「進撃のラッキースケベ」 (185)

エレン「ん、遅かったなコニー。腹の調子でも悪いのか?」

コニー「あぁ、いや……ちょっとな」

アルミン「あれ……コニー、その痣どうしたの? もしかしてトイレに行ってる間に怪我を?」

ライナー「また随分派手にやったな。しかし顔面とは、どうやってそんなとこを怪我したんだ?」

ジャン「大方こけてどこかにぶつけでもしたんだろ」

コニー「……こけたってわけじゃねぇんだけどよ」

マルコ「? じゃあどうしたんだ?」

コニー「その……ユミルに、まぁ」

ベルトルト「……?」

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アルミン「ユミルにって……ケンカでもしたの?」

コニー「ケンカっつーか、うーん……」

ライナー「なんだ? 一体どうしたってんだ」

コニー「なんで殴られたのかイマイチよく分からないんだよ。
    オレがバカだからかもしんねぇけどよ」

ジャン「じゃあ話してみろよ。オレ達も一緒に考えてやる」

コニー「あぁ……。えっと、実はさっきたまたまクリスタに会ってだな……」

エレン「クリスタ? なんでクリスタが出てくるんだ。ユミルじゃねぇのか?」

マルコ「まぁまぁ。とりあえず話を聞いてみよう」




それは十数分ほど前、コニーがトイレに抜けた時のことだった。
廊下を1人歩き、用を足しに向かうコニー。
そうして少し歩き廊下の角を曲がった彼は、暗い廊下の向こう側に1つの影を見つけた。

コニー「……ん?」

クリスタ「! こんばんは、コニー」

そこに居たのはクリスタ。
向かってくるコニーに気付き、微笑を浮かべて挨拶をする。
コニーも軽く挨拶を返し、そして会話を始めた。

コニー「ところでよ。お前こんなところで何してんだ?」

クリスタ「あ、うん。ちょっと、ユミルを待ってて」

コニー「もしかしてアレか? あいつサボってんのがバレて教官に呼び出されてたとか」

クリスタ「あはは……うん、その通り。
     だからサボっちゃ駄目だって言ったのにユミルってば……まったく」

コニー「ふーん。しかしオレには分からねぇんだが、
    なんでお前みたいな真面目な奴がユミルと……ん!」

他愛の無い会話が始まったかと思ったその時。
コニーは不意に口を止め、何かに驚いたような声を上げた。
当然クリスタはそんなコニーの挙動に疑問符を浮かべる。

クリスタ「コニー? どうしたの?」

コニーの視線は今やクリスタの顔から外れ、彼女の頭上に向けられていた。
上に何かあるのか、とクリスタが視線を追おうと顔を上に向ける……その直前。

クリスタ「ひっ……!?」

クリスタは、自分の頭に何かが触れた感触を覚え、息を呑む。
その時初めて、コニーの目は自分の頭に触れている何かに向いているということがクリスタには分かった。

コニー「うわ……こいつはなかなか……」

クリスタ「な、何? 何か、私の頭に、乗って……」

コニー「クモだ……それも飛び切りデカイ奴がな」

『クモ』
その言葉を聞き、クリスタの全身の筋肉は一気に硬直する。
と同時に、リアルタイムで毛髪を揺らし頭皮に伝わってくるこの感触が、
急に実感を持ってクリスタを襲う。
クモの八本の足が自分の毛髪を踏み越え、掴み、這い回る姿が彼女の脳裏に浮かんだ。

クリスタ「ぃっ……ひ、ヤ、ヤダぁ……」

コニー「オ、オイ泣くなよ。クモぐらいでよ……」

クリスタ「と、取って、コ、ニー……!」

コニー「あぁ、ちょっと待ってろ。そのままじっとしてろよ」

クリスタ「う、うん。おねが……ひっ!?」

瞬間、クリスタの全身に悪寒が走った。
クモの足が毛髪ではなく……直に皮膚に触れたのを感じた。
草原を這い回っていたクモは、そこを出てとうとう土を踏んだのだ。

クリスタ「ひ、ぁっ……く、首筋にぃい……」

コニー「後ろを向けクリスタ! こっちに背を向けろ!」

クリスタ「う、うん……!」

コニーの指示に従い、今にも崩れ落ちてしまいそうな足腰を奮い立たせ、
クリスタはじわじわと体の向きを変える。

コニー「居た! よーし、じっとしてろよぉ……」

この息を吸い終えたら一気に鷲掴みにしてやる。
クモの姿を捉えたコニーは両手を慎重にクモの高さまで上げ、
そう心を決めた……次の瞬間。

クリスタ「ひいっ!?」

クモは大地を歩くことを選ばず、日の目を避けて隠れ生きることを選んだ。

あ、直接的ではないにせよネタバレがあるので一応アニメ派の人注意です

コニー「なっ……服の中に入りやがった!」

クリスタ「ひ、ぁっ……ぃやぁあ……!」

クリスタは絶望した。
『首筋を越えればクモは自分の服の上を歩いてくれる……』
ほんの数秒前までそう思い込んでいた自分を呪いすらした。

そう、クモが地肌と生地との僅かな段差を乗り越える保証などどこにもなかったのだ。
クモとは日陰者。
乗り越えるよりはむしろ、隙間を見つけ隠れ潜むことを好む生き物だったのだ。

なんだ、だったら私はクモと似た者同士、お似合いじゃないか。
クリスタは恐怖と絶望と嫌悪感に満たされた頭の隅でわけもわからず自虐した。
自虐したがしかし、喜んでそれを受け入れられるほど彼女はマゾヒストではなかった。

クリスタ「やぁだぁぁ……やめてぇぇえ……!」

コニー「く、くそっ! 待ってろ、今すぐ捕まえてやる!」




ジャン「オイ、ちょっと待て」

コニー「なんだよ、まだ話の途中だぞ」

マルコ「ふ、服の中にクモが入っただって?」

ライナー「お前まさか……」

アルミン「ぬ、脱がせたの? それとも……」

ベルトルト「……ゴクリ」

コニー「だからそれをこれから説明するんだろ」

エレン「あ、あぁ。そうだよな。続けてくれ」




コニー「出て来いこのクモ野郎!」

そう叫んだコニーは、背中の下側から全力で両手をクリスタの服の中へ突っ込んだ。
迷いはなかった。
それは焦りからか。
クリスタを救いたい一心からか。
バカだからか。
それとも大宇宙の意志か。
それはわからない。

とにかく、コニーは自分と同年代の女子の服の中に手を突っ込み、直に背中をまさぐった。
そしてクリスタも、そのことに対する疑問も、嫌悪感も、羞恥心も、欠片ほども抱かなかった。

クリスタ「ち、違う、もっと右、あっ、上ぇえ!」

コニー「ど、どこだ! くそっ、手探りじゃ全然わかんねぇぞ!」

クリスタ「そこじゃな……ひぃっ!」

コニー「な、なんだ、どうした!?」

クリスタ「ま、前に! 前にぃい!」

コニー「前!? こ、ここか! ここか!?」

クリスタ「ひっ……ひぁあ!? ひぃいい……!」

なんかもうすごい光景だった。
クリスタは喘ぎ、コニーはクリスタの背後から手を回し、
服に手を突っ込んで直に体の前面をまさぐり撫で回す。
その時だった。

コニー「くそっ! 一体どこに……」

ユミル「オイ……何やってんだ、お前ら」

ユミルは、とにかく混乱していた。
教官の説教を受け終え、自分を待っているはずのクリスタのところへ向かうと、
何やら怪しげな声が聞こえ、気配を感じる。
不穏な空気を感じ取り足を早めたユミルが目にしたのは、
まさに前述した通りのそれはもうすごい光景だった。

ユミル「お前らまさか……」

2人はそういう関係だったのか?
だとすればなんでこんな時におっぱじめやがったんだ?
こいつら2人とも変態だったのか?
イヤそんなはずはない。
クリスタがそんな、私がすぐに来ることを知っていながら
ところ構わずヤり始めるような、クソみてぇな変態女のはずがな……

クリスタ「ユ、ユミル、助けてぇ……!」

クリスタの蚊の鳴くような、助けを求める声。
それを聞いた瞬間、ユミルは一切の合点が行った。
自分が僅かに抱いたクリスタへの疑念がすべて否定され、安堵した。
と同時に混乱の全ては怒りへと変わり、その矛先は……

ユミル「だよな、やっぱそういうことだよな……なぁ変態野郎」

コニー「え? 変態って誰ごふぅ!?」

コニーの問いは強制的に止められた。
顔面に衝撃を受け、吹き飛ばされた。

クリスタ「っ!? え、え? 何?」

ユミル「てめぇ、こんなことしてただで済むと思っちゃいねぇよな?」

ユミル「きったねぇ手でクリスタを犯しやがって……」

コニー「ま、待てよ! オレはただ、中に……」

そこまで言い、コニーは今度は自発的に口を止めた。
視界の隅に何か動くものを捉えたからだ。
そう、それはこの事件の発端のそいつだった。
クリスタもそいつに気付き、目線をやる。

コニー「で、出てたのか、いつの間に……」

クリスタ「こ、こんなのが中に……うぅ、気持ち悪いよぉ……」

しかしそいつの存在に気付いていたのは、コニーとクリスタの2人だけだった。
否、仮にユミルが気付いていたのだとしても、クモなど今の彼女にとってはどうでも良い存在。
ユミルの頭の中にあるのは、変態イガグリボーズをギッタギタにしてやることだけだった。

ユミル「は? 出てた? 何が中にって? 気持ち悪いのが中にだと……?」

コニー「オイ、ユミル! 今のでわかっただろ! オレは……」

ユミル「てめぇまさかクリスタの中に出しやがったのか……」

コニー「は? イヤ、中にっつーか、外にだけど……」

ユミル「うるせぇ! 外とか中とかどうでも良いんだよ!」

クリスタ「え、えっと、ユミル?」

ユミル「覚悟しろよてめぇ人間の屑がこの野郎……」

コニー「ま、待てよ! 何か知らねぇけど誤解してるだろお前!? 落ち着けって!」

クリスタ「待って、ユミル! 何を誤解してるか分からないけど、違うの!」

ユミル「は……? お前まで何言って……」




クリスタ「――というわけなの」

クリスタの口から事情を聞き、ようやくユミルは自分の誤解に気付いた。
が、しかし。

ユミル「……まぁ私が勘違いしてたのは事実だが……。
    でもさ……どっちにしろ割とすげぇことしてたじゃねぇかお前ら」

クリスタ「え?」

コニー「?」

まさにその通りだった。
クモが居ようがなんだろうが、
コニーがクリスタの服の中に手を突っ込んで体中まさぐったというのは紛れもない事実なのだ。

ユミル「お前本当になんとも思わねぇのかよ?
    コニーの奴に何されたかよくよく思い出してみろ」

ユミルのその言葉を聞いた、数秒後。

クリスタ「っ~~~~!!」

クリスタの顔は耳まで一気に赤くなった。
クモの感触が強烈過ぎてコニーの手の感触は全く覚えていないのだが、
それでも事実としては記憶に残っている。

そうだ、自分は同年代の男子に、直に背中や、お腹や……

クリスタ「わ、私っ! 部屋に戻るね! じゃあね!」

ユミル「……ったく、あいつようやく自覚しやがったか」

コニー「……?」

ユミル「じゃあな、コニー。言っとくが謝りはしねぇからな」

コニー「は!? オ、オイ待てよこのっ……くそ! 行っちまった」




コニー「――というわけなんだが」

アルミン「うわぁ……」

エレン「それはねぇよお前……相手は女子だぞ。体撫で回すとか……」

コニー「あー……やっぱそれがまずかったのか」

マルコ「う、薄々は気付いていたんだな」

ライナー「いいか、コニー。もう二度と絶対にするんじゃないぞ。
     約束しろ、誓え。命をかけろ。それが兵士としての責任ってもんだろ」

コニー「あ、あぁ。わかったよ。だからそんな怖ぇ顔すんなって……」

ジャン「なぁコニー。それよりよ……ど、どうだったんだ?」

コニー「え?」

マルコ「ジャン、お前は何を……!」

ジャン「オイオイ、お前は気にならねぇってのかよ?」

マルコ「そ、そういう問題じゃないだろ!? 
    そんな、クリスタの肌とか体の感触なんかを聞き出そうとするなんて良くないよ!」

ベルトルト「…………」

アルミン「マルコ、君は……」

ジャン「誰も肌とか体の感触とか言ってねぇんだが」

マルコ「あっ」

マルコ「イ、イヤ! だって普通はそう思うじゃないか! 話の流れ的に!」

ライナー「もう良いマルコ……わかってるさ。お前だって男だもんな」

マルコ「うう……」

ジャン「はッ、やっぱ気になるんじゃねぇか! なぁお前ら! お前らも気になるよな!」

エレン「あのなぁ、ジャン……」

アルミン「や、やっぱりそれは良くないよ」

ジャン「……なぁコニー、まさかお前までこいつらみてぇな言い出すんじゃねぇだろうな」

コニー「た、確かに良くねぇよな。
    クリスタだってそういうのはあんまり知られたくねぇだろうし……」

ライナー「決まりだな。コニーが喋らねぇと言ってるんだ。お前も諦めろ」

ジャン「ちっ……」

ジャン「ハァ……わかったよ。まぁ冷静に考えりゃくだらねぇ話で盛り上がってたな。
    オレとしたことが、バカみてぇなことしちまったぜ」

コニー「わりぃな、話してやれなくてよ」

ジャン「良いって別に。んじゃ、そろそろ良い時間だし寝よ……オイ、コニー!?
    お前なんだそのニヤケ面は!?」

コニー「え……? オレそんなにニヤついてるか?」

ジャン「てめぇ! 思い出しやがったな! 色々思い出してんだろ!」

コニー「ま……まぁな、へへっ」

ジャン「ふざけんなこの野郎! チクショウ羨ましい!」

ライナー(ジャン……よく分かるぞ)

マルコ(本当に素直な奴だなお前は)

翌日

ライナー(昨日はよく眠れなかったな……)

アルミン(ちょっと寝不足気味だ……)

ジャン(クソっ、良いとこで目ぇ覚めやがって! もう少しだったってのに!)

エレン「お前ら顔色悪いぞ、大丈夫かよ……?」

コニー「昨日の話でよく寝られなかったのか? ま、オレはぐっすりだったけどな」

ジャン「てめぇ今すぐそのニヤケ面をやめろ……」

マルコ「まぁまぁ、落ち着いて……あっ」

クリスタ「!」

ライナー「クリスタ……!」

ジャン「よ、よぉ」

クリスタ「うん、おはよう。……みんな大丈夫? なんだか顔色が……」

コニー「……よぉ、クリスタ」

クリスタ「っ!? コ、コニー!」

コニー「その、なんつーか……昨日はアレだ。まぁ、悪かったよ。お前にその……」

クリスタ「いっ、いいの気にしないで! それじゃ、ユ、ユミルが待ってるから! またね!」

アルミン「……どうやら昨日のことが堪えてるみたいだね」

エレン「オイオイ、嫌われちまったんじゃねぇのかコニー」

コニー「マジかよ……参ったな。どうすりゃ良いんだ……」

マルコ「き、きっと時間が解決してくれるよ……多分」

コニーとクリスタ編はこれで終わりです
今日はこのくらいにしておきます




その日の夜遅く。
ライナーは1人、部屋に戻ろうと廊下を歩いていた。
その手には1枚の小さな紙……メモか何かのようだった。
と、その時。

クリスタ「あれ、ライナー?」

ライナー「っ! ……クリスタか」

クリスタ「……? 今持ってた紙は……?」

ライナー「教官に少し頼まれ事があってな。そのメモだ」

クリスタ「あ、そうなんだ。それじゃ、えっと……じゃあね、ライナー。おやすみなさい」

ライナー「あぁ、じゃあな」

ライナー「…………」

クリスタのヤツ、コニー以外とは普通に話せるのか。
なら今まで通りの日常に戻る日もそう遠くはないだろうな。

そんなことを考えながら、ライナーは再び歩き始める。
そしてメモをポケットに入れようとしたが……
その時だった。
考え事をしていたため手元が疎かになったのか。
ポケットが小さかったのか。
手が乾燥していて滑りやすくなっていたのか。
それとも大宇宙の意志か。
それはわからない。

ライナーが手に持っていたメモは彼の指先をすり抜け、
そして……扉の隙間から、ある部屋の中へと滑り込んだ。

ライナー「なっ……! オイオイ、こりゃマジか……」

ライナーはその部屋を知っていた。
そこは風呂場だった。
そして、女湯だった。

ライナーは迷った。
どうする、あのメモは大切なものだ。
できればすぐにでも回収すべきだ。
しかしここは女湯。
入るのはやはりまずいか。

イヤ……だが時間が時間だ。
こんな時間に誰かが居るはずもない。
明かりは点いているようだが、人の気配はない。
大丈夫だ、さっと入ってさっと回収すれば、何の問題もない。

ざっとこのように思考し、そして決心した。
ライナーはそっと扉を開け、中を覗き、脱衣所に誰も居ないことを確認して、侵入した。

が、しかし。

ライナー「嘘だろ、オイ……」

辺りの足元を見回しても目当ての物は見当たらなかった。
万が一誰かに見られる前にさっさと退散するつもりだったが、完全に誤算だ。
……扉付近には、棚やら荷物置きやらが置いてある。
まさかこいつらの下に滑り込んだのか?

と、そこに推測が至ったと同時にライナーは気付いた。
少し離れた棚に、何か置かれていることに。

嫌な予感がして、ライナーはその何かの元へ近寄る。
視認できる位置まで近寄って、確信した。
間違いない、これは……ということはつまり……!

その瞬間ライナーの背後で、開け放していたはずの扉が閉められた。

ユミル「どういうつもりだてめぇ……」

ライナー「っ!?」

扉の閉まる音と声にライナーは慌てて振り向く。
そこには、髪と体を濡らしたユミルが立っていた。
ライナーが棚に気を取られている隙に、
ユミルが脱衣所と廊下とを繋ぐ扉を閉めたのだ。
位置関係から言って、それが可能だった。

いや、そんなことはどうでも良い。
特筆すべきことは他にある。
ユミルは……服を着ていなかった。

ユミル「女には興味ねぇとばかり思ってたが……」

ライナー「イ、イヤ待て! 違う、誤解だ!」

ユミル「はッ……この状況でどんな言い訳が出てくるか逆に楽しみだぜ」

ライナー「言い訳は後でする! だからお前、まずは服を着ろ!」

ユミル「は? なんだお前……まさか照れてんのか?」

ライナー「裸の女を前にして何ともない男が居ると思うか……」

ユミル「……裸じゃねぇよ。タオル巻いてんだろうが」

ライナー「裸と同じだそんなもん!」

ユミル「…………」

ライナー「と、とにかくお前は早く服をだな……」

ユミル「それより先に言い訳を聞かせろよ。まずはそれからだ」

ライナー「っ……メモが入り込んだんだ、扉の隙間からな。どこかにあるはずなんだが……」

ユミル「あ? メモだと?」

ライナー「失くすと非常にまずいんだ。見回しても見付からないってことは多分……
     扉近くの何かの下にでも入り込んだんだと思うんだが」

ユミル「ふーん……例えば、この荷物置きの下だとかか?」

ライナー「あ、あぁ。多分な……」

それを聞き、ユミルは横を向いて荷物置きの下を覗き込むためにしゃがみ込み……。

ユミル「……なんだ、マジであるみたいだぞ」

ライナー「! 本当か、どこだ!」

ユミルの言葉を聞き、ライナーは急いで彼女の横に並んで同じようにしゃがむ。

ユミル「あれじゃねぇのか、ホラ」

見ると確かに、自分が失くした紙と大きさも形も同じ物がそこにあった。

ライナー「助かった……よし」

取りあえず探し物が見付かってライナーは安堵する。
では早速と、しゃがんだまま荷物置きに一歩近付き、逆にユミルは一歩下がる。
そして奥に手を伸ばすためより深くしゃがみ込み、隙間から手を入れる。
しかし……その隙間は狭く、ライナーの腕では太すぎてまるで奥まで届かなかった。

ユミル「どうした、届かねぇのか」

ライナー「イヤ……距離は問題ないんだが、狭さがどうにもな。
    何か棒みたいなもんは……」

と、ユミルを振り返った瞬間、ライナーは息が詰まる思いがした。
170cmを越す長身のユミル。
そんな彼女がタオルを巻いたまましゃがみ込んだりするとどうなるか。
元々短かった丈は更に短くなり……

ユミル「……どこ見てんだお前」

ユミルはそう言って眉根を寄せ、しゃがみ込むのをやめて立ち上がった。
目線だけライナーに向けて体を半身にし、少し乱れたタオルを直す。

ライナー「す、すまん……」

ユミル「ちっ……てめぇがホモなら良かったんだがな」

そう悪態をつき、目を逸らすユミル。
その手は心なしか丈を気にしているようにも見える。

そしてほんの数秒の沈黙の後、

ユミル「……棒なんてモンはねぇからな。私が取ってやるよ。
    だからお前は私が服着るまで外で待ってろ」

ライナー「! し、しかし良いのか?」

ユミル「少なくともお前に見られ続けるよりはずっとな」

ライナー「……すまん、わかった」

そうしてライナーは、ユミルに背を向けて風呂場を出ようとする。
ユミルもライナーに背を向けるようにしてしゃがみ込み、
そして片手を伸ばし、隙間へと手を入れた。

ユミル「よっ……」

このかけ声がいけなかった。
この声に反応してライナーは、扉を閉める直前に無意識に後ろを振り向き、ユミルを見た。

そして、その瞬間だった。
奥のメモを取るために無理な体勢を取ったおかげで……
元々際どい状態で止まっていたユミルのタオルは、あっけなく剥がれ落ちてしまった。

ユミル「っ……!」

そもそも、なぜライナーが完全に外に出るまで待たなかったのか。
着がえてからメモを取ろうとは思わなかったのか。
面倒事はさっさと済ませたいと思ったのか。
それとも大宇宙の意志か。
それはわからない。

わからないがしかし、ユミルのタオルがはだけてしまったことは事実。
流石に慌てた様子でタオルを支えるユミル。
とは言っても既に体の大部分は露出してしまっている。
次いで、思い出したかのように首だけを後ろに向け扉を見る。
……が、そこには既にライナーの姿はなかった。




ライナーが風呂場の前で待ち始めてしばらく後。
静かに扉が開いた。

ユミル「……ホラよ。これで良いんだろ?」

ライナー「! あ、あぁ、すまん助かった。それじゃあ、俺はこれで……」

メモを受け取り、謝罪と礼を簡潔に述べ、そしてライナーは足早に立ち去ろうとする。
がしかし、

ユミル「オイ、待て」

ライナー「っ! な、なんだ?」

ユミル「……見たか?」

ライナー「……!」

ユミル「なぁ……お前、見たか?」

答えを間違えるな。
答えを間違えるとコニーの二の舞……イヤ、それどころではない。
とライナーは瞬時に感じ取った。
しかしあまり考えすぎてもいけない。
長考は誤答も同じだ。
答えるんだ、今すぐに。
そうだ、答えろ……!

ライナー「な……何をだ?」

ユミル「…………」

ライナー「…………」

ユミル「……イヤ、なんでもない。忘れてくれ」

ライナーは心の中で拳を高く掲げた。

男子部屋

ライナー「はぁー……」

ベルトルト「……? どうしたんだ、ライナー。
      戻ってきたと思ったら、何か随分疲れているようだけど」

ライナー「あぁ……まぁ色々とな」

ジャン「なんだ? 昨日のコニーみてぇな反応しやがって。
   ! オ、オイまさかお前までクリスタに……!」

ライナー「イヤ、それは違う」

コニー「ん? じゃあクリスタ以外ってことか?」

エレン「お前なぁ……なんでまた昨日みたいなことがあったって決め付けてんだよ」

コニー「だってその方が面白いだろ? で、誰だ? まさかユミルとか!」

ライナー「…………」

ジャン「ユミルだとそこまで羨ましくはねぇな」

コニー「ははっ! まぁな、違いない」

アルミン「ちょ、ちょっと、それは酷いよ2人とも」

コニー「だってあいつ……なぁ?」

ジャン「ブスだしな」

マルコ「ジャン! 本人の居ないところでやめろよ!」

ジャン「ついでに言うとあれだ。体の方もあんまり惹かれないっつーか」

マルコ「やめろって! ただでさえこんな酷い話題なのに、最低だぞ!」

ジャン「だってよお、貧相っつーか、ガリガリな感じが……」

ライナー「オイ、その辺にしとけ。そういうことは思っても口に出すもんじゃないだろ」

ベルトルト「……ライナー?」

ジャン「ん……あぁ、そりゃそうだな。お前の言う通りだ、悪かったよ」

ライナー「わかりゃあ良いんだ。それじゃオレは疲れたしもう寝るぞ」

ベルトルト「あ、じゃあ僕も……おやすみ、みんな」

コニー「……なぁ、今さ。ライナーの奴、怒ってたか?」

エレン「どうだろうな……。
    だがあいつも、同期をバカにするっていうのはやっぱ好きじゃねぇんだろ」

ジャン「ちっ、どうもいけねぇな。また悪いクセが出ちまった……。
    マルコだけじゃなくライナーにまで説教させちまうとはよ」

マルコ「僕の説教の時点でやめてくれよ……」

ライナー「…………」

ライナー(別に腹を立てたわけじゃないんだが……危うく反論しそうになっちまったぜ。
     そう、思っても口に出すもんじゃないんだ。結構良い体してた、なんてな)

ライナーとユミル編はこれで終わりです
今日はこのくらいにしておきます

そして翌日。

コニー「よっし、今日も気合入れていくぜ!」

ジャン「オイ、コニーにサシャ。今度は人の獲物横取りするんじゃねぇぞ!」

これから行う訓練は立体機動ということで、訓練兵達には普段以上に気合が入る。
しかしこの時にもまた、何かが起きる予兆が影を見せていた。

コニー「へへっ! さぁどうしようかねぇー。なぁサシャ?」

サシャ「……え? は、はいっ?」

エレン「オイオイ、何ぼーっとしてんだよ。今から立体機動なんだぞ」

サシャ「は、はい、そうですよねっ。大丈夫です、わかってますから!」




マルコ「! 見つけた、あそこだ!」

コニー「よっしゃ、もらったぁ!」

ジャン「させるか! オレが先にやる!」

そう言って、コニーとジャンは我先にと獲物へ向かって飛んでいく。
しかしあれを真っ先に見つけたのはマルコ。
例によって彼は、実戦で自分が囮になることを想定して立体機動の得意な2人に獲物を譲ったのだ。
そして……周りをよく見るマルコだからこそ、異変に気付いた。

サシャ「っ……」

さっきからずっとサシャの様子がおかしい。
まるでいつもの調子が出せていない、とマルコは感じた。

体調でも悪いのだろうか。
だとすると危険だ。
立体機動は僅かな判断ミスや思考の鈍りが文字通り命取りになる。
どうする、近くまで行って今からでも訓練を休むよう言おうか。

と、マルコがそう考えたのと同時だった。
サシャが急に方向を変え、特に茂みの多い方へ向かった。

マルコ「っ……!?」

それも、なかなかの速さだった。
その速さとあまりに突然だったため、マルコは彼女の姿を見失ってしまった。

しかしここでサシャを放って置くのはまずい。
マルコはそう思い、すぐにおおよその方向へ見当を付け、サシャの後を追うことに決めた。




マルコ「どこへ行ったんだ、サシャ……!」

方向は確かに合っているはずだが、姿は見当たらない。
やはり完全に見失ってしまったか、とマルコが諦めかけたその時。
下の方からガサリと音がした。

風の音ではない。
明らかに何かの物体が茂みを揺らした音だった。

まさかサシャは地面に降りたのか?
と、マルコはすぐにその発想に至った。
それと同時に、彼も地面に降り立つ。

立体機動の訓練中に地面に、しかもこんな茂みの多いところに降り立つなんて絶対におかしい。
マルコはその異常の正体を、サシャの安否を確かめなければならないと思った。




マルコ「多分この辺りだったと思うんだけどな……」

音のした辺りを、マルコは草木を掻き分けて探す。
もしサシャが体調に何か異常をきたしているのだとすれば大変だ。
早く見つけてやらないと。

マルコ「っ!」

そして、ついにマルコの視界がそれを捉えた。
遠く離れた茂みの中にサシャの後姿……後頭部を見た。
しかし気になるのは、頭の位置から考えてどうやらサシャは地面にしゃがみ込んでいるらしい。

まさか立っていられないほど辛いのか。
その考えに至り、マルコは咄嗟にアンカーを射出した。

サシャ「……へっ?」

サシャは、自分の右前方の木、その幹の上方にアンカーが刺さる音を聞き、そして見た。
そのことが何を意味するのかを理解するより先に、アンカーは巻き取られ、

マルコ「サシャ、大丈夫か!?」

自分の目の前に、マルコが降り立った。
そしてその瞬間、2人の時間は停止した。

マルコが考えたとおり、サシャは地面にしゃがみ込んでいた。
しかし彼女の首から下がどんな状態になっているかまでは、彼の推察は及んでいなかった。

サシャは、ズボンと下着を下ろし、下半身を完全に露出させていた。




クリスタ『サシャ、大丈夫?』

サシャ『はい?』

クリスタ『さっきから水ばっかり飲んでるみたいだから……』

ユミル『はッ、食欲がついに水にまで向いちまったんじゃねぇの?』

サシャ『そ、そんなことはないですよ。昨日の夜、ちょっと寝苦しくて……。
    汗をたくさんかいてしまってみたいで、喉が渇いてるんです』

ユミル『……あー、汗か』

クリスタ『最近結構暑い夜が続くもんね。でも良かった、体調が悪いとかじゃないんだね?』

サシャ『あ、はい。それは全然』

クリスタ『でも喉が渇くからってあんまりたくさん飲むのも良くないらしいから気を付けてね』

ユミル『こいつの場合水で多少腹満たしとくくらいがちょうど良いんじゃないのか。
    ホラ、ここにもたくさんあるぞ。どんどん飲め』

サシャ『えっ。ど、どうも……ありがとうございます』

クリスタ『ちょっとユミル……。サシャ、無理して飲まなくても良いんだよ?』

サシャ『あ、いえ。まだ飲みたいと思ってたので……』

ユミル『なんだつまらねぇな。じゃあやっぱ駄目だ、よこせ』

クリスタ『ユミル! なんでそうやってすぐ……!』

ユミル『冗談だよ、そう目くじら立てんなって』

サシャ『あはは……』




なんで……こんな時に思い出すのは……。
取るに足らない、いつもの日常……。
そんな……思い出ばっかり……。

走馬灯を見るかのような思いで、サシャは今朝のことを思い出す。
人間は窮した時に思い出すのは日常のことなんだな、とサシャは思った。
そして、その日常とやらがまさにこの窮地の原因となっていることに
一切気付かずに幸せな思い出として浸る程度には混乱していた。

混乱は脳を正常に機能させなかった。
時間にして1秒程度だったが、サシャの思考は完全に現実から乖離していた。

そして1秒後。
脳はようやく、現状を認識するという機能を果たすことに成功した。

サシャ「ひっ……ひぃぁあああああっ!?」

マルコ「うわぁああ!? ご、ごめ、ごめん! サシャ、そのっ……!」

サシャ「あぁあっ、ああぁああ!!」

謝罪するマルコに対し、サシャは完全に言語能力を失っていた。
頭は焦りと混乱と羞恥心に支配され、体はとにかく下着とズボンを上げるためだけに動いた。
しかし、ズボンは膝の辺りで引っかかった。
冷静に下着、ズボンの順で上げれば何の問題もなく履けただろうが、
今のサシャの脳にはそんなことを考える機能は残されていなかった。

マルコはとうにサシャに背を向けていたのだが、サシャの目には映っていない。
まったく上がろうとしないズボンと下着だけを、ぼやけた視界は映し出していた。
そして、パニックはパニックを呼んだ。

サシャ「わっ、あ、あぁあっ!?」

マルコ「!?」

膝上辺りで両足が拘束されていたからか。
足をばたつかせていたからか。
足元が濡れていたからか。
それとも大宇宙の意志か。
それはわからない。

サシャはズボンを上げようと四苦八苦するうちに足を滑らせ、
よろけ、そして……マルコに飛び掛るようにして倒れた。

その直前に異変を察したマルコは、指揮官気質からであろうか……
反射的にサシャの方を振り向いていた。
そのため2人は抱き合うようにして、地面に倒れこんだ。

そして、咄嗟にサシャが怪我をせぬようかばおうとしたからか。
ただの偶然か。
それとも大宇宙の意志か。

マルコの両手は、サシャの露になった尻を両手で鷲掴みにしていた。

マルコ「っ!? ご、ごめっ……!」

サシャ「ぃぃいああぁあああっ!!」

マルコが両手を離し謝罪の言葉を口にするよりも前に、
サシャは倒れたまま体を回転させ、転がるようにして地面を移動し、
そして茂みの中へと飛び込んだ。

数秒後。
茂みからアンカーが射出され、物凄い勢いでサシャは飛び出し、そのまま遥か彼方へ飛んでいった。

上半身だけを起こしてその様子を呆然と見つめるマルコ。
彼の頭は冷静に今起きたことを、客観的に分析した。
そしてすぐに、顔が熱を持ち始めるのを感じた。

自分は同期の女子の、サシャの……

ジャン「オイ、マルコ! さっきの悲鳴はなんだ!」

マルコ「ジ、ジャン!?」

ジャン「今この辺りから女の叫び声みたいなのが聞こえただろ! 
    お前、何か知らねぇか……って、オイ! どうしたんだお前、顔が真っ赤だぞ!」

マルコ「あ、イヤ、その……」

ジャン「ん……? うわっ、なんだよこれ! 小便か!? ……オイオイ、お前まさか」

マルコ「イ、イヤ違う! それは僕じゃ……あっ」

ジャン「何だと? お前じゃないとすりゃ……」

マルコ「ま、待てジャン。よせ、やめるんだ。この現状は正しく認識しちゃ駄目だ」

ジャン「……さっきのは、用を足してんのをお前に見られた女子の悲鳴か?」

マルコは、ジャンの現状認識能力をこの時ばかりは呪った。

夕食

エレン「オ、オイ、サシャ。お前、そんなに急いで食ったら腹壊すぞ……」

サシャ「はい!? なんですか!?」

エレン「イ、イヤ……なんでもない」

サシャ「もぐ、あぐはぐむぐっ、ごくん……ミカサ、水をください!」

ミカサ「どうぞ……」

サシャ「ごくっごくっごくっ……ぷはぁ! あぐあぐ、んぐ……」

アルミン「な……何かあったのかな。やけ食いしてるみたいにしか見えないけど……」

エレン「わからん……しかしオレ達も早く食べた方が良さそうだ。
    このままだと勢いでこっちの分まで食われかねないぞ」

アルミン「う、うん……」

男子部屋

ジャン「サシャのヤツは一体どうしちまったんだろうな。なぁ、マルコ?」

マルコ「っ! さ、さぁ、どうしたんだろうね……」

ジャン「オイ……正直に言えよ。今日のあいつはずっとおかしかった。
    もうわかってるんだよ。お前は……あいつが用足してんのを見たんだろ?」

マルコ「うっ……」

ジャン「大丈夫だって、オレだってそこまで腐ってねぇ。
    心配しなくたって言い触らしたりなんかしねぇよ」

マルコ「ジ……ジャンの考えてる通りだよ」

ジャン「ハハハハッ! やっぱそうか! あいつにも恥ずかしいって感情があったんだな!」

マルコ「こ、声が大きいよ! 誰かに聞かれたら……」

コニー「なんだなんだ、楽しそうによ。何の話してるんだ?」

ジャン「! 聞こえちまってたか?」

マルコ「だから言ったじゃないか……! コ、コニー、別になんでも……」

コニー「オーイ、ジャンとマルコが何か面白そうな話してるぞ! お前らも来いよ!」

マルコ「」

ライナー「なんだ、どうした?」

ベルトルト「…………」

エレン「マルコの話なら聞く価値はありそうだな。聞かせてくれよ」

アルミン(あんまり良い予感がしない……)

ジャン「ちっ、バカがめんどくせぇ展開にしやがって……イヤ。
    これはこれで結構面白いかもしれねぇな」

エレン「で? なんだよ面白そうな話ってのは」

マルコ「イ、イヤ、なんでもない話だよ。本当につまらない……」

ジャン「マルコのヤツがよ、こないだのコニーみてぇなオイシイ思いをしたんだと」

マルコ「ジャン!? お、お前……!」

コニー「マジかよ! オイ、誰とどんなことになったんだ!?」

ジャン「悪いがそいつは言えねぇな。オレとマルコだけの秘密だ」

コニー「えっ、なんだよそりゃ。つまんねぇな、教えてくれよ」

ジャン「まぁその代わりと言っちゃなんだが……こいつに感想を聞こうじゃねぇか。
    優等生のマルコくんはどう思ったのか、ってな」

ライナー「ほう……悪くないな」

マルコ「え!? ラ、ライナーまでそんな!」

ライナー「なに、照れることはない。お前も男なんだしな。
     誰と何があったのかは知らないが、
     女子とそういうことになって何も感じないって方が寧ろおかしいと思うぞ」

マルコ「そ、それは……そうかも知れないけど」

コニー「それで、どう思ったんだ?」

マルコ「うっ……す、すごいな、と……」

ライナー「すごいな、か。随分漠然としてるが……あまり詳しく聞くわけにもいかんしな」

ジャン「オイオイお前ら今ので満足したのか? もっと何かあんだろ」

マルコ「も、もう良いだろこの話は!」

ジャン「この際だ、言っちまえよマルコ。正直によ、ラッキーと思ったとか興奮したとか……」

エレン「オイ、もうよせよジャン。マルコが嫌がってるじゃねぇか」

ジャン「あぁ? なんだよ、てめぇも良い子気取りか?」

エレン「そういう問題じゃねぇだろ。人が嫌がってることを強制するなって言ってんだ」

ジャン「はッ、てめぇはミカサにべったりだからこういうことには興味ねぇかも知れねぇが、
    生憎オレは興味深々でね。なんせお年頃なモンでよ」

エレン「はぁ? なんでミカサが出て来るんだよ関係ないだろうが!」

ジャン「じゃあなんだ、お前はホモだったってのか? ハハハハッ! 
    こいつはおもしれぇ! なぁお前ら! エレンはホモだってよ!」

エレン「ふざけんなよお前! このクズ野郎が!!」

ジャン「うるせぇ! てめぇはいつもオレの邪魔ばっかしやがって!」

コニー「オイオイ、また始まったぞ!」

アルミン「や、やめなよ2人とも!」

ライナー「やれやれ……あいつらはいつも突然だな」

マルコ(正直助かった……)

ライナー「悪かったな、マルコ。オレもつい面白がって訊いちまって」

マルコ「ライナー……。イ、イヤ、良いんだ」

ライナー「……1つだけ訊くが、相手はクリスタじゃないよな?」

マルコ「えっ!? ち、違うよ。クリスタじゃない」

ライナー「そうか、なら良い」

ベルトルト(ライナーも大概だな……)

マルコとサシャ編はこれで終わりです
今日はこのくらいにしておきます

翌朝

ジャン「ったく……昨日は無駄な体力使っちまった」

マルコ「…………」

ジャン「それでどうだ、良い夢見れたか?」

マルコ「お、お前まだその話を……!」

ジャン「冗談だよ。昨日はなんつーか、ちょっと悪ふざけが過ぎたな。悪かったよ」

マルコ「っ! あ、あぁ……わかってくれたなら良いんだ」

ジャン「だがエレンの野郎は相変わらずムカつくぜ……クソっ。
    しかしまぁ、今日は確か対人格闘術があるんだったな。無駄に使った分、回復させてもらうか」

そして対人格闘術訓練が始まる。
しかし……今日のそれはいつもと少し違っていた。
教官が全員の前に出て、いつもと違う旨を説明し始めた。

キース「知っての通りこれからは対人格闘術の訓練を行う!
    しかし今日は貴様らに、特定の技を練習してもらう! 寝技だ!」

寝技。
倒れた相手にかける技。
その程度の知識は、既に訓練兵全員が持っていた。
更に説明によるとどうやら今日は押さえ込み技をやるらしい。
これを聞き、一部を除いたほぼ全員が「今日の対人格闘術も楽に流せそうだ」と思った。

教官は説明を終え、訓練兵達は各自ペアを探し始める。
そこまではまだ良かったのだが……ここで教官はある2人に声をかけた。

キース「アッカーマン、フーバー。この訓練では貴様らが組め」

ベルトルト「え?」

ミカサ「……何故ですか?」

キース「アッカーマンには体格差のある相手を想定した訓練を行ってもらう。
    貴様の実力に合わせた処置だ。不満はあるか?」

ミカサ「いえ、ありません。わかりました」

ベルトルト「…………」

男女での押さえ込み技の練習。
これは本当に正しい対処なのだろうか。
押さえ込み技は、それなりに体を密着させる必要のあるものもある。
男女でやるにふさわしい技なのか。
ベルトルトは、そう疑問に思った。

しかし教官は、そのような疑問は一切抱いていなかった。
性差など一切考えない兵士脳だからか。
ミカサを女だと思っていないのか。
過酷な経験を経て多少頭がおかしくなっているのか。
それとも大宇宙の意志か。
それはわからない。

わからないがしかし、ミカサとベルトルトが組むことは既に決定したことだった。
異を唱えればこの決定も覆ったかも知れないが、そんなことが出来るベルトルトではなかった。
主体性のなさ、意志の弱さをベルトルトは改めて実感した。

ミカサ「……ベルトルト? どうしたの?」

ベルトルト「あぁ、イヤ……なんでもないよ」

だがしかし、どうやらしっかりと形は決まっていたようだ。
ベルトルトの長い手足は、ミカサによってほぼ抵抗力を失っていた。

ベルトルト「ぐ、ううっ……! ふんっ……!」

一刻も早くこの状況から逃れたい。
その一心で、ベルトルトは必死に身をよじってミカサから逃れようとする。
と、その時。

ミカサ「っん……ふっ……」

ベルトルト「!?」

一体何が起こったのか、ベルトルトには一瞬わからなかった。
聞いたことのない音声が耳に入った。
未知の感覚が首の辺りに伝わった。

ベルトルト「ミ、ミカサ?」

ミカサ「? なに?」

ベルトルト「イ、イヤ……なんでもない」

ベルトルトは努めて冷静に考えてみた。
どうやらこの押さえ込み技は、抑える方もそれなりに力を入れる必要があるらしい。
特に自分とミカサの間には20cm以上も身長差がある。
ミカサと言えど、この身長差のある相手を押さえ込むのはそれなりに苦労するようだ。
そしてそれゆえに吐息が漏れるのだろう。

最大限冷静に分析した結果導き出した結論がこれだったが、
だからと言ってどうにかなる問題ではなかった。

ベルトルト「っ、ぐっ……!」

ミカサ「んっ……はぁ、ふっ……」

自分がもがくたびに、ミカサの吐息が自分の首筋に吹きかかる。
正直もう限界だった。

ベルトルト「ミ、ミカサ……別の技にしてくれないか」

ミカサ「……? 別に良いけど。じゃあ次は……」




ベルトルトは全力で後悔した。
僕が間違っていた、と。
あんな提案をしたことを酷く後悔した。
周りの視線が痛い。
今すぐにでも逃げ出したい。

やっぱり別の技にしてくれと、ミカサにもう一度お願いしようか。
しかしついさっき自分の我侭で技を変えてもらった以上、またそんなことを言うのは申し訳ない。

もっと自分に勇気があれば良いのに。
やはり自分は主体性のない、意志の弱い人間……。
イヤそもそも、少し勇気を出して、主体性を出して、
そしてミカサに提案をした結果がこれじゃないか。
と、ベルトルトは目の前のミカサの股間を眺めながら自嘲した。

ミカサ「どう、ベルトルト。しっかり固まってる?」

ベルトルト「固まってるよ……固まってるから早く済ませよう……」

今ミカサが掛けている技は、先程とは正反対の物だった。
何が正反対かと言うと、頭と足の位置だった。
ベルトルトが仰向けなのは先程と変わりなかったが、ミカサの体が180度回転していた。
その身長差ゆえに、ミカサの頭の位置はちょうどベルトルトの腹部辺りだったが、
ベルトルトの眼前にはまさにミカサの下半身が迫っていた。

ミカサ「じゃあ、抜け出してみて」

ベルトルト「あ、あぁ」

そうしてベルトルトは力を入れてもがいたが、もがけばもがく程、

ベルトルト「むぐっ……!? ぶはっ、ふっ、ぐっ……んむっ!?」

ミカサ「んっ……ふ、っん……」

ミカサは何故まったく気にしないのか。
体が密着することに抵抗がないのか。
胸が当たったり股間に顔がうずまったりしても気にしないのか。
気付いてないのか。
訓練だと割り切っているのか。
それとも大宇宙の意志か。
それはわからない。

ベルトルトはもうとにかくがむしゃらだった。
そして逃げたいと思っても逃げられないのでそのうちベルトルトは考えることをやめた。
ミカサのどこに何が触れようともお構いナシに、無心でもがいた。

その後のことは、よく覚えていない。
多分自分も押さえる側に回ったりはしたのだろうが……
気付けば、訓練の時間が終わっていた。

夜、男子部屋

コニー「なぁオイ! どうだったんだよミカサはよ!」

ベルトルト「えっ、何……」

コニー「とぼけんじゃねぇよ! 対人格闘の時、すごかったじゃねぇかお前ら!」

エレン「まったくだ。ミカサのヤツあんなに体格差があるってのに完全に押さえ込んでたもんな」

アルミン(コニーが言ってるのは多分そういうことじゃないと思う)

エレン「なぁベルトルト、詳しく聞かせてくれよ。
    ミカサはどんな風にやってたんだ? あんな風に上手くやれるなんてよ」

ベルトルト「イ、イヤ……詳しいことはよく覚えてないんだ、ごめん。
      上手かったのは確かだけど……」

エレン「じゃあ覚えてる範囲で良い、頼むよ」

ジャン「…………」

ベルトルト「え、えっと……最初はやっぱり、ミカサもあんまり慣れてなかったからかな。
       ぎこちない感じはあって、息も結構切らしてたし少し辛そうではあったけど……」

エレン「へー、あいつもやっぱりベルトルトみたいなデカイ奴相手だと大変なんだな」

ベルトルト「でも流石というか……僕の大きさにもすぐ慣れたみたいだ。
      後半はまったく辛そうな感じはなくて、
      僕が上になったりもしたけどむしろ僕の方が疲れ……」

ジャン「ふざけんなよてめぇ!!」

ベルトルト「!?」

エレン「な、なんだよお前いきなり!?」

ジャン「てめぇこの野郎! ちょっとデカイからってミカサの相手させてもらいやがって!
    オレだって、オレだってなぁ! 結構デカイんだぞ! わかってんのかコラアッ!!」

マルコ「何を言ってるんだジャン! 落ち着け!」

ジャン「チクショウ、チクショウ……!」

ベルトルトとミカサ編はこれで終わりです
今日はこのくらいにしておきます

翌日

ジャン「はぁー……」

マルコ「ジャン、元気出せって……そう落ち込むなよ。
    そんなにため息を連発されるとこっちまで気分が滅入るだろ」

ジャン「は? 別に落ち込んでなんかいねぇよ……。ただ夢見が悪かっただけだ」

マルコ「そ、そうか。今夜は良い夢見られると良いな」

ジャン(なんでベルトルトとミカサのあんな夢見なきゃいけねぇんだよ……ふざけんなよ……)

ジャン「……ちっ」

ベルトルト「え、な、何?」

ジャン「なんでもねぇよ……はぁ」

ライナー(こいつも昨日のことが相当堪えたと見えるな)

そして、その日の夜。
ジャンは1人部屋を出て用を足しにトイレへと向かっていた。

今日1日、寝不足な上に気分が晴れなかった。
エレンとミカサがイチャついてるのを見るのは多少慣れていたつもりだったが、
昨日のベルトルトとミカサみたいなのを見せられるのは流石に嫉妬がやばい。
と、ジャンはジャンなりに自己分析をしていた。
だからどうだという話ではあったが……。

その時。
廊下の向こうから、背の高い影がこちらに歩いてくるのにジャンは気付いた。
まさかベルトルトの奴か、と一瞬思ったが、その影は……

ジャン「っ! 教官?」

キース「キルシュタインか……。こんな時間に何をしている」

ジャン「いえ、自分は便所に……」

それよりジャンは、教官がここに居ることの方が謎だと感じた。
訓練兵舎に何か用事でもあるのか?
と、ジャンがその旨を質問するより前に教官が口を開いた。

キース「そうだ、キルシュタイン。1つ用事を頼みたい」

ジャン「は? 用事、ですか?」

キース「地下の資料室で資料を探さねばならんのだが、
私は別に済ませたい用事がある。頼まれてくれるか?」

教官が自分の仕事を一部とは言え訓練兵に任せるなど、今まで聞いたことがない。
簡単な仕事だから任せて問題ないと思ったのか。
それほどまでに切羽詰った用事なのか。
それとも大宇宙の意志か。
それはわからない。

わからないがしかし、眠くて面倒だと思う以外ジャンには断る理由は特になかった。
それにここで評価を上げておけば、
憲兵団への道が多少は明るくなるのではないかという打算もあった。

ジャン「わかりました、引き受けます」

キース「そうか、助かる。資料についてはここにメモしてあるからこれを見て探せば良い」

ジャン「了解しました」

メモを受け取り、教官が去ったのを確認して、
ジャンはとりあえず便所に行って用を足した。
それから地下の資料室へと向かうために階段を下りる。

ジャン「……しかしイヤにジメジメしてやがるな。
    こんなとこに資料室なんか作るなってんだよ……」

気候のせいもあるだろうが、今夜の地下は妙に蒸し暑く感じる。
それと同時に、何か嫌な感じもした。
蒸し暑さの不快感によるものか、それとも虫の知らせか……ジャンには計りかねた。
ただ資料室の扉が見えた時、
虫の知らせの方が正解だったかも知れないとジャンは感じた。
資料室には、明かりが灯っていた。

誰か居るのか、それとも誰かが明かりを消し忘れたのか……。
まぁ中に入れば分かるか、とジャンは部屋の扉を開けた。

……奥の方で何やらゴソゴソと物音がする。
どうやら前者だったようだ。
音の主を確かめようとジャンは奥へ向かう。
いくつかの棚を素通りし、そこに居たのは……

ミーナ「きゃっ! え……ジ、ジャン?」

ミーナ「ど、どうしたの、こんな時間に……」

ジャン「それはこっちのセリフだ。何してんだ、お前」

ミーナ「えっと、私は……本当は今日の昼間にここの資料の整理を
    しなきゃいけなかったんだけど、色々あってこんな時間になっちゃって……」

ジャン「資料の整理だと? オイ……まさかそいつが終わらねぇと
    オレの用事も済ませられねぇなんてことはないだろうな」

ミーナ「えっ? ジャンの用事って……」

ジャン「教官に頼まれてこいつを探しに来たんだが、わかるか?」

そう言い、ジャンはメモをミーナに渡した。
ミーナはそれを見て、

ミーナ「えーっと、ど、どこかな。これは、えっと……」

慌てた様子で周りに散乱している資料からそれを探し出そうとするミーナ。
しかし、やはり整理を終えていないと資料を探すのも一苦労らしい。

ジャン「……ちっ、やっぱ無理か。もう良い、こいつはオレが自分で探す」

ミーナ「ご、ごめんなさい……」

ジャンはミーナからメモを受け取り、ブツブツと何か文句を言いながら資料を探し始めた。
そしてミーナは……そんなジャンのことはあまり好きではなかった。

夢を持って努力するエレンを馬鹿にする人。
自分のことしか考えておらず、口も悪いし、すぐ誰かとケンカをする嫌な人。
だから少し嫌いだし、また怖くもあった。

ジャン「はぁ~、ったく。クソっ、なんだよこれ。
    順番めちゃくちゃじゃねぇか。はぁ……クソが」

しかもよりによって今日はかなり不機嫌な様子だ。
なんでよりによってジャンと2人きりに……と、
ミーナはなかなか終わらない作業の辛さもあって少し泣きたくなった。




あれからどのくらいの時間が経っただろうか。
ミーナとジャンは未だに2人で資料室に篭っていた。

ミーナは資料の整理を続けながらも、すぐ横に居るジャンのことが気になっていた。
もちろん、良い意味ではなく。
まだ目的の資料を見つけられないのか、早く見つけて欲しい。
ジャンと2人きりのこの状況から早く解放されたい。
と、そんな風に……

ジャン「オイ」

ミーナ「っ! え、な、何?」

ジャン「100番台、ここに置いとくぞ」

ミーナ「えっ……?」

そう言ってジャンが床に置いた資料を、ミーナは恐る恐る手に取る。
見ると確かに100番台の番号がふってある資料がまとめて置いてあり、しかも順番通りに並べられていた。

ミーナ「こ、これ、やってくれたの?」

ジャン「ついでだ。オレの資料探すのに一度並べなおした方が都合良かったしよ」

ミーナ「あ……ありがとう」

ジャン「それじゃ、悪いがオレはもう行くぞ。もう眠気が限界なんでな。あとは1人で頑張ってくれ」

ミーナ「あ、でも私の方ももう……」

どうやら、ジャンの手伝いの甲斐あってちょうどミーナの作業も終わったらしい。
ミーナは周りの資料を束ね、棚に戻す。
これで2人ともここでの用事を終えたことになる。
だからあとはシャワーでも浴びて寝るだけ……の、はずだった。

ジャン「っ!?」

ミーナ「え……!?」

突然……資料室の明かりが消えた。

ミーナ「うそ、な、なんで!?」

ジャン「決まってんだろ、誰かが明かりを消しやがったんだ……!
    オイ!! まだ中に居るぞ!! 明かりを点けてくれ! オイ!!」

恐らく明かりを消したであろう誰かに向かって叫ぶジャン。
しかし何度叫んでも何の返事も返って来ず、明かりが灯ることもなかった。

一体何故こんなことになったのか。
中にまだ誰か居る可能性を考えなかったのか。
こんな遅くに誰も居るはずがないと思い込んでいたのか。
物音は聞こえなかったのか。
明かりを消した奴はバカなのか。
それとも大宇宙の意志か。
それはわからない。

ただ1つ確実なのは、地下ゆえにまったくと言って良いほど光のない空間に、
ジャンとミーナは2人きりで取り残されてしまったということだった。

ジャン「ちっ……! オイ、ミーナ。お前はそこに居ろ……」

ミーナ「えっ! ど、どこに行くの!?」

ジャン「外に出て明かりを点けてくる……ちと危ねぇが壁を伝えばなんとかなるだろ」

ミーナ「ま、待って、私も……」

ジャン「良いからそこに居ろっつってんだろうが」

ミーナの返事を待たず、ジャンは暗闇の中を手探りで進む。
片手を壁につき、もう片方の手を前にかざし、慎重に進み……扉には辿り着いた。
が、しかし。

ジャン「……やっぱそういうことかよ」

扉には、外から鍵がかけられていた。

ジャン「っざけんなよクソ!」

ジャンは大声で悪態をつき、扉を思い切り殴った。
その音に反応し、部屋の奥からミーナが慌てて声をかける。

ミーナ「ど、どうしたの! 大丈夫!?」

ジャン「……あぁ、すこぶる大丈夫だね。扉に鍵がかかってること以外はな」

ミーナ「か、鍵が……そんな……」

ジャン「はぁ~……なんだってこんなことになっちまったんだ。ついてねぇ……」

ため息をつき、頭をかかえてその場にへたり込む。
もうこのまま目を閉じて寝てしまおうか。
ジャンは座り込んだままそう考え始めた。

……が、どうもそういうわけにはいかないらしい。
部屋の奥の方から何か聞こえる。
何かがこちらに這いよるような音と、そして声がジャンの耳に届いた。

ミーナ「ジャン……どこ? ね、ねぇ、そっちに居るんだよね……?」

ジャン「……! お前、じっとしてろって言っただろうが……」

ミーナ「だ、だって、暗いし、誰も近くに居なくて……」

ジャン「ハァ……。オイ、今戻るから今度こそそっから動くな」

そうしてジャンは立ち上がり、再び壁に手を付いてミーナの元へ戻る。
ただし、恐らく先程より近くまで来ているミーナにぶつからぬよう、より慎重に。

ジャン「オイ、大体どの辺に居るんだ」

ミーナ「こ、ここだよ。座ってる……」

ジャン「座ってんのか……どこだ、もうすぐのはずなんだが……」

ミーナ「ここだよ、ここに……きゃっ!?」

ジャン「っ! 今の……お前の手か?」

ミーナ「あ、じゃあ今のはジャンの……」

ジャン「さっきと同じ位置に手を出せ」

ミーナ「う、うん。……あっ」

ジャン「……確認できたな。これで良いだろ」

ミーナ「う……うん。ありがとう」

ミーナの位置を確認し、ジャンは恐らくミーナの隣と思われる位置に壁を背にして座り込む。

ミーナ「これから……どうしたら良いのかな」

ジャン「誰かが来るまで待つしかねぇだろ。最悪、明日の朝までな」

ミーナ「そ、そっか……」

ジャン「……まぁ、オレ達が部屋に戻らなきゃ流石に誰か探すだろうしそれはねぇだろうが」

ミーナ「だ……だよね。うん……」

ジャン「……しかし蒸し暑いな。
    マジで、なんでこんなとこに資料室なんか作ったんだよ……ったく」

ミーナ「だ、だよね……嫌な汗でベタベタ」

ジャン「はぁ……ついてねぇよ、本当……」

ミーナ「…………」

ジャン「…………」

ミーナ「…………」

ジャン「…………」

ミーナ「……ジャン?」

ジャン「なんだよ」

ミーナ「あ……ううん、なんでもない……」

ジャン「……心配しなくても動きゃしねぇよ」

ミーナ「! う、うん。ごめんね、ありがとう」




沈黙が2人を包んでからどれくらい経っただろうか。
もうそれなりに遅い時間のはずだが、まだ誰かが探しに来る気配はない。
地面の固さと、蒸し暑さと、それから眠気で、ミーナは少し参っていた。
だから会話をして少しでも気分を晴らそうかと思い立ち、またジャンに声をかけた。

ミーナ「……ねぇ、ジャン?」

……がしかし。
ジャンが居るはずのすぐ隣からは、何も返ってこなかった。

ミーナ「え……? あ、あの、ジャン? そこに居るんだよね? ねぇ……」

一気に不安になり慌てて手を伸ばしたミーナだったが、その手にはすぐに何かが触れた。
更に何度か触れ、そしてそれがジャンであることを確認でき、ミーナはほっと胸を撫で下ろす。

しかし何故反応がないのか。
ジャンの姿を目で確認できないかと、ミーナはジャンの居る方向に少し顔を近付けて目をこらす。
が、やはり真っ暗で何も見えない。
ただ、目では何の情報も得られなかった代わりに耳でジャンの状態を知ることができた。
深く長い呼吸音。
ジャンはどうやら、寝息を立てているようだった。

ミーナ「ジャン、寝ちゃったの……?」

ジャン「…………」

ミーナ「ジャーン、ねぇ、ジャン? ジャンってば」

ジャン「…………」

ミーナ「……起きない、よね……?」




ジャン「……ん……?」

それからあまり時間を置かず、ジャンは目を覚ました。
寝てしまったのか……寝不足なのが効いてたようだ。
と、ジャンはぼんやりした頭を振って目を覚まそうとする。

目は開けたが相変わらず辺りは真っ暗だ。
ジャンは念のためにに声をかけて確認する。

ジャン「悪い……寝ちまってた。ミーナ、何も変わりはないか?」

その呼びかけに返事はすぐに返ってきた。
しかし、何かおかしかった。

ミーナ「えっ!? ジャン、お、起きたの!?」

ジャン「……?」

心なしかミーナの声が遠い。
イヤ、恐らく実際に距離が離れている。

ジャン「オイ、どうしたミーナ。何かあったのか?」

ミーナ「ま、待って、ジャン!」

何故かミーナの声が焦っていることにジャンは気付いた。
気のせいではない。
間違いない、何か異変が起きたのだ、とジャンは確信した。

ジャン「そこに居るんだな? 動くんじゃねぇぞ、今そっちに行く」

ミーナ「えっ!? こ、こっちに!? ちょっと、待っ……!」

やはりミーナの声色は尋常ではない。
ジャンはほんの少し焦りを感じ、急いでミーナの元へと向かった。

……何故ジャンは、ミーナの制止を聞かなかったのか。
ミーナのことを心配していたのか。
彼女に問題があっては自分の責任だと思っていたのか。
状況に混乱していたのか。
それとも大宇宙の意志か。
それはわからない。

ジャンは暗闇の中ミーナの声のする方へ歩いていき、そして、彼女の手を掴んだ。
とりあえずは無事にミーナのところに辿り着いたことにジャンは安堵する。

ジャン「で……どうしたんだよミーナ。何があったんだ?」

ミーナ「あ、ぅ……」

ジャン「……オイ?」

ミーナ「は、離してっ!」

ジャン「うおっ!?」

突然、ミーナはジャンを振り払おうと手を思い切り引いた。
しかしジャンは力強くその手を握っていたため、
彼の手もそのまま一緒に引っ張られ、そして体勢を崩し……ミーナ共々、床に倒れた。

ジャン「っ……ってぇな。オイ、ミーナ。何考えてやがるこの……」

そこまで文句を言いかけジャンは気付いた。
恐らく今の状態は、ミーナが仰向けに倒れ、その上に自分が乗るような体勢になっている。
まずこのことに想定が及んだ。

次に自分の手は、右手は未だにミーナの手を掴んだままだ。
そして左手は床に付いている……のではなく、何か柔らかいものを掴んでいた。
その肌触りは、恐らく人の肌。

……肌だと?
手じゃなさそうだが、顔でも掴んでいるのか?
この柔らかさ……頬か?
いや、違う。
頬骨のような感触はない。
全体が柔らかい。
これはまさか……
と、その時。

クリスタ「ミーナ! もしかしてここに……え?」

明かりが灯った。
ぼんやりとした明かりだったため大してまぶしさも感じず、
ジャンはすぐにその目で現状を確認することができた。

まず扉の開く音と声に振り向くと、そこにはクリスタとユミルが居た。
次に、彼女らの表情をジャンは確認した。
クリスタは一瞬、呆気に取られたような表情をして固まった後、一気に顔を赤くした。
ユミルは汚物を見るような顔になった。

次いで、ジャンは自身がどんな状態になっているのか確かめようと思った。
目線を前に戻し、そして下にやった。

まず自分が考えていた通り、自分は仰向けに倒れているミーナに圧し掛かるような体勢になっていた。
右手は、やはりミーナの左手を掴んでいた。
そして肝心の左手だが、ミーナの肌着を捲り上げるようにし……
彼女の胸を直に鷲づかみにしていた。

ジャン「……は?」

完全に思考が停止した。
どういうことだ一体。
何故だ。
何故ミーナは上着を脱いで肌着一枚になっているんだ。

あぁそうかわかった。
暑かったからだ。
暑かったから脱いだんだ。

オレが寝ているのを確認して、それに加えてあの暗闇。
少しくらい服を脱いで、汗を拭いたりしても構わないと考えたんだろう。
それでか。
あの焦り方は。

ミーナ「ぅく、ぅぇっ……ひぐっ……」

そりゃ泣くよな、仕方ない。

あぁ、なるほど。
それでユミルは汚ぇものを見る目をして、
クリスタは顔を真っ赤にしてオレを睨んでるのか。
そりゃそうだ。
どんな偶然か知らんが肌着の下に手まで突っ込んでるんだ。
どう見てもオレは暗闇でミーナを襲ったクソ変態野郎だ。

 『ジャンは、現状を正しく認識する能力に長けている』

へっ、そりゃどうもマルコ。
おかげで今のオレが絶望的な状況に居るってコトが理解できたぜ。

……明かりが灯ってからここまで、およそ3秒。
全ての機能を全力で思考のエネルギーに回していたジャンの肉体は、
ここでようやく起こすべき反応を起こした。

ジャン「うぉおおおおおお!? す、すまんミーナ! 悪い!!」

クリスタ「ミーナ、大丈夫!?」

ミーナ「ひっく、ぇうっ……」

クリスタ「こっちに来て、早く……! ホラ、服持って……」

ジャン「ま、待ってくれ! 違うんだ、誤解だ! オレは別に……!」

ユミル「てめぇも大概クズ野郎だと思ってたが……まさかここまでだったとはな」

ジャン「違う!! 事故なんだよこれは!」

クリスタ「事故でどうしてミーナの服が脱げるの!」

ジャン「イ、イヤ、それはミーナが自分で……!」

ユミル「嘘つくならもっとマシな嘘つけってんだよ」

ジャン「嘘じゃねぇ! 事情があるんだよ!!」

ジャン「な、なぁミーナ! 説明してくれよ! 確かにさっきのはオレが悪かった!
    だけどよ、アレが事故だってのはお前だって……!」

しかしジャンの弁明空しく、ミーナはクリスタに連れられて部屋を出て行った。
後にはユミルとジャンだけが残される。

ジャン「ク、クソっ……なんだってこんなことに……」

ユミル「てめぇが盛りやがったからだろうが」

ジャン「違うっつってんだろうがクソ女……だが、そうだな……。
    てめぇは誤解してるなりに一応は話を聞いてくれそうだから話すがよ……」

ユミル「あ?」

そうして、ジャンはコトの経緯を可能な限り詳しく話し始める。
ユミルは床に座り込んで話すジャンを冷たい目線で見下ろしながらも、話には耳を傾けていた。

ジャン「――これが紛れもない真実ってヤツだよ。マジで悪気はなかったんだ……」

ユミル「はッ……それが真実だとすりゃあ、ミーナの方から誤解を解くだろうぜ」

ジャン「だと良いがな……。事情があったにしろ、
    オレがあいつにしちまったことが変わるわけじゃねぇ。
    あいつがオレを許せねぇってんなら、そんときゃあ……」

ユミル「…………」

と、その時。
部屋の扉が開き、そして……クリスタと、ミーナが入ってきた。

ユミル「なんだ……そいつは話したのか? 真相とやらをよ」

クリスタ「一応……。でも、確認しなきゃいけないと思って」

ミーナ「…………」

ジャン「ミーナ……」

恐らくミーナは、ジャンが本当に悪気がなかったのかを確認しに来たのだろう。
少なくともジャンはそういうことだと思った。
しかしまだ気持ちの整理がついていないのか、ミーナはなかなか話を切り出さない。
そのまま数秒、数十秒が流れ、そして……

ジャン「わ……悪かった」

ミーナ「!」

そう言って、ジャンは頭を下げた。
そしてそのまま謝罪を続ける。

ジャン「お前の様子がおかしかった時によく考えるべきだったんだよな……。
    そうすりゃあんなことにはならずに済んだんだ。悪かった、本当に……す、すまない」

そしてそのまま、何も言わずに頭を下げ続けるジャン。
また何秒か沈黙が続き……

ミーナ「……私だって、あんな時に服脱いだりしたのが悪かったの」

ジャン「!」

ミーナ「もう良いよ、頭を上げて」

ジャン「ゆ……許してくれる、ってことか……?」

ミーナ「その……こ、こっちこそごめんね。
    びっくりしたのと恥ずかしかったので泣いちゃったけど……そのせいでジャンを悪者にしちゃって」

クリスタ「わ、私も本当にごめんね。冷静じゃなくて、怒ったりして……」

ジャン「あ、あぁ。良いって別に……そりゃ誤解して当然なんだしよ、あんなもん」

ユミル「……オイ。じゃあもう良いよな? この辛気臭ぇとこからさっさと出たいんだが」

ジャン「同感だ。もうこんなとこに居たくねぇ。また閉じ込められても敵わねぇしよ」

クリスタ「鍵は私が持ってるしそれは大丈夫だと思うけど……そうだね、早く戻ろう」

ミーナ「やっと汗が流せるよ……」

ジャン「あぁ……まったくだ」

男子部屋

マルコ「! ジャン、随分遅かったじゃないか。何をしてたんだ?」

ジャン「まぁ色々とな」

ライナー「なんだ? よく見りゃお前汗だくじゃねぇか」

コニー「あっ、まさか自主訓練でもしてたのか!?」

ジャン「そんなとこだ。つーわけでシャワー浴びてくるからよ。じゃあな」

エレン「……あのジャンが自主訓練だと? ちょっと信じられねぇな……」

アルミン「どうだろう……。ただなんというか、今日1日と雰囲気が違っていたように見えたよ」

マルコ「確かに。ベルトルトを睨みつけたりもしなかったし」

ベルトルト「あ、あぁ……そうだね」

ジャンはシャワーを浴びながら、先程のことを思い返していた。

今日の昼までは……他の奴らが羨ましくてたまらなかった。
同期の女子の体を触っただの、肌を見ただの、あいつらばっかり良い思いしやがって。
オレももし何かあれば、絶対に自慢してやる。
と、そう思っていた。

そして、実際に自分にも似たようなことが起こった。
自分はミーナの下着姿を見、そして胸まで触った。
今までミーナのことなんかまるで意識したことはなかったが、オイシイ思いには違いない。
まさに自分が望んでいた、自慢すべき体験だったはずだ。

ジャン「…………」

だが、今はまったくそうは思わない。
こいつはオレの心の中にしまっておくべきだ。
あのことは墓場まで持っていく。
絶対に、誰にも言ったりするもんか。

ジャンは1人、そう固く心に誓った。

ジャンとミーナ編はこれで終わりです
今日はこのくらいにしておきます




そして翌日、今行われているのは兵站行進。
この訓練には技術の介する隙はほぼなく、
純粋に体力のみを求められている訓練だと言っても過言ではない。
そしてそれゆえに、苦手とするところがもっとも顕著に出るのが……

アルミン「ぜえっ、ぜえっ……!」

キース「また貴様かアルレルト! どうやら余程最後尾がお気に入りのようだな!」

アルミン「くっ……!」

キース「なら貴様にはしんがりでも務めてもらおう! イヤ違うな!
    巨人のエサの間違いだったな! 貴様は巨人のエサがお似合いだ! 違うかアルレルト!」

アルミン「ぜえっ、ぜえっ……!」




アルミン「はぁ、はぁ……」

ミカサ「アルミン、大丈夫?」

エレン「ホラ、水だ。持ってきたぞ」

アルミン「あ……ありがとう、2人とも……」

訓練が終わり、ぐったりしているアルミンをミカサとエレンは心配する。
水を飲み一息つくアルミン。
しかしそこに、不意に大きな影がさした。

キース「良い友人を持っているようだな、アルレルト」

アルミン「えっ……?」

エレン「き、教官?」

キース「随分仲が良いようだが……将来貴様の友人はそうやって貴様を守り、
    そして貴様の代わりに巨人のエサになるんじゃないのか?」

アルミン「っ……!」

ミカサ「……そんなことはありません。私達は……」

キース「確かにそれすら不可能か。
    貴様はそのままだと卒業すらできず、開拓地に移ることになるだろう」

エレン「教官! なぜ、今そんなことを……!」

アルミン「ま、待ってエレン」

エレン「! アルミン……?」

キース「ほう……貴様は自分のことを正しく認識しているようだな。立派なことだ」

アルミン「…………」

キース「アルレルト。貴様が無事卒業し巨人と戦う兵士となるために必要なことはなんだ」

アルミン「……自分が、もっと体力をつけることです」

キース「その通りだ。そこで私は、貧弱な貴様を鍛え上げる方法を思い付いた」

アルミン「き、鍛え上げる方法? それは一体……」

キース「倉庫の荷物整理だ。随分と整理できていない荷物が溜まっていてな。
    貴様が力をつけるにはそれでもまだまだ足りないが、何もしないよりはマシだろう」

エレン(……それってただの雑用じゃ)

アルミン「わかりました、やります!」

キース「そうか。では、今日の日付が変わるまでには済ませるのだな」

ミカサ「……そういうことなら早く行こう、アルミン」

エレン「あぁ。早いとこ済ませちまおうぜ」

キース「待てアッカーマン、イェーガー。貴様らがアルレルトを手伝うことは許さん。
    これはアルレルトの特訓だと言ったはずだが?」

エレン「っ……し、しかし」

アルミン「良いんだ、エレン。それにミカサも……これは僕がやらなきゃいけない、
     イヤ、やりたいんだ。やらせてくれ。僕だって、体力をつけたいからさ」

ミカサ「……アルミンがそう言うなら」

キース「納得したようだな。夕食後にでもすぐに始めることを勧めておこう」

アルミン「はい、助言をありがとうございます」

エレン「(アルミン……どうしてもやばそうならすぐに言えよ?)」

アルミン「(あはは、その気持ちだけで嬉しいよ)」

ミカサ「頑張って、アルミン……」

アルミン「うん、ありがとう」

そして夕食後。
アルミンは2人に見送られ、倉庫へと向かった。
たった1日倉庫の荷物を整理したくらいで体力がつくはずない。
そんなことくらい分かっていたが、これをきっかけにしようとアルミンは考えていた。

あの教官はなんだかんだ言って訓練兵のことを考えてくれている。
教官の言う通り、今のままだと卒業すら危うい。
これを機会に自分を変えて見せろと、教官はそう言ってるんだ。

と、そんなことを考えているうちに倉庫につく。
しかしおかしかった。

アルミン「……? 誰か居るのかな」

倉庫には明かりが点いていた。

扉を開け、中に入る。
するとそこには、

アニ「! アルミン……?」

アルミン「あれ、アニ? どうしたの?」

アニ「それはこっちのセリフなんだけど」

アルミン「イヤ、僕は教官に言われて……」

アニ「……私もだよ」

その返答をアルミンは疑問に思った。
アニが何故この仕事をやらされるのか。
自分は体力をつけるためという一応の理由があったが、アニはそんな必要はないはずだ、と。

アルミン「僕はこの仕事で体力をつけろって言われてるんだけど、アニはどうして……?」

アニ「……対人格闘術の時にサボってたのがバレた」

アルミン「あぁ……」

アルミン「ま、まぁなんというか……災難だったね」

アニ「…………」

アルミンは複雑な思いで愛想笑いをしたが、アニはそれを一瞥してまた作業に戻った。
『さっさと終わらせたいからあんたも早く作業始めな』
そう言われているような気がして、アルミンは一番近くの荷物に手をかけた。

何をすべきかは大体わかっていた。
ただこの進行状況から考えて、やはりそう簡単に済ませられる作業ではなさそうだ。
もし1人だと日付が変わるまでに終わらせることなど不可能だっただろう。

アルミン「うっ、お、重いっ……」

アニ「…………」

アルミン「アニ、これはどこに……」

アニ「そこ」

アルミン「あ、あぁ」

アニ「…………」

アルミン「…………」

アニ「……ここに入れるヤツ、どこにあるか知らない?」

アルミン「あ、確かこれだよ」

アニ「どうも」

アルミン「…………」

アニ「…………」

必要な会話のみ交わし、黙々と作業を続ける2人。
それをしばらく続け、それなりの作業量をこなし、
持っていた荷物を棚に置いたところでアルミンは大きく息を吐く。

短時間にこれだけたくさんの物を持ち上げたり運んだりしたのは、初めてかも知れない。
足腰と腕の筋肉が張ってきたような気がする。
しかしアニを見ると、まだ休むことなくやはり黙々と作業を続けている。
小柄だけどやっぱり鍛えてるんだろうな、とアルミンは素直に感心した。

アニ「……ちょっと、休まれたら早く終われないんだけど」

アルミン「あ、ご、ごめん」

アルミンは謝り、アニはそれを見てため息をついて作業に戻る。
だらしないと思われたと、アルミンは少し恥ずかしくなった。




アルミン「っ……しょっ、と……。はぁ、はぁ……」

筋肉の疲労も随分溜まってきた。
荷物を置き、アルミンはそこに手をついて少し息を整える。

アニ「……どいてくれない?」

アルミン「あ、ごめん……!」

アニ「…………」

アルミンがどいたところに荷物を置き、そのまま次の荷物のところへ向かうアニ。
体力も息も切らしているアルミンを見て、
アニはもう何の反応も、ため息すらも出さなくなっていた。
完全に呆れられている。
そう思い、アルミンは自分が情けなくて仕方なくなった。

自分は体力をつけるためにこの作業をしているはずだ。
体力をつけて強くなるために……。
しかし先程から、自分の情けなさを改めて突きつけられるばかり。
本当にこんなことをしていて自分は……

イヤ駄目だ。
そうだ、だからこそ変わらなくちゃいけないんだ。
……でも本当に変われるのだろうか。
自分より小柄な女子に呆れられて、現時点で彼女の足元にも及ばないのに。
本当に、僕は……

これを糧にして自分を変えなければならないと、頭では分かっていた。
しかしやはり、心の方はそう簡単にはいかない。
自信のなさに拍車がかかり、最悪の場合このまま心が折れてしまうのではないかと、
今のアルミンにはそんな危うさすらあった。

そして……それとは別の、物理的な危うさが迫っていることに、アルミンはいち早く気付いた。
ただしその危うさはアルミンにではなく、アニに襲い掛かろうとしていた。

アニは、少し高い場所にある荷物を取ろうとしていた。
しかしどうも地面からでは届きそうにないと知り、棚に脚をかけて取ろうとした。

その時だった。
棚の反対側には重量はかかっていなかったのか。
元々棚は不安定だったのか。
見かけによらずアニは体重があるのか。
それとも大宇宙の意志か。
それはわからない。

アニの体重を受けた棚はぐらりと傾き……そのままアニの方へ倒れこんだ

アルミン「アニ!!」

アニ「っ……!」

この位置、この体勢。
もう間に合わない。
受身を取るので精一杯……回避するのは不可能だ。

そうアニは回避を諦め、目を瞑り衝撃と痛みを覚悟した。
……が、思っていた程ではなかった。
背中は少し打ったが、それ以外は特に何もない。
あのままだと確実に自分は棚に押し潰されるはずだったが……
棚がどこかで引っかかって支えられたのか?
それを確認しようと開いたアニの目に映ったのは、

アルミン「っぐ……ア、アニ、大丈夫?」

アニ「……! アルミン……!?」

そこには、自分の上に覆いかぶさるようにし、背中で棚を支えるアルミンが居た。

アルミン「良かった、無事みたいだね……」

あのアルミンが、自分を庇った。
予想外の出来事にアニは珍しくほんの少しだけ動揺した。
しかしあまりのんびりしていられない状況にあることはわかっていたので、すぐに落ち着きを取り戻す。

アニ「……まぁ、なんとか……」

アルミン「それじゃ、悪いけど……急いで脱出してくれるかな……。
     この体勢、ちょっと辛くて……」

アニ「そうしたいのは山々なんだけど……あんたの手が」

アルミン「えっ? あっ……」

アルミンが手を付いた位置が少し悪かった。
タダでさえ狭い空間なのに、更にアルミンの手がアニの動きを封じてしまうような形になっていた。
ただ、片手を上げればなんとかなる。
そうすれば、アニは頭側の方から脱出できるはず。
そんな状態だった。

アルミン「えっと、じゃあ、左手を少し上げるよ」

アニ「……できるの?」

アルミン「かなりきついけど……。あんまり長い時間は無理だから、
できるだけ急いで抜け出てもらえると助かるかな」

アニ「わかった……じゃあ、頼むよ」

それを聞き、アルミンは気合を入れて左手を持ち上げた。
その瞬間右手に大きく重心がかかり、アルミンは顔を歪める。

アニは身をよじらせ、頭側へ這うようにして、できるだけ早く体をずらしていく。
そうして数十cm移動した、その時。

大きな音と共に、アルミンの背中に更なる重量がかかった。

アニ「っ……!」

アルミン「!? ……!?」

アルミンにはわけがわからなかった。
一体何故、急に棚が重くなったんだ。
イヤ違う。
棚は急に重くなんかならない。
何か別の重いものが、棚の上から更に圧力をかけたんだ。
しかし一体何が……!

アニ「……棚だよ」

アルミン「!?」

アニ「隣の棚が、この棚の上に倒れたんだ」

……そんなことがあり得るのか。
それほど棚は不安定だったのか。
地震でも起こったのか。
風が吹いて棚を倒しでもしたのか。
それとも大宇宙の意志か。
それは分からない。

しかし、アルミンはそれどころじゃなかった。
目の前が真っ暗だ。
息も苦しい。
というのも……自分は背中からの圧力を支えきれず、アニに体重を預けてしまっている。
つまり、顔がアニの体に押し付けられている。
口もふさがって、喋ることもできない。
辛うじて鼻呼吸ができる程度で、物凄く息苦しい。

アルミン「っ、ふー……ふー……!」

アルミンの呼吸は荒い。
この状況で、こんな狭い穴からしか酸素を取り入れることができないのは
流石に辛いとアルミンは感じた。
酸欠にならないよう、必死に鼻呼吸を続ける。
その時だった。

アニ「んっ……」

アルミン「!?」

アニ「あのさ……もう少し抑えられない?くすぐったいんだけど……」

『くすぐったい』
この一言でアルミンは悟った。
そして顔面の触覚に意識を集中し……把握した。
少なくとも自分の鼻から下はアニの素肌に触れている、と。

その瞬間アルミンの脳内に、この状況になる直前の光景がフラッシュバックした。
自分が今アニのどこに顔を押し付けているのか。
ほとんど無意識に、現状把握の一環としてアルミンは推理してしまった。

押し潰される直前、あの時自分の顔の位置にあったのは……アニの腹部。
イヤ、腹部とは言ってもそのほとんどは既に自分の顔を通り過ぎていた。
ということは少なくともヘソの辺りか、ヘソより下……。

イヤ待つんだ、そんなはずはない。
だってそこは、ズボンに覆われているはず。
そんなところに顔を押し付けているのなら、素肌に触れているわけがない。
もしそうだとすれば、それはつまり、ズボンや下着までがずり下がって
普段隠れている部分が露出したとしか考えられ……

アルミン「っ……!」

まずい……その通りだ。
ずり下がったんだ。
思い出した。

あの時アニは、這うようにして体を頭の向きへ移動していた。
それも、できるだけ急いで。
そうしてズボンが地面との摩擦で少しずつ下がっていったんだ。
あの時自分は咄嗟に目を逸らしていたけど、きっとかなり際どいところまで……

アルミン「っ……ふ、ふっ……」

それに気付き、アルミンはできるだけ呼吸を抑えようとする。

正直息苦しさはかなりのものだったが、
あんなことに気付いてなお先程までのように呼吸できるはずがない。
アニに不快な思いをさせてしまう。
事実アニは、呼吸を抑えて欲しいと言って……

アニ「イヤ……なんでもない。良いよ別に」

アルミン「……!」

アニ「酸欠で死んでもらっても嫌だし、普通に呼吸しなよ」

アルミン「っ……」

アニ「……良いって。我慢しなくてもさ」

……ごめん、アニ。
とアルミンは心の中で謝った。

アルミン「っ……ふーっ、ふーっ……」

アニ「ん……」

それからほんの少し経って、アニはまた口を開いた。

アニ「……あのさ。あんたもしかして、今喋れないの?」

アルミン「……! んぐ、もが、もが……」

アニ「んっ……待った、わかったよ。口が塞がってんだね」

アルミン「……ふー、ふー……」

きっとこれもくすぐったかったんだ、とアルミンはなんとなく分かって喋るのをやめた。
そのまま続けてアニは話しかける。

アニ「ちょっと訊くけど……左手、なんとかならない?」

アルミン「……?」

アニ「この状態から動かせないかってことなんだけど……」

左手。
顔や呼吸にばかり意識が行って、そっちの方はまったく気にしていなかった。
が、一度そちらに意識をふると、アニの言わんとしていることがアルミンには瞬時に理解できた。

手の伸ばし具合や角度から推定される位置や、そして手のひらに伝わる感触。
つまりアルミンの左手は……ちょうどアニの胸に置かれていた。
アニが脱出する時に左手を上げていたからか、とアルミンは混乱する頭の片隅で冷静に理解した。

アルミン「っ! っ~~!」

次の瞬間、アルミンは全力でそこから手を動かそうとする。
しかし何がつっかえているのか、腕はまったく動かない。
それでも必死に力を込めるアルミン。
いつまでもこんなところに手を置いているわけには……

アニ「つッ……」

アルミン「!?」

アニ「爪……痛い」

なんかもう申し訳なさやら何やらでどうにかなりそうだった。

アルミンとアニ編、まだ途中だけど今日はこのくらいにしておきます

焦って腕をどかそうと力んだせいで、アニの胸に爪を立ててしまった。
それに気付いて今度は慎重に力を入れるが、やはり一向に動こうとしない。
アニはしばらく待っていたがどうも動きそうにないことを悟り、

アニ「良いよ、無理なら無理で……」

アルミン「……ふー、ふー……」

そうして結局、アルミンは手を動かすのを諦めた。
これ以上は腕の筋肉が限界というのもあったし、
アニの言うことを無視してまた何かで不快な思いをさせてしまうことが怖かった。

全身変な汗でぐっしょりだった。
自分は今、アニの下腹部に顔を押し付けて左で胸を触っている……。
こんな状況でも客観的に現状を把握してしまう自分が憎らしかった。

口調を聞く限りではいつもと変わらないアニだが、この状況をなんとも思っていないはずはない。
アニだって女子なんだ。
同年代の男子……しかも自分なんかにこんなことをされて不快感を覚えないはずがない。
呼吸を抑えろと言ったり手をどけろと言ったのが何よりの証拠だ。

少なくともアルミンはそう思った。
申し訳なさと恥ずかしさで顔から火が出そうだった。

そのまま沈黙が続き、聞こえるのはアルミンの呼吸音のみ。
しばらく後、アニがぼそりと呟く。

アニ「あんたさ……頭は良いと思ってたけど、そうでもないんだね」

アルミン「ふーっ、ふーっ……」

アニ「私なんか別に助けなくても平気なのに……無理して、こんなことになって。
   あんたも私も身動きが取れない、最悪の状況にさ」

アルミン「っ……」

やっぱり怒ってる。
それはそうだ、当たり前だ。
これが自分でなくたとえばライナーなんかだったら、こんな棚なんて簡単に支えてみせるんだろう。
アニに不愉快な思いをさせずに助けられたんだろう。
でも体力のない自分なんかが無理をしたせいで、こんなことになってしまった。

だからと言って、助けたこと自体が悪かったとは思わない。
悪いのは……自分に体力がないことだ。
全部、体力がないことが悪いんだ。
僕が悪いんだ。

そう思いアルミンは……情けなくて悔しくて悲しくて仕方なかった。

アニ「…………」

それからまたしばらく、沈黙が続く。
状況は相変わらずだ。

ようやく息のくすぐったさにも慣れてきた、とアニは思った。
それはそうか、こんなに何回も同じ刺激を与えられ続ければ流石に慣れる。
それにしても……本当に苦しそうだ。
余程強く押し付けられているのか……。
イヤしかし、だとすれば自分の腹部もそれなりに強く圧迫されていてもおかしくはない。
だとすれば単に肺活量がないだけか。

……それだけじゃない。
よくよく意識してみれば、アルミンの顔や手が小刻みに震えているのが伝わってくる。
もしかしてこれは、かなり危ないんじゃないか?
酸欠の症状がどんなのかは知らないけど、体が震えるなんていうのは……。

早く何か手を打った方が良いかも知れない。
と、アニがそんなことを考えていたその時。

ミカサ「アルミン、作業は……えっ? こ、これは一体……」

エレン「は!? なんだよこれ!?」

アニ「! ……良かったねアルミン。やっと解放されるみたいだよ」

やはり心配になってアルミンの様子を見に来たのだろう、
エレンとミカサが倉庫の扉を開け、そして中の惨状に驚く。
彼らは慌てて倒れている棚のところへ駆け寄り、
そして、アニの頭だけがそこから覗いていることに気付いた。

ミカサ「アニ、どうしてあなたが……! アルミンはどこ!?」

アニ「この下だよ。心配しなくても死んだりはしてないけど……急いだ方が良いかもね」

エレン「マジかよ……! ミカサ、そっちを持て! 棚を起こすぞ!」

ミカサ「わかった!」

エレン「行くぞ、せーのっ、うおっ!?」

ミカサ「アルミン、大丈夫!?」

エレン(オレ今ほとんど力入れてなかったぞ……)

アルミン「はぁ、はぁ……あ、ありがとう。助かったよ、2人とも……」

アニは棚が起こされたと同時にズボンを上げて事なきを得た。

エレン「しかし災難だったな……棚の下敷きになるなんてよ」

ミカサ「でも、勝手に倒れるなんて……」

アニ「…………」

そう、この棚が倒れた原因は自分にある。
アニはそのことはわかっていた。
だから素直にそう言おうとした……その時。

アルミン「そう、突然倒れてきたんだ……驚いたよ、本当に」

アニ「!」

エレン「オイオイ、マジかよ。どんだけ不安定なんだこいつは」

ミカサ「これは教官に言うべき。何か対処してもらわないと」

アニ「…………」

また庇われた。
別にそんなことをする必要なんてないのに、二度も庇われた。
こういうのを良い人っていうんだろうけど……正直、理解できるタイプじゃない。
アニはそう思いながら、未だ地面に座り込んでいるアルミンを見つめる。

エレン「まぁ、とにかく2人に怪我がなくて良かったぜ」

ミカサ「だけどアルミンは酷く疲れてるみたい。立てる? アルミン」

アルミン「あ、あぁ。なんとか……うっ!?」

アニ「!」

立ち上がろうとして地面に付いたアルミンの肘が、がくりと折れた。
どうやらほとんど力が入らないらしい。

エレン「大丈夫かよ、随分疲れてるみたいだが……」

アルミン「ご、ごめん……ちょっと、しばらく立てそうにないかもしれない……」

立てなくなるほどの疲労、やけに荒かった呼吸、小刻みな震え、
そして自分の体への荷重の少なさ……。
彼の姿を見て、アニは全てに合点が行った。

アルミンはあの間、自分の体に顔を押し付けている間……
ずっと全身に力を入れて、できる限り棚の圧力を支えようとしていたんだ。

体力のなさは分かってるはずなのに、自分のためにずっと。

アニ「…………」

ミカサ「? アニ?」

エレン「……?」

アニはエレンやミカサの横を通り、座っているアルミンの目の前に立った。
それに気付いて、アルミンは顔を上げる。

疲れきった顔、困ったような顔、申し訳なさそうな顔……。
そんな顔でアニを見上げるアルミン。
そのまま数秒が経ち、アルミンがさっきまでのことについて謝罪の言葉を述べようとした、直前。

アニ「あんた、根性あるんだね」

アルミン「えっ?」

アニ「……助かったよ。……じゃあね」

それだけ言い残し、アニはその場を去った。
その後姿をミカサとエレンは疑問符を浮かべつつ見送る。
そしてアルミンは顔を伏せて……表情を綻ばせた。

翌日。
エレンとアルミンは廊下を歩いて食堂へ向かう。
が、アルミンはやはりというか……

アルミン「いたたっ……うぅ、参ったなぁ……」

エレン「筋肉痛ってのもなかなか辛いよな。大丈夫か?」

アルミン「うん……今日は立体機動の訓練がなくて助かったよ。
     こんな状態じゃあ本当に命が……いたたっ」

ミカサ「! おはよう、エレン……アルミン? もしかして、筋肉痛?」

アルミン「あはは……うん、昨日のがやっぱり効いたみたいだ」

エレン「しかし歩くのも辛いってのはよっぽどだよな」

ミカサ「大丈夫なの? 医務室に行って湿布薬か何か貰ってきた方が良いんじゃない?」

アルミン「ありがとう、心配してくれて……やっぱりそうした方が良いかな」

そんなことを廊下で話していた、その時。
小さめの影が1つ、通りがかった。

アニ「…………」

アルミン「あっ、アニ……」

エレン「ん? よぉ、お前は元気そうだな」

アニ「……おかげさまで」

ミカサ「おかげさま?」

アニ「なんでもない」

ここでアニは、エレンやミカサから視線を外す。
そしてアルミンに向かって、

アニ「医務室……行って来た方が良いんじゃないの」

アルミン「!」

エレン「あぁ、それはもうミカサが……」

アルミン「う、うん! そうするよ。ありがとう、アニ」

アニ「……じゃあね」

そう一言言って、アニは去って行った。

ミカサ「…………」

アルミン「えーっと、じゃあ僕は医務室に行ってくるね。
     2人は先に食堂で待ってて! それじゃ!」

エレン「あっ、オイ! そんなに急いで大丈夫……って、行っちまった」

ミカサ「それじゃ……私達は食堂に行こう」

エレン「ん、あぁ。そうだな」

食堂

エレン「しかしアルミンの奴、様子が少し変じゃなかったか?」

ミカサ「アニも何か変だった……。昨日、何かあったのかも」

エレン「何か? 何かって……ん」

ミーナ「あっ、おはよう。エレン、ミカサ」

ミカサ「おはよう」

エレン「よぉ、ミーナ」

ミーナ「あれっ? アルミンは今日は一緒じゃないの?」

エレン「まぁ、ちょっとな。少し遅れてくる」

ミーナ「? そうなんだ。あ、話は変わるけどエレン、昨日……」

と、別の話題を切り出したミーナだったが、
ふとエレンから視線を逸らしたかと思うとそこで言葉は切れた。
不思議に思い、エレンはミーナの視線を追う。
彼女の視線の先に居たのは……ジャンだった。

それに気付いて更に疑問符を浮かべるエレン。
何故ミーナがジャンのことを見ているのか、さっぱりわからなかった。

数秒してジャンは彼女の視線に気付く。
ミーナはジャンと目が合うと、少し照れたような笑顔を浮かべ、軽く手を振る。
そしてジャンはそれを見て、頭を掻いた後、軽く手を挙げる。

エレンはそれはもう疑問符を浮かべまくった。
ミカサは特に興味はなかった。

エレン「……ミーナお前、ジャンと仲良かったっけ?」

ミーナ「えっ? あー……まぁ、前に比べたらちょっとは」

エレン「……? そうなのか?」

ミーナ「それより、さっきの話の続きだよ!」

エレン「あぁそっか……なんだっけ?」

ミーナ「教官が何か、話があるんだって。
    本当は昨日すぐ教えてあげた方が良かったんだけど、うっかりしてて……」

エレン「は……? オ、オイオイ、大丈夫なのかそれ。怒られるのはオレなんだぞ」

ミーナ「多分大丈夫だよ。今日の昼までに来れば良いって言ってたから」

エレン「なら良いんだが……。そんじゃ、朝食の後にでも行くか」

そして朝食後。
エレンは教官の居る部屋の前に立ち、扉をノックした。

エレン「教官、エレン・イェーガーです」

キース「あぁ、入れ」

エレン「失礼します。その、どのようなご用件でしょうか?」

キース「何、大した用事ではない。固定砲整備の件で……」

と、その時だった。
突如大きな音と共に世界が大きく揺れた。
エレンは初めは巨人の襲来かと思ったが、しかし違った。

エレン「こ、これは、地震……!?」

それもかなりの規模だ。
あまりの揺れに立っては居られず、エレンは床に倒れ伏す。
そして……世界は暗転した。

エレン「い、ってぇ……」

ようやく揺れが治まった。
どうやら自分は仰向けに倒れているらしい。
状況は……よく分からない。
わかるのは、暗くて周りがよく見えないこと。
そして動きが取れないことだった。
しかし一体なぜ……

キース「困ったことになった」

エレン「っ!?」

教官の声がしたは良いが、エレンはとにかく驚いた。
というのも、とにかくその声の距離が近かったからだ。
まるで教官と密着しているかのような……

エレン「あ、あの、教官? 自分たちは一体、どのような状況に……」

キース「今の地震で天井が崩落し……その衝撃で私と貴様の服が全て破れ
    ほぼ裸に近い状態でお互い密着し瓦礫に埋もれて身動き1つ取れん。
    助けが来るまでこの状態だ。不幸なことにな」

エレン「あぁ、通りで生温か……は!?」



 おしまい

付き合ってくれた人ありがとう、お疲れ様でした
組み合わせはあみだで決めました

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