cheers! (58)

この物語は、幕間のお話

これは私の過去を振り返る話

そして――――

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『桜色』

宮永照が咲と離れ離れになってから数年、すっかり東京での生活に慣れた頃の話である

 GW前の休日、私はある人に呼び出され、駅前で落ちあうことになった。
 本当は、三人で会うつもりだったけど気を使ってくれたのか菫は後で合流することに。


照「約束の時間に遅れちゃうよ 急がなくっちゃ」

 普通の日なら目覚ましなしでも自然に起きる私だけど、昨日は新刊を夜遅くまで読んでいたせいか
 うっかり寝坊してしまい急いで用意しても間に合うかギリギリの時間に起床


照(こんなことなら、起こしてもらうんだったなー)

照「あ、菫からメール来てる」


『照、時間通り起きたか? どれだけ夜更かししても遅刻だけはしない照の事だから大丈夫だとは思うが一応な』


照「やっぱり菫は世話焼きさんだよね。でもありがたいな」


『アイツは結構時間に厳しいから、時間厳守だぞ。何事も無ければ午後に合流するから宜しく頼むぞ』


照「はいはい、分かってるよ菫」ポチポチ

 菫にお礼のメールを返信して、もう一度今の時間を確かめた私は急いで出掛ける準備を始めます。
 朝食は夜の残りで簡単に済ませ、今日の天気と気温を確認して着ていく洋服の準備などなど

 ともあれ取るものもとりあえず急いで出掛ける準備を整え玄関へと向かう私でしたが……


照(おっとっと、その前に)『いってきます』


 今、家には私以外誰もいないけど、毎回家を出るときに必ず言うセリフ
 これは、東京に来てから始めた事
 なかなか賛同してくれる人は居ないけど、始めて二年目にもなると自然に出るようになっています。

菫「照は時間通り目が覚めただろうか」ソワソワ

淡「テルがどうしたのー」ペターン

菫「今日、照のヤツ部活休みだろ。朝から人に会う用事が有るからって特別に許可したんだが」

菫「ちゃんと起きたか心配でな」フウ

淡「ふーん、スミレはテル―に甘いよね」

淡「あーあ やっぱりテルーが居ないと部活つまんないなー もう帰って良い?」ペターン

菫「ダメに決まってるだろ。お前にはまだまだ教える事が沢山あるんだぞ」

菫「そんなことを言う口はコレか ああん?」ムニー

淡「しぇんぱい、いたいれふ ほっぺたひっぱらにゃいでくだしゃいよ」バタバタ

菫「まったく、お前と来たらすぐこれだ」パッ

淡「うー 暴力はんたーい」ヒリヒリ

菫「お前にはこのくらいやらんと、効果が無いからな」フン

淡「だって本当のことじゃないですか 亦野先輩も休みだから人数足りないんだもん」

菫「はあ、いつから淡はそんな口を聞くようになったのか……入部した時はあんなに素直だったのに」ヨヨヨ

淡「それは、その……先輩達が構ってくれないからですね つい」テヘッ

菫「ああ、もういい分かったから」

淡「今度は放置プレイ……それもなかなか」ポッ

菫「お、おう」

菫「じゃあ渋谷が戻ってきたら適当に一人入れて練習始めるぞ」

淡「臨むところです。今日こそ、菫先輩に勝ちますよ」

菫「二度と減らず口を叩けないようコテンパンにしてやる」

ー駅前ー

照「時間は、何度見ても10時5分……間に合わなかったよ」グスン

照「でも、まだ来て無いかもしれないし あきらめちゃだめだよね」ウンウン

照(えーっと、待ち合わせ場所はこの辺だと思ったんだけど)キョロキョロ


 辺りを見回すと他にも何人か待ち合わせをしている人がちらほら、
 淡い期待を抱いた私でしたが、案の定相手は既にベンチに座り私が来るのを今か今かと待っている様子しかも……

照(あれ? もしかして怒ってる?)

照「(でも、周りに子供が群がってる? 知り合いの子達かな)」


 シショー キョウハダレトアウノー? ボクタチモツイテイクー


「今日は、お前達を連れていくわけには行かないんだ。また今度な」


エー センセイノケチー ネエネエ アソボウヨー


「だから。今日は先生用事があるの 分かってくれよ」


 何やら子供達と話をしている彼女、よくよく見れば、見覚えのある子がチラホラ
 どうやら偶然駅で出会った様子

照(ふふっ、迷惑そうにしてても、ちゃんと構ってあげてるもんなー)

照(今更5分遅れても変わらないし、もう少しここから見守っていても良いよね)


 そうして私は彼女の視界に入らない場所に移動して、暫く様子をうかがう事にしました。


「あ、そんなところで何見てるんだ。宮永早くこっちにこい」

照(さっそくバレター どうして? 何で? まあこれ以上待たせるの悪いし仕方ないか)テクテク

照「おはよー」

「ああ、おはよう宮永」

照「ごめん怒ってる?、せっかく女子高生が小学生と戯れてるのに邪魔しちゃ悪いと思って」

「そうかそうか宮永は私が困っているのがそんなに愉快だと言いたいんだな」ギロリ

 「あー てるおねえちゃんだー ひさしぶりだし!」

 「ししょーをまたせるとかひどいし!」

照「みんな、久しぶり 元気だった?」

「うん! おねえちゃんは?」ネエネエ

照「私? はわわ」


 いきなり背後から抱きつかれたり、服を引っ張られたりやっぱり子供は元気だなー
 でも、お尻を触るのはダメだよ


照「もう、人のお尻は触っちゃだめだよ。分かった?」

「はーい」

「やっぱり、お前の方が子供の扱いが上手いな。下に弟妹が居ると違うな」

照「そんなこと無いよ。智葉」ナデナデ

智葉「宮永には素直なまま成長していってほしいよ」

照「???」

智葉「じゃあ、お前らまた時間があったら顔を出すからなー」

 「センセー またねー バイバ―イ」

照(ニコニコ)
 
智葉「だから、なんで宮永はそんなに笑顔なんだ」

照「だって、ねえ?」

智葉「宮永も知ってるだろ。あいつらは近所のガキ達で時々麻雀を教えてやってるって」

照「イイって、イイって。智葉の家の事情は分かってるから」

 
 彼女は辻垣内智葉 私が通っている白糸台高校とは別の地区、東東京の臨海女子に通っています
 智葉と出会ったのは私がこっちに越してきた春の事だからかれこれ3年(?)になるのかな。
 中学の時いろいろお世話になった大切な友達です。

 あれからいろいろあったけど、今もこうして連絡を取りあう仲
 それぞれ別々の道を選ぶことになったけど、大切な人


照(でも……智葉って苦労してるんだろうな。ただでさえ臨海は留学生を中心にオーダー組んでるせいで去年まで団体戦出場できてないし)

智葉「私の家の事は……物心ついた時には受け入れているから照が心配する事じゃないよ」

智葉「それに、宮永がこっちの生活に慣れるまで面倒みてたのは私だぞ? 手のかかるお子様の相手をするのは慣れっこだよ」

照「私って、そんなに手が掛かってたの?」

智葉「ああ、ものすごーくな」

照「だって、東京の道って複雑なんだもん。智葉だって一回通った位で道覚えられる?」

智葉「流石に一度で覚える自信は無いが、目印を覚えるとかいろいろ工夫すれば何とかなるな」

照「どうせ私はポンコツですよーだ」

照(それにこっちに引っ越して暫くは咲と離れ離れになって寂しかったんだもん)

照(もう二度と会えないんじゃないかと思って、一人で長野に帰ろうとして...)

照(あのときは智葉と菫のお世話になったんだっけ)

照「あれ私、二人に結構迷惑掛けてるかも」

智葉「それで、みんなはどんな感じだ」


 その後、一通り小言を言って満足した智葉にもう一度謝って、この話は終わり
 今度は電車に乗って今日の目的地に移動することになった私達は無事隣の席を確保して、お互いの近況を話す事にしたんだけど―――


照「こっちは相変わらずかな。菫は部長になってから少し怒りっぽくなったかな」

智葉「そうみたいだな。この前ウチで練習試合した時も、下級生にズバズバ言ってたし」


 そうなんです。実は先月(といっても先週なんだけど)私達が臨海にお邪魔して練習試合をしたんです。
 智葉とは約半年ぶりに卓を囲んで打つ機会に恵まれて、その日は思いっきり強豪校との対局を満喫したんだけどその時ちょっとした事件が起こったというか


智葉「いろいろ大変なんだろうな弘世のヤツ」

照「智葉だって、ダヴァンさんとか留学生の人達を立派にまとめてるんでしょ」

智葉「あいつらは良い意味で無関心だから、部活中はそうでもないんだがな」フー

智葉「それに比べ弘世の所は大所帯だし、宮永はどちらかというと気配りができるタイプじゃないからな」

照「幼馴染の智葉から見ても、そう見えるんだね」

智葉「昔は私の背中に隠れてばかりでおとなしかったのに今となってはその面影はまったくないな」

智葉「あの頃は『さとはちゃん、さとはちゃん』って私の傍から離れようとはしなかったのに」

照「それはちょっと気になるなー あの菫にそんなかわいい時期があったなんて」

智葉「今度、時間があったら見せてやるよ もちろん、弘世には秘密でな」フフン

照「約束だよ 智葉」

智葉「その時は、あいつらの顔も見ていってくれ」

照「もちろんそのつもりだよ」


 お互い忙しくて、最近あんまり会う事ができなかったのでドギマギしちゃったけど
 少し時間が経てばすぐいつも通りたわいもない話で盛り上がる私達

 やっぱり、こうやって智葉と話すの楽しいな。
 菫や誠子達には失礼かもしれないけどね

6
菫『はくしゅん』クシュン

尭深『弘世先輩、大丈夫ですか』

菫『風邪かな』ムズムズ

尭深『しっかり栄養を取ってぐっすり寝ないとダメですよ。もう先輩一人の身体じゃないんですから』

菫『最近やることが多くて、ついついな』

淡『きっと誰か噂しているんじゃないですか、ほらこの前も下級生にこくは―――むぐぐ』

菫『下級生がどうしたって? お・お・ほ・し?』

淡『だって、スミレこの前呼び出されて告白されてたじゃん』

菫『そうかそうか、大星に見られていたのか ふむふむ』

淡『えーっと、たまたま そうごみを捨てに行こうと思って歩いていたら偶然菫を見かけたから』

淡『それ以上でもそれ以下でもないよ?』ウルルン

菫『良かろう。多少の情状酌量を認め―――』

淡『ドキドキ』

菫『有罪! 罰として今すぐ購買でお菓子買ってこい』

淡『ひぃ、タカミー 何か言ってよー』

尭深『ごめんね淡ちゃん 私も自分の命が惜しいから』

淡『信じてたのに』グスン

菫『ほらほら、行った行った』

淡『はーい タカミーにも何か買ってきてあげるね』トボトボ

 
 バタン カツン カツン


菫(まさか、大星に見られるなんて一生の不覚だ)

菫(でもまだ大丈夫。バレテないバレテない)

尭深(先輩最近ちょっと淡ちゃんに厳しくなった気がするな)

照「……」チラッ プルプル


 あれから電車を乗り換えて、これで目的地までは一本
 ただこの路線は都心を通っているだけあっていつも混雑している路線だから都合よく席が空いているなんて事も無く、仲よく吊革を握っている私達。

 ふと横を見ると智葉が何か考え事をしている様子
 こういう時は声を掛けても良いのかな?それともそっとしといたほうが……

 『行く 行かない 行く』
 頭の中で選択肢が浮かんでは消えそろそろ処理能力が支障をきたし始めた時唐突に智葉が口を開きました。
  

智葉「―――そういえば、あれから新人さんの調子はどうだ」


 智葉が言う新人とは恐らく大星淡の事なんだろうな。
 先日開かれた練習試合で真っ先に対戦した相手であり、今年のホープ
 いずれは白糸台を背負って立つ選手になるかもしれない大事な仲間でありどこか彼女の面影を持つ娘。
 多分、同じ事を思っているのは私を入れて二人きり、
 

照「新人さんって、大星さんの事? 多分、智葉の想像通りだよ」プイ

智葉「彼女は大星さんと言うのか。ウチに来てほしかったな」シミジミ

照「そっか、智葉はもう三年だもんね」

照「後を任せられる人材って貴重だよね」

智葉「ああ、ウチにも力のある奴はいるが、チームの柱になれそうな奴がなかなかいなくてな」

照(ちょっと羨ましいな。二人に評価される選手ってなかなかいないのに)

照「あの日は久しぶりに智葉と打てると思ったのに、先に二人で囲んじゃうんだもん酷いよ」

智葉「いくらなんでも、三人で相手するのは可哀想だろ。でもなかなか骨のあるヤツだったぞ」

照「智葉にも気にいられるとは恐るべし大星さん」

智葉「妬いてるのか宮永らしくもない」

智葉「でもあの日はいろいろ収穫のあった練習試合だったからなおさらな。お前も楽しかっただろ」

照「もちろん。すっごく楽しかったよ」

 時間は一週間ほどさかのぼる


淡『センパーイ、今日はどこにお邪魔するんですかー?』

菫『そういえば、一年には集合場所しか伝えていなかったな』オホン

菫『私の知り合いがちょうど相手を探しているところだったから是非にと私が頼んだんだ。こちらもあそこなら相手に不足はないからな...』

淡『へえータカミ―も知ってるの?』

尭深『うん。すっごく強い人たちだよ』

淡『でも私は高校百年生だから大丈夫だね!』

菫『虚勢を張るのは良いが、恥ずかしい真似だけはするんじゃないぞ』

淡『腕が鳴る― 初めての対外試合燃えないほうがおかしいよね』

菫『はいはいそれじゃあ降りるの次だから準備しておけよ』

全員『はーい』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


照『確かコッチの道だよね……』テクテク

菫『おいまて、そっちの道じゃない。また照の悪い癖が出たか』

菫『渋谷、すまないんだが暫く照を見張っておいてくれ』

尭深『分かりました。先輩こちらですよ』(お菓子ですよー)

淡(でもなー わざわざコッチが訪問しなくても、ウチに来てもらえば良いのに)

淡(朝から電車移動とか面倒なのにー)

淡『センパイ、まだ着かないんですか』

菫『そう焦るなって』

淡(そういえば、この駅に近い高校って確か...)

菫『うん。あとはこの道を真っすぐだな』

淡(やっぱり。この道を真っすぐ行って辿りつくのは『臨海女子』!)

淡(家から遠くて通学が大変だから受けてないけど去年は良いとこまで残ってたもんなー)

淡(弘世先輩って臨海にも知り合いが居たんだー。あそこって留学生中心のオーダーのはずだからなかなか日本人居ないと思ったんだけど)

淡(まあいっか)

照『尭深、お菓子ちょうだい』モグモグ

尭深『えっと、これは帰りの分なのでダメです』メッ

淡『思ったより敷地狭いんですね』

菫『都内の高校はこんなもんだろ。ウチは少し郊外にあるから広々してるがあんなの例外だ』


菫『すみません、白糸台高校部長の弘世と言いますが』

事務員『はいはい伺ってますよ 白糸台麻雀部の方ですね』

事務員『えーっとこの書類に必要事項を書いて少し待ってて下さいね。今内線で連絡するので』

智葉『その必要はありませんよ。私が来ましたから』

事務員『そっか辻垣内さんも部員だったね。手間が省けたよありがと』

智葉『やっと来たか。少し遅れたのはまた宮永がやらかしたからだな』

菫『久しぶり...でもないか。春大でも対戦したしこの前も電話で話したからな』

淡『(なるほど、先輩の知り合いって辻垣内智葉の事か)知らなかったー』

智葉『ん?見かけない顔がちらほら居るな。彼女達が新しく入った娘達か』

菫『新入生の中でも選りすぐりのメンバーだ』

菫「お手柔らかに頼むぞ」スッ

智葉「こちらも胸を借りるつもりでいくからな」ギュッ

淡(ただの知り合いってわけじゃなさそう)


事務員『辻垣内さん案内頼めるかしら、これからちょっと職員室の方に行かなきゃならないんだけど』

智葉『ええ。そろそろ来るころだと思って迎えに来たんです』

照『智葉おひさー』

智葉『ああ、今日もその……照は調子が良さそうだな』ドキドキ

照『智葉と会うの楽しみにしてたんだよ沢山打とうね』

智葉『おほん。それこそ宮永と打ちたいやつは沢山いるんじゃないか?』

照『そう?』

智葉『じゃあ、案内するから気を付けろ。特に照はちゃんと付いてくること いいな』

照『言われなくても分かってるよ』プンスカ

菫『ぷぷっ、やっぱり二人の会話は面白いな』

照『尭深、二人がいじめるよー』

尭深『よしよし、先輩は私と一緒に行きましょうねー』ナデナデ

智葉『ここが、部室だ』ガチャ

ダヴァン『ohー サトハ、おむかえご苦労さまデス』

臨監『白糸台の皆さん遠路はるばるご苦労さまです』

菫『このたびは、お招きいただきありがとうございました』

臨監『いえいえ、ウチはこの通りの学校なので相手を探すだけでも一苦労ですので』

臨監『ところで……あの方の姿が見えないのですが』ビクビク

菫『あー すみません 少し遅れてきます』

臨監『(良かった。あの人はちょっと苦手なのよね)そうでしたか。そういう事なら、先に始めていても良さそうね』

菫『お手数掛けます』ぺこり

臨監『じゃあ……辻垣内さん頼めるかしら』

智葉『分かりました。えっと、ダヴァンは今更紹介するまでもないだろうし他のメンバーだな』

ネリ―『じゃあ僕からだね』

ネリ―『僕はネリ―ヴィルサラ―デ1年生だよ』

淡(かわいいー 私と同い年に見えない。頭なでて良いかな)ウキウキ

智葉『ネリ―はグルジアからの留学生だ』

ネリ―『君が宮永照さんだね。よろしく』

照『ん……』


菫(私が智葉に頼んで臨海女子との練習試合を設定した理由はいくつかある)

菫(――春大はどの高校もベストメンバーではなかった。いや、固定できなかったというべきか……)

菫(幸いなことにウチは先鋒の照が点数を稼いでくれたおかげで、後ろのメンバーが実力を十二分に発揮する事が出来た。恐らくIHも照が先鋒に座るだろう)

菫(問題は私を含めた後ろの4人。先生は何か考えがあるみたいだけどやはり頭と最後がしっかりしなければ勝ちぬく事は出来ない)

菫(今のまま虎姫で出場したい気もするが、守りの堅いメンバーを一人入れて安定させたい気もする)

菫(それこそレギュラーを脅かす位の気概のある奴が出てくると良いのだが)チラチラ

菫(個人的には大星が格上相手にどこまでやれるか見ものだな。あと、智葉が大星の事をどう評価するか……)


菫『しかし、肝心のこいつらと来たら……』


淡『尭深、何食べてるの~』

尭深『淡ちゃんも食べる?』ドウゾ

(コアラのマーチを食べる照)


菫『遊びに来たんじゃないんだぞ』ガックシ

誠子『まあまあ弘世先輩、そんなに落ち込まないで下さいよ』

菫『それにしたってリラックスしすぎだぞ』

誠子『それは、まあ……そうですね』(苦笑)

 ドカ バキ ドン

 
照『なんで、私だけ』ヒリヒリ

(頭を抱えてうずくまる照と地べたに座り込む淡)

淡『私なんてとばっちりですよ』

菫『せっかく、智葉が呼んでくれたのに私の話そっちのけでお菓子を食べ始める方が悪い』

照『鬼! 悪魔! そんなことばっかりしてると罰が当たるよ』

菫『この位で天罰が下るならとっくに何か怒ってるさ』

智葉『―――えっと、あのそろそろ始めたいんだが大丈夫か』

菫『この二人以外は準備が出来てるぞ』

照『智葉からも何か言ってよ親友でしょ』

智葉『いや、まあそのなんだ。正直同情するよ菫』

照『智葉までそんなこと言って』

菫『そうだな じゃあ渋谷と照はあそこの卓でどうだ』

尭深『宮永先輩、また一緒ですね。よろしくお願いします』

照『むー 智葉と違う卓なんだ、打ちたかったのに』ムスー

菫『さっきから、私の言う事を全然聞かないからだ』

菫『大星、お前はこっちだ』

淡『あ、はい もう立って良いんですか』

菫『もちろんだ。 それとももう少しそこで反省しておくか?』

淡「いえいえいえ。十分反省しましたからー」

菫『じゃあ、よろしく智葉』

智葉『おいおい、いきなり一年生の娘が入るのか』

智葉『それとも、彼女が菫の秘蔵っ子なのかな』

菫『それは、打ってみれば分かるさ』

智葉『それは楽しみだな』

ダヴァン『私の事も忘れないでくだサイ』

照『えっと...(この二人名前なんだっけ? さっき挨拶してくれたはずだけど)』

ネリ―『ネリ― ヴィルサラ―デだよ よろしくね』

明華『雀明華です。以後お見知りおきを』

照(ネリ―さんと明華さん うん覚えた。もう忘れないよ)

照『宮永照です。宜しく』

ネリ―『知ってる。高校生1万人の頂点だって雑誌で読んだよ』

ネリ―『あと少しおっちょこちょいだって』

照『もしかして、サトハから聞いたの?』

ネリ―『うん。時々サトハがテルの話してくれるの』

ネリ―『雑誌もサトハの鞄に入ってたやつを借りたんだ』

明華『後で、ネリ―は辻垣内さんにバレて大目玉でしたわ』

ネリ―『そうなんだよね。いつもはそんなに怒ったりしないのに何でだろ?』

明華『人には隠しておきたい事の一つくらいありますわよ』

照(かわいい…… 私にはあんまり甘えてくれないからちょっとジェラシー感じる)

照『その話詳しく聞かせてほしい』

ネリ―『良いよ― あのねあのね』

尭深(止めるべきだと思いますが、私も先輩の話は少し気になります)

【東一局】
親:辻垣内智葉


智葉『私が親か初見相手には慎重に行きたかったんだがな』

  菫『なにやら騒がしいな』

 智葉『この声はネリ―達の居る卓か。もうあいつら仲良くなったのか』

淡(弘世先輩)

淡(辻垣内智葉にダヴァンさん)

淡(いきなり、この三人相手とか無茶苦茶ですよ センパーイ)

淡(そりゃ強い人と手合わせしたいですよ そのために宮永先輩が居る白糸台に入ったんですから)

淡(でもでも、この三人って全国でもトップクラスの選手じゃないですかー)

ダヴァン『大星さんもよろしくデス』

淡『こちらこそよろしくお願いします』

淡(何で、ラーメン食べながら打ってるの? ボケ? もしかして突っ込んでほしいの? そうだよね)

淡(先輩は何事もなかったように牌切ってるし…… はっ、まさかこれが普通なの?)

ダヴァン『おいしいデース』ツルツル



東:淡
南:ダヴァン
西:智葉
北:菫

 菫『対局そっちのけで何やってるんだあいつらは』

 智葉『まあ良いじゃないか。ギスギスするより数倍マシだろ』


淡(先輩達の話は置いておくとして、全然上がれないよー)

淡(辻垣内智葉 ダヴァンさん 弘世先輩)

淡(三人共本物だ。まだまだ私は弱いな)

淡(だけど……)

淡(何か爪痕を残さないと。こんな機会なかなかないもんね)

淡(次は私の親だしちょっと無理しちゃおうかな)



淡(……これで、テンパイ)

淡(2枚切れだけど行けるはず!)

淡『リーチです』トン


智葉『そう来たか そうだなこれでどうかな』トン

淡(数字は同じだけど違う)


菫(なるほど……まだまだ甘いな)トン

淡(それでもありません)


 オリ気味に打ったダヴァンを除きなにか感じるところがあったのか強気に攻めてくる二人
 その答えは淡の番で出た。


淡(来て 来て 来て――――)

淡(えっ……)これってまさか

淡(だからさっき先輩はあんなことを)

淡(この牌の事を言っていたんですね)トン


菫『チ―』

菫『どうぞ』トン

淡『……』

淡(はたから見れば親継続だから何ともないように思うかもしれないけど、お二人は気付いてる)

淡(むしろ先輩に振り込まなくて良かったと思うべきですよね)

淡(ここで点差が広がったらいくら私でも追いつけないから気をつけないとな)

 
 この局は淡と菫がテンパイで親継続
 結果だけ見れば淡の狙い通りだが、そうではなかった。
 
 智葉と菫の言葉の真意、それは淡の判断である
 少し点差が開いていたとはいえ淡は無理にリーチを掛ける必要はなかった。
 それが証拠に一巡後引いた牌は待ちを広くし点数を高くするものだった。

 現在進行形で勉強中の淡は元々才能だけで打ってきたタイプだから、その手の嗅覚は鈍い
 その点二人は幾度も修羅場をくぐり抜けてきた苦労人
 その差は歴然だった。


智葉(初めて照と打ったときと雰囲気が似ている。流石弘世に見こまれただけの事はある)

智葉(でも一年……いや半年程遅れているかな)

智葉(だけどあの人の介入があれば、もしかしたらもしかするな)


菫(また大星の悪い癖が出たな。智葉と打つにはまだ力不足だったのか)

淡『今度こそ』ギリギリ

ダヴァン『淡は力入りすぎデース もっと楽しくやりまショウ』

淡『そんなにですか?』

ダヴァン『貴女はなかなか面白そうな人デス スマイル スマイル』

淡(あ、ホントだ。いつの間に私……)

淡(たまたま同卓しただけなのに指摘されるんだもん 相当だったんだよね)

淡『(もう大丈夫です)ありがとうございます』ニコニコ


智葉(これで少し風向きが変わりそうだな)

菫(そろそろ智葉に見せてやれ!)


淡『行きます』ゴゴゴ

淡(私の所に来て―――)


淡(ちゃんと私の所に集まってくれたみたいだね)

淡(ありがと)ナデナデ

淡(私絶対上がって見せるから、ちょっとだけ待っててね!)トン


菫(大星の絶対安全圏、しっかり発動したみたいだな)

智葉(うむむ、五向聴か……恐らくこれが大星さんのオカルト)

智葉(一瞬感じたのはコレをやる為のものか)

智葉(しかし、これだけで弘世が気にいるはずはない)

智葉(まだ何か隠していると見るべきか)


智葉『ポン』トン

智葉(これでテンパイまで後一歩)

菫(智葉一歩遅かったな。それじゃあ間に合わないんだよ)

菫(次大星が引くのがカン材)

菫(一度位なら見られても大丈夫だな……)

菫(それこそ照魔鏡でも持ってこない限りは)

智葉(あれから特に動きもないし、打点も低そうだな)

智葉(買いかぶりすぎ―――)

淡『カン』ゴゴゴ

智葉(そう甘くないか。これが偶然でなければ厄介なオカルト能力だぞ)

智葉(考えろ、わたし)

智葉(相手のテンパイを邪魔するだけじゃなくて、自分には都合の良い牌を手に入れる)

智葉(平凡な手でもカンドラが丸々乗ればあっという間に怪物手に成長する)

智葉(最高の盾と矛だな)

明華『それではとっておきの写真をお見せいたしましょう』

ネリ―『それって、あの時の写真だよね』

明華『ええ、これです』ピラッ

照『智葉がメガネ外してる?』

明華『そうです! めったに外さないメガネを外した瞬間を激写したのがこれです』

ネリ―『ボク達が部室で追いかけっこしててうっかりお茶をサトハにかけちゃったんだよ』

明華『次がコレです』

照『あ、髪下ろしてる』

照『もったいないよね 絶対こっちの方が良いのに』

ネリ―『テルもそう思うよね ボクたちもそう言ってるんだけどね』

照『麻雀部楽しそうだね』

ネリ―『ボク達はいろんなところから麻雀の為に集められたメンバーだけど楽しまなきゃもったいないでしょ』

明華『春は貴女達と打つ前に敗退してしまいました。とても悔しかったですわ』

明華『今度こそ』

明華『今度こそ決勝の舞台にサトハを連れていきたい』

明華『これは、私達全員の思いです』

照『そこまで言われたら私も頑張るしかないな』

ネリ―『テルを倒すのはサトハなんだから他の誰にも絶対負けちゃだめだよ 約束して』

照『そんな約束は出来ないよー』

照『でもこれだけは言うね』

照『私は誰にも負けるつもりないよ』

照『もちろん 智葉にもね』

明華『良かった、さすがチャンプですわね。いえ、サトハの好敵手』

照(この二人すごくいい人達だな)

照(それだけ、智葉が強くて皆を引っ張って行くだけの魅力があるんだよね)


照『やっぱりすごいな 智葉は』

明葉『当たり前です。外の人達が何と言おうとサトハが臨海のエースですわ』

照『ネリ―さん 明華さん これからも智葉の事よろしくね』

明華『もちろんですわ』

ネリ―『んー テルはサトハがボク達に話してくれた通りの人だね そう思うよね』

明華『そうですわね うふふ』

ー終局ー
 
菫『これで、終わりか』

智葉『お疲れ様 とでも言えば良いのかな』

菫『ああ、お疲れ様』

淡(結局あの局だけだった)グスン

淡(まだまだ課題が山積みだよー 明日から練習厳しくなったりしないよね)

菫『どうした大星』

淡『いえ、まだまだだなと思いまして』

菫『大星が自覚しているなら、私が言うことはないな』

智葉『大星さんだったかな? なかなか興味深い打ち手のようだね』

智葉『今度会うときはもう少しゆっくり話してみたいね』

智葉『それじゃあ、私はちょっと様子を見て来るから』スタスタ

ダヴァン『また、いつか打ちまショウ アワイ スミレ』

ダヴァン『待ってくだサーイ サトハー』タッタッタ


智葉(大星淡さんか……)

智葉(悔しいが彼女の実力は認めざるおえない)

智葉(IHまでにどれだけ技術を吸収できるか)

智葉(なにはともあれ、白糸台は層が厚いな……)



菫『私には何もなし……か。まあそれはいいとして』

菫(やはりビデオで見る智葉と実際に見る智葉は全く違うな)

菫『甘く見ていたわけじゃないんだが、いつになったら横に並べるんだろう』

菫『……』


 しばらくの沈黙の後、淡が菫に声を掛けた。


淡『急にどうしたんですか先輩』

菫『ああ、居たのか大星』

菫『なぁに、ちょっと昔の事を思い出していただけだ』

 そうやってまた自分の世界に入る菫を横目に淡は想像を巡らしていた。
 
 レギュラー選抜までに解決すべき問題とその解決法
 菫と照そして辻垣内智葉の奇妙な関係
 そして……

菫『今日は、招待してくれてありがとう智葉』

智葉『こちらこそ、あいつらも良い経験になったと思う』

智葉『データも取れたしな』

菫『それはお互い様だろ』

 (手を差し出す菫)

 (それに応えて、智葉が菫の手を握り握手を交わす二人)

 それから二言、三言言葉を交わし再び離れていく二人


照『菫、智葉と何話してたの? 私、時間が無くて智葉とあんまり打てなかった』

菫『秘密の話だ』

照『えー  二人で内緒の話? いいなー』

照『じゃあ、私も―――』

菫『ダメ。もう電車の時間近いから』

照『大丈夫大丈夫』

菫『照が良くてもだな』

尭深『先輩、あとは私に任せてお二人はもう少し残ってはいかがですか』

照『タカミ 大好きー』ガバッ

菫『まったく現金なヤツだな。渋谷任せて良いか』

尭深『はい。任せて下さい』

菫『じゃあ甘えようかな』


~回想~
 

智葉『菫こそ 新人君の指導にかまけて勘が鈍っていやしないか?』

菫『時間を見つけてちゃんど練習してるよ』

智葉『そっか』

菫『そうだぞ』

智葉『……』

菫『……』

智葉『私は先鋒の席で待ってるからな』

~時は現代へと戻る~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


照「到着ー」

智葉「結構話題が尽きないものだな」

智葉「もしもの為に、鞄にいろいろ入れてきてたけど荷物になるだけだったな」

照「それはそうだよ。先週だって少ししか智葉とおしゃべりできなかったし」

智葉「お前のそういうところは見習うべきかもしれんな」

照「それにさ、これからあそこに行くからさ……」

照「不安で 不安で 怖いから」

智葉「すまない。そういう意味で言ったわけではないぞ」

照「分かってるよ」

智葉「次来るときは、お前と一緒にしようと思っていたら、一年近く経ってしまった…… ごめんな」

照「私も、一人で来る怖かったから、智葉が付いて来てくれて嬉しかったよ」

智葉「流石に、ここまでこれば道は分かるよな」

照「忘れるわけないよ。ここだけは絶対忘れちゃいけない場所」


―――あれからもうすぐ二年だね

―――そうだな。もうそんなになるのか

 二人はそうつぶやく
 ただ具体的な事象を口に出そうとはしない

 一度、口に出してしまったら歯止めが利かなくなる。
 お互いそう思っているからだ。

照「私達の関係も、あれからすっかり変わっちゃったよね」

照「それまでは、ライバルであり仲間だったのが」

智葉「一蓮托生切っても切れない関係になってしまったな」

智葉「本当にこれで良かったのか。今でも時々考える時がある」

照「智葉は悪くないよ あれは私がしっかり捕まえていなくちゃいけなかったの」

照「私の覚悟が足りなかった」

智葉「じゃあ行くか」

照「う、うん」


 そして二人は一歩一歩近づいていく
 その場所に近づくにつれてどんどん歩くスピードが落ちていく


智葉「おい、大丈夫か」

照「ごめん 少し休憩させて」

智葉「そうか……分かった」


(その場にへたり込みそうなのをなんとか我慢してベンチに腰を下ろす照)


智葉「何かほしいものあるか? なんなら買ってくるぞ」

照「平気だよ もう少しここで休憩したら大丈夫だと思う」ウップ

智葉「言ってる傍から…… 背中 さすってやるな」

照「―――ありがと智葉 何から何までお世話になっちゃって」

照(だから私はポンコツだって言われちゃうんだよ)

智葉「どうだ? 大分顔色が良くなってきた気がするが……」

照「うん、さっき胃の中のもの全部出したらすっきりしたよ」

智葉「どうする? また後日にするか」

智葉「私はそれでも良い―――」

照「良くない! それ全然良くないよ!」

照「このまま引き返したら私後で絶対後悔する」

照「第一、今度はいつ来れるか分からないし……」

智葉「ふぅ、分かったよ」

智葉「本当にそれで良いんだな」

照「良いの?」

智葉「照が大丈夫だって言うんだ。私は信じるよ」

智葉「ただし、ダメだと思ったらすぐ止めるからな」

照「……」

智葉「返事は!」

照「そうだね そうする」

智葉「じゃあそろそろ行こうか」

 
 そうしてふたたび歩きだした二人
 まだ少し足元がふらついている照を横で支えながらゆっくり少しずつ近づいていく

智葉「さあ着いたぞ」

照「そう、だね」

智葉「身体は平気か」

照「何とか……」

智葉「えーっと確かこの辺りに……」

照「こっちだよ智葉」テクテク

(20M程進んだところで立ち止まる)


照「ここだよ」

照「ここで咲とミナモが再会して すぐお別れした」

智葉「私が悪いんだ。私があいつを会場に連れてきさえしなければ……」

照「智葉は悪くない」

照「悪いのは何も知らなかった私の方」


照「咲を置いて東京に来たから」

照「ミナモと再会したから」

照「麻雀を二人に教えたから」

照「二人を平等にかわいがったから」

照「咲に話を聞かなかったから」

照「麻雀を続けていたから」

照「IHのメンバーに選ばれたから」

照「全部私が悪いんだ!」

照「他にも―――」


智葉「もういい! もうやめてくれ 照」

(思わず抱き寄せる智葉)

智葉「もう良いんだよ 照」

智葉「一人で抱えている必要なんてないんだ」

智葉「私が半分背負うから」

照「ダ メ だよ」

智葉「私が良いと言ってるんだ おとなしくしろ」

照「ヤダ」

照「みんなに沢山迷惑欠けた上に、これ以上人に迷惑掛けるなんてできないよ」

智葉「お前は十分頑張った」

智葉「それにギリギリの所で、二人を守ったじゃないか」

照「……」

照「二人を助ける為なら私の身体なんてどうなっても良いとさえ思ったから」

照「でも二人が背負っている業に比べれば私なんてまだ全然だよ」

照「全然なんだよ……」


智葉「照、聞いてくれ」

智葉「実は去年ミナモに一年前の事故について聞いてみたんだ」

智葉「『ミナモはあの事故の事をどう思っているんだ』ってな」

智葉「そうしたら、ミナモの奴あっさりこう答えたよ」


 『あれは起こるべくして起きた事故じゃ。私も薄々気づいてはおったんじゃ。あの事件はまだ終わってとらん』

 『今は辛うじて蓋がされておるが、いつ何時爆発するか分からん。その位危ういバランスの上で成り立っておると照姉と話してみて感じたわ』

 『結果はこの通りの有り様じゃな』ケラケラ


智葉「ミナモは前を向いて歩きだしてる」

智葉「現に苦しいリハビリを続けながら立派に学校生活を続けている」

智葉「その事は照も知ってるだろ」

照「―――麻雀部に入ったみたい」

照「この前、咲が電話で報告してくれたの。正式に麻雀部に入部するって」

智葉「そうか。それが彼女の選択か……」

智葉(前話した時には、正直牌を握るのが怖いって言っていたから不安だったんだが、本当に良かった)

照「智葉も知ってるかな? 中学の時に仲良くなったあの二人も一緒の学校に通ってるから誘ってくれたんだって」

照「本音を言えば祝福したいんだよ。でも、これまでの事を考えるとまだまだ心配」

照「いくら、あの娘達が側に居るからと言って」

智葉「長いブランクと心に巣くっている恐怖」

智葉「こればかりは、周りの人々とくにお前の協力が必須だ」

智葉「とはいうもののいつまでたっても妹は妹だから……か」

智葉「私が言えた義理じゃないが、妹さん信じてやらないでどうする」

照「そう、だよね…… うん。そっか あはは」

照「私が信じないとダメだよね」

照「でも……」グスッ


智葉(まだこいつの中で折り合いが付いているわけじゃないんだよな)

智葉(一時は、白糸台を辞めて実家に戻る計画を立てていたようだし)

智葉「仕方のないヤツだ」ポンポン

照「ずるいよ……智葉はずるい」

照「こんな面倒くさい性格の私の為なんかにここまでしてくれるんだもん」

照「私が男だったらとっくに智葉に惚れてるところだよ」

智葉「私が照にしてやれることは、ありのままのお前を受け止めて苦しみから解放してやる事くらいだから」

智葉「それに、今なら特別に胸を貸してやらんでもない」

照「ホントに? ワタシ二人にお姉ちゃんらしいこと出来てた?」ポロポロ

智葉「照はこれまで良く一人で頑張った。私が保証してやる」

智葉「この辺りで、高校生一万人の頂点から一人の女の子に戻っても誰も責めたりしないさ」

智葉「それに、泣きたい時くらい思いっきり泣けば良いと思う……」

智葉「――その代わり、明日からは分かってるな」

照「ありがと、智葉―――」


 二年である
 そう、咲とミナモが事故に遭ったその瞬間から照は人前はおろか一人の時でさえ涙を流す事はなかった。
 
 自分を責めて 責めて 責め抜いて 自己嫌悪に陥った。

 事情を良く知る菫ですら、話題にするのをためらうほどに照は責任を感じ、麻雀にのめり込んでいった。

 それはせめてもの罪滅ぼしでもあった。

 
 一度感情の蓋が外れてしまえば、これまでの思いが溢れ涙となって頬を伝っていく
 最初は声を抑えようと必死にがまんしていたが、

                  『お疲れ様』

 智葉のこの言葉で照の心は決壊した。

 5分ほど、時間が経っただろうか
 道行く人の視線から照を守るように、智葉は寄り添っていた。


智葉「全部吐き出せたか?」

照「うん。ありがとね」ズビー

智葉「むしろ、このくらいしか出来なくて申し訳ないな照」

照「そんなことないよ智葉」

照「智葉が居なかったら、途中で引き返してたかもしれないし」

照「やっぱり智葉は私が身動き取れなくなって困っている時いつも手を差し伸べてくれる大切な友達」

照「さっきはごめんね。あんなこと言っちゃって」

智葉「あ、ああ(まったく、そんな恥ずかしい事を平気で……)」

照「あ、もちろん菫にも感謝してるよ」

智葉「取ってつけたように言わなくても……」

智葉「まぁ、菫の事だから分かってるだろうけどな」

智葉「さてと、そろそろ行こうか」

照「そうだね。また、ここに来れるかな」

智葉「来れるさ。今度ここに来る時は皆笑顔で来たいものだな」

照「今度かー 次はいつになるのかな」

智葉「次は夏だな。その時私は照とは敵同士」

智葉「白糸台を破って優勝するのは私達臨海女子なんだから、予選で負けたら許さないぞ」

照「もちろん智葉と当たるまで、絶対負けたりしないから安心して」

智葉「絶対だぞ」


 毎年沢山の有望選手が集まる東京予選
 
 二人の実力は折り紙つきといえど油断はならない
 とはいえ最終目標はIHで相手に勝利することである

 東西を代表する二校のエース宮永照と辻垣内智葉は数奇な運命に翻弄されながらも必死にもがき苦しみ現在の地位を築きあげた。
 しかしこの二人が強い絆で結ばれている事を知っている者はごく僅かである。
 その辺りの経緯を語るのはまた別の機会にしようと思う。


そうして私達はこの場所に別れを告げ、駅へと引き返す事にしました。

智葉「菫と何時に待ち合わせてるんだ」

照「えっと……」ポチポチ

照「13時だからもうすぐだよ。それから一緒に昼ごはん食べようって言われた」

智葉「そうか、今日はどこも混んでるしこの位の方が店が空いてるしその方が良いな」

照「お腹ぺこぺこ」グー

智葉「あれだけ泣いたんだからお腹もすくだろうな」

照「そのことだけど菫には絶対秘密だよ。しゃべっちゃだめだからね」

智葉「どうしようかな」

照「あー その顔は菫に話す気でしょ絶対ダメだよ」ムスー

智葉「怒るなって照私だって心得ているさ。お前は高校生1万人の頂点に君臨する宮永照だもんな」

照「もぅ、そんな大層なモノじゃないよ。マスコミの人が勝手に作っただけだもん」

照「去年のIH決勝だってたまたまラス親になったから点数上昇がスムーズに行っただけで、そこまで実力差なんてなかったのに」

智葉「それが、チャンピオンの宿命だな。お前のデビュー戦は鮮烈だったし、ある程度注目されるのは仕方ないさ」

照「それは私も分かってるよ。菫と智葉のアドバイス通り受け答えしてると、記者さんは喜んでくれるけど」

照「やっぱり、こっちの方が楽」

智葉「だろうな(遠い目)」

智葉「まあ、あちらの要求通りしゃべっておけば深く突っ込まれることもないだろうし良いんじゃないか」

照「クラスの娘も普段と全然違うって」ニガワライ

智葉(姉がこれだけ有名だと咲ちゃんが色眼鏡で見られる可能性が高いしそういう意味では別々の場所に暮らしているのは正しい)

智葉(―――なーんて部外者だから言える事だけど、いざ照と話しているとそういう雰囲気をまったく感じさせないもんな)

智葉(抜けているようでしっかり考えている。照らしいな)

智葉「噂をすれば……菫が来たぞ」

照「さっきの事、お願いだよ」

菫「何をお願いしてるんだ」

智葉「ん? ああ、さっき照がな」

照「ストップ― 何でもない何でもないんだからね」アセアセ

菫「どうせ待ちきれなくて何か食べていたとかそんな所だろ」

照「私そんなに食いしん坊じゃないもん」グー

菫「確かに(ぷぷっ) お腹の虫は正直みたいだ」

照「急いでお家出てきたから、あんまりご飯食べなかっただけだもん」

菫「約束があるんだから、夜更かしするなと言っただろう」

菫「まあいい。どこか、適当に入ろう。またこいつが鳴らないうちにね」

智葉「そうだな」

照「二人ともひどいよ」

照「お腹いっぱ~い」ツヤツヤ

菫「この身体のどこに入るスペースがあるのか未だに理解に苦しむ」

智葉「照はデザートが主食だしな。あれだけ食っても太らないのは少し羨ましいと思うが不思議と照になりたいとは思わないんだよな」

菫「智葉もそう思うかおかげでやりくり大変なんだよ」

智葉「あー やっぱり…… もしかして部費も照のおやつ代に消えてるとか」

菫「流石に学校では普通だ。ただ、後輩にしょっちゅうお菓子もらってるみたいだけど」ジー

照「私の為に手作りしてくれたものは責任持って食べないと持って来てくれた娘に失礼だもん」フンス

菫「そんなこと言って、ほっといたらお菓子が昼ごはんの時あるんだが……」

照「甘いものは別腹!」

智葉「あいかわらず、照はそういう扱いか。中学の時もクラスメートに恵んでもらってたし今更驚かないけど」

菫「そうなんだよ おかげで最近体重が増えてしまって」タプーン

照「私は全然変わらないよ」ペターン

菫「おかげで、随分東京のお菓子に詳しくなってしまったよ」

照「私のおかげ! やった」イエーイ

智葉「土産もその中から選ぶのか」


 そう、彼女達は食事のついでにお土産を買う為デパートに来ていた。
 彼女も甘いものが大好きなので毎回もっていくことにしている。
 もちろん彼女の好みを熟知している三人(少なくともモノは選んでいる)である

 そもそも今日は午後の予定が三人とも空いている貴重な日であり、だったら会いに行こうという事になったのだ。

照「元気にしてるかなー」ウキウキ

菫「この前会ったばかりだろ」

照「こっちから連絡しないと全然返信してくれないし最近忙しかったし」

菫「それはそれ タイミングもあるから仕方ないだろ」

智葉「私はあっちから連絡があるぞ。ほら、昨日も」

照「見せて――― ふむふむ 智葉だけずるい」

菫「私達と違ってなかなか会えないから仕方ないさ」

照「それでも!」プンスカ

智葉「怒るなって、それに三人で行くって送ったらすぐ返信が来てびっくりしたよ」

照「それは……ねぇ」

菫「なぁ……照」

照菫「ミナモは智葉が一番好きだもん間違いないよ(だな)」


カン


次回予告

 全国を目指しているのは白糸台と臨海だけではない
 北は北海道、南は沖縄まで47都道府県の一万人を超える高校生達が一つの椅子を巡って日々自らの腕を磨いている

 そこで、各都道府県を順番に見ていこうと思う。
 最初の都道府県は・・・・・・長野県!?

 近日投下予定  To be continued

~風越女子編~ START


華菜「探しましたよ キャプテン」

華菜「やっぱり、ここに居たんですか」

美穂子「あら、どうしたの 華菜」

華菜「前も言いましたけど、こういう雑用は私達下級生に任せて、キャプテンはもっと練習して下さい」

美穂子「ありがと、その言葉だけ受け取っておくわね」

美穂子「でもね華菜 これは、私が好きでやってるのよ」

美穂子「私は皆に少しでも強くなってほしいから」

華菜「またこれだし……」


美穂子(ごめんなさいね華菜)

美穂子(時々貴女を見ていると少し昔を思い出してしまうの)

美穂子(上埜さん、何故貴女は途中棄権してしまったの...)

美穂子(あれから私は風越に入学したけれど、貴女は居なかった......)

美穂子(あの頃何度思い描いた事かしら、一緒のチームで切磋琢磨していつか全国の舞台で活躍したいと!)

美穂子(だから時々、ここに来て気持ちが溢れないようにしているの)


華菜「―――プテン キャプテン聞いてます?」

美穂子「えっと、何の話だったかしら」

華菜「そろそろ戻らないとまたコーチに怒られますよ」

美穂子「あら、私が席を外してからもうそんなに」

美穂子「...優しいのね」

華菜「キャプテン程じゃありませんよ」

美穂子「じゃあ、一緒に戻りましょう」

華菜「そうするし!」

それから、華菜と二人で部室に戻って私達は練習を再開しました。
長野でIHを目指すなら麻雀の伝統校、そう 風越女子に入るのが一番近道だと言われています。
それだけに少し変わったシステムを取っています。

それが完全ランキング制

学年の関係なく一定期間中に残した成績を基に選手が選出されます
去年までは……

「お前ら! そんなんじゃ、また龍門渕に負けるぞ!」

そうなのです。 去年私達風越女子は無名校に破れIHに出場することができませんでした。

龍門渕高校
先鋒:井上純 次鋒:沢村智紀 中堅:国広一 副将:龍門渕透華

     
     ―――そして大将を務めたのが天江衣―――


当時風越の大将を務めていたのは先程私を探しに来た華菜
一年生でありながら大将に抜擢された努力家の彼女

その華菜をなんなく退けた怪物それが華菜と同じ一年生だった天江衣

敗戦から約一年、私達は龍門渕にリベンジすることだけを考え、この一年練習を積んできました。

そして、選手選抜が間近に迫った部室はピリピリとした空気に包まれ、否応なくその日が近づいてきたというのが感じられました。
皮肉なモノです。その日が近づくにつれて一人の時間を欲するようになったのですから。

思えば、私はあまり器用な性格ではないのかもしれません
その証拠に、最上級生は私を除けば数えるほどしか残っておらず中心メンバーは二年生なのです
理由は今でも良く分かっていませんが、去年の三年生が抜けて以来皆さん部活に来なくなってしまいました。

なにはともあれ、私がキャプテンに任命される頃には現在のような状態になっていました。
皮肉な事に下級生にとってはまたとないチャンスが訪れ以前にも増して練習時間が伸び、
私は彼女達をサポートすべく雑用を買って出ることにしました。

最初は気分転換が目的でしたが時が経つにつれて、部室を抜け出す格好の用事になりました。
下級生に慕われて悪い気はしませんが、時々その重圧に耐えられなくなりそうになってしまうから……

美穂子「皆、お疲れ様そろそろ終わりにしましょう」

「キャプテンお疲れ様です」

 今日も何事も無く一日が終わりを告げ、後片付けをして帰宅しようと靴を履き替えている時でした。

華菜「キャプテン、途中まで一緒に帰りませんか?」

美穂子「ええ、かまわないわ」

美穂子(華菜の方から、いっしょに帰ろうだなんて何か会ったのかしら? いつもなら妹さんを迎えに行かなくちゃいけないって真っ先に帰るのに)

華菜「……」チラチラ

美穂子(何か私に相談事かしら? 私じゃ頼りないかもしれないけど……)ショボン

華菜「―――キャプテン」

美穂子「何かしら」

華菜「最近ふらっとどこかに消えてしまいますけど、何か悩み事でもあるんですか」

華菜「ずっと聞こうと思っていたんですけど、タイミング逃してしまって…… 勘違いだったらごめんなさいだし」

美穂子「華菜―――ごめんなさい」ポロポロ

華菜「キャ、キャプテン」

美穂子「ごめんさいね 私がふがいないばっかりに」

華菜「そんなことないし、キャプテンはいつも私を庇ってくれますし」

美穂子「それは当り前よ。大切な後輩を守るのは上級生の役目ですもの」

美穂子「それにいいのよ。私も少しサボりすぎたと思っているの こちらこそごめんなさい」

華菜「歩きながら話しませんか? ここだと その……」


 気がつけば、周りに人が集まってきています。どうやら、私と華菜が喧嘩でもしていると勘違いされたみたいです。
 麻雀部のエースとキャプテン 自分で言うのも如何かと思ったりしますが、学内では声を掛けられる事も多いので
 このままほおっておくと良からぬ噂が立ってしまうかもしれません


美穂子「そ、そうね。皆さんご迷惑をおかけしてすみません」ペコリ


 とっさに出てきた言葉は、周囲の方に対する謝罪でしたが、無事皆さんにも伝わったようなので一安心です。
 それでも、心配そうな表情を浮かべる方も居ましたが それはそれ
 この場を立ち去るように華菜と二人校舎を出ました。


華菜「最初から、こうすれば良かったですね」

美穂子「そうね」

華菜「…」

美穂子「……」

華菜「キャプテン、もう一つ聞いても良いですか?」

美穂子「ええ、こうなったら何でも答えてあげるわ」

華菜「キャプテンから見て私たちってどう見えますか」

美穂子「どうって言われても、とっても頑張っていると思うわ」

華菜「頑張っているですか……それって、まだまだってことですよね」

美穂子「そんなことないわ。この前の練習試合だって―ーー」

華菜「みはるんや深掘も秋から比べれば強くなっていると思うし」

華菜「でも……」

美穂子「私は部員みんなの力を信じてるのよ」

美穂子「それに風越はどの学校よりも厳しい練習しているんだもの」

美穂子「努力は絶対実を結ぶわ。そうでしょ華菜」

華菜「キャプテン…… そうですよね。 華菜ちゃんは何をビビっていたんだし」

華菜「今年こそ天江衣を倒して全国へ行きましょう キャプテン」

美穂子「ええ、頑張りましょうね」

 
 約束通り華菜とは途中で別れ、私は今一人で家路につこうとしています。


美穂子(今日は少し家に帰るのが遅くなりそうだわ。いつの間にか……こんなに日も長くなって、大会まで残り一ヶ月)

美穂子(高校生活最後の大会 一年の時は先輩に連れて行ってもらったけれど、今回は私がみんなを東京に連れて行かなくちゃいけないわ)

美穂子(龍門渕高校の龍門渕透華さん 去年は貴女を抑えるのに精一杯で華菜に無理をさせてしまって―――)

美穂子(今年は貴女と対戦することがないかもしれないけれど、できることならもう一度打ってみたいわ)


美穂子携帯(着信だし!)

美穂子「あら? メールかしら」ガサゴソ

美穂子「誰かしら、えーっとお母さんからだわ。 なになに」


福路母『美穂子、今日はどうしたのかしら? 遅くなるようなら連絡してね
    それと、あの娘達が来週うちに来るからよろしくだって』


美穂子『もう少しで帰ります』(送信)


美穂子「そういえば、三人と会うのは久しぶりだわ。合格のお祝いをした時だから3ヶ月ぶりかしら」

美穂子「そうと決まれば、腕によりをかけてお出迎えしないといけないわ」


 その三人とは、ちょっとした縁で知り合いました。
 三人とも麻雀経験者でそのうち一人は去年のインターミドルチャンプです。


美穂子「咲ちゃん、和さん、優希ちゃん元気かしら」

美穂子(本当は三人とも風越に来て欲しかったけど、咲ちゃんがアレじゃ仕方ないものね)


 咲ちゃんはちょっと事情があって、何年かブランクがあります
 それが、再び麻雀を始めようと思ったのはある出来事があるのですが、そのきっかけを作った方は既に長野を出ています
 
 そして三人が麻雀無名校に入ると聞いたときは驚きましたが、それもひとつの選択と思い祝福することにしました。
 仮に麻雀部がなくても今の彼女たちならメンバーを集めて団体戦に出場してくれることでしょう
 私もうかうかしていられません


~風越編end~

最終章

~清澄編~


咲「そういえば、今日は優希ちゃん達と一緒に学校に行く約束してたんだった」

咲「急いで行かなくっちゃ」タッタッタ

咲「ハアっ ハアっ(優希ちゃん達待っててくれるかな)」

優希「咲ちゃん遅いじぇ」

和「優希は早すぎますよ」

咲「二人共ごめんね」

和「いえ、私もさっき来たところですから大丈夫です」

和「それでは、行きましょう。この分ならゆっくり歩いても十分間に合いますよ」

優希「出発~」

咲「待ってよー」トテトテ

和「麻雀部にはもう慣れましたか 咲さん」

咲「うん。最初はどうなるか心配だったけど先輩は優しいし、自分のペースでやれそう」

咲「それに……優希ちゃんと和ちゃんが隣にいてくれるからすっごく助かってるよ」ボソッ

和(4月に麻雀部に入りたいと聞いたときは驚きましたがこの分なら、フラッシュバックは心配しなくても大丈夫そうですね)

和(いえ やはり油断禁物です。幸い高校に入ってから一度も起きていませんが、部長には話をしておいたほうが良いでしょう)

優希「咲ちゃん本当に大丈夫? 無理はしてないか?」

咲「二人共心配性だよね。全然大丈夫だよ。それに、もしもの時は二人が近くにいてくれるんでしょ」

和「当たり前です。そのために清澄にお誘いしたんですよ」

優希「あれぇ~? 和ちゃんは私と一緒の学校に通いたかったんじゃなかったのか」

和「ああもう、『二人と一緒にいたいから』に決まってますよ」

咲「本当は和ちゃん東京の学校に行くはずだったんだっけ」

和「ええ、父はそのつもりでした」

和「でも 私、初めて自分のやりたいことを親に伝えて、最終的には納得してもらいましたから」

優希「和ちゃんのお父さんは麻雀の事をよく思ってないんだよね」

和「そればっかりは仕方ありません、父はそういう性格ですので」

和「それはそうと咲さん!」

咲「何かな、和ちゃん」

和「昨日またプラマイゼロにしましたね。これで何度目ですか? まったく」ムスー

咲「えへへ、ちょうど狙えそうな点差だったからついつい」

咲「最初から狙ってたわけじゃないよ」メソラシ

和「怪しいです」ジー

咲「……」ダラダラ

和「良いでしょう。今日のところは咲さんを信じることにします」

咲「ふぅ」ホッ

和「次は覚悟してくださいね」

優希「やっぱりのどちゃんは咲ちゃんに甘いじぇ」ウンウン

和「そ、そんなことありません 私はただ咲さんの打ち方をですね」

優希「はいはい その話はもう聞き飽きたから言わなくても良いー」

和「///」カアア

咲「えへへへ」

和「咲さんも少しは反省してください! わかりました?」

咲「うん。今度から気をつけるね」

和「やっぱり、改める気はないんですね」ハア

宮永咲

清澄高校一年生、白糸台高校三年宮永照の妹
姉から教わった領上開花と麻雀で言う所のプラマイゼロを得意とする打ち手
中学時代の公式記録はないがその腕はミドルチャンピオン原村和の折り紙つきである。

その力は幼少期から姉と親友の三人打ちで育まれていった。
姉曰く、才能は自分と同等かそれ以上だが大事な所で私たちに遠慮する時があるとのこと
それでも構わない。一人前になるまで私が妹を守ってあげれば良いのだからと……


しかし運命は残酷である。

姉の気持ちとは裏腹に、妹は親友に嫉妬した。
自分より彼女の方が姉に大切にされている。自分はおねえちゃんが好きで、おねえちゃんも私のことが好き
そう……彼女は子供ながらに親友が自分と同じくらい姉に大切にされていると
よく考えれば分かるはずだった。
姉は二人を平等に愛するとともに二人を大切にする姉で、喧嘩など望んでなどいなかった。


そして事件は起こる

ある夏の日のことだった。
その日、宮永照は母親に用事を頼まれ咲と親友が先に待ち合わせする事になった。

照がいつもの場所に着くとそこには人が居る気配がしない
でもそれは時々あることで近くにいるはずだと照は楽観視していた。

何故かと問われればミナモは足が不自由で、移動するときはもっぱら車椅子を使っているのでそう遠くには行けないし咲もそのあたりは心得ている

しかし、いくら探しても二人の姿が見当たらない

その時、照は先週の話を思い出した。
ミナモが『照姉、湖に行ってみたいんだけど ダメかな?』

これだけ探して姿が見当たらないなら二人はそこにいるはずだと、照は急いで湖に行くことにしたがその時にはもうすべてが終わっていた。


 そう、咲がミナモを湖に落としたのだ。

ミナモ「照姉に伝えなくても大丈夫かな 咲ちゃん」カラカラ

咲「平気だよ だってお姉ちゃんだもん」

咲(そう、お姉ちゃんだったらきっと覚えているもん)

咲(私と違って頭も良くて物覚えも良くてちょっと方向音痴な所もあるけど自慢のお姉ちゃん)

咲(一度しか出てないけどお姉ちゃんだったら……)

ミナモ「咲ちゃん みてみてお魚さんが泳いでるよ」ギシギシ

咲「あ、ホントだ。何のお魚さんだろ」

ミナモ「ほら、後ろにも2匹 親子かな?」ギシッ ギシッ

咲「そうだね ちょっと小さいもんね」

咲(ミナモちゃんは親子に見えるのかー 私には私たちに見えるよ お姉ちゃんの後ろを必死に泳いでる私たち)

咲(本当は泳いでも泳いでも追いつけないけど 途中で気づいて私達が追いつくまでそこで待っていてくれる。まるで私たちの関係みたい)

咲(ミナモちゃんの事は大好きだけど、お姉ちゃんの横にいるのは私だけで良いのに―――なんて妹なのになんで嫉妬しちゃうのかな)

ミナモ「どうしたの咲ちゃん 今日は元気ないみたいだけどどこか調子悪い? ごめんね こんなところまで付いてきてもらちゃって」

咲「どこも悪くないよ」

ミナモ「そう? やっぱり風が気持ち良いな」

咲(そっか、わかったよ。ミナモちゃんはすっごく綺麗な目で世界を見てる)

咲(だから不安になっちゃう お姉ちゃんもミナモちゃんと一緒ですごく澄んだ目をしてる。それに比べて私は……)

ミナモ「咲ちゃん、ちょっと手を貸して」ヨイショ

咲「どうしたの? 車椅子から降りるならもっと安全な場所の方が……」

ミナモ「もっと近くで湖面を見たいなーって、危ないかな」

咲「気をつけてね。私はあんまり泳ぎ得意じゃないから落ちたら助けてあげられないしこのあたりには人がいないから……」

咲(今、ここにいるのは私達二人だけ 何か事件が起きたら私が近くの店に知らせに走らなくちゃいけない)

咲(二人 そう二人なら)ドクン

咲(不慮の事故でミナモちゃんが湖に落ちても今なら―――)ドク ドク

咲(今、私は何を考えてたの 今何を)ゾワゾワ


ミナモ「もしもの時は私を助けてくれるよね 咲ちゃん」ニコニコ

咲「もしもだなんて、そんな事言っちゃダメだよ!」

咲「やっぱりダメ お姉ちゃんが来るまで待つのはどうかな それからでも遅くないよ」

ミナモ「大丈夫だよ ちゃんと気をつけるもん」ヨイショ ヨイショ

咲「ダメだって」ギシギシ

ミナモ「咲ちゃん 後ろ危ない!」グイッ

咲「あ、ありがと」

ミナモ「もぅ 咲ちゃんこそ気をつけ――ー」ガタン

咲「あっ」

ミナモ「やばっ 離れて」ドスン




                 バシャーン カラカラ ブクブク



・・・                    ・・・               ・・・


「えっ」 「なんで」 「どうして」


咲「どうして、上がってこないの」

咲(そ、そうだ。知らせに行かないと…… でも間に合わなかったら)


ミナモ『もしもの時は私を助けてくれるよね 咲ちゃん』ニコニコ


咲(ダメ。今から呼びに行っても間に合わない)

咲(せめて、場所だけでも分かれば……)


                      ブク ブクブク


咲「見つけた!」


 時間の猶予はほとんどない。自分の直感がそう言っている。
 そのあとの判断は素早かった。その手がかりを元に咲は飛び込んだ。

咲(思ったより、深い!? 早くミナモを助けないと間に合わなくなっちゃう)

咲(確かこの辺だと思うんだけど……全然見つかならない)

咲「ゴボゴボ(どこに居るの ミナモー)」



ミナモ(何とか咲ちゃんを巻き込まずに済んでよかった……最悪の自体は免れたかな?)

ミナモ(私はこんな体だから今更どうなっても良いけど、咲ちゃんを道連れにするなんて絶対ダメ!)

ミナモ(さっきはあんなこと言っちゃったけど巻き込んじゃってごめんなさい)

ミナモ(短い人生だったけど、最後の最後で咲ちゃんに会うことができてこの一年すごく楽しかったの)

ミナモ(照姉、私に沢山教えてくれてありがとね)

ミナモ(さよなら大切なお友達……)



『―ーーモ』

『―ーーナモ』

『黙っていっちゃうなんてそんなこと私がさせないよ』


ミナモ『この声は照姉? 照姉なの』

照『ミナモが大好きな照お姉ちゃんだよ』

ミナモ『どうして、こんなところに』

照『大切な妹がどこかに行っちゃうかもしれないのに黙って行かせるようなお姉ちゃんじゃないもん』プンスカ

ミナモ『ごめんなさい』

照『ごめんなさいじゃないでしょ 大体何で私を待たずに湖に行ったの? あそこすごく危ないんだよ』

ミナモ『それは……』

照『それは?』

ミナモ『最後に目に焼き付けて置きたかったの。照お姉ちゃんと咲ちゃんがすごく綺麗なところだって言ってたし』

ミナモ『―ーー私、別の病院に行くことになったんだけどなかなか二人に言い出せなくて……気づいたらもう来週には長野を出ることになっちゃった』

照『そっか おめでとう』

ミナモ『えっ?』

照『だって、まだあきらめてないんでしょ もう一回自分の足で歩くこと』

照『最初会ったときは、あんまりリハビリ熱心じゃなかったけど、最近頑張ってるって聞いてたから』

ミナモ『照お姉ちゃんは寂しくないの? 私が遠くに行っちゃうのに』

照『もちろん寂しい。新しくできた可愛い妹がどこかに行っちゃうなんて胸が張り裂ける思いってこういうことを言うんだね』

照『でもミナモは前に進もうとしているんでしょ だったらお姉ちゃんとしてはきちんと送り出してあげないとね』

ミナモ(こういう所、全然変わらないな……だから、咲ちゃんが私に対抗意識燃やしちゃうだよね)

ミナモ(湖に落ちるちょっと前、一瞬咲ちゃんは私の背中を押そうとしてしてやめた)

ミナモ(やっぱり、私は疫病神なんだ)

ミナモ(もう迷わない。唯一心残りだったら照お姉ちゃんに挨拶もできたし、これでもう思い残すことはないよね)

照(……)

ミナモ『ほらね、所詮私の頭のなかで作り上げられた会話なんだからもう続きなんてないよ』


「生きて、お願い」

「このままミナモちゃんを失うなんて嫌。私はまだまだミナモちゃんと一緒に居たい」

「そのためなら、私なんでもするから」


・・・            ・・・               ・・・
・・             ・・                ・・
・              ・                 ・

ミナモ(何かとても嫌な夢を見ていた気がする……)

ミナモ(あれ? うちの天井ってあんなに高かったっけ? あと、体重いなー)

照「おはよう ミナモ」

ミナモ「照お姉ちゃん おはよう」

ミナモ「  って、何でお姉ちゃんが私の部屋に居るの」

照「ん? だってここミナモの病室だもん 看護師さん呼んでくるね」トテトテ

ミナモ「あ、行っちゃった」

ミナモ(何が何やら……まあそのうち説明してくれるよね)


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・


照「とまあそういう訳なの」

ミナモ「つまり、私と咲ちゃんが湖で溺れている所をお姉ちゃんが見つけて助けてくれたと」

照「正確には、咲がミナモを助けて岸にたどり着いたところで力尽きてたって感じかな」

ミナモ(そういえば、起きるちょっと前に咲ちゃんの声を聞いた気がする)

ミナモ「咲ちゃん、咲ちゃんは大丈夫なの」

照「かなり衰弱しててちょっと危なかったけど一命は取り留めたよ。でも、まだ意識は戻ってない」

照「あんまり泳ぎ得意じゃないから、余計体力を消費しちゃったみたいで」

ミナモ「精密検査が終わったら私病室に行きたい」

照「本当はダメって言いたいけど、仕方ないか でも、ちゃんと許可もらってからだよ」

~10日後~


ミナモ「照お姉ちゃんごめんね」

照「うぅん、ミナモこそ入院中なのにずっと咲の横に居てくれてありがとね」

ミナモ「咲ちゃん結局、目覚めなかったね」

照「お医者さんの話だと、一種の防衛反応が働いて起きるのを拒否してるみたい」

照「でも必ず起きるって」

ミナモ「直接お礼を言いたかったんだけど肝心の咲ちゃんが起きないんじゃ」

ミナモ「おきないんじゃ意味ないよ」

照「何度も言ったと思うけど今回の事故はミナモが悪いんじゃないでしょ」

ミナモ「でも、私が……私が」

照「いい子だね いい子 いい子」ナデナデ

照「いい? この事故は誰に責任があるわけじゃない わかった?」


 ここで照お姉ちゃんの言葉を否定することは簡単だ。しかし、否定したところでどうなるものでもないというのは自分自身が一番良くわかっている
それでもなお、私はこの事故には責任を感じざる負えなかった。
むしろすべての発端は私にある。しかし、それは大切な照姉だとしても軽々しく言うことはできない
そのようにしてこの思いを墓場まで持っていく覚悟を私は決めた
そして今日私は長野を出ていく


ミナモ「それじゃあ、照おねえちゃん バイバイ」

照「また、会えるよね」

ミナモ「もちろん」フリフリ


この約束が果たされるのは数年後、宮永照が上京してきたときのことである

~部室~

優希「咲ちゃん、今度の休みは何か用事とかある?」

咲「何もないよ」

優希「そうかそうか。咲ちゃん今度のお休み私とお出かけするじぇ」

咲「もー、優希ちゃんたらいつも直前になって私を誘うんだから」

咲「でも、楽しみ 何着ていこうかなー」

和「良かった。もし先約が入っていらどうしようかと思っていましたよ」

優希「うんうん、咲ちゃんは連絡がつかないことが多いから心配」

咲「そんなことないよー つい携帯を覗くのを忘れるだけで……」

優希「とにかく、約束しだじぇ」

咲「忘れないようにメモしておくね」カキカキ

和「それでは、今日も一日頑張りましょう」


久「おはよー あれぇ? 居るのは三人だけ? まこはまだ来てないの」

和「染谷先輩は少し遅れるそうです」

久「そう、分かったわ。ところで貴女たちは何を話してたの私も混ぜてくれないかしら」

優希「今度の休み三人でお出かけしようって話です」

久「あら残念、私は誘ってくれないのね」

和「すみません、中学の後輩と逢う約束もあるので」

久「あらそうなの。それじゃあ私はお邪魔ね」

久「それに、その日は私用事があるからどのみち一緒に行くのは無理そうだわ」

久「さて、そろそろ部活を始めましょうか」

~帰り道~

優希「今日も沢山打ってお腹が減ったじぇ 今目の前にタコス屋さんがあったら全種類制覇間違いなしだじぇ」

和「そんなに食べたら夜ご飯が入りませんよ」

優希「別腹 別腹 問題なーし」キュー

咲「ふふっ」

優希「あっ、咲ちゃんが笑った」

咲「ごめんごめん つい」

優希「咲ちゃんは大分変わったものだじぇ」

和「そうですね あの時はちょっと近寄りがたい印象でした。でも今の表情はとても魅力的です」

和「素直に感情を表に出せるようになったと思います」

咲「そうかな そんなに私って無愛想だった?」

和「そうですね……周りから一歩引いて、極力感情を出さないようにしているように感じました」

咲「そうだね」

和「今となっては、見る影もありませんが咲さんから事情を聞かせてもらうまでは正直言ってちょっと怖かったです」

咲「私も、まさかあのことをほかの人に打ち明ける日が来るとは思ってなかったよ」


優希「二人とも湿っぽい話は終わり 終わりー」

優希「それより今重要なのは」

咲「重要なのは?」

優希「三人で一緒にいられることだじぇ」

咲和「優希ちゃん(優希)」

優希「あれ? 私何か変なこと言った?」

和「咲さん 絶対お姉さんに勝ちましょうね」

咲「えっ?」

和「これからもずっと三人で一緒に居られるようにですよ」

咲「……! うん」

優希「その意気だじぇー」



 長野 全ての始まり 出発点であり特異点
 宮永家から端を発した物語が交差したとき歯車が動き出す

 宮永照・弘世菫・辻垣内智葉を中心に紡がれる物語はとても繊細かつ激しい物語
 再会・苦悩・試練・別れ 
 ハッピーエンドなど存在しない

 しかし、最後に希望が残された
 その希望はささやかであるが確かに存在した

 やがてその希望は実を結ぶ
 それは決して平坦な道のりではなかったが沢山の善意と努力そして諦めない心
 それらが全て揃ったとき奇跡が起こる



清澄編END

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