ショタ「お姉ちゃんが男の人を連れてきた」 (143)

男「君がショタくん?俺の名前は…」

ショタ「…っっ!」

サササッ

ショタ「……///」ジー

男「は、はははは……俺、嫌われてんのかな?」

女「この子は恥ずかしがり屋さんだから、誰にでもこうだよ」

女「ねー」

ショタ「…ち、違うもん!恥ずかしがりじゃないもん!」

女「ははは、そんな事いって強がっちゃってー」

女「まぁ気にする事ないよ、その内この子も君になれると思うし」

男「そうだといいなー、よろしくっ!」

ショタ「……///」コクリ

ショタ(カッコいい人だなぁ…優しそうだし………)

ショタ「……お姉ちゃんばっかりズルイ…」ボソッ

女「…え?」

みたいなNTR物で誰か!
誰か書いては頂けませんか!?

>>6
またお前か…

だれかああああああああ!!!!
若干ヤンデレ気味だとなおよろしいです!

>>7
どのお前だ
そしてお前は誰だ

あ、そうです
わたすがこの前のヤンデレショタ狂いどえす!

だから!だから誰かぁぁぁぁぁあああああ!!!

俺この前書いたヤツだけどそれでもよければ気分が乗ったら書く
0:00までなんもなかったら多分寝ていると思ってくれ

>>12
やったぁぁぁ!!やったぁぁぁぁぁ!!
ま た お ま え か 

いよっしゃぁぁぁぁぁwwwwwwwwwwww

やべよ…後五分…やべよ、やべえよ…

ちょっとまって

「浴衣、お姉ちゃんに着せてもらったの?」
「ううん、お隣のオバちゃん……」
ショウタは俯いたまま首を左右に振って見せると、
今しがたタカシが買ってやった綿アメに、顔を埋める様にしてかぶりついた。
「おねーちゃん、熱出てるし……」
ショウタの返答に、そう言えばそうだったと思い出し、タカシは苦笑した。
懐かない将来の義弟に気を使うあまり、変な質問をしてしまったことを後悔する。
馬鹿だと思われていないだろうか。お姉ちゃんっ子のショウタは、以前、
姉についた虫を「馬鹿だから嫌い」と言う子供なりの精一杯の悪口を言い
二人の関係を破綻させた過去を持つという。発言には注意したほうがいいだろう。
「――そうだよな、姉ちゃん熱出して寝てるもんな」
買ってやった綿アメは既に半分。二人は会話らしい会話もないまま、歩いていた。
真っ赤なちょうちんに射的、鮮やかな金魚。
ショウタはそのどれにも興味がないようだった。ただ黙って、
タカシに手を引かれて歩いている。
タカシを嫌っている様子ではないのだが、しかし会話はスムーズとは言いがたく、
ショウタが自分を差ほど好意的に思っていないことは明らかであった。

「俺と一緒でも、つまんないか?」
「そんなこと、ない……」
慌てたように顔を持ち上げたショウタの頬は綿アメの残りかすで汚れていた。
『ショウタをお願いね』
熱で身動きのままならなくなったミユキに持たされたのは、ウエットティッシュと
ハンカチ、それから雨傘だった。
弟を熟知しているミユキに持たされたウエットティッシュは早速役に立ちそうだ。
「ショウタくん、これ、」
「要らない」
「え?」
間髪入れぬ拒否にぎょっとなる。やはり嫌われているのだろうか。
ファーストコンタクトがあまりよろしくなかったことを思い出し、
憂鬱な気分になったタカシであったが、ショウタからの返答は意外なものであった。
「くん、要らない。おねーちゃんみたいに、ショウタで、いい。……です」
「ショウタ、でいいの?」
茶色く細い髪がふわっとゆれ、そしてショウタは頷いた……、ように見えた。
どうやら本当に嫌われているわけではなさそうだ。それに一先ず安堵し、
タカシは人ごみを避けてショウタを人のおらぬ一角へと誘い込んだ。
「じゃあ、ショウタな」
「……うん」
しゃがみこんで目線を合わせると、髪に隠れていたショウタの顔があらわになった。
よくよく見れば、なるほど姉弟だ、ショウタはミユキによく似ていた。

口、汚れてるから拭こうな」
「ウン」
ウエットティッシュで口許を拭いてやると、ショウタはむずかるように目を閉じた。
「僕、この匂い嫌い……」
「アルコールか。ごめんな」
「ううん……」
「よし、行こう」
「うん……」
ショウタは自ら手を出し、タカシと手を繋ぐことを強請った。
思いのほか、将来の義弟との関係は上手く築けたようだった。

****

「なにこれ、ショウタに?」
ミユキに手渡したのは、子供の間ではやっているという戦隊モノの絵本だった。
「そうそう。会社の先輩の子供が同じの好きだって言うから。あれ、もう持ってたか?」
「違うけど……あのさ、あんまりあの子のこと甘やかさないでよ」
「あー……悪い」
ショウタは娯楽が少ない。それを思うとつい甘やかしたくなるのだ。
ミユキもショウタも、両親がいない。
ミユキが十六のときに母親が亡くなったのだ。ミユキは高校をなんとか卒業すると、
母の忘れ形見のショウタを一人で育てていたという。その時ショウタは五歳、
元より父のいない家庭に育った二人が生きていくのがどれほど大変だったかを
想像するのは容易いだろう。
ぎりぎりの生活のなか、ショウタは必要最低限のものだけを与えられていたから、
既に同い年の子供が興味を失ったようなものに興味を示す。なんだかそれがかわいそうで
ついつい何でも与えてやりたくなるのだ。

「いいだろ、どうせ将来は一緒に住むんだし。俺の子供みたいなもんだ」
「……もう」
そう窘めるように言いながらも、ミユキが嬉しそうだったのからまぁいいとしよう、と
タカシは考えた。
「ショウター、タカシ来たよー」
「ちょっとまって!」
遠くからショウタの声が聞こえてきた。自分の部屋にいるのだろう。
ショウタはいつでもなかなかタカシの前に現れない。
なにをしているのか知らないが、訪ねてきてもなかなか現れないのだ。
五分ほど経ったころだろうか、ショウタが漸く現れた。
「よ、ショウタ。ほら、土産だ」
「わー!ありがとう!」
「こぉら。ありがとうが先でしょ」
「ん、ごめんなさい。ありがとう」
「いいえーどういたしましてー」
頭をクシャクシャッと撫でてやると、ショウタは恥ずかしそうに頬を赤くした。
大人の男に慣れていないのだろう。
「ショウタ、もう出掛けられる?」
「うん、ちょっと待って、お土産置いてくる。あ、中身、なぁに?」
「秘密ー。家に帰ってきてから開けな。ほら、今日はテーマパークに行くんだろ?
早くしないと置いてくぞ」
「ま、まって!」
置いていくことなどありえないのに、それでも慌てるショウタを可愛いと思いながら、
タカシは「なぁ」と耳打ちした。

長くなりそう大丈夫だろうか

「なに?」
「突然結婚する、なんて言って、ショウタ驚かないかな」
「大丈夫よ。タカシにも懐いているんだし」
「だよな」
これまで義弟の心はガッチリ掴んできたはずだ。
ミユキに太鼓判を押されたことに安堵し、タカシはこっそりミユキの手を握った。
ショウタが掛けてくる。
水色のスニーカーに足を突っ込んだショウタは、嬉しそうにタカシの手を握ったのだった。

ところがことはそう上手くは行かないらしい。
昼食を取ったレストランで結婚の旨を伝えると、明らかに動揺した様子のショウタが
「え、」と短く言ったのだ。
かわいそうに、楽しみにしていたデザートのプリンはスプーンから滑り落ち、
ショウタのTシャツをカラメルとカスタードで汚していった。
「ショウタ、大丈夫よ?ショウタが大人になるまではずっと一緒だし」
フォローを入れるミユキの声もろくに届かぬ様子で、ショウタはタカシを見つめた。
裏切り者。そう罵られかねない空気に、タカシも緊張をした。

「タカシもショウタのこと、自分の子供みたいなもんだって言ってくれているし」
「……子供?」
「そうだよ、ショウタ。俺はお前のことを可愛いと思ってる」
「大人になるまで一緒?」
「勿論そうよ?」
ショウタは汚れたTシャツに視線を落とし、ぼんやりとそれを眺めていた。
「――それっていつまで?」
「え?」
唐突な質問に、二人同時に声を出した。
「大人になるまでって、いつまで?」
「俺はショウタが望むなら、大学も行かせるつもりでいるよ」
「ダイガクってなに?」
「あー学校よ、学校」
「お姉ちゃんも行った?」
「あたしは行ってないよぅ」
その先をミユキは続けない。
「ソレって何歳まで?」
「卒業までだから二十二歳までだな」
尤も、それより早くにショウタは家を出るかもしれないが。
ショウタは小さな頭で暗算し、あと十年か、と小さな声で言った。
「ソレを過ぎたら僕はどうなるの……?」
「その頃にはショウタも大人だから、お家をでるんじゃないかなぁ」
「出なきゃ駄目……?」
「駄目と言うか……」
ミユキは困ったように笑った。

「皆そうしているんだよ。俺も大学を出る頃には一人で生活していた」
「みんなそうなの?」
納得できない様子のショウタに少しばかり心が痛んだ。
育った環境が環境だ。ショウタは家族の繋がりを強く求めているのだろう。
どれくらいそうしていただろうか。
何度か口をもごもごとさせたあと、ショウタは意を決したように顔を上げ、
「おめでとう」と短く言った。
その言葉に誰よりも喜んだのはミユキだった。
「ありがとう」
こちらもそう返すと、食事を再開させたのだった。

1行開いてないだけでこの読みづらさ

>>29
すまぬーすまぬー
会話だけのって書けんのだ。
一行ずつあけたほうがいいか?

いや、別に良いと思うよ
SSってより小説に近いし、無理に一行あけなくても普通に読める

>>31
じゃあそのままで行くわtnx

「わー!ありがとう!」

「こら、ありがとうが先でしょ」

ん?

>>35
ミスしたわすまんwwwww

やがて週末が訪れ、ショウタは親戚の家に、そして二人は新婚の生活を楽しんだ。
親戚から連絡があったのは、土曜の夜だった。
ショウタが熱を出したという。
慌てた様子のミユキを落ち着かせ、自分が車を出すからお前は薬局に、といい残し、
タカシは車を転がした。
困ったことに、近所の当番院はまではかなりの距離があったのだ。
車は時速70キロ、見つかってもギリギリお咎めを逃れられるスピードと言ったところであった。
ナビゲーションに従い古風な日本家屋に到着すると、ショウタは真夏だというのに
毛布に包まれて登場した。
「今計ったら三十八℃だったわ。大丈夫だと思うけど、うちでなんかあったら、ねぇ?」
おばさんとやらに言われ、タカシは頭を下げると、驚くほどに軽いショウタを受け取った。
車に乗り込むと、ショウタが身じろいだ。
「ショウタ、大丈夫か?」
「ウン……」
ショウタが小声で返事し、そしてもそもそと動いた。
「あのさ、お兄ちゃん」
「うん?」
意外としっかりとした声を出すショウタに違和感を覚えた。

>>36
「わー!やったー!」で脳内変換しとくわ!

お主、エロパロ板民だな…?
普通に文章は読みやすい、けどVIPPERにしては上等すぎる気がする

「おねーちゃんのこと、好き?」
「……どうした?」
「好き?」
「好きだよ?」
言い募るショウタに負けて、その気恥ずかしい言葉を伝える。
日本人なのだから、その手の言葉は言いづらいのだ。勘弁してくれ、と思うと同時に、
そんな当たり前のことを尋ねるほどにショウタの意識は朦朧としているのだろうか、と
心配になった。
「ショウタ?」
「……ふぅん……知らないんだ」
「え?」
なにやら不穏に呟くと、ショウタはパッと毛布を体から外した。
「なんでもなーい。それより、僕もう平気みたい」
「はぁ? そんなわけないだろ。ちょっとこっちに顔見せなさい」
親のような口調で言って、ショウタの額に自らの額を押し当てると、確かに熱はないようだった。
「あれ?」
「ねー言ったでしょー」
「なに、本当に平気か?」
「ウン。おばちゃん大げさに言っただけだと思うなぁ」
「――ならいいけど」
頭を撫でると、ショウタがクフリ、と笑った。

>>38
いいやエロパロにはいないぞ
つーかvipと趣味の板のみだなぁ

だったらあの家でそう言えばよかったのだ。
貴重な二人の週末を潰されたことを遺憾に思うと同時に、だがそれも可哀想だ、と
タカシはやはりそう考えるのだった。
「ちょっと待って、ミユキに電話する」
「えーいいよーおねーちゃんケータイ持ってないよ?」
「ああ、そうか……」
家に電話を入れたが、やはり留守だった。間の悪いことに留守電機能もオフで
メッセージを入れることもままならなかった。
「しょうがね、早く帰るか」
再びギアをいれ運転を再開させる。
夜の国道は、田舎であるためか、交通量が少なくてたいそう気持ちがよかった。
「お兄ちゃん、あのさ」
「うん?」
「アイス食べたい」
「あー? しょうがねーなー。コンビニ寄るか?」
そこまで言うと、タカシはハタとなる。
三人の暮らす場所は家賃は安いが大変交通の便が悪く、コンビニも近所にないような
場所だった。
最寄のコンビには工場とラブホでまみれたなんとも猥雑な場所に位置するのだ。
子供にはあまりあれを見せたくない――、そう言うミユキは滅多にコンビニへと
行かなかったのだが。
「うん、コンビニでアイス買う!」
ショウタは既に元気よく返事をした後だった。

「あー……、姉ちゃんには、内緒、な」
「うん、アイスアイスー!」
やがて到着したコンビニでアイスを買うと、最早車の中に常備するのが当たり前となった
ウエットティッシュで手を拭かせ、それを食べさせた。
タカシはと言うと、車外で煙草をふかしていた。
なんとまぁ、汚れた場所だろう。
どぎつい色のネオンに顔を照らされながら澱んだ風景を眺めていた。
子供には確かにあまりよくない環境だろう。ショウタくらいの年齢の子供が
ラブホとその先に繋がる行為を知っているのかどうかは判然としないが、
アイスを食べさせたらあとはさっさと帰宅するのが得策だろう、と考える。
「お兄ちゃん」
「おおう、なんだお前、いつの間に出たんだ」
アイスを食べ終えたショウタはタカシの腰にぺたりと甘えた様子でくっ付いた。
「さっき出た。棒を捨てようと思って」
「ああ棒な……、ほら、帰るんぞ」
腕を引き離そうとするが、ショウタの腕は離れなかった。
「うん。ねぇ、あれなに?」
「あ? あーあれは……うーん」
「お城?」
ネオンにぎらぎらと輝く白亜の建物を、ショウタの丸い指が指した。
「あーそんなとこ。夢と希望が詰まってる」
返答に窮したタカシに構うことなく、ショウタは「入りたい!」と言った。
「はぁ!? 駄目だ駄目!」
「なんで!」
「あーあそこは、大人専用なの! 子供は入れないの! 遊園地にも身長制限あるだろ」
「なにそれー! なんで大人だけなの! なんで!?」
なんでなんで、としつこく言うショウタにタカシはほとほと困り果てた。

聞き分けのないことを言って親を困らせる年齢ではないはずだ。
顔色を窺うことも。
だがショウタはその一切を放棄して今こうして駄々をこねていた。
「あーもう、ミユキに言うぞ!」
「――言って困るのお兄ちゃんじゃん」
「え?」
ピタリと我侭を止めると、ショウタはふぅ、と溜息をついた。
「なんでもない。わかった。帰ろ?」
「あ、ああ」
 車を運転する間、ショウタはずっと車外を眺めていた。
なにかがおかしい。
そう気づいていたはずのタカシは啜っている缶コーヒーごと、
その違和を胸に押し込んだのだった。

ショウタは常に家にいる。家族が揃う時間には必ずいるのだ。
その当たり前の現象を、タカシはなんとなく気詰まりに感じ始めていた。
あの日以来、ミユキはショウタを預けることに不安を感じているようで、
隔週のお泊りはなくなった。
つまり真の意味で二人きりの時間と言うものは取れない。
ショウタが異分子であると言うことを、流石のタカシも自覚せざるを得なかった。
おまけに独身時代、遅くまで働いていたミユキを待つのが習慣だったショウタは、
そのリズムを未だに崩せず、いつまでも起きているものだからことに及ぶことも
なかなかできない。
珍しく早く眠ったかと思えば、夜中に「怖い夢を見た」だとか「金縛りにあった」
だとか言って目を覚ますものだから、時間はますますなくなっていった。

「ショウタを邪魔者扱いしないでよ……」
次第に夫婦の間にいさかいが多くなるのも自然なことだった。
「邪魔者あつかいなんかしてないだろ」
「だって……あの子、ずっと親がいないんだから……」
「わかってるよ」
わかっていた。頭ではわかっているのだ。
膝に乗ってくるショウタが可愛くないわけではない。だがそれとこれとは別の問題だと
思うのだ。
「あの子、だってあの子、私の……」
「わかっているから……」
「わかってない! タカシわかってないよ!」
ここのところ、ミユキもどうもおかしい。ちょっとしたことでこうして喧嘩になるのは
ストレスの所為だと思うのだが、タカシはそれも言い出せずにいた。
「なにをそんなに怒ってるんだよ」
「怒ってないよ……」
「だけど」
「怒ってないってば。もう寝よう?」
「……ああ」

「お兄ちゃん」
「うん?」
タカシのストレスは、もうひとつあった。
「なんだ?」
「へへへ」
ショウタが腰にまとわりつく。
これだ。
この、過剰なスキンシップはタカシのストレスでもあった。最近は一緒に風呂にも入る。
初めは喜んだものの、それがだんだんと苦痛になってきたのだ。
可愛くないわけではない。嫌いなわけではない。
だが――?
好きでもない。その考えに至り、タカシは慌ててその考えを打ち消した。
子供は敏感だ。気づかれてしまいかねない。
ショウタを小脇に抱え、それからリビングに向かう。
抱えられたショウタはと言えば、キャッキャと子供っぽい声を上げていた。
今日はミユキが同窓会だとかで一泊するらしく、ショウタと二人きりだ。
夕食も取り、風呂にもはいった。
あとは寝かしつけるだけなのだが、ショウタは一向に眠る気配がない。
「ショウター早く寝ないと」
「えーまだ起きてるー」
「ミユキに怒られるぞ」
「えー……じゃあ寝る」
今日は妙に引き下がるのが早い。
そう思いつつも、願ってもいない申し出にタカシは喜んだ。
それも一瞬のことだったのだが。
「でも今日はお兄ちゃんと寝たい」
「え?」
「駄目?」
子供らしいおねだりに、だが一瞬顔を顰めた自覚があったタカシは、その表情を
打ち消すべく「そうだな、いいよ」と言うよりほかはなかった。

真夜中に目を覚ましたのは、違和感を覚えてのことだ。
腹が寒い。冷房を掛けすぎただろうか。
そんなことを考えていると、今度は生ぬるい感触がした。
はっと目を覚ますと、ショウタが胸の上にいた。
「……起きちゃった?」
「ショウタ……?」
どうした、と尋ねるより前に自身の衣類の乱れに気づき、目を見開いた。
「ナニコレ」
慌てて飛び起きると、ショウタはつまらなそうに、だが楽しそうに、
相反する笑みを浮かべて溜息をついた。
タカシのパジャマはボタンが外されていた。
「えー? 暑そうだったから」
僕がやってあげた、と言う。
「いや、寒いぞ?」
「そう? 僕は暑い」
「――冷房、下げるか?」
「ううん、いい」
暑い、と言う割りに、ショウタはタカシの腹にくっ付いてた。
「――ショウタ、あんまりくっつくなよ」
「なんでー?」
なんで、と言われても。
「いいじゃん別に」
そう言われてしまうと、返す言葉がない。
「人の服をむやみに脱がすもんじゃない」
まったく、と言いながらボタンを閉めていくと、幼い声がぽそりと「詰まんない」と
言った。

「なにが。姉ちゃん居ないからか?」
「違うよ」
「じゃあなにが、」
「せっかく二人きりなのに兄ちゃんが僕を邪魔者扱いするからだよ!!」
突然の大声に、流石のタカシも驚きを隠せなかった。
と言うよりも、端的に言ってしまえばひどく驚いた。
心臓がバクバクと脈打ち、そして妙な汗が出た。
「ご、ごめん……」
思わず謝ると、ショウタがタカシの髪を掴んだ。
「嫌だ。許さない」
小さな手は思い切りタカシの髪を掴んだ。
「ぃ、ショウタ! 痛い!」
「うるさい。うるさいうるさいうるさい! 僕が邪魔なくせに!
僕のことが邪魔なくせに! だったら、だったらママを僕から取らなければ
よかったんだ!」
肩を怒らせハーハーと息を吐き出しながら、ショウタは言った。
ショウタの言った言葉の意味がわからない。
ママを取った、とはなんの話だろうか。
「ママが死んだのはさ、姉ちゃんの所為なんだよ。年取ってから僕ができたのが
キモチワルイって。そんな詰まんない理由で悪い遊びを覚えて、夜も歩き出して……」
「なに、言ってる?」
「エンコーって言うの、してたんだってさ、姉ちゃん」
「は?」
幼い唇から放たれる爆弾のような告白に、タカシの頭は整理が追いつかずにいた。
「最悪でしょ。それでママ死んだんだから。おばちゃんに僕聞いたもん」
「ちょっとまって、なに言ってんだ!?」

姉ちゃんの昔の写真見たことある? 昔の話を聞いたことは?」
確かになかった。
両親が早くに亡くなり、昔の思い出は辛いことばかりなのだろう。
そう考えていたのだ。
だから話さないのだろ。そう思っていたのだ。
「僕は全部聞いたよ。親戚のおばちゃんから聞いたんだ」
「あの人子供に何て話を……!」
「僕にも聞く権利あると思わない? 僕のママを奪ったのはお姉ちゃんなんだから」
ショウタの話を要約すると、こうだった。
夜中に悪い遊びをするミユキを止めようとした二人の母親は、事件に巻き込まれて
殺されたのだ。そういうことだった。
勿論そんな話は初耳だ。
ミユキは清楚で、優しくて、そんな女であるようには到底思えない。
「僕が、僕がその所為でどれだけ寂しい思いをしたって思う?
あの人の所為で、僕が……!」
なおもショウタはタカシの髪を掴み続ける。
「ショウタ、痛い、ちょっと」
ショウタの手はパッとはなれ、そしてにこりと笑った。
「だったらいいじゃん。ちょっとくらいおにいちゃんを貸してくれてもいいと思わない?」
「貸すって……」
「好きだよ。僕、お兄ちゃんが好き」
「は?」
「好きなんだってば」
混乱を極めた頭をなんとか揺すり、ショウタの言葉を噛み砕きそして飲み込んだ。
「いや、それは……」
「お父さんを欲しがっているとかそういうのではないよ?」
「ショウタ、でも、」
「僕はお兄ちゃんが好きだよ。そういう人も世の中に居るって、テレビで見た」

つまり、そういう意味で、と言うことなだろうか。
だがしかし、とタカシはショウタの年齢を考えた。
勘違いに決まっている。いや、そうでしかありえない。
ショウタの両手首を優しく握り、それから「ショウタ」と言うと、
どう説明してやろうかと考える。
それは勘違いだ、と言ってもおそらくショウタは受け入れない。
頑として「そんなはずはない」と言うだろう。
「僕、全部手順は知ってるよ?」
「――ショウタ?」
ショウタの手がタカシのボトムに伸びる。
慌てて押さえ、「やめろ」と叫ぶ。
「なんで駄目!?」
「駄目に決まってるだろ!」
「僕が勝手にするんだ!」
「駄目だ!」
大人の男の力に叶うはずもなく、ショウタの小さな体は床へと転がった。
「頭冷やせ! それは勘違いだ!」
優しく説明しよう、などと言う気持ちは吹っ飛んでいた。
まずいことになる。そう思ったのだ。

「いいか、子供がこんなことをするんじゃない!」
怒気を孕んだ声で言うと、ショウタは大きな目を見開き、そして涙を溜め始めた。
「……ずるい……」
「なに!?」
「お姉ちゃんばっかりずるいよ……!」
ぽたぽたと涙をこぼし始めたショウタに、言葉が詰まる。
「お姉ちゃんばっかり……! お姉ちゃんばっかり……!!」
「ショウタ」
乱れた衣類を整え、ベッドから降りる。
フローリングはクーラーで冷やされ、ひんやりとしていた。
「よく聞け。お前にも将来、好きな人ができるよ」
「そんなの、要らない……!」
「大丈夫、ちゃんとできるから。俺のことなんて忘れて、きっと素敵な女の子を、」
言いかけると、ショウタの声がぴたりと止む。
「もういい」
「え?」
ショウタは暗闇のなか、涙で濡れた目でタカシを見ていた。
すっくと立ち上がり、それから自らの膝を叩くと、「掃除もまともにしてないや」と
短く言い「おやすみ」と言った。
一瞬タカシを振り向いたその目。それをタカシは見てしまった。
茫洋とした目が恐ろしい。
ただ漠然と、そう思ったのだった。
少しばかり埃の溜まったフローリングは、ひどく不潔に思えたのだった。

***

秋も深まる頃、三人は家族から、極近しい他人へとなりつつあった。
と言うよりは、タカシが家族から孤立していた。
ショウタからミユキの過去を聞いてから、なんとなく彼女を以前のように好きだとは
思えなかったし、ショウタを以前のようにただ純粋に可愛いと思うこともできなくなっていた。
ミユキは最近電話が多い。
暇さえあればケータイを弄り、そして嬉しそうに笑っている。
ケータイはロックが掛けられていたし、中を覗くことはできなかった。
キッチンでは二人が奇妙に軽快な歌を歌っている。
それにしらけた感情しか見出せず、そんな自分にタカシが誰よりも驚いていた。
「俺、そろそろ行くから」
「あ、いってらっしゃい」
出張に出掛ける自分を追いかけるでもなく、ミユキは後姿のまま返事をする。
それに溜息をつくと、タカシは重いボストンバッグを肩に引っ掛け出掛けることにした。
本来あまり楽しい行事ではない出張に心が躍るのは、家族が破綻している証拠だろう。
特に楽しみなどなかったが、異常さを隠しきれなくなりつつある家から離れる事実に
胸の支えが取れたようにさえ感じた。

一泊二日の短い出張を追え、タカシは帰宅の途についていた。
最寄り駅が近づくごとに気分がふさぐ。
電車もすぐに到着し、タクシーに乗り込むころには運転手の些細な呼びかけに
ぞんざいな返事をすることも億劫に感じるほどに疲れ始めていた。

家の様子がおかしい、と気づいたのは、タクシーが路肩に駐車をしたからだった。
目的地は近いが、まだ遠い。
何事かと耳に突っ込んだイヤホンをはずすと、サイレンが聞こえた。
「なんですかね?」
「さぁ……」
尋ねると、運転手はわからない、と首を振る。
消防車に救急車。事故かそれとも火事なのか。
進行方向の空に異変はない。
「事故じゃないですかねぇ」
運転手はそういい、車を再発進させた。
やがて自宅につくころには、鈍いタカシにも流石に気づき始めていた。
異常が自身の住まうマンションで起きている可能性に。
進めば進むほど人だかりは増え、ついに運転手から「ここから先へは行けない」と
言われてしまった。
胸騒ぎを感じて、つり銭も受け取らずにタカシは車外へ飛び出した。
一歩一歩進むごとに不安は増す。
どう見ても野次馬は増えており、さらにそれは自宅マンション付近へと伸びていた。
「どいてください! どいて!」
火事ではない。では事故だろうか。
救急隊員の声が響いた。
「どいてください!!」
怒号に交じって、パジャマ姿の主婦やらサラリーマン、様々な人間のささやき声が聞こえた。

「やぁね、自殺ですって」
「事故じゃなくて?」
「柵を飛び越えているんだもの、自殺でしょ」
「女の子ですって」
自殺、と言う言葉にホッとした。
家には自殺をする要因のある人間はいないはずだ。
胸を撫で下ろしたそのときだった。
「お姉ちゃん!! お姉ちゃん!!」
――ショウタの声だった。
「お姉ちゃん!」
声はもう一度聞こえた。
ショウタの声だった。
「ミユキ!!」
重いボストンバッグを放って走り出す。
邪魔な人だかりをかきわけ、救急車に近づいた。
「あ、」
救急隊員が何かを言ったが、タカシの耳には届かなかった。
なにが起きている。一体なにが。
「駄目です、近寄らないで!」
血まみれのレンガ、だらりと伸びた腕、そして割れた頭。
見るも無残なミユキの姿がそこにあった。

葬儀をつつがなく終え、残りは遺骨を納めるだけとなった。
警察で事情聴取を受け、どんどん痩せていくショウタのために慣れぬ家事をし、
そして気づけばひと月が経っていた。
ショウタは笑わなくなった。
当たり前だ。あんなことを言っていても、唯一の身内が死んだのだ。
ミユキの自殺原因が判明した。
夫との仲が上手く行っていない。そう日記に書き記してあったのだ。
タカシはミユキの親戚に糾弾された。
糾弾する割には、ショウタを引き取りたいと申し出る者は一人も居なかった。
ショウタは部屋の隅で小さく丸まり、ぼんやりとフローリングを見ていた。
「ショウタ、飯、作ったぞ」
「うん……」
一応食べてはくれるが、食は細くなり、丸かった頬はこけて行っている。
「おかゆ、もっと食べれるか?」
「いらない……おねえちゃんのご飯食べたい」
そう言われては、タカシはなにも返せなくなる。
タカシがミユキに余所余所しくなったのは、確かにショウタの発言が原因だったが、
だがしかし、なんとなくではあるが、それがなくても二人の関係は近い将来
破綻をしていたような気がした。
ミユキのケータイの中身は、何のことはない、ただの友達とのメールであった。
何度悔いただろう。
何度自分を責めただろう。
おそらくそれはショウタも同じで、憔悴していく様は彼の後悔を如実に語っていた。

普通におもしろいんだが
なんだろうな、この、クソラノベでも堅苦しい小説でもないこの、解放感というかなんというか

ショウタを眠りにつかせ、やっと一日が終わる。
ここのところ、ショウタの眠りはやたらと長かった。
なかなか眠らなかった頃が嘘のようで、タカシはその変化にも不安に思った。
ショウタはタカシのベッドで眠っている。
長い睡眠の途中で目を覚まし、泣き叫ぶことがあるためだ。
眠りそのものは浅く、上質なそれとは言いがたいのだろう。
ショウタが眠ったのを確認すると、タカシもベッドサイドの電気を消して眠りに
入る準備をした。
最近、朝が寒い。いや、一日中家が寒かった。
――太陽を失ったような家。
まさにその表現がぴったりくるように、ミユキの喪失で、
この家は冬の寒さにやられた草木のように生気と温もりを失っていた。
ショウタの顔は青白い。
なにか栄養のあるものを食べさせてやりたい。
そう思っているうちに、瞼が重くなっていった。

異変はすぐに訪れた。
またあれだ。そう思うと重い瞼が瞬時に開く。
金属を思わせるそれは、男とも女ともつかぬ叫び声で、タカシはベッドの横をさぐり、
そしてショウタが居ないことに気づくと家中を探し回った。
「ショウタ! ショウタ!!」
ショウタはリビングに居た。
ミユキとタカシ、そして自分の写った写真を胸に抱き、か細い悲鳴を上げていた。
「大丈夫、大丈夫だから!」
なおもショウタは叫び声をあげる。

>>59
どうもありがとう
お前と俺しか居ない予感はするがwwww

俺も居るぞー
この間のショウタ君はタカシをお人形にするかだるまさんにするか聞いてたから
今回はまだソフトで可愛いな

胸に小さい体を抱き、なんとか悲鳴を閉じ込めようとする。
こんなことになっても、タカシは近所への迷惑がかかることをなによりも心配していた。
そうだ、ミユキの過去を聞いたとき、なによりも最初に頭に浮かんだのが「俺を
裏切りやがって、嘘をつきやがって」と言うことだった。
そして次に「誰にもばれたくない」と言う気持ちだった。
自分本位な感情がむき出しになって、何故そうしたのか、どうしてだったのか、と言う
感情は微塵も浮かばなかった。
今もタカシは変わらない。
どうやったらショウタの叫び声を止められるか。
それだけしか考えられずに居た。
「ショウタ、ショウタ……」
背中を摩っても、頭を撫でてもショウタの声はとまらない。
ついにはインターフォンが連打され、「うるせぇ!」と怒鳴られた。
「ショウタ、頼む、少しだけ、少しだけ静かにしてくれ……、何でもするから、ショウタ」
もうどうしたらいいかわからない。
誰か助けてくれ。誰か。ミユキでも神でもなんでもいい。
とにかくのこの窮地から救い出してもらいたかった。
と、ショウタの声がふいに止んだ。
「ショウタ……?」
「……して」
「え?」
「じゃあお姉ちゃんを返して!」
キィンと響くような声で詰め寄られ、言葉を失う。
「なんでもしてくれるんでしょ!? だったら返してよ!」

>>62-63
がんばる

もしかして他のショウタ君シリーズいっぱいあるのか?
見逃したのとかありそう

くしゃくしゃになった顔と、その視線に耐え切れずに目を逸らす。
それはできない。
どうしてやることもできない。
そもそもお前があんなことを吹き込みさえしなければ……、そこまで考え、
自身の卑劣さえに吐き気を覚えた。
「返してよ!!」
「ショウタ……」
両腕の力が抜け落ちる。
もう背中を撫でてやることもできない。
全部自分の所為だ。
夫婦にしこりがあるのなら、とことん話し合うべきだった。
勝手に逃げ出したのは、タカシだ。
ミユキから何も聞かなかった。聞こうとしなかった。
「ごめん……」
頭が痛い。どうしてこんなことになった。
結婚生活は一年もなかった。付き合った期間を入れても二年弱。
何故こんなことになったのだろう。
「ごめん」
頭を抱え、泣いた。
「ごめん、ショウタ」
許してくれ。
そういうことはおそらく許されないのだろう。
いいや、許されるはずがないのだ。
「ごめん……」
許しを請うためでなく、ただ謝罪を示すためだけに、その言葉をタカシは紡いだ。

>>66
いやこの前一本書いただけだよw
スレタイも忘れちった

なんでもする。なんでもしてやる。なんでも。ショウタが望むなら。
「……許さない」
ショウタの手がタカシの頭を叩いた。
「許さない! 許さない!! 許さない!!」
小さな拳を黙って受け入れる。こうするしかないのだ。
ショウタの気が済むまで殴らせるしか。
どれくらいそうしていただろう。
頭は割れるように痛んだが、だがタカシは振り払うでもなく、されるがままになっていた。
「お兄ちゃん」
ショウタの声が頭上から降ってきた。
許されたわけではないのは、わかっていた。
のそのそと顔を上げると、顔を蹴られた。
首にひどい衝撃を感じる。
だが、タカシはそれも甘んじて受けいれる。
体が倒れ、後頭部を強か床へと打ち付けた。
ショウタの足が耳の横に飛んで、フローリングを「ダン!」と力任せに踏み鳴らした。
「ショウタ……?」
次の瞬間、タカシのパジャマは引っ張られていた。
頭が一瞬、宙に浮くような強さで引っ張られ、そしてボタンは空に弾け飛ぶ。
「ショウ、」
「拒否は許さない」
凛とした声が言う。
タカシのパジャマの前が開く。
「僕を抱け」
ショウタは短く言った。

目が覚めたときは罪悪感しか覚えなかった。
正直、使い物にならなかったことなどない自身が、あそこまで萎えたのは初めてだった。
それでも最後までことを済ませたのは、それがショウタの「命令」であったからだろう。
自分の体も、心も、もうなにひとつタカシのものではないことは自覚していた。
全て、これから先の人生はショウタのために生きなければならない。
すうすうと眠るショウタに溜息が漏れた。
お互い、もう戻れない。
そもそも戻る場所などあったのだろうか。
なにがなんだか、さっぱりわからなくなってきた。
泥のように重い頭を振りかぶり、なんとかベッドから這い出ると、時計を確認する。
時刻は六時半、朝食の支度をしなくてはならない。
妻の死亡と言う理由によって消費を続けていた有給はもうすぐ終わりそうだ。
タカシもそろそろ出社しなくてはならないだろう。
簡単な朝食を作っていると、足音がした。
ショウタだろう。
気まずさに振り返ると、ショウタは「おはよう」と実にすがすがしい笑みを浮かべて
言った。
「腰、痛い」
大人のような顔で言うショウタが、恐ろしかった。
「僕も今日から学校へ行く」
「うん」
判ったよ、と言うと、ショウタが不機嫌そうに「は?」と言った。
「え?」
「うん、ってなに? ハイ、でしょ?」
「――はい」
ショウタのために生きるなど、おこがましい。
タカシは、ショウタの奴隷として一生を這いつくばって生きなくてはならないのだと、
唐突に理解したのだった。

え…!?

ドSショウタ君キタ━(゚∀゚)━!

>>74
すまんなーエロパロに居ない理由はこれだ!

>>76
つまり…どういう事だってばよ…

>>77
俺はエロが書けない(白目)

>>75
ドSなショタは暫く続きます

すまん三十分くらいお風呂行って来てもよかですか?

いてくる

出た
ショタ タカシ ミユキ
でググルと前書いたやつ見られるみたい
もしよかったらそれでも読んで待っていて

それからの日々で、タカシは感情らしいものの大半を捨て去った。
ショウタが快適に過ごせるように、ショウタが少しでも楽しいように生きる。
ただそれだけのためだけに息をして、そして出社した。
妻を失ったのだから、とタカシの崩壊した人格について誰も深く触れたりはしなかった。
やろうと思えば、人間はどんなこともできるものだ。
季節は巡り、新たな関係が築かれてから一年が経っていた。
その頃になると、タカシはねだられるままに背中にショウタの名前を刺青として施し、
そして首輪の代わりだと言うピアスを胸に入れさせられた。
勿論、拒否することなどできない。
爛れた関係は留まることを知らずどこまでも堕ちていった。
日曜の朝、珍しくショウタは出掛けるといった。
いってらっしゃい、と送り出し、溜まった洗濯物を片付ける。
掃除をし、ショウタのための買い物に出掛ける。
何ひとつ楽しいことなどない日常だが、それも仕方がないことだった。
「ただいま」
帰宅してもショウタがいないことにホッとする。
しんと静まり返った我が家は、まるで檻だった。
居を移しても、しかしその檻は永遠にタカシに付きまとう。
溜息が、ぽつんと廊下へと落下した。
ああ自分は疲れているのだ、と今さらながらに自分の状態を把握する。
そう、疲れている。とても。
重い足から靴を取り除き、なんとか家へと上がる。

不意に、なにか違和感を覚えた。
扉。そう、扉だ。
いつもは硬く閉じられている扉が、ふっと風に煽られたかのようにして開いたのだ。
扉はショウタの自室に繋がっていて、木製のそれには「SHOUTA」と描かれた
可愛らしいトールペインティングの看板がかかっていた。
ミユキが作ったものだ。
決して入るな、と言われていた扉の向こうが、妙に気になった。
扉が一人でに開かれたのも、なにか意味があるような、そんな気がしたのだ。
タカシは買い物袋を手放し、足を引きずりながら一歩一歩扉へと近づいた。
恐る恐る扉を開ける。
ショウタの匂いがふわりとただよった。よく知った匂いに、タカシはなんともいえぬ
感情を抱く。
ゆらゆらと思考が漂い、それに伴うように足も揺れる。
他人が見たら、気の触れた男とだと思うことだろう。
ショウタの部屋は、とても清潔だった。
簡素な学習机の上には、通学用のリュックと、学校指定の笛が置かれている。
ノートや教科書が並ぶ机は綺麗に整頓され、掃除もあまりしなかったミユキの弟の
それとは思えないほどだ。
ノート、教科書、ドリル、ノート、教科書、ドリル……。
科目ごとの並べられた本棚の、ある一点、タカシはそこが気になった。
なんの変哲もないノートだ。
だがそれは他のノートたちと様相がことなり、やたらとファンシーなのだ。
震える指でそれを取る。
震えるのは、「主人」の居ぬまにイタズラをしている自覚があったからに他ならない。
「『五月二日、お兄ちゃんと出掛ける。夕食はレストランだった。美味しかった』」
かさかさとした声で読み上げる。
それは単なる日記であった。
丁寧な文字で綴られる日常のどこにでもタカシはおり、単純に穏やかに過ぎ去っていく
文字たちの羅列は、二人の間に歪な取り決めや関係など微塵もない、
ただの、極普通の一家族のようだった。

「変なの……」
思わず幼い言葉遣いが漏れた。
そして涙が滴る。
何故こんなことになってしまったのか。
何故。
今でもタカシは自問自答する。
日記は続く。本当に、なんでもない日常だ。
だがしかし、かすかな違和感は覚えていたのだ。
それがなにかはわからない。わからないままに読み上げ、ふと気づく。
文字。
この文字を、タカシはよく知っていた。
はっとなり、息を呑む。
「ミユキ……?」
ミユキの文字。それにショウタの字は酷似しているのだ。
――そんな馬鹿な。そんなはずはない。
タカシはショウタの日記を掴み、自室に向かう。
確か遺品として渡された日記帳があったはずだ。
ベッドの下の、引き出し状の収納スペースを開くと、アルバムや日記帳、その他
ミユキの遺品が次から次へと現れた。
そして日記帳は見つかった。
最初の日記は、タカシと出会うずっと前のもの。
女子高生だったためか、文字は丸く可愛らしかった。
「これじゃない……」
そう、これじゃない。
日記帳を次から次へと捲っていくと、文字は次第に落ち着き、女性らしいものへと
変わって行った。
最初のそれは「ああ」ではなかった。
タカシとであった頃に、それはようやく「そう」なった。
ショウタの日記とミユキの日記を並べる。
文字の形は、一致していた。

いいやそんなはずはないと、タカシは頭を振りかぶった。
そんなこと、あるわけがない。
だがしかし、文字は悲しいほどに一致していた。
これがなにを示すのかは、考えたくもなかった。
きょうだいだから文字が一致することもあるだろう。似てしまうことくらい……。
「本当にそうか……?」
自問自答を重ねる。答えは出ない。
「本当に?」
しっかり考えろ。自身を叱咤する。
ここまで、ぴったり重なりあうほどまでに、字と言うものは一致するものだろうか。
ミユキの最後の日記を見る。
夫との仲が上手く行っていない。生活に疲れた。
短く書き記された文字。
一冊戻って、ペラペラと一枚ずつ捲る。
夫、と、の、仲。
それぞれの文字を見つけると、具に観察をする。
所々、ペン書きとは言え、紙がやたらとへこんでいることに気づいた。
まるで別の紙でなぞった様な――。
思いに居たり、背筋が寒くなる。
「ショウタはまだ子供だ……」
いや、子供ではない。
子供が大人に迫ったりするものか。

「ショウタ、まさか……」
「なにしてんの」
冷たい声が浴びせれると同時に、気味の悪い温もりを背中に覚えた。
「たーだーいーま」
耳元で区切るように言い、ショウタはべったりとタカシにくっ付いた。
「しょう、た」
「ただいま」
お帰りなさい、は? と問われ、切れ切れに「お帰り」と返す。
「あープライバシーの侵害。勝手に僕の部屋に入ったんだ?」
「あの……」
「もーおしおきしなきゃかなぁ?」
ピアス、また増やす? とにっこりと笑っていうショウタが恐ろしい。
「僕が殺したとか思ってんでしょー?」
図星を指され、なにも言えなくなる。
「殺すわけないじゃん」
馬鹿じゃないの、とショウタは言った。
その言葉に、真偽のわからぬ言葉にタカシはホッとしていた。
「ご飯できてないの?」
「まだ、です」
「ふーん、早く作ってよ。今日なに? おなか空いちゃった」
「ハンバーグ……」
やった、と言うとショウタは部屋から出て行った。
「お兄ちゃん、僕からは逃げられないよ?」
「逃げようなんて、思ってない……」

日記を握り締める。
――殺すはずがない。
本当にそうだろうか。
夕暮れの部屋で、考える。
はずがない、あるわけない。
そういった思い込みで、タカシは道を踏み外さなかっただろうか。
かつて、そうして間違ったのではないだろうか。
ゆらりと立ち上がる。
だが、タカシにはもう確める術はない。
なぜなら、事実をしる女は既にこの世にいないのだから。

時計の針が時を刻む。
この音に何故か絶望を見出す人間は多いのではないだろうか。
己の腕に頭を乗せすやすやと眠るショウタを見て、タカシはそんなことを考えた。
眠気は訪れない。
寝返りを打った拍子に、ショウタの頭が腕から滑り落ちた。
ショウタは起きないだろうか。
ジッと観察を続けたが、彼が起きる気配がないとわかると、タカシはそっと
ベッドから抜け出した。

かつて愛した女の日記を、月明かりを浴びながら読む。
ベランダはとても寒かったが、温もりのない室内もタカシにとっては寒々しいこと
この上なく、体感する温度は大差ないように感じられた。
日記は、やはりなんの変哲もない日常を綴っていた。
母親が死んだこと、弟を一人で育てていかなければならないプレッシャー。
同い年の女の子が進学をしていることを羨ましく思うこと。
それから、それから。
「『もっと真面目に生きていればよかった』」
そう綴られている。
真面目に、とはどういうことだろう。
タカシは今、ショウタの語ったミユキの過去でさえ疑い始めていた。
体に入れた刺青が質量を持ったように重く感じられた。
もしかしたら、自分はこんな風に生きる必要はなかったのではないか。
そんな一筋の期待を抱いていた。
だが日記には何ひとつ真実に繋がる答えはなく、一晩掛けて長い長い日記を
読み終えたころにタカシに残されたのは、ただの疲労であった。
朝日が眩しい。
朝食の支度をしていると、ショウタが起きてきた。

「おはよう」
「おはよう、ござます」
未だに敬語には慣れなかった。
「お兄ちゃん」
牛乳を注ぎながら、タカシは「はい」と返事した。
振り返ると、ショウタは行儀悪くもフォークを握り締め、その拳を頬に当てて
頬杖をついていた。
「僕のこと、好き?」
「――はい」
可愛く思っていた。大切だと。
だが今はその感情さえ遠く思える。
「よかった」
ショウタが言ったのを聴覚だけで聞き取り、タカシは洗面所へと向かった。
「行って来ます」
ショウタが洗面所の前を通り過ぎるとき、タカシは「あの」と声を掛けた。
「うん?」
「今日、会議があるので遅くなります」
「――わかった」
ショウタが笑う。一先ず誤魔化せただろうか。
そんなことを思いながら、タカシはネクタイを締めた。

会社は休んだ。
妻を失って以来、タカシは腫れ物を扱うように扱われていたから、休みは簡単に取れた。
向かう先は、いつぞやショウタが世話になった「おばさん」の家だ。
突然訪れたタカシに彼女は当然いやな顔をしたが、並ばなくては買えない
某高級洋菓子店のロールケーキを渡すやいなや上機嫌で家屋へと招き入れた。
「ミユキちゃんの話ぃ?」
今さらなんだ、と彼女は言う。
ミユキの親族には、タカシとの不仲が知れ渡っている。
当然あれやこれやと耳に痛いことを言われるかと思いきや、彼女はのんびりと
「ミユキちゃんねぇ」と言うだけだった。
「よく知らないのよねぇ」
「え?」
「だから、あたしあの子の直接の親戚じゃないのよぉ。旦那があの子と血縁関係が
あってね。ああ、大叔父なんだけど。まぁ、だからあたしはよく知らないの」
ロールケーキを美味そうに頬張りながら、彼女は言った。
「ミユキの、昔の話とか」
「さぁてねぇ。よく知らないわ。割と疎遠だったし。ショウタくんだっけ?
あの子を預かったのも、旦那の罪滅ぼしだし」
「罪滅ぼし?」
「あの子のお父さんが亡くなったときにさぁ、支援してくれって母親が言ってきたらしいの。
その母親ってのがうちの旦那の姪っ子なんだけどぉ、うちの人支援しなかったのね。
まぁうちも子供居たし……それっきりよ、疎遠でさ」
ショウタは、「オバさんが言った」と言っていなかっただろうか。
ミユキの過去は、オバさんが教えてくれた、と。

「ちょっと、あんた大丈夫?」
「あ……はい。大丈夫です」
「そんなわけだからなんにも知らないってわけ」
「そう、ですか」
どこからどこまでが本当で、どこからどこまでが嘘なのだろう。
わけがわからなかった。

彷徨うようにあちらこちらを歩き回った。
ミユキの友達、恩師、かつて住んでいたアパートの住人。
ミユキは確かにぐれていた時期があったようだと判った。
だが、そのどれもが母親の死との繋がりははっきりとしない内容であった。
それでもタカシは確信していた。
ショウタは、ミユキになにも奪われていないのではないか、と。
家に着くと、既にショウタは帰っていた。
当然だ、夜の八時ともなればとっくに帰宅しているだろう。
「おそーい」
カップアイスを食べながら、ショウタは膨れ面で行った。
この顔が可愛いと思っていたのは、いつのことだろう。
もうだいぶ遠くまで来てしまった。
「……すみません」
反射的に飛び出た敬語に唇を噛んだ。
「話が、ある」
「はぁ?」
ショウタはニヤニヤと笑いながら返事した。
「話が、あるんだ」

ショウタはアイスをシンクへと放った。
「なに」
「ミユキの、ことだ」
「ここで話すの?」
え、と言うと、ショウタの親指はミユキの遺影を指していた。
微笑むミユキと視線がかち合う。
ああ本当に、遠くまで来てしまった。
ミユキの視線に後ろめたさを感じるなど。
「屋上、いこ?」
言われ、タカシは頷いた。
屋上は寒かった。
ミユキの事故――、自殺と処理されたものの、表向きは転落事故とされている――、
以来、ここは柵が少しばかり高くなった。
ショウタはその柵に持たれ、「で?」と問う。
子供と大人の狭間にある、不思議な顔だった。
「ミユキの、ことだけど」
「それはさっき聞いた」
「――昔の、話」
「うん」
喉の奥が乾いている。干からびて、喉と喉の皮膚がくっつきそうになる妙なあの感覚だ。
それをやり過ごすと、少ない唾液を嚥下した。
「悪い遊びをしていたって、本当か」
ショウタはタカシを見つめ、暫く黙っていた。
「本当なのか!?」
「本当だよ」

本当なのか。
そう紡ぎ、何故かホッとしている自分がそこにいた。
タカシは額に手を当てる。
「そうか……」
「だからなに?」
「――今日。今日一日中、ミユキのこと調べてきた」
「それで?」
「確かに、確かにミユキに遊んでいた時期はあったみたいだが、」
「ママが死んだ理由にならないって?」
返答に窮していると、ショウタはふぅ、と吐息した。
「ママは死んだ。あいつの所為で」
「本当に、本当にそうなのか? 勘違いとか……!」
「なんで僕を疑うの!」
悲痛な声がタカシの耳を突き刺した。
「僕、僕を、なんで僕を疑うの! なんで!!」
「なんで、って……」
「僕にはなんにもない! なんにもないんだ!! 知ってる?
お姉ちゃんは、お姉ちゃんはね……!」
息が乱れる。
「お兄ちゃんは僕のことなんて好きじゃないんだ」
「それは」
違う、と言い切れなかった。
ショウタが悲しげに笑った。その笑みは一人前の大人で、
誰がそんな顔をさせるのだろう、と考えた。
「もういい。もう」
どちらが言った言葉なのかはわからなかった。

「お兄ちゃん」
ショウタの腕がタカシの胴体に巻きついた。
頭は心臓の辺り。随分と大きくなったものだと思う。
もう、父親役など必要がないのかもしれない。
「好き」
「……」
なにも返してやることができなかった。
ちょうちん、射的、金魚の鮮やかな色。
昨日のことのように思い出せるのに、ショウタはまるで別人だった。
ショウタの肩が小さく揺れる。
「ごめんなさい」
「――え?」
「大好きだったよ」
腕が、するりとタカシから離れた。
風が吹いた。
ショウタの口がパクパクと動く。
「なに?」
名残惜しそうに指先がタカシの腕を霞め、そして親指の爪をを撫でた。
「ショウタ!!」
ショウタは微笑んでいた。
あの日の、初めて二人で出掛けた祭りの日と変わらぬ、幼くて頼りない笑みを浮かべて。
――だってこうするしかないんだ。
そう言ったような気がした。

ショウタの体が柵を乗り越える。
身軽な体に、タカシの足は追いつかない。
ウン、と頷きながら返事する時の、独特の声。
綿アメでべたべたの頬。
まとわりつく細くも柔らかな腕。
それが色鮮やかな残像として、ぐるりと頭を駆け巡る。
「バイバイ!!」
ショウタの体が闇の中に沈む。
伸ばした腕は、むなしく宙を掠って、そして意味のない形のままに留まった。
「ショウタ!!」
悲鳴は闇を裂いた。
何故こんなことになった。
何故。
少しも愛していなかったか。ほんの少しも。
束縛される日々に嫌気がさしていたなかに、少しの愛情もなかったか。
自問し、タカシは膝を負った。
遠くでサイレンの音がした。
そして叫び声。

ああ、遠くまで来てしまった。
そうタカシは思ったのだった。

タカシは様々なことを疑われ、事情聴取を受けた。
ある日ぱたりと開放され、結局ショウタのことは事故とされたのだった。
久しぶりに帰った我が家のポストは、新聞やら請求書で溢れかえっていた。
隣の家の住人が出てきて、タカシと視線が会うと、そそくさとそれを逸らして去っていく。
この家も引き払わなければならないだろう。
山のような郵便物を抱えて、家に入る。
篭った熱気は湿気くさくて、頭が痛くなった。
一枚ずつ葉書やら請求書を確認する。
その中に、見慣れた字があった。
宛名はタカシ。そして差出人はショウタだった。
「ショウタ……?」
慌ててキッチンに向かい、はさみで封を切る。
便箋は、幾枚も重なり、そしてそれは謝罪の言葉で埋め尽くされていた。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
連なる謝罪に胸が痛む。
そしてタカシは泣いた。
小さく歪な字で連なる謝罪は、ショウタがどんな思いでそれを書き綴ったのかが
痛いほどにわかった。
ただひたすら続けられる謝罪を、タカシは一文字も逃すことなく読み進めた。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
「――どういうことだ?」
タカシは噤んでいた口から思わず言葉を漏らしていた。

『――でも僕はおねえちゃんを殺してなんていない』

最後には、何度も消しゴムを掛けた痕跡があった。
それでもショウタはそう書いたのだ。

では何故ミユキは死んだ?
やはり不仲が原因だったのだろうか。
タカシは胸に手紙を抱き、考えた。
考えろ、考えろ、考えろ。
寝室に向かい、長らく電源を入れていなかったミユキのケータイを取り出した。
メモリは女友達のものばかりだ。
男の名はひとつもない。
メールも、電話にも。
電話履歴を頼りに、一番発信数の多い女の名前をコールした。
『――はい?」
訝るような声がし、そして電話の主は戸惑っていた。
「あの、もしもし、私はミユキの夫の……」

指定された喫茶店は、とても静かで、話す内容が内容でなければとても過ごしやすい
場所なのであろう、と想像できた。
コーヒーの匂い、女たちの笑い声。
そんな空間に、自分はひどく不似合いな気がしていた。
電話の相手は友達を二人引き連れやってきて、
そして話をさっと済ませると帰って行った。コーヒーにはろくに手をつけずに。

わかった事実はただひとつである。
皆が皆、今は亡きミユキに気を使っていたということだ。
ミユキは、不倫をしていた。
タカシとの仲がうまくいっていないとは確かに悩んでいたことも彼女たちは
聞いていたという。
そして実にありがちな話しで、同窓会での再会で盛り上がった相手が居たとようだ、
と言う噂もあった、と話してくれた。
だが、それでも彼女たちは不倫相手の名前は絶対に出さなかった。
男は結婚をし、子供が今月生まれたのだという。
どうしても、と言うタカシに首を縦に振らず、彼女たちはそそくさと逃げるようにして
出て行った。
女の絆は固いらしい。

目に染みる日光を浴び、タカシは息をついた。
そうだ、行かなくては行かないところがあるのだ。

消毒液の匂い、そして薄暗い病棟。
ショウタはそこにいた。
同い年程度の子供たちに囲まれ、院内学級で勉強に励んでいるようだった。
「ショウタくん、お家の方がいらしたわよ」
女性の教師に言われるも、ショウタはささっと彼女の影に隠れた。
帰ってもらって。
そう唇が動き、幼い動作で彼は人影からこっそりとタカシを見ていた。
「ああ、いいです。服、届けに来ただけですから」
「そうですか? ショウタくん、今日は調子がいいんですよ。
昔のことも少しだけ思い出したみたいで。でも……」
教師は顔を曇らせる。
「お姉ちゃんが居ないってことも思い出しちゃったみたいで……」
「ああ……」
なんでおねえちゃんがいないのかは、わからないみたいですけど、と言う言葉に
タカシはホッとした。
今はなにも思い出さなくていい。
ショウタは奇跡的に一命を取り留めたが、ひどい記憶障害に陥り、
全てを忘れてしまったようだ。
タカシのことも、姉のことも。
ようやく思い出したころには、タカシの記憶だけがどこかに置き去りにされ、
ショウタの中でタカシは「見知らぬ男」となっていた。
「ショウタ、じゃあな」
声を掛けると、ショウタが微かに頷いた。
生きていてくれるだけでいい。そう思った。

「これ、渡してやってください」
「なんですか、これ」
「あー……絵本です」
「随分子供向けのものですけど」
「昔私が買ってやったものなんです。少しでも、記憶が戻れば、と」
タカシは自分の行為にも混乱していた。
思い出してもらいたくない。
だが思い出してもらいたい。よくわからぬ感情が渦巻き、そして結局そういう
選択を取った。
ショウタを失うと考えた時、肝が冷えたのだ。
その情がなんであるのか、今なら少しだけわかる。
名前をつけたくない感情だ。
「それじゃあ」
教師に背を向けると、長い廊下を歩いていった。
この長い廊下を歩くとき、タカシはいつも思う。
ショウタが昔のように追いかけてきて、「お兄ちゃん」と自分を呼ばないものか、と。
一歩、また一歩。
クリーム色の廊下は、清潔に見えた。
自分の足音を聞きながら歩く。
「お兄ちゃん!」
声がした。
振り返る。
ショウタがそこにいた。
あの絵本を胸に抱えて。

「お兄ちゃん……!」
「――ショウタ?」
駆け出そうとして、だがその足は奇妙な体勢で止まった。
「あの……あの……」
わななく唇が何度もそういう。
タカシを呼びたい。だけど呼べぬ。
そういった風であった。
「ショウタ」
タカシは手を広げた。
「おいで」
困った顔をして、ショウタは歩いた。だがその歩みはすぐに止まる。
「おいで」
もう一度言うと、ショウタは泣き顔で走り出した。
胸に収まった体はまた少し大きくなったようだった。
嗚咽交じりに、ごめんなさい、の声が届く。
「もういい」
言うと、しっかりと腕にショウタを閉じ込めた。
「もういいんだ」

ミユキが何故死んだのかは、わからなかった。
ただひとつ、ショウタはあの日、屋上に居たことだけは覚えていた。
それ以外の記憶は混沌としているようで、あまりはっきりと思い出せないようだった。
陽だまりで、ショウタが眠っている。
「こら、日に焼けるぞ」
「……うん」
返事をしたところで、ショウタが一向に起きないことは知っていた。
しょうがない、と体を抱えあげると、ベッドへと連れて行く。
「お兄ちゃん、あのさ、」
「うん……?」
「なんでもない」
ショウタがミユキを殺していない。それだけで充分だった。
「少し寝てろ」
「うん……あのさ」
「うん?」
「僕は、裏切らないよ……」
「――知ってる」
夢現でそう言ったショウタに、なにかを感じ取ったが、タカシはそれを追求しようとは
思わなかった。

ショウタはあの日、ミユキを追求したのではないか。
或いは、不倫が原因で言い争いになったのではないか。
母親のことで、口論になったのではないか。
様々な憶測はあった。
だが、それももう済んだことであった。
「ねむ……」
欠伸をひとつし、タカシも横になった。
陽だまりの中はともて気持ちがよかったから。
ほどなくしてタカシは眠りについた。
だからタカシは知らない。
ショウタが細い声でこういったのを。

「逃がさないよ。ずっと僕のものだ」
ショウタはおかしそうにくすくすと笑い続けた。
それは陽だまりには全く似つかわしくないものだった。
「ずぅっと僕のものだ」

タカシは、なにも知らない。
――永遠に。
<終>

オワタ4円tnx
お猿さんきつかったお

ありがちラストにしすぎたかねぇ

あのですね、実は私、フフフ、今日午後から仕事でしてね…
なので寝るわ

読んでくれてありがとー
おやすみーとぱいー

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