ミーナ「友達になろうよ」(173)

捏造満載なので気になる人は注意。

ネタバレは多分ないかなと思うけど変な間違いとか
あるかもしれない。

ミーナ「二人とも。本当に行っちゃうの?」

少女1「うん。これ以上ムリ。耐えらんない」

少女2「か弱い女の子にはキツすぎるよ、ここ」

ミーナ「気持ちはわかるよ。私だってそう思うもの」

ミーナ「でも……2人とも私より成績イイじゃない。入団したばかりなんだし、諦めるには早いよ」

少女1「こういうのって早めに見切りをつけた方がいいものなのよ」

少女2「そういうこと。それにさ。このまま頑張ってもジリ貧だって分かっちゃったしね」

ミーナ「……悩んでたのなら、言ってくれれば良かったんだよ」

ミーナ「相談してくれれば協力したのに」

少女1「ミーナが気に病むようなことじゃないって。私たちは自分で決めたんだから」

少女2「そうだよ。これからは自分のことを考えなよ」

ミーナ「……開拓地って物凄く辛い環境なんでしょ? 不安じゃない?」

少女1「ここよりマシだと思うよ。心配しないで」

ミーナ「でも……もったいないよ」

少女2「いいの。自分で決めたことなんだし後悔してないから」

少女1「いやってほど思い知らされたからね。本物の実力ってヤツ」

少女2「……チッ」

ミーナ(? どうしたんだろう? どこを見てるの? ……兵舎のほう?)

ミーナ(窓から外を眺めてる子がいる……)

ミーナ(あの子は確か……入団式の日に教官から何も言われなかった子だよね)

ミーナ(無表情だから少し怖い感じがするなぁ)

ミーナ(名前、なんていうんだっけ? 覚えてないや)

少女1「ムカつくヤツともこれでおさらばだわ」

少女2「そう思うとせいせいするわね」

ミーナ「どうしたの? 何を怒ってるの?」

少女1「ん……なんでもない。私たちは平気。それよりもミーナは自分の心配して」

少女2「ミーナはすぐに意地になるから。無茶しないかが心配だね」

少女1「それとも私たちと一緒にくる?」

ミーナ「え?」

少女2「言っちゃ悪いけど、あたしら実力は大差ないでしょ?」

少女1「意地だけでやっていくには限界があるんじゃないの、ってコト」

少女2「いずれこっちに来るなら早いほうがいいんじゃない?」

ミーナ「私……」

少しだけ、心が揺れた。

同郷の友人、幼馴染。

一緒にすごした時間が長いだけに、ここで離れ離れになるのは、少なからぬ衝撃だった。

私はまだ子供で、親兄弟と離れている以上は他に頼る絆なんてものはない。

だからやっぱり……言い訳じみているとわかっていても……この手を取ってしまってもいいかな、という気持ちは、少なからずあった。

そのときの私を踏みとどまらせたのは何なのかを考えると、答えに詰まる。

それはきっと単純に、同郷の友人だから感じ取れた、というわけでもなく。

ほのかに感じたことに過ぎないんだけど。

今の彼女たちは、精魂尽き果ててつかれきっている、というよりも。

隠し切れないイラだちを、この場所の仕組みとか、力の及ばない相手とか、そういうものにぶつけているような……

つまり、拗ねた子供が、むくれて駄々をこねているようなことをしているんじゃないかなって、感じていた。

だからかどうかは分からないけど。

差し出された手を見て……手を伸ばしかけて。

それでも結局、私はその手を取ることは出来なかった。

ミーナ「私は……ここに残るよ」

少女1「そ」

ミーナ「ごめんね」

少女2「別に。気にするようなことじゃないし」

少女1「じゃ、まぁ、頑張ってよね、ミーナ」

少女2「あなたは私たちの希望の星だから。一応、ね」

ミーナ「う、うん。2人とも、あの、元気でね」

そのときちょうど開拓地行きの馬車が到着して、2人は何も言わずに乗り込んでいった。

去っていく時はあっさりしたもので、馬車が出発するとあっという間に消えていく。

手を振るくらいのことはできただろうか。良く覚えていない。

なんというか、言葉にしづらいのだけれど。

友達だったはずの私たちをつないでいる絆みたいなものは、きっととても儚くて脆いものだったんじゃないのかなって、いまさらながら思い知らされた。

親しいと思っていたのはこっちだけだったのかもしれない。

寂しさとか辛さという感情よりも、取り残されたような虚無感のほうが強くて。

何を考えても上手くまとまらなくて、私はしばらくボーっと立ち尽くしていた。

期待

期待

~一週間後~

兵舎

ミーナ「ふぅぅぅぅ……疲れたなぁ」

ミーナ「……最近、疲れたとか辛いとか、そんなことしか言ってないような気がするよ」

ミーナ「訓練は毎日ヘトヘトになるくらい辛いし……座学もだんだんついていけなくなってきた」

ミーナ「はぁ……しんどいな……」

ミーナ「……このまま寝ちゃいたいけど、汗が気持ち悪いし」

ミーナ「何か食べないと、倒れちゃうかもしれないしなぁ……あぁもう、動くのもダルい」

ミーナ「はぁぁ……私、なんでここにいるんだろ」

ミーナ「憲兵団に入れれば嬉しいけど、兵士になりたかったわけじゃないし」

ミーナ「10位以内に残れる自信なんかない……」

ミーナ「何をしても中途半端な状況って辛いよ……」

ミーナ「……ぼやいててもしかたないか。行こ」トボトボ

~食堂~

ガヤガヤ
ザワザワ

ミーナ「うわぁ……混んでる」

ミーナ「あいてる席が見つからないや。どこに座ろうかな」                                                         

ミーナ「あ」

アニ「……」

ミーナ(あの時の金髪の子……あの子の隣は空いてるみたい)

ミーナ(ご一緒させてもらおっかな。聞きたいこともあるし)

ミーナ(話してるうちに仲良くなれるかもしれないよね。よーし、話しかけてみよッ)トコトコ

ミーナ「ね、ここ空いてる? 座ってもいい?」

アニ「……」チラ

ミーナ「?」

アニ「……」フイッ

ミーナ「あ、あの? えと、ここ、誰かいるのかな? 座っちゃダメ?」

アニ「……」チラ

ミーナ「……」

アニ「……」フイ

ミーナ(む、無視!? 無視された!? え? どど、どうして?)

ミーナ「す、座らせてもらうね?」

アニ「……」チラ

ミーナ「い、いただきまーす」カチャ

「ねぇねぇ見てよアレ。『氷の女』に話しかけてる子がいるよ」

「あーホントだ。物好きな子がいるね」

「あんなおっかないヤツと話そうだなんて、頭がわいてンじゃないの?」

ミーナ(?? ヒソヒソ話してる? この子の陰口いってるの?)

ミーナ(氷の女? もしかして、この子のあだ名? 感じ悪い……)

アニ「……」スッ

ミーナ「あれ? どうしたの?」

アニ「部屋に戻るの。食べ終わったから」

ミーナ「えッ。あ、ホントだッ。た、食べるのはやっ」

アニ「ごゆっくり」スタスタ

ミーナ「え、あの、ちょ!」

ミーナ「ま、まって! 話したいことが……あぁ、いっちゃったぁ」

ミーナ「……」ポツーン

ミーナ「キッツぃ子だわ……」

ミーナ「何だか避けられてるみたいだし……一人ぽっちで寂しくないのかな」

ミーナ「うぅ……落ち込んでるところに追い討ちだよ……はぁ」

ミーナ「……食べよ」

ミーナ「スープ薄いし、美味しくないなぁ」ズズ

ミーナ「……なんだか食欲が湧かないよ。このパン固いし、残しちゃおうかな」

サシャ「ホントぉですか!? 食欲がないと!?」ガタタッ

ミーナ「わ!?」

サシャ「このパァン! を残してしまうという腹づもりと伺いましたが!?」

ミーナ「ええええ? え? な、な?」

サシャ「このご時勢、貴重な食事を残したりしたら教官になんと言われるかわかりませんよ!?」

ミーナ「!!??」

サシャ「もしかしたら罰則として、死ぬ直前まで走らされたりするかも! 体験者のこの私が言うのだから間違いありませんッ」グイグイ

サシャ「ですがご安心ください! 私が来たからには、責任を持ってパァンの処理係を受け持たせていただきますッ」

ミーナ「わッ、わッ!? えッ!? なな、なんなのこの子ッ!?」

サシャ「いただきまーっす!!」

ミーナ「ま、待ってよ! 食べないなんて言ってな……はひぃぃぃぃ!!??」

サシャ「ガブッ! モグモグモグモグ」

ミーナ「いったぁぁぁぁ!! いたたぁぁいたぁぁいッ!! 手! それ私の手!! 手も一緒に噛んでるってば! 離してえぇ!!」

サシャ「モグモグモグモグ!!」

ミーナ「きゃぁぁぁぁぁ!! た、たあぁすけてぇぇぇぇ!!??」

~食堂入り口~

ユミル「ンだよ騒がしいな……って、ありゃ芋女じゃねーか。何してんだありゃぁ」

クリスタ「サ、サシャが噛み付いてるの!? 女の子に!?」

ユミル「みてーだな。おーおー、また派手にやらかしてやがる」

クリスタ「いけない、大怪我させちゃう!」ダッ

ユミル「おい、何もお前が行くこたぁ……」

クリスタ「サシャ! やめなさい! 痛がってるわ!」

ユミル「……ったく、相変わらずですこと」

ユミル「しゃーねーな。メンドくせー」

~ミーナのテーブル~

クリスタ「サシャ! どうしちゃったの!? とにかく離れて!」

サシャ「ンな!? クリスタ、あなたもこのパンを狙って!? んくぅぅー! このパンは私が手に入れたものです! 誰にも渡しませんよーッ」

クリスタ「サシャ! とにかく離れて!」

ミーナ「うあぁぁぁぁん!! たぁすけてぇぇ!!」

クリスタ「は、はなれなさ……っく、な、何て力強さなの」

ユミル「ったく、世話の焼けるやつらだ」

ユミル「おい芋女。おめーまた死ぬ直前まで走らされてーのか?」ゲシッ

サシャ「!!??」

ユミル「近ごろ甘やかしてたからな。ちょいとお灸をすえてやンよ。おら、こっち来い」ガシ

サシャ「はぷッ!? あぁぁ、パァンがぁぁ」

ユミル「るっせえ。来いやコラ」ズルズル

サシャ「えッ!? ちょ、いだだだだッ!?」

ミーナ「……ふぁあ?」

クリスタ「ユミル……サシャのこと、いじめちゃダメよ」

ユミル「適度にシメてやるくれぇだから気にすんな」

サシャ「え、ええッ!? や、ヤですよそんなの。私、ユミルには何もして……」

ユミル「いーからおとなしくしてろ。おら」

サシャ「ひぃええええええ!!」

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ーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーー

サシャ「もうしわけございませんでした」ドゲザ

クリスタ「もう……人のパンを取っちゃダメって前から言ってるでしょ?」

サシャ「返す言葉もございません」ドゲザ

ミーナ「もういいよ。大したことじゃないし」

ミーナ「ちゃんと食べられたし……パン以外は」

ミーナ「食事を取らないとバテちゃうのは本当だしね。いろんな意味で勉強になったからイイかなって……アハハ」

ユミル「はぁ? あめぇよお前。こーいうヤツにはな、しっかり言って聞かせなきゃダメなんだ」

ミーナ「んー。まぁでも、さっき随分と絞られたみたいだし。主にあなたに」

ユミル「おい芋女。お前な、あたしたちにどんだけ迷惑をかけりゃ気が済むんだコラ。卒業まで水汲み代返させンぞ?」

ミーナ(あ、無視した)

ユミル「それとも水汲みだけじゃ生ぬるいってか? 何だったらあたしたちの雑用みんなお前にさせてもいいんだぜ?」

サシャ「えぇ!? そ、それはちょっとキツすぎじゃ」

ユミル「知るか。大騒ぎしたあげくあたしらに尻拭いさせてんのはおめーだろが」

サシャ「むぐぐ。それはそうですけど」

ミーナ(なにこの人たち。どういう関係なの?)

クリスタ「もう! ユミル! 調子に乗らないの! サシャは素直なんだから本気にしちゃうでしょ!」

ユミル「本気にしてもらいたいんだけどな出来れば」

クリスタ「ダメ。何でもかんでもサシャに押し付けたらかわいそうよ」

クリスタ「そもそも今回の件ではユミルは何も被害を受けてないでしょう?」

ユミル「助けてやったじゃん」

クリスタ「仲裁にかこつけてウサ晴らしをしてたように見えたのは私の気のせいかしら」

ユミル「つり銭がわりってトコだろ。もちろん報酬は別な」

ミーナ(うっわ、黒ッ。悪い子だわーこの子)

サシャ「あの、ウサ晴らしって何でしょうか?」

ユミル「るっせぇ。お前は黙ってろ」

クリスタ「とにかく、噛み付かれたのはこの子なんだし、ユミルが文句を言うのはおかしいと思うわ」

ミーナ「そーだよ。筋違いだよ」

クリスタ「ね? この子もこう言ってるし」

ユミル「いやしかし、こういうのはけじめが大事なんであってなぁ」

ミーナ「私は大丈夫。気にしてないし。だからもういいでしょ」

クリスタ「サシャもそれでいいわね?」

サシャ「は、はひぃ。本当にすみませんでしたぁ」

クリスタ「それじゃあ、これで解決ね」

ミーナ「そーいうこと。ほら、もう土下座はいいから立って。ね?」

サシャ「ありがとうございますぅ」

ユミル「け。いい子ちゃんですこと」

クリスタ「ユミル。大人気ないわ」

ユミル「へいへい。女神様のおっしゃるとおりに」

クリスタ「まったくもう……」

ミーナ「でも良かったよ。変なことにならなくて」

クリスタ「そうね。確かに。……えぇと。あなたは……」

ミーナ「あ、そういえばちゃんと自己紹介してなかったよね」

ミーナ「私はミーナ。ミーナ・カロライナって言うの」

クリスタ「ありがとう。私はクリスタ。クリスタ・レンズ」

ミーナ「知ってるよ。有名人だもん」

クリスタ「そうなの? うふふ。光栄なことね」

ミーナ(やっぱりもんのすごい美人さんだよねー……そりゃー男子も夢中になるわ)

ユミル「おめーも十分な有名人だろ」

ミーナ「へ? 私?」

ユミル「豚小屋出身、家畜以下ってのはおめーだろ」

ミーナ「!!??」

ユミル「大声で自己紹介してたじゃねーか。ありゃー傑作だったぜ」

ミーナ「い、いやあれは、入団式の通過儀礼だったんでしょ? みんなも色々言われてたじゃない!?」

ユミル「あたしゃ何も言われてねーよ」

ユミル「おおかた緩んだツラ晒してたんじゃねーの? あの教官はそういうのを嫌うからな」

ミーナ「むッ、ぐ、ぬぐぐ……」

ユミル「ま、通り名の割には地味だな。地味かつ平凡。うちのクリスタとは大違いだわこりゃ」

ミーナ(ひっど! ひっどい!! こ、ここここ、この子、性格わっる!) 

クリスタ「ちょっとユミル、やめてよ。ひどいこと言わないで」

ユミル「本当のこったろが。お前もちょっと笑ってたろ今」

クリスタ「ぜッ、ぜんぜんそんなことない! やめてよもう!」

クリスタ「ミーナ、ごめんね。ユミルはちょっと口が悪いし平気でウソをつくけど、根はいい子なの」

ミーナ「ちょっと、ね……あはは。ま、間違ったことは言ってないから、いいけど」

ユミル「おうとも」

ミーナ(あんたが言うなコラぁ!)

クリスタ「ユミル! んもぅ……」

クリスタ「ごめんね。騒がしくって」

ミーナ「うぅん。にぎやかなのは好きだから」

クリスタ「ありがとう。この子はユミル。口が悪いのは照れ隠しみたいなものだから気にしないで」

クリスタ「それで、あなたのパンを食べちゃった子がサシャ」

サシャ「はいッ。ダウバー村出身、サシャ・ブラウスですッ!」

ミーナ(どこかで見たことがあると思ったら、あの芋を食べてた子かぁ)

サシャ「先ほどはパンを恵んでくださり、誠にありがとうございましたッ! 明日からもよろしくお願いしますッ!」

ミーナ「別に恵んだわけじゃないんだけどね……って、え? 明日からも?」

サシャ「パンが苦手なんですよね? ならば、その処理は私めにお任せを」

ミーナ「いやいやいやいやあげないから」

サシャ「えぇー? 無理しないでくださいよぅ」

ミーナ「いや別に無理してないけど」

サシャ「ではこっそり貰い受けに伺いますね!」

ミーナ「……まさか盗るつもりじゃないよね?」

サシャ「まさか。私は狩人ですよ?」

サシャ「実力で奪い取ります!」

ミーナ「盗らないでよお願いだから!」

サシャ「狩りの世界は厳しくも悲しいものなんですよ」フゥーッ

ミーナ(うっわイラつくわこの表情)

ミーナ「あ、あはは……個性的な人たちだね」

クリスタ「よろしくね、ミーナ」

ミーナ「こっちこそよろしくねッ」

>>11
>>12
ありがとね

ミーナSSか
期待

期待

ミーナSSの結末はいつも同じところに辿り着いてしまうが 
それでも読まずにはいられないッ期待してます

サシャ「私もよろしくです。あの、手は大丈夫ですか?」

サシャ「食べもののことになると理性が飛んじゃうんですよ。私、いつもお腹ぺこぺこでして、えへへ」

ミーナ「あはは。いいよいいよ。ちょっとびっくりしただけだから」

ミーナ「まだ歯型がのこっちゃってるけどね。でもたいしたことないし、うん」

ミーナ「こっちも気にしてないから気にしないで。あ、でも、パンは盗らないでよ?」

サシャ「ありがとうございます。お優しいんですね」

ミーナ(あ、パンのことは無視しちゃうんだ……)

ユミル「ちッ。ンだよ、また美味しいネタを手に入れたと思ったのに」

クリスタ「またユミルはそういうことを言う」

クリスタ「せっかく仲良くなれたんだから素直に喜びましょうよ」

ユミル「へいへい。女神様の言うとおりっすわ」

クリスタ「んもぅ……ねぇ、私たちはこれから食事だけど、ミーナはどうするの?」

ミーナ「私は汗を流してからお部屋に戻ろうかなって。何だか疲れちゃったから」

クリスタ「そう。それじゃあ今日はこれでお別れかしら」

クリスタ「今日は色々あったけど、これも何かの縁だし、仲良くしていきましょう」

ミーナ「うんッ。仲良くしてねッ」

サシャ「私も私もッ。ぜひぜひ仲良くしてくださいねッ」

クリスタ「うふふ。サシャったらはしゃいじゃって」

ユミル「……おい、もうそろそろいいだろ? 腹へってんだからさ」

クリスタ「ええ。ミーナ、またね」

ミーナ「うんッ」

食堂の席へと向かう3人を見送った後、私は部屋を出た。

たった30分くらい前とは気持ちの持ちようが天と地ほども違う。

踊りだしたくなるくらいの喜びが、私の胸を満たしていた。

ミーナ(感じのよさそうな子たちだな。一人だけちょっと意地悪な子がいるけど、根はいい子みたいだし)

ミーナ(仲良くなれたらいいな……)

~翌日~ 

立体機動訓練

キース「本日の立体機動訓練はペアで行う!」

キース「ペアについては各自に任せる。開始は十分後。それまでに組む相手の見つからなかった者は申し出るように!」

ミーナ「うぅうぅぅぅ、り、立体機動かぁ。しかも、ペア……」

ミーナ「この訓練って苦手なんだよね。あの不安定な感じがどうにも慣れなくって」

ミーナ「……成績、最下位だし」

ミーナ「あぁんどうしよう。みんなどんどんパートナーを決めていってる」

ミーナ「うーん、でも私なんかとペアを組んでくれる子がいるかなぁ」

クリスタ「ミーナ。どうしたの? 1人?」

ミーナ「あ、クリスタ……。うん、私、立体機動って苦手だから」

ミーナ「ペアだと相手に迷惑かけそうで声をかけづらいのよ」

ミーナ「クリスタも1人?」

クリスタ「ごめんね。もう組む相手は決まってるの」

クリスタ「ミーナが困ってるみたいだからサシャにも声をかけてみたんだけど、彼女も決まっちゃってたみたい」

ミーナ「そっか……クリスタは、もしかしてユミルって子と?」

クリスタ「正解。開始と同時に、強引に決められちゃったわ」

クリスタ「私のことを守ってくれるんだって。過保護なんだから」

ミーナ「仲良しなんだね。いつも一緒だし、姉妹みたい」

クリスタ「そう見えるかしら。似てる?」

ミーナ「外見じゃないよ。姉妹ってお互いを支え合うものでしょ?」

ミーナ「昨日のサシャとのことも、信頼し合ってるからこそのやり取りだなって感じたの。本当に仲良しなんだなって」

ミーナ「うらやましかったな」

クリスタ「ふふっ。ほめてくれるのは嬉しいわ。ありがとう。でも何となく他人行儀な感じね」

ミーナ「えッ? そう? そんなふうに感じちゃった? そんなつもりはないんだけど」

クリスタ「距離を感じるなら近付いてみればいいのよ。だってね」

ミーナ「ん?」

クリスタ「私たちだって、もう友達同士でしょ?」

ミーナ「あ……」

ミーナ「そ、そっか……うんッ。私たち、友達なんだね。えへへ、なんだか照れるよ」

ミーナ(友達……私、友達ができたんだ。私、もう一人じゃないんだね)

ミーナ(うれしいな……すっごく嬉しい)

クリスタ「今回は手助けできなくて悪いけど、困ってるときは気軽に声をかけて。ね?」

ミーナ「ありがとッ。気遣ってくれてホントにうれしい」

ミーナ「私、ペアを探すね。それくらいは自分でしなきゃ」

クリスタ「引き止めちゃってごめんね」

ミーナ「うぅん。気が楽になったよ。後でまたお話しようね」

クリスタ「ええ、ぜひ。じゃあ、私はもう行くわね」

ミーナ「うん。がんばって」

ミーナ「……自分で頑張るって言ったものの、うーん。もうみんな組む相手が決まっちゃってるみたいだわ」

ミーナ「どーしよ。教官のトコに行くかなぁ」

ミーナ「……あれ? あの子」

アニ「……」

ミーナ「ね、ねぇ、あのッ」タタッ

ミーナ「組む相手がいないの?」

アニ「……」チラ

ミーナ(ぅーわ実に不機嫌そうだわ。おっかない顔してるし)

ミーナ「よ、良かったら私と組んでくれないかな? ちょっとボヤーっとしてたらあぶれちゃって困ってたんだ」

アニ「……」

ミーナ「私、立体機動の訓練は苦手だけど、がんばるからッ」

ミーナ「体力にはそこそこ自信あるの。運動神経も悪くないほうだと思うし」

アニ「……」

ミーナ(うわ、顔がこわばってるよぅ。嫌そうだなぁ)

ミーナ「足手まといにはならないよ……や、なるかもしれないけどッ」

ミーナ「足を引っ張っちゃったとしても取り戻せるようにするからッ!」

アニ「分かったよ。組もう」

ミーナ「でもでもッ! 一生懸命がんばるから……って、え? い、今なんて?」

アニ「いいよって言ったんだけど」

ミーナ「ほ、本当に!? ウソじゃなくて!?」

アニ「ウソつく理由がない。相手がいなくて困ってたのは事実だしね」

ミーナ「よかったぁ! うれしいッ! 教官に怒られるかもって不安だったの! 本当にありがとう!」

アニ「……はしゃぐようなことでもないでしょ」

ミーナ「うぅん。助けてもらったようなものだし」

アニ「それはお互い様」

ミーナ「それだけじゃないよ。私ね、あなたと話してみたかったの!」

アニ「私と?」

ミーナ「うんッ。あ、まだ自己紹介してなかったよね? 私、ミーナって言うの。ミーナ・カロライナ」

アニ「……変なヤツ」

ミーナ「あなたの名前も教えてほしいなッ」

アニ「……終わったらね」スッ

ミーナ「あ、ちょっと待ってよぅ。名前がわからないと連携しづらじゃないッ」

アニ「適当でいいでしょ。ほら、集合の時間だよ」スタスタ

ミーナ「ごまかさないでよー。あ、待ってってば」タタ

ミーナ「意地悪だなぁもう」

ミーナ「いいもん。終わってから根掘り葉掘り聞いちゃうんだから」

アニ「ホントに変なヤツ」

あきれたような声と嘆息が聞こえてちょっとへこんだけど、なんだか気を許してもらえたような気がしてうれしかった。

~訓練終了後~

ミーナ「んふー……キツかったぁ」ドサッ

ミーナ「もーダメ。しばらく動けない」

ミーナ「あちこちの筋肉が軋んでる気がするよぉ。あーもう絶対に今夜は筋肉痛だわ」

アニ「あんた、本当に苦手なんだね。立体機動」

ミーナ「う……だ、だから言ったじゃん」

アニ「ものには限度ってものがあるでしょ」

アニ「自分の訓練をするよりもフォローしてる時間のほうが長かった気がする」

ミーナ「……面目ございません」

アニ「……まぁいいけど」

ミーナ「でも、こっちから無理に誘ったのに……ごめんね、本当に」

アニ「……」

ミーナ(うぅ。気まずいよぉ)

立体機動装置は、一般的に身軽で柔らかい身のこなしが出来るものほど有利だそうだ。

その部分だけでみれば、男よりも女のほうが立体機動では有利らしい。

らしい、というのは、私が全くその理屈に当てはまっていないからわからないということなんだけど。

あれ、私ってばヤバいんじゃないかな。気のせいかな。

アニ「いいさ。得点はそれなりに稼げたし」

アニ「組む相手が見つからないまま不参加、無得点なんてコトは避けられたんだ。ひとまず礼を言っておくよ」

アニ「ありがとね」

ミーナ「ッ!!??」

ミーナ(わ、笑った!? 今ちょっとだけ笑った!?)

ミーナ(笑うとめっちゃキレイだわこの子!)

ミーナ「こ、ここ、こここここっちこそ、あああああありがとぅ!」

アニ「挙動不審」

ミーナ「や、はははは……びっくりしちゃって」

アニ「変なヤツ」

ミーナ「う……」

アニ「面白いけどさ」クス

ミーナ(うーわスゲースッゲー美人だわー惚れちゃいそうだわー)

ミーナ「あはは。ウケた?」

アニ「そういうことにしとく」フイ

アニ「今日の訓練はもう終わりだし、私は兵舎に戻る。あんたも早く戻った方が良いよ」

ミーナ「う、うん。私も、もうちょっと休んだら戻るよッ」

アニ「じゃあね」スタスタ

ミーナ「あ、待って待ってちょっと待って! あの、またペア組んでくれるかなッ!?」

アニ「……」

ミーナ「だ、ダメ?」

彼女は無言のまま立ち去っていく。

その後姿をじっと見つめていた私は、何の返答もないことにしょんぼりしかけて……

アニ「いいよ」

ミーナ「!!??」

肩越しにこっちを振り向いた彼女に、目を見開く。

アニ「どうせ組むならさ」

アニ「やる気のあるヤツとがいい」

あまりにもきれいな微笑みと優しい声が、疲れた体に染み渡っていくような気がした。

何でこんなに嬉しいんだろう、と不思議なくらいの歓喜が胸を満たし、同時に全身に一気に元気がみなぎってきた。

ミーナ「ああああありがとうッ! ありがとッ! 次までにはたくさん練習するからッ。絶対に足手まといにならないからッ」

遠ざかっていく彼女の背中に向かって大きく声を張る。

対して彼女は、こちらを振り向かないままヒラヒラと手を振り返す。

そのクールでカッコいい後姿を、私はただ立ち尽くしたまま見送る。

ミーナ「はぁー……別の意味で疲れたよ。大人っぽい子だなぁ」

ミーナ「あれで私と一つか二つくらいしか違わないのかぁ……」

ミーナ「……やめた。落ち込んでもしょうがない」

と、独り言をつぶやきながら立ちあがる。膝はまだちょっと笑ってたけど、無理すれば歩けなくもない。

周りを見てみれば、もう訓練兵の姿は数少ない。

ミーナ「私も戻らなきゃ」

まざがくがくする足に力をこめて立ち上がろうと、地面を踏みしめる。

アニ「1つ言い忘れてた」

ミーナ「はぅ!!??」

アニ「うるさいよ」

ミーナ「い、いつの間に!?」

足音も何もなかったからぜんぜん気づかなかった。

ついさっきまではあんなに遠くまで歩いていってたのに、どういう体してるんだろ。

どうもこの子には驚かされることばっかりで、疲れてる暇もない。

けど、どうしてわざわざ戻ってきたんだろう?

なんとなく居心地悪そうに顔を半分そむけているのも、ちょっと意図が分からない。

ちょっとの間の後。

彼女は目にかかる髪束をうっとうしそうに手で払いながら、そのついでのように唇を開く。

アニ「アニ」

ミーナ「?」

アニ「アニ・レオンハート」

ミーナ「はぇ?」

アニ「教えろって言ったのはあんたでしょ?」

ミーナ「????」

アニ「それだけだから。じゃあ」

ミーナ「あ! ま、待ってよ!」

まだ半笑いの膝を無理やりおさえこみ、彼女の隣へと駆け寄る。

ミーナ「名前を教えてくれるためにわざわざ?」

アニ「教えろっていったのはあんだでしょ」

ミーナ「あー……うん。言った」

アニ「だからそうした。それだけ」スタスタ

ミーナ「あ、ちょっと」

ミーナ「歩くの速い! 速いってば! ねぇちょっと! まだ膝がガクガクしてるから……ホントに待ってって!!」

ミーナ「……行ってしまわれた」

ミーナ「……ちょっと顔が赤かった気がするけど」

ミーナ「もしかして照れてた?」

ミーナ「デレた? デレたのもしかして?」

ミーナ「うはぁー何なのアレ? 可愛いんですけど!? 可愛いすぎるんですけど!?」

ミーナ「めっちゃくちゃ乙女じゃないですの!?」

クールというより冷たい。穏やかと言うより無口。

だけど、彼女は……アニは、見えづらいだけで、とっても暖かい何かを内に秘めている。

そのとき私はそう確信していた。

だって美人でキレイで可愛いんだもん。

ミーナ「よーし決めた!」

ミーナ「私、絶対にアニと仲良くなる!」

もう誰もいなくなっていた訓練所で、私は一人、高らかに声を上げる。

目的が確かになると、気持ちが向上してくる。我ながら単純なものだけど、足取りが軽くなった気がした。

そのときの私は、きっと浮かれていたんだと思う。

直前に落ち込むようなことがあったから、支えになってくれるようなものが出来たのが嬉しくて仕方なかった。

だから、その反動ということでもないけど。

その後のちょっとした出来事で、私の胸の奥が鋭くえぐられる事になる。

>>29 >>30 >>31 ありがとね。

やはりレスもらえると嬉しいなー

ミーナはアニメ化したことで輝きを放ったよね……

~女子寮内 廊下~

アニ「買出し?」

ミーナ「うん。今度のトロスト区でのボランティア活動のね」

ミーナ「その必要物品を買いに行くんだよ」

アニ「私たちが?」

ミーナ「そうだよ。先週の教官の話は覚えてるでしょ?」

アニ「覚えてるけど」

ミーナ「ボランティアの持ち場担当は訓練兵全員で話し合って決めるって言われたじゃない」

ミーナ「で、私たち女子は主に調理関係の係になったから、食材を手分けして仕入れることにしたでしょ」

アニ「それで? どうして買い出しが私とミーナなわけ?」

ミーナ「くじ引きしたでしょ? アニが私に『代わりに引いといて』って言ってた時の」

アニ「……あぁ」

ミーナ「あの時に決まったの。一昨日も言ったでしょ」

ミーナ「だから今日の訓練は半日休暇をもらえたんだよ」

アニ「……そうだったね」

ミーナ「大事なことなんだから忘れちゃダメだよ」

アニ「……わかってるって」

ミーナ「もう、むくれないでよ。ね、ほら。急いで準備して」

アニ「もしかして、今すぐ出発するの?」

ミーナ「これからすぐに行かなきゃ日が暮れちゃうよ」

アニ「……訓練あがったばっかりなのに?」

ミーナ「半休だからね」

アニ「面倒くさい」

ミーナ「仕方ないよ。皆と話し合って決めたことだから」

アニ「まぁ、そうだけど」

ミーナ「そう。だから、ね。ほら。行こう」

アニ「ちょっと、引っ張らないでよ」

ミーナ「だーめ。急がないと夜になっちゃうでしょ」ガシ

アニ「ちょっと、何すんのさ」

ミーナ「もう汗は流したでしょ? なら出発しないと」ズルズル

アニ「離しなよバカ。引っ張るなって」

ミーナ「離さないよ。逃げられちゃうもん」

アニ「逃げやしないから……あぁもう、服が伸びちゃうじゃないのさ」

ミーナ「あはは。そんなに強く引っ張ってないでしょ」

アニ「そういう問題じゃない。とにかく離しなよ」

ミーナ「……ふふッ」

アニ「何?」

ミーナ「どこかで見たような光景だなぁって思ったの」

アニ「?」

ミーナ「仲が悪いようにみえて、とっても仲良しの二人の男子がいるでしょ?」

ミーナ「昨日も取っ組み合ってたね。あの二人」

アニ「……あぁ」

ミーナ「とっても仲が良くて、ちょっと羨ましいよね」

アニ「あれって仲がいいっていうの?」

ミーナ「そうだよ。男の子って、ああいう風にして仲良くなっていくものなの」

ミーナ「昨日はちょっとエスカレートしてたけどね」

アニ「知ったような口を聞くんだね」

ミーナ「男性経験豊富ですから」

アニ「あんたが?」

ミーナ「や……冗談、だけど」

アニ「そりゃまぁわかってるけど」

ミーナ「……」

アニ「ああ。見栄を張ってみただけ?」

ミーナ「ひどッ!!」

ミーナ「ちょっとポロっとこぼしただけなのに!!」

アニ「うるさいね。静かにしてよ」

ミーナ「その冷淡な反応がまた酷い!!!!」

アニ「ごめんね(棒)」

ミーナ「うぅ……どうして私、無意味に傷ついてるんだろ」

アニ「自業自得でしょ」

ミーナ「ひどい、ひどすぎるぅ……」

アニ「ゆっくり休んで傷を癒しなよ」

アニ「じゃ。私は部屋に戻るから」

ミーナ「うぅ……」

ミーナ「……」

ミーナ「はッ!!??」

ミーナ「だッ、ダメダメ!! アニ、逃げないで!!」ガシッ

アニ「ッ」

ミーナ「危うく逃げられるところだったわ!!」

アニ「ちッ」

ミーナ「あぁもう! 早く行こうよ!」グイグイ

アニ「……さっきの話だけどさ」

ミーナ「ぶり返さないでよぅ」

アニ「違う。そっちじゃない」

アニ「あの二人と似てるっていう部分」

ミーナ「?」

アニ「似てるっていうならさ。そのあとの展開もわかるんじゃないの?」

ミーナ「……でもあれは男の子同士だから成り立つやりとりだし」

ミーナ「アニは優しいから、か弱い私を蹴り倒すようなことはしないでしょ?」

アニ「や、するけど?」

ミーナ「えぇッ」

アニ「何さ。意外?」

ミーナ「い、意外じゃないけど! さっきから容赦なさすぎない?」

アニ「そうかな」

ミーナ「……意地悪だな、もう」

アニ「そうでもないよ」

ミーナ「えー? 意地悪いよ。対人格闘の時だって、私のこと容赦なく打ちのめすじゃない」

ミーナ「あれってけっこう痛いんだよ。アザが残ったりするし……」

アニ「あんたが相手だからさ」

ミーナ「?」

アニ「手を抜かれるの、嫌だって言ってたでしょ」

アニ「私だって、やる気のある相手に手を抜くのは嫌いだしさ」

ミーナ「!」

アニ「ま、あんた相手に気を使うつもりは最初っからないけど」

ミーナ「……」

アニ「ま、そういうこと」

ミーナ「アニ」

アニ「何さ」

ミーナ「ありがとね」

アニ「……私、礼を言われるようなこと、言った?」

ミーナ「うん。ちょっと感動しちゃった」

アニ「相変わらずヘンな子だよね、あんたって」

ミーナ「ふふーん。お陰様でね」

ミーナ「アニの鍛錬の賜物ですから。感謝してるよ」

アニ「……そう」

ミーナ「照れてる?」

アニ「馬鹿」

ミーナ「あはは」

アニ「じゃあ、そういうことで。私は部屋に戻るわ」

ミーナ「はいストップ。ごまかさないのッ」

アニ「……ちッ」

ミーナ「とにかくね。馬車の都合もあるんだし、もうそろそろ出なきゃ」

アニ「面倒だね」

ミーナ「仕方ないの。これも教官命令だから従わなきゃ」

アニ「……せめて引っ張るのはやめなよ」

ミーナ「素直についてきてくれる?」

アニ「分かったから」

ミーナ「うん。じゃ、離す。さ、急いで」

ミーナ「うん。じゃ、離す。さ、急いで」

アニ「待ちなって。せめて着替えさせなよ」

ミーナ「そうだね。私も着替えるよ」

ミーナ「急ごう。もうあんまり余裕ないよ」

アニ「……わかってるって」

ミーナ「せっかく街に行くんだし、オシャレして行こう?」

アニは面倒そうなそぶりを隠しもせず、プイとそっぽを向く。

そんなアニの肩を軽く叩いて、促す。

アニと私の関係は、こんな感じだった。

一年間の訓練兵生活を共にして、私とアニの関係にちょっとした変化があったとすれば。

こういうやりとりを当たり前のように行えるようになった、ということくらい。

アニにとってはあんまり大きい事じゃないかもしれないけど、私にとっては結構、大事なことだった。

友達と言えるくらいには良好な関係になったようで、正直なところ、とっても嬉しい。

何だか直接そういうことを伝えるのは恥ずかしいから言っていないけど、その気持ちは常に持っている。

兵士と言っても私たちは所詮、普通の子でしかない。

ちょっとしたことで大喜びもするしはしゃいだりもする。

逆に大したことがなくてもズゥンと落ち込んだりもする。

だから、ちょっとした進歩のように思えても、私はこんな日々に安らぎを感じていた。

ミーナ「やっと全部買いおわったねー」

アニ「ああ、やっとだね」

ミーナ「ごめんね。あちこち連れ回しちゃって」

アニ「いいさ。せっかくの機会ってのは確かだしね」

アニ「一度ちゃんと見ておかなくちゃいけないと思っていたしさ」

ミーナ「?」

アニ「……なんでもない」

ミーナ「?? だったらいいけど」

ミーナ「新しい服も買えたし、みんなへのお土産も買えたから良かったよ」

アニ「律儀だね」

ミーナ「え? そうかな? 普通じゃないい?」

ミーナ「アニだってお土産を買ってたでしょ」

アニ「そうした方がいいって言ったのはあんたじゃないのさ」

アニ「けっこうな出費だったんだからね」

ミーナ「あは、ごめんね。お節介だったかな」

アニ「別にいいけどね」

ミーナ「みんなは喜んでくれるかな」

アニ「喜ぶんじゃない? 女の子からのプレゼントだし、いちおう」

ミーナ「一応って何なのー」

アニ「さぁね」

ミーナ「んむぅ……」

相変わらず反応が薄い。

こういうことをしていく過程で打ち解けていくものなんだけど、アニはやっぱりアニのままだ。

それはそれでいいことだとは思う。

アニの雰囲気とか他人との接し方は、他の人には無いものだ。

ちょっと不器用だと思うけど、ちゃんとした個性と言えると思う。

ただ私には少し不満だった。

アニについたアダ名……『氷の女』という名は、未だに使われている。

ミーナ(アニだって笑ったり喜んだりするのに。わかりづらいだけで)

ミーナ(どうにかして皆にアニの事を分かってもらいたいな)

そんなことを考えながら、何気なく自分用の荷物を持ち上げる。

ミーナ「私ね、班のみんなの分とは別に、お友達の分も買ってあるんだ」

ミーナ「クリスタとユミルとサシャ。あと班員のみんなの分ね」

アニ「そう」

ミーナ「アニは誰あてにお土産を買ったの?」

アニ「……さぁね」

ミーナ「えー? 教えてよぅ」

素っ気ない素振りでアニは手に持つ小さな袋をちらっと見る。

リストバンド……サポーターだったかな?

買い出し中、2人で何気なく寄った市場の中で、そんなものを売っているコーナーがあって。

アニがまじまじと見つめて、悩んだ挙句に一つ、買っていた。

あんまり飾りっけのない、シンプルなヤツ。

女の子用には見えなかった。

ミーナ(きっと彼にプレゼントするんだろうなー。甘酸っぱいなぁ)

ミーナ「そういえばうちの班長、サポーターがすぐボロボロになっちゃうって嘆いてるんだ」

ミーナ「最近、対人格闘で特訓するようになってから特にそうなったって」

アニ「あいつが未熟な証拠でしょ」

ミーナ「あはは。手厳しいなぁ」

ミーナ「でもね、アニ」

ミーナ「誰が相手でもね。アニからのプレゼントだったらきっと喜んでくれるよ」

ミーナ「アニが一生懸命に選んだものなら、絶対に喜んでくれるって」

アニ「……あ、そう」

わ。

ほっぺたがほんのり赤く染まって、期待と不安の入り混じったような少し物憂げな表情。

私が言うのもどうかと思うけど、アニはこういう表情をしているときが一番キレイだと思う。

女が女に見とれてしまう、というんだろうか。

乙女だなぁって素直に思う。

ミーナ(あのアニにこんな顔させるだなんて、うちの班長も罪作りだよね)

ミーナ「にひひ。アニ、可愛い」

アニ「気持ち悪いよ」

ミーナ「いいのいいの。青春って感じがしていいよッ。私そういうの好きなんだッ」

アニ「他人事に首つっこみすぎでしょ」

ミーナ「だって、こういうことしか協力してあげられないもん」

アニ「いいよ別に」

ミーナ「私が協力したいのッ。アニだって慣れてないでしょ? そういうの」

アニ「変な誤解しないでってば」

ミーナ「誤解なんかしてないよ。ただ、アニにはお礼をしたいから」

アニ「……」

ミーナ「渡しづらかったら話してよ。一緒に考えるから」

アニ「……考えておくわ」

そんな他愛のないやりとりをしながら、街中を歩く。

さっきまで気にならなかった荷物の重量が、ずっしりとのしかかってきた。

昼の暑い日の光が疲れを誘う。

……トロスト区の市街地に来ることになって、考えていたことがあったんだけど。

それを言うタイミングかな、って思って、少し緊張した。

ミーナ「荷物、重いよ」

アニ「手伝わないからね」

ミーナ「えぇー」

アニ「買い出しの分担ぶんは持ってるでしょ」

ミーナ「ん、まぁそうだけど」

アニ「自分の分は自分で持ちな」

ミーナ「むぅー。冷たい」

アニ「はしゃぎすぎなのさ、アンタは」

ミーナ「休暇なんて滅多に貰えないじゃない」

ミーナ「久しぶりに街に来たんだよ? はしゃいじゃうのも無理ないと思わない?」

アニ「それにしても浮かれすぎ」

ミーナ「うん。まぁ、ちょっとね。事情があって」

アニ「事情?」

ミーナ「うん。ちょっと、一緒に来て欲しいところがあるんだ」

アニ「?」

ミーナ「私の家に来て欲しいんだよ」

アニ「……は?」

ミーナ「覚えてないかな? トロスト区出身なんだよ、私」

アニ「……!」

ミーナ「まだ明るいし、ちょっとだけ家に顔を出したいの。でね」

ミーナ「お母さんにアニのことを紹介したいんだ」

ミーナ「素敵なお友達ができたよって、報告したくって」

アニ「……」

ミーナ「来てくれるかな?」

アニ「……」

ミーナ「ごめんね。話が急すぎたかな?」

アニ「……いや、別に、そんなこと」

アニは、うんとも嫌とも言わなかったけど。

結局、半ば強引に私の家に来てもらうことになった。

その時の私は久しぶりに家に寄れるということで浮かれていたみたいで。

アニが来てくれるかどうか、ということしか考えていなかった。

私はきっと、まだまだ子供だったんだと思う。

アニの表情が、なんといっていいか分からないような複雑なものだったのに、まるで気づけなかった。

人の賑わう中心街を抜けて、外れにある住宅街に脚を踏み入れる。

市場から離れるごとに少しずつ静かになっていく。

整備された道もカサついた安っぽい通路へと様変わりしてく。

立ち並ぶ民家はどれもくすんだ色をしていて、安っぽい造りをしている。

決して貧しいとまではいかないけれど、誰もがいつも何かを切り詰めながら慎ましく暮らしている。

私の故郷、トロスト区はそんな場所だ。

ミーナ「寂しいトコに連れて来ちゃってごめんね」

ミーナ「ちょっと会って話すだけだから。馬車の時間には間に合うようにするし」

アニ「気を使わなくていいさ。久しぶりに会うんならゆっくりしなよ」

ミーナ「ありがと。うふふッ」

アニ「何さ。ヘンな笑い方して」

ミーナ「んふふー。ね、アニって優しいよね」

アニ「は?」

ミーナ「さりげない優しさっていうのかな。ツンツンしているようで細かいところに目配りしてるっていうか」

ミーナ「訓練では手抜きしないで相手してくれるし、ちゃんとフォローしてくれるし」

ミーナ「温かみっていうのかな。そういうのが伝わってくるんだよね」

アニ「そんなつもりはないよ」

ミーナ「つもりがなくてもそうなってるんだから、きっと無意識に気配りしちゃってるんだね」

アニ「あんたの思い込みでしょ」

ミーナ「そうかな。そんなことないと思うけどなぁ」

アニ「……」

ミーナ「私ね、アニにはとっても感謝してるんだよ」

ミーナ「互角に渡り合えないのに訓練の時に組んでくれるし」

ミーナ「改善しなきゃいけないところとか、さりげなく教えてくれるじゃない。厳しい訓練の真っ最中でも」

ミーナ「全部教えるんじゃなくて、自分で考えて身につくような教えて方だから、なおさら為になってるんだよ」

アニ「それは自分自身の意識の持ち方さ。私は関係ない」

ミーナ「そんなことないってば。これ、私だけの意見じゃないもん」

ミーナ「アニのお陰でだいぶ成績があがったよ。ホント、ありがと」

アニ「むやみに買いかぶられても困るよ」

アニ「いつでも私は自分の事でていっぱいなのさ。他人事に関わってなんかられない」

アニ「他人の言葉どうこうじゃなく実行できた自分を誇りに思いな」

ミーナ「照れてる?」

アニ「ばか」

ミーナ「さっきも言ったけど、私だけじゃないよ、こんな風に言ってるのは」

ミーナ「色んな人が言ってるよ。アニは優しいって。分かりづらいから伝わってないだけだよって」

アニ「そ。どうでもいいことさ」

ミーナ「もー。そっけないなぁ。誰がどう思ってるのかとか知りたくないの?」

ミーナ「例えば、私の班の班長の声とか」

アニ「……」ピク

ミーナ「あ、いまピクってなった。気になるんだ?」

アニ「人のことなんか興味ないって言ったでしょ」

アニ「くだらないことを言ってないで早く歩きなよ」

ミーナ「えぇー。この話題はもうちょっと続けたいんだけどなー」

アニ「……」ピタ

アニ「……」チラリ

ミーナ「ミカサがいるから一筋縄ではいかないと思うけどねー」

ミーナ「でも私、アニのことを応援してるんだよ? だから……って、あれ? アニ?」

ミーナ「どうしたの? 急に立ち止まって」

アニ「あんたの家って、この近く?」チラ

ミーナ「え? う、うん。もうすぐだけど」

アニ「時間にすると? どれくらいでつきそう?」

ミーナ「えっとね……10分くらいで着くと思うけど」

アニ「……」

アニ「ふぅん……」チラ

アニ「……」チラッ

ミーナ(? 何をチラチラ見てるんだろ?)

ミーナ(別に周りに変なものがあるわけでもないのに。こういうところが珍しいのかな?)

ミーナ「何かおかしいところがあるの?」

アニ「いや……のどかだね。いいところだと思うよ」

ミーナ「ありがとね」

アニ「なんであんたが礼を言うのさ」

ミーナ「私の故郷だもん。褒めてもらったら嬉しいよ」

アニ「……故郷ね」

ミーナ「そう。壁際の町だからあんまり人は多くないけどね。綺麗でもないし」

ミーナ「前はもっとボロボロだったんだよ。地面は穴ボコだらけで壁には落書きも多かったし」

ミーナ「でも、いくらなんでもこれじゃ酷いって言う話になって」

ミーナ「私が訓練兵団に入る前の年に、区の子たちみんなで綺麗にしたんだよ」

ミーナ「それでもみすぼらしいのは変わらないけどね」

ミーナ「前はもっと汚れてたから、その時よりマシかな」

ミーナ「そんな思い出もあるから、ここは私にとって大切な故郷なの」

ミーナ「一番外側で、とっても危険なところって言われてるけど……」

ミーナ「それでも、この世にたった一つしかない私の故郷なの」

アニ「……大切な故郷」

ミーナ「うん。とってもとっても大切」

ミーナ「皆は一番外側の壁内の街で最も危険なところっ言ってるけど」

ミーナ「私にとってはたった一つの生まれ故郷なの」

アニ「……そうか。そうだよね」

アニ「故郷って……大切なもの、だよね」

ミーナ「卒団してまた帰って来れたら、私、ずっとここに住むんだ」

ミーナ「私の生まれ育ったところを守るためにね」

アニ「……」

ミーナ「?」

ミーナ(暗い表情……何か悪いことを言っちゃったかな?)

ミーナ(あ、もしかして)

ミーナ「ごめんね、アニ。私ひとりで浮かれてたよね」

アニ「?」

ミーナ「アニも故郷から離れて来てるんだもの」

ミーナ「勝手に私の故郷まで連れて来られたら思い出しちゃうよね」

アニ「別に。そんなことない」

ミーナ「ムリしなくていいよ」

ミーナ「あ、じゃあもしかして、私の家には行くのは嫌かな?」

アニ「そんなことはないって」

ミーナ「本当に? よかったぁ」

ミーナ「最初はね、嫌がられるかと思って不安だったの。そう言ってくれると嬉しいよ」

アニ「……」

ミーナ「あ。アニ、ちょっと待って」

アニ「?」

ミーナ「こっちだよ」

この街は蜘蛛が巣を張ったように小さい道が複雑に入り組んでいる。

歩き慣れていないと迷子になりそうなところではある。

アニの様子に気を払いながら、私は目当ての道を探る。

すぐに見つかった。

私はアニを促して、狭い道から脇道がたくさん伸びるうちの一つに体を滑り込ませ、奥へと進む。

ミーナ「ここを抜けると近道なの」

アニ「よくこんなところを見つけたね」

ミーナ「好奇心だよ」

ミーナ「子供の頃、近くを探検して遊び回ってたんだ」

アニ「ふぅん」

ミーナ「幼馴染の子の家に遊びに行く時に良く通ったなぁ」

アニ「幼馴染?」

ミーナ「うん。近くの家に同い年の子が2人居てね。けっこう仲良かったんだよ」

ミーナ「遊びに行く時は、いつもその子たちと一緒だったの」

ミーナ「訓練兵団にも一緒に入ってね。一緒にお勉強とかしてた」

アニ「……」

ミーナ「もういないけどね」

アニ「いない?」

ミーナ「ん」

ミーナ「……えと」

ミーナ「あのね。うーんと……」

アニ「歯切れが悪いね。あんたらしくないじゃない」

ミーナ「ん……そうかな。えへへ、ヘン?」

アニ「すごくヘン」

ミーナ「あはは。はっきり言うね」

アニ「それはどうも」

ミーナ「……ん。大したことじゃないの。その子達、別に危険な目にあったわけじゃないから」

ミーナ「今は開拓地で頑張ってると思うよ」

アニ「それって脱落組ってこと?」

ミーナ「うん」

脱落組。

それは訓練兵団から開拓地に志願して移った人たちのことを指して言う言葉だ。

毎年たくさんの人が訓練兵団に入り、たくさんの人たちが「脱落組」になる。

今年の私たちの中にも少なからずいて、その中の2人が私の幼馴染だったということ。

ミーナ「成績はちょうど真ん中くらいだったの。二人とも私より才能はあったと思うよ」

ミーナ「ある日いきなりやめるって言われたの」

ミーナ「やめないようにお願いしたんだけど、2人とも意思が固くて止められなかったの」

ミーナ「悩んでたんだって。成績のこととか、兵団での過ごし方とか」

ミーナ「幼馴染なのに私は何も相談されなくって、2人だけで決めて、あっさり開拓地にいっちゃった」

ミーナ「寂しかった。哀しかったよ、とっても」

苦い記憶が蘇ってくる。

あの別れの日、私は2人とともについていくかどうかたずねられて、残ることを選択した。

その結果に後悔はないけど、たまにこうして思い出すと、やっぱり物悲しい気持ちもこみ上げてくる。

訓練兵団をやめると言い出した2人の目は、どこか遠くを睨みつけていた。

何かに怒ってるような、ふてくされているようなあの顔は、あんまりいい思い出ではない。

幼馴染との最後の記憶にするにはあまり良くないけど、でも忘れるわけにはいかない光景だった。

ミーナ「でね。話そうと思ってたことがあったんだ、アニに」

アニ「なにをさ」

ミーナ「私の幼馴染が帰る日のこと。私ね、2人を見送りするときにチラっと見かけたんだ、アニを」

アニ「……?」

ミーナ「ほら、馬車の待合所から兵舎はよく見えるでしょ?」

ミーナ「あの日ね、別れを惜しむみたいに2人がそっちを見てたの」

アニ「……」

ミーナ「私もつられてそっちを見てみたらね、そこには兵舎があって」

ミーナ「そこの窓からこっちを見てる女の子に気づいたの」

ミーナ「アニ、あなただよ」

アニ「……!」

ミーナ「まだアニとちゃんと話す前のことだから覚えてないかもしれないね」

ミーナ「偶然だったのかもしれないけど、アニと一瞬、目が合ったんだよ?」

ミーナ「すぐに目をそらされちゃったけどね。ふふッ」

ミーナ「でもね。その時、不思議なんだけど……私の幼馴染を見送ってくれたのかな、って直感的に思ったの」

アニ「……どうしてさ」

ミーナ「あはは。私にも不思議。ホント、どうしてだろうね」

ミーナ「見送ってくれてたんでしょ?」

ミーナ「じぃっと見てたもの。こっちの方」

直感を信じるには根拠がない。

でも、まだ知り合う前だっていうのに、あの目を思い返すと、そう確信することができる。

本当に不思議なんだけど。

何かを言いたそうなアニの目が、それほどその時の私には印象的だった。

ミーナ「アニ?」

アニ「……そういうことになるね」

ミーナ「やっぱりね」

アニ「私のせいでもあるんだし」

ミーナ「? 何か言った?」

アニ「……いや。なんでもない」

ミーナ(? 何で顔を伏せるのかな?)

ミーナ(わからないけど……続けよ)

ミーナ「私ね、その時からアニに親近感を抱いちゃったんだ」

ミーナ「勝手な話だけどね」

アニ「……」

ミーナ「まず話してみたいって、そう思ってたの」

ミーナ「アニといろいろ関わって、知どういう子なのかって分かっていくうちに、アニと仲良くなりたいって気持ちが大きくなっていったの」

ミーナ「えっと……ごめんね。話が下手で。一人でペラペラ話しちゃって」

アニ「いいさ。話したいことがあるなら全部、話しな」

ミーナ「ありがとッ。ええとね、とにかく……」

ミーナ「私、アニに言わなくちゃいけないと思ってたことがあったの。ずっと前から」

ミーナ「聞いてくれる?」

アニ「なに」

私は息を吸い込む。

その言葉を紡ぐには、少しだけ勇気がいった。

ミーナ「ありがとう。私の幼馴染を見送ってくれて」

ミーナ「沈んだ気持ちのまま帰った2人を、私以外の人が気にかけてくれたってことが嬉しかった」

ミーナ「あの2人は大事な故郷で一緒に育った2人だから」

ミーナ「少しでも思いを寄せてくれる人が自分以外にもいたんだって思ったらね、私……」

ミーナ「とっても嬉しかったんだよ」

アニ「……」

ミーナ「ありがとう。本当に」

沈黙が流れる。

私が言ったことは紛れもなく本気で本音だったのだけど、いきなりこんなことをいわれても困るだろうな、と思う。

その証拠に、アニは返答に困って言葉に詰まっている。

ミーナ「ごめんね。急に湿っぽい話をしちゃったね」

ミーナ「時間もないし急ごうか」

アニ「……まって」

ミーナ「?」

アニ「私もあんたに言わなきゃいけないこと2つがある」

ミーナ「2つも?」

アニ「大事なことだよ。よく聞きな」

ミーナ「うん……えッ?」

ぐいっと引っ張られたのは、疑問を口にした直後。

両肩を押し付け合うくらいの距離に近づいて、アニが私の耳元でそっとつぶやく。

アニ「つけられてる」

ミーナ「えッ」

アニ「私たちの後ろ。2グループに別れてる。片方は男と女の6人組。あそこの壁に潜んでこっちを見てる」

アニ「もう1グループは分からない。ずっと離れたところにいる」

ミーナ「……うそ。本当に? いつから?」

アニ「住宅地に入ってすぐ」

アニ「市場にいたときから視線は感じてた。その時はこんな剣呑な感覚じゃなかったから無視してた」

アニ「穏やかじゃない雰囲気だね」

ミーナ「そ、そんな、嘘。ここ、住宅街だよ?」

アニ「狙ってたんだろうね」

ミーナ「狙ってたって……私達を? どうして?」

アニ「見当はつくけど」

ミーナ「え? そ、そうなの?」

アニ「あんたの話を聞いて、なんとなくね」

ミーナ「私の話? どうして?」

アニ「すぐ分かるさ」

ミーナ「何ですぐに言わなかったの?」

アニ「言えないさ」

ミーナ「ど、どうして」

言いかけたとき。

ずん、という衝撃が走り、思わず身をすくめた。

最初はなんの音か理解できなかった。

足元で響いた爆発音に近い轟きは、アニが思いきり地面を蹴って、走り出した音だった。

砂埃がもうもうと立ち上る。

気がついたら、アニは遠くへと走り去っている。

直後、再び衝撃が地面を伝って足元に響く。

視界が一瞬、遮られた。

そして直後に耳に届いた声。

アニ「こっちのは私が処理する!」

アニ「あんたは家まで走れ!!」

ミーナ「え、えッ!?」

既にはるか遠くにかけていたアニは、掴みかかろうとする大男を軽くいなしていた。

その背後から音もなく近寄る別の男が、アニをつかもうとして……前につんのめって倒れる。

目にも止まらぬ動きとはああいうことをいうのだろう。

何をするでもなく、ただ軽快なフットワークで動き回るアニに、4、5人の男立ちが翻弄されていた。、

ミーナ(いくらアニでも、あんな大きな男の人を数人がかりに相手したら……!)

半ば反射的にアニのもとへ駆け出す。

だけど、その直後。

強く踏み込んだ右足が硬いはずの石の床に一瞬で沈み込んでいき、私の目の前の風景が回転する。

直後、ガクン、という衝撃が全身に走った。

ついで体前面からズルルっという擦れるような音が頭の中で響く。

お世辞にも綺麗とは言えない石畳の地面に擦れるように転んだのだと気づいたのは直後のこと。

幸運だったのは、膝から崩れ落ちるような倒れ方だったから、顔が傷つくことがなかったっこと。

軽いめまいの残る頭を振りながら立ち上がろうとして、ぎゅ、と後ろ手に締め上げられ、思わず息を呑む。

そして同時に大きい手で口を塞がれた。

ミーナ「むぐッ!!??」

アニ「ミーナ!」

ゴロツキ1「へぇ。兵士のタマゴって言うからどんなゴツイ女かと思いきや、こりゃまた」

ゴロツキ2「2人ともなかなかの上玉じゃねーか。あっちのは特にイイ女だぜ」

ミーナ(だ、誰……? 誰なの?)

ゴロツキ3「へ。呆気にとられてやがるぜ」

ゴロツキ4「これからどんな目に会うのか、まだピンと来てねェんじゃねーの?」

アニ「……」

ゴロツキ1「おい、ねーちゃん。動くなよ。動いたり大声を出したりしたらコイツの服、身ぐるみ破くぜ」

ゴロツキ2「まずは移動するか。ここじゃ目立ちすぎる」

ゴロツキ3「お前もついてこいよ。逃げたらコイツがどうなるか、分かるだろ?」

ミーナ(どうして? なんでこんな人たちがこんな昼間の時間に、こんな目立つところにいるの?)

確かに奥に入ればこういった人がたくさん居る集落みたいなのはあった。

でも、ここはそこから離れてるし、昼間に出会うことなんて無いはずなのに。

そんな考えがグルグル回る中、私は引きずられるようにして薄暗い道の奥へと連れ去られていった。

~町外れ~

ゴロツキ1「よォ。この2人だろ? オメーの言ってた子」

ゴロツキ2「途中バレかけてたけどな。そっちの姉ちゃんによ」

ゴロツキ3「仲間が5人もやられちまったしな」

ゴロツキ4「その分、俺らがイイ思いをさせてもらえるってわけだけどよ」

アニ「……」

ミーナ(アニ……)

少女1「久しぶりね、ミーナ」

ミーナ「……ッ!?」

少女2「また会えて嬉しいー。私たちのことは忘れてないよねぇ?」

ミーナ「……」コクン

少女2「そりゃそーよねー。私たちは仲良しだもんねー」

ミーナ「ッ? ッ!」

少女1「わけがわからないって顔をしてるじゃない」

少女2「相変わらずドンくさいねー」

少女1「そっちの鉄面皮女も、そう思わない?」

少女2「久しぶりー。惨めなザマねぇ? 悔しい? ねぇ悔しい?」

ミーナ(どうして? 開拓地にいったはずじゃないの? 何でここに? いや、それよりも)

ミーナ(どうしてこんなことをされるの?)

アニ「すまないね、ミーナ」

ミーナ「ッ?」

アニ「気づいてた。こいつらが私たちを狙ってたことも」

アニ「その原因が私にあることも」

アニ「最初から気づいていたけど言えなかった」

ミーナ(どういうことなの……)

少女2「シカトしてんじゃねーよブス!」

パンッという破裂音が響く。

アニの顔が叩かれた音だ。

頬が赤く腫れているのが見えて、喉の奥が引きつってしまう。

ミーナ「んーッ!! んんーッ!!」

ミーナ(やめて、やめてッ! 乱暴はやめてッ)

ミーナ(うぅ、せめて声を出せれば……)

少女1「どうやらあなたは昔のままみたいね」

少女1「冷淡で酷薄な無感情女。成績も未だトップクラスなんでしょう?」

少女2「まーそんなのも、こうなっちゃったら無意味だけどねー」

アニ「……」

少女1「生意気な目つきするじゃない。気に入らないわ」

少女2「あんたさぁ。立場わかってる? 普通なら泣いて許しを請う場面でしょ?」

少女1「この状況、もう詰みってことくらいはわかるでしょう?」

少女1「だったらどうすればいいのかは分かるわよね」

アニ「……は」

嘲笑。

そうとしか表現できない、皮肉な笑みだった。

アニ「ミーナ。これがあんたの言う大事な幼馴染って奴さ」

アニ「あんたが心を寄せた相手はあんたを踏みにじったよ。どうする?」

少女2「気に入らねーンだよッ!! その目をやめろよブスッ!!」

少女1「まちなよ。話をきかせてやろうよ」

少女2「はぁッ、はぁ……ッ! く、この……冷血女!!」

少女1「ふん……ねぇミーナ。あたしらが訓練兵団やめた理由、話したげるわ」

ミーナ「!」

少女1「あんたには話してなかったけど、あたしらが兵団に入ったのは兵士になるためなんかじゃないのよ」

少女2「トーゼンだよね。あんなキッツい訓練なんかマトモにやってられないしさぁ」

少女1「あたしらは内地入りの特権が目当てだったワケ」

少女2「でもあたしらみたいなのが内地に入ろうとしたらさぁ、マトモにやってたら無理だってのも当然なワケよ」

少女1「入ってすぐ上位10人には追いつけないってわかった。なら」

少女1「身近に上位のヤツがいれば、そいつにさりげなくフォローさせればいい。そうすれば自然と上位に食い込める」

少女2「どっかの女神サマみたいにさ。うまくやりやがったよねアイツ、あのキモいレズ女に奉仕させまくってンじゃん」

少女2「順位もぐんぐん上がってて意味不明なんだけど! マスコットみてーなチビ女のくせにさぁ!」

少女1「ふん……つまりさ、うまく立ち回るにはカモ……パートナー選びが重要なのよ」

少女1「あんたも知ってると思うけど、この氷の女は成績だけは優秀でしょ?」

少女2「ムカつくけどね。性格も悪いし」

少女1「でもさ、ほかに候補はいなかった。あのゴリラくんとノッポくんは実直すぎてダメ」

少女2「シガンシナの筋肉女は論外。死に急ぎ野郎も実直さでNG。狩猟民族の馬鹿はバカすぎて論外」

少女1「芋女はもうレズコンビに使われてる。馬面にソバカス男、あいつらは妙なところで正義感を発揮しやがって却下された」

少女2「消去法で、こいつが残ったのよ」

少女1「まぁ一人ぼっちだったしもみ消しやすいとも思ってたしね」

少女2「で、まぁ身辺調査っぽいのをしたらさ」

少女1「この女はね、どういうわけかトロスト区にお出かけすることが多いのよ。一人ぼっちでね」

少女2「友達いないもんねー。あーかわいそー」

少女1「で、私らが仲間に入れてやろうと思って声かけたのよ。フォロー役をゲットするためにね」

少女2「そうしたら、どうなったと思う?」

少女1「格闘訓練で2人ともボコボコにされた。半殺しにね」

少女1「気絶する前にね、言われたのよ」

少女2「私の力を利用するつもりなら命を捨てる覚悟で来な、ってさぁ! 超おっかない顔で!!」

ミーナ(アニ……)

少女2「あいつを仲間入りさせて! あたしらをフォローさせれば! 成績も教官の印象も良くなって! あたしらが上位入りできたんだよッ!!」

少女1「そうすれば内地入りだって夢じゃない。そう思うのは自然なことでしょう?」

少女1「だってあなたもそうじゃない。あたしらがやめたあと、ちゃっかりあたしらがいるはずだった場所に陣取ってるじゃん!」

少女2「美味しい思いしてんじゃん! ならさぁ! ここであたしらが気のすむようにしてもいいよねぇ!?」

少女1「あたしら幼馴染じゃない!! 仲良しだったじゃない! だったら許してくれるよねぇ!!」

ミーナ(そんな……こと……)

私は本当に甘かったんだと思う。

この世界は、美しい表皮をまとっていても、それが一皮むけてしまえばその内側はドロドロだ。

美しくも残酷なこの世界で、私みたいな甘い考えを抱いたままの女の子なんて、獲物に過ぎないんだろう。

こうなって当然なのかもしれない。

私は私の生ぬるさが呪わしくて仕方なかった。

ゴロツキ1「よぉよぉ、どんな事情かしらねーけど、いつンなったらヤレるんだよ」

ゴロツキ2「俺たちゃもう準備万端なんだぜ」

ゴロツキ3「仲間もだいぶノされちまったしよ、その分も楽しませてくれるんだよな?」

ゴロツキ4「4対4で人数もちょうどいいしなぁ」

少女1「そうね。もうちょっとこの女の反応を楽しみたかったけど」

少女2「時間も惜しいし、ちゃっちゃと移動して別のお楽しみを……」

????「させねーって」

ミーナ(えッ!?)

ゴロツキ1「ぐッ!?」

ゴロツキ2「げぅッ!!??」

ユミル「落ちてろゴミどもが」

ゴロツキ3「て、てめぇッ!! 誰だコラァ!!」

ゴロツキ4「ゆるさねぇッ!!」

????「それはこっちの言葉ですよ」

ゴロツキ3「なッ!? な、て、てめ……ぎぁぁッ!!??」

ゴロツキ4「ごッ! ぶッ!!」

サシャ「仲間は宝。それを個人的な欲望や感情で汚すような輩は許せません」

それは一瞬だった。

私たちの背後、がれきが積み上がった廃墟の影から影が二つ飛び込んできて、私たちを取り囲んでいた男たちを打ちのめしたのだ。

出来事が急すぎて頭の理解が追いつかない。

ただ一つわかったのは、もう驚異となる暴力を振るう男たちは一人も残っていないことと。

このままぼんやりしてたら、私の幼馴染が危ないっていうことだけ。

ミーナ「ッ!!」

アニ「!?」

私は自然と駆け出していた。

そして。

ミーナ「ぐぅッ!!??」

ユミル「……ッ!?」

少女1「は!?」

少女2「え……ッ!?」

ずん、という衝撃。

腹部に直撃した一撃はユミルの長い脚から繰り出されたミドルキックで、位置としてはかがみ込んでいる私の幼馴染の頭の位置にあたる。

こんなのが直撃したら、最悪のことが起きてしまうかもすれない。

腹部に響く鈍い痛みをなんとかこらえ、両足を踏ん張って何とかこらえる。

ミーナ「私、は、鍛えてるけどッ!! 2人は……ッ」

がは、と胃液がこみ上げてくる。

喉の奥からせり上がってくる苦い水の味に顔をしかめ、鈍くこみ上げるズキズキとした痛みに身をよじる。

体と心。その両方に深いダメージが刻み込まれる。

でも、それでも。

ミーナ「2人は……もう……兵士じゃないんだから……お願いだから、やめて」

ユミル「ふさけんな!!」

ユミルは私の下腹部に突き刺さった蹴り脚を強引に引き剥がして、再び構える。

ユミル「こんな奴ら……!!」

クリスタ「やめてッ」

ユミル「!!」

クリスタ「お願い。ミーナの言葉を聞いてあげて」

クリスタ「もうまとも暴力を振るう相手はいないわ。憲兵もすぐに駆けつけてくれる」

ユミル「クリスタ……けどよ、こいつらはお前を」

梱すた「この子達は戦えない。その気はもう起きないわ」

梱すた → クリスタ

ひどい誤字

クリスタ「これはもう解決したことなの。そうでしょうミーナ?」

ミーナ「う、うん。そう、だよ。ね、ユミル……そういうことにして……お願いだから」

ユミル「……くそがッ」

クリスタ「汚い言葉は使わないの。いつも言ってるでしょう? ユミルは綺麗な女の子なんだから」

ユミル「ち……!」

ミーナ「あ、ありがと、クリスタ……みんな、いてくれてたんだね」

アニ「別のグループがいるって言ったでしょ」

ミーナ「あ、は……そっか、だからアニ、あんまり慌ててなかったんだね……」

アニ「……ここまでは想定してなかったけどさ」

ユミル「けッ。オメーにも言いたいことはあるけどよ……」

ユミル「今いちばんハラワタが煮えくり返ってンのはこいつなんだわ」

ユミルは幼馴染をかばうようにして立つ……いや、うずくまる私のシャツの首のところを掴んで引きずりあげる。

首が絞られて息苦しい。

いつものユミルの顔は整っていて美人さんだけど、今はすごく怖い表情だった。

ミーナ「……!!」

アニ「やめな!」

ミーナ「い、いいの、アニ……ユミルの気持ち、わかるから」

ユミル「何がわかるってんだよ馬鹿が!!」

ユミル「この……ッ!! この豚小屋女!! クソ馬鹿女!!」

ユミル「この期に及んで昔の同胞と仲良しこよしか!? 甘ったれてんじゃねぇよクソッ!!」

ミーナ「分かるよッ! わかるけどッ!! でも、まだ私は何も言ってない! 2人に何も言ってないでしょ!!」

ユミル「言ってわかる奴らならこんなゲスなことしねーんだよ!」

ミーナ「それでも……ッ!!」

ミーナ「言わせてよ!! 話をさせてよ!!」

ミーナ「は……ッ、は……ッ、く、つぅ……ぅ、ん、は……う」

ミーナ「ここは私の故郷なの……!! この子達は、私の幼馴染なの……!!」

ミーナ「2人は、私の……大事な……故郷の、思い出……なの……」

ユミル「は……ッ。呆れたぜ。馬鹿なんてもんじゃねーぞテメェ」

ユミル「オメーだけじゃねえ。そこの無表情女、オメーのダチも巻き込まれてんだぜ?」

ユミル「よぅ、豚小屋さんよ。その氷の女にかばってもらいながらの故郷凱旋は気分がよかったかい?」

ユミル「オメーの大事な故郷とやらも踏みにじられたんだぜ!? それすらわからねーのか!?」

ミーナ「……は、ぅ……そ、そうでも、ないよ。とっても、辛い……」

ユミル「だろうなぁ!」

ミーナ「でもね、いま私、少しだけすっきりしてるんだ」

ミーナ「中途半端なまま別れた2人と、またちゃんと話せるって」

ミーナ「分かり合う前に離れた2人と分かり合える機会ができたんだもん」

ミーナ「だからね。あなたにどれだけされても私はどかないよ」

私の首を締め上げるユミルの手が若干、緩む。

サシャが肩を叩いたみたいだ。

サシャ「さすがに可哀想ですよ」

ユミル「るせぇ。助けてやったんだ。このくらいいいだろが」

サシャ「苛立つ気持ちはわかりますけど。私にだって言いたいことくらいありますけど」

サシャ「でも、お灸のすえすぎは逆効果です」

サシャ「私、頭は良くないですけど……わかるんです。ミーナの気持ちも、ユミルの気持ちも」

サシャ「だから、今はこのくらいにしてあげてください」

ユミル「け。素人相手にまごつく馬鹿、それをかばう馬鹿の2人をフォローさせられてんだ。このくらいは大目に見ろ」

クリスタ「ユミル。私たちは仲間なの。助け合うのは当たり前のことよ」

ユミル「一方的に助けてやってるだけじゃねーか。それもあんなクソ甘ぇことほざいてやがる。胸糞わりぃ」

ミーナ「クリスタ……いまさらだけど、聞いていいかな」

ミーナ「みんな、どうしてここに?」

クリスタ「買いだしの最中に2人を見かけたから、少しだけ間を見て話しかけようと思っていたの」

クリスタ「だけどね、そうしたらユミルが、ちょっと待てっていって」

クリスタ「おかしいと思いながら2人についていったのよ」

サシャ「私はなんとなく感づいていましたよ。ユミルはこういうのって嫌いそうですし」

サシャ「私が行きましょうかっていったんですけどね」

ユミル「るっせぇッての。芋女はだまってろ」

仲良し三人組の会話が遠くから聞こえる。

理解できたことは、私たちが巻き込まれた事件は無事に解決したことくらい。

何が原因かはわかるけど……理解したけど。

頭の中がぐちゃぐちゃで、思考がまとまらない。

クリスタ「言っておきたいことはあるけど、言うべきは私じゃないわ。そうよね?」

アニ「ああ」

クリスタ「なら、あとは4人の問題ね」

クリスタ「ミーナ。特にあなたには言っておくわね」

クリスタ「仲間や家族。信頼していた相手……信頼すべき相手を信じたいのはわかるわ」

クリスタ「けど、それが盲信になってはいけないの。たとえば相手が親兄弟だとして、それでも」

クリスタ「信じられないことだってあるの」

ミーナ「そう、だね」

ミーナ「私は……きっと生ぬるいことしか考えられないから、何もできないんだね」

ミーナ「でもね。言わなきゃいけないことがあるのは、わかるよ」

アニ「ミーナ」

ミーナ「……アニ」

アニ「こいつらについてはあんたに任せる」

アニ「私はもう言うべきこともするべきこともない」

アニ「あんたが決めな」

私の頭では処理しきれないことが、怒涛のように押し寄せていた。

けど、私が言わないと。

私が、この2人に、言わないと。

~町外れ~

クリスタが憲兵団を前もって読んでおいてくれたらしい。

あのゴロツキ連中は以前から問題のある集団としてマークされていたようで、腰の重い憲兵もすぐに捕縛してくれた。

私の幼馴染は、どういうわけかお目こぼししてもらった。

わからないけど、何かうまいごまかし方があるのかもしれない。

サシャ「さすがに憲兵団ですね。連絡してすぐに来てくれました」

ユミル「普段仕事してねーから暇なんだろ」

クリスタ「もう、ユミルったら」

アニ「ねぇ、一つ聞きたいんだけど」

ユミル「あん?」

アニ「私たちをつけてたのはなぜだい? 助けるつもりがあるなら、すぐにしてたはずでしょ」

ユミル「決まってんだろ。いいネタが見つからないか見張ってたんだよ」

ユミル「くだらねー連中もちらほら居やがったしな、売れる恩は売っておけ、だ」

ユミル「予想外の展開になっちまったけどな」

ユミル「ムカつかされるわ気まずい話は聞かされるわ、骨折り損だぜ」

サシャ「そんなこと言って、本当は仲間のピンチって気づいてたんでしょう?」

サシャ「でもミーナのはしゃぐ姿を見て、故郷で荒ごとがあったと気づいた時に悲しむのを見たくなかったんでしょう?」

サシャ「それともミーナ自身で解決できると信じきってましたか? 相手は素人ですしね。それもありますねきっと」

サシャ「最後は我慢しきれずに突っ込んでましたけど、私だったらそこまで我慢できなかったと思いますし」

ユミル「テメーは人の言葉を無視して飛びかかろうとしやがってたじゃねーか!」

サシャ「そうでしたか?」

ユミル「とぼけてんじゃねーよタコ」

サシャ「まぁまぁ。どちらのグループにも気づかれない間合いとりは見事でした。本気になったユミルはすごい人です」

ユミル「お前、最近ちっと気安すぎんじゃねーか? 主従関係ってやつを再認識させてやろうか?」

サシャ「褒めてるんじゃないですかぁ」

ユミル「嬉しくねぇってんだよボケ!」

クリスタ「喧嘩はやめて。今ちゃんと話をしないといけないのは私たちじゃないはずよ」

ユミル「ちッ。ったく、マジで胸糞悪い日だぜ」

クリスタ「ユミル?」

サシャ「あ、どこに行くんですか?」

ユミル「こいつらはもう手助けいらねーだろ。私ぁもう帰る。先に行ってるからオメーらも来い」

ユミル「ちくしょう。昔を思い出しちまったじゃねーか、くそが」

ユミル「その上クリスタが悪いことをしてるみてーなこと言いやがって。半殺しにしてやりてーくらいなのに」

ユミル「それをするべきはこの呑気な馬鹿女と来てる。くそったれだ。最高だぜ全く」

サシャ「いうほど悪い状況ではないですけどね」

ユミル「生意気なんだよ芋女。ったく」

サシャ「ふふッ。そうですね。すみません」

ユミル「け……おい。ミーナ。アニ」

ユミル「あたしらは先に帰る。あとのことは聞かせろや。納得するような内容を期待してるからな」

ミーナ「うん……ねぇユミル」

ユミル「ンだよ?」

ミーナ「ありがとう。ユミルって優しい子なんだね」

ユミル「……は。とうとう脳みそまでいかれたかバーカ」

アニ「待ちな」

ユミル「あん?」

アニ「今回のことでは世話になった」

アニ「こんなことを言う柄じゃないけどね。礼を言う」

ユミル「あ? お前、なにいってんだ? 本当にアニかてめぇ?」

アニ「……ふぅん。そんな態度で来たかい」

アニ「まぁいい。言いたいことだけ言わせてもらうよ」

アニ「世話になったけど……ちょっとやりすぎなんじゃないのって思うところもあるし」

アニ「さっきの蹴り、中々のスジだ。興味がある」

アニ「いつもつまんなそうに訓練してたあんたの力をそれほどだったってのも気にかかる」

アニ「今度の訓練で、ぜひ試させてもらいたいのさ。ミーナにぶちこんだその蹴りの鋭さがどれくらいのものかを」

ユミル「……けッ。普段は無口なくせにたまに口を開くと詰まんねぇことをベラベラ喋りやがる」

ユミル「ジョーダンじゃねぇ。あたしゃ平和主義なのさ」

ユミル「お前と蹴り技対決なんかしてみろ。速攻で再起不能だぜ」

ユミル「だいたいな、お前みたいのは、私みてーな格下を踏みつけた勢いで上に登るタイプの人間とは関わるんじゃねーって」

ユミル「わかったな。つまらねー用事で私には近づくなよ。アニ。それとミーナ。お前もな」

そんなことを言いながら、ユミルは足早に去っていく。

その背中はなぜだか少し優しくみえた。

サシャ「てへへ。ユミルったら素直じゃないですね」

サシャ「聞きました? あの毒舌のユミルがミーナとアニのことをあの不快なあだ名で呼ぶのをやめたんですよ」

サシャ「どういうことかはわかりますよね?」

ミーナ「……うん。わかるよ」

サシャ「私も、自分のお友達がこんな人だったって分かってちょっと浮かれてます」

サシャ「ミーナがいい人だって分かって良かったですよ」

ミーナ「ありがと。サシャ、ごめん。いやなことにつき合わせちゃって」

ミーナ「助けてくれてありがとう」

サシャ「いいえッ。とっても貴重な時間でしたよ」

サシャ「私ももう行きますけど、今日のこと、自慢しちゃいますからね。寮のみんなからモテモテになっても驚かないでくださいね」

サシャ「ミーナ。アニ。あなたたちは私たちの友人です。そのことだけはお忘れなく」タタッ

ミーナ「あ、サシャ」

クリスタ「行っちゃったわね」

クリスタ「私も行くわ」

ミーナ「うん……ごめんね、ちゃんと謝れなくて」

クリスタ「ミーナ。アニ。こちらこそ謝らなきゃ」

クリスタ「私のせいであなたちには色々と迷惑をかけたみたい。ごめんなさい」

ミーナ「クリスタのせいじゃないよ」

クリスタ「うぅん。私はもっと努力するわ。ユミルに守ってもらってるだけではいられないと思うし」

クリスタ「きっとそれじゃあ、なんのために兵団にいるのかわからないままだから」

クリスタはきっと高潔な人なんだろう。

遠くを見ているというより、高いところから見ているような。

そんな感覚があった。

何か悲しいものを胸の内に秘めているような、そんな直感があった。言えなかったけど。

ミーナ「クリスタの目は綺麗だね。とても遠いところをまっすぐに見ている。キラキラしてる」

クリスタ「ありがとう。ミーナ。あなたの瞳もとても綺麗よ」

ミーナ「……そんなこと」

クリスタ「あなたの故郷はとても素敵なところね。今度は104期のみんなで来ましょう?」

ミーナ「……うん。ありがとう」

クリスタ「話の内容は後で聞かせてね」

クリスタ「待ってるわ。女子寮で待ってるから」

それだけ言うと、クリスタも身を翻して去っていく。

残されたのは、私とアニ。そして2人の幼馴染だけだった。

アニ「あいつらのお相手はあんたに任せた」

ミーナ「……」

アニ「心行くまで話をして納得しなよ」

ミーナ「……うん」

私は押し黙ったままの2人を見る。

何とも言えない光景とやりきれない思いが交錯して、すぐには声がでなかった。

次回で最後まで貼れると思います。長文駄文失礼。
レス及び保守、まことにありがとうございました。
丁寧にお返事したいとこだけど……すいません。
別スレのことにまで言及してくださった方、まことに恐れ入ります。
……気づくもんなのね。
進撃SSは良質なものが多いのでお目汚しにしかなりませんが、ミーナの魅力を語り合える方が増えたら嬉しいです。
ではまた後日。

レスくれた方ありがと。

感謝しきりです。

ミーナ「……2人は開拓地にいたんでしょ? どうやってここに?」

少女2「……憲兵に取り入れば少しくらいのお目こぼしはあるでしょ」

ミーナ「憲兵って……どうやって」

少女1「開拓地には憲兵の視察が来るでしょ」

少女1「あいつらが視察に来る意味なんて対したことじゃないのよ」

ミーナ「それってどういう……」

少女2「純情ぶらないで。分かるでしょ。あたしらなんか大したもん持ってないんだからさぁ」

少女1「こんな世の中だもの。何も持ってない女が差し出せるものなんて限られてるわ」

ミーナ「まさか……」

少女1「何考えてんのか分かるよ。それで合ってる」

少女2「それが? 今更お説教? は! あたしらに!?」

少女2「平和なツラして呑気にお友達ごっこを楽しんでたあんたと違って地獄みてきてんのよアタシら!」

少女1「くだらない権力ってやつで、守り抜きたいって思ってた最後のものまで奪われたのよ、あたしらはさぁ!」

少女1「だからあたしらは、あんたらを……」

ぱんッ。ぱんッ。

乾いた音が2つ響いて。

てのひらがしびれた。

いたい、いたい。

そう叫びだしたい気持ちをこらえて、私は口を開く。

大好きだった2人に向けて。

ミーナ「自分で選んだことでしょう!!??」

続きを遮って声を上げると、2人は目を見開いて唇を噛む。

一番言われたくなかったことを、一番いわれたくないヤツにいわれたんだから当然だと思う。

でも言わなきゃ。

言わなきゃ2人はこのままだ。

ミーナ「自分でそうするって決めてそうしたんでしょう?」

ミーナ「間違ってたから、失敗したから……投げ出して、それでまた間違ったことをするの?」

ミーナ「それは無しなんだよ」

ミーナ「2人の人生が投げ出されたままになっちゃうよッ」

ミーナ「そんなの、絶対に間違ってるよッ」

少女1「ッッ!!!!」

ぱぁん、と音がした。

私の耳元で。

頬にじんわり広がる熱い痛みが、幼馴染の思いの強さを胸に染み渡らせていた。

目に涙が溜まりはじめる。

でも、泣かない。

泣いてなんかやるもんか。

それはダメ。

私は泣かないの。だってここで泣くのは、自分のためでしかないから。

少女2「あの時あたしらの手を払っておいて今さらかよッ!!」

少女1「何も言わないでついてくるだけだったあんたが、あんなところで生意気してさぁ!」

少女2「無様に見える!? あたしらが!」

少女1「そう思ってるなら救ってよ!! 私のこと!! 救い出してよッ!! ここからッ!!」

ミーナ「ごめん、無理」

ミーナ「それは自分でしなきゃ。手伝うことまではできるけど、這い上がるのは自分でしなきゃ」

ミーナ「行き着いた先は、きっと今の場所よりも厳しいと思うから」

ミーナ「その場所で、自分の両足で立っていられるようにするためには」

ミーナ「自分の脚ではいあがらなきゃいけないの!!」

ミーナ「自分の居場所は自分で見つけなきゃダメなんだよ!!」

ミーナ「うまくいかなくてふてくされて逃げてたら、そこでやってたことが全部なくなっちゃうの!!」

ミーナ「努力しても報われなくて、失敗して辛くても、そこで終わりじゃないんなら」

ミーナ「次に行ってもいい。でもいつかどこかで、自分の力で立ち上がらなきゃ、ずっと0のままなの!!」

ミーナ「私、2人にそんなふうになってほしくない!」

ミーナ「だって大事な友達だもん!! 同じ故郷で生まれた幼馴染だもん!!」

少女1・2「……」

大きいことを言ったわけでもなく変わったことを言ったわけでもない、どこかで聞いた言葉の寄せ集め。

でも、私の素直な気持ちを伝えたつもりだった。

ふてくされて、世界を歪んだ目で見たままの2人には、そんな言葉しか伝わらないと思ったから。

伝わるかどうか不安だったけど。

2人には響いたみたいだった。

少女2「きついね。ミーナ、あんたはそんなやつだった?」

少女2「や、きつい奴になったのか」

少女1「そいつらといたから? あたしらと離れたもんね」

少女2「変わったんだね」

少女1「あたしらと一緒の居場所を捨てて」

ミーナ「……ごめん。2人も辛い思いしてるのに」

少女1「謝んないでよバカ。惨めさが増すわ」

ミーナ「……これからどうするの?」

少女2「さぁ? また憲兵に体を売るか、それとも奴隷にでも落ちるか」

少女1「どっちにしてもあんたの知ったことじゃないでしょ」

ミーナ「2人とも……」

少女1「言わないでって。あたしらはそんな奴らなんだからさぁ」

2人は立ち去っていく。

幼馴染なのに、ひどく遠く、赤の他人のように感じる。

歩を進める2人を見送る。

2人はかなり遠くまで歩き、それから不意にこちらを振り向いた。

少女1「あんたさ、そのまま進むんだね」

少女2「鍛えて勉強して立派な兵士になって」

少女1「でもあんたはあんた。主役にはなりきれない脇役のまま」

少女2「どこかの誰かの未来のために戦って」

少女1「そして、いつかあの巨人の中の一匹に食われるんだね」

ミーナ「……きっとそうだね」

少女1「はは。ご苦労さまなこと」

少女2「せいぜい楽な死し方が出来るように祈っておいてあげるわ」

少女1「残り少ない人生、新しい友達と仲良くね」

ミーナ「うん……」

身を翻し、背中を向ける2人は、すごく遠い。

悲しいくらいに遠い。

声をかけようとして……どう声をかければいいのか思いつかない私は、遠くなっていく後ろ姿を見たまま唇を噛む。

そして、反射的に口を開いた。

ミーナ「私のこと、嫌い?」

ミーナ「……ココは嫌い?」

ミーナ「生まれ故郷のトロスト区のこと……嫌い?」

背中を向けたままの2人に声をかける。

静まり返っていたから聞こえていたと思うけど返事はない。

そうして別れの姿を見送る私の目に映る2人がだんだんと小さくなっていく中。

その姿が見えなくなる直前、こちらに振り返った。

少女1「嫌い……だね」

ミーナ「……」

少女2「でも、前は大嫌いだった」

少女1「ちょっとだけマシになったよ。あんたのおかげで」

ミーナ「……!」

少女1「ここがあたしらの故郷だよ」

少女2「いい思い出も悪い思い出も全部含めてさ」

少女1「あたしらの思い出も含めて、その全部がここにあるのね」

少女2「あんたのことだってそう。近すぎて分からなかったけど」

少女1「好きだったんだよね、あたしら。あんたのこと」

少女2「あんたの言葉で気づいたわ。もう遅いけどさ」

ミーナ「ッ」

少女1「ありがとミーナ」

少女2「元気でね」

少女1「バイバイ」

ミーナ「……!!」

ミーナ「2人とも!! 私と仲良くしてくれて、ありがとうッ!!」

ミーナ「私、2人のこと大好きだった!!」

ミーナ「元気でねッ!!」

ミーナ「……バイバイ!!」

思い切り手を振る。

幼馴染との断絶。

生きているうちに会うことは、多分もうない。

悲しくて辛くて……でも、向き合わなきゃいけない現実だった。

涙が、流れる。

絶対に見せたくなかった姿を、彼女たちに見せなくて済んだ。それだけが救いの、何も得られなかった話だけど。

それでも私は、胸を張る。

今はそうすべきだと思ったから。

私は胸に染み込んでくるチクチクしたものをしまい込むように、胸元で両手をぎゅっと握り締めた。

~街中~

大通りに戻った私たちは、時間を確認して驚愕した。

ミーナ「わ! もうこんな時間! あぁぁぁぁ、お母さんに会う時間があんまりなくなっちゃったよぅ」

ミーナ「アニ、ごめん! 走ろう! 今からなら急げば間に合うから!」

私はアニの手を取り、走り出そうとする。

けど、アニは私に手を引かれることなく、その場に立ち尽くす。

ミーナ「アニ? どうしたの?」

アニ「……」

ミーナ「アニ……?」

アニ「あんたさ、ここに残りなよ」

ミーナ「え……?」

アニ「あんたはここに心を残しすぎてる。そんなんじゃ間違いなくあいつらがいった通りになる」

ミーナ「ど、どうしたの? アニらしくないよ」

アニ「私らしく……私らしくないか、そうだね」

アニ「私は……弱い」

ミーナ「えッ?」

アニ「弱い……弱くなった」

アニ「一人で大丈夫だと思って……成し遂げられると思って、そのつもりでいたのに」

アニ「きっとあんたやあいつらといたから……距離が近くなりすぎたから」

アニ「心が揺らいでいくのがわかるのさ。きっと、悪い方に」

アニ「私にはしなきゃいけないことがある。とてもとても悪いことだ」

アニ「その時に私はあんたを不幸にする」

ミーナ「急に何を言うの?」

アニ「言おうと思っていたもう1つのこと。これがそうさ」

アニの言葉は私の胸に突き刺さる。

きっとこの子は私のことを大切に思ってくれているのだろう。

悩みの刻まれた表情が、痛々しかった。

アニ「あんたはここにいたほうがいい。そのほうが幸せだと思う」

アニ「故郷で親や友人と仲良く暮らしなよ」

アニ「私らみたいな暗くてギスギスした使命感にとらわれないところで生きな」

アニ「あんたには日の当たる場所が似合ってる」

ミーナ「……ねえ、アニ」

ミーナ「アニは何を抱えているの?」

ミーナ「教えて。アニが抱えているもの。捨てられないもの」

ミーナ「私のつまらない内輪事情なんかじゃないものがアニにはあるんでしょ?」

アニ「言えない。少なくともあんたには絶対に言えない」

ミーナ「アニ」

アニ「私の抱えているものは、いずれ不幸を創りだす。さっき言ったとおりに」

アニ「それが怖いんだよ」

アニ「あんたを切り捨てなきゃいけなくなるから」

アニ「自分が怖いんだよ」

アニ「あんたを切り捨てられなくなりそうだから」

ミーナ「……」

ミーナ「アニ」

私は決めていた。

私の生き方を決めるのは私と、そう決めていた。

だから、これからのことも私自身で決める。

それがどんなことであろうと。

ぱぁん、と音が響く。

何もない広場、私たち以外に誰もいない広場で。

ミーナ「うん。スッキリした」

ミーナ「ごめん。今はいろいろありすぎて、細かいことまでちゃんと答えらんない」

ミーナ「兵舎に帰ってから話そう? 時間はあるし、じっくり考えてからちゃんと答えるよ」

ミーナ「適当な答えはしたくないから。ゆっくりじっくり話してね」

ミーナ「えっと……あ、あれ? そんなに痛かった? ごめんね。あ、もし頭に来てたら、私にも一発ビンタしていいよ」

ミーナ「け、けど、手加減してよ? アニって意外と力があるし、思い切りひっぱたかれたら……」

ミーナ「え? ちょっと、何もそんなに大きく振りかぶらなくても……」

ミーナ「!!!!!!!!」

すぱぁぁぁぁぁん、と激しい音が響く。

あまりの痛みに涙目になってしまうほどの痛み。

数秒間、悶絶しちゃうくらいの痛み。

だけど、何だか清々しい。さっきのもそう。男の子ってこういうことをして仲良くなるって聞いて真似したけど。

提案したことをちょっと後悔して、そして男の子を羨ましくも思った。

すごくわかりやすいコレ。

ミーナ「もー。絶対にこれおかしいって思われるよ。手のひらの形が残ってるもん。口裏合わせてよね、アニ」

ミーナ「言い訳は行きながら考えるとしてッ。さ、行こう。お母さんを驚かせるんだから」

アニ「ミーナ」

ミーナ「ん? 何?」

アニ「わかってるんだよね?」

ミーナ「んー……どうかな」

アニ「ちょっと」

言い募ろうとするアニの声を遮って、私はアニの手を掴む。

この手を掴んで走れるうちは走ろう。

そう決意しながら。

ミーナ「私は! 決めたの!」

ミーナ「自分の居場所は自分が決めるの! 自分の意志で!」

ミーナ「アニが怖がってるものが何かはわからないけど! でも、みんなで立ち向かえばきっと打ち崩せると思うから!」

ミーナ「だから走るの! アニと一緒に! みんなと一緒に! 辛い日々を走り抜けるの!」

ミーナ「後悔なんかしない! 絶対に!」

アニ「……本当だね?」

ミーナ「うんッ」

ミーナ「だから。まずは、ね」

ミーナ「私のお母さんに会ってよ」

私はアニの腕を取る。

細くてしなやかな女の子の腕。

でも、きっと何か大切なものを抱えてきた腕なんだろう。

しっかりとした思いの強さが伝わってくる。

ふっと緩むアニの頬。

すごくすごく綺麗だと思った。美しいと思った。

なんのしがらみもない時のこの子の微笑みがこんなに魅力的に感じてしまうだなんて、私も単純だと思う。

アニ「わかった。付き合うよ」

ミーナ「あははッ。ありがとッ」

私はここで生まれて訓練兵団で育つ。そしていつかここに戻る。

故郷を守るために。そして、それ以外の何かを守るために。

自分自身であったり、自分の身の回りの大切な何かだったり、いろいろ。

けど、それはこれから育っていく中で見つけていけばいい。

わかってくるのはこれからだと思うし。

それに、私はまだスタートラインにも立っていないってことを痛感した。

子供過ぎて未熟すぎてわからないことが多すぎる。

まずは始めないと。

ミーナ「ね、アニ」

アニ「なに」

まず手始めに一言、こう言うの。

多分これから、ずっと長い付き合いになるであろう隣の女の子に。

心の底からの敬意と友情をたっぷりと含んで。

ずっと言いたくて言えなかった言葉を、今、言おう。

ミーナ「友達になろうよ」

終わり

レスくれた皆様、保守してくれた方、心より感謝申し上げます。

心の支えとなってくださいました。

だいぶ長くなってしまったけど書き終えることができて嬉しいです。

何だかお一人やたらご評価いただけた方がいたようで、身に余る光栄というか照れくさいというかそんな感じ。

少しでも満足していただけた方がおられたならなら物書き冥利に尽きるというものです。

ではまた。

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