コニー「モノクマ、そしてキャンディ」(893)


・他作品とのクロスSSではありません。今回登場するモノクマ、及びキャンディはただのぬいぐるみです


―― 昼間の営庭

サシャ「やった、これで五十周です……」ゼエハア

コニー「つっ、疲れたぁ……」ゼエハア

サシャ「お腹空きましたぁ……」ヨロヨロ

コニー「元はと言えばお前のせいで走らされたんだろ芋女……」フラフラ

サシャ「コニーだってふざけてたじゃないですかぁ……ああ、もうダメぇ……」バタンキュー

コニー「おいサシャ、どこで倒れてんだよ……教官に見つかったら怒られるぞ」


サシャ「そんなこと言われたって、お腹が空いて力が出ません……」グー キュルルルルル

コニー「あーもうダメだ、俺も座るわ……休憩……」ドサッ

サシャ「……へへへ、少し休憩してから行きましょうー?」ゴロゴロ ムニュッ

サシャ「……? なんか頭の下に妙な感触が……」モゾモゾ

サシャ「えいっ!」グイッ





サシャ「……ぬいぐるみ?」キョトン


コニー「……なんだそのぬいぐるみ。クマか?」

サシャ「ですね。汚れててかわいそうです」ポフポフ

コニー「しかもところどころほつれてやがんじゃねえか……仕方ねえ、手入れしてやるか」

サシャ「できるんですか? コニー」

コニー「母ちゃんに代わって、何度か妹のぬいぐるみ直してやってたんだよ」

サシャ「へえ……意外ですね」


コニー「……なあサシャ。お前、このぬいぐるみほしいか? ほしいなら手入れした後やるけど」

サシャ「食べ物じゃないのでいりません」キッパリ

コニー「だよな。じゃあ俺がもらうわ」

サシャ「……少女趣味!?」

コニー「違ぇよ。今度実家に帰った時、妹にやるんだ」

サシャ「おおー……コニーは家族思いなんですね!」

コニー「褒めてもパンはやらねえぞ」

サシャ「……バレてましたか」エヘヘ

コニー「天才だからな俺は」フフン


サシャ「じゃあ、このクマさんはコニーに預けますね。どうぞ」スッ

コニー「おう、任せとけ。……あ、そうだサシャ。もし余ってたらでいいんだが、古いブラシ後でくれないか?」

サシャ「いいですけど……何に使うんですか?」

コニー「こいつ手入れするのに必要なんだよ」ポンポン

サシャ「わかりました。なら夕食の時に渡しますね。ついでにボロ布とかもあったら集めてきます!」

コニー「助かるぜ。ありがとなー」

サシャ「その代わり、綺麗になったら私にも見せてくださいね?」

コニー「おうっ! 待ってろよ、新品同然にしてやるぜ!」グッ


―― 夜の男子寮

コニー「♪~」シャッシャッ

コニー「♪~」ポンポンポン

コニー「♪~」ゴシゴシ





ジャン「……おい、何をおっぱじめたんだコニーの奴は」ヒソヒソ

アルミン「なんだろうね……見たままで合ってるなら、ぬいぐるみの手入れをしているようだけど」ヒソヒソ

ライナー「そもそもどっから持ってきたんだ? あのぬいぐるみ」ヒソヒソ

ジャン「アルミンお前聞いてこいよ」

アルミン「ええー……? まあいいけど」


アルミン「えっと……コニー、何してるの?」

コニー「んー? ぬいぐるみの手入れだよ。汚れちまってるから綺麗にしてやろうと思ってさ」フキフキ

アルミン「買ってきた……わけじゃないよね。拾ったの?」

コニー「おう。営庭の隅っこに落ちてたから拾ってきたんだ。そのままにしておくとかわいそうだしなー」フキフキ

ライナー「つまり、さっきからやってるのは手入れってことか?」


コニー「そうそう。ブラッシングして布で叩くんだよ。こうすることで中の汚れが浮き出て取れる」ポンポン

ライナー「……お前女子力高いな」

コニー「これ、サニーにやったら喜ぶだろうなー。あいつクマ好きだし」タカイタカーイ

アルミン「そっか、コニーには妹さんがいるんだったね」

ジャン「……顔が凶悪すぎやしねえか? そいつ」

コニー「そうか? 愛嬌があっていいと思うけどな」ポチットナ



 モノクマ『えまーじぇんしー、えまーじぇんしー』



アルミン・ライナー・ジャン「!?」ビクッ

コニー「ん? なんだ?」キョロキョロ


アルミン「え……? しゃ、喋った……!?」

ライナー「今のは……鳴き声、か……?」

ジャン「いいや、俺には唸ってるように聞こえたぞ……! なんだそいつは!?」

コニー「ただのぬいぐるみだろ?」ポフポフ ポチットナ



 モノクマ『ボクはモノクマ。狭い日本に収まりきるような器じゃないよ』



アルミン「!? また喋った……!!」

コニー「へー、こいつモノクマって言うのかー」タカイタカーイ

ライナー「ほう……この状況で自己紹介とは、なかなか余裕があるじゃないか……!」

ジャン「!? 待てよ……こいつ、俺たちの質問を『聞いて』『理解して』『答えた』ことになるぞ……!?」

アルミン「なんだって!? ……もしかして、そのぬいぐるみには知性があるのかもしれない……!」

コニー「楽しそうだなみんな」ポンポン


エレン「ただいまー……? 四人で集まって何してんだ?」ガチャッ

アルミン「おかえりエレン。今忙しいから後でね」

エレン「? コニー、それなんだ?」

コニー「ぬいぐるみだよ。モノクマって言うんだってさ」

エレン「へー……ちょっと見せてくれよ」

コニー「いいぞー。ほらよ」ヒョイッ


エレン「……」ジーッ

アルミン「……? エレン、どうしたの? モノクマのことじっと見つめて――」

エレン「……」スッ





エレン「ハーイ、ボクハモノクマダヨー(裏声)」フリフリ





アルミン「」

ライナー「」

ジャン「」


エレン「ははっ、なーんてな――」

アルミン「エッレエエエエエエエエエエエン!! 何ふざけてるんだよ君はぁっ!?」

エレン「えっ……な、なんだよアルミン、そんなに怒るなよ……」ビクビク

ライナー「いいや……今お前は叱られても仕方がないことをした!」

ジャン「謝れよエレン! アルミンはお前のことを思って言ってるんだぞ!?」

エレン「え? えっと……ご、ごめんな、アルミン。よくわかんねえけど」オドオド

アルミン「本当だよ! 全く、危ないことはしないでくれ!」プンスカ

エレン「……なあコニー、これどうなってんだ?」ヒソヒソ

コニー「俺が聞きてえよ。……おい、そこまで過剰反応することねえんじゃねえの? ぬいぐるみだぞこれ」

ライナー「コニー、むしろお前はなんで平気なんだ? ぬいぐるみが話すなんてどう考えても異常だぞ?」

コニー「いや、異常って言えばそうなんだが……そういうもんなんじゃねえのか? たぶん」

ジャン「ったく、これだから深く考えねえ馬鹿は困る」ケッ

エレン「今馬鹿に見えてるのはお前らのほうだと思うぞ」


アルミン「! そうか、わかったぞ……!」

ジャン「何かわかったのか!? アルミン」

アルミン「東洋には『長年使った道具には魂が宿る』っていう古い言い伝えがあるんだ」

ライナー「なるほど、つまり……」

ジャン「そういうことか……」

アルミン「うん。……このぬいぐるみには魂が宿っている。間違いない」キリッ

エレン「考えすぎだろ」

コニー「もうわかったから静かにしようぜ。あまり騒いでると教官来るぞ?」ポンポン ポチットナ




 モノクマ『好きに調べてちょうだいな。思う存分、謎を解いてちょうだいな』



ライナー「!? こ、こいつ……自分を好きに調べていいと言ったぞ……?」

ジャン「へえ、潔い奴だな……そういうところは好感が持てるぜ」

エレン「……今、腹から声が聞こえたような」ミミアテ

ジャン「おい馬鹿よせエレンやめろ!! 引っかかれたらどうするんだよ!!」

エレン「警戒しすぎだっての」

コニー「ふにふにしてるけどなー。指先」フニフニ

ライナー「第一、腹から声なんて出るわけないだろう!」

アルミン「いや、待ってくれ……確かに、声は腹から出せって言うよね……!? エレンの言い分も間違ってないと思う!」

エレン「そういうことじゃなくてマジで腹から声出てんだよこいつ」


アルミン「ところでコニー、その……モノクマはどうするの?今晩」

コニー「え? 部屋に置いておくけど?」

アルミン「……」

ライナー「……」

ジャン「……」

エレン「おーい、どうした?」

アルミン「……僕、ここから出て行く」スクッ

エレン「はぁ? 何言ってんだ?」

ライナー「ああ……アルミンの言う通りだ。こんなところにいられるか! 俺は部屋を出る!」スクッ

ジャン「俺もだ! そんな得体の知れねえ奴と一晩一緒に寝られねえよ!」スクッ




   ガチャッ...



キース「貴様ら、先程から随分騒がしいが……何の騒ぎだ……?」ギィッ...

アルミン「」

ライナー「」

ジャン「」

エレン「」

コニー「」


キース「さて……アルレルト、説明してもらおうか」

アルミン「はっ! 男子寮にクマが侵入しました!」バッ!!

エレン「おっ、おいアルミン……!」アセアセ

キース「……」

キース「……ブラウン」

ライナー「はっ! 本当であります!」バッ!!

キース「……キルシュタイン」

ジャン「右に同じく!」バッ!!

キース「……」





キース「……寝ろ」バタンッ


コニー「……聞かれなかったな、俺ら」

エレン「そうだな」

ライナー「……寝るか」

アルミン「待って、まだベルトルトが帰ってきてないよ」


ベルトルト「ただいま。さっきそこで教官とすれ違ったけど、何かあったの?」ガチャッ バタンッ

ライナー「おお、ベルトルトか、聞いて、く、れ……?」

ジャン「……おい、手に持ってるそれはなんだ? ヒツジのぬいぐるみか?」

ベルトルト「これ? キャンディだよ」

アルミン「ごめん意味わかんないからもうちょっと詳しく」

ベルトルト「営庭の隅に落ちてたから拾ってきたんだ。名前は背中に書いてたよ。ほら」クルッ

アルミン「元の場所に戻してきなさい」

ライナー「ウチでは飼えません」

ジャン「餌代だって馬鹿になんねえんだぞ」

ベルトルト「これぬいぐるみなんだけど」


エレン「あー……今はぬいぐるみの話はしないほうがいいぞ、ベルトルト」

コニー「そうそう」

ベルトルト「? ただのぬいぐるみなのに」ポチットナ



 キャンディ『お耳とかしてクル♪』



ベルトルト「……お耳?」キョトン

アルミン「」

ライナー「」

ジャン「」

エレン「お、喋った」

コニー「声かわいいな」


ジャン「しゃっ、しゃべったああああああああああこいつもかぁっ!?」ガタガタッ

ライナー「耳を……耳を、溶かせ……だって……!?」

アルミン「待ってライナー! きっと、この『とかせ』はそういう意味じゃない……」

ライナー「どういうことだ、アルミン……!」

コニー「髪解かしてくれって意味じゃねえのー?」

アルミン「もしかしたら、この『とかせ』は『説かせ』……つまり、『できるものなら自分を説き伏せてみろ』という意味がこめられているのかもしれないっ!」

ジャン「さっすがアルミン、座学トップは伊達じゃねえな!!」

ベルトルト「……かわいいのに」

エレン「見ろよ、こいつ耳伸びるぞー」ビローン

アルミン「エッレエエエエエエエエエエエン!! 不用意なことはしないで!!」クワッ!!


―― 深夜


キャンディ『あそんでクルクルあそんでクル~』


キャンディ『お話しするクル?』


キャンディ『おっさんっぽおっさんっぽいっきたいっクル~』


キャンディ『一緒にお出かけしようクル?』


キャンディ『ねーねークル』





ジャン「ああああああああああっ!! もうっ!! うるっせえよそいつ!!」ガバッ!!


ライナー「ベルトルト……そいつを置いてやるのは構わないがな。いい加減黙らせろ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ...

ベルトルト「黙らせろって言われても……」ペタペタ ポチットナ



キャンディ『きゃはー! ははははっ! きゃははっ!』



アルミン「ひぃっ!? 笑いはじめたよ!?」

ベルトルト「ど、どうしよう……静かにしてくれないかな、お願いだから」ギューッ ポチットナ




キャンディ『ふぁ~…zzz...zzz...』



ベルトルト「あ……静かになったみたい」ホッ

ジャン「……寝る」モソモソ

ライナー「……ああ」モソモソ

アルミン「……僕も」モソモソ

ベルトルト「ごめんねみんな……おやすみ」



エレン「zzz」スピー

コニー「zzz」グー

取り敢えずここまで 果たしてコニーSSは需要があるのだろうか
まあ、なくても書くんだけどさ

再開 その前に凡ミス発見したので差し替え分貼ってから今日の分貼ります


アルミン「えっと……コニー、何してるの?」

コニー「んー? ぬいぐるみの手入れだよ。汚れちまってるから綺麗にしてやろうと思ってさ」フキフキ

アルミン「買ってきた……わけじゃないよね。拾ったの?」

コニー「おう。営庭の隅っこに落ちてたから拾ってきたんだ。そのままにしておくとかわいそうだしなー」フキフキ

ライナー「そっちのブラシは借りてきたのか? というか何に使うんだ?」


コニー「借りたんじゃなくてサシャに使ってないのもらったんだ。これでブラッシングした後に、きれいな布で叩くんだよ。こうすることで中の汚れが浮き出て取れる」ポンポン

ライナー「……お前女子力高いな」

コニー「これ、サニーにやったら喜ぶだろうなー。あいつクマ好きだし」タカイタカーイ

アルミン「そっか、コニーには妹さんがいるんだったね」

ジャン「……顔が凶悪すぎやしねえか? そいつ」

コニー「そうか? 愛嬌があっていいと思うけどな」ポチットナ



 モノクマ『えまーじぇんしー、えまーじぇんしー』



アルミン・ライナー・ジャン「!?」ビクッ

コニー「ん? なんだ?」キョロキョロ

差し替え分ここまで 読み返したらライナーさん難聴になってたので修正しました
というわけで今日の分 のんびり&ちまちま貼ります


―― 翌日

コニー「あー……よく寝た」セノビー

コニー(モノクマは……元気だな、よしよし)ポンポン ポチットナ



 モノクマ『オマエラ、おはようございます。朝です、起床時間ですよ!』



アルミン「ひぃっ!?」ガバッ

ジャン「ああっ!?」ガバッ

ライナー「なんだなんだぁっ!?」ガバッ

エレン「んあー……? 朝か?」モゾモゾ

ベルトルト「ん……おはよう、みんな……」モゾモゾ


コニー「おー、みんな早いな! おはよー」

エレン「……? おいアルミン、目の下に隈できてるぞ」

アルミン「エレン……目の下にクマはいないよ……目の前にいるんだよ……?」プルプルプルプル

エレン「そっちのクマじゃねえってば」

ライナー「……一睡もできなかった」グラグラ

ジャン「部屋の中に得体の知れねえ何かがいるってだけで、眠れやしねえよ……」ガタガタガタガタ

コニー「繊細すぎるだろ」

ベルトルト「キャンディは静かだね。昨日の夜中は三時間くらいずっと喋ってたのに」ナデナデ

ライナー「おそらく夜行性なんだろうな」

ベルトルト「ライナー? これはぬいぐるみだよ?」


アルミン「僕、顔洗ってくる……」フラフラ ガチャッ

ジャン「俺も行ってくるわ……」フラフラ

ライナー「後でな、三人とも」フラフラ バタンッ

ベルトルト「……かわいいのになぁ、キャンディ」ナデナデ

エレン「モノクマだって負けてねえぞ! ……目と口元がちょっと怖いけど」

ベルトルト「ただのぬいぐるみなのになぁ……あ、ここ破けてる」ツンツン クイクイ

エレン「糸引っ張らないほうがいいんじゃねえ?」

コニー「なあベルトルト、よかったらそいつも手入れしてやろうか? モノクマの後になっちまうけど」

ベルトルト「じゃあお願いしようかな。このままだとかわいそうだしね」

コニー「おうっ! 任せろ!」


―― 朝の食堂

サシャ「コニー、おはようございます! パンは」

コニー「やらねえ」モグモグ

サシャ「……クマさん、どうなりました?」

コニー「まだ汚れ取ってるところだよ。ぼちぼち縫うところ」

サシャ「針と糸がご入り用なら言ってくださいね! パンと」

コニー「交換しねえよ。……あーでも縫い始める前に綿買ってこねえとなー、腹のとこヘタってるから」


ミカサ「……綿? 何に使うの?」キョトン

サシャ「ぬいぐるみですよ! コニーが今、クマさんのぬいぐるみを直してるんです!」

ミカサ「直せるの? 意外」

コニー「大抵の修理は一通りな。――それとサシャ、クマさんじゃなくてモノクマな」モグモグ

サシャ「名前付けてあげたんですか?」

コニー「違ぇよ、あいつが自分で名乗ったんだ」

サシャ「へえ……そうなんですか、すごいですね!」

ミカサ「……名乗った??」


クリスタ「えっ? コニー、ぬいぐるみの手入れできるの?」

ミーナ「すごーい! 私にも教えてほしいなー」

コニー「別にいいけどよ……お前らぬいぐるみなんか持ってんのか?」

クリスタ「……実は、小さいの一個だけ」エヘヘ

ミーナ「私も二、三個持ってたり……」エヘヘ

コニー「仕方ねえなあ……モノクマ直しながらでいいなら教えてやるよ」

クリスタ「いいの? やったー!」

ミーナ「お礼にパンあげようか?」

コニー「いらねえよ、サシャじゃあるまいし」

サシャ「まるで私が食いしん坊みたいな言い方はよしてください!」プンスカ

コニー「食いしん坊だろ」

サシャ「そうでした」エヘヘ


ミカサ「ねえコニー、毛糸のマフラーの手入れの仕方とかも知ってる?」

コニー「マフラーか? 編みぐるみならわかるけどなー、服は得意じゃねえなぁ」

ミカサ「編みぐるみの手入れでいいから教えてほしい。資料室の本には手芸の本がなかったから、参考にしたい」

コニー「えー? 参考になるのか?」

ミカサ「というか、同じ編み物だからあまり差がないはず。むしろ編みぐるみを直すほうが難しい、と思う」

コニー「んん……? そうなのか……??」

ミカサ「そう」コクコク

コニー「……まあいいや。じゃあ全員夕方になー! 俺がまとめて面倒見てやるぜ!」



アルミン「コニーが……」

ベルトルト「モテてる……」

ジャン(ミカサまで……)ズーン...

ライナー(クリスタまで……)ズーン...

エレン「すげーな、コニーの奴」モグモグ


―― 夜の男子寮

アルミン「……」グラグラ

ジャン「……」グラグラ

ライナー「……」グラグラ

ベルトルト「三人とも、今日は早く寝たほうがいいよ?」

アルミン「うん……できることなら、そうしたいね……」

ジャン「さっきさ……食堂でさ……ミカサの隣にさ……コニーがさ……座っててさ……」ブツブツブツブツ

ライナー「ぬいぐるみを手にしたクリスタは、かわいいなぁ……ははは……」ブツブツブツブツ

エレン「おーい、戻ってこーい」

ベルトルト「キャンディは昼間もいい子にしてたみたいだね。静かにできるなんてお利口さんだなぁ」ウフフ

エレン「だから、ぬいぐるみだからなそれ」



コニー「ただいまー」ガチャッ


エレン「よっ、おかえりコニー。モノクマ直ったか?」

コニー「そんなすぐに直らねえって。でも汚れはだいぶ落ちたぞ。ほら」ペカー

ベルトルト「……すごいや、真っ白だね」

エレン「な、なあ、それ触っちゃダメか? 手は洗ってきたほうがいいか?」ウズウズ

コニー「手は洗わなくてもいいって、シャツにでも拭いとけ」

エレン「拭いた!」フキフキフキフキフキフキフキフキ

コニー「ほらよ」ホイ


エレン「うわっ、なんか心持ちふわふわしてんな……!」モフモフモフモフ

コニー「汚れ落とすだけでもかなり違ってくるからなー」

エレン「よかったなぁモノクマ、きれいにしてもらって!!」タカイタカーイ

コニー「腹のところ破けてるから気をつけろよー」

ベルトルト「……ねえコニー、キャンディもモノクマくらい白くなるかな?」モチアゲ

コニー「時間はかかるけどできると思うぞ? ただ、俺が手入れしてやるのはもう少し後になるかなー」

ベルトルト「……なら、僕がやってあげようかな。ずっと汚れたままだとかわいそうだし」

コニー「やるなら俺が教えてやるぞ? 意外と簡単だしな!」

ベルトルト「じゃあ、明日から僕も一緒にやることにするよ。よろしくねコニー」

コニー「おうっ! 任せとけ! それにキャンディもベルトルトにキレイにしてもらったほうが嬉しいだろうしなー?」ナデナデ ポチットナ

今日はここまで sage更新してたら結構落ちるなぁ 最後にあげときます




キャンディ『元気いっぱいクル!』



アルミン「うわぁっ!?」ドサッ

ジャン「ぎゃあっ!?」ドサッ

ライナー「だああっ!?」ドサッ

ベルトルト「ちょっ、大丈夫三人とも!?」

エレン「……揃ってベッドから飛び落ちたな」

コニー「ビビりすぎだろ」

ライナー「くっ……やはり、そいつは夜行性だったか……!」ギリッ...

エレン「だからぬいぐるみだっての」

ベルトルト「おはようキャンディ。よく眠れた?」ナデナデ




キャンディ『お耳とかしてクル♪』



ベルトルト「そっか、起きたばかりだもんね。……でも、どうしたらいいんだろ」

エレン「なんだよベルトルト、髪梳かしたことねえのか?」

ベルトルト「他人の髪はやったことないかなぁ」

アルミン「僕もないよ!」ピタッ

ライナー「俺もないぞ!」ピタッ

ジャン「そもそも普通の男子はそんな経験ねえよ!」ピタッ

コニー「壁に貼りつきながら言うなよお前ら」

エレン「よっしゃ、じゃあ俺がやってやるよ。ブラシ借りるぞコニー」ヒョイッ

ベルトルト「エレンはやったことあるの?」

エレン「おう。昔、ミカサの髪を何回か梳かしたことあるからな」

ジャン「」




キャンディ『わーい! もっととかしてクル~』



エレン「この耳、頭の毛の代わりなのかなー」シャッシャッ

コニー「おいエレン、もうちょっと弱めにやったほうがいいぞ。あんまり強いと毛が抜ける」

エレン「了解。……こんなもんか?」シュッシュッ



キャンディ『ハッピーだクル~』



エレン「そっか、よかったなー」

エレン「……」ジッ...

ベルトルト「どうしたの? ……もしかして毛が抜けた!?」アセアセ

エレン「いや、ここをこうしてさ……」クルクルッ


エレン「……うさみみおだんご」キュッ



キャンディ『わーい! わーい!』



アルミン「ちょっとエレン、不用意なことはしないでって昨日言ったじゃないか!」ズリズリ

ライナー「そうだ、噛みつかれたらどうするんだ!」ズリズリ

コニー「摺り足で移動中のお前らに言われてもなぁ」



キャンディ『元気いっぱいだクル!』



ジャン「そりゃお前はそうだろうよ! でも俺たちは眠いんだよちくしょう!」ズリズリ


ベルトルト「……」ソワソワソワソワ

エレン「ほら、ベルトルトもやってみろよ」

ベルトルト「えっ、いいの!?」

エレン「いいのって……お前が拾ってきたんだろ、ちゃんと面倒見ろって。おだんごほどくから次はお前な」シュルッ

ベルトルト「う、うん……」ドキドキドキドキ

ライナー「噛まれるなよベルトルト!」

アルミン「襲われそうになったら死体のフリだ!」

ジャン「鈴つけて山に入れよ!」

コニー「何の注意してるんだよ」


ベルトルト「こ、こんな感じかな?」ギクシャク


キャンディ『わーい! もっと、とかしてクル~』


コニー「おお、喜んでるなー。頑張れ頑張れ」

ベルトルト「うん……」シュッシュッ


キャンディ『ハッピーだクル~』


ベルトルト「そう、よかったね」シュッシュッ


キャンディ『クルクル♪ とても気持ちよかったクル~……』


ベルトルト「……」キュンッ...

ベルトルト「……かわいいね、キャンディ」ホンワカ

コニー「だよなぁ」ホンワカ

エレン「それに比べて……」チラッ


アルミン「……」ギラギラギラギラ

ジャン「……」ギラギラギラギラ

ライナー「……」ギラギラギラギラ

コニー「寝不足と警戒心で目が怖ぇぞお前ら」

エレン「取り敢えずカーテンの陰から出てこいよ、三人とも」

ジャン「いいよなぁ、馬鹿は物事を深く考えねえからよ……」ケッ

ベルトルト「えっ、僕も馬鹿なの……?」シュン

エレン「おいジャン、ベルトルトに謝れよ傷ついちゃっただろ!」

コニー「そもそも俺らも馬鹿じゃねえからな!」

今日はここまで

ジャンとライナーは馴れればこの可愛さに気づいて
混ざれそうな気がする。
アルミンは頭が働くだけに妄想が妄想を呼んで
ずっとビビってそうだなぁ


>>56 先読みされちゃった(´・ω・`)
まあいいや 今後のアルミンとジャンとライナーのぶっ壊れ具合をお楽しみください
というわけで再開


アルミン「……」チラッチラッ

ライナー「アルミン、モノクマが気になるのか?」

アルミン「昨日はあんなに饒舌だったモノクマが、今日は何も話してないのが気になってね……」チラッチラッチラッチラッ

エレン「腹叩けば何か喋ったりしてなー」ポンポン ポチットナ



 モノクマ『やっちゃうよ? いいすか? やっちゃってもいいすか?』



アルミン「」ビクッ!!

ライナー「」ビクッ!!

ジャン「」ビクッ!!

エレン「おっ、喋った喋った」


ライナー「エレン……! どういうことだ!?」

エレン「は? 何が?」

ライナー「なぜ今モノクマの腹を叩いた!? 危ないだろ!!」

エレン「危ねえって言われても……噛まれるわけじゃあるまいし」フニフニ

ジャン「答えろよエレン!! どういうつもりだ!!

エレン「いやどういうつもりだって言われても、なんか喋るかなーって思ったんだけど」

アルミン「いいや……エレンがどういうつもりだったのかは後で追求しよう。まずはモノクマが僕たちに……いや人類に敵意がないことを証明してくれ」

エレン「……敵意? 人類??」

アルミン「証明してくれ早く! モノクマには……その責任がある!」

コニー「証明なんかできるわけねーだろこれぬいぐるみだぞ」


ジャン「おいモノクマぁっ! その腕をぴくりとでも動かしてみろ! その瞬間てめえの首が飛ぶ!! できるぜ! 俺は! 本当に!! 試してみるか!?」ジリジリ

エレン「ジャン、落ち着けって。あと枕じゃ首は飛ばねえから。飛ぶの埃だから」

ライナー「エレン! モノクマから離れろ! 近すぎる!」ジリジリ

コニー「そもそもお前らのほうがちょっとずつ近寄ってきてるんだろ、怖いってんならお前らが下がれよ」

アルミン「なんでだよ!?」ジリジリ

コニー「普通そうだろー?」

ジャン「どうしたモノクマ!! 何か喋れよ!」

エレン「だからこいつぬいぐるみだってば。……コニー、パス」ポイッ

コニー「はいよ」ポスッ


ライナー「!? お前ら、妙な動きはするなぁっ!!」クワッ!!

アルミン「いいから早く証明してくれ!」クワッ!!

ジャン「聞いてんのかモノクマぁっ!!」クワッ!!

コニー「あぁもう……うるっせえな教官来ちまうだろ静かにしろよ!!」ポチットナ



 モノクマ『オマエラおしおきしちゃうよ? うぷぷぷぷ……うぷぷぷぷ……』


アルミン「ひぃっ!? お、おしおき……!?」ガクガクガクガク

ライナー「コニー離れろ! 離れるんだ!! 襲われるぞ!!」

コニー「こいつはそんなことしねえよ。なーモノクマー?」ポチットナ



 モノクマ『しょうがないなぁ。お願いされると弱いんだよね』



コニー「ほら、しねえってよ」

ジャン「コニーには懐いてるからだろ!」

コニー「わかったわかった、お前らが怖いのはもう充分わかったから離れろって!」ポチットナ




 モノクマ『あー、あー。マイクテスッ、マイクテスッ。校内放送、校内放送』

 モノクマ『午後十時になりました。ただいまより夜時間になります』

 モノクマ『ではではいい夢を。おやすみなさい……』



ジャン「……!? おい、今何時だ!?」

アルミン「……十時だ。どうやら、モノクマには時間の概念まであるみたいだね」

ライナー「取り敢えず、こいつは眠ったらしいな……」

ジャン「ああ、今のうちに対策練ろうぜ」


コニー「……あれ? そういやベルトルトはどうした?」キョロキョロ

エレン「そういやさっきから静かだな……ん?」



ベルトルト「……」ドヨーン...



エレン「……部屋の隅で膝抱えて座りながらキャンディ撫でてるな」

ベルトルト「馬鹿じゃないもん……」ナデナデ



キャンディ『きゃはー! ははははっ! きゃははっ!』



エレン「おーいベルトルト、帰ってこーい」

コニー「ダメだ、完全に拗ねてるぞあいつ」


コニー「なあ、そんなに怖いなら夜の間だけでもサシャに預かってもらうか? キャンディと一緒に」

ベルトルト「キャンディはダメだよ!!」ギュッ

エレン「あ、反応した」

ジャン「へっ、ばーか……お前らが楽しそうにしてるのに、取り上げることなんかできっかよ……」

ライナー「ああ、俺たちのことは気にするな。なんならいないものとして扱ってくれ」キリッ

コニー「いないものとして扱えって……それが無理だから提案してんだけどなー」

ジャン「それに、女子にこんな危険な奴らを預けるわけにはいかねえだろ……!」

コニー「今目つきが危険なのはお前らだけどな。早く寝たほうがいいぞ?」

ライナー「コニーの言う通りだ。睡眠を充分に取れない今の状況はかなりまずい。……今日から交替で見張るか? 二時間交替でどうだ?」

アルミン「見張りもいいけど、襲われた時のために何か武器が欲しいところだよね……鉛筆削るための小さいナイフはあるけど、これじゃうなじを削ぐには心許ないし」ギラッ

コニー「削ぐなよ。直すの俺だぞ」

今日はここまで 最後にあげときます

>>58
ごっごめんっ
と思うと同時に、なんて趣味が合うんだろう、
と興奮してしまった
支援

>>68 むしろ先読みされてても面白いもの書けるように気合い入れます、支援ありがとうございます!&レスくれた人もありがとうございました!
というわけで再開 投下時間開くかもしれないですけど、今日の分を終わる時にはちゃんと宣言します


ベルトルト「……ねえ、そんなに怖いなら一緒に寝てみればいいんじゃない? 今晩」

ジャン「はぁっ!? なんでそんな話になんだよ!!」

アルミン「僕たちにそんなファンシーでメルヘンチックなことしろって言うの!?」

エレン「あれっ? でもアルミンって小さいころクマのぬいぐるみ抱いて寝てなかったか?」

アルミン「ちょっ……!? なんで言うんだよエレン、秘密にしてって約束したじゃないか!!///」カアアアアッ!!

エレン「たまにミカサに直してもらってたよなー。あいつ最初は縫うの下手くそで、腹と腕一緒に縫いつけちまった時なんかアルミン本気で怒って――」

アルミン「もおおおおおおおおおおっ!! やめてってばあああああああっ!!」バタバタバタバタ

コニー「おいアルミン暴れるなって、埃舞ってるぞ埃!」

ジャン(この反応はマジだったんだなー……)

ライナー「エレン、それくらいにしといてやれ。アルミンにも触れられたくない過去はあるだろう」

エレン「だってアルミンがぬいぐるみと寝たくないって言うからさ、忘れたのかと思って」

アルミン「忘れたい過去なんだよぉ……それに、あれは喋ったりしなかったじゃないかぁ……前提が違うんだってばぁ……」ブツブツ


コニー「それで、モノクマとは誰が一緒に寝るんだ?」

ジャン「おい、寝るのは決定なのかよ!? 襲われたらどうすんだ!!」

コニー「へいへい、襲われたら俺が助けてやっから安心しろ。ほら、消灯まで時間ねえから早く決めようぜ」

エレン「ここはビビリまくってるジャンでいいだろ。もしくはアルミン」

アルミン「やだよ! やだよ!!」ブンブン

ライナー「いや……仮にも相手はクマだからな。今晩は俺がモノクマを引き受けよう」

ジャン「……じゃあキャンディはアルミンな」

アルミン「ええっ!? なんで僕なのさ、嫌だって言ってるのに!」

ジャン「仮にライナーがモノクマに襲われた場合、お前じゃ助けに行けねえだろ」

アルミン「うっ……確かに、ライナーを襲えるような相手に僕が敵うとは思えないけど……でも、エレンやコニーを起こすことくらい僕にだってできるよ!」

エレン「起こすなよ」


コニー「よし、決まりだな。モノクマがライナーでキャンディがアルミン!」

アルミン「そ、そんなぁ……」ガクッ

エレン「心配すんなって。何かあったら俺がなんとかしてやっから」

コニー「じゃあまずはライナーにモノクマな」スッ

ライナー「おう。このノートの上に乗せてくれ」スッ

コニー「手で掴めよ」

ライナー「…………仕方がないか」

コニー「ほらよ、腹のところ避けてるから気をつけてな」ポスッ

ライナー「……ほう、クマの割に意外と軽いな」

コニー「綿しか入ってないからな。あと首根っこ掴むのやめてやれよ」


ベルトルト「はい、それじゃアルミンにはキャンディね。……いい子にしてるんだよ?」ナデナデ



キャンディ『きゃはー! ははははっ! きゃははっ!』



アルミン「ひぃっ……!? 笑い出した……!!」ガクガクガクガク

ベルトルト「アルミンと寝られて嬉しいんだよ。ねー?」ポンポン



キャンディ『嬉しいクル~!』



ベルトルト「ほら、嬉しいって」

アルミン「……からの?」

ベルトルト「そういうのはないよ、アルミン」


ジャン「よーし、そろそろ灯り消していいか?」

コニー「待った。寝る前にエレンはアルミンに謝っとけよ。さっきからキャンディ抱きかかえたまま膨れてるし」ユビサシ

アルミン「……エレンはいじわるだ」プクーッ

エレン「ごめん、悪かったって。アルミン」

アルミン「……もうしないでね」...ムスッ

エレン「しないって。――じゃあおやすみ、みんな」

コニー「おう、おやすみー」

ベルトルト「おやすみなさい。いい夢見れるといいね」

ライナー「……」ジーッ...

ジャン「座ったまま無言でモノクマと見つめ合うなよライナー。寝ろ」

アルミン「……おやすみなさい」モソモソ


―― 消灯後

ライナー「……」

ライナー(モノクマの奴、意外とおとなしいな……あれから何も話す気配がない……)

ライナー(それに比べて……)


キャンディ『お話しするクル?』


アルミン「こら、静かにしてってば……」ヒソヒソ


キャンディ『あそんでクルクルあそんでクル~』


アルミン「もう夜中だし、遊ばないよ……」ヒソヒソ

ライナー(……キャンディは落ち着きがないな)

ライナー「……」

ライナー(……寝るか。気を張ってても消耗するだけだしな)モソモソ



ライナー(……そういえば)



キャンディ『一緒にお出かけしようクル?』


アルミン「だから、しないってば……」ヒソヒソ


キャンディ『 おっさんっぽ おっさんっぽ いっきたいっクル~』


アルミン「我慢してったら……」ヒソヒソ

アルミン(うーん、モノクマと違って、キャンディはこっちの言うことがわかっていないように見えるなぁ……)

アルミン(……いや待てよ、ベルトルトとの会話はきちんと成立してたはずだ)

アルミン(ということは……まだ幼いから、言葉の意味を全部は理解できていないって考えるのが自然かな)



キャンディ『あそんでクルクルあそんでクル~』


アルミン(いい加減静かにしないとみんな起きちゃうな……)

アルミン(えーっと、昨日のベルトルトはどうやって寝かしつけてたっけ……確かこう……)ギューッ ポチットナ


キャンディ『ふぁ~…zzz...zzz...』


アルミン(やった! これで僕も眠れる……)モソモソ

アルミン「……」



アルミン(……えっと)


アルミン「……」ムクリ

ライナー「……」ムクリ

アルミン「ライナー、起きてる?」

ライナー「……アルミン、お前もか」

アルミン「うん。……さっきは興奮してて気づかなかったけど、これってかなり深刻な問題だよね」

ライナー「ああ。……じゃあ、行くぞ」


コニー「……zzz」

アルミン「ねえコニー、聞きたいことがあるんだけど」ユサユサ

ライナー「モノクマやキャンディはどこに寝かせればいいんだ?」ユサユサ

コニー「んあ? あー……、一緒に寝るんだから、同じ布団で寝ればいいだろ……」ムニャムニャ

アルミン「それだとうまく布団をかけられないんだよ。そもそもキャンディ拾ったままの姿だから結構汚れてるし、布団に入れるのはちょっと」

ライナー「アルミンはまだしも、俺の体は大きいしな……一緒に寝たら、最悪モノクマを押し潰してしまう」

コニー「じゃあ……頭の上で座らしとけばいいんじゃねえの……?」ムニャムニャ


アルミン「頭の上!? それだとキャンディが襲いかかってきた時に逃げられないじゃないか!」

ライナー「それに、布団もなしで寝かせるんじゃかわいそうだ」

コニー「……zzz」

アルミン「コニー起きて起きて起きて」ユサユサユサユサ

ライナー「まだ話は終わってないぞコニー」ユサユサユサユサ

コニー「あーもううるせえなあ……じゃあ、タオルかなんかでベッドでも作ってやりゃあいいだろ……」ムニャムニャ

アルミン「……」

ライナー「……」



アルミン・ライナー「「それだ!!」」



コニー「……zzz」


―― 朝の男子寮

エレン「ふぁ……おージャンにベルトルト、おはよー。起きたのかー?」モソモソ

ベルトルト「おはようエレン。さっき起きたところだよ」

ジャン「エレン、見ろよこれ」

エレン「んー……? ………………ん??」

アルミン「……zzz」スヤスヤ

ライナー「……zzz」グーグー

ジャン「タオルとハンカチでぬいぐるみ用のベッド作ってるぞ、こいつら」

エレン「……屋根ついてる」ツンツン

ベルトルト「ほら、見てよここの装飾。ハンカチでお花なんてどうやって作るんだろうね……」ジーッ

今日はここまで 最後にあげときます


コニー「あーよく寝た! ……ん? お前ら集まって何してるんだ?」

エレン「……これ」ユビサシ

コニー「なんだよ、何が…………………………なんでこいつらベッド作ってるんだ?」

エレン「コニーが何か言ったわけじゃねえんだな?」

コニー「身に覚えがねえなぁ」ポリポリ

ジャン「何があったのかは直接本人たちに聞いたほうが早いだろ。とにかく二人を起こそうぜ」

エレン「そうだな、そうするか。――おーいアルミン、今起きないと間に合わなくなるぞー」ユサユサ

ベルトルト「ライナー、起きて。朝だよ」ユサユサ

アルミン「……ふぁ、おはよ、エレン……」 ボーッ...

ライナー「ん……、なんだ……? もうそんな時間か……?」ボーッ...

ジャン「こんな物までこしらえやがって……お前ら何時に寝たんだよ」

アルミン「えっと、確か……明け方近くだったかな……」ゴシゴシ

エレン「明け方ぁ!?」


ライナー「最初はタオル二枚で済ませようとしたんだが、なんだか見ていて寒そうだったからな……二人で試行錯誤してたら夜が明けていた」

アルミン「それに、ベッドの寝心地がよかったらしばらく寝たままなんじゃないかって思ってね」フフフ

コニー「ここまでやっといてまだ疑えるなんてすげえよ、お前ら」

エレン「この屋根かっこいいよなー、どうやって作ったんだ?」ツンツン

ライナー「ちょいと寮を抜け出してその辺から枝を拾ってきたんだ。なかなか洒落てるだろ?」ニヤッ

ジャン「どんだけ本気で取り組んでんだよ……よく見回りにとっ捕まらなかったな」

ベルトルト「それじゃ、こっちのお花の装飾は誰がやったの?」

アルミン「あ、それは僕。タオルとハンカチで飾り付けても味気なかったからね、ちょっとしたワンポイントがあるだけでかなり見映えがよくなるよね!」エッヘン


ジャン「……もう寝床の話はいいからそろそろ食堂に行こうぜ。時間がなくなる」

コニー「おっとそうだ、そういや他の奴とメシ食う約束してたんだった。――悪いお前ら、俺ちょっと先に行くな!」バタバタ

ジャン「約束だぁ? 誰とだよ?」

コニー「ミカサとクリスタ!」 ガチャッ バタンッ

ジャン「ちょっと待ったぁっ!!」クワッ!!

ライナー「ジャン、俺たちもとっとと準備して行くぞ!」バタバタ

アルミン「……zzz」

エレン「アルミン起きろ、二度寝すんな」ユサユサ

アルミン「あと五分だけだからぁ……」スピー



ベルトルト「キャンディ、いいもの作ってもらえてよかったねー」ナデナデ


―― 朝の食堂

クリスタ「コニー、言われたとおり外出届出してきたよ!」

コニー「おう、そっちは何人だって?」

ミカサ「私とクリスタ、それとミーナの三人。他の子はお留守番。何件かおつかいも頼まれた。これがその一覧」

コニー「ふーん、結構いるな……金の管理は任せていいか? 俺、計算苦手だし」

ミカサ「そうするつもり。コニーはその辺は心配しなくていい」

コニー「助かるぜ、ありがとなー」

ミカサ「教えてもらうんだから、これくらい当然」

クリスタ「うん、私も色々手伝うからね! それでね、今日の夕方なんだけど――」



アルミン「コニー、いつの間にかデートの約束取り付けてたんだね……」

ベルトルト「しかも複数……」

ジャン(ミカサと……)ギリッ...

ライナー(クリスタと……)ギリッ...

エレン「コニー大人気だなー」モグモグ


―― 訓練後 夕方の食堂

クリスタ「わぁ……!」キラキラキラキラ

ミーナ「ベルトルトが抱えてる子、すっごいかわいいね……!」キラキラキラキラ

ミカサ「その子の名前は? 名前は?」ソワソワ

ベルトルト「キャンディだよ。ほら、背中に書いてある」ユビサシ

ミーナ「ねえベルトルト、キャンディと握手していい? だめ?」

クリスタ「あっ、私も私も!」

ベルトルト「僕は構わないけど……結構汚れてるよ? いいの?」

ミーナ「いいのいいの! ……ふふっ、よろしくねキャンディ」ギュッ

クリスタ「次は私ね! ――キャンディ、仲良くしようね!」ギュッ

ミカサ「……」ソワソワソワソワソワソワソワソワ


ベルトルト「……ミカサも握手したいの?」

ミカサ「……したい」

ベルトルト「はい、どうぞ」スッ

ミカサ「……」ギュッ

ベルトルト「どう?」

ミカサ「……///」ホンワカ

ベルトルト「よかったね、ミカサ」

ミカサ「……うん、ありがとうベルトルト。堪能した」ホクホク

コニー「おっしゃ、じゃあ全員揃ったところではじめるぞ。今日は俺、基本的にベルトルトについてるからわかんねえことがあったら聞きに来いよ」

今日はここまで かなり進行遅いですがちゃんと完結させるので気長に待っててください


コニー「――とまあ、必要な道具はこんなもんだ。手順もわかったよな?」

ベルトルト「うん、大丈夫。全部覚えたよ」

コニー「……なんか変な感じだな。俺がベルトルトに教えるって」

ベルトルト「まあまあ、たまにはいいんじゃない? こういうのも」

コニー「んー……そうだな、たまにはいいよな! ――よし、いいかベルトルト。最後に一つ教えてやる」

コニー「ぬいぐるみの手入れで一番大切なことはな、ずばり“話しかけて褒めまくる”ことだ! 小手先の技術なんか二の次だ!」

ベルトルト「話しかけて……褒める?」

コニー「ああ。作物や家畜を育ててる奴にも、植物や動物を褒めて褒めて褒めまくる奴がいるだろ? 理屈はあれと同じだな。……まあ、ベルトルトは既にクリアしてるわけだから問題ねえよ」

ベルトルト「えーっと……、褒めることが最後の仕上がりにも関わってくるってことかな?」

コニー「そういうことだな! というわけでベルトルト、キャンディが世界一かわいいと思い込め。褒めろ」


ベルトルト「世界一、かわいい……」ジッ...

コニー「ああ。お前が抱き上げているそいつは誰だ?」

ベルトルト「キャンディ……」ジーッ...

コニー「キャンディはお前にとってなんだ? ただのぬいぐるみか? ――違うだろ?」

ベルトルト「……うん、違う」

コニー「汚れちまってかわいそうだよな……なあベルトルト、お前のその大切なキャンディ、どうしてやるのが一番いいと思う?」

ベルトルト「綺麗にしてあげたいな……」

コニー「そうだよな、キャンディは女の子だもんな。綺麗な格好させてあげたいよな」

ベルトルト「……僕、やるよ。キャンディを世界一かわいい女の子にしてあげるんだ」キリッ

コニー「ああ、その調子だ! ――じゃあ俺ちょっと女子のほう見てくるから、何かわからないことがあったら呼べよなー」テクテク...


コニー「おう! やってるかー?」スタスタ...

ミーナ「ねえねえコニー、モノクマのお腹の傷はどうやって直すの?」ユビサシ

コニー「これか? 俺も悩んでんだよなー……」

クリスタ「このまま普通に塞いでも、かなり傷痕目立っちゃうよね」

ミカサ「痛々しく見えるから、なんとかしてあげてほしい」

コニー「頭ならもうちょっとやりようがあったんだけどなー」ウーン...

ミカサ「……マフラーを巻いてあげたらどうだろうか。垂れ下がったマフラーで傷痕を隠せる」

ミーナ「おおっ、着せ替えだね! ……でもそれ根本的な解決になってなくない?」

クリスタ「それなら、マフラーを傷痕の上に縫い込んで……っていうのもダメかぁ、この傷の形じゃ、上から布をかぶせても不自然になっちゃう」

ミカサ「……やっぱり、ダメ?」シュン

コニー「いや、意外といい考えかもしれねえな。なあ、少しでいいから余った端切れ分けてくれるか?」

クリスタ「いいけど……何に使うの? モノクマの体と同じ色の布はないよ?」


コニー「どうせ傷痕このまま塞いでも結局目立つからな。いっそ隠すのは止めにする。その代わり、手になんか持たせてやろうと思ってよ」

ミーナ「……そっか、他に注意を向けさせて、肝心の傷痕に目を行かないようにするんだね?」

コニー「そういうことだ。こいつはクマだから……ハチミツの瓶でも持たせとくかな。それとも魚のほうがいいのか?」ウーン...

クリスタ「コニー、小物も作れるの?」

コニー「野菜は一通り作れるかなー」

サシャ「食べられますか!?」ニュッ

コニー「うおっ!? サシャ、どっから湧いて出た!?」ビクッ!!

サシャ「その野菜は食べられますか!?」キラキラキラキラ

クリスタ「サシャ、布は食べられないよ?」

サシャ「そうですか……残念です……」シュン...

コニー「今度芋の人形でも作ってやるよ。適当に顔と手足つけりゃそれらしく見えるし」

サシャ「芋人形……」ジュルリ

コニー「食うなよ?」


―― 同刻 教官室

キース「……」カリカリ...

キース(スプリンガーめ、これで何度目のミスだ……)イライラ

モブ教官「キース主任、お伝えしたいことが」

キース「なんだ」カリカリ

モブ教官「近頃、女子訓練兵が夕方に手芸教室を開いているとの噂がありまして……」

キース「それがどうした」

モブ教官「あの……どうやらですね、その中心となってるのが……その……俄には信じがたいのですが……」

キース「……早く言え。私は忙しい」イライラ

モブ教官「……コニー・スプリンガー、だそうです」

キース「……」

キース「……ふむ」

キース「……」

キース「気のせいだろう」カリカリ

教官「ですね」

今日はここまで 続きは明日


―― 夜の男子寮

コニー「さて、今日は誰が一緒に寝る?」

ジャン「……今日もやるのかよ」ゲンナリ

ライナー「まあまあ、そう言うなジャン。モノクマは意外とおとなしかったぞ?」

アルミン「うん、キャンディもお利口さんだったよ?」

ベルトルト「当然だね」フフン

アルミン「僕、今日はモノクマと寝たいな。一緒に話してみたいんだよね」

エレン「じゃあ、今日はジャンとキャンディが寝るってことでいいか?」

ライナー「そうだな。明日は俺がキャンディと、ジャンがモノクマとでいいだろう」

ジャン「うげ、マジかよ」

ジャン(まあ、得体の知れねえクマをいきなり預けられるよりはマシか……)

ジャン「仕方ねえな……ほら、そいつ貸せよベルトルト。いつまで抱きしめてんだ」

ベルトルト「あっ、ごめんごめん」


ベルトルト「一晩だけだけど、僕の妹をよろしくね。ジャン」

ジャン「……いつ妹になったんだよ。ていうかこいつ女だったのか?」

ベルトルト「ちょっとジャン。人の妹に向かって『こいつ』はないんじゃないかな?」ズイッ

ジャン「あ? あー……うん、悪い」

ベルトルト「キャンディだよ」ズズイッ

ジャン「……」

ベルトルト「キャンディ」

ジャン(め、めんどくせえ……のめりこみすぎだろ、ベルトルトの奴……)

ベルトルト「キャンディ」

ジャン「あー……キャンディ、さんは、その……女の子なんですか?」

ベルトルト「そうだよ」

ジャン「……根拠は?」

ベルトルト「かわいいから」キリッ

ジャン「……あっそ」


―― 深夜の男子寮

ジャン(アルミンからベッド借りられたのはいいが、でかいな……しかも)



キャンディ『元気いっぱいクル!』



ジャン(うるっせえ……しかも全然寝る気配がねえし……)ゲンナリ

ジャン(そういやこいつ、なんでずっと目開いたままなんだ? まばたきとかしねえのか?)

ジャン(……かわいそうになってきたな。ハンカチかけてやるか)ファサッ

ジャン「……」

ジャン(うーん……なんか違うな……)

ジャン(いや待てよ、寝たら目も自然と閉じるのかもしれねえな。でもこういう時ってどうすりゃいいんだ? 子どもの寝かしつけ方なんて知らねえぞ?)ウーン...

ジャン(……適当でいいか)


ジャン「ゆーりかごーのーうーたをー♪」

コニー「……」ムクリ

ジャン「カーナリヤーがーうーたうよー♪」

ライナー「……」ムクリ

ジャン「ねーんねーこねーんねーこ♪」

ベルトルト「……」ムクリ

ジャン「ねーんねーこーよー♪」

エレン「……」ムクリ





ライナー「……」チラッ

ベルトルト「……」チラッ

コニー「……」チラッ

エレン「……俺が言ってくる」モソモソ


エレン「……おい、ジャン」ツンツン

ジャン「ゆーりかごーのーゆーめをー♪」

エレン「ジャンってば」ユサユサ

ジャン「きーねずみーがー……ん? なんだよエレン。今忙しいから後にしろ」

エレン「あのさ、ジャン。お前って本当にいい声してるよな」

ジャン「? ……それがなんだよ」

エレン「ああ、歌も上手いし、正直よく眠れそうだ……でもさ」



エレン「俺たち、野郎の子守唄で寝たくねえんだけど……」

ジャン「……」





キャンディ『わーい! わーい!』


ジャン「……」チラッ

ライナー「右に同じく」

コニー「俺も」



キャンディ『ハッピーだクル~』



ベルトルト「キャンディは喜んでるけど、僕もちょっと……それは……」

ジャン「……悪い」ショボン...

エレン「あっ……あのさ、ごめんな? ジャンが悪いわけじゃないんだ。それだけはわかってくれ」オロオロ

ベルトルト「うんうん、ジャンってさ、よく眠れそうないい声してるよね! ね!?」オロオロ

ライナー「そ、そうだぞ! 羨ましいなジャン、キャンディに好かれるような声で!」オロオロ

コニー「とにかくジャンは子守唄禁止な」

取り敢えずここまで


ライナー「ところでアルミンはもう寝たのか? やけに静かだが」

アルミン「起きてるよー」ニョキッ

エレン「なんだよ、起きてるなら言え……って……」

コニー「アルミンはジャンの歌聞いて眠くならなかったのか? 二日続けてほぼ徹夜だろ?」

アルミン「うん。それどころじゃないからね」

ベルトルト「? どういう意味?」

エレン「……おいアルミン、何してるんだ?」

アルミン「見てわからない?」

エレン「わからないから聞いてんだよ」

アルミン「僕はね、モノクマと一体になってるんだ」


エレン「……いや、腹に耳当ててるようにしか見えねえけど」

アルミン「さっき言ったでしょ? 僕はモノクマとお話ししたいんだ」

ライナー「そういやさっきそう言ってたな」

ベルトルト「お腹に耳を当ててることと何か関係あるの?」

アルミン「前にエレンが言ってたことを思いだしたんだ。モノクマはお腹で喋るんだよね? ということは、話を聞きたいならお腹に耳を傾けないと」

コニー「傾けないとっていうか枕にしてるけどな。腹破けてるから気をつけてくれよ?」

アルミン「うん、そこはちゃんと気をつけるよ。――ところでエレン、見てよ……モノクマのお腹の、このでっぷりとしたライン……」スススッ

エレン「指でなぞるなよ」

アルミン「……かわいくない?」

エレン「……確かにでべそはかわいいな」

アルミン「でしょ?」ウフフ


―― 一時間後

アルミン「……」ピトッ

アルミン(全然喋ってくれないなぁ、モノクマ……)

アルミン(もしかして、二人っきりだから緊張してるのかな?)

アルミン「……」

アルミン(あ、ダメだ……この体勢だと…………ねむい………………)ウトウト

アルミン「……zzz」グニュッ ポチットナ



 モノクマ『明けない夜はないよ、真っ暗な朝だけどね』

 モノクマ『止まない雨はないよ、干ばつ状態になるけどね』

 モノクマ『そう、終わりがあるから新しいはじまりもあるのです』



アルミン「ふぁっ!?」パチッ


アルミン(し、しまった……せっかくモノクマが喋ってくれたのに、聞き逃しちゃった……!)

アルミン(くそっ! どうして僕は肝心な時に寝ていたんだ……!)ギリッ

アルミン(いくら耳を傾けても、聞いてないんじゃ意味がない! ちくしょう!)ダンッ! ボフッ!

アルミン(……でも、聞き逃しちゃったのもしょうがないんじゃないか? モノクマのお腹はぽっこりして寝心地がいいし、耳もちょうど掴みやすい位置にある。これじゃあ話を聞くどころか寝てくれって言われてるようなものだ)

アルミン(…………いや待てよ。もしかしたら、モノクマにはこの僕の睡眠欲が見透かされてたのかもしれない)

アルミン(きっと無意識に考えちゃったんだ……モノクマを枕にしてぐっすり眠りたいっていう僕の願望が、モノクマにはバレバレだった……! 僕の覚悟は、足りなかった……!)

アルミン「……モノクマ、枕にしちゃってごめんよ」ムクリ

アルミン「君が喋るまで、僕はもう寝ない。こうして座って、君と正面から向きあおう……!」

アルミン「さあ、なんでも話してくれ、モノクマ……」ゴゴゴゴ...

じりじり進行ですいませんが今日はここまでです
次回はもうちょっと多めに更新できるようにします それではー


―― 朝の男子寮

エレン「ふぁぁああ……あれ? アルミン早いな。おはよう」ゴシゴシ

アルミン「……おはようエレン。いい朝だね」

エレン「それで、モノクマと話はできたのか?」

アルミン「うん。僕たちは魂と魂で通じ合った」

エレン「そっか、よかっ…………なんつった?」

アルミン「モノクマの……いや、モノクマさんの言う通りだ。明けない夜も、止まない雨もないんだよ、エレン」ギンギンギンギン

エレン「……お、おいアルミン? 大丈夫か? お前もしかして寝てないのか? なあ」ユサユサ



アルミン「終わりがあるから、新しいはじまりもある……!」ギンギラギンギラ



エレン「」

エレン(な、何を言いたいのかさっぱりわかんねえ……アルミンが、寝不足でおかしくなっちまった……)


―― 夕方の食堂

ミカサ「……コニー、モノクマはどうしたの? キャンディはあそこでベルトルトと楽しそうにしてるけど」ユビサシ

コニー「今朝からアルミンが放してくれねえんだよ。だから今日は手入れは休み」チクチク

ミカサ「アルミンが……? 何故?」

コニー「さあな。本人に聞けよ。――よしできた。おらよサシャ、やる」ポイッ

サシャ「わっ……っとと」ガシッ

サシャ「……? なんですか? これ」ジーッ...

ミカサ「……芋のお人形」ジーッ...

クリスタ「わぁっ、かわいい! ちゃんと顔と手足がついてるー!」キラキラキラキラ

ミーナ「コニー、作るの早いね」

コニー「ああ。野菜作るの慣れてるからな」チクチク

サシャ「もらっていいんですか? これ」

コニー「話聞いてなかったのかよ。やるっつってんだろ」

サシャ「じゃあ……ありがたくいただきます。大切にしますね!」ニコッ


クリスタ「ねえねえサシャ、よかったら私たちにも見せてくれる?」

サシャ「いいですよー、どうぞ!」スッ

ミーナ「どれどれ? ――うーん、相変わらず手縫いとは思えない細かさだよね……」ジーッ

ミカサ「人は見かけによらない……」チラッ

コニー「ま、柄じゃねえのは自覚してるよ」チクチク

ミカサ「あっ……いえ、コニーのことをけなしたわけではなくて、その……」オロオロ

コニー「いいっていいって。男がこういうチマチマしたのやってる方が珍しいんだからよ」チクチク





クリスタ「――そうだ、この子に名前つけようよ!」

コニー「……」ピクッ


サシャ「そうですね……じゃあ、コニーが作った芋の人形だから……コイモ?」ウーン...

ミーナ「……見たまんまだね」

サシャ「捻りがないですかね? でも他に思いつかなくて……」ウーン...

ミカサ「こういうのはインスピレーションが大事。そのままで行こう」

クリスタ「待って、コイモは男の子なの? 女の子なの?」

コニー「……」ピタッ

サシャ「コニー、この子はどっちですか?

コニー「芋に男も女もねえよ。芋だ」チクチク

クリスタ「でも、コイモくんかコイモちゃんかわからないと呼び方に困るよ?」

サシャ「コニー、この子は一人なんですか?」

コニー「ああそうだよ。鍋でじっくりコトコト煮込まれるまで独り身だ」チクチク

サシャ「そんな……かわいそうですよ。せめてお友達を作ってあげましょうよ」

コニー「サシャ。――今からこの俺が、ありがたーい話をしてやろう」


コニー「俺、妹と弟がいるんだけどよ。……弟が生まれてすぐのころ、俺が妹の遊び相手になってやった時期があったんだ。三ヶ月くらい」

コニー「サニーは……妹は人形遊びが大好きでさ。母ちゃんが古くなった服の端切れで作ってくれる人形を、いつも楽しみにしてたんだよな」

コニー「でも、その時ばかりは弟の世話で忙しくて人形なんか作ってる暇なくてよ。……妹は楽しみにしてたもんだからすっかり拗ねちまって、俺や母ちゃんの言うこと全然聞かなくなっちまったんだ」

コニー「俺、洗濯は手伝えても料理とかはからっきしだし……これ以上母ちゃんに負担かけるわけにはいかねえから、代わりに見よう見まねで人形作ってやったんだよ」

コニー「手に針何回も刺しながらなんとか作ったんだけどよ。……当然だが、今とは比べものになんねえくらいヘッタクソでさ」

コニー「縫い目も粗いし、綿が飛び出ててかなり不格好だった。けど、妹はかなり喜んでくれてさ。その日は寝る時も握って放さなかったな」

クリスタ「コニー……」ジーン...

サシャ「いいお兄ちゃんだったんですね……」ジーン...

ミカサ「妹さんが、羨ましい……」ジーン...

ミーナ「嬉しかっただろうね、妹さん……」ジーン...

コニー「……おい勝手にいい話にすんな。ここからが本題だ」


コニー「一週間くらい経ったある日のことだ。俺の妹は、さっきのサシャと同じことを言った。『お兄ちゃん、この子にお友達を作ってあげて』ってな。その時の俺はかなり調子乗ってたから、特に何も考えずにそのお友達とやらを作ってやった」

サシャ「……いい話じゃないですか」

コニー「違ぇよ。それで、今度は一週間経たないうちに次のお願いがきた。『女の子二人だけじゃかわいそう。男の子が二人欲しい』ってな。俺はまた作った。これで人形は四体だ」

クリスタ「……うん」

コニー「その四体を作り終えて俺が一息ついてると、また妹が人形を持ってきて言うわけだ。『この子たちの家族はいないの?』――俺は兄弟姉妹を律儀に四人分作ってやった。これで十六体だな」

ミーナ「……そうだね」

コニー「兄弟姉妹を仕上げたその日の晩だったかな。狩りから帰ってきた父ちゃんの話を聞いてたら、妹がまた寄ってきた。『どうしてこの子たちにはお父さんとお母さんがいないの?』――俺は夜なべして父ちゃんと母ちゃんを作った。後から言われるのも目に見えてたからじいちゃんとばあちゃんも作ってやった。これで三十二体だな」

ミカサ「……あの」

コニー「隣の村から親戚のおばさんがやってきた時は、俺は三十二体の大家族を見せて粋がってたんだが、妹は違った。『この子たちに親戚はいないの?』なんて言い出しやがった。それぐらいの時期に、俺は人形の数を数えるのをやめた」

サシャ「……コニー? もういいですよ? ねえ」


コニー「それから毎日毎日毎日毎日、俺は妹に言われるがままに人形を次から次へと作ってやったわけだ。女の子にはリボン、父ちゃんには黒いヒゲ、じいちゃんには白いヒゲ、ばあちゃんには謎の小じわを足しながらな」

クリスタ「コニー? 聞いてる? ねえってば」ユサユサ

コニー「村長が来たら村長の家族を作り、駐屯兵が来たら駐屯兵の家族を作り、果てはその家族の友だち兄弟姉妹親とじいちゃんばあちゃん親戚を作らされ……こうしてスプリンガー家には、十二種百三十五体の野菜王国が誕生した」

ミーナ「……」

コニー「ちなみに妹はその三ヶ月で飽きた」

ミカサ「……」

コニー「わかるか? ……つまり、キリがねえんだよ」

サシャ「すみませんでした」

クリスタ「ごめんねコニー」

ミーナ「手は大丈夫?」

ミカサ「肩でも揉もうか?」バキッボキッ

コニー「握りつぶされたくないからいらねえ」

今日はここまで 最後にage

再開 の前に、すごいどうでもいいんですが人形の数間違えてましたごめんなさい
兄弟姉妹作った時点で十六体じゃなくて全部で二十体
両親とじいちゃんばあちゃん作った時点で三十二体じゃなくて全部で三十六体でした
まあコニーだから計算間違ったってことでどうかひとつ


―― 夜の男子寮

エレン「……今日は、ジャンがモノクマと一緒に寝る日だったよな」チラッ

ジャン「まあ、そうだがよ……あれを取り上げるのは無理だろ……?」チラッ



アルミン「うぷぷぷぷ……うぷぷぷぷ……」ニヤニヤ



コニー「訓練中以外はずっと抱いてるなー、アルミン」

エレン「俺、頬ずりしてたの見た」

ジャン「俺は高い高いしてるの見た」

エレン「……どうする?」

ジャン「どうもしねえよ。モノクマはアルミンの管轄でいいだろ、もう」

コニー「綿買ってきたら返してもらえっかなぁ、モノクマ」


エレン「それで、今日はライナーがキャンディと寝る番だけどよ……」チラッ

ジャン「……」チラッ



ライナー「……」ソワソワ



ジャン「なあ、ライナーの奴なんでソワソワしてんだ?」ヒソヒソ

エレン「俺にはわかる……昔、あれとそっくりな光景を見たことがある」

ジャン「へえ、話してみろよ」

エレン「あれは確か……開拓地にいたころだったかな。ミカサが俺の誕生日に小さな花束をくれたことがあってよ」

ジャン「……」


エレン「『アルミンにアドバイスしてもらいながら摘んできた。午前中に準備したから、少し萎れてしまったのだけれど……』」

ジャン「…………」

エレン「『エレンに、あげる……///』と頬を染めながら俺にささやかな花束を差し出してきた時のミカサに似てる」キリッ

ジャン「さりげなく自慢してんじゃねえよ死に急ぎ野郎が羨ましいんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」バンバンバンバン!!

エレン「なーに興奮してんだよジャン、馬みてえだぞ」ハハハ

ジャン「てめえ確信犯かこらぁっ!! あと微妙に声真似上手いのも腹立つ!!」

コニー「おいうるせーぞー、何騒いでんだー?」


ジャン「……」ゼエハア

エレン「落ち着いたかー?」

ジャン「……ミカサとライナーが似ているという、おぞましい事実は置いておく」

エレン「おう」

ジャン「それで……結局ライナーは何しようとしてるんだ? 花束なんかどこにもねえぞ?」

エレン「そんなのライナーに聞けよ。……お、どうやら動き出すみてえだぞ」ヒソヒソ

ジャン「? 胸ポケットから取り出したあれは……やけにちっせえが、紙袋か?」

エレン「そういやおつかいで立体機動装置の部品買ってきた時、あんな袋に入れてもらったなー」



ライナー「……」スタスタ... スッ



ジャン「……ベルトルトの前で跪いたな」

エレン「どっちかっていうとベルトルトの膝の上に座っているキャンディの前でじゃねえか?」


ライナー「その……こういうことははじめてだから、どうしていいかわからないんだが……」モジモジ

ライナー「……キャンディに、これをやろう」スッ

ベルトルト「……? 開けていいの?」

ライナー「ああ。いいぞ」

ベルトルト「どれどれ……? ――!! ライナー、これって……!」

ライナー「ああ……キャンディへの、プレゼントだ」

エレン「……おい、ライナー」

ジャン「なんだよその針金は」

ライナー「針金じゃない。廃材で作ったかんざしだ。技巧の時間に作った」ドヤァ

エレン「お前訓練中に何やってんだ」

ライナー「よかったら、今キャンディにつけてもらってほしいんだが……」ソワソワ

ジャン「おい。身体揺するな」


ベルトルト「待ってくれ、ライナー……ダメだよ、これは着けられない」

ライナー「……やはり好みに合わなかったか」ショボン...

ベルトルト「あっ……ううん、違うんだ。金属製のヘアーアクセサリーだと髪が傷んじゃうからダメなんだよ。キャンディ自身はすごく喜んでるよ? ね?」ナデナデ



キャンディ『わーい! わーい!』



ベルトルト「ほらね?」

ライナー「そ、そうか? そうか?」ソワソワ



キャンディ『ハッピークル!』



ライナー「喜んでくれたか、よかった……///」テレテレ

ベルトルト「キャンディもお年頃の女の子だからね……アクセサリーをもらったら喜ぶと思うから、また作ってあげてよ。ライナー」ニコッ

ライナー「……ああ、任せとけ!」ニカッ


ベルトルト「じゃあこのかんざしは、キャンディが大きくなったらつけてあげようね」ニコニコ

エレン「ぬいぐるみは成長しねえぞ」

ベルトルト「それまではこのアクセサリーボックスにしまっておこう」ゴソゴソ

ジャン「……おいベルトルト、なんだその木箱」

ベルトルト「廃材で作ったんだよ。技巧の時間に」

ジャン「お前らマジで何やってんだよ」

ベルトルト「おっとジャン、驚くのはまだ早いよ!」フフン

ジャン「呆れてんだよ」

ベルトルト「これね、なんとツマミつきなんだ……! 蓋を開けるのもお茶の子さいさいさ……!」ヒョーイヒョーイ

ジャン「……凄さがわかんねえ」

今日はここまで 明日来られたら来ます


エレン「なあ……どうするよジャン。アルミンもベルトルトもライナーも壊れちまったぞ」ヒソヒソ

ジャン「ベルトルトは前々から兆候があったが……アルミンとライナーは完全に予想外だった」ヒソヒソ

エレン「残ったのは、俺たち二人だけ……」チラッ

ジャン「ああ……」チラッ

コニー「俺もいるけど」

エレン「……」

ジャン「……」

エレン「まさか、お前と協力する日が来るとはな」フッ

ジャン「背に腹は代えられねえだろ。――俺は一人になっても戦い続けるからな!」ガシッ

エレン「先に脱落するんじゃねえぞ、ジャン!」ガシッ

ジャン「おうよ!」

コニー「俺もいるぞー」ツンツン


―― 次の日 対人格闘訓練

コニー「おーいたいた。――サシャ、誰もいないなら俺と組もうぜー」

サシャ「いいですよー」バイーン

コニー「……おいなんだその胸の膨らみは」

サシャ「これですか? 右胸にはコニーが作ってくれたコイモさんが入ってて、左胸には私の非常食のお芋さんが入ってます」

コニー「……」

サシャ「……あれ? 逆でしたっけ?」クビカシゲ

コニー「知らねえよ。……いいからやろうぜ」

サシャ「はーい、それじゃ行きますよ! ――あちょー!」ポロッ

コニー「……」

サシャ「あ、コイモちゃん落ちちゃいました。すみません」ヒョイッ

コニー「蓋閉まらねえの? それ」

サシャ「閉まりません」キリッ

コニー「それじゃ訓練にならねえだろ!? つーか部屋に置いてこいよ、持ってくるな!」ガミガミ

サシャ「えー……せっかくもらったのにー……」ムー...


―― 夕方の食堂

ジャン(あそこにいるのは……コニーとベルトルトか。ミーナもいるな。サシャはなんで横で芋いじくってんだ?)

ジャン(まあいい。近くを通らないようにっと……)スタスタ...

ジャン(よし、さっさと部屋に戻るか)

クリスタ「ジャン、何してるの?」

ジャン「うわっとぉ!? ……なんだクリスタか。水飲みに来ただけだ」

クリスタ「ふぅん……ねえ、ジャンって本読むの得意?」

ジャン「あぁ? 本を読むのに得意も不得意もねえだろ」


クリスタ「じゃなくって……ええっと、なんて言えばいいのかな。――そう、図解を読み解くの得意だよね? 技巧の成績いいし」

ジャン「まあ、それなりには得意だけどよ」

クリスタ「よかった! じゃあ手伝って!」グイッ

ジャン「は? あの中に混ざれってのか!? 冗談じゃねえ、コニーに聞けばいいだろ!?」

クリスタ「コニーにばっかり頼れないんだもん。お願い……」キュッ...

ジャン(どうすっかな……正直、関わり合いにはなりたくねえが、ここで見捨てるのは後味悪いし……)

ジャン「……仕方ねえな。今回だけだからな」

クリスタ「うん、ありがとう!」ニコッ


ジャン「で? 何をどうしろって?」

クリスタ「ここの4番の図なんだけど……やってるうちによくわからなくなっちゃったの」ユビサシ

ジャン「どれどれ? ……おいちょっと待てクリスタ」

クリスタ「何? やっぱり無理そう?」

ジャン「違ぇよ。そもそもお前が作ったこの物体と、本に載ってる4番の形がかなり違うんだが」

クリスタ「ああ……うん、実はね、2番まではちゃんとできてたんだけど、3番からはちょっと自信がなくなっちゃったんだよね……それで、そのまま4番に進んだらもっとわからなくなっちゃって」

ジャン「そういうことは早く言えよ……なら2番まで戻らないとダメだろ」

クリスタ「ええっ!? そしたら全部ほどくことになっちゃうよ?」

ジャン「……面倒くせえな。1番から作り直すか。材料余ってるか?」

クリスタ「うん、あるよ。……えっと、これとこれ」


ジャン「へいへい。んで、まずは1番は――」



 作り方 1 : この形からはじめます



ジャン「……この形ってどの形だ。なんでほとんどできあがってんだよ」

クリスタ「あ、それはこっちのページに書いてあるよ」パラパラ...

ジャン「なるほどな、基本の形があるのか……で、なんだって?」ペラッ



  基本 1 : 二枚の生地を重ね合わせて巻きがかりで縫います



ジャン「……巻きがかりってなんだ」

クリスタ「それは巻末に書いてあるよ」パラパラ...

ジャン「……」

クリスタ「じゃあ基本の1からやっていくね。その間にジャンは続きを読んでて」チクチク


ジャン「……」ペラッ



  基本 2 : 生地を裏返し、本誌15ページで作ったリボンをつける



ジャン「……おいクリスタ」

クリスタ「何?」チクチク

ジャン「これ手芸書じゃなくてゲームブックじゃねえの?」

クリスタ「えっ、そんなに面白い? 興味持ってくれたの?」

ジャン「別の意味でな。というかむしろこの本の構成には興味じゃなくて悪意を感じる」

クリスタ「手芸書はだいたいどれもそんな感じだよ」チクチク


ジャン「なあ、お前この本に騙されてるんじゃねえか?」

クリスタ「あははっ! 面白い冗談だね、ジャン」

ジャン「俺は割とマジで言ってるんだが……ったく、なんで見ず知らずの野郎の手のひらで踊らされなきゃなんねえんだ。で、続きは――」ペラッ



  基本 3 : 耳をつける



ジャン「なあクリスタ」

クリスタ「何?」チクチク

ジャン「耳は?」

クリスタ「35ページ」チクチク

ジャン「……なんでこいつたまに素に戻るんだ? 説明するのはいいが敬語で統一しろよ」

クリスタ「本に文句つけるなんて大人げないよ?」


ジャン「文句付けるなって言ってもな……お、次で最後か」ペラッ



  基本 4 : 頭に耳をつけると図のようになります。応用編は53ページから



ジャン「その耳の付け方は説明しねえのかよ!!」バシーン!!

クリスタ「きゃっ!?」ビクッ

ジャン「途中の図も省略しすぎだろ!! ていうか全部同じページにまとめろっての!!」

クリスタ「じゃ、ジャン……? どうしたの、大きな声出して……」ビクビク

ジャン「悪いがここまでだクリスタ。こんなのにもう付き合ってられねえ」ガタッ

クリスタ「あ、うん……ごめんねジャン。私が無理に教えてくれなんて頼んだから、嫌な思いさせちゃった……」ショボン...



コニー「よーっすクリスタ! どこまで進んだ?」ヒョコッ


ジャン「……コニーか」

クリスタ「あっ……あのね、途中までできてたんだけど、なんか間違っちゃってたみたいで」

コニー「どれどれ? ……あーそうだな、これは糸ほどくしかねえなぁ」

クリスタ「だよね。じゃあ、最初からやり直しかぁ……」ハァ

コニー「ん? やり直す必要はねえぞ? ちょっと待ってろ」チクチク

コニー「……ほら、これで三番まで戻れたろ?」

クリスタ「えっ? ――あっ、本当だ!」

コニー「こんがらがった時は落ち着いて確認な、クリスタ」

クリスタ「うん、ありがとうねコニー! それにしても、こんなに難しいのにコニーはすごいなぁ……」



コニー「んなことねえよ、こんなの簡単だって! 俺にでもできるんだからよ!」ニッシッシ



ジャン「……」イラッ


コニー「つーわけで、次は4番だな。ここは――」

ジャン「待てよコニー。……先に頼まれたのは俺だぞ」

コニー「ん? そうなのか?」

クリスタ「でもジャン、もう嫌だって言ってなかった?」

ジャン「言ったけどよ、男が一度引き受けたんだから投げ出すわけにはいかねえだろ」

ジャン「というわけでクリスタ、よかったらその手芸書を今晩貸してくれ。明日までにはお前に教えられるようにしておくから」

クリスタ「……本当にいいの?」

ジャン「男に二言はねえよ」

クリスタ「ありがとう、すごく助かる!」ニコッ

コニー「おおっ、よかったなークリスタ! ジャンもよろしくな!」

ジャン「ああ、任せとけ」



ジャン(……あの馬鹿なコニーにできて、俺にできないはずがねえ。見てろよ……!)メラメラメラメラ...

取り敢えず今日はここまで 書けたらまた後で来るかも

続き書けたから投下します


―― 夜の男子寮

コニー「……」チクチク

ベルトルト「……」シュッシュッ

ライナー「……」カチャカチャ

アルミン「うぷぷぷぷ……うぷぷぷぷ……」ニヤニヤ

ジャン「……」ペラッ

エレン「……」

エレン(……なんだこれ)

エレン(コニーが野菜作り、ライナーがアクセサリー作り、ベルトルトはキャンディの手入れ、アルミンは……………………うん)

エレン(いや、それより……ジャンが勉強してるのはどういうわけだ? 黙ってここにいるのに耐えられなくなっちまったのか?)

エレン「……」

エレン(……全員作業してるし、邪魔しないように静かにしてるかな。筋トレでもするか)


エレン(よし、じゃあまずは腹筋100回でも――)

ベルトルト「そういえばさー」シュッシュッ

ライナー「んー? どうしたー?」カチャカチャ

エレン(!? どういうことだ、急に会話が始まったぞ……?)

ベルトルト「対人格闘の時間にー、サシャが途中で抜けたでしょー? あれ何だったのー?」シュッシュッ

コニー「あーあれかー。あいつさー、俺がやった芋人形を胸ポケットに入れててなー、置いてこいって言ったからだなー。何かしようとするとポロッポロ落とすんだよなー。正直見てられねー」チクチク

ライナー「そんなことがあったのかー、気づかなかったなー」カチャカチャ

エレン(な、なんだ? このダラダラした会話は……俺も喋っていいのか? ていうかお前ら集中してるんじゃねえのかよ?)


エレン(……! そうだ、ジャンは勉強してるのにうるさくしてたら迷惑じゃねえか? 注意したほうがいいよな)

エレン「あ、あのさ――」

ジャン「おいコニー」

エレン「」ビクッ

コニー「んー? なんだー?」チクチク

ジャン「なみ縫いとぐし縫いって何が違うんだ?」

コニー「幅」

ジャン「なるほどな」カキカキ...

エレン「……」

エレン(は? 何? なんだよ今の会話)

エレン「なあジャン、お前勉強してるんじゃないのか?」

ジャン「してるよ」

エレン「そ、そっか、そうだよな、じゃあ邪魔しないほうがいいよな、うん」


エレン(まあ、会話してても別に誰も気になんねえみたいだし、俺も混ぜてもらうかな……)チラッ

ベルトルト「そういえばさー、僕まだ確かコニーに生地の代金払ってなかったよねー、いくらだっけー?」



 モノクマ『今回僕が用意したのは、これでーす! ひゃっくおっくえーん!』



アルミン「ひゃっくおっくえーん」

ベルトルト「そっかー、ひゃっくおっくえーんかー」



 モノクマ『もし、卒業生が出た場合のプレゼントにします!もう、ウッハウハでしょ?』



ライナー「だよなー、俺もそう思ってたー」

コニー「ウッハウハだよなー」


ライナー「なーベルトルトー、キャンディにネックレスはどうだー?」

ベルトルト「あー、いーんじゃなーい? キャンディはどうかなー、ネックレスほしいー?」



キャンディ『お耳とかしてクル♪』



ベルトルト「ほしいってー」

ライナー「よーしはりきって作っちゃうぞー」

ジャン「コニー、ジャーマン・ノット・ステッチの糸は何本取りがいいんだ?」

コニー「あー、俺は六本で刺すかなー。用途によって使い分けるけどー」

エレン「……」

エレン(………………混ざりにくっ)

エレン(おいおい、なんでこんな中身がないようである会話してんだよ……? 集中しろよお前ら! それとも喋ってるほうが集中できるってのか!?)イライラ

エレン「……」

エレン(……筋トレしよ)


―― 翌日 昼休み

ライナー「よおサシャ、ちょっといいか?」

サシャ「はい? なんですか?」バイーン

ライナー「ちょっとその胸ポケットに入ってる人形を貸してくれ」

サシャ「……あげませんよ? コニーにもらったんですから」ギュッ

ライナー「別に取って食うわけじゃない。持ち運びやすくしてやるだけだ。コニーにもいじくる許可を取ってきた」

サシャ「……わかりました。どうぞ」スッ

ライナー「よし、ちょっと待ってろよ」

サシャ「……」ジーッ...

ライナー「……」カチャカチャ

サシャ「……まだですかー?」クイクイ

ライナー「まだ一分も経ってないぞ。少し待て」

サシャ「……」ソワソワ

ライナー「……逆のポケットに入ってる芋でも食ってろ」

サシャ「はーい」モグモグ


ライナー「ほら、できたぞ。持っていけ」プラーン

サシャ「おお……コイモちゃんの頭から、鎖が……」ブーラブーラ

ライナー「金具で取り付けられるようにしておいた。どこに下げるかはお前の好きにしろ」

サシャ「……あの、お礼に私は何をしたらいいでしょうか。水汲みですか?」

ライナー「そんなのいらん。……コニーが訓練に集中できないって言ってたからやっただけだからな。もうポロポロ落とすんじゃないぞ」

サシャ「はーい、気をつけますね」ブーラブーラ

ライナー「おう。――さて、工具を返しに行くか……ん?」



ミーナ「……」ジーッ...



ライナー「……お前もか? ミーナ」

ミーナ「……お願いしてもいい?」エヘヘ

というわけで今日はここまで 次回こそは早めに来たいなー


―― 夕方 食堂

ベルトルト「ふふっ……キャンディ、すごくかわいいよ……」ナデナデナデナデナデナデナデナデ

ミーナ「ライナー、手が大きいのに器用だよね。羨ましいなー」

ライナー「立体機動装置の整備よりは簡単だからな。ミーナもやろうと思えばすぐできるさ。なんなら教えてやろうか?」カチャカチャ

ミーナ「いいの? じゃあお願いしちゃおっかなー♪」



ジャン「ここをこうしてっと……ほら、できたぞ」

クリスタ「わぁっ、すごーい……すぐできちゃった! 本当に一晩で教えられるようになっちゃうなんて、ジャンって器用なんだね」

ジャン「ま、俺の手にかかればこんなもんだ」

クリスタ「よかったらまた教えてほしいな。教え方、とってもわかりやすかったから」

ジャン「……暇な時に、気が向いたらな。もう俺は行くぞ」ガタッ

ミカサ「あっ……あの、待ってジャン」

ジャン「……」ピクッ

ミカサ「あの……もしよかったら、こっちの本も教えてほしい。……だめ?」

ジャン「俺に任せろ」キリッ


―― 数日後 夜の男子寮

コニー「アルミンってば、モノクマ貸してくれよー。腹に綿詰めたいんだってー」

アルミン「いや」プイッ

コニー「な、いい子だから」

アルミン「だめ」ブンブン

コニー「仕方ねえな……よしアルミン、これと交換しよう。ミニサイズのモノクマ、略してミニクマだ。ライナーに金具を取り付けてもらったから訓練中も一緒にいられるぞ」

アルミン「……直したら返してね?」スッ

コニー「おう。任せとけ」



キャンディ『お耳とかしてクル♪』



ライナー「よしよし、じゃあこのリボンをつけてやろう」シュルッ

ジャン「おい、待てよライナー。――そのリボン、さてはお取り寄せしやがったな?」


ライナー「ほう……何故そう思う?」

ジャン「縁取りしてあるリボンなんて、トロスト区の手芸屋じゃあ滅多にお目にかかれねえからな。そう考えるのが普通だろ?」

ライナー「お前の言うとおり、これは内地で売られているものだ。――だがな、お取り寄せしたなら商品が手元に届くまで最低一週間はかかる。この意味がわかるな?」

ジャン「!! そうか……! こんな短期間で手に入るわけがねえ……っ!」

ライナー「読みが外れたな」ニヤッ

ジャン「――いや待てよ。そういや手芸屋に行ったあの日は、街に行商人が来てたはずだよな?」

ライナー「よく覚えていたな。――そうだ、これはあの時の行商人と交渉して手に入れたものだ」

ジャン「なるほどな……つまりそれはキャンディのために調達した、特別な品ってわけだ。――だが、それだけじゃあないだろ?」

ライナー「……やはり気づいたか」

ジャン「そのリボンの結び目に縫い付けてあるハートのモチーフはどこで手に入れた?」

ライナー「お前は本当に現状を認識する能力が高いな」フッ

ジャン「誤魔化すなよライナー! シルバーのハートのモチーフはなぁ、俺たちの給金じゃ到底届かない価格で売られていたはず――っ!! まさか!!」

ライナー「ああ、お前の考えている通りだ」


ジャン「まさか……廃材、だと……?」ガタガタガタガタ...

ライナー「なかなか味があっていいだろ? この形の欠片を探すのに二日かかったがな」

ジャン「二日……!? お前、ミーナにキーホルダーの作り方まで伝授してたじゃねえか……!!」

ライナー「愛の前では些末なことだ」

ジャン「愛……ね。なるほどな、それがお前の愛の形ってわけだ。でもよ、金をかけるだけが愛じゃないぜ、ライナー」

ライナー「なんだと……?」ピクッ

ジャン「今日のキャンディに似合うのは、ラメ入りスパンコール生地で作ったこのシュシュだろ? どう考えても」ファサッ

ライナー「!! これは、もしかして……お前のお手製か?」

ジャン「そうだ。生地選びからこだわった最高の一品だ。女って奴ぁピンクが大好きだからな……それでいて、キャンディの魅力を損なわずかつ引き出す一枚を選び出すのには苦労したぜ」

ライナー「……見せてもらってもいいか? そのシュシュを」

ジャン「お安いご用だ。存分に見るといい」スッ


ライナー「どれどれ……ふむ、ゴムを入れた後の縫い目が全くわからないな。生真面目なジャンらしい」

ジャン「せっかくオシャレしたのに、中のゴムが見えていたり縫い目が荒かったら台無しだからな。そこはこだわったぜ」

ライナー「それにしても、まるで機械で縫ったかのように丁寧だ……これを、本当にお前が……?」

ジャン「俺が心を込めて一針一針縫った。――夜なべしてな」

ライナー「……負けたよ、お前には。キャンディのことはジャンに任せよう」フッ

ジャン「ありがとよ、ライナー。お前の心意気、ちゃあんと受け取ったぜ? ――さあキャンディ、俺の真心がこもったプレゼント……受け取ってもらえるか?」



キャンディ『嬉しいクル~』



ジャン「そっか。……お前に喜んでもらえると、俺も嬉しいよ」ニッ


エレン「……」

ベルトルト「僕のキャンディ、取られちゃった……」グスグス

コニー「大丈夫だって、キャンディはそのうち戻ってくるって。――おいエレン、そっちに置いてあるハサミ取ってくれ」チクチク

エレン「……なにこれ」ボソッ

コニー「おいエレン? 聞いてるか? ハサミだよハサミ」チクチク

エレン「ジャンが行っちまった」

コニー「はぁ? 何言ってんだ、ジャンはそこにいるだろ。いいからハサミ」チクチク

ベルトルト「このままキャンディがお嫁に行っちゃったらどうしよう……」グスグス

コニー「お前らそろそろベルトルトにキャンディ返してやれよー? 泣いてんぞー?」ナデナデ

エレン「……俺、走ってくるわ」トボトボ...

コニー「おう、消灯前には帰って来いよー。――って行く前にハサミ取ってくれよハサミ!!」チクチク


―― 営庭

エレン(ジャンの奴、裏切りやがって……あーあ、結局俺一人になっちまった……)トボトボ...

ミカサ「――エレン?」

エレン「! ……ミカサ」

ミカサ「どうしたの? こんな時間にそんな格好をしていては風邪をひいてしまう。走るならまだしも、散歩ならば上着はもう一枚着てきたほうがいい」

エレン「……」ジッ...

ミカサ「……? エレン、どうしたの? もしかして、どこか具合が――」

エレン「……お前はいい子だなぁ」ナデナデ

ミカサ「!? ……え、エレン? エレン? どうしたの? 何があったの? どこか痛いの?」オロオロ

エレン「いや……なんか、寮に居場所がなくてさ」

ミカサ「誰かと喧嘩でもしたの? ……でも、エレンにはアルミンがいるはず。何かあったなら話を聞いてもらうといい」

エレン「そのアルミンがあの状態じゃ、な……」


ミカサ「もしかして、アルミンと喧嘩でもしたの? それはよくない。仲直りしに行こう。私も一緒に謝るから」

ミカサ「ちげーよ。お前早とちりするクセ直せよな。あとなんで俺が謝らないといけねえんだ」

ミカサ「二人が喧嘩する時は、だいたいエレンが悪い」

エレン「……」イラッ

ミカサ「悪いことをしたら謝らないとだめ。でも、一人じゃ素直になれない気持ちはわかる。ので、私がついていく」

エレン「……そうかよ」ムスッ...

ミカサ「……? エレン、どうしたの?」

エレン「知らねー」プイッ

ミカサ「ごめんなさい、エレン。怒らないで……」ショボーン...


エレン「……あのさ、アルミンってさ、一度気に入った本があるとずーっと持ち歩いて読んでるんだよな」

ミカサ「……? うん」

エレン「俺さ、昔一度だけそういうアルミンから本を取り上げようとしたことあるんだ。俺、ガキでバカだったから……本がなかったら、一緒に遊んでくれるんじゃないかって単純に思ってた」

ミカサ「……うん」

エレン「そしたら結果は逆で、本気で怒っちまって……一週間は口聞いてくれなくってさー。あれは堪えたなぁ」

ミカサ「今のアルミンはそういう状態なの?」

エレン「ああ。モノクマと遊んでる」

ミカサ「」

エレン「めっちゃ仲良しだ」

ミカサ「そ、そう……そうなの」

エレン「ああ」

ミカサ「……そう」


エレン「でもってさ、そうなっちまってるのがアルミンだけじゃねえんだよ。ライナーとベルトルトとジャンもなんだ」

ミカサ「他にもそんな面白いものが? ……あっ」

エレン「そうだよ。……キャンディだよ」

ミカサ「……なるほど」

エレン「なるほどって……お前、夕方あいつらと一緒に手芸教室やってんだろ」

ミカサ「まさか男子寮でもやってるとは思わなかった。てっきりあの場限りのものだと……」

エレン「ミーナやクリスタは? 女子寮で何してんだ?」

ミカサ「少なくとも裁縫はしていない」

エレン「……あいつら割りきってんなぁ」


ミカサ「……エレン、さみしくない?」

エレン「別に? 俺だってやることの一つや二つあるしな」

ミカサ「……」

エレン「そんな目で見るなよ。――いいんだよ。構ってもらえないからって邪魔するのはかっこ悪いし、それに……あいつらが楽しそうなの見ててわかるんだ」

エレン「本当は、喜ぶべきことなんだよな、アルミンだけじゃなくて、みんなが夢中になれるものを見つけたんだからさ」

エレン「実際いい息抜きになってると思うんだ。……だからいいんだ、これで」

ミカサ「……ねえエレン。さっき言ってたやることって何?」

エレン「……」

ミカサ「エレン?」

エレン「……えーっと」


ミカサ「まさか何もなかったり――」

エレン「あ、あるよ! あるに決まってんだろ!」アセアセ

ミカサ「なら、教えて」

エレン「……き、筋トレとかかな」

ミカサ「じゃあ、明日からここで筋トレをやろう。私と一緒に」

エレン「はぁ? ……あのな、俺のやることにお前までいちいち付き合わなくたっていいんだぞ?」

ミカサ「エレンに合わせてるわけではない。私は偶然この時間にここに来て、エレンは偶然この時間にここに来るだけ。その時ちょうど二人いるから一緒に手助けしあうだけのこと。何もおかしいことはない」

エレン「……勝手にしろよ」

ミカサ「うん。そうする」


―― 同刻 教官室

キース「――ブラウンとキルシュタインが?」

モブ教官「アルレルトもです。フーバーも、様子がおかしいとの報告がありました」

キース「……ふむ」

モブ教官「いかがなさいますか?」

キース「……近いうち、私が部屋に直接出向いて話を聞いてこよう。報告感謝する」

モブ教官「いえ、主任の手を煩わせるわけには……」

キース「ブラウン、フーバーにキルシュタインは上位組だ。アルレルトは座学のトップ。私が出向かずどうする」





キース「それに、場合によっては――少し灸を据えねばならんかもしれんしな」

今日はここまで! 最後にもう一回age


―― 更に数日後 夜の男子寮



キャンディ『あそんでクルクルあそんでクル~』



アルミン「ふんふんふーん♪」クルクルマキマキ

コニー「なあアルミン、その髪型なんだ?」チクチク

アルミン「昇天ペガサスMIX盛り」マキマキ

ベルトルト「アルミン耳が傷むからやめてあげて!」

アルミン「そう? ――じゃあはい、ベルトルトにキャンディは返すね」スッ

ベルトルト「えっ? ……ど、どうもありがとう」

アルミン「やっぱりキャンディはベルトルトと一緒にいたほうが生き生きしてるよね」

コニー「そうだなー、なんたってベルトルトが見つけてそこまでキレイにしてやったんだもんな」

ベルトルト「そ、そうかな……? そう言ってもらえると嬉しいな……///」テレテレ

ベルトルト「ねえ、キャンディもそう思ってくれてる? 僕と一緒にいるとどう?」ナデナデ




キャンディ『はぁ~…疲れたクル』



ベルトルト「」

アルミン「」

コニー「」

ベルトルト「……」

アルミン「あの……その……」チラッ

コニー「あー……」チラッ

ベルトルト「……」ジワッ...

コニー「!? ほらほら泣くなよーベルトルト! 今できたばかりのニンジンやるから元気出せ! なっ?」オロオロ

アルミン「そうだよ大丈夫だから! ね!? たまにはこういうこともあるって!!」アセアセ


エレン(……ったく、あいつらは何やってんだか)

エレン(おっと、そろそろミカサと約束した時間だな)

エレン「んじゃ、俺ちょっと出かけてくるから」スクッ

ライナー「おう。あまり遅くなるなよー」カチャカチャ

エレン「ああ。消灯前には帰ってくるよ」スタスタ...

ジャン「……ちょっと待てよ、エレン」

エレン「」ギクッ

エレン「……な、なんだよジャン。俺に何か用か?」ビクビク

ジャン「エレンって黒髪だよな」

エレン「あ? ……まあ、ミカサほどじゃねえけどな」

ジャン「そっか。そうだよな」ジリッ...

エレン「……おい、何するつもりだ」ササッ


ジャン「なあ……側頭部か後頭部だけでいいんだ、エレン」ジリジリ...

エレン「……近寄るんじゃねえよ、なんだよ目が怖いぞお前!!」

ジャン「ライナー」

ライナー「おう」ガシッ

エレン「ちょっ……!? おいライナー何してんだよ!!」ジタバタジタバタ

ライナー「すまんなエレン。……この後モノクマ用のシュシュを作ってくれると約束したんでな」

エレン「モノクマのどこにシュシュつけんだよ! 首か!?」

ライナー「はっはっは。最近は手首に巻くのも流行ってるんだぞ、エレン」

エレン「どこからその知識仕入れてきた!?」

アルミン「ねえジャーン、僕もモノクマとお揃いのがほしーい」

ジャン「おう、任せとけ。――そういうわけだ、おとなしくしろよ? 往生際が悪いぞエレン……」ジリジリ...

エレン「や、やめっ――!」






キース「――全員いるか?」ガチャッ...





エレン「」

アルミン「」

コニー「」

ジャン「」

ライナー「」

ベルトルト「」

ここまでー 小出しで本当にすみません


キース「……」

キース(……どうなっている)

キース(フーバーとスプリンガーが手にしているのは……人形か?)

キース(いや、それよりも……何故イェーガーはブラウンに押さえつけられている……?)

キース「……」

キース「――心臓を捧げよ!!」

一同「ハッ!!」バッ!!

キース(なるほど……かなり深刻な事態らしいな……)


キース「まず……イェーガー、何故髪を結っている? それは……お下げか?」

アルミン「……」ピクッ

エレン(い゛っ!? 最初っから俺かよ!?)

エレン「こ、これはその……」チラッ

ジャン「……」ニッ

エレン(くそっ……あの「似合ってるぞ」って言わんばかりの顔がすっげえむかつく……!!)イライラ

アルミン「――教官殿、よろしいでしょうか」スッ

キース「なんだ、アルレルト」



アルミン「イェーガー訓練兵のこの髪型はお下げではありません。――これはツーサイドアップというものです!」



キース「」

エレン「」


キース「つー……どあ……?」

ライナー「ツーサイドアップです! 耳の上で髪の一部を二つに結った、髪型の名称です!」

ジャン「ツインテールやお下げとは一線を画す、新時代のヘアスタイルです!」

キース「…………そ、そうか。……なるほど」

エレン(教官、反応に困ってるじゃねえか……)ハラハラ

キース「では……フーバー、スプリンガー」

ベルトルト「ハッ!」

コニー「なんでしょうか!」

エレン(あっ、矛先変えた)ホッ

キース「その右手に持っているものはなんだ? 貴様らは心臓の代わりに人形を捧げるつもりか?」

エレン(き、きた……! こりゃ、言い逃れがきかねえぞ……!)

エレン(さっきの調子じゃ、アルミンたちには期待できない……! あいつらがおかしい今、俺がなんとかしねえと――)

キース「どちらでもいい。答えてもらおうか」


エレン「教官殿! そちらの人形は、とある人物から一時的に預かった物です!」

キース「ふむ……預かり物、か」

エレン「はい。人形の補修が終わり次第、返却する予定でした」

キース「補修だと? 誰が人形の補修などできる?」

コニー「じっ、自分です!」

キース「……スプリンガーが?」

コニー「ハッ!」

キース「……ふむ」

エレン(これは……いけるか?)

エレン「……規則には、『男子寮に人形の類を持ち込んではいけない』という項目はなかったはずです。問題ないですよね?」

キース「確かに、そんな項目はないな。――だが」


キース「数日前、ブラウン・フーバー・キルシュタイン・アルレルトの様子がおかしいとの報告があった」

エレン「アルミンたちが……?」

キース「ブラウンが夜な夜な技巧室を徘徊しているだとか、人形を抱きしめたフーバーが半笑いを浮かべながら兵舎の廊下を歩いているのを見ただとか」

エレン「……」

キース「キルシュタインが提出したレポートには見慣れぬ図形と呪文が並び、アルレルトに至っては資料室で不気味な笑い声を披露する始末」

エレン(わーお)

キース「その人形が秩序を乱している原因であるというのなら、話は別だ」

エレン「……」

エレン(お前ら、俺が見ていない裏で何やってんだよ……そりゃさすがに庇いきれねえぞ……)


エレン(くそっ、どうする……? 俺じゃ教官の説得は無理だ。けど、今のアルミンじゃ――)

アルミン「……教官殿」

キース「なんだ? 何か申し開きがあるなら聞こう」

アルミン「――我々は全ての情報を開示する用意があります」

キース「この後に及んで言い逃れか? 言ってみろ」

エレン「アルミン……?」

アルミン「……エレン、みんな。ここは僕に任せて」

エレン「! あ、ああ……!」

エレン(アルミン、よかった……! 俺は戻ってくるって信じてたぜ!)

アルミン「――そもそも、彼と彼女を心臓の代わりに捧げるなどもってのほか。どちらも代わりになる存在などいません」

エレン(…………ん?)

アルミン「このモノクマ……いえ、モノクマさんは、我々にとって人生の先輩っ! そしてっ!」

ベルトルト「キャンディは――僕たちの妹です!!」



エレン「」


キース「……」

エレン(ああ、終わった……何もかも……)

キース「……ブラウン、キルシュタイン。何か言い残すことはあるか?」

ライナー「ありません」

ジャン「右に同じく」

キース「……そうか。お前たちの言いたいことはよくわかった」

キース「つまり――この惨状は、スプリンガーが作り出したものということだな」

コニー「……へっ? 俺?」

キース「当然だろう? 補修できる者がいなければ、この部屋に人形が持ち込まれることはなかった」

キース「というわけでスプリンガー。明日の昼、私の部屋に来い。――話は以上だ」



     ―― バタンッ


コニー「」

ライナー「おめでとうコニー」パチパチパチパチ

ジャン「直々に招待されてよかったな!」パチパチパチパチ

ベルトルト「僕、教官室なんて入ったことないや」パチパチパチパチ

アルミン「お部屋にお呼ばれされちゃったね♪」ウフフ

コニー「されちゃったね♪ じゃねーよ!! お前ら何やらかしてくれてんだよ!!」

アルミン「でも、肝心の人形は没収されなかったんだから大丈夫だよ。お説教くらいで済むんじゃないかなぁ?」

コニー「済むんじゃないかなぁ? じゃねえっての!!」



エレン「……た、助かったのか?」ホッ

ジャン「ああ、そうみたいだな。――んじゃっ、続きやろうぜ」

ライナー「そうだな」ガシッ

エレン「」


―― 翌日 昼間 とある廊下

コニー「……」ズーン...

コニー(何言われるんだろうなぁ……ああ、嫌な予感しかしねえ……)

コニー(父ちゃん、母ちゃん、サニー、マーティン……兄ちゃんは、憲兵団に入れなかったよ……へへっ)トボトボ...

ミカサ「コニー? こんなところで何をしているの?」

コニー「……ミカサか。今教官室に行く途中だよ」

ミカサ「? コニー、何をやったの?」

コニー「モノクマとキャンディの件でちょっとなー……」

ミカサ「モノクマ……? ――もしかして、教官にバレたの?」

コニー「ああ、その通りだ。幸い没収はされなかったんだけどよ、これから説教かと思うと……うわあああ、行きたくねえ……」ズーン...

ミカサ「……さっき、女子寮に荷物が届いた。手芸屋さんから」

コニー「荷物……? ってことは、綿が届いたのか!?」


ミカサ「そう。――これで、コニーはモノクマを直せる」

コニー「おおっ、そうなるな! ……まあ、無事に帰ってこられるかどうかすら怪しいけどな」

ミカサ「……コニーじゃないとモノクマは直せない」

コニー「そうかぁ? 技術だけならベルトルトやジャンにだって――」

ミカサ「そうじゃない。あんなに汚れていたモノクマを、あそこまでふわふわでキレイにしてあげたのは……コニー、あなたでしょう?」

ミカサ「もちろん、モノクマをかわいがっていたアルミンの愛情を否定するわけではない。けれど、モノクマを世界一かわいいと褒めて、一から丁寧に手入れをしてあげたのは他ならぬあなた」

ミカサ「だから――無事に教官室から帰ってきて、モノクマのお腹に詰めてあげてほしい」

コニー「……そうだな、俺がベルトルトに言ったんだよな。――よーしミカサ、俺は決めたぜ!」



コニー「俺……教官室から無事に帰ってきたら、モノクマの腹に綿を詰めるんだ……!」グッ



ミカサ「うん。……ぜひ、そうしてあげてほしい」

ミカサ(……思いっきり不吉な言い回しなのは気になるけれど)

今日はここまで もうちょい続きます


―― 教官室

コニー(……)スーハー

コニー(……よし)

コニー「失礼します! キース主任教官殿はいらっしゃるでしょうか!」ガラッ

キース「……来たか、スプリンガー」

コニー「はっ! コニー・スプリンガー、ただいま参りました!」バッ!

キース「ちょうどいい。幸い他の者は席を外している」

コニー(うわっ……マジだ、誰もいねえや)チラッチラッ

キース「再度確認するが……昨日の人形は、スプリンガーが補修したというのは本当か?」

コニー「はっ! 事実であります」

キース「そうか。――ならば」ゴソゴソ

コニー(……なんだ? 机の上に……汚れた人形?)

キース「直せ」

コニー「はっ! ……はっ?」


コニー「……今、何とおっしゃいました?」

キース「二度は言わん」

コニー「しっ、失礼しました!」

コニー(……俺の聞き間違いじゃなかったら、「直せ」って言ったよな?)

コニー「その人形は……その、教官殿の私物ですか?」

キース「余計な詮索は不要だ」

コニー「はっ! 申し訳ありません!」

キース「……それは、私の友人から預かったものだ」

コニー「教官殿のご友人……ですか?」


キース「そうだ。――友人は、かつて調査兵団に所属していてな。そのお守りは、その友人の連れ合いが友人のためにと作ったものだ」

コニー「なるほど……お守りですか」

コニー(やけに汚れてると思ったら、そういうことか……)

キース「スプリンガー。その動物は何に見える?」

コニー「そうですね……クマか、ヒツジに見えます」

キース「それはウサギだ」

コニー「………………ウサギ、でありますか」

キース「そう、ウサギだ。ウサギは足が速いからな。いざという時に巨人から逃げられるよう、願をかけたのかもしれん」


キース「スプリンガーよ。その人形は補修できそうか? 無理ならば今のうちに言え」

コニー「そうですね……見た限り、補修自体は難しくありません。――ですが、その」

キース「なんだ? はっきり言え」

コニー「いえ、あの……自分が手を加えていいものかと思いまして」

キース「私が許可する。やれ」

コニー「でも、この人形は教官殿のご友人の、思い出の品なんですよね? 自分が手を加えることで、状態が悪化する可能性もあります。元の形そのままに戻せる保証もありませんが」

キース「……それは元々、二対一組の人形でな。そいつの片割れは、友人の連れ合いが持っている」

コニー「連れ合い……奥さんですか」


キース「そうだ。友人が現役の時は、願かけの意味も込めてお互いの人形は見せ合わないようにしていたのだがな。――先日、友人は連れ合いの持っている人形を見る機会があったらしい」

キース「流石に新品そのものとはいかなかったようだが……連れ合いが持っていた人形は、傷みや汚れが一切ない、手入れの行き届いた姿をしていた」

キース「『何故そんなに綺麗な姿を保っているのか』と友人が聞くと、『友人そのものだと思って大事にしていた』という答えが返ってきたらしい」

キース「片や友人の人形は、ろくに手入れもせずにそんな有様という体たらく」

キース「兵団勤めで壁外遠征ばかりだったとはいえ、連れ合いの人形を見て思うところがあったそうだ」

コニー「思うところ、と申しますと?」

キース「『自分はこれまで連れ合いを大切にしていなかったのではないか』、と途端に恥ずかしくなったらしい。たかが人形の状態の良し悪しにおかしい話だがな」


コニー「……一つ、よろしいでしょうか」

キース「なんだ」

コニー「はっ。……差し出がましい意見だとは思いますが、自分ではなくそのご友人の方が自力で手入れをなさったほうがよろしいのではないでしょうか」

キース「……最近、近くのものが見えづらくてな」ボソッ

コニー「……? ご友人の方が、ですか?」

キース「……そうだ。私の友人がだ」

コニー「そうですか」

コニー(老眼か……ということは、友人ってのはキース教官の同期なのかもな)

キース「話を戻すぞ、スプリンガーよ。貴様は先程、『補修はできる』と簡単に言ったがな。門外漢の私にも、その人形がかなり手が込んでいるものだということくらいはわかる」


キース「その上で聞こう。――これまで巨人殺しの技術しか磨いてこなかった中年の男が、付け焼き刃で得た知識と技術と衰えた眼で、その細工物をどうにかできると思うか?」

コニー「……できないと思います」

キース「ならば、貴様がやることはただ一つだ」

コニー「……もう一つ、よろしいですか?」

キース「なんだ」

コニー「この人形をこのまま見せても、奥さんは怒らないと自分は思いますが」

キース「……」

コニー「……」

キース「これはな、男の意地だ。スプリンガー」

コニー「……なるほど」

キース「他に質問は?」


コニー「……何故、自分が指名されたのでしょうか。町の手芸屋には、有料ですが人形の補修を請け負っているところも何軒かあります。そちらに頼んだ方が、自分に頼むよりもよっぽど丁寧な仕事をしてくださると思うのですが」

キース「……手芸屋は、連れ合いが来るから使えんのだ」

コニー(ああ、なるほどなー……こういうの作るのが好きなら、手芸屋にもよく行ってるよな。よっぽど奥さんにバレたくないんだなー)

キース「それに、だ。――貴様が引き受ければ、昨日の男子寮で起こったこと全てを見逃してやると言うんだ。貴様にとっても悪い取引ではあるまい」

コニー「昨日のアレを見逃してくれるんですか!?」

キース「引き受ければな。――さて、どうする? スプリンガー」

コニー(そんなの考えるまでもねえ!)

コニー「是非やらせてください!」

キース「よし、ならばよろしく頼む。要り用なものがあればその都度私に言え」

コニー「必要なものですか……あっ」

キース「なんだ」

コニー「いえ、補修する代わりと言ってはなんですが、教官殿にお願いしたいことがありまして――」


キース「――了解した。ならば、交換条件といこうか」

キース「そちらの要求は私のほうで手配しておく。日程の目処がついたらすぐに教えよう」

コニー「はい、ありがとうございます!」

キース「言うまでもないと思うが、今回の件は他言無用だ。内密に事を進めろ」

コニー「はっ! 承知いたしました!」

キース「この件は以上だ。帰ってよし」

コニー「はっ! それでは失礼します!」バッ!!

キース「……待て、スプリンガー」

コニー「はっ! なんでしょうか!」


キース「“他言無用”の意味はわかるか?」

コニー「わかりません!!」キッパリ

キース「……誰にも話すんじゃない。これは私と貴様、二人だけの秘密だ」

コニー「ひみつ……でありますか」

キース「……貴様まさか秘密の意味も知らんのではあるまいな」

コニー「いえ! さすがにそれはわかります! ないしょ話という意味ですよね!?」ブンブン

キース「……まあそうだな。もう行け。私は忙しい」

コニー「はっ! それでは失礼いたします!」ガチャッ バタンッ



キース「……」





キース(……来週の休暇に特別講習でも組むか)ハァ


―― 夕方 とある空き教室

コニー「――ということがあったわけよ」チクチク

エレン「ふーん……で、預かってきた人形ってそいつか?」

コニー「おう。モノクマの腹塞いだら、すぐにでも取りかかるつもりだ」

ミカサ「……かわいい。触ってもいい?」ジーッ...

コニー「いいぞ。……って、俺のじゃねえけどな」

ミカサ「ありがとう。じゃあ失礼する」スッ

ミカサ「……」ナデナデ サワサワ

ミカサ「……///」ホッコリ


エレン「でもよコニー。本当にお前が手を加えちまってもいいのか? この前ベルトルトに言ってたことと違うんじゃねえの?」

コニー「そりゃあなぁ、人形を大切に思う気持ちに勝るもんはねえんだけどさ。そういう気持ちだけじゃどうにもならないことがあるからこそ、専門家がいるわけだろ? こういう手芸に限らずな」

コニー「畑の作物をいくら大事に育てても、猪や熊はいなくなったりしねえからな。まっ、つまりは適性判断ってもんよ」

ミカサ「……適材適所」

コニー「そうそう、それそれ。――そんで、今回はその役目が俺だったってだけだ」

エレン「うーん……そんなもんかぁ?」

コニー「そんなもんだよ」チクチク


コニー「それにさ、奥さんに見栄を張りたいその人の気持ちもわかるからさ。俺にできることなら協力してやろうとも思ったんだよな。ついでに昨日のことをチャラにしてくれるなら二兎追う者は一兎も得ずだしよ」

ミカサ「……一石二鳥」

コニー「そうそう、それそれ」

ミカサ「そんな見栄なんか、張らなくてもいいのに」

エレン「そうか? 俺もちょっとわかる気がするけどな。教官の友だちの気持ち」

ミカサ「……男の人はよくわからない」

コニー「いわゆる男の美学ってヤツだからな。ミカサにはわかりにくいかもしんねえなぁ」ドヤァ

エレン「そうだそうだ。女のミカサにはわかんねえよ」ドヤァ

ミカサ「むっ……昨日は約束をすっぽかされたというのに、ひどい仕打ち」ムスッ...

エレン「だから悪かったって。さっき説明もしたし、ちゃんと謝ったろ?」

ミカサ「……私は、寒空の下で三時間待ったのに」ムー...

エレン「悪かったって。そろそろ機嫌直してくれよー、ミカサ」

ミカサ「……あと五分」

エレン「へいへい。肩もみ五分延長な」モミモミ


ミカサ「でも、わざわざ綺麗にしなくても、この人形を見れば自分が大切にされてるって、奥さんはわかってくれるはず」サワサワ

エレン「そうか? やっぱり綺麗なほうが大切にされてるって思うんじゃねえの?」

ミカサ「綺麗に保つことだけが、大切にするということではない。ほんの僅かだけれど、触り癖がついてる。……うなじというのが、少しアレだけれど」

エレン「うなじ? ……ああ、なるほどな。巨人の急所か」

ミカサ「うん。たぶん無意識に触ってたんだと思う」ナデナデ

コニー「へー……よく気づいたな、ミカサ」

ミカサ「女の美学」ドヤァ

エレン「真似しなくてもいいって」モミモミ


ミカサ「……ところでコニー、聞きたいことがある」

コニー「ん? なんだ?」チクチク

ミカサ「今まで話してくれたことは、教官に秘密だと言われたんじゃないの?」

コニー「……」



コニー「……………………あっ。やっべ」



ミカサ「……やっぱり」

エレン「あーあ」モミモミ

今日はここまで 最後にage

教官のお守りマスコットは『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』の予約特典、『しゃべる!モノミストラップ』くらいのサイズだとお考えください


コニー「ま、まあ喋っちまったもんはどうしようもねえしよ、気にしたら負けだよな、うん」アセアセ

コニー「こうして無事にモノクマの腹を縫ってやることができたんだから、俺はこれでいいんだ……ん?」ピタッ

エレン「どうした?」

コニー「いや……腹の中に何か、固いモンが……お?」ズルッ...

コニー「……? なんだこれ?」ヒョイ

ミカサ「……白い、箱?」

エレン「見たことない材質だな。木、じゃないよな……?」サワサワ ポチットナ



     『ボクはモノクマ。狭い日本に収まりきるような器じゃないよ』



エレン「……」

コニー「……」

ミカサ「……箱が名乗った」


コニー「すげえな……箱って自己紹介するんだな!」

ミカサ「コニー。箱は喋らない」

コニー「じゃあなんだよ、この箱はモノクマじゃないってことか? それともモノクマがこの箱だったのか? んん? どういうことだ??」

エレン「落ち着けって。箱と人形のどっちがモノクマとかじゃなくて、これはただ単に『押すと音が鳴る』っていう仕組みのオモチャなんだろ」ポチットナ



     『えまーじぇんしー、えまーじぇんしー』



エレン「ほらな。――つまり、モノクマって人形に音が鳴るオモチャが仕込まれてたってだけだったんだ」

エレン「なんかおかしいと思ってたんだよな。口じゃなくて腹から声が聞こえるわ、ほとんど同じことしか口にしないわ……ぬいぐるみが話すわけねえってわかりきってたのにな、すっかり騙されたぜ」ツンツン サワサワ

ミカサ「人形が喋るなんて信じている人がいるの? 誰?」

エレン「アルミンとジャンとライナーとベルトルトだよ。前にも言ったろ?」

ミカサ「……夢中になっているとは聞いたけど、そんな事実を聞くのははじめて」


コニー「まあ、どっちがモノクマの本体でも、人形を直してやるのには変わりねえからいいんだけどよ。……この箱はどうする?」

ミカサ「? そのままお腹に戻さないの?」

コニー「だってさ、どう考えてもこの箱には俺たちの知らない技術が使われてるだろ? なら教官に報告したほうがよくねえか? ウォール・シーナの工場都市に届ければ――」

エレン「いや。仮にシーナの工場都市に送っても、ろくに調べられもせずに壊されて終わりだろうな」

エレン「このオモチャ、パッと見た感じだがかなり精密に作られてるぞ? このネジのサイズに合う工具なんか、壁内のどこにもないんじゃねえか?」ジッ...

ミカサ「なら、どうするの?」

エレン「どうするのって……決めるのはコニーだろ?」

コニー「いや、俺は馬鹿だからよ。『教官に知らせる』って以外の選択肢がとんと浮かばねえんだよな。エレンの意見を聞かせてくれ」


エレン「じゃあ、言うけどよ。――モノクマの腹に箱を戻して、穴を塞いでくれねえか?」

コニー「ん? 元に戻していいのか?」

エレン「今の壁内の技術じゃ、これを完全に解析するのは無理だろ。この箱の中身を無事に調べるには、もう少し時間が必要だ」

エレン「だったら俺は、今を生きてる知らない大人に預けるよりも、大人になった未来の誰か――そうだな、できればアルミンに託したい。あいつなら、きっとこの箱の中身をいつか解明してくれるって思うからさ」

エレン「だから、今はまだしまっておいてほしい。……っていうのが本音かな」


コニー「……そうか、そうだな。じゃあ、エレンの言う通りにする」

エレン「おい、いいのか? ほとんど俺のわがままみたいな提案だぞ?」

コニー「わがままなんかじゃねえって。俺もエレンと同じ気持ちだよ」

コニー「知らねえヤツに預けるよりも、知ってる奴に託すほうが断然いいに決まってるだろ?」

ミカサ「……うん。私もそう思う」

エレン「お前ら……まあ、実はもう一つ理由があるんだけどな」

コニー「もう一つ?」

ミカサ「そっちの理由も聞かせてほしい」

エレン「……あのな、モノクマと遊んでる時って、久しぶりにアルミンが生き生きしてたんだよな。アルミンだけじゃなくて、他の奴らもなんだけど」

エレン「きっとこの箱の存在を知ったら、あいつらは傷つくと思うんだ。『なんで教えてくれなかったんだ』『恥ずかしい思いをしたじゃないか』ってな」

エレン「オモチャはオモチャで、モノクマやキャンディなんてヤツはいないって、いつかは知らなくちゃいけないことなんだろうけどさ。でもそれは、アルミンたちが自分で気づくことだ。俺たちが無理に教えることじゃない」

エレン「そのせいで、傷ついて、嫌われて、怒られても……俺は、アルミンたちに自力で気づいてほしいって思うんだよ。こういう形で知らせるんじゃなくてな」


コニー「……」

ミカサ「……」

エレン「あー……なんだ。さっきのも今のも、結局俺のわがままなんだよな。全部」

コニー「……エレン」

エレン「なんだよ」

コニー「男だな!」ニカッ

エレン「……ああ、どうも」

ミカサ「でも、将来エレンが嫌な思いをするかもしれない」

エレン「いいって。それくらい覚悟してるよ」

コニー「いいんだよミカサ、兄貴ってのはそういうもんだ! なぁエレン!!」バシバシバシバシ

エレン「いってぇな、叩くなよ。コニー」

コニー「まあ、アレだよな。……これは、開けちゃいけないツンドラの箱だったんだよ」キリッ

エレン「ちげーよ、ツンデレだろ?」

ミカサ「どっちでもない。パンドラの箱」


コニー「よーっし、そうと決まればさっさとこの箱縫い込んじまうか!」

ミカサ「うん。お腹に綿を詰めて、モノクマを元通りにしてあげて」

エレン「俺は応援しかできねえけど、頑張れよ」

コニー「おうっ! じゃあまずはこの箱を――」スッ



ジャン「おっ、コニー! ここにいたのか。クリスタが探してたぜ」ガラッ



コニー「戻っしゃあっ!?」ビクッ!! ズボッ!!

エレン「ぎゃあっ!?」ビクッ!!

ミカサ「ひぇっ!?」ビクッ!!


ジャン「……? お前ら、三人揃って何してるんだ?」

エレン「い、いいやぁっ? なんでもねえよぉっ!?」アタフタアタフタ

ミカサ「そう、なんでもない、全然なんでもないなんでもない」ブンブンブンブン

コニー「じゃ……ジャン! いきなり何の用だ? 俺に用事か!?」

ジャン「だから、みんなお前のこと探してるんだって。なんで今日はこんな空き教室で作業してるんだよ」

コニー「教官に絞られた当日に、食堂で堂々とやる気にはならねえよ……」ゲンナリ

ジャン「そうだ、結局どうなったんだよ。教官に何言われた?」ドカッ

ミカサ(座ってしまった……)

コニー(居座る気満々じゃねえか……)

エレン(箱は……綿の隙間に隠してるから当面は大丈夫か? ジャンの手が近いのが気になるが……)ハラハラ

コニー「まあ、順を追って話してやるよ。まずはだな――」


ジャン「へえ……人形の補修ね。その桃色のがそうなのか?」ジッ...

コニー「おう。――それとさ、このことはみんなに秘密だからよ。これからもまたこういう空き教室でコソコソ作業することになるかもしんねえ。悪いな」

ジャン「そりゃいいけどよ……秘密なんだよな?」

コニー「おう」

ジャン「今俺に喋っちまったぞ」

コニー「……あっ! …………ああー、俺のばかー……」ガックリ

エレン(コニー……止めなかった俺も悪いが、お前はもうちょっと話す前に色々考えろよ……)

ミカサ(……コニーとないしょの話はあまりしないようにしよう)

ジャン「ところでよ。――その人形にキルシュタイン・カスタムは施さなくていいのか?」

ミカサ「きるしゅたいん」

エレン「かすたむ」

コニー「なんだそれ」


ジャン「シュシュ・カチューシャといった各種髪飾りのみならず、コサージュやラリエットみてえな布で作れるアクセサリー系の製作・補修・改造などなどなんでも引き受けるぜ!」キリッ

エレン「やだお前なんかこわい」

コニー「いらねえよ。思い出の品なんだから、あまり余計な手は加えたくないしな」

ジャン「そうか、残念だな。――おっとそうだ。ミカサ、ちょっといいか?」ゴソゴソ

ミカサ「えっ? わ、私? 私??」オロオロ

ジャン「ああ、お前に渡したいものが……おっ、あったあった」ソッ...

ミカサ「? それは……シュシュ?」

ジャン「おう。――少しの間だけだから、動かないでいてくれよ?」スッ

ミカサ「……」ピタッ

コニー(すげえ、瞬きすらしてねえや)

エレン(ミカサ、頑張れ……)ハラハラ

ジャン「うん、やっぱりな。……この赤は、お前の黒髪に似合うって確信してたんだ。店でこの布地を見つけた時は、運命の出会いだとすら思ったぜ」

ミカサ「……ど、どうも」ギクシャク


ジャン「その……変な意味とか込めてるわけじゃねえんだが。――ミカサ、このシュシュもらってくれるか?」スッ

ミカサ(……どうしよう)

ミカサ「……」チラッ

エレン(そこでなんで俺を見る!? ――いいからもらっておけよ、ジャンが暴れ出したら困るだろ!)ミブリテブリ

ジャン「あー……やっぱり、エレンがいる前じゃもらいにくいよな。ごめんなミカサ、無理言って」スッ

ミカサ「待って。……くれるなら、もらっておく」ギュッ

ジャン「……いいのか?」

ミカサ「手が込んでるのは、一目見ればわかる。……月並みな言葉で悪いけれど、ありがとう。大切にする」

ジャン「どういたしまして。――こっちこそ、もらってくれてありがとな」ニッ

ちょいとキリが悪いけれど今日はここまで 最後にage


ジャン「俺は正直、突っ返されると思って冷や冷やしてたんだが……本当にいいのか? もらってくれるのか? ミカサ」

ミカサ「誰かの思いやりの心を無碍にするほど、私は自分勝手じゃない」

ジャン「へへっ、そうか、どうもな……///」テレテレ

エレン(おおっ……! かつて俺に花束を渡してきたミカサと同じ顔をしてるぜ、ジャン……!)

コニー(今のお前、最高に輝いてるよ……! よかったな!)



ジャン「な、なんか照れるなぁこういうのはよ! なあモノクマ、お前もそう思うだろ?」ヒョイッ ダキッ



エレン・ミカサ・コニー「!?」


ジャン「……あれっ? モノクマいつもより軽くねえ?」

エレン「じゃっ……ジャン! ジャン!!」オロオロ

ミカサ「ダイエット中。モノクマはダイエット中……ぽっこりしたお腹が気になると言っていた」アタフタアタフタ

コニー「そうだそうだ! 今ちょっと綿抜いてるしな、少し軽めに感じるんじゃねえの?」アセアセ

ジャン「ダイエットだとぉっ!?」クワッ!!

ミカサ「ひぇっ」ビクッ


ジャン「モノクマのチャーミングポイントは、このぽっこり膨らんだお腹とちょこんと飛び出たでべそだろうが! ダイエットなんかしたら魅力が減っちまうじゃねえか!」サワサワ スリスリ ナデナデ

エレン「あのなぁジャン、モノクマだって思春期なんだぞ!? 体型の良し悪しだって気にするお年頃なんだ! そいつの自由にさせてやれよ!」

ジャン「!! ――そうか……そうだな、俺は自分の好みばかりモノクマに押しつけようとしてたんだな。俺はもう何も言わないぜ。モノクマの好きにするといいさ」フッ

コニー「えっ? そんな話だったか?」

ジャン「でもよ、急な減量はよくねえぜ? よかったら今度俺と一緒に運動しような?」ポンポン

エレン「よっ、よーし、よーしジャン! モノクマは一旦机に置こう、そんで落ち着こう、な? ほらいい子だから言うこと聞けよコラァッ!!」クワッ!!

ミカサ「エレン! あまり声を荒げては教育上よろしくない!」

エレン「俺は別にジャンを教育してるわけじゃねえよ!!」


ジャン「……? なあコニー、ちょっといいか?」

コニー「おっ、おう、今度は俺か……なんだ? 何かあったか?」ドキドキ

ジャン「なんでさっきからモノクマは何も話してくれねえんだ?」

コニー「え? えーっと……」チラッ

エレン(それはさっき、お前がここに来た時にコニーが箱を綿の中に隠したからだよ……!)ソワソワ

ミカサ(あの位置では、例えコニーが手を伸ばして箱を取ったとしても不自然になってしまう……それに、モノクマはジャンが抱えているから、声とぬいぐるみの距離がありすぎてバレるかもしれない)ソワソワ

コニー「……お、お前が体型のこと口に出したから怒ってんじゃねえのー?」

ジャン「えっ……そうなのか? モノクマ」




 モノクマ『……』



ジャン「……そうか。俺、モノクマに嫌われちゃったのか」ショボーン...

エレン(おいおいなんでだ、ジャンが一方的に暴走してるだけなのに罪悪感半端ねえぞこれ)ズキズキ

ミカサ(どう見てもジャンがおかしいのに、何故だか私たちのほうが悪いことをしているような気がしてくる……)ズキズキ

コニー(なんだよこれ、俺が悪いのか? でも他に言い様がなかったし……)ズキズキ


コニー「仕方ねえな……エレン、アレをやってくれ」ボソッ

エレン「アレをか……え? アレをやるのか? 今ここで??」

ミカサ「アレ?」キョトン

コニー「ああ。アレだ」

エレン「けどさ、アレは一度ジャンの前でやってるし、箱を鳴らすよりもリスクが高いんじゃ――」

コニー「いや、モノクマに心酔している今のあいつなら充分に騙せる。俺を信じろ」

エレン「……で、でもよ、今アレをやるのは、少し恥ずかしいんだが」モジモジ

コニー「いいからやれ」キッパリ

エレン「ええー……。けど、今回はミカサもいるし、ちょっと……」チラッ

ミカサ「エレン。私はエレンがどんなことをしようと決して笑ったりしない。安心して」

エレン「いや、でも……」モジモジ

ミカサ「あのままだとジャンがかわいそう。なんとかできるならやってあげて、エレン」

エレン「――く、くそっ……! 後で五、六発殴らせろよな、ジャン……!」


ジャン「そうだよな。俺がお前に取った最初の態度を考えれば、嫌われて当然なんだよな……」

ジャン「でも今は違う! お前のこと、本気で大切にしたいって思ってる!」

ジャン「さっきの体型の話だって、お前の体調を気遣ってのことなんだよ!」

ジャン「モノクマ、頼む……! あと一回だけでいいから、お前の声を聞かせてくれ!!」



エレン「わかった!! 今度二人で遊ぼうね!!(裏声)」



ジャン「……」

エレン(ほぉーらぁーやっぱり無理があったんだよ! ジャンの奴めちゃくちゃ怪しんでるじゃねえか!)

コニー(くっ、やっぱりダメか……!)

ジャン「……エレン、聞こえたか?」

エレン「なっ、何がだよ」ドキドキ


ジャン「モノクマの、魂の叫びだよ……!」グスッ

エレン「えっ……ジャン、お前もしかして泣いてるのか? なんで? は?」オロオロ

ジャン「ばーか、泣いてねえよ……」ゴシゴシ

コニー(うっわぁ……マジ泣きしてるじゃねえか……)ドンビキ

ミカサ「……ジャン、ハンカチをどうぞ」スッ

ジャン「いいって。それ、ミカサのハンカチだろ? 俺の涙で汚れちまうよ」ズズッ

ミカサ「ハンカチは汚すためにあるものだから気にしなくていい。それに、兵士なんだから目は大事にしなくてはいけない」

ジャン「……じゃあ、少しだけ借りるぜ。これ、洗って返すな」フキフキ

ミカサ「うん。待ってる」




エレン(あのハンカチ、きっとキルシュタイン・カスタムされて返ってくるなー)

コニー(ジャンのことだから洗うついでにもう一枚新品買ってキルシュタイン・カスタムしてから渡すんだろうなー)


ジャン「じゃあ俺、クリスタにコニーがここにいること伝えてくるわ。――また後でなモノクマ!」ガラッ タッタッタッ...



エレン「……」

コニー「……行ったか?」

ミカサ「たぶん」

エレン「あっ、危なかった……」ヘナヘナ

ミカサ「エレン、よく頑張った」ナデナデ

コニー「ああ。すげーよお前」

エレン「だってよ、ジャンが本当のこと知ったら、アルミンにも言っちゃうだろ……真剣にもなるって……」グッタリ

コニー「結局返事があれば都合よく解釈しちまうらしいな」

ミカサ「そうみたい。なんてお手軽」


コニー「そういやさ、さっきのジャンってモノクマに本気で告白してたよな……?」

エレン「ああ。『大切にしたいって思ってるんだ!』ってな。完全に自分の世界に入り込んでたぜ」

ミカサ「……びっくりした」

コニー「……」

エレン「……」

ミカサ「……」





コニー「こわい」ガタガタ

エレン「こわい」ガタガタ

ミカサ「こわい」ガタガタ

ここまで 最後にage
今月中には終わりたい


ミカサ「エレン、私はアルミンに会うのが怖くなってきた……」

エレン「だっ、大丈夫だって! アルミンはオリジナルブランドを生み出してみんなに布教して回るほどアクティブじゃねえよ!」

ミカサ「……それはそれで心配」

コニー「なあミカサ、それよりそのシュシュどうすんだ?」

ミカサ「……エレン。ジャンからもらった」ヒョイ

エレン「いや、言わなくても見てたけどな俺。横で」

ミカサ「報告は大事」

エレン「別に俺はお前の保護者じゃねえんだから、報告なんていらねえよ」

ミカサ「……これ、どうしよう」

コニー「つければいいんじゃねえの? ジャンが喜ぶぞ?」

ミカサ「……エレン、つけてほしい」スッ

エレン「俺が? いや、いくらなんでもそりゃジャンに悪いって――」

ミカサ「……」

エレン「……あぁもう、わかったよ。そんな目で見るなってば。――後ろ向け、つけてやるから」

ミカサ「うん」クルッ


ミカサ「……♪」ウキウキ

エレン「ミカサの奴、えらくご機嫌だな」

コニー「新しい髪飾りを手に入れた時の女のテンションってのは、総じて高いもんよ」フフン

エレン「……そういうもんなのか」

コニー「俺もサニーに髪飾りでも作って送ってやるかなー」

ミカサ「それよりも、早くモノクマのお腹に箱を入れてあげて」

コニー「おっと、そういやそうだな。じゃあ綿の中から出して……っと」ヒョイッ



ライナー「よおコニー! 探したぞ!」ガラッ



コニー「ったぁっ!?」ガタガタッ ボトッ

エレン「どわぁっ!?」ガタガタッ

ミカサ「きゃっ!?」ガタガタッ


コニー「ら、ライナーじゃねえか……! なんだ、お前も俺に用事か?」ドキドキ

ライナー「ああ、教官の呼び出しの後にどうなったか気になってな。……ジャンから全部聞いた。昨日は悪かったな、コニー」シュン

コニー「お、おお……気にすんなよ。そこまで大したことなかったし……」チラッ

コニー(やっべぇ……箱が綿から出ちまった。しかもライナーがちょっと手を伸ばせば届く位置に……!)ダラダラダラダラ

エレン(見た目はただの箱だし、触らなきゃバレない……よな?)ドキドキドキドキ

ミカサ(ジャンは教官の人形の話もしてしまったのだろうか。もしそうだとしたら、104期中に教官の人形の噂が広まってしまうのも時間の問題かも)


ライナー「おっ、珍しいなミカサ。髪を結っているのか?」

ミカサ「うん。ジャンにもらった」

ライナー「なかなか似合ってるぞ」ニカッ

ミカサ「……どうも」

ライナー「最近はシュシュをお守り代わりに持ち歩くのも流行ってるからな。専用の金具が欲しかったら言ってくれ」

ミカサ「専用の金具?」

ライナー「ああ。ブラウンメイドのキーチェーンだ」

ミカサ「ぶらうん」

コニー「めいど」

エレン「なんつった今」


ライナー「人形やアクセサリーに関する金属加工・装飾を引き受けてるんだ。材料は技巧室で拾った廃材だから安価に済ませることができるしな。給金の少ない訓練兵の心強い味方だぞ!」

エレン「ライナー、お前もか……俺、頭痛くなってきたよ……」

ライナー「ちなみに今はアジャスターとマンテルの組み合わせが人気なんだ。どうだミカサ、試しに一つ作ってやろうか?」

ミカサ「……気が向いたら頼む」

ライナー「いつでも言ってくれよ? 待ってるからな?」

ミカサ「…………………………うん」

ライナー「コニーやエレンも何かあったら気軽に頼んでくれ。――なんならその教官から預かった人形にもつけてやろうか?」

コニー「いや、いいよ。この人形には細工しないって決めてるからさ。気持ちだけありがたくもらっとく」

ライナー「……そうか」ションボリ


エレン「……」

ライナー「ん? どうしたエレン、何か作ってほしいものでもあるのか?」ソワソワ

エレン「いや……なんでもない……」

エレン(なあライナー……そういえば俺、お前みたいになりたいって思ってたっけ。でも今は――)チラッ

ライナー「今ちょうどミーナからの依頼が済んだところで暇なんだがな。本当に何もないのか?」ソワソワ

コニー「ねえよ」

ミカサ「ない」

ライナー「……そうか」ションボリ

エレン「……」

エレン(俺が憧れてた、かっこいいライナーはどこにいったんだろう……)

ライナー「なんでもいいんだけどな。例えばその白い箱なんか――」スッ

エレン「箱? ――あっ!」ガタッ

ミカサ「それはダメ!」ガタッ


コニー「これは俺の! 俺のケースだから! 針がいっぱい入ってるから危ねえぞ!?」ササッ

ライナー「……いや、俺だって針どころか危ない工具はいくらでも触ってるんだが」

コニー「ええっと――そうだ! 俺以外の人間が触ると針が千本飛び出すんだよ! だから危ねえの!」

ライナー「なんでそんな危険物を持ち歩いてるんだ! 没収するぞ!」

コニー(ああああああああドツボにハマった!!)

エレン(馬鹿! コニーの馬鹿!! 俺も馬鹿だけど!)

ミカサ「……ライナー。コニーだって立派な兵士なんだから、この箱よりも危ない物を扱う時だってある。なんでもかんでも危険から遠ざけるのはあまり教育上よろしくない」

ライナー「針が千本飛び出すよりも危ない物ってなんだ?」

ミカサ「…………………………へ、壁上固定砲とか」

ライナー「ああ、確かにそりゃ危ないな」


ライナー「……ちょっとモノクマ借りるな」ヒョイ

コニー「あっ、おい! 腹の傷気をつけろよ!?」

ライナー「わかってるさ。乱暴な真似はしない。少し……話を聞いてもらいたいだけだ」ギュッ...

コニー「なんで後ろから抱いてんだ」

ライナー「前から抱いたらモノクマが息苦しくなっちまうだろ?」

ミカサ「ライナー。モノクマはぬいぐるみだから呼吸しない」

ライナー「えっ? してるぞ?」

ミカサ「……………………」

コニー「ミカサ、考えるな」ヒソヒソ

ミカサ「……わかった。考えない。モノクマは呼吸している」

ライナー「おう。その通りだ」


ミカサ(ライナーが抱きしめていると、モノクマがすごく小さく見える。握りつぶされなければいいけど……)ハラハラ

ミカサ(そもそも、どうしてジャンやライナーは頑なにモノクマとスキンシップしようとするんだろう。男子寮でもいつもこんな感じなのだろうか)

ライナー「俺は自分が情けねえよ、モノクマ……いつも兄貴面してるくせに、コニーのこと何もわかっちゃいなかったんだな」ブツブツ

ミカサ「……何故ライナーはモノクマに語りかけているの」

コニー「みんな大体こんな感じだぞ」

ミカサ「エレンやアルミンも?」

コニー「アルミンが一番重症だ」

ミカサ「…………」

ライナー「あーあ……いいとこねえなぁ、俺って」ションボリ ナデナデ

エレン「」

エレン(違う……! 俺の知ってるライナーはこんなにナヨナヨしてねえ、こんなメンタル弱い奴じゃねえよ!!)ブンブン

ここまで 最後にage


ライナー「……ん? なんだかモノクマの元気がないな」

エレン「ええっ!? ええええーっと、気のせいじゃねえのー?」

ライナー「……返事がない。まるでただの人形みたいだ」

ミカサ「ただの人形なのでは」

コニー「ミカサ」

ミカサ「……」

ライナー「身体もなんだか軽いし……まさかこいつ、風邪でもひいたんじゃないか?」

コニー「腹は裂けてるよな。ぱっくりと」

エレン「ある意味重傷ではあるな」

ライナー「……なあエレン、お前からも呼びかけてやってくれないか?」

エレン「はぁっ!? い、いや、何も俺じゃなくてもミカサやコニーに頼んだって――」

ライナー「お前じゃなきゃダメなんだ!! 頼む!!」

エレン「た、頼むって言われてもよ……」チラッ


エレン(俺がモノクマと会話したら、誰がモノクマの声を出すってんだ?)

ミカサ「……エレン。ライナーにはエレンの後ろに立ってもらって、エレンは屈んでモノクマと話せばいい。ライナーには背を向けているから、口の動きは見えない。きっと大丈夫」ヒソヒソ

コニー「いやダメだ。エレンがモノクマの声を出すために息継ぎすりゃバレるだろ。それにライナーがモノクマとエレンに同時に話しかけたら百貫落としだ」ヒソヒソ

ミカサ「……一巻の終わり」

コニー「おう、それそれ」

ライナー「おいお前ら、一体何を話してるんだ? それよりモノクマに話しかけてやってくれよ!」

ミカサ「ライナー、慌ててはいけない。お手伝いをしようとした矢先に『やれ』と誰かに言われたら途端にやる気がなくなってしまうでしょう? だから、もう少し待つべき」

ライナー「なるほど……それもそうだな。――よし、準備ができたら言ってくれ」


コニー「……おい膝抱えながら待ってんぞ、ライナー」ヒソヒソ

エレン「俺の中のライナー像が……音を立てて崩れていく……」ガクッ

ミカサ「エレン、しっかりして。……こうなったら、エレンが頑張るしかない」

エレン「どうやって」

ミカサ「アルミンに昔聞いたことがある。――遙か昔、北方のとある民族は『高さの異なる二つの音を同時に出す』という歌唱法を使っていたらしい。それを応用すればいい」

エレン「ミカサ、お前さぁ……そんなふわっふわした説明だけで、俺が今すぐできると思ってんのか?」

ミカサ「できる。エレンはやればできる子」グッ

エレン「無理に決まってんだろ!?」

コニー「そんなまどろっこしいことしなくてもよ、ミカサがモノクマの声出せばいいんじゃねえか?」

ミカサ「えっ」


ミカサ「待って。私は今日はじめてモノクマの声を聞いた。それにさっきのエレンのモノマネの声で記憶が上書きされてしまったから、その策はあまり現実的ではない。考え直そう」

エレン「もういいってミカサ、俺のモノマネでいいからやれよ」

ミカサ「……エレンのモノマネを私が?」

コニー「もうそれしかないだろうなー」

ミカサ「………………はっ、恥ずかしい。やりたくない」ブンブン

エレン「恥ずかしいとか言ってる場合じゃねえだろ! ライナーにバレたら金づる式にアルミンにもバレるんだぞ!? やるしかねえよ!」

ミカサ「……芋づる式」

エレン「ああ、だよな。なんかおかしいと思ってた」


ライナー「おーい、まだかー?」ワクワク

コニー「ほらミカサ見ろよ、あのライナー。まるで子どもみてえな綺麗な目してるだろ? あの目を裏切れるのか? お前は」

ミカサ「………………………………あの大きさであの目はちょっと」

エレン「大きさで差別するなよ。――ミカサ頼む! この通りだ!」

コニー「俺からも頼むよ! 頑張ってくれ!」

ミカサ「……努力はする。期待はしないでほしい」

コニー「よーし決まりだな!」

エレン「ライナー、待たせたな!」


ライナー「おう、遅かったな」モフモフモフモフ

コニー(……ライナーの奴、モノクマの耳をモフってやがる)ゾクッ

ミカサ(どんどん悪化している……というか、もう手遅れな気がする)

エレン「……あ、ああ。実は俺、モノクマとサシで話したことないんだよな。だから少し緊張してるっていうか……気持ちの整理がしたくてよ」

ライナー「なんだ、そんなことか。モノクマは見ての通り優しい奴だからな、そんなに緊張しなくてもいいんだぞ?」ハッハッハ

ミカサ「優しい?」

コニー「ミカサ」

ミカサ「……」

ライナー「ほら、モノクマがお待ちかねだ。最高に滾る言葉をかけてやってくれ」スッ

エレン「滾る言葉って意味がわかんねえんだけど」

ライナー「聞くだけで元気になれそうな言葉だ。なんでもいいぞ」


エレン「元気になれそうな言葉か……」

ミカサ「……」ドキドキ

ミカサ(私は、どのタイミングでモノクマの声を出せばいいのだろう)

エレン「えーっと…………うーん………………」

ミカサ(――とにかく、エレンの期待に応えなくては)グッ

エレン「……モノクマ」

ミカサ「……」ドキドキドキドキ



エレン「……今日はいい天気だな」



コニー「世間話かよ」

ライナー「よーしいいぞエレン。お互いの緊張を解くという意味では最適な話題だ!」グッ




 モノクマ『……』



ミカサ「……」モジモジ

ミカサ(……何を、どう答えたらいいのだろうか)

ミカサ(というか、エレンのモノマネをするということに、まだ踏ん切りが付かない……)モジモジ

ライナー「……モノクマからの返事がないな」

コニー「いや、それは………………たぶん、緊張してるんじゃね?」

ライナー「いいや、モノクマが緊張なんかするもんか。……待てよ。まさかモノクマの奴、死んでるんじゃ――」

ミカサ(!! ――もうライナーを誤魔化しきれない……覚悟を決めるしかない!)グッ



ミカサ「――わたし、ものくま!! じゅうごさい!!(※低音)」



エレン「うおっ!?」ビクッ

うがあああ進まない
中途半端ですけど今日はここまでですすみません


エレン(い、いきなりでかい声で答えるからびっくりした)ドキドキドキドキ

ミカサ(思ったより大きい声が出てしまった。……恥ずかしい)モジモジ

コニー(違う! ミカサ違う! モノクマの一人称は「ボク」だ!)ブンブン

ライナー「……今の言葉を聞いたか、コニー」

コニー「あ、ああ…………聞いてたようなー? 聞いてなかったようなー?」ピーヒョロロ

ライナー「モノクマは十五歳らしいぞ。結構俺たちと年が近いんだな!」

コニー(そっちかよ)

ライナー「後でアルミンに教えてやろう。きっとあいつ喜ぶぞ」ニヤニヤ

コニー「……そうだな」

ライナー「そういやモノクマの奴、声変わりしたのか?」

ミカサ「!! ……え、えっと、その」オロオロ

ライナー「だから反応が鈍かったんだな。――はっはっは。こいつぅ、声が変わったからって照れることないんだぞぅ」ツンツン

ミカサ「……」

ミカサ(……扱いさえ覚えれば簡単な気がしてきた)


ベルトルト「あっ、ライナー! こんなところにいたんだ?」ガラッ

ライナー「おう、ベルトルトか。どうした?」

ベルトルト「ミーナがチェーンの長さを再調整してほしいって、ライナーのこと探してたよ。それと、サシャがコイモちゃんの金具壊しちゃったんだって」

ライナー「またあいつか……ちょうどいい、新作ができたから試そう」ガサゴソガサゴソ

ベルトルト「そうやって細工物を渡すからサシャが壊すんじゃないの?」

ライナー「いいんだ。こういうのは使われてこそ価値があるんだからな」

コニー「……なあベルトルト」

ベルトルト「ん? 何? ――ああ、コニーたちここにいたんだね。ジャンやクリスタが探してたよ」

エレン「ジャンにはもう会ったからいいんだ。――あのな」

ミカサ「あなたが手に提げているその籠は、いったい何……?」

ベルトルト「キャンディバスケットだよ」

エレン「きゃんでぃ」

ミカサ「ばすけっと」

コニー「お前いつ作ったんだそんなモン」


ベルトルト「数日前から少しずつ編んでたんだ……座学と技巧の時間をフルに使って内職してたのさ」

エレン「訓練しろよ何やってんだ」

コニー「エレン、やめとけ」

エレン「……」イライラ

ベルトルト「キャンディをそのまま抱えていると何かと目立つからね。でもこれなら、傍目から見ただけじゃキャンディだってわからないだろ?」フフン

エレン「その側面にでっかく編み込んだ『キャンディ』って名前をどうにかしてからそういうこと言えよ」

ミカサ「エレン、抑えて」

エレン「……」イライライライラ

ベルトルト「中に布を敷いてあるから、夜はこのまま寝床にもなるんだ。お部屋遊びもお出かけもどちらもこなせる優れたアイテムさ。これで昼間のキャンディとのお散歩はもちろん、夜の添い寝だって楽勝だよ」フフン

エレン「…………」イライライライライライライライラ

コニー「エレン、どうどう」ポンポン

ミカサ「それは自作なの? あなたが作ったの?」

ベルトルト「装飾はライナーとジャンに手伝ってもらったよ。全体のバランスや細かいところはアルミンと一緒に考えたんだ」

ライナー「ここのリボンの形をした留め具はかわいらしいだろう? 俺の自信作だ」ドヤァ

ミカサ「そう、そうなの。そう…………なるほど……………………」


ライナー「さて。ミーナが待ってることだし、戻って仕事を片付けなくっちゃあな!」ゴキッ

ベルトルト「あはは、ライナーったら張り切っちゃってぇ」ウフフ

ライナー「コニー、何か入り用の物があったら気軽に声かけてくれ。――じゃあな」ガラッ スタスタ...



コニー「……」

エレン「……」

ミカサ「……」

コニー「ライナー、新しく作った金具を試したかったんだな」

エレン「あー、わかるわかるー。俺も新しい工具買ったらみんなに見せびらかしたくなるもーん」

ミカサ「エレン。無理にライナーと同じ目線に立とうとしなくていい」

エレン「……」

ミカサ「エレン」

エレン「くっそがぁっ!!」ドカッ!!


ミカサ「エレン!! 無理はしなくていいと言ったけれど暴れていいとは言ってない! 座って!!」グイグイ

エレン「女子か! 女子かあいつらはぁっ!! ああもう腹立つ!!」バシーンッ!!

コニー「エレンが壊れたな」

ミカサ「元々エレンはそんなに気が長くない。むしろこれはよく保ったほう」

エレン「……ライナー、疲れてんのかなぁ」ションボリ

ミカサ「そして一通り暴れた後は反動でしょんぼりする。これもいつものこと」ナデナデ

コニー「どんまいエレン」ナデナデ

エレン「……あいつらおかしい」グスッ

コニー「今にはじまったことじゃねえだろ。最初っからあいつらおかしかったよ。ぬいぐるみに怯えてたしな」ナデナデ


コニー「でも、馬鹿が頭なんか使うもんじゃねえなー。箱のこと突っ込まれた時は終わったと思ったぜ」ヒョイ

エレン「その前に、どう考えてもその箱に針は千本も入らねえだろ」

コニー「必死にない頭使って考えたんだよ、これでも」

ミカサ「コニーはとても頑張った。……いい子」ナデナデ ジョリジョリ

コニー「ミカサも頑張ってくれただろ? ありがとな、ミカサ!」

ミカサ「どういたしまして。――でも、おかげでわかったことがある」

エレン「なんだ、今更同期の異常性にでも気づいたのか?」

ミカサ「違う。私の弱点がわかった。……私は、口下手だ」ガクッ

エレン「いや、モノマネは口下手とは関係ないからな?」


エレン「コニー、お前もう便所の個室で縫ってこいよ。ジャンがクリスタも呼んでくるって言ってたし、こんなところにいたら危険だぞ」

コニー「そうだな、もう店じまいしちまおう」ゴソゴソ

ミカサ「えっ、トイレに人形を持って行くのは……ちょっと、汚いような」

エレン「選り好みしてらんねえだろ。今アルミンが来たらどうすんだ?」

ミカサ「……それはそうかも。確かに危険」

コニー「箱は取り敢えずポケットにしまえばいいよな。えーっと、これはそっちで――」ゴソゴソ



アルミン「コニー! モーノックマー♪ あーっそびーまっしょー♪」ガラッ



エレン「わああああああ」バタバタバタバタ

ミカサ「わああああああ」バタバタバタバタ

コニー「わああああああ」バタバタバタバタ


アルミン「やあモノクマ! 元気してた?」ハーイ

コニー「あっ、あっ、アルミン……、だよな……?」ドキドキドキドキ

アルミン「もちろんそうだよ! ――ジャンからここにモノクマがいるって聞いて、いてもたってもいられなくなっちゃってね!」ダキッ

エレン「!? おい待てアルミン、モノクマの腹は破れてんだぞ、抱き上げるのはやめとけ!」オロオロ

アルミン「やだなぁエレンったら、僕がモノクマのことを乱暴に扱うわけがないじゃないか! うぷぷぷぷ……うぷぷぷ……」スリスリスリスリ

ミカサ「……」

コニー「ああっ、頬ずりなんかしたら綿が出ちまうって……」ヒヤヒヤ

ミカサ「…………エレン、アルミンがおかしい」ヒソヒソ

エレン「言ったじゃん俺」

ミカサ「私の知ってるアルミンは、あんな笑い方をしない」

エレン「だから、言ったじゃん俺」

ミカサ「……」

エレン「言ったじゃん」

ミカサ「……ごめんなさい、信じてなかった」

エレン「マジかよ、傷つくわー」


アルミン「そうだ、ミカサにはまだ渡してなかったよね! ――はい、これどうぞ」スッ

ミカサ「冊子? ――これは何?」ペラッ

アルミン「モノクマ語録さ」

ミカサ「……ものくまごろく」

アルミン「これまでモノクマが話した言葉の全てを書き綴ってあるんだ。毎朝朝食の時間に中身を読み合わせするから、ミカサも時間ができたら一度一緒にやってみようね!」

ミカサ「……アルミン。これは冊子だけれど、文章は最初の一ページにしか書いてないみたい。乱丁?」パラパラ

アルミン「違う違う。今はまだ少ないけど、これからモノクマの話す言葉が増えることを見越してページは多めにしておいたんだ。新しい言葉が発見されたら追加していくよ」

ミカサ「百ページも埋まるとは思えない」

エレン「ミカサ」

ミカサ「……」

アルミン「うぷぷぷぷ、これでミカサもモノクマと一緒だよ、よかったね……うぷぷぷぷ……うぷぷぷぷ………………んん?」ピタッ

ミカサ「……? アルミン、どうしたの?」

アルミン「……モノクマが軽い気がする」ヒョイヒョイ


ミカサ「……モノクマはダイエット中」

アルミン「モノクマは僕に黙ってダイエットなんかしない」

エレン「身体の調子が悪いんじゃねえかな。腹も裂けてるし」

アルミン「モノクマは具合が悪かったら僕に一番に報告するはず」

コニー「なんだその自信」

アルミン「ねえコニー、いったいモノクマに何があったの?」ズイッ

コニー「うおっ!?」ヨロッ

ミカサ(!! コニー、あまり下がったら後ろの机にぶつかってしまう……!)ヒヤヒヤ

エレン「こらアルミン! コニーに詰め寄るのはやめろ!」グイッ

アルミン「やっちゃうよ? いいすか? やっちゃってもいいすか?」

エレン「ダメに決まってんだろ! っていうか何するつもりだ離れろ!」グイグイ

アルミン「だってコニーが好きに調べろって」

ミカサ「そんなこと一言も言ってない。アルミン、少し下がって」グイグイ


エレン「コニー! ここは俺とミカサで押さえておくからお前はとっとと店じまいしろ! さっさとどこか行け!」ガシッ

コニー「お、おうっ! 今すぐ片付ける、待ってろ!」ガサゴソガサゴソ

アルミン「大人はいつだってそうだ! どうして都合の悪いことばかり隠したがるんだ! エレンとミカサのいじわる!」ジタバタジタバタ

ミカサ「違う、これはアルミンのためを思ってやっている! いじわるなんかじゃない!」ガシッ

エレン「そうだぞアルミン、いつかお前もわかる日が来る!」

コニー「えーっと、これがそっちであれがここで――っと、糸が落ちちまった」ヒョイッ ポチットナ



     『えまーじぇんしー、えまーじぇんしー』



エレン「」

ミカサ「」

コニー「」


コニー(……えっ? 今俺押してないよな? なんで鳴るんだ??)

エレン(そうか……! ――コニーが屈んだ時に、ポケットに入った箱が圧迫されて押されちまったんだ!)

ミカサ(なんてこと……ちょっとした衝撃でも音が出てしまうなんて……)

アルミン「……なんか今、コニーからモノクマの声が聞こえたような」ヒョコッ

ミカサ「!! ――アルミン! 行こう!!」ガシッ グイッ

アルミン「わわっ、どうしたんだよミカサ!」

ミカサ「えっと……私はその、すごくトイレに行きたい! とても行きたい!!」グイグイ

アルミン「行ってきなよ」

ミカサ「……」

アルミン「行ってきなよ」


ミカサ「あの…………アルミンについてきてほしい。来てくれないと困る」グイグイ

アルミン「えっ? ――いくら幼なじみでも、一緒に行くのは、その……」モジモジ

ミカサ「ここから一番近いトイレに辿り着くまでには、大量の罠が仕掛けられているという噂がある。恐らくアルミンの頭脳がないと突破できない。――トイレの前まででいいからついてきてもらえないだろうか」

アルミン「……しょうがないなぁ、お願いされると弱いんだよね」

ミカサ「ありがとう、すごく助かる。とても助かる」コクコクコクコク

アルミン「いいよ、大丈夫。――その代わり、手前までだからね?」

ミカサ「ありがたい。――さあ行こう、さっさとここから離れよう」ガシッ

アルミン「あははミカサ引っ張らないで抜けちゃう抜けちゃう腕が割と本気で抜けちゃうからやめて痛い痛い痛い」ズルズルズルズル...



コニー「ああ、ミカサが、ミカサが……俺たちの犠牲になっちまった……」ホロリ

エレン「あいつら……大丈夫かな。いろんな意味で」

コニー「……さっき、アルミンの奴モノクマの言葉喋ってたよな」

エレン「今だけじゃねえ、ちょいちょい挟んでるよ。……コニー、ミカサの頑張りのためにも、さっさとその穴塞いでくれ」

コニー「おうよ、そうする」チクチクチクチク

今日はここまで 最後にage やっと終わりが見えてきた


―― その日 夜の男子寮

ベルトルト「うん……うん、そうなんだ……それは楽しかっただろうね……ふふふ、キャンディはいい子だから、みんなが優しくしてくれるんだよ……」ブツブツ

ジャン「ライナー、六つ目のポンポンできたぞ」スッ

ライナー「おう、任せろ。……おお、一色じゃないのか。すげえな」サワサワ フニフニ

ジャン「今回はキャンディをイメージしてピンクと白のストライプにしてみたんだ。かわいいだろ?」

ライナー「ああ、すごく素敵だ。……この辺だったな」ガチャコンガチャコンガチャコンガチャコン

アルミン「うぷぷぷぷ……うぷぷぷぷ……おかえりぃー、モノクマぁー……うぷぷぷぷ……」ニヤニヤ

コニー「おいアルミン、足をバタバタさせんなよ。埃が立つだろ」ポンポン

エレン「……」



キャンディ『おっさんっぽ おっさんっぽ いっきたいっクル~』


ベルトルト「うん、僕もキャンディと一緒にお出かけするの楽しみだな……」ブツブツブツブツ

ライナー「籠は見映えがよくなってきたが、取っ手が剥き出しなのが気になるな……ジャン、ここにカバーをつけたらどうだ?」

ジャン「おしちょっと待ってろ今端切れで作るからよ」ジョキジョキ チクチク

アルミン「ねえねえモノクマ、今何時ー?」ポチットナ




 モノクマ『あー、あー。マイクテスッ、マイクテスッ。校内放送、校内放送』

 モノクマ『午後十時になりました。ただいまより夜時間になります』

 モノクマ『ではではいい夢を。おやすみなさい……』



ジャン「おやすみー」

ライナー「いい夢見ろよー」

ベルトルト「キャンディはもうちょっと待とうね、いい子だからできるよね?」



キャンディ『ふぁ~…zzz...zzz...』



アルミン「ダメだよキャンディったらぁ、ベッドで寝ないと風邪引いちゃうよっ?」ウフフ

エレン「…………」


エレン「……俺、外出てくるわ。筋トレしてくる」スクッ

コニー「おう、気をつけろよ。――エレン、すまねえな」

エレン「? 何がだよ」

コニー「だってよ、俺がモノクマ持って来なきゃ、こうやってお前が肩身狭い思いすることなかっただろ? ……悪かった」ショボン...

エレン「……いいってコニー、気にするなよ。昼間に話したとおり、これはこれでいいって俺も納得してるんだからさ。ただちょっと……いや、かなり危険な方向にあいつらが振り切れてるだけで」

コニー「もう少ししたらあいつらも落ち着くと思うからさ。あとちょっとだけ辛抱してくれ」

エレン「? なんだ、何かあるのか?」

コニー「実は――」


―― 数日後の夕方 教官室

キース「……」ジッ...

コニー「……」ビクビク

コニー(キース教官、人形持ったまま動かねえな……別に変なパーツとか取り付けてねえはずだけど……)

キース「……少し、色が薄いな」

コニー「はっ、はい! ――ええっと、その人形って、調査兵団所属の教官殿のご友人が持ち歩いていた物なんですよね?」

キース「ああ。そう言ったはずだが」

コニー「そのせいで、いくらか日焼けして退色してるみたいなんです。色が薄いのはそれが原因だと思います」

キース「日焼けによる退色というものは、街の手芸屋に持って行けばなんとかなるものなのか?」


コニー「いえ……こればっかりはいくら金を積んでも元には戻せません。その状態で精一杯だと思います」

キース「……そうか」

コニー「……」ビクビク

キース「ならばこれで充分だ。――よくやったな、スプリンガー」

コニー「――! はっ、はい! ありがとうございます!」バッ!!

キース「心臓は左だ」

コニー「うおっ!? ……し、失礼しました」ササッ

キース「例の件も手配をしておいた。一週間後にここに来い。――下がれ」

コニー「はっ! それでは失礼いたします!」ガチャッ バタンッ


―― 食堂

アルミン「うわあああんライナー! ミニクマの金具が取れちゃったぁっ!」ビエーン

ライナー「よしよしアルミン、ちょっと待ってろよ。今直してやるからな」

サシャ「ジャン、コイモちゃんにつけたリボン取ってくれませんか? 重いし大きくて、持ち歩くには不便すぎるんですが」ズシッ...

ジャン「じゃあこっちの鈴つけようぜ。クマよけだ」チリーン

クリスタ「ミーナ、糸なくなっちゃったから分けてくれるー?」

ミーナ「いいよー」



エレン「この光景にも違和感なくなってきたなー……」

ミカサ「……コニーは大丈夫だろうか。とても心配」ソワソワ

エレン「あれだけ丁寧に仕上げたんだから大丈夫だろ。むしろ敬礼間違えないかどうかのほうが俺は不安だな」

ミカサ「……確かに」クスッ


コニー「ただいまー。……あー疲れた」ガラッ

ミカサ「おかえり、コニー。……どうだった?」

コニー「なんとか受け取ってもらえたぞ。……ああー、緊張したぁー」グッタリ

ミーナ「お疲れさま、コニー」ポンポン

クリスタ「頑張ったもんね。――はい、お茶入れたからどうぞ?」スッ

コニー「おっ、ありがとな。気が利くなー」ズズッ

ジャン「キルシュタイン・カスタムなしでよく許してもらえたな」チクチク

ライナー「金具も新作を用意してたから取り付ければよかったのにな。今回からブラウンメイドの銘も入ってるぞ」キラーン

ベルトルト「キャンディを連れて行ったらイチコロだったと思うよ。もちろん僕は同伴ね」クンカクンカ

アルミン「モノクマの素晴らしさの前では教官も為す術がなかったろうに」フフン

エレン「主にお前らのせいだったんだがわかってんのか?」

コニー「エレン」

エレン「……」


コニー「ところでよ。アルミンとジャンとライナーとベルトルトって、今日は当番か何かあるか?」

アルミン「僕はミニクマと一緒に掃除当番だよ」

ジャン「当番はねえけど、クリスタからの依頼があるからそっちをやらねえと」

ライナー「俺は技巧室で廃材探しの仕事が残ってるな」

ベルトルト「僕はキャンディと一緒に水汲み当番だったかな」

コニー「よしわかった。女子で誰でもいいからアルミンとベルトルトの当番代わってくんねえか?」

ミカサ「わかった。私が代わろう」

サシャ「パンくれるならやってもいいですよ」

エレン「俺のパンやるから代わってやってくれ、サシャ」

サシャ「毎度あり!!」ワーイ!!

ジャン「……? なんだ、何かあるのかコニー」

コニー「ああ。――お前らに、ちょっと込み入った話があるんだ」

取り敢えずここまで 夜来れたら来ます っていうか11月中に終わらなかったよぉなんてことだごめんなさい
ぬいキチって素敵な響きですね、とても気に入りました

あと相談というか連絡というか予告なんですが、うっかりアニとユミルとマルコを出し忘れたので、本編終わった後に三人+コニー(+ぬいキチ共)でオマケ書こうと思うんですがどうでしょうか
具体的にはアニがうさたんうさたんとはしゃいでる感じになると思うんですが


―― 夜の男子寮

ベルトルト「ごめん、遅くなったね。引き継ぎに時間がかかっちゃって……ってあれ? ライナーとエレンは?」ガチャッ

コニー「ライナーは技巧室だ。エレンが捕獲しに行ったから、そろそろ戻ってくると思うぞ」

ベルトルト「ああ、仕事だって言ってたもんね。じゃあ仕方ないか」

コニー「そもそも仕事じゃねえんだけどな」

アルミン「ひゃっくおっくえーん」

ジャン「なあベルトルト、お前鉄製じゃなくて木製のかぎ針持ってたよな? 貸してくんねえか?」

ベルトルト「いいよ。ちょっと待っててね」ゴソゴソ


エレン「……た、ただいま」ガチャッ ゼエハア

ライナー「おう、遅くなったな」ズルズル...

コニー「!? お、おいエレン……お前ライナーを引き摺ってきたのかよ……?」

エレン「だって技巧室から動こうとしねえんだもんこいつ……あー疲れた、だれか水くれ……」ヘロヘロ

アルミン「はいエレン、お水だよ。大丈夫?」スッ

エレン「おお、アルミンありがとな……でもモノクマの手じゃなくてアルミンの手から直接受け取りたかったなー……」ゴクゴク

ジャン「ほら、俺のタオル貸してやるから使えよ。汗拭け汗」フキフキ ササッ

エレン「気持ちはありがてえんだけどよ、やけに豪華な刺繍してあって使いづれえよ……あと俺の髪にシュシュ当てるんじゃねえ」ペチン

ジャン「ちぇっ、いいだろこれくらい」ブーブー


ライナー「それでコニー、話ってなんだ? 当番を代わらせてまで全員集めたってことは、結構深刻な話なんだろ?」

コニー「ああ、全員揃ったしもういいよな。――みんな、聞いてくれ」

ベルトルト「よーしキャンディ、コニーの話を一緒に聞こうね?」ウフフ

アルミン「スプリンガー教官! ミニクマも一緒に聞いていいですか!」ハイッ

コニー「好きにしろ。――ちなみに今からする話だが、エレンはもう既に知ってる。何日か前に俺が話した」チラッ

エレン「……」

ジャン「エレンにか? なんでだ?」

コニー「俺が必要だと思ったからだ。本題に入るぞ? ――この前教官に呼び出された時、実は人形の補修と引き替えにある頼みごとをしてたんだ」

コニー「教官の知り合いを辿って、近々ラガコ村に立ち寄る予定がある商人がいないか探してもらった。――そんで、今日やっと見つかったんだ」

ベルトルト「? どういうこと?」





コニー「―― 一週間後、モノクマを俺の家まで届けてもらうことにした」


アルミン「えっ……?」

コニー「モノクマは元々妹にやる予定だったんだよ。――本当は、今度実家に帰る時に渡そうと思ってたんだが……今回、みんなに迷惑かけちまったからな。さっさと実家に送っちまうことにしたんだ」

ベルトルト「そんな……! 迷惑だなんて思ってないよ!」



キャンディ『お話しするクル?』



アルミン「キャンディの言う通りだ……話してよコニー! 僕たちはまだ話し合うことができる!」

コニー「いや、教官から人形の補修の話を持ち出された時にもう決めてたんだ。調査兵団に友だちがいる教官なら、きっと商会の人間とも繋がりがあるんじゃねえかと思ってさ」

ライナー「……約束を取り消すことはできないんだよな?」

コニー「ああ。教官や届けてくれるっていう商会の人にも迷惑がかかるからな。今からやめるってのは無理だ」

ライナー「……そうか」

ジャン「……」

ちょこっとだけ追加 今日はここまで

おお……意外とおまけの需要があった よかった よーし書いちゃうぞー
というわけで投下


ライナー「ベルトルト。……キャンディも、コニーの家に送ってもらおう」

ベルトルト「なっ……!? 何を言っているんだライナー! ――今までだってできたんだ、これからだって僕がお世話するよ! 訓練もキャンディのお世話も両立してみせる!」

エレン「お前両立できてなかったじゃねえか」

ライナー「……お前の覚悟の程はわかった。けどな、そうじゃないんだベルトルト」

コニー「まあ信用ないよなー。今までのベルトルト見てたら」

ベルトルト「だから大丈夫だって! キャンディのお世話をはじめてから、成績はそこまで極端には落ちてない! これからだってきっと――」

ライナー「……俺たちの故郷に、キャンディは連れて行けないだろ?」

ベルトルト「……あっ」

ライナー「いつかこういう日が来るはずだと……お前も内心わかっていたんじゃないか? ベルトルト」

ベルトルト「……そうだね。僕は、僕たちは……見たくない現実から、目を逸らしていただけだったんだね」

ライナー「ああ。――現状、お前が取れる選択肢は二つある。元々あった場所に返してくるか、コニーの家に託すか、だ」

エレン「いやペットじゃねえんだから元の場所に返してこなくても」

ベルトルト「キャンディはペットじゃない僕の妹だ!! 二度と間違えるな!!」ダンッ!!

エレン「ひっ!? ……わ、悪い」ビクビク


コニー「なあライナー。細かいことは知らねえけど、キャンディくらいはいいんじゃねえの? ベルトルトもちゃんと世話するって言ってるしよ」

ベルトルト「いや、ダメだよ。……キャンディは、故郷に持っていけない」

エレン「まあ……でかい男がぬいぐるみ抱えて実家に帰るなんて、傍から見たらかなりキツイ光景だよな」

ベルトルト「それに……このままキャンディが僕たちのところにいたって、きっと幸せにはなれない……」

コニー「深刻に捉えすぎだろ」

ベルトルト「僕……僕は、将来大人になったキャンディが素敵な花嫁衣装を着て、世界で一番幸せになってくれることを願ってるから……」

コニー「花嫁衣装作るか? 三日あればできるぞ?」

エレン「コニー。お前の思いやりは伝わるが今は静かにしような」

コニー「えー」

アルミン「ちょっと待ってよ……! ライナーもベルトルトも何を言ってるんだ!」バンッ!!

エレン「その言葉には同意だぜアルミン。言葉だけな」


アルミン「二人とも、あんなにモノクマやキャンディのことを大切にしてたじゃないか!」

アルミン「君たちと離ればなれになった時のふた…………二人……? いや、二匹……二体……………ええっと……………とにかく、彼らの気持ちになってみてよ!」

エレン「迷ったな」

アルミン「僕は迷わない! モノクマとずっと一緒にいる!」ギュッ ポチットナ



 モノクマ『オマエラおしおきしちゃうよ? うぷぷぷぷ……うぷぷぷぷ……』



アルミン「ほら、モノクマだって怒ってるよ! おしおきされてもいいの!?」

エレン「……アルミン。わがまま言ってないで聞き入れろ」

アルミン「嫌だ」ギュウッ...

エレン「アルミン」


アルミン「……友だちなんだ」

アルミン「辛い訓練も、モノクマやキャンディがいたから乗り越えられたんだ」

アルミン「寂しくなった時は、ひたすら抱きしめた」

アルミン「勉強する時は、モノクマの頭の上に顎を乗せたら妙にしっくりきた」

アルミン「どんなくだらない話だって、モノクマは嫌な顔一つせず真剣に聞いてくれた!」

アルミン「一緒の布団に入ると……寝る時は仰向けだったのに、僕が起きた時は必ずこっちを向いてるんだ」

アルミン「僕、嬉しかったんだ。……こんな風に僕と一緒に過ごしてくれるクマなんて、モノクマ以外にいなかったから」

アルミン「だから……離れたく、ないんだよ……」ジワッ...

ライナー「……アルミン」

ベルトルト「そんなに、モノクマのことを……」

ジャン「……」



コニー「クマの知り合いいたらそれはそれで怖ぇぞ」

エレン「コニー。わかったからちょっと黙れ。今いいところだから」


エレン「アルミン。……だったら、尚更ちゃんとお別れしないとダメだ」

アルミン「エレンには……エレンにはわからないよ! 僕たちがどれだけモノクマやキャンディを大切にしてきたかなんて!!」

コニー「いいやアルミン、それは違うぞ。ちゃんとエレンはお前らのこと考えてる。――俺な、本当は村に送る日の前日に知らせようと思ってたんだ」

アルミン「えっ……?」

コニー「今みたいにお前らが動揺するのなんて目に見えてたからな。だったら、そういう間は与えないでとっとと送っちまったほうがいいって考えてたんだ」

ベルトルト「……そうだったんだ」

ライナー「なら、なんで今話すことにしたんだ?」

コニー「エレンが『そういうのはできるだけ早いほうがいい。日程が決まったらすぐにでも伝えるべきだ』って言ったんだよ」

アルミン「エレンが……?」

エレン「……正直、俺もここまで早いとは思ってなかったんだけどな。一ヶ月くらいは猶予があると踏んでたんだが、アテが外れちまった」


エレン「ちゃんとお別れしないと、お前らきっと引き摺るだろ?」

エレン「あの時ああしておけばよかったとか、もっとできることがあったんじゃねえかとか……モノクマやキャンディにしてやりたいことが、まだまだたくさんあるんじゃねえのか?」

アルミン「……たくさんあるよ。数え切れないくらい」

ライナー「そういえば、かんざしを付けたキャンディの姿を見てないな。……一度くらいは見てみたいもんだ」

エレン「俺はな、お前らにそういう気持ちの整理をちゃんとしてから、そいつらとお別れしてほしいんだ。……俺にはそんな時間なかったからな」

ベルトルト「……」

コニー「……お前の、お袋さんのことか?」

エレン「ああ。……突然引き離されるよりは、こういう時間があったほうがずっといいだろ?」

アルミン「でも……でも僕……僕は……」ギュッ


アルミン「……ねえ、黙ってないでジャンも何か言ってよ」

ジャン「え? ――ああ、悪い」

コニー「そういやジャン、ずっと黙ってたな。そんなにショックだったのか?」

ジャン「いや……俺、なんだか実感わかねえんだよ。すまねえな」ポリポリ

エレン「……? なんだそりゃ。実感ないってどういうことだよ」

ジャン「俺は、お前らみたいに故郷を離れたり家族と別れてここに来たわけじゃねえからよ。……よくわかんねえんだ、こういうの」

ジャン「なあコニー。何も今生の別れってわけじゃねえんだろ? ちゃんとお前の家に、モノクマやキャンディは置いてもらえるんだよな? 路頭に迷ったりしねえか? 食い扶持が増えたってんで売られたりしねえよな?」

コニー「怪我くらいはするかもしれねえけど、たぶんお前が言った通りのことは起こらねえと思うぞ。また腹が裂けたとしても母ちゃんが直してくれると思うし」

ジャン「だよな。……なら、心配なんかする必要ねえだろ。むしろこんなむさ苦しいところにいるより、よっぽど幸せな生活を送れるんじゃねえか?」


ジャン「それに俺たちが狼狽えてたら、モノクマやキャンディが不安がっちまうよ。……ライナーもそれがわかってるから、辛いけど耐えてるんじゃねえのか?」

ライナー「……ジャンに見透かされちまったな。俺もまだ甘い」フッ

ベルトルト「ライナー……」

アルミン「そうだったんだ……」

エレン「だからぬいぐるみは不安がったりしねえって何度も」

コニー「エレン。耐えろ」

エレン「……」

ライナー「心なしか、モノクマが悲しそうな瞳をしている気がしてきたな……すまんな、情けない姿を見せて」シュン

ベルトルト「ああっ、キャンディ……そんな悲しそうな瞳をしないで……! 僕は大丈夫だから……!」オロオロ

アルミン「……そうか。辛いのは、僕だけじゃないんだよね。ここにいるみんなで……モノクマとキャンディをかわいがってたんだもんね。――もちろん、エレンも」

エレン「……ああ、そうだ」


アルミン「いつかは、お別れしないといけなかったんだ。……わかってたんだけどさ。でも、でも……」

エレン「……」

アルミン「ねえモノクマ。……僕、君がいなくなっても訓練頑張るね」

アルミン「それでさ……卒業して、所属兵科が決まって、落ち着いたら……コニーに頼んで、君に会いに行くよ」

アルミン「その時は、また、僕と遊んでくれる……?」ギュウッ...



 モノクマ『しょうがないなぁ。お願いされると弱いんだよね』



アルミン「……!」

エレン「……よかったなアルミン。モノクマ、お前と遊んでくれるってよ」ポンポン

アルミン「うん……うん……!!」ポロポロ...

エレン「あーあ、泣くなよみっともねえ」ゴシゴシ


ライナー「……さてと。今日から忙しくなるな」

ベルトルト「うん。モノクマとキャンディにしてあげたいこと、全部やらないとね」

ジャン「ああ、そうだな。――ところでコニー。その……サニーって言ったっけ? お前の妹」

コニー「ん? ……ああ、合ってるぞ」

ジャン「その子は……サニーちゃんは、モノクマやキャンディを大切にしてくれるのか?」

コニー「ちゃん付けかよ」

ジャン「……いや、違うな。サニーちゃんが思わずこいつらを大切にしたくなるように……俺たちは、真心こめて物作りするだけだ。そうだよな? みんな」ニッ


ライナー「そうだな。……サニーちゃんに気に入られるといいな」

ベルトルト「うん。キャンディは、サニーちゃんの一番の友だちになれるはずだよ」

アルミン「モノクマは頭がいいから、きっとサニーちゃんのいい話し相手になってくれるだろうなぁ」



ジャン「サニーちゃん……」キュン


ライナー「サニーちゃん……」キュン


ベルトルト「サニーちゃん……」キュン


アルミン「サニーちゃん……」キュン



エレン「お前ら目が虚ろだぞ……?」

コニー「さっ、サニーはお前らなんかにやらねえからな!?」ビクビク

今日はここまで 最後にage 次でラストまで行けるかな


―― 六日後 食堂 箱詰め日

アルミン「……ベルトルト、定規貸して」カリカリカリカリ

ベルトルト「ん」スッ

アルミン「どうも」カリカリカリカリ



ライナー「…………」グラグラ

クリスタ「ライナー、大丈夫? 目が死んでるけど……」

ライナー「おっと……まずいまずい、時間がないんだったな」ブンブン

クリスタ「なんだか顔色も悪いし、目の下のクマも大変なことになってるよ?」

ライナー「いや、これは……寝れば治るから平気だ。最近ずっと徹夜だったからな……」

クリスタ「そう? じゃあ、今日の夜は温かい飲み物でも飲んで、早めに休んでね?」

ライナー「ああ、そうする。――心配してくれてありがとな、クリスタ」

クリスタ「ふふっ、どういたしまして」ニコッ



ライナー(……結婚しよ)キリッ


ジャン(……眠てえ)ウツラウツラ...

ミカサ「ジャン。……これ、どうぞ」コトッ

ジャン「? なんだこれ?」

ミカサ「ホットミルク。この一週間、ろくに寝ていないとエレンに聞いた。ので、ちょっとリラックスしたほうがいい」

ジャン「こ、これ……これ! 俺にくれるのか? マジで!?」ガタッ

ミカサ「シュシュのお礼。それに、アルミンたちにも入れたからそのついで」

ジャン「あっ……あっ、ああっ、ありがとな! 大切に飲むから!!」

ミカサ「どういたしまして。……じゃあ、私はアルミンのところに行く」スタスタ...


ジャン「……」



ジャン「…………」





ジャン「……うへへ、へへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」ニヤニヤニヤニヤ


サシャ「……」ポカーン

コニー「えっと、こっちがこうだから、ここはっと……」ゴソゴソ

サシャ「……コニー」ツンツン

コニー「んー? なんだー?」ゴソゴソ

サシャ「なんで皆さん満身創痍なんですか? 男子寮で一体何があったんです?」

コニー「まあ……色々あったんだよ。男にゃやらなきゃいけない時があるからな」キリッ

サシャ「はぁ、そんなもんですか。……もしかして、私が当番代わった一週間前に何かあったとか?」

コニー「いいや、あいつらがおかしいのはその前からだ。お前の芋がそんなに育つまで、結構時間かかったろ?」

サシャ「えっ? コイモちゃんが日に日にゴテゴテしてきてるのは、みなさんがおかしくなったのと関係があるんですか?」ズシッ

コニー「関係大ありだよ。――っていうかもう原型ねえなそれ。鈴なんか本体よりでかいじゃねえか」

サシャ「ですよね。これだとコイモちゃんじゃなくて何か別の名前を考えないといけませんよ」ゴテゴテ ガランゴロン


コニー「ところでサシャ、お前なんでこんなところにいるんだよ。食べ物なんかここにねえぞ? なんか食いたいならどっか行けって」シッシッ

サシャ「むむっ、失礼ですね! その言い方だと私が四六時中食べ物を探して彷徨ってるみたいじゃないですか!」プンスカ

コニー「その通りだろ」

サシャ「……まあ、間違ってはないんですが」エヘヘ

コニー「ほらな」

サシャ「そんなこと言われてもですね、今回は私だって当事者なんですよ? 除け者にしないでくださいよ」ブーブー

コニー「はぁ? 当事者ぁ?」

サシャ「そうですよ! そもそもモノクマさんを拾ったのはこの私なんですからね? それに、あそこの四人の当番をこの一週間でどれだけ代わってあげたと思うんです? 聞いたら驚きますよ?」

コニー「でもきっちり対価は要求してんだろ?」

サシャ「しばらくパン二個の生活が続きそうです」ムフフ


エレン「ただいまー。教官に頼んでもらってきたぞ、木箱」ドサッ

ミーナ「緩衝材になりそうなものも掻き集めてきたよー」ドサドサッ

コニー「おう、二人ともお疲れさん! 持ってくるの大変だったろ? ありがとなー」

エレン「いいってことよ。俺は物作りできねえしな、これくらいはお安いご用だぜ」

ミーナ「そうそう。コニーにはすっごくお世話になったからね。何かしらお返ししたいと思ってたからちょうどよかったよ」

コニー「よし、じゃあ……そろそろ箱に詰めるぞ。まずはモノクマとキャンディからだ」

アルミン「……!」

ベルトルト「そっか……モノクマとキャンディは体が大きいから、先に入れないとダメなんだね……」

コニー「そういうことだ。――そういうわけで、そいつら受け取ってもいいか?」


エレン「……アルミン」

アルミン「…………ちょっと待って。すぐ、渡すから……自分の手で、コニーに渡すから……!」ギュウッ...

ライナー「ベルトルト。……わかってるよな。」

ベルトルト「うん、大丈夫。……はいコニー、キャンディだよ」スッ

コニー「……最後にもう一回だけ聞くけどよ、本当にいいんだな?」

ベルトルト「……いいよ。それよりも、箱の中で傷つかないように優しく包んであげてくれる? キャンディは、繊細な子だから……」

ライナー「コニー、俺からも頼む」

コニー「わかった。……じゃあ紙に包むぞ」ガサガサ





サシャ「……え? なんですかこの神妙な雰囲気は」オロオロ

ミカサ「サシャ、空気を読んで」


ジャン「ちょっと待ってくれ! ――なあコニー、こいつも一緒に包んでくれないか?」スッ

コニー「……? なんだこいつ?」

ミーナ「わぁっ、かわいい……!」

クリスタ「猫……じゃないよね。耳が丸いし、しっぽが狐みたいだし」

ジャン「一昨日作業してたらふと思いついてな。……キャンディは泣き虫で寂しがり屋さんだから、俺たちの代わりになるお兄ちゃんが必要なんじゃないかと思ってよ。ベルトルトに協力してもらって、急いで作ったんだ」

サシャ「ねえミカサ、あのぬいぐるみ鳴くんですか?」ヒソヒソ

ミカサ「静かにして。サシャ」

ベルトルト「名前はアルミンが考えてくれたんだけどね、その子はポップって言うんだ。……ほら、首から提げてる認識票にそう書いてあるだろ?」

ライナー「その認識票は俺が作った」ドヤッ


コニー「えーっと……つまり、キャンディがさびしくないようにポップも一緒の紙に包んでやればいいんだな?」

ライナー「ああ、そうしてやってくれ。これでキャンディも道中さびしくないだろう」

ジャン「ちなみにポップのオプション品もあるからな」

ベルトルト「あっ! そうだ、忘れるところだった! ――コニー、このキャンディバスケットもサニーちゃんに送ってくれる? 持ちやすいように持ち手は改良したからさ」スッ

コニー「持ち手はいいけどゴテゴテしてて重そうだな……あとちゃん付けするなよ。サニーはやらねえからな」





サシャ「……? ??」オロオロ

エレン「サシャ、気持ちはわかるが受け入れてくれ。余計なことは喋るなよ」


コニー「お前ら、よくこんなことまでする時間あったよなぁ……この他にキャンディとモノクマへの贈り物も作ってたんだろ?」ゴソゴソ

ジャン「ああ、休みなしでずっとチクチクしてたぜ。そのせいなのか、昨日から腕の震えが止まらねえ」プルプルプルプル...

ベルトルト「それって愛じゃない?」

ジャン「ははは、かもなー」

サシャ「それって腱鞘炎」

ミカサ「サシャ。だめ」

サシャ「……」

コニー「けどよ、キャンディにはお兄ちゃん作ってやったのにモノクマには誰も作ってやらなかったのか?」

ライナー「馬鹿言え、そんなわけあるか! ――もちろんちゃんと作ってやったさ」スッ


クリスタ「……ピンクのうさぎ?」

ミーナ「っていうか、おっ、おむつ……!? その子、おむつ履いてない!?」

ライナー「ああ。履いてる」キリッ

クリスタ「……へ、へえー、そうなんだ」

ミーナ「ま、まあ、色々あるよね、うん」

ライナー「キャンディとは違ってモノクマはしっかり者だからな。手のかかる妹がいれば張り合いが出ると思ったんだ」

コニー「ふーん、モノクマには妹作ってやったのか。名前は決めてあるのか?」

ライナー「もちろんだ。アルミンが命名してくれたんだが……モノミちゃんという。認識票もこの通りだ」ジャラッ

ベルトルト「オプション品もね」

ジャン「キルシュタイン・カスタムが火を噴くぜ」





サシャ「…………うわぁ」

ミカサ「サシャ。……理解しろとは言わないけど、水を差してはだめ」

サシャ「……はい、わかりました」

終わらなかった…… 今日はここまで 最後にage
次で発送までいけるかなー どうかなー

ちなみにキャンディのお兄ちゃん・ポップは企業サイト様ですみませんが画像の右下の子です:http://www.prizebp.jp/item/48134


サシャ「っていうかなんでミーナとクリスタは平然と見てるんですか。アレおかしいと思わないんですか?」

ミーナ「だって前からああいう感じだし」

クリスタ「キャンディもモノクマもすっごくかわいいもん。あんな風になっちゃうのも当然だよ」

サシャ「はぁ、そういうものですか」





アルミン「……コニー、いいよ」スッ

コニー「お別れは済んだのか? アルミン」

アルミン「これ以上一緒にいると、もっと離れにくくなっちゃうから」

コニー「そうか……じゃあ、モノミと一緒に紙に包むぞ? いいな?」ガサガサ

アルミン「うん、お願い」

サシャ「――あっ! コニー、ちょっと待ってください!」


ミカサ「サシャ、水を差してはだめと言った。聞き入れて」メリメリメリメリ

サシャ「いたたたたたたたたたいたいいたい! ちっ、違いますよミカサ、水を差したいんじゃないです! 私、結局お手入れが終わった後のモノクマさん見せてもらってないんですよ! 包む前に見せてください!」ジタバタジタバタ

ミカサ「そういうことは早く言う」パッ

サシャ「言う前にもう掴んでたじゃないですか……」サスサス

ミカサ「ごめんなさいサシャ。ついうっかり」

サシャ「うっかりで頭握りつぶされたんじゃ割に合いませんよ……」ブツブツ

コニー「まあまあ、ミカサも悪気があったわけじゃねえから許してやってくれよ。――ほい、モノクマだ」ポスッ


サシャ「……? これ、私が拾ったあの子ですか? 本当に?」ジーッ...

コニー「ああ、間違いねえよ」

サシャ「でも……前はもうちょっと、荒んだ目をしてたような気がするんですが」

コニー「拾った時は大分汚れて黒ずんでたからな。……ぬいぐるみって、汚れてると目付きが悪く見えてくるんだよな。たぶんそのせいじゃねえか?」

サシャ「そうなんですか……モノクマさん、すごくキレイでかわいくなりましたね。なんか、今は目がキラキラしてるように見えます」

クリスタ「うん、みんなにこんな大切にされたんだもの。モノクマもキャンディも幸せだったと思うよ。……ちょっと羨ましいな」

ミーナ「私も実家に帰ったら手入れしてあげないとなー。男子に負けてられないもんね」


コニー「バスケットとキャンディとモノクマを詰めてっと……よし、他に入れたいもんあったら出してくれ。部屋の隅で恥ずかしがってねえでこっち来いお前ら」チョイチョイ

ジャン「……べっ、別に恥ずかしがってねえけど?」テレテレ

ベルトルト「そうだよ、僕たちが優しいんじゃなくて、キャンディやモノクマが元からかわいすぎるだけだよ?」テレテレ

ライナー(クリスタも幸せにしてやりたい……)ドキドキ

アルミン「ええっと、じゃあまず僕からね。――モノクマとキャンディ、それぞれに似合う服のデザイン画をざっと百枚ほど書いたからまずこれを」ズシッ

コニー「おお、ありがとよ。でも気持ちが重すぎるからもう少し絞ってくれ」

ライナー「そのデザイン画を元に拵えた服がこっちだな」ズラッ

エレン「……何着あるんだそれ」

ベルトルト「二十着くらいだね。みんなで手分けして縫ったんだよ」

サシャ「何なんですかその熱意」


ジャン「それとこっちはサニーちゃん宛だな。シュシュやブローチを詰め込んだアクセサリーセットだ」

アルミン「ヘアアレンジの仕方とかアクセサリーの付け方も書いといたよ。これがそのメモね」バサッ

ミカサ「アルミン、いつの間にそんな知識を仕入れていたの……?」

サシャ「すごいですね、全部図解入ってますよ図解」

ベルトルト「ちなみにモノクマやキャンディとお揃いのデザインにしておいたよ。気に入ってくれるといいなぁ」

ライナー「それと確か、妹の他に弟もいるんだったよな? 流石にアクセサリーはつけないだろうから、代わりに認識票を作って入れておいたぞ。チェーンを豪華にすることで差別化もしておいた」

コニー「おお、いつの間にか俺の弟にまで……いつ調べたんだか知らねえけどありがとな。でも妹をちゃん付けするのはやめてくれ」

ジャン「気にすんな、いいってことよ」フフン

コニー「気になるっつの。お前らにサニーを取られるんじゃないかと思ってお兄ちゃんは気が気じゃねえよ」


コニー「よし、こんなもんか? もうぎっちぎちだが」ゴソゴソ

アルミン「……ねえコニー。ミニクマもコニーの家に送ってくれない?」スッ

コニー「ミニクマもか? でもそれは、俺がアルミンにあげたものなんだぞ?」

アルミン「そうなんだけど、このままじゃミニクマを見る度にモノクマを思い出してさ。……すごく辛くって」

ミカサ「アルミン……」

エレン「じゃあ、ミニクマは俺が預かっておくよ」ヒョイ

アルミン「……エレン、いいの?」

エレン「あんなに大切にしてたんだ。無理に忘れたり手放したりする必要はねえだろ。思い出したい時には遠慮しないで思い出せばいい。姿を見たい時はこいつを引っ張り出してくればいい」

アルミン「そういう、ものかな……」

エレン「そういうもんだよ。そうやって折り合いつけていかねえと、いつまで経っても苦しいままだぞ? ――取り敢えずこいつは、お前が訓練兵団を卒業するまで俺が持ってる。お前が見たくなったらすぐに渡す。それでどうだ?」

アルミン「……うん、それでいいよ。よろしくねエレン」

エレン「おう、任せとけ。辛くなったらいつでも言えよ?」

アルミン「わかってるよ、大丈夫」


エレン「……コニー。あの白い箱は結局どうすんだ? 中に縫い込んじまったままなんだろ?」ヒソヒソ

コニー「ああ、あれな……大丈夫だろ。たぶん」

エレン「おいおい、たぶんって……」

コニー「サニーは飽きっぽいけど、人形は大事にしてくれる奴だよ。――あいつ人形は三箱くらい持ってるけど、定期的に箱から出してちゃんと陰干ししてんだ。どれも例外なくな」

エレン「そうか。……それなら、あいつらも大切にしてもらえるよな」

コニー「ああ、その辺は心配ねえから安心してくれ。――いつか、お前とアルミンであの箱を取りに来いよ? ついでに母ちゃん手製のうまいメシも食わせてやるからさ」ニッ

エレン「……わかった。楽しみにしておくよ」


コニー「さてと……もういいか? 蓋を閉めるぞ?」

ライナー「ああ、そうだな。――じゃあな、モノクマ」

ジャン「……またな。元気でやれよ」

アルミン「いつの日か、君たちに会いに行くからね。それまで待っててね」

ベルトルト「僕、キャンディのこと忘れないから……だから……」ポロッ...

エレン「……おいおい、泣くなよお前ら」

ジャン「は? ……泣いてねえよ」ポロポロ

ライナー「この部屋暑いからな……汗が出るのは、仕方ないだろう」ポロポロ

アルミン「……ぅ、ぅうう、うううう」ポロポロ

エレン「ったく……お前ら、最後まで締まらねえなぁ。ちゃんとモノクマとキャンディのこと、笑顔で見送ってやれよ。俺みたいにさ」ニカッ


ミカサ「……エレン、どうして泣いてるの?」

エレン「は? 何言ってんだミカサ。泣いてねえよ」ゴシゴシ

クリスタ「どう見ても泣いているようにしか見えないけど……」

コニー「ミカサ、クリスタ。……みんな泣いてないって言ってんだから泣いてねえんだよ。この部屋暑いし、さっきまで頑張ってたからな。汗ぐらい出るだろ」

ミーナ「……でも」

コニー「いいんだって。……最後くらい、あいつらにかっこつけさせてやってくれよ」ヒソヒソ

サシャ「今更かっこつけなくたっていいのに……悲しいなら、素直に泣けばいいじゃないですか。あそこまで世話してあげたんですから、何も恥ずかしい事なんてありませんよ?」

コニー「そういうことじゃねえんだよなぁ……まあ、あいつらのためにも汗ってことで通してくれ。頼むよ」

ミーナ「気にしなくてもいいのにね。……変なの」

ミカサ「……男の人は、やっぱりよくわからない」

サシャ「私は最初っから全くわかりませんでしたが」

クリスタ「うーん、難しいね」


―― しばらく後 食堂

サシャ「しかし、随分と賑やかな荷造りでしたね。ぬいぐるみと小物を詰めただけなのに、あんなに盛り上がるとは思いませんでした」フキフキ

ミカサ「うん、私もこうなるとは思わなかった。……そのせいで私たちが食堂の後片付けをさせられてるわけだけど」フキフキ

ミーナ「あの状態の男子にやらせるのはいくらなんでもかわいそうだよ。――私、ライナーやベルトルトがふらついてるのはじめて見たな。相当ショックだったんだね」

クリスタ「でも……こんなこと言うと誤解されそうだけど、立ち会ってよかったよね」

ミーナ「そうだね。見てる私たちまで幸せな気持ちになったもの」

サシャ「コニーたちにかなり大切にしてもらったんですねー。あのぬいぐるみたち」

ミカサ「ぬいぐるみじゃない。モノクマとキャンディ」

クリスタ「そうそう、ちゃんと呼ばないと怒られちゃうよ?」クスクス

ミーナ「パンも没収されちゃうかもね」クスクス

サシャ「ええっ、それは困ります!」ガーン!!


―― 夜の男子寮

エレン「……」

アルミン「……」

ジャン「……」

ライナー「……」

ベルトルト「……」

コニー「……」

アルミン「……明日の朝だっけ、商会の人が来るの」

コニー「朝の四時だってさ」

ライナー「……起きられる気がしねえな」

エレン「別にいいだろ。お別れ会はさっきしたんだしよ」

ベルトルト「そうだね。……箱を見たら中身出したくなっちゃうかもしれないし」

ジャン「うわ、ベルトルトならやりかねねえな」ハハハ


アルミン「……静かだね」

ライナー「そうだな。……もっとうるさかった気がしたんだけどな、ここの部屋」

エレン「思えば初日からお前ら騒いでたよなぁ。本気でビビってたし」

ジャン「お前とコニーとベルトルトの適応力が高すぎるんだよ」

コニー「かわいいのになー」

ベルトルト「ねー」

ライナー「今となっちゃあその意見にも全面的に同意だな。モノクマもキャンディもかわいい。これは間違いない」

アルミン「世界の真理だよね」

ジャン「スケールでかいな」

ベルトルト「まあ実際かわいいし?」

コニー「だな」

エレン「連携するなよコニー、ベルトルト」


ジャン「しかし、よくベルトルトはキャンディを押し潰さなかったな。いつもあんなに寝相悪いのによ」

ライナー「ああ、あれには俺もびっくりした。何かコツでも掴んだのか?」

ベルトルト「コツっていうか……気の持ちようじゃないかな。隣にキャンディがいるって思うとなんだか背筋が伸びるんだよね」

エレン「間違ってお前が上に転がれば大惨事だしなー」

アルミン「つまり、無意識に緊張してたから寝相が乱れなかったってことかな。……あれ? これってもしかしてすごい発見じゃない?」

コニー「なら、今度からベルトルトを常に緊張させておけばいいんじゃねえか?」

ライナー「こらこら、やめとけやめとけ」

ジャン「んなことしたらいつ休むんだよベルトルトの奴」

アルミン「そもそも常に緊張させておくって難しいと思うよ?」

エレン「まあ、緊張云々は置いとこうぜ。――それでさベルトルト、今日はじっくり眠れそうなのか?」

ベルトルト「うーん、ちょっと難しいかな……ベッドの脇がぽっかり空いてるから、なんだか落ち着かないや」

コニー「あんなに豪華なバスケットがなくなったら気にもなるよなぁ」




エレン「……」



アルミン「……」



ジャン「……」



ライナー「……」



ベルトルト「……」



コニー「……」


ライナー「……寝るか」

ベルトルト「そうだね。灯り消そうか」

アルミン「ジャン、子守唄歌ってもいいよ?」クスクス

ジャン「馬鹿言え。……あれはキャンディ専用だ。お前らにはもったいねえよ」

コニー「そういやエレン、今日は出かけなかったけどいいのか?」

エレン「ああ、もういいんだ。……ミカサにも事情は話してある」

ジャン「はぁっ!? エレンお前、ミカサと何の約束してたんだよ羨ましい!」

エレン「なんだっていいだろ? 寝る前に大声出すなようるせえなぁ……」モゾモゾ

ジャン「てめえ、明日の朝起きたら覚えてろよ!? ……今日は寝るけど」モゾモゾ

アルミン「ははっ、ジャンってばそこで寝ちゃうんだ?」

ライナー「寝たら忘れてたりしてな」

ベルトルト「あり得るね。……今日はいい夢見れそうだし」

コニー「お前らちゃんと自力で起きろよー? 明日は俺起こさねえからなー?」


―― 翌日早朝 訓練所正門前

コニー「キース教官殿、おはようございます!」バッ!!

キース「……今日は間違っていないようだな」

コニー「……? 何がでしょうか?」キョトン

キース「敬礼だ。――昨日泣きながら教官室に木箱を届けに来た同室の奴らはどうした」

コニー「ああ、あいつらは……じゃなかった、ええっと」

キース「構わん。楽に話せ」

コニー「そ、そうですか? ――ええっと、あいつらは疲れてまだ寝てます。ここ一週間ほど徹夜続きだったので、疲れが溜まってたみたいです」

キース「そうか」

コニー「はい」

キース「……」

コニー「……」

コニー(うわぁ……かなり気まずいな。やっぱりエレンだけでも起こしてくるべきだったかなー……でも、あいつも気を張ってて疲れてたみたいだし)


キース「……馬車が見えた。先に私が話してくる。貴様はその木箱を見張っていろ」

コニー「はっ! 了解です!」バッ!!

キース「逆だ」

コニー「……」ササッ

キース「では行ってくる」スタスタ...

コニー(ついに、こいつらともお別れか……)チラッ

コニー(思えば色々あったよな……営庭でこいつら拾って、俺が直して、みんなで交替で寝たりして……)

コニー(……ああ、やっぱりあいつら起こしてくればよかったかな。これから起こしに行くのは――)

キース「スプリンガー! 木箱を持ってこっちへ来い!」

コニー「!! はっ、了解しました!」

コニー(――間に合わなかったか。……みんな、すまん)


商人「この木箱を、ラガコ村のスプリンガーさんに届ければいいんですね?」

コニー「はい。……それ、俺の同期の奴らが作ってくれた贈り物も入ってるんです」

コニー「俺の村まで、必ず届けてください。……お願いします」ペコッ

商人「ええ、わかりました。――商人は信用商売ですからね、必ず届けますよ」

キース「あとは私のほうで手続きをしておこう。――起床時間までまだ時間がある。戻って寝ろ、スプリンガー」

コニー「はっ! ――それでは失礼します!」バッ!!

キース「……」ジッ...

コニー「……」ドキドキ

キース「……行ってよし」

コニー「はっ!」クルッ タッタッタッ...

コニー(あっぶねえー……黙ったままだからまた敬礼間違ったかと思った……)ドキドキ


コニー(あの馬車、ただの商人にしては結構上等なモンだったな……ひょっとして、教官が気を利かせてくれたのか?)

コニー(……そんなわけないか。第一俺、教官には何もやってねえもんな。教官の友だちの人形を直してやっただけだし)

コニー(あっ! そういえばあの木箱、いつごろ村に届くんだ? ……聞いとけばよかった)

コニー(……んん? ちょっと待てよ? 今まで考えもしなかったが、もしかするとサニーとマーティンでモノクマとキャンディを取り合ったりすることもあるんじゃねえか?)

コニー(しまった、『喧嘩するなよ』って手紙でもつけてやればよかったかなー……でも俺馬鹿だしな。ちゃんとした手紙の書き方なんて知らねえし、あいつらも言うこと聞くかどうかわかんねえし、別にいいか)

コニー(……あいつらの姿を見れば、大切にしてたことわかってもらえるよな)


コニー(いつか……あの馬鹿五人と一緒に、あいつらの姿を見に行こう)

コニー(五人も連れて行ったら、母ちゃんびっくりするだろうな。……でもそこは我慢してもらうしかねえよな。みんながみんな同じくらい、あいつらを大事にしてたんだから)

コニー(そんでもって、久しぶりに会ったあいつらをみんなで手入れして、うまいメシでも食って……)

コニー(……ははっ、なんだか様子が目に見えるみてえだ)





コニー(……次に会える日が、楽しみだな)

コニー(モノクマ……そして、キャンディに)








おわり

おしまい 最後にage 約三ヶ月間付き合ってくれてありがとうございました
原作でラガコ村がどうなったかとか決して考えちゃいけない


オマケはこれから書くのでもう少し待っててくださいな なるべく一気投下にしたいので
ちなみにタイトルは


アニ「シルバニアファミリー」マルコ「闇の葬儀屋さんと」ユミル「ピンクわたウサギの赤ちゃん」


となります

改めまして乙&感想ありがとうございました ありがたやありがたや
そして長らくお待たせしました、マルコ&アニ&ユミル+コニー&ぬいキチどもの番外編開始です おまけなのに思ったより長くなりそうで今から不安
取り敢えず本編と同じくスローペースでのんびり&ちまちま投下していきます
また時間かかるだろうけどちゃんと完結させますので気長にお付き合いください




番外編:アニ「シルバニアファミリー」マルコ「闇の葬儀屋さんと」ユミル「ピンクわたウサギの赤ちゃん」

※ 画像は「シルバニア ピンクわたウサギの赤ちゃん」でググってください

※ 本編直後のお話です


―― 早朝の営庭 焼却炉付近

ユミル「っあー、ねみぃー……焼却炉の当番なんか面倒くさい……」ウツラウツラ

アニ「目くらい開けなよ。そんな状態で歩いてると怪我するよ」スタスタ...

ユミル「んなこと言われたってさぁ、昨日遅くまでクリスタとサシャが騒いでて眠れなかったんだよ……」ゴシゴシ

アニ「こすらないほうがいいんじゃない? 視力落ちるよ」

ユミル「んぅー……、じゃあやめとくか…… ――んん? あそこ歩いてるのコニーじゃねえか?」ユビサシ

アニ「え? ――あ、本当だ。こんな朝早くに出歩いてるなんて珍しいね」

ユミル「何してるんだろうな。……そういや昨日、食堂で何かやってたみたいだが」


アニ「ああ、あれね。コニーがあそこで裁縫教室やってたんだよ」

ユミル「ほー……裁縫ねえ。また妙ちくりんなことを」フムフム

アニ「もしかすると、今日の早起きもその関係かもしれないね。……知らないけど」

ユミル「早起きして裁縫するってのも妙な話だけどな」ハハハ

アニ「……そういう反応するってことは、あんた裁縫教室やってるの知らなかったの? クリスタもいたのに?」

ユミル「ああ、全然。――それで、その裁縫教室とやらにはお前も参加してたのか? 何やら訳知り顔だが」

アニ「まさか。近寄ってすらいないよ。興味ないし」

ユミル「ふーん……」

アニ「……」

ユミル「……」







ユミル(まあ本当は知ってたんだけどな)モジモジ

アニ(実は興味あったんだけどね)ソワソワ


ユミル(クリスタには口止めしてあるが……)

アニ(あいつらには口止めしてあるけど……)

ユミル(……言えない。ボタンすら縫い付けられないとは絶対に言えない。この前クリスタにやってもらったからいいけど)

アニ(繕い物はこっそりライナーやベルトルトに頼んでるとは口が裂けても言えない……裁縫すると十中八九血染めのものができあがるなんて知られたら、何を言われるかわかったもんじゃない……!)

ユミル(クリスタと離れ離れで過ごすのはかなり辛かったが、あの場で自分の恥を晒すよりはマシだ。……男子より裁縫が下手くそなんて、笑い話にもなりやしねえ)

アニ(教えてもらえるなら、私も教えてもらいたかったんだけど……初心者教室っていうよりは中級者向けの会合みたいだったんだよね。私なんかが混ざったら完全に場違いになっちゃう。……そもそも混ざれないし)シュン







ユミル「……」

アニ「……」

ユミル「まあ……お互い、何かしらの事情はあるよな。追及しないけど」

アニ「だよね。あるよね。深くは聞かないけど」


―― しばらく後 焼却炉

ユミル「しっかしまあ、ここの訓練所は人がいるせいかゴミが多いよなぁ」バッサバッサ

アニ「ちょっと、ゴミ箱振り回さないでよ。……汚い」ササッ

ユミル「どうせこれから訓練で汚れるんだから関係ないだろー……もーえろーよーもーえーろー……」パチパチ ゴーッ...

アニ(うわ、なんか歌い始めた……ちょっと離れとこ)テクテク...

ユミル「ほらほらアニ、こっちにゴミもっと持ってこいよ。私がまとめて燃やしてやるぜ」ヘイヘーイ

アニ「あんた、朝っぱらからなんでそんなにテンション高いの……ああそっか、寝不足なんだっけ」

ユミル「眠気も燃やせればいいんだけどなー……ほら、足元に落ちてるその紙も寄越せよ」ユビサシ

アニ「紙? これのこと?」ヒョイ

ユミル「そうそう、さっさと全部燃やしてとっとと終わらせちまおうぜ。私は一刻も早くクリスタに会いたいんだよ」キリッ

アニ「まだ当番全員揃ってないでしょうが…………あれ? これ、ただの紙じゃないみたいだね」スッ


ユミル「なんだこりゃ、封筒か? ――お、手紙が入ってら」ゴソゴソ

アニ「それ、読むつもり? ……趣味悪いね」

ユミル「なんとでも言え。――ほら、封筒はお前にやるよ」ポイ

アニ「はいはい、わかったよ」

アニ(……? 中に何か入ってる)ゴソゴソ

アニ(ピンクのウサギの人形か……ぬいぐるみ、とはちょっと違うみたいだけど)ジーッ...

アニ(目も手もすごくちっちゃい……こんなに精巧な人形、どうやって作るんだろ)

アニ(ていうか、この子……よく見たら、かわいいかも)キュン

アニ(ちょっと汚れてるみたいだけど……これ、元は何色なのかな。ベージュ色? 服も破けてて、かわいそうだな……)

アニ「……」ジーッ...

アニ(……この子、ほしいな)

アニ(どうせだから、名前つけちゃおうかな……何にしよう……)ワクワク


ユミル(えーっと……『シルバニアファミリー 友の会入会特典、ピンクわたウサギの赤ちゃんをお送り致します』だぁ……?)

ユミル(ざっと目を通してみたが……壁外の文字で書いてあるじゃねえか、この手紙)ピラッ

ユミル(なんでこんなもんが、訓練所の焼却炉なんかに捨ててあるんだか……まあ何にせよ、アニに見られる前に燃やしちまったほうがいいな)ポイッ

ユミル「おいアニ、そっちの封筒も寄越せ。燃やすぞ」

アニ「」ギクッ

ユミル「アニ?」

アニ「……はい。どうぞ」スッ ササッ

ユミル「ちょっと待った。……今、何か後ろに隠しただろ」

アニ「隠してない。言いがかりつけるのやめてよね」プイ


ユミル「……」ササッ

アニ「……」サササッ

ユミル「渡せってこら」ヒョイ

アニ「しつこいね、何も隠してないって言ってるだろ」スッスッ

ユミル「封筒の中に何か入ってたんだろ? ちょいと私にも見せてみろって」

アニ「だから、入ってないよ。……ちなみに、仮に何か入ってたとしたらどうするの」

ユミル「燃やす」

アニ「却下」

ユミル「……」

アニ「……」


ユミル「隙ありぃっ!!」バシッ

アニ「あっ! ――ちょっと! 返しな!!」ピョンピョン

ユミル「やーっぱり何か隠し持ってやがったな! ……っと、なんだこりゃ? 人形か?」セノビー

アニ「返せ! 返してってば!!」ピョンピョン

ユミル「なるほどなるほど……つまりアニちゃんは、こういうのが好きだと」ニヤニヤ

アニ「……」ピタッ

ユミル「……」ニヤニヤ

アニ「……べ、別にそんなことないけど」プイッ

ユミル「じゃあ燃やそ」

アニ「!! だ、ダメだって!!」グイグイ


ユミル「しっかし、アニがお人形好きだったなんてたまげたな。意外とかわいらしいところもある――」ピタッ

ユミル「……」フニッ

アニ「……? ユミル? どうしたの?」

ユミル(なんか、妙な感触のする人形だな……こいつ……)

ユミル(固く……もないな。なんかふわふわしてやがる)フニフニ

ユミル「……」

ユミル(……楽しいなこれ)フニフニフニフニ

ユミル(ああー……何? なんだこの、なんとも言えない肌触りは……癒やされるわぁー……)ホッコリ

ユミル(……いいな、この人形)


ユミル「……わかったアニ。こいつを燃やすのはやめよう」スッ

アニ「あっ、そう? ――よかった、じゃあ早く返してよ」ホッ

ユミル「まあ待て。この人形は焼却炉……というか、訓練所の営庭に落ちてたもんだろ? だったら先に教官に報告すべきじゃねえか?」

アニ「それは……そうかもしれない、けど」

ユミル「というわけでだ。――これは私が持っとくわ」ゴソゴソ

アニ「ちょっと待った」ガシッ

ユミル「なんだよ」

アニ「あんた、そのまま持って帰る気じゃないだろうね」

ユミル「……」

アニ「ユミル?」

ユミル「……ま、まっさかぁ」ピーヒョロロ


アニ「そもそもあんたが預かるってのがおかしくない? ……班長でもないくせに」ジトッ...

ユミル「仕方がねえだろ班長様がまだいらっしゃらないんだからよ。だったら年功序列的に私が持っとくべきじゃないか? そうだろ?」

アニ「同期なんだから年功序列とか関係ないでしょ? こういう時だけ年上ぶるんじゃないよ」

ユミル「年上ぶるも何も年上だっての。……もういいだろ、誰が持ってても同じなんだから」

アニ「だったら私が持ってても問題ないよね。――はい、私にちょうだい」グイッ

ユミル「いいやダメだね。お前そのまま部屋に持って行こうとするだろうが」

アニ「そうするつもりだけど、何か問題でもある?」

ユミル「ありまくりだ。―― 第一、落ちていた封筒を見つけたのは私だぞ? ということは所有権は私にあるってことだろ?」

アニ「見つけたのはあんたかもしれないけど最初に手に取ったのは私だよね。それに、あんたはその子燃やそうって言ってたくらいだからいらないんでしょ? 私はいる。ほしい。だからちょうだい」

ユミル(うぐっ……こいつ、遂に開き直りやがった……!)グヌヌ


アニ「大体あんたに任せとくとその子が乱暴に扱われてかわいそうだよ。今だってそんな持ち方してるし」

ユミル「あぁ? この持ち方のどこが悪いんだよ」

アニ「どう見てもいいところなんかないでしょ? なんで耳摘んでるの? そんなに細いのに折れたらどうするわけ? その子が痛がるでしょ?」

ユミル「こ、これは耳周りの感触が特によくて――じゃなくてだな、いいだろ別に持ち方なんて!」

アニ「よくないよ……全ッ然よくないよ!! そもそも預かるにしてもさ、あんたその子綺麗にしてあげる気あるの!? そのままにしておく気!?」

ユミル「なっ……なんだよじゃあお前なら手入れできるってんのかよ!」

アニ「……………………………………できない、けど」

ユミル「だったら私と同じじゃねえか!」

アニ「もういいから私のうさたん返してよ!! 返して!!」ピョンピョン

ユミル「うさたんじゃねえよピンクわたウサギの赤ちゃんだ二度と間違えるな!! ……あっ」

アニ「……」ピタッ


アニ「……この子、名前あるの?」

ユミル「あー…………一応、あるみたいだな」

アニ「手紙に書いてあったんだね?」

ユミル「……うん、まあ、そんな感じ」

アニ「それ、私にも見せてよ。見たい」クイクイ

ユミル「もう燃えた。焼却炉の中だ」

アニ「……」

ユミル「……」

アニ「……」クルッ スタスタ...

ユミル「……? アニ? 何する気だ?」

アニ「決まってるでしょ? ――焼却炉の中から取り出すんだよ」

ユミル「……素手で?」

アニ「うん」


ユミル「ばっ……! おいアニよせって!! この中に手ぇ突っ込むなんざ正気の沙汰じゃねえぞ!?」ガシッ

アニ「だってあんたが私に一言の断りもなくうさたんの手紙燃やしちゃったのが悪いんでしょ!?」ジタバタジタバタ

ユミル「別にウサギ本人から手紙来てたわけじゃねえよ!! 『ウサギ入ってます』って報告だけだから!! 別に見る必要ないから!! なっ!?」グイグイ

アニ「あんたの言葉なんか信じられるわけないじゃない、さっきまで散々嘘ついてたくせに!!」

ユミル「今度は本当だって! 嘘じゃないから!!」

アニ「嘘じゃなくても見たいんだよ!! その『ピンクわたウサギの赤ちゃん』って字だけでも見たいの!!」

ユミル「お前のその情熱なんなの!?」

アニ「もう――いいでしょ、離してってば!!」バシッ

ユミル「あっ!」

アニ「え?」


ユミル「やっべ、人形どこか飛んでった!」アタフタアタフタ

アニ「だからちゃんと持ってなって言ったじゃないか! 何してるのさ!!」

ユミル「お前が暴れたのが悪いんだろ! ったく、いったいどこ行った!?」キョロキョロ

アニ「待って、こっちに誰か来るみたい――」





    ―― ヒュルルルルルルル.... ポスッ





マルコ「おっと。……? 何これ、人形?」キョトン





ユミル「」

アニ「」

今日はここまで 年内にもう一回来ます


マルコ「なんで空からこんなものが……?」キョロキョロ

アニ「……マルコ」

ユミル「お前、それ……」

マルコ「ああ、二人ともおはよう。班長なのに遅れてごめん」

ユミル「いや……別にいいけど……」

アニ「それさ、その人形……」

マルコ「これ? ――あっ、もしかしてアニのかな? それともユミルの?」

アニ「……どうしてそう思うの?」

マルコ「え? だってこれ、二人がいる方角から飛んできたからさ、てっきりそうだと――」

ユミル「……」

マルコ「思ったんだ……けど…………?」

ユミル「……」

アニ「……」

マルコ「……?」


ユミル(人のいいマルコのことだ。私らが「人形のことは黙っておいてくれ」と頼んだら従ってくれるだろうが……確実とは言えない)

アニ(口止め……口止めしなきゃ……! 今すぐに……!)

マルコ(なんで二人とも僕のこと睨んでるんだろう……? そんなに待たせちゃったかな……うーん、もう一回謝っておいたほうがいいんだろうか)

マルコ「ええっと……過ぎたことだから謝ってもどうしようもないとは思ってるけど、本当にごめん。次からは気をつけるから許してくれないかな。――この通りだ!」ペコッ

アニ「……」

ユミル「……」

マルコ(ううっ、この二人が黙りこむとかなり怖いな……でも僕が遅刻したのが原因だし、ちゃんと謝っておかないと……)

アニ「……ユミル、どうする?」

ユミル「どうもこうも、答えはもう出てるだろ?」

アニ「それもそうだね。……顔を上げてよ、マルコ」

マルコ「!! よかった、許してくれるんだね?」ホッ

ユミル「いいや逆だ。――そいつのことを知られたからにゃ生かしちゃおけねえ」スラッ...

マルコ「えっ」


マルコ「ちょっと待ってユミル、なんで火掻き棒を僕に向けてるんだ?」

ユミル「ははっ、火掻き棒でやることと言ったら一つしかねえだろ? 火の始末だよ」ニッコリ

マルコ「……焼却炉は君の後ろにあるんだけど」

ユミル「いいや、火の元は目の前にあるぞ……っとぉっ!」ビュンッ!!

マルコ「うわっ!?」サッ

ユミル「ちっ、流石は成績上位組か……不意をついたのにうまく避けやがる」

マルコ「えっ……えっ!? 何!? 何事!? なんで火掻き棒で突こうとしてきたの!?」ギュッ

アニ「ああーっ!?」

マルコ「ひぃっ!?」ビクッ!!


アニ(あまりマルコを刺激すると、私のうさたんが握り潰される……!!)ギリッ...

アニ「マルコ……両手を開いて手を上にあげな……!」スッ...

マルコ「あ、アニまでなんで構えてるんだよ……!? 二人とも落ち着いて!!」

ユミル「なぁーに、いい子にしてりゃあ痛くはしねえよ……」ジリッ...

アニ「そうそう、私たちはこう見えて意外と優しいんだ……」ジリッ...

マルコ「そう言いながら真顔で詰め寄って来ないでくれ……!」ジリッ...

ユミル「なぁマルコ、お前は確か憲兵団志望だったよなぁー……? 五体満足キレイな体で内地に行きたいだろぉー……? ん?」ペチペチ

マルコ「ひっ、火掻き棒で頬を叩くのはよしてくれないか……まだほんのりと熱いし……」ビクビク

アニ「あんたが私たちにとってのいい人であることを期待してるよ、マルコ……」フミフミ

マルコ「わかった、わかったから……爪先を踏むのはやめてくれ、動けないじゃないか……」ビクビク


マルコ(……待てよ? たかが当番に遅刻しただけでここまでするものか?)

マルコ(アニもユミルも、一時の感情に任せて動くような人間じゃない。二人がこうなっているのは、何か他に理由があるんじゃ……?)

マルコ「……ユミル、君はその火掻き棒で僕に何をするつもりなんだい?」

ユミル「ああ、これか? ――お前は口が固い方だとは思うが、万が一ということもあるからな。今後余計なことを口走らないように塞いどこうと思ってる」

マルコ「接着するの!? ……そっ、それでアニは? アニはどうするつもりなの?」

アニ「その人形のことを頭に浮かべる度に、私の蹴りを思い出すように教えこむ。物理的に」

マルコ「教えこむって……家畜の躾じゃないんだから……」

ユミル「そう怯えるなって。――はじめてだろうから優しくしてやるよ」ペチペチ

アニ「私は優しくしてやるのは無理そうかな。代わりに後で頭撫でであげるから許してね」フミフミ


マルコ「まっ……待った! 待った!! ―― アニ、ユミル。暴力はよそう。話しあおうじゃないか!」

ユミル「話しあうだぁ? なーに生ぬるいこと言ってんだよマルコ」

アニ「そうだね。話すことなんて何もないよ」

マルコ「あるよ! ―― さっきから君たちが気にしてるのは、この人形のことだろう?」

アニ・ユミル「……」ピクッ

マルコ(やっぱり……! アニのあの言い方からして、この人形のことが気になってるんじゃないかと思ったけど、予想通りか……! よし、この調子で――)

マルコ「……君たちが知っての通り、僕は今日遅刻してきたんだ。だからこの人形の存在は知らないし、君たちから報告も受けてない。……それじゃ駄目なのか?」

アニ「……」チラッ

ユミル「……」チラッ

マルコ「……」ビクビク


アニ「まあ、安易にこういうことしたら足がつくし目立つし……」スッ

ユミル「そうだな。やめとくか」ポイッ

マルコ「よかった……二人とも、僕の話を聞いてくれてありがとう。――それで、この人形は誰に返せばいいのかな?」

アニ・ユミル「えっ」

マルコ「?」

アニ(……どうしよう)

ユミル(そういや、まだ決着ついてないんだった……)

アニ(そもそもマルコに預けるって話だったのに、話の流れ的にマルコに渡せない雰囲気にしちゃった……)

ユミル(ここでマルコに預かっといてくれって言うのもなぁ……)

マルコ(また黙りこんじゃったな……ここは僕から助け舟を出したほうがいいのかな)

マルコ「えーっと、じゃあ……誰かからの預かり物とか? もしくは忘れ物?」

ユミル「ああいや、それはだな――」

アニ「……そうだよ。その人形、私のなんだ」

ユミル「!?」

今年はここまで 次回は年明け コニーの登場までまだかかります
それではみなさんよいお年をお迎えくださいませ

すみません >>386 修正です

×アニ「……そうだよ。その人形、私のなんだ」

○アニ「……いや、違うよ。実はその人形、私のなんだ」


ユミル(あいつ……臆面もなく言ってのけやがった……!)



アニ(私が恥ずかしがって名乗りでないだろうと見積もったんだろうけどね。……甘い、甘いよユミル)フフン

アニ(あんたにかわいいもの好きだって知られた時点で、私は訓練兵団中に噂を広められる覚悟ができてるんだ。今更マルコに知られようがどうってことないよ)

アニ(その噂にしたって、うさたんがいなければ信憑性はないに等しいもんさ。……自分でそう思っちゃえる辺り虚しいけど)シュン

アニ(とにかく今、うさたんを知っているのはここにいる三人だけ。そしてマルコは、うさたんのことを黙っててくれると言った)

アニ(うさたんの存在が公にならない以上、私がかわいいもの好きだっていう噂はそんなに広まらないはず……! ――つまりマルコが黙っている限り、私が不安に思うことは何もない!)

アニ(さてと、早速来週の休みの日にうさたん入れるポーチ買ってきちゃおうっと……!)ウフフ



ユミル(……って顔してやがるなちくしょう)グヌヌ

ユミル(プライドも何もかも捨てた特攻か……やるじゃないかアニ)

ユミル(だがな、ここで引き下がるほど私は甘くねえんだよ……!)ギリッ...


マルコ「へえ……アニってこういうのが好きなの?」

アニ「……まあね。柄じゃないのは自覚してるよ」フイ

マルコ「そんなことないと思うよ。じゃあ、これはアニに――」スッ

ユミル「あー違う違う。……実はそれな、アニのじゃなくてクリスタのなんだよ。この前落としたらしいんだ」

アニ「なっ……!?」

アニ(落とし物……だって……!?)

アニ(自分の評価を汚すことなく、目的のものを手に入れられるスマートな解答……っ! やっぱりユミルは侮れない……!)

ユミル(ふはははは、プライドまで捨てさせておいて悪いなアニ!)

ユミル(だがな、私とお前とじゃ生きてきた年数もくぐり抜けてきた修羅場の数も違うんだよ! ――さあ、おいでらっしゃい私のふにふにライフ……!!)ムフフ


マルコ「クリスタの落とし物がアニのものなの? ――ごめん、ちょっと意味がわからないんだけど……」

アニ「だから、その人形は私のだって言ってるだろ? ユミルは嘘を吐いてるんだよ」

ユミル「違う違う。嘘吐いてるのはアニだっての。見つけてくれたまではよかったんだけどよ、アニってかわいいものが大大だーい好きだからな。欲しい欲しいって言って聞かねえんだ」

アニ「……私はそんなにわがままじゃないよ。勝手なこと言わないで」

ユミル「勝手な言い分で最初に所有権を主張したのは誰だっけ?」

アニ「……」

ユミル「……」

アニ「……」スッ...

ユミル「……」スラリッ...

マルコ「はいはいそこまで。二人とも物理的に話し合おうとするのはやめてくれよ」グイグイ


アニ「止めないでマルコ。私たちはこれで話し合うのが一番なんだ」

ユミル「白黒はっきり付けられるし、何より手っ取り早いからな」

マルコ「だから駄目だってば……朝っぱらから女の子同士が殴りあってるのなんか見たくないよ。ちゃんと二人で話し合わないか? 僕が間に立つからさ」グイグイ

アニ「ユミルと話し合うことなんてないよ。そのうさたんは私のだからね」

ユミル「うさたんじゃねえって言ってるだろうが。話聞けよ」

アニ「だってピンクわたウサギの赤ちゃんなんて名前、どう考えても長すぎるじゃないか。呼びにくいよ」

ユミル「んじゃ新しい名前でも考えたらいいだろ? ……じゃなくて、そのウサギはクリスタのだから名前なんか考えなくていいんだよ。というわけでマルコ、早くその人形を私に渡せ」

アニ「マルコ、渡すんじゃないよ。ユミルが言ってるのは嘘だから」

ユミル「嘘吐いてるのはアニだろうが」

アニ「……」

ユミル「……」

アニ「……」スッ...

ユミル「……」スラリッ...

マルコ「だーかーらー!!」グイグイ


アニ「……埒が明かないね」

ユミル「そうだな。堂々巡りだ」

マルコ「わかってるなら自重してくれよ……」ハァ

アニ「……ねえマルコ。ところであんたはどっちの言葉を信じるの?」

マルコ「えっ? 僕?」

ユミル「そうだな、ぜひとも班長さんの意見を伺いたいところだ」

マルコ「……うーん、僕の意見か」

マルコ(油断してたら矛先がこっちに向いちゃったか……まあ、でも)チラッ

アニ「……」ジーッ...

ユミル「……」ジーッ...

マルコ(二人がこのまま殴りあうよりかはよっぽどマシだよな……よし。ここは僕が体を張ってでも止めないと)

マルコ「……二人には悪いけど、僕はどっちの味方にもつかないよ。お互い嘘を言ってるようにしか聞こえないからね」


アニ「へえ……あんたは、私たちが嘘つきだって言うんだ?」

マルコ「ああ。少なくとも今の僕には、二人とも嘘つきに見える。そんな人たちにこのウサギは――」

アニ「うさたん」

ユミル「ピンクわたウサギの赤ちゃんだ」

マルコ「……この人形は、渡せないな」

ユミル「ほーう……理由を聞こうか、マルコ。お前のことだから考えなしで喋ってるわけじゃないだろ?」

マルコ「そうだね……きちんと考えた上で、僕は二人を疑ってるよ。――でも僕が理由を話したところで、君たちはちゃんと聞いてくれるのかな?」

ユミル「安心しろ、ちゃんと聞くさ。少なくとも私はそこまでこらえ性のない人間じゃねえからな」

アニ「ユミルにできて私にできないってことはないよ。――話して、マルコ」

マルコ「……わかった、話すよ。それに僕の話を二人に聞いてもらえるなら、これほどありがたいこともないからね」


マルコ「まず……本当に人形がアニのものだったら、ユミルがここまで食い下がるわけないよね? 力尽くで手にいれた人形をもらってもクリスタは喜ばないだろうし、その損得勘定ができないほどユミルは子どもじゃないだろ?」

ユミル「確かに無理やり奪ったもんを渡しても、クリスタは喜ばないだろうな」

マルコ「かといって、アニがクリスタのものを取ろうとしてるようにも思えない。僕にはアニがそんなに悪い人には見えないからね。もちろん、ユミルもだけど」

ユミル「……付け足すように言わなくてもいいっての」ムスッ...

マルコ「いやいや、本当にそう思ってるよ?」

アニ「……あのさ、自分で言うのもなんだけど、私たちのことを買いかぶりすぎじゃない? ユミルも私も、別にあんたみたいないい子じゃないよ」

マルコ「そうかな? ――例えばさ、さっきアニは『この人形は自分のものだ』って堂々と言ったよね? 僕はね、その言葉自体はちっとも嘘に聞こえなかったんだ」

マルコ「だってもし、その人形が本当はクリスタのものだったとしたら、言葉の端々に後ろめたさみたいなものが混じるだろ? そういうのは、アニの言葉からは少しも感じられなかったんだよね」


ユミル「マルコ、お前……いい子ちゃんにも程があるな。将来騙されるぞ?」

アニ「そうだね、そこはユミルに同意かな。――嘘を隠すのが上手な人間なんか、この世にいくらでもいるよ」

マルコ「はは……そうだね。それでも僕は、自分の目と直感を信じることにするよ。だって君たちが本当に悪い人なら、今みたいな忠告はしないだろ?」

ユミル「……だから、その考えが甘いんだっての」

アニ「そうだよ。……あんた、お人好しすぎ」

マルコ「まあ、僕がお人好しなのは置いといて。――二人とも、ちゃんと他人のことやお互いのことを考えられる人たちだって僕は知ってるよ」

マルコ「だから、そんな優しい君たちに僕からお願いがあるんだけど……正直に、この人形が何なのかを話してくれないかな? もちろん僕は遅れてきたわけだから、教官にこのことは報告しないよ」

マルコ「そして話を聞いた後も、特別どっちかを贔屓したりもしない。僕は僕で、ちゃんと考えて結論を出すからさ」

アニ「……」

ユミル「……」

マルコ「何があったのか……僕に、教えてくれないかな?」

今日はここまで 最後にage マルコのターンがもうちょい続く
そしてあけましておめでとうございます、スローペースですが今年もよろしくお願いします
次回は明日か明後日に来たい(願望)


ユミル「……拾ったんだよ。さっき、ここで」

アニ「二人ともほぼ同時に見つけたようなもんだから、どっちのものか決めようがなくて……」

マルコ「話し合ってるうちに、お互い引っ込みがつかなくなっちゃった、と」

アニ「そうだよ。……ごめん、ここまでこじらせて」

ユミル「私も悪かったよ、大人げなかった。――だけどさ、マルコはずるいよな。こういうことを私らに喋らせるんだからよ」ブーブー

マルコ「それでも、二人で殴りあうよりかはよっぽど平和的な解決方法だったと思うよ? アニもユミルも、お互いの話を聞かないほど子どもじゃないことはわかっていたからね」

ユミル「……まっ、少なくともお前さんの親友よりは大人だからな。私たちは」

アニ「どこかの死に急ぎ野郎とかよりも、ね」クスッ

マルコ「こらこら、そういうことは言わないでおこうよ」


マルコ(さて、どうしようかな……本来なら、この人形は落とし物として教官に届けるところなんだろうけど)ウーン...

マルコ「……ん? ちょっと待った、ここに落ちてたってことは、訓練兵の誰かが落としたものなんじゃないか? それこそクリスタとかの持ち物だって可能性は?」

ユミル「いや、そりゃないだろうな。そこまで品質のいい人形は、訓練兵の給金じゃ到底買えねえよ」

アニ「教官の落とし物ってこともあるんじゃない? ……ないか」

ユミル「ないな。そもそも焼却炉に捨ててあったも同然だから、持ち主に取っちゃいらないもんなんだろ。――つまり、このまま黙って頂いても何ら問題はない」キリッ

アニ「その通り」キリリッ

マルコ「……まあ、そういうことにしておこうか。これ以上こじれるのは面倒だし」

ユミル「おっとマルコ、いい子ちゃんは卒業したのか?」ニヤニヤ

アニ「私とユミルで悪い影響与えちゃったね。将来騙される可能性は減ったかもしれないけど」

マルコ「お気遣いどうも。……それは置いといてさ、僕から提案なんだけど」


マルコ「いっそのこと、二人のものにしちゃうってのはどうかな? 一週間か一ヶ月か期限を決めて、交替で持つんだ。これならどっちのものか決めなくて済むだろ?」

ユミル「おいおい、交替で持つって……係か何かじゃねえんだからよ」

マルコ「そう? 結構いい案だと思うんだけどな」

アニ「……じゃあ、マルコも入れて三人のものにしない? それならいいよ」

マルコ「えっ」

ユミル「そうだな、そうするか。二人でやっちゃまたこじれるかもしれないし」

マルコ「いや、流石に男の僕が人形を持つってのは……」

アニ「じゃあ仕方ないね」スッ...

ユミル「さっきの続きするか」スラリッ...

マルコ「はいわかりましたひとまず僕が最初に預かります」ヘコヘコ

アニ「わかればいいんだよ、わかれば」ポンポン

ユミル「よろしく頼むな」ニッコリ


―― 昼間の男子寮 とある廊下

マルコ「……」コソコソ

マルコ「……よし、誰もいないな」キョロキョロ

マルコ(成り行きとはいえ、とんでもないものを預かっちゃった気がするなぁ……)

マルコ(かわいい人形ではあるんだけど、こんなものを持ってるってジャンたちに知られたらなんて言われるか……)モヤモヤ





ジャン『マルコ、お前……見損なったぜ! なんだよその人形は!!』

マルコ『い、いやジャン! これは違うんだ! この人形は預かり物で……!』

ジャン『預かり物だぁ……? よくもまぁ、親友の俺にそんな嘘が吐けたもんだな!!』

マルコ『嘘じゃないんだよ、僕の話を聞いてくれ!』

アルミン『うわぁ……そんな年にもなって人形遊びだなんて、ちょっとねぇ』ドンビキ-

ライナー『訓練を投げ出して、そんな浮ついたものに現を抜かすとはな。兵士の風上にもおけん奴だ』

エレン『駆逐してやる……! 人形は、一体残らず!!』


マルコ『違うんだよみんな! 誤解なんだ!』

コニー『おいおい、その辺にしとけって。マルコの趣味に口出しする権利は俺らにはねえだろ?』

マルコ『ちょっ……!? 趣味じゃない、別に僕の趣味じゃないよ!?』

ベルトルト『ねえマルコ、何か悩みがあるんなら言ってくれよ? その人形の代わりに僕達が話し相手になるからさ』

マルコ『ベルトルトまで……!? ていうか別に人形が話し相手になってるわけじゃ……やっ、やめろ、その可哀想な奴を見るような目はやめてくれー!! 僕は正常なんだー!!』





マルコ「……」ダラダラ

マルコ(……絶対に、ジャンたちにはバレないようにしよう)グッ

マルコ(みんなと部屋が分かれたのは、確か先月の頭くらいだったっけ……当番や班長の仕事が重なって、しばらく会えてないのが逆に怖いな。どんな反応をするのか想像もつかない)

マルコ(でも、このまま持ち歩いてたらいつ見られるかわかったもんじゃないよなぁ……大きさが親指くらいだから、ひとまずは胸ポケットに入れて持ち歩いてるけど)ゴソゴソ

マルコ(立体機動の訓練の時に落とすかもしれないし……せめて、何かこの人形を入れる袋がほしいなぁ)ウーン...

ちょいと短いですがキリがいいから今日はここまで 最後にage
次回コニーとエレンが登板予定です 予定は未定


マルコ(部屋に戻れば何かしらあると思うけど、あまり大きすぎてもかさばるからなぁ。かといって、ちょうどいい大きさのなんてそう簡単に調達できないし――)スタスタ...

コニー「あれ? ―― おーい、マルコ! なんで廊下でウロウロしてんだー?」ブンブン

マルコ「ああコニー、久しぶりだね。元気だった?」

コニー「おう! 俺もみんなも気持ち悪いくらい元気だぜ!」

マルコ「気持ち悪いっていうのが気になるけど……まあいいや。ジャンはエレンと喧嘩してないかい? 君たちがいるから大丈夫だとは思うんだけど、心配で心配で」

コニー「喧嘩はしてねえぞ」

マルコ「そうなんだ、よかった」ホッ

コニー「部屋が分かれてから会う機会ぐんと減っちまったよなぁ。……ていうかマルコが俺らの部屋に遊びに来てくれりゃいいのに、全然寄り付かねえし」ブーブー

マルコ「ははは……班長の仕事が忙しくてさ、そのうち行くよ。――ところでコニー、君が抱えてるその大きな箱はなんだい?」

コニー「これか? ただの端切れを詰め込んだだけの箱だよ。今からクリスタに届けに行くんだ」

マルコ「端切れ……?」


コニー「端切れって言っても、もうほぼ残骸みてえなもんだけどな。なんでもミカサたちと一緒にパッチワークのぬいぐるみ作るってんで、部屋の連中からかき集めたんだ。――見ろよほら、これなんかもう紐くらいにしか使えねえよ」ビローン

マルコ「紐……それを、どうやって紐にするんだ?」

コニー「これか? これはな、まずは生地を裏返しに折るだろ? そんで上の長い辺を縫ってくんだ」

マルコ「ふむふむ、それでそれで?」

コニー「端から端まで縫ったら糸を止めて、生地を裏返すんだよ。……ええっと、こんな感じだな。裏返す作業が地味に面倒なんだよなーこれ」クルンッ

マルコ「この……布の耳みたいなのは? わざと残してるの?」

コニー「耳って縫い代のことか? 端切れはただでさえほつれやすいからな、縫ってるうちに織り糸が解けちまうことがあるんだよ。だからこういう部分が必要になるんだ」

マルコ「……」

コニー「マルコ? どうしたんだよ、難しい顔して」

マルコ(……どうして早く、この考えに至らなかったんだろう)





マルコ(――袋がないなら作ればいいんだよな、うん)


.


マルコ「ねえコニー。よかったらその端切れ、僕にも少し分けてもらえないかな」

コニー「別に構わねえけど……本当に小さいのばっかりだぞ? いいのか?」

マルコ「いいんだよ……むしろそれがいいんだ」

コニー「? ……まあいいや。じゃあ好きなの選んで持ってっていいぞ」ドサッ

マルコ「ありがとうコニー、助かるよ。……それにしても、結構いろんな柄があるなぁ。高そうなのまで……」ゴソゴソ

コニー「あいつら散財してたからなー」

マルコ「あいつら? ……ああ、この色とかならいいかもしれないな」ゴソゴソ


マルコ(……そうだ。どうせだからあの二人の分も用意しよう)

マルコ(袋でやりとりすれば、中身がバレる危険性もグッと減るからね……ふふふ、我ながらいい考えだ)ニヤニヤ

コニー(おお、すっげえ笑ってる……マルコも手芸好きだったんだな、知らなかった)

マルコ(女の子だから……赤とか黄色とか、明るい色のほうがいいのかな。でも、あまり目立つ色は避けたほうがいいかもしれない)

マルコ(あの二人の趣味がわからないから難しいな……。ピンク、は露骨すぎるか)

マルコ(ここは無難に、青と緑辺りにしておこうかな。これなら人形が入ってるなんて思わないだろうし)


マルコ(失敗することも考えて、少し多めにもらってっと……)ゴソゴソ

マルコ「これくらいでいいかな。……結構もらっちゃったけど大丈夫?」ドッサリ

コニー「……多いな」

マルコ「やっぱり多すぎるか……ごめん、少し返すよ」

コニー「いやいやいいって! ちょっと驚いただけだから気にしないでくれ。クリスタもそんなでけえぬいぐるみ作るわけじゃないと思うし、それくらいなら大丈夫だ!」ブンブン

マルコ「そう? じゃあ、このままもらうね」

マルコ(やっぱりこの色おかしいのかなぁ……二人に渡す時は、僕用に選んだ紺色の袋も持って行ったほうがいいかもしれないな)ウーン...

コニー(マルコの奴、意外とごっそり持ってくな……何作る気なんだ? マルコもパッチワークとかするのか?)

コニー(ライナーやジャンの例があるからなぁ……聞きたいような、聞きたくないような……)ウーン...

コニー(……まあ、いいか。気にしなくても)


コニー「生地とか糸が足りなくなったらいつでも言ってくれよ? 俺、最近食堂で手芸教室やってるからさ。少しなら融通してやるよ」

マルコ「手芸教室?」

コニー「おう、女子の奴らと一緒にな。他にもぬいぐるみの手直しとか、簡単な改造も引き受けてるぞ。やってるのは俺じゃなくて他の奴だけど」

マルコ「へえ……もしよかったら、今度お邪魔させてもらってもいいかな? それとも男の僕が混ざったらまずい?」

コニー「そんなことねえって。俺の他にやってる奴なんかいっぱいいるからな。今日からアルミンも参加するみたいだし」

マルコ「アルミンも?」

コニー「ああ、さっき参加するって言われて――っと、悪い。俺、そろそろ行くな。時間なくなっちまうから」

マルコ「そっか、もうそんな時間か。引き止めて悪いね。――それじゃあ今度、部屋にジャンの様子見に行くから。またその時にでも」

コニー「そうだなー……久々にあいつ見たら、きっと驚くと思うぜ」

マルコ「へえ、何か変化でもあったんだ? 楽しみにしておくよ」

コニー「びっくりしすぎて魂抜けるかもしんねえけどな!」ハハハ

マルコ「あはは、大袈裟だなぁコニーは」アハハ

今日はここまで 最後にage まだエレンパートまで書けてないんですが保守ついでに投下しました
なんか最近落ちるの早くないですかね……?

同じように夏から今まで時間掛けてる作品が多いんだから仕方ない
このスレが上がることで落ちてるスレがあるのと同じ

>>416
確かにざっと見ただけでも夏からのものが結構多いですね……納得しました
教えてくださってありがとうございます


―― 夕方 資料室

エレン(やっべえ、あいつらの相手してたせいですっかりレポート忘れてた……)

エレン(資料室ってあまり来ねえから、本の位置がいまいちわかんないんだよな。アルミンも誘えばよかったか)ウーン...

エレン(おっ、窓際の席にマルコがいる。……本の位置、聞いてみるか)スタスタ...



マルコ「……」チクチクチクチク

マルコ(……縫い目がまっすぐにならない)ウーン...

マルコ(普段ボタン付けくらいしかしないからなぁ……これはコニーに習いに行ったほうが早いかもしれない)

マルコ(それにしても、細かい作業って疲れるな。少し休憩するか)ハァ

エレン「よおマルコ。資料室で何やってんだ?」ヒソヒソ

マルコ「やあエレン。……ちょっとね、縫い物」ヒソヒソ

エレン「……縫い物?」ピクッ

マルコ「エレンはどうしたの? 資料室に来るなんて珍しいじゃないか」


エレン「あ、ああ……この前、壁上固定砲の講義があっただろ?」

マルコ「うん? ……なるほど、レポートに使う資料を探してるのか」

エレン「そうそう、えーっと……撃った後に散らばる」

マルコ「ぶどう弾ね」

エレン「それだ!」ポンッ

マルコ「エレン、静かに」シーッ

エレン「……悪い。それで、そのぶどう弾について詳しく書かれてる資料を探してんだけどさ、心当たりねえか?」ヒソヒソ

マルコ「それなら、レポート書く時に僕が参考にした本をいくつか持って来ようか? 本の位置は覚えてるし」ガタッ

エレン「いや、そこまでしてもらっちゃ悪ぃよ。題名さえ教えてくれたら自分で取ってくるぞ?」

マルコ「いいんだ、ちょうど体を動かしたかったところだから。ここで座って待っててくれ」スタスタ...

エレン「ちょっと待てって、俺が……駄目だ、行っちまった」

エレン(……まあいいや、任せるか。それにしても、マルコは頼りになるな。アルミンと話が合うのも納得だ)

エレン(……問題は)チラッ


エレン(問題は……この机の上に置いてある、縫いかけの端切れだ)チラチラッ

エレン(俺が知らないだけで、実は男子の間で縫い物が流行ってたのか? ……んなわけねえよな、あれは俺たちの部屋だけでの話だったはずだし)

エレン(小さい袋が三つ、だから……お守り袋や匂い袋って線が濃厚だが、なんで3つも縫ってるのかがわかんねえ)

エレン(……もしやマルコに彼女が)

マルコ「おまたせエレン。この辺りでどうかな? ちょっと確認してみてくれる?」ドサッ

エレン「……」

マルコ「……? エレン、どうしたんだ? 何かおかしなことでもあった?」

エレン「なあマルコ」

エレン(「彼女できたのか?」って直接聞くのはなぁ……別に根掘り葉掘り聞きたいわけでもないし、ここは――)

エレン「……お前、裁縫が好きなのか?」


マルコ「裁縫? 別に好きってわけじゃないよ。嗜む程度だ」

エレン「やっぱり裁縫は男子の嗜みなのか……」

マルコ「やっぱり……って、エレンも裁縫やるの?」

エレン「いや、俺は周りの連中のを見てるだけで、自分じゃさっぱりだ。……ところでその袋なんだが」

マルコ「えっ、これ?」ギクッ

エレン「ああ。――何を入れるかは知らねえが、もうちょっと縫う間隔狭くしないと中身が落ちちまうぞ」

マルコ「そうなの? ありがとう、じゃあ糸はほどいてっと……」ブチブチッ シュルッ...

エレン「……」

エレン(ちょっと動揺してた……! あのマルコがちょっと動揺してたぞ! なんだよその袋やっぱりやましいものなのか!? 彼女へのプレゼントか!?)

マルコ(エレンに見られたのはまずかったかな……アニとユミルに渡すものだから、もしエレンが後で見かけたらきっと怪しむはずだ。かといって正直に話すわけにはいかないし)ウーン...


エレン(あれだけ小さいんだ、ベルトルトが作ったキャンディ・バスケットみたいに人形入れるわけじゃねえだろうし……いや、そもそもあんな袋に入る大きさの人形なんて俺は見たことねえな)モンモン

エレン(それともなんだ? 袋だけは自分で作って、完成品をジャンにキルシュタイン・カスタムしてもらった後ライナーにブラウンメイドのキーチェーンをもらってアルミンにモノクマ語録のありがた~い言葉を小さな紙にしたためてもらうのか!? そんなてんこ盛りのお守りを彼女に渡すつもりか!? マルコそうなのか!?)モンモンモンモン

マルコ(エレンがすごい形相で袋見てる……色と大きさを覚えられたら困るな。ごめんエレン、君は悪くないんだけどちょっと袋隠すよ)ササッ

エレン(!? 隠したああああああああっ!? マルコの奴、袋を手で隠しやがったぞ! やっぱりやましいものか!)ガタッ

マルコ「うわっ!? ―― エレン、どうしたんだ? 突然立ち上がって」ビクッ

エレン「あ、ああ……悪い。ちょっと興奮してよ」ストンッ

マルコ「興奮……?」

エレン(いかんいかん、あんな小さな袋ごときでなんでこんな変な妄想してんだ、俺……考えすぎだよな。変な奴に囲まれたせいで、ちょっと疲れてるのかもしんねえ)ブンブン

マルコ(エレンはいったいどうしたんだろう……? うーん、このまま話が進んで袋のことを詳しく聞かれたら困るな。話題を変えようか)

マルコ(……そうだ、どうせならエレンに聞いてみよう。きっと正直に答えてくれるはずだ)


マルコ「ところでさ、エレン。……いい年して、人形を持ち歩いてる男ってどう思う?」

エレン「……人形?」ピクッ

マルコ「そう、人形」

エレン「いい年してって、そりゃあ……教官くらいの年の人のことか? そういう人が持ってるってのは、趣味じゃなくて何か特別な理由が――」

マルコ「ああいや、そうじゃなくてさ。僕たちくらいの男子が、人形を持ち歩いてたらどう思う? ってことなんだけど」

エレン「……」

エレン(もしかして、ベルトルトのことか……? あのド派手なバスケットでも見ちまったのか……!?)

エレン(ありうる……! ってかあんな目立つもん見てないほうがおかしい! むしろあいつ、バスケットできる前はキャンディそのまま持ち歩いてたじゃねえか!)

エレン(……もしかして、マルコはキャンディを隠すために袋を作ってるのか? ベルトルトの噂が広まらないようにって考えて? でもあれじゃ手や足の先くらいしか入らねえし、そもそも今朝コニーの村に送っちまったし……いや待てよ、手の先?)ハッ

エレン(そうか、マルコ……お前手袋と靴下作ってんのか……!? だがちょっと待て、キャンディの手足は合わせて4つだ! 3つじゃ足りねえ!)

エレン(あああああもう訳わかんねえよ!! お前いつの間にキャンディのために手袋作ってやるようになったんだよ!?)モンモンモンモン


マルコ「エレン、どうしたんだい? 顔色悪いみたいだけど……」

エレン「ああ、いや……ちょっと考えすぎてな」ブンブン

エレン(落ち着け、エレン・イェーガー……一方的に決め付けるな、それじゃああいつらと同じだぞ。先に袋のことを確かめてからでも遅くはないはずだ)スーハースーハー

エレン「……あのさ、マルコ。その質問に答える前に、どうしても聞きたいことがあるんだが」

マルコ「何?」

エレン「その袋は……お前のために作ってるもんか? それとも他人のために作ってやってるもんか?」

マルコ「……両方、かな。でもどちらかと言ったら、他人のためのほうが大きいかも」

エレン「そうか……」

エレン(やっぱりキャンディのためか……!)ギリッ...

マルコ「エレン、ところで質問の答えは……?」

エレン「……『人形持ってる男のことをどう思う』、だったか」

マルコ「うん。エレンの率直な意見を教えて欲しいんだ」

エレン「俺の意見か……」

エレン(つまり、俺がベルトルトを見て思ったことを言えばいいんだよな。……よし)


エレン「俺らみたいな年頃の男が、人形を持って歩いてるって言うのは……まあ、いい印象はないよな」

マルコ「そうだね、もう人形遊びするような年でもないし」

エレン「でも、その人形がそいつにとっての友だち……いや、かけがえのない家族だとしたら、無理やり引き離そうとするのは違うって思うんだ」

マルコ「……はい? 家族?」

エレン「だから、そういう奴を見かけたら……最初に言ったとおり、いい印象はすぐには持てねえと思う。でも俺は、そういう奴を頭から否定しないで、受け入れてやるような……そういうでかい器を持った人間になりたい!」キリッ

マルコ「……なるほど。それがエレンの答えなんだね」

エレン「ああ……お前の参考になればいいんだが」

マルコ「……」

エレン「……」



マルコ(どうしよう……意見じゃなくて何故か決意表明が返ってきた。しかも言ってることがよくわからない……)

エレン(やっべ、緊張してなんか変なこと言っちまった)ドキドキ


エレン「そっ、そう言えばさ、マルコは最近ジャンと話したのか? 俺とはしばらくぶりになるけどよ」アセアセ

マルコ「ああ……実は全然話してないんだよ。近頃忙しくてさ、あいつの姿すら見かけてないんだ」

エレン「そっか、じゃあジャンが今どうなってるのかは知らねえのか……」ブツブツ...

エレン(ベルトルトはともかく、ジャンのことを知らないのは幸運だったな。モノクマやキャンディと離れて傷心中のあいつが、もしマルコにまで捨てられたら……)モヤモヤ



ジャン『モノクマもいねえし、キャンディもいねえ……マルコにも見捨てられちまった……』ズーン...

ジャン『俺はもう、生きていけねえよ……兵士辞めて、手芸屋になるわ……』グスッ...



エレン(……あれ? ジャンってこんなナヨナヨしてたっけか? ……まあいいか)

エレン(とにかく、モノクマとキャンディはもういないんだ。きっとあと数週間もあればあいつらの症状も治まる……それまで俺がなんとか誤魔化さねえとな)


マルコ(エレンからジャンの名前が出るなんて珍しいな。僕がいなくなってから喧嘩ばかりしてるのかと思ってたけど、そうでもないみたいだ。よかったよかった)ホッ

マルコ「コニーにも誘われたんだけどさ、今度君たちの部屋に行ってもいいかな? 久々にアルミンとチェスでも指したいし、コニーにも裁縫で聞きたいことが――」

エレン「いや、部屋は駄目だマルコ」

マルコ「え? ……ああ、もしかしてまだ部屋の中が片付いてないとか? 僕は別に気にしないよ?」

エレン「お前が気にしなくても俺が気にするんだよ。あと悪いことは言わねえから、その縫い物のことは大っぴらに言って回らねえほうがいいぞ。命が惜しかったらな」

マルコ「へっ? 命?」

エレン(部屋の中、まだ端切れの山でぐちゃぐちゃだからな……マルコに見せるわけにはいかねえ。それにマルコが裁縫やってるって知られたら、あいつらが嬉々として仲間に引き入れるに決まってる……!)ギリッ...

エレン(マルコ……お前のことは俺が守ってやるからな)ジッ...

マルコ(なんだかよくわからないけどエレンから熱い視線を感じる……うーん、エレンがいるんじゃ作業できないし、そろそろ行こうかな)

マルコ「えっと……エレン、ありがとう。色々参考になったよ。僕、やらなきゃいけないことがあるからそろそろ行くね。レポート頑張って」

エレン「ああ。それと徘徊する大男には気をつけろよ。油断してるとデコレーションされるぞ」

マルコ「……うん、気をつける」


―― しばらく後 兵舎裏

マルコ「……」チクチク

マルコ(兵舎裏なんかで何やってるんだろう、僕……)チクチク

マルコ(エレンの言うことを鵜呑みにするわけじゃないけど、確かに大っぴらにやるわけにはいかない、いかないんだけど……)

マルコ(食堂はコニーがいるから駄目、資料室や部屋だとひと目がある、空き教室はいつ人が来るかわからない。便所の個室は……ひと目にはつかないけど暗すぎる。それになんか嫌だ)

マルコ(消去法でここまで来たけど……こまめに移動しないと駄目だろうな。位置を固定してたらいつか誰かに気づかれる)

マルコ(それにしても、ひと目がないところって意外と少ないんだなぁ……当たり前か、ここには二百人以上も訓練兵がいるんだ。誰も見ないところなんてあるわけがない)

マルコ(早くこれ、仕上げないとな……)

マルコ「……うーん、まだ縫い目が曲がってるなぁ」ジーッ...

マルコ(裁縫は別に得意ってわけじゃなかったけど、まさか真っ直ぐ縫うことさえできないなんてな……ちょっと自分が情けないや)ブチッ シュルシュル...

マルコ(……待てよ? 僕が縫うより、あの二人に生地だけ渡して自分で作ってもらえばよかったんじゃ)

マルコ「……」

マルコ(今からでも……いいや、それは無責任だ。ここまでやったんだから最後まで頑張ろう)チクチク


―― 数日後の早朝 焼却炉付近

ユミル「朝っぱらからこんなところに呼び出して何の用だよ。当番でもねえのに……」ゴシゴシ

アニ「もしかして……うさたんに何かあったの?」ギロッ...

マルコ「違うよ、人形は無事だ。……はい、ユミル。アニ」スッ

ユミル「……ん? なんだこれ、ちっちゃい巾着袋?」プラーン...

マルコ「そうだよ。君たちはともかく、僕は人形をそのまま持って歩くってのはやっぱり抵抗があったからさ。急いで袋を用意したんだ。ついでに君たちの分もね」

アニ「へえ……気が利くじゃないか。でもこんなちょうどいい袋、いったいどこから――」

マルコ「僕が作ったんだ」

ユミル「」

アニ「」

マルコ「不格好でごめんね。……こういうのは慣れてなくてさ」アハハ

ユミル「……」

アニ「……」

マルコ「今日はこれを渡したくて二人を呼び出したんだよ。色は三色あるから、好きなのを選んでくれ。僕は余ったのでいい」


マルコ「……」

ユミル「……」

アニ「……」

マルコ「あー……ごめん、やっぱり男の手作りじゃ抵抗あるかな」

ユミル「いや……」

アニ「そうじゃなくてさ……」

ユミル「マルコ、お前……ボタン付けとかできるのか?」

マルコ「え? できるよ?」

アニ「服が血で染まったりしない?」

マルコ「しないよ?」

ユミル・アニ「…………」



ユミル・アニ(負けた……!! マルコに負けた……!!)ガーン


ユミル「……手作りってのは置いといて、だ。なんで袋が三つあるんだ? 人形を回すだけなら一つありゃ充分だろ?」

マルコ「いや、三人で回すから三つ必要だよ。同じ袋を持っているのを見られたら他の人に気づかれる確率が高くなるからね。……人形が好きだってことは、なるべく誰にも知られたくないんだろ?」

アニ・ユミル「……」

アニ(マルコ……なんて気遣いのできる男……!)ジーン...

ユミル(クリスタ……婿にするならこういう奴にするんだぞ……!)グッ

アニ「私、あんたのこと誤解してたかも……」ジーン...

ユミル「いい奴だよなぁ、お前……」ジーン...

マルコ「あはは、どうも……それで、どれにする? 青と緑と紺があるけど」ピラッ

アニ「……じゃあ、私は青」スッ

ユミル「私は緑にしておくかな」スッ

マルコ「じゃあ僕が紺色だね。――改めて整理するよ。これからはこの時間に、この場所で人形の入れ替えをすること。お互いのためにも、人形は基本的にこの袋に入れて持ち歩くこと。無闇やたらと袋から人形を取り出さない。……これでいい?」

アニ「いいよ、わかった」

ユミル「こんなもんもらっといて文句つけたらバチが当たっちまうよ」


ユミル「それにしても、よくできてるなこの袋……紐は布でできてるのか? 凝ってるな」ビヨーンビヨーン

マルコ「ああ、うまい具合に細い端切れをもらったからね。僕が作った」

ユミル「……左様でございますか」チッ

マルコ「?」

アニ「……」グイグイ

アニ(いいな……私も、こういうのが作れたらよかったのに。……あっ)プツッ...

アニ「……マルコ」ツンツン

マルコ「ん? なんだい?」

アニ「ごめん。……糸、ほどけちゃった」シュル...

マルコ「ああ、糸がちゃんと結べてなかったのかな。悪いんだけど補強しておいてくれる?」

アニ「……できない」

マルコ「……? もしかして針と糸がないとか? でも僕も、糸はボタン付けに使うものくらいしか残ってなくて――」

アニ「違う。……私、裁縫できない」


マルコ「……」

ユミル「……」

アニ「……」モジモジ

マルコ「できないって……ちっとも?」

アニ「……うん」コクン

マルコ「そうか……できないものは仕方がないな。悪いけど、ユミルが直してあげてくれないか? 僕がやるとまた――」

ユミル「無理」

マルコ「……」

ユミル「絶対無理。やだ」ブンブン

マルコ「……ユミルもできないの?」

ユミル「……」コクコク

マルコ「…………もしかして、二人とも?

アニ「うん」

ユミル「全然」


マルコ「僕が直してあげるのはいいんだけど……あのさ、野戦治療実習ってあるだろ? 先週やったの覚えてる?」

ユミル「ああ、あれか。前回はクリスタが止血に失敗して三人くらい殺してたな」

アニ「それがどうしたの?」

マルコ「どうしたのっていうか……再来週の実習で、針と糸を扱うはずだよ」

ユミル「……は?」

アニ「な、なんで? なんでそんなもの使うの? 服でも作るの?」オロオロ

マルコ「傷口の縫合をするんだ。……まあ、使うのは実習用の模型だけどね」

ユミル「身体に直接針と糸を……?」ガタガタガタガタ...

アニ「なんて恐ろしい……!」ガタガタガタガタ...

マルコ「二人とも、裁縫はできないんだよね? どうするつもりだったんだ?」

ユミル「……」チラッ

アニ「……」チラッ

ユミル「さてと。……野戦治療演習の担当教官は誰だったかなぁっと」スタスタ...

アニ「やるなら人が少ない夕方のほうがいいね」スタスタ...

マルコ「堂々と闇討ちの相談しないでくれよ」ガシッ

今日はここまで。保守してくれた方ありがとうございました。次回は来月になります
早めに来れるように頑張るので待っててねー


ユミル「ええい離せマルコ! 私たちのためを思うなら行かせろぉ!!」ジタバタジタバタ

マルコ「うわっ……!? 暴れないでよ、危ないだろ!」ササッ

アニ「あんたにはわからないだろうさ……! 裁縫ができない女の子の気持ちなんて……!」ギリッ...

マルコ「君たちの気持ちはわからなくても、教官の闇討ちが駄目ってことくらいは僕にもわかるよ! 一旦落ち着こう!」

アニ「正々堂々襲ったら顔が見られちゃうでしょ!?」

マルコ「そういう話をしてるんじゃないっ!!」

ユミル「……なるほど。いきなり教官ってのが駄目だったんだな」ポン

アニ「……! そうか、だったら私は女子寮に行ってくるよ」ダッ

ユミル「よしマルコは男子寮を頼む」ダッ

マルコ「待った待った待った待った!! さらっと共犯にしないでくれ!! どうして君たちはそう短絡的な発想しか出ないんだ!?」

ユミル「うるせえこっちゃ切羽詰まってんだよ!!」

アニ「痛い目にあいたくなかったらとっととそこどきな!!」

マルコ「だから待ってくれって!」


マルコ(普段は落ち着いてる二人がここまで興奮するなんて……裁縫できないのがよっぽどコンプレックスなんだろうな)

マルコ(……よし)

マルコ「二人の言い分はわかった。……つまり、再来週の野戦治療実習までに裁縫ができるようになればいいんだろ?」

ユミル「だから、それができれば苦労しねえって」

アニ「それともマルコがなんとかしてくれるの?」

マルコ「そうだよ。僕が君たちに教える」

ユミル「……え」

アニ「……」キョトン

マルコ「まだ実習まで十日以上あるんだ。付きっきりで教えたらなんとかなる……はずだ」

ユミル「お前……私らなんかのために付きっきりで教えてくれるのか……?」

アニ「どうしてそこまで……」

マルコ「誰かさんたちによると、どうやら僕はいい子ちゃんでお人好しらしいからね。今回もいい子ちゃんでお人好しなことをしたいだけだよ」

ユミル「うっ……すまん」シュン

アニ「ごめん、私たちはけなすつもりで言ったわけじゃ……」

マルコ「大丈夫、それくらいはわかってるからさ。――とにかく訓練が終わったら、裁縫道具を持って兵舎裏に来てくれ。約束だよ?」


―― 女子寮 廊下

ユミル「マルコ、いい男だったな……」スタスタ...

アニ「……そうだね」スタスタ...

ユミル「ちっちゃいおこさまならともかく同期の女だぞ? 普通付きっきりで裁縫の面倒なんか見てくれねえだろ……」

アニ「……うん、すごいね」

ユミル「……」チラッ

アニ「……」ドヨーン...

ユミル「……なんだなんだ、元気がないな。闇討ちできなくて気を落としたのか?」

アニ「そうじゃないよ。……さっきマルコが最後に言ったこと、覚えてる?」

ユミル「最後? 兵舎裏に来いってアレか?」

アニ「その前にさ、『裁縫道具を持って』って言ったでしょ?」

ユミル「ああ……そういや言ってたな。それがどうかしたか?」

アニ「……私、針も糸も持ってない。裁縫しないから……そういう道具、一つもない」


ユミル「なーんだ、そんなことか。安心しろって、私も持ってねえからさ」ハハハ

アニ「あんたはいいよね。……クリスタから借りればいいから」

ユミル「まあなー。そういうお前はアテはないのか? 一人くらいいるだろ?」

アニ「……いるって言えばいるけど」

アニ(ライナーやベルトルトに『裁縫道具貸して』って言うの、恥ずかしいな……今パーカーの穴縫ってもらってるのに)モジモジ

ユミル「仕方ねえなぁ……そう悲観するなって。私がクリスタから少し余分に借りてきてやるからさ」ポンポン

アニ「……迷惑かけるね」

ユミル「何言ってんだ、お互い裁縫ができないって知れた時点で私たちは仲間だろ? 気にするなよ」

アニ「ユミル……!」ジーン...

ユミル「一つツケな」ニヤリ

アニ「……」イラッ

ユミル「まあ、私たちの運命はマルコとクリスタにかかってるんだが…………ん? なんだ、あっちが騒がしいな」

アニ「私らの部屋からだね。……行ってみる?」

ユミル「だな。急ごう」タタッ


―― 女子寮 ユミルたちの部屋

クリスタ「ひっく……ううっ、私の、私のせいでぇっ……!」グスグス

サシャ「泣かないでくださいよクリスタ、クリスタは何も悪いことしてませんよ? ねっ?」ナデナデ

ミーナ「そうだよクリスタのせいじゃないよ! だから元気出して?」

ミカサ「え、えっと……えっと…………」オロオロ

ユミル「おいどうしたクリスタぁっ!? なんで泣いてるんだ!?」バーン!!

ミカサ「ひぇっ」ビクッ

クリスタ「ゆっ、ユミルぅ……」グスグス

アニ「おはよう。……クリスタに何があったの?」

ユミル「さてはお前か芋女……?」ギロッ

サシャ「ひぃっ!? わっ、私じゃありませんよ!!」ブンブン

クリスタ「違うの、サシャは悪くないの……悪いのは、全部私なの……!」グスグス

ミーナ「だからクリスタのせいじゃないって! ジョセフィーヌとアンドレーは自分の使命を全うしたんだから、クリスタのこと恨んでないよ!」ナデナデ


アニ「……誰? ジョセなんたらって」ヒソヒソ

ユミル「そんな名前の訓練兵いたか?」ヒソヒソ

ミカサ「訓練兵じゃない。ジョセフィーヌとアンドレーは、この前クリスタが止血に失敗したお人形の名前」ヒソヒソ

アニ「……ああ、あれか。丸太足の」

ユミル「なんだ、あいつら開拓地送りになったのか?」

ミカサ「違う。もうだいぶ古いから焼却炉行きになっただけ」

ユミル(おぉう……もっと悲惨だった)

アニ(たかが人形で……とか、言わないほうがいいんだろうな……)

ミカサ(自分のお人形ならともかく、備品なのに……どうしてあそこまで感情移入できるのだろう……?)

クリスタ「ひっく……ううっ、私が、私がもっとしっかりしていたらっ……今頃あの二人はぁ……っ!」グスグス

ミーナ「大丈夫だってクリスタ! あの二人が特殊だっただけで、もう一人はまだ生きてるじゃない? 気にすることないよ!」アセアセ

サシャ「そうですよ、この前の実習の時は私なんか五人も殺しちゃったんですよ? それに比べたらクリスタはまだマシですって!」オロオロ

ミーナ「もーうサシャってば殺しすぎー! ちゃんと教官の話聞いてたのー?」ウフフ バチコンバチコン

サシャ「いやぁ、ちょうどお腹空いてて昼ごはんのこと考えたんですよねー……あのミーナちょっと痛いです叩き過ぎです痛い痛い」アハハ

ミーナ「あ、ごめん」


サシャ「それに、ええっと……ほら、次の実習は針と糸を使うじゃないですか!」

ユミル「……」ピクッ

アニ「……」ピクピクッ

サシャ「裁縫はクリスタの得意分野でしょう? 前回救えなかった三人分、次は多く救ってあげればいいんですよ!」

ミーナ「そうそう、ここでめそめそ泣いてるよりは、ジョセフィーヌとアンドレーもそっちのほうが嬉しいと思うよ?」

クリスタ「……うん、そうだね。二人の言うとおりかも。――よーし、私頑張るよ! 次は絶対誰も死なせない!」グッ



アニ(うわぁ……こりゃ次回の実習は失敗できないね。私はともかく、ユミルが失敗したらどうなるか……)チラッ

ユミル「……アニ」

アニ「何」

ユミル「…………裁縫、うまくなろうな」キリッ

アニ「あんたはクリスタを泣かせたくないだけでしょ」

ユミル「その通りだ。―― けどどうする? こりゃ針と糸貸してくれって言える雰囲気じゃないぞ」ヒソヒソ

アニ「……仕方ないね。私も少しアテがあるから、そっちを当たってみるよ」


―― 昼の兵舎裏

アニ「……」キョロキョロ

アニ(確か、この辺りだったはずだけど……)

????「おーいアニ、こっちだこっち」チョイチョイ

アニ「……なんで草陰に隠れてるの? ライナー」ガサガサ

ライナー「お前とこっそり会ってるところを見られるわけにはいかんからな。……ほらよ、ベルトルトがやってくれたぞ。紙袋の中に入れといた」ポン

アニ「どうも。……お願いしてる立場で言うのもなんだけど、今回直すのが遅かったね。何かあったの?」

ライナー「……辛い別れがあった」ギリッ...

アニ「は?」

ライナー「詳しい事情は悪いが伏せさせてくれ。語ると3ヶ月近くかかるからな」

アニ「……まあ、興味ないから別にいいけど」


アニ(……ライナーはともかく、ベルトルトなら針と糸は確実に持ってるんだよね。こうしていつも繕い物してくれるから)

アニ(正直恥ずかしいけど……なんとかして、二人から針と糸借りなくちゃ……! マルコから裁縫を教わるためにも……!)グッ

アニ「あ、あのさぁ……は、……はり……の、……ぃと…………」ボソボソ

ライナー「あぁ? なんだって?」ズイッ

アニ「……は、」

ライナー「は?」





アニ「――流行りの服は、嫌いですか……?」ニコッ...




ライナー「……」

アニ「……」

ライナー「……いや、特別服に好みはない」

アニ「……そう」

アニ(ああもうばか! 私のばか!! まじめに答えるライナーはもっとばか!!!)ギリッ...

ライナー(なんだ……? 今の質問は一体どういう意味なんだ……? そして俺は何故睨まれているんだ……?)


ライナー「あー……そういや、服で思い出したことがあるんだが」ポリポリ

アニ「……何?」

ライナー「再来週に実習があるだろ? 野戦治療実習。知ってるか?」

アニ「……し、知らない。知らないそんなの。全然知らない」ブンブン

ライナー「やっぱりか……その実習なんだがな、どうやら針と糸を使うらしいんだ。傷口の縫合をするとかで」

アニ「へえ……、へえー……、そうなんだ、すごいね。すごいすごい。人類すごい」パチパチ

ライナー「すごいかどうかは置いといて……それでな、お前裁縫ちっともできないだろ? こうやってベルトルトに服を繕ってもらうくらいだしな」

アニ「…………」カチンッ

ライナー「しかも女子寮の誰かじゃなくて、未だに同郷の俺たちに頼むくらいだからな……実はお前友だち少ないんじゃないか?」ハハハ

アニ「…………」ムカッ

ライナー「だからな、ベルトルトと話し合って決めたんだが――」

アニ「……できる」ボソッ

ライナー「俺とあいつの二人で、お前に…………ん? 今何か言ったか?」


アニ「……一人で、できるもん。裁縫くらい……もう、一人でもできる」ボソッ

ライナー「……」

アニ「……」プイ

ライナー「……アニ、お前」

アニ「……何さ」

ライナー「気持ちはわからんでもないが……その年で『できるもん』はちょっと」

アニ「~~~~っ!! うるさいっ!!」ゲシッ!!

ライナー「っだぁっ!?」ビターン!!

アニ「さっきから人のこと馬鹿にしないでくれる!? たかが裁縫なんて自分でできるんだから!!」ゲシゲシッ!!

ライナー「いてっ……! 痛えって、スネ蹴るなスネ!!」ジタバタジタバタ

アニ「ふんだ!! もうしばらく話しかけてこないでよね!!」ズカズカ

ライナー「あっ……おいアニ!?」

ライナー(ああー……やっちまったぁ…………)ズーン...

ライナー(俺とベルトルトで裁縫教えてやるって言うつもりだったんだが……失敗したな)ハァ

ライナー(……まあ、渡すもんは渡したからいいか)

今日はここまで 最後にage 土曜日までにもう一回来ます


―― 女子寮の廊下

アニ「……」ドヨーン...

アニ(もうやだ……私、何してるんだろ……)

アニ(馬鹿はライナーじゃなくて私じゃないか……これじゃあ、コニーのことを馬鹿だって笑えない……笑ったことないけど)

アニ(しかも余計なことまで言っちゃったから、これから服直すの頼みにくくなっちゃったし……)

アニ(……いや、服のことはまだいい。問題は……今日使う針と糸をどうするかってことだ)

アニ(マルコに正直に話して借りる……? でも、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないよね)

アニ(ユミルは……無理だろうね。裁縫をやる気はあるんだろうけど、今日のクリスタはそっとしておきたいって考えてるだろうし)

アニ(今から戻ってライナーに謝って、事情を話して借りる……? それともライナーは無視してベルトルトに直接頼み込むとか……ん? なんか変な感触が)ガサッ

アニ(紙袋の中に何か入れたのかな、あいつら……)ガサガサ

アニ「……」



アニ「……何、これ」


―― 男子寮 エレンたちの部屋

ライナー「ただいまー……」トボトボ...

ベルトルト「やあライナー、おかえり。アニには渡せたかい?」

ライナー「……渡せはしたが失敗した」

ベルトルト「? どういうこと?」

ライナー「裁縫を教えてやるって言う前に逃げられたんだ。引き止める暇もなかった……」シュン

ベルトルト「あーあ……だからこの前言ったじゃないか。糸切りハサミにハートマークのチャームはありえないって」

ライナー「いや、別にそのことで言い争いになったわけじゃ――おいちょっと待て、女の子はみんなハートマークが大好きじゃないのか?」

ベルトルト「その点に関してはもう何度も話しあっただろう? ハートマークが無条件で好きなのは小さなお子様くらいだって。……全く、図体はでかくても感性は子どものままなんだから」ハァ

ライナー「……なんだと?」ムカッ


ベルトルト「大人っぽいアニがハートを好きなわけないよ。世の中には小鳥とか花とか色々モチーフがあるんだから、せめてそういうのを選択したらよかったのに。よりにもよってハートマークだなんて」ハハッ

ライナー「……じゃあ俺も言わせてもらうがな、お前だって裁縫箱にピンクはねえだろピンクは!! しかもなんだあのド派手な色!!」バンッ!!

ベルトルト「はぁ!? それこそ君は何を言ってるんだ、ピンクが似合わない女子なんていないだろ!?」

ライナー「似合う似合わないの話をしてるんじゃあないっ! 取り敢えずピンクを使っときゃいいだろという短絡的な発想を批判してるんだ俺は!!」バンバンッ!!

ベルトルト「だ・れ・が!! 短絡的な発想で裁縫箱の色を決めるもんか! アニの手に渡るものだから配色は三日三晩悩んだんだよ!? しかもキャンディの服と同時進行だったから、どれほど大変だったか……!」

ライナー「ふん、三日三晩悩んで行き着く先がピンク一択とはお笑い草だな! アクセントに白のフリルリボンを使った点は評価するがところであれ新作か?」

ベルトルト「そうだよ。見る?」

ライナー「見る見る」イソイソ


ベルトルト「この前出かけたらちょうど入荷したところでさー。運が良かったよ、本当」ゴソゴソ...

ライナー「新作はすぐ売り切れるもんなー。全く、訓練兵ってのは辛いぜ。行きたい時に手芸屋に行けねえんだからよ」

ベルトルト「それもあと少しの辛抱さ。……はい、これだよ」シャランラー

ライナー「どれどれ……やっぱりいい仕事してるな」フムフム

ベルトルト「正直このシリーズは値段以上の価値があるよねー」

ライナー「だよなー、手触りいいよなーこれ。かわいいし」サワサワ

ベルトルト「……」

ライナー「……」モフモフ

ベルトルト「……なんの話してたんだっけ?」

ライナー「さあ? どうでもいいんじゃないか?」モッフモッフ


―― 訓練終了後の兵舎裏

マルコ「二人とも、訓練お疲れ様。針と糸は持ってきた?」

ユミル「忘れた」キッパリ

マルコ「……少しも悪びれてないのがユミルらしいね」

ユミル「だって元々無い袖はどう頑張ったって振れないからな。持ってないものを持って来いって言われても無理だ」

マルコ「そっか、持ってなかったなら悪いことしたな。ごめん。――ところでアニは?」

アニ「」ビクッ!!

マルコ「アニ?」

アニ「……」モジモジ

マルコ「もしかして、君もユミルみたいに持ってなかったの? それならそうとはっきり――」

アニ「……」ブンブン

マルコ「……? アニ、どうしたんだ?」

ユミル「そいつはさっきからずーっとそんな調子だぞ。背中の後ろに何か隠してるみてえだが、ちっとも見せてくれねえし」


マルコ「背中に何か……? もしかして、針と糸?」

ユミル「そうなんじゃないか? ――おいアニ、持ってきたならとっとと出せよ。それともマルコが酷い目にあってもいいのか?」

マルコ「アニを脅したいんだろうけど被害に遭うのは僕じゃないか。やめてくれ」

ユミル「マルコも暇じゃねえんだぞ。早くしろ」

マルコ「話聞いてる? っていうかなんでユミルは持ってきてないのにそんなに偉そうなの?」

アニ「……………………笑わない?」

ユミル「なんだ、そんなに愉快な裁縫箱持ってきたのか? 開けた途端に中からピエロでも飛び出すのかよ?」

アニ「そうじゃないけど……でも……」モジモジ

マルコ「煽るのはやめなよ、ユミル。――絶対とは言わないけど努力するよ。時間もないし、裁縫箱を持ってきたなら出してくれる?」

アニ「……これ、なんだけど」ゴソッ


アニ「……」モジモジ

ユミル「……」

マルコ「……」

ユミル(布製の裁縫箱……? いや、紙の箱に布が貼ってあんのか? それにしたってモコモコしすぎだろ! ぱっと見じゃどこからどう開けりゃいいのかわかんねえぞ!?)

マルコ(淡い桃色ならまだしもショッキングピンクとは……! しかもリボンで『Annie』って名前まで書いてあるなんて、器用な人が作ったんだなぁ……)

アニ「……」モジモジ

マルコ「随分と……………………………………………………………………………………えっと、かわいらしい裁縫箱だね」

ユミル「気合い入ってんなぁ」

アニ「……」


アニ「これは…………拾ったの」キリッ

ユミル「いや無理あるだろ」

アニ「…………わ、私の趣味じゃない」ブンブン

マルコ「そんな恥ずかしがらなくても、別に僕たちは気にしないよ?」

ユミル「そうそう。お前が乙女趣味だってことはこの前の人形への態度で丸わかりだし」

アニ「違うの、本当に違うの……! 私の……私の、趣味じゃないっ……!」プルプルプルプル...

マルコ「アニの趣味じゃないのに、手放さないできちんと持ってるってことは……もしかして、誰かにもらったのかな? それで仕方なく持ってるとか?」

アニ「……! そう、もらったんだよ!! だから私の趣味じゃないから!!」コクコクコクコク


ユミル(アニにこんな乙女チックな裁縫箱を贈る奴なんていたかぁ……?)

マルコ(ミーナ辺りにもらったのかな? 『裁縫するから針と糸を貸して』って頼んだら、お下がりの裁縫箱をもらったとか……でもあそこまで凝ってる装飾は不自然だよなぁ、名前入りだし)

アニ(なんなの……? なんなのこれ……! 新手の嫌がらせ? 『どうせお前は裁縫もできないんだろう』って嫌味? 『初心者にはこんなお子様みたいな裁縫箱で充分だろう』ってこと? しかも名前まで律儀につけて……!)

アニ(もうあったまきた……!! あいつら、絶対に見返してやる!!)

アニ「決めたよマルコ。――私、裁縫界の女神になる」キリッ

ユミル「何言ってんだ、私がなるんだ」

マルコ「……うん。二人の心意気は買っておくよ」

今日はここまで 最後にage
次回は来月になります


マルコ「それじゃあ……はい、これ」スッ

ユミル「……? なんだこの切れっ端は」ピロン

マルコ「端切れだよ。取り敢えずそれにこのボタンを縫いつけてみてほしいんだ。どれくらい裁縫ができるかわからないと、こっちもどう教えたらいいのか見当がつかないからね」

ユミル「ほう……つまりマルコは、私たちがボタン付けもできねえと思ってるわけだ?」

マルコ「できる?」

ユミル「できない」ブンブン

アニ「無理」ブンブン

マルコ「だよね。付け方は?」

ユミル「それくらいはわかる。馬鹿にするなよ」

アニ「……ごめん、知らない」

マルコ「ううん、謝らなくていいよアニ。正直に答えてくれてありがとう」ニコッ

マルコ(ということは……アニは知識がないからできないって可能性もありえるな。ユミルは知識はあるけど技術が伴ってないのかもしれない。――よしよし、なんとか方針が立てられそうだ)フムフム

マルコ「それじゃあユミル、ボタンの縫いつけ方をアニにもわかるように教えてくれる? ざっくりした感じでいいから」

ユミル「わかったよ、任せときな。――まずはこの4つの穴それぞれに糸を通すだろ」シュッ

マルコ「はいちょっと待った」


ユミル「なんだよマルコ、ここからが大事なんだぞ」

マルコ「もう既に違うんだけど、そこからどうするか一応聞いておこうかな。後学のために」

ユミル「後は縫い付けたい位置に針をぶっ刺して……」ブスッ

マルコ「……」

ユミル「ええっと……マルコ、接着剤はどこだ?」

マルコ「どこに使うつもり?」

ユミル「決まってんだろ。この布と針と糸とボタンをまとめて接着剤でくっつけるんだ」

マルコ「針は使い切りの道具じゃないんだけどな……」

ユミル「そうなのか……!? で、でもミカサは縫い物する度に針をボキボキ折ってたぞ!?」

マルコ「でもその針を服に刺しっぱなしにはしてなかっただろ?」

ユミル「……!」ポン

マルコ「……わかったよ、ボタンの付け方は取り敢えず置いとこう。次は二人の道具の使い方を見たいから……そうだな、並縫いでもやってもらおうか」


アニ「並縫いって何?」

マルコ「説明してもよくわからないと思うから、実際に僕がやってみせるよ。――まずは二人とも、針に糸を通してくれるかな」

アニ「それくらい楽勝だね」フフン

ユミル「軽い軽い」ハハハ

マルコ「君たちの自信はどこから来るの?」

アニ「そんなこと言わずに黙って見てなよ」

ユミル「そう、私たちの華麗な糸通し捌きをな……!」

マルコ「……」


アニ「……」ツルン

ユミル「……」ツルン

マルコ「……」

アニ「……」グニュグニュ

ユミル「あっれー……? っかしいな、入んねえぞこれ……」ブツブツ...

マルコ「……」

アニ「……っ」グスッ

ユミル「このっこのっ」グイグイ

マルコ「……わかった。糸通しは僕がやるよ。進まないからね」

ユミル「すまねえなぁマルコ」

アニ「お願いね」

マルコ「二人も少しずつでいいから覚えてくれよ? ……よっと」シュッ

アニ・ユミル「!?」


マルコ「はいできた。糸の端も玉結びしておいたよ。――じゃあやってみようか、二人とも」

アニ「マルコって魔法使いだったの?」

マルコ「なんでそうなるのかな?」

ユミル「だってお前……こんなちんまい穴にこんな細っこい糸を通すなんて人間業じゃねえぞ? ……もしかして、お前巨人なのか」ハッ

マルコ「その理屈で言えば裁縫できる人間はみんな巨人になっちゃうよ? 君の大好きなクリスタも人間なのか?」

ユミル「何言ってんだマルコ、クリスタは女神だよ」ハハハ

アニ(そうか……! ライナーとベルトルトが裁縫上手いのは、巨人だからだったんだ……!)ハッ

アニ(……あれ? でもおかしくない? 私も巨人化できるのに一人だけ仲間はずれなんて)

アニ(女型は対象外なのかな……今度ライナーとベルトルトに聞いてみよう)

マルコ「僕がすごいんじゃなくて、この針がいいんだよ。穴が大きいから糸が通しやすいんだ。……アニ、いいものをもらったんだね」


アニ「……この針、そんなにいいものなの?」

ユミル「はぁ? 針どころか裁縫箱からして高級品だろ? 針山も糸切りバサミも何もかも新品じゃねえか。……使い勝手は別にしてよ」

マルコ「そうだね、デザインが前衛的なのは置いといて……これをくれた人がアニのことを大事に思ってるんだって、僕にもわかるよ」

アニ「……違うよ。これをくれた奴は、私がどういう反応をするのかを見てからかいたいだけさ。私のことなんかちっとも考えてないよ」ムスッ...

ユミル「そうか? 私にはそいつの気持ちがなんとなくわかるけどな。……お前みたいに四六時中むっつりしてる奴のことなんか、気になってしょうがねえだろうよ」

ユミル「でもさ、からかってでもそういう……お前が何かしら反応する姿を見たかったんじゃねえの? ……実際見てて面白いし」プッ

マルコ「ユミル……一言余計だよ」

ユミル「ただ慰めるってのは性にあってねえんだよ。これくらい見逃してくれ」

アニ「……」

アニ(ユミルの言うことを信じるなら……あいつらなりに、私のことを心配してくれたってことでいいのかな。……だったら私、さっきライナーに悪いことしちゃった)

アニ(ベルトルトも一緒に用意してくれたんだろうし、あとでお礼言わないとね。……ハートのチャームとショッキングピンクはありえないけど)

アニ(……裁縫、頑張ろうっと)


マルコ「まずは僕がお手本を見せるね。……最初に、布の裏から針を刺す」ブスッ

アニ「……」ジーッ...

ユミル「それでそれで?」

マルコ「刺した針を表から抜いて、今度は表から針を布に刺す。そしたら針が裏に出てくることになるから、それをまた布に刺す……これを繰り返すんだ」

アニ「……? それがどうして並縫いになるの?」

マルコ「それはね……よっと」チクチク シュッ

マルコ「ほら見てごらん、布地に一つ一つの縫い目が綺麗に並んでるだろ? だから並縫いって言うんだ」

ユミル「へー……」

マルコ「他にも、横から見た布地が波打ってるように見えるから……っていう説もあるんだけど今は関係ないから置いておこうか。二人とも、やり方はわかった?」

アニ「……なんとなく」

ユミル「完璧だな」

マルコ「ユミルの自信はどこから来るんだ? ……それじゃあ、ちょっと一人ずつやって見せてよ。下手くそでもいいからさ」

ユミル「よし、ならまずは私からやるよ。……年長者の意地見せてやる」スッ


マルコ「僕は基本的に口出しも手出しもしないからやって見せてくれ。……さてユミル、最初は何をするんだっけ?」

ユミル「決まってんだろ? 布の裏から針を刺すんだ。……ん?」ピタッ

アニ「……? どうしたの? まだ何も始まってないけど」

ユミル「……マルコ」

マルコ「何?」

ユミル「この……この布地の裏はどっちだ……? 見てもよくわからないんだが……」オロオロ

マルコ「ああ、いや……裏って言うのは説明をわかりやすくするために言っただけだから、ユミルの好きな面から刺していいよ」

ユミル「真横でも?」

マルコ「どうしてそうひねくれた回答をするのかな? ……もういいや、僕が決めるね。こっちが裏だよ」

ユミル「おっしゃあ!」ブスッ


マルコ「……それだと布の端に刺しすぎだ。縫ってるうちにほつれるよ」

ユミル「おおっと……マルコ、そんなこと言って私を脅してるのか?」

マルコ「なんで脅しの言葉に聞こえるんだ……」

ユミル「だがそんなことじゃ私の裁縫魂は鎮まらな……あっ」シュルンッ

マルコ「……」

ユミル「ああー……」シュルシュルシュルシュル...

マルコ「……」

ユミル「……」ションボリ

マルコ(実はユミルって天然なんだろうか……てっ、天然!? ユミルって天然だったのか!?)

アニ(ユミルったらなかなかやるね……! 私は裏とか表とかあやふやで進めようと思ってたのに、そこに気がつくなんて……まだ目覚めてないだけで、ユミルの本当の姿は裁縫の天才なのかもしれない)


マルコ「……よし、大体問題点はわかった。次はアニの番だ」

ユミル「あれだけでわかったのか……マルコ、お前天才だったんだな」

マルコ「君たちの裁縫に対する理解能力も天才並みだよね。コニーと並ぶよ」

アニ「天才のバーゲンセールだね。……さて、まずは布に針を刺すんだったかな」シュッ

アニ(それにしても……まさか私が裁縫をやることになるなんてね。あの時は思いもしなかったよ)

アニ(あれは……確か、あいつらと会ってからしばらくした時のことだったかな……)


―― アニの回想

アニちゃん(5)「らっ、らいなぁっ、べるっ、べるとるとっ」ヒックヒック

ベルトルトくん(5)「!? アニ、どうしたの!? なんで泣いてるの!?」

ライナーくん(6)「だれかにやられたのか!?」

アニちゃん「ちがっ、ちがうのぉっ、そ、そこで、そこでころんでぇっ……ぼたんが……っ」プラーン

ライナーくん「あー……取れちまったのか」

アニちゃん「ごめっ、ごめんなさっ、ごめんなさいっ」グスグス

ベルトルトくん「いいよいいよ。それよりアニ、ケガはしてない? お膝見せて?」

アニちゃん「……ん」グスッ

ライナーくん「すりむいてんじゃねえか……ベルトルト、手当てしてやってくれ。俺はちょっと出かけてくるから」

ベルトルトくん「うん、わかった。――さあアニ、井戸に行こう? まずは傷口洗わないと」


アニちゃん「……つめたい」

ベルトルトくん「ほら、顔も拭こう? ハンカチ貸してあげるから」

アニちゃん「つめたいからいや」プイッ

ベルトルトくん「そんなわがまま言わないで……」

アニちゃん「だって……わたしたちは、放っておいても治るでしょ?」

ベルトルトくん「でも、そのままにしておいたら痛いじゃないか。傷にバイキンが入ったらもっともーっと痛くなっちゃうよ? いいの?」

アニちゃん「……じゃあ、服から先に拭いてあげて?」グスッ

ベルトルトくん「服から……? なんで?」

アニちゃん「だって、服は、なおらないから……わたしよりもっと、いたい思いしてるもん」ズズッ

ベルトルトくん「……そうだね、服は直らないよね。あはは、アニはいい子だなぁ」ポンポン

アニちゃん「……」ゲシッ

ベルトルトくん「いたい!」

アニちゃん「……年下扱いしないでっていつも言ってるでしょっ」プイッ


ライナーくん「おーいベルトルト、アニ! ばんそうこう持ってきたぞ!」タタタッ

ベルトルトくん「あっ、おかえり! ……? ライナー、そっちの箱はなんだい?」

ライナーくん「ははは、聞いておどろくなよ……針と糸だ!」ジャーン!

ベルトルトくん「ええっ!? それってお母さんの!? ……ま、まずいよライナー、そんなの持ってきたら怒られちゃうよ……」オロオロ

ライナーくん「あとでちゃんとあやまるから大丈夫だ! それに、早くその服直してやりたいだろ? アニ」

アニちゃん「……! うん、直してあげたい」コクコク

ベルトルトくん「でもライナー、裁縫なんかできるの? むしろ君は穴を開ける側なんじゃ……」

ライナーくん「甘いなベルトルト……はちみつのように甘いな! 穴をしょっちゅう開けてるからこそ、縫ってる母さんの姿はいつも間近で見てるんだ! ちゃんとどうやってやるかも覚えてるぞ!」

アニちゃん「……! ライナーすごい! 頭いい!」パチパチ

ライナーくん「だろ? だろ?」エッヘン!


ベルトルトくん「じゃあ早く服を直してあげようよ。このままだと痛そうだし」

ライナーくん「そうだな、さて……じゃあ箱を開けるぞ」パカッ

アニちゃん「わぁっ……」ドキドキ

ライナーくん「おお……」

ベルトルトくん「……へえ、すごいなぁ。きちんと整頓してあるんだね」ソワソワ

アニちゃん「なんだかいけないことしてる気になるね」

ベルトルトくん「そうだね。……あ、これお母さんに触るなって言われたのだ」ヒョイ

アニちゃん「ふーん、変な形してるんだね。……先っぽ、尖っててこわい」ギュッ

ベルトルトくん「リッパーって言うんだって。糸を切る時に使うんだよ」

アニちゃん「へえ、すごーい……ライナー、これ全部使えるの?」キラキラキラキラ

ライナーくん「え? あっ、……ああ、もちろんだ! 全部使うぞ!」

アニちゃん「すごいすごい! 全部使って直すの?」キャッキャッ

ライナーくん「うん……うん、たぶんそうだ、全部使うぞ、なんたって俺は裁縫の天才だからな!」

ベルトルトくん(あっ……これダメなパターンだ)


ライナーくん「まず……まず、そうだ、針を使うんだったな、ええっと、針はどこだったかなー……?」

ライナーくん(……あれ、針と糸が見当たらないぞ? どこにあるんだ?)オロオロ

ベルトルトくん(! もしかして……ライナー、針山の位置に気づいてないのかな。ライナー、針山はここだよ、糸はそっち)チラッチラッ

ライナーくん「……! あった、あったぞ! 針と糸だ!」ヤッター!

アニちゃん「ライナーすごい!」ワーイ

ベルトルトくん「……」

ベルトルトくん(僕が教えたのに……)シュン

アニちゃん「それで? それで次はどうするの?」ワクワク

ライナーくん「次は……次はそうだ、針に糸を通すんだ! お前、確かピンクが好きだったよな。うん、糸はピンクにしよう」ゴソゴソ

ベルトルトくん「ライナー、アニの服は白だから、ピンクの糸だと目立っちゃうよ?」

アニくん「目立つほうがいいよ。遠くからでも見つけられるし」

ベルトルトくん「ああそっか、そういういいところもあるのか……ごめんライナー、続けて?」

ライナーくん「おう! ちょうど糸も見つかったところだ!」シュッ


ライナーくん「確か……ここの穴に、糸を通して……」スカッ

ベルトルトくん「……」

アニちゃん「……」

ライナーくん「……」スカッスカッ

ベルトルトくん「……」

アニちゃん「はいんないね」

ライナーくん「静かにしろって」

ベルトルトくん「……ライナー、僕がやるよ。ちょっと貸して」ハァ



―― 現在 兵舎裏

アニ(結局あの後、ベルトルトが全部やってくれたんだよね……懐かしいな。そんなこともあったっけ)フッ

アニ(このまま大人になっても、ライナーやベルトルトにやってもらおうって、内心思ってたんだけどな……)

アニ「……」ダラダラ


マルコ「アニ、すごい血だけど大丈夫!?」

アニ「これ……返り血、だから」

マルコ「誰の?」

アニ「自分の」

マルコ「……医務室行く?」

アニ「……一人で行けるから、いい」グスン

ユミル「でもよマルコ、アニはちゃんと並縫いができてるぞ? ――ほら、お前の言ったとおり縫い目だって均等だし。黒に赤でよく見えねえけど」

マルコ「それ、元は青の布地に白の糸だったんだけどねー……」

マルコ(アニは自傷癖を疑うくらい手に針刺してたな……うーん、技術はあるのにどうしてこうなるんだろう)

マルコ(取り敢えず、これで二人の問題点ははっきりしたけど……僕一人の手に負えるのか? あと二週間で形にできるんだろうか)

マルコ(これは……何かしら代案を考えておいたほうがよさそうだ)

今日はここまで 
前振り長いけどそろそろ闇の葬儀屋さんが出る……はず


―― 夜の男子寮

エレン「……」カリカリ...

エレン(この本いいな……俺でもスラスラ読めるし、何よりわかりやすい。後でマルコにお礼言っとかねえとな)カリカリ...

エレン「……よしできた! レポート終わり!」

ジャン「おうエレン、奇遇だな。俺もできたぞ」

アルミン「僕もだよ。コツさえ掴めば簡単だったね」

ライナー「お前ら早いな。さっき始めたばかりだってのにもうできたのか?」

ベルトルト「そういうライナーだって完成してるじゃないか。まあ僕もだけどね」

コニー「俺も俺も!」





エレン「……」


エレン「……なあ、それなんだ?」

ライナー「これか? ――これは針金で作ったミニチュアサイズの椅子とテーブルだ」コトッ

ベルトルト「僕のはケーキだね。チョコレートケーキ」チョコン

ジャン「俺はくまちゃんを作ったぜ。……おいコニー、服はできたか?」

コニー「ああ、お前らからたくさん材料もらったからな。最高に滾る衣装を仕立てたぜ!」シャランラー

アルミン「うわぁ、フリルがいっぱいでかわいいね! それじゃあ僕のうさちゃんに着せてっと……」

エレン「……」

ジャン「ティーカップと椅子の背もたれに置くクッションが欲しいところだな。クッションは俺が後で作っとく」

ライナー「ならティーカップは俺が調達してこよう。最近いい塗料を手に入れたからな、塗装も任せておけ」

コニー「ところでタイトルはどうする? なるべくファンシーでキュートな名前にしたいよな」

ベルトルト「いや、ここはシンプルに……そうだな、『森のお茶会』なんてどう?」

アルミン「それいいね、採用! ――というわけでエレン、これは『森のお茶会』だよ」

エレン「ちょっと待て」


エレン「お前ら縫い物はどうしたんだ? あんなに熱中してたのにもう飽きたのか? 何やってんだよ五人とも」

ベルトルト「スイーツデコ」ニュルニュル

ジャン「羊毛フェルト」チクチク

ライナー「カラーワイヤークラフト」バチンバチン

コニー「洋服作り」チクチク

アルミン「編みぐるみ」アミアミ

エレン「……よし、大体わかった。コニー以外は手を止めろ」

ジャン「手芸差別はよくねえぞエレン」プスプス

ライナー「俺はどんなジャンルも手に手を取り合うべきだと思う」グネグネ

ベルトルト「同じ手芸仲間なんだからね」ニュルニュル

アルミン「エレン、話してくれ……僕らは話し合うことができる!」アミアミ

エレン「だから話しあうために手を止めろって言ってんだろ。話聞け」


エレン「なあジャン、お前は何のためにここの訓練所に来たんだ? 憲兵団に入って内地に行くためだろ? 立体機動じゃなくて手芸の道を極めてどうすんだよ」

ジャン「ああそうだ。俺の夢は憲兵団に入って……可愛い物を愛でながら内地で暮らすことだ!」キリッ

エレン「おい余計なの混じってんぞ」

ライナー「俺にもあるぜ、絶対曲がらないものが……」グニュン

エレン「ワイヤー曲げながら言われてもな」

ライナー「帰れなくなった故郷に、失われた技術を持ち帰る……俺の中にあるのはこれだけだ」

エレン「もっと他に何かあったろ? ……そもそもアルミンはコニーに裁縫習いに行ったんじゃなかったのかよ。編み物に転向したのか?」

アルミン「だってさエレン、よく考えてみてよ」シュルッ


アルミン「いいかい? ここにミカサがいるとするだろ?」スッ

エレン「うん……うん、その毛糸の輪っかで何するんだ? あやとりか?」

アルミン「違うよ。こうしたほうがわかりやすいと思ってね。―― ミカサのマフラーをエレンが巻いてあげたら……ほら、これで一本の線になった」スッ...

エレン「……」

アルミン「そして僕がミカサのマフラーを直してあげるとする。……あ、指が足りないや。エレン、僕の役やってくれる?」

エレン「……ああ」スッ

アルミン「ありがとう。――ほら見て、僕たちの前には綺麗なトライアングラーができたでしょ? 素敵だと思わない?」ニコッ

ジャン「そこにミカサを褒める俺が加わってスクエアに」スッ

ライナー「ジャンを慰める俺たちが加わって」スッ

ベルトルト「出来上がるのはヘキサゴン」スッ

エレン「なんでお前らが加わってんだ」


エレン「しっかりしろよ! 俺たちは手芸を極めにここに来たんじゃない、巨人を駆逐するために兵団に入ったんだろ!?」

ライナー「! それは……」

ベルトルト「……そうだね、エレンの言う通りだ。巨人とは……仲良くなれない……」

コニー「待てよ! ……巨人だって入れてやりゃいいじゃねえか」

ジャン「はぁ? お前何言ってんだ、巨人がこの裁縫の輪に入れるわけねえだろ!」

コニー「そんなわけねえよ! だってほら、この指が超大型巨人と鎧の巨人だとするだろ?」スッ スッ

ベルトルト「……!」

ライナー「これは……」

コニー「ほら見てみろよ、ちゃんと輪の中に入れたじゃねえか……!」

エレン「指入れただけだろ」

コニー「こいつら以外の巨人だってそうだ……! なあ、お前らの力も貸してくれ! 他の巨人も輪の中に入れてやるんだ!」

ジャン「おうっ、任せとけ!」

アルミン「この場には六人いて、人差し指は十二本あるから……よしっ、十二角形になったぞ!」

エレン「……」


コニー「違ぇよアルミン、よく見てみろ……これは十二角形なんかじゃない」

アルミン「え? 十二角形じゃないって――まさか」ハッ

ジャン「こ、この形は……!」

コニー「ああそうだ! ――綺麗なまん丸になってるだろ?」

ベルトルト「コニー……君には最初からこの形が見えていたっていうの……?」

ライナー「……大したやつだぜ、全く」フゥ





一同「「「「「これがサークル、サークル・オブ・ライフ……!」」」」」





エレン「…………」

エレン(こいつらの話してることが何一つわからないのは、俺が馬鹿だからなんだろうか……)

エレン(あのコニーが、アルミンやライナーと対等に話してるんだよな……もしかして、俺が間違ってんのか……?)

保守がてら投下 短くて申し訳ない 保守してくれた人ありがとう


―― 夕方の資料室

マルコ「……」ペラッ

マルコ「……」

マルコ「……はぁ」パタンッ

マルコ(駄目だ、これだけ探しても見つからない……そもそも手芸の教本なんて、訓練兵団の資料室に置いてあるわけがないんだよな)

マルコ(他に何か……あっ、応急手当ての本がある。これなら――)パラパラ...

マルコ(……これも駄目か。せめて糸通しのテクニックが載ってたらよかったんだけど)パタンッ

マルコ(困ったなぁ……次の休暇になったら本屋に買いに行こうか? でもそれから教えるんじゃ実習には間に合わないし……)

マルコ(これはもう、僕以外の誰かに教えてもらったほうが手っ取り早いんじゃ……うん?)





クリスタ「……」キョロキョロ


マルコ「……クリスタ、どうしたの? 何か用事?」ヒソヒソ

クリスタ「あ、マルコ……ねえ、ジャンを見なかった? さっきから探してるんだけど、見つからなくって……」

マルコ「ジャン? いや、見てないよ。訓練終わってすぐくらいからずっとここにいるけど、一度も来てないと思う」

クリスタ「そっか、ありがとう。――でも困ったな、どうしよう。急いでるのに……」ウーン...

マルコ「ジャンに何か用事だったの? ……って、あれ? クリスタが持ってるのって、もしかして裁縫の本……?」

クリスタ「これ? ううん、違うよ。これは羊毛フェルトの本」ペラッ

マルコ「羊毛……?」

クリスタ「そう! ――えっとね、この綿をこっちの針でチクチク刺すとね、丸くなって固くなって人形になるの!」ジャーン!

マルコ「へえ、綿が人形に……なんだか面白そうだね。よかったらその本少しだけ見せてくれる?」

クリスタ「いいよ、はいどうぞ!」

マルコ「ありがとう。……じゃあ少し読ませてもらうね」ペラッ...


マルコ(へえ、図解で解説してるんだ。便利だな……こういう本があったら、アニやユミルに教えるのもスムーズに出来そうだ)ペラペラ...

マルコ(糸通しの方法は……あるわけないか。糸は使わなさそうだしね)ペラペラ...

マルコ(……あれ? ここに書き込んである字、なんだかジャンの字に似てるような――)

クリスタ「ところでマルコは資料室で何してたの? お勉強?」

マルコ「え? ああいや、ちょっと探してる本があってね。――すごく参考になったよ。ありがとう」パタンッ

クリスタ「どういたしまして。――本が見つからないの? だったら一緒に探してあげようか?」

マルコ「ううん、ないってわかりきってる本を探してたから別にいいんだ。……あっ、でも」

マルコ(クリスタなら、裁縫に関する本を何冊か持ってるんじゃないかな……聞くだけ聞いてみようか)

マルコ(他の人とは違って、誰かに不用意に話したりすることもないだろうしね。それじゃあ早速――)


マルコ「……あのさ、クリスタに少し相談があるんだけどいいかな」

クリスタ「私に?」キョトン

マルコ「すぐ終わる話だし、終わったら一緒にジャンを探すの手伝うからさ。……いい?」

クリスタ「うん、大丈夫だよ。私でいいなら喜んで!」ニコッ

マルコ「ありがとう。……それじゃあ、ちょっとだけ移動してもいいかな。ここじゃ他の人の迷惑になるし、できるだけ人に聞かれたくない話だから」

クリスタ「秘密の話なの? ……なんだかワクワクするね!」ワクワク

マルコ「あはは、そう言ってもらえると少しは気が楽かな。……じゃあ、少しついてきてくれる?」


―― 兵舎裏

クリスタ「……」ガサガサ

マルコ「……」

クリスタ「……」キョロキョロ

マルコ「……あのさクリスタ」

クリスタ「待ってマルコ、まだ近くに誰か人がいるかも……!」ガサガサ

マルコ「……」

マルコ(弱ったな……何故か知らないけど、クリスタに妙なスイッチが入ったみたいだ。もう二十分は周囲を確認してるぞ……)ハァ

クリスタ(男の子と二人きりでお話ししてる姿をユミルに見られるわけにはいかないもんね。念入りに確認しなきゃ……!)キョロキョロ

クリスタ「……よし、大丈夫みたい。近くには誰もいないよマルコ!」グッ

マルコ「……満足した?」

クリスタ「うん、ばっちり! ――それで、話ってなぁに?」

マルコ「……ええっとね」


マルコ(あまりストレートに話したら、ユミルたちのことだって気づかれちゃうかもしれないな。……さて、なんて言おうか)

マルコ(今だけジャンの名前を借りようか? ……いや、ジャンは糸通しくらいは普通にできたはずだ。後からバレたらジャンにも迷惑がかかる)

マルコ(……仕方がないな。名前は明かさないようにして、話を続けよう)

マルコ「クリスタは、次の野戦治療実習で何やるかは知ってる?」

クリスタ「……安心してマルコ」ギュッ

マルコ「え? 何が?」

クリスタ「次は私、絶対に誰も死なせないから……!」グッ...

マルコ「……」

マルコ(……ああそっか、そういえばユミルが話してたっけ)

マルコ「あの……ごめんねクリスタ、そういう話をしたいわけじゃないんだ」

クリスタ「死体?」キョトン

マルコ「違うよ。……あのさ、次の実習では針と糸を使うだろ?」


マルコ「僕の友だちに、裁縫が不得意な子が何人かいてね。――実は僕、彼らに裁縫の基礎を教えて欲しいって頼まれてるんだ」

クリスタ「へえ、そうなんだ……マルコは裁縫できるの?」

マルコ「ひと通りはね。でも、流石に人に教えられるほどうまくはなくってさ。彼らのこともなんとかしてあげたいとは思ってるんだけど、どうも僕の手には負えなさそうで困ってるんだよね」

クリスタ「男の子なら裁縫にはあんまり馴染みがないから、教えるのも大変だよね。仕方がないよ」ウンウン

マルコ「……うん」

マルコ(実は女の子二人なんだけどな……訂正するわけにはいかないけど)

クリスタ(そう考えるとコニーやジャンってすごいよね。今じゃ裁縫以外にも手を出してるし……あ、そうだ)

クリスタ「ねえマルコ、それならコニーがやってる手芸教室に来ない? みんな親切だから丁寧に教えてくれると思うよ?」

マルコ「うーん、それはかなりありがたい申し出なんだけど……彼らはそのことをみんなに知られたくないらしくてね。人がたくさん集まるところはちょっと」

クリスタ「そっかぁ……何か他に方法はないのかな」ムー...


マルコ「うん、だから僕の話っていうのはそのことでね。――クリスタが持ってる本の中で、初心者用の裁縫の本ってある? もしあったら貸してもらえるとありがたいんだけど」

クリスタ「! それなら私持ってるよ! しかも図解が大きく載ってる本!」

マルコ「本当!?」

クリスタ「……あっ、でもちょっと待って」

クリスタ(あの本は今ライナーに貸してるんだよね……確か昨日、巻末の付録のレース見本を写したいって言って持ってっちゃったんだった)

クリスタ(昨日の今日で『一旦マルコに貸してあげて』ってお願いするのは、ちょっと失礼だよね……)

マルコ「クリスタ? どうしたの?」

クリスタ「……ごめんねマルコ。貸してあげたいのは山々なんだけど、ちょうど昨日、他の子に貸しちゃったばかりなの」シュン

マルコ「えっ、そうなのか……タイミングが悪かったな」

クリスタ「でも本がないと、マルコもその子たちも犠牲になるお人形さんたちも困るよね……これ以上死体を作るわけにはいかないし……」ブツブツ...


クリスタ「そうだ、コニーに直接教えてもらうっていうのはどうかな?」ポンッ

マルコ「コニーに? ……でも他の人がいるところは」

クリスタ「ううん、そうじゃないよ。私たちのいるところへマルコたちが来るんじゃなくて、マルコたちがいるところへコニーに行ってもらうの! これなら他の人のことは気にならないでしょ?」

マルコ「……なるほど。いい考えかも」ポン

クリスタ「でしょ? ――本当は私が手伝ってあげられたらいいんだけど、他の人に教えてあげられるほど上手じゃないから……ごめんね?」

マルコ「ううん、その提案だけでもすごく助かるよ。ありがとう。……じゃあ早速、コニーのところに行って話をつけないと」

クリスタ「それなら私がお願いしておくよ。これからコニーのところに行く予定だし」

マルコ「いや、そこまでしてもらっちゃ悪いよ。僕が自分で――」

クリスタ「いいの! お手伝いできないんだからこれくらいは私にさせて? ……ねっ、お願い」ギュッ

マルコ「……じゃあ、お願いしようかな」

クリスタ「うん、任せておいて!」ニコッ

並行して進めている他のSSに手こずっているうちに、こちらの更新まで停滞してしまいました
こっちのSSしか読んでいない方には申し訳ないです

こっちのおまけの話も終わり方は決めている&書きためはちまちまとやっているので、気長に待っていただけると(と何回言ってるかわかりませんが)ありがたいです
次は一ヶ月空け(たく)ない


―― しばらく後 兵舎裏

マルコ「……と、いうわけなんだけど」

アニ「……コニーに」

ユミル「教えてもらう……だと……?」

マルコ「うん。……本当は僕が君たちに全部教えてあげられたらよかったんだけどさ、僕もお世辞には上手いとは言えないし、ここはもう少し上手な人の手を借りようかと思って……」

アニ「…………」

ユミル「…………」

マルコ「……思ってたんだけど、駄目かな。やっぱり」

アニ「……いや、いいよ。あんたがそう判断したんならそれで構わない」

ユミル「だな。……人形はともかく、裁縫については元々私らの問題だ。何もかもお前に解決してもらおうってのは甘えすぎだろ」

マルコ「甘えすぎってことはないと思うけどね。困ったら助けあうのは当然のことだろ?」

ユミル「……」ハァ

アニ「あんたさぁ……」

マルコ「?」


ユミル「……取り敢えず、マルコの人間性の問題は横に置いておこう」

アニ「そうだね、後でなんとかしようか」

マルコ「えっ? 人間性って……酷いなぁ、そんなにおかしいつもりはないんだけど……」シュン

ユミル「欠点って自分じゃ気づきにくいもんだからな、気にするこたぁねえさ。――さて、そうと決まれば準備をしないとな。アニも手伝えよ」シュルッ

アニ「準備?」

ユミル「いくらなんでも素面でご対面ってわけにはいかないだろ。一応私らにもプライドやメンツってもんがあるんだからさ」ゴソゴソ...

マルコ「……? ユミル、その暗幕は何に使うんだ? テントでも張るのかい?」

ユミル「こんなちっちぇ布でテントなんか張れねえよ。これは変装に使うんだ」

マルコ「変装……? 顔にでも巻くの?」

ユミル「違う。――これで服を作る」キリッ

マルコ「ごめんちょっと意味がわからない」ブンブン


ユミル「まあ、実際に見ないと信じられないよな。――よーしアニ、手を広げろ。私がやってる手順をよく覚えるんだ。後からお前にもやってもらうからな」シュルッ...

アニ「了解」スッ

マルコ「えっ? ――ちょっ、ちょっと待ってくれ、本当に? 本当にその一枚の布で服を作るのか?」

ユミル「布一枚を笑う奴は布一枚に泣くんだぞ、マルコ」

マルコ「いや笑ってはないけど」

ユミル「裁縫は不得意でもこれは得意なんだ。昔取った杵柄ってやつだな。……ん?」シュルシュル...

マルコ「……」プイ

アニ「……? マルコ、なんで目を逸らしてるの?」

マルコ「だって、ほら……仮にも女の子が着替えてるわけだし、真正面から見るわけには……///」カアアッ...

ユミル「ったく、マルコは本当に真面目ちゃんだなぁ……別に素肌が見えるわけでもあるまいし、今作ろうとしてるのだってただの外套だぞ? 気にしすぎだろ……」ブツブツ...

マルコ「それでも気になるものは気になるんだよ! ――あ、アニだって嫌だろ? 仮にも服を仕立ててもらってるのに、男にそういうところを見られるのなんか……」チラッ

アニ「……」


アニ(何これすごい、ただの布がちゃんとした服になっていく……! 布一枚でこんなこともできるの……!?)

アニ(この前からユミルには驚かされっぱなしだ……きっとこれが、才能っていうものなんだろうね……)

マルコ「……? アニ? 聞いてる?」

アニ「――凄い才能だ」

マルコ「え? ……ああ、ユミルのこと? うん、確かにすごいとは思うけど……僕の話聞いてた?」

アニ「何が?」キョトン

マルコ「……聞いてなかったんだね。別にいいけど」シュン

ユミル「ほい、これでトップスの出来上がりっと。そんで仕上げはこれを使う」チャキッ

アニ「……? 何それ」

ユミル「安全ピンだ。これで補強する」プスッ

アニ「安全ピンって……要するに針でしょ。危なくない?」

ユミル「よく考えてみろよアニ。――なんで安全ピンって名前がついてると思う?」

アニ「……! もしかして、絶対に手に刺さらないってこと……!?」ハッ

マルコ「そんなわけないと思うんだけどなー」ボソッ


アニ「待って。それなら、その……安全ピンとやらで裁縫はできないの?」ピコーン

マルコ「いきなり何を言い出したの君は」

アニ「だって安全なんでしょ? ――ほら見なよ、ピンの端にちょうどよく糸を通す穴が空いてるじゃないか」

ユミル「……! ほ、本当だ……!」ガーン

マルコ「待って待って、なんで君まで驚いてるの? ユミル」

ユミル「これまでずーっと安全ピンを触ってきたが、糸を通すなんてこと少しも考えなかったからな。目から鱗が落ちる思いだ……!」ドキドキ...

ユミル(常識にとらわれない柔軟な発想……! なるほど、こいつが上位にいる理由がわかった気がするな……)ジッ...

マルコ「いやいや……考えなかったも何も、普通の人はそんなこと思いつきすらしないからね? ――あのね、アニ。それは糸を通す穴じゃなくて、ピンを開くためのバネなんだよ」

アニ「えっ?」

ユミル「えっ?」

マルコ「だからなんでユミルも驚いてるの? ……逆に聞きたいんだけど、君はこの穴のことをなんだと思ってたんだ?」

ユミル「……私はてっきり、安全ピンの穴はいわゆるオシャレ穴の一種かと思ってたんだが」

マルコ「オシャレ穴? なにそれ?」

ユミル「ほら、ズボンだの上着だの無意味にビリビリ破ってる奴いるだろ? あの穴だよ」

マルコ「…………」


マルコ(どうしよう……ここまではなんとか付き合ってきたけど、やっぱりアニとユミルの考えがまるでわからない……裁縫に関しての知識が自由すぎるよ、二人とも……)

マルコ(二人が裁縫を習ってる間、僕はどこかに行ってようか……いやいや、僕が投げ出したら二人はもっと……それこそ行き着くところまで行っちゃうはずだ。コニー一人に押し付けるわけにもいかないし、僕がちゃんと見張ってないと……!)チラッ



アニ「ところでユミル、どうして暗幕にしたの? どうせなら教官室のカーテンにしたらよかったのに」

ユミル「確かにあの花柄は可愛いと思ったんだけどなー。流石に使用中のもんはパクって来れねえだろ。あと目立つ」プスッ

アニ「今度あれにしようよ。くすんでるけどピンクでかわいいし」

ユミル「まあ待てよアニ。私が何の考えもなしに黒を選んだと思うのか? ちゃんとお前のことを考えてこの色にしてるんだぜ?」

アニ「私のことを……?」

ユミル「どうして布が黒いのか……少し考えればわかるはずだ」

アニ「……! もしかして、服に血が付いても目立たなくするため……?」

ユミル「正解だ。――さあ、二人で楽しく裁縫を学ぼうぜ。アニ」

アニ「……ふふっ、楽しくなってきたね……!」ワクワク



マルコ「……」

マルコ(不安だ……)ズーン...


―― しばらく後 兵舎裏

コニー「えーっと……?」キョロキョロ

コニー(クリスタが言ってたのはここだよな? 誰もいねえみたいだけど……少し待ってみるか)

コニー(ってか、急に裁縫を教えてくれって言われてもなー……いったい誰なんだ? クリスタは名前教えてくれなかったけど……)

コニー(しかも秘密にしてくれって約束までさせられちまったが……うーん、自信ねえなぁ……俺、そこまで口は堅くねえし……)

コニー(そもそも、男子が相手なら顔見たらすぐわかるよな? 秘密にする意味ってあんのか?)

コニー(女子ならクリスタ本人に教えてくれって頼むだろうし……なんで俺なんだ? もしかして、訓練兵以外の人間なのか?)

コニー(教官……は、ねえよな。キース教官だったら面と向かって頼んでくるだろうし、それ以外の教官は俺たちのこと知らねえだろうし……ということは……?)

コニー「ま、まさか――馬?」ハッ



   「――動くな」



コニー「うわっ!?」ビクッ


コニー(な、なんだ……!? 後ろに誰か……)クルッ...

  「振り向くんじゃあないっ!!」

コニー「ひぇっ」ビクッ

   「ちょっ……どうしたのさ二人とも、いきなり大声出して……」ボソボソ

  「あんたは黙ってな。ここから先は私たちの仕事だ」ボソボソ

コニー(相手は……男一人に女二人、か……? くそっ、武器があるならまだしも、こんな大人数の相手は俺には無理だ……!)ビクビク...

   「おいお前。ここに来るまでに誰かにつけられてねえだろうな?」

コニー「つけられ……? い、いや、わかんねえけど……?」

  「……ちっ」

   「これだから馬鹿は困る」

   「君たち教えてもらう立場なのになんでそんなに偉そうなの?」

   「こういうのは最初が肝心なんだよ」

  「そうだよ。下手に出たら舐められるからね」

コニー(!? 今、こいつら……「教えてもらう立場」って言ったか? ……え? 俺が教えるのか? こいつらに? 何を? ……ああ、裁縫か!)ポン


   「ていうかさ、こんな脅しみたいなことしなくても普通に頼めば」

  ・   「「嫌だ!!」」

   「君たち本当に仲いいよね」

コニー「頼めば……ってことは、やっぱりお前らが……?」

   「ほう……コニーのくせに察しがいいじゃねえか……」

コニー「!? お前、なんで俺の名前を知ってるんだ……!?」

   「名前なら僕も知ってるよ?」

  「身長が158cmだってこともね」

コニー「なっ……!?」

コニー(既に個人情報まで……!?)

   「出身はラガコ村だったよな? 家族は確か……お前を含めて五人のはずだ」

コニー「家族構成も……!? ちくしょう、お前らはいったい何が目的なんだ……!」ギリッ...

   「なんだ、知らずにここまで来たのか? ――私たちの目的は……お前に裁縫を教えてもらうことだ。それ以外にない」

  「……ねえ、ちゃんとコニーに話が通ってないみたいなんだけど? どういうこと?」ボソボソ

   「たぶん君たちの訳のわからないアドリブに混乱してるんだと思うよ。正直僕もよくわからないで参加してるんだけど」ボソボソ


コニー「……なるほどな、読めたぜ。俺の家族を人質に取って、無理やり裁縫の基礎を聞き出そうって魂胆だろ! その手には乗らねえぞ!」

   「ねえ、なんかコニーまで壮大な勘違いをしはじめたんだけど」ボソボソ

  「そう騒がないでよ。まだ慌てる時間じゃないから」ボソボソ

   「ほう、生きのいい小坊主め……果たしていつまでそんな大層な口を聞いてられるかな……?」ペチペチ

コニー「ひっ……!」ビクッ

コニー(な、なんだ……? 頬を何かで叩かれてる……? な、ナイフとかじゃねえよな……?)ビクビク...

   「……三角定規?」ボソボソ

  「静かにして」ボソボソ

   「お前を焼却炉にくべたら、さぞかしうまい蒸かし芋ができるんだろうな……芋女が涎垂らしながら頬張ってくれる様が目に浮かぶぜ……」ペチペチペチペチ

コニー「ひ、ひいぃぃいいぃぃ……」ガタガタ...

   「なんで君たちコニーを追い詰めてるの? 何してるの?」ボソボソ

  「どっちが上かを事前に教えてるだけさ」ボソボソ

   「……いや、考えるまでもなくコニーでしょ? 君たちが教えてもらう立場なんだから」ボソボソ

  「細かいことはいいんだよ。……さーて、そろそろ仕上げと行こうか」


   「なあ、お前……死にたくないよなぁ? 五体満足無事な身体で訓練所を卒業したいだろ? ん?」ペチペチペチペチペチペチペチペチ

コニー「そ、そりゃあもちろん……」プルプル...

  「だったら私たちに裁縫を教えるんだ。具体的には、そうだね……今度の野戦治療実習の日までに、私たちを裁縫のプロにしな」

   「待って待って、いくらなんでもそれは高望みし過ぎだよ。ね? コニー」

コニー「まあ、それくらいならできなくもねえけど……」

   「えっ、できるの!? この二人をプロに!?」

コニー「いや……ぷろ? ってのが何なのかよくわかんねえが……要するにお前らに裁縫を教えりゃいいんだろ? それくらいなら俺にもできるぜ」

   「それくらいって……驚いたなぁ、やっぱりコニーに頼んで正解だったか……」ボソボソ

   「よーし、それじゃあ早速教えてもらおうか。まずは糸通しのやり方からだ」

  「あと指から血が出ない縫い方も教えてね」


コニー「その前に、一つだけ聞かせてくれ。――お前らはいったい何者なんだ……?」

   「こっちの素性は明かせねえな。そういう条件でお前はここに来てるはずだぞ」

コニー「……俺は別に、根掘り葉掘り聞き出そうってわけじゃねえんだ。ただ……俺だけ一方的に何もかも知られてるってのは、気持ち悪いっていうか……」

   「僕もそう思う」

  「あんたはさっきからどっちの味方なんだい?」

   「特別誰かの味方になった覚えはないけど、今はコニーかな」


   「……ちっ、仕方ねえな。なら今回は特別に、私たちの組織名だけ教えてやるよ」

   「えっ、そんなのあったの? 僕聞いてないけど……」

  「さっき二人で一緒に考えたんだよ。ちなみにあんたもメンバーに入ってるからね」

   「脱退してもいいかな?」

  「駄目」

   「いいか? 耳の穴かっぽじってよく聞きな。私たちは――」





  「シルバニアファミリー……」





   「――闇の葬儀屋さん」





.

お待たせしました 今日はここまで! 次回に続く!


コニー「そ、葬儀屋だと……!? そんなもの、今の俺には必要ねえぞ!」

   「ああ、確かに必要ないのかもしれないな。……正しくは『今のお前』には、だろうが」

  「けどさぁ……あんたの今後の態度次第じゃ、ちょっとわからないよね……」

コニー「ひっ、ひぃぃ……」プルプル...

   「棺桶の中は暗くて寒くて狭いぞ……」

  「底は固いし寝心地は最悪だし、自由に動けなくて床ずれ起こしちゃうかもよ……?」

コニー「あわわわわわわわわ」ガタガタガタガタ

   「待った待った待った! 二人とも、必要以上に脅すのはやめなよ! ユミルは定規をしまって…… …………あっ」

  「あっ」


コニー「……! ユミル……? おい、今ユミルって言ったのか!? 聞き間違いじゃねえよな!?」

   「……ちっ、バレちゃ仕方ねえな。――毟るか」

  「了解」

   「じゃないだろ! ――二人とも、いい加減こういうやり方はやめようよ。今から僕らが頼むことを、コニーは笑ったりからかったりしないよ」

   「するだろ」

  「するだろうね」

   「しない。――もし何かあったら、コニーの代わりに僕が責任取るから。それならいいだろ?」

   「……」

  「……でも」


   「誰かに何かを頼むときってさ、頼む側が誠実じゃないと相手もきちんと応えてくれないと思うんだ」

   「正直に全部話して、素直に教えてもらうのが一番だよ。人を騙すようなこんなやり方は……今後の君たちにとっても、よくないことなんじゃないかな」

  「……わかったよ」

   「けっ、とことんイイコちゃんだなお前は…… ……仕方ねえな、振り向いていいぞ。コニー」

コニー「……お、俺が振り向いた途端に何かするんじゃ」

   「してほしいのか? んん?」ペチペチ

  「自力で向きたくないなら私がやってあげるけど? ただし身体と首は逆方向に回す」

コニー「そっち向く! そっち向くから!!」クルッ


コニー「……? ?? 誰だよお前ら」

ユミル「改めて自己紹介しようか。――私はユーミール」

マルコ「えっ」

コニー「んん……? お前、ユミルじゃねえのか?」

ユミル「そりゃ聞き間違いだな。もしくは誰かさんの言い間違いだ」

アニ「そして私はアーニャだ。よろしくコニー」

コニー「お、おう……? よろしく……??」

マルコ「……………………」

コニー「……それでさ、そっちのお前は……?」チラッ

ユミル「ああ、こいつの名前は――」

マルコ「……僕はマルコだよ」バサッ


ユミル「おいこらマルコ覆面取るなよ! あとお前のコードネームはマルロだ、訂正しろ!」

マルコ「訂正しないよ。元はといえばコニーを呼んだのは僕だ。僕にはコニーにきちんと説明する義務がある」

マルコ「コニー、色々と混乱させて悪かったね。――こんな妙な真似をしておいて言うのもどうかとは思うんだけど……もう一度、改めて僕からお願いさせてほしい」

マルコ「もしよければ、この二人に裁縫を教えてあげてくれないか? ……もちろん、タダでとは言わないよ。代わりに今度、僕が座学を教えるからさ」

コニー「……いいぜ」

マルコ「だよね、やっぱり断るよね…… ……えっ、いいの!? なんで!?」

アニ「私らの誠実さが伝わったんだね」ペチン

ユミル「やったなアニ!」ペチン

マルコ「絶対違うからそこの二人ハイタッチしない! ――本当にいいの? 嫌なら断ってもいいんだよ? コニー」

コニー「裁縫を教えてやること自体は大した手間じゃないしな、別にいいぞ。……ああそうだ、座学も教えてくれなくてもいいからな」

マルコ「えっ? でも、ただ一方的にこっちが教えてもらうってのも悪い気がするんだけど……」


コニー「座学は俺の友だちに教えてもらうからな。お前らみたいな怪しい奴らの手は借りねえよ」

マルコ「……」

ユミル「おい、あいつ私らの正体に気づいてないっぽいぞ」ボソボソ

アニ「髪型も変えたし暗幕で覆面もしてるからね。当然さ」ドヤァ

コニー「その代わり……二つだけ俺と約束をしろ。これが守れないなら俺はお前らに裁縫を教えねえ」プイッ

ユミル「毟ってもか?」

アニ「逆方向に回しても?」

コニー「ひぃっ……な、何をされてもだ! 教えねえったら教えねえ!!」ビクッ

マルコ「コニー、そっちの二人は無視していいから。――それで、約束って何?」


コニー「一つ目は、裁縫を悪用しないこと。二つ目は……俺の家族に手を出さないことだ」

マルコ「…………裁縫ってどうやって悪用するの?」

コニー「それを考えるのがお前らの仕事だろ!!」

マルコ「なっ……コニー、君まで何言ってるんだ! そんな仕事ないよ!」

コニー「何言ってんだよ、『闇の葬儀屋』だなんて明らかにそれっぽい悪いことしそうな組織名を名乗ってんじゃねえか! どうせ俺から裁縫を習った後に何かしらやばいことする気だったんだろ!」

ユミル「いやいや、むしろ人命救助だよなぁ」

アニ「だよね。酷い言いがかりもあったもんだよ全く」

マルコ「…………」

マルコ(コニーの勘違いの大半は二人のせいだと思うんだけどなぁ……)チラッ


マルコ「わかった、約束するよ。――このままずっと話してても時間がもったいないし、とにかくサッと教えてあげてくれないか? せめて今日中に、糸通しだけでも二人に覚えさせたいんだけど……」

コニー「ああー、慣れてないと難しいよな。糸通し」

ユミル「だよな! だよなぁ! 難しいよな!」コクコク

アニ「流石コニー、わかってるね」コクコク

マルコ「それで、糸通しがスムーズに出来るようになるにはどうすればいいのかな。何か方法ある?」

コニー「方法っつうか……練習しかなくね?」

ユミル「……あっそ」シュン...

アニ「……」ショボーン...

マルコ「いや、練習する前の段階というか……何か糸を通すコツとかってないかな? せめて感覚だけでも掴ませてあげたいんだ」


コニー「コツって言われてもなぁ……教えてやりてえけど、俺には使えない技なんだよな」

マルコ「使えない……?」

コニー「俺の母ちゃんがよくやってたんだけどよ、髪の毛を使って通すやり方があるんだ」

アニ「……! それって髪の毛何本いるの? 百本?」

コニー「一本でいいんだよ。でもある程度の長さがないと無理なんだ」

コニー「けど俺の髪は短いし、マルコの長さじゃギリギリ足りな――」

ユミル「おらぁっ!!」ブチンッ

コニー「うおっ!?」ビクッ!!

マルコ「わあ。豪快だなぁ」

ユミル「これなら足りるんだな!? な!?」ズイッ

コニー「お、おお、足りるぞ。――この髪の毛を糸に結びつけてだな……」チョイチョイ


コニー「で、結んだ髪の毛の端を針の穴に通した後に……髪の毛を引っ張る」シュッ

ユミル「おおー……! 通った……!」パチパチ

アニ「コニー……あんた魔法使いだったんだね。すごいよ……!」パチパチ

コニー「え、マジで……!? 俺魔法使いだったのか!?」

マルコ「違うよコニー。君は魔法使いじゃない」

コニー「……ちぇっ、違うのかよ……」シュン...

ユミル「とにかく、糸通しに関しちゃ勝ったも同然だな! よっしゃ!」グッ

アニ「髪の毛なら豊富にあるからね。これなら生涯糸通しで悩むこともなくなるだろうよ」

マルコ「いや、普通に練習もしようよ。というか君たち一生それで凌ぐ気なの?」

コニー「やり過ぎるとハゲるんじゃねえかなぁ、たぶん」

ユミル「……」チラッ

アニ「……」チラッ

マルコ「……二人とも、コニーは髪を抜きすぎてこういう髪型になったんじゃないからね。違うからね」


アニ(もし仮に、私がハゲたのをあいつらが見たら――)



ライナー『よぉアニ、今日は来るのが遅かっ……た、な…………?』

ベルトルト『……あのさ。……アニ……? だよね……??』

ライナー『…………』

ベルトルト『…………』

ライナー『それ、その……あのさ、あれだよな? イメージチェンジってのだろ? ベリーショートヘアって言うんだっけか、ははは……』

ベルトルト『……似合ってるよ、うん。……え? やだなぁアニったら、目なんか逸らしてないよ。大丈夫大丈夫、平気平気』

ライナー『ほ、ほら……お前若いからまだ生えてくるって、大丈夫だって! いざとなったら巨人化すればいいだろ、腕も足も生えるんだから髪の毛くらい…………生えるよな?』

ベルトルト『…………たぶん?』



アニ「…………」


ユミル(もし仮に、私がハゲたのをクリスタが見たら……)



クリスタ『……ねえユミル。本当はずっと前から言おうと思ってたんだけど……』

クリスタ『もしかして……今使ってるシャンプー、お肌に合ってないんじゃない? ……え? 私と同じの使ってるの?』

クリスタ『……それならさ、ストレスとかはない? 最近夜更かしはしてない?』

クリスタ『この前ミーナがね、髪の毛を引っ張ると目がすぐ覚めるって言ったじゃない? あれを実践……してない、んだよね。だよね、知ってたんだけど……確認っていうか……』

クリスタ『じゃあ……じゃあさ、夜中に私の見ていないところで頭のてっぺんを壁に擦りつけて寝たりしてない? ……してないんだね? そっか……』

クリスタ『……え? 言いたいことがあるならはっきり言えって?』

クリスタ『…………』

クリスタ『えっとね……本当は、こんなこと言いたくないんだけど……』

クリスタ『女の子なのに、髪の毛に気を遣ってないっていうのは……ちょっと、ね…………』



ユミル「…………」


アニ「……コニー、マルコ。私、一生懸命練習するよ」キリッ

ユミル「私もだ。髪の毛に頼らない女になってみせるぜ」キリリッ

マルコ「……? そう? ならいいんだけど……」

コニー「なあ、俺そろそろ行ってもいいか? 夕飯の時間になる前に使ってた部屋片付けねえと、教官にバレて怒られるんだよ。いい加減戻らねえと……」

マルコ「そうだね……今日はこれで充分だよ、コニー。――今日はありがとう、また来てね」

コニー「え? またこんなところに来なくちゃなんねえのか? お前らのほうからこっちの部屋に来れば――」

マルコ「……サニーちゃんって金髪が似合う可愛い子だね」ボソッ

コニー「よっしゃあ俺に任せとけ!」ガタガタガタガタ

今日はここまで 半年も空けてすみません 
体調を大幅に崩したりPC盛大にぶっ壊したりキーボードのAの部分が吹っ飛んだりしてました
今年中に終わらせたい(抱負)


――しばらく後 兵舎裏

ユミル「……」

アニ「……」

マルコ「……覆面、まだ取らないの? 二人とも」

ユミル「取った途端にコニーが戻ってくるかもしれないからな。……まあ、そろそろいい頃合いか」バサッ

アニ「……ふぅ」バサッ

ユミル「あー暑かったー……マルコ、水くれ水ー」ウダウダ

マルコ「そんな急に水って言われても……わかった、汲んでくるよ!」ダッ

アニ「行かなくていいよ、マルコ。――そんなことよりさ、なんであんたコニーの……、えっと……」

マルコ「妹さん?」

アニ「そう、その子。……サニーちゃん、だっけ」

ユミル「ああ、そいつは私も気になってたんだ。――なんでお前、コニーの妹の髪色なんて把握してるんだよ」

アニ「……マルコ、あんたまさか本気でコニーの妹を……!?」ゾッ...


マルコ「違う違う、コニーが前に話してくれたのを思い出しただけだよ。ちなみに妹さんの他に、マーティンって名前の弟くんもいるんだってさ」

ユミル「なーんだ、つまりコニーが自分から喋ったのか」

アニ「遂にあんたが非行に走ったのかと思ったんだけどね……心配して損したよ」

マルコ「僕の心配より大事なことがあるだろ? ――糸通し、寮に帰ってからもちゃんと練習してくれよ? もう実習まであまり時間がないんだからさ」

ユミル「まあ、コツも教えてもらったし楽勝だろ。充分間に合うって」ヘラヘラ

アニ「当日までにはモノにしてみせるよ。あんたの努力は無駄にしない」

マルコ「当日じゃ遅いんだってば……縫い方の練習もしなくちゃいけないんだよ? わかってる?」

ユミル「わかってるわかってる」

アニ「このペースなら超余裕だよ」

マルコ「このペースも何も、まだ糸通しすらできてないじゃないか……」

マルコ(不安だ……本当に実習までに間に合うのか……?)


マルコ「……あっ、そうだ。ところでこの人形どうしようか? そろそろ二人に渡そうと思ってたんだけど」ゴソゴソ

ユミル「……! そ、そうか、そうだな……まあ一人で一週間も持ってちゃ長いし、三日くらいの間隔で回したほうがいいよな、うん」ソワソワ...

マルコ「……次はユミルにする?」

ユミル「………………い、いやいやいや、私は別にそういう意味で言ったわけじゃないぞ? それにアニの意見もちゃんと聞かなきゃ不公平だよな? なっ?」チラッチラッ

アニ「次、ユミルでいいよ。私はその後でいい」

ユミル「……!」

マルコ「いいの? アニ、もしかしてユミルに遠慮してるんじゃないか?」

アニ「そういうわけじゃないよ。……今日受け取ったら、血塗れにしそうで怖い」

ユミル「……あー……」

マルコ「……なるほどなぁ……」


―― 夜の男子寮

エレン「……」ペラペラ

エレン(マルコが選んでくれた本、面白い上にわかりやすいなー……おっ、ここ座学で役立ちそうだ。メモしておこう……)カリカリ...

エレン(アルミンも本には詳しいけど、基本的に細かい字がびっしり並んだ本しか勧めてこないからな……内容も小難しいのが多いし、読むと眠くなるんだよなぁ……)

エレン「……」チラッ

ライナー「……」ペラッ カリカリ...

エレン「……なあライナー、その本やけに分厚いな。なんかの辞典か?」

ライナー「裁縫の本だ」カリカリ...

エレン「…………そっか」

エレン(聞かなきゃよかった……)ズーン...

エレン(なんだよ、勉強してたんじゃねえのか……っていうか最近、部屋で勉強してるのって俺だけじゃねえか? みんな消灯過ぎまで何かしら作ってるし……)


エレン「……一応聞くけど、さっきから何してんだ?」

ライナー「巻末に載ってるレースの見本を写してるんだ。この前作ったベンチに転写したら映えるかと思ってな」

ベルトルト「……お花のほうがいいのに……」ボソボソ

ジャン「……うさちゃん一択だろ、どう考えても……」ボソボソ

アルミン「……モノクマ柄にしないなんてわかってないなぁ……」ボソボソ

エレン「お前ら部屋のあっちこっちで文句言うなよ。怖ぇぞ」

コニー「それ、クリスタの本だよな。借りたのか?」

ライナー「ああ。ひたすら拝み倒してようやく貸してもらったんだ。今は本を買えるほど懐に余裕がないからな」

エレン(……そりゃ休みの度に手芸店行ってりゃ金もなくなるだろ)


ジャン「おいおいライナー、いくら懐が寒くても同じ辛さを他人に味わわせちゃあいけねぇな。……ほら、これ使えよ」スッ

ライナー「! これは……!」

エレン「……? なんだそのモッフモフしたの」

ジャン「ブックカバーだ」

エレン「ブックカバーにそんなにモフモフ感はいらねえだろ?」

ライナー「しかもこの手触りは、この前入荷したばかりのフリース生地じゃねえか……!」モッフモッフ

ジャン「ああ。――140×100で給金3ヶ月分だ」

エレン「高っ!?」

ジャン「そいつに着せてやりな。……今は夏とはいえ、夜は冷え込むようになってきたからな」

コニー「でもフリース生地は流石に暑くね?」

ジャン「うるせえな余計なこと言うと口縫い合わすぞ」

ベルトルト「ちょっと待ってくれ! ――本を読むならこれも欠かせないだろ?」スッ


ライナー「ほう……これは栞か? 布で作るとはなかなか洒落てるじゃないか、ベルトルト」

コニー「へー、よくできてるなー」

ベルトルト「ついでだから三色作ったんだ。これもブックカバーと一緒に使ってよ」

エレン「何のついでだよ」

ベルトルト「えっ? …………ちょ、ちょっとね」

ベルトルト(アニのお裁縫箱作るついで、とは言えない……)ダラダラ...

ジャン「この花は……もしかしてチューリップか? 確か花言葉は『博愛』『思いやり』だったよな」

エレン「は? なんで花言葉なんて覚えてんだよお前」

ジャン「何言ってんだ、こんなの一般常識だろ?」ドヤァ

エレン「…………」

ベルトルト「ちなみに黄色が『実らぬ恋』、白が『失われた愛』、そしてピンクが『真実の愛』だよ。エレン、覚えてね?」

エレン「……………………お、おう」

エレン(なんでわざわざ重たい意味の花言葉ばっかり選んできたんだ……? ベルトルト、なんか悩んでんのかな……)

アルミン「ライナー、僕からはこれを贈るよ。是非使ってくれ」スッ


ライナー「おお、アルミンも用意してくれたのか!」

アルミン「うん。トイプードル」

エレン「いらなくね?」

コニー「いらねえなぁ」

アルミン「でもかわいいでしょ? トイプー」

エレン「……それ、どうやって使うんだよ」

アルミン「文字を追うのに疲れたら眺めるんだよ。手持ち無沙汰になったら揉んでもいいし、一人が寂しくなったら見つめ合ってもいい」

アルミン「この編みぐるみは……いや、このトイプーは僕らの読書生活を豊かにしてくれる。必ずね」

コニー「なくてもあんまり変わらないと思うんだけどなぁ」

ライナー「……いや、みんな待ってくれ。お前らの気持ちは嬉しいが……これは受け取れん」

ライナー「これは俺の本じゃなくてクリスタの本だからな。栞はともかく、このブックカバーに合う本は持ってないから……もらっても、正直置き場に困る」

アルミン「トイプーは枕元に置くといいよ」

エレン「今のそういう話だったか?」


コニー「それなら、ブックカバーはクリスタに贈ればいいんじゃねえか? ジャンだって出来上がったもん返されても困るだろ?」

ジャン「……確かに困るな。俺もそんなでかい本持ってねえし」

ベルトルト「じゃあさ、僕の栞も一緒にクリスタにあげようよ。かわいいのが嫌いな女の子なんていないからね」

アルミン「トイプーは? トイプーは付けてくれないの?」

ライナー「そうだな、アルミンがよければトイプーも一緒にクリスタに贈ろう。……けどなぁ、こんなに細々としたのを一度に渡したら荷物になるんじゃねえか?」

エレン「問題はそこなのか?」

ジャン「だったらバラバラにならないように一つにまとめりゃいいだろ。俺のブックカバーにでも縫い付けておけよ」

アルミン「それはいい案だと思うけど……トイプーはともかく、栞は縫いつけたら使えなくなっちゃうよ。何か他に方法を考えたほうがいいと思う」

コニー「っつうかさ、ブックカバーも栞もトイプーも見た目が地味じゃねえ?」

ベルトルト「あー……もう少し華やかさが欲しいかな」

ライナー「栞とトイプーは取り外し可能にして……更に華やかさを追求するとなると……」ブツブツ...


ライナー「……よし。ブックカバーに全部盛ろう!」ポン

エレン「なんでそうなった?」

アルミン「じゃあまずはコンセプトから決めよう! えっと……ブックカバーの色は緑だから……」カリカリ...

コニー「草原とかいいんじゃね?」

アルミン「採用」カリカリカリカリ...

ベルトルト「ところでジャン、どうしてブックカバーの色を緑にしたの?」

ジャン「だってライナーのシャツ緑だろ?」

ライナー「緑以外も着てるし持ってるぞ」

ジャン「でも今着てるの緑じゃねえか」

ライナー「……たまたまだ」

ベルトルト「持ってるシャツの7割が緑だよね。ライナー」

ライナー「…………」イラッ

ライナー(……今度ベルトルトのシャツにハートマークとフリルを足しとこう)


エレン「…………」

エレン(ああ、ちくしょう……また一気についていけない世界になった……)シュン...

エレン(……いやいや、別にこいつらに構ってもらわなくても俺には勉強があるしな。ちっとも寂しくなんか……)チラッ



アルミン「どうせだから、ブックカバーとして以外にも使えるようにしたいなぁ」

ジャン「なるほど、多機能型ブックカバーか……その発想はなかったな」

ライナー「取り外せるようにするならボタンでも使うか? マジックテープとスナップもあるが……」

ベルトルト「スナップはやめておこうよ。金属が引っかかって本が傷つくかもしれないし」

コニー「草原なら……ああ、この端切れとか使えるんじゃねえかな」



エレン「…………」

エレン(楽しそう……)

エレン(……勉強はいいや。消灯時間も過ぎたし、もう寝ちまうか……)モゾモゾ...


ライナー「エレン、もう寝るのか? まだ消灯から十分しか経ってないぞ?」ユサユサ

エレン「何言ってんだ、十分経ったから寝るんだよ。……おやすみ、夜更かしすんなよ」

ライナー「待てエレン、寝るならクリスタの本を預かってくれ」スッ

エレン「はぁ? なんでだよ、自分で持ってりゃいいじゃねえか」

ライナー「いや、今から裁縫道具を広げるからな。部屋の中に置く場所がない」

エレン「ならベッドの上に置いときゃいいだろ。俺を巻き込むんじゃねえ」

ライナー「ベッドの上も使うんだ」

エレン「……」

ライナー「預かってくれ」

エレン「やだ」プイッ

ライナー「エレン、俺はお前を一人の男と見込んで言ってるんだ。……頼む! この通りだ!」ガバッ

エレン「やなもんはやだ。……おい土下座やめろ! みっともねえことすんなよ!」

ライナー「……これほど言っても嫌なのか?」

エレン「……」ムスッ


ライナー「そうか…… ……それじゃあ頼んだぞ! 借りた本だから汚すなよ!」ドサッ

エレン「あっ……! おい、人のベッドの枕元に勝手に置くなよ!! おい!!」

コニー「エレン、本くらい預かってやれよー」チクチク

ジャン「そもそもお前何もやってないんだからこれくらい協力しろよ」

エレン「なんで俺が協力しなきゃいけねえんだよふざけんなぁっ!!」ジタバタジタバタ

ベルトルト「……! ねえアルミン、どうせだから馬と羊と豚の足は可動式にしようよ。今のエレンの足の動きを見て思いついたんだけど……」

アルミン「採用」カリカリ...

エレン「…………」

エレン(くそぉ……! なんで俺がこんな目に……!)ギリッ...

エレン(大体なんで俺が裁縫の本なんか預からなくちゃいけないんだよ! こんなちっとも面白くなさそうな本……)ペラッ...

エレン「…………」





エレン「…………バリオン、ステッチ……?」


―― 次の日 とある倉庫の近く

クリスタ「……」

ライナー「……」ニコニコ

クリスタ「……ねえライナー」

ライナー「なんだ?」

クリスタ「私、ライナーに本を貸したんだよね?」

ライナー「ああ」

クリスタ「……」ジーッ...

クリスタ(なんだか……見た感じ、いろんなところがモコモコしてるんだけど……)

クリスタ「……えっとね。そのブックカバー…………ブックカバー??」

ライナー「ああ」

クリスタ「……ブックカバーは、ライナーのじゃないの? 私がもらってもいいの?」

ライナー「ああ」

クリスタ「……」


クリスタ「あの……あのね? その、いろんなところから生えてるのは……」

ライナー「コンセプトは『まきばののどかな日々』だ」

クリスタ「……まきばの?」

ライナー「ああ」

クリスタ「そう……そうなんだね……」

クリスタ(……どうしよう。色々聞きたいけど……)チラッ

ライナー「……」ニコニコ

クリスタ(ライナー、なんでずっとニコニコ笑ってるんだろう……? 目の下にクマもあるし、なんだか怖くて聞けない……)

クリスタ(……うん、今は何も考えないで受け取っておこう。それでいいよね)

クリスタ「そっか、ありがとう。大切にす――」

ライナー「ああぁぁあぁああああああああああああああっ!?」

クリスタ「きゃっ!?」ビクッ!!


ライナー「しまった……! クリスタ、頼むもう少しだけ時間をくれ!」

クリスタ「えっ? う、うん……?」ビクビク

ライナー「すまん、俺としたことが……!」ゴソゴソ シュルッ

クリスタ「……? 何してるの?」

ライナー「ひつじさんの首輪に鈴を付けるのを忘れていた」

クリスタ「……そ、そうなんだ。大変だね。うん……」

ライナー「最後に何度も確認したはずなんだけどな……よし、これでいいだろう」チリンッ

クリスタ「……」

ライナー「じゃあ、俺は当番があるからこれで。……本、貸してもらえて助かった。ありがとうな!」タッタッタッ...

クリスタ「……どういたしまして」


クリスタ「……」

クリスタ(ライナー、走って行っちゃった……)

クリスタ(これ……こんな豪華なの、本当にもらっちゃってもよかったのかな……)

クリスタ(本よりも大きいし……持って帰るの恥ずかしいなぁ……)

クリスタ「……」

クリスタ「……」モニュモニュ...

クリスタ「……」

クリスタ「ふわふわ……」


―― 女子寮

ミーナ「ああクリスタ、おかえりなさ……何その塊!?」

サシャ「なんですかそれお野菜盛り合わせですか!? 一口ください!!」

ミカサ「……クッション?」

クリスタ「ううん、野菜でもクッションでもなくて……あの、私の本なの。これ」ペラッ

サシャ「えぇっ!? まさかお野菜の中から本が!?」

ミカサ「サシャ、静かにして。うるさい」

ミーナ「……ああ! ライナーに貸してた本が戻ってきたんだね?」

ミカサ「何の本を貸したの? クリスタ」

クリスタ「初心者向けのお裁縫の本だよ。巻末のレースの見本を写したいってお願いされたから貸してたの」

ミーナ「それにしても、なんだか妙に凝ってるね……ねえクリスタ、ちょっと本から外して広げてみない?」

クリスタ「いいよ、見てみよっか。ちょっと待っててね……」モゾモゾ...



ユミル「……」チラッチラッ

アニ「……」チラッチラッ


ミーナ「へー、広げると牧場になるんだ……あっ、これ池かな? あひるがいるし」

クリスタ「こっちのはミルク缶かな? ――わっ、すごい! ちゃんと取り外せるようになってる!」ペリペリ

ミカサ「……これ、犬?」

サシャ「牧羊犬ですかね? こっちに羊もいますし」

クリスタ「……? なんだかこのチューリップ、他のに比べて薄いね」

ミーナ「あれ、本当だ……綿を入れ忘れたのかな? ぺったんこだね」

ミカサ「大きさから見て栞じゃないだろうか。布製の栞」

サシャ「でもこれ三つありますよ? 栞三つもいらなくないですかねー?」



ユミル「…………」

アニ「…………」

ユミル(楽しそう……! なんだよあれすっげー楽しそう! じっくり見たい!)

アニ(混ざりたい……! いや、混ぜて欲しい……! ……でも私から声なんてかけられるわけないし……)


サシャ「しかしまあ、やたらと小物が多いですね。これだけ細々としたのを作るなら、動物ももう少し増やしても良かったんじゃないでしょうか」

ミーナ「うーん、そうだね……見た感じあひるとうさぎと犬しかいないし、これじゃ牧場とは言えないんじゃない?」

ミカサ「……ところでクリスタ、こっちの牛の首が出ている建物は何? 中が見えないようになっているけど」

サシャ「……何故牛の首が……?」

クリスタ「それね、最初は羊の首が出てたんだけど、ライナーが受け取る前に入れ替えちゃったの」

ミーナ「ふーん、羊ねぇ…… ……もしかして、中にいるんじゃない? 他の動物」

クリスタ「屋根取れるみたいだから開けてみよっか」ペリペリ...



ユミル「……」ドキドキ

アニ「……」ドキドキ

ユミル(クリスタ、もうちょい上にあげてくれ……! 私の位置からじゃ見えないんだ……!)ソワソワ

アニ(床に置いてくれないかな……サシャとミカサの膝元は見えるから、あそこにちょうどよく動かしてくれるといいんだけど……)ソワソワ


ミカサ「………………………………うわぁ」

ミーナ「……いっぱい出てきたね」

クリスタ「二十匹……は、いるよね? たぶん」

ミカサ「……確かに、数の規模としては牧場と言えるかもしれないけれど」

サシャ「このちっさい建物の中に二十匹も家畜が押し込められていたと思うと軽くホラーですね」

クリスタ「私、もう一度キレイにしまう自信ないよ……」シュン...

ミーナ「あっ、見て見て! この羊、首に鈴つけてる! かわいいー!」チリンッ

サシャ「ああなるほど、みんなそれぞれ違う特徴があるんですね……ほらミカサ、この馬は首にマフラー巻いてますよ!」

ミカサ「何故私に言うの」

クリスタ「マフラーじゃなくてバンダナじゃないかな?」

ミーナ「どっちでもよくない?」



アニ(えっ……! ちょっと待って待って、あの豚さん服着てる……! 何あれかわいい! チョッキ着てる!)キュン

ユミル(うおおおおお! あんよも短いぃぃいっ……! なんだあれなんだあれー!!)キュン


サシャ「ええっと、なんて言うんでしたっけこういうの……そうだ、押し掛け絵本!」ポン

ミカサ「……しかけ絵本?」

サシャ「そうです、それそれ」

ミーナ「絵本じゃなくてブックカバーだけどね。……っていうかさ、ちっちゃい子用のおままごとセットみたいだよね。これ」

クリスタ「おままごとセット?」

ミーナ「ほら、布でできた野菜とかで遊ばなかった? ちっちゃい頃にさ」

サシャ「布の野菜っていうとコニーの大家族を思い出しますねー」

ミカサ「サシャ、やめてあげて」

ミーナ「でもクリスタいいなぁー……材料費は持つから、私にもこういうの作ってくれないかな? ダメもとで頼んでみようかな……」

サシャ「食費もくれるなら私が作ってあげますよ!」

ミーナ「うーん、ごめんね。いらない」

サシャ「……そうですか」シュン...

ミカサ「……? このブックカバーはライナーが作ったの? 一人で?」


ミーナ「えっ、違うの? だってそれ、どう見ても手縫いだよね? ミシンを使ってるようには見えないし……」

サシャ「んんん? これって売り物じゃないんですか? 小物類って手縫いで仕上げてるものが多いですし、てっきり町で買ってきたんだと思ってたんですけど」

ミカサ「クリスタ、この本はいつライナーに貸したの? 一週間前? それとも一週間前?」

クリスタ「ううん、一昨日だよ。――そっか。ライナーが作ったとしたら、2日でこれ作ったことになるんだね。ちょっと無理があるかも……」

ミカサ「それに、この本は初心者向けの本でしょう? ……このカバーはどうみても初心者が作ったものじゃない。ライナーが作ったとは私には思えない」

ミーナ「うーん……でも確か、ライナーってコニーやジャンと同じ部屋だったよね? 二人が手伝ったならギリギリ2日でも作れそうな気がするな。ライナーも最近裁縫上手くなってるし……」

サシャ「農場主コニーならやってくれそうな気がしますよね」

クリスタ「それでもやっと三人だよね? 三人でこの量はやっぱり無理なんじゃないかな……」

ミーナ「じゃあ結局これは売り物ってこと? ……買ったものだとしたらかなり高そうだよね。細かい部品多いし、丁寧に作ってあるし」

クリスタ「……! ど、どうしよう……! そんなに高いものだったら返してきたほうがいいのかな? それともお金払ったほうが……」オロオロ...


ユミル「おいおい落ち着けよ、クリスタ。――別にそいつは無理矢理もらってきたわけじゃないんだろ? だったら素直にもらっときな」

クリスタ「……でも、もし本当に買ったんだとしたらライナーに悪いよ。私はそんなつもりで貸したわけじゃないのに……」

ユミル「何言ってんだよ、そのブックカバーを渡すだけの価値がその本にあったってだけの話だろ?」

ユミル「何にせよ、そいつをお前に渡そうと決めたのはライナー自身だ。お前は自分が納得出来ないからって、ライナーの気持ちを無碍にするのか?」

クリスタ「それは……そういうことは、したくないけど……」

ユミル「けどまあ、直接モノを見てみないことには判断できないよな。――というわけでそれ見せてくれ。できるだけ間近で」

アニ「……!」

アニ(ユミル……! あんた、最初からそれが目的だったのか……! ずるいずるい! ユミルずるい……!)ジーッ...

ミカサ「……? アニ、どうかした?」


アニ「! ……べ、別に? なんでもないよ」プイッ

ミーナ「もしかして、アニもブックカバー見たいの? ――やだなぁアニったら、言ってくれたら最初っから混ぜたのに! ほらほら、寝っ転がってないでこっちおいでよー」ニヤニヤ

アニ「違うってば、私はそんなつもりじゃ……」ハッ



ユミル『お前みたいに四六時中むっつりしてる奴のことなんか、気になってしょうがねえだろうよ』

ユミル『でもさ、からかってでもそういう……お前が何かしら反応する姿を見たかったんじゃねえの?』



アニ「…………」

アニ(……あまり、同期の子とは関わらないほうがいいのはわかってる。わかってるけど……)チラッ

ユミル「……?」

アニ(私だって、本当は…… 私の、本当の気持ちは……)ギュッ





アニ「……私も、見たり……触ったり、してみたい。ちょっとでいいから、見せてくれる……?」


アニ「…………」

ミーナ(あのアニがしおらしい……!?)

サシャ(あのアニが恥ずかしがってる……!?)

ミカサ(あのアニが人を睨みつける以外の目的で見つめてきてる……!?)

アニ「あ、あのさ…… ……やっぱり、だめかな。いきなりこんなこと言っても……」シュン...

クリスタ「ううん、そんなことないよ! ――ユミル、終わったら次はアニに渡してね! いい?」

ユミル「へいへい、わかったわかった」チリンチリンチリンチリン

ミーナ(ユミルはユミルでめっちゃ羊撫でてる)

サシャ(首の鈴取ってから撫でたほうが良かったんじゃないですかね)

ミカサ(ユミルがクリスタ以外を愛でているところなんて、初めて見る……貴重だ……)

ユミル「あー気持ちよかっ…… ……んー、まあ、この本の価値を考えたら妥当な対価なんじゃあないか? 何もおかしくないぞクリスタ、これをもらっても全然おかしくない」ブンブン

クリスタ「そっか、ならいいんだけど……それじゃあユミル、アニに渡して?」

ユミル「あいよ。……ほら、アニ。丁寧に扱えよ」スッ

アニ「……わかってるよ」


アニ(やだやだー何これ! 何これ! すっごくかわいい……!!)モニュンモニュン

アニ(みんなもれなくかわいいってどういうことなの!? ああっ、毛並みもふかふかする……! いいなーいいなーこの子と一緒に寝たい……! 抱っこして寝たい!! いいなーいいなー!)モニュンモニュンモニュンモニュン



ミーナ(めっちゃモニュモニュ揉んでる)

サシャ(ほっぺた緩みまくりじゃないですか)

ミカサ(アニのあんな気の抜けた顔、初めて見る……これも貴重だ……)

アニ「はい、クリスタ。……ありがと」

クリスタ「もういいの?」

アニ「充分だよ。……それに、もう寝るし」

クリスタ「そっか……ねえアニ、また触りたくなったらいつでも私に言ってね?」

アニ「……わかったよ。じゃあおやすみ」

クリスタ「うん、おやすみなさい!」

ミーナ「いい夢見るんだよー」フリフリ


―― 消灯後の女子寮

アニ「……」

アニ(みんな、もう寝たよね……?)モゾモゾ...

アニ(クリスタの本は……あっ、あった。机の上だ)

アニ(こっそり眺めるだけなら、クリスタに断らなくてもいいよね? 大丈夫だよね?)コソコソ...

アニ「…………」ジーッ...

アニ(私もこういうの、小さいころに欲しかったな……)

アニ(いいな、クリスタは……かわいいもの、普通に人からもらえて)

アニ(ライナーとベルトルトも、もっとこういうほのぼのした感じの裁縫箱くれればいいのに……)チラッ

アニ(あいつら、本当にかわいいの意味わかってんの? ……いや、あいつらに可愛さを求めるほうが酷ってもんかな)

アニ(……うん、今からでも遅くないよね。私が自分でかわいいの作ろう……思いっきりピンクわたウサギの赤ちゃん愛でよう……!)

アニ(……そういえば、あの豚さんはチョッキ着てたんだっけ)



アニ(……お人形用の、かわいい服が欲しいな)

今日はここまで かわいいは作れるんですよ!
あと11ヶ月でなんとか畳みたい

ちなみにぬいキチどもが作った布製ブックカバーはこういうイメージです
http://www.ed-inter.co.jp/product.html?ii=44


―― 数日後 午後の兵舎裏

ユミル「……」シュッ

アニ「……」シュシュッ

マルコ「…………」

ユミル「……」シュシュッ

アニ「……」シュシュッシュッ

マルコ「一回見ればわかるからもういいよ」

ユミル「ふっふっふっふっ……! どうだマルコ、私たちだってやりゃあできんだよ! 思い知ったか!」

マルコ「うんうん、思い知った思い知った」

アニ「……」チラッチラッ

マルコ(……これアレだ。お手伝いした子どもが親に褒められるのを待ってる時と同じ顔だ……)

ユミル「すごいか? すごいだろ? なっ?」ニマニマ

マルコ「うんうん、すごいすごい。……君たちはやればできるって僕は最初から信じてたよ。よくやったね」

ユミル「……! ……ま、まあ、私たちにかかればこんなもん楽勝だし? だよなぁアニ!」バチコンバチコン

アニ「ユミル、痛いんだけど」ヒリヒリ...


ユミル「さてと! ――そろそろ私らも次の段階に進む時期かな」フゥ

マルコ「ああよかった、一応『次』があるって自覚はあったんだね。ほっとしたよ」

アニ「何言ってんだいマルコ。私たちはこんなところで終わるような女じゃないよ」

マルコ「そうだね、そもそも糸通しだけで終わる裁縫教室なんて聞いたことないよ? ……じゃあ今日からは並縫いを教えてもらおうか。今回の野戦治療実習では使わないだろうけど、裁縫の一番基本的な縫い方だし」

ユミル「使わないなら習う必要ないだろ? もうちょっと新しいことに挑戦しようぜ!」

アニ「私、今日はコニーに服の作り方を教えてもらうって決めてるから」

マルコ「本当自由だな君たち」


マルコ「というか、ユミルはともかく……アニはいきなり何を言い出したの? 服?」

ユミル「服なら私が作ってやるぞ? 糸と針は使わないけどな!」

マルコ「それにいくらコニーでも、女の子の服の作り方なんか知らないと思うよ?」

アニ「勘違いしないでくれる? ――私が言ってるのは、ピンクわたウサギの赤ちゃんの服のことだよ」フフン

マルコ「いや、そんな得意気に言われても……」

アニ「ところでユミル、人形は? 確か今日から私の番でしょ」

ユミル「あー、そういやそうだったな。……悪い、忘れた」


アニ「……………………」

ユミル「悪かったって、そんなに睨むんじゃねえよ! 代わりに一日長く持ってていいからさ」

アニ「えっ……! いいの?」

ユミル「マルコもいいよな? 一日くらいなら延びても平気だろ?」

マルコ「もちろんいいよ。むしろ僕の割り当ては三十秒くらいで充分だよ」

ユミル「何言ってんだ、それじゃあ平等になんねえだろ? ……それで、今日は結局服作りでいいんだよな?」

マルコ「勝手に予定を変更しないでくれるかな? ……というか、ユミルも欲しいの? 服」

ユミル「ほしい」

マルコ「…………」

ユミル「ほしい」

マルコ「……わかったよ。この裁縫教室は元々君たちのためのものだからね、好きにするといい。……でもさ、糸通しの次にいきなり服の作り方なんて、コニーも面食らうと思うけど」

ユミル「その辺りは大丈夫だ。私とアニで協力して、ピンクわたウサギの赤ちゃんの服を作れるような自然な流れに持っていく」

アニ「私たちが上手にコニーを誘導できるかどうか、あんたには温かく見守っていてほしいんだ。頼んだよ」

マルコ「……もし過激な手段を使うようなら、止めに入るからね」


―― しばらく後の兵舎裏

コニー「おーい、来たぞー」スタスタ...

アニ「いらっしゃいコニー」ガサガサ

ユミル「待ってたぞコニー」ガサガサ

コニー「うおっ! 今日はそこの茂みか…… ……んで、今日はいったい何を教えりゃいいんだ? また糸通しか?」

アニ「その必要はないよ」シュッ

ユミル「私らは日々進化しているからな」シュシュッ


コニー「おおっ! なーんだ、アーニャもユーミールもやっとできるようになったのか! マルコはどうだ?」

マルコ「僕は最初からできるよ」シュッ

コニー「じゃあ、今日からはやっと別のことを教えられるな! 次はなんだ? 玉どめのやりかたか?」

ユミル「服の作り方だ」

コニー「ふーん……誰が着るんだ?」

アニ「この子だよ」スッ

マルコ「いつの間に絵なんて描いたの?」

アニ「そっくりでしょ?」ドヤァ

コニー「……!? お、おい! ちょっと待て、こいつおかしいぞ……!」


コニー「このウサギ……! 二本足で立ってやがる! どういうことなんだ……!?」

マルコ「そこが気になるの?」

コニー「すげえなぁ、こいつ新種のウサギか!? 見たことねえぞこんなの!」

ユミル「まぁな」

アニ「かわいいでしょ?」

マルコ「なんで君たちが喜んでるの?」

ユミル「このピンクわたウサギの赤ちゃんのための服を作りたいんだ。できるよな?」

コニー「……? ピンクワンピ?」

アニ「ピンクわたウサギの赤ちゃんだ二度と間違えるな!!」バンッ!!

コニー「すっ、すみませんでした!! ……で、でもよ、こいつウサギなんだろ? ウサギなら服なんて着る必要は――」

ユミル「いいから黙ってピンクわたウサギの赤ちゃんのために可愛らしい服をこさえろぉっ!!」

コニー「ひぃっ!?」ビクッ


マルコ「二人とも、その辺にしておきなよ。……というわけでコニー、この二人でもできる簡単な服の作り方ってないかな? ちなみに人形のサイズはこれくらいなんだけど」

コニー「……? やけにちっちぇな」

マルコ「……ウォール・シーナの中だけで出回ってる細工物の人形でね。珍しい品だから、服とか小物類は自分で作るしかないんだ」

コニー「へー、ウォール・シーナってすげぇんだなぁ」

アニ「ちょろいね」ヒソヒソ

ユミル「扱いやすくて助かるな」ヒソヒソ

マルコ「はいそこ静かに。……やっぱり、この大きさだと難しいかな」

コニー「ん? ――いや、できないってことはないと思うぞ」

アニ「……!」

ユミル「本当か!? 嘘吐いたらマルコに針千本飲ますぞ!!」

マルコ「なんで僕!?」

コニー「この大きさならむしろ、凝った服を作るほうが難しいんじゃねえかな。簡単なのでいいなら……ちょっと待ってろ、ちょうどいい端切れ探すからよ」ゴソゴソ...


コニー「人形の正確な寸法がわかんねえから大雑把になるけど……まず、胴体にこうやって布を巻きつけるだろ?」

アニ「腕ごと?」

ユミル「腰巻きに?」

マルコ「二人とも、きちんと見なよ。……なんだか、お風呂あがりにバスタオル巻いてる姿に似てるね」

アニ「……? 男子もこうやって胸から下を隠して巻くの?」

コニー「いや、男は別にこんなことしねえぞ」

ユミル「じゃああれか、女だからこうやって巻いてるのか? それともピンクわたウサギの赤ちゃんを一旦風呂に入れてから服を作り始めるのか?」

コニー「違ぇよ、女だからでも風呂に入ってからでもなくて…………あれ? 何だったっけ? なんで俺こんなことしてんだ?」

マルコ「……服を作るんだろ」

コニー「…………ああ、それだ!」ポン

マルコ「アニ、ユミル。楽しみなのはわかるけど関係のない質問は控えるんだ。このままじゃいつまで経っても完成しないよ?」

アニ「それは困る」

ユミル「あとどれくらいでできるんだ? コニー」


コニー「すぐできるから焦るなって。――生地の縦の長さは胸から爪先までがちょうどいいだろうな。横は胴体を一周とちょっとくらいだから……まあ、たぶんこれくらいだろ」チョキチョキ

アニ「……? ぴったりじゃ駄目なの? なんで?」

ユミル「そりゃあ……縫うのに失敗した時、生地が足りなくなったら困るだろ? あらかじめ余裕を持たせとかないとな」

アニ「……! なるほど、勉強になるね……!」カキカキ...

マルコ「全然違うよ。――ユミル、アニが真に受けちゃうから適当なことをでっち上げるのはやめてくれ。アニもメモらなくていいから」

ユミル「あぁ? じゃあなんで布をぴったりに切らないんだよ? 他に理由が――」

コニー「ただ巻きつけるだけだと脱げちゃうだろ。後からボタンを付けるための縫い代が必要なんだよ」

アニ「ぬい……」

ユミル「……しろ……?」

マルコ「コニー、続けてくれ」

コニー「ん? 縫い代の説明はいいのか?」

マルコ「できないうちから余計な知識は増やさせたくないんだ。独自解釈でとんでもない理論が飛び出してきたりするからね」


コニー「んじゃ、続けるけどよ…… ――そんで、胸元の上側……の、真ん中に印を付けとく」カキカキ

アニ「できた? できた?」ワクワク

マルコ「ちょっと落ち着こうか」

コニー「あともうちょっとだ。……それで、細長い葉っぱ型に切った布を二枚、さっき印を付けたところに縫い付ける」チクチク...

マルコ「……」チラッ

アニ「…………」

ユミル「…………」

マルコ(見入ってる……)

コニー「この状態で広げると……地面からチューリップの葉っぱが生えてる状態みたいな感じになるだろ?」

ユミル「真ん中に印を付けたのに、布の真ん中からチューリップは生えてないんだな」

コニー「ボタンの縫い代があるからな、むしろこの状態が正解なんだよ。この状態で人形に着せた後、葉っぱの先っぽを背中側に縫い付ければ……襟付きワンピースの出来上がりだ!」ジャーン!!


ユミル「天才だ……!」

アニ「魔法使いだ……!」

マルコ「へえ、すごいな…… これ、コニーが自分で考えたの?」

コニー「いや、昔母ちゃんが作ってた服の見よう見真似だ。単純だけど色々アレンジも出来るから面白えぞ」

ユミル「……! なあコニー、これにビーズとか! ビーズとか縫いこんだりできるか!?」

アニ「あのさ、レースとか重ねてみたいんだけどさ、できる? できる?」

コニー「両方できるぞ。やってみせるか?」

ユミル・アニ「「見たい!!」」

コニー「よーし俺に任せろー!」チクチクチクチク...


マルコ「…………」

マルコ(覆面してるから、顔は見えないけど……二人とも、まるで子どもみたいだな。近所のお兄さんに手品をせがんでるみたいだ)

マルコ(並縫いのやりかた……は、今日はいいか。二人とも楽しそうだし、一日くらい平気――)チラッ



アニ「ねえコニー、これ何?」ゴソゴソ

コニー「それか? 力(ちから)ボタンだよ。今回は使わねえからしまっていいぞ」チクチク...

ユミル「チカラボタン……?」

アニ「血から牡丹……? ――まさか、何かの暗号……?」ゴクリ

コニー「だからボタンの種類だっての」



マルコ「…………」

マルコ(もう実習まで十日もないのに、本当に間に合うのかなぁ……?)


―― しばらく後 図書室前の廊下

ミカサ「……」キョロキョロ...

ミカサ(あのブックカバー……あれからクリスタに頼んでもう一度見せてもらったけれど、どう見ても買ったものとは思えない。あそこまで手が込んでるものは、訓練兵の給金じゃ到底買えない)

ミカサ(でも、ライナーが一人で作ったものとも思えない。――ということは、エレンやアルミンが関わっている……もとい、巻き込まれている可能性は否定しきれない)

ミカサ(またエレンが一人ぼっちになっているのなら、私がフォローしなければ……)

ミカサ(……そう思って、エレンと話そうと思ったのだけれど)



エレン「…………」カリカリ...



ミカサ(エレンが……あのエレンが勉強してる。珍しく本を読んでいる……)

ミカサ(どうしよう、邪魔をしないほうがいいだろうか? あんなに真剣な表情は、久しぶりに見る……)ジーッ...


ジャン「おいミカサ、そんなところで突っ立って何してんだ? 入らねえのか?」

ミカサ「……! ジャン」

ジャン「一体何を……って、エレンを見てたのか?」チラッ

ミカサ「……いえ、なんでもない」クルッ スタスタ...

ジャン「……? そうか、ならいいけどよ」



ミカサ「…………」スタスタ...

ミカサ(エレンが自分から勧んで勉強をしている。これはとても喜ばしいこと)

ミカサ(私が余計な口出しをしたら、反抗して勉強をやめてしまうかもしれない。ここはおとなしく身を退こう)

ミカサ(……そうなると、ブックカバーのことも下手に聞かないほうがいいのかもしれない。勉強に集中してるなら、不必要な情報は耳に入ってこないだろうし、逆に入れたいとも思わないはず……)

ミカサ(廊下で会ったジャンは別にシュシュを押し付けてこなかったし、見た目は正常そのものだった。……たぶん、大丈夫。エレンもアルミンも正常。何も心配することはない)

ミカサ「…………」

ミカサ(なんだろう……? エレンが勉強しているというのは、とてもいいことなはずなのに……)

ミカサ(なんだかとても、嫌な予感がする……)


―― 図書室

エレン(結び目で、結びを作るステッチ……? どういう意味だ?)

エレン(図解のおかげでどっちも別物だとはわかるけど……なんで針と糸の通し方だけでこんなに変わるんだ?)

エレン(駄目だわからん……! くそっ、これじゃお花の刺繍なんてできやしねえ……!)

ジャン「よおエレン、勉強熱心だな」

エレン「……ジャンか」

ジャン「昨日俺たちが出した課題はできたかよ?」

エレン「……」スッ

ジャン「……! ほーお、やるじゃねえか。どれが一番難しかった?」

エレン「ブドウだな。ここのツブツブを一つ一つ表現するのが大変だった」


ジャン「けど、この出来ならアルミンたちも合格点を出してくれると思うぜ。――善は急げだ。早速提出しに行くか?」

エレン「いや、待ってくれ……! さっきからこの文章の意味が理解できねえんだ! これがわからないと俺は次に進めねえ……!」

ジャン「なんだエレン、お前こんなのもわかんねえのか? ……仕方ねえな、今やって見せてやるよ」スッ

エレン「……! ジャン、お前実はいい奴だったんだな……!」ジーン...

ジャン「何言ってんだよエレン。……ジャンルは違えど、俺たちは同じ手芸仲間だろ? 助けあうのは当たり前じゃねえか」ニッ



フランツ(……えっ? えっ?? なんか二人で変なことやってる……)

トーマス(ジャンが持ってるのって、工具箱じゃなかったのか? でもなんで裁縫箱……?)

ダズ(あの二人は注意するべきなのか? けど、図書室で裁縫やっちゃいけないって決まりはないよな……)

ハンナ(へー……二人とも、刺繍が趣味なんだ……)


―― 夕食後 とある倉庫の裏

アニ(ユミルったら、いったいどこに行ったんだろ。見つからないから、先にライナーたちとの待ち合わせを優先しちゃったけど……)

アニ「…………」ゴソゴソ...

アニ(早く人形渡してもらえないかな……実物見ながら、じっくり服のデザイン考えたいのに……)

アニ「…………」

アニ「…………」ニヤニヤ

アニ(今日の私、すごく充実してた……! たぶん壁内に来てから一番楽しかった!)

アニ(マルコは頑なに否定するけど、やっぱりコニーは魔法使いなのかもしれないね。どう見たってあれは人間業じゃないし)

アニ(いっそのこと、壁壊すときにコニーだけ逃がそうかな。あの技術を失うのはこの世界にとっての損失だよね)


アニ(口の中に入れて運べば…… ――でもちょっと待って、もしかすると裁縫用具も持って行くって言い出すかもしれない……!)

アニ(なら、荷馬車に必要な物を全部詰め込んで…… ……ああでも、必要な物を全部詰め込むとなったら馬車一つじゃ足りないかな。まあその時はライナーとベルトルトにも頼めばいいよね。うん)

アニ(ふふふ、どんな服作ろうかな……夜が楽しみ……!)スリスリ ナデナデ





                                  \ガサガサ.../





アニ「!」ササッ


ライナー「おお、ここにいたか。アニ」ガサガサ

ベルトルト「もう来てたんだ? 早いね」ガサガサ

アニ「……寮にいても、やることないから」

アニ(本当は早く終わらせて服のデザイン考えたいけど、バレたら何言われるかわかったもんじゃないしね……)チラッ

アニ「……? ライナーも一緒なの? 今日はベルトルトだけじゃなかった?」

ベルトルト「うん、予定ではそのはずだったんだけど……」

ライナー「お前に一言謝りたくてな。……この間は悪かった、アニ」

アニ「この間……?」

アニ(えっ、何かあったっけ? ――どうしよう、全然覚えてない……こっちはそれどころじゃなかったし……)




アニ「……………………」



ベルトルト(うわぁ、アニの眉間の皺が大変なことに……)

ライナー(めちゃくちゃ怒ってるじゃねえか……!)

ライナー「あの時は、変なことを言って本当にすまなかった。……許してくれ、この通りだ!」ペコッ

アニ(変なこと……? ――ああ、あれか! 思い出した!)ポン

アニ「別に怒ってないから、頭は下げなくていいよ。……それに、私もやりすぎたしね。ごめんライナー」

ライナー「……そうか、怒ってないのか」ホッ

ライナー(じゃあさっきの表情はなんだったんだ……?)

ベルトルト(あの顔って、怒ってる時の顔じゃなかったのか……)


アニ「でもさ、わざわざ今日来る必要はなかったんじゃない? あんたたちみたいなデカいのが二人もいなくなったら目立つでしょ」

ライナー「その点は抜かりないぞ。ちゃんと口実も用意してある」ジャラッ

アニ「何その袋」

ライナー「企業秘密だ」ドヤァ

アニ「……ふぅん」

ライナー(帰ったら歯車を継ぎ合わせて花を作ろう)ワクワク

ベルトルト(帰ったらお花に添えるスイーツを作ろう)ワクワク

アニ(……? 変なの。なんでニヤついてるんだろ、二人とも……)

ライナー「とにかく、俺たちのことは心配しなくても大丈夫だ。うまくやってるからな」

ベルトルト「けどまあ、あまり長い時間ここにいたら怪しまれるかもしれないからね。手短に済まそう。まずはこの前話してたことだけど――」


ベルトルト「――というわけで、僕たちからの報告はこんなところだね。……他にはなかったよね? ライナー」

ライナー「ああ、それで全部だと思う。……端的に言えば、特に目立った進展はなかったな」

アニ「……そう」

アニ(コニーを仮に馬車に積みこむとして……やっぱり妹さんや弟くんも一緒のほうが言うこと聞きやすいよね。両親も含めて五人分の荷物を考えたら、どう考えても私一人じゃ全部運べない……)モンモン

ベルトルト「アニ、何か聞きたいことはある? 僕らがわかる範囲でなら答えるけど」

アニ「……聞きたいこと?」

ライナー「ああ、なんでもいいぞ」

アニ「じゃあ、一つ聞くけど…… ――あんたたち、口の中にどれくらい入る?」

ライナー「……は?」

ベルトルト「……ごめん、もう一回言ってくれる? なんだって?」

アニ「だからさ、口の中にどれくらいモノ詰め込める?」

ベルトルト「……」

ベルトルト(聞き間違いじゃなかった……)

ライナー(どういう意味だ? いったい何を意図した質問なんだ……?)


ライナー「……たぶん、目一杯押しこめばパン半分くらいは入ると思うぞ。正確にはわからんが」

ベルトルト「僕はたぶん……それより少し少ない、かなぁ……?」

アニ「……そう」

アニ(立方メートルで答えてほしかったんだけど、まあいいか……ああ、もう少しわかりやすい単位で聞いたほうがよかったかな)ポン

ライナー「それが聞きたいことなのか? どう考えても任務に関係あるとは思えんが――」

アニ「もう一個いい?」

ライナー「……」

ベルトルト「……どうぞ」

アニ「馬車なら口の中に何個入る? 大体でいいから教えて」

ライナー「……馬車?」

アニ「うん。馬車」

ベルトルト「……」


ライナー「……なあアニ。俺の知ってる馬車は、どう頑張っても口には入らないと思うんだが」

アニ「入るでしょ?」

ライナー「入らんぞ」

ベルトルト「無理だよ」

アニ「それはおかしいね。私(の巨人)でも二台は絶対にいけるはずなんだけど」

ライナー「……お前、馬車食ったことあるのか?」

アニ「まだ食べてないよ。将来的な話」

ベルトルト「将来的に食べるの……?」

アニ「その予定だけど、一人じゃ厳しいからあんたたちにも手伝ってもらおうと思って」

ベルトルト「馬車を食べるのを?」

アニ「うん」

ベルトルト「……………………」

ライナー(……待てよ? もしかすると、俺たちの認識が間違ってるのかもしれん。悩む前に、きちんと確かめたほうがいいな)


ライナー「アニ。一応聞いておきたいんだが……バシャってのは、新種の魚か何かか? それとも料理の名前か?」

アニ「は? 何言ってんの、あんたも知ってるでしょ?」

ベルトルト「……僕らも知ってる(食べ)物なの?」

アニ「ほとんど毎日見てるよ」

ライナー(駄目だ全然わからんぞ……!)

ベルトルト(アニはさっきから何を言ってるんだ……!)

アニ「それで、何個くらいなら大丈夫そうなの?」

ベルトルト「わからないよ。食べたことないし」

ライナー「見当もつかん」

アニ「だから、大体でいいんだってば。……早く教えてよ」イライラ...

ベルトルト(駄目だ……! これ答えないと引き下がらないパターンだ……!)

ライナー(確か、アニがさっき言ったのが二台だろ? ということは……)


ライナー「……5つかな」

アニ「ふぅん、5つね……ベルトルトは?」

ベルトルト「僕は…………3つくらい、だと思う

アニ「もっと入らない?」

ベルトルト「……じゃあ4つ」

アニ「ということは、あんたたち二人合わせて9つか……」

アニ(超大型巨人なのに4つしか入らないんだ。……ああ、高温で溶けるかもしれないから少なめに見積もったのかな)

アニ(でも、流石に4つっていうのは大きさに対して少なすぎると思うんだけど……)チラッ

アニ「……意外と根性ないんだね、ベルトルト」ハァ

ベルトルト「!?」

ライナー(馬車を食うのは根性の問題なのか……?)

ベルトルト(よくわからないのに罵られた……)クスン

ライナー「……と、とにかくだな、他に聞きたいことはないんだろ? お前のほうはどうだったんだ?」

アニ「ああ、こっちは少しだけど動きがあったよ。この前見た壁教の信者のことなんだけど――」


アニ「――だから、誰を尾けてるのかまでは突き止められなかった。こっちでも引き続き調べるけど、二人も余裕があったら気にかけておいて」

ベルトルト「わかった、壁教の信者だね? 覚えておくよ」

ライナー「…………」

ベルトルト「……? ライナー、聞いてた?」

ライナー「ん? ……ああ、もちろん聞いてたぞ。――ところでアニ、この前渡した紙袋の中身は見たのか?」

アニ「……見たけど、それが何」

ライナー「箱が入っていただろう。中は見たか?」

アニ「……まだだけど」

ライナー「箱の外側は見たんだよな? どう思った?」

ベルトルト「……」チラッ



アニ「……………………」



ベルトルト(アニの顔が怖い……)プルプル...


アニ「………………………………もこもこしてた」

ライナー「そりゃあ、そういう生地を貼ったからな。当然だ」

ベルトルト「ちょ、ちょっとライナー……? いきなり何を言って――」

ライナー「まあ、ちょっとした雑談だ。少しくらいいいだろ? ――そういえばお前、確かハートマーク好きだったよな? そうだろアニ?」

アニ「……は?」

ベルトルト「……!」

ライナー「いやな? ベルトルトがハートは良くないって言うもんだから、この前から気になって気になって仕方がないんだ。ここはお前からはっきりベルトルトに言ってもらおうと――」

ベルトルト「……待ってよ。そういうことなら僕だって言わせてもらうよ! ――ねえアニ、アニはピンク好きだよね? そうでしょ?」ズイ

アニ「! ちょっ……ベルトルト、なんで知って――」


ライナー「こらこら待て待てベルトルト、自分の意見が通らないからって無理強いするんじゃない! アニから離れろ!」グイグイ

ベルトルト「何言ってるんだ、無理強いしてるのはライナーだって同じだろ! アニがハートを好きだなんて確たる根拠もないくせに、君の好みを一方的に押し付けるなんてアニがかわいそうだ!」グイグイ

ライナー「なっ……! さっきから好みを押し付けてるのはお前のほうだろ! いい加減にしろ!」

ベルトルト「押し付けてない! ――僕は前に、町でアニがピンクのワンピース羨ましそうに眺めてたの見たんだよ!! だからアニはピンクが大好きなんだぁっ!!」バンッ!!

ライナー「あのなぁ……! ――俺だってなぁ、ハートの形の髪留めを買うか買わないかでこいつがずっと悩んでたの知ってるんだ!! だからアニはハートが大好きなんだよ!!」バンッ!!





アニ「……………………へえ」





ライナー「」ビクッ

ベルトルト「」ビクッ


ライナー「……」チラッ

ベルトルト「……」チラッ





アニ「…………………………………………」





ベルトルト(さ、さっきライナーに話しかけられてた時よりも怖い……)プルプル...

ライナー「ア、アニ……? どうしたんだ、そんなに睨んで……?」ビクビク

アニ「……」クルッ スタスタ...

ライナー「お、おい? アニ、どこに――」

アニ「帰る」スタスタ...

ベルトルト「えっ、もう帰るの? もう少しここにいても、僕らは大丈夫だけど……」

アニ「私が居たくない。……それと」

ベルトルト「……それと?」


アニ「……ハートもピンクも、どっちも嫌い」

ライナー「……!」

ベルトルト「アニ……」

アニ「だから、そんな風に変な気は回してくれなくていいから」

ライナー「……」

ベルトルト「……」

アニ「じゃあね。……それと、次の報告の日まで話しかけないで」スタスタ...


―― しばらく後 とある井戸近く

ベルトルト「……」

ライナー「……」

ベルトルト「……ライナーのせいだよ」

ライナー「お前だって乗っかってきただろう」

ベルトルト「……」

ライナー「……」

ベルトルト「ハートの髪留め、欲しかったんだね」

ライナー「ピンク、好きだったんだな。あいつ」

ベルトルト「……早く言ってよ」

ライナー「お前もな。……しかしどうする? もう実習まで十日切っちまったぞ」


ベルトルト「点数はたかが知れてるとはいえ、このままじゃいけないよね。兵士として溶け込むためには、そういう治療の技術は身につけておいたほうがいいと思うし」

ライナー「怪我人を前にして『私にはできません』じゃ通らないからな…… ――だが、今からあいつを説得するとなると骨が折れるぞ? この前だって相当意固地になってたのに、あの状態じゃあな……」

ベルトルト「……僕ら、アニを甘やかしすぎたんじゃないか? やっぱり繕い物は自分でやらせるべきだったのかもしれない」

ライナー「いや、俺は甘やかした覚えはないぞ? これまでだって何度か裁縫教えようとしただろ。お前がすぐに泣いて止めに入ったけどよ」

ベルトルト「だってさ……あんなに毎回毎回プスプスプスプス手に針刺してたら、アニの手がすぐに穴だらけになっちゃうよ。いくらなんでもかわいそうだ」

ライナー「穴が空いても治るんだからいいだろ」

ベルトルト「……そういう考え方、良くないと思うよ」


ライナー「……」

ベルトルト「……」

ライナー「……で、だ。それとは別にもう一つ、気になることがある」

ベルトルト「気になること? 何?」

ライナー「あいつ、俺たちが来た時に懐に何か隠したろ? ありゃ一体なんだったんだ? 俺の位置からは見えなかったんだが……」

ベルトルト「ああ……たぶん、お守りか匂い袋だと思うよ。手のひらくらいの大きさしかなかったから、何か物を入れて持ち運ぶってわけじゃないだろうし」

ライナー「ほう、お守りか……そんなもんまで隠す必要ないのにな。恥ずかしかったのか?」ハハハ

ベルトルト「……」

ライナー「どうした、そんな浮かない顔して。お守りくらい何もおかしくねえだろ?」

ベルトルト「……あのさ、たぶん見間違いだとは思うんだけど……」


ベルトルト「……アニが持ってたあの袋ってさ、どうも空っぽみたいなんだよね。確証はないんだけど……」

ライナー「……? それがどうした?」

ベルトルト「だからさ……お守りでも匂い袋でも、袋の中には何かしら入れておくものだろ? でも、あの袋はどう見てもぺったんこだったんだ。紙すら入ってなかったんじゃないかな、たぶん」

ライナー「……? いや、別にカラでもいいだろ? それに何の問題があるんだ?」

ベルトルト「よく考えてみてよ。……袋の中に何も入ってないってことは、その袋はお守りじゃないってことになるだろ?」



ベルトルト「……つまりアニは、お守りでもないただの空の袋を愛おしげに撫で付けて……更に、微笑みかけていたってことになる」



ライナー「……」

ベルトルト「……」


ライナー「……やばいな」

ベルトルト「やばいよね」

ライナー「あいつ、袋と友だちになるほど思いつめていたのか……」

ベルトルト「……まあ、袋は滅多に裏切らないからね。話し相手としては打ってつけだと思うよ」

ライナー「……フォローになってるのか? それ」

ベルトルト「…………」

ライナー「……なあベルトルト、今からでも他の女子と交流を持つように言ったほうがいいんじゃないか? このままじゃアニが不憫すぎるぞ」

ライナー「あいつにだって、同年代の友人は必要だ。……少なくとも、裁縫を教えてもらえる程度には、仲良くなってもいいんじゃないか?」

ベルトルト「……壁内に友だちを作って、後から辛くなるのはアニだよ」

ライナー「だからって、今がどうでもいいってわけじゃないだろ」

ベルトルト「でも、友だちを作れって言ってもさ……今のこの時期から、どうやってきっかけを掴むんだよ。並の手段じゃ無理じゃないか?」

ライナー「そこで紹介したいのがこれだ」ザラザラ


ベルトルト「……ビーズ?」

ライナー「超特大のスワロフスキーだ。今度馬術の訓練があるだろ? ――これで鞍をデコる」

ベルトルト「なるほど……! 『キラキラッ☆彡コーデで友だちと差を付けちゃえ! 夏のモテカワ馬術デビュー!』だね!」ポン

ライナー「いきなりじゃ緊張するかもしれんからな。まずは俺が次の馬術の時間にやってみせよう!」ワクワク

ベルトルト「ははっ、あまり目立ちすぎないでくれよ? あくまでもアニがデビューするのが目的なんだからさ」ハハッ

ライナー「わかってるって、心配するな。……それにアニの時は倍のビーズを付けてやろうと思ってるからな。俺はただの前座だ」フッ

ベルトルト「次の馬術訓練が楽しみだ……!」

ライナー「ベルトルト、見てろよ……! 俺のこの鞍で、他の奴らの度肝を抜いてやるぜ!」


―― 数日後 兵舎裏

ベルトルト「……アニ」ガサガサ

アニ「遅い」

ベルトルト「ごめん。こっちにも色々あって……」

アニ「……? ライナーは? 今日はあいつが来る日でしょ?」

ベルトルト「……鞍の手入れをするから、今日は来れないって」

アニ「鞍?」





―― とある教室

ライナー「何故だ……! 何故鞍にスワロを散りばめてはいけないんだ……!」ブツブツ...

アルミン「僕にもさっぱりだよ。教官の考えてることがまるでわからない」

ライナー「こんなシャレオツな鞍なんて訓練所のどこを見回したってねえぞ! 教官はどこに目ぇ付けてんだ!」

アルミン「きっと時代がまだ追いついてないんだよ。気に病むことはないさ、ライナー」ポン


ライナー(くそっ、おかしいぞ……! 今日の俺のコーデは完璧だったはずだ。その証拠に、周りの奴らが次から次へと俺の馬に群がってたしな……)

ライナー(方向性は間違っていないはずなんだが……教官に止められてはどうしようもない。だが、このままじゃアニがモテカワデビューできねえ……!)ギリッ...

ライナー(……それとも、俺が間違っていたのか? 教官のセンスのほうが真っ当ってことなのか……?)

ライナー「……なあアルミン。もしかして、間違ってるのは教官じゃなくて俺らなんじゃねえのか? お前はどう思う?」

アルミン「いいや、僕は全然そんなことないと思うよ? ――ねえエレン、僕らは間違ってると思う? 君から見てどうかな?」

エレン「そうだなぁ……強いて言うなら、夜道でも見えやすいように蛍光色を使うべきだったんじゃないか?」

ライナー「なるほど、蛍光色か……! いい着眼点だ!」ポン

アルミン「流石エレンだ!」パチパチ


エレン「そういや最近、夜道でも光るビーズってのが出たらしいぜ。この前新聞に広告が載ってたぞ」

アルミン「でもそういう新商品って異常に高いだろ? 新商品を逐一追いかけるのって、訓練兵には辛いものがあるよね……」ハァ...

エレン「何言ってんだアルミン、その辛さがいいんだろ?」

ライナー「そうそう、辛い時はカタログ眺めてるだけで幸せになれるしな」

アルミン「カタログか……僕、もうどこに何がどこに載ってるか覚えちゃったんだよね」ハァ

エレン「848年発行XXX社手芸カタログ3巻、注文番号104534」

アルミン「シャンデリアフラワーのシルバー。大きさは35×20mm」

ライナー「171530」

アルミン「ガラスパールの4mm玉40個入り。色はオーキッド」

エレン「……すげぇなお前」

ライナー「早く新しいカタログが出るといいな、アルミン」

アルミン「せめて白黒じゃなくて、カラーだといいんだけどなぁ……」ハァ...


エレン「……」

ライナー「……」

アルミン「……」

エレン「……あとさ、股ずれも心配だよな。そんなにゴツゴツしてると」

ライナー「ああ……そういうのもあったな。全然考えてなかった」

アルミン「股ずれに屈するデコレーションなんて聞いたことないよ」

エレン「……」

ライナー「……」

アルミン「……」

エレン「……続きやるか。全部剥がさなくちゃメシ抜きなんだろ? ったく、ひでぇよなぁ教官も」ベリベリ

ライナー「すまねえな二人とも、面倒なこと手伝わせちまって……」ベリベリ

アルミン「どうせ暇だったし大丈夫だよ。気にしないで」ベリベリ

今日はここまでー 次は3月中に来たい

ちなみにピンクわたウサギの赤ちゃんの服の作り方は>>1のオリジナルではありません
引用元はたぶん日本ヴォーグ社発行の「だいすき!シルバニア」で見たような……そうじゃなかったような……??


――同刻 兵舎裏

アニ「今日はこんなところだね。ライナーにはあんたから伝えといてくれる?」

ベルトルト「わかった、任せておいて。……ところでさ、アニ」

アニ「何?」

ベルトルト「……あのさ」

アニ「……?」

ベルトルト(実習まで、もう一週間もない。……今日を逃したら、きっと間に合わない。教える時間もほぼなくなる……)

ベルトルト(……ライナーがいないんだから、僕だけで何とかアニを説得しないと)

ベルトルト「……その、今度の実習のことなんだけど」

アニ「……」

ベルトルト「君が裁縫苦手なことは知ってるし、点数にならない訓練には本気になれないこともわかってる。……でも、今回の実習だけは真面目に取り組んでおいたほうがいいと思うんだ」


ベルトルト「将来的にも、裁縫は覚えておいて損にはならない技術だし……アニさえよければ僕らで」

アニ「あんたたちは嫌」

ベルトルト「……」

アニ「嫌」

ベルトルト「……………………じゃ、じゃあ、僕かライナーのどっちか一人ならどう? それなら」

アニ「だから、どっちも嫌。……二人には、教わりたくない」

ベルトルト「……そ、そっか。嫌なんだ……そっか……」シュン...

アニ(今二人に教わったら、私の密かな努力が無駄になっちゃうからね。……せいぜい腰を抜かさないように身体を鍛えておけばいいさ)フフン

ベルトルト(僕たち、アニにそんなに嫌われてたのかなぁ……)

アニ「話はそれだけ? ――じゃあ私、先に戻るから」スタスタ...

ベルトルト「……うん。またね……」

ベルトルト(ごめん、ライナー……やっぱり僕には、アニの説得は無理だったよ……)


――数日後 兵舎裏

アニ「……」チクチク...

コニー「おっ、ようやく玉どめできるようになったのか? やるじゃねえかアーニャ!」パチパチ

アニ「……どうも」

アニ(野戦治療実習まであと5日……このペースならなんとかなりそうだ)

アニ(ふふふふふ……! あいつらが腰を抜かす姿を見るのが楽しみだね……!)ワクワク

マルコ「……最近楽しそうだね。アニ」

アニ「楽しそう? ……私が?」

マルコ「うん。僕の見間違いじゃなければ、今もちょっとだけ笑ってたよね?」

アニ「…………」

マルコ「あのさ、怒らずに聞いてほしいんだけど……アニっていつも一人でいるから、こうやって集まるのは苦手なのかなって思ってたんだ」

マルコ「もし本当に苦手なら、誘って悪かったって思ってたからさ。……少なくとも、不快には思ってなさそうで安心したよ」

アニ「……やれることが増えると、誰だって嬉しくなるでしょ」


アニ「それだけだよ。他に理由なんかない。――私は一人でいるほうが好きなのは本当だし、……楽しそうに見えるのも、あんたの気のせい。見間違いだよ」ドバドバ

マルコ「アニ、アニ!? 手!! 手から血が出てる!!」オロオロ

ユミル「おいおいおいおい、ベッチャベチャだぞお前」

アニ「………………これは、わざと染めたの」

コニー「んなわけねえだろ」

ユミル「ったく、アー……ニャは進歩がねえなぁ。私なんかもう並縫いを自分のものにしたぞ? どうだこれ!」シュルシュル

マルコ「引っ張ったところ全部ほどけてるよ」

ユミル「……なんでもかんでも糸で縫ってもらおうとするのは、甘えなんじゃないかと私は思う」ペタペタ

コニー「おい何塗ってんだ」

ユミル「のり」ペタペタ


マルコ「……紙のりでくっつけてもすぐ剥がれるよ」ペリペリ

ユミル「ああっ!? ――おい何すんだよマルコ! 二人を無理矢理引き剥がしてそんなに楽しいかぁっ!!」

マルコ「僕がやらなくてもそのうち剥がれてたと思うけど」

コニー「あーあ、二人とも生地こんなにしちまって……」デローン...

アニ「私たちが悪いんじゃない。生地が根性ないんだよ」

ユミル「この布と私たちとの相性が悪いんじゃないか?」

マルコ「相性や根性の問題だったらこんなに手こずってないよ」

コニー「っつうか、アーニャは縫うときに力が入り過ぎなんだよな。逆にユーミールは力……ってか、手の抜きすぎだ」

アニ「入れてないよ」

ユミル「抜いてねえよ」

コニー「お前らがそう言ってもこっちは見ればわかるんだよ。布は正直だからな。例えばアーニャの縫ったこの布だが――ちょっと糸抜くぞ?」シュルッ



   ― ◯ ― ・ ― ◯ ― ◯ ― ◯ ― ・ ― ・ ― ◯ ―


コニー「ほら、針の通った穴見てみろよ。針よりもひと回りくらいでかくなってるところがあるだろ?」

アニ「……? みんなそうでしょ?」

マルコ「少なくとも僕やコニーはなってないよ。……ほら」


   ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ―


ユミル「おー、本当だ」


コニー「革を縫うわけじゃねえんだし、もう少し手から力抜いて縫ってみろよ。あと布に針を刺すときに勢いはいらねえぞ」

アニ「……でも、もし針が通らなかったら」

コニー「そんなろくでもねえ布渡してねえよ」

マルコ「布と勝負してるわけじゃないんだし、もっと気楽に構えなよ。アニ」

アニ「……ん。わかった」


コニー「んで、ユーミールの方だが……お前はまずこのガッタガタの縫い目をどうにかしろ」


   ― ・ \ .  ̄ ・ / ゜ ― ・ _ ・ \ ・ / ・ ―


ユミル「私は枠にハマらない女だからな」

マルコ「そういう問題じゃないだろ?」

コニー「別に直線にしろとは言わねえけどよ、縫ってくうちに端に寄ってくのだけでも気をつけようぜ」

ユミル「端のほうから自発的に近寄ってきてるんじゃないか?」

マルコ「布はそんなことしません」

コニー「あとは……二人に言えることなんだけどさ」


コニー「お前ら、縫うときはちゃんと針と糸と布を見ろよな。なんで毎度毎度目ぇ閉じてるんだ?」

マルコ「……えっ、閉じてたの!? 目を!?」

コニー「おう。前回気づいたんだけどさ、二人とも布に針刺す瞬間にどこも見てねえんだよ。危ねえからやめたほうがいいぞ」

マルコ「……アニ? ユミル?」

アニ「……だって手に針刺さったら痛いし」

ユミル「あまり熱心に見つめてたら、針が緊張して布に刺さってくれないかもしれないだろ?」

マルコ「きちんと見てないから手に針が刺さるし、針が布にうまく刺さらないんだよ」

アニ「……そうなの?」

ユミル「そんなバカな……!」

マルコ(二人の手元ばかり見てたから全然気が付かなかった……まさか、こんな初歩的なことだったなんて……)

マルコ「……二人とも、試しに目を開いたまま並縫いしてみてくれないか?」スッ

今日はここまで 続きはできたら今週中
しばらく裁縫講座になる予定


―― 一番手・ユミル

ユミル「……」シュッ

マルコ「それはもういいから」

コニー「二人とも本当に上手くなったよなぁ、糸通し」

ユミル「私とアーニャは日々成長してるからな。今では目を閉じたままでも針に糸を通せる気がするくらいだ」

マルコ「だから目は開けろって言ってるじゃないか」

ユミル「それで、並縫いすればいいんだったよな? ………………………………えっと」

マルコ「こっちが布の裏だよ」

ユミル「……」プス

アニ「今のところは目が開いてるね」

コニー「やり始めたばっかりだしなー」


ユミル「……」プスッ...プスッ...

マルコ「ユミル、また端に寄ってるよ」

コニー「針じゃなくて布を動かしたほうが真っ直ぐな線になりやすいぞー」

ユミル(……布? 布を動かす……??)

ユミル「…………」

ユミル「…………ふんっ! ふんっ!」バッサバッサ

コニー「違ぇよ! ていうか針がついた布を振り回すんじゃねえ!」

マルコ「ユミル、そうじゃないよ。――いいかい? まずは右手の針を左手の布に刺すだろ?」

ユミル「……刺した」プス

マルコ「今、ユミルは布に針を刺すときに針を下に向けて刺したよね。その時左手はどうなってる?」


ユミル「全力で布を引っ張ってる」

コニー「なんでだよ」

ユミル「なんでも何も、こうしないと真っ直ぐ刺さらないだろ?」

マルコ「でもさ、実際は布を引っ張りすぎて、刺す場所を毎回間違えてるよね?」

ユミル「まあ………………そうとも言うな」

マルコ「ええと、なんて言えばいいのかな……布は割りと自由に動くけど、針は真っ直ぐなままだろ?」

マルコ「だから、縫うときに動かすのは針じゃなくて布なんだ。真っ直ぐな針に合わせて縫いやすいように、布を上下に動かしていくんだよ」

ユミル「ほうほう、布を……」



コニー「……なあアーニャ、マルコは何言ってるんだ?」ヒソヒソ

アニ「なんであんたがわかんないの?」


ユミル「……? ?? む、難しいな……??」チクチク...

マルコ「そう? ――だったら、紙に円を描くときのことを想像してみるのはどうかな?」

マルコ「綺麗な円を描きたいなら、鉛筆じゃなくて紙を動かすほうが上手に書けるだろ? 針と布もそれと同じだよ」

ユミル「……………………」

コニー「ほらほら目ぇ閉じてるぞ目」

ユミル「ぐっ……! くそっ、見てろよお前ら……!」チクッチクッ


―― 二番手・アニ

マルコ「さあ、次はアーニャの番だよ。因みに布の裏はこっちだからね」

アニ「……あのさ」

マルコ「何?」

アニ「瞬きはどれくらいの間隔でしたらいいの? 三秒くらい?」

マルコ「どれくらいって言われても……アニの好きな間隔でいいと思うよ」

アニ「……わかった」

アニ(目を閉じずに刺す、力を無理に入れない、勢いもつけない……)ブツブツ...




アニ「…………………………………………」ジーッ...



ユミル「いやいや、いくらなんでも見過ぎだろ」

コニー「まだ力入ってんぞ、アーニャ。……あと、針は五本指で持たなくても大丈夫だからな」

アニ「くっ……! この指を離したら、制御しきれるかどうか自信がないんだよ……っ!」プルプル...

コニー「ただの針と糸だっての」

アニ(……大丈夫。私は糸通しだってできるようになったんだから……! 並縫いだってきっとできる、できるはず……!)グググッ...


アニ「……やぁっ!」ブスッ!!

コニー「だから勢いつけるなってば!!」

ユミル「目も閉じてたぞ今」

マルコ「最後の瞬きをしてから、針を布に刺すまでの時間が長すぎるんだ。――ねえア……アーニャ。針を刺す瞬間に目を閉じてちゃ、いつまで経っても上手にならないよ?」

アニ「わかってるよ。……わかってるけど」

コニー「うーん、なんで治んねえのかなぁ……もしかして、また手に針刺すのが怖いのか? アーニャ」

アニ「……怖くないよ。全然怖くない。もう慣れてるし」ブンブン

コニー「慣れるほど刺すなよ」


ユミル「でもさぁ、昔っからあんなにプスプスプスプス指に針刺してんだろ? だとすると、裁縫すること自体が怖くなっててもおかしくないよな」

アニ「……? どういうこと?」

ユミル「だから、『慣れた』って思ってるのはお前の頭の中でだけだってことだよ。……もしそうなら、私たちにはどうにもできないってことになるぞ」

アニ「……でも、糸通しはできたじゃない」

ユミル「そりゃあ、厳密に言えば糸通しは『裁縫』じゃないからな」

アニ「…………」

アニ(……どうしよう。このままだと私、一生裁縫できないんじゃ……)


マルコ「それならせめて、肩から力を抜くことだけでも心がけようか。それならできるだろ? アーニャ」

アニ「……力を抜いても、手に針が刺さったら同じでしょ」

マルコ「同じじゃないよ。針は深く刺されば痛いけど、軽く当たるだけなら血だって滅多に出ないんだ。――ほら、見てごらん」プスプス

アニ「!! ……あんた、なんで自分の手に刺して……!」

マルコ「平気だよ。これくらいじゃ全然痛くないからね」プスプス

コニー「そもそもなんでお前、手に針刺しても我慢してるんだよ? 普通は怪我したくないから、自分で自然と加減するもんじゃねえのか?」プスプス

ユミル「そうそう、もっと気軽に刺そうぜ!」プスプス

マルコ「いや、気軽に刺すのはどうかと思うけど……」

アニ「気軽に……」


マルコ「怖いなら、針が布に刺さる瞬間は目を閉じててもいいよ。ただし、その前の段階まではしっかり目の前に集中するんだ」

マルコ「こうやって針先を布に宛がった後、自分の指と針先の位置を充分に確認して……ほら、これなら目を閉じたままでもできるだろ?」シュッ

コニー「すげえ! 裁縫って目ぇ閉じたままでもできるのか!」

ユミル「それで進めてったら逆に怖そうだけどな」

マルコ「そりゃあコニーや僕が縫うような速度でやったら怖いけど、ひと針ひと針確認して縫う分には大丈夫だよ。……はい、じゃあ縫ってみて。ゆっくりでいいからね」

アニ「…………」

アニ(刺しても、大丈夫。……大丈夫だから、力は入れない。入れない……)



アニ「…………………………」チクッ...



マルコ「そうそう、その調子その調子」


―― 夜の女子寮

ミカサ「……ふぅ」ゴロゴロ...

ミカサ(久々のお風呂、気持ちよかった……)

ミカサ(一緒に行ったサシャとミーナが遅いから、置いて出てきてしまったけれど……)チラッ



アニ「……………………」モゾッ...モゾッ...



ミカサ「…………」

ミカサ(……二人きりだと気まずい)ソワソワ


ミカサ(クリスタやユミルはどこに行ったんだろう。誰でもいいから、早く帰ってきてほしい――)

アニ「あっ」

ミカサ「」ビクッ

アニ「……………………あー」

ミカサ「……」

ミカサ(な、何? 何事? 何かあったの……?)オロオロ...

アニ(あーあ、糸なくなっちゃった……じゃあ次は、赤で練習してみようかな)ゴソゴソ...

ミカサ(……気になる。さっきから何をしてるんだろう)チラッチラッ


ミカサ「……ねえアニ、お風呂には行かないの?」

アニ(それとも、まだ赤は早いかな……あっ、このピンクもいいかも。……かわいい)キュン

ミカサ「…………」

ミカサ(無視された……)シュン...

ミカサ「あの、……アニ? お風呂は……」

アニ(この端切れも縫うところなくなってきたし、そろそろ別のに変えようかな。明日マルコに言って新しいのもらおうっと)

ミカサ「……アニ、お風呂」

アニ(……練習するだけなら、ハンカチとかでもいいのかな。後で糸ほどけばもう一回使えるよね)

ミカサ「おふろ……」

アニ(確かまだ、血がべったりついたのがその辺にあったはず――)クルッ


アニ「……」

ミカサ「……」

アニ「……どうも」

ミカサ「……こ、こんばんは」

アニ「……」

ミカサ「……」

アニ「…………ミカサ、いたの?」

ミカサ「いた。……ずっといた」

アニ「…………いつから?」

ミカサ「五分くらい前からいた。……今気づいたの?」

アニ「……まあね」

アニ(いつ戻ってきたんだろ、気付かなかった……)

ミカサ(よかった……! 無視されてるわけじゃなかった! よかった!)ホッ


ミカサ「あの……あのねアニ。お風呂がある。今日はお風呂の日。知ってる?」

アニ「お風呂? ……知ってるけど、今日はいいよ。遠慮しとく」

アニ(こっちはそれどころじゃないからね。……消灯まで、もう少しだけ進めておきたいし)

ミカサ「駄目。次のお風呂は三日後だからちゃんと入ったほうがいい。というか入るべき」ブンブン

アニ「だから、今日はいらないって。やることがあるから放っておいてくれない?」

ミカサ「やることがあるって……さっきから何をしてるの?」ヒョコッ

アニ「! ちょっ、何勝手に見て――」




ミカサ「…………………………」



アニ(ああ……しまった。ミカサに見られた……!)

ミカサ(な、なんなの……? この物体はいったい何……!?)

ミカサ(端切れの端から端まで、びっしりと並縫いが施してある……! しかも上のほうはちょっとドス黒い……!?)

ミカサ「……これは何なの。アニ」

アニ「…………」プイ

ミカサ「無視しないで、ちゃんと説明して。……みんなが寝る空間に、このような呪術的な道具を置いてはいけない」

アニ「そんなんじゃないよ」

ミカサ「じゃあ何?」


アニ「……ひ、拾ったの」

ミカサ「今あなたがガッツリ持ってたでしょ?」

アニ「見間違いじゃない?」

ミカサ「誤魔化さないで。私はちゃんと見てた」

アニ「…………」

ミカサ「もう一度聞く。――これは何?」

アニ「それは……」

アニ(見られたんじゃ仕方がない。……正直に話すしかないか)

アニ「……次の実習の練習してたの」

ミカサ「練習……?」

アニ「……私、裁縫下手だから」

ミカサ「……」

アニ「他に理由なんてないよ。……もういいでしょ。それ返して」スッ

ミカサ「……」ヒョイ


アニ「……」

ミカサ「……」

アニ「……」ピョンピョン

ミカサ「……」ヒョイヒョイ

アニ「……」

ミカサ「……」

アニ「……ミカサ。怒るよ」

ミカサ「……実習では、並縫いは使わない」

アニ「は? ……何の話?」


ミカサ「この縫い方で傷口を縫えば、後から傷口が突っ張ってしまう。裁縫道具を使って練習するなら、かがり縫いを身につけなくちゃいけない」

アニ「……そうなの?」

アニ(そういえば、マルコがそんなことを言ってたような……)

ミカサ「かがり縫いは知ってる? やったことはある?」

アニ「……知らないよ。下手だって言ったでしょ」

ミカサ「そう。……ねえアニ。他にいらない布はある?」

アニ「布? ……ハンカチならあるけど」

ミカサ「わかった。……じゃあちょっと待ってて」ゴソゴソ...


アニ「……? 何? 何してるの?」

ミカサ「端切れ、まだ持ってたはずだからアニにあげる。……黄色でいい?」

アニ「いいけど……何するつもり?」

ミカサ「かがり縫い、私が教えてあげる。……アニがよければだけど」

アニ「……何それ。いきなりどういう風の吹き回し?」

ミカサ「……私も、最初の頃は裁縫が得意じゃなかった。かなり不器用だった」


ミカサ「開拓地にいたおばあさんや……お母さんに教えてもらって、ちょっとずつできるようになっていった。――今あなたにこうやって教えるのは、その人への恩返し」

アニ「……恩返し」

ミカサ「……と、言われたことがある」

アニ「……つまり、あんたが私に裁縫を教えることが、その人たちへの恩返しになるってわけ?」

ミカサ「そう。……だから、私が今からやることは気にしなくてもいい」

ミカサ「もし、それでも気にかかるなら……今度はアニが、誰かにこのことを教えてあげて。裁縫ってそういうものだから。……私は、そう教わったから」

アニ「……」

ミカサ「まずは私がやってみせるから、アニは針と端切れを手に持って…………………………ちょっ、ちょっと待って待って、目はちゃんと開けなきゃ危ない! 目は開いて! ――違う違う違うそこに刺さない私の手元をよく見て! 見なさい!! ちゃんと見なさいって言ってるでしょ!!」

今日はここまで 次回は今月中 に、来れたらいいな
裁縫をするときは目を開いてやりましょう


―― 五分後

ミカサ「……」ゼエハア

ミカサ(さ、叫びすぎた……酸欠でふらふらする……)

ミカサ(でも、あれだけ言ったんだからアニだってわかってくれたはず。私の努力は無駄になってなんか――)チラッ



アニ「……」プス



ミカサ「……」

ミカサ(……また目を閉じてる)

ミカサ「アニ、目を開けて」

アニ「嫌」

ミカサ「……そんな縫い方じゃ怪我をする。聞き入れて」

アニ「……」プイ

ミカサ「」イラッ


ミカサ(……駄目駄目、落ち着いて。ここで怒ってはいけない。無闇やたらに叱っては、アニの教育上非常によろしくない。気をつけないと……)

ミカサ(第一、こんな超絶技巧よりももっと優先して教えるべきことがあったはず。アニに裁縫を教えた人は一体何を考えているの? ……そもそも、誰が教えたのだろう)

ミカサ(とにかく、まずはあの危なっかしいやり方を矯正しなければ。……よし)

ミカサ「……」スクッ スタスタ...

アニ「ミカサ? どこか行くの?」

ミカサ「いいえ、どこにも行かない。座る位置を変えるだけ。……よいしょ」ストン

アニ「……? なんで私の後ろに座るわけ?」

ミカサ「すぐにわかる。――こうするの」スッ


―― 同刻 女子寮廊下

ミーナ「ミカサってば、私たちのこと置いて帰っちゃったんだねー。……そんな長風呂してたわけじゃないんだけどなぁ」

サシャ「全くミカサったら、仲間を置いて帰るなんて酷いですよね! 帰ったら文句を言って明日のパンを3食分要求しましょう! ミーナはスープでもいいですか?」

ミーナ「ううん、私はいらない。……ところでさ、今ってアニとミカサが部屋で二人っきりってことだよね?」

サシャ「そうですねー。お風呂に入る前にユミルとクリスタでどっか行っちゃいましたから、戻ってきてないとそういうことになりますね」

ミーナ「二人きりだとどういう会話してるのか気にならない?」

サシャ「なりません」

ミーナ「私は気になる。……といわけで、サシャはちょっとその辺で待ってて。私、二人の会話盗み聞きしてくるから」

サシャ「えー……私、明日は当番があるので早く寝たいんですけど」

ミーナ「そういえば、さっきあっちのほうに芋が転がっていくのを見たような気がするなぁ」ポン

サシャ「……ちょっと見回りに行ってきますね!」ダッ

ミーナ「はいはい。いってらっしゃーい。……さてと」

ミーナ(あの二人はいったいどんな会話をしてるのかなー、っと……)ヒョコッ


  『ちょっと、どこ触ってるの……っ、やだっ……』

   『そんなに恥ずかしがらなくてもいいでしょう? ……大丈夫。私に任せて』

  『……』

   『アニ、力を入れては駄目。……このままじゃ動かせない』

  『だ、だって……、その……』

   『怖いの?』

  『……いきなりこんなの、やめてよ。他の人に見られたらどうするの?』

   『廊下から見られたとしても、何をやっているかまではわからない。だから平気』

  『……! ――ちょっと! 私、初めてだって言っ……』

   『……震えてる』

  『…………』

   『安心して。……私が責任を持って、優しく教えてあげるから』

  『ミカサ……』




ミーナ「…………………………………………」



ミーナ(……えっ? えっ? どういうこと??)

ミーナ(ミカサが後ろからアニを抱きしめてて、それで……手を握って…………?)

ミーナ「…………」

サシャ「ちょっとミーナ、どこにもお芋ありませんでしたよ! どうなってるんですか!」プンスカ


ミーナ「……」

サシャ「……? ミーナ? どうかしました?」

ミーナ「……思い出した」

サシャ「はい? 何をです?」

ミーナ「今思い出した。ミカサはまだお風呂に入ってるんだった」

サシャ「えぇー……? でも、私たちがお風呂から出た時は誰もいませんでしたよ。脱衣所に服もなかったですし」

ミーナ「それは…………その、あれだよ、ミカサは服のまま湯船に入っていたんだよ! ……たぶん?」

サシャ「いえ、私に聞かれても知りませんけど」


ミーナ「というわけで戻ろうサシャ。ミカサをお風呂まで迎えに行こう?」グイグイ

サシャ「迎えって……ミカサなら勝手に一人で帰って来ると思いますよ? ほっときましょうよー」

ミーナ「そんなことないよ……そんなことないよ! ミカサだって、サシャが探しに来てくれるの待ってるはずだよ!! だって仲間なんだから!!」ブンブン

サシャ「そう言われましても……私、もう眠いんですけど」

ミーナ「私眠くない!!」

サシャ「ミーナじゃなくて、私が眠いんですってば。……あっ、そうだ! だったらアニに頼みましょうよ。確かまだお風呂入ってないんですよね?」ポン

ミーナ「……えっ、アニに?」

サシャ「そうですそうです。中にいるんでしょう? アニ」


ミーナ「アニは……………………えっと、あの、いい感じだから無理」

サシャ「いい感じ……? ぐっすり寝てるってことですか?」

ミーナ「そうそうそう、そんな感じそんな感じ」

サシャ「じゃあ叩き起こしましょう」スタスタ...

ミーナ「いやいや駄目だよ駄目だよ、せっかく気持ちよさそうに眠ってるのにかわいそうでしょ!?」グイグイ

サシャ「……まあ、そうですね。確かにぐっすり寝てるところを起こされるのは嫌ですよね」

ミーナ「でしょでしょ? ――じゃあ、サシャが今やるべきこともわかるよね?」

サシャ「私もお布団入って寝ます。おやすみなさい」スタスタ...

ミーナ「いやいやいやいや待って待ってお願いちょっと待って!!」グイグイ

ミーナ(ど、どうしよう……! このままじゃアニとミカサの…………何かヤバい諸々がみんなに広まっちゃう! 私が何とか時間を稼がないと……!)


ミーナ「えっと、えっと……ね、ねえサシャ、よく考えてみて? サシャが苦しかったり辛かったりした時、支えてくれる人がいるでしょう? そういう人のことってなんていう?」

サシャ「お医者さんです」

ミーナ「違うよ仲間だよ!! ――いい? ミカサは今、サシャが助けに来てくれるのを浴槽の底でじっと待ってるの!! わかるよね!?」

サシャ「いえ、ミーナが何を言い出したのか全くわかんないです」

ミーナ「私はね……サシャには、仲間の一大事を見て見ぬふりする子になってほしくないの。だから一緒にお風呂に行こう? ねっ、いいでしょ?」

サシャ「……ミカサの手に負えない一大事を、私たちでどうこうできるとは思えないんですが」

ミーナ「……」

サシャ「寝てもいいですか?」


ミーナ「……さっき私、芋があっちを転がっていくのを見たって言ったよね」

サシャ「……? はぁ、そうですね。結局何もありませんでしたけど」

ミーナ「その子ってさぁ……もしかして、サシャが持ってるコイモちゃんの、生き別れの家族だったんじゃない?」

サシャ「えっ……? でも、コニーは家族は作らないって――」

ミーナ「……異母兄妹だったとか」ボソッ

サシャ「……! いっ、イモ兄妹……!?」


ミーナ「コイモちゃんのお兄ちゃんはね……幸せな家庭にもらわれていった妹を一目見に、食料庫からここまではるばるやってきたの」

ミーナ「何故なら……お兄ちゃんは明日の朝食のスープに入れられてしまうから!!」

サシャ「そ、そんな……!! 悲しすぎますそんなの!! なんとかできないんですか!?」

ミーナ「うーん、そうだねぇ……私には、今すぐ食料庫に行ってお兄ちゃんを助け出しに行くくらいしか思いつかないかなぁ」

サシャ「行きましょうミーナ! 家族が離れ離れになるなんていけないことです! 今すぐ行きましょう!! ついでに色々物色してきましょう私お肉ある場所知ってます!! さあ早く!!」グイグイ

ミーナ「…………うん、行こっか」

ミーナ(まさかイモに負けるなんて……ミカサ、かわいそう)


―― 同刻 女子寮 ユミルたちの部屋

アニ「……? ねえ、今何か聞こえなかった?」

ミカサ「聞こえない。……いいからアニ、私の手元をよく見て。ちゃんと集中して」

アニ「……あのさ」

ミカサ「何?」

アニ「この体勢はなんなの? ……恥ずかしいんだけど」

ミカサ「これなら絶対に手には刺さらない。それに、目で見るだけじゃなくて手も動かしたほうが理解も早まる」

アニ「だからって、こんな……手取り足取りみたいな教え方しなくていいでしょ? 子どもじゃないんだから……」

ミカサ「はじめて字書きの練習をするときは、親や先生にこうやって手を添えてもらいながら教えてもらうでしょう? それと一緒。何も恥ずべきことじゃない」

アニ「……」

ミカサ「さあ、力を抜いて。……大丈夫。ゆっくり進めるから、焦らなくていい」チクチク...


―― 同刻 とある教室

クリスタ「……はい。ボタン付けたよ」プツンッ

ユミル「おおー! ありがとなークリスタ、これで着れるシャツが増える!」グッ

クリスタ「ふふっ、ならよかった。――他に縫ってほしいものはある?」

ユミル「そうだなぁ……私の心にポッカリと開いた大きな穴かな……」

クリスタ「ないなら戻ろっか。お風呂にも入りに行きたいし」ゴソゴソ

ユミル「あるあるすまんもう一個ある!! ――実はさ、部屋着の膝のあて布が擦り切れちまったんだ。ほら、三ヶ月と五日前にやってもらっただろ?」

クリスタ「どれどれ、ちょっと見せて? ……あ、本当だ。じゃあ今直しちゃうね」


ユミル「……糸通すのか? 通すのか?」ソワソワ

クリスタ「通すよ。今度は茶色だね」ゴソゴソ

ユミル「糸通しやってもいいか? いいだろ? なっ?」クイクイ

クリスタ「いいけど……糸通しが好きだなんて変わってるよね、ユミル。――それじゃあお願いね」スッ

ユミル「よっしゃ! 糸通しは私に任せろー!」シュッ

クリスタ「わぁっ、早い! ……ユミルってば、いつの間に糸通しなんてできるようになったの? しかもこんなにすんなり……」

ユミル「ふふふふふ……何せ成長期だからな、私は」フフン

クリスタ「へえ……成長期ってすごいんだね。私、糸通しが苦手だから羨ましいなぁ……」ハァ

ユミル「なら、私が糸通しのコツってのを教えてやるよ! ……ああでも、クリスタの髪が一本でも減っちまうのは困るな……」ブツブツ...

クリスタ「?」


―― 同刻 男子寮 エレンたちの部屋

ライナー「……そうか。お前から言っても駄目だったか」

ベルトルト「うん、ごめん……僕なりに、頑張ってはみたんだけど」

ライナー「いや、別にお前を責めてるわけじゃないから気にするな。俺が一人で行ったところで結果は同じだろうしな」

ベルトルト「でも、このままだと傷口を縫うための実習が止血の実習になっちゃうよ?」

ライナー「仮にそうなったとしても、前回の実習の復習になっていいんじゃないか? 試験をする暇も省けるだろ」ハハハ

ベルトルト「……………………」

ライナー「…………いや、すまん。俺が悪かった」シュン

ベルトルト「全く……冗談を言ってる場合じゃないだろ? 状況を考えてくれよ、状況を」

ライナー「……おう」ショボン...


ベルトルト「それに、止血の実習をすると廃棄される人形が必ず1体か2体出るじゃないか。彼らの犠牲をもう忘れたのかい?」

ライナー「いや、覚えてるぞ。――えーっと……あいつらの名前なんだっけか……? “腰ばきのレオン”?」

ベルトルト「誰だよそれ。……ジョセフィーヌちゃんとアンドレーくんだよ」

ライナー「……ああ! 上半身裸の男とシフォンワンピースを着た可愛い子ちゃんだな!」ポン

ベルトルト「……でもさぁ、あのワンピースは正直ないよねー」

ライナー「だよな。――そうだな、俺だったらもう少しこう……落ち着いた色にするかな。巨人に狙われにくくなるように目立たない色を選ぶ」カキカキ...

ベルトルト「えっ、そこ? ワンピースのデザイン自体はいいの?」

ライナー「問題ない。俺は好きだぞああいうの」

ベルトルト「……ライナー、ふわふわした格好大好きだよね」

ライナー「その言い方は止めろ!! 周りに誤解を与えるだろうが!!」


ライナー「……」

ベルトルト「……」

ライナー「じゃなかった、違う! 今はジョセフィーヌの格好なんてどうでもいい!!」ビリビリ

ベルトルト「そうだよ、アニの裁縫の件だよ! ……それで、どうしようか。もう打てる対策なんてほぼないけど」

ライナー「……人形に、あらかじめ血が目立たないような服を着させておくのはどうだ」

ベルトルト「うーん……悪くないアイディアだとは思うけど、何体分縫う気なの?」

ライナー「ええと……人で一班で、訓練兵が二百人ちょいだから……」ブツブツ...

ベルトルト「……」

ライナー「……四十体ほどだな! 俺とお前で二十体ずつ担当しよう」

ベルトルト「どう考えても無理だろ」

ライナー「だよなぁ……」ハァ

今日はここまで 次回は来月中ー
アニとミカサの裁縫教室、微笑ましいですね(棒読み)

>>706 修正
ライナー「ええと……人で一班で、訓練兵が二百人ちょいだから……」ブツブツ...
→ライナー「ええと……四人から五人で一班で、訓練兵が二百人ちょいだから……」ブツブツ...


ライナー「ところでお前、次の休みの日は空いてるか? 当番とかないよな?」

ベルトルト「……? うん、今のところは何もないよ。どうかした?」

ライナー「こうなったら荒療治しかねえだろ。……朝のうちにアニを捕まえて、一日みっちり付き添って裁縫を教える。暇ならお前も付き合え」

ベルトルト「……! わかった、そういうことなら協力するよ。二人がかりならなんとかなるかもしれないしね」

ライナー「そうとなれば、まずは教材を用意しなくちゃな。なるべく女子が好む、かわいい題材を選ぼうじゃないか」

ベルトルト「そういえば、カタログに初心者用のキットの見本があったような……あ、あった。これを参考にして用意すればいいんじゃないかな」ペラッ

ライナー「なるほど……『森のどうぶつたち』と『かわいいお花ばたけ』か。……よし、花でいいよな?」

ベルトルト「えっ? どう考えても動物でしょ?」

ライナー「……」

ベルトルト「……」


ライナー「……アニと言えば花だろ。お前、小さいころによくわからん花で冠を作ってもらったこともう忘れたのか?」

ベルトルト「忘れるわけないじゃないか! ……ライナーこそ、アニが野良猫と一緒ににゃーにゃー話してる姿覚えてないんじゃないの? あの時のアニはとってもかわいかっただろ!」

ライナー「何言ってるんだ、にゃーにゃーだけじゃなくてわんわん言ってたこともしっかり覚えてるに決まってるだろ! ……けどな、野原で適当に選んだ花を組み合わせて小さい花束を作っていたアニのほうが何倍もかわいかったぞ!!」

ベルトルト「くっ、確かにそのアニも捨てがたいところではあるけれど……でも僕は、山でうさぎと追いかけっこしてたアニのほうがもっともっとかわいいと思うよ! 鳴き声がわからないからって『ぴょんぴょん』って喋ってた時なんかもう最高だったじゃないか! そうだろ!?」

ライナー「……そうかもしれんが」

ベルトルト「だろ?」


ライナー「……でも俺は花がいいと思う」

ベルトルト「僕は動物じゃないと嫌だ」

ライナー「……」

ベルトルト「……」

ライナー「……ちっ。話にならん」ギスギス

ベルトルト「ライナーがこんなにわからず屋だとは思わなかったよ」ギスギス

ライナー「その言葉、そっくりそのまま返させてもらうぞ。……もういっそのこと、お互い別々にキットを作らないか? それでどっちがいいかアニに選んでもらおう」

ベルトルト「いいよ、そうしよう。――まあ、僕のが選ばれると思うけどね」

ライナー「言ってろ。……次の休みの日、覚えてろよ」


―― 数日後 休日の朝 兵舎裏

アニ「こんな朝早くに呼び出して何の話? ……私、用事あるんだけど」

ライナー「残念だが、その用事は諦めてもらうしかないな」

ベルトルト「僕たちが何を言いたいかわかるだろ? アニ」

アニ「全然」ブンブン

ライナー「とぼけるな。……野戦治療実習のことだ。『知らない』とは言わせねえぞ」

ベルトルト「君が実習で困らないように、僕たちが今日一日付きっきりで裁縫を教えるよ。できるようになるまでとことん付き合うからね」

アニ「別にいいよ、そんなの。……今は特に困ってないし」

ライナー「よくねえ」ズイッ

ベルトルト「これから困ったらまずいから教えるんじゃないか」ズイッ

アニ「近いんだけど」


ライナー「おそらくお前のことだ、端切れをチクチク縫い合わせる練習じゃあ物足りないって言うんだろ? ――そこでおすすめしたいのがこの『初心者専用キット・お花ばたけでの思い出』だ。いくつかの段階を踏めば、最終的に大きな花束を抱えたお前の人形が完成する」

ベルトルト「いや、ここは『初心者専用キット・動物たちとの約束』がいいと思うよ。簡単な課題をこなすだけで、最終的に6種類の動物に囲まれた君の人形が完成するんだ。ライナーのなんかよりこっちのほうが断然いいと思うよ」

アニ「……どっちも嫌なんだけど」

ライナー「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!! 前々から思っていたがお前には兵士としての責任感が足りんぞ!!」ガミガミ

ベルトルト「ライナーの言うとおりだ! これは間接的にだけど任務に関わることなんだよ!?」ガミガミ

アニ「……」イライラ

ライナー「さて、どちらのキットにするかは後で決めてもらうとして……そうだな、先に最終的な目標だけ教えておこう。ゴール地点は両方とも同じだからな」

ベルトルト「アニにとってはかなり難しいかもしれないんだけど……一度も出血しないで、ここからここまでまつり縫いで縫えるようになることが最終的な目標だよ。頑張ろうね」

ライナー「今はまつり縫いってのがなんなのかわからないかもしれんが、そう心配するな! 俺の『初心者専用キット・お花ばたけでの思い出』を最後までやりきれば、お前は裁縫のプロになれる! 必ずだ!」

ベルトルト「いや、ここは僕の『初心者専用キット・動物たちとの約束』でワンランク上の技術を手に入れよう! 実習で使う縫い方だけじゃなくて、ボタン付けや裾のほつれの直し方みたいな実用的なテクニックも盛り込んであるんだ! ここで覚えておけばいつかきっと役に立つはずだよ!」

アニ「…………」

アニ(こいつら、どこまでも人のことを馬鹿にして……)イライライライラ...


アニ「……その端切れ、貸して」

ライナー「これをか? ――お前もしかして、引き千切ってなかったことにしようってんじゃ」ハッ

アニ「いいから貸して」

ライナー「…………ほらよ」スッ

アニ「……」ゴソゴソ... パカッ

ベルトルト(……! あれ、僕とライナーで作った裁縫箱だ……!)キュン

ライナー(あいつ、普段から持ち歩くほど気に入ってくれたのか……!)キュン

アニ「……」ゴソゴソ...

ライナー「……お、おい? なんで針を手に取ってるんだ? 危ないぞ?」ソワソワ

ベルトルト「待ってよアニ、まだ僕たち針の持ち方なんて教えてないよ? ……あのさ、縫い針には糸を通す穴っていうのがあって、そこに糸を通さなくちゃいけないんだけどこれがまた難しくてああああああ危ない危ない怪我しちゃう気をつけて!!」ビクビク



アニ「……」シュッ



ライナー「」

ベルトルト「」


アニ(よかった……ちゃんと通った)ホッ

アニ「まつり縫いでいいの?」

ライナー「……」

ベルトルト「……」

アニ「ちょっと、聞いてる?」ツンツン

ライナー(今のはなんだ……? アニはいったい何をやったんだ……?)

ベルトルト(まさか、一人で糸通しを……? ――いや、ありえない。あのアニが出血せずに、それも一回で針に糸を通すなんて絶対にありえない……!)

アニ(……もういいや。勝手にやろうっと)プスッ

ライナー「あっあぁあっあぁぁあ危ねええぇぇええっ!! 危ねえよ気をつけろ何してんだぁっ!!」ビクビク

ベルトルト「ひいぃっ!! あああああアニ、気をつけて気をつけて手元見て!! お願いだから!!」ガタガタ

アニ「うるさい」チクチク...


アニ「……」チクチク...

ライナー「……」スッ

ベルトルト「……」スッ

アニ「包帯も消毒液もいらないからしまいなよ。――はい、これでどう? ちゃんと縫ったしもう行っていいかい?」スッ

ベルトルト(うっ、嘘だっ……! 少し縒れてるけどちゃんとできてる……!?)

ライナー「いいや、まだだ! 玉留めするまでが裁縫だ!」

ベルトルト「!? 待ってくれライナー! アニが玉留めなんて高度なこと、できるわけが――」チラッ



アニ「……」シュッ ...プツンッ



ベルトルト(できちゃった)

ライナー(う、嘘だろ……? あのぶきっちょさんなアニが、こんなにも簡単に……!?)ガタガタ...


アニ「さてと。……次はあんたたちが縫う番だね」ポイ

ライナー「はっ? ……い、いや、俺たちはできるから別にやらなくてもいいんじゃ」

ベルトルト「――やれよライナー」

ライナー「……! ベルトルト……」



ベルトルト「兵士としての責任を……教えてやるんだろ?」



ライナー「……」ハッ

アニ「……」

アニ(なんでベルトルトが偉そうにしてるんだろ)

ライナー「あぁ……そうだな。兵士には引けない状況がある。――今がそうだ!」キリッ


ライナー「…………」チクチク...チクチク...

ベルトルト「……」

ベルトルト(アニより丁寧に縫おうとしてるせいで、逆に遅くなってる……)

アニ「ねえ、もう私帰ってもいい? 本当に急いでるんだけど」

ベルトルト「あ、うん。わかった、ライナーには僕から言っておくよ。……あのさ、帰る前に一ついいかな」

アニ「何?」

ベルトルト「裁縫、誰から教わったの? ……びっくりしたよ。ついこの間まで僕らに繕い物を頼んでたのに、いきなりあんな風に縫えるようになってるんだからさ」

アニ「……」

ベルトルト「同室の……ミーナとかに教わったのかい? それとも誰か他の――」

アニ「……言いたくない」プイ

ベルトルト「……そっか」

アニ「……」

アニ(教えないほうがいいよね。……二人に教えたら、菓子折持って突撃しそうだし)

ベルトルト(何かお礼の品を作ったほうがいいよなぁ……後でライナーと相談しないと)グッ


―― しばらく後 昼前の兵舎裏

ユミル「なあコニー、これでどうだ? ちゃんとまつり縫いになってるよな?」

コニー「どれどれ……おおっ、よくできてるじゃんか!」

ユミル「……へへへ、まあなー」ニヤニヤ

アニ「私もできたよ。……見てくれる? マルコ」

マルコ「いいよ、ちょっと貸してくれる? ……うん。縫い目も曲がってないし、いいんじゃないかな。すごく丁寧に仕上がってると思うよ」

アニ「…………そう。ならいいけど」プイ

マルコ(……覆面で見えないけど、たぶん照れてるなよなぁ。これは……)ジーッ...

コニー「しっかし、こんな短期間でここまで上手くなるとは……よくやったなぁ、ユーミールにアーニャ」

ユミル「私たちは才能に満ちあふれているからな」

アニ「能ある鷹は爪を隠すって言うからね」

マルコ「才能の片鱗が見えるまでとんでもなく苦労したけどね」


ユミル「……ところでコニー、例のブツは?」ソワソワ

コニー「ああ、ちゃんとできてるぞ。――ほい、頼まれてた…………えーっと、チアノーゼ?」

ユミル「チアガールだ。……おおっ! すげぇ、ちゃんとプリーツスカートになってるじゃんか……!」ワクワク

アニ「……ねえ、私のマーメイドドレスは? まだ?」クイクイ

コニー「そっちもできてるって。……ほらよ。お前の希望した通り、白いサテン生地で作ったぞ」

アニ「……!」ピクッ

マルコ(あっ、喜んでる)

コニー「これでお前らから頼まれた分は全部渡したはずだよな? ――んじゃ、この集まりは今日で終わりってことでいいんだろ? もう教えることもないし、明日からはここに来なくてもいいんだよな?」

ユミル「私たちが困った時はいつでも駆けつけてきてくれていいからな」

アニ「用事ができたらまた呼ぶから、夜道と背後には常に気をつけなよ」

コニー「…………」

マルコ「『今までありがとう』だってさ」

コニー「……おう。どういたしまして」


マルコ「僕からも改めてお礼を言わせてくれ。――コニー、本当にありがとう。できれば何か、お礼をしたいところなんだけど……」

コニー「あー……別にそんなのいいって。俺が最初に言ったことを守ってくれりゃあそれでいいぞ」

ユミル「裁縫を悪用しない」

アニ「コニーの家族に手を出さない」

コニー「約束だかんな!! お前ら絶対破るなよ!?」

ユミル「わかってるわかってる」

アニ「善処するよ」

コニー「ぜっ……? ぜ、ゼンショスルーってなんだよ!! 難しい言葉使ってんじゃねえぞ!?」ガミガミ

マルコ「コニー、善処するってのは……えっと、『約束は破らないように頑張ります』っていう意味だよ。――心配しなくても大丈夫、僕がちゃんと二人を見張っとくからさ」

コニー「そ、そうか。ならいいけどよ……とにかく、その二つを守ってくれさえすれば俺はそれで……っと、そうだ。そういえばもう一つ言っておきたいことがあったんだった」ポン

アニ「……ボタン付けは、そのうちできるようになるから」プイ

ユミル「裾直しは……! 裾直しだけは見逃してくれ……!」

コニー「それは別にどうでもいい」


コニー「その人形……ピンクわたウサギの赤ちゃんだっけ? ――大切にしてやってくれよな、そいつのこと」

ユミル「何言ってんだ当たり前だろ!」ナデナデ

アニ「全力で愛でてるけど?」ナデナデ

マルコ「二人とも、それただの袋だよ、本物はこっち」サッ

コニー「ああ、大切にしてくれるならそれでいいんだ。……実は最近、俺もぬいぐるみを二体ほどかわいがってたんだけどさ」

マルコ「……えっ?」

マルコ(コニーったら、いつの間にそんなことを……最近ってことは、寮の部屋が分かれた後の話だよな? ……同室のジャンやアルミンは知ってるんだろうか)

ユミル「へえ、お前がぬいぐるみをか? 想像つかねえな」

アニ「……私は、ちょっとわかる気がするよ。あんたは意外と面倒見いいからね」

コニー「意外は余計だっての。……それでさ、部屋のみんなも一緒になって、そのぬいぐるみを――」

マルコ「みんな一緒に!?」ビクッ!!

コニー「うわっ!? ……そ、そうだよ、みんな一緒にだよ」ビクビク

マルコ「…………一緒に……」

マルコ(みんなってことは……ジャンとアルミンに、エレンに……ライナーとベルトルト……? あ、あの五人が、ぬいぐるみを……??)


マルコ(待てよ? そういえば前に、コニーが手芸教室をやってるって言ってたよな。そこでぬいぐるみの手直しをしてるらしいし……)

マルコ(もしかして、そのぬいぐるみの手直しを部屋のみんなが手伝っているのを指して『かわいがってる』って言ったのかもしれない。……きっとそうだ、そうに決まってる……!)

コニー「……と、とにかくだな、そのぬいぐるみたちをみんなで世話してたんだよ。毎日毎日手入れしたり、添い寝してもらったり、夜通し話し込んだり……俺たち、本当に大切にしてたんだ」

マルコ「……ぬいぐるみを、だよね?」

コニー「ぬいぐるみだぞ?」

マルコ「…………」

ユミル(ふーん、割とがっつりかわいがってたんだなー……どこの誰かはわかんねえけど)

アニ(……コニーと同室って誰だろ。あとでライナーとベルトルトにそれとなく聞いてみようかな)

コニー「そのうちの一人に、俺がぬいぐるみの手入れの方法を教えたんだけどさ。キャン……そのぬいぐるみの世話してる間、すっげえニコニコ笑ってるんだよな。それこそ、普段見せないような笑顔でさ」


コニー「そういう奴らをずっとそばで見てきたから……できれば俺、自分のじゃない人形でも粗末に扱ってほしくねえんだよ。……わかってくれるか?」

ユミル「ああ、わかったよ。……しかし、あのむさっ苦しい男どもの中にそんな奇特な連中がいるとはな」

アニ「手入れまで覚えるなんてすごい奴がいたもんだね。……会ったことないけど尊敬するよ」

マルコ「…………」

コニー「まあ、俺の作った服はお前らにやったもんだから好きにしてくれていいけどよ。その人形だけは大切にしてやってくれよな? 飽きて捨てるくらいなら、他の誰かにあげてやってくれ」

アニ「大丈夫。飽きる予定はないから」サワサワ

ユミル「捨てるつもりもないな」サワサワ

マルコ「…………」

コニー「んじゃ、そういうことで頼むわ。……じゃあな、もう二度と呼ぶんじゃねえぞー!」クルッ タッタッタッ...


ユミル「『ここで別れたとしても常にお前を見張っているぞ……!』って付け加えておいたほうがよかったかな」

アニ「『そう遠くないうちに、我々と貴様は再び相まみえるだろう……必ずだ!』っていうのはどう?」

マルコ「…………」

ユミル「……? なんだよマルコ、さっきから顔色悪いぞ? 腹でも痛いのか?」

アニ「……水、必要なら汲んでくるけど」

マルコ「いや……大丈夫だよ、ありがとう」

マルコ(……今はまだ、みんなのことはあまり考えないようにしておこう。本人たちに聞く前に、こっちで勝手に決めつけるのはよくないよな……)

ユミル「さて、それじゃあ私も寮に帰るかな。昼メシまでまだ時間あるし、適当に寝て過ごすとするか」

アニ「私も一旦戻るよ。――あんたはどうする? マルコ」

マルコ「ああ……僕はもうちょっとここにいるよ。色々考えたいことがあるし…… ……あ、そうだ」ゴソゴソ...

今日はここまでー 次回は来月中


マルコ「確か次はユミルの番だったよね? ――はい、人形」スッ

ユミル「ああ、そういやそうだったな。……」

マルコ「……? ユミル?」

ユミル「……いや、今は受け取らないでおく。実習が終わるまで、お前が預かっておいてくれ。マルコ」

マルコ「僕が?」

アニ「あんたを飛ばして私が持ってるっていうのは駄目なわけ?」

ユミル「駄目だ。私もお前も、人形持ってたら絶対遊ぶだろうからな」

アニ「……否定はできないね」

マルコ(……アニもユミルも遊んでるのか……)

ユミル「頑張ったご褒美……ってのとはちょっと違うけど、試験が終わるまでは物理的に断っておいたほうがいい。そのほうがやる気も出るだろうからな。――というわけで、実習が終わったらまたここに集合な、マルコ」

マルコ「……一応聞いておきたいんだけどさ、この人形の交換っていつまでやるつもりなんだ? もしかして……」

アニ「私は取り敢えず卒業までって考えてるけど」

マルコ「……そっか。うん、なるほどね……」

マルコ(結構長いな……僕、卒業までバレずに持ってられるんだろうか)ハァ


―― しばらく後 女子寮

アニ(せっかくもらったんだから、マーメイドドレス着せてみたかったな……実習の後なんて、とてもじゃないけど待ちきれないよ)ソワソワ...

ユミル「……なあアニ」

アニ「? 何?」

ユミル「実習が終わった後の話なんだけどさ……次は、お前がマルコから人形受け取れ」

アニ「え? ……いいの?」

ユミル「いい。……それと、これもお前にやるわ」スッ

アニ「やるって何を…… ……ちょっとユミル、これ……」

ユミル「私がコニーに作ってもらった人形の服だ。お前にもらわれたほうが幸せだろ」

アニ「……」

ユミル「私は、今回限りでこういうことは止める。……やらなくちゃいけないことがあるからな」

ユミル(最近は実習のことばかり気にして、他の訓練まで手が回ってなかったからな。クリスタを十番内に入れるためには、そろそろ動き出さないと間に合わなくなる。……人形遊びは、これでおしまいだ)

ユミル「んじゃ、そういうことだから。……マルコと仲良くやれよ、アニ」

アニ「……待ちなよ」


アニ「これは……この服は、コニーがあんたのために作ったものだよ。私は受け取れない」

ユミル「けど、私が持ってても仕方がないだろ? どうせマルコは人形いらないって言うだろうから、次の持ち主は必然的にお前ってことに――」

アニ「……私も、いらない。受け取れない」

ユミル「はぁ? ……あのなぁアニ。都合が悪いからってわざわざ私に便乗しようとしなくても――」

アニ「便乗してるわけじゃない。……本当はわかってたけど、言い出せなかっただけ」

アニ(ユミルだけじゃない。……私も、やらなくちゃいけないことがある)

アニ(憲兵になって、内地に入り込むために……任務のためには、いつまでもこうして遊んでいるわけにはいかない。あいつらだってちゃんとやってるんだから……)

ユミル「……おいおい。じゃあどうすんだよ? 早速コニーとの約束破っちまうことになるぞ?」

ユミル「それともマルコにあの人形のことを愛でてもらうのか? んなことしたら、すぐに男子寮中の笑いものになっちまうぞ」

アニ「その辺は大丈夫だよ。……私に、考えがあるから」


―― 午後 資料室

マルコ(あの後、コニーたちの部屋に行ったけど誰もいなかった)

マルコ(兵舎の中もくまなく探したけど見つからない。……みんな、どこに行ったんだ?)

マルコ(コニーが言っていたことが本当なのか、本人たちから直接聞きたかったのに……)



   ・   「「はぁ……」」



   「……? マルコ?」

マルコ「ミカサ……と、サシャ? ……ああ、二人で勉強中なのかい?」

ミカサ「違う。……私は見張られている」ハァ

マルコ「見張られてる……?」

サシャ「ねえマルコ、マルコはクロワッサンて知ってますか? 外はサクサク中はふんわり、濃厚なバターの匂いがたまらな」

ミカサ「エレンたちが街に出るというので、ついていこうとした。……そしたら『ついてくるな』と言われたあげく、クロワッサンで買収されたサシャを押しつけられた」

サシャ「押しつきました!」エッヘン


マルコ「へえ……じゃあエレンとアルミンの二人で買い物に行ったわけか。ミカサにないしょで何を買うんだろうね」

ミカサ「……何を買うかは想像がつく」ボソッ

ミカサ(おそらく、手芸用品でも買いに行ったんだろうけど……休日まで付き合わされるなんて、エレンがかわいそう。帰ってきたら、話をたくさん聞いてあげないと……)

サシャ「マルコ、二人じゃないですよ? ジャンも一緒らしいです」

マルコ「へー、そうなんだ……えっ? ジャンも?」

ミカサ「! サシャ……!」

マルコ(どういうことだ……? アルミンがいるとはいえ、エレンとジャンが揃って一緒に買い物に? 一体なんでそんなことに……)

ミカサ(……まずい。確かマルコはアルミンやジャンと仲がよかったはず。もし二人の手芸狂いを知ったら、さぞかしショックを受けるんじゃないだろうか)



ミカサ(とにかく、アルミンとジャンのことは絶対にバレないようにしよう)

マルコ(とにかく、サシャからもう少し情報を聞きだそう)

サシャ(クロワッサン楽しみですねー)ホクホク


マルコ「ねえサシャ、三人がどこに出かけたのか知ってる?」

ミカサ(……! いきなり核心を突いた質問を……! 流石はマルコ、鋭い……!)

サシャ「はい、知ってますよ! えーっと、確かお店の名前はシュゲ――」

ミカサ「サシャ、話してはいけない。話さなかったら晩ご飯のパンをあなたにあげる」

サシャ「えっ、本当ですか!?」ガタッ

マルコ「……!」

マルコ(ミカサが買収を仕掛けてきた……! ということは、ミカサは三人が出かけた場所と理由を知っている上で、僕に話さないでいるってことか? しかも、サシャにパンをやってまで……)

マルコ(ミカサがそういうことをするってことは、単なるいじわるでやっているわけじゃないんだろうけど……ごめんミカサ、それでもどうしても僕は気になるんだ!)

マルコ「なら僕は、更にスープを付けよう。そして食事当番の子に頼んで芋の量も倍にしてもらう」

サシャ「私、マルコのこと今日から神様って呼びます。こんにちは神様!」

マルコ「はい、こんにちは」

ミカサ「では私は更にクロワッサンを一つ付けよう。なんならチョコクロでも構わない」

サシャ「ちょ、チョコクロ……!? チョコクロ食べたいです! やったーミカサありがとうございます!」ワーイ


マルコ「クロワッサン二個にプレッツェルを追加だ。僕はキャラメル味が特においしいプレッツェルの店を知っているよ、サシャ」

サシャ「キャラメル味のプレッツェル……!? えっ、なんですかそれ食べてみたいです神様!!」

ミカサ「ならば更にこちらはベーグルを足そう。もっちり生地は一度食べたらヤミツキになるはず。きっとサシャも気に入るだろう」

サシャ「わぁっ、ベーグルもいいですね……! でも、クロワッサンにプレッツェルにベーグルってちょっと多すぎなんじゃ――」

マルコ「スコーン四つ追加」

ミカサ「よっ、四つ……!? 正気なのマルコ!!」ガタッ

サシャ「えっ? えっ?? ……あ、あの、二人とも落ち着いてくださいよ。私そんなに食べられませんからね!? まあ嬉しいのは嬉しいんですけど限度ってものが」

ミカサ「デニッシュを三つ」

サシャ「人の話聞いてます!?」

マルコ「バターロール五つ」


ミカサ「…………仕方がない。マカロンを一箱」

マルコ「一箱と言っても幅がありすぎるし、マカロンのサイズだってばらつきがある。具体的な数値で示してくれないと話にならないよ」

ミカサ「ぐっ……では、これくらいのサイズのマカロンを十個」

マルコ「サシャ、マカロンのサイズを記録しておいてくれ。もちろん今までのも全部だよ」

サシャ「えっ? なんで私が……」

ミカサ「あなたのものになるんだから当たり前。ほら、チラシをあげるから早く書いて。――ではマルコ、続けよう」

マルコ「望むところだ」

サシャ「ううっ……! ミカサを見守るだけの簡単な仕事のはずだったのに、なんでこんなことにぃ……」カキカキ...


―― 二時間後

ミカサ「ならば私は猪二頭を狩ってこよう。もちろん解体も調理も私がやる。これならサシャもきっと満足してくれるはず」

マルコ「僕は更に鹿を三頭仕留めてくるよ。――ねえサシャ、君は鹿肉好きだよね?」

サシャ「えっ? あ、はい……お肉は大体好きですけど……」

ミカサ「……じゃあ私はクマを四頭削」

サシャ「あ、あの! ……すみません、ちょっといいですか?」

ミカサ「よくない」

マルコ「今忙しい」

サシャ「そんなこと言わないでくださいよ……えっと、紙にもう書くところがなくなっちゃったんですけどどうしたらいいですかね? 新しい紙に続けて書けばいいですか?」

ミカサ「……そんなに書いたの?」

サシャ「そんなにって……そもそも、二人が書けって言ったんじゃないですか」

マルコ「書くところがなくなるほど話しこんでたなんて信じられないな……サシャ、その紙見せてくれるかい?」

サシャ「はぁ、いいですけど」ペラッ


マルコ「……多すぎないか?」

ミカサ「ええ。私もそう思う」

サシャ「そう言われましても、私はただ単に言われたことを書き取ってただけですし……」

ミカサ「第一、この鴨肉一キロがまずありえない。こんなもの、訓練兵の給金で買えるわけがない」

マルコ「そうだね、肉類は全てなかったことにしよう」

サシャ「えっ? ――で、でも、猪とか鹿とか熊は残しておいても、」

マルコ「狩猟が許可されている区域はこの訓練所からは遠すぎる。そこから運搬してくる手間を考えると現実的じゃないよ」

ミカサ「というわけでサシャ。お肉を消して」

サシャ「……私が自分の手で消していくんですか? お肉を?」

ミカサ「そう。早くして」

サシャ「ううっ……! 私の、私のお肉が……!」ケシケシ...


マルコ「……うん、これで大分減ったね」ニッコリ

サシャ「減りすぎですよ……」

ミカサ「かといって、残ったこれらを全て一日で揃えるというのはどう考えても無理。――もう少し話し合って、双方が納得できるラインを探っていこう」

マルコ「異議なし」

サシャ「異議ありです!! 一日が無理なら分割払いじゃいけないんですか!?」

ミカサ「駄目」

マルコ「駄目だよ」

サシャ「……そ、そんなぁ……」ショボーン...

ミカサ「さてマルコ、話し合いを続けよう。――まずはサシャへの報酬に、どれだけ費用をかけるかだけど」

マルコ「ええと、僕らがひと月にもらう給金がこれくらいだろ? そこから考えると……」ブツブツ...


―― 夕方 廊下

アルミン「ふう、一日中歩きっぱなしで疲れたな……でも、思ったよりたくさん買えたね!」

エレン「在庫処分セールって素敵な響きだよな! 客はお求めやすい値段で商品を手に入れられて、店は不良在庫を一気に駆逐することができる……!」

ジャン「大量にあるセール品の中から、掘り出し物を探すのがまた楽しいんだよな! ――見ろよ、このハートモチーフのピンク水玉2段ギャザーレース……! これぞ正に職人技! 真っ白なレースの上に淡いパステル系のピンクを重ね合わせることで、揺れ動く繊細な乙女心を表現した見事な」

エレン「そんなことよりアルミン、サシャにやるクロワッサン持ってきたか? 潰れてねえよな?」

アルミン「うん、ついでにラッピングもしておいたよ。今日買ったばかりのレースペーパーを使ってみたんだけどどうかな?」スッ

エレン「くっ……! なんだよ、かわいいじゃねえか……!///」キュン

ジャン「ったく、お前のセンスには一生追いつけそうにねえな。アルミン」キュン

アルミン「やだなぁ、そんなに褒めないでよ……///」ウフフ


―― 夜 食堂

サシャ「…………」ドヨーン

サシャ(あの後減りに減らされて、結局私の手元に残ったのは……)

ミカサ「サシャ、元気を出して。今度クッキー買ってあげるって言ったでしょう? しかも大きいのを二枚も」

サシャ「……二枚じゃ少ないです」クスン

ミカサ「わがままを言ってはいけない」メッ

サシャ「何故私が怒られてるんですかね……? ここに書いてあるものを全部くれるって言ったのは、ミカサとマルコなのに……」ブツブツ...



エレン「よぉミカサ、サシャ。――ここいいか?」

アルミン「ただいまー」

ジャン「あー、腹減った腹減った」

ミカサ「……! おかえりなさい、三人とも」


サシャ「……遅かったですね」ジトッ

ジャン「あぁ? ……なんだよ、別にいいだろ門限も守ってんだから」

サシャ「…………」ムスッ

サシャ(人がどんなに辛い目にあったかも知らないで……)ウジウジ...

ミカサ「……エレン、ちょっといい? 二人だけで話したいことがある」クイクイ

エレン「話したいこと……? 今すぐか?」

ミカサ「手遅れになると困るから、早いほうがいい」

エレン「それなら、時間ももったいないし端っこのほうで二人で食べながら話そうぜ。――悪いな、そういうわけで抜けるわ」ガタッ

ジャン「……………………おう」チッ

アルミン「行ってらっしゃーい」フリフリ


アルミン「さてと。……はいサシャ、約束してたクロワッサン。昼前に買ったから少ししぼんでるけど、味は変わらないはずだよ」

サシャ「……! クロワッサン……!?」

ジャン「わざわざ並んで買ってきてやったんだから感謝しろよな」

サシャ「…………」

アルミン「……? どうしたの? もしかしてこれじゃなかった?」

サシャ「いえ、合ってます。合ってますけど……本当にもらっていいんですか? 後から没収とかしませんよね? 大丈夫ですよね?」ソワソワ

ジャン「んなことしねえよ。何言ってんだお前」

アルミン「これは僕らがサシャのために買ってきたものだから、そんなことしないよ。味わって食べてね」

サシャ「ううっ……! ありがとうございますありがとうございます……! 私、お昼の間ずーっと辛くってぇ……!」グスグス

ジャン「おいおい、大袈裟だな……昼メシ抜きにでもなったのか? ――ん? なんだこの紙」ピラッ

アルミン「模様が描いてあるね。包装紙か何か?」チラッ


アルミン(……じゃない。包装紙じゃない。模様でもない。なんだこれ……なんだこれ?)

ジャン(黒い文字が、端から端までびっしり並んでやがる……)ゾワゾワ

サシャ「あ、それ全部私が書いたんです。すごく大変だったんですよ!」

ジャン「……この食べ物の羅列を?」

サシャ「はい!」

アルミン(わあ。いい返事)

ジャン(どんだけ腹減ってたんだよこいつ)

アルミン(最初のほうは割とまともだけど、中盤からだんだんおかしくなってるよ……納屋いっぱいの小麦に、教官室を埋め尽くす芋……? どうやって運び込むんだ……?)

ジャン(大木の表面全体に生えた椎茸に、彩り野菜のスープパスタ……? ってか、なんでところどころにイラストが描いてあるんだ? こっちのはマカロンか?)

アルミン(シェフの気まぐれ&こだわり窯焼きピザ、ごろっとフルーツ盛りだくさんのクレープ……?? ……大衆食堂のメニューかな? 違うか……)


ジャン(いくらなんでも、こりゃやりすぎだろ……呪いに使う紙みたいになってんじゃねえか)

サシャ「まあ、書いたっていうか書かされたっていうほうが正しいんですけどね。あはは……」

アルミン「あの……サシャ、ごめんね?」

サシャ「へっ? 何がです?」キョトン

アルミン「だってさ、ほら……クロワッサン一個だけじゃ、全然足りないよね? 気が回らなくて、本当にごめん……」シュン

アルミン(ここまでするほど、お腹が減ってたなんて……)

アルミン(こんなことなら、レジ横に置いてあったラスクも買ってきてあげたほうがよかったかなぁ……)ハァ

サシャ(……! もしかして、何か勘違いされてる……!?)ハッ


サシャ「アルミン、違うんです! それは元々ですね、ミカサとマルコがくれるはずのもので、」

アルミン「これ全部もらう気だったの!?」

ジャン「エグすぎるぞお前……これ全部揃えたら、憲兵の生涯年収のざっと三倍はかかるんじゃねえか?」

サシャ「それは……その、そうなんですけど! でも……」

アルミン「……サシャ。いくら仲間とはいっても、越えちゃいけないラインってあると思うんだ。わかるよね?」

ジャン「食い気もほどほどにな」

サシャ「いや、そうじゃなくて……! これはミカサとマルコが言ったのを私が書き留めただけで、決して私からこの品物全部を要求したわけじゃ――」

アルミン「ああ、まあ……うん。二人は優しいからね」

ジャン「お前感謝しろよ? 他の奴らならたぶん紙見せた時点でキレてるぞ?」

サシャ「だから違うんですってば! もう!!」

サシャ(あああああ……! また私に変なイメージがついちゃったじゃないですか!! ミカサにマルコ、恨みますよ……!!)


―― 食堂 端っこのテーブル

エレン「よし、ここならいいだろ。――で? なんだよ話って」

ミカサ「話は特にない」

エレン「おい」

ミカサ「今日は、特に疲れたんじゃないかと思った。……ので、あそこから連れ出した」

エレン「そりゃあ、歩き回ったから少しは疲れてるけどな。訓練ほどじゃねえよ」

ミカサ「……そう」

エレン「……」

エレン(これは……あれか。一人で留守番させられて拗ねてんのかな、ミカサ)

エレン(けど一緒に連れてったら、『無駄遣いするな』って怒られて生地もそんなに買えなかっただろうしな。あの調査兵団の紋章が入った金ボタンとか、見られたら絶対没収される……)ハァ...

ミカサ「……!」

ミカサ(エレンがため息を吐いている……! ――やはり、今日は過酷な一日だったのだろう)

ミカサ(同じ部屋で生活しているだけであんなに辛そうだったのに、一日中ずっと一緒にいたのならそのストレスは尋常ではないはず……!)

ミカサ(ここは私なりの方法で、エレンに気分転換をさせてあげないと……!)


ミカサ「……エレン。晩ごはんの後、時間はある?」

エレン「ん? ……あー、まあ、あるというかないというか……」

エレン(メシ食い終わったら戦利品の選別しようと思ってたんだが、拗ねてるミカサを放っておくのもなー……)

エレン(昼間は寂しい思いしたんだろうし、何かしたいことがあるなら少しだけ付き合ってやっても――)

ミカサ「じゃあ……じゃあ。もしよかったら、なのだけれど……」モジモジ

エレン「なんだよ、遠慮しないではっきり言えって、はっきり」

ミカサ「……うん、わかった。――あのね、エレン」





ミカサ「……私と一緒に、筋トレする?」

エレン「え? しねえけど?」


.


ミカサ「……」

エレン「……」

ミカサ「……じゃあランニングを」

エレン「しない」

ミカサ「……そう」シュン

エレン「……」

エレン(なんで『疲れてる?』って聞いた後に筋トレだのランニングだの勧めてくるんだ……? どうなってんだよミカサの頭の中は……)

ミカサ(断られた……ストレス発散には、身体を動かすのが一番だと思ったのに)ショボン

エレン「あー……あのさ。お前がしたいってんなら付き合うぞ? 筋トレ」

ミカサ「ううん、いい。……エレンがしたくないなら、しない」

エレン「そうか? ならいいけどよ……」チラッ


エレン「……ところで、そのマフラーって俺がお前にやったんだよな?」

ミカサ「えっ? ……うん、そうだけど」

エレン「そうか……」

エレン(……くそっ、アレンジしてえ……! めちゃくちゃに弄り倒してえ……!)ウズウズ...

エレン(でも首に巻くもんだからな。あまりゴテゴテした装飾は似合わないどころか邪魔になるだけだ。もうちょっと何かこう、工夫しねえと……)チラチラ ジーッ...

ミカサ(……? なんだろう、エレンが何か言いたげな顔でこっちを見ている)

ミカサ「私の顔に何かついてる? エレン」

エレン「ん? ……いや、ついてねえよ?」

ミカサ「……」

ミカサ(なら、そんなにじっと見ないでほしい……! 緊張する……!///)ドキドキ

エレン(マフラーに付けられて、日常的に使えるようなアクセサリー……? ――いや、それだと訓練の時に教官に没収される可能性があるからな。却下だ)

エレン(と、いうことは……休日に付けられるような、お出かけ仕様のものがいいんじゃねえか? それならもう少し派手なデザインでも大丈夫そうだな。でもミカサに派手なの似合うかな……)ウーン...

ミカサ(もしかして、このマフラーが臭うのだろうか? 一昨日洗ったばかりなのだけれど……)クンカクンカ

エレン(……! 今の匂いを嗅ぐ動き、ウサギに似てたな……そうだ! 作るなら動物モチーフの何かにしよう!)ポン


ミカサ「……マフラー」

エレン「? マフラーがどうかしたか?」

ミカサ「マフラーは、ちゃんと洗ってる。……ので、誤解しないでほしい」

エレン「? ?? おう……?」

ミカサ「…………」

ミカサ(寮に戻ったら、マフラーから変な匂いがしないかみんなに聞いて回ろう……)シュン...

エレン(誤解って何のことだ……? ――まあいいや、とにかく寮に戻ったら早速デザイン考えるか!)ウキウキ





ジャン「……あいつら、えらく楽しそうだな」イライラ

アルミン「そう? ミカサのほうはそうでもなさそうに見えるけど……」

サシャ「……ふーんだ。知りませんミカサなんか」ム-...


―― 夕食後 夜 男子寮

エレン(えーっと……ミカサに何か作ってやるのはいいとして、まずは何からすればいいんだ? いきなり生地ぶった切って作り始めるってのは流石に違うよな……)

エレン(これまでステッチの技術しか磨いてこなかったからなー……どうすりゃいいのか全然見当もつかねえぞ……?)ウーン...

エレン(取り敢えず、今決まってるのは――)



ジャン「おいベルトルト、今日はスイーツデコやらねえのか?」

アルミン「ライナーまで裁縫道具引っ張り出してきて……珍しいことしてるね。どうしたの?」

ライナー「ああ、今日はお互いに初心者専用キットをやってみようって話になってな。因みに俺のは『初心者専用キット・動物たちとの約束』だ」

ベルトルト「僕のは『初心者専用キット・お花ばたけでの思い出』だよ」

コニー「やたら長い題名だな」



エレン(そうだ、動物だ! 動物をモチーフにした、マフラーに付ける何かを作ろうとしてたんだよな)カキカキ...

エレン(マフラーそのもののアレンジは難しいからな。あのマフラーに似合う、オシャレ度の高い物をミカサに贈ろう)カキカキ...

エレン(……よし、こんな感じでまずは構想練ってくか。デザインは後から決めることにしよう)


ライナー「お前らこそ、床に店を広げて何してるんだ? ……いらないものがあるなら引き取るぞ?」ソワソワ

ジャン「んな期待した瞳で見られてもやらねえよ。全部必要なもんだからな」

アルミン「今日買ってきた戦利品の品定めをしてるんだ。いくつか中身もろくに見ないで買ってきちゃったのもあるからね」

コニー「ああ、お前ら三人でセールに行ったんだもんな。――なあエレン?」

エレン「ん? ……ああ、そうだな」

アルミン「普段はお店に置いてないものまで並べてあって、見てるだけですごく楽しかったよ! 行ってよかったなぁ、在庫処分セール」

ジャン「種類もやたら多かったし、きっと倉庫に眠ってる商品も根こそぎ引っ張り出してきたんだろうな。――ところで、ライナーとベルトルトとコニーはなんで来なかったんだ? しばらくセールしないって店長言ってたぞ?」

ライナー「あー……ちょっと外せない用事があってな」

コニー「俺、午後はずーっとここでレポートやってたけど二人とも全然見かけなかったな。どこ行ってたんだ? 訓練所の中にはいたのか?」

ベルトルト「……まあね」

ベルトルト(午後はずっと二人で女子寮の周りを彷徨いてたなんて、絶対に言えない……!)

ライナー(結局、アニに裁縫を教えてくれた恩人はわからなかったんだよなぁ……もういっそのこと、女子全員にお礼の品を作ってやるしか……)


ジャン「まあ、言いたくないなら無理に聞き出すこともねえだろ。……それより見てくれよこの白のフリルレース! こんな繊細な物を人の手で作ってるなんて信じられねえよな!」ファサー

エレン「……!」ハッ

エレン(そうだ、繊細さは絶対に必要だ……! 丁寧かつ繊細な仕上がり! 高品質な物こそ相手に喜ばれる! ……当たり前のことだからこそ、心に留めておかねえとな)カキカキ...

アルミン「レースもいいけど、こういう普通の生地もよくない? フリースの肌触りって最高だと思うんだよね……」サワサワ...

エレン(ああ、肌触りか……つまり、そっと寄り添う優しさってことだよな)

エレン(いつでもそばに置いておきたくなるようなもの……! そんなものを敢えておでかけ仕様に仕上げることで、よりいっそう愛おしさが増すに違いない!)カキカキ...

エレン(早く着けて歩きたい、でも今は会えない……会いたくて会えないそのもどかしさは、きっと最高のアクセントになるはずだ!)

エレン(いいぞいいぞ……! みんなの意見を取り入れたことで、方向性が少しずつ定まってきた……!)ニヤニヤ


コニー「こっちの袋はっと……へー、ビーズも買ってきたのか」ガサゴソ

ジャン「おい、勝手に見るなよ」

コニー「いいじゃんか少しくらい」

アルミン「まあまあ二人とも、喧嘩しないでよ。……コニーも興味ある? 少しだけなら分けてあげるけど」

コニー「うーん……今は遠慮しとくわ。このレポートの提出期限明後日だし、正直遊んでる暇がないっつうか……」

エレン(遊び……? なるほど、遊びか!)ポン

エレン(そうだよな、たまにはミカサも思いっきり遊びたいんじゃねえか? ……ミカサは口下手だしな、きっといつもは我慢してるんだろ)

エレン(よし、ここはいっちょ遊び心も取り入れてみるか! 童心に返りたくなるような、そういう物作りを目指すんだ……!)カキカキ...


ライナー「それにしても、本当に色々買ってきたんだな…… ……ん? ビーズは初心者専用キットもあるのか」ヒョイ

アルミン「僕、そういうものから入らないと駄目なんだよね。手順を踏まないと覚えられないっていうか……」

コニー「アルミンってそういうところあるよなー、一番最初に裁縫教えた時は苦労したぜ」

ジャン「でもよ、初心者専用キットって作ってても途中で飽きねえか? 解説が丁寧すぎるっていうか、作業が単調なもんばっかりっつうか……」

コニー「まあ、そもそも俺たちみたいな年代の男向けに作ってるわけじゃないしな」

アルミン「そうだね、つまらないと感じるのは仕方がないことなのかもしれないね……」

ベルトルト「……そんなことないよ。少なくともライナーは、初心者専用キット界のエンターテイナーだ!」スクッ

ジャン「おいなんでライナー出てきた」

アルミン「初心者専用キット界って狭すぎじゃない?」

ベルトルト「だってこれ見てよ! 僕、これまでの短い手芸人生の中でとびだす教本とかはじめて見たよ!!」バイーン

コニー「俺の割と長めの手芸人生でもそんなの見たことねえぞ」

ジャン「……おい、あのキットお前が作ったのか? 初耳なんだが……」ヒソヒソ

ライナー「まあな。いい出来だろ?」フフン

ジャン「売り物かと思ってたぜ……! すげえなライナー!!」


アルミン「これ、絵本じゃなくて教本なんだ? へー…… ……えっ!? すごい、ここ引っ張ると針に糸が通るよ!? なんで!? なんで!? どうなってるの!?」クイクイ

ライナー「この前、ブックカバーを作ってた時に子ども向けの本を色々勉強してな。その時に覚えたんだ」フフン

コニー「もっと他に覚えることがあるんじゃねえの?」

ジャン「そうか、ついに工作業界に殴り込みってわけか……子どもに大人気になるな……!」

アルミン「ライナー、着ぐるみが必要なら協力するからいつでも言ってね! 僕、絶対に力を貸すから!」

ベルトルト「手芸本出したらサインよろしくね、ライナー!」

ライナー「おいおいお前ら、気が早すぎるぞ? ……まあ、悪い気はしないけどな」ハハハ

ジャン「おめでとさん、ライナー! もうすっかり遠くの世界に行っちまったな!」パチパチ

アルミン「おめでとうライナー! 本当におめでとう!」パチパチ

ベルトルト「おめでとう、エンターテイナー・ライナー!」パチパチ

コニー「おめでたイナー!」パチパチ

ライナー「おい混ぜるなコニー」


エレン(そうか、ライナーはエンターテイナーなのか…… ……えんたーていなー? えんたーていなーってなんだ……??)

エレン「なあアルミン、『えんたーていなー』ーってなんだ? ライナーの新しいあだ名か何かか?」

アルミン「違うよ」

コニー「えっ!? ……マジかよ、違うのか……」

ジャン「なんでコニーが驚いてんだ」

アルミン「簡単に言うと娯楽を提供してくれる人のことだね。ほら、街でよく大道芸人が出し物をやっていたりするだろ? 彼らもまたエンターテイナーだと言えるね」

エレン「ふーん……」

エレン(ということは、エンターテイナーってのはつまり……遊び心!)

エレン「……」

エレン(……遊び心はもう出てるな。これは書かなくてもいいか……)


アルミン「ベルトルトがライナーの作ったキットを作ってるってことは、ライナーが今作ってるのはもしかして……」

ベルトルト「うん、僕が作ったものだよ。……とはいっても、僕のはエンターテイメント性に欠けるんだけどね」

コニー「エンターテイメント性って別にいらなくね?」

ジャン「いるに決まってんだろ」

ライナー「だがベルトルト、お前は俺にないものを持ってるじゃないか。……みんな、これを見てほしい」スッ

ジャン「ああ、付属の教本か? 妙に分厚いこと以外は別におかしなところはなさそうだ……が…………」

アルミン「……ねえ、なんで応急処置のやりかたが書いてあるの?」

コニー「五十ページはあるぞこれ」ペラッ

ライナー「俺にはこの発想はなかった……! このキットを作るぶきっちょさんへの思いやりという点では、俺の完敗だ!」

ジャン「俺にもそういう発想ねえけど?」

アルミン「ぶきっちょさんって決めつけるのもどうかと思うよ」

エレン(思いやり……は、そっと寄り添う優しさと微妙に被るな。これも書かなくていいか……)

エレン(うーん……もうちょっとこう、斬新な意見がほしいなー……)


コニー「初心者向けって考えるなら、ベルトルトの考えは何一つ間違っちゃいねえと思うぜ? 特にこの消毒液・ガーゼ・包帯の三点セットは外せねえよな」

ジャン「その包帯、この前の野戦治療実習で余ったやつじゃねえか。血糊ついてんぞ」

ベルトルト「いいんだよ、どうせあとで大量出血するんだから」

ジャン「裁縫で大量出血なんてしねえだろ」

アルミン(全っ然納得できないけど、裁縫歴が長いコニーが言うんだからやっぱり必要なのかな……?)

アルミン「ねえ、エレンはどう思う?」

エレン「俺か? そうだなー……」

エレン(まだまだ意見を聞きたい気もするが、取り敢えずは――)





エレン「……お前ら、それで満足してていいのか?」


エレン「さっきから黙って聞いてれば、繊細さだのそっと寄り添う優しさだの遊び心だのエンターライナーだの思いやりだの……! ありきたりな単語ばっかりじゃねえか! そんな安っぽい言葉で褒められて嬉しいのかよお前ら!」バシーン!!

ライナー「おいエレン、俺が混ざってるぞ」

ベルトルト「言った覚えのない言葉がちらほら混じってるんだけど」

エレン「文句を言う前にこれを見ろ!」バンッ!!

アルミン「紙? ……あ、ミカサに何か作ってあげるの? いいね、楽しそう」

ジャン「わかった。俺も参加するぜ」

ライナー「ほう、まだ何を作るかは決まってないんだな。因みにここに書いてあるマフラーってのは、一から新しく作って渡すってことか? それともミカサがいつも巻いてるあのマフラーのことを指してるのか?」

エレン「えっ? ……あー、あの、いつも巻いてるマフラーのつもりで書いたんだが……」

ベルトルト「それなら金属系の部品は避けたほうがいいね。万が一マフラーに引っかかったら取り返しがつかないし」


コニー「んじゃブローチは却下だな。マジックテープもできれば使わないほうがいいか……せいぜい使ってもボタンくらいか?」

ジャン「エレン、俺も参加するからな。忘れるなよ」

アルミン「今の流行はくるみボタンかな……自分でいろいろアレンジできるからね。――ねえエレン、ここに書いてある『動物』は何をイメージしてるの?」

エレン「……まだ決めてない」

アルミン「なら、その辺りも含めて考えていこう。みんなもそれでいいね?」

ベルトルト「……ほらね。やっぱり世間は動物を求めてるんじゃないか。花なんてもう時代遅れなんだよ、ライナー」ボソッ

ライナー「ぐっ……くそ、どうやら認めるしかないようだな……!」ギリッ...

コニー「世間狭くねえ?」



エレン「…………」

エレン(あっという間に乗っ取られた……)ショボン...

エレン(……まあ、どうせ作るならいいもん贈ってやりたいしな。こいつらなら変なもの生み出したりしねえだろうし、別にいいか……)


ライナー「そういえば、キットを作った時に余ったボタンがいくつかあったな。……少し待っててくれ、探してみる」ゴソゴソ

ベルトルト「マジックテープは駄目なんだよね? ……ハートと星形、使ってもらいたかったな……」シュン

ジャン「端切れなら俺に任せてくれよな! シュシュ作った余りだがまだまだ使えるぞ!」ドッカン

エレン「うわっ!? ……箱でかいな。端切れだけでどれくらいあるんだ?」

ジャン「ここにあるだけで一キロはある」

アルミン「まだあるんだ……?」

ジャン「新しい生地が出たらついつい買っちまうんだよなー」

コニー「それにしても、ジャンって本当にシュシュ大好きなんだなー。一時期それしか作ってなかったろ」

ジャン「作るのが簡単だし、アレンジも楽だからな。……それと、黒髪の女の子も俺は大好きだぞ」キリッ

アルミン「それは聞いてない」


コニー「じゃっ、みんな頑張ってくれよな。――俺、レポートの続きやるわ」

ジャン「何言ってんだコニー、お前は強制参加に決まってんだろ」ガシッ

ベルトルト「君がいなきゃ進められないじゃないか。逃げちゃ駄目だよ」ガシッ

コニー「んなこと言われてもよー……これ以上ゆっくりやったらどうやったって期限に間に合わなくなるし、正直こうして話してる時間ももったいないっつうか……」

ライナー「なら、ミカサへの贈り物のデザインとレポートを同時進行でやりゃあいいだろう。なんなら俺たちみんなで手伝うぞ?」

コニー「は? 同時進行ってどうやって……」

エレン「ところで、前回のレポートのテーマってなんだ?」

アルミン「『立体機動装置開発以前の対巨人戦術について』だね。コニー、講義の内容はどこまで覚えてる?」

コニー「どこまでって……一応、教官の話はきちんと全部聞いてたぞ?」


アルミン「じゃあ、予備知識は充分にあるっていう前提で話を進めるね。――当初、個人が携行できる対巨人武器として有効だと考えられたのはライフル・マスケットだったんだけど、これにはいくつかの問題点があったんだ。問題点で思い出したけど、ミカサのマフラーと言えば耐久性が不安だよね。さっきの話でもあったけど、マフラーに負荷をかけるものはなるべく避けたいな」

ベルトルト「狙撃なら巨人に必要以上に近づかなくてもいいし、加えてライフル・マスケットはライフリングが刻んであるから弾道が安定するっていう利点もあったんだけど……残念なことに、ライフル・マスケットでは巨人のうなじ部分を破壊するほどの威力は得られなかったんだ。それから、僕は安定性ってのも要素に加えたいと思う。いくらかわいいアクセサリーをもらっても、少し歩くだけでポロポロ取れるんじゃ付けて歩く気がなくなっちゃうだろ? 衣服か髪にしっかり固定できて、且つその人の活動の妨げにならないような安定感のあるものを作っていきたいね」

ジャン「その後、威力を底上げしたハンドキャノンって武器が開発されたんだが……今度は個人が持って歩くにはでかすぎるってことになってな。有効射程も短すぎて、結局使い物にならねえってことでこれも採用されなかったんだ。……ああ、でかすぎるものも避けたほうがいいな。でかいぬいぐるみを持って歩くのが好きな女は多いが、あくまで今回は身につけるアクセサリーを作らなくちゃいけねえからな。せいぜい手のひらくらいの大きさに留めたほうがいいと思うぜ」

エレン「駆逐してやる……! この世から、一匹残らず!!」

ライナー「そういうわけで、『個人が携行する対巨人武器として、銃は適切ではない』って結論に至ったわけだ。今じゃ銃は巨人への牽制に使われるくらいだな。――ところでコニー。巨人を牽制する時には、どこを狙撃するべきだと思う?」

コニー「……目?」

ライナー「そうだ、それと耳も有効だな。ここは板書せずに口頭で説明していただけだから、レポートに書き足しておくと加点要素になるはずだぞ。そういえばミカサの耳は髪で隠れているが、この耳を覆う防寒具を作るってのはどうだ? 耳当て付きの帽子ってのも流行ってるみたいだからな、候補に入れておいてもいいと思うぞ」

コニー「……………………」

コニー(ああー……そういえば、こいつら全員頭いいの忘れてたなー……)

アルミン「……? コニー、どうしたの? 僕たちの説明わかりづらかった?」

コニー「……うん。すまん、俺が悪かった。先にミカサの贈り物から片付けちまおうぜ」


―― 数日後 野戦治療実習当日 8班

マルコ「サシャ、曲がってるよ。手元をちゃんと見て、もっと真っ直ぐ縫ってみて?」

サシャ「うぐっ……! それはわかってますけど、これすごく縫いづらいんですよ? 針もなかなか通りませんし……」

ミカサ「だからといって適当に縫っては駄目。人の命を預かるという意識がサシャには足りてない。今から彼のことをエレンだと思って取り組んでほしい」

エレン「俺はここにいるぞ」

サシャ「彼はマイケルでしょう?」

ミカサ「だから、そうじゃなくて……ええっと……」

サシャ「そんな気合い入れなくたって、マイケルならきっと自力で治しますよ。私信じてます!」グッ

マルコ「これ人形なんだけど」

サシャ「やだなぁ、実際のマイケルの場合ですよ!」

エレン「自力で治るってそりゃ巨人だろ……まさかマイケルは巨人だったのか!?」ハッ

ミカサ「そんなわけない」


エレン「駆逐してやる……」スクッ

ミカサ「!? エレン、うなじを削いではいけない! 違う訓練になってるからやめて!」ガシッ

エレン「ええい、止めるなミカサ! ――駆逐してやる……! この世から、一匹残らず!」ギリッ...

ミカサ「くっ、なんて力なの……! サシャ、エレンを止めるのを手伝って! マルコも!」

マルコ「わ、わかった! ――エレン、やめるんだ! 無駄な巨人狩りはよせ!」ガシッ

サシャ「ミカサはクッキー二枚しかくれないので嫌です! 手伝いません!」キッパリ

ミカサ「今度手焼きのクッキーたくさんあげるから!」

サシャ「エレン、やめてください! マイケルは巨人じゃありませんよ!」ガシッ

マルコ「そうだよエレン! マイケルは立派な兵士の一人、僕たちの仲間…… ……ところで彼は一般人なのかな、それとも兵士なのかな」

サシャ「え? ジャケット着てるから兵士なんじゃないですか?」

マルコ「でもこれ憲兵団のジャケットだろ? ……ということは、彼はいったい何が原因で怪我をしたんだ? まさか巨人に襲われたわけじゃないだろうし、だとしたらなんでこんな何針も縫わなくちゃいけないほどの大怪我を――」

ミカサ「ああもう!! マルコまでどうでもいい設定にこだわらないで!!」


―― 26班

クリスタ「……はい、おしまい! ちゃんと傷口塞いだよ。これでいいかな?」

ライナー「ああ、大丈夫だ。……」チラッ

ユミル「あのさクリスタ、私もさっき外周走ったら二の腕がぱっくり裂けちまってさ」

コニー「医務室行けよ」

ユミル「……」

コニー「それで、次は誰がやるんだ? 順番決まってるんだろ?」

ライナー「ああ……そうだな、決まってるぞ……」チラチラ

クリスタ「……? ライナー、どうかしたの? 何か気になる?」

ライナー「……いや、なんでもない。――次はユミルだったな。準備はできてるか?」

ユミル「もちろんだ。――ちっくちくにしてやんよ」シャキーン

コニー「なんだよちっくちくって」

ライナー「……」チラチラ

ライナー(ベルトルトには後で報告するように頼んではいるが、心配だな……くそっ、見えそうで見えん……!)チラッチラッ

ライナー(確か、二人のいる班はあの辺りだったはずなんだが……)