ゲンガー「ずっとブースターと一緒にいたい」(264)

「じゃあまた明日な」
「うん。送ってくれてありがとう。明日待ってるからね」
「明日こそは早起きしてお前を起こしにいくぜ。期待しててくれよな」
「うふふっ、がんばって。おやすみなさい。
 気をつけてね」
「おぅよ。おやすみ」

 その日、おれたちが探検から戻ったのは暮れ方をとうに過ぎたころだった。
 仲間のブースターを無事に住み処まで送り届け、別れのあいさつを交わしたあと、おれは夜道へと足を踏み入れていった。
 おれの大好きな闇の世界。
 寄り道せずに住み処に戻るつもりはもちろんない。
 明日会う約束もしたことだし、あとはやるべきことをやって寝るだけだ。

「……」
 おもむろに夜空を見上げる。
 昼間は眩しかった太陽も、時間がたつといずれ姿を隠す。
 そいつはすなわち、夜の帳がおりたことを意味する。
 お楽しみはこれからが始まりなのだ。

(行くか)
 行くといってもルートを特に決めているわけではなく、ただ適当にその辺を歩きまわるだけ。
 おれ以外のポケモンが同じことをやったらつまんねぇだけだろうが、おれにとっては生きる楽しみの1つといっても過言ではない。

 夜空には無数の小さな星と、大きな満月が煌々と輝いている。
 月明かりに照らされた夜道は少しだけ明るい。
 この不気味感漂うムードの中を徘徊するのがおれの日課だ。
 で、ある程度歩きまわったら最後は湖に出向き、1日の溜まった精液を抜くのがお約束。
 日中はブースターと一緒にいるからオナニーなんて無論不可能なわけで、抜く機会は1匹でいる時――つまり夜間だけということになる。
 オナニーする楽しみも兼ねた夜の散歩は実にいいものだ。


 昼間はあらゆる場所でポケモンたちがのどかに過ごしているが、今はどこにも姿は見当たらない。
 それもそのはず。
 ガキはとっくに寝てる時間だし、夫婦や恋人は愛の営みにふけている最中だろう。
 おれとブースターはまだそういった関係には進展していない。
 友達以上恋人未満ってとこかな。
 出会ってこのかた会わなかった日はねぇけど、肉体的な交わりっつーのは残念ながらまだなんだよなぁ。

 まぁおれは幽霊だし、純粋で優しくて、尚且つ毛並みのきれいなあいつとセックス願望を持つこと自体、おこがましいか。
 そうだ、別にエッチができなくたってあいつと生涯をともにできればそれでいいんだ、それで。
 気を取り直して夜の散歩を楽しむ。

 耳に入ってくるのはホーホーやヤミカラスたちの静かに響く鳴き声だけ。
 おかしなことに、この大きな森には数多くの種類のポケモンが生息してるってのに、ゴースト系のポケモンはなぜだかおれしか存在しない。
 みんな安住の地を求めて新たな地方に旅立っていったんだろうと勝手に思いこんでる。
 ウヨウヨしてたらそれはそれで考え物だが、同種の遊び仲間が1匹もいねぇっつーのは時には寂しくなるもんだ。

 ブースターがオバケだったらって思ったことは幾度もある。
 けれど、あいつはああだからいいんだよな。
 もしあいつがゴーストタイプだったら、あのふさふさの毛皮も生えてねぇだろうし、なによりあんなかわいらしい顔つきしてねぇだろうし。
 と、そうこう考えているうちに住み処と湖の境目までやってきた。

「さあて、あとは抜くだけ――」
 言いかけて立ちどまる。
 明日こそは絶対にあいつより先に起きるって決意したんだ。
 性欲のおもむくままにオナニーして、変に眼が冴えて眠れなくなっちまうのはちょっとまずいな。
 だが抜いとかねぇと次の日にムラムラしちまいそうだ。

「……」
 満月を見やり、考えこむ。
 射精して一時の満悦感に浸るか、抜かずに寝て朝を迎えるか、どうしたもんかな。
 今まで徘徊のあとは必ず抜いてたから意識したことはなかったが、一晩とはいえ禁欲したら次の日どうなるんだろう?
 即断できず、おれはしばらくその場で悩んだ。


 苦悩した結果、おれが出した結論は……。
(今日はやめとくか)
 おとなしく帰ることにした。
 翌朝、勃起するのは免れられねぇだろうけど、よくよく考えてみればそこまで思い煩うことじゃなかった。
 明日は早起きするんだからブースターを起こしにいく前にどっか適当な場所で抜けばいい話だ。
 夜に抜くか抜かないかはその時になってから決めればいい。

 溜めこむと身体に毒ってよくいうけど、おれはどく属性も備わってるから一晩抜かなかったぐらいで精神に異常をきたす心配はない。
 元々体内に毒素が循環してるようなもんだし。
 そう、朝立ちしようが、はたまた抜きたい衝動に駆られようが、なんら問題はねぇんだ。
 あいつより“先に起きたら”の話だけど。

(……いや、明日は絶対に起きてやる。起きるといったら起きるんだ。寝坊は許されねぇぞ)
 心の中で何度も自分に言い聞かせる。
 とにかく今夜は帰って早く休もう。
 おれはまわれ右して住み処へと歩を進める。

 住み処にしているしげみへ入り、寝転がる。
 歩き回って体力を消耗しているものの、眠気はまだ襲ってこない。
 こんなんでほんとに明日、自分でちゃんと起きれるのかな。
 恥ずかしい話だが、生まれてこのかたブースターより先に眼をさましたことが1度もない。
 そもそも夜型のおれが朝型のブースターより先に起きるなんてこと自体、不可能に近ぇのかもしれないけどさ。

 そんな寝ぼすけのおれが何故ここまで早起きに執着しているかというと、理由はいとも単純。
 1回ぐらいあいつに頼らずに自力で起きて、寝ているあいつのところに行って、満面の笑みで「おはよう」って言ってみてぇからだ。
 だから明日こそは早起きして、あいつを起こしに行きたいんだ。
 しかし、今まで何度も決意してきて結局は不発に終わってばっかだから正直不安の方が大きい。

 こうして考え事をしている間にも時間はどんどん過ぎていく。
(もう寝よう。心配してたらキリがねぇ)
 明日は朝メシを一緒に食う約束もしてるんだ。
 寝坊だけはなんとしても避けたい。
 今日は散歩を早めに切りあげたし、なによりオナ禁してまで睡眠時間を確保したんだ。
 ここで夜更かししたらオナニーをガマンした意味がなくなる。

 眼をとじ、お腹で息を繰り返す。
(夢精しねぇかな……)
 ふとそんな不安が脳裏をよぎる。
 一晩抜かなかっただけで夢精っておこるもんなのかな?
 やらかしたことがねぇから無論わかるはずもない。

 精通して以来、毎晩欠かさず抜いてるから身体がそれに慣れちまって、寝てる間に勃起して、無意識に精液が飛び出たりして。
 起きたら下半身が精液まみれで周囲にはおれ特有のザーメン臭……想像しただけでおぞましい。
 うーん……やっぱ抜きに行った方がいいのかな。
 悶々としながら眠りにつくよりは出してすっきりした方がいいような気もする。
 だがしかし、1回寝転んだら再び起きあがるのは非常にめんどくさい。

「あぁっ! めんどくせぇ! 寝よ寝よ!」
 今日はなにがなんでもオナニーはしない、そう心に決めた。
 万が一夢精してしまっても湖で洗い落とせばいいだけのこと。
 くどいようだが、明日はブースターより先に起きるんだから何事も心配無用なんだ。
 
(おやすみ、ブースター)
 心ん中でブースターの顔を思い浮かべ、身体の力を抜く。
 頑なに眠ることを決意したのが効いたのだろうか。
 おれは眼をつぶって数分もたたないうちに眠りの世界へと足を踏みこんでいった。

「好きだよ、ゲンガー」
 しゃぶっているチンコから口を離し、ブースターは満面の笑みでおれを見上げる。
 唾液でベトベトになった肉棒は爆発寸前だ。
 出る寸前でやめられたら願望はただ1つ。快楽的絶頂しかない。

「チンコが痛ぇよぉ」
 早くイきたいあまり、チンコをブースターの鼻先に押しつける。
 顔射するつもりはねぇが、あまり焦らされるとブースターの顔にチンコをこすりつけてしまいそうだ。

「大丈夫だよ。すぐに気持ちよくしてあげるからね」
 ブースターはそう言って、大きく口をあけてペニスを根元まで咥えこむ。
 そのまま舌を動かし、執拗に舐めまくる。
 全身にたちまち快感が襲いかかる。

「おおぅ! 興奮するぜ」
 一方的に攻め立てるブースターの口撫に、おれの性感は急上昇する。
 口内に発射するのも時間の問題だろう。

「ねぇ、ゲンガー」
「ん?」
 ブースターはチンコを頬張りながらおれを見上げる。
「ゲンガー、ゲンガーってば」
「聞こえてるぜ。どうした?」

 疑問を抱きつつ聞き返すが、ブースターはどういうわけか、何度もおれを呼び続ける。
 さては寸止めを繰り返しておれをいじめようって魂胆だな。
 もう、ほんとに焦らすのが好きだなぁ……ってあれ?
 フェラしていたはずのブースターがいない。
 いや、ブースターどころか、おれの周りには物1つ見当たらない。

 いつの間にか眼の前に広がっているのはなにもないただの白。見渡す限りの真っ白な世界。
 チンコは痛ぇほどギンギンだが、今はそれどころじゃなかった。

「ブースター、どこだよぉ……」
「わたしはここにいるよ」
「えっ……あっ!」

 突如耳元で聞こえた声に、はっとなって眼をさます。
 咄嗟に顔をあげると、眼の前にはブースターが4本の足を揃えて座っていた。
 寝る時、おれは上を向いて寝たはずだが、起きた時はうつぶせになっていた。
 夜中に寝返りをうったらしい。

 んっ?っつーことは、さっきまでのは……全部夢?
 200%夢だ。純真なブースターがあんなに淫乱なワケがねぇ。
 おれときたら昨日抜かなかったがためにブースターとエッチする夢を見ちまってたらしい。
 願望が夢の中で実現するなんて皮肉もいいところ。
 じゃあ、今眼の前にいるブースターはやっぱり……。

「ブ、ブースター、なんでここに……」
 愚問だった。
 そんなの、理由は1つに決まってる。
「なんでって、ゲンガーを起こしにきたんだよ。
 いつまでたってもこないんだもん」

 予想通りの答えが返ってくる。
 また今日もダメだった。
 どんなにがんばっても、ひとりエッチの時間を削ってまで早寝しても、ブースターより先に起きれない。

「わ、悪ぃ。起こしに行くって約束してたのに……」
 今日こそは!と昨晩は早めに寝たのに、また寝坊しちまった。
 一体これで何度目の失敗だよ、おれのバカやろうめ。

 ああ、有言実行できないおれをブースターは呆れているにちがいねぇ。
 おれってなんてだらしないんだろう……。
 自分がすごく惨めに感じてくる。
 不安になってブースターの顔色をうかがう。

 大きくて黒い瞳がおれを見据えている。
 眼をそらさないと吸いこまれてしまいそうだ。
 軽蔑の眼差しを向けているものと思いこんでいたが、予想に反してブースターはニコっと笑顔を浮かべる。

「気にしなくていいよ。ゲンガーが朝は弱いのはよーく知ってるからね」
「ほんとにごめん。おれから言い出したってのに……」
「いいってば。しょげるなんてゲンガーらしくないよ。
 元気出して。
 ゲンガーは笑ってる時の顔が一番素敵なんだから」

 しょげ返るおれをブースターは一生懸命励ましてくれる。
 普段となんら変わらない、明るくて癒される笑顔。
 おれを一切咎めようとせず、さらにわざわざ起こしにきてくれるなんて、ブースターときたらどこまでもいいやつだ。
 まだ気分は沈んでいるが、ここは無理にでも笑おうと決めた。
 いつまでも暗い顔をしてたらせっかく元気づけてくれたブースターに申し訳ねぇ。

「サンキュ、ブースター」
 口角をあげてキシシと笑ってみせると、ブースターは安心したのか、おれの横に身を動かす。
 嫌われてねぇみたいだしよかった。

「あっ」
「?」
 ブースターはなにかを思い出したかのように大きな声を出す。
 顔をじっと見ていると、ブースターは意外なことを言い出した。

「ゲンガーの寝顔、すっごくかわいかったよ」
「っ!」
 クスクスとおかしそうに笑う。
 いきなりそんなこと言われたらさすがのおれも恥ずかしさを隠せない。
「な、なに言ってんだよ。おれはオバケだぞ。
 オバケにかわいいもクソもあるか」
 ブースターがからかうつもりで言ってないのはわかってるが、否定せずにはいられなかった。

「ゲンガーったら顔真っ赤になってるよ」
「う、うっせぇ!」
 前言撤回。おれ、からかわれてるらしい。
 羞恥心のあまり、顔を背ける。

 かわいいっつー言葉はな、オスがメスに使う言葉なんだぞ。
 なのになんでオスのおれがよりによってメスのブースターから言われちまうんだよ……。
 今に始まったことじゃねえけど、寝顔をばっちり見られるのって想像してみたらすげぇ恥ずかしいこと極まりない。
 うぅっ、穴があったら今すぐ潜りてぇ。
 あんなやらしい夢を見たあとだから余計にそう感じてしまう。

「っ!!」
 おれはとんでもないことに気がついた。
 チ、チンコが勃ってやがる……。
 目覚めた直後は寝坊した罪悪感に捕われていたからまるで違和感がなかったが、意識がはっきりしている今は……股間が痛い。
 きっと、いや、淫夢を見たのが100%原因だ。

 朝立ちに伴ってカッチカチに勃起している性器。
 こうなるってわかってたから寝過ごすのだけは免れたかったのに、ちくしょう。
 でも下を向いて寝てたのが不幸中の幸いだった。
 もし寝返りせずに上を向いたまま寝ていたらと思うと……。

「どうしたの?」
「なな、なんでもねぇよ! それよりさあ!」
 バレると甚だやばいなんてレベルじゃないので慌てて話をそらす。

「最近、全然雨降らねぇよな」
「うん。わたしにとってはありがたいことだけど、みずポケモンは大変だよね。
 湖の水量も少なくなってきてるし」
「ああ、ほんとかわいそうだよな。うん、やつらも大変だよなぁ」
 うんうんと頷くも起きあがろうとしないおれの様子に、ブースターは疑問を持ったようだ。

「ねぇゲンガー、どうかしたの?」
 横から顔を覗きこんでくる。
「いや、別に……」
 寝坊した立場なんだからいつまでもこうしてるワケにはいかねぇ。

 が、今はまず局部の暴れん坊をスリットにしまい込むのを優先すべきだ。
 もしブースターに見られたらおれはこの先、生きていく自信がねぇ。
 とにかくここは時間を稼いで心を鎮めよう。

「なあ、ブースター。お前っていっつもおれを見送ってからすぐに寝てるのか?」
「少ししてからね。前にも言ったけどあまり夜は好きじゃなくてね」
「そういやそうだったな」

 夜が大好きなおれとは対照的に、ブースターは夜間が苦手らしい。
 探検の時も薄暗い場所や洞窟には絶対に入りたがらないから、夜というより暗闇そのものが嫌いなんだろう。
 おれが毎回ブースターを住み処まで送ってる理由はこれだ。
 事情を知ってる以上、夜道を1匹にさせるわけには当然いかない。
 探検が終わってはいサイナラなんて薄情な仕打ちができるほど、おれはカスじゃねぇ。

「ごめんね。夜いつも送ってもらっちゃって」
「なに水臭ぇこと言ってんだよ。お前がおれにしてくれてることに比べたら全然苦じゃねぇよ。
 気にすんな」
 好意でやってることだから迷惑と感じたことはこれっぽっちもない。
 むしろ喜ばしい限りだ。
 帰り道をゆっくり歩くことで、一緒にいる時間が増えるわけだし。

「今日も探検から帰る時はまた……よろしくね」
「もちろん。そんなにひかえめにならなくていいって」
「うん、そうだよね。ありがとう」
 安心させるように言うと、ブースターは先ほどのかわいらしい笑顔をおれに向ける。
 視線をあわせて数秒間見つめあったあと、クスクスと笑い出すブースター。
 やっぱりブースターは笑ってる時が一番かわいいな。

(おっ、やっとフニャチンになったか)
 しゃべっている間に股間のモノはようやく縮まったようだ。
 スリットの中に収まっていくのがわかる。
 ふぅっ、一時はどうなることかとひやひやしてたがこれでもう一安心だな。
 重たい身体をおこして立ちあがる。

 念のため周辺のニオイを何度も嗅いでみるが、精子の香りはどこからも漂っていない。
 ブースターがほんのちょっとでもおれを起こすのが遅かったら危なかった、ほんとに。
 これからはちゃんと毎日ヌキヌキしよう。
 今回のある意味貴重な経験を決して無駄にしてはならない、おれはそう思った。

「んんーっ、よく寝たぁ」
 草むらから出て身体を大きく伸ばす。

「あっ」
 伸びをしたと同時に、おれの腹の虫がぐううぅとマヌケな音を発する。
 お腹の音って自分の意思とは無関係に鳴るから憎らしい。
 食い意地はってると思われてねぇかな……。
 不安になって振りかえる。ブースターはなにも言ってこない。
 聞かれてなかったみてぇだが、腹が減ってるのは事実。

「メシ食おうぜ」
「うん。でも先に顔洗ってきなよ」
 顔を洗いに行けだって?
 んなジャマくせぇことやってられっか。

「そんなのあとでいいじゃんかよ。メシにしようぜメシ」
「ダメだよ。顔を洗うのが先だよ」
「えーっ……」

 あからさまに嫌な声をあげると、ブースターは眼をつりあげ、にらんできた。
 目つきの悪いおれがこわい顔をしてもたいして表情は変わらねぇだろうが、温厚なこいつが怒った顔をするのは結構ビビる。
 あぁもう、かわいらしい顔立ちがもったいねぇ。

「毎朝やってることじゃない。ほらっ、行こう。
 わたしも一緒に行くから」
 ブースターは頭で背中を押してくる。

「ちょっ、お、おい、押すなよぉ」
「じゃあちゃんと自分で歩いて」
「あとで洗いに行くから、なっ? 先にメシにしようぜ」
「ダメ。食べおわったら『腹いっぱいで動けねぇ』とか言ってごまかすつもりでしょ。
 ごはんはちゃんと顔を洗ってから」
 ちっ、バレてたか。
 さすがはブースター。鋭いな。

「めんどくせぇだけじゃん。顔なんざ洗わなくたって生きてけるだろ?
 1回怠ったくらいで死ぬわけじゃあるまいし」
「もうっ、またおおげさなこと言って。毎日してることなんだから、いい加減習慣づけてよね」

 押されるがままに無理矢理歩かされるおれはブースターと言いあうが、許してくれない。
 まるでおれが駄々っ子で、ブースターが一生懸命言いきかせる親みてぇだ。
 ちくしょう、おれはガキじゃねーんだぞ。
 かわいくて優しいところがブースターの美点なんだけど、マジメすぎるのが欠点なんだよなぁ。

「ブースター、頼むよぉ。腹が減って死にそうなんだよぉ」
 ゴーストタイプのくせになにバカなことを抜かしてんだと自分でも思う。
 ブースターも内心、同じことを思ってるだろうな。
 オバケが飢え死に、か。ちゃんちゃらおかしいぜ。

「冷たい水で顔を洗えばきっと気持ちいいよ。気分もさっぱりするし。
 だから行こうよ、ねっ?」
 ブースターは優しく説得しながらもおれの背中をしっかりと押しつづける。
 澄明な湖の水で顔をバシャバシャすれば眠気が吹っとぶし、気分爽快で元気もでる。
 それは同感だし、おれのためを思って言ってくれてるのはわかってる。
 わかってるんだが、やっぱり億劫なんだよな、足を運ぶのが。

「頼む、ブースターさま。先にメシを食わせてくれ!
 お願いだ! この通り!」
「ダメ」

 おれなりにがんばって(土下座までする勢いで)丁寧に懇願したというのに、あっさり却下された。
 おれの要求を受けいれる様子は微塵もねぇ。
 そういやこいつ、水が大の苦手のくせして顔は毎朝きちんと洗ってるんだっけ。
 イーブイだった頃の習慣が身についてるってことなのかな。
 はぁーっ。こりゃマジで湖へ出向かねぇ限り、いつまでたっても朝メシを食えそうにねぇな。

「あーもう! わかったわかった! 行けばいいんだろ行けば!
 ちっ、くそっ……」
 半ばやけくそになって折れるおれ。
 思わず舌うちしちまったが、ブースターは特に気にする様子もなく、おれの前を歩きはじめた。
 どうあがいても最後は結局、おれがブースターに従う運命にあるらしい。
 全く、こいつにはかなわねぇ。

「行こうよ」
 ブースターはおれに向き直り、声をかけてくる。
「ったく……」
「機嫌なおしてよ。怒った顔なんてゲンガーには似合わないよ」
「誰のせいだよ誰の! 朝っぱらからいちいちうるせぇんだよ!」
 空腹のイライラもあって、つい罵声をあびせてしまった。

「あっ……」
 おれはしまったと思った。
 ブースターの顔つきが明らかに変わったからだ。
 おれたちの間に気まずい空気が流れる。

「す、すまねぇ。言いすぎた」
「……ううん」
 すぐに謝ったが、ブースターは笑いもせずに首を横にふるだけだった。
 言ってしまってからではいくら後悔してもおそい。

 ブースターの心に大きなダメージを与えてしまった。
 唯一の仲間であるこいつにキレちまうなんて、おれとしたことがとんだ失態だ。
 ニタニタしてないと落ちつかねぇおれでも、こういう状況ではさすがに笑い顔は保てそうになかった。

「確かにわたし、ちょっと強引すぎたよね。ゲンガーのこと全然考えてなかった。
 ごめんなさい」
「いや、お前は謝らなくていい。悪いのは全部おれだ。
 お前はおれのためを思って言ってくれてたのにおれときたら自分のことばっかり……。
 ブースター、ごめんよ」
 深く頭をさげて詫びる。

 そう、ブースターはなんら悪くねぇんだ。
 聞き分けの悪いおれがうだうだ言うからブースターの気持ちを踏みにじる結果になっちまったんだ。
 ゴースの頃から身体はずいぶんでかくなったってのに、精神はガキ以下だなぁ、おれって。

「……」
「……」
 この沈黙がすごくつらい。
 こういう時、どんな顔をすればいいんだろう。
 いつもみてぇに笑いながら「元気出せよ」って励ますべきなのか、もう一度真心をこめて謝罪するべきなのか。

「朝ごはん食べよっか。食べ終わったら顔、洗いに行こうね」
 ブースターはそう言ったあとすぐにおれの横を通り過ぎる。
 おい、なにボケッと突っ立ってんだバカ。
 はやく引きとめろよ。
 ブースターに悲しい思いをさせたままでメシなんか食えるかよ。

「……お前の言ってることの方が正しいよな」
「えっ?」
 おれがボソッとつぶやいた言葉に、ブースターは振りかえる。

「ブースター、ごめん。おれが間違ってたよ。
 お前の言うとおりだ。めんどくせぇからってずるけるのはよくねぇよな。
 行ってくるよ。湖にさ」
「でも、お腹すいてるんじゃ……」

「オバケは腹なんか減らねぇんだぜ……つーのはウソだけど、メシなんざいつでも食えるしな。
 それに、ぎくしゃくしたまま1日を過ごすわけにはいかねぇだろ?」
「ゲンガー……」
 ブースターの瞳に光が戻る。

「ブースター、こんなことを言うのは心苦しいが、湖までついてきてくれねぇか?
 1匹だと退屈だしさ」
「もちろんそのつもりだよ」
「サンキュ。戻ったら朝メシ食おうぜ。一緒にさ」
「うん。ありがとう」
「ほんとにごめんな」
「ううん」

 一時はどうなるかと思ったが、ブースターは元気と笑顔を取りもどしてくれたみてぇだ。
 おれも白い歯を見せてキシシと笑う。
 お互いに笑いあい、嫌な空気が流れてた雰囲気は一変して親密な雰囲気へと変わった。
 雨ふって地固まるってのはきっとこういうことを言うんだろうな。
 とにかくよかった。無事に仲直りできて。

「行くか」
「うん」
 ブースターはおれの横にたつ。
 一声かけたあと、おれたちは森の中央に位置している湖へと向かった。

「つまり、えっと……仰向けになってゲンガーの顔を毛で挟めばいいってこと?」
「そうそう。一度でいいからその気持ちよさそうな毛皮に頭を突っこんでみたかったんだ」
「で、でも……」

 いきなりこんなことをお願いされるとは思ってなかったのか、ブースターはかなり困惑している様子だった。
 ――『わたしにできることがあれば遠慮せずに』なんて言っちゃったけど、そんな恥ずかしい格好だけは絶対にしたくない。
 おおかた今のブースターの心中はそんなとこだろう。
 気持ちはわからなくもないが、初エッチに羞恥心は付き物だ。
 おれは引き下がらなかった。

「頼むよ、この通り。ちょっとだけでいいから。なっ?」
 両手を合わせて懇願する。
 なんでそんなに必死なのと思われたって構わない。
 せっかくのチャンスを無駄にしてたまるか。

「……わかった。ゲンガーがそれを望むんなら、わたし……やるよ」
 熱意が伝わったらしく、ブースターは二つ返事こそしなかったものの、承諾してくれた。
 顔色をうかがうが、どうやら本気で嫌というわけではなさそうだ。
 とりあえずほっとする。

「あっ、そっちでしてくれても全然オッケーだぜ」
 大きなシッポを指さす。
 シッポに顔を突っこんで、気づかれないよう恥部に口元を寄せてぺろぺろ……なんてことはもちろん企んでいない。
 ぜーんぜん企んでいない。

「……余計恥ずかしいよ。首の方でお願い」
「それもそっか。じゃあブースター、頼む」
 おれが促すと、足を揃えて座っていたブースターはおもむろに後ろに倒れこむ。
 まだ少しためらってる様子だったが、やがて覚悟を決めたのか、後ろ足を広げて服従の体勢をとった。
 お腹だけでなく恥部までがまる見えになる。
 初めて眼にする、上をむいて寝転んだブースターの姿。
 おれはブースターの周りを歩きながらじっくりとその愛らしい姿を眺める。

「へぇ、お腹とかは首回りに比べてツルツルなんだ」
 てっきりお腹や胸の部分にもふさふさの体毛があるものだと思いこんでたが、生えているのは頭部とシッポと首回りだけのようだ。
 んっ? ってことは、仰向けになった今、ブースターは恥部をさらけ出したも同然……。
 こんなエロい体勢、おれが頼まなかったら絶対してなかっただろうな。
 なんたってブースターは恥ずかしがりやさんだから。

「……そんなに見ないでよ、ゲンガーったら」
 まじまじと観察していると、ブースターはさりげなくシッポでお腹と局部を隠す。
 いまさら隠してもばっちり見ちまったからあまり意味はないと思うが、まぁ凝視されたら隠したくなるのが本能ってもんだろう。

「そんなに恥ずかしいか?」
「……」
 ブースターは顔を赤らめながらうなずく。
 そのはにかむ仕草さえも今はおれに興奮をもたらしてるわけだが、言うのはやめとこう。

「ちょっとだけだって。ちょっと堪能して満足したらすぐ終わるからさ」
「……うん」
 ブースターは相変わらずシッポで腹部周辺を隠しているが、しばらくしたあと自ら前足を広げる。
 どうしても羞恥心を拭えないのか、顔の色が真っ赤っ赤だ。

「ゲンガー、早く……」
 滅多に見せることのない色っぽい仕草でせかすブースター。
 おれを誘っているんだろうか。
 そんな大きな黒眼で見つめられたらチンコも挟んでほしくなる。
 仰向けのブースターに跨がって、首回りの体毛にチンコうずめて咥えられたら瞬時にイっちまうな、たぶん。

 なんてエロいことを考えてるせいで、股間のモノが徐々にでかくなっていく。
 今日はまだ抜いてねぇんだから普通の現象だが、今は抜きたい気持ちよりもブースターと戯れたい気持ちの方が強かった。
「失礼するぜ」
 仰向けに寝転んだブースターの上で四つん這いになる。

「っ……!」
 四つん這いになった瞬間、勃起したチンコにふさふさのシッポが軽く当たり、全身がふるえる。
 刺激的すぎて思わず声を出しそうになっちまった。
 撫でられたような気がするのは考えすぎだろうけど……正直今のは気持ちよかった。
 そんなことされたら『シッポにチンコ突っこませてくれ』ってお願いしたくなるじゃんか、もうっ……。

(……ガマンできねぇ)
 理性を失いつつあるおれは、声もかけずに勢いよくブースターの首の毛皮に頭を突っこんだ。
 不意打ちをくらったブースターはビクッと身をふるわせたが、しっかりとおれを受けとめる。
 顔全体を包みこむ柔らかい体毛が、おれに至福の時を与えてくれた。

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