伊織「まったく、やよいは馬鹿ね」 (46)


やよい「えへへ、ごめんね伊織ちゃん」

伊織「いまさら事務所の場所間違えるなんて、春香でもしないわよ」

やよい「うー、反省してますー・・・」

伊織「いいわよ、別に。さぁ、とっとと行きましょう」

やよい「うん!」

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伊織「電車を乗り間違えた?」

やよい「うん・・・。いつもと逆のほうに乗っちゃって・・・」

伊織「えーっと、あんまり電車に乗ったことがないからよくわからないんだけど、いつも使ってるのよね?」

やよい「そうだよ。だけど今日はうっかり・・・」

伊織「ふーん。まぁいいわ。急ぎましょう」

やよい「ごめんね伊織ちゃん」

伊織「まったく、やよいは馬鹿ね」


やよい「うーん・・・」

伊織「・・・?」

やよい「うー・・・・・・・・・わっ!」

伊織「!? 危ない!!」ガシッ

やよい「はぁ、びっくりしたー・・・」

伊織「びっくりしたのはこっちよ! 階段から転げ落ちるとこだったじゃない!」

やよい「ごめんね。ちょっと考え事してて」

伊織「考え事?」

やよい「うん。今日の晩御飯なににしようかなーって」

伊織「晩御飯? そんなもの適当に言いつければいいじゃない。それよりやよい、そんなどうでもいい考え事で大怪我するとこだったんだから、気をつけなさいよね」

やよい「うん、ごめんね伊織ちゃん」

伊織「まったく・・・」


P「よし、二人とも乗ったな」

伊織「もう、あんたがベラベラ喋ってるから遅くなっちゃったじゃない!」

P「ごめんごめん。あの人話長くてな」

伊織「まったく、もう5秒遅かったら新堂呼びつけてたわよ。ね、やよい?」

やよい「・・・。」ボーッ

伊織「・・・・・・やよい?」

やよい「・・・えっ?」

伊織「どうしたのぼーっとして。何かあったの?」

やよい「・・・あ、大丈夫だよ! ちょっと・・・その・・・眠たくなっちゃって」

伊織「ふーん。いいのよ寝てても。どうせコイツたらたら走って帰るから」

P「おいおい、安全第一なんだろ?」

伊織「うるさいわね! ついたら起こしてあげる。だから寝ててもいいわよ?」

やよい「ありがとう伊織ちゃん・・・」


――――――――――――――――
――――――――――――


P「寝ちゃったか?」

伊織「起きてるわよ」

P「じゃなくてやよい」

伊織「しばらく起こさないであげて」

P「わかった」


やよい「春香さん、ハイ、ターッチ!」

春香「いえい!」

やよい「えへへ、よーし今日は徹底的にお掃除するぞー!」

春香「やよい、なんだか今日はやる気があるね! なにかあったの?」

やよい「はい! 今日目が覚めたら9時間も寝てました!」

春香「へーいいなー。私最近あんまり寝てなくってさー」

やよい「春香さん、夜更かしはめっですよ!」

春香「えへへ、やよいに寝てない自慢は通じなかったかぁ」

やよい「春香さん! お掃除するので、手伝ってください!」

春香「ええっ!?私も!?」


伊織(なんだ、元気じゃない)

やよい「うぅぅぅ・・・」

伊織「今度はどうしたのよ」

やよい「伊織ちゃん、教えて欲しいところがあるんだけど・・・」

伊織「宿題? 何の教科?」

やよい「数学と、英語と、あと理科」

伊織「随分あるわね・・・」

やよい「その、最近忙しくて・・・」

伊織「ってこれ提出期限先週じゃない! いいのこれ?」

やよい「うぅぅ、おととい先生に怒られました・・・」

伊織「そ、そう・・・。それじゃあかなりヤバイってことね・・・。わかった、手伝ってあげるわ」

やよい「ありがとう伊織ちゃん!じゃあまず理科を・・・」

伊織「はぁ、忙しいのはわかるけどこうならないように早め早めにやっときなさいよね」

やよい「うぅ、ごめんなさいー・・・」

伊織「まったく、それじゃあこれはね・・・」


やよい「はわっ!またババ引いちゃいました!」

亜美「やよいっち!そういうこと言っちゃだめだよー」

真美「そーだよ!誰が持ってるかわからないからおもろいんだよ!」

やよい「うぅぅ、つい・・・」

亜美「まったく、やよいっちは・・・とりゃっ! うあー!今度は亜美がババだぁー!」

真美「亜美だって言ってんじゃん」


ガチャ
伊織「やよい!やよいいる!?」

真美「あ、いおりんだ。ねーねートランプしよーよ!」

亜美「今ねーババを引いたときにいかに声を出さないかを亜美と真美とやよいっちで競ってたんだよ!」

伊織「やよい、アンタなにやってんのよ!!」

やよい「ど、どうしたの伊織ちゃん・・・?」

伊織「どうしたのって・・・アンタ今日レッスンじゃないの!?」

やよい「えっ・・・?レッスンは明日・・・」

伊織「日程が変わったって言われたじゃない!」

やよい「・・・っ!!!」


伊織「アンタ携帯持ってるでしょ!?事務所から借りてるやつ!」

やよい「・・・。」コクコク

伊織「メールも着てるはずよ。確認のためにプロデューサーから。見てないの?」

やよい「・・・・・・・・・見た」

伊織「じゃあどうして事務所でトランプなんてしてんのよ!」

やよい「・・・。」


真美(えっなにこれ)

亜美(なんかヤバい空気だよ・・・)


やよい「・・・・・・ごめんね、忘れちゃってた」

伊織「・・・。」

伊織「・・・とにかく急ぎましょう」

やよい「本当にごめんなさい・・・」

伊織「いいから、早く・・・」

やよい「ごめんなさい・・・」

伊織「今謝らなくていいから・・・」

やよい「ごめんなさい・・・」

やよい「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

伊織「・・・やよい?」

やよい「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」

伊織「やよい!」

やよい「ごめんなさいごめんなさい失敗してごめんなさいだめなおねえちゃんでごめんなさい・・・」


P「はい、はい・・・。そうですか・・・」

伊織「・・・。」


P「大変申し訳ありませんでした。いえ、こちら側の目が・・・」

伊織「ねぇ・・・」


P「はい。ゆっくり休むようにと。みんな心配しております。はい、それでは」ガチャ

伊織「ねぇ! ねぇって言ってんでしょ!」

P「なんだよ、今電話してるだろう」

伊織「やよいはどうなっちゃったの?」

P「あー・・・しばらく自宅で休むそうだ」

伊織「帰ってくるんでしょうね!もし帰ってこなかったら・・・」

P「それもまだ未定だ。いつ復帰するかはやよいが決めることだ」

伊織「ぐっ・・・やよいの家に行ってくるわ」

P「それがな・・・少しの間一人になりたいそうだ」

伊織「はぁ!? なによそれ!?」

P「やよいがそう言ったんだと。だから・・・な?」

伊織「っ・・・」

P「大丈夫だ。やよいはきっと戻ってくる。俺たちがやよいを信じなくてどうする」

伊織「・・・・・・わかったわよ」


やよい「ごめんね伊織ちゃん、心配した?」

伊織「別に。どうせすぐ帰ってくるだろうと思ってたから」

真美「にしてはこの2日間、随分と挙動不審でしたな〜」

伊織「う、うるさいわね! 別に心配なんてしてなかったわよ・・・」

亜美「よっ! いおりんツンデレ! 日本一!」

伊織「きーっ! あんたたちは黙ってなさい!」

やよい「えへへ・・・」

春香「それにしても本当に大丈夫? 二日しか休んでないけど・・・」

やよい「はい! 悩んでてもしかたないかなーって!」

春香「そっか。もー心配させてーやよいはかわいいなー」ギュゥゥゥ

やよい「春香さん・・・えへへ」


小鳥「あ、ティッシュがない・・・」

やよい「私、買ってきますよー」

小鳥「あら、じゃあ・・・っと、いいのよ。私がその辺で買ってくるから」

やよい「えー・・・でも私、もっと働きたいかなーって」

小鳥「やよいちゃんはアイドルなんだから、こういうのは事務員にお任せしていいのよ」

やよい「うぅぅ・・・もっと動きたいのに・・・。そうだ! 小鳥さん、一緒に行きましょう!」

小鳥「ええっ、私一人でいいのに・・・」

やよい「よくないです! それじゃあレッツゴー!」グイグイ

小鳥「うわわわっ!や、やよいちゃん!そんなとこ引っ張っちゃだめぇぇぇっ!」

やよい「えへへ、さっきテレビ局のえらい人に褒められちゃいました!」

伊織「あらすごいじゃない!流石やよいね」

やよい「えへへ、伊織ちゃんに褒められるとなんだかすごくうれしいかも」

伊織「そ、そうかしら?そりゃそうよね!天下の伊織ちゃんから直々にお褒めの言葉をもらったんですもの!」

社長「おっやよい君、ちょっといいかね?」

やよい「はい、なんですか?」

社長「先ほど連絡があったのだが、キミが持っているテレビ番組の放送時間が拡大されるそうだ!」

やよい「ええっ!?それって・・・」

社長「そう。ミニ番組ではなくなり、30分番組として放送されるのだよ!」

やよい「うっうー!がんばります!」


やよい「美希さん!お掃除の邪魔です!どいてください!」

美希「むにゃ・・・・・・あとごふん・・・」

やよい「もう!何回目のあと五分ですか!すぐ終わりますからおきてくださいー!」

美希「むぅ・・・・・・やよいはおふくろさんみたいなこと言うの・・・・・・」


春香「またやってるよ、やよいと美希」

真「やよいも大変だなぁ」

春香「意地でも動かないもんね。なんであんなに寝るんだろう」

真「こう見てると本当にやよいがお母さんみたいに見えてくるよ」

伊織「・・・。」


P「よし、ついたぞ」

やよい「プロデューサー、ありがとうございます!」

P「やよい・・・!俺はこれほどまでにこの仕事をやっていてよかったと思った瞬間はないよ・・・!」

伊織「ふん、プロデューサーなんだからこれぐらい当たり前でしょ? なに勘違いしてるのよ」

やよい「伊織ちゃん! ダメだよそんなこと言っちゃ」

伊織「いいのよ。すぐに図に乗るんだからこいつは」

P「ううっ、なんか伊織が冷たいんだけど・・・」

やよい「大丈夫ですプロデューサー!伊織ちゃんいつも裏ではプロデューサーの話ばっかりしてきますから!」

P「本当か!愛してるぜいおりん!照れんなよー」

伊織「悪いけどそんなことないから。やよいも適当なこと言わないの」

やよい「えへへ・・・ごめんなさい」

伊織「まったく、これだから・・・」ブツブツ


伊織「おはようございまーす♪今日もよろしくお願いしまーす♪」

やよい「・・・。」

伊織「・・・やよい?」

やよい「・・・。」

伊織「どうかしたの?」

やよい「伊織ちゃん、ここ暗いね」

伊織「なによいきなり・・・。そりゃあ暗いけど・・・いつものことじゃない。セット以外はいつも照明落としてるし」

やよい「でも真っ暗で何も見えないよ」

伊織「そんなに暗いかしら? 私は普通に見えてるけれど」

やよい「ううん、真っ暗だよ。伊織ちゃんの顔が見えないくらい」

伊織「はぁ?アンタそんなに目悪かったっけ?」

やよい「そんなことないよ。お父さんは眼鏡してるけど」


伊織「また・・・?」

P「そうだ。一回病院で検査してもらうらしい」

伊織「どういうこと・・・?」

P「伊織も現場に立ち会っただろ?まともに見えなくて撮影できなかった日。どうやら家でもそんなことが何回かあったらしい」

伊織「・・・。」

P「心配すんな。またきっとすぐに元気になるさ」

伊織「・・・。」

P「だから、心配だろうけど今日はやよい抜きでレッスンだ」

伊織「・・・わかったわ」

P「・・・すまない」

伊織「何でアンタが謝るのよ。ほら行くならさっさと行くわよ」

P「ああ。」


P「・・・。」

P「・・・・・・やよい」


かすみ「お姉ちゃん大丈夫?」

やよい「うん、なんともないよ! ごめんね、家のこといろいろやらせちゃって」

かすみ「ううん、いいの。いいんだけど・・・」

やよい「だけど?」

かすみ「・・・お姉ちゃん、本当に大丈夫なの?」

やよい「大丈夫だよ!見えなくなるのはちょっと立ちくらみがしただけだし」

かすみ「・・・そっか。お姉ちゃん目が見えなくなったって聞いて、びっくりしちゃって・・・」

やよい「うん・・・ごめんね。でももう大丈夫だから。もうこんなことにはならないから・・・」


やよい「おはよーございます!」ガチャ

小鳥「あらやよいちゃんおはよう。・・・ってどうしたのそのおでこの絆創膏」

やよい「えへへ・・・ちょっと家で転んじゃいました」

小鳥「大丈夫だった?痛かったでしょう?」

やよい「あんまり痛くはなかったけど、ちょっと切れちゃって・・・」

小鳥「ええっ!?切れちゃったの!?」

やよい「はい。だけどそんなに深くは・・・」

小鳥「大丈夫!?痕になったりしない!?脳にダメージは!?」

やよい「うぅぅ・・・小鳥さん大げさですよー」


やよい「・・・。」フラァ

響「あ、やよいだ。おーいやよいー!」

やよい「・・・。」ボーッ

響「気づいてないのかな? あ、信号赤になった。やよいー!」

やよい「・・・。」スタスタ

響「やよいー? あれ、なんでとまらないんだ?」


<ブロロロロロロロ

やよい「・・・。」ヨロヨロ

響「やよい? おーい!やよい!赤だぞ!」


<ピィィィィィィィッッ!!!

やよい「・・・!」ビクッ

響「!? やよい!! 危ない!!」


ガチャ
響「ううぅぅ・・・ぐすっ・・・」ポロポロ

やよい「ごめんなさい響さん・・・」

伊織「ちょっとちょっと、どうしたのよ!」

やよい「うぅぅ伊織ちゃん・・・あのね」

響「やよいが死んじゃうとこだったんだぞ!!」

伊織「えっ?どういうこと?」

やよい「うぅ・・・」

響「やよいが赤信号無視して・・・それでっ・・・横から車が来て・・・だけど間一髪であたんなくてっ・・・」ポロポロ

やよい「・・・。」

伊織「やよい、どういうこと?」

やよい「・・・ごめんね考え事してて」

伊織「考え事って・・・また晩御飯のことかしら?」

やよい「・・・ごめんなさい。私、馬鹿だから・・・」

伊織「やよい!!」バンッ!

やよい「っ!」ビクッ


伊織「やよい、やっぱり最近変よ」

やよい「・・・。」

伊織「凡ミスもあるし、忘れることもあるし。もちろんみんなそれぐらいするけれど・・・。それでも最近のやよいは変よ」

やよい「・・・ごめんなさい」

伊織「・・・っ! どうしたのよ・・・。なにがあったのよ・・・」

やよい「・・・ごめんなさい」

伊織「そんなに言えないこと・・・?お願いだから力にならせて・・・」

やよい「・・・。」


やよい「・・・ごめん。本当になんでもないよ・・・」

やよい「もっとしっかりするね・・・私」


やよい「・・・。」

春香「! やーよーいっ」

やよい「・・・。」

春香「あれ? やーよーいっ」

やよい「・・・。」

春香「ふふっそういうことね・・・」

春香「やーよーいっ!」

やよい「・・・。」

春香「だーれだっ!」ガバッ

やよい「きゃあっ!? な、なんですか!?」

春香「うわぁ! そ、そんなに驚かなくても」

やよい「はるか・・・さん?」

春香「そ、そうだよー。気づいてなかったの・・・?」

やよい「全く気がつきませんでしたー。もう、驚かせないでくださいー」

春香「う、うん。ごめん・・・」

春香(聞こえるような声で何回も呼んだはずなんだけどな・・・。なんで気づかなかったんだろう)


やよい「あ、伊織ちゃんおはよー」

伊織「早いわね。今日も掃除?」

やよい「うん! お掃除は大事だよ」

伊織「私も手伝うわよ。今日はどこをやるのかしら」

やよい「え、いいんだよー別に。伊織ちゃんは休んでて?」

伊織「なに、私じゃまともに掃除できないとでも言うのかしら?」

やよい「そ、そんなことないよ!」

伊織「じゃあ私もやらせてもらうわ。いいでしょ?」

やよい「うぅ・・・じゃあちょっとだけ・・・」

伊織「ありがとう。それじゃ荷物置いてくるから。」クルッ

やよい「うん。下で待ってるよ」

伊織「わかったわ」







    ドサッ




伊織「・・・・・・やよい?」


伊織「や・・・よい・・・?」

伊織「どうしたの・・・?ねぇしっかりして!」

伊織「やよいっ!大丈夫!?わかる!?ねぇしっかり!」




――――――――――――――――――――
――――――――――――――――




伊織(その後やよいは救急車で運ばれた)

伊織(救急車には無理やり乗り込んだ)

伊織(病院に着きやよいから引き剥がされてから、私は崩れ落ちた)

伊織(どうしてやよいがこんな目にあわなければいけないのか、こんなことになる前になんとかできなかったのか)

伊織(空っぽな声で呟き続ける私を、いつしか追い付いた小鳥が励ましてくれた)


やよい「ごめんね、伊織ちゃん」

伊織「・・・。」

やよい「大した事ないのに大騒ぎさせちゃって・・・」

伊織「・・・。」

やよい「ちょっと入院するけど、すぐ戻るから心配しないで! また一緒にお料理しようね!」

伊織「・・・。」

やよい「だから・・・・・・そんな怖い顔してほしくないかなーって・・・」

伊織「・・・。」

やよい「・・・ごめんなさい。伊織ちゃん」

伊織「・・・・・・もぅ」

やよい「?」

伊織「もう・・・・・・やよいは本当に馬鹿ね・・・!」


やよい「・・・ごめんなさい」

伊織「どうしてそんなに強がるの・・・?どうしてそんなに頑張るの・・・?どうしてそんなに嘘つくの・・・?」

やよい「・・・。」

伊織「もうわかってるわよ・・・。アンタが目が見えなくて、耳も聞こえづらくて、体もボロボロなことくらい・・・」

やよい「・・・・・・えへへ、流石伊織ちゃんだね」

伊織「ねぇ、教えてよ・・・。やよいはどう思ってるの・・・?どうしても私たちにいえないの・・・?」

やよい「・・・。」


やよい「・・・・・・助けてくれた伊織ちゃんだから言うね」

伊織「・・・ええ」


やよい「しんいんせーしかくしょーがい?みたいな名前の病気なんだって」

やよい「えーっとね・・・目が悪くないのに悪いって思い込んじゃうんだって」

やよい「だから本当にたいしたことないの。だって本当は悪くないんだもん」

やよい「耳も同じ。聞こえているのに聞こえてないって思い込んじゃうの」

やよい「本当は聞こえてるのにね。えへへ、なんかおかしいね!」

伊織「・・・。」

やよい「本当に・・・本当になんともないから・・・」

やよい「すぐに戻るから・・・だから・・・」

やよい「だから・・・見捨てないで・・・お願い・・・」


伊織(心因性視覚障害、主にストレスが原因でかかる心身症)

伊織(時と場合によって視力が変わり、視野・暗順応・聴力などの異常も伴うこともある)

伊織(やよいは思い込みだと言っていたが、彼女は本当に見えていないし聞こえていない)


やよい「えへへ、早くみんなと一緒に歌いたいなー」


伊織(しかも原因はストレスだ。いつも明るく積極的に行動をするやよいだが、日々の行動すべてがストレスになっているのかもしれない)

伊織(事務所の掃除、買出し、レッスン、撮影、家事、弟たちの世話、学校・・・)

伊織(これだけのことをこなしておきながら、やよいは驕ることは一切ない)

伊織(むしろ謙遜するほうだ。自分はできない子だと、だめなお姉ちゃんだとよく言う)


やよい「長介たち元気かなー。浩三のお世話できてるかな・・・」


伊織(やよいは頑張る。上手くいかないと思っている。だけどやらなきゃいけない。そして上手くいかない。もっと頑張る。やはり上手くいかない。もっともっと頑張る・・・)

伊織(そんな循環のなかでやよいは追い込まれていった)


伊織(やよいをこれほどまでに追い立てる物は何なのだろうか)


やよい「ねぇねぇ伊織ちゃん、みんなにはさっきのこと内緒にしてくれる?」


伊織(それはきっと見捨てられることに対する恐怖だろう)

伊織(やよいは失うことに対してよく反応する)


やよい「本当になんともないし、今まで通り事務所の掃除もするし・・・。もっと頑張るから・・・」


伊織(その恐怖から逃れるためにやよいはどんな苦労だって厭わない)

伊織(きっとまたすぐに戻ってくるのだろう)

伊織(そして今まで以上に頑張るのだろう)


やよい「だから・・・だから・・・」

伊織「まったく・・・」

伊織「やよいは馬鹿ね」



やよい「伊織ちゃん・・・?」

伊織「やよいは大馬鹿者よ」

やよい「伊織ちゃん・・・どうして泣いてるの?」

伊織「ほんと・・・やよいは馬鹿・・・ね・・・」

やよい「・・・。」





やよい「ごめんね。伊織ちゃん」



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