苗木「あの日見た模擬刀の名前をボク達はまだ知らない」 (698)



……暑い。


外からはセミの声。まだ午前中なのに強い日差し。
一度は絶望に飲み込まれたこの世界も、いつもの夏を迎えられるくらいには落ち着いてきたらしい。

それはとても嬉しい事なのだけれど。


苗木「暑い……」


今度は声に出してしまう。
何もしていなくても額からは汗が流れてきて頬を伝う。

ベッドの上から動くことができない。
せめてクーラーを点ける事ができれば大分マシになるはずなんだけど、あいにく壊れてしまっている。
どこまでもツイていない。

でも、このままいつまでもぐったりと横たわっていれば、本当に干物になってしまう。
とりあえず、水分補給くらいはしておこう。

そんなわけでフラフラと冷蔵庫へ。中には麦茶くらいはあったはずだ。
典型的な男の一人暮らしのアパート。別にお金には困っていないけど、有り余っているわけでもない。


苗木「……んぐ……ぷはっ」


冷たい液体が体を巡っていく感覚。
それはまるで干からびた地面が潤っていくようだ。

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今日は未来機関の仕事も休み。
といっても、特にやる事はない。久々にゲームとか2ちゃんでもやろうかなぁ。

……いや、一応仕事はあったか。

例え休みでもやらなければいけない事を思い出して、ボクはケータイを取り出して電話をかける。
まだ午前中だけど繋がらないなんていう事はないはずだ。

すると、軽い電子音と一緒に声が聞こえてくる。


日向『もしもし、いつも悪いな苗木。おはよう』

苗木「うん、おはよう。気にしなくていいって。それよりみんなは変わりない?」


電話の向こうの日向クンからいつもの定期報告を受けていく。

元絶望の彼らの様子の確認。
当初は未来機関の上層部から散々怒られたけど、とにかくボク達が全力で監視する事で何とか納得させる事ができた。
今も彼らは本当のジャバウォック島で生活している。

奇跡は起きた。
あのプログラムの世界で死亡した人達は、今はもうみんな目覚める事ができた。
ただ、まだまだ絶望が抜けない人……重症なのは罪木さんとかなんだけど、そういう人達の更生は根気強く続けている。


狛枝『え、なになに、苗木クン? いいなぁ、ボクも話させてくれないかな!』

日向『うわっ、おいコラ狛枝……』

苗木「あ、ご、ごめん、ボクはこれで失礼させてもらうよ!」

日向『ん、あぁ、分かった。じゃあなー』

狛枝『えっ、ちょ』


ピッと、再び軽い電子音と共に通話を切る。
狛枝クンには悪いけど、彼と話すと物凄く長くなるから苦手なんだよね……。



苗木「……はぁ」


こうして定期報告を聞く度に頭をよぎってしまう。

もしボク達が経験したコロシアイも、日向クン達と同じようにプログラムの世界のものだったら。
そしたら今も彼らのように全員で笑い合う事ができたのだろうか。

頭を振る。何度考えても同じだ。
ボク達は彼らと違って現実でコロシアイをした。そして何人もの犠牲者を出してしまった。
死んでしまった人達は生き返らない。奇跡というのは、この世の仕組み自体を変えたりはしない。

ボクは決めたはずだ。彼らの死を引きずって行くと。


苗木「…………」

舞園「もしかして今のお仕事の電話ですか? ふふ、苗木君すっかり社会人らしくなりましたね!」ニコニコ

苗木「……はは、ありがと。仕事場じゃ、まだまだ怒られてばかりだけどね……」


…………?


いや、とにかく、何か遅い朝食でも作ろうか。
ただこれから一から作るのは精神的にあまり乗らないから、軽く作れるものにしてしまおう。
確か、インスタントラーメンがまだ残っていたはずだ。


舞園「あ、チキンラーメンですか? 私、卵二つほしいです!」

苗木「んー、了解」


彼女の希望通り、二つのお椀の内、一つには卵を二つ落とす。
そしてそれぞれテーブルまで運んでいき、向かい合って座る。


苗木「いただきます」

舞園「いただきます!」


ただのインスタントラーメンなのに、彼女はとても嬉しそうだ。
これなら作ったかいがあるっていうものだね。ただお湯かけて卵落としただけだけど。


…………さて。



苗木「ちょっと電話してくるよ」

舞園「あ、苗木君。食事中にお行儀悪いですよ!」

苗木「ごめんごめん、ちょっとだからさ」

舞園「もう、仕方ありませんね」


頬を膨らませる彼女はとても可愛い。
ボクはそんな彼女に頭を下げながら、ベランダに出た。

想像以上の暑さが全身を包み込む。だけど、今は我慢だ。
電話は数コールで繋がった。


十神『もしもし、どうした。俺は忙しいんだぞ』

苗木「あ、ごめんね十神クン、急に電話しちゃってさ。少し確認したい事があるんだ。いいかな?」

十神『早く話せ』ハァ

苗木「あのさ、希望更生プログラムってもう完全に停止されたよね? 他の似たような仮想現実の中に入れるものも全て」

十神『当たり前だろう、あんな事が起きたんだぞ。しばらくは停止させたままだ』


可能性が一つ消えた。


苗木「……じゃ、じゃあさ、物凄くリアルなロボットってあるかな? どこからどう見ても人間っていう」

十神『そんなものがあったら、もっと騒がれているだろう。確かにモノクマの性能は高かったが、どこから見ても人間だというレベルのロボットなど存在しない』

苗木「だ、だよね!! うん、ごめんね忙しいのに変な事聞いて!」

十神『……何かあったのか?』

苗木「えっ!」ビクッ

十神『お前がこうも意味のない事を聞いてくるとは思えん。まさか例の元絶望達か?』

苗木「いや、そういうわけじゃないんだ! …………もうちょっと調べてから話すよ」

十神『そうか。だが一つ言っておくが、あまり勝手に突っ走るな。結局俺達が尻ぬぐいをさせられるんだ』

苗木「……は、反省してるよ。大丈夫、すぐにみんなには何か言うことになると思うからさ。それに、もしかしたらボクの気のせいっていう事もあるかもしれないし」

十神『ふん、ならいい。じゃあな』


通話が切れる。
…………よし、まずは確認しておくべきだ。


意気込んで部屋に戻る。
中では彼女がボクのラーメンに手をつけていた。


舞園「わっ!! あ、あの、これは違うんですよ! 放っておいたら伸びてしまうと思ったからで、決してそんな意地汚い……」アタフタ

苗木「あのさ、一つ聞いていいかな?」

舞園「はい?」キョトン

苗木「まずキミは舞園さん…………でいいんだよね?」

舞園「えっ、も、もしかして苗木君、私のこと忘れちゃったんですか!? それは……ショックです……」

苗木「い、いや、忘れてなんかないよ!! 忘れたことなんてなかったよ!!」

舞園「……あ、ありがとうございます///」

苗木「っ……///」


しまった、流されてとんでもなく恥ずかしい事を言ってしまった。
って違う違う! 今はそういう事じゃないって!


苗木「えっとさ……どうしてキミは……ここに居るの?」

舞園「……ごめんなさい、よく分からないです」


舞園さんは困ったように微笑む。
なるほど、彼女自身どうしてここに居るのかは分からない……か。

それならそれでもう少し聞く必要がある。


苗木「じゃあ最後にどこに居たかは覚えてる?」

舞園「あはは、忘れたくても忘れられませんよ。だって苗木君の部屋のシャワールームでグサッと刺されちゃったんですから。とっても痛かったです」テヘヘ

苗木「…………」


苗木「え?」


雲一つない青空、セミがうるさい夏の午前中。
クーラーも効いていない、ただじわじわと暑さが体を包むアパートの一室。


今まで止まっていた何かが動き出した。そんな気がした。



【第一章:シニキル】


舞園「あ、そういえば、あのメッセージはちゃんと読んでくれました? 『LEON』って書いたんですけど」

苗木「う、うん……少しわかりづらくなってたけどね……」

舞園「え、そうでしたか!? すみません、私も朦朧とした意識の中で書いていたんで、読みづらかったかもしれません……」

苗木「ううん! ちょっと字が逆さまになっていたり、かすれていたりしただけだよ! ちゃんと読めたから大丈夫!」

舞園「……そうですか、良かったです」ニコ


……いやいやいや、何の話をしているんだボクは。
今のは明らかに彼女が残したダイイングメッセージ……『11037』の話だ。
それをまさか本人と話す事になるとは。


苗木「あのさ……やっぱり舞園さんって…………ユウレイってやつなのかな?」

舞園「はい、そうみたいです」ニコ


いやそんなニッコリ言われても。可愛いけど。


舞園「でも不思議なんですよね。あの時はみなさんの事もすっかり忘れてしまっていて、新入生の気分だったんですから」

苗木「えっ、舞園さん学園生活の記憶戻ってるの!?」

舞園「あ、その様子は苗木君もですか? そうですよね、こうして学校の外に居るって事はあの事件は解決したんですよね。あれ、でも……」


そう言って舞園さんは外へ目を向ける。


舞園「何だか外も随分と落ち着きましたね……」

苗木「うん、今は希望ヶ峰のOBを中心に作った未来機関っていう組織が何とか世界を元に戻そうと頑張っているんだ」

舞園「わぁ、凄いです!! 苗木君もその一員なんですよね!?」

苗木「うん……まぁ……」


やはり、彼女は自分が死んだ後の事は把握できていない。
だから、ボクは彼女に色々と説明した。あのコロシアイ学園生活の結末も、全て。


舞園「……ごめんなさい」

苗木「えっ?」

舞園「私のせい……ですよね。私が最初にあんな事をして、コロシアイのきっかけを作ってしまったんですから」

苗木「…………」


それ自体を否定する事はできない。
確かに最初のあの事件。あそこからみんなの不安は一気に加速した。

それでも。


苗木「……舞園さんのした事は間違っていたんだと思う。でも、ボクはみんなが被害者だと思ってる。クロになった人もね」

舞園「どうして……ですか……」

苗木「元々、あんな状況に追い込まれなきゃ、あんな事は起きていなかったんだ。ボクはもう学園生活の記憶を取り戻している。みんなとの楽しい思い出を覚えている。
    だからハッキリと言える。みんなは敵なんかじゃなくて、仲間だったんだって。本当に悪いのはモノクマ…………いや、江ノ島さんだ」

舞園「…………」

苗木「でも、江ノ島さんだって何か別の道はあったはずだったんだ。現に一度絶望に堕ちた人達も、また元に戻ってきている。
    確かに彼女は他の人達とは明らかに違うレベルだっていうのは分かっているけど、それでも可能性はゼロではなかったはずなんだ」

舞園「……つまり、苗木君は誰も悪者にしたくないんですね。いえ、本当に憎むべきは絶望そのもの、という事でしょうか。苗木君らしいです」


まだ舞園さんの表情は晴れない。
そうだ、彼女は本来誰かに罪をなすりつけて誰かを殺すなんていう事をする人ではない。だからこそ、これだけ罪の意識に悩んでいるんだ。


舞園「ごめんなさい、すぐに言えなくて。私、怖かったんです。苗木君に罪を被せて桑田君を殺そうとした。その事実を口にしてしまえば、全てが壊れてしまいそうで。
    こんなの、ただ逃げているだけですよね。私がした事は何も変わらないのに、ただ苗木君の優しさに甘えて……また前みたいに接してくれるかもなんて思って……」

苗木「……ねぇ、舞園さん。あのダイイングメッセージはどういう気持ちで書いたのかな?」

舞園「えっ……それは……」

苗木「ただ自分を殺した桑田君を許せなかった……だけではないってボクは思っているんだ。ボクの部屋でキミが殺されたら、疑いがかかるのはボクだ。
    だから、助けようとしてくれたんじゃないのかな? キミは最後まで人を殺す事を、ボクに罪を被せる事を躊躇っていた。だから、最初の一撃も外してしまった」

舞園「そ、そんなの……私はどうとでも言えるじゃないですか……。本当はそんな事全然考えていなくても……第一、私は一度あなたを裏切っているんですよ……?」

苗木「それでも、ボクは舞園さんの事を信じるよ。何度裏切られても、ボクはキミを信じたい」


その言葉に、舞園さんは呆然とボクの事を見た。
ボクが何か訳の分からない事を口走ったかのように、中々その意味が頭の中に入ってこないかのように。

そして。


舞園「……っ……ぅぅ……ぁぁぁあああ…………!!」


ポロポロと、大粒の涙が彼女の頬を流れていった。
それは今までずっと押しとどめてきたものが一気に溢れた、そんな涙だった。



その様子に慌てる。目の前で女の子が号泣している状況は、どう考えても気まずい。
いや、以前にも同じような事があったはずだ。確か仕事場で一緒の女の子がミスをして、ボクが何とかフォローしたけど泣いちゃって。
その時もこうしてオロオロするしかなかったけど、後になって朝日奈さんにどうすれば良かったのかって聞いたら――――。

それを思いつくと同時に、ボクは行動に移していた。


つまりは、震えて泣きじゃくる舞園さんを両腕でしっかり抱きしめていた。


……そういえば、あのコロシアイ学園生活でも似たような事あったかな。


舞園「苗木……君……!!」


彼女もしっかりと、抱き返してくる。
そして、そのままボクの胸に顔を埋めて、泣き続けた。
腕の中の彼女の柔らかい体の感触にドキドキしてしまうのは仕方ない。

……こうしてお互い座ったままなら、身長とか気にしなくていいな。いや、ボクだって1、2センチは伸びたけど!


その時だった。


ピンポーン!


苗木「……ご、ごめん、舞園さん。誰か来たみたいだから…………」

舞園「ぅぅ……ぅぅううう………ひっく…………」ポロポロ


ま、参ったな…………仕方ない、訪ねてきた人には悪いけど、今はちょっと立て込んでいるっていう事で居留守を使わせてもら。


ドンドンドン!!!!!


苗木「いっ!?」ビクッ


マズイ。呼び鈴の後のこの乱暴なノック…………あの人だ!


「ちょっと苗木君? どうしたの、開けなさい。苗木君?」


ドンドンドン!!!!!



舞園「ぐすっ……あ、あれ…………この声……」


ガチャガチャ!!


今度はドアノブ回し始めたぞあの人。
いや、でも鍵はかけている。このまま黙っていれば……。


ガチャリ


苗木「なんで!?」

舞園「わぁ、このアパート、離れた所から開けられる鍵を使っているんですか?」


そんなはずはない。
そもそも、ボクは鍵を開けていない。

つまり…………。


霧切「あら、やっぱり居るじゃない。どうして何も反応しなかったの?」


扉から入ってきたのは案の定霧切さんだった。
彼女にしてはやたら気合の入ったオシャレな私服…………いや、そこはどうでもいい。


苗木「そ、それは…………ていうか鍵は!?」

霧切「合鍵使っただけよ。それより、私の質問に答えてもらっていないわ」

苗木「合鍵!? いつの間にそんなもの作ってんの!?」

霧切「この間、あなたの家の鍵を少し借りて作ったのよ。そんな事より」

苗木「そんな事じゃないって! いいからその合鍵」


霧切「 そ ん な 事 よ り 」ズイッ


どうして霧切さんの方がこんなに強気なんだ…………。



舞園「ちょっと待ってください!! それってどう考えてもストーカーですよ!!」

霧切「どうしてすぐに反応しなかったのかしら? 何か理由があったのでしょう?」

苗木「あ、それは…………ほら、ラーメン作っててさ!」

舞園「あっ、無視ですか!? 都合が悪いからって無視するのはどうかと思います!!」

霧切「それは違うわ」キリッ

舞園「何が違うんですか!」

霧切「このラーメンはもう若干ぬるくなってしまっている。つまり、今作っていたものではないわ。それに」


霧切「なぜ、お椀が二つもあるのかしら」


……しまった。ボクはなんて初歩的なミスを。
いや、でも舞園さんに抱きつかれていたんだから仕方ないじゃないか、ていうか今現在もその状態だし…………あれ?


舞園「あ、あの……そんな本気で無視されるっていうのも少し嫌なんですけど……」

霧切「苗木君、あなた…………誰か女の人を部屋に入れているわね」

苗木「……?? え、えっと、仮に他に人が居るとしても、どうして女の人になるの?」

霧切「それは簡単よ、男の人だったら別に私に隠す必要がないからよ」

苗木「ええええええ……………」

舞園「うぅ……無視……しないでくださいよぉ…………!」



最近霧切さんはこういう事にやたら厳しい。
なんでも、『苗木君は放っておくと、その優しさにつけ込まれて変な女に引っかかる』とか何とか。

なんだかんだ、ボクを心配してくれてはいるんだろうけど…………。


そうこうしている内に、霧切さんは部屋のドアを次々と開けていく。
といっても、トイレと洗面所付きのシャワールームしかないんだけどね。

地味にシャワーとトイレが別って所が自慢だったりする。


霧切「……苗木君。その女狐、どこに隠したのかしら?」

舞園「め、女狐!? だいたい、霧切さんは何なんですか! どうせ彼女でもないくせに…………あの、苗木君、違いますよね……?」

苗木「霧切さんはただの仕事仲間だよ」

霧切「…………」ゴゴゴゴゴゴゴ


何でこんな怖い目で睨まれているんだろう…………。
すると霧切さんは長い髪を荒々しく後ろに流しながら、


霧切「いいわ、それなら意地でも見つける。霧切家の名にかけて、ね」

苗木「……いや、見つけるっていうか」

霧切「なに、今更言い訳でもする気? あなたが女の子を連れ込んでいるっていう事はもう」

苗木「そりゃ分かるでしょ、ほらここに」スッ

舞園「……ふふ」ドヤァァ

霧切「どこ?」

舞園「なっ……気付かないフリですか!? そんな風に存在感ないように扱われたのは初めてですよ!!」

苗木「待って舞園さん。これってたぶん」


その瞬間、霧切さんの表情が変わった。


霧切「…………舞園さん?」



この反応、やっぱりだ。おそらく霧切さんには…………。


舞園「やっと反応しましたね! そういえばあなたとは学校でも度々」

霧切「……苗木君、舞園さんはもう死んでしまったのよ。
    確かにあなたはみんなの死を引きずっていくとは言っていたけど、それはいつまでもその幻影を追っていくという事ではないでしょう?」

舞園「あれ……?」

苗木「舞園さん、たぶん霧切さんはキミが見えていない」

舞園「!!」

霧切「苗木君!」


霧切さんが珍しく強い口調で話す。


霧切「急にどうしちゃったの。そうやって舞園さんが居るように振る舞っても……何も意味はないのよ……」

苗木「舞園さん、ドア開けて」

舞園「え、あ、はい」


ガチャ


霧切「……え?」

苗木「舞園さん、今度はトイレ。その次はシャワールームを開けて」

舞園「こっちがトイレで……こっちがシャワールームですか……?」


ガチャ、ガチャ


霧切「なっ……なに……これ……」

苗木「舞園さん、ラーメンのお椀持ち上げて」

舞園「いいですけど……」


スゥ


霧切「待って、ちょっと待って。少し考えさせて苗木君」


ついに霧切さんは頭を押さえて俯いてしまった。



+++



それから霧切さんにこの現状を説明した。
やはりユウレイなんていうものはそう簡単には信じられない様子ではあったけど、それでも先程から連発する怪奇現象を説明するにはそれしかない。

加えて、新たな発見も一つあった。それは。


『霧切さん、あなたは苗木君につきまとい過ぎです、合鍵なんてもってのほかです。自重してください』

霧切「……なんですって。これは苗木君の為であって」

『彼の事は彼で決めるべきです。もちろん、どんな女の子とお付き合いするのかも。あなたは彼の母親ですか?』

霧切「ぐっ……」


どうやら筆談という方法を用いれば、コミュニケーションも何とかなりそうだというものだ。


他にもいくつか分かった事はある。
舞園さんは物に触れる事はできるけど、人に触れる事はできない。ボクを除いて。
ボク以外の人間には彼女の姿は見えないし、声も聞こえない。

なぜボクにだけ見えたり聞こえたり触れたりするのかは謎のままなんだけど。


舞園「それは私達の間に特別な絆があるからですよ!」ニコ

苗木「えっ、特別な絆って……」

霧切「そんなものはないわ」キリッ

苗木「霧切さん、舞園さんの言葉が聞こえたの!?」

霧切「いえ、その単語だけで彼女がどんな事を言ったのかくらい想像できるわ」


流石は超高校級の探偵…………なんか能力の無駄遣いな感じもするけど。
すると舞園さんはムッとした表情で、何かを紙に書きなぐる。


『霧切さんがどう言おうと、事実なものは事実です。私には分かります』

霧切「なんですって?」

苗木「え、そういうの分かるの?」

舞園「エスパーですから」ニコ

苗木「……あー、うん。そういえばそのセリフ、まだ聞いてなかったね」

霧切「ふん、何でもエスパーだって言えば何とかなると思ったら大間違いよ」

苗木「ホントに凄いね霧切さん!? また何て言ってるのか分かったんだ!?」


『いえ、私には確かにエスパーがあります! だからこうしてユウレイになって復活したんですよ!』

苗木「あ、そこは冗談だって濁さないんだ…………ていうか、ユウレイってエスパーの守備範囲なのかな?」

霧切「さぁ……私はその方面にはあまり詳しくないから」


それもそうだ。
オカルトマニアの探偵なんて……いや、何かのドラマとか漫画の設定でありそうだけど。


苗木「うーん、やっぱりこのままボク達だけで対処できるような問題じゃないよねこれ……誰かに相談したほうが……」

霧切「でも、あまり広めても混乱を招くだけよ。ただでさえ、まだ絶望関係でごたごたしているのだし」

舞園「色々と大変なんですねぇ」

苗木「いや一応キミの事なんだけど…………あ、そういえばボク達の同期にいたよね、オカルト関係に詳しそうな人」

霧切「……確かにいたわね。本人はオカルトじゃないって否定しているけど」

舞園「あ、私も分かりましたよ、あの人ですね!」

苗木「というか、この際だし他の同期の人達にも協力してもらえないかな? ほら、これってやっぱりボク達で何とかしないといけない事だろうし」

霧切「それもそうね。いいわ、みんなを集めましょう」

舞園「わぁ、同窓会みたいで楽しくなってきましたね!」ニコ

苗木「そ、そうだね……」



+++


夜。いくらか気温は下がってきたけど、まだまだ暑い。
その理由の一つには、この人口密度もあるだろう。

アパートの一部屋に六人とユウレイ一人。流石に狭い。クーラーも壊れてるし。

仕事帰りの朝日奈さんはシャツのボタンをいくつか開けてパタパタと仰ぐ。


朝日奈「あーづーいー!! こんな夏真っ盛りの時期にクーラー壊れるなんて、苗木ってホントにツイてないよねー」

葉隠「……いや、そんな事はないべ。なんたって苗木っちは超高校級の幸運だぜ? 例え不運であるかのように見えても、後から考えれば実は幸運ってオチなんだ!」

苗木「うーん……それはどうかなぁ……」


強いて言えば、暑苦しかったせいで霧切さんが来る前に起きる事ができたという事だろうか。
それで、舞園さんの事を説明するのも割とスムーズにいったし、そもそも寝ている間に霧切さんが部屋にやってきたら何をされたか分かったものじゃない。
一度ボクの秘蔵コレクション的なアレが見つかって全て捨てられた時は凹んだなぁ。


葉隠「いやいや、現に今こうして部屋が暑いお陰で、朝日奈っちのムチムチの胸元がすげえいい感じにごばべっ!!!!!」

朝日奈「この変態!!! どこ見てんのよ!!!」

腐川「ふん……どうせわざと見せつけてたんでしょ……この痴女!!!」

朝日奈「そんなわけないじゃん!!!!!」

十神「やめろ、余計暑苦しくなる」


何だかんだみんなはほとんど変わっていない。
隣に居る舞園さんも楽しそうにニコニコしている。それはボクも見てて嬉しいんだけど…………。

……どうして彼女はボクの腕に抱きついているんだろう。見えない事をいいことに。


十神「それで苗木、電話で言っていた話は本当か。霧切も同じことを言っていなければ相手にしないような話だったが」

朝日奈「あ、そうだよ! 舞園ちゃんがユウレイになって出てきたんだって!? も、もしかして……ここに居るの……?」

腐川「どうせ苗木が見た幻覚なんでしょ……暑さで頭やられちゃったんじゃないの……」

葉隠「ふっふっふっ、俺には見えるぜ…………そこに舞園っちが居るのがなぁ!!」ビシッ


当然ながら葉隠クンは見当違いの方向を指差していた。



それからボクと霧切さんでみんなに現状を説明する。
途中で舞園さんに怪奇現象を起こしてもらったり、筆談をして協力してもらったりして。

それを受けたみんなはもうすっかり疑う事もなくなっていた。


朝日奈「ほ、本当にユウレイって居たんだ……!!」

『はい、私もビックリです!』

十神「本人が驚いてどうする……」ハァ

腐川「……白夜様、インスピレーションが湧き上がってきました!! これは私とユウレイになった白夜様の切ない恋物語…………」

十神「勝手に殺すな」

葉隠「つーか結婚してもあんまし変わんねーよなオメーらも」

『えっ、結婚!? 十神君と腐川さんが!?』

苗木「あ、そういえば言ってなかったっけ」

腐川「ふふふふふ……あんまり言わないでよ照れるじゃない…………!」ニタニタ

十神「その気持ち悪い顔をやめろ。さもなくば今すぐ別れるぞ」

腐川「は、はぃぃぃいい!!!」ビクッ

『あの……本当に結婚しているんですか……?』

朝日奈「あはは、まぁそう思っても仕方ないよね。でも色々あったんだよ、色々、ね?」ニヤニヤ

十神「うるさい黙れ、俺のことはもういいだろう。それより」


と、そこで十神クンはその鋭い目をボクに向ける。


十神「舞園の事は、どうするつもりだ?」

苗木「えっ……?」

霧切「……このまま何もしないという選択肢もあるという事よ。例え彼女がユウレイだとしても、ここに居るという事実は変わらない」

苗木「…………」

葉隠「そ、そうだべ!! 別に無理してどうこうするもんでもねえだろ!!」



確かにその通りだ。
ボクも心のどこかではこのままでもいいんじゃないか、という気持ちもある。

でも。


舞園「……私は、何となくこのままじゃダメだと思うんです」


彼女なら、そう言うと思った。


『このままみんなと一緒に居たい、私もそう思っています。でも、それは立ち止まっているだけだと思うんです。
 私は前に進みたい。苗木君や、みんなのように……どんなに苦しくても常に前を向いて自分の足で進んで行きたいんです。だから』


次の文字が書かれるまで少しの間があった。
その間に彼女はどんな事を思い、感じたのだろうか。

それでも、次の文字はしっかりと書き込まれる。


『私は、ちゃんと成仏したいです』


みんなが黙った。
部屋には外から聞こえる虫の声だけが広がっている。


ここで口を開かなくてはいけないのはボクだ。


苗木「葉隠クン。ユウレイを成仏させるにはどんな方法がある?」

葉隠「……そ、そりゃイタコとかにババーっと…………」

朝日奈「そんなの舞園ちゃんが可哀想だよ!!」

葉隠「分かってるっつの!! えーと……それ以外だとやっぱ…………」


葉隠クンは頭をかきながら少し考えた後。


葉隠「またこの世に出てきたって事は、やっぱり何か未練があるんじゃね? それを晴らしてやればいいべ」


とりあえず一旦ここまで
スレタイに意味なし。ただ、シリアスな所はシリアスかもしれないけど、基本的にギャグ風味で……みたいなアピール
方向的には一章につき舞園さんのお願いを二つくらい解消していくみたいな。お願いは安価で


そんな感じにゆるーく書いてくべ


未練を晴らす。
言われてみればもっともな方法だ。彼女がこうして現れたのには理由があるはずだ。

ボクは隣に居る舞園さんの方を向く。


舞園「未練……ですか」

苗木「何か心当たりはある? やり残した事とかさ」

舞園「もしかして、その私のお願いを聞いてくれるんですか?」ニコニコ

苗木「うん。ボク達が出来るだけ協力するからさ」

舞園「ありがとうございます! えっとですね、やり残した事ですか…………うーん……」


舞園さんは口元に指を当てて、楽しげに考え込む。
ただ、こうして改めて聞かれると中々浮かんでこないものなのか、その時間は長い。

まぁ、たぶんボクもいきなり何がしたいと聞かれてもちょっと困ると思う。


すると、ようやく舞園さんは顔を上げて、


舞園「……分かりました! これがきっと私がやりたかった事です!」


彼女がこの世に残した未練を、話し始める。

21:00頃に最初のお願いの安価出すべ

舞園さんのお願いは?

↓1~4のレスのどれか

↓4のレスの投稿時間のコンマ以下の数字でどのれレスを採用するか決定
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします sage 2013/08/27(火) 00:00:00.(00)←ここ

00~24→↓1のレス
25~49→↓2のレス
50~74→↓3のレス
75~99→↓4のレス



舞園「私の望みはやっぱりアイドルとして、歌でみんなに元気と夢を与える事なんだと思います。それこそが、私自身の夢でもありますし」ニコ


……そうだ、舞園さん自身も言っていた。自分がアイドルにかける強い想いを。
それほどの想いがあるからこそ、あの時はあそこまで追い込まれてしまったんだ。

それが彼女の未練、そう考えるのが最も自然だろう。

ボクはその事をみんなに伝える。
すると霧切さんは難しい顔で考え込んでしまう。


霧切「……困ったわね」

朝日奈「え、どうして? ステージの用意とかもろもろは十神に用意してもらって、後は舞園ちゃんが踊れば完璧! じゃない?」

十神「お前はバカか。もし今の舞園が衣装を着てステージ上で踊ったらどうなる」

腐川「……え、えっと、私達には舞園自体は見えなくて、でも衣装は見えるわけだから」

葉隠「空中で荒ぶる衣装だけが俺達に見えるわけだべな!!」


「「…………」」


みんなが黙り込む。
それはアイドルのステージ公演ではない。ただの夏の怪談だ。
そもそも、舞園さんの声はボクにしか聞こえないから、歌というのも無理がある。

いきなり問題にぶち当たって考えこむみんなに、舞園さんはおずおずと紙にペンを走らせた。


『あの、やっぱり無理でしょうか?』

霧切「……いえ、きっと何か方法があるはずよ。諦めてはいけない」

朝日奈「そうだよ! ほら葉隠とか何か思い付かないの? こういう時にしか役に立てないんだからさ!」

葉隠「悪かったな! うーん……そうだべなぁ…………あっ、そうだ舞園っち!」


葉隠クンが何かを思い付いたようだ。彼がこんなに頼もしく見えたのは初めてかもしれない。


葉隠「舞園っちさ…………誰かに乗り移れたりしねえ?」



空気が冷たくなった……ような気がした。


朝日奈「の、乗り移る!?」

十神「ふん……なるほどな。そうすれば確かに他の奴らにも見える。姿や声は違うが、自分で歌っているという所は変わらないだろう」

腐川「ひっ……で、でもそれ乗り移られた人は大丈夫なんでしょうね!?」

霧切「そもそも……そんな事ができるの?」


舞園さんの方を見る。彼女は困ったように首を傾げて、


『分からないです、もちろんやってみた事もないですし』

葉隠「そんじゃ、いっちょやってみるべ!」

朝日奈「ま、待って! 本気!?」

十神「舞園の為に協力するんじゃなかったのか? 言わなくても分かるとは思うが、対象は女の誰かだ」

霧切「……はぁ。自分は安全圏に居るくせに随分と偉そうね」

腐川「ちょっと! ウチの旦那様に文句付けないでよ!!」

葉隠「なら腐川っちがやるべ」

腐川「ひっ……そ、それは…………」

『ごめんなさい……私、そこまでしてもらわなくても……』

苗木「いや、舞園さんが謝ることじゃないよ。なんか危なそうだし、もっと他の」


霧切「いいわ、やってみようじゃない。私がやるわ」


霧切さんの凛とした声が部屋に響いた。
みんなすぐには反応できずに、呆然と彼女を見つめる。



苗木「き、霧切さん!?」

霧切「方法としては悪くないはずよ。あまり怯えていても仕方ないし、とにかく試してみましょう」


……ああ、そうだ。霧切さんってこういう所もあるんだった。
隣の舞園さんも不安そうな表情で、


『本当に大丈夫なんでしょうか。私、嫌です、これで霧切さんに何かあったりしたら』

朝日奈「ちょっと葉隠、安全に取り憑かれる方法とかないの?」

葉隠「無茶言うなって……つか安全に取り憑かれるって言葉的にもおかしいべ」

十神「ふん、霧切がやると言っているんだ。やらせてみればいいだろう」

腐川「そうね……コイツなら何とかなりそうだし……」

霧切「心配は無用よ、舞園さん。探偵はユウレイに負けたりしないわ」


言ってる事は凄く頼もしい霧切さん。その根拠はどこから来るのかは分からないけど。


苗木「……でも、乗り移るっていっても、どうすればいいの?」

葉隠「そんなもんはほれ、相手の背中からロジカルダイブってな!」

朝日奈「なんか曖昧すぎないそれ!?」

霧切「いいわ、やってみましょう。舞園さん、お願い」

『分かりました。霧切さんが危ないようでしたら、すぐに出ますから』


そう書き込んで、舞園さんは霧切さんの背後に回る。
霧切さんの方は静かに目を閉じて、背筋をピンと伸ばしている。
その背中を見て、舞園さんは一度大きく息を吸い込んだ後、

まるで水の中に潜るかのように、その背中へ飛び込んだ。



ベチッ!!!


……彼女の顔面はそのまま霧切さんの背中にブチ当たった。


舞園「~~~~!!!」ジタバタ


鼻を押さえて涙目になって転がる舞園さん。
アイドルとしてかなりマズイ姿だけど、これはこれでバラエティには相性がいいかもしれない。
やっぱり可愛いし。

一方で霧切さんは少し怪訝そうな表情で肩を押さえて、


霧切「何か今一瞬、微かに重くなった気がしたわ」

葉隠「お、マジか!? 乗り移ったんか!?」

腐川「じゃあ今は霧切じゃなくて…………舞園!?」

霧切「…………いえ、そんな事はないけど」

朝日奈「あ、あれ……じゃあ失敗したの?」

十神「どうなんだ、苗木」


あ、そうか。ボクにしか分からないんだ。未だに舞園さんが涙目でそこら辺を転がっているのも。


苗木「うん、霧切さんの背中に思い切り顔打ち付けて、今そこ転がってる」


全員が思わず溜息をついた。



葉隠「んー、やっぱ通常状態でってのは無理っぽいべ」

朝日奈「え、なに、変形するの舞園ちゃん!?」

舞園「ぅぅ……そ、そんなのしません……!!」ウルウル

苗木「そんなのしないって」

葉隠「違う違う、俺が言ってんのは舞園っちじゃなくて霧切っちの方だべ」

霧切「私?」

葉隠「あぁ、聞いた事あんだろ? まずユウレイってのは人の精神を疲弊させる、そうやって弱った所に取り憑くんだべ!!」

十神「弱る…………この女がか?」

腐川「そんなのありえないじゃない……こんな鉄の女…………」

霧切「失礼ね、私だって精神的に参る時はあるわ」

朝日奈「あ、それって苗木が仕事場の女の子とデートしてるの見た時とか?」ニヤニヤ

霧切「…………」ズーン

苗木「え、どうして知って…………ていうか何でそんな落ち込んでるの!?」

舞園「ど、どういう事ですか苗木君!!」

苗木「舞園さんはなんか怒ってるし!!」

葉隠「リア充爆発しろべ」

腐川「鈍感主人公なんてありきたりすぎて今更流行らないわよ」

十神「どうでもいい、とにかく霧切を何とか弱らせればいいんだろう」

葉隠「あー、いや、別にそこまでする必要はないと思うぜ。ほら、例えば寝ている間だって、十分無防備だしな」

朝日奈「つまり……寝ている時なら舞園ちゃんが霧切ちゃんに乗り移れるかもしれないっていう事?」

葉隠「んだべ」


なんだ、そのくらいなら簡単…………あれ。ちょっと待ってこの流れって。


霧切「それじゃあ、今夜はここに泊まらせてもらうわ」



+++


その後はとんとん拍子に話が決まってみんなはそれぞれ帰宅。
部屋にはボクと霧切さんとユウレイの舞園さんだけがそれぞれ残った。


苗木「ね、ねぇ、やっぱりマズイんじゃないかな。男の部屋に泊まるなんてさ」

霧切「別に大丈夫よ、苗木君だもの。どうせ何もしないでしょ?」

舞園「あ、そこは同感です」


……なんだろう、褒められているのか貶されているのか。


霧切「というか、それを言ったら舞園さんだってダメじゃない。いくらユウレイといったって、女の子なのよ」

苗木「それはそうだけど…………舞園さんは仕方ないじゃないか、ボクしか見えないんだし」

舞園「そ、そんな……私は、苗木君しか見えないなんて言った事ありませんって……///」カァァァ

苗木「いや、そういう意味じゃないってば!! ていうか分かるでしょ!?」

霧切「そうよ、苗木君は別にあなたが彼の事しか見えないという意味で言ったわけじゃない、あなたの事を彼しか見えないという意味で言ったのよ。もちろん物理的に」

苗木「霧切さんは霧切さんで舞園さんの言ったこと分かるんだ!?」


これには何度も驚かされる。本当に聞こえているかのようなんだから。
一方で本人は大した事ない様子で、


霧切「それじゃ、シャワー貸してもらうわよ」

苗木「あぁ、うん。どうぞ」

霧切「……覗かないでね?」

苗木「覗かないって」

霧切「絶対よ? 絶対覗いちゃダメよ?」


ダチョウ倶楽部か、とツッコミたいところだけど。


苗木「大丈夫、覗かないって」

霧切「…………」


霧切さんはなぜか不機嫌そうにシャワールームへと消えていった。
どうしろっていうんだ…………まさか本当に覗けっていう意味なのか。

いや、流石にそれは…………。


舞園「何考えているんですか、苗木君?」ニコ


笑顔が怖いって舞園さん。



ザァァァァ……


こうやって自分が部屋に居る時にシャワーの音が鳴っているっていうのも珍しい事だ。
なんだか……落ち着かないな。


主に右腕に抱きついていて、胸が当たっている舞園さんのせいで。


苗木「……何してるの舞園さん」

舞園「苗木君が覗きに行けないように押さえているんです」

苗木「行かないってば」

舞園「信用できません。男の子はえっちですから」

苗木「ていうかボクとしてはこの状態の方が色々マズイっていうか……その……」

舞園「何がですか?」ニコ


ダメだ、気付いていないのか舞園さん。それとも気付いていてわざとやっているのか。
どちらにしても言いづらいのは確かだ。

そして、そのまましばらく精神的にキツイ状態が続いた後。


ガチャ


霧切「ふぅ……スッキリしたわ。ありがとう、苗木君」


湯上がりの霧切さんに、ボクは少し呆然とする。いや、見惚れるというのが正しいのかもしれない。
元々白い肌がほんのりと赤くなっていて、長い髪は下ろされていて水滴がまだ若干残っている。

一言で言うとエロい。それもかなり。



苗木「いたたたたた!!!!!!」


舞園さんがボクの腕を思い切りつねった。


舞園「今えっちな事考えましたね? 分かりますよ、エスパーですから」


エスパー怖い。物理攻撃も怖い。


霧切「どうしたの?」キョトン

苗木「あ、ううん、気にしないで。じゃあ次は…………」

舞園「苗木君、お先にどうぞ」ニコ

苗木「あ、じゃあボクが」

霧切「言っておくけど、舞園さんは私とずっと筆談していてもらうわよ。苗木君のお風呂に突撃させない為にもね」

舞園「……ちっ」

苗木「舞園さん!?」


アイドルが舌打ちなんかしていいのか…………というか怖いよ。


苗木「あー、えっと、やっぱり舞園さんが先でいいよ。あれ、ユウレイってお風呂入るの?」

舞園「むっ、ユウレイだって入りますよ! ていうか入りたいです!」

苗木「わ、分かった分かった。それなら行ってきなよ」

舞園「……ふふ、苗木君。アイドルのハダカは高いですよ?」ニコ

苗木「だから覗かないってば」

舞園「ですよねー」


舞園さんは若干諦めたように肩を落としてシャワールームへと入っていった。



ザァァァァ……


これって霧切さんからすれば、いきなりシャワーの音が鳴り出したようなものなんだよね。
まさに夏の夜に相応しい心霊現象だ。まぁ霧切さんに限って怯えるような事はないだろうけど。

そもそも、霧切さんの場合は、それがどうやって起こったのかを真面目に考えて解き明かしてしまいそうだ。
一見心霊現象のように見えても、よく考えれば説明のつく事だったりするのも珍しくはない。


霧切「……舞園さんはどんな感じ?」

苗木「どんな感じって?」

霧切「ほら、私達って最後に会った時から少し時間が経っているわ。苗木君だってちょっとだけ成長したでしょ?」

苗木「ちょっとだけって…………あ、でも舞園さんもボク達と同じように少し成長してるかな。大人っぽくなってた気がする」

霧切「へぇ、そうなの。やっぱり可愛いの?」

苗木「えっ、あー……う、うん……そりゃね…………」

霧切「私とどっちが可愛い?」

苗木「…………え?」


霧切さんがじっとこちらを見据えている。
これはきっとちゃんと答えるまで解放されない。どっちも可愛いなんていうのはおそらくナシだ。


それなら…………どう答えるべきか。



何て答える? ↓1



いや、ダメだ。これは結局どっちを答えても後々痛い目にあう。


苗木「黙秘権を行使させてもらうよ」

霧切「認めないわ」

苗木「…………」

霧切「認めないと言っているでしょう、さもないとこの前捨てた本で知ったあなたの性癖を未来機関中にバラすわよ」

苗木「ちょっ!?」

霧切「安心して、苗木君。私はそれに対して偏見を持たずに接してあげようって決めているから。でも他の人達は分からないわね」

苗木「ぐっ……ぅぅぅぅ……!!!」

霧切「さぁ苗木君、いい加減楽になったらどうかしら?」

苗木「…………!!」ブルブル

霧切「…………」

苗木「…………!!!」ブルブル

霧切「…………はぁ、分かったわよ。そこまで言いたくないなら聞かない」


勝ったッ! 第三部完!!


苗木「そ、そっか、分かってくれたならいいんだ」

霧切「というか、私も何となく気付いてる。どうせ、舞園さんの方が可愛いって思っているんでしょ?」

苗木「えっ、そ、そんな事は……!!」

霧切「違うの?」ジー

苗木「あー、それは…………はっ!!」


なんだこれは、いつの間にかまた答えさせられる流れになっていたぞ! 霧切さん恐るべし!!


苗木「……その、霧切さんも可愛いよ! 可愛いっていうより綺麗って言ったほうがいいかな?」

霧切「私、キレイ?」

苗木「いやそんな口裂け女みたいに言わなくても…………うん、キレイだよ」

霧切「うん……確かに私の容姿はとても優れているとは思っていたけど……」

苗木「うわぁ」

霧切「でも、やっぱりそういうのって客観的な意見が大切じゃない? だから、苗木君にどう思われているのか知りたかったの」

苗木「そ、そっか…………いや、うん、綺麗だと思うよボクも」

霧切「思わず結婚したくなるくらい?」

苗木「それは違うよ!」キリッ


BREAK!!


霧切「ど、どうして? 男子は綺麗な女の人と結婚したいんじゃ……」

苗木「それは違うよ霧切さん。結婚において顔なんてそんな大きな事柄じゃない!! …………と思うよ?」

霧切「……じゃあ重要なのは何なの?」

苗木「うーん……いや、ボクもそういう経験ないからあまりよく分からないからさ……やっぱり相性じゃないかな」

霧切「男子はそうやってすぐ話題を下半身の方に」

苗木「ち、違う違う!! 今のは別に体の相性っていう意味じゃなくて……いや、それも大切かもしれないけど……居心地の良さって意味だよ!」

霧切「居心地の良さ?」

苗木「うん。ほら、結婚ってつまりはそれからの人生をずっと二人で歩んでいくっていう事だよね?」

霧切「え、えぇ///」


なぜか顔を赤くして目を逸らす霧切さん。


苗木「あー、それだとやっぱり一緒に居て落ち着けるかっていうのが大切だと思うんだ。当たり前の事だけどね」

霧切「……でも、長く一緒に居るなら相手は綺麗な方がいいんじゃないの?」

苗木「あはは、ボクだったらそんな綺麗な人と居ると緊張して落ち着けないよ」

霧切「えっ……!?」


その瞬間、霧切さんの顔が真っ青になる。
あれ、どうしたんだろう。ボク、何かマズイ事言った……?


霧切「そ……それじゃあ……苗木君は…………私とは結婚できないって事…………?」

苗木「……あ、いや、そういうわけじゃないよ!! もちろん霧切さんは長い付き合いだし、一緒に居て落ち着くって!!」アタフタ

霧切「でも、今…………美人と居ると緊張するって…………」

苗木「霧切さんは別だよ! というか、顔がそこまで重要じゃないっていう話であって、別に顔がいいと結婚できないっていうわけじゃないよ!!」

霧切「……じゃあ、苗木君は私と結婚してくれるの?」

苗木「もちろ」


舞園「一体何の話をしているんですか?」



……危なかった。
あのままでは勢いだけで霧切さんと結婚する事になっていた。


苗木「いや、何でもないよ舞園さん……………いっ!?」

霧切「舞園さん? そういえばシャワーの音が止まっているわね。戻ってきたの」チッ

舞園「どうかしたんですか、苗木君?」

苗木「ど、どうかしたって……それ、こっちのセリフ……だって……!!」

霧切「……?」


そこに居た舞園さんの格好は、バスタオル一枚という何とも無防備すぎるものだった。
それは彼女の体に貼り付いて、その良いスタイルを生々しく表現していた。


舞園「あ、なんかこれ、服は自分で好きなように変えられるみたいですよ! 小さい頃見ていた、変身物のアニメみたいです!」ニコ

苗木「じゃ、じゃあわざわざ何でそんな格好選んでるのさ!」

舞園「……苗木君は、嫌いですか?」

苗木「うっ……そ、それは……」


ハッキリ言うと、好きだ。好きに決まっている。
だけど、ここで素直にそれを口にするのが良くないという事くらいは分かる。


舞園「私、苗木君には色々とお世話になっていますから…………だからこうしてお礼を…………」

苗木「い、いいから!! そんなのいいから、早く」


霧切「早く服を着なさい、舞園さん」イライラ


苗木「…………え?」



やっぱり霧切さん…………見えてる?


霧切「苗木君の伸びまくった鼻の下を見れば一発で分かるわ。何かから目を逸らそうとしているくせにチラチラと見ている所も合わせてね」

苗木「ッ!!!」ビクッ

舞園「……ふふ、流石ですね霧切さん。いいでしょう、ここはあなたのその観察眼に敬意を表して引いておいてあげましょう」


すると、彼女の格好が可愛らしいピンク色のパジャマに変わった。
……はぁ。今日は一日中色々と焦ったりして、せっかくの休みだったのに全然休んだ気がしない。


それからボクもシャワーを浴びて、後は寝るだけになった。
ボクのシャワー中に霧切さんと舞園さんが二人共覗きに来たんだけど、その時の事はあまり話したくない。

で、またもや問題発生だ。


苗木「いや、だからボクは床でいいから、二人でベッド使ってよ」

霧切「それはダメよ、いくら何でも家主を床に寝かせる事なんてできないわ」

舞園「はい、苗木君が床で寝ているのに、私達がベッドで寝られるわけないじゃないですか!」

苗木「そこは男子と女子の……」

霧切「そういう問題ではないわ。やっぱりここは」

苗木「だから明らかにそっちの方が問題だって!」


先程から霧切さんと舞園さんが提案しているもの。
それは三人とも同じベッドで寝ることだった。


舞園「何も問題なんかありませんよ! 苗木君はベッドで寝られる、私達もベッドで寝られる。完璧じゃないですか!」

苗木「そもそも男女が同じベッドで寝るっていう時点で問題なんだって!」

霧切「何よ苗木君、あなた石丸君が取り憑いたんじゃないの」

苗木「石丸クンじゃなくても言うって!! とにかく」

舞園「えいっ!!」

苗木「うわっ!!!」


舞園さんに力尽くでベッドに押し倒されてしまった。情けない…………。
しかも彼女はその上でガッチリ抱きついて、こっちの身動きを取れなくしようとしている。



舞園「……わっ、シャワーの時も思いましたけど、苗木君ちょっとガッチリしましたね!」

苗木「う、うん、まぁ体鍛えておいた方がいい仕事とかもあるしね……」

舞園「むぅ、困りましたね。これでは私一人で押さえるのは難しいかもしれません」


そう言って舞園さんは霧切さんの方をチラリと見る。
といっても、霧切さんの方は舞園さんの姿も声も認識できていないはずなんだけど…………。


霧切「何よ苗木君、自分からベッドに飛び込むなんて意外とノリノリじゃない」

苗木「えっ、違うよ!! これは舞園さんが」

霧切「……ちょっと舞園さん。つまりあなたは苗木君を押し倒しているという事かしら?」

舞園「ふふふ」ニヤニヤ

苗木「き、霧切さん?」

霧切「その光景を想像するだけで腹立たしいわね…………あなただけにそんな思いはさせないわよ」


そう言うと、なんと霧切さんも舞園さんと同じように、ベッドの上でこちらに抱きつき、体を押さえつけてきた!
何これ……何なのこの状況…………。


苗木「待ってよ二人共!! 暑い!! 夏にこれは暑いってば!!!」

舞園「大丈夫ですよ、私はユウレイですから。きっと冷たいはずです」

霧切「我慢しなさい。このくらいの過酷な状況、仕事で何度も経験したでしょ?」

苗木「今は家なんだけど!?」

舞園「はいはい、もう遅い時間ですので、静かにして寝ちゃいましょうねー」

苗木「待った待った、舞園さんは今回の趣旨分かってるよね?」

舞園「大丈夫ですよ、寝ている霧切さんに乗り移ってみろ、ですよね?」


なんだ、ちゃんと覚えていたのか。
舞園さんには悪いけど、すっかり忘れてしまったとばかり思っていたよ。


苗木「それと…………霧切さん」

霧切「私は大丈夫……………いえ、あなたが抱きしめてくれていれば大丈夫よ」

苗木「今思いついたよね、それ」

霧切「何のことかしら?」


ここまで堂々としらを切れるのも凄いと思う。
すると舞園さんの方からも、


舞園「あ、私も!! 私も苗木君に抱きしめてもらえないと成仏できません!!」

苗木「……はぁ」


なんだか昼寝前の幼稚園の先生になった気分だ。こんな事言えば怒られるだろうけど。

仕方ない、とにかく無心になるんだ。
体中に当たっている柔らかい女の子の体の感触とかは完全にシャットアウトするんだ。十神クンの口癖じゃないか!!


そんなこんなで……ボクは暑さとは別の眠れない夜に苦しんでいった。



+++


「苗木君」


……声。
すぐ近くから声が聞こえる。


「苗木君」


ああ……これは聞いた事がある声だ。
でもどうして…………そっか、そういえば昨日は色々な事が起きたんだっけ。

例えそうだとしても、いつもと同じように朝は来る。当たり前のことだ。
それに、今日は仕事。朝はのんびりしていられない。

うっすらと目を開けると、早くもカーテンから淡い光が差し込んでいるのが分かる。
といっても、遅刻の時間というわけではない。ただ夏という事で、日が昇り始めるのが早いというだけだ。


そして、目の前にはボクと同じように寝転がったまま微笑んでいる霧切さん。
あぁ、これが俗にいう朝チュンというやつか。決して手は出していないけど。


霧切「ふふ、おはようございます、苗木君。そろそろ目覚ましの設定時刻でしたので、起こしてみました」ニコ

苗木「あー、うん……ありがと……ふぁ」

霧切「まだちょっと眠いですか?」

苗木「まぁね…………でも大丈夫」


こうも寝不足気味なのは何も暑さのせいだけではないだろう。

そしてこの違和感。
これもきっとボクが寝ぼけているわけではないのだろう。という事は。


苗木「……上手くいったようだね」

霧切「はい、葉隠君の読みは当たりでした。寝ている間なら、私は他の人に乗り移れるらしいです」


今目の前に居る霧切さんは霧切さんではない。
これは何も腐川さんとジェノサイダー翔のような意味ではなく、中に舞園さんが乗り移っているという事だ。


苗木「霧切さんの意識はどうなっているの?」

霧切「奥底に沈んでいる感覚ですね…………もちろん記憶の共有はできませんし、意思疎通を取る事もできません」

苗木「それじゃあ、霧切さんはまだ眠り込んでいる…………みたいな感じなのか」


霧切「……あ、あの、それで早速ですが一つ問題が。先程から試してみているんですが、その」


……嫌な予感がする。とてつもなく、嫌な予感がする!!
思わず両手で耳を塞ぎたくなってしまうが、そうは言ってられない。ただ黙って彼女の言葉を待つ。

すると。


霧切「取り憑いたのはいいんですけど、離れ方が分かりません…………」


出勤時刻まで後二時間。

俺も寝るべ。一人で



+++


未来機関。
一度は絶望に支配されてしまった世界を元に戻そうと動く組織。
希望ヶ峰学園のOBが中心となって設立したもので、こうしてかなり安定してきた今も毎日動いている。

もちろんボクもその一員なわけだけど…………。


霧切「はい、コーヒーどうぞ」ニコ

「あ、ど、ども……」

「おーい、誰かこれコピー頼む!」

霧切「はーい!! 私行きます!!」タタタッ

「えっ!?」


頭を押さえる。
ダメだ、あんなの霧切さんじゃない。現に職場の人達も彼女が何か悪いものを食べたんじゃないかと心配しているみたいだ。

舞園さんが霧切さんの体から出られなくなった。
そんなイレギュラーな事態が発生しても、未来機関は平常通り運営している。
つまりは、霧切さんもちゃんと仕事に行かなければいけないわけで、こうして何とか表向きだけでも出勤させてみた。

……素直に休ませるべきだったよなぁ。


霧切「ふふ、どうですか苗木君。霧切さんってやっぱりお仕事できそうなんで、私も精一杯やってますよ」ヒソヒソ

苗木「あー……うん。頑張って」


ボク達が働いている未来機関を見てみたいと言ったのは舞園さんだ。
まぁ、その気持ちは分からなくもないんだけど……。


「おい」


扉の近くから声が聞こえた。
すぐにそちらの方を向いてみると、そこには十神クンが不機嫌そうに立っていた。

周りの女の人の嬉しそうな声が聞こえたのは気のせいじゃないだろう。


苗木「十神クン! どうしたの?」

十神「いいからちょっと来い。まいぞ…………霧切もだ」

霧切「えっ、あ、はい!」


やっぱり十神クンにはバレるよね。
そのまま彼はボク達を人気のない場所まで連れて行き、


十神「その様子、どうやら成功したみたいだな」

苗木「うん。葉隠クンの言う通り、どうやら寝ている間なら大丈夫だったみたいだ。でも、問題があって」



大方の事情を十神クンに説明する。
彼は顎に手を当てて、俯いたまま少し考える。


十神「……俺は葉隠程オカルトに精通しているわけではないが」

霧切「な、何か分かるんですか!?」

十神「舞園、お前が成仏すれば自動的にその体は霧切に戻ってくるんじゃないか。それならば、今すべき事は変わらずお前の未練を晴らすことのはずだ」


……そうだ、その通りだ。
舞園さんのお願いを叶えてあげて彼女が成仏して、霧切さんに体が戻ってくる。十分考えられる事だ。


十神「俺はステージの用意を始めるが……舞園、その体でもいけそうか?」

霧切「えっと、ごめんなさい。やっぱり自分の体とか声とは勝手が違うんで、何日かお時間をいただけませんか?」

十神「分かった。あとお前、ここまで来るんだったらもう少し霧切らしくしていろ。何だあれは」

霧切「えっ、お、おかしかったですか!?」


舞園さんは十神クンではなく、ボクの方を見てくる。


苗木「……う、うん。霧切さんっぽくはなかったね…………」

霧切「そんな!! ではどうすれば……」

十神「まずその表情から直せ。霧切は常に不機嫌な表情をしている」

苗木「霧切さんも十神クンには言われたくないと思うけど…………あと、コピーを取ったりするのは、他の女の子の仕事だよ」

霧切「そうだったんですか……!!!」



そこまで話した時、ボクのケータイが震動を始めた。


苗木「ちょっとゴメンね。はい、もしもし苗木です」ピッ

『苗木、仕事だ。霧切も近くに居るな?』

苗木「……えっと、もしかして」

『あぁ、殺人事件だ。絶望が関係している可能性もある、我々も行くぞ』

苗木「…………了解です」ピッ


マズイ……マズイぞ…………。


十神「おい苗木、まさか」

苗木「うん……仕事だよ、現場調査の。霧切さんもね」

霧切「わぁ、流石苗木君と霧切さん! 色々な事を任されるんですね!」

十神「忘れたか、霧切はお前だぞ」

霧切「…………あ」

苗木「どうしよう……このままじゃ絶対バレるって…………」ハァ

十神「そこはお前が何とかフォローしろ、苗木。じゃあな、俺は仕事が残っている」スタスタ

苗木「あ、ちょっと十神クン!!!」


面倒な事はボクに丸投げして行ったよ…………。


霧切「大丈夫です、苗木君!!」

苗木「えっ?」

霧切「ふふ、だって私は超高校級の助手ですよ? 必ずお役に立ってみせます!!」

苗木「…………うん、期待してるよ」


どっちかっていうと、普段はボクの方が助手の立場なんだけどね。
思わずそう口に出そうだったけど、ここは黙っておくことにした。



+++


それからボク達はとある一軒家に来ていた。殺人事件の現場だ。
部屋には荒らされた形跡、割られた窓ガラス。

そして、椅子の上では男が頭から血を流して死んでいた。


苗木「…………」

霧切「きゃっ……!!」ビクッ

部下A「霧切さん? どうしました?」

霧切「あ、いえ……な、何でもないです……」


怯えるのも無理もない。
結局彼女はコロシアイ学園生活でも、一度も死体を見なかったんだ。


苗木「(舞園さん、何か理由つけてボクに任せたほうが……)」ヒソヒソ

霧切「(い、いえ、私は今霧切さんの体を借りているんです。ちゃんと役割はこなさないと!)」

部下B「ふむ……これは物取りですかね」

部下A「あぁ、金庫の中の物も取られている。この荒らされ具合を見ても…………」

苗木「それは違うよ。まず、この割れた窓ガラス」

霧切「あ、分かりました! ガラスは部屋の外にも撒き散っていた、つまり中から割られたものっていう事ですね!」

部下A「……外から割っても自分の方にいくつか飛び散るものでは?」

霧切「…………そ、そうですね、ごめんなさい」

苗木「いや、ボクが言っているのはそこじゃないよ。この部屋の中に飛び散ったガラスの方だよ」

部下B「部屋の中のガラス?」

苗木「うん。じゃあさ、犯人は外から窓を割って部屋に侵入して、被害者を殺害。その後部屋を物色して金目の物を持って行ったとするよ。
    そしたらさ、ガラスの破片は全部、この部屋に散らばっている本や家具の下に無くちゃおかしいよね?」

霧切「……あっ!! そういえばガラスは荒らされた物の上に散らばっています!!」

部下A「なっ……つ、つまり…………」

苗木「うん。窓ガラスが割れる前からこの部屋は荒らされていたんだよ」



……舞園さんがポカンとこちらを見ている。ダメだ、早く終わらせないと絶対バレる!!


苗木「おかしい所は他にもあるよ。どうして犯人は金庫の番号を知ることができたのかな?」

部下B「それは被害者に無理矢理聞いたのでは……」

苗木「でも、被害者には縛られた形跡もないし、外傷もこの頭の一撃だけだ。脅されたっていうなら少しおかしいよね?」

部下A「……た、確かに」

霧切「と、というか苗木君、そんな平然と死体に触って……」ブルブル

「「え??」」


部下の二人が同時に舞園さん……いや、霧切さんの方を向く。
ボクは慌てて、


苗木「そ、それで!!! 金庫の中からは印鑑も盗まれていたんだよね!?」

部下A「あ、はい。そうですが」

苗木「でも、被害者の財布はそのまま彼のポケットに入ったままだった。こんな場所、すぐに分かると思うけど。
    それに、パッと見渡しただけでも、ボクにでも値が付きそうって分かる物がいくつも残されている」キョロキョロ

部下B「確かに……床には高そうな宝石も落ちていますね…………」

苗木「……犯人は元々金庫の番号を知っていて、被害者を一撃で殺害。
    部屋を荒らして金庫の中身を奪ったけど、他の高価な物は無視。その後窓ガラスを割った。これって」


苗木「外部犯を装った内部犯…………じゃないかな?」


霧切「それに賛成です!!」ドヤッ



+++


霧切「いやー、まさか奥さんが犯人だったなんて……推理物ではありきたりですけど、現実でも本当にあるんですね」

苗木「そ、そうだね……ていうか舞園さんも、もう少し堂々とした方がいいよ……霧切さんとのギャップがさ……」

霧切「あ、ご、ごめんなさい」

苗木「いや、でも仕方ないとも思うけどさ。普通は死体なんて見慣れていないだろうし……」

霧切「いえ、今は私は霧切さんとして振る舞っていきますから! 頑張ります!!」


舞園さんは両手をグッと握りしめて決意を表す。

捜査中、部下の人達もいつもと違う霧切さんを見て、かなり戸惑っていた。
そこは「今回はボクの成長の為に、霧切さんはあまり手を出さない事にしているんだ!」という言い訳をしておいた。
一応は納得してくれたようではあったけど、どこまで効果があったのかは分からない。


霧切「……それにしても、凄いですね苗木君。私はあなたが言っている事に頷く事しかできませんでした」ニコ

苗木「あ、いや、そんなでもないって……いつもは霧切さんにかなり助けられてるしさ」

霧切「やっぱり……霧切さんは凄いですよね……。私なんかでは全然敵いませんよ」

苗木「そんな事ないよ!! 舞園さんだって霧切さんにはないものを沢山持ってる!!」

霧切「ふふ、そうですか? 例えば?」

苗木「えっ……えっとね…………」

霧切「……やっぱりないですよね」

苗木「だからそんな事ないってば!!」


舞園さんにはあって、霧切さんにはないもの。
それは確かにあるはずだ!



何て言う? ↓1



苗木「……そうか、分かったぞ! 舞園さんは霧切さんよりも胸が大きいんだ!!」キリッ


どうしてボクは気が付かなかったんだろう。こんな簡単な事に!
…………いや、実際は微妙な差だけど、ボクには分かる!!


霧切「…………」

苗木「……あ、あれ?」


おかしいな、舞園さんの様子がおかしい。
なんだかとてつもなく冷めた目でこっちを見ている。


霧切「苗木君のえっち」ジトー

苗木「」


しまった…………確かに考えてみれば、まるでボクが変態みたいだ。


苗木「あ、いや、ちがっ!! これはその」アタフタ

霧切「…………ふふ」

苗木「えっ?」

霧切「まぁでも、他の人だったらセクハラとしか思えないですけど、苗木君が言うなら少し嬉しいかもです」ニコ


こ、これは…………助かったのか?


霧切「それで、他にはないですか?」

苗木「へ?」

霧切「ですから、胸以外で私が霧切さんに勝っているところですって。流石にそれだけっていうのは……」

苗木「…………」

霧切「…………」

苗木「……いや、あるよ!! もうここまで出かかってるんだ!!」

霧切「…………」

苗木「…………」


霧切「もういいです苗木君のバカ!!!!!」


苗木「あっ、舞園さん!!!」


舞園さんは一度もこちらを振り返らずに走り去ってしまった。



+++


部屋には静寂が漂っている。
……遅い。いくら待っていても舞園さんが帰って来ない。
そもそも、ボクより先に帰って来ているものだと思っていたのに。


苗木「……やっぱり、アレが原因だよね」


舞園さんは、自分が霧切さんの様に役に立てなくて落ち込んでいたんだ。
だからこそ、ボクは彼女が持っている良い所を言ってあげなければいけなかった。

そりゃボクだって霧切さんに敵わないところなんて沢山ある。それこそ舞園さん以上に。
でも、全てにおいて彼女に勝つ必要なんてないんだ。霧切さんだって完璧じゃない。


完璧な人間なんて存在しない。だからこそ、人は助け合っていくんだ。


苗木「行かなきゃ」


とにかく、腰を上げる。

彼女を探せるのはボクだけだ。
いや、そんな事情がなくても、ボクが探さなければいけない。

舞園さんが行きそうな場所はどこだろう。
考えろ、閃きアナグラムでもロジカルダイブでもいい。


どこか…………ないか…………。





舞園さんの居場所は? ↓1



+++


舞園さんを探して、ボクは学園跡地まで来ていた。
といっても、校舎自体は残っていて、こうして今も目の前に堂々とそびえ立っている。

そして、予想通り彼女はここに居た。


霧切「ふふ、苗木君ならきっと見つけてくれると信じていました」

苗木「……懐かしい?」

霧切「少し。やっぱりもう使われてはいないんですか?」

苗木「うん……でも希望ヶ峰学園自体は新しい校舎を建ててまた開校したんだ。
    以前にあんな事があったけど、やっぱり今だからこそみんなには希望の象徴が必要だと思ったんだ」

霧切「そう……ですね。私も母校が無くなってしまうのは悲しいです。
    例え嫌な思い出もあったとしても、みんなと過ごした楽しい日々も確かにあったんですから」


新しい校舎は建てた。でも、ここは取り壊そうとは思えなかった。
全てを無かったことにして見ないようにしてはいけない。この校舎は戒めとしての意味もある。

ただ、やっぱりボクも心のどこかでは舞園さんと同じような気持ちもあった。みんなとの思い出を壊したくなかったんだ。


霧切「……ごめんなさい、苗木君には迷惑をかけてしまいましたね」

苗木「えっ?」

霧切「本当は分かっていたんです。霧切さんは霧切さんで良い所があって、私だって彼女に負けないものは持っているって。
    でも、それを苗木君の口から聞きたかったんでしょうね。それとこうして…………追いかけてほしかったのかもしれません」

苗木「…………」

霧切「あはは、子供みたいですね。ただ構ってほしいだけっていう……」


苗木「いいよ、ボクは何度でもキミを追いかけるし、いくらでも構うよ」ニコ


舞園さんは呆然とボクの事を見る。
そして。


霧切「…………ふふふ。ありがとうございます」ニコ


とてもいい笑顔で微笑んだ。
ただこの笑顔を見ているだけで、どんなに嫌なことでも吹っ飛んでしまいそうだ。



苗木「でも、舞園さんもハッキリ言えばいいのに。構ってほしいって」

霧切「なっ……い、言えないですよ……流石に恥ずかしいです……///」モジモジ

苗木「そういうものなの?」

霧切「そういうものなんです! ていうか、苗木君も私が霧切さんに勝ってるとこって聞かれて、胸としか答えられないって…………」ジトー

苗木「うっ……いや、他にもあるって、ほら、コミュ力とかさ! 霧切さんって結構人との間に壁作っちゃうから」

霧切「あー、確かに霧切さんってそういう所ありますね。でも、必ずしも悪いっていうわけではないと思います。
    それはすぐ壊れる絆は嫌だっていう想いから来るものかもしれませんし。まぁ、苗木君に対しては随分と積極的みたいですけどね……?」

苗木「一応高校の同期だからね。十神クン達とだって仲良いよ」

霧切「ふふ、霧切さんも霧切さんで苦労しているみたいですね。苗木君のせいで」

苗木「えっ?」

霧切「なんでもないですー。ていうか、すぐ言えるじゃないですか! それならあの時答えてくださいよ!」

苗木「はは、ごめんごめん……なぜかあの時は中々出てこなくてさ」

霧切「許しません! 罰として構ってください!!」

苗木「だからいくらでも構うってば。ていうか今まさに構ってない?」

霧切「これだけじゃダメです!! ナデナデしてください!!」

苗木「……ここで?」

霧切「ここで!」


どうやら目を見る限り本気らしい。
なんていうかむず痒いというか…………照れくさいなぁ。


苗木「えーと……これでいい、かな?」ナデナデ

霧切「えへへ……///」


手からはサラサラの髪の感触が伝わってくる。
それに思わずドキッとするけど、手は止めない。何だかんだ心地いいからだ。

それにしても、女の子は髪を触られるのを嫌がるって聞いたことあるけど、舞園さんはそうでもないのかな?



苗木「なんていうか……これ端から見たらすごい光景だよね。あの霧切さんがこんな子供みたいに甘えてるんだから」

霧切「もう、子供みたいってなんですか…………あっ!!」

苗木「ど、どうしたの?」

霧切「そういえば……これ霧切さんの体でした…………」

苗木「忘れてたの!?」

霧切「うぅ……なんだか一気に複雑な気持ちに…………もういいです、苗木君……」


そして、舞園さんは心配そうな表情で、


霧切「……霧切さん、許してくれますかね。これだけ長い間体をお借りしちゃって」

苗木「うん、大丈夫。霧切さんならきっと許してくれるよ。舞園さんの為だしね」

霧切「ふふ、それならいいんですけど。でも、やっぱりできるだけ急いだ方がいいです」


そう言って空を見上げる舞園さん。
つられるようにボクも同じようにすると、空には満天の…………とは言えなくても、まばらな星空が見える。


苗木「……舞園さんは怖くないの? 自分が消えるっていう事が」

霧切「全然怖くないって言えばウソになりますけど…………でも、やっぱりそうするべきだと私自身が思っていますから」

苗木「そっか……」

霧切「それに、こうしてまたみんなと会えましたしね。心残りもない…………はずなんですけど」


舞園さんは困ったような笑顔を向ける。
彼女の言葉に偽りはない。自分はこのままここに残るべきではないと思っている。

それなら、やっぱりボクは、ボク達はそんな彼女の願いを聞いてあげるべきなんだ。


………………。



+++


それから数日間、舞園さんは霧切さんの体で過ごした。
やっぱり違和感は拭い切れないけど、彼女なりに一生懸命霧切さんを演じようとしている。

そして、当たり前だけど歌やダンスの練習もしていた。
未来機関の支部の廊下を並んで歩きながら、舞園さんは楽しげに話す。


霧切「でも、凄いですね霧切さん! 運動神経の方も良いみたいですし!」

苗木「あー、うん。探偵にはそういうのも必要だって言ってたよ。ほら、ホームズとかもそうだしさ」

霧切「あはは、それって小説の人じゃないですかー。あ、それと声もですね!
    こっちは少し分かっていましたけど、やっぱり霧切さんって良い声してます!」

苗木「そうだね、アニメのエンディングテーマとかも歌ったんだよ。あまり乗り気じゃなかったけど」

霧切「えっ、本当ですか!?」


すれ違う人達がこちらを振り返るのが分かる。
まぁ、霧切さんがこんなに楽しそうに笑っているのを見れば当然だろうし、そもそも会話の内容がおかしい。


苗木「(舞園さん、少し声落とそう……)」ヒソヒソ

霧切「す、すみません……」


プツッ


軽い音が聞こえた。放送が入った音だ。
という事はたぶん…………。


十神『連絡事項だ。特に寂しく暮らしている独身の男共には朗報だろう』


「んだとコラァァ!!!!!」
「クソ、このかませメガネ!!!!!」
「イケメンは人生強制シャットダウンしろ!!!!!」


未来機関の中も中々の絶望で溢れているようだ。主に独身男性の。



構わず十神クンは続ける。
というか、そもそもこの独身男性の叫びは向こうには届いていないんだけども。


十神『次の日曜日、東京ドームにて霧切響子のソロステージを開催する。
    これは、滅多に見られない霧切の姿を拝みたい哀れな醜い男共にチケット優先的に売ってやる、という話だ』


また十神クンは煽るような事を言って…………と思った瞬間。


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」


まるで地鳴りのような歓声があがった。
それは、ここの廊下だけではなく、他の所でも同時多発した結果だろう。

思わずボクも舞園さんも全身をビクッと震わす。


「見直したぞ十神ィィ!!!」
「流石十神だ!!! ただのかませとは格が違った!!!」
「お前こそ超高校級のかませだ!!!!!」


もう何ていうか、最後とか明らかに貶してるよね。十神クン本人が聞いてなくて良かった。


そう、これは舞園さんのステージの宣伝だ。
十神クンの力もあって、それは東京ドームを貸し切って大々的に行うことになった。

そのキャパに相当する来場者は望めるのか、という心配は無用だ。
未来機関は希望ヶ峰学園と並んで、一般の人達にとって希望の象徴として位置していて注目度も高い。
その中でも霧切さんと言えば男の人からの人気が絶大で、それこそアイドル並だったりもする。これを本人に言うと嫌がるんだけど。

そんな彼女のステージともなれば、おそらく数分でチケットは完売、プレミアがつく事になるだろう。

一般への発表はまだしていない。
その前にこうして未来機関内でみんなの反応を見てみたわけだけど…………正直想像以上だ。
これは一般への発表の方法とかも良く考えないと色々と混乱が起きたりしそうだ。


「霧切さん!!! 俺行きますから、絶対行きますから!!!!!」
「頑張ってください!!! 応援してます!!!!!」
「ヒールで踏んでください霧切さん!!!!!」


霧切「ふふ、ありがとうございます。楽しみにしていてくださいね♪」ニコ


流石舞園さん。こういう状況には慣れているのか。
その笑顔は完璧で、この男の群れを前にしても崩れたりはしない。

そして。


「あ、苗木も居るぞ!!!」
「おいお前ら、苗木には絶対にチケット買わせるんじゃねえぞ!!!」
「ハーレム野郎に死を!!!!!」


散々な言われようだ。もう何か慣れたけどさ。


十神『チケットはウェブで販売する。十分後に未来機関のサイトの職員ページから購入できるようになるぞ。せいぜい必死に更新ボタンを連打するんだな』


その言葉の直後、ドドドドドドドドドドといういくつもの足音と共に、男達が全員パソコンの前に着席する。
それはサバンナの草食動物の群れのようでもあった。

ていうか、これってこの支部だけじゃなくて、本部からの未来機関全体への放送だよね。サーバー大丈夫なのかなぁ。



**********************


【未来機関】霧切響子 Part7654

774:名無しを捨てちゃダメだ
俺もチケット買えなかった死ぬしかない

775:名無しを捨てちゃダメだ
絶望した

776:名無しを捨てちゃダメだ
お前ら本気出しすぎだろ。何分で完売したんだよあれ

777:名無しを捨てちゃダメだ
ヤフオク今どのくらい?

778:名無しを捨てちゃダメだ
つか未来機関で取り過ぎだろ。俺ら絶望させてどうすんだ

779:名無しを捨てちゃダメだ
あんだけアクセス集中したのに落ちなかったのはすげえな

780:名無しを捨てちゃダメだ
>>777
500~600

781:名無しを捨てちゃダメだ
肝臓ってどのくらいで売れるの?

782:名無しを捨てちゃダメだ
>>779
ちーたん最強


************************


苗木「…………」カチカチ


マウスのクリック音と、扇風機の風の音、シャワールームからの水音が部屋に響く。
そして、そこにボクの溜息が加わった。


苗木「はぁ…………どうしようこれ」



このままではチケットを手に入れるために何かやらかしそうな人も出そう…………というか出てる。
具体的にはスレに書いてあるように臓器を売ろうとしたり、はたまた家を売ろうとしたり。

あまりの混乱っぷりに、なぜかボクが呼ばれて上からこっ酷く叱られた後、事態の収拾を命じられた。
実際に放送を流したのは十神クンなのに……。

とにかくケータイを取り出して十神クンにかける。


十神『なんだ苗木。チケットの件なら』

ジェノ『お、まこちん!? おいおいおいぃぃ、愛の営み中に電話たぁ、いい度胸だなぁ!!!』

苗木「えっ、あ、ご、ごめん!!! かけ直すよ!!!」アタフタ

十神『ふざけるなそんな事するか!!!』ドカッ

ジェノ『いたあああっ!! ぎゃははははは、DV受けてるあたし!!! 早くも家庭崩壊って感じィィ!?』


何だ……本気で焦っちゃったよ。
結婚してるんだし、本当にしててもおかしくないし…………。


苗木「えっとさ、十神クン。それで例のチケットの事なんだけど」

十神『それは何度も言っているぞ、手に入れられなかったグズが悪い』

苗木「でもさ、ほら、もっとキャパあるところとか……」

十神『以前の絶望の事件で日本には東京ドーム以上の施設は無くなった。これ以上となると海外になるぞ』

苗木「……ダメ、か。だけど、チケット買えなかった人が本当に何するか分からないんだよ。臓器売ったりさ」

十神『ふん、金の集め方は人それぞれだ。俺達が口を出す事ではあるまい』

苗木「流石に法律違反は見逃せないってば」


そのまましばらく十神クンと話したけど、結局良い案は思い浮かばなかった。
仕方ない、もう監視を厳しくするくらいしかないかな。

ケータイを置いたその時、シャワールームから霧切さん……じゃなくて舞園さんが出てくる。
服はきちんと着ている。まぁ元々霧切さんの体なんだから当たり前だ。


霧切「苗木君、シャワーどうぞ!」ニコ

苗木「う、うん…………ていうかさ、今は霧切さんなんだから、ここに泊まる必要ないんじゃない?」

霧切「ダメです、苗木君のアパートに泊まらないと成仏できません。確信があります!」

苗木「本当に?」

霧切「エスパーですから」


彼女のいつものセリフに溜息をつくと、ボクはシャワールームへと向かった。
まぁでも、前よりも密着してくるような事は少なくなったからまだ精神的にはマシだ。



+++


そしてやってきたライブ当日。
夜の東京ドームは凄まじい程の熱気に包まれていて、外にはチケットを手に入れられなかった人達も集まっている。

ここは控室。目の前にはかなり露出の多い衣装を身にまとった霧切さん……の姿をした舞園さん。


霧切「ふふ、どうですか?」ニコ

朝日奈「カワイイ!!! すっごくカワイイよ!!! うわー、いいなー!!!」

腐川「ふ、ふん……まぁまぁじゃないの……」

葉隠「つ、つーかそれ……見えんじゃね?」

朝日奈「葉隠…………」

葉隠「えっ、だってそう思うだろ! なっ、苗木っち!?」

苗木「ボ、ボクに振らないでよ!!!」

腐川「苗木も顔赤くして目を逸らしている辺り……葉隠と同類ね。これだから男って…………あっ、白夜様はもちろん別です!!」

十神「うるさい黙れ誰も聞いていない」

霧切「分かってますって、苗木君がえっちだって事くらい。でも残念、これって見えそうで見えないようにって計算されていますから」

苗木「えっちって…………」

葉隠「なっ……見えないんか!? ホントに!?」

霧切「えぇ。本当に見えちゃったら色々台無しじゃないですか」

葉隠「いけ苗木っち!! 『それは違うよ!』だべ!!!」

苗木「そんなポケモンみたいに命令されても言わないよ」


すると十神クンがジロリと舞園さんの方を見て、


十神「それより舞園。俺がこれだけ手を回したんだ、失敗は許さんぞ」

朝日奈「ちょっとぉ、プレッシャーかけてどうすんのよ!」

霧切「ふふ、大丈夫ですって。それより、私とってもワクワクしているんです、こうしてまた大勢の人の前で歌って踊れるなんて!」

腐川「イカれてるわ……あたしだったら発狂して死ぬわ」

葉隠「まず腐川っちだったらこんだけ人が集まんないべ」

霧切「そんな事ありませんよ、やってみれば腐川さんだってきっと楽しめるはずです!」ニコ

腐川「ひぃぃ……何よその眩しい笑顔は、私を焼き殺す気!?」

苗木「あ、あはは……でも、舞園さんに喜んでもらえて何よりだよ」

霧切「はい!! 今回は本当に、ありがとうございました!!」ペコリ

十神「礼はこのステージを成功させてからにしろ」

朝日奈「大丈夫だよ、舞園ちゃんなら! うわー、私も楽しみー!!」


もうすぐでステージが始まる。
これで彼女は未練を晴らして、成仏する。霧切さんに体が戻ってくる。


ボク達は控室を出て少し歩く。
元々会場までの距離はそんなにないけど、実際以上に短い。そんな気がした。

通路の向こうからは沢山の人達の歓声が聞こえる。


もしかしたら、こうして舞園さんと話せるのはこれが最後になるかもしれない。


十神「……時間だ。行ってこい舞園」

霧切「はいっ!! みなさんもちゃんと見ていてくださいね!!」

葉隠「おう!! 俺はまだサービスシーンの可能性を信じてるからな!!」

朝日奈「葉隠……あんまり変な事言ってると私が引っ張りだすよ。舞園ちゃん、頑張ってね!!」

腐川「筆が乗れば次の小説のネタにしてあげるわ……」


苗木「ま、舞園さん!!!」


思わず大声を出してしまった。
みんな、何事かとこちらを向く。しまった、何を言おうか考えていない。

ただ、なぜか必死だった。
何でもいい、何かを言わなければいけないと思った。自分でもよく分からない。


それでも、彼女はいつもの笑顔で、


霧切「苗木君も見ていてくださいね? あなたには特に見てほしいんです」ニコ

朝日奈「わぁぁ、苗木めー!! 相変わらず罪な男だねこのこのー!!」ニヤニヤ

苗木「あ、えっと、もちろん見てるよ!!! だからさ……その、頑張ってね!!!」

霧切「はいっ!」


…………これでいいのか。
疑問は残る。それでも時間は待ってはくれない。

彼女は笑顔でこちらに手を振ると、会場へ入っていった。

観客の声が一斉に大きくなり、ビリビリと辺りに伝わる。


腐川「何よこれ……地震か何か?」

葉隠「はっはっはっ、そりゃ腐川っちはこういうの初めてだかんな! ビビるのも仕方ねーべ!」

苗木「…………」

十神「おいどうした苗木。俺達はこっちだ」

朝日奈「そうそう、私達も舞園ちゃんの晴れ姿見ないと!!」



そこはステージから近い、この上ない特等席だった。
会場を包む熱気、声援。それらが合わさって、このドームが一つになっている、そんな印象を受ける。


彼女の歌とダンスが始まった。


直後、会場のボルテージは最高潮まで高まる。
その歌声は聴いているだけで心が晴れ渡り、その踊りは見ているだけで自然と心も体も軽くなる。
それが霧切さんの声と体でも、ボクは確かに舞園さんの事を感じる事ができた。

ステージの上の彼女はとても楽しそうだ。
あの笑顔は見ている人達も笑顔にして、幸せにする。そんな力がある。
彼女は今どんな事を考え、想い、歌っているのだろうか。


いつまでも終わらないでほしい。ずっと見ていたい、聴いていたい。
彼女のステージはそう思わせる程の素晴らしいものだった。


+++


霧切「どうでした、どうでした!?」


楽しい時間はあっという間に過ぎていって控室。
舞園さんはまだ興奮冷めやらぬ状態でボク達に聞いてくる。答えはもちろん。


朝日奈「すっっっごく良かったよ!!! いや、もう、ホント……言葉で言えない程最高だった!!!!!」

葉隠「あぁ……俺もうパンチラとかどうでも良くなってたべ」

腐川「……初めてこういうの見たけど、案外悪くないものじゃない」

十神「少なくとも俺が動いた価値はあったと言ってやろう」

霧切「えへへ……ありがとうございます! あ、苗木君は!?」

苗木「うん、もちろん凄く良かったよ!! ボクも感動した…………んだけどさ」

霧切「えっ……も、もしかしてどこか気に入りませんでしたか!?」

苗木「いや、そういうわけじゃなくて……ほら…………」


苗木「舞園さん、全然成仏する気配なくない?」

寝るべ。そろそろ次のお願いだべ



「「………………」」


沈黙。そして。


霧切「い、言われて見れば…………テンション上がりまくっただけで全く消える感覚ないですね…………」

十神「なんだ……ここまでしたのに違うというのか」

朝日奈「ちょ、ちょっとそんな言い方やめなよ! 仕方ないって舞園ちゃん、また別の方法を探していこ?」

腐川「でも、その体はどうするわけ? 霧切のでしょそれ」

霧切「そ、そうですよね!! もうこれ以上霧切さんの体を借りているわけには……」


…………。

舞園さんの未練とはこれじゃなかったのか。それはハッキリ言えない。
でも、ボクは。


苗木「…………」

朝日奈「もー、苗木はなんかぼーっとしてるし! あ、そうだ葉隠!! 何かないの霧切ちゃんの体が戻ってくる方法!!」

葉隠「結局俺に振るんかよ!! んー…………ビックリさせる、とかはどうだべ?」

十神「そんな簡単な事で戻るのか?」

葉隠「ない話ではないべ。誰かに取り憑くってのはユウレイ自身の状態も重要だ、それなら安定状態を崩してやればいいんだべ!!」

腐川「とりあえず試してみればいいんじゃない……こうやって本人の前で言った事で難易度上がったけど」

霧切「え、ビ、ビックリさせる…………?」

朝日奈「!!」


急に朝日奈さんが何か閃いたような顔でこっちを見てきた。


苗木「え、えっと……朝日奈さん? どうしたの?」

朝日奈「えへへー、苗木苗木、ちょっと舞園ちゃんの前に立って?」

苗木「なんで……」

朝日奈「いいからいいから!! ほらほら」


押されるがままに、舞園さんの前に立たされる。
こうして近くから見ると、歌とダンスで上気する体や汗がよく見えてドキッとする。



霧切「そんな見つめられると……照れます///」

苗木「あ、ごめん!!」

腐川「なに典型的なラブコメやってんのよ……」

十神「おい朝日奈、こんな事に何の意味がある?」

朝日奈「まぁまぁ。ほら苗木、このタオルで舞園ちゃんの汗を拭ってあげよ?」ニコニコ

苗木「えっ!?」

霧切「そ、それは流石に恥ずかしいです!///」

朝日奈「いいからいいから、舞園ちゃんも嫌ではないでしょ?」ニヤニヤ

霧切「……もちろん嫌ではない…………ですけど…………///」

葉隠「霧切っちの顔であの照れ具合はヤバイべ。思わず苗木っちは呪殺したくなってきたぞ」

苗木「……分かったよ、これで霧切さんの体が戻ってくる可能性があるなら…………」


ボクも他に考えが浮かぶわけでもない。それなら朝日奈さんの考えに乗ってみるしかないだろう。
いや、決して自分からこういう事をしたいっていう気持ちは…………なくもないけど。

緊張しながら舞園さんに近付いて、手にしたタオルで汗を拭っていく。
辺りにはなぜか緊迫した空気が流れる。なにこれ、何のプレイ?


霧切「んっ……なんだか、ちょっとくすぐったいです」

苗木「あ、ご、ごめん!!」

霧切「いえ……気持ちいいですよ」ニコ

十神「朝日奈。俺はいつまでこのメロドラマを見せ続けられないといけないんだ?」


朝日奈「とお!!!!!」


ドンッ!! と背中を思い切り押された。


チュッ


苗木「!!!!!」

霧切「……んっ!」



やった…………やってしまった…………。
彼女の顔の汗を拭っていたから、ボクと彼女の顔の距離は自然と近い所にあって。
そんな時にいきなり背中を押されたものだから。

ボクと彼女の距離がゼロになった。
唇には柔らかい感触。


これは。


霧切「……え?」

苗木「なっ……あ…………!!」

霧切「あ、あわ……あわわわわ……………//////」カァァァ


彼女の顔が真っ赤になる。
当然だ、絶対ボクも同じような感じになっている。


だって、ボク達は今……キ、キスを…………。


ボンッ!!!!!


舞園さんが爆発した。しかも、これは比喩的な表現じゃない。
本当に霧切さんの体を中心とした爆発が起きたんだ。


苗木「舞園さん!?」

葉隠「おっ、何か起こったんか苗木っち?」


どうやらボク以外には今の爆発も見えていないらしい。
そして、その煙が晴れると。


舞園「…………あ、あれ?」キョトン

苗木「…………戻った」

十神「なに? 本当か苗木」

苗木「うん!!! 舞園さんが出てきたよ!!!」

朝日奈「やったー!!! 大成功!!!」

苗木「あ、朝日奈さん……でもいきなりあんな事…………」

朝日奈「あはは、いいじゃんいいじゃん! 無事に舞園ちゃんが出てきたんだからさ! それに、苗木だって嬉しかったくせにー」ニヤニヤ

苗木「うっ……そ、それは……!!」

腐川「ねぇ、それで霧切の方はどうなのよ? ぼーっとしてるけど」


慌てて霧切さんの方を見る。
確かに焦点の定まらない目で、ぼんやりと前方を見つめている。



苗木「……霧切さん?」

霧切「苗木……君……? あれ、私…………」ボー


そっか。ここ数日間、ずっと彼女は眠っていたんだ。
それが急にこうしてまた出てきて、混乱しないわけがない。


舞園「あ、霧切さん、すみませんでした!! こんな長い間体をお借りしてしまって!!」

苗木「えっと、舞園さんが、ずっと体借りていてすみませんでした、だって……」

霧切「…………そう。確か私は舞園さんに協力する為に体を」


霧切さんは俯いて考え始める。
こんな彼女を見たのも随分と久しぶりな感じがした。


霧切「それに、私のこの格好…………なるほど、舞園さんのお願いはちゃんと叶えてあげたのね?」

苗木「う、うん。もっとも霧切さんのお陰だけどさ」

霧切「でも何日か体を借りるなら一言くらい…………言えなかったのね? もしかして離れ方が分からなかったとか?」


流石霧切さん。説明しなくても勝手に理解していく。


十神「あぁ、その通りだ。だからこうして願いを叶えて成仏させてやる事を優先したんだが…………」

霧切「そう……それでいいわ。それなら舞園さんは、もう」

苗木「……いや」

霧切「えっ?」

苗木「その、成仏…………できなかったんだ。今もここに居るよ」



霧切さんは少し驚いた表情をして、それからすぐに元の思慮深い表情に戻る。


霧切「……舞園さんの未練はこれではなかった。もしくはまだ他にある」

苗木「うん……たぶんね」

腐川「まぁ……やり残した事が一つだけとは限らないしね……。あたしは幸せすぎて今死んでもいいけど、うふふ」

十神「こっちを見るな」

葉隠「んー、確かに俺だったら未練なんつーもんは一つに収まらないべな……」

舞園「その、すみません……ここまでしていただいたのに……」

苗木「そんな、舞園さんが謝るような事じゃないって!」

霧切「そういえば、成仏できなかったのなら、結局どうやって私と彼女を離したの?」

朝日奈「えへへ……それはねぇ……」ニヤニヤ

舞園「//////」カァァァ

苗木「あああああああああ!!!!! よし、そんな事より次の舞園さんの未練を考えよう!! それがいいよ!!!」

霧切「ちょっと苗木君? 今明らかに誤魔化したわよね?」


とにかくこれは話してはいけない、その確信だけはあった。


こうして、舞園さんの最初のお願いは叶ったけど、成仏はできなかった。
でも、焦ることはないはずだ。こうして確実に一つずつ彼女のお願いを聞いていけば。

いつか、必ず。



+++


ボクと舞園さんはアパートに戻ってきていた。
そういえば、こうして彼女の姿を見るのも随分と久しぶりな感じがする。


舞園「ふふふ、あー、とっても楽しかったです!」ニコニコ

苗木「うん、来ていた人達もみんな本当に楽しそうだったよ。やっぱり舞園さんは凄いよ」

舞園「これもみなさんのお陰ですよ。本当にありがとうございます!」

苗木「はは、気にしなくていいって。みんなキミの願いは叶えてあげたいって思っているんだ」

舞園「お願い…………ですか」


舞園さんは考え込んでしまう。
そうだ、今回の件で彼女は成仏する事ができなかった。それなら、他に叶えてあげなければいけないお願いがあるはずだ。


舞園「といってもあまり浮かばないんですよね……ほら、やっぱり私にとって一番はアイドル活動でしたし……」

苗木「うーん……一番、っていう事でもないんじゃないかな。どんな小さな事でも、やり残したって後悔しているならそれはそれで未練なんだし……」

舞園「なるほど…………うーん…………」


舞園さんは再び考えこむ。
人間というのは大小様々なやりたい事を抱え込んでいるものだ。それは三大欲求からごく小さなものまで。
その中で取捨選択して、成仏するために必要だと思われるお願いを叶えていく必要がある。


舞園「……あ、そういえばこれもやり残しました!!」



舞園さんのお願いは?

↓1~4のレスのどれか

↓4のレスの投稿時間のコンマ以下の数字でどのれレスを採用するか決定

20~29、50~59、80~84:↓1のレス
35~39、60~69、90~99:↓2のレス
00~09、30~34、70~79:↓3のレス
10~19、40~49、85~89:↓4のレス



舞園「ズバリ、デートです!!!」ドーン


人差し指を天井に向けて、堂々と言い放つ舞園さん。ていうか近い、近いって。


苗木「え、えっと……でも舞園さんならデートの一度や二度くらい……」

舞園「ふーんだ、どうせないですよー。ほら、私仕事の方で忙しくてそんな暇無かったですし」

苗木「そうなの? なんか週刊誌とかだと色々ウワサとか書かれてたけど?」

舞園「あんなのデマですよデマ!! もう、ホント好き勝手書くんですよねああいうのって!!」


頬を膨らませてプンプンと怒る舞園さんは可愛い。
そして、そのデマという事を聞いてどこか安心しているボクも居るわけで。


苗木「……じゃ、じゃあ、次はデートっていう事で考えようか。まず相手だけど」

舞園「そんなの苗木君に決まっているじゃないですか」

苗木「えっ!?」

舞園「だってほら、私の事見えるのは苗木君だけですし」

苗木「……あ、あはは、そうだよね、うん」


非の打ちようのないほどもっともな理由だ。何もおかしくはない。


舞園「それに私達、キスまでしちゃいましたしね?」ニコ

苗木「ぶっ!!! ちょ、そ、それは色々事情があって」

舞園「でもした事には変わりないですよね? あれ、私の初めてだったんですけど」ニコニコ

苗木「……うっ、その、ごめんなさい」

舞園「あはは、どうして謝るんですか。私は嬉しかったですよ、相手が苗木君で」

苗木「!!!」

舞園「……とか言ってみたり」


ダメだ、完全にからかわれている。


苗木「でもさ、あの時の体って霧切さんだったよね? それってファーストキスにカウントされるのかな?」

舞園「…………そ、そういえば」

苗木「どっちかっていうと、霧切さんの方でカウントした方がいいんじゃないかな。彼女が初めてかどうかは知らないけどさ」

舞園「そんな……!!! な、苗木君、もう一度私とキスしてください!!!」ズイッ

苗木「うわっ、お、落ち着いてよ!!!」

舞園「落ち着いてなんかいられません!!! 霧切さんは苗木君とキスしたのに、私はしていないなんて!!!」



+++


次の日、未来機関。昼休みの食堂。

昨日の霧切さんのステージの興奮はまだ冷めやらぬ状態で、男を中心に浮き足立っている印象を受ける。
そして、霧切さん本人はというと、


霧切「……改めて思い返すと、流石に露出しすぎなんじゃないかしら、あの衣装」

舞園「そんな事ないですって! あれくらいがちょうどいいんです!!」

苗木「あれくらいがちょうどいいんだってさ」

霧切「はぁ……そもそも私のキャラに合っていないじゃない。まぁ、でも舞園さんの為だし、仕方ないけれど。それで、苗木君」

苗木「ん?」

霧切「あなたからの感想を聞いていなかったわね。苗木君は昨日の私の姿はどう見えた?」

苗木「えっ……そ、そりゃ……凄く可愛かったよ…………うん」

霧切「……そ、そう。ならいいわ///」

舞園「…………」ジトー


霧切さんは顔を赤くしてそっぽを向いてしまうし、舞園さんはなぜか不機嫌そうな目で見てくるし。
そんな二人に挟まれて、なんだかとてつもなく居心地が悪い。

すると霧切さんは気持ちを落ち着けるためか、コーヒーを一口飲んで、


霧切「それで、次の彼女のお願いは聞いたのかしら?」

苗木「うん、デートがしたいんだって」

霧切「……デート?」ピクッ

苗木「ほら、舞園さんって仕事が忙しくて、そういう暇もなかったみたいでさ」

霧切「ちなみに聞くけど…………相手は?」

苗木「そりゃボクしか居ないじゃないか」


ガンッ!!!

>>161>>162の間抜けたわ



そのまましばらくジタバタと舞園さんと格闘を始める。
いくら何でも、こんなノリみたいな勢いでキスとかはダメだ。彼女のためにも。

少しして、彼女は肩で息をしながら、


舞園「うぅ……苗木君はそんなに私とキスしたくないんですね…………」ウルウル

苗木「そ、そういう事じゃないってば!! ほら、それよりも今はデートの事でしょ?」

舞園「それよりもって…………あ、デートプランは苗木君に全部任せますよ」

苗木「えっ……」

舞園「こういうのは男の人が考えるものです! それに、苗木君はデートの経験があるんでしょう……?」ジトー

苗木「うっ……い、いや、でもあれは仕事場の人で……」

舞園「でもしたんでしょ、デート? あ、もしかしてそれ以上も!?」

苗木「してないよ!! デートだけだよデート!!」


以前に仕事場の女の子の勢いに押し切られる形でデートをした事はあるけど、ガチガチに緊張して大変だった。
それに、後からそれを知った霧切さんなんかは、なぜかしばらく口をきいてくれなかったし。


舞園「ふんっ、じゃあ楽しみにしていますよ。デートに慣れている苗木君?」

苗木「慣れてなんかないってば……」


そんな感じに、次のお願いはデートという事に決定した。
最初のものよりは難易度は下がったんだろうけど、これはこれで難しいなぁ……。

>>162から


コーヒーカップが結構な強さでテーブルに置かれた。
周りの人達も何事かとこちらを振り向き、ボクも思わず全身を震わせる。


「……まさかケンカか?」
「いいぞいいぞ、苗木め! 嫌われちまえ!」
「あんま期待すんなって、どうせ痴話喧嘩だ」


周りからわずかに聞こえてくる声も気になるけど、それより。
今は目の前の霧切さんの笑顔が恐ろしい。


霧切「なるほど、つまり苗木君はそのデート上級者の実力を活かして、舞園さんを楽しませる、というわけね?」ニコ

苗木「じょ、上級者って……ボクはそんな……!!」

舞園「へぇ……やっぱり上級者なんですか苗木君……」ジトー


ど、どうすればいいんだこの状況…………。


霧切「……いいわ」フゥ

苗木「へ?」

霧切「それが彼女の願いというなら、私は何も口を出さないわよ。ちゃんと楽しませてあげなさい」

苗木「う、うん……分かった…………あれ、霧切さん?」


彼女はさっさと席を立って行ってしまった。あれ、怒ってるよね?
いや、でも舞園さんの願いなら仕方ないとも言ってたし…………どういう事なんだろう?


舞園「女の子は色々と複雑なんですよ」


ただ舞園さんのそんな言葉だけが耳に残った。



+++


夜。仕事が終わった後もボクは部屋で頭を悩ませる。
その理由はもちろん、舞園さんとのデートの事だ。


舞園「苗木君ー? 味付けの好みってありますー?」

苗木「…………」

舞園「聞いてないし……それじゃ、とりあえずラー油入れときますか」


何かを炒める音が聞こえるけど、そこまで気を向ける気にならない。
デートプランを考えるなんて、普段の仕事以上にやっかいだ。

ここは、誰かからアドバイスとか貰った方がいいかな…………。



誰に聞く? ↓1

誰だべ



うーん……あまり気は進まないけど、彼に相談してみようかな。
少なくともバカにしないで真面目に聞いてくれるはずだし。

そう決めると、舞園さんに聞かれないようにベランダに出てケータイを取り出す。


プルルルルルル…………ピッ


狛枝『もしもし、苗木クン? あはは、嬉しいなぁ!! 超高校級の希望であるキミが、ボクなんかに連絡を取ってくれるなんてさ!!』

苗木「こ、こんばんは。ちょっとキミに相談したい事があってさ」

狛枝『相談? キミからボクに相談? …………ごめん、悪いけどキミが対処できない問題にボクが入り込める余地なんてないよ……』

苗木「いや、だから何度も言ってるけど、ボクはそんな大層な人間なんかじゃないって…………幸運の才能だってキミの方が強いじゃないか」

狛枝『江ノ島盾子を打ち倒したのに、大層な人間じゃないって?
    あはははははははははははははははは!!! 流石苗木クンだ!!! そんなものは超高校級の希望であるキミからすれば大した事ではないんだね!!!!!』


ダメだ。狛枝クンは相変わらずのようだ。
彼の面倒は日向クンに頼んであるけど…………まぁ絶望から元に戻っただけでもまだマシなのかな。

これはこれで変わってもらわないと、後々マズイ事になりそうだけど。


苗木「え、えっと、とにかく聞くだけ聞いてほしいんだ。実はボク、今度女の人とデートする事になって、そのプランを考えなければいけないんだ。
    でもボクってそんなものを考えた事がなくて、何かアドバイスを貰えたら嬉しいんだけど……」

狛枝『デート…………霧切さんだね!? 先日のライブはテレビで観たけど、希望溢れていて素晴らしかったよ! まさにキミに相応しい人だ!!』

苗木「いや、霧切さんではないんだけど……」

狛枝『えっ、そうなの? あ、分かったよ。キミはそうやって他の女の子とデートする事で霧切さんに絶望を与えて、それを乗り越えさせて更なる彼女の希望を引き出そうとしているんだね!!!』

苗木「そんな事しないってば!!!!!」


なんで凄まじい発想ばかり出てくるんだ彼は。



苗木「あー、それで何かアドバイス貰えないかな? 相手の子は明るくて、あと歌とか踊りが好きかな」

狛枝『苗木クン、ボクにデートのアドバイスなんかできるわけないじゃないか!! こんなボクとデートしてくれる人がこの世にいると思うかい?』


そうかなぁ……美形で高身長ってモテる要素は揃っていると思うけど。
性格も希望大好きな所を除けば普通だと思うし……。


狛枝『うーん、でも畏れ多くもこのボクがキミにアドバイスさせてもらうとすれば』

苗木「なになに?」

狛枝『やっぱり場所は希望溢れるような所がいいよね!!』


希望溢れる…………ネズミーランドとか?
まぁベタだけど失敗はないって感じなのかな。

とりあえずそこまで聞いて、狛枝クンの希望トークを打ち切ってケータイを閉じた。


さて、と。これだけじゃまだ心もとないかな。
誰か他にデートのアドバイスを聞けそうな人は……。



誰に聞く? ↓1



よし、ここはやっぱり結婚している十神クンにアドバイスを貰おう!


プルルルルルル……ガチャ


十神『なんだ。舞園関係か?』

苗木「うん、遅くにごめんね。実は――」


とりあえず現状を説明する。
彼は特に口を挟まずに、最後まで聞いてくれた。


十神『……なるほどな。それで俺にアドバイスを求めてきたのか』

苗木「うん、十神クンは結婚しているし、そういう事もよく知ってるかなって。…………一応聞くけど、デートはしてるよね?」

十神『ふん、あんな奴でも十神一族の復興には必要だ。それなりの見返りは与えている』

苗木「そ、そっか、安心したよ…………それで、どんな感じのデートをしているの?」

十神『図書館だ』

苗木「……図書館?」

十神『あぁ、図書館はいいぞ。二人で出かけているという事実を作った上で、会話はほとんど必要ない。自分の作業に集中できるしな』


それって……なんか間違っていないか?
いや、図書館デートっていうのはあると思うけど……。


苗木「ほ、他には? ほら、ジェノサイダーの時とか!」

十神『ゲームセンターだ』

苗木「えっ、ゲーセン? ちょっと意外だな、十神クンが……」

十神『もちろん俺はあんな低俗な所は入らん。アイツ一人に入らせ、勝手に遊ばせる。爽快感があるゲームが好きだとかは言ってたが、俺には関係ない』

苗木「そ、そっか…………」


なんだろう……それでいいのか?
ボクは若干疑問に思いながら、お礼を言って通話を切った。



さて、と。これで二人分のアドバイスが集まった。
最後にあと一人くらいからアドバイスを貰って、それからは自分で考えようかな。

他に良いアドバイスが聞けそうな人は……。



誰に聞く? ↓1



そうだ、九頭龍クンはどうだろう。
彼にだって辺古山さんという恋人が居るし、きっと良いアドバイスを貰えるはずだ!


プルルルルルルルル……ガチャ


九頭龍『おう、苗木か? どうした?』

苗木「こんばんは、九頭龍クン。こんな時間にごめんね、実はキミに相談したいことがあるんだ」

九頭龍『相談? テメーが俺にか? はっ、珍しいこともあるもんだな、いいぜ聞いてやるよ』

苗木「ありがとう! それで、相談っていうのは…………ボク、今度女の子とデートする事になってさ、そのアドバイスが欲しいんだ」

九頭龍『なるほどな、デート……か。けどわりーな、俺から言える事はほとんど何もねえ』

苗木「えっ、で、でもキミは辺古山さんとも」

九頭龍『アイツはアイツだろうが。俺はアイツの事はよく知ってる、アイツとデートがしてえってんならいくらでもアドバイスはあったろうな。
      まぁもちろん、そんな事はこの俺が絶対に許さねえがな。要は、俺は霧切の事でお前以上に知ってる事はねえ。だからテメーで考えろって事だ』

苗木「…………え?」

九頭龍『一つ確実に言えんのは、女ってのはやたら男を引っ掻き回したがる。けどよ、本当に大切な女なら、そういうワガママは笑って許してやれ。
      それと、惚れた女はなりふり構わずどんな事をしてでも守り通す、それが男ってやつだぜ。力のあるなしは関係ねえ。まぁ、霧切はそんなよえー女じゃねえが』

苗木「ちょ、ちょっと待って九頭龍クン!」

九頭龍『あ?』

苗木「いや……なんか勘違いしているみたいだけど…………」


苗木「そのデートの相手って霧切さんじゃないよ?」


九頭龍「…………」

苗木「…………」


九頭龍「ああ!?」



大きな怒鳴り声。しかも極道らしく、かなりの凄みが効いている。
思わず背筋がピンと伸びる。


九頭龍『テメー……霧切の気持ちくらい分かってんだろ? それにはちゃんとケジメつけたんかよ?』

苗木「霧切さんの気持ち?」

九頭龍『おいまさか、気付かねえフリで流そうとしてんじゃねえだろうなぁ……!!!』

苗木「ま、待ってよ!! 本当に分かんないって!!!」


それから少しの沈黙。
再び怒鳴り声が来るのではないかと、ビクビクして彼の言葉を待つ…………。


しばらくして聞こえてきたのは溜息、加えて予想に反して落ち着いた声だった。


九頭龍『これは俺の口から言うような事じゃねえ。テメーが他の女とデートする事は霧切は知ってんのか?』

苗木「う、うん……」

九頭龍『何て言ってやがった? その時の様子は?』

苗木「えっと……口は出さない、その子を楽しませてあげてって。なんか、ちょっと怒っていたような……」

九頭龍『はっ、霧切も霧切だな。何か素直になれねえ理由でもあんのか。まぁいい、おい苗木、テメーはとにかく霧切とちゃんと話せ』

苗木「霧切さんと……?」

九頭龍『あぁ。確実に無理してるぜアイツ』

苗木「無理って……どういう事?」

九頭龍『それは本人から確かめろ。じゃあな』ピッ

苗木「あ、ちょっと!!」


よく分からない事だけ言って、九頭龍クンは通話を切ってしまった。
霧切さんと話せ……か。確かに彼女の様子はどこかおかしかった気もする……。

でも、今は何より舞園さんを優先するべき、とも思ってしまう。



その時、ベランダの窓が開く。


舞園「苗木君、晩御飯できましたよ?」

苗木「え、あ、うん。ありがとう、舞園さん」

舞園「……ふふ、デートプランを考えてくれていたんですか?」

苗木「も、もしかして声部屋の中に漏れてた!?」

舞園「いえ、聞こえませんでしたけど…………エスパーですから」ニコ

苗木「なんだエスパーか……」ハァ

舞園「あ、今ちょっとバカにしましたね! 私はユウレイなんですよ? エスパーくらい本当に使えてもおかしくないです!!」ドヤッ

苗木「じゃあ今ボクが何を考えているか分かる?」

舞園「『舞園さん可愛いなぁ、結婚したい』」

苗木「そんな事考えてないよ!!」

舞園「うぅ……そうですよね……私みたいな面倒くさい女とは結婚したくないですよね……」ウルウル

苗木「ま、待って待って!! そんな事も考えてないってば!! ボクはただ、ご飯楽しみだなぁって……」

舞園「では、早く食べちゃいましょう! 冷めてしまいますし!」ニコ

苗木「……え?」


なんだか、彼女には敵わない。これは霧切さんにも思い当たるなぁ。
ていうか、ボクが敵う女の子って居るんだろうか。

そんな少し情けないことを考えながら、ボクは彼女に続いて部屋に入っていった。



舞園さんの料理はとても美味しかった。
家事もできる国民的アイドル。こんな彼女と結婚できる男はどれだけ幸せか。

ただ、こうして彼女の手料理を食べられる状態も十分幸せだとは思うけど。


舞園「ふふ、楽しみにしていますよデート」ニコ

苗木「あ、あはは……あまりプレッシャーかけないでよ」

舞園「いえ、かけます! なにせ、苗木君はデート上級者ですからねぇ……?」

苗木「だからそんな事ないんだってば!」

舞園「はいはい、でもデートの時は私のことだけを見ていてくださいよ? 他の女の人に目とか向けていたら、私拗ねて帰っちゃいますから」

苗木「分かってる。大丈夫、舞園さんだけを見てるよ」

舞園「……///」

苗木「舞園さん?」

舞園「苗木君って無意識にそういう事言いますよね……もう、ズルいです」

苗木「??」


何かマズイ事でも言っただろうか?
でも、舞園さんもそんなに嫌そうな顔をしていない…………ていうか、むしろ嬉しそうな顔をしているけど。

……そうだ、これも話しておいた方がいいかな。


苗木「実はさっきさ、友達にデートの事を相談したんだけど、なんかその前に霧切さんと話をつけろって言われちゃったんだよね」

舞園「……へぇ」

苗木「あ、ごめん。今は舞園さんの事を一番優先するべきっていうのは分かっているんだけど……」

舞園「いいですよ」

苗木「えっ?」

舞園「正直言うと、私も苗木君は霧切さんとちゃんと話をする必要があると思います。こればかりはユウレイだからっていう所に甘えるつもりはありません」

苗木「つまり……?」

舞園「その人の言う通り、霧切さんとちゃんと話してください、私からもお願いします、という事です」ニコ


舞園さんはニッコリとそう言う。
その意味はボクにはよく分からないけど、とにかくやっぱり霧切さんとは話した方がいいという事か。
こうして舞園さん本人も言うなら、やめておく理由もない。


苗木「うん、分かったよ。霧切さんとちゃんと話してみる」



+++


次の日、未来機関。
ボクと霧切さん。そして周りの人からは見えないけど、舞園さんの三人で並んで歩いている。

霧切さんは普段と何も変わらない……ように見える。


苗木「……ねぇ、霧切さん。今夜仕事が終わったら、その、時間もらえないかな?」


バサバサッ!!


霧切さんは持っていた資料を全て落とした。


苗木「わっ、だ、大丈夫? 手伝うよ…………って霧切さん?」


ボクはすぐに屈んで拾い始めるけど、霧切さんは目を丸くしてこちらを見ているだけだ。


霧切「ど、どどどういう事かしら?」

苗木「え、いや、一人じゃ大変そうだから拾うの手伝って……」

霧切「そっちじゃないわ。今夜、時間があるって……えっと……」

苗木「あぁ、うん。ちょっと話があるんだ」

霧切「……ま、舞園さんはいいの?」

苗木「うん、舞園さんも霧切さんとはちゃんと話してほしいって…………ね?」

舞園「……不本意ですけどね」ムスッ

苗木「なんか不本意らしいけど……」

霧切「……そう、そういう事。ふん、随分と余裕ね、舞園さん?」

苗木「余裕?」

舞園「えぇ、私には苗木君の部屋で毎日寝泊まりしているという大きすぎるアドバンテージがありますからね」ニコ

苗木「え、えっと……なんかボクの部屋で寝泊まりしているっていうアドバンテージがあるからとか……」


一体この二人は何の話をしているのだろう。
たぶん女子の間にしか伝わらないような事なのか。二人の顔には不敵な微笑みが浮かんでいる。

……なんか怖いよ。バチバチ聞こえるよ。



霧切「そういう事なら遠慮無く今夜苗木君を借りましょうか。話したい事は沢山あるし」

舞園「言っておきますけど、朝帰りとかはなしですよ」

苗木「それは流石にないって…………ていうか、やっぱり霧切さん、ちょっと無理してたの? 九頭龍クンも霧切さんは素直になれないとか何とか」

霧切「そんな事ないわ。何言っているのかしらあのチビッコギャング」


霧切さんは有無を言わさない表情ですぐに否定する。
これはもしかして……慌てて誤魔化しているのかな?

とにかく、これでちゃんと話す約束は取り付ける事ができた。
あとは…………どこで話そうかな?



場所は? ↓1



+++


夜、洒落たレストラン。
店内は淡い光に照らされていて、幻想的な雰囲気を作り出している。

そして、その中でも目立ちにくい、奥のテーブルにボクと霧切さんは座っていた。
この場所は観葉植物の位置の関係もあって、特に人目につきにくくなっている。
有名人である霧切さんにはこういう配慮も必要だと思ったからだ。

ちなみに、舞園さんはもう家に戻っている。


霧切「へぇ……苗木君のくせにやるじゃない。私、結構好きよ、こういう店」

苗木「あ、ありがとう」


当のボクは何とも落ち着かない。
やっぱりボクには仕事帰りに寄るラーメン店の方が性に合っているらしい。
こんな事を言えば、十神クンなんかに貧乏性だとか何とか言われるんだろうけど。


苗木「あのさ、霧切さん。話っていうのは今度の舞園さんとのデートの事で……」

霧切「こういう所で二人きりなのに、話すことは他の女の人とのデートについて?」

苗木「えっ……で、でも」

霧切「私はあなたの話が聞きたいわ。例えば私と舞園さん、結婚するならどっち、とか」

苗木「そ、それ似たような質問前にしたよね?」

霧切「えぇ、でも苗木君は答えてくれなかったわ。今回はこういう雰囲気だし、はぐらかすのはなしよ?」ニヤ

苗木「……もしかして霧切さんと舞園さんってお互いをライバル視してる、とか?」

霧切「ふーん……どうしてそう思うの?」

苗木「いや、実は舞園さんが霧切さんの体を借りている時に、妙に霧切さんに対抗心を向けているような気がしたんだ。
    その時は、何とか霧切さんを演じようと思っているからなんだと思ったんだけど、もしかしたらそれだけじゃないのかもなって」

霧切「…………」

苗木「そして、霧切さんも何かと自分と舞園さんを比較させたがる。だから」

霧切「ライバル……えぇ、そうね。それはあっているわ」


やっぱりそうなのか。
思い返せば高校時代も、どこかそんな印象があったような気がする。

霧切さんと舞園さん。お互いこの相手には負けられないという強い気持ちを持っているのだろう。



苗木「でも、少し意外かも。何ていうか、霧切さんと舞園さんがライバルだなんてさ。
    ほら、大神さんと戦刃さんで純粋な強さの関係とか、舞園さんと江ノ島さんでアイドルとギャル……とかなら分かるんだけどさ」

霧切「……そのライバル関係の理由を説明するのは簡単よ。でも、教えてあげない」

苗木「ど、どうして?」

霧切「どうしても、よ。それで苗木君、早く答えてほしいんだけど。私と舞園さん、結婚するならどっち?」

苗木「まだその質問続くの!?」

霧切「当たり前じゃない、答えてもらっていないんだから」

苗木「そう言われても……正直結婚なんてまだ想像もできないよ。そりゃ十神クンはもうしてるけどさ……」

霧切「じゃあ質問を変えようかしら」


霧切さんは手元のワインの入ったグラスを小さく回しながら、


霧切「あなたは私の事、好き?」


口元に小さく不敵な笑みを浮かべて、どこかイタズラっぽさも出しながらそんな事を聞いてきた。


苗木「すっ……好きって…………!!」

霧切「答えて、苗木君。答えるまで帰さない」


そう言いながら、霧切さんはワインを一口含む。
もしかしてもう酔っている…………なんていう事はないはずだ。


でも、困ったな。とにかく何か答えないと……。



何て答える? ↓1


苗木「……友達としては好きかな」

霧切「異性としては?」

苗木「…………」

霧切「…………」

苗木「分か」

霧切「分からないというのはなしよ」


即座に霧切さんの言葉に両断される。いや、でも。


苗木「分からないものは分からないんだよ。ここでボクがキミの事を好きだと言っても嫌いだと言っても、それはウソになっちゃうよ」

霧切「……はぁ。いい年して、子供みたいな事言うのね」

苗木「うっ……でも仕方ないじゃないか……」

霧切「じゃあ、大人な私はハッキリ言ってあげましょうか」

苗木「なにを?」


霧切「私はあなたの事が好きよ」


真っ直ぐこちらを見つめたまま、そう…………言われた。


一瞬、彼女が何を言ったのか理解できなかった。
まるで全く知らない別の言語で話されたかのように、耳には届いているのに頭には届かない。

ただ、じわじわと。スポンジの中に水が染みこんでいくように。
その言葉は、ボクの頭の中に入っていく。


苗木「……そ、それはどういう意味で?」

霧切「友達として、だと思う?」

苗木「え……ど、どうかな…………」

霧切「ちゃんとこっち見なさい」

苗木「は、はい!」


これじゃ先生と生徒みたいだ。


霧切「私は異性としてあなたの事が好きなの」

苗木「で、でも……ほら、霧切さんならもっと」

霧切「私が苗木君がいいって言っているの。その誰にでも優しい所、どんな時でも前向きな所。
    お節介なくらい人の事ばかり気にする所。どれもこれも、全部好きよ」

苗木「……あ……えと…………」

霧切「あの平和な学園生活でも、コロシアイの時でも、あなたは私にとって心の支えになってくれた。
    あなたのお陰で人との絆の大切さを知り、かけがえの無い仲間を得ることができた。本当に感謝してる」

苗木「そんな……ボクだって霧切さんにはいつも助けられてばかりで」

霧切「それじゃあ結婚しましょう」

苗木「はい!?」


何か今、唐突に話が飛ばなかった?


霧切「お互いに助け合う関係。まさに夫婦じゃない。これは結婚するしかないわ」

苗木「……あー、霧切さんって意外と結婚願望とかあるんだ?」

霧切「苗木君限定でね」

苗木「ま、待ってって。ごめん、ボクはキミの事が異性として好きかどうかは分からなくて、だから、その」

霧切「結婚すればその内気付くわ」

苗木「それでいいの!? 普通気付いてから結婚じゃない!?」

霧切「普通に囚われてはいけないわ。視野は広く持たないと」

苗木「なんかそれっぽく聞こえるから不思議だ……」


どうしよう、これじゃまるで婚期を逃して焦っている人を相手にしているみたいだ。
もちろん、霧切さんは全然そんな歳じゃない。


苗木「とにかく、ほら、落ち着こうよ。ねっ?」

霧切「…………はぁ、冗談よ」


え、冗談? っていう事は。
…………なんだ、スッカリ騙されちゃったよ。霧切さんはやっぱりこういう悪ふざけが上手いなぁ。


苗木「そ、そっかそっか! あはは、そうだよね霧切さんがボクの事を」

霧切「そこは本当よ。結婚の方よ」

苗木「……え?」

霧切「流石に今すぐ、とまでは焦っていないわ。まぁ、もちろんそれでも一向に構わないけどね。
    ただ、今は舞園さんの問題が優先だと思うし、だからこそ、あなたと彼女のデートも認めているのよ」



……そうか、これが九頭龍クンが言っていた霧切さんの気持ち。
それでも、彼女は舞園さんの事を想って、デートについては特に反対しなかったんだ。


苗木「うん……ボクも舞園さんの事は何とかしたい。だから、えっと、何ていうか……」

霧切「気にしていないって言っているじゃない。私の中でもある程度割り切れているから大丈夫よ。ただ――」


そう言って、霧切さんは自分の手を、ボクの手の上に重ねた。
手袋越しでも、確かに彼女の事を感じる。彼女の目が、真っ直ぐボクに向けられる。


霧切「今日は、私のことだけを見てほしい」

苗木「……うん、分かった」

霧切「今日は帰らないでほしい」

苗木「いやごめん、それは無理」

霧切「ダメよ。帰さない」ギュッ

苗木「ちょっと待ってよ! ホント帰らないと後で舞園さんに何言われるか」

霧切「舞園さんは後で苗木君とデートできるんだからいいじゃない。私はその寂しさを今日一日で埋める事にしたわ」


マズイ……何か良くない方向に事が動いている気がする。
そんな嫌な予感はビシビシと感じるけど、だからといって、どうしようもない。


+++


霧切「苗木君、次はここよ」

苗木「そこホテル。ダメだってば」


夜の街にボクと霧切さんは繰り出している。
彼女はもうかなり出来上がっていて、さっきからボクの腕に抱きついて離れない。

しかも…………。


「えっ、あれって霧切さんじゃね!?」
「しかも隣は……苗木さんだ!!」
「やっぱりあの二人がそういう関係だってウワサは本当だったのか……」


目立ってる。明らかに目立ってる。



霧切さんは酔っていても顔色はあまり変わらない。
こういう人が一番危ない感じがするけど、彼女は決して危険なレベルまで飲んだりはしない。

ただ、冷静に酔っ払っているんだ。


霧切「苗木君、それでは私の部屋に行きましょう」

苗木「そこに入ったが最後、朝まで出られなくなりそうなんだけど」

霧切「よく分かったわね、流石苗木君。大好きよ」グイグイ

苗木「いや行かないから!! 引っ張らないでって!!」


すると霧切さんはムスッとした表情を向けて、


霧切「一体何の不満があるの? 苗木君、いつまで童貞でいるつもり?」

苗木「こんな往来でそういう事言わないでよ!!!」

霧切「安心して、私も処女よ」

苗木「聞いてないし!!」


こんな冷静な表情で淡々と下ネタを連発する人を初めて見た。
ていうか、こんなの彼女のイメージダウンどころの話じゃないって。


苗木「飲み過ぎだよ霧切さん……とにかく家に………」

霧切「あら、苗木君ってここで女を一人で帰らせる男だったのね」

苗木「うぐっ……じゃ、じゃあ誰か人を呼んで…………」

霧切「自慢じゃないけど私は友達が少ないわ」

苗木「本当に自慢じゃないね…………なら朝日奈さんとか」

霧切「何よ、やっぱり苗木君も胸が大きい方がいいの? 私だってこれでも効果あるのかどうかも分からない努力を毎日続けているのよ」

苗木「言わなくていいってば……ていうか霧切さんも別に小さいってわけじゃないでしょ……」

霧切「大きくもないわ。言うなれば普通よ。無個性よ」


霧切さんってそういう事は気にしないイメージだったけど、案外普通に気にしていた事実に少し驚く。
これって聞いていいのかなぁ、酔っ払っている時に言ったことは全部聞かなかったことにした方がいいのかもしれない。



苗木「とにかく、朝日奈さんを呼ぶよ。彼女には悪いけど……」

霧切「…………」


プルルルルルルルル…………ガチャ


朝日奈『もしもしー? どしたの苗木?』

苗木「夜遅くにごめん、朝日奈さんに頼みがあって」

朝日奈『頼み? なになに、聞くよ? 舞園ちゃん関係?』

苗木「いや……実は霧切さんを引き取ってほしいんだ」

朝日奈『……へ?』

苗木「さっきまで二人でご飯食べてたんだけど、霧切さん酔っ払っちゃったみたいで……それで」

朝日奈『ふむふむ、つまり苗木は送り狼と……』

苗木「違うってば!! だからこうして朝日奈さんに」

霧切「貸して。もしもし、朝日奈さん?」ヒョイ

苗木「あ、ちょっと!!!」


彼女は平然とボクのケータイを奪うと、朝日奈さんと話し始めてしまった。


朝日奈『霧切ちゃん? 大丈夫ー? 狼さんに襲われてない?』

霧切「朝日奈さん、私はむしろその狼さんに襲われたいのよ」

朝日奈『…………えっ!?』

苗木「き、霧切さん!?」

霧切「だからその、私は苗木君に家まで送ってもらうから大丈夫よ」

朝日奈『わ、わぁ……うん……じゃあごゆっくりー…………』

苗木「待って朝日奈さん!!」


霧切さんからケータイを取り戻した時には、もう通話は終わっていた。


霧切「それじゃ、お願い苗木君」ニコ


もはや恐ろしいよこの人。本当に。
このまま彼女を家まで送ったら、絶対中に引きずり込まれる。確信がある。



どうする? ↓1

スーパーキリギリタイムの途中だけど寝る
この霧切さんメッチャ好みhttp://ecx.images-amazon.com/images/I/51kG6lLLTZL._SS500_.jpg



そうこうしている内に、気付けば霧切さんのマンションの部屋の前。
この額から伝い落ちていくる汗は、何も暑さのせいだけではないだろう。


霧切「どうしたの? 入って」

苗木「あ、いや、ボクはここで」

霧切「そんなの許さないわ」グイッ

苗木「うわっ!!!」


かなりの強さで引っ張られた。
そしてそのまま部屋の中へと入ってしまう。


霧切さんの部屋は綺麗に片付いていて、イメージ通りだった。
難しそうな本が沢山置いてある本棚、大きめの机。ティーカップがいくつも置かれた棚も別にある。


苗木「……えーと」

霧切「適当にくつろいでいて。何飲みたい? 紅茶とコーヒーならあるけど」

苗木「じゃあコーヒー…………いや、無理しなくていいよ?」

霧切「なによ、私がフラフラのように見える? 全然平気よ」


確かに見た感じではしっかりしているけど、言動がしっかりしていない。


その後、霧切さんが淹れてくれたおいしいコーヒーを口にする。
自然とチラチラと目線がドアの方へ向いてしまうのは仕方ないだろう。


何とか、隙を見て出ないと。


苗木「じゃあその……コーヒーありがとう。ボクはそろそろ」


ガシッ!!


霧切「今夜は帰さないわよ」

苗木「それ男が言うセリフなんじゃないかな……」

霧切「そんな決まりはないわ」



それから二人でぼーっとテレビを観る。
ちょうどやっていたのは、典型的な恋愛物のドラマで、アップでキスシーンまであるというオマケつきだ。

霧切さんは隣で腕を組んで居る。
そして、ゆっくりと顔をこちらに向けてくるのを感じた。ここでボクもそっちを見たらダメだっていう事くらいは分かる。


霧切「……苗木君?」

苗木「な、なに?」

霧切「こっち向いて」

霧切「……それよりさ、別のチャンネルとか」

霧切「向きなさい」


有無を言わさない口調。
仕方ないので恐る恐るそっちの方を向いた…………その瞬間。


霧切さんが凄い勢いで顔を近付けてきた!!


ガシッ!!!


霧切「……離して、苗木君」

苗木「離したら大人しくしてくれる?」

霧切「いいえ、続きをするわ」

苗木「正直に言ってくれてありがとう。でも、それならなおさら離せないよ」

霧切「どうして? この雰囲気でキスしないなんてありえないと思うけど」

苗木「いや、このドラマそんなに勢い良く顔突き出してキスなんてしてなかったよね……?」

霧切「ゆっくり近付けたら、あなた止めるじゃない。止めないって約束してくれるならゆっくりするわ」

苗木「ごめん、それは約束できないって」


しばらくそのまま膠着状態が続く。端から見ればかなり異様な状況だ。
……そして、霧切さんは溜息をつくと、やっと諦めてくれる。


霧切「シャワー浴びてくるわ」


危険信号だ。シャワーはダメだ。
いや、でも考えようにはチャンスでもある。彼女がシャワーを浴びている間に逃げ出せばいいんだ。
霧切さんの為に鍵はかけないといけないけど、そこはこの部屋にある鍵で外からかけて、その後はドアについていた郵便受けに入れればいいんだ。


霧切「あ、その前に」

苗木「え?」



少しして、シャワーの水音が聞こえ始める。
ボクは動けない。なぜなら椅子に縛られているからだ。

これじゃ監禁じゃないか。未来機関の霧切さんが部屋に男を監禁とか大騒ぎどころの話じゃない。


苗木「ぐっ……!!」


ガタガタと何とか抜け出す努力をしてみるけど、全然ダメだ。
なんだこれ、どうしてこうなった。

とにかく、霧切さんがシャワーから出てくる前に何とかここを出なければいけない。
考えろ……何か方法があるはずだ。


体は縛られて動けない、ここは霧切さんの部屋――――。



どうする? ↓2



……ダメだ、ここは諦めて霧切さんが戻ってくるのを待つしかない。
きっと彼女だって言えば分かってくれるはずだ。


それからシャワールームの扉が開き、霧切さんが出てくる。
バスタオル一枚の姿で。


苗木「ぶっ!!! ちょ、ちょっと霧切さん服!!!」

霧切「そんなもの必要ないじゃない」

苗木「あるよ!!! い、いいから……早く……ね?」

霧切「…………」ジー


霧切さんが椅子に縛られているボクの事をじっと見つめている。
そして、ゴクリと喉を鳴らした。


苗木「何で喉を鳴らすの!?」

霧切「苗木君……」ユラー

苗木「待って!! 待ってって!!!」


その時だった。


ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……


ボクの鞄の中にあるケータイが震動を始めた。


霧切「…………苗木君のケータイ?」

苗木「う、うん……たぶん」


霧切さんは何の躊躇いもなくボクの鞄から取り出すと、画面を開いた。
そして少し驚いた様子で、


霧切「自宅って表示されているけど…………舞園さんね」

苗木「……え、それならボクが」

霧切「はい、もしもし? …………やっぱり聞こえないわね」

苗木「だからボクが出るって! ほら、何かあったのかもしれないしさ!!」

霧切「…………仕方ないわね」


霧切さんは溜息をつくと、ケータイをボクの耳元まで持ってきてくれる。
このロープは解いてくれないんだ…………。



舞園『苗木君、苗木君!? 大丈夫ですか!? なんか霧切さんの声が聞こえたんですけど!!』

苗木「う、うん……実は」

霧切「用件だけを簡潔に聞きなさい。さもなければ今すぐ切るわ」

苗木「うっ……あのさ、どうしたの舞園さん?」

舞園『どうしたじゃないですよ!! こんな遅くまで霧切さんと何してるんですか!?』

苗木「……あ、そ、それは…………」

霧切「それで、用件は何だったの? 早く言って」

苗木「…………」


これで本当の事を正直に言えば、おそらくその瞬間通話は切られてしまう。
どうしようか…………。


何て答える? ↓2


苗木「舞園さん、朝日奈さんにどうしようもない状況になったって伝えて!!」

舞園『えっ!? それってどう』


ピッ


やっぱり切られた。そして霧切さんはそのままケータイの電源を切って、再び鞄の中へとしまってしまう。
それから、無表情でじっとこちらを見つめてくる。


霧切「これで邪魔者はもういないわ」

苗木「…………!!」ゴクッ


舞園さん…………頼んだよ!!



+++



朝日奈「……今頃苗木と霧切ちゃんは…………って何考えてんの私!!」ブンブン


部屋でストレッチをしながら、頭を振る。
いやいやいや、だって苗木も霧切ちゃんも仲良いし、いつかそういう関係にはなるとは思ってたし…………。

うん、私はそれを応援してあげるだけだよ!


朝日奈「でも……霧切ちゃんがそういう事するのって想像できないなぁ……どんな感じなんだろ」


ぽわぽわと頭の中に漠然としたイメージが浮かんでくる。
ダメダメ、ダメだってば!! そういう事考えるとかいやらしいよ私!!


そんな時だった。


♪~♪~


朝日奈「ありゃ、こんな時間に誰かな」


ケータイが鳴ったからすぐに拾い上げる。
画面には苗木の自宅って出ていた。


朝日奈「……あれ、苗木は霧切ちゃんの所にいるはずじゃ」



首を傾げながら、とりあえずは出てみる。


朝日奈「もしもし、苗木? どしたの、霧切ちゃんの所に居るんじゃないの?」

『…………』

朝日奈「あれ、もしもーし! 聞こえてるの苗木ー?」


電話の向こうから聞こえてくるのはただの無音だった。
えーと……苗木がイタズラ電話とかしてこないっていうのは分かってる。

それなのに苗木の自宅から無言電話がかかってくる理由は……。


朝日奈「……も、もしかして何かあったの!? もしもし!? 苗木、大丈夫!? 苗木!?」

『…………』

朝日奈「ちょっと待っててね!! すぐ行くから!!」


もしかしたら大変な事になっているのかもしれない。
私は部屋着のまま急いで部屋を飛び出して苗木のアパートへ向かった。


+++


朝日奈「とりゃああああ!!!」


ゴシャァァァ!!!


苗木のアパートのドアを吹き飛ばして中に入る。
でも、そこには誰も居なかった。


朝日奈「苗木……?」


そして、その時だった。
空中に開かれた状態の一冊のノートが浮かんで、パサッとテーブルの上に落ちた。


朝日奈「へっ? これって…………舞園ちゃん!?」


急いでそこの文面を読んでみる。
そこには。


『苗木君がどうしようもない状況になったって助けを求めてきました!! たぶん霧切さんの仕業です!!』



……な、なるほど、そういう状況かぁ。修羅場だなぁ。


朝日奈「えーと、ほら、苗木と霧切ちゃんはそういう関係なんだろうし……さ?」

『違います、苗木君は霧切さんに無理矢理襲われているんです!!』

朝日奈「お、襲われてる!? 苗木が霧切ちゃんに!?」

『そうですよ! だって苗木君が朝日奈さんに伝えてくれって言ってきたんですよ!?』


そういえば、苗木は元々私に霧切さんを家まで送るように頼もうとしてたんだっけ。
それを霧切さんが自分から苗木君に送ってもらうって言って…………。


……ていう事は、むしろ苗木はそういう事を避けたかった!?


『早くしないと苗木君が霧切さんに食べられてしまいます!!』

朝日奈「食べっ…………わ、分かったよ! とにかく行ってみよ!!」


私は苗木のアパートを飛び出して、霧切ちゃんのマンションへと向かう。
例え好きでも、無理矢理はダメだよ霧切ちゃん!!



+++



霧切「ふぅ……」


ここは霧切さんの部屋。目の前にはその霧切さんが満足そうな表情をしている。
ボクは為す術なく、彼女にされるがままになっている。



苗木「ね、ねぇ霧切さん……そろそろ解放してもらえると…………」

霧切「ダメよ。まだ足りない」


そう言うと、彼女は再びボクの事を思い切り抱きしめた。
そして本当に幸せそうな声を出す。


霧切「苗木君成分が体の中に染み渡っていくわ…………ロープがちょっと邪魔だけど」

苗木「それはキミが自分でやったんじゃないか…………ていうか、さっきからこうやって抱きしめてばかりだけど」

霧切「ふふ、そろそろ次に進みたい?」ニコ

苗木「そんな事言ってないよ!! だからもう解いてほしいって……」

霧切「ダメよ」


キッパリと一言で切り捨てられてしまう。
それから霧切さんは至近距離からボクの目を覗きこんだ。


霧切「じゃあ……次にいくわよ」

苗木「ま、待っ…………!!」


せめてもの抵抗にガタガタと椅子を鳴らすけど、何の意味もない。
霧切さんはゆっくりと目を閉じて、そして。


ピンポーン!!!


部屋に、呼び鈴が高らかに鳴らされた。


霧切「…………」

苗木「……き、霧切さん? 誰か来たみたいだけど?」

霧切「構わないわ。それより」


ピンポーン!!! ピンポーン!!! ピンポーン!!! ピピピピピピピピピピピピ……ッ!!!!!

ドンドンドンドンドンドン!!!!!!


霧切「…………ちっ!!!!!」


ここまで苛立った舌打ちを生まれて初めて聞いた。



+++


舞園「もう、気を付けてくださいね苗木君。あと少しで大変な事になってましたよ」

苗木「うん……以後注意します……」


ボクは自分の部屋で舞園さんの前で正座している。
時刻は日付が変わってからもう随分と経ってしまっていて、眠気の方もかなりきている。

でも、だからってすぐには寝かせてくれるつもりもないみたいだ。


舞園「苗木君は女の子を甘く見過ぎなんですよ。狼になるのは男の人だけではないんです」

苗木「た、確かに肉食系女子っていうのは聞いた事あるけど、まさか霧切さんがそうだとは……」

舞園「好きな人の前では変わるものですよ。それにお酒も入っていたみたいですし」


舞園さんは大方の事情をもう知っている。霧切さんが包み隠さず全てを説明したからだ。
といっても、その事には舞園さんはそこまで驚いてはいない様子だった。

朝日奈さんが言うには、霧切さんがボクの事を好きだっていうことは大体みんな分かっていたらしい。


苗木「……やっぱり返事はちゃんとした方が良かったのかな」

舞園「いえ、苗木君の返事で十分だと思いますよ。まぁ、分からないなんていう答えは普通に考えたらキープされてると思いますけど」

苗木「そ、そんな事ないって!!」

舞園「ふふ、分かっていますよ。苗木君はまだ子供で、本当にそういう気持ちがまだよく分からないんですよね」ニコ


それはそうなんだけど、なんだか素直に頷くのはかなり抵抗がある。
……いや、ボクはちゃんとそういう気持ちは知っていたはずだ。


苗木「……ボクが職場の子とデートしたっていうのを知って不機嫌になったのも、他の女の子をボクに近付けないようにしていたのも、そういう理由なんだね」

舞園「普通は勘付くと思いますけどね。もしかして、わざと気付かないフリをしているのかとも思いましたよ」

苗木「いや、そういうわけじゃ…………それならやっぱり、本当はボクが舞園さんとデートするっていうのも快くは思っていないんだね」

舞園「それはそうでしょう。でも、仕方ない事だというのも彼女は理解していますよ」

苗木「うん。舞園さんの為だしね」

舞園「…………ふふ、それはどうでしょう?」

苗木「えっ?」



舞園さんは意味ありげな微笑みを浮かべたまま、答える様子はない。


苗木「……舞園さん?」

舞園「好きな人が居れば、何となくは分かることですよ。つまり、苗木君には分からないってことです」


むっ……何だかさっきから言われっぱなしだ。


苗木「そういう舞園さんだって好きな人なんて居ないんじゃ……」

舞園「居ますよ?」


即答されてしまった。
いやいや、口だけならどうとでも言える!


苗木「それは違うよ!」キリッ

舞園「ふふ、どうしてそう思うんですか?」ニコ

苗木「本当に舞園さんに好きな人が居るなら、キミはデート相手にボクじゃなくて、その人を選んだはずだ!!」ビシッ

舞園「でも、私の事が見えるのは苗木君だけじゃないですか」

苗木「いや、デートに関して相手っていうのは重要なファクターだ。願いを叶える上で、普通だったらキミはちゃんと指定するはずなんだ。
    それなのに、何も言わなかった。難易度的には最初のステージの方がはるかに高かったのに。つまり!」


苗木「舞園さん、キミには好きな人なんて居ないんだ!!」キリッ


決まった。反論の余地もないはずだ!!
その証拠に、舞園さんも何も言えずにただボクを見ているだけだ!!



舞園「…………」ジー

苗木「やっぱりアイドルはそういうのマズイのかな? それか、純粋に良い人が居なかったとか?」

舞園「…………」ジー

苗木「まぁ、国民的アイドルの舞園さんだ、確かに相手の方も中々…………舞園さん?」

舞園「…………」ジー


……どうしたんだろう、無表情でじっと見られるといくら舞園さんでも怖い。
いくら何でも、あそこまでハッキリ言わなくても良かったかな……。


苗木「……え、えっと、ごめん。得意気に言い過ぎたかも…………」

舞園「寝ます」

苗木「えっ?」

舞園「寝ます。おやすみなさい」


彼女はただそれだけ言うと、ベッドに横になってしまった。どう見ても怒っている。…………まいった。
といっても、もう遅い時間だ。ボクも頭が回らなくなってきてるし、許してもらうのは明日にしよう。

そう考えて、とりあえず今日は床で寝ようとすると、


舞園「……何してるんですか」

苗木「うっ……も、もしかして出てけ……とか?」

舞園「寝るんじゃないんですか? いつもみたいにベッドでいいじゃないですか」

苗木「ベッドって…………いいの?」

舞園「いいも何も、ここは苗木君の部屋ですけど」

苗木「いや、だって舞園さん怒ってるし……」

舞園「むしろここ以外で寝たら怒ります」


ダメだ、意味が分からない。
でも、流石にそろそろ眠気も限界だ。そういう事なら、遠慮なくベッドを使わせてもらおう。


ボクがベッドに横になると、彼女が後ろから抱きついてきた。
思わず体がビクッと反応して、動悸が速まり、顔が熱くなる。


舞園「デート、楽しみにしていますよ」


……女の子は本当に分からない。



+++


時計を見る。
完全に徹夜コース、ていうか寝たら起きられない。

前を見る。
焦点の定まらない目でブツブツと小声で何かを呟いている霧切ちゃん。
その前にはかなり少なくなったワインのボトル。


苗木が居なくなった後も、こうして私は霧切ちゃんの部屋に残っている。


朝日奈「き、霧切ちゃん? 明日も仕事だよね?」

霧切「大丈夫よ、このくらい仕事には影響ないわ」

朝日奈「すご…………私だったら次の日は動けなくなる量だよ」

霧切「酒に潰れる探偵なんて居ないわよ」

朝日奈「そ、そうなの!?」

霧切「えぇ」


何だが自信満々に言ってるけど、本当かなぁ。
でも、こうして話してみても普段とそこまでの違いはないように見える。

ただ、騙されちゃダメだ。
霧切ちゃんは苗木を縛って監禁して……えと、そ、そういう系の事をしようとした!
つまり、決して酔ってないわけじゃない!


霧切「ねぇ、朝日奈さん」

朝日奈「ん?」

霧切「あなたって元気よね。もうこんな時間なのに」

朝日奈「いやー、私も眠たいってば。霧切ちゃんも、もう寝ない?」

霧切「ふふ、そうやって私を見張っているのね。目を離したら何をするか分からないから」

朝日奈「えっ!? あ、あはは、何の事かなー」


うぅ、やっぱり霧切ちゃんは分かっちゃうか。
元々バレちゃうとは思ってたけど、ここまであっさりバレるとは思わなかったなぁ。



霧切「そういえば、あなたってまだ苗木君と恋愛シミュレーションとかやっているのかしら?」

朝日奈「なっ、何でそれ知ってるの!? い、いや、もうやってないけどさ!!」ビクッ

霧切「私は何でも知っているのよ、苗木君の事ならね」

朝日奈「さ、流石だね……でも、あまりそれ言いふらさないでね……?」

霧切「分かったわ。その代わり、といっては何だけど、教えてもらえるかしら?」

朝日奈「え、何を?」

霧切「なぜ相手に苗木君を選んだの?」

朝日奈「……そ、それは、男子で一番話しやすいのが苗木だったから…………」

霧切「ふーん」


……目を合わせられない。
やっぱり、霧切ちゃんは本当になんでも知っているのかもしれない。


霧切「でも、その恋愛シミュレーションも役に立って良かったわね。朝日奈さん、もう何度も職場の男性に告白されているみたいじゃない」

朝日奈「どうして知ってるの!?」

霧切「探偵だから」ニヤ

朝日奈「い、一応確認しておくけど、犯罪チックな事はしてないよね……?」

霧切「もちろんよ。私は罪を犯した者を見つける側だし」


でもそういう人を見つけるのが上手いってことは、逆にそのノウハウも知ってるって事だよね?
ますます嫌な予感はするけど、言うのは止めておくことにした。


朝日奈「た、確かに告白される事もあるけど、シミュレーションが役に立つ事はあんまりないよ。だって」

霧切「毎回断っているから、でしょ? 告白を断るシミュレーションはしていなかったのね」

朝日奈「うん……まぁ……」

霧切「それで、あなたは毎回他に好きな人が居るからって断っているみたいだけど、いつその人に告白するのかしら?」

朝日奈「!!!」


朝日奈「あ……う……そ、そんなの霧切ちゃんには関係ないよ!!」

霧切「本当にそうかしら?」

朝日奈「なっ……う、うん……」


霧切ちゃんはもう全部分かってるんだ。
これは別に私を問い詰めているわけじゃなくて、ただの確認でしかないんだろうな……。


霧切「まぁ、あなたがどういう選択をしようとも、私が口を出す事ではない……と思うけど」

朝日奈「……な、なに?」

霧切「よく考えた方が良いとは思うわね。自分の胸に手を当てて、本当にそれでいいのか……って」

朝日奈「…………」

霧切「少なくとも私があなたの立場だったら、それで納得するはずがない。といっても、私はあなたではないのだし、こんな想定をしても無意味なのかもしれないけど」


そう言って、霧切ちゃんはまたワインを飲み始めてしまう。ていうか、まだ飲むんだ……。
でも、何ていうか私も。


朝日奈「……霧切ちゃん、ワイン貰えるかな?」

霧切「いいけど…………あなたは飲み過ぎない方がいいわよ」

朝日奈「分かってる……分かってるけど…………」


そうだ、普通に考えればここから飲み始めるなんてありえない。
そんな事をすれば確実に明日の仕事に支障をきたすに決まってる。

それでも。


朝日奈「女には飲まなきゃいけない時があるんだよ!!!」ドーン


霧切ちゃんはそれ以上止めずに、ただ小さく微笑んでいた。
もう何だか、彼女には一生敵わないんじゃないかとさえ思っちゃう。


……一つ分かったことは、酔うためにワインっていうのはあまり良くないっていう事だ。

投下し終える前に寝落ちしてた。今度こそ寝る



+++


霧切さんの事も何とか済んだ? から、そろそろ本格的にデートプランを考えよう。

今までのアドバイスを整理すると、


狛枝クン→ネズミーランド
十神クン→図書館、ゲーセン


みたいな感じか。九頭龍クンには自分で考えろって言われちゃったんだっけ。

ネズミーランドとなると、たぶんそれだけで一日使う事になるだろう。
逆に、他の二つはそれだけでは一日使うのは難しいかもしれない。図書館は大丈夫かな?


この前読んでみた雑誌には、その時その時の相手の気分を察して、その場でプランを考えるのが高等テクニックだとも書いてあった。
だけど、いきなりボクにそんな真似ができるのか。


まぁ、とりあえずここはプランに入れておこうかな。



1 ネズミーランド
2 図書館
3 ゲーセン

↓1


……よし、とりあえずゲーセンは外せないな。
遊ぶものはそこら中にあるんだし、少なくとも退屈させるような事はないはずだ。

そうなると、自動的にネズミーランドはなしになるのかな……?
まぁあの中にもゲーセンはあるのかもしれないけど、今回は別にいいだろう。狛枝クンには悪いけど。

その後のプランは雑誌にならって、その場で決めてみよう。


あと考えなければいけないのは…………服かな。
これも雑誌で少しは勉強したけど、誰かにアドバイスを貰いたいかも。



誰に聞く? ↓1



+++


いよいよデート当日がやってきた。
天気は快晴、ジリジリとした日差しが容赦なく照り付けてくる。

自分の格好を確認する。
Tシャツの上に、若干フォーマルっぽさがある白いシャツに、緩く締めたネクタイ。
下はチェックのパンツにデッキシューズ……まぁオシャレなスニーカー?

私服でネクタイっていうのも、ボクにとっては少し違和感があったけど、ちゃんとしたファッションらしい。
この前はやたらノリノリな霧切さんに一日中連れ回されて大変だったなぁ。元々頼んだのはボクだけど。

舞園さんはノースリーブのブラウスに、ミニスカート。
生前持っていた私服らしく、いつものように軽く回っただけで、衣装チェンジしていた。


舞園「ふふ、まずはどこ行きます?」ニコニコ

苗木「ゲーセン……でいいかな?」

舞園「はい、もちろん。では行きましょう!」


ガッチリと腕を組んだままだと歩き辛いけど、そんな事は言わない。
でも、時々腕に彼女の胸が当たるのは流石に意識しないのは無理で、ドキドキと落ち着かなかった。


少しして、目的地のゲーセンに着く。
中に入ると、お互いの声も聞こえづらいほどの音で辺りが埋め尽くされる。

そこまで派手な学生生活を送ったわけじゃないけど、ゲーセンくらいはそれなりに行った事がある。
でも、隣の舞園さんは物珍しげに目をキラキラさせて、周りのゲームを見渡していた。


苗木「ゲーセンに行った事ない……ってわけじゃないよね?」

舞園「えぇ、流石にそれはないですよ。でも、経験は少ないです。…………ではでは、何のゲームしましょうか!?」

苗木「うーん…………あのダンスゲームとかはどう? 舞園さん、得意そうだよね!」

舞園「わぁ、楽しそうです! あ、なんかこれ対戦できるみたいですよ!? 苗木君、勝負です!」

苗木「いや、とてもボクなんかじゃ勝負にならない……」

舞園「いいですから、ほらほら!」グイグイ


彼女の勢いに負けて、結局ボクもやる事になる。

…………そういえば、周りからは舞園さんが見えないわけだけど、大丈夫なのかな。
まぁ、隣はCPUって事で何とか誤魔化せる……と信じよう。



結果として、ボクの大惨敗だった。


ゲームでも舞園さんのダンスのテクニックは凄まじく、ほぼ完璧なスコアを叩き出す。
対してボクはダメダメで、タイミングもズレまくりでただただ疲れただけだった。


隣で踊っている舞園さんに見惚れていたっていうのもあるけど。


幸いにも位置が良かったのか、人にはほとんど見られなかった。
通った人も騒いだりしなかったから、何とか隣はCOMだと思ってくれたようだ。


だけど。


舞園「…………」ムスッ


舞園さんは明らかに不機嫌な表情で画面を見ている。
原因はそこに表示されているスコアランキングだ。


1位にはNANAという文字が表示されている。舞園さんは2位だ。


苗木「え、えっと…………2位でも十分凄いって! 今日初めてやったんだから!!」

舞園「これ……私の曲なのに……」

苗木「あ、それは……ほ、ほら、ゲームだから色々勝手も違うだろうし………」


解散したといっても、国民的アイドルグループの曲はちゃんと収録されていて、もちろん舞園さんはそれも選択した。
そして上機嫌で気持ち良く踊ったわけなんだけど…………スコアは2位。


舞園「ありえないです……こんなの絶対に……」ブツブツ

苗木「ま、舞園さん?」

舞園「苗木君!!!」

苗木「はい!!」

舞園「私はこのNANAって人に勝つまでやります!!!」ビシッ

苗木「えええええええええ!?」


どうやら完全に火がついてしまったらしい。
超高校級のアイドルとして引けないのだろう。その気持ちはボクには分かりづらいのかもしれない。


ていうか、このNANAってまさか………。



店員「お、やるねえ兄ちゃん! NANAにここまで迫ったスコア出せた人は初めてだ!」


やたらフレンドリーな店員が話しかけてきた。
舞園さんの事が見えないから、ボクがこのスコアを出したと思っているらしい。


苗木「やっぱり有名なんですか? このNANAって人」

店員「なんだ知らねーんか? ありとあらゆるゲーセンの全てのゲームでスコア1位に君臨するキングオブゲーマー。それがNANAだ」

苗木「つまり、このゲーム以外も全部その人が?」

店員「おうよ。音ゲーだけじゃなく、格ゲー、STG、パズル……なんでもアリだな」

苗木「…………」


どうしよう、凄く心当たりがある。


苗木「えっと、誰かその人を見たっていう人はいないんですか?」

店員「おう、それが誰一人として居ないんだ。けどいいよな、謎に包まれた伝説って感じでよ!」ニカッ



話を終えて離れていく店員さんの後ろ姿を見たまま、ケータイを取り出す。
舞園さんにはそのまま待つように言っておいた。勝手に一人で踊り出したら流石に目立つからだ。

電話をかけると、コール音がほとんど鳴らない内に繋がった。


不二咲『もしもし、苗木君? どうしたのぉ?』


相手は不二咲クン…………のAI。アルターエゴ。
今現在は未来機関のネットワーク関係を守っている、大切な仲間だ。


苗木「急にゴメンね、ちょっと聞きたい事があって」

不二咲『聞きたい事?』

苗木「うん。あのさ、七海さんって外のネットワークに出てきたりするの?」

不二咲『うん! よくゲームセンターで遊んでいるみたいだよ!』


やっぱり。
NANAは超高校級のゲーマー、七海千秋さんだ。
彼女はプログラムの存在、姿を見られていないというのも納得できる。


不二咲『あ、もしかして彼女のゲームのスコアとか見たのぉ? ふふ、凄いでしょ!』

苗木「う、うん凄いけどさ…………ねぇ、今七海さんと話せるかな?」

不二咲『大丈夫だよぉ、そろそろ起きる時間だし。ちょっと待っててね』


その言葉と共に、保留中を知らせる音楽が聴こえてくる。
やっぱりプログラムでも眠るとかそういうのがあるのか。まぁ、確かにずっと動き続けているのも疲れそうだし。

そんな事を考えていると、


七海『我の眠りを妨げる者は誰だ…………ねみー』

苗木「……えーと、七海さん?」

七海『あ、狛枝君? どうしたの珍しいね』

苗木「いや、ボクは狛枝クンじゃなくて苗木だよ」

七海『おっと、ごめんごめん。二人の声ってよく似てるんだよね』

苗木「それはよく言われるけどさ……」


七海『それでそれで、苗木くんはもしかして私とゲームでもしたいのかな?』

苗木「あ、そうそう、ゲームの事でキミに聞きたい事があるんだ。ゲーセンのスコアランキングを独占しまくってるみたいだけど……」

七海『どやっ』

苗木「……えっと、それって具体的にどうやってるの? そこからでもゲームはできるの?」

七海『うん、もちろんだよ。こっちで楽しくやってるよ』

苗木「体を動かすようなやつも?」

七海『むっ、もしかしてズルしてるとか思ってる? バスケットゲームだってこっちでちゃんとボール投げてるし、ダンスゲームもこっちで踊ってるよ。
    どっちかっていうと、私は指動かしてガチャガチャやる方が得意なんだけど、ゲームって名前がついてるなら大体なんでもいけるんだよね』


……踊り自体は舞園さんが負けるとは思えない。
つまり、スコアの差はやっぱりゲーム性のところで出ていると考えるのが妥当だろう。


苗木「あのさ、ダンスゲームのコツ……とかないかな?」

七海『おっ、苗木くんはダンスゲームやるんだ。あれはねー、とにかくリズム感だよ。音ゲー全般に言えるんだけどね。
    リズムに合わせて正確に。私はダンスが得意っていうわけじゃないから、機械的にやっちゃうんだよね』

苗木「機械的に…………なるほど」


だんだん分かってきた。
七海さんはあくまでゲームだと考えて踊っているのに対して、舞園さんはダンスだと思って踊っている。

その違いだ。


苗木「うん、分かった。ありがとう七海さん!」

七海『何か掴めたかな? でもちょっと意外、苗木くんがダンスゲームで私と勝負しようとするなんて。
    たぶん推理ゲームの方が良い勝負になるんじゃないかな? 流石に霧切さんレベルには敵わないかもしれないけど』

苗木「はは、霧切さんはまずゲームやらないからなぁ。それと、ダンスゲームの方もやるのはボクじゃないんだ。友達だよ」

七海『ほうほう…………彼女?』

苗木「いっ!? ち、違うよ!!」

七海『なるほど、デートイベントを消化中っていう事なんだね。頑張って、苗木くん。重要な選択肢の前ではセーブを忘れずにね』

苗木「え……あ、うん…………」


なんだかよく分からない事を言われて、通話は終わった。



その直後、舞園さんに首根っこを掴まれた。
結構痛い。


苗木「いたたっ!! 何!?」

舞園「誰ですか七海さんって……デート中に他の女の人と電話ですか……?」ゴゴゴゴゴゴゴ


怒ってる。すっごく怒ってる。


苗木「ちがっ、七海さんはNANAだよ! ほら、このゲームでも1位の!」

舞園「……えっ!?」

苗木「超高校級のゲーマーなんだ。舞園さんが勝てなくても無理ないんだよ」

舞園「超高校級の……ゲーマー……」

苗木「今、どうすればスコアが出るか聞いてみたんだけど、やっぱりこれはあくまでゲーム。正確性が何よりも求められるらしいんだ。
    舞園さんって何ていうか、もっとこう、自由に踊ってるでしょ? それは決して悪いことじゃないと思うんだけど、機械相手だと不利なんだよ、きっと」

舞園「…………なるほど」

苗木「だからさ、無理して競ったりしなくても」


舞園「いえ、だからといって負けていい理由にはなりません!」ドーン


何となく予想していたけど、負けを認めるわけにはいかないらしい。


苗木「でも、ステージのダンスとゲームのダンスは別物みたいだよ?」

舞園「ダンスである事には変わりありませんよ。それなら私は合わせるだけです」

苗木「合わせるって……ゲームの方に? そんな事できるの?」

舞園「えぇ、正確に、機械相手に喜ばれるように…………なんて踊り方はした事ないですけど、できないっていうわけではありません!」


そう言って舞園さんは力こぶを作る仕草をする。
これはもう止めるのは無理だろう。それならとことん付き合おう。

そう決めたボクは、再び100円を入れてゲームを開始した。



舞園さんは、意外にもすんなりと七海さんの記録を抜くことができた。
相手に応じてここまで出来るなんて、もはや超高校級のダンサーとしても通じるレベルなんじゃないか。

まぁそれ言ったら十神クンなんかも多才だけど。


舞園「やったやった!! やりましたよ苗木君!!」

苗木「うん!! 凄いよ舞園さん!!」


ボク達はパンッ!! とハイタッチする。
だけど、すぐに周りからの視線を感じた。そうだ、他の人には舞園さんは見えていないんだ。

つまり、ボクは何だか相当痛い人に映るはずだ。


「何やってるのあの人……?」
「ヤバイって、目を合わしちゃダメだって」
「ていうかどっかで見たことあるような……」


明らかにヒソヒソと言われている。まぁそれも当然だ。
これでボクが超高校級の霊媒師とかだったらまだ言い訳の仕方もあったのかもしれないけど。

…………ところが。


店員「ん……おおおおおおおお!!! なんだ兄ちゃん、NANAの記録抜いてんじゃねえか!!!」


先程の店員が大声を出す。
そしてその声は周りの人達にも伝わり、ざわざわと波のように広がっていく。


「NANAの記録を抜いた!?」
「うわっ、マジじゃねえか!!!!!」
「すげえ、初めて見た!!!!!」


どうやらこれは前代未聞の快挙らしい。
先程までの不審な視線はどこへやら、次の瞬間にはもう一度プレイしてくれと沢山の人達からお願いされる事になった。

確かに伝説のゲーマーを倒したプレイを見たいと思うのは当然かもしれない。
でも、この記録を出したのはボクじゃない、舞園さんだ。

だからボクは、ひたすらその人混みから逃げるしかなかった。



舞園「あ、苗木君苗木君、プリクラ撮りましょう!」

苗木「えっ、いや、今は逃げるほうが先じゃ……」

舞園「あの中でやり過ごすんですよ」ニコ


このまま店の外まで逃げようかと思っていたけど、確かに一旦やり過ごすのも悪くないかもしれない。
ここは舞園さんの提案通りにプリクラのセットの中に隠れる事にした。


ドドドドドドドドド!!!!!


苗木「…………行ったかな」

舞園「えぇ、たぶん」


複数の足音が遠くへ行ったのを確認した後、出ようとする。
でも、そんなボクの腕を舞園さんが掴んだ。


舞園「せっかくなんで撮りましょう」ニコ


今の内に逃げたかったんだけど、この笑顔には敵わない。


苗木「でもプリクラって男だけはダメって書かれている所が多いんだよね……ここは大丈夫なのかな」

舞園「え、そうなんですか? どうして?」

苗木「さぁ……盗撮防止とかナンパのトラブル防止とかって聞いたことあるけど」

舞園「あはは、どっちも苗木君とは無縁な話ですね。そもそも、私と二人なんですから、問題ないですよ」

苗木「他の人から見ればボク一人でプリクラ撮ってるように見えるんだけどね」

舞園「あっ……確かに」

苗木「あ、でも、舞園さんが撮りたいっていうなら気にしないから大丈夫だよ!」

舞園「苗木君……ありがとうございます!」


舞園さんは本当に嬉しそうにそう言う。
こんな彼女の表情を見るだけで大抵の事は我慢できる…………一応ここから出る時は店員に見つからないようにした方がいいかな。



『それじゃあ、ラブラブな二人の写真を撮っちゃおう!』


そんな音声に目が点になった。
そして、すぐにこのプリクラの機種を調べる。

案の定、恋人専用のものだった。


苗木「あー、えっと」

舞園「ふふ、ラブラブですって」ニコニコ


幸い舞園さんは嫌がってはいない。でも、問題はここからだ。

職場の女の子から聞いたことがある。
カップル専用のプリクラというのは、無茶な要求をしてくる事があるらしい。


『うぷぷ、二人共あたしの言った通りのポーズをとってね!!』


ゴクリと生唾を飲み込む。
どんなに大胆なものでも、ハグくらいで勘弁してほしい。


そういえば、なんだかどっかで聞いたことがあるような声だけど、今は気にしていられない。



最初の指示は? ↓1



『顔を寄せ合ってね!』


くっ……いや、まだマシだ。そのくらいなら出来なくもない。
ただ、問題は舞園さんがどう思うかで…………。


苗木「ど、どうする?」

舞園「え、何がですか? ほら苗木君、もっと近くに来てください」グイッ

苗木「わっ……う、うん」


どうやら彼女は全然大丈夫らしい。
あからさまに嫌がられてもそれはそれでショックだったから、ちょっとホッとした。


舞園さんの顔が近くに来る。ふんわりといい香りが鼻孔をくすぐる。ドキドキと動悸が速まる。


『もっともっと!!』


機械のくせに完全にからかって楽しんでいるみたいだ。もちろんそんな事はないんだろうけど。
その指示を受けて、チラリと隣の舞園さんを見ると、


舞園「ふふ、もっとですって」グイッ

苗木「っ……」


更に舞園さんの顔が近付いて、顔が熱を帯びていくのを感じる。
も、もう……流石に…………。


『もっともっと!!』


苗木「いやいやいや、これ以上は無理だってば!!」


たまらず声に出してしまっていた。いくら何でも近すぎだ。
ところが舞園さんは、


舞園「……苗木君は私に近付きたくないんですか?」ウルウル

苗木「えっ!? いや、違うって!! でもこれ以上は恥ずかしいっていうか、舞園さんにも悪いっていうか……」

舞園「それなら何の問題もないです! はいっ!!」グイッ

苗木「うわっ!!!」


舞園さんが更に顔を近付けて…………というより、彼女の柔らかい頬の感触を感じる。
これはもう顔を寄せ合っているというより、触れ合っていると言ったほうがいい。


そんな状態の中、当然ボクの頭は真っ白になって、


『いいねいいね!! はい、チーズ♪』


パシャ!!!


それがシャッター音だと気付くのに少しかかった。



ドキドキドキドキと心臓の鼓動が速い。
最初の指示からこんな状態で、残り二つを乗りきれるのか。

一方で舞園さんは余裕の表情だ。


舞園「あはは、苗木君顔真っ赤ですよ」

苗木「そ、そりゃ女の子とこんな事すれば……」


そこまで言って気付く。
異性として意識しているのなら、ボクみたいに焦るのが普通なんじゃないか。

つまり……舞園さんはボクの事を男として見ていない? 例えば、弟みたいな感じ……とか。


苗木「…………」ズーン

舞園「あれ、苗木君? どうしました?」


いや、そりゃ高望みなんかしてないさ…………でも、ここまで男として見られていないっていうのは流石に凹むっていうか…………。


『じゃあ次のポーズいってみよー!!』


そんなボクの事なんて置いてけぼりで、機械はハイテンションで次へ進めてしまう。
頼む、そんなに恥ずかしくないものにしてくれ…………!!



次の指示は? ↓1

ねみーおやすみ



『次はほっぺにチューしてね♪』


あぁ、やっぱり……。
何となく流れで予想していたけど、いざ本当に言われると反応に困る。

そしてどうしようかと舞園さんの方を向こうとした時、


チュッ


苗木「ッ!?」


パシャ!!!


『オッケー!! ラブラブだねー!!』


何の躊躇いもなく、まるで親が子供にするように。
舞園さんは、ボクの頬に唇を当てていた。


苗木「ま、舞園さん!?」

舞園「えへへ///」


彼女は彼女で照れている。いくら何でも何とも思っていないわけではないらしい。
だからこそ、余計に頭が混乱する。


苗木「えっと……どうして……」

舞園「ふふ、いいじゃないですか。そもそも、私達ってほっぺじゃない方のキスもした事ありますし」

苗木「……そ、それはそうだけど」


そう考えれば大したことない……のか?
いやいやいや、そんな事はないだろう。第一、大した事ないなら、舞園さんだってこんなに赤くなっていないはずだ。


苗木「無理とかしてない……?」

舞園「全然してないですよ! もしかして、苗木君は私にキスされるの嫌でした……?」

苗木「そんな事ないよ!!」

舞園「じゃあいいじゃないですか」ニコ


うーん……舞園さんが気にしていないというなら、あまり言い続けても仕方ないのかなぁ。
そんなやりとりをしている間に、


『じゃあ最後はこのポーズいってみよー!!』



最後の指示は? ↓1



『彼氏が彼女を後ろから抱きしめよー!!』


……どうやら最後の指示は、ボクがリードしなければいけないらしい。
一応舞園さんの方をチラッと見ると、


舞園「お願いします」ニコ


そんな笑顔が返ってきたので、覚悟を決める。

そもそも、これはデートだ。
二人で居る以上、ボクはボクで彼氏のように振る舞わなければいけない。

よし、やるぞ!!


ボクは一度大きく深呼吸をすると、後ろから舞園さんを抱きしめた。


舞園「んっ///」

苗木「へ、変な声出さないでよ!!」

舞園「ふふ、すみません。心地よくて」ニコ

苗木「っ……!!」


彼女の仕草、言葉一つでボクの心は跳ね上がる。
今更だけど、自分がここまで女の子に耐性がない事を様々と思い知らされた。

腕の中の彼女は見た目よりずっと細く、柔らかかった。


パシャ!!!


『おつかれー!!! 後は好きに落書きしちゃってね♪』


そんな音声と共に、備え付けられた画面に今撮ったばかりの写真が表示される。
ここに落書きするのが普通っていうのは分かるけど、残念ながらボクはお互いの名前を書くくらいしかアイデアがない。

そんなボクを置いて、舞園さんはウキウキと何かを書き込み続けていく。


『まこと さやか』
『初デート』
『ラブラブ』
『衝撃の心霊写真』


苗木「……最後のおかしくない?」

舞園「あはは、だってそうじゃないですか。あれ、というかこれちゃんと私写ってますけど、他の人にも見えるんですかね?」

苗木「うーん……」


少し考えてみる。
今までの事から察するに、舞園さんは機械を始めとした無機物には認識されている。
だからこうして写真に写ってもおかしくはない…………けど。

例えば電話の例がある。
彼女は電話をかける事はできたけど、どうやらその声はボクにしか聞こえないみたいだ。
機械を通してでも、結局認識できる人間はボクだけ。という事は。


苗木「たぶん他の人から見ると、ボク一人しか写っていないように見える……のかな? 実際に聞いてみないと分からないけど」

舞園「……何だかそれだと結構痛い感じのプリクラになりますね」

苗木「それ言わないでよ……考えないようにしてたんだからさ……」


とにかく、これは事情を知らない人に見せない方がいいというのは確かだ。



それからボク達はゲーセンを出る。
プリクラはケータイの電池を入れる所の蓋の裏に貼った。ここなら滅多に人目にはつかない。

自分で見ても気恥ずかしくはなるけど。


舞園「もうお昼ですね……どこで食べます?」


来たか、昼食タイム!
その辺りは考えてきた、ボクの答えはこれだ!!



どこで食べる? ↓1



長い行列、これはいつもの事だ。
でも、この先にあのうまいラーメンが待っている!

という事を力説したんだけど、やっぱり待っているのは退屈だ。


舞園「……何かしません?」

苗木「何かって……」


ボクがそう答えると、周りの人達が怪訝そうな表情で見てくる。
それも当然だ、端から見ればただの独り言にしか聞こえないのだから。


舞園「何でもいいですよ。あ、それじゃ、苗木君の周りの面白い人の話とか!」


周りの面白い人……か。
まぁ希望ヶ峰の生徒は一癖も二癖もある人が多いから、そういう人は結構居る気がする。
でも、話といっても他の人には見えないユウレイにずっと話しているわけにもいかないし…………そうだ。


一つ閃いたので、ボクはケータイを取り出して耳に当てる。


舞園「むっ、ちょっと! 私放っておいて電話ですか? もしかしてまた女の子に……」

苗木「あ、もしもし。うん、電話でごめんね。え、面白い人の話?」

舞園「…………えっ?」


ここでさり気なく彼女の事に目を向ける。
彼女は納得いったようで、両手を合わせると、


舞園「あっ、そういう事ですか! ふふ、了解です!」

苗木「うん、ありがと。分かってくれて助かるよ」


ズバリ、電話をかけているフリをして舞園さんと話す作戦だ。
たぶん怪しまれはしない……と思うけど。


さて、と。じゃあ誰のこと話そうかな。



↓1



苗木「それじゃあ葉隠クンでいいかな?」

舞園「はい! 何だかあの人の人生面白そうですし!」ニコ

苗木「そ、それは褒めてるのかな」


ボクは隣でワクワクしている舞園さんに苦笑しながら、ケータイに向かって話すフリをする。


苗木「葉隠クンは何ていうか、あんまり変わらないね。今も結構借金取りに追われて、海に沈められそうになったりしてるよ」

舞園「み、未来機関の人がそんなのでいいんですか……?」

苗木「うーん……でも、逆に言うとそういう人だからこそ、分かることっていうのもあるんだよ。裏世界の情報はボクよりも彼の方が知ってるし」

舞園「なるほど……危ない橋を渡ってきた経験が役に立つ事もあるんですね……」

苗木「そうだね。でも、やっぱりミスの数は凄くてさ。すぐ騙されちゃうし。よくボクや霧切さんもフォローするんだけど、それでも追いつかないくらいだよ」

舞園「あはは! 本当に変わらないんですね!」

苗木「うん。抜けている所はあるけど、空気を和ませるのも得意だし、なんだかんだ必要とされている人だと思うよ」


一般的に未来機関の人間は、人間味がないという印象を持たれる事も少なくない。実際にそういう人も居る。
そんな中で、彼のようなどこにでも居るような普通の人っていうのは、組織の中でも替えの効かない重要な立場とも言えるのかもしれない。

……あ、そういえば占いっていう才能もあったっけ。


苗木「あと占いの的中率は相変わらず三割みたい。せめて五割までいってくれれば……って上の人がぼやいているよ」

舞園「あー、葉隠君の才能って極めれば一番凄そうですしね」

苗木「うん、そうなんだけど、本人もこれ以上確率が上がることはないって言ってるんだ」

舞園「それはやっぱり……」

苗木「占いの結果、だね。つまり七割は外れるんだ」

舞園「自分の才能に自分の言葉を否定されているような感じですね……」


舞園さんが気の毒そうに言う。
まぁでも、彼は彼で色々な人に追われながらも前向きに生きている。重要なのはそういう所なんじゃないかって思う。


舞園「ふふ、面白かったです。他には何かありますか?」ニコ

苗木「そうだなぁ……」


行列はまだ続いている。もう少し時間はあるみたいだ。



誰のことを話す? ↓1



苗木「それじゃあ十神クンの話でもしよっか。彼は同期の中でも一番上の立場にいるし」

舞園「え、苗木君よりもですか?」

苗木「はは、もちろんだよ。ボクも葉隠クン程じゃないけど、結構問題起こす方だから……」


例えば絶望を庇ったり、とか。あの時は苦労したなぁ。もちろん後悔はしていないけど。


苗木「それに十神クンはやっぱり全体的な能力が凄いから、未来機関でも様々な仕事を与えられているんだよ」

舞園「あー、だから私のステージの時も十神君が取り仕切っていたんですか」

苗木「うん。彼の行動は上の人でも中々口を出す事はできないんだ。人望もあるし」

舞園「……あの、それで私十神君といったらやっぱり気になる事が」

苗木「腐川さんとの事、だよね?」

舞園「はいっ!!」キラキラ


やっぱり女の子にとって結婚というのはそれほど興味深い事なんだろう。
正直ボクとしては、今になっても結婚なんていう言葉は漠然としたイメージしかなく、現実的に考える事が難しい。


苗木「確かにボクも……ていうかみんな驚いたよ。腐川さんが十神クンの事を好きだっていうのは知ってたけど……」

舞園「はい……学園生活でも、どう見ても片思いでした……」

苗木「まぁでも、ジェノサイダーの事もあったからね。何でも、十神クンが居ればジェノサイダーも人殺しをしないらしいから。
    ただ、それにしたって、あの十神クンが結婚するとまでは思わなかった。だからみんなでちょっと聞いてみたら、十神クンは渋々答えてくれたよ」

舞園「本当ですか!? 十神君はなんて!?」キラキラ



苗木「十神一族の復興の為には妻が必要、そしてその妻はどんな事があっても彼に付き従う義務がある。
    それに関して一番信用できたのが腐川さんだったから、らしいよ。ほら、彼女ってコロシアイ学園生活みたいな状況でも十神クンの事ばかりだったし」

舞園「……確かにあの状況を共に経験したからこそ生まれる信頼ってありますよね」

苗木「うん……そうだね。まぁそれで晴れて十神クンと腐川さんは結婚したわけだよ。何だかんだ腐川さんも幸せそうだし、悪い関係ではないよ」

舞園「あの、もちろんみんなで二人の結婚式は行ったんですよね?」

苗木「もちろん! 十神クンはカッコよかったし、腐川さんもキレイだったよ!」

舞園「私も見たかったです、友達の結婚式って楽しみにしていたのに……。後で写真とかも見せてくださいね」ニコ

苗木「うん、いいよ。超高校級の写真家の人に撮ってもらったからよく写ってるし。ただ……」

舞園「何かあるんですか?」

苗木「いや、あんまりそういうの引っ張り出すと十神クンが怒るから、彼には内緒でお願い」

舞園「ふふ、分かりました。照れているんですね」

苗木「それならいいんだけど、なんか本気で『おぞましい』って言ってる気もするんだよなぁ」


……まぁでも、ボクには結婚した夫婦の気持ちなんて分からない。
だからそこまで深入りするつもりはない。


と、ここまで話した時、ようやくボク達の順番が回ってきた。
そして、ある問題に気付く。


舞園さんの席はどうしよう。


苗木「…………」

舞園「苗木君?」


とりあえず店内なので、ケータイはしまう。

舞園さんは他の人には見えない。
隣にユウレイが居るので連席お願いします…………無理に決まっている。


というか、どうしてこんな簡単な事を見落としていたんだ。
なんかユウレイとデートっていうのは普段の仕事と勝手が違いすぎて、本当に大変だ。


舞園「えーと、私は苗木君の膝の上に座ればいいんですか?」

苗木「えっ!?」


ジロリアン達の視線が集まる。ボクはすぐに「すみません」と謝った。


それより、今舞園さんがとんでもない事を言った気がする。



……確かにその方法なら二人で食べる事ができるかもしれない。
ボクが食べるフリをして、舞園さんに食べさせたりとか。

いや、でも。


苗木「…………」

舞園「苗木君?」


早く決めなければ食べる順番がきてしまう。いつまでも迷ってはいられない。

ボクだけが食べるっていうのは彼女に悪い。一方で、彼女に食べさせるというのも難易度が高い。

舞園さんを膝の上に座らせればできるかもしれない。でもそんな状態で耐え切れるのか。
何よりも舞園さんはそれでいいのか。

ボクが視線を彼女に向けると、


舞園「私は構いませんよ、むしろ嬉しいかもです」ニコ

苗木「!!」バッ


彼女の真っ直ぐな言葉に、思わず顔を逸らしてしまう。
つまりは、ボク次第ってわけだ。


…………よし!!!


ボクは席について、一度膝を叩いた。
それを見た舞園さんは顔を真っ赤にして頷いて、ゆっくりとボクの膝の上に座る。


その瞬間に、後悔した。
決して舞園さんは重くない、むしろ軽過ぎて心配になるくらいだ。
今は、それよりも。


この感触はマズイ。


でも、怯んでいるわけにはいかない。
ボクは必死に落ち着こうとしながら、トッピングを注文する。


目の前で、舞園さんが首まで真っ赤にしているのが分かる。
そんなに恥ずかしいなら、言ってくれればここを出て他の店にしたのに……。


少しして出てきたのは大豚野菜マシマシ。
こんな量は初めて頼んだ。ここは小でも十分量があるのだ。

本当はニンニクも欲しかったけど、流石にやめておいた。一応デートだし…………あれ?


今更だけど、デート中のランチタイムに二郎っていうのはありなのか? よく分からなくなってきた。



舞園「わっ……す、すごいですね……」


舞園さんは出てきたラーメンの量に驚いている。
とても一人では食べきれないだろうけど、二人ならちょうどいいだろう。

ボクは舞園さんの後ろから箸を持った手を回して、麺をつかむ。
この構図、まるで娘に食べさせてあげようとする父親みたいだ。


舞園「あ、あの……食べても……いいんですか?」

苗木「(うん、食べづらくてごめんね)」ヒソヒソ

舞園「ひゃう!!///」

苗木「(あ、ごめん!)」


耳元で小さく囁いたせいで、舞園さんの体がビクッと震える。
ただ、こうでもしないと、ボクは独り言が止まらないただの不審者だ。


麺を彼女の口元まで持って行き、ボクも顔を近付けるフリをする。
となると、自然とあのプリクラの時と同じように、お互いの顔がすぐ近くまで来ているわけで。


舞園「//////」カァァァ

苗木「……///」ドキドキ


なんだこれ、なんだこの状況。
端から見ればただのバカップルだ。見えないんだけど。


舞園さんはボクの箸から麺を口にする。


舞園「あ……おいしい……!」

苗木「(でしょ?)」


自分の行きつけの店を褒められると妙に嬉しい。
そのままボク達は顔を赤くしたまま同じ体勢で食べたり食べさせたりした。



舞園「わっ……す、すごいですね……」


舞園さんは出てきたラーメンの量に驚いている。
とても一人では食べきれないだろうけど、二人ならちょうどいいだろう。

ボクは舞園さんの後ろから箸を持った手を回して、麺をつかむ。
この構図、まるで娘に食べさせてあげようとする父親みたいだ。


舞園「あ、あの……食べても……いいんですか?」

苗木「(うん、食べづらくてごめんね)」ヒソヒソ

舞園「ひゃう!!///」

苗木「(あ、ごめん!)」


耳元で小さく囁いたせいで、舞園さんの体がビクッと震える。
ただ、こうでもしないと、ボクは独り言が止まらないただの不審者だ。


麺を彼女の口元まで持って行き、ボクも顔を近付けるフリをする。
となると、自然とあのプリクラの時と同じように、お互いの顔がすぐ近くまで来ているわけで。


舞園「//////」カァァァ

苗木「……///」ドキドキ


なんだこれ、なんだこの状況。
端から見ればただのバカップルだ。見えないんだけど。


舞園さんはボクの箸から麺を口にする。


舞園「あ……おいしい……!」

苗木「(でしょ?)」


自分の行きつけの店を褒められると妙に嬉しい。
そのままボク達は顔を赤くしたまま同じ体勢で食べたり食べさせたりした。



そんなこんなで無駄に気疲れした状態で店を出る。
正直ラーメンの味なんてほとんど分からなかった。残ったのは膝の上の舞園さんの感触だけだ。
でも、舞園さんは満面の笑みで、


舞園「とってもおいしかったです、ありがとうございます!」ニコ


あぁ……この笑顔を見るだけで、もう何でもいいやって感じがする。
そして、彼女は少し俯いてもじもじすると、


舞園「あの……苗木君は迷惑でしたか……?」

苗木「え?」

舞園「いえ、ほら、あんな状態で食べることになって……」

苗木「そ、そんな事ないよ! 元々の原因はボクなんだし!!」

舞園「……ふふ、それなら良かったです。それに」


舞園「私は苗木君にくっつけて……ちょっと嬉しかったり……///」


クラッときた。
いや、これは仕方ないだろう。こんな事言われて冷静でいられる人なんて男じゃない。

ただ、頭はきちんと回さないと。
何しろ、ここからのデートプランはアドリブだ。今の状況を考えて最適な場所を導いてみせる。



どこに行く? ↓1



次に来たのはカラオケだ。
やっぱり舞園さんは歌が好きだし、間違いないと思ったからだ。

そして期待通り彼女も喜んでくれているようだ。


舞園「ふふ、ダンスゲームにカラオケって、苗木君は本当に私のことを考えてくれているんですね。ありがとうございます」ニコ

苗木「当たり前だよ、舞園さんの為の、その、デートなんだし」

舞園「もう、照れなくてもいいじゃないですか」ギュッ


舞園さんはニコニコ上機嫌にボクと腕を組んでくる。
だから、当たってるってば……!


受付を通って、個室に入る。
最近はあまり行ってなかったからか、やたらと暗く感じる。こんなものだっけ?


舞園「……個室で二人っきりだからっていやらしいことはダメですよ?」

苗木「そんな事考えてないってば!!」

舞園「いえ、私には分かります。エスパーですから!」ドヤッ

苗木「考えてない考えてない、とにかくボクは何も考えてないよ!!」


……正直言うとちょっと頭をよぎった。エスパー恐るべし。


舞園「じゃあ、さっそく歌いますか!!」


舞園さんは嬉しそうに曲を入れる。
すぐに曲が流れ始めて、ボクも知っている曲だと気付く。

というより、あのアイドルグループの曲は知らない人の方が少ない。


舞園「きっと Shooting Love Shooting Heart~♪」


……懐かしい、そう思った。
あの事件が起きるまでは外へ出れば自然と聞こえてくる歌だったはずだ。
それが聴けなくなってしまって、もう随分と経った。

でも、ボクは今こうして再び聴くことが出来た。
それはきっと、とても幸運な事なんだ。


舞園さんの歌は以前と変わらず……いや、それ以上に素晴らしかった。
聴いているだけでここまで元気付けられる、今この世界に必要な物だとおもった。



舞園さんの歌が終わって、ボクは大きく拍手する。


苗木「すっごく良かった! 流石舞園さんだよ!!」

舞園「ふふ、ありがとうございます。私も久々に思い切り歌えて気持ちよかったです」ニコ

苗木「そう言ってもらえて良かったよ。あ、そうだ、次はこれとか歌ってくれないかな? ボク、この歌好きなんだ!」

舞園「えぇ、もちろんいいですけど…………私は苗木君の歌も聴きたいです!」

苗木「ボ、ボク? いや、そんな、舞園さんの歌と比べたらとても」

舞園「ダメ……ですか?」


舞園さんは上目遣いで首を傾げる。
ダメだ、可愛すぎる。同じ方法を使われたら宗教の勧誘でも何でも乗ってしまいそうだ。


苗木「別に、ダメっていうわけじゃないけど……」

舞園「じゃあこうしましょう! 苗木君が歌ってくれたら何でも一つ言うことを聞いてあげます!」

苗木「な、何でも!?」


……いやいや、ダメだダメだ!!
言うことを聞くのはあくまでボクの役割だろう。


苗木「でも、ほら、今は舞園さんのお願いを聞くべきだしさ! 舞園さんがボクに歌ってほしいなら、歌うって」

舞園「いえ、いくらユウレイだからって、お願いを聞いてもらうだけでは申し訳ないです」

苗木「そんな気にしなくても……」

舞園「あ、じゃあこうしましょうか。採点機能を使って、苗木君が90点以上を出したらご褒美で私が何でも一つ言うことを聞いてあげる、とか!」ニコ


ご褒美か。まぁそれならいいか……な?
やっぱり流されている感が拭い切れないけど、仕方ない。舞園さんにこんな事を言われて大人しく引ける程ボクも悟っていないんだ!


苗木「うん、分かった! そういう事なら頑張るよ!!」

舞園「もう苗木君、私にどんなえっちな事させようとしているんですか///」

苗木「そんな事考えてないよ!!」

舞園「どうでしょうねぇ……まぁ、例えそうだとしても私は拒否できないわけですが……」チラチラ


なぜか舞園さんはどこか期待した目で見てくる。
まさか命令されて喜ぶような性癖…………いやそんなバカな。

舞園さんはニッコリと笑って、


舞園「ちょっとお手洗い行ってきますね。その間に歌う曲決めておいてください」

苗木「うん。他のお客さんには気をつけてね。下手したら幽霊騒動が起きちゃうし」

舞園「はい、了解です!」


そう言って、彼女は出て行く。

ボクは選曲について考えこむ。点数を出す上で、重要な部分だ。
そもそも、ボクはカラオケに頻繁に行くわけでもない。だから点数を出すコツとかも分からないんだよなぁ。
誰か詳しそうな人とか居ないかな?



誰に聞く? ↓1



よし、ここはあの人に聞いてみようかな。


プルルルルルルル、ガチャ


霧切『なに?』


明らかに不機嫌な声だ。
思わず謝って切ろうかと思うけど、それじゃただのイタズラになってしまう。


苗木「えっと、急にごめんね。ちょっと聞きたいことがあってさ」

霧切『ふーん、舞園さんはいいの? デート中なんでしょ』

苗木「あ、うん、そうなんだけどさ。今カラオケに来てるんだ」

霧切『カラオケ……そんな狭い密室空間に二人きりなんて、いやらしいわね苗木君。このケダモノ』

苗木「だからどうしてそうなるの!? ていうか、そういう事に関しては霧切さんだって人のこと」

霧切『 な に か ? 』

苗木「何でもないです」


怖いよ、完全に怒ってるよこれ。
とにかく、早い所用事を済ませてしまおう。


苗木「そ、それでさ、霧切さん。カラオケで高得点出せるコツとか知らないかな?」

霧切『そんなの知るわけないじゃない。そもそも、カラオケとか職場の付き合いでしか行かないわ』

苗木「でもほら、霧切さんって歌上手いし、そのコツとかも」

霧切『ありがとう。でも残念ながら、私はただ歌っているだけよ。特に上手く歌おうとは思っていないわ』


それで上手いっていうのは、やっぱり元々そういう素質があるんだろうなぁ。


霧切『それより苗木君、どうして高得点を出したいのかしら?』

苗木「え、それは……その」


ダメだ、これは言えない。言ったらきっととんでもない事になる。。


霧切『カラオケの採点機能というものは嫌う人も多いと聞くわ。それに、こうしてわざわざコツを聞くという事は、それだけ勝ちたい理由があるという事』

苗木「ご、ごめん霧切さん、そろそろ切る……」

霧切『 待 ち な さ い 』

苗木「はいっ!」ビクッ


マズイ……マズイってこれ!!



霧切『……考えてみれば、勝負という事ではないのかもしれないわね。
    歌で苗木君が舞園さんに敵わないという事は、あなた自身がよく分かっているはず』

苗木「う、うん……そうだね……」

霧切『それじゃあ……ある一定以上の得点を出せば、何か見返りがある……とか。もちろん舞園さんから』

苗木「ッ!!」


探偵というものは世の中でもかなり恐ろしい職業にランクインすると思う。


霧切『その反応、図星かしら? 気になるわね、あなたは一体どんな見返りを舞園さんから受け取るのかしら?』

苗木「え、いや、それは……違う……よ……」ガクブル

霧切『その慌て具合を聞く限り、決して軽いものではないらしいはね。まぁ、そうだったらわざわざ電話もしてこないと思うし』

苗木「ごめん霧切さん! じゃあね!!」

霧切『なっ、話はまだ』


プツッ


急いで通話を切って、電源も一緒に切る。
やってしまった……これは完全に怪しまれた。言い訳のしようもない。


そんな時、舞園さんが戻ってくる。


舞園「あれ、どうしました苗木君? 顔青いですよ?」

苗木「な、何でもないよ……うん、大丈夫……」

舞園「本当ですか? ちょっと失礼しますね」ピト

苗木「!?」


舞園さんが自分の額をボクの額に当ててくる。
熱がないか計っているんだろうか。いや、でも真っ青なら熱はないように思えるけど。

そんなボクの考えが伝わったのか、舞園さんは笑顔で、


舞園「体が冷えてないか確かめたんです。大丈夫そうですけど、一応エアコンの温度上げておきますね」

苗木「あ……う、うん、ありがとう……」


舞園さんには霧切さんの事は言えない。
これはボクの問題だ。舞園さんまで巻き込むわけにはいかない。


それから少しして、ボクが入れた曲が流れ始める。
とにかく今は霧切さんの事は考えないようにして、不安を吹き飛ばすように思い切り歌うことにした。


苗木「限りない蒼空を受け止めて~染まらない心を見せて~♪」



↓1のコンマ以下の数字×1.5倍(小数点以下四捨五入、上限100)で点数が決定



歌い終えると、舞園さんが大きな拍手を送ってくれた。


舞園「すごい、上手じゃないですか!!」

苗木「あはは、ありがとう」


ちょっと照れるけど、こうして褒められるのはやっぱり嬉しい。
でも、とにかく彼女が喜んでくれて良かった。

そして、画面には採点結果が出る。


95点。


苗木「えっ!?」


自分でビックリしてしまった。
それなりには歌えたつもりだったけど、まさかここまでの高得点が出るとは思わなかった。

……ていう事は。


舞園「……ふふ、それでは苗木君は私に何でも一つ言うことを聞かせられますね」ニコ

苗木「あ、いや、別にボクは」

舞園「約束は約束です。遠慮せずにどうぞ!」

苗木「えっと……」


確かにそういう約束ではあったけど、まさか本当に90点以上なんてとれるとは思っていなかったから、どうするか全然考えていなかった。
何でも一つ……か。あの舞園さんに……なんでも……。


頭をブンブンと振る。変なことを考えちゃダメだ!



何をお願いする? ↓1



苗木「じゃ、じゃあさ、サイン貰えないかな?」

舞園「サイン……ですか?」

苗木「うん、そういえば持ってなかったなって。ボクも舞園さんのファンだしさ!」ニコ

舞園「……構いませんけど」


あれ? なんか不満気だ。
そんなに難しいものじゃないように気をつけたつもりだったんだけど……。


苗木「それじゃ、アパートに戻ったらお願い。舞園さんのグループのCDあるから、そこに書いてほしいんだ」

舞園「…………」

苗木「舞園さん? えっと……ダメなら」

舞園「いいえ、もちろんダメなんて事はないです。今でも私達の曲を聴いてくれている人が居てくれるなんて、本当に嬉しいです。でも」


舞園「あの……念の為に確認しますけど、私と苗木君ってただのアイドルとファンっていう関係ではないですよね……?」


心配そうに聞いてくる舞園さん。
いきなりどうしたんだろう。そんな事決まりきっているのに。


苗木「もちろん、ボクにとって舞園さんは大切な友達で仲間だよ!」ニコ

舞園「……それは霧切さんや朝日奈さんとかも、ですよね?」

苗木「え、う、うん、それはそうだけど……」

舞園「はぁ……分かりました、ありがとうございます。私にとっても苗木君は大切な人ですよ」


……なんだろう、何か気に障ることを言っちゃったかな。


ただ、その心配をよそに、それから舞園さんはいつものあの笑顔に戻っていた。
気のせい……だったのかな? それならいいんだけど。


そのままボク達は楽しく歌ってカラオケを満喫した。



カラオケを出ると、日が傾いてきていて、街がオレンジ色に染まっていた。


舞園「うーん! たくさん歌いましたね!」ニコ

苗木「そうだね、ちょっと喉が痛くなっちゃったよ」

舞園「そういうのは歌い方を変えてみると大分違ったりしますよ。今度教えてあげます」

苗木「はは、ありがとう。お願いするよ。…………それで、これからだけど」


少し考える。時間的にはもう夕食時だ。
そういえば、デートというものはいつ終わりにするべきなんだろう。

日が暮れたら帰る、というのはあまりにも子供っぽい気がする。
でも、だからといって霧切さんみたいに今夜は帰さないなんていうのもアレだ。


……というか、ボクと舞園さんの場合は帰る所は同じか。



これからどうする? ↓1



苗木「よし、それじゃそろそろ帰ろうか」

舞園「…………」ジト

苗木「……あれ、舞園さん?」


なんだろう、また舞園さんの機嫌が悪くなったみたいだ。
帰るのがマズイ……? いや、でも夜遅くなるのは良くないはずだ。

この間の霧切さんの件の時だって怒ってたし。


苗木「……あー、えっと、そうだ! 今日は何か豪華なものでも買って帰ろうか! ほら、お寿司とか!」

舞園「…………」

苗木「ご、ごめん、お寿司は嫌だった? それなら」

舞園「もういいです。帰りましょう」プイッ

苗木「あ、舞園さん!」


彼女はボクを置いて、どんどん先へ進んでしまう。
しまった、完全に怒らせてしまったようだ。

ただ、原因が分からない事には謝ることしかできない。舞園さんも話してくれないだろうし。
そして、何も知らずに謝るっていうのは更に相手を怒らせてしまう可能性もある。


どうして舞園さんは怒っているのだろう。
彼女は、夜遅くまで誰かとデートするのは良くないと考えている。それは霧切さんの件から分かる。
だから、そろそろ帰るという選択自体は間違っていないはずだ。

でも、それなら舞園さんの怒っている原因はなんだ?
もしかしたら今怒らせてしまったというわけではないのかもしれない。
今日一日のデート全体に不満があって、それがここで全部出ている、そういう可能性もある。


その時。


苗木「……?」


何か冷たいものを背中に感じたような気がする。
振り向いてみるけど、そこには何もない。


気のせい……か?


そうこうしている間に、舞園さんが見えなくなりそうなくらい先へ行ってしまっていたので、慌てて追いかけた。



アパートに戻ってきた。外はすっかり日が落ちて暗くなっている。
テーブルの上には奮発して買った高級霜降り和牛が並んでいる。
豪華な夕食という事で、焼き肉にしようと思ったんだ。


苗木「…………」チラ

舞園「…………」プイッ


気まずい。重い沈黙が部屋を包み込んでいる。
いつもは舞園さんが相手なら、例え沈黙でもどこか心地よかったりもする。

でも、今は違う。居心地が悪すぎて変な汗が出てくる。


これじゃとても舞園さんのお願いを聞いてあげたとは言えない。
何とかしないと。



どうする? ↓1



苗木「あ、あのさ、先にお風呂どうぞ!」

舞園「……はい」


舞園さんはボクとほとんど視線を合わせずにシャワールームへ行ってしまった。
すぐに水音が聞こえてくる。この間にどうすればいいか考えよう。


今日のデート、何が悪かったのか。


まずはゲーセンに行った。
舞園さんは七海さんの記録を抜かそうとやっきになっていたけど、見た感じでは楽しそうだった。

その次はプリクラを撮ったけど…………まさかあれがダメだったのか。
確かにアレにはかなり恥ずかしいポーズを強要されたし、内心舞園さんはうんざりしていたのかもしれない。

……いや、でもプリクラを見ている彼女は嬉しそうだったような。あれはそう振る舞っていただけなのか。


他に考えられる事と言えば……昼食か。
あの時もボクのミスで凄く恥ずかしい体勢で食べることになっちゃったからなぁ。


最後に行ったのはカラオケ。
舞園さんが明らかに機嫌が悪くなったのは、ボクが90点以上を出して彼女にお願いを聞いてもらった時だ。
お願い自体はサインが欲しいっていう、そこまで難しくはない事だったはずだけど、舞園さんにとってはそうじゃなかったのかな……。

でも、その後は楽しそうに歌っていたんだけどなぁ。


そして、カラオケから出てもう帰ろうと言った時、舞園さんをまた怒らせてしまった。
これは今までの鬱憤が溜まっていたのか、その場でマズイ事を言ってしまったのか、判断しにくい。

帰りたくなかった……という事も考えられるけど、ボクと霧切さんの時は夜遅くなったら怒ったんだよなぁ。


苗木「……ダメだ、分からない」


デートがここまで難しいものだとは。
職場の女の子とした時はそんなでもなかったのに。



それからも考え続けたけど、やっぱり分からない。
そうこうしている内に、舞園さんがシャワールームから出てきてしまった。

もうこうなったら、とにかく謝るしかない!


苗木「舞園さん! 今日は本当にごめ」


舞園「ごめんなさい!!」


ボクが言い終わる前に、舞園さんは深々と頭を下げてしまった。


苗木「え…………ど、どうしたの?」

舞園「お風呂の中でずっと考えていたんです。それで、私、ワガママだったなって……」

苗木「そんな、舞園さんはそれでいいんだよ! 遠慮なく好きな事頼んでいいんだって!」

舞園「いえ、それではダメです。だって、私は苗木君の幸せを願っていますから。無理はしてほしくないんです」ニコ

苗木「む、無理なんかしてないって」

舞園「ふふ、でもあのプリクラの時とかラーメンの時とか、無理していましたよね?」

苗木「えっ、あ、いや、そんな事……」

舞園「私には分かりますよ、エスパーですから」ニコ


確かにかなりドキドキしたし、ボクとしてもハードルが高かったのは事実だ。


でも。


苗木「……ボクは舞園さんに楽しんでもらいたかったんだ。だから」

舞園「それなら大丈夫ですよ、今日は本当に楽しかったです!」

苗木「え、だけど舞園さん怒って……」

舞園「あはは、ごめんなさい。それは苗木君が悪いわけではないんです」

苗木「ボクは悪くない……? それならどうして」

舞園「ですから、私がワガママだっただけなんですって。苗木君がそれを許してくれても、私自身が許せないんです」ニコ


どうやら怒っていた理由は言ってくれないようだ。
本人はボクのせいじゃないって言ってるけど、それでもやっぱり気になる。
でも、あまりしつこく聞いても、それはそれでまた気分を悪くさせてしまうかもしれない。



舞園「とにかく、今日はとても楽しかったです! ありがとうございました!」ニコ

苗木「あ、うん、楽しんでくれたならボクも嬉しいんだけど……」

舞園「あはは、何ですかその心配そうな顔は。もしかして私がウソついていると思っています?」

苗木「そうは言ってないけど……でも舞園さん、何も変化はないみたいだしさ」

舞園「そういえばそうですね。では、やはりこのお願いも違ったという事ですかね……。
    すみません、私はあのステージが本命だと思っていたんで、他のお願いに自信がないんです……苗木君にはここまでしてもらったのに……」

苗木「いや、気にしなくていいって! ダメなら他のお願いを考えてみればいいだけだしさ!」

舞園「そう言ってもらえると嬉しいです」ニコ


舞園さんは明るい笑顔を浮かべている。
ボクはエスパーでも何でもないから彼女の本当の気持ちなんて分からない。

でも、この笑顔が偽物だとは思えないし、それなら深く追求する必要もないのかもしれない。


舞園「それでは苗木君は早くシャワー浴びてきてください! 私お肉食べたいです!」

苗木「お腹減ったなら先に食べててもいいよ?」

舞園「それは苗木君に悪いです。それに私は二人で食べたいんです。
    ほら、ご飯って一人で食べるよりも、誰かと一緒に食べた方が美味しいじゃないですか!」

苗木「あ、それ分かるかも。何でだろうね?」

舞園「それを考えるのは後です! 苗木君はお風呂! ハリーアップ!!」ビシッ

苗木「わ、分かったよ」


舞園さんの勢いに押されるように、シャワールームへ急ぐ。
その時にチラリと彼女の方を見ると、そこには霜降り和牛を楽しみにしている笑顔があった。



舞園さんの為に、早めにシャワーを浴び終えて、部屋に戻る。
そこでは彼女が待ちきれない様子でそわそわしていた。


苗木「えーと、舞園さんだったら、このくらいのお肉はいつでも食べられたんじゃないの?」

舞園「そんな事ないですよ、貯金ばかりしていましたから、いたって庶民的な生活をしていました」


流石舞園さんだ、しっかりしている。
手元にお金があると使ってしまう葉隠クンとは大違いだ。

そんな事を考えながら焼肉の準備を始めようとした時、


舞園「あ、苗木君、髪しっかり拭いていませんね? ダメですよ、ハゲちゃいますよ?」

苗木「えっ、ハゲるの!? いや、少し急いでたからさ……」

舞園「ふふ、私の為にありがとうございます。それでは、私が拭いてあげましょう」

苗木「いや、自分でやるって!」

舞園「まぁまぁ、そう言わずに」ニコニコ


そう言うと、舞園さんはワシャワシャとボクの頭をタオルで拭き始める。
なんだか子供扱いされているようで男としてのプライドがちょっと傷付くけど、心地良くて拒否できない。

それに、舞園さんもいい香りがするし…………。


ピンポーン!!


クラクラと思考が危ない方に行きそうになった時、それを咎めるかのように呼び鈴が鳴った。


……なんだろう、誰が来たのか予想できる。


舞園「どなたですかね? こんな時間に」

苗木「と、とりあえず出るよ」


舞園さんの手を離れて、扉の方まで歩いて行く。



ガチャ


霧切「……こんばんは、苗木君」

苗木「いやこんばんはじゃないって、ボクまだ鍵開けてなかったんだけど」

霧切「そんな細かいことはいいじゃない。あら、焼き肉? 私も一緒にいいかしら?」


清々しいほどに図々しい。
まぁ、一人増えたところでそれほど問題ない量はある。それに霧切さんにはお礼もしないといけないし。


苗木「うん、もちろんいいよ。入って入って」

霧切「ありがとう、あなた達には聞きたいこともあったの」

苗木「聞きたいこと? …………あ」


そうだ、そういえば霧切さんにはカラオケの時の事があった。
たぶん……というか絶対勘違いしてる。

そんなボクの心配をよそに、霧切さんは部屋の中まで入ってくる。


霧切「舞園さんは居るわよね? 夕食一緒させてもらってもいいかしら?」


霧切さんの言葉に、舞園さんはメモ帳に文字を書いていく。


『構いませんよ』

霧切「……?」

苗木「どうしたの、霧切さん?」

霧切「いえ……やけにあっさりしていたから……」

苗木「あっさり?」

霧切「何でもない、こっちの話よ」


霧切さんはそれで話を打ち切ってしまった。
かなり気になるけど、たぶん聞いた所で答えてくれないんだろうな。


それからボク達は焼き肉を楽しんだ。焼く係はもちろんボク。


舞園「んー!! やっぱり霜降り和牛は違いますね!!」ニコニコ

苗木「あはは、喜んでもらえて何よりだよ」

霧切「苗木君、焼くの交代してあげるわ。私は頂いている立場だし」

苗木「えっ、いいよいいよ。霧切さんにもデートの事でお世話になったし」

霧切「いいから。苗木君もちゃんと食べなさい、身長伸びないわよ」

苗木「もう伸びないよ……」ガクッ



ここは霧切さんの厚意に甘えさせてもらって、ボクも肉を食べてみる。
口に入れた瞬間、肉汁が溢れ溶けていく感覚。あぁ、生きててよかった。


霧切「幸せな気分になった所で聞きたいんだけど、苗木君は舞園さんにどんな性的なお願いをしたのかしら?」

苗木「ぶっ!!! ごほっごほっ!!!!!」

『何の話ですか?』

霧切「あなた達がカラオケに居るとき時、苗木君は私に高得点の出し方を尋ねてきたわ。
    そして私なりに推理した結果、苗木君がある一定以上の点数を取れば舞園さんに何でもお願いできる、という結論に達したわ」

『凄いですね、大当たりですよ』

霧切「苗木君、舞園さんに何をお願いしたのかしら? カラオケ店から出てきた後、妙にぎくしゃくしていたのもそのせい?」

苗木「えっ、な、何でそれ知ってるの!?」

霧切「それはいいじゃない。それより、どうなの?」ジッ


目が怖い。セレスさんを思い出す。
すると、舞園さんがサラサラとペンを走らせる。


『大丈夫ですよ、霧切さんが想像しているようなものではありません。苗木君のお願いは私のサインですよ』

霧切「サイン?」

苗木「うん、考えてみたら、舞園さんのサイン持っていなくてさ。CDにしてほしいって頼んだんだ」

舞園「そうだ、今書きましょうか?」

苗木「あ、うん、頼めるかな? ちょっと待っててね」


舞園さんの歌はよく聴いているから、CDもすぐ出てくる所にある。


苗木「はい、この裏にお願い」スッ

舞園「分かりました」カキカキ

霧切「……本当にサインだけ? あの密室空間で何もしなかったの?」

苗木「し、してないって!」

舞園「…………はい、書けましたよ!」ニコ

苗木「わぁ、ありがとう!! 大切にするよ!!」


CDを受け取ると、そこには可愛らしい文字でサインが書いてあった。
『大切なお友達、苗木誠くんへ。舞園さやか』


霧切「……え?」

苗木「ん、どうしたの?」

舞園「も、もしかして漢字とか間違っていました!? 苗木君の字を間違うはずないんですけど……!!」


隣では舞園さんが慌てている。
だけど、霧切さんはただじっと考え込んだままだ。



霧切「……いえ、字が違うとかそういう事じゃないわ。ねぇ、やっぱり今日のデートで何かあったんじゃないの?」

苗木「何かって言われても……」

『大丈夫ですよ霧切さん。あなたが心配しているような事は絶対に起こりませんから。安心してください』

霧切「どうしてそこまで言い切れるの?」

『今日のデートで得た教訓です』

苗木「えっ? それってどういう」

霧切「……分かったわ。ありがとう」

苗木「???」


なんだろう、二人の間では通じ合っているみたいだけど、ボクには全く分からない。
女の子にしか理解できないような事……とかなのかな。


でも、舞園さんがどこか寂しそうな笑顔をしているのが気になる。


霧切「私も少し考えたの。舞園さんが成仏する為には何が必要なのか」

苗木「霧切さん、分かったの!?」

霧切「いえ、これといった具体的な案が出てきたわけじゃないわ。ただ、今の状況から考えられる事はある。
    まず、舞園さんがこうしてユウレイとして現れた上で、一番の疑問点。そこからよ」

苗木「疑問点?」


霧切「なぜ、苗木君にだけ舞園さんの事が見えるのか」


じっと、遥か先まで見つめるようなその瞳で、霧切さんが言う。


苗木「…………確かにそうだね。どうしてボクだけに見えるんだろう」

霧切「さっきも言ったけど、具体的な事はまだ分からない。でも、この事実はきっと彼女の成仏にも関係していると思うわ」

舞園「…………」

苗木「ボクが舞園さんを見る事ができる理由……か」


といっても、見当がつかない。
こればかりはすぐに出てくるような答えじゃない気がする。それだったら霧切さんはもう気付いているはずだ。

そしてなぜか、舞園さんは少し沈んだ表情でこっちを見ている。


舞園「ごめんなさい、迷惑かけちゃって」

苗木「そんな、謝らなくていいってば。ボクだって舞園さんの力になりたい。大切な友達なんだから。
    大丈夫、心配しなくても、ボク達できっとキミを成仏させられる方法を見つけてみせるよ」

舞園「……ふふ。えぇ、頼りにしています」


舞園さんは成仏することで前に進みたがっている。それならボクは全力でそれを手伝うだけだ。
それにボクだけじゃない。彼女には霧切さん達もついている。みんなが居ればきっとなんだってできる。


……心に引っかかる事はあった。でも、これはボク自身の問題だ。


視界の端で、霧切さんが何か言おうとして、やめた。
まるで彼女の観察眼を手に入れたかのようだった。いつもは絶対に見落としていただろう。
ただし、肝心なその内容までは分からなかった。


でも、これは本当に勘に過ぎないけど。
その内容は今知るべきではない…………漠然とそう思った。



+++


スゥスゥと、苗木君の寝息が首元を撫でて、少しくすぐったい。
寝返りを打ってそちらを向いてみると、目の前には彼の無垢な寝顔があった。


舞園「ふふ、可愛いです」


自然と笑みが溢れてしまう。それは仕方のない事だと思う。
好きな人とこうしていられる。ここまで幸せな事はない。


そして彼の髪を撫でながら、霧切さんの言葉を思い返す。


『なぜ、苗木君にだけ舞園さんの事が見えるのか』


きっと、私のワガママなんだろう。
苗木君でなくてはいけない理由、それは私自身がよく知っている。

残念ながら、鈍感すぎる彼は気付いてくれないけども。


舞園「……もう、それにしたってちょっと鈍すぎますよ」


一応は文句だけど、声は柔らかくなってしまう。

というのも、彼がここまで鈍い理由に気付いているから。何となくだけど。
それはちょっと……ううん、かなり切なくなっちゃう事だけど、仕方ない。

当然、この予想が外れている事もあると思う。私は霧切さんみたいな推理はできない。
むしろ外れてほしい。そう願いながら、私はその予想に合った行動を取っていく。


でも、こういう時くらいは……いいですよね。


舞園「大好きです、苗木君」ニコ


聞こえてしまったら、その時はその時。



【第一章:シニキル】  END

寝るべ。そういえばあの花の劇場版観てない



【第二章:週刊少年シンレイマガジン】


苗木「…………んー」

舞園「何を読んでいるのですか?」

苗木「あー、いや、オカルト系の雑誌だよ。舞園さんの事で何か分からないかなって」


舞園さんがユウレイとなって戻ってきてから少し経った。
ただボクから見れば普通の人間と何も変わらないわけで、気を抜くとこの状態に慣れてしまいそうだった。

でも、ダメだ。彼女は成仏を望んでいるのだから、ボクはそれに応えてあげなければいけない。


苗木「はぁ……でもこれも役に立ちそうにないよ」ポイッ

舞園「ふふふ、そういうのってただただ胡散臭いですしね」ニコ

苗木「やっぱり葉隠クンの言う通り、舞園さんのお願いを叶えてあげるのが一番なのかな。それじゃ、舞園さん。いつも通り何か言ってみてくれるかな?」

舞園「うーん、今までのお願いはライブ公演とデート、ですか。そうですねぇ、他にやり残した事と言えば……」



舞園さんのお願いは?

↓1~4のレスのどれか

↓4のレスの投稿時間のコンマ以下の数字でどのれレスを採用するか決定

20~29、50~59、80~84:↓1のレス
35~39、60~69、90~99:↓2のレス
00~09、30~34、70~79:↓3のレス
10~19、40~49、85~89:↓4のレス


舞園「海へ行きましょう!」

苗木「…………海?」

舞園「はい! 苗木君、今は夏ですね? 夏と言ったら海です!!」

苗木「えっと……うん、まぁ、そうだけど……」


夏の日差し、白い砂浜、青い海。そこにユウレイ。
……なんだか一気にホラー化するような光景だけど、舞園さんのお願いというのであれば聞かないわけがない。


【未来機関】


霧切「へぇ、海……」

苗木「うん。幸い有給もまだ残ってるし、それ使って泊りがけでもいいかなって」

霧切「まったく、急すぎるわよ苗木君。私だって有給申請になければならないし、水着だって新調しなければいけないのに」

苗木「…………ん?」


昼休み、食堂。
今度の舞園さんのお願いを霧切さんに話すと、彼女はさも当然の如くそう言い放った。


霧切「どうしたの?」

苗木「あの……それって霧切さんも一緒に行くっていうこと?」

霧切「好きな人と海に行けるチャンスを、この私がみすみす逃すと思ったのかしら?」ドヤァァァ


彼女は少しの恥じらいもなく、凄まじい程のドヤ顔で言い切った。


何だかマズイ気がする。
具体的には、この前霧切さんのマンションに連れ込まれた時のような事が起きそうな予感が。


苗木「……よしっ、この際だしみんなも誘ってみようか!」

霧切「なぜかしら? いいじゃない私と舞園さんだけで」

苗木「そんな事ないって、みんなが居るほうが楽しいよ!」

霧切「…………ちっ」


普通に舌打ちしたよこの人……。


【夜 苗木のアパート】


苗木「それで、同期の人みんなと行こうと思うんだけど、いいかな?」

舞園「ふふ、もちろんです。大勢の方が楽しいですもんね!」


舞園さんは笑顔そう言う。
良かった良かった、霧切さんはともかく舞園さんに反対されたら、それには従うしかないからだ。

まぁ、彼女は霧切さんみたいな明確な目的がないので、別に人数が増えても不都合ではないだろうとは予想していた。


舞園「ふふ、楽しみですねー。苗木君、苗木君。この水着とかどうですか?」

苗木「えっ…………ぶっ!!!」


舞園さんがおもむろに立ち上がってクルリと一回転すると、彼女はビキニ姿に変わっていた。
急に変わるものだから、相当ビックリしてしまった。


苗木「あ……い、いいと思うよ……」

舞園「あはは、苗木君顔真っ赤ですよ」ニコニコ

苗木「そ、そりゃいきなり水着になられたら……」


流石アイドルだけあってスタイルもいい。
あまり凝視しないようにはしているのだけど、それでもチラチラと視線がそちらへ誘導されてしまう。


舞園「……苗木君も男の子なんですね」

苗木「いやその、なんていうか、海とかプールで水着を見るのと、こうして部屋で見るのとでは色々と勝手が違くてその……ごめん」


どうやらボクからの視線には気付いていたようだ。
その辺りはアイドルとしての感覚が優れているからなのだろうか。

舞園さんは朗らかに笑うと、


舞園「謝らなくていいですって。別に嫌というわけではありませんから。アイドルというものは見られるのも仕事ですからね」

苗木「なるほど……う、うん、そうだよね」

舞園「でも、苗木君が落ち着かないのなら、もういつもの服に戻ったほうがいいのですかね」

苗木「…………」


難しい問題だ。ボクは別に舞園さんの水着姿を全力で拒否しているわけではない。
ただ、まぁ、精神安静の為にはやっぱりいつもの服装の方がいいだろう。

ボクがそう頼むと、舞園さんはすぐに水着から元の服へと戻った。何度見ても便利そうだ。


舞園「まぁ、でも……私よりも朝日奈さんなんかの方がスタイルはいいですけどね? やっぱり苗木君は楽しみですか?」

苗木「うっ、い、いや、別にボクはみんなの水着姿を見に行くわけじゃなくて」

舞園「それでもちょっとは楽しみでしょう?」

苗木「……楽しみです」

舞園「あはははは! 素直でいいですね」


舞園さんはボクをからかって遊んでいるようだ。
といっても、不快というわけではない。そういう性癖を持っているとかそういうわけではなくて。

ただ単に、どんな事であれ彼女が楽しそうにしてくれれば、ボクはそれで満足だった。



【数日後 海】


照りつける太陽、白い砂浜、青い海。
ザクザクと砂を踏みしめる足音、ザザーという波の音。


葉隠「うっひょおおおおおおおお、海だべええええええええええ!!!!!」


既にハイテンションな葉隠クンが服を脱ぎながら真っ直ぐ海へと走りだす。
下には既に海パンを装着済みで、そのまま海水へと飛び込んだ。


ザッパァァァァァァァァァァン!!!!!


苗木「は、葉隠クン! 準備体操はしないとダメだって!」

十神「ふん、あれで足をつって溺れても自己責任だ」

霧切「それじゃあ私達は向こうで着替えてくるわね」

朝日奈「一応言っておくけど、覗かないでよー?」

腐川「ふ、ふふふ……白夜様なら覗いてもいいですよ……」ニタニタ

十神「うるさい黙れ早く行け」


女子達は近くにある更衣室へと向かう。
一方で、舞園さんは自由に服を変えられるので、その必要はない。


舞園「早く泳ぎましょうよ苗木君!」

苗木「あ、ちょっと待って。ボクも着替えてくるから」

舞園「ついていきます!」

苗木「ついてこないでよ!?」

十神「……端から見ていると痛いやつにしか見えないな」


それもそうだろう。舞園さんが見えない十神クンからすれば、ボクの一人芝居にしか見えないのだ。

 
少ししてボクと十神クンの着替えが終わって、それから少し待って女子達も出てきた。
霧切さんは黒のビキニ、腰にはパレオ。朝日奈さんは本気の紺の競泳水着。腐川さんは何とも野暮ったいフリル付き白のワンピース。

ボクは普通のハーフパンツ型の水着、十神クンは何というか、予想通りブーメランだった。


腐川「はぁぁぁぁ……白夜様のお体、ベッドで見るのとはまた違った……」

十神「今すぐ黙るか死ぬか選べ」


急に生々しい話を始めようとする腐川さんを、十神クンは目で黙らせる。
そして。


霧切「苗木君、私の水着姿はどう? 何か感想とかは?」


やっぱり、きた。
いや、それでもボクは動揺したりはしない。
行きの車の中でも散々水着の事を話していたし、こうして感想を求められるのは予想済みだ。

ボクはただ考えておいた言葉を口にすればいい。



何ていう? ↓1


苗木「よく似合ってるよ。……その、すごく綺麗だし」

霧切「……そう、ありがとう。まさか『綺麗だ結婚してくれ』とまで言ってくれるとは思わなかったわ。返事はもちろんYESよ」

苗木「そこまで言ってないよ!!」

霧切「でも、綺麗とは言ってくれたわよね。私の耳は誤魔化せないわよ」

苗木「う、うん……まぁ……」

霧切「それならもう結婚するしかないじゃない」

苗木「その繋がりがよく分からないよ……」


ボクが肩を落とすと、ふと周りからの視線に気が付く。


朝日奈「あーあー、やだやだ。なんだかすっごく暑くなってきちゃったよ。私も泳ごうっと」

腐川「好き勝手にラブコメ全開だなんて、学生みたいね……そんなものはオトナの恋愛ではないわ…………そうですよねっ、白夜様?」

十神「知らんな。俺は恋愛をした事がない」

腐川「そんな!!!」


しまった。こういう霧切さんとのやりとりは二人の時ならまだしも、こんな皆の目の前でやるようなものではない。
ところが、当の本人は全く気にしていない様子で、


霧切「これで皆も公認の夫婦になったわね」

苗木「なってないよ!!」

舞園「あはは、そんな事言って苗木君も嬉しいくせに!」

苗木「そ、そんな事ないってば!!」

霧切「あら、舞園さんが何か言ったのかしら?」


霧切さんのその言葉に答えるために、舞園さんは砂浜に文字を書いていく。


『苗木君は本当は嬉しいけど照れ隠しをしているだけです』

霧切「ふふふ、そんな事は分かっているわ」キリッ

苗木「ち、違うってば!! もう、舞園さんまで!!!」


どうやら舞園さんはボクをからかう事が癖になってしまったようだ。



それからは皆で楽しく海で遊んだ。
といっても、朝日奈さんは一人で勝手に本気で泳いでいるわ、十神クンは砂浜のビーチパラソルの下でくつろいでいるだけだわ、腐川さんはそれに付きっきりだわ。
結局の所、ボク達の間に協調性なんていうのは皆無だった。

いや、そんな中でもボクと葉隠クンと霧切さんと舞園さんはビーチバレーでもと楽しんでいるわけなんだけど。


葉隠「ごべはぁぁっ!!!!!」


もう何度目だろうか。またもや葉隠クンの顔面にビーチボールが衝突した。
といっても、別に彼の運動神経が絶望的だという事ではない。

誰だって、目に見えない所からスパイクがきたら反応が遅れるだろう。


舞園「やったやった、私達の勝ちですよ!」

苗木「あはは……葉隠クン大丈夫?」

葉隠「卑怯だべ……こんなのありえないべ…………」

霧切「まったく、だらしないわね葉隠君。例え目に見えなくても、砂浜の様子を注意深く観察していれば、舞園さんの動きくらいは予想できるでしょう」

苗木「いや、それができるのは霧切さんくらいだよ……」

霧切「惚れ直しちゃった?」

苗木「え、何その元々惚れてましたっていう設定!!」

霧切「違うの?」

苗木「違うよ!!」

霧切「…………」

苗木「そこでそんな悲しそうな顔しないでよ!! ちょっと待って、ボクが悪者!?」

葉隠「苗木っち……女を悲しませるのはダメだべ」

舞園「そうですよ苗木君!! 女の子は繊細なんですから!!」

苗木「舞園さんはともかく、葉隠クンにだけは言われたくないんだけど…………分かったよ、ごめん霧切さん」

霧切「結婚してくれるなら許すわ」

苗木「他に何か!!」


すると霧切さんは少し考えて、


霧切「私にオイルを塗ってくれれば許すわ」


目の前にはビニールシートの上にうつ伏せに寝る霧切さん。上の水着は外している。
ボクの手にはサンオイル。これから彼女の背中に塗らなければいけない。


苗木「……ねぇ、こういうのって先に塗っておくものじゃないの?」

霧切「塗ってもらったわよ。朝日奈さんに」

苗木「え、じゃあボクが塗る必要ないじゃん!!」

霧切「あるわ。私が塗ってもらいたいの」

苗木「…………」

霧切「どうしたの、苗木君。私、何かおかしいこと言ったかしら」


たぶんボクが何を言ってもこの状況は変わらないのだろう。
それならば、すぐに終わらせる。ゴクリと喉を鳴らすと、オイルを手につけて温度を調整する。


舞園「鼻息荒いですよ、苗木君?」

苗木「うわあああああっ!!!!!」


急に後ろから声をかけられて、飛び上がらんばかりに驚く。
集中し過ぎて全然気配に気が付かなかった。いや、相手はユウレイなんだけど。


霧切「苗木君? 急に大声あげるからビックリしたわ」

苗木「その割には微動だにしていないね……いや、ごめん、何でもない。ちょっとね」

霧切「舞園さんね」

苗木「本当に何でも分かるんだね……」

霧切「少し考えれば分かることよ。それで? 彼女がオイルを塗るのを邪魔しているとか?」

苗木「そういうわけじゃなくて……」

舞園「あ、ごめんなさい。鼻息が荒くなるほど嬉しかったんですよね。それでは邪魔しないようにします」

苗木「鼻息なんて荒くしてないから!!!」

霧切「苗木君」

苗木「あっ、ちがっ、本当にそんなやましい事を考えているわけじゃないから!!」

霧切「いえ苗木君、責めているわけではないわ。ただ、流石に私にも羞恥心があるから、そういう事は夜に個室でしてほしいの」

苗木「そういう事って何!?」

霧切「セックスよ」

苗木「言っちゃった!!!!!」


霧切「苗木君。中学生じゃないんだから、セックスくらいでいちいち興奮するのはどうかと思うわよ」

苗木「こ、興奮とかじゃないってば!! というか、中学生じゃなくてもそうやってポンポン口にするのもどうかと思うけど!!」

霧切「そう? 苗木君がどうかと思うなら気をつけるわ。今度からは性交と言うことにしましょう」

苗木「そういう問題じゃないってば!!」


こんな会話をいつまでも続けているわけにはいかない。
とにかく与えられた仕事をすぐに終らせる。それでいいはずだ。

……そして、舞園さんはすぐ近くでじーっと見てきているわけで。


苗木「あ、あの、舞園さん?」

舞園「はい、何でしょう?」

苗木「いや、その、そうやってじっと見られると気になるというか」

舞園「いえ、苗木君がこういった場面でどんな行動に出るのか、私興味がありまして」ニコニコ

苗木「普通にオイル塗るだけだよ!!」

舞園「本当ですか? 『手が滑っちゃった!』でおっぱい揉んだりとか考えていません?」

苗木「考えていません!!」

霧切「苗木君、胸くらいなら揉んでもいいわよ」

苗木「どうして分かったの!?」

霧切「苗木君と舞園さんの会話の内容なんて、例え聞こえなくても何となく分かるわ」

苗木「ボクと舞園さんはいつもそんな話をしていると思われてんの!?」

霧切「何か間違いでも?」

苗木「間違いしかないよ!! 舞園さんも何か言ってよ!!」


舞園さんは少し首を傾げると、霧切さんが頭を少し動かすだけで見える位置の砂浜の上に、文字を書いていく。


『苗木君はえっちですけど、私に対してはそこまででもないです』


霧切「……へぇ。意外と紳士なのね苗木君」

苗木「意外とって何さ意外とって…………もう塗るよ」スッ

霧切「んんっ///」

苗木「変な声出さないでよ!!」


もう人肌程度には温めたので、冷たくてこんなビクンと反応するはずがない。
つまりは、わざとというわけだ。


霧切「私……苗木君に触られているというだけで変になりそう……」

苗木「…………」ゴクッ

舞園「苗木君……流石に野外はどうかと思いますよ」

苗木「そんな事考えてないって!!」

霧切「なるほど。苗木君の頭の中は私をどう犯そうかで一杯という事ね」

苗木「 そ れ は 違 う よ ! ! 」


手のひらには柔らかい霧切さんの身体の感触。耳からは霧切さんの甘い声。
何だかとてつもなく疲れた夏の海だった。



【夜 旅館】



泊りがけという事で、夜になったら旅館で休む事になる。
当然男女別の部屋で、男ばかりの部屋に泊めるわけにもいかないので、今回ばかりは舞園さんもボクとは別の部屋で眠る事になる。
まぁ、筆談はできるのでそこまで困った事にはならないだろう。


葉隠「女子は温泉に入っているみたいだべ!!」


葉隠クンが人差し指を天井に向けて堂々と宣言する。
それだけで何を言いたいのか即座に理解してしまう。以前にも似たような経験はあった。


苗木「あのさ……一応言っておくけど覗きって犯罪なんだけど……」

十神「まったくもってくだらん。やるなら勝手にやっていろ」

葉隠「ふっふっふっ、分かってねえなぁ二人共。覗きっていうのは男と女の勝負なんだぜ?」

十神「…………勝負だと?」


十神クンが反応した。あぁ、なんか面倒な事になりそうだ。


葉隠「そうだべ!! 男の欲望と女のガードの真剣勝負!! どんな勝負にも負けない十神っちなら余裕だべ!!」

十神「……くくくっ、いいだろう。俺が全ての事に勝ち続ける事をここで証明してやろう」ドヤァァァ

苗木「いや待って待って、おかしいおかしい」

葉隠「そんじゃ、早速行くべ!」グイッ

苗木「だから何でボクもおおおおおおおお!!!!!」


【露天風呂付近】


ボクは葉隠クンに引きずられるように、旅館の外から露天風呂の方へと回りこんでいた。
十神クンもしっかりついてきている辺り、カオスっぷりが増している。


十神「そういえば聞いていなかったな。覗きの勝利条件とは何だ」

葉隠「それはもちろん、女の子全員のハダカを見る事だべ!!」

十神「おいそれだと舞園がいるから達成できないだろう」

葉隠「あ、それもそうだな。んじゃ、舞園っち以外全員って事で」

十神「ふん、いいだろう」

苗木「帰りたい……」


そのままボク達は小高い丘の上に陣取る。


葉隠「くっくっくっ、このポイントだべ。ここからなら女湯の露天風呂が見えるんだ。この双眼鏡を使ってな!!」

苗木「そんなものまで用意して……ていうか、露天風呂に入らないっていう可能性もあるんじゃないの。中には普通のお風呂もあるんだし」

十神「いや、それはないな。温泉に来て露天風呂に入らないなどありえん」

苗木「そ、そうなんだ…………あっ!!」


そんな事を話している内に、女子達が露天風呂へと入ってきた。


葉隠「うおおおおおおおおおおお、ヤバイ!! 特に朝日奈っちの胸がヤバイ!!!!!」

十神「……くくく、はははははははは!!!!!」

苗木「えーと、十神クン?」

十神「また俺は勝ってしまったか……じゃあな。目的は達した」


まだ一瞬見ただけだろうに、十神クンはとてつもなく満足気に歩き去ってしまう。
あれはあれで端から見れば十分変質者だ。

いや、それよりも今はこのオープンで直球な変質者を何とかしなければいけない。


苗木「ねぇ葉隠クン、やっぱダメだってこんなの!」

葉隠「素直になれって苗木っち! ほら見てみ見てみ?」


そう言って、葉隠クンは双眼鏡を押し付けてくる。
まったく……仕方がないなぁ。皆の安全の為、少しは見なきゃいけないか。


苗木「…………」


そこには楽園が広がっていた。
朝日奈さんの健康的な体付き、腐川さんの痩せたカラダ、霧切さんの白い肌、舞園さんの…………。


苗木「くっ!!」


やっとの思いで双眼鏡を目から離す。
危ない。ダークサイドに堕ちる所だった。


葉隠「どうだべどうだべ!?」ニヤニヤ

苗木「もう、満足したでしょ!? これ以上は流石に」

葉隠「まだだ!! これを一生モンの記憶にするには、もっとガン見しなきゃいけねえ!!」

苗木「それはボクが止める!!」

葉隠「何だと!? あ、分かったべ、霧切っちのハダカを人に見せたくねーんだな!? 分かった分かった、霧切っちは見ないようにするから……」

苗木「そういう問題じゃないって! とにかく、この双眼鏡は返さないから!」

葉隠「はぁぁああああああ!? そんなもん認められねえべ!!!」ガバッ

苗木「うわっ!!」


葉隠クンが必死の形相で取り返そうとしてくる。
でも、その時。

足元がグラッと崩れた。


元々、ここは小高い丘の上だ。そこが少し崩れた結果。
その上に居たボクは為す術無く転がり落ちていく事になる。


苗木「うわっ……わあああああああああああああああ!!!!!」


ザッパーン!!!!!


目の前には無数の水泡。体全体を暖かいものが包み込む。
急な坂を転げ落ちて、そのまま先にあった温泉の中に突っ込んだのだ。


苗木「ごほっ、ごほっ!!」

朝日奈「な、なに……今の水しぶき……?」

腐川「だ、誰か確認しに行きなさいよ……」

苗木「ッ!!」


慌てて近くにあった岩の影に隠れる。
マズイ。マズイマズイマズイ。



誰が来る? ↓1



舞園「苗木君!?」


こちらへ歩いて来たのは舞園さんだった。
霧切さん達との意思疎通には曇った鏡に文字でも書いたのだろうか。

いや、今はそれどころではない。


霧切「どうかしら舞園さん。覗き魔だったらタオルを上に投げて」


なるほど、そういう事か。
相手が覗き魔だった場合、あんな無防備な状態で近付くのは得策ではない。
だからこそ、普通の人には見えない舞園さんが様子を見てくると言ったのだろう。

でも、その考えも失敗に終わった。なぜなら、ボクには舞園さんが見える。
その、ほんのりと赤く火照った肌色が…………。


苗木「(ごめん、舞園さん。これには深いわけが……)」

舞園「…………はぁ、仕方ないですね。覗く時はもっと安全に覗いてくださいよ」


舞園さんはそう言うと岩の向こうへと出ていく。覗き自体は否定しないらしい。
そして曇った鏡に何かを書いているようだ。


朝日奈「な、なんだ、タヌキかー。もう、ビックリしたよホント」

腐川「もし男だったらアイツに殺してもらうところだったわ」


……危ない。ボクは本気で命の危機だったらしい。
後はゆっくりと…………。


霧切「一応私も調べておこうかしら」



苗木「!!!」


体が固まった。動けない。


朝日奈「えっ、でもタヌキなんでしょ?」

霧切「舞園さん、あなたは本当にタヌキを見たのかしら?」

『どういう事ですか?』

霧切「あの大きな水しぶきを見たでしょう。タヌキが飛び込んだとしてもあれ程大袈裟にはならないわ」

腐川「……言われてみれば」

朝日奈「ちょ、ちょっと待ってよ。それじゃあもっと大きな動物!? もしかしてクマとか!?」

腐川「イノシシというのもありえるんじゃないかしら」

霧切「いえ、どちらもないわ。
   クマならあの岩で隠れられるはずがないし、イノシシならそもそも大人しくしているはずがない」

朝日奈「じゃあ……なに……?」

霧切「簡単でありきたりな答えよ。あれは人間だった。そして、舞園さんが庇う相手となれば、自然と答えは出てくるわ」


霧切「そうでしょう、苗木君?」


ビクッと全身が震える。
バレてる……完全にバレてる!!


朝日奈「え、苗木!? 苗木がいるの!?」

腐川「うぐぐぐぐ……苗木ぃぃ……!!」

霧切「大人しく出てきなさい、苗木君。今なら食べるだけで許してあげるわ」

朝日奈「た、食べる!?」

霧切「性的な意味で」

朝日奈「そこまで言わなくていいよ!!」


マズイ、きっと霧切さんは本気だ!



どうする? ↓1



バッシャーン!!!


ふいに、舞園さんが露天風呂の端で水しぶきをあげた。
みんなの視線がそっちへ集中する。思わずボクも彼女の方を向くと、


舞園「苗木君、今の内に!!」


そうだ、みんなの視線が逸れている今がチャンスだ!
ボクは一気に走り出して、とにかく姿を隠せそうな茂みまで急いだ。


朝日奈「な、なに? また誰か来たの!? 葉隠!?」

霧切「いえ、これは…………あっ!」


ボクは何とか茂みの中まで逃げ切る事ができた。
そのすぐ後に、霧切さんが先程までボクが隠れていた岩の裏に回り込む。


霧切「逃げられた……今の水しぶきは舞園さんね……」


よし、ここまで来れば流石に追って来れないだろう。
いくら何でとハダカで外に出て覗き魔を追いかけるような真似はしないはずだ。


……しかし。


霧切「もう出るわ。すぐ着替えて、苗木君を問い詰める」

朝日奈「え、ちょっと霧切ちゃん!?」


ヤバイ。こんなびしょ濡れ状態を見られたら言い訳が難しい。
服には温泉特有の硫黄の匂いがついてしまっている。



↓1のコンマ下一桁が0,5,8だとバレる



苗木「くっ!!」ダダッ


遠くへ。とにかく遠くへ。
そう思って走り出した時、


苗木「うわっ!!」


ドシャァァ!!


苗木「いてて……」


お湯をたっぷり吸い込んだ服の重さで体のバランスが崩れ、転んでしまう。
そして。


霧切「こんにちは、苗木君」ニコ


目の前には、浴衣姿の霧切さんが居た。


苗木「……ど、どうしたの霧切さん。こんな所で」

霧切「苗木君。もういいでしょう、何も言わなくても。私、無駄なことはできるだけ省略したいのよ」


静かな死刑宣告。
霧切さんは一歩一歩、こちらへ近づいて来る。

ボクは即座に土下座体制へと移行。


苗木「ごめんなさい。あのさ、話だけでも」

霧切「いいわ、許してあげる元々怒ってもいないし」

苗木「ホント!? ありが」

霧切「ただし、条件があるわ。あなたを食べさせて」

苗木「えっ」

霧切「もしくは、私を食べて」

苗木「同じだよ!!!」

霧切「ただこれだけでその言葉の意味を瞬時に理解するなんて、苗木君、あなたも中々の上級者のようね」

苗木「キ、キミが言ってたじゃないか……性的な意味でって……」

霧切「お風呂の中でね」

苗木「ごめんなさい、下ネタ以外で許してください」

霧切「何て虫のいい事を言うのかしら苗木君。あなたが下ネタで攻めてきたのよ。それなら私も下ネタで応じるべきよ。目には目を、歯には歯を、下ネタには下ネタを。
   あ、でも厳密に同じ方法を取るのなら、私もあなたの裸体を舐め回すように視姦したほうがいいのかしら」

苗木「ボクは舐め回すように視姦なんてしてないって!!」

霧切「ではどんな風に私の裸体を見ていたのかしら。できるだけ詳しく具体的に説明してほしいわ」

苗木「…………ごめんなさい許してください。話だけでも聞いてください」


霧切「いいわ、話くらいなら聞いてあげる」

苗木「ありがとう! これが事件の真相だよ!」キリッ


それからボクは必死にあんな状況になった理由を説明した。
霧切さんは特に言葉を挟まずに軽く頷きながら聞いてくれた。

そして。


霧切「……事情は分かったわ」

苗木「ほ、本当!? じゃあ」


霧切「でも、それが何だというのかしら」


…………。


苗木「え、えっと、どういう事?」

霧切「言葉通りの意味よ。理由はともかく、あなたが女子全員のハダカを見たのは事実でしょう?」

苗木「……その通りです」

霧切「私にとってはそれで十分なのよ。苗木君、それではハッキリ言うわ。私の言う事を聞きなさい。さもなくばこの事をみんなにバラすわ」

苗木「うぅ……!!」

霧切「これは脅迫よ。私は私の目的のためにあなたを脅迫しているの。それを理解してね」

苗木「怖いよ!」

霧切「いいえ、怖くないわ。超高校級の希望であるあなたがこの程度で怯えるはずがないわ」

苗木「何だか褒められているんだろうけど、ちっとも嬉しくないんだけど」

霧切「いいから答えて苗木君。食べさせたくれるの? 食べてくれるの?」

苗木「結局その二択なの!?」



なんて答える? ↓2


苗木「……ダメだよ霧切さん」

霧切「ダメ?」

苗木「そういうのはもっと大事にするべきだ」


苗木「ボクは、こんな事でキミを食べたくないんだ!」


これがベストのはずだ。ボクは何も間違った事は言っていない。
霧切さんは少し考え込んで、


霧切「……言われてみればそうかもしれない」

苗木「そうでしょ? やっぱりそういうのってこんな無理矢理とかじゃなくて、合意の元でするべきだと思うんだ」

霧切「じゃあ苗木君。脅迫とか関係無しに言うわ。私とセックスしましょう」

苗木「…………」

霧切「ん、何かおかしいわね。セックス……してください?」

苗木「えーと」

霧切「セックス……させてくださいお願いします?」

苗木「ちょっと待った待った!」

霧切「なに?」

苗木「その、何ていうか、順番っていうのもあると思うんだけど」

霧切「分かったわ苗木君。キスしましょう」

苗木「も、もっと前!」

霧切「苗木君、跪いて懇願したら付き合ってあげるわ」

苗木「何でいきなり超上から目線!?」

霧切「友達になってくださいお願いします」

苗木「あれ、ちょっと戻りすぎな気が……」

霧切「私を人間扱いしてください靴でもなんでも舐めますから」

苗木「戻りすぎ戻りすぎ!! あと下から目線すぎ!!」


霧切「あなたの要求に応えるのは難しいものね」

苗木「待って待って、そういう事をボクが要求しているかのように言うのやめてよ」

霧切「ねぇ、苗木君。それでも私はあなたの弱みを握っているというアドバンテージは持っていると思うのよ」

苗木「……そ、そうだね」

霧切「つまりは、このアドバンテージを何かに活かしたいと思うわ」

苗木「でもさ、さっきも言ったけどそういう大切な事は……」

霧切「えぇ、それは分かったわ。でも、そこまで大切でもない事であれば、苗木君は何でもお願いを聞いてくれるのよね?」

苗木「いつの間にかそんな話になってるし」

霧切「嫌なら朝日奈さん達に全てを話すわ」

苗木「分かった分かった!! いいよ、とりあえず言ってみてよ!!」

霧切「ふふ、ありがとう苗木君。そうね、それじゃあ…………」



霧切さんのお願いは? ↓1



霧切「デートして」


それはとても簡潔な答えだった。


苗木「デート?」

霧切「そうよ。私は苗木君とデートしたいと思っているの」

苗木「今?」

霧切「今。さぁ行きましょう」グイッ

苗木「ちょ、ちょっと待って。せめて着替えさせてよ」

霧切「……それもそうね。四十秒で支度して」


そんなわけで、ボクは霧切さんとデートする事になった。
舞園さんの事は他のみんなに任せても大丈夫……かな。


【ビーチ】


デートと言っても、もう夜も更けているのであまり遠くまでは行かず、昼間に遊んだビーチまでやってくる。
ボクも霧切さんも浴衣姿で、ザクザクと砂を踏みながら人気のない夜の砂浜を歩いていく。


霧切「苗木君、デートというのは手を繋ぐものではないかしら」

苗木「あ、うん」


霧切さんに言われて、ギュッと手を繋ぐ。
彼女はいつもの手袋をつけたままだけど、どことなく暖かみを感じるから不思議だ。


霧切「ごめんなさいね」

苗木「なにが?」

霧切「この手袋よ。普通はこういう時は外すものなのでしょうけど……」

苗木「大丈夫、気にしてないって。霧切さんが外したくないなら、ボクだって外してほしくないよ」

霧切「……ありがとう。そういう優しい所好きよ苗木君」

苗木「え、えっと、その……ありがとう」


こうも堂々と言われると流石に照れる。
すると、霧切さんはふと思い出したように、


霧切「間違えた」

苗木「間違えた?」

霧切「あなたの全てが好きよ、苗木君」

苗木「…………あ、ありがとう」



なんて真っ直ぐ過ぎる物言いなんだろうか。
いや、確かにこういうのって少し大人っぽいっていう感じもあるけども。


霧切「…………」

苗木「…………」

霧切「やっぱり、そこで『ボクもだよ』とは言ってくれないのね」

苗木「うん……ごめん。でも」

霧切「いいわ。あなたの答えが出るまで待ってあげる。少なくとも、私があなたの事を好きでいる間は」

苗木「分かった。ありがとう」

霧切「ちなみに『私があなたの事を好きでいる間』というのは一生というのと同義よ」

苗木「うそぉ!?」


流石にそれは視野が狭すぎるんじゃないかと心配になってくる。
その理論で言えばボクが交通事故か何かで死んじゃったら霧切さん一生独身じゃないか。


苗木「ね、ねぇ、霧切さんってもしかしてこれが初恋?」

霧切「えぇ、最初で最後の恋よ」

苗木「待った待った、最後かどうかっていうのは分からないじゃないか。他に好きな人ができる可能性も」

霧切「ないわ」

苗木「ハッキリと言い切るね……」

霧切「逆に苗木君。あなたはやけに私が一生あなたの事を愛し続けるという事を否定したがるわね。何故かしら、迷惑?」

苗木「いや、そういうわけじゃないけどさ! でも、霧切さんってさ、高校入る前とか好きな人居た?」

霧切「だから言ったでしょう。あなたが初恋だと」

苗木「その頃、自分が誰かの事を好きになると想像できた?」

霧切「…………」


霧切さんは答えずに少し俯く。


苗木「だからさ、やっぱり人生何が起きるか分からないんだよ。キミがこれからボク以外とは恋に落ちないというのも、実際は本当かどうか分からない」

霧切「少し、違うわね」

苗木「え?」


霧切「私はあなた以外の人と恋に落ちる事が想像できないのではないわ。想像したくないのよ」

苗木「……つまり」

霧切「あなた以外とは恋したくない。それが私の意思よ。これって結構重いわね、ストーカーになりやすいタイプかもしれない」


もうその徴候はあるというのが正直な感想だったけど、それを言える程ボクは図太くない。
何より彼女の揺るぎない瞳がそれを許さない。


霧切「あ、でも安心して。あなたがきちんと他の女の子を選んだのであれば、私は身を引くわ」

苗木「そ、そっか」

霧切「でもただでは引かない。おそらく泣き叫んであなたと共に心中を試みた後、それでも阻止されたら身を引くのでしょう」

苗木「とてつもなく厄介なんだけど!?」

霧切「加えて、その後一生独身でしょうから、会う度にその責任についてあなたにグチグチ言い続けるのでしょうね」

苗木「嫌すぎる!!!!!」

霧切「ふふ、冗談よ」


霧切さんは口元に小さく笑みを浮かべる。本当に冗談なのか。


霧切「でも苗木君。あなたの反応を見ていると他に好きな子が居るんじゃないかって胸が張り裂けそうになるのだけど」

苗木「あ、いや、そういうわけじゃ」

霧切「朝日奈さん?」

苗木「……どうして?」

霧切「いえ、ただ単に苗木君が親しい女の子の中で一番女性的な体型の子だったからよ」

苗木「た、確かにそうだけど…………でもボクはそんなカラダだけで女の子を好きになったりしないよ」

霧切「つまり、朝日奈さんは胸は大きいけど頭がちょっとアレな所があるから好きではないと」

苗木「そんな事言ってないよ!?」

霧切「じゃあ腐川さんはどうかしら。苗木君って障害大きい方が燃えるタイプ?」

苗木「いや燃えないよ普通に諦めるよ。腐川さんだって十神クンの事が大好きだっていうのは分かるし」

霧切「ヘタレね」

苗木「霧切さんの基準だとヘタレ脱却が凄まじく難しそうだよ……」


霧切「じゃあ、舞園さんは?」

苗木「えっ?」


霧切さんの表情が、少しだけ変わった気がした。ほんの、少しだけ。


苗木「舞園さんは……ある意味腐川さんよりも障害が大きいんじゃないかな。だって」

霧切「彼女はもう死んでいる、から?」

苗木「…………」

霧切「それでも、死者を想ってはいけないという決まりはないはずよ。それに、今は一緒に居るじゃない」

苗木「ボクは…………ただ、舞園さんの願いを叶えて成仏させてあげたいだけだよ」

霧切「それは彼女の望みだから?」

苗木「うん……それにボクも」

霧切「苗木君も?」

苗木「…………」


何だろう、心がモヤモヤして晴れない。
ボクは彼女を成仏させてあげるために動いている、それは間違いないはずだ。

それでも、なぜかそれを声高らかに言うことはできない。


霧切「てっきり苗木君は、舞園さんの事が好きなんだと思っていたわ」

苗木「ボクが……舞園さんを?」

霧切「えぇ、学生時代からずっとね。あなたの事をよく観察している内に、何となくそうなんじゃないかって」

苗木「そりゃ憧れのようなものは持っていたけど……そんな、好きだとかは……第一舞園さんは国民的アイドルなんだし……」

霧切「でも、今はあなたにしか彼女を見ることができない。言い換えれば、あなただけのアイドルとも言えるはずよ」

苗木「そんな事は……」

寝るべ。一章につきお願い一つが長さ的にちょうどいいかもなぁ



霧切さんは夜空に輝く星を眺めて、溜息を漏らす。
その横顔は幻想的で綺麗なものだった。


霧切「……まぁ、苗木君がそう言うならこれ以上追求しても仕方ないわね。そろそろ宿に戻りましょうか」

苗木「あれ、もう?」

霧切「ふふ、なに? もしかしてもっと私と二人で居たいの?」ニヤ

苗木「えっ、あ、いや、そういう事じゃ!」アタフタ

霧切「そこまで全力で否定されるっていうのも正直ショックなのだけど」

苗木「ごめん、その、ボクが言いたいのは……」

霧切「超肉食系の私がこんな簡単に引くはずがない、かしら?」

苗木「…………う、うん」

霧切「苗木君が望むのであれば、このまま二人でホテルに行ってもいいけど」

苗木「それはなしで」

霧切「でしょうね。まぁ、これも戦略の内よ」

苗木「戦略?」

霧切「えぇ。これだけ攻めてもダメみたいだし、長期戦に持ち込む事にしたの」

苗木「あれ、でももう宿に戻るって……」

霧切「長期戦と言っても、この場で粘るという意味ではないわ。今攻め続けるよりも、先に片付けるべき事があるという事よ」

苗木「それってもしかして……舞園さんの事?」

霧切「そうよ。あなたは彼女を成仏させたいのでしょう。それに……」

苗木「それに?」

霧切「……何でもないわ」

苗木「気になるなぁ」

霧切「言わないわ。まったく、あなた相手だと余計な事まで話してしまいそう。もう行きましょう」

苗木「あ、霧切さん!」


霧切さんは早足で行ってしまう。
ボクとしては何とも消化不良な感じだったけど、仕方なく彼女を追って宿に戻る事にした。



【旅館 男部屋】


夜も遅くなってきたので、床に布団を敷いて寝る準備をする。


十神「畳の上で寝るなど久しぶりだな」

苗木「あ、ボクもそうかも。いつもベッドだし」

葉隠「おいおい、お前ら何寝るとか言ってんだ?」

苗木「えっ? だってもう布団も敷いて……」

葉隠「旅行の夜と言ったら女子の部屋に突撃だろ!!」

苗木「……あのさ、それ学生だから許されるわけで、ボク達みたいな大人がやったら普通に犯罪だからね?」

十神「くだらん、俺はもう寝るぞ」

葉隠「十神っち。先に寝る奴は顔に落書きされても文句言えねえぞ?」

十神「ふん、社会的に抹殺されたいのであれば好きにすればいい」


十神クンの場合、脅しでもなんでも無い所が恐ろしい。
そして彼はすぐに横になってしまう。


葉隠「うげっ、マジで寝やがったべ。相変わらずノリわりーな」

苗木「ボク達ももう寝ようって……」

葉隠「ダメだ! 苗木っちは強制参加だべ!!」グイッ

苗木「わっ、ちょ、ちょっと!!」


そんなこんなで、ボクは葉隠クンに引っ張られる形で、女子の部屋まで行くことになった。



【女部屋】


ガチャ


葉隠「おっ、鍵開いてるべ!」

苗木「いやせめてノックしなって! …………あれ?」

葉隠「誰も居ねぇな」キョロキョロ

苗木「不用心だなぁ。とにかく、一旦戻って」


「あっ、鍵かけ忘れちゃった!」
「ちょ、ちょっと、あたしの下着とか盗まれてたらどうするのよ……!」
「その時は私が犯人を探してあげるわ」


声と足音が近づいて来る。


葉隠「隠れるべ!!」グイッ

苗木「わっ!!!」


葉隠クンに押し入れの中に引っ張り込まれる。
その直後、女子達が部屋に戻ってきた。


朝日奈「はい、舞園ちゃん!」


朝日奈さんはジュースを二つ持っていて、そのうち一つを舞園さんが受け取る。
なるほど、初めから舞園さんがジュースを持っていると、他の人達に見られると大騒ぎになってしまうからか。

それよりも、この状況はマズイ。


苗木「(ね、ねぇ、こんな隠れていないで、素直に出ていって謝った方がいいんじゃ)」ヒソヒソ

葉隠「(ダメだ。苗木っちはともかく、俺は確実に殺されるべ)」


そこにはボクも同感だけど。


朝日奈「ぷはーっ! 生き返るー!!」

腐川「ジュースでそのリアクションとか、ほんと子供みたいね」

朝日奈「うるさーい! 別にいいじゃんお酒よりもジュースが好きでも!」

『私もジュースが好きですよ。そもそも、お酒飲んだ事ありませんし』


舞園さんもメモ帳に文字を書いて会話に混ざっている。
覗きの時の双眼鏡を葉隠クンがまだ持っていて、それを使って彼女の文字も読める。

でもこうして双眼鏡を持って押し入れの隙間から眺めるって完全に変態だよなぁ。


霧切「そういえば舞園さんは体の方はどうなっているのかしら? まだ高校生のまま?」

『いえ、私も何故か皆と同じように成長しているんです』

朝日奈「えっ、そうなの!? ユウレイって成長するんだ!!」

腐川「ますます意味が分からないわね」


押し入れの中では葉隠クンが興味津々に、


葉隠「(マジか苗木っち! 成長した舞園っちはどんな感じだべ!?)」

苗木「(あー、やっぱり、その、綺麗になってるよ)」

葉隠「(エロい!?)」

苗木「(そんな目で見てないってば!)」


実際のところはエロくもなってるわけだけど。


腐川「……ふふふ。ねぇ、そろそろメインイベントといかない?」ニタニタ

朝日奈「メインイベント?」

霧切「……旅行の夜と言えば、ガールズトークというものかしら」

腐川「意外と分かってるじゃない」

『ズバリ、恋バナですね!』

朝日奈「えええええ!?///」


やっぱり女子はこういう話が好きなのかな。


葉隠「(おぉ、来たべ!)」

苗木「(これボク達が聞いてもいいのかなぁ)」

葉隠「(もちろんダメに決まってるべ。たぶんバレたら俺は殺されんぞ)」

苗木「(だよね……)」


かといって、ここで出ていった所で許されるわけでもないだろうけど。


腐川「うふふ、それじゃあ言い出しっぺのあたしから話すわね。白夜様との愛の営みを!!」

朝日奈「絶対それ話したかっただけじゃん!」

『でも、私は興味あります!』

霧切「まぁ、私も少しは学ぶ事もありそうね」

腐川「分かっているじゃない。そこのカマトトぶってる乳牛とは違うわね」

朝日奈「わ、分かったよ聞けばいいんでしょ!」


そこからの腐川さんの話は何ていうか……エグかった。
恋愛話なら結婚生活の様子とかデートの事とかでもいいはずだけど、彼女の話はほぼ夜のアレ関係だった。


葉隠「(と、十神っち……意外とすげえプレイしてるべ……)」

苗木「(女子のそういう話は男子よりキツイっていうけど……本当みたいだね……)」


とにかく、これは十神クンの名誉の為にも黙っていた方が良さそうだ。


腐川「それで白夜様はコードを引っ張って……!!」ウットリ

朝日奈「も、もういいじゃん!!! ていうか流石にこれ以上はムリ!!!///」

腐川「何よ、ここからが本番なのに」

霧切「……苗木君もそういう事するのかしら」

朝日奈「何でちょっと期待してるの霧切ちゃん!?」

『どうでしょうね。でも、苗木君の優しい声で囁かれながらそういう事をされるのもいいかもしれません』

霧切「分かってるじゃない、舞園さん」


なんか好き放題言われてるけど、ボクは何も言えないのがもどかしい。


葉隠「(実際あんなプレイするん?)」

苗木「(しないよ!!!)」


その時だった。


霧切「…………?」



ヤバイ、霧切さんが不審げな目でこっちを見ている。
ドクンドクンと心臓が速鳴る。隣で葉隠クンがゴクリと生唾を飲み込んでいる。


霧切「…………」

朝日奈「あれ、どうしたの霧切ちゃん?」

霧切「…………いえ、何でもないわ」


ほっと、一息ついた。とりあえずは助かったのかな。


霧切「それじゃ、腐川さんの話はこのくらいにして、次は朝日奈さんでいきましょうか」

朝日奈「えっ、私!?」

腐川「どうせその体で男も大量に引っ掛けてるんでしょ……」

『わぁ、流石ですね朝日奈さん!』

朝日奈「そんな事ないってば! 誰かと付き合った事なんてないよ!!」


顔を真っ赤にしてそう告白している朝日奈さんを見てボク達は、


葉隠「(あのプロポーションで彼氏できた事ないとか天然記念物ものだべ)」

苗木「(その言い方は酷いって……ていうか、腐川さん以外そうなんじゃないのかな)」

葉隠「(苗木っちもな!)」

苗木「(そういう葉隠クンはどうなのさ)」

葉隠「(俺は色々あったぜ色々。占いってのは主に女が食いつくからな。いやー、危うく刺されかけた事もあったべ)」

苗木「(あぁ、うん。むしろキミがまともな恋愛してたら驚きだよ)」

葉隠「(うっせー!!)」


ボクもそういう事に興味が無いわけじゃない。ただ、よく分からないというのが正直な所だ。
そんな中途半端な気持ちで霧切さんの告白を受けるべきじゃないっていうのは曲げられない。

……何とも情けないというのは分かっているけど。



霧切「でも朝日奈さんは告白自体は何度も受けているわよね」

腐川「贅沢なものね。あたしなんて罰ゲーム以外で告白された事なんてないわよ」

『朝日奈さんってモテモテなんですね!』

朝日奈「や、やめてって……そんなんじゃないってば……!」

霧切「まぁ、朝日奈さんからすれば、他に好きな人が居るのだからね」

朝日奈「ちょ、ちょっと霧切ちゃん!!」

腐川「へぇ、あんた好きな奴とかいたのね」


霧切さんのその言葉に、みんなが驚いた表情をする。舞園さんに関してはボクしか見られないけど。
当然ボク自身も驚いている。そして同時に朝日奈さんの好きな相手というのが気になった。


霧切「こういう場では思い切って言ってもいいじゃない」

『朝日奈さんの好きな人って誰なんですか!? 私、気になります!』

朝日奈「あう……そ、その……///」

腐川「テンプレ展開では苗木辺りね」

朝日奈「っ!!!」


どうしてそこでボクの名前が出てくるんだ……と思ったら、朝日奈さんが顔を真っ赤にして全身をビクッと震わせた。
…………いやいや、まさか。


霧切「流石腐川さんね。一発で当てるなんて」

腐川「……本当なの?」

朝日奈「……ぅぅ……そ、それは……」

『朝日奈さんも苗木君の事が好きなんですか!?』


それから朝日奈さんは逃げるように視線を彷徨わせた後、


朝日奈「……そ、そうだよ///」モジモジ



ポカンと口があんぐりと開いた。


葉隠「(苗木っち、何か一言)」

苗木「(……冗談だよね?)」

葉隠「(あの顔で冗談はねえって。朝日奈っちが演技できねえってのはよく分かってるし)」

苗木「(……いや、ごめん。いきなりすぎて何も言えないよ……)」


葉隠クンの言う事も分かるけど、それ以上に現実味が湧いてこない。
どこかお芝居を見ている感覚が抜けない。


霧切「やっと言ったわね」

朝日奈「うぅ……恥ずかしい……///」

腐川「モテモテじゃない苗木」

『朝日奈さんも苗木君の事が好きなんですか! どういう所が好みだったんですか?』

朝日奈「それは……えっと、苗木は一番話しやすい男子だったし、恋愛シミュレーションにも付き合ってもらって……それで、気がついたら……」

霧切「シミュレーションとか関係なしに恋に落ちていた、と」

朝日奈「……うん///」


背中がむず痒い。


葉隠「(苗木っち、何か一言。つか恋愛シミュレーションなんかやってたんか)」

苗木「(う、うん、朝日奈さんがもっと女の子っぽくなりたいって……)」

葉隠「(あのカラダで女の子っぽくってのもまたおかしな話だべ)」

苗木「(心の方で不安だったらしいよ。自分は普通の女の子みたいに恋愛できるのかって)」

葉隠「(お、でもちゃんと出来てるじゃねえか。苗木っちのお陰だな!)」

苗木「(そ、そうなのかな……)」


彼女の役に立てたというなら嬉しいんだけど、これは…………。



腐川「でも、それだと霧切とは敵同士じゃない」

朝日奈「て、敵ってそんな事思ってないよ!」

霧切「ふーん、私ごとき相手にもならないという事かしら」

朝日奈「そういう意味じゃないよ!?」

霧切「ふふ、分かっているわよ。少しからかっただけ」

『でもでも、ライバル同士っていうのには変わりないですよね!』

朝日奈「ライバルだなんて……私、霧切ちゃんには敵わないよ……」

霧切「あら、随分と弱気ね。そんな胸してるくせに」

朝日奈「む、胸は関係ないでしょ! やっぱり、ほら、苗木も霧切ちゃんと居る事が多いしさ……」

霧切「まぁ、確かにそうね。朝日奈さんよりは彼と一緒に居ると思うわ」

腐川「じゃあ朝日奈も苗木と一緒に居るようにすればいいだけじゃない」

朝日奈「それは……そう、かもしれないけど」

霧切「別に動かないのであればそれでいいわよ。私としても、ライバルは少ないほうがいいし」

『諦めちゃダメですよ朝日奈さん! 苗木君も、きっと朝日奈さんの事だって見てくれます!』

朝日奈「…………舞園ちゃんはどうなの?」

『私ですか?』

朝日奈「苗木の事……好きじゃないの?」


部屋に沈黙が広がる。
そして。


『もちろん、好きですよ』

ねみー。意識飛び飛びだから寝る



まず初めに考えたのは、ある一つの恐ろしい可能性だった。
彼女達はもうボク達の事に気づいていて、わざとこんな話をしているのではないか。


葉隠「(苗木っちいくら何でもモテモテすぎだべ……)」

苗木「(いや……これってわざとあんな事言ってんじゃないかな)」

葉隠「(ん、どういう事だ?)」

苗木「(ほら、ボク達が隠れているって事に気付いていて、その上であんな事言ってるとか……さ)」

葉隠「(げっ、マジか!?)」


とりあえず彼女達の様子をじっと観察してみるけど、バレているようには見えない……気がする。


葉隠「(……気のせいじゃねえの?)」

苗木「(そうなのかな……でも霧切さんとかならたぶん気付いていても、ボク達には分からなそうだし……)」

葉隠「(にしたって、朝日奈っちは分かんだろ。隠し事できるタイプじゃねえし)」


その言い分には概ね頷ける。
だけど、そうなると霧切さんも舞園さんも朝日奈さんもボクが好きだという事になってしまう。
そんなものは山田クンが好きそうなゲームの中だけの話だろう。

一方で、舞園さんの告白を受けて、女子達はかなり盛り上がっているようだった。


朝日奈「や、やっぱり舞園ちゃんもそうなんだ!」

腐川「どんだけモテてんのよ苗木の奴」

霧切「……まぁ、そこは私も何となくは分かっていたわ。でも、それだと少しおかしい事があるわね」

『おかしい事ですか?』

霧切「えぇ。苗木君の事が好きなのに、その関係を進展させようとしていないじゃない。
    チャンスはいくらでもあるのに、あなたはあくまで友達として苗木君と接しているように思えるわ」

腐川「ふん、余裕かましてるんじゃないの。苗木くらいいつでも物にできるってね。なにせアイドルなんだし」

『そんな事ありませんって。でも、そうですね、確かに私は苗木君との関係を変えるつもりはありません。というか、その方がいいと思うようになったんです』

朝日奈「え、どうして?」

『二つ目のお願いのデートの件なんですけど……正直結構期待していました。これをきっかけにもしかしたら恋人同士になれるんじゃないかって。
 でも、実際にデートしてみて、それは違うって思い知らされました。楽しかったっていうのは本当です。だけど、やっぱり苗木君はあくまで恋人“役”っていうスタンスを崩さなかった』

霧切「…………そうでしょうね」

『それでハッキリ分かったんです。いえ、薄々は気付いてはいたんですけどね。苗木君が私の事をそういう目で見ていないっていう事くらい』


みんなと同じように、ボクも彼女が紙に書いていく言葉を目で追う。
ボクの場合は舞園さんの声が聞こえるので、そんな事をしなくていいのだけど、彼女自身が声を出していないのでこうするしかない。

そして、その文字を追っていく内に驚きは雪だるま式に大きくなっていく。


苗木「(そんな……舞園さん、本気で……)」

葉隠「(んー、難しいところだべ。例え舞園っちが本気で苗木っちに恋人になってほしくても、素直に言えるような状況でもねえしな)」



舞園さんは……本当にボクの事を……?
いきなりすぎて頭が追いついてこない。その間に、彼女達は話を続けている。


腐川「苗木が自分の事好きじゃないからって諦めるわけ……根性ないわね……」

『あはは、腐川さんに言われたら何も言い返せないです。でも、私が諦める理由はそれだけじゃないんです』

霧切「あなたがユウレイだから、ね」


霧切さんはすぐに、ハッキリとした声で告げる。


『流石霧切さんです。もう何でも分かっているんですか?』

霧切「苗木君に関係する事であれば常に感覚を研ぎ澄ませているからね。あなたの彼に対する態度の変化を見ていればすぐに分かったわ」

腐川「探偵としての能力ってより、女としての能力ねそれは」

朝日奈「え……え……? つまり、どういう事?」

霧切「舞園さんはこれから成仏しようとしている。これから消えるのに彼の気持ちを自分に向けさせる事に抵抗を感じているのでしょう」

『その通りです。苗木君にはあなたや朝日奈さんも居る。それなのに、彼にユウレイである私を選んでもらいたいとは思えなくなりました』

霧切「そのきっかけはこの間のデートの時?」

『はい。彼は私のことを凄く考えてくれて、何とか成仏させてくれようとしているのに、私はあわよくば苗木君といい感じになれたらな、と考えていて……。
 私が成仏したいと思っているのは本当です。生まれ変わりなんていうものがあるのかは知りませんけど、それでもこの状態を前に進んでいるとは思えませんから』


彼女の言葉を聞いて、ボクはしばらく呼吸すら忘れていた。
頭がゴチャゴチャしていて上手くまとまらない。あまりにも衝撃的すぎる事の連続だったからだ。


苗木「…………」

葉隠「(どうすんべ苗木っち。こりゃそうとうムズい事になってるみてえだべ)」

苗木「(分からないよ……そんなのボクに分かるはずないじゃないか!)」

葉隠「(オメーが考えなきゃ仕方ねえだろ! あ、言っとくけど俺にアドバイスとか求めても無駄だかんな!)」

苗木「(それは分かってるよ……)」


考えても考えても、答えは出てこない。
舞園さんは自分がユウレイだからといった理由で我慢している。それは納得できない。
だからといって、どうすればいいのか。こんな同情みたいな気持ちで彼女と付き合えばそれで解決なのか。

その時だった。


霧切「ねぇ、ちょっと男子の部屋に行ってみない?」



苗木葉隠「「!!!!!」」


いきなりの霧切さんの提案に、思わず声が漏れそうになるのを必死にこらえる。


朝日奈「えっ、男子の部屋!?」

腐川「うふふふふふ、あたしは構わないわよ。白夜様いるし」

霧切「この事って舞園さんの成仏にも関係してきそうな気がするし、やっぱりみんなと話した方がいいと思うのよ」

『苗木君には言いたくありません。きっとこの事は彼にとって重荷になってしまいます』

朝日奈「舞園ちゃん……」

霧切「そう。でも、彼を自分だけのものにできなくても、一緒に居たいという気持ちは変わらないのよね?
    それならできるだけ一緒に居たほうがいいと思うけど。成仏のためにも」

『それは、そうかもしれませんけど……』

霧切「じゃあ決まりよ。すぐに行きましょう。朝日奈さんも苗木君とイチャつきたくてウズウズしているみたいだし」

朝日奈「そんな事ないって!!!///」


女子達はそんな事を話しながら部屋を出て行く。
そして、去り際に、確かに。


霧切さんがこちらを見て、小さく頷いた。


バタン


苗木「……バレてたよ確実に」

葉隠「そ、そだな……俺ら殺されんのかな……」ガクガク

苗木「どうかな……気付いていたのは霧切さんだけだったみたいだけど」

葉隠「ようは霧切っち次第ってわけか。つか、苗木っちはどうすんだべ」

苗木「どうするって……でも、舞園さんはボクに気付いてほしくないみたいだし……」

葉隠「じゃあ何もなかったかのように振る舞うんか?」

苗木「…………とにかく、部屋に戻ろう。二人でトイレに行ってたとか言えば誤魔化せるはずだし」


ボクは問題を先送りにして、女部屋を出て行った。
頭は相変わらずゴチャゴチャと様々なものが渦巻いていて、一向に整理できそうもなかった。



【夜 男部屋】


あの後は部屋にやって来た女子達を含めてカードなどで軽く遊んだり、腐川さんが寝ている十神クンの布団に入って蹴り出されたりして。
そんな中でボクはあの事で舞園さんとは上手く話せずに不審がられたりもして、夜も遅くなった所でお開きになった。
霧切さんは、最後までボク達の事を黙っていてくれた。その理由はよく分からないけど。


今はもう夜更け、日付も変わる頃だ。
眠れないのは葉隠クンの大きないびきや歯ぎしりのせいだけじゃない。


苗木「…………」


こうして静かになると、それだけ頭の中ではグルグルと女部屋で聞いた話が回り続ける。
ダメだ、このままだと朝まで眠れない気もする。

そんなわけで、ジュースでも飲もうと外に出る事にした。


バタン


大きな音をたてないように注意しながら、廊下に出る。
そのまま自動販売機まで真っ直ぐ歩いて行って、ジュースを買う。
部屋で飲む気にもならないので、とりあえずロビーのソファーにでも座って飲むことにした。


そして、そこには。


苗木「……あれ?」



誰が居た? ↓1



苗木「霧切さん」

霧切「……あら、お風呂覗きに続いて女子の部屋にまで侵入した苗木君じゃない」ニヤ

苗木「うっ」

霧切「ふふ、冗談よ。どうせ葉隠クン辺りに引っ張られたんでしょ」


霧切さんは楽しげにクスリと笑う。
こういった彼女の表情もだんだん良く見るようになってきた。


苗木「あのさ、霧切さん」

霧切「ビックリしたかしら? 舞園さんや朝日奈さんの事」

苗木「…………当たり前だよ」

霧切「私としてはそこまで驚くような事でもないと思うけど。むしろ、気付かない苗木君の方が鈍すぎよ。それともわざとかしら?」

苗木「そ、そんな事ないよ!!」

霧切「でしょうね。でも、事実よ。あなただってそれは受け止めているでしょう?」

苗木「うん……でも、答えなんてすぐに出るはずがないよ」

霧切「それはそうでしょうね。苗木君は私達の事を異性としてどう思っているのか自分でも分かっていない。答えようがない」

苗木「…………」

霧切「それでも苗木君、もしも舞園さんのお願いが『苗木君と恋人同士になりたい』だったとすればどうするの?」

苗木「えっ」


思わず霧切さんをまじまじと見てしまうけど、彼女は動じる様子もない。


霧切「たぶんそうしたいという気持ちがあっても、彼女は言えないでしょうね。
    例え成仏したいという気持ちがあったとしても、それは苗木君の意思を無視してまで押し通せるものではない」

苗木「無視って、ボクは別に舞園さんの事が嫌いなわけじゃ……!!」

霧切「かといって、異性として好きだと言えるのかしら?」

苗木「それ……は…………」

霧切「言えないのなら同じ事よ。彼女にとっては、苗木君を好きでもない相手と付き合わせるという事に変わりない。
    期間限定という逃げ道も考えられるけど、それで彼女が心から満足するかも分からない」



ボクは舞園さんに何でも遠慮せずにお願いするように言った。
だからといって、彼女は本当に自分のやりたい事全てを正直に話しているとは限らない。

それに……気がつけなかったんだ。


霧切「もしも彼女のお願いが苗木君と結ばれたいというものだったのなら、方法はあるわ」

苗木「えっ、本当?」

霧切「えぇ。騙せばいいのよ舞園さんを」

苗木「……騙す?」

霧切「そう。あなたは彼女の事が好きだって言って彼女に両想いだと思い込ませる。そうすれば彼女も引け目を感じる事もないわ」

苗木「…………」

霧切「まぁもちろん、それが成仏に必要な彼女の願いだとは限らないけれどね。彼女もそう思ってるから、こうして他のお願いを言っているのでしょうし」


どんな理由があっても、舞園さんを騙すという方法は認めるわけにはいかない。
それでも、それが彼女の為になるというのであれば、それで彼女が成仏できるかもしれないというのであれば。

ボクは…………。


苗木「ボクが舞園さんの事が好きだって言って、彼女は信じてくれるのかな?」

霧切「シチュエーションにもよるでしょうね。その辺りは腐川さんにでも聞いてみるといいんじゃないかしら」

苗木「そっか……」

霧切「……もう一つ、方法はあるのだけどね」

苗木「もう一つ?」

霧切「でも、それは教えてあげない。私にとって面白くないから」

苗木「……分かったよ、自分で考えてみる」

霧切「あら、潔いわね。てっきりもっと食い下がってくると思ったけど」

苗木「霧切さんが言いたくないのなら無理には聞かないよ。それに、他の方法もあるって教えてくれただけでも、ボクにとってはありがたいよ」

霧切「…………そうね、どうしてそんなヒントを言ってしまったのかしら」


霧切さんは腑に落ちないといった様子で俯いてしまう。
その様子に何か悪いことを言ってしまったようで、少し申し訳なく思うけど、それでもボクには他に考えなければいけない事があった。

舞園さんのお願いについて。
例え彼女がボクの事を好いてくれているとしても、ただ単に恋人同士になりたいという風に繋がるのだろうか。
恋愛とは関係ない、他のお願いが当たりである可能性はないのだろうか。

考える事はいくらでもある。


霧切「ねぇ、苗木君」

苗木「ん?」


霧切さんはおもむろにソファーから立ち上がってゆっくりとボクの方に歩いてくる。
一体どうしたのだろうと、首を傾げてその様子を眺めていると、


ギュッと、彼女は正面からボクの事を抱きしめてきた。



苗木「なっ……!?」


柔らかい、甘い香りが広がる。
彼女の体の感触が全身から伝わってきて、ドクンドクンと心臓の鼓動がうるさいくらいに速くなる。


霧切「はぁ……幸せ」スリスリ

苗木「ちょ、ちょっと、えっと……な、何してんの!?」

霧切「あなたを抱きしめているのよ」

苗木「それは分かるよ! でも、ほら、何でかなって……」

霧切「苗木君はこうしているのは……いや?」


そんな目で尋ねてくるのは卑怯だ。絶対計算している。


苗木「……いやっていうか、その、ここは人目にもつくし……」

霧切「この時間なら大丈夫よ。それに、人目につかないような場所ならいいっていう事?」ニヤ

苗木「っ!! そ、そうじゃなくて!!」

霧切「ふふ、分かってるわよ。ちょっとからかっただけ」


霧切さんは楽しげな声と共に、やっとボクから離れていく。
やっぱりからかわれているだけか…………。

すると彼女は一歩引いて、正面からボクの目を真っ直ぐ見つめたまま、


霧切「苗木君。私はあなたの事が好きよ」

苗木「……まだからかい足りないの?」

霧切「からかっているわけじゃないわ。これは本心。苗木君だって知っているでしょう?」

苗木「えっ……あ、う、うん……」

霧切「ごめんなさい。ただ言いたくなっただけよ。それじゃ、そろそろ部屋に戻りましょうか」


彼女はそう言うとさっさと行ってしまうので、ボクも慌てて追いかける。

イマイチ彼女の行動の理由がよく分からない。
全部ただのイタズラだと決めつけてしまえばそれはそれで楽なんだけど、そうもいかないような気がする。


そうやって結局悩みの元が増える形になって、ボクは元の男部屋に戻って横になる事になった。

中々進められねえべ。おやすみ



次の日。天気は快晴。
みんなは昨日と同じようにビーチで遊んでいる。

ただ、ボクは十神クンと同じように、パラソルの下で休ませてもらっていた。


十神「ふん、どうした? 体調が悪いわけでもあるまい」

苗木「うん……ちょっと考え事だよ」

十神「そうか」


十神クンはそう言うと、読書に戻ってしまう。
基本的に彼は自分から他人に踏み込むような事はしない。

目を閉じると遠くでみんながはしゃぐ声と波の音だけが聞こえてくる。
こうしていると随分と平和になったなぁという感想が浮かんで、うとうとと意識も曖昧になってくる。

そういえば、昨夜はあまり眠れなかった…………。


バシャァァァァ!!!!!


次の瞬間、冷たい海水が勢い良く顔面にかかった。


苗木「わぶっ!?」

舞園「あはははは!! ビックリしました?」ニコニコ


目の前には舞園さんが明るい笑顔を浮かべて立っていた。
手にはどこから持ってきたのだろうかバケツが握られていた。

他の人から見ればそれはバケツが宙に浮いているという状況なわけで、ここが十神クンのプライベートビーチでなかったら大騒ぎになっているところだ。

ボクは口に入った海水を吐き出しながら、


苗木「けほっ、ビックリしたよホント……」

舞園「ふふ、ごめんなさい。でも、苗木君がそうやってクールに決めていると、なんだかちょっかいだしてみたくなるんです」ニコ

苗木「別にクールにしていたつもりはないんだけど……それ言ったら十神クンもじゃない?」

舞園「十神クンはあれが平常運転なので何も問題ありません」

苗木「あぁ、そう…………ねぇ舞園さん」

舞園「はい?」

苗木「…………」


ボクは何を尋ねようとしているのだろう。
いきなり「ボクのこと好き?」とでも聞くつもりか。


苗木「……ごめん、何でもない」

舞園「そうですか? ふふ、変な苗木君」


舞園さんは面白そうにクスクス笑うと、ボクの手を掴んで引っ張る。


舞園「ほらほら、苗木君も一緒に遊びましょうよ!」

苗木「う、うん、分かったよ」


舞園さんの勢いに負けて、そのままみんなの所に向かう。
向かった先に居たのは、十神クンを除いた、霧切さん、腐川さん、葉隠クンだ。


霧切「ちょうどいい所に来たわ苗木君」

苗木「え?」

葉隠「いやー、海で遊ぶっつっても、昨日と同じだと飽きちまってよ! 苗木っち、何かアイデアとかねえか?」

苗木「アイデア……ねぇ……」

腐川「い、言っておくけどいやらしい遊びは白夜様以外お断りよ!」

苗木「そんな事考えてないってば!!」


それにしても海での遊び、か。
いざ考えてみるとすぐには浮かばないものだなぁ。



何して遊ぶ? ↓1


苗木「うーん……思いつく限りだとビーチフラッグとかスイカ割りとか……」

舞園「あ、いいですね!」

霧切「まぁ定番ね」

腐川「うぎぎぎ……何でそんなアグレッシブなもの提案すんのよ……!!」

葉隠「いや、海つったら自然とアグレッシブなもんになるべ……釣りでもしたかったんか?」


何となく思いつきで言ってみたけど、どうやらみんな……腐川さん以外は乗り気みたいだ。
そして、霧切さんは若干嗜虐的な笑みを浮かべて、


霧切「でも、ただ遊ぶっていうのも面白くないわね。ビーチフラッグなんかは罰ゲームでもつけない?」

苗木「ば、罰ゲーム?」

舞園「あはは、確かにそういうのがあると盛り上がりますよね」

腐川「ひぃぃぃぃ、あんた達あたしをいじめたいだけでしょ!!」

葉隠「ん、けどそれって男が有利じゃねえか? ビーチフラッグなんて結局は足が速い奴が勝つだろ?」

霧切「分かってないわね葉隠君。ビーチフラッグっていうのは反応と戦略の勝負よ。それに、足の速さでも、男子に負けるつもりはないわ」

舞園「えぇ、私だって運動神経にはそこそこ自信ありますよ!」

苗木「えーと、舞園さんも自信あるって」

腐川「やっぱりあたしだけ圧倒的に不利じゃないのよおおおおお!!!」

霧切「いいわ、それなら腐川さんは少し近い位置からスタートする。それでいいでしょう?
    この勝負では敗者を一人だけ決める。だからフラッグの数は私達の人数から一つ引いた数よ」

腐川「うっ……うぅ……」


腐川さんはまだ納得いっていない様子だったけど、渋々といった感じで頷く。
そんな時。


朝日奈「あれ、どうしたの? 何かやるの?」ニコニコ


沖合で泳いでいた朝日奈さんが上機嫌にやって来た。
その瞬間、腐川さんが顔全体に絶望を浮かべて、ビシッと朝日奈さんの事を指さす。


腐川「ああああんたはダメよ!! 参加禁止!!」

朝日奈「い、いきなり何!? 仲間外れはやめてよ!!」


まぁ、腐川さんの気持ちも少しは分かる。
朝日奈さんは水泳だけじゃなく、陸上の競技も凄い。まず負ける事なんて考えられない。
というわけで、朝日奈さんに関しては、腐川さんとは逆に少し離れた所からスタートという事で落ち着く。


他に決めなくてはいけないのは、肝心の罰ゲームの内容だ。


霧切「罰ゲームについて、何か意見はあるかしら?」

葉隠「それって何でも頼んでいいんか!?」ハァハァ

朝日奈「葉隠、鼻息荒いよ」


霧切「そうね、何でもいいわよ」キリッ

苗木「ええっ!?」

腐川「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!!」

『私の場合は効果的な罰ゲームの方が少ない気がしますけど……』


舞園さんが砂浜に文字を書くと、霧切さんは少し考える。


霧切「……まぁ、できれば舞園さんの事も考慮した罰ゲームが好ましいといった所かしら。彼女が負けるとは思えないけど」

腐川「やっぱりあたし狙いなんじゃない!!」

朝日奈「うーん……まぁ私も負ける気しないし、いいかなぁ」

苗木「ボク結構不安なんだけど……」

葉隠「あっはっはっ、じゃあ実質苗木っちと腐川っちの勝負だべ!」

霧切「そうとも言い切れないわよ。例えば狙っていたフラッグを近くにいた人に奪われてしまう事だってあるえるし」


そうだ、ビーチフラッグは位置関係も重要になってくる。
例えばこの場合では、朝日奈さんの近くになった人はかなり不利になるだろう。


霧切「とにかく、今は先に罰ゲームを考えましょうか」



敗者の罰ゲームは? ↓1



霧切「それじゃあ、敗者は苗木君とキスをするという事にしましょう」キリッ


僅かな沈黙。そして。


苗木「は!?」

葉隠「いや、それは罰ゲームにならねえべ」

霧切「驚いたわね、葉隠君は苗木君とキスしたかったなんて」

葉隠「俺じゃねえよ! オメーらにとって罰ゲームにならねえっつってんだ!」ビシッ


葉隠クンが指差した先には霧切さんと朝日奈さんがいた。


朝日奈「ふぇ!? ちょ、い、いきなり何言ってんのよ! わ、私だって苗木となんか……///」チラ

苗木「あ、あはは……そうだよね、嫌だっていうのが普通だよ……」

朝日奈「あっ、ち、違う! そうじゃなくてね、みんなの前でっていうのが恥ずかしいだけで、苗木とキスするって事自体はその……///」

腐川「もう答え言ってるようなものじゃない。それよりあたしはどうなるのよ! 不倫よ不倫!!」

葉隠「おーい十神っち! 腐川っちが苗木っちとキスしてもいいか?」

十神「構わん」

腐川「白夜様ぁぁ……!!」


向こうで本を読んでいる十神クンは面倒くさそうにただ一言だけ答えた。
これはこれで腐川さんが不憫だなぁ……。


葉隠「そんじゃ、苗木っちとキスするのがむしろご褒美な霧切っちと舞園っちと朝日奈っちには別の罰ゲームだべ!」

『あれ、私もその中に入っているんですね。まぁ、当たっていますけど』

苗木「ま、舞園さん!?」

舞園「ふふ、慌ててますね苗木君」ニコニコ


……あぁ、そっか。
舞園さんはこうやってからかっているフリをして、その言葉が本当なのか冗談なのか分からないようにしているんだ。
これは正面から否定するよりも効果的かもしれない。


腐川「じゃあ、そうね…………その三人の内誰かが負けたら、他の二人が苗木にキスっていうのはどうかしら」

霧切「……へぇ」

朝日奈「えっ、それって、つまり……!!」

腐川「そう、敗者は目の前でライバルが苗木とキスしているのを見せつけられるのよ……!」ニタニタ

葉隠「えげつねえ事考えるべ」


というか、ボクの人権とかは完全に無視だ。



少し経って。

ボク達は砂浜に寝っ転がって待機する。
腐川さんはボク達よりも少しフラッグに近い位置、逆に朝日奈さんは遠い位置だ。

スタートの合図は十神クン。フラッグの数は五つ。
ボクが負けた場合は葉隠クンとキスする事になっている。


みんなの利害から行動を予想しなければいけない。
とにかく腐川さんと葉隠クンは死にものぐるいでフラッグへ突進していくだろう。

問題は他の三人だ。
彼女達の場合は、その三人の内の誰かがビリだった場合、他の二人がボクとキスする事になる。

そして、これはあまりにも自惚れた考えだと思うけど。
もし、彼女達の中にボクとキスしたいと思ってる人が居た場合。

その人が取る行動は。


十神「いくぞ愚民ども」


直後、十神クンはパンッ!! と両手を鳴らした。
スタートの合図だ!!



↓1のコンマ以下の数字下一桁で敗者が決定
0→苗木
1→葉隠
2→腐川
3→舞園
4~6→朝日奈
7~9→霧切



すぐに振り向きながら起き上がって、フラッグに向かって突進する。
そして視界の端に、信じられないものが写った。


霧切「ふんっ!」

朝日奈「えっ……きゃあああ!!!」


なんと、霧切さんが朝日奈さんに向かってラグビーのタックルのようなものを仕掛け、転ばせていた。


朝日奈「な、何するの霧切ちゃん!?」

霧切「悪く思わないでね。私は苗木君とイチャイチャする為なら手段は選ばないわ」キリッ

苗木「えええええ……」


それでも、ビリになるわけにはいかない。
ボクはとりあえずフラッグまで走って行って、自分のものを確保する。


腐川「やった……やったわよ!! 白夜様、あたしやりました!!!」

葉隠「うっしゃああああ!!! 俺も苗木っちとのキス回避だぜ!!!」

舞園「あ、苗木君もちゃんとフラッグ取れたんですね!」ニコ

苗木「う、うん……それはいいんだけど……」


背後を振り返る。
そこには勝利を確信した表情でこちらに向かってくる霧切さんの姿があった。

でも。


朝日奈「まだ……終わってない!!!」


朝日奈さんが物凄い勢いで追い上げてくる。
霧切さんは一度だけ後ろを振り返ると、そこからは前だけを見て真っ直ぐ走って行く。


その内、二人は並んだ。そして。


同時に、一つのフラッグに向かって飛び込んだ。


ドシャァァァァァァァァァァァァ!!!!!!



砂埃が舞い上がり、視界が悪くなる。
そして。


朝日奈「やったああああああああ!!!!!」


フラッグを持って立ち上がったのは朝日奈さんだった。


霧切「くっ……!!」ギリッ


霧切さんは本当に悔しそうな表情でうなだれている。
彼女がここまで遊びに熱中するとは思わなかった。

いや、これはもう彼女にとっては遊びではなく戦いに近いものだったのかもしれない。


葉隠「おっ、ビリは霧切っちか! 意外だべ!」

腐川「うふふふふ、じゃあ、分かってんでしょうね……?」ニタニタ


一気に態度が変わる腐川さん。まぁ、気持ちは分からないでもないけど。
しかし、その言葉に反応したのは霧切さんではなく朝日奈さんだった。


朝日奈「……あっ!! えと、つ、つまり……私が…………苗木にキス!?///」


顔を真っ赤にする朝日奈さん。これではどっちが罰ゲームを受けているのか分かったものじゃない。
霧切さんはそんな彼女の事を苦々しげに見るしかない。

すると、隣で舞園さんが、


舞園「私は別に本当にやらなくてもいいですよね? みなさんには見えないんですし、ただやったと言えばいいでしょう」

苗木「えっ?」

舞園「ふふ、どうしたんですか? もしかして苗木君、私とキスしたかったんですか?」ニコニコ

苗木「あ、いや、そうじゃなくて……!!」アタフタ


もしかして、舞園さんがボクの事を好きだっていうのも、本当はウソなのかもしれない。
昨日のアレは、とにかく誰かを言わなければいけない雰囲気だったから、それらしく言ってみただけ、という。

それは、単なるボクの楽観的な展望に過ぎないのか。



『私から苗木君へのキスは済ませましたよ。ほっぺですけど』

朝日奈「えっ!? ほ、ほんと!?」

腐川「ふん、頬に逃げたのね……」

葉隠「まぁどこにしろって指定もなかったしな」

霧切「…………」


霧切さんだけは何も言わずにボクの事を観察している。
たぶん、ボクの様子を見て、彼女は本当に舞園さんがキスなんかしていない事に気付いているだろう。


舞園「一応、後から苗木君が霧切さんに言っておいてくださいね。私は本当はキスなんてしていないって」

苗木「……それは、霧切さんを安心させるため?」

舞園「えぇ。好きな人が他の女の子にキスされているというのは、霧切さんだって気分の良いものではないでしょう」

苗木「…………」


それだったら、舞園さんは? という言葉が出てきそうになって、飲み込む。
彼女は、ボクが昨日の話を聞いているなどという事は知らないし、その事実を抜けば、ボクはただの自意識過剰に過ぎない。

舞園さんは、自分がユウレイだから、いずれ消える自分をボクに選んでほしくない。
本当に……そう思っているのだろうか。これがただ単にボクの思い上がりで、舞園さんはボクの事をそういう風に見ていないとすれば、どんなに救われるのだろう。


腐川「それじゃあ……次は朝日奈ね」ニタニタ

朝日奈「ほ、本気で!? その、わ、私……///」チラ

葉隠「ん、朝日奈っちは苗木っちとキスしたくねえんか?」

朝日奈「そんな事ない!!!」


あまりにも大きな声で否定してしまい、朝日奈さんは顔を更に真っ赤に染める。


朝日奈「あっ……ち、ちがっ!!///」カァァァァ

苗木「ね、ねぇ、別にそこまで強要しなくてもいいんじゃないかな。これだと朝日奈さんが罰ゲームを受けているみたいじゃないか」

霧切「えぇ、そうね。本人が嫌がっているのであれば仕方ないわ」キリッ

葉隠「ここぞとばかりに提案してきたべ」

『まぁ、そうですね。朝日奈さんがそこまで苗木君とのキスを嫌がるなら無理強いするのは可哀想です』

朝日奈「だ、だからそういうわけじゃなくて!! その、私にも心の準備が……」

腐川「はっ、キスくらいでどんだけ焦ってんのよ。うふふ、あたしなんて白夜様とはもっと凄い事……いったぁぁ!!!!!」


腐川さんの言葉の途中で、十神クンが遠くから手に持っていた本を投げつけて彼女の頭に直撃させていた。
無駄に凄いコントロールだ。



朝日奈「わ、分かったよ!! キスする!!」


朝日奈さんが真っ赤な顔でボクと向き合った。
競泳用水着によって強調された豊満なボディーラインが視界いっぱいに広がって、思わずゴクリと生唾を飲んでしまう。


霧切「……言っておくけど、キス以上の事はダメよ」

朝日奈「そ、そんな事するつもりないってば!!」

霧切「あなたに言っているのではないわ、苗木君に言っているの」

苗木「ボクだってそんなつもりないよ!!」

霧切「いいえ、あなた今一瞬朝日奈さんのカラダに目を奪われたわ」

朝日奈「っ!!」バッ

苗木「あっ……う……それは……」

腐川「そりゃそうよねぇ……男はこういういいカラダした女が大好きだものねぇ……」

葉隠「はははっ、そりゃ仕方ねえってもんだべ!」

『苗木君も男の子なんですね』

朝日奈「な、苗木……」

苗木「違うって!! いや、その、確かにちょっとはそういう風に見たかもしれないけど…………でも別に変な事するつもりなんかないってば!!」


ボクの必死の訴えも、みんなあまり聞いてくれていない様子だ。
それでも。


腐川「まぁいいわ。それじゃ、ちゃっちゃとやりなさいよ。霧切の目の前で濃厚なディープキスを!!」

霧切「くっ!!」ギリッ

朝日奈「でぃっ……ええ!?」

苗木「い、いや、別にキスなら何でもいいと思うよ。ほっぺにちょっとするくらいでも……」

朝日奈「あ……う、うん。そうだよね……」


朝日奈さんが潤んだ瞳でボクの事を見つめる。
いよいよ来るのだろうか。これは罰ゲーム……しかも霧切さんに対するものだと分かっていても、ドキドキするのは止められない。

そして。



朝日奈さんがキスした場所は? ↓1



チュッ


おでこに柔らかい感触が伝わった。
体勢的に、目の前には大きな胸が顔に当たりそうな所まで近付いてくる。


苗木「っ……!」ゴクッ

朝日奈「……えへへ///」

葉隠「うがああああああああああ、何だこのむず痒さは!!!!!」

腐川「まるで学生ね」

朝日奈「う、うるさいなもー!!」

霧切「…………」ムスッ


ダメだ、例えおでこだとしても、霧切さんは明らかにムスッとしている。


舞園「苗木君は本当は唇にしてほしかったんじゃないですかぁ?」ニコ

苗木「え、そ、そんな事は……!!」

舞園「あれ、それじゃあやっぱりキスしたかったのは霧切さん?」

苗木「どうしてそこで霧切さんが出てくるのさ!!」

霧切「私がどうしたの苗木君。あ、そう、分かったわ。舞園さん、朝日奈さんときて、私にもキスしてほしいのね。
    いいわよ。私なら、あなたの唇に濃厚なものをしてあげられるわ」

苗木「そんな事言ってないってば!!」

霧切「素直になりなさい。さっきだって、目の前に朝日奈さんの胸が来て鼻息荒くしてたくせに」

苗木「!!!!!」

朝日奈「え……やっ、苗木のえっち!!!!!///」


ボカッと朝日奈さんに思い切り頭を引っ叩かれた。



続いてスイカ割り。
目隠しをされて木の棒を持たせられてフラフラと歩いているのはボクだ。

周りからは指示の声が聞こえてくる。


十神「そのまま真っ直ぐだ」

霧切「いいえ、もっと右よ苗木君」

朝日奈「違う違う、真っ直ぐでいいってば!」

腐川「いえ……回れ右して反対方向へ進みなさい」

葉隠「左だべ苗木っち!!」

舞園「ちょっと後ろ下がって左です!」


もう何だか好き勝手言っている。
よし、ここは…………。



誰を信じる? ↓1
(トリップはそれぞれを信じた結果)



よし、ここは朝日奈さんを信じるぞ!


朝日奈「そうそう、もっと前!」

十神「おい待て苗木! 通り過ぎたぞ!」

朝日奈「いいんだってば。もっと前だよー」

苗木「う、うん……あれ? ねぇ、なんかボク海に入ってない?」

朝日奈「そうだよ?」


そんな、まさかスイカを浮き輪にでも乗せてるのか!?
イジワルってレベルじゃないよ……。


朝日奈「まだまだ前だよー」

苗木「分かったよ……」


どんどん水深は深くなっていき、もう胸の所まで海水がやって来ていた。
こんな所まで流されて、もしスイカを割れなかったら回収できるのだろうか。

……朝日奈さんなら大丈夫か。


朝日奈「よし、そこそこ! 思いっきり振り下ろして!」


ようやくスイカの前まで辿り着けたようなので、ボクはそれが浮き輪の上にあると仮定して、木の棒を思い切り振り下ろした。
すると。


ザブンッ!!!


苗木「ごぼっ!?」


一歩踏み込んだ瞬間、一気に水深が深くなって、足がつかなくなった。その結果、頭のてっぺんまで海水に沈む。
だけど、それも一瞬。パニックに陥る前には既に何者かの腕でボクの体は支えられていた。

わけが分からずに目隠しを外すと、ボクの体を支えてくれているのは朝日奈さんだった。


朝日奈「あははっ!! ビックリした?」

苗木「あ、朝日奈さん……」ジト

朝日奈「ごめんごめん! でもこういうのって誰か一人だけが正しい事いうものでしょ?」ニコニコ

苗木「……はぁ。本気でビックリしたよ」

朝日奈「実を言うとね、その……」

苗木「うん?」

朝日奈「私は……こうやって苗木と一緒に泳ぎたかったかなぁ……なんて///」


そう言って恥ずかしそうにはにかむ朝日奈さんを見て、不覚にも心臓が跳ね上がるのを感じた。
そして同時に全身から伝わる彼女の体の感触を意識し始めて、色々と大変な事になった。

当然、砂浜についてから霧切さんにはグチグチと文句を言われるはめになった。


>>563のトリップの内容
#十神はスイカへ、霧切は自分へ、朝日奈は海へ、腐川は葉隠へ、葉隠は十神へ、舞園は朝日奈へ



夜になって、ボク達は浴衣に着替えて砂浜で花火をやる事にした。
みんなそれぞれ手持ち花火を持って、様々な色の火花を夜の闇に浮かび上がらせていた。
葉隠クンが打ち上げ花火に火をつけると、流石の十神クンも目だけはそちらへ向けていた。


舞園「何だかんだ言って、みんなそんなに変わっていないですね」

苗木「……そうかもしれない」


隣でしゃがみ込んで線香花火を楽しんでいるのは舞園さんだ。
パチパチと明るい光に照らされた表情は明るく、綺麗だ。


舞園「またこうしてみんなと一緒に遊べるなんて、私って苗木君以上の幸運の持ち主かもしれませんね」

苗木「はは、ボクの幸運は本当に幸運なのか疑わしいところもあるけどね。まぁ、こうして舞園さんとまた会えたのが幸運だっていうのは間違いないけどね」

舞園「苗木君……」


今なら少しは聞けるかもしれない。


苗木「……ねぇ、舞園さん。お願いの事なんだけどさ、キミは遠慮しないで何でも言っているのかな?」

舞園「…………」

苗木「その、上手く言えないけど、我慢とかはしないでほしいんだ。だから」

舞園「いいんですか?」

苗木「えっ?」

舞園「全部言っちゃって……いいんですか?」


舞園さんはじっと、ボクの目を覗きこんでくる。
その目はボクの頭の中を全て見透かしているかのようで、いつまでも直視している事ができなかった。

その時、彼女の持っていた線香花火が落ちる。


舞園「もう少しだけ、考えさせてください。私自身、上手く整理できていない事もあるんです」

苗木「……うん、分かった」

舞園「ありがとうございます。苗木君にはとっても感謝しています」ニコ


ただ一言二言、簡単な言葉しか口に出せないボクがとても無力に思えた。
周りでは他の人達が相変わらず楽しげに花火で遊んでいる。



誰に話しかける? ↓1



苗木「霧切さん……あのさ」

霧切「なに?」

苗木「どうして両手いっぱいに花火を持ってるの?」


何だか妙に激しく光っている場所があると思って行ってみれば、そこには両手に溢れんばかりの花火を持った霧切さんが居た。
しかも何故かかなりのドヤ顔だ。


霧切「朝日奈さんに教えてもらったのよ。花火っていうのは多ければ多いほど綺麗に見えるって」

苗木「……むしろボクには恐怖すら芽生えてくるんだけど」

霧切「苗木君もそうなのね。てっきり私の感覚がおかしいのだとばかり思っていたわ」

苗木「霧切さんも怖いって思ってたんだ!?」

霧切「えぇ、花火もこれだけ集まるとただの火の塊でしかないわね。というか、熱いのよこれ」

苗木「捨てなって!」


慌てて近くにあったバケツの中に花火を捨てさせる。
ドボドボと、大量の質量が落ちて、汚い水が跳ねて浴衣につくけど仕方ない。


霧切「ありがとう苗木君。危うく火傷するところだったわ。……もしかして朝日奈さんはこうやって私を亡き者に」

苗木「いやそれはないって……朝日奈さんも四刀流くらいならやってたんじゃないかな」

霧切「四刀流で妥協してしまう辺り、まだまだといった所ね」

苗木「あれだけ大量になるまで妥協しない霧切さんはぶっ飛びすぎてると思うけど」

霧切「苗木君、私は探偵なのよ。花火は多いほど綺麗だと言われれば、その上限を明らかにする義務がある」

苗木「そう……」


思わず大きな溜息をつく。たぶんどれだけ言っても、彼女のこのスタンスは変わらないだろう。
そして、彼女は新たに火を付けた手持ち花火をビシッとボクの方に向ける。


霧切「苗木君」

苗木「あぶなっ!! ちょ、こっち向けないでってば!!」

霧切「あら、苗木君は火遊びが好きなタイプではないの?」

苗木「それはどういう意味で言ってるの!? どっちにしても好きじゃないよ!!」

霧切「そう」


霧切さんは残念そうに手を下ろす。



とりあえずボクも霧切さんに習って、隣で手持ち花火に火をつける。


霧切「今日はずっと朝日奈さんとイチャイチャしていたわね」

苗木「そ、そんな事ないってば……」

霧切「いいえ、あなたはあの大きな胸にやられてずっと鼻の下が伸びきっていたわ」

苗木「そんな顔してた!?」

霧切「してたわ」

苗木「そん、な……」


割と本気でショックだった。自覚がなかっただけに。


霧切「それで? あなたは彼女に乗り換えるという事でいいのかしら?」

苗木「何だかその言い方だと始めから誰かに乗っかっているように聞こえるんだけど」

霧切「もちろん私よ」

苗木「そ、そうなんだ」

霧切「それにしても苗木君、誰かに乗っかるなんていやらしいわね」

苗木「その発想のほうがいやらしいよ!!」


ダメだこの人、真顔で何を言っているんだ。
これではまるで焦っているボクのほうがいやらしいように見えてしまう。


霧切「さっきはさっきで、線香花火なんて雰囲気でるものを一人でやりながら一人で話していたわね」

苗木「その説明だとボクが物凄く寂しい人間にしか聞こえないね……」

霧切「分かっているわよ、舞園さんとイチャイチャしていたのでしょう?」

苗木「イチャイチャはしてないってば……ただ話していただけだよ」

霧切「もしかして……昨日の事?」


霧切さんがじっとこちらを覗きこむ。


苗木「……ちょっとね。我慢とかしないで、何でもお願いしてほしいって」

霧切「それで、彼女は?」

苗木「少し考えさせてほしいって」

霧切「…………そう」


霧切さんの表情からは、どんな事を考えているのかは読み取れない。
たぶん、そういうのは舞園さんの方が得意なのだろう。



霧切「苗木君、私はあなたの事が好きよ」

苗木「……えっと、それは一日一回言わないといけないっていうノルマがあるとか?」

霧切「いえ、こうして何度も言ってあなたに刻みこむ作戦よ。
    何度も言うことで一言の重みがなくなっていくという考え方もあるけど、私はそれより物量戦で攻めることにしたわ」

苗木「そ、そっか……」

霧切「でもこれは私を選びなさいという脅迫ではないわ。『私を選んでくれないかなー(チラチラ』みたいな構ってちゃんの戯言と受け取ってもらっても構わない」

苗木「それを他の人に向ければすぐ落ちちゃうと思うけど」

霧切「それは無理よ。こんな態度、苗木君にしかしないし。同じような事は昨日も言ったでしょう?」

苗木「……うん」

霧切「舞園さんの事で、朝日奈さんの事でどんな決着をつけるとしても、これだけは覚えていてほしいの。私はあなたの事が好きだっていう事を」


霧切さんのその表情は真剣そのもので、プレッシャーに押されてしまっているのを感じる。
それでも、ただ自分の頭を一度縦に振る事くらいはできた。何とも情けない話だけど。


だけど、霧切さんはそれで満足したのか、口元を緩めて笑顔を浮かべていた。



【次の日 苗木のアパート】


旅行から戻ってきたボクと舞園さんは荷物の整理をしていた。といっても舞園さんはほとんど荷物らしい荷物はないけど。
とにかく、この瞬間が一番現実に引き戻された感じがして、気が滅入る。


舞園「あはは……結局このお願いも違ったみたいですね。すみません」

苗木「謝らなくていいってば。お願いを聞くって言ってるのはボクなんだし」

舞園「…………」


すると、舞園さんは黙りこんでしまった。
当然ボクは心配になって、そっちを向く。


苗木「どうしたの?」

舞園「苗木君、言いましたよね。お願いは我慢しないで何でも言ってほしいって」

苗木「う、うん……」


ゴクリと生唾を飲み込む。
もしかして彼女は……ここで言うつもりなのだろうか。

何でも言ってほしいと言ったのはボクなのに、ボク自身の準備もできていないのかもしれない。


舞園「それでは、言いますね。遠慮なしに」

苗木「……いいよ」


そして、舞園さんは目に強い光を宿して、告げた。


舞園「私だけではなく、霧切さんや朝日奈さんのお願いも聞いてあげてください」



【第二章:週刊少年シンレイマガジン】  END

寝るべ




【第三章:新世紀銀河怪談再び! 葬行幽者よ墓地に立て!】



霧切「そう、舞園さんがそんな事を」


未来機関支部、食堂。お昼休み。
ボクと霧切さんは二人で向かい合って同じテーブルで食事をとっていた。


苗木「うん……どういう意味なのかはよく分からないんだけど……自分だけお願いを聞いてもらってばかりなのが嫌だったのかな」

霧切「そういう事ではないでしょう。これは舞園さんや私達の為というよりも、あなたの為という事の方が大きいはずよ」

苗木「ボクの為? どういう事?」

霧切「それは私が言うような事ではないわ、自分で考えなさい。それよりも」


ここで、霧切さんは体を前に乗り出す。


霧切「私のお願い、叶えてくれるのかしら? 舞園さんと同じように」

苗木「それが彼女の願いだからね。ちょっと変則的だけど」

霧切「ふぅん、舞園さんのお願いじゃなかったら私のお願いなんて叶える気はさらさらない、と」

苗木「そ、そういうわけじゃないって。霧切さんが何か困っていてボクを頼ってくれたら、いつでも……」

霧切「でも苗木君、私が結婚してほしいと言っても頷いてくれないじゃない」

苗木「いや、それは」

霧切「話が別、かしら? まぁいいわ、とにかく今は私のお願い、聞いてくれるのよね?」ニヤ

苗木「……あんまりヘビーなのはやめてほしいな」

霧切「その基準について、私は測りかねるわね。例えば……結婚してほしいというのはヘビーな内に入るのかしら?」

苗木「入るよ余裕で」

霧切「それじゃあセックスしてほしいというのは?」

苗木「入るよ余裕で」

霧切「キスは?」

苗木「……………えっと」

霧切「分かったわ、その辺りが境界線という事ね」


霧切さんは納得したように一、二度頷く。
そして真っ直ぐボクを見つめて口を開いた。

どこかの漫画か何かに影響でも受けたのか、大袈裟なポーズまでとって、


霧切「霧切響子の名において苗木誠に命ずるわ――――」



霧切さんのお願いは?

↓1~4のレスのどれか

↓4のレスの投稿時間のコンマ以下の数字でどのれレスを採用するか決定

20~29、50~59、80~84:↓1のレス
35~39、60~69、90~99:↓2のレス
00~09、30~34、70~79:↓3のレス
10~19、40~49、85~89:↓4のレス



霧切「私とデートしなさい」


……何だデートか。
霧切さんの事だから何か大変な事をお願いしてきそうだったから、思いの外普通の事で安心する。


苗木「分かったよ。場所とかお金とか全部こっちで……って事でいいかな?」

霧切「えぇ。分かっているじゃない苗木君」

苗木「うん、舞園さんの時もそうだったしね」

霧切「ふふ、それなら経験を積んだ苗木君はさぞかし素晴らしいデートを計画してくれるのよね?」ニヤ

苗木「が、頑張るよ……」


プレッシャーがやたら重いけど、とにかく努力するしかない。


【夜 苗木のアパート】


舞園「あれ、デートだったんですか」


ボクの話を聞いた舞園さんが意外そうに目を丸くする。


苗木「霧切さんの事だからもっと凄いことをお願いしてくると思った?」

舞園「あー、その…………はい」

苗木「はは、ボクもそうだよ。霧切さんなりに気を使ってくれたのかな」

舞園「うーん……どうでしょうか。霧切さんの性格的にこういう時はとことん攻めてくるものと思いましたが……」


それにはボクも同意権だ。だからこそ、ただのデートだと思わずに常に注意しておいた方がいいのかもしれない。
具体的に何に、とは言えないけども。


舞園「プランとかは決めてあるんですか?」

苗木「ううん、まだ。これから考えようかなって」

舞園「ふふ、一つアドバイスしますと……」


舞園さんは腕を組んで得意げに頷いた後、


舞園「霧切さんは苗木君と一緒であればどこでも構わないと思います」

苗木「……そ、そっか」

舞園「あ、苗木君今、『そういうのが一番困るんだよなぁ』って思いましたね?」

苗木「うっ!」

舞園「エスパーですから」ドヤァァァ


まだ何も言ってないけど、舞園さんは誇らしげに答える。



舞園さんとのデートである程度経験は積んだという事で、今回は少しは自分で考えてみようかな。
でも流石にその自分で考えたプランに絶対的な自信を持てるほどは上級者になったつもりもない。

だから、今回も他の人の意見も聞いて、自分が考えたものと比較する。
これなら人に頼りすぎず、なおかつ大失敗する可能性も減らせるはずだ。

というわけで、まずは自分で考えてみる。
霧切さんとのデート。彼女を楽しませるために、どこに連れて行ってあげればいいのだろうか。
舞園さんはボクと一緒なら霧切さんはどこでも嬉しいとか言っていたけど、その言葉に甘える訳にはいかない。

霧切さんはきっとデートを楽しみにしてくれている。
それならボクも全力で応えてあげなければいけない。



どこに行く? ↓1



……水族館。
うん、今は夏だし涼しそうでいいような気がする。
イルカのショーなんかを見れば、霧切さんも普段とは違った笑顔を見せてくれるかもしれない!


【次の日 未来機関食堂】


霧切「どう苗木君、デートプランの方は順調?」

苗木「うん、ちゃんと考えてるよ。きっと霧切さんにも楽しんでもらえると思うよ」

霧切「……まぁ、実を言うと、どこだろうとあなたと一緒であれば楽しめないはずがないのだけどね」ニコ


本当に舞園さんの言った通りだった……恐るべし。


苗木「それでも、最大限に楽しんでもらえるようにするよ」

霧切「ふふ、それじゃあ大いに期待させてもらうわ。別れ際に婚約指輪もね」

苗木「いやごめん、それは期待しないでホントに」

霧切「大丈夫、私はそこまで高価なものを求めているわけじゃないわ。形だけでも……」

苗木「違う違う、指輪の額とかじゃなくて! そもそも指輪自体を!!」

霧切「……それもそうね。物事には段階というものがあるものね。私は数段飛ばしていたようだわ」

苗木「うん、分かってくれれば……」

霧切「まずは帰りにホテルに寄って既成事実からよね」

苗木「違う!!」

霧切「できちゃえばもう逃げ切れないわよ」

苗木「違う違う!!」

霧切「何よ苗木君。もしかしてその子は自分の子じゃないってシラを切り通すつもり? DNA鑑定して論破するわよ」

苗木「よし、少し落ち着こうか霧切さん。まず、その大元の行動自体起きないからね?」

霧切「周りくどいわね苗木君。そんなぼかさないで、セックスといいなさい」

苗木「ここ食堂!!」

霧切「……それもそうね。ごめんなさい」

苗木「分かってくれれば……」

霧切「それじゃあ苗木君。なぜ私とあなたで性交渉をしないと言い切れるのかしら?」

苗木「…………」

霧切「あら、聞こえなかったのかしら? それならもう一度言うけど、なぜ私とあなたで性交渉」

苗木「言い方変えればいいってもんじゃないってば!!」

霧切「それで、理由は?」

苗木「……ボクがそういう事をするつもりがないからだよ」

霧切「そんなものは関係ないわ。私があなたの飲み物に睡眠薬でも盛ってホテルに連れ帰って好き勝手にやればいいだけだし」

苗木「あのさ霧切さん、それ普通に犯罪行為だからね?」

霧切「バレなければ犯罪ではないわ」ドヤァァァ

苗木「どう考えてもバレるでしょボクに!!」

霧切「じゃあ苗木君、もし私が妊娠したとして、あなたは私を未来機関に突き出してお腹の子まで堕ろさせるの?」

苗木「えっ、い、いや、そんな事は……」


霧切「つまり、私が妊娠した時点であなたは私と結婚するしかなくなるのよ!!」ビシッ



ザワザワ……


何やら周りが賑やかになってきた。
それも当然だ、霧切さんがこんなにも堂々ととんでもない事を言っているのだ。

でも、ボクも負けていられない!


苗木「それは違うよ!」キリッ


霧切「ふふ、何が違うのかしら?」

苗木「まずキミはそういう行為をすれば必ず子供ができるみたいな事を言っているけど、そんな事はない! 今からハッキリさせるよ!」


そう言ってボクはケータイを取り出す。


プルルルルルルル、ガチャ


罪木『うふふふふ……もしもしぃ……? 私、あの人の敵とこんなにも普通に電話を……あははっ、なんていう絶望……!!!』

苗木「罪木さん、一つだけ答えてほしい! ボクくらいの歳の男女がセックスして妊娠する可能性はどのくらいあるの?」

罪木『えぇ……? 20~30%くらいですかねぇ』

苗木「うん、ありがとう! お大事に!! 日向クンの言うことをよく聞くんだよ!!」


プツッ


苗木「妊娠率は20~30%!! これは決して高いとは言えないよ!!」ビシッ

霧切「…………」

苗木「さぁ観念するんだ霧切さん! だからこういうのはホントやめよう、うん」

霧切「苗木君、あなたは一つ見落としているわ」

苗木「えっ?」


霧切「私とあなたがセックスするのは一晩だけ、その前提条件から間違っているのよ」ドヤァァァ


……霧切さんのドヤ顔が恐ろしい。
いや、もうこの段階で警務課に突き出していいんじゃないか。


霧切「私は妊娠するまであなたとやりまくるわ。あなたは逃げ切れない!」ビシッ

苗木「……ごめん、そんな事されたら流石に霧切さんの事嫌いになるかも」

霧切「…………」

苗木「…………」

霧切「ごめんなさい」ペコッ


霧切さんが素直な良い子で良かった。



【夜 苗木のアパート】


舞園「……はぁ。何ていうか、霧切さんはちょっと突っ走り過ぎる感がありますね」

苗木「うん……悪い人ではないっていうのは分かってるんだけどね」


今日の事を舞園さんに相談すると、彼女は苦笑を浮かべるしかないようだった。
まぁ、最後は霧切さんも何とか分かってくれたようで、良かったけど。


舞園「でも、やっぱりそれも苗木君のことが好きっていう感情からくるんですよね」

苗木「…………」

舞園「苗木君はまだ答えがでないんですか? あんまり女の子を待たせちゃダメですよ?」

苗木「そう、だよね……ちゃんと、答えを出さないとね……」チラ


舞園さんの様子を見ても、何も分からない。
本当に彼女はボクの事が好きなのだろうか。だとしたら、どういう気持ちでこの言葉を口にしているのだろうか。

ボクはそれを上手く聞き出す術を持たない。


舞園「でも、焦って無理矢理答えを出せばいいというわけでもないですし、いつも心の何処かにとめておくくらいの気持ちでいいんじゃないでしょうか」

苗木「……ねぇ、舞園さん」

舞園「はい?」

苗木「確か舞園さんは、気になっている人が居るって言ってたよね。それって誰なのかな……?」

舞園「……気になります?」

苗木「うん、凄く」


すると、舞園さんはゆっくりと目を閉じて、


舞園「苗木君です」


言葉を失った。
旅行の夜にほとんど告白のようなものを聞いていたにも関わらず。

ボクはただ目を見開いていることしかできない。


苗木「……あ……その……」

舞園「……って言ったらどうします?」ニコ

苗木「へ?」


思わず気の抜けるような声が出てしまった。


舞園「ふふ、私だけそういう事言うなんて不公平ですよ。だから答えてください」

苗木「…………ボクは」



何て答える? ↓1



苗木「舞園さんの事が、気になるよ」


この気持ちが恋愛感情かどうかなんて分からない。
でも、今のボクの頭の中を占めているのは、紛れも無く舞園さんだった。


舞園「……本当ですか?」

苗木「うん」

舞園「霧切さんよりも? 朝日奈さんよりも?」

苗木「そうだよ」

舞園「…………それもそうですよね」

苗木「え?」

舞園「こんな状況ですもん、一時的にとはいえ、私の優先順位が上がってもおかしくはありません」

苗木「いや、そういう事じゃなくて!」

舞園「それでは苗木君は、私の事が好きなんですか? ハッキリと言い切れるのですか?」

苗木「…………」

舞園「勘違いですよ。それは恋愛感情ではありません。優しすぎる苗木君の親切心です」


ここで本当に舞園さんの事が好きだと言う事はできる。
でも、そんな事をしていいのか。それは彼女を騙すことにならないか。

実際のところ、ボクは舞園さんの事を異性としてどう見ているのかよく分からないのだから。


舞園「でも、苗木君が答えてくれたので、私も答えなくてはいけませんね」


舞園さんはここで一息置いて、


舞園「私の気になっている人というのは、苗木君ですよ。冗談とかではなくて、本当に」ニコ


見ているこっちが癒やされる、いつもの明るい笑顔で彼女は答えた。
ハッキリと、ボクの目を見て。


苗木「それは……」

舞園「恋愛感情かどうかは分かりません。苗木君と同じような感じですよ」

苗木「……そっか」


そう、言うのか。まぁでも、それしかないのだろうか。
いや、そもそも、本当に彼女がボクの事が好きかどうかなんて、彼女自身にしか分からないんだ。


舞園「でも、もしもこれが恋愛感情だったら…………苗木君は私と恋人になってくれますか?」

苗木「えっ……あ、そ、それは……!」

舞園「やっぱナシです!!」ビシッ

苗木「へ?」

舞園「こんなのダメですよね、逃げ道沢山用意して……だからナシです!」ニコ

苗木「う、うん……分かった……」


なぜか彼女は自己完結してしまった。
それに対して頷く事しかできないのが何とも情けないのだけど。



それから少しして、ボクはベランダに出る。
舞園さんとの事で、まだ心は落ち着いていないけど、霧切さんとのデートもないがしろにはできない。

ボク自身の考えでは、水族館という案を出した。
これからは他の人の意見も参考にして、その中から選んでいく作業に入る。


……まずは誰にアドバイスを貰おうかな。



誰に聞く? ↓1



プルルルルルルル、ガチャ


十神『また舞園関係か?』


開幕一言にこれだ。もう完全に予想できるらしい。
といっても、今回は舞園さんは間接的に関わっているだけで、メインは霧切さんなんだけども。

ボクはとにかく今の状況をざっくりと説明した。


十神『……なるほどな。お前は相変わらず色々な女に手をつけているようだな』

苗木「人聞きの悪い事言わないでよ……」

十神『だが事実だ。お前も正面からは否定出来ないはずだぞ』

苗木「…………」


十神クンはあの旅行の夜に女部屋で聞いた会話は知らないはずだけど、それでもボクは何も言えなくなってしまう。


十神『ふん、まぁいい。要は霧切とのデートでどこに行けばいいだろうか、という相談だな?』

苗木「うん。ボクは水族館がいいかなと思っているんだけど……」

十神『はっ、あの女がイルカが飛び跳ねるのを見てはしゃぐような奴に見えるか?』

苗木「……そ、それは」

十神『ああいう女こそ、静かな図書館だろう。こっちが何もしなくても勝手に楽しんでくれる』


あぁ、やっぱりそういう結論になるのか。
といっても、十神クンが腐川さんとのデートで図書館を選ぶのは彼女の為というよりも、それが一番楽だという事からなんだろうけど……。


苗木「そっか……ありがとう十神クン。何度もごめんね」

十神『この俺に意見を求めるその考えは正しい。舞園の件については協力すると言ったからな、このくらいは気にするな』


そうやって、十神クンとの通話は終わった。
何だかんだ言って手を貸してくれるのは本当にありがたいな。



さて、と。
ボクが考えた水族館は十神クンに否定されてしまい、代わりにまた図書館を勧められた。
まぁ、でもいくら十神クンでも全てが正しいというわけではない。といっても、相手が腐川さんなら、十神クンが一緒ならどんなデートでも大丈夫そうだけど……。

そういえば、霧切さんも同じような事を言っていたっけ。
いやいや、それでも、ボクは精一杯計画を立てる必要はあるはずだ。



誰に聞く? ↓1



プルルルルルルル、ガチャ


澪田『やっほーい、誠ちゃん! 唯吹に電話なんて珍しいっすね!』

苗木「こんばんは、澪田さん。ごめんね、こんな時間に」

澪田『いいっすいいっす、まだまだお目々パッチリっすよ!』

苗木「あはは、ありがと。それでさ、相談なんだけど……」


ボクは澪田さんに今の状況を説明する。
すると、彼女はハイテンションに、


澪田『うっきゃー!! なんかもう、背中がむず痒くなってくる程の恋愛やっちゃってるっすね!!』

苗木「そ、そうかな?」

澪田『うんうん、でもそれも誠ちゃんっぽいっす。完全に女たらしなのに、初心なとことか!』

苗木「女たらしなんかじゃないって!」

澪田『ズバリ唯吹の予想では、誠ちゃんは一ヶ月以内に誰か女の子に刺されるっす』

苗木「そんな不吉な事言わないでよ!?」


以前までは相手にしなかっただろう言葉も、色々と知ってしまった今では洒落にならない。


澪田『あははっ、まぁそう言う唯吹は恋愛経験とか皆無なんで、全然アテにならないんすけどね! えーと、それで何の話だっけ』

苗木「……デ、デートのアドバイスが欲しいんだ」

澪田『えええええっ!? いきなりのデートのお誘いっすか!? ホント見境にないっすね誠ちゃん!!』

苗木「違うって!! 澪田さんじゃなくて霧切さん!!」

澪田『あー、なんだ響子ちゃんっすか。それなら決まってるじゃないっすか!』


やけに自信満々の澪田さん。


澪田『デートといったら唯吹のライブ一択っすよ!!! それ以外の選択肢なんてありえないっす!!!』


完全に言い切った。
まるでそれがこの世の真理であるかのように。


苗木「……もし相手が朝日奈さんだったら?」

澪田『唯吹のライブっす!!!』

苗木「澪田さんだったら?」

澪田『唯吹のライブっす!!!』

苗木「…………」

澪田『あ、でも唯吹はこの島から出られない決まりなんで、誠ちゃん達の方から来てほしいっす。ちょうどこっちにはライブハウスもあるし』

苗木「あ、うん……分かった。ありがとう」


何だか妙な不安を覚えながらも、そこで電話を切った。
……大丈夫なんだろうか。いや別に彼女の腕を疑っているわけではないけども。



澪田さんからは彼女のライブを提案された。
何というか、霧切さんのイメージ的にはライブよりもコンサートって感じがするけど、それは偏見なのかなぁ。

とりあえず、これで候補は水族館、図書館、ライブ。
見事に分かれた感じだけど、ここでもう一つくらいボクの案を出しておくのもいいかもしれない。


他に霧切さんが楽しめそうな場所はどこだろうか。


どこにする? ↓1

寝るべ



……うん、霧切さんの性格を考えると十神クンの言う通り図書館がいいかもしれない。
ただ、一日中図書館に居るというのも微妙な感じだ。

他の候補は水族館とライブか。



↓3までで多い方

水族館
ライブ



【デート当日 図書館】


霧切「…………」

苗木「…………」


図書館ではお静かに。
その注意書きは至る所に書いてあり、大多数の人間がその通りに守っている。
たまに大きな声が聞こえたと思えば、それは小さな子供である場合がほとんどだ。

ペラッとページをめくりながら霧切さんの事を盗み見る。
冷房対策の為か薄手の黒のカーディガンに白のシャツ。白のミディスカート。
基本的に彼女の服装は大人っぽくというコンセプトの元に組み合わせられているらしく、当然ながらとても似合っている。

服装はもう褒めた。問題があるとすれば。


それっきり、会話が強制終了してしまった事だ。


霧切「…………」

苗木「…………」


ボクは推理小説を読んでいて、霧切さんは意外な事に恋愛小説を読んでいる。
それが何だか無言のプレッシャーか何かに感じて、何とも気まずい。

……ちょっとくらいは話してもいいよね。


苗木「き、霧切さん、その本面白い?」

霧切「あんまり。先が読めすぎるわね。このヒロイン、最後に死ぬわよ」

苗木「そ、そう……」

霧切「…………」

苗木「…………」



ああもう、この際仕方ない。
この歳になって図書館で話し続ける程、ボクも子供ではない。
話せないのならそうだと割り切って、他にするべき事があるだろう。

言葉を発する事ができないなら、頭の中だけに留めておけばいいのだ。
つまりは、考え事だ。こうやって静かな場所でゆっくりと考えにふける機会はそう多くはない。
こういう時こそ時間を有効活用しなければいけない。

今のボクには考えなければいけない事がたくさんあるんだ。



何について考える? ↓1



……そういえばガスの元栓締めてきたかな。
毎回家を出る前は確認するんだけど、結局心配になってきちゃうんだよな。
まぁ、こういう癖がついているのは決して悪い事ではないとは思うけど。

ダメだ、考えれば考える程心配になってくる。


苗木「ごめん、霧切さん。ちょっと電話してくるね」

霧切「え……あ、えぇ……」


霧切さんに一言断った後、図書館の外へ出る。
冷房の効いた館内から出ると、夏のむわっとした熱気が身を包む。
何もしていなくても汗が吹き出てくる。


プルルルルルルル、ガチャ


舞園『はい、もしもし? あ、そうだ、私の声……』

苗木「大丈夫大丈夫、ボクだから」

舞園『苗木君? どうしました、霧切さんとデートの最中なんじゃ?』

苗木「うん、ちょっとガスの元栓締めてたか心配になってさ。大丈夫かな?」

舞園『……え、えぇ、大丈夫ですけど』

苗木「そっか、良かった良かった」ホッ

舞園『あの、苗木君?』

苗木「ん、なに?」

舞園『霧切さんとデートしているのに、そんなにガスの元栓が気になるんですか……?』

苗木「……あ、いや、別につまらないとかそういうわけじゃなくて、その」

舞園『ちなみに今どこに居るんですか?』

苗木「図書館」

舞園『……何してます?』

苗木「…………本読んでます」

舞園『…………』

苗木「…………」



痛い沈黙が続く。
やっぱり舞園さんもこれはないと思っているみたいだ。


舞園『……まぁ、霧切さんが本が嫌いという事はないでしょうけど、それでもデートで話せないっていうのはどうなんでしょうか』

苗木「うっ……」

舞園『霧切さんだって苗木君と沢山お話したいと思っていますよ? きっと』

苗木「そっか……悪い事しちゃったな……」

舞園『そう思うのなら、もう出てもいいじゃないですか。他にも行く場所は考えているのでしょう?』

苗木「うん、分かった。舞園さんの言う通りにするよ」

舞園『ふふ、そうしてあげてください』


舞園さんは本当に霧切さんの事を想って言ってくれているみたいだ。
本当に彼女がボクの事を好きだったら、こんなにも明るく振る舞うのは難しいのではないだろうか。

だから、舞園さんは本当にボクの事が好きなわけではない。
……ボクはその結論を求めているだけなのだろうか。

そして、ボク自身はどうなんだろうか。
舞園さんの事を、霧切さんの事を、朝日奈さんの事を。
異性として……どう思っているのだろう。


分からない。これはつまり、全員異性としては意識していないという事なのか。
それとも。


………
……



苗木「ごめんね、霧切さん。退屈だったでしょ」アセアセ

霧切「いえ……でも、苗木君と話せなかったのは少し寂しかったわね」

苗木「本当にごめん!」

霧切「そこまで謝らなくていいわよ」

苗木「ううん、だって舞園さんに言われなかったら、きっともっと長い時間同じ状態で……」

霧切「舞園さん?」ピクッ

苗木「えっ?」

霧切「……苗木君、あなた一度図書館から出て電話していたみたいだけど、その相手って舞園さんなの?」


苗木「そう……だけど」

霧切「ねぇ苗木君。女性とデートしている時に他の女性に電話するのはどうなのかしら?」ジト

苗木「……あ」

霧切「そんなに舞園さんの声が聞きたいの?」

苗木「い、いや、ちがっ、そうじゃなくて、元々はガスの元栓が気になって……!!」

霧切「つまり苗木君は私とのデートよりもガスの元栓が気になるのね」

苗木「…………ごめんなさい」

霧切「はぁ……いいわ、悪気があったわけじゃないっていうのは分かっているから。でも」


そう言って、霧切さんはボクの腕に自分の腕を絡めた。


霧切「罰として、一日この状態で歩くわよ」


拒否権なんかあるわけがなかった。


【水族館】


昼食をとった後は水族館へやって来た。
世界中の様々な海の生物を見ることができる……というのは別に水族館としては珍しいものではないと思うけど。

それでも、霧切さんは予想以上に楽しげにしていたのでほっとした。


霧切「なに? もしかして私はこういうの好きじゃないと思った?」ニヤ

苗木「う、うん……ちょっと心配だったかな。霧切さんって普通の女の人と感覚が違う気がしたからさ」

霧切「そんな事ないわよ。そうね、例えば可愛い系の人形とかも結構好きなのよ」

苗木「霧切さんが!?」

霧切「そこまで驚かれると流石に少し傷つくのだけど……」

苗木「あ、ごめん……でも意外で……」

霧切「まぁ、イメージに合わないというのは認めるわよ。ただ、別段隠していたわけでもないのだけどね」



その後ボク達はイルカのショーを見る。
霧切さんは相変わらず腕を絡めたままで、その上、手まで握ってきているけど、それをどうこうする事はできない。
落ち着かないというのは正直な所だけど我慢するしかない。


霧切「見事なものね」

苗木「うん。イルカは頭良いらしいからね」

霧切「……ああやって、ただ言うことを聞くだけというのは楽で良さそう」

苗木「え……そ、そうなのかな」

霧切「そうよ。こうすれば正解だというのがハッキリ分かるでしょ」

苗木「あー、うん、まぁ」

霧切「私には正解が分からないわ。どうすれば苗木君は私のものになるのかって」


唐突にぶっ込んできた。
霧切さんはこういう事を顔色一つ変えずに言うから、こっちの方が焦ってしまう。

そのまま彼女はボクの事をじっと見つめて体を寄せてくる。


霧切「だから、力技しか思い付かないのよ」ズイッ

苗木「ちょ、ちょっと待った……ここ普通に人の目が……」

霧切「そう? 私には見えないわ」

苗木「ボクは、その」

霧切「苗木君が選べないというのであれば、選ばせるしかないじゃない。私はこれが正解だって信じてる」


霧切さんの顔が近くまで来る。本当に周りの目とかは完全に無視だ。
きめ細やかな肌や凛とした瞳、サラサラの銀髪、そして柔らかそうな唇がよく見える。

ボクの体はまるで銅像か何かのようにガッチガチに固まって動かなくなってしまった。


バシャァァァァァァァァァァァ!!!!!!


その時だった。
イルカが勢い良く高く跳ね上がって、かなりの量の水が客席の方まで飛んでくる。

事前にそういう事はあると知らされてはいたけど、ナイスタイミングだ。


苗木「つめたっ!! だ、大丈夫霧切さん?」

霧切「…………邪魔したわねあのイルカ」キッ


本気でイルカに怒る霧切さんだった。

寝落ちしてた。また寝るべ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年10月08日 (火) 22:43:34   ID: KW8cf-Ct

叶わない恋ってことなら日向と七海に相談したらいいのに

2 :  SS好きの774さん   2015年07月29日 (水) 20:05:06   ID: mptFjaEj

霧切さんが完全に斉藤千和で再生される件

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