青年「変身!!」 (212)

オリジナルssです。

仮面ライダーっぽい感じになると思います。

多くの厨二要素、厨二設定が出てきます。

ヒロインは人外です。

何か分からない事があったら聞いてください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1376745181

とある研究施設


青年「……」

学者「おはよう。目が覚めたかい?」

青年「……?」

学者「まだ目が覚めたばかりだ。頭がぼんやりしているだろう」

青年「ここは?」

学者「研究施設だ。どこか体に異常はないか?」

青年「無いけど……」

学者「なら良かった」

青年「……なんで、俺こんな所にいるんだ?」

学者「そうだな。話すと少し長くなってしまうが、簡単にいえば君は選ばれたんだ」

青年「何に」

学者「人類の未来を救う戦士。英雄にね」

青年「……あんた、頭大丈夫か?」

学者「よく言われるが安心してくれ。少し狂ってるだけで他は正常だ。ははっ」

青年「いや、狂ってるって問題ありまくりだろ」

学者「そういう意見もある。だが私は気にしない」

青年「……」

学者「こうやってくだらない雑談をしているのもいいが、そろそろ本題に入ろうか」

学者「君はモンスター、と言う単語を知っているかい?」

青年「最近よくニュースで見る人を襲ってる化物だろ」

学者「そう。その通りだ。ここ最近はニュースにもなっているから有名だろうね」

青年「それが何?」

学者「あれが元々なんだったかは知っているかい?」

青年「……人間?」

学者「……」

青年「……」

学者「そ、そうだ。人間だ。……どうしてわかった」

青年「いや、雰囲気的に、なんとなく……」

学者「……ほう。君は見た目と違って頭がいいね」

学者「頑張れば私と同じような人間になれるかもしれないね」

青年「狂った変人だろ」

学者「何か問題でも?」

青年「……」

学者「話をつづけるよ。問題ないかい?」

青年「どうぞ勝手に」

学者「あれは元々人間だった。しかし彼、もしくは彼女はとある原因でモンスターになってしまった」

青年「原因は?」

学者「今は分かっていない。もし分かるなら対策が出来てモンスターになる前にほぼ駆逐されているよ」

青年「確かに……」

学者「モンスターは強い。重火器だってほとんど効かない。一匹殺すのに軍人百人が死ぬのも不思議じゃない」

青年「そんなに犠牲がいるのかよ」

学者「ああ、むしろその程度の被害で奴等を殺せたなら上出来だよ。強い個体なら百人も一瞬で全滅だからね」

青年「……」

学者「そこで我々は考えたんだ。奴等を研究すれば何か弱点が見つかるんじゃないか、対策できるんじゃないか、とね」

青年「普通に考えればそうだよな」

学者「このあとのいろいろな研究などは長いし難しいので割愛させていただこう」

青年「勝手にどうぞ」

学者「そして出来あがったのが通称ハンターと呼ばれる戦士たちだ」

青年「……ごめん。やっぱり割愛した所を教えてほしいんだけど」

学者「なんだ。これじゃあ分からないのか?」

青年「悪いけどさっぱり」

学者「そうか。なら仕方が無い」

青年「話がとびすぎなんだよ」

学者「モンスターは元人間だ。なら人間と何が違うと思う?」

青年「な、何って……全部だろ」

学者「少し違う。確かに体表や筋肉は大きく変化している」

学者「……だが彼等の体の構造は根本的には人間だ。そして研究を進めて行くうちに人間の体には無いが彼らにはある臓器が発見された」

青年「……」

学者「我々はそれを武臓(ぶぞう)、と呼んでいる。そして我々は武臓の研究を進めた」

学者「そして、その武臓はあらゆる原子を分解、そして再構成する力を持った物質を分泌している事が分かった」

青年「つ、つまり?」

学者「早い話が体を分解して別の物体に再構築出来るって事かな。もっと詳しく話せるけど難しくなるけど、どうする?」

青年「やっぱりいい……」

学者「つまり彼らの体表などの変化は全て武臓の分泌したものによって体を再構築したものだった訳だ」

青年「じゃあ、人間とモンスターの違いは武蔵があるか無いかだけって事か?」

学者「あとはモンスターは理性を失っているくらいかな。ただ研究が進めば分からないけれどね」

青年「じゃ、じゃあハンターってのは一体何なんだ」

学者「ハンターは人工的に武臓を移植された人間だ。つまり理性を保ったモンスターと言う訳だ」

青年「ま、待って。じゃあ俺は!?」

学者「今の君には武臓がある。だから今の君は人間では無くハンターと言う訳だ」

青年「!?」

学者「移植させてもらったんだ。拒絶反応も起きていないから問題は無いだろう」

青年「な、なんで勝手に!!」

学者「ならもしこうやって話していたら素直に手術を受けてくれたかい?」

青年「受ける訳ないだろう!!」

学者「武臓にも適正がある。適合しなければ移植が成功しても武蔵がうまく働かず意味が無いんだ」

青年「……」

学者「君の大学とは協力関係にあってね。君達の血液を少しだけ提供してもらった」

青年「それで俺が適合したってのか?」

学者「ああ。そして大学に君以外に適合する人間はいなかった」

青年「……」

学者「仕方の無い事だ」

青年「ふっざけんなよ!!」

学者「殴りたければ殴れ。殺したければ殺せ。君にはその資格がある」


青年の右手が学者の頬を捉える。
学者は音を立てて地面に倒れ込んだ。


青年「……死ね!!」

学者「君がいれば数百人の兵士の命が救われるんだ。私の命と君の人生でそれだけの人間が救えるなら安いものだ」

青年「本気で殺すぞ」

学者「私は、抵抗しないよ」

青年「……」

学者「君にはその権利がある。ただし私を殺しても君は元の生活には戻れない」

学者「すまなかった。という言葉も私は口には出来ない」

青年「……話を続けろ」

学者「悪いね」

青年「……」

学者「武臓を移植したと言っても今の君はただの人間だ。武臓が覚醒しなければその力は発揮できない」

青年「どうすればいいんだ」

学者「それは人ぞれぞれだ。君の覚醒方法はまだ分からないよ。ただ危機が迫ると自然と分かるらしい」

青年「なんだそりゃ」

学者「私はハンターではないからね。そこまで詳しくは分からない」

青年「……」

学者「君には基本的にここで生活してもらう。と言っても外出は自由だ。」

学者「だが、もしここに住むのが嫌ならどこか近くにアパートを借りても構わない」

青年「逃げてもいいのか?」

学者「自信があるのなら」

青年「……」

学者「どうする? アパートなら今すぐにでも探せるぞ」

青年「別にいい」

学者「週に一回の健康診断。あとはモンスターが出たら討伐に向かってもらう」

学者「それ以外は基本的に自由だ。いるものがあるなら私に言うか自分で買いに行ってくれていい」

学者「外出は職員に一言言ってくれれば問題ない」

青年「分かった」

学者「質問があれば答えよう」

青年「……別にないよ」

学者「じゃあ行こうか」

青年「え、何処に」

学者「君と同じハンターの所にだよ」


学者は立ち上がり歩き出す。

学者「君達はこれから三人一組で行動してもらう事になる」

青年「……」

学者「何、嫌な奴はいない、と思う」

青年「……」

学者「ここだ」ガチャ

眼鏡「どうも」

女性「こんにちは」


眼鏡の青年は何処にもいそうなごく普通の黒髪の男性で、年は青年と同じか少し下くらいだろうか。

女性の方はかなりの美人の部類に入るんだろう。
肩くらいまでの暗い茶色の髪をしていた。


学者「先日言っていた青年だ。部屋のルールは教えてやってくれ」

青年「男女一緒なのかよ」

眼鏡「寝床は別でちゃんと鍵もある。風呂とトイレは共同だけど。問題はあるかな?」

青年「別に特には」

眼鏡「分からない事があったら僕か彼女に聞いてくれればいい」

女性「変な事以外なら何でも聞いてね」

青年「変な事は聞かないから大丈夫」

女性「その方がうれしいわ」

学者「では、頼んだよ」

眼鏡「はい」

女性「任せといて」

眼鏡「部屋は僕と一緒だけどいい? 嫌なら学者に頼むけど」

青年「そんな事気にしないし別にいいよ」

眼鏡「まあ、今日はゆっくり――――」


その瞬間、けたたましいサイレンの音が部屋中に響き渡った。


青年「え?」

眼鏡「……」ハァ

女性「ゆっくりできそうにないわね」

眼鏡「はあ。青年だったよね?」

青年「何なんだ?」

眼鏡「詳しい話は後だ。少し出掛けるよ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


車の中


眼鏡「さっきのサイレンは出動命令のサイレンだ。あれが鳴ったら出なくちゃいけない」

青年「ふうん。聞いていい?」

眼鏡「どうぞ」

青年「なんで後部座席と前の座席の間に黒い仕切りがある訳? これじゃあ後ろ全く見えないじゃん」

眼鏡「後ろはここのモニターで見えるから問題ない」

青年「……」

眼鏡「女性は女だからね。いろいろあるんだよ」

青年「……」

眼鏡「まだ変身した事は無いんだろう?」

青年「変身?」

眼鏡「学者は武臓の覚醒なんて言うけど、変身の方がかっこいいし正義の味方っぽいだろう?」

青年「仮面ライダー的な?」

眼鏡「そうそう、そんな感じ。そろそろ着くよ」

青年「お、俺はどうすればいいんだ?」

眼鏡「遠くで見ててくれればいい。今回は見学みたいなもんだ」

青年「……」

眼鏡「さて」


眼鏡はポケットから注射器を取り出し、首筋に突き刺し、中の液体を強引に注入した。


眼鏡「僕の変身方法は食塩を大量に摂取する事」

眼鏡「変身」


眼鏡の皮膚がまるで溶ける様にドロドロと崩れていく。
だが、それはすぐに鎧の様に変化し、約数十秒で全身を赤く刺々しい甲殻がおおっていた。
顔も甲冑の様な甲殻が覆い、眉間には一本の真っ赤な角が生えている。
それはさながら角の生えた人型のトカゲのようだった。


眼鏡「詳しい事は知らないけど、これは皮膚の一部を分解して再構築したにすぎないらしい。」

眼鏡「ちなみにこんな風に自分の血液と骨で武器も作れる」


眼鏡は腹から赤い剣を取り出す。


眼鏡「もちろん作り過ぎれば自分も危ないけど」

青年「俺もそんなふうに」

眼鏡「変身できればね」

眼鏡「最後に一つ」

青年「何?」

眼鏡「僕の戦い方は、真似しない方がいい」

今日はここまでです。

説明が多くなってしまいました。

分からない事は聞いてください。

戦闘は地の文ありで進めて行こうと思います。

期待

~~~~~~~~~~~~~~~~


人のいない廃校の校庭には一人の元人間が立っていた。
元人間、と言っているのはそれがすでにモンスターになっていて、すでに性別すらも判別できない状況になり果ててしまっているからだった。

全身は白い羽で覆われ、腕は翼の様に変化し、足は完全に細長く、鋭い爪の生えた鳥の足へと変化していた。
顔すらも白い羽で覆われ、くちばしが生えていた。
巨大なインコの様なそれに意志は無く、ただただ目に付いた生きている者を片端から殺して回っていた。


「君が、そうだね」


鳥型のモンスターの前に立ったのは赤い甲殻に包まれたハンターだった。

彼はモンスターを嘲笑う訳でも同情する訳でもなく、ただ無心のままに眺める。
それは彼なりの礼儀であり、元人間であったモンスターへの心遣いでもあった。

モンスターになり果ててしまった人間を可哀想だと思うのは、傲慢である。
ならば彼は何も考えず、何も感じないまま、それを一個の敵として殺す。
それはさながら人格も人生ももたないゲームの敵キャラクターと戦うのに非常によく似ていた。

彼はそれを敵とだけ認識し、構えた。
その構えはボクサーの様な両手を顔の当たり前あげた構えだ。

モンスターが唸り声をあげる。
常人であれば怯え、足がすくみ上がる様な唸り声は辺りの大気を震わせた。

それは敵の明確な戦闘意志。
それを眼鏡は感じ取り、彼もまた攻撃の意思を表した。

荒い呼吸をあげるモンスターと、呼吸を乱さない彼。
それは理性あるものと無いものの違いの様にも感じられる。

先に動いたのはモンスターだった。

それは姿勢を低くし、滑空する様に突進してくる。
そしてあっという間に急接近し、刹那の間に間合いを埋めた。
その勢いを殺す事無く、右手に生えた猛禽類の連想する巨大な爪で彼の喉元に斬りかかる。
白い羽が僅かに抜け落ち、ひらりと地面に落ちる。

だが、爪は大きく空を切っていた。
爪を振った瞬間にはすでに彼は体を前に倒し上半身を低くしていた。

眼鏡の頭の上を巨大な爪が通過する。
腕を振り切り、無防備になったモンスターの脇腹に彼の右手の一撃が放たれる。

カウンターはモンスターの顎のあたりをとらえていた。

まるでコンクリートを殴ったかのようなゴリッ、と言う嫌な音が響く。
モンスターの体がふわりと浮き、まるでボールの様に後ろに転がっていった。

だが、


「浅いか」


眼鏡が小さく舌打ちをしながら眼鏡は構え直した。

粗方、彼の一撃を予知し後ろに跳んでいたのだろう。
拳の一撃の感触はあまりにも軽かった。

不満げに溜め息をつきながらも、その目は僅かに笑っていた。
今の隙をチャンスに生かせなかったのはかなりの痛手である事は間違いない。

だが、今ので下手に強引な攻め方はしてこれなくなったはず。

それは彼としては好都合だった。
そうなれば彼の戦術にはまった様なものなのだ。

眼鏡は自分が平凡な事を知っていた。
だからこそ彼は無茶はしない。
自分の好きなように動いたりはしない。
そんな事をしても平凡な彼の攻撃が当たる事は無いのだ。

彼の選んだ戦術。
それは相手の動きを制限する戦い方だった。
自分が好きなように動くのではなく、相手が動きにくいように立ちまわる。
相手に我慢させ続ける戦い方。
そして相手が我慢の限界を迎え、無茶な行動をしたときにとどめをさす。
そんな戦い方だった。

モンスターは素早く立ち上がり、怒りに燃えた様な両目で眼鏡を睨みつける。
眼鏡はそれを無言で眺めながら甲殻に覆われた両腕を顔を守る様に構えた。
それは先ほどと同じ、ボクサーのファイティングポーズによく似ていた。

片や本格的なボクサーのファイティングポーズをした人型の獣、片や唸り声をあげる理性の欠片も無い獣。
その二人の光景はあまりにも異様でそしてそれ以上に滑稽だった。

モンスターの足が僅かに動く。
それはほんの少しの挙動。
まるで氷の上を滑るような、滑らかで無駄の無い動作。
モンスターは一瞬にして眼鏡の間合いに入り、更に懐に潜り込もうとしていた。

人間では不可能な加速。
一秒にも満たない、常人ならば、気付いた頃には死んでいる様な速度。

だが、眼鏡はその動きに反応して自分も動く。
モンスターが動くのと同時に前に跳んでいた。
張りつめた糸の様な緊張状態であっても、どんなに不利な状況で合っても決して自分のやり方を見失わない。
それが彼の最大の武器であった。

至極簡単な話だが、もしも相手に殴りかかるために相手に近づいたら、相手はどう反応するだろうか。
答えは大きく二つだろう。
一つは逃げるために下がる。
もしくはその場で迎撃、もしくは防御の姿勢をとるかだろう。
しかし彼はまるで鏡の様に、モンスターと同じように前に跳んでいた。

この行動にモンスターの体が一瞬だけ停止した。
当然だ。
彼は予想とは違う、いや、それどころか全く予想していなかった行動をとったのだから。

その一瞬、モンスターは思考した。
相手の予想外の行動にどう対応すればよいか、考え、そしてその先頭に特化した脳は一瞬で答えを導き出す。

その隙はほんの一瞬。
それこそ瞬きほどの一瞬もの。
しかし彼等化け物同士の戦いにとって、それはあまりにも大きな隙になってしまうのだ。

モンスターの右手が大きく振るわれる。
だが、その一撃は彼の頬の僅かに掠めていた。

当たり前だ、それも全て彼の計算通りなのだから。

ゴウッ、と言う風を裂く音が響く。
眼鏡の右腕がカウンター気味にモンスターの顔の左側を文字通り打ち砕いた。

まるで岩石をハンマーで殴った様な音が辺りを満たす。
鳥に似た化け物はまるで力尽きかけた竹トンボの様にクルクルと回転しながら地面に落ちた。

だがモンスターの片目はまだ闘志に燃えていた。
いや、それは自分が負けた事すら理解していないのだろう。
起き上がろうとじたばたともがくが、すでに勝負はついていた。


「無駄だと思うよ。そんな状態じゃとても動けないから」


彼はくるりと背中を向け、顔の左半分が砕けながらも、まだ動こうとするモンスターに一言つぶやくと、左足でその顔を完全に踏み砕いた。
まるで陶磁器が割れる様な音が響き、鳥の姿をしたモンスターの顔は完全に砕けきっていた。

放っておけば回収班がモンスターを回収していくだろう。
だから死体はこのまま置いておけばいい。

彼はもう一度その死体を一瞥し、車に向かって歩き出した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


青年「……いつ帰って来るんだろ」

???「あら? もしかしてここにいるのはあなた一人?」

青年「……」


それは黒と白を基調としたゴシック調のドレスを纏った女性だった。
その手には黒い傘が握られている。

その姿には異和感があった。。
例えるなら、真っ白な紙の上に一か所だけ黒いインクの染みがある様な漠然とした違和感。


青年「お前は……」

姫「私の名前は姫。もしかしてあなたってハンターなのかしら?」

青年「お前は何者だよ」

姫「もしかしてあなたって何も知らないの? それって本当に残念よ」

青年「質問に答えてくれないか」

姫「いいわ。知らないなら教えてあげる。……私は人外を統べる者の一人」

青年「は?」

姫「……あなたって物分かりが悪いのね。そう言うのはあんまり好きじゃないの」

青年「……」

姫「……」

青年「……」

姫「分かった? ……もしかして全然分かって無い? もしそうならあなたって本当に馬鹿よ」

青年「待ってくれ。じゃあお前は俺の敵なのか?」

姫「……やっぱり、あなたって本当に馬鹿ね。だって――――」

青年「――――!!」


青年の視界が黒く染まる。
天と地がクルクルと回る。

そしてやっと彼の目が天と地を正しく認識した時、彼は初めて自分の体に何が起きたのかに気付いた。

彼はただ、蹴られただけだった。
あの華奢な体から生えた華奢な足に蹴られただけ。
それだけのはずなのに、彼の体は吹き飛び、そして今、彼の体には今まで経験した事の無い様な壮絶な痛みがはしっていた。


青年「あ――――。が」

姫「敵が目の前にいるのに何にも分かって無いし、とっても無防備なんだもの」

青年「あ――――。ぐっ――――。」

姫「それにあなたってとっても弱いわ。もしかして、戦った事、無いの?」

青年「……」

姫「それってとっても残念な事ね。だってあなたは戦う事ことも無く、死んでいくのよ」

今日はここまでです。

基本的に不定期更新ですが、最低でも週に一回は更新していきたいと考えています。

それは欲求に似た感覚だった。
喉が渇いた時に水が目の前にあると飲みたくてたまらなくなる様な。
夜遅く帰った後に自分の寝室に着くと、眠りたくてたまらなくなる様な。
そんな動物の本能に似た感覚が青年を襲っていた。

心臓を貫きたい。
何でもいい。
今すぐに、自分の心臓を何かで貫きたい。
その衝動は彼をひたすらに駆り立てた。


「う、ぐ――――」


呼吸が荒くなる。
体の中の何かが早くしろと叫んでいる。
右手がいつの間にか自分の胸を触っていた。
それが心臓を探っているのだと彼は気付いた。

それでもなお、彼を彼のその衝動を縛っているのは理性と言う名の鎖だった。
それはごく普通の事だろう。
理性が無ければ、社会の秩序は失われる。
もし今あらゆる生物の理性が失われれば、一週間もしないうちに人類は滅亡してしまうだろう。

当たり前、と言えば当たり前なのかもしれない。
自分の心臓を貫きたいなどと言う衝動など、常識的に考えて正しい訳が無い。
明らかな異常。
誰かに知られれば即、精神病院送りだ。
それは世間一般で言う自殺願望と同義なのだから。


「苦しそうね。でも安心して。あなたはきっとあと少しで楽になれるから」

彼女、ドレスを身に纏った黒髪の女性は嬉しそうに微笑んだ。
それは天使の様に美しくて、悪魔の様に残酷で。
優しさと恐怖が混ざり合った様な、何とも説明しがたいものだった。

傘を杖の様に地面につきながら、彼女は彼の方へと歩き出す。
急ぐ事も、焦る事も無く、ゆっくりと、しかし着実に近づいていく。

青年に恐怖はなかった。
いや、正確には恐怖を感じられる余裕すらも無かった。

授業中に突然呼び出されて、研究所に行き、突然眠らされたかと思えば、ハンターだのモンスターだのと言った訳の分からない話をされ、化け物にされ、あげく戦場に連れて来られた。
そして、今、どういう訳か彼は命の危機にある。

全部一日、いや、約数時間の出来事だ。
理解できるはずもない。
納得できるはずもない。

もしもこれが間隔をおいて、もっとしっかりと彼が理解し納得するまで時間をかけて行われていたのなら、彼は恐怖出来ていただろう。

だが現実には時間も余裕も彼には与えられなかった。
それどころか説明すら満足にされていなかった。

分からない。
知らない。
今の彼は誰が天敵なのか、何から身を守ればいいのかすらも分からない雛だった。
そして今その雛は天敵の王に遭遇していた。

……悔しい。
それが彼の内にあるたった一つの感情だった。
日常が奪われ、未来が奪われ、体が奪われた。
全てを奪われたのに、何も知らないまま死んでいく。
それがひとえに悔しかった。


「抵抗もしないのね。でもそれって私にとっては凄くうれしいわ」


化け物が笑う。
しかしそれを化け物と呼ぶ彼もまた化け物なのだ。

話は少し戻るが、理性と常識は人を人たらしめる鎖である。
人である限りそれは全ての人間の体を縛り、本能を拘束する。
もしそれを拒絶した者、それを引き千切ってしまった者は世間一般で言う犯罪者、になる。

「どうしたの? ああ、悔しいのね。でも残念ね。あなたはここでおしまいよ」

「ふざけんな……」


人でない彼女に常識は通用しない。
それは彼女が人の常識を知らないからだ。
知らなければ、そんなものに価値など無い。

人とモンスター。
モンスターは元々人間だ。
けれど、生物学的には限り無く同じでも、その二つは全くの別物だった。

……では、人とハンターはどうだろうか。
答えは全く違う、だ。

何故。
その問いはいたって単純だ。
人はあんな化け物に変化しない。
人は武臓などと言う狂気染みた臓器など持ち合わせていない。
人は基本的に常識と理性を失ったりなどしない。
死の感覚にあそこまで鈍くなったりしない。

ハンターは、どちらかと言えばモンスターよりの生物だ。
ハンターもモンスターも武臓を持ち、そして変化する。

人とハンターとモンスター。
その三つの種族の生物を分かりやすく例えるなら。
シマウマがライオンに襲われ、絶滅を恐れたシマウマはライオンを研究しライオンから虎を生み出し、虎を使役してライオンが襲っていた時に戦わせている。
イメージ的にはそんな感じだろうか。


「ふざ、けるなァァァァ!!」


その咆哮は魂の慟哭。
自分をこんなふうにした人間達への憎悪。
目の前の自由で自らを知り尽くしたようにしゃべる少女への羨望と嫉妬。
そして己への鼓舞。

ここで終われない。
こんな所で終わってはたまらない。
死んでたまるか。
死ねるわけがない。

悔しい。
死ぬわけにはいかない。
ここで死ぬなんて、ごめんだ。

歯を食い縛り、渾身の力を込める。
膝が笑う。
肉体が錆びた金属の様に軋む。
視界が霞み、耳鳴りが聞こえる。
されど彼は止まれらない。
彼の生きる意志が止まる事を許さない。

生きろと、それは言う。
無駄な事を全て捨て、自分の本能に身を任せろと、それは言う。

彼を縛る常識と言う名の、理性と言う名の鎖が悲鳴を上げた。
彼を縛る鎖はすでに錆つき、壊れかけていた。
当然だ。
今の彼は人では無いのだ。
そんな彼に人の常識など邪魔なものでしか無い。
所詮そんなものは人間だった頃の名残でしか無い。

それは彼が非日常に無理矢理引き込まれた時。
そして彼が人間をやめさせられた時。

その目に光りが灯る。

それは決して全てを守りたいなどと言う正義のヒーロー染みた、光りでは決してなかった。
ただ身勝手な理由で未来を奪われた怒りが青年を突き動かした。

鎖はいとも簡単に音をたて引き千切れる。
常識を失った今、彼の心臓を指してはいけないという理性の鎖もまた、音を立てて砕け散る。。

青年の右手がポケットをまさぐり、そして一本のボールペンを引っ張り出す。
芯をノックし、ペン先を出す。
それは鋭くも無い、人を突くにはあまりにも適さない代物である。
だがそれでも、衝動を満たすには十分過ぎた。
奥歯を噛み締め、ボールペンを握りしめ――――そして。

突き刺す。


「があァァァァァ!!」


血がぽたぽたと地面に落ちる。
約数秒で足元には血の水たまりが出来上がる。

胸の焼ける様な痛みはあっという間に全身に広がった。
まるで全身を焼かれる様な痛みが襲いかかる。
それは外側ではなく、内側から業火で焼かれる様な感覚。


「あァァァァァァァ!!」

「……へえ。やっぱり、あなたって馬鹿ね。でもその方がよっぽど私の好みよ」


次に襲いかかるのはまるで氷の中にいるかのような冷たさ。
それは頭のてっぺんから足先までを包み込む。
しかし血は煮えたぎり、心臓は早鐘をうち続けていた。

そして彼の口から一つの言葉が紡がれる。

「……変、身!!」

全ての光りを拒絶する漆黒の体。
背中からはえた黒い翼。
肉食獣を連想する凶悪な牙。
そして、燃えるような紅蓮の両目。
その姿は到底人を守る正義の味方からかけ離れていた。


「……あなたの憎悪、とっても綺麗よ」

「黙れ」


言葉が発せられるのとほぼ同時に彼は地面を蹴っていた。
その動作は粗削りで乱暴。
体の使い方も無駄だらけ。
だがしかし、そんな未熟さがあってもなお、彼の速度は他のハンターたちよりも数倍速かった。

彼の右手が姫の頬を掠める。
彼女の頬から一筋の血が流れた。


「乱暴ね。でもそう言うのも私の好み」


青年は答えない。
その代わりにに青年の蹴りが姫の脇腹目掛けて放たれる。

ゴウッ、と言う音が響いた。

今回はここまでです。

地の文が多くなってしまいました。
これが終わったらのんびりやっていきます。

だが、蹴りは寸ででかわされ、空を切る。
蹴りの余波はビルの壁に一筋の傷をつけた。


「私に傷をつけるって、あなたって案外強いのね?」


姫の顔は笑顔だ。
そこには測り知れない自信が見え隠れしていた。

彼女は優雅な動きでくるりと一回転すると青年を見据えながら不敵に笑った。
その笑みが青年を嘲笑するためのものなのか、それとも純粋に殺し合いを楽しんでいるのかは分からない。
ただ一つ分かる事があるとすれば、彼女は全く恐怖も不安も感じていないという事だけだろう。

青年が跳び、彼女に襲いかかる。

だが青年の追撃を姫は全て寸での所でかわす。
そのたびに彼の強過ぎる一撃の余波が町に傷をつけていった。

それは明らかに異常な光景。
非日常の塊だ。

しかしその異常な光景を彼は少しづつ受け入れ始めていた。
今の彼はあそこには居ない。
彼はここにいて、そしてもうここでしか生きられない。

牙を剥き、目を血走らせながら彼は拳を振るい、足を動かす。
スレスレで回避し続ける姫にひたすら追撃を続ける。

「あはは。あなたってとっても無骨で乱暴ね。でも――――」


その言葉をかき消したのは、青年の拳から伸びた一本の棘だった。

長さにして約一メートルの細長い棘は、棘と言うより槍に近い。
それは彼の拳から生え、そして彼女を貫いていた。。

彼の攻撃と、棘の生える速度、それが同時に行われる事により、速度は加速度的に上がる。
そして彼女は攻撃を基本的に寸でで回避していた。

それがどんな答えをもたらすのかは、あまりにも簡単だ。
不意打ち的な一撃。
だがそれは致命的な一撃。

しかしそれは急所は貫いてはいない。


「自分の体を材料に武器を作る。それの応用。あはっ。あなたって案外面白い事を考えるのね」

「変わり者なだけだよ。あとは変わったものが好きなところか」


急所を外しているとはいえ、彼女の口調は以上に軽かった。
そしてその彼女の言葉の語尾に青年は一抹の不安を覚えさせる。

彼女の左手が不気味に動く。
それは鎌首をもたげた蛇に似た物々しく、恐ろしい気配をはらんでいた。


「これは私からのプレゼント。あなたならとっても喜んでくれると思うの」


グチュリ、と泥沼にはまってしまった様な間抜けな音が彼の耳に届く。
その後に続く音はグチュグチュと言う泥の中を這いまわるような音。
底なし沼に落ちた、可哀想な獣が足掻く様な音。


「大事な初体験ね。でもそれって大切な事よ。だってほら、あなたってまだ戦った事も無いんでしょ?」


彼女の左手は彼の腹に突き刺さっていた。
そこからはドロドロと赤黒い液体が絶え間なく溢れでている。
痛みは無い。
しかし、傷口はまるで発火しているかのように発熱していた。

命を手の上で転がされている。
彼はその感覚を全身全霊で感じ取っていた。
もしも彼女が殺そうと思えば、彼の命は一瞬で消えてしまう。
それこそ蝋燭の火を消すのよりも容易く。

グチュリ、ともう一度音がなる。

彼女の左手が蠢く。
そして青年の内臓の一つを掴んだ。


「見つけた」

「あ、あぎ、ひ――――」


激痛は、彼の口から声にならぬ悲鳴となって虚空へと溶けていく。
込み上げる痛みは彼の全身を蹂躙していく。
全身の皮膚を舐め回される様なゾワリとした不快感が体を包む。


「分かる? 今私が握っているのはあなたの武臓」


激痛が走る。
臓器を握られるという常人では決してありえない状況とその痛みは彼から冷静さを奪っていた。
だが、なぜだろう。
その激痛の中にはひどく妖艶で甘美なものがあった。


「あき、き、いぃ――――」


姫の右手が万力の様にゆっくりと、しかし着実に武臓を握っていく。
キリキリと音が鳴る気がする。
心臓が早鐘を打ち、煮えたぎる鍋に入れられたように熱くなる。

それが悲鳴なのか喘ぎなのかも分からない。
痛いのか、気持ちいいのか、それともその二つが混ざり合っているのか。
今の彼にはどちらとも言えない。

「痛いでしょ。でも大丈夫。すぐに楽になれるわ」


彼女の屈託の無い笑顔が見えた。
無邪気で、心底楽しそうな。少女の様な笑顔が。

その笑顔が綺麗だと青年は思った。
敵の笑顔だと知りながら、それをずっと見ていたいと思ってしまった。


馬鹿だと彼は心の中で呟いた。
自分を殺そうとしている相手に好意を抱くなんて、正真正銘のお馬鹿野郎だ。
しかし彼はその馬鹿げた気持ちを否定はしない。
なぜならその気持ちに偽りが無い事も、その気持ちが揺らがない事も彼は知っているからだ。

だからこそ、その馬鹿げた感情を尊重してやろうと思うのだ。

彼は道化。
目の前の暴君のお姫様を楽しませるピエロ。
ならばこそ、ここで死ぬわけにはいかない。
まだまだ、暴君を楽しませなければいけないのだから。
ここで死んでしまったら、誰が暴君のお姫様を楽しませるのだ。

萎えかけた戦意を蘇らせる。
心の底に沈んだ、熱い何かを引き上げる。

繋ぎ止めろ。
思い出せ。
何を?
全てを。
今ここを生きるために必要な全てを。

魂の燃料は感情だ。
今、彼が再び蘇らせた戦意と名も分からぬ熱い感情はその材料としては十分過ぎる代物だった。
ひび割れた魂に大量の燃料が注がれる。
煮えたぎったそれが魂を大きく揺さぶる。
壊れかけの魂が再び、音をたて、動きだす。

青年の口端がつり上がり、三日月の様に歪んだ。
殺意と狂喜。
その二つを楽しむ、狂人染みた笑顔。
姫と同じ、化け物の笑顔。


「知ってるか? 相手のバージンを奪った奴は責任をとらなくちゃいけないんだぜ」


右腕を振りかぶり、彼女目掛けて殴りかかる。
当てる必要はない、ただ一瞬の隙を生ませるだけでいい。

姫は体を捻り、その攻撃を右手で受け流す。
体勢の崩れない、完璧で優雅な動作で青年の一撃を回避する。
だが、その時彼女の左手の握る力がほんの少しだけ弱まったのを彼は見逃さなかった。

素早く重心を後ろにかけ、大きく後ろに跳ぶ。
予備動作はほぼ無い。
簡単で単純だが、最善の行動。

彼女がその事に気付いた時にはもう、彼女の手の届かない場所に青年は立っていた。
傷口はすでに塞がり、魂は唸り声をあげながら動きだしている。

剥き出しの闘志が牙を剥く。
狂喜が心を熱く燃やす。

「俺の大事な所を貫いたんだ。責任とってくれるよな?」


黒い翼がばさりと音を立て震えた。
それは翼が震えた訳ではない。
彼の周りの大気が、彼の意識に答える様に震えているのだ。
まるで共鳴する様に大気の震えは大きく、広がっていく。
まるで空間が歪んでしまいそうなほどに。

刹那よりも速く、彼が飛んだ。
まるで一発の弾丸の様に、鋭く、速く、距離を詰める。

彼の拳が姫の脇腹を捉える。
姫の体が浮き、後ろに吹き飛ばされる。
背後のビルの壁をを砕きながら姫が転がっていった。

だがその一撃が何の意味をなさない事を彼は理解していた。
生き物としての勘、と言い換えてもいいかもしれない。
一匹の化け物としての勘が必要にそれを伝えてくる。

今の一撃は所詮不意打ち。
ただの時間稼ぎに過ぎない。

瓦礫の中から、彼女は現れる。
その体は傷だらけで、血も出ている。
だが、彼女の表情は満面の笑みで、今もなお恐怖は感じていない。

「ええ。私はあなたを楽しませてあげる。絶対に飽きさせたりなんてしないわ」


彼女はくるりと一回転し、黒色の傘を開いた。
一切の無駄が省かれた洗練された優雅な動作。
それはまるで映画のワンシーンをきり抜いた様だった。


「血塗りの雨」


青年と姫を覆う様にドーム状に銀色の刃が空中に生み出される。
その全ての切っ先は青年の方を向いていた。

彼と彼女の差は草食獣と肉食獣の差に似ていた。
彼がどんなに闘志を燃やそうと、牙をむこうと、今の彼は草食獣であり、彼女は肉食獣である。
そこにはどうやっても埋められない圧倒的な差が、まるで何かの悪戯の様に茫漠と横たわっていた。


「これは私の血と肉。あなたは私の血と肉に貫かれる。それって私とあなたが一つになるって事」

「ならその前に俺がお前を貫いてやるよ。それで俺とお前が一つになれる。」


姫がにこやかに笑い、右手で彼を指す。
それに対応するかのように青年の漆黒の翼が音を立てて羽ばた――――。


「青年君。そこまでにしておくんだ」


声のする方を見ると、そこには眼鏡がいた。
赤く刺々しい甲殻に覆われているせいで表情は読めないが、この状況に困惑しているのは声色で分かった。


「……興醒めね」


姫は心底残念そうに呟き、傘を畳む。
それに合わせて、銀色の刃もまるで幻であったように消えていった。


「この埋め合わせは絶対にするわ。あなたもとっても楽しみにしてて」


そう言い終わると、彼女の体はまるで溶ける様に消えていった。

青年「……」

眼鏡「動かない方がいい」

青年「大丈……夫?」ドサッ


青年の体が元の体へとゆっくりと戻っていく。
眼鏡の体も元に戻っていた。


眼鏡「体はとっくに限界を超えてるんだ。動けなくなるのは当たり前だ」

青年「ど、どういう……」

眼鏡「変身自体も体に恐ろしく負担がかかってる。それに加えて肉体の武器化と肉体の修復もしただろ」

青年「あ、ああ」

眼鏡「初めてでそれはやり過ぎだ」

青年「……」

女性「ごめん。思ったより敵が多くて時間がかかっちゃった」

眼鏡「女性。悪いけど、青年君を運ぶのを手伝ってくれ」

女性「え? どうしたの?」

眼鏡「無茶し過ぎたんだ」

女性「……変身したのね」

青年「……ああ」ズルズル

眼鏡「あの相手によく生き残れたな」

中途半端ですが今回はここまでです。

乙乙
続き待ってるで~

青年「自分でも驚いてるよ」ズルズル

眼鏡「さすがだよ」

青年「なあ、担架とかないのか?」ズルズル

眼鏡「そんな便利なものある訳ないだろ」

青年「足を物凄く引きずってるんだけど……」

眼鏡「ああ、我慢してくれ」

女性「一応学者に見てもらった方がいいわ」

青年「……そうかも」

青年「……」

眼鏡「どうした?」

青年「いや、聞きたい事がたくさんあって……」

眼鏡「聞きたい事は学者に聞いた方が確実だろ」

青年「……そうかもな」

~~~~~~~~~~~~~~~


研究所


学者「先に言おう。検査の結果君の体には異常はなかった」

青年「そうですか」

学者「それで、聞きたい事はあるかな?」

青年「モンスターって一体何なんですか」

学者「少し前に話したと思うが――――」

青年「俺が戦った奴は人外を統べる者って言ってましたけど」

学者「……」

青年「どういう事です?」

学者「モンスターは元々人間だった。それは間違いではない。彼等は理性を失いあらゆるものを破壊するものだ」

青年「あいつは人間の姿をしてたし自我も保ってました」

学者「……私も詳しい事はあまり知らないんだ」

青年「はい?」

学者「モンスターが表れたのが今から三十年前。ニュースに取り上げられる様になったのはここ二、三年だな」

青年「……」

学者「初めの頃は隠蔽していたらしいんだが……。何の事情があったのか数年前から隠蔽しなくなった」

青年「ハンターが生まれたのはいつ頃からなんですか」

学者「約十年前だ。いや、完成したのが十年前であって、研究は二十年前から行われていた」

青年「……」

学者「所詮は支部の研究所の所長だ。勉強とごますりしかできない本部の馬鹿な研究員よりも情報は少ないよ」

青年「……」

学者「地上に住んでいる一番巨大な動物はなんだ? 地上だぞ」

青年「ぞ、象? 麒麟?」

学者「象も麒麟も基本的に捕食者はいない。どうしてか分かるか?」

青年「でかいから……」

学者「そう、体が大きいという事は力も強いと言う事だ。では何故、ライオンや虎は麒麟や象を捕食出来る様な大型の肉食獣にならなかったのだ?」

青年「……え、ええと……」

学者「大きければ強い。それは確かだが、大きくなり過ぎると問題が生じてしまうからだ」

青年「ああ……そう言う意味ですか」

学者「あらゆるものには丁度いい大きさと言うものがあるんだ。もちろん組織にも」

青年「それを言うためにこんな長い質問を……」

学者「ああ、分かりやすかっただろう?」

青年「そんなことしなくてもちゃんと分かるよ」

学者「……そうか。少し君の事を甘く見ていたのかもしれないな」

青年「……」

学者「ああ、悪い悪い。別に悪気はないんだ。確かに君は頭はいいんだったね。私には遠く及ばないけど」

青年「……」

学者「話が逸れたね。私達が所属する組織も大きくなり過ぎたんだ。しかもかなり急速にね」

青年「……」

学者「早過ぎた成長といき過ぎた成長。そのせいでこの組織の内側は裏切りや派閥争いで忙しいんだ。本部と支部の確執も非常に大きい」

青年「だから俺の知りたい情報はここには無いって言いたいんですか」

学者「まあ、そう言う事になるかな」

青年「……」

学者「ただ出来るだけ君から聞いた話を元に調べてみようとは思う。ただ少しばかり時間が必要だね」

青年「どれくらい?」

学者「今の所はしばらくいるとだけ伝えておこう」

青年「……」

学者「とりあえずその人外を統べる者について調べよう。他に聞きたい事は?」

青年「……特には」

学者「そうか。ではまた何かあったら」

青年「お願いします」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次の日 部屋


眼鏡「青年君。起きろ」

青年「ん、ん?」

眼鏡「用事だ。行くよ」

青年「あ、うん」フラフラ

眼鏡「じゃあ行こうか」スタスタ

青年「行くって、何処に行くんだ?」スタスタ

眼鏡「僕の師匠の所」スタスタ

青年「師匠?」スタスタ

眼鏡「敵と戦う以上基礎能力は高くて困る事は無いからね」スタスタ

青年「た、確かに……」スタスタ

眼鏡「天才さん。いいですか?」コンコン

天才「いいよ。鍵も空いてる」

眼鏡「連れてきました」ガチャ

天才「うん。見えてる」


それはこげ茶で短髪の好青年だった。
年は青年より少し上くらい。
背は高く百九十センチくらいはあるだろうか。
少し日焼けした健康的な肌をしていた。

天才「青年。だっけ? 話は聞いてるよ」

青年「あなたが眼鏡の師匠?」

天才「まあね。じゃあ最初に一回手合わせしときたいんけど、大丈夫かな」

青年「俺は大丈夫ですけど」

眼鏡「言っておくけどあの人は化物だから本気で殺しに行った方がいい」

天才「ははは。まあ最初は軽くね。こっちはさばくだけにしとくよ」

青年「はい」

眼鏡「……」

青年「じゃ、じゃあ行きますよ」

天才「どうぞ」


青年は腕を振りかぶり天才目掛けて殴りかかる。
しかし天才はそれをいとも簡単にかわした。


天才「眼鏡が言ってたじゃん。死ぬ気でやんないと」

青年「いや、本気で殴りかかってますよ」ブンッ!!

天才「危機感が足りないのかな……」ヒョイッ

青年「?」


青年はそのまま足を振り上げ、天才のこめかみ目掛け足を振り抜いた。
しかし天才はそれを左手で受け止め、右手で青年の脇腹を殴った。

青年「ぐがっ!!」フラッ

天才「止まってちゃ駄目だよ。次が来る」ブンッ

青年「う、くは――――!!」ドゴッ!!


ドサッ 


眼鏡「天才さん!! さすがにやり過ぎです!!」

天才「あ、ゴメン……。やり過ぎた」

青年「いえ、大、丈夫です……」

天才「眼鏡達とやってる時の癖が出ちゃった。本当にゴメン!!」

青年「本当に大丈夫ですから」

天才「ごめんね」

眼鏡「あの人は戦闘センスの塊みたいな人だから、手加減とか相手に合わせた戦いとかがそんなに上手じゃないんだ」

青年「ああ、そう」

眼鏡「でもそれを差し引いても得られるものも大きいと思うよ」

青年「俺も、そう思う」

天才「立てる?」

青年「大丈夫です」

天才「ごめんね。それに昨日変身したばっかりなのに無茶させちゃったみたいだし……」

青年「……天才さんはどうやって変身するんですか?」

天才「俺? 俺はこれを使うんだ」


天才はポケットから飴玉ほどの赤い球を取り出した。


天才「これは苦みを限界まで凝縮した丸薬。俺の変身方法は一定以上の苦味を感じる事で変身できる。で君は?」

青年「俺は自分の心臓を貫く事です」

天才「……変身ってのは体に負担をかけたり副作用があったりする。今は気付かなくてもそのうち気付く事もあるから気をつけた方がいいよ」

青年「はい」

眼鏡「お茶とコーヒーどっちがいいですか?」スタスタ

青年「どっちでもいい」

天才「お茶ちょうだい」

眼鏡「どうぞ」スッ

天才「ありがとう」

青年「あと一つ聞いてもいいですか?」

天才「何?」

青年「天才さんは何のために戦ってるんですか?」

天才「それは……」

青年「……」

天才「分からない、かな。ただ目の前に敵がいるから戦う。それだけ」

青年「……」

天才「こんな答えしか出せないかな」

青年「いえ、ありがとうございます」

今日はここまでです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次の日 共同部屋


眼鏡「……」パラパラ

青年「なに読んでるんだ?」

眼鏡「『現代に生きる神話』って本」

青年「……眼鏡は神とか信じてる?」

眼鏡「少し、かな。今の時代神だって作れるだろ」

青年「……」

眼鏡「……」

青年「そう、かな……」

眼鏡「神ってのを万能の物体と考えるのなら、だけどね」

青年「小難しいな」

眼鏡「神に人格が無ければ多分何とかなるんだと思う」

女性「何の話してるの?」

眼鏡「神の話」

女性「あ、そう……」

青年(めっちゃ反応に困ってる)

眼鏡「女性はどう思う?」

女性「え、あ……いるといいわね」

青年「……」

女性「でも、そう言うのよく分かんないから」

青年「なあ、聞きたかったんだけど、女性の変身方法って何なんだ?」

女性「……」

眼鏡「……」

眼鏡「今日の夕飯は餃子にしないか?」

青年「え、別にいいけど……」

女性「……」スタスタ

青年「え? ちょ――――」

眼鏡「まあ、あれだ」

青年「どれだよ」

眼鏡「よく言うだろう。女に年齢と変身方法を聞くのは失礼だって」

青年「年齢は知ってるけど変身方法は初耳だな」

眼鏡「とにかくこの話はここで終わりだ」

青年「……」

眼鏡「青年の相手は人外を統べるものって言ったんだよね」

青年「え、ああ」

眼鏡「……前からいたとしたらなんで今更出てきたんだと思う?」

青年「……確かに今まで見つかっていなかったんだろ?」

眼鏡「単純に出会った相手を殺してたって可能性もあり得るけど、今まで一人も生き残らなかったってのもおかしいしな」

青年「じゃあ、なんで今頃?」

眼鏡「知るか」

青年「だよな……」

天才「元気かな? 若者諸君」ガチャ

青年「……ノックとかして下さいよ」

天才「ああ、ノックね。ごめんごめん」

眼鏡「鍵でもつける?」

青年「いいと思う」

天才「鍵なんかついたら俺等が入れなくなっちゃうじゃん」

眼鏡「自分の部屋があるじゃないですか」

天才「黒髪はいないし美人は俺とは話が合わないんだよね」

眼鏡「知りませんよ」

青年「そういえばどこも大体三人チームなんですか?」

眼鏡「そうだね。それで男女混合のチームが多いかな。どうしても人数が微妙な時は変わってくるけど」

青年「へえ」

眼鏡「美人さんは頭が固そうですからね」

天才「固そうじゃなくて固いんだよ。なんなんだろうね」

眼鏡「処女なんじゃないですか?」

青年「何その突然の下ネタ」

眼鏡「よく言うだろ。処女は頭が固いって」

青年「うわあ……凄い偏見」

天才「じゃあ処女を捨てたら少しはマシになるのかな」

眼鏡「天才さんが奪ってしまったらいいんじゃないですか?」

天才「嫌だよ。責任取りたくないもん」

青年「そう言う問題ですか?」

天才「それにあいつがビッチでもきっと話しが合わないし」

青年「そうですかね」

天才「根本的に男と女じゃどうやっても話が合わないんだよ。俺には分かる」

眼鏡「黒髪さんがいるじゃないですか」

天才「あの人は二人の子供のパパだから。いろいろ忙しいんだよ。だから今はいないし」

天才「だから暇なんだよね。物凄く」

眼鏡「出掛けたらどうですか?」

天才「特に欲しいものも無いし、行きたい場所も無いんだよね。今日火曜日だし」

青年「ジムとかどうですか?」

天才「ボクシングジムは行ったんだけど周りが弱過ぎて」

青年「……」

天才「教えてほしいって言うから、目と手は二つあるんだから同時に別のものを見て、右手と左手で同時に別の事をすればいいってアドバイスしたんだけど、出来ないみたいでさ」

青年「俺も出来ませんよ」

眼鏡「と言うか天才さんしか出来ませんよ」

天才「俺は普通に出来るんだけどな……」

眼鏡「それはあなたが化物だからです」

天才「ひどいなあ」

青年「まあ、化物だとは思いますよ」

天才「多分頑張ればみんな出来ると思うんだけどなあ」

眼鏡「出来ませんよ」

天才「……残念」


コンコン


青年「はい。どうぞ」

黒髪「……やっぱりここに居たんだ」ガチャ


それは男にしては少し長い黒髪の男だった。
体の線は細く、顔は優しそうな、いい意味で優男だ。


天才「あれ、なんでいるの?」

黒髪「子供達を送っていった帰りだよ。ええと、そちらは?」

眼鏡「新しくここに来た青年」

青年「よろしくお願いします」

黒髪「そんなにかしこまらなくてもいいよ」

天才「そうそう」

黒髪「天才はもう少しかしこまっても問題ないけどね」

天才「そう?」

黒髪「僕はここに居る事は少ないけど、よろしくね」

青年「はい」

天才「黒髪は数少ない多段階変身できる人だから凄いんだよ」

青年「た、多段階進化?」

天才「普通は一回で変身は終わりだけど、黒髪は二回変身できる。第一形態と第二形態みたいな感じかな?」

青年「へえ」

黒髪「別に凄くもなんともないよ」

天才「いやいや――――」


しかしけたたましいサイレンの音が彼の言葉を遮る。


青年「……出撃?」

眼鏡「そうだな」

天才「俺達も行った方がいいかな」

黒髪「当然」

天才「はあ。だるいなあ……」

黒髪「普通の企業に比べればよっぽど楽だよ」

今回はここまでです。

人が増えたらキャラ紹介でもしようと思います。

乙乙

乙です
凄く面白いので続き期待してます

~~~~~~~~~~~~~~


車内


青年「なあ」

眼鏡「ん?」

青年「やっぱりこの車運転し辛いんだけど」

眼鏡「仕方ないだろう。女性にも準備があるんだ」

青年「準備?」

眼鏡「僕等はすぐに変身できるけど、準備がいる人も多いんだ」

青年「ふうん」

眼鏡「ほら、そろそろ着く」

青年「はいはい」

青年「今回も俺は見学?」

眼鏡「変身できるから出てもらう。ただ無茶はしなくていい。今回は天才さん達もいる」

青年「あれってどういう風に決まってるんだ?」

眼鏡「あれ?」

青年「出動の順番だよ。稼働表とかあるの?」

眼鏡「基本的には暇な班に出動要請が来る。黒髪さんみたいな人にはケータイに連絡が行くようになってる」

青年「ふうん」

眼鏡「よそに救援に行っている奴等も多いし、俺達のいる所は支部だ。人員もそういないから戦闘が多く感じるんだ」

青年「そうなんだ」

眼鏡「あと、青年はあの二人のどちらかの戦い方を見てるといい」

青年「わかった」

眼鏡「もちろん余裕があればだが」

青年「分かってるよ」

青年「到着」

眼鏡「じゃあ、行くか」ガチャ

青年「了解」ガチャ

天才「敵の数は六体。一人一体だね」

眼鏡「黒髪と美人は?」

天才「先に行ってるよ」

天才「残念だったね。黒髪の変身が見えなくて」

青年「今度見れたらみたいですね」

眼鏡「そう言う話は終わってからにして下さい」

天才「厳しいねえ。まるで母ちゃんだ」

眼鏡「変身」


眼鏡は首筋に注射器を刺した。
天才は薬を口に放り込み、噛み砕く。


天才「変身」


茶色の体毛が天才を覆う。
爪は長く鋭い。
細長い尻尾が生え、牙が生える。
その姿はさながら化け猫の様だった。


青年「……変身」


ポケットの中に入れておいたナイフで胸を刺す。
強烈な激痛と底冷えする様な冷たさが襲う。
そしてその後に襲ってきたのは溶けてしまいそうなほどの熱さだ。


天才「それじゃあ、皆さんご武運を」

~~~~~~~~~~~~~~~~~


天才は戦闘中、決して思考する事を止めない。
常に問題の答えを考え、答えを見つけ、また次の問題を探し、それの答えを考える。
彼の戦闘はそれの繰り返しだった。

眼鏡の様に相手が戦い辛いように動く訳ではない。
青年の様に常に賭けをしながらハイリスクハイリターンな戦闘をする訳ではない。
彼はただ、相手の行動を読み、理解し、それに合わせて最適な戦闘を行っているだけだ。

彼は目の前の青い甲殻に包まれたモンスターを見ながら、思考する。
姿からしてかなり防御力は高いだろう。
そして力も強いはず。

モンスターが前に跳び、拳を振る。
天才はそれを避け、後ろに跳び、距離を置いた。

攻撃方法はとにかく自分の戦闘スタイルを相手に押し付けてくるタイプだ。
その為なら多少の無茶もいとわない。

天才は口端を僅かに釣り上げて微笑を浮かべた。
そして言葉が通じているかも分からない相手に話しかける。


「その戦闘スタイルはあんまりいいとは思わないんだけどなあ……」


もう一度前に跳び、攻めるモンスターの攻撃かわしながら彼は溜め息をついた。

モンスターの拳が大きく振り上げられ、まるでハンマーの様に天才目掛けて振り下ろされる。
かわされた拳は地面に激突し、地面を蜘蛛の巣状に砕く。

高火力のその一撃に天才はひゅう、と口笛を吹いた。
そして、地面を蹴り、一気に相手の懐へ入り込む。
その瞬間、勝負はすでに決していた。
いや、モンスターの拳が振られた瞬間だろうか。

天才の思考がどうすれば敵に近づけるか、からどうすれば相手を一撃に倒せるかに切り替わる。
一瞬の思考。
敵の骨格と臓器をイメージ。
出来る限り相手に致命の一撃を与えられる場所を導き出す。


「はい。これで、終わり」


モンスターの左手が振り下ろされる。
しかし、天才の左手がそれを受け流し、そして彼の右手が彼に致命の一撃を与える。
天才の右手がモンスターの肺に穴を開けた。

モンスターの目が見開かれる。
急に呼吸が乱れ始めた。

彼はモンスターを一瞥した後、右手を大きく振りかぶった。
右拳に全体重を乗せ、大きく体を捻り、そして、モンスターの頬を打ち抜く。

砕けた顔の破片が飛び散るのを見ながら、天才は気だるそうに息を吐いた。

~~~~~~~~~~~~~


数十分後


天才「終わった?」

青年「え、あ。はい。一応……」フラフラ

天才「うん。筋いいよ」

青年「え?」ハァハァ

天才「二回目で一人で敵を倒せれば十分だ」

女性「終わった?」

眼鏡「こっちは終わったよ」スタスタ

天才「あ、そっちは全員終わったんだ。じゃあ先帰ってていいよ」

眼鏡「え、でも」

天才「どうせ黒髪はそのまま家に帰るし、美人も終わったって連絡してきてそのまま帰るって言ってたから」

眼鏡「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」

天才「それじゃあまた後でね」

青年「また後でって、来る気ですか?」

天才「当たり前じゃん」

~~~~~~~~~~~~~~~~~


研究所  駐車場


眼鏡「丁度いいし車洗うか」

青年「賛成。泥とか跳ねてるもんな」

眼鏡「なら道具がいるか……」

青年「この車ってどのくらいの頻度で洗ってるんだ?」

眼鏡「車内の掃除は週に一回か二回だな」

青年「なんでそんなに……」

眼鏡「臭うだろ」

青年「いや、知らねえよ……」

眼鏡「じゃあ、道具とってくるから待っててくれ」スタスタ

青年「はいはい」

青年「……とりあえず車内のゴミを集めるか」ガチャ

青年「でも運転席の方はほとんどないからな」ガサゴソ

青年「あとは後部座――――」ガチャ

青年「……」


後部座席も比較的きれいだった。だが何故か大人の玩具が大量に置いてあった。

今日はここまでです。

青年「……これってあれだよな、完全にチ○コの形してるもんな、あれだよな。あのいわゆる」

眼鏡「何やって――――」

青年「んな!? 違うんだ!! これはその」

眼鏡「……青年。とりあえずその右手に持ったものを床に置こうか」

青年「あ、ああ……」スッ

眼鏡「……」

青年「……」

眼鏡「置き方を考えろ。天を仰いでいるぞ。天を貫こうと必死だ」

青年「わ、悪い」

眼鏡「……」

青年「……」

眼鏡「いつかはバレていた訳だしな……」

青年「何? 女性って、何?」

眼鏡「あいつの変身方法はイク事なんだ」

青年「……じゃ、じゃあ変身する時は、変身ンンンン!! とかなるの?」

眼鏡「どちらかと言えば、変身ンンンンンアァァァァン!! みたいな感じだな」

女性「どっちでもいいわ!!」


女性のパンチが青年と眼鏡を襲った。

青年「いたなら言えよ……」ドサッ

眼鏡「卑怯だぞ……」バタッ

女性「うるさい!! 人の頃散々バカにしといて!!」///

眼鏡「いや、馬鹿にはしてない」

青年「ああ」

女性「だいたい何やってんのよ!!」///

青年「あ、すまん、床に置いたら汚いよな」

女性「そう言う意味じゃないわ!!」

青年「……あ、悪い、口に入れるものなのに床に置いちゃ駄目だよな」

眼鏡「ちゃんと熱湯消毒してローションをかけておいたほうがいいぞ」

女性「しなくていい!!」

青年「じゃあ普通に洗えばいいのか?」

女性「私がやるから触るな!!」

青年「す、すまん」

眼鏡「他人に歯ブラシ洗われるのは嫌だろ?」

青年「うん。嫌だ」

眼鏡「そう言う事だ」

女性「まず口に入れないから!!」

青年「え!?」

女性「逆になんで驚いてるのよ!!」

眼鏡「下の――――」


女性の蹴りが眼鏡の顔面に直撃する。


眼鏡「すまん」

女性「清々し過ぎて驚かされたわよ」

青年「……」

女性「ったく、後部座席は私が掃除するからあんた等は触らないで」

青年「……なあ、じゃあこれって使用済――――」


言い終わるよりも前に女性の回し蹴りが青年のこめかみに直撃していた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


青年「……」コンコン

学者「開いてるよ」

青年「失礼します」

学者「報告は聞いてるよ。ずいぶん頑張ってるみたいだね」

青年「いえ……」

学者「今日呼んだのはこれを渡すためだ」スッ

青年「……なんですか、これ」

学者「君の武臓の覚醒方法は自分の心臓を自分で貫く事だろう。そのための道具だ」

青年「柄の部分しか無いんですけど」

学者「ボタンがあるだろう、それを押すと刃が出る仕掛けになっている。胸に当ててボタンを押せばすぐに刃が心臓に達する」


学者がスイッチを押すと、反対側から刃渡り十センチほどのナイフの刃が飛びだした。


学者「これで変身しやすくなったと思う」

青年「ありがとうございます」

学者「そのうちまた改良するかもしれないが今はそれを使っていてくれ」

青年「他の人のも学者さんが作ってるんですか?」

学者「つくるのは私ではない。私はあくまで設計くらいだよ」


コンコン

学者「どうぞ」

研究員「お久しぶりです」

学者「……今日はどんな用件かな?」

研究員「ハンターに関する論文を届けに来たんです」

学者「君一人かな?」

研究員「ええ。皆、あなたと違って忙しいので」

学者「……」

研究員「我々が半年かけた研究の論文です」

学者「ほう」パラパラ

研究員「もし良ければ感想でも教えて下さい。的を得た感想でなければ困りますが」

学者「……」パラパラ

研究員「……」

学者「これを書いたのは誰かな?」

研究員「私と他三名の共同研究です」

学者「これだけかい?」

研究員「どういう意味ですか?」

学者「所長の論文は無いのかな?」

研究員「……ははっ。所長の論文をこんな負け犬臭い所に持ってくると思いますか?」

学者「……」

研究員「こんな所で骨をうずめるあなたなどに所長の論文は勿体ないと思いませんか?」

学者「つまり、君は私が負け犬臭いと?」

研究員「ええ」

学者「そうか、なら私と君は似た様なものだな」

研究員「?」

学者「少し読ませてもらったが、この論文は実にイカ臭い」

研究員「は?」

学者「私は少しだが感心しているんだよ。ここまで自己満足的な論文を書けるのはある意味才能だ」

研究員「は!?」

学者「これは君達の自慰論文かな?」

研究員「!?」

学者「武臓の覚醒条件と人体への影響。原点回帰のいい研究だとは思う」

学者「だが全体的に研究方法が浅い。そして君の主観と自論があまりにも多過ぎる」

今回はここまでです。

研究者「……」

学者「この研究に半年? 私なら一カ月で終わらせられるぞ」

研究員「く、くだらない嘘はいいですよ……」

学者「なら一カ月後に論文を書いて君に渡そう」

研究員「……」

学者「で、君の仕事はこの自慰的論文を持ってくる事だけかい?」

研究員「……ええ。他に何の理由があると言うんですか」

学者「なら丁度いい。ここに来たついでだ、これを所長に渡しといてくれ」

研究員「何故私が。あなたが送ればいいんじゃないですか?」

学者「私が普通に送れば所長の手に届くまでに一体どれだけ時間がかかると思っているんだ」

研究員「……」パシッ

学者「ああ、あとこの論文も持って帰ってくれ」

研究員「な――――!?」

学者「生憎負け犬の私もいろいろと忙しくてね。論文も選んで読まなければ時間が無くなってしまんだよ」

研究員「……」パシッ

学者「その手紙に書かれている内容は重要事項だからね」

研究員「何が言いたいんですか」

学者「ずいぶんと多忙な君の事だ。所長に渡すのを忘れてしまいかねないからね」

学者「だから念を押しておく。もし渡し忘れて何かしらの報告ミスが起こってからでは遅いんだ」

研究員「……」

学者「私は確かに君に渡したぞ」

研究員「……なら尚更自分で――――」

学者「君は本部に戻るんだろう。なら君に頼んだ方がお互いに無駄が少ないと思わないかい?」

研究員「……中身を確認してもよろしいですか?」

学者「構わないけれど、もし封の空いた」

研究員「……」

学者「こんな負け犬と議論している時間は勿体ないだろう。早く帰った方がいい」

研究員「……失礼します」ガチャ

青年「……なんか……すごいっすね」

学者「実際にあの論文はその程度だったんだよ」

青年「あの手紙って本当に重要なんですか?」

学者「いや、別に」

青年「……」

学者「まあ、邪魔が入ったけれど用件は終わったよ。また何かあったら呼ぶ」

青年「はい」

~~~~~~~~~~~~~~~~~


眼鏡「今日の夕飯は何がいい?」

青年「なんでもいいよ」

眼鏡「そう言うのが一番困る」

青年「でもな……」

女性「和食がいいわ」

眼鏡「じゃあ焼き魚にでもしようか」

青年「別にいいよ」

眼鏡「魚あったかな」ガチャ

青年「……なあ、女性は料理しないのか?」

女性「……」

眼鏡「青年。言っていい事と悪いことがあるよ」

青年「え、これも駄目なの?」

女性「わ、私だって簡単な料理なら作れるわよ?」

眼鏡「無理しない方がいい」

女性「無理なんてしてないですけど」

青年「じゃあ今日作れば?」

女性「え?」

青年「だったら今日の夕飯作れば?」

女性「や、やってやろうじゃない」

眼鏡「無理しない方がいいと思うよ」

女性「やればできるから!!」

青年「……」

眼鏡「……夕飯は遅くなるな」ボソッ

女性「え、ええと。何を作るんだったっけ?」

青年「焼き魚」

女性「分かったわ。魚は何処?」

眼鏡「冷蔵庫の中だ」

女性「ありがとう」ガチャ

青年「今の所順調だな」

眼鏡「まだ始まってすらいない」

女性「で、ええとグリルで焼けばいいのよね」

眼鏡「フライパンで焼いてくれ」

女性「……え?」

眼鏡「グリルは壊れてるんだ。それに切り身なんだから焼けるだろ」

女性「……」

眼鏡「……」

女性「わ、分かったわよ」

眼鏡「変わろうか」

女性「大丈夫」

青年「……ごめん。ホントごめん」

眼鏡「気にしなくていいよ」

女性「あ、あれ? 塩コショウでいいの?」

眼鏡「好きなようにしていい」

青年「女性って意外と不器用?」

眼鏡「そんな感じだな」

青年「へえ……」

女性「あ、かかり過ぎた!!」

眼鏡「……」

青年「……」

眼鏡「食べれればよしとしよう」

青年「そうだな。それがいい」

女性「……」ジュージュー

眼鏡「身がボロボロにならない――――」

女性「な、何?」

青年「時すでに遅し……」

女性「べ、別においしければいいでしょ!!」

青年「…………まあ、スクランブルエッグみたいな感じだと思えば」

眼鏡「あれは卵でこっちは魚だよ」

女性「集中できないからあっちで待ってて」

青年「見とかないと変なもん入れるだろ?」

女性「入れないから、一応ここに来る前までは一人暮らししてたんだから」

青年「へえ……」

女性「見てくれは悪くてもおいしかったわよ」

眼鏡「どうやっても見た目はうまくいかなかった訳か」

女性「……」

青年「俺だって必要最低限しか料理作れないから」

女性「そのフォロー別に嬉しくない」

青年「……」

眼鏡「作れたんだな」ボソッ

青年「え?」

眼鏡「今まで作るって言わなかったからてっきり作れないとばかり思ってたけど」

女性「作れるわよ。ちゃんと」

今回はここまでです。

乙です
思えば女ってハンター内で貴重な女性キャラなのに凄く影が薄い気がする……

乙乙
どんどん色濃くなっていくんじゃないか変身方法は既に超濃いし

眼鏡「意外……」

女性「……」

女性「ほら、出来た」カチャ

青年「見た目は微妙だな」

女性「味はいいから。食べてみなさいよ」

青年「はいはい」モグモグ

眼鏡「……」モグモグ

女性「どう?」

青年「うん……」

眼鏡「良くも悪くも普通の味だな」

女性「はい?」

青年「おいしいんだよ。おいしいんだけどさ」

眼鏡「想像の範囲内のおいしさだね」

女性「……」

眼鏡「自分でも食べてみたらどうだ?」

女性「……」モグモグ

女性「うん。おいしい」

青年「そう。俺もその感じ」

眼鏡「僕もそんな感じだな」

天才「ああ、終わった終わった」ガチャ

眼鏡「ノックして下さいよ」

天才「ああ。ごめんごめん」

青年「直す気ないでしょ」

天才「うん。無いね」

青年「……」

天才「お、夕飯は……」

女性「焼き魚です」

天才「身がボロボロなのはなんで?」

眼鏡「スクランブル焼き魚だからです」

天才「……」

女性「天才さんも食べてみます?」

天才「……一口だけ」モグモグ

天才「うん。おいしいね」

青年「黒髪さんは家に帰ったんですか?」

天才「うん。子供を迎えに行ってそのついでに帰るって言ってたよ」

眼鏡「忙しいんですね」

天才「仕方ないと思うけどね」

女性「いいなあ、私も子供が欲しいなあ」

眼鏡「……青年。ご飯のおかわりくれるか?」

青年「……いいよ」

女性「なんか言ってよ!!」

青年「なんて言えばいいか思いつかなかったんだよ」

眼鏡「そうか、としか言えないよ」

女性「そうかもしれないけど、スル―は無いでしょ」

眼鏡「すまん」

天才「やっぱりこの部屋は楽しいね」

青年「そうですか?」

天才「騒がしくて好きだよ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次の日


女性「青年。起きて」

青年「……」

女性「青年!!」

青年「……なんだよ」

女性「買い物行くから付き合って」

青年「……なんで俺?」

女性「暇でしょ」

青年「眼鏡が」

女性「あいつなら出掛けたわよ」

青年「あ、あれ?」

女性「ほら、早く」

青年「マジかよ」

女性「早く」

青年「分かったよ。分かったから」

女性「ほら、準備準備」

青年「……」

女性「眠そうね」

青年「眠いんだよ!!」


~~~~~~~~~~~~


数分後


青年「準備出来たぞ」

女性「案外早かったわね」

青年「お前が急がせたんだろ?」

女性「じゃあ行くわよ」

青年「何処へ?」

女性「だから買い物よ」

青年「何を買いに行くかって事だよ」

女性「夕飯の材料とあなたの為の生活用具よ。あなたの生活用品ほとんど無いでしょ?」

青年「え、あ、ああ」

女性「後は、私が変身の時に使う道具を少し」

青年「どこで買うんだ?」

女性「おもちゃ屋さん」

青年「……」

青年「お前さ……いや、やっぱいいわ」

女性「言いたい事は凄く分かるけど無視させてもらうわ」

青年「ああ、そうしてくれ」

女性「じゃあ行くわよ」

青年「最初はどこだ?」

女性「あなたの生活用品が一番大事でしょ」

青年「ああ、そうか」

女性「何? 最初に変身の為の道具を買うと思ったの?」

青年「ああ」

女性「……」

青年「……」

女性「それは最後よ」

青年「じゃ、じゃあ行くか」

女性「ええ」

今回はここまでです。

~~~~~~~~~~~~


町中


女性「何が欲しい?」

青年「とりあえず最低限のものは支給されてるからな。何がいいだろ」

女性「欲しいものとか無い訳?」

青年「特には無いな」

女性「……若い癖に」

青年「同い年だろ」

女性「同い年だからよ。私は欲しいものだらけよ」

青年「今は特になあ……」

女性「じゃあ服買うわよ。服」

青年「服?」

女性「別にあって困るものじゃないでしょ」

青年「そうだな」

女性「行くわよ」

青年「はいはい」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


研究室


学者「……」ガチャ

博士「勝手に使ってるぞー」


そこにいたのは白衣を着た坊主頭の男だった。
いかつい顔はまるでどこかのヤクザの様だ。


学者「別にかまいません」

博士「それにしても相変わらず何もねえな。コーヒーとかねえのか?」

学者「すいません。ここにはそういうものは置いてないので」

博士「そっか。そりゃ残念」

学者「……本題は、何ですか?」

博士「本題? ああ、悪い悪い。すっかり忘れてた」

学者「……」

博士「所長の所に手紙を出したんだって?」

学者「はい。丁度若い男が論文を見せに来てくれたのでついでにと頼みました」

博士「論文はどうだった?」

学者「良い出来でしたよ。とても」

博士「ははっ。嘘は、良くないなあ」

学者「……」

博士「一応あいつ等は俺の部下でよ。あいつを行かせたのも俺なんだわ」

学者「そうですか」

博士「あいつ等はプライドだけは一人前だ」

博士「そりゃそうだよな。エリートって言われ続けて育ってきた温室育ちだ。挫折ってものを知らねえ」

学者「なぜ、ここに?」

博士「分かってんだろ?」

学者「……プライドを叩き折るためですか?」

博士「大正解。あのタイプは一回プライドをへし折っておかないと後で面倒だ」

学者「まあ、後で苦労するでしょうね」

博士「……ああいうタイプは大っ嫌いだもんな。お前」

学者「……本題は何ですか」

博士「おっと、無駄話が過ぎたかな?」

学者「ええ、少しだけ」

博士「お前が出した所長の手紙への返答だよ」

学者「どうですか?」

博士「ったくよ。予算を増やせなんて手紙送ってくるじゃねえよ」

学者「少し予算が厳しいんですよ」

博士「予算は増やせねえ」

学者「……所長からの言葉ですか?」

博士「おいおい。まさか俺が勝手に手紙を見て、独断で決めたなんて思ってんじゃねえよな?」

学者「ええ。一回あなたはやっているでしょう?」

博士「昔の話を蒸し返すなよ。それに同僚なんだから少しは信用しろよ」

学者「今はあなたの方がずいぶんと上じゃないですか」

博士「自分で望んだ結果だろ」

学者「……そうですね」

博士「お前は俺の事を上だとか本部の人間だとかって思ってるかもしれねえけど、俺は今でも同僚だって思ってるぜ」

学者「ありがとうございます」

学者「……」

博士「……」

学者「……所長の文章は無いんですか?」

博士「テメェは……ったくよお」

学者「あの人ならきちんと書類を書くはずですが」

博士「……所長は今でかいプロジェクトに参加してて動けねえ。だから今は俺が所長代理なんだ」

学者「プロジェクト?」

博士「内容は知らねえ。俺達ぐらいの人間にゃあ教えられねえってっ事だよ」

学者「……」

博士「……ここからの話はトップシークレットだ。誰にも話すなよ」

学者「話す様な人間もいませんよ」

博士「プロジェクトが始まったのは二年前から。発案者は所長らしい」

博士「そんで、すげえ額の金が動いてる」

学者「へえ……」

博士「それが異常な額だ」

学者「どのくらいですか?」

博士「大体、うちとお前ん所の研究所の予算と同額だってよ」

学者「は?」

博士「な、だから言っただろ」

学者「……」

博士「俺がいつも言う事覚えてるか?」

学者「適材適所。研究者は研究だけに専念すればいい。ですよね」

博士「ああ、その通りだ。俺もあんまりこういう事に首は突っ込みたくねえんだけどさ。けどこれは度が過ぎてんだ」

学者「そうですね」

博士「……いや、別に何かしてほしい訳じゃねんだ。ただ知っとけって事だ」

学者「支部の所長なんかの出来る事なんて知れてますよ」

博士「ははっ。違えねえ」

博士「……」

学者「……」

博士「少し、嫌な予感がする」

学者「同感です」

博士「気をつけろよ」

学者「ええ」

今回はここまでです。

乙です
デートかと思えばこの展開……やっぱ女ってwwww

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


町中


女性「結構買ったわね」フゥ

青年「半分はお前の服だけどな」

女性「だって勧めても全然興味なさそうだったじゃない」

青年「……だからってなんで自分の服をそう何着も買ってんだよ」

女性「最近買ってなかったから丁度良かったのよ。じゃあ次行くわよ」

青年「次は?」

女性「おもちゃ屋よ」

青年「ああ、はいはい」スタスタ

女性「……」スタスタ

青年「なあ」スタスタ

女性「何?」

青年「俺とお前で行ったらあれじゃね? その――――」

女性「それ以上言わないで、十分分かってるから」

青年「……」

女性「……」

青年「……」

青年(……わ、話題を変えた方がいいか)

青年「女性は彼氏とかいないのか?」

女性「いないわよ」

青年「……あ、そうか」

青年「……」

女性「……何?」

青年「……い、いや?」

女性「あなたはいいわよね。心臓を貫くだけで変身出来て」

青年「そんな事ねえよ。滅茶苦茶痛いし」

女性「でも痛いだけでしょ」

青年「……」

女性「それに暴発で変身するなんて事無い」

青年「どういう事だよ」

女性「勝手に変身しちゃう事とか不可抗力で変身しちゃう事なんて無いでしょ?」

青年「まあ、そうだけどさ……」

女性「オナニーしたら変身しちゃうなんて絶対嫌でしょ?」

青年「……ま、まあ」

女性「そう言う事よ」

青年「……」

女性「……着いたわね」

青年「なあ、マジで行くのか?」

女性「当たり前じゃない。ほら、早く。中に入っちゃえば一緒よ」グイッ

青年「わ、分かった分かった」ズルズル

~~~~~~~~~~~~~~~


女性「うーん。どっちがいいかな」

青年「どう違うんだ?」

女性「色よ。見て分かるでしょ」

青年「別に何色でもいいだろ」

女性「私はこれからずっと使うんだから愛着がわく色の方がいいでしょ」

青年「愛着の湧く色って何色だよ」

女性「ピンクと黒どっちがいいと思う?」

青年「うーん。でもピンクの方が女の子っぽいよな」

女性「そう?」

青年「うん」

女性「じゃあピンクね」

青年「それってどう動くんだ?」

女性「説明し辛いけど、うねうね? 動くわ」

青年「うねうね……」

女性「あなたの分も一個買う?」

青年「いや、俺はいい」

女性「……そうよね。彼女もいないし買っても意味無いわよね」

青年「おい、どういう意味だよ」

女性「え、いるの?」

青年「いねえけどさ……」

女性「ほら、いないじゃない」

青年「お前さ、恥ずかしくないの?」

女性「知られちゃった以上仕方ないわよ。多少は慣れたし」

青年「買うのも?」

女性「店中に居る人は同類じゃない。ならもう堂々としてた方がいいでしょ」

女性「あ、オナホもあるわよ」

青年「いらねえよ!!」

女性「あ、そう」

女性「……」

青年「どうした?」

女性「いや、こんなもん買ってりゃ、そりゃ彼氏も出来ねえなって思っただけ」

青年「反応に困るんだけど」

女性「私結婚出来るのかな……」

青年「……」

女性「あ、あとローション欲しいんだけど」

青年「ああ、分かった分かった」

女性「あなたは本当に何にも買わないの?」

青年「買わねえよ。いらねえもん」

女性「あ、そう。ねえ、どっちの方がいいと思う?」

今日はここまでです。

乙です
ぶっちゃけ初心者におもちゃの良し悪し聞いても判らんと思うけど
さり気なく何度も誘惑してるよなwwww

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


女性「結構買っちゃったわね」

青年「なんだかんだで大量じゃねえか」

女性「これで一年弱はもつわね」

青年「ああ、そうですか」


ピリリ


女性「ケータイ鳴ってるわよ」

青年「眼鏡からか」ピッ

眼鏡『今何処にいる?』

青年「今は女性と買い物してる」

眼鏡『ああ、なら丁度いい』

青年「何が?」

眼鏡『今日帰れそうにないんだ。だから夕飯はいい』

青年「了解」

眼鏡『外食でもしてきてくれ』

青年「ああ、分かった。いつ頃帰って来るんだ?」

眼鏡『明日の朝には帰る』

青年「分かった。気をつけてな」

眼鏡『ああ』ピッ

女性「なんだって?」

青年「眼鏡今日は帰ってこないってさ」

女性「そう」

青年「どうする? 外食にするか?」

女性「うーん。そうね。そうしましょう」

青年「何がいい?」

女性「うーん……」

姉「父さん。早く」

黒髪「分かった分かった」

青年「あ、黒髪さん」

黒髪「あ……」

弟「パパの知り合い?」

黒髪「あ、ああ。うん」

女性「こんにちは」

姉「こんにちは」

青年「どうしたんですか?」

黒髪「今日は嫁がいないから夜は外食にしようと思ってね」

青年「俺等と同じですね」

黒髪「そうなんだ」

女性「もしよかったら一緒にどうですか?」

黒髪「……姉と弟はどうしたい?」

姉「みんなで食べた方がおいしいから一緒に行きたい」

弟「ぼ、僕も」

黒髪「そうか。じゃあ一緒に」

青年「すいません」

黒髪「別に構わないよ。姉の言う様にみんなで食べた方がおいしいしね」

女性「何が食べたい?」

姉「うーん……ハンバーグ」

弟「僕はオムライス……」

青年「俺はグラタンとかピザとかがいい」

女性「あなたには聞いてないわ」

青年「……」

黒髪「じゃあ、ファミレスかな」

青年「そうですね」

女性「じゃあ行こっか」スタスタ

姉「うん」スタスタ

弟「うん……」スタスタ

黒髪「青年君は両親に会った?」スタスタ

青年「え?」

黒髪「ハンターになってから両親に会った?」

青年「……会ってないですね。これって話してもいいんですか?」

黒髪「学者が言うには最低限なら伝えても構わないらしい」

青年「え、でも、もし広まったりしたら……」

黒髪「情報なんて簡単に操作できる。マスコミもネットもね」

青年「……」

黒髪「だから別に話しても問題は無いんだってさ」

青年「でもなんて話したらいいかも分かんないんですよね」

黒髪「……うん」

青年「……」

黒髪「つまらない話だったね。今日は僕が奢るから好きな物を食べていいよ」

青年「そんな、悪いですよ」

黒髪「一応先輩なんだし、いいよ」

青年「……ありがとうございます」

黒髪「いえいえ」ニッコリ

今回はここまでです。

次くらいにキャラ紹介を入れるかもしれないです。

乙です

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ファミレス


姉「私はハンバーグ」

弟「僕はオムライス」

青年「俺はグラタンで」

女性「私は天丼で」

黒髪「僕はうどんで」

店員「かしこまりました」

青年「なんかすいません」

黒髪「いいよいいよ。普段あんまり一緒に居られないからこういう時くらい先輩っぽい事しないと」

女性「黒髪さんはうどんだけで大丈夫なんですか?」

黒髪「ああ、うん」

姉「パパ。デザートも頼んでいい?」

黒髪「ご飯を全部食べて、それでも食べれるならいいよ」

姉「分かった」

弟「僕もいい?」

黒髪「うん。食べれたらね」ニコッ

青年「いい父親だなあ」

女性「なんか、いいわね」

黒髪「なんだか照れるなあ」

店員「ハンバーグと、うどんです」カチャ

黒髪「ありがとう」

姉「ありがとうございます」

女性「しっかりしてるわね」

青年「まだ小さいのにな」

女性「見習ったら?」

青年「ちょっと言ってる意味が分かんないかな」ニッコリ

黒髪「青年君は少しは慣れた?」

青年「はい。でも天才さんや眼鏡みたいに強くないですからこれからちゃんと鍛えないといけないですね」

黒髪「僕も出来るだけ協力するよ」

青年「ありがとうございます」

店員「オムライスとグラタンになります」

青年「ありがとう」

弟「……」

黒髪「弟。ちゃんとお礼言って」

弟「あ、ありがとう」

青年「女性。先食っていいか?」

女性「なんで私に聞くのよ」

青年「だって女性のまだ来てないし」

女性「別にそんなこと気にしてないでさっさと食べればいいじゃない」

青年「じゃあ、お先にいただきます」

女性「はい」

店員「天丼になります」

女性「ありがとう」

黒髪「青年君は元々大学生だったんだっけ?」

青年「はい。なんかうちの学校と研究施設が手を組んでたみたいで」

黒髪「よくある話だよ。僕の会社もそうだった」

青年「元々は何の会社に?」

黒髪「薬系の仕事だよ」

青年「へえ」

女性「そう言えば奥さんと出会ったのはいつ頃なんですか?」

黒髪「僕が二十歳の時だから、九年前かな」

青年「あれ、姉ちゃんは今いくつ?」

姉「七歳だよ」

女性「弟君は?」

弟「五歳……」

青年「黒髪さんって意外と若いんですね」

黒髪「え?」

青年「子供がいるって聞いてたから三十後半かと思ってました」

黒髪「ほとんど三十歳だし体も昔みたいには動かせないよ」

姉「ごちそうさま。デザート食べていい?」

黒髪「いいよ」

青年「黒髪さんはいつ来てるんですか?」

黒髪「基本的に日曜日以外の昼はいつもいるよ」

青年「じゃあ今度天才さんと特訓する時来てもらってもいいですか?」

黒髪「別にいいけど、天才の方が強いよ?」

青年「天才さんは次元が違いますから」

黒髪「ははは。確かに彼は化物の域だからね」

青年「じゃあお願いします」

黒髪「こちらこそよろしくね」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


部屋


青年「ただいま」ガチャ

女性「帰って無いみたいね」

青年「だな」

青年「もう寝るか?」

女性「荷物整理してからかな。あなたもちゃんと服整理しときなさいよ」

青年「分かってるよ」

女性「ならいいんだけど」

天才「元気か?」ガチャ

青年「天才さん?」

天才「ああ。ノックだね」コンコン

青年「遅いですよ!!」

女性「また暇つぶしですか?」

天才「ちょっと違うかな。青年、明日特訓するよ」

青年「いつもの場所ですか?」

天才「うん、黒髪さんから連絡が来て、明日やろうって」

青年「早いですね」

天才「ん?」

女性「さっき黒髪さんとご飯食べてきたんですよ」

天才「ああ。そうなんだ」

青年「俺が特訓を手伝ってほしいって言ったんですよ」

天才「ああ、そうなんだ」

青年「眼鏡も呼びますか?」

天才「うん。そうしてくれると助かるな」

青年「分かりました」

女性「天才さん。美人さんとはうまくやれてますか?」

天才「出来る訳ないじゃん」

女性「少しは努力して下さいよ」

天才「あいつは固いんだよ。柔らかさが足りない」

女性「天才さんには固さが足りませんね」

天才「よく言われる」

青年「……」

今回はここまでです。

すいませんが間に合わなかったのでキャラ紹介は次回に。

乙です
いくら名前にしてると言っても「天才」や「美人」とか名乗ってるのはシュールだなww

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


次の日  一室


黒髪「戦っている時に一番やっちゃいけない事が何か分かるかい?」

青年「え……」

眼鏡「無茶です」

黒髪「うん。それも一つだよ」

天才「死ぬ事」

黒髪「うん。そうならない様にどうしようかって話なんだけどな」

青年「諦める事ですか?」

黒髪「近いけど、ちょっと違うかな」

青年「……」

黒髪「分からない?」

青年「はい」

黒髪「他にもいろいろあると思うんだけど、僕は迷う事だと思うんだ」

青年「迷う事ですか」

黒髪「一瞬の迷いが死に直結する事はおかしくないからね。とにかく信じるんだ」

青年「何をですか」

黒髪「その時によって違うけど、仲間だったり自分だったり、いろいろだね」

戦士「よくそんな偉そうなこと言えたな」

青年「誰だよ」


それはすらりとした男だった。
だが体はしっかりと引き締まり、その目はいくつもの戦場を乗り越えた者の目をしていた。


戦士「自分が一番迷っている癖に何を偉そうに。臆病者が」

青年「だからお前は誰だよ」

戦士「……口のきき方がなって無いな。先輩には敬語だろうが」

戦士「お前が人にそんな事言えるのか?」

黒髪「……確かに君の言う通りかもしれないね」

戦士「かもしれないじゃなくて、その通りだろ?」

青年「……」

戦士「お前が新しく入った新人か。俺は戦士だ」

眼鏡「すいません。ちゃんと言っておきます」

戦士「口のきき方から教えとけ」

青年「あぁ!?」

天才「あんたは先輩かもしれないけど、言い方ってもんがあるんじゃない?」

戦士「天才。お前も口のきき方がなってないみたいだな」

天才「すいません。俺馬鹿なんで敬語とかよく分かんないんだよね」

戦士「……」

黒髪「天才、青年。少し落ち着いて」

青年「でも」

黒髪「仲間同士でいがみ合ってもいい事なんて無いよ」

青年「でも、いいんですか?」

黒髪「彼の言っている事は事実だよ」

天才「言い方ってものがあるんじゃない?」

眼鏡「天才さん。落ち付いて下さい」

天才「ずっと冷静だよ」

黒髪「落ち付いてないから言われてるんだ」

天才「……」

戦士「青年、だったか?」

青年「ええ」

戦士「弱い癖に調子に乗ると痛い目を見るぞ」

青年「痛い目を見なくなる様にこうやって特訓してるのでご心配無く」

戦士「ちゃんと敬語も使えるのか。見直したよ」

青年「……どうもありがとうございます」

天才「俺はあんたの事尊敬してる。けど黒髪を馬鹿にする言い方は気にくわない」

戦士「なら俺はお前の望む嘘をついてやれば良かったのか?」

天才「誰がそんな事言ったんだよ」

戦士「なんだ、違うのか?」

眼鏡「その辺にして下さい」

戦士「この中で一番頭のいいお前はどう思うんだ?」

眼鏡「僕はあなたが思っているほど頭の良い人間では無いので、意見は控えさせてもらいます」

戦士「……なんだ。つまらんな」

眼鏡「すいません」

戦士「空気になっているお前はどうなんだ?」

黒髪「……」

戦士「まだ空気でいるつもりか?」

黒髪「確かにそうだね。僕は君と違って臆病だから、どうしても言えないよ」

戦士「言えない? 言わないだけだろう?」

黒髪「……そうかもしれないね」

戦士「かもしれないじゃない。そう、なんだ」

黒髪「……」

天才「……」ギリリ

眼鏡「天才さん。少し抑えて下さい」ヒソヒソ

黒髪「僕は君とは違うんだ……」

戦士「……そうか。よく分かった」スタスタ

青年「……なんなんですかあいつ」

天才「黒髪と同じ時期に入って来た戦士だよ。普通に強いから尊敬してるけどあの態度は気にくわない」

黒髪「彼も彼なりに苦労してるんだ」

天才「でもあの態度はいつ見ても嫌だね」

黒髪「……」

黒髪「そう言えば青年君には話してなかったね」

青年「え、はい」

黒髪「僕は妻と子供達に僕がハンターだって事を伝えてないんだ」

青年「え?」

黒髪「言わなくちゃいけないとは思ってるんだけど、怖くてさ」

眼鏡「僕達はもう人間じゃないんだよ」

青年「……そうだったな」

黒髪「その事を伝えたら、どうなるのか分からなくて……」

青年「……」

眼鏡「その事を臆病だなんて言う気はありませんから」

黒髪「悪いね」

天才「じゃあ、邪魔が入ったけど始めようか」

黒髪「そうだね」

青年「よろしくお願いします」

天才「じゃあ、行くよ」

青年「はい!!」

キャラ紹介


青年    20歳

元々はとある大学の二年生。
専攻は経済学。
比較的社交性が高いのでハンター内でもうまくやっている。
一人暮らしで自炊も出来るので料理も簡単なものなら作れる。
元々身軽なのもあり、動きが俊敏。
戦闘は危険を冒してでも攻めていくタイプであり、そのため反撃を受ける事も多い。
変身方法は自分の心臓を自分で貫く事。



眼鏡     20歳

元はとある会社の事務をしていた。
商業科の高校を卒業している。
ハンターになったのは半年ほど前で、その頃から天才に鍛えられた。
相手が戦いにくい戦い方を戦闘スタイルとし、無理な攻撃をしてきた相手を狩る事が多い。
自分から攻める事は基本的には無い。
高校から一人暮らしの為料理のスキルは高い。
変身方法は食塩の大量摂取。


女性    19歳

元々はお嬢様学校の学生。
優秀な兄と姉がいる。
そのため自分は凡人だと思っているが、周りから見ればかなりの肺スペック人間である。
頭もよく、体力も眼鏡や青年と比べても負けていない。
趣味は買い物と散歩。
変身方法はイク事。




天才      23歳

元々はフリーター。
性格もあって知り合いは多い。
フリーター時代は時間を見つけてはいろいろな格闘技を学んでいた。
ハンターになってからは暇な時間が多いので時間の使い方に困っている。
意外と世話好きで、年下や新米のハンターの面倒をよく見ている。
変身方法は一定以上の苦味を感じる事。

今回はここまでです。

乙です
>女性 かなりの肺スペック人間
水泳も得意なんですね判ります

すいません

>>126
ハイスペックです。
多分、と言うか絶対誤字が大量に出てくると思うのでその辺は脳内変換お願いします。

今回も今まで通り大量の御変換と誤字が発生すると思います。

まあ誤字なんてどうでもいい

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


三時間後


青年「……」ハァハァ

眼鏡「……」ゼェゼェ

天才「まあ、こんなもんかな」

黒髪「さすがだね」

天才「黒髪だって余裕じゃん」

黒髪「表に出してないだけで、限界だよ」

天才「またまた」

黒髪「本当だって」

青年「黒髪さんも、相当、じゃないですか」ハァハァ

黒髪「全然だよ」

青年「……」

天才「これからどうする?」

青年「もう部屋に帰りますよ」

眼鏡「僕もです」

天才「丁度いいし飯でも行かない?」

眼鏡「別にいいですけど」

青年「俺もです」

天才「黒髪はどうする?」

黒髪「別に問題ないよ」

天才「じゃあ行こっか」

青年「何処に行くんですか?」

天才「俺がよく行く飯屋」

眼鏡「好きですね。あそこ」

天才「気にいってるからね」

青年「遠いですか?」

天才「いや、近いよ。それに安い」

黒髪「歩いていく?」

天才「どうする? 車でもいいけど」

青年「歩いていきます」

眼鏡「僕も歩きでいいです」

天才「そう」

黒髪「じゃあ出発」

~~~~~~~~~~~~~~~


飯屋


天才「こんちは」

店主「お、いらっしゃい。今日は知り合いも一緒かい?」

天才「売上に貢献してあげるよ」

店主「あはは!! ありがたいねえ」

娘「また来てくれたんですね」


それは青年達と同じくらいの年齢の女性だった。
短めの茶髪に丸い目。
元気そうな人だった。


天才「ここくらいしか飯食う所ないしね」

青年「常連っぽいなあ」

眼鏡「天才さんは出掛けた帰るとかにも寄ってるからね」

青年「そんなにおいしいの?」

黒髪「僕は好きだよ」

青年「へえ」

娘「何にしますか?」

天才「うどん四つ」

娘「……いつもうどんですね」

天才「だっておいしいじゃん」

娘「……メニューはいろいろあるんですからもっといろんなもの頼んで下さいよ」

天才「うどんでいいよ」

娘「もー!!」

天才「また今度来るとき頼むよ」

娘「いつもそうやって言うじゃないですか!!」

天才「店主。うどん四つ」

店主「はいはい」

青年「……」

眼鏡「どうした?」

青年「天才さんって何処でもあんな感じなんでなって……」

眼鏡「ああ、あの人はいつでもあんな感じだよ」

黒髪「二人とも、そんな所に立ってないで座ったら?」

眼鏡「あ、はい」

青年「……」

天才「ここのうどんおいしいから。あ、うどん嫌いじゃないよね?」

青年「別に大丈夫です」

天才「そう、ならいいね」

青年「……」

ピリリリリ


眼鏡「……昼食は少し後回しですね」

青年「モンスター?」

黒髪「そうみたいだね」

天才「店主。うどんちょっと待って」

店主「あ、ああ。またか?」

天才「片付いたらまた来る」

店主「あいよ。作っとくからちゃんと来いよ」

天才「はいはい」

青年「近くか?」

眼鏡「ああ、徒歩で行ける距離だ」

黒髪「急ごうか」

青年「そうですね」

天才「ちゃちゃっと片付けちゃおうぜ」

キャラ紹介




学者    38歳


青年達のいる支部の所長。
自分の研究だけでなく、様々な事を勉強しているので雑学も詳しい。
人間付き合いは下手ではないが好きでもないので、自分から支部に行く事を望んだ。
自分の部下や仲間には優しく、より簡単に、体の負担無く変身できるように日々研究している。
余談だが、女性に変身の為の道具を作ると提案した事があったが断られている。



黒髪    29歳

元々は薬品系の会社の営業マンだった。
優しい物腰と話しやすさから、そこそこ成績は良かった。
自分の事を家族に話すべきか悩んでいる。
多段階変身できる数少ない人。
家事全般は得意。

今回はここまでです。

乙です
学者wwwwww
黒髪の変身方法が無いと思ったらまだ変身してなかったのか

なぜ断られて引き下がった!
いつでもどこでもすぐいける装着型の機械とか作ってくれよ!
必要な時にすぐいけるように日常的に焦らし続ける夢のようなマシンとか!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~



天才「なんだ、あんた等も来てたんだ」

隊長「どうやらかなりの量が現れたらしい。今回はお前達との共同戦線になる」

青年「この方は?」


それは赤茶の髪の女性だった。
腰には二丁のハンドガンが装備され、肩からはアサルトライフルを担いでいる。


黒髪「隊長さん。対モンスターの特殊部隊のリーダーだよ」

隊長「お前が新しいハンターか。私は隊長だ。よろしく」

青年「よろしくお願いします」

隊長「ああ」

黒髪「敵の位置と数は分かっていますか?」

隊長「今の所は四体。他の連中が足止めをしているだろう」

黒髪「じゃあ僕達がバラけてモンスターを叩きます」

隊長「頼むぞ。私達も援護に回る」

黒髪「はい」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


もしもそれを見た人間はきっと誰もが夢でも見ているんじゃないかと目を疑っていただろう。
もしその話を聞いた人間がいたなら夢でも見たんじゃないか、と一蹴していただろう。
それはまるで中世の昔話の一幕の様な光景だった。

片やは全身を茶色の固い毛で覆われ、真っ白な牙と爪を光らせる、狼男の様な化物。
片や全身に黒く重い鎧を纏っている様な騎士。

狼男の爪を黒騎士が黒剣が受け止める。

騎士の持つ黒剣が振り下ろされる。
それは剣と呼ぶにはあまりにも大きく、あまりにも無骨な武器。
例えるなら鉄の塊とでもいえばいいだろうか。

彼等の今戦っている場所がもしも平原や城の一角であったのなら、それはまさしく昔話の一幕にふさわしいものだった。

狼男が後ろに大きく跳び、距離を開ける。
目標を失った黒剣が地面を砕いた。
蜘蛛の巣状に地面にヒビが入り、クレーター上にへこむ。

狼男が唸り声を上げながら、じりじりと接近してくる。

黒い騎士に変身した黒髪は狼男の様なモンスターを眺めながら、剣を肩に担いだ。

すでにあのモンスターには二撃、攻撃を当てている。
だがどの攻撃もうまい具合に交わされ、致命傷には至ってはいなかった。

一歩前に踏み込み、間合いを縮める。
モンスターはそれに応戦する様に牙を向き、突進してくる。

モンスターは理性をもたないが故に恐怖を感じる事は無い。
それはもしかしたらひどく便利なのかもしれない。
死の恐怖、痛みの恐怖が無ければ、迷いなど存在しない。
そこにあるのはただ、相手を殲滅するという機械的な感情のみ。
言わば一機の殺戮兵器になれるのだ。

だがしかし、そこには欠点があった。
例えば、恐怖が無ければ何処まで踏み込んでいいのかが分からない。
例えば、恐怖が無ければ、攻めてはいけないと気が分からない。
例えば、恐怖が無ければ、相手の殺気に気付けない。

黒髪の黒剣が凶悪な唸り声を上げながら、モンスター目掛けて襲いかかる。
その殺気に気付いていれば、もしかしたら、生き残れたのかもしれない。
だが残念ながらこの殺戮兵器は相手を撃破する事に執着し過ぎたのだ。

本気の踏み込みからの本気の一撃はあまりにも速く、あまりにも無慈悲だった。

モンスターの爪が黒髪に触れるより先に、モンスターの頭蓋を叩き砕く。
まるでスライム状に物体を踏みつぶした様な音が響く。
赤黒い液体が飛び散る。

頭を失ったそれは、脳髄が飛び散らせながら前のめりにそれは倒れる。
かつて人であったそれは一瞬痙攣し、二度と動く事は無かった。

???「さすがだ。トップクラスのハンターだけある」

黒髪「……君は誰だい? 見た所一般人じゃなさそうだね」


それは目にかかるくらいの茶髪の青年だった。
ジーパンにTシャツのラフな格好。
首からは銀のネックレスが見える。
だがその目はまるで全てを蔑むような目をしていた。


魔王「初めまして。我は魔を統べる者。魔王だ」

黒髪「青年が会った子は女だったらしいけど」

魔王「彼女もまた魔を統べる者。僕の部下だ」

黒髪「悪いけど、聞きたい事があるんだ。来てもらえないかな?」

魔王「僕は忙しいんだ。そんな暇は無いよ」

魔王「君も早く戻った方がいいよ。でないと多くの人が死ぬ」

黒髪「どういう事かな?」

魔王「さあね。今回は自己紹介に来ただけだ。また近いうちに会う事になる」


背を向けた魔王に、黒髪は襲いかかろうと考えていた。
しかし、寸での所で彼の体がピタリと停止する。

魔王「いい判断だ」


黒髪の動物的な何かが直感として告げていた。
『この相手には勝てない』、と。
もちろんそんなものは理由も無いただの妄想だと言い切ることだってできる。
けれどそんな余地すら与えないほど、その直感は的確だと、黒髪が認めざるを得なかった。


黒髪「今戦えば、僕は負けるかい?」

魔王「お前の勝率は限り無くゼロに近い一パーセントだ」

黒髪「……」

魔王「そんな所でぼんやりしてていいのかな?」

黒髪「なんで今のタイミングで姿を現した」

魔王「その質問に答える義理は無い。まあ、時間がたてば嫌でも分かる」

黒髪「君は、くえないね」

魔王「お前に言われたくない」

黒髪「それじゃあ、今度こそサヨナラだ」


魔王はそう言うと、のんびりと帰りだした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


研究施設


博士「元気かな?」

学者「……忙しいですよ」

博士「あのさ。もうちょっとユーモアのある回答をくれよ。それじゃあこっちが馬鹿みたいじゃねえか」

学者「少し調べさせてもらいました」

博士「何についてだ?」

学者「あなたが前回言っていた件についてです」

博士「……こっちも少しだけだが情報は引き出せた」

学者「そうですか」

博士「聞きたいか?」

学者「はい」

博士「ははっ。そうかそうか」

学者「……」

博士「聞きたいか? どうだ?」

学者「私はあなたほど暇ではないです」

博士「知ってるよ。お前の事はよく知ってる」

学者「……」

博士「あれ? もしかして怒ってる?」

学者「いえ」

博士「デウス・エクス・マキナ計画。それがこの計画の名前だ」

学者「……ずいぶんな名前ですね」

博士「ああ、くだらねえ計画だ」

学者「詳しい内容は分からないですか?」

博士「無茶言うな。ここまでだって見つかればどうなるかわかんねえんだ」

学者「有意義な情報ありがとうございます」

博士「そっちの情報はなんだ」

学者「秘境の島。と言う場所を知っていますか?」

博士「……何処だ」

学者「人口四十人もみたない様な小さな島です」

博士「そこがどうした。もったいぶるなよ」

学者「昔所長はそこで研究をしていたそうです。ここに来る前に」

博士「それがどうした」

学者「ちょうどこの計画が始まる前に、その島を訪れたらしいんです」

博士「……へーえ」

学者「何十年も行っていない所に、何故また行ったのでしょうか」

博士「所長に聞け」

学者「ええ、ごもっともです」

博士「学者。お前はどう見る」

学者「誰が見ても同じ考えにたどり着くかと」

博士「ああ、そうだな。その通り。その通りだ馬鹿野郎」

学者「ええ。あなたと同じ考えです」

博士「学者。少しその島について調べてくれ」

学者「わかりました」

博士「ああ、あと、本部にいるエリートってやつは気をつけた方がいい」

学者「気をつけておきます」

今回はここまでです。

乙です

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


青年「こっちは終わりましたよ」

眼鏡「こちらもです」

隊長「よし、じゃあ後は……」

隊員「隊長!! 大型のモンスターが近づいて来ています!!」

隊長「サイズは」

隊員「目測ですが体長三十メートルほどの二足歩行の竜型です」

隊長「場所は」

隊員「今は町の外れに居ますが、あと十分もすれば市街地に入ってきます」

隊長「……使える武器を集めろ。増援も呼べ」

隊員「はい!!」

隊長「青年、眼鏡。お前達は足止めを頼む」

青年「はい」

眼鏡「了解です」

天才「敵が来てるよ」タタタッ

隊長「知ってる」

天才「策はあるの?」

隊長「お前達四人で勝てるか?」

天才「無理だろうね」

隊長「……」

天才「後から美人と女性と戦士が来る」

隊長「それだけいれば、どうだ?」

天才「勝率は格段に上がる。特に美人と女性は鳥型だから特に強い」

隊長「じゃあそれまで足止めするぞ。私達も援護する」

天才「頼むよ」

隊長「天才は正面から。眼鏡と青年は側面から攻撃を仕掛けてくれ。私は天才の援護に回る」

隊員「わ、我々は」

隊長「援軍の要請と武器の確保が終わったらもてるだけ持って攻撃しろ。場所はどこでもいい」

隊員「了解」

隊長「必要以上の無茶はするな」

青年「はい」

眼鏡「分かりました」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


それはさながらゴジラの様な姿をしていた。
茶色のごつごつした体表に、軽く払われただけでも吹き飛んでしまいそうな巨大な腕。
鋭く白い牙に、トラックですら一撃でつぶせてしまう大きな足。
人が相手にするにはあまりに分が悪い相手。

その巨大生物の前に馬鹿正直に立ちはだかっているのは天才だった。
猫に似た姿をしたハンターはその大きさに口笛を吹き、にやりと笑った。


「隊長。援護は頼んだよ」

「任せろ」


隊長はスナイパーライフルを構えながら答える。

対モンスター用スナイパーライフル。
弾数は二十発のフルオート。
一発ですら装甲車すら容易く貫く弾丸を連射できる冗談の様な化物。
もちろん素人が使えば肩が外れるか、最悪は骨が折れかねない。
だが彼女達は特殊な訓練を受けた精鋭。
このとても人間では操れない様な化物ですらも反動を逃がし、撃ち続ける事が出来る。

スナイパーライフルに装填されている者も合わせてマガジンは四つ。
もちろんその程度の装備で足りるはずもないが、今はこれを準備するので精いっぱいだった。


「出来るなら殺してしまっていいぞ」

「無茶言わないでよ。隊長こそ、そんな所でそれ撃ってたら標的にされかねないよ」

「私達は囮でもある。そうなればそれでもいいさ」


天才は口端をつり上げて一度だけ笑うと、走り出した。
自分の体の一部を使い、柄の部分が異様に大きい槍を作り出す。
そしてその槍を構え、巨大なモンスターのくるぶしの辺りに突き刺した。

右手でその槍を掴んだまま、懸垂の要領で体を持ち上げる。
そして槍の柄の部分に立ち、左手に次の槍を生成。

その槍をまた突き刺し、同じ要領で上へ上へと昇っていく。

足を執拗に動かし、落とそうとするモンスターを尻目に、彼はすでに膝辺りまで登っていた。


「さすがに血と肉を使い過ぎてる……かな……」

視界が歪んでいる。
頭に霧がかかった様にぼんやりとする。

槍は作り出せて五本。
硬度を減らせば七本作れるが、それだと折れてしまうリスクが出てくる。

頭の中で思考する。
どう動けばいいのか、どうすればいいのかを頭の中で整理する。

今ここに居られるのは単衣に隊長のおかげだ。
彼女の援護射撃によって、このモンスターは天才の方に攻撃が出来ていないだけ。
隊長のライフルの弾がきれれば、標的は確実に天才の方へと向くだろう。

それを知っているからこそ、彼はここに留まり、休息する事を選んだ。

これは戦いですらない。
戦闘と捉えるのはあまりに滑稽だ。


「俺も囮だもんな」


彼はそう呟くと、槍を一本作り出し、また上へと登り始めた。

休憩なしで行けば太股辺りが限界だろう。
けれど、無茶をしなければ、意味が無かった。

囮である以上、目立たなくては意味が無い。

今回はここまでです。

乙です

~~~~~~~~~~~~~~~~


風がビュウビュウと音を立てている。
まるで不吉な何かが近づいてくるのを知らせる様な騒がしさ。
眼鏡が立っているのはビルの屋上。
巨大モンスターの腰辺りの高さのビルだった。

彼がここで行う事は一つ。
あの巨大生物の注意を逸らす事。

美人と女性、そして黒髪が来るまで十分と少し。
隊長の部下の増援が来るまでは、あと数分程度だろうか。

ならば、と彼は考える。

死力を尽くし、数十分間あれを動かさなければかなりいいはずだ。

天才は長期戦になる事を予想して、攻撃をしかけながらも、休憩を挟んでいる。
隊長も攻撃はしているが、彼女はあくまで人間。
攻撃も天才の補助程度だ。
ここで彼が一気に殺しにかかる様な戦闘をすれば、誰が標的になるのかは明白だ。

彼が標的になり、全力で応戦すれば天才と隊長は多少回復出来る。


「三分、いや、五分経ったら、発煙筒でも何でもいいんで合図を下さい」

「はい」

「お願いします」


そう言うと彼は走り出し、そのまま、巨大モンスター目掛けて跳んだ。

肉と骨で右手を覆う巨大な棘を形成。
同じ要領で左手にも同じような棘を形成する。
そのまま両手を巨大モンスターに突き刺した。

所詮は毒の無い蜂の一撃の様なもの。
チクリと痛むが、それで終わりの無意味な一撃。
だが、その邪魔で厄介で無意味な蜂を駆逐しない訳が無い。

巨大なモンスターの両目が彼を見る。
怒りに燃えたその目が彼を捉えた。


「さあ、目障りな邪魔者が一人増えたぞ」


残り四分と五十秒。
邪魔な蜂を殺すのには十分過ぎる時間だろう。

しかし。
追い詰められた鼠が猫を噛むように。
ライオンに子供を奪われたシマウマがライオンに襲いかかる様に。

圧倒的な力を覆すのは、決して不可能ではないのだ。
それが例え、限り無く零に近い可能性であったとしても。

眼鏡の体の倍以上の大きさのある手のひらが彼に掴みかかる。
それをするりと交わし。逆にその手のひらを棘で突き刺し返す。

素早く棘を手のひらから引き抜き、崖を登るような要領で、その化け物の体を移動していく。

出来る事なら天才の様に足場を作りながら移動した方が確実なのだが、彼にはそれほどの力は持ち合わせてはいない。
天才は囮として攻めながら移動している。
だが眼鏡は逃げる事で囮になっていた。

自分から攻撃はほとんどしない。
とにかく逃げる事に重点を置いて行動していく。


「青年か黒髪さんが来れば、少しは楽になるかな」


眼鏡は呟きながら、襲いかかる手をするりと交わした。

~~~~~~~~~~~~~~~~


二つの影が交差する。
片方は黒い体のおよそ正義の味方と思えない化物。
片方は戦場には不釣り合いなゴシック調のドレスを着て、傘を持った少女。

まるで喜劇の一幕の様な戦いは、何よりも鮮烈で何よりも苛烈だった。


「あはっ。やっぱりあなたってとっても素敵ね」

「邪魔すんじゃねえ!!」


黒い獣の爪が少女に襲いかかる。
しかし、少女はその爪を傘の先で受け止め、不敵に笑う。

傘の先と爪が擦れ合い、耳障りな音を立てる。
それは青年が力を入れ、そのまま押し切ろうとしているからだ。
だが、そんな事をものともせず、彼女は笑顔のまま、彼を眺め続けた。

何がそんなに楽しいのか。
何がそんなにうれしいのか。
彼には分からなかった。

彼女にそれを問いたい、とも思った。
だが、今の彼にそんな余裕はない。
巨大モンスターの所に一刻も速く向かわなければいけない。


「退け!! 相手ならいつでもしてやる!!」

「なら、今してくれてもいいんじゃない?」


青年は苦虫を噛み潰した様な表情で彼女の顔を一瞥した。

相変わらず彼女は笑っていた。
それはひどく邪悪で、ひどく美しい。
見ていると飲み込まれてしまいそうな、笑みは彼の心すらも侵食していた。

彼は押し黙ったまま、自分の胸から一本の剣をとりだした。
夜よりも、闇よりも黒いその剣の切っ先をを姫に向ける。

今回彼女に向けるのは悪意では無く、敵意でも無い。


「あら? あなたって意外とやる気なの?」

「お前がやるって言ったんだろ」


その時、青年は笑っていた。
自分でも驚いてしまうくらいに顔を歪め、醜悪に、邪悪に、そして楽しそうに笑っていた。

今回はここまでです

乙おつ

乙です

姫の傘が青年の右目目掛けて突かれる。

青年はそれを素早く交わし、カウンターの要領で剣を縦に振るった。
もちろん体制も崩れた一撃が当たるはずもない。
しかしその目は当てる気の無い者のそれでは無かった。
彼は外れる事を知っていながらも、本気で当てるつもりで剣をふるっていた。

互いに相手を殺すには十分過ぎる距離。

姫の傘と、青年の剣が交差し、ぶつかり合い、交わし合う。
それが何回、何十回とくり返される。

互いに薄皮一枚、刃の上を滑る様な繊細で、ギリギリの綱渡りの勝負。
もし勝負がつくのなら、一瞬だろう。

姫も青年も一旦さがり、勝負を一度振り出しに戻すという考えは一切無かった。
今この瞬間、この戦いを楽しむ。
勝つか、死ぬか、その二択だった。

皮肉な話だが、この時、この二人の心情はほとんど同じだった。
ただただ純粋に、相手をどうすれば殺せるか。
それをひたすらに思考し続けていた。

青年の剣が姫の頬を掠める。
姫の傘が青年の脇腹ギリギリを通り抜ける。
青年の剣が、姫の脇腹をほんの僅か裂き、姫の傘が青年の肩を僅かに抉った。

それはゆっくりと、しかし着実に相手を追い詰め、追い詰められていく詰め将棋に似ていた。
そして、今追い詰められているのは青年の方だった。

僅かに防戦に回ったのが失敗だった。
その隙を彼女が見逃すはずも無く、今彼は防御するので手一杯。
攻撃する余裕など微塵も無い。

姫の傘の先が、青年の右肩の少し上を通り抜けていく。
少しだけ、しかし着実に、まるで毒の様にゆっくりと死が近づいてくる。

姫の楽しそうな笑顔が見える。

青年はその後に来る攻撃を知っていた。
彼女は次に急所目掛けて、傘を突いてくる。
それは直感ではなく、今までの経験だった。

姫の傘が突かれた。
それは。
心臓を真っ直ぐに狙っていた。
青年は姫の突きを寸でで交わし、そのまま、相手の懐へと潜り込む。

姫が彼の行動に気付き、何かをしようとしていた。
だが、それはもう間に合わない。
時間があまりにも足りない。

右手は剣を持ち、振りかぶる。
左手は脇腹の辺りをおさえる。
そのまま横に薙ぎ払った。

姫が体を捻り、一撃をスレスレで交わした。
それと同時に、青年の体から生成されたもう一本の剣の柄を青年の左手が掴む。
そして、姫の心臓目掛け、その剣を突き刺した。

剣が肉を裂くのを感じる。
彼の頬に生温かい液体が飛び散った。

だが、外した。
心臓を外している。

あと一撃。
あと一撃与えれば殺せる。

青年の右手の剣が振り下ろされる。
ほぼ同時に姫の傘がそれを弾いた。

「残念ね。あなたって本当に残念」


口から血を流しながらも、姫は笑っていた。
いや、彼は笑っている以外の姫を見た事が無かった。

青年は一歩下がり、彼女との距離を開く。
と言ってもほとんどお互いに攻撃があてられる距離だ。

「そうでもない。まだお前と殺し合えるんだからな」


彼の言葉を皮肉と取ったのか、それとも本音と取ったのかは分からない。
だが彼のその言葉に姫は心の底から嬉しそうに微笑んだ。

それを青年はやはり綺麗だと感じてしまう。
その醜悪で性悪な美しさに呑まれてしまう。


「そう言えば、お前等の目的を聞いて無かったよな」

青年はほんの少しだけ邪悪な笑みを浮かべながら、彼女に問いかけた。
その時、一瞬だけ彼女の顔が真顔になったのを彼は見逃していた。


「私は世界を滅ぼしたいの。この世界を全て。綺麗さっぱり壊したい」

「それがお前等の目的か」

「いいえ。これは私の目的」


彼女の傘が青年に襲いかかる。
彼はそれを身を捩って交わし、そのまま右足を軸に回転しながら回し蹴りを放った。

姫の体はそこには無い。
青年の左足が何も無い空間を蹴っただけだ。


「あなたはどう思う?」

彼が蹴った位置より数歩後ろで彼女が問う。


「わかんねえ。つい最近まで普通の人間だった俺にはわかんねえな」

青年は溜め息交じりに続ける。


「でも、少しなら分かるかもしれない」


彼のその言葉に姫は初めて驚きの表情を見せた。
それこそ全く予想だにしない、とでも言うかのように。


「あなたって……やっぱり、残念ね」

「理解できるってだけで納得は出来ない」

「やっぱり、あなたって残念で馬鹿ね」

彼女の笑みはまるで秋の空の様に澄み渡っていた。
なのにどこか、北風の様な切なさをはらんでいた。

彼女の右手の人差し指が青年を指す。
それはまるで、死刑宣告をするかの様に。


「あなたはここでは殺さない。もっといい時、いい場所で殺し合いましょう?」

「そうだな」


互いに悪だくみをする悪党の様な邪悪な笑みを浮かべる。



「次に会う時を楽しみにしているわ」

「……次会う時にはちゃんと責任をとってもらうからな」

「ええ、楽しみにしておいて」


彼女は去り際に。また笑顔を浮かべて、消えていった。

今回はここまでです。

乙です

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


女性「黒髪さん!!」

黒髪「女性。上からお願い」

女性「はい、分かりました。黒髪さんは……」

黒髪「僕は正面から斬りかかる」

女性「だ、大丈夫ですか?」

黒髪「大丈夫」

女性「……」

黒髪「じゃあ早く――――」

隊長「少し待て」

黒髪「どうしました?」

隊長「兵器の準備が出来た」

女性「倒せるんですか?」

隊長「当たればな」

黒髪「?」

隊長「超大型電磁砲だ」

女性「は、はい?」

隊長「詳しい理論は私も知らんが、強力な電気で弾を飛ばす装置らしい」

黒髪「へえ」

女性「大丈夫なんですか?」

隊長「ああ」

女性「そうですか……」

隊長「まあ、使われる機会も無く、ほったらかしにされてきたものだが、まあなんとかなる」

女性「すいません。それって大丈夫なんですか!?」

隊長「試運転は問題なかったから大丈夫だろう」

女性「大丈夫だろうって……」

黒髪「仕留められるんですか?」

隊長「……正直に言えば、かなり怪しい」

女性「……」

黒髪「威力的な問題ですか?」

隊長「威力は十分だ。お釣りが来る。だが問題はその命中率の低さと、リロードの時間だ」

女性「どういう事ですか」

隊長「反動が大きすぎて、とてもじゃないが狙った所には当たらないんだ」

隊長「あのサイズなら外す事は無いだろうが……。殺せるかはかなり怪しくなる」

黒髪「連射は不可能なんですよね」

隊長「充電と装填を合わせて一分半程度。それに撃ち過ぎれば銃身が壊れるそうだ」

黒髪「何発が限界なんですか?」

隊長「五発だそうだ」

女性「……苦しいですね」

隊長「ああ、正直かなり分の悪い賭けだな」

女性「他の策は無いんですか?」

隊長「こちらは無い。もう少し予算があれば……」

黒髪「言っても仕方ないですよ」

隊長「核弾頭でもあれば一撃なんだがなあ」

女性「町への影響を考えて下さい」

隊長「冗談だ」

黒髪「多少ダメージを与えられるなら、可能性はあります」

隊長「……どうするんだ」

黒髪「女性と美人にピンポイントで急所を叩いてもらえば、可能性はあります」

女性「え、でも私達の力じゃあ……」

黒髪「隊長達の兵器と僕等の攻撃で支援すれば、何とかなる。と思う」

女性「……大丈夫なんですか。それ」

隊長「成功率は」

黒髪「多く見積もって三割って所ですかね」

隊長「低いなあ……」

女性「でもやるしかないんですよね」

隊長「電磁砲で仕留められる事を祈ろう」

黒髪「そうなるといいですね」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


黒い鎧を纏った黒髪は自分の胸に手を当てた。
ゆっくりと大きく息を吸う。
そして、そのまま息を止める。

意識を集中。
血管の血液の流れを加速させるのをイメージする。

彼の変身方法は一定の血液を体から抜く事である。
そのため彼は常に特注の注射器を持ち、それを静脈に刺して、自分の血を抜き変身する。

彼が変身した時、彼の血管と心臓は無意識的に武臓によって変化している。
それは彼がもう一段回変身するために下準備でもあった。

彼がもう一段回変身する方法。
それは血液の加速。
普段の流れよりも血液の流れを速くする事により、彼はもう一段回変身する事が出来る。
そのために彼は血管をポンプの様に変形させ、血流を加速させる。

普通の人間、いや、普通の心臓と血管であったのならそんな事をすれば死んでしまうだろう
血管が破れ、心臓も壊れてしまう。

しかし今の彼の心臓と血管はほんの少しだけ変化している。
心臓も血管も、その血流に耐えうる柔軟性と強度を持っていた。

もちろんだからと言って体の負担はゼロでは無い。
現に彼の体は悲鳴を上げ、彼もまた呻き声が僅かに口から漏れだしていた。


「変身」


呻き声と共に吐き出されるように言葉が流れた。
その瞬間、彼を覆っていた無骨で分厚い鎧が砕け散る。
黒い鎧は地面に落ちて、音を立てた。

その下にあったのは、今までとは正反対のものだった。
洗練された細身の鎧。
そこには禍々しさも重苦しさも無い。
その洗練された純白の鎧は神々しさすら感じられた。


「そんな格好は似合わんな。さっきの方がお前によく似てる」


嫌味な言葉は彼の後ろから聞こえた。
振り向かなくても、それが誰なのかはすぐの分かった。

「助かるよ。戦士」

「ふんっ」


真っ白な肌に、透き通る様に白い長髪。
目は赤く、犬歯は異様に長い。
その背中からは蝙蝠に似た羽が生えていた。
その姿はさながら、吸血鬼の伯爵を連想させた。


「お前はどうする」

「僕は正面から行くよ。戦士はどうするの?」

「そうだな……弱点はどこだ」

「頭を潰せば確実にこっちの勝ちだよ」


黒髪の言葉に戦士はそうか、とだけ呟いた。
そして少し考える様に俯き、そしてすぐに黒髪の方を見た。


「俺は頭を狙う。あいつの気を引いておいてくれ」

「分かった」


短い作戦会議が終わり、白い騎士と伯爵は巨大な化け物の方へと走り出した。

今日はここまでです。

乙です

乙乙

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ぐっ……」


奥歯を噛み締め、眼鏡は巨大なモンスターの体にしがみついていた。

体が錆ついた様に軋み、悲鳴を上げる。
すでに二回、足と腕の骨を折られていた。
武臓の力を使い回復はしたものの、そのツケは彼の体に負担となってのしかかっていた。


「眼鏡!! 大丈夫か!?」


黒い影が、彼の近くに寄ってくる。
到底味方には見えない、禍々しい姿は見間違える事は無い。

青年は右手には黒剣を持ち、翼を器用に使いながら彼の近くに掴まった。
禍々しい両目は彼を捉える。


「なんとか無事だ。遅かったな」

「ちょっと邪魔が入ったんだよ」


彼は苦笑いを浮かべながら、そう答えた。
その言葉に眼鏡もまた、僅かに顔の筋肉をゆるめた。

ほんの一瞬の安息を十分に堪能する。



「青年。来るぞ」

「分かってる」



大きな影。
モンスターの手が二人に襲いかかった。

二人の行動は迅速で、一切の無駄が無かった。

眼鏡は掴んでいた手をすぐに離し、そのまま落下する。
落下しながら、右手に棘を生成。
そのままモンスターの肌に棘を突き刺し、落下を無理矢理に停止した。

青年は上に逃れたらしく、彼の少し上の方に黒い羽が見えた。

その時、丁度赤い煙を巻く何かが飛んで来るのが見えた。

それは彼が指定した合図。
彼が自分の中で決めた時間。


「なんとか持ちこたえたか」


吐き捨てる様に呟き、溜め息をつく。

五分、と言う時間には意味がある。
それは眼鏡がこの巨大なモンスター相手に粘れるギリギリの時間でもある。
そして隊長の兵器と、黒髪が準備が出来るであろうと予想した時間でもあった。

上を見れば、すでに女性と美人が飛んでいる。

下では隊長達が何か大型の兵器を準備し、戦士と黒髪がこちらに向かってきていた。

もう十分。
それどころかお釣りが来る程度に粘っただろう。
そう彼は判断し、動き出す。

眼鏡は息を吐くと、ロッククライミングの要領で、化物の体を駆けあがっていく。
その速度はまるで、地面を走っている様に速い。

逃げる事だけを考えればいい今、彼に体力を温存するという選択肢は無かった。
一刻も早く、ここから逃げ、体力を回復する。
そのために彼は残った体力で、全力で移動する。

それが、彼の注意力を一瞬だけ鈍らせていた。

不意に目の前が真っ暗になる。
身動きが取れなくなり、何処が地面で何処が空なのかが分からなくなる。

何が起こったのか理解できないまま、彼は暗闇の中でもがき続ける。
そしてようやく、自分に起こった事を理解した。

ごく簡単な事だった。
モンスターに捕まった。
ただそれだけの事。
たったそれだけ。

けれどそれほどに単純な、その事実は、彼に絶望と焦燥を与える事になった。

死の恐怖。
それがまるで蛇の様に彼の体をゆっくりと締め付ける。


振り払おうとしても、それは決して離れず、彼をゆっくりと蝕み続ける。

必死にこらえていた何かが、崩れ始める様な気がした。
それを必死にこらえ、平静を保つ。

ここで壊れたら、本当に死しか待っていない。
それを己に言い聞かせ、心を繋ぎ止める。

耐えろ。
落ち付け。
諦めるな。

ああ、と声が漏れる。
それは消えそうに小さく、しかし彼の心の底を抉った。
それが諦めなのか、己を鼓舞するために放った言葉なのかは彼すらもよく分からなかった。

今の彼に出来る事と言えば外からかかる圧力に耐える事だけだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~


隊員「ほ、本当にいいんですか?」

隊長「黒髪もそれでいいと言っていた。それに彼等が離れてしまえば、どうなるか分かるだろ」

隊員「で、ですが……」

隊長「責任は私が持つ」

隊員「……」

学者「久しぶりだね」

隊長「学者か。どうして来たんだ」

学者「うちの戦力をほぼ総動員してるんだ。見に来て当然だろう」

隊長「……」

学者「話は聞かせてもらった。全責任は私が持つ。それを早く撃て」

隊長「半分は私でいい」

学者「頭が固いなあ。こういう時に素直にお願いしますって言えないと将来困る」

隊長「よく言う」

隊員「……」

学者「モンスターの弱点は頭だが、まずは体の中心を狙え」

隊長「?」

学者「これで殺せるとは思ってない。あいつの注意を逸らす程度でいい。ダメージが与えられればベストだがな」

隊長「信頼してないのか?」

学者「信頼はしてるさ。ただ君達より、彼等の方をより強く信頼しているだけだよ」

隊長「何故?」

学者「彼等は私の部下だからさ」

隊長「……聞いた通りだ。殺そうと思うな。当てるだけで上等だ」

隊員「は、はい!!」

学者「チャンスは少ないんだろう?」

隊長「私達を甘く見るなよ。一発目で当ててやる」

学者「それは楽しみだ」

隊長「……絶対に外すなよ」

隊長「了解!!」

今回はここまでです。

乙です

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ふいにモンスターの体が揺れる。
青年にとってそれは予想外の事態であったため、反応が遅れ、結果として振り落とされかける羽目になった。

その揺れが何なのかは彼には分からない。
だが、今はそれが何なのかを考えている暇は無かった。

眼鏡がモンスターの右手に掴まったのだ。
今は握りつぶされてはいないが、いつそうなるのかは分からない。

腕まではかなりの距離がある。
それに直線に腕まで素直に行かせてくれるとも思えない。

だが、行くしかないと、彼は思う。

目標目掛け、彼はモンスターの体を駆け上がる。


「おらァァァァ!!」


登って来るものを、身をよじり振るい落そうとする生きた壁を、彼は化物染みた速度で登っていく。

モンスターの左手が彼目掛け振り下ろされる。
人間が蚊を叩き潰す様に、それは襲いかかってくる。

だが、彼は止まる訳でも、手を離し、落下する訳でもなく、登る速度をあげてそれを回避する。

彼の背中に生えている翼は滑空用のものであり、その羽を使って空を飛ぶ事は出来ない。
しかし、登るスピードをあげるには十分過ぎるほど有能だった。

時間との戦い。
それは一分一秒を争う戦いだ。

問題があるとするなら、腕に到着した後、どうやってあの手のひらから眼鏡を救出するか、だろう。

剣を生成して、斬りつけたとしても、ダメージはほとんどないだろう。
無駄な事をしても、こちらが捕まるだけ。

それは理解していた。
だが、止まる事はどうしても出来なかった。

仲間を救え。
そう心が、魂が叫ぶ。

肩に乗り、そのまま右手目掛けて駆け抜ける。
脇腹から黒剣を生成。
それを右手に持ち、構える。

呼吸を調える。
精神を統一し、集中を高揚させる。


「爪と肉の間に剣を刺せ。そうすれば痛みで怯む。その後は俺が何とかする」


不意の声に青年の体がびくりと震えた。
下手をすれば、そのまま声のする方に剣をふるっていた可能性すらあった。


「どうした? 出来ないのか?」


皮肉めいた言葉が横を跳ぶ伯爵から吐き出される。
相変わらずの話し方に青年は僅かに苦笑した。


「出来ます。戦士さんもお願いします」

「任せろ」

更に体を加速させる。
余力など残さない。
全ての力をその一撃にのせる。

躊躇は無い。
ただただ、言われた事を全力でこなす。
それだけ。


「あァァァァ!!」


黒剣の切っ先はモンスターの爪と肉の隙間に綺麗に突き刺さった。
血はほとんど出ない。
だが、爪の内側は血が滲み、まるでマニキュアを塗った様な鮮やかな色が咲いていた。

ぐらり、と足場が揺れる。
痛みのせいか、手のひらが僅かに開き、眼鏡の足がチラリと見えた。


「戦士さん!!」

「うるさい。分かってる」

戦士の行動は迅速で、一切の迷いが無かった。

彼の右手が、僅かに出ていた眼鏡の足を掴む。
そして、そのまま力任せに引き抜いた。

緩んだ手の隙間から眼鏡が表れる。
力無いその姿は糸の切れた人形の様だった。
特に目立った傷も無く、意識もちゃんとある様だった。


「無事か?」

「……ええ、はい。なんとか……」


逆さ吊りのまま、眼鏡は答える。
その顔は少しやつれていた。

「ならもう少し働いてもらうぞ」


逆さのまま眼鏡は頷いた。
それを見て戦士が皮肉めいた笑みを浮かべる。

もう一度捕まっても助けない、とその目は語っていた。
そして青年にも、もう手伝ってはやらない、と告げていた


「お前たちじゃあ不安だが、やるしかないな」


相変わらず彼の口からは嫌味しか出てこなかった。

眼鏡を青年の横に降ろし、二人を眺める。
その目は相変わらず、見下した様な目つきだった。

青年も眼鏡もそれには慣れていた。
それに一応彼は二人の事を信頼している事を知っていた。


「あいつの頭を潰すぞ」


戦士はそう言い残し、真っ直ぐに飛ぶ。
その後に彼等も続いた。

今回はここまでです。

だいたい一週間に二か三回、出来れば四回更新出来たらいいかなと考えています。
出来る限り進めていきますのでよろしくお願いします。

乙です
あまり長期間更新が出来ない場合は報告を貰えれば助かります

~~~~~~~~~~~~~~~


学者「最初の一発は左腕に命中。二発目は右わき腹を掠め、三発目は外れか……」

隊長「やはり撃つたびにブレがひどくなるな」

学者「もう当てるのは難しいか……」

隊長「そうだな」

学者「……」

隊長「一か八か、あえて滅茶苦茶な場所に標準を合わせてみるか?」

学者「……面白い発想だ」

隊長「出来ると思うか?」

学者「あたる可能性は二割弱、と言った所だろうね。やるかい?」

隊長「ゼロよりマシだ」

学者「確かに」

隊長「的をあえて外せ」

隊員「はい!!」

学者「威力が高過ぎて、上に弾が逸れている。足元に標準を合わせるといい」

隊員「は、はい!!」

天才「学者、どうしてここに」フラフラ

学者「大丈夫か?」

天才「俺は何とか。今は黒髪に任せてる」

学者「よく耐えたな」

天才「正面から戦うのは、さすがの無理があったよ」

学者「良くやった」

隊長「上で三人が暴れているらしいな」

学者「三人?」

隊長「眼鏡と、戦士と、青年だろう」

学者「あの三人か」

女学生「す、すいません!!」


それは短めの茶髪に大人しそうな顔をした女性だった。
年は二十歳くらいだろうか。


学者「戦士なら無事だ。安心していい」

女学生「そ、そうですか……」

学者「傷の手当ては大丈夫かな?」

女学生「は、はい」

天才「……」

女学生「大丈夫ですか?」

天才「戦士と自分の心配してた方がいいよ」

女学生「……」

学者「栄養剤ならあるが、飲むか?」

天才「飲む」

学者「ほら」スッ

天才「ありがとう」ゴクッ

学者「大体二時間ほどで効力が出る」

天才「ああ、そう」

学者「今日はもういい」

天才「いいの?」

学者「ああ。あとはあいつ等が何とかするさ」

天才「そうかなあ」

学者「大丈夫だ」

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作戦の確認。

青年への作戦。
真正面から相手の頭目掛け進む。
相手の注意を引きつけたらすぐに離脱。

眼鏡への作戦。
今現在の位置、すなわち肩の部分に待機。
青年への援護と、敵への妨害を行う。

戦士の作戦。
青年と眼鏡が敵を引きつけているうちに敵に一気に接近。
そのまま撃破。

青年は頭の中で全員の作戦をまとめ、自分自身は真っ直ぐ走り始めた。

すぐにそれに気付き、化物の左手が襲いかかる。
足元が揺れ、歩みを止めてしまう。

それが致命的なミスだと気付く前に、彼を敵の左手が叩き潰す。
まるで蚊を叩き潰す様な動作の様だった。

彼の背よりもはるかに大きい手から繰り出された簡単な一撃など、普通なら防御できるはずが無い。
一瞬で体は潰れ、人間は肉塊に変化してしまう。

そう。
普通ならば。


「殺せてないぞ。全然、殺せない」


青年の体は血濡れで、ボロボロだった。
しかし、生きていた。

彼はとっさに自分の体の周りに固い膜を生成し、その一撃を辛うじて耐えていた。
それでも体のダメージは深刻で、しかも血と肉、更に骨すらも消費していた。

モンスターは表情も変えず、ただただ無慈悲に手を振り上げ、更なる追撃の準備を始める。
あれは理性の無い獣。
ただただ目の前の敵を殺すのみなのだから。

モンスターの手が振り下ろされる。
それは何の感情ももたない、機械の機能の様に正確で、無感情な一撃。

青年は動かない。
動けない。
防御するだけの体力もそれを生成するためのものも残っていない。

だが、残っているものもあった。

赤い槍が二本、振り下ろされる腕の掌と手首の部分に突き刺さる。
刹那、腕の動きが一瞬だけ停止した。

だが、それを確認するよりも速く、手はまた動きだし、青年が居た場所を叩き潰した。


「初めまして。それでありがとうございます」

「無茶で乱暴な作戦は嫌いです。今後控える様にして下さい」

「今後気をつけます」


両肩をツバメに似た足で掴まれながら、彼は苦笑した。
だが美人はそんな事には一切気付く事無く、不満そうな顔のまま翼を羽ばたかせながらビルへと向かっていく。


「眼鏡さんが槍を投げていなければあなたは死んでいましたよ」

「ははは……」

「そんなめちゃくちゃな作戦は聞いた事がありません。だいたい囮なんですから考えれば分かるでしょう」

「すいません」


ちなみにこの後、彼がビルに着くまでずっと小言を言われ続けるとは、彼自身は思ってもいなかった。

今回はここまでです。

おつ

乙です

この調子だと今週も更新無さそうだねぇ……

更新待ってるで~

まってる

2ヶ月経っちゃったかあ
こっちももうあかんか…

無念

残念

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