あずさ父「娘がアイドルになった」 (41)



「お父さん、聞きましたか?」

「何をだ」

「あずさ、短大卒業したら、仕事どうするか」

東京に行かせた娘からは、短大の卒業後の進路をまだ聞いて居なかった。

「いや、あずさはなぁ…あんな感じの子だからなぁ…」

正直、測り兼ねていた。

ぼんやりとしたところがあるから、社会人としては心配だった。

「それがね、聞いて驚かないでください。アイドルをやるって」

夕飯の味噌汁が、盛大に弧を描いた。


「もう、汚いじゃないですか」

妻が、顔を顰めて台拭きを取りに行く。


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小さい頃のあずささんは手がかかっただろうな……方向音痴だし

これは期待


「か、母さん、何だって?」

「だから、あずさが、アイドルをやるって」

「…んな馬鹿な」

「ほら、これ、事務所の社長さんの名刺」

「…765プロダクション?聞いたことが無いな」

「芸能事務所なんてそんな物でしょう」

晩飯もそこそこに、携帯片手にその番号に電話を掛けていた。


「あ、もしもし、765プロダクションでよろしいですか…はい、私三浦と申しまして…」

電話に出た、若い女性事務員に事情を話すと、直ぐに社長を出してくれるという事になった。

「ええ…はい…はあ…そうですか…いえ…娘を、よろしくお願いします」

曰く、彼女の決心は強く、プロダクションとしても全力を挙げて彼女をトップアイドルにして見せるとの事だった。

これは、あずさにも電話を掛けなければなるまい。



「ああ、あずさか…どういう事だ」

東京の短大に行くと言って、上京した娘の声を、自分の携帯電話で聞くと言うのはあまりない経験だった。
妻にしか電話をしない娘に直接電話したのは、片手に余るほどだった。

『どういう事も何も…私、運命の人と出会う為に』

歳の割に、夢見がちな所もあったが…

『とにかく、もう私、決めましたから!』

「だからといってあずさ、アイドルなんて」

こうと決めたら動かない以外に頑固な所は、妻に似たようだ。

「あずさ、絶対に許さんぞ」

『何度言われても同じです』

「あずさ!」

『絶対に嫌です!』

「…切れちゃった」

それから幾月が経ち、久々に自分の娘の名前を、しかもTV画面で見る事になった。

出世はえー




『それでは、765プロダクション新進気鋭の新ユニット、竜宮小町で『SMOKY THRILL』です!』

「…おい母さん、あずさがテレビに!」

「知ってますよ〜、最近話題の新ユニットって…新聞、見てないんですか〜?」

「芸能面は見ないから…大きくなったな」

「ええ、あの子がこんな動きを…表情を見せるなんて、知らなかったわ〜」

「…スタイルも良くなったな、お前に似たのか」

「あっ…あらあら、やあねえお父さん、もうっ」

持っていたお盆で頭を叩かれた。

我が娘ながら、やはり美人だと思う。

何時しか私は、アイドル三浦あずさのファンになっていた。

娘という事を贔屓している以上に、彼女の魅力に取りつかれていた。





「このーさかーみちをーのぼるたーびに…か」

「お父さん、それ」

「ん?この前あずさの出した新譜、CD屋で予約したんだ」

「呆れた、それで朝早くから出かけたんですか…あんなに反対していた人が」

「反対はしてないさ…心配だっただけだ、運命の人を探すーなんて、ぼんやりした理由でアイドルなんか」

「その、運命の人なんだけどね」

「ん?」

「なんだか、見つかったらしいわよ」


「は?」

暫く、その言葉の意味を反芻していたが、心当たりに気が付いた。

「…あの男か」

一度だけ、会った事がある。娘の様子を見に行ったとき、事務所で会ったプロデューサーだ。

「今度、家に来るそうだけれど」

「…そう、か」


複雑だった、自分の娘の恋人。

そしてファンであるアイドルの恋人。

巷では、そういう事が公になれば大騒ぎになっている。

ついこの間、丸坊主になったアイドルが居たではないか。

…複雑だ。どう顔を合わせればいいのか、分からなかった。


昔から、フラフラと迷子になる癖があった子だった。

優柔不断で、だけどこうと決めたら頑固なまでに一途で。

そんな娘の決めた男だ。

恐らく、自分がどうこう言った所で仕方がない。

あずさの好きに、させようじゃないか。


期待


そう心に決めて臨んだその日だったが…





「あずさは君にやれん!」

「お義父さん、私は全身全霊を掛けて彼女を幸せに」

「君にお父さんなどと言われる筋合いはない!」

やってしまった。テンプレート通りの、頑固親父を。

「大体だな、君は自分の事務所のアイドルに手を出したんだぞ!プロ意識が無いのか」

言わなくても良い事を、言ってしまった。

「あずさ、芸能業界の男なんて、ロクな奴が居るって話を聞かないぞ」

また、要らないことが口を突いて出る。

「どうせ、あずさとも遊びなんだろう?」

「お義父さん、私は」

彼が弁解を述べる前に、私の頬に衝撃が走った。


「…!」

「あ…ずさ…」

目に涙を浮かべ、怒りに満ちた表情で私を睨み付けてくる。

思わず、その視線に私は怯んだ。

「お父さんの…お父さんは何にも分かってない…プロデューサーさん…彼がどれだけ…お父さんが許してくれなくたっていい!私はこの人が運命の人だって決めたんです!」

「…あずさ」

「あなた、ちょっと落ち着きなさいな、あずさも、ほら、座って座って」

妻が、私とあずさを宥めようとするが、それさえも不快だった。

「…もういい!好きにしろ!」



やってしまった。

何故だろう、分かっていた筈だ。

あずさが運命の人と決めた彼は、悪い人間では無い。

大凡、会って来た人間の中でこれほど誠実で、真面目で、一本気な人間はいなかった。

だと言うのに、なぜ。

書斎に戻った私は、ただただ、自分の頑固さを悔いた。


「ごめんなさいねPさん、あの人もちょっと混乱してるだけなのよ」

穏やかな笑みを浮かべて、茶化すような声音のあずささんのお母さんは、あずささんをそのまま30歳ほど歳を取らせた感じだった。

ある程度予想はしていた。

あずささんは、一人娘。

オマケにその相手が芸能事務所のプロデューサーでは不安だろう。

「いえ、私にも責任は」

「プロデューサーさんは悪くないですよ」

「あずささん、でも」

「ほんと、頑固なんだから…」

すねたような表情のあずささんは、あまり見た事が無い。実家で、親と話す時には一人の子供としての顔が出るのだろう。

「あずさも相当よ」

「お母さんだってそうじゃない」

「あら?そうかしら」

「…とにかく、私はもう決めたんです」

「あの人も、分かっていると思うわ。でもね、父親って言うのは、こういう時素直になれないのよ…娘が可愛ければかわいいほどね」

「…」

「Pさん、今日の所は、お引き取り願えますか?遠路はるばる、ご苦労様です」

「お義母さん…」

「は〜い?」

「…これを」

「…三浦あずさ、引退ライブ」

「お義父様にも、是非来ていただきたいんです」

「分かりました、引っ張ってでも連れて行くわ」

「…じゃあ、お母さん、またね」

「うん、あずさ、こんな良い人、逃がしちゃ駄目よ〜」

「…はい!」


書斎の窓から、我が家を後にする娘と、義理の息子になるであろう男が歩いていくのが見える。

「…俺は馬鹿だな」

「ええ、本当に馬鹿です」

後ろから突然聞こえた妻の声に、慌てて振り向く。

「単純馬鹿で頑固で一本気で単純で、娘思い…」

「…単純馬鹿で悪かったな」

「うふふっ…分かっているなら、はい」

「…チケット…?」

「あなたにもぜひって、彼が」

「…」

「ファンとして、父親として、ケジメを付ける積りで行ってあげましょうよ」

「…」

チケットの日付は、彼女の誕生日、7月19日だった。



「…来てしまった」

「暑いわねぇ」

新幹線を使い、遥々東京都内のイベント会場に来たのは、もちろんあずさのライブに参加するためだ。

開演数時間前だと言うのに、物凄い人の数であった。

「関係者の方は、こちらからどうぞ」

「こんにちは」

「おお、三浦さん、お久しぶりです」

「社長さん…」

765プロの高木社長は、以前会った時と変わらない人懐こい笑みを浮かべていた。
しかし、それも消え去り、深々と頭を下げる。

「今回は、私の会社のプロデューサーが、どうも失礼しました」

「いえ…あの子の選んだ男ですから」

「この業界で、アイドルに手を出すのと、アイドルの恋愛はご法度…とは言え、彼女達はアイドルである前に、1人の女性。その人生を我々の利益の為だけに束縛する訳には行かないですから」

「たとえそれが、プロダクションの危機になるとしても、ですか?」

そんな事が突然口を突いて出たのは、頭の悪そうな芸能紙の中づり広告を見ていたからかもしれない。

「確かに、今回の件は大きな騒動になりました。ですが、彼女自身が運命の人を探していると言う事を公言していた所為か、祝福ムードもあるようで」

「成程…社長さんから見て、彼はどうですかな?」

「誠実で真面目で一本気、少々真面目すぎる気がしますが、良い男です」

「…そう、ですか」

「向こうのご両親とは」

「…いえ、まだ…」

「そうですか…今日のライブ、楽しんで行ってください。三浦あずさ…娘さんのアイドルとしての最後を見届けてあげてください」






三浦あずさ引退ライブ、聞いていた通り盛況らしく、チケットは即日完売、物販の列は6時間待ちというから1人のアイドルのイベントとしては、かなり大きな物だろう。


「凄い人だな…」

関係者席から見下ろす会場は、既に超満員だった。

「5000人収容のホールらしいけれど…」

「おっ、三浦さん、来てたんですねぇ」

「双海さん、お久しぶりです」

竜宮小町のメンバーである双海亜美、そしてその姉の双海真美の父親である双海先生とは、竜宮小町のライブの際に何度か会っている。

「んっふっふ…大変ですなぁ、これから」

意味有り気に微笑んで見せた双海先生に、引きつった笑いを浮かべるしかなかった。

「おっ、そろそろはじまりますよ」




スゴイ、の一言だった。

ライブ自体は何度か見に行っているが、気合の入り方は今回の方がはるかに上だ。

隣で、双海先生がサイリウムを振っている。

『SMOKY THRILL』、『ハニカミファーストバイト』、『七彩ボタン』と言う竜宮小町の曲で始まったライブ。

トークも挟み、中盤に差し掛かったころ、あずさが一人でステージに立った。

『皆さん…私は〈運命の人を探す〉と言う理由で、アイドルを始めました…色々な情報が出ているようですけれど、私、決めたんです…だから、アイドル三浦あずさは、今日で皆さんとお別れになります…』

事前情報を聞いていたから、ファン達の反応は大人しいように見えた。

隣の双海さんは、泣いていたが。

『私は、事務所で最年長なんですけれど、いつも道に迷ってばかりで…スタッフの方々や、皆にも、迷惑ばかりかけてきました』

しんと静まり返った会場からは、すすり泣く声も聞こえてくる。

『ファンの方々にも、こうして…』

言葉を詰まらせたあずさに、双海亜美と水瀬伊織が駆け寄る。

『私を、送り出してくれること、本当に感謝します…!私が居なくなっても、765プロは無くなるわけではありません、他の子達の応援、よろしくお願いします!』

その瞬間、拍手が会場の一角で鳴った。


他でもない、自分だった。

父親として、いやファンとしての自分が、今手を叩いている。

何時しか拍手は会場全体を包み込み、おめでとう、あずささんありがとうと言う声が割れんばかりに轟く。

『みなさん…本当にありがとうございます!』

一瞬、あずさがこちらを…いや、考え過ぎだろう。

『それでは…ここからは、三浦あずさソロパートですよ〜!』



デビュー曲である『9:02PM』、2曲目は『まっすぐ』、3曲目に『ラブリ』、途中途中であずさのトークパートや、他のアイドルによるお別れメッセージなどが読み上げられ、その度に涙腺が緩んでしまった。


『みなさん…次の曲が、私の最後のステージになります…曲は…『隣に…』です』


その瞬間、私は身震いした。

会場全体が、一瞬にして紫色のサイリウムの光で満たされた。

ゆっくりと振られるその輝きは、まるであずさを送り出すかのような優しい動きだった。


後で気付いたのだが、私は泣いていたようだ、帰り際、妻に言われるまで気づかなかった。これほどまでに、娘がファンの方々に愛されているという事、彼女がどれだけの努力を重ねて、この場に居るのだろう、そういった事を考えていたら、涙があふれていたようだ。

あずさが歌い終わると同時に、会場内は万雷の拍手と、声援が鳴り響いた。


ライブが終わると、私は一か所、行かなければならない場所があった。

「お疲れ様でーす」
「お疲れ様です」
「三浦さんは、この後」
「娘の楽屋に、行ってきます」
「そうですか、それじゃあ、またお会いしましょう」

また、双海先生の意味有り気な笑いに、今度は自然に笑みを返せた…と思う。


「…」

この前、実家にあいさつに来て以来電話もしていない。
どうやって入ろうかと思っていると、後ろから声を掛けられた。

「ど…どうも、お疲れ様です」
「ご苦労様…」

件の、彼だった。
どう切り出そうかと、悩んでいると、彼の方から口を開いた。

「…どうぞ」

おい、あずささんスレなら早く俺を呼べよ


「…あずさ、入るぞ」

「え?!お父さん?!来てくれてたんだ!」

「…今日のライブ…感動した」

まだステージ衣装のままの娘に、率直に感想を言った。

「その、なんだ…ありがとう」

どうも固い、やはりこの前の件が棘になって刺さっているせいだろうか。

「…あずさ。私は…その…なんだ、焼き餅を、焼いていたのだと思う。アイドルとしてのお前、娘としてのお前、その両方を持って行ってしまう彼に対して…だが、お前がこうして積み重ねてきたアイドル活動の時、いつも隣に居たのは、彼や、765プロの皆だったんだな…私は、ファンとして、そして父親として、それを送り出すのが正しい事だと思う…」

「お父さん…」

「私は…お前の様な娘を持てて、幸せだった。これからは、彼と二人で、これからの人生を、歩んで行け…」

「はいっ…」

何年振りだろうか。娘をこの腕に抱いだのは。

あのころと違い、すっかり大人の身体になり、背丈も私の腰までしかなかったのが、今や私とほぼ同じくらいまで伸びた。

「…今日は疲れただろう、ゆっくり休んで…また、帰ってきなさい」

「…はい」

がんばれ

大丈夫、書きだめあるから。





楽屋を出ると、彼は緊張した面持ちでこちらを見てきた。

「あの…」

「…また、うちに帰ってきなさい」

私がそう言うと、彼は、満面の笑みを浮かべて、頭を深々と下げてきた。

「はっ、はい!お義父さん!」



やはり、まだお義父さんと呼ばれるのは、くすぐったかった。




「あなた、どうでしたか?」

妻は、にこやかに私の事を待っていた。

遠くでは、双海先生が娘さんとじゃれ合っている。

「…なあ、母さん…俺の礼服は、サイズ合うのかな」

我ながら、素直じゃないと思ったが、長年連れ添った妻は、それですべてを理解してくれたようだ。

「…!お腹周りがきついかも知れませんよ、うふふっ」

「…そうか…直しに出しておいてくれ」

「はい…でも、その時は、紋付かモーニングですよ」

「…そうだな」

ライブ会場の周りでは、765プロを支えるファン達が、ライブ後の余韻に浸っていた。

私達は、それを見ながら、帰りの新幹線に乗る為、会場を後にした。


それから、半年が過ぎた。

三浦あずさ引退の騒ぎも過ぎ去り、テレビでは相変わらず、様々なアイドルが出ては消えていく。

しかし、765プロは相変わらずの快進撃でだった。

そんな頃、私はモーニングに身を包み、結婚式場に居た、

「…変じゃないか?」

「はい、とてもお似合いですよ」

「ネクタイ…」

「大丈夫、お父さんがソワソワしてどうするんですか?」

落ち着ける訳が無い。
一人娘の結婚式なのだ。

「…あずさは、ステージに立つのに慣れてるから良いとして、花嫁の父親がこれじゃあ、心配だわ〜」

「うっ、煩い、最初で最後の娘の結婚式だぞ!」

「うふふっ、そうですね」

「…ちょっとお手洗いに」

「はいはい」

僕は今日、あずささんと結婚します!!!



新郎の控室の前には、彼のご両親とその親族がいた。

散々昨日の夜は飲み明かしたのに、彼の父親はそんな事も感じさせない表情だった。

軽く会釈して、控室に入る。


「私だ、入るよ」

彼もまた、凛々しいタキシードに身を包んでいた。

悔しいがいい男だ。

「ほぅ…何と良い面構えだ」

「お義父さんもお似合いですよ」

「…私と妻は、ケンカもしたが、この年まで仲良く過ごしてきた。今でも一緒のベッドで寝ているし、月に数回は2人でデートもする」

「それは良い事だと思います」

「はははっ…君達も、そうであってほしい…いや、そうなるだろうな。…ここまで来たら、私から言う事はそう多くない…あずさの事、よろしく頼むよ…    君」

泣きそうな顔を見られたくない。
軽く頭を下げた後そのまま彼に背を向けた。

「…はいっ」




「どこに行ってたんですか?」

「外の空気を吸いに」

「…ふふっ、そうですか」

「何だ…あずみさん」

「…何ですか、急に昔みたいに」

「…いや、彼がいつもあずさに〈さん〉付けで呼ぶもんだから」

「そういう物ですよ」

「そうかな…」

「あの子達にも、その内子供が出来て、お父さん、お母さんと呼ぶようになって、子供が巣立って、何時か…」

「…孫の顔、俺が生きてる間に見せてくれるのかな」

「あらあら気が早いですよ、     さん」

「…なんだ急に」

「あなたの真似ですよ、うふふっ」

「そうか…」

『新婦のお父様はいらっしゃいますか?間も無く式の開始時間です、ロビーまでお越しください』

「ほら、行ってらっしゃい…娘に父親がしてあげる、最後の仕事ですよ」


「どこに行ってたんですか?」

「外の空気を吸いに」

「…ふふっ、そうですか」

「何だ…あずみさん」

「…何ですか、急に昔みたいに」

「…いや、彼がいつもあずさに〈さん〉付けで呼ぶもんだから」

「そういう物ですよ」

「そうかな…」

「あの子達にも、その内子供が出来て、お父さん、お母さんと呼ぶようになって、子供が巣立って、何時か…」

「…孫の顔、俺が生きてる間に見せてくれるのかな」

「あらあら気が早いですよ、     さん」

「…なんだ急に」

「あなたの真似ですよ、うふふっ」

「そうか…」

『新婦のお父様はいらっしゃいますか?間も無く式の開始時間です、ロビーまでお越しください』

「ほら、行ってらっしゃい…娘に父親がしてあげる、最後の仕事ですよ」

ロビーに付いた途端、私は目を奪われた。

純白のウェディングドレスに身を包んだ娘の姿は、かつての妻の姿瓜二つだったからだ。

「あら…どうしたんですか?お父さん」

「…いっ、いや、何でもない」

それ以上に、あずさの姿は、美しかった。

「…お父さん、ありがとう」

「…よせ、今言われると泣きそうになる…披露宴の最後までそういう事は言わないでくれ」

「…ふふっ、そうね、花嫁の父親が、涙でぐしゃぐしゃじゃあね」

「…言うようになったな」

「うふふっ」


チャペルの扉が開かれ、満席の式場が見えた。

壇上には、新郎の姿が。

娘の横顔は、これまで見た笑顔の何よりも晴れやかで、美しかった。

私は、こんな娘を持てて、幸せだ。


バージンロードを歩きながら、娘との思い出が頭を巡る。

病院から、妻が産気づいたと電話があって、仕事を放り出して駆けつけたは良い物の、病院に行くのに迷ってしまい、分娩室に入ったのは本当に生まれる直前だった。

過保護なまでの私の気遣いに、妻は呆れ顔であずさをあやしていた。

初めて、言葉を発したのが「あらぁ」だった。妻の口癖が移ったらしい。

掴まり立ちが出来るようになったと聞いた日は、部下を無理やり連れて呑みに行って祝杯を上げた。

初めて行った遊園地、着ぐるみが怖いと泣きついてきた3歳の春。

買い物に行って、目を離した一瞬で居なくなり、方々探し回って駐車場の車の横でうずくまっているのを見つけた4歳の秋。

公園に連れて行くと、何時もいつの間にかいなくなり、あり得ないほど遠くに移動していた5歳の冬。

幼稚園ではお姉さんタイプで、いつも年少や年中の子を世話していたが、やはり迷子になり幼稚園から電話がかかってきた幼稚園時代。

小学校に入学すれば、集団登下校だから安心かと思えば校内で迷子になっていつも家庭訪問でそれを注意された小学校時代。

中学校に入ると、思春期だからか私との距離は開いていく悲しさを味わった。

それでもいつの間にか、また昔の様に接してくれるようになって安堵した。

高校に進学すると、家に近い高校にも拘らず、いつも迷ってばかりで結局、3年間私が送り迎えをしてやった。

卒業すれば、短大に入ると言い一人暮らしを始める。

食卓を囲む娘の姿が無いだけで、これ程寂しさを覚えるとは思って居なかった。

アイドルをやると言った時、正直無理だと思っていた。

だから頭ごなしに駄目だ、許さないと言っていた。

運命の人を見つけるなんて、そんな馬鹿げた事を。

そう思っていた。




だが、彼女は立派にアイドルとして活躍し、人生を共に歩む事が出来る伴侶を見つけた。

これからの人生では、彼が彼女との思い出を作っていく。

私は、これまでの思い出を胸に、残りの人生を過ごしていく。

壇上に着くと、腕を組んでいたあずさがそれを離し、彼の横へ並ぶ。

私の仕事は、これでお終いだ。

親族の席に着くと、式が始まる。

式が終わるまで泣くなというのは、恐らく無理だろうなと思いながら、滲む娘の背中を見つめていた。



はい、お粗末さまでした。

乙乙

ほっこりして良いねえ

乙‼

乙したー

そう言えば、もう今月誕生日だよな



Pとあずさ父、酒飲みながら談笑とかしそうだけどなぁ

のび太の結婚前夜的な

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