陽毬「私は運命って言葉が好き」 (83)

ピンドラの短いお話を4つほど
大体最終回後の話です

晶馬と冠葉の終点までの旅のはなし
陽毬が受験とかがんばるはなし
苹果が初恋を考えながら帰るはなし
忘れちゃったけどずっと覚えてる4人のはなし






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first

 終点




晶馬「……行ったね」

冠葉「……行ったな」


静かに揺れる列車の中。
乗客は二人だけ。


晶馬「……」

冠葉「今だけ、肩貸してやってもいいぜ?」

晶馬「だれが!こんなときだけ兄貴ぶるなよな」

冠葉「なんだよ、泣きたいのかと思って人が親切で言ったのに」

晶馬「別に泣かないよ」


目の前にある大きな窓からは、

ゆっくり流れる乗り換えた後の世界が望めた。

二人は寄り添って、ただその風景をじっと眺めている。




冠葉「愛する女を守って[ピーーー]たんだから、上出来だよな」

晶馬「きざな言い方だなあ」

冠葉「なんだよ」

晶馬「別に。……そうだね」

晶馬「上出来だ。僕にしては」


自分の罰を知ってからも、嫌いにならないと言ってくれた彼女。

いつも全力で元気いっぱいだった彼女。

そのくせなんだかほっとけなくて。

いつから惹かれていたんだろう。


最後に、思いを伝えられてよかった。ありがとうと大好きを。

きっと今の彼女は覚えてないだろうけれど。

でもいいんだ。


冠葉「あいつら元気にしてるかな。幸せになってほしいな」

晶馬「なれるに決まってるさ。ピングドラムは輪るんだから」

冠葉「そっか。そうだよな」

晶馬「そうだよ」

sagaいれわすれた

>>4 訂正




冠葉「愛する女を守って死ねたんだから、上出来だよな」

晶馬「きざな言い方だなあ」

冠葉「なんだよ」

晶馬「別に。……そうだね」

晶馬「上出来だ。僕にしては」


自分の罰を知ってからも、嫌いにならないと言ってくれた彼女。

いつも全力で元気いっぱいだった彼女。

そのくせなんだかほっとけなくて。

いつから惹かれていたんだろう。


最後に、思いを伝えられてよかった。ありがとうと大好きを。

きっと今の彼女は覚えてないだろうけれど。

でもいいんだ。


冠葉「あいつら元気にしてるかな。幸せになってほしいな」

晶馬「なれるに決まってるさ。ピングドラムは輪るんだから」

冠葉「そっか。そうだよな」

晶馬「そうだよ」




そう、覚えてなくても。

誰かが誰かを愛するってことが大事なんだ。

例え相手が覚えてなくても。

相手の好きが自分に向いてなくても。


晶馬「そうやって、輪るんだ」

晶馬「愛も罰も、きっと」


だから、僕は驚くほど安らかな気持ちで

この列車に乗っていられるよ。


隣の冠葉の横顔を、窓から射し込んだ夕日が照らしている。

まもなく夜になるのだろう。

そしてこの運命の列車は、星空の中を泳いでいくんだろう。

世界を見下ろしながら。



冠葉「怖いか?」

晶馬「兄貴こそ」

冠葉「まさか。でも、晶馬がいてくれてよかったよ」

晶馬「……僕も冠葉がいてくれてよかった」


晶馬「冠葉にも、陽毬にも、荻野目さんにも、会えてよかったよ」

晶馬「忘れないよ。みんなで過ごした日を」

晶馬「ずっと」


遠くの空で一番星が瞬きだしている。

この広い空の下で、彼女らもあの星を見つけているだろうか。


冠葉「俺も忘れない」


冠葉の瞳からぽたりと水が落ちる。

僕はそれを見なかったふりをした。



冠葉「終着までは結構時間があるんだろうな。眠るか?」

晶馬「いや……もう少し、窓の外を見ていたいんだ」

冠葉「そっか」


僕らを乗せたまま、列車は終着にただ粛々と走り続けるのだ。

運命の至るところへと。ただ沈黙して。

辿りついた先はきっと言葉の消えた静かな地なんだろう。


でも怖くない。

罰から始まった人生を、僕ら全員背負ってきたけど

そんなに悪いものでもなかったさ。


「どこまで行こうか?」

「どこまでも行こうよ」


そうさ、どこまでも行けるんだ。

罰も愛も背負ったまま、この星空をどこまでも泳いでいこうよ。

いつか辿りつくだろう、まだ見ぬ終着駅に向かって。



end.



second

 いまはいないどこかのだれか



うまくいかないことは、とことん続くものだ。

負の連鎖を断ち切らない限り、永遠と続いていく。

そして連鎖に陥っているときは、例外なしに必死にもがいている最中なので

鎖を解こうとすればするほど、絡まっていくのだった。


「今年から受験生だろう」

「奨学金で高校に?」
「ああ、そっか。本当の両親じゃないんだっけ」

「進路希望を」
「最近付き合い悪くない?」

「今の成績だと」
「偏差値」
「平均点」



あーーーーーーっ もう!

うるさいうるさーーーーい!!



イライラ
イライラ

最近ずーっとイライラしてる。

とにかく毎日ずっと一人でいたくなって、

いつも宿題はおじさんとおばさんのいる居間で、テレビを見ながらやるんだけど

最近は部屋に閉じこもって黙々とお勉強。

だってそうしないと、油断すれば誰かに八つ当たりしてしまいそうで。


まあ…

しまいそうで、っていうか、

今日の夜ごはんのときにやっちゃったんだけど。



「お勉強はどうだい?陽毬」


またその質問か、と頭の隅で考えている。

高校三年生に上がってから急によく聞かれるようになった。

受験が大事だってことはちゃんと分かってる。

分かってるけどね。


「陽毬は頭いいものね。大丈夫よ」


黙々とたくあんを咀嚼する。
しゃべりたくない。答えたくない。無視したい。


そんな勇気、ないけど。


「大丈夫だよ、ちゃんとやってるから」


心配しないで。お利口の陽毬はお勉強だってちゃんとやります。



「塾とか…その、行かなくて大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ」


だって塾ってお金かかるもの。

我が家が金銭的余裕がないことくらい、分かってる。


「隣の奥さんもね、陽毬ちゃんはかわいくて頭がよくてすごいねーって褒めてたよ」

「……」

「そうか……でも、もし分からないところとかあったら相談してくれよ?」


いつもは嬉しい優しさもお褒めの言葉も、いまはイライラの材料にしかなりえない。


「だからっちゃんとやってるってば。 一人でちゃんとできてるから…!」


少し乱暴に茶碗を置いてしまってから、

しまったと後悔。



おじさんとおばさんが気遣うような表情に変わる。

申し訳なさと恥ずかしさで、一瞬言葉がでない。

それからやっとでてきた言葉は

「ごめんなさい」じゃなくて「部屋戻るね」



…………最悪

私、いつからこんなに意地悪な子になっちゃったのかな



昔はこんなことなかった。

ずっと綺麗な心でいられて、

どんなことを相手に言われても笑顔で飲み込めたのに。


「なんで全部うまくいかないの…」


いろんな感情がごちゃまぜになって、目から涙として外にでる。

ぼたぼたと涙をこぼしながら、開けたのは机の右下の引き出し。

その奥には私だけの秘密のお守りがある。


「……ぐすっ……お兄ちゃん」



『大スキだよ!! お兄ちゃんより』


ちょっと下手っぴな字でそれだけ書かれたくしゃくしゃの紙切れ。

昔、クマのぬいぐるみのお腹の縫い目にいつのまにかねじ入れてあったものもの。


私にお兄ちゃんはいないはずなんだけど、

なぜだかこの紙を見つけたときに胸が締め付けられるような気持ちになった。

いないはずのお兄ちゃんが、私のことを大すきって言ってくれてること。

悲しいときや、怖いときには、この紙を机の中から取り出して

そのことを思い出すと、少しだけ元気がでるんだ。


もう紙を見つけてから何年も経っちゃったから、ぼろぼろになっちゃった。

折り目は擦り切れて穴があきそう。

一見ごみにも見えちゃいそうな、私の……宝物。

そう、宝物なんだ。


その紙を握りしめて、ベッドにごろんと横たわった。

受験のこと、偏差値のこと、友達のこと、家族のこと

悩むことはいっぱいあって、私の頭は氾濫しそうだよ。

どうしようもなくいつもいらいらしちゃって、涙が止まらないよ。

こんな自分が大嫌い。



どこかにいるなら助けてよ。

お兄ちゃん。



「……まり」

「陽毬」


だれ?

っていうより、ここ、どこだろう。

私確かベッドに寝っ転がって……そのまま寝ちゃったのかな。

じゃあ、ここは夢の中?


「陽毬、自分を嫌いだなんて言わないでくれよ」


だれだろう……

眩しくてよく見えない。


「俺たちの大事な妹を、そんな風に言わないでくれ」


妹……


「お兄ちゃん?」

「ああ。お前の兄貴だ」


姿は見えないけど、笑う気配がする。



「相手に謝りたいときは、ロールキャベツを作ればいいんだよ」

「ロールキャベツを好きなのは、あなたでしょう?」

「……あれ?」


なんで、私、この人のこと

知らないのに。


「陽毬。なにもかもきっとうまくいくよ」

「俺たちが見守ってるからさ」

「お前は俺たちの自慢の妹だ」

「だから全部全部大丈夫だ……」


目の前の人の輪郭が、だんだん光に薄れていく。

きらきらと光るアレは、なんだろう。 ガラスかな。


「あっ」
「待って!」


「大好きだよ」


お兄ちゃん待ってよ。

どこにいくの?





伸ばした手は、気づくと見慣れた天井に伸びていた。

なにも掴めないまま、空を切って落ちる。

ぽすん。

やっぱり今のは、夢だったのかな。

……あれ?

……なんの夢を見ていたんだっけ?


薄暗い室内なのに、まだ瞼の裏に強烈な光が焼き付いている気がした。

ちくりと、ないはずのおでこの傷が痛む気もした。

電車の中で苹果ちゃんと発見された時に

なぜかガラスの破片が私のおでこの上にのっかっていたらしい。

そのときにできた小さな傷は、痕も残さずすぐに消えてしまったのだけど。


なんでだろ。

痛くて涙がとまんないよ。





「陽毬ちゃーん」

「あ、苹果ちゃん!学校帰り?」

「うん」


学校からの帰り道にスーパーに寄って、夕ご飯の買い出しをする。

いつものルーチンワークの中で、今日は例外があった。

制服姿の苹果ちゃんが、スカートの裾をはためかせながらこっちに走ってきているのが目に入る。


「夕御飯の買い出し?いつもいつも偉いね」

「そんなことないよ。お料理好きだし」

「あ、苹果ちゃん、よかったら今日一緒にご飯食べない?」

「えっ でも毎回毎回悪いよ」

「気にしないで。それに、苹果ちゃんにも手伝ってほしいの」

「なにを?」


両手にもったスーパーのビニール袋を少しだけ持ち上げる。

キャベツとひき肉だ。



「えっと……なんでそんなに大量のキャベツ?」

「たっくさん作るの。ロールキャベツ」


それでおじさんとおばさんに、昨日のこと謝るんだ。

ちょっと言いだしづらくても、ロールキャベツがあれば大丈夫。

仲直りしたいっていう合図だから。


「そ、そっか。……なんか安心したよ」

「え?」

「この間会ったとき、なんか元気なさそうだったから少し心配だったんだ」

「そうだった?」

「少しね。でも、今は……一皮むけたって感じね」

「うーん……不思議な夢を見たの」

「夢?」

「どんな内容だったのかは、覚えてないんだけど」



「へえ。でもきっといい夢だったんじゃないの?」

「うん…たぶんね」


昨日まで灰色かかって見えた空が、今日はやけに鮮やかに映えている。

私は苹果ちゃんと一緒に、夕日の中を歩いて行った。


「あ、一番星」

「え。どこどこ?」


西の空に輝く宵の明星を苹果ちゃんが指さした。


「赤点回避、赤点回避、赤点回避!」

「苹果ちゃん……なに言ってるの?」

「一番星見たら願い事3回言えば叶うんだよ?」

「それ、流れ星と勘違いしてるでしょ。ふふふ、苹果ちゃんってば」



二人で歩く帰り道。

知らず知らずのうちに、作り笑顔じゃない笑顔になる。


運命とか宿命とか、そんな大げさな言葉じゃなくても、

どうにもならないことは確かにこの世界にはあって、

抜け出そうとすればするほど、一人で絡まって底なし沼に落ちてしまう時ってある。

うまくできない自分や

周りに八つ当たりしちゃう自分が

大嫌いになっちゃって泣いちゃうときもみんなあると思う。


でも、そんなとき、どこかの誰かが……

私が嫌いって言った自分のことを、大好きって思ってくれてる。

そう考えると、心のササクレが少しずつ抜けてって

だんだん冷静になってきて、回りの優しさに気付けてきて。

世界の美しさに気を配れるようになってくる。


また明日からがんばろって思えるようになってくる。

自分のことを好きって言ってくれてる人のためにも。

もう一度、がんばってみようって。



「がんばるよ」

「私、がんばるから」

「だから見ててね」

「今はいない、顔も覚えてない、私の大切なお兄ちゃん」






息が白くくもっては消えた。

期待と不安を綯いまぜたたくさんの目が、一心に目の前の数字しか書かれていない板を見上げている。

だんだんと、そこかしこで歓喜の声と落胆の声が上がり始めた。



私の番号………は。

……ちがう……ちがう……これも、ちがう……

もうそろそろ……。


「あったぞ!陽毬!」

「ど、どこっ?」


私より先におじさんが見つけたみたい。

指さす先を見れば、確かに私の受験番号があった。

思わず飛びあがってしまう。

寒さで冷え込んでいた体が一気に熱くなった。


「陽毬、おめでとう!」

「おめでとう、本当に。今日はパーティーだな」


おじさんも、おばさんも、自分のことのように喜んでくれている。

私は嬉しい気持ちと、ありがとうという気持ちで、二人にぎゅっと抱きついた。


「おじさん、おばさん、ありがとう…」



受験生になったばっかりの頃には、先生に「諦めた方がいいんじゃないか」なんて言われたこの学校。

あの頃にはいろんなストレスが重なって、本当にどん底だったと思う。

でもがんばってきてよかった。

諦めなくて、よかった。


「私、苹果ちゃんに電話してくるね!」


人気のない桜の木の下に駆け寄る。

今はまだ葉も花もないけれど、私が入学するころには美しく咲き誇っていることだろう。

ポケットから携帯電話を取り出す。

その拍子に苹果ちゃんとお揃いで買ったペンギンのストラップが揺れた。

男の子と女の子のペンギンがあって

女の子は右手にハートの左半分をもっている。男の子は左手にハートの右半分をもっている。

二人が合わされば、ハート形の完成。


「なのに、なぜか私と苹果ちゃん、間違ってどっちも女の子買っちゃったんだよね……」

「これじゃハートにならないのに」


最初は苹果ちゃんと会うたび、私たち馬鹿だねって話をしたんだった。

頬笑みが漏れる。

ゆらゆら揺れるそれを撫でてから、携帯電話のボタンをプッシュした。


「あ、苹果ちゃん?」

「うん……うん。合格したよ」

「あはは!ありがとう。……うん」

「そうだね。……本当に?やったあ」

「うん!じゃあまた今度ね。はーい」


さっきからずっとにやけっぱなしの頬を両手で引っ張る。

今年の四月からは私も高校生なんだから、しっかりしなくちゃ!

色んなことやってみたいな。

部活に勉強に…………ええとその、彼氏とかも…

それはまだ大分先になっちゃうかもしれないけど。


苹果ちゃんの次は、あの二人に電話しなくっちゃ。

ずっと見守っててくれた二人に。

電話帳をスクロールしようとして、はたと気づく。

……二人って、どの二人?

いま、どうして私はそんなことを思ったんだろう。


「おーい、陽毬ー。電話は終わったかい?」

「どこかでご飯食べて帰りましょう」


少し離れたところから、二人が手を振るのが見える。


「あ、はーい!」


今の不思議な気持ちはなんだったのかな?

まあ、いっか。そのうちきっと思い出せるよね。



私はおじさんとおばさんの元へと駈けだした。

頬を触ってく風はまだ冷たい。指先は寒さでじんわりしびれている。

それでも足取りは軽かった。

このままどこまでも、どこまでも走っていけそうな気がしたんだ。

この光のなかを。


end.

あと2つはまた今度かきに来ます

乙。ピンドラSS珍しいな。残り二つも楽しみにしてる


いいねピンドラ
これは期待



third

 初恋



「はあー。やっぱあたし国語苦手だわー」


向かいに座った友人が教科書を放り出してのけぞった。
放課後の学校。もう間もなく窓から夕日が差し込んでくる頃だろうか。

季節は春から夏に乗り換えを行おうとしているが、
まだエアコンをつけなくてもいいくらいの、過ごしやすい気温。


「この人のリンゴについての解釈がイミフメー」

「へ?あたし?」

「ちがうちがう。こっち」

「ああ……『銀河鉄道の夜』ね」


次のテスト範囲に含まれている作品に、自分と同じ名をもつ果実がでてくるのだ。
彼女はそれを言っているらしい。


「なんなの?このさ、リンゴはあっちの世界とこっちの世界をつなぐものってところ」

「おもしろい解釈だよね」

「やっぱあたし数学の方が好きだわー」



得手不得手はあっても、テストで赤点をとるわけにはいかないので。
垂れても仕方ない文句を口にしながらも、だらだら教科書とノートを交互に見やる。


あーあ。早くテスト終わんないかな。
そしたら待ちに待った夏休みがくる。


二人で無言でペンを動かしているので、外の音がよく聞こえてくる。
野球部の男の子たちの声。陸上部が走る音。どこか遠くの鐘の音。


ずっと変わらないもの、でも油断してるとすぐに移ろっていってしまうもの。

あたしは夏休みそのものが好きなのではなく、
夏休みを心待ちにしている今の時間が一番好きなのだ。

楽しみにしてるものが手に入ったら、ただそれがなくなっていくことが悲しいと感じてしまう。



いつからかな。こんな感覚。
昔はもっと手に入れることに貪欲だった気がするのだけど。



「もうそろそろ帰る?」

「ん……そうだね」


制服のポケットから携帯電話を取り出して、時間を確かめた。
午後17時40分。
校庭の部活動に勤しむ生徒も、後片付けを始めているようだ。


「あ。あんたなにそれ!そのストラップ!」

「え? ああこれ。友だちとおそろいで買ったの」

「なんだ……友だちか。てっきり彼氏ができたのかと思った」

「な、なんでそうなるのよ」

「だってそれってカップルでペアで買う奴じゃないの?」


陽毬ちゃんとおそろいで買ったペンギンのマスコットをぎゅっと握る。
間違って買ってしまったため、彼女と合わせてもハートは完成しないのだけど。
陽毬ちゃんのは水色で、私のは藍色で。

かなり気にいっているものなのだが、まさかそんな誤解をされようとは。



「ちっがーう!」

「だって苹果ってそういう話全然ないから」



じゃあさ、となおも食い下がる友人をじろりと睨む。
帰るんじゃなかったのか!


「苹果の好きなタイプって、どんなの?」

「え〜?」

「ほらほら、さっさといいなよ」


教科書と向かい合ってた時のしかめっ面はどこにやったのだろう。
と思いつつも、乗り気になって話す私。
所詮女子高生なんてこんなものだ。



「そりゃあ……やっぱ年上かな」

「へえー」

「落ち付いた物腰の人がいいな。頭がよくって、優しくて」

「じゃあ初恋は学校の先生とか?」



初恋?


「いや、初恋は全然ちがかったよ」

「むしろ真逆だったかな〜」

「ふーん、どんな人?」

「ええっとね……あれ……えっと……どんな人だっけ」


一瞬前までイメージが掴めていたのに、詳細を語ろうとすると霞んで消えてしまった。
その人がどんな容姿をしていたか、どこで出会ったのか、どんな話をしたのか。
不思議なほどすっぽり記憶から抜けている。



「ああ、もしかして幼稚園のときが初恋だったとか?」

「え……ああ……そうかも。だから覚えてないのかな」

「あるある。あ、いっけね、もう下校時刻過ぎちゃった。かえろ苹果」

「うわやばっ」



下校時刻になっても、外はまだ明るい。
半年後のこの時間には街灯がないと真っ暗だというのに。

途中で出あった見回りの先生に、さよーならと愛想笑いを投げかけて、彼女と昇降口で別れた。


家に帰る前にスーパーに寄らなくっちゃ。
だって今日はカレーの日。
ママは仕事が終わったらすぐに家に帰ってくるって。
だからおいしいカレーを用意して待っていよう。


「ありがとうございましたー」


店員の気の抜けた声を背で受けながら、リンゴのたっぷり入った袋を抱える。
じゃがいも、にんじん、たまねぎなど、ほかの材料は家に残ってるから大丈夫。


「あとはこの子がいれば、とーってもおいしいカレーの出来上がり!」



家までの数十分、やることもないので今日の出来事を思い出す。
一番最初に思い返したのは、私の初恋のこと。


「結局だれだったんだっけなー」

幼稚園で一緒だったあの子かな?
それとも小学校が一緒だった、足の速い彼?
どれもしっくりこない。


何事も白黒はっきりさせたいし、割り箸は完璧に真っ二つに折らないと気がすまない私としては、
なんとも釈然としない記憶だ。


「あーーなんかもやもやするなぁ!……って、あ!」


思わず片手を袋から離して、頭を抱えたときだ。
袋から真っ赤なリンゴが一個飛び出て、
くるくる回りながら坂道を下っていってしまう。



「ちょっ……、待ってーー!」


駈けだしてみるけど、リンゴの方が数倍速い。
どうせ傷だらけになって食べることはできないだろうけど、
もし歩いてる人がそれで転んだら大変だ。

と思ってるそばから坂道を上ってくる人物が見えた。
見たところ小学校低学年くらいだろうか、まだ子どもだ。

真っ赤な果実は少年目がけてまっすぐ転がっていく。


そこの君、危ないよ。
そう声をかけようと、口を開いた瞬間だった。


「荻野目さん」



少年の手にリンゴが収まった。
それを大事そうに両手でくるんでいる。


「どうして、私の名前を?」

「このリンゴが教えてくれたんだ」

「……」


この子、電波系なのだろうか。

普段なら真っ先にその線を疑ったはずだが…
暮れなずむ街並み。逆行で見えない少年の顔。不思議なほど静かな空気。

なんとなく非日常に迷い込んだ、そんな雰囲気が、
少年の不可思議な発言をすんなり受け入れさせた。


それにしても、どうして彼にはあたしの名がわかるのに、
あたしは彼の名が分からないのだろう。
名も顔も分からない。


黄昏。誰そ彼。
すれ違う人が知り合いか、はたまた彼岸の住人なのか
曖昧に濁される時間帯だ。


「はい、どうぞ」


リンゴを少年が放り投げる。
危なげなくキャッチできた。


「ところで荻野目さんはいま楽しい?」


初対面にしては随分変なことを尋ねる子どもである。
というか若干慣れ慣れしいというべきか。


「まあ、楽しいけど」


茫然としながらも答えれば、少年がにこりと笑う。
なんとなく懐かしく思ってしまったのは何故だろう。



「友達はいる?」「ちゃんといるよ」

「勉強ちゃんとやってる?」「今日だってテスト勉強してきたんだから」

「ご飯は食べてる?」「これからカレーを作るところ」

「夏休みはどこに行くの?」「プールとお祭りと…陽毬ちゃんと水族館へ」

「そっか」「そうよ」

「じゃあ」

「好きな人はできた?」



「……なんで、そんなこと、初対面の君に言わなくちゃいけないの?」

「別にいいじゃないか、リンゴ拾ってあげたんだから」

「好きな人はできたかですって?……なんで……なんで」

「なんで君がそんなこと言うの?」


むしろ自分自身に聞きたいくらいだった。
なんであたし、こんなにムキになってるんだろう。
なんでこんなに悲しいの?


少年は動かない。
彼の足元から伸びた影も、ぴくりともしない。


「君はだれ?私たち、初めて会ったよね」

「……リンゴはさ、兄貴が言ってたんだけど」

「ご褒美なんだってさ」



「……あたしは、リンゴは宇宙そのもので」

「あの世とこの世を結ぶものって聞いたけど」

「ああ。きっと全部正解なんじゃないかな」

「ねえ、リンゴはいいから、君の顔見せてよ」

「それはダメ」

「っはあ!?」


もういい、こっちから近づいてやると一歩足を踏み出せば、少年が一歩後ずさる。
エンドレスなイタチゴッコのはじまりだ。


「どうして意地悪するの?」

「ごめん、どうしても顔は見せられないんだ」

「なんでよ……ねえ、もしかして君が」

「あたしの初恋の人なの?」



本当にそうだとしたら、おかしいところはたくさんある。
常識的に考えてあり得ないことはわかっていた。

わかっていたけど、絶対そうだとしか思えなかった。
ねえ、あたしたち、いっぱい大事な思い出を一緒に作らなかった?

最初は喧嘩ばっかりしちゃったけど……
でも、すごく一緒にいるのが楽しかった。


あたしはあたししかいないって言ってくれたのが嬉しかった。
初めてだったんだよ、そんなこと言われたの。

君に拒絶されたときには、人並みの中で立ちつくして涙を流した。


真っ赤な夕日が見える。
真っ赤な果実が手にある。

赤、赤、赤。赤い炎。


サソリの炎。


「僕は君に幸せになってって言いに来たんだ」

「荻野目さん、どうか幸せに」



「大好きな友達に囲まれて、不得意な勉強も頑張って」

「夏休みはいっぱい遊んで、かっこいい彼氏もつくってほしい」

「たくさん笑ってほしいんだ」


おーい、と遠くから彼と同じ年くらいの子どもがやってくる。
少年は振り返ると、今行くよ、と手を振り返した。


「待って……行かないでよ。そうだ、あっちの子も誘って、うちでご飯食べない?」

「今日はカレーなの。リンゴが隠し味なんだよ?すごいおいしいんだから」

「あとね、私の名前もリンゴって言うの。だからたくさんカレーにいれるんだよ」

「ね、食べて行ってよ……お願い。行かないで」



「知ってるよ、君がリンゴって名前のこと。いい名前だよね」

「ごめん、カレーはまた今度。僕はもう行かなきゃ」

「あ…」

「さようなら荻野目さん。幸せになってね」

「待って」


———××くん!


喉まででかかった声は、言葉になる寸前で溶けて消えてしまった。
少年の姿と同じように。

後に残されたのは、坂道を転がったというのに傷一つないリンゴだけ。
あたしはしばらくその場で放心せざるを得なかった。






「おーし、テストを返すぞー」

「げえー!」


初恋とは実らないものである。


「やった!赤点回避!」

「一番星にお願いした甲斐があったー!」


それならば、何故人は恋を始めようとするのだろう。


「いや、それっておかしくない?願いがかなうのは流れ星でしょ」

「あ、また勘違いしちゃった。なんでかごっちゃになっちゃうのよね」


一番最初の恋は、きっと実らないと分かっているのに、
何故それでも人を好きになることを諦められないんだろう。



「いえーい夏休みだ!遊ぶぞーっ」

「浴衣も水着も買わなくっちゃ」


以上の問いに対して、200字以内で自分なりの考えを述べよ。

オッケー。

一つ目。
恋とはしようと思ってするものではないから。
実らないと分かっていても、気づいたときにはもう遅いのだ。


「一度きりの青春楽しむぞー」

「青春ねぇ…」

「とりあえず、今年こそ彼氏つくる!絶対つくる!」




二つ目。

例え実らなくても、その恋に意味がないわけじゃない。

悲しい思い出も切ない思い出も、いつかはきっと人の生きる糧になる。

その人と過ごした楽しい日々も、向けた笑顔も本物だったんだから。


だからね。

私と出会ってくれてありがとう、初恋の人。

「また今度」って言ってくれたんだから、いつか一緒にカレーを食べようね?

君が私の幸せを願ってくれたように

私もいつだって、君の幸せを祈ってるよ。



end.



last

 the children of destiny



僕は運命って言葉が嫌いだ。

あたしは運命って言葉が好き。

俺は、運命って言葉が嫌いだ。


私は運命って言葉が好きだよ。



陽毬「晶ちゃん、冠ちゃん、起きてよーーっ!」

晶馬「んぁぁ……陽毬? まだ7時じゃないかぁ〜」

冠葉「今日は日曜だろ…? まだ寝かせてくれよぉ…」

陽毬「だーめ。今日は苹果ちゃんと一緒に水族館に行く約束でしょう?」

晶馬「でも彼女との約束は11時からじゃないか…」

陽毬「だって楽しみで朝ごはん早く作りすぎちゃったんだもーん」

陽毬「ほら、図書館で借りてきた水族館の本、一緒に読んで予習しよ?」

冠葉「しょうがないなあ陽毬は…」

晶馬「僕まだ眠いよー」


苹果「おはよー三人とも」

陽毬「おはよう苹果ちゃん!」

冠葉「おはようっつーかこんにちは?」

晶馬「おはよ荻野目さん。じゃ4人揃ったし、行こうか」

陽毬「すいっぞっくかん!すいっぞっくかん!」

苹果「陽毬ちゃんは水族館大好きなのね。私もだーいすき!」

陽毬「楽しいよね〜水族館!うふふ」

苹果「今日はどっから見てまわろっか」

陽毬「えっとねぇ」


晶馬「すごい楽しそうだなぁ 荻野目さんも陽毬も」

冠葉「だな」


苹果「晶馬くんも冠葉くんも、早く歩かないとおいてっちゃうよ?」

晶馬「ああうん、ごめんごめん」

陽毬「今日はね、サメさんとーペンギンさんとー、クラゲさんとー」

冠葉「あとイルカのショーも欠かせないよな?」

陽毬「そうそう!」

苹果「あたしはウツボとか変なカエルとか見てみたいかも」

晶馬「げッ……カエル?もう僕の背中に乗せるのはやめてくれよ」

苹果「のせないってば!」



陽毬「うわぁ〜〜、すごい人だね」

晶馬「はぐれないように気をつけないとね」

冠葉「晶馬、はぐれちゃいけないから手を握ってやれよ」ボソ

晶馬「は、はぁぁ!?なに言ってるんだよ冠葉!?」

冠葉「ぷっ 冗談冗談……晶馬にはそんなことする勇気ないよな」

晶馬「あ に きぃぃぃ…!!」

苹果「ねー二人ともなに話してるの?チケットの列に並ぼうよ」

陽毬「うふふ。晶ちゃんは奥手なんだよね」

苹果「?」


晶馬「うひゃー でっかいサメだ」

冠葉「そんなに近づいたら食われるぞ陽毬」

陽毬「食べられないよ。もう冠ちゃんってば、私をいつも子ども扱いして」

苹果「あ、ペンギン。かわいいね」

晶馬「ペンギンなら見あきたかな…いつも家にいるし」

冠葉「そろそろイルカショーの時間みたいだぞ」

陽毬「いこいこー!」



晶馬「………はぁ」

陽毬「さ…災難だったね晶ちゃん」

冠葉「おみやげショップにTシャツ売っててよかったな」

苹果「飼育員のお兄さんも、イルカショーでこんなに水浴びちゃった人初めてって言ってたよ」

晶馬「もー頭もびしょびしょだ。でも陽毬が水被らなくてよかった」

晶馬「風邪ひいたら大変だし」

苹果「……あ、あたしもこの時期風邪ひきやすいんだよねぇ…」

晶馬「そうそう。陽毬もこの季節よく風邪ひくよなー」

苹果「……ちょっと!あたしの話ちゃんと聞いてるの!?」

晶馬「えええっ!?き、聞いてるって!」


冠葉「はあ。まったく晶馬の奴は」

陽毬「うふふ。……あ!みんな、見てこれ。かわいー!」



冠葉「ん?」

晶馬「ペンギンのストラップかぁ」

苹果「へえ〜 かわいいね。丁度4つあるんだ、あたしたちみたい」

陽毬「4人でおそろいで買わない?今日の記念に」

冠葉「でもこれ、カップル用じゃないのか?」

冠葉「ほら、お互いくっつけるとハート型になるんだろ」

陽毬「ん〜、でも、ほかにいいのないし……」

苹果「うん、これが一番かわいいなぁ…」

晶馬「いいんじゃないかな?買おうよ、これ」

冠葉「…そうだな。俺も好きだぜこれ」



冠葉「藍色のペアと、水色のペアだな」

晶馬「普通に女の子ペアと俺たちでいいんじゃない?」

冠葉「げっ 晶馬とペア?なんかイヤだな……」

晶馬「俺だってイヤだよ!でもこれが一番いい分け方だろ!」

陽毬「……」

陽毬「私は水色がいいな!」

苹果「え?」

晶馬「ん?」

陽毬「……」ニコニコ

冠葉「……。俺も水色だな!」

晶馬「ええ?」


陽毬「じゃあ晶ちゃんと苹果ちゃんは藍色でもいい?」

苹果「ちょ、ちょっと待って陽毬ちゃん!!私晶馬くんとカップルなんてイヤ!」

晶馬「は、はあ!?僕だってイヤだよ!」

陽毬「苹果ちゃんは晶ちゃんのことが嫌いなの?」

苹果「や……嫌いってゆーわけじゃないけど、でもこんなのお揃いでつけてたら絶対からかわれるもん!」

冠葉「二人は別々の学校だし、気づかれないだろ」

陽毬「そうだよ〜。じゃあ私たちは先にレジ行ってるね!」



苹果「……」

晶馬「……」



苹果「……勘違いしないでね。陽毬ちゃんが言うから、仕方なくなんだから」

晶馬「そんなにイヤかよ……じゃあいいよ」パッ

苹果「あっ?ちょっと」

晶馬「陽毬にはあとで言っとくからさ。僕らは別の買おう」

晶馬「探せばハートとかじゃなくて、いいのあると思うんだ」

苹果「か、返してよっっ!!」バッ

晶馬「うわあっ!?」

苹果「……///」



苹果「……言いすぎた。ごめん」

苹果「…ほ、ほんとはそこまで、イヤじゃない……から///」

苹果「ただの照れ隠しっていうか……なんというか……」

苹果「そうよ照れ隠し!悪い!?///」

晶馬「なんで最後にちょっと怒るんだよ!?」


晶馬「……荻野目さんがいいなら、いいんだけどさ」

晶馬「でもちょっと照れるね……なんか///」

苹果「……///」

晶馬「貸して、それ」

苹果「えッ!?」キッ

晶馬「いや、棚に戻すんじゃないから。僕が買ってあげるよ」



苹果「へ……?」

晶馬「いつも陽毬と仲良くしてくれてるお礼として」

苹果「……そ、っか」

晶馬「あと僕もいつも荻野目さんにお世話になってるし」

晶馬「ありがとう、いつも」

晶馬「今日も一緒に遊べて楽しかったよ。その記念としてさ」

晶馬「僕からのプレゼント……ってこれじゃ冠葉みたいなキャラだな…///」

晶馬「あー、忘れて…///」

苹果「………」

苹果「……やだ。ぜーったい忘れない」

晶馬「な、なんでだよ!」

苹果「一生ずーっと忘れない!晶馬くんの今の気障なセリフ」

晶馬「頼むよ忘れてくれっ」

苹果「いやですー。……あははっ」

苹果「大事にするね!///」ニコッ



陽毬「晶ちゃんも苹果ちゃんも、そろそろお互い気づいた方がいいと思うんだよね」

冠葉「……」

陽毬「二人とも、素直じゃないんだから」

冠葉「俺とお揃いでよかったのか?」

陽毬「え?なに、冠ちゃん」

冠葉「あいつらをおそろいにするために水色にしたんだろ」

冠葉「……ほんとは、晶馬とお揃いの方が」

陽毬「冠ちゃーん。そんなに悲しそうな顔しないで?」

陽毬「私は冠ちゃんとお揃いでちゃんと嬉しいよ」

陽毬「一生大事にする!これから大人になっても、ずっとずっと大事にするよ」

冠葉「陽毬…」

陽毬「冠ちゃんも、大事にしてね?」



冠葉「ああ。勿論だ」

陽毬「うふふ。やったー」






陽毬「4人でお揃いだね」

苹果「こういうのいいよね」

冠葉「女の子はとくにこういうの好きだよなぁ」

晶馬「冠葉、なんかその発言スケコマシっぽい」



苹果「そろそろ閉館ね」

冠葉「帰ろうか」

陽毬「……うん」

苹果「また一緒にいつでも来れるよ、陽毬ちゃん」

陽毬「そうだよね……うん」

晶馬「あ!ちょっと待ってみんな!」

晶馬「あの、すいません、このカメラで僕たちのこと撮ってくれませんか?」

「いいですよー」


晶馬「ほら、そこのイルカの像のところに集まって」

冠葉「カメラそういや持ってきてたな」

苹果「もうちょっと寄って、晶馬くん」

陽毬「みんな、笑顔だよー」


パシャ


晶馬「ありがとうございました」ペコ

陽毬「うまく映ったかな?」

冠葉「現像してみないと、分からないな」

晶馬「あとでだしとくよ。荻野目さんの分も焼き増ししとくから」

苹果「ありがと」

冠葉「じゃーお手手つないで仲良く帰りましょー」

晶馬「兄貴、なんだよそれ。ははは」



陽毬「帰り道ってなんだか寂しいね」

苹果「ちょっとだけね、夕焼けみると一日が終わったんだなーって感じになるよね」

冠葉「またみんなで来ればいいよ。いつでも来れる」

晶馬「そうそう。今度はイルカショーで水を浴びないぞ」

苹果「今日は楽しかったね」

陽毬「楽しかった。ほんとに。私、絶対忘れないよ、今日のこと」

晶馬「大げさだなぁ……またいつでも来れるって言ってるだろー?」

陽毬「でも、今日は一回限りだもん。何回来たって、今日の思い出は今日だけのものなんだよ」

陽毬「だからね、私ずーーーっと覚えてる。今日の楽しかったこと」

陽毬「全部、全部覚えてるからね」

陽毬「例えいつか、私の記憶が奪われることになっても」


苹果「……あたしも忘れない!今日の気持ち」

晶馬「僕だって忘れないよ」

冠葉「俺だってそうさ。なんだよみんな、今日はノスタルジックな気分なわけ?」

陽毬「そうかもね。……あーっ、お腹すいたなー」

晶馬「切り替えはやっ」

冠葉「荻野目さんも一緒に食べようよ」

苹果「いいの?じゃあ、お邪魔しよっかな」





忘れないよ。ずっと、ずっと。

例え運命が私たちを隔てても。

一緒に過ごした思い出を奪っていっても。


絶対に忘れない。




僕は運命って言葉が嫌いだ。

あたしは運命って言葉が好き。

俺は、運命って言葉が嫌いだ。

私は運命って言葉が好き。


「僕は運命って言葉が嫌いだ。生まれ、出会い、分かれ、成功と失敗、人生の幸不幸」

「それらが予め運命によって決められているのなら、僕たちは何のために生まれてくるのだろう」



「俺は運命って言葉が嫌いだ。あくせく毎日を過ごすためだけに人が作られたのだとしたら」

「それは何かの罰なのか。それとも皮肉なジョークなのか」



「あたしは運命って言葉が好き。だって運命の出会いっていうでしょ?」

「たった一つの出会いが、その後の人生をすっかり変えてしまう。そんな特別な出会いは偶然じゃない。それはきっと運命」



「裕福な家庭に生まれる人、美しい母親から生まれる人、飢餓や戦争の真っただ中に生まれる人」

「それらが全て運命だとすれば、神様ってやつはとんでもなく理不尽で残酷だ」



「ああ、その通りだ」

「人は運命に逆らえない。俺たちは生まれたときから……」

「ただ決して何者にもなれないって事だけがはっきりしてたんだから」



「でも……不幸を運命だって受け入れるのはとても辛いことだけど」

「あたしはこう思う。悲しい事、辛い事にもきっと意味はあるんだって」

「無駄なことなんて一つもないよ。あたしは運命を信じているから」



「そんな風に思える君はおかしいよ」

「ああおかしい。俺たちのことを何にも知らないんだ」

「やっぱり君と僕とは違うんだ」


「ちがくっても、分かりあえるよ」

「箱の中にひとりぼっちの世界だけど」

「一生懸命手を伸ばせば、触れ合うことができるんだもの」



「私はね」

「私は………」



「私は運命って言葉が好き」

「だってみんなに出会えたのは、運命のおかげなんだから」

「不幸は辛かったよ。罰は痛かったよ。でも、それでも」

「みんなに出会うためだったと思えば、全部全部ささいなものだよ」



「ああ……」

「そうだな」

「出会うためだったのか」

「全て」



「一緒に過ごしてくれてありがとう」

「思い出と笑顔をありがとう」

「大好きだよ。ずっと」


全部忘れちゃったけどね、全部覚えてるの。

全部覚えてないけど、全部忘れないよ。






「私は運命って言葉が好き」

「信じてるよ。いつだって、一人なんかじゃない」




end.

読んで頂いた方、ありがとうございました。

乙乙
壁ドンしながら泣いた
いいね。
難解なテーマをわかりやすく砕いてくれて
いいお話を作ってくれてありがとう。
真砂子の視点もほしいね

             _ノ(
                ,、-——ー-- 、___, て

              // /   __,ノノノ、  く  (
              /   / 、_,   从 | イヤア
              //l/ / o=,、  ''、!| l|ノ i |l
             イ | l|イ!   `' , l;;メ川l ,,
             !l川 ノ| " (`ヽ "川  "''ー- 、,, _     あー

            モミ   ノVl|ハト、_  `´ ノノノ       |   ̄`l
              モミ     ノノ  _ '´⌒ヽ ,-、       |    |  やっぱり○稚園児の
          / /  nノ´   ´     l´)_,ヽ    .|    |
           | l  l´ )     :r;:  Y  ノ  /    |    |   シマリはいいYO!!
.   ズッ        `/   ゙      | /  /●   |    |
.       ズッ  //     / ̄`ヽ   /     /    |
      __ / / '   /     ヽノ ///  /    /
   /´     ̄ ̄'    ´  l⌒l    ヽ    /_   /
  /      // lλ '     ヽ \   ヽー''"  _)  /
      ノー----/::::,'、_   _,ノ `ー`ヽ  ヽ—''"´  /
    /',  `''‐- |::ノ(| ゚。 ̄///    (   \ ヾ /

  /  /`)   '、:::: ''‐- 、,,     / `ヽ、つ_) l |

      /     u`" //  "'' ヽ/     / ノ ノ
        `'' - 、,, J   r‐、   ',     /
            "'' - /  /   ',   /   ズッ



Fabulous max!

ピンドラSSとか見てたまるかと思ってたんだけど(本編が物凄く好きだから)
見てみると、あの後こうなってるのかもなぁって切なくなった

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