P「ああ、律子に拘束されて無理やり犯されたいなー」 (8)

ゆっくりと意識が覚醒する。
それは生ぬるい水に溶けたミョウバンが徐々に集まり、
結晶となっていくような、そんな緩やかな覚醒だった。
気持ちを焦らせないように、静かに記憶をたどっていく。

昨日は……いや、今日か?
……まぁ、いい。
眠ってしまう前は確か、近ごろ増えだした事務仕事をいつものように
せっせせっせと片付けていて、それで——

「それから、何だったかな」

口に出してみても思い出せない。
そのものと周辺の記憶がぽっかり抜けてしまっていた。

最近、残業続きだったからな。一つ溜息をついて、寝返りをうつ。

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寝起きだからか、まだ瞼は持ちあがらず、身体も思うように動かない。
肌触りを頼りに今いる場所を確認できた。

幸い、自分が寝ていたのは柔かく、良い匂いのするベッドの上のようだった。
事務所の床に寝ていたら、『プロデューサーが倒れた!』なんて、
大騒ぎになったかもしれない。一先ずほっとした。

しかし、自分はどれくらいの時間、寝たんだろう。
緩い眠気と、久々に感じる快眠の清々しさから、考える能力が麻痺していた。

暫くして、得意の心配性気質が顔をのぞかせる。仕事は、事務は、食事は……。
次から次へと湧き出てくる不穏な思念に、久しぶりに休まった身体が
また次第に元通りに重くなっていくのを感じた。

ともかく、早く事務所に行こう。

目を開け、起き上がろうとした。しかし目は開かない、起き上がれない。おかしい。

瞼に触れようと右手を持ち上げると、引っ張られるように左手がついてきた。
いよいよ、パニックになる。

自分が今、どんな状況に置かれているのか——

自棄になって、しかしまだ遠慮気味に手を振り回すと、
ジャラジャラと金属音がした。恐らく、鎖だろうか。

そして、目が実は開いていることに気付く。
じゃあ、何故一向に視界は開けない。

拘束された両手で不器用に顔面を撫でると、目を覆う柔らかな布を確認できた。

身体中から噴きだす冷えた汗のおかげで、肌着が身体に貼りつき、気持ち悪かった。
過呼吸気味になりながら身体をくねらせ、ずらし、そしてベッドから落ちる。

あまり高さのないベッドだったらしく、衝撃はそれほどではなかった。
代わりに別の、精神的な衝撃が自分を貫いた。

首に何か、抵抗感がある。

恐る恐る触れると、自分の首に革製の何かが巻き付いている。
その何かには少し太めの紐が繋いであった。

緩く張ったその紐は、今しがた落ちたベッドのどこかに繋いであるらしかった。
試しに、手で引っ張る。ギシギシとベッドが音を立てた。

自分の周りにある、見えない何もかもに混乱し、呼吸がますます荒くなる。
当て布の下で涙が滲んだ。

「誰か!誰かいないか!」

声を限りに叫んだ。誰か、誰か……。
叫びが泣き叫びに変わって、徐々に疲れ、最後にはすすり泣きに変わった。
背中を丸めて嗚咽を漏らす。

暫くしてから物音がした。ドアの開く音。

助かった——

そう思ったのも束の間で、ゆっくり、そして真っ直ぐ自分に向かってくる足音に、
また心臓と肺が騒ぎ始める。

傍に近づいて近付いて、身をかがめる気配、衣擦れの音。
身体が情けなく震えた。自分の荒く、拙い呼吸とは対照的に、
その何者かの呼吸は落ち着いて、堅調だった。

何者かは耳元で囁いた。その声は、よく知っている声だった。

「プロデューサー、起きたんですね。どうです?よく眠れました」

「り、り、律子……」

律子の声と分かって、一気に身体と精神が弛緩した。

「はいはい。りっちゃんですよ。情けない声上げないでください」

安心から、溜息が出る。長く、深く。
「よかったぁ〜」
我ながら間の抜けた台詞だ。しかしすぐにまた、疑問は湧き出る。それも大量に。

ここはどこで、自分はどうして拘束されていて、昨日は自分は何をしていて——
何故、律子が居るのか。

まず、何から訊くべきだろう。
こういう、複数の選択肢があるとき、自分は遠回りをするのが常だった。
始めは本題を避けて、当たり障りのない話題を提起する。

この不可解かつ場合によっては危機的な状況でも、その悪い癖が出た。

「今、何時?」

自分を端から見ていたら、多分、最高に笑えただろう。


「九時半です」

くすっと可愛らしい笑い声を上げ、そして、優しく目隠しを外してくれた。
目の前に居るのは間違いなく律子だった。

暫く、ぼんやりと部屋を見渡す。窓の光に思わず目をしかめた。


——この部屋は律子の部屋だ。

「以前、来たことありましたよね?」

無言で頷く。既に関心は他に移っていた。
それは、自分の身体に装着されている拘束具。

手枷、足枷、そして首輪。緩すぎず、締めすぎず、絶妙な加減で自分を動けなくしていた。
そして、俺の目隠しは外したのに、律子は拘束具を解く素振りを見せなかった。

「さて、プロデューサー」

自分が身体を起こすのを手伝い、ベッドのふちに寄りかからせてから、
律子は意地悪そうに笑った。

「あなたはどうされるのが一番悦ぶのかな?」

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