幼馴染「だるまさんがころんだ」 (9)

そう言うと彼女は思い切り俺を蹴飛ばした。

左手と右足首を失った俺はバランスを崩し自分の血だまりに椅子ごと転げる。

切断された足首を擦る形になり悲鳴が暗い部屋を木霊した。

幼馴染「あっはっは。転んだ。だるまさん転んだ」

俺の姿を見ておもちゃを与えられた幼子の様に嬉しそうに笑う。

男「ゲホッゲホッ…なんでだよ、なんで、こんな…」

幼馴染「だるまさんは転ばなきゃダメなんだよ、ころころ、うん、もっと転がるようにしなきゃ」

そう言うと嬉々とした様子で彼女は『お道具箱』の中を漁り始める。

男「もうやめてくれ…やめて…」

どうして…どうしてこんな事に…

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ーーーーーー

「いたい…そんなのいたいよ!!」

「がまんして、おねがい」

「やめてよ…いやだよぼくは…」

「すこしだけだから、ね、ね、おねがいったら」

「じゃあ…すこしだけ、すこしだけだよ…」

ーーーーー

男「…はっ!」

俺は跳ねる様に起き上がると同時に息を深く吸い込んだ。

あまりいい寝覚めとは言えない。

まだ夏は遠いのに服は嫌な汗で濡れているのが不快感を更に助長させていた。

男「…またあの夢か」

あの夢、と言っても特に内容を覚えているわけじゃない。

大体の悪夢だとかそう言った類全般にそれは言える事だが、『それっぽい』夢を見た時は決まって同じ目覚め方だった。

時計を見やるとアラームの三十分前を差している。

普段なら二度寝をするところだがこんな気分で二度寝する気も起きないし服も早く着替えたい。

ので、俺はいつもより早めの起床をする事にした。

朝食を済ませ買ったばかりの靴を履くと俺は家を出た。

高校二年生になったばかりの俺はそろそろ将来の事を考えないといけないなぁ、と思いながら歩いていた。

将来と言っても、進路の事だ。

勿論大学に行くと言うのは決定事項だ。

問題はどの大学に行きどの学部に行き何を学びたいのか、だ。

入学したての頃からずっと考えているが、未だにそれは決まらない。

決まらない、と言う事に少しばかりの焦燥感と漠然とした不安を抱きながらも未だに答えは出せなかった。

「おっはよ!」

その声で俺はハッとし振り向くとそこには身飽きた、と言う単語すら使い古す程の顔が飛び込んできた。

幼馴染「相変わらず浮かない顔だね、テスト、そんなに悪かったの?」

小動物の様な目、可愛らしい唇、ツヤツヤとしたセミロングの髪、そして小柄なのに女を微かに意識させる身体。

このまさに「可憐」の言葉が相応しい少女が俺の幼馴染だ。

男「いや…テストはまあまあ、だったな、俺の顔、そんなに浮かないか?」

幼馴染「辛気臭いったらないよ、そんなんだから、サエちゃんに愛想つかされるんだよ」

容赦無く心のサンドバッグにボディブローを打ち込む。

サエとは付き合っていた他の組の女子だ。

プラトニックな恋愛にしようと務めていた俺に積極さが無いしなに考えてるかわからない、と言われ先月別れたばかりだった。

遠慮の無い物言いは今に始まったことじゃない。

が、それでも少しはダメージを受ける。

男「あのなぁ、それとこれとは関係ないだろ」

俺が言い返すと彼女は意地悪そうに笑いながら「だって本当じゃん」と言った。

確かに、最近顔が怖いだとか、感情表現が薄いとか、よく言われる気がする。

進路も理由の一つではあるが一番の原因はあの夢のせいだ、と俺は思った。

小さい頃からたまに見る夢だったが、最近になって見る日が増えてきた。

思い出そうとすればする程霧の様に霞む記憶を引っ張り出そうとすればする程顔は険しくなる。

思い出せるのは自分がその夢では幼い事と「何か痛い事をされている」と言う事だけだ。

男「…やっぱり思い出せないなぁ…」

考えにふけりひとりごちてると幼馴染が心配そうに声をかけてきた。

幼馴染「ほら、また眉間にシワ寄ってるよ」

男「ちょっと考え事してるんだよ、そっとしてくれ」

ぶっきらぼうに返すと幼馴染は一瞬頬を膨らませた後ケータイに視線を移した。

こいつとの付き合いはかれこれ十年以上になる。

幼馴染なのだからそれは当たり前なのだが、家庭環境はかなり差があった。

幼馴染の父は地元でも名のある県会議員だ。

家の大きさもクリスマスプレゼントの額の大きさも大きく差のある俺とこいつがなぜ幼馴染なのか。

答えは簡単だ、『たまたま小学校の席が隣だったから』。

それ程に当時の俺とこいつは波長が合った。

中学に進んでからもよく幼馴染と遊んだりしていた俺はよく同級生に茶化されながらもクラスでも密かに男子の人気を集めたいた幼馴染と親しい仲にある事が自慢だった。

とは言えそれ以上距離を詰める事も、詰める気も起きなかった俺はその結果、受験が近づくにつれ会う事も少なくなり今では登下校が一緒程度になってしまった。

残念なわけじゃない、俺はむしろこの距離感がちょうどいいとさえ思っていた。

幼馴染「じゃ、行くね」

その声で男ははっとし見回すともう駅の目の前に来ている事に気がついた。

行きしはいつもここで分かれてそれぞれの友達と電車に乗るのが習慣だ。

男「ああ、じゃあな」

朝のラッシュに紛れて行く幼馴染に手を降りながら男も人混みに溶け込んで行った。

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