男「五億年物語」 (16)

神士「ちょっとちょっと、そこのあなた」

男「ん、俺? 何か用ですか?」

神士「ええ、五億年ボタン、押してみませんか?」

男「なんだそれ」

神士「押すと精神世界で五億年の経過を感じたあと、記憶を消され現代に戻される、というものです。押してもらえれば、百万円差し上げますよ」

男「は? え?」

神士「どうです?」

男「…………」

男「宗教の勧誘ですか?」

神士「まさか」

男「……いや、いいです」
(関わらないでおこう。危ない奴だわコイツ)

神士「因みに、こちらが現金百万円です」スッ

男「……」

男「も、もう一回最初から話を聞かせてください」

神士「ええ、何度でも」クスッ

神士「……と、いうことです」

男「つまり、押した瞬間に百万円もらえるっ……て感じになりますよね、それ」

神士「さあ、感覚など、絶対的ではないことですので、お答えしかねますね」

男「……押します」

神士「では、どうぞ」ニヤッ

男「……」
(ボタン、ボタンから凄まじいプレッシャーを感じる)

男(目、瞑っておそう)ピッ

男「……」ハァハァ

男「なんだここ? まさか、本当に……?」

男「今から五億年間、ここで過ごさないといけないのか?」ゴクッ

男「お、おい。さっきの人、やっぱりここから俺を出してくれ」

男「……」

男「そんなっ……、そんなっ……」

男「あぁ……」ヘタッ

男「……本当に何もない、何もない、小さな部屋だ」

男「…………」

男「……お腹空かないなぁ」

男「ふふっ、そろそろプラカード持ったおっさんが出てくるんだろ?」

男「……」

男「うっ……おぇっ……」ゲロッ

男「はぁ……はぁ…はぁ」

男「先を考えると、ストレスで吐いちまった」

男「寝よう寝よう、寝ちまおう」

男「寝てたらこの悪趣味な実験も終わるだろ」ゴロンッ

男「……寝心地わりーなクソ」

男「ひぐっ、ひぐっ……」ポロ

男「……あ、なんか涙出て来やがった」

男「今、何時間経ったろ。マジ五億なのかな? あったまわりー話だなぁ」ハハハッ

男「……」ハァ

男「……今頃みんな、学校行ってる頃かなあ」

男「いや、寝てる頃かな」

男「ああ、精神世界だから関係ないし、意味ないか……」

男「五億年、かあ」

男「眠れないけど、横になると楽だな」

男「あ……また涙が出てきた」

男「なんでこうなったんだろ。俺、こんなはずじゃあなかったのに」

……3ヶ月後……

男「出せぇ! 出せぇ!」ガツッガツッ

男「出せっ、出せっ」ガツッガツッガツッ

男「……」ヨロッ

ドサッ

男「……死ぬ、死んでやる」ゼェゼェ

男「……なんで、壁に頭を叩きつけても、死なないんだよ」ゼェゼェ

男「まあ、飲まない食わない眠らないで死なないんだから当然か……」

男「この前、指咬み千切ったときも、いつの間にか元に戻ってたしな……」

男「ははははは……」

男「ころせよぉおおおおおお!!!!」

男「ああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」

……三年後……


男「…………」

男「…………」

男「最近、目を瞑ってても部屋内の滲みを全部思い出せるようになったぞ」

男「ふふふふ……」

男「…………」

男「みんな今頃、もう大学生なのかなあ……」

男「女ちゃん何してるだろう?」

男「△大辺り行ってたりして、新しい彼氏とかもうできたのかな?」

男「…………」

男「……ああ、精神世界だから関係ないのか」

男「…………」

……三十年後……


男(……最近、部屋の滲みを形や色によって数字分けして、それらをすべて把握することに成功したぞ)
男({45.85,12.21}にwb736585だな)

男(……もう少し細分化してみるか)

男(今頃みんな、結構いい歳だよな……)

男(俺も子供がいたはずだと思うと、なんかな…………)

男(あ、久し振りに涙が出てきた)

男「あ゛っ…………がっ……」

男(やべえ、また声の出し方忘れてるわ)

……三百年後……

男({14.85085,55.55858}、tGj4547555)

男(……また細分化するかな)

男(今何年ぐらいだろ)

男(もう本当だったら、俺、死んでるのかな)

男(…………)

男(…………)

男(もう、いいだろ)

男(もう、終われよ)

男(kjt8846855847……)

男({54.42684,25.58763}、WmJ7502624)

男({16.24741,20.67422}、faj4547555)

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