少女「幻のお菓子ありませんか?」 (27)

私が超甘党なのは、

「ももか、またお昼にシュークリーム食べてるの?はぁ、よくそんなので一日持つよね」

お父さんの影響かもしれません。

「え、うん。まあね」

記憶の片隅にいるお父さんはいつも甘い香りがして、すごく美味しかったです。

「しょっぱい物なくていいの? 飽きるでしょ普通」

っていうは、お父さんが美味しいという意味ではなくて、お父さんの作るお菓子はこの世界のどんな物よりも大好きでした。

「でもシュークリームは美味しいから」

もうお父さんのお菓子は食べられないけど、いつか私もお父さんみたいなお菓子職人になれれば、あの美味しいお菓子がまた食べられると思うんです。

「だったらいいけどさ。甘いものばっか食べてると早死にするよ」

でも、あのすごく美味しいお菓子、なんていう名前だったんだろう。私にも作れるのかな。

「……」



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「な、なに。そんなに落ち込まなくたって。とりあえず今は健康そうだし、問題ないんじゃない」

「え?あ、うん」

「聞いてなかったでしょ……、まあいいや。そうだ!ももかに面白い都市伝説教えてあげるよ」

都市伝説って、どうも胡散臭いのばっかりで私はあんまり信じません。はるかちゃんは都市伝説とか怖い話とかが好きなんです。

「え、なに?」

「パップラドンカルメって知ってる?」

「ぱっぷらどんかるめ?」

新しい吸血鬼の名前でしょうか、なんだかずんぐりむっくりしてそうな変な響きです。

「なにその興味なさそうな目。吸血鬼かなんかだと思ってるでしょ」

「思ってないよ!はやく教えて」

本当は吸血鬼だと思いました。都市伝説なんて信じないけど、もったいつけられると気になっちゃいます。

「パップラドンカルメっていうのはね、幻のお菓子なんだけど」

「白くて、四角くて、ぷあぷあもこもこでプリンとケーキとバナナとメロンの味らしいよ」

「え、なにそれ……」

「いや、なんたって幻だからさー、正確なことはぜんぜん分からなくてさ。ただこれだけは確かだよ。パップラドンカルメは、世界一美味しい!」

「世界一……」

この時、本当のことを言うと私はこの噂を信じていいのか迷っていました。あの人と出会うまでは……。

ジージージージー

アブラゼミって、暑そうな名前ですよね。

お母さんが置いて行ったお昼ご飯を食べ終わったらあまりにもする事がなくて、そんなことを考えていました。本当は宿題をしないといけないのだけど、まだ夏休みは半分あります。少しずつやれば多分大丈夫。

「はぁ」

8月10日はまだ13時間もあります。お昼にはまだ早かったかな。

このままごろごろしていると、いつか私が死ぬ時にこの日のことを思い出して、もっと有意義にすごしていたらなあと思ってしまいそうでなんだか怖いです。

とにかく何か意味のあることをしなきゃ。でもそんな事を毎日考えていたら疲れちゃいますね。

そうだ、おばあちゃんの家に行こう。

私のおばあちゃんは、お父さんのお母さん、つまり父方の祖母だけです。小さい頃から私の事を可愛がってくれたとっても優しいおばあちゃんです。

なにか用事があるわけではないけど、おばあちゃんの話は面白いし、山の中だから涼しいです。通学用のサブバッグに携帯と本と、一応宿題も入れて、自転車のサドルに跨りました。

ペダルに体重を掛けて自転車を前に進め、下り坂になると半袖のブラウスとスカートと髪が同じようにひらひら揺れます。うっすら汗ばんだ肌に風が当たって涼しいです。なんだか気持ち良くなって立ち上がります。体全体で風を切ると、まるで空を飛んでいるような錯覚です。


電車の時間は分からないけど、一時間くらいならなんの事もなく待てるような気がしました。どうせ、何にもしなかったかもしれない時間ですから。


自転車の鍵を抜いて、幅の広い石の階段を登ります。一段を二歩で、リズム良く気をつけながら。階段を登り切ると駅が見えます。呼吸を整えながら、エアコンも効いていない駅で内輪を扇ぐ駅員さんからきっぷを買い、太陽が差し込むホームのざらざらしたベンチに腰を掛けて見ました。

スカートが汚れるかな?と少しは考えたけど、気にしません。もう何も考えません。今日はなんにも忘れて、からっぽ人間でおばあちゃんの家に行くことにしました。

向かいのホームには楽しそうな親子がいます。お母さんと帽子をかぶった男の子をカメラに収めるお父さん。これからお出かけでしょうか。こんな何にもない駅でも、お出かけのスタートなら写真を撮りたくなっちゃうのかもしれません。

線路から伝わってくる電車の音が親子の笑い声を、そしてオレンジ色の電車が私の視界で跳ねる三人を消し去りました。プシューと開いた扉から、からっぽ人間は電車に乗ってさっきまで座っていたベンチを眺めます。背中にさっきの笑い声が突き刺さったような気がしたので、カーテンを閉めました。

見てるよ

ふむ

ありがとうございます

電車はゆっくりゆっくり加速します。
この時間は、下り電車ということもあってがらんとしています。
静かな車内におじいさんのくしゃみが響きました。

おばあちゃんの家には二駅先の終点まで乗って、そこから一キロくらい歩きます。
その途中にあるお菓子屋さんは元はお父さんのお店で、今は弟子のお兄さんが次いでくれました。
今日も寄って行くつもりです。そうだ、あのチュパカブラ……なんとかの話してみようかな。


雰囲気が良いな

こういう雰囲気のss大好きです

やる気でます
ありがとう
ちょっと用事があるので八時ごろ書きます

遅くなりました

一つ駅をすぎました。この車両には一人も乗らなくて、ずっとおじいさんと私だけです。おじいさんはアルミホイルに包まれたおにぎりを食べてお昼にしてます。

正面の窓からは山が見えます。ゴツゴツとした山肌が照りつけられてあまり涼しげではありません。さっきまで外に居たのに、もう涼しい車内に慣れてしまいました。きっと外は暑いですね。

電車の鼓動がスピードを失い、終点の駅に止まりました。おじいさんが注意深く降りるのを見守ってから、私も飛び降りるみたいにストンとおります。

あったかい空気が体を包みました。
駅員さんにきっぷを返して駅の外に出ると直接当たる日光に汗が浮かびます。
風に緑の……山の匂いが乗ってきました。わかりますか?

この駅で買える釜めしはすごく有名で、地元の人間としてはちょっとした自慢です。
でも、最後に食べたのは小学生の頃だと思います。頻繁に食べるようなものでもないので。帰りに食べてみようかな?

期待

乙乙!
期待してる

まだかね

こういうssは大好物ですわ

この辺りの道は脇の林からよく枝とか蔓が伸びて居たりします。ことに夏場なんかは道が塞がれてるのもよくあることです。そして道を塞ぐ蔓を潜ろうとして、

バリバリッ

「ひいやあー」

気持ち悪い羽音を鳴らしながら目の前をセミが横切るのも、驚いてすごく変な悲鳴を一人であげてしまうのも、よくあることです。

「はー」

確かに驚きすぎかもしれませんけど、でもセミが顔に当たったら痛いし、頭の上だったらお水を掛けられることもあるんですから、これくらい驚いたっていいですよね。

ようやく見えてきました。レンガが敷き詰められた駐車場やしましまのサンシェードがおしゃれな可愛いお店です。

黒い看板がなんとなく甘そうで、お店の前にあるプランターには小人が隠れてます。くるくると巻かれたデザインのイーゼルに立てかけられたブラックボードは「かき氷」とだけ。

お店の人が気づいてくれました。
ドアを引くと鈴の音と涼しい空気と甘い香りにつつまれました。

「ももかちゃん、いらっしゃい!一人で来たの?」

背の高いお兄さんがお父さんの弟子だったリョウさんです。

「おばあちゃんちに行くんです」

「そっか。お盆かな?暑い中えらいねー」

明るくて気さくな人です。私とは正反対。

「そうだ!ちょっと待ってて」

奥の方に行っちゃいました。

ショーケースの中には綺麗なお菓子が並んでます。

この地域ではお菓子屋さんが少ないので、誕生日もクリスマスも、ちょっとしたお土産なんかにもこのお店のお菓子は定番です。

「これ食べてごらん」

お皿の上には白くて四角いカステラみたいなものが乗っています。新作のお菓子かな?

「いいんですか?」

「まずいかも」

「いただきます」

お皿を受け取って、消しゴムみたいなそれを爪楊枝で刺して見ました。中にフルーツが入ってるようです。

小さいので一口で食べられます。どんな味がするかちょっと想像できないけど、とりあえず食べて見ました。

「……」

「どう?」

白い生地はモコモコしてて、なんとなくカスタードの香りです。中のフルーツはバナナでした。全体的に甘すぎなくてさっぱりしています。

「おいしいです!」

「よっしゃ!ありがとう!こう言うのって自分の舌は頼りにならないから助かったよ」

甘ければなんでもいいような私の舌も頼りにならないかもしれません。

「ところでこれ、なんて言うお菓子ですか?」

「あー、これね、パップラドンカルメ」

「えっ?!げほっげほっ」

「の、つもりなんだけど、本物が分からないからなんとも言えないんだよ。大丈夫?」

まさか幻のお菓子をこうも簡単に食べられるはずがないですよね。でも、私が聞いた話は……

「パップラドンカルメって、メロンの味じゃないんですか?」

「そうそう。とりあえずバナナにしてみたんだけど、色々と噂があってね。ケーキの味とも言われてるけど、漠然としすぎてるし」

「そうなんだ……」

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