ドラムカン「……ウォールマリア?」 (23)




「……ドラムカン、愛してるよ」



普通の人間ならば既に転がり落ちているような震動と、轟音が辺りの空気を揺らす中で。

腕に抱く女は確かにそう言っていた。
誰に聞かれるわけでも無く、この俺にそう言ったのだ。

自分達が立つ戦艦『ジャガンナート』は制御人工知能たるコアを失った上、
さらには度重なる激しい戦闘によって凄まじいダメージを受けた事によって沈もうとしていた。

冷たく、汚染された海の底へと。

俺はただただ、腕に抱かれた女を見つめる。

決してそれは運命的な出会いではなかったとはいえ、彼女を救った事に後悔はない。

『コーラ』、この女は最初から他者に惑わされる人生しか送っていなかった。

一族の抗争、政略結婚、そして……『クラン・コールドブラッド』。
冷血党の追跡者、そして最後は。


「……すまない、俺のせいだ」




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……「・・・っ」

……「・・・……?」

……「お……て、そろ……ろ……時間……」


(……なんだ? 暗い…いや、俺は目を閉じているのか)

(体が冷たい…寒い)

(この声はコーラか…? 俺は、俺達は助かったのか)

「……起きて下さい、目を覚ましたようですね」

ドラムカン「…誰だ」


女性?「良かった、一時は容態が悪化して、そのまま心臓が止まってた程なんですよ?」

「……ここは、ハンターオフィスか?」

女性?「いいえ? なんですかそれ…ここはウォールマリアの駐屯兵団が使う宿舎です」

「……ウォールマリア?」

女性?「はい…その様子だと予想外のようですね、記憶の混乱などはありませんか?」

(記憶の…混乱……ないな、もう二度とあってたまるか)

「ない」



女性?「では今は医療班が私の仲間を診ていますので、代わりに聞かせて貰えますか?」

「何をだ……」



ペトラ「まずはお名前を、私はペトラです…どこの兵団かは分かりますよね」


ドラムカン「……俺はドラムカンだ」

兵団云々などと聞こえたが、敢えて聞こえないふりをする。
稀にいるからだ、戦車乗りの集まりを昔の軍隊のように自慢する者が。


ペトラ「ドラムカン、貴方は昨夜我々が帰還した際にここから南西の湖で浮いていたのを救助されたのよ」

ペトラ「ミケさんがたまたま泳げたから良いものの、あと少しで貴方は死んでいたわ」

ドラムカン「……湖?」


人が泳げる湖があるのだろうか、いや、有り得ない。
汚染されているか、モンスターがいる筈だ、となるとそのミケという男がレスラーかソルジャー級なのだろう。


ペトラ「そうね、どうもあの湖最近妙な事が起きているようなのだけれど…」

ペトラ「っと、それは関係ないわね、とにかく後で他の憲兵団に詳しい話は聞いてね?」

ドラムカン「……待て、ここは街か何かなのか」

ペトラ「ええ、そう言ったはずよ?」

ドラムカン「憲兵団とやらはともかく、転送装置の場所を教えろ」

ペトラ「てんそう…装置? ごめんなさい、私は技巧班じゃなくて憲兵団なの」


ドラムカン(転送装置を知らない…のか?)


ペトラ「とにかく、貴方はどこに住んでいるのかしら? どうして、あの湖に?」

ドラムカン「……俺は…海に沈んだはずだ」

ペトラ「?」

ドラムカン「少なくともこの町に住んではいない、世話になったな」


全身は未だ冷たいが、こうして生きているからにはじきに治る。
それよりもまずは仲間とコーラの安否を知りたかった。

ペトラといった女は困惑した表情で俺を見ていたが、直ぐに何故かあたふたと立ち上がり。

ペトラ「ご、ごめんなさい! まるで調査兵団の一員みたいに振る舞ってたのが気に入らなかったのかしら…?」


ドラムカン「いや、あまりアンタには興味ないんだが…」

< コンコンッ

ペトラ「はい?」ガチャッ

男性?「ペトラ、調査兵団のエルドさんがお前を呼んでるぞ」

ペトラ「ありがとうオルオ、後は頼んで良い?」

オルオ「はぁ…? 名前は? 見慣れない奴だな、この辺りの住人か」


少々癖のある目つきと言動のまま、オルオと呼ばれたロングヘアーの男が部屋に入ってくる。

ジロジロと俺を見たまま、再び彼は。

オルオ「憲兵団は今お帰りになった調査兵団の相手で忙しいんだ、起きたなら帰れよ? ったく」

ペトラ「そういう言い方はないよねオルオ、彼は溺れて死にかけてたのよ?」

ドラムカン(……いや、そもそも俺は…)



< ガチャッ

ドラムカン「……?」

少しウンザリしかけていた所で、新たに部屋へ入ってきた男。
彼は僅かに俺へ視線を移した後、隣にいるペトラへ目を移す。

ペトラ「ぁ……エルドさん」

エルド「君が昨夜から彼を看ていた憲兵団のペトラか」

ペトラ「は、はい…?」

エルド「彼は?」

ドラムカン「ドラムカンだ、言っとくが俺はここの住人でもなければ兵団とやらにも関わってない」

エルド「……なるほど、彼から何か聞けたのか?」

ペトラ「いえ…えっと、特には……」

エルド「来てくれ、エルヴィン団長が話をしたいそうだ」

ペトラ「…!」


< バタバタ…
< バタムッ!

慌ただしく男の後を付いて行ったペトラはそのままどこかへと立ち去る。
残されたこのオルオというと、何故か未だに去っていったペトラを見ている。

ドラムカン「…?」

オルオ「……アイツ、まだ…」

オルオ「っと、ドラムカンだっけか…動けるのか?」

ドラムカン「……」


フラフラとベッドから立ち上がる、が……。
立てる事は立てるものの、明らかに左半身がビリビリとした強い麻痺感がある。

この状態では全快時の一分も出せないだろう。


ドラムカン「……歩ける事は歩ける、走るには半日はかかるな」

オルオ「は? …昨日溺れて瀕死だったんだろ、無理はしない方が良いっての」


目つきや表情は良いとは言えないが、思ったよりも根は良い…というよりは慎重なのか。

オルオはとりあえずは俺の回復を優先すべき考えらしい。
先程の言い草はペトラの前だったからなのだろうか。



━━━ シガンシナ区・南西 ━━━


エルヴィン「来たか、君がペトラ・ラルかね」

ペトラ「はい、憲兵団所属のペトラと申します!」ザッ

エルヴィン「礼儀正しいな、君の上官に伝えておこう」

ペトラ「……」

エルヴィン「ところでペトラ、件の青年から何か聞いたのか」

ペトラ「いえ、特には…シガンシナやウォールマリアの生まれや住人ではないそうです」

エルヴィン「そうか、では『あれ』については何も知らないわけか 」

ペトラ「……は?」チラッ






ペトラ「・・・ッ!?」




エルヴィン「壁内とはいえ、現在調査兵団がこのシガンシナ区に未だ留まっている理由」

エルヴィン「それがあの、湖から顔を出している……『鋼鉄で出来た塔』を調査するからだ」







━━━ シガンシナ区・駐屯兵団宿舎 ━━━


オルオ「…… 食事がしたい?」

ドラムカン「駄目か」

まだフラつくとはいえ、半日休んだ俺の体はもう既に1割ほど回復していた。
だがその反動なのか、それとも余程の重症だったのか。

目が覚めた俺は酷く空腹になっていたのだ。


オルオ「この時間なら…駐屯兵団の連中が下で食事してるだろうな」

軽く書類が並ぶ机の上をトントン、と指で鳴らして。

オルオ「行くか、俺もなんか食いたくなったし…」

ドラムカン「フルコースで頼む」

オルオ「舌でも噛んでろ!!」

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