ペトラ 「父さん、私、調査兵団に入る!」 (67)

親愛なるペトラに捧げます。

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あの日、私は父の手伝いで、生まれて初めて壁の上に上りました。
そこから見た外の世界はとてもとても広くて、草も木も青々としていて、
遠く広がった空には雲がかかっていて、その隙間からお日様の光が、
白く輝く道のように何本も伸びていました。

あんまり神々しくて私は胸を締め付けられるようで、
その光の道を上から下までたどってみたのでした。

そこには、人を食べる恐ろしい化け物がいました。
化け物の前には馬にのった人がいて、必死でこちらに向かって走っていました。
その人は何か叫んでいるかのように大きく口をあけていました。

「追いつかれちゃう・・・父さん!あの人、追いつかれちゃうよ!」

「・・ペトラ、見てはダメだ、早くこっちに来なさい」

「だって!このままじゃあの人、食べられちゃうよ!」

父さんやまわりの兵隊さんにどんなに必死に訴えても、みんな諦めたような顔で
何もしてくれない。

「誰かあの人を助けてあげてよーーー!!!」

無理やり父さんに連れられようとしながら、それでも泣き叫んで助けを求めたそのとき。

遠い雲から伸びた白い光の道の、上の方から突然あらわれたその人は、手に持った2本の輝く刀で、
大きな恐ろしい化け物をたったの一撃でやっつけたのです。

白い光に照らされて、刀を払いながら、倒れた化け物を踏みつけ見下ろしていたその人を、
その光景を、ひとめ見た瞬間に、私の心臓はもう永遠に奪われていたのでした。

「・・・父さん・・・・・あの人はだあれ?」

「ああ・・・すごいな・・・。あれは調査兵団の人だよ。巨人をやっつけてくれるんだ。 」

同じように見入っていた兵隊さん達の話に、私は必至で耳をすませました。

「オイ、あれは誰だ? 単独で一撃だったぞ! 」

「ほら、あれだよ、エルヴィンが拾ってきた逸材、期待の新人ってやつ。」

「え? そいつ今日初陣だっただろ! ありえねぇよ・・・」

「名前なんつったかな・・・ そうだ、リヴァイだ!」


調査兵団の、リヴァイ、さん。


「・・・・父さん、私、決めた。 調査兵団に入る。 」


_________

「ダメだと言ったらダメだ!」

「どうして父さん!私もう15才よ、自分のことは自分で決めたいの!」

「ペトラ・・・父さんは武器職人だ。いままで何度も壁に上って、
何人もの人が巨人に食い殺されるのを見てきている。
確かお前が10才の時・・・一度だけ壁の上に連れて行った時に見ただろう、あの化け物を。
人間のかなう相手じゃないんだ。ましてやお前のようにか弱い女が・・・」

「調査兵団には女性だっているわ! 誰かがやらなければ何も変わらないのよ。
父さんが、戦うことを・・武器職人になることを選んだように、
私はそれを使って戦う道を選びたいの!」

「壁があるからたいして役にもたたないって陰口をきく人もいたのに、
巨人を倒すことをあきらめない父さんは、ずっとずっと私の誇りだった。
私は父さんの血をひいてるのよ、ダメだなんていわないで、お願い 」

言葉につまり、かすかに苦笑いを浮かべた父は、諦めたように言いました。

「・・・本当に俺に似て頑固だな。 ・・・では条件付きだ。
これからお前は訓練兵団に入団する。 そこで上位10人に選ばれたなら、
それ以上俺は何も言わない。 それでどうだ?」

「上位10人って、憲兵団になれってこと?! それじゃ約束とちが・・・・」

「違う違う。上位10人に入ればすべての兵団を選べるというだけだ。
お前がその時になっても調査兵団に入りたいのなら、選べばいい。
・・・もちろん俺は憲兵団を選んでほしいがね 」

「ほんとに? いいの?! ありがとう!私、がんばるから! ありがとう父さん!!!」

しぶしぶといった調子で、でも温かい目で私を見ながら、そう言ってくれた父に、
私は飛びついて、力いっぱい抱きしめました。


「教官には思い切り厳しくしてもらうように頼んでおくからな、覚悟しておけよ 」

「望むところよ。 ぜったい1番になってみせるから! 」

そして私は訓練兵団に入団したのでした。

__________


父さんの言葉通り、教官はおそろしく厳しく、訓練も過酷だった。
小さなケガなら日常茶飯事で、時にはもう戦うこともかなわないほどの大怪我を負う人もいた。
身体と精神への暴力に耐えきれず逃げ出す人も後をたたなかった。

肉体の疲弊よりも、精神的な暴力がことさら堪えた。
さすがの私も何度か挫折しそうになって、父さんに手紙を弱音の手紙をかいたものだった。
すぐ帰ってこい!と言うかと思った父さんは、こんな返事をくれた。

「教官は厳しいだろう、訓練も辛いものだろう。だがなぜなのか、考えてごらん。

お前たちはこれから巨人と戦わなければならない。

調査兵団は一度の調査で半数以上が死ぬ。

あんなにたくさん訓練して、あんなに強くなったのに。

なぜだかわかるかい? 恐怖で、怯えで、動けなくなってしまうんだ。殆どはそれで死ぬ。

見つけた力を存分に発揮するためには、身体だけでなく心も強くならなければならないんだよ。

教官はそれを直接教えようとしてくれているんだよ・・・お前たちを死なせないためにね。」

「あの日みたあの人のように、巨人を倒したいんだろう? だったらもっともっと強くなれ。

強くなったお前をみて、あの日のお前のように、また誰かがまたに続くんだよ 」

おっとアホなミス。 徹夜明けはダメだな

>強くなったお前をみて、あの日のお前のように、また誰かがあとに続くんだよ 」


翌朝。

おなかがすいて、目が覚めた。

食欲を感じるなんて、いつ以来だろうか。

そして何より、体が軽い。

昨日、わんわん泣いている私に、兵長がかけてくれた言葉。

『お前の友達の想いは、いまは俺が預かっておく 。

お前が背負えるようになったときに返してやる。 』

彼の想いは、人類最強がしっかり受け止めてくれたのだ。

それはつまり、彼の魂が人類最強とともに戦うことに他ならない。

それは私の心を随分と軽くしてくれたのだけど、同時に、

ハンジさんの言葉がよみがえり、心が痛みもした。

『いつかつぶされちゃうんじゃないかと思ってね』

だけど今は私にできることをする。 もっと強くなる。

その後で、兵長の背負っているものを一緒に背負えるようになれればいい。


手早く身支度をすませて、食堂に向う。

たぶん、私の発する何かが変わったのだろう、同期や先輩たちが声をかけてくれる。
随分心配させてしまっていたのだな、と、申し訳ない気持ちになる。

適当な席につくと、誰かが正面に座った。オルオとディータだった。

「よう、ペトラ。 もう大丈夫なのか? 」 とオルオ。

「ああ・・心配かけてごめん。 もう、大丈夫。 」

そう答えてふたりの顔を見上げたとき、彼らも何か大きなものを乗り越えたのがわかった。

「ふたりの班は・・・・どうだったの? 」

「俺たちの班は、奇行種の襲撃を受けたんだ。
新兵を含む班は比較的安全な中心部に配置されていたはずだが、
奇行種ってやつはどうやらはじっこより真ん中が好きらしくてな。 」

ディータが乾いた笑いをもらす。

「みんな、俺たち新米を逃がそうとして・・・・リヴァイ兵長が来てくれなければ
俺たちも危なかっただろうな・・・ 」

「あの人はほんとにすげえ。 俺はあらためて思ったんだ。 あの人みたいになりてえってな。
・・・強くなって、俺たちを護って喰われていった先輩達の分まで、巨人を倒すんだってな 」

いつものちょっとおちゃらけたオルオとは違う、初めてみるような真剣な表情。
握りしめた拳がわずかに震えている。


「・・・ペトラ、何か気づかないか? 」

ディータが場の空気を和ますかのように言う。

「・・・え? 何のこと? 」

「オルオみて、何か気づかないか? 」

改めて見る、が、特に何か変わったことは・・ああそういえば髪を切ったのかな?
うーん、でもそんなこと別に普通だし・・・・

「・・・・わかるよ、ペトラ。 俺もオルオに言われるまでわからなかったからな
・・・・あまりに共通点がなさ過ぎてさ 」

「クソが。 どっからどうみてもリヴァイ兵長と同じじゃねえか。 どこに目えつけてやがる 」

・・・・!!ああ。 確かに、サイド残して下を刈り上げ、前髪を分けて額にたらす・・・・
リヴァイ兵長もそんな髪型だった。

でも・・・・・でも・・・・・!

「ちがーーーう!!! ちょっとやめてよオルオ!・・・いや、まさかと思うけど
そのしゃべり方とかももしかして・・・・? 」

「何のことだペトラ? 俺は元々こういう喋りかただが? 」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

ディータと顔を見合わせ、吹き出す。

「な、なんだよてめえら! 」

「まあ、そういうことにしといてやるよ 」

「私はみなかったことにしといてあげるよ 」

久しぶりに笑った。 目じりに涙がにじんだ。
目の前でつかみあってるふたりの顔にも、どこか安心したような色が見えた。

・・・・ありがとう。ふたりとも。 願わくば、これからもずっと。


それから私たちは、今まで以上に訓練に励んだ。

配属されてすぐに初陣だったのは結果的には良かったのかもしれない。
私たちは恐怖を知り、自分たちの実力と限界を知り、より効率的で最大限安全に
巨人を倒すための方法を考察した。

調査兵団ではとかく「討伐数」が重視されがちだ。
もちろん基本的には連携をとるが、チャンスと見れば皆が項を目指す。
その結果として、巨人の気を引き付ける攻撃がおざなりなものとなり、
本来の攻撃が失敗することが多々あった。

だから私たちは、徹底してその役割を厳守することにした。
個人の討伐数が大事なのではなく、より多くを討伐することが最優先なのだから。

あれから宣言通り、オルオはみるみる実力をつけていった。
もともと上位2位の技術に加え、覚悟と明確な目標と、
何より最適な手本の存在を得たのが功を奏したのだろう。

私とディータで巨人の足止めをする。
足の腱を切る、目をつぶす。

ふたりが同時に行えば、一撃でほぼ無力化できる。
その後で、オルオが項を削ぎ落すのだ。

元々気の合う仲間同士だったこともあり、同じ顔を見合すだけで
相手の考えがわかった。
技術レベルもほぼ同等だった私たちは、壁外調査のたびに
チームとしての討伐数を伸ばしていった。


++++++++++++++++++++++++++

父さん、元気ですか。

父さんに一番に知らせたくて手紙をかいてます。

私は明日から、特別捜査班に入ることになりました。

少数精鋭の、リヴァイ兵士長の直属です。

メンバーはリヴァイ兵士長自ら選抜したんだそうです。

認めてもらえたって考えるのは図々しいかな?

でも本当に嬉しい。やっと本当に夢が叶ったのだから。

みんなみんな、父さんのおかげです。

ありがとう。

++++++++++++++++++++++++++


調査兵団への入団から4年、私は何回かの壁外調査を生き抜いて、
念願だったリヴァイ兵長の直属の部下となった。

いまやすっかり兵長の真似が板についたオルオも一緒だ。

(…もちろん、お世辞にも似ているとは言い難いが)


これは言っておかなくてはならないだろう…

ディータは死んだ。
トロスト区の壁が破られ、多数の巨人の対応に追われたあの日。

街の至る所に巨人が溢れ、いかにチーム討伐数を誇ろうとも精鋭は分散しなくてはならず、
私たちはそれぞれ同僚や後輩を率いて離れた場所で対応に当たっていた。

指示をしながら単独で巨人を削ぎ、時に危ういチームを補佐していた兵長が、
壊滅に近いチームに気づき、私に増援を指示していち早く向かっていった。

私は自身のチームに指示を残し、能力の高い2名を連れ急いで現場に向かった。

現場には三体の巨人と、今まさに倒された巨人一体。
一面に倒れ伏した、血にまみれた私の同僚達。
激しい怒りに体が熱くなる。

どれを削げばいい?と指示を待つ私に、兵長はひとりの兵士の介抱を命じた。

残りの兵士たちに1体を任せ、残りの2体に向かう。

「兵長?!」

先に巨人の活動を停止させるべきでは?と疑問に思いながらも
先ほど倒されたばかりの巨人の近くに横たわる兵士に近寄った。


それは腹を食い破られたディータだった。

一目で彼が助からないことがわかった。
兵長が最後の別れをさせようとしてくれたであろうことも。

それでも私は必死で声をかけ、溢れ出す血を少しでも止めようとした。

気づくと兵長が隣にいた。

「血が…止まりません」

やっとのことで伝えた。

兵長は黙って膝をつき、差しのべられた手を握りしめた。

ティーダは最後の力を振り絞り自身の存在意義を問い、
兵長の言葉に安心したように、眠りについた。

その顔はいつかのバルドと同じ、自分の死が無駄ではないと、
心から信じた故の安らかな表情だった。

自分を、仲間を信じること、それは生きるものとっても
死にゆくものにとっても、救いだった。



リヴァイ班は通称であり正式名称は調査兵団特別作戦班という。

リヴァイ兵長自ら選抜した少数精鋭で構成されている。
このメンバーに選ばれたことは私の誇りだ。

メンバーは私とオルオ、エルド、グンタ、リヴァイ兵長、あとは例の巨人少年、エレンだ。

エルド、グンタは年こそ上だが長年共に戦い良く見知った戦友であり、
チームワークに問題は全く無かった。

私達の任務はエレンの監視、巨人化能力の解析、そして
人類の兵器足りえるのかを評価するための実験に立ち合い、
何か問題が発生した際には速やかに収束させることだった。

いつ巨人に変身するかわからない少年。
通常種と比較して桁違いの戦闘力を持つ彼が暴走すれば
兵長以外に対応は不可能だった。
私たちはその際のサポートを担うのだ。

兵長は彼を化け物だと言う。
決して飼い慣らしたり従わせることは出来ないと。

そうだろうか?
芯の強さを感じさせる目をしているが、素直で礼儀正しい少年は
とても化け物には見えなかった。

そして彼は巨人化して暴走しても人を食べないという。

ならば、分かり合えるのではないか。
仲間を信じることを知ってもらえれば頼もしい味方になりえるのではないか。

私はそんな風に考え、彼を安心させることに勤め、日々接した。
彼も少しずつ、心を許してくれているように感じていた。


振り返ってみれば、奇妙に安らいだ日々だった。

孤立した古城での、隔離された生活ではあったが、
もともと気の置けないメンバーで構成されたチームだ。

食事は私が担当させてもらった。
母を早くに亡くした私は、幼いころから家事一般をひとりで切り盛りしてきたのだ。

限られた食材でいかにおいしく飽きさせない料理をつくるか、
私はけっこう楽しんでいたと思う。
・・・その熱意はほぼ9割、リヴァイ兵長に向けられていたのは潔く認めよう。

兵長への思い。

幼いころや入団直後の時の憧れ、尊敬、敬愛とは違うのを、私は自覚していた。
かといって甘いだけのものでもなく。
うまく説明できないが。

一度、エレンと話した時、ミカサという幼馴染の少女の話がでてきたことがある。
彼が話してくれた彼女のさまざまなエピソードをきくにつれ、
自分の兵長に向けた想いに似ているような気がして、親近感を覚えたものだ。

私は、おそらくミカサという少女も、相手に全てを捧げているのだ。
心も、心臓も、肉体も、自身の持つものすべてを。

そして、それを相手に伝えるつもりがないことも、同じだった。


兵長の「悪くない」が 好きだった。

実は何種類かの意味を持つ、”悪くない ”。

まあまあ、まあ良い、良い。

だんだんそれがわかるようになったのが、心が近づいたようで、嬉しかった。


壁外調査の日が近づき、エレンを除くメンバーが集められた。

「次の壁外調査での俺達、特別操作班の役割は、
エレンを生かして帰らせることだ。」

いかに精鋭であろうと、相手は巨人だ。
自分自身だけでなく、新兵の身を護りきるのがどれほど
難しいことか、みなよくわかっている。

兵長はわずかな間をあけて続ける。

「・・・簡単なことじゃねえ。
だから俺は、お前達を選んだ。
殺しても死ななそうなヤツらをな。」

みんな歴戦の兵士だ。
顔を見合わせ、ニヤリと笑いあう。

「任務は最優先だ。だが無駄には命を捨てるな。」

「兵長、誰に言ってるんですか。
俺達はそう簡単にエサにはなりませんよ」

「ダメってときはせめて差し違えてやりますよ」

「いつもと同じに帰ってまた飲みましょうや」

眉間に皺を寄せ、呆れたように私達の言葉をきいていた兵長は、
あのとき一体なにを考え、何を思っていたのだろう。


++++++++++++++++++++++++++

父さん、元気ですか。

来週、いよいよ第57回壁外調査です。

心配はいらないよ、リヴァイ兵長や頼りになる仲間といっしょだから、

いつものようにまた帰ってきます。

戻ったら、休暇をもらって、久しぶりにそっちへ帰ろうと思ってます。

直接きいてもらいたい話がたくさんあるの。

でもその前に、どうしても伝えたいことがあって手紙をかきました。

私は、リヴァイ兵長に、心臓以外の全てを捧げるつもりです。

死んでゆく兵士にリヴァイ兵長がいつも言うの、

「お前の意思が俺に力を与える」って。

たとえ命を落としても、リヴァイ兵長の力になってともに戦える。

こんな幸せ、普通の人生ではぜったいに味わえなかったと思う。

だからもし私になにかあっても悲しまないで。

私はリヴァイ兵長の翼になって、お父さんやたくさんの人たちを護るんだから。

父さんには本当に感謝しています。私を認めてくれて、自由にさせてくれたこと。


・・・なんてね。直接言うのもちょっと照れるから手紙にかきました。

では来週楽しみにしててね。

p.s. 久しぶりに父さんの手料理が食べたいな。

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第57回壁外調査当日。
あくまでも試験的な遠征であり、短距離を行って帰ってくるだけ、のはずだった。

エレンに傷一つつけないという制約はあったにしても、
新兵が参加する作戦なら多かれ少なかれいつものことだ。

いつもよりも少ない犠牲で済めば良いと願っていたが、そう甘いものではなかった。
旧市街地を抜け、いくらも進まない内に、早くもあちらこちらから信煙弾があがる。

巨人発見の赤、進路変更の緑、奇行種もしくは緊急を知らせる黒、黒、黒・・・・

左翼次列に奇行種が乱入、
続けて右翼初列が巨人の大群により壊滅的な打撃を受け、索敵の機能を失ったようだ。
間をおかずして右翼次列にも奇行種が侵入、右翼はさらなるダメージで壊滅状態。

最後の奇行種はどうやら私たちのすぐそばまで侵入を許したようだった。

「何てザマだ・・・」

兵長が吐き捨てるように呟く。

当初の目的通りなら、右翼索敵が壊滅した時点で撤退してもおかしくはない。
けれど進路は東を向いたまま、当初の目的である旧市街地への変更もない。

なぜ進路を変えないのだろう。
このままでは、巨大樹の森に突入することになる。
ちら、と仲間を振り返ると、皆同じような表情をしている。

『行って帰るだけが目的なわけじゃないかもしれないな』

誰かの漏らした言葉が脳裏をよぎる。
が、それはとりもなおさずリヴァイ兵長の説明を否定することになる。

だめだ、だめだ。 指揮系統はひとつでなくてはならない。
私は、私たちはリヴァイ兵長を信じる。

巨大樹の森が見えてくる。
エルヴィン団長からの伝達が届いた、「森に進入せよ」と。
無言で馬を駆るリヴァイ兵長に、私たちも無言で従うしかなかった。

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