貴音「あなた様は……傍にいてくださいますか?」 (43)


ここは765プロダクションというアイドル事務所である

『そういえば今日の夜は久しぶりに晴れるらしいですよ、プロデューサーさん』

『最近は雨が多いから助かりますね、帰るのが気だるくて仕方がないんですよね、雨だと』

765プロという元弱小事務所には13人ものアイドルがいるが、

その13人は多少の個人差はあれど、

みな高ランクのアイドルとして活躍している。

『じゃぁ泊まっちゃえば良いじゃないですか』

『ソファだと体壊しそうで……っと』

他愛無い話を遮るように扉が開く

『おはようございます』

『ん、おはよう。貴音』

『おはよう、貴音ちゃん』

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今事務所に来たこの四条貴音という少女は、

ここのアイドルの中でも3本指に入るほどの人気を誇っていたりするのだが、

そこまで育て上げたのがこのプロデューサーだったりする

『今日はこのあと写真撮影、そのあと収録、そのあと取材だ……体調は問題ないか?』

『……実は』

少し間を空け、深刻そうに一言呟く

その多忙さは普通の労働者の比ではなく、

それを未成年でありながら学業とも両立しこなしている

『なにかあるのか?』

『ふふっ、冗談です。このとおり問題はございません』

貴音はくるっと回ってみせると、自分が健康であると微笑む


『そうですよ、それじゃ小鳥さんレッスンしましょうか』

『残念なことに無理ですよ、あたしは事務仕事がありますから』

すっぱりと断られ、プロデューサーは少し残念そうに息を吐く

『いつかはさせてもらえます?』

『あはは、プロデューサーさん。あたしはもうダメですってば。音無小鳥というアイドルはできません』

齢2xというもうアイドルと呼ぶには、そうなるには経過しすぎてしまっていた

だからこそ、小鳥は765のみんなにそれらを託す

『ほら、今は貴音ちゃん一本道じゃなきゃダメですよ』

『わたくしは、小鳥嬢になら後を奪われても良いのですが……』

『お前はまだまだ現役だぞ、貴音』

プロデューサーの何気ない一言

貴音は小さく笑うと首を縦に振った

『……ええ、そうありたいものですね』

少しだけ含みの有りそうな回答

それがいつもの貴音の言葉

貴音の全てを知る人は、もしかするといないのかもしれない

好物や、身体パラメータ等は公開されているものの、

それ以外はすべて「とっぷしぃくれっと」な貴音

不思議な雰囲気を纏う彼女は今日もまたアイドルとして生きてゆく


○○スタジオ


『貴音、どうかしたのか?』

『どうかとは……なんでしょう?』

貴音の問にプロデューサーは少し怪訝な表情を浮かべた

いつもとは違う歩き方をしているのだ、怪我をしていたりするかもしれないと不安になる

足を擦るような低めの歩き方

あれでは段差に足をかけてしまいかねない

『足、おかしくしたか?』

『……いえ』

視線は向けず、声だけを返してくる

それを不安に思いつつも、いまさら断れない撮影

しかし、そんな不安をよそに貴音はカメラマンの指示通りに軽やかな動きを見せ、

そこになんら無理を感じさせなかった


『気にしすぎ……か?』

その動きに対しほっと胸を撫で下ろす

プロデューサーの呟きが聞こえるはずはない

しかし貴音はプロデューサーの方向へと顔を向けると、柔らかな笑みをみせ、

撮影が終わるとすぐにプロデューサーの名前を呼んだ

『あなた様、わたくしの姿はどうですか?』

『ん、あぁ……えっと……』

今は夏。そしてやはり水着なのだ

目のやり場に困るプロデューサーはポリポリと頬をかく

『体には一応自信はあるのです、衣装の方も素晴らしいと仰ってくださいました』

でも。と、貴音は言葉をつなぐ


『あなた様のおめがねには適わないのですか?』

『いや、そうじゃなくて……なんていうか、いや、綺麗っていうか可愛いんだけど』

ただ単にプロデューサーが奥手なために直視できないだけである

『では、わたくしはあなた様に認められる姿なのですね?』

これ以上恥ずかしがっているのもダメだろう

プロデューサーは高値を見つめ、正直に答えた

『ああ、綺麗だし可愛いし……凄いよ。貴音』

『そうですか、それは真嬉しいことです……』

貴音は少し遠くを見るように目を細め、

何故か悲しそうに呟いた


スマホじゃダメだった……

またあとで続けます

期待


『貴音、収録までは時間があるし食事を済ませよう』

収録が765プロの近くということもあり、

一旦戻っての昼休憩

アイドル達はみんな出ているし、小鳥は事務仕事に全力を注いでいるから邪魔はできない

そんなわけでやってきた貴音が通いつめているラーメン店

数多のラーメンを食べてきている貴音が通い詰めているという事の経済効果は凄いらしく、

平日祝日関係なく客足は凄いらしい

しかしながら、昼過ぎはやはり空いてしまうのが食事処の宿命なのだろう。

けれども貴音達にとっては好都合なのである

『こんにちは』

『おお、貴音ちゃんいらっしゃい……っとプロデューサーさんも』

『貴音がお世話になってます』

『いやいや、こっちこそ世話になっちゃってますよ』


嬉しそうに語る店主の前の座席へと貴音は座り、プロデューサーはその横へと座る

現在店はclause、閉店中

貴音がいる時は騒ぎにならないよういつも店は貸切になる

それも店主の優しさだ

『貴音はどうするんだ?』

『わたくしは注文の必要は——』

『おっと、今日は新作もあるんだよ』

『……おや、それはまた気になります』

貴音はメニューを手に取りながら黙り込む

その表情は真剣そのもの

さすがにプロデューサーも店主も黙り込むしかない

『あなた様、2人で新作を頼みましょう』

『2人とも同じのにするのはつまらなくないか?』


『……。いえ、美味であればもう少し食してみたくなりますので』

『俺のも食べるっていうのか……やらん、ラーメンはやらんぞっ』

そんな小さなコントに微笑を交えながら注文を終え、

結局貴音は新作の特盛、プロデューサーはいつものメニューとなった

『あなた様、一口差し上げましょう』

『良いのか?』

『はい、構いません』

新作は塩豚骨味噌醤油ラーメンという奇抜な発想のもの

4種類のスープが混じり合ったそれは、

筆舌にし難い味だったのだろうか、プロデューサーは眉を潜めて唸った


しかし、それをよそに貴音は言い放つ

『率直に申し上げてあまり良くはありません。良き所も悪しき所も打ち消し合い、可もなく不可もなく。です』

『うはぁ……やっぱりダメか。新しいの考えてみるよ』

貴音の評価に対して嫌な顔はせず、素直に受け入れたらしい

そう言いながらおかしそうに笑っていた

『ふふ、次はぷろでゅーさーにお試し下さい』

『急に回すなよ、俺より貴音向きだろ?』

現在は貴音専属のような形になっているためか、

プロデューサー自身もラーメンについては通常の人よりは舌が肥えていたりする

それでも、貴音には及ばないのが現実だが。

『いえ、わたくしは……仕事で忙しいので』

貴音はそう答え、律儀にラーメンを食べ進めていく


ラーメン大好きな貴音にとって、

以前やっていた生っすかサンデーのラーメン探訪が無くなった事は残念なことなのかもしれない

そのうえ、最近はそういったものはなく、

希にラーメン関係の審査員とかで呼ばれるくらいで、

グルメリポートは食べ過ぎるから。と、大食い関係の仕事しか来ない

『また今度ラーメン関係の仕事頼んでみるよ』

『わたくしはあいどるなのですよ? それなのにらぁめんのお仕事ですか?』

子供のような笑みを浮かべる貴音に対し、

プロデューサーは何かを理解したかのように頷いた

『嫌なら頼まないよ、これからも止めておこう』

『……あなた様はいけずです』

寂しそうな、悲しそうな、辛そうな……

そんな悲観的感情の篭ったつぶやきに、プロデューサーは思わずたじろいだ

『よ、よーし。プロデューサーさんは全力でお仕事とっちゃうぞー』

『ふふふっ、無理はなさらないで下さい。あなた様』


そんな暖かな風景もつかの間、

昼食の後に始まった収録の終盤、貴音は段差で足を引っ掛けて転倒するという、

かなり初歩的なミスを犯してしまった

やはり足を擦るようにして歩き、そのせいで段差で転倒してしまったのだ

『貴音、一体どうしたんだ?』

なんとか撮り終えて、

擦りむいたところを消毒しながらプロデューサーが足を触って見るが、

おかしいところは一切なく、ポーカーフェイスかもしれないが、

貴音が痛みに苦悶することもなかった

『なんでもありません』

『じゃぁなんでそんな歩き方をするんだ?』

『少し疲れているだけです、あなた様。できるだけ労力を抑えようと怠けたのです』

回答に詰まってしまったのだろう、

貴音の言い訳はプロデューサーの疑いを強くするだけ

『取材は後日に回して病院行くぞ』


『あ、あなた様!?』

逃がさないためにか、プロデューサーは貴音を姫抱っこして車へと走り、

急いで病院へと向かったのだが、

『足腰に異常は見られませんでした』

医者の言葉はその一言で終わった

『足をするようにして歩いてたんですよ?』

『ですが検査の結果に異常は見られません、指示をすればしっかりと動かせましたし彼女の言う通りでしょう』

医者の診断が間違っているはずはないとプロデューサーは判断し、

貴音と共に病院を出ていく

『ほら、問題などないと仰ったではありませんか』

満足気に言う貴音に対し、プロデューサーは未だ不安に思う気持ちを優しく押さえ込み、

『それならそれでいいよ。何もないならそれで良いんだ』

そう答えた


『ありがとうございます』

貴音の満面の笑みが向けられ、

プロデューサーは慌てて視線をそらしてしまった

『あなた様、このあとはお暇ですか?』

『ま、まぁ、取材もキャンセルしちゃったしなぁ』

『では……でぇと致しませんか?』

まさかの誘い

男だったら誰でも乗るであろう誘いに、

プロデューサーは首を縦にふらざるを得なかった

『元々今日は貴音と1日中仕事だったし、いいぞ』

『ならばあなた様、手を』

そっと差し出された手。しかし、それは流石に受け取れない


『そ、それは流石に不味いだろ』

『臆病なのですね、あなた様は』

貴音を思ってのことであるのに、挑発するかのように貴音は言い放った

とはいえ事実。怒ったりすることなんてできず、

プロデューサーは小さくため息をついた

『そうですよ、臆病です』

彼女がアイドルであるからというのは建前でしかない

もしもアイドルでなかったとしても、彼はその手を受け取ることはできはしないのだ

かれこれ人生を歩んできてはいるものの、

彼自身のそういった経験は=年齢というレベルで皆無なのだ

奥手であって何が悪い。と、心の中で悪態をつく


そんなことも露知らず……いや、もしかしたら鋭い貴音は知っているかもしれないが、

『演技の演技に付き合っては下さらないのですか?』

そんなことを言いだした

『演技の演技?』

『恋人同士の演技の演技つまりは演技の練習です』

『いや、それでも……ちょっと』

それでも奥手なプロデューサーに業を煮やし、

貴音はやや無理矢理にその手を握った

『た、貴音!』

『あなた様は無理矢理わたくしを抱きかかえました』

『それは……』

『ですからわたくしも無理やり繋ぎます、でぇとでは殿方がりぃどするものなのです、あなた様』

貴音の強い押しに負け、プロデューサーは貴音の手を引いていく

思った以上に強い力に逃れるすべはなかったのだ

『わたくしを導いてください、あなた様』

『はいはい、最高のおもてなしをさせて貰うよ』


こうなればヤケだとデートの定番であろうウインドウショッピングに向かった

『お、貴音に似合いそうじゃないか? あの服』

『えっと……どの服でしょうか』

貴音が困ったように返すと、

プロデューサーが示したのは白がメインのワンピースだった

『この白いワンピース似合う気がする』

『白でワンピースは雪歩殿では……』

『あ、そうかな?』

『ですがあなた様が仰るのでしたら試着いたしましょう。試着室はどちらに……』

『んと、こっちだな』


貴音の手を引き、試着室へと連れて行く

『それではあなた様。着替えてきます』

『ん、あ、ああ』

貴音が試着室の中へと消えるやいなや、

プロデューサーは頭を抱え勢いよく振った

『(なんだこれなんだこれ、デートじゃないか!)』

当たり前のことを心の中で怒鳴りながら、

貴音の嬉しそうな顔が脳裏をよぎり、少しだけ顔が綻ぶ

『(え、演技の練習演技の練習)』

頭の中を新しくし、余計な邪念を振り払う

『あなた様、着替え終わりました』

『(よし、これは演技。だから大丈夫)』

そして、カーテンは開いた


それは素晴らしいという言葉さえ許さないようなものだった

ただの白いワンピースが、まるでウェディングドレスのように見えてくる

『どうでしょうか、あなた様』

気恥かしそうに頬を染め、貴音は訊ねてきた

今度は水着の時のようにはしまいとプロデューサーは思っていたのだが、

その姿を見て考えていた言葉を失ってしまっていた

可愛いとか、きれいだとか、

そんな言葉じゃ足らないような気がしたのだろう

でも、臆病なプロデューサーは何も言えずに首を振った

『こ、言葉にし難いな、貴音』

『ふむ……そんなに酷い——』

『そ、そんなわけない! そんなわけないぞ!』

思わず怒鳴って、目の前の少女の表情が視界に入って

『ぁっ———えっと……』

『ふふふっ』

言葉ではなく笑いではあったが、

それが逆に恥ずかしくて、プロデューサーは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた


それは普通のデートのようだった。

いや、デートの演技の演技とは言えどデートはデートなのだから当たり前だ

貴音はプロデューサーに導かれるままに動き、

プロデューサーはそんな貴音を楽しませようとしていた

でも、夕方から始まったそれは長くは続けられず、

唐突に、中途半端に終わってしまった

『もう夜だな』

『そう、ですね……もう、夜なのですね』

最終的に765プロダクションの屋上へと向かい、

汚れることも厭わずに2人は並んで横になった


デートの終わりは観覧車だったり、夜景の綺麗なレストランだったり、

そういうのが定番なんだろうけれど、

騒ぎになってしまう2人はここに来るしかなかったのだ

『とても良き1日でした』

『俺は色々な意味で落ち着かない一日だったよ』

不自然な歩き方、魅力的な水着姿での撮影

そして転倒、それにデートまでして。

プロデューサーは一日中ドキドキしていた

『ふふっ、わたくしの魅力に。ですか?』

『なんて質問してるんだ』

プロデューサーの呆れ混じりの返答に対して微笑むと、

口を開いた


『あなた様、綺麗な夜空です』

『え……ぁ、ああ、そうだな。綺麗だよ』

プロデューサーは横にいる貴音を見つめて答えたが、

貴音はそれを気にすることなく続けた

『……あなた様、わたくしは今とっぷあいどると言えるでしょうか?』

『……そう言えると思うよ。十分な』

『ならば、わたくしはあなた様との約束を果たすことができたということ』

一緒に頑張ってトップアイドルを目指そう。

初めて担当になった時に彼らはそう誓い、それはもう果たしているのだ

『……そうだなぁ、なにか欲しい物あるか? ご褒美に何か——』

『ならば、もう引退させては下さいませんか?』

貴音の言葉にプロデューサーは驚く素振りもみせずに黙り込んだ


もう気づいてしまった

遅すぎたと言うしかない、最初から貴音の言動に注意していれば解ったかもしれない

貴音が引退したい理由

今日一日、貴音がおかしかった理由

『貴音、目がもう見えてないんだろ?』

『…………………はい』

貴音はごまかすことなく答えた

『空は曇りで綺麗とは言えないよ。天気予報は外れたんだ』

『予報とはやはり……確実ではないのですね』

貴音は言葉を返すやいなや上体を起こし、プロデューサーを見つめた


『あなた様の言う通り、私の目は光さえも感じません』

足を擦って歩いていたのは見えないがゆえの対策だったのだ

『だから足を……』

『それだけではありません。挨拶で個別に呼ばなかったのも誰がいるか解らなかったから』

貴音は一言一言でだんだんと表情を暗くしていった

『わたくしの姿すらも見えない。ですから、あなた様に認められる姿かもわからなくて不安だった』

あの少し積極的な撮影水着の問いも、

『メニューが分からず、新作にも気付けず、何種類あるかも解りませんでした』

あのコントでさえも、新作メニューの数などを把握するための言葉

『あなた様とのでぇとで引かれるがままだったのも、何も見えなかったから』

そして、プロデューサーが指した服をどんなものかと訊ねたのも……見えないから


『教えてください、あなた様』

『…………………』

貴音はポロポロと涙をこぼしながらプロデューサーがいるところを見つめた

しかし、そこにいる姿が見えてはいないのだ

『あなた様は……そこにいますか?』

貴音の手がゆっくりと伸びていく。

そこにいると確信したい。

でももしもいなかったら。という恐怖がそれを遅らせていく

その手をプロデューサーは素早く受け取り、

『っ!?』

予期せぬことに貴音の体はビクッと震え、それを抑えるかのように優しく包まれた


『俺はここに居るよ、ずっとここに居るよ、ずっと貴音のそばにいるよ』

失明してしまった以上、アイドルとしての活動はかなり難しく

踊ったりすることはもうできないだろう

『貴音、俺が貴音の代わりにすべてを見て、すべてを教えてあげるよ』

『それは真ですか? 何もできないわたくしを見捨てたりはしないのですか?』

『するわけないだろ、俺はお前の……プロデューサーなんだから』

プロデューサーの言葉に対し、貴音もまた強くその想いに応えた

『ありがとうございます、あなた様……』

アイドルに恋をしてしまったプロデューサーとプロデューサーに恋をしてしまったアイドル……。

2人は、アイドルの失明という最悪の展開を最高の展開として受け入れたのだ

トップアイドルを目指すアイドルとプロデューサーとして生きてきた2人は、

互いを思い合う恋人同士として、新たな人生を進んでいく


                                 END


小鳥やプロデューサーがやや強制的に出演させられたドラマの最終回が終わり、

画面はぷつっという音ともにブラックアウトした

「はい、終わりましたよ。仕事しましょう小鳥さん」

「はーい」

小鳥とプロデューサーは現在事務所にて残業中なのだ

終わらなければ最悪お泊りである

「ところでアイドルじゃなくなれば恋愛するんですか?」

小鳥は仕事をしつつも、プロデューサーへと言葉を投げかけた

「……さぁ?」

プロデューサーはあまり言葉にしたり表情に出したりはしないが、

正真正銘の人気アイドル達がこの事務所にはいて、

そのアイドルたちにプロデューサーは囲まれているのだ

何かしら思うはずだ。と、小鳥は睨んでいた


「で、誰となら付き合っちゃうんですか?」

「もう止めましょう、仕事終わらなくなりますよ」

逃げるプロデューサーを追いかけるように、言葉が飛びついた

「じゃぁ、ここにいる結婚願望のある事務員さんとかどうですか?」

「ないですね」

「そこは濁してくれないんですか!?」

まさかの即答に泣きそうになった小鳥が黙り込んだ途端、

部屋は静寂に包まれ、黙々と作業をするキーボードとシャーペンの音だけが響く

そしてそれは、しばらくしてプロデューサーによって破られた


「よし、終わりました!」

「えぇっ!?」

半分近く残っている小鳥とプロデューサー

その差はもちろん、テレビに見入っていた小鳥と、

その間も地道に作業を続けていた差である

「あの〜……少し手伝い」

「すみません、このあと貴音を迎えに行ってやらないと」

「あぁ……」

今はもうすでに夜になり、そろそろ番組の収録を貴音が終える頃なのだ

「先約なので、頑張ってください」

「うぅっ、白状もの!」

事務員の断末魔は虚しく響く


ところ変わってスタジオ

プロデューサーがスタジオに着くと、ちょうど貴音が収録を終えた

「あなた様」

「お疲れ様、貴音。収録はどうだった?」

「非常に面白いものでした……ゆえに、真残念でなりません」

本当はこのあとも番組は終わらないのだが、

未成年であるがために途中退出しなければならないのだ

「……じゃぁこのあとラーメンでも食べに行くか?」

「あなた様?」

「楽しめるはずだった時間を楽しませたいと思ったんだけど……」

プロデューサーは少し恥ずかしそうに言うと、貴音の瞳を見つめた

「では、是非ともお願いいたします」

嬉しそうに答え、強引にプロデューサーの手を引いた


「美味しいお店をご紹介いたします、あなた様」

貴音に言われるがままに車を運転し、

たどり着いたのは人気のない繁盛していなさそうな店だったが、

「隠れた名店……いえ、隠された名店と言いましょうか」

貴音のその言葉に嘘偽りはなく、

今まで食べた中で一番美味しい。と、プロデューサーが思うほどだった

「なんであんなにひっそりしてるんだ?」

その帰り道、プロデューサーはそう訊ねずにはいられず、

貴音の微笑が返ってきた

「隠されていたほうが良い事もあるのです、あなた様」

陰りのない満天の星空

その下にある動きの止まった車、その静かな車内で2人は見つめ合う


「もしもわたくしの目が見えなくなったらどうしますか?」

ドラマの話。だけれど、プロデューサーは首を振った

「俺の目を移植してでも見えていて貰うよ」

「どうしてそこまでしようと思えるのですか?」

貴音の問いは続く

しかしそれも、プロデューサーはすぐさま答えを返した

「見ていて欲しいからだよ。みんなを……そして、俺を」

「あなた様……」

隠されていた方が良い事もある

ほかの誰も知らない、2人だけが知る秘密があったって良い

それは禁じられたものだから

誰にも知られてはいけないものなのだから

「お慕えしております、あなた様。ずっと共に居て下さいますか?」

貴音の顔が徐々に赤くなっていく

それを逸らすことなく見つめながら、プロデューサーは嬉しそうに笑う

「ああ、ずっと一緒にいるよ。貴音」

夜の帳は2人を隠すように降りていき、すべてを黒く染め上げていった


とりあえず終わりです


貴音の視力が弱いのを利用してみようと思ったらこうなってしまった

次はもっとうまく書けるようにしたい

おつおつ

素晴らしかった
掛け値なしに

良かったよ

乙乙

おつ

乙乙
イイハナシダナー( ;∀;)

おつ


>>2>>3の間が抜けてることに今更気付いた。↓が入ります



『私服でもパフォーマンスが合いますね、貴音ちゃん』

『ファッションセンスが良いんですよ。貴音もですけど、みんなアイドルですから』

『アイドルじゃないあたしは駄目センスですかーそうですかー』

プロデューサーに対し不満をぶちまける小鳥

それを傍で聞いていた貴音はくすくすっと笑った

『小鳥嬢もあいどるですよ、この765プロダクションにいる皆のあいどるです』

『え〜そう? そうですか?』

否定するようなことを言いつつ、

小鳥は嬉しそうに頬に手を当てプロデューサーに訊ねると、

彼は不敵に笑った

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