勇者「戦士が死んだ……」 僧侶「いいえ、戦士さんは死んでいません」 (20)

勇者「そうか、僧侶なら生き返らせることができるのか!」

僧侶「違います。聖典にはこうあります。『私は死んだ者の神ではなく、生きている者の神である』と。
   魂さえ、死ななければ本当の死ではありません。戦士さんは生きています」

勇者「でも、戦士は動かない」

僧侶「そこにあるのは抜け殻です。魂は昇天しました。審判の日に御霊はその身体に戻ることとでしょう」

勇者(こいつ、うぜぇ)

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防具屋「いらっしゃい」

勇者「新しい鎧が欲しいんだけど」

防具屋「ちょうどいいところに、勇者様。実はちょうどいい鎧が手に入ったところなんですよ。これを見てください」

勇者「まさかこれは竜の鱗でつくられた鎧! レア物じゃないか!!」

防具屋「へえ、そのとおりで。鋼よりも硬く、皮よりも軽い、天下の逸品です」

勇者「でもお高いんだろ?」

防具屋「100万ゴールドです」

勇者「やっぱり。貧乏冒険者の俺には買えないな」

防具屋「しかし、世界を救うためです。1000ゴールドにまけておきます」

勇者「そんなに安くていいのか!」

防具屋「へえ。勇者様のためですから」

勇者「買っ――」

僧侶「ちょっと待った!」

勇者「僧侶、どうしたんだ?」

僧侶「聖典にはこうあります。『何を着ようと思いわずらうな。明日は燃やされる運命の野の花でさえ、神は着飾ってくださる。どうしてあなたがたにそれ以上にして下さらないはずがあろうか』と」

勇者「高い防御力の鎧を買うことは、モンスターとの戦いで有利になる」

防具屋「そうです。世界を救うためです」

僧侶「ああ、信仰の薄いものたちよ。勇者様はすでに服を着ているではありませんか」

勇者「こんな皮の服なんて、モンスターに襲われればひとたまりもない」

僧侶「服なんて寒さを凌げれば十分ではありませんか。それ以上に何を望むのです。そんな無駄遣いをする暇があるなら寄進すべきです。そういうことで、この鎧はいりません」

勇者「…………」

マスター「いらっしゃい」

勇者「戦士が死んでしまったんで、新しい仲間を探しているんだけど」

マスター「あちゃー、戦士さん死んでしまいましたか。いい人だったんですけどね。新しい仲間ですか……魔法使いなんてどうですか?」

勇者「魔法使い! いいな、ちょうど強力な魔法使いが欲しいと思っていたところだ」

マスター「それでは今、呼んできますね」

勇者(魔法使いがいれば戦いが楽になるな。俺の近接攻撃と魔法使いの遠距離攻撃のコンビネーション)

マスター「呼んできましたよ」

魔法使い「あ、あの、わたし魔法使いです。勇者様にあこがれていました。どうか仲間にしてください」

勇者「まだ子どもじゃないか」

マスター「子どもだからってなめちゃいけません。こう見えても魔法学校をトップの成績で卒業した秀才です」

勇者「トップの成績! それは凄いな」

魔法使い「マスター、や、やめてください。恥ずかしいです」

マスター「ははは、本当の話じゃないですか。それに失われた古代魔法まで復活させた100年に一度の天才だそうです」

魔法使い「あわわわわわ」

勇者「古代魔法まで! 俺だって文献でしか見たことがない」

魔法使い「は、はずかしいです。わたし好奇心が旺盛でいろいろ調べているうちにたまたまできるようになっただけなんですよぅ」

勇者「それを才能っていうんだよ。これからよろしく頼むよ」

魔法使い「は、はい、こちらこそ」

僧侶「ちょっと待った!」

魔法使い「え、え?」

勇者「僧侶、なにが不満なんだ? 足を引っ張りそうもない。立派な魔法使いじゃないか」

僧侶「立派な魔法使いだからです」

勇者「それならなおさら問題ないだろう」

僧侶「聖典にはこうあります。『魔法使いの女を生かしておいてはならない』と。仲間にするなんてもっての他です」

魔法使い「ひっ!」

勇者「過激すぎるだろう。魔法使いだって怖がっているじゃないか」

僧侶「当然の報いなのです。彼女らは歴代の王家に取り入り、魔法をもって民を惑わせました。魔法使い死すべし!」

魔法使い「あ、あたし、用事思い出しちゃって。ご、ごめんなさい、帰りますね」

勇者「……魔法使い」

僧侶「悪は去った。やはり我らが正義なのです」

盗賊「へへへ、お前らありったけの金を置いていきな」

勇者「バカなやつらだ」

盗賊「俺らをバカだと!」

勇者「ああ、そうだ。大バカさ。俺を誰だかわかっていないらしいな。このマントの紋章を見よ!」

盗賊「それは伝説の勇者様の紋章!!」

勇者「わかったらしいな。これでもやるか?」

盗賊「滅相もありません。降伏しますので許してください」

勇者「ダメだ、許さん。お前らを野放しにしておいては、また悪さをするに違いない。ここで成敗してくれよう」

盗賊「あわわわわわわわわわ」

僧侶「ちょっと待った!」

勇者「またか! お前は悪党でも助けるのか!」

僧侶「彼らは悪党ではありません。盗賊を止めてまじめに働きますよね」

盗賊「もちろんです」

勇者「こいつらなんて口だけだ」

僧侶「ああ、人を信用することができないなんて、勇者様の心は俗世にまみれて汚れてしまったのです。それでも勇者ですか!」

勇者「ううう……。仕方ない、お前ら行け」

盗賊「ありがとうごぜえます」

僧侶「お待ちなさい」

勇者「なんだ、やっぱり退治するのか?」

盗賊「そんなあんまりでさ」

僧侶「これをお持ちなさい。1000ゴールドあります」

勇者「おい、それは俺たちの全財産!」

盗賊「こんなにもらって良いので?」

僧侶「盗賊に身を落としたのも理由があってのことでしょう。ズバリ、病気の妹がいてその薬代金を買うためなんでしょう」

盗賊「え? ……はい、そのとおりです! 流石は僧侶様、すべてお見通しで」

盗賊「おい、アイツに妹いたっけ」ヒソヒソ

盗賊「アイツんち一人っ子だぞ」ヒソヒソ

僧侶「このお金で薬を買って差し上げなさい。もちろん文句はないですよね、勇者様」

勇者「……ない(この状況で文句あるなんて言えるかよ)」

僧侶「そして勇者様、マントを脱いで彼らに差し上げるのです」

勇者「え、なんでだよ! 金をやったんだから十分だろう!」

僧侶「聖典にはこうあります。『下着をはぎとろうとする者には、外套をもとらせなさい』と。彼らの格好を見なさい、寒そうではありませんか」

勇者「だったら、僧侶のをあげればいいだろう」

僧侶「私は女です。聖典にはこうあります。『女は男の衣装を着てはならない。男は女の衣装を着てはならない。あなたの神はそのようなことをする者を忌み嫌われる』と」

勇者「……ちくしょう」

盗賊「マントまでいただけるなんて! この恩をどう返したらいいか!(いいマントだから後で売ろう)」

僧侶「良いのです。すべては神のお導きです。良いことをした後は、心が温かいですね、勇者様」

勇者「俺の身体は寒いよ。くしゅん」

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