夏野「私とあなたが本気で子作りするならどうすればいいのかしらね」春海『はぁ?』 (294)


春海『どうした、本気で頭沸いたか?』

夏野「お仕置きいっかーい」

春海『ごめんなさい!!』

夏野「いいから考えなさい。どうすれば私たちは赤ちゃんを授かることができるのかしら」

春海『どうすればって……、いや無理だろ』

夏野「お仕置きにかーい」

春海『理不尽だっ!!』

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1374505565

あ、原作よりは二人の中が進展してる設定です


夏野「種族の壁は私たちの愛の力でどうにかなるとして」

春海『どうにかなっちゃうの!? そこ一番の難題だろ!?』

夏野「具体的に言えば私の編み出したセルフ遺伝子操作で」

春海『そんなことまでできるの!? いや、前からこいつなんでもできるなーって思ってたけどさ!』

春海『さすがにそこまでとは思ってなかったよ! もはや人間離れしてるとかじゃないよね。神の領域に突入しちゃってるよね』

夏野「そんな、女神の霧姫に挿入だなんて……」

春海『都合のいい耳だな、おい 』


夏野「どうやら、この愚犬は私のことを甘くみているようね」

春海『甘くも何もそんなことできる人間がいるなんて普通考えねぇよ』

夏野「私の愛がその程度のことで挫折するとでも思っているの?」

春海『あ、愛って……。なんだよ、いつになく積極的だな……』

夏野「SSでくらい素直になろうかと思って」

春海『メタ発言すんなよ!』


夏野「とにかく、この愛の戦士秋山忍に不可能はないのよ」

春海『いつから戦士にジョブチェンしたんだよ。秋山忍は作家だろ』

夏野「作家と書いて戦士と読む」

春海『強敵と書いて友と読むみたいに言うなよ……。というか、愛の戦士ってなんだ愛の戦士って。セーラー服来て戦うような歳でもないだろ』

夏野「月に代わってお仕置きよんかーい」

春海『なんか増えてる!?』


夏野「……あなたが人間の姿に戻れたら、それが一番手っ取り早いのだけどね」

春海『それは……ダメだろ。俺はもう死んだんだ』

春海『今のこの状況だって奇跡みたいなもんなんだし、これ以上贅沢なんて言えねぇよ』

夏野「そうね……。ごめんなさい」

春海『お前が素直に謝ると気持ち悪いな』

夏野「あ゛ぁ゛!?」

春海『ひぃっ!? ごめんなさい!』

夏野「なによ……。私だってほんとに悪いと思った時くらい……」プツブツ

春海『わ、悪かったよ……。許してくれ』ペロペロ

夏野「んっ……。もう、仕方ないわね……」ニヘラ


夏野「まずさしあたっての問題はあなたのナニよね」

春海『婦女子がナニとか言うな!』

夏野「だって、こればっかりは避けて通れないじゃない」

春海『そりゃそうかもしれんが……』

夏野「やっぱり発情期とかあるのかしら」

春海『どうだろうな。まだこの体に入って一年も過ごしてないし、正直よくわからん』

夏野「ねぇ。あなた、その体になってから勃起はした?」

春海『っ!? だからなんでそんな恥ずかしげもなく!』

夏野「で? どうなの?」

春海『ぐっ……』

夏野「ふーん……。したのね?」

春海『な、何この羞恥プレイ……。いつもとテイストが違うから和人困っちゃう』


夏野「まぁ、あなたのことだからどうせ読書中のことなんでしょうけど」

春海『ヤバい、俺の赤裸々な性事情まで把握されちゃってるよ』

夏野「そうね……。女としては心底癪だけど、これしかないのかしら……」

春海『え……?』

夏野「ちょっと待ってなさい、駄犬。お座り」

春海『俺は犬じゃねぇ! いや犬だけど』チョコン

夏野「そう言いながらお座りはするのね」


……………………
………………
…………

夏野「待たせたわね」

春海『全くだ。このお座りの体勢、意外と辛いんだぞ』

夏野「それはあなたが元人間だからじゃないの?」

夏野「っと、それよりも……。あっ! あんなところに『色欲』が!」

春海『何!?』クルッ

夏野「はっ!」シュババ

春海『って、そんな訳……』クルリ

春海『ぬぁっ!? なんか縛られてる!? いつのまに!?』

夏野「秋山忍流速縛術よ」

春海『いやいくらなんでも限度があるだろ! 全然気がつかないってどんだけだよ!』


夏野「さて……」ジリッ

春海『え……? や、ちょ、ちょっと待って? なんか顔が怖いんですけど』

夏野「心配しなくてもいいわ。あなたは本を読んでいるだけでいいの」

春海『ほ、ほんとか? それなら縛る必要なくない? というかこれじゃ読めないじゃないか』

夏野「いいから……。ちょっと仰向けになりなさい」ヌギッ

春海『夏野になされるがままってこれ以上ないくらい怖いんだけど……』


夏野「黙って従いなさい」ノシッ

春海『ん……? あれ、いつの間に裸に……いやそれよりマウントポジションとられてる!? 殺される!?』

夏野「マウントって……。ムードの欠片もない言い方しないでくれる? き、騎乗位と言いなさい」

春海『は……?』

夏野「ほら。私が持っていてあげるから、あなたはこれでも読んでその粗末なものを準備なさい」

春海『そ、それは秋山忍初のBL作品、『白い執事とアラブの王』!? た、確かにかつて俺はそれでおっきしてしまったが……』

春海『というか! 犬の姿でBL小説読みながら女とSEXって業が深すぎるだろ!!』


夏野「あぁ……、やっとあなたと繋がれる」

夏野「今日からあなたは夏野和人。いい?」

春海『いや、それはいいんだがこの状況は……』

夏野「んっ……。見て、もうこんなに……」ニチャ

夏野「さぁ、私たちのデート(意味深)を始めましょう?」

春海『あっ、やっ、ら、らめぇぇぇぇぇぇ!!』


……………………
………………
…………

春海『……はっ!』

チュンチュン…チュンチュン…

春海『これはまさか……朝チュン? 朝チュンなのか?』

春海『ということは隣に夏野が寝て……ない?』

春海『夏野……? おーい、夏野ー! どこだー?』

トントントン…

春海『あぁ、なんだ台所か。まぁもう朝だしな』

春海『しかし、この状況ってなんか新婚夫婦みたいでこそばゆいな……』

春海『よし。ちょっとからかってやろう』


春海『夏野ー、今日の朝飯……は……』

カラ…カラ…

春海(夏野が鍋を混ぜている。それはいい。実に微笑ましい日常風景だ)

春海(だが、夏野の目が虚ろになっている……? しかも何かを煮ている割には鍋から湯気一つ出ていない)

春海(あれ? これってあれじゃね? いわゆる空鍋じゃね?)

春海『あ、あのー。夏野……さん?』

夏野「……」カラ…カラ…

春海『つかぬことを伺いますが、昨日はその……致したんですよね……?』

春海『読書に集中しすぎてちょっと途中から記憶が曖昧ではあるんですけど、昨夜はお楽しみだったんですよね……?』

夏野「……」カラ…カラ…


春海『ま、まさか俺勃たなかったとか!?』

夏野「不能なら、まだマシだったわ」

夏野「……かなかったのよ」

春海『え……?』

夏野「届かなかったのよ……! ミニチュアダックスの粗チンじゃ届かなかったの!」

春海『』ガーン

夏野「EDならまだ治療の余地があるのに……。元が小さかったらもうどうにもならないじゃない……!」

春海『え、いや、ちょっと待って? なんか、すっごい傷つく』


夏野「こうなったら、直接採取して人工受精しか……」

春海『採取……? あの、採取って言い方止めてもらえません?』

夏野「搾り取ってあげるわ」ジャキン

春海『百歩譲って俺の何かを搾り取るとしても、ハサミは必要ないよね?』

夏野「これは昨日のお礼よ」

夏野「あれから、お預けを食らって火照った体を静めるのにどれだけ……!」

夏野「……さぁ、私たちのデッドを始めましょう?」

春海『い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』


という訳で超絶人気アニメ『犬とハサミは使いよう』のSSでした
一応これからも短編集的にいくつか投下しようと思ってますが、もしかしたら一週間後にはしれっとHTML化依頼出してるかもしれません

アニメ3話までしか見てないんだけど夏野から主人公犬への好意ってどんな感じなんだ

>>19
割とベタぼれ

個人的な解釈ですけど、体はって助けてくれたヒーローに
「この人素敵!キュンッ!」
ってなるはずが主人公死んじゃって、それが自責の念と中原への復讐心染みた感情になって
でも結局主人公本人に許されたから無事恋心になったって感じじゃないかと

まぁ、原作でもどこに惚れたいつ惚れたって明言されてないから、不自然なデレって言われても仕方ないと思いますけどね


行きます!

「犬とトイレは使いよう」


犬が夏野の家に来た日

夏野「あなた、トイレはどうするの?」

春海『え?』

夏野「トイレよ、トイレ。あのアフロのところではどうしていたの?」

春海『どうするも何も……。泣く泣くアフロの用意する犬猫用のやつにしてたよ』

夏野「そう。無様ね」

春海『喧嘩売ってんのか!』

夏野「喧嘩、する?」ジャキン

春海『遠慮します……』


夏野「じゃあ、ここでもシートを敷いて……」

春海『ん? 夏野?』

夏野「待ちなさい。それって家の中で犬畜生が糞尿を垂れ流すという訳……?」

春海『垂れ流すって……。そんな節操無しじゃねぇよ』

夏野「堪えられない。そんなの堪えられないわ」

春海『……まぁ、確かに普通の犬ならまだしも、元人間のだしなぁ』

夏野「……」

夏野「決定しました。あなたには人間同様便器を使用することを義務づけます」

春海『マジ?』

夏野「マジ」


春海『いや、そりゃ俺だってそうしたいけど……。実際この体じゃ無理だろ』

夏野「やってみないとわからないじゃない」ガシッ

春海『ちょっ、夏野さん、それ犬を抱くときの抱き方じゃないですよ。というかもはや鷲掴みしてますよ』

夏野「文句があるなら手を離すわよ」

春海『やめて! この短足に慣れたせいで人間の目線の高さ結構怖いの!』

春海『というか、どこに連れていくんでしょう?』

夏野「どこって、話の流れからしてトイレしかないでしょう?」

夏野「嬉し恥ずかし調教タイムよ」

春海『い、嫌……、調教いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


夏野「とうちゃーく」

春海『くっそ、なんだこのハイテク便器。住谷荘のボロ便所とは大違いじゃねぇか』

夏野「さて、排泄犬。下ろしてあげるから、その便器に登ってごらんなさい」

春海『お、おう』スタッ

春海『って、これを登るのかぁ。猫じゃないんだから……』

夏野「つべこべ言わない」

春海『へーへー』


便器ドーン

春海『うーむ。後ろ足で立てばなんとかなるか……?』

春海『よっ! ほっ!』スクッ

夏野「へぇ。犬のくせにやるじゃない。ほらあんよは上手、あんよは上手」

春海『噛みつかれたくなかったらそれ止めろ』

夏野「あなたは私のハサミに噛みつかれたいようね」ジャキン

春海『ごめんなさいもう生意気言いません!!』


……………………
………………
…………

春海『や、やっと……、登れた……』ゼェ…ゼェ…

夏野「はーい、お疲れー」

春海『でもこんなに時間かかってちゃ、どのみち垂れ流しちまうよ』

夏野「それもそうね……。仕方ない、次から私が持ち上げてあげるから、感謝なさい」

春海『は……?』

夏野「は、じゃないわよ。感謝しなさいと言っているの。とうとう人間の言葉が分からなくなってしまったの?」

春海『い、いや、それって俺がトイレに行く度にお前に手伝ってもらわなきゃいけないってことじゃん!』

夏野「あら、何をいまさら。それとも、私みたいな美少女に下のお世話をされるのは不服かしら」

春海『美“少女”……?』

夏野「はいドーン!」

ドボン!


春海『ちょっ、ここ便器! 汚いから!』バシャバシャ

夏野「私の使ってるトイレが汚いとでも?」

春海『誰が使ってても汚ぇよ!!』

夏野「あなた、もうそこに浸かって用を足せばいいんじゃないの?」

春海『馬鹿にするのも大概にしろ!』

春海『ていうか助けて! はまって上れない!』バシャバシャ

夏野「嫌よ、便器に落ちた犬になんて触りたくもない」

春海『さっきと言ってることが違うぞ!!』


……………………
………………
…………

春海『シャワー浴びてきましたよっと』

夏野「あなた、犬のくせに無駄に器用よね。本読んだり後ろ足で立ったり、今なんか自分で体洗ってたし」

春海『ミニチュアダックスのポテンシャルなめんなよ』

夏野「ま、そのミニチュアダックス様も私の手を借りないとトイレすらできないんですけどね」

春海『ぐぬぬ……!』


夏野「はい、今度は乗せてあげたんだから、さっさと用を足してみなさい」

春海『は……?』

夏野「は、じゃないわよ。用を足しなさいと言っているの。とうとう日本語すら分からなくなってしまったの?」

春海『そのやり取りはもうやった! 用を足すって、お前の見てる前でかよ!?』

夏野「何? 犬の分際で一丁前に恥ずかしいとでも?」

春海『男は見られてると出なくなるんだよ!』


夏野「全く、こんなことまで手伝わなきゃいけないなんて、めんどくさい犬ね」ジャキン

春海『て、手伝うって、ハサミ持って何を……?』

夏野「いえね、ちょっと失禁させてあげようかと思って」

春海『俺の人間としての尊厳を賭けて言う! 失禁なんて断固拒否だ!!』

夏野「そう……。残念だわ」

春海『本気で残念そうな顔すんな!』


夏野「で? しないの?」

春海『ぐっ……』

夏野「ここでできるってことを証明してもらわないと、これからはトイレに行く度に外へ行ってもらうことになるわよ」

春海『飼い犬の糞は飼い主の責任だぞ!』

夏野「あら、私はあなたの飼い主なの? ならご主人様と呼んでもらわないと」

春海『容赦ないなこんちくしょう!』

夏野「あー、でもちゃんとトイレできないなら本当に追い出すしかないわねー。そうなったら本も読めなくなっちゃうけど、仕方ないわよねー」

春海『ぐぬぅ……』

春海『……わかったよ、やるよ』

春海『やってやるよぉぉぉぉぉ!!』

~しばらくお待ちください~


……………………
………………
…………

春海『もうダメだ……。お嫁に行けない……』

夏野「元々行けないでしょ」

春海『鬼! 悪魔!』

夏野「なんとでも言うがいいわ、恥犬」

春海『貧乳! 無乳!』

夏野「秘剣! 飛飯綱!!」キィン!

春海『ペグッ!?』

春海『ちょっ、えぇぇぇ!? なんであえてそれ!?』

夏野「そこなのね、つっこむところ」


春海『ほら、もう証明できただろ。こちとら早く本を読みたいんだ』

夏野「まだダメよ」

春海『なんでだよ! 俺は読素が足りなくて死にそうなんだよ!』

夏野「急にキレないでよ、気持ち悪い。これだから最近の若者は……」

春海『流石年増が言うと重みがぷげらっ!?』ガシッ

夏野「なぁんかよく聞こえなかったわねぇ? もう一度言ってもらえるかしらぁ?」

春海『ひっ……! な、ななな夏野さんも若者じゃないですかって言ったような言ってないような……?』

夏野「はい、ギルティー」

春海『やっぱダメかー!』


夏野「判決、死刑!」

春海『え、え? な、何するの?』

夏野「何って、洗うのよ」

春海『何を……?』

夏野「ナニを。だいたい、おしっこ垂れ流しておいてそのまま部屋に戻らせてもらえると思ってたの?」

春海『い、いや、ちゃんとまたお風呂場にでも行って……』

夏野「そんなことしなくても、ちょうどいいのがあるじゃない。ここに」

春海『べ、便器に流すとか言いませんよね……?』

夏野「そんなひどいことしないわ。もっといいのが、ね? ぽちっとな」ポチッ

ウィーン

春海『あ、ウォシュレットか……。これならまぁ……』


便座『波動砲への回路開く。セーフティ解除』

春海『え……? 波動砲!?』

夏野「この秋山忍のトイレが普通のトイレな訳ないじゃない」

春海『いやいやいや! トイレに波動砲なんていらないだろ!?』

便座『強制注入機作動を確認。最終セーフティ解除』

夏野「ひょっこりやってきた泥棒が便意を催すかもしれないでしょう? そういう時のために、私がいない時はオートで作動するようにしてるの」

春海『あっぶね! 俺知らないうちに作動させるかもしれなかったじゃねぇか!』


便座『ウォシュレット内、タキオン粒子圧力上昇。86……97……100。エネルギー充填120%』

春海『って今まさに作動してるよ! 俺浮遊大陸よろしく消されようとしてるよ!』

春海『そして夏野がいない!!』

夏野「作動したらトイレのドアも開かなくなるから気を付けてね」

春海『てめぇ、いつの間に外に! っていうか遅いわ!!』

便座『発射10秒前、9……8……7……6……』


春海『や、やめて、とめて……! 夏野さん!』

便座『3……2……1』

夏野「波動砲、発射!」

ピシャァッ!キュゴゴゴゴゴ!!

春海『ノリノリじゃねぇかぁぁぁぁぁ!』

ドォォォォォン!

夏野「……まぁ、本当にただのウォシュレットなんだけどね」

春海『手の込んだイタズラすんな……よ……』ガクッ


はい、という訳で大ヒット間違いなし超絶人気アニメ『犬とハサミは使いよう』のSS第二段でした

円香とかも出していいんだろうか
でもアニメ組の人のネタバレになったらあれだし……


ありがとうございます
気にしないと言ってくれた人がほとんどだったんで今回は円香出してみました
大したネタバレはないようにしましたけど、一応ネタバレ注意としておきます


円香「和兄! 遊びにきたよ!」

春海『おぉ、円香! よく来たな……と言いたいところだが最近お前は夏野の悪影響を受けすぎているからすぐ帰るんだ』

円香「もう、和兄ってばそんなに私に会えて嬉しいの?」

春海『嬉しいけど違う! 俺はお前に普通に育ってほしくて……』

夏野「聞こえてるわよ、駄犬」

春海『ふっひぃっ!?』

夏野「いらっしゃい、円香」

円香「夏野さん!」

春海『あぁ、また円香が凶暴化する……』


夏野「学校はどう? 友達はできたの?」

円香「うん! ちょっと変わった子だけど、毎日楽しいよ」

夏野「そう。よかった」

春海『ほんとよかった。円香もちゃんと前に進めてるな……』

円香「あ、そうだ! 今日は和兄に新作カレーをご馳走しにきたんだったよ~」

春海『逃げること風の如し!!』ダッ

夏野「どこへ行くつもりかしら、愚犬」ガシッ


春海『離せ! 俺はまだ死ねない……!』

夏野「もう死んでるじゃない」

春海『兄として、妹を殺人犯にする訳には……!』

夏野「今のあなたなら器物損壊だから安心しなさい」

春海『う……うわぁぁぁぁぁ!』ジタバタ

夏野「えぇい、神妙にしなさい!」ジャキン

春海『うぅ……。もうあのカレーは嫌だぁ……』シクシク

夏野「実の妹に対してあんまりだとは思わないのかしら」


春海『夏野! 頼むからあいつにきちんと料理を教えてやってくれ!』

夏野「私が?」

春海『一生のお願いだ! 頼む!』

夏野「い、一生の……。そ、そうね、将来的には義妹になるんだし、それくらいはしておかないとね……」ブツブツ

円香「今すごーく不穏な言葉が聞こえた気がする……」

円香「まぁ、それはともかく……。夏野さん、キッチン借りてもいい?」

夏野「え、えぇ……。ねぇ、今日は一緒に料理をしない?」

円香「え? どうして?」

夏野「そろそろカレー以外にも作れるものがあった方がいいでしょう? 私が教えてあげるから」

円香「うーん……。でも私、何作ってもカレーになっちゃうんだよねぇ」

春海『前にも聞いたがそれは一体なんの呪いなんだ。タタリ神でも殺したのか』


夏野「まぁ、物は試しと思って……ね?」

円香「……うん、わかった。じゃあ、お願いしようかな。料理対決の時も夏野さんすごく上手だったし」

春海『ほっ……。ようやく円香が普通の女の子になってくれるな……』

円香「何を作るの?」

夏野「そうねぇ。どう間違ってもカレーにならないものがいいわよね」

春海『最初だし簡単なやつだな』

夏野「比較的具材を選ばないチャーハンなんてどう?」

円香「チャーハンか……。和兄、チャーハン食べたい?」

春海『円香の作った(正常な)ものならなんでも食べるぞ!』ワンッ

円香「そっかそっか。じゃあ、チャーハンにしてみようかな」


円香「円香と!」

夏野「霧姫のー」

春海『三分暗黒料理合戦ー! って料理合戦かよ!?』

夏野「一人で何を言っているのよ。あなたは向こうで本でも読んでなさい」

春海『……本当に任せたぞ、夏野』

夏野「任されよう」

春海『お前は映画のジャイアンか』

夏野「うるさいわね、早く行きなさい。シッシッ」

春海『なんだよー。連れないなー』


春海『とは言え俺だって気になるし……。声だけでも聞こえるかな?』コソコソ

夏野「カレーの材料を持ってきたのよね?」

円香「うん。ルーとニンジン、玉ねぎ、ジャガイモに豚肉……あと隠し味」

春海『円香が言うと隠し味という言葉に恐怖しか感じないな』

夏野「ジャガイモはちょっとチャーハンには合わないんじゃないかしら……。ルーもまた今度にして、他は使えそうね」

円香「うん。じゃあまずは……」

円香「『鮪喰・零式(マグロイーター・タイプゼロ)』、君に決めた!」ギュィィィィン!

春海『必要ない! それは必要ないと思うなお兄ちゃんは!』

夏野「うるさいわよ馬鹿犬!」


夏野「フライパンを火にかけて、と」

夏野「円香、材料をみじん切りにしてもらえる?」

円香「うん。……いくよ、『鮪喰・零式』!」ギュィィィィン!

円香「はぁ! うりゃっ! この!」

ズバッ、グシャッ、ドシュッ

春海『効果音がすこぶる不安を煽るんですけど……』

円香「フハハハハ! 見ろ、具材がゴミのようだ!」

春海『料理中にそれだけは言っちゃダメだろ!』


夏野「次は卵ね。卵は割れる?」

円香「もう、馬鹿にしないでよ夏野さん。それくらいできるよ」

円香「今度はあなただよ、『鮪喰・無限(マグロイーター・アンリミテッド)』。全自動卵割りモード!」

春海『えぇぇぇぇ!? そんな機能まであんの!? というかそれで割るのはできるって言わないんじゃないかな!?』


円香「ちぇりお!」

ドグシャッ

春海『今の音確実に卵潰してるよね!』

夏野「へぇ、やるじゃない。殻だけを跡形もなく粉砕、さらにその衝撃で卵を撹拌して混ぜる手間を省いたのね」

円香「えへへ、そんなところだよ」

春海『できたの!? 今ので!? 俺の妹は波紋呼吸法でも会得してるの!?』


夏野「じゃあ卵を入れて……。半熟になる前くらいにご飯を入れるのよ」

円香「うーん、これくらいかな?」

夏野「そうね。入れましょうか」

春海『ふぅ。一時はどうなるかと思ったが、案外うまくいきそうだな』

夏野「ご飯を入れたらかたまらないようにほぐしながら炒めること。ほぐれてきたらまず長ネギ、それから他の具材を入れていくの」

円香「はーい。ふんふーん♪ 痛くなればなれば強い~♪」

夏野「……円香、その歌はやめてもらえるかしら」

円香「どうして? 私たちの歌だよ?」

夏野「冷静に考えると恥ずかしいというか……」

春海『お前もノリノリだったじゃないか。なんだっけ? 『素敵なお話作りましょー!』だっけ?』

夏野「……狩りの時間よ、ハサ次郎。お仕置きターイム!」ダッ

春海『いやぁぁぁぁぁ! こっち来たぁぁぁぁぁ!!』


……………………
………………
…………

円香「完成だよ~!」

夏野「そ、そうね……」

春海『なんだよ、さっきまで嬉々として俺を追い回してたくせにそんな顔して』

夏野「……まぁ、見ればわかるわ」

円香「はい、和兄。いっぱい食べてね」

春海『こ、これは……!』

春海『犬の鼻を痛いほどくすぐるスパイシーな香り、目がちかちかするほど刺激的な赤……』

春海『カレーじゃねぇか!』

春海『カレーじゃねぇか!!』

夏野「大事なことだから二度言ったわね」


春海『なんで!? チャーハン作ってたじゃん! カレーのかの字もなかったじゃん!!』

夏野「でもほら、ライスはチャーハンなのよ」

春海『あ、ほんとだ。じゃあこれはカレーライスじゃなくてカレーチャーハンだね! わーい!』

春海『じゃねぇよ!! 俺はルーの出所を聞いてるんだよ!!』

夏野「私があなたとじゃれている一瞬の隙にこんなことに……。春海円香、侮りがたしね」

春海『あそこからどうやったらカレーができるんだよ!』

夏野「見てみたけど、円香が持ってきたルーもちゃんと減ってたのよね……。あの子があれから煮込んだとしか……」

春海『俺とお前がデッドチェイスしてたのはたかだか数分だったろ!? 無理だろ!!』

夏野「でもこう実際に出されるとね……」


円香「もう、和兄さっきからそわそわしてどうしたの?」

春海『自分の命を案じているんですよ』

円香「そっか! 早く食べたいんだね?」

春海『神様! 今だけでいいから俺の声を円香に!』

円香「ふふっ、嬉しそうにしちゃって。ちょっと待ってね? ふー、ふー」

春海『そ、そうだ。まだ普通のカレーである可能性が残ってるじゃないか。そうだよ、そうにちがいないHAHAHA』

夏野「ついに現実逃避したわね」

円香「和兄! はい、あーん」グイッ

春海『ぶこらぼっ!?』モグッ

春海『あっ……』


……………………
………………
…………

円香「さすが和兄! 完食だね!」

春海『ソウダネ。完食ダネ』

円香「こんなことならおかわりも作っておくんだったかな?」

春海『いらないいらないいらない!!』

円香「もっと欲しかったって? うん、次からは多めに用意するね!」

春海『いらないいらないいらないいらない!!』


春海『ていうか何!? 何が入ってたの!?  明らかに豚肉じゃない肉が入ってたけど!?』

夏野「……ねぇ、円香。隠し味ってなんだったの?」

円香「えっと……、ふ○っしー」

春海『ふな○しー!? 俺ふなっ○ー食ったの!? 嘘だろ!?』

円香「あとくま○ん」

春海『う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!! 俺はなんてものを食ってしまったんだぁぁぁぁぁ!!』ダッ

夏野「ま、待ちなさいお食事犬!」

春海『汚職事件みたいに言うなっしー! ってやっべ、なんか移ってるなっしー!?』

春海『梨汁ブッシャァァァァァ!!!』

春海『ヒャッハァーーーーッ!!』ブォンブォンブォン

夏野「……せめて私の手で引導を渡してやるのが優しさかしらね」ジャキン

春海『ふざけるなっしぃぃぃぃぃぃぃ!!』

その日の新稲葉には血しぶき……もとい、梨汁が降り注いだとか降り注がなかったとか


という訳で全米が泣いた!大ヒット間違いなし超絶人気アニメ『犬とハサミは使いよう』のSS第三段でした

やっと下ネタ以外を書けた……
まだアニメであんまり出てないキャラも出していいですか……?

題名忘れてた
「犬とカレーは使いよう」でした

どうでもいいか


行きます

アニメでまだちょっとしか出てないキャラがいるので一応ネタバレ注意

「犬とアイドルは使いよう」


春海『……ふぅ。読み終わった……』

春海『いやぁ、いい作品だった。秋山忍はもちろん最高だが、やっぱり秋月マキシも素晴らしい』

春海『読者のことをよくわかってるって感じで、読んでて楽しいな』

夏野「ふーん。白いののことずいぶん誉めるじゃない」

春海『なんだよ、今読後の余韻に浸ってるんだ。邪魔するなよ』

夏野「ついでに人生の余韻にも浸ってみる?」ジャキン

春海『浸ってる! 今まさに浸ってるところだから!!』


夏野「全く、私の前では秋山忍の本の感想なんてほとんど言わないのに他の作家のことはペラペラと……。とんだ浮気犬ね」

春海『本人の前で改まって言うとなると恥ずかしいんだよ……。マキシのことだといざあいつがいたって聞こえないから言いやすいし』

夏野「どうだか。最近は姫萩紅葉にもご執心のようだし? 心変わりしたんじゃないでしょうね」

春海『……あのな、俺は死んでも生き返るくらいお前の本が好きなんだ。そう簡単に心変わりなんてする訳ないだろ』

夏野「じゃ、じゃあ……わ、私を愛してるって言いなさい」

春海『はぁ? なんでだよ』

夏野「なんでもよ! いいから、言いなさい!」

春海『なんなんだ急に……。愛してるよ』

夏野「~~っ///」

春海『秋山忍をな』

夏野「……は?」

春海『は、って。お前が言わせたんだろ』

夏野「こっ……、この鈍犬!」ズバッ

春海『なんで!?』


夏野「……って、違うわよ。馬鹿犬の相手をしている暇はないんだった」

春海『できれば斬りかかる前に思い出してくれませんかね、それ』ボロッ

夏野「ちょっとでかけてくるわ」

春海『出不精のお前が? 珍しいこともあるもんだな』

夏野「姉さんと会うのよ。急に呼び出して、何様のつもりなのかしら」

春海『ついに逮捕状が出たんじゃねぇの』

夏野「お仕置きが足りなかったようねぇ?」

春海『足りてる! 十分すぎるくらいだから!』

夏野「それで、あなたも来る? そろそろ紹介しないといけないし」

春海『残念だが俺にはまだ読書ノルマが残ってるんで。姉妹水入らずで過ごしてこいよ』

夏野「そう……。ま、まぁ、確かに紹介するのは両親も一緒にいた方が都合がいいものね……」

春海『なんの紹介!?』


夏野「それじゃあ私一人で行ってくるけど、留守番は頼んだわよ」

春海『へいへい。まぁ、このマンションに侵入できるようなやつなんて……』

春海『……結構いるなぁ』

夏野「その時は命に替えてでもこの家を守りなさい」

春海『いや、普通に隠れますけどね』

夏野「はぁ……。番犬にもならないなんて、役に立たない犬ね」

春海『こんなところに侵入できる時点で犬の俺に対処できる範囲超えてるから。まぁ、そいつが本に手を出したら話は別だけど』

夏野「ほんっとにこの読書バカは……。まぁいいわ。行ってきます」

春海『おう』


(ふふふ……。行ったようね、あのハサミ女は)

(私が家に潜んでいることに気づかないで出かけるなんて、黒いのもまだまだ甘いわね!)

(この私がこんな隠れるような真似をするのは本意じゃないけど、これも黒いのの弱点を握るためよ)

(昨日のライブで輝きに輝いたおかげで今の私はオーバーシャイニング状態。輝きすぎてもはや輝いてないわ!)

(今ならあの黒いのの寝首をかくこともできたけど、それはフェアじゃないもの)

(でも、正々堂々の戦いの中で弱点を突くのはアンフェアではなく戦略! あぁ、有利な状況でも公正を考える私、輝いてる!)

(さぁ、今こそ黒いのの弱点を暴いてやるわ!)

マキシ「このベストセラー作家にしてスーパーアイドルである秋月マキシ様がね!」バッ

春海『えっ』

マキシ「えっ」

『「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」』


春海『早っ! 侵入者早っ!』

マキシ「しまった……! この家には恐ろしい悪魔がいることをすっかり忘れていたわ……!」

春海『な、夏野ー! カムバック夏野ー!』

マキシ「あぁ、でもそんなうっかりさんなところも輝いてる! 私! むしろこの逆境で早くも輝きを取り戻し始めているわ!」

春海『い、いや待て。マキシは犬が苦手だったはず。俺でも対処できるか……?』

マキシ「すごい! 私どんどん輝いてる! オーバーシャイニングだった反動ね! オーバーオーバーシャイニングね!」

春海『なんかあいつもテンパって変なこと言い始めたし、やるなら今しかない!』

マキシ「今なら犬なんて怖くない気がしてきたわ!」

春海『くらえ! ハウリング!!』ワンワンッ!

マキシ「くらいなさい! エネルギー! 全・開!! BM(ブリリアントマキシ)粒子砲!!」ピッカー!

『「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」』


春海『目が! 目がぁぁぁ!!』

マキシ「ほ、吠えた! 吠えたぁ! もうやだぁ!」

春海『くっ……。落ち着け、俺。Be cool、春海和人』

春海『こいつは言動こそおかしいが盗みとかするような奴じゃない。またなんか厄介なこと考えてはいるんだろうけど……』

春海『どうせ気がすめばすぐ帰るだろうさ。こいつだって暇じゃないはずだ』

春海『大門さんも迎えにくるかもしれないし、ここはそっとしておくのが吉。触らぬマキシに祟りなしだ』

春海『よーし、そうとなれば読書スペースに帰ろう。読むぞー! 超読むぞー!』


マキシ「うぅ……。やっぱり犬怖い」

マキシ「い、いや何言ってるの!? この輝ける私に怖いものなんてないわ! これは……そう! ちょっと油断しただけよ!」

マキシ「この私を油断させるなんて、さすがはあの黒いのの飼い犬と言ったところかしら。でもまだまだよ!」

マキシ「私を倒すには遠く及ばなかったようね! さぁ、今度こそ世界を包み込む私の輝きで蹴散らしてあげる!」クルッ

マキシ「っていないし!!」

マキシ「はっはーん。さてはこの私の輝きに恐れをなして逃げたのね?」

マキシ「やっぱり私に敵はないようね! 天上天下唯我独尊、秋月マキシフォーエバー!!」

マキシ「そうとなればさっそく黒いのの弱点の捜索開始よ!」


マキシ「とは言ってもさすがに家捜しみたいなことは気がひけるわね……」

マキシ「うーん、どうしたものか……。とりあえずリビングにでも行ってみましょうか」

スタスタ…

マキシ「……ここはおトイレかしら。まぁ、アイドルの私には無縁の場所ね」

マキシ「それに、なんだかここには入っていけないと私の輝ける脳内センサーが言っている……」

マキシ「あの黒いののことだもの。トラップか何かがあるに違いないわ!」

マキシ「しかし! それを正面から突破してこそ真の勝利は訪れるというもの!」

マキシ「いざ鎌倉!!」

ガチャッ


マキシ「……なんだ、普通のトイレじゃない。張り切って損した……」

便器『波動砲への回路開く。セーフティ解除』

マキシ「は、波動砲!? ちょっと、洒落にならないじゃない!」

マキシ「早く出て……って開かない!?」ガチャガチャ

便器『ウォシュレット内、タキオン粒子圧力上昇。87……96……100。エネルギー充填120%』

マキシ「くっ! 卑怯なり秋山忍!!」

便器『発射10秒前。9……8……7……6……』

マキシ「い、いや……! やめて……」

便器『3……2……1』

マキシ「いやぁぁぁぁぁぁ!!」


……………………
………………
…………

マキシ「ひどい目にあったわ……。AT(秋月マキシトレビアン)フィールドがなければどうなっていたことか」

マキシ「リビングはここかしら……?」ガチャッ

春海『げっ、こっち来やがった』

マキシ「うっ! い、犬……! いや、大丈夫よ! さっきすでに打ち破ったじゃない!」

春海『いつの間にか負けたことになってるる? いや別にいいんだけど』

マキシ「……あれ? あなた、それ……」

春海『ん? あぁ、そうか。そういえばこいつの前で本を読むのは初めてかもしれないな』

マキシ「犬のくせに本なんて読むのね……。変な犬」

春海『失礼な。本を読む権利は一切衆生にすべからく与えられるべきものだろ』

マキシ「犬って何を読むのかしら……。どれどれ……って、これ……」

マキシ「私の『君に会いたい、もしくはカピバラに会いたい』……?」


春海『あぁ……。さっき秋月マキシの新刊を読んだから、今までのも読みたくなったんだよな』

マキシ「そっか……。あなたも私の読者……」

春海『秋月マキシの本はデビュー作から最新刊まで全部読んでるぞ』

マキシ「……よし! やっぱり私犬嫌い止める!」

マキシ「お、おいで……?」スッ

春海『お、おい。お前、犬が苦手なんだろ? 無理して抱っこなんてしなくても……』

マキシ「大丈夫……大丈夫……! 怖くなんかないわ……!」ブルブル

春海『よせって! 震えてるじゃねぇか!』

マキシ「この秋月マキシが……! 自分の読者を……ファンを怖がるなんてあっちゃいけないんだから……!!」

春海『マキシ、お前……』


……………………
………………
…………

マキシ「……」ギュッ

春海『もう震えてない……。克服したのか……?』

春海『作家としてもアイドルとしても自分の読者と、ファンと真正面から向き合う。それが秋月マキシのやり方……か』

春海『大したもんだよ、ほんと……』

マキシ「ねぇ、あなたは私の本のどこが好き?」

春海『そりゃあ、挙げればキリがないけど……。やっぱり読者を第一に考えてくれてるから読みやすいし、もちろん話も最高に面白い。それから(ry』ペラペラ

マキシ「うーん……。何言ってるかはわかんないけど、なんとなくわかる気がする」

マキシ「あなたはきっといい子だ」

春海『……聞いてなくても、やっぱり恥ずかしいな』


マキシ「あなた名前はなんていうんだろう。今度あの黒いのに聞いておかないといけないわね」

マキシ「よし! 今日は小さなファンとの出会いを祝してゲリラライブよ!」

マキシ「黒服!」パチン!

「「「YES!! マキシ様の言う通り!!」」」

春海『え、ちょっと、おい。ここ夏野の家なんだけど?』

マキシ「A班は即席ライブ会場の設営! B班は私を照らす照明の設置! C班は私をひたすら褒め称えなさい!」

「「「YES!! マキシ様の言う通り!!」」」

春海『C班いらねぇじゃん!』

春海『ってもう会場できてる!? 早っ!』

マキシ「いくわよ、わんちゃん! まずは一曲目、『レモネイドスキャンダル』!」

ガチャッ

夏野「うるさいわね、犬。これは何の騒……ぎ……?」

春海『あぁ……。もう駄目だ。これ絶対俺がお仕置きされる流れだ……』


マキシ「く、黒いの!? もう帰ってきたの!?」

夏野「白いの、あなたはいつもいつも人の家で好き勝手に……。いや、今はそれよりも……」

春海『抜き足……差し足……』ソローリ

夏野「こんのぉ……馬鹿犬!!!」

春海『ひぃっ! お、俺何もしてないぞ……?』

夏野「あなたねぇ……! 私がいない間に他の女連れ込んでおいて何もしてないですって……?」

春海『ち、違うって! マキシが勝手に入ってきただけで……』

夏野「問答……無用!!」ジャキン

春海『ひぃやぁぁぁぁぁぁ!!』

マキシ「やめなさい!」バッ


夏野「……何のつもり、白いの」

マキシ「あんたこそ私の大事な読者に攻撃しようだなんて、どういうつもりよ」

夏野「読者……? あぁ、なるほど。そいつがあなたの本を読んでるところを見たって訳ね」

マキシ「そうよ。人だろうと犬だろうと私の読者は私の宝! 危害を加えるのなら容赦はしないわ!」

夏野「でも、その犬はあなたの読者である以前に私の家族よ。躾る権利と義務が私にはある」

春海『ハサミで斬り付けるのは果たして躾と呼べるんですかね』

マキシ「いつかあんたとは決着をつけなくちゃいけないと思ってたわ」

夏野「奇遇ね。私もたった今そう思ったところよ」

マキシ「集え! BM粒子!」

夏野「今宵のハサ次郎は血に飢えているわ!」

「「はぁぁぁぁぁぁ!!」」

バンッ

「「そこまでだ(です)!!」」


春海『な、何が起こったんだ……?』

夏野「変態……」

マキシ「大門……!」

春海『突然鈴菜と大門さんが部屋に入ってきたと思ったら二人の間に割り込んだ……? あの二人の戦いに割って入るなんて、さすがはあいつらの担当編集……!』

大門「マキシ。仕事の時間だ」

鈴菜「えへ、えへへへへ。もっと、もっと斬ってくださいよぉ先生ぇ!!」

春海『あ、変態はいつも通りでしたね』

マキシ「でも、こいつを今……!」

大門「ダメだ。ファンが待ってる」

マキシ「くっ……!」


マキシ「覚えてなさい、黒いの! すぐにその子をここから助け出すんだから!」

夏野「やれるものならやってみなさい、白いの。私だって自分の読者くらい守ってみせるわ」

マキシ「待ってなさい、わんちゃん! 必ず、必ず助けてみせるわ!」

大門「……失礼する」

ガチャッ…バタン

春海『……相変わらず、嵐みたいなやつだったな』

春海『ま、今回はこれにて一件落着。さーて読書に戻ろうかなー』

ガシッ

夏野「待ちなさいこの淫犬」

春海『やっぱりダメですよねー』


夏野「……」

春海『夏野……?』

夏野「……あなたは、本当に秋山忍を一番に愛しているのよね?」

春海『あ、あぁ。もちろんだ。それは、それだけは死んでも生き返っても変わらない』

春海『俺は秋山忍を愛してる』

夏野「……そう。ならいいの」

春海『ゆ、許してくれるのか?』

夏野「えぇ。108斬りで我慢してあげる」

春海『え゛?』

夏野「はい、一回!」ズバッ

春海『ぎにゃぁぁぁぁぁぁ!!』

鈴菜「あっ、あっ! ずるいですよぉ、お犬さん! 先生、私も! 私もぉ!!」

春海『結局こうなるのかよぉぉぉぉぉぉ!!』


という訳で全米が泣いた!大ヒット間違いなし後世に残したい超絶人気アニメ『犬とハサミは使いよう』のSS第四段でした

マキシ様、書いてて楽しい


夏野さん、姉のことお姉ちゃんって呼んでた…
>>67訂正します


レスが少なくても負けない(震え声)
行きます!

「犬とヘルニアは使いよう」


春海『腰が、いてぇ』

夏野「何よ急に」

春海『だから腰が痛いんだよ。なんかジンジンするっていうか……』

夏野「あなた……、もうそんな年なのね……」

春海『おい。なんだよその熟年夫婦みたいな言い方』

夏野「ふ、夫婦だなんて……。別に、そんなつもりじゃ……」

春海『だいたい、そんな年も何も犬の16歳はおじいちゃんなんだぞ。もっと労れよ』

夏野「年下のくせに……」


春海『いや、だからそんなことより腰が痛いんだって』

夏野「年なんでしょ」

春海『なんか病気だって絶対。めっちゃ痛いもん』

夏野「病気って……! あなたどこでもらってきたのよ!」

春海『誰もそんな話してないだろ!?』

春海『なんかさぁ、最近歩くのも辛いっていうか……。後ろ足もちょっとふらふらするんだよ』

夏野「……立ってみなさい」

春海『お、おう……』スクッ

春海『い、言っとくけどほんと痛いんだからな。立ってるだけでも』プルプル

夏野「ふむ……。ちょっと待ってなさい」

春海『た、立ったままで……?』

夏野「いいわよ、座って。お座り」


夏野「待たせたわね」

春海『その手に持ってるのは……、キリペディア?』

夏野「えぇ。調べてみたけど、その症状、どうやら椎間板ヘルニアみたいね」

春海『ヘルニア!? ほんとに年だったのか……』

夏野「ミニチュアダックスは若い時でも発症しやすいらしいわよ。激しい運動や肥満が原因なんですって」

春海『ほーう。たっくさん心当たりがありますねぇ』

夏野「何のことかしら」

春海『とぼけんな! どう考えてもお前が斬ったり投げたり落としたりしてるせいだろ!!』

夏野「決めつけはよくないわよ」

春海『ふっざけんな!!』


夏野「……でも、確かに私にも責任があったわね。ごめんなさい」

春海『お、おう……。わかってくれればいいんだよ……』

夏野「ほんとに……っ! 私のせいで……!」グスッ

春海『えっ!? お、おい、泣くことないだろ!?』

夏野「私がもっと優しくしてあげてたら……っ」ヒック

春海『えっと、えっと……。ほ、ほら! 俺も本担いで本田書店行き来してるし! そのせいかもしれないし!』

夏野「そうね、きっとそのせいよ」ケロッ

春海『謀ったなてめぇ!!』

夏野「あなたもずいぶん古い手に引っかかるわねぇ」つ目薬

春海『人間やない、こいつ人間やないで……』


夏野「ま、まぁ、悪いと思ってるのは本当よ」

春海『じゃあ、これからはもっと俺を思いやってくれよ』

夏野「えぇ。お仕置きもこれからは半分に減らしましょう」

春海『なくせよ!』

夏野「……ともかく、一度病院へ行ってみる?」

春海『病院なぁ。動物病院かぁ。なんだかなぁ』

夏野「何よ、煮え切らないわね」

春海『いや、こう改めて自分は犬なんだなぁと実感するとね。思うところがある訳ですよ』

夏野「病院怖いの?」

春海『怖いというか不安というか……。何されんだろっていうのがね』

夏野「仕方ないわねぇ……。じゃあまずはあのアフロにでも見てもらう? それならまだいくらかマシでしょ」

春海『うーん、そうしようかな……』


夏野「ほら、入りなさい」

春海『このケージに入るのも久しぶりだな』

夏野「この私に運んでもらえるのだから、感謝しなさい」

春海『あの、一応言っておくけど、絶対振ったり落としたりしないでくれよ?』

夏野「それはフリと解釈していいのかしら」

春海『違うわ! 「押すなよ押すなよ」じゃねぇよ!』

夏野「冗談よ、さすがに私もそこまで外道じゃないわ」

春海『だといいんだけど……』


……………………
………………
…………

ペットショップ「IGGY」

春海『この店に来るのも久しぶりだなぁ。アフロにはやたら会うけど』

春海『IGGYよ! 私は帰ってきた!』

夏野「へぇ……。私の家以外に帰るところがあるのねぇ」ジャキン

春海『い、いやいや、俺の帰る場所は夏野さんのところだけです……よ?』

夏野「今帰ってきたって言ったじゃない」

春海『こ、言葉の綾だよ言葉の綾!』

夏野「……まぁ、いいわ。私のところだけって言ってくれたし」

春海『え? なんだって?』

夏野「なんでもないわよ」


バァンッ!

夏野「邪魔するわよ!!」

アフロ「ひぃっ!?」

春海『だからなんでそんな入店早々臨戦態勢なんだよ』

夏野「アフロを見ると切り刻みたくなるのよね」

アフロ「ひひぃっ!?」

春海『完全にサイコバスの思考ですよ、それ』


アフロ「え、えっと、どのようなご用件でしょうか……?」

夏野「ちょっと、この子を見てもらいたくて」スッ

春海『へいアフロ。元気してたか……って今まさに胃に穴が開いてる真っ最中か』

アフロ「クロ! クロがどうかしたんですか?」

夏野「最近腰が痛いって言って……じゃなくて、痛そうなのよ。足もふらついてるみたいで」

アフロ「で、ですがそれなら病院で見てもらった方が……」

夏野「あぁん!?」キッ

アフロ「ひっひぃっ!?」


春海『だから威嚇するなって。ほら見ろ。アフロのアフロがあんなに縮こまって……って斬ったな!?』

夏野「てへぺろ☆(・ω<)」

春海『てへぺろじゃねぇよ! 二十歳すぎてそんなことやっても痛いだけだよ!』

夏野「それはあの人への侮辱になるわよ」

春海『あ! いや、そういうつもりじゃ……』

夏野「言ってはならないことを言ったわね。あなたはあの人に謝るべきよ。謝りなさい。謝って。謝れ。あ・や・ま・れ!」

春海『ご、ごめんなさい! 二十代後半でもかわいいです!』


夏野「……それで。こいつ、どうやら病院に行きたくないみたいなのよ」

アフロ「あ、あぁ……。そういう子はよくいますねぇ」

夏野「だから、動物に詳しくてこいつもなついてるあなたにまず見てもらおうと思ってね。本当に病気なら責任を持って病院へ連れていくわ」

夏野「力づくでもね」ボソッ

春海『怖ぇよ。あと怖い』

アフロ「そうですか……。クロにそんな風に思ってもらえてたなら、助けた甲斐もあったというものですよ」

春海『アフロ……。お前ってやつは……』


アフロ「ケージ、開けてもいいですか?」

夏野「えぇ」

アフロ「じゃあ……。ほらクロ、出ておいで」

春海『呼ばれて飛び出て~ってか。まぁ、飛び出る元気はないけど』ヒョコヒョコ

アフロ「あー、確かに後ろ足がちょっと変ですねぇ」

夏野「私が調べた限りだと椎間板ヘルニアのようなのだけど、どう思うか言ってご覧なさい」

春海『また無駄に高圧的だなぁ』

アフロ「そうですね。ミニチュアダックスにはよくあることですし……。他に何か症状は? 例えば運動を嫌がるようになったとか」

夏野「そうねぇ。もともと本を買いに行く以外にはすすんで運動しようとはしてなかったし……」

春海『今の状態で運動しようなんて更々思わないな。本田書店に行くなら別だが』


夏野「でも確かにここ最近は明らかに動き回るのは避けてたように思うわ」

春海『……俺が腰痛いのだってさっき知ったくせによく言うぜ』

アフロ「骨折やケガではないようですし、やっぱりヘルニアじゃないでしょうか。かわいそうですが、病院へ行くことをおすすめしますよ」

夏野「そう、ありがとう。そうさせてもらうわ」

春海『はぁ……。病院か……。こんなに病院が憂鬱なのは小学生の時以来だ……』

アフロ「じゃあね、クロ。早く元気になってまた本を買いにいく姿を見せてくれよ?」

春海『……お前も、後で鏡を見てもへこたれないでくれよ』

夏野「さて。じゃあ、このまま病院へ行きましょうか? 病犬」

春海『はぁ……。憂鬱だぁ』


動物病院

「こちらの用紙に必要事項をお書き下さい」

春海『うわぁ……。臭い、薬品臭いよぉ』

夏野「犬の嗅覚はこういう時大変ね」

春海『本の匂いが嗅ぎたい……。本は、本はないのか……』

夏野「後で持ってきた本をあげるから静かに……」

春海『夏野?』

夏野「……あなたの名前、なんて書けばいいのかしら」

春海『はぁ? 俺の名前忘れたのかよ、薄情なやつだな』

夏野「そ、そうじゃなくて……!」

春海『和人って書けばいいじゃないか』

夏野「え……えぇ、そ、そうね。そうするわ……」

春海『……? 変なやつだな』


「はい、お預かりします。あちらでしばらくお待ちください」

春海『本! 早く本を!』

夏野「元気ねぇ……。あなた、本当に病気なの?」

春海『読書は病人の唯一の暇潰しだろ! 病気になったら本を読む。至極当然のことじゃないか!』

夏野「はいはい。もう、うるさいわねぇ」スッ

春海『おっほぉ! これは秋山忍の『外法少女マジ駆るストーカー★メリーさん』! よくわかってるじゃないですか』

夏野「そりゃ私が書いたんだもの」

春海『よぉし、読むぞ!』ペラ

夏野「……よく考えればこんな公衆の面前で犬が本を読んでたら当然変な目で見られるわよね。私の美しさが視線を集めるのはいつものことだけど」

春海『美しさというより異質さのせいだと思いますが』

夏野「この愚け……! ちっ……」


春海『……お? そうか、さすがのこいつも病院でハサミを振り回すほどネジは外れてなかったか』

春海『もしかしてこれはチャンス? いつものストレスを発散するチャンスじゃないのか?』

春海『やーい、貧乳!』

夏野「……」イラッ

春海『絶壁! 絶望的に胸部が壁、略して絶壁!』

春海『絶望した! あまりの壁具合に絶望した!!』

春海『パターン黒、板です!』

夏野「覚えてなさい、この病犬……」


「お待たせいたしました。夏野霧姫さーん、夏野和人ちゃーん、こちらへどうぞー」

夏野「っ!」カァッ

春海『ん? どうした、夏野。呼ばれたぞ』

夏野「え、えぇ。そうね……。行きましょうか。“夏野”和人ちゃん?」

春海『な、なんだよ……。気持ち悪いな……』

夏野「ほ、ほら。“夏野”和人ちゃん、抱っこしてあげるわ」スッ

春海『お、おう……』

夏野「あ、そうだ。“夏野”和人ちゃん?」

春海『……あれ? なんか高くない? 夏野さんの顔が目の前に……』

夏野「あ」「と」「で」「お」「し」「お」「き」「ね」パクパク

春海『ひっ……、ひぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!』


……………………
………………
…………

「はい、お疲れ様でした。和人ちゃん、お大事にね」

春海『アリガトウゴザイマシタ』ガクブル

夏野「やっぱり椎間板ヘルニアだったわね」

春海『ソウダネ』

夏野「当分絶対安静でお薬と鍼灸治療ですって。大変ね」

春海『ソウダネ』

夏野「お仕置き、何がいい?」

春海『ひぃっ! 何卒! 何卒お許しを!』

夏野「……まぁ、病犬だし怪我するようなお仕置きは勘弁してあげるわ」

春海『マジで!? 夏野さん優しい!』

春海『……って「怪我するような」?』


夏野宅

夏野「お待ちかね、お仕置きターイム!!」

春海『やっぱり優しくなかった!!』

夏野「自業自得という言葉をあなたに贈るわ」

春海『……ぐう』

夏野「さてさて、今回この愚犬に使うのは~?」

春海『楽しそうだなちくしょう』

夏野「れ~い~湿~布~」(某猫型ロボット風に)

春海『臭っ!? 湿布くっさ!!』


夏野「どこに貼ってやろうかしら」

春海『え……? 貼るの……?』

夏野「湿布を貼らずになんとする」

春海『いや、見ろよ! 俺の体毛だらけなんだぞ! そんなもん貼ったら……!』

夏野「私女だから湿布やテープで毛が抜けて痛いっていうのいまいちわからないのよね」

春海『嘘だッ!!』

夏野「確か、腰が痛いんだったわよね?」

春海『い、嫌……やめて……?』

夏野「えーい」ペタッ

春海『うわぁぁぁぁぁ!! 臭いぃぃぃぃぃ!! 腰からすごい臭いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』


春海『は、鼻がもげる! ハナモゲラ!!』

夏野「そんなに臭いなら嗅がなければいいじゃない」

春海『犬の嗅覚舐めんな! 嗅ぐ気がなくても臭ってくるんだよ! うぅ……、臭いよぉ、もげるよぉ』

夏野「仕方ないわねぇ」

春海『……仕方ないって言いながらすごくいい笑顔なのは何でなんすか』

夏野「え? そんなことないわよ?」

春海『ハサミで斬る時と同じ顔してるぞ!』

夏野「でも臭いんでしょう? なんとかしてあげようとしてるんじゃない」

春海『絶対ろくなことしないだろ!?』

夏野「剥がしてあげるだけよ」

春海『それが嫌なんだよ!』


夏野「この我儘犬。じゃあどうしたいの?」

春海『な、何かあるはずだ! いい方法が! 絶対!』

春海『考えろ……、考えるんだ……!』

夏野「……」ジー

春海『お前を助けられるのは自分だけだぞ、和人!』フリフリ

夏野「……」ウズウズ

春海『今までの読書経験を総動員させて夏野「てい!」ベリッ

春海『にぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

夏野「あら、あんまりきれいに抜けなかったわね」

春海『多少は抜けたってことかよ!』

夏野「これがほんとのけがないお仕置き!」ドヤァ

春海『なんも上手くねぇからな!!』


一ヶ月後 本田書店

桜「いらっしゃいませー。あ、夏野さん」

夏野「こんにちは」

桜「クロ、元気になりました?」

夏野「普通に歩き回れるようにはなったわね。ここまで一人で来れるようになるのはまだ先でしょうけど」

春海『自らの足で書店に行くことができないなんて、これ以上ない屈辱だよ全く』

桜「クロ! 久しぶりだねー!」

春海『おぉ、桜。最近本を買いに来れなくて悪いな』

夏野「変態に買いに行かせてるしそもそもあなたのお金じゃないんだけどね」

春海『固いこと言うなよ』


オッチャン「お、クロか! 病気になったって聞いて心配してたんだぞー? 弥生なんか最初聞いた時大泣きしてなぁ」

夏野「ふふ、じゃあ早めに顔を見せてあげないといけないわね」

春海『い、いやぁ……。それはちょっと遠慮したい……かなーって』

弥生「あーーー!! クロだーーー!!」

春海『うわぁ! 出た! 本田書店のミニデーモン!!』

弥生「このー! 心配させて、悪い子だ! モフモフしてやるぅ!」

春海『だ、ダメ! お医者さんがまだ安静にって……』

弥生「モフモフー!」モフモフ

春海『あの、そろそろやめ……』

弥生「モフモフモフー!!」モフモフ

春海『あっ……! 悔しいのにっ、感じちゃう……!』ビクンビクン

弥生「えいっ!」モフッ

弥生「ふぅ。今日はこの辺で勘弁してあげよう」

春海『はぁ……はぁ……。ミニデーモン、恐るべし……ってあれ?』


夏野「どうかしたの、駄犬?」

春海『まだ残ってた腰の痛みが消えてる……。まさか、今のマッサージで!?』

夏野「治ったとでも言うの?」

春海『だって、全く痛くないし……』

夏野「そんなまさか……」

弥生「ん? もっとしてほしいの、クロ?」

春海『マッサージの才能があるとは思ってたがここまでだと……? 末恐ろしいな、本田書店のミニデーモン』

弥生「しょうがないなぁ。もう一回だけだよ?」

弥生「モフモフー!」モフモフ

春海『あっ、これすごい! すごいのぉ!』

弥生「モフモフモフー!!」モフモフ

春海『らめっ、おかしくなる! おかしくなるからぁ!』

弥生「モフー!!」

春海『んほぉぉぉぉぉぉぉ!!』


弥生「あ! 『メリーさん』のアニメの時間だ! じゃあね、クロ!」

春海『やべぇ……。全然痛くねぇ……』

春海『これ完治しちゃったんじゃね?』

夏野「ふーん、完治したんだ?」ジャキン

春海『……あれ? なんでハサミ持ってるの?』

夏野「今までは病気だから、って我慢してきたけど、完治したならもういいわよねぇ?」

春海『お、落ち着いて! 話せばわかる!』

夏野「幼女に全身まさぐられて欲情するなんて……! この淫犬!!」ズバッ

春海『うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!』


という訳で全米が以下略『犬とハサミは使いよう』のSS第五段でした

実は>>1は犬どころかペットらしいペットを飼ったことがないのでヘルニア云々はネットで調べて書いてます

なので実際に犬を飼ってる方で「こんなんじゃねーよ!」と思う部分があってもおおめに見ていただければ……

マキシと円香はもう出ないのか?

乙したー
次回も期待して待ってる。

>>116
基本思いつきで書いてるので、ネタが出れば出ます
というか今回出ます
>>117
ありがとうございます
感謝感謝雨霰です

今回のは原作既読でさらにウェブで公開されてるDog ears9話を読んでないとよくわからないところがあると思いますので、ネタバレ注意です

では行きます!


円香「もう、夏野さんってばー」

夏野「円香だって」

円香「あはははは」

夏野「ふふふ」

春海『まー、仲のよろしいことで』

春海『こっちは夏野がまた円香に変な影響与えないかひやひやしてるってのに……』

春海『しかし妹よ。高校に入学してしばらく経つしそろそろ落ち着く頃ではあるんだろうが……』

春海『いくらなんでも週末ごとに遊びにくるのはどうなんだ。ちゃんと友達いるのか? お兄ちゃん心配だよ』

春海『だが、この兄の心配も最愛の妹には届かないんだなぁ……』

夏野「うるさいわね、シスコン犬」

円香「ん? 和兄も一緒に遊びたいの? それともカレーかな?」

春海『……届かないんだなぁ』シクシク


円香「あ、そうだ! 和兄、お散歩行こうよ!」

円香「私、和兄のお散歩行ってみたいなぁ。いいよね、夏野さん!」

夏野「えぇ、別にいいわよ」

円香「やったぁ!」

春海『いつものことだけど、俺の意志に関係なく話が進んでいくなぁ……』

円香「行こっ! 和兄!」

春海『……まぁ、いいか。たまには妹と遊んでやるのも兄の役目だしな』

夏野「まんざらでもないくせに……」


マンション近くの広場

円香「和兄とお散歩、楽しいな~」

春海『平和だ……。この平和がずっと続けばいいのに……』

九郎『おや?』

春海『……ちっ。せっかくの妹との平和な時間を』

九郎『奇遇ですね、春海君。お散歩ですか? 実に犬畜生らしいですよ』

春海『その通りだがいちいち一言多いんだよ。そっちはどうしたんだ?』

九郎『いえね、以前あなたにも手伝ってもらったマンション周辺の危険排除を……ってこれは!?』

春海『あー、あれな。まだやってたのか……。で、どうかしたのか』

九郎『危険度を計る『危機解々』が反応している!? しかも危険度80……! 佐茅さんと同等の危険度だって!?』

九郎『急いで佐茅さんを呼ばないと!』バサッ

春海『あー……。なんか分かっちゃった……』チラッ

円香「和兄、あのカラスさんはお友達かな?」


春海『円香。ちょっとめんどくさいことになりそうだから早くここを離れよう』

円香「和兄ってば、そんなに跳び跳ねちゃって……。そっか! 私のカレーが食べたいんだね?」

春海『違う! ヤバいやつが来るんだって! お前には会わせたくないんだよ! 絶対ややこしいことになるから!』

九郎『佐茅さん! こっちです!』バッサバッサ

佐茅「よくわからないが、九郎さんがこんなに慌ててるってことは相当危険な物があるんだね? 血湧き肉踊るじゃないか」

春海『あーあ、来ちゃった……。しかもなんかすでに殺る気マンマンだしあのメイド……』

円香「あ、さっきのカラスさんだね。その後ろにいるのは……!?」

佐茅「……ッ!?」

円香「和兄! さがって!!」

佐茅「『穢殺刃(ケガレザッパー)』ァ!!」ジャキン

円香「『鮪喰・零式』、『鮪喰・無限』! 起動!!」ギュィィィン

春海『ほら始まったぁ!』


佐茅「ほう、『鮪喰』かい。なかなか面白い得物を持ってるじゃないか」

円香「それはどうも。誰か知らないけど、和兄に危害を加えるつもりなら容赦はしないよ」

佐茅「和兄ってのはあの犬のことかい? ふんっ。あのハサミ女もお前さんも、あんな犬ッコロのどこがいいんだか」

円香「……もう一度言ってみろ」

佐茅「なんだい? あんな犬ッコロの……」

円香「和兄を……! 馬鹿にするなぁぁぁぁ!!」ゴッ

佐茅「はっはぁ! いいねぇ! そう来なくちゃ張り合いってもんがないよ!」ゴッ

円香「切り刻んでカレーの具にしてやる!!」

佐茅「ターゲット捕捉。清掃するッ!!」


九郎『春海君! 何者ですかあの子は!』

春海『……妹だよ』

九郎『え……?』

春海『俺の妹だよ!!』

九郎『な、なんだってー!』

九郎『い、妹って、あれですよね……? 兄より後に生まれてくる女の子……ですよね?』

春海『そうだよ。お前んとこの紅葉と一緒だよ』

九郎『なっ! うちの超ぷりちーな紅葉とあんなアマゾネスを一緒にしないでください!!』


春海『あぁ!? 今俺の可愛い妹になんつった!?』

九郎『危険度80の妹なんて妹じゃありません!』

春海『てめぇ 人の妹になんて言い種だ! その喉笛噛み千切るぞ鳥頭!』

九郎『やってみてくださいよ! あんな凶暴な妹、僕は絶対認めません!!』

春海『あんたに認められなくても円香は俺の超可愛い妹ですぅ!』

九郎『うちの紅葉の方が何万倍何億倍もぷりちーですから! あ、0にいくらかけても意味はありませんでしたねぇ!』

春海『ぶ っ こ ろ す !』

バウッバウッカァーッカァーッ


キィン!ガキン!

円香「くっ……!」

佐茅「くらいな! 壱の秘箒「焔霊」!!」

円香(モップから火が……!?)

円香「ちぃっ!!」

ガキン!

佐茅「……やるじゃないか」

円香「そっちもね」

佐茅「『鮪喰』……、実際に戦うとこんなにも厄介な相手だったとはね。しかも二刀流。並みの使い手じゃあ無理な芸当だ」

円香「あなたこそ、そんなモップみたいな武器でよくここまで戦えるね」

佐茅「モップみたいな武器とはいささか失礼だろう。これでもあんたの『鮪喰・零式』『鮪喰・無限』の兄弟武器なんだよ」

円香「……!」


佐茅「いかな名箒でも連続して人を清掃し続ければ毛先が汚れ、引っ掛かりを生じ、掃き味が鈍く変わっていく」

佐茅「ならば清掃力をぎりぎり保つその限界を見極め、あらかじめ刃を着脱可能にしてしまうことで常に一定の感覚で連続使用できる箒に仕立てる」

佐茅「この大洗赤口作、最終清掃奇箒『穢殺刃』と私のこれまでの清掃人数を合わせ、「技」として昇華したのが壱の秘箒「焔霊」」

佐茅「弱者を糧に己の強さを高めていく。これぞ清掃術における……」

佐茅「私の「弱肉強食」だ」

春海『いやどこの人斬り!? お前の箒には人の脂でも染み込んでんの!? だいたい「焔霊」とか言ってるけどそれこの前も使ってたただの火炎放射機モードだよね!?』

九郎『つっこむ暇があるとは、余裕ですね春海君!』

春海『しまっ……!』

九郎『トラップ発動!!』

ガシャン


春海『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!』

九郎『こんなこともあろうかと、マンション周辺に無数の罠をしかけておいたんですよ! これはその一つ! 名付けて「犬を呪わば穴二つ」です!!』

春海『普通の落とし穴だろ! マンション周辺って、一般人が引っ掛かったらどうするつもりだ!』

九郎『安心してください。ミニチュアダックスの体重にのみ反応するように設定してありますから』

春海『俺ピンポイントじゃねぇか!』

円香「和兄!!」

佐茅「行かせないよ!」

円香「邪魔を……するなぁ!!」

円香「『鮪喰・無限』、食材破壊(デストロイ)モード!!」

無限【鮪喰・無限、形態変化、食材破壊モード、最終起動……! 食材ノ破壊ヲ最優先トスル】


春海『あれは夏野と戦った時にも使った……! だが佐茅は夏野と互角にやりあうほどの猛者! 通用するのか!?』

円香「もしかして心配してくれてるのかな、和兄。大丈夫だよ、あの時とは私も『鮪喰』も違う!!」

ギュィィィィィン!

円香「『鮪喰・零式』、連結!!」

ガシャン!

春海『『鮪喰・零式』と『鮪喰・無限』が合体した!?』

円香「合体することにより、『無限』の砲撃に『零式』の刃の回転が加わり、なんやかんやして威力が二倍になるよ!!」

春海『なんやかんやって何!? そこ一番省いちゃいけないとこ!』

佐茅「ほう……! こんなもん見せられちゃあ、私も奥の手を出さない訳にはいけないねぇ!」

佐茅「終の秘箒、『火産霊神』!」

春海『だからそれ火炎放射機だろ!?』

円香「ゼロと無限の狭間に迷って落ちろ!!」

佐茅「はぁぁぁぁぁぁっ!!」


イーシヤーキイモーオイモー

佐茅「はっ! この歌は!」

佐茅「悪いがここまでだ、『鮪喰』女!」バッ

九郎『えっ!? ちょっ、佐茅さん!?』バサッ

佐茅「ん? あぁ、九郎さんかい。あの子なら心配いらないさ。悪いやつじゃない」

佐茅「一度剣を交えた私が言うんだ。間違いないさね」

春海『だからお前らはどこの戦闘民族なんだよ……』


佐茅「おっと、そういえばあんたの名前を聞いてなかったね」

佐茅「私は森部佐茅。『陰乍(シャドウサーヴァント)』第十三分隊の元エースナンバー、今は姫萩紅葉お嬢様の専属メイドさ」

円香「……私は、春海円香。生涯和兄ただ一人の妹であると心に決めた女だよ」

春海『……ん? 当たり前じゃね?』

佐茅「そうかい。覚えておくよ」

佐茅「行くよ、九郎さん。あの屋台の焼き芋は最高さぁ。お嬢様にも買って帰らないとねぇ」

九郎『さ、佐茅さん!? 佐茅さーん!!』バッサバッサ

タッタッタッ…


春海『……あいつ、なんで急にあんな焼き芋好きになったんだ?』

円香「和兄! 大丈夫!?」

春海『あ、あぁ……。ちょっと落とし穴に落ちただけだ。あいつにしちゃ良心的な罠だよ』

円香「よかったぁ。なんともなさそうだ……。夏野さんに和兄の身を預かってる以上、何かあったら大変だからね」

春海『まぁ、その場合でもお仕置きされるのは多分俺だけどね』

円香「それじゃ、仕切り直してお散歩を……「シャイニーン!!」

春海『こ、この声は……!』


マキシ「見つけたわよ! 私の読者!」

春海『次から次へと……』

マキシ「あなた、街ではクロって呼ばれてるそうね! この純白に輝く私を存分に引き立ててくれる素晴らしい色と同じ名前じゃない!」

マキシ「どう? あなた、黒服に入らない?」

春海『お断りだ!』

円香「あ、あの……!」

マキシ「ん?」

円香「あ、秋月マキシさんですよね!?」

マキシ「えぇ、そうよ! 私こそが燦然と輝く太陽よりもまぶしいと言われるベストセラー作家兼スーパーアイドルの秋月マキシよ!」

円香「うわぁ! 私、芸能人と会ったの初めてだよ~! どうしよう和兄!」

春海『どうしようって言われても、もはやこいつをアイドルとは見れないからなぁ。どう見ても芸人だろ』


マキシ「和兄? この子のこと?」

円香「そうだよ。夏野さんのペットの、和兄」

春海『嫌な響きだなぁ、「夏野のペット」って……。実際そうなんだけどさ』

マキシ「クロじゃないの……?」

円香「クロ? 和兄は和兄だよ?」

マキシ「んん~?」

春海『まぁ、そりゃ混乱するわな』

マキシ「クロとは世を忍ぶ仮の名前で本名が和兄ってこと?」

春海『当たらずとも遠からずってのがまたなんとも言えない……』


マキシ「じゃあ、和兄って呼べばいいのね?」

円香「だ、ダメ! 和兄は私だけの和兄なの!」

マキシ「えぇー……」

春海『我が妹があの秋月マキシを押してる……。複雑だ……』

マキシ「わ、私はなんて呼べばいいの……?」

円香「うーん……。和人……?」

マキシ「和人! 和人ね! はぁい、和人! ご機嫌麗しゅう!」

春海『あ、これウザいやつだ』

円香「むぅ……。これはこれで和兄に親しい女の人がいるみたいで嫌かも」


マキシ「それじゃあ、和人のためにこの前できなかった特別ライブをするわよ! 黒服!」パチン

「「「YES、マキシ様の言う通り!!」」」

円香「和兄! ライブだって! すごい!」

春海『……よかった。円香も年相応に女の子だったんだな……。円香が喜ぶのなら、マキシに付き合うのも悪くないか』

マキシ「行くわよー! まずは『レモネイドスキャダル』!!」


一時間後

マキシ「みんなノッてるー!? 次の曲行くわよ!」

円香「いえーい!!」

春海『みんなって二人しかいないけどな』


三時間後

マキシ「まだまだへばるには早いわよ! もっと、もっと輝くの! 次は『チョコレート・ウォーズ』!!」

円香「い、いえーい……」

春海『何時間やるつもりだよ……』


五時間後

マキシ「よくここまでついてきたわ! 輝いてるわよ、あなたたち! ラストはもちろんこれ!! 『IDOL-BUSTER』!!」

円香「……」グッタリ

春海『やっと……やっと終わる……』


マキシ「みんなありがとー!!」

円香「おぉー……」パチパチ

春海『丸々五時間歌いっぱなしって……。ごめんなさい、俺が間違ってました。あなたは立派なアイドルです……』

マキシ「ふふん。ご堪能いただけたかしら? 和人、次からは私の本だけでなく、私の曲も聞いてみてね?」

春海『まぁ、考えておくよ……』

マキシ「さて、これ以上輝いたら大門に見つかっちゃうわね。そろそろ……」

夏野「こぉぉぉぉぉんの馬鹿犬ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


春海『ひぃっ!? え!? 何!? なんで怒ってんの!?』

マキシ「……出たわね黒いの」

夏野「帰ってくるのが遅いから何かあったのかと心配してたら……! この白いのとよろしくやってたって訳ねぇ!」

春海『円香の前で変なこと言うなよ!』

マキシ「読者とふれあうのは作家の義務よ」

夏野「ふん。あなたの読者はこんな犬一匹じゃないでしょう」

春海『こんな犬にも五分の魂ですよ、夏野さん』

マキシ「あんたにとってはただの犬でも、私にはかけがえのない読者の一人よ。私は犬だからって読者を差別したりしないの」

夏野「……ただの犬な訳ない」

春海『夏野……?』

円香「……」

夏野「ただの犬な訳ないでしょう! 私にとっても大事な読者よ!」


マキシ「だとしても! 自分の読者を傷付けるようなあんたに、作家たる資格はない!」

夏野「……っ!」

マキシ「あんたみたいなやつのところにいるより、私のもとへ来る方がよっぽど和人のためになるわ!」

春海『ま、待ってくれ!』ワンッ

マキシ「和人……?」

春海『俺は、秋山忍が、秋山忍の書く本が、好きだ! もちろんそれだけが理由って訳じゃないけど、俺は夏野のところにいたい!』

夏野「馬鹿犬……」

マキシ「……黒いの。あんた時々和人と話してるような時があるわよね。今、なんて言ってるの?」

夏野「私と、いたい……って。私が言ってもあなたは信じないかもしれないけど」

マキシ「……」


ダキッ

春海『ま、マキシ……?』

マキシ「ねぇ、和人。あなたは、私と秋山忍。どっちが好きなの?」

春海『……作家に優劣なんてつけられない。俺はどの作家も好きだし、どの作家も偉大だと思う』

春海『でも、それでも、どっちかを選べと言われたら、俺は秋山忍を選ぶ』

春海『もちろん、秋月マキシの本も好きだ。大好きだ。だけど、俺の心に、魂に一番響いたのは秋山忍の本だったから』

春海『だから、俺は夏野といたい』

夏野「……」カァッ


マキシ「……嘘じゃ、なさそうね」

春海『……! 俺の言葉が通じたのか!?』

マキシ「私はその人がどんな本を読みたがっているかを見抜く術に関しては誰にも負けない自信がある。この子は心からあんたの本を読みたいと思ってるわ」

春海『なるほど……。そう言えばこいつは一目見ただけでその人の好みの短編が書けるんだったな』

マキシ「はぁ……。私の負けね。完敗よ完敗」

夏野「……あなたが負けを認めるなんて珍しいわね」

マキシ「読者に私よりあんたの方がいいって言われたんだもの。認めない訳にはいけないじゃない」

マキシ「でも覚えてなさい。和人が私の読者である限り、いつか私の本の方が好きって思わせてみせるんだから! その時に私の輝きの前にひれ伏すがいいわ!」

マキシ「さぁ、帰るわよ!!」

「「「YES、マキシ様の言う通り!!」」」


夏野「……」

円香「よくわかんないんだけど……、マキシさんは夏野さんのライバル……なのかな?」

春海『円香、お兄ちゃん言ったよな? 文壇の情勢はいつも把握しておけ、って』

春海『あの二人と姫萩紅葉が今文壇でトップを競いあっているのは常識だぞ!』

円香「また理不尽なことを言われてる気がするよ?」

春海『まぁ、今はいいさ。夏野、俺たちも帰ろうぜ』


夏野「……ねぇ」

春海『ん?』

夏野「その……、あ……ありがとう……」

春海『な、なんだよ急に……。怒髪天衝で乗り込んできたと思ったら今度はしおらしくなって……』

夏野「私を選んでくれた……から……」

春海『今さらだろ。いつも言ってるじゃないか。俺はお前の本が読みたいからここにいるんだ』

夏野「ふふっ……。そうね、そうだったわ」

春海『だから早く『色欲』を……』

夏野「それとこれとは話が別よ」

春海『ちっ』


夏野「それで、「和人」だっけ? ずいぶん親しそうに呼ばれてたじゃない」

春海『そ、それは円香が……』

夏野「ふーん。妹を言い訳にするのね」

夏野「円香、あの白いのがこいつを和人って呼ぶのどう思ってるの?」

円香「うーん……。正直嫌かなぁ」

夏野「ほら見なさい」

春海『円香!? 円香が呼ばせたんだよな!? 俺の記憶が間違ってるの!?』

夏野「オ・シ・オ・キ・か・く・て・い・ね」

春海『不幸だぁぁぁぁぁぁ!!』


夏野「家にカレーの材料があるわよ、円香」

円香「ほんと!?」

春海『うわっ! 汚ねぇ!!』

円香「よぉし、和兄! 今日もたくさん作ってあげるね!」

夏野「私は仕事で出かけるから」

春海『お前作家だろ! 家で本を書くのが仕事だろ!』

円香「ほら、行こっ!」

春海『うわぁぁぁぁぁぁぁ!! もうカレーは嫌だぁぁぁぁ!!』ズルズル


という訳で全米以下略『犬とハサミは使いよう』のSS第六段でした

なんだこのシリアス……
マキシ様が出るとなんかシリアスになるなぁ
夏野さんってば非常識だから


行きます!

例の如くアニメガン無視原作ネタ満載なのでネタバレ注意です
まぁ、もうこのスレにアニメ組いないかもしれませんが……(いろんな意味で)

「犬とストーカーは使いよう」


春海『うーん……』

夏野「何よ、悩ましい声出して。気持ち悪いわね。いっぺん、死んでみる?」

春海『なんで俺いきなり罵られてるの?』

春海『……なんかさ、最近また誰かに見られてる気がするんだよなぁ』

夏野「あーそう。よかったわねー」

春海『聞く気ゼロだな』

夏野「どうせまた学業成就のお守り扱いされてるんでしょ」

春海『そうなのかなぁ……。でも、もう春だし受験終わったばっかりだぞ?』

夏野「浪人生とか、色々あるでしょうに。まぁ、たとえ捕まっても剥製にされてお守りとして部屋に飾られる程度で済むわよ」

春海『それ済んでないよね。むしろ俺の命が済んでるよね』

春海『はぁ……。もういいよ。本田書店行ってくる』

夏野「精々剥製にされないように気をつけなさい」

春海『るっせぇ』


九郎『おや、春海君じゃないですか』

春海『どうも。今日はあのバーサーカーは一緒じゃないのか?』

九郎『僕だって一人で出歩きたい時があるんですよ。せっかく翼があるんですし』

九郎『地べたを這うミニチュアダックスを嘲笑うためのね』ボソッ

春海『おい。聞こえないと思ったら大間違いだぞ』

九郎『冗談ですよ。可愛い可愛い妹に近寄る悪いミニチュア……虫を監視するための翼です』

春海『またミニチュアダックスって言おうとしたな? 訴訟も辞さないぞ』

九郎『我々の訴訟なんて誰が聞いてくれるんでしょうねっと』

春海『急に悲しくなること言うなよ……』


九郎『で、どちらへ行かれるんですか?』

春海『俺が外に出るといったら一つしかないだろ。本田書店だよ』

九郎『まぁ、そうだろうとは思ってましたけど』バサッ

春海『……なんだよ』

九郎『いえ、どうせだからご一緒させてもらおうかと思いまして』

春海『やっぱりあんた俺を見下ろすことが目的なんだろ? そうなんだろ? そうなんだろ?』

九郎『人聞きが悪いですね。そんなことありますよ』

春海『あるんじゃねぇか!』


……………………
………………
…………

春海『……やっぱり』

九郎『どうかしましたか?』

春海『最近妙な視線を感じるんだよ。誰かにつけられてるような……』

九郎『以前もそんなことがあったって言ってましたね。受験生に追われたとかなんとか』

春海『「賢い犬」とか言われてな』

九郎『リリエンタール?』

春海『いたなぁ、そんなやつ。あいつは俺の声聞こえんのかね』

九郎『それは知りませんけど……。で、今その視線を感じてるんですか?』

春海『あぁ……』

九郎『仕方ありませんねぇ。ちょっと僕が空から見てきますよ』バサッ

春海『悪いな』


春海『なんかいた?』

九郎『いえ、怪しい人は特には……。強いて言うなら、あれ……』

春海『え?』

大型犬(以降犬)「ヘッ、ヘッ、ヘッ」

春海『い、犬……?』

九郎『結構大きいですけど、飼い犬でしょうか』

春海『そりゃあんなでかい野良がいたら即保健所行きだろ……』

九郎『でも飼い主さんらしい人は見当たりませんねぇ』

春海『脱走してきたのか?』

犬「ヘッ、ヘッ……」


春海『……あれ、よく見たら俺あいつ知ってるな』

九郎『犬のお知り合いですか?』

春海『知り合いっていうか……。本田書店に行く道の途中にある家で庭飼いされてるんだよ』

九郎『へぇ。じゃあそこから逃げ出してきたんですね』

春海『それか迷子だな。しゃーない。ここは俺が一肌脱いで家まで案内してやろう』テクテク

春海『へい、ワン公。困ってるなら俺が手を貸して……』

犬「わふっ」カプッ

春海『……へ?』

犬「わっふぉ」ダッ

春海『えぇぇぇぇぇぇ!?』

九郎『春海君が大型犬に首もとをくわえられたと思ったらそのまま連れ去られた!?』

春海『説明ありがとぉぉぉぉぉぉ! でもまずは助けてくれぇぇぇぇぇ!!』


九郎『今行きます!』バサッ

九郎『さすが大型犬、速いですね……!』バッサバッサ

九郎『しかし! 空を舞う僕の相手ではない! 空中からのくちばしによる一撃、これで仕留める……!』

九郎『ふんもっふ!』バサッ

犬「わふっ」シッポベシッ

九郎『あっは……』ドサッ

春海『く、九郎さぁぁぁぁん!!』

九郎『あっ、すごい……! これキモチイイ……!』

春海『か、帰ってこーい! あんたまでそっちに行ったら編集者全員Mだぞ!!』

九郎『くっ、危ない危ない。紅葉以外に虐められたって気持ちいい訳ないじゃないか……』

春海『あちゃー。遅かったかー……』

春海『ってそれどころじゃねぇよ! ヘルプミィィィィィィ!!』


九郎『あー……。春海君があんなに小さく……』

九郎『これはもう追い付けませんね……。誰か助けを呼ぶしか……』

九郎『ん? 待てよ、これはチャンスでは……?』

九郎『そうですよ、紅葉からあの犬畜生を引き離す絶好のチャンスじゃないですか!』

九郎『よーし、そうとなれば後は知らぬ存ぜぬで……』

九郎『……』


春海『お前が、まだ知らない世界のことを、俺が教えてやる! どんな感情も、経験も、意志も、お前が知りたいと願うのならば、俺が教えてやる!』

春海『だから、もう一度全てと向き合う為に。閉じこもってるお前を、終わらせよう!』

春海『だから! そこから出て来い、姫萩紅葉!』


九郎『……全く。今回だけですからね、春海君!』


夏野の部屋

九郎『秋山先生! 秋山先生!』コンコン

夏野「……ちっ」

ガラッ

夏野「なんの用かしら、この愚鳥が。さっきからベランダのガラス扉をコンコンコン……!」

九郎『春海君が拉致されたんです! 力を貸してください!』

夏野「はぁ……。あのねぇ、駄犬がいないと私はあなたの言葉は分からないのよ。そんなことも忘れてしまったの? この鳥頭」

九郎『はっ! そうでした……っ! まさか本当に鳥頭だったとは……!』

夏野「とりあえず、私に何か用があるのなら、あの犬が帰ってくるのを待つか姫萩紅葉に通訳してもらうかしなさい」

夏野「次に私の仕事の邪魔をしたら、その羽を一本一本むしりとってやるわよ」

九郎『ひぃっ!』


九郎『怖かった……。あの秋山先生の相手を毎日してるだなんて、春海君も苦労してたんですね……』

九郎『……仕方ありません。本当は巻き込みたくなかったんですけど……』

九郎『紅葉! マイスウィートシスター紅葉はどこだい?』

紅葉「……気持ち悪い呼び方はやめてください、兄さん」

九郎『おぉ、紅葉! 今日もなんて可愛いんだ! もはや人間国宝、いや! 世界人間遺産ですね!』

紅葉「意味がわかりませんし気持ち悪いのでやめてください。何か用事があるのではないんですか?」

九郎『用事? HAHAHA、あんな犬のことなんてもうどうでもいいよ! それよりもっとお話を……んっふ!?』ガシッ

紅葉「和人さんがどうかしたんですか。何かあったんですね?」

九郎『あ、いやー……あははー……』

紅葉「話してください。さぁ、さぁ」

九郎『……春海君が、どこかの犬に拉致されました』

紅葉「和人さんが……。こうしてはいられません」


紅葉「天鳥船、システム『天浮橋』起動」

ウィィィィィン

九郎『おぉ。大洗赤口作、車椅子型移動要塞『天鳥船』の変形は相変わらず壮観ですねぇ』

紅葉「今から新稲葉全域の監視カメラにハッキングします。和人さんが最後に写っているのは……ありました。ここですね」

紅葉「近辺の監視カメラの位置から推測して、和人さんが捕らえられている場所はこの半径100m圏内だと思われます」

紅葉「さらに動物病院のデータバンクにハッキング。この範囲内で犬を飼っている家は……」

紅葉「兄さん、特定できました。今すぐ救出に向かいましょう」

九郎『さすが紅葉! 仕事が早い! デキル女ってやつだね!』

紅葉「そうですか。ありがとうございます。それならば、いざ和人さんに嫁いでも恥ずかしくない妻になれそうですね」

九郎『……は?』

紅葉「さぁ、兄さん。佐茅さんを呼んできてください。和人さん救出ミッション開始です」

九郎『ちょっ、紅葉!? 嫁ぐって何!? お兄ちゃん許しませんよ!?』


その頃の和人

春海『ひぃぃぃぃ……。なんかこいつの家に連れてこられたぁ……』ブルブル

犬「ヘッ、ヘッ、ヘッ」ジーッ

春海『ひぃぃぃ、こっち見てるぅぅぅぅ』ガクガク

犬「ヘッ、ヘッ、ヘッ」

春海『なんなんだよぉ……。俺が何したっていうんだよぉ……』シクシク

犬「わふっ」ノッソリ

春海『ひぃっ! 立った!』

犬「ウゥゥゥ……」テクテク

春海『こっち来たぁぁぁぁ!』

犬「わふっ!」ガバッ

春海『ひっ……! うわぁぁぁぁぁぁぁ!!』ワォォォォォン!


マキシ「今日も今日とて輝いてるっ! 私!」

「「「YES!! マキシ様の言う通り!!」」」

マキシ「あの黒いのと今日こそ決着をつけてあげるんだから!」

「「「YES!! マキシ様の言う通り!!」」」

マキシ「黒服たち! 私を全身全霊で輝かせなさい! 私も命の限り輝くわ!」

「「「YES!! マキシ様の言う通り!!」」」

ワォォォォォン!

マキシ「ん? この声は和人の……。こっちから聞こえてきたわね……」


マキシ「和人! ちょうどよかったわ! あなたのご主人様と勝負しにいくところだからあなたも手伝いなさ……」

犬「ヘッ、ヘッ、ヘッ」ガバッ

春海『ひぃぃぃぃ! わかったぞ! お前、俺のケツを狙ってるな!?』

マキシ「」

春海『お、おぉ! マキシ、いいところに! 早く助けてくれ!』

マキシ「いやぁぁぁぁぁぁ!! 犬ぅぅぅぅぅ!!」

春海『なんで!? 俺で克服したじゃん!!』

マキシ「読者じゃない犬なんてぇ……!」

春海『あぁ、もう! なんでお前らはそう極端なんだよ!!』

犬「わふっ、わふっ」ヘコヘコ

春海『くっ! こいつ腰振ってやがる! ちくしょう、やらせるか! 俺の貞操は俺が守る!』


その頃の紅葉一行

紅葉「こっちです」

佐茅「はいよ、お嬢様!」

九郎『嫁ぐ……? 紅葉が……? あの犬に……? 紅葉が犬にトツギーノ……?』

紅葉「うるさいです、兄さん。黙らないと一生口をききませんよ」

九郎『はい黙ります!』

九郎(でも僕の紅葉が結婚だなんて……。そりゃ確かに僕と紅葉の結婚式は何度も想像してきましたし今も計画中ですけど、紅葉と春海君の結婚式……? となると僕は紅葉とバージンロードを歩くことに……? うわぁぁぁぁ、嫌だぁぁぁぁぁ!!)

紅葉「兄さんの思考が伝わってきて不快です。もう一生口をききません」

九郎『理不尽!? なんだか秋山先生の悪影響受けてないかい紅葉!?』


紅葉「ここを曲がったところです」

佐茅「一応穢殺刃を用意しておこうかね」

九郎『いやいや、相手は犬ですよ……?』

紅葉「普段和人さんに佐茅さんをけしかけているくせによく言いますね。あ、これが兄妹の最後の会話です」

九郎『ひどいよ紅葉!!』

紅葉「……おや」

マキシ「ひぃぃぃぃ……」

春海『入れさせない……! 絶対に入れさせない! 腰を捻って避け続けてやる!』

佐茅「……カオスだね」

春海『あっ! 紅葉! 助かった! どうにかしてくれ!』


紅葉「和人さん、これはどういう状況なのですか?」

春海『俺がこの犬に拐われてここに連れてこられて、そんでこいつは俺を雌だと思ってるのかそれともそういう趣味なのか知らんが俺と交尾しようとしてて、マキシはなんか急に来て自滅したんだ!』

紅葉「……」

九郎『紅葉の前で交尾とか言うな!』バサッ

犬「わふん」シッポベシッ

九郎『あうん』ベチャ

春海『何がしたいんだあんた……』

紅葉「和人さん、そういう趣味とはなんですか?」

春海『え゛』


九郎『春海君! 分かっているでしょうね! 紅葉を汚すようなこと言わないでくださいよ!』

春海『あの、えっと……』

紅葉「責任、とっていただけるんですよね?」

春海『うぅ……はい。男……この場合は雄が雄のことを好きっていう趣味、です……』

紅葉「ふむ……。聞いたことがあります。BLというものですね?」

九郎『紅葉!? どこでそんな言葉を!?』

紅葉「しかし、BLとは公園のトイレで青いツナギのいい男がノンケでも構わず食べてしまうものではないのですか?」

春海『合ってるけどなんか偏ってる! ほんとどこでそんな知識覚えてくるんだよお前!』


紅葉「……まぁ、今はBLのことはいいです。和人さんを助けましょう。山田牧子さん?」

マキシ「その名前で呼ばないでって言ってるでしょう!?」

紅葉「和人さんを助けます。力を貸していただけますか?」

マキシ「し……、仕方ないわね! 和人は私の読者だし、あんたにはヒナを助けてもらった貸しもあるし! この輝ける秋月マキシの手にかかればこんな状況の一つや二つ……」

犬「ばうっ」

マキシ「ひぃっ!? ま、まままま負けないんだかりゃ!」

春海『噛んでる噛んでる』

マキシ「必殺! マキシフラーッシュ!!」ピッカー

犬「キャイン!?」


犬「ウゥゥゥ……! ばうっ! ばうっ!」ダッ

マキシ「いやぁぁぁぁぁぁ! 追ってきたぁぁぁぁ!!」

紅葉「なるほど、門扉の蝶番が緩んでいたんですね。だから庭飼いの犬だけで出歩くことができたという訳ですか」

紅葉「佐茅さん、あの犬が離れている隙に和人さんを」

佐茅「はいよっ!」

春海『ま、待て! ここにはまだ……!』

「グルルルル……」

佐茅「っ!!」


シェパード(以降シェパ)「ばうっ!」バッ

佐茅「ちっ!」

九郎『あれはジャーマン・シェパード!』

シェパ「グルルルル!」

佐茅「ほう……。なかなか訓練されてるようだね。いつだったか戦場で出会った軍用犬に勝るとも劣らない気迫じゃないか」

春海『なんでこんなとこにそんな危ない犬がいんの!? ただの番犬じゃないのかよ!?』

佐茅「お嬢様、私がこいつを牽制している間にその犬を!」

紅葉「わかりました」


九郎『気をつけて、紅葉。まだもう一匹なんてことが……』

ドーベルマン(以降ドー)「グルルルル……!」

九郎『えっ』

ドー「ばうっ!」バッ

九郎『危ない紅葉!』バサッ

春海『南無三!』ダッ

ドー「ばうっ!」ベシッ

九郎『あうっ』

春海『うげっ!』

紅葉「和人さん!」

九郎『僕は!?』


ドー「ぅがうっ!」ガバッ

紅葉「……っ」

春海『も、紅葉ぃぃぃぃぃ!』

「はぁっ!!」バシッ

ドー「キャイン!?」

春海『あ……、あぁ……!』

夏野「待たせたわね。主人公の、登場よ!」

春海『夏野ぉ!』


夏野「全く。毎度毎度厄介事には事欠かないわね、あなた」

春海『俺だって好きで巻き込まれてる訳じゃねぇよ』

夏野「怪我はない? 姫萩紅葉」

紅葉「はい……。ありがとうございました」

春海『なんでここがわかったんだ?』

夏野「何度も言わせないでちょうだい。あなたの体についてる発信器よ」

春海『まだあるの!?』

夏野「本田書店に行ってるはずが、この場所からほとんど動かなかったしあのカラスの様子も変だったから探しにきたのよ」

春海『発信器の件は納得いかないが……。まぁでも助かったよ』

夏野「まだ事態は終わってないようだけど」

春海『え?』


マキシ「もう嫌ぁぁぁぁぁぁ! 早く助けてぇぇぇぇぇ!」

犬「ばうっ!」

春海『おぉう……。犬に追われて木に登るなんてベタなやつだな』

夏野「なんとやらと煙は高いところが好きってね」

マキシ「誰がバカよ!!」

夏野「助けてほしかったら、そこで三回まわってワンと鳴いてごらんなさい」

春海『鬼かよ、お前』

マキシ「うぐっ……。うぅぅぅぅ!」

春海『そんでマキシも本気で悩むなよ……』

夏野「はぁ……。仕方ないわねぇ」

ピンポーン


春海『……ん?』

夏野「あなたたち、最初から家の人を呼んでおけばよかったのに」

九郎『あっ!』

紅葉「……」

春海『まさか夏野に正論を言われるとは……』

夏野「どういう意味よ、このネコ犬」

春海『ほ、掘られてない! 掘られてないから! かろうじて!』

飼い主「はーい、どちら様でしょう、か……」

マキシ「あ、あなた飼い主ね! 早くこの犬をなんとかして!」

飼い主「し、シュナイダー!? 何してるの! めっ!」

犬「くぅーん……」

春海『シュナイダーて。格好いいな、おい』

夏野「あなたのクロとは大違いね」

春海『俺はクロを認めた覚えなどない!』

夏野「じゃあゲルゼノム様?」

春海『……それはもっと嫌だ』

飼い主「あの、何があったんでしょうか……?」


……………………
………………
…………

飼い主「そんなことが……。ご迷惑をおかけしました……」

夏野「いいのよ。結局何事もなかったんだし」

春海『俺の貞操の危機はあったけどね』

飼い主「シュナイダーとグーテンベルグとクーゲルシュライバーにはよーく言ってきかせますので……」

春海『あの二匹もすごい名前だな……』

九郎『最後の、意味は知らない方が幸せでしょうね』

夏野「それじゃ、帰りましょうか」

紅葉「そうですね」

マキシ「はぁ……。ひどい目にあったわ……。でもそんな不幸な私も超輝いてる!」

「「「YES!! マキシ様の言う通り!!」」」

マキシ「って、あんたたち! どこにいたのよ!!」


紅葉「あの……、夏野霧姫さん」

夏野「何かしら」

紅葉「さっきは、本当にありがとうございました」

佐茅「私からも礼を言わせておくれ。お嬢様を守ってくれてありがとう」

夏野「ま、まぁ……、あれで怪我でもして、それを勝負に負けた時の言い訳にされたら困るもの。それだけよ」

春海『おや珍しい。夏野さんが照れてるよ』

夏野「うるさいこの騒犬!」ジャキン

春海『ハサミやめて!』

紅葉「待ってください」

夏野「……何よ」


紅葉「今日の和人さんは完全に被害者です。これ以上いじめるのは可哀想ですよ」

春海『普段から被害者じゃない時の方が少ないけどね』

紅葉「それに、お仕置きを受けるべき人は他にいますし。ですよね、兄さん?」

九郎『な、なななな何のことだい紅葉!?』

紅葉「正直に答えてください。今日、何回和人さんを見捨てようとしましたか」

九郎『うえっ!? え、えーっとー……、に、二回ほど?』

春海『はぁ!? 最低だあんた!』

九郎『だ、だって……』

紅葉「佐茅さん、あのカラスを軽くひねってください」

九郎『紅葉!?』

佐茅「どうも、そういうことらしい。すまないね、九郎さん。お嬢様の命令だからさ」ジャキン

九郎『ひぃぃぃぃ!?』


春海『はっ! ざまあみろ!』

九郎『……なんですか、春海君。その前足で十字を作るポーズは』

春海『「SLASH THE CROW!」だ! 九郎だけになぁ!』

九郎『くっ……! そのギャグは春海君が初めてですよ……!』

夏野「そして、最後になるわ」

九郎『え……』

夏野「人の犬を見殺しにしようだなんて、ふてぇカラスね」

佐茅「お、ハサミ女。なら久しぶりにあれをやってみるかい?」

夏野「そうね、ホウキ女。しくじったらあなたも斬るわよ」

佐茅「それはこっちのセリフさ!」

九郎『ま、まさかそれはあの遊園地でやった……!?』

夏野・佐茅「「合体奥義!! ブラックメイドデストラクション!!!!」」

九郎『ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


という訳で『犬とハサミは使いよう』のSS第七段でした

最初はあんなこと言いましたけどアニメ、この前のオリジナル回とか結構よかったですよね
夏野さんかわいかったし短編ネタもいい感じに盛り込んであって面白かった
むしろ本編より面白ゲフンゲフン


行きます!

もうアニメどころか原作でも短編でしか出てないようなキャラがいるので


途中送信しちまった…

アニメどころか原作でも短編でしか出てないようなキャラがいるので、原作読んでない人はよくわからないかと思います

「アイドルの道は一日にしてならず」


TV<CMノアトハ今日ノオ天気デス

春海『おはよ……、って夏野がテレビ見てるなんて珍しいな』

夏野「そんなことないわよ。ニュースは毎日確認してるし、深夜の通販番組とか結構好きよ」

春海『あぁ、豊胸グッズね』

夏野「そうDEATHね!」ジャキン

春海『ひぇっ!? ね、寝ぼけてたんだ! だから違うんだ!』

夏野「何が違うのか言ってごらんなさい?」

春海『な、夏野さんはそのままでも素敵だよ!』

夏野「っ!? い、いきなり何を! そんな、素敵だなんて……」

春海『ふぅ……。なんとかお仕置きは免れたか。……ん?』

TV<ソレデハ今日ノオ天気デス マッキー!

春海『あれ、マキシが出てるじゃん』

夏野「白いのが?」


マキシ「朝もはよからシャイニーング!!」

マキシ「今日からこの番組のお天気お姉さんに就任した秋月マキシよ! 輝く私が輝ける天気予報をお届けするわ!」

マキシ「今日の東京は……曇り? 何それ、全然輝いてないわ! 皆! 安心しなさい!」

マキシ「天気予報は曇りだけど、太陽の代わりに私が輝くから! だから今日は全国的に快晴よ!」

マキシ「日本列島をあまねく照らすこの私が、あなたたちのお洗濯物を守ってみせるわ!」

マキシ「以上、秋月マキシが輝ける天気予報をお送りしました! 明日もまたシャイニーング!!」


春海『……なんだ今の』

夏野「全く天気予報の意味をなしていなかったわね」

春海『あれ苦情来るんじゃねぇの?』

夏野「ちょっと聞いてみましょうか」

春海『聞くって、携帯出して誰に……』

プルルルル…

鈴菜『はぁい、せんせぇ。何かご用ですかぁ?』

夏野「30秒」ブチッ

春海『またかよ……。いくらあいつでも30秒は……』

ドン!ドン!

鈴菜「せんせぇ! 先生の豚めが馳せ参じましたぁ!」


春海『うぇぇ!? もう!? しかもベランダかよ!?』

春海『……あー、そういえばマンションの屋上にこいつのテントがあったっけ。燃えたけど。そこに泊まってたのか……?』

鈴菜「開けてくださいよぉ。春先とはいえ、まだ寝巻きだと寒いですぅ!」

夏野「誰も家に入れるなんて言ってないじゃない。あなたはそこで私の質問に答えればいいの」

鈴菜「……ぁ。あぁぁぁぁん! 朝から容赦ないですねせんせぇ! 素敵ですぅ!!」

春海『もうやだぁ……。この人ほんとやだぁ』


鈴菜「あぁ、秋月先生ですか。確かに、さっきのニュース番組にでていらっしゃいましたねぇ」

春海『あいつ、あんなんじゃすぐ降板させられるんじゃないのか?』

鈴菜「それがそうでもないらしいんですよぉ。大門さんから聞いたんですけど、何でも今回のオファーのきっかけは前任のお天気お姉さんが急に来れなくなったことなんだそうです」

鈴菜「お天気お姉さんがいなくて番組プロデューサーが悩んでたら、たまたま特集のゲストでいらしてた秋月先生が『私がやります』って立候補したらしいですよ」

鈴菜「プロデューサーも面白いかもしれないってGOサインを出して、結局その日は秋月先生が天気予報を読み上げたんですよ」

鈴菜「まぁ、その時の内容も今日みたいな感じだったんですけど、意外にも好評だったみたいで。瞬間視聴率30%とか出たって言ってましたぁ」

春海『30%って……。朝の数字じゃないだろ……』


夏野「ふぅん。そう、わかったわ。もう帰っていいわよ」

鈴菜「あ、あの、ここベランダなんですけど……」

夏野「だから?」

鈴菜「玄関から外に出してもらえないかなぁ、とか……」

夏野「階段がないなら、飛び降りればいいじゃない」

春海『どこのアントワネットだよ』

鈴菜「はぁい! 鈴菜、行きまーす!」バッ

春海『うわっ!? マジで飛びやがった!?』ガラッ

春海『……あ、パラシュート持ってたのか 。ったく、心臓に悪いわ……』


春海『しかし、マキシもちゃんとアイドルやってるんだなー』

夏野「しょっちゅうここに来るし本当は暇人なんだと思ってたわ」

春海『あんな風に仕事して、しかも本も書いてるんだから普段アホの子でも実はすごいやつなんだよな』

夏野「……なんでそんなに褒めるのよ」ボソッ

春海『ん? なんだって?』

夏野「何でもないわよ!」

春海『今日の新聞は……。おぉ、今日マキシ結構出てるじゃん。いい機会だからあいつのアイドルっぷり、見てみようぜ』

夏野「はぁ……。ま、いいわ。見ましょうか」


……………………
………………
…………

TV<ルールル ルルル ルールル ルルル

夏野「ほら、始まるわよテレビっ犬」

春海『テレビっ子みたいに言うなよ。ていうか言いづらいだろ、それ』

夏野「と、特別に私の膝の上を貸してあげるわ。感謝しなさい」

春海『へーへー。お、ちょうどいい高さじゃないか。居心地もいいし』

夏野「わ、私の膝そんなにいい?」

春海『おー、時々本の読み聞かせとかやってもらいたいくらいだ』

夏野「それくらいなら言ってくれればいつでも……」ゴニョゴニョ

春海『ん? あ、マキシ出てきたぞ』


湯婆婆「今日のお客様は、作家として活躍していらっしゃる傍ら、アイドルとしても活動なさって、中高生を中心にたいへんな人気でいらっしゃる秋月マキシさんです」

マキシ「よろしくお願いします!」

湯婆婆「よろしくお願いします。なんでもお書きになった本が映画になるとか」

マキシ「はい、おかげさまで……」

湯婆婆「その辺りのお話も後々お聞きしたいと思います。今日のお客様、秋月マキシさんです!」

ラーララ ラララ ラーララララー


春海『へぇ。しっかりした対応もとれるんだな』

夏野「天気予報もああいう風にやればいいのに」

春海『まぁ、その辺はニーズとかいろいろあるんだろ』


湯婆婆「今日のお客様は、秋月マキシさんです。作家で、その上アイドルだなんて大変でしょうに」

マキシ「それはまぁ。でも、好きでやってますから、楽しいです」

湯婆婆「まず作家としてデビューされたそうで。芸能人が本を出すっていうのはよくありますけど、そうじゃないのね」

マキシ「はい。最初に本を出させていただいて、ありがたいことにそれが大勢の方に読んでもらえまして……。で、それとほぼ同時期くらいに街でスカウトされたので、そこからアイドルの方も」

湯婆婆「でもちゃんと両立なさって、ご立派ねぇ」

マキシ「いえいえそんな……」


夏野「私がご立派ね、なんて言ったら『そうでしょう! もっと褒め称えなさい、このゲロカスのナイチチが!』くらいは言うでしょうね」

春海『お前の中のマキシ像はどうなってるんだ……。しかも自分でナイチチとか言っちゃったよ』

夏野「誰がナイチチですって!?」ジャキン

春海『だから自分で言ったんじゃん!』


湯婆婆「実は私も何冊かあーたの本を読んだことがあるんですよ」

マキシ「本当ですか! ありがとうございます!」

湯婆婆「すごく読みやすくて、だけど心に残るいい本ばかりでしたよ」

マキシ「わぁ……、光栄です!」

湯婆婆「作家として何か心がけていらっしゃることとかおありなの?」

マキシ「読者はどんなものを読みたいのか、作家に何を求めているのか、ということをいつも考えながら書いてます」

マキシ「『あなたは自分の書きたい作品を、読者に読んで欲しいと、そう思うことはないのか』って言われたたこともありますけど、これだけはエンターテイメントを提供する者として譲れません」

マキシ「作家として読者に、アイドルとしてファンに、思いっきり楽しんでもらえるのが一番ですから」

湯婆婆「お若いのにいろいろ考えてるのねぇ」


春海『言われてるぞ』

夏野「あら、私あんなこと言ったかしら?」

春海『いや、忘れるなよ……。新稲葉タワーで言っただろ』

夏野「冗談よ、覚えているに決まってるでしょう。白いのは白いのの、私は私のやり方がある。どっちが正しいのかなんて知らない。わからない。だけど私もあの白いのも自分の信じる道を曲げるつもりはない。それだけよ」

春海『全く、お前ら根っこは似てるのになぁ……』

夏野「誰があんな露出狂に似てるって?」

春海『負けず嫌いなとことかそっくりだと思うぞ』


湯婆婆「アイドルとしての秋月さんですが……。ファンにはマッキーと呼ばれているとか」

マキシ「まぁ、アイドルとしてというか作家秋月マキシのファン=アイドル秋月マキシのファンみたいなところはありますけどね」

湯婆婆「ライブでは熱狂のあまり会場の地盤が傾いたって伝説もあるそうで」

マキシ「いやー、あはは……。確かにあの時はすごかったですけど、さすがに誇張じゃないかと……」

湯婆婆「普段の口癖は『輝いてる』だそうですけど、あーたこれはどんな時におっしゃるの?」

マキシ「自分が輝いてると思ったら『私って輝いてる!』って言いますし、ファンの皆が輝いてると思ったら『あなたたち輝いてる!』って言いますよ。今だって私輝いてます!」

湯婆婆「まぁ、よくわかりませんけど、自分に自信がおありなのね」

マキシ「でないとアイドルなんて勤まりませんよ」


夏野「これ、普通の人が言ったらだいぶ嫌味ったらしいわよね」

春海『まぁでもそこはマキシだから……。実際美人だしな』

夏野「……私より?」

春海『は?』

夏野「だ、だからあなたは私と白いの、どっちが美人だと思うのよ!」

春海『いや、今のは一般論であって、俺は立体に興味ないから。どっちが美人とかどうでもいいし」

夏野「……っ! この朴念犬!!」ズバッ

春海『なんで!?』


湯婆婆「あーた、いつも黒服というのを連れているそうね」

マキシ「はい。ボディーガードみたいな感じです。みんな私を慕って集まってくれて……。いつもいろいろ助けてくれるので感謝してます」

マキシ「今日も多分スタジオの外とかで待機してると思いますけど……」

「うぅっ……! マキシ様が感謝してくださっている!」「黒服冥利に尽きる!」「マキシ様バンザーイ!」

湯婆婆「あらあら」

マキシ「す、すみません……。あんたたち! いつもありがとう! でも今は収録中だから静かにしなさい!」

「「「YES!! マキシ様の言う通り!!」」」

マキシ「うるさい!」


春海『あー……。これぞマキシって感じだなぁ』

夏野「ほんとどこにでもいるのね、あの黒服たち」

春海『おかげでマキシを事前回避できるんだからいいじゃないか』

夏野「まぁ、それはそうだけど……」


湯婆婆「それで、映画になるという本が……」

マキシ「はい、『君に会いたい、もしくはカピバラに会いたい』という本で恋人を探す女子高生が紆余曲折を経て動物園の経営再生をしていく話です」

マキシ「○月××日に公開しますので、よろしければ見てください」

ルールル ルルル ルールル ルルル

湯婆婆「いろいろお話をお聞きしましたけど、今後目指すものとかはおありなの?」

マキシ「目指すというか、今作家仲間で競いあってる人たちがいて、絶対に負けたくないと思ってます」

湯婆婆「そう、応援しますよ。今日はありがとうございました」

マキシ「はい、ありがとうございました」

ラーララ ラララ ラーララララー


春海『……思ってた以上にしっかりしてたな、マキシのやつ』

夏野「相手は芸能界の大先輩だし、あれが普通だと思うわよ。まぁ、失態を犯して慌てふためく白いのも見てみたかったけど」

春海『それは普段から見てるだろ。主にお前が原因で』

夏野「私が悪いとでも言うの?」

春海『悪くないとでも思ってるの?』

夏野「生意気な犬ね。お仕置きが必要かしら」ジャキン

春海『ごめんなさい!!』


……………………
………………
…………

司会「さぁ! 始まりました、アイドルVSアイドル! 勝って芸能界に生き残るのはどっちのアイドルだ!?」

司会「今日戦ってもらうアイドルはこの二組!」

司会「まずはディフェンディングチャンピオン! 作家もこなすシャイニングアイドル、秋月マキシー!!」

マキシ「シャイニーング!!」

「「「YEAHHHHHHHHHHH!!!!」」」

司会「今日も大勢のマキッシャーが応援に来ているぞ! マッキー、彼らに一言!」

マキシ「秋月マキシは!?」

「「「輝いてる!!!!」」」

マキシ「秋月マキシは!?」

「「「超輝いてる!!!!」」」

マキシ「ありがとう! あんたたちも輝いてるわよ!!」

「「「YEAHHHHHHHHHHH!!!!」」」


春海『相変わらず訓練されてんなぁ……』

夏野「私、こういう低俗な番組は好きじゃないんだけど」

春海『まぁ、そう言うなよ。一緒に見ようぜ』

夏野「……わかったわよ」


司会「若干アウェイだがチャレンジャーの紹介だ! 新稲葉で結成されたアイドルユニット! 期待の新星、SIB48ー!」

「SIBー!」

「「「48!!」」」

司会「48とは名ばかりで5人しかいないが気にするな!」


春海『いや、気にするだろ!!』

夏野「あなた、テレビにまでつっこみ始めたら末期よ」

春海『し、仕方ないだろ……。もはやそういう病気なんだよ』

夏野「可哀想に。私が調きょ……治療してあげましょうか?」

春海『今調教って言おうとしたな? というかお前といたら余計治らねぇよ』

夏野「なっ! それは私といたくないって意味かしら!?」

春海『いや、誰もそんなこと言ってないだろ。ずっとここにいるよ』

夏野「……ぁ」カァッ

春海『本読めなくなるしな』

夏野「死ねぇ!!」ズバッ

春海『どストレート!?』


司会「両雄合間見えたところで今日の対戦種目の発表だ! 今日の種目は~!」

ジャカジャカジャカ……ジャン

司会「熱湯風呂だー!!」

マキシ「ふふっ、まぁ新人さんたちにはこれくらいが丁度いいわね」


春海『いやいやいや! え!? 熱湯風呂!? 何この番組!?』

夏野「アイドルだって熱湯風呂くらいするでしょう」

春海『しないよ!? 普通のアイドルはしないと思うよ!?』

夏野「あの人たちだってやってたじゃない。ほら、三人組の……、なんとか倶楽部って人たち」

春海『あの人たちはアイドルじゃねぇよ!  おニャン子クラブの姉妹グループとかじゃねぇから!』


司会「それではまずチャレンジャーからの挑戦! 代表者を選んでください!」

「私が出るわ! いずれ“アイドル探偵”としても名を馳せる予定の、この空戸・L・アリシアがね!」

司会「おっ、威勢がいいな! でも金髪で変な髪型ってちょっとマッキーとキャラが被ってるんじゃないか?」

マキシ「誰が変な髪型よ! それに唯一無二に輝く私が誰かと被る訳ないでしょう!」


春海『……あいつ、前にこのマンションで見たな』

夏野「さすがエロ犬。目敏いわね」

春海『誤解を招くような言い方やめろよ。印象に残ってただけだから』

夏野「『俺の眼鏡に適ったイイ女だったから印象に残ってたぜぇ、グヘヘ』ですって?」

春海『お前の周りの人間への評価、一回見直した方がいいと思うぞ』


司会「ルールは単純明快! 熱湯風呂に浸かっていた時間がそのままポイントになるぞ!」

司会「だがこれはアイドルの勝負! もちろんそれだけでは勝敗は決しない!」

司会「より視聴者を楽しませた方にボーナスポイントが付くぞ! 熱さに堪えてリアクションをとる! それができてこそ真のアイドルだ!」

アリシア「ち、ちなみにお湯の温度はどれくらいなの? べっ、別に怖い訳じゃないのよ! いずれ“熱湯探偵”としても名を馳せる予定の私が、怖がるはずないわ!」

司会「お湯の温度は51℃だ!」


春海『ガチのやつじゃねぇか! ダメだろ!!』

春海『あとアイドルの定義が間違ってる!!』

夏野「最近のアイドルはなんでもするのよ。でないとアイドル業界では生きていけないもの」

春海『いや、この番組とマキシがおかしいだけだと思うけど……』


司会「先攻、空戸アリシア! 生憎だが生着替えはなしだ! 残念だったな、お前ら!」

アリシア「こ、怖くない、怖くない……。絶対押さないでよ!」

マキシ「わかってるわかってる」

アリシア「絶対、絶対よ! わ、私のタイミングでいくから……。すぅー……、はぁー……。すぅー……」

マキシ「あーもう! じれったいわね!」ドンッ

アリシア「きゃあ!?」ツルッ

ドッボーン

アリシア「あっつ! 熱い熱い!!」バシャバシャ


夏野「最低ね、あの白いの」

春海『おっと、俺の聞き間違いかな? お前が言うなって言いたくなる発言があった気がするんだけど』

夏野「何か文句でもあるの?」

春海『俺はお前に便器に落とされたこと、一生忘れないからな』

夏野「わ、私のこと一生忘れないだなんて……。し、殊勝な犬ね!」

春海『俺の発言が意図的に改竄されている』


司会「さぁ、ただいまの記録はー!?」

ジャカジャカジャカ……ジャン

司会「8秒! SIB48に8ポイントだ!」

マキシ「ふぅん。なかなかがんばるじゃない。それじゃ……、黒服!」パチン

「「「YES! マキシ様の言う通り!!」」」サッ

マキシ「ゴニョゴニョゴニョ」

「「「YES! マキシ様の言う通り!!」」」

司会「ここで恒例の黒服会議! 今回は何を見せてくれるのか!?」


春海『もはや黒服がスタジオに現れるのは番組公認なんだな……』

夏野「ほんとどこにでもいるのね」


マキシ「今から私が輝く熱湯風呂の入り方を教えてあげるわ! よーく見ておきなさい!」

アリシア「いいから早く入ったら?」

マキシ「す、すぐ入るわよ! だから押すんじゃないわよ!」

アリシア「わかってるから、早く」

マキシ「絶対よ! 絶対押すんじゃないわよ! 絶対……」

アリシア「……」

マキシ「押 せ よ!!!」


春海『もう完全に芸人じゃねぇか』

夏野「めんどくさいやつねぇ」

春海『いやまぁ、これはお約束だし……』


アリシア「押すなって言ったり押せって言ったり……。どっちなの?」

マキシ「それは……いろいろあるでしょ! お約束的な!」

アリシア「だってユメミがされて嫌なことは人にするなって……」

マキシ「いい子か! いいから早く……」

「じゃあ遠慮なく」ドンッ

マキシ「うわっ!?」ツルッ

ドッボーン

アリシア「うわぁ……。ナオ、容赦ないな」

奈央「アリス、日本のテレビは奥が深いんだ」


夏野「ユメミ……?」

春海『お姉さんと同じ名前だな』

夏野「まさか……ね。あの駄姉が私に内緒であんな面白そうな子と仲良くなったりしないもの」

春海『交友関係くらい自由にさせてやれよ……』


マキシ「あっつい! あっつ! アカンて!!」ザバッ

「マキシ様、こちらに氷が!」

マキシ「ありがと!」ザブン

マキシ「って熱い!! お湯じゃないの!!」

「「「YES! マキシ様の言う通り!!」」」

マキシ「ふざけんじゃないわよ!!」


春海『これ全部仕込みなのかなぁ。お笑いのためなら体張っちゃうアイドルって……』

夏野「ぷっ……くくく」

春海『あれ? ウケてる?』

夏野「ばっ、バカ……くくく、言わないでくれる? くふっ」プルプル

春海『ツボっちゃってるじゃん。それくらい認めろよ……』


司会「マッキーの記録はー!?」

ジャカジャカジャカ……ジャン

司会「15秒! この差は大きい!」

マキシ「やっぱり私輝いてる!」

「「「YEAHHHHHHHHHHH!!!!」」」

司会「そして視聴者の反応だ! 視聴者による投票を行い、票数の多かった方に10ポイント入るぞ!」

司会「投票方法はご覧の方法で!」

司会「投票タイムスタート!!」


春海『おい、dボタンから投票できるんだと。どうするよ』

夏野「わ、私が……くくっ、白いのに投票する訳ないでしょ」

春海『めっちゃ笑てるやん。頑固なやつだな、ほんと』

春海『じゃあSIBとやらに投票しとくからな。ぽちっとな』ポチッ

夏野「ふっ、ふふふ……。くふっ」


司会「投票しゅーりょー!!」

司会「投票の結果勝ったのはー!?」

ジャカジャカジャカ……ジャン

司会「マッキーだー!! SIB48に二倍近い差をつけて勝利! 合計25対8でマッキーの勝ち!! 見事来週の出演権も獲得だぁ!」

司会「おめでとう、マッキー!」

マキシ「シャイニーング!!」

「「「YEAHHHHHHHHHHH!!!」」」

司会「残念だったなぁ、SIB。だが、まだまだチャンスはあるぞ! 諦めずにまた来てくれ!」

アリシア「……もうこりごりよ」

司会「それでは今日はこの辺で! また来週!!」


春海『ふぅ。いやぁ、結構面白かったな』

夏野「まぁまぁだったわね」

春海『だからおもいっきり笑ってたじゃん』

夏野「笑ってないわ」

春海『いやいや、笑って……』

夏野「あ゛ぁ゛ん?」ジャキン

春海『笑って、ませんでしたねそうでしたね』


夏野「わかればいいのよ。で? どうだったかしら?」

春海『どうって……。何がだよ』

夏野「この私と二人でテレビを見た感想よ。ドキドキした?」

春海『なんで今さら……。別になんとも思わねぇよ』

夏野「ちょっ、ちょっと恋人同士みたいだなぁとか! 思わなかったの!?」

春海『お前と恋人なんて考えただけで恐ろし……うっひゃい!?』ザクッ

夏野「そう……。考えただけで、ねぇ……?」ジャキン

春海『あ、えっと、その……!』

夏野「お前の血は何色だぁぁぁぁぁ!!」

春海『ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!』


おまけ

円香「二人ともすごいね! アイドルとしてテレビに出ちゃうなんて!」

奈央「いやぁ、あはは……。私はアリスのついでみたいなもんだったし」

アリシア「アイドル……テレビ業界……、日本にはよくわからないことが多いわ……」

円香「でも、ちょっとマキシさんにはがっかりだなぁ。なんだか新人いじめみたいだった」

奈央「それがさぁ、そうでもないんだよ。収録の後、マキシさんが私たちの楽屋に来てさ、何かダメ出しされるのかなぁと思ったら……」


マキシ「今日は乱暴なことしてごめんなさい。視聴者の方たちに少しでも楽しんでもらいたくて……。それでも、ちょっとやりすぎたわ。ごめんなさい」

マキシ「でもあなたたちとの共演、すっごく楽しかった! 良ければまた一緒に仕事しましょ! 輝いてたわよ、あなたたち!」


奈央「……てさ。ご丁寧に菓子折まで置いていったよ」

円香「へぇー……。テレビに映ってるのが全てじゃないんだね」

奈央「そうだな」

円香「それでそれで? 次はいつテレビに出るの?」

アリシア「もう出ないわ! “アイドル探偵”はとりあえず後回しよ!」

アリシア「見なさい! 楽屋にこんなものが届いたの!」バンッ


円香「手紙……? 何々……。『アイドルなんてしなくても君はとってもキュートだよ、探偵さん。だから早く君の手で捕まえてほしいな。怪盗二面相より』……?」

アリシア「そうよ! きゅ、キュートだなんてバカにして! い、一刻も早く捕まえてやるんだから!」

アリシア「この“迅速探偵”としても名を馳せる予定の、空戸・L・アリシアがね!!」

奈央「収録の日からこんな調子でさ。結局SIB48も解散しちゃった」

円香「えーっ! せっかくかわいかったのに!」

アリシア「関係ないわ! 私は二面相を捕まえるために日本に来た! もう寄り道はしない!」

アリシア「行くわよ! マドカ、ナオ!」

円香「い、行くってどこに?」

アリシア「決まってるでしょう! 聞き込みよ! 捜査は足でするものなの!」グイッ

円香「わ、わわっ」タタッ

奈央「ははっ。これじゃ、アイドルやってた方が楽だったかもね」

アリシア「待ってなさーい! 怪盗二面相ー!!」


という訳で『犬とハサミは使いよう』のSS第八段でした

まさか映美より先にこの二人が出ようとは……


ちょっと間あけちゃいました
ネタがね、ないんですよ……
せめてアニメやってる間は続けようと思ってるんですけどこれがなかなか

愚痴ってても仕方ないんで行きます!

「犬とイメージは使いよう」


映美「和人くん、お話があるの」

春海『なんだよ、改まって。犬の前で正座って、事情知らない人が見たら変な奴だぞお前』

映美「あっ、ご、ごめんね! こんな、いきなり話だなんて迷惑だよね……。私なんかが和人くんの大切な時間を浪費させるなんて、おこがましいよね……」

映美「……死んでお詫びします」フラッ

春海『待て待て待て! 死なんでいい! ていうか話は!?』

映美「止めてくれてるの……? ごめんね、こんな私のために……」

春海『うんうん。わかった、わかったから話をしてくれ』

映美「私は死ぬことも許されないんだね……。あ、そっか。生き地獄を味わえってことなんだね?」

春海『あーもう! 夏野ー! 話が進まないー!』


夏野「……全く。下らないことで私の手を煩わせるんじゃないわよ」

春海『仕方ないだろ。ほっとくとすぐネガティブなこと言い出すんだから……』

映美「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

春海『……でもさ、ハサミで脅すのはやり過ぎだと思うよ? 結局話進んでないんだけど』

夏野「じゃあ他に方法があったっていうの?」

春海『あるに決まってるだろ! 少なくともいの一番にとる方法じゃねぇよ!』

夏野「注文の多い犬ねぇ……。ほら、映美。戻ってきなさい!」

映美「ごめんなさ……はっ! ごめんなさい!」

春海『どっちにしろ謝るのかよ』


夏野「で? この犬に話があるんでしょ?」

映美「は、はい……。あ、あのね、和人くん……」

春海『おう』

映美「わ、私ね……。い、イメチェンしようと思うの!」

春海『……へ?』

映美「うわぁ……言っちゃった……! ごめんなさいごめんなさい、私みたいな地味な子がイメチェンしたいとか高望みしてごめんなさい!」

夏野「ふぅん……。イメチェンねぇ」

映美「や、やっぱりいいです! 嘘ですごめんなさい!」

夏野「まだ何も言ってないじゃない」


春海『なんでまた急にイメチェンなんて……』

夏野「理由を聞かせてもらえる?」

映美「えっと……、そんな大した理由じゃ……ないんですけどごめんなさい。この間、秋月先輩が私をアイドルにしようとしたじゃないですかごめんなさい」

春海『とりあえず語尾にごめんなさいってつけるの止めて!?』

映美「さすがにアイドルは無理だから、あの時は断りましたけど……。でもアイドルとまでは行かなくても……普通の女の子として自信を持てるようになりたい……なんて、思ったり思わなかったり……」

春海『まぁ、なんだかんだ言って映美も女子高生だもんな』

夏野「そう……。よくわかるわ」

春海『……ごめん、今なんて?』

夏野「よくわかる、と言ったのよ難聴犬」

春海『普通の女の子になりたい人はハサミを振り回したりしないと思いますよ?』

夏野「それは私が普通の女の子じゃないって意味かしら?」

春海『そもそも女の子って歳じゃ……』

夏野「望み通りに、天からお塩!!」ズバッ

春海『ぎゃぁぁぁぁ!!』


夏野「そういうことなら私に任せなさい」

映美「ほ、ほんとですか!?」

春海『いやー……、やめた方がいいんじゃないの? 映美が悪堕ちしたみたいになる未来しか見えないんだけど』

夏野「失礼ね。映美のアイドルプロデュース対決の時に私の光り輝くセンスは見たでしょう?」

春海『マキシ入ってるぞ』

夏野「あら。私としたことが、あんな露出狂と同じことを……」

バーン!

「誰が露出狂よ!!」


マキシ「あっ! しまった! 『話は聞かせてもらったわ!』で入る予定だったのに!」

夏野「こいつはまた勝手に……!」

春海『警備会社って一体なんだったんだろうね』

マキシ「でもそんな失態を犯す私も輝いてるっ!」

映美「あ、秋月先輩……?」

マキシ「また会ったわね藤巻後輩! 話は聞かせてもらったわ!」

春海『結局言うんだ、それ』

マキシ「メイクの仕方からこの春流行間違いなしのファッションまで! 手取り足取り懇切丁寧にこの偉大なる先輩がプロデュースしてあげる!」

映美「え……」

春海『うわぁ、全力で嫌そうな顔だー』


夏野「待ちなさい、白いの」

マキシ「出たわね、黒いの! そうやってまた私の後輩にちょっかいをかけようとしてるんでしょう!」

春海『ずいぶん大きいブーメランだなぁ』

夏野「映美は私に相談しにきたのよ。あなたは引っ込んでなさい」

春海『最初に相談を受けたのは俺だけどね』

夏野「さっきからブツブツうるさいわね、犬」

春海『だってお前以外俺の声聞けるやつこの場にいないんだし……』

夏野「なんだ、寂しかったの? 仕方のない寂し犬ね」

春海『無駄に語呂のいい呼び方すんなよ』


マキシ「ふん! そっちがそのつもりなら私にも考えがあるわ!」

夏野「一応、聞くだけ聞いてあげるわ」

マキシ「勝負よ! どちらがより藤巻後輩を輝かせられるか、私と勝負しなさい!」

春海『またそれかよ! だから映美の意見をまず聞けって!』

夏野「面白いじゃない。乗ったわ」

春海『夏野も乗るなよ!! バカかお前! 学習能力ってもんがないのか!?』

夏野「あなたも学習能力はないみたいねぇ」ジャキン

春海『ひぃっ!? い、いや! 負けない! 俺は映美のために戦うぞ!』

夏野「映美のために……ねぇ」イラッ

映美「わ、私のため……?」

夏野「……とりあえず、死刑ね」

春海『死刑ってとりあえずで決めていいものじゃないよ!?』


マキシ「ふん! そっちがそのつもりなら私にも考えがあるわ!」

夏野「一応、聞くだけ聞いてあげるわ」

マキシ「勝負よ! どちらがより藤巻後輩を輝かせられるか、私と勝負しなさい!」

春海『またそれかよ! だから映美の意見をまず聞けって!』

夏野「面白いじゃない。乗ったわ」

春海『夏野も乗るなよ!! バカかお前! 学習能力ってもんがないのか!?』

夏野「あなたも学習能力はないみたいねぇ」ジャキン

春海『ひぃっ!? い、いや! 負けない! 俺は映美のために戦うぞ!』

夏野「映美のために……ねぇ」イラッ

映美「わ、私のため……?」

夏野「……とりあえず、死刑ね」

春海『死刑ってとりあえずで決めていいものじゃないよ!?』


マキシ「勝敗の決定は前回同様藤巻後輩に下してもらうわ! 異存はないわね?」

夏野「えぇ」

春海『異存ならあるぞー! 映美の意見を聞け!』

映美「はわ、はわわ」

春海『その慌て方、遺伝してるのかよ』

映美「はわわわわ」

マキシ「先攻はいただくわ! ほら、行くわよ後輩!」グイッ

映美「はわわわわわわー!」 ズルズル

春海『映美ー!!』

夏野「……さて。じゃあこっちは刑の執行に移りましょうか?」

春海『うぇっ!? え、えっと、俺も映美のとこに行ってきます!』ダッ

夏野「なっ、待ちなさい! バカ犬!」

夏野「着替えてるかもしれないでしょ……って逃げ足の速い……!」

夏野「……あとで二回殺す」


春海『っ!? ……なんかすごい悪寒が。夏野の殺気か……?』

コレヨ!コノブキニモナルコウテツノスカートガコトシノトレンドナノ!

春海『マキシの声……この部屋からか。武器にもなるって、どこのバルスカだよ……。服にそんな機能求めねぇよ普通』

ガチャ

春海『映美ー、生きてるかー?』

映美「えっ!? えぇっ!? かかかか和人くん!?」

春海『え? あぁ、着替え中だったのか。悪かったな』

春海『だが安心しろ。俺は文字専であるからして、お前の下着姿に劣情を催したりはしないさ』

映美「あ……、うぅ、あ、あの早く出ていってほしい、かな……なんて……。あっ! 和人くんが邪魔とかそういう意味じゃなくて! 私のこのだらしない体を見せてしまうのが申し訳ないというか、なんというか……」

映美「……死のう」

マキシ「ちょっ!? 後輩!? たかが犬に見られただけじゃない!」

春海『以前犬に触られただけでその犬をぶん投げた人の言葉とは思えないな。具体的にどこを、とはあえては言わないけど』

春海『まぁでも確かにこのままじゃ映美に悪いか……。ちょっと外出てるよ』


……………………
………………
…………

映美「き、着替え終わったよ、和人くん……。私なんかのために追い出しちゃってごめんね……?」

春海『お、終わったのか。どれどれ……』

春海『……おぉ』

マキシ「どう、和人? この私の光り輝くコーディネートは」

マキシ「まずはメガネを外してみたわ。メガネっ娘がメガネを外すと超輝いてるってのはやっぱりお約束よね」

マキシ「それからウィッグも着けてみたの。後輩のヘアスタイルはベリーショートだったから思いきってロングにしてみたんだけど、よく似合ってるでしょ?」

マキシ「服はトップスが白のフリルブラウスに紺のテーラードジャケット。ボトムスにはデニムのショートパンツに黒タイツを合わせたわ」

マキシ「後輩はおとなしめな服しか持ってないって言うから、活動的でマニッシュにしてみたの。本当は鋼鉄のスカートが良かったんだけど、後輩がどうしても嫌っていうから……」

マキシ「ちなみに、タイツは私の趣味よ!!」

春海『そんな大声で言わんでも……』


マキシ「後輩は内気な性格のせいでうつむいてることが多いから、アイメイクは上目遣いが映えるように仕上げたわ」

マキシ「つけまはくどくなりすぎないようにナチュラルなものを、シャドウはまぶた全体を肌より少し明るめに。濃くてもケバいだけだものね」

春海『はぁ……。よくわからんが見違えたのはわかるぞ』

映美「うぅ……。私がこんなに可愛い格好してもいいのかな……。死んじゃわないかな……」

春海『死なねぇよ……。どんだけ自分に自信ないんだよ』

マキシ「よし! それじゃああの黒いのに見せにいくわよ!」


マキシ「私は先に行って場を盛り上げてくるから! 合図したら入ってくるのよ!」

ガチャ

映美「はわわ……。大丈夫かな……。秋山先輩引いたりしないかな……?」

春海『大丈夫大丈夫、似合ってるぞ』

映美「励ましてくれてるのかな……? でも自信ないよ……」

春海『ほんと大丈夫だから。俺を信じろ。お前を信じる俺を信じろ』ワンッ

映美「うぅ……、うん……。が、がんばるよ……」

マキシ「さぁ、入ってきなさい! 後輩!」

映美「は、はい!」

春海『よし、頑張って行ってこい!』

ガチャ


夏野「……ふーん。なかなかやるじゃない」

映美「あ、あんまり見ないでください先輩……」

マキシ「私の輝くセンスに恐れおののきなさい! 棄権してもいいのよ?」

夏野「はっ。誰が棄権なんてするもんですか。目にもの見せてあげるわ」

夏野「来なさい、映美! あなたを女にしてあげるわ!」

映美「え、えぇ!?」

春海『なんか如何わしい言い方だな、おい』

夏野「覗きにくるんじゃないわよ、この出歯犬!」

春海『へーへー』


……………………
………………
…………

夏野「待たせたわね」

マキシ「ずいぶん時間をかけていたようだけど、言い訳の仕方でも考えてたのかしら?」

夏野「寝言は寝て言いなさい。ま、映美の姿を見ればそんなことも言っていられなくなるけどね」

マキシ「ふ、ふん! じゃあ見せてもらおうじゃない!」

夏野「えぇ。刮目なさい! これが生まれ変わった大澤映美よ!」

ガチャ

映美「ぞ……、臓物をぶちまけろ……!」オドオド

夏野「映美inバルキリースカートよ!」


春海『履かせやがった! こいつ無理矢理鋼鉄のスカート履かせやがった!!』

夏野「人聞きが悪いわね。私はお願いしただけよ」

春海『一応言っておくけど、ハサミ突きつけるのはお願いとは言わないからな!』

夏野「見解の相違ね」

春海『常識の相違だ!!』

映美「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

マキシ「私が着せようと思ってたのにぃ……!」

夏野「信頼度が違うからかしらね」

マキシ「なっ!? そうなの、後輩!?」

映美「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

春海『恐ろしさの違いじゃないかな、多分』


夏野「さぁ、映美。ジャッジの時間よ」

映美「ひぃっ!」

夏野「私とその白いの、どっちのコーディネートが良かったかしら」

マキシ「もちろん私よね! バルスカだけでイメチェンになるなら苦労はしないわ!」

春海『いや、イメージ自体は大転換すると思うけどね。主に悪い方向に』

夏野「あら、これがただのバルスカだと思わないことね。それ、ぽちっとな」ポチッ

ウィィィン

映美「きゃぁぁぁぁぁ!?」

夏野「このように、ドクター・オクトパスのように歩行もできるのよ!」

春海『気持ち悪いわ!! 映美! おい、映美! 大丈夫か!?』

映美「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」ガクガク

春海『映美ー!!』


夏野「じゃあ改めて勝敗を決めてもらいましょうか」

春海『もう聞くまでもねぇよ……』

映美「……き先輩、です」

マキシ「え?」

映美「秋月……先輩、です」

春海『今回はさすがにはっきり言ったな。まぁ、こればっかりは仕方ない。進んでドック・オックになりたがる女子高生なんて普通いないもんね』

夏野「映美? なんですって?」ジャキン

映美「ひっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

春海『こら! 厳正な勝負の結果だ! 甘んじて受け入れろ!』

夏野「でも勝敗ってやっぱりデスマッチで決めるものだと思うのよ、私」

春海『どこの戦闘狂だよ! くっ! マキシ! 俺が夏野を食い止めるから、その隙に映美を連れて逃げろ!』ワンッ


マキシ「……なるほど、わかったわ和人! 藤巻後輩、今からショッピングに行きましょう!」

映美「え……?」

マキシ「もっともっとかわいい服とかアクセとかいろいろ買うのよ! あそこの黒一色女みたいにはなりたくないでしょう?」

春海『なんでわざわざ油注いでから行くの!?』

夏野「あなただって……、ほぼ白一色でしょうが!」

春海『わー! お、落ち着け夏野!』ガシッ

夏野「離しなさいこのバカ犬……!」

マキシ「ほら、行くわよ後輩!」

映美「は、はい……」

マキシ「ふふっ! 後輩とショッピングなんて、輝いてるわ! それじゃ、アデュー。負け犬さん」

ガチャ……バタン

夏野「こんの露出狂がぁ!」

春海『マキシのアホー! ほら、夏野! 代わりに俺の毛切っていいから! ちょっとだけ! なんなら鈴菜も呼ぼう! な!?』


夏野「ふーっ! ふーっ……」

春海『お、落ち着いた……?』

夏野「……犬を斬るわ」

春海『えっ』

夏野「犬をkillと言ったの」

春海『なんか発音変わってません!?』

夏野「さっき斬ってもいいって言ったでしょう……?」ジャキン

春海『それは、確かに、言いましたけど……。俺が言ったのは毛だけで……』

夏野「大丈夫よ……。剃刀負けみたいなものだから……」フラッ

春海『絶対違う! 全身剃刀負けとかそれはもはや皮剥ぎだから!』

夏野「ふふふ……。ゾクゾクしてきたわ」

春海『こえぇよ! クスリでもやってんのか!?』

夏野「小便はすませた? 神様にお祈りは? 部屋のスミでガタガタふるえて命乞いをする心の準備はOK?」ジャキン

春海『い……いやぁぁぁぁぁぁぁ!!』


という訳で『犬とハサミは使いよう』SS第九段でした

今回のSSの前日譚的な短編も収録された『犬とハサミは使いよう Dog Ears3』が絶賛発売中だよ!



紅葉と円香が出会ってしまったssを見てみたいです |д゚)チラッ


行きます!

>>242さんのネタをいただきました

「犬と義妹は使いよう」


春海『ふぅ……』パタン

春海『いやー、面白かった。この作者新人か、要チェックだな』

円香「あ、読み終わった? じゃあ和兄、お散歩行こっ!」グイッ

春海『……間髪入れずこれですよ。まぁ、読み終わるの待ってくれてる分どこぞの妖怪ハサミ女より億倍マシだけど』ズルズル

円香「ほーらっ! 桜さんのお店、今日も行くんでしょ?」

春海『円香。確かにもうほとんど桜が経営してるようなもんだけど、それでも一応本田書店はオッチャンの店なんだよ。オッチャン、きっと泣いてるよ?』

円香「よーし! レッツゴー!」グイグイ

春海『あっ! 痛い痛い! 尻尾引っ張っちゃらめぇぇぇぇ!!』ズルズル


ガチャ

円香「ほらほら和兄、いい天気だよ! こんな日に部屋に閉じ籠ってちゃもったいないよ!」

春海『晴読雨読がモットーの俺には関係ない話ですよ』

円香「あれ……? 何か聞こえない?」

「わったっしっは、メイドなのよ~♪」

春海『こ、この歌はまさか……!』

円香「ねぇねぇ和兄、これって『超従者黙示録』の……」

春海『それ以上はいけない!』

佐茅「……あ」

円香「あ」

佐茅「み、見たね……っ」カァッ

佐茅「『穢殺刃』ァァ!!」ジャキン

円香「『鮪喰・零式』、『鮪喰・無限』起動!!」ギュィィィィン

春海『デジャビュぅぅぅぅぅぅ!?』


佐茅「おっと、危ない危ない。恥ずかしさのあまり思わず叩き斬ってしまうところだったよ」

春海『俺こんな危険人物の隣で暮らしたくないよぉ……』

佐茅「春海円香だったね。あんたに会ったら連れてくるようお嬢様に言われてるんだ」

円香「お嬢様……?」

春海『紅葉が? あいつが他人に興味を持つなんて珍しいな』

円香「……私、今から和兄とデートなんだけど」

春海『あれ? 初耳だなぁ』

佐茅「力づくでも連れてくるよう言われていてね。そんな態度だと、お嬢様の前に着く頃には腕の一本や二本はなくなってるかもしれないねぇ」ジャキン

春海『怖いわ!!』

円香「上等だよ……!」

春海『わー! 待て待て! いいから! 本田書店後でいいから! 紅葉んとこ行こう!』グイグイ

円香「……和兄、行きたいの?」

春海『こんなとこでまたぞろドンパチやられたらかなわないからな!』ワンッ

円香「和兄が行きたいなら……いいけど。ぶー……」

春海『そんなに頬を膨らますなよ、かわいいだろ』

佐茅「決まったようだね。さぁ、この部屋がお嬢様の家だよ」


佐茅「おっと、危ない危ない。恥ずかしさのあまり思わず叩き斬ってしまうところだったよ」

春海『俺こんな危険人物の隣で暮らしたくないよぉ……』

佐茅「春海円香だったね。あんたに会ったら連れてくるようお嬢様に言われてるんだ」

円香「お嬢様……?」

春海『紅葉が? あいつが他人に興味を持つなんて珍しいな』

円香「……私、今から和兄とデートなんだけど」

春海『あれ? 初耳だなぁ』

佐茅「力づくでも連れてくるよう言われていてね。そんな態度だと、お嬢様の前に着く頃には腕の一本や二本はなくなってるかもしれないねぇ」ジャキン

春海『怖いわ!!』

円香「上等だよ……!」

春海『わー! 待て待て! いいから! 本田書店後でいいから! 紅葉んとこ行こう!』グイグイ

円香「……和兄、行きたいの?」

春海『こんなとこでまたぞろドンパチやられたらかなわないからな!』ワンッ

円香「和兄が行きたいなら……いいけど。ぶー……」

春海『そんなに頬を膨らますなよ、かわいいだろ』

佐茅「決まったようだね。さぁ、この部屋がお嬢様の家だよ」


ガチャ

九郎『あ、佐茅さんおかえり……どぅほぉ!?』

春海『……なんだよ、ボケカラス。変な声出して』

九郎『き、危険度80が……! 危険度80が攻めてきた!』

春海『やっぱりそういうことか! 人の妹を危険度で呼ぶんじゃねぇ!!』

九郎『はははは早くトラップをををを……。あれでもない、これでもない……』

春海『させるかこの野郎!』ダッ

カチッ

春海『あっ』

シュンッ

春海『うおっ!?』サッ

グサッ

春海『あっぶね! 矢かよ!?』

九郎『ただの矢じゃないですよ。インドぞうも2びょうでたおれる猛毒が塗ってあります』

春海『死ね! 氏ねじゃなくて死ね!!』

佐茅「何をやってるんだい、あんたたちは」

円香「それで? お嬢様って人はどこ? まさかそのカラスじゃないよね」

佐茅「はっ、まさか。これはただの居候だよ」

九郎『さ、佐茅さん!?』

春海『事実だろ』

佐茅「お嬢様はこっちだよ。付いてきな」


佐茅「紅葉お嬢様、以前お話した春海和人の妹をお連れしました」

紅葉「本当ですか?」

円香「私がそうですけど……」

佐茅「こちらが私の主人であり、作家の姫萩紅葉先生だ」

円香「姫萩紅葉……!」

春海『紅葉、一応円香の前では俺の言葉が分かるような振る舞いはできるだけ避けてくれよ』

紅葉「……」コクッ

紅葉「あなたが和人さんの妹さん、円香さんですか……。なるほど、お兄さんによく似ていらっしゃいますね」

春海『……いやいや。お前生前の俺知らないだろ。適当なこと言うなよ』

九郎『あなたはバカなんですか? 死ぬんですか? 死後知り合うなんて普通あり得ないんですからこうでも言わないと不自然でしょう』

春海『あー、なるほど』

九郎『全く、やはり犬は犬らしく矮小な脳みそしか持ち合わせていないんですね。片腹痛いですよ』

春海『今日は一段と口悪いな!?』


円香「和兄の知り合い……? 和兄とはどういう関係だったんですか」

紅葉「関係……、関係ですか。そうですね、一言で言い表すなら……」

紅葉「夫婦、でしょうか」

春海『……は?』

九郎『紅葉!? 何を言ってるんだい!?』

円香「……」ピキッ

円香「あれぇ、おかしいなー? 和兄に恋人なんていなかったと思うんだけどなー」

円香「なにせ『本をめくるこの右手が俺の恋人だ!』が口癖だったくらいなんだからなー!」

九郎『……マジですか?』

春海『マジだよ。なんか文句あんのか』

九郎『……いえ。もはや何も言うまい、ですよ』


紅葉「和人さんだって円香さんに内緒にしていたこともあるでしょう」

円香「ある訳ないよ! あっても私の情報網に引っ掛からないはずがない!」

春海『情報網って何!? 俺監視でもされてたの!?』

紅葉「ですが事実、私と和人さんは一緒に遊園地を巡り、 お互いのことを深く知り合い、肌の重なりを経て名字を共にした仲です。もはや夫婦と言う他ないかと」

春海『うん、おかしいよね。事実の中に少しの、だけど特大の嘘が紛れてるよね。これが上手な嘘の吐き方か!?』

円香「肌の重なり……? 名字を共に……?」フルフル

春海『い、いかん! 円香が夏野と喧嘩する時の顔をしてる!』

円香「そんなの……! そんなの、嘘だッ!! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!」

円香「『鮪喰』!!!」ギュィィィィン

紅葉「……」

春海『おい円香!!』

円香「和兄の恋人を騙るペテン師め! その舌引っこ抜いて二度とそんな戯れ言口にできないようにしてやる!」


佐茅「待ちな。お嬢様に手を出そうっていうなら容赦はしないよ」ジャキン

円香「うるさいッ! 邪魔をするなぁ!」

紅葉「円香さん。あなたは私にとっても義理の妹です。家族で無駄な争いはよくないと思いませんか?」

春海『紅葉さんお願いだから空気を読んで!!』

円香「私を……! 妹と呼ぶなぁ!!」

円香「ずぁいッ!!」ブンッ

佐茅「ふん!」ガキン

佐茅「なんだい、その攻撃は。まるで獣のようじゃないか」

佐茅「『鮪喰』は敵を料理する道具だろう。獣に料理はできないよ!」

キンッ!ガキン!

佐茅「ほらほらどうした! 隙だらけだよ!」

円香「くっ!」

春海『そんな……。円香が押されてる……?』

円香「前はほぼ互角だったのに……!」

佐茅「以前は互角だっただって? ――それって所詮は昨日の私だろ?」

春海『なんでこのメイドこんなにかっこいいんだよ。どこの三蔵一行だよお前は!』


円香「ちっ……!」ジリッ

春海『隅に追い詰められた……! ていうか今さらだけどここ室内ですよね!?』

佐茅「ふん。つまらない戦いだったね。いや、戦いですらないか」

円香「何を……!」

佐茅「今のあんたは怒りに我を忘れたただの獣。お嬢様のため……守るべきもののために戦う私の敵じゃないってことさ」

佐茅「少しは見所のある小娘だと思っていたんだけどね。どうやらとんだ勘違いだったようだ」

佐茅「雑魚はここで……清掃するッ!」

ゴッ!

春海『円香ぁ!!』

円香「和兄……っ!」

ガキン!


佐茅「何……!?」

夏野「私の可愛い可愛い妹に何をしているのかしら、この駄メイドは」

春海『夏……野……?』

夏野「馬鹿犬の声が隣から聞こえてくると思ったら、今度は大きな気のぶつかり合いを感知したんだもの。不審に思って来てみれば……」

佐茅「鍵はどうしたんだい? あの扉はどんな砲弾でも砕けない……」

夏野「あぁ、あれ? 斬ったわよ」

春海『あっさり言ったね! 不法侵入じゃきかないんじゃないの、それ!?』

円香「夏野さん……」

夏野「ずいぶん無様にやられていたじゃない、妹」

円香「妹と、呼ぶな……!」

夏野「言い返す元気があるのなら大丈夫そうね」


夏野「さて。どうする、円香? このまま私の顔に免じて見逃してもらう?」

円香「はっ……! 何を、言ってるのかな、夏野さんは。私の和兄を想う気持ちはこの程度じゃ折れない。この程度じゃ、負けない!」

円香「姫萩紅葉! あなたが和兄の妻を名乗りたいのなら、妹であるこの私を倒してからにしろ!!」

紅葉「……」

夏野「あら、じゃあ私は名乗ってもいいのかしら」

円香「それとこれとは話が別!」

夏野「ちぇっ」

紅葉「わかりました。佐茅さん、下がってください。私が直接お相手します」

佐茅「なっ……! お嬢様……?」

紅葉「場所を変えましょう。私が本気を出すにはここは狭すぎます」

春海『え? なんなの? 紅葉って魔王かなんかなの? 二人も魔王の知り合いいらないんだけど』


……………………
………………
…………

春海『紅葉がああ言うからマンション前の新稲葉公園に出てきた訳だけど……。何が始まるんです?』

夏野「第三次嫁小姑大戦だ!」

円香「私を小姑と呼ぶな!」

九郎『漫才をやってる場合ですか! あぁ、紅葉! そんな、いけないよ! 紅葉のその陶磁器のように美しい肌に傷でも付いたらどうするんだい!?』

夏野「いいから黙りなさい、この駄鳥。女には戦わなければならない時があるのよ」

円香「……紅葉さん、あなたはどうして和兄を夫だなんて言うんですか?」

紅葉「和人さんは……、閉じ籠っていた私を外に連れ出してくれました。私を連れ出した責任をとると言ってくれました。世界がどんなものなのかを教えてくれました」

紅葉「……この気持ちがとても尊いものなのだと、気づかせてくれました」

紅葉「だから、和人さんは私の夫です」

九郎『あばばばばば……』ブクブク

春海『紅葉……』

春海『ひどい論理の飛躍を見た気がするんだけど、つっこむのは野暮なのかな……』


円香「そっか……。和兄は、東京にいてもやっぱり和兄だったんだね」

円香「昔から一人ぼっちになってたり寂しそうにしてたりする人を見かけるとすぐに駆け寄って話しかけてた」

円香「『お前、本は好きか? この本は知ってるか?』って……。そういうの、放っておけない人だったもんね」

夏野「……それってあなたが誰彼構わず本の布教をしていただけなんじゃないの?」

春海『妹の夢をぶち壊すようなこと言うなよ。その通りだけど』

夏野「円香が少し可哀想になってきたわ……」

円香「そんな和兄に惹かれちゃうのはすごくわかるよ。だって和兄だもん。仕方ないよ」

円香「でも、私は和兄をあなたよりも、そして夏野さんよりもずっと長く見てきた。ずっと長く想ってきた」

円香「私にはその誇りがある。矜持がある。プライドがある」

円香「もう和兄はいないけど、和兄と過ごした時間は……和兄と過ごした誇りは決して消えない。この想いがある限り、和兄は誰にも渡さない!」

円香「和兄と私が積み上げてきた日々! これが私の守るものだ!」


佐茅「ほう……。さっきまでとはまるで違う目をしているね」

夏野「円香は過去に囚われることはなくなった。でもだからといってそれまでの日々が消えてしまう訳じゃない。むしろその日々は今の自分に力を与えてくれる大切なもの……」

夏野「そのことに気づいたのよ。今のあの子は……強いわよ」

佐茅「……だろうね。だけどうちのお嬢様だって負けちゃいないよ」

夏野「あら、助けにいかないの?」

佐茅「あんただってさっき言ってただろう。女には戦わなければならない時ってのがある」

佐茅「それを邪魔するのは……、野暮ってもんだろうさ」

夏野「……ふふっ。それもそうね」

春海『なんでお前らがそんなに落ち着いてるのか、俺には全く分からない。シスコンカラスはさっきから泡吹いてるし』

九郎『あばばばばばばば……』

春海『……もう何がなんだか分かんないよ。涙が出ちゃう、だってワンコだもん』


円香「『鮪喰・零式』、『鮪喰・無限』起動……!」

ギュィィィィン!!

円香「丸腰でいいの? 手加減なんてしないよ!」

紅葉「丸腰? 何を言っているのですか。私はすでに戦闘準備を終えているというのに」

円香「何……?」

春海『い、いかん! 円香!!』

紅葉「『天鳥船』、攻撃開始」

春海『紅葉がいつも通りの、ともすれば何の感情も込もっていないかのようなひどく落ち着いた声でそう告げた時、『天鳥船』の両サイドから大仰なミサイルポッドが飛び出した。
それらは、紅葉の合図を皮切りに発射される。
どう考えてもあの車椅子の中には収納不可能と思われる大きさのミサイルが次々と円香に襲いかかった。
……って俺何クソ真面目に解説してんの!?』

夏野「いいから続けなさい、実況犬」

円香は突然の攻撃に一瞬動きが遅れたものの、次の瞬間には両手の『鮪喰』を構え直す。
無理だ、いくら円香でもその量のミサイルをたった二本で迎え撃つなんて……!

円香「……いくよ、『鮪喰』」

【【YES、マイマスター】】

円香「はぁぁぁっ!!」ダッ

『鮪喰』を従え、円香は走り出す。
後退などしなかった。
その素振りすらなかった。
僅かの躊躇いもなく、その弾幕の中へと自ら身を投じたのだ。

春海『円香……! 円香ぁぁぁぁ!!』


夏野「目を背けるな! あなたの妹を信じなさい!!」

春海『あ……』

円香「蒼天に紅の華舞え! 『鮪喰』、解放!!」

ギュィィィィン!!

二本の『鮪喰』が雄叫びを上げる。
円香は、ミサイル群の中をほぼ無傷で疾走していた。
ミサイルをギリギリで回避し、すれ違い様に『鮪喰』がそれを叩き斬る。
斬ったミサイルが爆発する前にその空間を駆け抜ける。
爆風を背に受け、まるで追い風を掴んだスプリンターのように猛スピードで前進していた。

春海『人間技じゃねぇ!! でも無事そうでよかったよ!』

紅葉「やはりこの程度では怯みませんか。ですが……」スッ

紅葉が手元のコントロールパネルをタップすると、ミサイルポッドが引っ込んで代わりにガトリングガンがその姿を現した。

春海『……って、はぁ!? ガトリングガン!?』


紅葉「掃射」

ダダダダダダ!!!

ミサイルの雨を潜り抜けた円香に休む暇すら与えず、今度は銃弾の嵐が牙を剥く。
それでもなお円香はその足を止めない。
変形した『鮪喰』を盾代わりに突き進む。

紅葉「……」

紅葉の表情に大きな変化はない。
だが、ここ最近で僅かながらも感情を表に出すようになり、付き合いの短い俺でも分かるほどに紅葉は……

春海『焦ってる……?』

円香「おぉぉぉぉぉ!!」ダッ

無数の弾丸を掻い潜り、紅葉に肉薄する円香。
接近戦では分が悪いと判断したのか、紅葉は『天鳥船』の加速装置を全開にしてその場を離脱する。

円香「ふふっ。まずは一個、だよ」

距離をとった紅葉に不敵な笑みを向け、円香は足元の黒い物体を持ち上げる。
果たしてそれは『天鳥船』の左側についていたはずのガトリングガンだった。

紅葉「……! いつの間に……」

円香「その車椅子は確かにすごいよ。攻撃力も、機動力も。でもそれを動かす紅葉さんはただの人間」

円香「どうしても次の行動に移るまでにタイムラグが生じるんだよ。その点私は『鮪喰』と一心同体。体を動かすことがそのまま攻撃に繋がる」

円香「今のは、その違いの結果だよ!」

紅葉「……だからなんだと言うのですか。それでも、私は負けられないんです」サッ

ダダダダダダ!

残ったもう片方のガトリングガンが再び火を吹く。
だが、半分に減った弾幕はもはや円香の障害とはなり得ない。

円香「せぇいっ!!」

円香は勢いよく拳を突き出す。
その拳圧が襲いくる弾丸を弾き飛ばした。

紅葉「そんな……。素手で……」

円香「この拳も、命も! 『鮪喰』だ!!」

誰か……、誰か俺の妹を人間に戻してくれ!


紅葉「……分かりました。最初から小手先の攻撃は通用しなかったという訳ですか」

紅葉「ならば、こちらの最大威力を以て殲滅するまでです」

紅葉「天鳥船、システム『建御雷』起動」ウィィィィン

『建御雷』。
かつて遊園地で崩れたアトラクションの瓦礫を木端微塵に吹き飛ばした特大のミサイルだ。
もちろん人間がくらえばひとたまりもない。

円香「あれは……、ちょっとヤバい、かな」

その禍々しい存在感に円香も初めて焦りを滲ませる。

春海『いやいやいや!! ヤバいなんてもんじゃねぇよ! 俺の妹殺す気か!!』

紅葉「安心してください、和人さん。殺しはしませんよ。ただ少し……腕の一本や二本は吹き飛ぶかもしれませんが」

春海『ダ メ だ ろ!! メイドがメイドなら主人も主人だな!!』

円香「大丈夫、大丈夫だよ和兄。私を信じて、見ててね!」

春海『円香……』


円香「『鮪喰・無限』、食材破壊(デストロイ)モード!!」

【鮪喰・無限、形態変化、食材破壊モード、最終起動……! 食材ノ破壊ヲ最優先トスル】

円香「さらに! 『鮪喰・零式』、連結!!」

ガシャン!

夏野「あれは……! 合体することで『無限』の砲撃に『零式』の回転が加わり、なんやかんやして威力が二倍になるのね!!」

春海『何で分かるの!? そんで結局なんやかんやって何!?』

紅葉「これで、終わりです」

円香「これが私の全力全開!!」

紅葉が、円香が、その砲口を相手に向ける。
お互いがお互いを打ち倒すために。
お互いがお互いを越えるために。
なんでこんなことになってるんだろうとか、考えても仕方ないんでもう考えるのはやめておきます。

円香「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

紅葉「『建御雷』、発射」

ズカンッ!!!

二重の轟音。
砲弾とミサイル、その二つが空中でぶつかり合う。
そして……

ドォォォォォォン!!


春海『どうなった!?』

爆発が起き、一瞬理解が遅れる。
だが、俺がその爆音に気を取られている間に俺の側にいたはずの二人はすでに行動していた。

ギリギリギリ……!

夏野「気を緩めるんじゃないわよ、ホウキ女!!」

佐茅「こっちのセリフさ、ハサミ女!!」

紅葉を庇うように立ちふさがり、叱咤を飛ばし合う夏野と佐茅。
二人の自慢の武器は今、なおも衰えることなく回転を続ける砲弾を食い止めることに使われていた。

春海『そうか、さっき爆発したのは紅葉の……』

夏野・佐茅「「はぁぁぁぁぁっ!!」」

ジャキン!!!

スドォォォォン!!

両断された砲弾が紅葉の遥か後方で爆発する。
……勝敗は決した。
円香の、完全勝利だった。


円香「紅葉さん!!」ダッ

紅葉「円香さん……」

円香「大丈夫でしたか!?」

紅葉「はい……。佐茅さんたちのおかげで……」

円香「ふぁぁ……。よかったー……。勝っても紅葉さんに何かあったら和兄に顔向けできないもん」

紅葉「それはどういう……?」

円香「紅葉さんの本は、私も読んだことがあるの。和兄がね、熱心に勧めてきたんだ」

円香「和兄の大好きだった作家を傷つけるなんて、きっと怒られちゃうから」

紅葉「あ……」

円香「きっかけは和兄だけど、私も紅葉さんの本は大好き! だから、これからも素敵な本をたくさん書いてください!」

紅葉「そうですか……。読んでくれて、ありがとう」

夏野「ちょっと円香。後始末させておいて、私の心配はない訳?」

円香「あ、夏野さん。えへへ……、ごめんなさい」

円香「でも私、夏野さんならちゃんと止めてくれるって信じてたから」ニコッ

夏野「……ん。もう、あなたたち兄妹は急に心臓に悪いことを……」ブツブツ


佐茅「お嬢様……」

紅葉「……完敗、ですね。これが負けるということですか」

紅葉「思っていたより、悔しいものなのですね……」

紅葉「円香さん、あなたのお兄さんを想う気持ちには驚かされました」

円香「えへへ……」

紅葉「ですが、和人さんを想う時間なら私もこれから増やしていける」

紅葉「次は、負けません」

円香「何度でも私は立ち塞がります!」

紅葉「ですから、あなたに勝つまでは和人さんの許嫁という立場に甘んじさせていただきます」

円香「なっ!!」

夏野「大人げないわねぇ、姫萩紅葉」

紅葉「あら、恋する女は大人げないものではないのですか? 私も……そして、あなたも」

夏野「……言うじゃない」


春海『ここからじゃあいつらの話はよく聞こえないけど、どうやら一件落着みたいだな』

春海『それにしてもすごい戦いだった。我が妹ながら円香がどんどん人間離れしてるのが気になるが……。円香と紅葉も仲直りしたようだし、今はよしとしようじゃないか!』

春海『よーし、じゃあ俺は本田書店に行こうかな!』

円香「和兄っ!」ガシッ

春海『ま、ままままま円香? な、なんでせう?』

円香「今ね、和兄を想う気持ちがどんどん湧いてくるの! こんな時にはあれしかないよね!」

春海『あれってまさか……!? いや! いい! 言うな! 俺は嫌だ! 聞きたくない!』

円香「カレーを作るしか、ないよね!!」

春海『いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!!』

円香「たっくさん食べさせてあげるからね! 和兄っ!」


という訳で『犬とハサミは使いよう』のSS第十段でした

どうでもいいんですけど、マキシ様のミニアルバムのoutshineって曲
途中でサモ・ハン・キンポーって言ってますよね絶対


行きます!

臭いものに犬をする


俺が目を覚ました時、すでに事件は起こっていた。

春海『なんだよ、これ……』

春海『なんなんだよ……! これは!』

微かな異臭が漂う部屋で、俺は信じられないものを見ていた。

春海『おい鈴菜! 返事をしろ!』

鈴菜「」

春海『映美! マキシ! 佐茅! 紅葉!』ワンワンッ

映美「」

マキシ「」

佐茅「」

紅葉「」

死屍累々、地獄絵図。
映美や紅葉だけでなく、マキシや佐茅、鈴菜までもが倒れたまま動かない。
そして何より俺が信じられないのが……

春海『夏野!!』

夏野「」

あの夏野霧姫が、地に伏していることだった。


春海『なんでお前まで……! お前は負けちゃダメだろうが!』

春海『なんとか言えよ! この貧乳!!』

夏野「……」

返事がない、ただの屍のようだ。
なんて冗談を言う余裕すらなく、俺は立ち尽くす。
夏野が貧乳に反応しないなんて異常だ。
紛れもなく、異常事態だった。

春海『何があったんだ……! 思い出せ、思い出せ俺……』

俺が覚えている限りのことを思い起こそうとする。
何があったのか、誰がこれをやったのか、どうやってこれを……

春海『ん……? そういえばあいつは……?』

そうだ、あいつがいない。

春海『まさか……がっ!?』

その事に考えが及んだ時、俺は背後から何者かに首元を強く掴まれた……


~一時間前~

夏野「ねぇ、犬。こっちへ来て血ヘドを吐きながら死んでみてくれない?」

春海『嫌ですけど? なんですると思ってんの?』

夏野「だってあなた、『俺、霧姫の前で喀血しながら死ぬのが夢なんだ』ってドヤ顔で語ってたじゃない」

春海『事実の捏造がひどい! 死ぬのが夢ってどんだけ性癖倒錯してんだよ! 俺をあの変態と一緒にするんじゃねぇ!』

夏野「霧姫だなんて……。このエロ犬!」

春海『お前が勝手に言ったんだろ!?』

夏野「そう……。どうしても死なないと言うのね」

春海『死なないに決まってんだろ、馬鹿かお前』

夏野「どうせあと数十分で地獄を見るのに」

春海『……それでも自分から死ぬのはお断りします』

夏野「なら……、この私が手ずから引導を渡してあげるわ!」ジャキン

春海『結局それがしたかっただけだろ!?』

ピンポーン

夏野「……ちっ。いいところだったのに」

春海『俺にとっては絶体絶命以外の何物でもなかったんだけど』


ガチャ

鈴菜「先生ぇ! 原稿をいただきに参りましたぁ!」

映美「お、お邪魔します……」

春海『なんでまた、鈴菜と映美が一緒に?』

鈴菜「藤巻先生とは下で偶然お会いしまして。というか、エレベーターの前でうろうろしていらしたところに私が」

夏野「何よ、あなたまだここに来るのに遠慮しているの?」

映美「そ、そういう訳じゃ……。あ、そっか。私みたいな虫けらが先輩のお宅にお邪魔するなんて、遠慮して然るべきですよねごめんなさい……」

夏野「遠慮なんてしなくていいわよ。あなたは私の後輩なんだから」

春海『まぁでも、前回あんだけ弄ばれたんだからためらうのが普通だと思うよ』

夏野「ふんっ」ゲシッ

春海『あうっ!? 踏まないで中身出ちゃう!』


映美「えっと、今日はこれを読んでもらいたくて……」スッ

春海『文字列の気配!』

夏野「原稿? 新作かしら」

映美「は、はい……」

夏野「ならまずはあなたの担当編集に見せるべきじゃないの?」

映美「そうなんですけど……。私の中ではまだ何かが足りなくて、でもそれがなんなのか自分じゃわからないんです。それで先に先輩の意見を聞きたくて……」

夏野「へぇ……。つまり、この私にボツ原稿を読ませようと言うのね?」

映美「ごごごごごごめんなさい!!」

夏野「冗談よ。貸してみなさい」

映美「あ、ありがとうございます!」

バンッ

「ちょーっと待ったぁ!!」


マキシ「藤巻後輩! 私の輝く意見は聞かなくてもいいの!?」

映美「ひっ……!」ビクッ

夏野「もう何も言わないわよ」

春海『それがいいと思うよ。相手にしても付け上がるだけだからね』

マキシ「さぁ黒いの! 大人しく後輩の原稿を渡しなさい!」

夏野「おあいにく様、白いの。これは私が頼まれたことよ」

マキシ「きーっ! なんて生意気な!」

春海『ハンカチ噛んで「きーっ」って言うやつ初めて見た』

マキシ「もういいわ! こうなったら勝負よ!!」

夏野「望むところだわ」

春海『お前らも飽きないなぁ……』

鈴菜「先生ぇ、私も原稿……」

夏野「黙りなさい豚野郎。話が終わるまで部屋の隅でスクワットでもしていたらどう? この豚野郎」

鈴菜「あ……あぁ……!」ゾクゾク

鈴菜「はい喜んでー!!」

春海『もうやだー……。この人ほんとやだー』


紅葉「和人さん」

春海『うわっひゃぁぁぁ!? 紅葉さん!? なんでここにいんの!?』

紅葉「……? もしかしてここにいる理由ですか? それなら、天井裏を少々……」

春海『またかよ!! 夏野も塞ぐなりなんなりしろよ!!』

紅葉「……すみません、何をおっしゃっているのか分かりません」

春海『あー……。九郎さんいないのか』

紅葉「なのでとりあえず和人さんをモフモフしたいと思います」ダキッ

春海『……は?』

紅葉「身体を重ねればお互いの気持ちが通じ合うというのをもう一度試してみようと思いまして」

紅葉「やはり和人さんは温かいですね」ギュッ

春海『えっ? え?』


紅葉「あ、いいことを思い付きました。我が家に連れて帰りましょう」

夏野「姫萩紅葉!! うちの犬にちょっかい出さないでもらえる!?」

マキシ「ちょっと黒いの! 私を無視するとはどういう了見よ!」

マキシ「って姫萩紅葉!? なるほど、あんたも藤巻後輩へアドバイスする権利を勝ち取りにきたって訳ね! いい度胸じゃない!」

紅葉「藤巻……?」

映美「あ、ああああの“深淵の向こう側”、姫萩紅葉先生!?」

夏野「この子は藤巻蛍、最近平安堂からでた新人作家よ。本名は大澤映美」

紅葉「なるほど、あなたが藤巻先生ですか。和人さんからお噂はかねがね」

映美「か、和人くんが私のことを!? どうしよう、ダメ出しされてたら私死んじゃうよ……」

春海『褒めてる! 褒めてるよ!』

紅葉「友人に作家がいるのだと、誇らしげに話していましたよ」

映美「あ……、あうぅ……」カァッ

夏野「……ふーん?」ジャキン

春海『な、なんだよ……。映美褒めただけだろ。なんでハサミ持ってるんだよ』

夏野「べっつにー。ただなんとなく犬を斬りたいなーと思ってー」

春海『なんとなくで斬られる身にもなれよ!!』


バァン!

佐茅「お嬢様! こちらですか!?」

夏野「……勝手に人の家に入るんじゃないわよ、この駄メイド」

佐茅「あんたに言われたくはないねぇ。そんなことより、うちのお嬢様を拐って、どういうつもりだい?」

夏野「はぁ? お嬢様の方がこっちに来たのよ」

マキシ「だから私をおいて話を進めるな! 勝負よ勝負!」

夏野「めんどくさいわねぇ……。いい機会だから、まとめてぐうの音も出なくなるまで叩き潰してあげるわ」

映美「せ、先輩方落ち着いて……! あ、私なんかがいるから皆さん苛立ってるんですね……? よし……死のう」

鈴菜「あぁぁ……! 乳酸がぁ! 乳酸が私の筋肉をいじめていますよぉ!!」

紅葉「和人さんモフモフ」

春海『……なんだこのカオス』


バァン!

佐茅「お嬢様! こちらですか!?」

夏野「……勝手に人の家に入るんじゃないわよ、この駄メイド」

佐茅「あんたに言われたくはないねぇ。そんなことより、うちのお嬢様を拐って、どういうつもりだい?」

夏野「はぁ? お嬢様の方がこっちに来たのよ」

マキシ「だから私をおいて話を進めるな! 勝負よ勝負!」

夏野「めんどくさいわねぇ……。いい機会だから、まとめてぐうの音も出なくなるまで叩き潰してあげるわ」

映美「せ、先輩方落ち着いて……! あ、私なんかがいるから皆さん苛立ってるんですね……? よし……死のう」

鈴菜「あぁぁ……! 乳酸がぁ! 乳酸が私の筋肉をいじめていますよぉ!!」

紅葉「和人さんモフモフ」

春海『……なんだこのカオス』


バァン!

佐茅「お嬢様! こちらですか!?」

夏野「……勝手に人の家に入るんじゃないわよ、この駄メイド」

佐茅「あんたに言われたくはないねぇ。そんなことより、うちのお嬢様を拐って、どういうつもりだい?」

夏野「はぁ? お嬢様の方がこっちに来たのよ」

マキシ「だから私をおいて話を進めるな! 勝負よ勝負!」

夏野「めんどくさいわねぇ……。いい機会だから、まとめてぐうの音も出なくなるまで叩き潰してあげるわ」

映美「せ、先輩方落ち着いて……! あ、私なんかがいるから皆さん苛立ってるんですね……? よし……死のう」

鈴菜「あぁぁ……! 乳酸がぁ! 乳酸が私の筋肉をいじめていますよぉ!!」

紅葉「和人さんモフモフ」

春海『……なんだこのカオス』

なんかすみません……


夏野「あぁもう! まずはあなたよ、バカ犬!!」ジャキン

春海『あれ!? 俺も叩き潰す対象に入ってた!?』

夏野「くらいなさい! 稲妻十字空烈刃!!」

春海『ちょっ、待てっ! その技をハサミで再現するのはヤバいだろ!!』

夏野「かかったな、アホが!」

春海『何が!? 意味がわから……グハァッ!?』

十字手刀(というかハサミ)どころか囮の飛び蹴りすら防ぐことができず、薄れゆく意識の底で俺は……

円香「和兄ー! 新作カレー、できたよ!!」

その悪魔のような言葉を放つ、天使のような妹の声を確かに聞いたのだった。


~現在~

春海『円香……なのか?』

円香「あ、和兄。起きてたんだね」

春海『あの、苦しいんでもうちょっとマシな持ち方にしてもらえませんかね?』

円香「もう、カレー食べてもらおうと思ったら寝てるんだもん。失礼しちゃうよ」

春海『まぁ、通じませんよね……。それとあれは寝てたんじゃないよ、気絶してたって言うんだよ』

円香「皆にも食べてもらおうと思ったのに……。配膳してちょっとおトイレに行ってる間に皆も寝ちゃったんだよねぇ」

円香「あ、でもちゃんと食べてくれたみたいだね!」

春海『それはカレーのせいで寝っちゃったんじゃないのか』

春海『ん……?』

春海『皿が置いてある。それはいい。さっき円香が配膳したって言ってたし』

春海『でもライスの部分だけ綺麗に残ってるのはどういうことだ……? 皆が皆ルーだけ食べるなんて珍妙な食べ方をする訳……』

春海『いや、待て。スプーンが汚れていない。誰もカレーを食べてないんだ。ということは……?』

春海『……はっ! ま、まさか!?』

「その……まさかよ。愚犬」


春海『夏野! よかった、無事だったのか!』

夏野「無事……とは言いがたいけど。私としたことが、結構吸い込んでしまったようね」

春海『吸い込むって……』

夏野「えぇ……。円香の作った新作カレー、『気化するカレー』をね」

春海『あちゃー、やっぱりかー。俺の妹はそんな科学兵器を作り出すまでになってしまっていたかー』

夏野「ところで罵犬。私がちょっとうとうとしている間に何か失礼なことを言わなかったかしら?」

春海『イッテマセンヨ?』

夏野「そう? 貧乳がどうとか、言ってなかった?」

春海『ハ……、ハハハ、やだなぁ夏野さんってば。そんな訳……』

夏野「偽証罪も追加ね」ジャキン

春海『ごめんなさい!!』


佐茅「ぐっ……、頭痛が……。一体何が……お嬢様!?」

佐茅「お嬢様! しっかりしてくださいお嬢様!!」

紅葉「んっ……。佐茅……さん?」

佐茅「ご無事でしたか……。お嬢様をお守りできず、一生の不覚です……!」

紅葉「いえ。大丈夫でしたから、そんなに気を落とさないでください」

佐茅「お嬢様ぁ!」ブワッ

マキシ「シャイ……ニーング!!」ガバッ

マキシ「よくわからないけど遅れをとった気がする! 全然輝いてないわ!!」

マキシ「二度同じ手をくらう秋月マキシではないわよ! 私の輝きにひれ伏しなさい!」

春海『また一人で盛り上がってらっしゃるなぁ……』

映美「うぅ……」

春海『おぉ、映美も起きたか』

映美「死のうとしたら意識が急に……。これって神様が死ぬなって言ってるのかな……」

春海『そう、そうだよ。だからもう死ぬなんて言うなよ?』

映美「やっぱり、私には生き地獄がふさわしいってことなんだね……!」

春海『なんでそこまでして修羅の道を行くの!?』


夏野「ほら、鈴菜。あなたも起きなさい」ペシッ

鈴菜「あっ……、はぁん……!」

鈴菜「がくっ」

春海『今絶対起きただろ! 起きた上でもう一度ビンタされたくて倒れただろ!!』

夏野「さっさと起きなさいとこれから鈴菜様って呼ぶわよ」

鈴菜「そんな殺生な! 豚野郎と呼んでくださいよぉ!」

春海『今度は起きるの早かったなー』

佐茅「ハサミ女、これは一体どういうことだい? まさか、私らを一網打尽にしようって腹だったのかい?」ジャキン

マキシ「なっ!? 汚いわよ黒いの!」

夏野「いいえ、私じゃないわ。私もさっきまで気絶していたもの。犯人は他にいる」

佐茅「何……? 誰だい、うちのお嬢様を脅かすその不埒者は!?」

春海『お、おい、円香がやったとか言うなよ……? また前の繰り返しになっちまうから……』

夏野「わかってるわよ」ボソボソ

夏野「これをやったのは……私たち、売れっ子作家を狙う新人作家よ!」


春海『……はぁ?』

夏野「卑劣にもその新人作家共はこの犬に睡眠ガスを仕込んでいたんだよ!」

マキシ「な、なんだってー!?」

春海『さすが芸人アイドル、ノリがいい』

夏野「その証拠に、この犬が最初に気絶したでしょう。くっ……! 私が犬を可愛がっていると知っての仕打ちね……!」

春海『いや、俺が気絶したのはあなたのせいですよ?』

円香「そんな……! ひどい! 和兄を危ない目に合わせるどころか皆を巻き込むなんて!」

春海『そして皆が気絶したのは円香のせいだよ!?』

紅葉「そんなことが起こっていたのですか……?」

佐茅「なんてことだ……! お嬢様を狙うだなんて!」

マキシ「この私の輝きを妬むのは仕方ないけど、そんな卑怯な手を使うなんて許せないわ!」

春海『信じちゃったよ!! どうするんだよこれ!!』


紅葉「確か、新人作家といえば……」

映美「え!? ち、ちちち違います! わ、私じゃないです!!」

夏野「えぇ、映美ではないわ。映美は私のこと尊敬しているもの。ね?」

映美「はい……! も、もちろんです!」

春海『えらい自信だな』

鈴菜「お犬さんお犬さん」

春海『……なんだよ、変態さん』

鈴菜「私、お犬さんの声聞こえるので全部わかっちゃいましたけど、黙っておきますね」

春海『それはありがたいけど……。何企んでるんだよ』

鈴菜「企むなんて、人聞きが悪いですねぇ。いえね、こうしてまた先生に敵が現れれば執筆も進むかもしれないじゃないですかぁ」

春海『敵って……。空想の敵でもいいのかよ。節操ないな、お前も』

鈴菜「そんなことないですよぉ。私を本気で悦ばせられるのは秋山先生だけですから!」

春海『誰もそんな話してねぇよ変態』


夏野「このまま虚仮にされて黙っているの!? 私は嫌よ! やられたらやり返す! 100倍返しだ!!」

マキシ「そうね……。こんなの、輝いてない! 作家なら正々堂々、執筆戦で勝負を着けるべきよ!!」

紅葉「……私も、されるがままというのはあまりいい気持ちはしません」

佐茅「お嬢様の敵は私の敵……! ターゲットを捕捉し次第、清掃するッ!!」

映美「え、えっと、よくわかんないけど、私応援します!」

円香「和兄を道具のように使うなんて、言語道断だよ! そんなことをする輩は私と和兄の愛の結晶、禁神超妹マドカイザーで蹴散らしてやる!」

春海『そのネタはこっちに持ってきちゃダメ!!』

夏野「さぁ! 今こそ立ち上がる時!」

夏野「私たちの戦いは、これからよ!!」

その後、サイン会に現れた謎の三人組がいわれのない罪で私刑に処されたのは、また別のお話である。


夏野「……っていうのが、今度書く短編集のあらすじなんだけど」

春海『SSでもこのオチなの!? 今までのも全部!? まぁアニメでもやったもんね! 仕方ないか!』

春海『……仕方なくねぇよ!!』

夏野「うわ、一人ノリツッコミ……。さむっ」

春海『うるせぇ! 誰がやらせてんだよ、誰が!』

夏野「あなたが勝手にやったんじゃない」

春海『お前がつっこまざるを得ない状況を作り出すからだろうが!』

夏野「ねぇ、今のはどう思う?」

紅葉「正直、ちょっとないですね……」

鈴菜「自分で自分をっていうのは、ちょっと教団Mの教義から外れますねぇ」

春海『味方がいない! そして俺は教団Mに入る気なんてないからね!!』

夏野「という訳で、寒いツッコミをした駄犬にお仕置きターイム!」

春海『ハサミやめて! いや……、いやぁぁぁぁぁ!!』

一人と一匹のバカ騒ぎは終わらない


という訳で『犬とハサミは使いよう』のSS第十一段でした

途中投稿ミスで見苦しくすみませんでした
アニメも無事(?)終わりましたし、このスレもそろそろお開きにしたいと思います
犬嫌いを克服した設定を引き継いで春海×マキシでSS一本書きたいなーと思ってるんですが、いかんせん何も思い付いていないので……
もし見かけるようなことがあればまた見てくだされば嬉しいです

アニメ二期楽しみだね!!!

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