哩「後から来といてズルイばい!」煌「生憎これだけは譲れません!」 (44)

高校一年春

煌「ここが九州の麻雀名門校、新道寺女子ですかすばらです!」

入学時、肛門の前で目を輝かせている少女が目にとまった
標準語を口にする姿が眩しく見えたのを覚えている

煌「おや、貴方も……」

姫子「ッ……///」

初対面なのに声をかけられた
私には入学式前に先輩である白水哩と会う約束がある
そう心の中で彼女に言い、足早にその場を立ち去った
正直、標準語で話す彼女と、方言丸出しな私が会話するのを恥ずかしく思ったからだ

煌「……」

彼女はそれ以上言葉を私にかけようとはせず、追ってくることもなかった

姫子(あの子、言葉からしてよそもんで寂しかったと……?やったら、可哀想なことしたかもしれん……)

知らない土地で同じ一年の友達を作ろうと勇気を出して話しかけてくれたのかもしれない
少しの罪悪感を感じながら私は待ち合わせの場所へと足を速めた

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姫子「部長っ!」

哩「姫子か。入学おめでとう」ナデナデ

姫子「えへへ///」

正直、高校生にもなって頭を撫でられるのは面映いが、嬉しくなる気持ちは仕方ない
中学の頃も、部活で活躍するとこうして頭を撫でられたものだ

哩「生立ヶ里からよう来てくれた。当然麻雀部に入るんやろ?」

姫子「当然です部長!一緒に全国ば目指しましょう!」

哩「ああ、そうだな」

中学時代から部長と一緒に麻雀を打っていた
麻雀の基礎は部長に叩き込まれたもので、部長と一緒なら誰にも負ける気はしなかった

煌「おや?貴女は今朝の……」

姫子「あっ」

今朝校門前で会った子は偶然にも同じクラスだった

花田「同じクラスだったとは運命を感じますね。すばらです」

姫子「すばら……?」

聞きなれない言葉に首をかしげた
都会の言葉だろうか?
無知を恥らうより先に、疑問から聞き返してしまった

煌「ええ、すばらです!」グッ

そう自信たっぷりに答える彼女
意味はわからないままだったが、ニュアンスでなんとなくはわかるような気がする

煌「その髪型……」

女生徒A「えっ?」

煌「実にすばらです!」

女生徒A「そ、そうかいな?……///」

言葉の違いなどまるでないかのようにクラスメイトたちに話しかけている
方言を出すのが嫌で朝彼女に対しそっけなく振舞ったが、彼女は言葉の壁などものともせず振舞っている
これならクラスで彼女が孤立することもないなと少し安心した

教室で学校生活における注意や授業のことを先生が話すのを軽く聞き流しぼんやりしていた

姫子(同じクラスになりよったはよかけど、あの子はどっから来よるんやろう?)

そんな風に、あの標準語を使う子がどこから来たのかをぼんやりと考えていた
もしかしたら東京かもしれないし、そうじゃなくても本州かもしれない
方言を気にして標準語で話す友達はいたけど、あの子の言葉は本物な気がした

教諭「これが入部届けです」

そんな益体のないことを考えていると、いつの間にか先生の話もほとんど終わっていたようで前の座席から入部届けが回ってきた

姫子(麻雀部は要るのは決まっとった。早見学に……)

煌「おや、貴方も麻雀部希望ですか。私もなんですよ」

周りの子の死亡する部の欄を確認して回っていたあの子が、私の記入欄を見て声をかけてきた

姫子「知っとーばい」

彼女がクラスで自己紹介するときに名前と、入る部は聞いていた

煌「おや、そうでしたか。よければこれから麻雀部に見学に行くのですがご一緒しませんか?」

姫子「よかとy……いいですよ」

方言が出そうになるのを抑え、何とか標準語で返した

煌「それはすばらです!先ほどクラス全員の前で私も貴方も自己紹介しましたが、せっかくですし、改めまして自己紹介を。私は花田煌といいます。よろしく」

姫子「鶴田姫子……です……。よろしく」

私はぎこちなく言葉を返し、一緒に麻雀部へと向かった

姫子「お邪魔します」

煌「ここが北部九州最強を誇る新道寺の麻雀部ですか……」

部室の戸を開けると、何十人もの麻雀部員たちが牌を打ち、牌譜を眺め、スクワットなどの筋トレに励んでいた

江崎「新入部員……」ゴゴゴ…

安河内「ニャス……」ゴゴゴゴゴ…

姫子(えらい髪型の先輩が何人も……!?)

煌「ふ~む、先輩がた、なかなかのなかなかです……。すばら!」

姫子(えらい髪型がここにも!?)

哩「来たか姫子」

姫子「アッハイ」

先輩や花田の髪型から視線を逸らし、部長と視線を合わせた

今年の新入部員も数獣人いるが、そのうちの何人が脱落していくのだろう
私は隣で目を輝かせるツインテールな都会っ子?を見やった

煌「?はて、何でしょうか?」

姫子「何でもなか」

教室内でも見たが、この花田煌
性根は真っ直ぐであることは容易に見てとれた……
であれば、麻雀部の厳しさに音を上げて早々に脱落するかもしれない
そう私は半ば予感していた

哩「そいじゃあ入部届けを出す前に、みんなには実際に打ってもらう。高校と中学の差をその目で見て欲しい」

新入部員「「「はい!」」」

江崎「ズゾゾゾゾゾ……2000、4000です!」ズビズバァッ!!

一年A、B、C「ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」

友清「4000オール。フフフ、12000点……」グワァラゴワガキーン!!

一年D、E、F「 っひぃ~!」

安河内「ロン。やったニャス。3200ニャス」ファサッ…

一年G「チャワバンガ!」

姫子(さすが強豪校の先輩がた……。早速一年から点ば毟っとる……)

哩「余所見ばするな、姫子!」

姫子「はいっ!」

一方で私は部長と同卓し、点棒のやりとりをしていた
偶然にも花田も一緒にだ

煌「むむ……、それではこの牌を切りましょうか。ほりゃ!」

哩「通らん。ロンだ」

煌「あちゃー、そう来ましたかー」

正直花田にはあまりセンスを感じなかった
ただ、部長に三年生に私と、高火力で散々点棒を毟られながらも最後まで飛ばなかったのは正直意外だった




ノドガカワイタニャス
ジュースノネアガリモセイジガワルイ…

一年の実力を見て、今日の一年の部への体験入部は終わりとなった
高校麻雀部の実力差や、暇を持て余した先輩がたの激しい筋トレなどを目にしてか、一年の半数は麻雀部に入るのを断念したようだった

煌「いやはや、さすが北九州最強との呼び声高い新道寺麻雀部。負けていられませんね!」

実力差がわからないでもなかろうに、花田は何故かやる気を見せていた

姫子「ちかっぱすごかとねぇ」

煌「はい?今なんと?」

姫子「ッ……///」

聞き返されてしまった
方言なので恥ずかしい……

姫子「とてもすごいですね……って意味です」

煌「なるほど、そういう意味でしたか」

何を納得したのか、しきりにすばらと呟くと、急に私を振り返りこう行った

煌「鶴田さんの方こそ、新道寺のエース白水さんや、三年生の方相手に一歩も退かずに。そちらの方こそすごいですよ」

姫子「そ、そんな事なかとー……」

謙遜でもなく事実だ
私は部長にも三年生にもまだ及ばない
実力が不足しているのを自覚しているから、普段の私なら逆にあまり良い気分にはならなかっただろう
しかし、花田の純粋な邪気の無い笑顔でそう言われると不思議と悪い気はしなかった

一、二年「せいっ!せいっ!」

一年「よいしょ……よいしょ……」

あれから一週間が過ぎた
麻雀強豪校とはいえ卓の数は限られている
卓につけない一、二年は筋トレに励んだり、牌拾いに汗を流したりしている
花田は何をしているのかというと……

哩「姫子!集中!」

姫子「はいっ!」

一年なのに卓へとつかせてもらっているというのに、つい他所へと気を取られてしまった

三年「花田ァ、こっちにスポドリ頼むばい」

煌「はーい、ただいまー」トテトテ

花田は甲斐甲斐しく働く姿勢と、都会を感じさせる言葉使い、何より可愛がりたくなる小動物系の容姿も相まって、上級生たちからマネージャーのように扱われ可愛がられていた

その一方で私は部長である白水哩とのコンボと、素でもそれなりに実力があるので一年でも卓につかせてもらっている
しかし、花田はこの一週間ろくに牌に触らせてすらもらえていない
麻雀は運という要素が強く絡むが、ある程度の実力があれば相手の実力や素質が測れる
花田はもう見切られてしまったのかもしれない……

三年生A「花田、ネットキャッシュは買ってきたと?」

煌「ええ。はい、どうぞ先輩」

三年生A「オーケー。それじゃ頼むばい……」

花田にネットキャッシュを買わせに行かせたのはハッカー先輩だ

三年生A「オーケー、いい子だ。よーし、そのままそのまま……ビンゴ!」

煌「すばら!またスーパーレアを引きましたよ!」

三年生A「そげん騒ぐな、照れるばい///」

ソシャゲにはまってるデジ打ちを専門とする先輩で、ソシャゲで課金ガチャを回すと三回に一回はスーパーレアを引き当てるという異能の打ち手だ

ぶちぃっ……    ぶちぃっ……


むしゃり………     むしゃり………     むしゃり………


ごくぅり……………


三年生B「花田ァ、茶を」ニタァ…

煌「少々お待ちを!」イソイソ

もぎもぎフルーツを乱暴に引きちぎり口に運んでいるのは、生徒会長も勤める才色兼備な優等生、委員長先輩だ
才能の無い花田に何かと目をかけてあげている優しい三年生である

三年生C「花田、ちゃんと筋トレしとるとー!?」

煌「はいー、もちろんです!」

三年生C「嫌ばってん筋トレったい!そういう基礎ば固めてこそ強うなれるったい!あの野依プロもここで鍛えたからプロになれたんばい!」

煌「おおぅ……」

三年生C「これぞ三年の集大成、そいやっ!」ムキィッ!!

皮ジャンから伸びる二の腕を勢いよく曲げる
ちなみにあの皮ジャンはポリエステルだ

煌「超すばらですっ!まるで腕が手羽先のようです!」

三年生C「やけど、まだ何かが足らん……。それさえ掴めれば全国やって制覇できるんやけど……」

あの腕を逞しくむき出しにしている先輩は手羽先先輩と呼ばれている
以上、三人の先輩に加え、部長に私を加えたメンバーが今年の全国を目指す新道寺レギュラーだ

煌「今日も疲れましたねぇ」

姫子「そ、そうだね」

煌「むぅ~……。どうも姫子さんとは微妙に距離感を感じます。言葉だって、気を使わずにみなさんのように普通でいいですのに」

私は未だ花田に対して方言で話すことに気後れしていた
可愛くて、みんなから好かれていて、都会を匂わせる彼女に少しコンプレックスを抱いていたからだ

姫子「そ、そげなことなか……」

煌「んっふっふっふ~♪」

姫子「何ね……?」

花田の笑顔に内心ドキドキしながら問いた
彼女が方言を馬鹿にすることはないとは思うのだが、少し不安になる

煌「いえ、無理に標準語を使おうとせず、そういう風に方言を使う姫子さんの方が……」

そう、彼女は私に視線を合わせると

煌「断然すばらですよ♪」パチン

そう言い、私にウィンクをした

姫子「なっ……///」

そんなことをストレートに言われるとは思っていなかっただけにうろたえてしまった

姫子「なんば突然……///」

煌「それよりも喉が渇きません?ジュースでも飲みに行きましょうか」

そう言うと、もう花田は前を歩いている
マイペースというか何というか
まだ一緒に帰るとも言っていないというのに

姫子「どこに行きよーと?」

花田の後ろを歩きながら訪ねた

煌「ショッピングモールです。何せまだこの辺りに詳しくはないので」

飲み物なら自動販売機やコンビニでもいいように思ったが、よく考えると花田はこの辺の人間じゃなかった
花田がこの土地に慣れる為にも、近くのコンビニより少しだけ遠くに歩くのも悪くない
そんな風に思い直した

姫子「あのさ」

花田「はい、何でしょう?」

姫子「花田は何で九州まで来よったと?前はどこに?」

ただ、なんとなく聞いただけの純粋な疑問だった

煌「以前は長野にいました。高校生からですね、ここに来たのは……。理由は家の都合……でしょうか?」ニコッ

そう言った花田の笑顔はどこか困ったような、寂しさを覘かせたような
そんな表情が見て取れた
ああ、きっとこの子は嘘を吐けないんだろうな、きっと

姫子「そげん話聞いとらんばい……」ボソッ

煌「えっ?今何かおっしゃいましたか?」

姫子「なんでもなか」

花田は何か事情があってこんな田舎に来た
言い難いことならそれを聞くつもりなんてなかった
少し自己嫌悪に陥りつつも、花田が都会ではなく長野という田舎っぽいとこから来た
そんな事実に不思議と親近感を覚えた

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