緒にいるのがそんなに苦痛だったのか?」

ベルトルト「…苦痛だよ。僕は静かに過ごしていたいのに、こういう目立つことをやらせようとする。迷惑だ」スタスタ

サシャ「あっ、待ってください」


ガラッ ピシャッ!!


サシャ「…逃げられちゃいましたね」

ライナー「…」

サシャ「私、しつこく言い過ぎました。あんなに嫌がってたのに…。謝らないと…」

ライナー「いや、サシャは悪くない。気にするな。内気すぎるあいつがいけないんだ」

サシャ「でも…」

ライナー「あいつと少し話をしてくる。後はサシャに任せるから。適当に練習しててくれ」スタスタ

サシャ「分かりました…」

ガラッ ピシャッ!!

サシャ「…では、みなさん。はりきって練習しましょう…って誰もピアノ弾けませんね。どうしましょう」

「だったら今日は歌詞を覚えようぜ」

「つーか、どんな曲を歌う気だよ」

サシャ「曲はもう決まってるんですよ。ヴェルディの歌劇『椿姫』より『乾杯の歌』です」

「おっ、いいんじゃね?どんな曲かは知らねぇけど」

「乾杯か。祝賀会にはぴったりだな」

サシャ「はい。簡単に言うと、今夜はみんなで飲んで騒いじゃおうっていう内容です。楽しい曲ですよ」


※ ※ 講義棟 廊下 ※ ※

ライナー「ベルトルト、待ってくれ」タッタッタ

ベルトルト「…何を言われても僕は引き受けない」スタスタ

ライナー「まぁ、とにかく止まれ」グイッ

ベルトルト「…」

ライナー「…悪かった。…お前が他人と関わるのを避けてるのは知っている」

ベルトルト「だったら何で伴奏なんて僕に頼むんだ。…それに何でライナーは普通にしていられるんだ」

ベルトルト「…もうすぐすべてが終わるんだ。僕達のせいで。どうして笑っていられるんだよ」

ライナー「…ああ、終わるな。だがな、その日が来るまでどんな過ごし方をするかは自由だろう?」

ライナー「お前は自分の気持がぶれないように、心に壁を作って中にこもっちまってる。別にそれが悪いとは言わない」

ライナー「お前からみたら、率先して人と関わる俺の行動は奇異に映るかもしれないが…、これは俺なりの贖罪だ」

ベルトルト「贖罪?」


ライナー「ああ。直接謝るわけにはいかないだろ?だったら自分が道化になって少しでも楽しませてやろうと思ってる」

ライナー「他人を避けようが他人と繋がりを持とうが憎まれることには変わりない。…終わりがくるのも避けられない」

ライナー「俺だって人間だ。奴らと仲良くなればなるほど罪悪感で苦しくなる。…この苦しみこそが自分への罰だ」

ベルトルト「ライナー…」

ライナー「他人を避けちまったら罰は受けれないからな」

ベルトルト「…そんなことしてるから…ライナーはおかしくなったんだろう?心が壊れたんだろう?」

ライナー「…そうだな。ベルトルトには心配をかけてすまないと思ってる」

ベルトルト「…僕がどれだけ不安だと思ってるんだよ。お前は戦士であることを忘れるし、アニは今にも心が折れそうだし」

ベルトルト「…二人はずるいよ。どうして僕だけ孤独に耐えなきゃいけないの?…僕だって逃げ出したいのに…」

ライナー「ベルトルト…」


♪♪♪♪~ ♪♪♪♪~


ライナー「これは…、ピアノと…ヴァイオリンの音か…?」

ベルトルト「…うん。クリスタとユミルかな…」

ライナー「第二音楽室から聴こえるな…。ちょっと覗いてみるか…」スタスタ

ベルトルト「…ついでにクリスタに伴奏を頼んでよ」スタスタ

ライナー「……」スタスタ



※ ※ 第二音楽室 ※ ※

♪♪♪♪~ ♪♪♪♪♪~

マルコ「ジャン!ギーギー、ガーガー言わせないで。耳を塞ぎたくなる」♪~

ジャン「うるせぇな。好きで言わせてんじゃねぇし」♪~

マルコ「弦と弓は直角に引けよ。ボーイングが雑なんだよ」♪~

ジャン「ヴァイオリン弾いたこともねぇくせに知識だけで説教すんな」♪~

マルコ「残念。弾いた事ぐらいあるよ。なんせあのヴァイオリン工房をユミルに紹介したのは僕だからね」♪~

ジャン「くっそ、じゃあお前は俺より上手くヴァイオリンをあんあん言わせれるのかよ?」♪~

マルコ「あんあん?ふざけるなよ、ジャン」♪~

ジャン「冗談だろうが。怒んなよ」♪~

マルコ「僕はひぃひぃ啼かせるね」♪~

ジャン「ぶっ、くくくっ…、ちょっストップ。お前ずりぃわ。真顔で下ネタにのってくるのやめろ」ゲラゲラ

マルコ「いいかい?弓は乱暴にかき回しちゃいけないんだ。優しく扱わないと乾いた音しか鳴らないよ」

ジャン「くくっ、処女を扱うようにってか?」ゲラゲラ

マルコ「そうそう、慣れるまで時間がかかる。…ぶっ、あははははは」ゲラゲラ


※ ※ 第二音楽室前 廊下 ※ ※

ライナー「なんだ、ジャンとマルコか。はぁ、クリスタのピアノが聴きたかったぜ」

ベルトルト「…楽しそうだね、あの二人」

ライナー「…なぁ、ベルトルト」

ベルトルト「なに?」

ライナー「さっきは言わなかったが、消去法で残った伴奏できる奴はお前だけじゃないんだ。アルミンだってできる」

ベルトルト「だったらアルミンでいいじゃないか」

ライナー「俺はな、ベルトルトに弾いてもらいたいんだ。…最後ぐらい親友のお前と一緒にふざけてみたいんだよ」

ベルトルト「ライナー…」

ライナー「何も知らなかったガキの頃みたいによ、二人で笑いころげたいんだ」

ベルトルト「…もう、あの頃には戻れないよ」

ライナー「ああ、随分と俺たちの手は汚れてしまった。けど心まで真っ黒に染まってはいないだろう?」

ベルトルト「…真っ黒になれれば、こんなに苦しまなくてすむんだろうね」


ライナー「…苦しい時だからこそ俺は笑いたいんだ。笑える余裕がないと判断を間違える」

ベルトルト「…」

ライナー「伴奏を引き受けてくれないか?ベルトルト」

ベルトルト「…分かったよ。やるよ。…正しい決断をしてもらわないと困るから」

ライナー「そうか!良かった。感謝するぞ、ベルトルト」

ベルトルト「…それより、次の休日にトロスト区へ行こう。アニを誘って三人で…」

ライナー「…壁外調査の日程は決まったのか?」

ベルトルト「…どうやら解散式の翌日らしいよ。もうあまり時間がない。念のため下見しておかないと…」

ライナー「了解だ。…アニはお前が誘ってやれ。俺はどうも嫌われてるみたいだからな」

ベルトルト「…うん」


※ ※ 第二音楽室 ※ ※

ジャン「そうそう、お前次の休日って暇?」

マルコ「んー、暇といえば暇だけど」

ジャン「だろうな。クリスタへの接近禁止命令が出てんだもんな。ただのユミルの嫌がらせなのに真に受けてよ。馬鹿か?」

マルコ「いいんだよ。クリスタの勉強の邪魔はしたくないからね」

ジャン「まっ、お前がいいんなら構わねぇけどよ」

マルコ「で、次の休日に何かあるの?」

ジャン「ああ、俺ちょっと実家に帰るんだけどさ、お前も一緒に来ないか?」

マルコ「へぇ、ジャンの家か。トロスト区だっけ?」

ジャン「そうそう。ほら、憲兵団に入ったらしばらく実家には帰れそうにないだろ?今のうちに部屋を整理しときたいんだ」

マルコ「何だよ、片づけ要員として招待されるわけ?」


ジャン「片付けはすぐ済むって。んな散らかってねぇから。…ただ親に見られたくないアレコレを処分するだけだ」

マルコ「ははっ、絶対もう見られてるって。家捜しは母親の特権だから」

ジャン「それでも、やっぱ気がかりじゃん。こののままじゃ俺は死ねない」

マルコ「じゃあ残しとけば。絶対に生きようとするだろう?」

ジャン「意地悪ぃな。お前彼女できてから付き合い悪くなったしよ」

マルコ「はいはい。分かったよ。付き合うよ」

ジャン「サンキュ」

マルコ「そういえばさ、ジャンの家ってリードオルガンがあるんだっけ?」

ジャン「そうだぜ。足踏み式のふっるいやつ。踏み板はガタガタいうし、ふいごはヒューヒュー鳴りやがる」

マルコ「じゃあ、ちょっと親孝行しない?」

ジャン「はぁ?」

乙!
巨人組も色々と辛いな…
続きも待ってる

前スレから一気読みして追い付いた。マルクリに音楽とかツボだらけだ。何で今まで見てなかったのか
ここのマルクリが幸せそうなのが非常に和む。続き期待。


※ ※ 食堂 夕食時 ※ ※

ワイワイ ガヤガヤ

マルコ「勉強は順調?隣、座っていいかな」スタスタ

クリスタ「あっ、マルコ。もちろんいいよ」

マルコ「ありがとう」ガタッ ストン

クリスタ「ふふっ」

マルコ「どうしたの?何か良い事でもあった?」

クリスタ「最近一緒にいられないから、こうやって話ができるだけですっごく嬉しい」

マルコ「うん、僕も」スッ ギュッ

クリスタ「///」(テーブルの下で手を握られちゃった…)

マルコ「昨日は格闘術の試験があったけど…大丈夫だった?」

クリスタ「…対戦相手がアニだったよ」

マルコ「…それは…運が無かったね…」


クリスタ「ううん。違うの。………勝っちゃった」

マルコ「えっ?本当に?」

クリスタ「何だかよく分からないけど……すごく手加減してくれて……」

マルコ(ユミルか…。どうやってアニまで手懐けたんだろうね…)

クリスタ「試験官の目にも明らかにおかしいって映ったみたいで、アニは注意されたんだけど…」

マルコ「うん…」

クリスタ「今日は体調が優れなくてやる気が出ませんって…」

マルコ「まぁ、そういう日もあるんじゃないの?クリスタが気にすることはないよ」

クリスタ「…立体機動の試験でもね、ハンナとミーナが一緒のグループだったんだけど…」

マルコ「…ターゲットを譲られた?」

クリスタ「うん。私達は駐屯兵団へ行くからって…。みんながすごく気を遣ってくれて、優しくて……泣きそうになる」

マルコ「泣いてもいいよ。僕の胸はいつでも空いてる」ニコ

クリスタ「もうっ、マルコってば。…けど、私だって自力で試験を乗り越えようとミカサたちに特訓してもらったのに…」

クリスタ「やっぱり人に助けられてる。情けないな…」


マルコ「情けなくなんかないよ。優しい気持ちは人に伝播するからね。君の優しさがみんなに広がったんだよ」

クリスタ「むぅ…、マルコはそうやっていつも私を甘やかすんだから」

マルコ「甘やかしてなんかないよ。僕はクリスタを甘えさせたいんだよ」

クリスタ「何が違うのかよく分からないよ」

マルコ「全然違うよ。僕はクリスタに頼ってもらいたいんだ。君の安心できる存在になりたい」

クリスタ「マルコにはすでに頼りっぱなしだよ」

マルコ「でももっと甘えてよ」

クリスタ「ふふっ、そんなに甘えさせてどうするの?」

マルコ「ん?そりゃあ安心しきって完全に油断したところを、パクッとね」

クリスタ「あはは、食べられちゃうんだ」クスクス

マルコ「そうそう。僕はずっとご飯をお預けにされてる忠犬だから」

クリスタ「狼じゃなくて犬なんだ」

マルコ「だって柄じゃないでしょ?」

クリスタ「確かに」クスクス


マルコ「でさ、目の前にご馳走があるのに見てるだけで、すごくお腹が空いてるんだよ」

クリスタ「…もう、そんなこと言って困らせないで。ちゃんと約束は守るよ」

マルコ「ねぇ、試験が全部終わった後の休日って空いてる?」

クリスタ「試験後っていうと訓練兵最後の休日になるのね。…今のところ予定は無い…かな…」

マルコ「じゃ、その日だけは僕のために空けといて」スッ

マルコ「……君を食べたい。駄目かな?」ヒソヒソ

クリスタ「……いいよ。マルコになら食べられても」ヒソヒソ


ツカツカツカ……ゴンッ!!


マルコ「痛っ!!」

ユミル「おい、マルコ。試験が終わるまでクリスタに近寄るなっつっただろ」

クリスタ「ひどいよユミル。何もグーで殴ることないじゃない」


ユミル「人目を憚らずイチャつくコイツが悪い。なに耳元で囁いてんだよ。ここは食堂だよ?」ガタッ ストン

マルコ「ああ、知ってるよ。だからご馳走が食べたいなって話をしてただけだよ。ね、クリスタ」

クリスタ「…う、うん」(…確かに嘘では無い…)

アルミン「ははっ、相変わらずユミルはマルコに厳しいね」スタスタ

クリスタ「あっ、アルミン。何か用かな?」

アルミン「うん。今ユミルと話しててさ、クリスタのピアノ教室の終了式をやりたいなって話になって」ガタッ ストン

クリスタ「終了式?」

アルミン「うん。僕達が音楽を始めた出発点だから。何もせずに終わるわけにはいかないよ」

マルコ「そうだね。クリスタがいなかったら、あの教室にピアノがあるなんて誰も気付かなかっただろうね」

クリスタ「そう?私が気付かなくても、マルコが見つけてそうだけど」

マルコ「僕は君みたいに好奇心旺盛じゃないからさ。使用されてない教室にわざわざ入らないよ」

クリスタ「でも終了式って何をやるのかな?」

アルミン「特に何も。みんなが音楽室に集まれば、それだけで賑やかになるよ」

マルコ「お別れ会って感じだね。堅苦しくなくていいんじゃない?飲み物ぐらいは用意しようか」


ユミル「教官に飲酒の許可はとるんだろうね?」

マルコ「飲む気?音楽室で」

アルミン「まぁ、最後だしね。ちょっとぐらいハメを外してもいいかな。分かった。僕が教官に話をしてみるよ」

ユミル「さすがアルミン。マルコは買出し頼むぜ」

マルコ「ったく、自分で行ってよ。一番飲むくせに」

クリスタ「ふふっ、それでいつやるの?」

アルミン「試験期間中にやるわけにはいかないからさ、最後の休日でどうかな?」

クリスタ「あっ……えっと、その日はちょっと……」

ユミル「あれ?クリスタ、今朝聞いた時は用事無いって言ってたよね」

クリスタ「…うん。今朝は空いてたんだけど…」

アルミン「困ったな。他に日にちが無いんだよね…。どうしようか…」

クリスタ「…うーん、と…」チラッ

マルコ「はぁ………分かったよ。最後の休日はみんなで過ごそう。うん、きっとそれが一番いいんだよ」

クリスタ「ごめん。そういえば何も用事は無かったよ。勘違いしてたみたい」エヘヘ

アルミン「そう、良かった。じゃあみんなに声をかけとくね」



トム「あっ、アルミン発見」スタスタ


アルミン「やぁ、トム。どうしたの?」

トム「この前デッサンした絵、色を塗って仕上げたんだ。アルミンが欲しいって言ってたからさ。はいどうぞ」パサッ

アルミン「ちょっとトム!周りを見てよ!テーブルに絵を広げないで…」アセアセ

トム「え?何で?……………や、やぁ、マルコ…」

マルコ「……」

ユミル「…想像以上にサービスしたんだね、クリスタ。しかもアニまで。ぷっ、あははははは」ゲラゲラ

クリスタ「ユミル大声で笑わないでよ。みんなこっち見てるし…」

アルミン「あ、あのさ、マルコ。これには訳があってね…」

クリスタ「うん。勉強してたら寒くなってね、マフラー巻いてグリューワイン飲んだら良い気分になっちゃって…」

マルコ「……」

ユミル「何とか言えば?まっ、反応に困るのは分かるよ。彼女と友人の浮気現場だし。そりゃあ言葉を失くすさ」

アルミン「う、浮気とか、馬鹿なこと言わないでくれよ!」

クリスタ「そうだよ!そんなつもりはこれっぽっちも無いよ!」



ライナー「お前ら何を騒いでんだ?」スタスタ

ベルトルト「何かあったの?」スタスタ


ユミル「おっ、ライナーにベルトルさん。見てみろよ、この絵。天使が三人、可愛いだろう?」ピラッ

ライナー「うぉっ!?これは……今世紀最大の問題作だな。…クリスタの部分だけ切り抜いて俺にくれないか?」

アルミン「やだよ。可愛い女の子に挟まれる状況なんて今後の人生で二度と起きないだろうし。記念にとっておくんだ」

ベルトルト「……」

クリスタ「あの…マルコ…、怒ってるの?」

マルコ「……」

ユミル「クリスタ放っときな。これぐらいでヘソを曲げるようなケツの穴の小さい男だったってことだ。もう別れちゃいな」

クリスタ「ユミルは黙ってて!…マルコ、その…」

マルコ「…ねぇ、トム、これって水彩?」

トム「ううん。パステル画。3人のほわほわした雰囲気を出したかったから」

マルコ「へぇ、パステルってこんなに柔らかい絵になるんだ。温かみがあっていいね」


ユミル「…何だお前?絵の技法なんか聞いてさ」

アルミン「…黙ってたのは…絵をじっくり鑑賞してたのかい?」

マルコ「ん?まぁ、そんな感じ。…あとどんな言い訳するのか様子を窺ってた」

ライナー「ふーん。で、クリスタを俺に譲る気になったと」

マルコ「ならないよ。だって、クリスタ謝らないからさ。本当に悪気が無かったんでしょ」

クリスタ「マルコ…」

マルコ「クリスタもアルミンも自分に非がある時はすぐに謝罪するから。謝らないってことは何も無かったってことだよ」

アルミン「そうだよ。偶然こうなっただけで、クリスタとどうにかなろうなんて全然思ってないからね」

マルコ「分かってるよ。けどアルミンは僕に絵を見せたくなかった。まぁ、波風を立てたくなかっただけなんだろうけど」

アルミン「うん…、だってこんな事でマルコと気まずくなるのは嫌だしさ」

マルコ「ユミル。残念だけど喧嘩なんてしないから。僕はこれぐらいじゃヘソを曲げないし、ケツの穴も小さくない」

ライナー「俺がもっと広げてやろうか」

マルコ「遠慮するよ」

ユミル「ちっ、面白くないね」


ライナー「しかし、アルミンだけずるいだろう。…トム、アルミンと俺を入れ替えて描く事はできないか?」

トム「ああ。ライナーは描き慣れてるからいけると思う」

ライナー「ぜひ、頼む。絵画の中だけでもいい。俺に一時の夢を見させてくれ」

トム「分かったよ。ライナーは制服で描こうか?それとも私服?」

ライナー「裸だ。ありのままの姿を晒しといてくれ」

トム「了解。…ついでに両脇も脱がせようか?」ヒソヒソ

ライナー「そ、そんなことができるのか?」ヒソヒソ

トム「僕の想像になるけどね」ヒソヒソ

ライナー「……乳首はピンクで頼む」ヒソヒソ

ベルトルト「やめるんだ、ライナー。そんなことをしたらアニとクリスタに失礼だよ」

ユミル「どうしたベルトルトさん。ライナーがまたよからぬ事を考えてるのか?」

ベルトルト「…うん。ライナーが悪い事しようとしてる。…じゃあ僕は寮に帰るから」スタスタ

ライナー「おい、バラして逃げるな。ずるいぞ」

ユミル「さて、何を考えてたのか教えてもらおうか。ライナー」

ライナー「はぁ…、大したことじゃない。気にするな」



アルミン「ねぇ、トム」

トム「なんだい?」

アルミン「悪いんだけどさ、もう一枚だけ描いてもらいたい絵があるんだけど…」

トム「いいよ。他ならぬアルミンの頼みなら。何を描けばいいの?」

アルミン「あのさ……」



マルコ「…クリスタ、ちょっと外に出よう」ヒソヒソ ガタッ

クリスタ「どうしたの?」

マルコ「いいから来て」グイッ


※ ※ 講義棟裏 ※ ※

クリスタ「もう外は真っ暗だね。…こんなところに引っ張ってきてどうしたの?何か話でもあるのかな」

マルコ「そう。お説教」

クリスタ「…怒ってないんだよね?」

マルコ「怒ってないよ。でも注意はする」

クリスタ「…はい」

マルコ「僕以外の男の前で二度とお酒は飲まないように。あんな色っぽい顔、他の男に見せないでよ」

クリスタ「お酒を飲んだつもりは無かったんだけど…」

マルコ「言い訳しない。…割と心中穏やかじゃないんだからさ」

クリスタ「…やっぱり怒ってる」

マルコ「違うよ。…嫉妬してるんだ。見苦しいよね」

クリスタ「…嫉妬?」

マルコ「僕は心が広いほうだって思ってたけど、自分でも驚くぐらい独占欲が強かったみたい」

クリスタ「…そっか。うん。…約束するよ。マルコのいない所ではお酒は飲まないようにする」


マルコ「…あと、僕はクリスタのああいう表情は見たことがないよ」

クリスタ「あれは…、お酒が入って、ちょっと頭がふわふわしてたから。いつもの自分では無かったかも…」

マルコ「潤んだ瞳にほのかに赤みをおびた頬。柔らかく緩んだ目元に、物言いたげに少しだけ開いた唇…」

クリスタ「もう、文章にしないで。…恥ずかしくなるよ…」

マルコ「…僕にも見せてよ」ドッコイショ

クリスタ「見せてって言われても…。どうしたの?…急に壁にもたれて座って…」

マルコ「クリスタはここ座って」ポンポン

クリスタ「…膝の上…」

マルコ「ほら、おいでって」グイッ

クリスタ「きゃっ」ポスン

マルコ「捕まえた」

クリスタ「えっと…こっち向きでいいの?」

マルコ「そう。向き合ってないとキスできないでしょ」


クリスタ「…キスなら立ったままでも…」

マルコ「立ったままだと身長差がありすぎて首が痛い」

クリスタ「遠まわしに小さいって言った」

マルコ「小さくて可愛いって言ったんだよ。……キスしていい?」コツン


――ぶつかるおでこ。窺う視線


クリスタ「…いつも聞かないくせに」

マルコ「…いつもじゃないキスがしたい」





――抱き寄せられる体。熱を持った唇


クリスタ「…んっ……アッ……」

マルコ「……ハァ…好きだよ……ンッ…」


――絡め取られる舌。キスの合間に囁かれる睦言

――掠れた声に心臓が震える。頭の奥が痺れてくる

――長い長い口付けの後に残ったのは

――溢れかえる愛おしさと初めて覚えた身体の疼き



マルコ「…僕も見れた。クリスタのそういう顔」

クリスタ「…嘘つき。だって暗くて見えないよ」

マルコ「見なくても分かるよ。きっと潤んだ瞳で僕を見てる」

クリスタ「マルコもでしょ?」

マルコ「はは、けど中途半端につまみ食いしたらもっとお腹が空いちゃった」

クリスタ「もうっ、マルコってば…」

マルコ「…もっと食べたい」ギュッ

クリスタ「…駄目だよ。こんな場所じゃ…」

マルコ「うん。野生動物じゃないんだから外でなんて僕もごめんだ」

クリスタ「…でも…私も少しお腹が空いちゃった」エヘ

マルコ「………」

クリスタ「…マルコ?」

マルコ「クリスタ、野生に帰ろう」ガシッ

クリスタ「帰りません」


※ ※ 演習場近くの林 ※ ※

アニ「だから、私は行かないって言ってるでしょ」

ベルトルト「…壁外調査は解散式の翌日なんだ。時間が無いんだよ。お願いだからわがまま言わないでくれよ」

アニ「…解散式の翌日…」

ベルトルト「アニだって、早く故郷に帰りたいだろう?お父さんに会いたいだろう?」

アニ「……」

ベルトルト「はっきり言うよ。アニがどんなにここにいる人たちと仲良くなったって本当の仲間にはなれないんだ」

ベルトルト「上辺だけの友達ごっこなんだよ。僕らは異質な存在だから。彼らと繋がりを持つことなんて不可能なんだ」

アニ「…上辺だけの友達ごっこで十分だよ。私はそれでも楽しかった。仲間って言われて嬉しかった」

ベルトルト「アニ…」

アニ「あんたには隠さない。正直に言うよ。私は……ここにいる奴らが大好きなんだよ」

ベルトルト「アニ…、君はやっぱり裏切る気なのかい?」

アニ「…裏切らないよ。あんたと約束したでしょ。……けど、心の中まで支配しようとしないで……」


ベルトルト「…アニは…アルミンに特別な感情を持ってるの?」

アニ「…なんでそんなこと聞くのさ」

ベルトルト「…さっき見たんだ。君がアルミンに寄り掛かって寝てる絵を」

アニ「あぁ、そんなこともあったね。……アルミンのことは嫌いじゃないよ」

ベルトルト「…そう」ガバッ

ドサッ!!

アニ「くっ!!…ちょっとどいてよ!!何で押し倒してんのよ!!」ジタバタ

ベルトルト「うるさいっ!」

アニ「ベルトルト…?」

ベルトルト「…分かるだろ?アニ。君がいくら格闘術が得意でも、本気で僕に押さえ込まれたら動けないんだよ」

アニ「…そんなの知ってるよ。だから何だい?」

ベルトルト「…たとえ君が逃げようとしても、力ずくで言うことを聞かせられるんだ」

アニ「逃げたりしないよ」


ベルトルト「けど、アニは迷ってる。僕らを取るか、彼らを取るかで悩んでる」

アニ「…だから何?悩んじゃいけないの?それぐらい好きにさせてよ」

ベルトルト「アニ…、お願いだよ。僕に君を傷つけさせないで」

アニ「……またあの時みたいに抱いて言うことを聞かせるつもり?」

ベルトルト「…そんなことはしたくない。今の君に優しくなんてできそうにないから」

アニ「…別に構わないよ。あんたの気がそれで済むなら好きなだけ乱暴しなよ」

ベルトルト「アニ…」

アニ「無理やり抱かれようが暴力を振るわれようが、私の心は自由なんだ。あんたの思い通りにはならないよ」

ベルトルト「…もう何を言っても、何をしても君の心へ僕の思いは届かないの?」

アニ「…届いてるよ。痛いほど。けど私はありのままの自分を取り戻したいんだ。それだけだよ…」

ベルトルト「…何も知らなかった子どもの頃のように?」

アニ「…そうかもね。あの頃に戻れたらどんなに幸せなんだろう…」


ベルトルト「ライナーも同じことを言ってたよ。…僕も戻れるものなら戻りたい」

アニ「…うん。戻ろうよ、ベルトルト。戻って一緒に笑おうよ」ウルッ

ベルトルト「…そうだね。すべてを忘れて野山を走り回りたいね」ジワッ

アニ「…けど…どんなに望んでも過去には帰れない…。…幸せだった日々は二度と戻ってこない…」ポロポロ

ベルトルト「…前に進もう、アニ。辛くても僕らの生きる道は一つしかないんだよ」グスッ

アニ「…泣かないで、ベルトルト。あんたが泣くと悲しくなる」ポロポロ

ベルトルト「うん。…ごめん。…アニ、僕のために笑ってくれないか?」グスッ

アニ「……大丈夫だよ、ベルトルト」ニコ ポロポロ

ベルトルト「はは……泣き笑いだね」グスッ

アニ「…もう、うまく笑えないよ…」ポロポロ

どうなってしまうのか、気になる。

>>1です レスありがとうございます。読んでくださってる方にも感謝を

>>910 こんなに長いの一気に読んでもらえるとは。かなり時間とらせましたよね。申し訳ないです。でも嬉しい

サクサク進みたい。でもイチャイチャさせたい。ゆっくりペースですみません

イチャイチャさせてもらって一向にかまわん

しかしほんとにどうなってしまうんだ……マルクリにも巨人組にも幸せになって欲しいが……


※ ※ 休日 トロスト区 ジャンの実家 ※ ※

――ジャンの自室 

ジャン「」

マルコ「……ぷっ、あはははははは」ゲラゲラ

ジャン「ったく、あのクソババァ何考えてんだよ」ボリボリ

マルコ「ベ、ベッドの上に綺麗に並べてあるし」ゲラゲラ

ジャン「指差して笑うんじゃねぇよ。勝手に部屋入って掃除しやがって、クソッ」

マルコ「おかげで片付ける手間が無くなった。これ全部売りに行くんだろ?」

ジャン「ああ。捨てるのはもったいねぇからな。またどっかのガキに無駄に知識を与えるだろうよ」

マルコ「本は貴重だしね。じゃあ袋につめとくよ」ガサゴソ

ジャン「ああ、頼む。えっと…日記帳はどこだったけかな…」ガタン バタン

マルコ「意外だね。日記なんてつけてたのか」ガサッ

ジャン「中身はほとんど虫の観察日誌だけどな。たまに、その日思った取り留めの無いことを走り書きしてる」ガラッ

マルコ「へぇ、見たいな、それ」ガサッ


ジャン「絶対嫌だ。虫はともかく走り書きを見られたら、俺は恥ずかしさで間違いなく悶え死ぬ……おっ、あった」スッ

マルコ「どれどれ?」ヒョイ パラッ

ジャン「ちょっ!てめぇ返せよ!!」バッ!!

マルコ「おっと。……くっ……詩人なんだね……ジャンは。…ごめん…返す」プルプル

ジャン「あー、もう。お前最悪。死ね///」パシッ!!

マルコ「どうするの?その詩集。それも売ってみるかい?」

ジャン「売るか、ボケ。これは二度と人の目に触れないように焼却処分する」

マルコ「じゃあ、駐屯地戻ったら焚き火しようか。ついでに芋も買って帰ろう」

ジャン「なんで焼き芋しようとしてんだよ。焚き火なんかしなくても焼却炉に放り込めばいいことだろ」

マルコ「まぁ好きに処分しなよ」

ジャン「よし、用は済んだし帰るか」

マルコ「まだ大切な用が残ってるよ」

ジャン「マジでやんのかよ」

マルコ「せっかくヴァイオリン持ってきたんだ。それに文句言いながらも練習しただろ?」

ジャン「はぁ…、分かったよ。しばらくここに帰ることもねぇだろうし。少しは喜ばせてやるか」


――1階

ジャン母「おや、もう戻るのかい。せっかくクッキー焼こうと思ってたのに」

ジャン「焼いたことねぇくせによく言うぜ」

ジャン母「こらっ、お友達の前でそういうことバラさないどくれよ。ホホホ、マルコ君ごめんなさいね」

マルコ「いえ、お気遣い無く。それよりオルガンをお借りしてもいいですか?」

ジャン母「そりゃあ構わないけど…。ジャンが手荒に扱ったせいでオンボロになってるけどいいのかい?」

ジャン「元からオンボロだろうが。俺のせいにすんな」

マルコ「ええ、音が出れば問題無いですよ」スタスタ パカッ

ジャン母「マルコ君ってオルガンが弾けるのかい?」ヒソヒソ

ジャン「ああ、あいつピアノがめちゃくちゃ上手いんだぜ」ヒソヒソ

マルコ「…うん。少し空気が抜けてるけど音は出るね」ギシッ ギシッ プァ~♪

ジャン母「へぇ、ピアノ。…お前と違ってさぞかしモテるんだろうねぇ」ヒソヒソ

ジャン「うっせぇ、ババァ」

マルコ「ジャン、用意しなよ」

ジャン「へいへい…」ガタッ カパッ


ジャン母「何だい?それは」

ジャン「あ?ヴァイオリン」ヨイショ

ジャン母「ヴァイオリンって……楽器かい?」

ジャン「そうだ」キュッ キュッ

ジャン母「…お前が弾くの?」

ジャン「悪ぃかよ」ビンッ♪

ジャン母「悪かないけど…。くくくっ、ウチの息子がヴァイオリンねぇ。いやぁびっくりだわ」クスクス

ジャン「はぁ?マジむかつくぜ。マルコ、もうやめようぜ」

マルコ「そんなこと言うなって。おばさん、ジャンがおばさんのために練習したんで聴いてあげて下さい」

ジャン母「はいはい。聴きますよ」

ジャン「別にババァのために練習したんじゃねぇからな」

マルコ「ほら、ジャン。ちゃんと何を弾くのか言って」

ジャン「『ロンドンデリーの歌』っていう古い民謡だ。ババァの前じゃ二度と弾かねぇから耳をかっぽじってよく聴きやがれ」

ジャン母「まったく、憎まれ口しか叩けないのかい」


マルコ「じゃあいくよ」

ジャン「いいぜ」


♪♪♪♪~~♪♪♪♪♪♪~


ジャン母(おやまぁ、上手に弾くもんだねぇ。あの不器用な子がさ。真剣な顔して…。嬉しいじゃないか)

ジャン母(哀愁の漂う何だか懐かしいメロディーだね。…瞼を閉じると幼かったジャンの顔が浮かぶよ)

ジャン母(甘えん坊だったジャンもいつの間にか大きくなって…。自分で生きる道を決めて家を出てって…)

ジャン母(兵士になんかどうしてなったんだい?世間に白い目で見られようと志願なんてして欲しくなかったんだよ…)

ジャン母(お前のことを思うと心配で心配で…。お願いだから私より先に死ぬんじゃないよ…)



ジャン「どうだ!…ってババァ、なに涙ぐんでんだよ。きめぇな」

ジャン母「うるさいね。グスッ、マルコ君、とっても良かったよ」パチパチパチパチ

マルコ「どういたしまして。ジャンも結構上手いもんでしょ?」

ジャン母「ジャンはまだまだだねぇ」

ジャン「ヴァイオリンの音、他所で聴いたことあんのかよ。適当なこと抜かすな」

マルコ(親子そろって素直じゃないんだね…)

ジャン「もういい。俺らも暇じゃねぇし。行こうぜマルコ」ガタッ パタン カチッ

マルコ「えっ?もういいの?」

ジャン「ああ、ババァと話すことなんかねぇしな」スタスタ

ジャン母「そりゃこっちのセリフだよ。さっさと行きな。憲兵団に入れるかどうかの大事な時期なんだろう?」

ジャン「そうだぜ。俺は一ヵ月後には内地だ。こんな辛気臭ぇ町には当分帰ってこねぇから。じゃあな」ガチャッ

マルコ「あっ、ジャン待って。…すみません。僕がいたせいでゆっくりお話できなかったですよね」

ジャン母「気にしなさんな。あの子はいっつもあの調子だから。…これからもジャンと仲良くしてやってね」

マルコ「ええ、もちろんです。では失礼します」ペコリ


※ ※ トロスト区 通り ※ ※

マルコ「もう少し言い方があるだろう?なんでお母さんに冷たく当たるんだよ」

ジャン「…お前には反抗期は無いのか」

マルコ「いや、気持は分かるんだけどさ。…もしかしたら今生の別れになるかもしれないだろ?」

ジャン「はぁ?俺が死ぬっていうのか。縁起でもねぇ」

マルコ「僕らは兵士だからね、その可能性は0じゃないけど。…それよりも、ここがトロスト区だってことが…」

ジャン「…五年前、巨人は南から攻めてきた。次に壁が壊されるとしたら間違いなくここだろうな」

マルコ「分かってるなら何で…」

ジャン「そう簡単にくたばるようなババァじゃねぇよ」

マルコ「…さっき、ジャンに弾いてもらった曲なんだけど、あれって歌詞がついて歌にもなってるんだ」

ジャン「突然なんだよ」


マルコ「『ダニーボーイ』っていう歌なんだけど。戦争に行った息子を思う母親の心情が歌われててさ」

ジャン「…ふーん」

マルコ「何年先でもいいから帰っておいでって。たとえ私がすでにこの世にいなくても、必ず無事に帰ってくるんだよって」

ジャン「……」

マルコ「切ないよね。けど、そうやって待っててくれる人がいる分、僕たちは恵まれているんだよ」

ジャン「……」

マルコ「駐屯地にはすでに親を亡くした兵士がたくさんいるし、いたとしても事情があって会えないケースもある…」

マルコ「そういう人と比べるとさ、まぁ比べるのは良くないんだけど、僕たちは幸せな人生を歩んでるなって思う」

ジャン「……ちょっと忘れ物してきた。そこで待っててくれ」クルッ タッタッタ…

マルコ「うん。慌てなくていいから」

マルコ「……はは、目に涙浮かべてさ、本当は母親思いなんだね」

マルコ「…僕も実家に寄ろうかな…」

マルコ「…やっぱりいいや。憲兵になってから帰ったほうが喜んでくれそうだしね」


※ ※ トロスト区 駅馬車停留所 ※ ※ 

ベルトルト「…ありがとう、アニ。今日は一緒に来てくれて」

アニ「…自分だけ逃げるのはやっぱり卑怯かなって…」

ライナー「色々と思うところはあるんだろうが、戦士としての責任だけは果たせ。後はどうしようとアニの勝手だ」

アニ「…」

ベルトルト「…駐屯兵団の人に聞いたら壁上固定砲の台数がかなり増えてたよ」

ライナー「そういえば軍楽隊が固定砲増設の竣工式に呼ばれてたな。…あれから一年以上経つのか」

ベルトルト「…まずは固定砲を破壊しないと。至近距離で当たるとそれなりにダメージを負ってしまう」

ライナー「そうだな。万が一ってこともある。邪魔なものは先に取っ払ってしまえ」

ベルトルト「…哨戒が手薄な場所も確認できた。…日が昇る前にアニが先行して壁を越える…」

ライナー「…立体機動装置を隠しつつ、ここまでどうやって来るかだが…」

アニ「…」

ライナー「アニ、聞いているのか?」


アニ「……私たちが暮らしていた山村と違って、ここにはたくさん人が住んでるのね」

ベルトルト「…そうだけど」

アニ「…どれだけ犠牲になるんだろう…」

ライナー「アニ!!何も考えるな。考えすぎると人間は臆病になる」

アニ「…子どもを見たんだ。母親に手を引かれてさ。嬉しそうに笑ってた。あの子の幸せを奪う権利が私にあるの?」

ライナー「何も見るな。何も感じるな。…俺たちは戦士だ。それだけを覚えておけばいいんだ」

アニ「…」

ベルトルト(…もうアニは限界だ。早く終わらせないと…)


※  ※  ※  ※

マルコ「思いのほかジャンの本高く買い取ってもらえたね」スタスタ

ジャン「ああ、なんせシリーズで揃ってたからな」スタスタ

マルコ「…官能本をシリーズで揃えるとか、ろくでもない子どもだったんだね」クスクス

ジャン「うるせぇな。俺は凝り性なんだ。それよりさ、財布が温かくなったから奢ってやるよ。飲みに行こうぜ」スタスタ

マルコ「太っ腹だね。いいよ、行こう。駐屯地近くの街で?」スタスタ

ジャン「ああ。その方が帰りが楽だし………ん?停留所にいるのって…」ピタッ

マルコ「…間違いないね。ベルトルトとライナーだ。あんなに大きい人はなかなかいないよ。もう一人は…」

ジャン「…アニか?珍しい組み合わせだな」

マルコ「うーん、そう珍しくもないかな。たまに3人でいることあるし。けどトロスト区なんかで何をしてるんだろう?」

ジャン「おーい!!ライナー!!」ブンブン


※  ※  ※  ※

ライナー「…ジャンとマルコだ。なんであいつらここにいるんだ?」

ベルトルト「確かジャンってトロスト区出身だったよ」

アニ「…」

ライナー「どうする?知らん振りするか?」

ベルトルト「無理じゃない?向こうはばっちり気付いてるし。それに僕らも駅馬車に乗らないと帰れない」

ライナー「そうだな。ここにいたからって怪しまれることは何も無いはずだ。堂々としていればいいか」


※  ※  ※  ※

ジャン「お前ら何でここにいるんだ?」

ライナー「気晴らしだよ。いつも駐屯地近くの街にしか出ねぇからな。たまには違う景色を見たくなったんだ」

マルコ「ふーん。けどさ3人って一緒に遊びに出るほど仲が良かったんだね」

ベルトルト「う、うん。ライナーと僕は親友だから…」

ジャン「それは知ってるよ。けどアニは?」

ライナー「ほら、少し前にアニとベルトルトが女主人と下僕ごっこをしてたって話題になっただろう?」

ジャン「ああ!俺が目撃したアレか」

ライナー「そうだ。今日は俺も混ぜてもらった」

ベルトルト(…もう少しまともな嘘つきなよ、ライナー)

マルコ「なるほど。じゃあ今日のアニはお姫様なんだね」ニコ

アニ「…」


ジャン「姫がご機嫌ななめだぞ。何とかしてやれよ、下僕」

ライナー「しょうがねぇな。お姫様抱っこでもしてやろうか」ワキワキ

アニ「…」

ライナー「…ほら、いつもみたいに蹴ってみろよ。本当に抱っこしちまうぞ」ガシッ

アニ「…やめて」

ライナー「…蹴れよ…、馬鹿野郎。…本当に抱っこしちまったじゃねぇか」ヨイショ

アニ「…やめてってば…。もう…やめて…」

ベルトルト「…ライナー、下ろしてあげてよ…」

ジャン「…元気ねぇな。どうした?アニ」

マルコ「何か辛いことでもあった?悲しそうな顔をしてるよ」

アニ「…」ストン


ジャン「そうだ、俺たち向こうの街に着いたら飲みに行くんだけどよ、お前らも一緒にどうだ?」

マルコ「うん。へこんでるアニを励ましてあげよう」

ベルトルト「…僕は遠慮するよ…」

ジャン「そんな冷てぇこと言わずにさ、ちょっとぐらい付き合えよ」

ライナー「…一緒に飲めるのも最後かもしれねぇしな。行こうぜ、ベルトルト、アニ」

ベルトルト「ライナー…」

アニ「…」


※ ※ 酒場 ※ ※

ワイワイ ガヤガヤ

ライナー「じゃ、我らの姫にかんぱーい!!」

ジャン「おう!めっちゃ不機嫌だけどな」カチャン

マルコ「はは、睨まないでよ。お姫様」カチャン

ベルトルト「…乾杯」カチャン

アニ「…」カチャン

ジャン「いやさ、俺、よくよく考えたらアニとほとんどしゃべったことねぇの」

ライナー「大半の奴がそうだろう。アニは極端に無口だからな」

マルコ「僕は意外と話したことあるんだよ。そんなに会話は続かないけどね」

アニ「…あんたは苦手」

マルコ「うん、知ってる。けどさ、僕とアニには仲間の印が付いてるだろう?」

ベルトルト「印って?」

マルコ「立体機動装置にさ、同じ印を彫ってるんだよ。馬蹄のマーク。巨人除けのお守りがわり」

アニたんお姫様扱いしたいなぁ


ベルトルト「…なんでそんなことしてるの?アニ」

アニ「…」

マルコ「あの時はごめんね。勝手にアニの装置取り上げてさ。クリスタが彫ったんだよ。アニが幸せになりますようにって」

ジャン「ずりぃな。俺もクリスタに彫ってもらおう」

ライナー「俺はクリスタに掘ってもらおう」

マルコ「はぁ…絶対に言うと思ったよ」

ジャン「にしても、アニもベルトルトも浮かねぇ顔してどうした?もうすぐシケた訓練兵生活も終わりだってのによ」

マルコ「みんなと別れるのが寂しんじゃない?最近僕も感傷的になることがあるよ」

アニ「…」

ベルトルト「…うん。…別れるのは辛いね…」

ジャン「しょうがねぇな。俺がヴァイオリン弾いてやるから元気出せ」ヨイショッ ガタッ カチッ

ライナー「そういや、お前ら音楽室で練習してたな。つーか、何で持ち歩いてんだ?」

マルコ「今日はジャンのお母さんに聴かせるために持ってきたんだ。親孝行したんだよね、ジャン」

ジャン「お前がしろってうるさいからだろ。けど、まぁ良かったかな。今までまともに感謝したこと無かったからよ」パカッ


ライナー「そうだな。親孝行はできるうちにしといたほうがいい」

マルコ「…ごめん。ライナーたちの故郷は…」

ライナー「謝るな。俺たちは必ず故郷に帰るつもりだ。その目標のためなら何だってできる」

ジャン「相変わらず熱い男だな。そういやアニって出身はどこだ?」カタッ 

アニ「……どこだっていいでしょ?」

ジャン「…聞くなオーラ全開だな。…まっ、どこでもいいけどよ」

マルコ「家族は?」

アニ「……お父さんが……」

マルコ「そっか。アニには待ってくれている人がいるんだね。じゃあいつか元気な顔を見せに帰らないと」ニコッ

アニ「……そうね。……うん、そうだね……」

ベルトルト「…」ギュッ

アニ(…大丈夫だよ、ベルトルト。そんなに強く手を握らなくても。泣いたりなんかしないから)

ジャン「よし!じゃあ弾くか」

ライナー「おいおい、こんな場所で弾いたら目立つだろうが」

ジャン「目立ちてぇの。ヴァイオリン弾きって格好いいだろ?」


マルコ「やっとまともに弾けるようになって嬉しいんだよ。ジャンは人から褒めてもらいたくてうずうずしてるんだ」

ジャン「うっせぇ。じゃあいくぜ」

マルコ「何弾くの?」

ジャン「さっきババァに聴かせたやつ」


♪♪♪♪~~♪♪♪♪♪♪~


ライナー「ほう…、ユミルほどではないが、いい音を出すな」

ベルトルト「…優しい旋律なのに切ない気分になる曲だね」

アニ「…ねぇ、マルコ」

マルコ「ん?」

アニ「…教えて欲しいんだ。あんたならどうするかを」

マルコ「いいよ。僕に答えられることなら」

アニ「…大切なものを二つ抱えてて…、両方ともすごく大切なんだけどさ…、どっちか一つ捨てなきゃならないんだ」

ベルトルト「…」

マルコ「うん、…それで?」


アニ「…私がいつまでも選ぶことができないから…、片方が勝手に捨てられそうになってる…」

ライナー「…」

マルコ「うーん、もう少し具体的に話してもらわないと何ともね…」ポリポリ

アニ「…ごめん、これ以上は話せない…」

マルコ「…二股でもかけてるの?」

アニ「…もういい。あんたに聞くんじゃなかった」

マルコ「冗談だよ。僕はさ人生において何か一つを選んだら、何か一つ捨てなきゃならないってことは無いと思うんだ」

アニ「…あんたみたいな人間は、両手一杯に大切なものを抱えすぎて自滅するんだろうね」

マルコ「ははは、言えてるかも。けどさ、両方捨てたくないんでしょ?」

アニ「…無理だから聞いてるんだ。理想は両方大切にしていたいけど現実がそれを許してくれない…」

マルコ「そうだねぇ…。現実が理想を砕くなら、理想が現実を砕くってことがあってもいいんじゃない?」


ライナー「おい、お前らの会話は抽象的すぎて意味不明だぞ」

マルコ「だって仕方がないだろ?質問があやふやだから、僕もぼやけた回答しかできない」

ベルトルト「…アニ、なんでマルコにあんなこと聞くの?」

アニ「…マルコはさ、私がいくら嫌味を言ってもうまくかわすんだ」

マルコ「嫌味と取るか忠言と取るかは僕の自由だからね」

アニ「…私がいくら考えてもどうにもならない状況も、マルコだったらかわせるのかなって…」

ライナー「アニ、マルコの事を買い被り過ぎだ。こいつはな、官能小説を一度読んだだけで丸暗記する男だぞ」

マルコ「ああ、そんなことできたらすごいね。ライナー、息をするように嘘をつくのはやめてくれ」



ヒューヒュー♪
パチパチパチパチ…


ジャン「よっ、どうだった俺の演奏?酒場の他の客から拍手もらっちまったぜ」

ライナー「すまん。話込んでてほとんど聴いてなかった」

ジャン「マジかよ。ひでぇな、お前ら」

マルコ「アニ、何を悩んでいるかは分からないけど…。みんな君の味方だから…」

マルコ「僕だけじゃなく色んな人の意見を聞いた方がいいよ。きっと思いも寄らない回答も出てくるだろうからさ」

アニ「…そうね」

ベルトルト「…」



※ ※ 数日後 食堂 ※ ※

コニー「よっしゃ!やっと試験期間が終わったぜ。あーしんどかった」

サシャ「よく言いますよ。全然勉強してなかった癖に」

コニー「それはお前もだろ?」

サシャ「だってする必要ないですから。一緒に調査兵団へ行きましょうね」

コニー「おう。エレンたちも一緒だしな。きっと楽しいぜ」

ミカサ「…調査兵団がどんな任務をするのか分かっているのかしら?」

エレン「びびってるよりはマシだろ?俺もやっと夢が叶うんだ。早く自由の翼を背負いたいぜ」


アルミン「おーい!!みんなちょっと聞いてくれよ!!」

ザワザワ ザワザワ

アルミン「トムの壁画がほぼ完成した!!最後の仕上げは君たちにやってもらいたいんだ!!」

アルミン「絵の中から自分を探して、その付近にサインをして欲しい!!」

アルミン「メッセージを残したかったら一言ぐらいなら書いてもいいから!!」

アルミン「筆と顔料は隅のテーブルに置いてあるから!!解散式までに全員書いてね!!頼んだよ!!」


トム「ありがとう、アルミン。僕、大声出すの恥ずかしくって」

アルミン「いいよ、これぐらい。お安い御用だ」

トム「そうそう、頼まれてた絵、描いてみたよ」ピラッ

アルミン「わぁ、すごいじゃないか」

トム「実際に見て描いたわけじゃないから、おかしなところがあるかもしれないけど…」

アルミン「ううん。十分だよ。ありがとう、トム。良い記念品になるよ」

※  ※  ※  ※

エレン「へへっ、俺はもう自分がどこに描かれてるか見つけてるんだ。何色でサインしよっかなー」

ミカサ「…エレンと離れ離れ…。ハンナとフランツはセットで描かれているのに…」サメザメ

エレン「しょうがねぇだろ。壁画描き始めた頃は付き合ってなかったんだし」

ミカサ「…サインだけでもエレンの近くに書きたい」

エレン「好きにしろよ。なんなら、お前の似顔絵も近くに描いといてやろうか」ニヤリ

ミカサ「やめて。エレンの絵は下手ウマすぎる…」


※  ※  ※  ※

コニー「おっ、俺は草原で笛吹いてるぜ。なんか動物に囲まれてるしよ」

サシャ「羊飼い的な扱いですね。ほのぼのしてて良いと思います」

コニー「サシャはどこだ?」

サシャ「私も動物に囲まれて歌ってます。風に吹かれて気持良さそうですね」

コニー「鳥が肩に乗ってるぞ」

サシャ「はい。間違いなく夕飯になりますね」

コニー「食うなよ」


※  ※  ※  ※

ライナー「…むさ苦しい」

ベルトルト「…やっと自覚した?」

ライナー「いや、分かってはいたんだが…、集団になると嫌なもんだな。汗の匂いが漂ってきそうだ」

ベルトルト「…ライナー軍団が勢ぞろいしてるもんね。…なんで上半身裸なの?」

ライナー「俺のリクエスト」

ベルトルト「…自業自得だよ」

ライナー「そういうお前はどこにいるんだ?」

ベルトルト「…僕はサインなんかする気無いから…」

ライナー「…ったく、それぐらいしてもバチは当たらねぇぞ」

ベルトルト「…できるだけ僕の足跡を残したくないんだ。みんなの記憶の中から消えてしまいたい」

ライナー「お前ほどの大男、そうそう忘れてもらえねぇよ。お前は確かにここにいたんだ。胸を張ってサインしろ」

ベルトルト「ライナー…。けど…恥ずかしいんだ。僕はなぜか踊ってるんだ…」

ライナー「仕方ないだろう。お前の激しいステップは一度見たら忘れられない」

ベルトルト「…だから消えてしまいたいんだよ…」


※  ※  ※  ※

ミーナ「いいなぁ、彼氏持ちは。ラブラブで描いてもらえて」

ハンナ「けど別れた場合、ものすごく気まずい壁画になるわね…」

フランツ「ははっ、別れないから大丈夫さ」

ミーナ「すごい自信ね。じゃあさ、10年後またここに集まろうよ。その時二人はどうなってるか…。楽しみー」

ハンナ「ミーナ、性格歪んできてるよ…」

フランツ「けど、それいいね。10年後か…。僕らだけじゃなくって104期生全員で集まりたいね」

ミーナ「同窓会ってやつだね。…それまで生きていられるかな…」

ハンナ「大丈夫だよ。ミーナは彼氏ができるまで絶対に死なないって言ってたじゃない」

ミーナ「ちょっと、ハンナひどくない?」


※  ※  ※  ※

アニ「……」

ユミル「くくっ、お前、何で謎の生物相手に素手で戦ってんだ?」ゲラゲラ

クリスタ「えっと…これは多分ライオンっていう動物だと思う。すごく強い動物なんだって」

ジャン「ライオンVSアニか…。関節をとるのは難しそうだな」ウーム

マルコ「グラウンドに持ち込んじゃ駄目だろう。蹴り技主体のヒットアンドアウェイで徐々にダメージを与えるか…」ウーム

アニ「…バカ」

ユミル「ジャンとマルコはどこにいるんだ?」

ジャン「俺たちはなぜか砂の平原で暴れてるぜ」

マルコ「そうそう。剣持って決闘してるよ。まぁ、格好良く描いてくれたからいいかな」

クリスタ「そっか、二人はミカサと一緒に剣舞したから…」


ユミル「…これはひどいね。どんだけ美化されてんのさ。本人の原型ほぼ無いし」

ジャン「まっ、人によっちゃこれぐらい男前に見えるってことだ」

クリスタ「うん。いつものマルコだよ」

マルコ「そう?嬉しいな」

ユミル「…はぁ、まったく恋は盲目だね。はやく正気に戻れよ、クリスタ」

ジャン「そういうユミルはどこにいるんだよ」

ユミル「ん?クリスタと一緒に決まってるだろ?」

クリスタ「ふふ、氷の大地でね、私がピアノを弾いてて、隣でユミルがヴァイオリンを弾いてるの」

マルコ「それは…寒そうだね」

クリスタ「そんなことないよ。えっと……ここ。見て見て」

ジャン「…おお!空から光が差してる」

マルコ「へぇ、光に包まれてるんだね。氷上のステージか。悪くないね」


クリスタ「うん。ユミルと一緒に描いてもらえたし、私は満足してるよ」

ユミル「クリスタ…。お前は本当に良い子だね」ヨシヨシ

マルコ「けどさ、試験も終わったし。後は解散式を待つのみか…。クリスタ、どうだった筆記科目は?」

クリスタ「全力を出し切ったよ。後は神様に祈るだけだよ」

マルコ「うん。クリスタは最後まで頑張ってたから。きっと大丈夫だよ」

ジャン「解散式で最終順位が発表されるのを大人しく待つしかねぇな」

ユミル「その前にピアノ教室のお別れ会だね。最後の休日だけど、ちゃんと集合しなよ」



卒業って感じが出てていいな
そろそろ次スレかな?


※ ※ 最後の休日 第一音楽室 ※ ※

サシャ「あぁ…懐かしいです。初めてこの教室でクリスタのピアノの音を聴いた時が。あの時は体に衝撃が走りましたよ」

コニー「同時にジャンのひでぇ演奏も聴かされたけどな」

ジャン「うっせぇ」

アルミン「はは、あの日から僕らの生活に音楽が流れ始めたんだよね」

エレン「俺は隠れた才能を見出されちまったしな」

ミカサ「私は唯一の欠点に気付いてしまった」

ライナー「音楽ってのはすげぇもんだ。時代や言語なんて関係なく俺のハートを揺さぶってくる」

ベルトルト「確かにね。言葉の意味が分からなくてもライナーの歌には人を感動させる力がある」

クリスタ「サシャの歌もね」

サシャ「ふふ、そう言って頂けると嬉しいです」

ユミル「まっ、ストレス発散にはもってこいだったね。鬱屈した訓練生活の良い息抜きにはなったよ」

コニー「それに訓練所自体が元気になった」

ジャン「入団した頃は個人主義の奴が多かったからな。他人を追い落とすことばっか考えてギスギスした雰囲気だったぜ」

エレン「その筆頭はお前じゃねぇか」


ジャン「そうだな。否定しねぇよ。けど、色んなコトやらされてさ、人と協力すんのも悪くねぇなって思ったぜ」

サシャ「はい!みんなで一緒に何かを成し遂げるのはすごく楽しかったです」

ライナー「将来に夢も希望も無かった奴らも、前向きに人生を楽しもうとするようになった」

マルコ「良い音楽には人を良い方向に向かわせるエネルギーがあるんだよ」

アルミン「うん。僕もそう思う。この世界が音楽で満たされれば、人々の心が豊かになって明るい社会になるはずだよ」

ユミル「相変わらず甘ちゃんだね。音楽ごときで世界が変わるわけないだろ?」

クリスタ「でも、心が豊かになれば人に優しくできる。人を思いやる気持が生まれればきっと良い世の中になるよ」

マルコ「音楽は感情に直接訴えかけるからね。音楽を聴いて鼓動が早くなったり血が沸き立つように感じることはない?」

ユミル「まぁね。ピアノを弾くクリスタを見てるとドキドキするけどさ」

ライナー「俺もだ」

ジャン「それは別の理由だろ…」

マルコ「すべての生命は元々体内でリズムを刻んでいるんだ。音楽はそのリズムを増幅させて感情を溢れさせる」

ジャン「心臓が刻むリズムか…。生きていること自体が音楽みてぇだな」

ライナー「だな。俺は、俺の音楽を常に感じているぜ。お前は、お前の音楽を感じているか?」キリッ

ジャン「くくっ、やめろ。キメ顔で言うな」ゲラゲラ


ベルトルト「そういえばアニは…?」キョロキョロ

ミカサ「誘った。でも調子が悪いから行かないと断られた」

サシャ「かなり食い下がったんですけど…、ものすごく辛そうな顔で嫌がるので…」

ユミル「放っとけばいいんだよ。あんな奴。何を塞ぎこんでんだか知らないけどさ。少しは周りを気遣えっての」

ベルトルト「…」

ライナー「…まぁ、とにかく飲もうぜ。適当にやりゃいいんだろう?」

アルミン「うん。今日は何もプランは無いよ。騒ぎたかったら騒げばいいし、歌いたかったら歌えばいいし」


ガチャガチャ… カチャカチャ… ガタッ ガタッ…


サシャ「そうそう、昨日アニに変なこと聞かれたんですよ」

ベルトルト「…変なこと?」


サシャ「そうです。大事なものが二つあって、両方捨てたくないんだけど、どっちか捨てなきゃいけないんだって…」

コニー「あっ、俺も聞かれたぜ?それ」

ミカサ「私も」

エレン「俺もだ」

アルミン「僕も。…もしかして全員聞かれたのかな?」

クリスタ「うん」

ジャン「だな」

ユミル「私は聞かれなかったけどね」

コニー「ユミルだけアニに友達と思われてねぇんだな」シシシ

ユミル「別に思われてなくて結構だよ。で、お前らは何て答えてやったんだ?」

クリスタ「私すごく悩んじゃって…。大切なものを捨てるぐらいなら私が犠牲になるって思わず言ってしまったの」

ユミル「…クリスタ。いい加減にさ、自己犠牲の精神は捨てとくれよ…」ハァ…

エレン「俺は、アルミンに相談だって答えといた」

アルミン「僕頼り?僕はさ、メリットとデメリットを書き出して、二つを比較してごらんとしか答えれなかったよ」

クリスタ「アルミンらしいね。冷静に分析するんだ」


ミカサ「私は捨てなければならない原因を元から絶つと答えた」

エレン「それができたら悩まねぇだろ」

コニー「俺はよ、両方捨てちまえって答えたぜ。どっちにしようか悩む時間がもったいねぇだろう」

ユミル「ばーか。捨てたくねぇから悩んでんだろうが」

サシャ「私は、たとえ捨てても後でこっそり拾って食べますって答えました」

マルコ「さすが、サシャ。食べ物にすり替えたんだ。確かに対象物を具体的にした方が考えやすいよね」

エレン「ジャンは何て答えたんだ?」

ジャン「俺か?俺はよ、好きな男を二人も作ったお前が悪いって説教しといた。女は一途じゃねぇと駄目だろ」

ミカサ「…珍しくジャンと意見が一致した」

アルミン「違うよ、ミカサ。そんな話じゃないと思うよ」

マルコ「ははっ、でも面白いね。人によってこんなに考え方が違うんだ」

クリスタ「なんであんな質問されたのかは分からないけど、少しはアドバイスになったのかな…?」

ユミル「あのアニが他人の意見を聞こうって気になったんだ。よほど切羽詰まってんだろうね」

ベルトルト「…」


ライナー「おい、真面目に話し込んでねぇでさ、最後なんだし楽しくやろうぜ。サシャ、何か歌ってくれよ」

サシャ「いいですよ。そのつもりで楽譜持って来たんです」ガサガサ

クリスタ「私で良ければ伴奏するよ?」

サシャ「はい、ぜひお願いします」パサッ

コニー「おっ、サシャの本気が久しぶりに見れんのか」

サシャ「いつもは鼻歌ですからねー」ガタッ スタスタ

ジャン「大食いディーバはアルミンが発掘したんだよな」

アルミン「発掘ってほどじゃないけどさ。たまたま手が空いてたサシャに歌ってもらったらすごく上手かったんだよ」

クリスタ「サシャの声は透明感があってのびやかで、耳に心地良いんだよね」カパッ ガタッ 

サシャ「歌う前にそんなに褒めないで下さいよ。緊張しちゃいますから」

ミカサ「何を歌うの?」

サシャ「ヘンデルの歌劇『リナルド』より『私を泣かせてください』です」


♪♪♪♪~ ♪♪♪♪~ 


アルミン「あぁ、なんて神聖な響きなんだろう。体の中から悪いものが抜けていくみたいだよ」

ライナー「清廉な歌声に耳自体が新しくなったような気までしてくるぜ。デトックス効果でもあるんじゃねぇか」

ミカサ「サシャの歌声には癒しの力があると思う」

エレン「『リナルド』ってどんな劇なんだ?」

マルコ「一言で表すと、剣と魔法のファンタジーかな」

ジャン「マジ?」

マルコ「うん。悪い魔法使いに囚われたお姫様が、恋人の騎士を思って歌う曲がこれ」

ユミル「コニー、サシャが泣かせてほしいって歌ってるぜ」ニヤリ

コニー「仕方ねぇな、俺の出番か」ガタッ

ライナー「お前……やるのか?本当に今日ここでやるのか?」

コニー「ああ、腹くくってきた」

ジャン「コニー、かっけーじゃん」ヒュー♪

アルミン「僕までドキドキしてきたよ。頑張れ、コニー」

ベルトルト「…緊張するね」


エレン「何が始まるんだ?」

マルコ「まぁまぁ、見てれば分かるよ」


パチパチパチパチ…
ヒューヒュー♪

サシャ「ふふっ。喜んでもらえたみたいですね。クリスタ、伴奏ありがとうございました」

クリスタ「どういたしまして。…あっ、私はお邪魔みたいだね。ごめん、すぐに下がるね」ガタッ ソソクサ

サシャ「えっ?そんなに急いでどうしたんですか?」

コニー「サシャ!!」ツカツカ

サシャ「!?…はい?そんな大声出さないで下さいよ。びっくりしたじゃないですか」

コニー「…これ、お前にやる」ズイッ

サシャ「…これって…」パシッ ビリビリ…

コニー「また派手に破くしよ。やっぱり包装しても意味が無かったな」ポリポリ

サシャ「…メジャーバトン」ギュッ

コニー「約束しただろ。もう一本作ってやるって」ニッ

サシャ「…はい。…約束覚えててくれたんですね。嬉しいです」ジワッ


ユミル(おっ、すでに泣きそうじゃん)

ジャン(さぁ、コニー、お前はこっからどう攻めるんだよ)

アルミン(コニーのことだから直球勝負かな…)ドキドキ


コニー「あー、ゴホン、俺が今からサシャに詩を贈ってやる」

サシャ「えっ…?詩…ですか?」


ライナー(…無理するな、コニー。お前にそんな引き出しはないだろう)ハラハラ

アルミン(まさかの変化球…)ドキドキ

クリスタ(意外とロマンティストなのね)ウフフ


コニー「白いサンザシ 薄紅色したリラの花 マロニエの木陰でお前と出会った」


エレン(…マ、マロニエ?)

ミカサ(この駐屯地にサンザシなんて咲いてたかしら…)


コニー「麝香バラは露に濡れ 羽虫たちは夏の夕べに羽音をたてる 俺はあいつに夢中になった」


ベルトルト(…よ、よく分からないけど、言いたいことはいえてるみたい…)

ライナー(いいぞ、その調子で押し通せ)


コニー「お利巧さんではいられないさ 俺はもう12歳 ヒースの野原に二人でころがり 草を枕に抱き合おう」


アルミン(いやいや、12歳じゃないよね、コニー)ドキドキ

クリスタ(…結構大胆なんだね)ドキドキ


コニー「花盛りの木が美しかった マロニエの葉があいつの死んだ日に散った」


ユミル(死んじゃ駄目だろ)

ライナー(くっ…、切ねぇな)


コニー「思いを占めるのは溢れる悲しみと 鉛色をした目の絶望」


アルミン(…ここから持ち直せるのかな…)ドキドキ

ミカサ(…もはや意図が分からない)


コニー「ああ 俺の愛しい 大カマキリ」


エレン「カマキリかよっ!!」

ジャン(…………死のう)ズーン

マルコ「…」プルプル…


サシャ「…えっと…よく意味が分からなかったんですけど…」

コニー「いやさ、女ってこういうクサいセリフが好きなんじゃねぇの?」

サシャ「私は全然好きじゃないですよ。むしろ気持悪いというか…」


ユミル「マルコ、気持悪いって言われてるぞ」

マルコ「…僕はさ、プフッ、失礼、…ハァ、あれほどひどく無いと思うよ」

クリスタ「うん。マルコのほうがもっと甘い言葉を囁いてくれるよ」

ライナー「そりゃあ相当殺意が湧くんだろうな」


コニー「何だよ。サシャが喜ぶかと思ってせっかく丸暗記してきたのによ」

サシャ「丸暗記って…何をですか?」

コニー「少し前にさゴミを捨てようと焼却炉を開けたら、一冊の本があって。もったいないから拾ったんだ」

サシャ「詩集ですか」

コニー「いや、全部手書きでさ。虫の話ばっかりなんだけど、時々さっきみてぇなコトが汚ぇ字で殴り書きされてんだ」

サシャ「訓練兵の誰かが書いたんでしょうか…」

コニー「さぁ、名前なんてどこにも書いてなかったから分からねぇ」


マルコ「…ジャン、まだ生きる道は残されてる。しっかりするんだ」ヒソヒソ

ジャン「…放っといてくれ」ズーン

ミカサ(…カマキリ)

エレン(間違いなくジャンだな)


サシャ「いいですか?コニー。私は人の言葉を借りて話されてもまったく嬉しくないんです」

コニー「そうなのか?」

サシャ「はい。コニーの言葉で話して下さい」

コニー「けど、ありきたりなことしか言えねぇぞ」

サシャ「普通が一番です」

コニー「分かった」スゥ…


コニー「俺はサシャが世界で一番好きだ!!」


アルミン(ついに言ったね。今さらだけど)

ジャン(振られることはまず無ぇだろうな。……くそっ)

ミカサ(サシャはどう返すのかしら…)


サシャ「ありがとうございます!」ペコリ

コニー「おう。……で?」

サシャ「はい。ありがとうございます」

コニー「いや……、何か他に言うことは無ぇのか?」

サシャ「はい。他に何か?」ニコ

コニー「へ?…いや、あのさ……その……」


マルコ(サシャって分かってやってるよね…。意外と賢いから)

ユミル(どうすんだい?コニー。もっと言葉に出さないと欲しい答えは返ってこないよ)


コニー「…彼女になってくれたら嬉しいんだけどさ…」ポリポリ

サシャ「ふふ、もう少し待ってくださいって前に言いましたよね」

コニー「いつまで待てばいいんだよ」

サシャ「もう待たないで下さい」

コニー「…んなっ!?」


クリスタ(うそ…振っちゃうの?)

ライナー(だーいどんでん返し!!)


コニー「…サシャ…そっか。…はは…悪かったな。俺が一人で勝手にはしゃいでてよ…」ジワッ

サシャ「だーかーら、待たなくてもいいんです」スッ


チュッ

オォォォォ… ヒューヒュー♪


コニー「さ、サシャ!?今…お前…///」

サシャ「はい。おでこにちゅーしました。駄目でしたか?」ニコッ

コニー「ぜんっぜん、駄目じゃない!!……よっしゃぁぁぁぁ!!」


アルミン「おめでとうコニー。僕なんだか感動しちゃったよ」グスッ パチパチ

ユミル「一緒に棒切れ探してやった私に一生感謝しろよな」

クリスタ「お似合いだよ、とっても」パチパチ

ライナー「ちっ、……からの」

ジャン「だーいどんでん返し。あー、つまんねぇの」

マルコ「ははっ、サシャはやっぱり盛り上げるの上手だね」


ミカサ「…エレン、私も、もう一度告白されたい」

エレン「んー…。じゃあさ、もう一度恋させて」ヒソヒソ

ミカサ「!?」カァァ

エレン「なーんてな。……………駄目だ。恥ずかしすぎてやっぱ俺には無理///」モダモダ

ミカサ「…今、確かに体の中で音楽が生まれた」ドキドキ

ジャン「チッ、エレン、赤面なんかしてんじゃねぇよ。気持悪ぃ」

エレン「あん?うっせぇ、マロニエ野郎」ニヤリ

ジャン「お、おまっ……、もう絶対ぇ許さねぇ///」ガシッ

エレン「離せよ!ジャン(マロニエ)」グイッ

ジャン「……ちっくしょーー!!///」ブルブル


※ ※ 女子寮 ※ ※

ミーナ「あれ?アニは音楽室行かないの?今日はピアノ教室のお別れ会してるんでしょ?」

アニ「私はクリスタにピアノを習ってないから…」

ミーナ「けど誘われてたじゃない」

アニ「…あんたこそ最後の休日だってのに、どこにも行かないのかい?」

ミーナ「それを言わないでよ。あぶれちゃったの。独り身は寂しいもんよ」

アニ「…そう」

ミーナ「でもアニが居てくれて良かった。最後にゆっくり話がしたかったんだ」

アニ「…何であんたは私にそこまでかまうのさ」

ミーナ「だって友達でしょ?」

アニ「私は友達が欲しいなんて思ったことはないよ」

ミーナ「やだなぁ。友達って作るもんじゃないでしょ?気付いたらなってるものだよ。だから私とアニは友達だよ」

アニ「…私ね、女同士が群れてるのって大嫌いなんだ」

ミーナ「あら、アニだって女の子なのに」


アニ「女ってさ、見栄張りで、わがままで、ネチネチして、妄想があって、噂が好きで、人の話を聞いてない」

ミーナ「うん、正解。私も女友達との関係に苦しんだことがあるからよく分かるよ。女ってとっても意地悪」

アニ「…」

ミーナ「けど、アニが助けてくれた。真っ直ぐで自分をしっかり持っててさ。アニは私の憧れだよ」

アニ「…」

ミーナ「…アニが私のことを友達と思ってなくても、私はアニのことを一番の親友だと思ってるから」

アニ「…馬鹿だね」

ミーナ「うん。馬鹿でいいよ」

アニ「…ねぇ、ミーナ」

ミーナ「なに?」

アニ「…私さ、今大切なものが二つあるんだ。…けど、どちらか一つ捨てなきゃいけないんだ」

ミーナ「…うん」

アニ「…両方ともすごく大切なのに、自分に選択する自由は無くて…、言われるがままに片方を捨てるんだ」

ミーナ「…彼氏の話?ねぇねぇ、そうなんでしょ?」ワクワク

アニ「……どう思おうと勝手にしなよ」


ミーナ「そうねぇ…。捨てろって言われるぐらいだから、一人は悪い男よね。もう一人は?」

アニ「…腐れ縁」

ミーナ「なるほど。最近できた悪い男と昔馴染みの男のどっちを取るかで揺れてるんだ」

アニ「……あんたならどうする?」

ミーナ「そうねぇ…、私は打算的だから、万が一失敗してもやり直しができるルートを選択するな」

アニ「…どういうこと?」

ミーナ「例えば悪い男を選んでさ、上手くいかなくて別れることになったとしても、昔馴染みは待っててくれそうじゃん」

アニ「…ったく、あんたって子は…」

ミーナ「だって一度きりの人生でしょ?悪い男と危険な恋がしたいじゃない。冒険しなきゃ損だよ」

アニ「…ぷっ、あはは…、あんたの意見が一番しっくりきたよ」クスクス

ミーナ「あっ、アニが笑った。良かったぁ。最近落ち込んでるみたいだったから心配してたんだ」

アニ「…ありがとう、ミーナ。…あんたのおかげで視界が開けたような気がするよ」


※ ※ 第一音楽室 ※ ※

アルミン「僕は思うんだ。人間って臆病だから一番言いたいことがなかなか人に言えないでしょ?」

マルコ「そうだね。人に嫌われるのが恐いから、本心って出せないよね」

エレン「最近は空気読めってうるせぇ奴が多いしな。マジうぜぇんだけど」

ユミル「仲間外れになりたくないから、周囲に同調して作り笑顔でヘラヘラしてさ。何が楽しんだろうね、そんな生き方」

アルミン「言いたいことが言えないもどかしさから、僕らは歌を歌うのかもしれない、絵を描くのかもしれない…」

マルコ「そうだね。詩を書くのもそうだし、楽器を演奏するのもそうだ。きっと同じ理由なんだろうね」

ライナー「何かを媒体にしないと自分をさらけ出せないなんてな。悲しい生き物だな、人間ってのは」

クリスタ「だからかな。ピアノを弾いて褒めてもらえたらすごく嬉しいのは…」

マルコ「うん。自分の存在を認めてもらえたような気分になる」

ユミル「大袈裟だね。芸術なんて、ただの自己満足。芸術家はインテリぶった露出狂と何ら変わらない」

ライナー「なるほどな。俺たちは全員揃って変態ってことだ」

ミカサ「一緒にしないで」


ジャン「それより、もうすぐお開きにすんだろ?そろそろユミルの出番なんじゃねぇの?」

ユミル「ああ、そうだね」ガタッ ヨイショ

ベルトルト「…何かするの?」

ユミル「クリスタと一緒にストリーキング。ちょっと道具とってくる」スタスタ ガラッ! ピシャッ!

クリスタ「えっ?……マルコ、ストリーキングって何?」キョトン

マルコ「ライナーの趣味だよ」

ライナー「おいっ、適当なことを即答するな」

マルコ「以前クリスタに余計なことを吹き込んだお返しだよ」

サシャ「嬉しいですね。またヴァイオリンを弾いてくれるみたいですよ」

コニー「ああ、でっかいヴァイオリンだ。あいつ、この寒い中ずっと林の中で練習してたんだ。すげぇよな」

クリスタ「…でっかいヴァイオリンって…、まさか、チェロ…?」

ジャン「ああ。あいつさ、クリスタのためにって工房に通いつめて手作りしたんだぜ。まっ、俺もだけどな」


ガラッ!! ピシャッ!!

ユミル「お待たせ。クリスタ、伴奏頼むぜ」スタスタ

クリスタ「…ユミル。本当にチェロ弾けるようになったんだ…」

ユミル「お前がチェロ弾いて欲しいって言ったんだろ?」ガタッ カパッ

クリスタ「けど、一緒に演奏できたら素敵だなぁって軽い気持ちで言っただけで…」

ユミル「ほい、楽譜」バサッ

クリスタ「う、うん…」ピラッ

ユミル「…迷惑だった?」ガタッ ズズッ

クリスタ「全然、そんなことないよ!すごく嬉しいよ。…けど、そこまでしてもらったら悪いっていうか…」

ユミル「いいんだよ。私はクリスタの笑顔が見たいだけなんだからさ」バタン

クリスタ「ユミル…」

ユミル「ほら、いつもみたいにさ、ユミル大好きって笑ってみろよ」ニッ

クリスタ「…うん。…うん、ユミル大好きだよ」ニコッ

ユミル「……よし、満足」ナデナデ


サシャ「それにしても大きな楽器ですねぇ…」マジマジ

ミカサ「どんな音がするのかしら?」

ジャン「ヴァイオリンが若いねぇちゃんなら、チェロは熟女って感じだな」

ライナー「俺好みじゃねぇか」

マルコ「何を演奏してくれるの?」

ユミル「フォーレの『夢のあとに』」ヨイショッ スタスタ

マルコ「なるほど。考えたね」

ユミル「クリスタの‘ピアノの先生になりたい’っていう夢を叶えるためにすべてが動き出したんだ」

マルコ「彼女の夢に付き合ったおかげで色々と楽しい経験ができたよ」

ユミル「クリスタ、夢が叶った感想は?」

クリスタ「すごく幸せだよ。みんなのおかげで、まるで夢のような三年間だった…」

ユミル「今日でその夢もおしまいだ。…夢のあとには何が残るんだろうね」


♪~♪~♪~♪~~♪♪♪~~


しっとりと鳴り響くチェロは、まるで言葉を紡ぐような繊細さで、聴くものの心にすっと入り込む。

ピアノとチェロの音色が細やかに絡みつき、互いに愛撫をしているかのような甘美で官能的な錯覚すら覚えてしまう。

切なくも美しい旋律が記憶を洗い流していった後、残ったのは心に影を落とす夢の残像だけ。

過ぎ去りし青春の日々が残した優しく淡い寂寥感が微かに胸を締めつける。



※  ※  ※  ※

アルミン「はい、これクリスタにプレゼント」ヨイショ

クリスタ「私に?一体何だろう?四角い形してるけど…」

アルミン「いいからさ、開けてみてよ」

クリスタ「うん」ビリビリ…

ユミル「ずるいね、クリスタだけ。私にも何かよこしな」

アルミン「ごめん、ユミルには何も用意してない。クリスタは先生だから特別扱いなんだよ」

クリスタ「…額?…あっ、この絵って…」

マルコ「何の絵?」

クリスタ「すごい!みんながいる。全員ちゃんと絵の中にいる」

ユミル「へぇ、いつもの12人じゃん。どうせトムだろ?デッサンなんかさせなかったのによく描けたね」

アルミン「うん。無理言って描いてもらったよ」

ジャン「よくできてんじゃん。みんなそっくりだ」

コニー「いいなぁ、俺も欲しいぜ」


サシャ「私もです。これは最高の記念品ですよ」

ミカサ「そうね。卒業後、離れ離れになっても、いつでもあなたたちのことを思い出せそう」

ライナー「絵の中じゃ歳を食わんからな。常にピッチピチだ。よかったな、ユミル」

ユミル「ライナーもハゲデブ親父になる前の姿が残って嬉しいだろ?」

マルコ「どんなに時が経っても、この絵の中では僕らは永遠に訓練兵だ」

エレン「それはそれでなんか嫌だ…」

コニー「俺もだ。永遠にキース教官から離れられねぇとか…、勘弁してくれよ」

アルミン「そろそろ時間だね。…クリスタ先生、締めの言葉をどうぞ」

クリスタ「えー、オホン、皆さん今までありがとうございました。ピアノの先生ができて本当に嬉しかったよ」

クリスタ「ずっとみんなと一緒に音楽を楽しんでいたかったけど…、今日でこの教室ともお別れです」

クリスタ「すごく寂しい…。でも、いつかみんなで会える日が来ることを信じています」

クリスタ「本日を持ちまして、ピアノの先生おわりました」


>>1です
すみません。やっぱり1スレで終われない
でもなんかキリがいいな…

ここで終わるべきか…

ここで終わるなんてとんでもない

っていいたいけど無理しないでいいのよ。
ほんとにこの作品よかった

続きを書くかどうかは>>1が決めることだけど
俺は続きが見たいな...

乙!
個人的には、こまで読んできたからには、スレが終わりそうだからこれで終わりってなるよりも
次スレに移行しても良いから>>1が納得いくところまでじっくり書いて欲しい

次スレまでいっても大丈夫。読む。乙。

確かに綺麗な終わり方とも言えるけど、
アニやジャンの行く末も気になるから出来れば次スレにいって欲しい

個人的には続きが読みたい
面白かったよ 乙!

続きが気になる終わり方ってのも乙なもんだけどね。
お疲れさま!!!音楽にも興味を持つくらい楽しかった!

もし消化不良ならオマケスレ立てればいいさ

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