モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part 6 (1000)

 それは、なんでもないようなとある日のこと。


 その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
 時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

 それと同じ日に、宇宙から地球を侵略すべく異星人がやってきました。
 地球を守るべくやってきた宇宙の平和を守る異星人もやってきました。

 異世界から選ばれし戦士を求める使者がやってきました。
 悪のカリスマが世界征服をたくらみました。
 突然超能力に目覚めた人々が現れました。
 未来から過去を変えるためにやってきた戦士がいました。
 他にも隕石が降ってきたり、先祖から伝えられてきた業を目覚めさせた人がいたり。

 それから、それから――
 たくさんのヒーローと侵略者と、それに巻き込まれる人が現れました。

 その日から、ヒーローと侵略者と、正義の味方と悪者と。
 戦ったり、戦わなかったり、協力したり、足を引っ張ったり。

 ヒーローと侵略者がたくさんいる世界が普通になりました。

part1
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371380011/)

part2
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371988572/)

part3
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part3 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1372607434/)

part4
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part4 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373517140/)

part5
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845516/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1376708094

・「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドスレです。

  ・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
  ・一発ネタからシリアス長編までご自由にどうぞ。


・アイドルが宇宙人や人外の設定の場合もありますが、それは作者次第。


・投下したい人は捨てトリップでも構わないのでトリップ推奨。

  ・投下したいアイドルがいる場合、トリップ付きで誰を書くか宣言をしてください。
  ・予約時に @予約 トリップ にすると検索時に分かりやすい。
  ・宣言後、1週間以内に投下推奨。失踪した場合はまたそのアイドルがフリーになります。
  ・投下終了宣言もお忘れなく。途中で切れる時も言ってくれる嬉しいかなーって!
  ・既に書かれているアイドルを書く場合は予約不要。

・他の作者が書いた設定を引き継いで書くことを推奨。

・アイドルの重複はなし、既に書かれた設定で動かす事自体は可。

・次スレは>>950
    
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」まとめ@wiki
http://www57.atwiki.jp/mobamasshare/pages/1.html?pc_mode=1

☆このスレでよく出る共通ワード

『カース』
このスレの共通の雑魚敵。7つの大罪に対応した核を持った不定形の怪物。
自然発生したり、悪魔が使役したりする。

『カースドヒューマン』
カースの核に呪われた人間。対応した大罪によって性格が歪んでいるものもいる。

『七つの大罪』
魔界から脱走してきた悪魔たち。
それぞれ対応する罪と固有能力を持つ。『傲慢』と『怠惰』は退場済み

――――

☆現在進行中のイベント

『憤怒の街』
岡崎泰葉(憤怒のカースドヒューマン)が自身に取りついていた邪龍ティアマットにそそのかされ、とある街をカースによって完全に陸の孤島と化させた!
街の中は恐怖と理不尽な怒りに襲われ、多大な犠牲がでてしまっている。ヒーローたちは乗り込み、泰葉を撃破することができるのだろうか!?
はたして、邪龍ティアマットの真の目的とは!


『真夏の肝試し大作戦!』
妖力と厄の祟り場となった街で妖怪達がお祭り騒ぎ。
悪霊を狩る為死神達が徘徊したり、魔族・精霊系がハイになったり、機械系はダウンしたりともうてんやわんや。
猫も杓子もヒーローも、騒ぐ阿呆に見る阿呆、同じアホなら騒がにゃ損損!

書き上がったので、投下します。ディストピアの設定をお借りします。

腹立たしい。

桐野アヤは巨大タイムマシン『バックアップ』のコックピットの中に座りながらそう思った。

何でアタイが部下のロボットたちの尻拭いなんかやらなきゃならないんだ。

ここは遠い未来の国。

といっても、支配しているのは人間ではない。機械だ。

今の時代は人間が機械を管理するのではなく、機械が人間を管理しているのだ。

だが、つい最近、ロボットたちの警備を掻い潜り、過去の世界に逃げた脱走者が現れたのだ。

その名は大石泉。

そして、戦闘用アンドロイドである桐野アヤはその大石泉を連れ戻すため、タイムマシンのコックピットに座っている。

馬鹿馬鹿しい。

お前ら人間が自分達で自分達の管理が出来ていないからアタイ達機械がお前らを管理してやっているというのに、それが不満だから逃げるだなんて、なんて身勝手でわがまなのだろう。

アヤはそんな人間を心底見下していた。

「準備ガ完了イタシマシタ。コレヨリ時空転送ヲ開始シマス」

時空転送機の外にたつロボットが片言で告げる。

それをみて、アヤは鼻で笑った。

アヤは内心、自分より性能の悪いロボットも見下していた。

性能の悪いロボットには、頭の悪いコンピューターでただ、命令されたことを実行するしか能がない。

その点、最近バージョンアップしたアヤには高性能なコンピューターが備わっている。だから、アヤは人間のように、物事を考えたりできるのだ。

自分は他のやつとは違う。

アヤがそう考えるのは、ロボット達の母、『A.I』を誰よりも愛しているからだ。

自分は他のロボットより愛されている。

自分は他のやつらよりも有能だ。

だから、『A.I』はアタイに知能を、感情をくれた。

今回の指令について、アヤは腹立たしいと思う反面、嬉しいとも思った。

『A.I 』は、アタイを信頼しているからこそ、アタイに大石泉を連れ戻せと命令したのだ。

母の期待には応えるのだ。そう、アヤは思った。

外のロボットが声を出す。

『時空転送5秒前。4、3、2、1』

キイイイイイイィィィン!!

と、凄まじい音が鳴り響くと、タイムマシンとアヤはは過去の世界に旅立っていった。

21世紀。

過去の世界に降り立ったアヤは目の前の光景に目を剥いた。

「ギャハハハハ!」

「飲めや、歌えや、踊れや! 」

今、アヤの目の前では化け物たちがばか騒ぎをしている。

大石泉がたどり着いた世界。

どうも、大石泉は時空移動の際、不慮の事故で別の次元に吹っ飛んでいったらしい。

どんな世界なのか実際に来てみれば、魑魅魍魎が闊歩する奇妙な世界だった。

もしかして、来るとこ間違えた?とも考えたが、センサーには確かに、大石泉の生体反応があった。

間違いなく、この世界に大石泉はいる。

少しして、立ち直ったアヤは『バックアップ』を別次元に仕舞うと、センサーを頼りに、大石泉の元へ歩き出した。

桐野アヤ

職業
戦闘用アンドロイド

能力
戦闘

詳細設定
桐野アヤを連れ戻すため、未来の世界から送り込まれた刺客。最新鋭のコンピューターを持ち、人間のような感情を持っている。性格は非常に短気で怒りやすい。だが、頭が悪いわけではなく、戦闘においてはなかなか頭がキレる。
ロボット以下の人間や、自分より性能の低いものを見下している。だが、自分と対等だと認めたものには、敬意を払う。そして、マザコン。戦闘では、格闘術を用いて戦う。アヤは早さを重点においた戦闘アンドロイドなので、余計な装備はついていない。

関連設定
桐野アヤ専用タイムマシン「バックアップ」

巨大な人型のタイムマシン。いざというときには戦闘にも使える。元は量産型のタイムマシンだが、これは桐野アヤ用に改造されている。普段は別空間に収納されている。


関連アイドル
大石泉

短いですが、これで終了です。

なにか矛盾点や不満があったら言ってください。

お目汚し失礼しました。

肝試しイベントで投下

霧の中、夏樹と元気のないきらりとおかしな奈緒が歩いていた。

目玉型ユニットは広範囲に飛ばしている。霧の中をよく見れば雪景色やら祭りやらなんやら…取りあえず混沌としている。

「李衣菜ちゃん見つかんないのー?」

「霧がな…一応ギター持って出ていったみたいだからところどころにある祭り騒ぎのどこかにいると思うんだが…」

「広いとこ全部祭り騒ぎだもんねー僕が見れる範囲でも結構あるよねー屋台とかもー」

奈緒の妙な口調にもやっと慣れてきた…多分。

「屋台の近くにはいないと思うけどな…」

「…ねぇ夏樹ちゃん、ギターの音しなーい?」

「マジか!?」

「あっちの方からビリビリーって…」

きらりがギターの音をキャッチしたようだ。

指で示した方向にユニットを飛ばし、捜索する。

確かに他の騒ぎよりもひときわ大きい。たしか公園がある場所だ。

そこの…小山の上で楽器を持った妖怪と一緒にギターを弾いている少女がいた。

「…いた。アレはだりーだ…!」

一斉にユニットを回収し、一部を腕に収納すると、二人に言う。

「あの公園にいた!ギター弾いてる!」

「じゃあ早く迎えに行きましょうか!」

…奈緒の口調も早く治したい。

公園は今まで見た中で最も大きな妖怪たちの宴の会場になっている。

「なんかぁ…きらりふりゃふりゃすりゅー…」

幸福でもあるが負でもあるエネルギーの中できらりは少し酔ったような感覚に陥っていた。

毒でもある負のエネルギーが幸福に混ざり、なんやかんやでアルコールのようになっているのだろう。

詳しい原理は知らない。

「きらり、大丈夫?」

「公園の外で休んでるか?」

「う~んそうすりゅ~ふらふらにょわにょわ…」

「じゃあ、あたしが連れてくから、夏樹は李衣菜の事頼んだからな!」

「了解、気をつけろよー?」

「大丈夫だって!」

奈緒に支えられながらふらふらするきらりが外に向かっていくのを確認して、夏樹は奥へ向かった。

小山での演奏はもうすでに終わっていたらしく、他の妖怪による別の演目が行われていた。

軽く見渡せばすぐに小山の裏の方で楽器を持つ妖怪と楽しそうにしている李衣菜を見つけることができた。

「…だりー!」

「え、嘘!?なつきち!?」

「お、リーナの知り合いかい?」

「その子も楽器できる系女子なんか?」

「うん、なつきちもギターできるよー」

後ろの楽器持ち妖怪たちが反応する。

「あ、だりーがどうもお世話に…」

「…なんで保護者的挨拶?」

「いえいえ、リーナはいい子で…」

「ノリよすぎー…」

「…それで、テンションが上がって家から飛び出してきたと。」

「反省してまーす…」

「まぁ、今日は『そういう日』みたいだし…連れて帰ったりはしないからさ。」

「ホント!?ありがとー!」

てっきり連れて帰られるかと思っていた李衣菜は安心した。

「…あのさ、なつきちも一緒にやってかない?ギター持って来れるでしょ?」

「アタシが?」

「…一緒にやりたいの!ねぇ一生のお願い!」

あまりにも必死なお願い。…いつもと違う、そう感じるほどに。

「…仕方ねぇな、ちょっと待ってろよ?」

真横に穴を開けてギターを取って戻ってくる。

「穴開けられたんだ…」

「そういう系の異界化では無いみたいだからな。…それで、何演奏するんだ?」

「うーんそれはみんなで決めないとねー」

「基本的に俺らは何でもできるぜ!」

「まあ譜面ありゃ知らない曲も演奏してやらぁ!楽器付喪神の意地って奴よ!」

どうやら妖怪たちもやる気のようだ。

「…だそうだけど、なつきちなんか希望曲ある?」

「いや、やりたいって言ったのはだりーなんだし、好きな曲選びなよ。」

「…そう言われると悩むなー…何でもいいから一緒に演奏したかったから…」

「じゃあコレなんてどうよ!」

妖怪の一人が譜面を取り出す。

「それさっきも提案してボーカルがいないから却下されたじゃねーかドアホ!」

「二人も女がいるんだからよーいいじゃねーかよー!歌えねーのか?」

「私…喉が悪くって…音程不安だから…」

「…かと言って、アタシもその歌のボーカルは無理だな…上手く歌える気がしない。」

「あの…」

振り向いてみれば黒い翼の赤い瞳の女性。

「私、セイレーンなんです。歌が好きで…ボーカルがいないのでしたら私が…」

「おお、なんという幸運!」

「ぜひやってくれぇ!」

元々全員即興メンバーなので、急に着た彼女もすぐに受け入れられた。

「…」

「なつきちーどうしたのー?一回練習しよう?」

「いや、どこかで見た気がしてさ…まあ気のせいだろうし、ちゃっちゃとやるか!」

ギターを構えると小山から離れて、練習が始まった。

十数分後、小山の上…つまりステージに立っていた。

練習に多くの時間はかけられなかった。まあそういう場なのだから仕方ない。

ちゃんと演奏できていたし、歌も心配なさそうだ。

機材なんてどこから持ってきたのか…まあ妖怪の事はよく分からないから気にしない。

夏樹が一部のユニットから視界をキャンセルし、スポットライトのように光を放たせる。

ステージが始まり、前奏が旋律を奏で、セイレーンが歌い出した。

「I know you're the wild and violent flame♪」

歌声に続く様に二人のギターが音を放つ。

左利きと右利きのギターが左右対称のようでステージ映えしている。

「I still, smell your smoke and I can't play straight with your game♪」

観客が歌声に聞き惚れる。確かに彼女の歌は本物の歌手のように滑らかなものだ。

「That doesn't mean, that I am yours, I'm not alone I'm not a fool, I have a lot to give♪」

不自然ではないように、だけど歌声に負けないように…ギターを弾く。

「In any case, it's up to you, if you can show that you can give more than I got to give♪」

夏樹は李衣菜の上達っぷりを改めて感じている。

「It might be you, or maybe you, my mind is jumping back and forth and up and down♪」

「Somebody come and rescue me before an angel comes to take me round and round♪」

一瞬だけ見た李衣菜はいつものようなぎこちない笑顔ではない、心の底からの笑顔だった。

「I only wanted you to, come over here, cuz I can think of something for me and you to do♪」

「If I can have another, another dream, the devil would come back to pick me up with you♪」

それを見て…夏樹は何かを感じた。

しかし、演奏も激しくなり、終盤まで演奏に集中せざるを得ない。

ただロックに、ひたすらロックに…それだけを考えてギターを奏でる。

曲も終わりが近づいてきた。

「Oh I do hope that the, that the time comes♪  Time has come for me to, me to have fun♪」

「I'm talking bout a lot of fire ♪ I'm talking bout no getting tired♪」

そして曲の最後の最後で

「Forever and ever♪  Together forever♪」

李衣菜は夏樹に泣き笑いのような笑顔を見せた。

演奏は大成功に終わり、一旦解散。それぞれが屋台に行ったり帰ったり…セイレーンもいつの間にか消えてしまっていた。

…そして李衣菜と夏樹は公園の中央から少し離れた位置のベンチに座っていた。

「あー、だりー…あのさ…」

口を開いたところで、李衣菜に制止される。

「…こっちから言いたい事言わせて。」

俯いたまま、夏樹の手包むようにを握ってくる。冷たいであろう体温は、義手には伝わってこない。

「私、多田李衣菜は、皆…LPさん以外に隠し事をしていました。…そしてそれが今だけ無くなっています。」

まるで懺悔のように…俯きながら言う。

「…でも告白することはできません。」

「どうしようもない事だから。それを告白したら…自分でそれを再確認して壊れそうだから。」

「ワガママだと思うよ。…でも、でも!知られたくない!言いたくない!」

顔を上げた表情は、今にも泣きそうで、でも戦闘用として改造された彼女は涙を流すことすら許されない。

「だりー…」

夏樹はもうある程度悟っていた。いつものぎこちない笑顔と、さっきの笑顔。見ればおかしい事は分かる。

親友がこんなに苦しんでいたのに、どうして気付かなかった?

「…ゴメンな」

言う言葉が浮かばない。かけたい言葉はこんなありふれた言葉ではないのに。

「…」

李衣菜は返事はせずにギュッと、無意識に壊れない程度に手を握る力を強くしていた。

「戻ろう?演奏、今のうちに一杯やりたいから…!」

「…そっか、じゃあ全力でやってやるさ!」

かける言葉が見つからないなら、音に思いを乗せよう。

そうすればきっとわかるはずだから。

「むにゃにょわ…むにゃにょわ…」

「すぅ…すぅ…」

奈緒ときらりは公園を出てすぐの人目が少ない休憩スペースで眠りについていた。

そこにセイレーンが近寄ってくる。

「…ただいま戻りました。」

セイレーンが奈緒に手を伸ばすと、形が崩れ泥となって吸収されていった。

…奈緒の内部世界

『お帰りー歌えて幸せ者めーこのこのー』

『…まぁ確かに「私」、とても幸せでした…でも、これは私達のご主人様への裏切りになりませんかね?』

『しらねー。いいんじゃないのー?今日の僕らの意識ちょっとご主人様に近づいちゃってるしー今更って感じー』

『貴方たちの誰かは行かないのですか?』

『「行く?」「めんどくさい」「ケーキ食べたい」「おうどんたべたい」「眠い」「あばくぞー」』

『…』

『…行かなーい。それにーご主人様と光の巨人がセイレーンちゃんの歌で眠ってるのもあとどのくらいかわからないしー…それにさー』

『…「何か」が、足りない気がするんだよねー』

霧の中、影も見えず、姿も見えず…けど確かにそこにナニカはいた。

負のエネルギーの影響で、実際は普通に姿を見る事が出来るが。

「ダメ元でやってみたけど上手くいった~キシシ♪」

奈緒の中の精神体がいろいろカオスなごちゃごちゃした感じになっていた為、真夜中にしか分離できないはずのナニカさえ飛び出してきたのだった。

見つからないように家の中に隠れていたが、3人が家を出たのでナニカも家を出たところだ。

鍵を持っていないので鍵の確認を怠りやすい二階廊下の窓から脱出。

ちなみに…あくまで無理矢理やった分離の為、力は少し弱まっている。

「…でもなぁ…今日やっても妖怪とかに邪魔されそうなんだよねー」

一応計画実行も視野に入れたが、今日は普通の日ではないようだし、力も弱まっている。上手く行く気がしないので保留にした。

百鬼夜行に紛れるように、頭には羊の角を生やしている。気分は仮装パーティだ。

とある妖怪グループに混ざって祭りを楽しんでいたが、グループの行進がとある場所に近づいていた。

「…!」

例の加蓮がいる女子寮だ。

「…来るつもりはなかったけど…お祭りだからいいよねー?」

ちょっと顔を見れたらいいなと考えて、ナニカは動き出した。

そっとグループから外れて、ある程度女子寮に近づいて…おかしなことに気付いた。

「窓が…」

確かに加蓮の部屋なのだが、外から見てもわかる。窓が割れていた。

窓の下にはガラスの破片。内側から砕かれた証拠。

「…?」

取りあえず体を泥に変えて窓から侵入した。不法侵入だがナニカには常識がない。

裸足で部屋の中に立ち、見渡す。

「おねーちゃーん?」

声を出しても返事はない。

「…」

布団を調べる。まだ温かい。あとパジャマもある。

「あったかい…♪…じゃなくって…!」

人肌のぬくもりに感動している場合ではない。

部屋に布団から起きてからの行動の形跡もない。

シンクに水を流した跡すらない。

それなのに部屋に鍵はかけっぱなしでバッグも部屋の中。

…ナニカは加蓮の記憶を読み取ることはできないから推理する。

常識の無い頭で必死に考える。

「ここから推理できることは…!」

「加蓮お姉ちゃんは、パジャマ脱がされて変態に誘拐された!!」

全く見当外れだった。

しかし、誘拐はナニカの記憶から『誘拐=実験道具にされる』という図式が成り立っている。

…人ごみの中のあの無理やりつかんできた『手』を思い出して吐き気がする。

薄れた数少ない改造前の記憶。欲しい記憶は思い出せないのにあの『手』だけは焼き付いたように覚えている。

あんな事、もう二度と起こさせはしない。

「許さない…!」

肌が真っ黒な泥の色に染まり、瞳が妖しく真っ赤に光る。

勘違いではあるが、誘拐犯に対する怒りが爆発した。

…どうやらテンションが妙な事になっているのはナニカも同じようだ。

『加蓮には現実世界で会わない』と決めたはずの自分ルールをすっかり忘れてしまった。

「許さない…!加蓮お姉ちゃんは…私のお姉ちゃんだ!」

壊れた窓を開けて、肌の色を戻すと街を駆ける。

方向も何もかも、全部勘だ。

イベント情報
・ネバーディスペアは宴会中の公園付近にいます。合流しているかもしれないししてないかもしれません
・妖怪たちの演奏会は、BGM係も受け付けております。メンバーとして参加もダットゥインもご自由にどうぞー【歌手募集中】
・ナニカが加蓮を誘拐した(誤解だけど)犯人を捜しています。でもある程度弱体化してます

照り焼き美味しい(ウンジャマ・ラミー感)

以上です
なつきち誕生日おめでとー!…誕生日SS書けなかったよ…orz

おっと誤字
>>38
私→あたし
でお願いします

憤怒の街で各勢力が色々と動いているその頃~的なものを投下


大量に発生したカースが街一つを占拠し世間を騒がせ始めて数日後。
丹羽仁美は学校帰りに街を歩いていた。
小娘だてらに長物を振り回し退魔士を名乗ってはいるが、彼女の本業はあくまで学生だった。

仁美「(ん……あれは、カースに占拠された街……か)」

ふと、ビルの壁面に据えられた巨大なモニターが目に入る。
それは丁度、午後のニュース番組を流しているところだった。

『多くの組織が事態の収束に向けて活動を続けているものの、未だに街の解放の目途は立っておらず──』

現地から『憤怒の街』の様子を伝えるリポーターの背後では、GDFの戦闘車両が集まってバリケードを築いていた。
その周辺を武装した隊員が忙しなく動き回っており、物々しい雰囲気が伝わってくる。

それらのさらに向こう側には、『憤怒の街』の中心部のビル群が見える。
空を覆う雨雲は、直下で炎が上がっているかのように赤く染まり、
昼なお暗い様は街に蔓延る異形が放つ、その瘴気の濃さを表しているかのようだ。

仁美「(うーん……今日も進展は無いみたいね)」

報道を聞きながら仁美は内心歯噛みする。
助けを求める人が居て、それを救い得る力を持っているのに、
何もせずに見ているだけなどという事は彼女の正義に反することだった。

仁美「(けど、あやめっちにあんなこと言っちゃったしね……)」

しかし、いつぞやから共に行動するようになった少女……あやめを諌めた手前、自分が軽率な行動を取る事は出来ない。
彼女も今の仁美のように『憤怒の街』へと赴き彼女なりの義を為したいと、そう訴えていたのだが、仁美はそれを不要だと諭したのだった。


あやめに対しては『憤怒の街』の惨状に際し、「自分達が出来る事は何も無い」などと突き放すような言葉を投げつけてしまったが、
仁美自身は、実際にはそのような事はないだろうと考えていた。

仁美は幼い時分より異形と戦うための厳しい修行を積んできていた。
あやめも同様に忍びとしての修行を積み、幼くして免許皆伝を受けるにまで至った実力を持っている。
二人共、心身共に一般人とは比べ物にならない程……ある意味では、『あの日』に突然能力に目覚めた者達以上に鍛え上げられているのだ。

その自負もあって、あるいは、自分達も攻略に加わる事で街の解放が更に早まるのではないかと……
そんな風に考えたことは一度や二度では無かった。
それでも、依然として普段通りの生活を送っているのには、彼女なりの考えがあっての事だった。

現状、『憤怒の街』奪還のためにアイドルヒーロー同盟の所属ヒーローは勿論の事、在野ヒーローもその多くが出払っている。
GDFも同様に、奪還目的や、逆に街からカースを出さないための防衛線を張るなどの目的で人員を割かれ、
周辺地域には少数の兵力しか残っていない。

名のあるヒーローは、本人が望むと望まざるとに関わらず、少なからず周囲から期待の目が向けられるものだ。
必然、今回の様な大規模な厄災が発生した時には──勿論人助けという目的はあるだろうが、体面を保つために出動することになる。

その点、仁美はヒーローを気取ってはいるもののあまり有名ではないため、
組織の束縛や周囲の目などを気にする必要も無く、自由に動けるという事になる。
仁美と共に行動することが多いあやめも『アヤカゲ』の名が示す通り、影に忍んでの活動を主としていたため、仁美と同じような状況にある。

普段街を守っている者が居ないのであれば誰かがそれを埋める必要があり、その役は自分達が適任であると、仁美はそう考えるに至る。
事実、多くのヒーローが出払っていることを好機と見たのか、人間の悪人やら怪人やらの活動も活発になっている。

つまるところ「出来る者が出来る事をする」というのが最良なのだ。
だとすれば、自分が為すべきは『憤怒の街』の状況に気を揉む事ではなく、
出払ったヒーローやGDFの留守を守ることだというのが仁美の考えだった。


仁美「(一意専心! ……は、ちょっと違うかな……初志貫徹? これも違うか……)」

仁美「(まあとにかく、アタシはこの街を守るって決めたんだから、それを通すまでよ!)」

仁美「(あやめっちにアタシの考えを押し付けちゃった形になったのは申し訳ないけどね……)」

決意を新たにしたところでモニターに目を戻すと『憤怒の街』からの中継は終わり、
スタジオにて口だけは達者なコメンテーターと司会進行が、出鱈目な憶測をしたり顔で並べ立てているのが目に入った。

もうこれ以上見ていても時間の無駄だろう。
そう判断した仁美は、その足を帰路に向ける。


──その時、何処からか悲鳴が聞こえてきた。


仁美「松風!」

『でけぇ声出すな! 聞こえてるよ!』

すわ問題事かと、慌てて相棒の黒馬を呼び出し飛び乗る。

仁美「声のした方へ向かって!」

『おうよ!』


悲鳴の聞こえた現場にたどり着くと、辺りは騒然となっていた。
なにやら見たことの無い黒い物体が、人を襲っているのが見える。
その物体は、どうやらカースであるらしいが、その形は獣──狼の様な姿を取っていた。
総数は八体ほどだ……数も多い。

仁美「な……何? こいつら……見たことない」

『纏っている"気"は、カースとかいう化け物と同一のものだが……濃さが段違いだな』

退魔士の本能が告げる。
こいつらは強い……と。
もしかすると、自分の手には負えないかもしれない。

仁美「一応、あやめっちにも連絡しておこうか……」

仁美は懐から携帯電話を取り出し、あやめにカース発生時の定型文メールを送信する。
彼女と共同で対応すれば、何とかなるかも知れない。
……それまで自分が持ちこたえていられればの話だが。

仁美「小さいのは何とかなるかもしれないけど、あの一体だけ大きい奴はヤバいね……」

よく見ると狼型カースの群れの中に一際大きい個体がいる。
見るからに強靭そうな体躯は黒い瘴気を纏っており、その眼は憤怒の赤色に染まっている。

松風『念の為教えておいてやるが、お前一人じゃあアレはどうにも出来んと思うぞ』

松風『我が身が可愛ければ、素直に逃げるこったな』

仁美「……そんなわけにいかないでしょ」

松風の言葉に、一瞬心が揺らぎそうになる。
もし、あの狼型の群れとやりあう事になれば、無事に済む保障は無い。
恐怖を感じないかと言われれば、そのようなことは無かった。

しかしその時、仁美の視界に狼型カースの一匹に襲われている人が映った。

仁美「っ! やるしかないか!!」

言うと同時に駆け出す。

松風『甲冑には着替えないのか?』

仁美「残念だけど! そんな暇無いよ!」

松風の冗談?に気を取られながらも、逃げ遅れたと思しき人に飛びかかろうとする一匹を、不意を衝いて串刺しにする。


仁美「遠からん者は音に聞け!」

狼型を串刺しにした槍を地に突き立て、自らを奮い立たせるように叫ぶ。

仁美「我が名は丹羽仁美! 異形を狩る者なり!!」

松風『(名乗りがいつもの雰囲気と違うな……本気モードってヤツか?)』

その槍を思い切り──侍が刀に付いた血糊を払うかのように振るうと、狼は地面に叩きつけられ、飛沫を上げて飛び散った。

泥を払った槍を残った群れに向け言葉を続ける。

仁美「闇より出でし禍つ者共よ! 数多の魔を屠りし我が斧槍を以って、昏き淵へと送還してくれよう!!」

口上を終えると、仁美は松風に飛び乗り狼型の群れと反対方向へ駆け出す。


松風『格好つけておいて結局逃げるんだな』

仁美「逃げるんじゃないよ! 時間稼ぎだから!」

仁美が向かったのは、有事の際に使用されるシェルターの反対方向だった。
少しでも民間人の避難を助けられればと考えての行動だ。

仁美「よし、かかった!」

すぐさま狼型の追手がかかる。
見ると、八匹全部が追いかけてきたようだ。

仁美の名乗りは一見目立ちたいがための無意味な行為に見えるが、その実、相対した相手の気を引くという効果もあった。
それは、相方であるあやめの戦い方──陰ながら敵に忍び寄り、隙を衝いて致命傷を見舞うような戦法と、図らずも合致するものだった。

仁美「(まあ、今はあやめっちも居ないし……あんまり意味は無いんだけどね)」

それでも、狼型を全て引き連れて、人の少ない方へとおびき寄せる事には成功している。
一般人の避難を助け、仁美にとって戦いやすい環境を作るくらいの効果はあったのだ。


カースの群れとの遭遇場所からかなり離れたところまで来たところで、仁美は殺気を感じた。
周囲を見渡すと、数匹の狼型が追いついてきているのが見える。

仁美「松風、頭下げて!」

松風が仁美の言葉で頭を下げると、真正面から、噛み付こうと飛び込んできている個体が見えた。
その大きく開いた口目掛け、槍を突き出す。
胴体の中にあった核ごと全身を貫かれた狼型は、さながら串に刺されたししゃものような姿を晒す。

仁美「これで二匹目!」

槍を振るい刺さったカースを落とすと、側面から別の個体が接近してきていた。

仁美「っ! そこだっ!!」

斧槍のリーチと形状を存分に生かし、攻撃されるほどに近寄られる前に薙ぎ払う。
この個体も頭から胴体まで真っ二つになり、泥と消えた。

仁美「三匹目!」

三体目が消滅するのを見届けた仁美は、真後ろから接近している個体に気が付いた。

仁美「松風!!」

松風『分かってる!』

松風は前足でブレーキを掛けると、両の後ろ足で接近してきた個体を思い切り蹴り上げる。
蹴られた個体は核ごと砕かれ、泥の飛沫を上げて飛び散った。

仁美「っ!? 危ないっ!」

ふと、仁美は異常な殺気を感じ、戦慄する。
足を止めたのが悪かったのだろう、群れの中に一匹だけいた大型の個体がこちらに飛び込んできていたのだ。
仁美は既のところで松風から飛び降り難を逃れたが、その松風は大型の個体に噛みつかれ、引き倒されてしまっていた。

仁美「この……っ! 離せ!!」

仁美は体勢を整えるとすかさず突きを繰り出すが、大型の個体はすぐに飛び退いて躱す。
取り敢えずは松風から引き離すことには成功したが、残りの個体も集まって来て、取り囲まれてしまった。

松風『こんな犬っころに手傷を負わされるとはな……俺も焼きが回ったか』

松風はよろめきながらも立ち上がる。

仁美「大丈夫なの!?」

松風『傷は浅い、走るのに影響は無い……』

周囲の狼型は、距離を縮めるよう円を描きながら少しずつ包囲を狭めてくる。
その様子を見た松風が、珍しく神妙な様子で口を開く。


松風『仁美よ、俺の全速力なら、今ならまだ包囲を突破して逃げる事も出来るぞ……敵の数も減ったしな』

松風『だが、これ以上戦うつもりでいるなら、そのチャンスもすぐに無くなるだろう』

仁美「……」

松風『時間が無い、どうするかすぐに決めろ』

仁美「確かに逃げるってのも手かもね、『三十六計逃げるに如かず』って故事もあるしね」

松風『だったら──』

仁美「でも、アタシは逃げない……逃げたくない……」

仁美がここにいるのは、戦う術を持たない民間人を助けるためという理由からだ。
だが、それ以上に、自分の存在意義を掛けて戦っているという側面が強かった。

仁美「ここで……逃げるわけにはいかない……っ!」

松風『……』

他のヒーロー達の留守を……この街を守ると決めたのだ。
立てた誓いを簡単に破るわけにはいかない。

仁美「もののふにはね、命を賭してまで戦うべき時があるの……アタシにとっては今がその時なのよ」

仁美「生くべき時に生き、死すべき時にのみ死するってね!」

松風『……そうかよ、なら俺はもう何も言わん』

仁美とは短くない付き合いの松風は、言っても無駄だと察したのだろう、口を噤む。

仁美「(ただ、松風は最初から逃げろって言ってたんだよね……)」

仁美「(ここに残って戦おうっていうアタシのワガママに、付き合わせるわけにはいかない)」

仁美「松風、あなたは戻って」

仁美は槍を掲げ、松風をその中へと封印する。

松風『なっ!? お前、何を!?』

仁美「こんな奴ら、アタシ一人でも何てことないってこと!」


仁美「こんな奴ら、アタシ一人でも何てことないってこと!」

痺れを切らし、正面から飛びかかってきた二匹の狼型を横薙ぎに払い核ごと真っ二つに、
返す石突で別方向から飛び込んできていた一匹を強打する。

不安定な馬上にのそれに比べ、二本の足で大地を掴み、しっかりと支えられた身体から繰り出される攻撃は、威力も、速度も、正確さも数段上回る。
仁美が松風を降りたのは、松風をやられて自棄になったのではなく、勝算があっての事だった。

仁美「足を奪ったくらいで、勝った気にならないでよね!」

松風『足って俺の事か!?』

仁美は大きく飛び上がると、空中で槍を逆手に持ち替え、突き飛ばされのたうつ狼型に思い切り突き立てる。
衝撃で核が粉々に砕かれた狼型は即座に泥と化し消えていった。

仁美「七匹目……!」

槍を地面から引き抜き、顔を上げると、狼型の群れの最後の一匹が目に入った。


仁美「これで真打登場ってわけね」

取り巻きを始末し終えた仁美は、ついに一際大きい狼型のカースと対峙する。
纏う雰囲気や、発する瘴気の濃さから、今まで相手をしていたものとは比較にならない強さを持っている事が分かる。

仁美「(これは……覚悟を決めないとかな)」

巨大な狼型は、猛スピードで飛びかかってくると、鋭い爪の生えたその前足を思い切り振るう。
仁美は最小限の動きでそれを躱すと、すぐさま反撃に転じる。
しかし、突きだした槍はわずかに敵の身体を掠めるくらいで、大きなダメージを与えることは出来なかった。

仁美「身体は大きいし力は強い、その上素早いとか……っ!」

身を翻し、再び突進してくる狼型を、今度こそ捉えられるようにと身構える。
しかし、反撃を意識し過ぎたのだろう、回避に意識がまわらず、仁美の身体を引き裂かんと振るわれた爪に、僅かに腕が掠ってしまう。

仁美「くっ!」

予想外の痛みと衝撃に思わず腕を見ると、制服のブレザーとワイシャツは紙の様に切り裂かれ、血が滲んでいるのが見えた。

仁美「(少しかすっただけでこれ? ……まともにもらったら、ただじゃ済まないな)」

仁美は気を取り直し、狼型へ向き直る。
狼型の方も、真っ赤に燃え上がる双眸で仁美を見据えていた。

仁美「さあ、来なよ! まだまだこれからだよ!!」

三度、仁美と狼型が交錯する。


それからも数度、狼型の突進と仁美の迎撃の応酬が続いた。

狼型の攻撃により、仁美の身体には致命傷とまではいかないものの無数の切り傷が出来上がっていた。
対して狼型の方は大した損傷も無く──そもそも、カースの特性として、核を攻撃できなければ体表の損傷などはすぐに回復してしまうのだ。

仁美「(まだ充分に動ける……けど、このままじゃジリ貧だ……なんとかしないと)」

仁美「(敵は、毎回真正面から飛び込んできているんだよね)」

毎回狼型の方から攻撃を仕掛けてくるという事実を受けて、仁美は思案する。

仁美「(はっきりいって単調だけど……)」

攻撃一辺倒になるという事は、その分防御が疎かになるという事でもある。
そこを上手く衝ければ、勝機はあるかも知れない。

仁美「(何度かの打ち合いで、核の大体の位置は掴めてる……あとはそこに一撃を加えられれば!)」

再び飛び掛かってくる狼型の動きを読んだ仁美は、反撃ではなく回避することを選んだ。
大きく振るわれた前足を、槍で受けると同時に自分の後方へと回転させ衝撃を受け流す。
攻撃をいなされた狼型は、無防備なまま仁美の後ろへと着地した。

仁美「(これは……もらったッ!)」


しかし、その攻撃が届くことは無かった。


狼型は着地した直後、前足を軸に半身を素早く横にずらし、仁美の突きを躱したのだ。
その動作は非常に素早く、狙いすました大振りの一撃を躱された仁美は、敵の反撃に対する反応が遅れてしまう。
狼型が振るった前足を咄嗟に槍で受けたものの、その手には強い衝撃と同時にぐにゃりと、何かが折れ曲がったかのような嫌な感触が伝わってきた。

慌てて飛び退き、狼型から距離を取り視線を手元に落としてみると、
無理な受け太刀が祟ったのか、槍の柄が真ん中が拉げ折れ曲がってしまっていた。

仁美「抜かった……!」

仁美は苦々しげに吐き捨てる。

仁美「(もしかすると、単調な攻撃もアタシの大振りを狙って……?)」

仁美も、決して侮っていたわけではないが、想定より遥かに手強い相手だったらしい。
ここまで一方的にやられることになるなどと、戦う前は想像もつかないことだった。

狼型は敵から牙を奪ったことを理解したのだろうか、悠然と仁美の方を向き直る。

仁美「くっ……」

折れ曲がった状態では、自慢の斧槍ももはや武器としての役目を成さないだろう。


仁美「どうしようもない、か……」

仁美は片膝をつくと、言い聞かせるように呟く。

仁美「ご先祖様……ごめんなさい!」

そう言うと仁美は、ついた片膝に槍の折れ曲がった部分を宛てがい、両の手で力を込めてへし折った。
穂先だけでも、武器として利用しようというのだろう。

松風『おい! 仁美! 何があった!?』

槍の中に封印されている松風が、今までに感じたことの無い衝撃に思わず声を上げる。
それに答えるように、仁美がおもむろに口を開く。

仁美「……松風」

仁美「もし"自由"になれても、もう人間界で暴れるのは止してね」

松風『ハァ!? お前、何を言って──!』

仁美は、松風の言葉を意に介さず立ち上がる。
そして、覚悟を決めるかのように、大きく深呼吸を一つ。

仁美「矢尽き刀折れ……最後に残ったのはこの身一つ……か」

仁美「だけど、アタシは負けない!!」

戦う術を失いながらも、猛然と向かってくる狼型に臆する素振りを見せず、叫ぶ。
狼型は、相手が動かないのを戦意を喪失したと見たのか、大口を開けて突進してくる。


──そしてついに、その凶悪な顎が、仁美の身体を捕らえた。


刃物の様に鋭い牙が身を裂き、強靭な顎が骨を軋ませる。
仁美は顔を苦痛に歪めるが、しかしその口元は──口角が微かに吊り上がっていた。

そして一言

仁美「勝った……!」

そう呟くと、手にした穂先を狼型の首へと突き立てた。


仁美の決死の攻撃は、果たして狼型の核を捕らえることに成功した。
手に何か硬い物を穿ち砕く感触が伝わり、身体に食らいつく顎の力が急速に弱まるのを感じる。

仁美「ふっ……肉を斬らせて……骨を断つ……ってね」


満身創痍の状態で、核から穂先を引き抜く。
すると、巨大な狼型の体躯はすぐさま不定形の泥と化し、そのまま地面へと消えた。

仁美「やったよ……アタシが、勝ったんだ……」

仁美は、カースの消滅を以って自らが勝利したことを実感する。
しかし、緊張状態が途切れたことにより脳内物質の分泌が止まったのか、焼け付くような痛みが全身に襲い掛かる。
視線を落とすと、狼型に噛みつかれていた部分から鮮血が溢れているのが見えた。

仁美「こんなに……血を流しちゃうなんてね……」

仁美「……ふふ……真っ赤で……時代劇で見る通りだなあ……」

深手を負い混乱しているのか、わけのわからない思考ばかりが浮かぶ。


仁美「あっ……」

ふっ、と身体から急に力が抜け、思わず倒れそうになるのを、折れた穂先を杖代わりにして膝をつき耐える。
流れ出る血と共に生気も抜けていっているのだろう、視界の端から黒く濁ってゆき、一瞬前まであった痛みももはや感じなくなっていた。

仁美「(これはもう、ダメかな……)」

仁美「(あやめっち……ゴメン……あとは任せた)」

心の中で、今まで共に戦ってきた、そして、一人残してしまう事になる友人に、己の不甲斐なさを詫びる。

仁美はついに崩れ落ちると、そのまま起き上がる事は無かった。


※丹羽ちゃん本気モード

時代劇口調と中二病が合わさり最強に見える。
普通の人間がやろうとすると逆に頭がおかしくなって死ぬ。


※狼型カース

『憤怒の街』に現れるものと同じ。
ただ、癒しの雨の効果が無いため、かなり強化(元の強さに戻っただけ)されている。
いつまでも進展しない『憤怒の街』の状況に、人々の恐れや不安などの負の感情が高まり、それが原因で発生したらしい。


※デカい狼型

名前の接頭語に"ドス"とでも付きそうな印象の、狼型カースの強化版。
通常の狼型カースが一際強い負の感情を得て変異した物。
どうでもいい話だが、今回戦った個体は、後に松風によって『ホイレンヴォルフ』と名付けられる。

仁美「なんでドイツ語なの?」

松風『カッコいいだろ!?』

丹羽ちゃん強化イベント前篇、投下終了
強化イベントと言いつつ死にかけてるのはキニシナイ!!

◆EBFgUqOyPQ氏の前後編システムが引きの演出として素晴らしいと思ったのでリスペクトさせてもらいました!
構想が長過ぎて書き切れていないなんて理由では無いです、ハイ


投下して気付いたけど、ところどころセリフ頭の松風の名前が抜けてた

吸血鬼とかの設定お借りして投下します


真夜中

都会の中でありながら、薄暗く寝静まった通りに、

”そいつら”は居た。


『ハナセッ!!キサラマラッ!!』

「うるさいな。どうにかならんものか。」


傍から見たらそれは実に奇妙な光景に見えただろう。

武器を持たない、生身の人間2人に、一体の爬虫類型のカースが捕まっていた。

カースは激しく抵抗しているが、人間達はまるで意に介していない。

カースは人を襲うもの。

これでは関係がまるで逆だ。


いや、例外はある。

人の中でも”ヒーロー”と呼ばれる者達は”カース”達よりも強い力を持つ。

ならば、カースを捕まえている彼らはヒーローなのだろうか?

いや、違う。


『オレヲッ!!ドウスルツモリダッ!!』

「カースとは人間どもの感情の塊のようなものらしい。煩いのは仕方ないだろう。」

「だが、耳障りだ。聞くに堪えん。早く黙らせよう。」


まるで自分達とは別の存在を指すように、”人間ども”と言った通り、

人の様に見えていた、”彼ら”は人間ではない。


彼らの一人がカースの体に口を近づけ、

『ナニヲッ!アッ?アァァァ・・・・・・・???』

牙を突き立てると、その存在を啜っていく。

瞬く間にカースの泥は飲み込まれ、核だけが残った。


「不味い、それに極めて薄い。」

「それも仕方のないことだ。この方法で無ければ核を回収し、カースを我々の眷属として利用できない。」

「本当にこんな物を、我々”家畜派”の眷属として利用する価値があるのかな。」

「自己増殖力など、これを使う利点は多い。いずれ来る”吸血鬼”の頂点争いの雑兵として使う分には問題ないだろう。」


”彼ら”は”吸血鬼”

中でも”家畜派”とも呼ばれる一派の実行部隊であった。


「味の薄さに関しては・・・・・・この辺りに出現しているカースが弱いだけなのかもしれん。」

「では、やはり例の街に向かったと言う同胞達に期待するしかないか。」

「そうだな、あちらにはより強力なカースが居ると聞く。」

「より強い兵を集めることができるだろう。」


彼らは吸血鬼の能力を使い、カースの肉体となる負の力を吸い上げて、

カースの核だけを収集することができていた。

そうして集めた核は、吸血鬼達の魔力を通して、

再度肉体を与えてやることで、自分達の眷属として利用できるのだ。

さらに眷属化したカースは、吸血鬼の持つ”吸血鬼の仲間を増やす”と言う属性も備えるため、

周囲に新しくカースが発生した際に、それらの属性もまた吸血鬼の眷属に書き換えることができた。

”家畜派”はこの特性に目を付け、カースを吸血鬼の兵として使うことを考えたのだ。


「うぷっ、後味が来るな・・・・・・糞不味い魔界の蜥蜴のスープを飲まされた時のような気分だ。」

「愚痴が多いな。仕方ない。今宵はそろそろ切り上げるか。」

「早く血を飲みたい。口直しがしたいんだ。」

「通りに出れば幾らでも居るだろう、しかし真夜中でも人間がうろついているのは好都合な事だな。」

「だが大概のそれは下品なクズ肉だ。俺の喉を潤すのは処女の血で無ければ。」


「贅沢な奴め、口直しくらいクズ肉で我慢しっ―かぁっ―――?!」

「なっ?!」


突如、吸血鬼の一体の頭が撃ちぬかれる。

頭部を破壊されたそれは、そのまま崩れるように倒れた。


「おい!・・・・・・馬鹿なっ!即死だとっ?!」

頭を撃ちぬかれた相方が、倒れたまま起き上がらない。

何よりもその事に彼は驚いた。

吸血鬼とは不死身の怪物。

”頭を撃ちぬかれた程度で”死ぬ訳が無いのだ。

「まさか銀の弾が―――?」

そうして、もう一体も倒れた。




「殲滅完了しました、如何致しましょう。クイーン。」

銃を構えた男が問う。

「呆気なかったわ、つまらないわね。まあいいわ、回収はじめるわよ。」

クイーンと呼ばれた、女性がそれに答えた。


クイーンは、カツカツと音を立てながら、

吸血鬼の死体に近づくと、その懐を漁る。

そして目的のものを見つけたようだ。

ジャラジャラと音のする袋を取り上げ、中身を改める。

「結構集めてたみたいね。カースの核。」

「全部で8つも。こんなに簡単に手に入ったわ。使えるわね、この方法。」


彼女の目的は吸血鬼達の集めていたカースの核であったようだ。

最初から横取りするつもりであったらしい。


「利用できるものは利用しなきゃね。あ、死体は適当に細切れにして燃やしておいて。」

「はっ。」

クイーンの命令に従い、数人の男達がテキパキと死体を片付け始める。

彼らは女王に忠実な家来と言ったところであろう。


彼らが死体の片付けをしている間、

クイーンは袋に入れられていた核のうち一つを取り出し、眺めてみる。

取り出した核は『憤怒』の核で、

それは邪悪でドス黒い赤色を湛え、輝いていた。


吸血鬼に負のエネルギーを吸われ、枯渇した状態のカースの核。

それは、浄化されたわけでもなければ、死んでいるわけでもなく、

放って置けば大して時を待たずとも、周囲のエネルギーを吸収し、すぐに活動を再開するだろう。


先ほどまでの所持者達は、魔の存在である吸血鬼であるから、

カースの核のエネルギー吸収を抑えて所持する事が出来ていただけのこと。

一般人が素手で触れれば、カースに取り込まれたり、精神を汚染されても、おかしくはない。


では何故、

クイーンと呼ばれた、彼女も、

先ほどまでの所持者達と同じく、カースの核に触れても平気で居られるのか。


答えは単純。

彼女も同じく、魔の存在であり、

彼女も同じく、吸血鬼だからだ。


彼女の名前はチナミ。

吸血鬼の三派閥でいえば、”利用派”に属する名家の出身の女吸血鬼。

そして、彼女はまた、別の”ある組織”の一員でもある。


カースの核をじっくりと眺めていたチナミは呟く。

チナミ「不気味な色。血の色みたいで嫌いじゃないけど。」

チナミ「でも、これにそこまで求める価値があるのかしら。」


実のところ、彼女自身はカースの核に価値を見出しては居ない。


吸血鬼のエネルギー源として利用できなくはないが、

やはり人間から直接血を吸った方が効率が良いし、何より味が良い。

”家畜派”は兵として利用するつもりであるようだが、チナミにとってはそれも脅威には思えない。


そんな彼女がカースの核を集めているのは、それが”ある組織”の一員としての活動であるからだ。

時は少し前に遡る。


――

――


ネオトーキョーに本社を構える大企業ルナール・エンタープライズ。

そこで働く従業員の一人「小室千奈美」として、チナミは活動していた。


ネオトーキョーは吸血鬼にとって昼間でも活動がしやすい。

漂う瘴気のせいか、天敵である太陽光が弱まっているからであろう。

流石に真昼間の屋外での活動は、少々コンディションに影響するが、それだけだ。

そのため、ネオトーキョーには、派閥に関わらず人間に扮して生活している吸血鬼は多かった。


チナミもそんな吸血鬼の一人であるが、彼女には使命があった。

”利用派”吸血鬼の一員としてルナール社の裏側に存在すると言われる櫻井財閥に関する、情報を集めること。


櫻井財閥は、かつては人間界の支配者に最も近いと謡われたと言う大財閥。

人間界支配を目論む彼女達にとって、その先駆けとして利用するには打ってつけの組織だ。

故に、”利用派”吸血鬼達は、ルナール社に少なくない数の間者を放っている。

チナミもその一人として、ルナールに潜入し、財閥について調べていた。


しかし、実際ルナールに入社してみれば、世間のブラックの噂に反して、

その見た目の内装も、やらされる仕事の内容も、妙に綺麗な事ばかりであった。

ネオトーキョー全体を覆うような暗さも、まるで嘘かの様にそこにはない。


白い。ネオトーキョーにあってあり得ないほどに白い企業。

白すぎて、逆にその分厚いメッキの裏にはやはり何かあるとしか思えない、白さ。


白さの裏を暴くために、彼女達、”利用派”吸血鬼達は、

ルナールの隅から隅まで嗅ぎまわっているが、これまでに成果は出ていない。


黒い裏側などはそう易々とは見れる物ではないだろう。と、覚悟はしていた。

だけど毎日、人間の仕事を繰り返す単純な生活は正直堪える。

彼女は、この生活にもとっくに飽き飽きしていた。


チナミ「退屈だわ・・・・・・。」


彼女は吸血鬼の名家の出身だ。”利用派”吸血鬼達の中でも上位に位置する者であり、

現場で活動するよりも、上から指示を出している方が得意だし、立場的にもそうするべきなのだろう。

それでも、そんな彼女が人間界に出てきて、現地での諜報活動を自ら進んでやっているのは、

新しい刺激が欲しかったからだ。


だから、こんな調子ではつまらない。


何も無さそうなら、魔界に帰ってしまおうかしら。

なんて思っていた、そんな頃だ。

彼女の元に一人の女性が尋ねてきたのは。


その日の仕事と、調査を終えて、

人としての仮の住まいに、帰ろうとした彼女の元に、

知らない番号から電話が掛かってきた。


「会社のロビーで待ってます。」とただ一言だけ残して、

ブチ切って来た勝手な電話の内容に、イラつきはしたが、

パターン化していた日常に訪れた些細な変化に、

退屈を吹き飛ばせる何かを期待しながら、電話の指示に付き合うことにした。



指定の場所には一人の女性が居た。

もう遅い時間であり、社内に残っている人間が少なかったためか、

その時ロビーには、彼女達の他に誰も居なかった。


女性「こんばんは、はじめましてー」

女性「あ、これ美味しいから是非食べてみてっ!」

チナミ「なにこれ。」

チナミの質問に、よくぞ聞いてくれましたとばかりの顔をして、彼女は答えた。

女性「和歌山の梅干だよっ!特産物!味に文句なし!私的にっ!」

出会ってすぐに梅干を押し付けられた。

チナミ「いらないわ。」

梅干を返して、そそくさと帰ろうとする。


女性「あっ!ストップ!ストップ!待って!」

女性「”利用派”のチナミさんに御用があるんですよっ!」


その言葉が無ければ本当に帰ってしまうところだった。

振り返って、問いかける。


チナミ「あなた・・・・・・何者?」

女性「私は櫻井財閥の『エージェント』です!」


――


そこからは驚きの連続であった。

財閥の『エージェント』を名乗る女性が向こうから接触してきたこと。

瞬間移動能力によって、一瞬で何処かの高いビルの上階にある一室に連れてこられたこと。


そして

サクライP「やあ、待っていたよ。」

サクライP「よく来てくれたね、小室千奈美くん。」

チナミ「・・・・・・。」


チナミの座ったテーブルの、向かい側に座っている男の存在にだ。

どうやら状況から見て、財閥の党首直々に、彼女を呼び出したようであった。


チナミ「驚きね。そっちから接触してくるなんて思って無かったわ。」

想定外の事態に陥っても、彼女は決して余裕ある態度を崩さない。

サクライP「そうかい?サプライズを演出できたようでよかったよ。」

そう言って彼はにっこりと笑った。


テーブルに置かれたグラスに赤い液体を注ぎながら、彼は言う。

サクライP「主はワインの事を自分の血だと言って、使徒達に振舞ったそうだね。」

サクライP「だから僕もそれに習って、君のためにワインを用意したのだが」

注がれた2杯のグラスの片方がチナミに目の前に置かれた。

サクライP「”小室千奈美”は19歳だったね。お酒は飲める年だったかな?」

サクライP「それとも本物の血の方が良かっただろうか?」

チナミ「結構よ。お酒も血も、そのつまらない冗談も要らないわ。」

チナミ「私が欲しいのは、あなた達に関する情報よ。」

彼女は吸血鬼の持つ能力”魔眼”を使用して、彼を睨んだ。

だが、睨まれたサクライPはまったく意に介していないようであった。

サクライP「吸血鬼の魔眼。なるほど、僕を傀儡にできたら君達の目的は達成できるのだろうね。」

サクライP「けれどそれは不可能だ。僕は既に”所有物”だからね。」

チナミ「・・・・・・。」

サクライPに催眠を掛けるのは不可能であるらしい。

それを知ると、チナミは”魔眼”を解いた。


これまでのやり取りで十分にわかったが、

この男は、チナミたち吸血鬼に関して多くの事を知っていたらしい。

三派閥の存在、”利用派”から間者が放たれていたこと、”利用派”の目的、吸血鬼の能力。


チナミ「随分と、私達について詳しいのね。」

サクライP「魔界や悪魔の事に関しては、僕は知る機会が多かった。と言うだけのことだよ。」

サクライP「吸血鬼の存在や能力、派閥については悪魔達からの話で聞いていたんだ。」

財閥は悪魔と繋がりがあると言う噂。どうやら本当であったらしい。

チナミ「私が吸血鬼だと気づいたのはいつかしら?」

サクライP「さあ、いつ頃だったかな。」

サクライP「ルナールには、他組織からの間諜と言うのは多くてね。」

サクライP「妙な者達が出入りしているのは、いつもの事なのだが」

サクライP「その中に吸血鬼の一派が混じっていると知ったのはごく最近のことだったと思うよ。」


サクライP「質問はそのくらいかな?」

チナミ「もう1つあるわ、あなたの目的は何?どうして私を呼んだのかしら。」

サクライP「そうだね、そろそろ本題に入ろう。」


サクライP「単刀直入に言えばね、君の力が借りたいんだ。」

サクライP「僕の目的を達成するために、協力して欲しい。」

チナミ「あなたの目的?」

サクライP「世界の全てを手にすることさ。」

チナミ「呆れたわ。人間界の支配のために、私達を逆に利用しようだなんて。」

サクライP「利用ではなく、協力だよ。取引と言い換えてもいいかな。」

チナミ「取引と言うからには、あなたに協力して、私達は何か得られるのかしら。」

サクライP「立場だ。君には『エージェント』と言う立場を用意している。」

チナミ「エージェント?」

サクライP「僕個人が所有する特殊部隊だよ。ここに来るまでに一人会っただろう?」

サクライP「彼女達には、少なくない額の資金や情報を報酬に各地で動いてもらっている。」

サクライP「資金や情報は、君達が人間界で活動するならば、多くて困るものではないはずだ。」

サクライP「そして『エージェント』は僕に最も近づける立場だ。」

サクライP「財閥や僕の事を調べるなら、『エージェント』に勝る者はいない、と言っていいね。」

サクライP「君にとっても、悪い話ではないと思うがどうだろう?」


なるほど、確かに悪い話ではないのだろう。

少なくともルナールでの仕事を繰り返すつまらない毎日よりは少しはマシではないか。

しかし、この時点ではチナミはこの話を、どう断ろうか思案していた。


チナミ「残念だけど、私には一派全体の方針を決める権限なんてないわ。」

サクライP「僕はね。君達ではなくて、君の力を借りたいんだ。」

サクライP「だから取引をしたいのは彼らとではない。君と取引をしたいんだよ。」

彼は組織ではなく、彼女個人と協力したいのだと言う。

チナミ「だったらお断りよ。私は指図は受けたくないの。」

チナミ「とくに誰かの下について、つまらない仕事をするなんてもうまっぴら。」

そんな彼の誘いを、チナミは力強く拒否した。

チナミ「それで、断ったら私はどうなるのかしら?」

サクライP「このままお帰りいただくだけだよ。」

サクライP「ここで得た情報はお呼びした手間賃だと思ってもらえばいい。」

チナミ「あ、そう。じゃあさようなら。」

チナミは席を立つ。

部屋から出て行こうと歩き出した彼女を、サクライPは怪しい笑顔で見送った。




チナミ「出口何処よっ!!!」



チナミは急いでテーブルに戻ってきて怒鳴った。

サクライP「ここには外に出る扉は無いよ。」

チナミ「なっ!だったら席を立った時点で止めなさいよっ!!」

サクライP「芽衣子くんがこの場に居ないのにどうやって帰るつもりなのか少し見ていたくてね。」

チナミ「悪趣味すぎるわ。空間移動能力者が居ないとここから出られないなら、」

チナミ「最初から逃がす気なんてなかったんじゃない。」

部屋の中には、出口と呼べそうなものは窓しかなく、

その窓にしても、先ほど気づいたが、外の景色ではなく機械で映像を写しているらしい。

窓に映る景色からここがビルの上階だと判断していたが、どうやらそれすら怪しいかもしれないのだ。

サクライP「悪いね。だけど、僕はどうしても君に協力して欲しいんだ。」

サクライP「もう一度言おう、君の力を借りたい。君が必要だ。」

チナミ「ふん、それが殺し文句だとしたら三流もいい所ね。」


チナミ「一つだけ聞かせてよ。どうして私なの?」

潜入していた”利用派”吸血鬼はチナミ以外にも居たはずだ。

その中でどうしてチナミを選んだのか。

サクライP「ルナールに潜入している吸血鬼の中で、おそらく君が一番力を持っているだろう。」

サクライP「と考えたのが、理由の一つだね。」

チナミ「それはどうも。高く買ってもらってるのね。」

サクライP「そしてもう一つ。こちらの方が重要な理由だが、」

サクライP「協力者にするなら、君が一番気が合うと思ったからだよ。」

チナミ「ふーん。気が合う、ね。私は全然そんな風に思えなかったけど。」

サクライP「君は欲が深い。今持ってる物では満足できず、常に今以上のものを求めているのだろう?」

サクライP「世界に新しい刺激を求め続ける。そのスタンスに僕は共感したのさ。」

チナミ「あなたなんかと、一緒にしないで欲しかったわ。」


チナミ「けれど、まあ。確かに、そうかもね。」

チナミ「このまま元の生活に戻るのもつまらないことだわ。」

チナミ「だから、”条件”付で、あなたに協力してあげてもいいわよ。」

サクライP「そうか。その好意に痛み入るよ。ありがとう。」

チナミ「まだ協力するとは言ってないのだけど。」

サクライP「そうだったね。では、”条件”を聞こうか。」


――

――


眷族「クイーン、死体の処理が完了しました。」

物思いに耽っていたチナミだが、その声に呼び戻された。

チナミ「あら、ご苦労様。」

命令を成し遂げた彼らに労いの言葉をかける。

彼らはチナミが人間界で作った眷族。

チナミ自ら血を吸って、作り上げた、彼女の命令に忠実な動く死体達だ。

そんな手下達はクイーンの次の命令を今か今かと待っている。


チナミ「カースの核を集めて欲しいだなんて、」

チナミ「どう言うつもりなのか知らないけれど。」

チナミ「私を簡単には利用できるとは思わないことね、サクライ。」

手元のカースの核を眺めながら、彼女は独り言を呟く。

チナミ「いつか今みたいに、あなたが手にしたものも私が横取りしてあげる。」

チナミ「それまでは退屈しのぎに付き合っ『イッシャー!』

『シャーシャッシャッ』『シャワッシャ』『シャッワー』

チナミ「・・・・・・・。」

チナミ「こほん、それまでは退屈しのぎに付きあって『ワッシャイ!!』

『シャワシャー!』『シャワ!シャワ!』『シャワワワ!』


チナミ「もうっ!!何なのっ、あいつらっ!!台詞くらい最後まで言わせなさいよっ!!」

チナミ「あなた達!アレを潰しに行くわよっ!!」

眷族「はっ!」

こうして、『エージェント』であり『利用派』の吸血鬼は、

通りすがりの魚型ロボット達を始末しに向かうのであった。


――


「簡単な条件よ。私を退屈させないで。」


サクライP「退屈させないで、か。」

空になったグラスを眺めながら、

先ほどまで目の前の席に座っていた女性の事を思う。

サクライP「やはり、彼女は僕と気が合いそうだ。」

サクライP「保障しよう。きっと退屈させることはないだろう。」

一人きりになった部屋で、彼は不敵に笑った。


サクライP「さて、これから忙しくなるな。」


おしまい


チナミ(小室千奈美)

職業:『利用派』に所属する吸血鬼、櫻井財閥『エージェント』
属性:女王様気質の高飛車吸血鬼
能力:吸血鬼関連の能力全般

魔界出身の吸血鬼の女性。吸血鬼の三派閥では『利用派』に属する名家の出身。
故あってサクライPの『エージェント』としても活動する事となる。
退屈でつまらないことが嫌い。彼女が配下や眷族を使わず、自ら動くことが多いのは、
日々の退屈を吹き飛ばす、新しい刺激を求めての事。
女王然とした、余裕のある態度を常に崩さないが、時々感情的に怒る。
彼女がカッコつけようとすると、何故か邪魔が入ることが多い。


『チナミの眷族』

吸血鬼に血を吸われ、眷族と化した元・人間達。
女王の命令に忠実な死体。チナミの事を”クイーン”と呼び付き従う。
現在は5名ほど。元は何処かの軍隊員だったようで、全員が武器の扱いに長けている。
生前に比べ意思や感情が弱く、機械のようにチナミの命令を遂行する。
そのため、彼らの気配を察知するのは極めて難しい。
吸血鬼と同じく、太陽光や銀の弾丸、聖水などに弱い。チナミの気分次第で増えたり減ったりする。

『銀の弾丸』

吸血鬼討伐用に作られたマジックアイテム。
これを頭にぶち込まれた吸血鬼は仮死状態となり行動不能になる。
だが摘出してしまえば、しばらくすると死体は起き上がり、再行動可能。
不死の怪物、吸血鬼を殺しきる事こそできないが、非常に有効な武装。


『どこかにある部屋』

出入り口が無いため、移動能力者が居なければ出入りできない部屋。
今回使われた部屋は、ルナール社の地下1階に用意した一室。
部屋に取り付けられた窓はモニターになっており、高層ビルの上階から見た外の景色を写しているため、
連れてこられたものは、なかなか地下にある部屋だとは気づけない。

並木芽衣子の能力『瞬間旅行』は、ネオトーキョー内には短距離しか移動できないために、
この部屋はルナール社の1階ロビーとの行き来がメインとなるが、当然地下2階とも行き来が可能である。

◆方針

小室千奈美 … カースの核の収集。方法は主に横取り。いずれサクライを出し抜くつもり。
並木芽衣子 … 和歌山の特産品を広めたい。
サクライP … チナミにカースの核を集めてもらっている。

財閥が吸血鬼を協力者に迎えるお話。
時系列的には憤怒の街初期~中期くらいじゃないの(適当)
千奈美さんが真面目な事しようとする度にその空気を茶化して怒られたい(真剣)

音葉投下します

ほたる「どうしよう……」

ナチュルスカイこと白菊ほたるは困っていた。

妖怪達が周りにイタズラばかりをする為に、それをなんとかする為に来ているのだが、珍しく彼女一人だ。

同じナチュルスターのメンバーである森久保乃々と村上巴は今日はいない。

それには理由がある。片方は、この前無茶した罰として、お世話になってるイヴ非日常相談事務所の関裕美のお手伝い。もう片方は事務所で待機している。

だから、今日はほたる一人なのだ。

さて、話を戻そう。

何故、彼女が困っているかというと…

ほたる「力が制御できない…」

今、ほたるの周囲はまるで嵐のように風が吹き回っていた。

地面には草木が芽生え、花が咲き乱れている。

攻撃するときに威力が強すぎてしまい、周りに被害が出てしまう事はあった。だが、今回のように勝手に力が溢れるような事態はない。

それに、イヴと裕美のおかけで力の制御は最近できている。

なのに、何故?

答えは簡単だ。今、ほたるがいる場所は祟り場になっていて、精霊の力が活発化しているのだ。

一方、その頃別の場所にて

???「風の歌が聞こえる。楽しそうに歌ってる」

一人の女性が、妖怪達が蔓延る街を歩いていた。

頭には猫を乗っけていて、両肩に小鳥達が止まっていて、なんか大変な事になっているが。

女性の後ろには、犬や猫にネズミなどの動物たちが、まるでハーメルンの笛吹のようについて来ている。

訂正

>>92>>93の間にこちらの文がはいります


ほたる「どうしよう……また私のせいで……みんなに迷惑かけちゃう」

涙目になりながら、必死に力を制御しようとするが……

ほたる「あう!?み、見えない!?」

飛んで来た新聞紙がほたるの顔に当たり、視界をふさがされ、ジタバタしている。

なんか見ててカワイイ。

『あの人間面白いな』

『ヒヒヒッ!』

近くにいる妖怪達は、暴風と一緒にフワフワと自由に飛び回りながらほたるの様子を楽しそうに見ていた。


???「けど…、ナチュルスカイは振り回されちゃってるのね」

彼女こそナチュルスターに精霊の力を与えた存在。

自然の大精霊・オトハだ。

オトハ「だけど、貴女なら…空の声に耳を傾けられるでしょう。そうすれば、風の歌と共に貴女の心の歌が奏でられ、美しい旋律が奏でられるはず…」

若干、意味不明な事を言ってるように聞こえるのは決して祟り場の影響ではなく、彼女の素である。

オトハ「貴女なら…一歩前へ進められるわ…。だから、この祟り場は良い刺激になるでしょう」

良い事を言っているはずなのだが、どんどん動物たちが集まってきて、動物まみれになっている。

そこがまたカオスだ。

オトハ「ナチュルスター。貴女達なら人と自然の架け橋になるはず…。そして、破滅の未来を防いでくれるはず……。人も自然もどちらも欠けてはいけない…。共存する事でより美しい旋律を生み出せるでしょう」

彼女は一体どんな未来が見えていたのか?それはわからない。

ただ、彼女は願う。人類と自然が共存する平和な未来を。

動物まみれだが……

オトハ「……あちらから楽しそうな音が聞こえる。いってみましょう」

動物達を引き連れ、彼女は街を歩くのだった。

いつか、彼女がナチュルスターの前に現れるのもそう遠くではないだろう。


終わり

オトハ(人間名・梅木音葉)

職業・不思議な女性
属性・自然の大精霊
能力・自然の力 姿の変化 歌により自然に語りかける力


ナチュルスターに力を与えた大精霊。

環境汚染の影響で力が弱まっているが、それでも強い力を持つ。

破滅の未来を防ぐ為に、人と自然が共存する平和な未来を作ろとしている。

バランスを保つ為に、人も自然もどちらも欠けてはいけないと思っている。

心優しい性格だが、そのせいか動物達が沢山よってきて、しまいには動物まみれになってしまう時がある。

今は人間の姿になっているが、小動物みたいな精霊の姿にも変化できる。

イベント情報追加

・不幸にも、祟り場の影響で、ほたるの精霊の力が活発化してその一体が嵐のように風が吹き回っています。
・ほたるが制御しようと頑張っています。オトハをコレを制御できればほたるは成長するそうです。
・動物たちを引き連れて、動物まみれのオトハが楽しそうな音がする方へ向かっています。もしかしたら宴のところへ行くかも

以上です

途中、文を飛ばした場所ができてすいません…

動物まみれの音葉ちゃんを書きたかった。後悔はしてない……と思う…

音葉エルフカワイイよ

頑張れほたる、負けるなほたる!
そして動物に好かれる音葉さんマジエルフ



しばらくしたら投下しますー

トリが付いてなかった……

気を取り直して、今から投下します

寝ぼけてるのかな……俺

えー、トリを変更します

◆TAACIbOrYU→◆BOz7n64cFM

gdったけど、投下を始めるよ……

┌┴┐┌┴┐┌┴┐ -┼-  ̄Tフ ̄Tフ __ / /

  _ノ   _ノ   _ノ ヽ/|    ノ    ノ       。。
       /\___/ヽ
    /ノヽ       ヽ、
    / ⌒”ヽ,,,)ii(,,,r””” :::ヘ
    | ン(○),ン <、(○)<::|  |`ヽ、
    |  `⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒´ ::l  |::::ヽl
.   ヽ ヽ il´トェェェイ`li r ;/  .|:::::i |
   /ヽ  !l |,r-r-| l!   /ヽ  |:::::l |
  /  |^|ヽ、 `ニニ´一/|^|`,r-|:

落ち着くんだ!深呼吸して素数を数えるんだ!

おちつくでごぜーますよ!?

現在のトリで行きます
本当すいません……

――辺りに厄が立ち込め、霧となり、

――暗雲の如く一帯を覆っている。

――もう日も昇ってしばらく経つが、

――光は遮られ、僅かばかりしか届かず、

――何とも言えぬ、うす暗く気味の悪い雰囲気に包まれた場所。

――――祟り場。


――偶発的に発生したこの異界は、

――悪霊が跳梁跋扈し、

――妖怪が百鬼夜行を繰り広げ、

――死神が右往左往する、

――混沌とした空間。

――人間にはすこぶる居心地の悪い、

――異形蔓延る彼岸の世界。

――そこに、

紗枝「これは、また随分と濃い瘴気どすなぁ……」


――妖怪退治屋、小早川紗枝が居た。

――今朝。

――小早川邸に、一つの依頼が届いた。


――『そちら、京都から離れた場所ではあるが、

――今日の未明から大規模な祟り場が発生している。

――ついては、専門家である妖怪退治屋の面々に、

――この異変の解決をお願いしたい。』

――というものだ。


――妖怪退治屋というのは、

――なにも京都にしか存在しない訳では無い。

――各地に、それぞれの退治屋、

――……もしくはそれに類する業種などが、

――いくらでもいる。

――わざわざ京都くんだりまで依頼の要請をせずとも、

――地元の専門家に頼めばいいだけの話だ。


――しかし、実際京都の退治屋は、

――他の地域の者より強い力を持ち、かつ、数も多い。

――結果、こういう事案が発生した場合、

――距離の近い遠いに関わらず、

――京都の退治屋が頼りにされる事が多いのだ。

気にしない気にしない

――だが、京都側にも京都側の都合というものがある。

――最近、妙に妖怪の現れる頻度が高いため、

――慢性的な人手不足に悩まされているのだ。

――当然、他に手を回す余裕など無く、

――今回の依頼も、小早川家以外は皆断っていた。

――そんな中……。

紗枝「まあ、うちが行って、ちゃっちゃと片付ければええかな」

珠美「ええっ!?」

西蓮『本気かよお嬢ッ!?』

――紗枝はこの話を受けるつもりでいるらしかった。


紗枝「そない驚くことやありまへんやろ」

珠美「いえ、今ただでさえ人が少ないのに……」

西蓮『頼みの綱のお嬢がここを離れるっつゥと、なァ……?』

紗枝「そやから、手早く終わらせてすぐに帰ってくるつもりどす」

珠美「そうは言っても……」

紗枝「あっ、そや、うちが居ない間のことは珠美はんにお任せします」

珠美「えっ」

西蓮『えっ』

――紗枝は、自分の補佐である珠美を高く評価していた。

――コツコツと実戦を積み、京での生活にも慣れ、

――更には最近、彼女の武器兼相棒である『西蓮』が、

――鬼神の七振り『餓王丸』と融合したことによる戦力の底上げがされた事もあり、

――戦闘に赴く際の紗枝の負担は

――ここの所、かなり減っていた。


――今の珠美になら、

――しばらくの間は、一人で任せても大丈夫だろう。

――そう判断した紗枝は、

――となると、依頼を断る理由も無いので、

――京都を留守にして、自身赴き、

――なるべく手早く片付け、さっさと戻ってくれば問題ない。

――と結論付けた。

珠美「たま……っ、自分には無理です!」

西蓮『そうだぜお嬢! 不安しかねェよ!』

紗枝「大丈夫、大丈夫」

――抗議の声を上げる二人に対して、

――特に根拠もなく大丈夫と答える。

紗枝「『縮地の法』を使うさかい、行き帰りはあっという間どす」

珠美「そういう問題ではなく……」

紗枝「それじゃあ、あんじょう頼みましたえ」

珠美「さ、紗枝殿っ……!」

――言うが早いか、

――紗枝は、何やら短く呪文を唱えると、

――一歩足を踏み出し、

――フッ……、と、その場から姿を消した。

――『縮地の法』を発動し、

――遠距離の移動を一瞬で行ったのだ。

――こうなったらもう何をしても無駄だ。

――既に紗枝は京都にはおらず、

――おそらく件の現場か、

――その周辺に到着しているのだろう。


珠美「……」

西蓮『……』

珠美「と、とりあえず任された以上は……」

西蓮『もう、やるっきゃねェな……』

紗枝「これは、また随分と濃い瘴気どすなぁ……」

――そして、今に至るのだが……。


紗枝(そない難しい問題や無いやろと高をくくっとったけど)

紗枝(ちょっと厄介かもしれへんな……)

――想像していた以上の状況に、

――紗枝は少々辟易する。


――『すぐに終わらせて帰る』。

――なにも見栄を張った訳でも何でも無く、

――自身の実力を他と比べて、

――……やや高めにではあるが、

――しかし、傲慢によるものではなく、

――歴とした自信を込めて、見積もり、

――しかし、それをも超える事態であると判断すると、

――少し、本腰を入れねば、と、

――気持ちを新たにする。

――……本来ならば、

――そのはずであった。


――……そんな紗枝の前に、

周子「ん? ……紗枝ちゃん?」

紗枝「え……、周子はん!?」

――最も集中を乱す存在が現れた事により、

――事態は……、

――主に、紗枝の心境に依るものが、

――大きく変貌する。

紗枝「あ……、あぅ……!」

――唐突に、

――何にも勝る意中の相手が現れた事によって、

――紗枝は完全なパニックに陥り、

――自身の成すべき事など瞬時に忘れ、

――とにかく、

――一人の女子として、

――髪が乱れていないか確認し、

――襟元を整え、

――袖口を確認し、

――裾を丁寧に正すと、

――改めて周子の方に向き直り、

――満面の笑みを浮かべ、

紗枝「偶然どすなぁ」

――と、社交辞令のような挨拶を交わす。

――一部始終を黙って見ていた周子はというと、

周子「そうだねー」

――と、下らない世間話のように、

――何気も無しに応えるが、

――内心、

周子(なに今の可愛い……)

――と、

――露骨に慌てふためく紗枝の姿に、

――微笑ましいものを感じていた。


周子「紗枝ちゃんはどうしてここに?」

――必死に身だしなみを取り繕う女の子に対して、

――それをわざわざ指摘するほど、

――周子は無粋ではない。

――咄嗟に話題を切り替える所などは、

――流石大人の女、といった貫禄だ。

――……公称は18歳ではあるが。

紗枝「うちは……、仕事の関係で」

周子「あー……」

――若干、紗枝は落ち着きを取り戻した様子で、

――周子の質問に応える。

紗枝「そういう周子はんは?」

周子「あたしはほら、お祭りを楽しみにね?」

紗枝「お祭り……、なぁ」

――周子の答えを聞くと、

――紗枝は改めて辺りを見回した。


――妖力に満ち、

――厄が溢れ、

――瘴気の飽和するこの祟り場。

――人ならざる者にとって、

――これほど心地良く、気分の昂揚する場はない。

――しかも、めったに起こる現象では無いし、

――中でも今回の規模はかなり大きい。

――となれば、

――イベント好きの人外達が、

――お祭り騒ぎに興じることも、

――また、仕方のないことであった。

紗枝「はぁ、骨が折れるなぁ」

周子「そういえば紗枝ちゃん、京都の方は?」

紗枝「珠美はんに任せとります」

周子「あー、珠ちゃんか」

――周子の脳裏にちびっ子アホ毛少女剣士の姿がよぎる。


周子「それよりさ」

紗枝「はい?」

周子「仕事って言ってたけど」

紗枝「そうどす」

周子「やっぱここ浄化しちゃう?」

紗枝「まぁ……、それはもちろん」

周子「ちょっと困っちゃうかなー、って」

紗枝「そうは言うても……」

――紗枝は依頼を請けて、

――この祟り場を浄化するため、

――仕事としてここまでやってきたのだ。

――しかし周子は、

――この祟り場でのお祭り騒ぎに乗じるため、

――志乃の誘いもあって、ここに遊びに来ていた。

――二人の目的は、

――見事に相容れないものであった。

周子「紗枝ちゃんはここまでどうやって来たの?」

紗枝「『縮地の法』を使って……」

周子「京都は珠ちゃんに任せてるんだよね?」

紗枝「はい」

周子「……式神も一緒、に?」

紗枝「……何かあってもわかるように」

周子「”何かあった”ら『縮地の法』ですぐに戻ればいい訳だ」

紗枝「……」

――紗枝にも、

――だんだん周子の言いたい事がわかってきた。


周子「ねぇ、紗枝ちゃん」


周子「――――サボっちゃわない?」


――それは、

――悪魔の囁きだった。

紗枝「そないな事……」

周子「許されない?」

周子「誰が許さないのかな?」

周子「今あそこに、紗枝ちゃんに逆らえる人っている?」

周子「ご当主様?」

周子「まぁ、あの人ならお小言くらいは言いそうだけど」

周子「『あたしが誑かしましたー』って言えば問題ないでしょ」

周子「ま、他の家から何か文句があったとして」

周子「紗枝ちゃん程の使い手の代わりなんていないし」

周子「結局は黙認されるだけ」

周子「京都ってそういう場所だしね」

周子「っていうかここ、京都からだいぶ離れてるし」

周子「紗枝ちゃんがサボってたとして」

周子「確認できる方法なんて無いでしょ?」

周子「京都は珠ちゃんに任せてある」

周子「いよいよ珠ちゃんが対処しきれなくなっても」

周子「式神が知らせてくれる」

周子「そしたら『縮地の法』ですぐさま戻ればいい」

周子「何も問題は無いよね」

紗枝「……」

――紗枝は厳しく育てられた。

――そんな紗枝に、周子は様々な悪事を教えた。

――――『サボり』。

――あえて適度に手を抜くことで、

――逆に、重要な場面でのパフォーマンスを保つ事。

――ほぼ詭弁だが、そういうガス抜きの方法もあるのだ、と。


周子「ねっ? ええやんええやん~、息抜きだと思ってさ」

紗枝「うぅ……」

――紗枝の心は揺れていた。

――いや、既に殆どは決まっている。

――正直に言えば、家の体裁などはどうでも良い。

――彼女にとって一番重要なことは、

――周子と一緒に居られる、ということ。

――ただ、あと少しの所で、

――踏ん切りが付かない……。

――何だかんだと言って、

――やはり、根は真面目な少女なのだ。

周子(うーん、しょうがないな~)

――紗枝が、すんでのところで思いとどまっている、

――と、見抜くと、

――少し背中を押してやろうと、思案する。


――周子は1000年以上生きた大妖怪だ。

――それも、謀略に長けた九尾の狐だけあって、

――よく舌が回る。

――よく頭が回る。

――よく手が回る。

――そして何より……。

紗枝「でも……」

周子「あたしは紗枝ちゃんとデートがしたいんだけどなー」

紗枝「……っ」


――人の心の弱点を突くのが上手い。

紗枝「ちょっと……」

周子「……ん?」

紗枝「ちょっと、だけやで……?」

周子「そうこなくっちゃ!」


――小早川紗枝。

――堕つ。


――周子は心の中で、

――グッ、とガッツポーズをとった。

                                 ,.へ
  ___                             ム  i
 「 ヒ_i〉                            ゝ 〈
 ト ノ                           iニ(()

 i  {              ____           |  ヽ
 i  i           /__,  , ‐-\           i   }
 |   i         /(●)   ( ● )\       {、  λ
 ト-┤.      /    (__人__)    \    ,ノ  ̄ ,!
 i   ゝ、_     |     ´ ̄`       | ,. '´ハ   ,!
. ヽ、    `` 、,__\              /" \  ヽ/
   \ノ ノ   ハ ̄r/:::r―--―/::7   ノ    /
       ヽ.      ヽ::〈; . '::. :' |::/   /   ,. "
        `ー 、    \ヽ::. ;:::|/     r'"
     / ̄二二二二二二二二二二二二二二二二ヽ

     | 答 |     コ ロ ン ビ ア       │|
     \_二二二二二二二二二二二二二二二二ノ

紗枝「そやけど、仕事せえへん訳にはいかんから」

紗枝「ちょっと付き合うたら、周子はんにも手伝ってもらいますえ」

周子「わかったわかった」

――結局、周子の説得に折れ、

――彼女に付いて歩く紗枝は、

――それでも、ある程度したら仕事に戻る。

――その時には、周子にも手伝いをしてもらう。

――という条件を取り付けて、

――祭りを楽しむことにした。


紗枝「……で、どこに向かってはるんどすか?」

周子「んー、とりあえずあたしの友達の所」

紗枝「ふーん……」

紗枝(なんや、二人っきりと違うんや……)

周子「そんなに残念そうな顔しないの」

周子「あたしにも付き合いってものがあるからさ」

周子「とりあえず紗枝ちゃんを紹介して」

周子「ちょっとお話するだけだから、ね?」

紗枝「そやったらええけど……」

――二人は、祟り場のとある一角にある、

――喧騒にまみれた公園に辿り着いた。

――そこで周子の友人、柊志乃が、

――見慣れぬ数人の少女と、小さな宴会を開いていた。


志乃「来たわね周子さん」

周子「おいっす~」

紗枝「どうも、初めまして」

志乃「あら、その子が周子さんの例の……」

――志乃は、周子の連れた紗枝を一目見ると、

――スッ……、と優雅に小指を立てて、

志乃「いい人、なのね? ふふっ……」

――小さく笑った。

紗枝「な……、なな……っ」

周子「あはは、まーね」

――ひどく動揺する紗枝とは裏腹に、

――事も無げに笑い返す周子。


周子「それよりもそっちの……」

周子「――”4人”、かな?」

周子「初めまして、だよね」

周子「志乃さんのお友達?」

――志乃と一緒に居る、

――菜帆と日菜子、

――……と、

――『ベルゼブブ』と『ニャルラトホテプ』。

――”4人”に対して、周子が挨拶をすると、

菜帆「初めまして~、海老原菜帆です~」

ベル『あらあら~、これはまた……』

日菜子「カップル登場ですかぁ……、しかも禁断の香りが、むふふ♪」

――それぞれが思い思いの挨拶? を返した。

志乃「一期一会の出会いも、お祭りの華じゃない?」

周子「あぁ、なるほどね……」

――何やらかなり強い力を感じる面子が、

――志乃と一緒にいるものだから、

――またぞろ、彼女の新しい友人かと思っていた周子だったが、

――どうやら、ただ偶然集まっただけらしい、とわかると、

――得心のいったように、ため息をついた。


周子「それじゃ、あたしたちも混ぜてもらおっかな」

菜帆「どうぞ~、開いてる場所に座ってください~」

周子「ほい、紗枝ちゃんはあたしの隣ねー」

紗枝「えと、はい……」

ベル『もうちょっと食べ物が必要かしら~?』

志乃「それよりお酒、呑むでしょう?」

周子「あー、そだね」

日菜子「あれ、周子さん、いくつなんですか?」

周子「えーっと、……いくつだっけ?」

志乃「私に聞かれても困るわ」

――旧支配者を内に秘める者。

――七罪悪魔の一角。

――大妖怪九尾の狐。

――若き最強の妖怪退治屋。

――未だ謎多き女性。


――祟り場にある小さな公園。

――その更に一角、

――強烈な面子が揃い、

――宴会に興じる。

――この場に居る全ての者が皆、

――同じ想いを抱いた。

――『恐ろしい集団だ』と。

――しかし、

――それはそれでいいスパイスだ。

――祟り場はこうでなければ。


――魑魅魍魎と、

――それに、しれっと紛れ込む人。

――彼らの織りなす混沌の狂宴は、

――今しばらく続く。

イベント情報

・祟り場に、京都から紗枝が来ました。

・周子も現れました。

・二人は合流しました。

・志乃さん、日菜子、菜帆(withベル)に
 紗枝、周子が加わりました。

・この二人はしばらくしたら別の場所に移動するかもしれません。

・多分、基本的には一緒に行動すると思います。

えー、大変お騒がせしました……
以上です

紗枝はん、京都より緊急参戦! しかし、しおみーに唆される、の巻!
あと、タイトルを付けてみるという試み

とりあえず、紗枝はんを今回のイベントに絡ませようと思ったら
志乃さんがしおみーを誘おうとしてたっぽいので
じゃあ、紗枝はんをしおみーと合流させて
既に志乃さんの所に日菜子と菜帆がいたので、もう全部合流させちゃえ! と

結果、かなり強力な面子が揃いました
というお話

乙ー

投稿中に投下してしまいすいません……


すごいメンバーそろったなwwww
そして、コロンビアに吹いたじゃないかwwwwww

乙です!
コロンビアは卑怯

ネバーディスペアもいるし公園の戦力でどこかの軍数個分ぐらいになりそう…

日菜子(?)仮面取っちゃったんだっけ?

ああ、うん……
神の視点ということで一つ

気をつけてたつもりだったんだが……

なつきち誕生日祝い投下するヨー

「…朝からユニット取り出し口塞ぐってひどくないか…?…まさかアタシなんか不味い事したか?」

「だめー!きらり、夏樹ちゃんの質問に答えられませーん!」

「…マジか」

「マジだにぃ☆」

朝起きたらユニットの穴を全部塞がれ、取られないようにきらりに羽交い絞めにされていた。

何か不味い事をしたかと考えても記憶の限りでは全くない。

連絡アイコン以外何も見えない視界の中、取りあえず髪形とか服装をどうしようかと思案した。

「だりーと奈緒は?」

「おむ…お出かけだってー!」

「…おむ…?」

「にょ、にょわー!とにかく!お着替えするにぃ!」

誤魔化された。

そのまま着替えさせられる。もう無駄な抵抗はやめた。

「せめて髪整えさせてくれ…」

「えー今の夏樹ちゃんの方がかわいーのにぃ…それにーきらりにはそれを決められないのー☆」

「そうかー決められないのかー…裏に誰かいるんだな?」

「…にょにょわにょわにょわー☆」

「誤魔化すなって…」

まあ十中八九李衣菜と奈緒だろうと心の中で結論を出す。理由は知らない。

「むぇー…じゃあ、髪だけいいよーでも!ここから出ちゃ駄目だにぃー!」

「…」

穴を使えば出られるのだが…きらりも必死だし、まあ何かあるのだろうと思って止めた。

ユニットが一つ解放されて、視界が戻る。自分の髪形を確認して、取りあえずいつものように整えた。

「きらり、ちょっと離れるけど、絶対出ちゃだめだからねー!出たらきらり、メッ!ってしちゃう!」

「はいはい…」

滅っ!か…それは怖いなと脳内で適当なボケをしておきながら、一つだけのユニットを退屈しない程度に動かす。

ふと、昔は一つ動かすので精一杯だった事を思い出す。時間が経つのは早いのか遅いのか、よく分からない物だ。

暫くして、きらりがやっと扉を開けた。

「さあ行きましょー☆」

きらりが夏樹を抱えて、リビングに出る。

「来た!」

ギュィィィィィィン!

パン!パン!パン!

「…なつきち!誕生日おめでとう!」

李衣菜がギターをかき鳴らし、クラッカーがはじけた。

そこには意外な人物もいた。

「拓海!?美世!?何で…」

「誕生日ぐらい祝ってもいいだろ?丁度仕事も休みの日だったしよ。」

「李衣菜ちゃんにお誘い受けたの!」

「隠れ家だから言っていいか迷ったけど…この二人ならいいかなって…」

李衣菜が少し俯きながら言う。

「まぁとにかく!今日は名義上のリーダー以上にリーダーしてる夏樹に、感謝の気持ちを込めて、祝いたかったからさ!」

奈緒が箱を取り出し、李衣菜に手渡す。

「…なつきちに皆でプレゼント。ギターも考えたけど、相棒がいるもんね。」

そして李衣菜から、夏樹に手渡された。

「開けちゃう?開けちゃうー!?」

「落ち着けって…!開けるから!」

後ろからきらりが囃し立ててくる。

「…夏樹、随分…なんというか…姉っぽくなったな。」

「拓海も?あたしもそう思った…3人も妹がいる感じ?」

招待された二人は、変わっていないがどこか変わった夏樹をしみじみと見ていた。

「そっちはそっちで何言ってるんだよ!?」

「まぁまぁ…取りあえず開けてみなよ!」

美世に促されて袋を開ける。

「!」

入っていたのはCD。昔…事故の前に持っていたCDを、何とか全部集めようとしていて…なかなか集められなかったCD。

その探していたCDが数枚入っていた。

「夏樹が探しても見つからないヤツだったから、さすがに全部は無理だったけどさ…」

「なつきちの教えてくれたCDもあるから…頑張って探したんだ。」

「ちょっとこっちのコネも使ってね♪」

「まさか、あの中で一番古いのを知り合いが持っていて、しかも譲ってもらえたのには驚いた…。」

「とにかくみーんな頑張ったのー☆」

きらりがそう言って、全員が照れくさそうに笑う。

「みんな…ホントにありがとな!」

それは夏樹も同じだった。

「よーしじゃあみんな、きらりん☆お手製ケーキ食べてー!」

「…デカいな」

「食べきれなかったら奈緒ちゃんが食べると思ってー☆」

「なんでだよ!」

「ケーキ食べたいって前言ってなかったー?あとおうどん。」

「…言ってないと思うぞ?」

きらりと奈緒が妙な会話を繰り広げ、取りあえず夏樹が切り分ける。

「ほら、拓海も食えって!」

「言われなくても食うにきまってるだろ!」

「食べ過ぎたらトレーナーさんに叱られそうだけどね…」

「…そうだな」

取りあえずパーティは始まったばかりだ。

オマケ
『あべななさんじゅうななさいとCD』

「CDを探しているの?」

「ああ、ダチが探してるんだ。」

夕美と菜々に、一覧を見せる。

夕美はさっぱりわからない様だが、菜々が反応した。

「…このアーティストのCD…ナナ、持ってますよ」

菜々が恐る恐ると言った感じで挙手する。

「ナナちゃん知ってるの?結構古いけど…」

「あ!え、えっと…ちょっと古いアーティストのCD集めていた時期がありまして!ナナはJKですからね!」

「まさか…譲ってくれるのか?」

「はい!もう結構聞きましたし、部屋の整理しようとしていましたから。あ、でも!ナナがこのCD持っていたことはあまり言わないでくださいね!」

「それは構わねぇけどよ…いいのか?」

「良いんですよ、CDもよく聞いてくれる人の所にあった方が幸せでしょうし!」

菜々がサムズアップをしながらウィンクする。

こうして、あのCDの一つが手に入ったのだった。

以上です
なつきち、誕生日おめでとー!(二度目)
急いで書き上げたから短くてゴメンな!

おっつし☆
濃厚なさえしゅー!さえしゅー!
遅くなったけどなつきちおめでとう!
今の所海底都市内ではサヤが頼みの綱……頑張れ、マジで

アビスエンペラーのデメリットを打ち消す投下始めるよー


――街で狼型カースがある少女に討伐されたのとほぼ同時刻。

アパートのとある一室に一人の青年が入っていった。

??「おーう、ブラキオ、プテラ。帰ったぞ」

ブラキオ「遅かったなティラノ」

ブラキオと呼ばれた初老の男は新聞から目を離し、ティラノに目を向ける。

ティラノ「ああ、カースが出て避難誘導がな。なんか女の子が倒したらしいが……」

プテラ「ねえねえティラノ、その子可愛かった?」

ティラノ「俺は見てねーよ……ホント性欲魔人だなお前は」

読んでいた雑誌をベッドに放って話しかけてくる少年に、ティラノは呆れ顔で答えた。

??「あ~、ティラノおにいちゃんお帰りなさいです~」

部屋の奥から、大きなトカゲを抱きかかえた少女がトテトテと寄ってきた。

ティラノ「ああ、ただいま帰りましたプリンセス。いい子にしてましたか?」

??「ヒョウくんといい子にしてました~」

少女はそう言って抱いているトカゲの頭を撫でる。

ティラノ「偉いですね、プリンセス。そんなプリンセスにお土産がありますよ」

ティラノはそう言って手に提げていたビニール袋からプリンを一つ取り出した。

??「わぁ~、プリンです~! ティラノおにいちゃんありがとうです~」

ティラノ「夕飯の後ですよ? これは冷蔵庫に入れておきます」

彼女の名はコハル。彼らの主だ。そして、抱きかかえているトカゲがヒョウくん。

ティラノ「それよりブラキオ、プレシオの奴はまだ見つかんねえのか?」

買ってきた物を冷蔵庫にしまいながら、ティラノはブラキオに問いかける。

ブラキオ「うむ。先ほどから近辺をトカゲ達に捜索させているが……どうやら付近にはいないようだ」

プテラ「ボクも一回空から探してまわったけどね。やっぱり近くにはいないよ」

ティラノ「ああもうあのアホ! 一体どこ行きやがったんだ……」

ティラノがイライラして頭をかきむしる。

コハル「プレシオおにいちゃん、魔界の海で遊んでてずっと行方不明です~」

ブラキオ「うむ。その時生じた魔力の乱れから、この人間界に転移した事は辛うじて分かったのですが……」

ブラキオは言葉を切り、ため息を吐く。と、

「わー!」「きゃー!」「ひー!」

プテラ「ん。なんか外が騒がしいね」

ティラノ「行ってみるか」

――――――――――――
――――――――
――――

――――
――――――――
――――――――――――

人々が慌てふためき、我先にと逃げ惑う。

彼らの視線の先には、一頭の大きなゴリラがいた。

しかし、ただのゴリラではない。体表は泥の様に流れ続け、瞳は深紅に染まっている。

ゴリラの姿をした、獣型カースだった。

ティラノ「カース……なのか?」

『グルルルルルルルルル……グオオオオオオオオオオオ!!』

ゴリラのカースが激しくドラミングを始める。

周囲に大きな衝撃が走り、アスファルトにはヒビが入っていく。

プテラ「うわわっ! あーもう、ムカつくなーアイツ!」

ティラノ「同感だな……ブラキオ! プリンセス連れて下がってろ!」

ブラキオ「うむ! さ、プリンセス、こちらへ……」

コハル「は、はい~」

言われた通りにブラキオはコハルを連れ後ろに下がる。

『グルルロロ……』

ゴリラのカースはティラノ達の方をじっと見ながら唸っている。

ティラノ「何見てンだよエテ公……喰うぞ!」

プテラ「久しぶりに……暴れるぞぉ!」

二人の頬に鱗のような物が浮き上がってきた。

同時にティラノの手には鋭い鉤爪が、プテラの腕には大きな翼が生えてきた。

更に二人の瞳が、爬虫類を思わせるような縦に細長いものに変化した。

ティラノ「ウゥゥガァァァァァァァァァアアアア!!」

プテラ「ギャオオォオオォォォォォォォォォォ!!」

ティラノが大地を蹴り、プテラが風を切り、カースへ向かっていく。

その姿はさながら、古代の地球を支配した種族、「恐竜」。

ティラノ「どぅおりゃあ!!」

ティラノの鋭い鉤爪がカースの腕に食い込む。

『グロロロロロロロァァァァァァァァ!!』

カースの振り回した腕がティラノに直撃する。

ティラノ「ぐぁっ……テメェ!」

プテラ「ティラノどいて! ボクがやっつける! かぁっ!」

プテラが上空から踵落としを仕掛けるも、それもまた腕に阻まれた。

プテラ「嘘っ!? うぎゃっ!」

足を掴まれたプテラは、そのまま地面へ叩きつけられた。

『ゴォォォォォォォォォォォォォォッ!!』

ブラキオ「……くっ! プリンセス、お下がりください。ここは私が……」

ブラキオの頬にも鱗の様な物が浮かび、瞳も縦長に変化する。

そしてブラキオの額の一部がコブのようにせり出してきた。

ブラキオ「むむむむ…………」

ブラキオはその場を動く事無く、カースと戦う二人を見つめ続けている。

ティラノ「くっそ、おらぁ!」

ティラノは懲りずに鉤爪を振るうが、悉く頑丈な腕に阻まれる。

『グロロロロロ!!』

カースが口から泥をマシンガンのように吐き出し、プテラを地面に叩き落した。

プテラ「うわっ、もう!」

ブラキオ「…………よし、視えた! ヒョウ坊、一時プリンセスを任せる!」

ブラキオは叫ぶと二人の元へ駆け出した。

ティラノ「ブラキオ! 見えたのか!?」

ブラキオ「うむ、奴は知能自体は低い。弱点である核を本能だけで護りに行っている」

プテラ「で、その核は!?」

ブラキオ「奴の動きから見て、左肩に相違あるまい」

ティラノ「左肩か! しかしあの腕をどうにかしねえと……」

ブラキオ「腕は私が押さえる! プテラは泥の弾を引き付けよ! その間にティラノが核を討て!」

プテラ「オッケイ!」

ティラノ「頼むぜ、二人とも!」

ブラキオの指示で二人は配置についた。

『グロロロロロォォォォォォォ!!』

カースの正面に立つブラキオに向けて、二つの拳が振り下ろされる。

ブラキオ「……ふぅんぬ!!」

ブラキオは少しも臆さず、それをガッと掴み押さえた。

『グロ!?』

驚くカースの目の前をプテラが飛び去っていく。

プテラ「へっへーん、こっちだよー!」

『グルルルルルルルルル!!』

挑発に怒ったカースはプテラへ向けて泥の弾を連射した。

プテラ「あははははっ、さっきみたいに不意突かれなきゃ当たりっこないよ!」

プテラは空中を踊るように泥の弾をかわしていく。

最早、カースの視界にはプテラしか映っていない。

ブラキオ「今だティラノ! やれ!!」

ティラノ「言われなくても!!」

ティラノが左側からカースに向けて突進していく。

途中でカースもティラノの存在に気付き振り向くが、時既に遅し。

ティラノ「ガオォォォォォォォォォォォォッッッ!!」

ティラノはカースの左肩に喰らいつき、勢いに任せて核を噛み砕いた。

『グ、オォォォ……』

カースの体がシュウシュウと煙を上げて消えていく。

ブラキオ「……うむ、作戦成功だ」

ティラノ「ぺっぺっぺ。……まっじい」

プテラ「うわっ、ばっちい。こっちに吐かないでよ」

ティラノが吐き出した核の破片もまた、煙と共に消えていった。

コハル「みんなお疲れ様です~」

安全を確認してか、コハルが三人のもとにトテトテと駆け寄ってくる。

プテラ「あ、プリンセスちゃん怪我無かった?」

コハル「大丈夫ですよ~。ねえヒョウくん」

ヒョウくん「…………」

コハルの問いかけに、ヒョウくんが黙ってうなずく。

ティラノ「相変わらずヒョウの奴は何考えてるか分からん……」

コハル「あ、そうです~」

何かを思い出したようにコハルが口を開く。

コハル「みんなすごく頑張ったから、ご褒美にコハルがぺろぺろしてあげます~」

ティラノブラキオプテラ「「「!?!?!?」」」

コハルの発言で三人が凍りつく。

コハル「どうかしましたか~?」

ブラキオ「こほん。えー、プリンセス。お気持ちは大変嬉しいのですが、こんな屋外でそれをされては、
    我々はまたしてもこの世界の国家権力のご厄介になってしまいます。どうか部屋の中で……」

ティラノ「あれは……嫌な事件だった……」

プテラ「通報した人もやってきた青い服の人も、すごい侮蔑の目で見てたね……」

三人の顔がみるみる青ざめる。

コハル「分かりました~。じゃあおうちでぺろぺろです~」

ティラノブラキオプテラ「「「ほっ……」」」

三人は安堵の息をもらすと、コハルに続いて部屋に帰っていった。

――――――――――――
――――――――
――――

――――
――――――――
――――――――――――

――海底都市のほぼ中央部に存在する、海神の神殿。

現在ヨリコは一人でその奥へと進んでいた。

手には作物を満載した豪華な皿を持って。

やがて長い廊下を抜け、ヨリコは開けた場所に辿り着く。

そこには、大仰な台座の上に巨大な竜の亡骸が安置されていた。

ヨリコ「海神、プレシオアドミラル様。今月の捧げ物を持って参りました」

ヨリコは皿を台座の前に置くと、そのまま片膝をついて歌を歌い始めた。

ヨリコ「……♪ …………♪ ……♪」

静かで、厳かで、柔らかな歌声。

ヨリコの口から、海神プレシオアドミラルへ捧げる祈り歌が紡がれる。

ヨリコ「…………♪ ……では、海神様。本日はこれにて失礼いたします」

うやうやしく頭を下げて、ヨリコは部屋を後にした。

……

??『……はぁーあ、相変わらず健気な美少女だこと』

誰もいないはずの部屋に、声が響く。

??『ったく、健気で真面目で一途で……指導者の鑑っつーか何つーか』

??『だからこそ……かね。あんな怪しい女にコロっと騙されちまうのは』

??『俺様が自由に動けりゃあ、忠告の一つでもしてやれるんだが……無駄かね、アイツ頑固だし』

??『くそっ、この妙な呪詛さえ破れればよう……』

声の主――プレシオアドミラルはそれきり黙りこくり、部屋には再び静寂が訪れた。

続く

・コハル(古賀小春)

職業
魔界人

属性
古の竜のプリンセス

能力
古の竜の使役

詳細説明
太古の魔界を支配した古の竜のプリンセス。
ある日突然いなくなったプレシオを探すために人間界へと来訪した。
本人に戦闘力は無いが、古の竜の戦士団が彼女を手厚く護っている。
配下へのご褒美はぺろぺろ。

関連アイドル(?)
ティラノ(配下)
ブラキオ(配下)
プテラ(配下)
プレシオ(配下)
ヒョウくん(配下)

関連設定
古の竜

・ヒョウくん
形式上はコハルの配下。
しかし何を考えているか分からない、古の竜のどの種族かもはっきりしないなど、謎の多い存在。

・ティラノシーザー

職業
魔界人

属性
古の竜の戦士団

能力
半竜、超竜への変化

詳細説明
「牙の一族」を代表する戦士団の一員。【古竜大帝】。
自他共に認める特攻隊長で、戦士団の中でも彼の戦績は著しい。
半竜状態だと鉤爪や顎の力が強化され、超竜状態は巨大なティラノサウルスの姿になる。
人間態の外見は某天ヶ瀬さんに似ている。

関連アイドル
コハル(従事)
ブラキオ(仲間)
プテラ(仲間)
プレシオ(仲間)

・ブラキオジェネラル

職業
魔界人

属性
古の竜の戦士団

能力
半竜、超竜への変化

詳細説明
「鎧の一族」を代表する戦士団の一員。【竜脚将軍】。
直接前線に立つよりも後方での指揮を得意とし、彼が指揮を取る戦は負け無しとまで謳われた。
半竜状態で洞察眼と怪力が発揮され、超竜状態で巨大なブラキオサウルスになる。
人間態の外見は某伊集院さんの十数年後、といった感じ。

関連アイドル
コハル(従事)
ティラノ(仲間)
プテラ(仲間)
プレシオ(仲間)

・プテラマーシャル

職業
魔界人

属性
古の竜の戦士団

能力
半竜、超竜への変化

詳細説明
「翼の一族」を代表する戦士団の一員。【翼竜元帥】。
才能に溢れた若き戦士だが妙に性欲が強く、「お姉さん、ボクのタマゴ産まない?」は彼のキメ台詞。
半竜状態で腕が翼になり、超竜状態で巨大なプテラノドンになる。
人間態の外見は某御手洗さんに似ている。

関連アイドル
コハル(従事)
ティラノ(仲間)
ブラキオ(仲間)
プレシオ(仲間)

・プレシオアドミラル

職業
魔界人

属性
古の竜の戦士団

能力
半竜、超竜への変化

詳細説明
「海の一族」を代表する戦士団の一員。【首長提督】。
かつて魔界の海を一人で制覇した勇者だが、性格は意外と俗っぽい。
事故で人間界の海へ転移し、そのまま流れでウェンディ族の守護神として崇め奉られる。
超竜状態は巨大なプレシオサウルスの姿だが、人間態になった事がない為半竜状態も不明。

関連アイドル
コハル(従事)
ティラノ(仲間)
ブラキオ(仲間)
プテラ(仲間)
ヨリコ(気にかける)

・古の竜
太古の魔界を支配していた、恐竜に似た姿を持つ竜の一族。
「牙の一族」「鎧の一族」「角の一族」「翼の一族」「海の一族」に別れており、
それぞれの中で特に優れた力を持つ者達が「戦士団」への入団を許可される。

・ゴリラ型カース
狼型と同じ経緯で産まれた獣型カースの一体。
知能は極めて低いが力は非常に高い。

・イベント追加情報
海底都市の神殿でプレシオアドミラルが呪詛により封じられています。

以上です
言い忘れましたが、小春ちゃん及び古の竜達の設定は
まとめwiki内掲示板の没ネタスレより拝借しました

乙乙

小春ちゃんにペロペロされるっていうならこの身が竜になるのも……!

ところで今日鯖落ちする日じゃなかったっけ?

乙乙

川島さんこえぇ……殺人の核ってことは人間相手には特攻つきそうだ
核の組み合わせで罪の核が生まれるってなんだかちょっとゲームっぽくてワクワクするのは秘密

ティアマット暗躍はっじまっるよー!

暗い、暗い、真っ暗闇。

何かが、誰かが杏を揺さぶる。

―――さん―――杏――ん――!


――『杏さん!』

あぁ……聞こえるよ。


杏「泰葉、うっさぃ……」

起き上がろうとすると、杏の背中に鋭い痛みが走る。

杏「はぁ……結構寝たと思ったんだけどなぁ…」

完全には傷が癒えていないみたいだ。

泰葉「……杏さん…」

杏「泰葉……うん…おはよう」

杏が目覚めたのは真っ白のベッドの上。

見渡せば隣に同じようにひとつベットがある。

杏「……保健室…?」

ベッドに横になったまま、開いたままの部屋の入り口をふと眺ると
プレートが掛かっており、寝ぼけ眼の目でも辛うじて『保健室』と読めた。

泰葉「…ここは私の拠点の中学校です」

杏「泰葉、聞きたいことは沢山あるよ」

なぜ、この街でこんな真似を。
ここで何をやっていたのか。
沢山死んだ、泰葉はこんなことがやりたかったのか。
   そして……
杏たちのこと。

泰葉「…杏さん、あなたには関係の無いことです」

泰葉「今なら避難する住民に紛れれば出ること自体は容易でしょう」

杏「杏が聞きたいのはそんなことじゃない!」

泰葉「…分かっています」

杏「…だったら!」


泰葉「……うるさい…」

泰葉「うるさい、うるさい、うるさい!」

泰葉「分かってる、これ以上私を乱すなぁぁぁぁ!」

杏「……泰葉…?」

おかしい、私たちと一緒に居た時とは違ってイライラしてるんじゃなくて、なにかを怖がってるみたい。




 『おやおやぁ、泰葉ちゃん、どうしたんです?』

 『ご機嫌が宜しくないようで?』

杏の目の前にスーツを着た男が幽鬼のようにゆらりと表れる。

泰葉「……っ!」

泰葉「あなたを呼んだ覚えはない!」

 『およよ、そんなに嫌わないでくださいよ?ックク…!』
 
杏「…あんた誰?」

なんなのだこの男は、貼り付けたような笑みを浮かべて、気持ち悪い…。

 『ふぅ、そうカッカしないでください、ね?』
 
なにが、ね?だ……。

    『怠惰さん?』

杏「……へぇ、杏のこと分かるんだ?」

どうやらただの気持ち悪いヤツじゃないようだ。

 『泰葉ちゃんの『お友達』ですからねぇ』
 
杏「『お友達』ねぇ……本当は厄介者とか思ってるんじゃない?」

 『おやおや、手厳しい』
 
杏「…否定しないんだね?」

 『……』
 
杏「……」

あくまでも表情を変えずにスーツの男は返してくる。

 『率直に言わせて貰いますと…あなたは邪魔です』
 
杏「…ふぅん、黒幕っぽいこと言うんだね?」

 『クク……カハハ…黒幕ぅ…そうですねぇ……間違っちゃねぇなァ…』

杏がそう言った瞬間、男は突然狂ったように笑う。

 『泰葉ちゃんの意思は乱すし、ロクなことねぇしよォ……?』
 
杏「…泰葉の意思が乱れると駄目なんだ?」
 
 『…クヒ、私から誘導で引き出せる情報なんてないですよ?』
 
杏をからかう口調で男は突き放す。
まだだ、まだ情報が足りない。

 『まぁいいです、泰葉ちゃんの『お友達』ですもんねぇ……』
 
 『泰葉ちゃんはねぇ、唯一無二、絶大な力を持つ王様になってくれるんですよぉ!』
 
杏「…泰葉はそんなのにならないよ」

むざむざと持ってかれてなるもんか。

 『この街に溢れる憤怒の気!大量の憤怒のカース!』
 
 『馬鹿正直にヒーロー共がカースを狩ってくれてるお陰で時間稼ぎは出来たしなぁ』
 
 『まぁ、この忌々しい雨が少し邪魔ですが、より強い憤怒の厳選に使えたと思えばいいですしね』
 
杏「ふぅん…ご機嫌だね」

 『いえ、丁度今面白いのが生まれましてね?』

杏「面白いの?」

男は窓際まで歩いて行き、閉めていたカーテンを開く。

 『ほぅら?』

杏「なっ!?」

窓の外を見ると遠くの建物の一角から瓦礫が噴き上がる。
瓦礫の中からここからでも明確に見えるほど巨大な蛇が首を出す。
地上に見える部分だけであれなのだ。
地中も含めたらどのくらいの大きさになるのか……。

 『まだです、まだ『化けます』よ、あれは……』
 
男の言うとおり、蛇の進化は止まらなかった。
まるで二枚の大きな革を剥ぐように、両翼が表れる。

 『嫉妬だけじゃない…強力な憤怒も感じます、あぁ、この街を生み出して良かったですねぇ…』

 『今回もバカ正直にヒーロー共があのデカブツを狩ってくれる……』
 
杏「…狩られていいの、あれ?」

 『この街の主は図体だけのデカブツじゃないです、泰葉ちゃんですもんねぇ?』
 
泰葉「……」

泰葉は俯いたまま何も言わない。

杏「泰葉っ!」

 『あァ……それとやっぱあなた、邪魔です』
 
男が指を鳴らすと杏を中心に紫の霧が広がる。
 
 『精々あがいて、苦しんで死んでくださいねぇ?』
 
その言葉を聞いて杏は呼吸を止める。
逃げ出すなら今しかない。
今こいつは苦しんでと言った。そしてこの紫の霧……。

杏『あ、ぐ……あぁ……』

吸わないようにベッドから跳ね起き、カーテンの開いた窓ガラスを破って窓の外に飛び出す。

…クソ、少し吸った、頭がクラクラする……。

杏「頼むよ、皆!」

怠惰のカースを生み出し、杏を運ばせる。

杏「ぐぅっ!」

毒が弱まるまで新陳代謝を遅くする。
脂汗が止まらない。
 
ヒーローで構わない。早く誰かに……!
ただあれを倒すだけじゃ駄目だ。
この街の憤怒が強まってしまう…。
そうしたら泰葉が……!


泰葉「……あの娘を殺す気?」

 『クク、刹那で忘れちまったよ、まぁいいかこんなカースドヒューマン』
 
泰葉『…ふざけたこといってんじゃ…』

 『冗談です、流石泰葉ちゃんの『お友達』…聡いですねぇ…』
 
 『私、邪龍ティアマットの毒から逃げられるなんてそうないですよ?』
 
 『お陰でサタンの魔力を少し使ってしまいました』
 
 『それにどちらにせよ止まれませんし止まりません』
 
 『泰葉ちゃんが『憤怒の王』になるまで後少し……』
 
 『この街の憤怒、そしてこの私が持つ『サタンの魔力』…』
 
 『あぁ、それにあのデカブツの蛇がおっ死んで憤怒をまき散らしてくれると尚良いですね』


 『この街の憤怒を全部集めて魔王を凌ぐ最高の『お人形』を作りましょう』
 
 『そのために魔族の魔術にも手を出したのですから…』
 
 『この街の憤怒を集める所から『サタンの魔力』まで…』
 


 『私が最高の『プロデュース』を致しましょう』

終わりです。


イベント情報

・杏が誰でも良いので『絶望の翼蛇龍』を無闇に倒してはいけないことを伝えたいようです。

・邪龍ティアマットは憤怒の街に溢れる憤怒と『サタンの魔力』でなにかを企んでいるようです。


こんな感じでどうでしょう。
変な所あったら指摘お願いします!

乙乙

恐ろしい……おのれティアマット!

しかし簡単に無力化させられるような相手でもないし、まずいんじゃないかこの状況
杏ちゃん瀕死状態になりすぎワロエナイ

『憤怒の街』でも『肝試し』でもない時間軸の魔法少女のお話を投下
結構スレごとに時系列が前後するのでちょっと整理を


美優・店長登場(1スレ目570-583)
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1371/13713/1371380011.html)

レナ登場(2スレ目358-362)
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1371/13719/1371988572.html)

『魔法少女』組、憤怒の街へ助っ人参戦(5スレ目166-172)
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html)

瞳子登場(5スレ目575-579)
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html)

(瞳子合流・憤怒の街解決)※未投下

アスモデウスに目を付けられる(4スレ目194-215)
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part4 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1373/13735/1373517140.html)

夏美登場(4スレ目920-933)
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part4 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1373/13735/1373517140.html)

(このSS)

肝試し時系列


細かい齟齬は気にしない

夏美「はい、どうぞ♪」


 カチャン、と音を立てて紅茶の入ったカップが置かれた。
 その数は4つ。鮮やかな紅はミルクの白で中和されて穏やかな店内に合った色合いになっている。


美優「夏美ちゃん……あの」

夏美「あぁ、お仕事なら休暇中だからご心配なく。ねっ?」

レナ「そういうこと。たまにはいいじゃない? ……あ、美味しい」


 咎めようと美優が口を開くが、夏美があっけらかんと問題ないと返す。
 レナは夏美の入れた紅茶を飲んで舌鼓を打ち、くすくすと笑った。

 そんな2人の様子を見て美優は店長のほうをすがるように見て口を開く。


美優「レナも……店長、何か言ってあげてください」

店長「……なんというか、賑やかだなぁ。まるで人気店だ」

美優「店長っ!」


 けらけら笑う店長に、美優が軽く怒る。
 他の2人はにやにやと笑いながらそのやりとりを見ていた。

 しばらくそんなやり取りが続いていたが、店長がカップを置いて軽く咳払いをすると2人へと向き合う。


店長「あぁ、うん。夏美もレナも子供じゃないんだからあまりいりびたるなよ?」

レナ「私、どうせ昼は暇だし。たまにはいいじゃない」

夏美「私も雇ってって言ってるのになー」

店長「そんなにお客さんも来ないしな。俺と美優で十分だよ」

夏美「んもー、これだから……」


 夏美がぶつぶつと文句を言う。

 店長の、何気なく発した「2人で十分」という言葉に2人の関係がどうしようもなく固いものだと伝わってしまった不満。
 まるで昔の、子供のころに戻ったような気持ちを遠慮なく口に出していた。


レナ「はいはい、可哀想ねー」

夏美「レナ姉ぇ、捨てられたよー。くすん」

店長「いい年して何をやってるんだ、まったく……」

店長「節度は大切だぞ? ……来るなとは言わないが」

夏美「はーい……ところで、瞳子ちゃんは?」

美優「え? ……えっと、どういう意味?」


 夏美の疑問に、美優が意味を尋ねる。

 いきなりレナと夏美が店に来て、そのままゆっくりティータイムが始まってしまったのだ。
 瞳子のことを聞かれても、知らないとしか答えられない。先日の『憤怒の街』での再会は記憶に新しいのだが……


レナ「知らなかった? 今日、改めていろいろ話したいからって私を誘ったのは瞳子よ?」

夏美「そうそう、だから会えると思って楽しみだったんだけどなー」

店長「……なるほどな」


 店長が頭をぽりぽりとかいてため息を吐く。
 あの時点では夏美とは再開できていなかったし、瞳子と夏美は同級生だ。話したいこともあっただろう。

 誘った本人がまだ来ていない理由はいくつか考えられる。

 ひとつ、急用でこちらへ来れなくなっている。

 ふたつ、何らかのトラブルが起きた。


 急用ということはないだろうと店長は思う。
 仕事の都合がつかなくなってしまったのならばキチンと連絡をしてくるはずだ。彼女は几帳面だから。

 そして、トラブルに巻き込まれたというのも考えづらい。
 ブランクがあろうが、彼女は強い。なんらかの怪人に襲われたとしてその連絡は来るはずだし、今更遠慮をする間柄でもないはずだ。
 少なくとも彼はそう思っている。――彼女たちの絆を信じている。

 ――ならば、考えられるのは。


 みっつ。14年たった今でも方向音痴が直っていない。


店長「……はは、変わってないなぁ」


 思わず店長は苦笑してしまう。
 変わっていないのは絆だけではなさそうだ。

 その苦笑を受けて夏美が察したように呟く。


夏美「……瞳子ちゃん、やっぱり迷ってるのかなぁ?」

レナ「やけに自信満々だったから大丈夫だと思って油断したわ……迎えにいくべきだったかしら」

美優「……きっと、楽しみだったんでしょうね。気持ちはわかるけど……」


 仕方ない、とレナは額をおさえてやれやれとかぶりを振った。
 だいたいの事情を把握した美優も思わず笑ってしまう。

 和やかな空気が流れひとしきり笑った後、瞳子へ連絡しようとレナが携帯を取り出した。
 さて、とダイヤルする前に店の前に人影がひとつ現れる。

 お客にしろ、瞳子にしろ。対応できるよう店長と美優はレジのほうへと向かい、夏美とレナは奥のほうへとひっこむ。
 邪魔をするために来たわけではないのだし、もし瞳子ならば一番乗りかとぬか喜びしているのをからかうのも楽しそうだと思ったからだ。

 しばらく店先で止まっていた人影が、カランとドアを開いて入ってくる。

 どうやら瞳子ではなく、普通の客のようだ。
 どこか冷たい雰囲気をまとった、美人。美女というほど熟れた雰囲気ではなく、女子高生ほどの見た目。
 見つめられただけで凍りつきそうな黄金色の瞳が、一瞬光ったようにレナは感じた。

 棚を一瞥することもなく、一直線に店長のほうへ少女が向かう。
 看板はアロマショップではあるが、女性らしい小物も置いてあるため意外と雑貨を求める子も多い。

 香りはいくつも嗅いでいると鼻も麻痺してくるし、オススメや目的に合わせたものを見つくろうのも店長の仕事のうちに入る。


店長「いらっしゃいませ……なにか、お探しかな?」


 だから、特に普段と変わらないトーンで店長は聞いた。
 決して魔法のような効果はないが、心を癒すお香か、それとも綺麗なイヤリングか。

 少女は目の前で止まると、唇へと手をあててわざとらしく考え事をするふりをしてから答えた。


?「そうねぇ……欲しいものがあるんだけど」

店長「うん、何かな?」

?「――恋心、なんて愉快じゃない?」


 トン、と少女が店長の胸へ寄りかかる。
 柔らかな感触と、甘い香りに一瞬身を任せかけて――彼は思わず飛びのいた。

店長「ッ……!?」

?「あら、残念……ひょっとして不能なの?」


 彼が後ろの棚にぶつかった姿を見て、少女はクスクスと笑う。
 その光景になぜか恐ろしさを感じて、美優は思わず間に入った。


美優「あの……お客様? からかうようなことをしちゃダメ……ですよ?」

?「……からかう?」

美優「はい……ほら、美人さんなんだから……勘違いされたら危ないですし、そういうのは好きな人に……」

?「クッ……フフ、あははっ! 本気で心配してるの?」

美優「あっ……」


 思わず、美優も後ずさりしてしまう。
 何か本能的なところに訴えてくるような、人の身では抗えないものを感じて。


?「やっぱりアナタ……面白いわ」


 少女の瞳が妖しく輝いて、空気が震える。
 瘴気が舞い、制服に包まれていた体は漆黒に包まれた。

 次の瞬間には、彼女の纏う雰囲気が――彼女の姿が変化する。

 ――いや、本来のものへと解放される。


 ――女の人間界での名は速水奏。

 そして、真の名は――大罪の悪魔。『色欲』のアスモデウス。


奏「フフフ……ねぇ、魔法少女さん?」

美優「――!」


 ぞわりと鳥肌が立つほど甘いトーンの囁きに、美優も飛びのき戦闘態勢をとる。
 腕を掲げ、唱えた。


美優「ハートアップ! リライザブル!」

 光が舞い、少女の清らかさを表す美しい服が身を包む。
 胸に輝くのは希望の印。その手に掴むのは幸せの光。


美優「魔法少女……エンジェリックカインド! きゃはっ☆」


 最後にかわいらしいキメポーズをとり、相手を睨む。
 その姿を見て女――アスモデウス――奏は、また妖しく笑った。


奏「ふふっ、いいわね……可愛らしくて素敵よ?」

美優「お買い物……ってわけじゃないですよね。何のためにここへ?」

奏「あら、買い物客だったら歓迎してくれたの?」

美優「……はい。どんな人が相手でも……少しだけでも、癒しになれたら。そう思ってますから」

奏「そう。いい子なのね……ステキな理想論。嫌いじゃないわ、甘ったるいのも――」


 そう言って奏が手をかざす。
 幽かに光が集まり、ゆらりとゆらめくとその手には赤黒い手甲が現れた。


奏「――それを壊すのも……ねっ!」

 トン、と音だけを残して奏と美優の距離がゼロになる。
 あまりの速度に回避が間に合わず、防御姿勢も取り切れていない美優へとその腕を振りかぶり――


レナ「グレイスフルソードッ!」


 ――横から飛び込んだレナがその手を弾いた。


奏「あら……いたの?」

レナ「えぇ、最初から。ごめんなさいね? アバンチュールを邪魔しちゃって」

夏美「カインド、大丈夫!?」

美優「えぇ……ありがとう、オネスト」


 変身を済ませた2人が割り込み、奏を睨む。
 しかし彼女は決して慌てる様子もなく、楽しげにクスクスと笑って見せた。


奏「フフフ……あまり暴れると、お店に迷惑じゃない?」

レナ「そう思うなら、早めにご退席願えるかし……らッ!」


 レナが一足飛びに懐へともぐりこみ、逆袈裟へと切りかかる。
 奏はそれをギリギリで避け、外へと飛び出した。

奏「きゃー、あぶなーい……ふふ、外でシたいの?」

レナ「……いちいちひっかかる言い方ね」

奏「アナタが誘ったんでしょう? ほら、邪魔をしたんだから……もっと楽しませて?」


 追いかけてレナが外へ出れば、ふよふよと浮いた奏が手を叩いてからかう。
 やれやれとため息をひとつつき、レナが冷めた目で睨み付けた。

 奏はそれをみて舌なめずりをひとつし、先ほどの返しのようにレナの懐へと飛び込む。
 胸を狙っての突きは剣によって阻まれるが、かまうことなくふたつみっつと拳の雨を打ち込んでいく。

 レナも応じるように剣でもって攻撃を弾き、隙を狙っての攻撃を試みるもまるで意に介さない。
 異様な雰囲気を纏う手甲の攻撃をなんとか剣で弾き続けるも、ジリジリと押され追い込まれていった。


奏「ほらほら……大丈夫よ? もっとハデにシてくれても――」

レナ「くっ……!?」


 とうとう奏の拳の速度に、レナの剣が追い付かなくなりしりもちをついてしまう。
 胸の中心へと迫る手甲は、今度は光の矢によって阻まれた。


奏「あら……いいわね、友情って。今のはおしかったのに」

レナ「助かったわ、カインド……生憎ね。1人じゃかないそうにない相手でも……『私たち』なら、負けないわ」

美優「えぇ……何が目的かわからないですけど、穏やかではなさそうですし……全力でいきます」

 この短時間の撃ちあいで、レナと美優はおおよその実力を把握する。
 一対一ではまずかなわないだろう。ソードとの剣戟に打ち勝ち、アローの速度を躱して見せた。

 ならばどうするか。強力な必殺技でなら仕留められるかもしれない。

 エンジェルハウリングは心を鎮め、同調させ、増幅して放つ技だ。
 しかし、強力な分隙も大きくただ撃ってもまず当たらない。なによりも、その時間をくれるほど甘い相手ではない。


 ――だが。1人ではかなわない相手であろうと2人ならば止められると確信を持った。
 そして、足を止めさえすれば――


夏美「2人ともがんばって! ほんの少しでいいから止めてくれれば……いける!」


 最大級の威力を持つ槍が、撃ちぬくことも可能なはずだ。


美優「グレイス……いきます!」

レナ「えぇ……さぁ、付き合ってもらうわ!」

奏「あら……3人がかり?」

店長「いいや、4人だ。今なら反省文で許そうか?」

奏「ふふ、結構よ。私は後悔も反省もしない生き方をモットーにしてるから」


 いつの間にやらマスクをつけた店長が2人に並び、後ろの夏美を守る形で立っている。

 それでも奏――アスモデウスは、余裕を持った笑顔のまま佇んでいた。

 3人がアスモデウスの攻撃をしのぎお互いの隙をフォローしあう姿を見ながら、夏美は集中力を切らさぬように心を鎮める。
 手を掲げ、光を凝縮させていく。形は槍。全てを貫き、打ち崩すエネルギー。


夏美「……オネストリィ、ジャベリン……!」


 エネルギーの凝縮、固定。
 夏美のそれは大ざっぱで、しかしだからこそ何よりも強く相手を撃つことのできる技だ。

 美優のアローに比べて、ただ維持するだけでも負担がかかるこの技を。
 彼女たちが作るはずの隙を逃さぬよう夏美は構え続ける。


夏美「お願い、美優姉ぇ、レナ姉ぇ……頑張って……!」



 レナの剣を躱した奏の腹へと店長の拳が迫るも、身をよじるようにして外される。
 反撃のためにと振りかざした奏の右拳には美優の放った光の矢がぶつかり弾いていく。

 大罪の悪魔アスモデウスを相手にして、まったく撃ち負けることなく3人は戦っている。
 お互いのフォローも完璧で、相手の攻撃をさせないように美優が的確に矢を放つ。

 一見、この戦いは圧倒的に魔法少女たちが有利だった。


 ――だが。


店長(……なんだ、この違和感は?)

 最初に違和感に気付いたのは店長だった。
 アスモデウスの攻撃は事前に防ぎ、放たせすらしていない。

 なのに、余裕の態度は崩れない。


店長(それに……街が……『静かすぎる』……!)


 彼の店を訪れた時、アスモデウスは一見してただの女子高生にしか見えなかった。
 外で騒ぎがあったのならば気づくはずで、避難勧告も出されていないのに――

 この昼の街に、人の気配が一切ないのはどういうわけか。


レナ「もらったぁぁぁっ!」


 しかし、考えがまとまるよりも早く。
 3人はアスモデウスを追い詰めることに成功した。

 レナが上段から大きく切りかかり、それを手甲で受け止めさせると同時に美優が矢を放って弾幕を張る。
 ひるんだところへ、最大級の破壊力を持つ槍が迫っていく。

 寸前でレナは身を躱し、アスモデウスは光に飲み込まれた。


夏美「――やった!」

 しかし、彼女たちが次に見たのは――


奏「いやーん、いたーい……」


 ――少しの傷もなくその場に立つアスモデウスの姿だった。


レナ「う、そ……!?」

夏美「ちょ、直撃したはずなのに……どうして……」

美優「こうなったらエンジェルハウリングを……!」


 レナの手を取ろうとした美優の腕を、どろりとした泥がからめとる。
 そちらへ目をやれば、いつの間にかアスモデウスが佇んでいた。


美優「え……」

奏「捕まえちゃった♪ ……フフ、どうかしら?」

レナ「なっ……カインド!」


 剣を構えようとしたレナの腕も、どろりと泥に捕まってしまう。
 離れた位置にいる夏美も、同じく店長も。全員が一瞬にして拘束されてしまっていた。

奏「残念、チェックメイトね?」

夏美「そんなこと――っ……!?」


 嗤うアスモデウスを否定しようと口を開き、夏美は体に違和感を覚える。


 ――熱い。

 身体の芯から燃えてしまうほど、熱い。

 のどがカラカラに渇き、吐息は切なく漏れるばかり。

 瞳は涙で潤んで前がよく見えないし、泥に拘束されている身体が擦れるだけで声がでそうになる。


夏美「な……に、これっ……」

奏「何って……ナニかしら。切なくなっちゃった?」

美優「ふざけ、ないで……こん、なの……」


 見れば、美優もレナも同じように体を捩ってどうにか湧き上がる衝動を抑えようとしているらしい。
 その姿を見て、また楽しそうにアスモデウスは笑った。



店長「……」

奏「あら? ……オジさん、私に欲情しちゃったかしら」


 勝ち誇る奏を、店長が見つめる。
 クスクスと笑いながら頬を撫でると、からかうような言葉を投げかけた。


店長「……」

奏「もう、だんまり? ……そうよねぇ、自分を慕う相手に10年以上も手を付けないなんてパートナーに不満があるとしか思えないし……」

美優「……! あ、あなたは……んぅっ!?」

奏「ひょっとして、興味ないんじゃない? 子供のころは好きだったとか、ロリコンとか! あはは、可哀想!」

レナ「ちょっと……何の話よ……ひゃっ!?」

奏「解説ならしてあげるから、おとなしく聞いて欲しいわね……ねぇ、いい年した男と女がすることもしないで傍にいるのはどうして?」


 厭らしく、煽るような笑みを浮かべながら奏が店長へ質問を投げかける。
 どうにか拘束から逃れようとしていたレナを押さえつける泥の量は増え、身動きさえ取れなくなった。

奏「ジュンアイってヤツ? それにしたってもう少しやりようがあるし……ヤり捨ててハーレムなんてしてみたくなかったの?」

店長「……」

奏「そんなことできないって? ウソね。だってあなたは男だもの……ねぇ、なんなら私がシてあげましょうか?」


 奏の瞳が金に輝く。わざとらしくゆっくりと、一歩一歩近づいていく。


奏「それで、この場の全員を好きにすればいい。


 美優達のほうをちらりと見る。全員、身体を動かすこともできない状態になっている。


奏「さぁ、私にその欲望を見せて――」


 パチン、と指を鳴らすと店長の拘束だけが解かれる。
 彼の息も荒くなっていて、興奮状態になっているのは誰が見ても明らかだ。


奏「楽しませて頂戴、オジさん?」



  ――だから。



奏「――え?」

店長「……」


 アスモデウスは、自分の腹に突き刺さったモノがなんなのか理解できなかった。

奏「なに、これ……っぐ、ああぁぁぁっ!?」

店長「ぅおおおおおおおおおお!!」


 気合いの雄たけびと共に、奏の腹に突き刺さったものへと力を込める。

 ――それは彼の友の力。


奏「せい、じゅ……うの……つのっ……!?」


 ――雷を纏い、邪を切り裂く聖なる角。


 その力が解放され、火花を散らしてアスモデウスの身体と精神までも焼き尽くすほどの雷撃を生んでいる。
 バチバチとスパークするエネルギーはアスモデウスだけではなく彼自身をも傷つけていた。

 それでも彼は放さない。アスモデウスから離れようとしない。


奏「っ……あぁぁあああっ!」

店長「っが……は……っ……」


 雷に痺れる体を無理に動かし、アスモデウスは店長を蹴り飛ばす。
 しかしそれと同時にあたりの風景が歪み、ひび割れ――


奏「くっ……」


 ――崩れた。

夏美「なに……これ……? どういうこと……?」

店長「っ……おそらく、幻だったんだ……レナが、飛び出したあたりから……ずっと……!」

美優「て、店長……ひどい傷……」


 息も絶え絶えといった様子で店長が答えた。
 掌は焼け焦げ、脚には鈍い刺し傷が痛々しく血を流している。


奏「……自分を、聖獣の角で刺して雷まで流して……狂ってるんじゃないの……?」

店長「ははは……男はいくつになってもかっこつけたいんだよ……」


 アスモデウスが憎々しげにつぶやき、立ち上がる。
 その体には雷によって傷は生まれたが決して致命傷ではない。

 心の奥底まで蕩けるような幻惑に対抗するためとはいえ、自らを聖獣の角で傷つけた彼をアスモデウスは理解できない。
 悦楽に身を任せ、自分を抱いてしまったほうが楽だったはずだ。彼自身は、最高の時間を過ごせるはずなのだから。

 なのに。彼は自らを傷つけ、快楽を否定し、あまつさえ相打ちにしようと襲い掛かった。


 ――理解できない。そんなに気持ち良くない生き方はごめんだ。
 彼女には理解できない。色欲の悪魔には、理解できなかった。

 理解できないから、全てを壊すことを彼女は決意する。


奏「もっと雄らしく生きてくれれば、楽に逝けたのにね」


 その瞳がまた妖しく輝くと、今度は宙にいくつものカースの核が生まれていく。
 対抗しようと立ち上がろうとしたレナは、そのまま腰砕けに座り込んでしまった。


レナ「このっ……え、ぁっ……」

夏美「レナ姉ぇ……っ、まずい、かも……」


 拘束されていたのは幻の中とはいえ、そこで生まれた快感はまぎれもなく本物だ。
 幻惑が破られたとしても、身体の熱は冷めていなかった。

 集中することすら困難で、額に浮かぶ汗は焦りからくるものなのか熱を冷まそうとするものなのかすら判断できなくなっている。
 店長はケガのせいで意識も朦朧としているのか目の焦点もあっていない。

 彼女たちの変身を維持する力すら失われつつある中、それをしり目に次々とカースが生まれて美優たちへと迫っていく。


奏「ふふっ……好きな人との初体験になるだけマシだったろうに、無理したせいよ?」

美優「……い、ゃ……――さん……!」


 迫るカースに矢を撃ちこむことすらできず、震える身体を両手で抱いて美優は目を瞑った。







 ―――パチン、と。




 スイッチが切り替わったような、乾いた音がひとつ響いた。






 襲い掛かってくるはずの衝撃がないことに疑問を覚えた美優が、薄く目を開けていく。

 レナも、夏美も。寸前まで迫っていた呪いの泥が、香りすら残さず消えたことに気が付き戸惑っている。


 そして、誰よりも困惑しているのはアスモデウス――速水奏だ。



奏「アナタ……『何』……?」


??「何、だなんて冷たいじゃない? 私は私――」



 まるで気配も、風のひとつすらも舞わせず。当たり前のように魔法少女たちとの間に女が1人立っている。


志乃「柊志乃、よ。今はね」


 片手にワイングラスを傾けながら。

レナ「……し、の? まさか……本人……?」

志乃「ふふ、久しぶり。大きくなって……いいわね、変わらない友情って……」


 戸惑いを隠せないレナの顔を見て志乃は笑う。
 アスモデウスに背を向けて、楽しげにワインを飲みながら。


奏「ふざけないで……空間転移かしら? その程度で――」

志乃「――今日は」


 激昂した奏を冷たい瞳で志乃が見つめる。
 和やかに笑い、ふざけていた女とは思えないほどのプレッシャーに奏も思わず言葉を止めてしまう。


志乃「お礼と、お誘いに来たの。邪魔はされたくないわ」

奏「……そう。また改めてとはいかないの?」

志乃「えぇ。お引き取り願えるかしら?」

奏「――そうね、その方がよさそう。本当………面白いわ」


 幻惑と発情の力を込めて確かに見つめ合ったにもかかわらず、志乃には何の変化も起きない。
 状況を分析した奏は、今回は引くことにした。

 まるで霧に溶けるようにその体が消えていき、気配すらもなくなってから志乃はまた魔法少女の方へと向き直る。

志乃「大丈夫?」

レナ「……どうして?」


 手を伸ばした志乃に、レナは疑問を投げかける。
 ここにいる意味。やはり憤怒の街でのアレは――


志乃「どうしてって……そうねぇ、娘を持つっていいなぁって思ったからかしら?」

レナ「はい?」


 しかし、返って来たのは素っ頓狂な答え。
 思っていた言葉とはまったく噛みあわないセリフ。


志乃「だから、頼っちゃった。ふふ、この前はありがとう」

レナ「は、はは……あぁ、なんだかもういいわ」

夏美「レナ姉ぇ!? ちょ、ちょっとー!?」


 変身も解け、レナが倒れこむ。状況が理解できていない夏美が声をあげる。

志乃「美優ちゃんも……ふふ、無理しすぎよ」


 くるり、と指を回すと暖かな光が降りそそぐ。

 身体の異常がおさまり、昂りが穏やかになっていくのを3人は感じた。


美優「あ……あのっ! ――さんが!」

志乃「あら……本当、無理しちゃって……男の子ね」


 何よりも早く、美優が志乃にすがったのは愛しい人の無事。
 それを見て志乃は頭を撫でてやると、グラスにひとつ口づけを注いだ。


志乃「こういうのはあまり得意じゃないから、応急処置だけど――」


 そして、中身のワインを垂らす。先ほどよりも強い光に包まれ、店長は目を覚ました。


店長「っ……ん……?」

美優「ぁ……よかった………よか、った………!!」

店長「み、美優? あいつは……っ、なんであんたが!」

志乃「そんなに慌てないで? 傷はふさがってるかもしれないけど、痛むでしょう」

店長「ふざけるな、14年前にあれだけ暴れて……!」

志乃「えぇ。あなたたちに出会った」

店長「……なんで、他人を助けようとしたんだ? 諦めて帰ったんじゃ、なかったのか?」

志乃「他人を……その感覚は、どうなのかしら……」

店長「『エンプレス』……アンホーリィが……!」

志乃「……懐かしい呼び方ね」


 店長が憎々しげに志乃を睨む。


 彼女は。


 柊志乃は。



 14年前、魔法少女たちを苦しめた張本人だったから。

志乃「その名前は捨てたの。管理よりももっと楽しいことがしたくなって」

店長「そんな話が……っぐ、ぅ……」

志乃「ほら、無理をしないで? ……この前、助けてくれたことのお礼を言いに来たの」

店長「お礼……?」


 ――しばらく前のこと。彼らは憤怒の街の近くへと『助っ人』に現れたことがある。

 知らない連絡先からの手紙だった。イタズラである可能性も確かにあった。

 しかし、見覚えのあるマークと。切に無事を願う気持ちが感じられたから向かったのだ。


店長「……じゃあ、やっぱり」

志乃「えぇ。あの子は私の娘……大切な子よ? 血の繋がりなんてなくてもね」


 くすりと、和やかに志乃が笑う。
 それを見て、彼は合点がいってしまった。


店長「……そう、か。なら……いい」

志乃「ふふ……ありがとう。意地悪してたから許してくれないかと思っちゃった」

美優「……ありがとうございます」

志乃「いいの。それで、話なんだけれど……」

美優「……あの、この手は……」

志乃「ちょっとした確認……美優ちゃん、結婚してなかったの? 娘自慢をしたかったのに……」

美優「え、えぇっ……!?」

志乃「やっぱり自分のところの子が一番可愛いもの。2人の子ならきっと賢くて可愛い子が産まれるのに……」

美優「そ、そんな話をするために来たんですか……!?」

志乃「えぇ、そしてそんな可愛い娘に力の使い方を教えてあげてほしいっていうお願いをね?」

美優「力の使い方……?」

志乃「そう。今度ゆっくり……家に来てくれればいいわ。住所は教えておくから」


 美優の手の中にはいつの間にやら紙が握りこまれている。
 そっと開くと中には住所と、いつかのマークがひとつ書きこまれていた。


美優「………わかりました。あの子たち……だいぶ無茶をしてたみたいですし、ね」

志乃「ふふっ、ありがとう」

夏美「……なんだか複雑な気分。うーん」

志乃「あら、どうして?」

夏美「ひゃわぁっ!? ちょ、ちょっと……いや、だって敵で、でもいいお姉さんだったわけで……」

志乃「ふふ……今はお母さんなんだけどね? やっぱりほたるちゃんは無理をしちゃうから、昔のあなたたちよりもひょっとしたら――」

夏美(あ、この人めんどくさくなってる)




店長「……美優?」

美優「は、はい?」

店長「今更かもしれなが、俺もだな……」

志乃「ふふ、男の子が生まれてもいいわね? きっとかっこよく……あら、危ない」

店長「あんたって人は……!」

志乃「余計なお世話だったかしら……ふふ、娘のこと。考えておいてね?」

美優「は、はい……」


 ――結局、柊志乃は。
 散々娘の自慢をして、家に帰ったらしい。

――

店長「はぁ、疲れたよ……参った」

レナ「……2人は両想いなのよね?」

美優「え、あ……はい。そう、です……?」

店長「……そうだな。俺は美優が好きだ」

レナ「あら。ならいいじゃない」

夏美「むぇー……言葉にされると、なかなか……」

店長「でも、それで負担にはなりたくない。だから結婚は……と思っていたが……」

レナ「それこそ我がままじゃない? 全部まとめて守ってやる! ぐらい言わなきゃ」

店長「ははは……無能力で、体力だって昔より落ちてるのにか?」

美優「……それでもっ!」

店長「み、美優?」

美優「かっこよかったです。今日……あんなに、無茶して……とても、心配で。でも……とっても……」

店長「………美優。俺は」

美優「いつも、支えてくれて……感謝してます。私が戦えるのは昔も、今も……」


レナ(二人だけの空間になりつつあるわね)

夏美(もういっそ帰ろうかー。疲れちゃった……)

レナ(そうね……まったくもう……)

 こっそりと2人が抜け出そうとドアへ向かっていく。

 ついにたどり着いて開こうと手をかけたその時、ドアが勢いよく逆に開いた。


瞳子「ふふ、危うく迷うところだったわね!」


店長「……!?」

美優「っ!」


 奥にいた2人はそそくさと距離をとり、瞳子はドアのすぐそばにいる2人に気づくと声をかけた。


瞳子「あら、お久しぶり。懐かしいわね」

夏美「……瞳子ちゃん」

レナ「えぇ、変わってないみたいで……私もとっても懐かしいわ」

美優「こ、紅茶でもいれましょうか!」

店長「あ、あー。今日の売り上げは……」


 ――どうやら、まだ同窓会は終わらないようだ。

情報更新


柊志乃
職業:元・魔法少女の敵
属性:元・安寧たる世界の守人
能力:制限付きでの平定者の力の行使

14年前、『魔法少女』たちと戦った侵略者。
地獄(魔界)や天国(天界)などいくつもの多元世界が重なった不安定な星である地球を消滅させ、異世界からの侵略などを防ぐために地球を襲った。
強制的な消滅ではなく、滅びの時を速めての抹消を試みるも魔法少女たちによって阻まれる。
その後、何度も作戦を阻止されて地球へと滞在するうちに酒と文化へと興味を持つ。

最終的には愛と祈りの奇跡によって覚醒した『魔法少女』たちと決戦をするも引き分け。
星どころか銀河ごと消滅させるほどの力を受け止める人々の心に強く感銘を受けて地球侵略を諦め宇宙へと戻る――

――と、思わせてそのまま地球に住んで気に入ったお酒を楽しむ道楽っぷり。
現在は『安寧たる世界のため』というよりも個人的な享楽が滞在している主な理由。
合理主義の思考は愛とアルコールに溶けて消えた。

!ナチュルスターたちに『魔法少女』たちが力の使い方を教えるフラグが立ちました

!瞳子さんの方向音痴が設定に組み込まれました。

!美優と店長が両想いなことを再確認しました。

!志乃さんが親バカです。

以上、投下終了
ごめんね服部さん……同時に動かせるギリギリだったんや……

乙乙!

いい店長回だった…!
ブリッツェンの角ちょいちょい活躍してて嬉しい。

志乃さんブレないな。
というかプロフィール出ても底知れない感が凄い

ササッと書いてみたものを投下

時系列的には「憤怒の街」および「嘘つきと本音」後なのは決断的に明らかである

――――――――――

ティラノ「プリンセスはお休みになられたぜ」

プテラ「お疲れ。……そういえばさ、他の奴らはどうしたのかな?」

ティラノ「あん?」

プテラ「プリンセスと護衛の僕らでプレシオを探しにきたけど、戦士団の他の奴らはどうしてるのかなって」

ブラキオ「そのことか……案ずるな。我々だけでなく、他の者達もプレシオ捜索に動いている」

プテラ「そうなの?」

ティラノ「マジか、初めて聞いたぞ」

ブラキオ「プレシオは海の一族の竜だ。豊富な水のある場所でしか生きられん」

ブラキオ「であるならば、彼の捜索に最も適しているのもまた海の一族だろう」

ブラキオ「現在、フタバイキングとアーケローグがそのプレシオの足取りを追って人間界の海を探している」

ブラキオ「加えてアンモナイツも総動員しているから、何かしらの手掛かりは掴めるだろう」

プテラ「とんでもないなぁ……まあプレシオは海の一族のボスだし、当然か」

ティラノ「じゃあなんでプリンセス自ら人間界に来る必要があったんだよ」

ブラキオ「第一に、プリンセスの意向だ。あの方はご自分の手でプレシオを見つけたいのだろう」

プテラ「でも、一億数千年も前にいなくなったんだし、プレシオだってもう死んじゃってるんじゃ……」

ブラキオ「だとしても、功臣の弔いを他人任せにしてはおけんということだ」

ブラキオ「プリンセスは同胞と引き離されて、遠い異世界で死んだ臣下を放ってはおけん。そういうお方だ」

ブラキオ「第二に、人間に変身できる我らが人間社会に溶け込み、情報を得るためだ」

ブラキオ「戦士団所属の精鋭とはいえ、変身できない者も多いからな……」

プテラ「そういえば、プレシオも人間に変身できるんだったよね」

ティラノ「……プレシオの奴の性格上、人間界を楽しんでそうだけどな」

プテラ「ホントホント。それにしても、どこに行っちゃったんだろうね……」

――――――――――
とある海岸



バシャーン

カイ「うーん、やっぱり海はいいなぁっ!」

ホージロー『キンキン!』

亜季「あまり遠くへ行かないで欲しいであります。はぐれたら危険ですから」

カイ「大丈夫大丈夫! じゃあホージローと一緒に泳いでくるから」

バシャバシャ

星花「……亜季さんは泳がないのですか?」

亜季「……恥ずかしながら、泳げないというか、浮かべないのであります」

星花「浮かべない?」

亜季「私は戦闘用サイボーグですから、当然身体の何割かはメカに置き換わっています」

星花「ふむふむ」

亜季「その大部分が水よりも比重が重いので、水に入ると沈むばかりで浮かべないのであります」

亜季「人工心肺のおかげで溺れる心配はないのでありますが、泳ぎはちょっと……」

星花「まあ……ごめんなさい、無神経な質問をしてしまって」

亜季「構いません。人には、どうしても得手不得手、向き不向きがあるものであります」

星花「向き不向き……ですか」

亜季「人は完璧に近づくことはできても、完璧にはなりきれない生き物ですから」

亜季「だから、どんな人にだって、誰かの支えや助けがいるのです」

星花「そうですね……わたくしも、ストラディバリやお二方に助けて頂いてばかりですもの」

亜季「でも、我々もいつも星花に助けられております」

星花「困った時はお互い様……ですね」

亜季「ええ、その通りであります」

星花「……ふふっ」

バチャバチャ

亜季「おや、カイが戻ってきましたぞ」

星花「意外と早かったで……?」

バッシャーン!

亜季「なっ……!?」

星花「きゃあっ!」



その時、巨大な影が水飛沫を上げながら海面から姿を現した。
巨体が視界を埋め尽くし、長い首がちらちらと陽光を遮って砂浜に細い影を落とす。

亜季と星花の前に現れたのは、一体の首長竜だった。



亜季「っ……! マイシスター!」

星花「ストラディバリ!」

ストラディバリ『レディ』

???「おおっと、ちょっと待った!」



亜季「新手……? 何者でありますか!」

???「そう警戒しなさんな! 別にお前達を取って喰ったりしねぇよ」

亜季「どこにいる! 姿を見せるであります!」

???「何言ってんだお前。こっちだよこっち! 目の前だよ!」

星花「えっと……ひょっとして、貴方が?」

ストラディバリ『レディ』

ザバァッ

ペタペタ

亜季「むっ。何でありますか、このデカい亀は」

???「何ぃ? そりゃあ俺は亀に違いねぇけどな、ただの亀じゃねぇぞ。間違えるなよ」

星花「亀さんが喋ってらっしゃいますわ……きっと、とても珍しい亀さんですのね」

ストラディバリ『レディ』

???「おう! そっちの人間はわかってるな。フタバ! お前もこっちに来い!」

――――――
――――
――



亜季「それで、結局お前は何者なのでありますか」

アーケロ「俺はアーケローグ! アーケロン一族の戦士だ」

星花「アーケロン……というと、白亜紀に生息していた大きな海亀さんですわね」

ストラディバリ『レディ』

アーケロ「それからこいつはフタバイキング。俺のダチで、フタバスズキリュウ一族のもんだ」

フタバ「よろぴく」

亜季「よ、よろぴくって……」

アーケロ「俺達は人探し、いや竜探しをしてるんだけどよ。人間はフタバを見ると逃げちまって話になんねぇ」

亜季「そりゃあ、喋る海亀と恐竜が現れたら、普通の人間は尻尾を巻いて逃げ出すでしょうな」

アーケロ「だがお前達は逃げなかった! それどころかフタバと戦おうとした。なかなか見所があるぜ」

星花「それで、亀さん。人探しをされているということですが……」

ストラディバリ『レディ』

アーケロ「おう、そうだ。お前達、こいつに似た感じの竜を見かけなかったか?」

フタバ「わたしです」

アーケロ「探してるのはこいつの同族みたいな奴なんだ。フタバみたいに首が長くて身体がでかいんだよ」

フタバ「しかもつよい」

星花「うーん……似た感じと言われましても」

亜季「様々な並行世界に行ったことがありますが、恐竜に遭遇したのは初めてですし」

星花「残念ですが、お力にはなれそうもありませんわ」

アーケロ「そうか……仕方ねぇ。人間界には俺達の同族はほとんどいねぇみたいだしな」

亜季「人間界……? ちょっと待つであります。ひょっとしてお前達は異世界から……」

「し、守護神様っ!?」

 
 
 
アーケロ「ん?」


亜季「カイ! 戻ってきたでありますか!」

星花「ずいぶん遠くまで泳いでいってたんですね」

カイ「そ、そんなことより! なんでこんなところに守護神様がいるの!?」

フタバ「ぼくはしんせかいのかみになる」

亜季「守護神とは……ウェンディ族の?」

カイ「うん。神話や伝承で伝えられてる偉大な海の神で、神殿に住んでたって……」

カイ「姿も言い伝えとまるっきり同じだよ! 本当に首が長くて、手足がヒレみたいだったんだ!」

カイ「守護神プレシオアドミラル! 実際に会えるなんて思ってもみなかった!」

アーケロ「!? お、おい! 今何て言った!?」

カイ「え? こ、この亀は?」

アーケロ「俺のことはどうでもいい! 今、プレシオアドミラルと言ったか!?」

カイ「う、うん。ウェンディ族なら誰でも知ってる名前だよ。ねぇ守護神様」

フタバ「ちがいます」

カイ「えっ」

アーケロ「やっぱりボスは人間界にいたのか……それで、神殿とやらはどこにある。そこに住んでるんだろ?」

カイ「海神神殿は海底都市にあるけど……」

アーケロ「本当か! じゃあその都市とやらに案内してくれ」

カイ「……それは」

亜季「やめるであります! カイが困っているでしょうが」

星花「……カイさんは海底都市のご出身なのですが、訳あって帰れない状況でして」

アーケロ「なんだ、そうだったのか……まあいい。その都市はどの辺にあるんだ?」

カイ「東の海の底にあるよ。結構遠くだけど」

アーケロ「東か。まあ、アンモナイツに探させればすぐ見つかるな」

フタバ「たたかいはかずだよあにき」

カイ「……でも、どうして守護神様を探してるの?」

アーケロ「なんでって……プレシオアドミラルが俺達のボスだからさ」

亜季「首長竜が海亀のボスなのでありますか?」

アーケロ「種族がどうあれ、強い奴がボスになるんだよ」

フタバ「それがおれたちのルール」

アーケロ「そういうわけだ! それじゃあ俺達はもう行くぜ。あばよ!」

ザッパァァァン

バシャバシャ

亜季「……行ってしまいましたな」

星花「恐竜時代の亀さんは言葉も話せるんですのね。知りませんでしたわ」

亜季「いや、いつの時代も亀は喋らないと思うでありますが……カイ?」

星花「カイさん、どうかしましたか?」

ストラディバリ『レディ』

カイ「……」

亜季「あの変な亀の言うことなど気にするまでも……」

カイ「……う~ん。守護神様の手下ってことは、神の遣い? 天使って奴なのかなぁ」

カイ「海の天使ってクリオネじゃなくて亀だったんだ……ちょっとショックかも」

ホージロー『キンキンキン!』

カイ「え? 鮫の天使もいるかもしれない……ホージローもそう思う?」

ホージロー『キン!』

亜季「……」

星花「まあまあ」

ストラディバリ『レディ』

[海亀盗賊]アーケローグ
古代カメ・アーケロン一族の戦士。古の竜の戦士団に所属する。
竜じゃないとか細かいことは気にしてはいけない。全長約4メートルなので実際デカイ。

[首長海賊]フタバイキング
フタバスズキリュウ一族の戦士。古の竜の戦士団に所属する。
とてものんびりした性格。人間界ではよくネッシーとかそういうのに間違われる。

[巻貝騎士団]アンモナイツ
アンモナイト一族の騎士団。数百体のアンモナイト達で構成されている。

――――――――――

フルメタル・トレイラーズが人語を解する海亀と首長竜に出会った日の夜、
街外れの廃墟に一人の少女が隠れていた。

彼女の名は横山千佳。またの名を、魔法少女ラブリーチカである。

捨てられたフィギュアが憤怒の街に蔓延する呪いのエネルギーで生命を得たことで
生まれた千佳には、アニメのキャラクターとしての記憶とフィギュアとしての記憶、
そしてふたつの人格が混在している。

ラブリーチカとしての記憶を持つ千佳は、怪物を退治しつつ関東一円を走り回っていた。
しかし、この世界のどこにも、彼女の記憶の中にある街も、両親も、帰るべき家もなかった。

彼女の存在がフィクションの産物である以上それは当然のことだが、帰るべき場所がないと知った
少女が味わった悲しみと絶望は察するにあまりあるものである。

千佳は街外れの廃墟に身を置き、夜が明けるのをひたすら待っていた。
千佳の心が怒りと絶望に満たされれば、千佳は意識を失い『悪い子』の人格が表出する。
そうならないために、必死に心の奥から這い上がってくる憤怒を抑え込んでいるのだ。

千佳「う……うぅっ」グスッ


千佳が孤独に耐えかねて涙を流すたび、もう一人の千佳が心の奥から囁いてくる。



チカ『現実を直視しなさいよ。あたし達の居場所はどこにもなかったじゃない』

千佳「そんなことないっ……あたしは魔法少女ラブリーチカだもん。みんなあたしのこと知ってたもん」

チカ『それは魔法少女としての千佳を知ってただけ。『横山千佳』を知ってる人間なんていないの』

チカ『パパもママも、おじいちゃんもおばあちゃんも……どれだけ探しても見つからない』

チカ『そんなの当然よ。元々、そんな人達はいなかったんだから』

千佳「やめてっ!」

チカ『つまらない意地を張るのはやめたら? 居場所がなければ作ればいいじゃない』

チカ『あたしに任せれば、気に入らない人は全員やっつけて、千佳はこの世界の女王様になっちゃうんだから』

千佳「あたし、そんなの望んでない! 千佳は正義の魔法少女だもん!」

千佳「……みんなを悪い人から守るのが、魔法少女だもん……」

ポロロン……♪

千佳「……?」

ポロロン……
ポロン……

千佳「楽器の音……? 窓の外から聞こえてくる……」

ジャーン……♪

千佳「誰か、いるの……?」



???「どうかいたしましたか、美しいフロイライン」ヌゥッ



千佳「きゃあっ!」

???「ハハハ、驚かせてしまいましたか。これは失礼」

???「なにぶん、我々は人間よりも身体が大きいのでね。威圧的になってしまうのは申し訳ない」

千佳「え……き、恐竜……!?」

???「キョウリュウ? いいえ、私は古の竜の一族の者です、お嬢さん」



パラサ「私の名前はパラサバード。パラサウロロフス一族の吟遊詩人です」

千佳「パラサ……バード?」

パラサ「こんな夜更けに貴女のようなお嬢さんが涙を流していらっしゃるとは……何か悲しいことがおありで?」

千佳「……それは……」

パラサ「ああ、おっしゃらないで。人にはそれぞれ事情というものがあります。無闇に語るべきではない」

パラサ「その代わりと言ってはなんですが、お嬢さん。我々の出会いを祝して、一曲いかがでしょう」

千佳「歌……恐竜さん、歌えるの?」

パラサ「はい。普段は我らが王女を讃える歌を吟じるのですが、今宵は我々の出会いの夜」

パラサ「心に巣食う悲しみを吹き払うのは希望の歌です。さあ、歌いましょう」



ポロロン……♪

「おお、悲しみに暮れる人よ。涙を拭い、夜空を見上げよう。

 おお、苦しみに耐える人よ。今は立ち止まり、思いを馳せよう。

 見よ、空と星と月が見守っている。

 彼らは数億年の昔から我らと共にある。

 友よ、希望に満ちた明日を謳おう。

 力の限り生き抜く者に、限りない栄光を!」



ギターに似た弦楽器を短い前足で器用に奏で、パラサバードの伸びやかな歌声が夜空に染み渡るように響く。
少女の絶望を慰めるための密やかなコンサートは、こうして始まった。

「友よいずこへ、君は遠き彼方へ旅立ちぬ。
 
 幾千の昼と夜が我らを隔てても、猛き心は共にあり。

 再会を誓い、夢見た日々よ。忍従の時は終わりを告げる。

 信じよ、やがて来たるその日を。
 
 空と海の向こうでまた会う日を」



様々な唄を披露しているうち、千佳に笑顔が戻りつつあった。

それを横目で見たパラサバードは、気を良くしてさらに別の唄を歌う。

「プリンセス万歳! 我らが主よ!
 
 愚かなる者は震え上がり、猛き勇者の血筋に恐れをなすだろう。

 闇は去り、新たな秩序が生まれる。

 絶望は去り、栄光の光が世界を満たすだろう……」



その夜、街外れの廃墟には力強いテノールの歌声が一晩中響いていた。

そして、何曲か経てから、少女のソプラノが吟遊詩人の歌声に寄り添い始め、
月明かりの下のコンサートに華を添えた。

付近の住人は、廃墟に人ならざる者の巨大な影を見たというが、その正体が何なのかはまだ判明していない。

[獣脚詩人]パラサバード
パラサウロロフス一族の吟遊詩人。戦士団所属ではないが、プリンセス・コハルを讃える詩を歌っていた。
プレシオアドミラル捜索とは無関係に、勝手に人間界をさまよっているようだ。


《イベント状況》
・人間界の海に、古の竜の海の一族の者達が出没するようになりました。
・コハルやティラノ達以外にも人間界に訪れている古の竜がいるようです。
・千佳ちゃんに友達ができました。

× フルメタル・トレイラーズ
○ フルメタル・トレイターズ

これはケジメ案件ですね……たまげたなぁ……

乙だけど
他人様のキャラ使う時には「お借りします」の一言はマナーでないの?

>>298
うっかり失念していました。失礼しました……
次回から気をつけたいと思います

なんとかかんとか書き上げた憤怒の街関連を投下します。

例によって、今回もgdgd注意です…

今回はナチュルスター、ネバーディスペア、魔法少女組、琴歌をお借りします。

なんとかかんとか書き上げた憤怒の街関連を投下します。

例によって、今回もgdgd注意です…

今回はナチュルスター、ネバーディスペア、魔法少女組、琴歌をお借りします。


「くっ!このタイミングでくるか!」

憤怒の街を一望できる、小高い丘。

そこには、癒しの雨を降り注がせている三人の少女たちの姿があった。

憤怒の街の濃密な瘴気を薄め、解決への大きな一手となる雨。

そして、そのすぐ目の前には未だ戦い続ける者達の姿があった。

―――最初の一人は、『OZ』適合者である西園寺琴歌。

―――次いで現れたのは、熟練した実力者たる『魔法少女』の一行。

―――そして、更にそこに駆けつけたのは負を断ち切る『ネバーディスペア』。

押し寄せるカースの群れを跳ね返し、精霊の加護を受けた少女たちを守る面々は疲弊しながらも戦い続けていた。

既にカースが出現する根源は絶たれ、終わりが見えたことにより各々が一気呵成に畳み掛けようとしていた。












―――――――――――しかし、それをあざ笑うかのように『ソレ』は唐突に現れた。









「琴歌ちゃん!!」

「ッ!?」

最前線で戦っていた琴歌を、突然きらりが呼ぶ。

そして、それと同時に地面からズルリと『黒い何か』が飛び出す。

琴歌はそれを間一髪、『ドロシー』の瞬発力で避けることに成功した。

「大丈夫か!?」

「大丈夫です!きらりさんのおかげです!」

「あと少しだというのに……簡単には終わらせてくれないようだな」

夏樹の呼びかけにしっかりと答える琴歌。

その琴歌を襲った存在を見た店長は、苦々しい表情になる。

「むえぇー……なんか嫌な感じがぷんぷんするー…」

「………コイツ…まさか…」

「奈緒、何か知ってるの?」

きらりの一言は、その場にいた全員が感じたことでもあった。






―――それは、一体の大きな黒蛇であった。




―――それは、とある嫉妬に駆られた少女が作り上げた存在と酷似していた。




―――それは、よじる様に身を震わせるとその場にいた全員を見渡し………あざ笑うかのように口を開いた。




「『嫉妬の蛇龍』…こいつがそうなのか…?」

李衣菜に問いかけられた虎に変身している奈緒が、半信半疑のようにその名を口にした。

「……ッ!!おい、冗談だろ!?」

「なっ!?」

「グレイス!!」

その瞬間、まるでその声に答えたかのように幾つかの影が地面から這い出る。

その内の一体がレナことエンジェリック・グレイスに這い出ると同時に噛み付こうとするが、間一髪で反応し距離を取る。

その他にも、ぐるりと四方を囲むよう蛇龍が姿を現す。

―――合計、五体の蛇龍がその姿を現した。

「嫉妬の蛇龍って……確かたく…カミカゼが倒したんじゃなかったのかよ!?」

夏樹の友人でもあり、アイドルヒーロー・カミカゼでもある向井拓海、その本人からふとしたことで嫉妬の邪龍の結末を聞かされていた夏樹達にとって、その名は正しく寝耳に水であった。

「なら、エンジェリックハウリングで……!!いけない!?」

「ッ!邪魔よ!!」


カインドこと美優が、状況を打開するためにグレイスと合体攻撃を提案しようとしたその時、蛇龍達が動き出す。

―――一体が護衛部隊から反転し、ナチュルスター達に向かっていったのだ。

真っ先にグレイスが反応して止めようとするが、それよりも先に別の蛇龍が行く手を阻む。

「うきゃああ!?」

「きらりさん!!」

「コイツ、どきやがれ!」

「く、ここまできて!!」

次に反応したきらりと琴歌だったが、更に別の蛇龍が小さな蛇を忍ばせてきらりを転ばせその隙を埋めるために琴歌はその場に足止めされる。

奈緒と店長もまた、邪魔をする蛇龍に阻まれてしまう。

「夏樹ちゃん!」

「く、なら……うわ!?」

カインドが邪魔をする邪龍を引きつけ、夏樹が穴によるテレポートで移動しようとするもきらりを転ばせた蛇龍が反転して突進してきた事により気を取られてしまう。


「こいつら、連携して動いてるのか!?」

「私が行きます!!」

店長が顔に焦りを浮かべた直後、蛇龍が離れた事により難を逃れたきらりから離れた琴歌が凄まじいスピードで蛇龍を追いかける。

「夏樹ちゃん、あなたも!」

「そうは言うけど一人じゃ厳しいだろ!」

「きゃ!?」

「危ない!!」

テレポートを使えば簡単にいけるが、それをするとカインドが一人で二体の蛇龍を相手にすることになるため動けない夏樹。

展開しているユニットで周りを見れば、奈緒と店長はきらりと合流しているが蛇龍の他にも雑魚カースまで混ざり始めて手一杯、グレイスと李衣菜は相手にしている蛇龍が明らかに時間を稼ぐように足元を狙い続けているため釘付けにされている。

「これ以上は進ませはしません!」

そんな中、一人抜けた琴歌は最期の蛇龍を阻止するために高速移動、その勢いのまま鋭く蹴り飛ばそうとするが、


―――ズルリ

「え!?」

蛇龍の体を凹ませることはできたが、琴歌の足はそのまま蛇龍の体に埋まってしまう。

「このままでは…きゃああ!!?」

なんとか足を抜こうともがくが、蛇龍を構成する小さな蛇が埋め尽くし逃がそうとしない。

さらに蛇龍はぐるりと体を回転させ、琴歌は地に押し倒されてしまう。

「琴歌ちゃん!」

「く、間に合え!!」

「李衣菜ちゃん!」

「私はいいから早く!!」

その様子をみた面々が急いで助けようとするが、他の蛇龍がまたもや邪魔をする。

そして、琴歌を捕らえた蛇龍はその口を大きく開く。

「―――!」

その姿に、思わず目をつぶってしまう。








―――誰もが、その後を想像して、絶望が差し込む。












『―――我が声に応え、仇なす者を水流をもって討ち貫け!《槍海のパニッシュメント》』







「!?」

「なッ!?」

「……え?」

その瞬間、いつの間にか足元に広がっていた巨大な水溜りから幾本もの水の槍が突き出され、蛇龍を貫く。

更に蛇龍の真上で一つになったかと思えば、一本の大きな杭となって蛇龍をくし刺しにした。

その様子を見た面々が、突然のことに目を見張り、琴歌も再び目を開く。


『荒れ狂う大海の奔流よ、今こそ全てを押し流せ!《弩轟のスプラッシャー》』


さらにもう一度、どこからか謎の声が聞こえたかと思うと蛇龍の真横から極太の水のレーザーとも言うべき物が放たれる。

完全に不意を打たれた蛇龍はそれに直撃し、琴歌を離してしまうと共に大きく吹き飛ばされた。

「いったい何が…?」

「………今の…声…」










「―――はわぁ…なんだか大変な所にきちゃいましたね~、くとさん~」

『!』





「それに『秘術』…まだちょっと慣れません~…」

『×』

「え……?」

「!?どこからでてきたんだ…?」

琴歌が無事だった安堵と、突然起こった事態、そしてふらりといつの間にか琴歌の側にいた一人の少女を見つけた全員が疑問を持つ。

「………え…嘘……」

「本当は、あんまり目立っちゃダメなんですけど~……でも、仕方ないですよね~?」

『○』

白いワンピースを着て左手にはどこか禍々しさを放つ一冊の本、右肩にはなにやら忙しなく動いているタコっぽいナマモノを乗せて、綺麗な銀髪はくるくると二つに束ねている。

容姿はさすがに大人びているが、どこか間延びしたような口調やのんびりそうな雰囲気は昔と変わらず。

だからこそ、琴歌はすぐに気づくことができた。

その人物が、自らが攫われる前に仲良くしていた「友達」であることに。

「……里美、ちゃん…なんですか?」

「―――お久しぶりです~、琴歌ちゃん♪」




―――旧支配者の加護を受けた少女、榊原里美が、いつもと変わらないゆったりとした雰囲気を放ちながらそこに居た。

「本当に、本当に里美ちゃんなんですね!?」

「もちろんです~……琴歌ちゃんは変わらないですね~」

「だって…だって……!」

「!あぶな――」

――パリン…

琴歌が、嬉しさと驚きとその他色々がないまぜになったような顔をしながら立ち上がる。

それを笑顔で答えると、里美はすっと立ち位置を変える。

それとほぼ同時に、吹き飛ばされた蛇龍が起き上がり突進していくのに気づいたグレイスが声をあげた瞬間。

何かが割れるような音と共に蛇龍の真下から水柱が立ち上り蛇龍を飲み込んでいた。

「―――ダゴンさん、お手!」

さらに里美が声をあげた直後、今度は今もなお広がっている水溜りから大きな水かきがついた手のような物が飛び出すと怯んでいた蛇龍を叩き潰し、そのまま水たまりの中に引き釣りこんでしまった。

「…里美ちゃん?」

「ほえ…いっぱい話したいこともありますけど~……それは後回しですよ~」

『○』


(……この、タコみたいな生き物はなんなのでしょう?)

「琴歌ちゃん大丈夫ー!!?」

「あまり無理はしないでくださいね?」

琴歌がふとした疑問を浮かべるが、そこに他のメンバーも蛇龍やカースを相手にしながらも集まってくる。

「琴歌ちゃん、この子は?」

「……ふふ、私の最高の友達です!」

店長が琴歌に里美の事を聞くと、琴歌は本当に嬉しそうにそう答えるのだった。

「はわ~…榊原里美といいます~、あとこっちはくとさんです~」

「……え、何このタコ」

『!』

「ちょっと!なんか和んでないで手伝ってよ!」

「!!すまなかった!」

里美とくとさんの雰囲気に飲まれかけていた奈緒と店長が李衣菜の声に我に返る。

「守りはまかせてください~、くとさんがしっかり固めますから~」

『!』

パラりと、手にもつ本を開きながら里美は全員に伝える。

その肩に乗るくとさんもミニサイズながらふんぞり返って肯定の意をしめしていた。

「里美ちゃん!私のダンスを見せてあげますね!」

「私たちだってすごいところ見せちゃいますもんねー♪」

『○』

「やれやれ…あまり無理はするなよ!」

「ここが正念場って奴だ、気を引き締めていこう!」

「うきゃああ!きらりも頑張るにぃ!」

新たな味方を加えた一同は、再び這い出る蛇と向かい合うのだった。


続く?

「秘術」
旧き魔道書に記された、魔術や魔法の原型となった術。
主に幾つかの系統に分かれており、それぞれで発揮する事象が異なる
時空:主に時と空間を歪める系統。世の理を捻じ曲げる、禁断の所業。
生命:主に生と死を操る系統。秘術の中でも最上位に位置する、真理を犯す禁忌。
光輝:主に光を呼び出す系統。闇を払い、貫く神の光条。
深淵:主に闇を生み出す系統。生ける者を蝕み、食らい尽くす邪神の一端。
旋風:主に風を操作する系統。時に静かに、時に激しく舞い移ろう神秘。
業火:主に火を指し示す系統。人が魔に打ち勝つ為の、諸刃の術。
瀑布:主に水を引き出す系統。癒しも苦しみも併せ持つ、起源の力。
地殻:主に土を現し出す系統。星を固め、果てなく続く大地の鼓動。

ちなみにこれら以外にも系統は存在する。

「里美の能力補足・1」
里美の能力は水の操作だが、主に水たまりや水球、極細の水柱などを発生させてそれに触れたりすると水柱やウォーターカッターなどが飛んでくるという、トラップのように使用できる。
里美がほかのことをしていても、くとさんも操作できるためなかなか厄介。

イベント情報
1.ナチュルスター護衛部隊に嫉妬の蛇龍(量産型)が複数出現しました。
2.里美&くとさんが偶然、琴歌達護衛舞台に遭遇しました、このまま手伝うようです!



投下終了、なんだこのぐだぐだ感は(白目)
時間軸的には翼蛇龍出現前ですね
それではおめ汚し失礼しました…もっと精進しないとな…

憤怒の街投下。
Anzuchangお借りします。

――

…時々感じる揺れが杏の意識を確かなものにする。

杏「っぐぅ……」

逃げ出した当初より心なしか毒による痛みは減った気がする。

杏「はー、杏、怠惰で良かった…」

毒の回りを故意に遅くした甲斐はあったようだ。

杏「もう大丈夫、歩けるよ」

杏の一言で杏を載せて運んでいた怠惰のカースが溶けて消える。

杏「さぁて、ヒーロー探さなくちゃ…」

ヒーローを探すのにカースに運ばれてる状態じゃ一緒に襲われかねないしね。

杏「しっかしあれ、どうしようかな…」

ズゥン…と衝撃。
ここからでも見えるほど巨大化な翼の生えた蛇。
その巨大な蛇が地面から這い出てくる。

杏「じょ、冗談でしょ……?」

阿呆みたいに大きな巨体が全身を顕す。
口をパカァと開いたかと思えば巨大なカース弾を吐き出し、周囲を破壊する。

そして、それを見ている一人の少女。

杏「…あれ、あの娘……」

――

裕美「嘘……?」

翼の生えた大蛇が地面から這い出てくる。
でも大事なのはそこじゃない、翼だ。

あの翼と同じものを私は見た。
ううん、確かに倒したハズ。
巨大なビルで叩き潰した。


……違う、私は核の破壊を見届けてない。

私が見たのは瓦礫に埋もれていく翼竜を見ただけ。

でも確かにその時見た翼を持つ蛇が目の前に居る。

歯を食いしばる。

裕美「倒さなくちゃ…」


『どうやって倒すの?』

私は背後からの声に振り返る。

『あの蛇でっかいよ?』

『人間一人なんて一呑みでぺろんなんじゃない?』

私の目の前には小柄な女の子。
女の子はどこからか飴玉を取り出して口に放り込む。

裕美「私が倒し損ねたから……」


杏「杏には何言ってるんだかさっぱりだけど」

裕美「あはは、そうだよね…あなたもこんなところに居たら危ないよ?」

裕美「やっぱり師匠に手伝って貰って……」

あの巨大な口から吐き出されるカース弾の矛先が病院に向いてもおかしくないし……。

杏「ねぇ、ちょっと待ってよ」

女の子はニヤリと笑う。

杏「あなたは大量の水とか冷気って起こせるヒーローかな?」

杏「それも結構強いの、あの蛇覆えるくらい」

裕美「ヒ、ヒーロー?そういうのじゃないけど…」

裕美「…水と冷気……」

水と冷気、両方共強力じゃないと駄目じゃ私じゃ……。

……いや、違う…水ならあった……。
最後の一つ。とっておきが…。

杏「心当たりがあるみたいだね?」



杏「ねぇ、杏と一緒に蛇退治してみる気はない?」

――


目の前まで近づくと恐ろしい威圧感を感じる。
翼竜の時とは桁違いの大きさだ。

阿呆みたいに大きな尻尾が私に向かって振り下ろされる。

裕美「行くよっ!」

杏「…久々に杏、真面目だよ」

いつもは不真面目なのだろうか。

『風よ!』

彼女を抱えて横っ飛びに飛んで尻尾を避ける。

杏「いい?」

杏「このでっかい蛇をヒーローの密集してる街の外縁まで追い立てるよ!」

彼女が言うにはこの街でこの巨大な蛇を倒すより、ヒーローの密集している外縁で倒したほうが良いそうだ。
それに、なにより外縁に行けばGDFの兵器も憤怒の街の影響を気にせず放つことも出来る。

ガパァ、と蛇の巨大な砲身のような口がこちらを向く、それと同時にカース弾が放たれる。

裕美「緑のぷちちゃんが風、赤のぷちちゃんが炎なら…」

裕美「文字が青の契約書はきっとっ!」

――魔術管理人ユズは契約を行い、使い魔を託す。確実な信頼者 関裕美へ


 『みーっ!』

裕美「水だよねっ!」

カース弾がぷちちゃんが現れると同時に水流で押し流されて逸れる。

裕美「ぷちちゃんゴー!」

 『みみー!』

複雑な魔法陣が巨大な蛇の前に現れたかと思えばそこからダムの放水のように蛇に向かって水が放たれる。

杏「次、冷気を頼むよっ!」

裕美「そういえば、他のカースが全然襲ってこないのはなんで?」

杏「怠惰のカー……杏の部下が頑張ってくれてるからじゃない?」

裕美「そんな人居たの?」

杏「い、今はいいじゃん!冷気!冷気!」

杏「なにがなんでもこの街からあの蛇を離すよ!」

裕美「う、うん…?」

なんだか釈然としないけど……。

『冷気よ、大いなる我が力に従い、慈悲なきその力を宿せ!』

突き出したボールペンにありったけの魔力を全て込める。

確かイヴさんはこうやって付与して…。

『冷気よ、大いなる我が力に従い、慈悲なきその力を開放せよ!』

込められた魔力が開放され、冷気となって蛇を襲う。
全身、ぷちちゃんの放水で押し出されていく蛇に駄目押しに全力の冷気を浴びせる。


杏「よし、いい感じ、予想通り動きも鈍くなってるし、そのまま押し出していって!」

蛇はこちらに背を向け、ヒーローの集まっている外縁へ向かって這っていく。

裕美「でも何でこの蛇、逃げてるのかな?」

裕美「特にダメージになるようなことしてないよね?」

杏「まぁ、モチーフが変温動物の蛇だしね、そりゃ水浴びせて冷気浴びせれば寒くて逃げるよ」

杏「ふふふ、杏を敵に回したことを後悔しろ、スーツ男…」

裕美「スーツ男?」

杏「…ほら、そのまま冷気出し続けて!」

裕美「え…と…もう少しで魔力切れちゃう…」

杏「本当に追いたてただけじゃん!?」

 『みーっ♪』

裕美「あはは……」

終わりです。


イベント情報

・絶望の翼蛇龍をヒーローの集まる外縁部へと逃げました


Anzuchangはティアマットに挑んでいく所存らしい。

アナスタシア投下します

なんだか長くなってしまいました
みく、のあ、日菜子、それとピィをお借りします

「やめ、やめるにゃあ!それを近づけるにゃあ!」

「大丈夫、あなたの大好きなハンバーグよ。たーんとお食べなさい」

「……私がリーダーを抑えている間に、早く」

「ええ、さぁ口を大きく開けて。決して熱くないから」

「嘘にゃ!そんなに湯気の出ているハンバーグが熱くないわけなんてにゃいむぐ!」

「これもあなたのためよ」

「むぐぐ、うぐぐ……うまい!程よい熱に噛みしめるたびに出てくる肉汁、最高にゃ!」

「……テッテレー、ドッキリ、大成功です」









アーニャ「はっ!」

アーニャは眼を覚ました。
目に映るのは知らない天井。
知らない布団でアーニャは眠っていたようだ。

アーニャ「ミェツィター?……夢……ですか?」

辺りを見渡すとカーテンの間から幽かな光がさす。
アーニャは布団から這い出て、カーテンを少しめくって間を覗いた。
空は暗く、満月に近いような月が光を放っている。
すでに夜であり、アーニャは部屋の中へ視線を戻して、壁に掛けてあった時計を見た。
その針は時刻は夜中の11時を過ぎている。

「……あら、起きたのね」

急に扉が開いて外からの光が入ってくる。
この部屋に続く廊下は電気がつけられていて部屋の中とは対照的に明るかった。
そこに立っているのは長身で、表情に動きのない機械のような女性だった。

「あら、どうしたの?……まるでオチのない夢を見たような顔をしてるわね」

アーニャ「アー……えーと……」

「……よく覚えていないようね。来なさい。……お腹も減ってるでしょうし、何か出すわ」

アーニャ「……」

アーニャは沈黙したままだったが、そのお腹が小さく声を上げた。

「……私、正直者は好きよ」

そう言って女性は機械のようであった顔を崩して微笑みを見せる。
そしてそのまま来た廊下を戻っていく。

アーニャは少し悩むがその後を着いていくことにした。

ついていくとリビングに着いた。
女性はそのままキッチンへと向かい、冷蔵庫を開ける。

「……あいにくプリンしかないわ。これでも食べて」


そう言って女性はアーニャにプリンとスプーンを差し出してきた。
その蓋には少々雑な文字で『みくの』と書いてある。

「……気にしないで食べていいわ」

リビングにあった食卓に女性は座る。
アーニャもその女性の向かい側に座った。
アーニャはプリンの蓋をペリペリと開けて、スプーンをプリンに差し込む。
そのまますくい上げて口の中へと入れると甘みが広がりのどに流し込むと空腹の体に浸みわたっていくようだった。

「……そういえば、自己紹介がまだだったわね。高峯のあよ」

アーニャ「……アナスタシア……です」

アーニャは控えめに自己紹介をする。

のあ「……アナスタシア……ヨーロッパの女性名ね。出身は?」

アーニャ「……多分、ロシア、ですね」

のあ「多分……ね。えーと、アナスタシア……少し長いわ。何か愛称とかないのかしら?」

アーニャ「アーニャ……と呼ばれていたりしますが」

のあ「……わかったわ、アーニャ。ところであなたは、どれぐらい覚えているの?」

のあはまだあまりに接点のないアーニャを普通に愛称で呼ぶ。

アーニャはここで自分がカースに取りこまれかけていたことを思い出した。

アーニャ「……そうです。私は、カースに飲み込まれて……」

のあ「……それを私たちが助けたのよ。感謝してくれていいわ」

のあは真顔で言うが、その中には冗談的なニュアンスも少し含まれている。
そして立ち上がりキッチンの方へと向かい、マグカップを二つ取り出した。

のあ「……コーヒー飲むけど、アーニャはいる?」

アーニャ「……おねがいします」

のあ「……砂糖か何かは入れる?」

アーニャ「……いえ、ブラックで……」

のあはマグカップにインスタントのコーヒーを淹れて、片方に角砂糖を二つ、さらにクリームを入れる。
そして何も入れなかった方をアーニャの前に置いた。
アーニャは空になったプリンを机に置いて、コーヒーを手に取って啜る。
そしてその苦味に少し顔をゆがめた。


のあ「……やっぱり、砂糖を入れた方がよかったんじゃない?」

アーニャ「ニェート……今は苦い方がいいです」

アーニャはそのままコーヒーを啜る。
のあも少し啜ると、少し首をかしげて予備に持ってきていた角砂糖をさらにもう一つ投入した。

のあ「……どうしてあんな状況になっていたのかしら?他の人はすでに避難済みだったようだけれども」

アーニャ「……ニェート……」

のあ「……囮になって逃げ遅れた?まさか……カースを倒そうとしていたのかしら?」

それに対してアーニャは黙る。
その沈黙が肯定だと判断したのあは表情を変えずに言う。

のあ「……貴女のような少女がカースに立ち向かって、それで返り討ちにあって、私たちに助けられる。……笑い話ね。少し腕に自信があるようだけれど、人を助けようとして助けられているようでは……意味がまるでないわ」

アーニャ「……!」

その言葉に憤りを覚え立ち上がろうとするアーニャ。
しかしその前にのあは立ち上がって、アーニャの眼前にいつの間にか出現したブレードが突きつけられていた。

のあ「……アーニャ。中途半端に実力があるようだけど……あれで負けるようならヒーロごっこはやめるべきね」

のあはブレードを消して椅子に座りなおす。
そして机の上に置いてあった甘いコーヒーを飲みほした。

アーニャ「……なによりもまず……助けなければならないと、あの場へ、何かに駆られるように」

アーニャは言い訳をするかのように、ぽつりとつぶやく。
そんなつぶやきに対して、のあは少し怪訝な顔をする

のあ「……アーニャは『助けるために』あの場所へと向かったの?」

そんな質問を投げかけられて、アーニャは少し不思議な表情をしながらも頷く。

のあ「……貴女は、助けるべき人がいるかどうかもわからないのに、あの場所へ助けに向かったとでもいうの?」

のあは立ち上がって空になったマグカップをキッチンの流しへと持っていく。

のあ「それは……異常なことよ。本来ならば、何か異変が起きた場所に向かって、そこで助けを求めるような人がいて、そこで助けに入るの」

そう言ってのあはキッチンからリビングの月明かりの差し込む窓へと歩いていく。

のあ「……助けを求める人がいるから、助けようとするの。……助けるために、助けるのは……目的と手段が逆転しているわ」

月明かりに照らされるのあはまるで無機物のような輝きを放つ。
そんな静かな表情はアーニャを見つめる。

のあ「……あなたは、ヒーローどころか、人としてずれているわ。私自身人かどうかわからない私が言うのもなんだけど。助ける相手を見ていないのに、助ける行為なんて……狂人か、ただ助けるという行動をする機械、救世主のようなものよ」

アーニャ「……ヤー……私は……私には」

アーニャはその視線に耐えきれず俯く。

のあ「……言ってしまえば、貴女には目的がない。あなたのとった行動は、人から外れた何かの本能であって……貴女の意思ではないのよ」


その言葉を最後に沈黙が続く。
リビングにつながっている廊下の電気と月明かりのみが明りになっていて、俯くアーニャの表情は読めない。
それとは対照的に、のあの表情は無表情ながらもアーニャの意志を問い詰める意思が宿っている。

「むふふ♪……こんばんは」

そんな沈黙を別の声が破る。
廊下から別の少女が歩いてきていた。

「あなたが……今日みくさんとのあさんに保護されたって子ですねぇ。むふふ……喜多、日菜子と言いますぅ。むふふ♪」

アーニャの様子などまるで気にかけないかのように少女、喜多日菜子は自己紹介をする。
アーニャは俯いていた顔を上げて自己紹介をする。

アーニャ「……ミーニャ ザヴート アナスタシア。私の……名前は、アナスタシアです」

日菜子「むふふ……よろしくお願いしますぅ。アナスタシアさん。眠っていたとしても、カースに襲われていたと聞いたので……お疲れみたいですねぇ。むふ♪シャワーでも浴びてきてください」

アーニャ「……え?……ああっ」

日菜子は椅子に座っているアーニャを強引に立ち上がらせてそのまま背中を押し、廊下のすぐ近くにある脱衣所に押し込んでしまった。
その後日菜子はリビングに戻ってくる。

日菜子「……少し、厳しすぎじゃありませんかぁ?のあさん」

のあ「……確かに、そうだったかもしれないわね」





脱衣所に押し込まれたアーニャは、仕方なく服を脱いでバスルームへと入る。
蛇口をひねるとシャワーから温水が出てきて、それは浴槽にたまることなく排水溝へと流れていく。
アーニャはそのシャワーに頭から当たるように入る。

アーニャ「ヤー……マィヤー ヴォーリェ……私の……意思」

先ほど言われたことを脳内で反芻する。
これまでの人生、言われたこと、命令されたことをただこなすだけの人生。
それから解放されたはずだというのに。

アーニャ「……私は……いまだに、指図を受けている?」

異常な本能は、何者かの意図を感じさせる。
シャワーは体を洗い流していくが、心の不安までも洗い流すことはできなかった。

その後シャワーを浴びたのち、用意されていたのはかわいらしい猫柄の寝間着であった。
そこには書置きも残されており、先に寝るのでこれを着て先ほどまでの布団で寝てくれとの旨が書かれていた。

すでに時計の針は頂点を超えて、新しい日付を刻み始めている。
この時間に勝手に帰るのは彼女たちに心配させるだけであろうし、何より、肉体的にも精神的にも疲労が残っている。
アーニャはおとなしく従って、寝間着に着替えて布団に入って眠ることにした。

その頃、ロフトで横になる日菜子は近くの窓から月を眺めていた。

日菜子「ねぇ、王子様。日菜子は王子様と出会えた運命はとてもうれしく思います。……だけど、当人が望まぬ運命は呪いでしかないのですよねぇ……」

日菜子は寝返りを打ち、月に背を向けた。

日菜子「……あの子の運命は、はたしてあの子を幸せにするのでしょうかぁ?」

そう言って目をつむった。






アナスタシアは夢を見る。
周囲の情景は針葉樹の森の中、それに囲まれた小さな教会。
その扉が開かれると祝福する人々にそれに囲まれた一組の男女が出てきた。

その男女は幸せそうな表情を浮かべる。
しかしアーニャにはその人々の人相を認識できずにいた。
どんな表情はわかっても、まるでのっぺらぼうのように見えた。

アナスタシアの脚は自然に動いて、その人々をすり抜けて教会の中へと入っていった。
振り返れば教会の外にいるはずの群集はいなくなっていた。
そのかわりに教会の長椅子の中列あたりに男女がいた。
その女性の腕の中には小さな子供。
その子供だけはのっぺらぼうではなく、あどけない顔立ちで眠っていることがわかる。
その周囲には幸せが満ちており、アーニャもその様子をしばらく見つめていた。

はたしてどれくらいたっただろう。
長い時がたったようにも、ほんの一瞬にもアーニャには感じられた。
しかしその時間の経過を認識したためか、風景が歪み始める。


場面が変わり、周囲には炎が上がっている。
しかしかろうじて残っていた十字架によって場所は変わらず教会の中だということがわかった。
その十字架の下には赤子を抱えた女性が一人。

『惜しいな。大したべっぴんさんだが、人妻とは……』

そんな男の声がアーニャの背後、教会の入り口の方から聞こえる。
しかしアーニャはその方向を振り向けない。

『あなたの、目的はこの子でしょう。ならば頼みがあります』

女性はアーニャの後ろの人に言う。

『俺にそれを頼んで聞くと思っているのか。お前の夫を殺し、この村さえも滅ぼした俺たちが最後の情けにお前の言うことを聞くとでも?』

女性は抱いている赤子をぎゅっっと抱きしめる。

『確かに、他の人たちには機械のように、冷徹な人ばかり。でもあなたは、きっと本当は優しい人だと思います』

『目の前で、お前の夫をミンチにした男にそれを言うか?あんたまるで聖女だよ。ほんとに聖女みたいだ。いらいらする』

そんな男の言葉に対して、女性は微笑む。

『だって、あなたにしか頼めないでしょう?わたしが望むのはこの子の幸せ。だからこの子を幸せに導いてあげて』

男は女性のその言葉にいらいらした口調で返す。

『ふん、まぁ考えておいてやる』

その言葉に満足したのか自らの子を抱く腕を緩める。

『頼みますね。この子の名は―――』

その時周囲の炎が燃え上がる。
その炎は周囲の情景を焼き尽くし、後には真っ黒い空間が広がるだけであった。
アーニャはその真っ黒い空間の中を歩き出す。

少し歩くと、赤子の泣き声が聞こえてきた。
真っ黒い空間の中にぽつりと赤子が泣いていた。
アーニャはそれに近づいていき、その子に手を伸ばした。






窓にかかったカーテンの隙間から光が差し込む。
その光はアーニャの目に差し掛かり、まぶしく感じさせる。
アーニャは起き上がり、周囲を見渡した。

アーニャ「……ミェツィター……何の夢でしたっけ?」

そんな時、窓とは反対側にある扉が開いた。

「おはようにゃ!よく眠れたかにゃ?」

そこには猫耳少女がいた。

アーニャ「……アー……えと……」

そんなアーニャの困惑する様子に気づいたのか猫耳少女は部屋の中に入ってきてアーニャの近くへ座った。

「そういえば、自己紹介がまだだったにゃあ。前川みくというにゃ。よろしくにゃん♪」

アーニャ「……ヤー……私は、アナスタシア、です。……前……前田みく、さん?」

みく「前川にゃあ!」

そんな感じで自己紹介を済まして、アーニャは寝間着を着替えて、みくから借りた服を着る。

アーニャ「……泊めてもらったのに、服まで借りて……いいのですか?」

みく「気にしなくていいにゃ!第一、昨日カースのせいでアーニャンの服は汚れちゃったから、洗濯してまだ乾いてないからにゃ」

アーニャ「アーニャン……というのは?」

みく「だって『アーニャ』だからアーニャンだにゃ。わかったかにゃ?」

アーニャ「ダ、ダー……わかりました。みくさん」

みく「みく、でいいにゃ。同い年みたいだし、何も気にすることないにゃ。みくにゃんって呼んでくれても構わないにゃん」

アーニャ「ダー……。わかりました。みく」

みくとアーニャはリビングへと入る。
机には、ご飯と、コーンスープ、目玉焼きの乗っている皿がそれぞれ人数分置かれており、中央には大きめのボウルにサラダが盛り付けられている。

日菜子「むふふ……おはようございます」

のあ「……おはよう。アーニャ」

キッチンからエプロンをつけたのあと、ロフトからこちらを見下げて日菜子が挨拶をしてくる。

アーニャ「ドーブラエ ウートラ……おはようございます」

アーニャは頭を下げて挨拶をする。

のあ「昨日は少し、言い過ぎたわ。ごめんなさい」

のあはそう言ってアーニャに頭を下げる。
すこし気まずかったアーニャはのあのそんな姿勢に少し驚く。

アーニャ「ニ、ニェート……いえ、気にしてないです」

のあ「そう……それならよかった」

のあは頭を上げて、椅子に座る。
何の事だかわからないみくは一人首をかしげていた。

日菜子もロフトから降りてきて、椅子に座る。
みくも席について、アーニャの方を見る。

のあ「アーニャ、遠慮せずに食べなさい。……朝食はみんな同じ時間と決まっているの」

アーニャ「ダー……じゃあお言葉に甘えます」

アーニャも残った席に座る。
それを確認した3人は手を合わせて

「「「いただきます」」にゃ」

と言う。少し遅れて

アーニャ「……いただきます」

アーニャも手を合わせて言う。


しばらくした後には食卓の上の皿はほとんどが空になっていた。
皆が食後の一息を着く中、みくは立ち上がって冷蔵庫の前に向かう。

みく「デザートデザート♪みくのデザート♪」

そんな風に歌いながら冷蔵庫の扉を開ける。
しかしみくの笑顔も一瞬で消える。
しばらく呆然とした表情で冷蔵庫内を見分するが目的のものがないと完全に分かったがいなや、その表情は絶望的なものへと変化していった。

みく「みくの……プリンが……ない!」

みくは冷蔵庫から視線を外して食卓の方へと向く。
その視線はのあの方へと向いた。

みく「のあチャン……よくもみくのプリンを……」

みくの恨み節に対してのあはあまり気にした様子を見せない。

のあ「……どうして私なのかしら?真っ先に私を疑うなんて心外だわ」

みく「こういうのはのあチャンのせいだって相場が決まっているにゃ!白状するにゃ!」

のあ「……私は食べていないわ。食べたのはアーニャよ」

のあはあっさりとアーニャを売り渡した。
みくの視線はアーニャの方に向く。
その視線にアーニャは少したじろいだ。

みく「アーニャン……よくも……名前だって書いてあったはずにゃあ!」

アーニャ「アー……あれは名前だったのですか」

みく「少し前に築かれたアーニャンとの友情はもうクライシス寸前にゃ!」

アーニャ「……のあさんが、気にせず食べなさいって……」

みく「やっぱり原因はのあチャンじゃないかにゃ!」

のあ「…………にゃん」

みく「ごまかすにゃあ!」

日菜子「まぁまぁみくさん……落ち着いてくださいよぉ」

収集つかなくなりそうなのところを日菜子がみくをなだめた。

日菜子「みくさん、そろそろバイトの時間じゃありませんかぁ?」


その言葉を聞いてみくは壁にかかった時計を見る。

みく「そうだったにゃあ……今日は朝からだったにゃあ……あ」

みくはまずそうな表情から今度は何か思いついたのか何か企んでいる表情に変わる。
ころころと表情を変えて忙しそうである。

みく「ちょっとアーニャン借りていくにゃ。みくのプリンを食べたアーニャンには拒否権はないにゃ」

そう言ってみくは強引にアーニャの手を引きながら玄関の方へと向かっていく。

みく「いってきますにゃあ!」

アーニャ「ヤ、ヤー サビェラーユシ……いってきます」

日菜子「はぁい♪いってらっしゃい」

のあ「……いってらっしゃい」

二人は慌ただしく玄関の戸を開けて出ていった。


アパートから出てからしばらくした後、みくはアーニャの手を放す。

みく「アーニャンにはしばらくそのままついてきてもらうにゃ」

そのままみくはアーニャの前を歩き出す。
半ば強引に連れてこられたアーニャだったが勘弁したのかそのままついていくことにした。

アーニャ「……みく」

みく「ん?どうしたのかにゃ?」

意気揚々に歩いているみくだったがアーニャの呼びかけにみくは足を止めた。

アーニャ「みくは……なぜ戦っているのですか?」

アナスタシアには目的がない。そう言われた。
手段であるはずの『助ける』ことが目的になっていると。
だからこそ、みくの目的が知りたくなったのだ。

そんな突拍子もない質問にみくは怪訝な顔をする。

みく「はにゃ?何言ってるんだにゃ?」

アーニャ「トー イエーシチ……つまり……その……なぜ私を助けるために戦ったのかと……聞きたいんです」

みく「あのさ……アーニャンを助けるためにカースと戦ったに決まってるじゃないかにゃ。アーニャン自身が言ってるじゃないかにゃ」

みくはあきれた表情をして、そのまま歩行を再開する。
それをアーニャは小走りで追いかけて追いつく。

アーニャ「たしかに……でも、いつも、そんな感じで?そのように、人を助けるのですか?」

みく「うーんと、ただみくは人が死ぬのがイヤなのにゃ。実際は戦いだって好きじゃにゃい。痛いのはイヤだし、死ぬのだってごめんだにゃ」

みく「だけどみくなら助けられる命を見殺しにするのはもっとごめんだにゃ」

みくは振り向いて、そのままアーニャの方を向いたまま後ろ向きで進む。

みく「それに、のあチャンや日菜子チャンはすぐ悪党と戦いに向かっていっちゃうから、みくが手を貸してあげないといけないからにゃん。全く世話が焼けるにゃ」

やれやれと言うようにみくはわざとらしく両手を上げ、外国人のようなジェスチャーをした。

みく「まぁとにかくみくがそうしたいと思うから正義の味方のみくにゃんは活動を続けるのにゃ。みくの特別講義は貴重だからおぼえておくとっ」

鈍い音が響く。
バックで歩いていたみくは後ろに電柱があるのに気付かずに衝突してしまったのだ。
みくはその場で後頭部を抑えながらしゃがみこんで小刻みに震えている。

アーニャ「み、みく?……大丈夫、ですか?」

みく「うう……痛いにゃあ。こんなんじゃ締まらないにゃあ」

みくは立ち上がって後頭部をさすりながらも歩いていく。





みく「まぁ、いろいろあったけど着いたにゃ」

アーニャ「……エト、ランゼ?」

みくとアーニャは『エトランゼ』と看板の掲げられた喫茶店の前にいた。
みくはまだ開店していない店の扉を開けて店内へと入っていく。

みく「アーニャンも早く来るにゃ」

みくは扉の間からアーニャに向かって手招きをする。
アーニャは少し迷いつつも扉をそっと開けて中へと入った。

店内は落ち着いた雰囲気で座席はそれなりの数設けられている。
また人が動きやすいように広くゆとりを持った店内となっていた。

みくたちが入ってきたのに気付いたのか店の奥から一人の女性が出てきた。

みく「チーフ、おはようございますにゃ♪」

みくは出てきた女性にあいさつした。

「ああ、みくか。おはよう」


そのチーフと呼ばれた女性はみくにあいさつを返す。
チーフはその隣にいた店内をきょろきょろと見渡していたアーニャを見る。

チーフ「でみく。その子はいったいどこで拾ってきたの?」

みく「ふっふっふ。今日はみくには助っ人がいるのにゃ。紹介するにゃ!アーニャンにゃ」

アーニャ「アー……ヤー……アナスタシア、です?」

急に紹介されて状況がよく飲み込めていないアーニャだが、とりあえず自己紹介をした。

チーフ「ふむふむ……ふぅん」

アーニャを品定めするように見回した後、チーフはパチリと指を鳴らす。
その瞬間どこから現れたのか、二人の女性がアーニャを羽交い絞めにする。

チーフ「ようし、そのまま連れてって着替えさしちゃえ」

それを合図にアーニャは二人にそのまま店の奥に引き摺られていく。
状況を理解できないアーニャはされるがまま連れていかれてしまった。

チーフ「ちなみに助っ人を連れてきてくれたのはありがたいけど、みくの仕事は減らないぞ」

みく「え……そんにゃあ……」


連れていかれたアーニャは二人組に身ぐるみはがされ、その後あっという間に着替えさせられる。
そのまま背中を押されてフロアに戻ってくる。

チーフ「おお、これは……」

アーニャ「アー……あの、みく。ど、どうでしょうか?」

そこにはメイド服に身を包んだアナスタシアがいた。
その銀髪と相まってまさにシベリアに孤高に咲く一輪の花のように上品で、孤高に、それでいてかわいらしい少女の姿だった。
実際それなりの姿になると思っていたみくだが予想を大きく超えており、開いた口が塞がらないようになっていた。
そのアーニャの恥ずかしさで少し赤くなっている顔で見つめられたらどんな者でも一撃で落ちるだろう。

チーフ「いや、まだ足りない」

そう言ってチーフは懐から何かを取り出す。

みく「そ、それは!」

みくが驚きの声を上げる中チーフはその取り出したものをそっとアーニャの頭に乗せた。

チーフ「みくの言った『アーニャン』が鍵だったんだよ。これで、完成だ」

愕然とした表情を浮かべるみくに対して、チーフは高揚した表情を見せる。
そして高らかにアーニャに指示を出した。

チーフ「さぁアーニャン!鳴くんだ。振付有でみくに見せつけてやりなさい!そして奴のアイデンティティを完全に打ち砕くのよ」

アーニャはよくわかっていなかったが、なぜかそうしなければならないという魔力にとりつかれたように自然に体は動いた。
両手を丸めて、顔の横に持ってくる。そして顔を少し傾ける。




アーニャ「…………にゃあ?」





みく「うにゃあああーーー!!!」
チーフ「うぉおおおーーー!!!」

開店前の店内は異様な熱気に包まれる。
いつまにか集まっていた他の従業員らしき人が歓声を上げる。ちなみに全員女性である。
しかしひとり、みくだけは慟哭ののちに苦い表情をしている。

みく「助っ人に連れてきただけなのに……このままだとみくのポジションさえ危うくなるにゃあ?とんだ伏兵だにゃあ……」

そんな表情をしているみくにアーニャは近づいていく。

アーニャ「……どうしたのですか、みく?みくは十分かわいいですよ、にゃ」

みく「慰めは、やめるにゃあ!」

そんなネコミミ騒動がありつつも、メイド喫茶『エトランゼ』は今日も開店する。
最初は不慣れな接客であったアーニャだが、事前の指導と脅威の学習能力でしばらくした後には慣れ始めていた。
それにまだ午前中であったので、そこまで混雑することもなく、昼前になった。

アーニャ「ニェムノーガ……すこし、疲れました」

チーフ「まぁ慣れないことをしたからだろうね」

アーニャが店の奥で休憩をしているとき、エトランゼから少し離れた場所をのあはエコバックをもって歩いていた。
のあは買い物に出かけていたのだ。

するとのあはとある路地裏の前で足を止めた。
そこには小さな子猫がのあの方を見つめて座っている。

のあはしゃがみこんで、その猫を撫でようと手を伸ばす。
しかしその瞬間その子猫の瞳が赤く光った。

そしてその周囲に爆発のような衝撃が走る。のあはその爆風の中に消えた。


その轟音はエトランゼまで届いていた。
アーニャとチーフは店の奥から急いで表へ出ると、一足早くフロアにいたみくが店の前で音の方角を見ていた。
その方向では土煙がところどころ上がり、様子がよくわからない。

みく「あれは……のあチャンにゃ!」

土煙の上がる方角から防戦しながらこちらの方へと近づいてきたのはのあであった。
しかし動きにはいつものような余裕が見られない。

走ってこちらの方へと向かっているが、途中で足を止めてブレードで防御するように構える。
すると少し先の土煙の中から黒い影が飛び出してきた。


その影は一直線でのあの構えるブレードに直撃する。
その黒い爪とのあのブレードは衝突の際に火花を上げて、のあは後ろに少し押し下げられた。
のあはブレードを渾身の力で振りぬき、その影を弾き返す。
そして間髪入れずに、片手にマグナムを出現させてその影を撃ち抜こうとするがすでにその影は地面に着地した後に横へと跳びのき、銃弾を回避していた。
さらにその影は跳んだ方向にあった建物を蹴って再びのあの方へと加速をつけて跳び込んでくる。
のあは片手に持ったブレードで防ごうとしたが、片手では勢いを殺すことができずに後方に吹き飛ばされた。
そして近くのビルに衝突して土煙の中にのあは消える。


その影は先ほどまでのあがいた道路の真ん中に着地する。
それによって先ほどまで目まぐるしく動き回っていた影の全容が確認できた。
その姿はまさに黒豹と見間違うかのようだった。
しかしよく見ればそれは黒猫をそのまま大きくしたかのようなものである。
そのしなやかな体躯を包む毛並みはまるで生きているかのように波打っている。
いや、実際に波打っていた。
毛皮かと思われたのは真っ黒な泥でありそれが流動しているのだ。

その黒猫はゆっくりとのあのいる土煙へと近づいていく。


みく「のあチャン!」

みくはのあの名を叫んでそちらへと向かっていく。
しかしどこから現れたのか、下水や、路地裏からカースが寄ってきて立ちふさがる。

みく「ジャマ、にゃあ!」

みくは装備した手甲の鉤爪で出てきたカースを切り裂く。
そのカースは核ごと真っ二つになって蒸発する。
今度は左右からもカースが1体ずつ接近し、さらに1体跳躍して上からみくに攻撃を仕掛ける。
みくはそれを背後に跳んで回避した。

みく「これじゃ、近づけないにゃ」

みくが足止めされた空きに黒猫はのあのいる方へと跳びかかる。
そして高い金属音が響いた後に物体同士の衝突による衝撃で周囲の土煙が晴れる。
のあはパイルバンカーで黒猫の爪を防いでいた。
黒猫は突破するのを断念して背後に跳躍する。
その隙に、のあは脚部にローラーの付いた装甲を出現させて背後にビル壁という袋小路である状況から抜け出そうと道路側に移動しようとする。
しかしその方向からはカースが接近しており、のあはその方向に腕を構えてぶつかりそうになったところでパイルバンカーを射出する。
その剛杭はカースに着弾するとその衝撃で泥を爆散させ、核はその衝撃に耐えきれず砕け散った。
しかしその隙を見逃すわけがなく黒猫はのあに跳びかかった。

のあ「くっ……!」

その攻撃によってのあは吹き飛ばされて道路の真ん中へ吹き飛ばされたのちに横たわる。
その際にパイルバンカーはもとの場所に戻るように消失した。


みく「のあチャン!この、ホントに、ジャマだにゃあ!」

湧いて出てきたカースはまるでみくの行く手を阻むかのように攻撃してくる。
のあに気を取られていることもあり、みくも思うようには動けていなかった。

その頃、アーニャは店の前で立ち止まっていた。

チーフ「アーニャ!裏口から逃げるよ!」

チーフはそう言ってアーニャの手を強引に店内へと引っ張っていく。

チーフ「みんな!ご主人様たち連れて裏口から避難して!」

そう言って指示を出された他のメイドたちは店内にいた客とともに裏口の方へと向かっていく。

チーフ「ほら、アーニャも早く!ってどうしたの!?」

アーニャはまるで心ここにあらずというような表情で立っていた。


その脳内では、助けに行かなければという衝動と、のあに言われた言葉が巡っていた。

『……言ってしまえば、貴女には目的がない。あなたのとった行動は、人から外れた何かの本能であって……貴女の意思ではないのよ』

アーニャ(私の、この行かねばという衝動は、自分の意思なのだろうか?)

自身の闘争理由が見つからない。
目的もなく戦うことは狂戦士だ。それは死を早めるだけである。
さらにアーニャ自身の実力不足というのもある。
いま助太刀に入ったところで、逆に足手まといになるかもしれないのだ。
それも動くことのできない要因でもあった。

『……私には、柄じゃないかもしれません。でも、私でも箱の中の猫を救うことはできるかもしれません』

アーニャ「……箱の中の猫どころか、目に見えている猫を助けに行くことさえできないなんて、滑稽ですね」

そんな風に自嘲気味につぶやく。
チーフが何か言っているようだがアーニャにはそれが聞こえない。

アーニャ(私は、どうすればいいのだろう?)


また、頭の中の冷静な部分は、避難するべきだと告げる。
実際後方支援寄りな能力であるため、その方がきっと役立つだろう。

『お前は、俺や上の言うことだけを聞いていればいいんだ』

いつか、誰かに言われた言葉が頭によぎる。

『冷静な判断をしろ。確実に、任務を全うするための手段を模索するんだ』

そんなことを言われた。かつては従っていた言葉。
名前を知ってからはすっかり忘れていた。

冷めた、冷徹な部分は撤退を、本能、衝動の部分は助けに入りカースと戦うこと。
それが相対してアーニャの脳内は埋め尽くされていく。

背後にある店の入り口からは近くで二人が戦っているための騒音が聞こえてくる。
その中に混じって声が聞こえた。

みく「ジャマだって言ってるにゃああーー!」

『とにかくみくがそうしたいと思うから正義の味方のみくにゃんは活動を続けるのにゃ』

みくの言った何気ない言葉が頭によぎる。

アーニャ(自分の……したいこと)


部隊にいたころは自由な意思などなかった。
ほんの少し前にアーニャには意思が生まれたといっても過言ではないのである。
アーニャには自分の意思が、自分のしたいと思うこと、意志が見えていなかった。
自分が、人が見えていなかった。
本能と、命令に埋め尽くされて自身を見失っていたからだ。

アーニャ(なら……簡単な話です)

この時、湧き上がる本能と、縛られていた命令は意志によって引っ込んでいった。

アーニャ「私は……みくと、のあさんを、助けたい。あの二人を……助けたい。それが……私の、意志」

チーフ「アーニャ?いったい何を言ってるの?」

アーニャはそのまま厨房へと入っていく。
そして1本包丁を手に取った。

アーニャ「チーフ……これ、借りていきます」

チーフ「ちょっと、アーニャ!?」

アーニャはチーフの制止の声を聞かずに店の入り口から飛び出した。


するとまるで待ち伏せしていたかのようにカースが上から降ってくる。
しかしそれに慌てずに包丁を上に掲げる。
そしてそのまま飲み込まれるが、間を置かずにカースは四散し、塵へと還って行った。

アーニャ「シェツィヤース……今の、私は……負けません」

力が湧いてくるような感覚。
いや、アーニャにとってまるで力の使い方がわかったかのような、力が自分の言うことを聞くような感覚だった。
先ほどまでの衝動の奔流が、今度は自身の力になったように。

包丁を見れば淡く、光に包まれていることがわかる。
見渡せば全身が幽かに光っており、その光が自分の力だということがなんとなくアーニャにはわかった。


そのまま、みくの方へと向かっていく。
そこに立ちふさがるカースを包丁で縦に裂く。
横からカースが近づいてくるが回し蹴りをして、横にカースをえぐる。
さらに跳んできたカースにはその着地点に包丁を置いて串刺しにして、それらが塵になったら垂直に2メートルほど跳びあがると先ほどまでいた場所に2体の突進してきていたカースが衝突しあった。
アーニャは空中で振りかぶるように構えて、縦に一回転をしてその2体のカースの核を確実に切り裂き、その塵の上に着地した。

しかしその着地点を狙ってか弾丸のように触手が放たれた。
それをアーニャは回避しようとするが肩をかすめて、肉をえぐった。
その傷は瞬時に癒えて、包丁で触手を切断する。

そしてそのカースの場所を確認するとみくにそれなりに近い場所にいることがわかった。
カースは切られた断面から触手が生えてこないに対して危機感を覚えたのか触手を急いで引き戻すがそれをアーニャは掴む。
放たれた時と同様に速く引き戻したせいか、カースが気づいた時にはもう遅かった。
触手に引っ張られるようにアーニャは接近してその反動で包丁をカースに突き刺さす。
そして突き刺さった包丁を持つ腕を振るってカースは消滅した。


みく「うんにゃーー!」

みくはそれなりの数のカースを倒していたが、なぜかまだまだカースは残っていた。
体を動かし、腕を振るい、カースを倒していくが、ところどころに傷が目立ち、その場から動けずにカースに包囲されていた。
そんなみくが目の前にいたカースを切り裂いて倒したが、後ろからの気配に振り向く。
そこにはカースがみくに覆いかぶさろうと跳んできていた。
疲労によって油断していたみくはそれを認識しても体が追い付かない。
もはや絶体絶命かと思われたが、そのカースはみくの手前で墜落して消滅した。

アーニャ「……なんとか……間に合いましたね」

そのカースが消滅するときにその上からアーニャの声が聞こえる。

みく「あ、アーニャン!?どうしてここに?」

アーニャ「……カースを、踏み越えてきました」

みく「いや……そうじゃなくてにゃ……」

アーニャ「みくと……のあさんを……助けに来ました」


そう言ってみくの肩に手を置くとみくの傷が塞がっていく。
その自分の傷が塞がっていく様子にみくは目を剥く。

みく「ああもう、アーニャンがこんな能力持って、こんなに強いなんて知らなかったにゃ!」

そうしてみくとアーニャを囲むように向かってくるカースに対してみくは鉤爪を振るい、アーニャは蹴りを入れた後に包丁で切り裂く。

アーニャ「一人では……この数は厳しいでしょうが、二人なら、どうでしょう?」

みく「たしかにそうだにゃ。のあチャンも待ってるだろうしさっさと片付けるにゃ」

アーニャ「ナザート……背中は」

みく「預けるにゃ!」


そして二人とも腕を振るう。
それによって核ごと切り裂かれたカースは消滅する。
二人のいた場所に触手が飛んでくるが、アーニャは避け、切る。
みくはその場に跳びあがって回避する。
アーニャは片手を跳びあがったみくの足の少し下に置く。
みくはそれに乗り、アーニャはその手を押し上げ、みくはそれを蹴ってさらに上へと跳ぶ。
アーニャは周囲によってきたカースを包丁を横にふるって2体倒す。
みくは三方向から跳んできていたカースを回転するように爪を振るって消滅させた。
そのままアーニャの背後に近づいていたカースを踏み潰して、核を潰しながら着地。
さらに互いに背を向けながら視界の前にいたカースを切り裂いた。
そして残るは離れて離れた場所から触手を飛ばしてきた2体とみくに向かって突進していく1体。
アーニャはみくに突進していくカースに包丁を投げ、核を貫く。
みくはその突き刺さった包丁を抜いてアーニャの方に投げる。
対になるように離れているカースはそれぞれに向かって触手を飛ばしてくるがみくはそれを切り裂いて、アーニャはそれを回避する。
アーニャは投げられた包丁を掴んで触手を切り裂いてそのままカースの方に跳躍する。
みくはそのまま触手の間を縫うようにカースに接近していく。
そして同タイミングでみくはカースを鉤爪で切り裂き、アーニャは包丁を突き刺した。


これによってみくを囲んでいたカースは全て消滅した。
しかしまだカースがちらほらと残っており、新たに来るカースもいた。
それでもこれでのあの下へと向かう道が開けた。

その頃、のあはパイルバンカーを再び出現させてそれで黒猫の攻撃を防いでいた。

のあ「不意打ちされてなければ、こうはならなかったのだけれど……」

はじめに子猫に擬態していた黒猫によってのあは不意打ちをくらって、片足に損傷を負っていた。
歩けないことはないが、全力では動くことができずあの高速で動く猫を捉えることが難しいのだ。

なので防戦一方になるしかなく、今も様々な方向から攻撃してくる黒猫に反応するのが精いっぱいであった。
しかしそれにも限界が来る。
のあの完全に真後ろから黒猫が建物の壁を蹴って向かってくる。
パイルバンカーは重くそこまで腕を動かすには遅すぎた。

のあ「!……しまっ」


しかし黒猫は突如横からの衝撃に吹き飛ばされて地面へと叩き付けられる。

みく「お前にできることならみくにだってできるにゃん」

そう言って黒猫から少し離れた場所、黒猫への突進の着地点にみくは四つん這いになって着地していた。
黒猫はそれによって標的を変えたのか道路を蹴ってみくへと向かう。
それに対してみくは正面から向かっていくが、逆に押し負けて吹き飛ばされた。

みく「うにゃあ!痛いにゃあ!」

みくは頭を押さえながら立ち上がるが、黒猫は追撃をかけようと再び向かってくる。

みく「や、やばいにゃ!」

そしてみくも道路を蹴って逃げ出す。
みくは先ほどまでの黒猫のように壁を蹴り、道路を駆けて黒猫から逃げる。
それと同様に黒猫もみくを追いかけ始めた。


アーニャ「フシエー フ パリヤートキエ……大丈夫、ですか?」

アーニャはその隙にのあへと近づき治療を行う。

のあ「……アーニャ、どうしてここに?」

アーニャ「……のあさんと、みくを助けに来ました」

のあ「それは……あなたの意思で?」

アーニャ「ダー……わたしはもう、見えています」

のあ「人を……自分を?」

アーニャ「ダー」

のあ「そう……ならあとは、あの黒いのを倒さなくちゃいけないわね」

アーニャ「……止めは、のあさんに任せます。……私は、動きを止める」


みくは必死になって走っていた。
壁を蹴り、手を動かし脚を動かし、その様相は猫同士の追っかけっこだがそんな平凡なものでは全くない。
黒猫のスピードは徐々に増しており、それに対してみくは連戦によって体力がなくなってきている。

みく「うにゃあ……もう……ダメにゃ……」

体中が悲鳴を上げ始め、もはや限界寸前。
しかし体力を温存するために、みくが通ってきたルートは自然と一定のものになっており、黒猫もそれに付いてきていたのだ。

アーニャ「……この瞬間に、ここに通る」

アーニャは足に力を込めてばねのように地面を蹴る。
その瞬間速度はみくたちの速度に匹敵するものでもあり、アーニャ自身がまさに一本の矢のようになっていた。

アーニャ「……みく、おつかれさまです」

そしてアーニャの構えた包丁はみくに後続していた黒猫に深々と突き刺さり、そのまま建物の壁に衝突する。
そして包丁は黒猫をビルへと磔にした。


『グォオオオオ……グガァアアアーーー!!』

黒猫は動こうとするが深く突き刺さった包丁は抜けない。

アーニャ「……ドー スヴィダーニェ(さようなら)」

アーニャはその場から離れていく。
そしてそのかわりにのあがパイルバンカーを携えて近づいてきた。

のあ「袋の鼠ならぬ、袋の猫ね。箱の中の猫という方が合っているかも」

そしてパイルバンカーを構えて、黒猫に向かって射出した。
その杭は黒猫に直撃し、核を砕かれて消滅した。

のあ「あら?これは?」

パイルバンカーの衝撃によって建物の壁は粉々になった。
その土煙の中、先ほど前の黒猫のカースのいた場所に、少し腐敗の進んだ小さな猫の死骸が横たわっていた。


カースのボスであったのかはわからないが黒猫が倒された途端に残ったカースは一目散に逃げていく。
しかしその逃げるカースに立ちふさがる者がいた。

「のあさんの帰りが遅いようなので見に来てみましたがぁ……むふふ♪どこへ行くというんですかぁ?」

その少女の周囲に舞う様々な色の剣によって、カースの残党はあっという間に全滅していった。




のあ「……じゃあ私は、買い物へ行くわ。エコバックは無くしてしまったけど……」

そういってのあは買い物へと向かっていった。

アーニャ「……エトランゼに……戻りましょうか」

みくはそのまま力尽きたのか眠ってしまったので、アーニャの背中で寝息を立てている。
アーニャはそのままエトランゼに戻ると、店の前にチーフが待っていた。


チーフ「終わったの?」

アーニャ「ダー……はい、終わりました」

チーフ「そう、ケガは?」

アーニャ「……大丈夫です。みくも」

チーフは安堵の表情を見せた。

チーフ「それはよかった。それはそうと……」

しかしチーフの顔つきが変わる。

チーフ「その、破れたり、汚れたりしているメイド服とアーニャについては包丁1本、弁償してくれるのかな?」

アーニャ「……アー……」

その後、メイド服代を給料から天引きされ、さらにアーニャはたまにヘルプで手伝わさせられることを約束させられてしまった。








翌日、アーニャはプロダクションを訪れていた。

ピィ「いったいなんだ?話って?」

アーニャ「ヤー……私は、ヒーローをやりたいのです」

ピィ「……なぁアーニャ。その意味わかって言ってるのか?」

アーニャ「ダー……わかっています。私は……みんなを守るために、戦いたいのです」

その言葉にピィはため息をついた。

ピィ「せっかく戦いから解放されて、血なまぐさい日常を過ごさなくてよくなったのにどうしてまた戦うなんて言い出すんだ。アーニャの力なら別に戦わなくても役に立てるだろう」

アーニャ「ダー……確かにそうです。でも、望んでいないにしても私には、戦う力を習得しました。そして、この街には、守りたい人がたくさんいます。……だからこそ、私はこの場所も、この街も、守るために戦いたいのです」

ピィ「しかし……」


アーニャ「……私が部隊にいたころ、一瞬で隣にいた人間が死ぬことなど普通にあります。……部隊にいた時には何も感じませんでしたが、それがピィさんだったり、他の大切な人だと思うと……とても、恐ろしいです」

ピィ「別に……だからって、わざわざアーニャが戦う必要はないだろう。他にもヒーローは、いっぱいいるんだから」

アーニャ「……でも、それでも犠牲者は出ます。私は、私が守れる人を守りたいんです。他の誰かがやってくれるという問題ではなく……私の意志で、やりたいのです」

ピィ「……はぁ」

ため息をついてピィは諦めた表情をする。

ピィ「……わかったよ。社長に掛けあってみる。ただしバックアップはプロダクション全員でするし、仕事だってこっちで選ばせてもらう。そしてくれぐれも無理はするなよ」

アーニャ「……ス」

ピィ「す?」

アーニャ「スパシーバ!」

そう言ってアーニャはピィに抱き着く。

ピィ「うおおお、やめろ!椅子が倒れるぅ!」

そしてピィとアーニャは音を立てて椅子をひっくり返しながら床に倒れた。

ピィは少しだけ不安に思いつつも、ブレーキは皆でかければいいと、そんな風に考え、アーニャの意志を承諾した。

アナスタシア(15)

かつて特殊能力部隊にいたころ、命令だけを聞くように教育されてきた。
それによってその呪縛から表面上解放された後のアナスタシアの意思は未発達であり、力の本質から出てくる本能に逆に支配されるようになっていた。
しかし自らの意思を自覚して、自分のしたいこと、意志を持つことによって過去の命令と力による本能を押さえつけ新たな力を行使できるようになった。

そして自分のしたいこととして、ヒーローとして皆を守ろうと考える。
その意志にピィは少し不安を覚えるが承諾した。

またメイド喫茶『エトランゼ』に臨時アルバイト、ヘルプとして働くことを約束させられている。

聖なる力(正式名称未定)
『助ける』という衝動はアナスタシアの力から発生し、未発達である意思を押しのけて表面に出てきた。
しかし、アナスタシア自身の意志によってその衝動は抑え込まれ、逆にその衝動を支配できるようになる。
それによって力の『本質』の一部であるこの力を使えるようになった。
魔力に近いものではあるが、それ自体が意味を持った力になっている。
身に纏うことで、身体能力をある程度向上させることができる。
また浄化の力でもあり、カースなどにとってはかなり有効な力である。
低級のカースならば核の位置を特定もできるようになる。
ただしアナスタシアは放出することはできず、身に纏うか、手持ちの武器に付加するくらいしかできない。

黒猫のカース
弱っていたカースが、子猫の死骸をとり込んだ際に突然変異したカース。
その後、憤怒の街では生物型のカースが多く確認され、瘴気や極限状態下でのカースの生存本能など原因ではないかと考えられている。
本来不定形であることはある意味では強みであったカースが、なぜ、生物の形をとるのか?
なぜ、生物の形をとることによってなぜ強力な個体になるのか?
それについてはわかっていない。


以上です

聖なる力(仮)については他の能力者にも影響してくると思うので、とりあえず名称が思い浮かばないので仮ということにしておきます。
これについては雑談スレの方で皆で考えましょう。

乙ー

いい成長回だ!そして、猫の死骸を取り込んだカース……カースドキャット?もしくはカースドアンデット?

乙です
箱の中の猫の話からこうなって…なんか言葉にできない上手さを感じる
アーニャがヒーローになってプロダクションも活動的になるのかな?

肝試しイベントで投下
日菜子等をお借りしてます

月が輝く夜の魔界の魔王サタンの城、サタンは寝室で眠りについていた。

何十もの結界を張り、いざという時は起床できるようになっているのは王である彼の仕掛けた仕掛けだ。

そして…その結界に合言葉を入れ、寝室に入ってきた者がいた。

「ウフフ、サタンってばもう寝てるの?」

魔界遊技場の青いベルベットの制服に身を包み、妖艶な微笑を浮かべた女性。

帽子を外すとソファに座る。サタンもやれやれと起き上った。

「…貴様かサリナ。こんな時間に何の用だ…?我は共存派吸血鬼との同盟を組むために…」

サタンがグチグチ言い出したら、その小言を遮って喋るに限る。

「つれない人♪アタシが寝室に来て…ヤる事なんて誰でも分かるでしょ?」

「…殺人か。」

「あ、その話は持ってこないでほしいんだけど…」

彼女はサタンの所持する魔界遊技場の総監兼パフォーマーをしている悪魔。

そして…かつてサラと言う女性の夫となった男たちを7人も殺し、ラファエルに退治され、魔界では死んだ事となっていた初代色欲の悪魔・アスモダイ。

この時…『サラ事件』の事を彼女はあまり話したがらず、当時の噂ではサラと契約して殺していたのではないかとさえ言われていた。

当時の彼女は性別が分からない程醜い怪物の姿だったのもあり、恋をしていたとか純情だとか小心者とかいろいろ言われているが、大体否定している。

この『サラ事件』の事でラファエルとは因縁がなくもないが、「昔は昔、今は今」のスタイルの為、特に気にしてはいない。

…でも魚の内臓を燻した匂いは今でも涙目になるレベルで苦手である。

まぁ、今では彼女がいつの間にか復活し、意外な事に表舞台で生きている事を知っている者は少ないのだが。

「何の用だ。」

「まぁ、用事って言えば用事かな?人間界に行きたいから許可貰いに来ただけ☆」

「理由を述べよ。貴様には仕事があるではないか…働け。」

彼女の仕事は魔界遊技場の様々な管理と不正の防止だ。

…ちなみに見かけによらずかなりの知識人ではあるものの、つまらない会計等の仕事は大体部下に任せている。

そして彼女は男共の色欲をパフォーマンスで『魅せる』事で発散させ、自身の中の色欲もそれで満たしている。

…簡単に言えば自身の欲も満たしつつ性犯罪低下に貢献しているのだ。

それを放棄してまで行きたい理由があるのだろうか?

「仕事はサキュバスちゃん達に任せていいでしょ?ちょっと調べたい噂を聞いちゃったのよねっ♪」

「…噂だと?…前のようにラスベガス云々ではないのは感心するが…」

噂と聞いてサタンの声のトーンが落ちる。

「それが普通の噂じゃないのよねぇ…なんでも、やけにゴツイ見たことの無い竜族が現れ始めたとか…人間界でも見たって情報もあるの。」

「なんだと!?」

窓の外の一月に一度の赤い月を見ていたサタンがサリナに向き直る。

「そうそう、そうリアクションが来ると思った…それで、どう思う?」

「新種の竜族…または別世界の…とりあえず此方は魔界で騒ぎにならないように努めよう。」

ベッドから立ち上がり、魔術で服装を変えつつ、様々な施設・機関への連絡用の道具を取り出す。

「ウフフ、つまり…行っていいって事ねっ?」

「…本当にお前に任せていいか迷っているが…竜族の事ならお前に任せた方が賢明だろう。」

「ちゃんと『二人分』よろしくね?」

「わかっておる。しっかり許可届は出しておこう。」

二枚の羊皮紙に素早く必要事項を記入し、緑色の炎の燭台へ投げ入れた。

羊皮紙はその炎に焼かれ魔法の塵となり、風に流される事さえなくもう一つの地点へと運ばれ再生する仕組みだ。

すぐに燭台から別の塵が飛び出し、二枚のパスポートの形になる。

「じゃあ、外で待たせちゃってるし、もうアタシ行くけど…寂しくなーい?」

「我は既婚者であるぞ…それに子持ちだ。」

魔法で生み出した紅茶を手に取ってサタンがまるで興味ないのを示すように再び窓に向き直った。

「本当につまんない人…まあ、そこが面白いんだけどねっ♪」

口に手を当てて笑いながら帽子を被り直して部屋を出ようとして…余計な一言を放った。

「あ、じゃあ…マナミさんとはどういう関係?結構仲いいみたいだけど?」

「ブフォ!?」

予想外のマナミの話題に飲んでいた紅茶を噴き出した。

マナミが元竜帝キバで、男だった事を知っているのはこの城ではサタンのみである。

それでも普段はあまり気にせず接しているのがサリナの目に着いたようだ。

「出ていけ」

「え?」

「出て行ってくれ…」

「あ、はーい…」

暫くサタンが悩んだのはまた別の話である。

「サリナ!待たせすぎヨ!」

「ゴメンねメアリー。話がちょっと長くなって☆」

城の外、サングラスをかけた金髪の幼い少女がサリナに駆け寄る。

「でもちゃんと許可は取れたのよネ?」

「もちろん♪竜族の事調べるんだからアタシ達が適任でしょ?」

サングラスを外すと緑色の瞳が心配そうにサリナを見つめる。

「…ねぇサリナ、大丈夫よネ?初めて魔界じゃない所に行くの…上手く飛べるかしら?」

「人間界の空も魔界の空も、違うのは明るさだけ。メアリーなら飛べるって!」

「ホント?最近は魔界の空も碌に飛んでないから不安になっちゃたのヨ…」

「不安になることないって!メアリーは飛ぶの上手いじゃない!」

「…そうよね、不安になるのは飛べなかったときにするワ。」

「…ちなみに海とか川に落ちそうになったらどうするの?メアリー泳げないでしょ?」

「その時は…死ぬ気で飛ぶわ…」

「できれば地面に落ちそうになった時も死ぬ気で飛んでほしいなぁ…」

そんな話をしながら歩いたところで人間界へのゲートにたどり着く。召喚以外の方法で人間界に行く正式な手段だ。

受付の悪魔が深々と頭を下げる。

「パスポートを拝見します。お帰りのゲート開放時間は言わなくても大丈夫ですね?」

魔界の法で厳しいのは行きのみ。つまり…帰りはゲートを使わなくても別にいいのだ。受付もそれを分かっている。

帰り方は簡単。ゲートが開いている時間にパスポートを宙にかざせばいい。

…しかし、空いている時間が短いので、使わない者が多いのだ。

「うん、大丈夫。…はいパスポート。メアリーも見せて。」

「ハーイ。」

「…サリナ様、メアリー様、以上二名がお通りになりまーす!ゲートオープン!」

「「「アラホラサッサー!」」」

巨大な浮かぶ扉が数名の悪魔によって何重もの仕掛けを正しい順番で動かすことで開いてゆく。

歪んだ空間がその扉の奥で渦巻いている。…これからここに飛び込むのだ。

「初使用となるメアリー様に一応説明をしますが…ある程度は目標地点に近い場所に出ますが、空中に出る可能性が高いのでお気を付けくださいませ。」

「だ、大丈夫ヨ!飛べるもん!」

「よく言ったね!じゃあ行くよっ!」

「えっ、あ、キャアアアアア!?」

「行ってらっしゃいませー」

メアリーが空間に飛び込むのを躊躇しだす前に、サリナはメアリーと共に空間の中に落ちていった。

ゲート特有の重力を感じ、それから解放され目を開けると予想通りかなりの高度の空中。

「ほらメアリー、空だよっ!飛べるでしょ!」

「…い、いくわよぉ!」

カッと光を放ち、そこにいたのは立派な日本の角を持つ黄金の鱗の竜だった。

サリナがその背に乗る。念の為出しておいた4つの黒い翼も必要なかったようだ。

「ここが人間界なのネ!なかなか魔界っぽいじゃない!」

「…え?」

サリナが下に目をやれば、霧に覆われた街に妖怪やそれに近い者達が大騒ぎをしていた。

「…メアリー、人間界で今いろいろ起きているだけみたい。もっと地上に近づける?」

「OK、下に行くわ!」

地上に近づけばもっとよく分かる。どうやら妖怪たちにとって良い環境になる現象が起きているようだ。

「ウフフ、こんなに騒がしい人間界なんて久々…体が熱くなっちゃう♪」

「…サリナ、あっちが一番騒がしいわ、行ってみる?」

「そうねぇ…まあ噂の竜族もいるかもだし…行って損はないかもね!」

何かを期待した表情でサリナが答えるが、メアリーには見えていなかった。

たどり着いたのは最も大きな宴の場。妙な機械がスポットライト照らしている小山を見ると、一人で剣舞をする仮面の少女がいた。

「ヒュー!素敵な舞台じゃない!ちょっと行きましょう!」

「え、乱入しちゃうの!?邪魔にならない?」

「あれは相当な実力者よ。『剣の王』が言うんだから間違いないでしょっ!」

「でもサリナが使う武器、槍ばっかりじゃない!」

「…どっちも使えるからいいの!行くよっ!」

そう言うと、サリナはメアリーの背から飛び降り、指輪から魔界軍の真っ赤な軍旗を出現させる。

それに包まると青い服から黒い魔女のような露出の少ない服へ変化した。

旗は人間体に戻ったメアリーが回収し、指輪をかざすとその姿は見えなくなった。

少女が一人で流れるような剣舞を披露し…黒い剣が現れ『演舞』パートへ移行しようとしたその時、急に空中から魔女のような女性が降りてきた。

『魔女』は槍をどこからか取り出し、『姫』に向け笑った。

…まるで今にも殺そうとしているように。

「ウフフ…♪」

「むふふ…♪」

その意図を姫はすぐさま理解したようで、にやけたような笑みで返した。

先程の演舞とは違い、黒い剣が姫を守る兵士のように動き出す。

しかし、槍を操る魔女はそれをいとも簡単に弾き…時折観客に槍を胸で挟むなどして『魅せつけ』ながらも姫に近づいてゆく。

しかし、次々と黒い剣は姫を守る為に次々と襲い掛かり…少しずつ魔女が押され始める。

黒い剣の群れに押し流されるように、魔女が倒れこむ。

しかし、持ち手が見えない真っ赤な旗が姫と魔女の所を通り過ぎると、魔女は別の…紫色のドレスを身に纏い、姫の真横に青白い剣を持って立っていた。

それはまるで姫が魔女の術中にはまり、攫われてしまったように見えた。

追いかけるように接近した黒い剣は一振りで薙ぎ払われ、地面に落ちる。姫に接近すると今度は姫と魔女が剣と剣の切り合いだ。

白い剣と青白い剣がぶつかり合い、観客も息をのむ。

激しい剣裁きがぶつかり合い…魔女の剣に姫の剣が弾き飛ばされる。

勝利を確信したように魔女が高らかに笑い、ゆっくりと姫に近づき、首を切り落とそうと剣を振り下ろす。

―ガキィン!

しかし、それは白銀の剣によって防がれてしまった。

驚愕した魔女は後ろに宙返りして距離を取る。

その隙に姫が白い剣を再び手にとって白銀の剣―王子の傍に寄り添うように立った。

苛立った魔女が剣を天にかざすと、地面に落ちていた黒い剣が操られた兵士のように動き出す。

そして先程の真っ赤な旗が通り過ぎ、再び衣装が変わり、さらに手には二つの剣が握られていた。

姫と王子が黒い剣達を相手にしながら何とか魔女に近寄ろうとするも、魔女は余裕の笑みを浮かべながら幾度も旗に包まれ衣装を変える。

衣装が変わるごとにどんどん露出度が上がっていくことに観客が気付くと、男共の歓声も大きくなってきた。

しかし、黒い剣も無力化され、魔女は一人で姫と王子と戦う。

美しく舞い、美しく刺し、剣を槍に変えてさらにダイナミックに演舞する。

だがやはり二人の愛の剣舞に押され…ついに地に伏した。

愛を確かめるように見つめ合う王子と姫。

邪悪な魔女はもういない。黒い剣の兵士たちも起き上り二人を祝福するようだ。

そして剣が消え、魔女も起き上ると姫と共に一礼。拍手が鳴り響いた。

小山の舞台から外れたところで、サリナは人間に紛れるような服を纏う。そこに旗を持ったメアリーが駆け付けた。

「ひどいワ!旗役だけだなんて!」

「ごめんごめん、でもメアリーじゃ少し危ないでしょ?」

旗を指輪にしまいつつ、謝る。

先程の剣舞、メアリーが出ても出番は作れないだろう。何もかもお互いに即興だったのだから。

さすがに舞台で竜の姿になるのも過激な魔族がいたら危ないだろう。そんな判断だった。

「…んもう!」

「…メアリー、演劇ってものは目立っていいところとそうでないところがあるんだから♪ただのパフォーマンスとはまた違う魅せ方があるのよ☆」

「嘘ヨ…なら無駄に衣装を変える必要が無いもの…テンションが上がって脱ぎたくなったんでしょ!!」

「露出狂みたいに言わないでよ…」

なんやかんや諭してはいるものの、テンションが上がっている事は否定できなかった。

「むふふ♪見事な剣舞でしたねぇ…『魔女』さん?」

そこに、先ほどの『姫』…仮面の少女がやってきた。

「あ、乱入してゴメンね?」

「いえいえ、楽しかったですよぉ?即興であそこまでできるなんて…かなり舞台慣れしてますよねぇ♪」

「あら♪わかっちゃう?」

「ええ♪そうだ、お暇ならこちらで一緒にお食事しませんかぁ?」

「食事!?おいしいんでしょうネ!?」

真っ先に反応したのはメアリー。意外にグルメな彼女は、人間界の食べ物を食べたくて仕方ないようだ。

「ええ、もちろん味は保証しますよ~♪」

「なら、ちょっとお邪魔しちゃおっかな~?」

仮面の少女に誘われるまま、宴の一角、異質な宴会場に接近した。

「あ、さっきの槍と剣の魔女さんですね~?」

『…あ!魔界遊技場のサリナさんじゃないですか~!私です、ベルゼブブです~!』

「ベ、ベルゼブブ!?」

真っ先に反応した彼女にサリナは驚いた。今代の暴食の悪魔、ベルゼブブがいるとは思ってもいなかったからだ。

初代色欲の悪魔だとはバレていないし、バレても特に悪い事はないが…意外な場所にいるものだ。

とりあえず相手が正式な方法で人間界に来ている相手で良かったと安堵する。連れ戻したりしていたら宴ができない。

「あ、ベルちゃんの知り合いですか~私、海老原菜帆です~」

『魔界遊技場のお料理思い出しちゃいました~おいしかったですよ~』

「それはそれは…アナタにそう言って貰えると料理担当の子も喜ぶよ。あ、魔界赤ワインいる?いくつか持ってきてるけど…」

指輪から今度はワインを取り出す。

『私は今は遠慮しますけど…ほら~』

そのやり取りに酒や飲み物を飲んでいた他の面々も反応を示す。

「え?遊技場?ダーツとかあるの?」

「周子はん、またそないな事…」

「魔界のワイン…最近飲む機会なかったよのね…」

それぞれがそれぞれのリアクション。しかし、この混沌の中で酒を飲むのも悪くないだろう。

サリナ…アスモダイは久々に自分が主催しない…しかも人間界での宴に微笑んだ。

「サ、サリナ!あっちの屋台言ってもいいかしら!?」

若干居心地の悪さを感じたメアリーは、一通り食事をつまむとサリナに問いかけた。

「行ってらっしゃーい、アタシ今日は飲むから!」

「え…ま、まあいいワ…サリナはそういう悪魔だもの…ちゃんと明日仕事するって信じてるワ…」

こうしてただでさえ戦闘能力が高い宴に初代色欲の悪魔も加わったのだった。

サリナ/松本紗理奈(アスモダイ)
職業 魔界遊技場の総監兼パフォーマー
属性 激怒と情欲の魔神
能力 不明

昔は上級第二位の天使、智天使のリーダーだったが、退屈な天界が変わることを望んでルシフェルに協力し、敗北して堕天使となった。
しかし、そこまでルシフェルたちと仲が良かったというわけではない様子。
堕天の際、力は殆ど奪われず、自慢の体を醜い怪物の姿にされた。現在は特殊な魔術によって何とか昔の姿を維持している。
神にその件で恨みを抱いているが、勝てるはずがないし、今は魔界で普通に生活している方が楽しいので刃向おうとはしていない。
人の姿も怪物の姿も両方ちゃんと自分と認識し、恐怖を抱かれないと非常に喜ぶ。
そして怪物の姿でも自分に欲情するような『ツワモノ』を探しているとかいないとか。

天界で許されなかった賭博の他に、音楽・演劇・舞踏・酒・贅沢などを好む。
剣や槍などの武器の扱いも上手く、無名の悪魔となった後に起きた魔界戦争で最前線で戦い生き残り、その後自ら魔界遊技場の総監となった。
従業員としてサキュバスやインキュバスによって作られたグループを配下にしている。
また意外に契約や約束にうるさく、果たさなかった場合には最も残酷な復讐者になる。
激怒の魔神でもある為、キレると怖い。…それが理由なのか、魔界遊技場は犯罪発生が少ない。

かなりの多才でさらに意外にも知識人。今までにも様々な者に召喚され、気前よく特に大した代償も取らずに知識を授けてきた。
その知識は幾何学、算術、天文学、工芸、力学、などを中心としている。
また、魔術を授けた悪魔の一人でもあり、気に入った者には魔術を込めた指輪も授けた。
堂々としている男性を気に入り、わざと誘うように教えるが、本当に気に入られるのはそれに耐えきった者である。
姿を消す魔術を最も得意とするが、本人は他人に見られることを好む。


メアリー
職業 サリナの部下
属性 拾われドラゴン
能力 人間への変身と竜言語魔法

戦争の際に人に化けていた為に気付かなかったサリナに拾われた竜族の少女。黄金の鱗の竜が本来の姿。
竜の本能はサリナと過ごす生活で感情豊かに育ったために抑えられている。
竜帝の血筋程高位の竜ではないが、本来ならそれなりの地位の竜の娘だった。
幼い故に竜族言語魔法は未熟。サリナの補助を受けてやっとまともな威力になる。
サリナを母親のように認識しており、いつか自分もナイスバディに…と思っている。
怪物の姿もサリナだと理解し恐怖を抱かない数少ない一人であり、それ故に愛されている。
サリナの色欲が大人しくなったのもメアリーを拾ってから…らしい。
遊技場でフラッグパフォーマンスをしている看板娘の一人でもある。

サリナを背に乗せ、彼女の魔力によって作られた鎧を纏って空を飛ぶことができるが、魔界では人目があり滅多にできない。
戦争の記憶ははっきりと持っており、竜帝がおかしくなった事も戦争の始まりとなった若い竜の暴走も全て覚えている。
しかし魔族に囲まれて過ごしてきたため、魔族にも良い人悪い人がいると理解し、自分が大人になった時、両方とも何とか仲良くやれないか考えている。

サリナの指輪・1(不可視の指輪)
姿を消すことができる魔術が込められている。
姿だけ消したり、持っている物ごと消したりできる。
現在はメアリーが装備している。

サリナの指輪・2(アイテムボックスの指輪)
小さな異空間を指輪の中に生み出し、いくつか物を収納できる。
しかし、武器として使う槍や剣はこの指輪に入っているわけではないようだ。
サリナが装備している。

イベント情報
・宴にサリナが混ざりました
・メアリーが屋台めぐりをするようです

以上です
アスモダイさん調べると結構カオスでまとめるのに困ったのは内緒だゾ

メアリーの設定に
全く泳げないという弱点を持つ。
竜としてのサイズは薫より少し小さい
と書くのを忘れていた…

乙ー

メアリーカワイイ!サリナさんカッコイイな

そして、国落とせるんじゃないかっていう宴メンバーが更に強化された!?
なんか志乃さんと周子さんと義娘自慢合戦発展しそうな予感?

あと投下します

祟り場となった街のとある一角。

そこは一層と森が茂っていて、街中にも関わらず自然豊かな場所。

そこに一人の少女が隠れ住んでいた。

風香「な、なんだろう…外が騒がしいな」

草叢にカモフラージュされた、地下への入口。

そこから顔を出す少女--- OZ適合者の一人・浅野風香は涙目で辺りを見回した。

琴歌とはぐれてから彼女は街を彷徨っていたが、黒い泥のような化け物に何回も遭遇したり、変な魚の機械に襲われたり、しまいには吸血鬼と名乗るのに襲われたりと大変だった。

戦闘訓練も受けていたおかけで、なんとか≪レオ≫で撃退をしたが、自分が誘拐される前と比べて物騒になった世界に彼女は怯えた。

誰にも見つからないように、ひっそりとこの森の中で暮らしていたのだ。

幸い、サバイバル訓練も受けていたおかけで、住処にも食糧にも困らなかった。

風香「みんな大丈夫かな?」

気味の悪い空気が街を覆う中、バラバラに散った仲間の事を思う。

無事なんだろうか?捕まっていないだろうか?怪我してないだろうか?悪い人に騙されていないだろうか?お腹空いてないだろうか?

色んな不安が彼女にのしかかるも、仲間を探そうとしないで、ただ怯えて隠れている弱虫な自分がいる。

自分は臆病者だ……







『それでいいの?』






ドクン……

風香「えっ?」

右腕が急に暑くなったのを感じて、見てみる。

右腕が、黄金に輝く、獣を思わせるようなフォルムの、五本の刃のような鋭い爪がついた異形の腕に変化していた。

風香「な……なんで…?」

自分の意志とは関係なく、解放されたOZ≪レオ≫。

ドクン……ドクン……ドクン……

そして、身体の奥底から湧き上がる気配。

この感じは……

『それでいいの?逃げてばかりで?臆病者でいいの?』

風香「!?」

彼女の脳内に、少年のような声が響き渡る。

その声を彼女は知っている。彼女の右腕のあった部分に移植されたOZ--≪レオ≫だ。

風香「な、なんで?第二段階に入ってないのに?」

『多分、この空気のおかげかな?僕も風香と話せて驚いたよ』

『けど……風香。話を戻すけど君はこのままでいいの?』

驚く風香に、レオは諭すような声で彼女に聞く。

風香「私は……」

『君達が僕達の力を恐れているのは理解してるよ?僕だって怖いと思う。特に≪ドロシー≫は無邪気だから力の加減がわかってない。』

その言葉に風香は震え出す。

実験の時に、第二段階を解放した時の事を……

兵器として利用されるだけの事はある。あれの恐ろしさは自分達が充分理解してるだからこそ、私達は恐れてるんだと……

それで……

風香「沢山の人達の命を奪っちゃうと考えると……わ、私……」

ガタガタと震えながら彼女は呟く。

無理もない。まだ大人になりきれてない少女達が誘拐され、身に余る力を手にいれ、それで≪見知らぬ他人≫を殺すだけの兵士にされそうになったのだ。

もし脱走しなければ彼女達はこの力で沢山の命を奪っていくことになったであろう。

だから彼女は怯えてるのだ。弱虫で臆病で力を振るう事を恐れる、≪勇気がないライオン≫のように……

『それでいいと思うよ?』

風香「……ふえっ?」

予想もしなかったその答えに彼女はマヌケな声をあげた。

『強い力は使い方を間違えれば、大変な事になる。君はそれを理解してる』

優しく子供を諭すように声は語る。

『それもまた一つの≪勇気≫だと思うんだ。君ならきっと僕を正しく使えると思うんだ』

その言葉は…

『だからこそ、君は友達の為に僕を正しく使ってくれる』

彼女に≪勇気≫を与える。

風香「………わ、私!」

ガタッと彼女は草叢から出てきて、地上に立つ。

風香「み、みんなを探します!」

その目は震えて怯えてる弱虫なものはなく、確かな勇気をもっていた。

『うん。それでいいよ』

その答えにレオは優しく答えた。

そして、風香は森を後にした。

友達を探す為、この≪力≫を友達の為に使う為に……≪勇気≫をもって一歩踏み出した。

妖怪「デロデロバー!!!」

風香「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」

『やれやれ…』

突然現れた一つ目小僧に悲鳴をあげた彼女に、レオは溜息をはいた。

この先が思いやられるやら…


終わり

≪レオ≫

風香のOZ。
第二段階を解放した時だけ、彼女の脳内で会話することができる。

一人称は僕で、少年のような声。
臆病だけど、力を正しく使うように願っている。

風香が第二段階を解放すると、全身が金属でできた獅子のような異形の獣人で、両腕は黄金に輝く、獣を思わせるようなフォルムの、五本の刃のような鋭い爪がついた異形の腕になっている。

そして、その時の風香の能力は
第一段階の時に使える、五本の刃のような爪が超振動を起こし、鉄をも切り裂く事が、両腕でもできるようになる。
そして、自信の身体を超振動させることにより、相手の斬撃や打撃を防ぐ、超振動の鎧≪ネメア≫が使えるようになる。普通の武器なら破壊されてしまうだろう。

ただし、炎や雷などのものは≪ネメア≫では防げないだろう。

イベント情報追加

・祟り場になった街に風香が友達を探しに来ました。驚かせてあげてください

・風香が自分の力と向き合った事により、恐れずに第二段階を解放する事ができるようになりました。

以上です。

臆病なライオンが勇気を持って友達を探しにいくお話でした。

≪ネメア≫は超振動を起こした肉体が物理を弾くと考えていただければ…
ついでに、常時発動してるのではなく任意で発動します。

そして、怖がる風香ちゃんきゃわわ!

乙です
肝試しイベントで肝試ししてる人キター!
レオみたいに他のOZも意思持ってるのかな?ドロシーはあるみたいだけど

祟り場に集うキャラ数人をお借りして投下します


前回までのあらすじ

 藤原父「パパの言う事を聞きなさい。」


参考
(美穂と藤原父)
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845516/782-)


美穂(皆さん、こんにちは。小日向美穂です。)

美穂(肇ちゃんのお父さんに、「妖怪たちの宴に混じって遊んで来い。」と)

美穂(言われ、外に出てきた私達でしたが。)


犬頭壱「退くがいい、小娘ども」

犬頭弐「ここは、我らが主様の通り道であるぞ。」

犬頭参「はやく去ねワン!はやく去ねワン!」


美穂(気づけば犬の妖怪さん達に絡まれてました。)

美穂「ど、どうしよう。肇ちゃん。」


今日、こうして彼女達が妖怪に絡まれることは一度や二度ではなく、

その度に、肇の妖術であったり、『小春日和』を使って追い払うことになっていた。

『溜まった妖力の消費』と言う目的自体は順調に進んでると言えるが、


美穂(とにかく大変な事ばかりでした。ドッペルゲンガーにも出会っちゃったし。)

美穂(肇ちゃんは大丈夫って言ってくれたけど、本当に死んじゃうかもと思うと不安で泣きそうです。)

美穂(でも今は目の前の問題を何とかしないと・・・・・・。)


肇「美穂さん。ここは私に任せてください。」

美穂「肇ちゃん・・・・・・・。」

美穂(こう言うとき、普段なら肇ちゃんはすごく頼りになるのだけど、)

肇「捻り潰しますからっ!」 グッ

美穂「バイオレンスなのはやめようね?」

美穂(今日はそんな肇ちゃんのブレーキが、時々壊れてるように見えます。)

美穂(妖怪のテンションがおかしくなりやすいとは聞いてたけど、こうなっちゃうとは。)



「こーら。やめなさい、お前達。」


そうこうしていると、犬頭の妖怪達の後ろから、

熊よりも大きな戌に跨って、腰に一本の刀を下げた、若い女性が現れた。


犬頭壱「あ、主様!しかしっ」

犬頭弐「この者達もどうせ我々の邪魔をする妖怪の類に決まってます!」

犬頭参「邪魔される前にやっつけるワン!」

「その子達は違うよ、もう。ちゃんと確認しなさい。」


主様と呼ばれたその女性は、部下の犬頭たちをたしなめる。

彼女は白い犬の面を被っていて、美穂からは、その顔は伺えなかった。


美穂「えっと、あなたが妖怪さんの主さんですか?」

そう訪ねると、彼女は美穂の方を向いて、何かを考え込みはじめる。

犬面の姫「・・・・・・。」

美穂(・・・・・・もしかして私、何か不味い事を言っちゃったのかな。)

そんな心配をしたが、すぐに彼女は口を開き、

犬面の姫「ふふっ、この子らにはそう呼ばれておるの。」

少し笑いながら、美穂の質問に答えた。

美穂(よかった、優しい人みたい。)


犬頭壱「おうおう!聞いて驚きやがれ!このお方はな!」

犬頭弐「此度の祟り場を以って、これから全ての妖怪の主になられるお方!」

犬頭参「僕らの姫様だワン!強くてカッコイイワン!」

犬面の姫「・・・・・・持ち上げるのはそのくらいにね。」


美穂「妖怪のお姫様?」

犬面の姫「ふふっ、うむ。そうなるかな。」

楽しげにお姫様は答えました。


肇「・・・・・・あの、どうして貴女が?」

美穂(肇ちゃんは知ってる人?)

犬面の姫「久しぶりであるの、えっと、肇どの。」

どうやら2人は知り合いであったようで。

犬面の姫「話せば長くなる事ではあるが、今回の事で、」

犬面の姫「・・・・・・わらわにもまあ・・・・・・色々あっての。」

犬面の姫「成り行き上、仕方なくこう言う事をさせてもらっておる。」

犬頭壱「仕方なくとか、言わないで下さいよ。主様ぁ。」

犬面の姫「あはっ、ごめんごめん。」

美穂(よくわからないけど、何か難しい事情があるみたい。)


肇「うーん。なんだかややこしい事になってるみたいですね。」

肇「事情はわかりませんが、何か協力できませんか?」

犬面の姫「協力・・・・・・してもらっても良いのかな?」

肇「構いませんよ。きっとお互いのためになりますから。」

お互いのため。

彼女達の抱える問題を解決することで、

美穂(きっと、溜め込んじゃった妖力を消費する良い機会になるよね。)

うまくいけば、win-winの関係なのだろう。


犬面の姫「ありがとう、肇どの。悪いけど頼らせてもらうよ。」

肇「ええ、お任せください。」

美穂「えっと、あの・・・・・・わ、私も手伝います!」

肇の知り合いならば、きっと悪い妖怪ではないのだろう。

友達の知り合いが困っていて、手を貸さない理由がない。そんな風に美穂は考えた。

犬面の姫「ふふっ、美穂どのもありがとう。」

美穂「い、いえ!お構いなくっ!」


美穂「って・・・・・・あれ?私、名前名乗ってました?」

犬面の姫「むっ、ああ。そう言えば妖術を使っておったの。」

何かの妖術を使って、彼女は美穂の名前を先に知っていたのだと言う。

犬面の姫「勝手に名前を探るような真似をしてすまぬ。以後気をつけるとする。」

美穂「あっ!いえ!そのっ!お、お気になさらず?」

美穂(なんだか変なやり取りをしてしまった。)

美穂(肇ちゃんのお父さんみたいに、進んでそうしようと思って無くても)

美穂(心が読めちゃうタイプなのかも?私もあまり気にしないようにしよう。)


犬面の姫「美穂どのが、その腰に下げているのは、肇どのが配っている刀、『鬼神の七振り』であろう?」

犬面の姫「刀の使い手であるのならば、丁度良い。是非ともわらわに協力しておくれ。」


犬面の姫「美穂どのは、祟り場の収束のために動いておる者達がいるのは知っているかな?」

美穂「えっと、そう言う人たちが居るって聞いてはいましたけど、詳しくは・・・・・・。」

犬面の姫「異界から来たと言う巫女とその仲間が、清めの符を貼って祟り場を回っているのだが、」

犬面の姫「しかしどうやら、一部の妖怪達に妨害されておるようでな。」

美穂「えっ!」

犬面の姫「巫女達を脅かしたり、符を張るべき場所に近づけなくしたり、やりたい放題。と言う訳であるな。」

肇「祟り場は妖怪にとっては心地よい空間ですから、邪魔をしたい者達も少なくないでしょうね。」

美穂(楽しい時間が終わってほしくない気持ちはわかるけど・・・・・・。)

この祟り場が収束しない場合、美穂達は間違いなく困ることになる。


犬頭壱「そこで我らの姫様は、妨害する妖怪どもを懲らしめる役割を買って出てるのだ!」

犬頭弐「祭りは確かに楽しい!だが、この祟り場は本来であれば存在してはならない異質な空間。」

犬頭参「僕たちにも悪影響を及ぼさないとも限らないワン!ちゃんと終わらせるのが一番いいワン!」

妖怪達の中にも、この状況が続くことは良くないと考える者達も居たようだ。


肇「では、私達も、祟り場の収束を妨害する妖怪たちをひねり・・・・・・」

肇「こほん、懲らしめるのを手伝えばいいんですか?」

美穂「肇ちゃん、バイオレンスなのはダメだからね。」

美穂(本当に今日はブレーキ壊れてるなぁ、肇ちゃん。)


犬面の姫「いや、おそらく・・・・・・一匹一匹懲らしめていてもキリが無いのであろうな。」

妖怪のお姫様は困った様に言った。

どういう事だろう?

犬頭壱「此度の祟り場、範囲が広すぎる上に、妖怪の数があまりに多すぎるのだ。」

犬頭弐「その上、祟り場の収束に興味がなくても、悪ふざけで絡んでくる妖怪たちも少なくない。」

犬頭参「二人増えてもまだ全然手が足りないワン!」

一匹を懲らしめても、また一匹、また一匹と遭遇するならキリが無い。

美穂達がそれを手伝っても、やはりその全てに対応しきれない事には変わりないのだろう。

肇「そうですね。協力者がもう少し多ければいいのですが。」

犬面の姫「そこでわらわは妙案を思いついた。」


犬面の姫「此度の祟り場に現れた、仮面を被った剣の姫を知ってるかな?」

美穂「剣のお姫様ですか?」

犬面の姫「西洋の剣を摩訶不思議な術で巧みに操る少女のようでな。」

犬面の姫「とにかく、その少女の剣捌きが見事であるらしい。」

美穂「?」

肇「それが祟り場の収束とどう言う関係が?」

犬面の姫「その少女は剣を使って、見世物をしているらしく、」

犬面の姫「しかも、その相手を探しておるようでな。」

犬面の姫「是非、わらわはお相手して頂きたいと考えておる。」

犬頭壱「宴の場で少女と舞ってみせることで、姫様の凄さを、妖怪たちに見せ付けるのだ!」

犬頭弐「そうして凄くて強い姫様が、祟り場の収束を妨害する者を懲らしめていると聞けば、悪ふざけで絡んでくる者もずっと少なくなる!」

犬頭参「姫様の凄さを気に入って手伝ってくれる妖怪も増えるかもワン!僕たちも楽になるワン!」

美穂(なるほど、確かにそれは妙案なのかも。)

犬面の姫「しかし、相手は一人で五本の剣を操ったと言う凄腕の剣使い。」

肇「一人で五本の剣をですか?」

美穂「う、腕が5本あるとか?ど、どんな人なんだろう。」

犬面の姫「もしかすると、わらわ一人では、力不足なのかもしれぬ。と思っておった。」

犬面の姫「そこで、『鬼神の七振り』を持つおぬし達の力を借りたい。」

美穂「・・・・・・。」

美穂「それってつまり・・・・・・?」

犬面の姫「ふふっ、簡単に言えば、美穂どのにも剣舞の舞台に上がって欲しいってこと、であるな♪」

美穂「・・・・・・えええええええっ!!」


――

――

犬頭壱「ありました!主様!ここです!この公園ですよ!」

犬頭弐「例の仮面の少女はここに居るはずです!」

犬面の姫「うむ、よく見つけてくれたのう。」

犬頭参「姫様のためですワン!」


妖怪のお姫様の跨る大戌に乗せて貰って、美穂達がやって来たのはとある公園。

右も左も妖怪達が歌って踊って、飲んで語らって、食べて騒いで、どこもかしこも賑やかでございます。


美穂「す、すごい妖怪の数だね。」

肇「はい、それに強い力も集まってるみたいです。」

肇「とてつもない妖力も感じますね。」

美穂「と、とてつもない妖力?だ、大丈夫なの?」

つまりそれは、凄く強い妖怪達が近くに居ると言う事で、美穂は不安になる。

肇「この宴の様子を見る限りは、おそらく危険は無いと思いますよ。」

周囲を見渡せば、たくさんの妖怪達が笑っていて、楽しんでいる。

美穂(確かに、この様子なら、危険な事はないのかなあ。)


犬頭壱「・・・・・・ど、どうやら、れ、例の剣使いの娘は。」

犬頭弐「あ、あの一角にいる、よ、ようですね・・・・・・。」

犬頭参「ひ、姫様ぁ。こ、怖いワン。」

犬面の姫「お前達、動けぬのだけど。」

犬頭の妖怪達の指した一角には、個性的な女の子達が居ました。

美穂(パッと見にはそれだけの事だけど・・・・・・。)

犬頭達は、みな怯えて美穂達が乗る大戌の足にくっ付いている。

その大戌にしてもわずかに唸り震えているようであった。

美穂(私は、肇ちゃんみたいに妖力だとか、目に見えない力を感じる事はできないけど、)

美穂(そんな私にも、その一角だけ明らかに、なんて言うか、)

美穂(オーラ的なものが違うのはわかる。)

彼らがあの中の何かに怯えるのも仕方ないのかもしれない。


犬面の姫「仕方ないの、お前達は待っておるとよい。」

大戌から降りた彼女は、優しく彼らにそう告げて、

悠然とその集まりに近づいていく。

美穂「だ、大丈夫なのかな?」

肇「大丈夫ですよ、安心してください。」

確信しきっている返事。肇には、安心できる理由があるようだ。


犬面の姫「すまぬが、そこの方々。剣舞の相手を探していると言うのはどなたか?」

仮面の少女「むふふ、わたしにお客さんみたいですねぇ♪」


妖怪のお姫様と、仮面の女の子が話している。

どうやら彼女が、噂の凄腕の剣使いであるらしい。

美穂(あの子が、幾つも剣を使うなんて想像できないな。どうやるんだろう?)

口に咥えても三刀流?指に挟んで六刀流?

美穂(たくさんの刀剣を一度に扱うなんて、私にはできそうにないな。)

変な想像をしながら、その様子を、美穂はそわそわと見守っていると。

「あれ、肇ちゃんじゃん!」

お連れに声がかかったのでした。


その声を聞いた肇が、大戌から降りて地面に立ったので、美穂もそれに続く。

周子「久しぶりー、元気してたー?」

肇「お久しぶりです、周子さん。」

フレンドリーに手を振り、近づいてきた狐耳の女性。

彼女に対して、うやうやしく挨拶する肇に習って、美穂もまたおずおずとお辞儀した。

傍にいたはずの犬頭の妖怪たちは、彼女が近づいてくると凄い勢いで後ろに木陰に隠れてしまっていた。

美穂(人見知りってわけじゃないよね、キツネが怖いのかな?)


肇「紗枝さんも、お久しぶりです。」

さらに周子の、やや後方に控えていた女の子にも肇は挨拶をする。

長い髪が綺麗なその子は、

紗枝「ひ、久しぶりやね?」

声が上ずっていて、微妙に動揺している様に見えた。

美穂(たぶん見られてはいけない現場を見られてしまったみたいな、そんな感じ。)

美穂(私にも、最近、見られたくないところを見られてしまう経験が多いから、なんとなくわかる。)


肇「珠美さんと、西蓮さんは元気ですか?」

その様子を特に気にすることもなく、肇は話を続ける。

紗枝「えっ、ああ。あんじょうやってはりますよ?」

紗枝「肇はんからいただいた『餓王丸』のおかげもあってか、」

紗枝「最近は、えらいきばってはりますえ。」

紗枝「せやから、うちも安心して留守を任せて・・・・・・。」

そこで言葉が急に止まった。

紗枝「・・・・・・。」

紗枝「こ、これはな。ちゃうんやで?」

紗枝「さ、サボ、サボってるわけちゃう。」

美穂(・・・・・・事情はまったくわからないけど)

語るに落ちちゃったのはわかった。

紗枝「た、ただ・・・・・・そう。だ、大事な用があって・・・・・・」

肇「大事な用事ですか?」

肇「ああ、周子さんとのデートですよね?なんだかお邪魔しちゃってすみません。」

紗枝「はっ?!」

美穂「肇ちゃんっ!?」

いきなり何を言いだすのだろう、この子。

美穂(あっ、そう言えば今日ブレーキ壊れてるんだった。)

何でもないように振舞っていて、唐突にアクセルを踏むから手に負えない。


肇の言葉に、紗枝は顔を手で抑えて黙り込んでしまった。

見えてる耳は真っ赤になってる。

周子「はいはい、紗枝ちゃん弄るのはそのくらいにしてあげてねー。」

肇と紗枝の間に、周子が割って入ってきた。

美穂(もう少し早く助け舟を出してあげて欲しかったな。)

もしかしてわざと成り行きを見守ってたとか。いやいやまさか。

周子「紗枝ちゃんも働きづめだからさ。たまの息抜きくらい見逃してあげてね。」

肇「見逃すもなにも、見られて拙い物は何も見てませんよ。見てない物は誰にも言えません。」

周子「ふふっ、話が早くて助かるよ。」

肇「周子さんが誘ったんですよね?」

周子「ぴんぽーん、せいかーい♪」

肇「ふふっ、それでは仕方ありませんね。」

周子「うんうん、仕方ない仕方ない。」

美穂(?)

事情のわからない美穂にはよくわからないやり取りが続く。


周子「ところで肇ちゃん、そっちの子は?」

そしてついに。と言った感じに、美穂に話が回ってきた。

肇「紹介します。私の友人の美穂さんです。」

美穂「こ、こ小日向美穂ですっ!」

人の事を言えない、声の上ずった自己紹介。

上がり症なのはどうにもまだ直らないようで。

周子「んー。」

周子はマジマジと、美穂を見つめている。

周子「なるほどねー、この子も例の刀の所有者なんだ。」

周子「あたしはシューコ、まあ見ての通りのものだよ。」

見ての通り。美穂の目には狐耳の妖怪の女の子と言ったところ。

それがどれほどの力を持っているのかなんて事は、美穂にはわからない。

周子「よろしくねー、美穂ちゃん。」

美穂「よ、よろしくお願いしますっ!」

周子「そんなに緊張しなくてもいいよー」

美穂の返事に周子はケラケラ笑う。

美穂(うう、なんか恥ずかしいなぁ。)


周子「そして、私の後ろに居るのが紗枝ちゃん。」

周子「職業は・・・どうでもよね?いい子だから仲良くしてあげてね。」

紗枝「紗枝どす。どうぞよろしゅう。」

先ほどまでの動揺は何処へやら、

挨拶となれば、すぐに姿勢を整えて、丁寧にお辞儀する。

しっかりしている娘であるらしい。

美穂「は、はい。よ、よろしゅうお願いします。」

変な挨拶を返してしまう自分はしっかりしてない子だな、と美穂は思うのであった。


周子「いやー、にしても、肇ちゃん達もデート中だったんだねー。」

美穂「へっ?!」

先ほどの意趣返しかの様な、周子の言葉に戸惑う美穂。

これには流石の肇も顔を赤らめている。

美穂「ち、ち違いますよっ!私たちは、そのっ!」

肇「私は、美穂さんになら、その・・・・・・心も体も」

美穂「あれっ?!なんで満更でも無い感じにっ?!」

肇「ふふっ、冗談です。」

美穂「本当に今日ブレーキどこ行っちゃったの?!」

顔を赤らめて言うから冗談に聞こえなかった。

美穂「と、とにかく私たちは、で、ででデート中とかじゃなくて、そのっ」

肇「お互い、溜まっちゃってどうにもならなくなったものを、発散しに来たんですよね。」

美穂「そう!」

美穂「って違っ!!違うくないけどその言い方はなんか違うっ!!」

その様子を見て、周子はゲラゲラ笑っていた。


その後、誤解を解くのが大変でした。と言うほどでもなかったけれど、

肇ちゃんのテンションをおかしくしてる、この祟り場は早く何とかしよう。と強く美穂は思うのだった。


そんな感じで、しばらく周子達と談笑していると、

犬面の姫「美穂どの、肇どの。」

仮面の女の子と話していた、妖怪のお姫様に呼ばれる。

その様子からすると、例の話はついたようだ。

肇「では周子さん、紗枝さん。失礼します。」

美穂「お、お邪魔しましたっ!」

周子「うん、またねー。」

2人に軽く挨拶をすると、その場から少し離れた場所にいる

妖怪のお姫様と、仮面の女の子のところに美穂達は向かった。


――

仮面の少女「むふふ♪はじめまして♪」

美穂「えっと、はじめまして。」

仮面の少女「あなたも、わたしのお相手をしてくれるんですよねぇ?」

美穂「は、はい。そうです。そうなっちゃいました。」

状況に身を任せているうちに、気づけばトントン拍子に話が決まっていた気がする。

仮面の少女「そうですかぁ、むふっ、楽しくなりそうです♪よろしくお願いしますねぇ。」

美穂「よ、よろしくお願いします。」

ぺこりと軽く一礼。

犬面の姫「わらわと、美穂どの。そして仮面の少女どの。舞台に上がるのは3人になる。」

犬面の姫「肇どのには、妖術を使い、舞台を盛り上げる裏方を務めて欲しい。」

肇「なるほど、わかりました。」

美穂「・・・・・・あ、あの。」

このまま流されていてはダメだなと、意を決して声を出す美穂。

美穂「ここまで来て言う事じゃないかなとは思うんですけど・・・・・・。」

美穂「私、剣舞ってよくわからなくって。」

美穂「剣を持って、踊るんですよね?」

おずおずと尋ねる。

剣を持って踊ると簡単に言葉にこそしてみたが、正直よくわからない。

アイドルヒーローを目指すと決めてからダンス自体は少し練習したけれど、

それだって、まだまだ人に見せられるものではないのだ。

美穂「私、踊れないんですけど、舞台に上がっても平気なんでしょうか。」


美穂が踊れないと聞いても、二人は慌てることはなく、

犬面の姫「その点についてはちゃんと相談しておるよ。」

仮面の少女「わたしの舞台は演劇仕立てになってまして、」

仮面の少女「美穂さんは踊れなくても平気ですから、ご安心を~。」

美穂「演劇・・・・・・。」

踊れなくても良いらしいのだが、演劇にしてもやはり未経験。

美穂「あの、劇ってことは、台本とか役割とかもあるんですよね?」

犬面の姫「いや、流石にそこまでしっかりと練る時間はないの。」

仮面の少女「本格的に動きを覚えてもらうのも大変ですからねぇ。」

仮面の少女「ある程度見世物として成立すればいいですから、」

仮面の少女「ほとんど即興でやってしまうつもりですよぉ。」

仮面の少女「3人の姫君による美しき剣戟、と言うテーマはありますけどねぇ♪むふふっ♪」


美穂「即興で・・・・・・。」

仮面の少女「即興劇と言っても、そこまで難しく考えなくてもいいですよぉ。」

仮面の少女「美穂さんは、いつも通り、刀を使って戦うつもりで、」

仮面の少女「わたしに向かってきてくれればいいです~。」

仮面の少女「わたしがそれに合わせますからぁ。」

犬面の姫「わらわも美穂どのをサポートするつもりで刀を振るうつもりでおる。」

犬面の姫「だから、形上はニ対一になるかの。」


つまりそれは、美穂の動きで舞台の全てが決まると言う事で。

たくさんの目に見られている場所で、初めてとなる、剣の舞を即興で演じる。

美穂(そんな事が私にできるだろうか。)


――心音が早まる。



たくさんの目が見ている。

――きっと緊張してしまう。


初めての事をする。

――失敗してしまうかもしれない。


即興で演じる。

――舞台に立てば、頭の中は真っ白になるだろう。


緊張するだろう。失敗するだろう。真っ白になるだろう。

不安が不安を呼んで、

だんだん何がなんだかわからなくなって。


パンッ!

美穂「ふぇっ!?」

すぐそばで手のなる音がした。


肇「気がつきましたか?」

美穂「肇ちゃん・・・・・・。」

『鬼手快晴』、肇の使う妖術。

手を鳴らす音で、精神状態を回復させる技。

不安のあまり、軽いパニックに陥ってたところを気づかせてくれたようだ。

美穂「すみませんっ!なんだかぼーっとしちゃって。」

犬面の姫「いや、こちらこそすまぬ。いきなり無茶な事ばかり頼んでしまったかな。」

犬面の姫「もし無理そうならば、今回の事は諦めるが。」

肇「と言う事みたいですけれど」

肇「美穂さんはどうしたいですか?」

美穂「私は・・・・・・。」


美穂は考える。

自分はどうしたいか。

肇の術のおかげで、緊張は解れ、

おかげで頭をクリアにして、自分の気持ちと向き合うことが出来た。

緊張も失敗もするかもしれない。

それでもできるなら、

美穂「・・・・・・舞台に立ってみたい、かな。」


小日向美穂は、アイドルヒーローに憧れる。

歌って、踊って、戦えて、みんなを守れる、希望の光。

そんな存在になってみたいと考える。


美穂(もしかしたら今回の事もチャンスなのかもしれない。)

彼女はここの所、幾度と出会いを繰り返して、

夢への道を進み始めた。

だから思う。此度の出会いも夢への一歩になるのかもしれないと。

今宵の舞台、立つことが出来たなら一歩くらいアイドルヒーローに近づけるかもしれない。


緊張もするかもしれない。

失敗もするかもしれない。

でも、前進できるのかもしれない。


美穂「うん、私は舞台に立ってみたい。」


肇「じゃあ、是非やりましょう。」

美穂「うんっ!ありがとう!肇ちゃん!」

最後は彼女が背を押してくれた。

ここ一番で彼女はやはり頼りになる。

美穂「あのっ、私、ご迷惑掛けちゃうかもしれないですけど。」

美穂「それでも一緒に舞台に立たせて貰ってもいいですか?」

一緒に舞台に立つ2人に向き合い、改めて、美穂自身から頼み込んだ。

犬面の姫「ふふっ、もちろん。元はわらわからの頼みだからの。」

仮面の少女「むふふっ♪わたしは大歓迎ですよ~。」

仮面の少女「こう言う宴の場で一番大事なのはぁ、演者自身が楽しむことです」

仮面の少女「楽しんでる、と言う事は観客にもちゃんと伝わりますからぁ。」

仮面の少女「一緒に楽しんでくれる方なら、少しくらいへたっぴでも、全然構いませんよぉ。」

仮面の少女「わたし達もサポートしますし、ねぇ?」

犬面の姫「うむ、任せておれ。」

美穂「ありがとうございますっ!」

快諾してくれた2人に、深くお礼をした。


美穂「・・・・・・ここまで決意しておいてだけど。」

美穂「刀を使う以上、今回はヒヨちゃんに頼ることになるんだよね。」

美穂「ちょっとズルいかもだけど・・・・・・」

美穂「でも、いいよね?」

刀を抱きかかえ、美穂は静かに問う。

彼女のアホ毛はやる気満々とばかりにピョンピョンはねている。

肇「いいと思いますよ。それでも意思を決定したのは美穂さんですから。」

舞台に立つ、と最後に決めたのは彼女の意思。

誰かに流された結果でも、刀に頼ったわけでもない。

それだけは彼女の意思が決めたこと。

美穂「うん。ヒヨちゃん。よろしくね。」

任されたとばかりにピーンと立つアホ毛。

豪放な彼女ならば、このステージも案外何てこと無いのかもしれない。


仮面の少女「それじゃあ、軽く段取りだけ説明しますから。」

仮面の少女「付いてきて貰えますかぁ?」

美穂「は、はいっ!」

トテトテと、仮面の少女に付いていく美穂。

美穂「?」

舞台に立つはずの、もう1人が付いて来ていないので振り返る。

犬面の姫「わらわはよいのだ。先ほど説明してもらったからの。」

犬面の姫「ここで待っておる。気にせずに行ってくるが良い。」

美穂「えっと、わかりましたっ。」

そうして、美穂はその場から離れていった。


そこには、犬面の姫と、肇だけが残される。


犬面の姫「・・・・・・やっぱり、友達の一言はちがうのかなあ。」

犬面の姫「なんか、ごめんね。ここまでやってもらって。」

肇「いえ、私も協力すると言いましたからね。」

肇「ここまで含めて、協力だと思ってください。」

肇「それにきっと美穂さんのためにもなりますから。」

犬面の姫「もちろん、それは約束するよ。」


犬面の姫「・・・・・・・。」

犬面の姫(さて、あの子を舞台にあげる。ここまではうまく行ったね。)

犬面の姫(けど本番はここから。手筈通りになればいいけれど、)

犬面の姫(ふふっ、まずは『小春日和』のその実力。見せてもらおうかな。)

その面の下に、企みを潜ませる者が静かに笑う。


おしまい


『犬頭の一族』

妖怪の一派。頭部が犬で身体は人間と言った感じの妖怪達。
群れを作り、自分達の主を1人決めて、その者に命令に従う忠犬たち。
人間に比べて、非常に素早く鼻が利く。


『大戌』

妖怪の犬。化け犬の類。
熊よりも大きく、力強い。しかもお利口さん。
人間を3人くらいならば、落さずに乗せたまま走ることができる。
凶暴そうな見た目だが、意外と温厚。犬頭達によく飼われている。



紗枝はん、周子さん、謎の仮面の少女、お借りしましたー

そのなんていうか・・・・・・
ちょっと時間が掛かりそうで演舞パートはまた次回に・・・・・・すまない

乙う
ブレーキ壊れた肇ちゃんが可愛いぜ!

投下します
まとめwiki掲示板での戦闘外殻「アビストラトス」を使わせていただいてます
あと一応微グロ注意


――憤怒の街。

未だカースが暴れまわるこの街に動く人影など、ヒーロー以外にはほとんど見られなかった。

ここに、数少ない動く人影の内一つが。

??「……はぁっ、はぁっ……出口……どこ……?」

彼女の名前は赤城みりあ。

幼い内に両親に先立たれ、この街で親代わりの女性と二人で暮らしていた少女だ。

カースによって家を破壊され、逃げ回り、親代わりの女性ともはぐれ、今に至る。

みりあ「はぁっ……はぁ……」

初めてこの街に来た時の記憶を辿り、角を右に曲がる。

『マガリカドカラショクパンクワエタキョニュウビショウジョ……ジャネエ!? タダノロリダヨオイ!!』

みりあ「ひうっ!?」

一際大きな体格のカースが一体、こちらをじっと見ていた。

『オッパイニアラズンバヒトニアラズ! ロリナンカツブレチマエェ!!』

みりあ「いやああ!」

カースが振り下ろす拳から逃げるために、みりあは必死で逆方向へ走った。

カースの拳はみりあには当たらず、すぐ後ろの地面に叩きつけられた。

みりあ「あ、あぶな……うわっ!?」

後ろをちらと振り向いたみりあが思わずよろける。

カースの拳により地面にヒビが入り、そこからボロボロと崩れだしているのだ。

やがて、みりあの足元にもヒビが入り、そして崩れた。

みりあ「きゃああっ!?」

大きな穴がみりあの体を飲み込んでいく。

ばしゃん

みりあ「冷たっ……あれ?」

みりあは崩れた穴に飲み込まれ、すぐ下の地下水道に落ちた。

みりあ「に、逃げなきゃ……あ、あれっ……動かない……」

動かないはずだ。みりあの右脚は、落ちてきた瓦礫の下敷きになっているのだ。

みりあ「え、嘘っ!? このっ、抜けろ、抜けろ……!」

懸命に脚を引っ張るが、一向に抜ける気配はない。

『アア!? マダイキテヤガッタノカヨウジョガァ!』

見上げると、先ほどのカースがこちらを見下ろしている。

みりあ「っ!?」

『オッパイテイコクノタメニシネェェェェ!!』

カースは手近な瓦礫を掴んで、みりあへ向けて投げつけた。

みりあ「――――!」

ぐちゃ。

みりあの耳に、そんな音が届いた。

みりあ(あ……私、死ぬんだ……)

虚ろな目で自分の腹を見る。先端が赤く染まった瓦礫が、深々と突き刺さっていた。

みりあ(もう、ちょっと……生き……たかった、なぁ……)

段々と視界がぼやけてくる。

みりあ(さよなら……――、さん……)

みりあは、そっと目を閉じようとした。

??(――ねえ、助けてあげようか?)

みりあ「え……!?」

――――――――――――

気付けばみりあは、一面真っ白の不思議な空間に立っていた。

腹に突き刺さった瓦礫も無い。いや、突き刺さった痕跡すら見えない。

??「こんにちはー。えっと、赤城みりあちゃん……で、あってる?」

目の前には白い服を着た男が立っていた。高校生くらいだろうか。

みりあ「あ、はい……えっと、あの……どなた……ですか?」

至極当然な質問を男にぶつけるみりあ。

??「僕? 僕は神様だよ。まだまだ見習いだけどね」

みりあ「神様ぁ!?」

若神P「うん。『文字の神』の見習い。若神Pとでも呼んでよ」

若神Pと名乗った男は右手をヒラヒラさせながらヘラっと笑う。

みりあ「えっと……その若神Pさんが私に何のご用ですか……?」

若神P「うん、まず今みりあちゃんは死にかけてます。そんで今ここにいるみりあちゃんは魂だけの存在です。オーケー?」

みりあ「あっ、はい」

さらっとトンでもない事を言った若神Pだったが、みりあはもう死を確信していたので、そうは驚かなかった。

若神P「そして、今なら僕が持っている力を分け与えればみりあちゃんはギリギリ生き返る事ができます」

みりあ「えっ、本当に!?」

若神P「うん、本当に」

みりあ「じゃ、じゃあ……」

すぐにでもお願いします。そう言おうとしたみりあを、若神Pが手で制した。

若神P「まあまあ話は最後まで聞いて。いい? 僕の力を受けるって事は、君はいわゆるヒーローになるってことなんだ」

若神Pの顔から、へらへらした態度が消える。

みりあ「ヒーロー……」

若神P「そう。超常たる力をもって悪と戦い、打ち勝つヒーロー。その力を得るって事は、日常を捨てるって事」

みりあ「…………」

若神P「それが嫌なら、大人しく死ぬことをお勧めするよ。みりあちゃんはたくさんの善行を積んでるから、
   天国直行間違いなし。永遠の安寧が君を待ってるよ」

言い終えた若神Pは口を真一文字に結び、みりあの答えを待った。

みりあ「……私は……捨てない……」

みりあが静かに口を開く。

若神P「うん?」

みりあ「私は日常を捨てない。ちょっとだけ置いといて、全部済んだらまた取りに来る。……あの人と、一緒に」

みりあは、若神Pの目をまっすぐ見ながらそう言った。

若神P「…………ぷっ、あはははは! いい! いいよみりあちゃん! そう来なくっちゃ!」

みりあ「……へ?」

突然ゲラゲラと笑い出した若神Pに、みりあは呆気に取られた。

若神P「いやあ、僕たちが出会えたのは幸運だね。もちろん、両方にとって」

笑いが収まったらしい若神Pは、みりあに向けて手のひらをズイと突き出した。

若神P「じゃ、始めるよー。覚悟はいい?」

みりあ「はっ、はい!」

若神P「いい返事だ。……はっ!」

若神Pが手に力を込めると、真っ白だった周囲の背景がまるでガラスのようにバリバリと割れていった。

――――――――――――

気付けばみりあは地下水道に立っていた。脚が瓦礫に挟まってもいなければ、腹に瓦礫が刺さってもいない。

みりあ「あ……あれ? さっきのは……」

若神P「先に言っとくと夢じゃないよー」

いつの間にか隣には若神Pが立って……いや、地面から少しだけ浮いていた。

みりあ「あ、若神Pさん。夢じゃない……じゃあ」

みりあは上を見上げる。

『エエエエエ!? マダイキテヤガル! コレガウワサノヒンニュウカイヒッテヤツナノカァ!?』

当然、みりあを殺しかけたカースも健在だった。

若神P「みりあちゃん、ヒーローの第一歩。アイツ、やっつけよっか」

みりあ「……は、はいっ!」

少し戸惑うみりあだったが、意を決したようだ。

若神P「オッケー。戦い方は頭の中に入ってるハズだよ。君に上げたバトルスタイルは方陣と……」

みりあ「え、えっと、こうかな? ……『チャン』!」

右手を空に掲げてみりあが叫ぶと、手のひらに四角い魔法陣のような物……方陣が浮かんだ。

方陣の中央には、漢字で『帳』と書いてある。

そして方陣が少しずつ下がり、みりあの体をすり抜けていく。

すり抜けた箇所から順に、みりあの服装が変化する。

そして方陣が足元に到達し消える頃には、みりあは黄色くて少しだぼっとした衣装に身を包んでいた。

若神P「……僕が今猛勉強中の、『漢字』……だよ」

『ロリノコスプレニャキョウミガネェエー!!』

カースは激昂してカース弾を吐き出す。

みりあ「わわっ! え、え、っと、『ガン』!」

みりあが両腕をいっぱいに広げると、『頑』と書かれた巨大な方陣が出現し、カース弾を防ぐバリアになった。

『ナニィ!?』

若神P「みりあちゃん、一回上に上がろうか」

みりあ「はい! 『ビュン』!」

みりあの両足の裏に『飛』と書かれた方陣が現れたかと思うと、みりあはそのまま空中を走るように飛んでいった。

若神Pも全く姿勢を動かさずみりあに続く。

『トンダァ!? ンナロウ!』

カースは腕を大きく振り回す。

しかし、みりあも若神Pも巧みに回避したため、拳は空を切った。

みりあ「こっちの番だね! 『バン』!」

みりあの指先に『蛮』と書かれた小さな方陣が現れ、そこから放たれた細いビームがカースの体に突き刺さる。

『ギャ!?』

みりあ「『バン』! 『バン』! 『バン』!」

続けざまにビームを三連射。全てがカースにクリーンヒットする。

『グググ……コノバイオレンスロリータ……ギャアア!?』

突如飛んできた光の輪に、カースの腕が両断された。

若神P「みりあちゃんにばっか気を取られてちゃ駄目だよー? 見習いだけど僕も一応戦えるし」

自分の手元に戻ってきた輪を弄びながら、若神Pはへらへらした態度でカースを挑発する。

『ロリノツギハイケメンカヨ!? オレハロリモイケメンモダイキライナンダァァァ!!』

怒り狂ったカースが先ほどの数倍ものカース弾を吐き出す。

みりあ「うわわわ! 『ガン』!」

若神P「やっべ、みりあちゃんちょっと後ろ入れてー」

みりあは慌てて地上に降りて『頑』を張り、若神Pもその後ろに隠れた。

『クタバレ! タダシイケメン二カギラズクタバリヤガレェェェエェェエ!!』

若神P「いやー、やばいねえ。弾丸の雨あられで手が出せないや。ぶっちゃけ防戦一方」

みりあ「ええっ!? じゃ、じゃあ『頑』が破られたら……」

若神P「おしまいかな?」

みりあ「ええー!?」

若神Pの突拍子もない発言に、みりあは思わず大声をあげた。

若神P「相手の力量を過小評価しちゃったねー。なんて言うのかな、
  『スパ○ボでただのザクだと思ったらエリート兵が乗ってた』……みたいな?」

みりあ「…………?」

ス○ロボを本当によく知らないみりあの頭上に、たくさんの疑問符が浮かぶ。

みりあ「って、言ってる場合じゃないですよ!? この状況どうにかしないと……」

相変わらずカースは怒涛の如くカース弾を吐き出し続ける。

これが止まない限り、二人はその場を動く事が出来ない。

『シネシネシネシネシネェェェェ!!』

若神P「どーしよっかこれ……」

みりあ「うう……」

『頑』を張り続けるみりあの顔に疲れが見え始める。



??「おっ、みりあちゃん頑張ってるわね」

『シャンシャン』


みりあ「!?」

若神P「?」

『アァ?』

声のする方を振り向くと、一人の女性と大きな金属製のトビウオがそこにいた。

みりあ「ま、マリナさん!?」

立っていたのは、みりあの親代わりの女性、マリナだった。

若神P「知り合い?」

みりあ「は、はい、一緒に住んでる人です」

『オッ、ナカナカノオッパイサンジャネエカ! ヘヘ、チョットコッチコイヤ』

気付けばカースはカース弾を吐き出すのをやめている。

マリナ「あははっ、これは嬉しくないお誘いだな~……可愛い可愛いみりあちゃんを困らせたみたいだし」

マリナの語尾に殺気が篭る。

『ヒッ!?』

マリナ「落し前はつけてもらおうかしらねー……ね、トビー」

『シャン、シャシャン』

マリナが隣に浮かぶトビウオに呼びかける。そして、

マリナ「……オリハルコン、セパレイション!」

マリナの掛け声でトビーが分割され、マリナに装着される。

マリナ「……アビストラトス、ウェイクアップ」

みりあ「えっ……えっ?」

若神P「えーと……なにこれ?」

あまりの展開に二人が少々置いてけぼりを食らう。

『オオオイ! セッカクノオッパイヲナニカクシチャッテクレテンダヨォォォォォォ!!』

カースはまたカース弾を大量に吐き出した。

みりあ「ま、マリナさん! 逃げて下さい!」

マリナ「ご心配無用♪ ……ほっ!」

マリナは背中のヒレを広げて飛び上がると、まるで空中を泳ぐように飛び回り、カース弾を全て回避している。

若神P「わ、すっごい……って、みりあちゃん。今チャンスだよ」

みりあ「……えっ? あっ、はい! 『バン』! 『バン』!」

若神Pの言葉で我に返ったみりあは『蛮』を連射した。

『イデデデデ! テッメェ、モウユルサネェェェェェェエ!!』

カースの振り上げた拳が、みりあを押し潰す。

――その前に、若神Pの投げた光輪がカースの腕を切り落とした。

『ギャアアアアアア!?』

若神P「だーから、僕もいるんだって」

マリナ「みりあちゃん、爆弾みたいな技持ってない!?」

取り出したハンドガンをカースへ向けて撃ち続けながら、マリナが問いかける。

みりあ「えっと……はい、一個あります!」

マリナ「上出来! それ撃って核を露出させてくれない? お姉さんがキメちゃうから!」

みりあ「はい!」

大声で返事をしたみりあは、両腕をピンと伸ばし、手のひらをカースへと向けた。

みりあ「…………『ボン』!!」

みりあの手のひらに『煩』と書かれた方陣が現れ、そこから大きな光球が一つ発射された。

光球はカースの体に触れると、激しく輝きながら周囲の泥を溶かしていく。

『グギャアアアアアアアアアア!? コ、コレダカラロリハ……』

核を露出させながら、カースはヨロヨロと起き上がる。

マリナ「みりあちゃんグッジョブ! 後はお姉さんにお任せ!」

マリナの鎧が一部分解され、マリナの足元で新しく形を作り上げていく。

やがて出来上がったそれは、大きなサーフボードに見えた。

マリナ「いくわよ!」

サーフボードに飛び乗ったマリナは急加速しながら空を滑っていく。

マリナ「それそれそれそれぇ!!」

途中でターンを何度も決めながら、ドンドンと速度を上げていく。

速度が上がるたび、サーフボードの先端から青いエネルギーが迸っていく。

『ヒッ! クルナ、クルナクルナクルナァ!!』

そして、ついに。

マリナ「スプラッシュ・ストラァァァイク!!」

サーフボードに乗ったまま、マリナはカースの核を撃ち砕いた。

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

――――――――――――
――――――――
――――

――――
――――――――
――――――――――――

みりあ「ウェンディ族……ですか?」

マリナ「そ。黙っててゴメンねー」

マリナ自らの秘密をみりあに明かした。

海底都市に住むウェンディ族。それを指導する海皇。海皇を守護する親衛隊。その一員がマリナだ。

幼い頃に御伽噺で読んだ『空』。それへの憧れを捨てきれず、ある日海底都市を飛び出し、今に至ると。

みりあ「そんな……確かに時々頭から塩水浴びておかしいなあとは思ってましたけど……

若神P「いや、もうちょっと怪しもうよ」

若神Pは苦笑しながらみりあにつっこむ。

マリナ「でもま、みりあちゃんの親代わりをやめるつもりはないわよ?」

みりあ「ほ、本当ですか!?」

内心どこかで「もうお別れかも」と思っていたみりあは、顔をぱあっと輝かせた。

マリナ「もちろんよ。悪漢からみりあちゃんを護らなきゃね」

マリナはにっと笑ってみりあの頭をくしゃくしゃ撫でる。

みりあ「え、えへへ……」

若神P「でもマリナさん。本当にいいの、僕もついて行って?」

少し不安そうに若神Pが切り出す。

マリナ「神様をその辺にほっとくわけにもいかないしね。ただ……」

マリナは若神Pに一歩近づき、そっと耳打ちする。

マリナ「可愛いみりあちゃんを泣かせたら、神様相手でも承知しないからね?」

若神P「た、たはは……よく肝に銘じておきます」

みりあ「?」

不思議そうに首をかしげるみりあの頭を、マリナがまた一撫でした。

マリナ「じゃ、みりあちゃんに経験を積ませる為にも、この辺りでカース相手に大暴れしましょっか!」

『シャッシャン』

その言葉にトビーも頷く。

みりあ「えへへ、よろしくねトビーくん」

若神P「おや、早速おでましみたいだね」

『ニンゲンダ』『ニンゲンダナ』『ヤルカ?』『ヤッチマウカ?』

物陰から数体のカースが姿を現した。

マリナ「んー、今のよりは弱そうね。みりあちゃん、若神P君、準備はいい?」

みりあ「はい!」

若神P「いいよー」

マリナ「よろしい。……オリハルコン、セパレイション!」

みりあ「『チャン』!」

続く

・赤城みりあ

職業
元・普通の女の子

属性
変身ヒーロー

能力
方陣と漢字の使役

詳細説明
憤怒の街で一度死にかけた少女。若神Pに救われ、ヒーローとして転生する。
ヒーローに成り立てでまだまだ未熟なため、若神Pやマリナのアシストを受け戦う。

『帳』(チャン)…変身。
『蛮』(バン)…指先ビーム。隙が少なく使い勝手がいい。
『煩』(ボン)…着弾で爆発するエネルギー球。
『頑』(ガン)…バリア。
『飛』(ビュン)…飛行能力を得る。

関連アイドル
マリナ(親代わり)
若神P(力を授かる)


・若神P

職業
神(見習い)

属性
文字の神(見習い)

能力
治癒、光輪の操作

詳細説明
みりあを助け、力を授けた張本人。
普段は飄々としているが、腐っても未熟でも神、決める時は決める。
みりあには割とLOVEに近めの感情を抱いているっぽい。

関連アイドル
みりあ(力を耐える)

・マリナ(地上人名・沢田麻理菜)

職業(種族)
ウェンディ族

属性
装着変身系ヒーロー

能力
アビストラトス装着による高速飛行
優れた身体能力

詳細説明
先代海皇に仕えていた親衛隊の一員。
「ホンモノの空」を見るために戦闘外殻諸共海底都市を飛び出し、紆余曲折の末にみりあを預かる。
彼女が急に飛び出したため親衛隊の6席は未だ空席のままである。
海皇がヨリコになる前に飛び出したので、海龍の巫女の呪縛は受けていない。
親バカの気がある。

関連アイドル(?)
みりあ(愛娘同然)
トビー(相棒)

・トビー
マリナの相棒である戦闘外殻。外見は金属製の巨大なトビウオ。
マリナいわく、クールでキザな性格らしい。

・アビストラトス
マリナがトビーを身に纏いウェイクアップした姿。
水中及び空中の超高機動戦闘を想定しており、速度においては戦闘外殻中随一。
武装は最低限のものと一つの大技が用意されている。
・ブレード
刃渡り短めの実体剣。取り回しがいい。
・ハンドガン
威力抑え目のハンドガン。使い勝手がいい。
・スプラッシュ・ストライク
装甲の一部をサーフボード状に変形させ、それに乗って敵に突進する。

・イベント追加情報
みりあ、マリナ、若神Pの三人が付近のカースをひたすら狩り続けています。

以上です
みりあちゃんN+見てからこの戦い方がずっと頭を離れなかった

あと誤植しました>>474
×みりあ(力を耐える)

○みりあ(力を与える)

一週間過ぎちゃったけど、予約無かったので氏家むつみ投下します


世界が大きく変わった『あの日』、地球に向かって一つの飛来物が接近していた。
ゴツゴツとした石のようなその物体は無色透明でありながら光を湛えて輝いており、
一見すると神秘的な水晶といった趣を見せている。

その光る石は地球の大気圏に突入するが燃え尽きることなく、やがて地表へと落着した。
轟音を立てて山林に落下したそれは、地面を突き破り、地下に広がる洞窟へと消えていった。

『(失敗した! まさか落下地点の下が空洞になっているとは……)』

『(これじゃ力を与える人間の選別も出来ないし、そもそも見つけてもらえないじゃないか……)』

『(まあ仕方ない、とにかく最初にここに現れた人間に接触を試みるべきだな)』

地下に落下したそれはなにやら思案に暮れている。
どうやら"ただの石"ではないらしい。

『願わくば、早々に人間が現れてくれることを……』

そう呟くと、その光る石は輝きを失い、ただの石ころのように変わった。


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──時は流れて現在──

『憤怒の街』が解放されてから数日が経った。
早くも人々は日常を取り戻し、平凡な生活に明け暮れるようになっていた。

そんな中、とある街角で数体のカースとGDFの部隊が対峙していた。
これももはや日常の光景と言えるだろう。

「目標を確認しました! これより戦闘を開始します!」

「通常型のカースが三体か、今までの修羅場に比べたら、どうという事は無いな」

「一撃で、粉砕してやる」

巨大なライフルを構えた隊員が、力強い動作で銃のボルトハンドルを引く。
そして、懐から一発の銃弾を取り出し、正確な動作で装填する。

「……グーッナイ」

引鉄に指を掛けるが、その時異変が起こった。
指に力が入らないのだ。
それどころか、全身から力が抜けていく。

「な……なんだ……これは?」

仲間の隊員を見ると、さらに酷かった。
武器を放り出して道端に寝っ転がっている。

「あ……イカン……ダメだ……やる気が出ない」

結局、カースの制圧に来ていたGDFの部隊は、隊員の全員が戦意喪失し、へたり込んでしまった。
もはや本来の役目も果たせそうには見えない。


そんな様子を離れた場所から遠巻きに眺める一人の少女が居た。

「本当に……あれと戦うんですか……?」

『そうだ』

「む、無理ですよ……私、何の能力も持っていないんですよ?」

『それをサポートするために私が居る』

「そう言われても……」

少女は何か見えざる物と会話をしているようだ。
少々怯えた様子を見るに、無理難題を言われているらしい。

『これは言わばチュートリアルの様なものだ、そう気負う必要は無い』

「チュートリアルって……」

『……そうだな』

謎の声は言葉を選びながら続ける。

『後世にまで語り継がれる氏家むつみの冒険譚……その序章だと思えばいい』

「私の……冒険譚?」

『そうだ、世界に安定をもたらすために戦う少女の物語だ』

「……私に、出来るでしょうか」

『出来ると判断された結果、お前が選ばれたのだ』

「……」

氏家むつみと呼ばれた少女は、よく分からない存在からカースと戦うように言われ、二の足を踏んでいるようだ。

彼女の、全体的にゆったりとした服装と、丁寧に一つ結びにされた三つ編みからは、大人しそうな印象を受ける。
とてもカースと戦うような力を持っているとは思えないのだが……

なぜ彼女がこのような状況に立たされているのかというと、そもそもの始まりは数日前に遡る。


──数日前──

氏家むつみは、ごく普通の女子中学生だった。
小説や映画に出てくるような"冒険"に憧れているという点を覗いては……

むつみ「(何か楽しい事がおきないかな……)」

ある日を境に、世界には特殊な能力を持った人間やら、悪の怪人やらが出現するようになった。
世間では、冒険小説も真っ青な出来事が昼夜を問わず多発しているのだ。
だが、むつみの周囲では変わらず、平和な日常が続いていた。

むつみ「(私も……冒険映画のヒーローみたいになれたらな)」

何事も起こらない日々が幸せだと人は言うが、彼女からするとそれは少々退屈な物だった。
数多のヒーローが日々活躍する様をニュース番組等の報道で聞くたびに、
映画の様なド派手なアクションシーンを思い浮かべ、思いを募らせる。

むつみ「(でも、そんな能力に目覚めるなんてそうそう無いだろうし)」

むつみ「(私じゃ、ごっこ遊びが関の山だよね)」

むつみは心の中で呟くと、懐中電灯で辺りを照らしつつ足を進める。
彼女が今居る場所は、自宅の近所にある洞窟の中だった。

なぜこんな場所に居るのかというと、彼女の言葉通り"ごっこ遊び"をしているのだった。
冒険者風(さながらジョーンズ教授の様な)の服を着てこの洞窟を探検していると、
あたかも冒険小説の主人公になったかのような気分になれるのだ。


むつみ「あれ……? なんだろう……」

洞窟の中程まで進むと、何か違和感を感じた。
理由は分からないが、洞窟の奥から光が漏れている。

この洞窟には実際何度も足を運んだ事があり、内部の構造も熟知していたのだが、こんなことは初めてだった。

むつみ「これは……もしかして、冒険の予感?」

少しの不安と期待を胸に、ひんやりとした空気と静寂の中を進んでいく。


最奥部までやってくると、洞窟の天井には穴が開いており、真下には小さなクレーターが出来上がっている。
その中央部には、見たことも無い石が転がっていた。

むつみ「(これ……なんだろう……隕石?)」

天井の穴と足元の石を交互に見比べながら、むつみは考える。
近くで見てみようと思い、手を伸ばす。
すると、その石は突如眩い光を放ち、むつみの目線の高さまで浮遊した。


むつみ「光った!? ……それで、浮いた!!?」

『(やっと人間が来たと思ったら、年端もいかない少女とか……)』

『(ガチムチの成人男性が理想だったんだが……)』

『(性別が女であることは百歩譲るとして、身体的に成熟し切っていないのは困る……)』

『(果たして使い物になるかどうか……まあこの際仕方がないか)』

この謎の石は、『あの日』に地球へと落ちてきた物だった。
むつみが入り浸っていたこの洞窟は、まさしく件の石が落着した場所だったのだ。


『待っていたぞ、人の子よ』

むつみ「更に喋った!?」

むつみは、突然の状況に頭が追い付かない。
非日常を求めていたとはいえ、出来事が唐突過ぎる。

『恐れることは無い、私の話を聞くのだ』

むつみ「あ、あなたは……?」

『私は宇宙からやって来た──そうだな、クォーツとでも呼んでくれ』


光ったり浮いたり喋ったりする謎の石は「クォーツ」と名乗った。
どう見ても怪異の類だが、一応宇宙から来たものらしい。

クォーツ『私の目的は、世界に安定をもたらすこと……そのためにこの星へとやってきた』

むつみの困惑をよそに、石は話を続ける。

クォーツ『私の目的に同調し、共に戦ってくれる人間を待っていたのだ』

クォーツ『そして、お前が現れた……氏家むつみよ』

むつみ「わ、私の名前を!?」

クォーツ『(ちょちょいと記憶を覗かせてもらえば、名前はおろか他にも色々分かるのだがな)』

クォーツ『お前は選ばれたのだ……この私に……ひいては、この世界に』

むつみ「え、選ばれたって……す、すみません、ちょっとよく分からないです」

クォーツ『(ふむ、少しまくし立てすぎたか……)』

クォーツ『掻い摘んで話すとだな』

クォーツ『私と共に、カースと呼ばれている異形やら、その他の混沌をもたらす存在やらと戦ってくれ……という事だ』

クォーツ『ちなみに拒否権は無い』

むつみ「えっ……えぇーっ!?」


──回想終わって現在──

むつみ「分かりました……そこまで言われるのなら……やってみます!!」

数日前の──クォーツとの出会いを回想していたむつみは、戦う覚悟を決める。
理由はどうであれ、誰かから(人かどうかは置いておいて)これだけ目を掛けられたことなど今まで無かった。

それに、自分も憧れのヒーローのように……小説の主人公のようになれるかもしれないと考えると、気持ちが逸った。

クォーツ『よろしい、早速戦い方を教えよう』

クォーツは自らがむつみに与えた力の説明を始める。

クォーツ『私が力を与えた事により、お前は『ステージ衣装』を扱う能力を得た』

むつみ「ステージ衣装……? なんか頭の中に服装のイメージが浮かんできたんですけど、これがそうなんですか?」

目を閉じながら何かを思案するようにむつみが呟く。

クォーツ『そうだ、私の力が浸透している証拠だろう』

クォーツ『ステージ衣装とは、かつて人間の中で"勇者"と呼ばれる類の者達がその身に纏ったとされる装束を再現した物だ』

クォーツ『その装束に変身することによって、それに宿った勇者の記憶がお前の力になる』

クォーツ『今のところは、変身できるのは海賊と踊り子の二種類だけだが……まあそれは追々増えていくだろう』

説明を聞きながらも、むつみは怪訝そうな顔を崩さない。

むつみ「でも、勇者の記憶って言われても、いまいちピンと来ないというか……」

クォーツ『ふむ、習うより慣れろ……というやつだな』


クォーツ『カースの居る方を見てみろ』

クォーツはむつみに顔を上げるよう促す。

クォーツ『連中の足元に、GDFと呼ばれる組織の隊員達が見えるだろう』

むつみの視線の先には、倒れ伏して動かない隊員の姿があった。

クォーツ『彼らは死んでいるわけではない、カースの影響で一時的な無気力状態に陥って倒れているのだ』

クォーツ『だが、熱情の踊り子……イグニートダンサーの能力を以ってすれば彼らの無気力状態を解除できよう』

クォーツ『彼らを復活させれば戦力が増し、カースとの戦闘がより優位に運ぶだろう』

クォーツ『変身の仕方はわかるな? 早速やってみるんだ』

むつみ「わ、分かりました……やってみます」

むつみ「(えーっと……熱情の踊り子……赤いドレス……イメージして)」

むつみ「えいっ! 衣装チェンジ!」

むつみの掛け声とともに、その身体が光に包まれる。
一瞬の後にその光が途切れると、そこには真紅のドレスに身を包んだむつみが立っていた。

むつみ「これが……『ステージ衣装』?」

ドレスの裾や袖は波打つフリルで飾られており、その佇まいは燃え盛る炎を体現しているかのようだ。

むつみ「すごい……力が溢れてくる!」

クォーツ『イグニートダンサー……古の拝火の踊り子を源流とする舞踊の流派の装束だ』

むつみ「なんだか……身体が勝手に……ステップを踏んじゃいます!」

クォーツ『それがお前の能力だ、衣装に宿った勇者の力を己がものとする……どうやら上手くいったようだな』

むつみ「これなら……憧れのヒーローみたいに、なれるかもしれない!」

クォーツ『それでは、始めようか……他の誰でもない、お前の物語を』

むつみ「はい!」

むつみは揚々とカースの居場所へと向かうのだった。


GDF隊員を無力化したカースは、自分達の方へと向かってくる一人の少女に気が付いた。
普通の人間であれば、気力を削がれ立ち上がることも出来なくなるはずの距離にまで、難なく接近してくる。
カースはその様子を見て、近寄ってきた少女──むつみを厄介な敵だと判断する。


むつみ「(こうして近くで見ると、やっぱりちょっと怖い……けど!)」

目深に被っていたコルドベスを左手にとり小脇に抱えるように持つ。

むつみ「今の私なら……カースにだって負けない!」

その中に右手を突っ込み、手品めいた大仰な動作で引き抜くと、その手には白銀に輝くレイピアが握られていた。

むつみ「さあ! 行きますよ!」

クォーツ『(ほう、存外ノリノリじゃないか)』

むつみはコルドベスを放り投げると、カースに向かって駆け出す。

敵の接近を許してしまったカースは、慌てて──その割には緩慢な動作で攻撃を加える。
むつみはそれを、ターンを決めながら難なく避けつつ、手にしたレイピアで伸びてきていた触手を斬り落とす。
一旦カースから距離を取ると、スカートの裾を摘み上げ、タンタンッとかかとを鳴らす。

カースはそれを挑発と受け取ったのか、三体が一斉に攻撃を仕掛けてきた。
しかし、むつみは意に介した様子も無く、再びステップを刻み始める。

舞うようにカースの攻撃を避け、切り結び、小休止とでもいうように適度に手拍子を添える。
一連の動作は流れるようで、それはまさしく舞踊そのものだった。



デンデデッデデレデンデデッデデレデンデデッデデレデンデデッデデレ

「!!?」

「な、なんだ!? あの血沸き肉躍る情熱的な踊りは!」

「それに、何処からともなくフラメンコギターの音色が聴こえてくるかのような!」

むつみが舞う様子を見ていたGDFの隊員達が、俄かに色めき立つ。
彼らの脳内には、かき鳴らされるギターの音色と、熱情をぶちまけたスキャットが響いていた。

「お前達! 寝こけている場合じゃないぜ!」

「おう! 俄然やる気が湧いてきた!! カース共をぶっ潰してやろう!!」

隊員達は立ち上がり武器を手に取ると、カースに向かって突撃を始めた。


クォーツ『よし、彼らの虚脱状態も解除されたらしい、ここは任せて大丈夫だ』

隊員達が復活したのを見て、クォーツが口を開いた。

むつみ「え? 一緒に戦わないんですか?」

むつみの疑問に答えるように、クォーツは説明を続ける。

クォーツ『ここに出現したカースは怠惰の性質を持つものだ』

クォーツ『本来怠惰のカースは自然発生的に出現することは稀なのだ』

クォーツ『それが三体も同時に現れたという事は、どこかにそれらを操る頭が居ると考えられる』

クォーツ『それを探して叩くのだ』

むつみ「な、なるほど! 分かりました!」

今のむつみにはカースの性質がどうのなどという話はよく分からなかったが、
クォーツの分析が理にかなったものなのだろうという事は理解できた。

むつみ「GDFの皆さん! 後は任せました!!」

そう言うとむつみは、この騒動の首魁を見つけるために駆け出した。


カースの出現した現場から負のエネルギーの残滓を追いかけてきたところ、町はずれの廃墟の中へと続いていた。
むつみは敵の襲撃に警戒しつつ、意を決して中へと入る。


『クマーッ!』


廃墟の中には、一体の熊……の形をしたカースが居た。

クォーツ『ふむ、最近確認されるようになったという獣型のカースか……』

クォーツ『むつみよ、気を付けろ、こいつは手強いぞ』

むつみ「雰囲気からして強そうです……」

クォーツ『そうだな、ここは衣装を変えるべきだろう』

若干気勢を殺がれた様子のむつみを見て、クォーツが助言する。

クォーツ『偉大なる海賊の装束……エピックパイレーツは、一対一での戦闘に特化している』

クォーツ『イグニートダンサーに比べて、より攻撃的な衣装だ』

むつみ「とりあえず、やってみます!」

海賊の姿をイメージして、念じる。
するとまたもや光に包まれ、次に見えたその姿は先のドレス姿とは大きく異なっていた。

頭には羽根つきのトライコーン、白いシャツの上に赤いオーバーコートを羽織り、
下はホットパンツにサイハイブーツという、太ももが眩しい出で立ちだ。

むつみ「これ……本当に偉大な海賊が着ていたんですか?」

クォーツ『実際の人物は男だったから、それをお前に合わせて再現してあるのだ』

むつみ「そ、そうなんですか……カッコいいからいいんですけどね!」

どうやら、衣装自体はむつみにとって満更でもないらしい。

クォーツ『その衣装に込められた海賊の剣の技術は、あの熊型カースと戦う上で役に立つことだろう』

むつみ「なんというか、こう……剣を持つ手の感覚が、さっきと違うような気がします!」

むつみが勇んでいる間に、熊型カースがこちらに向かってくる。

クォーツ『来たぞ、上手くやれよ』

むつみ「頑張ります!」


熊型カースは後ろ足で立ち上がると、前足二本で交互に攻撃してくる。
その剛腕から繰り出される攻撃は、速度も威力も凄まじいものだった。

むつみ「っ……! やっぱり……強い!」

手にしたレイピアでなんとか弾き返すものの、防戦一方だ。
攻撃を受けつつ下がっていくうちに、背後の壁に追いつめられてしまう。

むつみ「(まずい……何か、何か無いの?)」

むつみは藁にも縋る思いでコートのポケットをまさぐる。
すると、一本の短剣が見つかった。

むつみ「これは……攻撃を受けるための……よし!」

むつみが手にしたそれは、一般的にマインゴーシュと呼ばれる受け太刀に特化した短剣だった。


『クマーッ!!』

熊型はむつみが逃げられないと知ると、とどめを刺そうと両腕を振り上げ、そのまま思い切り振りおろす。

むつみ「(来たっ!!)」

むつみはそれを、両の手に持った剣を交差させるようにして受け止める。
レイピア一本で受けていたら、力負けしていただろう、しかし、超重量の攻撃をなんとか耐えぬく。

むつみ「(あとは、がら空きの胴体を狙う!)」

左手に持った短剣だけで熊型の両腕を抑え(本来なら剣を受けるためのものであるが、この際そうも言ってられない)、
右手のレイピアで上半身を貫く。
そしてそのまま下半身に向かって切り裂いた。

『ク……クマー……ッ!』

剣の軌跡の途中に核があったらしく、熊型は断末魔の咆哮を上げると動かなくなり、やがて泥になって消えた。


むつみ「や……やった……倒せたぁ……」

むつみは思わずその場にへたり込む。

クォーツ『ふむ、初陣にしては、上出来じゃあないか』

むつみ「こ……怖かったです……けど」

むつみ「私にも、戦う事が出来たんですね」

むつみは感慨深そうに呟く。

クォーツ『そういう事だ、衣装の力があったとはいえ、コイツを倒したのは間違いなくお前の力だ』

むつみ「そっか……」

むつみ「私、もっと上手く出来るようになりたいって思います」

クォーツ『うむ、今後に期待しよう』


ヒーローに憧れた少女は、ひょんなことから自らも同じ舞台に立つことになった。
まだまだ並のヒーローにも遠く及ばないちっぽけな存在だが、その目には希望が満ちている。
彼女の物語にはこれから先、いったいどのような冒険が待っているのだろうか……


氏家むつみ(13)

職業:中学生
属性:冒険大好きっ子
能力:特殊な力を持った装束を身に纏う事で、何らかの能力を得る

ある日、近所の洞窟を探検中に、宇宙から飛来した水晶のような物体から力を授かる。
変身していない時はものすごく大人しい、が、ひとたび変身するとノリノリで戦う。
ヒーローとしての実力はまだまだひよっこ、今後に期待。


クォーツ

宇宙からやって来た、意思を持った謎の物体。見た目は水晶のような感じ。
割と饒舌で、地球の事に関して事情通だったりする。そこはかとなく怪しい。
普段はペンダントっぽい形でむつみが身に着けている。



※ステージ衣装

太古の昔から悠久の未来まで、時・場所を選ばずに存在する"勇者"達が身に纏っている戦装束。
その装束には勇者たちの力が宿っており、着用する者にさまざまな能力を与える。

むつみの持つ衣装はクォーツが生成したレプリカだが、
実物のステージ衣装はそれを欲する者達の間で仁義なき血みどろの戦いが度々起こる。
人々はその争いを畏怖と嫌悪を込めて『頼無闘争』と呼ぶらしい。


※イグニートダンサー

原初の炎を崇める踊り子に端を発する、舞踊格闘術を伝える一流派の装束。
炎を操り己が武器とする源流の業は失われてしまったが、燃え盛る炎を体現したかのような情熱的な舞は健在。
始原の律動を四肢に宿したその舞は見る者を一種のトランス状態にさせ、弱い精神操作を解除する。


※エピックパイレーツ

かつて世界の海にその名を轟かせた伝説の海賊が着ていたとされる装束。
その装束を着れば、数多の海軍水兵や敵対する海賊を打ち破ってきた剣技がその身に宿る。
さらに、多くの海の魔物を退治してきた記憶が残っているため、水棲生物に対して有利に戦えるらしい。


※ミステリーハンター

むつみが"探検"に出かける際に着替えていた、自前の衣装。
いわゆるすっぴん。
今のところは何の効果も無いが……

投下終了です
洋子さんのバーニングダンサーの設定ちょっとお借りしました

あと、なんでノベルスパイレーツのむっちゃん、レイピア持ってるんだろう
海賊っていったらカットラスじゃないのかなーと

乙です
未来の勇者もOKとは、これは将来が楽しみな能力。

肝試しで加蓮とカースドヴァンパイアお借りして投下

姉を探して三千里?いえいえ、そこまで歩いてません。

そもそも…今出会ったのは全く違う存在だった。

『グァ…ゴァ…!』

「…誰?」

返事はなく、黒い泥が溢れ、殴るように攻撃を仕掛けてくる。

慌ててしゃがんで回避するが、素早く接近してきた。

『グオオオオ…』

「…」

泥…一瞬カースドヒューマンかと思ったが、その割には人格と言えそうな物がない。

呻くように出すその声、それを聞いてナニカの目の色が変わった。

「…ああ、そっか。」

黒い泥を操り、苦しむ…そんな目の前の彼が他人に思えない。

だって、自分の…奈緒の過去にそれと似たことがあったから。

適性の無い核を埋め込まれ、もがき苦しむその姿。

幸か不幸か、発狂後の記憶は曖昧だけど、核を埋め込まれ、苦しかった事は覚えている。

そして何より…彼も被害者ならば、自分の探す加蓮も危ないかもしれないのだ。

「…誰にやられたのかな?ちょっと教えて?」

『ガアアアアアアアアアア!!!』

質問には答えず、吠えるだけ。

「…どうしよう、お話しできない…あ、そうだ、倒せばいいんだ。」

『グアァ!!』

勝手に納得しているナニカに、無数の蝙蝠型カースが襲い掛かる。

すぐさま距離を取って黒い泥で捕獲し捕食するが、数が多すぎる。

「あ、バカ、ばか!血はダメェ!」

血を吸った蝙蝠をすぐに捕まえて捕食。血を吸血し返すがそれでも間に合わない。

それに弱体化しているからか…思ったよりも倒せていない。

やっとの思いで蝙蝠を全滅させるも、次は吸血鬼が接近してきた。

黒い泥で殴ってくるのを同じく黒い泥で殴って防ごうとするも力負けしてふっとばされる。

壁に叩き付けられて…それでもナニカは静かに微笑みを浮かべた。

―ぞっとするような捕食者の微笑みを

「乱暴者はキライ…ちょっと大人しくして?」

痛みには慣れている為、すぐに復帰する。

『ガァ…!グオオオオオオオオオオオオオ!!』

元々奈緒に比べて非力な泥操作をするナニカなのに、力が弱まっているのだ。力比べで勝てるとは思えない。

…でもナニカは逃げなかった。

「…」

『ガアアアアアアアアア!!』

やはり問いには答えず、再び泥で殴り掛かってくる。

ナニカは泥をアバクーゾの毛に変えて受け止め、そのまま肉体を泥のように変化させて吸血鬼の泥の隙間を駆けた。

吸血鬼が蝙蝠型カースを放ち妨害するがもう遅い。

龍の尾の子虎の姿になり、咆哮を上げる。4つの真っ赤な瞳がぎらぎらと光った。

「にゃん!キシャアアアア!」

『~~、~~~!』

顔面を切り裂き、ヒットアンドアウェイ。

尾の竜が詠唱し、大気の魔力が反応する。

上空から暴風が叩き付けるように襲い掛かったのだ。

しかし魔力の素質がないからか、起こした風は蝙蝠を消し相手を地面に抑えつけただけ。

…それで十分だったのだが。

両脇の壁に黒い影のようなものが浮かび上がっている事に気付いても手遅れだ。

真っ赤なサンゴが飛び出し、挟んで捕える。そのまま人の姿に戻り、すぐに接近した。

まともに動ける姿勢ではない。だから安心して近寄ったのが油断となった。

『グガアアアアア!!』

「え?」

関節があり得ない動きを起こし、拘束していたサンゴを破壊したのだ。

そのまま接近していたナニカの腹を爪で切り裂く。

そして髪を掴んで地面に叩き付けた。

『グゲ、クケケ…』

切り裂かれどこまでも真っ黒な腹に蹴りを何度も入れる。

これで勝った。そう確信した。

「…あは」

切り裂かれた腹に牙が生み出され、口のようになって思い切り噛みながら起き上る。

『!?』

足をひっこめていなかったら噛み砕かれていただろう。

「残念でしたーあたしの体はそこももどこかで、どこかもそこなんだ!」

訳の分からない事を言いながら手を振るとその手が蝶に変わる。

その手に気を取られた次の瞬間、ナニカの背から飛び出したいくつもの巨大な蟹の鋏のようなモノで壁に縫い付けられていた。

「キシシ、ばーか、ばーか!キシャシャ!」

さっきまで真面目に憎しげに戦っていたのに楽しそうに馬鹿にする。

それが子供だからか、気狂い少女だからかは分からない。取りあえずボキャブラリーが乏しい事は分かるが。

そしていつの間にかナニカの服装が、ノースリーブのワンピースから時期外れなモコモコな物に変わっていた。

仮装用の羊の角と合わさって、羊のキグルミのように見える。

もちろんただの衣装チェンジではない。

アバクーゾの毛を服のように体表に纏うことで、本音薬に耐性を作り、その本音薬で自白させようとしているのだ。

「聞きたい事言ってくれるまで…逃がさない…」

口が裂けるほどの微笑みを浮かべながら、手に作った口から薬を放った。

精神操作すら破る強烈な本音薬は彼の情報を確かに吐かせた。

浮気の回数に始まり、好きな体位だとか色欲まみれではあったが、ナニカは彼が変態のクズと言うこと以外理解できてなかった。

幼いからか、究極生命体故に『SEX 必要なし』だからか…

それはともかく、ぶっかけた液体まみれでぐしゃぐしゃになっても欲しい情報を吐かないので、さすがにイライラしてきた。

『俺をこんな目に合わせたのはあの女だ!!』

眉間にしわが寄っていたが、やっと出てきた情報にピクリと反応する。

『あの悪魔が、俺に核を埋め込んだ!』

「悪魔?」

『…』

「…もっと吐けー」

それ以降、何度本音薬をぶっかけても反応がない。つまり、洗いざらい話したという事なのだろう。

「終わったんだ、じゃあおやすみなさーい」

モコモコで覆われた触手で真上に持ってくると、顔がクリオネのように裂け、そこから6本の触手が伸び、捕食しようとする。

落下していたカースドヴァンパイアだったが、急に再び動き出し、泥で壁にしがみつき、蝙蝠の翼を出して飛んで逃げてしまった。

『グオオオオオオオ!!』

「あ…」

逃げたと気付いてももう遅い。顔を元に戻し、飛んで行ってしまった方向をしばらくポカーンと見つめていた。

ハッと我に返って先ほどの情報を思い出す。

「…悪魔かぁ…それでもやってる事、ひどいよねぇ。あの人だって…乱暴者で、変態じゃなければお兄ちゃんにしても良かったのに。」

取りあえず、加蓮を探さなければ…その悪魔に誘拐されてたら大変だ。

核を埋め込むなんて…そう思うだけで怒りが湧き上がってくる。

体が黒く染まり、さらに真っ赤な瞳に合わせるように真っ赤に染まる。

それはまるで炎にも見えた。

本人もそれに気づくと慌てて元の色に戻る。ついでに服装も戻す。さすがにもふもふは暑い。

「?」

体の違和感に気付く。しこりのような何かがあるような…

手を開いて意識をそのしこりに集中する。

遺伝子や生体データとは違う…それを取り出すように。

両手に泥から浮き上がるように現れたのは、二つの歪んだ球体。

一つ目は真っ白。向こう側が見えない程に濁った白い核。

二つ目は真っ黒。目を閉じてしまったように暗い黒い核。

それを認識したとたんに、体中に熱いような、冷たいような奇妙な感覚が襲ってきた。

それはナニカに力を与える。無意識だった力を手に取ったように。

「…白ちゃん、黒ちゃん」

二つの核をそれぞれ泥で包む。するとその核の影響か、一つは白く染まり、もう一つは更なる闇の色に染まる。

赤い瞳の白兎と黒兎のぬいぐるみになると、腕にしがみついた。

「…キシシ」

その核の属性は、七つの大罪の番外…八つ目の罪。

―『正義』それは思い込みの力

―『狂信』それは信じさせる力

イレギュラーな生命体が手に入れたのは、イレギュラーな祝福のような呪い。

それでもそのイレギュラーは笑う。自分が何かに認められたような気がして。

その後もナニカは加蓮を探し続けた。

歩いて歩いて…やっと探し人を見つけた。

「誰かっ!助けてぇ!」

『待たれよ…』『来いよぉ…』

「!?」

見つけた愛しの姉は、小さくなっていて、しかも得体のしれないモノに追いかけられていた。

でもそれに突っ込む前に、加蓮を助けようという使命感が燃える。

「…いくよ?初めてだから少しだけ不安だけど…っ!」

加蓮を優しく抱きしめるように回収。すると影がナニカに触手を伸ばしてきた。

なんだかよく分からないけど、加蓮が怯えてるなら敵だ。まずは逃げなくては。

触手を蹴り飛ばすと同時に黒兎が目を輝かせた。

―認識操作・『認識不可』

―接触時間不足 操作時間・数秒

『ありゃ…?』

動きが止まり、目の前にいるのにも関われず探すようにきょろきょろ探し始める。

その隙に加蓮を抱いたまま走り出した。

「あ、ありがとう…!」

訳の分からない様子の加蓮がナニカを見ると、夢の中での記憶が一気に流れ込んできた。

「…まさか…夢の中で会った…」

それを言い終える前に、黒兎が目を輝かせる。

「…お姉ちゃん、『夢の中で会った』はおかしいよ?」

肩に加蓮を乗せながら、力を使う。

―認識操作

「だってこれ夢だもん。」

―『これは夢』

「お姉ちゃんが小さくてかわいいのも、変なモノに追いかけられているのも、夢だからなんだよ?」

「あ…!そっか、そうなんだ…!」

本当に今の状況を夢と認識し、ほっとした加蓮。

それも気にせず続いて白兎が目を輝かせる。

―記憶操作

現実で思い出してしまった究極生命体に関する記憶を消し…そして次の目覚めの時に日付等に違和感を抱かないように仕掛ける。

「でも夢ならもっといい夢が良かったなぁ…」

「加蓮お姉ちゃん、きっと疲れてるんだよ。」

「そうなのかな…そうだ、君の名前いつも聞こうとして聞けなかったんだ。…教えてもらえるかな?」

記憶を少しいじって罪悪感を抱いたものの、肩に乗った加蓮に癒される。そのまま問いに答えようとして…

「あたしの名前はかみやな…」

一瞬出かけた名前を全力で飲み込む。それだけは言う訳にはいかない。

「かみやな?」

「か、かみやなにか!あたし、上簗仁加っていうの!」

全力で誤魔化す。ちょっと違和感が出るほどに。

「そっか、仁加ちゃんって言うんだ!ちゃんと名前聞けてよかった!」

しかし、加蓮は全く気にしていなかった。というか違和感に気付いてすらいない。

『…みーつけた』『追いついたぞ…』

声に振り返ると、影。もう見つかってしまったらしい。

「あ、アレってなんなの…?」

「わかんない…」

『貴様も同じ…』『こっちにおいでー』

「…お姉ちゃん、アレ怖い…!」

先程は無我夢中だったから蹴り飛ばせたが、しっかり見ればちゃんと恐怖が襲ってきた。

死の恐怖。苦しみの果てに意識が途切れる瞬間。アレはそういったモノの塊のように思えた。

「取りあえず逃げて!」

「わかった!」

肩に乗せていた加蓮を壊さないように両手で抱きしめるように抱えると、全力疾走した。腕に捕まっている兎のぬいぐるみが揺れる。

影もそれを追いかける。鬼ごっこはまだ終わらない。

認識操作・記憶操作 (※精神操作は未覚醒)
ナニカが無意識に使用していた力。
触れた相手の認識や記憶を操作したり、すり替えることができる。スイッチ式に発動させることも可能。
あくまで一部を変えるだけで、その相手の価値観・過去を一気に覆すような洗脳じみた事はできない。そんな事をしてもすぐに戻る。
触れた時間が短かったり、触れた面積が小さいと中途半端だったり、僅かな時間だけになる。
生まれた時から認識されないようになっていた記憶から生まれたナニカが、その存在としての呪いをコントロールし始めたという事でもある。
…しかし、どう足掻いても『自分は奈緒である』と認識させることは不可能。実行しようとしても激しい頭痛が襲う。理由は不明。
加蓮がナニカを奈緒に似ていると思わないのもその影響の模様。

白・黒の核
ナニカの中で生まれた七つの大罪の八つ目にあたるとされる『正義』『狂信』を意味する核。つまり番外。
兎のぬいぐるみ形態で持ち歩かれ、戦闘時や中で眠っているは体内の空間に収納されている。
ある程度の意思を持っているようで、ナニカの力の補助を行うことができる。
カースが生まれるわけではないが、泥を纏って変身する等、何らかの別の力を持っているようだ。

イベント情報
・ナニカが加蓮と合流。影から逃走中。何あれ怖い状態
・加蓮が今日の出来事を全て夢だと認識し始めました
・ナニカは加蓮の前では目に見える能力の使用はしない模様
・偽名として上梁仁加(かみやな にか)を名乗ってます

以上です
白と黒の核が出せて本格的にナニカが化け物に…元から怪物だったよ
ソロだと人目を気にせずバッカルコーンで捕食するような子だよ!

あ、表記ブレが…上簗です

乙乙
むつみちゃんのエピックパイレーツで戦闘外殻がヤバイ
そしてアバクーゾの有効活用、ナニカちゃん賢い

肝試し時間軸のフルメタル・トレイターズ、略称FT投下します。
仮面の少女、周子、紗枝、菲菲、メアリーをお借りしています。


妖怪達がお祭り騒ぎを続ける宴会場。

小高い丘の上で、一人の少女が俯き、両腕を広げながら棒立ちしている。

その表情は仮面により、うかがい知る事は出来ない。

その様子は、まるで十字架に磔にされた生贄のようにも見えた。

やがて少女の前に、鮫を思わせる鋭いヒレが地中から姿を現した。

少女のまわりに水は一切無い。しかし、そのヒレは確かにそこにある。

地面に、一切の穴を開ける事も無く。

ヒレは少女の周囲をぐるぐると回る。まるで少女を品定めするかのように。

やがて、ヒレがちゃぷん、と地面に沈む。程なくして地面から激しい波飛沫が起こり、ヒレの持ち主が姿を現した。

鮫を模した鎧を着込んだ少女が、右腕の刃を仮面の少女目掛けて振り下ろす。

――――ガギン。

鎧の少女が振り下ろした刃は、突如飛んできた白銀の剣に阻まれた。

鎧の少女は距離を取り、再び地面へ潜る。

鎧の少女が潜った隙に、白銀の剣は仮面の少女の周囲を細かく飛び回る。

やがて十字架の拘束から解かれたかのように、仮面の少女の体が動き出す。

仮面の少女は白銀の剣へ仮面越しの口付けを送る。更に仮面の少女の足元に、もう一本白い剣が飛んできた。

――――ぽちゃん。

仮面の少女の足元に、微かな波紋が広がった。

その中心から鎧の少女が右腕だけを勢いよく突き出し、仮面の少女の足元を狙う。

しかし仮面の少女は慌てる事無く、白い剣に飛び乗ってそれを回避する。

空を切った鎧の少女の右腕を、白銀の剣が目ざとく狙い、突き刺す。

しかし、突き刺さるより前に鎧の少女は地中へと身を潜めた。

どこからか黒い剣も飛来し、合計三本の剣が、仮面の少女を護るように周囲を旋回する。

と、突然白い剣が地面へ向かって飛んでいく。

――――ギィイン。

白い剣の着地点から鎧の少女が姿を現し、鈍い音と共に白い剣がはじき返される。

鎧の少女は地面を踏みしめ、獣のような動きで仮面の少女に襲い掛かる。

それを白銀の剣と黒い剣が二本がかりで立ち向かい、戦況は一時膠着する。

やがてはじき返された白い剣が加わると、戦況は一気に動き出した。

白い剣と黒い剣が二本がかりで鎧の少女の刃を抑え込む。

攻撃手段を失くした鎧の少女の胸目掛けて、白銀の剣が勢いをつけて飛び込む。

――――ズン。

白銀の剣が鎧の少女の胸に突き刺さる。

鎧の少女の体が、力なく地面へずぶずぶと沈んでいく。

白銀の剣が鎧の少女の胸から飛び立つと、鎧の少女の体は完全に地面の下へと沈んだ。

仮面の少女はドレスの裾を摘んで一礼し、周囲を旋回する剣達に、再び仮面越しの口付けを送った。

そして剣舞の様子を固唾を呑んで見守っていたギャラリーに向き直ると、剣達と共に改めて一礼した。

「ワァァァァァァァァァ……」

――――――――――――
――――――――
――――

――――
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――――――――――――

仮面の少女「お疲れ様でしたぁ、むふふ。飲み物どうぞぉ」

先ほどの仮面の少女と、刃を交わした鎧の少女――カイとホージローは、一つのテーブルに着いていた。

カイ「あ、ありがとー。ねえ、あれで大丈夫だったかな?」

カイは手渡されたジュースを一口飲むと、仮面の少女に問いかける。

仮面の少女「当然じゃないですか。地面の下からでも聞こえましたよねぇ、あの大歓声」

カイ「んー、まあね。そういや、ああやって歓声浴びる経験ってあんまり無かったなあ……」

仮面の少女「気持ち良かったでしょぉ、むふ♪」

カイは口では答えず、すこしはにかみながら頷いた。

『キンキン! キッキキン!』

突然、ホージローが仮面の少女に怒鳴り散らし始めた。

仮面の少女「あら? どうかしましたかぁ?」

カイ「あー……さっき出来たキズ、まだ怒ってるみたい」

カイがホージローをひょいと抱き上げる。ホージローの腹には少し深い傷跡がついていた。

先ほど、カイの胸に突き刺さった白銀の剣は、ホージローのお陰でカイまで届かずに済んだ。

その代償が、こんな形で残っていたのだ。

仮面の少女「あら、ごめんなさい。……所で、カイさんはチームで行動してらっしゃるんですよねぇ?」

カイ「うん、新進気鋭のヒーローチーム、フルメタル・トレイターズ! 長いなら略してFTでいいよ」

カイが自慢げにチームを宣伝する。

仮面の少女「他のメンバーさんは?」

カイ「……あ、あー……」

仮面の少女に問いかけられたカイは、バツが悪そうに目を逸らして頬を掻いた。

カイ「えーっと、ね……」

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遡ること数十分前。

フルメタル。トレイターズの面々は霧の深い街中……活動拠点となっている公園にいた。

カイ「すごい深いね、この霧……」

亜季「あー……そうでありますなぁ……」

カイの言葉に、亜季が力なく答える。

星花「亜季さん……顔色が優れませんわ。どこか悪いのですか?」

見れば、亜季の顔は真っ青になっている。

『キキン?』

カイ「あたしと星花は平気で亜季がダウン……もしかしてこの霧、機械に悪影響とか?」

星花「そういえば……」

星花が後ろを振り向くと、マイシスターが地上に降り、ヴンヴンと力なく唸っていた。

星花「マイシスターさんも先ほどからあの調子ですわね……ストラディバリ、貴方は平気?」

星花は隣に立つストラディバリに問いかける。

ストラディバリ『……………………』

ストラディバリは沈黙し、星花の問いに答えない。

星花「…………ストラディバリ?」

ストラディバリ『……………………ウーッス』

カイ「」

『』

亜季「」

星花「どうしましたのストラディバリ!? 言葉遣いが変ですわ!」

ストラディバリの予想外すぎる発言に、星花は思わず取り乱す。

カイ「……ホージローは平気?」

『キキン』

カイ「そかー、ちょっとだるいか」

カイは屈んでホージローの頭を軽く撫でてやる。

亜季「ううう……憤怒の街でもここまでひどくなかったであります……」

ヴヴン・・・

星花「これは……まともに動けそうにはありませんわね……」

ストラディバリ『ウーッス』

カイ「うーん……ちょっと、あそこのお祭りで食べ物とか分けてもらえないか見てくるね」

カイが指差した先では、色とりどりの提灯に灯りが点り、様々な楽器の音色が響いている。

亜季「あー……頼むであります。何か口に入れれば多少はマシやも……」

亜季は星花の膝に身を預け、非常に気だるそうに横たわっている。

星花「わたくしは、ここで亜季さんを看病しておきますわ。ストラディバリはマイシスターさんを」

ストラディバリ『ウーッス』

ストラディバリは気の抜けた返事と共に、マイシスターの背(?)をさすり始めた。

カイ「じゃあ、行って来るね。ホージロー、行くよ」

『キッキキン』

カイとホージローは、妖怪達のお祭り騒ぎに向かって歩き出した。

――――――――――――
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――――

――――
――――――――
――――――――――――

カイ「……で、屋台見て回ってたら、ニコちゃんに話しかけられて剣舞に飛び入り参加ってわけ」

仮面の少女「あらら。……ん? ニコちゃん?」

カイ「君のこと。ニコっとした仮面つけてるから、ニコちゃん。……あ、嫌だった?」

仮面の少女「いえいえぇ、素敵なあだ名をありがとうございます、むふふ」

仮面の少女は、微笑の仮面の下にもう一つ微笑を作った。しかし、それはカイには見えない。

仮面の少女「それでしたら、ニコがご飯おごっちゃいますよ」

カイ「えっ、いいの!?」

仮面の少女「もちろんですよぉ、相応の出演料ということで、ね」

カイ「ありがとうニコちゃん! 恩に着るよ!」

仮面の少女「どういたしましてぇ」

カイと仮面の少女は仲良く手を取り、屋台を見て回った。



仮面の少女「カイさん、好物とかありますかぁ?」

ホラ、サエチャンアーン

カイ「んー、魚以外なら基本的に何でも」

モウ、ハズカシワァ・・・

仮面の少女「お魚、ダメなんですか?」

チャーハンアルヨ!

カイ「んー、魚はなんか共食いしてる感がすごくてさー……」

チョット!コノチャーハンウゴイテルワ!

仮面の少女「あ、ああ……」

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――――

――――
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――――――――――――

カイ「ありがとねニコちゃん、こんなにたくさんおごってくれて」

大量のビニール袋を提げて、カイはにっと笑う。

仮面の少女「いえいえ、お友達にもどうぞよろしく。ああ、そうそう、よければお土産を……」

そう言って仮面の少女は、懐から厳かな装飾が施された三つの封筒を取り出した。

カイ「これ何?」

仮面の少女「招待状です。日程はまた追ってお知らせしますので、その時は是非お友達とお越しくださいねぇ」

カイ「お越しくださいって……どこに?」

仮面の少女「その時になれば、否が応でも分かりますよぉ……むふふ」

カイ「ふうん……ま、いいや。ありがとニコちゃん。また会おうね!」

『キンキキキキン』

仮面の少女「ええ、また……ですねぇ」

カイは招待状を受け取ると仮面の少女と握手を交わし、ホージローと共に祭り会場を去った。



仮面の少女「…………むふふ」

仮面の少女「少しずつ……少しずつですけど…………『役者』は揃いつつありますねぇ…………」

仮面の少女「むふふふふ…………もっと沢山ご招待したいですねぇ、王子様…………?」

仮面の少女は、傍らに浮く白銀の剣の腹を優しく撫でると、くるりと踵を返した。

次なる剣舞の相手を求めて、次なる招待者を求めて、次なる『役者』を求めて…………。

続く

・イベント追加情報
亜季とマイシスターが完全にダウンしています。まともな戦闘は不可能です。

ストラディバリは少し動きが鈍い程度で問題ありません。ただ言葉遣いが変です。

日n……仮面の少女は剣舞の相手などに『招待状』を渡しているようです。

以上です
一応剣舞パートには「海の怪物への生贄にされた姫と、それを救う騎士団」というイメージ設定があります
上手く書けませんでしたけどね!
(仮面の少女の台詞書いてるときにまゆや早耶がちらついたのは内緒だぞ!)

乙ー

ストラディバリについ吹いてしまったwwww
そして同じ公園内にフェイフェイもいるんダヨー
公園内の戦力がヤバイ(確信

乙乙ー

ストラディバリがいきなりしゃべる……無敵将軍かな?
公園にいるのが最低でも

・初代『色欲』の悪魔
・初代『強欲』の悪魔
・今代『暴食』の悪魔
・白面金毛九尾の狐
・歴代最強の退魔師
・封印されし邪神憑き
・滅びた龍族の元貴族
・ワイン飲んでる人

これ。たぶん世界を敵に回しても(比喩抜きで)勝てるメンツ
どうすんのこれ

一見、ワイン飲んでる人って書いてあると倒せそうに見えるけど
実際は、元・安寧たる世界の守人という宇宙ヤバイな人という罠……

乙です

どス言変
公園内の戦力が半端ないです

イルミナティの唯ちゃん投下します

 ある薄暗い部屋の中、小さな明りのほかには様々なモニターが光源となっている。
 その中で一人の男がモニターに向かい、手元のキーボードを忙しそうに打鍵する。

「やあやあ、おつかれー!」

 それは男の背後に音もなく現れた。
 椅子に座る男の背中にさほど重くない何かが寄りかかる。

「今日は随分と急ですね。バアル・ゼブル」

 男は手を止めて、視線を後ろへ持っていく。

「その呼び方は、必要以外の時にはできれば言わないでほしいなー。アタシの名前はゆいちゃんでーす♪」

 口にロリポップを抱えたまま少女、大槻唯は腕を男に絡めた。

唯「で、首尾はどうかな?イルミナPちゃん♪」

 イルミナPと呼ばれた男は視線をモニターに戻して手を動かしながら喋る。

イルミナP「例の機械、えーとなんでしたっけ?」


唯「ああ、『境界ぶっ壊しくん初号機』のことだね」

イルミナP「魔術を組み込んだ制御機械、でしたね。術式は私が組んだので完璧ですが、やはり動力源の問題が一番ですね。あとは出力も安定しているとはいいがたい。まぁぶっちゃけ問題だらけですね」

唯「あちゃー、まじっすか。先は遠そうだじぇ」

 唯はそう言って、口を少し膨らませた。
 イルミナPはまとわりついている唯のことを気にせず手を動かし続ける。

唯「イルミナPー、飴いる?」

 唯はポケットからロリポップを一つ取り出してイルミナPの視線の前をちらつかせた。

イルミナP「じゃあ一つもらいます」

 そう言って目の前にちらつく飴を指でつまんで受け取り、包み紙を開く。
 その飴は紫と藍色がねじれるような模様をしていた。

イルミナP「これは……さすが私は食べられませんよ。普通のはないんですか?」

 そう言ってイルミナPは飴を包み紙で包みなおして、唯に返した。

唯「あら、これは確かに間違えた。しっけいしっけい♪」

 唯はその飴を受け取って、代わりのロリポップを懐から出した。
 それは先ほどのような無地の包み紙ではなく、有名メーカーのロゴがプリントされている。


イルミナP「まったく……あ、この味はあまり好きじゃないんですけど……」

唯「あん?なんだー、ゆいの飴を受け取らないっていうのかー?」

 唯は不満そうな顔をしながらイルミナPの頬をぷにぷにと突っつく。
 イルミナPはもらった飴を開いて口にくわえた後に、頬を突く唯の手を振り払った。

イルミナP「要りますよ。唯のくれるものならありがたく。さぁ、邪魔になりますからどっかいってください」

 イルミナPはまとわりついていた唯を振り落すように座っている回転椅子を左右に半回転を繰り返す。
 それに振り落されないように唯はさらにしっかりと抱き着いてくる。

イルミナP「ちょ、子供みたいなことしないでください!」

唯「だったらその無駄な抵抗もやめるんだじぇ!」

イルミナP「ええい、この……って首はまずい首はまずい!」

 唯は振り落されまいと首にしがみついてきた。
 そのままイルミナPの首は締まり、頭に酸素がいかなくなったためか椅子の回転は止まる。

唯「イエーイ!ゆいの勝ちー!あ」

 唯は勝利宣言をしたが、二人分の体重が不安定にかかった椅子はそのまま重力に引かれるように倒れる。
 そして二人は椅子から転がり落ちて、イルミナPはデスクの角に頭を打ち付けた。

イルミナP「ぐげえ!」

 イルミナPはその瞬間カエルの潰れるような声を出し、頭を押さえて悶絶する。
 それでも口から飴を落とさなかったのはある意味意地でもあった。

 唯は尻もちをついたためにお尻をさすりながら立ち上がる。

唯「あいててて……イルミナPが無理するから倒れるんだよ!」

 なぜか怒りをイルミナPにぶつけるが、悶絶している彼は話を聞いていないようである。

唯「まったくもー……あれ?これって」

 唯は先ほどまでイルミナPが座っていたデスクの上のモニターを見る。
 そのままデスクに近づいて近くにあったマウスを手に取って、画面をスクロールしていった。

唯「これ……憤怒の街の情報だね。確認されてるヒーローの活動状況みたいだけど」

 イルミナPはようやく痛みが引いてきたのか、頭をさすりながら立ち上がって唯の隣に立つ。

イルミナP「いつつ……ええ、憤怒の街のほぼリアルタイムでの状況です。中の様子も気になりましたしね」

唯「あれ?電子機器は使えなかったんじゃありませんかー?イルミナPせんせー」

 唯は小さく挙手してそんな疑問を口にする。

イルミナP「ちょっとした魔法ですよ。まぁこんなことできるのは世界に一人二人いるかいないかくらいですけど」

唯「さっすがイルミナPー!ゆいたちにできないことを平然とやってのけるー!」

イルミナP「ええ、そうです。シビれてください、あこがれてください。まぁというわけでその整理をやっていたところなんですよ」

 イルミナPは得意そうな顔をしてキーボードを操作する。
 そこに空欄もあるが顔写真、というには少しぶれたものや存在し明らかな盗撮写真だと思われるものもあるさまざまな写真が映し出された。
 その一覧は整理されており、写真の下には備考もついており、リンク付きのものもある。

イルミナP「今憤怒の街で活動しているヒーローや、ヒーロー活動している者についての情報です。まぁ謎が多い人のもありますけど」

 唯はモニターを食い入るように見ている。

イルミナP「邪魔になりそうなのはチェックしておくべきでしょう?さらに顔写真付き、調べられることはいろんなところから自動的に情報を集めるように魔法を組みましたからね」


唯「……ちょっとここまでやるのは、引くわー」

 唯は感心しているかと思いきや、すこし引いた顔をしてイルミナPの方を向いた。

イルミナP「そんな!?」

唯「……ふっふっふ。冗談だよーん。真に受けた?」

 イルミナPがショックを受ける中、唯は表情を一変させていたずらな笑みを浮かべた。

イルミナP「うっ……はぁ、驚かせないでくれ……」

 安心したようにイルミナPは息を吐いた。

イルミナP「あなたの考えが、わからないですよ……」

唯「ポーカーフェイス唯ちゃんの実力はこんなものじゃないじぇ!というよりイルミナPがからかいやすいだけなんだけどねぇ♪」

 そう言って唯はモニターに背を向けて部屋の入り口の方へと進む。

唯「イルミナPも頑張ってることだし、ゆいもすこしがんばってくる!」

 そう言って唯の前に身の丈はある青い魔方陣が出現した。
 その中心はより濃い青色で渦を巻いている。

イルミナP「いったい今度は、どこへ?」

唯「ちょっと宇宙の最果てまで♪」

 唯はそう言うと、魔方陣の中に跳び込む。
 そして唯を飲み込んだ魔方陣はそのまま消える。
 部屋の中はさまざまなパソコンの作動音のみが聞こえる。

イルミナP「ほんと……あんたの考えが、わからないよ。長い付き合いだけど、いまだに……」

 イルミナPは倒れた椅子を起こして座って、モニターへ向かいなおした。










 地球とは遠く離れたこの地は宇宙連合の本部である。

 現在、その頂点である『評議会』、長官である少女は不在である。

唯「だからこそ、なんだけどね」

 唯はその宇宙連合本部の一画に青色の魔方陣が出現してその中から出てくる。

唯「認識遮断魔術も使ってあるから、警備の薄いところなら楽だしねー」

 そう言って唯は誰にはばかることなく、地球から離れた地であるここを我が物顔で歩き始めた。




 評議会では長官がいない中、会議が行われていた。

「やはり長官を一人で行かせて正解だったのか?」

「別にかまわんだろう。あの小娘が行ったところでなにかできるとも期待はしていないがな」

「きさま!その言いぐさは何だ。これは記録に残る会議だ。不適切な発言は控えろ!」

 一人が立ち上がって、先ほどの発言をした者を非難するが、その者は気にした様子はない。

「ふん、どうせその当人はいないんだ。記録に残るとはいっても誰が見ているわけでもない。改ざんはいくらでもできる」

「たしかにそうだ。正直あの娘があの男の子どもというだけだろう。それだけだというのに出しゃばられては目障りなのだよ」

 先ほどの者に同調し始める者まで出てくる。

「そうだ。あの娘の手腕はある程度認めるが、やり方がぬるすぎるのだよ。あのお父上とよく似てな」

「なら、この隙にいっそ事故に見せかけて、というのはどうだ」

「おい!それはさすがに……」


 止めようとするものもいたが、それでも一部の反長官派の発言が過激になっていく。

「気にすることはない。不慮の事故なんだからな」

 初めに不適切な発言をした者が、笑みを浮かべてそう言った。

唯「なっるほどね。鬼の居ぬ間に洗濯とはまさにこのことだねー!」

 会議中の中に突如響いた少女の声。
 一斉にその方向へ向くと、本来は不在であるはずの長官の席に一人の少女、大槻唯は座っていた。

唯「あれ?どうぞ続けてー。みなさんはよからぬことをどんどん企んでくださーい。飴なめて待ってるんで♪」

 唯はそう言って脚を組んで笑みを浮かべる。

「だ、誰だお前は!?警備は何をしていた!?」

唯「別にここにゆいは直接来ただけだよ。ん?それともゆいのお願いをいまから聞いてくれるの?」

「ふ、ふざけるなよ!」

 そう言って唯の一番近くにいた者が懐から銃らしきものを出して唯に構えた。


唯「できればおとなしく話を聞いていてほしかったんだけどなー」

 唯は慌てることなく、口にくわえていたロリポップを出して、その男の方へと放り投げた。
 その黄色のロリポップは空中で泥を纏い始め男の目の前に到達するころには巨大な獅子となっていた。

「あ、ひぃ……」

 その獅子に睨まれた男は手の震えで銃を落とす。
 そして銃が床に落ちる頃には、獅子は男に頭からかぶりついて首から上を咀嚼した。

 それによって周囲の評議会のメンバーに動揺が走る。
 実力のある者もメンバーにはいるが、この少女の正体を測りきれず動くことができない。
 その間も、獅子は男の死体を食い漁ることに夢中であり、少女は少女で懐から新しい飴を出してなめている。

 「要件は……なんだ?」

 一人の男が恐る恐る口を開く。
 唯はその言葉を聞いて楽しそうに喋りだした。

唯「できればこの宇宙連合の軍隊の一部を貸してほしいんだけど、ダメ?」

「い、いいわけないだろそんなこと!」


 実際この宇宙連合の軍隊は様々な星の連合軍隊でもある。
 一部の者の一存で判断できるわけもない上、その戦力は一部だけでも星ひとつ落とすのに容易い戦力だからだ。

唯「そっか……それは残念」

 唯は少し落ち込んだような表情をしながら指を鳴らす動作をする。
 しかしうまくいかなかったのかあまり響く音はならなかった。

唯「あれ?うーんと……こうかな?」

 唯は何回か繰り返すが思ったような音は出ない。

唯「まーいっか♪」

 そして唯は諦めてそんな言葉を口にした途端に、爆発音。

「うわ、なんだ!」
「いったい……これは?」

 評議会のメンバー内に動揺が走る中、警報が鳴り響いて空中にモニターが映し出された。
 そこにはそこら中に立ち上る煙、さらには逃げ惑う民間人が映し出されている。

 その場所は、宇宙連合本部の中にある居住区であった。
 必死に避難する人々であったが、いたるところで新たな爆発が起きてそれに巻き込まれていく。

「よ、よくもこんなことを……」

 唯は事前に宇宙連合本部の中を回って、様々なトラップを仕掛けていた。
 交渉は当然うまくいくはずがないので、はじめから民間人を巻き添えにするように配置を考えてだ。

唯「で、ゆいのお願いを聞いてくれるの?おじさんたち?ダメならここも爆破するしかないけど……」

 彼女の目は本気であった。
 この場を爆破しても彼女は生き残る算段があるのだろう。
 彼らはただ少女に頷くしかなかった。

唯「ありがと♪やっぱり正面から向かうよりも中から落とすのがが一番楽だじぇ」

 彼らはその存在をよく知らないので表現することはできないが、知っているものからすれば少女のその笑みはまさに『悪魔』と言っても過言ではなかった。

大槻唯(??)

個人空間
空間を自由に形成することのできるバアルの能力。
その出口と入り口は唯の好きに作り出すことができ、場所さえ知っていれば、宇宙の果てまでつなぐことが可能。
ただし作れるのは世界がつながっている場所までで、魔界などには出口を作ることはできない。
また空間内は時間が静止しており、中に入れたものは時間が静止したまま動くことはできない。
空間内で唯一動けるのは唯だけである。
ただし唯が空間内にいる間は出口と入り口の設定を変えることはできず、外の空間の時間も止まる。
つまりは籠城し続けることはできない。
事象を保存しておくことも可能であり、強力な魔術を大量に保管してある。

イルミナP(357)
イルミナティ創設メンバーの一人で、現在までのイルミナティの運営はほぼ彼が行ってきた。
創設当時は表立って活動することもあったが、すでにその時には人間をやめておりしばらくした後には影から運営をしてきた。
幼少期にバアルと出会い、いろいろあった後にバアルの補佐を続けてきている。
人間世界においては、最高レベルの魔術師であり魔法使い。
機械と魔法の融合など並の魔法使いが聞いたら卒倒するほどのことができる。
自分の体を改造しており、中身はほぼ化物で老化も止めている。
見た目は20くらいの眼鏡青年。唯にぞっこんだが当の唯本人は気づいていない。童貞。

以上です

決して宇宙連合は弱くないですよ
内側からは無理なだけだったんです

乙ー

宇宙ヤバイよりバアルヤバイ(震え声

そしてイルミナPの最後の説明wwww

乙乙

初代暴食……こわいこわい
そしてイルミナPwwwwそうか、だから世界最高の魔法使いかwwww
がんばれ。なんかとても報われない気がするがどうにかがんばれwwww

補足ですが
唯はちょっとしたお願いのために行っただけなので宇宙連合は、今回の件は事故として処理してこれまで通りの活動を継続しています。
別にイルミナティに乗っ取られたわけではないですよ。

憤怒の街の時間軸で投下します

加蓮(どうして……)

憤怒の街で、泰葉を探し走り回ってた彼女は急に立ち止まり、≪それ≫を見上げていた。

≪嫉妬の蛇龍≫……いや、≪憤怒の翼竜≫を喰らい、更に進化を遂げた≪絶望の翼蛇龍≫。

元をただせば、加蓮がエンヴィーだった頃に、世界中に呪いを振りまく為に作り出されたモノだ。

未完成で、動き出す前に破壊してもらうはずだった。

だが、嫉妬の悪魔により無理矢理動き出されたソレは独自に進化を遂げ、ビルより巨大な大きさで加蓮の前に現れた。

……といっても加蓮と翼蛇龍の距離はかなり離れている。だけも遠目でもハッキリとわかる。

加蓮「……倒さないと」

あれは間違いなく自分が作ったカースだ。
自分がした事の責任は自分でとらないと…そう思い、背中から黒い泥を出し、翼を作り、猛スピードで蛇龍の方まで近づこうと飛んで行った。

その時だった。

突然、ダムが決壊したような放水が翼蛇龍に襲いかかり、更に冷気により逃げるように動き出し始めた。

加蓮は知らない。それは杏の策略により、裕美とぷちゆずの力により街から遠ざけさせているのを…

そして、蛇龍は速く離れようと、背中の翼を羽ばたかせ、その巨大な身体を地面から引きずり出すと、空へと飛び上がった。

加蓮「きゃあっ!?」

翼を羽ばたかせたことにより、突風が起こり、それは飛んできた加蓮を吹き飛ばすのには充分なものだった。

--------------

のあ「……倒されてなかったのね」

みく「また、大きいのが現れたにゃ」

愛梨「…………」

三人は遠くから街の外へと逃げるように飛んでいく翼蛇龍を見ていた。

みく「どうするにゃ?」

のあ「みくを囮にして誘き寄せるのはどうかしら?」

みく「えっ?酷くない?」

のあ「冗談よ…」

愛梨「!?二人共、なんか飛んできますよ?」

二人がふざけてると、愛梨はこちらに飛んで来る何かに気づいた。

それは……


加蓮「きゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!!………」ズドーン!!グチャッ☆

「「「………えっ?」」」

三人は、飛んできたのがよくご飯を食べに来る知り合いで、しかも目の前で瓦礫の山に思いっきりぶつかったあげく、嫌な音が聞こえたのに思わず固まった。

のあ「今のって…」

みく「か、加蓮チャンにゃ!」

愛梨「だ、大丈夫なの!?」

三人が加蓮が落ちたであろう、瓦礫の所まで走って行った。

加蓮「あいたた……」グチャッグチュッ

ぶつかった衝撃で傷ついた身体を徐々に再生させながら、瓦礫の山から這い上がってくる加蓮。

一体、憤怒の街にはいってから何回死んでるんだろうか……

のあ「随分、無茶してるのね…加蓮」

加蓮「えっ?のあさん!みくちゃん!愛梨さん!なんでここに?」

みく「それはこっちの台詞だにゃ!」

愛梨「加蓮ちゃん。大丈夫?(今、身体が再生してたような……)」

思わぬ所であった知り合いに、加蓮は思わず驚くが、すぐに何かを思い出したように辺りを見回した。

加蓮「あの蛇龍は!?」

みく「なんか知らないけど、街の外へ向かって飛んで行ったにゃ!」

加蓮「うそっ………追いかけないと!けど、この街の原因の≪あの子≫を止めないと……それを誑かしてる≪人≫を殴り飛ばさないと……」

愛梨「……それ、詳しく教えてくれませんか?」

その言葉に愛梨は真面目な表情で、慌てる加蓮に聞いた。

加蓮「う、うん……」

ただならぬ雰囲気に加蓮は思わず息を飲み、頷いた。

加蓮の話を三人は黙って聞いていた。

憤怒の街に来た理由。

自分がカースドヒューマンで悪い事をしていた事。

偽泰葉と戦闘し、それで聞き出した情報。

そして、自分がエンヴィーの時産み出した≪蛇龍≫があの絶望の翼蛇龍だと………

加蓮「今まで黙ってごめんね……けど、嬉しかったの。私今まで人の家に上がって、皆で楽しくご飯を食べる事が……もし私が世界を呪おうと…この街みたいな事をやろうとしてたなんて知ったら嫌われちゃうんじゃないかって……」

震えながら加蓮はいった。自分がやろうとしていたのは悪い事だって知っている。だからこそ、それを知られたら嫌われるんじゃないかと……

加蓮「だけど!ワガママかもしれないけど……もし、私がケジメをつけ終わったら……今まで通りご飯食べに行っていいかな?そして私と友達にn…ひゃっふい」

その言葉は、のあが加蓮の両頬をつまむ事により止められた。

のあ「貴女は何を言ってるのかしら?加蓮?」ムギュー

加蓮「ひゃい?」

のあ「私達がそれくらいで貴女を嫌いになると思う?それに私達は貴女を友達だと思ってたけど違うの?」

タテタテヨコヨコグールグールと加蓮のほっぺで遊びながら、のあはクールに言う。

みく「そうにゃ!酷いにゃ!昔、何してたかなんて関係ないにゃ!それに今の加蓮ちゃんは悪い人じゃないにゃ!」

愛梨「……そうだね。それに加蓮ちゃんは≪その人≫を止めようとして来たんでしょ?それに悪いのは加蓮ちゃんじゃなくって≪カースの核≫のせいだから」

加蓮「みんな……」ヒリヒリ

三人にそう言われ、加蓮の心は何処か軽くなったように感じた。

ほっぺは痛いけど……

のあ「だから、貴女はその蛇龍の所へ行きなさい。この街を作った人は私達が止めるわ」

愛梨「………誑かしたっていう黒幕も私達が代わりに殴っておきます」

みく「そうにゃ!だからこの件が終わったら皆で一緒にご飯食べるにゃ!」

加蓮「ありがとう!のあさん!みくちゃん!愛梨さん!」

加蓮は嬉しかった。昔の自分を知ったのにそれを受け入れてくれた三人に…
彼女達なら彼女を止めてくれる。

そう思い、加蓮は翼蛇龍を追いに飛んで行った。

みく「……加蓮ちゃん。やっぱり良い子だにゃ」

のあ「そうね。ちょっと世間知らずだけど良い子ね」

愛梨「カースの核は……そんな子を狂わせちゃうんだね(泰葉ちゃんも……)」

三人は憤怒の街を進む。泰葉を止める為に……


終わり

イベント情報追加

・加蓮が翼蛇龍のところへ飛んで行きました。間に合うか?

・のあ、みく、愛梨に泰葉が友達を捨ててまでこの街を作った事、誑かした黒幕がいるという情報を伝えました。

以上です

のあさん、みくにゃん、とときんお借りしました!

とときんの口調が変な気もしますが……許してください

そして、憤怒の街に入ってから加蓮が死にすぎた気も……加蓮ごめんよ…ちょっとナニカにお仕置きされてくる

乙ー

不死身キャラが死にまくるのはもはや様式美だからね、ちかたないね
翼蛇龍デリートに間に合うといいな……


僕も加蓮のほっぺをタテタテヨコヨコグールグルしたいです

本編関係ない小ネタ投下しますー


ある夜。

フルメタル・トレイターズはいつもの様に公園で野宿をしていた。

カイ「……星花、寝た?」

亜季「寝ているであります」

カイと亜季は、ぐっすりと眠っている星花の顔を覗き込みながら、ひそひそと話し合う。

カイ「じゃ、ホージロー。星花起きたら知らせにきてね」

亜季「頼むでありますよ」

『キン』

カイと亜季はホージローを軽く撫でると、何か荷物を抱えて奥の茂みへと姿を消した。

――――

そして、時計の長針が頂点を指す頃。

星花「……ん」

星花がうっすらを目を開き、ゆっくりと上体を起こす。

星花「眠れませんわ……あら?」

どこかから、楽器の音色が聞こえてくる。

星花が使うバイオリンの様な本格的な物ではなく、どこかオモチャじみた音色だった。

『…………』

星花「…………こちらからでしょうか……」

星花は熟睡しているホージローを起こさないようにゆっくりと音のする方へ歩いていく。

――――

音は茂みの中から聞こえてくるようだった。

星花「…………?」

物音を立てないようにこっそりと覗き込む。

そこには、カイと亜季の姿があった。

カイはオモチャのピアノと格闘し、亜季は鍵盤ハーモニカへ一心不乱に息を吹き込んでいた。

星花(お二人とも何をされているのでしょうか……?)

カイ「……っと。やっとトチらず最後まで弾けたね」

ピアノから手を離し、カイがにっと笑う。

亜季「一週間ぶっ続けの稽古が実りましたな」

亜季も鍵盤ハーモニカから口を離して、腕時計を覗き込む。

亜季「あ、もう星花の誕生日が来てしまっていますな」

星花(わたくしの……誕生日……? ……あ、そういえば)

長い家出ですっかり忘れていたが、もう数分前には星花は誕生日を迎えていたのだ。

カイ「え、本当に? じゃああと1,2回通しで練習したら寝よっか?」

亜季「1,2回と言わず、納得行くまでやりましょう。こつこつ貯めたバイト代を、無駄にはしたくありませんからな」

そう言って亜季は手に持った鍵盤ハーモニカをポンポンと軽く叩いてみせた。

星花(まさか、わたくしの為にわざわざ楽器を買って……?)

カイ「オッケー。頑張ろうね」

亜季「ええ」

二人は再び楽器を手に取り、ゆっくりと演奏を始めた。

星花(…………お邪魔しては、いけませんわね)

星花は覗くのをやめ、元々寝ていた場所へと歩き出した。

星花(楽しみにさせていただきますわね、うふふ♪)

夜が明けてからの演奏会を楽しみにしてか、その足取りは非常に軽かった。

終わり

以上です
こんな感じの誕生日SSがあってもいいじゃない、モバマスだもの
星花さん誕生日おめでとう!

投下します!

とある喫茶店。

そこに二人の少女が同じ席にいた。

乃々「あうぅ……」

雪菜「乃々ちゃん?どうしたの?」

森久保乃々と井村雪菜。イヴ非日常相談事務所でお世話になっている彼女達。

アイスティーをカランと揺らしながら雪菜は、うな垂れてる乃々に微笑む。

乃々「な…なんでもないんですけど……」

小動物のようにオレンジジュースを飲みながら、乃々は答える。

雪菜「もしかして、イヴさんに怒られた事、気にしてるの?」

乃々「あうぅ……」

どうやら図星のようらしく、乃々は再びうな垂れ始めた。

憤怒の街攻略の時、ナチュルスターの三人は癒しの雨を降らせ、憤怒の街の弱体化を行った。

しかし、三人は無茶をして意識を失い癒しの雨を降らす装置となっていたのだ。

当然、イヴの雷が落ちたのは言うまでもなく……

乃々「あんな怒ったイヴさん……始めて見たんですけど…怖かったんですけど…」

雪菜「それだけ、乃々ちゃん達を大事に思ってるのよ♪」

優しく微笑みながら、うな垂れてる乃々の頭を撫でた。

乃々「あぅ………」

それに対し恥ずかしそうな声をあげる。

端から見るとお母さんに怒られた妹をフォローする姉のような光景に見える。

乃々「正直言って……」

雪菜「?」

しばらくして、乃々はオレンジジュースを飲みながら、恥ずかしそうにつぶやく。

乃々「……私、初めてなんですけど…怒られたのにそんな私を見捨てない人達……」

乃々「……ほたるさんも、巴さんも、私を見捨てないで…一緒にいてくれるんです……イヴさんも、裕美さんも、ブリッツェンも……もちろん雪菜さんもこうして私を見捨てないでくれて………だから…その……」

モジモジと恥ずかしそうに話す乃々に、雪菜は微笑みながらアイスティーを揺らす。

雪菜「乃々ちゃんとは少し違うけどその気持ちわかるかな」

乃々「……えっ?」

雪菜「乃々ちゃんも知ってるわよね?私が悪魔に身体を乗っ取られて悪い事してた事」

悲しそうに笑いながら、話を続ける。

雪菜「テレビのせいで、私が悪さしたように放送されて、乗っ取られていたとはいえ私は一般的に危ない人の認識をされていたのよ。けど……今こうして私が普通に生活できてるのはイヴさんや死神さんや裕美ちゃんや貴女達が私を見捨てないで助けてくれたからなの」

ニコッと微笑みながら、アイスティーを飲む。

雪菜「そのまま放っておけば良かったのに、助けてくれて、お世話してもらって、本当にみんなには感謝してて、こんな気持ち始めてなの」

乃々「……せ、雪菜さん………」

雪菜「だから一緒に頑張りましょう」ニコッ

乃々「うぅ……す、少しだけ頑張ってみます…」

カランッと氷が崩れる音が、喫茶店に響いた。

雪菜「どう?少しは気持ちは和らいだ?」

乃々の手を引っ張りながら、事務所に向かってる途中、雪菜はフッと思い聞いた。

乃々「おかげさまで……けど、疲れる事はやっぱり……むーりぃー……」

そういいながらもちゃんと事務所に来てくれる乃々は良い子だなと思い、雪菜は世話が妬ける妹ができたような感じで微笑ましかった。

イヴに頼まれて、乃々が悩んでるようだから話を聞いてあげるように言われた彼女はこうして乃々を喫茶店に連れていき話を聞いていたのだ。

こうして、相談にのってあげたりする事により、仲を深めて貰おうという意図があったのかな?と雪菜は思う。

………けど、彼女達は知らない。

実はコレには別の意図がある事に……

それは二人が事務所につき、扉を開けた事により気づくことになる。

ガチャッ








         ハッピーバースデー!乃々ちゃん!雪菜さん!         






終わり

以上です!というわけで雪菜さんお借りしましたー

森久保!雪菜さん!誕生日おめでとー!!

SSには書いてないけどさとみんも誕生日おめでとー

……えっ?一日遅いって?………すいません…焼き土下座してきます……

雪菜さんにお姉さんして欲しかったんだ!

そら&ゆかり投下します
色々と酷い表現注意


そら「あれ……あたし…………なにがあったんだっけ……」

活動拠点として間借りしている六畳一間で目を覚ましたそらは、大いに混乱していた。
いつの間にか気を失っていたからである。
脳が身体機能を完全にコントロール出来るように訓練されていたため、気を失うなどということは今まで経験したことが無かった。

そら「うぅ……頭が……割れそう……」

激しい頭痛に思わず頭を抱えてうずくまる。
突如押し入ってきた妙な女に押し倒された所までは覚えているのだが、その後から今に至るまでの記憶が無い。

そら「(何か……忘れている気がする……)」

そら「(そうだ……任務……私の……)」

頭痛が引くとともに、少しずつ状況に思考が追い付いてくる。
自分に課せられた任務──評議会からの指示で、この星の知的生命体を滅ぼそうとしていたはずだった。


そら「(けれど……なぜ滅ぼさなければならない……?)」

そら「(……わからない……なぜ、私は……)」

そらの頭に、地球人より以前に滅ぼしてきた種族の記憶が過る。
操られていたから……体のいい言い訳だが、実際に自分の行動が原因で、数々の種族が絶望の内に滅びていった事実が消えるわけでは無い。

不和をまき散らし、疑心暗鬼を誘い、心の闇を突きまわし、仕舞いには内乱を誘発させる。
そして、後はそのまま、滅ぼし合い消えていくのを高みから眺めている……

そら「(私は……なんという事を……)」


おぼろげながら、そらの脳裏には今まで手にかけてきた数々の種族の姿が浮かんできていた。
そらの事を善意の存在だと信じ切っていた者達の、最期に見せたその顔が脳裏に焼き付いているのだ。

そら「う……うぅ……」

その者達は怨嗟の表情であったり、あるいは、裏切られたことに対する驚愕と悲哀の表情で、無言でそらを見つめている。


そら「い、嫌だ…………いやだああ!」

そら「そんな目で……あたしを…………見ないでぇ……」

そらは頭を振り乱しながら悶える。

今までは精神保護により抑えられていた、他者から向けられた様々な負の感情。
それが、今になって一斉にそらの精神に降りかかってきているのだ。

そら「うぅ……いやだ……やだよぉ…………っ!?」

より古い記憶が呼び覚まされていくうちに、現在の自意識に目覚めて最初に接触した種族の姿が浮かぶ。
それはおそらく、そらが悪意ある存在に連れ去られて洗脳された後、最初に滅ぼすよう命令された種族……
すなわち、そらの出身種族の姿なのだろう。


そらの脳裏に浮かんだその人物は、眩い光が逆光となって輪郭はぼやけてしまっていたが、その表情ははっきりと見て取れた。
そらの行為に憤るでも、悲しむでもなく……その行く末を案じるかのような、憐憫の表情だった。
そして、何か言葉を発したように見えたが、そらの記憶には残っておらず……その姿は立ち消える。


そら「あ……あぁ」

現実に引き戻されたそらは、他の種族の時に感じた物とは異質の感情に苛まれる。
それは、何か、無くしてはならないものを失ったかのような……深い喪失感だった。

そら「っ!?」

突如として激しいめまいと動悸、そして嘔気に襲われる。

そら「うっ……うえっ……おえぇぇ……」

思わず台所に駆け込み、流し台にぶちまける。
嘔吐という生理現象も、そらにとっては初めてのことだった。

数日間なにも口にしていなかったためか、吐瀉物らしいものは胃液のみだった。
それでも、極度の精神的ストレスから来ているであろう嘔気は収まる気配が無い。


そら「げほっごほっ…………うぅ」

結局、五分もそうしていただろうか、ようやく悪心の収まったそらはその場にくずおれた。


そら「(私は……何のために生まれてきたというのか)」

そら「(他者を……不幸に陥れるためか)」

力なく倒れ伏し、虚ろな目で宙空を見つめながら、そらは知らず知らず己の存在意義について考えていた。

そら「(何がハッピーだ……私は災禍を呼び寄せる、忌むべき存在なんだ……)」

そらの本来持ち合わせている善性が、かつての自らの行いを激しく責め立てる。

そら「(もはや生きる意味も、価値も……見出せない)」

そら「(いっそこのまま消えてしまえたら、どんなに楽だろう……)」

洗脳により、今まで自我の発達が抑えられていた上に、
ようやく目覚めたその自我も自らの無意識に糾弾され、そらの精神は限界を迎えていた。

そしてそのまま意識を手放し、そらの自我は深い闇へと落ちていった。


───────────────

────────

───


──数日後──

ピンポーン

そら「ん……うぅ?」

幸か不幸か、精神的なショックで数日の間意識を失っていたそらは、部屋の呼び鈴が鳴る音で目を覚ました。

ピンポーンピンポンピンポンピンポーン

そら「(うるさい……)」


  ドンドン!


そら「!?」

「そらさん? 居ないんですかー? そらさーん!」

部屋の呼び鈴に続いて、入口の扉を叩く音と、そらを呼ぶ声が聞こえてくる。

そら「(一体何? 隣の……北条加蓮ではないはずだけど……)」

隣の部屋に住んでいる友達(仮)の北条加蓮は、ここ数日間何処かに出かけているらしく、部屋には居なかった。
もっとも、今のそらにとってそれはありがたい事なのだが……彼女に会う事を考えると、何故か"気まずい"思いがしたから。


「あー、そこのお嬢さん、もう少し静かにお願い……」

「二日酔いの頭に響くのよ……」

「あ……すみません」

そらを呼ぶ声はしばらく続いた後、別の声に遮られた。

「そらちゃんのお友達?」

「えっと、そんなところです」

そら「(私の"友達"? 何者……?)」

部屋の外から聞こえる会話に耳を澄ましてみるが、その正体は分からなかった。

そら「(まあ、どうでもいいや……)」


「そらちゃんなら部屋に居るはずよ? ここ数日出掛けた様子無いし」

「そうなんですか」

「そらちゃん! お友達が来てるわよ!」

そら「……」

そらの考えていることなど露知らず、部屋の外の人物は呼び立て続ける。
そもそも、何日もの間、食物はおろか水さえ口にしていなかったため、出ていこうにも身体が動かなくなっていた。


「なしのつぶて……ね」

「こうなったら、中に入ってみるしかないわね」

「え……?」

「これだけ呼んでも無反応っていうことは、何かトラブルに巻き込まれてるかもしれないし、問題ないわよ」


   ガチャッ


「そらちゃん? 大丈夫? 生きてるー?」

「一応、生体反応は見られたんですけど……」


部屋の外で話をしていた二人組は、とうとう部屋の中にまで入ってきたらしい。
二人が入口のすぐ脇にある台所に倒れるそらを見つけるまで、それ程時間はかからなかった。

「うわっ!! そらちゃん!? ちょっと大丈夫!?」

「……」

そら「(……この騒がしいのは……この建物に住んでいる……片桐早苗といったか)」

そらは横目で望まぬ来客の様子を眺める。
一人は同じ寮の住人だと分かったが、もう一人は会ったことも無い人物だった。

早苗「ちょっ……これは……救急車呼んだほうが良いかしら?」

早苗とそらは、特別親交があるという訳では無かった。
せいぜい、お互いが寮の出入りで偶然顔を合わせた際に、軽く挨拶をする程度の仲だった。

それでも早苗には、今のそらの様子の異常さが伝わっていた。
数日前に最後に顔を見た時に比べると、ものすごくやつれているのだ。


「あの……すみません、ここは私に任せてもらえませんか?」

早苗「えっ?」

「そらさんのことは、私に任せてもらえませんか?」

「きっと、よくなるように介抱してみせますから」

早苗「……そらちゃんのお友達のあなたがそう言うなら、任せるわ」

そら「(正直、放っておいてほしい……)」

そらの意図しないところで、何やら話が進んでいる。
放っておいて欲しいとは言うものの、そら自身何も口に出さないので仕方がないのだが。


「色々とありがとうございました、あの、私、水本ゆかりと申します」

早苗「片桐早苗よ、それじゃそらちゃんのこと、よろしくね」

来客二人は互いに自己紹介を済ませると、早苗の方は部屋から出ていった。

ゆかり「さて……」

ゆかりと名乗った少女が、倒れているそらに近づき、屈みこむ。


ゆかり「そらさん、とりあえずこれを飲んでください、そのままじゃ身体機能が停止してしまいます」

ゆかりはそらの口元に、ゲル状の経口栄養剤を持っていく。

そら「……」

ゆかり「……仕方がないですね、無理にでも飲んでもらいますよ」

しかし、そらは力なく項垂れたまま、それを口にしようとはしないため、ゆかりは半ば無理矢理それを飲ませる。


そら「っ……げほっ! ごほっ!」

ゆかり「無理をさせてすみません、けど、こうでもしないとあなたは本当に死んでしまいそうだったので」

そら「……」

ゆかり「……」

そら「……」


そら「……あなたは、一体何者なの?」

沈黙に耐えかねたか、進まない状況を打開すべく、そらはずっと疑問に思っていたことを口にする。
そらの質問を受けて、ゆかりは重い口を開いた。


ゆかり「私はユカリ、地球人名としての姓が水本」

ゆかり「……なんとなく、察しはついているとは思いますが……評議会の者です」

そら「(やはりか……私を訪ねてくる存在などそれくらいしか考えられなかったが……)」


そら「あたしは……もう、あそこには戻らないよ……」

ゆかり「……」

そら「もし役に立たなくなった者を始末しに来たっていうなら、好きにして……」

ゆかり「っ!!」

ゆかり「そんな事! 絶対にありません!」

そら「え……?」

ゆかりの剣幕に、そらは思わず気圧される。


ゆかり「私は……! あなたのことを……っ!」

そら「……」

ゆかり「(今までさんざ良いように利用してきた評議会の人間が今更)」

ゆかり「(手の平を返したかのように『あなたを助けるために来ました』なんて言ったところで……信用されないか)」

そら「……」


ゆかり「と、とにかく!」

ゆかりが苦し紛れに口を開く。

ゆかり「これからは、あなたと一緒に暮らすことになりますので!」

そら「はい?」

ゆかり「よろしくお願いしますね!」

そら「ちょ、ちょっと待って! 言ってる事がよく分からないんだけど!?」

ゆかり「文句があるのなら、一人で生命活動を維持出来るようになってから言って下さい」

そら「うっ……」

突然現れた来訪者がわけのわからない事を言い出したため、そらは抗議の声を上げるが、すぐに押し負けてしまった。


そら「(つまり、私が無気力状態に陥って生命維持を放棄したのを見て、そうならないよう監視しに来たという事か?)」

そら「(しかし、本来の任務を放棄したことに対するお咎めが一切無しと言うのは、どういう事だ……)」

そら「(まったく、わからないな……だが、今更深く気にするほどの事でも無いか……)」

そら「(もう私には、何も残されていないんだ……相手にしなければ、この娘もそのうち諦めて帰るだろう……)」

不本意ながらもゆかりの同居を認めざるを得なくなったそらだったが、放置を決め込む事でその気を挫こうと考えるのだが……
しかし、すぐにその考えが甘いものだったと知ることになる。


ゆかり「(そらさん……あなたには、なんとしても幸せになってもらいますからね……!)」

投下終了です
早苗さんと加蓮(名前だけ)お借りしました

今回も前後編になっちゃったよ…

時系列は憤怒の街半ばで投下します

日常系を書くのが難しい

 アナスタシアはふくれっ面をしながら来客用のソファーに体操座りで座っていた。
 その視線の先はテレビであり、その中には離れた場所から憤怒の街について報道している様子が映し出されていた。

アーニャ「ニェ ズナーエチェ わかりません。……なぜ私が行ってはいけないんですか?」

 そう言いながらアーニャは流し目をしながら、デスクに座って何か作業をしていたピィに対して文句を言う。

アーニャ「……少し前に快諾してくれたはずです。ヒーロー活動を」

 そんな文句に対してピィはうんざりしたような顔をしながらアーニャの方を向く。

ピィ「何度も言っただろう。さすがに初仕事であそこに行くには心配事が多すぎる。約束したはずだ。仕事はこっちで選ぶってな」

アーニャ「……それはそうですが……だいたいGDFの人から協力要請、あったでしょう?」

ピィ「な、どうしてそのこと知ってる?」

 あえて今回の要請についてはアーニャには黙っていた。
 ピィには理由はわからなかったのだがなんとなく、『危うい』とアーニャには感じたのだ。
 アーニャの意志を尊重してやりたいとも思う反面、行かせたら帰ってこないような、そんな危うさを少しだけ感じる。

アーニャ「……諜報活動だって訓練はしたこと、ありますよ」

ちひろ「まぁ、扉の前で聞き耳を立ててましたけどね」

アーニャ「……そういうのは、言わないでください。ちひろさん」

 給湯室でお茶を淹れてきたちひろにネタをばらされてしまった。
 すねてしまったのかアーニャはソファーにうつ伏せになって寝ころぶ。

ピィ「アーニャの気持ちもわからんでもないが、みんなの気持ちも考えろ。みんなだって心配だろうしな」


アーニャ「ツィユーストヴァ……みんなの、気持ち、ですか」

 そんなことをアーニャは呟いた後、ソファーから起き上がってピィの横を通り過ぎて出口の方へと向かっていく。

ピィ「おい、どこ行くんだ?」

アーニャ「……少し外、歩いてきます」

 落ち着きがないように急ぎ足で部屋の出口の扉の前まで来てアーニャはそのまま外へと出て行ってしまった。

ピィ「やっぱり少しそわそわしてるというか……落ち着きがないというか……」

ちひろ「いてもたってもいられないーって感じですね。これがいい成長なのかはわからないですけど」

 ちひろはそう言ってピィの机にお茶を置いて、そのまま先ほどまでアーニャのいたソファーに腰を下ろす。そして自分の分のお茶をすこし啜る。

ピィ「あぁ、ありがとうございます。でも悪い成長ではないとは思いますよ。まだ足りないとは思いますけど」

ちひろ「まだ足りない?」

ピィ「ええ、知識はあっても、精神面の中身はまだ幼稚ですからね。精いっぱい体の大きさに合わせようとしているような、えーと、背伸びしている感じ、ですかね?」

ちひろ「さすがですねぇ。やっぱり人を見る目がありますよねピィさんって」

ピィ「別に大したことないです。日ごろからみんなを見ていればわかりますよ」

 ピィはちひろの淹れてきたお茶を啜る。
 ちひろはテレビから視線を外してピィの方を向く。


ちひろ「ピィのお悩み相談とか始められそうですよね。儲かると思いません?」

ピィ「だいたい俺は主観で言ってるだけなので当てになりませんよ。それにカウンセラーならもういるでしょ。美玲の方が結構いろんなところが見えてると思いますよ」

美玲「ウチがどうかしたか?」

ピィ「うお!美玲!?」

 いつの間にかピィの隣に美玲がいる。

美玲「な、なんだよ!びっくりするじゃないか!」

ピィ「それはこっちのセリフだ!いきなり現れて」

ちひろ「普通にあいさつしながら入ってきましたけどね。こんにちは美玲ちゃん」

美玲「全く……なんだっていうんだ」

 美玲はそのままちひろの隣に座る。

ちひろ「あれ?周子さんは?」

 いつもなら美玲は周子と一緒に来るのだが、今日は周子の姿が見えない。

美玲「あ、シューコは今日は用事があるらしくて、ウチ一人で来たんだ」

ピィ「用事?そうか。それにしてもよく一人でここまで来れたな。えらいぞー」

美玲「う、うるさい!それぐらい簡単だ!こ、こら!ちひろ、頭を撫でるなぁ!」


未央「こんにちはー!」
藍子「こんにちはー」

 開かれた扉から入ってきたのは未央と、その後ろに藍子が続いてくる。

ピィ「ん?これはなんだか珍しい組み合わせだな」

藍子「ちょうどそこで未央ちゃんと出会ったんです」

ピィ「なるほど、そういうことか」

未央「そういえばさっき、アーニャが歩いてるの見たけどどうかしたの?なんかそわそわしてて呼んでも聞こえてなかったみたいだったから」

 未央が思い出したようにアーニャのことについてピィに聞く。
 アーニャはついさっき出ていったばかりだったのですれ違ったのだろう。

ピィ「あいつにもいろいろあるんだよ。あ、そういえばアーニャの力のことについてなんだけどさ」

 ピィがアーニャの力について聞こうとすると未央は露骨に視線を逸らす。

未央「いや、私は何もシラナイヨ……」

ピィ「なんか藍子の力と似てるな……って聞く前から否定してんじゃねえよ。知ってるってばらしてるようなもんだぞ」

未央「私は何も知らない、知らないってばー!」

 未央はそう言って目をつむって耳をふさぐようなしぐさをする。


ピィ「ねー教えてよ未央えも~ん」

未央「せめて頼み方ってあるでしょ!」

藍子「私と似てるって……私も……気になるかな……」

 藍子は純粋な目で未央を見つめる。

未央「うーん、ぐぬぬ……まぁ少しくらいなら……」

ピィ「でかした藍子!」

未央「なんかはめられた感はあるけど、仕方ないか……」

 未央は少し苦い顔をしながらピィの方を見る。

未央「まぁ確かに似てるってのは間違ってないよ。アーニャのあれは天聖気ってものだからね」

藍子「晴天気?」

未央「それだと天気が晴れみたいだよ……魔法使いって知ってるでしょ」

ピィ「ああ、イヴとかのことだな」

 ピィはあの魔法使いのことを思い出す。
 簡単な魔法を使って見せてもらったことは鮮明に覚えていた。

未央「えーと……人間とか悪魔が魔法などを使うときに用いるのが魔力なんだけどざっくりいうと、これは清濁入り乱れた力なわけなの」

 未央はまず右手の人差指を立てる。
 そしてそれに対比するように左手の人差指を立てた。


未央「それに対して、私たち天使や神聖な神さまが使うのが天聖気。不純物のない澄んだ力。ざっくり言うなら魔力は天然水で、天聖気は純水、みたいな感じかな?」

未央「根本的には同じもののようなものだから似たようなこともできるけど、魔力は結構力そのものみたいな感じで加工しやすいけど、加工しないと使いにくい。魔法や魔術みたいにね。それに対して天聖気は、個人差でそれぞれに性質があって、そのままでも意味を持った力として使えるけど、意味を持ってるがゆえに加工がしにくい。しかもそのまま使うにしても出力するためのエンジン的なものがないといけないからただの人間には無理なんだよねー」

 説明しているが未央はあまり自信のある顔ではなかった。

未央「こういうのは説明するのはウリエルとかが適任なんだけどなー……。私はよくわからないんだけど天聖気を使える人間はフィルターみたいなので溜まった魔力が浄化されて天聖気になるらしいんだよね。だけど魔力が使える人間より圧倒的に少ないし、魔力のように簡単に使えるわけでもない。さらに魔力を使う方法の方が発展してるから流行らないんだよね……」

 未央は腕を降ろした。
 そして喋り疲れたのか近くにあった椅子に座る。

未央「今の魔術には聖属性の魔術もあるみたいだから、さらに天聖気の有用性が少なくなってるんだよね……」

 手を組んで腕を上にあげて伸びをする。

未央「あー……難しい話をして頭が沸騰しそうだよー!」

ピィ「ところで、アーニャについてはどうなんだ?」

未央「あ……」

 未央は今思い出したような顔をする。しかも思い出したくないことを思い出した顔だ。

未央「えー……あー……。まー、だから、ね……」

ピィ「いや、天聖気ってのはわかったけど、どうしてアーニャがそれを?治癒能力と何か関係があるのか……?」

 未央はそのまま無言で椅子から立って出口の扉の方へと向かっていく。

未央「必要な分は言ったということだ。これ以上は言わぬ」

 未央は妙に低い声を作ってピィたちに背を向ける。

未央「さらば!」

 そのまま扉から飛び出して行ってしまった。


ピィ「ああ!逃げやがった!」

ちひろ「まあまあ、いいじゃないですか。言いたくないこともあるでしょうし」

 先ほどまで美玲と一緒にソファーに座っていたちひろがピィの方を向いて言う。

ピィ「うーん、確かになぁ……でもいったい何を言いたくないんだろか?」

美玲「えーと……なんというかだな……怒られたくない、みたいな感じかな?」

 これまで沈黙していた美玲が話に加わってくる。

ピィ「ん?どういうことだ?」

美玲「な、なんとなくだけどな。誰かに怒られるから言いたくないみたいな……そんな様子かな?……深刻ってほどでもないみたいだけど……でも隠しておかないといけないみたいな……うーん」

ちひろ「まぁ未央ちゃんですからね。下手にしゃべるとボロが出るからなるべくしゃべりたくないって感じもあるんじゃないんですか?」

美玲「うーんと、多分それも……あるかもな」

ピィ「いったい誰に怒られるっていうんだよあいつは」

藍子「怒られるってことは、未央ちゃんの目上の人ってことですかね?」


 そんな感じでその話題も打ち切りになって、誰もしゃべらなくなった。
 聞こえるのは外から聞こえる自動車の走る音と、テレビの中のキャスターの抑揚のない声だけである。

 ちひろもソファーから立ち上がって机に向かって何か作業をしているらしく、ピィも同様にパソコンで何か作業をしている。
 藍子と美玲はソファーに座ってテレビの報道を見ているだけだった。

楓「こんにちはー」

 そんな中に高垣楓は入ってきた。
 片手には紙袋とスーパーの袋が握られていた。

楓「ここに来る前に買ってきました。食べてください」

 来客用のソファーに座って、その前にあった低い机に紙袋を置いて、スーパーの袋は楓自身の隣に置いた。
 そして紙袋をから箱を取り出した。

藍子「これ、ロールケーキですか」

楓「ええ、おいしそうだったのでつい買ってきちゃいました」

 楓は箱からロールケーキを出してじっと見つめる。
 するとロールケーキが勝手にストンストンと切り分けられていった。

ちひろ「すごい力なはずだから、なんだかもったいない感じがしますね」

 先ほどまで机に座っていたちひろは立ち上がってソファーの方へと近づいてきた。

楓「まぁ包丁の代用くらいしか使い道がないですからね。ほんとに宝の持ち腐れみたいなものです」

楓「ナイフの代わりにしかならないふ……ふふっ」


ピィ「くだらないこと言ってないで……。ところでもう一つの袋は?」

楓「ああ……これは」

 ピィがそのまま自分の机に座りながらスーパーの袋の方について尋ねる。
 楓は機嫌がよさそうにその袋に手を入れる。

楓「……どうです、一杯?」

 その手にあるのは缶ビール。
 袋の中には様々な酒類とおつまみが充満している。

ピィ「はぁ……。まだ昼間ですよ。ちひろさん没収してください」

ちひろ「わかりましたー」

 ちひろは酒の入った袋と、楓が持っていたビールをするりと奪い取る。
 そして部屋の隅にあった冷蔵庫に持っていく。

楓「ああ……。私のお酒……」

ピィ「仕事終わった後か、待てないなら持って帰ってください」

楓「うう……そんなぁ」

 冷蔵庫に入れられる酒を名残惜しそうに楓は見るが諦めたのか、切り分けたロールケーキをリスのように頬張り始める。

美玲「う、うまいぞ!このロールケーキ」

 何となく寂しそうな楓に同情したのか美玲がロールケーキをほめてフォローをする。

ピィ「楓さんを甘やかさなくていいぞ美玲」

楓「ひどいですよピィさん……」


 そんな風にロールケーキを皆で囲んでいると、再びプロダクションの扉が開いた。

晶葉「ん?何やら皆でおいしそうなものを食べているじゃないか」

 入ってきたのは天才少女、池袋晶葉であった。
 それと。

愛海「ケーキのスポンジの柔らかさもいいけど、やっぱり一番は」

ピィ「な!どこから現れた愛海!?」

愛海「おっぱいだよねー!」

藍子「ひ、ひゃあ!」

 そしてなぜかソファーの陰から湧いて出てきた愛海は座っていた藍子の胸を撫でまわし始めた。

愛海「ああ、慎ましくも柔らかいこの感触。確かに胸、確かなおっぱい。誰にもドラム缶なんて呼ばせない。たとえ世界が滅ぼうとあたしはこの胸を愛し続けるよー!」

藍子「ひ、ぁ、や、やめてー!」

愛海「確かにつかめるとはいいがたい胸かもしれないけれどその柔らかさはあたしに元気をくれる。その双丘は無限の可能性をっ」

晶葉「いい加減にしろ!」

 晶葉は近くにあった手頃な情報誌を丸めて藍子の胸を揉んでいる愛海の頭をたたく。

愛海「うぎゃあ!……乱暴だなあ、晶葉ちゃんは」


 愛海は叩かれた頭を片手でさすりながらも、もう一方の手は胸を離そうとはしない。

晶葉「いいからその手をさっさと放すんだ。藍子が困ってるだろう」

愛海「まぁ今日はこのくらいにしといてやろう」

 愛海は言われたとおりに手を放す。
 それでも手は名残惜しそうに細かく指を動かしている。
 そして解放された藍子はゆっくりと息を吐いた。

藍子「できればこれからもしないでほしいんですけどね」

ピィ「愛海はともかく、今日はどうしたんだ?晶葉」

 晶葉はここにたまに来る程度なので、ピィは来た目的を尋ねた。

晶葉「ああ、頼まれていたものが完成の目途が立ったんだ。その報告にきたのだよ」

ピィ「ああ、ありがとな。なんだか手間を取らせるみたいになっちゃって」

晶葉「いや、気にするな。趣味のようなものだからな。龍崎博士の方はどうなんだ?」

ピィ「やっぱり仕事の方が多忙みたいでまだ完成はしていないみたいだ。でも引き受けてくれただけでもかなりありがたいけどな」

晶葉「そうか……。ならそれまでは待ちだな」

ピィ「まぁとにかくだ」


 ピィはそう言って皆が囲んでいる机に手を伸ばす。
 そしてロールケーキを一つとって晶葉の口に軽く突っ込んだ。

晶葉「むごっ!」

ピィ「お疲れさん」

晶葉「むごふご……んぐ。はぁ……甘いな全く」

 晶葉は突っ込まれたロールケーキを一口分に含んで飲み込み、残りを手で持った。

藍子「お茶淹れてきますね」

ピィ「ああ……頼む」

 ピィは自分の机の前に座り、皆の方を見る。
 初めは誰もいない3人の状況から始まったプロダクションだったが気が付けばこれだけ人が増えた。
 今のところ本来の活動らしいことはあまりしていないような気もするが、それでも彼自身この場所を、今の現状を気に入っている。

藍子「お茶淹れてきましたよ」

 給湯室から出てきた藍子がトレイにあまり統一感のないさまざまな容器にお茶を淹れて持ってきた。

ピィ「悪いな」

 ピィはその中のいつも使っている湯呑を手に取って机に置いた。

藍子「みなさんもお茶持ってきましたよー」

 藍子は菓子を囲む面々の方にもお茶を持っていく。
 皆その中から半ば各自の愛用となっている容器を取っていく。


ピィ「でいつまでそこで見ているんだ?」

 ピィは入口の方を横目で見ながら言う。

未央「……気づいてた?」

 扉を少し開いてその間から未央は覗き込む。

ピィ「さっさと行かないとなくなるぞー」

未央「ああ!私の分のロールケーキは!?」

 そう言いながら未央は扉を開いてその輪の中に加わった。

 ピィは皆を見つつも、その奥にあるテレビを見る。
 まだ憤怒の街の状況は変わりそうにない。

以上です

プロダクションの面々をお借りしました。

うおおおお!誕生日SS投下ああ!

秋の一番初めの日、それがきらりの生まれた日。

日付で言うと、九月一日。

…夏樹の誕生日から約二週間である。

…その約二週間後に奈緒の誕生日である。

なんだこの誕生日ラッシュ。李衣菜は頭を抱えた。

夏樹はサプライズ形式で成立するくらい誕生日は気にしないタイプである。

しかし、友人の誕生日と自分の誕生日が近いとそれなりに意識してしまうことが多い。

つまり残りの二人に夏樹と同じ感覚で誕生日祝いはできない…多分。

「二人いっぺんにやってしまうか?…いや奈緒が可哀想だろうそれは…」

…ここは宇宙管理局・地球支部のLPの部屋。李衣菜だけ一時的に来ていたのだ。

さすがに宇宙の太陽系支部は遠い。地球支部はとある場所の地下に存在する。

取りあえずわかるのは、未成年の李衣菜が入っても違和感がない場所。と言う事ぐらいだろう。

ソファに座っていたLPも同じように頭を抱えていた。

「…普通に祝うという選択肢は?ノットサプライズパーティ。」

そして不意に顔を上げて無表情で言う。

その提案はあまりにも普通で…

「…その発想はなかった」

それ故に意外だったらしい。

誕生日パーティの宣言をあらかじめしておく。それがノットサプライズパーティ。(LP談)

きらりは準備の間手伝おうか待ってようかで部屋を出入りしては奈緒に部屋に押し込められていた。

「…これって宣言しておく意味あるのか…?」

「気持ちの問題だと思うよ?」

準備をしている二人は、飾りつけをしながら少し雑談をしていた。

「…」

「言い換えれば…雰囲気づくり?」

「…アタシへのサプライズも?」

「雰囲気 大事。李衣菜 それ よく分かる。」

「誤魔化すな」

「だって誕生日の感覚短いから変化入れたいじゃん…」

そこに、扉を開けて入ってきた人物がいた。

「にょわー☆準備はどんな感じ~?」

「…奈緒、説明してくれ」

「ちょっと中で時間稼ぎしようと思ったんだけど…ハグされて…」

「…それなら仕方ないね」

「でもいいのかきらり?自分の誕生日パーティ自分で準備するなんてさ…?」

奈緒の問いにきらりは満面の笑みで答えた。

「いいのー!きらり、パーティってはぴはぴで大好き!でも自分で準備するともっとはぴはぴできるんだにぃ☆」

「自分の誕生日パーティでも?」

「うん!だってみんなと一緒の方がずうっっとはぴはぴだにぃ!!」

「…きらりは単純だなぁ」

「まあ、そこがきらりらしいけどねっ!」

「じゃあいいのー?」

「そこまで言われてダメって言う訳にもいかないだろ?」

「うっきゃー!じゃあきらり飾りつけすぅー!奈緒ちゃんも!」

奈緒の手を引いて向こうに行ってしまったきらり。

きっと彼女の幸福は、こういう事なのだろう。

はぴはぴならいいじゃない。きらりだもの。

月の輝く夜。蝙蝠の翼と蛇の尾、羊と牛の角を持つ、鳥の足の毛むくじゃらの怪物がとある場所の屋上にいた。

そこに何かが羽ばたきながら近づいてくる音が聞こえると、その怪物は美しい女性へと姿を変えた。

彼女は初代色欲の悪魔、神にその身を怪物に変えられた堕天使アスモダイことサリナ。

飛んできたのはメアリー。こんな夜中にだ。サリナはもちろん問いかけた。

「メアリー、どうしたの?夜更かし?」

後ろに手をまわしていたメアリーが、意を決してそれを見せる。

「…サリナ!ハッピーバーデー!!一番にお祝いしたかったのヨ!」

コッソリ入手しておいたトラユリの鉢を、彼女に手渡した。

「サリナの一番好きな花。これしか用意できなかったけど…」

「何言ってるの!嬉しいに決まってるでしょ!」

ちょっと申し訳なさそうにしているメアリーの頭を撫でながら、サリナは鉢を手に取った。

「サリナ、なんでトラユリが好きなの?」

「誕生花っていうのがあってね、九月一日はこれなの。だから愛着があるのかもね。」

「へぇ…」

「花言葉は『誇りに思う』。アタシに相応しいでしょ?」

「確かに似合ってるワ、色欲の称号よりも…ねぇ、どうしてサリナは色欲なの?憤怒とかの方が向いてると思うのに…」

「あ、それを聞いちゃう?…まぁメアリーも日付が変わるまで起きれるくらい、大人になったもんね…ちょっとだけヒントをア・ゲ・ル♪」

月を見上げてサリナは独白するように『ヒント』を言う。

「色欲って言うのはね…『向かい合った愛が無い』って事なの。一方的な行為は色欲なのよ。」

「…」

「誰もアタシを見ようとしなかった。誰も醜いアタシに目を向けようとしなかった。だからアタシは姿を消し続けて…でもアタシは…」

憎々しげに、けれど愛しげに…過去の誰かに向けた視線は月に向けられている。

「サリナは…寂しがりやネ。」

「フフ…わかる?」

人に見られることを喜ぶのも、召喚した者に気前よく知識を与えたのも…きっとそのせい。

「アタシは一番異質な色欲なの。ただ、それだけ。」

欲しかったのは快楽ではないから。

「…でもサリナが寂しがり屋でも、アタシがいるじゃない!もう大丈夫ネ!」

「ウフフ…ありがと。もう夜風は冷たいし…もう寝よっか。朝になったらケーキ買に行こ?」

「ホント!?じゃあもう行きましょ!」

そして二人の人影は闇にまぎれるように消えていった。

トラユリ…別名チグリジア。

花言葉は他にもある。

『私を愛して』『私を助けて』

…ただ、それだけの事。

以上です
誕生日おめでとー!!
今日は早くできたよー!

クールアンソロの制服紗理奈さんステキでした…

乙乙ー
二人とも誕生日おめでとう!(激遅)

ダメだ四日近く投下がない空気に耐えられん!
うおお投下だあ!!


――海皇宮内部の中庭。

ヨリコ「ふう、ようやく溜まっていた書類が片付きましたね」

ヨリコがベンチに腰掛け伸びをした。

サヤ「うふっ、お疲れ様でしたぁ」

その隣にサヤも座る。

今、この中庭にはヨリコとサヤの二人しかいない。

ヨリコ「……ねえ、サヤちゃん」

サヤ「っ! ……な、なあに、ヨリコ?」

ヨリコの発言にサヤは焦った。

彼女が自分を「ちゃん」付けで呼ぶ時、それは大抵、彼女が精神的な支えを必要としている、

端的に言ってしまえば「甘えたい」時だからだ。

ヨリコ「やっぱり……カイちゃん戻って来ないのかな……?」

ヨリコは視線を落としながら力なく呟く。

サヤ「……戻ってきて、欲しいわよねぇ、やっぱり……」

サヤもヨリコに対等な口調で返す。

ヨリコが「甘えたい」時は、自分たちも対等な立場で話す。

ヨリコが史上最年少で海皇となったあの日から、サヤとカイはそう誓っていた。

ヨリコ「ねえ、サヤちゃん。ちょっと、昔話しない?」

サヤ「いいわよ、それでヨリコの気が紛れるなら。うふ」

ヨリコ「ありがとう」

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あれは、今から……そう、十二年くらい前だったね。

私も、サヤちゃんも、カイちゃんも。学校のクラスは違ったけど、家が近くてさ。

いつも一緒に遊んでたよね。懐かしいなあ。

よりこ『だーるーまーさーんーがーこーろーんだ!』

さや『おっとと……』

かい『わわ……ひゃ!』

よりこ『あはは、かいちゃんあうとー』

かい『よりこずるいよー。さいごタイミングずらしたでしょー』

よりこ『なんのことー?』

さや『ひっかっかたかいがわるいわよぉ』

かい『むきー! おこったぞー!』

よりこ『わあい、おにごっこおにごっこー』

さや『かいがおによぉ』

かい・さや・よりこ『あはははは……』

そうねぇ。それで、ある日学校で宿題が出されたのよねぇ。

うん。『将来の夢について考えてきなさい』って。

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そうねぇ。それで、ある日学校で宿題が出されたのよねぇ。

うん。『将来の夢について考えてきなさい』って。

かい『しょうらいのゆめかー』

さや『かんがえたこともなかったわ。よりこは?』

よりこ『わたし……ゆめ、あるよ』

かい『え、ほんとう? なになに?』

よりこ『……わたし、かいおうになりたい!』

さや・かい『えっ……えええええ!?』

よりこ『……?』

かい『だ、だって……かいおうってかいていとしでいちばんえらいひとだよ!?』

さや『べんきょうとか、いっぱいできなきゃだめなのよぉ?』

よりこ『がんばるもん。わたし、かいおうになって、みんなをえがおにしたいから』

さや『…………よりこ』

かい『……なら、あたしもしょうらいのゆめきめた!』

よりこ『なあに?』

かい『しんえいたいにはいって、よりこをまもるんだ!』

よりこ『かいちゃん……ほんとに?』

さや『なら、さやもそれぇ』

よりこ『さやちゃんも……なら、やくそくしよ』

かい『うん! よりこはかいおう、あたしとさやはしんえいたい!』

さや『ひとりでもやぶったらはりせんぼんよぉ』

よりこ『うん……やくそく!』

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あれから必死で勉強して、私は学年一位の成績を取り続けた。

サヤとカイも、大変だったわぁ。体力だけじゃ親衛隊になれないし。

サヤ『ねぇ、カイ。やっぱりちょっとだけヨリコに教えてもらおうよぉ』

カイ『ダメだって! ヨリコだって必死なんだから、アタシ達も自力で頑張らないと!』

サヤ『……そう、ね。頑張りましょ』

そんな事があったの? ふふ、素直に頼ってくれて良かったのに。三人の夢じゃない。

いやあ、ヨリコの真剣な顔見てたら段々頼みづらくなって……。

先生『ヨリコ。お前の進路……これは本気なのか?』

ヨリコ『はい。幼い頃からずっと海皇を目指して努力して来ました』

先生『む、うう……それで、本当に後悔しないと約束出来るか?』

ヨリコ『もちろんです。出来ない約束はした事がありません』

先生『……分かった。なら海皇に向かって、全力で突っ走ってみろ!』

ヨリコ『ありがとうございます』

それで学生続けながら海皇選に出馬して、飛び級卒業と同時に就任しちゃうんだもん。驚いたわぁ。

驚いたのは私もだよ。いざ海皇になったら、もう親衛隊にカイちゃんとサヤちゃんがいたんだもん。

サヤ達だって頑張ってたのよぉ、んふっ。

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それで就任式の後、二人が部屋まで来てくれたんだよね。

カイ『えっと……ヨリコ……様』

サヤ『この度はご就任……まことにおめでとうございます』

ヨリコ『ちょ、ちょっと二人ともよしてよ。そんなに畏まらなくても……』

カイ『いや、仮にも最高権力者だし……』

サヤ『無礼になっちゃ、ねぇ……?』

ヨリコ『他の人がいない時だけでいいから、昔みたいに接して欲しいな……ダメかな?』

カイ『…………あははっ、相変わらず寂しがりやだね、ヨリコ』

サヤ『……うふっ、そうみたいねぇ』

ヨリコ『もう、意地悪なんだから』

カイ・サヤ・ヨリコ『あはははは……』

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サヤ「……懐かしいわねぇ、そのしばらく後でヨリコが体調を崩して……」

ヨリコ「ええ、巫女さんに助けてもらったの」

見れば、ヨリコの表情には笑顔が戻っている。

ヨリコ「……サヤちゃん。やっぱり私ね、カイちゃんに帰ってきて欲しい」

ヨリコは口をきっと真一文字に結び、鋭い目つきでサヤに向き直る。

ヨリコ「至急、アイさんを呼んで。依頼を変更しなきゃ」

サヤ「分かったわぁ。……では、ヨリコ様。早速かの者を呼び戻して参りまぁす」

サヤは立ち上がり一礼すると、中庭を後にした。

自分一人だけになった中庭で、ヨリコは決意を新たにした。

ヨリコ「……もう迷わない。私は……カイちゃんを連れ戻す…………!」

続く

・イベント追加情報
ヨリコがアイを呼び戻し、依頼内容を「カイ抹殺」から「カイ奪還」へ変更しました。

以上です
ありのまま今起こったことを話すぜ……俺は日常回を書いていたと思ったら回想回を書いていた
ヨリコにタメ口調で喋らせると何でこんなにキュンキュンくるんでしょうね

すみません、大分遅くなりましたが冴島清美で投下させていただきます。
後、祟り場の方を少しお借りします。

魔界のとある一角――霧が深く、紅き月の光が常に降り注ぐこの地に佇む一軒の無駄に荘厳な洋館――吸血鬼三派の内の一派『家畜派』の本家――にて。

??「コレはいったいどういう事だ?」

一人の男が苛立ちと共に自らの部下に怒鳴りつける。

部下「な、何の事でしょうか?――しょ『将軍』様……」

男の名は『将軍』――『家畜派』を束ね現在人間界への侵攻を指揮していれ頭領である。

その男が今苛立っている、その理由は――

将軍「回収されたカースの核が予定の二割にも満たされてないと言う事だ!」

――彼らが兵として利用しようと目論んでいたカース、その核の回収が予定よりも大幅に遅れているからだ。

部下「あっ、はい……連絡の付かぬカース回収班が増加している傾向から考えるに恐らくは――」

将軍「――現地の『人間』共に討伐されていると申すのか?」

部下「はっ、残念ながら……」

部下のその言葉を聞いた瞬間、将軍の顔が露骨に嫌そうな顔へと変わっていく。

将軍「つまり、我ら『家畜派』が事もあろうに『人間』に劣っていると申すのか?」

彼ら――『家畜派』の吸血鬼達は自分達を『人間』達の上位種と定め、『人間』達を見下している節がある。

部下「そ、そのような事は……」

将軍「わかっておる――ただ最近の『人間』共は調子づき過ぎている、そこでだ――」

故に彼らは自分らより優れている『人間』がいると言う事実を絶対に認めようとしない。

将軍「――我らが最強の兵、『紅月の騎士団』を人間界に派遣してやった」

認めようとしないが故に彼らは『人間』を理解していない。

部下「なんと!『将軍』様のご親族である『キヨミ』殿が指揮なされるあの『紅月の騎士団』を『人間』相手に使用するのですか!?」

将軍「そうだ――調子こいている人間共にお灸を添えるには十分過ぎる戦力だし、何より『人間』程度なら初陣にぴったりだろ?」

さらにそこへ吸血鬼として若いために圧倒的に経験が足りない事が加わる。

部下「た、確かに……正に一石二鳥の素晴らしき作戦ですな、『将軍』様!」

将軍「ククク……調子扱いているのも今の内だ、『人間』共――ここからが本当の地獄だ!」

その結果致命的な失策を犯していてもそれに気づかないのだ。

たとえそれが自らの派閥を崩壊させる引き金となっていても――

――一方、その頃人間界にて

???「ここが噂に聞く『人間界』ですか……」

騎士A「はっ、間違いないかと――キヨミ超☆騎士団長」

キヨミ「お父様がが言われた通り『人間』が多いようね」

騎士A「まぁ『人間界』ですから『人間』共が多いのは当然でしょう」

キヨミ「そうね……それだけにこの風紀の乱れ、見過ごす訳にはいきません!」

騎士A「は、はぁ……(まただよ……)」

キヨミ「風紀の乱れは心の乱れ!――我々『紅月の騎士団』は正すのが役目!」

騎士A「そ、そうですね……(本当は『家畜派』の力を見せつけるのが目的なんだけど……)」

キヨミ「そのためにも――周辺の調査はどうなんです?騎士A」

騎士A「その件に関してはただ今騎士Bに――」

騎士B「ただ今調査完了いたしました、騎士A様」

騎士A「むっ、丁度いいところに来たな、騎士Bよ。キヨミ超☆騎士団長に報告を」

騎士B「では……周辺の調査を行いましたが特に異常は見受けられませんでした――ただ一点を除いては」

キヨミ「ただ一点?」

騎士B「はっ、ここから南西に3km先にある『地点』で周囲と比べ異常なまでに高い瘴気と魔力を観測されました」

キヨミ「そう……」

騎士A「キヨミ超☆騎士団長、如何いたしましょう?」

キヨミ「決まっているわ、まず騎士Bの言っていた『地点』を攻め落とすわよ」
騎士A「……?なぜその『地点』を?」
キヨミ「これからこの『人間界』の『風紀』を正す活動をするためにまずは拠点を築き上げなければならない」

騎士A「さすがに何の拠点もないと活動は難しいモノだからな」

キヨミ「それでその拠点として活用するための条件としては十分と言っていいわ――騎士Bの言ってた『地点』はね」

騎士A「なるほど、理解できました(ただ少しだけ嫌な予感がするのは何故だ?)」

キヨミ「そうと決まれば早速出撃よ――我ら『紅月の騎士団』の華々しいデビュー戦のね!」

騎士A・B「「おぉう!全軍出撃!(まぁキヨミ超☆騎士団長がいるから大丈夫だろ……多分)」」

――彼女達は知らない。

――攻め落とそうとしている『地点』が『祟り場』と呼ばれている事を。

――この出撃が吸血鬼界の歴史に長く刻まれてしまう事を。
――今はまだ、彼女達は知らない……

キヨミ(人間界での名前:冴島清美)
職業:吸血鬼
属性:超☆騎士団長
能力:魔眼、石化魔法、吸血鬼関連の能力全般
(メガネ着脱後)石化の魔眼、強化された石化魔法
魔界の『家畜派』に属する吸血鬼で親は『家畜派』の頭である『将軍』を父親に持つ。
規律や風紀を重んじる性格だが父親が父親なため少々歪んでいる。
今回の出撃には色々張り切りっており前の日に徹夜で兵法書を読みあさってしまう程である。
なお彼女のしているメガネは一種の魔力拘束具であり外すと魔力が強化され、さらに封印してある石化の魔眼を使用可能になる。

将軍
職業:『家畜派』の頭首
属性:バカ将軍
能力:吸血鬼全般の能力
キヨミの父親で『家畜派』の頭首をしている。
人間に対してかなり見下した見方をしており今の腑抜けきった吸血鬼界を正すために日夜活動している。
ただ彼の出す作戦は大抵机上の空論であるため失敗して大損害を受ける事が多い。
現在は『家畜派』最強の兵『紅月の騎士団』を人間界に派遣して体制を立て直そうと計画している。

紅月の騎士団
『家畜派』が誇る最強の兵
数々のレア装備に身を包み、充実した訓練により鍛え上げられた兵士達の(カタログ)スペックは高い(具体的には一般兵はRPGでの序盤のボス並み)
唯一の欠点は今回が初出撃なため経験が少ない程度であろう……多分。

と言うわけで超☆騎士団長で投下完了しました。
ある意味難易度が高い場所に初陣してしまいました
とりあえず隊員のスペックは序盤ボス並みですし超☆騎士団長には二段変形があるので運さえ悪くなければ大丈夫かと……

ゆかりとそら投下します


ゆかりがそらの部屋に転がり込んで早数日。
その日も彼女らの間では不毛なやりとりが発生していた。

無気力感に苛まれ、不動の姿勢を崩さないそらと、
それをなんとか立ち直らせようとあの手この手を弄するゆかりの我慢比べである。

ゆかり「そらさん、ずっと引き篭ってないで、たまには出掛けましょう! ね?」グイグイ

そら「ひ、引っ張らないで……」

そら「(この娘は、一体何なんだ……?)」

そら「(何故私に構う……)」

ゆかり「(多少強引にでも連れ出さないと、本当に動かないんですから)」


ゆかり「そうですね……地球で食される"料理"は美味だと聞いたことがあります」

ゆかり「なにか食べに行きましょう!」

そら「レーションがあるからいい……」

ゆかり「えっと……私、地球に来て間もないので、案内して下さいませんか?」

そら「話聞いてよ……」

ゆかり「とにかく! 出かけますよ!」グイッ

ゆかり「そらさん、日の光を浴びないからビタミンDが足りてないんです、このままじゃ動けなくなっちゃいます」ズルズル

そら「それ地球人の身体の話でしょ……とりあえず引っ張るのやめて!」

そのままゆかりはそらを部屋から引っ張り出し、無理やり外界へと連れ出すのだった。


──その頃・地球上空──

ゆかり達が出かけた先の市街地の上空には、宇宙レベルの犯罪者……ヘレンの宇宙船が停泊していた。

ヘレン「マシン!」

マシン「お呼びですか? マム」

ヘレン「新型の調子はどう?」

マシン「はい、直ぐにでも投入できます」

ヘレン「そう、上出来よ」

マシン「マムの御意向であれば当然のことです」

なにやら、またも悪巧みをしているらしい。


ヘレン「今回は、先のミスを踏まえて新たなアプローチを試みるわ」

マシン「ミス……ですか?」

ヘレン「ええ」

マシンは創造主の思わぬ発言に戸惑いを隠せなかった。
そんな様子を知ってか、ヘレンが言葉を続ける。

ヘレン「どれほど優秀な……例え、宇宙レベルの能力を持った者にとっても」

ヘレン「予期せぬイレギュラーやトラブルは、往々にして起こり得るものよ」

ヘレン「そして、そのイレギュラーによって引き起こされた損失は、それを予見できなかった者の過失となる」

ヘレンは苦々しげに呟く。

ヘレン「少々この星の住人を見くびり過ぎていた、その結果、あの二体を失う事になった……」

ヘレン「それは私のミス……認めたくは無い事だけれど」

あの二体……役目を果たしたものの、主人の下へと戻ることの無かったヘレン製の怪人──アバクーゾとハンテーンの事だ。
彼らの犠牲によって得られたものは大きかったが、ヘレンにとって、自分の制作物が無残に破壊される様を見るのは気分が良いものでは無かった。


ヘレン「けれど、己が失敗を認めてこそ、成長が……進展がある」

ヘレン「より完璧に、完全に近づくことが出来る」

ヘレン「慢心し、思考停止をし、歩みを止めることなど、あってはならないということよ」

マシン「……敬服いたします、マム」

マシンにとって、創造主たるヘレンは絶対的な力を持った存在であったが、彼女からすれば現状の自らの能力にすら満足していないらしい。
その貪欲に高みを目指す姿勢に、マシンは改めて畏敬の念を抱く。


ヘレン「この星のヒーローが、それなりの力を持っているというのなら」

ヘレン「それを利用させてもらうまでよ」

ヘレン「そう、これから起こる事は敗北ではなく、進化の為のプロセス」

ヘレン「私が……私の生み出す存在が、より高い次元へと至る為のね」

ヘレンは機械類の備え付けられた作業用のデスクを立ち、宇宙船内の格納庫へと向かった。
新型のロボを用いて、再び地上を攻撃しようというのだ。

アバクーゾとハンテーンの弔い合戦……などというのは、少し感傷的過ぎるだろうか。
しかし、予期せぬ敗退を喫したまま引き下がるという事など、ありえないことだった。


ヘレン「あなたなら、私が望むモノを彼らから引き出すことが出来るはずよ」

ヘレンが、新しく完成したロボに向けて語り掛ける。

ヘレン「さあ、行くのよ! ブッコワスーゾ!」

ブッコワスーゾ「ブッコワー!」

自らの音声により起動したロボを伴い、ヘレンは地上へと降りていくのだった。


──地上の街中──

ゆかりにより無理矢理連れ出されたそらは、渋々街を案内していた。
何か食べる物を探すという目的で出掛けたため、以前北条加蓮と訪れたファーストフード店へとやって来たのだった。

ゆかり「これが地球の食物なんですね、なるほど……」

そら「(何を考えているのやら)」

そら「(……よもや、食べ物を求めてこの星まで来たわけではあるまい……)」

手に持ったハンバーガーを興味深そうに眺めるゆかりを観察する。
未だそらの中では、ゆかりに対する疑念が晴れていなかった。
とは言っても、疑念どうこう以前に、あらゆる出来事に対する関心が薄れているのだが。


ゆかり「うん……甘しょっぱくて……これはなかなか……」モグモグ

そら「……」

ゆかり「そらさん? 私ばかり眺めてないで、ご自分の分を食べたらどうですか?」

そら「……言われなくてもね」

そらは億劫だと言わんばかりの動作でハンバーガーを口に運ぶが、一口齧りついた瞬間にその顔が驚愕に染まる。

そら「!?」

その様子を見て、ゆかりがやましさと安堵の入り混じった表情で口を開く。

ゆかり「そらさん……あなたには味覚にも制限が掛かっていたんです」

そら「(味覚……? これが?)」

かつてそらが工作員として利用されていた時分、生命活動に必要のない五感は
あるいは他者からの影響を受ける危険があるものとしてすべてシャットアウトされていたのだ。
味覚も有害物質を知らせる苦味や酸味を除いて、一切感じることは無かった。

ゆかり「洗脳の解除と同時にそれも解放されたんですよ」

そら「……」

ゆかり「どうですか……? 美味しいですか?」

そら「おいしい……? わからない……」

ゆかり「……今は分からなくても、これから経験して、知っていけばいいんです……これから、沢山の事を」

そら「……これから……?」

そら「(そんなこと言ったって……)」

そら「(私に……これからなんて……未来なんて無い)」

ゆかり「……」


なんだかんだで食事を終えた二人は、街中を歩いていた。

そら「ね? 地球の料理を食べるって目的は果たせたし、もう帰ろう」

ゆかり「(もう少しそらさんの心を開かせるための策を探したかったけど……今日は潮時ですかね)」

ゆかり「(洗脳が解けたのは良かったけど、精神保護と感情抑制も同時に解除されたというのは……良し悪しかな)」

そらがいやに愚図るため、二人は帰路につこうとするが、突然その二人の眼前に一体のロボットが降りてくる。
かなりの巨体を誇るそのロボットは、地響きを立てると同時に砂埃を巻き上げつつアスファルト舗装の上へと着地した。

ゆかり「(っ!? これは、地球人に怪人だとか呼ばれている存在?)」

そのロボットに続き、雲間から一隻の宇宙船が降りてきた。

ゆかり「(今度は飛行物体……地球のテクノロジーじゃない……ウサミン星の物でも無い)」

ゆかり「(それとはまた別の勢力が……?)」

「あ、あの円盤は!」

「いつぞやのニュースで見た! あれは攻撃してくるぞ!」

「逃げろーっ!!」

突如現れた宇宙船を見て、それの正体を知る人々により周囲は騒然となった。
日頃カース等の襲撃に慣れている一般人は、時を経たずにすぐさま近場のシェルターへと逃げ込んでいく。
いつの間にか、そらとゆかりの周囲には人っ子一人居なくなっていた。



ヘレン「ふぅん、この星の住人は相変わらずね……一流を目の前にして、しかしそれを目に収めようとせずに逃げ、隠れる……」

ヘレン「その矮小さ……浅薄ぶり……気に入らないわ」

宇宙船のモニター越しに地上の人々が逃げ惑う様子を眺めていたヘレンは、その表情を変えずに不快感を口にする。

ヘレン「いいわ、ブッコワスーゾ、ヒーローが来るまでの間、その力を見せつけてあげなさい」

ブッコワスーゾ「ブッコワ!」

ヘレンの指示を受けたロボは、その巨体で暴れ回り、辺り構わず破壊し始める。


ヘレン「ん……あそこに居る二人組……」

ふと、ヘレンがモニターの隅を見ると、ロボが暴れるのを意に介さずに佇む二人の少女を見つけた。

ヘレン「なるほど、この状況で逃げないという事は、そういうことよね……受けて立つわ」

ヘレン「ブッコワスーゾ、そこの二人組を攻撃するのよ」

ブッコワスーゾ「ブッコワー!!」


ロボが暴れ回るのを遠巻きに眺めながら、ゆかりは脳内のデータベースから情報を探っていた。

ゆかり「(あの宇宙船の所有者は……特A級宇宙犯罪者──ヘレン?)」

ゆかり「(……なるほど、近頃見ないと思っていたら、地球に来ていたんですね)」

そら「……っ!」

そらはこちらに向かってくるロボを認識すると、服の袖に隠した工作員用の武器を取り出し構える。

ゆかり「……そらさん、下がっていて下さい」

そら「なっ!?」

ゆかりが前へと進み出て、武器を構え勇むそらを制する。
そらの替わりに、自分がロボと戦うつもりでいるのだ。


ヘレン「そこのあなた達、ヒーローと呼ばれる者かしら?」

地上に近づいていた宇宙船からヘレンが顔を出し、二人に呼びかける。

ゆかり「さあ? ヒーローなどと呼ばれたことはありませんけど」

ヘレン「それでも逃げないという事は、宇宙レベルの私に挑もうという事よね?」

ゆかり「……」

ヘレン「あなたたちの器、見せてもらうわ」

さらにロボは接近してきており、既に二人の目と鼻の先だ。
しかしゆかりは動じることなく、相手の情報を分析する。

ゆかり「(あのロボの構成材は……コスモヘレニウム……?)」

ゆかり「(周波数同期は……問題無し)」

ゆかり「(いける……!)」スッ

ヘレン「(あれは……一体何かしら? 武器のようには見えないけれど)」

ゆかりが、懐から取り出し構えた物を見てヘレンは訝しむ。

ゆかり「~~♪」ピーヒャラピー

ゆかりが細い筒状の物体──さながら楽器のフルートのようにも見えるそれを口にあて、吹き始める。
すると、突如「ボンッ!」と、小気味良い爆発音が周囲に響いた。

ヘレン「っ!?」

音の発生源を探すと、どうやらヘレンの呼び出したロボらしく、その頭部から黒い煙が立ち上っているのが見えた。

ヘレン「ブッコワスーゾ! どうしたというの?」

ブッコワスーゾ「」プスプス

ヘレン「これは……」

ヘレン「なるほど、音響兵器ね」

ゆかり「!!」


ゆかり「どのような性質の攻撃かすぐに見抜くとは……」

ゆかり「流石ですね……『ヘレン・ザ・ユニバース』」

ヘレン「!?」


ヘレン「私の事を知っているという事は……そういう事ね」

初対面のはずのこの少女は、どうやら自分の事を知っているらしい。
となると、この少女は地球人ではなく、宇宙犯罪者の情報を得られる立場に居る人間……自分と同じ異星人なのだとヘレンは考えた。

ヘレン「私のファンだったのなら残念だけれど、既に私の実力を知っている者には構っていられないのよ」

ヘレン「この星には他にも一流を教えてあげないといけない相手が大勢いるわ」

ヘレンとしては、地球人の情報を得るために地上に降りてきたため、異星人であるゆかりを相手取ってしまったことは無駄足に等しい。

ゆかり「……こちらとしても、あなたと敵対するつもりはありませんよ」

ゆかり「今回は、降りかかってきた火の粉を払ったまでのこと」

一方ゆかりにとっても、宇宙犯罪者とはいえ現状ではヘレンと事を構える必要など無かった。

ヘレン「……まあいいわ、今回は引き揚げるとしましょう」

そう言うとヘレンは、煙を上げている以外は無傷のロボを引き連れ、大空へと帰っていた。
地球における異星人同士の思わぬ邂逅は、特に波乱を呼ぶこともなく幕を閉じたのだった。


ヘレンを撃退した二人は寮へと帰ることにしたが、その間お互い言葉を交わすことは無かった。
そらの部屋へと戻ると、先に口を開いたのはそらだった。

そら「どうして……あたしが戦おうとするのを止めたの?」

ゆかり「……」

唐突にそらから思わぬ疑問をぶつけられて、ゆかりは逡巡する。

ゆかり「……もう……あなたが戦う必要なんて無いんですよ」

少しの間沈黙した後、ゆかりは自分の想いを口にした。

ゆかり「……あなたに掛けられていた軛は解けたのです」

ゆかり「これからは、誰かを傷つけることも、自分が傷つくこともしなくていいんです」

そら「……」


そら「それじゃあたしは、これからどう生きたらいいの……?」

ゆかりの言葉を受けたそらは、困ったような、泣き出しそうな表情で口を開いた。

そら「戦う以外の生き方なんて知らない、だれも教えてくれなかった」

そら「周りの人間は常に敵だと思えって……教育されて生きてきた」

そら「もう、いまさらどうしようもないよ……あたし」

ゆかり「……」

そらが、内に溜まった心情を吐露する。


ゆかり「……あなたにそんな生き方を強いてきた私が……何を言うのかと思われるでしょうが」

ゆかり「……これからは、どうか、幸福の内に生きて下さい」

ゆかりは、慰めにもならないと半ば知りながら、それでも言葉を紡ぐ。

そら「……」


そら「幸福って……あたしにそんな風に生きる資格なんてないよ」

そら「……今まであたしが騙して、裏切ってきた人達が、責め立てるんだ……」

そら「お前のせいで酷い目に遭ったんだぞって……」

そら「あの時、目が覚めた後から止まないの……今この瞬間だって……」

ゆかり「……」


一体どうすれば……どのような言葉をかければ目の前の少女を救えるのか、ゆかりにはまったく分からなかった。
しかし、近くで支えると……幸福にさせると誓ったのだ。
自分の、その思いを伝える以外に手は無い。

ゆかり「気休めにもならないと思いますが……あえて言います」

ゆかり「そらさん……あなたは悪くありません、誰からも咎められる必要なんて無いんです」

ゆかり「あなたの意思でやったことではないのですから」

そら「っ! そんなことっ!」

ゆかり「それでも!」

ゆかりは語気を強めてそらの反論を遮る。

ゆかり「それでも……自分の行いを……過去を忘れ去る事が出来ないというのであれば」

ゆかり「私も共にそれを背負って生きましょう」

そら「え……?」

俯いていたそらが、顔を上げてゆかりを見る。


ゆかり「罪の無い人々を滅ぼしたという事実は、本来ならば私が責められるべきものです」

ゆかり「あなたが罪悪だと感じるそれは、私にとっても同じ事……」

ゆかり「ならば、共にその贖罪の方法を探しましょう」

そら「つみほろぼしをするってこと……?」

ゆかり「はい……いつになるかは分かりませんが、きっと許される日が……」

ゆかり「自分を許せるようになる日が、来るはずです」

そら「いつか……来るはず……?」

ゆかり「だから、その日が来るまで、そらさん……あなたは、生きなければなりません」

ゆかり「そして、私の場合はあなたにも許しを請わなければならないんです」

そら「あたしに……?」

ゆかり「はい……だから、私のためにも……どうか、生きてください」

そら「……」

そら「そっか……うん……わかった」

力なく頷くそらだったが、しかしその瞳には微かに希望が宿っていた。


──その後しばらく経ちました──

そら「そらちん完全復活!!」クワッ

ゆかり「!!?」ビクッ


ゆかり「ど、どうしたんですか突然?」

そら「うん……あたし、もう悩むのやめたの! 吹っ切れたとも言うねー☆」

ゆかり「……」

そら「今までいろいろやらかしてきた分、これからはそれ以上のはっぴーを周りに振りまくんだ!」

ゆかり「そう……ですか」

ゆかり「(これは……そらさんも、もう大丈夫ですかね)」


そら「それで……ゆかりん、今までありがとね!」

ゆかり「ゆ、ゆかりん!?」

そら「あたしが立ち直れたのはゆかりんのおかげだから☆」

ゆかり「そんな……私にはあなたから礼を言われる資格なんて……」

そら「前にゆかりん、あたしのこと悪くないって言ってくれたでしょ?」

そら「それなら、ゆかりんだって悪くないはずだよ!」

ゆかり「……」

そら「……悪い人なんて、いなかったんだよ」

ゆかり「そらさん……」

そら「だから、そんな顔してちゃだめ! にこにこすまいるで、はっぴーになろっ☆」

そら「ね? 仲直りの為に……はちょっと違うかな」

そら「えっと……とにかく! これからもよろしくってことで、あたしとれっつ握手!」スッ

ゆかり「……っ!」

ゆかり「はいっ!」ギュッ


野々村そら復活編──完


※光波剣(フォトンザンバー)

評議会工作員の用いる暗器。
人工的に作り出された特殊な素粒子を本体から刃状に形成し、それで斬りつけ対象を切断する武器。
本体は歯ブラシとかサインペンとかそんな感じの細い形状をしている。
原理的には「物体を切断する」というより、「物体を構成する原子の結合を切断する」と言った方がより正確。
出力を調整することによって、刃を鞭のようにしならせて攻撃することも可能。

そらの場合は服の袖の内側をはじめ、常に複数個隠し持っている(戦闘の際は某クラリックの拳銃的な感じで手元に飛び出す)。


※バスターフルート

ゆかりの扱う音響兵器。評議会がエリート工作員向けに開発したもので、扱うには特殊な訓練が必要。
怪しい音波を飛ばし、標的を昏倒させたり発狂させたりできる。脳みそで思考して動く生物になら大抵効く。
あるいは、目標の物質の固有振動数だか共振周波数だかに対応した音波を照射してどうのこうのすることによって、
対象を物理的に破壊することも出来る。電子回路みたいな精密機械には特に有効。
また、光波剣が仕込まれており、いざという時のための近接攻撃能力も有する。

ゆかりが地球で扱う際には地球人の楽器"フルート"に偽装して持ち歩いている。


※ヘレンのロボ

生産性と汎用性を高めた新型ロボ。
このロボにヒーロー達の攻撃を受けさせ、そのデータを収集し、対策を講じるという目的があるらしい。
倒された原因をその都度潰していけば、最終的には無敵のロボが出来上がるのではないかとか多分そんな感じ?

投下終わりです
宇宙のヘレンをお借りしました
ついでに変な設定付けちゃいました、場合によってはスルーしちゃって下さい


なんとか野々村さんキャラ路線修正できたね、無事に復活したね!うん、よかったよかった
……ごめんなさい、野々村さんが復活するまでの過程は何か色々あったはず、端折っちゃったけど

この二人のスタンスとしては、積極的に地球の情勢には関わらないけど、ちょっかい出された場合は反撃する感じ

ちなみに、ゆかりの武器はモンスターハンターはモンスターハンターでも、戦車に乗って戦う方のヤツでした
装甲の上からCユニットをぶっ壊すよ!

おつー
最近のヘレンさんはマジでカッコイイな
突然のそらちん完全復活ワロタ、いや良かった

うひょー!芽衣子さん箱から出てきた!!やった!!これで勝つる!!

あ、投下します
前回から随分と間が空いてしまってすみません。


前回までのあらすじ

剣舞に挑戦することになったんだワン!


参考
(美穂と犬面の姫)
>>432-



その少女は踊る。

薄暗い祟り場を照らす、銀色の月明かりの下。


その少女は舞う。

狂騒の宴が開かれる公園、少しだけ高い、小さな舞台の上。


その少女は魅せる。

目がくらむほどに美しく、そして激しい剣達の舞を。


今宵の祟り場、彼女がこうして踊るのはもう幾度目か。

しかしまあ、何度見ても、見事なもの。

次々と現れる剣と共に踊る、危うくも可憐なその姿、一瞬たりとも目が離せぬ。


そして観客達は、これまで同様、その次に起こる何かにも期待を馳せる。


一舞、純白の姫君は黒き闇の兵達と戦い、白銀の王子に救われた。

二舞、邪悪なる蒼白の魔女は、姫と王子の愛の前に倒れた。

三舞、深遠なる海に囚われた姫は、王子と共に鎧の海魔と戦った。

四舞、姫は、機械の音楽家と花の踊り子と共に、光と音の世界を作り出した。


そして此度は五舞目、さあさあ、果たしてお次は何が起こる?

――

妖怪達が沸き立つ公園の広場の、

少女が踊る小山を挟んでその反対側。

向こう側からは見えない、比較的静かな木陰の裏。

そこで美穂達3人は自分達の出番を待ちながら、

少女と剣の織り成す、美しき舞を観覧していた。


美穂「あの・・・・・・・・。」

犬面の姫「何かの。」

美穂「たしか噂だと、扱う剣は5、6本って話だったと思うんですけど・・・・・・・。」

犬面の姫「だったの。」

美穂「あれ、何本あるんでしょう・・・・・・?」

少女の動きに合わせて、中空に舞う剣。

その数はとても片手で数え切れる本数ではなく。

犬面の姫「ふむ・・・・・・伝聞情報は当てにならぬな。10本からは数えておらぬが。」

肇「手に持っているものも合わせて、”今は”15本ですね。」

”今は”と肇が言ったように、明らかに人外の技で操られる剣は、

踊りが盛り上がる度に増えてるように見える。

美穂「・・・・・・まさかあんな風にたくさんの剣を操るなんて。」

踊る少女が手を触れずとも、その剣達は、それ自体がまるで命を宿すように、

時に彼女を厚く守る騎士のように、時に彼女を傷つける悪意のごとく、怒涛の乱舞を繰り広げる。

剣は手で扱うものなんて固定観念が美穂にはあったが、

そのような常識はまったく通用しないお相手だったようで。


肇「剣一本一本の造りの精巧さも見事ですが、」

肇「意思を与えられたかの様に振舞い、そして無数に増える剣のその在り方。興味深いですね。」

肇「なんだか、あの剣達を操る彼女に出会えた事には運命の様な物さえ感じます。」

刀匠見習いの少女は、舞い踊る剣達に興味を示し、食い入るように舞台を見つめている。

目を輝かせるその姿は、まるでヒーローを見つめる子供のようで、微笑ましかったけれど。


美穂「ちょっとだけ悔しいかも。」

小さな声でぼそっと呟く。

犬面の姫「心配せずとも、美穂どのはきっと、あれほどまでに踊れるようになるよ。」

舞台を集中して見ていた肇には聞こえなかったようだが、お姫様には聞こえていたようだ。

美穂「・・・・・・15本は無理です。」

彼女の言葉に、出来るようになるのだろうかと、少しだけ考えたけれど。

しかし、どう考えても人間業ではないあの領域にまで到達するのは、流石に不可能であろう。

犬面の姫「いやいや、まさかあの神業をそのまま真似ろとは言えぬ。」

犬面の姫「しかし全く同じ事はできずとも、同じほどに魅せることはできよう。」

犬面の姫「美穂どのには美穂どのにしか出来ぬ事もあるであろうからの。」

美穂「私にしかできないこと・・・・・・。」

なんだかそれも難しい事である気がした。

犬面の姫「まあ、それはこれからじっくり探すと良い。」

犬面の姫「さて、もうすぐのようであるな。」

もうすぐ、との彼女の言葉に舞台に目を戻す。


それまで静かだった公園に歓声が沸き起こった。

どうやら仮面の少女の舞が一段落付き、

見入っていた妖怪達が、次々と称賛の声をあげているらしい。


つまりもう間もなく、美穂の出番である。


美穂「えっと、私は黒い刀のお姫様で」

美穂「白い剣のお姫様のライバル・・・・・・」

美穂「それで、えっと」

舞台に上がる前に、自分の役目を口に出しての確認。

美穂「派手に登場して、とにかく向かって行くだったっけ。」

アバウトな指示であった。

美穂「お、お姫様かぁ・・・・・・私に勤まるのかな。」

美穂「うぅ・・・・・・意識するとまた緊張してきちゃったっ。」

美穂「こ、こう言うときは『人』って言う字を書いて」

美穂「人、人、人、人・・・・・・。」


飲み込むのも忘れ、『人』が数十人ほどに達した頃である。

犬面の姫「美穂どの、出番であるぞ。」

美穂「えぇっ?!も、もうですかっ?!」

美穂「ま、待ってください!今抜きます!」

携えた刀の柄に手をかけ、

美穂「・・・・・・ヒヨちゃん、よろしくね。」

そうして、とうとう彼女は『小春日和』を抜いたのであった。

――

舞台の上では、仮面の姫君が、

誰かを待つように、佇んでいた。

手には一本の純白の剣。

それを両手で持ち、祈るように目前に掲げている。

周囲に舞っていた剣たちは今は居ない。

姫はただ1人、待ち人が来るのを静かに待っていた。

観客達もまた、その様子を静かに見守る。



 「 あ ~ は っ は っ は っ は っ は !!! 」


突如として、舞台に高笑いが響いた。

何事かと、どよめく妖怪達。


漆黒の流星が、舞台に落ちてきた。


小さな舞台、上空から現れたのは、

一本の美しき刀を手に持ち、黒い和装を纏う少女。

その姿はまるで戦国姫と言ったところ。

顔には獰猛な笑みを浮かべている。


此度のゲストの登場に、歓声が上がった。

突如現れた漆黒の姫君は、公園に集う観客達に目を移すと、

すぅーっと息を吸って、



美穂「わたしはっ!愛と正義のはにかみ侵略者ひなたん星人ナリぃっ!!」



高らかに宣言した。

それは、辺り一帯に響く、渾身のシャウトであった。


いきなりの事に静まり返る観客達。

それはそうだ。このタイミングで、まさかのシャウトである。

しかも愛と正義のはにかみ侵略者って何だ、それは。


美穂「あ、今回ははにかみ戦国姫だったひなたっ☆」

いや、そんな事はどっちでもいい


舞台の空気を完全にブチ破っての叫び。これには、その場に居る全員が困惑する。


その様子には意にも介さず、

漆黒の少女は真っ直ぐと、純白の剣の姫君を見つめ刀を向ける。


美穂「主演女優の座を賭けて勝負ひなたっ!!」


そんな形で、黒の姫君は、白の姫君に宣戦布告したのであった。

――

肇「・・・・・・すみません、こうなってしまう事くらいは多少なり予測しておくべきでした。」

舞台の様子をみて、頭を抱える肇。

肇「多くの妖怪達の箍が外れてしまうこの祟り場で、」

肇「ひなたん星人さんが暴走してしまわない保障なんて何処にもなかったですよね。」

妖刀から作られた人格であるところの、ひなたん星人は、

祟り場の影響を受けないどころか、むしろ溢れる妖気の影響を色濃く受けているだろう。

精神干渉をシャットアウトできる『小春日和』の特性であるが、

テンションの高揚は彼女にとっては、良い影響なのだからシャットする必要も無く、

舞台の上と言う事もあってか、

まあ、舞い上がってしまっているわけである。


犬面の姫「あはは♪面白いね、ひなたん星人ちゃん。」

犬面の姫「まあまあ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」

犬面の姫「白いお姫様と黒いお姫様の対決って意味では予定通りだしね。」

肇「貴女がそう言うのなら、大丈夫なのだとは思いますが・・・・・・・。」

犬面の姫「たしかに、これが本物の舞台で本当のお芝居なら、ちょっとした事故だったかもしれないけどさ。」

犬面の姫「ここはお祭りの場だよ?」

会場が沸き立つ声が聞こえる。

犬面の姫「ほら、ね?」

――

「ははは!またえらく可愛いのが来たな!」

「おもしれー!勝負事なら見届けてやるぜー!」

「お前どっちが勝つと思う?」
「そりゃあ白い剣のほうだろー」


この程度の事故なんて言うのは、祭りを盛り上げる華でして。

酒も入ってる観客達にはその場のノリで、あっさりと受け入れられるのでした。

疎らに聞こえていた野次は、次第に広がり、会場全体を包む喝采へと変わる。


美穂「あははっ♪」

この様子には、漆黒の少女も調子に乗って得意満面に笑うのであった。


仮面の少女「むふふっ♪」

それまで黙っていた彼女もまた、口を開いた。


仮面の少女「恋の演目にトラブルは付き物ですからねぇ♪」

仮面の少女「いいですよぉ、それならそれでお相手いたしましょう♪」

その言葉と同時に、彼女の周囲に無数の剣が現れ始める。


漆黒の少女もまた、己の持つ刀を構えた。


向かい合う両者。

当初の予定とは、ほんの少し違えど、

白と黒の剣の舞が今始まる。

――


まずは、漆黒の少女が地を蹴った。


まさに疾風の如く、純白の剣の姫君に近づかんと、舞台を駆ける。

しかし、その動きは、眼前に迫り来る幾本もの黒き剣、

姫君を守る忠臣達に邪魔される。


彼女目掛けて飛んできた1本目と2本目の剣を、刀を振り下ろして同時に叩き落とす。

3本目は身体を捻らせて回避。そのまま流れるように刀を目の前に持ってきて4本目を防ぐ。

ギチギチと音を鳴らし、4本目との打ち合いとなるが、

その状態から漆黒のオーラが刀から放たれ、4本目は弾き飛ばされる。

弾き飛ばされた4本目が、続いて迫っていた5本目6本目にぶつかり、それらも撃墜。

その間に、背後から戻って来ていた3本目を打ち落とす。

すぐ様振り返り、7本目8本目9本目による三方向からの同時攻撃を刀の一振りで防ぐが、

続く、10本目による上方からの突撃を防ぐ術が無く、

仕方なく後方に退避、彼らが追ってきた所を迎撃し、まとめて薙ぎ払った。


それは一瞬の攻防。

漆黒の少女は迫り来る10人の兵達を捌き切ったが、

しかし、純白の姫君との距離はほとんど詰められてはいない。

再び、地を蹴り直す漆黒の少女。

美穂「ラブリージャスティス・・・・・・。」


美穂「ひなたんロケットッ!!」

彼女の足先から、地面に漆黒のエネルギーが放たれる。

地面は穿たれ、そして弾け飛ぶように、漆黒の少女が仮面の姫君に迫る。

疾風迅雷の強行突破。

先ほどと同じ様に黒い剣たちが彼女に襲い掛かるが、

少女の身体中から発される漆黒の闘気によって、彼らは触れること敵わず、弾かれ散っていく。


そして、瞬く間に仮面の姫君との距離をつめた少女が、

漆黒の闇を纏いし刀が振り下ろした!!

ガィイン!

純白の剣が、黒の斬撃から主を守る。

2人の姫の視線が交差して、

打ち合いが始まった。


漆黒の姫は、縦横無尽に姫君の周囲を駆巡りながら、

刀を振りかぶって、強烈な攻撃を何度も放つが、

純白の剣は踊るように、のらりくらりとそれらの攻撃をいなしていく。

何度となく、そんなやり取りを繰り返しながら、

徐々に、二人の剣戟の速度は上がっていった。

黒の猛攻、白の舞踏

反する二種の輝きが彩る舞台に観客達の興奮が高まる。


彼らが黒と白の姿を、目で追うのもやっとの速度になった頃、


漆黒を纏う刀が、ついに仮面の姫君の頭上を捉えた。

美穂「貰ったナリっ!」

これまでのやり取りの中で最も強烈なトドメの一撃が放たれる。

力強くも美しきその刀の軌跡に、誰もが恐れおののく。

白の姫に逃げ場は無い。


だが、


ザンッ!

突如現れた白銀の剣によって、漆黒の刃は防がれた。


彼の剣によって、仮面の姫君がまたも脅威から救われた事がわかり、拍手が沸く。


必殺の攻撃を防がれた黒の少女は、慌てて後退した。

白銀の剣に続くように、襲撃した純白の剣をどうにか彼女は回避する。


しかし、

彼女が後退した先には、姫君に仕える騎士達が待ち構えていた。

漆黒の少女が回りを見渡せば、

黒の剣達が、彼女を完全に包囲している。

立場逆転、漆黒の姫が剣達の檻に囚われる。


美穂「・・・・・・まずったナリ」


冷や汗をタラリと垂らす。

剣を掲げ、仮面の姫君が号令を出す。

その合図と共に、何十本もの剣が一斉に少女に襲い掛かった。


少女の持つ漆黒の刀が、何十と迫り来る怒涛の剣の乱れ撃ちを、

次々と打ち落としていく。

前後左右、上下問わずに降り注ぐ剣の雨。

その全てを、稲光の如く素早く、確実に一本一本切り崩す。

漆黒の少女は檻の中をくるくると嵐のように舞い踊った。

剣達が次々と、叩き落され、打ち上げられ、弾き飛ばされてゆく。

10本、20本、30本、

そして・・・・・・

彼女を襲った全ての黒の騎士達が地に伏して、剣の檻は打ち破られた。


少女は見事に窮地を乗り切った。

だが、檻を脱した直後、

息を整え、次の攻撃に備えて姿勢を正す前の、そのわずかな隙を狙われた。

白銀の剣が、漆黒の少女目掛けて、真っ直ぐと飛んでくる。

すぐに刀を前に出して、その重い一撃を少女は受けたが・・・・・・

それと同時に姿勢を低くして、猫の様に素早くしなやかに近づいて来た姫君の、

純白の剣の鮮やかな攻撃から身を守ることが出来ず。

美穂「しまっ・・・・・・。」


カァンッ!


と金属音が鳴き、漆黒の少女の手から、妖刀が弾き飛ばされた。

彼女の刀は、大きく飛ばされ舞台裏の方に消えていく。


美穂「・・・・・・えっ」


仮面の少女「これでは打つ手無しですかねぇ?」


刀を弾き飛ばされ、無防備となった少女に純白と白銀の剣の刃先が向けられている。


美穂「う・・・・・・。」

美穂(どどどどどうしようっ!!!)


なお、言うまでも無く、現在の彼女の人格は小日向美穂本人である。

『小春日和』が弾き飛ばされたことで、ひなたん星人の人格は引っ込み、

ついでに負のエネルギーで編みこんだ、衣装も既に霧散してしまっている。


仮面の少女「それでは、お仕舞いにしましょうか♪」

美穂「えっ、まっ」

抵抗の声はむなしく、

少女に向かって、無慈悲にも純白の剣が振り下ろされ。



彼女はギュッと目を瞑って

覚悟を決めた。


キィンッ



っと、剣同士がぶつかり合った音に、

美穂が意を決して目を開くと、


一振りの刀が、純白の剣を抑えていた。


どこかで見覚えがある、その刀。

たしかその刀は、

桜舞う公園で鬼の少女と共に出会い、

美穂の相方と、同等に、対等に打ち合った一振りの刀。


美穂「・・・・・・『桜花夜話』?」


それは折れてしまったはずの、肇の刀に似ていた。


犬面の姫「なんだか美味しいとこ取っちゃうみたいでごめんね。」


その美しき刀の使い手は妖の姫であった。


彼女は美穂を守るように純白の剣からの攻撃を防いでいた。


仮面の姫君の傍らから、妖の姫に向け白銀の剣が差し迫る。

純白の煌きに呼応するように、白銀の閃光が舞う。


これを避けるために妖の姫は、美穂を脇に抱えるようにして飛び退いた。



この時、一瞬の事ではあったが、

美穂には、犬の面の隙間から、その裏に隠された素顔を見ることができた。

その顔は、美穂にとってよく知る人物で。


美穂「えっ?!せ、せい!?」

犬面の姫「ふふっ、やっと気づいてくれた?」

美穂「な、なんっ」

なんで、と言おうとして、彼女の唇の前に人差し指が立てられる。

犬面の姫「説明は後で。」

犬面の姫「今は舞台に集中しなきゃ、ね?」


純白の姫君と、妖の姫、両者の間に距離が開く。

犬面の姫「さあ、美穂ちゃん。これを持って。」

妖の姫は、傍らに立つ少女に、

何処からか取り出したのか、一本の刀を差し出した。

美穂「・・・・・・これは」


手に取った刀は、妖刀『小春日和』。

ではなく、

それに似た姿をした別の刀。


ただそれは、いつも『小春日和』を目にしている美穂でさえ、見間違いそうになるほどにそれはよく似ていた。

手に握ればずっしりと重みを感じる。

しかし、握っても人格が形成されないと言う事はやはり別の刀なのだ。


少女は、両手で抱えるようにしながら、いつも”自分”がやっている様にその刀を構えた。

重みに少しだけよろめいたが、どうにか構えを形にする。


それを待っていたかのように、

妖の姫と少女の周りに、無数の剣が現れ始めた。


そして再び何十もの黒き騎士達による、一斉同時攻撃が行われる。

またしても全方位からの、何十本もの剣による同時攻撃。

その脅威が2人の姫に襲い来る。


犬面の姫「ツキアカリ」


妖の姫が、中空に刀を振ると同時に、辺りに光が舞い散った。



幻想的な光景であった。


辺り一面に、七色の光が迸り、

美穂達を守るように幾本もの刀の華が咲き乱れる。


黒の剣たちは、立ち並ぶ刀の防壁に弾かれて、

彼らの突撃は失敗に終わった。


美穂「刀を・・・・・・作った・・・・・・?」

犬面の姫「少し違うね。」

犬面の姫「写し出したんだよ、記憶にある刃の幻想を。この丘に転がる無数の小石や木の枝なんかにね。」


妖の姫が手に持つ『桜花夜話』も、

少女に手渡された『小春日和』も、

そして地面に突き立つたくさんの刀も。


それらは全て一本の刀が、

その記憶から、世界に写し出した幻想の輝き。


犬面の姫「『月灯』は無限で夢幻な、日本一、欲張りな刀だよ。」


パチン、と

妖の姫が指を鳴らすと。

地面が盛り上がり、幾人かの土で出来た武者達が現れる。

土くれの武者達は、それぞれ地面に突き立つ刀を手に取った。


さきほど、刀の防壁に弾き飛ばされた黒の騎士達が、

再び、主の敵を討たんと、舞い戻ってくる。

土くれの武者達は、妖の姫たちを守るようにそれらを迎え撃った。


犬面の姫「それじゃあ美穂ちゃん、一緒に踊ってくれるかな?」

彼女が左手を差し出して、

美穂「は、はいっ!」

少女の右手がその手を握る。

そして、二人は共に駆け始めた。


黒の騎士達と、土の武者達が争う戦場を駆ける二人の姫。

加熱する争いをさらに盛り上げるかのように、辺りには花が舞う。

不屈の黒の騎士団は、土の武者を一体二体と打ち倒すと、

純白の姫君を守るため、二人の行く手を阻もうと追ってくる。

一本、二本と、彼女達目掛けて飛んでくる剣達。

犬面の姫「右に飛んで!」

美穂「は、はい!」

犬面の姫「次は左っ!」

妖の姫のリードで、少女は踊るようにそれらをかわす。


妖の姫は再び中空にその刀を振るう。

舞い散る花びらが、彼女の持つ刀の刀身に写ると、

花びらを七色の光が包み、そして刃へと変わった。

宙に舞う刃が、彼女たちがかわしきれなかった黒の剣撃を防ぐ。


右へ、左へ、舞いながら、黒の剣の猛攻を切り抜けていく二人。

そうして、迫り来る全ての剣をかわしきって、

彼女たちは純白の姫の下にたどり着いたのだった。


少女は再び、純白の剣と対峙した。


すぐ背後からは、討ち損ねた幾本もの黒の騎士達が迫っている。

妖の姫は繋いでいた手を離し、少女に背を向け、背後の脅威と対峙した。

彼女の周りの地面が盛り上がり、再び土くれの武者達が集う。

どうやらこちらは任せて、

純白の姫との決着をつけろと言う事であろう。


少女の手には一本の刀。

それは普段頼りにしている相方ではなく、よく似てはいるが別の刀だ。

使い手たる少女自身、いつも戦うときの”自分”の姿を真似て、どうにか構える事こそできているが、

正直言って、このままでは戦うどころか刀を振り回すことすら難しいだろう。


それでも

目の前の、純白の剣のお姫様に対峙する勇気が欲しくて、


美穂(お願いヒヨちゃん、力を貸して。)

彼女は願った。


途端に、その呼びかけに答えるかのように、

目の前に流星が飛来した。

ザクリと目の前に突き刺さったそれは、一本の美しい日本刀。

その登場の仕方は、まるで彼女達が初めて出会った時みたいの事で、思わず少女には笑みをこぼれた。


少女は、『小春日和』を手にとった。


同時に、彼女の笑みは獰猛なそれに変わる。

夜色の和装が改めて編みこまれ、

左右それぞれの手に持つ”二本の刃”には、暗い闇が灯る。


美穂「ふっふっふ・・・・・」


美穂「 あ ~ は っ は っ は っ は っ !!!」


漆黒の戦国姫が舞台に舞い戻った。


その様子の一部始終を見守っていた仮面の姫君は、純白の剣を構える。

彼女の傍らに控えているのは、勇ましき白銀の剣。


漆黒の姫も、また準備は整ったとばかりに刀を構えた。

その両の手に持つのは、漆黒の闇を纏う”二本の”美しき刀。


さあ舞台は整った。

両者の距離は零になり、

そしてその剣が、刀が、ぶつかり合う。


白と黒、二人の姫が、

銀色の月の下、小さな舞台で舞い踊る。

純白と白銀、二本の漆黒、

四本の刀剣が、激しく打ち合った。


熱烈に、華麗に、謡うように、気紛れに、

炎のように、鮮やかに、優雅に気高く、堂々と力強く、

優しく撫でるように、荒々しく求めるように、

英雄の様に、戦争の様に、愛らしく、愛を込めて、


ただ剣と刀の奏でる音楽だけが、辺りに響き渡る。


既に、黒の騎士達も、土くれの武者達も、地に伏して、

唯一、妖の姫だけが立ち上がり、その戦いの行末をじっと見守っていた。


最後の瞬間は、きっともう間もなく。

一進一退の激しい攻防に息を呑む観客達。


仮面の少女は、やや上方から純白の剣で斬りかかり、

漆黒の少女は、右手に持つ刀でそれを受け止めた。

同時に左側から飛んできた白銀の剣を、

左手に持つ刀で撃ち払おうとする。

だが、白銀の剣は、突如旋回し

その軌道を変えて、漆黒の少女の右側より迫る。

漆黒の少女は、純白の剣を受け止める刀に流し込んでいる負のエネルギーを増幅させて、

仮面の少女を吹き飛ばすと、続く白銀の一撃を受け止めようとするが。

それは間に合わず、右手の刀は払い飛ばされた。


いや、払い飛ばされたのではない。

それはわざと手放したのだ。

漆黒の姫は、左手に持つ刀をすぐさま両手に持ち替え、

白銀の剣に向け、渾身の一撃を放つ。

美穂「ラブリージャスティスひなたんフラッシュっ!!」

カァンン!!

その威力に競り負け、白銀の剣は激しく弾き飛ばされる。

急いで、漆黒の少女は、仮面の少女へと向き直り、




漆黒の少女の胸元で、純白の剣がピタリと止まった。



仮面の少女「はい、チェックメイトです♪」

美穂「・・・・・・。」

美穂「やられちゃったナリ。」


大きな拍手と歓声が鳴り響いた。

――

――

――




美穂「すみませんでしたっ!」

賑やかな公園の広場の、舞台となった小山を挟んでその反対側。

向こう側とは打って変わって、静かな舞台裏で、

ぺこりと頭を下げる少女。

美穂「あのっ、そのっ、舞台に上がってすぐに勝手なことしちゃって、」

美穂「し、しかも、しゅ、主演女優とかなんか生意気な事言っちゃってて、」

美穂「ちょっ、ちょっとテンションが変になっちゃったんです!」

美穂「と、とにかくすみませんっ!!」

実際にやらかしたのは、ひなたん星人なのだが、

まあ、それも美穂自身が発した言葉には違いなかったために、謝らずにはいられなかったようだ。

仮面の少女「いえいえ、良いんですよ~。楽しかったですからぁ。結果オーライです♪」

仮面の少女「美穂さんのおかげで、また一つ素敵な舞台ができましたよ。」

美穂「・・・・・・そう言ってもらえると助かります。」

彼女の優しい言葉にほっと、胸を撫で下ろす美穂。

仮面の少女「むふふっ♪美穂さん、初めての舞台はどうでしたか?」

美穂「えっと、どうと言うか・・・・・・。」

美穂「舞台に立ってる時は、その、何か考える余裕なんて全然なかったです・・・・・・」

美穂「私自身、楽しむ余裕も、緊張すらしてる暇も無くて・・・・・・。」

美穂「だけど」

美穂「そうですね。何か、やり遂げた感じはしましたっ!」

それがきっと素直な感想。

仮面の少女「いいですねぇ、素敵なお返事です♪」

仮面の少女「また同じ舞台に立つ事があれば是非、よろしくお願いしますねぇ。」

美穂「は、はい!よろしくお願いします!」

仮面の少女「むふふ♪」


犬面の姫「今回は、無茶を聞いてもらってありがと。」

仮面の少女「いえいえ、どういたしまして~。」

仮面の少女「その子の事、本当にお好きなんですねぇ。」

犬面の姫「うん、大事な後輩だからね♪」

そう言って、彼女は美穂に笑いかけた。

美穂は少し顔が赤くなる。

肇「・・・・・・。」

美穂「肇ちゃん?」

肇「ズルいです。私も美穂さんの事好きですよ。」

美穂「へっ?!急に何を言い出すの?!」

ますます赤くなる美穂。

またも、肇のブレーキは何処かに行ってしまっていたらしい。

仮面の少女「むふふ、両手に華ですねぇ♪」

美穂「えっ、いや、そ、そういうことではなくてですねっ!」

仮面の少女「そう言う愛の形もアリだと思いますよ~♪」

美穂「あれっ?何か凄く変な勘違いされてるようなっ?!」

たぶん、からかわれているだけである。

仮面の少女「むふふ♪積もるお話もあるのでしょうし、」

仮面の少女「馬に蹴られてしまう前にわたしは退散させていただきますねぇ。」

仮面の少女「あ、お三方にも、これを渡しておきます。」

彼女は、3人に厳かな装飾が施された封筒を手渡す。

美穂「これは?」

仮面の少女「招待状です♪日程は追ってお知らせ致しますから、是非お越しくださいね。むふふ♪」

そう言って意味深に笑った彼女は、再び賑やかな公園へと戻っていった。



犬面の姫「いやあ、それにしても、本当に凄い子だったね。」

美穂「はい。ヒヨちゃん本気だったのに負けちゃいました。」

美穂の頭上でショボくれているアホ毛。

これまで多くの脅威を打ち破ってきた、ひなたん星人にとって、

舞台の上でとは言え、初の真っ向勝負での敗北。

そんな経験をしてしまったためか、どうやら落ち込んでいるらしい。

犬面の姫「お芝居、とは言っても実質的には3対1の戦闘のようなものだったのに、あんなに余裕だなんてね。」

美穂「3対1?」

舞台に立っていたのは3人で、2対1の格好だったから1人多い計算になる。

肇「私ですよ、美穂さん。」

美穂「あっ、そっか。肇ちゃんも舞台裏から妖術を使って助けてくれてたんだよね?」

肇には裏方で盛り上げて欲しいとか、そんな指示があった覚えがある。

肇「はい。土の武士達を作り出したのは私の妖術です。」

肇「『鬼土合落』と言います。土に形を与えて遠隔操作する術ですね。」

肇「ふふっ、土を弄るのは結構得意なんですよ。」

肇「アレだけの数の土人形を作って操れたのは、祟り場で溜め込んでしまった妖力があったからですが。」

美穂「ありがとう、肇ちゃん。私たちを守ってくれて。」

肇「いえ、土人形が振るうための刀を用意してもらえたからこその活躍ですよ。」

犬面の姫「それはお互い様だよ、『月灯』の特性はやっぱり振るい手が居てこそだからね。」

美穂「・・・・・・。」


『月灯』(ツキアカリ)

彼女はそれを日本一、欲張りな刀だと言った。

日本一、欲張りな刀。それは肇が美穂の憧れの人に渡したと言う鬼神の七振りの一本。

その刀を持っていると言う事は、やはり彼女は。


美穂「・・・・・・話は変わるんですけど」

美穂「とりあえずはっきりさせておきたい事から聞かせてもらっていいですか?」

犬面の姫「何かな?」

犬面の姫「・・・・・・なんてね、聞きたいことはだいたいわかるけどね。」


美穂「えっと、セイラさん・・・・・・でいいんですよね?」


犬面の姫「ふふっ、うん、アタシ。」

犬面の姫「セイラだよっ。」


そう言って犬面の姫こと水木聖來は、

被っていた仮面を少しだけズラして顔を見せた。

美穂に向けて一度だけウィンクすると、彼女はすぐに仮面を元の位置に戻す。


美穂「セイラさん、どうして妖怪のお姫様をやってるんですか?」

聖來「話せば長くなるんだけどね。」

聖來「元はと言えば、アタシの能力のせいなんだ。」

彼女がこんな状況に陥っている原因は、彼女のその能力にあるらしい。

美穂「セイラさんの能力・・・・・・たくさんの犬に寄ってこられてしまうあの能力ですよね?」

以前、公園で彼女と出会った時は、

ベンチの周りにあふれんばかりの犬を集めていた。

聖來「犬に限らず、他の動物だとか、場合によっては妖怪にも効いちゃうんだよね。アタシの能力。」

しかし、動物だけではない。あらゆる人外を寄せ付けてしまうのが彼女の能力だ。


肇「祟り場では、致命的な体質ですね。」

聖來「そうなんだよっ!もういきなりアタシの周りにわんさか妖怪が寄ってきちゃって!」

聖來「こう暗いと、『正体隠しのサングラス』もかけてられないから、」

聖來「危うく本当に百鬼夜行を引き連れちゃうところだったよ、あははっ♪」

美穂(明るく言ってるけど、それって凄く危険な状態だったんじゃ・・・・・・。)

祟り場においては、人間は大なり小なり運気が落ちる。

そして妖怪たちは箍が外れており、中には悪意がある者だっているだろう。

そんな中に、たくさんの妖怪を寄せ付けてしまう人間が居ると言うのは、

相当に危険な状態であろう事は、簡単に想像がつく。

そう言った力のない美穂ですら、今日は何度も妖怪たちに絡まれたのだから。

聖來「と言う訳で、アタシを追ってくるたくさんの妖怪達から逃げてたんだけど。」

聖來「その時に助けてもらったんだよね。犬頭の妖怪たちに。」

人に対して悪意を持つ妖怪も居れば、

人に対して好意を持つ妖怪達も居る。彼ら犬頭達は後者であったようだ。

聖來「あの子達にこの仮面を貰ったんだ。結構便利でね、妖怪たちの中に馴染める効果があるの。」

聖來「その上、これのおかげでアタシの能力の効果も抑えられたから、本当に助かったんだよね。」

彼女が今も犬の面を外さないのは、そのような理由があってのことだ。


聖來「それで、聞けばこの近くにはあの子達の縄張りがあるらしいんだよ。」

肇「ああ、なるほど。祟り場が開かれてしまえば、そこには周囲から妖怪が寄ってきますから。」

聖來「住処が無茶苦茶になるよね。」

美穂「だから、犬頭さんたちも祟り場を収束させたかったんですね。」

聖來「うん、あの子達にとっては自分達の庭に入ってこられて宴会騒ぎをされてるようなものだからね。」

いくら祭りが楽しいと言っても、自分の家も含めて強制的にその会場にされると言うのは、例え妖怪であっても困るのだろう。

聖來「個人的な理由もあって、この祟り場を一刻も早く収束させたい。とはアタシも思っていたから、」

聖來「助けられた恩もあったし、あの子達に協力する事にしたんだよ。」

聖來「まあ、まさかお姫様扱いになるとは思ってなかったんだけどね・・・・・・。」

聖來「そして、それからそれから美穂ちゃん達に会って、今に至るって訳!」

彼女にもここに至るまでに色々あったようだ。


美穂「・・・・・・・セイラさんの事情はわかりましたけれど、私にまで正体を隠す必要が無いような?」

聖來「ああ、それはちょっとした悪戯だけど。」

美穂「えぇっ、なんでそんな・・・・・・」

聖來「だって美穂ちゃん気づいてくれなかったもん。肇ちゃんはすぐに気づいてくれたのに。」

美穂「うぐっ」

確かに顔を隠していたとは言え、

憧れの人の事がすぐにわからなかったのは、ちょっと良くなかったかもしれない。

美穂「で、でもセイラさん口調変でしたから・・・・・・。」

聖來「あれ?口調変だった?お姫様っぽくなかったかな?」

聖來「うーん、演技はアタシももっと勉強しないといけないか。」

聖來「まあ、せっかく美穂ちゃんが気づいてないみたいだったから、なんか意地悪したくなったんだよ。ふふっ、ごめんね♪」

美穂「うぅ・・・・・・肇ちゃんも、気づいてたなら教えてくれれば良かったのに。」

肇「すみません。面白くなりそうだったので、つい黙ってました。」

美穂「・・・・・・今日の肇ちゃんにはブレーキが無いんだった。」


聖來「ところで、どうだったかな。美穂ちゃん?」

聖來「舞台に立ってみて、自信はついた?」

美穂「自信・・・・・・。」

聖來「あれっ?あんまりそうでもない感じ?」

美穂「い、いえっ!今から考えたら・・・・・・自分でも結構すごいことしてたのかもとは思ってます。」

聖來「ちょっと他人事感があるね。・・・・・・いきなりの事だったから、実感がないって感じなのかな。」

聖來「でも本当にすごい事したんだよ、美穂ちゃん。」

聖來「だって、途中、刀が弾き飛ばされちゃっても舞台に立ち続ける事ができたんだからさ。」

美穂「せ、セイラさんのおかげです。セイラさんに肇ちゃんも守ってくれたから。」

聖來「はい、ダメ」

美穂「えっ!急にダメ出しっ!?」

何故かバッサリだった。

聖來「美穂ちゃん、感謝の気持ちは大切だけど、そこは胸を張って欲しかったなあ。」

聖來「確かに人の力は借りたかもしれないけれど、それでも私は最後まで舞台に立ったぞってね!」

聖來「美穂ちゃんが最後までやり遂げた事は間違いないんだから。」

聖來「だから、はい、リテイク♪」

美穂「えっ?えっ?!」

聖來「私は最後まで舞台に立ってみせたぞ!リピートっ!」

美穂「えっ!?はっ、はいっ!わ、私は最後まで舞台に立ってましたっ!!」

聖來「うんうん♪上出来だねっ!」

美穂「・・・・・・え、えへへ」

美穂(なんだろう、言葉にしてみると、本当に凄いことをやり遂げたんだって気になれた。)


聖來「自分のやった事なんて大したことじゃないなんて、思うのかもしれないけれどさ。」

聖來「でも確かにやった。やり遂げた。ってそんなところから自信はつけていけばいいんじゃないかな。」

美穂「・・・・・・もしかしてセイラさん、舞台に誘ってくれたのは、私に自身をつけさせるためだったんですか?」

聖來「まあ、ね。」

聖來「ちょっと荒療治だったかもしれないけれど。またとないチャンスだったから。」

聖來「刀を使っていい、『小春日和』に頼ってもいい舞台なんて言うのはさ。」

聖來「これならきっと美穂ちゃんも、気兼ねなく舞台に立つこともできるだろうなって思ってて。」

聖來「そしてどんな形でも舞台に、人前に立ったって言う経験は、きっとこれからアイドルヒーローを目指す時に勇気になるかなって。」

聖來「と、まあ白状しちゃうと、そんな狙いがあったよ。」

それが水木聖來のこの舞台での狙いの一つだった。きっと彼女なりの美穂に向けてのレッスンだったのだろう。

美穂「セイラさん・・・・・・私のために色々と考えてくれてて、ありがとうございます。」

聖來「ううん、実際にはもう少し複雑な感情が美穂ちゃんにはあったみたいだったから、役に立てたかはわからないけど。」

美穂「私、今日この舞台に立てて本当に良かったと思います!」

聖來「そっか、それなら良かった。」

美穂の答えに彼女は安心したように笑った。


美穂「・・・・・・あれ、と言う事はもしかして、ヒヨちゃんが弾き飛ばされたのも、偶然じゃなくって・・・・・・」

聖來「・・・・・・あ、あはははっ。」

誤魔化すように彼女は笑う。

聖來「鋭いね、そこも気づいちゃうのか。」

聖來「うん、そうだね。アタシが仮面のあの子に頼んだんだ。」

言いにくそうに彼女は言う。

仮面の少女に、ひなたん星人から刀を手放させるまで、追い詰めるよう頼んだのは聖來であったらしい。

聖來「どうしてわかったのかな?」

美穂「セイラさん、前に会った時に、」

美穂「ヒヨちゃんじゃなくって・・・・・・わ、私を応援してくれるって言ってたから」

美穂「な、なんとなく・・・・・・もしかしたら、ヒヨちゃんじゃない私自身も舞台に立てるようにしてくれたのかなって・・・・・・。」

こちらも言いにくそうに、恥ずかしそうに、言葉にするのであった。

聖來「・・・・・・。」

聖來「ごめんっ!!」

美穂「えっ!」

聖來「こうした方が舞台に立てた実感もあるかなって思って。」

聖來「説明もしないで、いきなりの事だったから怖がらせちゃったよね、余計な事しちゃったかな・・・・・・本当ごめんね。」

美穂「ううん。セイラさん私のためを思ってやってくれたんですよね?」

美穂「だったら、その・・・・・・う、嬉しいですっ!!」

美穂「あのっ!セイラさん、ご指導ありがとうございましたっ!」

聖來「・・・・・・美穂ちゃんは本当に素直な良い子だね。こっちこそありがとうね。」


美穂「あ、そうだ。これ返さないとですよね。」

そう言って美穂は、先ほどまで使っていた刀を取り出す。

彼女の刀『小春日和』に瓜二つの二本目の刀。

美穂「・・・・・・・これも日本一、欲張りな刀の能力で”写し出した(?)”刀なんですよね?」

美穂「写し出したって言うのが・・・・・・その、よくわからないですけど・・・・・・一体どう言う特性なんですか?」

その美穂の疑問には肇が答えた。

肇「『月灯』はその刀身に他の刃の輝きを写しとることができる刀なんですよ。美穂さん。」

美穂「???」

肇「・・・・・・口で説明するのはちょっと難しいかもしれません。」

聖來「うん、たぶん実演も合わせた方がわかりやすいかな。」

そう言って彼女もまた、先ほどまで振るっていた手元の刀、

『桜花夜話』に瓜二つの刀を前方に掲げると、

聖來「戻れ」

と命じた。

同時に彼女の持つ刀が、ガラスの様に割れて砕ける。

美穂「えっ。」


そして割れた刀の中からは、別の刀が出てきた。

それは美穂も見たことの無い刀。

柄からその刃先まで黄金で出来ている刀。

さらに、その至る所に宝石が埋め込まれた刀。

あまりに装飾過多。故にそれ自体が何かを斬るための刀として機能するかさえ疑わしい。

ただ、その過剰なまでの煌きは、決して朽ちることが無いかのような『不朽さ』を感じさせる。


聖來「これが鬼神の七振りが一本『月灯』の本来の姿。」

聖來「万華鏡の様に虹色に輝く刀だよ。」


美穂「なんか・・・・・・凄くキラキラしてますね。」

とにかく派手で、セレブっぽいと言うか、もういっそけばけばしいと言うか、

簡素ながらも美しい『小春日和』とは、対極の姿をした刀であろう。

聖來「そして、ここからが面白い所なんだよね。」

聖來「美穂ちゃん、『月灯』をよく見ててね。」

美穂「わかりました。」

言われたとおり、じっと見つめる美穂。

しかし、何度見返しても派手だ。

鍔はなく、柄と刃は一体となっていてその全てが黄金に輝いている。

埋め込まれた宝石は色とりどり。

きっとこの中の1つに『強欲』の核が埋め込まれているのだろう。

そして白く輝く刀身。

白を通り越して純白と言ったところか。そこには一点の穢れもない。

柄も刃も、その全ては真っ白に輝いてて

美穂「えっ?」

聖來の手に握られていたのは純白の剣だった。

純白の剣、それは先ほどの舞台で、仮面の少女がその手に持っていた剣。

何時の間にか黄金の刀が、純白の剣に変わっていた。

美穂「ええっ?!」


聖來「見ていてくれた?」

美穂「どうして・・・・・・?一度も目を離してないのに?」

瞬きの間にすりかえられた思えない。

聖來「これが、刃の輝きを写しとる『月灯』の特性。」

肇「刃の輝きと言うのは、時に神秘的な美しさを感じさせますが、」

肇「『月灯』は、その輝きを切り替える事で、他の刃の輝きを見せることができるんですよ。」

肇「虹色に煌くその刀身の輝きを、万華鏡のように切り替えて、別の刃の輝きを写し出し、そしてその幻想を纏う。」

肇「お日様の光を写して、輝くお月様みたいに。」

肇「そうして写しとった幻想の刃は、本物と寸分変わらない刀剣として扱えます。」

聖來の手には純白の剣は既になく、

代わりに『小春日和』が握られていた。

聖來「まあ見た目だけで、その中身まで完全に写しとることは出来ないんだけどね。」

聖來「こうやって『小春日和』を写しても、アタシの中に人格を作り出すことはないし。」

聖來「さっきの『純白の剣』も手を離しても動き出すような事はないだろうね。」

聖來「けれど、切れ味とか頑丈さとか触った感じは全く一緒だよ。」

美穂「形が一つじゃないから日本一、欲張りな刀?」

聖來「ううん。それもなんだけど、贅沢なことにそれだけじゃないんだよね。」


聖來「アタシが今、手に持ってるのは『小春日和の幻想』を被った『月灯』の本体なんだけど。」

聖來「美穂ちゃんが今、手に持ってる『小春日和の幻想』はまた別の何かが幻想を被ってるってわかるよね?」


聖來が手にもつ『小春日和』も、

美穂が今、手に握っている『小春日和』も、

2つとも全く同じ、『月灯』が『小春日和』から写しとった幻想の刃。


しかし『月灯』の本体は聖來が手に持っていた方なのだから、

美穂の持つそれは、別の何かが『小春日和の幻想』を被っていることになる。


そうだ。彼女は戦闘中言っていた。小石や木の枝に刀の幻想を写し出した。と。


聖來「刃の輝きを受け取って、写しとることもできるけど。」

聖來「その逆、刃の輝きを放って、他の物体に写し出すこともできる。」

聖來「この二つが『月灯』の特性。」


彼女が『小春日和の幻想』を中空で振るうと、

その場所を中心に、辺りが虹色に輝き、光の中から数本の刀が現れた。

それらの刀は、全て『小春日和』の姿をしている。


肇「その幻想の刀身に写るあらゆる物、」

肇「あらゆる物と言っても刀身に写りきらない物にはダメなんですが、」

肇「主に写った小石や木の枝とかですね。」

肇「それらに刀の輝きを写し出して、幻想を被せることができるんです。」

肇「そうして生み出された幻想の刀は、それもまた『月灯』の刃として、それぞれ振るう者を求めています。」


肇「刀身が、ただ一つの輝きではその刀は満足しない。」

肇「使い手が、たった一人ではその刀は満足しない。」


肇「だからその刀は、無限の輝きを放ち、それを無限に増殖させる、夢幻の刀として存在する。」


肇「それが、『鬼神の七振り』:が一本。日本一、欲張りな刀『月灯』です。」


聖來「実演終了だね。」


肇が説明を終えると共に、聖來が指を鳴らす。

途端に周囲にあった『小春日和』が割れ砕け、その中から木の枝が現われ、地面に落ちる。


美穂「わわっ!」

美穂が手に持っていた『小春日和の幻想』も同時に割れ砕けた。

その中から出てきたのは、黄金に輝く鞘。

美穂「これって。」

聖來「うん。『月灯』の鞘だよ。」

鞘に『小春日和の幻想』を被せ、美穂に持たせていたようだ。

美穂の手から、聖來は黄金の鞘を受け取り、

何時の間にか手に持っていた黄金の刀を納めた。


肇「今の説明で『月灯』の事はわかりました?」

美穂「えっと、うん。なんとなくは。」

難しかったが、とりあえずまた扱い辛そうな刀なのはわかった。

美穂「無限に増える刀かあ・・・・・・。」

美穂「あっ、そう言えば、仮面のお姫様の剣も似たような感じだったね。」

あの剣達もまた、無限に増える剣と言えるのかも知れない。

肇「ええ。本当に興味深い剣でした。」

肇「『小春日和』の様に意思をもっているかのように振る舞い、『月灯』のように無数に増える剣。」

肇「あれほどの剣を操る彼女は一体何者だったんでしょうね。」

美穂「えっ?妖怪じゃなかったの?」

肇「・・・・・・妖怪とは気配がまた少し違いました、それ以上の事はわかりませんでしたが。」

美穂(・・・・・・ちょっとホラーな気がする。)

一緒に舞台に立ったはずの少女。

その正体は、謎。

背筋がひんやりとした。最後の最後で、本当に肝試しみたいな感じだった。


聖來「あの子が何者だったとしても、あの子の作ってくれた舞台のおかげで」

聖來「アタシ達は目的を達成できたから、それでいいんじゃないかな。」

肇「・・・・・・そうですね。私の溜め込んでしまった妖力も、」

肇「『小春日和』が溜め込んでしまっていた負のエネルギーも、ほとんど解消できました。」

聖來「『月灯』も同じく負のエネルギーを解消できたよ。」

美穂「あ、そっか。セイラさんも私たちと同じで、刀の感情を解消しないといけなかったんですね。」

聖來「うん、3人とも抱えてた問題を解決できたから一石三鳥だったね。」

聖來「あっと、違うか。」

そう言って、聖來はその視線を美穂達からズラした。


犬頭壱「姫様~っ!」

その視線の先には犬頭の妖怪達。

公園の集まりからこちらの方に駆け寄ってきた。


聖來「どうだった?」

犬頭壱「舞台での姫様のご活躍!我々も遠めから拝見させておりましたが実にお見事でございましたっ!」

犬頭弐「そして今しがた、有志を募ったところ!舞台を見ていた妖怪達の一部から協力を取り付けることもできました!」

犬頭参「これ僕たちの活動も捗るワン!姫様のおかげワンッ!姫様超カッコよかったワンッ!!」

聖來「ふふっ、良かった。上手くいったみたいで。これで一石四鳥だね。」

続いて、駆け寄ってきた大戌に、聖來は跨った。

聖來「さてと、それじゃあアタシはそろそろ行くよ。」

聖來「祟り場の収束の方も放って置けないからね。」

美穂「あのっ!わたし達も手伝います!」

肇「ええ、この事体を放っておけないのはわたし達も一緒ですから。」

聖來「気持ちは嬉しいけれど、手伝ってくれるのはここまででいいよ。」

2人は、この先も手伝うことを申し出たが、しかし意外にもそれは断られた。

聖來「この先は私の仕事。だから美穂ちゃん、肇ちゃん、後の事は任せてくれればいいからさ。」

聖來「特に美穂ちゃんは慣れない事したばかりなんだから疲れてるでしょ?」

美穂「それは・・・・・・。」

確かに疲労はあった。ひなたん星人の方も敗北してヘコんでいるために、精神的にも辛いかもしれないし。

それに肇にしたって今朝は倒れていたのだから、あまり無茶をさせる訳にもいかないだろう。

聖來「手も足りそうだから、心配しなくていいよ。ゆっくり休んでて♪」

美穂「ちょっと歯がゆいけれど・・・・・・セイラさん、後はお願いしますっ!」

肇「お言葉に甘えさせていただきます。」

聖來「うん、任されたよっ!」


美穂「・・・・・・あのっ!セイラさんっ!」

美穂「今日は本当にありがとうございましたっ!」

聖來「お礼を言うのはこっちの方だよ。美穂ちゃん。手伝ってくれてありがと。」

美穂「いえっ!あの!今回の事で私、グッと自信持てたと思うんですっ!」

美穂「だから良かったら、また今度会ったときも是非ご指導お願いしますっ!」

聖來「ふふっ、美穂ちゃんにとって、いい経験になったみたいで良かった。これは一石五鳥だったのかな♪」

聖來「次に会ったときは本格的なダンスのレッスンとかもやってみようか♪」

美穂「!」

美穂「はいっ!」

聖來「それじゃあ、美穂ちゃん、肇ちゃん。またねっ!」

美穂「はいっ!またっ!」

肇「またお会いしましょう。」

そうして、聖來と犬頭の妖怪達は、さらに幾体かの妖怪を引き連れて、去っていた。


その場には、美穂と肇。2人の少女が残される。

肇「水木聖來さん、いい人でしたね。」

美穂「あの人が私の憧れなんだ。」

肇「美穂さんが憧れるのもわかる気がします。」

肇「私も『月灯』を、あの人に預けることが出来てよかったです。」

美穂「セイラさんなら絶対正しく使ってくれるよ。」

肇「そうですね、きっと大丈夫だと思います。」


美穂「・・・・・肇ちゃん、これからどうしよっか。」

肇「私の妖力も『小春日和』の負のエネルギーもほとんど解消できたので、」

肇「このまま美穂さんの家に帰ってもいいのですが・・・・・・。」

2人は公園の賑やかな方に目を向ける。

小高い山を挟んでいるために、向こう側は見えないのだが、

それでも楽しさはしっかりと伝わってきた。おまけに何かいい匂いもする。

どちらからともなくお腹がなる音がした。

美穂「・・・・・・そう言えば、お腹空いたね?」

肇「確かに、今朝から食事は取ってなかった気がします。」

美穂「わたし達も何か貰いに行こっか。」

肇「ええ、是非お供いたします。」


2人はまた、賑やかな公園へと戻っていくのであった。


肇「そうそう、舞台での美穂さん、すごくカッコよかったですよ。」

美穂「・・・・・・うぅぅ、それ不意打ちで言われると、恥ずかしいなぁ。」


おしまい

『月灯』

『鬼神の七振り』の一本で、日本一、欲張りな刀。
本体となる刀の通常形態は、鍔が無く、一体となった柄と刀身は全てが黄金で出来ており、
『強欲』の核の他に、色とりどりに輝く宝石が幾つも埋め込まれている。
その輝きが永遠に続くかのような『不朽さ』を感じさせる。鞘も同様に、黄金製で、装飾過多。
輝く幻想を写し取り、それを纏うことで、万華鏡の様にその形態を切り替えることができる刀。
刀身に写った刃物の輝きを写し取って、その刃の姿をした幻想を負のエネルギーから再現して作り出し、
それを被ることで、まるで実際の刃物そのものであるかのように扱うことが出来る。
一度刀身に被ったことのある幻想は、以後いつでも再現可能。
さらに作り出した幻想を、その刀身に写った物体(例えば木の枝や葉っぱなど)にも写し出す事ができ、
これによって幻想の刃物を幾らでも増やし、作り出すことができる。
無限の形態を持ち、無限に増殖する、夢幻の刀。
己の姿がたかが一つでは満足しない、己を振るう者がただ一人では満足しない日本一、欲張りな刀。
振るい方次第では、この世の全てを幻想の刃に変えてしまう。
欲望を暴走させてしまえば、所有者の肉体すらも、刃に変えられてしまうだろう。


『月灯・刀剣形態壱式「桜花夜話」』

妖刀『月灯』によって作り出される『桜花夜話』の再現レプリカ。
『月灯』の通常形態は刀としては、まるで役に立たないので、
この刀の幻想を被ることで、やっと通常の刀としての役割を果たす。
『桜花夜話』の打ち合う度に錬度を増す特性までは再現できてはいないが、丈夫な刀であり、扱いやすい。
例え、折れたり曲がったり歯こぼれしても、どうせ壊れるのは幻想なので、
再び幻想を作り直せば、また再び新品同様に扱えるようになる。
『月灯』を譲ってもらった際に、聖來は肇と模擬戦をしたため、その時の記憶から再現。


『月灯・刀剣形態弐式「小春日和」』

妖刀『月灯』によって作り出される『小春日和』の再現レプリカ。
性能は『桜花夜話』の再現レプリカとほぼ同じ。こちらの方がやや丈夫。
『小春日和』の人格を作り出す特性までは再現できてはいない。
美穂が扱うならばこちらの方が使いやすいであろうと、これを再現。
ひなたん星人は、こちらの刀にも負のエネルギーを纏わせることで、
『小春日和』とほぼ同等の刀として扱うことができた。

『鬼土合落』

肇の習得している妖術。地面の土を弄って操る術。
この術で数体の武者を作り上げ、その全てを見事に操って見せたが、
それは祟り場で溜め込んだ妖力があってこそ。


『犬の面』

犬頭の一族の持つ妖具。
被った人間は妖怪としての属性を持ち、周囲からは妖怪であるかのように映る。
犬頭達は昔から、人間と友好的に接しており、その過程で作られた道具であるようだ。
副次効果として聖來の『カリスマ』を抑える効果もあった。