シロウ「何度目の聖杯戦争だ?」(94)

落ちたのでリベンジ

※注意書き

あくまでIF
舞台はステイナイト
登場マスターは型月のキャラ
サーヴァントは総取っ替え
主人公はシロウ



 完璧だった。その手応え……

 ドンピシャ。引き当てた。ここ一番で失敗せず、間違いなく遠坂凛は目当てのサーヴァントを召喚した。


凛「貴女、セイバー?」


 深夜。時刻にすれば丑三つ時。自宅の地下に在る物置小屋で、厳重に厳重を重ねた魔方陣は最高の結果を現界させる。  

 魔方陣の中央、消えて行く柱の中から姿を表したのは一人の少女。

 ブルーブラックの長い髪を大きなリボンでポニーテールに束ね、頭にはウサギの耳をあしらったカチューシャを付けている。



セイバー「そう。そう……」


 そして凛の方を向いて短く返事をしながらコクリと頷き、ゆっくり辺りを見渡してもう一度短く言葉を発して目を瞑った。

 まるで何かを考えているかのように黙り混み、微動だにせずただその場に立ち竦む。


凛「変わった服装ね……制服かしら? ねぇセイバー、貴女……強いのよね?」


 凛が不安に思う要素は充分だった。召喚した瞬間こそテンションあげあげだったが、今、じっくりと、上から下まで眺めて、「しくじった?」と頭を抱え込みそうになる。

 まず、このサーヴァントには『凄味』が無いのだ。声を聞いただけで逃げ出したくなるような、姿を見ただけで絶望するような、極端な話し、怖くない。そこいらに居る女子高生と見た目は何ら同じ。






 だが、それとは逆……



 同じ日、同じ時に召喚を行った間桐桜は、全く逆の反応をしていた。


桜「あの、あのっ、貴方のクラスを……教えて、ください」


 召喚に応じたのは高身長の男。黒い髪をセンターパートで分け、黒いロングコートに、黒いフィンガーグローブに、黒いブーツ。黒一色を身にまとう黒の支配者。

 桜を最初に襲ったのはその威圧感で、何もしていなくとも、居るだけで精神を削り取って行く凄まじいプレッシャー。

 それでも何とか途切れ途切れで声を紡ぐと、ようやく長い時間を掛けて短い質問を終えた。


アサシン「アサシンだ……気を抜けマスター。今は休息に全力を注ごう」





 更にこの時、奇しくも……


 一つのサーヴァントが呼び出され、一つのサーヴァントがこの世から姿を消し去る。


綺礼「ランサー……よもや、英雄王すら鎧袖一触とは」


 世界最古にして黄金の英雄王ギルガメッシュは、宝具を使う事すら許されず『ミンチ』になった。

 身体が粒子の光に分解されて消え失せ、前回の聖杯戦争から現界を続けていたチャンプは、真っ先に今回の戦いから脱落する。


ランサー「フン。ちょいと、ぶちかましてやっただけなんだがな? 英雄王とやらも、このオレには勝てんかったようだ」


 ランサーの外見をシルエットだけで表すのなら、ケンタウロス……これだろう。

 武器こそ西洋の槍で頭に角が生えてはいるが、腰から下は馬のような四足歩行で、足の一本一本が隆々とした筋肉で膨れ上がっている。



綺礼「して、ランサー、貴様の願いは何だ?」

ランサー「知れた事。仲間の復活……それしかあるまいて」


 これで、今日、この時、この瞬間、召喚されたのはセイバー、アサシンに続いて三人目。


 しかしもっと前、とうに現界しているサーヴァントも存在した……


 それは森の奥深く、アインツベルンの古城で端的な呼吸を繰り返す。




 ──コー、ホー。コー、ホー。




イリヤ「バーサーカー、夜の散歩に出るから着いて来て」

バーサーカー「コー、ホー。わかった」

 電子音が混じる声、アサシンと同様にこちらも黒。ただ、バーサーカーの黒は本物だ。服が、では無い。髪が、でも無い。まるで影のように目以外の全てが黒い。



 格好はリングコスチュームで、それにメットを被り、仮面が顔を覆う。

 覆面レスラー……と言ってしまえばそれまでだが、無論にしてたかだか覆面レスラーの筈も無い。


 バーサーカーは特徴的な呼吸を繰り返しながらマスターのセリフに応えると、大気中に溶けるように己の姿を不可視に変えた。




 セイバー、アサシン、ランサー、バーサーカー。そして続いては……




志貴「お前は、何なんだ?」

アーチャー「江戸川コナン、アーチャーさ!!」


 七夜志貴。彼が呼び出したのは、飛び道具を得意とするサーヴァント。



 だが、何なんだ? そんな問い掛けが自然と溢れるのも頷ける。

 それは外見。低い身長、細い身体、幼い顔立ち。どう見ても小学生低学年にしか思えない。

 しかし小学生低学年には思えない言葉使い、鋭い眼光、蝶ネクタイを身に付ける大人びた格好。やはり英霊として呼ばれるに値する存在なのだろう。


志貴「探偵? チッ、とんだ外れクジか……」

コナン「ハズレ? 違うよ……僕は英霊だけど英霊とは誰にも悟られ無いスキルと、最強の宝具を持ってるんだ」



コナン「そして、マスターの居場所は誰よりも先に探知できる……この結論から、僕がハズレだと思う理由を言ってみてよマスター?」





 そして数日が過ぎ、場所は古ぼけたガラクタの溜まる蔵の中へと移る。

 これもまた深夜。赤みがかった髪の少年と向かい合うのは、腰のラインよりも長い黒髪の少女。



 ──貴方が、私のマスター?



シロウ「えっ、あ、あっ……あの」


 血よりも赤い瞳。雪よりも白い肌。どんな闇よりもドス黒い髪。黒いロングスカートのセーラー服に黒いタイツを穿いた学生……初見でこの人はどんな人だと問われたならば、そんな答えも出よう。




 しかし、しかし、しかし。


キャスター「私はキャスターよ……はっきりしなさい。マスターなら、『食べない』から」


 これは人外なのだ。シロウとキャスター、向き合っちゃあ居るが、シロウは両腕を胴体ごと蜘蛛の糸でグルグル巻きにされ、グルグル巻きにしたキャスターは目を細めて微笑む。

 性的に、では無い。食的に、食べる。つまりは餌。シロウの返答を待ち、マスターを拒否したならば、その肉体を即座にバラして食つもりだった。


シロウ「すぅぅっ、はぁぁっ……うん、俺がマスターだ。でも驚いたよ、女の子が出てくるなんてさ」



 これにて、6/7。残るは一体、最後のサーヴァント。


ウェイバー「やっぱりボクは、ライダーを引く運命に有るんだな……でも大丈夫かお前? なんちゃらしんけんとか聞いた事も無いぞ?」

ライダー「何だ、北斗に文句が有るのか? 北斗の文句は、北斗の文句はなぁっ、北斗の文句は俺に言え!!」


 太い葉巻を咥え、薄紫色のカンフー胴着に身を包む。筋肉隆々の分厚い胸板、腕、足。三文字で述べるのなら、『ゴツい』。


ウェイバー「いや、文句は無いけどさ……強いんだよなライダー?」

ライダー「クンクン、くんくん……この臭いは、上海(しゃんはい)!?」

ウェイバー「って、中国か? それより質問に答えろっ」

ライダー「この街のどこかに、上海の臭いがする相当な手練れがいるな」




 戦いの駒は出揃った。後はその時を待つばかり。

 全てのマスターとサーヴァントが登録を済ませて三日後。聖杯戦争前日……



キャスター「手出しもしない最弱のサーヴァントに一太刀も浴びせれず、それでよく「女の子には戦わせられない」とほざけたものねマスター?」

シロウ「ぐっ、くっ……はぁっ、はぁっ、はぁぁっ」



シロウ「だって、『この時の俺』なら言いそうなセリフだったからな。だけどヤメた……『一周目』をなぞるのは、もう、ヤメた」

キャスター「んっ?」


 早朝。広い道場の中、エミヤシロウは息を整えると左右にそれぞれ竹刀を握る。

 素人芸……と笑う事なかれ。二刀流こそがこの少年のスタイル。その証拠にキャスターから余裕が消え、値踏みをするように目を細めてシロウを見据えた。


シロウ「あくまでもパートナーとして接し、パートナーとして接して貰いたい。だからマスターがサーヴァントに舐められるのは否だ」

キャスター「そう……つまり主導権を渡すつもりは無いと? ふふっ、良いわ、来なさいなマスター」

今度は落ちないペースで書いてく…

350レスぐらいまではコピペ



シロウ「ああ、そうだな……そう、させて貰うよ」


 サーヴァントに凝視されようと、然りとて心音に変化は無い。

 足を開き、上体を前傾させて極限まで重心を下げ、一歩目を踏み切る右足に全体重を乗せる。

 後はタイミング。十メートル程も離れたキャスターの呼吸するタイミングを計り、1、2、3……




     お



シロウ「おおおおおおおおおオオ!!!」


 三度目の息を吐くタイミングに合わせて、地面を思い切り踏み切った。

 咆哮と呼べる大声、それさえ上書きする板床が剥がれ砕ける音。その中を自身の身体を弾丸にして跳躍する少年の姿。



 たかが人間……と思わせてからの、奇襲。奇策。豪腕戦略。


キャスター「ふふっ、あはははははははは♪♪」


 しかし、その奇襲を、奇策を、豪腕戦略を、汗一つ掻かずに捌いてこそのサーヴァント。

 キャスターの手首から先が黄色と黒の毒々しい色に変わると、降り下ろされる竹刀を一本ずつ掴み、そして握り潰した。


シロウ「なっ!?」

キャスター「真剣なら驚きもしたけど、所詮は模造刀……それで、続けるのかしらマスター?」



シロウ「いや、止めておくよ。よろしくキャスター。それで、なんだけど、真名を教えて欲しいんだ。それで作戦も立てるからさ」


 シロウは折れた竹刀を道場の隅へ放り投げると、ニコリと笑ってキャスターへ右手を差し出す。


キャスター「比良坂 初音(ひらさか はつね)……よ。こちらこそ、良いマスターに巡り合えたようで嬉しいわ」


 キャスターは一瞬だけ考えるが、わざわざ隠す必要も無いと結論付けると、シロウの手を取って握手を交わすのだった。



 最終的に裏切るとしても、使えるマスターだと分かればまずは信頼関係を築く。それがキャスターとしての常套手段。


シロウ「初音。初音……悪い、聞いた事が無いな」

初音「平安の頃に生きていた、土蜘蛛よ」


シロウ「平安時代に生きてて、セーラー服を着てるのか?」

初音「ふふっ……」





  聖杯戦争開始 一日目



シロウ「確かに、藤ねぇが来ないな……」

初音「言ったでしょ? 魔術は得意ではないけれど、陣地作成ぐらいはできるって」


 夜の間に衞宮邸に張り巡らされた不可視の結界。無意識にこの場所から足を遠ざけさせ、それでもシロウと初音以外がここに侵入すれば、自動的にドレイン呪術へ切り替わり精力を吸い上げる。

 強力なA級結界だが、ギリギリ魔術のカテゴリーに分類されるもので、初音が扱えるのはコレしか無かった。キャスターのクラスで召喚されたにも関わらず、魔法も魔術も使えない。


シロウ「なら、ひとまずは安心か……じゃあ、俺は学校に行くよ。マスターには何人か心当たりが有るから探って来る」



初音「その言い方だと、まるで『学校にマスターが集まってる』って聞こえるけど?」

シロウ「この聖杯戦争の為に準備してた奴は一人居て、その他はどう転ぶかって感じかな? 実際に会って見るまでは分からないけど」


初音「ふぅん……なるほどねぇ。それじゃあ、出番が来るまではマスターの勉強姿でも覗かせて貰うわ」


 朝の食卓風景。シロウは食べ終わった食器を洗いながら、キャスターは湯飲みに入ったお茶を正座して飲みながら、朝の食卓風景には相応しく無い会話を終えた。

 もう平常には戻れない。下手を打てば明日を拝めない。最後の一組になるまで、戦い続けるしかない。


シロウ「よしっ、行くか!!」


 シロウは洗い物を全て拭くと両手で自らの頬を張って気合いを入れ、キャスターはまるで空気中に溶けるように体を透明化させた。





  学校 昼休み



シロウ「おっ、二人とも先に来てたのか?」


凛「衞宮君、これはどう言う事かしら?」

桜「先輩……」


 学校の屋上、扉を開けた先では二人の女生徒が気不味そうに向き合い、シロウが到着すると揃って顔を向ける。

 何故なら、この状況はシロウによって作り上げられたものだから。前もって休み時間にそれぞれ呼び出し、昼休みの屋上でこのメンツを集合させた。


シロウ「遠坂、お前マスターだろ? それと桜……お前はマスターなのか?」


 そして手の甲に浮かぶ『証』を見せながら、開口一番で確信を問い掛ける。



 凛の場合は勿論なのだが、桜の場合は反応しだい。「何を言ってるんですか先輩?」そんな言葉、そんな表情、それだけで桜はマスター候補から外す。


桜「あはは……何を、言ってるんですか先輩?」

シロウ「ちょっとゴメンな」


 しかし、どれほどの関係なのだろうか? 毎日のように顔を合わせ、毎日のように料理を振る舞い合うと言うのは?

 相手に後ろめたい事など無く、きちんと目を見て会話をし、だからこそ、咄嗟に誤魔化そうとする嘘が見抜ける。


シロウ「背中、少し冷たいな桜? そっか……桜もマスターか」




桜「え、えっ、えっ!?」

凛「ちょっ、衞宮君!!」


 シロウは桜の背中に腕を回して抱き締めるとすぐさま離して謝り、凛にグイグイ押されて更に距離を離した。

 今、この時、この瞬間。この場所には三名のマスター。


シロウ「二人とも、俺と組まないか?」


 最弱と言われるキャスターを召喚した者が述べるべき事は、決まっていた。



 そして、呼吸する音だけが屋上で息づき、10秒、20秒、30秒……


凛「それ、マジなわけ?」


 最初に応答したのは凛だった。片手で自身の顔を覆うように隠し、指の隙間から提案者で有るシロウを覗く。

 疑心暗鬼。凛はこの聖杯戦争に備え、冬木市に存在する魔術師の家系を全て調べた。



 当然シロウの事も調べ、調べた上で「魔力が無いから白」としたのに、そのシロウがマスターに選ばれている。

 この状況がまず凛は信じられなかったのだ。


シロウ「ああ。俺達が残るまでって期間限定ではあるけれどな。本格的な共闘とまでは行かなくても、他のサーヴァントの情報を共有するぐらいで良いぞ?」

桜「先輩……相談もしたいので、返事は今すぐじゃなくても大丈夫ですか?」


シロウ「それなら二人とも、もし組んでも良いと思ったら、今日の夜9時までに俺の家に来てくれ。表で待ってるよ」






 そんな三人のやり取りが、今から凡そ5分前。




 今も屋上に残っているのは凛と桜だけで、これから始まるのは少女達だけのマスターガールズトーク。


桜「私は、組もうと思います。遠坂先輩はどうするんですか? 遠坂先輩は裏切られる可能性も有るのにわざわざ組むはずもないですよね? 組まないですよね? すみません、聞くまでも有りませんでした」


 桜は捲し立てるように刺々しい台詞を言い終えると、とどのつまり「お前は来るな」と示して頭を下げる。



凛「あ、当たり前じゃない!! でも一応、帰ってからサーヴァントと話し合ってみるわ。まぁ組まないけど一応ね、まぁ組まないけど!! じゃ、私は早退するからっ」


 だが凛は濁す返事に留めると、手をヒラヒラ振って屋上から去るのだった。

 ガチャン!! と、扉の閉まる音が響く。




桜「例えばだけどアサシン……貴方なら今の女を悟られずに殺せる?」




セイバー 川澄 舞(かわすみ まい)

ランサー ダンターグ

アーチャー 江戸川コナン

ライダー 霞 拳四郎(かすみ けんしろう)

アサシン 孔 濤羅(こん たおろー)

キャスター 比良坂 初音(ひらさか 初音)

バーサーカー ウォーズマン





 聖杯戦争一日目 夕方 とある貸ビルの一室。



志貴「お帰りアーチャー。で、マスターはわかったのか?」

コナン「ただいま志貴お兄ちゃん。おおよそ、だけど何人かね」


 志貴はソファーに座りながらつまらなそうにテレビ番組を眺め、アーチャーは部屋に入ると背負っていたランドセルを志貴の隣に投げ捨てた。


志貴「聞こうか」

コナン「まずはここから離れた森の奥に一人。この時期に、この場所に、魔術師がやって来たなんてまずマスターと見て間違いないよ」



コナン「それとここからそれほど離れて無い位置に、有名な魔術師の家系が二つ有る。恐らくどちらか……もしくは両方の家系がマスターの可能性が高いね」

志貴「ふむ、それならさっそく、今日から一夜一殺で行こう」


コナン「森の中ならイリヤスフィール。近くなら遠坂凛か間桐臓硯。僕の推理ではこうだけど、サーヴァントは未だ謎のまま。それでも行くの?」

志貴「魔術を得意とするキャスターだと少々厄介だが、キャスターの時はお前が相手をしろ」


コナン「りょ~か~い。じゃあまずは腹ごしらえだねっ」





 聖杯戦争一日目 同時刻 教会地下



 まさか。そう思っただろう。まさか、このような展開になろうとは……


ダンターグ「どうした、貴様の力はその程度か?」

綺礼「ぐっ……シィィィィッ!!」


 綺礼が放つ無数の黒鍵。連続投擲による弾幕に次ぐ弾幕。その全てが己がサーヴァントで有るダンターグの上半身に突き刺さる。

 それをダンターグは防ごうともせず、むしろ腕を広げて自分から食らいに行く。



ダンターグ「このような攻撃ではな……この攻撃を『100』としたら、オレの一定秒数ごとの自己再生値は『999』。まるで足らんぞ?」


綺麗「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

ダンターグ「しかし、先程のすかした拳法擬きよりはだいぶマシか。それに、ようやく貴様の『人間らしさ』も見えて来たしな」


 ダンターグは刺さった黒鍵を一本ずつ引き抜きながら、息を乱す綺麗を見下ろしニヤリと笑う。

 気に入らなかった……その達観した人生感も、無気力に見える言動も。



 かつて人間だった頃の七英雄ノエルもそんな奴だったが、そんな奴でも妹のピンチには表情を鬼にして駆け付けていた。

 だからこそ仲間として信頼できたし、最後まで背中を預けられた。


綺麗「こんな事をして、いったい何になる!?」

ダンターグ「人間(ザコ)のクセに強者を装うな。人間は人間らしく……怒れ、泣け、笑え!! 長年共に居た英雄王とやらをオレが殺した時、貴様は怒りも泣きもしなかった」


綺麗「ふっ、それが何だと……」

ダンターグ「怒り、泣き、笑える者が強き人間だ。したがって貴様は、体術が得意だろうが、奇妙な武器を使おうが、人間の中でもザコなのだ」


ダンターグ「そんなザコを、マスターと呼び共闘など出来ん……貴様を殺し、他の者をマスターとして再契約しよう」



綺礼「くっ……ふはははは!! くだらん。こうやって笑えば良いのか? 泣けば良いのか? 怒れば良いのか? 強き人間になったところで、サーヴァント相手にどうなるものでも有るまい」

ダンターグ「生前、オレを倒したのは強き人間だ。1200年掛け、何代も何代も血を受け継いでな」


 強き人間に育てようとするランサーと、それを否とする綺礼。どちらも意志を曲げずに一歩も引かない。

 とすれば、マスターとサーヴァント……自ずと結末は見えて来る。



綺礼「どうやら……意見はどうやっても別つようだな。七英雄ダンターグよ、令呪によって命ずる!! これ以上私の邪魔を……」

ダンターグ「セヴンセンシズ、ボクオーン!! マリオネット!!」


 力の強い方が、力の弱い方を、力を以て、制するのだ。この場合はお互いの切り札。綺礼の切り札(令呪)とランサーの切り札(宝具)。

 そしてより早く発動したのは、後手で割り込んだランサーの切り札。

 ランサーは一瞬で外見をピエロの仮面を付けた細身の姿に変えると、声帯ごと綺礼の動きを封じ込めていた。





 聖杯戦争一日目 夜 衛宮邸前



 20時55分。シロウが門に背中を預けていると、大きなスポーツバッグを持った少女が駆けよって来た。


シロウ「おお、来てくれたのか桜!!」

桜「はいっ、話し合ったんですけど。やっぱり先輩と一緒の方が安心だろうって」


シロウ「と、言う訳だ。キャスター、桜も家の中へ入れるようにしてくれ」

初音(この少女ね? ええ、結界の設定を変えたわ)


シロウ「それと桜……最初はマスターだけで話し合いたいから、サーヴァントはここに待機させててくれないかな? もちろん、俺のサーヴァントもここへ待機させて置くから」

桜「えっ、あの……先輩が、そう言うなら」





 聖杯戦争一日目 夜 衛宮邸内



 桜は多少の受かれた気分で門を潜り、玄関に上がり、茶の間の障子を開け、持っていたスポーツバッグをドスンと床に落とした。


桜「なっ、何で遠坂先輩が居るんですか!?」

凛「あら桜、いらっしゃい」


 そこに居た先客は見知った……何ならついさっきまで話していて、ここで出会う筈も無いと思っていた人物。



 凛が座布団の上で正座し、テレビを見ながらお茶をすすっていたのだ。


桜「組まないって言いましたよね? 言いました!! い、い、ま、し、た!!」

凛「うっ……わ、私はどっでも良かったんだけど、サーヴァントが……ね? あはは」


シロウ「桜、お茶を出すから桜も座ってくれ。取り敢えず大事な事だけ決めちゃうからさ」



桜「組まないって言ったのに、言ったのに……嘘つきウソつきうそつき」


 桜はジト目で凛を見据えながらもシロウに促されて隣へ座り、シロウは新たに三人分の湯飲み茶碗をお盆に乗せ、二人と向き合う位置に腰掛ける。


シロウ「さて、桜と遠坂を疑う訳じゃないけど、お互いに安心できるように『おまじない』を掛けたいと思うんだ。まずは遠坂、右手を出してくれないか?」


凛「んっ、こうかしら?」


 凛が右手を伸ばし、テーブルの中央辺りへ置く。



シロウ「オッケー。次に桜、遠坂の手に左手を重ねてくれ」

桜「この人の手に、ですか? わかりました……」


 続いて桜が左手を伸ばし、凛の手に左手を重ねる。


シロウ「で、最後に俺が桜の手に左手を重ねて、っと」



凛「どうするのかしら? まさか団結の掛け声とか?」

シロウ「いやいや、そうじゃなくて、そうじゃなくて……だな」


 と、ここで凛は異変を感じた。まるで押さえ付けられているかのように手が重いのだ。

 最初は桜が嫌がらせをしていると考え何もしなかったのだが、多少なりとも痛みを感じて来たので桜へ視線を送る。


桜「せん、ぱい……ちょっと、痛い、です」


 しかしそれは間違いだとすぐに分かった。桜も凛と同じで、だとするならば、押さえ付けているのは、エミヤ、シロウ。



シロウ「トレース、オン──」

凛「えっ、何よそれっ!?」


 まるで鮮血でコーティングされた深紅の刃を持つ、果物ナイフ程の小刀を逆手で握る、エミヤ、シロウ。


シロウ「ごめん桜、遠坂、すぐ終わるから。えーっ、と……これは『剣と盾の誓い(アイゼルメイカー)』って儀式剣で、これを刺されても傷一つ付かない」



シロウ「でも、刺されている間は、本人が嘘と認識してる事を言うと痛みが走る……これを今から俺達の手に刺して質問応答をして行くけど、良いか?」




凛「上等っ。たった今、衛宮君に死ぬほど質問する事ができたわっ!!」

桜「私も構いません。先輩、どうぞ」


シロウ「ありがとう二人とも……行くぞ?」




 ──トン。




 シロウは右手を降り下ろし、赤い刃の短刀が三人の手を貫通してテーブルへ突き刺さった。

 だが前述通り、その光景を目視していなければ、短刀が刺さっているとは信じられないぐらいに、痛みも、何も感じない。



シロウ「まずは俺から。サーヴァントのクラスと、俺達以外の予想できるマスターについて話すよ。サーヴァントはキャスター。ただ、どうやら魔術は苦手らしい」

シロウ「そして予想するマスター候補は教会の神父。確率は低そうだけど柳洞寺に住んでる葛木先生。最後は確定で、恐らく近々相手から攻め込んで来る……女の子。こんな所かな?」



凛「次は私。サーヴァントは、ふふん……セイバーよ。少し無口だけどね。予想してるのは衛宮君と同じで柳洞寺。だけど私の場合は一成君よ。質問は……桜が終わってからで良いわ」

桜「私のサーヴァントはアサシンです。剣の勝負だったら、セイバーにも負けないと言ってました……言ってました。言ってましたよ遠坂先輩?」




凛「何よ?」

桜「他のマスターについては、すみません……ちょっと分からないです」


 桜と凛の間に刺々しさが残るものの、一巡目はそれぞれの情報を頭に入れながらすんなりと終わった。

 次巡は質問。表情だけで凛がウズウズしているのが見て取れる。




凛「で、で、でっ。そろそろ質問いいかしら衛宮君? 衛宮君の魔術の事なんだけど……」

シロウ「んっ? ああ、どうぞ」


 こうして夜は更けて行く。三人のマスターによる会議は日付が変わるまで続き、まだ穏やかな聖杯戦争の一日目が終わった。



 穏やかでなかったとすればこことは違う場所。間桐の屋敷、その一室。



志貴「切り裂きたくなるような美しい月だ……そう思わないかジジイ?」

臓硯「カカッ、なんじゃ小僧? 不法侵入は駄目だと、親に教わらんかったのか?」



 臓硯が自室に入ると、そこには椅子に座って背中を向け、窓から月を見上げる少年が居た。


 あくまでも座った後ろ姿で、パーカーを被り全容は把握できないが……若い男の声。

 それが確実に目の前の人物から聞こえて来るのだから、その認識で当りだろう。


志貴「チッ、ほら答えろよ。お前のサーヴァントは何だ? キャスターか?」

臓硯「サーヴァント、とな? キャスター、では無いな」




志貴「と、言う事は、だ……今からジジイに切りかかっても、何かしらの結界が発動するなんて事は……」

臓硯「ない」




 ドスッ──




臓硯「心配する必要は無いぞ小僧? お主はたった今、死んだのだからな……ふぇっふぇっふぇっ」



 声を遮り、臓硯の腕が鞭のように伸びてしなると、一瞬で椅子に座っていた少年の首を切り落とした。

 愉快。痛快。ケラケラケラケラ。


臓硯「どぅれ、顔でも拝んでやるか」


 そして落ちて転がる頭部からパーカーのフードを取り去り、髪を掴んで持ち上げ……


臓硯「ふぇっ?」


 それが間桐シンジだと気付くまで、大幅な時間を有した。


志貴「よぉジジイ、気分はどうだい?」

臓硯「キサマァァァァァアア!!」


 本物の志貴は真上。天井にまるでヤモリのように張り付き、今の今まで息を殺していた。




 真実は、いつも一つ!!


 この事件のトリックはこう……

 まず気絶させたシンジの胸にスピーカー型ピンバッチを付け、そして蝶ネクタイ型変声機で声を志貴に変えたアーチャーが、物影からまるで椅子に座っているのは志貴であるかのように装った。


臓硯「死ねぃ小僧ッ!!」


 臓硯は再び腕を鞭に変えると、志貴に向けて大きく凪ぎ払う。

 人の首を跳ねただけ有ってその凶器性は凄まじく、進行先の壁を、天井を、ガリガリと削り破壊する。


志貴「これからは孫と二人……あの世で良きご余生を」


 しかし志貴は慌てもせず、逃げもせず、むしろ振るわれる鞭へ飛び込み、臓硯に向かい足場となる天井を蹴り飛ばした。




 トンッ──




 その結末は、そんな音のように軽く呆気ない。


志貴「死の点を突いた。もうじき間桐臓硯と言う存在は消滅する……アディオス、ジジイ」

臓硯「ま、待てっ、まだ儂は……ひあ゙あ゙ぁぁぁァァアア!? 体がっ、体が溶けるぅっ!!」


 志貴が握っていたナイフは臓硯のうなじに深々と突き立てられ、そして引き抜かれると同時にボトボトと身体の肉が崩れ落ち始める。

 皮が、骨が、血が、蟲が、ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ、煙を上げて、溶けた。


志貴「ふぅぅっ……おいアーチャー? もしかするとコイツは、マスターじゃ無いんじゃないか? 結局サーヴァントは出て来てないぞ?」

コナン「あれれ~っ、おかしいなぁ。絶対にこの家の誰かがマスターだと思ったのに」




 聖杯戦争一日目

    ↓

 聖杯戦争二日目





 聖杯戦争二日目 早朝 衛宮邸



シロウ「当分は柳洞寺と教会を探りつつ、向こうから接触して来るであろうマスターとサーヴァントを三人で撃破……昨日の段階ではここまで決まったんだけど、キャスターからは何か有るか?」

初音「先に言って置くけど……食べるわ。もし足手まといになるようなら、あの二人を喰らう」


 庭の隅に存在する薄暗い蔵の中。そこかしこに蜘蛛の糸が張り巡らされた初音の『巣』。

 そんな場所でキャスターは束ねた糸をハンモックのようにして寝そべりながら、シロウはキャスターを見上げながら、マスターとサーヴァントの密談は始まっていた。



シロウ「それは困る……二人を無事に生還させたいから仲間にしたってのも有るし。もしキャスターが喰らうと言うんなら、俺は令呪でそれを止めるぞ?」

初音「ふっ、ふふふふっ。あはははははははは♪♪ やめてやめて冗談は。この戦いに、負けるわよ?」


シロウ「むっ……まさか、手をぬくとか言うんじゃないだろうな?」

初音「私はね、外から取り込んで力を回復させるタイプなの。それには何かを喰らうしかない。生きた肉を喰らうか、それか……」


 ここでキャスターは一度言葉を区切ると、糸の上からシロウの目の前へ降り立つ。

 そしてそのまま両腕を拡げ、ゆっくりとシロウを抱き締めた。


初音「貴方の精力をちょうだいな。それも嫌なら、性別はどちらでも構わないから知り合いを紹介しなさい。死なない程度に搾り取るわ」



シロウ「あー、精力ってのは、あの……」

初音「多分、貴方の想像通りよ」


シロウ「だよなぁ。う~む……それってアレか? 戦って力を使ったら回復の為にって事か?」

初音「ん、それもそうだけど……あら? お客さんが探してるみたいよ? 行ってあげなさいマスター」


 蔵の外。シロウの名前を呼びながら探す桜の声が聞こえ、初音は密談を打ち切って姿を消した。

 同盟中限定だが、桜と凜は半ば無理やりこの家で共に行動する事を決めたのだ。


 昨夜、会議が終わった後に桜がここへ泊まると言い出し、凜もそれに対抗する形で泊まる事になった。

 桜に関しては最初からそうする気だったらしく、スポーツバッグから次々とお泊まりグッズを取り出し……特に洗面所へ行ってハブラシとコップをシロウの物の並べ、「しばらくの間よろしくお願いします」と笑顔で言われたら断るに断れない。


 仕方なしに桜へ一室を与え、わざわざ帰宅して着替えを持って来た凜にも、同じように一室を与えた。

 そして二人のサーヴァントに関しても、同盟中は結界の効果を受けずに出入り可能となっている。





 聖杯戦争二日目 朝 町外れの屋台



男「あ、あの……」

店主「へい、いらっしゃい!!」


 小さな公園の隣に店を構える屋台。

 ここは朝帰りのホストやホステス向けに深夜から朝方に掛けて店を開けているのだが、今日は余り客が来ず店じまいをしようとした矢先に暖簾(のれん)が上がった。


娘「とおちゃん、おなかすいた」

男「待ってろ娘、今とおちゃんが美味しいラーメンを食わせてやるからな」


 やって来たのは、一見で浮浪者と分かるボロを身に付けた親子。

 父親は左手で娘の手を握り、右手にお金……恐らく数枚の硬貨を握り締めると、キョロキョロと視線を動かしながらメニュー表を探し始めた。



 その光景を見て、人としての優しさが有ったなら、誰しもがこの店主と同じ行動を取るだろう。


男「すみません、これで……どうかラーメンを一杯、頂けませんか?」

店主「はいよっ、ちょうど大盛り一杯分だ。毎度あり!!」


 結局メニューが見付からずに男がカウンターへ置いたのは230円。

 やはり……そんな予感がしたから、店主はメニュー表を出さなかった。
 この店で一番安いメニューでも小ラーメンの400円なのだから、まるで足らない。


店主「味わって食ってくれよ?」

男「ありがとうございます。うぅ、ありがとう……ごさいますっ」


 しかし、店主は娘へニコリと微笑むと、大盛り用の器にチャーシューをたっぷり乗せて男へ差し出した。



娘「とおちゃん、とおちゃん!! 早く食べよう!!」

父「ああっ、そこのベンチに座って食べような」


 三人が三人とも笑い、この国もまだ捨てたもんじゃないと思わせる瞬間。


不良「ひゃっはー!! ゴミがぁ、邪魔だジャマだ~っ!!」


 だが、瞬間は本当に瞬間で終わった。


男「ら、ラーメンがぁっ!!?」

娘「おと~~ちゃ~~ん!!!」



 屋台にやって来た若いモヒカンスタイルの男が、まるで蟻でも踏み潰すかの如く当然に、男の持っていたラーメンを、すれ違い様に蹴り飛ばした。



 だが、

 中に舞ったラーメンの器は、

 一滴の汁も溢す事無く……

 拾われた。


ウェイバー「お~い、待てよライダー!!」

拳四郎「これは、お前の愛だろ? もう、落とすなよ?」


男「どこのどなたか存じませんが、あっ、ありがとうございます!!」




 消えかけた、親子の絆を取り戻す。

 弱き者の、絶望を希望に変える。

 生前は閻王(えんおう)とも呼ばれ、上海マフィアも恐れて逃げ出した第六十二代北斗神拳伝承者、霞 拳四郎(かすみ けんしろう)。


拳四郎「親子の愛は、いつ見ても心が温まる……そう思わないか?」

ウェイバー「ふぅぅっ、やっと追い付いたよまったく。でも、そうだな。それには同意かな」


 父と娘は公園の中へ入ると、二人で分け合いながらラーメンを食べ始めた。

 ウェイバーは自然と笑みが漏れるが、拳四郎は逆に険しい表情になると屋台に向かう不良を眺め、ポキポキと指を鳴らす。



不良「おい店主ぅ~っ!! 俺様にラーメンを出しやがれぇ!!」

店主「オメェに食わせるラーメンはねぇ!!」


不良「なんだとぉ? 死ねぇぇッ!!」


 不良は懐から刃渡り30センチ程のサバイバルナイフを取り出すと、店主の顔を目掛けて降り下ろした。


店主「ひぃぃぃっ!?」


 間一髪。咄嗟に後ろへ下がり大ケガは避けられたものの、店主の頬には切り傷が生まれ、そこからドクドクと赤い血が流れ落ちる。



不良「ひゃはーッ!! もうラーメンなんて要らねぇ!! 売り上げを貰うぜぇっ」


 不良は店主の怯えた声に気を良くし、乗り越えて金を奪おうとカウンターに足を掛けた。


拳四郎「クンクン、くんくん……くせぇドブネズミが居るようだな。店主、俺が変わりにドブネズミを駆除してやろう」

不良「あ? ドブネズミだぁ? それは、俺の事かぁ……って、あれ、あれっ? 俺の指がああぁぁぁぁなぁぁぁぁぁい!!?」


 しかしライダーは後ろから不良の手首を掴み、対する不良は掴まれていないサバイバルナイフを持っている手で、振り向き様に突き刺そうとするが、サバイバルナイフは手の中に無かった。


拳四郎「五指烈弾……早く病院に行け。その指がくっつく内にな」


 サバイバルナイフは、付け根から破裂して落ちた五本の指と同じく、いつの間にか地面で転がっていたのだ。



不良「ゆ~びゆびゆびゆびゆびぃぃぃぃぃっ!!」


 不良は奇声を上げながら無事な方の手で落ちた指を拾うと、一目散に病院へ向けて走り出して行くのだった。


ウェイバー「お前……殺しちゃうのかと思ったぞ?」

拳四郎「この闘い、是非など問わぬ……が、例えドブネズミでも、無関係の者を殺すのはマズイんだろウェイバー?」


ウェイバー「あ、ああっ。騒ぎになるまで殺し捲っちゃうってのはな、色々と」


 ウェイバーが思い浮かべていたのは前回の聖杯戦争。そこでのキャスター陣営が取った奇行。



 それは他のマスターとサーヴァント全てを敵に回す凶行。一般人を巻き込み、結果……マスターは真っ先に脱落した。

 闘いとは覇道。覇道とは裏を掻く策を弄さずの正々堂々。正面から迎え打ち、そして勝つ。


 前聖杯戦争のライダーも、そんな男だった……


ウェイバー「ライダー、必ず勝とう!!」

拳四郎「フッ、北斗神拳に敵は無い。誰で在ろうとな」





 聖杯戦争二日目 午前 間桐邸



桜「なに、コレ? なに、これ……なにこれなにこれっ、何コレぇぇぇぇぇええ!!」


 衛宮邸での朝食を終え、忘れ物が有ったと桜は一度自宅へ戻り、そこで信じられないモノを見る。

 転がった兄の首と、骨だけになった『誰か』の死体。


桜「うぅっ……うぷっ、うあっ、あぁ……げほっ、げほっ」



 部屋中が荒らされ、壊され、殺され、這いつくばって、這いつくばって、胃の内容物を逆流される。

 だけでは無い……逆流するのは。口から吐き出されるのは。身体が拒絶した全てだ。ビチビチと跳ねる蟲の全て。


 吐き出して、吐き出して、泣いて、泣いて、『搾り尽くした蟲』を体外に排出して。



桜「はっ、あは、ふふふふふっ……あははははははははっ」



 笑う。



濤羅「おい、しっかりしろサクラ!! 邪気に飲み込まれるなっ」

桜「しっかり? しっかりって言ったのアサシン? 私は……しっかり、してますっ!!」


 実体を現して背中を撫でるアサシンの手を振り払い、桜は足取り確かに立ち上がると、痩せ細った蟲をグチャリと踏み潰す。


 嗚呼、ああ、アア。

 なんて、清々しいのだろう──


 兄が死んだと言うのに、家族が殺されたと言うのに、何故こんなにも、心踊る。



 枷は消えた。

 縛り付けていた者は消えた。

 気持ち悪い蟲は逆に喰って吸収してやった。



桜「ねぇ、アサシン?」



 髪を掻き上げる。


桜「外でネエサンが先輩と離れたら……セイバーを、ヤるから」





 聖杯戦争二日目 午前 遠坂邸



凛「セイバー、貴女から見て他の二人はどう?」

舞「どう?」


凛「あー。どんな奴らに見える?」

舞「どっちも……」


凛「どっちも?」

舞「どっちも、信用できない。戦うなら早い方が良い。最後まで同盟を続けてたら、たぶん負けるから」



凛「でもでもっ、セイバーならアサシンやキャスターには勝てるでしょ?」

舞「マスターが……」


凛「マスターが?」

舞「私が勝っても、マスターが死んだら負ける。裏切るタイミングを間違えたら……負ける」



 朝食の後に桜を見送り、どうせならと凛も「わすれもの」と理由を付けて帰宅し、顔は前を向いたままソファーへ並んで座る。

 もう一度、サーヴァントと話し合いをする為に。


 だが、当然だが、良かれと思って同盟を組んだのだが、どうやら……凶の可能性も出てきた。

 人よりも直感の鋭いサーヴァント、それも最強クラスのセイバーが、「よくない」と言う。初恋(シロウ)も、妹(桜)も、信用できないと言う。


 でも、それでも私は──


凛「私から先には裏切らない。どんな事があろうとね」




サーヴァントステータス

クラス:セイバー

真名:川澄 舞(かわすみ まい)

《ステータス》

筋力:C
耐久:C
敏捷:A
魔力:D
幸運:A
宝具:【エンディングルート】

スキル

対魔力:SSS

奇跡の体現者。どんなに強力な古代魔法も、セイバーへ向けて放たれた魔法ならば無傷でキャンセルする。


ビヨネットタンデム

一度の攻撃で、二度の攻撃結果を残す。



サーヴァントステータス

クラス:ランサー

真名:ダンターグ

《ステータス》

筋力:S
耐久:S
敏捷:D
魔力:E
幸運:E
宝具:【セヴンセンシズ】

スキル

対魔力:E

最低限の魔術避け程度。

リジェネレート:SSS

この地上に置いて最上位の自己再生能力。



クラス:キャスター

真名:比良坂 初音(ひらさか はつね)

《ステータス》

筋力:B
耐久:D
敏捷:C
魔力:B
幸運:C
宝具:【アトラクナクア】

スキル

陣地作成:S

様々なドレイン呪術に長けた結界を作成可能。

チャーム:B

魔力の無い一般人ならば、老若男女問わずに魅了し傀儡に出来る。



クラス:アサシン

真名:孔 濤羅(こん たおろー)

《ステータス》

筋力:A
耐久:B
敏捷:S
魔力:E
幸運:E
宝具:【真・双撃紫雷掌】

スキル

気配遮断:A

その存在を認識されるまでは、視覚からの発見は出来ない。

サイバースレイヤー

機械人体やサイボーグを相手に戦う時、全ステータスが上昇する。



クラス:ライダー

真名:霞 拳四郎(かすみ けんしろう)

《ステータス》

筋力:A
耐久:A
敏捷:A
魔力:C
幸運:A
宝具:【天授の儀】

スキル

飛来避けの加護:SS

魔力の付加されていない射撃&投擲を指で挟み跳ね返す。

夢想転生

一度戦った相手の技を見切り、自分のものとする事ができる。



クラス:アーチャー

真名:江戸川 コナン

《ステータス》

筋力:E
耐久:E
敏捷:C
魔力:E
幸運:S
宝具:【黒の組織の首領、アガサの探偵グッズ】

スキル

必中:SS

蹴り飛ばした対象物を、目標へ当てるスキル

QED

抜群の推理力。じっちゃんの名にかけて!



クラス:バーサーカー

真名:ウォーズマン

《ステータス》

筋力:A
耐久:S
敏捷:B
魔力:E
幸運:C
宝具:【1200万パワー】

スキル

異常耐性:SS

毒や麻痺などのバッドステータスを完全に無効化する。

ウォーズマンスマイル

理性と引き換えにステータスを上昇させる。





 聖杯戦争二日目 午前

     ↓

 聖杯戦争二日目 午後





 聖杯戦争二日目 午後 教会地下



バゼット「これはっ!?」


 瓦礫だった。残骸だった。壁のレンガは崩れ落ち、オブジェは破壊され尽くし、砂埃が舞って、建物として形を保っているのが信じられない程の瓦礫、残骸。

 魔術協会から派遣されたバゼット・フラガ・マクレミッツが見たのは、そんな中でも向かい合う二つの影。


ダンターグ「どうだ……そろそろ結論は出たか?」

綺礼「変わらんよ。これが私だ、私の生き方だっ。それを貴様が否定する権利は有ったとしても、私を矯正する権利は断じて無い!!」



 綺礼は瓦礫を押し退けて立ち上がると、再び自らのサーヴァントでへ向けて八極拳の構えを取った。

 聖堂服は破け、丸一日続く『指導』に膝が震え、しかし死闘六課の覚悟で拳を握る。


ダンターグ「そうか……ならば変われとはもう言わん。マスターを放棄しろ。ちょうど、『代わり』が来たようだしな」

綺礼「なるほど……この為に私を操って呼ばせたか? だが、断るッ!!」


 二人は現れたバゼットにそれぞれ視線を送って一瞥すると、決着を付けるべく、お互いにフィニッシュブローの準備を整えて行く。



綺礼「私がマスターとされたのは神からの啓示だ。祝福せよ……とな」

ダンターグ「もはや語るまい……その悪徳、実に天晴れ!! しかしな、やはりお前がマスターでは、勝てる戦いも勝てん」


 凍てつく殺気に煽られて、気温が急激に下降する。

 両者の瞳はどこまでも険しく流移し、どちらが己の生きざまを貫けるのか?


綺礼「はっ……シィィィァァァアア!!」


 先に動いたのは綺礼。その性格からは考えられない程の大声で咆哮すると、何の小細工も無く直線に、真っ直ぐに、地面を踏み切ってランサーへと駆け出した。

 真逆にランサーは動かない。避けない。逃げない。先日と同じく両腕を広げ、「来い!!」と態度で示すのみ。



 この態度、綺礼の一撃を真正面から受け止め、力の差を見せ付けるのだと、完封無きまでに絶望させるのだと……『勘違い』させるには充分だ。


ダンターグ「セヴンセンシズ、ノエル!! カウンター!!」


 それこそ一瞬、十メートルに満たない距離を綺礼が駆け抜けるよりも、両掌を前へ差し出して会心の八卦掌を放つよりも、「しまった!?」そんな思考が浮かぶよりも尚も早い。

 ダンターグは自身の姿を腰に剣を携えた若い青年へ変えると、右手に力を込めて握り締める。



綺礼「桜花、八卦……」

ノエル「カウンター!!」




 ──ズドンッッ!!!




 綺礼の両掌が変身したダンターグに触れた刹那、まるで後出しで先行を取るように、大気さえ震わせる破裂音と衝撃を放ちながら……


綺礼「ッッ!!?」


 杭打ち機を思わせる重いカウンターブローが、綺礼の腹部に深々と叩き込まれていた。


ノエル「次はその腕を切り落とす。心配はするな、令呪を移したら完全に治そう」



 意見も反論もさせてもらえない。腹部を押さえてうずくまり、呼吸を求めて口をパクパクと開閉させるのが精一杯で。

 それもそうだ……鍛えてるとは言え、生身の身体でサーヴァントの攻撃を受けたのだから。


ノエル「では、貰うぞ?」


 ノエルは倒れ込む綺礼を見下ろし、数歩もバックステップで距離を取ると、腰へ携えていた剣の柄に手を添えて一気に引き抜いた。

 そして、凍る。

 何かの比喩では無く、先程の比でも無く、本当に地面が、瓦礫が、大気が、部屋中が、パキパキと音を鳴らせて氷点下まで冷え切り凍り付く。


バゼット「まっ、待ちなさ……」

ノエル「乱れ雪月花」






 聖杯戦争二日目 夕方 遠坂邸



志貴「これは、どう言う事なんだアーチャー?」

コナン「あれれ~っ、おっかしいなぁ~?」


 朝と夜の間。その、果てしなく夜に近い側の時刻。志貴は深く溜め息を吐くと、近くに有ったベッドへ腰を下ろす。


コナン「でも生活してる様子は有るし、今は何処かに出掛けてるのかもしれないよ? 少し待ってみようよ?」

志貴「ああ、待とう。だが今日も空振りなら作戦を練り直すぞ?」


 一夜一殺……そのつもりが、連日のノーヒット。遠坂邸に侵入し、あらかた探索を終え、最後に凛の部屋でうなだれる。




コナン「ちょっと待って志貴お兄ちゃん。くんくん、スンスン、ペロペロ……これはっ、女子校生のパンティー!? ペロペロ、ペロペロ、ペロペロ、ここに住んでるマスターのパンティーで間違い無い!! QEDだ!!」


 コナンはタンスを順に開けて行き、凛の下着を見付けるとおもむろに鼻に押しあて嗅ぎ始めた。


志貴「はぁっ……性欲の塊だな。先に帰ってるぞアーチャー」


 志貴はもう一度だけ深く溜め息を吐くと、アーチャーへ目をくれずに部屋から出て行くのだった。






 聖杯戦争二日目 夜 衛宮邸前



凛「うっ……」

シロウ「ん、どうした遠坂?」


凛「いや、何か寒気がしてね」

桜「休んでて良いですよ? 柳洞寺への調査は私と先輩で行きますので……ふふっ」


凛「私も……行くわよ」



シロウ「よしっ、それじゃ確認だ。今日は柳洞寺の廷内まで入り、マスターとサーヴァントの有無を確認する」

シロウ「アサシンとキャスターはこちらに居るから、それだけ近付けば分かるはずだ」


シロウ「そしてもし戦闘になった場合、俺とキャスターがマスターを、セイバーがサーヴァントを狙う」

シロウ「アサシンは凛と桜を守りながらセイバーのアシスト。これで良いな?」



凛「おっけーよ」

桜「はい、それで」






 聖杯戦争二日目 夜 柳洞寺廷内



 三人のマスターと霊体化した三体のサーヴァントが目的地へ着くと、そこは虫の鳴き声だけがBGMとして役割を果たす静かなる場所だった。

 長い石階段を登り、鳥居を潜り、砂利が敷き詰められた広い廷内。雲一つ無い空が月の明かりで大地を照らし、更に幻想的な空間へ作り上げる。


シロウ「キャスター、探ってくれ」

初音「着いた時からやってるけど、魔力は微かも感じないわね。ここにマスターは居ないか……それとも、私のサーチにも引っ掛からない隠密能力を持っているか」



 しかし、目標の発見には至らない。

 キャスターは実体化し、改めて周囲を魔力探知するが、寺の中からも、木々の奥からも、マスターとサーヴァントの気配は感じ取れない。


志貴「どうやら、俺の悪運は抜群らしいな。知人へ会いに来ただけで見つけられるなんてさ……っと」


 そう。このマスターは、魔力では見つからない。

 志貴は鳥居の上から飛び降りると、退路を断つようにシロウ達の前へと立ちはだかるのだった。

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