須賀京太郎「できたぜ優希! 押すたびに俺の存在感が希薄になっていくスイッチだ!」 (79)

優希「おおっ! サンキューだじぇ京太郎! これで念願のタコス食べ放題に一歩近づいたじぇー」

京太郎「ははっ、そんなに喜んで貰えるなら、こっちも作った甲斐があったってもんだ」

京太郎「おっと、それよりいいのか? もうこんな時間だぜ?」

優希「あっ、こりゃまずいじぇ! 早く部室に行かないと! じゃあこのスイッチ、大事に使わせて貰うからなー」

京太郎「おう、くれぐれも悪用するんじゃねえぞー」


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<清澄高校 麻雀部>

和「ゆーき……大丈夫なのでしょうか」

咲「優希ちゃん、どうして何の連絡も入れずに学校を休んだりなんか……」

和「家にもいないらしいですし……親御さんにさえもゆーきがどこに行ったのかが分からないなんて」

京太郎「あいつ、一体どこをほっつき歩いてんだか……」

まこ「こがぁなこと今まで一度もなかったけえ、心配じゃのお」

ガラガラッ

一同「!」

久「あら、皆居たのね……いろんな人から話を聞いてみたけど、何の収穫も無し」

和「部長の方もやっぱり駄目でしたか……さっきから何度もメールしたり携帯にかけたりしているのですが、反応はなしです……」

まこ「携帯は持ち歩いていないと見て間違いないのう」

久「まいっちゃうわね……あの子がいないと、なんだかこの部室もさみしく見えるわ。……何か、あったのかしら」

京太郎「あの元気ハツラツタコス娘に何かあったなんて思えねえけど……でも学校にも来ず家にもいないってなると、もう誘拐とかしか考え……」

和「っ! そんな、誘拐だなんて縁起でもないこと言わないで下さい! もし本当にそんなことが起こったらどうするんですかっ!」

京太郎「……悪い」

まこ「いまわしらにできるのは、優希の無事を祈ることくらいかの」

和「ああああ……優希、あなたいなくなったら、私はどうすればいいのですか……」

久「和……」

咲「和ちゃん……」

京太郎「……やっぱり、じっと待ってるだなんて悠長なことしてられねえ! 部長! 俺、あいつが行きそうな所全部探し回ってきます。このままじゃ夜も眠れそ

うにありませんから」

久「す、須賀君?」

和「あっ、ま、待ってください須賀君! 私も……私も行きます!」

咲「わ、私も! 友達として放ってなんておけないもん!」

京太郎「そうだな、人手は多ければ多いほどいい。ただなあ、方向音痴の咲じゃあ、助けになるかどうか……」

咲「もう! こんな時にまでからかわないでよ、京ちゃん!」

京太郎「ははっ、悪い悪い。でも実際、お前が迷子になりやすいのは確かだろ?」

咲「うっ、それは……」

京太郎「優希を捜す途中でお前までいなくなっちまったら意味ないからな。お前と和は一緒に行動してくれ。いいよな、和?」

和「ええ、勿論です。咲さん……二人で一緒にゆーきを見つけ出しましょう」ギュッ

咲「ふぇっ!? て、手をつなぐ必要はないんじゃないかな……」

和「いいえ。絶対に離しません。咲さんまで失う訳にはいけませんから」ギュウウ

咲「あ、あはは……」

京太郎「俺の方は先ずタコス店の周辺を探してくる。和はあいつの行きそうな場所に心当たりはあるか?」

和「はい。いつも一緒に遊んでる所に、ゆーきのお気に入りのスポットがあるのですが、もしかしたらそこにいるかも知れません」

京太郎「よし。あ、それと、部長と染谷先輩は出来ればここに残っていてください」

久「え? ああ、そうね。優希がここを訪れないとも限らないから……。任せて、こう見えて待つのは得意な方だから」

まこ「頼んだ、3人とも」

京 和 咲「はい!」

京太郎「それじゃあ早速、行ってきま――」

ガラガラッ!

優希「皆、待たせてすまん! 片岡優希、遅れてここに参上したじぇ!」

一同「えっ!?」

優希「……? 皆いったいどうしたんだじぇ? そんなに目をぱちくりさせて……」

和「ど、どうしたもこうもありませんよ! 今まで一体どこに行っていたんですか!」

優希「え? どこって……普通に学校だけど」

和「そんな筈ありません! あなたは今日、学校を無断で休んだじゃないですか!」

優希「のどちゃん、なんかちょっと怖いじぇ……。それに、私が学校を無断で休んだってどういうことだ?」

京太郎「お、お前本気で言ってるのか?」

優希「う、うん。嘘は言っていないじぇ。普通に家を出て、学校で授業を受けて、ここに来たじょ?」

和「そんなの、信じられるわけ……!」

久「でも、冗談を言っているようには見えないわ……」

咲「はい……でも、優希ちゃんが今日学校を休んだのは間違いないことですし……」

まこ「そうじゃな。それはわしらどころか、この学校の全員が証明できることじゃ」

和「あああああ、もうっ! こんなに心配をかけさせて……ゆーきはばかですっ! ばかっ!」ダキッ

優希「うおっ、の、のどちゃん!? ほんとにどうしちゃったんだじぇ!?」

和「ばかっ……し、んぱいしたんですよ……」ギュゥゥゥゥ

優希「の、のど、ちゃん。しまっ、しまってる、しまってる……じぇ」

和「あっ! ご、ごめんなさい!」

優希「危うくのどちゃんのおっぱいで圧死するところだったじぇ……」

京太郎「はははっ。まあ、何があったかは分からねえけど、ともあれお前が無事でよかったよ、優希」ポンポンッ

優希「なあっ!? き、京太郎の癖にご主人様の頭を気安く撫でるんじゃないじぇ!」

京太郎「俺はペットかなにかか」

優希「そうだが?」

京太郎「おいおい……」

アハハハハハ

京太郎「ははは……あ、んじゃあ、俺は先生達にこのことを報告してきますね」

久「ありがとう、お願いするわ」

ガラガラッ

優希「うーん……なんかしっくりこないけど、私が今日学校に来なかったのは事実なんだな?」

和「そうですよ。とても心配したんですからね?」

咲「でも、一体優希ちゃんに何があったんだろう。いわゆる記憶喪失ってやつなのかな……? 私が読むような小説には結構、優希ちゃんみたいな体験をした登場人物が出てきたりするんだけど、その原因の大半はごく短期的な記憶喪失なんだよね」

優希「小説の登場人物と私を一緒にしないでほしいじぇ、咲ちゃん……」

咲「ご、ごめんなさい」

和「でも、今日の朝から今にかけてまでの記憶が全く別のものに置き換わっているところを見ると、咲さんの言うように記憶喪失か、それに近い他の何かと考えるのが自然でしょうね」

まこ「そうじゃのお。ま、こればっかりはわしらがあれこれ考えてもしょうがない。きちんとした病院に行って診てもらった方がええ」

優希「そこまでじゃないとは思うんですけど……」

久「いいえ。優希、今日はもう帰った方がいいわ。まこの言うように病院で診てもらわないと。もしかしたら深刻な病気の前兆かも知れないし」

和「そうですよ? 練習よりも優先すべきことはあります」

優希「むー……分かったじぇー」

ガラガラッ

京太郎「戻りましたー。優希の親御さんがもう直ぐ迎えに来るそうですよ」

久「そう、よかったわ! じゃあ優希、迎えが到着するまでここで待っていなさい。私は少し先生達と話してくる」

優希「はーい」

ガラガラッ

優希(……ん? 何か忘れてるような……)

優希「……あ、そうだじぇ!」

ガサゴソ

優希「あった! おい、きょーたろー! こっちにこい!」

京太郎「ん……? なんだなんだ、その金色のスイッチは」

優希「おう、聞いて驚くがいいじぇ京太郎! これはな! これは……」

京太郎「ど、どうしたんだ?」

和「ゆーき?」

優希「これは……これは……」

優希(……)

優希「……だじぇ」ポチッ

京太郎「うぉぉっ!?」シュウウ

咲「え? あれ? 京ちゃん? なんか、今薄くなったような……」

京太郎「えっなっ? えっ?」

優希「……だじぇ、だじぇ」ポチッポチッ

京太郎「うおおおおおおお!?」シュウウウウ

咲「ま、また、また、今薄くなった! 京ちゃんが、う、薄く!」

和「ゆーき! あなたいったい何をしたんですか!」

まこ「こ、これはいったい……!?」

優希「だじぇ、だじぇ、だじぇ! だじぇ! だじぇ!! だじぇ!!!」ポチポチポチポチポチッ

京太郎「うお、うわああああああああ!」シュウウウウウウウウウ

咲「京ちゃんが、京ちゃんの色が見る見るうちに薄くなっていくよお!」グスグス

和「やめなさい、ゆーき!!」ガシッ

優希「だじぇだじぇだじぇだじぇだじぇだじぇ!!!」ポチポチポチポチポチポチ

和「なっ、なんて力……!?」

京太郎「うおあ、あおあうおあああ!?」シュウウウウウウウウウ!

咲「あ、あうあうあう」オロオログスグス

まこ「わ、わしはわかめじゃったのか……!?」

優希「だじぇだじぇだじぇダジェダジェ、ダジェエエエエエエエエエエエエ!!!」ポチポチポチポチポチッッッ!!!

京太郎「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」シュウウウウウウウウウ!

カッ!

京太郎「おおおおおおお、おお、お?」

咲「あれ……?」

和「……?」

まこ「おろ?」

優希「……」

京太郎「なんとも、ない? いったい何だったんだ……おい優希! これはどういう――」

咲「ね、ねえ、和ちゃん。私たち、今何をしてたんだっけ?」

和「さ、咲さんもですか? 実は、私も分からないんです。部長が出て行ったのを見送ってからの……記憶が」

まこ「わしもじゃ。何かとてつもない事実に気付かされた気がしたんじゃが……思い出せん」

京太郎「え? え? お前ら何言ってんだよ? 優希が変なスイッチ押しまくって、それで俺がおかしくなって……」

優希「……なあ、皆。この部に、男子部員っていたっけか?」

咲「え?」

京太郎「お、おい。優希?」

和「ゆーき、どうしたんですか? そんなの――」





和「居ないに、決まってるじゃないですか」






京太郎「……え?」

優希「……」ニヤッ

今日はここまで
更新は来週の月曜にでも
そんなに長くはならない予定なので、次かその次には終わります



ネ、ネタトラレター

ある程度書けたので、少しですが投下していきます。

>>26
こちらのことは気にせずに書くべきですね。是非。

京太郎「お、おい、和? ははは、流石にちょっと冗談がきついぜ。……なあ? 冗談なんだろ?」

咲「そ、そうだよ! どうしたの? いきなりそんなこと言うなんて」

京太郎「だ、だよな咲! ったく、まさか和がこんな冗談を――」

咲「だって……私が入部したときからずっと、この部には男子部員なんていないのに」

京太郎「……!」

まこ「ほうじゃのう。そもそもこの部に男子が入部したことはない」

まこ「優希、やはり今日のおんしはどこかおかしいぞ? 大丈夫とは言うが、その調子じゃあ信用することはできんの」

和「そうですよ。今日は早く帰ってゆっくり休むことに専念した方がいいです」

和「……もっとも、自分の身を心配するべきというのは私たちにも言えることですが」

京太郎「み、皆……本気なのか? 本気で俺のことが見えてないのか? 本気で俺の事を忘れちまったのか?」

咲「うん……なんだかすごい疲れちゃったなあ。優希ちゃんが記憶喪失したと思ったら、今度は私たちなんだもん」

和「ですね。もしかしたら、大会前ということで皆気をやってしまっているのかもしれません」

和「私はあまり緊張していないつもりでしたが……やはり潜在的にはいろいろと疲れを感じてしまっているのでしょうね」

京太郎「あ、あああ……誰も、聞いてくれねえ……」

京太郎(こんなに声を大きくして言ってるってのに、どうして……ああくそっ!)

京太郎「なあ、咲! お前が麻雀部に入るきっかけを作ってやったのは誰だ? 俺だろ?」

咲「うー。それにしても、記憶喪失なんて初めて経験したなあ」

和「それはそうでしょう。むしろ、経験したことある人の方が少ないはずです」

京太郎「聞こえてるんだろ? こんな近くで喋ってるんだ。聞こえてない筈がないよな、咲ぃ!」

咲「えへへ、だよね。なんか、少しわくわくしちゃうなあ。小説とかでしか起こらないと思ってたような事をこの身で体験したんだー、って思うと」

まこ「これ、不謹慎じゃろ。現に、それのせいで優希が危うい目にあいかけたんじゃから」

咲「あ、ご、ごめんなさい」

まこ「……ま、とはいうものの、確かにさっきまでわしらが何をしていたのかは気になるがのう」

咲「何か重要なことに気付かされた気がする……でしたっけ? やっぱり気になりますよね」

京太郎「っっ! ンな事どうでもいいだろ、無視してんじゃねえよ!!」ガシッ

咲「ひゃううっ!?」

和「咲さん!?」

まこ「どうしたんじゃ?」

咲「い、いや、なんか今、誰かに掴まれたような感覚が――」

京太郎「なああ! お前が、こいつらと! 今! 楽しく喋れてんのは誰のお蔭なんだよ! ああ!?」ユッサユッサ

咲「あ、あうあうあ、なに、何がおこってえええ!?」ユッサユサ

和「だ、大丈夫ですか!?」

京太郎「咲ぃ! 返事をしろよおおおおお!!」ユッサユッサ

咲「と、透明な誰かがああ! 私の事をゆさぶってえええ!! た、たすけ」ユッサユッサ

まこ「と、透明な誰か!? それはつまり透明人間がこがぁ部屋にいるってことか!?」

和「なっ! 透明人間だなんて、そんなオカルトありえません!」

和(い、いえ……でも、咲さんの様子を見るに嘘を言っているようには……)

咲「い、いいから早く助けてよおおお」ユッサユッサ

和「ハッ! ま、待っててください、今助けます!」

和「えいっ!」ポカッ

和「このっ! 咲さんからっ! 離れなさいっ!」ポカッポカッ

京太郎「邪魔だ、和! 俺は今、咲と話してるんだよ!!」ゲシッ!

和「きゃあっ!? そ、そんな……まるで効いていないなんて!」

咲「和ちゃああん! 怖いよおおおおおおおおお」ユッサユッサ

和「くうっ……ならばもう一度!」

まこ「いや、和は下がっておいた方がええ」

和「まこさん!? でも、早く咲さんを助けないと!」

まこ「だからこそじゃ……わしがやる!」

まこ(何故だかは分からんが、気力が体中からあふれ出てきておる……これならいける!)

まこ「咲……じっとしておれ。すぐに終わる……!」

京太郎「さきいいいいいいい! なあさきいいいいいい!!!!!」ユッサユッサ

咲「じ、じっとなんてできません!!」ユッサユッサ

まこ「あ、いや、そのままでええってことじゃよ。ええっと……」

まこ(気を背中に集中させればええのか? よし……)

まこ「はああああああああああああああああっ……!」

京太郎「さきいいいいいいい! さきいいいいいい!!!!!」ユッサユッサ

咲「あうあうあうあうあうあうあう」ユッサユッサ

和「」ドキドキ

まこ「はああああああああああああああああっ……!」

京太郎「さきいいいいいいい! ああああああああ!!!!!」ユッサユッサ

咲「あうあうあうあうあうあうあう」ユッサユッサ

和「」ドキドキ

まこ「はああああああああああああああああっ……!」

京太郎「さきいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」ユッサユッサ

咲「あうあうあうあうあうあうあう」ユッサユッサ

和「ま、まだなんですか!?」

まこ(今じゃッッ!!)

まこ「くらえッッ!! 鉄! 山! 靠!」ドガァッ!

京太郎「ギョヘエッ!?」ドガッ!

ドンガラガッシャーン

まこ「ふう……悪は潰えたのお」

咲「あ、ああ。助かった、の……?」

和「咲さん! 大丈夫ですか!?」

咲「う、うん。ちょっと頭は痛いけど、特に怪我とかは無いみたい」

咲「それより染谷先輩……助けてくれてありがとうございます!」

和「私からもお礼を言います。さっきの技、すごかったですよ。まこさんが武術に通じた人だとは思いませんでした」

まこ「いや、わしも驚いておるところじゃ……武術なんて、触ったこともないはずなんじゃがの」

ガサガサッ

京太郎「いってえ……何が起きたんだ……?」

京太郎(って? あれ……俺は今まで何を……)

まこ「っ! どうやら、悪はまだ潰えていなかったようじゃな」

咲「こ、こわいよ、和ちゃん……」

和「大丈夫ですよ、咲さん。私がそばにいますから。今度は絶対に守り切って見せます」ギュッ

まこ「悪よ。わしの声は聞こえておるんじゃろう? ならば、そこを動いたりはしない方がええと忠告しておく」

京太郎「え、染谷……先輩?」

京太郎(悪って、もしかして俺のことか……?)

まこ「下手に動かれたら狙いが外れて、思わぬところに攻撃が当たってしまう。そうなれば、おんしを無駄に苦しめてしまうことになりかねんからのお」

京太郎「は? 一体何を言って――」

まこ「忠告を受け取ったくれたものと取る。それじゃあ、行かせてもらうかのお!」

まこ「出でよ、ワカメ・クリムゾン!!」

ギャアアアアアアアン

和「えっ!?」

咲「ふえっ!?」

京太郎「そんなバナナっ!?」

 まこが叫ぶと同時にまこの背後に現れたのは、メイド服を着たもう一人のまこ。ワカメのような色の髪にかかったワカメ状のウェーブ、あと色々。どこをとってもまことそっくりなそれは、その眼鏡の奥にある双眸が無機質な光を放ってさえいなければ、まこ本人と区別がつかないほどにまこであった。

まこ「ふむう。どうやらこれは、『スタンドもどき』というものらしいの……なぜもどきがつくのかは知らんが」

まこ「まあとにかく、このワカメ・クリムゾンが強大な力を秘めておるのは見ればわかるじゃろう? 安心せい……さっきも言うたが、じっとしておれば一瞬で終わる」

京太郎「な、嘘……だろ? やめてくださいよ、染谷先輩! 俺達仲間じゃないですかあ!」

まこ「覚悟をきめい! 行けっ、ワカメ・クリムゾ――」





優希「もう……やめるじぇ? こんな茶番」




一同「!?」

ここまでです

すっかりこのssの存在を忘れてました……
取りあえず書きだめといた分を投下していきます

優希「さっきから聞いてれば……よくこんな下らない事でわーわーと騒げるもんだじぇ」

まこ「ど、どうしたんじゃ?」

優希「透明人間? そんなの別に珍しいもんでもないじぇ」

優希「能力覚醒? それも大して珍しいことじゃないじぇ」

優希「どちらも『この世界じゃよくあること、よくあるもの』のうちの一つにしか過ぎないんだじぇ?」

和「そ、そんなオカルト……」

優希「流石ののどちゃんでも認めざるを得ない筈だじぇ。麻雀というフィルターを通してないオカルトを直に目の当たりにしてしまったらな」

優希「ま、だからどうだって話なんだがな! とにかく、京太郎を傷つけるのはもうやめるじぇ。これ以上は意味がない」

咲「え、京太郎?」

優希「そう、京太郎……そこでかわいそうに横たわってる透明人間のことだ。咲ちゃん達はもう覚えてないだろうけど、私たちをずっと裏で支えてくれてた大切な仲間なんだじぇ?」

まこ「仲間じゃと? それでもう傷つけるなと? どがぁな事だかはよう分らんが……優希、おんしがこれらについて色々と知っとるっちゅうのだけはわかった。わしらに事情の説明をしてもらえんか?」

優希「染谷先輩……いきなり冷静を装った風をしたって無駄だじぇ。私は身動きの取れない中、染谷先輩が年甲斐もなくはしゃぎ回るのをずっと見ていたんだからな……」

まこ「はしゃいでおったつもりはないんじゃがな……後輩を守るためにやったことじゃ。おんしに責められるいわれはない」

優希「勿論、咲ちゃんを守るために鉄なんたらを京太郎にぶち当てた事まで責め立てるつもりはないじぇ。でも、どうしてそこで終わりにしなかったのか?」

まこ「……なんじゃと?」

優希「あの鉄山靠が類をみないほど強力なものであったのは、先輩自身が一番よく分かっている筈だじぇ」

まこ「まあ、確かにのう。自分の身から繰り出されたものとは思えんほどの威力を持った技じゃった」

優希「そう。そして論理的に考えれば、それを食らった京太郎にもう動けるほどの力が残っていないことなんて、すぐに分かる筈だじぇ」

優希「だったら、不必要に追撃なんかしないで、普通に縄で縛るなりなんなりの平和的手段を用いればよかったんだじぇ」

まこ「まてまて。少し言いがかりが過ぎる」

まこ「わしは当然、これまでの人生で透明人間なんて見たことはない。おんしがいくらそれを『よくあるもの』じゃと主張しようとも、わしらにとっては未知の存在にであることに変わりはないんじゃ。そうであるなら、念には念を入れるのはあたりまえじゃろう」

まこ「いくらわしの鉄山靠が強力なものであったとはいえ、それが未知の相手にどれだけ通用するか何ぞわしには分からん。それなら、殺すまでは行ってはならんものの、動けなくなるまで一応攻撃の手はやめてはならん筈じゃ」

まこ「第一、どこにいるのかも正確に分からん相手を縛ったりできるとは思えん。不用意に近づいて、逆にとらえられる羽目になったら目も当てられんじゃろ」

優希「ええ……? いや、どう思い返してもそんな事まで考えて行動していた様には見えなかったんですが」

優希「それに、殺す気満々のセリフを吐いといて、よく『殺すまでいってはならんものの』なんて言えたもんだじぇ」

優希「さらに言うなら、そのセリフの内容だって陳腐極まりないものだったじぇ。やれワカメ・クリムゾン! だの、やれ悪はなんたら! だの、まるで小学生のお遊戯会をほんのちょっとだけ進化させた何かを見ているようだったじょ。ふざけんな」

まこ「……」

和「えっと……その……」

優希「……咲ちゃんとのどちゃんに至っては、よく分からないちょいゆりワールドを繰り広げていちゃいちゃしてる始末」

咲「え、えっと……ちょい、ゆり? いちゃいちゃ?」

和「……ええ。確かに、緊急時においてああいう風な態度を取るのはあまり褒められたことではありません。それでも私たちの関係を考えるなら、多少そうなってしまうのは仕方ないでしょう」

咲「えっ? 私は別にそんなつもりは無かったんだけど……」

和「え……?」

咲(何でそんな絶望したような表情を見せるの……)

優希「ん、んん?……まあいいか。何にせよ、京太郎はもらっていくじぇ? 言っとくけど、答えは聞いてないじぇ!」

京太郎「ゆ、優希……? って痛っ!?」

京太郎(やべえ……動こうとすると体中に激痛が走りやがる。染谷先輩、幾らなんでもやりすぎだろ……)

優希「っ! 京太郎! 大丈夫か!?」ダダッ

咲「えっ!?」

京太郎「うおっ! び、びっくりした……」

京太郎「い、いや、そりゃ体中は痛えし頭はガンガンするけど、なんとか命は落とさずに済んだみたいだ。ただ、当分は満足に動けねえな、こりゃ」

優希「そうか、よかったじぇ……ごめんな、すぐに助けてあげられれば……」

京太郎「別に気にすることはねえよ、暴走したのはこっちだしな」

優希「本当にごめんだじぇ……」

咲(え……会話……してるの? でも、優希ちゃんの声以外は何も聞こえない)

京太郎「いいって。なあ、それよりどうしてこんな事をしたんだ? 俺を不幸にするため……って訳じゃないみたいだが」

優希「そんな、私が京太郎を不幸にする筈なんかない! これには……大きな理由があるんだじぇ」

京太郎「理由……?」

優希「説明したいが……ここじゃだめだじぇ、話せない。第三者の目と耳があるこの場所で、これを話すわけには行かないんだじぇ」

京太郎「じゃあ、どこならいいんだ?」

優希「一緒に来てほしい場所がある。そこで、ことのすべてを話すと約束するじぇ」

咲(やっぱり……独り言を言ってるようには思えないし、優希ちゃんにだけ透明人間さんの声が聞こえてるのかな……? でもどうして?)

咲「え、えっと……」

優希「咲ちゃん……私はこれから京太郎と一緒にある場所に行ってくるじぇ。でもこのことは誰にも言わないでおいてくれないか?」

咲「ええっ!? でも……」

優希「あ り が と う だ じ ぇ 咲 ち ゃ ん?」

咲「わ、分かりました!」

優希「どもだじぇ……よし、じゃあ京太郎! 私の肩におぶされ!」

京太郎「お、おう。でも、お前の力じゃ俺を持ち上げるのはきつくねえか?」

優希「そりゃ前の私には無理だったろうけど、今なら余裕だじぇ。なんてったって、タコスの加護がついているんだからな!」

京太郎「わ、わっけわかんねえ」

京太郎「……なあ、一体どうしちまったってんだよ。記憶喪失になったと思ったらいきなり発狂し出して俺のことを透明人間にしやがるし、しばらく何も喋ってないかと思えば、皆のことを罵倒し出すし……かと思えば俺に優しくするし……」

優希「べ、別におかしくなった訳じゃないんだからね! それについてもちゃんと説明するから、どうか今は……!」

京太郎「……今は、ねえ。ま、話を聞く限りだと、どうやら本当に俺を想っての行動らしいしな。いいぜ、信じてやるよ」

優希「きょ、京太郎……!」

京太郎「それに、お前のそんな顔見てたら疑う気も起きなくなるってもんだ。じゃ、何だかわかんねえけどある場所とやらに案内してくれよ」ポンポン

優希「ふぇっ……お、おう、まかせろだじぇ! じゃあ、ゆっくりと私の背中におぶさるんだじぇ……よい……しょっと」

京太郎「うぉっ! 痛てて……ホントに持ち上げられてるな……すげえ」

優希「ふふん、どんなもんだじぇ!」

優希「……じゃあ咲ちゃん、お願いしたじぇ?」

咲「う、うん……」

ガラガラッ

咲(行っちゃった……)

まこ「」ブツブツ

和「」ジーッ

咲(どう説明すればいいんだろ……この状況)

~謎の廃墟~

優希「ついたじぇ、京太郎」
 
 優希におぶさられつつ移動すること数十分。森の中にひっそりと佇む、錆びついた廃墟の前に着いた。
 見たところ元は中規模の総合病院だったようで、相応の大きさを誇っている。玄関口からおよそ50Mは離れたここから見ても、その全貌を視界で捉える事はかなわない。
 おそらく白く塗られていたであろう外装は完全にはがれ、灰色のコンクリートの下地が露になっている。
 またそこら中に蔦類の植物が巻きついており、最早自然と同化していると言っても過言ではなかった。
 しかし、俺にはそれがただの廃墟であるとは到底思えなかった。人の目を欺くがために、仕方なくそういった風貌をしているのだと語りかけられているような、不思議な感覚に包まれたのだ。

京太郎「なあ、優希。ここは一体?」

優希「お! その口ぶりだと、ただの廃墟じゃないってことには気づいたようだな! ま、当たり前か。ここはお前のために存在するような場所なんだからな」

京太郎「俺のために……か。ここにお前の秘密が隠されてるんだな?」

優希「そういうことだじぇ! ま、最早お前にとっては秘密でも何でもないがな。よし、先に進むじぇ?」

そう言って、優希は軽快な足取りで玄関の中に入っていった。道中、ずっと俺を
おぶさっていたにも関わらず、優希の顔は平然としていた。まるで、疲れという
概念が優希の中から出て行ってしまったかのようだ。森の中なんて、雑用で鍛えられた俺でさえただ歩く
だけでも疲れるというのに。
 玄関を抜けると、開けたエントランスルームにでた。空間の大半は味気の無い長椅子で
占められており、奥には受付口が並んでいる。部屋の左右からは、診察室やそれぞれの病室に行くための廊下が続いている。
 何と言うか、俺の学校の近くにある総合病院にそっくりだ。長椅子の種類も、受付口の形も。その

病院の内装を廃墟風にしたら、ちょうどこう言う風に……いや、おかしい。あまりにも同じ過ぎる! 
この場所、どこからどう見たって、清澄病院そのままじゃねえか……! 
 外面も、思い返してみれば清澄病院のそれだった。ただ、外の方は廃墟化の具合が内部よりも進行してい

たから、すぐに気づくことはできなかったのだ。

京太郎「な、なあ。優希、ここって……」

優希「おお、これにも気付いたか! さっすが京太郎、それでこそ私の婿だじぇ!」

京太郎「じゃあ、やっぱり……清澄病院なんだな、ここは?」

優希「うーん……いや、正確には清澄病院そのものではないんだけどな。言うなれば、それの模型だじぇ。ちょっと手は加えてあるけど」

京太郎「模型……手を加えた? まさか、これ全部お前が作ったのか!?」

優希「本当に私“だけ”で作ったかって言われるとちょっと苦しいけど、まあおおむねそんな感じだじぇ」

京太郎「ちょっと苦しいって……協力者がいるのか?」

優希「来れば分かるじぇ。んふふ、言っただろ? もはや秘密は秘密でなくなったって」

 不気味な、何か意味を含んだような笑みを浮かべながらそう言うと、優希は歩き出した。
 玄関から見て右の廊下をしばらく歩くと、その奥に右にくぼんだような形をした奇妙な
行き止まりがあった。本来なら行き止まりとして機能している正面の壁の右に、四角い
空間がぽっかりと空いている、といったところだろうか。
 ……おかしい。俺の記憶の中の清澄病院には、こんな形をした行き止まりは無かったはずだ。

京太郎「なあ、こんな行き止まり、清澄病院にあったか?」

優希「ないじぇ? そりゃ、この先には模型なんかじゃない正真正銘のオリジナル……この場所の本当の姿があるんだからな!」

京太郎「えっ? 本当の姿?」

優希「言うに及ばず、見るが易し、だじぇ! ……開け、タコスの国!!」

 優希が大きな声をあげると同時、それに呼応するかのように、行き止まり
の壁から眩い光が発せられた。
 そして次の瞬間、優希が消えた。というよりも、いつの間にか俺が一人光
の中で立っている状態になっていた、といった方が正しいか。
 おぶさられていたのだから、優希が消えたら俺は地面に落下している筈
である。しかし、何の衝撃も痛みも訪れないまま、俺はそに立っていた。
まるでもともとそうであったと言わんばかりに。すべての過程は消し飛ばされたと
言わんばかりに。
 いきなりの事に呆然としていると、ようやく自分の体の違和感に気付いた。
そう、俺はかなりの傷を負っていた。それこそ、優希の歩行中のわずかな体の揺れさえ
も、直に骨に響いてきてしまうほどに。なら、どうして俺は何の痛みも感じずにこうして
立っていられるのか? まるで俺の体が一瞬の内に元に戻ったかのようだった。いや、
元に戻ったのだ。さまざまな部位を動かしてみるが、同じだ。やはり完治している。
 そこでふと、ある事に気付いた。この光の空間の奥で特に眩く光る何かがあることに。
そして、その何かは急速な勢いで大きくなっている。
 二倍、三倍と大きくなっていくその何かは、数秒後……俺の全身を包みこんだ。

~謎の場所~

???「京太郎、京太郎!」

京太郎(この声……優希か? 俺を心配してくれてる……みてえだけど)

???「だいじょうぶか、京太郎!」

京太郎(早く答えてやりてえけど、体を動かせねえどころか、瞼さえも開けねえ。全身が麻痺してしまったみてえだ)

???「うー、タコス光明神の間は私と京太郎にだけは無害なはずなのに……いや、もし失敗してたなら京太郎は今頃粉々になってるはずだじぇ……大丈夫」

京太郎(何か、不穏な言葉が聞こえた気がするんだが……)

???「乱暴な事はしたくないけど、しょうがないじぇ……すぅ~……はぁ~……よし!」

京太郎(いったい、今度は何をするつもり――)

優希「おっっっきろおおおおおおおおおおおおお!!!! いぬうううううううううう!!」

バチィィィィィィン!!
 
京太郎「うおおおおおおおお!? 痛ってえええええええ!?」

優希「あっ! ……よかったぁ……!」

京太郎(痛い痛いいたいいたいいたいよ!? ……ってあれ? 起きたのか、俺? 体も動かせる……優希のビンタで体の制御が戻ったのか)

優希「ごめんな、ごめんな? でも、これしか起こす方法が思い浮かばなくて」

京太郎「つつつ……いやそれは分かるし、元に戻してくれたことには感謝するけど、もうちょっと優しくできなかったんかい!」

優希「えへへ、ごめんだじぇ。半端な加減をして、何度も京太郎をぶつような事はしたくなかったからな! 苦しいからこそ一発で決めにいったじぇ!」

京太郎「ははは……なんじゃそりゃ。ま、そういうことなら仕方ねえか。そう言われたらこれ以上責めるわけにはいかねえな。……で、ここはどこなんだ?」

京太郎(さっきの廃墟とは打って変わって、なんだか超最新の研究所! って感じだけど……)

優希「おう! よくぞ聞いてくれたじぇ! こここそが私たちの最終目的地! タコスの国の叡智の結晶! その名も……」

優希「『かたおかゆうきのオカルトけんきゅうじょ』だじぇ!」

京太郎「え……? ええ……? な、なんじゃそりゃああああああああああ!?」

ここまでです
次の投下でおそらく完結まで持って行けます。

投下していきます

京太郎「ちょ、ちょっと待ってくれ! オカルト研究所……って」

優希「ん? その名の通り、この世に存在するオカルトを研究する場所だじぇ?」

京太郎「いやいやいや、そうじゃなくてだな……何から言えばいいのか……」

優希「質問か? ならどんとこいだじぇ! 時間はたっぷりあるから、お前の全ての疑問それぞれに真摯に向き合って答えてやる!」

京太郎「お、おう。んじゃあさ……オカルトっていわれてもぴんと来ねえんだけど、具体的にはどんなもんを研究してるんだ?」

優希「そうさな……ずばり、麻雀にまつわるオカルト(超常現象)、だじぇ」

京太郎「ま、麻雀ん!? んなもんある筈……あっ」

優希「思い当たる節がばりばりあるって顔だじぇ。まあ、日常的にあんなもの見てたら感覚が麻痺するのも無理はないけどな」

京太郎「いやいや、俺からしたらお前も同じだからな? いや、そうか……でも、あんなのどうやって研究するって言うんだよ」

優希「うーん、そのあたりは実際に見てもらった方が早いじぇ。ついてきてくれ」


 そう言うと、優希はかわいらしい足取りで奥に歩いて行った。俺はその後をついていきつつ、道の左右にびっしりと置かれている様々な研究装置らしきものを眺めていく。

どれもSF映画に出てきそうな程未来的な形をしており、その構造の一端さえも俺には理解できそうにない。なんだよあの中に浮いた赤いボール状の液体は。赤色物質か何かか。

 そんな俺の困惑を察したのか、道中優希がそれらの装置について色々と説明してくれた。例えば、あの赤いボール状の液体は衝撃を与えられると一時的にではあるが大規模のブラックホールを発生させるらしい。

やっぱり赤色物質じゃないか……というか、なんでそんな危険なものを作る必要があるんだ。

 だが、優希の説明を聞いても理解できない事は多かった。というより、説明が俺向きに作られ過ぎているのだ。とても分かりやすいが、その分深くを知ることはできない。何だか、化学の実験についてやさしく手ほどきを受けている小学生の気分になってしまう。悔しいが……きちんとした説明を聞いて理解できるとも思えない。

どれだけのプライドが俺の中にあろうと、ここにおいては、俺は無知な小学生と何ら変わりないのだ。

 そんなこんなで歩いていると、直ぐに目的の場所についた。いや、直ぐに、とはいっても小一時間は歩いたのだろうが、何せ未知の体験が道中に溢れていたのだ。時間の間隔が短く感じられてしまうのも無理はない。

~謎の部屋~

京太郎「で……この部屋がそのオカルト研究における最重要って訳か。確かに異様な雰囲気だな。」

優希「そうだじぇ。外の装置じゃできることは限られてるからな。あいつらじゃ精々、銀河数個滅ぼすのが限界だじぇ」

京太郎「はあっ!!!??? 銀河数個って……おいおい……。しかも、それでまだこの部屋の装置よりは劣ってるのかよ」

優希「ふふん、驚いたか?」

京太郎「言葉が出ねえよ……科学なんかより全然すごいじゃねえか」

優希「まあ、タコスの国の叡智は地球の科学のそれとは全く異質のものだから、単純な比較はできないんだけどな。ただその違いを分かりやすく言うなら……科学は物質を使用するのに対し、タコスの国の叡智は精神を使用する、って所だじぇ」

京太郎「せ、精神? それって心とか、そんなんか?」

優希「その認識だと、ちょっとした齟齬が生じるな。世間の常識として存在する精神と、私の言う精神はかなり違うじぇ。えっと……先ず、精神は全ての物質に等しく含まれている、ということ分かってほしいじぇ」

京太郎「はあ? すべての物質って……つまり土とか石とか、そう言うのも精神を持ってるってことか?」

優希「そうだじぇ。あ、物質って括りにするとちょっとわかりづらいかもな。どこまでが物質で、どこまでが物質でないのかという疑問を抱かせてしまうかもだじぇ」

優希「もっと分かりやすく言うなら、原子のレベルで精神は存在するんだじぇ」

京太郎「はあ!? いや、わ、わっかんね~~~よ! どういうことだそりゃあ!」

優希「だから言ったんだじぇ。精神イコール心だという認識を持ってると齟齬が生じるってな」

京太郎「ん、んじゃあ、精神って一体何なんだよ。そう言われると見当もつかねえな……」

優希「まあ、精神、なんて普段は抽象的にしか捉えられてないものだからな。こう言う風に具体的な話になってくると混乱するのも無理はないじぇ」

優希「そうさな、精神は言うなれば内的なエネルギーなんだじぇ」

京太郎「内的?」

優希「そう。といっても、物理的な『内』とは違うじぇ。原子の中に精神エネルギーが含まれてるだなんて単純な話だったら、人類は今頃、今のよりも百万倍進ん

だ文明の中暮らしてるだろうじぇ」

京太郎「そ、そんなにか……じゃあ、その内的なエネルギーってどういうものなんだ?」

優希「これにはもう気付いてるかもしれんが、外的なエネルギーとは物理エネルギー……科学者たちが、この世全てを支配しているものと信じて止まないエネルギ

ーの事を指すじぇ」

優希「それらはすべて法則という名のレールに沿って、『外側』に出発していく。故に外的なエネルギーなんだじぇ」

京太郎「法則に沿って……だから外的なエネルギー……か。あっ、という事はつまり」

優希「気づいたようだな! そう、精神エネルギーは法則に“従う”のではなく“逆らう”エネルギーなんだじぇ。つまりそれは、法則の内側に入り込んでいくエネルギーと表現することもできる……故に内的なエネルギー」

京太郎「レールに従うか、逆らうか……その違いって訳か」

優希「その通りだじぇ。内的エネルギー……なんて言うと、少し弱そうに聞こえるかも知れないけど、その本質は『法則の改変』というとてつもないものなんだじぇ」

京太郎「そんなハチャメチャなもんが俺達の中にあるってのかよ……信じられねえな」

優希「その気持ち、よくわかるじぇ。私も正直、しばらくは信じきることができなかったからな……」

京太郎「だろうな……。ん? じゃあよ、お前はどうやってこの精神エネルギーの事を知ったんだ? タコスの国の誰かに教えてもらったとか?」

優希「いや、違うじぇ。というより、それを教えることはできんのだ」

京太郎「どうしてだ? 何でも教えてくれるって言ってたじゃねえか。あ、も、もしかして、教えたら殺される、みたいなあれなのか……?」

優希「いやいやいや! そう言う訳じゃないじぇ。単純に、私も知らないってだけの話なんだじぇ……」

京太郎「……どういうことだ?」

優希「少し事情があってな……それについては今から説明するじぇ」

京太郎「優希……?」

 優希はその表情を真面目なものに変え、じっとこちらを見据えた。眼光は鋭く、唇はしっかりと閉じられている。少し中心に寄せられた眉も相まって、なんだか怒っているようにも見える。言うなれば、「有無を言わさない顔」だ。

 俺はそんな表情の優希を見たことがなかった。普段の優希はおちゃらけていて、その顔には常に活発な笑みを浮かべている。それ以外だと、時たま悲しそうな表情を見せたりすることがあるくらいだ。

 そんな優希がこうして表情を改めたのだ……おそらくここから「本題」に入っていくのだろう。この先には一体どんな事実が待ち構えているんだ? これまでも衝撃の連続だったが、それ以上の何かがあるというのだろうか? 

 俺の心が、不安で震えた。

優希「…………」

京太郎「…………」

優希「…………」

京太郎「…………?」

優希「……そ」

京太郎「そ?」

優希「そんなに見つめないで欲しいじぇ……」ポッ

京太郎「えっ?」

ここまでです
やっぱり完結にはもっていけませんでしたね

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