伊織「あんたが憎い」 (34)

伊織「……ねぇ」

美希「…………」

伊織「ちょっと」

美希「……た」

伊織「……た?」

美希「たいよぉけ~ん……むにゃ」

伊織「」プチッ

伊織「いつまでも楽屋で寝てんじゃないわよ!」バン!

美希「ひゃあ!?」

伊織「ほら!早く着替えて撤収!」

美希「あれ、でこちゃん……」

伊織「ていうかよだれ……ん?何よ」

美希「おでこ……目が無いの。どうしたの?」

伊織「……普通無いわよ!」






こいつは、いったい何なのよ。

P「これから、この事務所で一緒に活動することになった子だ。」

美希「ミキは、星井美希なの。

   の~んびり、アイドルやれたらなって思うな」



ワー、ヨロシクネ!

オオウ、パツキンデスナ~

テイウカ、スゴイ゙ネ…

クッ


伊織「…………」

美希「ねぇねぇ」

伊織「な、なにかしら?」

美希「ミキと同い年だよね?」

伊織「えぇ、そうみたいね。私、水瀬伊織よ」

美希「あぁ、それでいおりんかぁ」

伊織「……亜美真美ね。全く……」

美希「…………」ジーッ

伊織「……??」

美希「……でこちゃん」ボソッ

伊織「……!?」

美希「あ、なんか気に入っちゃった。ミキ、でこちゃんって呼ぼ」

伊織「ちょっとぉ!なんか馬鹿にしてない?」

美希「そんなことないよ?お人形さんみたいでかーわいいの」

伊織「そ……そう?」

美希「でーこちゃん♪」

伊織「っ……!やっぱやめなさいそれぇ!」

ファーストインプレッションは、決して良くなかったわよ。

化粧、金髪、イマドキで如何にもなファッション。

どこの学校にも何人かはいるような、

毎朝教員と揉めてまで、装飾品やら頭髪、制服改造に勤しむ輩と同じ匂いがしたわ。

しかもそのスタイル。何よそれ、何なのよそれ。

絶対年上かと思ったわよ。

一体何食べて育ったらそんな身体……コホン、まぁこの話はいいわ。

とにかく、可愛い顔してるのは分かるけど、

とてもじゃないけどやる気の欠片も感じられなかった。

私は本気でアイドルやってるつもりだったの。

お遊び気分ならさっさとやめてほしいって……正直思ったわ。

真「プロデューサー!美希がね、凄いんですよ!」

春香「そうそう!一回見ただけで振り付けぜ~んぶ覚えちゃって!」

ムコウノディレクターサンニモ、ホメラレチャイマシタ!

カッコヨカッタナァ、ミキ!






でも、違った。

レッスンで何度か一緒になって、気にはなってた。

仕事の評判が入ってくるようになって、それで確信したわ。

あんたがただ、ルックスだけでスカウトされてきた訳じゃないってこと。

ホワイトボードが日に日に黄緑で侵蝕されていく様が、

見てて複雑だった。

亜美「会場の兄ちゃん姉ちゃーん!」

あずさ「今日はとっても暑い中、私達のライブに来てくれて、ありがとうございま~す」

伊織「まずはあいさつ代わりに、一曲!」

「「「SMOKY THRILL!」」」





はぁ!?

ちょっ、勘違いしないでよね。

悔しくなんかなかったわ。

私は新進気鋭のアイドルユニット、竜宮小町のリーダーなの。

それ以前に、私は天下のスーパーアイドル水瀬伊織ちゃんよ?

あんたなんかに―――

あずさ「……えぇ、分かっています。……はい、……はい。

    ……すみません、よろしくお願いします」

律子「あずささん……?」

あずさ「えぇ、向こうの皆がフォローしてくれています」

律子「でも、これ以上の遅刻は許されないわね……」

ネェリッチャン! コノクルマ、ソラトカトベナイノ?

トベタラトックニトンデルワヨ……

伊織「…………」ギュッ





あんたなんかに……

亜美「うわぁ! 今ね、ミキミキがチョー頑張って繋いでくれてるって!」

律子「美希が!? そっか……ふふ」


伊織「……私達も、負けてられないわね――





嫉妬なんか、するわけ、無いじゃない……!

あんたは……! いつもそうよ!

なんにも考えてないような顔しといて

人の心見透かしたようなこと言って……

暇さえあれば寝てばっか、打ち合わせも適当で……

そのくせ勘はよくて、仕事も、レッスンも!

あいつにも……所構わずベタベタして……!

何よ――何なのよ――――!

私、負けたくないって……死に物狂いで、ここまできて!

なのに……! あんたは……!



   あんたは――

伊織「私は、いったい何なの――?」

美希「……でこちゃん」

伊織「もう、嫌……。何言ってんの私」ポロッ

美希「泣いてるの……?」

伊織「……悪い?」

美希「……ううん」

伊織「…………」グスッ

……………………




伊織「……私」

美希「……んー?」

伊織「天才って言葉嫌いなの」

美希「……天才」

伊織「テストで良い点とったりとか、その程度のことで

   そう呼んでくる輩っているじゃない」

美希「なんとなく分かるの」

伊織「腹立つのよね。私は天才じゃないの。

   真面目に勉強すれば誰だってとれるわって」

美希「……でこちゃんらしいの」

伊織「……それに」

美希「……?」

伊織「天才はそんなに安いもんじゃないって知ってるもの。

   今、隣に本物がいるせいでね」

美希「…………」

伊織「……天才なんか、嫌いよ」

美希「でこちゃん」

伊織「…………」

美希「人に言われて嫌なことは、人にも言っちゃダメって思うな」

伊織「……そうね」

美希「でーこちゃん」

伊織「……ん?」

美希「ミキのこと、嫌い?」

伊織「…………」

暇さえあれば寝てばっか


打ち合わせも適当で


そのくせ勘はよくて


そうやってまた、人の心見透かしたみたいに――――





美希「……♪」


伊織「……バカ」





おわれ

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