吸血少女と待つ夜明け (144)


 アルバイトを終えた夜の九時。
 昼に降っていた雨は夕方までにやんだようで、今はいくつか水たまりを残すのみだ。
 僕はじっとり湿ったアスファルトの上を駅に向かって歩いていた。

 メインストリートを外れた脇道で、道幅は車がすれ違うのに苦労する程度。
 街灯はそれなりにあるが陰になった場所が多く実際よりも暗い印象を受ける。
 道沿いの飲み屋スナックの汚れた看板が陰気さに拍車をかけている。

 僕の他には人はいない。なんとなく確認した後深いため息をついた。
 肩周りが重く、気分はそれよりさらに重い。
 沈んで行くような錯覚とどろりと鈍い意識。

 この憂鬱な気分の正体は知っていた。
 先の見えない不安といえばいいのか。
 自分はこれからどうなるんだろうという恐れと表現したほうが近いだろうか。


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 具体的に言えば目だ。アルバイト先で僕を見る目。そして見ない目。
 容量いっぱいまで全力で働いて、返ってくるのが「あ、そう。お疲れ」という一瞥。
 じゃあこれやっといて、と僕を見もせず次の仕事を割り当てる。

 僕はそこにいるのだけれど、なんだろう、時々いないような気分になる。
 代わりにそこにいるのは、男一人分の労働力だ。
 最もよく言われるのが「ああ、いたの」。おはようでもなくお疲れでもない

 それ自体は大したことじゃない。
 僕みたいなフリーターの扱いとしては珍しくもないし要領の悪さが原因だからだ。
 大した学もなく仕事も遅い僕自身のせいだと思う。

 ただ、そうやって呑みこんだところで消化できないものは残る。
 それは身体にたまって僕を蝕む。

 それからぼんやりと思う。この先僕はどうなるんだろうと。
 こんなふうにぼんやりしたまま人生を終えるのかな、と。

 そうしたあれこれで疲れは少しずつ身体にたまり、僕を押しつぶそうと重圧をかける。
 きっとこれは一生ついてまわるんだろう。
 寒さに似たものを感じて上着の前を押さえてから、なんとか足を前に進め続けた。


 と、その時頬に冷たい何かが触れた。
 僕は反射的に空を見上げる。
 その額にまた小さなしずくが落ちた。雨だ。

 小雨は降り始めてすぐ勢いを強めた。
 僕は急ぎ足で建物の下に避難した。
 雨粒が地面で強く跳ねる。
 やむ気配はなくさらに激しくなっていく。

 苦々しく空を見上げた。
 あいにく傘は持ってきていないのだ。我慢して走ろうにも駅まではまだまだ距離がある。
 ついてない。何もこんな気分の時に意地悪することはないじゃないか。
 途方に暮れて、重い身体を建物の壁にもたせかけた。

 声が聞こえたのはその少し後だった。
「ねえ」
 いきなりの声に僕は驚いてそちらを振り向いた。
 建物の入り口に少女がいた。


 線の細い少女だった。
 整った顔立ちだが目つきは冷たく、そのせいで無愛想な印象を受ける。
 黒い長髪が薄暗がりでもかすかに艶を放っていて、その光に思わず見とれる。

 目を離せないでいると、彼女はスカートをふわりと揺らして近付いてきた。
「雨宿り?」
「え? あ、まあ……」
「じゃあ中に入った方がいろいろ楽じゃない?」

 言われて見上げるとホテルがどうとか書いてある。
 汚れとうす暗いのとで部分部分しか読めなかった。
 視線を下ろすと少女は既に入口をくぐっている。

 僕は一瞬の躊躇だけをはさんで、すぐにその後を追った。
 なんでかと訊かれると困る。
 中に入って休みたいほど疲れていたのは確かだけど、何しろ僕にはお金がなかった。
 できるだけ節約したいしするべきだったのだが、なぜだか彼女についていかなければならない気がしたのだ。


「部屋一つ」
 狭いフロントに立つ男に彼女は告げた。
 鍵を受け取りすぐ脇のエレベーターに向かう。
 中に入る彼女をぼーっと見ていると、エレベータードアを開けたままこちらをじっと見返してきた。

 しばらくしてこちらを待っているのだと気づいた。
「え、なに?」
 彼女は近付いた僕を無言で引っ張り込むとドアを閉じた。

 もちろん困惑した。
 どういうことか訊ねようとしたけれど彼女は話しかけるなという空気だけで僕を黙らせた。
 エレベーターが上昇を始める。

 ホテル、少女、そして僕。
 何やらよからぬ期待がむくむくと膨らむ。
 一方で僕の良識が危険信号を灯す。
 ホテルって。部屋一つって。


 三階にある部屋の鍵を開けると彼女は中に入っていった。
 ドアはあけ放したままなので、やっぱり僕にも入れということだろう。
 恐る恐る中に入ってドアを閉めた。

 見回して少し驚いた。
 二人用ソファーとベッドが置ける大きさの部屋があるホテルには、外観からは見えなかったのだけれど。
 ただ、広いといっても"意外に"程度だ。
 ソファーもベッドもどこか無理矢理押し込められているようにも見えた。

 そして二人の人間にとっても少し狭い。
 少女の存在を強烈に意識してしまう。

 多めに見積もっても二十を超しているようには見えないがどこか大人っぽい雰囲気。
 もっといえばある方面に熟達した空気がある。
 スカートからのぞく白いふくらはぎに思わず目がいく。

 当の彼女はその視線を知ってか知らずか窓に近づくとカーテンを開けた。
 そして振り向く。
「どっちが先にシャワー浴びる?」

 そのとき僕は気づいた。
 彼女についてきてしまったのは、やはり心のどこかでこうなることを期待していたからなのだ。


……

 それが彼女との出会いだった。

ふとホラーやコメディ以外の吸血鬼物を書こうと思ったので立てました
続きます

ほう、なかなかいい雰囲気
期待

乙乙!

最初に書くのを忘れてましたがエロ要素あるのでご注意を


……

 浴室を出た僕はソファーに座っている彼女に声をかけた。
「上がったよ」
 緊張で声が上ずった。

 彼女は「ん」とだけ返事をして立ち上がると、さっさと浴室へ消えてしまった。
 しばらくして控えめなシャワーの音が聞こえてくる。
 一糸纏わぬ少女の姿を想像してしまい、僕は落ち付かなく身じろぎした。

 ソファーに座って考える。
 これはつまりその、そういうことなのだろうか。
 さきほどは確認する勇気がなくて訊けなかった。

 ソファーに残っているかすかなぬくもりを感じる。
 鼓動がやけに大きく、速く聞こえた。
 頭に血が詰まったような感覚に襲われ、目眩がした。


 白状するのはとんでもなく嫌だけど、僕は女の子に触れたことがない。
 いや、あるにはあるか。幼稚園だか小学校だかの催し物で手をつないだことぐらいなら。
 それ以外はない。自信を持って皆無と言える。
 とても悲しい自信だけれど、それが事実だ。

 彼女の腕や脚など露出した肌を思い出す。
 とても白くて綺麗だった。
 触れたらひんやりしているのだろうか。それともしっとりと温かいのだろうか。
 鼓動はさらに大きくなった。もうすぐどちらなのか分かるのかもしれない。

 と。シャワーの音がぴたりと止まった。
 それを合図にしたように、途端に僕は怖くなった。興奮からいきなり目が覚めた。
 血の気がさっと引いていく。

 これはもしかすると、いやもしかしなくても買春とかそんな感じじゃないのか。
 一夜のアバンチュール?
 僕を見てそんなこと考える女性がいるはずない。これも悲しい自信。


 良心が咎めた。
 いや嘘だ。僕は純粋に恐れていた。
 女の子が怖い。犯罪も怖い。なによりこれから行うであろう行為が怖い。
 美人局ということだって考えられそうだ。

 慌てて立ち上がる。
 素早く荷物をまとめてドアの方へと身体を向けた。
 同時に浴室へと続くドアが開いた。

 恐怖が忽然と消え去った。
 僕はポカンとしてその光景にただ見入った。

 ドアノブに手をかけて立つ少女の髪はまだほんのり濡れていた。
 艶っぽさを増した黒髪と白い肌のコントラストがまぶしい。
 下着姿の彼女は先ほどよりさらに色白に見えた。
 柔らかそうな肌を目一杯さらけ出して、彼女はそこにたたずんでいた。

 僕は声も出せずに立ち尽くした。
 彼女は怪訝そうにこちらを見上げ、つまらなそうに髪を拭きながら脇を通り過ぎた。
 そしてすとんとソファーに腰を下ろす。


「なんで立ってるの。座ったら?」
 呆けていた僕はそれを聞いて我に返った。
「いや、でも……」
 もごもごと言葉を探す。

「もしかして、こういうの初めて?」
 彼女の言葉にぎくりとして言葉に詰まった。
 顔にも出ていたのは間違いない。

「いいよ変に緊張しなくて」
「いや別に」
「カッコつける必要もない」
 冷たく切り捨て彼女は隣を示した。
「とにかく座りなよ」

 どこか情けない心地で僕はそこに腰を下ろした。
 彼女はその一連を冷めた目で眺めていた。
 僕はガチガチになって座り、彼女はこちらを横目で眺め続ける。
 居心地の悪い沈黙がしばらく続いた。


「あの」
 結局根負けして僕は彼女に顔を向ける。
「僕は金もないし、こういったいかがわしいことは」
「したくない?」
 思わず下着に包まれた乳房に目が行った。

 あわてて視線を引きはがして彼女の目を見る。
「そ、そう。したくない」
「わたしはしたいけど。あなたと」
 思わず生唾を飲んでしまった。

「お金のことなら大丈夫。心配しないで。ふんだくるつもりなんてないから」
 言って指を二本立てて振る。
「これでいいよ」

「二万円? それでもちょっと」
「いえ二千円」
「は?」
 理解できずに一瞬思考が手から離れた。


 二千円?
 こういったことの相場なんて知るはずもないが、
そんな僕だってその額がおかしいことぐらいは分かる。
「お得でしょ」
「怪しいよ」
 呆気にとられたままでも言葉は出た。

 僕だって性交渉が神聖不可侵なものと信じているほど純粋じゃない。
 それでもそれを商売とするならばリスクは高く、それに伴って取引額も大きくなる。
 そんなこと子供でも分かる。

 彼女は面倒臭そうに顔をしかめる。
「じゃあ初回サービスが二千円」
「じゃあって」
「もっと払いたいの?」
「そんなことはないけど」

 腑に落ちない。落ちるわけがない。
 僕はいつの間にか緊張が解けていたことに気づき、これ幸いと立ち上がった。
「とにかく、そんな怪しい話には乗れないよ」
 部屋の出口へと身体を向けた。


 と。
 何かが軽く背中にぶつかった。
 驚いて見下ろすと、身体に細い腕が回されている。
 少女に抱きしめられていた。

 僕は慌てて振りほどこうとした。
「ちょっと」
 手は呆気ないほどすぐに外れたが、次の瞬間甘い衝撃が僕の脳天を突きぬけた。
 彼女の手が僕の股間に触れていた。

 情けない声が口から漏れた。
 長い指がさわさわと優しくまさぐってくる。
 堪えようという考えすら浮かばなかった。
 背中にもひどく柔らかいものが押し付けられている。

 心臓が激しく脈打った。
 彼女の指がジーパンのファスナーを開けて滑り込んできた。
 中のそれをもてあそぶ。抵抗できなかった。そんな気は失せていた。
 首筋に生温かい湿った感触。耳元で少女の息遣い。彼女は今度は僕の耳をぬるりと舐めた。


 くらくらして、ほとんど気を失ったような状態になった。
 彼女に導かれてベッドに倒れ込んだことだけは分かった。
 僕の下半身に顔をうずめる彼女に、はっきりとしない意識の中で訊ねた。
「君は、一体なんなんだよ……」

 ちろちろと舌を這わせながら、彼女は少し考えたようだった。
「吸血鬼」
 その言葉を聞いたのを最後に、僕の意識は快楽の波に呑まれて、途切れた。

続きます

これは期待


……

 目を覚まして最初に見えたのは、ホテルのそれなりに広い天井……ではなかった。
 安アパートのひどく狭苦しい、薄汚れたそれだ。
 僕はしばらくの間、その表面に浮かんだ染みをぼんやりと見つめていた。

 あれは……なんだったんだろう。
 夢でなかったことは断言できる。
 あれが終わった後ホテルを出て終電間際の電車に乗ったことはしっかり覚えていた。
 財布が二千円分軽くなっているのも間違いないはずだ。

 ただ、行為の最中のことは記憶に靄がかかったかのようではっきりとは思い出せない。
 とても甘美でゆるゆると生温かい感触だけが肌に残っている。
 悶えるほどの快感の名残だ。

 ひどく疲れていた。
 いやたいていいつも疲れているけれど、それよりさらに身体が重い。
 まるで精気をあらかた吸いとられてしまったようだった。


 枕元に放っていた安物の腕時計に目をやる。
 出勤時間まではまだ余裕があるが、そろそろ起きなければ支度が間に合わない。
 こわばった身体をおもむろに布団から引きはがした。

 のろのろと出発準備をしていると次第に思い出してくる。
 仰向けに寝そべった僕の下半身にうずくまる少女。
 絡みつくようにうねる舌の柔らかさ。
 触れた肌から伝わるぬくもり。

 ふと気になったのは最後までしたのかということだった。
 一度気になると思い出したくて仕方がなくなる。

 女性と交わりを持ったという確信とそれに伴う自信が欲しかったのかもしれない。
 あるいは逆に少女の性を金で買ったという罪の意識から逃れたくて、
最後まではやってないという確信が欲しかったのかもしれない。
 どちらにしろそれは焦燥感によく似ていた。


 電車がアルバイト先の最寄り駅に着く。
 そこから徒歩で移動する。
 昨日の脇道を逆方向に歩いていた。

 目は無意識に辺りを探っていた。
 道行く女性を一人一人チェックする。
 はたから見たらだいぶ怪しかったに違いない。

 でも僕はそんなことが気にならないほど必死だった。
 昨日の少女は見当たらない。

 ふと気付くと例のホテルの前まで来ていた。
 見上げる。三階の窓のひとつ。
 カーテンが閉まっていて中の様子は分からなかった。

 今もあそこにいるのだろうか。
 いてくれたらいいな。僕は小さく、だが切実に願った。


 昨日と同じ夜八時。
 僕は徘徊者よろしくあのホテルの前を行ったり来たりしていた。

 例のごとく暗闇があちこちにはびこる狭い道路。
 そんなところをうろうろしていれば朝以上に怪しいはずだった。
 そのことをようやく自覚しながらも、やっぱりやめることだけはできそうにない。

 三階の窓を見上げる。
 カーテンは分厚く、明かりは灯っているようにもいないようにも見える。
 つまりあの少女があの部屋にいるかどうかは分からない。

 僕はぐずぐずと道路を十往復ほどした。
 それからさらに数分悩み、考えに考えを重ねた後、ようやく決意を固めた。
 ホテルの入り口、薄明るいそちらへと足を踏み出した。

「ねえ」
 背後からの声に僕は肩を大きく震わせた。
 泡を食って振り返る。
 冷たい視線がこちらを真っ直ぐ捉えていた。
 昨日の少女がそこにいた。


「何やってるの?」
 彼女はさほど興味もなさそうに訊いてきた。
 僕は慌てて弁解しようとして、しどろもどろに無意味な言葉を重ねた。

「あ、いや、暗くて、あまり広くもないものだから。ちょっとあれで」
「何言ってるか分からない」
 彼女はばっさり切り捨てるとホテルの方を示した。
「まあ立ち話もなんだし。入ったら?」

今日はここまで
続きます


雰囲気が好みです期待


うん、とてもいい


 少女の後に従って部屋の入口をくぐった。
 後ろでかちゃりとドアが閉まる。
 それだけでなんとなく背徳感がふわりと舞い上がる気がしてくる。

 ソファーに座った彼女は隣を軽く叩いて僕を促した。
 かわいらしい動作だが、無表情で愛想はない。気後れする。
 僕は申し訳ないような気分でそこに腰を下ろした。

「ええと……奇遇だったね」
「わたしに何か用?」
 彼女は僕の言葉を完全に無視した。

「どういうこと?」
 僕はすっとぼけてみたが、それは明らかに無駄な試みだった。
「ホテルの前を計二十三往復。立ち止まること六分。最後に足を向けてたのがホテルの入り口」
 彼女は淡々と証拠を並べた。
 ドラマなんかで荒々しく物証を叩きつける刑事とは正反対だが、その何倍も威力がある。ように思えた。

「君に会おうと思ったんだ」
 結局僕はうなだれて白状した。


 少女は「そう」とだけ言って、膝にビニール袋を乗せた。
 先ほどから彼女が手に提げていたものだ。

 僕は恐る恐る彼女の横顔をうかがった。
「あの、ごめん」
「なんで謝るの?」
「いや、だって気持ち悪いじゃないか」

「気持ち悪い? 何が?」
 袋の中身を探りながら少女。
「ストーカーみたいだろ、僕」

 と、彼女の口元がわずかにほころんだ。
 訝しく思って視線を移すと、彼女の手にプリンがある。
 コンビニで売っているような安物だったが。

「そうね、変態ね」
 はっとして彼女の顔に目を戻すと彼女は再び無表情に戻っていた。


 なんだか残念な気がした。悔しさにも似た思いが胸をよぎった。
 もっと彼女の優しい表情を見ていたかった。

「プリン、好きなの?」
 訊ねると彼女は頷いた。
「嫌いではないわね」

「じゃあ変なことしたお詫びにプリン買ってくるよ。すごくいいやつ」
「それは有難いけれど。遠慮しておくわ」
「どうして」
「高いプリンは好みじゃないの」

「じゃあ安いのを」
「貢ぐ男はもっと嫌い」
 言われて僕は肩をすぼめた。
 機嫌をとろうにも全く手掛かりを掴ませてくれない。


「なんでわたしに会いに来たの?」
 彼女は唐突に話を戻した。
 僕は頬が熱くなるのを感じた。
「それは……」

 口の中で言葉が渋滞を起こす。
 一番聞こえのいい言い回しを必死で探して、でも結局何も言えなかった。
 彼女はその様子をじっと見ていた。

「セックスしたいの?」
 あまりにもあんまりな物言いだ。僕の心臓はぴょこんと跳ねた。
 さらにしどろもどろになる僕に、彼女は冷たい目で続けた。
「別に隠す必要なんてないよ。まあそんなことだろうと思ったし」

「せ、正確には」
 思ったより大きな声が出た。
「君に、会いたかった。それだけだ」


「それはありがとう」
 感謝の気持ちの欠片もない顔で彼女は答えた。
 僕の顔の赤みだけが濃さを増した。と思う。
 今なら羞恥心だけで死ねる気がする。

「で、どっちが先にシャワー浴びる?」
「え?」
 彼女の言葉で呆気にとられた。
「ぐだぐだ言ってるけど、最終的にはするんでしょ?」

 しないよ。と言えるほど僕は強くなかった。
 だからと言って勢い込んで、します! と言うほど能天気でもなかったつもりだ。
 僕はおずおずと訊ねた。
「君はもしかして、その、淫乱というやつなのか?」

「セックスへの抵抗感はないわね」
 さらっと事実を告げる口調で彼女は答えた。
 僕はひそかに、ほんのちょっぴり、ショックを受けた。
「で、どっちが先にシャワー浴びるの?」
 彼女は問いを繰り返した。

続きます

支援

ほう…


 ベッドの縁に並んで座る。
 二人とも下着姿だ。彼女の身体からは石鹸の清潔な香りが漂ってくる。
 恐る恐る見やると視線がぶつかる。
 彼女の冷ややかな視線は少し怖い。見つめあっていると間が持たない。

「あの」
 僕は心配ごとを告げた。
「今日はいくらなのかな」
 雰囲気をぶち壊したことだけは分かった。

 彼女は気にした様子もなく、
「昨日と同じでいいよ」
 とだけ答えた。

 商売として成り立つのだろうか。僕は訝る。
 ホテル代だってこちらが出すのが普通だろうに、昨日も請求された覚えがない。
 今日もホテル代は要らないのだろうか。

 あれこれ考えているといつの間にか彼女の顔が近くなっていた。
 びっくりしてのけぞる。彼女はそのままのしかかるようにして僕を押し倒した。
 肌が触れ合って、さらりとこすれる。彼女の滑らかな肌。


 みずみずしい唇が、僕の鎖骨の辺りに吸いついた。
 思わず身体がびくりと震えた。
 そのまま舌が首筋を這う。
 ため息に似た声が僕の口から漏れた。

 僕はたちまち恍惚状態になって視界がぼやけるのを感じた。
 泥沼に足を取られ、それからずぶずぶと沈んで行くような錯覚。
 温かく柔らかい泥に包まれて、身体はほんのりと火照っている。

 僕はゆっくりと手を伸ばした。
 彼女の下着の縁に恐る恐る触れる。
 彼女は気づいていたろうが、何も言ってこなかった。

 彼女の肌を隅々まで目におさめたかった。
 僕は指に軽く力を込めて、無粋にもそれをはがそうとした。
 その時指に小さな痛みが走った。

 驚いて手を引きもどす。
 見ると人差し指から血がぷっくりと染み出ていた。
「どうしたの」
 彼女が顔を上げる。僕はあっと声を上げた。


「ご、ごめん」
「何が?」
 僕は彼女の下着を指さす。
 色の薄いそれには、赤黒い染みが小さく、だがしっかりと着いてしまっていた。

 女性の下着になど詳しくないが、いい素材を使っているしっかりしたものに思える。
 それを汚してしまった。
「今日のアルバイトで切っちゃった傷が開いて……」
 必死で弁解するが彼女は聞いていない。
 その染みをじっと見下ろしていた。

 しばらくそのまま沈黙が流れた。
 僕は彼女が怒っているものだと思った。
 取り返しのつかないことをしたと、目の前が暗くなった気がした。
 彼女の機嫌を損ねてしまった。

 そう思ったのだが、少々意外なことが起きた。
 彼女は下着のその部分をつまみあげ、引っ張り、口元に持っていったのだ。
 それからぺろりと一舐めする。
「……おいしい」


 僕は呆気にとられた。
 彼女が下着を引っ張ったことでかなり危うい部分まで見えていたが、それが気にならないほどだった。
「おい、しい?」

 彼女はこちらにちろりと視線をくれた。
「……冗談」
 冗談って……と僕は眉を寄せた。
 冗談にしてはちょっと突飛過ぎやしないか?

 でも、とも思う。
 僕に気を使ってくれたのだとすると、少し、いやかなり嬉しかった。


 それから甘美な時間が終わって、僕は帰り支度をしていた。
 といってもまとめる荷物なんてほとんどなかったけれど。
「その……また来てもいいかな」
 訊ねるのには勇気がいった。

「別に」
 彼女はそっけなく答える。
「好きにすれば。来るならわたしも助かるし」

 二千円ぽっちで?
 思ったが口には出さないでおいた。

 さて、と靴を履いて立ち上がる。
 振り向くと彼女が立っている。
 夫を送り出す新妻みたいだな、と思ってちょっとこそばゆい。
 相変わらずの仏頂面だけれど。

 そういえば、と思い付いて口を開いた。
「名前を訊いてなかった。教えてもらえる?」
 彼女に反応はなかった。
 あれ、聞こえなかったかな、と思ってもう一度訊こうとするのと同時、彼女は口を開いた。
「ヒナ」


「え?」
「ヒナ。それがわたしの名前」
 へえ、と僕は思った。こんな涼しげな美少女なのに、名前はなんだかかわいらしいんだな。
「いい名前だ」
 と、同時に源氏名か何かかなと思い至った。

「あ、そうだ。僕の名前は」
「いい。興味ない」
「そ、そっか」
 いろいろ挫かれて僕は苦笑いした。

「それじゃ」
「ん」
 ドアがパタンと閉じた。

続きます


ひなだお!

おいたんだえ?

では投下します


 僕の生活は様変わりした。
 小さく。ほんの少しだけ。
 アルバイト先と安アパートを往復する日々は変わらない。
 その間に、ある小さなホテルを挟んだだけ。

 けれど気持ちの上ではかなり大きな変化だったと思う。
 僕は笑顔でいる時間が多くなった。
 笑顔でない時も気分がよかった。

 職場の苦手な正社員に、
「何にやにやしてんだ気持ち悪い」
 と面と向かって言われた時もそんなに気にならなかったほどだ。
 まあ「フリーターのくせに気も緩んでるなんて救えねえ」というのは少し響いたけれど。

 とにかく、僕はおおむね幸せだった。
 もちろん理由は彼女だ。


「こんばんは」
「ん」
 ドアを開けてくれた彼女は、そっけなく僕を部屋に招き入れた。

 ソファーに座るとテレビがついている。
「見てたの?」
「ええ」
「ドラマ? 面白い?」
「全然」

 言いながらも彼女の目は画面にくぎ付けだ。
「だってせっかく見始めたんだから全部見ないともったいないじゃない」
 僕は飽きたらそれまでがどんなによかろうと消してしまうので、そこは分かりあえそうにない。

 彼女がドラマを見ている間に僕はシャワーを浴びた。
 鏡を見ると冴えない男が映っている。
 どこかしょぼくれて、彼女とは釣り合いが全く取れないそんな青年。


 ドラマが終わって彼女もシャワーを浴び終えると、僕たちはいつものようにベッドに寝そべった。
 向きあい、見つめあう。
 彼女の吸い込まれそうに深く黒い瞳を見つめているうちに僕の心は静まる。

 そうしたら僕は顔を近づけて彼女の首に舌を伸ばす。
 我ながら情けないほどたどたどしく彼女の肌をねぶった。
 無反応の少女を隅々まで唾液で濡らすと、今度は彼女の番だ。

 手慣れた様子で僕の耳にしゃぶりつき、それから肩、胸、腹と唇を滑らせていく。
 僕の身体がびくびくと震える。
 そしてとうとう僕の下着まで到達すると、彼女はそれをはぎ取る。
 それから優しく口づける。

 身体中の神経や意識がそこに集中する錯覚。
 血もそこに行ってしまったようで、僕は相変わらず軽く気絶しそうな気分だった。
 回数をこなせば堪えられるようになると思ったがそうでもないらしい。

 たちまち僕は絶頂し、彼女は僕の精液をすする。
 そして呑みこんだ彼女はさっさとティッシュで口元をぬぐってベッドから立った。


 僕は満足していた。
 彼女の技術は僕にはもったいないほどのものだったし、とても気持ちがよい。
 買春行為であることの罪悪感を忘れるほどに。

 ただ、と思う。彼女自身はどう思っているんだろう。
 どう見ても楽しんでいる風ではない。

 考えても仕方のないことではある。
 だってこれは彼女にとってビジネスなのだから。
 彼女にも気持ち良くなって欲しいというのは自分勝手な願いだ。

 それからもう一つ気になることがある。
 僕たちは最後まではやっていない。
 彼女が僕のそれをしゃぶって、僕が射精して、それだけだ。
 そこで終わる。彼女はさっさとうがいに行ってしまうので、事実上終了だ。

 その後僕は帰り支度をすることになっている。


 そのことについて訊いたり、無理矢理迫ったりするほど僕には勇気がない。
 なんとなく現状で満足していた。
 僕には過ぎたることにも思えたからだ。

 ある夜、アルバイト後。
 僕は鼻歌を歌いながらホテルに向かっていた。
 手にはビニール袋を提げて。

 中身はプリン。安物で二つだ。
 彼女と一緒に食べようと思って買ってきた。
 彼女は貢ぐような男は嫌いと言っていたが、これくらいは許してくれるだろう。

 スキップまでしてしまいそうな上機嫌。
 最近肩周りも軽い気がする。
 漠然とした不安も薄らいだ気がする。

 多分彼女のおかげだ。プリンはそのお礼でもある。
 喜んでくれるといいな。
 またあのほころんだ顔が見たい。


 夜道を進むと前の方に男女の連れが見えた。
 男が少女の肩に腕をまわしている。
 その時は羨ましい程度にしか思わなかった。
 ヒナとあんな仲になれたらな、とか考えていた。

 そして距離が詰まって気づいた。
 心臓がいやな音を立てて一度だけ脈打った。
 血の気が少しずつ引いていく。口の中がちりちりと乾いてくる。

 見間違いかもしれない。思いついて、そうであることを願った。
 しかし少女の後ろ姿。長い黒髪、細い肩。腕や脚の白い肌。
 ……ヒナだ。

 僕は慌ててその隣の男に目を凝らした。
 こちらにも見おぼえがある。
 背の高いやせ形。だが肩幅は広い。ワイシャツ姿のその男は。
 アルバイト先の苦手な、あの正社員だった。

 ホテルに入っていく二人を、ビニール袋を手に提げたまま、僕は呆然と見送った。

続きます

おぅ……続きが気になる


「ああ、ヒナちゃんね」
 フロントの男はモップ掃除の手を止めないまま答えた。
「いつもあんな感じだよ」

「あんな、感じ……」
 からからになった喉からは乾いた声しか出ない。
「そう。男をとっかえひっかえ……って程じゃないか。まあいろんな奴を連れ込んでヤってる」

 僕は壁に寄りかかった。
 身体から力が抜けそうになったからだが、男は気づかなかったようだった。
「かくいう俺も誘われたことがあったけどな。笑えるだろ?」
「いえ全く」
 白髪が多い男が言っても冗談にもならない。
 顔が険悪にゆがむのを自覚した。

「したんですか? その……彼女と」
 訊ねると、男は手を止めてこちらを向いた。
「どう思う?」
 知るものか。知りたくもない。


「ここ、一応普通のホテルでしょう」
「ん? だから?」
「そんないかがわしいことに使わせていいんですか」

 強い語気で言うのだが男は気にした風もない。
 肩をすくめて言ってのける。
「年端もいかない少女と淫行に走っていた張本人が何言うかね」
「それは……」
「それにあの娘はここの上客だしな。前払いで三カ月分のホテル代をもらってる」

 そういう問題じゃないだろ!
 叫びそうになって、そうしても何にもならないことに気づき顔を手で覆う。
 喉の奥から我ながら悲壮に過ぎる声が漏れた。
「なんだお前、マジ惚れか」
 うるさい。言い返したかったが言葉にならない。

「ま、頑張れ。命短し恋せよ青少年、ってな」
 男は掃除に戻っていった。


 僕は三階の部屋の前に立っていた。
 ひどく頭が重い。みぞおちも痛い。気を抜いたらもどしそうだ。

 安物のドアの向こうからは何やらくぐもった音と声が聞こえる。
 軋むベッドと男が唸るような声。
 それに混じる少し高い声。

 僕は耳をふさいだ。
 聞きたくなった。
 ヒナが上げる喘ぎ声なんて。
 他の男から与えられる快感に悦ぶ声なんて。

 僕は廊下の隅、陰になった部分にしゃがみこんだ。吐き気を必死に堪えた。
 涙は止めようがなかった。
 僕、結構本気だったんだな。フロントのオヤジの言っていた通りだ。
 冷えた心でそんなことを思った。


 ドアが開く音がした。
 陰から覗くとあの正社員が出ていくところだった。
 エレベーターに乗って消える。
 いつの間にかかなりの時間しゃがみこんでいたらしい。

 僕はしばらくぼうっとしていたが、ようやく気づいて立ち上がった。
 今、ヒナは一人だ。
 ドアの前に立った。
 短くはない躊躇の後、ノックした。

 大した音もなくドアが開いた。少女の白い顔がのぞいた。
 気軽に、「やあ」とか「元気?」とか言おうとして、失敗した。
 僕は沈んだ顔のまま立ち尽くした。

 ヒナはなんとなく事情を察したのかもしれない。
 部屋の奥を示した。入れということだろう。
 それでも動かないでいると手を取られた。
 彼女の手はあたたかかった。


「何か飲む?」
 何も答えないでいると、ヒナはペットボトルのお茶を僕の手に押し付けた。
 自身も同じものの蓋を開けてラッパ飲みしている。
 その額に汗が光った。あいつとのセックスでかいた汗か。

 ぷは、と彼女が飲み物から口を離すと同時、僕は訊いた。
「いつもこんな感じなんだってね」
 ヒナの目がこちらを向く。
「こんなって、どんな?」

「いろんな男を連れ込んでヤりたい放題」
 言った僕がダメージを受けた。心が痛い。
「そうだね。ヤってるよ」
 訂正する。心が砕けそうだ。

 ペットボトルを乱暴に開けて一気にあおる。
 ごくごくと飲みきって、それを握りつぶす。
 それから怒鳴ろうとして、むせた。


「大丈夫?」
 声は淡白だが、背中を優しく撫でてくれる。
 僕はその手を振り払った。
 それから改めて怒鳴った。
「この!」

 そこまでしか出てこない。
 この、なんなのか。売女? ビッチ? それとも腐ったマンコ?
 言えるはずもない。好きな娘に。

 急速にしぼむ怒り。
 崩れ落ちる身体をソファーが受けとめた。
 がっくりうなだれる。

「仕方ないよな、商売だもんな……」
 ようやく出てきたのはそんな言葉だ。
 彼女はあくまで性的サービスを行っていたにすぎない。
 すぎないって程普通のことではないけれど、でもそんなものだ。

 少なくとも僕のことを気に入ったとか好きとかでああいうことをしてくれたわけではない。
 不特定多数の相手にサービスを行うのも当たり前だ。
 そんなこと分かっている。いや、分かっていなかったのかも。
 こんなに悲しいんだから。


 ヒナは黙ってそれを聞いていた。
 静かに近付いてくると、僕の隣に腰を下ろした。
「ごめん」
「ヒナちゃんが謝ることないよ。僕が馬鹿だった」

 顔を上げて虚空を見上げる。
「僕、女の子と全く縁がなくてさ。いやもう笑っちゃうくらい全然」
「ふうん」
「だから、ヒナちゃんみたいな素敵な娘と夢みたいなことできて舞い上がってたんだ」

 苦笑に口元をゆがませる。
「なんて言うんだっけ。こういうの」
「……恋に恋してる?」
「そうそれ。いや違うかもだけど、多分そう」
 僕は頷いた。所詮、本当の恋じゃない。


 立ち上がった。
「だから、もうここには来ないよ。今までありがとう。あ、お茶もね。代わりにプリン置いてくよ」
 彼女は黙ってこちらを見上げていた。
 そんな目をしないでほしい。決別の意志が揺らぐ。

「そっか」
 呟いて彼女も立ち上がった。
 ちょうど僕の前に立ちはだかる位置取りだったので、僕は戸惑った。
「でも最後にひとつ聞いてくれる?」

「なに?」
「作り話」
「え?」
「わたしは」
 彼女はそこで一回深呼吸した。決意を固めるかのように。
「わたしは、吸血鬼なの」

続きます

ほう……ここで暴露か
でも手は温かいんだなぁ…


 初めの日にもそういえば彼女は言っていた。
 自分は吸血鬼だと。
「吸血鬼」
 僕はゆっくり瞬きを二回した。
「って、あの、あれ? 血を吸う」
「そう、日の光に弱い」

 まず思ったのは彼女はどういうつもりなんだろう、ということだった。
 この話に何の意味がある?

「じゃあ、その、君も血を吸うの?」
「吸うよ。でも吸わない」
「どういうこと?」
「血を吸うと、吸われた人にも感染しちゃうから。"吸血鬼"が」

 そういえばそんな性質があったなあと思い出す。
 あくまで創作上の「吸血鬼」の話だけれど。
「君はうつしたくないの?」
「まあ、できれば」


「優しいね。でもそれじゃあどうするのさ。吸えないじゃない。死んじゃうのかな」
「死んじゃうね。だから代わりのもので我慢してる」
「代わり?」
「男の人の精液」

 僕は顔をしかめた。ついでにあの正社員を思い出して吐き気もした。
「それ本当?」
「だけど血より精気が薄いからたくさんもらわなきゃいけない」
「それで大勢の男性と……」
「そういうこと」

 彼女があまり金もとらない理由も納得できる気がした。
 いや、でも作り話だっけ。
 全て話したということか、彼女が道をあけた。
「まあ、"大食い"の言い訳用の作り話だけどね」
「……そっか」


 僕はドアに向かった。
 さっき彼女にも言ったようにもうここには来ない。
 だから最後に彼女に向きあった。

「今までありがとう」
「こちらこそ」
 彼女は無表情だったが答える声は優しかった。

「ところで最後に訊きたい」
「何?」
「さっきの男。僕の上司みたいなもんなんだけど」
「うん」
「上手いの? あっちの方」

 彼女は考え込むような仕草をした。
「多分そうだね。気持ちはいいよ」
「そうか」
 ちょっとへこんだ。訊かなきゃよかった。


 でもね、と彼女は続ける。
「あの人自分勝手」
「そうなんだ」
「うん、勝手にイって、終わったらこっちはいないみたいに扱うし」

 彼女は少しだけ口元を緩めた。
「その点あなたは優しいよね」
「え?」

「わたしを精一杯大事にしてくれてるのが分かったよ。下手っぴだけど」
「……」
「あなたはきっと大丈夫。頑張って」
 僕は。何も言えなかった。なんだか胸が一杯になってしまっていて。

 何も言えないまま、ドアが閉じた。
 ロックの音がした。
 僕は長いことそこに立ち尽くした。

続きます

乙乙

ぞんぞんくる


……

「こっち! 早く!」
 その声に、僕は怒鳴るように返事して重い荷物を手に走り回った。
 物を運ぶことが多い仕事なのだが、僕は人より多めに、二倍三倍を運んだ。
 休み時間も運び続けた。

「そんなことしても給料には反映されねえぞ」
「時間給だしな」
 アルバイト仲間が笑って言う。
 僕は笑い返してそれでも手は止めない。

 働いて働いて働きまくる。どんどんどんどん回転させる。
 正社員たちからの指示は全て完遂し、それ以上の仕事をやっておく。
 アルバイト仲間は笑ったり呆れたりした。
 正社員組からは褒められた。苦手なあの正社員には無視されたけれど。

 夜はぼろぼろになった身体を引きずって安アパートに帰って眠る。
 起きる。出勤する。働く。働く。働く。

 やけくそだった。身体をいじめて悲鳴を上げても黙殺する。
 働いていれば忘れられた。
 不思議だ。こうまでしないとただの売春娘すら忘れられないなんて。

 次第にアルバイト先の人間には怖がられるようになった。
 何考えてるかわからない、だそうだ。
 僕にだって分かるもんか。

 そうして過ぎる二ヶ月と少し。


 夜道はぐらぐらと揺れていた。
 地震ではない。と思う。酔っ払っているわけでもない。
 揺れているのは僕だ。
 目が焦点を合わせてくれず、脚も踏ん張ろうとしないのでこうなる。

 舌打ちする。
 普段仕事の役にもたたないんだからせめて歩く時ぐらいしっかりしろよ。
 まともに歩くこともできないなんて、マジでクソだ。最高級のアホンダラだ。

 ひたすらぶつぶつと悪態をつきながら歩いていた。
 冷静になればかなり危ない、イっちゃってる人なのだが、その時の僕に正常な判断力はない。
 大きくよろめいて電柱に肩をぶつけた。

 その痛みで、というわけかどうかは知らないが、僕はふと母さんのことを思い出した。
 母さんは病院での今際の際に、穏やかな顔は全くしていなかった。
 ひたすら毒づき、暴れ、看護師を困らせた。
 そんな時母が放った一言は忘れられない。
『まだあの子の母でいたい!』

 身体を痛めつけ腫れあがらせる病魔と闘いながら、母は絶叫していた。
 わたしはまだ母でいたい。


 なんで思い出したんだろう。
 なんで僕は泣いているんだろう。
 しゃっくりのような、発作のようなひきつりが止まらない。

 僕は歩き続ける。
 暗い夜道はさらに闇を濃くして、立ちふさがるように――いや。
 僕は本当に歩いているのか?
 脚が動いていない。身体がピクリとも動かない。

 ああそうか。ようやく気づいた。
 僕は倒れていた。
 それを自覚した瞬間、僕は気を失った。

また後ほど来ます

続きが気になります

うわー
めっちゃ気になる
乙乙!


……

 混濁する意識の中、色々な顔が見えた。

 子供の頃の鏡で見た自分の幼い顔。
 現在のしょぼくれた情けない顔。
 あのくそったれの正社員の顔。
 母の厳しく、でも優しい顔。
 最後に、冷たくも美しい少女の顔。

 僕はぼうっとそれを見上げ続けた。
 口が自然と呟く。
「綺麗だ……」

「それはありがとう」
 少女は口元を緩めて答えた。
 僕ははっとした。鈍い頭なりに意識を弾けさせた。

「ヒナ……!?」
「久しぶりだね」
 僕はゆっくり見回した。
 二ヶ月前と何も変わらないホテルの一室。
 僕はベッドに寝かされていた。


「僕は……」
「ホテルの前に倒れてたって」
 フロントの人が見つけて、僕を彼女の部屋まで運んでくれたらしい。
「そうか……」
 僕は再び意識を混濁させながら目をつぶろうと――

 その前にがばっと飛び起きた。
 ヒナが小さく悲鳴を上げる。
「ご、ごめん」
 僕は謝って、それからベッドを下りる。足がふらつきまくるが、歩けないことはない。

「ちょっと」
 僕の腕に触れるヒナから離れるように、まとめてあった荷物の方に歩く。
「何してるの」
「帰る」

「その身体で?」
「明日もアルバイトがあるんだ」
「無理だよ。休まないと」
 僕は肩越しに彼女を振り向いた。
「そうだな。じゃあなおさら家に帰らないと」
 ヒナが悲しそうな顔をした。ように見えた。きっと僕の気のせいだ。


 出口に向かう僕の前に、ヒナが立ちふさがった。
「無理」
「何が?」
「帰る前にまた倒れちゃう」
「大丈夫だよ」
「絶対倒れちゃうよ」
「大丈夫だって、言ってるだろ!」

 突如喉を割った大声に僕は自分でびっくりした。
 でも口は止まらない。

「僕が倒れたところで困る奴なんていないんだよ! 働いてないと認めてもらえないんだよ! いないのと同じなんだ!」
 ヒナは呆然と口を開けて聞いていた。
 彼女の冷静でない顔なんて初めて見た。
「僕はせめて働かないと」
 叫びから呟きに変えて、僕は彼女の横を通り過ぎようとした。

「……ごめん」
 そして彼女の囁きに足を止めた。


 怪訝に思って見やると、彼女は俯いて立ち尽くしている。
 肩が震えているように見えるのは、気のせいか。
「なんで君が謝るんだ」
「だって……」

 僕はため息をついた。
「仕事で男性の相手をしている娘に勝手に惚れた男が、勝手に振られたと思って、勝手に仕事に逃避してる、それだけだよ」
 言っていて、情けなくもなる。
「君のせいじゃない。全く。全然」

 いいながらも彼女に恨みがなかったわけではない。
 なんで僕のものになってくれなかったんだとか思ってしまっている。
 そんなの全くの筋違いだし、僕の理性だけは理解している。
 これは恋じゃない。もちろん愛情なんてものでもない。

「それに大したことじゃないんだ。倒れたってもただちょっと疲れただけで」
 僕の言葉はそこで止まった。
 彼女に抱きすくめられて。

「休もう。ね?」
「……」
「ここにいて」
 彼女はこちらを見上げた。
 なぜだか涙があふれて、僕は泣いてしまった。
 みっともなくぼろぼろと泣いた。
 彼女の言葉にではなく、抱きしめられたぬくもりに。あまりに懐かしすぎて。


 彼女に添い寝してもらっただけで、僕はだいぶ回復していた。
 気分が晴れやかで、どこまでも行けそうな気がした。
 カーテンの隙間から細く光が差し込んでいるがうす暗い。
 隣では彼女が存外可愛い寝顔で眠っていた。

 僕はそっとベッドを抜け出して、支度を始める。
 部屋を出ようとした時、彼女が目を開けた。
 ぼうっとしばらく僕を見て、それから微笑んだ。
「いってらっしゃい」
「いってきます」


 ホテルを出る前にフロントの男にも挨拶した。
「昨日はありがとうございました。助かりました」
「もう大丈夫か?」
「おかげさまで」

 では、と言って行こうとするところを呼びとめられた。
「あの娘をあんまり心配させるなよ」
「あの娘が心配? 僕は心配されるほど価値のある人間じゃありませんよ」
「それは誰が決めたんだ?」
 僕は言葉に詰まった。

「確かに九十九人はお前さんのことなんか知ったこっちゃないだろう」
「……」
「でも一人くらいは心配する。そんなもんだ」
「そう、でしょうか」
「その一人を大事にしろよ」
 彼はそう言って掃除に戻った。もう話す気はないようだ。
 僕はしばらくの間彼の言ったことを噛みしめて、会釈をしてからホテルを出た。

フロントさんがひそかなお気に入り
続きます

いい雰囲気だ乙

かっこいいおじさんっていいよね、わかる
俺もしゅき

予想以上にいい乙


「あなたの名前は?」
 アルバイトが終わって、部屋のソファーで。彼女は訊いてきた。
「興味ないんじゃなかったの?」
 僕はプリンの一すくいを口に運びながら微笑む。

「うん、でも今はある」
「雅藤だよ、ガトウ。雅な藤、ね」
「ガトーかあ」
 その発音の仕方に僕は懐かしいものを覚えた。

「昔、僕にはそこからつけられたあだ名があるんだけど、分かる?」
「……なんだろ?」
「ショコラ」
「なんで?」

 僕は黙って彼女に考える時間を与えた。
「ガトーでしょ。ショコラ。あ」
 彼女が合点のいった表情でこちらを見る。
 二人で声を合わせた。
「ガトーショコラ」


 僕は空になったプリンの容器を置いて背もたれに身体を沈めた。
「そういうこと。おまけに甘いもの好きだったからね」
「へえ。ショコラね。ショコラ。ショコラ」
 彼女は口の中で何回か呟いた。

「わたしショコラ、好きだよ」
「僕もだ」
「じゃなくて」
 彼女はこちらに向き直って言う。

「ショコラ、好き」
 僕は一瞬分からず固まった。それから理解して、さらに固まった。
「……チョコケーキっていいもんだよね」
 誤魔化したが無理がある。

 彼女はわずかに顔をしかめてこちらに身を乗り出した。
 のみならずこちらに覆いかぶさって押し倒す。
「ふうん、そういうこと言うんだ」
「……君はいつの間にそんなに砕けた態度になったんだっけ?」


「これがわたしの素なの。知らなかった?」
「知るわけないじゃないか」
「じゃあこれから一杯教えてあげる」

 彼女は身を起こして離れた。
 触れ合っていた部分に名残惜しさを覚えながら僕も起きる。
「じゃあ、行こうか」
 彼女のいきなりの言葉に僕はぽけっとした。
「どこに?」

 彼女は
「わたしを知る旅」
 とだけ答えて、笑った。
 初めて見た彼女の満面の笑みだった。


 駅前にゲームセンターがあることは知っていたが、入ったことは今までなかった。
 入口をくぐると耳を潰す高低様々な音の圧。
 煙草の煙も舞っているのか少し煙たい。

 彼女は迷わずにずんずんと進んで行く。
 僕は控えめにきょろきょろしながらその後を追う。

「ヒナちゃんてこういうところ来るの?」
「割と。夜は長くて暇だからね」
 意外だった。もっと何というか、おしゃれな喫茶店やブティック的なイメージだった。

「そんなに変?」
 少女は振り返って僕を軽く睨む。
 慌てて首を振る。
「いや、よく似合ってるよ」
「それはそれでなんかむかつく」

 ヒナは筐体の一つの前で止まり、
「よし、これ!」
 と、席に着いた。


 格闘ゲームらしい。
 覗きこんでみるとキャラクター選択画面にはずらりとごつい男たちが並んでいる。
 珍しく、流行りの可愛い女の子キャラは一人もいない。
 ヒナはその中でもひときわ大柄なキャラを選んだ。

 超絶似合わない。
 僕は正直に胸中で呟いた。

 半眼の僕を置いてけぼりに彼女は操作を始めた。
 呆れ混じりにぼうっと見ていたが……次第に僕はそれに見入るようになっていた。
 上手い。
 僕はゲームなんてもう何年もやっていないが、そんな素人目にも分かるぐらい彼女の腕前は大したものだった。

 大柄なキャラで動きは鈍く、的も大きい。
 だが彼女は彼を的確に操り、敵の攻撃をいなし、一撃で沈めていく。
「……へえ」
「すごいでしょ」
 彼女は操作の手を止めないままこちらを振り返り、にやりと笑った。


「ショコラもやる?」
 一瞬悩んだけれど、やっぱりやめておいた。
「それじゃ面白くないよね。じゃあ他のを――」
 そう言って彼女はゲームを切り上げようとした。

 その時声がした。
「ちょっといい? ちょっと」
 勢いのある野太い声だった。

 そちらを見るて、僕は反射的に顔をしかめた。
 あまり綺麗でない金髪に頭を染めた青年がそこにいる。
 柄シャツをだらしなく着崩して腰パン。明らかにチャラい。

「何?」
 ヒナが問うと、彼は細い目をさらに嬉しそうに細めて近付いてきた。
「いやーすごいね君、マジかっけーわ。ちょっと俺と対戦しようよ。いいだろ?」
 言葉だけを聞くと友好的だが、僕はその裏にあるよこしまなにおいを感じ取った。

 僕は二人の間に割り込もうとした。
 が、その前にヒナが声を上げた。
「いいよ。勝負しましょう」
 え。僕は驚いて声を漏らした。


「マジ!? やりー!」
 言うなりチャラ男は向かいの筐体に走っていく。
「ちょっと」
 僕はヒナを咎めた。
「負けたら何されるか分からないぞ」

 僕は本気で心配だった。
 あの男、僕が脇にいるにも関わらず、まるで無視を決め込んでいた。
 ヒナはこちらを不敵に見上げた。
「任せて」

 数分後。僕はチャラ男に同情していた。
 彼の戦績は20戦0勝20敗。
 それだけでもきついだろうに、周りにはたくさんのギャラリーが集まってしまっている。
「すっげーな、あの娘」
 そんな声が聞こえた。

「くそ!」
 椅子を蹴ってチャラ男が立ち上がる。
 ずんずんとこちらに歩いてくる。
 僕は再び身体を緊張させた。


「テメエ……!」
 唸る彼に対しヒナは冷静だった。
「次は何で勝負する?」
「あれだ!」
 チャラ男が指さしたのはパズルゲームだ。

 僕の同情はさっきより大きいものになった。
 戦績は……やめておこう。彼がかわいそうだ。
「くっそ!」

 それからクイズゲーム、レースゲーム、シューティングゲームエトセトラエトセトラ。
 徐々にチャラ男はヒートアップしていき、最終的にはなぜか3人でクレーンゲームをやっていた。
「じゃーな! 楽しかったぜ!」
 チャラ男は腕一杯の景品を抱えながらこちらに手を振った。
「また遊ぼうぜヒナちゃん。ショコラもな!」

 本当に幸せそうな顔だったので、僕は苦笑いしながら見送った。
 隣を見ると彼女も愉快そうに笑いを堪えている。
 なるほど、これが彼女の楽しみ方なのかもしれない。


 夜道を歩き、今度は本屋へ。
 中を適当にぶらついて背表紙の列を眺めて回る。
 ヒナも僕もこれといって探している本はなかった。

 と、彼女が足を止めた。
 棚から一冊を引っ張り出す。
「なにそれ」
 問うと、彼女はこちらに本を持ちあげてみせた。
『宮沢賢治』

「詩集?」
 彼女は頷いてパラパラとめくりだす。
「好きなの?」
「特にそういうわけじゃないんだけど」

 その時彼女の手が止まった。
 覗く。
 一遍の詩。題は、
「『眼にて云う』」


 これは僕も知っている。
 病床にある人間の視点から書かれたそれは、不思議な透明感がある。

「あなたの方から見たらずいぶんさんたんたるけしきでしょうが」
「わたくしから見えるのはやっぱりきれいな青空と」
 二人で1行ずつ読みあげ、最後は一緒に唱和した。
「すきとおった風ばかりです」

 彼女は静かに詩集を閉じ、ゆっくりとそれを本棚に戻した。
 二人で外に出る。

「もし死ぬ日が来たら、ああいう風に穏やかに死にたい」
 彼女がどこか遠い口調で言う。
「縁起でもない」
 僕は静かに答えた。

 でも分かるところはある。
 普通、死ぬときは苦しくて痛いのだろう。
 言葉では表すことのできないほど。だから人は死の縁でわめき、叫ぶ。
 死ぬなら「きれいな青空」と「すきとおった風」を眺めながら死にたい。そう思う。


 町の一角にある公園は暗闇に沈んでいた。
 滑り台やブランコなどが眠る大型動物のようにたたずんでいる。
 彼女は先行して滑り台に向かった。
 階段を上り、一番上に座り込む。僕はそれを下から見上げる。

 彼女は遠くを見ていた。
 視線の先を見ると、暗い空を押し上げるように黒い建物がいくつも並んでいた。
 ヒナはそのうちの一つを指さした。
「あれ、中央総合病院」

 僕は頷く。
「僕の母はあそこにいたよ」
「そうなの?」
「僕が高校を卒業する前に死んじゃった」

 いつもしかめつらだった母を思い出す。
 父と離婚してからずっとその表情だった。
 僕が重荷だったに違いない。よくよく体調を崩しては病院の世話になっていた。
 入院して、危篤状態になって、最期の言葉は「まだあの子の母でいたい」だ。


「奇遇だね。わたしのお母さんもあそこにいたよ」
「え?」
「奇病でね。入院してた」

 それは、と僕はうめいた。「大変だったね」
「うん。大変そうだった。吸血症っていうんだけど」
「吸血?」
「そ。わたしが今なってるやつね」

 いわく、人の体液から精気を供給しなければ死に至る。
 また、日光を浴びても同じく死に至る。

「それ以外は普通の人と同じ。いきなり発症するんだ」
 彼女の母も以前は普通に暮らしていたらしい。
 ヒナが小学校を卒業するころに発症して、入院に至った。

「医者は色々試したみたいだけどね、駄目だった。お母さんはどんどん痩せてった」
 母親はやっぱり彼女が高校を卒業する前に死んだ。1年前らしい。
「そして今度はわたしの番。発症して昼夜逆転。そういうわけ」


 つー、と彼女は滑り台を下りてきた。
「見て」
 腕を掲げる。
 近寄って視線を落とすと、そこにあるのは火傷のような傷痕。

「これは?」
「今日、あなたが出発した後、やっちゃった。カーテンが揺れてさ」
 そこに日光が当たったらしい。
「少しだけなんだけどね。でもそれだけでこうなっちゃう」

 僕は黙ってそれを見下ろした。
 その傷にそっと触れる。
「……作り話じゃなかったんだね」

「わたしの名前」
 唐突に彼女が言う。
「ん?」
「わたしのヒナって名前、太陽の菜っぱって書くんだ。陽菜」
「……」
「笑っちゃうよね。太陽が駄目な吸血鬼なのに」


 立ち上がる彼女を抱きしめた。
 街灯の光を反射して光る彼女の目が間近にある。
 かなしく輝くそれを見つめ、僕は彼女と唇を重ねた。

 長く長く。
 彼女の手が僕の手に回される。
 きつくではなく、ゆるく、どこか頼りなく。

 唇を離して僕は空を見上げた。
 町の明かりでかすかにしか星は見えない。
 彼女の頭を胸に抱きながら、僕はそれを見上げ続けた。

 世の中はままならないことばかりだ。
 希望の正体は、あのかすんだ星の光にきっと似ている。

ここまでなんだか妙な投下間隔ですみませんでした
でも明後日までには多分終わりますのでご容赦を
それでは今日はここまで

そんなにすぐ終わっちゃうのか…すごい好きな雰囲気!!乙乙

乙です
終わりと聞くと残念な気もするけど逆にこれは引っ張らないほうが良いとも思う
次回投稿も期待しています

乙乙
名残惜しいが、それがまたいいんだろう
ひなちゃんとショコラが幸せになれたらなぁ…

アナベル乙

乙です
もっと長く見たい気もするけど完結ならそれはそれでスッキリするからね
ムダにエタるよりよっぽどいい


 その夜から十日ほど後。
 僕は全速力で走っていた。
 向かうはホテルの方向。
 時間はまだ七時で、アルバイトは無理矢理早く抜けてきた。

 ぜいぜいと息が切れ肺が痛むが構ってはいられない。
 彼女が、ヒナが危ないのだから。

 アルバイトの終わり頃、携帯が鳴った。
 何の気なしに取った。
「俺だ」
 声は開口一番にそう言った。
「わかるな? フロントだ」

「ああ、分かりますよ。なんですか?」
 僕は仕事で噴き出した汗を拭きながら暢気に返した。
 その時の能天気具合は自分で自分を殴ってやりたいぐらいだった。

 声は落ちついた調子で、しかし早口に告げた。
「単刀直入に言う。ヒナちゃんが倒れた」


「は?」
「本当はもっと早く電話すべきだったんだけどな、ヒナちゃんが止めるものだから」
「ちょ、ちょっと待ってください、どういうことです?」
「いいから来い」
「だから説明を」
「いいから!」

 声はいきなり語気を強めた。
 それで僕は本当に危ない状況なのだと悟った。ようやく、理解した。
 救いがたいほどの愚鈍だ。自分で自分を絞め殺してやりたかった。

 ホテルに飛び込み、鍵の掛かっていないドアを開けると、ベッドに横たわるヒナがまず目に入った。
 それから脇に立つフロントの男。

「ヒナ!」
 呼びかけながら駆け寄る。
 だが反応はなかった。

「今は寝てる。多分もうすぐ意識は取り戻す」
 フロントの男は落ちつかせるように僕の腕に触れながら言った。
「何があったんです?」
「六時頃、物音がした。それでこの部屋に来たら床にヒナちゃんが倒れてた」


 ヒナの顔は蒼白で、ひどくやつれて見える。
 一気に衰弱している。昨日は何ともなかったはずなのに。
「一体どうして……」
「怪我はない」
「何かの病気じゃ」
「わからんね。ただ……気になることがある。ちょっとこっち来い」
 フロントの男が部屋の隅に僕を引っ張った。

「なんです?」
「ヒナちゃんが最近男を連れ込むところを見ていない。お前はどうだ、見たか?」
 僕ははっとした。彼女の精気補給源。
「僕も、見てません」
 最近ずっと夜は一緒だ。他の男は来ていない。

「俺は事情はよく知らん。だが関係はあるんだろ?」
 フロントの男はこちらの返事を聞く前に出口に向かった。
「とにかく任せる。何かあったら呼べ」
 ドアが閉まった。


「……出てった?」
 僕ははっとして振り返った。
 ヒナが目を覚ましていた。悪戯っぽく笑う。
「二人きりになりたかったから寝たふりしてた」

「ヒナちゃん」
 近寄って手を握る。
「最近精気を補給していない、そうだね?」
 ヒナは小さく頷いた。

「なんで。命にかかわるじゃないか」
「だって……」
 彼女が口をつぐむ。

「だってもなにもない。君に死なれるのは嫌だ」
 我ながら必死すぎるほどの口調だった。
 彼女は唇を噛んでそれを聞いていた。

 僕はもう一言言おうとして、その瞬間に気づいた。
 ヒナが口を開くのとほとんど同時だった。
「だって、精気の補給って、他の男と寝るってことじゃない」
 僕は拳を握った。
「わたし、もうそんなの嫌だ。死ぬより嫌だ」
 ヒナも毛布の上で小さく拳を握っていた。


 何も言えない。言えるはずもない。
 僕だって嫌だからだ。
 他の男にヒナを抱かせるなんて、もう死んでも嫌だったからだ。

「でも、じゃあ」
 どうしたら、と言いかけて思い付く。
 携帯を取り出す。
 しかしヒナが言葉で制した。
「病院も駄目」

「なんで」
「吸血症の治療法は確立してない」
「それでも血液はもらえる!」
「でも」
 彼女は声を詰まらせた。
「あなたと会えなくなる」


 言葉を失った。
 なるほど。
 僕は苦々しく認めた。確かにその通りだ。
 吸血症は奇病だ。近しい者を除いて面会は絶対謝絶だろう。

「じゃあ……じゃあ」
 僕は必死に頭を捻る。
「僕の血を飲めば」

 彼女は首を振る。
「駄目。あなたに重荷は背負わせたくない」

 じゃあどうしろってんだ!
 僕は胸中に叫んだ。
 僕にどうしろってんだよ! 分かんねえよ!
 おい神様! もしいるんなら答えろよ!


「ごめん、わがまま言って」
 彼女は虚ろに視線をさまよわせ始める。
 意識がはっきりしないらしい。
「でもわたしは……わたしは……」
 うわごとのように呟き、それからまた目を閉じた。

 僕は慌ててその口元に顔を近付ける。
 頬に当たる息を感じてほっとした。
 大丈夫、まだ生きてる。

 だがこのままでは死ぬ。

 その事実を目の前に、僕は愕然とした。
 ヒナが死ぬ? そんな未来、認めるものか。
 よろよろとソファーに近寄り、座り込む。

 僕は必死で頭を探った。
 何か方法はないか。彼女を救う方法はないか。
 いきなり、唐突に目の前に迫った危機。
 現実感のわかないそれは、しかしもう目と鼻の先にある。

 考えて考えまくって。
 でも、実は分かっていた。方法は一つしかないということは。
 本当のところ僕が考えていたのは、それを避ける方法だったのだ。

次でラスト。つまり今日で終わりそうです
全体としては短くなっちゃいますが、その分密度は上げるつもりです。よろしく

おっしゃ
全裸待機してればいいんだな

おう……そりゃあ割り切れねーよな
出会ったのは不幸なんかじゃないって言えると信じてるぞ


 ホテルを出るとき、フロントの男はいなかった。
 これからやろうとしていることを考えれば鉢合わせなかったのは幸運だった。

 僕はまだ開いていた旅行用品店に入り、大きなキャリーバッグを買った。
 人間だって一人ぐらいならぎりぎり入ってしまいそうなくらい大きい。

 それを引きずって歩く。
 目的の人物の帰り道は大体知っていた。
 徒歩での帰宅であることも、その途中に人気がない道があることも。
 時間もちょうどいい。

 急ぎ足で歩いてしばらく、その背中を見つけた。
 やせ形でしかし肩幅のあるワイシャツ姿。
 彼は大股でゆったりと歩いていた。

 懐から果物ナイフを取り出す。ホテルにあったものだ。
 そしていくつか確認する。
 相手はこちらより体格はいいが体力はこちらが上だ。
 周りに他の人間はいない。

 そして、これが重要なのだが、僕には彼を襲う動機がしっかりしている。


 僕が彼を襲うのは日ごろから不当に低く扱われた恨みによるもので、他の動機は全くない。
 それが、そう思われるのが何よりも重要だった。
 間違ってもヒナにとばっちりが行くことになってはいけない。

 僕は慎重に機会をうかがった。
 ここから数十メートルは寂れた裏道だ。
 その間で勝負をつける。

 じわじわと距離を詰める。
 キャリーバッグは持ち上げて音がするのを避ける。
 だがきっかけがないまま時間が過ぎた。
 このままでは裏道を抜けてしまう。

 と。
 彼がしゃがみこんだ。靴紐がほどけたらしい。
 その時には僕はもうキャリーバッグを投げて駆けだしていた。
 男が気づいて振り向く。しかし遅い。それより早く、果物ナイフがその背中を突き通した。


 独特の、鈍い手応えがした。
 うめくような悲鳴を上げて男が倒れた。
 やった。と思った。これで人間一人分の血液が確保できる!

 大した距離を走ったわけではないのに息が荒かった。
 脚も震える。ついでに手も震える。
 さっきの手応えで痺れたように力が抜けていた。

 そして、見やると男は這うようにして逃げ出そうとしている。生きていた。
 止めを刺さなければならない、と気づいた。
 追いかける。ナイフを振り上げる。
「う……」
 後は振り下ろすだけ。それで終わる。

 だが、できない。さっきの鈍い肉の感触が僕にそれをさせてくれない!
 なんでだよ! 僕は毒づく。なんでできない!?
 口から嗚咽に似た声が、目から涙に似た汗が、それぞれ洩れて落ちる。

 そして気付く。
 僕にはできない。
 どうしたって、できない。


 日ごろからこいつにむかついていようと。
 吸血鬼の少女が血に飢えていようと。
 それを助けるためにどんな決意を固めようと。
 そんなものは関係ないのだ。
 僕にはできない。

 気づいた途端、僕は悲鳴を上げた。
 果物ナイフを放り捨て、みっともなくそこから逃げ出す。
 足をもつれさせ、半分転げるように走り出す。

 暗い道を延々と蹴り、走り続けた。
 ずっとずっと走って、それから一度だけ吼えた。


 ホテルの三階のいつもの部屋で、真っ暗なその部屋で、ヒナは月明かりを浴びて眠っていた。
 美しい光景で、僕はそれを見ているだけで何故か涙があふれた。
 僕はもう、そこに立ち入ることも、彼女に触れることもできないんだ。

 しばらくぼうっと眺めた後、背を向ける。僕はここにいちゃいけない。
「ショコラ」
 声がしたのはその時だ。
 肩越しに振り返る。彼女がこちらを見ている。
「こっちに来て」

 僕は躊躇した。だって僕は、犯罪者だから。
 でもそんなこと関係ないように彼女は言う。
「来て。お願い」
 近寄ると、彼女はもがくように身を起こした。

 それから僕を抱きしめながら言う。
「ごめんね」
 彼女はずっと寝ていた。僕の悪行を知るはずもない。
 しかし全てを知っているような口調で言う。
 泣き声の混じった声で謝っている。


「別に」
 僕は平板に答える。
「君のことは関係ない。僕はあいつが大嫌いだったから」
「ごめん」
 それでも彼女は謝り続ける。ただ、謝り続ける。

 僕は、それによってゆっくりと凝り固まっていたものがほぐれるのを感じた。
 そのせいで、心の奥に縛りつけていた恐怖が、震えが顔を出した。
 腕が震える。肩が震える。身体全体が細かく震える。
 怖い、怖い、怖い。浴びた返り血が生温かかったのを思い出す。

 僕は小さく叫んだ。彼女に抱きしめられながら嗚咽する。
 痙攣するように声が漏れる。
 もう嫌だ。あんなのはもう嫌だ!

 それは敗北宣言だった。
 僕は負けたのだ。
 彼女の命と自分の覚悟を天秤の両端に乗せて、結局彼女を取れなかったのだ。

「違うよ。ショコラの勝ちだよ」
 僕ははっと顔を上げる。
「ショコラはショコラのまま帰って来てくれた」
 僕の顔がなんだかもうよくわからない感情で歪む。
「ありがとうショコラ。愛してる」
 僕はもう何度目かになるか分からない号泣をすることになった。

「僕もだ、ヒナ」


 僕の身体の震えがおさまって落ちついてから。
 僕は彼女に一つの提案をした。
 彼女はそれを黙って聞いていた。

 聞き終わった後も彼女は黙って考え続けていた。
 僕は急かすようなことはせず、ただ、全てを彼女の判断に任せた。
 短くない時間の後、彼女は僕の提案を呑んだ。

 僕は彼女を抱きしめた。
 彼女も僕を抱きしめた。


「もう大丈夫なのか?」
 フロントの男は怪訝そうな顔で僕たちを見た。
「うん、もう平気だよ」
 血色の良くなったヒナが笑って答えた。

「そうか? ならよかったが」
「それでなんですけど」
 今度は僕が口を開く。
「僕たち、このホテルひきはらおうと思いまして」

「そりゃまたどういうことだ? いやホテルだし引きとめるこたできねえけどよ」
「どこか遠くに引っ越そうと思うんです」
「はあ……」
「大丈夫、前納したホテル代返せなんて言わないからさ」

 悪戯っぽくヒナは言って、ホテルの出口へ向かった。
「じゃあね」
「……おう、じゃあな」
 フロントの男は、見間違いじゃなければ、寂しそうだった。すごく。ものすごく。


「それじゃあ僕も」
「ちょっと待て」
 フロントの男は僕に何かを放った。
 僕はそれを不格好にキャッチした。
「……なんです?」
 つまんで持ち上げると、車のキーのようだった。

「餞別だ。やるよ」
「え。でも」
「いいから。お前はともかく、あの娘は俺の娘みたいなもんなんだよ。少しは何かさせろ」
「いえそうではなく、古い鍵だなと。いつ頃の車ですか」
「文句あるか?」

 険悪に声を低くする彼に僕は笑う。
「冗談ですよ。有難くいただきます」
「おう」
「それでは……と、最後に訊きたいんですが」
「なんだ?」
「あなたはヒナとはヤってませんね?」
「あたぼうよ。可愛い娘にひどいことしたがる父親がどこにいる」


 古いセダンに乗り込みながら彼女にそのことを言うと、ヒナはくすくすと笑った。
「知ってる? あの人にも昔娘がいたんだって」
「へえ」
「小さい時に病気で亡くなったらしいんだけど。名前がヒナコちゃんだとかで」
「なるほど」

 キーを差し込み、回す。
 エンジンが意外に軽快な音を立てて始動する。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
「どこにする?」
「あなたと一緒ならどこにでも!」
「了解」
 アクセルを踏み込んだ。

 夜の道を僕たちの車だけが走る。
 目的地はない。でも漠然と行きたいところはあった。
 二人ともここらの地図には詳しくなかったので、適当に走った。
 迷うことを恐れる必要はない。どうせもうどこにも戻れないのだから。


 車のラジオからはニュースが聞こえてきた。
「夜九時ごろ通り魔事件がありました。――さんがナイフのようなもので刺されて軽傷。命に別状はなく……」
 僕は窓を開けた。
「なんか潮の匂いがしない?」
「そう?」
 隣の彼女が首を傾げる。
「すると思うけどなあ」

 言いながら僕は首筋から肩にかけての部分を片手で撫でる。
 ほとんど消えているが、牙の跡が少しだけ残っている。
 彼女はそれをじっと見つめていたが何も言わなかった。

 車はそれから小一時間ほど走って、ある道路脇に停まった。
 ドアを開けると、今度こそ濃厚な潮の香りが鼻をツンと刺激する。
 彼女は歓声を上げた。
「海だあ!」

 うす暗い空の下に、黒い海が穏やかに打ち寄せては返している。
「わたし、海なんて何年ぶりだろう」
 叫ぶように言いながら水際に走っていく。
 僕もゆっくりその後を追う。


 彼女は不格好に海水を掬っては舞い上げていた。
「ショコラ!」
「うわっぷ!」
 僕の顔に海水が掛かる。しょっぱい。

 僕は呆れて笑う。
「子供じゃあるまいし」
「あ、なに大人ぶってんの」
「女の子なら女の子らしく慎みを」
 とそこまで言って、注意の逸れた彼女に海水を蹴りあげる。

「あ! 何すんのよ!」
 僕はその時には退避を始めている。笑いながら。
「この!」
 ヒナは見ずに濡れた砂を丸めて僕に投げてきた。
 多くは外れるがいくつかは当たる。
 僕は逃げながら笑い続けた。彼女も笑っていた。

 ああ、なんで最後に限ってこんなに楽しいんだろう。


 ひたすらはしゃいでいるうちに水平線が明るくなってきた。
 僕たちは立ち止まってそちらを見た。
 どちらともなく座り込む。
 並んで肩を寄せて、明るさを増していく空を見上げる。

「わたし、朝日を見るのなんて何年振りかな」
「僕もじっくり見るのは久しぶりだな」
 それきり二人とも黙りこむ。

 日が出るにはまだもう少しかかりそうだ。
 最後に言い残すことはなかっただろうか。僕は慌てずに頭を探った。
 と、彼女が言った。
「セックスしとけばよかったね」
 あ、と僕は声を漏らした。結局ヒナとは交わりを持っていない。

 なんだか大事なことを損ねてしまった気分になったが、僕は努めて冷静に返した。
「いや、でも大したことじゃないさ」
「どうして?」
「ヒナは幸せだった?」
 唐突な質問に、彼女は瞬きをした。


 考える間をおいて、彼女は答える。
「まあまあかな。人生の前半はいまいちだったけど、後半の追い上げがすごかった」
「奇遇だね、僕も同じだ」
 深呼吸する。
「終わりよければすべてよし。だから、セックスなんて大したことじゃないのさ」
 したかったけどね、とこっそり付け加えた。

 ますます水平線が明るくなる。もう間もなくだ。
 一日の始まりを告げる朝日が、僕たち吸血鬼にとっては終わりを告げる朝日が昇る。
 彼女が急に立ち上がる。
「ショコラ、愛してる!」
 僕は微笑む。
「もう聞いたよ」

「ううん、言い足りない。もっと言う」
 彼女は海に叫ぶように繰り返す。
 愛してる、愛してる、愛してる。

 フェアじゃないな。僕は思いたって立ち上がる。
「ヒナ、愛してる!」
「知ってたよ!」
「そいつは良かった! 愛してる!」

 空が照らされた。夜が明ける。
 輝かしい、目をつぶさんばかりの朝日が水平線の彼方から昇っ――

『吸血少女と待つ夜明け』
終わり

投下も夜明けにあわせてみました。偶然ですが
長く書く能力がなくてすみません。それでも楽しんでもらえていたら嬉しいです
それでは

すみません
加筆修正して別所に再投稿することも考えているので、一応本人証明できるようにしておきます

…おつ

乙です
納得の出来る形のラストだったけど完結して安心半分、残念半分と言った感じです
再投稿用で酉を付けたとのことですが出来ればここで再投稿してくれるとありがたいです
でも雰囲気をぶち壊すようなコメントが途中で入ることを考えたら
他人のコメントが入りにくい場所のほうが良いのか……

乙でした!
次回作期待してますよ?

乙乙

その酉、覚えたよ
本人たちは……幸せだったのかなぁ……

>>137
>>139
終わったのに出しゃばり&紛らわしくてすみません
加筆修正して再投稿といいましたが、大きくは変えないでどこか小説投稿サイトに落としてみようというだけです
その時に偽物を疑われることを避けるために一時的な酉をつけてみました
本来は酉はつけない主義なので、同じ酉で書くことはないと思います

そうか。どうあれ乙!
いいもんだったよ

あああ…終わってしまった…

切ない
切ないです

ムーンチャイルドって映画を思い出させるラストだった

面白かったです。

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