打ち止め「とある科学の最終信号!ってミサカはミサカは宣言してみる!」 (438)





新約禁書名物ロリ三人衆で次世代版超電磁砲っぽいものをイメージした未来設定SSです。

ゆるかったりバトルしたり百合百合したり。捏造設定を多分に含みます。


そんなに書き溜めていないのでゆっくりのんびり投下していきます。気長にお付き合いいただければ嬉しいです












SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1372838322











 五月八日。
 皐月晴れの清々しい陽気に照らされ、白いプロペラのお膝元を歩く学生たちは、皆が皆閉じそうになる瞼を気だるく擦っていた。



 学園都市──人口の八割を学生で占められた超能力開発機関の住人といえど、連休明けに気が緩む悩みからは抜け出せないのが実情である。

『神の右席』に『グレムリン』、数えきれないほどの敵戦力との衝突を乗り越えたこの世界は、
あのヒーローが戦いに明け暮れていた時代と比較すれば、大なり小なり変異を遂げてきた。

 例えば、木原一族を主に行われてきた非人道的実験の本格的な討伐。
 例えば、学園都市に蔓延する『置き去り』問題解決の見通しの透明化。
 例えば、親船最中の統括理事長就任。
 今こうして学園都市の子供達が平和にあくびをしていられるのは、なるほど、かのヒーロー達の苦難がもたらした恩恵と言えるだろう。



 しかし。
 最終決戦から五年が過ぎ、ひとまず平穏に回りだした世界において、忘れてはならない注意事項も多々ある。





 例えば、第七学区のとある路地裏。
 能力絶対主義の弊害、落ちこぼれた不良達の徒党──スキルアウトが未だに息づいているというのは、やはり目を反らせない真実だった。












「待てやこのガキぃ!!」

「ちっくしょ、なんつー逃げ足の速さだ……」

「おいコラ観念しろ! この路地裏で俺たちから逃げ切れると思ってやがんのか!?」

「はっ、は……。大体、待てって言われて待つヤツなんか、いるわけないにゃあ……!」


 威勢の良い怒鳴り声を浴びて、人形のように整った容姿の少女が、途切れ途切れの呼吸混じりに減らず口を叩く。
 追われているのは、金髪の少女一人だけではなかった。
 柄の悪い男たちの十数メートル先をひた走る彼女は、その右手で袖口を引っ張るもう一人の少女に目配りする。


「……もうっ! 大体、もっと速く走れないの!?」

「ひ、ごめんなさ……あ、足が、震えて……!」


 件のヤンキー集団に絡まれていたところを助けられた女子中学生は、半泣きのグシャグシャな顔でそう呻いた。
 脅迫まがいの強引なナンパで連れていかれそうになっていた矢先なのだから、彼女の怯えようも仕方ないだろう。
 が、同情を寄せたところでこの状況は一切好転しない。


(……この辺の土地勘は私にもあるけど、路地裏はスキルアウトのテリトリー、あいつらの方が詳しいに決まってる。
となると、抜け道を探して出し抜くのは無理。……大体、そう長くは逃げられない……!)


 短めに切り整えたふわふわの金髪を揺らして、フレメア=セイヴェルンは爪でも噛みたそうな表情のまま思考を巡らせる。

 並々ならぬ経歴を持つ保護者達から『逃げ方』の手解きを受けてきた彼女ではあるが、如何せん連れ立つ人間がネックだ。
 自分一人の身を守る分にはどうとでもなる。しかし、傍らの少女の体力には、正直あまり期待できそうになかった。



「……にゃあ! とにかくこっち!」


 狭い角を曲がり、一時的に不良達から姿を隠したタイミングで彼女は再度口を開く。


「──大体、二手に分かれよう」

「っ、え……」


 囁かれた言葉に被害者の少女は不安げな顔つきになるが、生憎とそれに構っている猶予は無かった。


「そうすれば、連中は大体私を追い掛けてくる……一人になったら、あなたは大通りまでダッシュするんだ。
 私の『友達』が、近くにいるはずだから。一緒にここを離れて」

「っ、そんな! それじゃあなたが……!」

「そんなこと言ってる場合じゃ──、にゃあっ!?」


 パニックに陥る少女を叱りつけようとしたフレメアは、そこで思わず悲鳴を上げてしまう。
 突然真横から手首を掴まれ、そのまま少女もろともビルの隙間に引き込まれたのだ。


「む、ぐ……っ!?」


 ひたりと冷たい手に口を塞がれ、背筋を凍らせるフレメア。
 不良グループに回り込まれたのか──とっさにそう思い至り、背後の存在に肘鉄を喰らわせようと身構える。

 だが、耳元に寄せられた声は、拍子抜けするほどに聞き慣れたものだった。





「……お迎えに来ました」

「!!」





 少女二人を難なく抱え込む両腕の細さにも、頭上から降りかかる長い銀髪にも。
 フレメアには大いに心当たりがあったし、また、彼女の顔にいつも通りの笑みを浮かべさせるには、それだけで十分だった。


「──『お姉ちゃん』! 大体、来てくれたんだな!?」


 口の戒めを解かれたフレメアの弾む声に仰がれた少女──フロイライン=クロイトゥーネは、曖昧な表情でそっと頷いて見せた。



「ここに長居する理由はありません。早くその方を安全なところまで連れていってあげましょう」

「大体お姉ちゃんの言う通りだ! そっちの子、このお姉ちゃんが居ればもう大丈夫だからな!」


 こちらへ、と先導するフロイラインに手を引かれて、二人の少女は狭い道を前へ前へ進んでいく。

 銀髪の少女と合流したことで途端に機嫌を良くしたフレメアに、少女はおずおずとこんなことを話し掛けた。


「あ、ありがとうございます……でも、あのっ」

「む?」

「その……あいつら、放っておいていいんでしょうか? こ、このままにしてたら、他の女の子もいつか襲われるんじゃ──」

「心配ありません」


 フレメアの代わりに答えたのはフロイラインだった。
 瞳孔が開いた少々不気味な瞳にいきなり振り返られ、思わず身を固くする少女。
 その反応には気を払わずに、フロイラインは簡単な調子でこう言った。


「私達には、頼りになる人がいますから」

「にあー、ってことはやっぱりアイツも来てるのか。助けられるのは癪なんだけどにゃあ」

「……あ、『アイツ』って……?」

「くそぉ……大体、みんなを守れるような私になる、っていうのは自分で決めたことなのに。
 どいつもこいつも私を無視して命張りすぎだぞ」

「焦ることはないです。あなたが活躍する機会は、この先まだまだ沢山あるはず、です」

「……?」


 戸惑いながら疑問符を頭に浮かべる彼女を「いいからいいから」と強く引っ張って、少女らは足早に退避していく。






『アレ』に関しては十分に信用も信頼もしている二人だったが──それでもやっぱり、無意味に巻き込まれるのは避けたいところなのだ。









 そして──そんな逃避行と時を同じくして、とある少女はたった一人で、十人近くもの不良少年達の前に立ち塞がっていた。


「あ? 何だテメェ」

「俺達急いでんだけど。それとも何、お嬢ちゃんが俺らの相手になってくれるってワケ?」

「……ねえ、そんな大人数で女の子一人追いかけ回して、恥ずかしくないの?」


 ピリピリとした苛立ちの目線を浴びながら、それでも華奢な彼女は臆せずに彼らを見据える。
 が、自分らより一回りも二回りも背の低い中学生に睨まれたところで、彼らは簡単に怯むような人格ではない。
 嘲笑、では済まないような馬鹿笑いと共に、不良たちが小柄な少女ににじり寄る。


「ぎゃはは! 言うねーアンタ! アンタと遊んでりゃイイ退屈しのぎにはなりそうじゃん!?」

「どうせこの人数にゃ敵いっこないんだ。よく見りゃそこそこ上玉だし、諦めて俺らとタノシイことでもしに行こうぜぇ?」

「ははっ、おいおいロリコンかよテメー。こんなちんちくりんじゃ勃つモノも勃たねーって」

「……はぁ。大の男が揃いも揃って、そんな事しか言わないのね」


 下品な口ぶりで威圧してくる輩を前に、彼女は呆れたようにため息をつく。



「えっと、一応聞いておくけど……大人しく退散してくれる気は」

「あー? 馬鹿かよ、誰がンなダサい真似するかっての」

「グチャグチャ言ってねぇで──さっさとこっちに来やがれクソアマ!」


 しびれを切らしたリーダー格の男が、ついにその屈強な手で少女の細い腕を掴み取る。
 が、それは不良達にとっては大きな間違いだった。
『茶髪にルーズソックスの少女』という、とある有名すぎる能力者の特徴に気が付かないまま彼らは、無防備に先手を打ってしまったのだ。


 バチィ! と。
 浅慮の代償は、四方を阻むコンクリート壁を穿った高圧電流という形で訪れる。


「っ、ぐ……何だぁ!?」

「まさか、能力者だと……!?」

「オイこいつ、もしかして噂の……!」


 細くすらりとした体格も、凛としたその顔立ちも、紫電をまとい広がる明るい色の髪の毛も。
 その何もかもが、彼らにとっては悪夢のようなその噂と一致していたのだ。
 威嚇としてバチバチと前髪に帯電させて佇む少女を前に、男の一人が思わず目を剥きこう叫ぶ。





「──超能力者第三位、『超電磁砲』!?」




「なっ、なんだと!?」

「超電磁砲って、まさかあの常盤台出身の……!」

「ま、まずいぞ。ここは一旦退いて──」


 その言葉に怯んだ不良達は、驚愕の顔付きで二、三歩後ろに下がりはじめる。
 無能力者である彼らがこのまま衝動的に逃げ出すのは、もはや時間の問題といった様子だった。
 しかし。


「……『ミサカ』は、お姉様じゃないもん……」

「……へ?」


 俯いたまま呟く少女の声は、まるで癇癪を起こす直前の赤ん坊のように不安定な音域だった。
 ぷるぷると震える華奢な肩に、得体の知れないカウントダウンを本能で察知する彼らだったが、もう遅い。


 バチバチっ……と不気味に鳴り出した破裂音の一秒後──

 まさに文字通り、雷が落とされる。










「ミサカにはっ! 打ち止めって名前があるんだからぁぁぁああああああああああああ!! ってミサカはミサカは叫んでみる!!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」










 バリバリバリバリッッッ!! と、派手な閃光が視界を埋め付くす。
 壁や地面、四方八方に放たれた衝撃に、不良少年たちは哀れにも全員まとめて吹っ飛ばされてしまったのだった。







「……………………ま、またやっちゃった……ってミサカはミサカは呆然としてみたり……」


 十秒後。
 ぜーはーと肩で息をする少女・打ち止めの足元には、放電の余波でぶっ倒れた死屍累々が所狭しと転がっている。
 泡を吹いて気絶している彼らの前でおろおろしている彼女の姿は、端からどう見ても加害者のそれだった。

 直接攻撃する意思が無かった分、彼女の言う『お姉様』の中学時代よりはいくらかマシなのかもしれないが──
かつて彼女を『暴力に頼らない真の善人』と評した上条当麻辺りが見たら頭を抱えだしそうな構図であることは否めない。


「い、一応この人たちに怪我はないみたいだけど……このままじゃ白井先輩にまた怒られちゃう、ってミサカはミサカは予想を立ててみる。
 うわーんごめんなさいお願い起きてぇええええ!! ってミサカはミサカは始末書は嫌だと泣き叫んでみたり!!」


 左腕に巻いた風紀委員の腕章の威厳も霞むほどの狼狽っぷりで、打ち止めは必死に不良たちの肩を掴んで揺さぶる。
 ガックンガックンと顎を鳴らす少年たちは今にも舌を噛んでしまいそうだった。しかし動転した彼女はそんなことには一切思い当たらない。

 ──そんな中、背後からテクテクと近付いてきた二人組の存在は、ある意味その少年達にとっては救いの女神だったのかもしれない。


「にゃあ、大体また派手にやったな。というかこいつら生きてんのか?」

「先程の彼女は警備員に保護してもらいました。もうすぐ応援の人たちが駆け付けてきますから、気絶しているのなら都合がいいと思います」

「ふ、二人とも……ってミサカはミサカはギクリとしてみたり」


 つんつん、と口に出しながら白目を剥いた男の頭をつつくフロイライン。
 その傍らで、フレメアは腰に両手を当てて仰々しく打ち止めへ歩み寄ってきた。

 庇護欲を煽るような愛らしい容姿の(そしてヒーロー修行中の)少女がその瞳いっぱいに湛えているのは、好敵手へ向ける不敵な笑みだ。










「……まったく、大体登場が遅すぎる上にコレとはつくづく情けないにゃあ、この子供め!」

「たっ、助けてもらったんならちょっとは大人しくしてろお子様め! ってミサカはミサカは反撃してみる!!」














 そう。これは、平和を手に入れはじめた学園都市の物語──



 少しばかり長いプロローグは、いつも通りのこんな応酬で幕を閉じたのだった。




とりあえず冒頭はここまで。
書き溜めがあるうちはなるべく三日に一回は更新していきたいです。どうぞ気長にお付き合いください

はまづら団いいねえ
もちろん白カブトも出てきますよね!?


たくさんのレスありがとうございます。
SS速報初めてなので色々アドバイスもらえると助かります

>>18
カブトムシさんは魔法少女モノでいう使い魔ポジションで登場予定です。マスコットキャラです


最初に8レスだけしか投稿してないのも何だか寂しい気がするので少々続きを。
みんな大好き白井先輩のご登場です











 さて──冒頭のスキルアウト絡みの事件から一時間ほど経った時刻のこと。
 柵川中学校を拠点とする風紀委員第一七七支部にて、打ち止めは一人ちょこんと地面に正座させられていた。


「……御坂」

「ひゃいっ!」

「今更ですけれど、貴女が急遽ここに呼び出された理由は、勿論分かっていますのよね?」

「……承知してます白井先輩、ってミサカはミサカは……」


 問い掛けられ、平伏のポーズのままごにょごにょと何かを呻く打ち止め。
 そんな彼女を目前に、オフィス用の回転椅子に腰掛け脚を組む『先輩』は深い吐息をこぼした。
 彼女はウェーブの掛かった豊かな長髪をさらりとかき上げてから、デスクに置かれた数枚の書類を手に取る。


「全く、貴女という方は……」


 おもむろに立ち上がった高校生の少女、白井黒子はつかつかと彼女の前に歩み寄り、眉間に皺を寄せたままその書類を突き付けた。

 それは別動隊の警備員から送られてきた詳細報告書と──『つーかこれ正当防衛って次元じゃないよね馬鹿野郎』という旨のお小言である。


「……単独でスキルアウトに絡みに行った挙げ句、戦意を無くした相手を八つ当たりで気絶させる風紀委員は一体何処の馬鹿なんですの!?」

「ごめんなさいミサカです! ってミサカはミサカは全力でおでこを床にぶつけてみる!!」


 カッと目を吊り上げて怒鳴りつけてくる白井に、打ち止めは負けじと声を張った。ただしこちらは涙声であるため若干迫力に欠ける。
 長い髪を触手のごとく振り乱して、一七歳の先輩風紀委員・白井黒子は堰を切ったようにまくし立てる。


「少しはチームワークというものを覚えなさい! 先日大能力者になれたとはいえ、貴女は風紀委員としてはまだまだ半人前なんですのよ!?
 我を忘れて漏電するような未熟者が、どうやって一般人を守れるというんですの!」
「うう……だってぇ……」

「……貴女と『お姉様』とを混同して、良からぬことをしようと企てている輩とて居ないとは言い切れないのが現状です。
 それら全ての問題を一人で解決できるほど、貴女はまだ強くはありません! それが分かっていますの!?」

「……あう……」


 きつい物言いながらも、自分のことを本気で心配して叱ってくれている白井の本音に、彼女は今度こそしおらしく頭を下げた。


「ごめんなさい、ってミサカはミサカは素直に謝罪してみる……」

「……、次回からは、必ずわたくしの指示を仰いでから行動なさい。分かりましたわね?」

「! ……はいっ!」


 ぱっと笑みを綻ばせて答える打ち止めに白井は、表情こそ憮然としたまま、けれど小さく頷いて見せた。



「ふふふ、でもなんだかその言い草も懐かしいですねぇ白井さん」

「何がおかしいんですの初春」


 奥のキッチンから現れた黒髪に花飾りの少女・初春飾利は、含みのある微笑みを浮かべて白井に近付いてくる。
 彼女は趣味で買い揃えた白磁のティーセットをテーブルに並べながら、飴玉を転がすように甘い調子でこう語った。


「そういう時代がかつて白井さんにもあったじゃないですか。それこそアホ毛ちゃんのこと怒れないレベルで猪突猛進してましたっけ。
 固法先輩や御坂さんにもよく叱られてましたよね。ほら、覚えてます?『残骸』の一件とか──」

「ぶふっ!? そ、そんなものは若気の至りですの!
 初春、それ以上余計な口を叩くとそのよく回る舌の上に唐辛子でもプレゼントしますわよ!?」


 大声で誤魔化し、赤面の白井が初春を睨み付けたところで、まるでタイミングを見計らっていたように、詰所の引戸が開けられる。
 ぴょこりと隙間から覗く金と銀の頭。その正体は言わずもがな、フレメア=セイヴェルンとフロイライン=クロイトゥーネだった。


「……お邪魔します」

「にゃあにゃあ、大体お説教は終わったみたいだな」

「あれ、二人とも今来たの? ってミサカはミサカは──」

「いいえ、わたくしの話はまだ終わっていません! 貴女にも言いたいことがたっぷりありますのフレメアさん!」


 ぴしゃりと飛ばされた白井の声に『にゃあ!?』と肩を跳ねさせるフレメア。


「あ・な・た・は! 一体これで何度目なんですの!? 前回はスキルアウトの抗争に殴り込んで、前々回は迷子と一緒に迷子になって!
 一般市民が英雄気取りでわたくしたちの領分に干渉しないでくださいまし! はっきり言ってクソ迷惑ですの!」

「にゃああ!? だ、大体私はヒーローとして、自分が正しいと思ったことをしただけだ!」

「自ら相手を挑発した挙げ句第三者に助けてもらうことのどこがヒーロー活動なんですの!?
 せいぜいお荷物ヒロインもいいところです! ご自分のトラブルメイカーっぷりを少しは自覚しろと言っているんですの!
 つーか年上であるわたくしを白井呼ばわりとは何事ですのこの舶来マセガキ!!」

「むにゅっ!? う、うにゅあああああああああああああああああああああああああああああ!!?」


 鬼のような形相でフレメアのほっぺたを右に左に引っ張りまくる白井黒子。
 その傍らで、すっかり馴れた様子の初春はのほほんとした笑顔で「フロイラインさんもお紅茶どうぞー」とティーカップを渡していた。


「フロイラインさんが私たちの所まで通報してくれたおかげで、迅速な対応ができました。すっかりアホ毛ちゃんたちの保護者さんですね」

「……自分に出来る範囲であれば、手助けするのは当然、そう思います。
 私はこの街では無能力者という扱いですし、直接の戦闘には向いていないようです、から」


 肯定も否定もせずにそう述べた銀髪の少女の言葉に、とてとてとソファへ近寄ってきた打ち止めは目を丸める。



「むむむ、なんだかお姉ちゃんこそが風紀委員に相応しそうなこと言ってる、ってミサカはミサカは心境を述べてみる」

「……? 私が、ですか?」

「そうですわね、少なくとも御坂やフレメアさんの無鉄砲さに比べれば、フロイラインさんの行動指針のほうが遥かに信用に足りますの」

「にゃっ、にゃにおう白井!? 大体わたひは風紀委員じゃにゃいんだから、いちいち白井にお説教されるいわれはにゃいにゃあ!」


 真横に伸ばされた口でフレメアは抗議するが、白井は「はいはい存じてますの」と適当に宥めながらその柔らかい頬をぐにぐにと堪能する。

 一方で、わざわざ『外』から取り寄せたらしい、砂糖で作られた純白のレースを紅茶の水面に浮かべて遊んでいた初春飾利は、
紅茶にふうふうと息を吹き掛ける後輩に向かってふとこんなことを尋ねた。


「えっと……アホ毛ちゃんとしては、御坂さん……『お姉さん』と同一視されるのって、やっぱり嫌なことなんですか?
 今日だって、お姉さんと間違われたからあんなことしちゃったんですよね?」

「え、……うーん……」


 予想外に投げ掛けられたその言葉に、少々困ったような顔でティーカップを覗き込む打ち止め。


「初春……あまりそのようなことは」

「そ、そんな気にしないで大丈夫だよ白井先輩! ってミサカはミサカは慌てて言ってみる」

「……にゃあ、大体コイツは、そんなことで『姉』を否定するようなヤツじゃないぞ」

「……?」


 ポツリと呟かれたフレメアの言葉に、フロイラインがぼんやりとした様子で首をかしげる。
 熱いダージリンティーを両手で包み込み、打ち止めはこんなことを語り出した。


「……ミサカはお姉様に憧れてるし、大切なオリジナルだから、
 ミサカが昔のお姉様に似てるって言われるのも、本当はちょっと嬉しいんだ」

「……打ち止め様……?」

「だけど……いくら似てたって、オリジナルと『同じ』じゃやっぱり駄目だと思うの、ってミサカはミサカは自分の考えを述べてみる。
 ……ミサカはミサカとして、お姉様とは違うやり方で色々なことを解決していきたい、ってミサカはミサカは自分の目標を述べてみたり」


 立ち上る温かな湯気に鼻をうずめ、そっと目を伏せる。





 お姉様や上条当麻、今まで打ち止めを守ってくれたヒーロー達は、結果的には『暴力』によって勝利を掴み取ってきた。

 彼女はそんなヒーロー達を尊敬している。それは本当のことだ。
 けれど、人並みの悪意を持たないクローン人間である彼女には、そのやり方をどうしても真似したくないという意地があった。

 白井黒子に並ぶ大能力者へと成長した打ち止めにとって、暴力で悪漢をねじ伏せるのはたやすいことだ。
 それでも──彼女は拳に頼らないまま、なんとかして新しい方法を見付けたい。
 彼らとは違う形で困難に打ち勝ってこそ、様々なハードルを乗り越えて風紀委員になった甲斐があるというものである。


「……なんて言って、肝心の方法はまだまだ模索中なんだけどね、ってミサカはミサカは……きゃっ!?
 お、お姉ちゃんどうしたの!? ってミサカはミサカはちょっぴり慌ててみる!」


 ソファの後ろから現れたフロイラインに突然抱きしめられ、打ち止めは危うく手にした紅茶を零しかけた。


「にゃあー……」

「……あの悪癖はいまだに治りませんのね」


 その光景を白井とフレメアは妙に達観した目で見ていたのだが、初春だけは何故か「あ、あわわ」と頬を染めて指の隙間越しに窺っている。
 邪魔っ気な前髪を大きなちょうちょのヘアピンで留めている銀髪の少女は、持ち前の無表情のまま頬同士をすり寄せはじめた。


「はい。少し元気が無い様子だったので、スキンシップによる励ましが有効だろうと判断しました」

「う、嬉しいような恥ずかしいような、ってミサカはミサカはほっぺたをうりうりされながら目線を逸らしてみる。
……『コレ』、絶対に男の人相手にやったりしちゃ駄目だよ? ってミサカはミサカはガードの緩いお姉ちゃんに再三忠告してみたり」

「……? はい、よく分かりませんが、あなたがそう言うのなら私は従います」


 困り顔でそんなことを言う打ち止めに頭を軽く押し返され、フロイラインはいまいち釈然としない表情で首をひねった。
『友達』に合わせて自身を十五歳前後の体格まで少しずつ『成長』させていったという経緯を持つこのトンデモ人間は、
今や同性の打ち止めたちも唸る可憐な容姿の少女へと羽化を遂げていたわけだが、どうも本人にその辺の自覚は薄いらしい。
 ──お姉ちゃんの抱きつき癖、早く治さなきゃ色々マズイ。打ち止めは自らの行動目標にこっそりとこんな事を付け加えていた。

 こほんと咳払いした白井は、妙な空気を払拭すべく再び大声を張り上げる。


「と……とにかく! 御坂、貴女には今日中にきっちり始末書と反省文を出してもらいますの!
 フレメアさんは御坂が仕事を終えるまで床で正座! よろしいですわね!?」

「にぎゃああああああああ!? きょ、今日中ってもう夜の九時だよ!? ってミサカはミサカは絶叫してみる!」

「だっ大体、藪をつついてもないのに蛇が出てきた、だと……!?」

「さあさあ! わたくしたちに遊んでいる暇はありませんのよ!? 分かったら自分の尻くらいさっさと自分でお拭きなさい!」


 みゃァァあああああああああああああああああ!! と、二人分もの阿鼻叫喚が第一七七支部の詰め所を覆い尽くす。

『今日も平和ですねぇ』と悠長に紅茶を啜る初春とフロイラインに見守られ、次世代ヒーローたちの受難は結局深夜にまで及んだのであった。














「──全く、つくづく頼りになる後輩たちですこと……」


 日付もすっかり変わってしまった夜更けの薄闇を、白井黒子は一人カツカツと踵を鳴らして歩く。
 ありふれた中学校の廊下を進む彼女が手の中で弄ぶ物は、これまた何の変哲もない、簡単な造りの鍵だった。


(……仮にも学園都市の一機関で、未だにこんな脆弱な鍵を使っているというのは、余所の方たちにはあまり知られたくない真実ですわね。
 まぁ、戸締まりにこのようなアナログな錠を用いるのはあくまで『学校に従属する機関だ』というポーズを示すためであって、
 実際にはありとあらゆる最新鋭の情報保護警備システムが詰め所の各部に仕掛けられているのですけど)


 部活を終えた後に部室の鍵を返すのと同じ理屈で、風紀委員詰所の鍵もまた、一応この学校の職員室に返すのが規則となっているのだ。
 とはいえ、こんな深夜の中学校に教師など、まず居ないだろう。
 警備の当直にでも連絡して預けておくべきか、などと考えながら職員室を横切ろうとした白井だったが、


(……あら? 明かりが……)


 ドアの隙間から洩れる蛍光灯の光を見て、ひとまず中の様子を覗いてみることにした。


「失礼しますの、どなたかいらっしゃって──」


 ガラリと乾いた音を立てて開いた扉の間から、垣間見たモノに、白井は目を細めた。


「……あら、あらあらまぁまぁ。夜遅くまで身辺整理ご苦労様ですの。
 そういえば明日からでしたのね、『実習』とやらは」

「……、白井黒子か」


 振り返った眼前の人物は『嫌なヤツに会った』とばかりに眉間を険しくするが、彼女は何ら意に介さない。
 むしろわたくしがそんなことを気遣うには値しない人間ですのコイツは、と白井黒子は密かに寸評する。



「詰め所の鍵を返しに来たのですけど……警備の方はどちらにいらっしゃるのでしょう」

「貸せ。……預かってやる」

「あらお優しい。わたくしも貴方の幼子限定のフェミニズムの対象でしたの? 意外ですわ」


 白井のからかいに柄悪く舌打ちをしたスーツ姿の青年は、鼻の先に空間移動されたチャチな鍵を適当に掴み取る。

 特徴的な白い髪に赤い瞳──『後輩』の思い人にして『先輩』の天敵である彼を前に、彼女は愛想の薄い笑みを浮かべた。


「あの子には、まだ『実習』のことは知らせていませんの? さぞ喜ぶと思いますけど」

「……あいつがそンなキャラかよ、せいぜい一人で勝手にキレて逃げ出すだけだろ。最近じゃろくに話を聞こうともしねェぞ」

「それが思春期の女心というヤツですのよ。可愛らしいものじゃありませんの」

「扱いにくいだけだ。虫酸が走る」


 そう吐き捨てて鍵をポケットにしまい込む彼を、白井はくだらなそうに横目で眺めていた。


「(……あの子の『好意』には、やはりまだ気付かない振りですのね。
 自覚がある分、あの殿方さん以上に罪深いですわよ、貴方)」

「あン?」

「いえいえ。相変わらずの親御さんっぷりに、あの子の先輩としてひと安心していただけですの」

「喧嘩売ってンのか? オマエ」

「まさか。お姉様のために捧げた命を無駄遣いするつもりは毛頭ありませんもの」


 口端に笑みを残しつつ、彼女は歌うような足取りで踵を返した。


「それでは、わたくしはこれにて失礼させていただきますけれど。
 ──『先生役』というのは存外大変な重労働ですわよ? せいぜい明日から頑張ってくださいまし、第一位様」

「さっさと帰れクソ女」


 しっしと手で自分を追い払おうとする青年、一方通行のしかめっ面を愉快に思いながら、彼女は能力を用いて退散する。






 ──やれやれ、あの後輩が居ると、呆れるほどに毎日退屈しない。

 明日彼に出くわした打ち止めの慌てようを楽しく空想しつつ、白井黒子は鼻歌を歌いながら夜更けの帰路を急いだのだった。











投下終了です

初日なのでちょっと多目の更新でした。次からはもっと控えめにします


たくさんの感想ありがとうございます
早速ミス見つけてしまったのでその修正だけして今日は去ります。ちくしょう……

>>22
誤:「にゃああ!? だ、大体私はヒーローとして、自分が正しいと思ったことをしただけだ!」
正:「にゃああ!? しっ白井のくせに生意気だ! だ、大体私はヒーローとして、自分が正しいと思ったことをしただけだ!」

実は『白井呼ばわり』してなかったフレメアちゃん ほっぺ引っ張られ損やないの



あとひとつ注意事項書き忘れていました。
オリジナル設定のキャラクターが出てきます。超電磁砲でいう木山先生とか布束さん程度のポジションだと思ってください。
さすがに旧世代のキャラだけで数年後の話を進めるのには無理があったよ



以上です。もうちょい書き溜め増やしてからまた来ます

おつかれにゃ~
個人的に浜面は氏んでいそうな気が

そういえば、い・・・・・さんも同年代ってたら同年代だよね

>>49-51
インデックスとミコっちゃんは大学一年、上条さんと一方さんは三年ですね

大人気『アイテム』もそのうち出てくると思います。
でも基本これ次世代ストーリーなのでヤツらはオマケ程度の出番かも



こんばんは。ちょっとだけ更新に来ました
なんかおすすめスレッドでこのスレの名前出して頂けたようで驚いてます。
ありがとうございます不意打ちすぎてびっくりしたわ

それでは投下します











 ──それは、彼女が中学校に入学する少し前の、古い記憶(メモリー)。





『……これ、何? ってミサカはミサカは……』

『見りゃ分かンだろ』


 つまらなそうに呟く少年が肘を突くテーブルには、近所のとある中学校のセーラー服と、何枚もの書類が適当に積まれていた。
 つるりとした滑らかな質感の紙をおっかなびっくり手に取った打ち止めは、書面に並んだ細かい文字を読み取り、呆然と呟く。


『……戸、籍……?』

『学校に通いたいンなら必要だろォが。何かと小汚い手は使ったが、上の連中に話を付けて、直々に作らせた。
 こいつは正真正銘、オマエの「人権」だ。好きに使え』

『……!』


 バッと顔を上げる打ち止めに、席についた黄泉川愛穂や芳川桔梗が優しく笑いかけた。


『良かったわね最終信号。これで貴女も普通の女の子たちと同じように、中学校に通えるようになったのよ』

『制服は私たちからのプレゼントじゃん。中学校に入ったらしっかり勉強して、たくさん友達を作るじゃんよ?』

『……、うん! ありがとう!』


 黄泉川に頭をわしわしと撫でられて、彼女の戸惑いがやがて、花が咲くような満面の笑みに変わる。



 制服と書類を胸に抱き締めて小躍りする打ち止めに、ソファに寝転ぶ番外個体がニヤニヤとした顔でこう話し掛けた。


『まぁ他の妹達も全員、どこぞのお優しいヒーローたちからめでたく戸籍ってやつを貰えることになったんだけどさー。
 最終信号、あなた自分の名前はどんなのにするの?』

『え? 名前……? ってミサカはミサカは聞き返してみたり』

『流石に中学高校でも打ち止めとか番外個体って名乗り続けるわけにはいかんでしょ。
 せめて戸籍上だけのものでも、ちゃんとした名前を自分たちに付けようって話になってるらしいんだよね』


 ミサカネットワークに接続してみると、なるほど各地の妹達が自らの名前について大はしゃぎで相談しあっている真っ最中だった。
 手に握りしめる書類もよく見れば、名前欄だけが空白のままだった。
 他の箇所は全て『あの人』の、几帳面な文字で埋め尽くされているというのに。


『名前かぁ……、うーん』


 いきなり自分に名前を付けろと言われても……、と困惑する打ち止めに、芳川がこんなことを吹き込んだ。


『(……将来お嫁に行っても困らないように、下の名前はあの子の名字に合うものを考えた方がいいわよ?)』

『(にゃ、にゃるほど……って、こんな所でそんなこと言っちゃ駄目っ!
 あの人に聞こえちゃうでしょ! ってミサカはミサカは真っ赤になって文句を言ってみる!)』

『……親御さーん、何やらお宅の色ボケ娘がヒソヒソとハシャいでて滑稽なんですけどぉ。
 挙げ句に全部丸聞こえだしね。どーするよ第一位、将来の旦那様は責任重大みたいだぜ?』

『……オマエも大概はしゃいでンな、番外個体』


 ソファから立ち上がってきて第一位の肩に肘を引っ掛けようとする番外個体と、それを鬱陶しそうに追い払う一方通行。
 仲の良さそうな二人の様子に気付き、番外個体を睨みながらひとしきりぐぬぬと唸っていた打ち止めだったのだが、


『……あ、そうだ。
 あなた、ミサカね、もう一つ欲しいものがあるの! ってミサカはミサカはあなたの顔を仰いでみる!』

『……あン?』

『名前!』


 怪訝な顔をする一方通行や保護者たちに、彼女はグーにした両手を胸の前に寄せながらソプラノの声を張り上げた。









『ミサカの名前……普通の女の子としての名前、あなたに付けて欲しい! ってミサカはミサカは真摯にお願いしてみる!』














「……、ふぁ……?」


 目を開けた先に広がる白い天井に、打ち止めは疑問の声を発する。


(……夢、かぁ。随分懐かしい記憶かも、ってミサカはミサカはぼんやり回想してみる)


 力のこもらない手でぎこちなく目を擦りながら、緩い吐息を漏らす。
 カーテンの隙間から覗く空は灰色に濁っていた。今日はきっと雨が降るのだろう。

 今はもう一緒には住んでいない、『家族』の最後の思い出。
 制服と戸籍、それから名前をプレゼントしてもらって、彼女は中学生になると同時に風紀委員に志願したのだった。
 寮暮らしが板についてきた今だって、週末や放課後にはしばしばあの家に遊びに行く。
 血の繋がりがなくとも、絆は強く繋がっている。彼女はそう確信していた。

 ……まぁ、ただ一人の『例外』とは、もう随分と疎遠になってしまったのだが──。


『……御坂、──』


 くゆるスモークが匂い立つように低い、あの声が、不意に少女の脳裏に再生される。





『クソガキにゃその程度の名前が妥当だろ。……何だよその顔、不満なら忘れろ。ああクソ、名付け親なンて柄じゃねェ』





「う、うにゃああああァァァァァァ!? ってミサカはミサカは嫌なヤツの記憶が甦ってえええええええ!?
 やだやだそんな声でミサカの名前呼ばないでーっ! ぎゃあああああああああああああってミサカはミサカはー!!」


 瞬時に真っ赤になった顔を誤魔化すように、打ち止めは絶叫しながらベッドの上をのたうち回る。
 白井黒子あたりが見付けたらさぞ面白がるであろう乙女チックな振る舞いだったが、生憎と本人はそこまで素直になれないお年頃だった。

 しかし──ゴロンゴロンと転がり回るその行為によって、彼女は今更ながら、ある事実に気付くことができた。










「………………………………………………………………………………………………、」










 なんというか、その。

 自分のベッドに潜り込んだ制服姿のフロイライン=クロイトゥーネが、超至近距離でこちらを見ている。



「……おはようお姉ちゃん、ってミサカはミサカは挨拶してみる」

「はい。おはようございます打ち止め様」

「……今の、見てた? ってミサカはミサカは尋ねてみる」

「はい。何やら幸せそうな夢を見ているようでしたから、しばらく静観していました」

「……なんでミサカのベッドにいるの? ってミサカはミサカは冷や汗ダラダラで問い掛けてみる」

「はい。アラームが止まっていたので、起こして差し上げようと思いまして」


 横倒しになった視界の中、鼻先の距離十センチのところでボソボソ呟く同居人の人類ふしぎ発見系少女フロイラインは、
白いカブトムシのストラップがくっついた自前の携帯端末をスッと懐から取り出した。

 打ち止め、フレメア、フロイラインのプリクラが映る待受画面のど真ん中には、無機質なフォントで現在時刻が表示されている。





『5/9(木) AM 8:15』





「そろそろ寮の皆さんが全員正門を通った頃、でしょうか」

「先に言えェェェェェェェェェェェェェェ!! ってミサカはミサカはあああああああああああ!!」



 言うなり飛び起きて洗面所に駆け込んでいった打ち止めの背中を眺めて、
布団の上に丸くなったフロイラインの『友達』の白い鶏は、飼い主同様呑気にコケーと鳴いていたのだった。














 まだ五月だというのに、空は台風のような暗雲に包まれていた。
 ガタガタと窓を叩く風と雨に、気味悪そうに視線を寄越した少女が眉間を寄せる。

「にあー、なんとなく嫌な予感がする……。具体的に言うとまた例の子供めが何かやらかしそうな……」

「ふ、フレメアちゃん?」


 昼食を終えた昼休みの時間、ローテンションでブツブツ唸りながら机に突っ伏すフレメア=セイヴェルン。

 そんな彼女に若干戸惑いながら声を掛けてきたのは、同級生にしておさげ髪&メガネのインテリ女子、アズミだった。


「その、なんだか疲れてるみたいだけどどうしたの? 早く着替えに行かないと、次の授業に遅れちゃうよ」

「にゃあ……大体五時間目は体育だったっけ。寝不足の上に足が痛いから今日はもう一切運動したくないぞ……」

「……? 怪我でもしたの?」

「……大体、尊きヒーロー活動
の代償。白井のヤツに正座で二時間半も待機させられた、にゃあ」

「あ、あははは……」


 浮かせた両足をブラブラと動かしながら不機嫌オーラ全開で唇を尖らせる金髪の少女に、アズミは苦く笑って見せる。
 手にしていた文庫本を手提げに仕舞いこみ、彼女は困ったようにおさげの黒髪を揺らした。


「フレメアちゃん、あんまり無茶ばかりしてると皆に心配かけちゃうよ。
 あの、浜面さん? って人とか……御坂先輩たちだって」

「むっ。アズミ、大体私はそういう守られてばかりの弱虫にはなりたくないって──」


 勢いよく身を起こして抗議するフレメアの声を遮ったのは、教室の引き戸が勢いよくガラリと開けられる音だった。
 そこから入ってきたジャージ姿の見慣れない青年に、一同の視線が集中する。


「あー、突然で悪いんだけど、今日はみんなもう下校してくれ。
 学園都市内で局地的な雨風がひどくなってて危険だから、生徒たちは寮で待機して自習してるようにって指示が……」

「……にゃあ?」


 ──訂正しよう。
 少なくともこのフレメア=セイヴェルンにとっては、ソイツのツンツン頭はすこぶる見覚えのある物だった。





「上条当麻。大体なんでここにいるの?」




「ん? そっか、フレメアはここのクラスだったのか。なんかこうして顔見るのは久しぶりだな。
 他のヤツらは初めまして。今日からこの学校でお世話になる教育実習生こと上条さんですよー」


 本当は六時間目の集会で紹介してもらう予定だったんだけどな、と疲れた笑みで付け加えた彼を前に、子供たちはにわかに騒ぎ出す。


「え!? 上条当麻って……!」

「あのヒーローが、俺らの先生になるの!?」

「なんで!? 大学生なんじゃないの!? ていうかヒーローなのに勉強できんのかよ!? すげー馬鹿だって噂聞いたぞ!!」

「うおっ!? だ、だから俺は先生じゃなくて教育実習生でだな!? 大学のカリキュラムで、一年間現地実習しないと単位貰えないの!
 あと俺は確かに勉強出来ねえがテメェらに指摘されるほど壊滅的なつもりもねぇよ! まぁ担当科目は体育なんですけどねちくしょう!!」


 なーなーゲンコロ見せてよゲンコロー、と必殺技をせがむ男子生徒たちにわらわらと囲まれながら上条が必死に吼える。

 そんな光景をポカンと眺める女性陣の中で、フレメアとアズミだけは妙に達観した表情で暗雲立ち込める空を見ていた。


「えーと……実習初日にいきなり休校になるなんて、噂通りの不幸というかなんというか。
 でも本当にあの人の言う通り、風、強くなってきたね」

「にゃあ、竜巻でも起きそうな気持ち悪い空だな。気圧が低いせいか大体頭と目の奥が痛い」

「それは単に寝不足だからじゃないかな……とりあえず、帰り支度しよっか」

「にあー……緊急下校ってことは風紀委員が付き添うのか。なんかそーいうのは大げさすぎてあんま好きじゃ──」


 ないぞ、と言葉を続けようとしたフレメアの瞳は、次の瞬間窓の外に写ったとある人物の姿をばっちりと捉えてしまう。



 ……にゃあ、おかしいな。
 大体校舎の壁というものは、一生徒があんな気軽に『駆け降りる』ものができるものだったっけ。










「……ぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
 なんでっ! アイツがっ! 実習生なのよぉ!! ってミサカはミサカは絶叫しつつもパトロールに飛び入り参加してみるッッッ!!」










 バチバチッ! と、風圧に靡く前髪から紫電が弾ける。

 かっ飛びすぎて何やら宇宙的ですらあるような言語を叫び散らしながら、腕章を左腕に巻き付けて壁を垂直に走る打ち止めは、
磁力で校旗のポールに張り付いたかと思うと、暴風などもろともせずにそのままグラウンドを疾走していく。
 足で踏み込むたびに、小柄な体格を押し上げるように地面から噴き出す黒い物の正体を、フレメアは知っていた。


(……にゃあ、確かに普通に走るより砂鉄でブースターかけた方が速く移動できるのは分かるけど……いや、大体ありゃ無意識の放電だな)



 後始末どーするつもりだ、と親友の暴走をうんざりした目付きで見守る彼女だったが、他の面子はそう落ち着いてもいられない。
 柵川中一番の高レベル能力者の派手なパフォーマンスに『うおおヒーローだ! ヒーローの出動だぜ!』と歓喜する一部の少年たちと、
ただただポカーンとしてしまうアズミ達常識人の姿はいっそコミカルなほどに好対照だった。


「……み、御坂、せんぱい?」

「あっ、アレ『あの子』か!? ちょっ、え、えー!? 何してんだよあんなド派手に散らかしちゃって!?」

「にゃあ、大体気にしなくていいぞ上条当麻、アイツ割と頻繁に壊れるし」


 思わず窓に飛び付いて目を剥く上条に、フレメアがひらひらと手を振りながらそう諭す。

 野暮ったいジャージ姿の彼は、暴風雨の中を身軽に飛び回りながら遠ざかっていく少女の影をしばらく呆然と眺めていたのだが、
やがて彼女の暴走に思い当たる節でもあったのか、自らの掌で額を抱えてため息をついた。


「あー……やっぱあいつ実習のこと知らせてなかったのか……そりゃいきなり目の前に現れたらあの子も驚くって。後で文句言っとくか」

「あいつ……?」


 可愛らしい仕草で首を傾げるフレメアの鞄の中で、突然、携帯電話が振動する。

『コラ、校内では電源切っとけよな』という上条のお小言に適当な調子で会釈しながら、アズミの傍らでメールを開いた彼女は、
その文面を一目見ていっそうげんなりとした表情を浮かべた。


「……にゃあ、大体分かった。やっぱりアレは姉貴譲りのツンデレだ」

「フレメアちゃん……?」

「ごめんアズミ、今日も先に夕飯食べててほしい……大体また手間取りそうだから」


 メールの送り主はお姉ちゃんことフロイライン=クロイトゥーネ。

 いつも通り簡潔極まりない字体で綴られた文章は、フレメアが抱いていた『嫌な予感』を、これでもかという程に現実のものとしていた。










『From:お姉ちゃん
 Title:無題
 本文:

 作戦会議をしましょう。



 ライバル出現。捕食準備は万端です』





投下終了です。
成長した打ち止めはネットワークや姉の影響もあってツンデレさんです。
面倒くさい乙女心のターン(と、フロイラインの暴走)に今しばらくお付き合いください

それではまた




 イベントネタは前後一週間以内なら許される範疇だってばっちゃが言ってた

 というわけで今更七夕小ネタ。本編とは多少時系列ズレてるのであしからず










「……短冊、ですの? わたくしたちにもこれを書けと?」

「せっかくうちの学校が立派な笹を買ってくれたんだから、白井先輩たちもちょっと書いて吊るしておいたってバチは当たらないと思うの、
ってミサカはミサカは笑顔で短冊を手渡してみたり」

「……ですが、それは柵川中の生徒たちのためのイベントなのでしょう。わたくしのような年長の女には相応しくありませんわ」


 色紙を切って作られたペラペラの短冊を片手に、風紀委員第一七七支部のリーダー白井黒子はつまらなそうな表情で椅子に腰掛ける。


「……白井様は、書かないのですか?」

「にゃあ。お姉ちゃん、リアリスト気取って澄まし顔してるヤツに構うことないし。それにしても、夢が無い女は大体早く老けるぞ白井」

「そこに直りなさい妖怪猫娘。というか、何を言われようと乗り気になれないものは仕方がありませんの。
 何が悲しくて高校三年生にもなって綺羅星に願ったりしなくてはならないんですの? しかもこの科学全盛学園都市で」


 今日は七月七日、七夕だ。
 言わずと知れた伝統行事で、星の恋人たちが年一度の会瀬を果たすと言われている日。

 もっとも、クリスマスだろうがバレンタインだろうがなりふり構わずセックス記念日に改造したがる日本では珍しいことに、
この七夕に限っては本来の昔話に基づいた『恋人のための日』といった色が大きく目立つことは少ない。

 つまり、現時点ではコイツは専ら、子供たちのためのイベントなのだ。

 ──願い事を書き込んだ短冊を、笹の葉に吊るすと成就する。

 サンタクロースを信じる年頃の子供だって騙せないような無責任かつフワッとした言い伝えに従って、
この国の小中学校では毎年せっせと数万本もの笹を切り倒して、死んだ目をした生徒たちに黙々と夢だの目標だのの捏造をさせるわけだ。

 当然、義務教育から解放されたオトナの淑女である白井黒子からしてみれば、心底つまらないイベントにしか思えないのであろう。


「大方、貴女たちもこのくだらない恒例行事に付き合わされるのに耐えかねて、せめてわたくしたちを巻き込もうとなさったのでしょうけど。
 わたくしたち風紀委員は夢を語るよりも先に、足を動かして治安維持に励むことが重要なんですの。そうですわよね初春?」

「──えっと、初春先輩はピンクが好き、でしたよね? 私、クラスの分から一枚貰ってきました」

「ありがとうございますアズミちゃんッッ!! うわぁー、短冊書くのなんて何年ぶりでしょう……!
 ワクワクするなぁ、何お願いしようかな……やっぱりここは先週応募した『学舎の園』内の超高級スイーツフリーパス券の当選祈願を──」

「う~~い~~は~~る~~?」

「ひゃっ、ハイ!? 何ですか白井さん今取り込み中で痛たたたたただだだだだだだだだだだ!?!?」


 主に小学生の間で神格視されているという噂のラメ入り金ピカ折り紙(ピンク)を受け取って両目を輝かせる初春の頭に、
背後に回り込んだ白井からの拳骨グリグリが炸裂する。



 髪飾りの花びらを散らせながら、抵抗する初春の抗議は次のようなものだった。


「だ、だってせっかくのイベントですよ!? 童心に返って楽しまなきゃ絶対損じゃないですか!
 ほら、白井さんも書きましょうよ短冊! 別に夢とかそんな大それたことじゃなくても、目標設定とか決意表明みたいなものだと思えば!」

「……はぁ。仕方ありませんわね」


 戯れる先輩二名を取り囲むように待機していた少女たちは、白井の不承不承といった様子の了解にパッと顔色を変えた。


「わーい! やっぱりこういうのはみんなでやらないと楽しくないもんね、ってミサカはミサカは万歳してはしゃいでみる!」

「……まぁ、今更書き記すような目標などにも心当たりなど無いので困り物なのですけれど。本当にどういたしましょう。
 参考までに、貴女がたは短冊に何を書かれたんですの?」

「私は、これです」


 初春の首に絡めた腕を外しながら訊ねる白井の眼前に、フロイラインは両手に抱き締めていた紙切れをずずいと突き出した。

 おや、と一同が覗き込んだ短冊には、硬筆の教科書みたいな丁寧すぎる字体で彼女の願いが刻まれている。


「『友達と、いつまでも一緒にいられますように』……かぁ。すごくお姉ちゃんらしい願い事っていうか、
なんかこんなストレートに書かれるとこっちが照れてきちゃうぜ、ってミサカはミサカは脇を小突きつつ茶化してみたりっ」

「打ち止め、様。脇腹は少し、くすぐったい、です」

「……わ、私、ちょっと被っちゃったかな……」

「ん? にゃあにゃあ、大体アズミは何て書いたの?」


 消え入るような声で呟いたアズミの短冊には、ささやかかつ細い筆跡で『友達みんなが平穏で幸せに暮らせますように』と綴られていた。

 まぁ願い事なんて大体みんな似たり寄ったりだよなぁ、と訳知り顔で寸評するフレメアの手から、
隙を突いた打ち止めがオレンジ色の短冊を一息で引ったくる。


「あっコラ! 大体何をしてるんだこの子供め!!」

「どうせアレだ、お子様は『願い事を他人に知られると叶わない』とかいう初詣と混同されていそうな迷信を信じちゃってるタイプなんだろ!
 だから自分の分だけは上手いこと誤魔化してさっさと笹の葉に吊しに行こうとか思っててたんだろ!
 このミサカにはそんなの全部お見通しなのだふははははー! ってミサカはミサカはレッツご開帳ぉぉぉおおお!!」

「や、めろ……やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 世紀末の死闘に敗れた勇者のようなフレメアの絶叫をも意に介さず、勢いよく開かれたその短冊に記された言葉は──、


「『I want to be HERO!』……欧米かッ!! ってミサカはミサカは懐かしすぎるツッコミを行使してみたり!」

「うっうるさい大体私は外人だし!! いいから返せ! にゃあ!!」


 短冊を取り戻そうと暴れるフレメアは、側にいたフロイラインから「フレメア様、冠詞のaが抜けています」と親切なるダメ出しを喰らい、
いよいよヤケクソ半分で目に涙を浮かべはじめていた。



「そ、それなら聞くけど! そっちの願い事は大体何なんだ!! こうなったら互いに暴露しないとフェアじゃないぞ!?」

「ふふん、ミサカはお子様みたいな中二病患者じゃないから明確な意思決定の元で願い事を決めたし、ってミサカはミサカは勝ち誇ってみる。
 ほら見ろ、『立派な風紀委員になって学園都市の平和を守れますように』! ってミサカはミサカは誇らしげに見せ付けてみたり!」

「……えーっと、裏面に小さく『あの人に素直になれますように』って書いてありますね。
 む? ひょっとしてアホ毛ちゃん、気になるお相手がいるんですか!? ど、どうしてそれを私に教えてくれなかったんです!?」

「ぶふっ!? ななな何を後ろから見てるの初春のお姉ちゃん!! ってミサカはミサカはぎゃああああああああああああああああっ!!」


 瞬時に耳まで真っ赤になった打ち止めが尊敬する先輩(常套句)初春飾利の薄い胸をポカポカと叩き出したところで、
しばらくその騒ぎに耳を傾けつつ短冊を書いていた白井黒子が、ふと立ち上がった。


「まったく、少しは落ち着きなさいな貴女たち。ここは遊び場ではありませんのよ?
 ……やれやれ、こんな単純な作業にとんだ手間を取りましたわ」

「お、おおーっ! し、白井さんが書き終わったみたいですよ!? さーて白井さんの願い事はなんなんでしょうねー!?」


 話題を思いっきり逸らそうと必死に笑顔を作る初春の思惑に釣られ、打ち止めをはじめとする少女たちはにわかに白井黒子へと注目する。

 視線を一身に浴び、どこか拗ねるように顔をそむけた彼女はそのまま、手にした紫の短冊を提示した。


「……、別に、大したことは書いていませんの。見たいのなら勝手に御覧なさい」

「……お、おお……ってミサカは、ミサカは……」

「だ、大体、白井にしてはマトモな事書いてるな。にゃあ」

「……、」


 右上がりの、硬く意思の強そうな字体を眺め、後輩の少女たちは一瞬、不覚にも水を打たれたような静寂を得る。


「『後輩たちが健やかに成長し、未来へ大きく羽ばたいていけますように』――すごく良い願い事じゃないですか、白井さん!」

「……年輩者として、子供たちの未来の幸福を祈ることなど、こんなイベントにかこつけずとも当然の責務ですの。
 言葉にしてしまうと、こういうものは一気に安っぽくなってしまいますの。ですから七夕など、わたくしは好みませんのよ」

「白井先輩……、ってミサカはミサカはじーんと来てみたり……!」

「さぁ、分かったらそんなものは早く吊るしてきてしまいなさいな。
 ……いつまでもここに置いたままにしていても、願いは叶わないという話なのでしょう?」

「――うん! 了解しました! ってミサカはミサカは大切な短冊を受け取ってみる!!」


 かすかに頬を染めて語気を強める彼女の言葉に従って、満面の笑みを浮かべた打ち止めは全員分の願い事を回収していく。



 だが。


「よしっ、笹の木は今体育館にあるんだよね、ってミサカはミサカは確認しながら出発して――」

「にゃあ! 待て待て! 忘れるところだった、大体私の短冊、冠詞のaが抜けたまんまだし!」

「……えー、なんかもういっそそのミスは残したままのほうが味があってよくない?
 何かしらちょっと抜けてる方がお子様らしいよ、ってミサカはミサカは薄い笑みで流してみたり」

「け、喧嘩売ってんのかこの子供め!! にゃあにゃあ!!」

「うおわっ!? 何でいきなり飛びついてくるんだ! 短冊落としちゃったじゃない、ってミサカはミサカは……あれ?」


 フレメアに突撃された勢いで地面に散らばった色紙たちを拾おうとした打ち止めが、ふと首をかしげる。

 先ほどまで全て長方形だったはずの短冊の中に、ひとつだけ、ハサミで半分に切る前の四角い折り紙が落ちていた。

 いや、正確には、本来切り目を入れるべき真ん中の一本線には、きっちりと折り目が付いてある。

 より詳しく言えば、その色紙は紫色だった。

 もっと言えば、それは白井黒子の短冊だった。


「白井様の短冊は、まだ切る前の状態だったのですね」

「あら? 皆さんのは半分に切られているんですの? わたくしのは最初からただ折られただけでしたのよ」


 などと嘯きながらさりげなく回収しようとする白井だったが、足元にそれが落ちていたフロイラインが拾う方が早かった。

 白魚のような細い手で拾い上げ、何気なくその紙をぺらりと裏返した彼女は――
 本来B面に閉じ込められていたはずの、隠された『願い事』を、何の疑問も憶えずに朗読しはじめる。


「裏面にも、何か書いています……『わたくしの願い、他の全てを差し置いてでも叶えたい、けれどあまりに遠大な真の願い。
 それはわが国、いいえせめて学園都市内における同性婚、わたくしとお姉様の禁断のウエディングの解禁ですの!
 わたくしは学園都市の大能力者ですから魔術だの禁書目録だのということはこれっぽっちも実感が沸きませんけれど、
 もし万が一、億が一この願いを知り得るオカルトが存在するのならば、どうかこの黒子の愛を聞き届けてくださいまし。
 あぁわたくしのお姉様がばら色の頬をベールでお隠しになる姿は想像するだけで鼻からの出血が抑えられそうにありませんの!
 もちろん黒子もウエディングドレスですの。お色直しは最低四回ですの。純白とピンクと水色とオレンジは欠かせませんわね!
 ああお姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様お姉様わたくしだけのお姉様ああああああ!!!』」










 ガシュッ!! という異音と共に。
 恐るべき高圧電流が、フロイラインが手にしている短冊のみを、丁寧に焼き切った。












「……やぁ初春。七夕と聞いて呼ばれて飛び出た佐天さんだけど、なんかちょっとタイミング悪かったみたいだねーあっはっは」

「あぁ、そうでした。短冊まだまだ余っているみたいだったので、佐天さんと御坂さんもメールで誘っていたんですよね私」


 いつの間にか開いていたドアの方から聞こえてくるほのぼのとした会話に、耳を傾ける余裕のある者は存在しなかった。

 白井のみならず、手の中に残る燃えカスに首をかしげるフロイラインを除いた後輩女子全員が、背筋に嫌な汗を感じている。


「……噂の笹の木、ちょろっと見てきたわよ」


 空間に割り込んだその声音は相変わらず凛としたもので、それが余計に場を混乱させた。


「別にわざわざ探そうとしてたわけじゃないけど、何枚か知り合いの短冊も見つけたわね。
 あの真っ白けは『クラス五教科平均点を年内に五〇点アップ』、あの馬鹿は『今年は少しでも不幸回避したいです』だったっけ。
 ……ねぇ、私が吊るしてきた願い事、聞きたいわよね? 黒子?」

「お、おね、お姉様……」


 バチバチ鳴り響くスパークに顔をひきつらせる白井黒子に――学園都市第三位の超電磁砲、御坂美琴のお仕置きが炸裂する。










「『馬鹿な後輩がこれ以上取り返しのつかない変態になりませんように』よッ!!
 信用して預けてるウチの妹に何か変な影響与えちゃいないでしょうね!? 早く答えなさいこのド変態!!!」

「あぁっお姉様そんな! その関節はそっちに曲げてはいけないものだとご存知でして!?
 あ、あああどうかそれ以上は!! 愛が、愛が痛いですのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」









 ……実姉による、解説もためらわれるような凄惨なプロレス技を呆然と眺めていた打ち止めはやがて、こう口を開いた。


「……お姉様と白井先輩は、久々の再会にテンションが急上昇している、ってミサカはミサカは分析してみる。
 ここはお邪魔しないように、さっさと短冊吊るしに行こう、ってミサカはミサカはいち早く結論を出してみたり」

「にゃあ……私も行く。ほら、大体フロイラインのお姉ちゃんもこっちにおいで」

「わ、私もいいかな……? というか、こんな場所に置いていかないでぇ……」


 合意に至った少女四人は、そのまま早足でそそくさと退室していく。





 風紀委員第一七七支部のドアの窓からは、美しい天の川も霞むまばゆさの閃光がしばらく漏れ続けていたというが――
当の彼女らがその恐慌を知ることは終ぞ無いのであった。






投下終了です
急いで書いたので誤字あったりしたらすみません

あと、1が男だろうと女だろうとフロイラインが天使なことには変わりないから別になんでもいいと思うんです

平均点50点あげるって、平均点自体50~70点前後くらいが普通なこと考えると
ほぼ全員満点じゃないと達成できない目標だぞ…
相当なスパルタを予定してるんだろうな一方さんw

関係ないが>>98
一方通行「暗殺教室ゥ?」ってひらめいた


こんにちは。今日も暑いですね。これからバイトだよちくしょう



変態じゃない黒子なんて黒子じゃないと思うんだ
でも同時に、黒子が変態になれるのはたった一人のお姉様のためだけだとも思うんだ
お姉様から託された妹君を立派な風紀委員に育て上げなければという使命に燃えるスパルタな白井先輩マジ素敵。嫁にしたい


>>98
五教科合計点のクラス各生徒における最低目標の底上げですね。
100点満点のテストで70点しか取れない子は80点以上に、90点取れる子は確実に満点取れるように。
一方さんは一般人の子供相手にそんな無茶はしないよ

教育実習と言ってもメインは超能力開発の現地実習で、教鞭を取る機会は週三時間程度しかない(他の日は大学で研究)ので、
ぶっちゃけここまでガチで『勉強の面倒を見てやる』ことを目論んでるのは一方さんぐらいしか居ないんじゃなかろうか

第一位はなんだかんだで優等生タイプなので、こういうのはあまり苦じゃないんだろうな。チート怖い



>>101
構わん、早く書きたまえ
でも一方さんどっちかっつーとカルマ君っぽいよね




さて、試験目前にしてそろそろ書き溜めも尽きてきたので今まで以上に鈍行ペースの更新になります。
八月まではしばらく生存報告だけになるかも

それでは投下します







「にゃあにゃあ。……さて、事情は大体フロイラインのお姉ちゃんから聞いていたわけだが」


 轟々と唸る夜空は、雨戸さえ閉め切った部屋の中からははるか遠く。

 小中学生の集団下校に付き添ったり、暴風で飛んできた瓦礫やプロペラなんかを能力で弾いたりと、相も変わらず風紀委員として
ド派手な活躍を遂げてから寮の一室へ帰還した打ち止めは、現在茶の間でずぶ濡れの頭にタオルを被せた状態で、ぶるぶると震えていた。

 とはいえ、それは寒さから来るものではない。

 テーブルを挟んであぐらをかくフレメアは、そんな彼女の恥辱にまみれた真っ赤な顔を見て、めんどくさいと言わんばかりに息を吐いた。


「……なんで、なんでなんであの人が」

「だからそれは、大体上条当麻が言ってただろ。あの大学独自の必須単位が、現地での能力開発の実習、
つまりは『外』で言うところの、小中学校の教育実習なんだって」

「じゃあそれがよりによってミサカ達の学校でなのはどうしてっ!? ってミサカはミサカはにぎぃぃいいいいいいいっっ!!」

「大体そろそろウザいにゃあこのツンデレめ放電やめろぶっ飛ばすぞ」


 クッションを抱き締めて上半身を暴れさせまくる打ち止めの周囲に、バチバチと閃光が散る。

 いい加減に慣れたとはいえ、高圧電流が目と鼻の先で生み出されているなどというのはあまり面白い光景ではない。
 なんせアレにうっかり触れようものなら、見た目以上に痛いのだ。つくづくやっかいな高位能力者である。


「だ、誰がツンデレだ誰がっ! ってミサカはミサカは即刻訂正を求めてみる!
 ミサカあんなファッションセンスもデリカシーも優しさも無い人のことなんてどうでも……! っていうかミサカのこと言ってる場合!?
 お子様だって最近ようやく浜面のお兄ちゃんの金魚のフンを卒業したと思ったら今度はカブトムシさんが──」

「にゃ、にゃあああああ!? だだだ大体それ以上は言わせねーぞ!!!」


 ふしゃー!! と爪を立てる猫みたいな威嚇と共に、そのまま取っ組みあいにまで発展しそうなテンションに入る似た者同士な二人だが、










『……今の一連の流れで、どうして私の名前が引き合いに出されたのでしょうか……』

「優しい優しいカブトムシ様。あなたも、私の友達を『不快』にする悪者ですか?」

『断言しますが違います。
 とりあえずフロイライン=クロイトゥーネ、私を捕食しても九分九厘不味いでしょうから外殻に歯を立てるのはやめてください』


 キッチンにてお夜食のふわとろオムライスを作っていたフロイラインと、彼女につまみ食い感覚で甘噛みされる白いカブトムシには、
まぁ当然というかなんというか、乙女二名の甲高い声音など筒抜けだったりした。





 ……もっとも。

 今現在この部屋に、そういう惚れた腫れただのという感情を正しく理解している者が誰一人として居ないということが唯一の救いか。

 ツンデレ二人に天然ボケな人外二体の次世代ヒーロー四人衆──ツッコミ要員は、現在絶賛募集中である。



『そもそも、あなたは第一位に関して、何か誤解をしているのでは?』

「誤解……?」


 小さな背中にソースの容器を背負いつつ、カブトムシは羽をわずかに開いて器用に人工音声を紡ぐ。


『あなたは「快適」「不快」の指数に従い、〇と一の反応の連鎖で自らの思考を「人間らしく複雑に」コントロールする生き物です。
 だからこそ、そういう微妙な感情の機敏はあなたの思考には理解し難いものなのでしょうが……、
 最終信号が第一位にああいう態度を取るのは、何も彼の存在が「不快」だからだ、というわけではありませんよ』


 まぁ私も時折そういうヒトの感情は解しがたいと思うのですが、と淡々と語る小動物に、
長い前髪を蝶々のピンでまとめた少女はかくりと首を傾げる。


「……よく、分かりません。
 打ち止め様は、あの人の側にいるといつもより口調が荒くなります。心拍数が著しく上昇して、涙腺が緩くなります。
 それは『不快』ではないのですか? 私にはとても『快適』な様子には見えません」

『それは……』

「……私やフレメア様の前では、絶対にあんな切なそうな顔はしません。不公平、です」


 むす、と頬っぺたを膨らませながら、フロイラインは手に取った真っ赤なトマトソースを半熟たまごの上にぶちまけた。

 母親に構ってもらえないで拗ねる子供のような表情の彼女を前に、カブトムシは無言で考える。


(……ふむ、困りましたね……)


 偉そうなことを言った割に、カブトムシには思春期にまつわるアレコレについて語れるだけの経験値など、正直存在しなかったりする。

 かつて『生身の垣根帝督』だった頃に、そういう下世話なトラブルが全く無かったといえば嘘になる。
 だがそれは到底、恋愛と呼べるような綺麗なものでは無かった、はずだ。
 下品な話、生理現象の解消法を求めて、自らの小綺麗な容姿と愛想を体よく利用していたというだけ。
 このような能力ありきの肉体を持った今となっては、学園都市第二位にとってソレはきっと無縁な感情だろう。

 つまり。
 カブトムシこと垣根帝督さえ、打ち止めが悩まされている原因を知識として知ってはいても、実際のところあまりピンと来ないのである。

 目の前の子供にそういうアレの概念を教えるというのは、ある意味難易度が高いミッションかもしれない。

 うーん、とカブトムシは再度考え込む。

 ……そもそもフロイラインの情操教育は基本的に同居人である打ち止めの領分ということになっているので、
何も彼が不得意分野を引き受ける必要は無いはずなのだが、いかんせん彼女は恋愛においていつも通りの賢明さではいられないようなのだ。



 朴念仁の自分や素直になれない打ち止めが無理に指南するよりも、参考書か何かに頼る方がまともな価値観を得られるかもしれない。

 故にカブトムシは、解答をぶん投げることにした。


『……フロイライン=クロイトゥーネ、今度学校の図書館で恋愛小説でも借りて読んでみてください。少しは参考になるかもしれません』

「……? はい、分かりました」


 多分、いやきっと、健全な知識さえ与えれば目の前の超人類もまた一歩、一般的な少女に近付くはずなのだ。
 なにせ自分は常識が通用しないことでお馴染みの第二位だ。下手に情操教育に関わるとえらいことになるのは自明である。

 だから投げた。
 いや別に、五年近く関わってきた少女たちの無自覚なドロドロがいい加減に面倒臭くなってきたとかそういうわけではなく。





 そんなことを言っているうちに、『友達』専属アイアンシェフことフロイラインお手製・家採りたまごの具だくさんオムライスが完成する。

 ついでに家庭菜園の生野菜サラダなども作ってリビングに運んでいくと、疲れて倒れ付していた腹ペコ少女たちがバッと顔を上げた。


「にゃあ! 大体お姉ちゃんとカブトムシは何を仲良く内緒話していたんだ!」

「チーズの香ばしい匂いが……、ってミサカはミサカは薄れていた意識を回復させようと己を鼓舞してみる……!」

『いや、たまには手伝ったらどうなんですか最終信号。家事は協力しあうのが基本でしょう』


 見た目に似合わぬ軽やかさでパタパタと翔ぶカブトムシが、やや呆れた調子で音声を発する。
 思わず野暮な指摘をしてしまったものの、料理をさせられている当のフロイラインはというとあまり気にしていない様子だった。


「料理は好きなので、私一人で大丈夫です」

「み、ミサカは片付けとかお洗濯とか他の家事担当だもん、これも立派な分担作業なんだもん、ってミサカはミサカは反論して──」

「というかお前は大体炊飯器が無いと何も作れないってだけだろ、にゃあにゃあ」

「ぎくっ」


 言っとくけど私は家では普通に作ってるからな? というフレメアの追い討ちで、そっぽを向いた打ち止めの表情が引きつる。


「失敗を恐れてたって大体何も上達しないぞ。お姉ちゃんに教わって、少しはちゃんとした料理法を試してみるべき」

「そっ、そんな手軽な実験感覚で消し炭にしちゃったら折角身を捧げてくれた牛さんや豚さんが可哀想でしょ!?
 美味しく料理できる人が美味しく作ってあげるのが一番の供養なのっ! ってミサカはミサカは──」

『あぁそういえば、第一位も料理が得意でしたね』

「ぎくうっ」


 打ち止め、本日二度目のヒットを奪われる。




「……子供、まさかとは思うが、そんなくだらない意地で……」

「なっなな、何だお子様め! べっ別にミサカ、あの人に到底及ばない腕を披露して恥かくのが怖いだなんてこと絶対に無いんだからねっ!
 そもそも、ベクトルクッキングとかいう反則技使っちゃうあの人や学習能力天井知らずなお姉ちゃんが身近にいるっていうのに、
 どうして凡人のミサカにこれ以上を望むというの!? ってミサカはミサカはだああもうチートってやだっ!!」


 再び興奮して頭をかきむしる茶髪の少女(メシマズ属性)。

 情緒の不安定さは近頃ますます個性が乱立して際どくトンガってきたミサカネットワークの影響か、あるいは単に思春期ゆえなのか。
 彼女らとは異なる形で数の力を行使するカブトムシにとっては興味深い事例である。彼は基本、この手合いにおいては静観を好むのだが。

 チーズがとろける美味しいオムライスをいただきまーすとパクつきながら、フレメアは打ち止めにこんなことを話しだす。


「……でも真面目な話、大体ホントにそれでいいのか?」

「な、何が言いたい、ってミサカはミサカは」

「にゃあ、率直に言うぞ──料理のひとつも出来ないようでは、圧倒的に女子力が足りない! そんなのは干物だ!!」

「はううっ!?」


 ズギャーン! というサウンドエフェクトが似合いそうに大袈裟なリアクションで、少女は弾丸に貫かれたかのように自らの胸を押さえた。

「じょしりょく(物理)、ですか?」『括弧は要りませんよ』とまた一つ余計な言葉を覚えようとする銀髪娘とカブトムシを隅に置いて、
口調はさておき見掛けにおいては間違いなくイマドキの美少女であろうフレメア=セイヴェルンは、スプーンを片手に持論を述べる。


「学園都市最強の『あの人』とて男だ、そして男というのは何だかんだ言って、大体家庭的で可愛い面構えの女の子が大好きなんだ。
 浜面だって結局は癒し系の理后をお嫁さんに選んだわけだし、ってまぁそれは今関係ないから置いておくけど。
 でもやっぱり、女子として料理は出来るに越したこと無いだろ。ましてこれから約一年、あの人は少なくとも週三回は私達の学校に来る。
 ……その一年の間に、どれだけ『その手』のイベントがあると思う?」


 上条当麻に劣らずあの人も大体人気者だろうし、と補足する彼女を前に、顔面蒼白な打ち止めのスプーンが止まる。


「は、はははまさか……あんな無愛想で口汚い人が……大学でも孤高のぼっちだって妹から聞いてるのに……」

「にゃあ、大体ギラギラしてた昔ならともかく、今のあの人なら見た目だけでも十分女を惹き付けると思うぞ。
 強面に見せ掛けて、何だかんだで年下に甘い所もポイントだろうな。ただでさえ若い新人先生ってのはモテるものだ」

「うぐっ!?」


 口の中のふわとろオムライスがいよいよ飲み込めなくなる打ち止め。もはや食欲など、綺麗さっぱり霧散していた。



 秋のハロウィン、クリスマスまで跨がる冬季補習、そしてバレンタイン──受験疲れのミーハーな女子たちが束の間のイベントに浮かれ、
歳が近くて見た目も良く面倒見が良い『先生』へ我先にと群がる光景が、易々と打ち止めの脳裏に浮かぶ。

 つい最近までコミュ力ゼロに等しかった一方通行が、もしもいきなりそんなハーレムにぶち込まれてしまったら。

 ……ひょっとしてひょっとすると、今までミサカ一筋でいてくれた『ミサカだけのヒーロー』も、うっかりほだされてしまうのでは?


「あ、あう……ってミサカはミサカは……」





 何だかんだで、今までずっと打ち止めの定位置だった、その居場所が。

 ──そんなありきたりなラブコメごときで、揺らいでしまったら、一体何をどうすれはいいのだろう?










「だだだ駄目っ! そこはミサカの陣地なんだから!! ってミサカはミサカはガタッしてみる!!」

「にゃあっ!? だ、大体いきなりうるさいぞ子供め! えーとつまり結論はだな!?
 ツンデレに甘えて尖った自分ばかり演出してても男としてはぶっちゃけウザいだけだから、せめて女子力でも磨けばどうなんだって事だ!」

「な、なるほど……! ってミサカはミサカは地獄に垂れてきた蜘蛛の糸にしがみついてみたり!」


 そういう問題ですかね……、と事の成り行きを無言で見守るカブトムシだが、少女の暴走は止まらない。


「お姉ちゃんっ! あなたの手際を見込んでお願いがあるの、ってミサカはミサカは!!」

「はい。あなたが望むことならば、私は全て従います」


 両手を取り懇願する打ち止めに、ぼんやりしていた不死の少女は〇と一が織り成す神速で返答する。

 一途と言うには若干病みすぎな彼女の発言にカブトムシとフレメアが密かに戦慄していたところで、
しかしその異常性に気がつかない打ち止めは、必死の形相でなおも言葉を続けた。










「ミサカを……、ミサカを、女にしてくださいっ!
 ってミサカはミサカは他でもないあなたに切なるお願いをしてみたり!」










「……………………………………………………………………………、」


 いやその発言はちょっと、と制止できる良識ある者がもしこの場にいたならば、それはどれほど幸福だったことだろう。

 悲しきかな──ツッコミ不在という無情な真実が、このパーティで一番の欠点なのだ。



「……私、は」


 いやに澄んだ声音だった。

 遠くからの雨風の音ばかりが響いていた一室にて、フロイライン=クロイトゥーネの小さな声が滔々と響く。


「私はあの時、『友達』に救われました。だから少しでも、その恩を返したい。
 料理も、勉強も、『友達』の喜ぶ顔が見たくて、そのためだけに取り込んだ経験値です。
 今までは、私が料理を担当することは、あなたのためになると思っていました。あなたが苦手な分、私が『学習』すればいいだけだと。
 ……けれど、本当は違ったのですね。そんなものに、意味など、何も無かった」

「『ッッ!?』」


 打ち止めの手をひしと握り返す彼女の表情を見て、フレメアとカブトムシは思わず息を呑んだ。

 笑っている。

 神の愛に触れた聖女のそれと同じ、あるいはそれ以上の慈しみを湛えて、フロイライン=クロイトゥーネはうっすらと微笑んでいる。


 平素の死んだ目からは想像もできないような抑揚に溢れた声で、彼女は流暢にこう宣言した。



「……打ち止め様。私は、あなたに主がお与えになる試練の化身となりましょう。
 それがあなたの望みならば、私は再び自らを『魔女』の領域まで突き堕とすことに、躊躇いなどありません。

 どうかお許しください。私は、炊事に関しては今日をもって、一切の容赦を捨てます……!」


「……お姉ちゃん……ううん、お師匠さま……! ってミサカはミサカは母性の象徴に飛び込んでみる!!」



 そして。

 えんだあああああああああああああいやああああああああああああああああああああとかいう謎のBGMと共に。



 完全に二人きりの世界にログインした少女たちは、食べ掛けのオムライスを後ろ足で蹴飛ばす勢いで、そのまま熱いハグを決め込んだ。










「……どうしてこうなった……」


 一方で、微妙な顔になったのはフレメア=セイヴェルンだった。

 カレのハートを掴むべく少しは料理を覚えるべき、とハッパを掛けたのは確かに自分であるのだが、
あの二人の熱の入りようだと、なんというかこう、莫大な不安しか感じられない。


(大体、しばらくは雷撃と炭ばかりを食わされる生活になりそうだ……にゃあ)


 気落ちしつつフロイライン最後の慈悲(=オムライス)を頬張る、苦労人な最年少キャラ。

 その傍らで、マスコットキャラクター枠の白いカブトムシはもはや我関せずといった体で窓際までよじ登り、
百合百合しい桃色空間から意識をそらすように、緑色の虚ろな瞳で濁った空を見上げていた。





『はぁ……いつまでも止みませんね。……どうにも、嫌な雨だ』


投下終了です。

我ながらフロイライン暴走しすぎじゃねえかねコレ。
カブトムシは常識人だけど、ツッコミじゃなくて静観するほうが好きなんだよ多分



それではまた。

いつ更新できるか分からんし、このスレでの雑談はお好きにどうぞ。
ついでに、打ち止めフロたんフレメア三人が休日とかに遊びに行くスポットの希望とか、書いていってもらえると助かります
ネタにできそうなら採用していく構え

原作の雰囲気そのままでいい感じっすねー、乙。
遊びに行くところかー、やっぱここは水着を買いに行くとかどうっすかね。ジュルリ

テンション高すぎだろ打ち止めにフロイライン。

三人で遊びに行くなら、久しぶりにマンガ肉を食べに行くとかどうかな?


番外さんどこー?




>>112
美少女がキャッキャウフフするSSに水着回は外せないのよな。採用です
若い娘の水着のトレンド知るためにCanCa●買っちゃったよこの1。まだ開いてすらいねえけど

>>113
そのうち番外編で書きます。あのアヤシイ屋台って第十学区で合ってるかな?

>>116
1も番外さん書きたい。まぁそこは追々と





テスト週間目前最後の更新に来ました

モテ系一方さん書くのしんどい。1の脳味噌が全力で嫌がる


それでは投下します











 翌日。

 嵐の一晩を乗り越えて、第七学区の天気は憎々しいほどの快晴である。


「──今日オマエ達が受けた小テストの結果を参考に、これから俺が受け持つ科目の個別カリキュラムを組んでいく。
 この俺がここにいる以上、とりあえず全員の成績向上は約束してやる。だからオマエらは安心して机に向かえ。……何か質問は?」

「はい質問! 鈴科せんせー、高位能力者だって噂だけど実際レベルいくつなの?」

「それ知って何になるンだ馬鹿か。オマエらは自分のレベルの向上にだけ関心持ってりゃ良いンだよ」

「はいはーい、せんせー下の名前教えてください!」

「禁則事項だ」

「じゃあ私クラスの全女子の期待を背負って聞いちゃう! カノジョはいますかー?」

「学校生活に無関係なことに答える義務は無ェな」

「えー、じゃあ彼氏は?」

「張り倒すぞ」


 就任初日でいきなり抜き打ちテストと決め込んだ謎の冷血実習生は、それでもやっぱり人気者であった。

 現代的なデザインの杖を小脇に、しかし教科書を片手で広げて黒板の前に立つその細身からはおよそ弱々しい印象は与えられない。

 ただでさえ目を惹く容姿の彼がスーツで身を固めた姿はなんとなくアウトローな香り漂うものだったが、いかんせん相手は中学生。
 目の前の青年に対しては畏れよりも憧れが勝ってしまうようで、男女問わずクラスの全員が授業そっちのけで彼に注目していた。

 はーい、と手を上げたお調子者の男子生徒が、再び『鈴科せんせー』に下世話な質問を繰り出す。


「じゃあさ、先生の能力ってどーいうの? 俺らの能力向上の参考になるかもしんないし、ヒントだけでも教えてよ」

「……はァ?」


 怪訝な顔をする一方通行とは対照的に、クラス一堂からは待ってましたとばかりの歓声が沸き起こる。

 実のところ、彼が学園都市最強の超能力者ではないかということに感付いた子供がこの中に居なかったというわけではないのだが、
それはそれとして、年上の高位能力者のチカラを間近で見るのは貴重な機会だ。若い好奇心が疼かないはずもない。






 ちなみに、彼の関係者たちの間では周知の事実だが──一方通行は、子供達の期待の眼差しに割と弱い。



 一瞬だけその瞳に苦々しい色を浮かべた彼は、しかしまぁこれも教育かと思い直し、黒板に備え付けてあるチョークを手に取る。


「……一応、実習期間には守秘義務っつーモンがある。詳しいことは言わねェからな」

「「おおーっ!!」」


 杖を突いている都合上、利き手ではない左手で板書きをする必要があるわけだが、一方通行に不便そうな様子は特に無い。

 盛り上がる生徒たちから背を向けた青年が黒板に淡々と記したのは、生徒たちにとっては非常に見覚えのある図柄だった。


「鏡の、反射角……?」

「理科で習ってンだろ。このA地点から鏡を見ると、B地点の物体の像はどこにあるよォに見えるのか、みてェな他愛もない問題。
 細かい意義は今は置いとくが、俺の能力はひとまずこの反射角を任意に弄くることが出来る。それだけ覚えてりゃ上等だ」


 鏡の中央と地点A、Bを結ぶ線の間、垂直な点線と実線の角度を示す曲線を黄色いチョークで塗り潰す彼を前に、女子生徒が首をひねる。


「先生の体が、像を歪めて写す鏡になるってことですか?」

「間違っちゃいねェが、俺が操作出来るのは何も可視光線だけの話じゃねェ。
 電気、熱、光、重力……視認できるか否かに関わらず、そこに『向き』があるモノなら、何だって意のままの『向き』に変換する」

「???」


 いまいちピンと来ていないらしい生徒達の前で、彼は黒板からふと目を外して振り向いた。

 カチリと。
 指をあてがった首筋のチョーカーから、何か硬い音を響かせながら。


「要は、方角が決まった物の『流れ』を捉えて、極めて精緻にコントロールするチカラだ。
 基本式自体は水流操作や風使いと共通している箇所も多いが……」


 言うなり彼が指先で適当に弾いた白のチョークは──










 音もなく空中に一直線を描き、最後列にいる呆け面の打ち止めの眉間へと綺麗に吸い込まれた。










 パァン!! という破裂音と共に、少女のソプラノの悲鳴が上がる。


「あ痛ぁっ!? ってミサカはミサカはっ!!」

「……他人の思考回路の手癖がついた式を無理に取り込むと、色々と問題も起こりやすい。
 人間の脳味噌ってのは、大量生産のコンピュータみてェに単一には出来てねェからな。トレースしきるのには無理があるンだ。
 だからまァ、参考にしたいヤツは個別に質問に来い。コツだけなら教えてやる」


 おおおおお……! と感心しきった少年たちの声がクラス一帯でこだまする。



 スタイリッシュチョーク投げの妙技に拍手喝采な教室の中で、打ち止め一人だけは当然カチンと来ていた。

 見事に粉砕したチョークの粉を振り落とし、勢いよく立ち上がる涙目の新米風紀委員。いわゆるひとつの激おこである。


「ひっ、人のおでこを勝手なパフォーマンスに使うなーっ!!
 こんなこと言いたかないけどね、誰が代理演算してあげてると思ってるんだ誰が! ってミサカはミサカは抗議してみたり!」

「どォした面白ェ面しやがってこの石頭。つーか授業中に人の顔眺めて百面相してンじゃねェよ、笑わせる気か」

「お、乙女の顔になんてことを……! ってミサカはミサカは……ッ、
 あーはいはいそうですねあなたが笑顔なんか見せた日にはせっかく過ぎた大嵐がまたやって来たりしてね!
 ってミサカはミサカはなんてつまらないジョークだと鼻で笑ってみる!!」


 まったくもう! と火照る顔を誤魔化すようにむくれながらもとりあえず席に戻ろうとする打ち止めだったが、










「……友達を傷付けた、悪い敵。お仕置き、します」










 幽鬼のように立ち上がるフロイラインの瞳がぐりぐりと蠢いたのを察し、一気に血の気が引いてしまった。


「わっわああお姉ちゃんストップ! ストップ!! ってミサカはミサカは背中から腕を回してみる!!」


『うわあああフロたんがキレたーっ!?』というクラスメイトの阿鼻叫喚を耳にして、一方通行は柄の悪い舌打ちを鳴らす。

 あぁ、やはりこの天の邪鬼は早めに治すべきか。打ち止めは心底そう思う。
 額面通りに物事を受け取ってしまう純真無垢なフロイラインを、予期せぬ形で暴走させかねない。


「にぎぎ……離して、ください。彼は、悪い人、です。だから排除、しないと」

「ミサカそんな重傷じゃないよ!? 大丈夫! あの人のデコ攻撃はお約束みたいなものだから!
 ギャグ漫画の爆発アフロヘアーみたいなものだから! ってミサカはミサカは宥めてみる!」

「……相変わらず言動の根本からぶっ飛んでやがンなこの化物は。イイ加減目障りだ、矯正してやるよ」

「あなたもあなたで余計に煽るなッ!! ってミサカはミサカは治安維持の敵を叱ってみたり!」


 風紀委員ですのってミサカはミサカはー! と先輩譲りの口上で学園都市有数の暴れ馬二名を諌めようとする彼女の姿に、
周りのクラスメイトたちは、職員室に例のヒーローを呼びに行こうかどうしようかなどといよいよ本気で相談し始める。




「というか……みーたんと鈴科せんせーってどんな関係なんだろね。
 私、実は前々から二人が一緒にいるところ目撃してたんだけど」

「幼馴染みとかじゃない? それかカテキョ」

「まさかの兄妹とか」

「いやいや似てなさすぎでしょ、天使と悪魔みたいな組み合わせじゃん」

「えーやだそれ可愛いー」

「そこの女子たちは何を和気あいあいとしているんだ! ってミサカはミサカはちくしょうもうやだこの教育実習!!」



 余談だが──級友たちが打ち止めを呼ぶときのあだ名は『本名』からもじって、みーたんである。

 お姉様から一字だけ貰いつつ、いかにも夏生まれの少女らしくシンプルな名前。
 一方通行に名付けてもらって、それが存外彼の名字に似合っていることにニマニマしながら籍に記入した。



 それは何だかんだ言って今でも彼女の大切な思い出だが──そんな裏事情はさておき、
目の前でバチバチと火花を飛ばす保護者二人の姿に、思わず頭痛を覚えてしまう新米風紀委員みーたんだった。


「お口全開で捕食スタンバイするのはみっともないからやめなさいお姉ちゃん! ほらチャイム鳴ったよお昼ご飯食べよう!?
 ってミサカはミサカは悪食さんなお姉ちゃんを説得してみる!」

「む、……そうでした」


 小さな口を鯉のようにぱくつかせる銀髪の少女にそう言い聞かせることで、打ち止めはようやく騒ぎを静めることに成功した。



 他のクラスからも見物に群がる子供たちをしっしと解散させ、隣の席のフロイラインと机をくっつける。

 手提げから出したお揃いの包みを、二人一緒に仲良く開く。ここまではいつも通りの光景。
 しかし、今日のお弁当はいつもと違う──なんといっても、打ち止めが一人で作ったのだ。

 放課後には『仕事』もあるからしっかり腹ごしらえしないと、ということで今朝は少し多めのお弁当を作ろうとしたわけだが、


「……そりゃあ、半日置いといても 炭は炭だよね、ってミサカはミサカは絶望しかないパンドラの箱を開けて落ち込んでみる」

「時間を置いた分、おぞましさが増した、気がします」


 ただでさえ料理慣れしていないというのに、少し多めに作ろうと肩に力を入れてしまったのが敗因だったのか。
 打ち止めの奮闘の成果は──一目見て分かる。実に散々なものだった。

 とりあえず火を通せば安全なのだという乱暴な理念に捕らわれ、野菜炒めやウインナーは見事な炭へと変貌している。
 そのくせ人参やじゃがいもはまだ生煮えで、玉子焼きなどはもはやいり卵と呼ぶのもおこがましいほどのダークネスっぷりであった。



「はぁ……我ながら先が思いやられるなぁ、ってミサカはミサカは肩を落としてみたり」

「まだ初日、です。次からは私と一緒に頑張りましょう」


 アホ毛を萎れさせて落ち込む少女を励ますようにそう宣言したフロイラインは、
そのまま箸でメインディッシュの肉団子(のようなもの)を摘まみ、小さな口に勢いよく放り込む。

 むぐむぐ、と俯いた彼女の口元から可愛らしい咀嚼音が響く。


「ど、どう? ってミサカはミサカは……実はまだ味見してないんだけど……」

「…………………………………………………………………………二つ星。好きな人にはたまらない味、だと思います」

「目泳いでるよお姉ちゃん」


 親友の優しさにほんのちょっぴり涙をこぼしたところで、彼女の耳に飛び込んできたのは、





「──鈴科せんせー! そんなところに居ないでウチらと一緒にご飯食べてよー!」

「あァ? うるせェよ、飯ぐれェ落ち着いて食わせろ」

「っていうかヤバっ! そのサンドイッチ売り物みたいにキレイなんだけど!」

「えっそれ手作り!? すごーい! せんせー料理できるんだー!」



「……とか言いながら何故こっちに来るかキサマらーっ! ってミサカはミサカは嫌な予感がッ!!」


 やる気のない表情の一方通行の袖をグイグイ引っ張る女子たちの囀ずり声に、打ち止めは過敏に反応する。





「……、何言ってンだ? オマエ」

「……知らないもん、ってミサカはミサカはそっぽ向いてみる……」


 教室の一角に連れてこられた彼の目から隠すべく、机ごと抱き締めるように弁当を覆う。

 真っ赤になった彼女のうなじに同級生たちの奇異な視線が突き刺さるが、風紀委員はこんなことでは決してくじけない。





 あぁ──こんなことになりたくないから、さっさと食べてしまいたかったのに。




「……」

「……」

(……沈黙が痛い……ってミサカはミサカは……)


 ……結局、なんだかんだと要らぬ気を使った友人たちのおかげで、見事一方通行と隣同士になってしまった打ち止めは、
正面に佇むフロイラインのじっとりした目付きを意識しながら、しばし黙り込んだ。


「……いつまでそォしてるつもりだ? いちいち人の挙動気にしてンじゃねェぞ見苦しい」

「そういう問題じゃ……あーもう」


 地中海風のソースが掛かった白身魚(推測)を無感動に頬張りながら呟く青年に、とうとう諦めた彼女は再び弁当の包みをほどいた。

 それにしてもこの男、相変わらずよく分からん横文字の料理ばかり作りたがるものである。
 元同居人たちのお説教の甲斐あって自ら肉以外のものも食べるようになった分、以前よりははるかにマシなのかもしれないが。

 いい食事のおかげか、昔より随分と背が伸びたし、細身の上にうっすらと筋肉も付きだして格好よく──いや、それは置いておこう。





 パカッと開かれた弁当箱の中の死屍累々を横目に、一方通行は呆れたように問い掛ける。


「……、新手のアートかよ」

「……生徒の頑張りを認めないなんてサイテー、ってミサカはミサカは憤慨して……というか見ないでよっ」


 ……もっとも、いくら打ち止めが隠しても正面のフロイラインが堂々とお弁当を食べているのであまり意味はない。

 炭だ……、と何度目か分からない嘆きを繰り返しつつ、とりあえず常識的にあまり失敗しなさそうな玉子焼き(の残骸)を一口かじる。


「うぐっ……こ、これ、お砂糖入れたつもりだったのに、ってミサカはミサカは……」

「砂糖と塩間違えたってか? 随分とまたベタな──」

「塩ではありません。重曹、です」

「…………………………何をどォしたらそンな悲劇になるンだ」

「……ううう……ってミサカはミサカは言い返せなかったり……」


 先にあらかた毒味を済ませておいたらしいフロイラインの訂正に、学園都市第一位は思わず哀れなものを見る顔付きになった。



 美味しくないよぉ……と瞳にうっすら涙を浮かべながら奇妙な形に膨脹した卵をかじる打ち止め。

 己の怠惰の結果とはいえ──フロイラインの美味しいご飯に慣れきっていた彼女の舌には、あまりに手酷い拷問である。
 味覚と精神をいたぶる相乗的な自滅行為に、もはやプライドはズタズタだった。


(ミサカが料理できないの、早速あの人にバレちゃったし……。
 実習生が自分の教室でお昼食べるだなんて慣習すっかり忘れてたよ、ってミサカはミサカは意気消沈してみる……)


 そういえば去年は結標のお姉ちゃんが担当だったからよく一緒に食べてたなぁ、と懐かしい記憶に浸る。

 そんな彼女の弁当箱の蓋に、横からポンと置かれたのは──カツとチーズが挟み込まれた厚切りのサンドだった。


「……半分やる。オマエもこっちに半分寄越せ」

「ふぇ!? ちょ、いいよそんなことしなくて! ってミサカはミサカは……!」

「まだ二時間も授業残ってンだぞ。わざわざ自分から腹ァ壊しに行きてェのか?」


 ため息をつきながら打ち止めの弁当箱を手に取り、比較的不格好なおかずを自分のランチボックスへ勝手に引っ張り出す一方通行。
 赤い瞳が呆れたように細くなるのを見て、彼女はぐっと言葉に詰まる。

 そんな打ち止めと立ち代わるように騒ぎ出したのは、彼のすぐ隣に机を引きずってきた女友達数名だった。


「えー!? ずるーいみーたんだけ鈴科せんせーの貰ってる!

「贔屓だ! 身内贔屓だっ!」

「せんせーウチらにも分けてよー! 交換しようよ!!」

「あのなァ……オマエらこの炭化しきったメシ食う覚悟があってそォいうこと言ってンのか?」


 こちとら当面の胃腸の安否が掛かってンだぞ、と失礼すぎる文句をブツクサ漏らしながら、
それでも彼はいつもどおりの憮然とした表情を崩さずに、見た目の悪いおかずを淡々食べ進めていた。


「ま、不味くないの……? ってミサカはミサカはちょっぴり心配してみるんだけど……」

「……誰だって最初はこンなモンだろ。形になってるだけまだマシなんじゃねェか?」


 あえて味への言及を避けるあたりが、元来毒舌である彼らしくない気遣いに思えて、なんとも腹立たしい。
 いや、腹が立つのはこの場合、自分自身に対してなのだが。


(はぁ……何してるんだろうなぁミサカ、ってミサカはミサカはため息をついてみる)


 誰だって最初はこんなもの、と彼は言うが、そんなものは真っ赤な嘘だと分かっていた。
 だって、目の前の彼は実際、最初から何だって完璧にこなせる人だったから。



『あの人は弱い人だからミサカが守ってあげなくっちゃ』──かつてそう意気込んでいた幼い少女は現在、
そんな夢見がちなヒーロー願望に浸れるほど子供ではいられない、いわゆる思春期真っ盛りだ。



 背が伸びて、見える世界がぐんと広がって、最終的に彼女が学んだのは──今まで、いかにヒーローに守られてばかりいたのかということ。

 周りの人たちはみんな強くて優秀で、自分よりずっと大人だった。それだけの話だ。

 そりゃあ、打ち止めだって端から見たら素晴らしい努力家だろう。
 だけど、はるか先を歩む彼らのヒーロー像は、憧れと同時に彼女の壁となった。






 つまりは、悔しいのだ。

 優しくて脆くて、大好きだったあの少年が今や、孤独なヒーローではなくなっていたということが。

 ちっぽけな打ち止めなんかに守られる必要も無いくらいに、彼は強くなってしまっていた。
 その事実そのものが、彼女には悔しくて、寂しくて仕方ない。








「……私は、譲りません。この子の手料理はすべて私の血肉にします」

「気持ち悪りィことほざきながらこっち睨むンじゃねェぞクソ化物が」


 長い髪の毛を猫っぽく逆立てて威嚇していたフロイラインが、やがて意識を切り替えるように、負けじとおかずを頬張りはじめる。

 あんなに張り切られるとお腹を壊してしまわないか心配だが──すぐに杞憂だと気がつく。
 ピーマンだってグリーンピースだって警備ロボだって、隙あらば何でも捕食してしまう腹ペコ具合が彼女の凄まじいところである。

 それでも、美味しくもないものをああやって勢いよく食べてくれるのは、打ち止めへの彼女なりの優しさなのだろう。

 頭頂部のアンテナをへにゃりと曲げて、落ち込み気味の打ち止めは貰ったサンドイッチに小さくかじりついた。

 しゃく、と千切りにしたキャベツとハムカツの歯触りが、嫌味なほどに心地いい。


「うぐ……滅茶苦茶おいしい、ってミサカはミサカは……」

「当たり前だ」


 誇るわけでもなくそう言い放つ青年の様子に軽くムッとした表情を作りつつ、騙し騙し自分の料理をついばむ。


(……あなたのことだから、どうせ、お礼なんか言われても嬉しくもなんともないんだろうけど……)


 ──ありがとうって、言い損ねちゃったじゃない。

 喧騒の中そんなことを考えながら、打ち止めはほろ甘い心境に浸った自分を誤魔化すように、はみ出たお肉に噛み付いていた。










 ……ちなみにこの時、『実は肉団子は傷んでいる』という事実を一方通行から隠しおおせたフロイライン=クロイトゥーネの知恵により、
放課後猛烈な胃痛と吐き気に苛まれた彼が保健室の美人先生・麦野沈利に馬鹿笑いされることと相成るのだが──それはまた別のお話である。




投下終了です。

可愛いツンデレってなんなんだ(哲学)

ヒーローに1位に4位ってこの学校すげえ

乙!
むぎのんが保険医にも驚いたが、あわきんが中学の教師のほうもカナリ驚きなのだが…



こんばんは。テストまだ終わってないけど我慢できずに更新しに来たよ!

もうすぐベランダに白いシスターさんが降ってくる記念日ですね。
しかしこのスレでのインデックスの出番はまだまだ未定。済まぬ



つーかお前ら浜面好きすぎだろ……
全国の世紀末帝王ファンの期待に添えるかは分かりませんが、今回頑張って出番前倒ししました

あ、今更だけど浜面は滝壺さんと結婚してます。悪しからず



>>130
そもそも原作からして第七学区にヒーロー集まり過ぎなんだって……

>>131
あくまで『超能力開発の現地実習』だから、あわきんも一方さんもいわゆる『学校の先生』になろうとしてるわけじゃないんだぜ
学園都市の教師ってつまりは科学者なので、教育実習と言っても『外』とはだいぶニュアンスが違う……って設定です

つーか俺のあわきんはショタコンじゃねえよ!ほんのちょっと年下の男の子と縁があるだけだよ!!


それでは投下します










「……ま……まぁ、大体あれだ。誰にでも失敗はあるからその、フライパンで料理するときはもう少し火加減を意識した方がいいぞ。
 お弁当のおかずならしっかり冷まさないと傷みやすいから、大体夜の空き時間に作っておいて、朝まで冷蔵庫で保存しておくべきだし。
 あと調味料は落ち着いてゆっくりと足して……、な、何故今泣くッ!?」

「……だ、だってあの人、み、ミシャカの代わりにぃ……えぐっ」

「にゃあにゃあ落ち着けっ! たかが食あたりの一つや二つで葬式みたいにハンカチを濡らすな! にゃあ!!」


 夕焼けの赤が瞳に眩しい暮れの時刻。
 腕章を腕に巻いた打ち止めはいつもの二人を引き連れて、第七学区の通学路を歩いていた。

 帰りの会にて一方通行ダウンの一報を担任教師から聞かされて以来ずっとメソメソと泣きじゃくっていた彼女だったが、
今日は生憎、風紀委員としてのパトロール担当の日であった。

『いつまでも塞ぎ込んでいてどうしますのこのお馬鹿さん!!』と、痺れを切らした白井黒子に詰所から蹴り出されたわけである。


「大体、お姉ちゃんもお姉ちゃんだし……。一体どこでそんな悪知恵を覚えた、にゃあにゃあ」

「悪知恵、ですか……?」


 一方、見事ライバルの撃沈に成功した策士フロイライン=クロイトゥーネは、相変わらずの無感動な瞳で首を傾げている。

 フレメア=セイヴェルンは一人思う。大体、自覚が無いのがヤンデレの恐ろしきゆえんだ。
 ……もっとも、例の親御さんも端から見ればまた然り、自覚の無い厄介な保護欲と拘束癖の持ち主だと思われるが。

 先の思いやられる怪物トライアングルに、蚊帳の外のフレメアはげっそりとため息をつく。


「……大体、もう知らないぞ私は。願わくは、今後フロイラインのお姉ちゃんにこの子供以上のヒーローが現れるのを祈るばかりだよ」

「願うと祈るじゃ表現が重複してる、ってミサカはミサカは言いたいことはよく分からないけど突っ込んでみる」

「そこ今気にする所か?」


 真っ赤に染まった目元を気にしながらごにょごにょ呟く少女に、呆れたフレメアが低い声で問いかけたところで、
打ち止めが手にしていたケータイからデフォルトの着信音が鳴り出した。

 風紀委員の打ち止めにとって、この味気ない着信音は『同僚』からの電話であるというサインである。


「はっ、はいもしもし! ってミサカはミサカは慌てて応じてみたり!」


 弾かれるように背筋を伸ばして通話ボタンを押す打ち止め。

 掛けてきたのは白井か初春か。
 横目で見守るフレメアたちはそう目星を付けていたのだが、どうやら通話相手はそのどちらでもないようだった。





「……なゆちゃん! 元気してた!? ってミサカはミサカは満面の笑みを浮かべてみる!!」

『──うん、私は元気だよ。久しぶりだね、御坂ちゃん』





 張りのある凛としたソプラノの持ち主、その正体は──木原那由多。

 第一七七支部とはまた別の学校に所属する、高校二年生の風紀委員である。



『御坂ちゃん、今パトロール中だよね? 白井お姉ちゃんから連絡が回ってきたから、そちらにも伝えようと思って。
 こちらの担当区域の第七学区北西エリアは特に問題無し。
 私も今そっちを手伝ってるから、御坂ちゃんには南西エリアを中心に見回りお願いするね』

「そうなの? 了解したよ、ってミサカはミサカは元気にお返事してみる!」


 泣いたカラスがもう笑った、と打ち止めの傍らで苦笑するフレメア。

 この街における『木原』という名の価値など、フレメア=セイヴェルンは知らないし興味もない。
 だが──この木原那由多が掛け値なしに善良な少女であることだけは、知っていた。

 そうでなければ、この打ち止めが『風紀委員の先輩』として、彼女のことをここまで慕っているはずもないだろう。


「にゃあ。そういえば、大体そっちは那由多のお姉ちゃんに頼み事をしなきゃいけなかったんじゃないのか?」

「わっ忘れてた! ってミサカはミサカは……!
 なゆちゃんあのね、ミサカのお願い聞いてほしいんだけど……、ってミサカはミサカは恐る恐る切り出してみる」

『……? どうしたの? 大事な話なら後で直接聞きに行くけど……。
 大丈夫? なんとなく、元気が無いような……』

「……………………………………………………………あなたが天使か、ってミサカはミサカは感涙をほろほろ流してみる……」

『ど、どういうこと!?』


 那由多の良識的で平凡な気遣いの言葉が、日頃変人ばかり相手にしている打ち止めにはいたく沁み入った様子だった。

 ごほんと咳払いしつつ慌てて体勢を立て直し、彼女は本題に戻ろうとする。


「ううん、全然大したことじゃないから大丈夫だよ、ってミサカはミサカは前置きしてみる。
 ミサカ明日非番なんだけどね、片付けなきゃいけない書類がまだけっこう残ってるらしくて……本来なら休日返上でやるべきなんだろうけど、
 でもミサカ、どうしてもそろそろ買い出しに行っておきたいの! ってミサカはミサカは我が家の生活用品の困窮を強調してみたり!
 それで、良かったらなゆちゃんにピンチヒッターしてもらえないかなって思ってたんだけど……」

『えっと、明日? ……うん、分かった。私は大丈夫だよ。こっちの管轄は今そんなに忙しくないし。
 その代わり……私もそろそろ遠出して遊びたいねって絆里お姉ちゃんたちと話してたところだから、その時は御坂ちゃんよろしくね?』

「もちろんだよ! ありがとうなゆちゃん大好き! ってミサカはミサカは感謝の意を述べてみる!!」

『ふふ、どういたしまして。それじゃあまた後でね』


 突然の申し出に気持ちよく応じてくれた先輩の声に、打ち止めは小さくガッツポーズを取った。

 ここのところ買い物する暇がなかったので、明日休暇をもらえるのは本当にありがたかった。
 それというのも、先週のゴールデンウィークでさえ、半人前の打ち止めは雑用だのパトロールだのにこき使われまくっていたのだ。
 ティッシュや家庭菜園の肥料のストックがそろそろ危うくなってきていることに気付いたのは、つい数日前のこと。

 同居人のフロイラインに買いに行ってもらうというのも一つの手ではあるのだが──
彼女には目を離すとすぐ興味本意で要らない物を買ってくる悪癖があるため、まだ単独でのおつかいを任せるには少々不安があった。



「本当に良かった、ってミサカはミサカはそっと胸を撫で下ろしてみる。
 これでようやくミサカ専用のエプロンが買えるぞ、ってミサカはミサカはこれからのお料理上達に前向きな考えを示してみたり!」

「にゃあ、大体その意気だし! いつまでも落ち込んでるのは似合わないからな!
 ……ところで、今日のパトロールっていつものとは何か違ったりするのか? なんか街じゅうで一斉にやってるみたいだけど」


 通話の切れたケータイを眺めながらいつも通りの勝ち気な笑みを浮かべる打ち止めの傍らで、フレメアはふと周りを見渡した。

 ドラム缶型の清掃ロボがあちこちうろついているのはいつものことだが、それなりにアングラな案件に触れる機会の多い彼女はそれ以外にも、
警備員の特殊車両をやたらと多く見掛けるということに気が付いていた。

 訊ねられた打ち止めは『あれ? 説明してなかったっけ』と不思議そうな顔をしながらも、何故か声のトーンを落として語り出す。


「……昨日、すごい暴風雨だっただろ? アレって実は学園都市の、しかも第七学区を中心に起こった『異様に局地的な大嵐』だったんだって、
 ってミサカはミサカは白井先輩からの受け売りをそのまま口に出してみる」

「異様に……ってことは、大体何か人為的な原因が疑われてるってワケか?」

「そこまではまだ分かってないけど……少なからず怪我人も出てるし、風力発電のプロペラにもいくつか被害があったみたいだから、
もし人為的なものだとしたら放っておくわけにもいかないんだよね、ってミサカはミサカはひそひそ声で明かしてみる」


 能力者のイタズラか、はたまたどこかの研究所が無許可で進めた災害実験か。

 軽微といえど被害がある以上は、いずれにせよ原因を突き止め、これ以上の騒動になる前に『穏便に』食い止めなければならないわけだ。


「……けれど、その仕事はどちらかといえば、警備員の領域なのでは?」


 澄んだ声音でそう問い掛けたのは、どこからか拾ってきたカマキリと指先で戯れているフロイラインだ。


「風紀委員の活動内容は主に校区内の治安維持に限られている、はずです」

「このコンクリートジャングルでお姉ちゃんが毎度どうやって小動物を見付けてくるのかもミサカ疑問なんだけど……。
 もちろん、具体的な調査は警備員の人たちが頑張っている真っ最中だよ、ってミサカはミサカはあちこちの特殊車両を指差してみる。
 だから今の風紀委員の仕事は、通常のパトロールと──後片付け、なんだよね、ってミサカはミサカはやれやれだぜとため息をついてみる」

「うげっ」


 後片付け。
 その言葉を聞いて、制服姿のフレメアはとっさの嫌そうなリアクションを隠そうともしなかった。


「にゃあ……うかつに手伝うなんて言うべきじゃなかったな。どうせ路地裏でドロドロになった瓦礫とかを地道に掻き出す作業なんだろ、
 それが分かってたんなら大体せめてジャージにでも着替えておきたかったし」

「……ミサカだって制服だし大丈夫だよ、ってミサカはミサカはお子様の正直すぎる反応に白けてみたり。
 瓦礫なんてほとんどに鉄分が混ざってるんだから、ミサカの能力で簡単に持ち上げられるし、それに──」


 と、彼女の言葉を遮ったのは、三人の背後からぬっと現れて傍らに停車した、一台のトラック。

 見るからに業者のものだと分かるゴツい外観の大型車の窓を開け、顔を出してきた運転手は、








「よう、久しぶり。今日の『仕事』はお前らと一緒にやるみてえだな」

「──にゃあ!? 浜面!?」



 ……およそ、フレメアがジャージ姿なんかでは絶対に会いたがらないであろう人物だった。






 路上に車を停めて降りてきた作業着姿の浜面は、警備員からの『仕事』の依頼状を打ち止めに手渡しながら苦笑いを見せる。

「全く参るぜ、妙な嵐のせいで街が散らかり放題になっちまってる。瓦礫が邪魔になって路地裏に警備ロボが立ち入れない状態なんだろ?
 だから代わりに人の目で監視してるって話らしいけど、お前ら風紀委員にとっちゃそれも大変だろうな。
 まぁそのお陰で俺らみたいな業者の車も総動員だから、ありがたく働かせてもらってるけどよ」

「まさに風が吹けば桶屋が儲かるってことかな、ってミサカはミサカは……ハッ!?
 まさか浜面のお兄ちゃんが仕事欲しさにわざと風を吹かせたわけじゃないよね、ってミサカはミサカはぶるぶる戦慄してみたり……!」

「おいコラ打ち止め、人聞き悪いこと言うもんじゃありません。こちとら客商売なんだぞ?
 まぁいいや、アンタらコレ羽織っとけよ。ウチの作業着で悪いけど、泥除けぐらいにはなるだろ」


 フレメアいわくの『はまづら団』の際どい人脈を考えるとあながち不可能でもなさそうなのが恐ろしいところだが、
カタギの高校生活に馴染むべく奮闘中の窒素コンビあたりに頼み込んで無理矢理暴風を巻き起こした──なんてことは流石に無いだろう。
 風紀委員の打ち止めとしても、目の前のお人好しなチンピラ青年がそこまで悪人だとは思いたくない。

 かつて上条当麻同様ヒーローとして活躍した無能力者の世紀末帝王こと浜面仕上は、現在、車両関連の便利屋を営んでいる。

 スキルアウト時代から培ってきたコネを利用して多種多様の車両を仕入れ、ロードサービスからスパコンの輸送、果てには災害救助まで、
『誰かを傷付ける』内容で無い限りはどんな仕事も引き受けるというフットワークの軽さを売りにしている。

 多少後ろ暗い仕事も無いわけではないが、ひとまず警備員に目を付けられることもなく平穏に運営している、滑り出し好調な中小企業だった。

 ちなみに、愛する奥様滝壺理后(旧姓)は、ぼんやりしているようで全く抜け目がない優秀な経理担当だったりする。



 青を基調色としたジャンパーに袖を通しながら、久々に大好きな保護者の顔を見られたフレメアはテンション高めでこんなことを訊ねる。


「にゃあにゃあ! 浜面、大体理后としありは元気なの!?」

「元気元気。そろそろ理后の体調も元通りになってきてるからさ、お前らも今度ウチに遊びに来いよ」


 見やがれ我が家の天使を! と誇らしげに差し出されたケータイの画面には、滝壺の腕の中でスヤスヤ眠る赤ちゃんが映し出されている。


「ふあああ……し、しありちゃん可愛い……! ってミサカはミサカは身悶えてみたり……!」

「……ラファエロの、聖母子像のようです」

「にゃ、にゃあ! ぜぜぜ絶対行く! 絶対に私もしありを抱っこしに行くからな! 理后に首を洗って待ってろと伝えておくように!!
 大体今まで沈利たちばっかりお世話しまくっててズルいと思ってたんだ! にゃあにゃあ!!」


 目を輝かせる打ち止めとしみじみ語るフロイライン、そして萌えすぎて何故かキレはじめたフレメア。

 やだもー可愛いこの写メ転送してよー、とかしましさ全開で浜面に迫る女子中学生たちだったが、
再び鳴り出した打ち止めのケータイによってその雰囲気は霧散することとなった。


『──御坂! 業者の方とはいい加減に合流できましたの!?
 先ほどから全くそこを動いていないのは分かっていますのよ! 木原から連絡が回ってきたのならさっさと仕事しやがれですの!!』

「ご、ごごごごごめんなさい白井先輩っ!! ってミサカはミサカは大慌てでジャンパーを羽織ってみたり!!」


 那由多とは対照的に怖すぎる先輩の喝に気圧され、彼女たちは早足で路地裏へと足を進めていく。














「んっ、よいしょ、っと。よくもまぁ大体こんなところにまで瓦礫が入り込むにゃあ」

「……D区画の北側標識に亀裂あり。リストに記録、します」


 ドラム缶が入り込みにくい植え込みに軍手をはめた手を突っ込み、打ち止めの磁力が及ばないガラスやプラスチックの欠片を漁るフレメア。

 一方でフロイラインは、タブレット端末を小脇に抱えて周辺をきょろきょろと見渡していた。
 もちろん、彼女もただ悠長に遊んでいるわけではない。
 破損している公共施設や看板をリストアップして、後々別業者に修繕依頼するためのチェックをしているのだ。

 適当に引っ張り出した大きな瓦礫を靴で踏み砕いたのち、金髪の少女は背後に控えるドラム缶の足元にポイポイとそれらを投げ込んでいく。


「にあー、まさか学園都市製の清掃ロボがあの程度の大雨でセンサーの調子を悪くするとはなぁ。
 まぁ大体、普通の天候ならこんな大物のゴミに出くわすことも無いだろうし、仕方ないっちゃ仕方ないのかな。ねーお姉ちゃん」

「フレメア様、そのように無防備にしゃがむとスカートの裾が」

「ん? ……ってぎにゃあああ!? このポンコツ、ゴミと一緒に私のスカート食ってる!!
 やっやめろ離せ大体どういう馬鹿げたバグ起こしたらそんなことになるんだ!? 女子中学生のパンツでも回収する変態業者の回し者かっ!
 こらモーターフル稼動させて引っ張るな! そんなにぶっ壊されたいのかクソ機械め! にゃああああああああああやめろアホーっ!!」


 ドラム缶の足元に無造作に擦れていたフレメアのスカートが巻き込まれ、丁度後ろから捲られるポーズとなる。

 センサーの調子が悪いらしき清掃ロボは清掃ロボで、どうあがいても目の前の『ゴミ』を吸い込まなければ気が済まないらしい。
 ギュウウウウウウウウウウン!!! とアホらしいほどにパワフルな駆動音と共に、いたいけな少女のスカートを剥ぎ取ろうと荒ぶっている。

 そんなわけで、地べたに座り込みつつスカートの前を両手で必死に押さえることしか出来ない不憫なフレメア(パンツ全開)だったのだが、
ちょっと赤くなりつつズカズカ駆け寄ってきた打ち止めによって、ようやくポンコツドラム缶との愉快な抗争は終焉を迎えることとなった。


「……こら止まれ、ストップ、ってミサカはミサカは暴走ロボットにチョップを喰らわせてみる」


 パチン! と軽い火花が散る音と共に、ハッスルしていた清掃ロボは酔いから醒めたかのようにピタリと停止する。

 眉根を寄せてため息をつく打ち止めが、そのままドラム缶のボディの上で適当に指をタイプさせると、
モーターが逆回転するように作用して、しわしわに歪んだフレメアのスカートの端をぺっと吐き出してくれた。


「にゃ、にゃあああ……悔しいけど大体ものすごく救われたぞ……」

「別にいいよ……それより、お子様のお尻のドアップとかいうとんでもない画像がコイツのメモリに保存されてるだろうから削除しておくね、
 ってミサカはミサカはドラム缶をふん捕まえつつ確認を取ってみる」

「ぶふッッ!!?」


 全くこのトラブルメイカーは、とでも言いたげな親友の目線と言葉に、瞳を潤ませるフレメアは再び赤面してバッとスカートを押さえた。



「……だ、大体誰も見てないよな……? 今のところ人気は無いし……って……、ああっ、そうだ浜面っ!
 その距離からじゃ大体見てないよね見えないよねつーか見てないって言え! にゃあ!!」

「んあ!? な、何だいきなり!? 何があったんだよ別に俺は何にも見てねぇ──」

「……浜面仕上様、お好きな色は?」

「やっぱピンクかなーってぎゃああああああああああああああああああ!? やめろフロイライン頭から窓ガラスにダイブしてくんな!!
 何の鎌掛けたんだよ俺は単に理后のジャージの色言っただけだよ!! いだだだだ馬鹿フレメア髪の毛引っ張んじゃねえ!
 ちくしょう何なんだよ理不尽すぎだろテメェらあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 離れた場所に停めたトラックの中で待機していた浜面は、直後、弾丸ばりの速度で迫り来る少女二名にボコボコにされる。



 ……名誉のために言及しておくが、家族のために働く男・浜面仕上は本気で何もやましいものなど見ていない。

 実を言うと、フレメアの絶叫によって先程何が起こっていたのかについてはなんとなく察しがついている訳だが、
そこに不用意に突っ込むとどこぞの大将よろしく特に理由の無い暴力に襲われることは必至であるため知らぬ存ぜぬを貫こうとしていたのだ。

 しかし結局のところ今こうして商売道具のトラックごと愉快なオブジェに変えられかねない女子力(物理)に晒されているため、
浜面仕上の女難もやはり上条当麻に負けず深刻だったりする。

 どうかこの騒動が尾ヒレ付きで奥さんの耳に届きませんように──小市民なヤンパパの願いは、現実逃避による失神の彼方に消えていった。










「……はぁ、ってミサカはミサカは相変わらずの光景にちょっぴり哀れんでみる。
 さっさと終わらせて次のエリアに行かなくちゃ、ってミサカはミサカは一人決心を固めてみたり」


 両腕で抱き着いて動きを封じていたドラム缶のメモリをすっかり改竄しきってから、魚でも放流するかのようにパッと解放する打ち止め。

 そそくさと逃げていく清掃ロボット(ついでにセンサーの不具合箇所も能力で修正済み)を適当に見送りつつ、
彼女はポケットからシャーペンほどの長さの棒を取り出す。

 それは伸縮式の指揮棒だった。
 学校とかで使われていそうな、先端や持ち手にゴムが巻かれているような安全仕様ではなく、金属製の味気ない外観のものである。

 もちろん、打ち止めは吹奏楽部の指揮者などではない。
 新米風紀委員に部活に打ち込める暇など無いし、そもそも彼女は難解なクラシックよりも流行りの邦楽を聞いている方がずっと好きだ。
『あの人』なんかは専らジャズとか洋楽のCDを好んで聴いているようだが、一般的中学生である打ち止めにはただのカッコつけにしか思えない。
 どっちかというと、容姿的には彼の方が演奏者向きである。
 例えばヴィジュアル系のベーシストとか……などと冗談を考えてみたが、無駄に似合ってしまいそうで笑えなかった打ち止めだった。





 話が逸れたが──つまり彼女の指揮棒は、本来の用途で使うために持ち歩いているものではない。

 こいつは、オリジナルの御坂美琴には到底及ばない打ち止めの能力を補助するための、ちょっとした『工夫』である。



「ふむふむ、あらかたの瓦礫はもう集められたよね、ってミサカはミサカは満足げに頷いてみる」


 足元にどっさりと盛られた鉄パイプやらプロペラの羽根を眺めてにんまりと笑う打ち止めは、指揮棒を持つ右手を軽く振るう。

 カシュン! という軽い音と共に。
 柄の中に収納されていた六〇センチほどの細長い針が、即座に展開された。
 その長さは、持ち手を下に垂らすと地面にぶつかる程度である。

 彼女は腕の調子を確かめるような動作でその指揮棒をぶんぶんとしならせた後に、目の前の瓦礫の山にその先端をコツンと押し当てた。

 たったそれだけの、小さな動き。

 だがその一瞬で、金属製の柄を伝いパチリと光った電気が、鉄分を含む瓦礫の山に伝導していく。


「せー、の……っ!」


 あたかも腕に力を込めているような掛け声は、単に演算に集中するための無意識のものか。










 とにかく──彼女が振り上げた指揮棒の先端に、総重量二〇〇キロはありそうな大量のゴミは鈴なりにくっついて『引き上げられる』。

 腕力でも根性論でもない、この街の限られた子供にだけ許された特別な才能、すなわち超能力によって。
 ズシリと重たい瓦礫クズは磁力でいくつも連結して、まるで蛇か鞭のようにうねり、空中を躍った。










 打ち止めは能力の応用範囲こそオリジナル並みだが、決定的な威力不足のために大能力者止まりのままである、未熟な電気使いだ。

 近距離から放たれる『電撃の槍』以外の技は、対象物に直接触れないと全く威力が無い。

 例えば彼女は、磁力のみで極端に重いものを持ち上げることはできない。
 触れずに持ち上げられるのはせいぜい、自分の体重より軽い物ぐらいだ。

 そのため彼女は特注の指揮棒を握り、それを介して物体にダイレクトな電撃を通す。
 この作戦によって、打ち止めは姉と比較した際の自らの不足をどうにか補おうとしているわけだ。



(……まぁ、演算速度っていう点での威力不足なら『底上げ』する方法も無いわけじゃないんだけど。
 あんまりそれに頼ってばかりなのはミサカ気乗りしないんだよな、ってミサカはミサカは一人頷いてみる)


 鉄の雲を思わせる巨大な塊を空中に浮かべつつ、彼女は唇を尖らせる。

 この指揮棒は普段、今のようにマジックハンドやトングの代わりとして使うことが多いのだが、他にも、
少し距離のある目標に雷撃をぶつける際に『方向性』を与える基準点として使ったりもする。

 能力の自由度の高さや強大さゆえに『基準点』を定める必要がある結標淡希の軍用ライトや食蜂操祈のリモコンとは真逆、
つまり『貧弱な能力を出来るだけ集中的に運用する』ために、打ち止めはこのアイテムを用いるのだ。





 鼻歌混じりで能力を運用していた打ち止めだったが、巨大な鉄塊をバネのようにトラックまで飛ばしたところで、ハッと我に帰る。


「あっしまった! お子様とお姉ちゃん早くそこ退いてー! ってミサカはミサカは大声で警告してみたり!」

「にゃあ! 多分浜面は頭叩きまくれば忘れる……ん? って子供お前大体そういうのはもっと早く──ぎゃあああああああああああ!?」


 トラックの荷台へ一直線に飛んで来る鉄塊の山に、運転席にいる浜面の頭皮を苛めていたフレメアの表情が一気に引きつる。










 ドガガガガガッ!! と。

 重く硬い音を立てて荷台へ落ちてきた衝撃で、トラックのドアにしがみついていた少女たちはあっけなく吹っ飛ばされた。









「にぎゃあっ!!」

「わ、っ」


 二人仲良く団子になって、地面にべしゃりと落ちたフレメアとフロイライン。

 何が起きたのか分からずボーッとしているフロイラインの肩を抱きながら、フレメアは腰に手を当てつつ眉をしかめた。


「あ、あいだだだだだだー……。大体、今日はお尻が呪われてたりするのか? にゃあ……」

「っつーかこれ俺の! 俺の車! 打ち止めテメェむやみに人の会社の商売道具傷付けてんじゃねえぞお馬鹿!!」


 衝撃にしばらくの間がっくんがっくんと揺さぶられていた浜面仕上が切実に抗議するが、残念ながらこちらはあまり聞いてもらえていない。

 どうせ元々丁寧な乗り方してないんだからいいじゃんかーってミサカはミサカは、と運転手に適当に言い返しながら、
それでもちょっぴりバツが悪そうに、地べたに転がる友人たちに歩み寄る打ち止め。

 ズキズキ痛む臀部を庇いながらそれを見上げていたフレメアは、やがて大量の塩でも口に含んだような表情でこう言い捨てた。


「バケモノめ」

「……誉め言葉として受け取っておこう、ってミサカはミサカはお子様とお姉ちゃんの手を掴んで引っ張りあげてみる」


 仲がいいんだか悪いんだか、と吐息混じりに苦笑する浜面だったが、ふと一人だけどこか遠くを見ていた少女の様子に気が付いた。

 打ち止めに手を取られながらも、警戒心の強い猫のように鼻を上に向けて辺りを伺っていた彼女に、声を掛ける。


「おい、どうしたフロイライン?」

「……今、誰かの視線を感じたような……」

「にゃあ!? ま、まさか大体さっきの盗撮とかされてないだろうな!?」

「いい加減にお子様は落ち着け! ってミサカはミサカは無慈悲なツッコミを繰り出してみる!」


 再三騒ぎ出すフレメアを黙らせるべく繰り出された打ち止めの手刀を背景に、フロイラインはしばらく釈然としない様子で首を捻っていた。










「……気のせい、だったのでしょうか……?」











投下終了です。
長くなりそうなので、キリが悪いけどここで一区切り。



俺らの大天使こと那由多ちゃんが完全に出落ちな件。

この時系列だとツインテでもロリでもないただの金髪ひんぬーネーチャンですが皆もぜひなゆたん先輩を可愛がってあげてね



次回オリジナルキャラクター出ます。ご注意を




むむ、なゆたんはやはりひんぬーか…
俺の天使円周ちゃんは出てくるのだろうか


唐突な「特に理由のない暴力」ネタで吹いてしまったw


こんにちは。ツイッターにて指摘を頂いたので間違い修正。

俺らの天使は那由多ちゃんじゃなくて「那由他」ちゃんだそうです。漢字ムズカシイネー
いやもう本当にごめんなさい。打ち止めのミートボール食って頭冷やしてきます

>>152
円周ちゃん生きてるのかなぁ……1も書きたい。書きたい。お団子頭の天使ゲスかわいい

>>156
自分にわか進撃勢なので…


それでは再び潜ります。スカイプダウンロードしたらわけわからんウイルスに掛かった。しにたい

浜面(CV.細谷佳正)

ミートボール(意味深)


ミンチ肉が必要ですね

初春マダー?



>>158
浜面「(滝壺)結婚しよ」

>>159
フロイライン印の自家製ミンチ肉(ヤバイ)

>>160
まあ焦るな



 こんにちは。無事に夏休みが迎えられたので、生存報告がてら短い小ネタを投下しに来ました1です。

 過去話ですが時系列適当です。










 第七学区の公園で、子供たちに怪しげなモノを売り歩く不審人物がいる。

 そんな噂を聞き付けて「風紀委員ですの! ってミサカはミサカは華麗に参上!!」と鼻息荒く駆け付けた新米風紀委員打ち止めは現在、路上に展開する折り畳み式テーブルに所狭しと並べられたブツを前に、絶賛品定め中であった。


「……むうう、桜のブローチも可愛いけどこっちの栞も素敵かも、ってミサカはミサカはお財布の中身と真剣に相談してみたり……」

「おいコラ大体それでいいのか風紀委員」


 わらわらと群がる女子小学生たちに混ざる体でファンシーな小物を吟味する二つの人影は──残念なことに中学生のオネーサン達である。

 しかし、肝心の不審者の素性を考えたら、見事に釣られた打ち止めやフレメアなどはまだマシかもしれない。

 スーツケースの中に無数のファンシー雑貨を忍ばせ、お子様相手に小銭を稼ぐ大人げない爆乳女子高生。
 腰まで届く豊かな黒髪にセーラー服、輝かしい元気印の笑み。その姿はさながら佐天涙子のようで──というかまさに佐天涙子だった。


「にゃあ……佐天のお姉ちゃん、まさか大体この学園都市で今時露店商を見付けるなんて予想してなかったぞ。さすがの私も呆れ面だし……」

「まーまーカタいこと言いなさんなってフレメアちゃん。別に子供を騙して悪い物売ってたりするわけじゃないんだから、大目に見てよ。
 ついでに何か買っていったら? 初春や白井さんには内緒って約束してくれるならお安くするよん」

「ま、まったくもう佐天のお姉ちゃんはしょうがないなぁ! ミサカ達が買ってあげるから、さっさと引き上げてもらわなきゃ困るよ!
 ってミサカはミサカは腕組みしながら渋々と闇取引に応じてみる!!」

「……しょーもない連中め。にゃあ……」


 自称ヒーローで常識人枠(笑)のフレメアはブツクサと文句を垂れるが、何だかんだで彼女もリボンテイストの小物入れが気になるらしい。

 チラチラと商品を盗み見しつつ、興味津々に取り引き現場を覗き込む子供たちを丁重に追い払う。
 お子様趣味の打ち止めがあっけなく陥落した今、マトモに動ける正義の味方は自分のみだ。そんな義務感が彼女を突き動かした。
 可愛らしいソプラノの苦情はシャットアウラ、もといシャットアウト。大体、冷やかしなどガキにはまだまだ早いのだ。にゃあにゃあ!!


「しっかし、どこから仕入れたのこんな大量の雑貨、ってミサカはミサカは当然の疑問をぶつけてみる。
 普通のお店で買ったにしては儲けが出ないくらい安いし、それに何となく素材が手作りっぽい、ってミサカはミサカは分析してみたり」

「あぁコレ? 友達にプラスチックを加工できる異能力者の子がいてさー、その子が能力の特訓ついでに作った作品なんだよね。
 どうせ大量に作るんだから、せっかくだし売っちゃおうよ! ってあたしが提案して、自らバイト代わりに売り歩いてたってわけ」


 最初は道行く小学生に手売りしてたんだけど、途中からチビッ子たちに『出店開いてよー!』ってねだられちゃってさーいやぁまいったね、などとヘラヘラ笑って供述する健康的ナイスバディ美少女。
 見た目がコレなだけに非常に残念なギャップである。

 都市伝説や噂が大好きで、それを追っかけ回し痛い目を見るのがデフォルトであるこのトラブルメイカーには何故か親近感が沸くが、まさか今や自ら『怪奇! 幼女に出所不明のブツを売り歩く妖怪セクハラ娘』的な噂の発端になっていたとは夢にも思わなかった。

 色々と似ているのを自覚しているだけに、このお姉ちゃんのことが心底油断ならないフレメア=セイヴェルンである。



「うあー、でもまぁアホ毛ちゃんたちに見付かっちゃったことだし、そろそろここいらの公園は引き上げ時かねぇ。
 これからはネット通販一本に絞ることにしますか。今時の子供ってオンラインショッピング大好きみたいだし、儲けは出るでしょ。
 あ、『超能力で作った激レア手作り雑貨!』なんて銘打てば『外』のSFマニアに大ウケするかも! よっしゃ佐天さん冴えてるぅ!!」

「……超能力のデータが解析抽出されかねないモノは原則『外』には持ち出せないよ、ってミサカはミサカは一応ツッコミを入れてみる」

「昔より寛容になったとはいえ、にゃあ。大体、親船のおばあちゃんも甘いばっかりじゃないし」


 しらっとした態度の年下二名に見下ろされ『ちぇーつまんないの』と唇を尖らせる佐天。なんというか、非常に非常に大人げない。

 もういいからさっさと何か買ってあげよう、ということで無理矢理意見を一致させて、打ち止めとフレメアは雑貨の物色を再開する。


「うーん、悔しいけどどれも可愛い!! とりあえずこの花柄をあしらった下敷きは購入確定、ってミサカはミサカは頷いてみる。
 うーん、しかし今後の財政状況を鑑みるに買う物はとことん厳選しないとなぁ、ってミサカはミサカは頭を抱えてみたり」

「にゃあ。大体、大能力者サマがいちいちそんなケチ臭い買い方すること無いだろうに。
 沈利たちもそうだけど、普通高位能力者ってのはお金には困ってないモノなんじゃないの?」

「……過保護な保護者さん達の教育方針で我が家は平々凡々としたお小遣い制なんですー、ってミサカはミサカはぶーたれてみたり」


 ……と、口ではそんなことを言う打ち止めだったが、別に本心からそれを不満に思っているわけではないのだ。

 なんせ不相応な大金を貰ったところで、そんなもの、『友達』と遊ぶには持て余してしまう。
『あの人』が買い与えてくれた高級ブランドのワンピースよりも、自分にはセブンスミストのセール品の方が似合うと思った。それだけだ。












『──お嬢様学校なんてつまんないモノよ? いろいろな人たちと出会える自由な学校に行く方が、アンタにはよっぽど合ってると思うわ。
 アンタの保護者見てみなさいよ。アホらしいほど稼いでるくせに友達いないせいで結局使いどころが無くって日々是ぼっち状態じゃない』

『なるほど説得力ある、ってミサカはミサカはお姉様の言葉に納得してみたり!』

『人ン家に押し入って言うことがそれか陰険野郎』










 ──中学入学前は、よくそんなことを話していた。

 数多くの障害を乗り越えて風紀委員になったのも、元を辿ればお姉様のそういった意見がきっかけだったのかもしれない。
 学園都市第三位という立場上、たとえ気の置けない友人相手であっても、どうしても完全に同じ土俵には上がれなかったという経験。
 それがあったからこそ、彼女は打ち止めに『自由になれる場所』を勧めてくれた。
 そのおかげで、自分は今こんなにも平凡で幸せな悩みごとに右往左往できるのだろう。


「まぁそんな訳で、ミサカは贅沢に慣れきった只のクソガキではないのだ。覚えておきたまえ、ってミサカはミサカは再確認してみる」

「にゃあ。恵まれてるモノをあえて使おうとしないのも、それはそれで逆コンプレックスみたいに見えるけど?」

「はっはっはー僻みは似合わんぞお子様め、ってミサカはミサカは鼻で笑ってみる」

「にゃあ! 大体僻んでないし! クソったれ、ネットワークの影響だかなんだか知らないが日に日に性格悪くなってってんなこの子供!!」


 そのままキャットファイトに雪崩れ込む二名を眺め、シートにあぐらをかく佐天はケタケタ笑いながら自前のタンブラーを口元に運ぶ。





 仲良きことは美しきかな。
 考えてみれば、自分ももっと若いときに、御坂さんたちとこれぐらい本音を交えてケンカしておけばよかった。

 昔も今も、彼女たちとは変わらずに仲が良い。
 だけど同時に、相手の立場の違いから、以前はなんとなくお互いに遠慮していた所もあったように思えるのだ。

 似たような境遇、無能力者と高位能力者であるフレメアと打ち止めには、およそそんな距離感は感じられない。
 思いっきりぶつかり合える仲というのは、端から見て羨ましいものだ。勝手にそう結論付けたオトナ気取りな佐天である。





「どうでもいいけどさっさと選んでおくれよキミ達。あたしも暇じゃないからね、そろそろ初春のスカートが恋しくなってきたところだし!」

「だ、大体究極の暇人じゃないか!!」

「いだだだだ髪の毛引っ張んな! ってミサカはミサカは……あーもう今日は休戦だ休戦!!」


 投げやりな打ち止めの宣言で、ひとまずの平穏を取り戻した公園の一角。

 だがしかし、ただ小物を品定めしているだけの段階でも、一秒たりとも静かにしていられないのが彼女らの性質であるらしく、


「えーそのリボンはちょっとぶりっ子しすぎじゃない? ロリータ趣味は小学校で卒業しとこうよ、ってミサカはミサカは鼻で笑ってみる」

「べ、別にいいじゃないか髪にくっつける位! それを言うなら大体そっちのヘアゴムはどうなんだ? お子様趣味も大概だろ!」

「っ!?!? しっ、白うさぎちゃんを馬鹿にするのは許さないぞ! ってミサカはミサカは高速で隠してみる!!」

「あーなるほど、そういえば大体そっちのケータイのストラップも、その目付きが悪いウサギのキャラだったか?
 大方『例のあの人』から小さな頃貰った思い出の品とかそーいう──」

「にぎゃあああああああ言うなそれ以上言うな!! ってミサカはミサカは口を塞いでみたり!!」


 赤目の白うさぎって辺りがやっぱり第一位さん絡みの思い入れなのかねぇ……、と適当に考察する佐天涙子。
 タンブラーの中に詰めてきたコーヒーもそろそろ尽きてきたところで、しがない露店商は傍観するにも少々退屈していた。



「……あー、つまりアホ毛ちゃんとフレメアちゃんは、どっちがよりお子様趣味なのかをここでハッキリさせたい訳かな?」

「もうこの際それでいいよコイツの息の根を止められるなら!! ってミサカはミサカは涙を拭いながら主張してみる!!」

「──なら、誰か適当な審査員を呼んできて決めてもらったら? どっちのセンスが好みなのか」

「「!!」」


 鶴の一声。
 それを聞いたフレメア=セイヴェルンは、普段手提げにしまい込んでいる白いベレー帽をガッとわし掴みにして、勢いよく引っ張り出す。

 両手で握り締めた布地に噛み付くような勢いで、叫ぶ言葉は都市伝説でお馴染みのアレだった。


「助けてカブトムシ!!」

『……一体何があったんですか……』


 直後。
 パリィン!! とガラスを砕くような音と共に、帽子と立ち代わりフレメアの前に現れたのは、呆れ顔の青年だった。

 前触れもない学園都市第二位の登場に『うぉお垣根さん!?』とコーヒーをひっくり返しそうになる佐天。

 人目をはばかってか、いつものように真っ白な風貌ではなく、ブランドの柄シャツにジーンズを身にまとった至極マトモな姿だった。
 確かに、ファッション関連の話題には彼のセンスは適任そうに見える。
 だがなんというか、仮にも『能力の塊』である第二位の怪物がこんなくだらないことで女子中学生に呼び出されるというのは、ホント平和な時代なんだなーとしみじみ感じてしまう無能力者代表佐天涙子だった。

 非常事態で召喚された可能性を一応懸念していたらしく、鋭い瞳で周囲をぐるりと見渡す垣根帝督。
 そんな気苦労など露知らぬフレメアと打ち止めは、かき集めた自分好みの雑貨を両手に抱えて彼にズカズカと詰め寄った。

 かつて流行った『困ったときの白いカブトムシさん伝説』は、こういう一部の子供達の間ではまだまだ有効だったりする。


「カブトムシ!! 大体私のセンスはおかしくないよね!? というかむしろ年相応だよね向こうのオバハンと違って!! にゃあ!」

「誰がオバハンだこの貧乳! 違うよねカブトムシさん、白うさぎちゃんの方が断然可愛いもんね! ってミサカはミサカは確認してみる!」

『あの』

「だっ大体そっちも乳カーストは紛うことなき最底辺だろうが! 私にはまだまだ伸びしろがあるんだ! そっちと一緒にするんじゃない!!
 ええいこうなったら実践あるのみ! カブトムシ自身に試してもらって白黒決めさせる!! にゃあにゃあ!!」

『……もしもし?』

「上等だ! 言っておくけど、カブトムシさんの髪に似合うのはリボンじゃなくて絶対にうさぎさんだから! ってミサカはミサカは──」

『どちらに転んでも私が泣きを見る展開ですよねそれ!?』


 少女たちの手によって今まさに第二位としての、いやむしろ男としての尊厳を突き崩されようとしている垣根(ツインテール製作中)。

 やめろ離せ離してくださいと力無く暴れる哀れな第二位の姿を眼前に、すっかり蚊帳の外となった露店商こと佐天涙子はというと、










「……とりあえず、初春には送っといてあげようかな。件名は『みんな大好きカブトムシさんの貴重な萌えショット』、っと」










 一人つぶやきつつ、非常にイイ笑顔でケータイのカメラを前に突き出していたのだった。



投下終了です。

ちょくちょく描写されている「フロイラインの蝶々のピン」はこの騒動のときに購入したお土産なんだよ、という話。
長い前髪を留めるのに使っています。プラ板の薄桃色のでっかい蝶々があしらわれたヘアピン。子供っぽいアイテムですが所詮打ち止めとフレメアのセンスなのでしょうがない。

それではまた。


原作だと美琴と打ち止めの面識あるのかないのか分かんないから、SSで会話してると嬉しいなぁ

>ブランドの柄シャツにジーンズを身にまとった至極マトモな姿

これってもしかしてはいむらーが支部で描いたあの恰好なのかな

「困ったときの」が非常事態から日常生活レベルまで落ちてるwwwwwwwwww

指揮棒で能力の補助って、元ネタはハ○ー○ッター!?




>>169
美琴と打ち止めの交流に熱いものを感じるソウルメイトは今夜ぜひ俺と飲み明かそうぜ……
個人的にはそろそろ超電磁砲本編で打ち止め出番来るんじゃねって思ってます

>>172
同じブランドの新作というイメージでした。白垣根さんはきっとお洒落

>>173
第一七七支部の蛍光灯の交換なんかでも召還されるんだぜ? この第二位

>>174
そそそそsssそんなつもりは無かった ただ禁書世界でもありふれた魔術的な『杖』の意匠も意識してるって点では正解です
打ち止め「えくすぺくと・ぱとろーなーむ!!!」



さて、実は1の実家のWi-Fiが動作不良となってしまいまして
水曜に修理に出すために、いつ頃続きを更新できるか分からなくなってしまいました。
一週間以内には投下できる……と思います。すみませんが気長にお待ちください。
エタらせるつもりはありませんので最悪大学のPCででも更新だけは続けます



ついでにアンケートなどお願いしたく。

今まで、地の文やカッコ内の長台詞は意味的な区切りの都度改行していましたが、ひょっとすると改行が無いほうが見やすいでしょうか?

改行あり:
「うあー、でもまぁアホ毛ちゃんたちに見付かっちゃったことだし、そろそろここいらの公園は引き上げ時かねぇ。
 これからはネット通販一本に絞ることにしますか。今時の子供ってオンラインショッピング大好きみたいだし、儲けは出るでしょ。
 あ、『超能力で作った激レア手作り雑貨!』なんて銘打てば『外』のSFマニアに大ウケするかも! よっしゃ佐天さん冴えてるぅ!!」

改行なし:
「うあー、でもまぁアホ毛ちゃんたちに見付かっちゃったことだし、そろそろここいらの公園は引き上げ時かねぇ。これからはネット通販一本に絞ることにしますか。今時の子供ってオンラインショッピング大好きみたいだし、儲けは出るでしょ。あ、『超能力で作った激レア手作り雑貨!』なんて銘打てば『外』のSFマニアに大ウケするかも! よっしゃ佐天さん冴えてるぅ!!」

皆さんのご意見伺いたいです。よろしくお願いします


お誕生日おめでとう

ありがとう!




>>181-183
なんで1の誕生日知ってるんだよwwwwwwありがとうwwwwwwwwwww

>>182
おいおいお前も誕生日なのかよブラザー。俺の食いかけのミルクレープやるよ



無事Wi-Fiも修理したからお盆のうちに本編更新するよ!
ただし1は明日からカーチャンと飛騨高山温泉旅行だよ! やったね! 圏外!!

あ、あとアンケートご協力ありがとうございました。適度に改行していけばいいのかな? いろいろ試していこうと思います


ではまた近いうちに。


お久しぶりです。

投下します











 ──暗い、暗い研究所の地下には、冷えきった色彩の無機物が乱雑に並んでいた。





 リノリウムの床には染み出した冷却水がマーブルを描き、足元から寒気を蒸散させる。
 その光景そのものが、潔癖なまでに清潔なはずのこの場所を、何か湿っぽいもので汚れた灰色の雰囲気に染め上げようとしていた。



 沼に沈む獣の群れのように、がぱりと揃って大口を開けているのは、人間ひとりを丁度飲み込むサイズの装置たち。
 その一つ一つの中では例外なく、手術着姿の少年少女たちの影が、気味の悪い蛍光色の人工羊水に浮かんでいる。その色彩の群れは、さながら悪趣味な美術館のオブジェだ。



『──検体ナンバー二八、インストールを開始します』

『おい、暴れさせるな。弛緩剤の投与を急げ』

『すぐに学習装着の起動を。あぁ、そうだな。「素体」とのシンクロ率も今確認しておきたい。こちらに──』



 カツン、カツン、といくつもの靴底が床を打つ。

 研究者たちに囲まれた一台の装置には、今まさに、新たな『実験台』の少女が押し込まれようとしていた。










 これは──かつて学園都市の闇の中ではありふれた『実験』のひとつに過ぎなかった、とある過去の記録。



 ヒーローの勝利に伴い、腐りきった学園都市の上層部がまとめて制裁を喰らった──その過程で中止撤回された、つまらない悲劇の一端だった。









『……や、だ……』


 小さく、泣きじゃくる声。

 機械仕掛けの胎内に全身を取り込まれ、今まさに容器を満たすべく水位を上げる液体に、呼吸を侵されようとしているちっぽけな子供の悲鳴。

 麻酔で薄れ行く曖昧な意識の中、それでもその子供は、明確に怯えていた。


『やだよ、わたし、こんなのやだ……怖い……っ』

『──少しの辛抱だ。ほんの少し眠ってさえいれば、キミのチカラはもっと強いものに変わる。憧れの超能力者に、他でもないキミがなれるかもしれないんだ』


 応える声は、容器の外側から聴こえてきた。

 黒い髪に、白衣を着込んだ小柄な体格。
 白衣、というだけならこの街においては珍しい服装でもない。現にこの部屋では、幾人もの大人たちが揃って白ずくめの格好で作業に没頭している。
 ただ、そういった科学者たちと比較して、その人物はあまりにも幼すぎた。

 カプセル型の機械の外で佇み、ごぼごぼと沈みはじめた小さな少女を見つめるその瞳は、どこまでも平静だった。

 恐怖に喘ぎ、苦しむ子供を目の当たりにしておきながら。
 それでも、白衣を羽織った華奢な背中は揺らがない。
 この『実験』が数多の悲劇を産むことを分かっていながら──自分の果たすべき役目もまた、痛いほどに理解っていたから。


『大丈夫、ここにいるから。安心して目を閉じるんだ』

『……、だ、って』


 諭すように語り掛けられて、それでも少女は首を縦には振らなかった。

 打ち込まれた薬品の作用で強烈な眠気を誘発されながら。
 彼女は、全幅の信頼を預けることを疑いもしなかった存在であるその人に、細い声を枯らす。


『わたし、強くなんか、なりたくない。そんな、の、いやだ……助けて、おねがい……!』

『……』


 水中をもがいた細い五指は強化ガラスを力無く撫でるが、それを見守る研究者たちはそんなことには関心を示さなかった。

 皆、悲劇には慣れきっている。
 モルモットの鳴き声にいちいち神経を割いていられるほど、彼らは甘ったれた素人ではない。


『──……たすけて、……』


 その嗚咽は、誰にも届かない。

 いずれ、どこかのヒーローによってこの街の悲劇が取り払われる時が訪れるとして。
 それはたった今『闇』に呑まれようとするこの少女を救うには、あまりにも遅すぎる。




 それでも。

 ただ一人──白衣の学生だけは、いつまでも、ガラス越しの少女から目を離さなかった。















『……さあ、次の実験の準備だ。スケジュールに従って指定の実験場に向かえ』

『……』


 氷のような表情で学習装置の前に立ち尽くす人影に、見かねた研究員の一人が無機質な声を掛ける。

 実験台の意識はとっくに途絶えていた。とある革命的なデータを脳に上書きして、新たな超能力者候補としての『教育』を施している真っ只中だ。
 それを分かっていながら、ここに留まっているその行為は、研究者たちからしてみれば無駄以外の何者でもない。


『いつまでもそこで何をしている。そこにいる子供に、今さら情でも沸いたというのか?』

『……』

『警告しておくが、検体にいちいち思い入れを持つのは感心しないぞ。
 ヒトの脳に宿る「自分だけの現実」など、いつどんな感情で崩れるかも分からない曖昧なものだ。迂闊にサンプリングデータを乱すな』

『……分かっているさ』

『どうだかな』


 嘲笑。

 返事など最初から期待していないとでも言いたげな横暴さで、中年の研究員は稼働している機械を横目に追い抜いた。

 ひどく、ひどく、冷えきった言葉だけを残して。










『忘れるなよ。「素体」たる君も本来彼女らと何も変わらない、我々が飼っているモルモットのうちの一匹にすぎん。
 今の立ち位置が惜しかったら大人しくしていることだ。正しく理解したまえ──匂風、速水君』


























 時は変わって、ヒーロー達の最終決戦を乗り越えて数年後の、平和な学園都市の夕暮れである。


「……うぐぐ、ってミサカはミサカは釈然としなかったり……」


 第七学区のとあるコンサートホール前の広場にて、大能力者の新米風紀委員みーたん(愛称)こと打ち止めは手ぶらのまま立ち尽くしていた。

 あの奇妙な嵐が明けてすぐの放課後ということもあり、そこそこ目立つ立地にあるこの広場では、日が暮れ始めている時刻にも関わらず遊び回る小学生たちがちらほらと見受けられた。
 クラスで集まって合唱の自主練習をしているらしき幼い子供たち。一体どこで貰ったのか、大量の風船を持ってはしゃぎ回る少年少女。
 各自の行動はまちまちだが、いずれにせよ学生達の秩序を守る風紀委員たる打ち止めとしては、そろそろ彼らチビッ子たちを寮に帰らせなくてはならない。

 そこまではいい。
 口酸っぱくお説教して子供たちの恨まれ役を買って出るのは風紀委員の宿命で、それはいつものパトロールと何ら相違ない。

 しかし、だ。



「……いい加減にミサカのタクト返せー、ってミサカはミサカはテンション低く要請してみる 」

「まだだ! まだ終わらんよ!! にゃあにゃあ、左舷声小さいよ何やってんの!
 そんな歌声で合唱コンクールの金賞が獲れると思ってんなら、まずは大体その幻想をぶち殺す!! にゃあ!!」



 ……愛用している金属製の指揮棒をフレメア=セイヴェルンに奪われたおかげで、彼女の活動意欲は大幅に下降してしまっていた。

 きっかけは、打ち止めが瓦礫掃除の際にあの伸縮自在のタクトをぶんぶん振り回して能力を行使していたところを、合唱練習していた小学生集団のリーダーらしき少女に捕まえられたことである。


『──ねぇ、そこの風紀委員の人、もしかして指揮者さん!? お願い助けて、私たちのクラス全然まとまらないの!!』


 いつの時代も合唱というものは、しっかり者の女の子が『ちょっと男子ー!』と声を荒げるのがお決まりであるようだ。

 そういうわけで、委員長タイプの女子たちに涙ながらに訴えかけられ、困り果てたパトロール中の打ち止めは連れの友人たちに目線で助けを懇願した。

 その結果がこれである。
 リズム感に自信があるというフレメアが有無を言わさず指揮棒を強奪していき、そのまま勝手に熱血音楽教師モードに突入してしまったのだ。

 ちなみにフロイライン=クロイトゥーネはというと、ソプラノの左側でただ一人突っ立っている──わけではなく、ピアニスト役を務めている。
 お得意の声帯模写──もはや彼女のそれは物真似の域には収まらない気もするが、とにかくこの短時間のうちにまた余計な『羽化』を遂げてしまったフロイラインは、自身の喉を震わせて完璧なピアノの音色を再現させていた。
 ご丁寧にも、十本の指は空中を蠢き、正確に鍵盤を叩く真似をしている。つくづく反則的な同居人を持ったものだ。


「にゃあ! お姉ちゃん、Cパートを二小節前からもう一回弾いて! 私は大体こいつらが立派に歌えるようになるまで、諦める訳にはいかないんだ!」

「はい。任せてください」

「フ、フレメアお姉ちゃん! フロイラインさん! 私たち、二人のためにも頑張ります!」

「おいお前らもっと声出そうぜ! こうなったら絶対に金賞獲るぞ!!」

「「おーっ!!」」

(……そりゃあ、あらかた後片付けは終わって、浜面のお兄ちゃんに引き取ってもらったから別にいいんだけどさぁ、ってミサカはミサカは文化祭前日の教室みたいなテンションのお子様たちから目を逸らしてみる)


 今日は学校帰りの軽装のままなので、予備の指揮棒数本も詰め所に置いてきてしまっている。
 だがまぁ、後に残った仕事は特に大きな能力を必要とはしないので問題ない、はずだ。



 風紀委員である自分は、やるべき仕事をやるまでのことである。
 一人でそう結論づけて、打ち止めは友に背を向け通路を通り抜けていった。








 さて、打ち止めが一人向かった本日最後のパトロール先は、第七学区の南端に位置する公園だった。


「……がたつき無し、破損の有無の確認もオッケー! えーと、軋みが出てきてるから近いうちに油を差してもらった方がいいかもしれないね、ってミサカはミサカは一人で頷いてみる」


 端末を片手で操作しながら、彼女は公園に設置されたブランコの点検箇所を順番に指差し確認していく。

 嵐の影響で、こういった遊具に少しでも不具合があった場合、幼い子供たちに甚大な危険が及ぶ。
 そのために、彼女は今までそれらで遊んでいた子供たちに一旦どいてもらい、点検しているのだ。

 実際に修理するのは警備員の仕事だが、いつものパトロールのついでということで打ち止めは事前のチェック作業を引き受けていた。
 こう見えて打ち止め──というか妹達全体は元々、仕事したがりの性質である。
 中学校に入る以前はやることが無さすぎたせいで、持ち前の行動力がしばしば空回り、一方通行によく首根っこを捕まえられたものだった。

 そんな働き者(またの名をお節介焼き)の背中を不思議そうに見つめていた幼い少年少女たちが、柵に浅く腰掛けながら間延びした声を投げかけてくる。


「ねーねー風紀委員さん」

「おねーちゃん、もうブランコで遊んでいいのー?」

「はいはーい、あとはここのねじれを直すだけだからもうちょっと待っててね、ってミサカはミサカは磁力で鎖を持ち上げつつ……どこのどいつだ公共物を台無しにしやがって、って愚痴を漏らしてみたり」


 地面に足が着かないスリリングを味わいたかった悪ガキの仕業か、明らかに一度ぐるぐる巻きにされたであろう痕跡を残すチェーンのねじれ。
 それを能力でガシャガシャと強引に直しつつ、彼女は柔らかそうな頬を思いっきり膨らませる。

 お姉様の自販機蹴りもそうだが、自分勝手な都合で公共の物を壊されると、治安を守る風紀委員としては怒りしか沸かないわけである。


(……お姉様のことは好きだけど、なんというか、真面目に働くこのミサカがあんな欠陥乙女と同一視されがちなのはひじょーに気に喰わない。
 とはいえ日頃ミサカに厳しい白井先輩がお姉様の悪事にはデレデレなのもそれはそれで腑に落ちないし、ってミサカはミサカは心中にモヤモヤを募らせて……)

「──わー見て見てお兄ちゃん! あのおねーちゃん前髪がビリビリしてるよ!」

「うわっアレひょっとして『ときわだいのレールガン』じゃねえか!? 怪物でんせつサイトに載ってたヤツ!!」

「ミサカは柵川の最終信号だしこのタイミングで人のコンプレックスのド真ん中を突っつくな!! ってミサカはミサカは勢いよく振り返ってみる!!」


 公園の入り口を通り掛かった見知らぬ幼い兄妹からの声に、打ち止めは反射的に叫んで顔を向ける。

 突然の大声に、その辺で遊んでいた子供たちが一斉にビクッと注目したものの、大人げない風紀委員はそれに気付けなかった。

 というか怪物でんせつサイトって何事だ学校裏サイトの親戚みたいなモンか、とキナ臭い新出ワードに内心うんざりする打ち止めだったが、


「……む? それはそうとキミ達どこで手に入れたんだその大量の風船、ってミサカはミサカは眉をひそめつつ歩み寄ってみる」

「ひ、ひぇえ……! お、お兄ちゃん……このおねーちゃんこわいよう……!」

「な、泣くなよ馬鹿! レールガンだろうがダークマターだろうが、お兄ちゃんが絶対にぶっ倒してやるって!!」

「……えーと、ってミサカはミサカは……」


 ……とりあえず、何やら知り合いの超能力者たちはこぞって『怪物でんせつサイト』とやらに携帯ゲームの敵モンスターっぽくファイリングされているようだった。
 帰ったら早急に、初春のお姉ちゃんにでも調べてもらうとしよう。子供たちの間で身内がこういう扱いだと知るのは、なんというかちょっとキツいのだ。




 チビッ子たちに本格的に怯えられていることをようやく自覚した少女は、少々赤面しつつごほんと咳払いで誤魔化した。
 地面にしゃがんで子供たちに目線を合わせてから、平時よりも丁寧な言葉遣いで語りかける。


「……あー、いきなり大声出してごめんね、別に取って食ったりしないよ、ってミサカはミサカは笑顔で諭してみる。
 ええと、妹さんがいっぱい風船持ってるみたいだけど、これはあなたたちの私物だったりするのかな? ってミサカはミサカは仕切り直してみたり」

「えっ、えっと……これね、貰ったの」

「貰った……?」


 涙目でぷるぷる震えながらも風紀委員の腕章に少し安堵したのか、健気に答えた妹。それに見かねた兄の方がこう付け加えた。


「ハヤミねーちゃんがくれたんだ」

「はやみ? ってミサカはミサカは首をひねってみる」

「放課後、たまにここら辺の公園で風船とかミニカーとかくれるんだよ。『実験』が何とかって言ってたけど」

「……ふむ……どこぞの研究所がそんなキャンペーンを開催するなんて話は伝わってないけどなぁ、ってミサカはミサカは腕組みして考え込んでみたり」


 話を聞くに、開発中の子供用玩具の試供か何かだろうか。
 自販機に並ぶ学園都市名物のゲテモノジュースなんかと理屈は同じである。実験都市の異名は伊達ではないということだ。
 しかし、学園都市とてそういう実験は、当然ながら一企業や個人が独断で実施できるものではない。
 無許可の営利行為かもしれないというのもさることながら、風紀委員が把握してないうちにロクでもないものを子供たちに広められるのは非常にマズイのだ。

 ここらの少年少女たちはそのハヤミとかいうのを信用しているようだが──テロリストか変質者か、そういった危険人物である可能性さえ存在する。
 風紀委員として、万一の懸念も見逃せない。一度この目で確かめておく必要がありそうだ。


「ねぇ、そのハヤミってのは──」


 どういう人なの? と訊ねようとした打ち止めは、そこで、幼い少女が持っていた風船にハッと目を奪われた。
 細い腕にくくりつけた数本の紐の先に、あらゆる形の風船がふわふわと浮かんでいる。
 ヘリウムでも詰めているのか、大振りなその外観からは彼女の小さな身体さえ持ち上げてしまいそうな印象を受けるが──打ち止めが注目したのはその量についてではない。

 ぷっくりとした楕円のフォルムの上に、長い耳がふたつ。
 真っ白なその風船に描かれたのは、むっつりと閉じられた小さな口──そして、ギロリと光る鋭い赤目だった。





 他でもない打ち止めが愛好して止まないキャラクター、その名も白うさぎちゃんである。





「……とりあえずそのハヤミとやらに会わせてもらおうか、ってミサカはミサカは真剣な顔で要請してみたり」

「いや、あの、おねーちゃん?」


 再び危ういオーラを発生させながらゆらりと立ち上がる風紀委員に気圧される形で、幼い兄妹は案内を開始する。

 ……いや別に彼女は、証拠品として押収するどさくさに紛れてうさぎ型の風船を着服できないかなーなどと魔が差すような悪党ではない。断じて。ないったらない。









 そんなこんなで二分後。

 ビビり気味の兄妹に連れられた打ち止めは現在、同じ公園の柵を越えた先にある学生寮の前、ごく小規模な広場に立ち尽くしていた。

 子供たちと駄弁っていた渦中の研究員(?)ハヤミとやらはそんな彼女の目の前で、ぼんやりとベンチに腰掛けたまま指先でゴム風船を弄くっている。


「……あなたが、変な試供をやってるとかいう研究者? ってミサカはミサカは訊ねてみる」

「ん?」


 さらりと黒い前髪を揺らして、ソイツは気だるそうに顔を上げる。

 意外というかなんというか、そのハヤミとやらは女性だった。
 付け加えると、ワイシャツと黒いスラックスの上からくたびれた白衣を羽織っただけの、見るからにまだ歳若い女子高生であった。
 小学生が医者のコスプレをしたって、まだ幾らかクオリティを上げられそうなものだ。それくらいには実用的な白衣が似合わない、そこそこ以上に可憐な容姿の小娘である。


「……」

「……」


 しばしの沈黙。
 右肩の腕章を強調する指先に、無意識ながらも力が入る。

 やっぱりちゃんと指揮棒奪い返しておけばよかったかな、と頭の片隅で考える打ち止めに、ベンチに座って足を組む少女は怪訝そうな顔をして首を傾げた。

 そして一言。





「……、第三位の超電磁砲ってこんなにチビだったか?」

「二つ以上の意味で即刻キサマをとっ捕まえたくなったがよろしいか!? ってミサカはミサカは肩を怒らせてみる!!」





 逆立った髪の毛からバチバチと紫電を迸らせて激昂する打ち止め。
 その様子に、白衣の学生の周辺をうろちょろしていた子供たちがキャーとか何とか言いながら蜘蛛の子散らしで逃げていく。

 落ち着け落ち着け、とお祭り騒ぎの少年たちの首根っこを掴んだ研究員ハヤミ(仮)は、飄々とした態度で再び打ち止めに向き直る。


「まったく、そうムキになるなよ風紀委員。チビ共が無意味にテンション上げちゃってるじゃないか」

「あなたが変質者ライクにニヤニヤしながら子供はべらせてるのが悪い! それに元々風紀委員のお世話になるような『実験』やってるのはそっちの方だし!!
 いったいどこの研究所の手先かー! ってミサカはミサカは指を突きつけて詰問してみたり!!」

「人聞きの悪いことを。別にこれはどこぞのお偉い機関の息が掛かった御大層な研究とかじゃないんだぜ?
 開発大好き匂風速水さんの愛がこもったオモチャを純真無垢な幼児たちに試してもらってるだけ。まぁ要するに僕の趣味だ」

「余計にヘンタイ指数が増したよね今!? ってミサカはミサカはわなわな震えてみる!!」


 んあー? とか言いながら小指で耳をほじくる少女改め匂風速水に、正義の風紀委員打ち止めは甚大なる危機感を抱いていた。

 一人称もさることながらすっかり女らしさを感じさせない残念系美少女は、怪しさ全開ではあるものの、当初想定していたようなマッドなサイエンティストでもロリータがコンプレックスなオジサンでもないようだった。
 それはいいのだが、この飄々さは違う方面で危険人物の香りを漂わせている気がする。ラスボス特有の薄気味悪い余裕というアレだ。


(おちゃらけた態度のヤツほど強キャラの法則……! ってミサカはミサカは持ち前のゲーム脳を発揮させて……ってまぁ、我らが学園都市最強はヘラヘラどころかムッツリなんだけど)


 超能力者七人で例えるところの旧・垣根帝督あたりがそのポジションだろうか(ちなみに魔術サイドにおいては、元グレムリン所属の雷神トールなどが妥当例といえる)。



 ともあれ、彼女が『趣味』で子供たちに配り歩いているという玩具が本当にマトモなものなのか、それを見極めないことにはどうしようもない。


「……なんでもいいけど、本当に怪しいモンじゃないっていうならミサカがこの場で確かめます、ってミサカはミサカはその風船をこっちに渡せと要請してみる」


 打ち止めの能力なら、電磁波を使って中身をある程度解析することもできる。
 それを上手く用いて、見えない風船内部の構造を把握しようというわけだ。


「構わないよ。別にやましいことなんか何も無いしな──今のところ」

「テキトーに罪状付けて今すぐ警備員に引き渡してやろうかぺド野郎、ってミサカはミサカは凄んでみたり」

「面白い冗談だ。だが、女の子として産まれたんならもう少し言葉遣いを正した方がいい。モテないぞ」

「あなたには言われたくないっ!」


 打ち止めの鋭いツッコミを笑い飛ばした匂風速水は、手にしていた数種類のゴム風船を空気入れのような器具で膨らませてから、長い紐がついた小さな金具に取り付け、打ち止めに次々と手渡した。
 頭の上に浮かぶ白うさぎちゃんの風船に若干表情を緩めながら、新米風紀委員は疑問を口にする。


「……何のガスを入れたの? ってミサカはミサカは問いかけてみる」

「ただの空気だよ。ただし、こいつのキモはむしろ、一緒に注入した薬品の方に仕込んである」

「?」

「AIM拡散力場を測定する専用機材なんかで使用される化合物を、微量に調合した水だ。もちろん人体には無害だけど。
 能力を感知すればたちまち揮発して、特殊ゴム製の風船内部の気圧が変化する。その能力の質量やパターンに応じて風船が浮かんだり揺れたり、膨らんだりする仕組みになっている」

「……それってものすごく無駄に画期的なんじゃ、ってミサカはミサカはあまりのコスト度外視っぷりに呆れ返ってみたり」

「そんなこともない。まだまだ開発段階でいまいち不確かな反応しか示さないし、それに元々僕一人の自由研究だからな。
 その辺でテキトーに配り歩くのが精々ってレベルだよ。でもまぁ、子供の遊び道具には丁度いいんじゃないかね」


 つまらなそうに講釈を垂れる匂風だったが、話を聞くに、少なくともその辺の学生が簡単に作れるような代物ではないはずだ。



 まじまじと観察しても、やはりただの水風船にしか見えない。
 そんな白うさぎちゃんたちがくっついた紐を弄びつつ、打ち止めは感心したように片眉を上げる。


「じゃあ、当然このミサカの能力にも反応するんだよね? ってミサカはミサカは電磁波でスキャニングを開始してみる」

「あ、おい待て風紀委員──」


 パリッ、と指先に静電気を発生させて風船にチカラを注ぎ込むのは、匂風の制止よりもほんのわずかに早かった。










 パパパパパパンッッ!! と。

 みるみるうちに白うさぎちゃんがグロテスクに膨らんだ一秒後、耳をつんざく破裂音が広場一帯にこだまする。

 それと共に、打ち止めの上空から周囲数メートルに、打ち水のような薬品の雨が降り注いだ。










「……みゃあああああああああああああああっ!? ってミサカはミサカは──っ!!」

「きゃっ」

「にょわッ!?」


 びちゃびちゃべしゃー!! と冗談みたいな勢いで降りかかった液体をモロに浴び、全力でビビった打ち止めや周辺の子供たちはあっけなく尻餅をつく。

 そして、少なからず自身もまた手製の薬品を被ってしまった匂風速水は、濡れた前髪を鬱陶しそうにかき上げながらベンチから重たい腰を上げた。
 どこからともなくホースを引っ張り出して歩み寄る先は、広場に設置されている小さな水飲み場だ。


「……ほら、開発中と言っただろ? 大能力クラスの照射に対する耐久性なんか無いんだ。とはいえ、これは説明しなかった僕にも非があるかな」

「……ちょ、ちょっと待ってそのホースはまさかおいこら待て、ってミサカはミサ」

「というわけでホレ喰らえ」

「ぶふうっ!!?」


 勢いづけて捻られた蛇口から噴き出す水道水を、あろうことかホースで直接顔面に叩きつけられる。

 匂風はその後も立て続けに、ホースを子供たちに向けて容赦なしで多量の水を浴びせていく。

 無邪気な少年少女らは水遊びとでも思っているのか、キャッキャと悲鳴を上げつつ楽しそうにはしゃいでいる。
 が、借り物の作業着もろとも制服をずぶ濡れにされた打ち止めはそういうわけにもいかない。



「なななっ……何をするだァーッ!? ってミサカはミサカは全力で声を荒げてみる!!」

「……無毒とはいえ、今キミ達が被ったのは開発中の薬品だからな。肌荒れぐらいするだろうし、服に付着すれば結晶化して取れにくくなるぞ。
 ならその前に、ためらいなく洗い流してやるのが開発者としての責務だ。そうだろう?」


 しれっと回答する発明家少女を前に、びしょ濡れの風紀委員はぐっと言葉に詰まってしまう。

 だが、そんな彼女のパニックはまだまだこんなことでは終わらなかった。


「……~~っ!?」


 バッシャー!! と、自らも真顔で冷水のシャワーを浴びだした匂風を前にして、青ざめていた打ち止めの顔がみるみる真っ赤に染まる。


「……さすがに冷えるな。しかし僕お手製の特殊ゴムをこんな簡単に割られてしまうとは、困ったもんだ。次はもっと揮発性を抑えるか、それとも風船本体の方を強化するか……」

「──……し、っ、した」

「?」


 しゃがみこんだままこちらを凝視してぱくぱくと口を開閉する風紀委員の奇行に、ずぶ濡れになった彼女は眉をしかめる。

 真っ赤っかの顔の打ち止めが震える指先で指し示すのは──白衣の下に着込んだシャツの布地がべったりと肌に張り付く、匂風の胸元だ。


「──下着ッ! ブラジャーぐらい付けろーっ!! ってミサカはミサカは全力で叱りつけてみる!!」

「……、ブラジャー?」


 そう。

 どこからどう見ても完全無欠のノーブラが、透視もしてないのにあけっぴろげのすけすけみるみる状態なのであった。

 ぎゃあああ!? とにわかに赤面して騒ぎ始めたのは当の本人ではなく周囲の幼い少年たち(目を隠そうとする女の子にもみくちゃにされている)で、匂風はそれをうるさそうに一瞥してから、至極真面目な様子で、シャツ越しにばっちり透ける自らの肌色を見下ろしていた。

 そして一言。


「……いや、僕には必要ないだろ。セクハラのつもりか?」

「そーいう台詞はバストサイズをもう一回確認してから吐けやコラァ!! さてはケンカ売ってるな!? ってミサカはミサカは──っ」


 ドカーンと頭に血が上った新米風紀委員が怒りと共に立ち上がった、次の瞬間から。

 彼女の視界が不意に、グラリと傾ぎ出した。


「……ふにゃあぁ、ってミシャ、ミシャカは……?」

「「わああああああああああああああお姉ちゃーん!!?」」


 足元のチビたちの絶叫を遠くに聴きながら、働きづめのせいかとうとう臨界点を越えてしまったらしい打ち止め。
 張り詰めた意識が、情けなくもぶちぶちに千切れ霧散していく。

 かくして、眩暈に倒れかけた彼女の肩を軽々と抱き止めた濡れ鼠の匂風速水がポツリと冷淡に漏らした言は、





「……『まだ』、何もしてないぞ? 気が早いやつだな」

(──ふ……不穏だー、ってミサカはミサカは……こっそり愚痴ってみた、り……)





 ツッコミにも疲れ果て、億劫な思考を停止させた打ち止めはそのまま、少女の腕の中で重たい瞼を閉じてしまうのだった。






「……うう、なんだかとんでもなく下劣かつ腹の立つ夢を見たような、ってミサカはミサカは……」

「ん? あぁ、ようやく起きたか待ちくたびれたぞ」

「現実だったよちくしょう」


 意識を取り戻した打ち止めは、何故だかベンチの上で膝枕をされている真っ最中だった。

 すっかり夕闇が侵食しきった空と、自らを見下ろす白衣の少女の顔を視界に収めて、げんなりとため息をついた。
 ナニに使ったやら、スポーツ用の酸素吸引器を手の中でくるくる回して、半笑いの匂風は嘯く。


「疲れと軽い貧血だろう。昨日今日で気圧変動も激しいしな、おまけに、あれだけ激しく大声を上げたんだから無理もない」

「……本当に、あの薬の作用じゃないんだよね? ってミサカはミサカはジト目で見上げてみる」

「気になるなら調べろよ。サンプルぐらい幾らでも持っていっていい」


 瓶に入った無色透明の液体を見せびらかされたが、さすがの打ち止めもこれ以上濡れ濡れの透け透けは勘弁だった。

 元々打ち止めは虚弱体質だ。最初からそのように造られた司令塔なのだから仕方はないのだが、風紀委員である今では不便の一言に尽きる。
 ふんわりとした太ももの感触に気恥ずかしさを感じながらも、彼女には気になることがあった。


「あの子たちは……? ってミサカはミサカは訊ねてみる」

「帰らせた。最終下校時刻に口うるさそうな風紀委員もいることだし」

「忘れてるようだけど、あなたも学生でミサカが叱りつける対象だからね、ってミサカはミサカは言及してみる。寮の人に迷惑でしょうが」

「心配ない、家出少年だからな」

「……余計にお説教する要因増えちゃったんだけど、ってミサカはミサカは……あーもういいや」


 というか少女だろ、という野暮な指摘も放棄して起き上がり、ふらつく頭をブンブンと左右に振る打ち止め。


「……あなたは、よく分からない人だ、ってミサカはミサカはため息をついてみたり」

「?」

「一見……というかどう見ても変態さんなんだけど。でも、悪人ではない。悪いヤツなら、あんな小さな子たちがあそこまで懐いてるはずないもん、ってミサカはミサカは断言してみる。
 あなたみたいな才能ある人が何処にも属せず、子供たちの輪に拘るのは、一体どうして? ってミサカはミサカは問い掛けてみたり」

「……買い被りすぎだろ。僕はキミの思い描くようなヒーローでも善人でもないし、御大層な目的があって行動しているわけじゃない」


 ただの、子供好きな発明家だよ。

 匂風は口元だけで小さく笑うと、のっそりと緩慢な動作でベンチから起き上がった。



「……だがまぁ、お人好しな風紀委員に、僕からひとつ垂れ込みをくれてやろうか」

「垂れ込み?」


 ふと笑みを引っ込めた両者の間に、新たな情報が提示される。



「──最近、第七学区周辺で秘密裏の人さらいが増えている。詳しいことは僕も知らないけれど。
 解体前の学園都市暗部の前例のごとく、どこかからの圧力によって情報封鎖されてはいるが、どうも子供たちの他愛ない噂話までは誤魔化しきれないらしいな」



「……!?」


 人さらい。つまりは暗部による拉致、誘拐。

 それが本当ならばもちろん大変なことだが、あまりに突拍子も無くそう言われても、無闇に信じる気にはなれない。
 打ち止めは馬鹿正直だが、それでも無知ではないのだ。


「……万一それが本当だとして、あなたがそれをミサカに伝えることのメリットは、何? ってミサカはミサカは……」

「ただのお節介、じゃ少し不足かな? ……というか、単にテスター役の子供が怯えっぱなしだと僕も困るからね。
 風紀委員のキミが少しでもそれを気にかけて行動してくれれば、未然に防げるモノも少しはあるかとしれないと思い立っただけだよ」

「……」


 懐から取り出した風船に、今度は口から直接息を吹き込んで。

 パンパンに膨れ上がった白いうさぎの口を結び、彼女はそれを打ち止めに投げ渡す。


「わっ!? ってミサカはミサカは慌ててキャッチしてみる!」

「手土産だ。お仲間はこっちで呼んでるから、キミはそこで座って休んでいるといい。僕はそろそろ寝床に戻るとするよ。
 ……あまり僕の前で油断されると、つい悪戯したくなる。だから少しは身を案じろよ、――最終信号」


 そう呟いて、ひらひらと手を振りながら広場を後にする白衣の背中を、打ち止めはしばらく呆然と見送っていた。



 ミサカの正体知ってたのかよ……、と改めて相手の底知れなさを感じていた彼女だったが、その後背後からパタパタと駆けてきた足音にようやく心を取り戻す。


「──こっこここ子供ーっ! 大体倒れたってどういうことだ大丈夫なのかー!? にゃおーん!!」

「お、お子様? それになゆちゃんも、ってミサカはミサカはびっくりしてみる」

「風船持った小さい子達が走り回ってたから慌てて来てみたら……御坂ちゃん、もう身体は平気なの?」

「あははー……。全然平気、ただの貧血だもん一晩寝たらスッキリ解消だぜ、ってミサカはミサカはガッツポーズして──ぐおっ!?」


 フレメアに連れられた金髪セミロングの先輩・木原那由他に気を取られていたところを、ものすごい勢いで腰にタックルされる。

 打ち止めがよろめきながらも下へ目をやると、そこには桃色の蝶々を携えた銀髪の塊がひしっとしがみついていた。


「お、お姉ちゃん……」

「打ち止め様怪我はないですかどこか痛くはありませんか何か悪いことはされませんでしたかその白いうさぎはいったいどこの馬の骨ですか何故こんなところまで私たちを置いて一人で行ってしまったのですか精神的なストレスによる過労ならばやはりあの白髪は早急に捕食するべきでしょうか」

「ぎゃあああああああ勢い余ってサバ折りしないでぇ!! 落ち着いてお姉ちゃん目玉がぐるんぐるん暴れてるよ!? ってミサカはミサカは悲鳴を上げてみたりーっ!!」


 すっかりいつも通りのじゃれあいを披露する少女の姿に、実は一番心配していたらしいフレメア=セイヴェルンはほっとしたやら不満やら、複雑な表情を浮かべていた。


「……まったく人騒がせな。全然平気そうじゃないか! にゃあ、大体そんなに元気ならさっさと詰め所に戻るぞ!」

「ご、ごめんってば……。そうだね、白井先輩たち今ごろやきもきしてるだろうし、ってミサカはミサカは急いで手荷物を確認してみる!」










「……もう、そんなに慌てたらまた倒れちゃうよ。明日せっかくの非番なんでしょ?」


 慌ただしく支度を整えて走っていく三人娘を後ろ側から眺めて、年長組の那由他はただクスクスと無邪気に笑っていた。

 だが、


(……、あれ?)


 ふとした違和感に気付き、可愛らしく小首を傾げる。

 しかし、今にも稼働しようとしていた『木原』の優秀な思考回路は、十メートル先からのソプラノの呼び声にあっけなくかき消されてしまう。


「──那由他のお姉ちゃん! どうしたの早くしないと置いてくぞ! にゃあにゃあ!!」

「え、……わわっ待って皆! 監督不行き届きで怒られちゃう! うう、というか私もまだ絆里お姉ちゃんに報告してないのに……!」


 ギュン! と駆動音を人工関節から密やかに鳴らして、フレメアたちから催促された那由他はそのまま、機械仕掛けの身体を滑らかに駆けさせていった。










 ……そうして。
 とっぷりと日も暮れた街の中で、久々に再会した後輩との戯れに明け暮れているうちに。

『AIM拡散力場を見て触る』自らの視角が捉えた僅かな異変のことは、不運にも、木原那由他の優先事項から早々と除外されてしまったのである。


投下終了です。

お久しぶりです!
私用にひと段落ついたので、短いですが続きを投下させていただきます
キリ悪いので0.5話更新とでも思っていただければ

こちらにて支援イラストを描いていただきました。ありがとうございます!
http://www.pixiv.net/member_illust.php?illust_id=38492886&mode=medium

それでは投下します






 五月十一日。
 今日はゴールデンウィーク明けから初めての休日、土曜日である。


「うーん……っ」


 色の抜けた金髪の一部を両耳の後ろで房にしたサイボーグ女子高生・木原那由他は、とある風紀委員の詰め所にて、チェアの背もたれに沿う形で伸びをしていた。


「むー、まさかこんなに第一七七支部の事務作業が滞ってたなんてなぁ。肩凝っちゃうよ」

「あー、ここしばらくはリーダーの白井さんが新人教育に没頭してましたから、仕方ないといえば仕方ないんですけどね。
 アホ毛ちゃん、覚えは良いんですけど肝心な場面で結構抜けてるところがあるらしくて、白井さん毎日ヒヤヒヤしてるみたいです。
 ……よしっ、そろそろお茶でも飲んで一息つきますか! 那由他ちゃんはミルクティーが好きでしたっけ」

「えっ、ごめんなさいそんなつもりじゃ……というか先輩にそんなことさせるなんて悪いよ! お茶なら私が淹れるから!」

「あはは。気にしなくていいんですよ、コレは私の趣味なので。日進月歩メキメキと腕を上げている私のお茶淹れクオリティをとくとその目に焼き付けるがいい!! ってことです。
 じゃあちょっと行ってきますね、お茶請けに美味しいクッキーもあるんです! ふんふんふーん♪」

「そ、そうなの? ……って、相変わらずタフだなぁ飾利お姉ちゃん」


 備え付けのキッチンに入っていった初春飾利のウキウキと踊るお尻を眺め、息抜きしたがってたのはむしろ彼女の方なのかも、と笑みを浮かべる那由他。

 応接用の机に散乱した資料をまとめているうちに、満面笑顔の先輩がティーセット一式が載ったトレーを持ってきた。
 既に中身が入っているらしいポットの口から、ミルク色の甘い湯気がほこほこと溢れて漂う。


「今日はちょっと本格的に、ロイヤルミルクティーを淹れてみました!」

「へえ。私あんまり紅茶には詳しくないけど、保温しないですぐ火から下ろしても大丈夫なの? ……って、そっか、そういう能力だもんね」

「ふっふっふ、ちなみにレベルアップした私は手を触れないままでも色々な物を保温可能なんですよ!」

「何、そのカメラ目線……」


 能力者のレベルや系統は、那由他の目を通して見ればある程度判別がつく。
 AIM拡散力場のパターンを観察することで、彼女の五感は専用機材よりもはるかに便利な形で他者の能力の内情を掌握できる。だから、周囲の人たちのそれはもちろん、彼女の関知している範疇だ。


「まぁまぁ細かいことは気にしない。それよりもこのムサシノ牛乳、噂によると、女性のスタイルアップの必須アイテムらしいんですよ!
 以前ここで指揮を執ってた固法先輩も愛飲してたんですけど……なんというかやっぱりこう、ばいんばいんな人でしたね」

「………………………………えー?」

「そ、そんないかにも眉唾っぽくて胡散臭いと言わんばかりの反応しなくてもいいじゃないですかぁ!」

「だって実際眉唾っぽいし胡散臭いんだもん。でも……そこまで言うなら『木原』的プライドにかけて解析してみようか」

「いやいやっ、そんなガチにシリアスな表情になる場面じゃないですよコレ!? その怪しげなグッズしまってくださいー!」


 何やら毒々しい色の薬品を染み込ませた濾紙を取り出した那由他に、冷や汗を浮かべる初春の笑顔は微妙に引きつっている。
 折角の英国仕込みの優雅なティータイムが、ケミカル一辺倒な知的好奇心に汚されてしまうのだけは避けたいところだ。

 ……しかしよく考えれば、かの木原病理に『「木原」の中の可能性』とまで謳われたこの那由他がここまでブラックな研究意欲を燃やすのは、主にバストアップに期待を持たせるような牛乳の宣伝文句に対する、僅かな期待の裏返しとも言えるのかもしれない。

 なんてことを思いつつ、ティーポットを庇ってもみくちゃにされる側の初春ともみくちゃにする側の那由他。
 天然と見せかけて実はちょっと計算高いリアリストという共通点を有する両者のじゃれあいは、打ち止め対フレメアとはまた別の意味で不毛なボケ倒しである。




「……おーけー落ち着け、クールになりましょう。このタイミングで白井さんが帰ってきたら相当な逆鱗に触れちゃいますし」

「え? 黒子お姉ちゃん、この牛乳に何か恨みでもあるの?」

「いやぁ、恨みといいますか、固法先輩にあやかり密かにガブ飲みしまくって恒久的にお腹を壊してた時期があったらしくてですねー」


 パトロール中のリーダーの不在をいいことに、赤っ恥の昔話に花を咲かせる二人。

 そのまま彼女らは元通り和やかなムードでソファに座り、しばらくティーカップを片手にクッキーなどを貪っていたわけだが、





「──やっほう、サボり放題でハシャいでるとこ悪いけど邪魔するよんおチビ共」





 開いたドアの隙間からわざとらしくウインクを決め込んできたのは、彼女らのよく知る新米風紀委員や学園都市第三位をそのまま大きくしたような容姿の女性だった。


「あれ?」

「み、御坂さん……じゃなくって」

「んー? なぁにカワイー顔引きつらせちゃってんのさ妖怪花飾り。せっかくこのセクシーダイナマイツ実習生ちゃんが優等生共の面倒見にわざわざ休日出勤してあげたってのに」


 買ってまだ三日目ですと言わんばかりに着慣れない感を醸し出すスーツに包まれた肢体は、確かに公言する通り、いろいろなところがダイナマイツなけしからん悩ましさである。

 コイツもムサシノ牛乳のお得意先だったりするのだろうか、と若干露骨な目で観察する那由他は、しかし一応の初対面である相手を前におずおずと立ち上がってみせる。
 ……もっとも、一流にして最悪の科学者一族の端くれである彼女としては、目の前の女の正体については粗方、前情報からも推測できていたのだが。


「えっと、あなたは……」

「番外個体。今のところ、可愛い可愛い教え子(モルモット)たちにゃ美冬せんせーとか何とか呼ばれてるけど、まぁ仮初めの呼び名なんて無意味なモンだよね。そういうそっちは木原那由他かな?」

「……そうだね。噂はかねがね聞いてるよ、美琴お姉ちゃんの末妹さん」


 握手のために差し出した那由他の手はあっさりと無視され、カツカツと薄いヒールを鳴らす御坂美冬こと番外個体は、懐から取り出した小さなメモリーカードを初春に投げる。


「わ、っと。……み、美冬さん、これは……」

「ただのくだらないおつかいだよ。まったくあの野郎、わさわざ人を顎で使って寄越しやがるほど重要なもんなのかねぇコレは」

「ふぇ?」


 いやいやこっちの話、と適当に手をひらひらさせる茶髪スーツの女。

 対面する二人掛けのソファに接近してきた彼女は、一人暮らしのベッドにでもダイブするような気安さで、初春の隣にドカッと腰を下ろした。
 そして、トレードマークの悪い笑みと共に注文をつける。


「歩き疲れて喉乾いた。ヘイそこの嬢ちゃん、このミサカにも一杯おごっておくれよ」

「……美冬さんはもう充分育ってるじゃないですか。恵まれない私達からこれ以上何を搾取しようってんですかぁ……」

「はぁ?」


 ……恨ましげに低い声を発する初春飾利(貧乳)はそれでも心優しい少女であるので、ふてぶてしい態度のゲスト(巨乳)に特製のミルクティーを渋々分け与えてあげるのだった。









 さて。

 そんな感じに、いろんな意味で奮闘している先輩方に仕事を押し付けてまで貴重な休暇をもぎ取った新米風紀委員打ち止めはというと。
 第七学区の繁華街の一角にある本屋にて、今まさにハッと顔を上げたところだった。


「──牛乳を買わなくてはっ! ってミサカはミサカは突然の第六感に叫んでみる!!」

「なーに妙な電波拾ってるんだ。そのアホみたいなアンテナを畳め、大体今は料理本を探してたんだろうに。にゃあにゃあ」


 こっこれはアホ毛じゃないもん!! と慌てて両手で頭頂部の癖毛を押し潰す少女。

 豊富に書物を取り揃えた大型書店で、彼女らが駄弁っている一角は、料理関連の本を集めたコーナーだった。

 自炊派学生たちのための簡単弁当の特集から、民俗学ばりの難解さの『世界の土着料理の分類と成り立ち』などという論文集まで。
 とにかくジャンルが料理と記されたものなら容赦なく詰め込みましたと言わんばかりのレパートリーの中、打ち止めが求めているものはオーソドックスで親切かつ基本に忠実なお料理本である。

 炊飯器という利器に頼りきった反則料理なら割とこなせる彼女だが、ごく普通にフライパンや片手鍋を用いるオンナノコらしいお料理に関しては、まるで経験が足りていないのが現状だ。


「……何でなんだろうなぁ。大体この子供は何でこう、火加減や塩加減って概念と仲良くなれないんだろうなぁ」

「……それに関してはミサカ自身が一番知りたい、ってミサカはミサカはため息をついてみる……」


 料理のジャンルは数あれど、やはり女子力向上という点において真っ先に修得したいのは和食であろう。
 料理に関してプロ級の腕前を持つフロイラインにもこれを薦められた。
 曰く、美味しい出汁を作れない者が美味しい料理などハナから作れるわけがない、と。ドイツ人のくせにやたらと和の心に造詣が深い少女である。

 もっとも、日本人が発見した旨味成分グルタミン酸だとか料理のさしすせそだとか、そんな知識は実戦において屁ほどの役にも立ちやしない。
 味を確かめながら臨機応変に火加減や調味料を使い分ける、アドリブ。ズバリそれこそがジャパニーズ家庭料理には何より必要なのだ!!


「……して、手っ取り早い経験値を求めるあなたが、大体今晩作ろうとしているお料理は?」

「…………………………………………………………鍋、ですかね、ってミサカはミサカは真顔で返答してみる」

「清々しく逃げの体勢入りやがったなこの野郎」

「な、何故だっ!? お料理初心者にとっては極めて妥当な選択じゃないか! ってミサカはミサカは断固主張してみたり!」

「スープと具材を土鍋にぶち込んでグツグツ煮るだけの作業を私は大体日本料理とは認めないぞばーかばーか!!」


 またも外国人に叱られてしまう哀れな大和撫子打ち止め。

 学園都市製とはいえ確かに我が遺伝子に刻まれているはずのオ・モ・テ・ナ・シ精神を金髪女にゲンコロされ、SAN値がゴリゴリに削られてしまう。今頃きっとソウルジェムだって真っ黒だ。

 もーどうすりゃいいってんだよと腰に片手を当てつつ本棚を漁る打ち止めは、はたと約一名の不在に気付いた。


「ねぇ、お姉ちゃんはどこ行ったの? ってミサカはミサカは周囲を見渡してみる」

「にゃあ? 大体カブトムシ連れて文庫本コーナーに行ったみたいだけど。買いたい本があるとかなんとか」

「? 珍しいね、参考書とかじゃないんだ? ってミサカはミサカはお姉ちゃんの勤勉さを思い起こしてみる」


 柵川中ナンバーワンの能力者は打ち止めだが、勉学においてフロイライン=クロイトゥーネには歯も立たない。
 元々自らの『羽化』に必要な知識をスポンジのように吸収する(というよりも、吸収するために必要な『機能』を身体が勝手に獲得してしまう)性質を持っていた彼女は、その不健全な意味を除いても知識欲旺盛で勉強好きだ。
 打ち止め同様に正規の住人ではない彼女が今こうして学業に専心出来るのは、現・統括理事長との間にパイプを持つ例のツンツン頭や第一位が戦後にあれこれ頑張ったおかげなのだが……その語られざる努力を彼女らが知るのは、もうちょっと大人になってからの話なのである。



 何はともあれ、料理の本を吟味するならばお師匠さまたるフロイラインにも意見を聞かねばなるまい。

 区切られたブロックの細い道を二人揃って辿ってみると、程なくして、本棚の影からちらちらと覗く銀の髪を発見する。


「あそこだあそこだ、ってミサカはミサカは訳ありげに声を落としてみたり」

「にゃあ。お姉ちゃんはデカいから、大体目立って何処ででもすぐに見付けられるな」

「遠くから改めて見ると、ホントにあっちこっちデカいよなぁ、ってミサカはミサカは……やっぱり牛乳買おうこれはミサカの使命だ何となくそう直感した」

「……大体よく分からないけど、服買いに行く前にスーパー行くんなら冷蔵機能付きのコインロッカー探しておいた方がよくないか?」


 ごにょごにょ会話しながらも、フロイラインが陣取る本棚の隣まで辿り着く打ち止めとフレメア。

 意外にも、そこは主としてティーン向けの小説が置かれた、いわゆるライトノベルの売り場だった。
 もっと具体的に言うと、背表紙とかが全体的にオールドファッションなドっピンクだったりするような、少女向けライトノベルというジャンルである。

 どうせだから後ろからわっと驚かせてみようという流れになったいたずら好きな二人は、そのまま抜き足差し足で目標に忍び寄ろうとしたわけだが、





『……フロイライン=クロイトゥーネ。その小説は世間一般の恋愛ものとは違うと言いますか、ええと、参考にするのならせめてこう、異性の恋愛を描いた作品に限定するべきなのでは……?』

「しかし、白井黒子様からは『真実の愛を学びたいのならば、性差などに惑わされない女性同士の恋物語をたしなむべきですの』と」

『(火に油を注ぎやがってあの変態……ッ! 単純にからかっているだけなのかガチにそっちの世界へ道連れを探しているのか判別しがたい……!!)』

「それに、この小説はとても参考になる、と思います。……なるほど、『友達』を傷付けるような男は細胞膜ひとつ残さずすり潰して殲滅するのが日本人女性の友情の証なのですね」

『一体どこの修羅の国の恋愛模様を学んでいるんですかっ!?』





「「……………………」」


 ……肩に止まった白いカブトムシと小声でやりとりしながらジャパニーズ百合小説を超高速で読み漁るフロイライン=クロイトゥーネの言葉を盗み聞きしてしまい、打ち止めとフレメアはピシリと凍り付いた。


「……、大体、どうする?」

「……『それは違うよ!』って弾丸ばりに論破する気力はこのミサカには無い、ってミサカはミサカは無気力に目を背けてみる……」


 盛大な勘違いによって着々とハイスペック変態への道を歩みつつある親友に背を向け、とりあえず「本探しぐらいお姉ちゃんに頼らず自立しよう」という名分を固めた二人は、黙ってその場を後にするほか無かったようだった。




投下終了です。


こんばんは。
投下します






「……『怪物でんせつサイト』、ですか……?」

「おや? かざりんはいかにも好きそうなキャラだと思ってたんだけど。このテの微笑ましい都市伝説ってのは」

「いやぁ、嫌いではないですけど……さんざん振り回されまくった過去があるだけに、あんまりいい思い出が無いのも事実ですねー……」


 番外個体の『くだらないおつかい』たるメモリーカードに入っていたのは、学園都市の幼い子供たちの間で密かに話題になっている噂話やおまじないなどをまとめたサイトへのリンク集だった。

 子供向けのビビッドな配色と大味なイラストがふんだんに盛り込まれたレイアウトを写し出すディスプレイを、初春の背後から那由他と番外個体が覗き込んでいる。


「ふーん……ゲームの攻略本みたいな編集の仕方だね。特に超能力者のみんなの特集ページなんて、イラストや解説文も相まって、なんというかレア物のモンスターみたい」

「こーいうガキ丸出しの悪意とユーモアにまみれたゴシップってミサカ大好きなのよねん。
 第一位の特集なんて傑作だよ、『小学生のぱんつが大好きな真っ白オバケ。ファッションセンスをバカにされると黒い翼を生やして追いかけてくるが、空色の毛布を羽織っていたら見逃してもらえる』」

「い、一時期あすなろ園の子たちがかたくなに毛布を被ってたのはこのせいだったんですね……。というか美冬さん重いです何ですか新手の嫌がらせですかこれ」


 造花を飾った頭の上に番外個体のマスクメロン二個(暗喩)を乗せられつつも、キーボードをカタカタと叩く初春は、センスに欠けた子供たちの噂話が立ち並ぶ文面に対して困ったように笑みを浮かべる。
 一方、そんな無礼者な爆乳の腰を何気なく鷲掴みにしては「ど、どんな成長剤を用いたらこんな体型になれるの許せない今度カエル顔のお医者さんに問い詰めなくっちゃ」などとセルフ憤慨にわなわなしていた那由他も那由他で、気になる文面を見付けたようだった。


「……垣根のお兄ちゃんのことも結構取り上げられているんだね。あははっ、見て見て飾利お姉ちゃん、『冷蔵庫を背負ったイケメン。たまに白くなったりカブトムシになったりバレーに目覚めたりする』だって」

「か、垣根さんはこの際どうでもいいんですどうでもっ!! そ……それで美冬さん、この手合いの個人サイトをこれだけ集めまくって、結局のところ何が目的なんですか?」


 何故か顔をわずかに紅潮させて、初春は頭上のメロンを小動物じみた上目使いで睨み上げる。

 何が目的って言われてもなぁ、と含みのある感じにうそぶく番外個体は、その体勢のまま両腕を回し初春の顎下を持ち上げてがっちりホールドする。


「そーれ察しの悪い子羊ちゃんには美冬せんせーのおっぱいアイマスク攻撃でおしおきだぞー」

「ぬぐぁ!? く、暗闇と首絞めの相乗効果……ッ! ぎ、ギブですギブギブ!!」

「悪意が薄っすいねぇ。まーったく、陣営に迫り来る虫ちゃんだけを退けてるようじゃ守護神の名が泣くぜーかざりん?
 一流の狩人なら自ら獲物を探しに行かなくちゃ。皆が皆本音をぶっちゃけてる場所にこそ、不穏の種は芽吹いてるモンだよ。たとえ年端のいかないガキであっても、ね」

「ご、守護神がディフェンス専門で何が悪いんですかぁ!? そもそも風紀委員って自らトラブルに首突っ込んでいくような仕事じゃないですよ!!」

「そーいう型破りを期待してるからこそ、『あの人』はあえてココを選んで垂れ込みしたんだと思うけど」


 バチンッ! と、にやけた彼女は自らの前髪からパソコンに向けて紫電を走らせる。
 電磁波による影響で一瞬ノイズが走ったように見えたディスプレイは、直後、リンク先から複数のサイトを次々とポップアップさせた。
 それぞれのウィンドウは猛烈な速度でスクロールし、マーカーした『とあるキーワード』を画面左端へと抽出していく。能力を用いた強引なハッキングだった。

 高位能力者の離れ業を割と見慣れている那由他でさえ、その光景はなかなかに物珍しいようだ。


「……すごい……。電子機器を手足みたいに扱えるのは、電撃使いの特権だよね」

「ま、どっかの誰かみたく自販機にビリビリキック喰らわすほどミサカはアホの子じゃないけど。ねーかざりん?」

「ぶはっ!! こ、このヒトは……っ、風紀委員の目の前でハッキングとかどういうつもりですか!」


 ようやく拘束を逃れた初春が注視した画面には、学園都市内のあらゆる電子掲示板から引用した文面が雑然と並んでいた。



 人口の八割を学生が占めるこの街らしく、特に小中学生を対象とした娯楽サイトをメインに調べると、必然的に『根も葉もない噂』がメイントピックとなる。
 先程の空色毛布がうんぬんとかいう『怪物でんせつサイト』もその一種だ。あのサイトは電子掲示板同様、閲覧者が見聞きした噂をフリーに投稿することで成り立っている。

 当然、『それ』全体の信憑性は限りなく薄い──だが、だからこそ。
 無数の嘘の中から砂金の粒のごとき『真実』を選び分ける嗅覚さえあれば、それはかつて統括理事長の目となっていた滞空回線のように、学園都市の裏側で産声を上げる問題を容易く浮き彫りにしてしまうのだ。


「『第七学区の白い誘拐組織』……これって」


 選り抜かれた文面を人工物の指でなぞり、那由他が神妙な顔つきで囁く。
 番外個体は相変わらず初春のほっぺをうりうりして遊びながら、歌うような調子で言葉を続けた。


「──『放課後一緒に遊んでいた仲間の中から、気が付けば一人だけいなくなる──路地裏で白い服の人間に出会ったら迷わず逃げろ。ソイツはキミの脳みそを狙う、怖い怖い誘拐魔だ』」

「……」


 というかそれお腹空かせたフロイラインちゃんじゃないの、と一瞬頭をよぎった疑問はぐっと飲み込んだ那由他である。


「……内容自体は、いろいろな都市伝説や怪談から影響を受けていそうなテンプレートだね。でも……」

「こ、こんなことがもし実際にあるのなら、今ごろ私たち風紀委員に警報が回ってきてるはずです! そもそも、『闇』を一掃して間もない時期に、この手の噂をいちいち検分するような余裕は──」

「だから甘いっつってんの。あなたたち正規部隊がお上からの指示待ちで後手後手に回ってる暇で、我らがヒーローはとっくに動き出してる」


 まぁ逆にヤツらの面倒事に対する嗅覚の方が異常なのかもしれないけど、と。
 不安そうに眉を歪める少女らへ、『闇』の味を知り尽くした女は、引き抜いたメモリーカードを唇に寄せて蠱惑的な笑みを向ける。


「最近、学園都市内のあらゆるネットワークでは『誘拐』『人さらい』ってキーワードが比較的頻出して目立ってきている。
 実際に噂通りの血生臭い事件が存在してるのか否かは、例によって『どっかの誰か』が情報操作で覆い隠してるようだけど。
 親船最中の尽力で掃討されたクソ理事会の小飼い共が、まだ懲りずに良からぬ悪巧みでもしてんのかもねえ。
 つっても、人の噂……特に無邪気全開なガキ共にまで箝口令は敷ききれないのかな。ともかく、不穏の匂いはありふれた都市伝説に姿を変え、今もこうして流れ出ている」

「……それをわざわざ私たちに伝えて、美冬さんたちは何を期待しているんですか……?」


 物騒な話題をいかにも楽しそうに語る番外個体に少々気分を害したのか、初春飾利がいつもよりも棘を含んだ口調で彼女を仰いだ。


「話の虚実や相手の善悪はさておき、少なくとも、一般人に知られるべきではない事柄だからこそ『住み分け』されているんじゃないんですか?
 なら、もしかするとソレは私達のような風紀委員が干渉すること自体、忌避されるべき事柄なのかもしれない。
 それを承知の上で単独活動しているあなたたちにとっては、むしろ正規部隊の私達に関わせたところで、お荷物になるだけだと思ってるんじゃあ……」

「さっき言っただろー? ミサカ達は、ただの優等生じゃ収まんない、始末書まみれなあなたたち不良風紀委員の融通に期待してるんだって。
 なに、こっちは特に難しいことを求めてるわけじゃない。『第七学区の路地裏で何かが起きている』その認識を踏まえた上で、いつも通りの治安維持に邁進してもらえれば十分ね」

「……はぁ……、お役所体質の組織相手に、随分とまぁ自分勝手を通そうとしますよねぇ……」

「出来ないの?」

「やりますよ」

「よろしい。まぁ幸い、ここには最終信号や黒子っちがいる。戦力としても上々だし、多少腐れ縁があるミサカ達からしてみれば御しやすい存在だよ。
 あーあ、にしてもやだねぇこのミサカがこんな小物っぽい根回し役だなんて。個人的には悪意上等っつーか、最近退屈すぎるしむしろ闇属性の皆々様にはもっと根性出して暴れてくれって言いたいところなんだけどひゃあんッっっ!!?」

「うおぁ!?」


 ペラペラくっちゃべっていた番外個体が唐突に発した可愛らしい悲鳴と火花に、思わず飛び上がる初春。



 ……目視による推測だが、どうやら番外個体は、突如自身に発生した謎の漏電現象によって苦しめられているようだった。
 舌が回らない軍用クローンは静電気で前髪をパリパリ言わせながら、涙目になって背後の那由多を振り返る。


「ぬぬぬ……ぬおおおあああああ足の先までビリビリしやがりゅ……にゃ、にゃにしてくれちゃったのかなーそこのクソ木原野郎はぁぁぁ?」

「えっ、いやその、悪気があったわけじゃ……ただちょっとお姉さんのAIM拡散力場が見慣れない形だったから、気になって『くすぐってみた』だけというか」

「悪気が無いで済むんなら風紀委員は要らなひゃうッ!? ……なっな、なんでこの局面でまた触った!? ミサカ何か悪いことしたっけ!?
 残念ながらちょろっと心当たりがありすぎんだけどぅにゃあッ!! あひゃ、あひゃひゃひゃひゃ待ってなんかそれ駄目だってヤバいってミサカのプライド崩れちゃうぅぅううううううううううううう!!」


 バリバリバリッうひゃーやめろーびくんびくんビリビリバリバリ、とやかましい騒音がこだまして。

 端から見たら現状の番外個体は、オタオタする金髪少女のパントマイムに何故か身悶えてトンじゃった危ない女である。


「……うーん……? 量自体は美琴お姉ちゃんと比べて小規模だけど、代わりに御坂ちゃんのと同じ『網』がたくさん……つまり、これがミサカネットワークの……。ん? だとしたら、この『異質な紐』は一体……」

「うぎゃあ!? や、くああっ、ちょっやめ、にゅわあああああああああ!! かざりんボーッとしてないで助けてよそのドタマ咲いてる花は飾りかコラあああ!?」

「那由他ちゃん」

「うん?」

「──いいぞもっとやれ! ですっ!」


 はくじょうものォォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!! という番外個体渾身の絶叫をものともせず、初春飾利十八歳は最上級のイイ笑顔でサムズアップを決め込んだ。

 さーて小鹿よりも弱った美冬さんにダブルピースさせて記念撮影にでも洒落込みますか、と久々に腹黒モード全開でケータイを手に取ったところで、










「……随分とまァ愉快そォな状況だこって。つゥかオマエンとこのガキ共は揃いも揃って馬鹿ばっかか」

「わたくしにばかり勝手な責任を押し付けないでくださいまし……というか、白昼堂々こんなところでナニしてますのお義姉様は……?」










 ドアを開け放す男女の白けた声に、部屋の中の少女らの動きはピタリと静止する。


「……お、おかえりなさい白井さん……それに鈴科さんも」

「……なんですの初春、その微妙に残念そうな表情は」

「どォでもいいが、そこの馬鹿からの『伝言』は受け取ってンだろォな」

「あーハイそれはもちろんしっかりと、ええ」


 口うるさい保護者枠二名のご登場によって、初春は慌てつつも後ろ手にこっそりとケータイのカメラモードを終了させていた。









 夏だ! 海だ! 水着だあっ!!



 ──と息巻く季節ではまだまだ無いというのが確かではあるが、ここ学園都市の繁華街においては季節のワンシーズンやツーシーズンの先取りは、実はそこまで珍しいことでもない。
 街ひとつが大きな実験場ともいえるこの都市では、ファッション事情さえ『外』とは大きくズレているのだ。

 というわけで、いつの時代も女子中学生御用達なセブンスミストではこの休日、ニコニコ元気に水着フェア開催中なのである。

 スーパー近辺にあった冷蔵庫のようなコインロッカーにお鍋の具材や大量の牛乳を預けてきた打ち止めたちは、眩しい太陽に照らされる繁華街の人並みを通り抜けながら雑談していた。
 目当ての店舗に行くまでに、適当な洋服店で料理用のエプロンを見付けようという魂胆なのである。
 私服姿で並んで歩く可愛らしい少女三人という取り合わせは、活気のある街中においても中々に目を惹くものだった。


「いやー……まさか大体、お姉ちゃんがああいう本を大人買いするとはなぁ……」

「? 私は、とても素晴らしい本だと判断しました。『食べて損はしない』情報。購入には問題ないと思います」

「……にゃあ。読書も社会勉強も結構なことだけど、大体、書いてること全部を間に受けちゃ駄目だぞ?」

「???」


 片目を閉じてそう呟くフレメアに、白いロングワンピース姿のフロイラインはいまいち意図を汲めず無表情で首を傾げてばかりいる。

 ちなみに金髪ボブヘアのフレメアは、いつも手提げにしまっているベレー帽を、今日は私服でのお出掛けということで頭に被っていた。
 赤いチェックシャツやレザースカートに似合うよう、紅梅に近いピンク色へと色合いを『調節』してもらっている。


「意外といえば、大体そっちの子供の大人買いも予想外だったし。ゲーム好きなのは知ってたけど、少年漫画なんか今まで読んでたっけ?」

「ふぇっ!? ……えーっと、あーまぁこのミサカもたまにはなー、ってミサカはミサカはわざとらしく目をそらしてみたり」

「にゃあ?」


 何故か上の空だった打ち止めの反応に、今度はフレメアが首をひねる番だった。
 訝しむ視線から身を庇うように、春物のニットワンピに覆われた自分の腕をぎゅっと抱いていた彼女は、しばらく沈黙していたもののやがて観念したように口を開いた。


「……昔、ヨミカワが病室に差し入れしてくれた漫画だったの。久しぶりに見掛けたからなんだか懐かしくなっちゃって、ってミサカはミサカはもっともらしく理由を付けてみたり」

「……にゃあ。懐かしいのは大体その漫画じゃなくて、ベッドに寝転がってつまらなそうに漫画を読んでた『あの人』の横顔だとかそーいうオチだろどうせ」

「ぶふっ!? へ、変なオチを勝手に捏造しないでほしいんだけど! ってミサカはミサカは図星なのを隠してムキになってみる!!」


 はいはいツンデレツンデレ、とニマニマしながらからかってみせるフレメアに、ムキーとかなんとか言いながら大人げなく両手を振り回す年上の風紀委員である。



 一方で。
 そんなやり取りを横から聞いていたフロイラインは、騒ぎに乱入するように打ち止めへ後ろから抱きつきにかかる。


「……むぎゅー」

「にょわっ!? お、お姉ちゃん!? ってミサカはミサカは急襲に戦いてみたり!!」


 昼間の喧騒の中、人目もはばからずに小柄な体躯を思いっきり抱き締めつつ、フロイライン=クロイトゥーネはいつもの無表情からわずかに唇を尖らせてこんなことを呟いていた。


「……こんな楽しい時にまで、『あの人』の話ばかり、……」

「お、おう……? ってミサカはミサカはお姉ちゃんの新たな反応にちょっとドキッとしてみる」

「……、なーなーお姉ちゃん。何だかんだ言って大体お姉ちゃんは、別に『あの人』のこと嫌ってはいないんでしょ? なんせ、好きな人の好きな人な訳だし。にゃあ」

「げっほごっほ!? な、なんだなんだ好きな人の好きな人ってどーゆー意味だそれーっ!? ってミサカはミサカはお子様に食って掛かってみたり!!」


 顔色を変えてフレメアの口を塞ぐべく飛び掛かろうとする打ち止めの後頭部を眺め、フロイラインは思考の読めない青い瞳を余計に細めてしまう。
 日頃の行動の大胆さに引き換え、彼女の表情の変化は、よほど親しい者でなければ気付くことが出来ないほど些細なものである。

 欧州で暴れまわっていた数百年前には、今よりもずっと『人間らしい』笑顔や振る舞いを完全に獲得していたフロイラインだが、長年『窓の無いビル』の暗闇に捕らえられているうちに、それらの経験値は綺麗にリセットされてしまったらしい。
 事実、統括理事長の手の内から不意に転がり出された当初、彼女は自らの『羽化』への衝動のみに突き動かされる、ただの獣か昆虫だった。
 それが、グレムリンの暗躍をきっかけに、ヒーローたちの手によって解放されて以降の五年間で。
 彼女の情緒はかけがえのない『友達』の手を借りて、その日常の中で、より自然な形へと少しずつ戻ってきているのだ。





『──このミサカも「産まれたて」なの。だから、おねーちゃんと一緒にこれからたくさん勉強していけたら嬉しいかな、ってミサカはミサカは手を差しのべてみる!』

『ややこしいことはよく分かんないけど、普通に学校通って私たちと遊んどけばおねーちゃんのリハビリになるってことだろ? なら大体何も問題無いし! にゃあ!』





「……嫌いでは、ありません。ですが」


 上条当麻も浜面仕上も、もちろん一方通行だって、彼女にとって大事な友達を『食べてしまう』のを止めてくれた恩人と言える。
 けれど、三人一緒にいられる大切な時間を、ここに居るわけでもない人の存在にかき回されてばかりなのは、なんとなく嫌だった。

 ──もっとも、〇と一の連鎖が織り成す彼女の未熟な思考では、自分はただ拗ねているだけなのだと認識するにはまだまだ不足だったようだが。



「……、にゃあ!」

「わっ、」


 そんな彼女の心境を読み取った上でのことか、フレメアは白魚のようなフロイラインの左手を自分の両手でパッと掴まえてみせる。


「大体、つまんないこと考えちゃいけないぞお姉ちゃん。この寂しがり屋さんめ」

「……寂し……、がり、?」

「えっ、にゃ、なになに!? お姉ちゃんどうかしたの、ってミサカはミサぎゃああああああああああなんかネットワークが第三者に揺さぶられてるーっ!!?」


 またも何処かから変な電波を拾ったのか、一人で勝手にビリビリしながら騒いでいるのは、相変わらずフロイラインの腕の中に捕まえられたままの打ち止めだった。

 さー馬鹿は放っといてエプロン見に行くぞ、とやけに上機嫌でグイグイ引っ張ってくるフレメアと、何故かくすぐったそうに身をよじって悲鳴を上げている打ち止めを交互に窺うフロイライン=クロイトゥーネ。
 表情こそ乏しいものの、見ようによってはオロオロしているかのような彼女の様子は──何故だか、何よりも人間じみたものに思われた。


「……ええと、あの」


 二人のハイテンションっぷりに挟まれて、微妙に狼狽しているフロイライン。

 何か、この混乱を解消する手段は無いものか──ぱちぱちぱちパチパチぱちぱちっ!! と、丸く見開かれた瞳の中で単純な〇と一が、しかし途方もないほど無数に展開される。
 過去に得た膨大な情報から、この場に最も適した解決策を選び取るために。


「──」


 そして、彼女は余った右の手の五指をまっすぐ揃えて大きく振りかぶると──、
 以前にテレビで視聴した、日本特有の『場の和ませ方』を、学園都市第一位の攻撃をも生身で耐え凌いだその剛腕で実践する。










「なんでやねーん」



「な、なんでやねんって大体なんでやねんうぎゃあああああああああああああああ!!?」

「ど、どうしてミサカまで!? ってミサカはミサカはうぎゃああああああああああああッッッ!!」










 ドーンという爆音と共に、小さな少女二人の身体が土煙と共に吹っ飛ぶ。



 そんなわけで。

 本日、人類ふしぎ発見系女子フロイライン=クロイトゥーネは、新たに『ノリツッコミ属性』を獲得する次第となった。






投下終了です。
お楽しみの水着買い(水着回にあらず)はまた次回に。

なんで上がったのかと思ったら……www

今更ですが明記
・1以外の人はsageでお願いします
・荒らしや暴言に準ずるレスにはスルーでお願いします
(反応レスで伸びてしまうのはよろしくないと思うので)

せっかく上がっちゃったので、短いですが投下します。まだ水着買いじゃないです
先人さんの二次創作ネタお借りしてます注意






「──あらあ?」


 学園都市第五位の超能力者、心理掌握こと食蜂操祈は、暇潰しにカフェにでも立ち寄ろうと出掛けた途中の広場で、とある興味深い二人組を発見する。


「──ちょっ、待ちなさいよアンタ!! 明らかにそっちだけ一口の取り分がおかしいでしょうが! クレープの三分の一が一瞬で消失とかどんな食い方してんのよ!?」

「一口は一口です。グラム単位で交換条件を呈示しなかったお姉様の愚かさこそが敗因に他ならないでしょう、とミサカは冷静にコメントしつつもひもひもぐもぐ」

「……相変わらず根拠不明な家族愛力を見せ付けてくれる二人よねえ。ごきげんよう御坂さん☆」

「ごっふ!? しょ、食蜂操祈っ!?」


 クローン側の背後から声を掛けた途端ズザザザザッ!! と後ずさる御坂美琴のリアクションに、満足げに頷く食蜂。
 一方の妹達──確かかつては御坂妹と呼ばれていた、一〇〇三二号という個体である──は、そんな姉とは対照的に「ごきげんよう、とミサカは口元のクリームを拭いつつ朗らかに応答します」などとマイペースに片手を上げていた。


「アンタもアンタでこんなヤツに挨拶しなくていいのっ! ……それで食蜂、何の用よこんな所でまで声掛けてきて。ストーカー?」

「やーもお辛辣ねえ。あんなに沢山の修羅場を一緒に乗り越えてきた仲だっていうのに、まだまだ私たちの間には信頼力が足りてないってコトかしらあ?
 誤解しないでちょうだい。他意は無いのよお、ただの散歩……あなたたちと同じように、ね?」

「だからいちいちウチの妹の心を読むなーっ! 言語でやり取りしろや言語で! コミュ障かッ!!」


 肩掛けの小さなバッグから取り出したリモコンに、怒った美琴の前髪から飛び出した小規模な雷撃がバチッとぶつかる。
 高圧電流がプラスチックを焦がす嫌な臭いにも、いつも通りボーッとしている一〇〇三二号の表情が際立って変化することはなく、彼女はただ我関せずといった表情でクレープをモフモフしているだけだった。

『ああん! もー御坂さんったらひどいんだゾ!』とあざとい声音で抗議して両手をグーにする食蜂だったが、もちろん彼女はその程度で芯から動揺するようなタマでも無い。
 食蜂の情報操作(ストーキング)さえ疑ったほどの奇縁で結局進学先にまで付いて回ったこの詐欺爆乳の性質など、非常に不本意ながら殆ど心得てしまっていた美琴である。


「それにしても……今日はこれで十人目になるわねえ、街中でぶらついてる『その顔』を見掛けるのは。」

「……は?」


 プスプスと煙を上げるリモコンを後ろ手にポイ捨てし、食蜂はいつもの余裕を崩さないまま妙に不穏なことを口にする。
 どういうことよ、と訝しげに続きを促す美琴を前に、彼女は愉悦にまみれたタチの悪い笑みを浮かべた。


「あらあ。過去さんざん『信用ならない』って突っぱねてきたこの私に聞いちゃうの? あの御坂さんも随分丸くなったものよねえ」

「……何よその顔」

「気になるのお? そうよねえ大事な妹さんのことですものねえ、せっかくだから御坂さんにも教えてあげようかしら?
 んー、でも私の見立てだと実際には大した脅威力でもなさそうだし、御坂さんたら何でもすぐ野蛮力溢れるビリビリ実力行使で荒事にしちゃいそうだものねえ。どぉしよっかなあー?」

「本当にムカつく女ねアンタは! さっさと吐かないと痛い目見るわよ!?」


 人をおちょくる以外の用途を何一つ感じない憎らしげな笑顔で嘯く彼女に、ますます苛立ちを募らせる美琴。




「──なあんてね☆ もーやだわあ御坂さんってば怖い顔しちゃってえ」

「……、はぁ?」

「いえいえ、実のところ私自身介入するまでもないって判断してた、些細な悪企みの痕跡を見付けたってだけの話よ。
 でも残念。どうせ今のキレイキレイな学園都市じゃ、この程度のチープな企てなんて芽吹く前に潰されるわ。例の上条さん達の暗躍っぷり、あなたも当然知っているんでしょお?」

「……そりゃあ、ね」


 平和を勝ち取ったこの時代となっても変わらずにお人好しな思い人の行動を指摘され、学園都市第三位の超能力者は面白くなさそうな調子で鼻を鳴らす。
 ……まぁなんというか、彼の夜回り先生っぷりに関しては『知っている』どころかむしろ『また例によって水臭い真似してくれるわね。つーかいい加減に私も混ぜなさいよゴルァ!!』と積極的に絡みに行ってる美琴だったのだが、そこはなんというか乙女の恥なので黙っておくことにした。

 一方で、ちょっとした困惑の色を目に浮かべだしたのは御坂妹だ。


「……上条当麻……あの人が関わるような問題が、ミサカ達に発生しているのですか? 司令塔からはそのようなエラー報告は得ていないのですが、とミサカは第五位に問い掛けます 」

「そりゃそうよお、あなたたち末端の個体に問題があるわけじゃないもの。あなたたちはただ闇雲に第七学区を散策するよう、他でもない上位個体から無意識下で巧妙に『誘導』されてるんじゃないかしら。
 学園都市に帰還してる妹達って、この五年で随分増えたって話でしょお? ならネットワークの演算性能はもちろん、直接その『膨大な人材』を利用しようとする者が居ても、不思議じゃないわよねえ」


 ちょっと失礼するわよお、と、新たに取り出したリモコンで食蜂は彼女に能力を行使する。
 今度ばかりは、美琴もそれを邪魔できない。
 上手い具合に状況を操作されていると自覚しつつも、根本的には妹達を保護する理由があるはずの食蜂のことを信用するほかなかった。



「……、どうなのよ?」

「……『エクステリア』無しの私には、一万もの脳が織り成すミサカネットワーク全体への干渉力は無いわあ。上位個体にこの手で直接触れられる状況なら話は別でしょうけど。
 表層を覗いた限りでは、学園都市内に散らばっているこの子たちの、特に視覚情報を活発に送受信しているのが伺えるわねえ。何かの監視……いいえ、むしろ偵察目的かしら」

「──つまり、何者かにミサカ達の『目を盗まれている』、ということですか? とミサカは己の無自覚的な行動を振り返ってみます」

「そうねえ。今のところ、データの流出らしき情報伝達以外には、有害なウィルス然とした動きは取っていないわ。とりあえずは例の天井亜雄製みたいな分っかりやすい世界の危機って訳でも無さそうよお」

「そ、そんな悠長な……! この子たちのネットワークが傍聴されてるかもしれないって、どう考えてもヤバいことじゃないのよ!」

「だーかーらあ」


 身を乗り出してがなる御坂美琴を、食蜂はうるさそうな顔でひらりとかわす。


「これは私達が要らぬ正義力を働かせるような大騒動じゃないし、そもそも素人が準備も無しにネットワークに干渉するなんて不可能だって言ってるのよお。
 むしろ、だからこそコレをコソコソと仕組んだ『敵』の手腕は評価に値するかもねえ。……それだけにやることが浅はかだわあ。彼女たちの為なら文字通りなんだってするような王子様の存在を、ちっとも考慮していないんだもの」

「……あの子(ラストオーダー)のことは、私じゃなくてアイツの領域だって。そう言いたいワケ?」

「今どき、馬の骨に対する嫉妬なんて見苦しいだけだゾ? お・姉・様☆」

「うっさい!!」


 あてつけのように眼前に突き出されるブイサインを払いのけ、美琴はふてくされた顔で両手を腰に当てる。

 長年あの二人が守り守られる関係を築いてきたのも、それがもはや自分の個人的な嫌悪感で切り離せるような浅い絆ではないということも、美琴は重々承知している。
 だから、馬の骨と呼ばれるべきはむしろ姉である自分の方なのだろうが、それはそれとしてあの青年のことはやっぱり大嫌いな第三位だった。




「……では、ミサカ達はどうすれば良いでしょうか? とミサカは妹達全体の身の振り方を第五位に委ねてみます」

「そうねえ……ひとまず、無意識領域を舵取りする上位命令に逆らうのはやめておきなさい。『反逆』のサインを受け取ると凶暴化するプログラムが仕込まれてる可能性も無いわけじゃないし。
 上位個体にこの事は報告しちゃ駄目よお。あの子は現状、何らかの洗脳を受けている可能性が高いわあ。下手に刺激力を加えるのは避けておきましょう」

「分かりました、とミサカは頷きながら周囲のミサカに厳命を言い渡します。幸い司令塔は現在買い物に夢中でこちらに気付いていないようですし……お姉様もそれで良いですか? とミサカは……」

「……………………………………、」


 淡々と脳内処理を済ませていた御坂妹は、何やら呆然とした様子で彼方を見つめていた美琴の視線を目で追い──言葉を止めた。



 そこに広がる光景とは……、










「お、ま……ッ、だからこの緊急時にそのふざけた格好で一方通行さんの居所を探って一体ナニしやがる気なんですか!! ねぇなんなの頭ん中もう夏真っ盛りなの!? 死ぬの!? とミサカ一四五一〇号は全力で羽交い締めにします!!」

「ぐふぃふぃふぃ既に半裸&セルフ亀甲縛りなこのミサカをさらに拘束するとは中々凌辱センスあるじゃねえかこの春厨 !! 白昼堂々公園で濃厚なレズ姉妹プレイも悪かないですが生憎漏れは先祖代々頑固一徹セロリたん派ですからねひゃっほう!! とミサカ二〇〇〇〇号は変態の名に賭けて譲れないポイントを主張します!!」

「だあああああ押さえ付けられたまま芋虫みたいなホッピングかますな!! 全妹達の汚点め!! そんなんだからさっき運営からお仕置き喰らったんだよ一方通行さんを毒牙に掛けたらマジ漏れが食い殺すかんなばーかばーか! とミサカはあの人のお尻の貞操を守るため半泣きになりつつ怒鳴り付けます!!」

「ヴァカめ! さっきのビリビリといつものお仕置きの違いも分からなかった時点であなたは所詮雑魚中の雑魚ミサカなのですよ! というわけでこの騒動を収めうる可能性がもっとも高いセロリたんにこのミサカが助力しようと行動するのは、いたって! 超! 自然な流れ!!
 ぐふぃふぃ待っててくださいねセロリたん最寄りのスーパーで妙に卑猥な形のキュウリを購入したら今すぐあなたの御元に駆け付けますからね!! とミサカは溢れる劣情パワーで一四五一〇号の腕から、逃れ、……ますッ!!」

「えぇいさせるかぁ! 今すぐ黙れ呼吸を止めろミサカの純愛をこれ以上乱すなぁああああああああああああああああああああああ!! とミサカは──!!」










「……ねぇ、食蜂」

「……人格面へのウィルスの悪影響は本当に皆無だったはずよお……多分……」

「申し訳ありませんヤツらはデフォルトで病気なのです、とミサカは事態の鎮圧を図るべく手持ちの銃にゴム弾を装填します」





 ……個性化の一途を辿るミサカネットワークにて特に顕著な進化(?)を遂げていた二名のブラックリスト個体の乱闘に、完全武装の一〇〇三二号が殴り込み(ツッコミ)を開始するのは、それから三秒後の出来事であった。










投下終了です
ミサカネットワークがこんな世紀末状態なせいで司令塔がツンデレなんかに目覚めてしまったのだ……

一つ忘れてた

pixivにてこのSSの修正版上げました。
誤字脱字改行など修正済み、あとは頂き物の挿絵なんかも載せさせていただいてるのでこちらの方が少し読みやすいかもしれないです。
よろしければ探してみてください

遅筆ですみません、次の更新はなるべく早めに心掛けます


二週間ほど風邪ひいてましたね(死んだ目)

お待たせしました
投下します






 ──さて、食蜂操祈たちによってミサカネットワーク関連のキナ臭い事案が見出だされたのと時を同じくして、そんなことなど露知らず遊び呆けているのはご存知、呑気な女子中学生三人組である。

 書籍に食料品に日用品──今日一日であれこれ買い込んだご一行だったが、やはりなんといってもお目当ては、新作の水着だ。

 首尾よく白うさぎちゃんデザインのエプロンを手に入れていた打ち止めは、なぜか喜色満面のフレメアに首根っこを捕まえられてセブンスミストの敷居へと引きずり込まれていた。


「わ、ちょっ、待って! な、なんだってそんな元気なんだ今日のお子様は、ってミサカはミサカは戸惑ってみたり!」

「にゃあにゃあ! 水着だろうが何だろうが、大体こーいうのはシチュエーションを思い描きながらアレコレ選ぶときに一番テンション上げるモンだろ!
 ほらあなたたちの分も私がちゃんと選んであげるから! さっさと行くの! 今年こそこの溢れんばかりのお色気で浜面のヤツに鼻血噴かせてやるんだから!! にゃあ!!」

「ま、またそんな無益な行動目標を……!? というか既婚者をからかうなんて悪趣味だぞ! ってミサカはミサカはお子様のインモラルっぷりに震えてみる!」


 溢れんばかりの女子力に圧倒されつつもガラス張りの自動ドアに迎え入れられ、打ち止めはフルスロットルで騒ぎまくるフレメアの同伴という体で歩みを進める。
 例によって無口なフロイラインは、どうやら新たに獲得した『機能』の確認に夢中になっているようで、手刀をブンブン振り回しながら『ん、ん……、モデルケースと比較して、角度が僅かにズレています。もっとこう鋭い打撃で……』などとブツブツ漏らしていた。
 時折巻き起こる風圧と共に、遠くからガシャーンとかきゃーエッチな風さーんとか聞こえてくるがあえてそちらは見ない。何と言われようが今日はオフだ。見ないったら見ない。

 雑誌に付いてきた招待券をポール型の機械に通し、商品を感知するセンサーを搭載した簡素なゲートをくぐる。

 水際フェアの会場はフロアの一角の、非常に目立つ位置を牛耳っていた。
 正面には色とりどりの新作水着を身に付けたマネキンが、巨大なガラスケースの中でポーズを取っている。その背後には、迷路を象るように並べられた銀色のポールハンガーだ。
 トロピカルカラーのきらびやかな照明や、余すところ無く吊るされたビキニやワンピース型水着によって、遠目から見たその極彩色の光景はさながら巨大なフラワーショップのようでもあった。

 手持ちの雑誌の特集記事からブランドのコーナーを探しているフレメアの裾をクイクイと引っ張って、何故か神妙な顔をした打ち止めが呟く。


「ず、随分と大きな催し物なんじゃないかこれ、ってミサカはミサカは若干気圧されてみたり」

「にゃあ、別にこれぐらい普通だって。昔フレンダお姉ちゃんに連れていってもらった会場なんて、大体規模も熱気もこんなモンじゃなかったけど」

「よく分からない世界だ……、ってミサカはミサカはしみじみ呟いてみる」

「??? ……ひょっとして子供、こういう場所で水着買ったこと無いの?」

「今まではスクール指定のヤツで十分用を満たしてたし、ってミサカはミサカは唇を尖らせてみたり」

「ふーん?」


 実年齢なんと五歳、肉体年齢的に年下であるフレメアと比較しても圧倒的に人生経験の薄い打ち止めである。
 ごく普通の中学生としての生活をスタートする以前、つまり黄泉川愛穂の庇護下で暮らしていた時期にあっても、キッズブランドの水着を一度買ってもらった程度の体験しか無い。
 そもそも、海とかプールとかいうアクティブな遊びに連れていってくれる保護者があの中には居なかったのだ。警備員の黄泉川は多忙で芳川はインドア派、今以上に杖が手放せなかった一方通行はもちろん却下、番外個体に至ってはキョーミなーいの一点張りである。


(……まったく不健康な大人たちめ、ってミサカはミサカは自らの回想にがっくりと肩を落としてみる)

「お、おーい……? 大体何を一人でテンション下げてるの?」


 よく分からんヤツだ、と独白しながら透明なマネキン型のハンガーを漁り出すフレメアの背後で、完全ビギナーな打ち止めは一人、円滑なオシャレ水着デビューへの決意を固めたのだった。







 ところで。

 トランクス型が主となる男性用とは対照的に、女性用水着とはファッション的な意味においても実に多種多様な種類があるものだ。

 ビキニにワンピースにセパレート、その中にもスクール水着だのパンツスタイルだのブラジル水着だの、もはや暗号めいたそれらのバリエーションには心底滅入ってしまう。
 まして、ありとあらゆる研究の最先端たる学園都市では尚更のこと。
 かつてツンツン頭のヒーローに某英国魔術結社の少女が詰め寄ったときに握りしめていたバカ水着も学園都市の凝り入った研究の髄だったりするのだが、それは今ここにいる少女たちの知ることではない。

 ともかく──ここセブンスミストの水着フェアにおいても、打ち止めが見渡してみた限り、フツーの水着の中に紛れるカタチでそこそこ頭のおかしいデザインの代物が陳列されているようだった。


「じゃーん!! お姉ちゃんにはやっぱり清楚な白だな! うんうん、大体事前に入念なリサーチを重ねておいて正解だったし!」

「……?」


 そんな光景の中でフレメアが銀髪少女のボディにあてがって見せたのは、紅色を基調としたハイビスカスのパレオを組み合わせた、細かなラメ入りの白いビキニ。
 脚を覆い隠すゆったりとした布地やフルカップの造形は一見するとかなり大人っぽい……というかむしろ大人しめのデザインにも思えるが、その実、一七〇センチ強もの高身長を誇るフロイラインのスタイルを違和感なく強調してくれそうな、全くもって隙のないセレクトである。


「いや、確かに似合ってるけど……もうちょっとお姉ちゃんにも色々見比べる余地を与えてみたらどうなんだ、ってミサカはミサカはお子様の独断に疑問を投げ掛けてみる」

「えー? じゃあこっちの水色とかリトルマーキュリーの青とかは? 大体候補のブランドはたくさんあるけど」


 自信満々のフレメアを突っつきながら口を挟む打ち止めだったが、当のフロイラインは最初に手渡された水着セットを抱えつつもこう返答する。


「基本的に、私には物事への執着や好き嫌いなどといった感情が存在しません。……『こういう事』を得意とするフレメア様の勧めですから、私はそれを信頼しています」

「うーん……まぁお姉ちゃんがいいならいいんだけど、基本的にこの世界にはお子様を過信するといつか痛い目見るっていう法則があるんだぞ、ってミサカはミサカは調子に乗りやすいお子様のジャイアン化を激しく危惧してみたり」

「な、なにおう!? 餅は餅屋って言葉を知らんのか学の無い子供はこれだから! にゃあにゃあ!!」


 百パー美味しい餅を突ける餅屋なら良かったのになぁ……、と返そうとした打ち止めだったが、さすがに自重しておいた。
 鮫が海中において王者であるのと同様、この場のルールにおいては彼女よりもフレメアの方が圧倒的に優勢なのだから。

 しかしこの小さな女王様はなんというか──育った環境が環境だけに、割と高い頻度で何かしら『やらかして』しまうのが周囲の人々の間では暗黙の了解だった。
 あまりに莫大な力を得た存在は、五〇パーセントの確率で非常に素晴らしい結果を成し得るが、残り五〇パーセントではなんかこうアレなセレクトをしてしまう。どこぞの魔神の話ではないが、まぁこの際似たようなものだろう。
 幼少期の彼女にやたらロリータ服を着せたがったというぬいぐるみ好きの姉(故人)とか、万年ピンクジャージ女とか脚隠しのストッキング女とかそこらのビッチと超一緒にしないでくださいと豪語する超ミニスカ女とか、とにかくフレメア=セイヴェルンの持ち合わせるファッションセンスの根源は色々カオスだったりする訳だ。

 つまり──いくら普段が上手くいっているとは言え、このまま無数の試行を繰り返していけば、フレメア=セイヴェルンはいずれ必ず踏み外す。
 まして、彼女が普段無意識に掛けているセーブを外して本気で水着選びに挑んでしまった日には、意識の奥底に眠っている地雷を引き当てる確率は爆上がりだ。



 ──そう。

『それ』が起こるのはいつもいつも、やる気満々な状態で肝心な『何か』を決める時に限ってだった。




(……まぁ、それがただの杞憂に終わるんだったらいいんだけどね、ってミサカはミサカは外人肩すくめポーズでとりとめのない思考を打ち切ってみたり)


 長々と論じてはみたが、結局のところ彼女の暴走に一言物申すことができる人物が居ればさして問題は無い訳だ。

 完全放任のフロイラインは戦力外として、いざというときに相応しそうな人物は白いカブトムシと自分ぐらいのものか。
 しかしカブトムシはあれでも男性である。この手の話題──ましてや水着選びとなると、昆虫のくせに貝のごとく口を閉ざして黙り込むに決まっていた。
 以前フレメアと二人で小物を購入した際に巻き添えを喰らって以降、彼は打ち止めたちの買い物の際には完全に物言わぬストラップと化してしまうのだ。そんなにあのツインテール激写事件(下手人:佐天涙子)は彼にとって屈辱だったのだろうか。

 一方で、打ち止め自身は多少お子様趣味ではあるものの、そういうストッパー役に関しては腕に覚えがある。
 なんせ彼女のかつてのパトロンは、学園都市最強のファッションモンスターだったのだ。


(思い出せ……あの受難に満ち溢れた日々を……ノーと言うための勇気を……!! ってミサカはミサカは力強く鼓舞してみる!!)


 ぐっと密かに拳を握って、ごく自然な流れで彼女は自らの水着選びに取り掛かることにする。


「よーしお姉ちゃん、とりあえずは一度試着してみると良い! サイズも確認しないといけないしな! ミサカ達も自分のヤツ選んでから行くから、ってミサカはミサカはお姉ちゃんの肩を押してみたり!」

「はい、分かりました」

「ん? 自分で選びたいの? 子供には大体ネオミューズかレディーリリスの新作あたりが似合うと──」

「それについてはありがたく参考にさせてもらうよ! ってミサカはミサカはキッパリ宣言してみる!」


 指先を揃えた掌をフレメアの顔面にビシッと突き付けて、どうにか選択権の確保に成功する打ち止め。
 せっかくのフレメアの厚意を無下にするのは多少胸が痛むのだが、ここはいつも彼女らが戯れている買い物の場とはレベルが違う。
 なんとなく、このように瞳をお星様でキラキラさせたフレメア=セイヴェルンに対峙していると嫌な予感がするのだ。いや、別に心理掌握的な意味ではなく。
 かつて徹夜明けのクマを湛えたナチュラルハイな眼差しに『コレ大体オススメだから! つべこべ言わずにホラやってみる!』と押し付けられた超臓物系スプラッタゲームのトラウマが去来する。
 いくら軍用クローンとして産まれた彼女であっても、学園都市謹製のエッグいグラフィックの出来には顔色のひとつやふたつ悪くしてしまうものだった。


(……いやいや、今はそんなグロゲーの思い出よりも目の前の未来を見つめようではないか。なんたってオシャレな水着が無いと来たるべき夏に困ってしまうしな、ってミサカはミサカは改めて大海のごとき無数の商品に向き合って──)

「ヘイヘイそこの店員さん(ネーチャン)!! 大体今すぐスイートヴァルキリーの新作H50-7番Sサイズを持ってきてもらおうか! にゃあ!!」

「いきなり品番指定だとぉ!? ってミサカはミサカはお子様の型破りっぷりに驚愕してみる!!」


 陳列業務中の可愛らしいスタッフさんを呼び止めてバイヤーばりに注文を飛ばすフレメアの横暴っぷりに、彼女は思わずずっこけそうになってしまう。つーか完全にイベントの意義見失ってるだろそれ。




 一体どんなゲテモノを着せられるのかと戦々恐々になる打ち止めだったが、こちらを振り返ったフレメアは、思っていたよりも随分と醒めた目付きに戻っていた。


「あのなあ、いくら私でもわざわざそっちの趣味に水を差したりはしないぞ。元々ここに来たのも子供やお姉ちゃんのを一緒に選びたかったってだけのことだし。
 というわけで私はもう自分のを選んでるから、大体そこまで迷惑そうな顔しないで欲しいんだけど」

「そ、そうか……。じゃあ、お子様は結局どんなのを買いに来たの? ってミサカはミサカはばつの悪さを隠さず訊ねてみたり」

「にゃあ! よくぞ聞いてくれました!!」


 ズビシと突き付けられる人差し指に驚き、「おおう!?」とわずかに上半身を仰け反らせる打ち止め。


「分かるか子供。大体、すでに私の周囲には忌々しい超弩級がゴロゴロ溢れてるんだ。なんかアホみたいにエロいケツした沈利とか、天然キャラで油断させといて実際それ全く隠れてねえだろってレベルの母乳タンク放り出してる理后とか! 何より、フロイラインのお姉ちゃんの成長っぷりなんて身内の裏切り以外の何物でもないし!!」

「き、絹旗のお姉ちゃんハブらないであげてよ可哀想でしょ! ってミサカはミサカは無慈悲なスルーに抗議してみる!!」

「とにかくだ! 昔の初恋にもう未練は無いけど、私は大体一度でいいからそんな猛者どもを出し抜いて浜面の鼻粘膜をブチ壊したいの!
 あの連中の中で唯一私が自慢できる長所といえば、やっぱりこのずば抜けた若さに他ならないだろ! ならばこの夏の水着イベントは、若々しい肌をあいつらの目に焼き付ける絶好のチャンス!
 レベルを上げて物理で殴る!! このタイミングで気合いを入れない方が大体おかしいってものだ! にゃあ!!」

「やめてもう聞きたくない!! ってミサカはミサカは生々しい愛憎ドラマの一コマに耳を塞いでみる!!」


 と、ギャーギャー大騒ぎする二人に、おまたせしましたーと控えめに囁きながら恐る恐ると何かの袋を手渡す店員さん。
 どうも中身は例の勝負水着のようなのだが、こちらは梱包用のビニールに包まれていてその全貌が覆い隠されていた。いかにも数分前に在庫から取り出したてですといった雰囲気だ。

 商品を厳重に包むビニールやセロテープをその場でビリビリと引き裂きながら、もどかしそうな様子のフレメアはまさしく頭痛が痛くなるような会話を継続する。


「にゃあにゃあ! まったく以前の流行じゃあワイヤードビキニだのスケルトンワンピだの、大体ただエロいだけで男の心を射止められると思ったら大間違いだ。
 そんなものは堕天使エロメイドをメイド萌えの範疇だと言い張るよりもはるかに安直で愚かしい考え!! 物事の真髄を何も理解していないっ!!」

「今どっかの金髪サングラスが血を吐いて倒れた気がするよ!? そしていい加減この傍迷惑なテンション下げようかお互いに! ってミサカはミサ──」

「優雅さ(エレガンス)ッッ!!」


 グワァ!! と、腹に力を込めて。

 雄叫びに等しい魂の咆哮を轟かせたフレメア=セイヴェルンは、ようやく剥がしきったビニールの欠片を容赦なくはたき落としてから、ついに日の目を浴びた一世一代の勝負水着を打ち止めに突き付けた。


「──こ、これは……、ってミサカはミサカは……っ!!」

「フフフ、怖いか? そう、私のデータに万が一の間違いもない、これからは流線的なエロス・アンド・エレガンスが時代のビッグウェーブ!!
 にゃはははは刮目するのだ愚民ども! これがトーキョーフレメアズコレクションの本領だああああああああああああああああああああ!!!」


 そんな無用の大宣言と共に、ようやく解禁となったその水着の正体とは──。



















 ──青い水面に、白い砂浜。

 見渡す限りの夏らしいコントラストを描くこの優雅な空間は、『アイテム』が『外』に所有するバカンススポットの一つ、すなわちプライベートビーチである。

 目を剥くような値が張るセレブ専用のビーチにて、水着姿でくつろぐ数人の女性たちに顎で使われている茶髪のチンピラ風の青年は、お世辞にもこの場所にはあまり相応しくない小市民っぷりだ。
 しかし、そんな憐れっぽい姿も、とある少女の青い瞳にはむしろ好ましいものに映った。

 満を持して、安物のアロハシャツを羽織ったその背中に声を掛ける。
 この日のために選んだ水着は、きっとこのひとときだけでも、初恋相手の心に残ってくれる。そう信じて。


『にゃあ! はーまーづーら、大体こっち向いてほしいな♪』

『ん? あぁフレメアか。随分と着替えるのが遅かっ──』


 振り返った青年が、思わずといった調子でその姿に一瞬、思考を奪われる。

 見開かれたその瞳に映ったのは、年頃の少女の輝かしい肌と──





 ──ピンク色の紐と細いリボンで胸囲や尻を亀甲縛りにしつらえた、学園都市最先端デザインのバカ水着だ。









「却あああああああああああああああァァァァァァァァァァァァ──────────ッッッ下!!! ってミサカはミサカはお子様の妄想世界に割り込んでみる!!!」

「ぐはあっ!!?」


 ホワンホワンとフレメアの頭上に浮かんだイメージ画像に、ゆでダコ状態の打ち止めが固く握りしめた拳で猥褻物陳列罪への制裁を下した。

 彼女の激昂に慌てふためいたのは、床に尻餅をつきながらも腫れたほっぺたと水着を庇うフレメアだ。


「んなっ……!? だ、大体何でだ! 流行色と甘さと優美さとエロを織り交ぜた至高のデザインだろうが!! にゃあにゃあ!!」

「ふ、ふざっ、ふざけんなこの貧乳!! 外人の発想を日本のビーチに持ち込むんじゃない!! あなたのためにも改めて聞くけどお子様は本気でその水着で勝ちを狙いにいくつもりだったのか!? ってミサカはミサ──」

「はい!!」

「はいじゃないが!!?」


 真っ直ぐすぎるフレメアの瞳に軽く目眩を覚えながら、何故だか胸に去来する言い知れないデジャブに歯軋りをはじめた打ち止め。





 ああ──昨日の変人発明家も、こんな風に元気にしてるのかなぁ、と。
 何故だか懐かしさを感じさせる、その飄々とした少女の顔を思い浮かべながら。





投下終了です。
このスレで水着買いにたどり着く前に原作で水着買いをやられてしまったのでかなり焦りました。レッサーさん強い

ではまた次回。
水着買いはもうちょっと続きます



フレンダさーん
妹さんはとっても残念な子に
育ちましたよ

不覚の誤字修正です……

>>308
誤:水際フェアの会場はフロアの一角の、非常に目立つ位置を牛耳っていた。
正:水着フェアの会場はフロアの一角の、非常に目立つ位置を牛耳っていた。


感想ありがとうございます、全レスは現在自重していますがとても励みになります!

>>315
フレンダもフレンダでなんかとんでもねぇ水着着てたし……(震え声)

それではまた。

提督の仕事に追われてましたすみません
日曜までには更新します

日付変わってたけど何事もなく更新します

投下開始






 何度季節が巡り、数え切れないほどの出会いと別れを繰り返してきても──それでも、いつまでも変わらなずそこにあり続けるモノもまた、この世の中には存在する。

 世界を救った『ヒーロー』こと上条当麻は、そのことをよく自らの骨に刻んでいた。
 大事なモノは脳ミソではなく、この心に宿っている。
 彼は記憶喪失という重大なターニングポイントを経てきた経験からも、恒久的に変わらない信念や絆というものを、大人になった今でも疑わなかった。

 そして──変わらないものというのは、何もそのように格好よく高尚な話ばかりではない。

 例えば、そう。
 歪に絡まった運命から解き放たれ、あの『魔神』をも凌駕するような、神にも等しき力を得たとある少女もまた。
 そんな波乱万丈なメガ進化などいっさいがっさい突き抜けて──吸引力の変わらないただ一つのつるぺたを持ち合わせる希少な人物だった。





「ふふふ、やっぱりいつの時代もワンピースが一番きゅーとでぷりてぃーなんだよ。馬鹿みたいに露出して周囲を魅了しようと企てるような子羊なんて、来るべき審判の時に主へ顔向けできないかも! ……ってとうま、何かこっち見ながら失礼なこと考えてない?」

「ん? いやいやー何でもありませんでございますよー? というかシスター辞めたくせにそのトンデモ説教癖は変わらないよな……」


 などとぼやきつつもポールにもたれて腕を組む上条の視線の先では、銀髪碧眼の少女が透明なマネキン型のハンガーに着せられたワンピース型水着を握り締めてはしゃいでいる最中だった。
 気安くハミングを奏でながら品定めしている彼女はおよそ十九歳前後という外見年齢だが、水着においては中学生向けショップのセブンスミストで十分事足りるレベルの幼児体型を維持してしまっている。

 もっとも、彼女が小柄なのは今に始まったことではない。
 脳内に収蔵した一〇三〇〇〇冊の魔道書を管理するため、元々極端なほどに燃費が悪かったからだ。





 ──その娘は、かつて禁書目録と呼ばれていた。
 彼女は今、何を隠そう上条自身の手によってその楔から解き放たれた状態にある。

 彼女を道具として弄んだ世界の暗部からその権限を奪い取った末に、清教側のステイル=マグヌスや神裂火織のサポートを受けつつも──インデックスは現在ごく平凡な十字教徒として、学園都市のとあるミッション系大学に通っている。
 入学して早々あっさりと司書の資格を取得した優秀ぶりのおかげで、特別留学生という肩書きでありながらも大学内の古びた大図書館の新米秘書として奮闘中だ。


『書架の整理ってけっこう重労働なんだよ。こういう力仕事こそ機械の使い魔たちに任せられたらいいのにね』


 と、細い腕にほんの少しだけ付いてきた力こぶを誇らしそうに見せ付ける彼女の笑顔は、保護者である上条にとって(もっとも同居は解消済みだが)ちょっと羨ましいぐらいに眩しいものだ。







(……『鼻唄ひとつで世界を壊せるような魔神の管理人が務まるのは、この世界を救った幻想殺しだけでしょう』って言われたときは、インデックスの人格を蔑ろにされたみたいで多少腹が立ったけど、あの交渉のおかげでコイツの自由が保障されてるんだからつくづくありがたいことだよな。親船さんには頭が上がらねえよ)


 もはやインデックスと呼ばれているこの少女は修道女ですらないが、立場と環境が大きく変わった今となっても、彼女と上条当麻の親密な関係性は変わらない。
 清楚な綿素材のワンピースに身を包み、肩甲骨あたりで切り整えた銀髪を揺らして楽しそうに水着を見比べている彼女の姿。
 それをこうして見守ることができるのならば、鬼門だったピンク色の水着売り場に付き添うことも、まぁ多少は悪くないかなと思える。


「それにしてもなー」

「? とうま、どうかしたの?」

「いや、お前が服とかの買い出しに俺を呼ぶなんて珍しいなって思ってさ。最近はよく美琴や姫神と遊んでるんだろ? こういうのって同性の友達と見に来たほうが楽しいんじゃ──」

「ふふんっ。だからこそかも」


 上条からの素朴な疑問に、インデックスは鼻を鳴らして答えた。


「女の子同士には見栄の張り合いや、負けられない戦いがあるってことだよ。どうせ夏にみことたちとぷーるに行くのは確定事項だし、お披露目は当日までのお楽しみにしたいかなって」

「なるほどな。まぁ、考えてみりゃ大学生にもなってローティーン向けの店で水着を選ぶヤツなんてお前ぐらいか」

「とうま! 一言余計かも!!」


 ほっぺたを膨らませてポカポカとこちらの胸を叩こうとしてくる少女を適当に宥めながら、上条はふと視線を別のところに移した。
 何やら聞き覚えのある声が、そちらの方から聞こえてきたような気がしたからだ。










「──まったくもう、せっかく前々からチェックしてた水着がボツ喰らったおかげでまた選び直しだよ。ところで大体、お姉ちゃんはどこの試着室に行ったんだろうな?」

「あれ? ……ねぇそういえば、こういうところでの試着って、その、パンツとかどうするの? ぬ、脱いじゃうの? ってミサカはミサカは小声で訊ねてみたり」

「ばっ……、脱ぐわけないだろ常識的に考えて! にゃあにゃあ!! 大体水着の試着は──」










「あっ! 迷子の子とふれめあ! 久し振りかも! ねえねえ、あなたたちも水着のお買い物?」

「おい今どう見てもあいつら取り込み中じゃ──、……まぁいいか……」


 いつも通りの無邪気全開で年下の少女達に駆け寄るインデックスに、半分呆れながらも追従するツンツン頭のヒーローだった。










 その一方で。

 簡素なカーテンで外界から区切られた小さな空間にて、打ち止めと同じく初の水着イベントに挑む、人類ふしぎ発見系女子フロイライン=クロイトゥーネ。
 彼女は現在、着込んでいた白のふわふわしたワンピースを無造作に足元へ落とした半裸の状態で、鏡に向き合ってきょとんと首を傾げていた。

 新雪よりも白い肌身に纏うのは、赤を基調としたクラシックなブラジャーとパンツのみ。
 雑味の混じった思考をいっさい映し出さない硝子玉の瞳は、その透明度をもって一層彼女のエロティックな無防備さを強調しているのだが、それを堪能することができる輩はここには居ない。なにせ彼女は今、天下無敵の男子禁制空間にいるのだから。

 しかし、フロイラインにとってはその万全な機密性こそが問題だった。一大事だった。


(……、困りました)


 率直にそう判断する。
 なんといっても、世間ズレした自分の行動を制止してくれるような第三者が居ないということは──すなわち、彼女の生命線にして大好物の『情報』を提供してくれる当てが、どこにもないということなのだから。





(……下着は、脱いでしまっても良いのでしょうか……)





 奇しくも同居人の打ち止めが思い当たった疑問に、彼女もまた己の行動を阻害されているまっただ中だったのだ。

 随分長く生きてきたフロイライン=クロイトゥーネだが、ビキニ型水着の試着などはこれが初めての体験である。
 もちろん、学園都市の学生として暮らしはじめたこの数年のうちに、普通の衣服や下着を購入する機会は何度もあった。だから一応、彼女は試着という行為の作法自体には特別不慣れを感じてはいない。つまり今ぶち当たっている疑問点はそこではない。

 洋服でも下着でもない、そんなニュータイプっぷりがフロイラインの判別を攪乱させる。
 果たしてコイツは、『どこまで脱いだ上で試着する』のが相応しい衣服なのだろうか?

 例えば十九世紀に普及しはじめた水着の原型などは、水に濡れても肌が透けないような生地を用いただけで、形自体は普段着や肌着に似た物だった。
 ああいう水着なら普通の衣服の試着と同様に、下着を身に付けたまま試着することが望まれるだろう。サイズフリーなのだから細かい採寸を確認する必要もない。
 しかし今回はビキニである。
 ぶっちゃけ彼女にとってはいまいち下着との判別も付かないような、肌に直接フィットする形の小さい布地である。
 ブラジャーほどの厳密なサイズ規定が無いとはいえ、まさか試着しないでさっさと購入しても差し支えないものだとは言えまい。


(……あの子は、『試着してサイズを確認してこい』と言って私を送り出しました。だから……いずれにせよ水着は、今ここで着なければならない、はずです)


 しかし局部に直接触れるようなものを何の工夫もなく試着というのは、いささか問題があるように思える。
 なら、同じような形状の下着の場合はどのようにフィッティングするのが普通だっただろうか。
 彼女は自らの記憶をさらに洗い出す。
 例えば去年の秋。修学旅行前に可愛いブラに新調しようということで、打ち止めと一緒に専門店まで下着を買いにきたのだ。
 あの時、パンツはいつものMサイズを選び、ブラジャーの方はとりあえずフィッティングルームの中で上半身裸になって試着した。そのことからフロイラインは、現代日本ではパンツの試着はタブーだがブラはオーケーなのだという限定的な知識を得ている。
 ちなみにその時試着したブラジャーは彼女には若干窮屈で、打ち止めにそれを伝えたところ『ちょっとバストを測ってもらおう』と提案され、そのまま店員さんに肌着の上からメジャーを当ててもらった。
『お客様のサイズはF70なので、このブラだとちょっとキツいですねー』という店員さんの一言に、打ち止めが何故か膝を折ってその場で崩れ落ちていたのも、今となっては懐かしい記憶である。

 ──さて。

 単にシルエットだけで物を語るならば、このビキニとかいうヤツと下着は大変よく似ている。
 ならばこの場合、とりあえずブラジャーだけを脱いで上を着用し、パンティを穿いたままパレオを腰に巻く、といった行動が正解だろうか?


(……そういうことにしましょう。あの子たちが見に来る前に、早く着替えてしまって──)


 ちょっと適当に結論を出しつつも、長く重たい後ろ髪を両手でかき上げたフロイライン。
 薄っぺらなカーテンの外から聞こえてくる喧騒に耳を傾け、彼女はそのままためらいなく──背中に引っ掛かったブラのホックを、指先でプツリと外してしまったのだった。







「──川遊び? ってミサカはミサカはどこぞの漫画の冒頭っぽく復唱してみる」


 なんでそこの元シスターがわざわざ水着を新調しているんだ、という素朴な疑問に答えた上条当麻の発するキーワードに、小柄な少女二人は首を傾げた。


「にゃあ。大体この街にはプールはあっても、水遊びできるような小川なんか無いんじゃないの?」

「だから『外』に行くんだよ。『古き良き田舎』ってイメージそのものを学園都市がまるごと作り上げた保養所が、地方にいくつかあるんだって話を聞いてさ」


 フロイラインの行方を追いながらも、万が一にもそこら辺に吊り下げられた水着に触れてきゃーえっちーなどと叫ばれないように細心の注意を払いながら、上条は補足説明した。

 学園都市統括の権限が親船最中という女性に委託されて以降、この街の最先端テクノロジーは世界中の紛争や環境問題を解決するために動員されつつある。
 例えば国内においては──政府の援助が届かず廃れようとしていた過疎地帯を再開発して、そこの農作物や土壌、自然物、そして風土そのものを高級ブランド化した。
 かつて若者達が抱いていた田舎に対する野暮ったいイメージを、『高価・安全・上質な憧れの地』へとすり替えて、この国の第一次産業の態様に一石を投じたのだ。


「さながら『高級過疎地(インテリビレッジ)』ってところかな? ってミサカはミサカは関心を示してみたり」

「まぁとにかく、夏休みの間にコイツと一緒に旅行でもしてきたらどうかって理事長さんが手配してくれたモンだからな。そうしたらインデックスも水着が欲しいって──」

「とうまとうま、せっかくだからこの子たちも誘えばいいんじゃないかな? 定員数は特に無いって聞いてるし、旅はみんなで行く方が楽しいに決まってるんだよ」


 ちょっと前までは上条周辺の女性の影には極めて敏感だったインデックスだが、打ち止めやフレメアを相手にしては大した危機感を抱いていないのか、比較的寛容な様子だった。

 ピクリ、と。
 鶴の一声に反応して両目をキラキラと輝かせだした二人の少女に圧倒され、上条は慌てて同伴の発案者へと向き合う。


「あ、あのなぁインデックス、滅多なこと言わないでくれよな? よそん家のお子さんを俺の一存で『外』に連れ出せるわけないだろ」

「えー!? ならあのしあげとか言う人やあくせられーたに、とうまの方からお願いすればいいじゃない! ジャパニーズには便利なフレーズがあるんでしょ!? 『娘さんを俺に(預けて)ください』って!!」

「つまり俺一人でブチ殺されろと!? あーもう駄目駄目、子守りはお前だけで手一杯でごぜーます! はい無理!!」

「にゃあ、私行きたい!! 大体ズルいぞ上条当麻は!!」

「ごふっ!?」


 不機嫌そうに声を上げながら、金色のつむじをグイグイと上条の胴に押し付けてくるフレメア。
 打ち止めの方はさすがに物理攻撃こそしなかったものの、猫じゃらしにウズウズする子猫のしっぽみたいに揺れる頭頂のアンテナがその心情を雄弁に語っていた。


「ミサカ達も連れてって! 日頃冷淡なくせに保護者ヅラしてるあの人の許可なんかこの際どーでもいいから! ってミサカはミサカはおねだりしてみる!!」

「にゃあ! そうだぞ男なら大体強引に連れ出せー!! 川遊びさせろー! 素手でアユとか捕まえさせろー!!」

「やめて! 浜面はともかく、勝手なことしたらマジで俺の首が一方通行に跳ね飛ばされじゃう!! ちょっフレメア押すな押すなこのままじゃ倒れ──ッッッ!!?」


 意外に強い力で脇腹あたりを頭突きされてバランスを崩した上条当麻の身体が、両手をわたわたと振り回しながらも横倒しに傾いていく。




 ……と、そのまま往生際よく倒れてくれた方がまだいくらかマシだったのだが。
 とっさに掴みながらも倒れ込んでいった試着室のカーテンは、当然ながら彼の全体重を支えきれず、安っぽいフックがいくつかブチブチと弾けてしまい──、


「ぶふッ!!」

「きゃっ、……?」





 ムニュ、というような擬音で。

 ──青年のツンツン頭は奇しくも、試着室の中で鏡に背を向け着替え中だったフロイライン=クロイトゥーネの胸部に受け止められたのだった。





「……、上条、当麻様」

「……うう、痛てて……ふが? なんか柔らかくも張りのあるクッションがきゃああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!? ふふふフロイラインさんアンタこんなトコでなんつー格好してんのォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!?」

「……その。……はしたないことは、良くないと思い、ます」


 投げつけられたスーパーボールよりも素早く跳ね上がった上条に対して、中途半端に引っ掛かっているカーテンに半身を隠しながらもマイペース極まりない調子で呟いた銀髪少女(半裸)。
 おっぱいがたゆんたゆんでお尻がぷりんぷりーん!! と思わず下世話なフレーズを連想してしまう程に、ちょっぴりダイナマイトに成長させ過ぎたあちらこちらのお肉が今なおカーテンの端から見え隠れしている。
 長い髪の毛がかろうじて覆い隠してはいるものの、ひょっとしてあの胸元は今まさにブラを外していた真っ最中とかではなかろうか。
 呑気に赤面などしているよりも先に、血の気が引いて真っ青になってしまう上条当麻。
 バッと全力で目をそらした先には──しかしそれ以上に恐ろしい人々の姿が。


「……にゃあにゃあ。狙ったかのようにお姉ちゃんが居る試着室に突っ込んでいくなんて、やっぱり大体その右腕はさっさと斬り落とした方が良さそうだな?」

「まずはその鮮血で償ってもらおうかクズ野郎、ってミサカはミサカは全ての感情を殺して関節を締め上げてみる」

「待て待て待てこれは不可抗力だろというか押したのはフレメアの方だからな!? ぎゃああああああああすみませんでしたすみませんでした!! たっ助けてくれインデック……ハッ!? だっ駄目だアイツは四の五の言わずとっくに噛み付く準備を整えて──」


 そのまま飛び掛かってきた小柄な少女二人組に両腕をホールドされつつも、もはや蒼白の顔付きで相棒の無敵魔神・インデックスを仰ぐ上条だったが、


「……ねえとうま? 私ももう一人前のレディーで、そのうえ五年間もとうまと一緒に居るから──そろそろ噛み付きよりももっと効率的で有益な『手段』を考えついちゃうかも」

「ヒィ寒気がするほど完璧なニコニコ笑顔!!? やっやめてインデックス硫黄の雨降らせないで! いっそ存分に噛み付いてください! こう! ガブッと!!」

「とうま、私にも慈悲はあるんだよ? だから──謙虚にふろいらいん達へのお詫びの姿勢を見せてくれれば、ここは円満にまとめてあげてもいいかも」

「ぐっ……。お前なぁ、足元見やがって……」


 満面の笑みで脅迫されて、固い唾を飲みながらも上条は渋々首を縦に振ることにした。

 仕方がない。

 少女たちの恥じらいと怒りをひとまず収めさせる。そのためには、結局のところ上条自身が保護者さん達に頭を下げて、夏休みの旅行の接待をしてあげる他にはないようだ。










「──まぁ今さら何をしようと、不愉快なものは不愉快だし噛むものは噛むけどね! がぶがぶもが」

「一人前のレディーはどこ行ったごっがァァァァァあああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」


 ……直後、両手両足をチビっ子たちに押さえ付けられた彼が、万を持して痛い目に逢ったのは言うまでもないのだが。


投下終了です

※このSSには某超巨大兵器や某座敷童はいっさい関係ありません

こんばんは。今日は少しご報告をば

クリスマスから年末にかけてバイトと冬コミのデスマーチでして、スレの次回更新は年が変わってからになりそうです
本当は通行止めがラブコメやってるクリスマスネタとか書きたかった。無念

ますます遅筆に磨きがかかる毎日ですが、気長にお付き合いいただけると嬉しく思います



ちょっと早いけど皆様、メリークリスマス&良いお年を!
ではまた来年に

ネタを挟まないと死んじゃう病なのです 真面目で奥深いSSとか無理無理アンド無理



あけましておめでとうございます

今年は本を作るつもりなので、スレの方がますます鈍い更新になりそうな予感がしないでもないですが、まぁまったりとやらせていただきます
これからも打ち止めをいじめフレメアを見守りフロイラインを愛でつつ一方さんのムカつくケツにタイキックを喰らわせるようなSS書きであり続ける所存です
どうぞ昨年同様広い心でお付き合いください

ここの三人娘で年賀状なるものを描きましたので、下手な絵ですが新年のご挨拶に代えさせていただきます
http://touch.pixiv.net/member_illust.php?illust_id=40660152&mode=medium

今年もよろしくお願いいたします



クリスマスネタでラブコメ?
それは是非とも見てみたい

>>339
バレンタインにリベンジをしたい(願望)


こんばんは
今日はなんてことはない番外編更新です
インフルエンザには気をつけてくださいね




 ふと浮上した彼の意識を蝕んだものは、ひどい倦怠感と悪寒。
 昨日干されたばかりだというフカフカの毛布にくるまったまま、一方通行は首筋のチョーカー型電極に指を当てる。


「……っ、」


 緩慢な動作でスイッチを弾き、自身のバイタルを計測する。
 三八度五分──速い脈拍、それに全身を苛む症状。
 これはどう考えても、親御さんが何より身内に降りかかることを恐れていた、あの災厄の襲来だった。





(──インフルエンザか……クソったれ、予想より早いじゃねェか……!!)





 ズキリと突き刺す頭痛を奥歯で噛み潰しながら、彼は上半身をゆったりと起こす。

 窓から外界を見やると、既に日はゆったりと昇っていた。冬らしく澄んだ青空に、絵に描いたような平和を謳うスズメのさえずり。
 廊下を隔てたリビングからは、同居人たちの喋り声が微かに聞こえてくる。朝の支度の真っ只中といったところだろうか。


(……免疫力の低いあのガキに罹患させねェよォにシーズン前から予防しまくってたってのに……肝心の俺がぶっ倒れるたァ、笑い話にもならねェぞ)


 一方通行は、ぼんやりと霞の掛かった頭で必死に思案する。

 お節介焼きな彼女らのことだ。自分の体調不良を悟られたら、おそらく無防備なまま看病しようとしてくるのだろう。
 それでもしあのガキ──ついでに番外個体も──が感染した日には、彼の能力を支える代理演算に影響が出てくるかもしれない。
 そうなったら、いざというときに彼女達を守ることだってままならない。学園都市の治安は今現在安定してはいるが、それは彼にとって油断を許す理由にはならないのだ。




「チッ……」


 ふらつく体でどうにかベッドから脱出し、クローゼットに手を伸ばす一方通行。
 背筋を走る寒気をこらえながらジーンズのベルトを締め、タートルネックのセーターを頭から被り、いつも以上に適当な着替えを済ませた彼がおもむろに操作しだしたのは、枕元に転がっていたスマートフォンだった。
 通話機能を起動し、機械的なコール音に耳を傾ける。
 こんな時にコンタクトを取る相手は、かれこれ一年も前からお決まりの人物である。


『――やあ一方通行。久しぶりだね? 今日はチョーカー型電極のメンテナンスでもお望みかな?』

「……生憎と、そっちは間に合ってる。病室に空きはあるか? それからノイラミニダーゼ阻害薬とアスピリンを用意しろ、……今から向かう」

『おやおや、学園都市第一位の君もさすがに流行病には敵わないようだね? 声を聞く限り随分と苦しそうだが、ここまで自力で来られるかい? 君さえ良ければ、妹達の一人にキットを持って行かせることもできるけれどね?』

「……同居人どもに騒がれる前にカタァ付けてェンだよ。ちったァ黙って医者らしく診察室で待機してろボンクラ」

『ふむ、頭の回転はいつも通りのようで安心しているよ。しかし、君も相変わらず難儀な性格だね? 彼女らだって君が意地を張っている後ろ姿を見ているよりも、子供らしく助けを求めてきてもらえるほうがずっと嬉しいだろうに』

「うるせェよ……」


 ぜーぜーと吐息を漏らしながらも、画面を苛立ち紛れに指で叩き、通話を終了させる。
 黒いコートを羽織り、もう一度電極のスイッチに触れた彼は少しだけ考えた後、枕元の大きな窓を勢い良く開け放した。
 廊下を通って玄関から出ると、面倒臭い連中に捕まって面倒臭い問答に巻き込まれることは目に見えていた。
 幸いというか何というか、先日「夜に靴を下ろしちゃ駄目なんだよ! ってミサカはミサカはヨシカワから最近教わった日本の古き良き慣習の知識をひけらかしてみたり!」などとやかましいテンションで阻止してきた打ち止めのお陰で、彼の部屋には紙箱に入ったままの新品のブーツが一揃い置いてある。
 つまり、一方通行はいつぞやのグレムリン襲撃の時と同じく――能力を使って窓から飛び出そうとしているということだ。


(……書き置きは……いらねェな。後で番外個体のヤツにでもメールを入れときゃ問題ねェ。それよりも……今ここでこのザマを見つけられて、ウザったく世話ァ焼かれる方がよっぽどマズい)


 微妙にグラグラしている意識で精密な能力のコントロールを続けられるかはかなりの不安要素だったりするが、高熱に苦しむ一方通行の思考は妙にクリアでなおかつ無謀だった。
 額から嫌な汗をだくだくと流しながら、虚ろな瞳で窓から真下を覗き込む。

 ひゅおおおお……と吹き上げる冷たいビル風をも計算に取り込みながら、彼は真新しいブーツを履いた片足を窓枠に掛け――、










「グッモーニン寝坊常習犯、朝ごはん出来たじゃん――って何しやがってるじゃんよお前ーっ!? ここ十三階じゃん早まるなー!!!」

「ごっ、ふ……ッ!?」









 ノックも無しに飛び込んできたエプロン姿の黄泉川愛穂に後ろからガッと羽交い絞めにされ、危うく胃液を口から噴出しかけた。






 約三時間後。
 芳川桔梗の車で冥土帰しの病院に運ばれ、診察を終え無事に帰宅した一方通行は、『大袈裟にしたくない』という当初の目的を大いに裏切られる形で、現在三人もの女たちに顔を覗き込まれていた。


「やれやれ、すっかり油断していたわね。能力のフィルターが無くなった影響でキミも最終信号に負けず劣らず貧弱なのだから、彼女にばかりかまけていないで自分の体調管理もしっかり行うべきだったのよ」

「……」

「こら、そっぽ向かないでこちらを見なさいな」


 説教くさい口調で(しかしどこか楽しそうに)語りかけてくる芳川は、ほっそりした両の手で洗面器の中の濡れタオルを絞っている。
 めまいや頭痛に悩まされつつも、一方通行は顔をそらすことで彼女の甲斐甲斐しい汗拭き攻撃をひたすら拒んでいた。

 そんな彼を意味ありげな目でじとっと見つめる幼い少女がいた。ご存知打ち止めである。


「……ミサカにあれだけ手洗いうがいを強制してた人がこの体たらくとは、ってミサカはミサカは大人の不合理さを再認識してみる」

「なーんて失望されちゃあ親御さんも形無しだねぇ。まぁ、ミサカ的には愉快な絵面が拝めてハッピーこの上無いんだけど?」

「……何でしれっとここに居るンだっつの……芳川の野郎はともかく、オマエらはマジで出てけ。死にたくねェならな」

「今にも死にそうな顔でそんなこと言われましても。ぎゃはは☆」


 割と本気で感染ってしまうことを危惧している彼の言葉もどこ吹く風、「あなたの言うことなんか聞かないもん! ミサカも介抱するんだもん! ってミサカはミサカは最近忘れ去られつつある聖母スキルをここぞとばかりに発揮しようと躍起になってみたり!」とのたまう打ち止めを中心にして、ここの住人たちは揃いも揃って彼を放っておく気はゼロであるようだった。
 だから知られたくなかったンだ……と重い息を吐く少年。
 ちなみに出勤時間の直前まで、この騒動に黄泉川まで加わっていたのだから、状況はこれでもまだマシな方であると言える。

 手負いの猫よりも危うい感じに苛立っている一方通行に、それでも臆することなくおでこに手を当てたりしながら微笑みを向ける芳川桔梗は、小型のテーブルの上に置いてあったレジ袋の中から数点のアイテムを取り出した。


「こうも熱が高いと苦しいでしょう、冷却シート貼ってあげるからおとなしくなさい。愛穂が作って行ってくれたお粥も食べる?」

「……、自分でやる」

「意地っ張りな子ね、もう」


 クスリと笑みをこぼして市販品のシートを渡してあげている芳川の様子を眺めていた二人のミサカは、しばしの間パチクリとまばたきしてお互いの顔を見合わせると――、


「……みっ、ミサカも負けないぞ! ってミサカはミサカは対抗心を燃やしながらもお財布を引っ掴んで買出しにダッシュしてみる!!」

「うおおおおおおミサカまで最終信号の嫉妬に引きずられてるぅぅぅ!? まーでもいいや楽しそうだし付き添い行ってきまーす!!」


 どたどたどたーっ!! と大慌てで駆けていった少女たちの後ろ姿に、残された第一位と元研究者は思い思いの反応を見せる。


「……、何がしてェンだ、あいつら」

「ふふふ、キミのことが心配なのよ。なんだかんだ言っても、あの子たちはキミにとても懐いているから」


 などと訳知り顔で呟いていた芳川だったが……ものの十五分もしないうちに帰ってきてしまった彼女らのフットワークの軽さには、さすがにほんのちょっぴり驚愕の表情を浮かべていた。




「じゃーん!! ゼリーと経口補水液! インフルエンザに罹ったときは水分補給が一番大事なんだって! ってミサカはミサカはネットワークから入手したての付け焼刃知識を全力でお披露目してみたり!!」

「ず、随分早かったのね……。近所のコンビニで買ってきたの?」

「上位個体特権で病院暮らしの個体たちにおつかいを依頼したのです! バケツリレーの要領でな! ってミサカはミサカは自らの高性能っぷりを誇ってみる!」

「そんな利用目的で貴女を司令塔として製造したわけではないのだけど……。というか妹達は文句とか無いのかしら……」

「いやあ、別にそこは誰も気にしてないよ。ミサカネットワークの奴隷もといボディガードの第一位がいつまでもぶっ倒れられてるとミサカ全体の益にもならない訳だし、ぶっちゃけ『大きなミサカ』的にもさっさと回復してもらわなきゃ色々気が気じゃないんだろうさ」

「にゃわっ!? な……なんだかネットワーク全体に大きな信号が……!? 『余計なこと漏らしてんじゃねえぞこの覗き魔個体/return』……? ど、どういうことだろうこれ、ってミサカはミサカは混乱してみる……」


 ……何やらギャーギャーと口やかましく話し込んでいる女たちであったが、寒気頭痛咳ノド鼻腹痛と怒涛の連撃に苦しめられる一方通行に、そちらへ関心を向ける余裕はまったく存在しない。
 今すぐ布団を引っかぶって全てをシャットアウトしてしまいたい衝動に駆られるものの、天井さえグルグルと回りだした今の最悪なコンディションの中ではただただ虚空を見上げるのみ、この騒音をやりすごす術さえ無いのだ。
 GAGAGAGAノイジー静かにしてくれ。なんとも哀れな学園都市最強の姿である。

 しかし、人間というのはどうにも、聞きたくも無いような話に限って耳に入ってしまう生き物であるらしく。


「――そういえば、あなたの方も一九〇九〇号から何か受け取っていたみたいだけど? ってミサカはミサカは懐に抱えたその小包に関心を示してみたり」

「ああコレ? 別に大したモンじゃないって。第一位への贈り物としてはつまんなさすぎて及第点以下な代物だよ」

「……何? これ、なんか……筒みたいな、じょうろみたいな白い陶器だね、ってミサカはミサカは……かなり変わった形だけど、水差しの一種かな?」

「のんのん最終信号、ネタバレしちゃうとこれはアレだ――シビンってやつ♪」





 とりあえず衝撃波をお見舞いしておいた。





「ひゃあああ!? バリーンって! 今ひとりでにバリーンって割れたよ!? ってミサカはミサカは呪いの陶器に恐れおののいてみる!」

「あら。見たところ医療用の高級品のようだったのに、勿体無いことをしたわね」

「……チィッ。第一位さんよ、高熱で能力が暴走でもしちゃったかにゃーん? ならミサカここに丁度素敵な解熱剤を隠し持ってたりするんだけど」

「!? そ、そんなものを持っていたのならなんで出し惜しみしてたの!? 早くあの人にそれを使ってあげて! ってミサカはミサカは何故だか怒りの表情でゆらりと起き上がるあの人を心配して泣き叫んでみる!!」

「オーケーオーケー。ただし効能は尻から出る」

「あら冥土帰しったら、座薬までちゃんと処方してくれてたのね」


 のほほんとした表情で処方箋を広げる芳川の背後を、今度こそ突風をモロに浴びた番外個体の身体がむき出しの座薬と一緒にゴロゴロと転がっていく。










 結局静養のせの字も無いまま、学園都市第一位の超能力者は、同居人たちの献身的(笑)な看病にもかかわらずほとんど自力でインフルエンザウィルスに打ち勝つことを余儀なくされてしまうのだった――。














 そして時は現代へ。





「ううううう……風紀委員のお仕事まで休むことになるなんて、今頃きっと白井先輩の頭にツノが生えてるよぉ……、ってミサカはミサカはお姉ちゃんの美味しいお粥の味さえも分からなくさせるこの高熱を恨んでみたり……」

「インフルエンザは、指定伝染病です。無理をすることはかえって迷惑になりますし、しっかり休んで早く治しましょう」

「ちゃんと予防接種してたのにこの有様なんてなあ。子供の病弱っぷりは大体どうにかしないとマズいぞ、にゃあ」


 ピンク色の冷えピタをおでこに貼り付けたパジャマ姿の打ち止めの上半身を起こさせて、フロイラインとフレメアはごくごく一般的で健全な看病というヤツを実行してくれていた。

 小さな土鍋に収まった卵粥をふうふうと冷ましながら、銀髪の少女は匙を打ち止めの口まで運ぶ。
 気のせいだろうか――彼女に限っては、打ち止めが体調を崩した日のほうが普段よりよほどイキイキと世話を焼くのが常だった。ある意味、ヤンデレもしくは天然ダメンズとしての素質はバッチリかもしれない。
 感染予防にきっちりとマスクをつけたフレメアもフレメアで、親友の体調不良には慣れたものだった。小型の加湿器を部屋に持ち込み、その部屋は風邪っ引きの打ち止めにとって最適な温度と湿度をキープしている。

 ……そして、打ち止めが本当に弱り果ててしまったというベストタイミングで『彼』にこっそりと連絡を回すその手際もまた、フレメアの有能ぶりのひとつだった。


『ご到着のようですよ』

「ほあ? ってミサカはミサカは――」


 苦笑の声音をわざわざ再現した人工音声を薄い羽で響かせて、白いカブトムシが告げる。

 朦朧とした顔つきの打ち止めが、それでもハッと反応して玄関に顔を向けたその時――いつも通り、ノックも無しでその扉は開かれるのだ。










「――よォハナ垂れガキ。買ってきてやったぞ、ゼリーと経口補水液」

「……まさかシビンは持ってきてないよね、ってミサカはミサカは一応確認を取ってみたり……」















投下終了です。急いで書いたので誤字あるかも

ところで最新刊マジパネェでしたね
もともと好きだったミサカ総体様にさらに骨抜きにされました
あれは良妻ですわ。うちのツンデレ打ち止めにも見習っていただきたい

ここと並行してぼちぼちやっていたスレがいつの間にか落ちてしまっていたので、とりあえずこちらのスレではこまめに生存報告しておくことにしました

明日の夜には何か投下するつもりです
間に合えば本編を、間に合わなければ一足早めのバレンタインSSでも


ところで、生存報告はsageた方が良いですかね

生存報告はsageするか
しないかは結構まちまち
ですな

とりあえず待ってます


駄目だ、眠い
すみません。今夜中には更新無理っぽいです
これからは無計画な投下予告は控えますね

>>354
ありがとうございます
更新と勘違いさせてしまっても申し訳ないし、とりあえずsageの方が無難みたいですね


いわゆる通行止め回、って果たして需要あるのやらとか思いつつ、次世代版超電磁砲を目指している以上はラブコメも大事な要素だよなぁと考えていたり
書く分には超楽しいです

短いですが本編更新











「──下品な乳袋ぶら下げやがってそんなにもぎ取られたいのかチクショウがぁぁぁあああ!! ってミサカはミサカは憤怒の念をコントローラーに込めてみる!!」

「にぎゃあ!? きっキサマ、大体上条当麻へのストレスを私で発散してんじゃないぞコラァああああああああああ!!」



 がちゃがちゃがちゃがちゃーっ!! と騒々しくぶつかりあう金属めいた音と共に、画面の中の敵キャラ(金髪爆乳白ロリアイドルコスチューム)が太いイナズマで撃ち抜かれる。
 いつの時代になっても間違った方向に近未来的なライトが光る空間・ゲーセンにて、打ち止めは長身スレンダーな女ガンマンのアバターを操りストレス発散へと勤しんでいた。

 打ち止めとフレメア=セイヴェルンには共通の趣味がある──すなわちゲームだ。
 晴れて風紀委員の選考を通過した夜も、おでこにたんこぶが出来るようなケンカをした日も、彼女らはいつだって意気揚々と家庭用ゲーム機の電源スイッチを押してきた。
 デコボココンビの腐れ縁がここまで続いてきた要因、そのひとつがコレであることは言うまでもないだろう。
 ……ちなみに、打ち止めがどちらかといえば爽快感やパーティとの連帯感を欲してゲームをするのと比べて、フレメアの方はもっとこうシナリオ重視で血とか臓物とか反社会的モザイクがドバドバ出てくる感じを好んでいる分、厳密なジャンルはいささか異なっている。


「うにゃー!! 大体今日に限って何回やっても勝てない! おい子供、本当に能力使ってズルしてないんだろうな!?」

「己の運と実力の不足を人のせいとは片腹痛いなふははははー!! ってミサカはミサカはさらに連打を仕掛けてみたり!」

「フレメア様、上からの奇襲にお気をつけて」

「ちょっ!? お姉ちゃんってばそっちにばかり味方しちゃ駄目! カモンこっちカモン! ってミサカはミサカは慌ててみる!!」


 筐体の影からひょこりと頭を出す銀髪の少女は、大抵こういう時は実況役に徹している。
 彼女はゲーム自体には興味津々(というか彼女の性質としては本来、ありとあらゆる情報に知識欲を禁じ得ない)なのだが、どうも自分でプレイするよりは他人が楽しんでいる姿を観察する方が好みであるらしい。
 規則的なコマンドの配列やモーション、さざ波のようなドットのパターンを眺めて『学習』する行為は、彼女の昆虫じみたシンプルな思考方法とは中々どうして相性が良いようだった。

 追加の硬貨をちゃりんちゃりんと突っ込みながら、ベレー帽をかぶり直したフレメアは新たな話題を探す。


「にあー……。にしてもアレだ、お姉ちゃんは相変わらず上条当麻にはゆるゆるに油断しきってるんだな。ハダカ見られてもただきょとんとしてるだけってのは女の子としてどうなんだって話だよ」

「? はぁ。私がどうかしたのでしょうか」

「……お姉ちゃんにとっても上条当麻は特別なポジションにいる人物なんだろうし、警戒が薄いのも道理にかなってるんじゃないかな、ってミサカはミサカは約一万人もの下位個体の日頃の態度を想起してみる」

「そんなもんか? にゃあにゃあ、私とはオトメゴコロの基準ってヤツが違うなぁ……。
 でもまぁ、新しく夏休みの予定も出来たことだし、大体お姉ちゃんさえアレを気にしてないのなら結果オーライとも言えるけど」

「『外』に出るのはミサカも久し振りだから楽しみかも、ってミサカはミサカはなんだかんだで購入できたおニューの水着に思いを馳せてみたり!」

「……みずぎ……」


 目まぐるしく更新されていく大きな画面を見つめて、吐息のような細い声で復唱するフロイライン。




 世間一般の常識に疎い彼女にとっては、下着と水着の違いなど極めて曖昧かつ不可解なものであるらしく、


「水着とは、好きな人に見せびらかすためのもの、と聞きました。それでも、水着と酷似しているはずの下着は、やはり隠すべきなのですね。……水辺にいるか否かの違いでしょうか?」

「……、だーいぶ斜め上なお姉ちゃん的解釈が飛び出してきてミサカ困惑気味だけども、ってミサカはミサカはどう説明したものか頭を抱えてみる」

「お姉ちゃんは大体、私達が恥ずかしい目に遭うことには異様に敏感だけど、自分については無頓着すぎるんだよなー……」

「はい。水着は、はしたない格好ではない。覚えました」


 ふんすと小さく鼻息を漏らして胸を張る彼女に、掛ける言葉がいまいち見つからない打ち止めである。
 知らないことにも臆せず、(物理的に)喰らい付いていくフロイラインは、ある意味この無気力な現代社会においては貴重なバイタリティの持ち主なのかもしれない。

 ローディング中の画面に映っているフレメア=セイヴェルンの顔は、まるで幼い子供の何気ない一言に感銘を受けた母親のようにしみじみと目を細めている。


「好きな人に見せびらかすもの……かぁ。お姉ちゃんも結構的を射たこと言うもんだな。にゃあ!」

「……世の中すべての女子が、お子様みたいな露出狂だとか思ってンじゃねェぞ、ってミサカはミサカは軽いジャブを打ち出してみたり」

「どこぞの黒夜みたいなこと言うな! 大体、そんなこと言いながら子供はどうなんだ子供は!
 保護者の許可なしで『外』に行くってことはつまり──あの白いのに水着デビューを見てもらえないってことになるんだぞ!?」

「ぐぬうッ!?」


 バトルスタートと同時にフレメア側から放たれた一撃に、打ち止めのアバターは回避のため大きく仰け反る。
 精神攻撃とはおのれ卑怯な、と歯噛みしながら長身女ガンマンは白ゴス巨乳アイドルの足元を狙って散弾をばら撒いていった。
 テンガロンハットの影にクールな顔付きを隠したキャラクターとは裏腹に、プレイヤーの少女の顔面は一気に茹で上がっていく。


「べべべべ別にどうだっていいしぃ!? あっああああの人の存在なんかこれっぽっちも! 微塵もっ! 意識とかしてなかったしーッ!? ってミサカはミサカはガタガタ震えて主張してみる!!」

「ふっ……、フハハハ! 大体、こちらの予想以上に効果はテキメンのようだな! オラオラ脇がガラ開きだぜぇ! そんな貧相なボディじゃ『あの人』もさぞやガッカリだろうなー! にゃあにゃあ!!」

「だっ誰が独特なシルエットやねん! ってミサカはミサカは艦載機は飛ばさずとも妙な過剰反応を禁じ得なかったり!」

「にゃあ、いい加減素直になったらどうだこのツンデレめ。露出狂とか猥褻物陳列罪とか言っておきながら、内心そっちも意中のヤツに肌を見せたくて仕方ないんだろ!
 あわよくば『もォその姿は俺以外に見せンじゃねェぞ。……拒否権、ねェかンな?』『はゎ///ってミシャカはミシャカは』みたいなお寒い展開でも期待してたりしてなー! はっはっは!!」

「そっそそそそんなわけあるかコラあああああああああああァァァ!! ってミサカはミサカは全力で拳を振りかぶってみる!!
 というか! そもそも前提がおかしいだろうが! 品行方正な風紀委員たるこのミサカにあの人なんかが釣り合うとでも思ってるのか!?
 あんなっ、あんなっっ、痩せっぽっちで不良でコミュ障でいやらしい声で服装のおかしい人のことなんかミサカはどうでも──ッ!!!」










「へェ。奇遇だな、俺も勘弁願いてェぜ、オマエみてェな口うるせェヒス女のお相手はなァ」










 ビシリ、と。
 いつの間にか背後で立ち塞いでいた学園都市最強の超能力者から掛けられた声に、その場の空気が凍った。







「……だ、大体いつからそこに……にゃあ」

「ぁ、あああああ、ぁ……あなた……? ってミサカはミサカは硬直した頬を無理に動かして……」


 ギギギと音が鳴るようなぎこちなさで背後を振り返る二人だったが、見るからに不機嫌そうな第一位はただ一点──打ち止めのみを見つめながらこんなことを言い出した。


「だがまァ細かいことは聞き逃してやる。正直、それどころじゃねェってのが現状だしな」

「……ど、どういうことでございますかそれは、ってミサカはミサカは」

「来い」

「うぉわっ!?」


 四の五の言わずに手首を鷲掴みにしてきた一方通行の掌によって、打ち止めの身体は備え付けの椅子からベリッと引き剥がされる。
 そのまま長身の彼に手を取られて連行されようとしている少女の姿は──見ようによってはやや強引なエスコートを受けている風にも取れる。


「えっ、えええー!? きゃー! ぎゃー! 何が目当てだこの誘拐魔ー!! ってミサカはミサカはネットワークで手近な個体にヘルプを要請してみるけど何故かまったく応答がなかったり!?」

「あァそれな。大方、クローンども全員にオマエとのネットワークの接続でも拒否られてンじゃねェの?」

「アイエエエエ! ナンデ!? ボッチナンデ!!? ってミサカはミサカは──ぎゃあああああ助けてお子様お姉ちゃぁぁん!! 拉ー致ーらーれーるぅぅぅううううううううううううううッッッ!!!」

「そこのガキども、お楽しみのところ悪りィがな──借りてくぞ」

「……ッ、いえっさー! にゃあ!!」


 拒否権ナシの眼光に一瞥され、ただコクコクと首を縦に振るばかりのフレメア。

 杖つきのくせに長いコンパスを生かして中々の早歩きを披露する一方通行に、少々どころではなく乱暴な扱いでズルズルと引っ張られていく打ち止め。

 もうちょっと粘れよお子様ぁぁあ──!! と新米風紀委員は最後まで力無く喚いていたが……そんな二人を止められる機転の利くような勇者など、まずこの場には存在しなかった。










『……何があったんですかね、アレ』

「……どうせ、大体また私には理解できないよ。あの人たちのやる事なんてさ」

『……? あなたにまだ、最終信号について理解できないことがあるのですか?』

「にゃあ、そりゃあるよ。──大体、私達は『友達』なんだ。あの『家族』とは、立ち位置がまったく違うんだし」


 タイミングを見計らって鞄からゴソゴソと這い出してきた白いカブトムシに、フレメア=セイヴェルンは諦念の眼差しでそう応じる。

 そうだ。どうせ私には理解できない。
 だからこそ彼は何の説明も無く打ち止めを奪っていったのだろうし、実際、第一位にはそれだけの無茶を通す理由も実力もある。



 最終決戦を経て、SYSTEMという頂を一度は垣間見て──それでもなお、彼の原動力はいつだって、彼女を救うためにある。



 結局それが、切っても切れない親御さんとわがまま娘の関係なのだ。
『親友』と言えど、そこを邪魔するわけにはいくまい。


「にゃあにゃあ、ヤツのお手製鍋が食べられるのはまた後日ってことになりそうだ。残念だったなお姉ちゃん──」


 諦めというには妙にスッキリした笑みを浮かべて、側に立っていたフロイラインの顔を見上げるフレメアだったが……、





「……いえ、十分間に合うはずです──私が、あの白いのの頭蓋骨をかち割って中身を美味しくいただく『機能』さえ獲得してしまえば」

「だっ大体久々に見たぞその顔!? にゃ、にゃあああカブトムシ! 止めて止めてお姉ちゃんの絵面と人目がかなりヤバい!!」





 チーズのような質感でするりと開くフロイラインの大きな顎を隠すべく、フレメアの肩にとまっていたカブトムシはとっさに擬似的な壁を展開した。

 ドッ……! と、空気を押し割る音と一緒に構築される白いドームに、周囲の一般学生たちはビクッと肩を震わせる。
 が、銀髪の美少女がクリオネばりに顔面を変形させつつ佇む姿を拝むよりは、未元物質の登場に驚かされる方が精神的にまだマシな部類だろう。

 そんなわけで急遽築かれたこの安全地帯の中、フレメアは目前の突沸寸前不死ガールの両肩を掴んでしばしの説得を試みることにした。


「落ち着いて! 大体、クールになるんだお姉ちゃん! 冷静に考えてあの人があの子供の害になるようなことするわけ無いだろ!? にゃあ!!」

「いいえ、先程購入したあの参考文献には『真に友を思うのなら、ポッと出の男に攫われるだなんてクソッタレな展開に流されるな』とありました。いわく、取られる前にタマを獲れ、と」

「いやその理屈はおかしい!! というか大体捨てちまえそんなクソレズ小説!!」

「はい。大丈夫ですフレメア様。私はすでに、あの子の体表面から微弱に発せられる電磁波を追う『機能』を完全なものとしています。必要ならばあの子のお腹の中を苦痛なく掻き出し、汚い遺伝子を残さず排除する事も」

「中には誰もいないッ!! お姉ちゃん、今日はもう退こう! リアルグロゲーにはさすがの私も大体背筋が冷えるし! にゃあにゃあ!!」





 手足を振り回すフロイラインとそれを抑えようと藻掻くフレメアの攻防は、その後、騒ぎを聞きつけた警備員が白いドームを銃火器の先端でゴンゴンとド突きはじめるまでの十数分間、延々と続くこととなるのである。






フロイライン「大丈夫です、フレメア様(大丈夫とは言ってない)」



投下終了です
次はバレンタイン編です

速報サーバー生き返りましたね
ひとまず生存報告

プレイヤーがフレメアちゃんになってあらゆるヒーローを攻略する人的資源シュミレーションゲームとか誰か作らないですか

すみませんsage忘れ

こんにちは
生存報告、と少しお知らせを

遅い更新でこれ以上お待たせしても申し訳ないので、
次回の更新後、とりあえずこのスレをhtml化依頼しようと思っています
「後編に続く」ということで……

話の展開は考えています。いわゆる逃亡をするつもりではないです
私生活と原稿の方が一段落ついたらまた後編スレを立てさせていただきます
遅くても、秋冬までには

話の続きを待っていた方がいらっしゃったなら、本当にすみません
一度仕切り直させてください



要望や質問などありましたら遠慮無くどうぞ


まあ私生活あってのなんとやらだし致し方なし
とりあえず探しやすいように後編スレの名前だけでもお願いしたい

>>379
申し訳ないです……
スレタイどうしましょうね? 1はネーミングセンスとかがあまり無いので思い付かないです
単に「後編」って足しても味気ないような気がしますし

どなたかからの案がありましたらソレに乗っかりたいです

とある科学の最終信号
って題名は変えず

題名を言わせるキャラを変えればそれでいいんでないの?

>>382-383
いただきました!
フレメア「とある科学の最終信号!にゃあ!」 とかにしようかなと思ってます。今のところ
検索のためにも、『とある科学の最終信号』ってのは固定でスレタイに入れておくということで

私生活もアレですが、エロい原稿と並行してほのぼのした百合を書くのは中々骨が折れますね……
脱稿したらちゃんとこっちに専念します
ご迷惑をかけてしまいすみません



次回投下は近いうちに、sage進行でひっそりやります

素晴らしい挿絵をいただいたのでこっちでも貼らせて頂きます
見てくださいこの極上のちっぱいと太もも!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
http://i.imgur.com/NDPT2Cn.jpg


色々とアドバイスありがとうごさいます
SSを公開する場としてはこことpixivで満足しているので、今のところサイトなど作る予定はありません
思い出した時にでもぼちぼち検索して、気楽にお付き合いしていただけると助かります

明日明後日あたりには最後の投下を

名前欄忘れてた






 走る。走る走る走る。

 一方通行の細い手に右手首を掴まれて繁華街の人波を逆流する打ち止め。そんな彼女の今の心境は、一言で言うと超テンパっていた。
 彼の愛用する杖の先端は、どこか苛立たしげにガッガッとアスファルトを削る。それに合わせて機械のように単調な歩みを刻む革靴を、半歩後ろから追い掛ける──いや、むしろ引きずられているに等しい──安全靴特有の音鳴り。
 休日の人混みの中においても妙に目立つその歩幅のリズムは、バクバクと破裂しそうな少女の心臓の鼓動を余計に煽っているようでもあった。


「わ、ちょ、待っ……! な、何が起こってるのかは知らないけどっ! 拉致にしたってもうちょっと優しく出来ないかな!? ってミサカはミサカは掴まれた手首を引っこ抜こうと必死に、身じろいでっ、みたり……ッ!!」

「……、チカラァ使って昏倒させたり手足ふン縛って搬送したり、ひと通り考えた案の中じゃこれでも最大限の厚遇(エスコート)のつもりなンだがなァ」

「ぐっ……!! な、ならせめてエスコートらしく、何かロマンを感じる誘い文句や台詞の一つも言ったらどうなの! ってミサカはミサ」

「黙ってろ。舌を噛むぞ」

「…………………………………………、」


 そっちのロマンじゃねぇよ。


「うらあああああ離せこの野郎ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
 おのれエンダーマンみたいな体型しやがって!! ってミサカはミサカはやぶれかぶれの精神攻撃に転じてみる!」


 もはや新米風紀委員の心境はヤケクソ一色だった。
 絶叫しながらブンブンと腕を上下に振り回す彼女に、一瞬だけ振り返ったその青年の眼光は冷ややかで。


「……オマエのパーツも1ブロック引っこ抜いてやろォか、物理的に」

「い、いちいち腹立つぅ! そもそもなんで理由も言わないまま連行な訳!? ってミサカはミサカはここに来て当然の疑問をぶつけてみたり!」

「自分が今までしでかしてきた事をよォく振り返ってみやがれ。オマエから手を離したらどこに行くか分かったモンじゃねェ。鼻先にニンジンぶら下げられたら地球の裏側まで走っていきそォだしな」

「花の乙女になんて酷い例えを!!」


 ……とは言ったものの、幼少期に主治医のポケットマネーで遊園地に豪遊しに行こうとしたり、はたまた交戦中の第一位を放って七色焼きそばや射的に夢中になったりと、彼の言葉を強く否定できない程度には打ち止めにも前科が存在するのだった。
 注意力散漫というかなんというか、昔から猪突猛進を地で行く少女である。

 だからまぁ──そういう人間が今日に至るまで平穏無事に成長できたのも、ある意味あのヒーローのようなお人好しが数多く存在する、この平和な世界の象徴なのかもしれない。



(……もう、何なのまったく、ってミサカはミサカは……)


 いやに熱っぽい自分のほっぺたに左手でなんとなく触れながら、すぐ目の前にいる一方通行を再び見上げる。

 もはやこちらのことなどちらりとも顧みない彼の横顔は、少し長めの白い髪に隠されて表情が読み取れない。
 これだけ間近で観察するのは数ヶ月ぶりぐらいになるだろうか。その容姿は、目鼻立ちこそ整ってはいても男前とは程遠く、ある意味女性的にさえ映る。
 もっとも、五年前とは違い今はずいぶん健康的な体格に成長しているため、もはや初見で彼の性別を間違えるような人はそうそう居なさそうだ。

 喧騒の中を切り込むように突き進んでいく二人の姿は、道行く学生たちの注目の的だった。
 奇っ怪な二人組を怪しむ大多数の視線に混じって──ごく少数だが、少女たちの好意的な眼差しと黄色い声がちらついている。
 それを見逃すほど打ち止めは鈍感ではない。ましてや、それを『皆に怖がられてた昔とは大違いね』と安易に喜べるほど心優しい聖母キャラでもない。
 みっともない嫉妬だと、自覚はしている。しているが。


(……どうせみんな、この人の素顔なんかなーんにも知らないくせに。ふんっ、せいぜい外見に騙されて勝手なイメージにポーッと浮かれているが良いのだ、ってミサカはミサカは心中で不特定多数の人間に八つ当たりしてみたり!)


 つまらなそうに街中を歩いているコイツの本性が、いったいどれだけ偏屈でデリカシーが無く意地悪なことか!
 悠長に見惚れているそこらの女の子たちに、ある事ない事を大声で言いふらしてやりたいぐらいだ。現在進行形で彼に振り回されている打ち止めは、ついついそう思ってしまう程度にはトサカに来ている。

 ……しかし、だ。

 細く均整の取れた彼の全身が、たった一人の少女のためにこれまで何度傷付いてきたのか。すれ違う人たちの目を惹くその澄まし顔が、雪原の中心で彼女を守ろうとしていたあの時、どれほどまでに痛切な表情を浮かべていたのか。
 そんな彼の隠された本質を知っているのがこの中で自分ひとりだけなのかと思うと、何やらちょっとしたトキメキが──いやいやいやいや。


「べっ別に! そのギャップがむしろ良いとかそんなこと全然思ってなんかないんだから! ってミサカはミサカは言い訳してみる!!」

「どォした。ついにイカれたか」


 一人悶々としていた打ち止めに、氷柱よりも冷たく鋭い一方通行の言葉がザクッと突き刺さる。
 そのツッコミで一気に現実への強制帰国を余儀なくされ、彼女はぷるぷると頭を振って顔の火照りをどうにか吹き飛ばそうとする。

 長い大通りは二股に分かれる形で途切れており、そのまましばらく歩いて行くと段々と人の気配も疎らになってきた。
 薄闇に溶け込むように自然な素振りで、彼は少しずつ細くなる道の分岐を迷いなく進む。
 先ほどまで不整脈に拍車を掛けていた人目が無くなったことで、彼女はひとまず心の平静を取り戻すことに成功していた。



 手を引っ張られるそのスピードになんとか歩幅を合わせつつ、改めて斜め上の顔をキッと鋭く睨みつける。


「と、とにかく! いったいどこに行くつもりなの、ってミサカはミサカは今さら感あふれる問い掛けをしてみたり!」

「あァ。例の病院か大学内の研究室……その辺りが理想的だったンだがな。生憎と、そこまで悠長に散歩してる暇はなさそォだ」

「えっ?」


 病院? 研究室???

 体調も悪くないし、定期検診という名のメンテナンスは先月済ませたばかりだ。それなのに、なぜ今そんな所に行く必要があるのだろうか。
 ぱちくりと目を丸くする少女を無視して、曲がり角を少し進んだ先の裏路地でふと立ち止まる一方通行。
 彼はそこで少しだけ周囲を見渡したかと思うと、脇の下に収まっている黒いカバンを顎で示して言葉を続けた。


「最低限の準備はしてきたことだし、多少安っぽいベッドにはなるが贅沢も言ってらンねェか。──ここで良い、手短に済ませるぞ」

「へ? ここって、どこのこと? ってミサカは……」


 疑問を紡ごうとする彼女に、しかしそれ以上の説明はなく。









 流れるように階段を登り、小さめの自動ドアを通過して、中学生の少女を引きずり込んだその先は──
 何の変哲もない、どこにでもあるビジネスホテルのフロントだった。









「……、やっ……」


 うぃーん、と目の前で虚しくも閉まってしまった機械仕掛けの扉。
 背筋を走る電流のような戦慄に、彼女は思わず我を忘れて雄叫びを上げた。


「やばいと思ったが性欲を抑えきれなかったっ!? ってミサカはミサカはあまりの驚天動地でとっさに逃げ出してみたり──ッ!!?」

「……叩きゃ治るか? その頭」


 青ざめた顔で逃亡を図るも首根っこを掴まれ、その場であえなく御用となる情けない風紀委員の図がここに完成したのであった。

更新と名乗るのも恥ずかしくなる文章量ですが今日はここまで
本当に申し訳ないです

無理しないことだな
更新があれば読み手としては嬉しいが
詰まったなら時には休息も必要だろう


パーツの一部だと…
打ち止めさんのアホ毛を抜くのは勘弁してください











 爆発があった。轟音が響いた。



 大小さまざまなトラブルを乗り越えつつも、ヒーローたちの活躍によりひとまずの平穏を享受していたはずの学園都市。
 その一角で、まるでスイッチを切り替えたかのように突如弾け上がり、学園都市最強の超能力者に牙を剥いたのは──





「……この街にセッティングされた大きな悪意に導かれて、殺されるために造られた人形をあなたは壊した」

「っ、……オマエ──」


 電流により痛々しく爛れた腕を庇いながら、白い髪の青年は呆然とその人影を仰ぎ見る。


「確かにそうだね。ものすごく好意的な解釈をすれば、あなたでさえ、あの『実験』に精神を蝕まれた被害者の一員とも取れるかもしれない」
「でもね──」


 人間のように、人間らしく、人間として、彼女は笑みを浮かべる。

 肩まで伸びた茶髪に白い肌。

 彼にとっては何よりも見慣れた存在であるはずの少女は、今、他のいかなる時よりも素直に微笑んで──こう宣言した。










「問題はそこじゃねぇんだよ、この人殺し」










   











 最終信号(ラストオーダー)。
『彼女』は自らをそう名乗り、学園都市の全権を掌握すべく君臨する。

 逆境に満ちた境遇の中で、それでも人間らしく信念を抱いて生きてきたはずの新米風紀委員。
 打ち止めと呼ばれていたその少女は、今、それまでの人生すべてを陵辱するような邪悪な人格データに取捨選択の一切を奪われた。
 少なくとも、彼女を知る人物はほとんど全員がそう信じていた。





 ……だが、正確には違う。





「あれは、検体番号二〇〇〇一号の本来の人格よ。本来物言わぬコンソールとして設計されたはずの、完全に合理化した彼女の本性」

「……どういう事じゃんよ、桔梗。早く説明しろ!」


 ──とうとうこの日が来てしまったのね、と。
 軍用クローン『妹達』を製造した当事者・芳川桔梗は、自分の胸ぐらを掴み上げる親友から、決して目を逸らさなかった。


「わたしたちのよく知るあの子のパーソナリティ……『打ち止め』は、天井亜雄から逃れた際に、あの子の中で急拵えで構築された仮想人格なの」
「精神的ショックを受けた子供が、辛い現実から逃避するために『身代わり』となる人格を作り上げる──いわゆる二重人格の典型的なパターンね」
「彼女は……最終信号は五年前のあの瞬間に、それを意識的に実践した。おそらくは、ある目的を遂行するために」

「目的……じゃんか? それは、あいつが一方通行を攻撃したのと関係──、……ッ!?」

「……ええ、その通りよ」


 妹達の人格データについて誰よりも精通しているはずの元研究員、芳川は。
 きっとこの場にいる誰もが予想しているであろう『最悪の可能性』を、包み隠さず打ち明ける。


「八月二十一日、ミサカネットワークに中継された上条当麻の行動によって、上位個体であるあの子の思考回路にも当然影響が生じた」
「呼吸するだけのキーボードから、『死にたくない』と願えるような、まっとうな思想を持つ人間へ」
「生まれ変わった彼女が、研究者から追われていた緊急時に、こんなことを計画したとしても不思議じゃない」


 今の自分は弱く未熟だ。
 だから、無条件で他人から庇護を受けられるような『仮の人格』を構築して、仮初めの安全を得よう。



 そして。



 満を持して自分自身を守れるほど強くなった暁には、本来の人格を解凍し──正当な権利としての『復讐』を成し遂げよう、と。










   











「──もう、せっかくミサカに会いに来てくれたんでしょ? もっと楽しそうな顔を見せてよ。フレメア、それにフロイライン」

「……」


 世界に散らばる全ての『欠陥電気』を強制的に従えて、学園都市のあらゆるネットワークを遮断し、街中を混乱に貶めた前代未聞のテロリスト。
 そんな肩書きを自ら背負った幼き女王は──かつての仲間を前にして、あまりにも完璧な微笑みをその顔面に作り出していた。


「『最終信号』としてあなた達と話すのは今日が初めてかな。でも、ミサカは二人のことをちゃんと覚えてる。当然だよね、だって大切な『友達』だもん」


 臆面もなくそう言ってのける彼女は、自分の気持ちに素直になれないことが悩みだった『打ち止め』の肖像とは、あまりに遠くかけ離れていた。


「今までこの身体を乗っ取っていた人格は、仮に構築されただけの偽物に過ぎない。今ここにいるミサカこそが、あなた達の『友達』の本当の姿なの」
「分かってくれるよね? 今のミサカは、用済みとなった偽の仮面を葬って、ようやく自分らしい意思をもって生きられるようになった」
「それはミサカという存在にとって、とても自然で、当たり前なこと。蛹が蝶に変わるのと同じだよ。誰にも止められない予定調和、美しい羽化の形」


 その結論が、五年も前から決まり切っていた結論が──あんなイカれた『実験』を生み出したこの街と、一方通行への復讐。
 虚ろな目で棒立ちになる妹達を周辺に配備し、歪んだ女王はあまりにも優しい眼差しで、二人の少女に語り掛けていた。


「そう──あなた達の『友達』は、今やっと、本当の姿になれたの。それを祝ってもらえないなんて、ちょっと寂しいかも」

「……違う」

「?」


 ポツリと呟いたのは、金のボブヘアが特徴的な少女だった。
 青空のように澄み切ったその瞳に灯る感情は、混じり気のない純粋な──敵意だ。


「大体、そんなのは違う。本物だか偽物だか難しいことは知らないけど、私達は絶対、あなたに迎合したりなんかしない」

「……何が言いたいの?」


 最終信号は、単純な疑問によって眉をひそめる。

 何かがおかしい。
 彼女の記憶領域の中には、『友達』に対してあんな目を向けているフレメア=セイヴェルンは、一度たりとも現れたことなどなかった。


「説明したじゃない。ミサカは、あくまでこのミサカの真の人格なんだって。ほら、あなたとずっと一緒にいた、かけがえのない友達の──」

「少なくとも」


 真っ直ぐな声が最終信号を遮った。

 いつものように、フレメアの数歩後ろに佇んでいたフロイライン=クロイトゥーネ。
 最終信号の知る限り、自分に対してもっとも無条件で親愛の情を寄せていてくれた人物の一人だったはずだ。

 そんな彼女の発する言葉が──かつて好ましく思っていた彼女の綺麗な声音が、最終信号の心の平衡を大きく掻き乱す。






「打ち止め様は。私達の大切な『友達』は。誰かを虐げて笑っていられるような外道ではありません」






   






 しんと静まり返ったその空間に、再びフレメアが声をあげる。


「アイツを返せ」


 気付いた時には、彼女は『帽子』を被っていた。
 敵を前にした臨戦態勢であることを、解りやすく示しているかのように。


「元からあなたなんかに用は無い。大体、私はあの傍迷惑でクソ生意気な子供と話をしに来たんだ」
「だから、悪いけどあなたにはさっさと消えてもらう。私達が一緒にいた『友達』を、無理矢理にでも取り戻すために」

「……、そう、残念だね」


 全てを悟り、最終信号は再び笑う。

 ただし、それは先程までの慈愛に満ちた笑顔とはかけ離れた──変わり果てた悪友に別れを告げるための、冷たい嘲笑だ。










「ならあなた達とは、ここで『絶交』だ──!!」










   











 打ち止めをこの手に取り戻す。

 今再び集結したヒーロー達は、真っ直ぐな信念を胸に、混沌とした戦場の中で『世界の敵』に毅然と立ち向かう。
 最終信号を倒すため。
 そして、完全に廃棄されたはずの『打ち止め』という人格を救う、ほんの僅かな可能性にすがるために。





「お前が死んだら悲しむヤツがいる、だから勝手に死ぬんじゃねえ。あの操車場で、俺は確かにそう言ったよ」
「それに伴って生まれた復讐の権利ってヤツも、きっと、当事者のお前にしか計り知れないほど重たいものなんだと思う」
「……でもな……それを無関係な他人を巻き添えにして達成するようじゃ、お前だってただの悪党になっちまうだろ……!」


 ──幻想殺しを右手に宿した青年は人混みの中をひた走りながら、この街のどこに居るとも知れない少女に対して、絞り出すような声で語り掛けた。





「まさかアンタたちに手を上げることになるなんて思わなかったわ。でも今回ばかりはビンタの一つや二つ、勘弁してよね」
「それが嫌なら……さっさと正気に戻りなさい! 奥の奥でふてぶてしく上位命令を飛ばしていやがるやんちゃ娘と一緒にね!!」


 ──学園都市第三位の超能力者はそう叫ぶと、サブマシンガンを握り無関係な一般人たちを制圧しようとする自らの『妹』に立ち向かった。





「まったく、一体どこまで手間をかけさせますのあの子は。……悪い夢を見ているお馬鹿さんな後輩を、わたくしたちの手で目覚めさせてあげましょう。初春!」

『──はい! 三叉路の右を進んだその奥、そこに彼女達の拠点の一つがあります!! 白井さん、那由他ちゃん、どうか無事に戻ってきてくださいね!!』

「もう、そんな露骨な死亡フラグはやめてよ飾利お姉ちゃん。私だって、改造に次ぐ改造で着々と準備を重ねてきたんだから──こういう熱い展開のためにね!」


 ──大切な仲間だった風紀委員の少女たちは、優秀な探査能力の全てを稼働させて、軍用クローン達の貯め込んだ戦力を舞台の裏側から削り取っていった。





「あーあーあーあー。復讐がどうとか第一位をぶっ殺すとか、そういうおセンチな悲劇はミサカの領分だと思ってたのになぁ」
「……帰ってきなよ、司令塔。悪意しか拠り所の無かったかつてのミサカに『家族の温もり』ってヤツを教えてくれたのは、他でもないあなただっただろ?」


 ──体内に埋め込んだ機械の働きで、皮肉にも『正気を保ってしまった』妹達の末妹は、ハッキングされかけた第七学区の変電所のモニターに向き合いながら、どこか寂しそうな表情で呟いた。











   











 そして。
 そして。
 そして。





「……あ、あ」


 あらゆる人々が結託し、幼い女王をギリギリのところまで追い詰めて、その荒れ果てた路上に立ち塞がる最後の人物。

 白い髪に赤い瞳。
 とうに処分済みであるかつての人格が慕い、そして今の彼女が、誰よりも惨たらしく殺したいと願う──その姿。










「受け入れてやるよ、オマエ自身の選ンだシナリオをな」










 一人立ちすくむ最終信号にさえ、容易く最強の能力を奪われ。

 至近距離から電撃の槍を何十発も喰らい。砂鉄のブレードで幾度となく袈裟斬りにされ。
 鋭い指揮棒で直接刺し貫かれた右腕に──文字通り炭になり焦げ落ちるまで、数億ボルトの高圧電流を流し込まれながら。





 それでも。
 彼は回避らしき行動のひとつも取らずに、混乱を極め能力のコントロールすら見失った状態の最終信号に歩み寄る。









   






「う、ぁ、あぁ……なんで、なんであなたは……」


 思い付く限りの攻撃すべてを、呻き声ひとつ上げずに受け止められた。

 そのショックに思わず膝をつく彼女を、残った片腕で抱きとめながら、ボロボロになった青年は掠れた声で囁く。


「……最初から、虫のイイ話だった」
「一万通りもの苦痛を押し付けてきたオマエに、許されて、受け入れられるなンざ……確かに……偽物でなきゃ、そンな馬鹿な話は、あり得なかった」





 それでも、良かった。

 偽物の優しさだったとしても──彼女の笑顔は、こんな怪物に、ほんのささやかな人間らしい心を与えてくれたから。





「復讐で殺されるのは……俺にとっては、もはや救いにしかならねェかもしれねェ。それでも……当のオマエがそう望むのなら、きっとそれが一番正しい」





 あまりに幸福なその幻想は、とうの昔に貰いすぎている。



 世界を天秤に掛けてでも彼女を守りたいと願った。

 何もかもが嘘だったとしても、その日々だけは──彼の中で今も息づく、本物だから。





「だから──」

「あ、ああ、ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」





 耐え切れずに彼女から溢れたのは、悲鳴と涙だけではなかった。

 精神の枷が外れ、全身から迸った純白の閃光の中で──最終信号ひとりだけが見た、たった一つの影は。










   











「そうだよ……。ミサカだって、『あなた』みたいになりたかった……」
「自分の歩んできた歴史が『偽物』だなんて知らないまま。純粋な心で他人に触れて……人を疑うことも、卑しい悪意も、こんな胸の痛みも知らないままで……」
「……大好きな人たちに囲まれて、ずっと笑っていたかったよ……!」





『できるよ』





「……え……?」



『「あなた」が読み漁ったミサカの記憶は、偽物なんかじゃない』
『確かに、「ミサカ」の存在は偽物だったかもしれない。だけど……ミサカの奥で眠っていた「あなた」が垣間見たその温もりは、間違いなく本物だよ』



「……そんな、『あなた』は……」



『この世界は怖くない。これ以上「あなた」を傷付けるような怖い人は、もうどこにもいない』

『「ミサカ」の得たものは、「あなた」の得たものと同じだよ。だってそうでしょ? 怯えちゃ駄目。そう簡単に消えはしないよ。だから……』















『一緒に帰ろう、って、ミサカはミサカは──』















   











 ──『本物』の少女が『偽物』と交差する時、最終信号の物語が始まる──!










           劇場版・とある科学の最終信号 ~ラストオーダーの叛逆~










「にゃあ、大体ようやく帰ってきたな。心配したんだぞ、この子供め」



「はい、おかえりなさい。……また一緒に、美味しいご飯を食べましょう」










          四月一日より全国ロードショー!!!












   





















「……………………いや、大体何だこの『お祭り感ありゃ何でもいいじゃん』的な詰め込みまくりのシナリオ。にゃあにゃあ」

「……そもそもミサカの人格データは八月三十一日に一度あの人が全部解析してるし、トドメにその場で初期化作業まで行われてるからこんな大掛かりな仕込みは不可能かも、ってミサカはミサカは至極冷静な頭で分析してみる」

「はい。その『情報』は、あまり美味しくありません」

「んなっ!? ちょ、超生意気ですこのガキ共!! せっかくあなた達を主役に据えてこの私がB級映画っぽいシチュエーションを考えてあげたというのに!」


 別に頼んでないしなぁ……、とウダウダした心境でオレンジジュースをすする中学生たちを前に、女子高生の絹旗最愛は至って真面目に憤慨していた。



 今日は四月一日。エイプリルフール、そして映画の日でもある。

 ここは第七学区のファミレス。
 大きなガラス越しに見える学園都市の景色は、いつも通り平和そのものだった。
 当然、叛逆を起こした軍用クローンによって街は焦土と化してなどいないし、電撃使いのハッキングによって都市は全機能停止などしていないし、ここにいる三人娘も絶交宣言などしていないし、打ち止めは今日も元気にツンデレしている。

 今日たまたま風紀委員の仕事が非番だった打ち止めは、春休み期間ということもありいつものメンバーで目的もなくフラフラ第七学区を散策していたのだが、ちょうど映画館に出向いていた絹旗と遭遇し、『ついでなので超一緒に行きましょう。B級映画の楽しみ方を絹旗お姉さんが手取り足取り教えてあげます!』などという供述のもと連行されたわけだ。
 たっぷり三時間もの大作アクション映画(ただし出来はクソ)を鑑賞するムシャシュギョー的な何かに付き合わされ、すっかり疲労困憊である打ち止めとフレメアは今、都会のオアシスことファミレスのドリンクバーで必死にスタミナを回復しようとしている最中である。
 ちなみに、端っこに座るフロイラインは、クソ映画を見ようと何をしようとやっぱりというかなんというか相変わらずだった。基本的に物事への好き嫌いが存在しない、という彼女の生物としての性質が功を奏しているのだろう。あとそのもぐもぐしている紙ナプキンは食べ物じゃないですほらペッしなさい。


「いいですか? そもそも超限られた時間と予算の中で作られる映画のシナリオは、とにかく観客にどれだけ痛烈な印象を刻みつけるかが超重要なんです。
 つまりB級C級映画なんてもんはノリとインパクトで超楽しめたらそれで勝ち! 整合性とかクソ喰らえです!!」

「だ、大体乱暴すぎるぞその見方は!」

「どうせ大抵のお客は一度観たらそれでもうサヨナラなんですから、重箱の隅をつつくような細かい理論とか超どうでもいいんですよ!
 最終的に二人のミサカが融合するのは目に見えてるんですからこまけぇこたぁ超誰も気にしません! ほら去年あたりにだって、なんか直前までボコったりボコられたりしてた女二人が超唐突に手を取りデュエットしだして宇宙エレベータの倒壊を食い止める映画とか結構ヒットしてたじゃないですか!!」

「……世界の危機においても『みんなの住むところが無くなっちゃうー♪』とかハシャいでたKY幼女……? うっ頭が、ってミサカはミサカは謎の頭痛に眉間を寄せてみたり……!」

「映画は美味しい、です。毎月一日は、友達とお安く楽しく、食べられますね」

「おおっ、フロイラインさんはなかなか映画の良さが分かってるっぽいじゃないですか! 超見込みアリですね!」





 ドリンクバーだけで延々粘ってきゃあきゃあと騒ぎ立てるテーブル席の一角を遠巻きに眺める数多くの視線に打ち止めたちが気付くのは、もう少し先の話になりそうだった。









   




 というわけでエイプリルフールネタでした
 明日朝からバイトなのに1はいったい何をしているのだろうね

 いつかこういうシリアスカッコワライなお話もガチで書いてみたいなーと思いつつ、投下終了です



   

空が白んできた……(絶望)
コメ返し忘れてたついでに少しageておきます

>>402
ありがとうございます……
情けない1で申し訳ないです

>>403-404
えっ出し入れできるんですか(驚愕)
とりあえずこのスレの打ち止めちゃんはアホ毛出し入れできないということで、脳内補完を、なにとぞ
 

生存報告

鎌池和馬先生&禁書10周年おめでとうございます。これからも応援しています
日付変わる前にお祝いしておきたいと思った(小並感)
三期なくてごめんなショックをまだまだ引きずっておりますが最終更新は日曜までにやり遂げます

ところでまたもや新シリーズ出すんですね鎌池先生。執筆速度の半分でも分けてもらいたいです
かまちー「本物のバケモノってのはなァ……こォいうのを言うンだぜ!!(一ページぶち抜き狂気顔)」

大変遅くなりました
本スレ最後の投下です






「一部屋空けろ。今すぐにだ」


 予約分ですでに満室だと訴えるフロントの青年をなんとも穏やかでない口調で黙らせた一方通行に、この小さな一室まで連行されたのがつい三分ほど前のこと。
 手荷物と一緒にベッドの上へとポンと投げられた打ち止めは、現在真っ青になってガクガクと身震いしていた。

 部屋に入るなりカバンを開けてタブレットを手に何やら作業していた第一位だったが、どうやらそれも一段落ついたらしい。
 薄い吐息と共に、彼はくるりとこちらを振り返る。


「……、さて」

「こっ、来ないで! ここここんな所に女の子を連れ込んでナニをどうするつもり!? ってミサカはミサカは準備(意味深)を終えたらしきあなたに毅然と立ち向かってみる!!」

「随分腰の引けた毅然っぷりだな」


 穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士もかくやといった感じで勇ましく前髪に帯電させる少女ではあったが、その下半身は器用なことに尻もちをついたまま後ずさりしている。
 狭いベッドには彼女が逃げ回れるようなスペースなど無く、無駄なあがきは思いっきり伸ばされた一方通行の腕によって即座に縫い止められてしまった。

 ダァン!! と。
 彼女の左耳スレスレの所で、彼の手の平がさながら槍で貫くように壁を叩く。


「ひっ!? か、壁ドンは隣近所への迷惑になるから控えていただきたいかも!! ってミサカはミサカは」

「つまンねェことでハシャぐな。……手元が狂うだろォがよ……」

「にょわぁぁぁあああああ──!!?」


 クリーム色の壁際まで追い詰められた哀れな子羊に、彼は何事か囁きながら顔を急接近させてくる。

 あわやミサカの純潔もここまでかと半泣きになる打ち止め。
 その目と鼻の先に迫ってくる怪物の真っ赤な瞳に思わず息を呑む彼女だったが、ほっぺにサラリと掠めていったもう片方の手の感触が再びダイレクトな現実感を突きつけてきた。

 白く細い指がそのまま髪のすき間に潜り込み、彼女が愛用しているうさぎ型のヘアピンをそっと抜き取っていく。

 



(えっ? ええぇっ!? これ、もももももしかして、こっ、恋人どうしが営む、あの、俗に言うベーゼの瞬間が迫って──!!?)

「何て顔していやがる、目ェ閉じろ」

「むむむ無理! 無理だから!! ってミシャカはミシャカは激しく動揺してみたりっ!!」


 頭にカーッと血が昇り、めまいがする。
 安いホテルでも防音設備が完璧なあたりさすがは学園都市製といったところか。生活音ひとつ聞こえてこない一室の中で、今はただ自分の心臓の鼓動と彼の息遣いばかりが耳に響いて、いたいけな小娘にはもうなすすべも無い。
 身じろぎ一つできない少女のウブさを嘲笑うように、マネキンよりも冷たく無機質な一方通行の顔が近付く。
 新品のにおいがする黒いジャケットが擦れる音が迫ってきて──おとなのいろけ? そんなフレーズがふと脳裏をよぎったが何だそれは。食べられるのか。

 はちきれそうになる胸の拍動に耐えかねて、彼女はぎゅっと目を瞑り叫んだ。


「……や、やっぱり駄目ぇえええええええ! いくら家族同然の仲と言っても、そういうことはまず清き交際を経てから──ッ!!!」





 カチャッと軽い音を立てて。

 ふと気付いた時には、一方通行の手によって、なんとも色気ゼロなヘッドギアらしき機械を頭から被せられていた。





「……さっきからウダウダと何言ってンだ、オマエ?」

『──、心拍血圧がやや高めね。まぁ、これは例によって思わせぶりな態度を取るあの子が原因のようだけれど』

「えっ、あ、あれ? ベーゼは? というか……」


 予想外にいつもどおりな一方通行の文句。
 それに混ざって、視界を覆うヘッドギアから聞こえてきたその声に、動揺しきっていた打ち止めの混乱は単純な疑問符へと姿を変える。





『一ヶ月ぶりね。まさかこんな形でコンタクトを取ることになるとは思わなかったわ、最終信号』

「……ヨシカワ? って、ミサカはミサカは呼び掛けに応えてみたり……」




  






 そもそも。
 第一位がその情報を手にしたのは、番外個体を回収するために立ち寄った風紀委員第一七七支部で鉢合わせた『木原』の少女からの一言がきっかけだった。


『確証があるわけじゃないけど……第三次量産計画のお姉さんのAIM拡散力場をこの目で観察して、一つだけ、引っかかったことがあるんだ』

『あん? ミサカの?』

『……うん。御坂ちゃんの……いや、ここでは最終信号って呼ぶべきかな? 彼女特有のそれと同一なようでいて、お姉さんのAIM拡散力場は少しだけ形が違う。
 最初は単なる個体差かと思ったんだけど……ミサカネットワークの構造について考えていたらすぐに、昨日最終信号ちゃんに抱いた違和感に思い当たったんだ』


 打ち止めの発するAIM拡散力場の形が、いつもと僅かに違う。
 木原那由他がその『違和感』を察知したのは昨日の最終下校時刻過ぎに打ち止めと直接顔を合わせたタイミングだが、具体的にいつからそれが変質していたのかを知る術はない。
 自分が最後に彼女のAIM拡散力場を観測したのが一月以上は前のことなので、その期間の中に『変質』の原因を特定するのは、困難を極めるだろう。

 ……と、事情に疎い那由他はそう思っていたようだが。


『あのガキは定期的に、新しく見聞きした雑多な情報ごと自らの人格データをミサカネットワークに保存(セーブ)していやがる。そォだろ、番外個体』

『よくご存知で。現在の最新データは五日前のものだよ。非正規個体のこのミサカにも閲覧許可を与えちゃってる時点で、かなり間抜けな作戦の気もするけど。
 まぁ、バックアップと同時に全体のシステムスキャンも行っているから、少なくともそれまでに何らかの「ウィルス」が紛れ込んでる可能性は無さそうかね』

『……つまりは、人為的なモノが原因だとしたら、そいつはこの五日間のうちに仕込まれた可能性が高いってワケだな』


 木原那由他いわく、彼女が目視できる妹達特有のAIM拡散力場の形状は、薄く細い紐が四方八方に延びて『網』を形成しているようなものらしい。
 その『網』──すなわちミサカネットワークの中に見つけた、とあるイレギュラーな反応。
 一方通行や番外個体は、その現象を人為的なもの、すなわち『ウィルス』と断定した。

 整然とした形のあみだくじに、赤いペンで勝手な横線を付け足されたように。
 木原那由他が番外個体から見つけた『異質な紐』は、そのたった一本のみで、何らかの大きな影響をネットワーク全体に与えているようだった。





   






(一見すると雑な介入だが……一万人の脳を利用した複雑な並列演算ネットワークに、狙い通りの影響を及ぼす『一本のコード』を外部から、それも、ここまでの短期間で繋げられたわけだ。
 ……目的は読めねェが、間違いなくただの馬鹿どもにゃ不可能な手際だろォな)


 長い回想を打ち切り、学園都市第一位の超能力者は狭いホテルの一室でふと顔を上げる。

 第一七七支部での情報交換を済ませた直後に、第五位に接触したミサカ一〇〇三二号から伝わってきた警戒令によって、彼は自身の具体的な策を決定することが出来た。
 無意識の領域を舵取りされて上位命令を送り続ける打ち止めを確保して、早急に『治療』を受けさせる。
 先ほど打ち止めを四の五の言わさず強引に連れ出したのは、そのウィルスが具体的にどう作用するものなのか、まだ完全には判明していなかったからである。
 例えば、『自分がウィルスに侵されている』という自覚をトリガーに全個体を暴走させるようなギミックが仕込まれている、そのような可能性だって無いわけではない。
 彼女が表層的にネットワークから離脱して遊び呆けている隙にほぼ全ての妹達のログアウトは完了させていたが、念には念をということだ。


「……ううー。頭が、くらくらする、ってミサカはミサカは……」


 研究所にいる芳川桔梗による遠隔操作で即興のワクチンプログラムを入力されていた打ち止めが、ヘッドギアに片手を当てながら起き上がろうとする。
 通常、大型の専用機材と学習装置を必要とする脳内情報の書き換え。それを、何の変哲もないホテルの一室で行えるまでに簡素なモノへと改造しているのだ。
 人格データの破損を防ぎ、精神への負荷をここまで最小限に押さえ込めるのは芳川や一方通行の技術力ゆえだが……多量の情報交換によって酷使した脳の疲労感だけはどうしようもない。


「起き上がンな」

「ふえ……?」

「今はまだウィルスの稼働を食い止めただけだ。書き換えられた情報をクリーンアップするのには、もォ少し手間がかかる」


 だから今は寝てろ、と両肩を掴んでベッドに横たえさせたその少女は、余りある眠気ゆえか不思議なほど険の取れた表情を浮かべていた。


「……、終わった、の……?」

「九割方はな」

「そっか……って、ミサカは、ミサカは、納得してみる」


 ふにゃりと、眉尻が下がる。

 ここ二年ほどは見る機会が無かった、意地っ張りも恥じらいも抜け落ちた彼女本来の柔らかな顔つきだった。



 それを真正面から見つめた第一位が、この時何を思ったのかは──きっと彼にしか理解できない。



 うつらうつらと瞼を下ろしはじめる打ち止めに取り付けられたヘッドギアから……ではなく、今度は一方通行が手にしていた端末から、聞き覚えのある声が発せされる。


『──後処理はキミに任せた方がいいかしら? 負荷の大きな遠隔操作よりも、キミの能力で細かな修正を掛けていく方が、その子の疲労も少ないでしょうし』

「あァ。……手間ァ掛けたな、芳川」

『コードはそちらの端末に送っておいたわ。まぁ、キミならわたしに指示を仰ぐまでもなく処置できるでしょう。
 それよりも、この五日間に彼女の人格データが書き換えられた形跡を探ってみたのだけど……』

「〇件だろ。予想はついてる」


 吐き捨てるような彼の返答に、あら、と意外そうな声音でリアクションを示す芳川桔梗。

 メンテナンスにしろウィルス注入にしろ、打ち止めの脳に学習装置などの強行手段を用いて干渉した場合、ネットワークには必ず何らかの痕跡が残る。
 それを逆算することで、彼女は打ち止めにこの『ウィルス』を仕組んだ手段や犯人を割り出そうとしたのだ。
 が、一方通行の予想通り、大胆不敵に見える今回の『敵』も、やはりただの向こう見ずではないようだった。


  



『ということは──』

「これは、新たなソフトをインストールする形のウィルスじゃねェ。こいつにハードウェアの設定ごと自主的に書き換えさせるための、『洗脳』だ」


 精神系能力者の頂点である第五位の見立て通り。
 敵はおそらく、機械ではなく能力、あるいはそれに準ずるスキルを使って彼女の脳に直接干渉した。

 大掛かりな機材を使わない『洗脳』という手段ならば、この五日間に彼女とすれ違った大勢の人間すべてに疑いの目が向けられる。
 話術のみで人を狂い殺すことが可能な人物なら知り合いにも存在する。
 また過去には、共感覚性を利用して、一人の科学者が音楽データのみを媒体に一万人の脳を統べる事件が発生したこともあった。

 つまり、洗脳する手法自体は特に問題としてはいないのだ。
 むしろ今重要なのは、


(……どこの格下が何のために、風紀委員や俺に睨まれるリスクを侵してまでこのガキに干渉したのか。
 それを掴めねェままただ洗脳を解いたところで、敵の『目的』が消えねェ間は全く意味が無ェ。またすぐにこのガキが狙われて、道具みてェに利用される)


 数年前までの彼ならば──そのことが理解できた時点で、制御の利かない怒りと自責の念にただ身を焼かれているだけだったかもしれない。
 脳の中心を突き破るような激情のままに、学園都市が産み落とした怪物として、阻むもの全てを分別なく徹底的に破壊しようと暴れていたかもしれない。

 だが、今の彼は違う。

 左手の指先で弾いた電極のスイッチ。そのチカラは今、見えない闇を蹴散らすための得物ではない。
 すっかり疲れ果てて寝息を立て始めている、目の前の少女に触れて守るための、優しい手段だ。


「むにゃむにゃ……ベーゼ、は、みずぎ、おひろめしてから、なんだから、ね……? って、ミサカは、ミサカは……」

「……お気楽そォで何よりだ」


 何やらもごもごと唇を動かす打ち止めの額に触れて、能力を発動させる。
 芳川から送信されたコードを参考にしながら、先ほどの荒療治で彼女の脳内に発生した少量の不要データを検証し、処分していく。
 数々の激戦を乗り越え、ベクトル制御技術を極限まで研ぎ澄ましていた彼にとって、それは片手間で処理できてしまうような単純作業だった。

 その傍らで、第一位の思考はなおも止まらない。


(……全容が見えねェモンを早々にぶっ壊すよォな趣味は無ェ。
 だが、このガキを巻き込もォとした連中の腐りきった思惑については、黙って見過ごすつもりもねェぞ)


 この街に新たに現れはじめた不穏の影を、彼は強く実感していた。



 第七学区の騒動。
 浮かび上がる『白い誘拐組織』の噂。
 そして──過去五日の間に打ち止めに接触した、正体不明の人物。

 一刻も早くそれらを捕捉し、彼女たちのための平和な世界を取り戻す必要がある。

 この街の裏の裏まで知り尽くし、一度は世界の理不尽なシステムごと破壊さえしてみせたヒーローの一員である第一位は──小さな少女の顔を静かに見下ろしながら、さしあたっての行動目標を定めていた。





   










 ──白衣と黒髪のコントラストが、あまりにも鮮やかに夜風を巻き込んでいく。



 第七学区のとある工業ビルの屋上。
 立入禁止であるはずのこの空間で、華奢な少女はあろうことか、錆びついた手すりの上に堂々と腰を下ろしていた。

 地面から六十メートルほど離れた上空でぶらぶらと遊ばせる両脚は、雨風に晒されて疲労した金属を乱暴に軋ませている。



『彼女』がその手に持っているものは、ありふれた小型端末だった。

 生白い右手の指で画面をちょんちょんとつついている様は、歳相応に携帯ゲームをして遊んでいる少女のようにしか見えない。





 その画面に羅列している数値の正体が──学園都市に所属する軍用クローン『妹達』の全感覚情報だと気付ける者は、おそらく数少ないことだろう。





「さてさて、最終信号からのデータ通信が途切れてからようやく三時間か。
 ネットワークに『干渉』できた時間は丸一日程度だったかな? とはいえさすがに一〇三二人分ともなると情報量が凄まじいな。
 ご大層な並列演算機構の一部を間借りしたとはいえ、受け取る側のこちらは解析するだけで手一杯だ──が、おかげで必要なデータは手に入ったよ」


 妹達は単純な視覚の他にも、無意識に周囲へ照射している電磁波のソナーによって、常人よりも遥かに広い視野と情報収集能力を有している。
 彼女はその特性を利用して、上位個体から直接『コード』を繋ぐことでミサカネットワークの一部を閲覧し、とあるターゲットの存在を探っていたのだ。

 最終信号に接触する。それが危険な賭けなのは十分承知していた。
 しかし、彼女の用を満たすためには、あの『局地的な大嵐』では不十分だった。どうしても、あの怪物を利用しなくては得られない情報があったのだ。



 それに何より『彼女』には、その作戦を破綻なく完遂できるだけの頭脳と才能がある、そんな自負があった。


   



「『岐閥』の連中も、そろそろ動き出す頃か。リミットは着々と迫ってる。彼らに追い付かれないように、僕は最高のパフォーマンスを魅せなきゃならない」


 淡々と。
 小さな画面に走らせる彼女の視線に潜む余裕は、チェス盤を見渡すプレイヤーのそれとよく似ていた。

 忙しなく動かしていた指を一旦空中に止めた彼女が脳裏に思い浮かべたのは、たった今まで自らが利用していた、とあるお人好しな風紀委員の顔だった。


「……言っただろう? 僕はキミの思い描くようなヒーローでも善人でもないし、御大層な目的があって行動しているわけじゃない。
 あの子達に玩具をあげられなくなるのは少し惜しいが、それだけだ。それだけでしかない。それを切り捨てられる程度には、僕もやはり悪党なんだよ」


 大儀そうに身を乗り出し、革靴を履いた両足をビルの縁ギリギリのところに着地させる。

 夜の明かりに彩られた摩天楼を眼下に一望できるこの『寝床』の屋上は、紛れもなく『彼女』の愛すべき場所のひとつだった。



 轟ッ!! と。

 瞬間的に吹き上げた暴風に、彼女はうっすらと微笑みながら、さながら絵本に描かれた魔女のように両腕をかざす。


「──あの『実験』は失敗した。いいや、そもそもあんな無価値な計画、最初から起こすべきじゃなかったんだ。
 無理矢理搾り取られた僕のパーソナリティを才能のない連中に切り売りして、その挙げ句に完成したのは、出来損ないの『匂風速水』のコピーだけ。
 ……吐き気がする。『僕』ってのは、『匂風速水』ってのは、本来この世にたった一つしか存在しない価値観のはずなのにさ」


 笑顔のまま、彼女は溜まった鬱屈を吐き出すかのように朗々と独白する。
 前髪をかき上げる強風と轟音は──『匂風速水』という人格の、隠匿された恨みや怒りを発散しているようでもあった。





 そう。

『匂風速水』──そもそもの悲劇はそこから始まったのだ。



 呪われた計画の素体、その名の意味を。
 嘘と誤魔化しで塗り固めた、少女の本性を。





「理解できないうちには、キミ達にこの『実験』を止めることは敵わないよ──最終信号」





 唇の端に笑みを湛えて。



 匂風速水を名乗る少女の足は、アスファルトを軽やかに蹴飛ばし──細い身体を、海のような街明かりへと放り出した。










   
   




後編に続く!!!





というわけで、妙な切り方ですが前編はここまでです

後編のスレタイは
フレメア「とある科学の最終信号信号!にゃあ!」
にしますので、再開しましたらどうぞまたよろしくお願いします
秋冬にはスレ立ててると思います

質問やご意見などありましたらお気軽にどうぞ
一週間後ぐらいにHTML化依頼を出させていただきます

フレメア「とある科学の最終信号!にゃあ!」

です、すみませんでした
そこ誤字しちゃあかんやろ……

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年08月20日 (水) 17:55:05   ID: loKhywla

後編もうすぐかな?

2 :  SS好きの774さん   2014年10月07日 (火) 08:43:35   ID: rvCC96Hn

続編まだか?

3 :  SS好きの774さん   2014年12月02日 (火) 09:46:32   ID: EfYqlq-L

秋冬に新スレ立つって合ったのに未だにか…
もう面倒くさくなったのかな?

4 :  SS好きの774さん   2015年01月05日 (月) 23:38:33   ID: 8i1fKZMe

これの続編、結構期待してたんだがやらないのか?
予告だけしといて…

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