カギ爪の男「はぁ、私立希望ヶ峰学園ですか……?」 (157)

カギ爪「あらぁ……。どこですかね、ここは」

カギ爪「たしか、〝幸せの時〟を迎える直前、ヴァン君の活躍で……」

ザワザワザワザワ・・・

石丸「君! 8時集合と知らされてあったはずだろう!? 遅刻とはけしからんじゃないか!!」

山田「16人ですか。これで全員ですかね、ぇ……」

カギ爪「おや? どちら様でしょうか」

舞園「え、えーと」

山田「……誰?」

江ノ島(な、なによこいつ……)

葉隠(な、何だべ、あの金ピカのドデカいカギ爪は )

十神(あの男、いつの間に体育館に現れたんだ!?)

霧切(あんなお爺さんが混ざっていて気がつかないはずがない。さっきまでは絶対にいなかった……。でも、いつの間にかすぐ近くに……。誰にも気付かれることなく体育館に入ってきたというの?)

苗木「ぼ、僕は苗木誠、こっちは舞園さやかさん。あの、君も希望ヶ峰学園の新入生なの?」

カギ爪「え?」

苗木「い、いやあの、君は、何の超高校級の生徒なのかなー、とか思ってさ……。ぼ、僕は超高校級の幸運でここに来られたんだけどね、はは、は……」

カギ爪「……?? はぁ……? ええと、ここは学校なんですか?」

霧切(……! これは、まさか……)

舞園「……え? あ、あの、たしかにここは学校ですが……」

霧切「待って」

霧切「あなた、もしかして記憶がないの?」

カギ爪「……えぇ、どうやらそのようです。お恥ずかしいことですが、ここがどこなのか、どうして私がここにいるのかさっぱり分からないのです」

霧切(やっぱり……)

十神「何だと? それは、学園に足を踏み入れた時から教室までの記憶がない、ということではなく、希望ヶ峰学園に関する一切の記憶がないということか?」

朝比奈「え? え? ってことは新入生じゃないの?」

不二咲「き、記憶喪失ってこと……?」

桑田「おいおい、マジかよ」

腐川「な、なによそれ。記憶喪失なんて漫画じゃあるまいし……」

セレス「私達も似たようなものですけれどね。彼の場合は随分と酷いようですが」

カギ爪「……申し訳ありません。どなたか私に解るように説明して頂けないでしょうか? ここは一体どこなのでしょう」

苗木「こ、ここは私立希望ヶ峰学園と言って……」

カギ爪(……少年が話してくれたところによると、ここはニホンにある特殊な才能を持った者だけを集めた学校らしい)

カギ爪(そして、彼らはその学校に招かれた新入生ということですが、お話を聞いても私がなぜここにいるのかはさっぱり思い出せません)

カギ爪(ニホンという国は、たしかかつてマザーに存在した国のはずですが……。しかし、マザーは永遠の春休みで壊滅状態にあるはず)

カギ爪(エンドレス・イリュージョンにも同様の地名があるのか、それとも私の知らないうちにマザーが復興でもしていたのか)

カギ爪「……考えていても分かりませんね。まずはここを出るとしましょう」

大和田「いや、それなんだがよ……」

『あーあー、マイクテスト、マイクテスト!』

『新入生の皆さん、今から入学式を執り行いたいと思います!』

モノクマ「」ピョーンッ

苗木「……ぬ、ぬいぐるみ?」

モノクマ「ぬいぐるみじゃないよ、僕はモノクマだよ。お前らのこの学園の学園長なのだ! よろしくね」

山田「んぎゃーぬいぐるみが動いたー!」

カギ爪「あらぁ」

モノクマ「ぬいぐるみじゃなくて、学園長なんです、け……ど……?」

モノクマ「……?」

カギ爪「……?」

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モノクマ「……?? ……?」

カギ爪「あの、どうかなさいましたか」

モノクマ「……え、誰、お前」

カギ爪「私ですか? クー・クライング・クルーと申します」

カギ爪「……そうですね、ここの皆さんに倣って言うのなら、〝超高校級の希望〟といったところでしょうか。うふふ」

モノクマ「いや、絶対高校生じゃないだろ!」

モノクマ「え、つーか、誰!? ホント誰なのオッサン!? いつの間に、いや何でここにいるのさ!?」

舞園(一体どうなってるの?)

霧切(私たちをここに集めたらしいこいつにも解っていないということ? 何者なの、このクルー君という彼は)

モノクマ(操作に手間取ってちょっと目を離した隙に、何が起こったって言うんだよ! 部外者が入って来られるはずがないのに!!)

カギ爪「それが私にも分からないんですよ。ここに来た時の記憶がないんです」

モノクマ「ええー……」

モノクマ「…………」

モノクマ「ま、いっか。面倒くさいし」

江ノ島「良いのかよ!?」

十神「……訳が分からん。何なんだ、こいつらは」

セレス「随分と行き当たりばったりですわね」

カギ爪「いやあ、お恥ずかしい」

モノクマ「えー、というわけで進行もおしていますので、入学式を続けたいと思います」

苗木(普通に続けるんだ……)

カギ爪(モノクマ君が言うには、他の誰かを殺さない限り、私たちをここから出さないそうです)

カギ爪(これは大変です。私にはもう時間がない)

カギ爪(ここがどこにしても、みんなが幸せに暮らせる世界に変えないといけないのに)

カギ爪(生徒の皆さんとお友達になるのはもちろんですが、モノクマ君ともお友達になって、ここから出してもらいましょう)



大和田「てめえ、この俺に教えを説くってのかァ!?」バキッッ

苗木「ほげー」バタッ

大和田「……や、やべえ、強く殴りすぎた。おい、苗木しっかりしろ!」

霧切「気絶しているわね」

大神「個室のベッドに寝かせてやるべきだろう。我が運ぼう」

カギ爪「いえ、貴女のような可愛らしい女の子にそんなことはさせられませんよ」

大神「か、可愛いらしい、だと……///」

カギ爪「私が運びましょう」ヨッコイショ

朝比奈「ええ!?」

江ノ島「アンタお爺ちゃんじゃん……。腰痛めるよ」

大和田「ま、待てよ! 俺が気絶させちまったんだ、俺が運ぶって!」バッ

カギ爪「あらあ、良いのですか?」

大和田「良いから任せろ!」

カギ爪「お世話をかけます」

カギ爪(私たちは彼をお部屋まで運びましたが、そこである事実に気がつきました)

カギ爪「おや。私のお部屋はないようですね」

山田「むむ、たしかにクー・クライング・クルー殿だけ部屋が表示されていませんな」

霧切「モノクマの言葉が本当なら、クルー君がここに来たのはイレギュラーのようだし、用意されてなかったんだと思うわ」

大和田「おい、モノクマァッ!!」

モノクマ「はいはい、何のご用ですか?」

大和田「クルーの部屋はどこだ!」

石丸「それに、彼だけ生徒手帳もないようだぞ!」

モノクマ「無いよ、そんなの」

大和田「ああ!? ンだとコラァッ!!」

モノクマ「彼がここに来る予定なんて僕の計画の中にはなかったんだから。……というかホントどっから入ってきたのさ君」

カギ爪「ごめんなさい、ふふ」

モノクマ「ま、ともかく君らの為に用意した部屋はそれだけだし、生徒手帳も余分なものはないよ」

モノクマ「それじゃ、バイバーイ」

石丸「あ、待ちたまえ!!」

カギ爪「あらぁ」

葉隠「……クルーっちだけ部屋無しになっちまったべ」

セレス「廊下で寝ればよろしいのでは?」ヨロシイデスカ?

朝比奈「それじゃ風邪ひいちゃうよ!」

江ノ島「そもそも個室以外での就寝は校則違反じゃん。殺されちゃうでしょ」

カギ爪「いま殺されるのは困っちゃいますねえ」

大神「誰かの部屋で寝るしかあるまい」



桑田「ならよ、俺の部屋に来るか?」

カギ爪「良いんですか?」

桑田「いいぜ。おれ結構ジイちゃんっ子だしな。ミュージシャンの夢に親は反対してるけど、ジイちゃんとバアちゃんは応援してくれてるし」

カギ爪「あなた、良い方ですねえ。オリジナルセブンに入りませんか?」

山田「……い、いやしかし、大丈夫なのでしょうか?」

カギ爪「はぁ、なにがでしょうか?」

セレス「同じ部屋で寝るということは、相手に無防備な姿を晒すということ」ヨロシイデスカ?

セレス「あなた方のどちらかが〝卒業〟する誘惑に駆られるかもしれない、ということですわ」

桑田「おいおい、んなことするわけねえだろ! なあ、クルー」

カギ爪「もちろん。私と彼はお友達ですから」

桑田「だ、そうだ。これで納得したか?」

江ノ島「……あんたらが良いってんならあたしらは別に構わないけどさあ」

不二咲(良い人ばっかりで嬉しいな。すっごく不安だったけど、なんとかやっていけそう)

カギ爪(建物の中を隈無く調べましたが、これといった手がかりはなかったようです)

カギ爪(立ち入り禁止の場所も探れば何か出るのかもしれませんが、立ち入り禁止なので入れません)

カギ爪(それから3日程は皆さんと仲良く過ごしました)

カギ爪(ある日、モノクマ君が皆さんにビデオを見せてくれました)

カギ爪(横から映像を見せて頂いたところ、どうも皆さんのご家族やお友達の身に何かあったようです)

カギ爪(ああ、心配です)

カギ爪(モノクマ君は、皆さんにそのことを知らせてくれたんですねえ)

カギ爪(彼らの為にも、早くここから出なくちゃいけないなあ)

桑田「それじゃあ、そろそろ部屋に戻るか」

カギ爪「はい、そうしましょう」

舞園「あの、桑田くん」

桑田「え? お、おう、何だよ舞園」

舞園「ちょっと、お話できませんか? ……2人だけで」

桑田「え、ええ!? お、おう! 良いぜ!!」

桑田「……わ、わりい。そういう訳だからよ、先に部屋に戻っててくれるか?」

桑田「いや、もしかしたら今夜は帰れないかも」デヘヘ

カギ爪「ええ、構いませんよ」



――桑田の部屋

カギ爪「おや? なんだろう、このメモ」

『2人きりで話したいことがあります。今晩11時になったら私の部屋に来て下さい。部屋を間違えないように、ちゃんと部屋のネームプレートを確認してくださいね。舞園さやか 
P.S.桑田君には内緒でお願いします』

カギ爪「サヤカさん……。ああ、さっきの子ですか」

カギ爪「話ってなんだろう。ともかく夜になったら行ってみましょうか」

カギ爪「では、ちょっと出かけてきます」

桑田「え? こんな時間に?」

カギ爪「ええ、少し用がありまして」

桑田「良いけど……。気をつけてくれよ?」

桑田「じゃあ、俺は先に寝てるから。……結局舞園とは何もないしよお」ブツブツ


――苗木の部屋

カギ爪「ここが舞園さんの部屋かな」ピンポーン

『……クルー君ですか?』

カギ爪「はい、そうです」

『鍵は開いています。どうぞ入ってください』

カギ爪「そうですか。では失礼します」ギィィィ

ガチャン

舞園「うわあああああ!!」ダッ

カギ爪「あれれ?」キンッ

舞園「くっ、死ねえええええ!!」バッ

カギ爪「ちょっと、危ないですよ、包丁なんて」グイッ

舞園「あっ」

カギ爪「さあ、包丁を放してください」グググッ

舞園「痛っ」

カギ爪「ほら、危ないですから」グググググッ

ミシミシミシミシッ

舞園「あっ、あああぁぁ!!」パッ

カランカランカランッ

舞園「い、痛い、手が……っ」ズキズキズキッ

カギ爪「よいしょ」ヒョイッ

舞園(……しまっ!? ほ、包丁を獲られた!!)

カギ爪「落ち着きましたか? もう大丈夫ですよ、ほら」ズイッ

舞園「ひっ」

カギ爪「何も怖くありませんよ。さあ、私とお友達になりましょう」

舞園「い、いやあああああっ」ダッ

ガチャッ バタンッ

カギ爪「あれれ? どうしたんですか?」ガチャガチャガチャ

カギ爪「ああ、鍵がかかっていますねえ」ガチャガチャガチャガチャッ

カギ爪「おぉい、ここを開けてくださあい」ドンドンッ

カギ爪「私とお話しましょう。お友達になりたいんです」ドンドンドンドンッ

カギ爪「おかしいなあ……。そうだ、レオン君の部屋の引き出しに工具セットがあったんだっけ。あれで開けましょう」


カギ爪「ドライバーで開くかなあ」ガチャッガチャッガチャッ バキッ

カギ爪「これでどうだろう」ガチャガチャガチャ

ギィィィ

カギ爪「ふふ、開いた開いた」

舞園「ひ、ひ、い」ガタガタガタ

カギ爪「さあ、何も怖くありませんよ。こっちにおいで。お話しましょうよ」

舞園「い、いや……っ! 来ないで!」バッ

舞園「来ないで! 来ないで! 来ないで!!」バタバタバタ

カギ爪「ああ、ちょっと、拳が当たって痛いですよ」

舞園「来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで!!」ジタバタジタバタ

カギ爪「……痛い、痛いなあ」

ザクッ

舞園「……え?」

カギ爪「ほおら、怖くありませんよ」ギュッ

ググッ

舞園「あ……っ、カ、ハ」

カギ爪「大丈夫、お友達になりましょう」ギュウウウウッ

グググググッ

ミシミシミシミシッ

舞園「」ゴボッ

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カギ爪「さあ、お話しましょうね……。あれ?」

舞園「」

カギ爪「……あ、あああ。あああああ」ガクッ

カギ爪「そんな……、抱きしめた拍子に包丁がお腹に刺さって……。私は、なんてことを」

カギ爪「ごめんなさい……。ごめんなさい……」ポロポロポロポロ

カギ爪「レオン君、起きてください、レオン君」ユサユサ

桑田「う、ううん……。え?」

カギ爪「お休みのところ、すみません。でも、どうしてもレオン君のお力を借りたくて」

桑田「え? えっ? ええ!?」

桑田「ち、血まみれじゃねえか!? 早く手当しないと!!」

カギ爪「ああ、それは大丈夫です。これは私の血ではないので」

桑田「あ、なんだ、良かった。びっくりしたぜ」ホッ

桑田「とりあえず、着替えた方が良い。どっちにしろ俺の服だしな」

カギ爪「ごめんなさい、ご心配をおかけして」

桑田「それは良いんだけどよ、なら一体誰の血なんだ?」

カギ爪「ええ、そのことでレオン君にご協力をお願いしたいんです」

桑田「こ、これは……。これを、あんたがやったのか?」

カギ爪「はい、彼女には申し訳ないことをしてしまいました」

桑田(つまり、これで卒業……? いや、校則では他の生徒にバレてはいけないとあった。まだ終わりじゃねえ)

桑田「分かった。ここは俺に任せてくれ」

カギ爪「よろしいのですか?」

桑田「大丈夫だ、何とかしてみせる。疲れたろ? 先に部屋に戻って休んでてくれ」

カギ爪「あぁ、ありがとうございます。桑田君、あなたがお友達で良かった」

桑田「へへ、礼なんていらねえよ。あんたを守るのが俺の使命だからな……同志」

舞園(……う)

舞園(……からだ、が。……しぬ、の、わたし)

舞園(……この、まま、じゃ、な、なえぎくんに、うたがい、が)ググッ

舞園(な、なまえ。はんにん、の……)

桑田「じゃ、後は任せて休んでいてくれ、同志」

カギ爪「はい、ありがとうございます、レオン君」

舞園(……れ、お、ん。ダメ……いしきが……)

舞園(書かないと……。犯人に、すぐ、わからない、ように……アルファベット、で)ズズッ

舞園(……ごめん、なさい。みんな……。わたし、かえれなかった……)

舞園(ごめんな、さい……苗木くん……)

すまんちょっと飯食ってくる

――翌日

カギ爪「おはよう、レオン君。朝ですよ」

桑田「……ん。ふわあ。おはよう、同志」

カギ爪「さて、顔を洗って朝食に行きましょうか」

桑田「ああ、そうだな。……昨日のこと、上手くやっといたから、安心してくれよ」

カギ爪「ああ、ありがとうございます。助かりました。……??」

カギ爪(昨日のこと……? なにかあったかな)



――食堂

カギ爪「皆さん、おはようございます」

桑田「おはよう」

朝比奈「おっはよー」

石丸「や、おはよう!」

苗木「おはよう、クルー君、桑田君」

ゾロゾロゾロ

石丸「む、まだ全員揃ってないな」

朝比奈「舞園ちゃんと十神が来てないね」

苗木「え?」

朝比奈「あ、十神」

大和田「おめえ、舞園を見なかったか?」

十神「俺が知るわけないだろ」

山田「舞園さやか殿が遅れるなんて珍しいですな」

朝比奈「具合でも悪いのかな?」

苗木「……僕、ちょっと様子を見てくる!」ダッ

桑田「……」

クルー君「あらあ、心配ですねえ」

ウワアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


朝比奈「え!? なに!?」

葉隠「苗木っちの声だべ!」

霧切「……!」ダッ

大神「我も行こう」ダッ

カギ爪「なにかあったのでしょうか?」

モノクマ『ピンポンパンポーン! 死体が発見されました』

山田「し、死体ですと!?」

カギ爪「どなたかお亡くなりになったのですか?」

大神「……舞園さやかが……死んでいた」

カギ爪「そうですか」



カギ爪(皆さんに聞いたところ、どうやらどなたかが殺されてしまったようです)

カギ爪(モノクマ君の話によれば、犯人は私たちの中にいるとか)

カギ爪(学級裁判というものでその犯人を見つけなければ、犯人以外が全員処刑されてしまう)

カギ爪(困ったなあ。こんなところで処刑されてしまうわけにはいきませんし、かといって犯人の見当もつきません)

カギ爪(なので、捜査の方は皆さんにお任せして、私はモノクマ君含めて、皆さんと仲良くなることに努めました)

カギ爪(でも、モノクマ君を呼んでお話したものの、事件に関係ない話だと分かるとすぐにどこかに行ってしまいました)

カギ爪(まあ、これからゆっくりとお友達になれば良いでしょう)

モノクマ『そろそろ始めちゃいますか。お待ちかねの学級裁判を』

カギ爪「学級裁判かあ。どんな感じなのかなあ」


――学級裁判

セレス「部屋は用意されていなかったようですが、ここの席はクルー君の分もあるんですのね」

モノクマ「う、うん、まあね。1人だけ仲間はずれじゃ可哀想だし」

モノクマ「さてと! 前置きはこれくらいにしてさっさと学級裁判を始めましょう!」

桑田「同志」

カギ爪「はい?」

桑田「俺のことは心配しなくて良い。あんたをこっから出す為なら、俺は処刑されたって構わないからな」

カギ爪「はぁ……」

カギ爪(?? どういう意味だろう)



【議論開始】

――――
――
朝比奈「じゃあ、厨房に出入りしてた人が犯人ってこと?」

桑田「つーかさあ、結局のところ苗木が犯人なんだろ」

朝比奈「待って、包丁を持ち出したのは苗木じゃないよ」

――――
――

苗木「……舞園さんが、包丁を持ち出した?」

石丸「包丁を持ち出したのは被害者である舞園君自身だったのか!」

苗木「それはきっと護身用に持ち出したんだよ!」

十神「だとしてもだ、凶器を持ちだしたのは舞園自身だったということになるな。そして苗木、まだお前の嫌疑が晴れたとは言えないな」

腐川「ほらみなさい! やっぱり苗木が犯人なんじゃない!」

霧切「待って。まだ苗木君を犯人と決めつけるのは早いんじゃないかしら。苗木君が犯人じゃないという根拠はあるのよ」

――――
――

苗木「……犯人は、ドアが開かないのは中からカギをかけられたせいだと勘違いした。だからこそドアノブごと壊そうとしたんだ」

舞園「苗木君が犯人だとしたら、そんな面倒なことをしなくてもドアを開けられたわ」

腐川「な、苗木じゃないってこと?」

苗木「き、霧切さん……」

霧切「安心しないで。まだ終わっていないわ」

――――
――

霧切「なら、彼女が怯えていたこと自体が嘘だったとしたら?」

苗木「な、なに言ってんだよ、そんなこと、あるわけないだろ!」

霧切「苗木君にとっては考えたくない可能性でしょうけど。これを見てもまだそう言える?」

苗木「なんだ、それ」

霧切「筆圧を浮かび上がらせたものよ。苗木君、それはあなたが書いたものかしら」

苗木「……いや、違うよ」

霧切「でしょうね。そのメモには舞園と読めるサインも書いてあったみたいだし」

苗木「どうして、彼女はこんなメモを……」

霧切「彼女はそのメモを使って、誰かを部屋に呼び出したのでしょうね」

――――
――

十神「舞園は殺人を計画、犯行後にプレートを戻し苗木に罪を被せようとしたんだろうな」

苗木「そ、そんなこと!」

十神「無いと言い切れるか? これだけの物証が揃っているんだぞ」

十神「計画通りに行っていたら、何食わぬ顔で舞園がその席に立っていたはずだ」

苗木「……舞園さん、どうして……」

セレス「決まってますわ。ここから脱出する為、でしょうね」

十神「だが返り討ちにあって殺されてしまったのだから世話もない」

苗木「そんな言い方……っ!」

霧切「冷静になって。言い争っている場合じゃないわ」

セレス「そうですわね、まだ犯人も特定できていないのですから」

十神「この中にいる誰かをな」

葉隠「そ、そうだべ! 犯人決めねえと」

霧切「手がかりはあるわ」

霧切「苗木君、そのメモの追伸部分を読んでみて」

苗木「……『P.S.桑田君には内緒にお願いします』、だって……!?」

桑田(あぽ!?)



苗木「こ、これって!」

霧切「メモは、ドアの下に入れてあったと考えられるわ。そして、部屋まで誘い出す際に『桑田君には内緒で』という注意書きが必要になる人物は、この中にただ1人」

霧切「そう、クルー君あなたよ」

カギ爪「……あれれ?」

苗木「く、クルー君が!?」

十神「舞園に呼び出されたバカはクルーだったのか」

苗木「クルー君! 本当なの!? 君が舞園さんの部屋に行ったの!?」

カギ爪「……ああ、思い出しました! そういえば、たしかにそのメモで呼ばれたので、誰かの部屋まで行きました」

苗木「え……、わ、忘れてたの!?」

セレス「それなら決まりですわね。犯人はクルー君だということになりますわ」

桑田「お、おい! ちょっと待てよ! 呼び出されたからと言って同……クルーが殺したとは限らねえだろ!」

朝比奈「そ、そうだよ。第一、クルー君がそんなことをするとは思えないよ! こんなに優しそうなのに!」

苗木「う、うん……。シラを切っているわけでもなさそう。本気で忘れていたみたいだ」

葉隠「ぼけが始まってるべ」

霧切「……たしかにね。メモがあったからといって全てが解決するわけではないわ」

十神「ダイイングメッセージか」

霧切「1つには、そうね」

セレス「そう言えば、あの数字の意味は不明なままですわね。今となってはそれを解くことにそう大した意味があるとは思えませんけれど」

大和田「数字のことならその女が詳しいんじゃねえのか?」

不二咲「それが全然なんだよね……。どうやってもこの数字列に意味を見い出せなくて」

苗木「……そうか、分かったぞ!」

苗木「あのダイイングメッセージを180度回転させれば見えてくるはずだ」

苗木「レオン……君の名前だよね、桑田怜恩君」

桑田「……!? お、俺の!?」

霧切「おそらく彼女は壁にもたれかかった体勢で、背後の壁にメッセージを書いた」

苗木「そんな体勢で書いてしまったせいで、正面から見ると180度ひっくり返った形になってしまったんだ」

桑田(あの女、俺が来た時にはまだ息があったってことか。そしてどういうわけか、俺の名前を書いた、と)

桑田(……これはチャンスだ! このまま俺が犯人だと誤認させれば!)

桑田「……そ、そうだ、俺がやった。俺が舞園を殺したんだ……。うう」

朝比奈「ええ!?」

十神「貴様が……?」

桑田「あのメモはたしかにクルーを呼び出したもんだったが、先に俺が見つけて舞園の部屋まで行ったんだ」

桑田「そ、そこで殺されそうになったから反撃して……。仕方なかったんだよ! 正当防衛だろ!?」

霧切「…………そして、あなたは証拠を処分しようとしたわけね」

苗木「それって、焼却炉に落ちていたワイシャツの破片と、ガラス玉のことだよね……?」

――――
――

苗木「焼却炉のスイッチにガラス玉をぶつけられるのは、超高校級の野球選手の君だけなんだ。そうだよね、桑田怜恩君!」

桑田「……ああ、その通りだ。全部俺がやったことだ」

霧切「これで犯人が分かったようね」

桑田「ああ、モノクマ。早く投票に……」

霧切「犯人は貴方よ、クー・クライング・クルー君!」

桑田「あぽ!?」

カギ爪「あらぁ」

十神「なんだと?」

朝比奈「ちょ、ちょっと待ってよ! 何でそうなるの!?」

桑田「そ、そうだ! 俺が犯人だっつってんだろ! ふざけんじゃねえぞ!!」

霧切「……この裁判になるまで、私も迷っていたわ」

霧切「舞園さんのターゲットになっていたのはクルー君」

霧切「でも、ダイイングメッセージや証拠の隠滅方法は明らかに桑田君を示している」

霧切「だから私も、桑田君の説明通り、彼がメモを先に見つけたのだという考えに傾いていた」

霧切「でも、この裁判を経て確信を持つに至ったわ。桑田君、あなたは犯人ではない。真犯人であるクルー君を庇おうとしているのね」

桑田「ぐ……、く、う」

カギ爪「……?」

十神「待て。そんなことをして桑田に一体なんのメリットがあるというんだ」

セレス「先ほどモノクマが言ったように卒業できるのは実行犯のみ」

セレス「クルー君を庇い犯人のふりをすれば、メリットどころか桑田君まで処刑されてしまいますわ」

苗木「……だけど、たしかに桑田君の態度はおかしいよ。あんなにあっさりと罪を認めるなんて」

桑田「ぐぬぬ」

霧切「証拠を隠滅した彼の行動からは、明らかに事件を隠蔽しようという意図が見える。彼が犯人ならば、それは罪を逃れたい一心からとしか考えられない」

霧切「だけど、この裁判での桑田君は、全く言い逃れする素振りすら見せなかった。それは、罪を逃れる為に証拠隠滅を図った姿とは遠い」

霧切「証拠の隠滅は、『自分の為ではなかった』と考えるのが自然よ。……例え自分を犠牲にしてでも、誰かを庇おうとした、ということになる」

十神「……だとすれば、その相手は、舞園に呼び出されたクルーしか考えられない、か。理解しがたいことだがな」

セレス「同室で寝食を共にする中で、一体ナニがあってそんな深い関係になったのでしょうね」

霧切「どうなの桑田君? 何か反論はある?」

桑田「反論はあるか、だとぉ……?」

桑田「あるよあるある! あるに決まってんだろ!!」

桑田「アホアホアホアホアホアホアホアホ!」

桑田「俺が犯人だと言ったら犯人なんだよ! 同志は犯人なんかじゃねえ!! アホアホアホアホアホアホアホアホ!!」




カギ爪「……いやあ、レオン君、もう良いんですよ」

桑田「……ど、同志!?」

桑田「同志、ダメだ、俺が!」

カギ爪「良いんです。もうこれ以上、君に無理はさせられない」

桑田「ど、同志……。うう」ガクッ



霧切(『同志』、ね。つまり桑田君がクルー君を庇った理由は思想にあったと)

霧切(今までの彼の言動からすれば信じがたいことだけれど)

苗木「……クルー君。キミが、舞園さんを殺したの?」

苗木「何で!? どうしてだよ!?」

カギ爪「おや?」

苗木「包丁を奪い、舞園さんがシャワー室に籠もった時点で、危険は去ったはずだろ!?」

苗木「なんで……、何でわざわざ工具セットまでとってきて、彼女を殺したんだ!?」

苗木「答えてよ!!」

カギ爪「ああ、すみません。そのことなんですが……」

苗木「え?」

カギ爪「お恥ずかしいのですが、そのマイゾノさんというのがどなたなのか教えて頂けませんか?」

苗木「……!?」

カギ爪「たしかに、誰かに部屋に呼び出されたことや、レオン君に後始末をお願いしたことは覚えているのですが」

カギ爪「肝心のマイゾノさんという方がよく分からないんですよね」

苗木「覚えてないの……!? 彼女を……」

カギ爪「申し訳ありません」

苗木「舞園さんを殺したことを!!」

カギ爪「ああ、どうやらその方は貴方にとって大切な人だったようですね。だからそんなに怒っておられる」

カギ爪「しかし、私がその人を殺したことがそんなに重大なことですか?」

苗木「は……?」

カギ爪「彼女は貴方の胸の中で生きているのでしょう? なら、それで十分ではないですか」

カギ爪「しかし、貴方がどうしてもその喪失感を埋められないと言うなら、私がそれに代わる喜びを用意しましょう」

カギ爪「私のお友達になりませんか? そして私を助けてください。それが私と貴方、双方の幸せですよ」



十神(な、何を言っているんだこいつは)

セレス(わけが分かりませんわ)

霧切(…………)

葉隠(き、キチガイだべ……)

苗木「……舞園さんは、そこにいる」

カギ爪「えぇ?」

苗木「僕の、隣の席にある写真を見てよ! これが舞園さんだ!! キミが殺した、僕の同級生だ!!」

カギ爪「…………ああ! 思い出しました!」

カギ爪「そうそう、たしかに彼女に部屋まで呼ばれたんでした」

カギ爪「そこでお友達になろうとしたのですが、ついうっかり包丁が刺さってしまって……。残念なことです」

苗木「……『つい、うっかり』?」

苗木「つい、うっかりで、彼女を殺したってのか!?」

カギ爪「そりゃ違う」

苗木「なにが違うって言うんだ!?」

カギ爪「彼女との絆、彼女がくれた経験。私の夢を支える一つになっている」

カギ爪「ああ、そうだ。マイゾノさんは私の中で生きている」

カギ爪「……ということは、この裁判はおかしい」

カギ爪「生きている人を殺した罪なんて問えませんよ?」

モノクマ「…………」

苗木「……もう、いい。もう解った」

霧切「どうやら、話しても無駄なようね」

カギ爪「あれれ?」

モノクマ「うぷぷぷ、議論の結果が出たみたいですね! では、そろそろ投票タイムといきましょうか」

モノクマ「お前ら、お手元のスイッチで投票してくださーい」

モノクマ「投票の結果、クロとなるのは誰か……」

桑田「ま、待て!! 俺だ!」

桑田「お、俺が犯人なんだよおおおおおおおお!!」

モノクマ「その答えは!!」

ドルルルルルルルル

ドンッ







【桑田】【桑田】【桑田】

桑田「えっ」

苗木「……え?」

霧切「……は?」

モノクマ「ブッブー! 大ハズレ!!」

モノクマ「今回舞園さやかさんを殺したクロは、クー・クライング・クルー君だったのに、お前らが選んだのは桑田怜恩君でした!」

十神「……なん、だと!?」

セレス「これは……」

大神「どういうことだ……!?」

葉隠「え? え? な、何が起きたんだべ」

モノクマ「えー、ちなみに、内訳としては、クルー君に6票、桑田君に8票でした」

モノクマ「よって、より多く票を得た桑田君が犯人に決まったわけです!」

霧切「……!?」





朝比奈「ふー、良かった!」

苗木「!?」

腐川「ほ、ホントよ。一時はどうなることかと思ったわ」

十神「なに……!?」

山田「しかし、まさかこの事件の犯人が同志だったとは」

石丸「うむ、同志が処刑されてしまうかと思い、ヒヤヒヤしたぞ!」

霧切「……まさ、か」

不二咲「で、でも、結果オーライだね!」

大和田「おうよ、これで同志は外に出て行けるんだからな!」

セレス「……そういうことですか」

桑田「お、お前ら……! お前らも同志の友達だったのか!?」

腐川「こ、こんな私を、同志は美しいと言ってくれた……」

山田「私のようなキモヲタを、同志は受け入れてくれた」

大和田「俺の罪を、赦してくれた」

不二咲「ぼ、僕の悩みを理解してくれて、ありのままの僕で良いと言ってくれた」

石丸「そうとも! 同志の清らかで真っ直ぐな夢に感動し、全てを捧げようと決意したのだ!!」

桑田「な、なんだ……はは、そうだったのかよ!」

桑田「おいおい、ビビって損したぜ! お前らも仲間だと知っていたら、下手な偽装工作なんてしなくて済んだのによ!」

石丸「うむ、済まなかったな! しかし、僕たちも互いの覚醒を知らなかったのだ!」

不二咲「く、桑田君が犯人に選ばれて初めて、大勢の理解者がいることを知ったんだよね」

霧切「……」ギリッ

苗木「う、そだ……」

十神「バカな……。バカな……」

葉隠「へ? へ?」

大神「朝比奈よ、一体どうしたというのだ!! なぜ、そんな男に!」

朝比奈「どうもしてないよ、さくらちゃん。同志はね、とっても素晴らしい方なの」

朝比奈「この世界に住む全ての人々を、幸せにしようとしてるんだ!」

朝比奈「さくらちゃんにも、きっと解るよっ!」ニコッ

大神「朝、比奈……」

カギ爪「あァ、皆さん、ありがとうございます」

「「「「「「「どういたしまして!!」」」」」」」

カギ爪「あはは……」

カギ爪「皆さんの支えで、どうやら私は〝幸せの時〟をもう一度やり直せそうです」

カギ爪「これも、みなさんのお陰です」ペコッ

ワーッワーッガンバッテーッワ―ッt

パチパチパチパチパチッ

「「「「「「「同志! 同志! 同志! 同志!!」」」」」」」




十神「こ、この……愚民共、がァッ……!!」

セレス「どうやらこの勝負、始まる前から勝敗は決していたようですわね」

大神「……」

葉隠「へ? へ? ど、どういうことだべ?」

苗木「……こんなことって」

霧切「私たちの負けね。残念だけど」

苗木「……き、霧切さん!」

霧切「この学級裁判というシステムには裏技があったということよ」

霧切「想像もできなかった裏技……『過半数の生徒に自ら命を捧げさせる』こと」

霧切「そうすれば、推理は無意味。どんなに言い逃れの出来ない証拠が出ようとも、全ては何の価値も持たなくなるわ」

苗木「そん、な」

霧切「彼らの勝ちね。黒幕と、そして、あのカギ爪の男」

霧切「わずか4,5日で生徒の半数を洗脳できる。そんな〝超高校級の教祖〟の力を見抜けなかった時点で、私達は負けていたの」

苗木「う、あ……」

モノクマ「はい、ってなわけで、お前らはクロを見つけられなかったので、真犯人を除く全員のおしおきを行いまーす」

モノクマ「うぷぷ、超高校級の希望達であるお前らの為に、スペシャルな、おしおきを、用意しました!」

ガチャンッ ゴオオオオオンッ

モノクマ「はい、これが外の世界だよ」

カギ爪「おお、これは! すごい! 新しいお友達がいっぱいだ!」

モノクマ「うぷぷ、さて、キミがどんな希望を見せてくれるのか、楽しみにしているよ」

カギ爪「はい、私の夢……みんなが幸せで穏やかに暮らせる幸せの時を、もう一度最初からやり直します」

モノクマ「うぷぷぷ、まあせいぜいみんなにキミのその希望を見せることだね」

カギ爪「よーし、やりますよお。私の計画はここからです!」


カギ爪の夢が世界を救うと信じて……! ご愛読ありがとうございました!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年12月23日 (水) 18:30:59   ID: 2dm_KwKF

カギ爪+老人ってかっこいいな・・・

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