三尋木咏「私の夢は」 (62)


 2012年、女子プロ麻雀チーム横浜ロードスターズは、
 若きエース三尋木咏の大車輪の活躍で38年ぶりの優勝を果たした。

 しかしその翌年からは——

 「横浜を優勝させてからチームを去る」スタンスの選手が多かったためか、
 チームの全盛期の選手は移籍・引退していき、チームも以前のような輝きを失っていった。

 そして現在、2021年。
 横浜ロードスターズは6年連続の最下位でシーズンを終了し、暗黒期の真っ只中にあった……。


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〔11/6・横浜の自宅・三尋木咏(32)〕

 ガチャッ

咏「たっだいまー」

 シーン……

咏「……へへ」

咏「今日はケーキ買ってきたもんねー」ガサゴソ

咏「食べよ食べよ」

 パクッ モグモグ

咏「……甘いなぁ」

咏「………」


咏「……寂しいな。テレビ付けるか」ポチッ

TV『麻雀プロリーグも先日、日本シリーズを終え終了しました』

TV『これから三日間、男子リーグ・女子リーグで活躍した選手をご紹介したいと思います!』

TV『今日の特集は女子リーグの宮永照選手です!』

咏「あれっ、照じゃん」

TV『宮永選手は横浜ロードスターズから松山フロティーラにFAで移籍し、昨シーズンより松山でプレイ』

TV『横浜時代では主に先発で出場。圧倒的リードを作るも中継ぎにリードを食い潰される展開が度々見られました』

咏「………」


アナウンサー『昨シーズンはなんと23勝3敗の大活躍!素晴らしかったですね』

照『ありがとうございます!』

咏「ははっ、照のやつ、また営業スマイル作ってる」

アナウンサー『横浜時代では10勝に届くか届かないかという成績でした。やはり環境の変化というものが大きかったんですか?』

照『そうですね。私としては出ていく喜びを感じられました』

照『横浜では誰を信じていいのかわかりませんでした。誰が継いでも勝ちを消されましたし』

照『トレードマークとか言われていた宮永ホーンを触られるというのも、道化の材料として使われてるようで嫌でした』

アナウンサー『そうですか……。やはり、仲間が信頼できるというのが勝利の大前提ですよね』

照『はい。私はここに来てようやくスタートラインに立てたと思っています』


 ブチッ

咏「………」

咏「……へへ、言いたい放題言ってくれやがって」

咏「……はぁ」

 Trrrr... Trrrr...

咏「はい、もしもし?」

『三尋木咏選手ですね?』

咏「はい。そうですけど」


『私は佐久フェレッターズの社長です』

咏「へ?社長さん?」

『はい。三尋木選手は今年でFA権を再取得されますよね』

咏「そうだっけー?知らんけど……」

『是非、うちへ来ていただきたいと思いましてこうして電話させていただきました』

咏「……交渉ってこと?」

『はい。詳しいお話はまたお会いしてからにさせていただきたいのですが、ざっと見積もって三年十億くらいです』

咏「十億!?」

『はい。三尋木選手にはそれだけの価値があると思っています』


『確かにあまり勝ち星は先行されてませんが、それは中継ぎに勝ちを消されているのが殆どです』

『三尋木選手の対局だけに絞ればプロリーグの中でもトップクラスというのがよく分かります』

咏「……少し、考えさせて貰っても」

『はい、構いません。ですが、FAは宣言の期間が僅かですのでよろしくお願いします』

咏「はい……」

 プツッ

咏「………」


〔翌日〕

 Trrrrr... Trrrrr...

咏「もしもーし?」

チームメイト『咏ちゃん!新聞見た!?』

咏「へ?なに?こんな朝っぱらから……」

チームメイト『早く見てよ!大変なことになってる!』

咏「ん〜〜なんだなんだ」

 ピラッ

咏「!これって……」


チームメイト『酷いよね……選手の私たちに一言もなくこんなこと……』

新聞【TBBS、横浜ロードスターズを売却】

咏「身売りか……」

チームメイト『売却先はどうなるのかな。裏ではもう決まってるのかな』

咏「んーそうなのかもね。知らんけど」

チームメイト『ところで咏ちゃんの方も取り上げられてるよ。別の新聞に』

咏「へ?私、なんかした?」

チームメイト『ほら、デイリー麻雀に。こんな日だってのに贔屓チームのことしか書いてないんだね、この新聞』


咏「どんな記事?」

チームメイト『佐久が咏ちゃんの獲得に乗り出したって記事。三年十億ってでっかく出てるよ』

咏「マジで?昨日電話来たばっかなんだけど」

チームメイト『あぁ、本当のことなんだ』

咏「でもまだ行くと決まったわけじゃ」

チームメイト『でも、横浜も万年最下位だし……咏ちゃんにとって移籍した方がいいんじゃない?』

咏「………」

チームメイト『ほら、去年移籍した照ちゃんも横浜から出てよかったって言ってるし、チームを出て価値観が変わるかもよ?』

咏「……そんなもんかな」


チームメイト『……ま、矛盾したこと言うようだけど、私的には残ってほしいけどね。横浜に』

チームメイト『でも、私は止めないからさ。自分に良い方選びなよ』

咏「……ああ。そうするよ」

チームメイト『じゃあ、また』

咏「うん」

 プツッ

咏「………」


〔茨城のとある雀荘・小鍛冶健夜(36)〕

健夜「ツモ。8800オール」パラッ

客A「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

マスター「……また悲鳴聞こえましたけど、小鍛冶さん、お金は取らないでくださいよ?」

健夜「わかってます」

客B「はぁ……また三人同時トビとか……」

客C「でも小鍛冶さんと打てて楽しかったです。プロ復帰に向けて頑張ってください」

健夜「ありがとうございます」

 スタスタ……


マスター「……小鍛冶さん、本当にプロに戻るの?」

健夜「………」

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〔四年前・つくばプリージングチキンズ本社〕

社長「……小鍛冶選手。我々は今回、君と契約を更改しないことを決定した」

健夜「えっ……」

社長「手切れ金も用意してある……。残念ながら受け入れてくれ」

健夜「……どうしてですか?今年も出場試合は全勝。チームにも貢献できてると思いますが」

社長「うむ……問題はそこなんだ」

健夜「問題?」


社長「確かに君が入団してチームはかなりのパワーアップとなった。……しかしな」

社長「君はあまりにも強すぎるんだ。レベルの差が歴然としすぎている」

健夜「………」

社長「確かに、その圧倒的な強さは集客効果もあった。こちらにも、相手チームのファンにも」

社長「だが最近、君が出る試合の観客動員数が明らかに減少している。『どうせ勝つから』『どうせ負けるから』という理由でだ」

健夜「………」

社長「実は、他チームにもトレードの打診をかけてみた。だがそれに応じてくれるチームは一つもなかったんだ」

社長「君という選手はこんな地方リーグにいていい存在ではないんだ」


社長「麻雀を続けたいのならプロへ。そうでなければ、うちへの就職……どちらかを選んでくれ」

健夜「……わかりました。プロを目指すことにします」

社長「……うむ」

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健夜「プロに戻る気はありますよ。……話が来ないだけで」

マスター「………」

健夜「……ま、こんな歳になって拾ってくれるチームなんてそうそうないでしょうけどね。やっぱり」

マスター「まぁ、女子リーグはアイドルのような側面もあるからね……」

健夜(……今年の誕生日も、一人かぁ)


〔松山・戒能良子(28)&瑞原はやり(36)〕

 ガチャッ

良子「ただいまー」

はやり「お帰りなさいっ」

娘「お帰りパパー」

※『パパ』とは、語源を『ローマ教皇』と同じくする『παππας(パパス)』より来ており、故に『男性の親』を指す言葉であるが、咲-Saki-世界に於いては伝説の女性ローマ教皇ヨハンナの存在に肯定的な解釈をしていることを願い、ここでは『パパ』を『ママの対義:女性の親(出産していない方)』にも用いるとする。

良子「ただいま。お風呂は入った?」

娘「いえす!」


良子「歯磨きは?」

娘「おっけー!」

良子「じゃあおやすみだね」

娘「ぐっどもーにんぐ!」

良子「……グッドナイトね」

はやり「くすっ」

 ・
 ・
 ・


はやり「遅くまでお疲れさま。お風呂にする?ご飯にする?」

良子「お風呂入りますー」

はやり「オッケー」

良子「……はやりさん、お風呂入りました?」

はやり「ん?まだだけど」

 ギュッ

はやり「ひゃっ」

良子「久しぶりに一緒に入りますか」

はやり「え、ええー!?」///


〔横浜・三尋木咏(32)〕

 ガチャッ

咏「ただいまー」

 シーン……

咏「……家具に返答機能がつけば完璧なのにねぃ」

咏「夕飯食べよ食べよ」

 パクッ モグモグ

咏「……はぁ」


 Trrrrr... Trrrrr...

咏「はい、もしもし」

照『咏さんですか?』

咏「……照?」

照『はい。お久しぶりです』

咏「あぁ……おひさ。どした?」

照『今日のデイリー見ました。佐久に移籍するんですよね?』

咏「え……。いや、まだ決まってない」


照『絶対移籍すべきですよ!横浜はただでさえ弱いのに、今は売却問題とかで揉めてるじゃないですか』

咏「んー……そうだね」

照『咏さんは別のチームなら200勝できてもおかしくない選手です。それが未だに150にも届いてないのは明らかに横浜というチームのせいですよ』

咏「………」

照『私としても、レベルの高いチームにいる咏さんと戦って優勝争いしてみたいんです』

照『三年十億なんていう破格の待遇もありますし、これは二つ返事でオッケーですよ。迷う要素なんてゼロです』

咏「……わかった。参考にするよ」

照『はい。朗報が聞けるのを待ってます』

 プツッ ツーツー……

咏「……はぁ」


〔一週間後・長野秋季予選会場〕

 ガチャッ

咏「こんにちはー」

ディレクター「こんにちはー!お疲れさまです!」

咏「疲れてないよー。……針生さんは?」

 ガチャッ

えり「こんにちは、よろしくお願いします」

咏「お、来た来た。よろしくー」

えり「はい。遠いところご苦労様です」

咏「うん。じゃあスタンバイしよっか」


 ・
 ・
 ・

選手A『ポン!』スチャッ

選手B『リーチ!』

えり「風越のB、ツモ切りリーチです」

えり「これはAが鳴いた【八】の壁の引っ掛けですね」

咏「うん。でもあからさま過ぎだねぃ。即決ツモ切りでリーチだから」


選手B『ロン!12000です』

えり「ここで千曲東のC、一発で放銃してしまいました。一位逆転です」

咏「これはいただけないな……。親リーに一発は流れまで持ってかれるよ」

えり「………」

咏「?どうかした?」

えり「い、いえ。東三局一本場です」

 ・
 ・
 ・


ディレクター「はい、オッケー!」

えり「ふぅ……」

ディレクター「お昼休みにしていいですよー」

咏「針生さん、お昼どうする?」

えり「ここのお弁当をいただこうと」

咏「おう。じゃ、空いてる控え室で食べよ」

えり「はい」

 ・
 ・
 ・


 モグモグ……

咏「ねぇ、そういやぁ針生さんはさぁ」

えり「はい?」

咏「結婚とかしないの?」

えり「……な、何ですかいきなり」

咏「いや、男の一人でも寄ってきそうなのに変だなーって思ってさ」

えり「したいですよ?そりゃあ」

咏「相手がいないだけなの?」

えり「……そうですね。好きな人はいるんですが中々振り向いてくれないといいますか」


咏「ふーん……大変なんだねぇ」

えり(……。ほんっと、私をイライラさせる才能が凄いんだよな、この人)

咏「どうかした?」

えり「いえ。何でもありません」

咏「そう……?」

えり「そういえば三尋木プロ、今日は珍しく真面目な解説でしたね」

咏「へ?」

えり「『わかんねー』とか『知らんしー』とか言わなかったじゃないですか」

咏「そう?言ってなかったっけ」

えり「はい」


咏「ていうか言ってるときも真面目にやってんだけど」

えり「その言葉は聞き飽きました」

咏「……へー」

咏「………」モグモグ

えり「三尋木プロ、今日は元気ないですね」

咏「そう?んなことないと思うけど」

えり「移籍ですか?」

咏「……やっぱ知ってんだ?」

えり「ロードスターズファンですからね」


咏「……ねぇ、針生さんはどう思う?移籍した方がいいと思う?」

えり「え?迷ってるんですか?」

咏「そりゃあ……ほら。15年もいたチームだし。一度は優勝も味あわせてもらったし」

えり「へぇ。ファンはみんな移籍するって覚悟してますよ」

咏「……そんなに居てほしくないのかねぃ」

えり「いやいや、ファンはみんな居てほしいと思ってますよ?」

咏「ん?どゆ意味?」


えり「ファンも居てほしいと思いつつ、三尋木プロがこんな最下位のチームで骨を埋めていいのかとも思ってるんですよ」

えり「ロードスターズファンはみんな三尋木プロのファンでもありますから、こんな選手がタイトルも取れずにいるのに心を痛めてるんです」

えり「他のチームならもっと勝ち星も付きますし、三尋木プロはまだ今年で33……ですよね?だから、今ならまだ間に合うって感じだと思います」

咏「そんなに私のこと評価してくれてんのか……」

えり「それはもう。生きるレジェンドですよ」


咏「……針生さんも、移籍した方がいいと思ってる?」

えり「……どうして私に聞くんですか?」

咏「自分で言ってたじゃん。ロードスターズファンは三尋木咏のファンだって。だったら針生さんもでしょ?」

えり「はぁ」

咏「だから、一ファンとしてどう思ってるのか聞きたくて」

えり「私の返答を参考にする気ですか?」

咏「うん……」

えり「じゃあ答えません。こういう大切なことは自分で決めるべきだと思います」

咏「……そっか。だよね」

えり「迷ってるなら、自分の本当にやりたいことを見つめ直してみたりしたらどうですか?」

咏「私が本当にやりたいこと——……」


〔翌日・佐久フェレッターズ事務所〕

 ガチャッ

咏「おはようございます」

オーナー「おお、よくお越しくださいました。どうぞこちらへ」

咏「はい」

オーナー「わざわざこちらまでご足労いただき申し訳ございません。こちらから出向きましたのに」

咏「いえ、こっちに仕事があったのでちょうどよかったです」

オーナー「そうですか。それで、移籍の件ですが」

咏「はい。直接会って話すべきだと思ってました」

咏「私、三尋木咏は——」


〔翌日・茨城の雀荘・小鍛冶健夜(36)〕

客A「すみませーん。こちらに小鍛冶健夜さんがいらっしゃるって聞いたんですけど……」

マスター「あ、はい。あちらの卓ですよ」

健夜「………」

客B「うわっ、マジだ。本物の小鍛冶健夜だ」

客C「ホントに打てるんですか?」

健夜「はい。どうぞ」

客B(うわーマジなんだ。あの週刊紙の記事、マジだったんだ)

客A(『堕ちた世界ランク二位!』だったかな?職もなくしてこんなところで油売ってるとは)

客C(俺たち三人でどんなもんか見てやる)

マスター(………)キュッキュッ


 タン、タン……

TV『えーただ今入ってきた情報です』

客C「リーチ!」

TV『FA宣言し、佐久フェレッターズと交渉していた三尋木咏プロが、横浜ロードスターズに残留することを発表しました』

客A「えっ?」

TV『今日、球団事務所で開かれた記者会見の映像が届いています。どうぞ』

客B「マジかよ、アレ蹴ったのか……。三年十億だろ……?」


咏『えーと。私、三尋木咏は横浜ロードスターズに残留することを決定致しました』

咏『今回の件で横浜や他球団を客観的に見られたし、FA宣言して良かったと思ってます』

咏『一生で一番頭を使ったし、しんどい思いもしたけれど、そのことは本当に良かったです』

記者『残留に決めた理由は何なんですか?』

咏『そうですねー……私は自分自身を一度振り返ろうと思ったんです。一番やりたいことは何なのかって』

咏『妙香寺高校の時も打倒・東白楽でインハイに出たいと思ってやってた。そんで横浜は今年、優勝から一番遠い位置だった』

咏『私の原点は何かって考えたら、強いチームを倒して勝つこと。強いチームに勝って優勝したいって気持ちを思い出したんです』

TV『……とのことです。大型契約の話も出ていましたが、結局は残留ということになったようですね』

健夜「……ツモ。6000・12000です」

客A「えっ」


 ・
 ・
 ・

健夜「ツモ。8600オール」

客ABC「ありがとうございました…………」フラフラ

健夜「ありがとうございました」

健夜(……だいぶ、若い時と同じくらいには戻ってきたかな)


 パチパチパチ……

健夜「?」

??「小鍛冶健夜さんですよね?僭越ながら、観戦させていただきました」

健夜「どなたですか?」

??「私はこういうものです」スッ

名刺【DeNB代表取締役社長 池田純子】

健夜「……DeNB?社長さん?」

池田「まだ『横浜ロードスターズ取締役社長』とは書かれていませんが……」

健夜「!どういうことですか?」


池田「今、TBBSがチームを売却する動きがあるってニュースされてますよね?あれ、実はもう大抵のことは決まってるんです」

健夜「あなたの会社が買収する……ですか」

池田「はい。ですので、オファーさせていただきに参りました」

健夜「社長さんが自ら……ですか?」

池田「はい。というより、私個人としてあなたに惚れ込んだんです」

池田「世間ではここで毎日練習しているあなたのことをとやかく言う人もいますが……そんな中でもずっと自分の価値を高め続けてきた」

池田「賭けて打つことも一回も無かったとマスターに聞きました。そんな真摯な態度に惹かれたんです」

池田「……小鍛冶さん。我が横浜DeNBロードスターズに来てはいただけませんか?」


〔横浜・咏の自宅〕

 Trrrrr... Trrrrr...

咏「はい。もしもーし?」

照『咏さん……照です』

咏「あぁ」

照『会見聞きました。残念です』

咏「……別のチームで優勝を目指すのも一つの道だよ。でも私はこの道を選んだんだ」

咏「横浜でもう一度優勝を目指すって道を」

照『そちらの決心に私は何も言いません。交流戦でお会いしましょう』

咏「日本シリーズでもね」


 そして時は過ぎ——


〔12/10・Megan Davin(26)〕

 Trrrrr... Trrrrr... ピッ

智葉『はい、もしもし?』

メガン「私デス。お久しぶりデス」

智葉『メグか。どうした?』

メガン「今年でハーツビーツ大宮との契約が切れましたケド……横浜ロードスターズに入団することが決定しまシタ!」


智葉『はー。よかったな』

メガン「ハイ!また日本でプレーできマス!」

『ゴシャッ ドシャッ うわぁぁやめろぉぉぉ』

智葉『うわおい、騒ぐな馬鹿!』

メガン「………」

智葉『あ、びっくりさせてすまない。教え子を教育してるだけなんだ』

メガン「ヤーさんと関わってるとか思われたらスーパースキャンダルですカラ、やめてくださイネ……」

智葉『私は正真正銘、清廉潔白の高校教師だよ』


〔松山・戒能良子(28)&瑞原はやり(36)〕

良子「横浜に移籍することになりました」

はやり「ホント?」

良子「はい。結局、横浜が億出してくれるみたいなのでそこに決めました」

はやり「そっか。じゃあ、私たちはそれについていくよ」

良子「来年には二人目も生まれますし、私も頑張らないとですね」

はやり「あはは、そうだね」

良子「妊娠がわかった直後だっていうのに、こんなバタバタしててすいません」ペコリ

はやり「ううん、いいのいいの」

はやり「それより、横浜って来年から小鍛冶さんや大宮のメガンも来るって言ってたよ。優勝狙えるかも」

良子「そうですね……。こっちでも優勝は何度か経験しましたけど、あっちでも優勝できれば最高ですね」


 更に時は過ぎ——三月末、シーズン開幕。
 三尋木・小鍛冶・戒能の三本エースを擁するロードスターズは順調な滑り出しを見せていた。


〔横浜のとある病院・六月〕

 コンコン

はやり「どうぞー」

健夜「こんにちは」ガラッ

はやり「小鍛冶さん!久しぶりだね」

健夜「うん。一年ぶりくらいかな」


健夜「具合はどう?」

はやり「母子ともに健康。最高だよ」

健夜「それはよかった。……ふふ、かわいい寝顔してるね」

はやり「あんまり声立てると目覚ましちゃうから気をつけてね」

健夜「うん」

はやり「……幸せ」

健夜「いい人と結婚したよね」

はやり「うん。八歳も上の私と一緒になってくれた。それに、今もずっと私たちのことを愛してくれてる」


健夜「……うん。アイドルしてたはやりちゃんよりずっと幸せそう」

はやり「えーそう?アイドルも楽しかったよ?」

健夜「えっホント?20代後半になってもアレは、やってる方きついだろうなと思って見てたんだけど」

はやり「えええー!?そんな風に見えてたの!?」

「オギャア!オギャア!」

はやり「あっ!ごめんね〜……よしよし、よしよし」

健夜「あはは。それじゃ、そろそろ試合だから行くね」


はやり「今日の先発は小鍛冶さん?」

健夜「うん。2000回和了までもうちょっとだから頑張らなきゃね」

はやり「若い人のお手本にね。頑張って」

健夜「うん!」

 ガラッ

はやり(……麻雀してる小鍛冶さんも、すっごく幸せそうだよ)

はやり(いつだったか、こんなことがあったっけ……)


---
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〔一年ほど前・とあるバー〕

健夜「んぐっ、んぐっ……ぷはぁっ!」ドンッ

はやり「小鍛冶さん、飲みすぎだよ……」

健夜「飲酒せずにはいられないなって感じ〜」

はやり(酔っちゃったかなぁ)

健夜「はぁー。ねぇ、はやりちゃん?結婚生活って良いもん?」

はやり「う、うん。良いものだよ」


健夜「そっかぁ〜……はやりちゃんが幸せなら私も幸せ……うぃっ」

はやり(………)

健夜「……私さぁ、今散々に叩かれてるよね。ネットとか雑誌とかで」

はやり「そ、そんなことないって」

健夜「隠さなくたっていいよー。わかりきってるもん。……うぃっ」

健夜「メジャーリーグで麻雀する!とか言って、二年五億ぅ?そんな大型契約したのに、内容はさーんざん」

健夜「結局メジャーでやれたのも10試合くらい。あとは全部3Aとか。日本人の価値を落としたのも全部私だよ……うぃっ」

はやり「………」


健夜「ねぇねぇはやりちゃん。ど〜してこんな醜態になっちゃったか、知りたぃー?」

はやり「……うん。それは素直に知りたい」

健夜「アハハハハッ。理由なんかないんだ。ほんっと、ただの実力不足」

はやり「えっ……?」

健夜「そーだよねぇ。そういう反応になるよねぇ。ほんっと、情けないよ……うぃっ」

はやり「………」


健夜「なんだかさぁー日本リーグで永世名人とか取っちゃってさぁ。心の中で慢心してたんだろうねーやっぱり」

健夜「そんな精神の在り方で……うぃっ、しかもずっと地方のぬるま湯でプレーしてたなんて、そりゃあメジャーじゃあ通用しないよ。うぃっ」

健夜「ほーんと、情けなくてさ……。日本に帰ってきたらこーこちゃんも結婚してるしさ……」

はやり「あぁ……」

健夜「もうホント、どうしていいかわかんないよ……っえぐ」

はやり「………」


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はやり(あの頃の小鍛冶さんは本当に辛そうだった)

はやり(そもそも——小鍛冶さんはあんまり麻雀を楽しんでなかったんだと思う)

はやり(でも、そこから牌を握りたい、もう一度打ちたいって強い気持ちを持って這い上がってきた)

はやり(だからこそ、今の小鍛冶さんはすっごく輝いてるように見える)

TV『先鋒戦終了ー!やはり圧倒的!小鍛治健夜、+4万点で中継ぎにバトンタッチです!』

TV『挫折を味わった女は強い!2000回和了まであと10回まで迫りましたー!』

はやり(頑張ってね、みんな)


 そして、時はまた過ぎて——


〔横浜スタジアム・7/4〕

実況『さぁ、遂に大将戦オーラス!』

実況『現在、横浜のメガンが僅かなリードを守っています!』

実況『次点には佐久の藤田!得意のまくりが成功するか!』

実況『三位につけている松実も、一撃で試合をひっくり返せる打点は持っています!』

 タン、タン、タン……

メガン「……ツモ!」

実況『メガンのツモだーーっ!!そして!』

実況『この瞬間、横浜ロードスターズの大エース・三尋木咏の150勝が達成されました!』


 ワアアアアアアア!!!

恒子「ヒーローインタビューは勿論この人!150勝を達成した三尋木咏選手ですっ!!」

咏「ありがとうございまーす!」

 みっひろぎっ!みっひろぎっ!

恒子「プロ歴16年目。長い道のりでしたね!」

咏「そうですねーでも、こうして横浜スタジアムで、横浜のファンの皆さんの前で達成することができて嬉しいです!」

 ワアアアアアアアーーーー!!!

恒子「昨シーズンオフには移籍の話もありました。他のチームでならもっと早く達成できたのでは?」

咏「いや、そんなんはないです。私は横浜の三尋木咏なんで」

恒子「そう言ってくれると信じてました!」

 ワアアアアアアアーーー!!!


恒子「さて、今この気持ちを誰に伝えたいですか!」

咏「もちろん、ここに集まってくれてるファンの皆さんと、一緒に戦ってるチームの仲間たち」

咏「それに、親や友人にもですね!みんな、ありがとうー!」

 ワアアアアアアアアアア!!!

恒子「ところで、昨日今日とドリームスタジアム2022ということで夢をテーマに様々なスペシャルコンテンツを行っておりますが、ここで三尋木選手。あなたの夢は何ですかー!」

咏「私の夢は、横浜DeNBロードスターズが最高のチームになって優勝することです!」


おわり

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