憧「初瀬にLINEで、山に呼び出された」 (406)

阿知賀麻雀部部室

淡「また遊びに来ちゃった!」

穏乃「あ、大星さん」

玄「淡ちゃんいらっしゃい」

宥「いらっしゃーい」

憧「…………」

灼「こんにちは」

淡「高鴨穏乃ー」だきっ

穏乃「わっ、大星さん?!」

憧「ちょっと!」

憧「なんでいきなりシズに抱きついてんのよ!」

憧「シズが困ってるでしょ! 離れなさい!」

淡「えっと……」

淡「お前誰だっけ?」

憧「はあ?」イラッ

淡「あー、確か『あらたしあこ』だっけ?」

淡「ごめんね、影薄いから忘れちゃってた」てへっ

憧「別にいいわよ、淡って記憶力悪そうだし」

淡「ッ!」イラッ

穏乃「ちょっと憧……」

淡「なにこいつ?! ちょーしつれい!」

淡「いきなりつっかかってくるし!」

憧「それはあんたがシズに抱きつくからでしょ」

淡「ねえ、穏乃、私に抱きつかれて嫌だった?」うるうる

穏乃「えっーと、嫌ってほどでは……」

淡「ほらー、穏乃嫌じゃないって。言いがかりはやめてよー」

憧「シズはやさしいから、ホントは嫌だけど気を遣ってるだけに決まってるでしょうが!」

淡「うわっ……自分の間違いを認められないとか……哀れなやつ……」

憧「はあ?!」

淡「穏乃~」すりすり

憧「……」イラッ

穏乃「あの、大星さん、あんまりくっつかれると……」

憧「ほら、困ってる!」

淡「ごめんね、私みたいなのにくっつかれるの嫌だった?」うるうる

穏乃「あー、えっーと、嫌ではないけども、もう少し離れてくれると、ありがたいというかなんというか……」

淡「良かった! 嫌じゃないんだ!」にやにや

憧「いやいや! 離れてくれると嬉しいって言ってんじゃん!」

淡「あーなんか、さっきから、ネチネチ文句言ってくるやつウッザイなあ」

憧「だからそれはあんたがシズにくっつくからって言ってるでしょ!」

淡「なんで私が穏乃にくっつくのがダメなわけ?」

憧「……えっと、それは」

憧「……」

憧「シズが困ってるから!!」

淡「あっ、もしかして嫉妬してるー?」

憧「はああ?」

憧「バッカじゃないの? なんであたしが嫉妬しないといけないのよ!?」

憧「まじ意味わかんない!」

淡「ふふっ、そんな必死に否定しなくても」

憧「は? どこが必死なのよ!」

穏乃「憧、少し落ち着いて」

憧「だからあたしは落ち着いてる!」

穏乃「どうどう」

憧「あたしは馬かー!」

淡「ふふっ」

憧「とーにーかーく! 淡はシズから離れなさい!」

淡「やーだー」

淡「なんで憧なんかの言うこと聞かないといけないの」

憧「はーなーれーろー」

淡「あ、そうだ」

淡「じゃあこうしよう」

淡「麻雀をして憧が私に勝ったら、憧の言うこと何でも聞いてあげる」

淡「逆に私が勝ったら、憧が私のいうことをなんでもきく」

憧「そんなの嫌に決まってんでしょ!」

淡「え?」

淡「えええー? ここは勝負受ける場面でしょ!」

淡「空気読めな過ぎ」

憧「ランダム性の高い競技で、そんな賭けできるわけない」

淡「ははーん、逃げるんだー」

憧「てか、あんた、恥ずかしくないわけ?」

淡「はあ? なにが?」

憧「あんたって麻雀得意なんでしょ?」

淡「とーぜん」

淡「私は高校100年生レベル」

憧「自分の得意な分野で、勝負しようとするって恥ずかしくないの?」

淡「は? 意味がわからないんだけど」

憧「じゃあ麻雀じゃなく勉強で勝負しようか? もちろん負けた方が勝った方の言うことをなんでも聞くってルールで」

淡「はあああ? バッカじゃないの? そんなのやるわけないし」

憧「へえー、逃げるんだ?」

淡「ッ!」イラッ

憧「今、あたしはあんたと同じことをしただけだけど」

憧「もちろん、あんたと違って本気でやるつもりはなかったけどね」

憧「自分の苦手な分野の勝負は逃げて、自分の得意な分野で戦おうとするのってなんか人間小さいよねー」

淡「…………」

穏乃「あ、憧、さすがにそれは暴論だよ」

玄(うわあ、淡ちゃん、すごく怒ってるよ)

憧「まあでも、あたしは大人だから、自分の有利な分野で戦おうとする器の小さな人間にも付き合ってあげる」

憧「麻雀で勝負しようか」

憧「残り二人はシズ、玄、お願い」

玄「う、うん、がんばるよおー」

穏乃「う、うん」

淡「……潰す」

………………
…………
……

オーラス

淡「……チッ」イライラ

淡(なにこれなにこれなにこれなにこれなにこれなにこれ)

淡(ありえないありえないありえないありえないありえない)

淡(私が二位で、新子憧が一位とか……)

淡(なにこの悪夢……)

淡(この私が! 憧ごときに負けるとかマジありえない!)

穏乃(う、また大星さん、凄いイライラしてる)

淡(さっきの憧はかなりむかついたけど、うん、すんごいむかついたけど、自分が私に勝てないってわかってるからの発言だからまあ許せた)

淡(なのになんなのこれ?)

玄「」かちっ

憧「ロン!」

淡(ッ!)

玄「あううう」

憧「よっしゃー、一位!」

憧「あー、誰かさんの得意な麻雀でも勝っちゃったあたしー」チラッ

憧「っけーね、つい本気だしちゃった、つい本気だして勝っちゃったよー」チラチラッ

憧「適当に負けて、花を持たせるつもりだったんだけどなー」チラチラッ

憧「間違って勝っちゃったわー」

淡「…………」

穏乃「ちょっと憧!」

玄「あこちゃん、その言い方はあんまりなのです!」

憧「えー、なにがー」

淡「…………」ぎりぎり

淡「…………」グギギギギ

淡(二人の能力を利用するなんて……)

淡(最初に高鴨穏乃と松実玄を卓に入れた時点で気付くべきだった……)

淡(まともにやったら、勝ち目無いの知ってて、二人の能力を利用して、上手く立ち回られた……)

淡(それでも……)

淡(穏乃と松実玄と打ち慣れてるアドバンテージを加味しても、まだ私の方に分があった……)

淡(穏乃の力をぶつけても、私の力が完全に相殺できるわけじゃない……)

淡(なのに……)

淡(…………)グギギギ

淡(そもそも憧単体なら雑魚じゃん)

淡(他人の能力を利用しなければ、何もできない、クズのくせに)

淡(憧一人を倒すだけなら、赤子の手を捻るより簡単なのに……)

淡(クソクソクソクソクソクソクソクソ)

淡「……もう一回」

憧「ん?」

淡「もう一回勝負! 新子憧!」

淡「今度は高鴨穏乃と松実玄抜きで、かわりに鷺森灼と――」

憧「ごっめーん、もう帰らないと」

淡「………………はあ?」

憧「今日用事があって、もう帰らないといけないのよねー」

淡「はあああ?」

淡「はあああああああああ?」

淡「逃げるの?」

淡「そんな明から様な嘘、通用すると思ってんの?!!」

淡「この面子じゃないと勝てないからって!」

淡「うううん、この面子でも、勝ったのはタマタマ」

淡「次やったら、勝てないのわかってるからって逃げるんだ!?」

憧「うん、じゃあそれでいいよー」

淡「……は?」

憧「淡って麻雀すーごーく、強いから、次やったら私負けちゃうかもー」

憧「これでいい?」

淡「……」

憧「じゃーねー」

ガラッ

淡「なにあれ……」

淡「…………」

淡「…………」

淡「…………」

淡「なにあれ……」

穏乃(大星さん、本気で怒ってる……)

玄(こ、こわいよー)

宥(あ、あったかくない……)ぷるぷる

灼(すごい迫力、一年生とは思えない……)

灼(空気が震えてる)

淡「…………」

翌日 阿知賀麻雀部部室

穏乃「憧、昨日はさすがに酷いよ……」

玄「憧ちゃん、めっ!です!」

憧「ごめん……」

憧「昨日はさすがに私もやりすぎたと思ってる」

憧「ほんとごめんなさい……」

穏乃「憧……」

憧「私、淡に謝らないと……」

憧「昨日の私、本当に大人げなかった……」

穏乃「……」

穏乃「うん、憧はやっぱり憧だ!」

玄「ちゃんと自分の悪いとこを認められるなんて、憧ちゃんはいい子いい子なのです」なでなで

憧「もうっー、なでるなー」

穏乃「憧はいい子だなー」なでなで

憧「シズも便乗してなでるなー///」

宥「よかったー」

灼「一件落着」

憧「反省してます、はい」

穏乃「うんうん」

憧「いやーでも言い訳をさせてもらうと、淡だって少しは悪いよね」

穏乃「もうー、憧はまたそんなこと言う」

憧「だってー」

憧「私も淡に勝ったのが嬉しくてつい、ね」

憧「普通にやったら50回戦っても勝てる気しないし」

憧「あのメンツでやっても5回に1回勝てるかどうかだしねー」

玄「あのメンツ?」

穏乃「ん? なんのこと?」

憧(この二人、利用されたのに気付いてない……)

穏乃「でも憧ってやたら大星さんにつっかかるよねー」

憧「そ、そう?」

穏乃「なーんか珍しいなあと思って」

灼(穏乃のせいでもあるんだけどね……)

憧「そ、そういえばさ」

灼(話を逸らした……)

憧「そもそもなんで淡って奈良にいるんだっけ?」

穏乃「えっとー、なんかの療養中じゃなかったっけ?」

憧「え? 淡って病気なの?」

灼「交通事故にあったらしいよ」

灼「今は大丈夫だけど、かなり頭を強く打って危なかったらしい」

灼「だから念のために休んでるんだって」

憧「そう……だったんだ……」

灼「しかも事故を起こした犯人がサイコパスで、捕まった時にぶつぶつ『……ワハハ、人を轢いてしまったぞ』とか独り言を呟きながら笑ってたんだって」

憧「うーわー、こわっ」

穏乃「最近なんか変な人多いですね」

宥「あとあと、事故にあってから、淡ちゃん、少し性格変わったって話も……」

灼「ああ、私も聞いたそれ」

灼「事故前と事故後じゃ、別人みたいだって」

憧「そうなの? 前からあんなじゃなかった?」

穏乃「いや、憧は事故に合う前の大星さん知らないでしょ」

憧「まあそうだけど……ほら、イメージで……」

玄「ショックだったんだよ、きっと」

玄「そんな命がけの体験したら、少しくらい性格が変わっても不思議ではないのです」

憧「確かに」

灼「いや、なんかそういうレベルじゃないみたい」

灼「以前の大星さんを知ってる人から言わせると、比喩とかではなく、ほんとに別人みたいなんだって」

憧「あれかな……」

憧「海馬だか前頭葉だかは忘れたけど、脳が傷つくと、人格が変わってしまうことがあるらしいね」

憧「賢くて穏やかだった人が、脳が傷ついてから、獣のような人になってしまう例もあるみたいだし」

玄「なんか怖いね……」

憧(ていうか、淡ってそんな大変なことになってたんだ……)

憧(それなのにあたし、意地悪言って……)

憧(あたしってほんと嫌な子だな……)

憧(次会ったら、本気で謝らないと)

憧「……」

憧「てか、なんで奈良なのかな?」

憧「療養って言ったら、沖縄とか北海道ってイメージが」

灼「さあ? 私に聞かれても」

宥「沖縄がいいと思います……」

憧「あ、でも、気候が極端に変わると逆に体に悪いかも」

憧「ちなみにあたしは北海道がいいかなー」

宥「…………」ぶるぶる

憧「宥ねえ、想像しただけで震えないで」

……

淡「新子憧新子憧新子憧新子憧新子憧新子憧新子憧新子憧新子憧新子憧新子憧新子憧新子憧新子憧新子憧新子憧」

淡「○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す
○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す
○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す
○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す○す」

淡「×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す
×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す×す」

淡「○してから、×すのか、×してから、○すのか、それが問題だ」

淡「ああ、そっか」

淡「×して、○して、×せば完璧じゃん!」

淡「生きてる間に×して、死んでからも×す」

淡「私って天才!」

淡「刺○絞○撲○射○斬○焼○轢○圧○毒○爆○」

淡「ああ、どれにしようか迷っちゃう」

淡「どれか一つなんて選べないよ」

淡「でも、簡単に殺しちゃうのもねえ……」

淡「ふふふ」

淡「心も、体も、×して、○してあげる」

淡「待っててね、新子憧」

……

阿知賀麻雀部部室

玄「最近淡ちゃん遊びに来ないねー」

憧(最近というより、あれ以来、来てない)

穏乃「憧のせいじゃないって」

穏乃「だからそんな顔しなくて大丈夫!」

憧「いや、どう考えてもあたしのせいだよ」

玄「憧ちゃん……」

穏乃「きっと、忙しくて遊びに来れないだけだって!」

憧「……」

宥「そういえば、淡ちゃんがその辺でうろうろしてるの見たよ」

灼「私自身は見てないけど、クラスメイトが見たって言ってた……」

灼「阿知賀の制服着て廊下を歩いてたんだって」

憧「……」

憧(校舎まで入ってきてて、麻雀部に来ないってことは、完全あたしのせいじゃん)

憧(あたしの自業自得とはいえ、結構こたえるなあ)

憧(ほんと、悪いことしちゃった……)

……

二週間後

淡(よしっ、新子憧のことはだいたいわかった)

淡(交友関係も把握した)

淡(ふふ、人間関係をめちゃめちゃにして、精神的に追いつめるってのも中々魅力的だけど、今は直接ぶっ壊したい気分なんだよねー)

淡(うふふ)

……

憧(初瀬に山に呼び出された)

憧(『友達が怪我したから、助けて欲しい』んだって)

憧(常識的に考えて、レスキューか、大人の助け呼べよ、と思ったし、実際にそう言ったけど、酒盛りをしてたらしく、出来れば、内々で解決したいとのこと)

憧(友達の怪我も、大したものじゃないらしく、後一人くらい人手があれば、どうにかなるらしい)

憧(……)

憧「まあ初瀬たちが悪いんだけど……」

憧「それでも助けないわけにはいかないよね」

……

初瀬「あれ?」

初瀬「携帯がない」

初瀬「部室に忘れちゃったかな?」

初瀬「どうしよう、私パズドラやってないと震えがとまらない病気なんだけど……」

小走「にわかだな」

初瀬(にわか関係ないし)

初瀬(もうにわか言いたいだけじゃないですか……)

……



憧「確か、初瀬の話だとこの辺りだけど」

憧「なんか連絡もとれなくなったし、電池きれちゃったのかなー」

憧「おーい、初瀬」

淡(いたいた)

淡(後ろから金属バットで、ガツンってやっちゃってもいいよね?)

憧「ん?」

淡(くたばれ)

淡(淡選手、フルスイング!)ぶんっ

憧「ァグッ……」ゴンッ

淡(おおっと! 後頭部をジャストミート! これは強烈な当たりぃ!)

憧「……」どさっ

淡「よし、倒れた!」

淡「でも念のため、もう一発!」

憧「」ゴンッ

淡「おまけにもう一発」

憧「」ガンッ

淡「ついでに蹴りもいれてあげよう」

淡「ボールは友達!」げしげし

淡「どうせだし、おしっこもかけちゃおう」

淡「それっ」じゃーーー

淡「恵みの雨だよ」じょぼぼぼぼ

……

憧(ぁぁあ……なに?)

憧(頭が尋常じゃなく痛いんだけど……?)

憧(体の節々も痛いし、なんかくらくらする……)

憧(視界もぼやけてる)

憧(ていうかあたし、そもそもなにしてたんだっけ?)

憧(なんか体も動かないし)

憧(思考が上手くまとまらない)

淡「あ、やっと起きたぁ?」

憧「え……? あわい?」

憧「なんで淡が……ていうかその血のついた金属バットなに?!」

淡「あはは」

憧(ん?今気付いたけど、なんか体動かないと思ったら、手足縛られてるっ!?)

憧(なんなの、これ?)

憧(落ち着け、冷静になれ)

憧(なんとなくだけど、これってなんかヤバい気がする)

憧(とりあえず、状況を確認しないと)

憧(……ええっと)

憧(そう、あたしは初瀬を手伝うために山に来て……)

憧(……そこで意識を失った?)

憧(そして今も山にいるみたい……けど、あたしが意識を失った場所とは違って、ここは普段人が通らないとこだ……)

淡「うふ、なんか戸惑ってるみたいだから、親切な私が、簡単に状況を説明してあげるね」

憧「……」

淡「憧はね、今から私に殺されちゃうの」

憧「……え?」

淡「バットで滅多打ちにされてね」

淡「うん、まだ頭痛むんじゃない?」

淡「それは私が殴ったからなんだよ」

憧「……じょ、冗談でしょ?」

淡「冗談でこんなことしないよ」

淡「金属バットって一発殴るだけでもすごく痛いみたいね」

淡「まあ、こんなに硬いから当然か」こんこん

淡「想像してみてよ」

淡「自分が金属バットで、何発も何発も何発も何発も殴られるとこを」

憧「…………ぁぁぁ」

淡「ああ想像すると、思わずよだれがでそうになるね」

憧「…………ねえ」

憧「……謝るから」

憧「あたしが悪かったから、こんなことやめてよ……」

淡「え、今更?」

淡「自分が身の危険にさらされたから謝って許してもらおうなんて、都合良過ぎだよね」

憧「違う……、ずっと……謝りたかった」

淡「えー、そんな言葉信じられないし」

淡「それに、私は憧が言うように、人間小さいから、それくらいじゃあ許してあげられないなあ」

書き溜め?

憧「あれは……その……」

淡「まあでも謝るって言うなら、謝ってよ」

淡「土下座するなら考えなくもないかな」

淡「手は後ろで縛られてるから、手はつけれないだろうけど、頭だけでも地面につけてさ」

憧「わかった……」もぞもぞ

憧「この前は、意地悪なこと言って」もぞもぞ

憧「本当にごめんなさい」ぺこっ

淡「淡キック!」げしっ

憧「がァッ!」ごほごほ

淡「あっはは、ごめーん」

淡「土下座してる人をみると、つい頭踏んづけたくなっちゃうんだよね」

憧「………ぅ」

淡「よしじゃあ、謝罪もしてもらったし」

淡「そろそろ殺すか」

憧「へっ? なんで……」

淡「考えたけど、殺そうって結論になっちゃった」

憧「そんな……」

淡「そんじゃ、まずは一発!」ぶん

憧「オゴッ!」キーン

淡「あはは、骨に合ったからか、なんか金属っぽい音したね」

淡「じゃあ、もう一発」

>>51
基本書き溜めだけど、すぐ猿さん規制喰らっちゃうからあまりすぐには書き込めないんだ

憧「やめて……」

憧「お願いやめてよ……」

憧「助けて……」

憧「痛いよ……」

憧「そんなことされたら、ホントにあたし死んじゃうよ……」

淡「だから、殺す為にやってんだって」

憧「……ぅぅ」

憧「許して……許してよ……ひっく」

憧「ぁぁ……ぅぅ」

淡「あーあー、泣いちゃった」

淡「みっともない」

憧「……ぁぁ……ぅぅ」ぐすっ

淡「ふむ…………」

淡「顔、もっとよく見せて」

憧「……ぁ」

淡「ほら、隠さない」

憧「ぅぅぅ……」ひっく、ひっく

淡「へえー」

淡「憧の顔、今まで意識して見た事なかったけど、泣き顔は可愛いじゃん」

淡「見た目だけなら、穏乃より好みかも」

憧「許して……なんでもするから……」

淡「うわっ」

淡「漫画とかでよく聞くセリフだけど、実際に聞いたのは初めてだ」

淡「なんかテンションあがっちゃうねー」

淡「でもそのセリフってさあ、前に『私に出来る事は』が抜けてるよね」

淡「なんでもするんだったら、死ねよって言いたくなるし」

憧「……ぅぅ」

淡「じゃあとりあえず、そうだ、この落ちてる葉っぱ食べてよ」

憧「……ぇ?」

淡「なんでもするんでしょ」

淡「死ぬよりは、葉っぱ食べるほうがマシじゃない?」

憧「……うん」

淡「ほら、あーんして」

憧「…………ぅぅぅ」

淡「さっさと口開けろって」

憧「……はい」

憧「……くっ」ぱくっ

淡「おおえらいえらい」

淡「よく噛んで」

憧「」むしゃむしゃ

憧「……うっ」むしゃむしゃ

憧(葉の汁の味なのか……苦い……)

憧(土が付着してるからか、なんか舌がざらざらする)

憧(葉のエキスや、土の味が、口の中で広がって……ううっ)

憧(気持ち悪い……吐きそう……)

憧(こんなの、飲み込まないといけないの?)

憧(…………)

憧(我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢)

憧(他のことを考えろ、味覚に感覚を集中するな)

淡「よく見てなかったから、もしかしたら虫とかついてたかもね」

憧「……ううっ」

憧「うえええええええええええええええええええええええええ」

憧「がっ、おえええええええ」ぺっ

淡「うわっ、きたなっ」

淡「くくく、なに? 今の声? てかっ吐いちゃったよ、ちょー笑えるんだけど」

淡「やばいツボッた、あはははは」

淡「あはははは」

淡「あー苦しい」

憧「……」

淡「でも、吐いちゃったから殺すね」

憧「そんな……」

憧「お願いっ! もう一回チャンスをっ!」

淡「あー、まあ面白かったから許そっかなー」

憧「あ、ありがとう」

淡「じゃあ、次はなにしてもらおっかなー」

淡「うーん」

淡「……」

憧「……」

淡「特に思いつかない」

淡「しょうがないから殺すね」

憧「え……?」

淡「だって、思いつかないんだもん」

淡「何か食べさせるのはさっきと被ってるしさー」

淡「虫とか食わせるのは面白そうだけど」

憧「うっ」

淡「他になんか……うーん」

淡「ええとー」

淡「あ、そうだ」

淡「じゃあ憧が面白い話してよ」

憧「え?」

淡「憧の恥ずかしい話聞きたい」

淡「自分意外には、秘密にしてる話」

憧「えっと……」

淡「ないの? じゃあ――」

憧「あるから! あるからちょっと待って!」

憧「えっと……」

淡「あと、ウソとかついても、殺すから」

淡「誰にも知られたくない、自分の恥部を晒してよ」

淡「なんか一つくらいあんでしょ?」

憧「えと……あたしは」

淡「うんうん」

憧「……」

憧(背に腹はかえられないか)

憧(淡を騙せるような、上手いウソも思いつかないし)

憧(正直に話すしか)

憧「あたしは、シズが好き」

憧「告白とかもはもちろん、そんな素振りも見せた事無いけど……」

憧「多分、小学校の頃から……」

淡「…………」

淡「はあ……つまんね」

淡「やっぱ殺していい?」

憧「ちょっとまって! 他にも……」

憧「ええっと、ええっと」

憧(やばい、思いつかない……)

憧(自分が人に知られたくない話をすればいいわけだから)

憧「その、あたしはシズと違う中学に行ったんだけど、ほんとはシズの気が引きたいだけで、シズがとめてくれ――」

淡「もういい、死んでいいよお前」

淡「お前の話、つまんない」

憧「え、そんな……」

淡「じゃあ殺すね」

憧(考えろ考えろ考えろ)

憧「……シズのジャージの臭いとか、嗅いだりしたことある」ぼそっ

淡「えっ? なに」

憧(覚悟を決めろ)

憧(今は、生き延びることだけを考える!)

憧「何度かシズのジャージの臭いとか、嗅いだりしたことある」

淡「おいおい、イケてんじゃん、悪い意味で」

淡「そうだよ、そういう他の人に知られたら死にたくなるような話が聞きたかったんだって」

淡「その話詳しく」

憧「体育の時とか、わざと遅く着替えたり、忘れ物取りに行くふりして、シズのジャージの臭いを嗅いだりした」

淡「うわっ、どん引き!」

淡「変態すぎて笑えてくるんだけど」

憧「……っ」

憧(ああ、死にたい……いや、死にたくないけど)

憧「あと、使用後の体操服の臭いとかも嗅いだ事ある」

憧「その……シズの汗の匂いとか好きで……」

淡「やばっ、きもちわるすぎ……」

淡「本人知ったらどう思うんだろうね、それ」

憧「っ!」

憧(そんなこと、考えたくもない)

憧(ああ、吐きそうだ……)

淡「もっともっと、そういう話聞かせてよ」

……



淡「さてさて、憧の変態行為とか、密かなコンプレックスとか、月の自慰の回数とか、どんな妄想をするのかとか、色々話してくれたわけだけど」

淡「当然、今までの会話は全て録音してたから」

憧「は?」

淡「いやいや、『は?』じゃないでしょ」

淡「むしろ今の流れで録音してないほうがおかしいよね?」

淡「憧ってもしかして、ピンチで頭働かないタイプ?」

憧「うそ……でしょ……」

淡「あはは、なにこの世の終わりみたいな顔してるの?」

淡「無事生きのびたんだよ、もっと喜びなよ」

淡「今の私は、ほとんど殺意残ってないし」

淡「殺す事より、もっと楽しい遊びを思いついちゃったし」

憧「…………」

淡「ああ、賢い憧なら言わなくてもわかると思うけど、私に襲われたとか乱暴されたとか誰かに言ったら、さっきの音声データ、憧の知り合い全員に送りつけたあと、ネットで顔写真つきで公開するから」

淡「憧の携帯に入ってるアドレスは全部、憧が気絶してる間にコピっといたから」

淡「じゃあ、また、遊ぼうねー」

淡「ばいばいー」

……

憧「…………」

憧「…………」

憧「どうして、あんなこと、話しちゃったんだろ?」

憧「淡がもしバラして、シズの耳に入ったら……」

憧「あんなことシズに知られるなんて、死ぬより辛いよ……」

憧「それなら、いっそ、あの時に殺されたほうが良かった」

憧「あたしって、本当に馬鹿だ……」

憧「……」

憧「……」

憧「この怪我、どうやって誤摩化そう……」

……

阿知賀麻雀部部室

憧「ねえ、この後、灼んとこで、ボーリングしていかない?」

穏乃「おっ! いいね!」

玄「灼ちゃん、大丈夫?」

灼「うん、私としても、みんなが来てくれるのは嬉しい」

宥「わわわーい」

穏乃「今日こそは、灼さんに負けませんからね!」

灼「うん、いつでも勝負は受けてたつ」

玄「強者の余裕だね」

運命が~ 回り出す~

憧「あ、メールだ」

憧「っ!」

穏乃「ん? どうした?」

憧「ごめん、用事が出来ちゃった、あたし行けない」

穏乃「ええええ! 憧が誘ったのにぃ!?」

憧「ほんっと、ごめん、四人で行って来て」

憧「じゃ、あたし行くね」

穏乃「あ、ちょっと」

玄「行っちゃった」

灼「なんか急いでたね」

宥「大事な用事だったのかな?」

……

淡「お、ちゃんと時間通りに来たね」

憧(そうしないと、なにされるかわからないからね)

淡「じゃあ行こうか」

憧「どこに?」

淡「私の奈良での家」



淡の家

憧「これは、地下室?」

淡「そう」

淡「住宅地でもピアノとか、楽器が弾けるように、防音の地下室があるの」

淡「まあ、この地下室は、音楽を奏でるためのものじゃないけど」

……

淡「じゃあとりあえず、服脱いで下着だけになって」

憧「はあ?」

憧「いきなり何言ってんの?」

淡「じゃあ、穏乃に憧の変態っぷりバラしていいの?」

憧「それは……」

淡「憧に拒否権はないの、そのへん、わかってる?」

淡「最初だから、けっこう軽いお願いをしたつもりなんだけどなあ」

淡「すぐ壊れてもつまらないしね」

淡「別に全裸になれって言ってるわけじゃないし」

憧「わかった、わかったわよ」

憧(……ぅぅぅ)

……

淡「赤くなっちゃって、カワイイ」

憧(うるさい)

淡「はい、チーズ」

カシャッ、カシャッ

憧「ちょっと! なんで撮ってんの!」

淡「憧の写真集を作ろうと思って」

憧「そんなのダメに決まってんでしょ!」

淡「はあ……」

淡「憧ってもしかして馬鹿?」

淡「自分の立場わかってる?」

淡「今すぐぶっ殺して、その後で、穏乃たちにあのデータ送りつけてもいいんだけど」

憧「ご、ごめんなさい」



注※SS内オリジナル設定で、この世界には女性用の下の下着というものが存在します

淡「理解した? 憧は私に逆らえないんだよ」

淡「じゃあ、これくわえてポーズとって」

憧「え、それって」

憧(避妊具……だよね)

淡「なに? できないの?」

憧「やるわよ、やればいいんでしょ!」

淡「はい、あーん」

憧「……くっ」ぱくっ

淡「はい、ポーズとって」くすくす

カシャッ、カシャッ

憧「……ぅぅ」

憧(くそっ)

憧(なんであたしがこんな辱め、受けなきゃならないのよ)

憧(いつか絶対に仕返ししてやる……)

淡「恥ずかしそうな顔が、そそるねー」

淡「ねえ、憧って処女?」

憧「な、なんでそんなこと答えなきゃ」

淡「送信しちゃおっか?」

憧「……しょ、処女だよ。悪い?」

淡「いや、全然悪くないよ」くすっ

淡(だってそっちのほうがイジメがいあるし)

淡(ふふっ、そのほうが面白いから、しばらく処女は奪わないであげるね)

……

阿知賀麻雀部部室

穏乃「今日、部活終わったあと、みんなでカラオケ行きませんか?」

灼「賛成」

宥「わたしも……」

玄「メロスピを歌ってやるのです」

宥「くろちゃんハーマンリ(イケメン)のものまね上手いもんね」

穏乃「憧も、もちろん行くよね?」

憧「ごめん……あたし今日用事あるんだ」

穏乃「えー、またぁ?」

穏乃「最近付き合い悪いぞ」ぶーぶー

憧「ごめんごめん、この埋め合わせは必ずするからさ」

憧(あたしだってホントは行きたいよ)

……

淡の家・地下室

淡「じゃーん、これなーんだ?」

憧「首輪……」

淡「今日一日、憧を私のペットにしてあげるね」

淡「嬉しい?」

憧「……」

淡「嬉しいかって聞いてんだけど」

憧「うん……」

憧(嬉しいわけないでしょ、馬鹿じゃないの)

淡「こうして」かちゃっがちゃっ

淡「うん、よく似合ってるよー」

憧「……」

淡「ほらほら、ペットなんだから、四つん這いになってよ」

憧「っ」

淡「ほいっと」ぐいっ

憧「うっ、ちょっと、そんな強く引っ張らないで」

淡「おすわり」

憧「」すっ

淡「お手」

憧「」ぱしっ

淡「ふせ」

憧「」さっ

淡「よしよし、いい子いい子」なでなで

憧(ほんっとに馬鹿にして……)

憧(あたしは人間だ、犬じゃない)

淡「なーんか、このペット、まだ反抗的な目だなあ……」

淡「そうだ」

淡「私の指、舐めろ」

憧「はっ? そんなこと嫌に――」

淡「黙れ」ばしっ

憧「痛っ!」

淡「今度は金属バット持って来ようか?」

憧「わかった、わかったからそれはやめて……」

淡「ほらっ、舐めろ」

憧「……ぅぅ」

憧(無駄に綺麗な指……)

憧「……」チョロチョロ

憧「……」ぺろぺろ

淡「なーんか、猫みたい」

淡「ねえ、にゃーって言って」

憧「……にゃー」

淡「うわ、マジ馬鹿っぽい、あはは」

憧(あんたがやらせたんでしょうが……)

淡「今度は舐めるだけじゃなくて、しゃぶってよ」

憧「……」

淡「しゃぶれ」

憧「はい……」

憧「……ぅぅぅ、ぱくっ」

憧「ちゅぱちゅぱ」

憧「チュッ……チュッ……」

憧「じゅるっ……ちゅ」

淡「うわっ、ホントにしゃぶってるし」

淡「マジひくー」

憧「っ!」

憧(だからっ、やらなかったら怒るくせに……)

淡「でもなんかヌルいんだよね」

淡「もっとこう、激しく、奥までくわえてよ」

淡「えいっ」

憧「グャッ! アグッ!」

憧(指が、のどの奥に……)

淡「ほらほらほらほら!」

憧「オ"ッ、ガッ、ウ"ッ」

憧(息が出来なっ、苦しい)

淡「あはは、なんか涙目になってるし」

淡「おかしぃー」

憧「アッ…………グゴガッ」

憧(苦しい苦しい苦しい苦しい)

憧「~~~~~~」ぱんぱん

淡「はいはい、抜いてあげる」

憧「ゴホッ、ゴホ……オエエ」

憧「はあ……はあ……」

淡「あはは、憧ってば、マジ哀れ」

憧「はあ……はあ……くっ! 誰のせいだと!」

淡「へえー、まだそんな反抗的な態度とるんだ」

淡「憧ってほんと学習能力無いなあ」

淡「」げしっ、げしっ

憧「痛い痛い! 蹴らないで」

淡「聞き分けのないペットにはしつけが必要なんだよ」げしっ!げしっ!

憧「痛いっ! 痛いよっ! ぁぅっ!」

淡「死ねっ、死ねっ、死ねっ、あははははは」ドガッ!ドガッ!ドガッッ!

憧「あッ! やめてっ! やめてよっ!」

淡「一度、本気でしつけたほうがいいと思ってたんだよねー」

淡「ほらっ、あっちにある椅子に座って」

憧「やだっ、やだやだ! もう許して」じたばた

淡「」イラッ

淡「チッ」

淡「あんまり本気で怒らせないでよ」

憧「」びくっ

淡「いいよ」

淡「憧が選んで」

淡「今すぐ死ぬか、椅子に座るか」

憧「ぁぁぁ……」がたがた

憧「座る、座ります」ぶるぶる

淡「よしよしっ、聞き分けのいい子は好きだよー」

……

ガチャッ、カチッ、カチッ

淡「よしっ、これで手足を拘束完了」

憧「」びくびく

淡「そんなに怯えないでよーもうー」

淡「そんな表情されるとさあ、余計にいじめたくなっちゃうじゃん」

憧「ぁぁぁぁ」びくびく

淡「冗談冗談」

淡「あんまり酷いことはしないって」

淡「壊しちゃったら遊べなくなっちゃうしねー」

憧「…………」

憧(手足が固定されてて、完全に身動きがとれない)

憧(こんな状況で怯えるなってほうが無理あるよ……)

淡「ただ、爪の間につまようじ入れるだけだから」

憧「え?」

淡「まあ、ちょっとは痛いだろうけど、それくらい我慢してよね」

憧「あの、次からは言うことをちゃんと聞くから、だからっ」

淡「だーめ」

淡「それじゃいくよ、つまようじを、指と爪の間に入れて」

淡「えいっ」



メリッ


憧「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

淡「あははははははは」

淡「やっばいやっばい!」

淡「そんな悲鳴をあげるんだ、マジイケてんじゃん」

淡「想像以上だよ、あははは」

憧「あ゛あ゛……がっ、あああ」

淡「ほんとはさ、爪にハリガネムシを入れるってのを、やりたかったんだけど」

淡「用意するの面倒くさいし、虫とかできれば触りたくないじゃん」

淡「ハリガネムシってさ、細い場所に入りたがる性質があるんだって」

淡「だから、憧の爪にハリガネムシを近づけると、爪の間から勝手に体内に入って行くんだよ」

淡「爪から入って、どんどん、体内に入っていくんだけど、肘のあたりで、力つきちゃうんだって」

淡「想像しただけで、興奮するよね? 憧の体内にハリガネムシが入って行く様」

淡「というのは真っ赤な嘘。ハリガネムシは人の爪に入ったりしないんだって」

淡「あれは最初知ったとき、けっこうショックだったなあ……ハリガネムシは人間の爪の間に入らないって」

淡「サンタさんはいないって知ったときと同じくらいのショックだったよ。まあでも、現実ってそんなもんだよね」

淡「知らない方がいいことってあるよね。私はハリガネムシは人の爪に入る習性があるって信じたままでいたかったよ……夢は夢のままで……」

淡「現実を知るってことが大人になるってことなんだろうけど」

淡「って話ちゃんと聞いてる?」

憧「……ぁぁぁぁ」ぴくぴく

淡「そんなに痛かった? でも人の話聞かないのはいけないことだよね」

淡「おしおきしなくちゃ」

淡「あっ!つまようじ、まだ長さに余裕あるね」

淡「もっと奥につっこんであげよう」

憧「え……? やめっ」

淡「えいっ」


メリッ バキッ


憧「ぎゃああああああああああああああああ」


淡「あー、途中で折れちゃった」

淡「つまようじじゃなくて、普通に針にすれば良かったなあ」

淡「次からはそうしよう」

憧「あ、あ、あ、あ」ぱくぱく

淡「泡ふいてるー」くすくす

淡「なにそれ面白いー」

淡「写メっちゃおう」


……
………

淡「憧、こっちにおいで」

憧「うん……」

淡「私の膝の上に座りなよ」

憧「……」ぽすっ

淡「ふふっ、従順な子は好きだよ」

淡「髪も肌も綺麗だね……きちんと手入れしてるからかな」さわさわ

憧「……っ」

淡「でもね、憧の髪も目も口も鼻も耳も首も腕も胸も腰も尻も足も全部全部、私のもの」

淡「憧の体はもう憧のものじゃないの、わかる?」

淡「私の所有物」

淡「ふー」

憧「ひゃっ!」

淡「あはっ、カワイイ声漏れたね」

淡「ああ、ホントに可愛いなあ」

淡「従順にしてる間は、あんまり酷いことしないからね」

淡「私の可愛い可愛いお人形さん」

憧「……」

憧(ああ……)

憧(あたしは、ホントに、なにやってんだろ……)

憧(淡にされるがままで……これじゃあ本当に人形と変わらない)

憧(どうにかしなきゃいけないのはわかるけど……こわいよ)

憧(淡のことが怖くて怖くて怖くて怖くてしょうがない)

憧(今だって必死に震えそうになるのを堪えてる)

憧(もう、痛い思いをするのは、嫌だ……)

淡「ねえ、憧は、私のこと殺したいって思ってる?」

憧「っ! 思ってない……」

淡「それが嘘でも本当でもいいんだけど」

淡「憧には無理だよ」

淡「誰かを殺すってこと」

淡「憧は誰も殺せない、そういう人間」

憧「……」

淡「それにもし殺したとしても、問題は解決しない」

淡「知り合いに頼んで作ってもらったんだ、プログラム」

淡「私が二週間以上ログインしないと、自動で、ある音声データを送信するようになってる」

淡「送信先はもちろん、憧の知り合いね。ついでに自動でネット上にアップして、拡散するようなおまけつき」

淡「ログインするためのパスワードは私しか知らない」

淡「つまりさ、私を殺しちゃったら、憧の死にたくなるような秘密は勝手に暴かれちゃうんだよねー」

淡「当然穏乃にも知られちゃうよ」

憧「……」

淡「嘘だと思う? 別に信じなくてもいいよ。どうせ憧に私は殺せないし」

憧(……)

憧(あはは、なんでこういうとこだけ頭が回るんだろう?)

憧(あたしが人を殺せないという淡の指摘は多分当たってる)

憧(淡のことは正直何度も殺したいって思ったけど、そう思っただけで行動にうつす気はないし、残念ながらそんな勇気はあたしにはない)

憧(そして、あたしの秘密を自動で拡散するプログラムだけど、多分嘘だと思う)

憧(けど、もしかしたら本当かもしれない、そう思わせるだけでいい)

憧(それだけであたしは淡に危害をくわえることができない)

淡「納得した?」

淡「だからさ、憧はこれからもずっとずっと、私に服従するしかないの」

……

ごめん、寝ちゃってました


……

阿知賀麻雀部部室

淡「遊びに来たよー」

憧「ども……」

穏乃「大星さんと、憧!?」

淡「ちょうど、廊下でばったり会ってね」

憧「うん……」

灼「久しぶりだね」

玄「その様子だと仲直りできたんだね!」

淡「うん!」

淡「憧と私は、仲良しだよねー」がしっ

憧「うん……」

宥「よかったよかった」

玄「肩までくんで、すっかり仲良しさんだねー」

穏乃「一体なにがあったんだろ」

灼「……」

……


憧(あたしの唯一、心安らげる場所、部室にまで来るなんて)

憧(……)

憧「あたしちょっとトイレ行ってくる」

淡「あ、私も」

憧「っ!」

……

トイレ

淡「憧さあ、さっきからなんか不機嫌だよね」

淡「そんなに私が部室に来るの嫌だった?」

憧「べ、別にそんなことない」

淡「最初から嫌がってたよね、私が来ること」

淡「自分の領域が侵されるみたいで嫌なのかな?」くすくす

憧「……」

淡「私、ずっとやってみたかったことがあるんだ」

淡「映画とかでよくあるよね、頭を掴んで顔を便器につっこむってやつ」

憧「や……うそでしょ……」

淡「ほらこっち来いって」ガシッ

憧「痛っ、髪ひっぱらないで!」

淡「大丈夫だって! 便器よりも口の中のほうが雑菌多いってよく言うじゃん?」ぐいぐい

憧「やだっ! やだッ! やめて!」

淡「まあ便器のほうが、キモイ菌、ウヨウヨいそうだけど」ぐいぐい

憧「痛っ! お願いします! 他のことだったらなんでもするから!」

淡「だから私は便器に顔をつっこむってのがやりたいんだって」

淡「ほら、息止めたほうがいいよ? そうしないと便器の水飲んじゃうかもよ」

憧「やっ! や」

淡「はい、あっぷっぷ!」じゃぽんっ

憧「~~~~ん」じゃぷじゃぷ

淡「あはは、苦しそう」

憧「~~~~」じたばた

淡「無駄な抵抗するなって。もっと便器の底に着くくらい押し込んであげるね」ぐいぐい

憧「~~~~」じゃばじゃば

淡「はい、一度息継ぎ」

憧「はーーーー、はーーーー」

淡「苦しい?」

憧「」こくこく!

淡「でもやめなーい、ほらもう一回!」じゃぷっ

憧「ぅ~~~~」じゃぶじゃぱ

淡「あははははははは」

……

憧「ぁーー、ぁーーー」

淡「顔洗った方がいいよ」

淡「便器の水が顔についたままじゃ嫌でしょ?」くすくす

淡「肌にしみこんじゃうかもしれないしね」

淡「あー、でも髪にはもう浸透してそうだね」

淡「ってか、憧が暴れたせいで私にもばっちい水、少しかかっちゃったじゃんかー!」

淡「これは後でお仕置きだね」にやにや

淡「じゃあ、先、部室戻ってるから、またあとでねー」ばたんっ

憧「…………」

……

憧・自室

憧(……)

憧(もう限界……)

憧(いつまで、こんなことを繰り返せばいいの……)

憧(辛い、辛い過ぎるよ)

憧(……)

憧(最近は妄想で精神を保ってる……)

憧(……妄想してる時だけは、気持ちが楽になる……)

憧(現実に戻ったときには、余計に虚しくなるけど)

……

妄想パターン1『覚醒』

 憧「超能力を手に入れた!」

 憧「あらゆるベクトルを操作する能力よ!」

 憧「オラァ! クケケケ!」

 淡「ひでぶっ! やられたー」

 憧「第三部・完!」


憧(ありがちだけど、妄想してる間だけはスカッとするのよねー)

憧(まあ突然能力にめざめるなんてありえないし、そもそも自動拡散プログラムがある以上、淡を倒したって、問題の解決にはならないんだけど)

妄想パターン2『和解』

 淡「ふんふーん」

 車「ワハハ」

 憧「あ、危ない!」

 淡「えっ?」

 憧「ダイビングッ!」

 キキーッ

 ガシッ

 憧「ふう、危なかった」

 憧「怪我はない?」

 淡「…………どうして」

 憧「ん?」

 淡「どうして、助けてくれたの?」

 淡「私、憧に今までいっぱい意地悪したのに……」

 憧「んー、わかんない」

 淡「え?」

 憧「なんか気付いたら、勝手に体が動いてた、みたいな……」

 淡「ありがと……」

 淡「……それと」

 淡「今までいっぱい酷いことしてごめんね」

 淡「私、ホントは憧と仲良くしたかっただけなの……」

 憧「じゃあ、友達になろっか?」

 淡「え? いいの?」

 憧「うん、過去のことは水に流そうよ」

 淡「……うれしい」


憧(ないない、これだけは絶対にない!)

憧(あたしの妄想の中で一番の大団円だけど、一番非現実的)

憧(仮にあたしが命がけで淡を助けたとしても、淡の心には響かない)

憧(だって淡は、あたしのこと、人間としてみてない)

憧(好き勝手に遊べる玩具としか見てないから……)

妄想パターン3『成就』

 穏乃「憧、最近元気無いよ」

 憧「……」

 穏乃「私で力になれることがあるなら、憧の力になりたい!」

 憧「……実は」

 …

 穏乃「ひどい……」

 憧「気持ち悪いよね、あたし? シズのジャージの臭いを嗅いだりして」

 憧「ほんっと自業自得だよね、こんな気持ち悪いあたしがそんな目にあうの」

 穏乃「そんなことない!」

 憧「え?」

 穏乃「憧が私のジャージの臭い嗅いでるって聞いて、少し恥ずかしかったけど嬉しかった」

 穏乃「だって、私も、憧のことが、好きだから」

 憧「シズ……」

 穏乃「憧……」

 ……
 …

憧(あはは……)

憧(あはははは、あたしってこんな妄想して、ほんっと気持ち悪いなあ……)

憧(シズがあたしのことを、ただの友達としか見てないことは、ずっと前からわかってたはずなのに……)

憧(……)

憧(きっとシズにあたしの秘密を、あたしの罪を告白しても、シズは許してくれると思う)

憧(少しは軽蔑されるかもしれないけど、それでも、許してくれるだろう)

憧(今まで通り、友達も続けてくれると思う)

憧(でもそれは表面上のこと)

憧(あたし達の関係は、前ほど、気の置けない仲ではなく、どこかぎくしゃくした、よそよそしいものになってしまう)

憧(以前と同じように見えても、どこか距離がある)

憧(そして、ふとした瞬間に、シズが、何か得体の知れないものを、理解できないものを見るような眼であたしを見るかもしれない)

憧(前みたいに一緒に馬鹿やって、心から笑い合うことも、なくなってしまうだろう)

憧(それがあたしには耐えられない)

憧(だから……シズだけには救いを求めることはできないんだ)

憧(…………)

妄想パターン4『狂化』

 憧「あはははははは」

 淡「あこ?」

 憧「もう限界……お前を殺してあたしも死ぬ」

 淡「は? なにいって……」

 淡「え……それ、ナイフ?」

 淡「……ねえ、今までのことは謝るから」

 淡「あの音声データだって消すから」

 憧「もう遅いよ、あたしは……」

 憧「壊れてしまった」

 憧「だから、一緒に逝こうか」


 グサッ


淡「あ…………う……」



憧(これもなかなかスカッとするんだよね)

憧(はあ、いっそ本当に狂えてしまえたら……)

憧(壊れてしまえたら、こんな辛い思い、しなくていいのに)

憧(……)

憧(……)

憧(妄想でしか、自分を慰められないなんて、本当にみじめすぎるよ……)

憧「……」

憧「……ぁ」

憧「……ぁぁ」

憧「……ぁぁぁぁああああああ」

憧「……」

憧「たすけて……」

憧「だれか……たすけてよ……」

……

淡の家・地下室

淡「ふっふふーん」さわさわ

憧「……ぁっ」

淡「私ってやさしいよね」ふにふに

淡「処女を奪わないであげてるし、服を脱がしても、下着までは脱がさないし」なでなで

淡「これでも、憧のことは壊さないように大事に扱ってるんだよ」もみもみ

憧「……ぁふっ」

憧(それはあたしへのやさしさじゃなくて、単にそのほうが長く遊べるからでしょ……)

淡「私が好き勝手やると、多分憧ってすぐ壊れちゃうし」だきっ

淡「ねえ、これ飲んで」

憧「なにそれ……」

淡「睡眠薬」

憧(もはや隠す気もないのか……)

憧(自分の無防備な状態を他人に晒すってことには、かなり抵抗がある)

憧(それが淡相手ならなおさら……)

憧(けれど、あたしには拒否権はない)

憧(結局従うしかないんだ)

憧「」ごくっ

淡「いい子いい子」なでなで

……

憧「……ん」

憧(ここどこだっけ?)

憧(……ああ、淡の家か……)

憧(……なんか肩から二の腕辺りがひりひりする)

憧(ってか、また下着だけになってるし……落ち着かない)

淡「おお、起きた」

淡「随分ぐっすり寝てたねえ」

淡「まあ強力なの飲ましたからなんだけど」

淡「じゃーん、見て見て」

憧(鏡……?)

憧(あれ、左腕のとこに文字が……)

憧(淡のお人形……?)

憧「え……? なにこれ……」

淡「可愛いでしょー、憧の左肩のとこに、入れ墨ほってあげたんだよ」

淡「大変だったんだよー、非合法な刺青師探すの」

憧「…………」

憧「ふざけないでよ……」

憧「頭おかしいんじゃないのっ!!!!!」

憧「どーすんのよ、これ!?」

憧「入れ墨って一生消えないんだよ!!」

淡「だからいいんじゃん」

淡「お風呂入る度に思い出すよね」

淡「自分が誰の所有物で、どういう存在かってね」

憧「このキ○ガイ……」

淡「へえ、そういうこと言っちゃうんだー」

淡「もっとエグイ言葉入れても良かったんだよ『○○○』とか『××』とか」

淡「でもそれじゃあ、憧が可哀想だと思ったからやめてあげたのに」

淡「そんな態度とるんだったら、お仕置きが必要だよね」

憧「……っ」

淡「ダルマとかどうかな」

淡「四肢を切断して、頭と胴体だけの状態にする、想像しただけで興奮しちゃうよね!」

淡「あと、眼を潰して、鼓膜も破るってのも楽しそう」

淡「視覚と聴覚を失うって死ぬより辛くない?」

憧「…………」がくがく

淡「冗談だよ」

淡「わかりやすい冗談じゃん」

淡「私が憧にそんな酷いことするわけないし」

淡「でも、しつけは必要だねー」

……

阿知賀麻雀部部室

穏乃「あれ、憧、右手……どうしたの?」

憧「ああ、ちょっと爪が剥がれちゃって」

穏乃「右手の爪全部剥がれたの!?」

憧「うん、ドアにはさんじゃってねー」

宥「あわわ、いたそう」

玄「あこちゃんの爪、綺麗だったからもったいないのです」

灼「いや、そういう問題じゃ……」

宥「くろちゃん……心配するところがズレてるよ……」

憧「あはは」

穏乃「そうだ! 今度こそ、みんなでカラオケ行きませんか?」

穏乃「憧も今回は行くよね?」

憧「うん、あたしも行――」

運命が~ 回り出す~

憧「……」

穏乃「……メールだね」

憧「うん……」

憧「……」

憧「ごめん、予定入った」

憧「カラオケ行けなくなっちゃった……」

穏乃「そう……」

穏乃「メール、中学の友達から?」

憧「うん、まあそんなとこ」

穏乃「えっと晩成の……初瀬さんって人?」

憧「そんな感じ」

穏乃「なんかはっきりしないなー」

穏乃「その初瀬さんとは、最近よく遊ぶの?」

憧「まあそだねー」

憧「じゃあ、あたしもう行くね」

穏乃「あ、もうー」

……

穏乃「あー、どうします? また憧いないみたいですけど」

灼「なんか穏乃、機嫌悪いね」

穏乃「べっつにー、そんなことないですよー」

玄「あこちゃんが中学時代の友達とばかり遊ぶから寂しいんだね」

穏乃「別に寂しくなんかないですよ」

穏乃「ただ……」

穏乃「宥さんも三月には卒業しちゃうし、いつまでもこのメンバーでいられるわけじゃないのに……」

穏乃「ここのみんなといる時間より、中学時代の友達を優先するってのが、なんか納得いかないっていうか……」

宥「……」

灼「……」

赤土「なるほど、話は聞かせてもらった」

玄「赤土先生!?」

穏乃「いつから……?」

赤土「カラオケなら、憧の代わりに私が行こう!」

灼「はるちゃん……」

……

淡の家・地下室

淡「あれー、憧なんか元気ないねー」

淡「あっ、もしかして右手の爪全部剥がしたの怒ってるぅー?」

憧「…………」

憧「ねえ、どうして、そんな酷いことができるの?」

憧「あたしは確かに、淡に意地悪しちゃったけど、別にそこまでする必要ないじゃない」

憧「もう許してよ…………あたしを解放してよ……」

憧「今日だって学校で、ずっとこの左肩が気になって……」

憧「服で隠れてるのはわかるけど、もしなんかの拍子に見られたらって、気が気じゃなかったんだから!」

淡「特に穏乃には見られたくないわけだ」くすくす

憧「こんな入れ墨、シズに見られたら生きていけないよ……」

淡「じゃあ殺してあげよっか?」

憧「……っ」

淡「死ねば苦しみから解放されるし、私からも解放されるよ」

淡「まあ死体を×すかもしれないけど」

淡「で、どうなの? 死にたいの? 生きたいの?」

憧「……」

淡「黙ってないで答えろよ」

憧「あたしは……」

憧「…………生きたいです」

淡「じゃあ、私のお人形を続けるんだねー」

淡「あはははは」

……

猿さんくらってました

阿知賀麻雀部部室

憧「……」

穏乃「これからみんなでご飯食べに行きません?」

玄「お腹ペコペコなので、私は賛成なのですー」

宥「わたしもー」

穏乃「灼さんは?」

灼「うん、私も賛成」

穏乃「じゃあ決まりですね」

玄「あれ、あこちゃんは?」

穏乃「憧は、どうせ中学の友達と遊びに行くんでしょ?」

憧「……っ!」

玄「しずちゃん、そんな言い方しなくても……」

穏乃「じゃあ、どうなの憧?」

憧「あたしは……その……無理……」

穏乃「ほらー、どうせ聞くだけ無駄じゃないですかー」

穏乃「さあさあ、友達甲斐のない憧なんてほっといて、みんなでご飯食べに行きましょう!」

玄「しずちゃん……」

憧「……」

……

憧(あたしだって……できるなら、みんなと遊んだり、ご飯食べたりしたいよ)

憧(もっとみんなと一緒にいたい……)

憧(でも淡の呼び出しを断ったら、何されるかわからないじゃない)

憧(あいつは本気で頭おかしいんだから……)

憧(今までだって、何度も命の危険を感じたし……)

憧(そうじゃなかったら、誘いを断ったりしないのに)

憧(それなのに……)

憧(シズ……あんなこと……酷いよ……)

……

穏乃(はあ……またやっちゃった……)

穏乃(あんなこと言うつもりじゃなかったのに)

穏乃(憧が私らをないがしろにして、中学時代の友達とばっか遊ぶからつい……)

穏乃(だって最近は、ずっと中学の友達と遊んでばっかじゃん!)

穏乃(たまにはこっちに付き合ってくれてもいいのに!)

穏乃(私たちより、中学の友達が大事なのかな……)

穏乃(うーん……)

穏乃(なんかモヤモヤする……)

穏乃(…………)

穏乃(ああああああああ)

穏乃(よくわかんないっ!)

穏乃(わかんないから、その辺を走るっ!)

穏乃「あああああああああ」だっ

高鴨母「あらあら」

……

新子家・風呂場

憧「」ごしごし

憧「あはは、当たり前だけど、洗ったくらいじゃ落ちないか」

憧(淡のお人形……)

憧(こんなもの刻まれちゃってあたし……ホントにみじめだな……)

憧(ああ、淡の言う通り、これを見る度、あたしには人権なんてないんだって思い知らされる……)

憧(こんな奴隷の証のようなものずっとつけたまま、これから生きていかなきゃいけないんだね)

憧(……)

憧(はあ……)

憧(学校ではずっと湿布をつけて隠してる)

憧(最初は包帯で隠してたけど、あれはチラッと見えただけでも目立ちすぎる)

憧(湿布で隠してるとはいえ、着替えのときでさえも、出来るだけ左肩は晒さないように気をつけてる)

憧(今はまだ隠し通せてるけど、なんかの拍子に見られたらと思うと……)

憧(これからの学校生活、そんな不安を抱えたままで過ごさなきゃならない……)

憧(それに、淡に遊ばれる日々が、続く……)

憧(またなにされるかわかんないし……)

憧(……)

憧(なんで……)

憧(なんであたしがこんな目に合わなきゃいけないの?)

憧「ぁあぁっぁぁあぁあああああああああああ」

憧(たすけてたすけてたすけてたすけて)

憧(たすけてたすけてたすけてたすけてよだれか……)

憧「ぁ……」

憧(……)

憧(ああほんと……)

憧(朝が来なければいいのに……)

……

阿知賀・通学路

憧(あ、シズだ)

憧(なんか少しだけ元気でたー)

憧「おっはよ、シズ!」

穏乃「…………」

憧(アレ……?)

憧(聞こえなかったのかな?)

憧(行っちゃった……)

……

憧「シズ、一緒に部――」

憧「ってもういない!」

憧「いつもはだいたい一緒に行くのに」

憧「トイレかな?」

……


憧「ロン!」

憧「よしっ、これであたしが一位!」

憧「ちょっとシズ、今のフリコミは、不用心過ぎだよ」

憧「まあでも、そのおかげで、あたしが一位になれたんだけどね!」へへっ

穏乃「…………」

また猿さん規制

憧(アレアレ)

憧(アレレー)

憧(アレアレアレアレ)

憧(なんでなんでなんでなんでなんでなんで?)

憧(ぐ、偶然だよね?)

……

淡の家・地下室

淡「さて、今日はなにをしようかなー」

憧「……ぅ……ぐすっ」

淡「あれ、なんでもう泣いてるの?」

淡「まだ何もしてないのに」

淡(あー、そろそろ限界が近いかな)

淡(このままぶっ壊すのも面白そうだし)

淡(じわじわじわじわ、ゆっくりゆっくり、心を壊していくのもありだよね)

淡(ほんっと憧って最高の玩具だよ)

淡「今日は趣向を変えて外に散歩に行こうか」

淡「さて、そうと決まれば首輪をつけてと……」

……



穏乃(ほんとに、なにやってんだよ私はもう!)

穏乃(前のことを謝ろうと思ってたのに、真逆の行動をとってしまった……)

穏乃(でも憧はまた今日も中学の友達と遊ぶ予定らしいし……)

穏乃(私たちのことなんて、やっぱりどうでもいいのかな?)

穏乃(それは寂しい……というより悲しい……? 苦しい?)

穏乃(なんか胸が痛いや)

穏乃(頭ん中ぐちゃぐちゃで、自分がなにをしたいのかもわからない)

穏乃(なんなんだろ、この感情……)

穏乃(ああああああもう!)

穏乃(走ってもなんかモヤモヤとれないし!)

穏乃(胸がむかむかするうううう)

穏乃(でも走るしかない!)

穏乃「うおおおおおおお」

……



淡「ほら、きびきび歩けよ」

淡「ここらへん人通り少ないから大丈夫だって」

淡「それに堂々としてたら、首輪に気付かないよ」

憧「…………」

淡「あれ? あれは穏乃じゃない?」

憧「え、うそ……?」

淡「おーい、穏乃!」

憧「ちょっとなにやってんの!? こんなとこシズに見られたら……」

穏乃「大星さん……と憧!?」

穏乃「え……なんで?」

穏乃「なんで、二人が一緒に……?」

憧「シズ、違うの、これは……」

淡「あーあー、見られちゃった、じゃあ隠す必要ないよね」

憧「え?」

淡「実は私と、憧は、付き合ってるのー!」ぱんぱかぱーん

憧「はああ!!? なにいっ――」

淡「もうー、憧ったら照れちゃってぇ!」

淡「今更隠さなくてもいいじゃん!」

穏乃「…………」

穏乃「……あはは、そうだったんだ……」

穏乃「全然気付かなかったなあ……」

穏乃「もう憧も人が悪いよ、別に隠さなくても……」

憧「ちがっ――」

穏乃「じゃあお二人とも、お幸せに」だっ

憧「ちょっと待って! シズ!」

憧「……」

淡「あーあー、行っちゃった」

淡「てかっ、憧が首輪つけてるのすら気付いてなかったね、よっぽど憧に興味ないんじゃないの?」

淡「あははは」

憧「ゆるさない……」

憧「絶対にゆるさない!!」

憧「なにしてくれちゃってんの!?」ガシっ

憧「ふざけんじゃないわよ!!」

憧「シズに……シズに……完全に勘違いされちゃったじゃない」

憧「あれ……どうすんの……」

淡「……」

淡「オイ」

淡「…………」

淡「なに掴みかかってきてんの?」

憧「……ぁ」びくっ

淡「なんか勘違いしちゃってるみたいだけど、あんまり調子のってると殺すよ?」

淡「私に意見できる権利があると思ってるの?」

淡「はあ……憧ってほんと学習能力ないなあ……」

淡「これはきっつい調教が必要だよね」

憧「ぁぁぁ……」ぶるぶる

……



淡の家・地下室

淡「まず服を脱がして下着だけにして……」

淡「次に、手足を一緒に縛って……」

憧「なに……するの……?」

淡「いいからいいから、憧そこのベッドで縛られたまま寝てればいいから」

じゃらじゃらじゃらじゃら

憧「なに……やってるの……?」

淡「見りゃわかるじゃん、ベッドの横に画鋲撒いてるんだよ」

淡「勘のいい、憧なら私がなにするか、わかったんじゃない?」

憧「まさか……うそでしょ……」

淡「うん、これくらいでいいかな?」

淡「じゃあ行くよー」

憧「やめてやめてやめてやめて」じたばた

淡「えいやー、落ちろ」どん

ぐさぐさ 

ざくざく

憧「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

憧「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」

淡「あははは、ちょーうけるんだけど」

淡「そんな風にのたうち回ると、余計に画鋲ささるよ」くすくす

憧「あぎゃががあああ! 痛い痛い痛い痛いよー! たすけてたすけてたすけて!」

淡「あはは、画鋲まみれ」

……



憧「ぅぁぁぁ……」

淡「ほんとにいっぱい刺さってるね」

淡「憧の白くて綺麗な肌に、画鋲がたくさん刺さってるとこみると興奮してきちゃう」

淡「ほら、とってあげるから動かないで」

憧「……ぅ……ひっく」ぐすっ

淡「うわっ、ほっぺたにも何個か刺さってる」

淡「ベッドから落ちたとき、顔だけは床につけないように受け身とれなかったの?」くすくす

淡「あ、背中にはびっしりだ」

……



淡「これで全部とれたかなー」

憧「……ぅっ……ぅっ……ぐすっ」

淡「でも今日の調教はこれで終わらないよー」

憧「……ぅ…………え?」

淡「言ったじゃん、きっついのやるって」

淡「うーん、人間ダーツと、指を何本か折るのと、彫刻刀で図画工作ごっこと、どれがいいかなー」

憧「許して……」

憧「もうこれから逆らったりしませんから、今日は許してください……」

淡「……」

憧「言うことは何でも聞きます」

憧「虫を食べれと言うなら食べます」

憧「便所の水を飲めと言うなら飲みます」

憧「死ねというなら死にます」

憧「だから……」

憧「今日はもう、許してください……」

淡「……」

淡「へえー、その場をしのぐためだけに、そんなことホントに言っちゃっていいのー?」

憧「……ぅ……ぁ」

淡「まあ、その従順さに免じて、今日は許してあげよっかなー」

憧「あ、ありがとうございます」

淡「いつもそれくらい聞き分けがいいと可愛いのにねー」

淡「」ぺろ

憧「ひゃっ」

淡「あは、可愛い声でたね」

淡「傷口を舐めて消毒してあげるよ」

淡「」ぺろぺろ

憧「っ!」

淡「」ぺろぺろ

憧「ぁぅッ……ぁ……」

淡「あ、そうだ」

淡「口開けろ」

憧「はい……」

淡「唾たらすから、飲め、んーー」

憧「……ぅ」

憧「……」ごくっ

淡「どう? 私の唾、美味しい?」

憧「はい……、おいしい……です……ぅぁぁ」

淡「そんな泣きそうな顔しないでよー」

淡「んちゅー」

憧(え?)

淡「ちゅっ」

憧「ん~~~~」

淡「ちゅぱっ、ちゅっ、じゅるる」

憧「んー、あふっ、んーーー」

淡「えへへ、憧の唾も飲んじゃった」

憧「……」

淡「あれ? もしかして、なんだかんだでこれがファーストキスじゃない?」

淡「そっかー、色々してきたけど、確かにキスはまだだったね」

淡「くくっ、穏乃に初めてのキスあげられなくなったね」

憧「……」

淡「でも当然だよ。憧の全ては、私のものなんだから」

淡「憧の処女だって私のものだよ? わかるでしょ?」

淡「売約済みってやつ?」

淡「私のやさしさで残してあげてるんだよ」

憧「……」

……

阿知賀校門

憧(シズ……!)

憧「おはよーシズ」

憧「あの、昨日のはね……」

穏乃「…………」すたすた

憧(え……?)

憧(シズは耳もいい方だから、あの距離で聞こえないってことはない……)

憧(あたし……避けられてるの?)

憧(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで)

憧(……)

憧(でも、とにかく、昨日のは誤解だって説明しないと)

……

教室

憧「あのシ――」

穏乃「……」すたすた

憧「……」

……


阿知賀麻雀部部室

憧(……)

憧(結局、ずっと避けられて一度もシズとまともに話せなかった……)

憧(けど部室でなら無視出来ないよね……)

憧(……でも部室ですら、無視されたら……)

憧(怖い……それでも話さなきゃ)

憧「シ――」

淡「あっそびにきったよー!!」じゃーん

憧「え?」

玄「あ、淡ちゃん、いらっしゃい」

淡「あこー」だきっ

憧「っ!」

玄「あはは、あこちゃんと淡ちゃんは、もうすっかり仲良しさんだね」

淡「うん、だって私と憧は――」

憧(やめて)

憧(お願いだからやめて)

憧(みんなの前で、そんなこと言わないで)


淡「――恋人同士なんだよー!」

玄「……?」

玄「ええええええええええええ!」

玄「そうだったのおおおお!? 全然知らなかったよおおおおお」

宥「あわわわわわ、くろちゃんおどろきすぎだよ」

灼「いや、宥さんも……」

玄「しずちゃんは知ってた? あこちゃんと淡ちゃんが付き合ってたこと?」

穏乃「興味ないです」

玄「あれ……?」

宥「おめでとー」

玄「うんうん、おめでとうなのです!」

淡「えへへー、ありがとー」

淡「私と憧は、二週間くらい前から付き合い始めたの」

淡「そうだよね、憧?」ニコニコ

憧「……」

憧「……うん」

玄「そんな前から……」

玄「ほんとに全然気付かなかったよー」

玄「ねえしずちゃん?」

穏乃「そうですね」

玄「……?」

玄「でもでもっ、そんな前から付き合ってたんなら、教えてくれてもよかったのに」

淡「憧が恥ずかしいから、みんなに隠したがって」

淡「ねー?」

憧「……」

憧「うん」

憧「そう、みんなに報告しようと思ったんだけど」

憧「なんか、照れくさくって」

憧(ああ、気持ち悪い……)

憧(どうしてあたしは、ヘラヘラ笑いながら、こんな嘘ついているのだろう……)

憧(反吐が出そうな気分なのに、作り笑いだけは自然とでる……)

憧(あはは、大切だった場所を、大切だったものを、自分で台無しにしちゃってる……)

……



淡「じゃーね」

灼「あ、大星さん」

淡「ん?」

灼「ちょっと話いい?」

淡「いーよ」

……

淡「それで話って?」

灼「…………」

灼「私は駆け引きとか、あまり得意じゃないから、単刀直入に聞くけど」

灼「憧になにかした?」

淡「ええー!? それを聞いちゃうのー?」

淡「そりゃあ、恋人同士なんだから、色々と、ね?」

灼「そういうことじゃない」

灼「私が言いたいこと、本当はわかってるでしょ?」

淡「ふふっ」

淡「なにが言いたいのかぜんぜんわかんないー」

灼「最近の憧は、どこかおかしかった」

灼「穏乃と喧嘩してるみたいだから、それが原因かと思ったけど」

灼「よくよく思い返してみると、それ以前から元気がなかった」

灼「そして、特に、誰かからメールが来た時に顕著だった」

灼「憧は中学の友達って言ってたけど、あれは大星さんからだったんだね」

淡「さあ、どうだろー」

淡「メールは確かにしてるけど、そのメールが私からなのか、なんてのはその場にいて確かめないとわかんないよ」

灼「誤摩化さないで!」

灼「憧は大星さんに明らかに怯えてる! 本人は必死に隠してるつもりみたいだけど」

灼「メールが来る度に不安そうだった! あれは――」

淡「ねえ、鷺森先輩」

淡「憧が、私になにかされたって言ったの?」

灼「それは……言ってないけど」

淡「ほらっ」

灼「憧はこういうこと一人で抱え込みそうなタイプだから……」

淡「憶測で私のこと責めるの、やめてもらえませんか?」くすくす

淡「あ、もしかしてこれ、パワハラってやつですか?」

淡「私が憧になにかしたって証拠でもあるんですかー?」

灼「それは……ないけど」

淡「話にならないですね」

灼「……くっ」

淡「鷺森先輩は知らないだろうけど、恋って嬉しいことばかりじゃないんですよ」

淡「返信が来ない、とか小さなことで一喜一憂したりして」

淡「憧が元気なさそうにしてたのは、私のこと考えて、色々悩んでたんだね、嬉しいなー」

灼「あれはそんな顔じゃな――」

淡「証拠もないのに決めつけないでください」

灼「……っ」

淡「でも、意外」

淡「鷺森先輩って赤土晴絵にしか興味ないと思ってから」

淡「憧のことも、けっこう気にかけてたんだね」

灼「馬鹿にしないで」

灼「阿知賀麻雀部部長を、はるちゃんから託された」

灼「部員が困ってたら、全力で助けるのは、部長の義務」

灼「もし、私らの部員に、酷いことしてたら、絶対に許さない」

淡「…………くくっ」

淡「あははははは」

淡「なにそれ、なにそれ?!」

淡「かっこいい! すんげえかっこいいよ!」

淡「イケてんじゃん! 鷺森灼!」

淡「部員思いの部長かー、ふふっ、いいね、それっ」

灼「ふざけないで」

淡「あはは、ふざけてないふざけてない」

淡「ねえ、私が憧になにしたか、知りたい?」

灼「」びくっ

灼(なに……コイツの眼……)

淡「まずさあ、いっぱい写真とったよ」

淡「下着姿にしたり、無理矢理コスプレさせたりしてね」

淡「きわどい写真も多いから、あれ知り合いに見られたらそれだけで死ねるね」

淡「憧ったら顔真っ赤にしちゃって、あの時の憧可愛かったなあ……」

淡「うーん、でも今思い返してみると、特にそんな大したことはしてないね」

淡「爪剥がしたり、何度も便器に顔つっこんで溺死させようとしたり、おしっこ飲ませたり、自殺の練習とかさせたり、ベッドから画鋲だらけの床に突き落としたり、入れ墨入れたり、バットで滅多打ちにしたり、マッチを耳につっこんだり……」

淡「それくらいのことしかしてないよ」

灼「………………」

灼「…………ぇ?」

灼(意味が……わからない)

灼(便器に顔つっこむ? 入れ墨? バット?)

灼(なにを、いって?)ガクガク

灼(全然、理解できない)

灼(言葉として、日本語としては理解できる)

灼(内容が全く、受け入れられない)ブルブル

淡「でもこれ以上深入りするつもりなら、愛しの赤土晴絵にも同じことしちゃおうっかなー」

灼「っ!」

淡「うそうそ」

淡「今のぜーんぶ、うそ」

淡「私が憧に、そんな酷いことするわけないじゃん」

淡「ラブラブでイチャイチャなカップルしてるだけだよ、私たちは」

淡「そうですよね、鷺森先輩?」

灼「…………」

淡「先輩?」にこにこ

灼「……うん」

淡「あはは、理解してくれたようでなによりです」

淡「では、失礼しますねー」

……




灼「……うっ」

灼「あああ……」

灼「ごめん、憧……」

灼「私じゃ、憧を、救えない……」

灼「だって、あいつの眼……」

灼「どう見ても普通じゃないよ……」

灼「ごめん、ごめんね……」

灼「本当にごめんなさい……」

……

阿知賀麻雀部部室

灼(憧、今日もあまり元気ない……)

憧「ねえ、シ」

穏乃「あー! ラーメン食べたい!」

玄「ふふっ、唐突にどうしたの、しずちゃん?」

穏乃「いやー、急にラーメンが食べたくなっちゃって」

憧「…………」

……

玄「おつかれー」

穏乃「おつかれさまです」

宥「おつかれ」

灼「おつかれ」

憧「……おつかれ」

灼「穏乃、大事な話がある」

穏乃「はい?」

灼「部室に残ってて欲しい」

……



灼「穏乃はその……」

灼「憧と何かあったの?」

穏乃「ああ、やっぱりそのことですか……」

灼「ってことは自覚はあるわけだ」

穏乃「はい……」

灼「喧嘩でもしたの?」

穏乃「いえ、特にそういうわけじゃ」

灼「だったらなんで……?」

穏乃「……」

穏乃「それが自分でもよくわからないんです」

穏乃「自分でも、自分をコントロールできないっていうか……」

穏乃「信じてもらえないかもしれませんが、別に憧に意地悪がしたいわけじゃないんです」

穏乃「でも、憧にとって私らってなんなんだろ……中学の友達や、大星さんに比べると、どうでもいい存在なのかなって思うと、悲しくて、寂しくて……」

灼「で、気付いたら自分でもわからないうちに無視したりわざと意地悪なことを言ったりしていたと?」

穏乃「はい……」

穏乃「いつも家に帰って一人になった時に後悔するんです」

穏乃「どうしてあんな酷いことをしてしまったんだろって」

穏乃「でも、実際に顔を合わせると、変な感情が沸いてきて……」

穏乃「こんなに感情がコントロールできないって初めての経験で……」

穏乃「自分でもどうすればいいのかわからなくて……」

灼「……」

穏乃「憧には、本当に悪いことをしたと思っています……」

穏乃「けどまあ、大星さんや中学の友達と遊ぶことで頭がいっぱいで、私に意地悪されるくらい、なんとも思ってないのかもしれませんが……」

灼「そう思うんなら、本当に何も見えていないんだね、今の穏乃には」

穏乃「? どういうことです?」

灼「普段の穏乃なら、私より早く、憧の異変に気付いたはず」

灼「今の穏乃の眼は曇ってなにも見えてない」

穏乃「憧の異変?」

灼「穏乃、最近の憧の様子はどうだった? 思い出して」

灼「元気だった? 楽しそうだった? 普段通りだった?」

穏乃「そう言われると……いつもより元気がなかったような……」

穏乃「もしかして私のせいですか?」

灼「それもあると思う」

灼「でもそれだけじゃない」

灼「……」

灼「穏乃、憧を助けてあげて」

穏乃「憧を、助ける?」

灼「本当に勝手なお願いなのはわかってる……」

灼「無責任な部長なのも……」

灼「でも、私じゃ助けられない……」

灼「はるちゃんに、危害が及ぶかもって思ったら、それだけで動けなくなっちゃう……」

穏乃「あの、言ってる意味が……」

灼「ごめん、私から言えることはこれだけ……」

灼「……お願い、穏乃」

灼「憧を救ってあげて……」

灼「お願いだから……」

……



穏乃(正直、灼さんの言っていることはあまり理解できなかった)

穏乃(詳しくは教えてくれなかったけど、憧が困っているということだけは、なんとなくわかった)

穏乃(憧に会わないと……)

穏乃(会ったらまず、今までのことを謝ろう)



……


穏乃「しつれいしましたー」

望「またねー」

穏乃(家にはまだ帰ってないらしい)

穏乃(大星さんと遊んでるのかな……)

穏乃(…………)

穏乃(なんだろう、憧が大星さんと一緒にいるのかと思うと、胸がもやもやする)

……

淡の家・地下室

淡「しね」ドガ!

憧「痛っ!」

淡「時間は守れって言ってるじゃん」

憧「だって、部活が遅くまでかかって」

淡「関係ない。二分の遅刻」

淡「時間を守れないやつはクズ」

ドガッ! バギッ! ボゴッ! 

ドガッ! バギッ! ボゴッ!

……

憧「…………ぅ」

淡「あー、なんか憧を蹴っ飛ばしすぎて足が痛くなってきたじゃんか、クソが」げしげし

憧「がっ…………」

淡「さて、どんな罰を与えてやろうか」

淡「うーん、たまには変化球で、手足縛って体中にハチミツ塗りたくった状態で山に放置ってのはどうかなあ」

淡「ハチミツに誘われ、虫がやってきて、一晩で体中、虫まみれになるね」

淡「それとも眼球潰すってのがいいかな」

淡「ふたつあるし、一つくらいなくなってもいいよね」

淡「眼球につまようじ刺して、『たこやき!』みたいなネタやってみたいし」

淡「関西人にウケそう、あはは」

淡「あと白い部分にストロー刺して、眼の中の汁をちゅーちゅー吸うってのもありかなー」

淡「あー、うーん、でもなんか気分的に今はいいや」

淡「今日はこれ飲んだら帰っていいよ」

憧「なに……それ……?」

淡「私の尿と経血をミックスした飲み物」

淡「どう? 健康に良さそうでしょ?」

憧「あはは……」

淡「お、嬉しそう」

……



穏乃(憧のやつ、遅いなあ……)

穏乃(しかし私、家の前で待ち伏せとか、なんかストーカーみたい)

穏乃(……)

穏乃(あ、憧だ)

穏乃(あれ、でも)

穏乃(憧のやつ……泣いてる?)

穏乃「憧!」

憧「え? シズ?」ぐすっ

憧「どうしてここに」

穏乃「憧、ごめん!」

憧「え?! 急になに?」

穏乃「最近よく無視したり、嫌味なこと言ったりしてごめん!」

穏乃「憧が他の人とばっか遊ぶから、寂しくて、どっか悔しかったんだと思う」

穏乃「ほんとごめん!」

憧「あ、うん。なんかよくわかんないけど許すよ」

穏乃「ほんと!? 良かったぁー!」

憧「(良かったのはこっちよ。だってシズに嫌われたのかと思ってたから)」ぼそっ

穏乃「ん、何か言った?」

憧「なんでもないでーす」

穏乃「それならいいけど」

穏乃「それで……」

穏乃「憧はどうして泣いてたの?」

穏乃「なにか悲しいことあった?」

憧「はあ?」

憧「泣いてなんかないよ!」

憧「見間違えじゃないの?」

穏乃「憧……」

穏乃「見間違えなんかじゃないよ」

穏乃「憧だって私の目がいいこと知ってるでしょ?」

憧「……」

穏乃「やっぱり私じゃ信用ないかな?」

穏乃「つい、最近まで憧に意地悪してたんだから当然だよね」

憧「そうじゃない……そうじゃないけど」

穏乃「私は、憧の支えになりたい」

穏乃「こんな私じゃ、信用ないし、頼りないかもしれないけど、それでも、憧が困ってるなら、助けてあげたい」

憧「…………ぁぁぁ」

憧「……やめて」

憧「…………やめてよ」

憧「そんなこと言われたら……すがってしまいそうに……なるから……」

穏乃「憧、私でいいならいくらでもすがっていいよ」

憧「…………」

憧「シズ……」

憧「たすけて……」

憧「たすけてよ…………ぅ」

憧「ぁあぁあぅぁあああああああああああああああああああ」

憧「あああああああああああああああああああああああああああ」

穏乃「うんうん」ぎゅっ

穏乃「よしよし」なでなで



穏乃「憧、おちついた?」

憧「うん」

穏乃「どう、話せそう?」

憧「うん、話すよ」

憧「上手く話せるか自信はないけど……」

穏乃「少しずつでいいから、無理しないでね」

憧「…………」

憧「――――」

憧「――――」

穏乃「…………」

憧「――――」

……

穏乃「そんな……ことが……」

憧「ごめんねごめんね、こんな気持ち悪くてごめんね」

穏乃「うううん、そんなことない」

憧「勝手にジャージの臭い嗅ぐとか、気持ち悪いでしょ」

憧「お願い……」

憧「罵ってくれてもいいから、軽蔑してもいいから、嫌いにならないで……」

穏乃「嫌いになんてならないよ。それに罵ったりも、軽蔑したりもしない」

穏乃「…………」

穏乃「うん、やっと、自分の気持ちに気付いたよ」

憧「シズ……?」

また猿さんくらってた

一応エンディング3パターンあるけど1つにしぼったほうがいいよね

穏乃「ねえ、憧」

穏乃「私は、憧が好きだ」

憧「え……?」

憧「えええええええええええエエエエエエエ?」

憧「いきなりなにいっちゃってるのおおおおおお!!!」

憧「いやいやいやいや、うそでしょ、そんなことがあるわけ……」

憧「あ、でも……」

憧「多分私の好きと、シズの好きは違うと思う……」

穏乃「そうかな?」

憧「うん」

穏乃「じゃあそうかも」

憧「え……」

穏乃「じゃあ、後で憧の好きも聞かせてよ」

穏乃「……私の好きはね」

穏乃「私の好きは、憧の一番になりたいってことなんだ」

穏乃「友達としても、恋人としても」

憧「それって……」

穏乃「私は憧の一番の親友で、そして同時に恋人でいたい」

憧「うそ……、うそでしょ」

穏乃「うううん、うそじゃないよ」

憧「…………ぅ」

憧「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

穏乃「あれ!? なんで泣くの!?」

憧「うぁぁぁぁぁぁ……ごめんね、しょっちゅう泣いて」

穏乃「いや、いいけど」

憧「ゆめみたいで……嬉し過ぎて……うううう」

憧「ゆめじゃないよね!?」

穏乃「うん、ゆめじゃないよ」

憧「あたしの妄想とかでもないよね?」

穏乃「うん、妄想でもないよ」

憧「ああああああああああああ、報われた……報われたよ……」

憧「ほんとに良かった……」

憧「ぅ……」

憧「私さ、ここ最近ずっと生きるのが辛かった」

憧「朝が来なければいい、そう思ってた」

憧「死にたいって思いつつ、そんな勇気もなかった」

穏乃「ごめんね、憧がそんな状況だったのに私……」

憧「うううん、もういいの」

憧「だって今がサイコーに幸せだから……」

憧「ほんとにもう、すごいありえないくらいに幸福……」

憧「だって夢がかなちゃったから」

憧「もうあたし、今死んでもいいよ……」

穏乃「いやいや、それは私が嫌だよっ!」

憧「あはは、そうだね」

憧「今死んだらもったいないや」

穏乃「うんうん!」

憧「…………」

憧「ねえシズ」

穏乃「うん?」

憧「大好きっ!」




カン

おまけ

淡の家・地下室

淡「あーあー、ついに壊れちゃったよ」

淡「ちょっといじめ過ぎたかな?」

憧「しずしずしずしずしずしず」にこにこ

淡「それにしても幸せそうな顔」

淡「どんな夢見てるんだろ?」

淡「大方予想はつくけど」

憧「しずしずしずしず」にこにこ

淡「ある意味、本人にとってはハッピーなのかもね」

淡「まあでも、その心臓の鼓動が止まるまでは、飼っててあげる」

憧「しずしずしずしず」にこにこ

淡「おやすみ、私の可愛いお人形」

淡「いい夢を」

カン

おまけその2

本編からの続き


穏乃「それにしても大星さんは……」

穏乃「ちょっと許せそうにない」

憧「シズ……」

憧(なんて冷たい表情……)

憧(まるで、インターハイ準決勝で戦ってた時みたい)

憧(いや、あの時以上かも)

穏乃「憧」

憧「なに?」

穏乃「憧のことは、必ず、私が守るから!」

……



淡「遅い! 30秒の遅刻」

淡「ってなんで穏乃がいるの?」

穏乃「……」

淡「へー、そういうこと」

淡「良かったね、憧」

淡「うま――」

穏乃「気安く憧に話しかけないでください」

淡「は?」

穏乃「大星さん、私からの要求は二つです」

穏乃「金輪際憧に関わらないこと」

穏乃「それと、音声データと、今まで撮った画像、動画の破棄」

淡「ちょっとちょっと」

淡「なんなのコイツ!?」

淡「いきなり現れてなに好き勝手言ってんの、ふざけ――」

穏乃「」ドス

淡「ゴッ…………ア、ア、ア」

憧「ちょっとシズ!?」

穏乃「大丈夫だよ、みぞおちに一発いれただけだから」

穏乃「別に死にはしない」

淡「オ……オゴッ、カホッ」

穏乃「まあちょっとの間、息はできなくなるかもしれないけど」

淡「ゲホッゲホッ!」

淡「はあはあ……」

淡「お前、いきなり人殴るとか頭おかしいんじゃないの!?」

穏乃「頭おかしいとか、おかしくないとか、どうでもいいことです」

穏乃「とにかく、さっきの要求を聞いてくれないなら、私は大星さんを殺します」

穏乃「(正直今すぐ殺したっていいんですけどね)」ぼそっ

淡「はあ?」

淡「それ、もう脅迫じゃん」

穏乃「そうですね、言葉はなんだっていいです」

淡「私を殺すとか言ってるけど、そんなことしたら、穏乃は逮捕されて憧は一人になっちゃうよ」

淡「それでいいの?」

穏乃「はい」

穏乃「詳しいことはわかりませんが、この国の司法は未成年者に甘いと聞きます」

穏乃「そして事情が事情だけに、そこまで長い刑期にはならないでしょう」

淡「こいつ……」

穏乃「それに憧なら、いつまでも待ってくれるって信じてます」

穏乃「さあ、大星さん、私のお願い聞いてくれますか?」

淡「…………」

淡「あー、もう面倒くさい!」

淡「わかった、わかった」

淡「いいよ、その要求、受け入れてあげる」

憧(意外とあっさり)

淡「いきなり現れて、人を殺すとか言う、お前みたいなキ○ガイともうこれ以上かかわりたくないし」

淡「てか、穏乃がこんなヤバいやつだとは思わなかった!」

淡「憧にはもう絡んだりしないし、持ってるデータも破棄する、これでいい?」

憧(そうは言っても、淡が素直にデータを破棄するとは思えない)

穏乃「はい、ありがとうございます」

憧(ええー?! 納得しちゃうのそれで!?)

穏乃「大星さん、あと、もし、データが流失したら、それが大星さんの責任ではなくとも、私はあなたを殺します」

淡「へえー」

淡「そういうこと……私って随分信用されてないんだねえ」

淡「最初から私がデータを破棄するとは思ってないわけだ」

淡「まあそれでもいいけど」

……



憧「あれで良かったのかな?」

穏乃「わからない」

穏乃「ただ、あれよりいい方法が思いつかなかった」

穏乃「ごめんね、守るとか言ったのに……」

憧「うううん、あたしもあれが最善な方法だったと思う」

憧「シズがああ言ったから、淡は破棄しなくても、データを広めることができないし」

憧「理想では、破棄してくれるのが一番いいけど、淡が破棄してくれるなんて考えにくいからね」

穏乃「大星さんを殴って、暴力で無理矢理破棄させるって方法も考えたけど……」

穏乃「私が暴走しちゃってそのまま殺しちゃいそうで怖い……」

憧「…………」

穏乃「あれでも頑張って怒りを抑えてたほうだから……」

……



穏乃「憧ー、今日、私の家に泊まりに来ない?」

憧「え!? どったの、急に?」

穏乃「その……」

穏乃「親が出かけるから、私以外誰もいないんだよね」

憧「えっと……」

穏乃「べ、別に変な意味で言ってるわけじゃないよ」

憧「う、うん、わかった」

憧「行く」

穏乃「よし、じゃあ決まりだね」

……



穏乃「なーんか、ドキドキするね」

憧「うん」

穏乃「ねえ、そっちで一緒に寝ていい?」

憧「ええええ?」

穏乃「ダメ?」

憧「いやいや、全然いいけど! むしろカムヒアだけどッ!」

穏乃「あはは、憧、テンパりすぎっ」

憧「ぅぅ、めんぼくない」

穏乃「ふふっ」

穏乃「じゃあ、しつれいしまーす」

憧「ど、どうぞ……」

穏乃「お、この布団、憧の体温であったかーい!」

憧「なにいってんの///」

穏乃「そして、憧自身もあったかい」だきっ

憧「きゃっ」

憧「も、もう///」

穏乃「ぽかぽかだー」ぎゅっ

憧「シズの体だって……あったかいよ……」

穏乃「……」

憧「……」

穏乃「憧、私は憧が欲しい……」

憧(それって……)

憧(シズの手が、あたしの服にかかって)

憧(……)

憧(あ、でも、服脱いだら、左肩のタトゥー見られちゃう!)

憧「だめっ!」ぱしっ

穏乃「いたっ」

憧「あっ……」

憧「ごめん……」

穏乃「いや、こっちこそごめん」

穏乃「憧の気持ち考えないで、勝手につっぱしちゃって……」

憧「違うの!」

憧「シズの気持ちは嬉しかったんだけど……」

憧(シズには、淡にされたこと全部話したわけじゃない……)

憧(左腕に入れ墨を入れられたことは話してない……)

憧(こんな汚れた体、シズに見せられないよ……)

憧「あたしは……」

穏乃「もういいよ憧、私が悪かったから」

穏乃「そんな気に病まなくても大丈夫!」

憧「ちがう……そう言うことじゃなくて……」

穏乃「よしよし」なでなで

憧「……ぅぅぅ」

……

翌日 憧・自室

憧「はあ……」

憧(昨日はシズに心配かけちゃったな……)

憧(せっかくシズと結ばれるチャンスだったのに……)

運命が~ 回り出す~

憧「っ!」びくっ

憧「え……うそ……?」

憧「淡から?」

憧「…………」

憧「明日の指定時間に一人で淡の家に来れば、今までの音声画像映像データを目の前で全て破棄する……?」

憧「なにこれ?」

憧「明らかに罠……」

憧「うううん、これは、罠ですらない」

憧「行けば酷いことされるのは明白だから」

憧「そもそもデータを破棄するって、シズと約束したはずなのに」

憧「まあ守る気ないのは、わかってたけどさあ」

憧「…………」

憧「どうしよう?」

憧「淡の言いつけ通り、一人で会いにいくのは、バカとしか言いようがない」

憧「かといって、無視すると、怒った淡が何してくるかわからない」

憧「シズに相談する?」

憧「いや、淡はあたしと一切関わらないって約束を破ったことになるから、シズが淡に制裁をくわえて、最悪の場合だと殺してしまうかもしれない」

憧「もちろんシズが殺すって言ったのは、はったり、牽制のつもりだとは思うけど、あの時のシズは、それを実行してしまいそうな凄みがあった」

憧「シズが殺人犯になってしまうのは嫌だ……」

憧(…………)

憧(……ほんとどうしよう?)

憧(どれを選んでも悪い予感しかしないよ……)

……

高鴨家

穏乃「もしもしー」

憧『もしもしシズ』

憧『今暇?』

穏乃「うん」

穏乃「どしたー?」

憧『や、別に用があったわけじゃないんだけど』

憧『ちょっとシズの声が聞きたくなちゃって』

穏乃「えー、なにそれ、ベタだなー」

穏乃「ほんっと、憧は私のことが好きなんだね?」

憧『っ///』

憧『そうだけど!! 悪い!?」

穏乃「うううん、嬉しいよ」

穏乃「私も憧のこと大好きだし」

穏乃「私もちょうど、憧の声聞きたい気分だったから」

憧『もう! またそんなこと言って!』

憧『シズって時々天然のたらしだよね?』

穏乃「天然? たらし?」

憧『……まあいいや』

……



憧『じゃあそろそろきるね』

穏乃「ええー、もうきっちゃうの?」ぶーぶー

憧『ホントにすこし、シズの声が聞きたくなっただけだから』

穏乃「もっと話そうよ」

憧『それはまた明日ね』

穏乃「ちぇっ、わかった」

憧『じゃあまた』

……



憧(自分で撒いた種だ、自分で刈り取らなきゃ)

憧(シズに手を汚させるくらいなら、あたし自身が汚れた方がマシ)

憧(淡は、あたしが誰も殺せないって言ってたけど、シズを殺人犯にしないためなら、あたしだって……)

憧(…………)

憧(落ち着け)

憧(淡は他人の痛みに無頓着だけど、自分の痛みには鈍感ではない)

憧(シズに殴られて痛がってたし、殺すと言われてびびっていた)

憧(狂ってはいるけど、自分の命は大事みたい)

憧(なら付け入る隙はある)

憧(刃物で脅して、データを破棄させる)

憧(データの中には、まだシズに話してないものや、絶対に見せたくないものばかりある)

憧(武器を持っていれば、自分の身を守るくらいはできる)

憧(いくら相手が淡でも、殺したくはない)

憧(けど、展開によっては、それも覚悟しないといけないかも……)

憧(理想では、こっちが刃物で脅して、淡がそれにびびってデータを破棄するって展開だけど)

……

淡の家

淡「ふふっ、久しぶり」

憧「そういうのいいから、データは?」

淡「まあまあ、そんな焦らないでよ」

……


淡の家・地下室

淡「今日はさあ、預けてものを、貰おうと思って」

憧「預けてたもの?」

淡「憧の、処女をね」

憧「っ!」

憧「今まで通りには、いかないから」すっ

淡「へー、ナイフねえ」

淡「それで、なにするつもり?」

憧「……データを、破棄しないなら、これで、お前を、殺す……」

淡「ふふふっ」

憧「っ! なに笑ってんの?!」

淡「ねえ、憧はなんで言いつけ通り、一人だけで来たの?」

憧「それは――」

淡「穏乃を巻き込みたくないとか自分一人で決着をつけるとか、そうじゃないよね?」

淡「ふふふっ」

淡「それが私の命令だからそうしただけだよね?」

憧「は? なにいって……?」

淡「憧の脳にはさあ、もう刻まれちゃってるんだよねえ、私に対する恐怖が」

淡「そして、私に隷従するようになってんだよ、心が」

憧「ちがう……」

淡「そもそもおかしいよね、なんでホイホイ地下までついて来てるの?」

淡「データって普通、パソコンかUSBメモリとかに入ってるから、地下に行く必要ないよね?」

淡「そのことに疑問をはさまず素直について来てさ、ふっしぎー、あはは」

淡「疑問をはさまなかったんじゃなくて、はさめなかったんだよね? 怖くて」

憧「だから違うって……」

淡「まあいいけど」

淡「どうせ憧に私は殺せないし」

憧「ば、ばかにしないでよっ」

淡「じゃあ、そのナイフで私を刺してみれば?」

憧「は……?」

淡「へいへいー、殺ってみろって」

憧「え……?」

淡「ほら、ほらほら」

憧「言っとくけど、あたし本気だよっ! ホントに刺しちゃうよっ!?」

淡「だからやってみろって、遠慮しないで、そのナイフでグサッとさ」

憧「え? ああ……」ぶるぶる

淡「私は抵抗しないよ、だから、さ?」

憧「ううう……」ぶるぶる

淡「ほら、バンザーイ、今なら刺し放題だよ」ばんざーい

憧「うぁぁぁ、来るな、来るなっ!」がくがく

淡「震えちゃって、そんなんじゃ、ちゃんと刺せないよ」

憧「あああああ!」がくがく

淡「あはは、ビビりすぎ」

淡「なんで凶器持ってるほうがビビってるの?」くすくす

憧「ああああああ、だから来るなっ! 来ないでっ!」からんっ

淡「あーあー、ナイフ落としちゃった」ひょいっ

憧「ぅぅぅ……」

淡「これじゃあもう、私に対抗できないね」

淡「ふふふふっ」

憧「あ…………」

憧「やめ……て……こない……で」

淡「じゃーん、スティックのり!」

淡「これが、憧の初めての相手だよー」

淡「いやー、ほうきとどっちにしようか迷ったんだけど、ほうきだとあまりにもベタすぎかなーと思って」

……


憧「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああ  あああああああ あ あああああああああああ  ああああああああ
あああああああ あ あ ああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



高鴨家

あの舞台を転げ回って~ 奏でちゃってよMyセレナーデ~

穏乃「お、憧から電話だ」

穏乃「もしかしてまた私の声が聞きたくなったとか?」

穏乃「ホント寂しがり屋なんだから」

穏乃「ふふっ、愛いヤツ」

ぴっ

穏乃「もしもしあこー」

淡『やあやあ、なんか機嫌良さそうだねえ、高鴨穏乃』

穏乃「っ!」

穏乃「……」

穏乃「大星さん、なんであなたが憧の携帯からかけてくるんですか?」

穏乃「憧に関わっ――」

淡『憧の処女、奪ちゃった』てへっ

穏乃「っ?!!」

淡『いやー、憧ってほんといい声でなくよねー、可愛すぎっ』

淡『特に「たすけてシズ」とか「ごめんねシズ」とか言ってる時の声はヤバかったなあ』

淡『あれは聞いてるだけで漏れそうになったよ』

淡『あ、知ってる? 憧って左肩のほうにタトゥーあるんだよ、「淡の人形」って。まあ私が――』

穏乃「殺す」

ぶちっ

穏乃「……くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

穏乃「憧、今助けるから」だっ

……

淡の家

穏乃「はあ、はあ、はあ……」

がしゃーん

穏乃「あこおおおおおおおおおおお」

穏乃「……」

穏乃「憧ー、助けにきたー、返事してーー」

穏乃「…………」

穏乃「誰もいない?」

あの舞台を転げ回って~ 奏でちゃってよMyセレナーデ~

穏乃「っ!」

ぴっ

穏乃「大星いいいいいいいいいいいいいい」

穏乃「憧はどこだああああああああああああ」

淡『うわっ! うっさ!』

穏乃「……」

淡『あれー、そろそろ穏乃ん家に届いてると思ったんだけどなあ、箱』

穏乃「箱?」

淡『箱と憧をかけました、なんちって』てへっ

穏乃「……」

淡『あと、先に謝っとくね』

淡『憧、壊れちゃった』

淡『だから返品するね』

淡『じゃーねバイバイ』

ぷちっ

穏乃「憧っ」だっ

……



高鴨家

高鴨母「ああ、なんか荷物届いてたよ」

高鴨母「部屋に運んどいたけど、随分重かったけどあれな――」

高鴨母「ってちょっと!」

穏乃「」だっ


穏乃・自室

箱「」

穏乃「……」

ぱかっ

憧「」

穏乃「うあああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

………………

…………

……

穏乃「え? 最近」

穏乃「うーん、ここしばらくは、みんなと会ってないなあ」

穏乃「ちょっと一年くらい前までは、頻繁にお見舞いに来てたのにね」

憧「」

穏乃「灼さんは、一番責任感じてたよね、自分のせいだって」

穏乃「そんなことないのにねー」

穏乃「一番お見舞いにも来てくれてたよね」

憧「」

穏乃「でも、最近少しふっきれたみたい」

穏乃「赤土先生を追いかけて、奈良から出てちゃった」

穏乃「もしかしたら……うううん、そうだね、やめとこう」

憧「」

穏乃「くろさんと宥さんは、仕事が忙しいらしく、ここ最近は連絡もとれてないよ」

穏乃「和とはインハイで会ったきりだし……」

憧「」

穏乃「結局みんなバラバラになっちゃった……」

穏乃「人生ってそんなもんだとは思うけど、なんか寂しいね……」

憧「」


穏乃「でも、心配しないで」

穏乃「私は、私だけは」

穏乃「いつまでも憧の側にいるから」

憧「」

穏乃「ずっとずっと、側にいるから」

穏乃「大好きだよ――」

カン

おまけ3

本編からのつづき

穏乃「それにしても大星さんは……」

穏乃「ちょっと許せそうにない」

憧「シズ……」

穏乃「でも、私らだけの力で解決するより、大人の力を借りた方がいいと思う」

憧「確かに……」

穏乃「さっそく赤土先生に相談しよう」

……

赤土「――――」

赤土「なるほど……」

赤土「辛いのに、よく話してくれたな」

憧「ぁ……はい」ぐすっ

赤土「私に全てまかせろ!」

赤土「…………」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

赤土「しかし大星淡のやつ、少し許せそうにないな」レジェンゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

赤土「私の可愛い、教え子を傷つけるとは」レジェンゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃(赤土先生が、怒ってる!)

憧(凄い威圧感!!)

穏乃(これが阿知賀のレジェンド!)

憧(この迫力は、シロナガスクジラもびびって逃げ出すレベル!!)

……



淡「遅い! 30秒の遅刻」

淡「ってなんで穏乃と赤土晴絵がいるの?」

赤土「大星淡、今日私が来たわけはわかるな?」レジェンゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(うっ、すごい迫力)

淡(でも、コイツはメンタルが弱いはず)

淡(そこをつけば……)

淡(憧は私にびびって戦力にならないとして、二対一)

淡(それでも争うのは厳しいか?)

淡「それで私になにするつもり? 仕返しにでも来たの?」

赤土「ああ、そうだ」レジェンゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

赤土「警察に通報した」レジェンゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「…………」

淡「…………」

淡「…………」

淡「…………え?」

赤土「あとは全て警察が解決してくれる」レジェンゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

赤土「大星淡、大人を舐めるなよ!?」レジェンゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃「やった! さすが赤土先生! 私たちに出来ないことを平然とやってのけるッ!」

憧「まあシビれも憧れもしないけどね」

赤土「ついでに救急車のほうもよんでやったった」レジェンゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

赤土「病院、少年院、どちらに行くにせよ」レジェンゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

赤土「飯はマズいぃいいいいいい!」レジェンゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「くそっくそくそくそくそくそクソクソクソクソ!」

淡「なんで私がこんなことに!?」

赤土「それはお前が」レジェンゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

赤土「坊やだからさ」ドヤレジェンゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧「一応、淡は女子ですけど……」

穏乃「第三部――」

カン




おわり

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