イアン「結婚しないか」(21)

※イアン×リコ


イアン「聞こえなかったか?おーい」

リコ「酔ってるだろ」

イアン「何、こんなの飲んでる内に入らん」

リコ「どうだか。しかし勿体無いな」

リコ「せっかくの良い酒なのに、もう半分もないじゃないか。味わって飲まないと」

イアン「そうは言ってもな・・・・・・、こんなに美味いのにちびちび飲むのはなぁ」

リコ「ミタビなんて最初の一杯で潰れたのに」

イアン「あいつと比較するな。・・・じゃなくて」

イアン「リコ、俺とけkk」

リコ「何度も言わなくていい!」

リコ「どういう風の吹き回しなんだ。
   けっ・・・結婚なんて。そもそも私達は、付き合ってすらいないだろ!」

イアン「大声を出すな、ミタビが起きる」

リコ「うっ・・・」

リコ「・・・なんで急に、こんな事」

イアン「俺たちには時間がないからだ」

リコ「時間?」

イアン「俺達は死と隣り合わせだ」

イアン「いくら駐屯兵団は安全と言っても、退官まで何事もないって保証はない」

イアン「だから、生きてる内にやれる事はやっておきたい、と思ってな」

リコ「・・・そんな事」

イアン「悲観的になってる訳じゃないさ」

イアン「ただ俺は、悔いの無いようにやりたい」

リコ「それでも急すぎるよ」

リコ「だって私は、急にそんな・・・結婚、なんて」

リコ「大体、好き・・・とか、言われた記憶もないよ」

イアン「そういえば、言った記憶もないな。
     うん、言い忘れてたけど、愛してるんだ」

リコ「っ!! そんな、軽いノリで・・・っ!」

イアン「俺は本気だ」

リコ「でも、あの・・・・・・」

リコ「・・・・・・」

リコ「・・・・・・」

リコ「・・・ちょっと、風に当たってくる」

イアン「あ、ああ」

イアン「急で悪かった」

リコ「本当だよ」

イアン「・・・今すぐ決めろとは言わない」

イアン「ゆっくり考えておいてくれ。・・・ああ、でも」

イアン「俺が死ぬ前に返事はくれよ?」




・・・・・



***

・・・・・・・・・。


官舎の外に出ると、夜風が涼しい。

そこまで飲んでいた訳じゃないけれど、それでも少し、酔っていたようだ。

風が心地よい。

ただじっとしている気にもなれなくて、足の向くままに基地の中を歩き回った。

歩き回るうち、訓練場に辿り着いた。

深夜の訓練場はただ広いだけで、人っ子一人いない。

リコ「・・・・・・あれ?ここは・・・」

リコ「・・・ああ、そうだ」

リコ「イアンとミタビに会った場所だ」

リコ「ここに配属されてきた時に、初めて話した・・・」

リコ「・・・・・・」

リコ「あの時は楽しかった」

リコ「上官に・・・司令にまで期待されて、訓練を積んで」

リコ「精鋭として扱われた時は嬉しかった」

リコ「そう。あんなに・・・あんなに、訓練したのに」

リコ「皆、食われてしまった」

リコ「・・・食われた?」

リコ「・・・・・・・・・」

リコ「ああ、そうか」

リコ「二人はもう、いないのか」

リコ「私は、一人になってしまった・・・」



***


イアン「おい、リコ」

リコ「・・・・・・」

イアン「どうしたんだ、凄い汗だぞ」

リコ「・・・イアン」

イアン「?」

リコ「生きてるのか?」

イアン「へ?いや、この通りだが」

リコ「・・・・・・」

イアン「寝惚けてるのか?」

リコ「・・・そうかも」

イアン「朝までまだ結構あるぞ。寝ろ、寝ろ」

リコ「・・・・・・」

リコ「夢を見たんだ」

イアン「夢か」

リコ「酒を飲んでてね」

イアン「お前、そんなに酒好きだったか?」

リコ「違うよ、イアンと飲んでて。
   ほら、あの時だよ、あんたがいきなりプロポーズしてきた時」

イアン「あ、ああ。あの時の」

リコ「それで夜風に当たろうと思って、外に出たんだ」

リコ「そうしたら、イアンが死んでる事を思い出すんだ」

イアン「俺が?」

リコ「そう」

リコ「夢の中では、皆死んでるんだ」

リコ「イアンも、ミタビも、私の部下も、皆いなくて」

リコ「一人で、訓練場の真ん中で膝を抱える。そんな夢」

イアン「・・・怖いな」

リコ「怖かったよ」


イアン「でも、俺は生きてる」

リコ「うん」

イアン「ちゃんとここにいるからな」

リコ「・・・うん」

イアン「・・・・・・あと」

リコ「?」

イアン「あー、その、なんだ」

イアン「リコが待っててくれる内は、悲しませるような事はしない」

イアン「・・・・・・だから、その」

イアン「リコ。君が好きだ」

リコ「・・・・・・」

リコ「・・・うん」

リコ「私も――」


***

・・・・・・・・・。

目を開けると、刺すような朝日が目を焼いた。

カーテンを閉め忘れたのか、誰かが既に開けてしまったのか。

窓から外を見ると、日はもう高い。

寝過ごしたか、と思ってから、今日は非番だと気付く。

・・・・・・さて、何をしよう。

リコ「何も、思い浮かばないな」

リコ「かといって、官舎にずっといても仕方ないし」

リコ「・・・とりあえず、外に出よう」


食堂には人はまばらだ。

時間が遅いのを差し引いても、少なすぎる。

先日の一件で、兵士自体がかなり減ったからだ。

かなり味気ない食事を済ませて、外出届を出して街へ出る。


リコ「まだ直っていない建物もあるんだな」

リコ「避難したきり、住民の戻ってこない家もあるらしい」

リコ「・・・仕方ないかもな」

リコ「五年前はシガンシナ、今度はトロスト区」

リコ「突出地域になんて、住みたくないに決まってる」

リコ「死にたくないに決まってるし」

リコ「家族や・・・大切な人を失ったりも、したくない」

リコ「・・・・・・」

リコ「・・・あ」

リコ「そういえば、墓参りに行っていないな」


兵士の墓地は、見晴らしの良い丘の上にあった。

墓地と言っても、大勢が一つところにまとめられる共同墓地だ。

巨人が吐いた死体からは、個人の判別どころか、遺骨を分けることすら出来ないから、
こうなるのも当たり前なんだろう。

それでも、ちゃんとここに骨があるだけ運が良いのかもしれない。
調査兵団のように壁の外で食われてしまった人には、墓すら建たないんだから。
墓の前に立って、そんな事を考えていた。

リコ「・・・会いに来たよ。皆」

リコ「遅くなって、悪かった」

リコ「こっちは少し大変でね。兵法会議にも出たよ」

リコ「あの訓練兵は調査兵団に入った。
   これからは・・・どうなるか解らないけれど、何とかなるだろう」

リコ「私は、何とかやっているよ」

リコ「部下もほとんど失ってしまったけど、もうすぐ新兵も配属されて来る筈だし」

リコ「・・・・・・」

リコ「・・・・・・イアン」

まだもっと、話したい事があった。

こんなに早く別れが来ると解っていれば、もっと素直になれたのに。

リコ「あの返事も、まだしていなかったな・・・」

もしかしたらイアンには、何か予感めいたものがあったのかもしれない。

虫の知らせ、というのか。

あれはまだ、作戦が始まるどころか、壁に穴さえ空いてない時だったけれど。

リコ「はぁ。ミタビ達の前で返事をするのも気が引けるけど・・・・・・」

リコ「・・・私で良ければ」

リコ「嫁に貰ってください」

リコ「・・・・・・」

リコ「言い忘れていたけど、私もイアンを――」



***


イアン「おかえり、リコ」

リコ「ただいま」

リコ「・・・一緒に住むなんて、なんだか変な感じだ」

イアン「結婚したからな」

リコ「そうなんだけど、実感が沸かないよ」

イアン「ミタビや部下の目の前で返事をしておいて、何を今更・・・」

リコ「・・・仕方ないだろ、勢いで、つい」

イアン「それに式も挙げたし、あんな事もしたし」

リコ「あんな事って・・・っ、けど、あれはイアンが」

イアン「それで結婚した実感が無いって。少し落ち込むぞ」

イアン「しかも一晩中、あんなに何度も」

リコ「~~~~っ!」


イアン「うわっ、悪い、悪かったって!殴るな、痛いから」

イアン「そ、それにだ!今日は良い物があるんだ。実感も沸くさ、必ずだ」

リコ「は?いい物・・・?」

イアン「そう、手を出してくれ。・・・そっちじゃない、左手」

リコ「え?」

イアン「・・・・・・」


リコ「・・・これって、指輪?結婚指輪って事?」

イアン「そうだ。後先になったけどな」

イアン「実感沸いたか?」

リコ「・・・・・・うん、かなり」

イアン「それは良かった」

リコ「その、イアン」

リコ「ありがとう・・・これ、大切にする」

イアン「どういたしまして」

リコ「・・・その、イアン」


リコ「愛してるよ」

おわりです、リコさん幸せになってほしかった
短くてごめんね

このSSまとめへのコメント

1 :  岡崎   2017年01月11日 (水) 19:02:58   ID: rYXqv869

イアンとリコはお似合いかも。

2 :  西岡崎   2017年01月11日 (水) 19:43:05   ID: rYXqv869

楽しく読めた

3 :  刈谷   2017年01月11日 (水) 21:34:40   ID: rYXqv869

良かった

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