唯「『女タラシの櫟井』」 (192)

※唯ゆず、唯千穂、唯岡、唯ふみ、唯頼、縁唯。エロ若干ある可能性ある。書き溜めなし。考えなし。
——————————

唯「私が、バリネコという風潮があるので」

唯「一スレくらい、逆なのもあっていい……よな?」


 これは『女たらしの櫟井』と呼ばれた一人の女子高生と、6人の美女の物語である。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1372945185

野々原ゆずこの場合——————————


ゆずこ「唯ちゃーん、おはよう!」


朝っぱらから、元気に声をかけてきたのは野々原ゆずこ。

私と同じ情報処理部に所属する、親友だ。

少々騒がしいところもあるが、頭も良いし、勿論顔も良い。

なにより。


唯「おはよう……朝から元気だな」

ゆずこ「えへへ〜……そりゃあ唯ちゃんに会えますからねぇ」

唯「あー……」


時折見せる可愛さがたまらない。

そんなお前が今日のターゲットだ、ゆずこ。

ゆずこ「それにしても今日朝から暑くない?」

唯「あぁ、暑いな」

ゆずこ「暑い……暑い〜」ギュウ

唯「っわ! くっつくな! 余計に暑い!」

ゆずこ「唯ちゃんの肌冷たくて気持ちい〜……」

唯「私は暑いから! やめろっ!」

ゆずこ「もう少ししたらやめるぅ〜……」

唯「今すぐやめろ」スッ

ゆずこ「はい! はい! やめました! もう離れました!」
    「だからその振りかざしたこぶしを下ろしてください」

唯「……わかった」ブン

ゆずこ「あ、いたいっ!」


このように、ゆずこは普段からボディタッチが多めだ。

彼女なりの愛情表現なのだろうが、毎回やられるこっちの身にもなってもらいたいものだ。

理性を保つのも、それほど簡単なことではないのだから。

私の愛のムチは、すぐに決壊してしまいそうなわたしの心を抑える一つの手段である。

決してゆずこが触れてくることに腹を立てているわけではない。

往来で、彼女の痴態を見せるわけにもいかないので

“やむを得ず”拳を振り下ろしているのだ。許せ、ゆずこ。

まぁ、そんな我慢も今日で終わりなのだが。


唯「良かったな」

ゆずこ「……良くないっす……」

朝の一連のやり取りを終え、縁と合流した私たちは

3人でそろって学校へと向かった。


授業を終え、誘惑の多い休み時間を乗り越え

やっとやってきた、昼食の時間。

この昼休み45分という

いや、“縁が席を離れるほんの数分”というごく短い時間の中で

私はついに“ゆずこ堕とし”を決行する。

こんな短時間で何ができるのかと思われそうであるが

それなりに場数を踏んできた私にとってはベリーイージーなミッションである。


縁「あ、私トイレに行ってくるね〜」

唯「おぉ、行ってら」

ゆずこ「無事に、帰ってきてね……」

唯「どこに行かす気だっ」


……さて、始めようかな。

唯「なぁ、ゆずこ」

ゆずこ「ん? なぁに、唯ちゃん」

唯「キスしていいか?」

ゆずこ「うん、いいy……」
    「……」

ゆずこ「……え?」

唯「だから、キスしていいかって聞いてるんだ」

ゆずこ「えっ、い、いや……あ、あれ?」
    「ど、どういうことっ……すか?」

唯「こういうことだよ」スッ

ゆずこ「えっ、ちょっ、ちょっとまっ——!!」

ゆずこ「——ッ」


ゆずこ「——あれ?」

唯「……なんてな、冗談だよ」
 「ほら、ゴミ」

唯「……髪についてたから取ってやろうと思ってさ」

ゆずこ「……へ……?」

唯「お前、いっつもアタシにちょっかい出すだろ?」
 「たまには仕返ししてやらなきゃ、と思ったんだ」

ゆずこ「……あ、あぁー! そ、そっ、そうなんだー!」
    「もーっ、唯ちゃんに一本取られちゃいましたーっ!」

唯「ゆずこ、まさかお前、本当にされると思ったのか?」

ゆずこ「そりゃあもう! だって唯ちゃんの目、本気っぽかったし!」

唯「……それはまぁ」


唯「……半分、本気だったからな」


ゆずこ「……え」

縁「えへへ、ただいまぁ〜」

唯「おぉ、お帰り……なんかご機嫌だな」

縁「今そこでふみちゃんと話してきた〜」
 「……って、あれ? ゆずちゃんどうしたの? 顔真っ赤だよ?」

ゆずこ「……えっ!? あ、えぇーと」
    「なっ、なんでもない……」

縁「……? 変なゆずちゃん」

唯「……」

冗談の中に、独り言のような本音を混ぜる。

こうすることで、本音をただ一言いうよりもより真実味が増す。

案の定、午後の授業中、ゆずこは私の方に視線を向けてくることがあった。

私を意識せざるを得ない状況に持ち込んだら、あと一押し。

……なのだが、ゆずこの場合、その一押しも必要ないだろう。

なぜならば、ゆずこは確実に私に好意を寄せているからだ。

自分で言うのもあれだとは思うが……実際ゆずこは分かりやすい方なのだ。

そのことを知ったうえで、今日はこの作戦を実行した。

きっと、放課後には、何らかのアクションがあるはず。

と、考えているうちに放課後となり

さらに、ゆずこと二人きりという状況になった。


唯「……」

ゆずこ「……」


少しだけ、ぎこちない雰囲気。互いに意識し始めたときのこの感覚は

やはり今でも心地よいものである。

ゆずこ「……」

ゆずこ「ねぇ……あの……唯ちゃん?」

唯「ん? どした?」

ゆずこ「あのさ、さっきの……」
    「……えっと」

ゆずこ「……お昼の時の……ことなんだけど」

唯「……あぁ」

ゆずこ「唯ちゃんが言ってたことって、本当なの?」

唯「……」

唯「半分、本気だったってことか?」

ゆずこ「うっ……うん」

唯「……嘘っぽかった……かな」

ゆずこ「い、いやっ! そんなことない……です、けど」
    「……唯ちゃんが、そんなこと、言うのかなって……思って」

ゆずこ「……そっか、本気、なんだ」
    「ふっ、ふーん……」

唯「……やっぱ、迷惑だよな」

ゆずこ「え?」

唯「お前と、キスしたいなんて……さ」

唯「そんなの、おかしいよな、やっぱり」

ゆずこ「い、いや、そんなことな」

唯「ごめんっ、私……友人失格だよ」
 「……ごめんな、ゆずこ」

ゆずこ「……ゆ、唯ちゃ」

唯「謝るから、今日のことは忘れて——」

ゆずこ「唯ちゃんっ!!」

唯「——ッ」

ゆずこ「……私の、話も聞いてよ」

ゆずこ「……お願い」

唯「……」

ゆずこ「……私ね、唯ちゃんにキスしても良い? って聞かれた時」
    「本当は……う、嬉しかったんだ」

唯「……え?」

ゆずこ「だ、だって、私だって……! したかったから……!」

ゆずこ「だから、唯ちゃんが冗談だ、って言ったときはちょっと悔しかった」
    「でも、その後半分本気だったって言われて、もう、よく分かんなくなっちゃってさ」

ゆずこ「今、唯ちゃんの気持ちちゃんと聞けて、そしたらやっぱり嬉しくって」

唯「ゆずこ……」

ゆずこ「だ、だからっ! ……」

ゆずこ「唯ちゃん、キス……して、良い?」

唯「……」

唯「髪に、ゴミついてないけど……平気か?」

ゆずこ「……ぅん」

唯「……そっか」
 「じゃあ……」


——

ゆずこ「……ぁ」

唯「ん……」

ゆずこ「え……えへへっ、しちゃった」

唯「……そ、そだな」

ゆずこ「……無味、なんだね」

唯「そうか? ……ゆずこの味がしたけど」

ゆずこ「ちょ! 唯ちゃんそれは……恥ずかしいッス……」

唯「……アタシも言って恥ずかしかった」

ゆずこ「でも……」

ゆずこ「……嬉しい」

唯「……アタシも嬉しいよ」

ゆずこ「……好き」

ゆずこ「……好きだよ、唯ちゃん」

唯「……ん」


唯「アタシもだよ、ゆずこ」


——アタシは、やっぱり友人失格。


——————————野々原ゆずこの場合。

今日はここまで

キャラ崩壊が苦しいですね

相川千穂の場合——————————

唯「お、お邪魔します」

千穂「ど、どうぞっ……」


土曜日、私はクラスメイトである相川千穂宅にお邪魔することとなった。

何故、彼女の家を訪れることとなったのか。

……実は先日、体育の時間に足を怪我した彼女を保健室まで運び

私ができる応急処置を施したのだが、その際に

お礼がしたいと言ってきたのだった。

私自身としては、当たり前のことをしたまでであるし

その必要はないと考えていた。

しかし、彼女はどうしてもお返しがしたいらしく

お礼する、お礼いらないの応酬の末、いつの間にか家にお邪魔する流れになっていたのである。

偶然が重なった結果、今日という日が来たわけであるが

私にとっては、絶好の機会である。


実は初めて彼女と話した時から、私は彼女に目を付けていた。

同級生の中でも、彼女の容姿……主に胸が、とびぬけて良かったからだ。

さらにその後、何度か彼女と接していくうちに

柔らかな物腰や、照れやな面も見えてきて、私はさらに惹かれていった。


今日は、そんな彼女と二人きりでいられる貴重な日。

両親不在の自宅という、最高の舞台を彼女自身が用意してくれた。

そんなチャンスを、みすみす逃すような私ではない。


据え膳喰わぬは武士の恥。 それが私の座右の銘。

千穂「スリッパ、どうぞ?」

唯「あ、ありがとう」
 「……そう言えば、甘いにおいがするけど」

千穂「あ、うん……さっきまでお菓子つくってたの」
   「先日のお礼にって……おもって」

唯「そうだったんだ」
 「わざわざ、お菓子まで作ってもらっちゃって……ありがとね」

千穂「えっ、そ、そんな……ありがとうだなんて」
   「私のほうがありがとうって感じだし、その上お家に来てもらったわけだし……」

唯「相川さんの家には、一度行ってみたいって思ってたから、ちょっとラッキーかな」

千穂「そ、そうなの?」

唯「うん。 アタシだけ抜け駆けしちゃって、ゆずこや縁には悪いけどさ」

千穂「じゃあ、今度、来ることがあったらその時は」
   「野々原さんと、日向さんも呼ぼっか?」

唯「ほんと? そうしてくれるとたぶんアイツらも喜ぶよ」


今後、私だけで来ることが多くなるだろうけれど、ね。

千穂「じゃあ、私お菓子持ってくるから……」
   「櫟井さんは私の部屋で、待っててくれる?」

唯「うん、分かった」

千穂「私の部屋、ここなんだ」
   「ちょ、ちょっと片付いてないけど……」ガチャ

唯「……わ」
 「十分片付いてると思うよ、コレ」

千穂「そ、そう? なら……いいんだけど」
   「じゃあ、くつろいでて、ね。 櫟井さん」

唯「うん、待ってるよ」

...パタン

唯「……」


相川さんは、この部屋で一体どんな毎日を過ごしているのだろう。

学校の彼女は、真面目で、誰に対しても優しく接している。

自宅でも同じなのだろうか?

彼女の素も、いずれ見てみたいものだ。

……などと、考えているうちに、階段を上る足音が聞こえてくる。

私は、瞬間的に彼女の今の状況を思考する。

きっと、トレーか何かにお菓子なんかをのせ、ここまで来るはずだ。

となると、両手がふさがっている。

ドアを開けるには、一度そのトレーをどこかに置く必要があるだろう。

こんな時、その手間を取らせないことが大切だ。


唯「よいしょ」ガチャッ

千穂「あっ……」
   「開けてくれてありがとう」

唯「……両手がふさがってるかなって思ってさ」
 「あ、おいしそうなクッキー」

千穂「そう……かな?」
   「でも、味は分からないよ?」

唯「まぁ、食べて見なくちゃわかんないよね」

唯「……相川さんの気持ちが詰まってるから」
 「それで十分おいしいだろうけどさ」

千穂「えっ?」カァッ

唯「あ、うん、ごめん。 独り言だから気にしないで?」

千穂「う、うん……」

千穂「あっ……櫟井さん、紅茶、大丈夫?」

唯「うん、大丈夫。 好きだよ?」

千穂「良かった……何も聞かないで紅茶淹れちゃったから」
   「失敗しちゃったなって思って」

唯「あはは、そっか」
 「アタシ、特に苦手な飲み物とかないから心配ないよ」

唯「それじゃあ、クッキー、食べよっか」

千穂「う、うん……ちょっと不安だけど」
   「食べてみて?」

唯「いただきます」

唯「……ん」サク

千穂「ど、どうかな……?」ドキドキ

唯「……」

千穂「……」

唯「うん、おいしいよ、相川さん」

千穂「ほんと!? 良かった……!」
   「あんまりお菓子とか、作らないから……心配だったんだ」

唯「そうだったんだ」
 「相川さんも食べてみなよ、美味しいから」


そう言って、私はクッキーを一枚つまんで、彼女に差し出す。

自分が作ったわけでもないのだが、この行為自体が重要なのだ。


千穂「えっ、あ、えっと」カァ

唯「ね、あーん」

千穂「あ……ぁー」

唯「ね、おいしいでしょ?」

千穂「うっ……うん……おいひい」

唯「心配なんて、いらなかったね?」

千穂「……そう、かも」


実際、彼女の作ったクッキーに対する評価はお世辞でもなんでもなかった。

私が作るよりも確実においしかったのだ。

……まぁ、同性としては悔しい部分もなかったとは言えないのだが。

彼女の笑顔を見ていると、そんなことはどうでもよくなってくるものだ。

千穂「……」

千穂「……」

千穂「……え、えと、櫟井さん?」

唯「……えっ?」

千穂「そ、そんなに見つめられると、ちょっと……恥ずかしいんだけど」カァーッ

唯「あ、ご、ごめん」


……てなことを考えていたら、私はじっと彼女のことを見つめてしまっていたらしい。

そう、私が見とれるくらいには


唯「……綺麗だったから、つい」

千穂「へぇ!?」

唯「あ」


私の本音が駄々漏れになるくらいには、美人なのだ。

照れて顔を伏せる姿も、とてもかわいらしい。

正直なところ、私の脆い理性のダムは決壊寸前である。

……と思っていたところ


千穂「きゃ、あっ」


それよりも先に、彼女の手元にあった紅茶のダムの方が先に決壊してしまったようだ。

不用意に傾けられたカップからは、薄赤い液体がこぼれ

彼女の太ももを濡らして床に流れて行く。


唯「だ、大丈夫!? 相川さん」

千穂「う、うんっ……ちょっと、冷めてたから、大丈夫」
   「や、やっちゃった〜……」

唯「ちょっと待ってて」


そう言うと私は、ポケットからハンカチを取り出して

彼女の太ももの濡れた部分にあてがった。


千穂「わ、いいいい、櫟井さんっ!?」

唯「服、濡れてない?」

千穂「え、えっと、大丈夫……みたい」
   「と、というか、櫟井さん、ハンカチが……」

唯「大丈夫、紅茶なら洗えば落ちるし」


彼女の服の心配をしつつ、私はハンカチで丁寧に太ももをぬぐっていく。

彼女の胸のあたりからこぼされた紅茶は、広範囲に弾いてしまっていた。

彼女の白いチュニックが汚れなかったのは、不幸中の幸いだった。


唯「……」

千穂「え、ぇ……ぅ」


千穂「……ぁ」ビク


す、と内ももに滑ったハンカチに反応して

彼女は小さな声を上げた。


必死で他のことを考えようと

紅茶がどれくらいの高さからこぼれたとか

チュニックが汚れなくて良かったとか……そんなことを考えていたのだが

もう、私は駄目なようだった。


私が、改めて彼女を認識した時には

既に私は彼女を床に押し倒していた。


千穂「い……ちい……さん……?」

唯「……ごめん、相川さん」

唯「アタシ……もう、限界」

唯「可愛すぎるよ、相川さん」

千穂「……あ……えっ」


私は、彼女の額で乱れている髪を優しく梳いて

そのまま彼女の側頭部に手を添えた。


千穂「いち……さんっ」
   「ひゃ——!」


私は彼女の顔に近付いて

ぎゅっと閉じられた瞼に、唇を落とした。


唯「……は」

千穂「……は、は……ッ」

唯「……ごめん、相川さん」
 「しちゃった後で……申し訳ないんだけど」

唯「……嫌なら、言って」
 「その時は、やめるから」

彼女の耳元で、小さくつぶやくと

彼女は視線を逸らし、腕で自らの目元を隠した。

……泣かせた?

そんな時でも、私は彼女の泣き顔も見てみたいな、なんて考えてしまって。

どうしようもないな、自分、だなんて心の中で自らを嘲笑していた。


千穂「……なさい」

唯「……え?」

千穂「……ごめんなさい、櫟井……さん」

唯「……どうして、謝るの?」

千穂「……わ、私……」

千穂「今日……櫟井さんを、呼んだのは……」
   「まえの、お礼なんかじゃなくて……っ」

千穂「そんなの、ただの言い訳でしか……なくてっ」

千穂「本当は……私」

千穂「こういうことに、ならないかなって……よこしまな気持ちで」


千穂「……櫟井さんを、家に……よんじゃった……」

千穂「……だから……ごめんなさい」

唯「……」

唯「相川さん」

千穂「……っ」

唯「こっち、向いて」

千穂「……向けない」

唯「……どうして?」

千穂「私……今、みっともない……顔しちゃってるから」

唯「見せて、そういう顔も」

千穂「……だめぇ」

唯「大丈夫、可愛いから」


私の息が耳にかかるたび、体をぴくりと揺らす彼女が愛おしい。

私は、彼女の腕をゆっくりと動かす。


千穂「……いや」

唯「相川さんって、結構、頑固だよね」

腕をはがした彼女の顔は

赤くなって、目に少しだけ涙を湛えていた。


唯「……私もさ」

千穂「……」

唯「私も、一緒だよ」
 「……よこしまな気持ち、持ってたから」

唯「それより、私の方が、酷いかも」

千穂「……え?」

唯「私、相川さんに初めて会った時から」
  「そんな気持ちだったから」

千穂「——っ!」

唯「ごめんね? 相川さん」

千穂「そ、そんなこと……言ったら」
   「私だって……同じだもん」

千穂「私だって……! 櫟井さんに出会った時から」
   「ずっと……」

千穂「……だから……私だって、ごめんなさい……だよ」

唯「……」

千穂「……」

唯「ふっ……」
 「あははっ!」

千穂「……くすっ」

唯「アタシ達、謝ってばっかりだね」

千穂「うん、そうだね」

唯「これじゃあ、収拾がつかないからさ、これでおしまいにしよっか」

千穂「うん……」

千穂「……あ」

唯「ん? 何?」

千穂「……その……」
   「さっきのも……おしまい……?」

唯「……さっきのって?」

千穂「も、もうっ! 櫟井さんの……いじわる」

唯「あはは、冗談冗談」

唯「じゃあ、次は」

千穂「……ん」

唯「そっちに、ね」


彼女との、初めてのキスは

紅茶と、甘いクッキーの味。


——————————相川千穂の場合。


唯「……」

唯「また、ごめん、相川さん」

千穂「……どうしたの? 櫟井さん」

唯「……アタシ、これだけじゃ我慢できない……かも」

千穂「えっ!? あ、えっと……!」


...End...?


こいつら誰だよ状態。
なんだかごめんなさいね。

岡野佳の場合——————————

今の学校は美女ぞろいだ。

右を向いても、左を向いても、どこかしら魅力のある少女がいる。

クラスメイトである、岡野佳もその一人だ。

彼女は、先日私が可愛がった相川千穂のグループに属している。

性格はさばさばとしていて、どこか男っぽい。

相川千穂のこととなると、若干盲目的になる節があるが、そこもまた彼女の魅力だ。

今回は、その点を活かし、彼女を虜にしようと思う。


縁「今日のテーマは何にする〜?」

唯「あ、ゴメンな」
 「今日アタシ、用事あるから先帰るな」

ゆずこ「えぇ〜ん、唯ちゃん私たちより大事なものがあるっていうのぉ〜!?」

唯「まぁ、うん」

ゆずこ「酷い!」

縁「……」

唯「じゃあ、またな」

ゆずこ「……たまには連絡するのよ」

唯「お前はおかんか」

縁「あ、今度のテーマはお母さんにしよう!」

ゆずこ「鍋、おいしい!」

縁「おっぱい!」

唯「そっちのお母さんかよ!」

頼子「あら? 呼びましたか〜?」

ゆずこ・縁「お母さんだ〜!」

唯「なんか、スイマセン……」

頼子「え?」

唯「……ふー」

ゆずこ、縁、先生と別れた私は、下足に履き替え、門の方へ向かった。

門の脇には、岡野佳が時折足をたんたんと踏み鳴らしながら立っていた。

佳「お、来た」

唯「ごめんね、待たせちゃった?」

佳「いや、別に待ってねーよ」
 「それより、何だよ話って」

唯「あー、うん」
 「ここで話すのもあれだし、ちょっと移動しない?」

唯「時間、大丈夫だよね」

佳「別に大丈夫」
 「ウチその辺は融通きくし」

唯「良かった、じゃあ行こう」

佳「おー」

私たちは、近所のファーストフード店に移動した。

学校の知覚と言うこともあり、店内には学生の姿がちらほら見える。

私が目を付けている子もいたが、今は関係ない。

適当なものを注文して、店の奥の方のテーブルに座った。

適当なもの、と言っても、夜ご飯に相当するくらいの量で

そうするように言ったのは、私だ。 これもまあ、いろいろあるのだ。

佳「……何でガッツリ注文させたんだ?」

唯「え? うん、まぁね、ちょっと」
 「長くなるかなって思ったから」

佳「……んな大事な話なのかよ」

唯「岡野さんには、大事な話かな」

佳「は?」

唯「まあ、食べながら話そうよ」

佳「……ん〜」
 「……おう」

唯「……岡野さんってさ」

佳「ん?」モグ..

唯「相川さんのことはどう思ってる?」

佳「んッ……! くふ、くふっ」
 「はぁ、何だよいきなり……」

唯「いや、いっつも一緒にいるなあって思ったから」
 「気になってさ」

佳「……」
 「別に何とも……親友だろ」

佳「……私のだけど」

唯「あはは、そっか」

佳「何だよ」

唯「あ、うん……いや、それなら良いんだけど」

佳「……?」

唯「相川さんって、可愛いよね」

佳「……櫟井お前、さっきから何言ってんだ」

唯「顔だけじゃなくて、性格もさ」
 「……岡野さんはどう思う?」

佳「……」
 「いいんじゃねーの」

唯「だよね」

唯「……相川さんのこと、狙っても良いのかな」

佳「あ?」
 「なんつった、今」

唯「狙っても良いのかなって」

佳「……」

佳「お前、冗談も大概に

唯「アタシは、本気なんだけど」

佳「……ッ、櫟井、てめぇ」

唯「……岡野さんもさ」

唯「正直なところ、どうなの?」

唯「本当に、親友としか思ってないの?」

唯「アタシから見たら岡野さんは——

佳「ウチはっ!」
 「……ウチは」

佳「……」

佳「……くそ」


彼女が持っていた紙コップが、くしゃりと音を立ててつぶれる。

彼女は、私に対して明確な怒りを抱いているのがよくわかる。

……きっと、正確な判断ができない状況にあるはずだ。


佳「お前はそれを言うためにウチを呼んだのか」

唯「……それもあるけど」
 「もう一つ、あるんだ」

佳「……」

唯「……今から、アタシと勝負しない?」

佳「……勝負?」

唯「うん」
 「場所はまた移動しなくちゃいけないけど」
 
唯「もし、この勝負で岡野さんが買ったら」
 「アタシは相川さんのこと、あきらめるよ」


そう言った瞬間、彼女の動きが止まる。

本当に、分かりやすい子だと思う。


唯「アタシが勝ったら、相川さんのこと、狙わせてもらおうかなって」
 「……勿論、岡野さんも狙っていいんだけど」

唯「どうかな、悪い話ではないと思うんだけど」

佳「……」
 「本当に諦めるんだな」

唯「うん、アタシは嘘つかないから」

佳「……分かった」

佳「やってやる」

きっと、彼女も心の中では焦っていた。

相川千穂が、私と彼女のどちらかを選ぶときに

確実に自分を選ぶとは考えきれなかったはずだ。

だから、今回勝負するにあたって提示したルールは

彼女にとってはメリットしかない。

彼女自身が負けても、彼女は相川千穂のことをあきらめなくてよいのだから。

その上、怒りで冷静な判断ができない彼女が、この勝負に乗らないとはとても考えにくかった。

……相川さんを、変に巻き込んでしまったことは悪いと思っている。

今度、キスで許してもらおう。


唯「じゃあ、移動しようか」

佳「……」


私の本当の狙いは、君なのにね。

店を出た私たちは、オレンジに染まった町の

より明るい方へと向かった。

交通量が増え、人が増えていく。

夜になり始めた世界を照らすライトも

徐々に穏やかなものから、きらびやかなものに変化していった。

きっと、彼女もその異変を感じ取ったのだろう。

わき目で、その変に輝く街を眺めていた。

しばらく歩いていくと、ひっそりとたたずむ小さめのビルにたどり着いた。


唯「……ここだよ」

岡野「なッ……お前、ここ……」


彼女が言葉を失うのも無理はない。 ここは、ホテルなのだから。


唯「ここが勝負の舞台なんだ」
 「入ろうか?」

岡野「……」

唯「どうしたの?」

佳「……だって、お前……」

唯「……狙っても良いの?」

佳「……っ」


こういう雰囲気に慣れていない感じが、とてもかわいいと思う。


佳「……ったよ」

唯「じゃあ、行こう」


……こいつ、絶対性格ちげーよ

なんて、小さくつぶやかれた言葉を聞きながら

私たちは、フロントでチェックインを済ませる。

ここの受付の方とは、ちょっとした知り合いだ。

あら、また女の子を連れてきたのね、と、どすの利いた低い声で耳打ちされたが

私は軽くうなずいてそれを流した。

すると、その女性のような男性は、分かりきっているかのように、鍵を渡してきた。


唯「こっちだよ」

佳「……ああ」

先ほどから彼女とは、確認程度の会話しか交わしていないが

緊張感がひしひしと伝わってくるのが分かる。

あるドアの前で立ち止まり、鍵を開ける。

先に彼女を部屋に入らせ、続いて私も、後ろ手で鍵を閉めながら、中に入っていく。


唯「こういうところは、初めて?」

佳「……しるか」


少し恥ずかしそうに言う彼女は、とてもかわいい。

最近、理性をとどめておく壁のネジが緩んでいるのだろうか、と思えてくる。

私の我慢は、限界に近い。

早く早くと急かす私の中の欲望を、何とかなだめつつ


唯「先に、シャワー浴びてくるね」
 「楽にしてて」

佳「……あっ……あぁ」
 「その前に……良いか」

唯「何?」

佳「勝負の内容……」

唯「あぁ、言ってなかったっけ……」
 「でも、ここがどういう場所かを考えれば、ある程度察しはつくと思うんだけど」

佳「……」

唯「……端的に言えば、立てなくした方が勝ち」

唯「ね、簡単でしょ?」

佳「……ンなこと」

唯「ん?」

佳「……」
 「くそ……」


彼女も、分かってきたようだ。

無理だって言ったら、自分の好きな子が狙われるということを。

彼女を自分のものにするには、勝負して、勝たなければならないことを。


唯「じゃあ、ね」

佳「……」

—————

10分くらいでシャワーを済ませた私は、部屋に置いてあるバスローブに着替える。

この部屋のバスローブは、毎回新品の、フカフカのものが置いてある。

何故かと言えば、ここが常連や、フロントの知り合いが利用する部屋だからだ。

白い新品のローブに袖を通し、私は部屋に戻る。


唯「……お待たせ」
 「次、どうぞ」

佳「……あ、ぁ」


彼女は、片手に携帯電話を持っていた。

家族にでも、遅くなると連絡を入れていたのだろうか。

それとも、あの子と連絡を取っていたのだろうか。

そこは大した問題ではないのだけれど。

今日はここまでにします、眠いので。

俺はこういうのがやりたかったのだろうか。
まぁいいか。

私は、彼女がシャワーを浴びている間に

ゆずこや相川さん、その他の子にメールを送っていた。

こまめに連絡を取るのも、彼女たちとうまくやっていく秘訣だ。

メールがひと段落したため、テレビをつけて、いろいろな番組を流し見していく。

場所が場所なので、勿論ああいった類の番組もあったのだが

私の趣味ではなかった。


しばらくすると、シャワーの音がやんだ。

流石に衣擦れのおとはしないが(こういう時、衣擦れの音が聞こえたらいいのにと毎回思う)

今、彼女が様々な葛藤を抱えながらバスローブに着替えていると思うと

たまらなくなってきてしまう。


ガチャリ、とノブを回す音がすると、扉が開かれた。

佳「……待たせたな」

唯「ううん、そんなことないよ」


バスローブをまとった彼女は、とても美しかった。

濡れた髪が艶めかしさを醸し出している。

お湯の熱によるものなのか、照れによるものなのかは分からないが

頬に射した朱が、自然なチークとなってさらに魅力的になっている。


唯「……綺麗」

佳「ばっ……!!」
 「……くそ、早くすますぞ」

唯「じゃあ、こっちに来て」

佳「……」


あぁ、早く触れたい。

ベッドに彼女を座らせると、私は彼女の方に手を置いた。

彼女は、微かに体を震わせる。


唯「勝負、始めよっか」

佳「……ぁぁ」

唯「どっちが先オフェンス?」

佳「勝手に……してくれ」

唯「ん、じゃあ私から」


私が先だと、きっとずっと私がセめだと思うんだけど……

なんて、心の中で笑っていた。

……彼女はきっと、こういうときのやり方が分からないだろうと思う。

今後のためにも、しっかりと体に刻み込ませてあげよう。


唯「いくよ」

佳「……早く、しろって」

私はまず、彼女の首に狙いを定めた。

まだ、ボディソープの香りがするそこに、軽く舌をなぞらせる。


佳「ぅ……っ」


舌が、水音を室内に響かせるたびに、彼女の身体は軽く跳ねる。

そこから、徐々に上へ上へと舌を滑らせ

彼女の左耳に寄せていく。


佳「っ……くゥ……」


口から漏れる彼女の息遣いが、私の心をさらに昂らせていく。

もっともっと焦らして、彼女の身体に快楽への準備をさせてから

メインディッシュに移るのも良いかな、などと考えながら

私は執拗にその周辺を責め続ける。


佳「……ぁ」

彼女の身体は徐々に神経を敏感にさせていく。

私が軽く彼女の太ももに触れただけで、彼女は小さく声を上げた。

そろそろ、ここを責めるのもやめにしていいだろうと

私は舌を離して、彼女と向き合った。


唯「……ふふ」

佳「は……ァ」
 「交換、か……?」

唯「まだ駄目」

佳「……く」


私は、何となく顔を近づけた。

彼女は、びくりと体を震わせ、それを拒むような動作を見せた。

私のポリシーに、相手が嫌がる場合はキスをしないというのがある。

まぁ、一種の配慮みたいなものだ。

少し残念に思いながら、私は顔を近づけた勢いのままで、身体を抱きしめる。

女性を抱きしめた時が、私の幸福な瞬間の一つだ。

色々なタイプの子がいるが、そのどれもが幸せで、たまらない。

彼女のスレンダーな身体を抱いている今も同じだ。

幸福感にひとときの間浸り、再び彼女を責め始める。

片手は彼女の背中に、もう片方の手は、彼女の胸に添える。

まだ、直には触っていないが、身体の線を感じ取ることはできる。

私はゆっくりと、手を動かし始めた。


佳「くァ……」


円を描くように、先端を擦るように

軽く持ち上げたり、軽く揉んだり……

緩急を付けながら、彼女の身体をほぐしていく。


佳「は、はッ……」

佳「……ぅぁッ」

そろそろかな、と思ったところで、私は何気なくバスローブの隙間に手を滑らせた。

彼女の身体が少しだけ弓なりになる。


佳「うぁッ! て、てめっ……!」
 「く……ァ!」


肌はじっとりと湿っていて、ほのかに温もりを伝えてくる。

吸い付くようなもち肌が、心地よい。

小声で何かを言っていたようだったが、何度か先端を擦ると

その声は艶やかな吐息に変わった。


佳「はァ……ん」


普段は見せない表情が

普段の彼女からは想像もできないかわいらしい声が

私の中の欲望をさらにかき立てていく。

堪らなくなった私は、彼女のバスローブの帯に手をかけた。

す、と軽く引くと、結び目がほどけて、彼女の肌が露わになる。


佳「なっ、や、やめ」


彼女はあわてて、はだけた部分を隠そうとするが

私は片方の手でそれを遮った。


唯「大丈夫」

佳「なにが大じょ

唯「凄く綺麗だから」

佳「——」


彼女は口をぱくぱくとさせて、さらに顔を赤くした。

キスを誘っているのかと一瞬思ったが、勿論そんなことはないのでやめておいた。

背中を抑えていた手は、脇腹へと滑り、彼女のボディラインを優しくなぜる。


佳「……ふッ……んんッ」


はだけた部分を隠そうとする動きは徐々におさまっていった。

佳「はーッ……はぁッ」


息が、だんだんと荒くなってきた。

じわじわと弱めに責めすぎたろうか?

きっと、体の芯はぐらぐらと揺れているに違いない。

強めに押したら、簡単に倒れてしまいそうだ。

……だが私は、このドキドキをもっと味わっていたいと思った。

胸の先端を親指で軽くこすり上げながら、

ボディラインをなぞっていた手を彼女のヒップへと動かす。

無駄な肉の無い彼女のそれは、私の好みだった。

愛しむように、線に沿って撫でていく。


佳「ぁ、ぁっ……ひッ」


男っぽい彼女はどこへ行ったのだろう。

今の彼女は、かわいらしい、か弱い女の子にしか見えない。

まぁ、どちらの彼女も、好きなのだけれど。

始めてからどれくらい経っただろう。

楽しんでいる私にとっては、アッと言う間の時間ではあるが

焦らしに焦らされている彼女にとっては、かなりの長い時間に思えているだろうか。

ただの吐息から、だんだんと声が混じるようになってきて

そこには切なさも垣間見える。

いじめるのは好きなのだが、そろそろ、色々なものから解放させてあげようと思って

胸を弄っていたほうの手を、下腹部へと移動させる。


佳「なっ、そっちはっ……!!」

唯「勝負だから、ごめんね」

唯「大丈夫、破りはしないから」


いずれ彼女のそれも頂きたいなぁとも考えつつ

指を軽く割れ目へと滑らせた。


佳「あッ! ……あ!」


私の指はぴちゃりと小さな水音を立てた。

……やっぱり、いじめすぎてしまったみたいだ。

佳「はっ、ぁん……!!」


彼女のソコを傷つけないようにしながら、優しく指を動かしていく。

私の爪は、いつでも女の子を可愛がることができるように、綺麗に切ってある。

今日も例外ではない。

私の指は、彼女たちのためにあると言っても、過言ではないのだ。


佳「は、はぁ、はぁっ」


指を割れ目に沿うように滑らせたり


佳「いっ、ぁっ、はんッ」


小さな突起の周りをなぜたり


佳「ひゃっ、ぁ、ぁぁッ」


ふちをなぞるように、動かしたりした。

彼女の声は、どんどんと大きくなってくる。

そろそろ、第一回目のラストスパートだ。

佳「ぁ、ぁっ、ぅぁっ」

唯「そろそろ、交換させてあげるね」

佳「ぁっ、ま、まっ……てっ!」

唯「大丈夫、大丈夫」


落ち着くように頭を撫でてから

私は指の動きを速めた。


佳「あぁぁっ、ァッ、ァァッ……!!」


彼女の腰が、小さく震え始める。


唯「ねぇ、聞いて、岡野さん」

佳「はっ、ひっ、ひゃっ……!!」

唯「実はね、私、嘘ついてた」

佳「はぁっ、ぁっ、ぁっ」

唯「私、相川さんを狙ってるって言ってたけど」

佳「あっ、あっ、やば、だめだってっ! ——」


唯「本当は、岡野さんのこと狙ってたんだ」

佳「——ッ!!」

彼女は、声にならない叫びをあげる。

腰が何度も跳ね上がり、暴れる。

そんな彼女の身体を優しく抱きしめて、おさまるのを待つ。


佳「——っ、っ、く」

佳「は、はっ、はぁっ……」

佳「……はぁっ」

唯「結構、気持ちよかったでしょ」

佳「……ふ」

佳「……櫟井、お前……」

唯「あ……ごめんね、嘘ついちゃって」

佳「……この、ボケっ……はぁ」

佳「じゃあ、なん、だよ……この、勝負って」

唯「あぁ、この勝負ね」

唯「……岡野さんに触れたかったくてさ」
 「勝負って言う名目なら、考えてくれるかなって思って」

佳「……んだよ、ソレっ」

佳「じゃあ、お前は、相川のこと……」

唯「大丈夫、狙ってないよ」


嘘はついていない。


佳「——」
 「……はぁ」

佳「んだよ、心配して損した……」
 「……しかも、イカされ損じゃねーかよ」

唯「あはは、ごめんね」

唯「でも、さっきのは嘘じゃないよ」

佳「あん?」

唯「アタシが、岡野さんのこと狙ってるって」

佳「……っ」

唯「大丈夫、分かってる」
 「岡野さんは、アタシのことは、そうは見てないよね」

佳「……」

唯「……なんか、ゴメンね」

佳「……あ?」

唯「岡野さんのことだますようなことして」

唯「それに、こんなひどいことまで、しちゃって」

佳「……」

唯「……ごめん」
 「……やめよっか」

佳「待て、櫟井」

唯「えっ? わっ……」


私が、それまで俯けていた顔を、彼女に向けた瞬間

私の世界は反転した。


唯「ちょ、岡野さんっ!?」

佳「……お前に、イカされっぱなしってのは、なんか……」
 「……なんか、気に食わねー」

佳「それに、相川のことは嘘だったけど」
 「勝負は終わってないだろ」

唯「……え」

佳「さっき、交換って言ってたし」
 「次は、ウチがやる」

佳「……覚悟しろ、櫟井」


きっと、これは彼女なりの優しさだろう。

……これもまあ、私の思惑通りなのだけれど。

彼女ならそういうだろうと思って、“帰ろう”と提案したのだから。

一回だけじゃなく、二回も騙すなんて

なんて悪い女だろうかと、つくづく思う。


唯「……」

唯「……はは」

唯「……お手柔らかに、ね……」

佳「知るか、そんなの」


でも、一番悪いのは

私にそこまでさせてしまう

彼女の存在自体に違いない。


——————————岡野佳の場合。

おまけの話——————————

結局、その後勝負は何度か続いたが

私の圧勝に終わった。

彼女は、「櫟井、お前上手いな」なんて言っていたが

その後私と顔を合わせるときに、どんな表情でいればいいのかと苦悩していた。

可愛いなあ、なんて思ってその様を眺めていると


佳「お前のせいで悩んでんだよ、ウチは!」


と怒られてしまった。

ちょっとだけ、反省しておこう。


……そういえば、寝る前に(翌日が休みだったので、結局泊まることになった)

何となーく、キスをせがんでみたら

唇に触れるだけのキスをしてもらえた。

もしかしたら、あと数回で落とせるかも?

……ま、相川さんがいる限りそれは無いかな。


佳「あぁ、無いだろうな」

唯「ですよね」


——————————おまけの話。

地の文考えんの難しいわ。

次はふみ。
頼子さんはその次。

長谷川ふみの場合——————————


……それから4日後くらいの夕方。

私は、先生から頼まれた仕事を終え

一人、放課後の廊下を歩いていた。

ゆずこや縁も、仕事を手伝うとは言ってくれたのだが

私が頼まれたことであったし

それに、たまには一人でいるのも良いかもな、なんて珍しいことを考えたため

(いつもならついひと肌が恋しくなってしまうのだ)

私は二人の協力を、気持ちだけ受け取るという形で断ったのだった。

西日の射す廊下は、どこか妖しい雰囲気を醸し出していた。

外から聞こえる運動部の騒がしい声が、より一層静かさを際立たせている。

窓に腕をかけ、外をのんびりと眺めていると


ふみ「……櫟井さん」


少し珍しい子に声をかけられた。

唯「あっ……長谷川さん」

ふみ「何してんの?」

唯「……ちょっと、先生に仕事頼まれちゃってさ」
 「ついさっき終わって、ボーっとしてたとこ」

ふみ「……ふーん」


彼女は、長谷川ふみ。

よく、相川千穂や、岡野佳と一緒にいる子だ。

確か、バドミントン部に所属していたと思う。

この子も私が狙うターゲットの例外ではない。

今までの子たちとはまた違った雰囲気をまとっていて

身体は豊かではなく、すらっとしている。

そのあたりは流石スポーツマンだな、と思う。


唯「長谷川さんは?」

ふみ「部活、終わりそうだったから」

唯「終わっては無いんだ……」

ふみ「……忘れ物取りに来たかったし」

唯「忘れ物?」

ふみ「うん」
   「……ノート忘れた」

唯「そうなんだ」


そこで、話が終わり

別れることになってしまいそうではあったが

折角の機会を、簡単に手放さないのが私だ。

一度、誰だかに“ハイエナ”と呼ばれたことがあったが

そこまで貪欲ではない……と思う。 嫌がられたら諦めるし。


唯「あ……そういえば、私も忘れ物」

ふみ「……」
   「じゃ、いっしょ行く?」

唯「うん、そうしようかな」


勿論、忘れ物などはない。

唯「部活は、どうだった?」

ふみ「疲れた」
   「……ような、そうでもないような」

唯「どっち……?」

ふみ「家に帰ったら、疲れる感じ」

唯「あ、なるほどね」


ローテンションな割に、会話のキャッチボールはとてもスムーズで、楽しい。

ゆずこや縁たちとの、あのバカバカしい、騒がしいやり取りも好きだが、こちらも捨てがたい。

……そもそも、女の子と話すのが楽しくてしょうがないのだが。


唯「バドミントン部だっけ?」

ふみ「そうだよ」

唯「結構上手い?」

ふみ「……まあね」

唯「へぇ、見てみたいな」

ふみ「今度体育館来てみたら?」

唯「じゃあ、機会があれば行かせてもらおうかな」

なんて、他愛のない会話を交わしているうちに

いつの間にか教室についていた。

ドアを開けると、私たちはそれぞれの机に向かう。

私は、机の中を探し、見つけたふりをしておいた。

彼女も、探し物は見つかったようだ。

じっと、その様子を見ていたら、ふと彼女が口を開いた。


ふみ「櫟井さんさ」

唯「ん?」

ふみ「千穂と佳と、なんかあった?」


そういえば先ほど、私が彼女を紹介した時に言い忘れていたことが一つあった。

彼女は、周りをよく見ていて、そのせいか周囲の変化にはとても敏感だ。

もとから勘が鋭いのかもしれないが……。

今回、私とその二人との間に、何かあった? と聞いたのも

彼女のそういう一面によるものだろう。

とはいえ、私は女の子とどのような間柄になっても

基本的な接し方は変えないので、私自身が要因となって、関係がばれてしまうことはほとんどない。

きっと、彼女は私と話す二人の雰囲気を読み取ったのだろうと思う。


唯「んー、なんだろう」
 「何か、あったかな……」

唯「どうしてそう思ったの?」

ふみ「……なんか櫟井さんと話してる時の千穂と佳の感じが違ってたから」

唯「そうかな? 私は気づかなかったけど」

ふみ「ふーん」

ふみ「……」


ここで私がしらばっくれるのは、あまり他の子たちとの関係性を明らかにしない方が

比較的オトしやすいからである……。

暫しの沈黙ののち、再び彼女は口を開く。


ふみ「実はさ、バド部の後輩に」
   「2年生の先輩と遊んだって子がいるんだけど」

唯「うん」

ふみ「その子も、その先輩のことを話すとき」
   「ちょっと似たような雰囲気になるんだ」

唯「へー……どうしてだろうね」

ふみ「……」

ふみ「その先輩って、櫟井さんでしょ」

唯「……どうして、そう思うの?」

ふみ「特徴聞いたから」

唯「あー、そうなんだ」


……何故だろう、いつの間にか追い詰められている気がする。

いくつか修羅場はくぐってきたつもりだから、別段冷や汗をかいたりなどはしないのだが……。

彼女は一体何を言いたいのだろうか?

私が色々な子に手を出していることを、責めたいのだろうか?

ただ単に、推理ゲームを楽しみたいだけなのだろうか?

いろいろな考えが、頭の中をめぐっていく。

唯「んー、特徴があってるなら、そうなのかも」

ふみ「……何して遊んだの?」

唯「ちょっと買い物に行ったくらい……だと思う」

ふみ「千穂とは?」

唯「ちょっとお家にお邪魔したくらいかな」

ふみ「佳は?」

唯「……お泊りしただけだよ」

ふみ「……ふーん」

ふみ「……」

ふみ「櫟井さんってさ」

唯「ん?」


ふみ「女の子好きな人?」


唯「長谷川さんはそうだと思う?」

ふみ「……」

唯「……って、質問に質問で返すのもどうかと思うよね」

唯「実はそうなんだ」
 「アタシ、女の子好きな人」

ふみ「……そうなんだ」

唯「うん」

ふみ「いつから、そうなの?」

唯「気づいたときからかな」
 「……最初、ある子と仲良くなってさ」

唯「その子と一緒にいるのがすごく楽しくて」
 「その子といれば世界がキラキラしてた」

唯「でも、男の子には全然興味がわかなくて」
 「いつの間にか、女の子ばっかり目が行くようになってた」

唯「……って感じかな」

ふみ「……」

唯「あ、ちょっとヒいた?」
 「女の子好きな人、駄目な人?」


本来なら、今後の生活も左右されそうな会話であるのに、そんな中で私は

この言い方は、ちょっとゆずこや縁と話している時っぽいなぁなどとふさわしくないことを思っていた。

……まぁ、この程度のことなら、正直なれっこなのだ。

きっと、彼女も、今までの方たちのように

気持ち悪いとか、おかしいとか、そういう気持ちでいるだろうと

彼女が発する言葉も、だいたいそういう類の事だろうと思っていたのだが

彼女の口から出た言葉は、私のそれらの考えとは異なっていた。


ふみ「ううん、別に」
   「私も、そういう人だから」

唯「え?」

ふみ「私も、女の子好きな人」
   「……だと思う」

唯「そうなの?」

ふみ「多分ね」


自分も、女の子が好きだという、告白。

私は彼女からカムアウトされたのだった。

考えていたのと違った回答をされたので、少し戸惑ってしまったが

すぐに、私の頭の中に一つ考えが浮かんできたのだった。

唯「……岡野さんや、相川さん」
 「そして、バド部の後輩のことを聞いたのって」

唯「もしかして、アタシがそういう人なのかどうかを探るためだった?」

ふみ「うん、そう」

唯「もしかして、どれか一つでも否定されたら」

ふみ「その時は、女の子好きな人かどうかは聞かなかったかな」


これは、私の推測でしかないのだが

……きっと、彼女は仲間が欲しかったのだろうと思う。

自分の悩みを共有できる仲間が。

私も今となっては、同性に恋することに、それほど悩みを持たなくはなったが

昔はよく、これでよいのだろうかと、悩んだものだった。

そして、同時に、この悩みを共有できる仲間がいればと何度も思った。

彼女も今、同じ状態なのだろう。 そう考え始める時期が私とずれただけで。

私を追い詰めるような形で問うたのも、周りをよく見て、気にする彼女ならではの行為だと思う。

万が一、私が同性に興味が無くて、自分だけがそういう人間であると告白してしまった場合に

非難されるかもしれない、と考えたから、慎重に行動したのではないだろうか。

唯「そうだったんだ」
 「……長谷川さんが、女の子好きな人だって、ちょっと意外」

ふみ「そう?」

唯「なんか長谷川さんって、モテそうだよね」
 「男女からさ」

ふみ「……女の子は嬉しいけど」
   「男は別にそうでもない」

唯「あぁ〜……分かる」

ふみ「櫟井さんもモテる人でしょ」

唯「……そうなのかな」

ふみ「野々原さんから聞いた」
   「夏祭りでナンパされたとか」

唯「あいつ、余計なことを……」

ふみ「大変だね、モテ屋さんは」

唯「……あ、そういえばさっき」

ふみ「ん?」

唯「女の子好きなの、多分って言ってなかった?」

ふみ「あ、うん」
   「……まだ、よくわかんないし」

ふみ「とりあえず男には興味ないけど」
   「女の子も男に比べたら興味があるってだけで」

ふみ「別に恋愛対象としてはみられないのかもって思ったから」

唯「……」

唯「……試してみる?」

ふみ「……試すの?」

唯「キスしてみるだけ」
 「ほら、よく恋愛対象として見ているかどうかを判断するときに」

唯「その子とキスしている自分を思い浮かべる……ってのがあるよね」

ふみ「あったっけ」

唯「あるよ……多分だけど」

唯「だから、アタシとキスしてみる」
 「これで、駄目だかどうだか判断できるでしょ」

ふみ「それだとそもそも櫟井さんのこと好きじゃなきゃダメなんじゃない」

唯「まぁ、そうだけどさ」
 「アタシ、それほど悪くないと思うんだけど」

ふみ「……櫟井さんって、そんな性格?」

唯「それ、ちょっと前にも聞いた」

ふみ「……タラシ」

唯「よく言われる」

唯「……するよ?」

ふみ「……」

唯「そんな目で見られても、止まらないよ」
 「もう」

ふみ「……ん」

唯「ん……ッ」

ふみ「んふ……んっ?」

唯「……ぁン、ん」ジュル...

ふみ「……んァ」

唯「……ふァ」

ふみ「……はっ」
   「はぁー……っ」

唯「……はぁ」
 「ふふ」

唯「どう? なんか分かった?」

ふみ「……」
   「……よく、分かんなかった」

唯「そう? ならもう一k」

ふみ「……」


彼女は、再び体を近づける私を無言で制止した。


唯「……駄目?」

ふみ「……駄目」

ふみ「……次、やられたら」


ふみ「たぶん、好きになるから……」

彼女は、顔を隠しながら、そう言った。

意外に、彼女は照れ屋らしい。

また新しい魅力が追加された。


唯「好きになっても良いのに……」

ふみ「……タラシだし」

唯「タラシは駄目だよね……」

ふみ「私の愛は結構重いよ、多分」

ふみ「浮気されたら刺すかも」

唯「それは……怖いなぁ、あはは」

ふみ「フォークで」

唯「昔のプロレスかっ!」

唯「……ま、でも」

唯「可愛い子の腕の中で死ねるなら本望かな」

ふみ「……」

ふみ「……かわいそ、女の子」


顔をそむけた彼女の顔が赤かったのは

きっと、沈みかけた夕日のせいだけではなかったと思う。


——————————長谷川ふみの場合。

おいおいブッチャーか>フォーク

スレたてた時、私はただカッコいい唯といろんな子をひたすらイチャイチャさせるだけのつもりでした。

次はお母さんです。

>>104

はい。
フォークで刺すって言ったら、私の場合ニャルラトホテプじゃなくてブッチャーをイメージしますね。

松本頼子の場合——————————


頼子「はーい、皆さん、席についてくださーい?」


ぱんぱん、と二度手を鳴らして教室に入ってきたのは、

英語の教師であり、我が情報処理部の顧問でもある松本頼子。

陰鬱な授業が続く中での彼女は唯一の救いだ。

性格は穏やかで優しく、包容力があり、頼れる年上のお姉さんという感じである。

さらに同性をも魅了する身体を持っており、間違いなく私が今まで見てきた中でも

最高位に値する女性だ。

彼女のことを「お母さん」と形容したのはわが友であるが……

私は、彼女を「お母さん」よりも「妻」としてもらいたい、という想いの方が強い。


頼子「授業を始めますよ〜」


……ともかく、今日はそんな彼女の番である。

50分という長い授業ではあるが

彼女の姿を見ていれば、あっという間だ。

授業が終わり、私は彼女の元へ向かう。


唯「先生」

頼子「あら、櫟井さん」
   「どうしたの?」

唯「荷物持ちます」

頼子「本当? ありがとう!」


さりげなく荷物を持ち、会話する機会を作る。

彼女は教師であり、学校においては授業の準備やら、部活動やら

その他の事務仕事やらで、とても忙しい。

もちろん二人で話す機会などは多くないうえ、時間も限られてくるので

こう言った形で会話する場を作ることは重要になってくるのだ。

頼子「授業、分かった?」

唯「はい、なんとか」
 「先生の教え方上手なんで、結構ついていけてます」

頼子「そう? 良かった」
   「でも、褒めても何も出ないですよ?」

唯「お世辞じゃないですよ」

頼子「本当に?」

唯「アタシ、嘘つきませんから」

頼子「ふふ、じゃあそういうことにしておきますね」


実際、彼女の授業はとてもわかりやすい。

教え方が上手いというわけではないかもしれないが……

生徒の視点に立って考えるのが上手なのだと思う。

相手の立場になって考えられるというのは、先生としても女性としても魅力的だ。

……それはさておき

今回、彼女との会話の機会を設けたのは、ただ話がしたいためだけではない。

先ほど言った通り、学校での彼女は時間的にあまり余裕はなく

私が彼女を手籠めにするにも、やはり時間が足りない可能性がある。

そうなると、学校以外の場所で、彼女と二人きりの空間を作り出す必要があるのだ。

今回は、そんな場所を確保するための事前準備というわけだ。


唯「あの……先生」

頼子「はい、なんですか?」

唯「ちょっと、相談があるんですけど……」

頼子「相談?」

唯「はい……」

頼子「ん〜、そうですか。 じゃあ、放課後相談室でも借りる?」

唯「あ、えっと……ちょっと、学校では話しにくいことなので……」

唯「良ければ、で構わないんですけど……」
 「先生のお家にお邪魔させていただけませんか……?」

頼子「私のお家に、ですか?」

唯「はい」

頼子「構いませんよ?」

唯「本当ですか?」

頼子「えぇ♪ でも、土曜日は駄目だから」
   「日曜日でも平気?」

唯「はい、いつでも平気です」

頼子「じゃあ、日曜日に予定を入れておきますね?」

唯「ありがとうございます、よろしくお願いします」

頼子「いえいえ♪」
   「荷物持ってくれたお礼も兼ねてますから」

唯「そんな……荷物くらい、毎回持ちますよ」

頼子「え〜、じゃあ、本当に頼んじゃおうかな?」

唯「あはは、喜んで」

頼子「……櫟井さんって、エスコート上手ね」


かくして、私は難なく二人きりの場を作ることに成功した。

彼女の家の扉が開かれやすいのは

以前、鍋パーティを行うという話になった時に確認済みだ。

……教師の家に生徒を招くということが、こんなにも安易に行われてよいのだろうか

と思うことも、まぁ、無きにしも非ずなのだが……

今回もありがたく、お邪魔させていただくことにする。

それから数日後の日曜日、私は約束通り彼女の家を訪れていた。

それほど大きくはないが、一人暮らしには十分な広さを持つマンションだ。

私は、彼女の部屋のドアの前に立ち、インターホンを押す。

……しばらくすると、少し慌ただしい足音と、鍵を開ける音がした。


頼子「……いらしゃい、櫟井さん」

唯「こんにちは、先生」
 「今日はお世話になります」

頼子「はいはい♪ どうぞ、中に入って?」

唯「はい、お邪魔します」

唯「……あ、先生」

頼子「はい、なんですか?」

唯「これ、良かったら……」

頼子「……これは?」

唯「シュークリームです」
 「ここの、美味しいから。 お土産として持って行こうと思って」

頼子「そうなの?」
   「……わざわざありがとうね、櫟井さん」

頼子「後で、一緒に食べましょう?」

私は、彼女に(以前陸上部の先輩に教えてもらった)お土産のシュークリームを手渡すと

彼女に促されるままに、リビングに置いてあったテーブルの一辺に座った。


頼子「飲み物は、アイスコーヒーでいい?」

唯「はい、お任せします」

頼子「じゃあ、アイスコーヒーにしますねー」
   「……っと、ミルクは入れる?」

唯「ブラックで大丈夫です」


キッチンから、小気味いい氷のはじける音が聞こえる。

彼女がアイスコーヒーを作っている間

私は、部屋の中を眺めていた。

以前、ここに来たときは、もう少し広々としていた印象があるのだが

今日は何となく狭く感じた。

きっと、あの時は私たちが来るから、レイアウトを変えて、広くしたのだろう、と思った。

……きょろきょろと見回していると

ふと、ある写真立てが視界に入った。 あの時は無かったものだと思う。

あの時に置いてあったら、きっとゆずこや縁はなんらかの反応を示すだろうし。

よく見てみると、その写真立ての中には

彼女と、彼女の友人……だろうか

これまた綺麗な人が、写っている。

どこかへ旅行へ行った時の写真のようだ。

無邪気に笑っている彼女の顔はなかなか新鮮だった。


頼子「お待たせしました〜」
   「はい、アイスコーヒー」

唯「あ、ありがとうございます」


写真を眺めていたら、彼女が二人分のアイスコーヒーを持ってやってきた。

片方のグラスに入った液体は黒ではなく、白とのマーブル模様になっていた。

……先生はブラックは駄目、と。


頼子「私の部屋の中見てたんですか〜?」
   「じろじろ見ちゃだめですよ?」

唯「あ、いえ……すいません」

頼子「何か気になるものありました?」

唯「その、写真」

頼子「え?」

唯「前来た時は無かったなって思って」

頼子「あぁ、この写真ね」

頼子「この写真は、私と……お友達とで撮ったものなんですよ〜」

唯「仲、よさそうですね」

頼子「えぇ、長い付き合いだったから」
   「……でも、今は」


彼女は、グラスをテーブルの上に置いた後

立ち上がって、その写真立てをぱたんと倒した。


頼子「櫟井さんと大事な相談の時間だから」

頼子「この写真にも退場してもらわないとね」


……あれ?

気のせいだろうか。

写真と向き合った彼女の表情が、一瞬だけ……。

唯「……」

頼子「……それで?」

唯「あっ」

頼子「相談っていうのは、なんですか?」


……少しだけ、彼女の表情が変化したことが気になったが

今は、追求しないでおこうと思った。

今、大事なことは、目の前にいる彼女を落とすことだ。

私は、モヤモヤを振り払って、彼女と向き合った。


唯「えっと……」

唯「……大した、ことではないかもしれないんですけど」

頼子「はいはい」

唯「実は、今……気になる人がいて」

頼子「あら! そうなの〜?」

唯「……はい」

頼子「ねぇ、どんな人?」

唯「優しくて……包容力があって」

頼子「ふんふん」

唯「……一緒にいると、なんか落ち着けて」

頼子「それで?」

唯「なのに、ドキドキしてしまうというか……」

頼子「へぇ、良いですね〜」

唯「……はい」

頼子「……あ、もしかして」
   「相談って言うのは」

頼子「その人にどうやって告白すればいいかってことでしょう?」

唯「あ、それもあるんですけど……」

頼子「あら? そうじゃないの?」

唯「はい、悩んでることはもっと他にあって……」

頼子「……その人、誰か付き合ってる人がいるとか」

唯「……それはわからないんですけど……」
 「そこではなくて……実は、その人……」

唯「……同性で」

頼子「……」
   「女性ってこと?」

唯「……はい」
 「おかしい、ですよね……こんなの」

頼子「……」

唯「……でも、一緒にいればいるほど」
 「その気持ちがどんどん膨らんでいっちゃって」

頼子「……ん」

唯「……どうすればいいのか」

頼子「……」
   「私はね」

唯「……」

頼子「私は、それ……とっても、素敵なことだと思うの」

唯「え?」

頼子「だって、人間なんてたくさんいるのよ」
   「日本に住んでいる人だけでも、約1億人いるでしょ?」

頼子「そんな中で、生涯出会う人なんてわずかで」
   「名前を知ってる人なんて、それよりもっと少なくて」

頼子「その人たちの中で、自分が好きになる相手と出会う確率なんて」
   「信じられない位低いものじゃない?」

頼子「ましてや、世界はね、異性同士で好きになって」
   「結婚して、一緒に暮らして……っていうのが、一般的でしょう?」

頼子「その上で、じぶんと同じ性別の子と好き合って」
   「一緒に暮らしていける人達は、とても特別な、素敵なものだと思わない?」

頼子「……だからね、私は、同性どうしなんて、そんなの大した問題じゃないと思うの」

唯「……先生」

頼子「まぁ、確かに、同性同士で一生一緒に暮らしていくとなると」
   「色々と面倒なことが多いのだけれど……」


正直、私は驚いていた。

彼女がそこまで、同性に対する考えを持っているとは思わなかったから。

……ただ一方で、もう一つある疑問が浮かんできた。

なぜ、ここまで同性のことについて考えを持てているのか?

今の私の相談……といっても、ほとんど本当のことではないのだが

を聞いて、一瞬で考えたのか? 話しているうちに、次に話すことを考えていたのか?

頼子「実はね」


私が、いろいろと考えていると、彼女はゆっくりと口を開いた。


頼子「私も、同性の子が好きになったから」
   「櫟井さんの気持ちが分かるのよ」

唯「……そう、なんですか?」

頼子「ええ」
   「……櫟井さんが言ってくれたんだから」

頼子「私も、お返しに話しちゃうわね」

頼子「……さっきの写真、ちゃんと見た?」

唯「はい、すいません……」

頼子「いいのよ、別に責めてるわけではないし」
   「……私がね、好きだった子、っていうのが」

頼子「……彼女なの」

唯「あ……」

頼子「彼女は、中学校のころからの友人でね」
   「勉強するときも、バカをするときも、修学旅行に行くときも」

頼子「ずーっと一緒だったの」

頼子「高校も同じ、大学も同じ」
   「……まぁ、就いた仕事はさすがに違うけれど」

頼子「何をするにも一緒で、それがどうしようもなく楽しくて」
   「……このままずっと一緒にいたいなって思ってた」

頼子「彼女なしの生活なんてありえない、なんて思う時期もあったりして」

頼子「まぁ、つまりはその子に恋を、しちゃってたのね」
   「でも、私って……ヘタレで」

頼子「……いつまでたっても告白できなかった」

唯「……」

頼子「……」
   「1年前、かな」

頼子「その子に、恋人ができたの」
   「男性の」

唯「……え」

頼子「……そのことを聞いたとき、私の頭の中、空っぽになっちゃった」

頼子「本当なら、大好きな人に、幸せなことがあったんだから」
   「祝福してあげなくちゃって……それが当たり前のことだって」

頼子「でも……できなくて」

頼子「それどころか、駄目になればいいのに、なんて思うときもあった」
   「……最低よね」

唯「……」

頼子「それでね、つい最近のことなんだけど」
   「……これ」


彼女は、引出しから、くしゃくしゃになった一つのはがきを取り出した。

それを、私に差し出す。 その手は震えていた。


唯「……これは……」

頼子「そう、幸せそうな顔でしょ?」
   「結婚します、だって」

頼子「……気付いたら、そのハガキがくしゃくしゃ!」
   「自分でも、びっくりしちゃった」

唯「……でも、そこに写真が」

頼子「……ね」
   「変よね」

頼子「……これが送られても、まだ」
   「諦められてないの」

頼子「……ふふ、引きずりすぎよね」

頼子「……だからね」

唯「……」

頼子「櫟井さんには、後悔しないように、してほしいの」

頼子「その人が、どんな人だか分からないけれど」
   「ちゃんと、自分の気持ちを伝えて」

頼子「もし、駄目でも、絶対に、言わないより良いに決まってる」
   「……後悔なんて、したって、過ぎてしまったことは、もう……」

頼子「意味のないものだから……」

唯「先生……」


彼女は、笑いながら、泣いていた。

途中ですが、眠いので寝ますね。

行為の描写はありが良いでしょうか?
無しが良いでしょうか?
教えていただければ幸いです。

唯「……」


足が、動かなかった。

いつもなら、動く足。

今すぐにでも、彼女の涙を拭って

言葉をささやいて、あげられた、はずだ。

でも、出来なかった。

……なぜ?

なんて……そんなこと

分かりきっているのに。


頼子「ご、ごめんね、櫟井さん」
   「私ったら、なんで泣いてるのかしら、もう」

頼子「……ティッシュ……どこ置いたかな」

唯「——ッ」


...ドタン


頼子「きゃっ……」

頼子「……い」
   「櫟井さん……? どうしたの?」


……動かなかった足をひきずって

私は彼女を、覆いかぶさるように、押し倒した。


唯「……先生」

頼子「……はい」

唯「……私には、後悔してほしくないって、言ってくれましたよね」

頼子「……」

唯「駄目でも、言わないよりましだって……」

頼子「……ええ」

唯「……」

唯「……私じゃ、駄目ですか?」

頼子「え——」

唯「……私では、その人の、代わりにはなれませんか?」

頼子「櫟井さん……それって、どういう……」

唯「私の」
 「……私の気になる人、って、実は」





唯「……貴女なんです」

頼子「……」

唯「貴女を見ていると、ドキドキしてしまって」
 「……一緒にいると、幸せで」

唯「貴女の声するたびに、私は……」

頼子「……本気、なの? 櫟井さん」

唯「……言ったでしょ」

唯「アタシ、嘘つきませんって」

頼子「……」
   「……ふふ」

頼子「……嘘ばっかり」

唯「え?」

頼子「ううん、なんでもないわ」
   「……私は、櫟井さんの、先生ですよ?」

唯「同性であることを気にしない、貴女が言うんですか?」

頼子「……たしかに?」

唯「ね」

頼子「なら」
   「……彼女のこと、忘れさせてくれる?」

唯「……えぇ」

唯「勿論ですよ」

その後、私は、何度も彼女を果てさせた

何度もキスをして

お互いの形がはっきりと分かるくらいにまで、舌を滑らせて

どちらの体液かも、分からなくなるまで

深くもつれ合って。

声なのか、叫びなのかも分からない音をあげて

溶け合った。


私は、彼女に過去を振り返らせないために

何度も何度も

彼女を、愛した。


……それは、本当?


本当に、そのために、私は彼女を愛したの?


それは……

唯「……ふぅ」

頼子「……櫟井さん」

唯「はい」

頼子「……すっごく、上手なのね」

唯「……そうでしょうか」

頼子「えぇ、あんなに……気持ちよくなったの、初めてだもの」

頼子「……」

頼子「今回が、初めてじゃないでしょう?」

唯「……さぁ、それは、どうでしょうか」

頼子「ふふ、やっぱりね」

頼子「何となく、気付いてたのよ、私」

唯「……」

頼子「……櫟井さんって」
   「嘘つくの、ヘタよね」

唯「え?」

頼子「バレバレなのよ?」
   「今言ったこと……まぁ、こういうことが初めてじゃないってことも」

頼子「私のことが気になってるのが、嘘だってことも」

唯「それは——」

頼子「他に、本当に気になっている人がいるってことも……」

唯「——っ」

頼子「……図星でしょ?」

唯「……」

頼子「私ってね、結構、嘘を見抜くのが得意なのよ?」
   「知ってた?」

唯「……いえ」

頼子「ふふ、そうよね」

頼子「……でも、本当に櫟井さんってわかりやすい」

頼子「キスするとき、じっと目を見つめるけど」

頼子「その眼は、私じゃなくって、もっと遠くを見てるもの」
   「……それ、気を付けた方が良いと思うわよ?」

唯「……」

頼子「……本当なら」

頼子「お姉さんを、先生をだましたってことで、怒らなくちゃいけないけれど」

頼子「……私も、気持ちを吹っ切るために」
   「櫟井さんを利用してしまったから」

頼子「お互い様ってことで、良い?」

唯「……私には」

唯「……良いかどうか、決める権利は無いです」

頼子「ふふ、そう?」
   「じゃあ、そういうことにしておくわね」

頼子「おかげさまで、新しい人を探せそうだしね」
   「……また、女の子だろうけれど」

唯「……」

頼子「女の子の方が良いわよね、気持ちいいトコ、知ってるもの」
   「……ね?」

唯「……はい」

頼子「……経験者としてね」

唯「……」

頼子「私は、出来る限りのアドバイスをしたつもり」

頼子「……私の話を聞いて」
   「貴女が、どうするかは自由」

唯「……」

頼子「でもね」

頼子「……失敗してからじゃ、遅いから」

頼子「時間は、月日は、待ってはくれないんだから」

「……」


“—————唯ちゃん”


——————————松本頼子の場合。 失敗。

ラブライブ見てたらこうなった。

全部のぞえりのせいだ。
次でラスト。
申し訳ない。

日向縁の場合——————————


日向縁。

小学2年生以来の、幼馴染。

同じ高校に通う、友人。

ゆずこを含め、親友。

そして、私が

唯一、触れられない人。


「……」

「……ん」

「ここは……」

「……あ」

『……』

「縁……?」

「……」

「どうした、縁……」

『——』

「……ん?」

「なんて言ってるんだよ、縁」

『——』

「……縁?」

「おい、縁……どこ行くんだよ」

「……縁、縁」

「隣の人は誰だよ、縁……」

「待って、待ってよ」

「縁、縁っ!」

「待って、待ってッ!!」

——縁ッ!!

唯「——っはっ!!」

唯「……は」

唯「はぁ……は」

唯「……」

唯「……夢」


...シュル


唯(……汗、ひどっ……)

唯「……」


...コトン...カチッ


唯「……5時、半……」

唯(微妙な、時間すぎる)

...カチャ...


唯「……ふぅ」

唯(……二度寝しなければ良かったか?)

唯(……中途半端に寝たから……逆に眠い)

唯「ふぁ……」


...コト...コトン


唯「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様」
「早く準備しちゃいなさいよ?」

唯「はーい……」


ギッ...タン...タン...タン...

シュル...

ジィ————ッ...

...キュ...シュルッ


唯「……」

唯「……ん」

唯(スカーフ……ちょっと、ずれてるか?)

唯「……っと」


唯「……忘れ物」

唯「……よし」


タン.タン..タン...

ガチャン..ガチャッ


唯「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい」

唯「……ふぁ」

唯「……あ」

縁「……」

唯「……ん?」


唯「おはよう、縁」

縁「ひゃっ! ……唯ちゃん?」

唯「どした? なんかボーっとしてたけど」

縁「ううん、なんでもないよ」
 「……おはよ〜」

唯「……めんどうくさいでも出たか?」

縁「最近は出てなくて、調子いいんだ〜♪」

唯「そっか」

縁「でもめんどうくさいの仲間のねむいっていう妖怪が〜」

唯「……まんま過ぎる」

ゆずこ「唯ちゃーん! 縁ちゃーんっ!」

唯「お、来た」

縁「おはよ〜、ゆずちゃん♪」

カツ...カツ...カツ...
..カツ...カツ...ザリッ
タン.....タン..タン


ゆずこ「……海行きたい」

唯「……はぁ?」
 「最近そればっかりだな」

ゆずこ「だって、夏だよ? 熱い夏」

ゆずこ「私たち高校生だよ? 熱い高校生」

唯「熱い高校生ってなんだよ……」

ゆずこ「海の1度や2度くらい、行かないとまずいじゃん!?」

唯「……」
 「別にまずくは無いと思いますが」

ゆずこ「ええぇぇ〜〜〜!! んんぅぅ〜〜!!」

唯「変な声出すなっ!」

ゆずこ「縁ちゃぁ〜ん! 縁ちゃんも行きたいよねぇ〜!」

縁「……」

ゆずこ「……縁ちゃん? お〜い」

唯「……縁?」

縁「あっ、ご、ごめんね〜! ボーっとしてた……」

唯「おい、大丈夫か?」

ゆずこ「体の具合でも悪いの?」

縁「うっ、ううん! 何にも悪くないよ〜!」
 「……それより、海だっけ?」

ゆずこ「そそ、海行きたいよね〜って」

縁「うん! 行きた〜い!」
 「熱い海に行きたい〜!」

ゆずこ「ほらぁ〜! 唯ちゃん!」
    「これで2対1です! 多数決の原理が働きます!」

唯「……えぇ」

縁「良いじゃぁん、行こお〜! 唯ちゃ〜ん!」

ゆずこ「んん〜んん〜〜〜ぅ!!」

唯「だから変な声出すな!」
 「……はぁ、全く」

唯「……」

唯(縁……やっぱり、様子変だよな)

キッ...カチャン

..タンッ..


ゆずこ「はっ……!」

唯「……今度は何だ」

ゆずこ「唯ちゃん、縁ちゃん……私」
    「……お手洗い行ってくる」

唯「どうでも良いこと溜めたな〜」

ゆずこ「どうでもよくないです死活問題です」

縁「ゆずちゃん行ってらっしゃ〜い」

ゆずこ「……行ってくるね」

唯「いちいちドヤ顔決められても困ります……」

唯「……」
 (今のうちに聞いておくか)

唯「なぁ、ゆか

縁「唯ちゃん」

唯「……ん? どした?」

縁「……」

唯「……?」

縁「相談、あるの」

唯「相談?」

縁「うん……だから」
 「……後で、時間ちょうだい?」

唯「あ……あぁ」
 「……分かった」

縁「……ありがと」


...タン.タン..タン


唯(……相談? 何のだ)

ゆずこ「……」

縁「あ、ゆずちゃーん! ……間に合いましたか?」

ゆずこ「……ちょっとね」

縁「え?」

唯「ちょっと間に合ったって何だ!」
 (……今はいつも通りだ)

唯(……大したこと……なのか?)

———————
—————
———


唯「……で」
 「縁、相談って何?」

縁「……うん」

縁「……あのね」

唯「ん?」

縁「……」
 「私、声……かけられちゃったの」

唯「え?」
 「声?」

縁「……うん」

唯「誰に……?」

縁「……男の人、高校生だと、思う」

唯「……なんて?」

縁「……」
 「一目見た時から……気になってました……みたいな感じだったと思う」

唯「……」

唯「……言ってたのは、それだけ?」

縁「ううん」
 「……お話したいから、放課後、会ってくれないかって」

縁「……でね、私どうすれば良いかなって」

唯「……」

縁「唯ちゃんは、どうすれば良いと……思う?」

唯「……」
 「どうすれば……って」

唯「……どんな感じの人?」

縁「優しそうな、感じの人……」

縁「悪くは、なさそう……」

唯「……」

縁「……ねぇ、唯ちゃん」

縁「私……どうすれば良いんだろう」

縁「……こういうこと、初めてだから」
 「どうすれば良いか……わかんないよ」

唯「……」

縁「……唯ちゃんは……どうすれば良いと思う?」

唯「……」

唯「っ……わ、私は——」


...キーン...コーン...カーン...コーン


縁「……あ」
 「チャイム、なっちゃったね」

縁「……一回、戻ろっか?」

唯「……あ、うん……」

...

...カン...カンカンカンッ

...カッカッ

——教科書140頁な

ここに書いてある式は——


唯(……)

唯(縁が……)

唯(……男の人に)

唯(……)

唯(……どうすれば良いかって)

唯(……)

唯(ダメだ……頭ん中……入ってこない……)

唯(……縁は、どうしたいんだ)

唯(……縁は)

唯(縁の幸せは……何なんだろう)

唯(……)


「櫟井さんには、後悔しないようにしてほしいの」

「……ちゃんと自分の気持ちを伝えて」


唯(後悔しないように……自分の気持ちを……)

唯(……)

唯(……気持ちが伝えられたからと言って)

唯(私が、縁を)

唯(……幸せに、出来るのだろうか)


「将来の夢、あれだったもんな」

「おヨメさん」


「……やらなきゃいけないことがあるなら、やらなきゃいけないかなって」


唯(……)


...キーン...コーン...カーン...コーン....

ゆずこ「……ゆーいちゃんっ」

唯「はっ」
 「……ゆずこ」

ゆずこ「今日は一日ボーっとしてたね」

唯「……あー」

ゆずこ「7月病かな?」

唯「んなもんあるか……」

ゆずこ「……」


縁「唯ちゃん」

唯「……っ」

縁「ゆずちゃん、ちょっと唯ちゃん借りていい?」

ゆずこ「えぇ〜ん、どうしよっかな〜?」
    「……なんちゃって、良いよ。 別に唯ちゃんは私の、ものじゃないし」

縁「ごめんね〜」
 「……来て」

唯「……あぁ」

タン...タン...タン...


縁「……」

唯「……」

縁「ねぇ、唯ちゃん」

縁「さっきの、話」

縁「……の、続きなんだけど」

唯「……うん」

縁「唯ちゃんは……どうすれば良いと思う?」

唯「……」

唯「アタシは」

「後悔しないように」

唯「……アタシはっ」

「気持ちを伝えて」

唯「——」


トン

縁「——え?」

唯「……縁、行ってきなよ」

縁「……唯ちゃん」

唯「……まだ、その人がどんな人か分からないけど」

唯「話してみたら、結構良い奴かもしれない」

唯「話もあうかもしれない」

唯「……合わないかもしれないけどさ」

唯「せっかく、縁のこと、気になるって言った人がいるんだし」

唯「これも、なにかの縁かもしれないって」

唯「……な」

縁「……」
 「……」

縁「……うん」
 「そ、だよね」

唯「あぁ、行ってきな」

縁「……ん」
 「……ありがとね、唯ちゃん」

縁「行って……くる」

唯「気を付けてな」

縁「じゃあ」

縁「……ばいばい」

『——』

唯「……ッ!」

唯「……」

唯「また、明日な」


...タン...タン....

...タッタッタッ.....


唯「……」

ゆずこ「お帰り、唯ちゃん」

ゆずこ「……」

ゆずこ「あれ? 縁ちゃんは?」

唯「……ん?」

唯「あぁ、縁? 縁なら」

唯「……」

唯「先に帰ったよ」

ゆずこ「なんだ……3人でかえろーって思ってたのにな」

唯「……」

ゆずこ「……」

ゆずこ「唯ちゃん?」
    「……どうしたの?」

唯「いや、別に」
 「……帰ろう、ゆずこ」

ゆずこ「別に、じゃない」
    「絶対おかしいよ、唯ちゃん」

ゆずこ「……縁ちゃんと何かあった?」

唯「……」

ゆずこ「ねぇ、唯ちゃん」
    「教えてよ、何かあったんでしょ?」

唯「……」

唯「……縁」
 「男の人に、声かけられたんだって」

ゆずこ「え?」

唯「朝、一目ぼれしたって言われたって」
 「……放課後、会って話がしたいって言われたって」

ゆずこ「……そう、なの?」

唯「……ん」
 「それで、どうすれば良いかって……相談された」

ゆずこ「……」

ゆずこ「唯ちゃんは、なんて言ったの?」

唯「……行ってみなって」
 「話してみたら、良い人かもしれないって言った」

ゆずこ「……」

唯「……」

ゆずこ「……唯ちゃん」

ゆずこ「それ、本気で言ったの?」

唯「……」
 「あぁ、当たり前だろ」

ゆずこ「なんで、行かせたの?」

唯「……縁が、幸せになれるかもしれないだろ」

唯「なら友達として、応援するのが当たり前、だろ」

ゆずこ「唯ちゃんはそれでいいの?」
    「縁ちゃんを行かせて、良いの?」

唯「……当然だろ」

ゆずこ「嘘だ」

唯「……嘘じゃない」

ゆずこ「嘘」

唯「嘘じゃない」

ゆずこ「うそでしょッ!」

唯「嘘じゃないって言ってるだろっ!!」

ゆずこ「ならッ——!!」


ギッ...タンッ!


ゆずこ「——なんで、泣いてるの」

唯「——っ」

ゆずこ「唯ちゃんは、行かせたくないって思ったから、泣いてるんでしょ」

ゆずこ「縁ちゃんに、行かせたこと、後悔してるから泣いてるんでしょ」

ゆずこ「……違うの?」

唯「……違う」

ゆずこ「違くないよ……」

ゆずこ「……だって、唯ちゃん」

ゆずこ「縁ちゃんのこと、好きだもん」

唯「……」

ゆずこ「……知ってるよ、それくらい」

ゆずこ「二人と一緒に、たくさんの時間を過ごしてきたんだもん」

ゆずこ「縁ちゃんを見る目が」

ゆずこ「私を見る目と違うことくらい知ってたよ」

ゆずこ「……私が、唯ちゃんを見る目と同じってことくらい、知ってたよ」

ゆずこ「……なのに」

ゆずこ「なんで、縁ちゃんを行かせちゃったの……?」

唯「……」

唯「……だってっ」

ゆずこ「……」

唯「だって……っ! しょうがないだろっ!」

唯「アタシじゃ、縁を幸せになんかできないんだよっ……!!」

唯「縁は、アタシみたいな、女じゃなくってっ」

唯「ちゃんと、男の人と、結婚してっ」

唯「家庭を、もったほうが、ずっとっ……ずっと」

唯「幸せになれるんだか

ゆずこ「——ッ」


パシッ!


唯「——いっ」
 「ゆずこ、何しや

ゆずこ「馬鹿唯っ!」

唯「っ……!」

ゆずこ「なんで、縁ちゃんが唯ちゃんに相談したか分かる?」

ゆずこ「私には分かるよ」

ゆずこ「縁ちゃんはね」

ゆずこ「唯ちゃんに、行くのを止めてもらいたかったんだよ」

ゆずこ「引き留めてもらいたかったんだよ」

唯「……」

ゆずこ「家庭を持った方がずっと、幸せになれるとかっ」

ゆずこ「人の幸せを勝手に、決めつけるなっ!」

ゆずこ「まだ、始めてもいないことを」

ゆずこ「やる前からあきらめるなっ!!」

ゆずこ「今の唯ちゃんは、辛いことから逃げてるだけ……!」
    「一人の大事な人を見捨てて、自分が傷つかないようにしてるだけなんだよ!」

ゆずこ「そんなの……!」
    「唯ちゃんじゃないっ!!」

唯「……!!」


ダンッ!!...
...タッタッ...タンタンタンタンッ........

ゆずこ「……」

ゆずこ「……は」

ゆずこ「……」

ゆずこ「はぁ」


ゆずこ「……行っちゃった」

ゆずこ「……へへ」

ゆずこ「それでこそ、私の好きな唯ちゃんだよ」


ゆずこ「……頑張れ、唯ちゃん」

唯「はっ、はっ……はぁっ、はぁっ」


タ...タッ...タッ...タッ...

ジャリッ...


唯「くっ、はぁ、はぁ……はぁっ、はぁっ!!」


ポツ...
...ポツ...ポツ...

ザァ—————ッ...


唯「はぁ、はぁ、はぁ、うぅぅーっ……!! ぐ、あっ!!」


ビチャッ!!

...ジャリ...ザッ...

ビシャッ...


唯「……はぁ、はーっ……——————っ!!」

「雨、降ってきましたね」

縁「……あ、そ、うですね」
 「あっ、傘……忘れてきちゃった」

「傘、使いますか?」

縁「……え、っと」

縁「……」

縁「じゃあ」


バシャッ


縁「……あ」

「……?」


唯「……はぁ、はぁ……はぁっ」

縁「唯……ちゃ」


ビチャ...ビチャッ...


「あ、あぁ、ちょっと……」

縁「唯ちゃん……どうして」

唯「……はぁ、はぁ」

縁「制服、どろどろだよ……?」
 「膝から血が出ちゃってる……」

唯「だいじょ、ぶ……それくらい……」
 「それより、ゆかり……っ」

唯「……ずっと、話したかったことが、あるんだ」
 「聞いて、くれる?」

縁「……何? 唯ちゃん」

唯「アタシ……」

唯「……」

唯「……縁のことが、好きなんだ」

縁「……」

唯「仲良くなったころから、ずっと……」

唯「縁のことが、好きだった……」

縁「……うん」

唯「アタシは不器用で、臆病で」

唯「肝心なところでへたれて、弱虫でっ」

縁「……知ってる」

唯「こんなアタシじゃあ」

唯「縁を、幸せにできないかもしれないけど」

唯「精いっぱい頑張るから……!」

唯「誰よりも、幸せにできるわけじゃないけど……っ!」

唯「誰よりも、頑張るから……!」

唯「だから……!」


縁「もう、良いよ、唯ちゃん」ギュ

唯「——っ」

縁「唯ちゃんの気持ち」

縁「もう、十分伝わったよ」

縁「……ありがと、唯ちゃん」
 「来てくれてありがと」

唯「……ゆか、り」

縁「私も、唯ちゃんに負けないくらい」
 「ずっと、ずーっと前から好きだったよ」

縁「……私ね、ずるっこしちゃったんだ」

唯「え?」

縁「私、唯ちゃんには、いろいろともらうものなんだなって思った」
 「って、言ったでしょ?」

唯「……ん」

縁「好きっていう言葉も、もらえるのかなーって勝手に考えちゃって」
 「自分からは言おうと、全然してなくって」

縁「唯ちゃんから言ってくれるのを、ずーっと待ってるだけだったの」
 「私が、しゅって言っちゃえば、こんな唯ちゃんが濡れることも、無かったのにね」

縁「……ごめんね?」

唯「……なんで、謝るんだよ」
 「縁は悪くないのに」

縁「……えへへ」

縁「でも、私が待ってたのって、唯ちゃんなら」
 「すぐに告白してくれるイメージがあったからでもあるんだよ?」

唯「え、なんでそんなちょっとチャラいイメージなんだ……アタシ」

縁「……なんでそんなイメージかは秘密〜♪」

唯「秘密にするほどの物なのかよ……」

縁「うん〜」

縁「ちょっと嫉妬しちゃうんだもん」

唯「え?」

縁「えへへ、ま、気にしない気にしない〜♪」

唯「……なんだよ、それ」

縁「……あっ」

唯「……どうしたんだ?」

縁「男の人のこと、忘れてた!」

唯「あっ」

縁「もう、いなくなっちゃった」

縁「でも、これ」

唯「あ……傘」

縁「……使ってってことなのかな?」

唯「……やっぱり、良い人だったっぽいな」

縁「うん、ちょっと話してみたけど良い人だったと思う」

唯「そ、そっか……」
 「……なんか、悪いな余計に」

縁「……ね」
 「この傘、次会ったときに、ちゃんと返さないとね」

唯「うん……そうだな」
 「アタシも、謝りたい……かも」

縁「あっ、唯ちゃんは良いよ! 私が謝るから!」

唯「えっ、でも……アタシのせいでいろいろ……」

縁「唯ちゃんと話して」
 「……唯ちゃんのこと、好きになられたら困るもん」

唯「……」
 「……はい」

縁「とりあえず」
 「……そんな、びちゃびちゃだとどうしようもないから」

縁「私の家、来る〜?」

唯「……そっか、ここ縁ん家の近くだもんな」
 「こんな泥だらけで、迷惑じゃないか……?」

縁「そんなことないよ〜?」
 「風邪ひかれちゃう方が、迷惑だよ〜?」

唯「う……まぁ、そっか」
 「じゃあ、お邪魔します……」

縁「は〜い♪」

縁「着替えは、私の大きめのを貸してあげるね?」

唯「なんか、何から何まで……ごめんな」

縁「いいんだよ〜、だって、私と唯ちゃんは——」



唯「……」

唯(……お前のおかげで、アタシ、気持ち伝えられたよ)

唯(ありがとな……ゆずこ)


——————————日向縁と櫟井唯の場合。

——————————

ゆずこ「……」

ゆずこ「……ズッ」

ゆずこ「はぁー……」


「あら? 野々原さん?」


ゆずこ「……あっ」
    「おかーさん」

頼子「どうしたの? こんなところで」

ゆずこ「えへへ、ちょっと」

ゆずこ「失恋、しちゃったっていうか……そのー」

ゆずこ「そ、そんな感じです」

頼子「あら……そうなの」

頼子「……」

頼子「私と同じね?」

ゆずこ「え?」

頼子「私も、つい最近失恋しちゃったの」

頼子「しかも、連続で」

ゆずこ「……おかーさん」

頼子「あーあ、なんだか愚痴を言いたくなってきちゃった」

頼子「うまくいかないことがあると、どうしても言いたくなっちゃわない?」

ゆずこ「……そですね」

頼子「なら、私、ちょうどお仕事終わっちゃったし」
   「ちょっとウチに来ない?」

ゆずこ「えっ、良いんですか?」

頼子「良くなければ誘いません」
   「どう?」

ゆずこ「……〜〜っ」
    「……」グシグシ


ゆずこ「はい、はーい! 行きまーす!」


——————————


<das Ende>

終わりです。
支援してくださった方ありがとうございました。

当初の予定とは全く違ったものになってしまいました。
本当は、縁と唯が誰よりも先に付き合っていて
行為の時、縁が唯をもてあそんで、どうしても唯が責められなくて
すっごい悩むみたいなオチにしようとしてました。
182まで行く予定も全くありませんでした。

キャラ崩壊してるのが心底気に食わないので
また今度、ちゃんとしたものを書きたいです。
さようなら。
本当にありがとうございました。


最後に王道な話で締めるのがいいね
書く予定だったほうを書いてもいいんだよ(ニッコリ

>>187
機会があれば……

今はキャラ崩壊無し唯縁とかのぞえりとか
エイラーニャとかドミジェンとかいろいろ書きたいのがありまして。


ほんとありがとうございました皆様。

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