いもうと×どらごん (548)


 このスレは>>1が書いた小話その他を投下するスレです。

 予定としては

「いもうと×どらごん」

 ほか短い話(主に前スレの短編)を考えております。


前スレ
男「ベホマズン(物理)」 魔王「それはおかしい」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1333058732(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)

ほう



『第0話 橋の下のどらごん』


 春と呼ぶには肌寒い季節の話。

 後にとーちゃんと周りで呼ばれるようになる二十代の青年が、帰宅の途に
ついていた。

 寂しいという気持ちを持ってるなら、結婚しても大丈夫だろう。

 社内で倒れた三十路の先輩社員が青年に語った言葉が耳に残る。
 他に家族を持とうとせず、搬入先の病院で医師からの告知を静かな顔で
受け入れていた先輩社員。社を代表して見舞いに来た青年に診断書の複写を
託し、明日からは引き継ぎ作業になるから頼む、と十も年下の青年に頭を
下げていた。

 青年にも一応の家族はいた。

 この御時世に幸運にも正社員となることが出来たのだ、そろそろ身を固
めてもいいじゃないかと見合いを薦められてもいた。
 青年が先輩社員に相談したのは、彼が倒れる二日前。
 病床の上で先輩は、お前さんなら家族を持てるぞと、死相を浮かべた顔で
無理やりに笑顔を作った。

 夜の風が冷たい。
 嬉しくも悲しくもなく、どうして先輩がという理不尽な怒りが胃の腑を
鈍く熱く焼いている。怒りが冷めたら人目もはばからずに泣き出してしま
いそうだった。

『泣けば良いではありませんか』

 声は橋の下から。
 いつのまにか土手の道を歩いていた青年は、心の中を読んだ声の主に
ぎょっとしつつ、自分の気持ちを認めたくない一心で怒鳴り返そうと声の
主に視線を向け。

 そこに一頭の美しい竜を見た。

『こんばんわ、お兄さん』

 流暢な人語を話す竜は、身体が透けていた。
 ああ、こいつもじきに寿命を迎えるのかと青年は理解し、不思議と心が
落ち着くのを実感した。

『お暇なら、私が先刻産み落とした卵を預かってくれませんかね』

 最期の懇願であろうに、あまりにあっさりとした語りかけに青年は苦笑し
誠心誠意をもって、消える竜を前に頭を下げた。

 先輩社員が息を引き取り、見合いで結婚を決める一年前の出来事である。


【第一話へ】

やった事ないけど、サンサーラナーガ的な?

サンサーラ・ナーガ超なつかすいな…
みじんこピンピン

大期待(物理)

期待×支援

これは・・・妹のほうをドラゴンにしたってことかな?

たまらん書き出しだ!はよはよ

結婚前にもらった卵=どらごん(兄)
結婚後に生まれた娘=いもうと

まだかね

【第一話 いもうととドラゴンのよくある登校風景】


 風紀委員の憂鬱は、だいたい午前8時25分ごろに始まる。

 比較的自由な校風で知られ生徒の自主性を重んじる学園として認知され
早五十年。学生運動がどうでもいい場所にまで血なまぐさいものをまき散らし
ていた頃に、とにかく勉強したい・学校に行きたいと訴えた者たちを受け容れて
始まったという私塾は今では県内有数の進学校のひとつに挙げられる。

 学校指定の制服はあるが、着用は生徒の判断に任される。
 見苦しくない範囲での制服改造や私服が認められ、生徒教師の人種が雑多で
ある以上は髪型の規定など無意味に等しい。
 とまあ、そのような学び舎における風紀委員の仕事というのはおおよそ限られた
ものとなる。ふた昔前の学園物に出てきた高圧的で陰湿な権力者然とした風紀
委員など、黒髪ロングで清楚かつ生娘で美しい女子高生を探しだすよりも難しい。

 朝のHR開始を告げる予鈴まで、あと1分。

 校門に立つ風紀委員たちが固唾をのみ、変質者対策の刺股棒を握りしめる。
グラスファイバーとカーボン繊維を組み合わせて作られたそれは自転車レースの
王者や世界の釣り名人たちが勿体ないと叫ぶほどの素材を贅沢に使用した代物で、
軽く丈夫かつしなやかだ。

 過去において変質者3名、他校からの襲撃者8名、その他23名を血祭り
もとい捕縛してきた文字通りの業物である。

「来るぞ」

 年代物の鉄道時計を手にした当番の風紀委員が警告を発する。

「総員、対衝撃防御姿勢!」

「なぎはらえー!」

 角刈りの生真面目な風紀委員が叫ぶのと同時に、空の彼方より甘ったるい
少女の声が響き渡る。
 次の瞬間。
 翼端20メートルに達する巨大な竜が上空よりほぼ自由落下の勢いで着陸した。
衝突こそしていないものの地面寸前でホバリングした結果、少女の声がそうした
ように校門の風紀委員たちを薙ぎ払っていた。

「皆さん、お勤め御苦労様です!」

『お疲れ様です。先に教室行ってきますね』

 風紀委員たちの見ている前で全長3メートル程度にまで縮んだドラゴンが会釈し、
その背にまたがったピンク色の髪の少女が気取ったポーズで敬礼する。
 ドラゴンはアスファルトを傷つけないように足の鉤爪を引っ込め、翼を器用に
折りたたみながら校門をえっちらと潜り抜ける。

「待てい、鈴木ドラゴン京一郎!」

『なんでしょうか週番さん』

「貴様の背中で勝ち誇っている鈴木花子を生徒指導室に連行したいのだが」

 花子という名に、ピンク髪の少女が強張った顔になる。

「は、花子なんて知りませんわ。私の名はフローラ! 気高く可憐な一輪の
花、フローラ・D・ウッドベルですわ!!」

『花ちゃん、もう高校生なんだから訳わかんない通名しちゃだめだよ』

「訳わかんなくありませんの! エレガンテの国から輿入れしたのに納豆と
鯵の開きを朝食に欠かせないお母様の方が訳わかんないですの!」

『とにかく生徒指導室に連れて行きますねー』

「お兄様の、ばかー! あほー! おたんこなすー!」

 背の上でぎゃあぎゃあ叫ぶ花子をなだめつつ、ドラゴンはいつものように
校舎に消えていった。
 その後ろ姿を見届け、角刈りの風紀委員は深くため息をついた後に校門の
閉鎖を指示した。

 これが学園における鈴木ドラゴン兄妹のよくある光景の一つである。


【第二話へ】

こんな感じでのんびりやっていこうと思います。

Dは付いたが外国語で読んだだけっていうw

おつ

>>15
しかも兄の名からして、単にドラゴンのDだろうしなぁ。可愛いイタさ加減だ。



>学生運動が
・・・ああ、○人の校しゃか

ザオラル(物理)



それは死姦です(^O^)

前回から一気読みましたー
次の日起きたら昼でしたー

大好きだ(物理)!

乙 舞ってる

いもどら楽しす

【第二話 妹とドラゴンと授業風景】

 鈴木ドラゴン京一郎の背は高い。
 学校内を移動する必然性から身体を縮めてはいるが、それでも座高が
1メートルを超えるし、翼もある。結果としてドラゴンの座席は一番後ろ
となり、会議用の折り畳み机が提供されている。

 授業中の教室はドラゴンにとって癒しの空間であった。

 時代遅れの白墨が濃緑の盤面に硬質の音を立てながら文字を生んでいく
様は、一つの芸術ではないかとドラゴンはうっとりしながら板書を見つめる。

《おにいちゃん どいてそいつを ころせない》

 この国で電脳化が始まった頃に流行ったという川柳がそこにある。
 昨年の春に人間国宝がこの川柳を題材とした見事な書を発表して話題に
なったが、なかなかどうして黒板に殴り書きされた句も味わいが深い。

「それでは鈴木君、この句について思うところあれば感想を述べてください」

 初老の現国教師が分厚い眼鏡を持ち上げながら、最後列席のドラゴンを
指名する。熱心にノートをとっていたドラゴンは教科書を手に首を上げ
しばし唸った後に思ったことを口にした。

『家族想いなのは良いですが、ここまで妹を野放図な人間にしたのは問題かと』

 お前が言うな。
 お前は別に悪くないけど、やっぱお前が言うな。
 お前の事だ、お前の。正確に言えばお前の妹が。

 誰もが鈴木花子の暴挙を思い出さずにはいられなかった。
 兄ドラゴンと一緒に登校し、隙あらば教室に潜り込んで同じ授業を受け
ようとする。重度のブラコンでありながら、世間一般の兄妹感覚であると
信じて疑わない性格破綻者の一例とも言うべき人物である。

 とはいえ、このドラゴンを身内に持てば仕方あるまい。
 昼休みに中庭にて日光浴をする鈴木ドラゴンの周りには、大小様々な
動物が集まって寄り添ってくる。
 御近所の老人達が拝みに来る。
 怪しい宗教の人が御本尊だとか言って騒ぐ。
 竜殺しの名誉を求めて襲撃者も湧く。
 お人よしの鈴木ドラゴンは寄り添うものも拝む者も騒ぐ者も湧く者も
あまり拒まず、少し困ったように目を細めてじっとしているのだ。

 見た目が竜でなければ菩薩の化身と呼ばれていただろう。

 そんな事を考えている内に、授業終了のチャイムが鳴り始める。
 現国教師は開いていた教科書を閉じ、見事なサイドスローで教室の入り口に
投擲する。

「お兄様、お兄様、クンカクンカクン――ぱぎゃっ!?」

 チャイムが鳴り終わる前に乱暴に扉を開けて乱入した鈴木花子の顔面に、
実によい角度で教科書が直撃した。
 およそ美少女には適さない悲鳴を上げ花子がごろごろと転げ回るが、毎度の
事のため誰も気にしない。

「鈴木君、妹さんの躾をもう少し厳しくお願いします」

『色々と、すいません』

 いつものように鈴木ドラゴンは頭を下げ、転げ回る花子を抱えて教室を
出た。本当にいつも通りなので、誰も特別な感想を抱くこともなく、次の
授業の準備を始めた。


【第三話へ】

 不定期にのんびり投下していこうと思っています。


教師陣も何気にすごいのな

相変わらず面白いし読みやすい

相変わらず面白いし読みやすい


先生がもはや慣れている件ww

ナイス投擲wwwwwwwwwwww

今度はブラコンか……
って前スレのアレかwwwwwwwwwwww

今回は現代が舞台かと思ってたけど、ラノベが古典になってそうな世界だった

スカイリム


スカイリムかよww

鈴木兄は竜型(完全なドラゴン)なのか竜人型(某竜魔人っぽいの)なのかどっちだろう?

待ってた。ずっと待ってた
惜しみない期待(物理)を>>1

>>33
この30強のレスだけでイメージ出来るのは、羽の生えたトカゲ()一択だと思うんだが。

チンコが二股だって前スレの店長あたりが言ってた

なんと奇遇な!

>>36
おまえも二股…だ…と…?

>>38
あれだけだったらそうなっちゃうよねー

そこまで有名なネタでもないしな

だって…生まれつきなんですもの…

>>鈴木兄の外見

ほら、あれです。ルイズさんがドラゴンの背に乗って「なぎはらえー」ってやってるAA。
あんなノリです。輝竜戦鬼ナーガスっぽくはない、ドラゴンですね。



>>ちんこ二股

伊藤勢のモンコレ漫画とか陸乃家鴨がヒット出版時代に載せた漫画くらいしか自分は知らないすね。


>>この世界の思想文化信条

年配の現国教師いわく「Fateは文学から始まり、AIRは芸術、CLANNADは人生である」

【第三話 妹とドラゴンと幼馴染】

 鈴木ドラゴン京一郎の昼食は、持参の弁当である。

 自宅ベランダにプランターを数台用意して栽培している小松菜と
鉢植えのミニトマトとズッキーニが鈴木兄の好物である。
 妹の鈴木花子は根っからの肉食系なのだが、捕食相手は京一郎
限定のため食生活に大豆製品とキャベツは欠かせないようだ。

「たまには肉も食べなさいよ、京ちゃん」

 前庭の芝生で弁当を広げている鈴木兄の前に座り、一学年上の
女子生徒、渡辺夏子が鈴木兄の弁当の中身を見て小言を並べる。
 鶏肉は良質のタンパクである。
 豚肉はビタミンBの補給には欠かせない。
 牛肉はナイスネイチャー。

 ぶるんぶるん。
 ああ姉属性というのはどうして巨乳か貧乳のふたつ極端なものに
偏りやすいのだろうか。
 バランス良く食べろと説諭する割に、引き締まったウェストと
張り出した乳房のアンバランスさを是正したりしないものかと鈴木兄は
ドラゴンらしからぬ感想を考えたりする。

「あ、どこ見てるのよもう。むっつり助平さん」

『触れないのなら、見るしかないでしょう』

「おねーさんとしては、京ちゃんなら別におっけーなんだけど」

『ど』

 青春をもてあますドラゴンを前にまるで動じた様子もなく、そのまま
えっちなゲームでヒロインをやっていけそうなけしからんおっぱいの
渡辺夏子は前庭の一角を見た。

「ぐぬぬぬう」

 そこでは鞘から抜かれ宙を舞う一対の刀を相手に、オリハルコン製の
ハリセンを振るって奮戦する鈴木花子の姿があった。

「ええい、髭切だか膝丸だか知りませんが! わたくしと! お兄様の!
午後のアヴァンチュールを邪魔するとは! このこのこのこの妖刀め!
愛の名のもとに成敗してくれやがりますことよ!」

「花子ちゃん、それ一応重要文化財」

「花子ではありませんわ! 私の名はフローラ! フロー」

 夏子の指摘にぐわーっと牙をむいて反論しそうになった花子の後頭部に
髭切の峰と膝丸の柄が落ちる。程良く延髄を狙ったそれにより意識を
カットされた花子は前のめりに倒れ、事前に用意されていた担架の上に
転がった。

「花子ちゃんは相変わらずねえ」

 ほけほけした顔で言いながら鈴木兄の弁当に鶏から揚げと豆腐ハンバーグを
押し付ける夏子。これもまたいつも光景であった。

【第四話へ】

この物語のヒロインは2穴対応じゃなきゃダメなんだっけ?

オリハリセンかよw
花子は海底人類だったのかw

何?渡辺夏子はエスパーかなんか?

>>1生きてる?

死んじまったよ、アイツは

【第四話 幼馴染とドラゴンと妹】

 渡辺夏子が鈴木家のお隣さんになったのは、彼女が生まれた直後だった。

 源頼光に仕えし四天王の筆頭にして数多の魑魅魍魎を名刀髭切で斬り伏せた
剛勇の武士、渡辺綱を祖に持つ……とは言うものの、別段直系のそれと言う訳で
もなく両親祖父母七代さかのぼっても平平凡凡な人生を送ってきた家系である。

 そんな彼女に転機が現れたのは、鈴木家に長男ドラゴン京一郎が誕生した時
であった。

 誕生とはいっても卵が孵化しただけではあるが、それと同時に渡辺家の屋根を
落雷が直撃し、ベビーベッドで眠っていた赤子の夏子の傍らに二振りの刀が
置かれていたのである。

 髭切と膝丸。
 ともに制作者不明なれど、鬼だの土蜘蛛だのを斬り伏せてきた逸話をもつ
代物である。
 二振りの刀は、よりにもよってその銘を名乗ったのである。

『やはり一度は竜に挑んでみたいというのが退魔の霊刀としての矜持ではないか』

 物ごころつきある程度の思慮分別がつくようになった頃、二振りの刀より半透明の
武人が現れて夏子に言った。

『という訳で夏子殿、渡辺綱の子孫として竜退治を是非』

「いヤっ」

 即答であった。
 その頃すでに渡辺夏子は将来の夢として鈴木ドラゴン京一郎のお嫁さんであることを
確定させ、両親を説得させた上で花嫁修業を開始していたのである。
 どうして将来の婿(希望的観測)を退治などできようか。

「ひざまるさんも、ひげきりさんも、きらいっ」

 とうとう幼い渡辺夏子は泣き出してしまい、髭切と膝丸は困り果ててしまった。
 竜退治は主が認めぬ。
 さりとて霊刀として奇々怪々の異形を見過ごすことなどできない。
 かくして髭切と膝丸は主が竜退治の使命に目覚める日を夢見て、今日も彼女の
周りを飛び交うお邪魔虫達を成敗しているのである。


【第五話へ】

投下が遅れてすいません。

乙。のんびりいこうぜ

自立式の刀か

>>52
「覚えたぞ!!」

草食でおっぱいに欲情するドラゴンか…
というか妹ハーフなの?

>>54
嫁さんというか 花子ママンは凄いスペックっぽいですね。
今後が楽しみだ

【第五話 母と天使と父とドラゴン】
 鈴木家の母は、名前を呼ばれることに抵抗がある。

 ジョージアという名称はキリスト教における竜退治の聖人に
基づく有難い名前ではある。が、日本という国においてその名は
缶コーヒーのブランド名であり、略してジョージと呼ぼうものなら
男だと誤解されかねない。
 実際問題、婚姻届を役所に提出する際に戸籍課の若い公務員が
実に気の毒そうな顔でこちらを見ていたのを鈴木母は今でも覚えている。

「申し訳ありません、日本では同性同士の婚姻はまだ」

 あくまでも善意から来る言葉ではあった。
 だからこそ度しがたいのではあるが。
 仕事の邪魔になるからとばっさり切ったピンクブロンドの髪が
いけなかったのか、それとも日本人女性よりも慎ましい胸部が
彼女を女性として認識させなかったのであろうか。

 彼女の名誉を守るために記述するならば、ジョージア・A・エンジェルは
幼年学校でもハイスクールでもカレッジでも、間違いなく第一級の美女
として扱われてきた。
 特に家名の影響もあってか幼年学校時代に所属していた聖歌隊では
ソプラノでのソロを任されるほどの見目麗しさと甘く美しい声をもって
知られるほどであった。
 もっとも。

『天使の歌声をもつ少女よ、今こそ聖ゲオルギオスの名のもとに
 東洋の竜を倒して神の威光を知らしめるのです!』

 ジョージアの青春を歪ませたものがあるとすれば、聖歌隊に所属した
頃より出没するようになった自称天使共であった。
 我々は天使です。
 あなたの家名は天使ではないですか、すばらしい。まさに同胞。
 同胞ならば我々の目的を共に叶えてくれますよね。
 叶えるために全てをかけて戦ってくれますよね、ありがとう!

 ある時はアフロのアフリカ系シスターとして。
 ある時は全宇宙に君臨するスーパースターとして。
 ある時は一部のファンが熱狂しているアニメのヒロインとして。
 ある時は屈強な傭兵部隊の一員として。
 天使を名乗る者たちは、どういう訳か特別な力をもつ訳でもない
ジョージアに竜を討てと囁き、勧誘し、脅迫した。

 カレッジを卒業した彼女は胡散臭い関西弁を操る日本人の薦めで
日本に生活拠点を移し、そのついでに天使を自称する怪しげな集団と
縁を切ることに成功したのである。

「いやあ、ワイもな。嫁が三人いるって事実をマイサンが学校でいつ
暴露せんか心配で心配で仕方ないんや。とりあえず、無駄に厳しい
戒律を無関係の人間に一方的に押し付けんな」

 翼が生えて歌ったり踊ったりビームを撃ったりする自称天使達を
コンクリ詰めにした挙句に大阪湾に沈めていくエセ関西弁の男。
 沈めても燃やしても旧時代のTVゲームのように復活してくるため
遂には上級天使ごと封印をかまされ、最上位の存在が菓子折り持って
アジア諸国に土下座行脚する羽目になったのだが、そんな四文字熟語の
愉快珍道中が裏でそのような事態が進行していたなど想像もせず、
ジョージアは日本の商社で通訳を兼ねた社員として採用された。

「その後は、取引先の重役さんのご紹介でお父さんとお見合いして。
いい人だったからとんとん拍子に話が進んで今に至るわね」

 やだー、もう今更はずかしいじゃないのー。
 年相応に老けてはいるが、穏やかに歳月を重ねたであろうジョージアは
幸せそうであった。

「お母さん、その」

「なあに、花子ちゃん?」

「伝説の剣とか、宿命の血とか、超能力とかそういうのは?」

「ええと――そうそう。うちの実家はイギリスなのに料理上手だって
御近所で評判だったわ。代々レストランのシェフが勉強しに来るほどだって」

 なるほど、そら特異能力だわなあと。
 鈴木ドラゴン京一郎は納得し、一縷の望みを賭けて母の話を聞いていた
鈴木花子は力なく項垂れるのであった。

【第六話へ】


 というわけで五話でした。
 エセ関西弁の日本人は前作のあの人ですが、ひょっとしたら別の人かもしれません。

 なお四文字熟語さんは最初は威厳をもって徹底抗戦を考えていましたが、東洋の島国で
美少女に擬人化&アニメ化が小ヒット→夏と冬と五月一日の大きなおオトモダチのイベント
において、R-元服な薄い本が大量に出回った揚句にそれらが全世界に配信されかかった時点で
無条件降伏を受け入れたとのことです。

 腐女子の間では赤×白か白×赤かで現在も激しい論争が起こっており、黙示録の四騎士も
ドン引き状態のため今後数世紀はアジア圏は安泰ではないかとも言われております。ひでえ話。

いつのまにか来てた!

途中「?」が4つくらいついたけど、前作のアイツと言うことで3/4ほどは理解できた


>最上位の存在が菓子折り持ってアジア諸国に土下座行脚する羽目に

これってどういう意味?


四文字熟語さんって誰?

乙乙

>>四文字熟語さん

真女神転生IIのラスボスさんで、メガテン系の二次創作や伝奇系作品やTRPGシナリオにおいて
何度憎まれ役になったのか分からないくらいの神性四文字さんです。通称パパ。

旧約聖書の中でも大洪水起こしたり退廃の街を滅ぼしたり好き放題やってますが、本人よりも
狂信的な部下がその後の歴史で暴れ回っている厄介な状況。何を言っても部下が勝手に解釈して
他宗派の弾圧とか改宗の名を借りた文化破壊をやらかしていることでも有名。という設定です。

四文字熟語はわかったけど、赤と白がわからんとです…

ミカちゃんとメタちゃんじゃないの?違うかもしれんけど

>赤と白
黙示録の四騎士は 白い馬 赤い馬 黒い馬 青白い馬に其々騎乗しておりまして
女神転生シリーズなどではホワイト・レッド・ブラック・ペイルライダーなどと呼ばれてます。

人類の終末と救世主の降臨に際して先駆けとなるべき白と赤の騎士が人類を苦しめたり
支配したり終末の獣がよろしくやってサヨナラ人類をかましていたり、バビロンの大淫婦が
実は口だけビッチの乙女な貴腐人で父×子×聖霊という本を執筆して白と赤の騎士に読
ませたところ、実は互いを憎からず思っていた白と赤の騎士がサヨナラ人類計画をぶっちぎって
二人だけの失楽園に逃避していく――という内容の作品が、この世界のアジア圏では
純文学として腐女子たちの絶大な支持を受けたり教科書に載っているのだと思います。

赤と白のカップリング論争は、たぶんその辺ではないかと。

どこぞの暇人閣下かと思えばあいつか
しかし本当に天使はロクなことしねえな

神や天使なんてドワオとふっ飛ばしちゃえばいいのよ


それにしてもマイサンだと・・・?

女神転生すぎる

メガテンシリーズやり逃したのを今更に公開させられるとは…

メガンテ!!

【第六話 同級生と忍者とドラゴン】

 鈴木ドラゴン京一郎の通う学校には様々な出自の生徒がいる。

 正確に言えば、ドラゴンが学生として認められるのだから、これくらいなら許容されるだろう
という目論見で受験もしくは編入してくる学生が後を絶たない。

「鈴木君、今日もいい鱗っぷりっすね」

 セーラー服の下に鎖帷子を着こんだ女子高生が、朗らかな顔で挨拶をする。
 同級生の宇佐見百合子、どこの流派かは分からないが忍者らしい。

『宇佐見さんも、今日の鎖帷子はなんだか春めいた色だね』

「これっすか。いやあ若殿の御実家より進学祝いとして桜色の鎖帷子を頂戴しまして」

 チタンを樹脂で包んだ鎖だから軽量の上、音も経たない優れモノっす。

 忍者はともかく女子高生としてその奇抜な改造制服はどうしたものかと鈴木京一郎は考えたが、
ドラゴンの自分が改造詰襟学生服を着て授業に参加しているのだから、今更の事だと納得した。

『宇佐見さんは、その若殿って人の話をよくするよね。バイト先の店長さんなんだっけ?』

「バイト先というか御奉公先の護衛対象だったっす。仕事でヘマしてうちの一族がクビになりかかった
んですが、若殿がとりなしてくださいまして」

 それどころか、未成年に学校に通う許可と編入先の斡旋までしてくれたという。
 百合子の話では、彼女の他にも学校へ通い始めた者が下は小学生から上は大学生まで相当数おり、
彼女の一族でも前代未聞の出来事だったらしい。

「ですから、若殿のためにも良い先生になって早く恩返しをしたいっすよ」

『あー、宇佐見さん教育学部志望だっけ。専攻は忍空?』

「中学高校の理科っすね」

『え?』

「獣医学部も魅力的っすね。あーもう、こんな風に悩めるなんて学生生活って最高っすよ」

 なにしろ去年の今頃は要人毒殺とか美人局とかやってたっす。
 政府転覆じゃなくて世のために頑張れるって素敵なことっすよねと百合子は笑顔で弁当を摘まむ。

「あー、これで女の子同士で結婚できるように法律が変われば言うことなしなんすけどね」

『え?』

「鈴木君の妹さん、可愛いっすよね」

 その話題から妹の存在が出てきたことに対して、京一郎は突っ込むべきかどうか悩んだ。百合子は
同級生の中でも良識派(外見を除く)だと思っていただけに、思考の切り替えがうまくいかない。

「やっぱり、お義兄さまと呼んだ方がいいっすかね」

「私を勝手に同性愛者にしないでくださいませっ!」

 鼻息荒く京一郎の手を掴む百合子の後頭部に、ようやく生徒指導の教官からのお説教より解放された鈴木花子の
容赦ないオリハルコン製ハリセンの一撃が炸裂した。
 すぱん、と小気味良い音とともに一撃を受けた百合子が頸部を軸に数度回転して構内の花壇に突っ込み気絶する。
 ぴくんぴくんと太ももを痙攣させているのは打撃の影響なのか、それとも愛しの花子より直々に突っ込みを受けた
歓喜に由来するものなのか。

『……考えたら負け』

 若殿って人も苦労したんだろうなあと考えながら、京一郎はそれが現実逃避の一種である事を強引に忘却した。


【第七話へ】

以上、投下でした。



ドラゴンのキャラが一番薄いってどういうことなの…

最高の乙




京一郎君制服着てんのか……

そりゃあ服着ないと、多分スリット的な何かに収納してるんだろうが、
何かの弾みで二対のモノが露出してしまったら不味いから……
ああ、妹的には美味いのか

【第七話 ドラゴンと調理実習のカレーライス】

 鈴木京一郎にとってカレー粉は禁断の調味料である。

 かつて隣の大陸が今の二倍程度の面積を有していた頃、皇帝の
象徴として招かれた竜がいた。

 竜と言う生き物は地域によっては権威の象徴ではあったが、同時に
その血肉は霊薬と考えられていた。新政権を肯定するために過去の
権威を徹底的に破壊し毀損する伝統を持つ大陸の国家は、表向きは
忌むべき旧弊の象徴として竜を討ち、その霊薬をもって不死を獲得
しようと目論んだ。

 結果、隣の大陸はエベレスト付近から東側が消失した。

 東南アジアと呼ばれた諸国一部と極東の列島が辛うじて免れたが
文化大革命だの東西冷戦だので終末思想が漂い始めていた当時の
人類は、今更のように自らが霊長でもなんでもないと理解した。
 西に拠点を構える二大宗教などはすわ聖戦かといきり立ちもしたが
竜が言うには「カレー粉に酔っぱらってしまった。どこかの世界に
吹き飛ばしてしまったが多分無事」と返答した。

 直に戻るだろうという竜の言葉が世界中にアナウンスされてから
三日後、確かに消失した大陸と人々は帰還した。とはいえ幾つかの国や
地域では何者かの襲撃を受けて壊滅的な打撃を受けていた。
 生存者や目撃者の話を総合すると、異世界に転移した彼らを出迎えて
保護を申し出た亜人集団に対して婦女暴行や侵略行為を企てた結果らしい。

「おまえらコロンブスの真似事するんか、ええ度胸やな。ほな久しぶりに
忍法サテライトキャノン(物理)でも見せたるわ」

 略奪行為に走ろうとした集団は、人種国家思想に関係なく壊滅した。

 以来、竜種がどうしてカレー粉で酔っぱらうのかの解明はともかくとして
できればカレーを接種しないようにというのが暗黙の了解となっていた。

「先生、思うのです。あれは高度に政治的な配慮から来た発言であって
カレー粉に非はないんです」

 家庭科教師の竹田団十郎が教え子たちを前に力説する。

「そもそもカレー粉というのは概念的なものであり、その実態は複数の
香辛料の混合物です。それら単品がドラゴンにとって無害である事は
長年の研究で明らかになったいるんですよ!」

『竹田先生、それで僕にどうしろと』

「今日はカリフラワーと鶏挽肉のドライカレー仕立てを作ります」

 教師生活13年目に突入するアラフォー独身教師がくるくると回転しながら
力説した。

『カリフラワー!』

「そう、鈴木君も大好きな野菜ベスト4に入っている事で有名な憎い
アンチクショウなカリフラワーです! こいつを汁気のないドライカレー
にすることで美味しく歴史の1ページを刻むのです!」

『凄いです、竹田先生!』

「さあ、それでは調理開始&試食でございますぞー!」




 三日後。学校は無事に元の世界に帰還した。


【第八話へ】

以上です。
ちなみに消滅した大陸は戻ったけど、部分的にクレーターになったり
コロニー落としの直撃を受けてて大分目減りしたそうです。


エセ関西弁はこれからもやってくれそうだな

(物理)w



しかしながら結構歴史がおかしなことになっとるな

あっちの世界も平常運転のようで安心した


決してカレーに非がないのは分かった
向こうの時々ドワオなドラゴンと出会ったらどうなるのかしら

久しぶりの男登場

【第八話 ドラゴンと祝福とズッキーニ】

 鈴木京一郎は園芸部にも所属している。

 とはいっても園芸部に所属しているのは彼ひとりだけで、
花壇などの造成には華道部と家政科同好会が協力している。

『今日はズッキーニを栽培しようと思います』

 麦わら帽子を頭に載せて、京一郎が家政科同好会の面々に
説明する。華道部の部員たちもジャージ姿で控えていた。

『まず畑の土を整えます』 

 くわ、と顎を開いて京一郎は微細な破砕振動波を音声として
吐いた。小石や雑草の根や有害とされる微生物、それにハエや
アブなどを含む害虫類のみに破砕振動波は作用した。

 小石は摩砕され、雑草や害虫それに微生物は分子レベルに
分解される。破砕の際に生じた熱が土壌を再度殺菌し、数分で
ほっこりした黒土の畑が誕生する。

『次に、種を埋めます』
 
 土中に指を差し入れて程よい深さの孔をあけ、京一郎が
ズッキーニの種を埋める。土をかぶせてから30秒後に、埋めた
場所から元気よくズッキーニの芽が現れた。

『そうしたら散水しつつ収穫を』

 京一郎が専用のブリキの如雨露にて水を撒けば、恐るべき
勢いでズッキーニの茎と葉が成長し、花が生まれる。
華道部は蕾の花を摘み、家政科同好会は花も実も回収する。
 収穫用のカゴが、出荷用の箱が、どんどんズッキーニで埋まる。
農家と肥料メーカーと農薬企業に正面から喧嘩を売る勢いで、
小一時間が経過した頃には文字通り山ほどの収穫を得た。

『以上で本日の園芸部活動を終了します』

「ありがとうございましたー」

 収穫した野菜の大半は、市内の孤児院や老人ホームに届けられる。
 これも家政科同好会の活動の一環であり、こうした野菜の栽培は
竜種が人間社会で生きていくために課せられた労役のひとつである。

『後は趣味で土をいじりますね』

 京一郎の言葉に、はあいと家政科同好会は答えリアカー4台に
収穫物を積み込む。華道部も形の良い花を選んで持っていく。
京一郎は役目を終えたズッキーニを地面より引き抜き、一か所に
茎と葉と根を集めて重ねた。

 葉と茎と根に、有害な物質が蓄積している。
 実に毒は宿っていない。
 そうなるように植物が頑張り、竜種の力がそれを支えた。ここに
倒れ伏す草木は百キロ四方の汚染を一気に引き受けた勇士の遺骸
である。
 草花に心があるのか、京一郎は知らない。
 しかし竜種の力を借りて、この草木が大地と水の汚染を少しでも
何とかしようと生命を尽くしたのを京一郎だけが知っている。

 竜が低く吠える。
 有害なものも、無害なものも、すべてが光の塵に変換されて消える。
黒土の畑を眺め、鈴木京一郎は翼を広げて空を飛び帰宅の途についた。

【第九話へ】

というわけで投下でした。
この世界はプラス作用とマイナス作用の結果、偶然にも僕らの世界と似たような
文化水準や社会体制の構築に成功しているようです。

素晴らしいです

ドラゴンsugeeeee

私の畑にも種まきしてください///

お前妹だろ

なんとも言えない気持ちになった
悪い意味では無いが、自分でもよく分からん
それと乙

>>91
なんか涙がでそうになった。
たぶん鈴木ドラゴンはモテモテなんだろうなー

京一郎君ってトトロだったのか……

きょういちろうでいいのかな
けいいちろうなのかな

京一郎でなぜかKOF思い出した

きょーろう

まだかなー

【第九話 ドラゴンと妹とサンドイッチ】

 鈴木京一郎は佐藤京平という男を知っている。
 
「とーちゃんの先輩から、名前を一文字もらったんだ」

 かつて妹の花子が父親に兄の出生の秘密について訪ねた折、
そんな返事があったと記憶している。キョウヘイという
名前から文字を貰ってキョウイチロウと名付けられた兄。

「あの人が、とーちゃんにお見合いを受ける事を勧めてくれた。
かーちゃんと出会った時にもな、こんな素敵な人を逃がすんじゃ
ないぞって言ってくれたんだ」

 見合いの席にまで卵を大事に抱えてきたとーちゃんを見て
かーちゃんは爆笑しながら『ああ、この人とだったら大丈夫。
素敵な家族になれる』と思ったらしい

「とーちゃんに仕事を教えてくれて、かーちゃんにプロポーズする
決心つけさせてくれた。鈴木家にとっては大恩人だよ」

 仏壇に飾られている写真に手を合わせ、父親はしみじみと言った。

「佐藤先輩が亡くなった晩に、京一郎が卵から孵ってね。とーちゃんも
かーちゃんも偶然とはとても思えなかったんだ」

 ドラゴンの卵は滅多なことでは孵化しない。
 
 日光東照宮には産み落とされたまま四百年目に突入したドラゴンの卵が
今も安置されているという。イタリアやフランスあたりでは、水道工事や
地下鉄工事の度に一千年物の半ば石化したドラゴンの卵が発見される。

 鈴木父の偉業は、北関東におけるドラゴン孵化までの最短記録を
実に74年8ヶ月も短縮し世界ランクでも10位圏内に食いこんでいる。

「京一郎が生まれた時は、とーちゃんもかーちゃんも大変だったよ。
色んなところで聞いて来て用意したミルクには目もくれずにブロッコリーの
芯と聖護院大根にかじり付くんだから」

 たんぱく質も大事だよと必死に説得して大豆製品も食べてくれるよう
になったと鈴木父はしみじみ語る。

「佐藤先輩も大の偏食家でね。肉や魚が苦手な人だったんだ」

 奇妙な偶然もあるものだと鈴木父と母は話し合い、京一郎と言う名を
つけて育てる事にしたという。

「つまり」

 今までの話を辛抱強く聞いてから、鈴木花子は父を見た。

「ひょっとしてとは思っていましたが」

「うん」

「まさか、私と京一郎お兄様は血がつながっていないのでしょうか」

 沈黙が生じた。

 耐えがたい静寂であった。鈴木父は手にした古いアルバムを落としそうになり、
鈴木母は今日のお昼はサンドイッチじゃなくて御赤飯ねと献立の変更を考え始め、
当の鈴木ドラゴン京一郎は、

『花ちゃん、人間同士からドラゴンは生まれないんだよ』

 なにしろドラゴンは卵生だからね。
 と、至極どうでもいい解説をして妹から尊敬されていた。


【第十話へ】

ということで投下しました。
期間があいてしまい申し訳ありません。


この雰囲気がたまらなく好きだ

キテター!
相変わらず独特で面白い

素敵な雰囲気SS

おるかー!

前スレのまとめってあるかな?

普通に残ってるでしょ

tes

月刊「いもうと×どらごん」

うん

【第十話 ドラゴンと夢と現と魔王の息子】

 ある時、鈴木ドラゴン京一郎が秋葉原を訪ねると駅前の広間に魔王の息子が客引きとカメラ小僧に捕まって難儀していた。

『すいまへん、おれ今ちょっと人を探してるんですわ。そのコスプレとか仮装違いますねん、羽とか自前ですから』

「ポーズお願いしまーす」

『いや、だからおれは人を探しに』

「視線こっちに向けて下さーい」

 なにしろ天然物の銀髪に黄金の角、背中より生える翼は三対で光り輝いている。
 魔王印の暗黒鎧でさえ、その透き通った肌と髪を引き立てる上品な美しさである。男と分かってはいるのだが、それでも写真を
撮らずにはいられないほどの神々しさがあった。
 そんな魔王の息子が、秋葉の住人に囲まれていた。
 普段はチラシを配っているメイドさんもちゃっかり参入しての撮影会である。

 魔王の息子であるからして筋力や魔法の力も尋常ではない筈だが、彼は胡散臭い関西弁を口にしつつ誰も傷つけないように
逃れられないものか苦心していた。

『あのー』

 数分ほど眺めてから、京一郎は声をかけた。

『僕の友達なんで、勘弁してくれませんかね』

 どよめきが起こる。

 銀髪の魔王と、金鉄色のドラゴンの構図である。近場のゲームショップにいたTRPGゲーマーや古参のSF愛好家たちが駆けつけて
拝み始め、路上音楽をやっていた軽音バンドが懐かしいゲーム音楽を即興で奏で始める。
 それほどのインパクトがあった。

 数分後。
 とりあえず解放された魔王の息子は『おおきに』と、屋台のケバブ数個を京一郎に渡した。京一郎が肉が苦手だと聞いたので
『肉ぬきのケバブ、キャベツマシマシのヨーグルトソースで』と冗談まじりに頼みこんで購入した特別製だ。

『おおきに。ほんま助かりましたわ、出発する時はそれほど騒がれんかったんやが名古屋過ぎたあたりから妙に騒がれて難儀してたんや』

『そりゃあ魔王級が関東に来たら大騒ぎですよ。関八州の守護鬼とか、関東極炎聖覇とか自称帝都の守護者とか諸々来ませんでしたか?』

『あー、なんか空港が閉鎖されたニュースがラジオで流れてた。おれ飛行機酔いするから陸路ばっかなんや』

 万世橋のカツサンドを頬張りながら魔王の息子は笑う。関東のカツはホンマに豚なんやなあと妙に感動している。

『それで知り合いを探しに来たって言ってましたけど』

『……あ、うん。おれの幼馴染のな、遠縁の子が家出してこっち来てるて連絡が入ってな。手分けして探してるんや』

 幼馴染、という言葉を口にする魔王の息子の顔が赤くなる。

『自分でもセコイのはわかってるんやけどなあ、こういうので少しでもポイント稼ぎたいんや』

 京一郎の視線に気づいたのか魔王の息子は苦笑いし、食べ終えたカツサンドの紙箱を畳んで鞄に仕舞う。

『おれの幼馴染はガイジンさんでな、魔王の息子いうてもひるまずに驚かずに接してくれた別嬪さんなんや。振り向いてもらえるとは
 思わんけど、少しでも恩返ししたくてなあ』

『手伝いますよ、人探し。外人さんなら目撃情報もあるでしょ』

『ほんまか!』

『ぼくも妹達が買い物に来てるのを迎えに来たので。合流すれば人でも増えますよ』

 いやあ嬉しいわ百人力や、ぼくら魔王とドラゴンですけどねー。
 などと一人と一匹が笑いあう頃。

「……西郷×竜馬」

「……日本の夜明けぜよ(くぱぁ)」

 北欧から来た少女と鈴木花子が腐女子向け同人誌コーナーで固く握手をしていた。


【十一話へ】

というわけで月刊いもうと×ドラゴンでした(割腹)


魔王の息子は前作の魔王の息子さんです。
親の子育ての方針で、別世界で育てられています。(元の世界だと即座に崇拝対象なので)

井伊直弼が屈強な水戸浪士に責められてしまう 「桜田悶ゲイの恋~らめぇ、騎攘夷は見えてしまうのほぉおお」という
同人誌とかを鈴木妹はコレクションしているようです。お隣の夏さんも。

キテター!

同人誌の名前を>>1が考えていると思うと
何とも言えないなぁ

ウッドベルちゃんはどこへ行こうとしているんだ…

たいそう乙であります
魔王の息子は物理技使えるのかな

【余談】

・この世界の坂本竜馬はポニーテールに舶来モノのセーラー服姿で幕末を駆け抜けた少女剣士です。

・維新志士の6割が彼女の追っ掛けであり、薩長同盟は「抜け駆け禁止」の意味合いがありました。

・近江屋事件において暴行を受けた竜馬は純潔を失うことで名もなき市井の少女に戻ったとも維新志士の
 誰かの愛人となったとも言われています。

・一説によると坂本竜馬はポニテで巨乳で二挺拳銃を駆使するカウガール姿で活躍していたようです。

・近年、高名な時代小説家が坂本竜馬を主人公にする際に「史実通りだと単なるラノベになるがな」と頭を抱え
 泥臭くてむさい男の田舎侍というキャラクターを創造したようです。

・魔王の息子は物理技は苦手ですが、彼の姉はトンファーを駆使した幾つもの必殺技を修得しているようです。

・魔王と王妹と側近はそれぞれ一子を設けたようです。第一子・女(魔王の子)、第二子・男(王妹の子)、第三子・娘(側近の子)
 という構成です。

息子さんは王妹のお子さんなんだね
姉の強さが計り知れなそうだ

坂本龍馬素敵すぎるな

魔王の息子なんだよな?
あの大魔王と魔王の間に生まれた……


>魔王と王妹と側近はそれぞれ一子を設けたようです。第一子・女(魔王の子)、第二子・男(王妹の子)、第三子・娘(側近の子)

こっちの説明だと女になってるんだが、性別はどっちなんだよ

【第十一話 ドラゴンと魔王の息子と息子の姉と妹】


 羽田空港の滑走路に四騎のドラゴンがいた。

 翼端が百メートルを超える竜は、道交法の規定で空港の滑走路を用いて離着陸が求められる。竜と言う生き物は
ある程度その身の丈を変えることができるので、よほどの事情がなければ滑走路を使う事はない。
 言い換えれば、竜をしてよほどの事情と判断することが空港に起きている。

『うむ。出迎え御苦労である』

『緊急の御出動、ご迷惑をおかけします』

 四騎の竜。関東守護を自任する超常の戦闘集団およそ百余名。
 激安航空便で到着した民間機を囲むように彼らは並び、牙と武器を向けている。事情を知らぬ他の旅客が慌てる
中より現れたのは白銀の髪が美しい二人の姉妹であった。
 殺気のこもった視線を突き刺さるに任せ、姉は胸を張る。
 張ったところで微動だにしない胸、というよりも童女と呼んでも差支えないほどの幼児体型である。乳が育たないのは
母親瓜二つだと言う評価を、姉は今のところ受け入れていはいない。

『慣習より致し方ないとはいえ、大魔王の眷族が国内旅行した程度でここまで身構えずともよかろうに』

『慣習なものか、破壊の姉妹よ』

 傍目には黒を基調とした半袖のセーラー服姿の姉妹だが、超常の力を有する百余名と四騎の竜にとっては爆発寸前
の核弾頭にも見える。

 狂神の方舟落し。

 数年前、竜や幻想種の台頭を危惧した旧教過激派が一部天使と結託して実行した大規模破壊活動があった。本来で
あれば大災害時に数多の生命を乗せるべき神話の方舟を、よりによって発掘現場より衛星軌道上に転移させて地上に
叩き落とそうとした。

 全長15キロメートルに及ぶ、材質不明の巨大構造体。
 
 異界からの移民船とも超古代の遺跡とも呼ばれ、発見以来数多の竜が常に攻撃目標としていた物体である。天使たちは
衛星軌道上より方舟と共に落下して地上――日本列島の殲滅を目論んだ。巻き上げる土砂その他諸々により地球全体に
深刻なダメージが及ぶことは分かり切っていたが、一握りの熱心な信者さえいれば後は全て処分という方針を決めた彼らは
躊躇なく実行し、

 地上からの忍法サテライトキャノン(物理)を三方向より喰らって跡形もなく消滅した。

 現存する竜の七割が集結してなお破壊できなかった構造体が、である。
 持ち回りで商店街青年部の広報係くらいしか表だった活動をしていなかった大魔王の子らは、この一件をもって非現実の
住人達に存在を認知されることになった。

『主な破壊は姉さんが実行しました』

 姉の後ろで控えている妹が、しれっとした顔で返す。姉より頭一つ分背が高く、乳は比べるまでもなく大きい。母親違い
とは言うが、父親の因子は身体発育にはさほど影響しなかったようである。

『あの後は静かに暮らしているやろが』

『だからこそ、三人まとめての上京に関係各所が大騒ぎなのだ! 大魔王と魔王の間に生れし娘よ!』

 姉のぼやきに、竜の一騎が声を上げる。

『なんや、愚弟が来てるの知っとったんかいな』

『貴様ら姉妹を止められるのが彼しかいないのだから真っ先に連絡付けるのは当然だろうが! 事情聞いて心底彼に同情したわ!』

 別の一騎の竜が吠える。

『ブラコンをこじらせて弟の恋路を邪魔すべく関東まで押し掛ける貴様らの性根を叩き直す! 我らはそのために集結した!』

『良い度胸です。たとえ世界の守護者を自任しようとも兄を思う妹のパワーは宇宙開闢よりも強いことを思い知らせて差し上げましょう』

 かくして羽田空港滑走路は封鎖され、一触即発の事態となった。


 その頃、秋葉原では。

「紹介します。魂の親友、ミーちゃんです」

「サークル『おねだり☆聖ニコラウス』代表のHNミーちゃんです」

 二郎とゴーゴーカレーをはしごして来たにもかかわらず腹部が一切膨らんでいない金髪碧眼の美少女が深々と頭を下げる。
スパイス臭もニンニク臭も漂わせず、むしろ香しい花弁の匂いに包まれている美少女に鈴木京一郎と魔王の息子は戦慄を覚えた。

【第十二話へ】

というわけで投下でした。

>>119

・魔王の息子

 正確には、大魔王の息子ですね。王妹と大魔王の間に生まれた子供です。お役所仕事的に
彼ら兄弟姉妹は魔王の息子とか娘と呼ばれているようです。
 魔術の探究者達には女神と魔人の混血とかそういう認識をされているようですが、それだと
末妹が別種族扱いされてしまうので「魔王の息子」「魔王の娘」という呼称を好んで使っているようです。

把握

カレー

乙カレーデスネー

乙んにく

おるかー

【第十二話 ドラゴンと魔王の息子と嫁小姑】


 北欧から家出してきたという金髪碧眼の少女は、至極あっさりと、駆けつけてきた大使館員に引き渡された。

『ものごっついボーイズラブの薄い本、どないしよか』

 顔見知りらしい大使館職員に何度も頭を下げてから、魔王の息子が嘆息する。どうやら家出娘は秋葉原で女性向けの
ごっつい同人誌を買い込んでいたらしく、コインロッカーに預けていた分を含めると業務用冷蔵庫二台程度の分量になっていた。

「では私が責任もちまして」

『花子ちゃんの部屋に入り切らないよ多分』

 それ以前に余所様の私物だし、お父さん達これ読んだら卒倒するねと鈴木ドラゴン京一郎が同人誌の一冊を手にとった。

『家出してきた子といい花子ちゃんといい、女の子はみんなこういうのが好きなのかなあ』

『……姉さん達の部屋にも、こういう本あったんや』

『うーん』

 BL本の山を前に唸り肩を落とす、魔王の息子とドラゴン。
 たとえ秋葉原と言う街の特性があったとしても、まずお目にかかる事の出来ない構図である。
 あまりに凄まじいため遠巻きに人垣ができているが写真を撮る者さえいない。うっかり撮影したら世界中のドラゴンが
殴り込みをかけてくるのではないかと皆が思っていた。

『花子ちゃんは、とりあえず後で家族会議にかけるとして』

「お、横暴ですわお兄様!」

『……あいつも、こう言う本とか好きなんかなあ』

「そんな訳ないやろ、こーちゃんの阿呆!」

 声は、人垣の向う側から。
 すんません、すんませんと言いながら魔王の息子の前に現れたのは、先刻補導された金髪少女に良く似た女子高生だった。
違いがあるとすれば、こちらの少女は周りにいたメイドさん達ですら「せ、戦闘力98Hだと!? ええい天然だというのか!」と
戦慄するほどの巨乳という点である。

『あ、あーちゃん!』

 反応するのは、魔王の息子。
 初めて訪れたであろう秋葉原の人込みで疲労困憊らしき金髪少女に駆け寄って、大丈夫なんかと肩を支える。

『あーちゃんは土地勘ないから、俺が行くいうてたやないか! なんで大阪から出て来たんや!』

 魔王の息子は、少女が怪我もなく軽く衰弱しているだけなのを知り、ひとまずの安堵を得た。もしも途中の電車などで痴漢に
遭ったりナンパされていたら、おそらく都内23区+特別行政2区は地図上から消滅していただろう。本気を出した魔王の眷族の前に、
竜は拮抗することさえ難しいのだ。

「こ、こーちゃんが心配やったからに決まってるやろ。こーちゃんが東京行くて姿消した途端に、お姉ちゃんたち血相変えて
関空占拠するし、半魚人の御爺さんとかライオン頭のおっちゃんとか『若殿はどこじゃあ!』って突然現れて大変やったんやで!」

『姉さん達もか!?』

「せやで!」

 その直後。

 羽田空港近辺に巨大な光の柱が二つ、突然生まれて消えた。
 上空にあった雲を吹き飛ばし、光の吸い込まれた先では昼間だというのに星空が垣間見える。

『……あれ、かな』

『あれや』

 茫然とした京一郎の呟きに、魔王の息子は重苦しく頷いた。


【十三話へ】

というわけで、お話を投下しました。
お待たせしました。

>>130
魔王の息子はミーちゃん追いかけてきたんじゃなかったの?
ミーちゃんの妹があーちゃん?
あと乙

待っておったぞ

うむうむ
乙ん

【第十三話 ドラゴンと小市民の集い】

 魔王という種族は、厳密には存在しない。
 魔王とは、魔物の王様であり、魔人を束ねるものであり、領地もしくは領民の存在があって初めて魔王と呼ばれる。
 とはいえ魔王を親に持つ者は、素性がどうであれ只ならぬ力を持つ血筋としてみなされやすい。そして魔王の力を
求めるものにとって、生産性の点で魔王の息子に対する潜在的な需要と期待は高い。
 まして「彼」は肩書きでこそ魔王の息子だが、魔王すら超越した「人間」を父に持ち、力に対して高い自制ができて
いると評判だった。いずれ故郷の世界に戻る日が来れば、勇猛にして武門の誉れ高き四氏族を眷属に従え、神と人と
魔を結ぶ三界の王として君臨することさえ期待されていた。

 その彼が中学三年生の時に、家族の前で宣言した。

『市役所の職員、目指します』

 朝食時の一家団欒の場は、ものの見事に凍りついた。魔王の息子を学校に誘うついでに朝食に呼ばれていた
幼馴染の少女アーちゃんだけが、彼の隣でもぎゅっと口を動かしている。
 
『市役所に勤めて、アーちゃんをお嫁さんにして、30年ローンで家を買って、子供二人くらい作って、商店街の振興に
 力を注ぎたいです』

「ん。ええよ」

 口の中の飯を呑み込んで数秒、北欧人を両親に持ちながらも大阪生まれで大阪育ちの金髪碧眼少女アーちゃんは
「なにを今更のことを言ってるんやこいつは」とでも言いたげな、しかしまんざらでもない顔で答えた。

 最初に反応したのは姉である長女だった。

『父上、母上! 弟が乱心した!』

 無事に市内の私立高校に合格し、入学三カ月で生徒会長の座を掴んだ長女が周囲にプラズマを撒き散らしながら
絶叫する。同級生達に「えー、半分しか血がつながってないならOKでしょ」だの「近親相姦いうんは人間とか動物の
理屈やん。魔王とか神様の類ならその辺とか問題にならんとちゃうの?」などなどさんざん炊きつけられ、程良く脳内が
ピンク色に染まり始めていただけに、弟のこの宣言に相当のショックを受けていた。

『ひょっとして、これが噂の中二病ですか兄さん?』

 同様に、妹である次女もまた適度に錯乱していた。
 念願かなって魔王の息子と同じ中学に通い始めたものの「えー、中一なのにまだ処女なの?」とか「大抵の子は親戚の
お兄さんとか弟相手で済ませちゃってるよ」とか、なぜか成年マークが見つからない少女向けコミック誌で得られた知識を
基にした女子中学生トークに適度に汚染され、兄である魔王の息子を異性として意識し始め得ていた頃である。姉ほどの
動揺はなかったが、それでも幼馴染である少女に身内が奪われたという感覚は否定しない。

 これが第一次「魔王の息子が大阪から出奔むしろ駆け落ちですよ店長ぉ!」事件の発端であった。



 さて、現在。
 秋葉原の、とある喫茶店にて。

『今回こっちに来たのも、大阪離れてアーちゃんと静かに暮らせんやろかと思ってなんや』

『うん、無理』

 窓の外を見ながら鈴木ドラゴン京一郎はきっぱり答えた。
 喫茶店を囲むように硬化プラスチックの盾を構えた機動隊員が並んでいる。

「こーちゃん、やっぱ東京はせわしないなあ」

『せやねえ。スーさんみたいな気持ちのええヒトもおるけど、茶の一杯もゆっくり飲めへんのは大変や』

『言いたいことはなんとなくわかるけど、君らに言われるのはかなり心外らしいて都知事さんがバリケードの向う側で叫んでるね』

 後半年で任期満了、再び国政にとか言ってたけど多分無理だなあ。
 一刻も早く魔王の息子達を羽田空港に向かわせるべく罵声を浴びせ続ける都知事の醜態を横目で見つつ、京一郎は
妹である鈴木花子の頬についた抹茶アイスを紙ナプキンで丁寧に拭き取った。



【十四話へ】

というわけで投下しました。

ミーちゃんは北欧から家出して日本に来た腐女子さん。
アーちゃんは、ミーちゃんの親戚ですが大阪生まれの大阪育ち。
アーちゃんの従兄の娘がミーちゃんです。

待ってたぜ

待ってるぜ
乙ん

おるかー!

おらんでー!

もうちょっと待っていただけるとありがたいですはい。

お待ちしますよー!
大魔王もそのうちぜひ

大気

ここってどの位放置しても大丈夫なの?

2ヶ月だったかな?

二ヶ月生存報告無しがやばい
一ヶ月半ぐらいなら気長に待つのがマナー

まあ手も空いたみたいだし、生存報告くらい来るだろ

【第十四話 ドラゴンとブラコン】


 羽田空港の滑走路は無事だった。
 滑走路面どころか航空機、関係車両の窓ガラス一つにさえ傷がついた様子はない。
 ぺしぺし。
 ぺしぺし。
 滑走路に響くのは、尻を叩く二種類の音である。

『は、は、はは、母上。わ、わわわ私は次の誕生日で十八に』

『どやかましい。長子として弟妹の規範となるようにと普段から口を酸っぱくしているのに、あなたという子は! 
あなたという子は! 余に似て慎ましいのは乳の大きさだけか!』

『わ、私は母上とは違ってまだ成長する望みが』

『それが遺言か』

 大魔王の子、姉と呼ばれた少女が悲鳴を上げる。制服のプリーツスカート越しに尻叩きをしているのは、
少女に似た雰囲気の麗しき女性である。絶望的なまでに乳房が小さいことから二人が親子であることを周囲の
竜たちは即座に理解した。

 理解したが、その思考を決して外に漏らさぬように最大限の努力を払った。
 気付かれれば関東平野が海の底に沈むからだ。

 あそこにいるのは、つまり、大魔王の正妻である。
 異界において神の血脈に連なり、なおかつ肉体を喪失せずに生き延びてきた一族の末裔。
 この世界に来訪する際に履歴書を少し書きかえれば太陽神として君臨することも出来たであろうに「そんな
益体もない称号よりも団地妻と呼ばれたい」と言ってのけ、最初の五年間を公営団地で過ごした御仁である。

『お母さんの前で胸と献立の話をするとは、どこまでも学習能力のない』

『自分も叩かれているというのに随分と余裕ですね』

 その一方で。

 こちらもまた胸の部分が良く似た美人が妹の尻を叩いていた。姉の母が女王の風格を放っているとすれば、
こちらの女性は宰相のそれである。実の娘を折檻しているはずなのに、どこか機械的かつ事務的で容赦がない。
にもかかわらず、妹はむしろ恍惚の笑みを浮かべて尻への掌打を受けていた。

『心頭滅却すれば、兄さんからのスパンキングに脳内置換して驚異の新感覚に目覚めることも容易なのです』

『こーちゃんは、先ほどアーちゃんと一緒にフィンランド大使館に出頭して婚姻届を提出したそうです』

『痛い痛い痛いッ、尻よりも胸が痛い心が痛いですママ! そんな事実耳にしたくないっ!』

『つまり入り婿になったこーちゃんは、ミドルネームにパーヤネンが追加された、あっぱらぱー兄さんに』

『いやああああああっ』

 混沌であった。
 世界を何度も塩の柱に還元できてしまう力を保有する存在が繰り広げる茶番劇に、竜も、人も唖然とした。
 時折勘違いした学生剣士が「無双東月流秘奥義!」などと叫んで虹色に輝く日本刀を振りかざして突進するが、
秘奥義だから表に出しちゃ意味がないでしょー、の言葉と共に周囲に取り押さえられている。


 ちなみに。

「えーと、うちの馬鹿娘どものせいで飛行機止まってすいまへん。機体ごと目的地に空間転移させますんで、
申し訳ないですけど先方の空港管制との連絡をお願いしてええですか?」

 菓子折り片手に頭を下げてきた大魔王の人的保障により、運休を覚悟していた数多の航空旅客が
空間転移により輸送された。最高記録は東京発ロンドン・ヒースロー空港着の便に搭乗した旅客340名で、
所要時間12時間10分のところを12時間ほど短縮したフライトで目的地に到着したと現地のTV局が大々的に報道した。


『すごいね、小太郎君の御家族』

『そろそろ縁を切っても許される頃やないかと思ってる』

 東京湾方面から水面すれすれを飛んで到着し、その混沌を目撃した鈴木ドラゴン京一郎は素直に感心し。
 京一郎の背中で幼馴染のアーちゃんが振り落とされないように支えていた魔王の息子こと風見小太郎青年は、
実にしょっぱい顔でアーちゃんの家への婿入りを決意していた。


【十五話へ】

 お待たせしました、十四話の投下であります。
 ツイッター上で投下しておりましたSS(?)について先週末にひとまずの区切りをつけましたので、
しばらくはこちらに力を廻せそうです。

乙!!
大魔王の厚意にワロロンwww

>>148
えっ?どこどこ?
TwitterID教えろください

言葉では伝えられません
触りに来て下さい!

あ、誤爆スマヌ

>>150
さすがにTwitterIDはお教えできませぬが、フィンランド人の両親の間に生まれた
関西弁を話す金髪巨乳の女子高生アイナと、その幼馴染を中心とした話を投稿してまして
togetterでまとめられております。幾人かの参加者がいて、大元になる方が別個にいる
いわゆる二次創作扱いとなっております。

要するに、こーちゃんとアーちゃんが主人公のお話ですね。こーちゃん人間ですけど。

ちょっと検索ワードに悩んだけど、見つかった
これから読みます

【第十五話 ドラゴンと婚期と背中のファスナー】

 大魔王の一家+息子のガールフレンドが関東で一泊二日の家族旅行を満喫した数日後の話である。


『魔王の息子を送り届けたことに関して、鈴木京一郎に都と政府より金一封が贈られる事になった』

 喜ぶがいい。
 そして、もう少し早く助けに来い。

 首都を守護する竜の一匹が、放課後の鈴木家を訪ねてきた。

『浦安ネズミー王国の年間パスとホテル宿泊券を家族分だけ用意したそうだ』

 芹沢エリカを名乗る雌の竜が、目録と共に小さな包みを応接テーブルの上に置いた。首都を守護する
役目上、関東一帯に住まう竜の情報を把握するのは当然の事であり、京一郎は古くからエリカと顔見知りであった。

『あそこ、ドラゴン入場禁止じゃないですか?』

『うむ。アトラクションと勘違いして竜の背に乗って暴れようとしたお笑い芸人がTV番組でさんざん叩かれて以降の話だな』

 ちなみに乗って暴れられたのが私だと、竜エリカが真顔で答える。

『怒鳴ることも暴れることもせず、静かに応対したつもりだったのだが』

 傍若無人な振る舞いで内外に敵を作ることで視聴率を稼いでいたそのお笑い芸人は、目の前にいる
それが正真正銘のドラゴンそのひとであると理解した瞬間に全身の穴と言う穴から液体と固体を漏らしたという。

『あの時は入庁して最初のボーナスで買ったスーツで臨んだのだが、よもや袖を通して3時間で医療廃棄物扱いで
処分する羽目になるとは思わなかった』

『噂では聞いています』

 その後、どういう訳か浦安ネズミー王国へのドラゴン立ち入りが運営会社によって禁止された。

『大魔王が件の芸能事務所とTV局と運営会社を訪ねて交渉(物理)したそうだ』

『交渉(物理)なんですね』

『背中のファスナーをおろせば竜であることを気取られずに行けるのだ』

 大した規制でもなかったのだがなと、竜エリカ。

『もっとも、私のボーナスをターメリック色に染めた阿呆芸人は許す気にもなれんがな』

 小さく呟いた竜エリカの言葉を耳にして、京一郎は『よし、聞かなかったことにしよう』と大人の対応を発揮した。


【十六話へ】

というわけで投下です。

来とったー!

乙。



背中にファスナーあんのか…

おつ

大魔王の活躍(物理)をまた見たい

縺翫▽

【第十六話 ドラゴンと婚期と背中のファスナー】


 ドラゴンは原則として脱皮をしない。

 とはいえ世にドラゴンと呼ばれるものにも様々な種類があり、実のところ本当の意味でドラゴンと呼べる存在は少数である。
 たとえば中型竜種最強と呼ばれゲームなどでは竜騎士と称されることが多いクロル種は実は外骨格系の生命体で、
蜂や蟻などのように女王を中心とした独自の社会生活を営んでいる。
 彼らが恐るべき戦闘能力と繁殖力を持ちながらも人類に牙を剥かないのは、人間程度の動物性蛋白質では彼らの運動量に
必要なエネルギーを賄うことが出来ないからである。
 故にクロル種は自身の生存手段として人と共にあることを選び、人は彼らを竜に準ずる存在として敬ってきた。
 古くよりクロル種と関わりを持つ民は養蜂を行い、また穀物より飴を作ってはクロル種の食料としている。対価としてクロル種は
自らの武力と、脱皮により得られた強化キチンの外骨格を提供している。
 年に数度脱皮する彼らの外骨格は武具の材料はもちろん、医薬品としての価値が高い。

 一般に出回る竜素材の製品は、このクロル種の外骨格である。
 
 それ以外のドラゴンについては、鱗の生え換わりこそ比較的頻繁に行われるものの、甲殻類のように定期的に全身脱皮という
器用な習性は持っていない。

 真性の竜種において脱皮とは、一種の婚姻色であると考えられている。

 古書に曰く、
 かつて果ての島に、人柱の雷竜が棲んでいた。
 竜はあるとき羊飼いの青年に恋をし、共にありたいと願った。
 その願いを聞き遂げた魔女は竜の背にファスナーを取り付け、青年がこれを引き下ろすことで竜の内より一人の乙女を導いて妻とした。
 脱ぎ捨てた竜革は縮んで甲冑となり、青年と乙女が興す国の最初の宝となったという。

『つまりドラゴンは大人になって別の種族に恋をすると、背中にファスナーが浮き上がるようになるんだ』

「ということは芹沢のお姉さまは、どなたかに恋を?」

『主に二次元に』

 池袋界隈を散策すると、竜の皮革をトランクに詰め込んだ二十代後半のものごっつい美人がよく目撃されるそうである。

 鈴木ドラゴン京一郎の解説に、妹の花子は、ないわー、と一言だけ呟いた。


【十七話へ】

というわけで十七話でした。

菴輔→縺?≧wwwww


人柱の誤字に笑ってしまった


これってつまり京一郎は普通に人間になれるってことか、恋さえすれば


芹沢さんなにしてはるんですか…


すいません、またしばらく停滞します。

私、待~つわ

芹沢だけにな!

 唐突に思いついた小ネタ。

魔王「ずっと疑問だったのだが、お前のソレはいかなる流派なのだ?」

勇者「あ、それは僕も気になってました」

男「流派、と呼べるほど立派なものではないですが」

王妹「嘘つけ」

男「地元ではミノフスキー忍術とは呼ばれてましたね」

側近「なんという不穏な名称」

男「最終奥義が『忍法黒歴史』か『忍法無限力発動』かで亜流が幾つか成立しておりまして」

店長「どっちも世界が滅ぶじゃないですか、やだー!」

 どっとはらい。

確実に滅ぶな
物理的にwwww

>ファスナー
一枚脱ぐと羊になり、二枚脱ぐと人間になるんですな

そして、三枚脱ぐと

おつ

また他のSS書きにご執心?

【第十七話 ドラゴンと屋上の君】

 ある日、屋上から女学生がひとり飛び降りた。

『今日は空がとても綺麗だからね。そりゃあ飛べたら爽快だと思いますよ』

 飛び降りた直後。僅かな浮翌遊が自由落下に切り替わる寸前、女学生の身体を
包み込むように一柱のドラゴンが地上から飛び上がって彼女の身体を受け止め
ていた。鈴木京一郎である。

『でも、今度から空を飛びたいときはあらかじめ教えて下さい。いきなりだと
準備が間に合わないこともあるんです』

 京一郎は嘘をついた。
 女学生が命を断とうとして屋上から飛び降りたのを、京一郎は知っていた。
 屋上には靴と、古風な封筒の遺書が置いてあった。女学生が非常勤の講師と
不倫し、講師の細君と取っ組み合いの喧嘩をやらかしたのも知っていた。
 妹の花子が言っていた。

 人間は恋のために生きて、恋のために死を選ぶことができる生き物なのです。

 ドラゴンである身には到底理解できない価値観だった。似たような生き物は
他にいないかと風見小太郎に訊ねてみたところ『えーと、蝉と蛍かな』という
回答を得た。古い時代のヨーロッパ人は脱皮したてのセミをバターでカラッと
揚げて食べてたらしいでえ、と続く話に『なるほどイタリア人はそうやって恋の
パワーを外部から補給してたんですね』と京一郎は納得した。
 つまり、この女学生さんは蝉の食べ過ぎで不倫とやらをしてしまったのだろう。
 今年の夏は涼しかったけど、それでも蝉は沢山鳴いていた。恋をするには十分
な量だったに違いない。

 女学生は驚いていた。
 何もかもが嫌になって死を選んだのに、ドラゴンが自分の身体を抱えて空を
飛んでいる。
 わけがわからない。
 自分の学校に変わり種のドラゴンが通っているのは彼女も知っている。
 ドラゴン自身よりも、種族を越えたブラコンを発揮している妹さんと、その妹
さんと日夜戦いを繰り広げているお隣のお姉さんの方が有名だったが。

『お嬢さん、もしおヒマでしたら僕にナンパされてみませんか』

 そう言った後で、ねーちゃん茶ぁしばかへんかーの方が良かっただろうかと
京一郎は悩んだ。人間に限らず女性の機微は難しい。

「……お星様の見える空でデートなら、いいよ」

 TVや新聞で報道されているドラゴン達の高貴な振る舞いや言動しか知らない
女学生は、しばし面喰った後に少し楽しそうにリクエストしてみた。

『夜まで飛び続けるのと、夜空まで飛ぶのと、どちらにします?』

 京一郎の言葉が理解できず、女学生は「それじゃ夜空まで飛んで」とねだった。

 ぶわり、と。
 京一郎の翼が大きく羽ばたく。ドラゴンは女学生を抱えたまま垂直に上昇する。
尾の先より蛍のような光の粒が、まるで箒星のように輝いている。空を昇る京一郎の
姿に地上の学生達が歓声を上げた。

 ドラゴンは空を飛ぶ。
 翼に当たる空気が薄くなれば、翼から光の粒を噴き出して勢いを増す。女学生の
周りには光の粒が集まり、彼女の周囲では不思議と空気が薄くなることはない。
彼女の目に映る空の色が鮮やかな蒼から濃密な藍に変わり、遠い先に見える地平線が
少しずつ弧を描いていく。
 やがて女学生の前には、瞬くことのない星が煌めく空があった。

「すごい」
『はい。新記録です』
 
 人工衛星と衝突しないように気をつけながら京一郎は笑い、ゆっくりと地上に
向けて降下を開始した。


【十八話へ】

というわけで十七話です。
十八話でお会いできれば幸いです。

>>177
現在pixivにて小説っぽいものを書き始めております。滞ってすいません。

>>179
ジャンルは?二次創作?

>>180
えーとですね。ジャンルは、たぶん学園モノでラブコメのつもりです。
アチャ子さんで有名なイラストレーター/漫画家の方がオリジナルで作った
金髪碧眼の巨乳な女の子を題材にした話ですので二次創作(?)という扱いかと。


こーちゃんとアーちゃんの話です。



この女、妹君にぬっころされるぞ

せっかくなので同じ世界観の、時代とか舞台が違う話を投下しようと思います。
SS形式で。

掌編:ホワイトオークの森

#1

オーク「猪用の罠を仕掛けたら旅人が引っ掛かっていた件ぶう」

女エルフ「くっ、このような見え透いた罠に! その豚面、貴様はオークッ!?」

オーク「似たようなモンだぶう」

女エルフ「よ、よせ近づくな! 知ってるんだぞ、貴様たちがエルフの女を
     見付けたら、見付けたら……み、見付けたら」

オーク「赤面しながら服を脱ぎ始めるのはいいけど、その前に罠を外しても
    いいかぶう?」

カエル執事「御主人、別の場所に仕掛けた罠にイノシシが引っ掛かっておりました」

オーク「それは重畳だぶう。そこの旅人さんの手当てを頼むぶう、俺様は猪を
    仕留めてくるだぶう」

カエル執事「今夜は臓物料理ですな」

女エルフ「い、い、いやらしいことをするのね! 知ってるのよ、王都で流行ってる
     春画本の中でエルフ族の女達が何匹ものオーク達に囲まれてっ」

オーク「じゃあ後は頼んだぶう。本格的な手当は腑分けの後でやっておいてくれぶう」

カエル執事「吉報をお待ちしております」

女エルフ「穴と言う穴に、けがらわしくもご立派な!」

カエル執事「旅人殿、そろそろ罠を外しても構いませんかな」

女エルフ「あ、はい。よろしくお願いします」



#2


カエル執事「鋼線を編んだ単純なくくり罠ですが、暴れたので足首の辺りを捻って
      しまったようですね」

女エルフ「……あなた、ひょっとして自動人形? 全長30センチくらいしかないけど、まさか」

カエル執事「然様でございます。歯車王国の時代に製造されたカエル執事にございます」

女エルフ「嘘よ、あの時代に作られた自動人形はドラゴン戦争で全て破壊されたって
     アカデミーでは教えているわ」

カエル執事「確かに我々はドラゴンと神々の闘争において一体残らず破壊されましたな」

女エルフ「破壊されたのよね。つまり」

カエル執事「壊れたモノは、直す事ができるということですな」

女エルフ「それこそ信じられない話よ。歯車王国時代の技術はアカデミーでも復活できていない
     分野で、だから私達のような冒険者が当時の遺跡を調査しているのに」

カエル執事「ええ。アカデミーが歯車王国の文化発掘を開始して既に50年。自動人形をゼロから
      創造する技術は未だ完成しておりませんが、表立っていないだけで実用化したものは
      案外と出回っているのですよ。たとえば、この罠に使用した鋼線」

女エルフ「……透明な蝋を塗って刃を通りにくくしている工夫がしているわね」

カエル執事「自動人形の筋肉筒に使用される特殊樹脂でコーティングした代物で、これにより
      金属臭を封じ込める事に成功しております」

女エルフ「???」

カエル執事「つまり、誤って人間がかかっても無駄に暴れなければ擦り傷を作りにくい工夫です」

女エルフ「あ」

カエル執事「捻挫が悪化するといけませんので御主人を待ちましょうか」

オーク「おーい、大物がかかってたでぶう」

カエル執事「御婦人、猪は平気ですかな」

女エルフ「え、ええ。冒険者家業をやってるとベジタリアンだなんて言ってられないし」

カエル執事「失礼。猪と一緒にリアカーで運んでもよろしいでしょうか」

女エルフ「……よろしくおねがいします」



#3


カエル執事「簡易かまどの準備できました」

オーク「では血を鍋に集めたら、腑分けを進めるでぶう」

女エルフ「い、生き血を集めるのね」

カエル執事「森の土に血だまりを作れば、そこに良くない種類の蠅が集います。
      病毒を抱えた虫が増えれば草木も獣も良い思いはしないでしょう」

オーク「新鮮な血に塩水とスパイス足して湯煎にかけると、美味い血豆腐ができるんだぶう」

カエル執事「麓の村では高価な肉の代わりに貴重なタンパク源として食べられております」

女エルフ「あ、それ食べたわ。うすい麦粥に添えてあって、慣れると病みつきになりそうな味よね」

カエル執事「おほめ頂き恐縮であります」

女エルフ「まさか、あんた達が作ったの!?」

オーク「作り方を教えただけだぶう」

女エルフ(オークが人間の村と交流? そんなの聞いた事ないわ)

カエル執事「良いレバーですな、寄生虫もいない。胃の中にはドングリに蛇ですか」

オーク「腸と膀胱の中身は土に埋めて……びびで・ばびで・ぶう」

女エルフ「お、オークが魔法を!?」

カエル執事「獲物の腸内にある糞尿を浄化して水と炭酸ガスに分解する御主人様の得意魔法です」

女エルフ「なにそれ怖い」

カエル執事「船や城塞都市などの閉鎖空間において環境系を維持する貴重な魔法ですが、
      この時代では下水処理程度の価値しかないですからなあ」

女エルフ「いやいやいや。上下水道が整ってるところなんて王都の一部だけよ、そんな
     便利魔法あったらアカデミーが飛びついてるってば」



#4

オーク「腑分けに皮剥ぎも終わった、肉はどうだぶう?」

カエル執事「既に香辛料と塩をまぶして樽に漬けこんでおります。血豆腐も笹の葉で包み、虫よけの
      香草を散らしました」

オーク「では骨くらいは埋めておくでぶう。森の獣達の取り分だぶう」

女エルフ「え、えーと」

カエル執事「念のために足首を添え木で固定して、我々はこのまま麓の村に向かいますので
      そこの宿まで運べばよろしいですかな」

女エルフ「あの、完璧な応急処置ありがとうございます」

オーク「では行くでぶう」

 ガラガラガラ。

女エルフ「ゴムのついた車輪! 車軸の上に板バネ!? ナニこの荷車!」

オーク「荷車だぶう?」

カエル執事「積載量はTSUMERUMADEでございますな」

オーク「途中でアケビとサルナシが生っているのを見付けたでぶう。採って土産にしようでぶう」

カエル執事「良いですな。蜂蜜や干し杏とは違った甘味を知るのは児童の情操教育に大変よろしいかと」



#5


女エルフ「……」

カエル執事「そういえば、冒険者殿はいかなる目的があって森へ?」

女エルフ「こ、このあたりの森に変わり者のオークが一匹だけで棲んでいると聞いて」

カエル執事「退治しに来たと?」

女エルフ「い、いや」

カエル執事「失礼ながら、仮にもエルフでありながら森の罠に気付かぬあたり冒険者としての
      技量は厳しいものが……たとえ御主人でなくともオーク一匹仕留める前に
      返り討ちに遭って、運が良くても手籠にされてしまうかと」

女エルフ「そ、そうよね。うん。そうなんだ」

カエル執事「まさか」

女エルフ「――普通にしてるだけなのに高慢て陰口叩かれて、愛想良くしてみたらビッチ
     呼ばわりされてさ。アカデミーじゃ恋人どころか友達も満足にできずに、エルフの
     イメージあるから便所飯もできずにオープンカフェで胃薬肴に紅茶ばっかり飲んでたわ。
     冒険者になれば粗暴だけど実は優しい系の戦士とかオープン助平な魔法使いとかが
     声かけてきてくれると思ってたのに! 信じてたのに!」

カエル執事「高根の花ですなあ」

女エルフ「いくら長命種だからって八十歳間近なのに処女は嫌なのよ! メンタリティは人間と
     あんまり変わらないんだから!」

カエル執事「だから性欲旺盛なオーク相手に? 複数だと怖いから単独で棲んでいる御主人に?」

女エルフ「追い詰められた喪女って怖いのよー。道具とオークのどっちで膜を破るか三日三晩
     悩み抜いた経験とかある?」

カエル執事「御主人、この御婦人とても残念です」

オーク「話を振るなでぶう」



#6

カエル執事「そんな訳でして。オトモダチもしくは結婚を前提に付き合ってくれる
      殿方を探している女冒険者さんをお連れしました」

宿の主人「あいよ、それじゃあ依頼書を貼っておくね」

女エルフ「やめてーっ! その依頼書、全国区なのーっ! 取り返しがつかなくなるのーっ!
     いやーっ、社会的に犯される―ッ!?」

カエル執事「オークにレイプされるために国の反対側まで旅してきた方の台詞とも
      思えぬうろたえっぷりですな」

宿の主人「世の中には色んな趣味の方がいるからねえ」

オーク「こっちを見ないでほしいでぶう」

宿の主人「ははは。それじゃあ、血豆腐と香辛料漬けの猪肉はウチで引き取ろう。
     なめした皮は村の職人に渡せば良いのかな」

オーク「陰干しした胆嚢は薬師に渡してほしいでぶう。臓物で欲しい部位はあるかでぶう?」

宿の主人「おたくの処理した臓物は臭みもないからね、売ってくれるなら全部欲しいところだ」

オーク「いいでぶよ」

カエル執事「御主人。今日のシチューが」

オーク「燻製にしたウサギの肉で我慢だぶう。ああ、それと」

 どん。

オーク「譲り受けた燕麦のビール、蒸留して樽に詰めたので一つ持ってきた。山葡萄の酒樽を
    再利用したので香りが移っているかもしれんが勘弁してほしいでぶう」

宿の主人「こいつは凄い。お代は?」

オーク「余り物で金はとれんでぶう」



#7

カエル執事「御主人、少々勿体ない話でしたな」

オーク「なにがだぶう?」

カエル執事「昨日助けたエルフの旅人、うまくいけば御主人に嫁いだかも
      しれませんぞ」

オーク「阿呆な事を言ってないで、畑を荒らすウサギ用の罠の確認に行くでぶう」

女エルフ「……くっ」

カエル執事「御主人」

オーク「言うなでぶう」

女エルフ「この高貴にして鮮烈なる白騎士の異名を持つ私が、こんな簡単にっ!」

カエル執事「でも、昨日の旅人の方がバニーガールの仮装してウサギの罠に」

女エルフ「ふあああんっ、ウサギは年中発情してるのほおおっ!?」

オーク「素に返ると死にたくなるだろうから、そういうのはやめておいたほうがいいでぶよ」

女エルフ「あい、すいません」

以上、投下終了。

残念エルフw

エルフぇ…

残念過ぎるw
そしてオーク△

何この残念エルフ可愛い

ちなみに、この残念エルフさんのライバルに残念女騎士さんとか
残念プリンセスとかいるようです。

オークさんは豚面だから猪は共食いっぽく思えちゃって食べられないひとです。

残念エルフ主人公に顛末記をぜひ!

残念エルフさんふたたび。

#1

 王都。冒険者の店。

女エルフ「……」

剣士「見ろ、エルフさんが帰ってきたみたいだ」

戦士「いつ見ても綺麗だな。エルフだけあって血なまぐさい依頼を好まず届け物や
    捜し物を中心に仕事をするストイックさがたまらん」

剣士「ああ。刀身に銀で百合を象眼した剣が血で汚れず銀が黒ずまないから、
    白百合の妖精とはよくいったものだ」

女エルフ「……」

魔法使い「見ろよ、あれはチコリを焙煎した黒の薬湯じゃないか。常習性の強い
      珈琲ではなく、身体によいチコリを選ぶあたりただ者じゃないぞ」

戦士「珈琲中毒になって戦場にまで豆を持ち込み命を落とした将軍の話を聞いたことがある。
    エルフさんはお淑やかに見えて鋼の意思で自己を節制してるんだな」

剣士「どうやら我々とは次元の異なる高みに彼女はいるようだ」

魔法使い「よっしゃ。俺たちも仕事こなしていつかエルフさんと一緒に依頼受けられるようになろうぜ」

剣士「ふ。では行くか」

女エルフ「……」

店長「……まいどー」

女エルフ「……シクシクシク」

店長「代用珈琲、お代わり淹れますね」

女エルフ「お願いします」

#2

女エルフ「ちがうのよー、ぼっちだから戦うの怖くてにげてるのよー。逃げ足が
      半端ないから一人旅できちゃうだけなのー、友達・仲間・彼氏、絶賛
      募集中なのよおおおお」

店長「泣くほどぼっちが嫌ならさっきの冒険者のテーブルに声かければいいのに」

女エルフ「それができれば苦労しないわよ!」

店長「まあ知ってて言ってるんですけどね。あいつらエルフさんを清楚で高潔で
    博愛の人だと崇拝してるから、今のエルフさんの姿を見たらショックを受けて
    邪神信仰に転向しかねないし」

女エルフ「他にもエルフの女とかいるじゃないの! なんで私だけ!?」

店長「そらあ、ねえ。色街の商売女よりきわどい格好にアニメ声で甘えながら、尻と乳を
    ばいんばいん揺らしてフトモモ見せつけて前途有望そうな若者のちんちん狙ってるのが
    王都の一般的なエルフで」

女エルフ「なんじゃあそらああ!」

店長「僕も詳しいこと知りませんけどね。異世界の店からそういう薄っぺらい春画本が
    一時期ものすごい出回って、婚期を焦るエルフの娘さん達が飛びついたとか」

女エルフ「滅びてよ、そんな異世界!」

店長「エルフだけじゃなくてデミヒューマン系の女の子達が、その影響受けましてねえ。
    今じゃあ女吸血鬼なんて火薬式の弩を振り回しながら闇の秩序とやらに従って、
    レオタードもしくは全裸にマント姿で悪人を次々と」

女エルフ「訳が分からないわよ!」

店長「昔ながらのエルフとかデミヒューマンを追い求める古株の冒険者達にとって、
    女エルフさんは最後の砦みたいなものですから」

女エルフ「……その異世界文明、滅びないかしら」

店長「あ、既に滅びてますよ」

女エルフ「え」

店長「もともと少子化が進んでいたのですが過剰な女尊男卑の思想が蔓延し、そこに住む
    男達の半分は女達を捨てて女装した美少年との恋愛に走ったとか」

女エルフ「……それ、女は黙って見てた訳?」

店長「女達は娯楽として男同士の恋愛を鑑賞する文化的な下地があったようで、彼女らは
    歓喜の内に滅亡の道を選んだそうです」

女エルフ「ないわー、それないわー」

店長「ちなみに残り半分の男達は幻想と虚構の女に走り、空想の中に理想の異性を見い
    だしたとか。その時に彼らが遺した書物こそが」

女エルフ「滅びる滅びる、こっちの文明も滅びるからそれ!」

店長「そこに気付くとはやはり天才ですな」



#3

店長「そういえば王都ではしばらく見かけませんでしたが」

女エルフ「ああ。友達の家に逗留していたのだ」

 ガタン、ガタタン。

店長「あ、すいません。物凄い音がして聞き逃してしまいました」

女エルフ「友達の家にいたと言っただけだ」

店長「古代エルフ語でトモダチって現代共通語に翻訳すると何でしたっけ。えーと、
    無抵抗の民を虐殺して明日を生きるための種籾を奪う行為だったかな」

女エルフ「と、友達はトモダチだもん。現代語で友人でフレンドで一緒に食事したり
      馬鹿騒ぎできる相手だもん!」

 ガラッ

女騎士「この店に邪神召喚を企てた恐るべき犯罪者がいると聞いた!」

店長「騎士様、この女エルフさんです」

女エルフ「ちがーう! 私はただ友達の家で」

女騎士「つまり、友達がほしくて邪神を召喚したと」

女エルフ「するか!」

女騎士「馬鹿な、邪神の眷属以外に貴様の友人になろうという物好きがいるものか」

店長「騎士様、騎士様。女エルフさんを罵りながら血を吐くのは何故ですか」

女騎士「ううっ、ぐすっ……王都で陛下と民草のために日夜がんばっている私に友も
     恋人もできないのに、こんな破廉恥きわまりない猥褻新生物に一緒に食事
     したり酒を飲んだり夜中にボードゲームを楽しむような友人ができるわけがないだろう!」

女エルフ「……がんばっ」

女騎士「ちくしょう同情するなら友達をよこせ!」



#4

女騎士「友達……貴様のようなぼっち歴が長い女が新たに友達を得ようとすると、
     トモダチ料は莫大な額になると聞いていたのだが」

女エルフ「一つ言っておくぞ女騎士」

女騎士「な、なんだ。いちおう月に金貨一枚までならトモダチ料として」

女エルフ「友達は売り買いするものではない」

女騎士「な、なんだってー!」

店長「おいそこのぼっち騎士、いま懐から金貨の袋を出そうとしたぞ」

女騎士「か、金で友情を買えない……そうか、貴様はその無駄に大きな乳を駆使して」

女エルフ「言っておくがな女騎士、私の友達に私の色仕掛けはいっさい通用しなかった!」

女騎士「な」

店長「なんだってー!」

女エルフ「フフフ、友達はいいぞう。女騎士、友情とは肉欲をも凌駕する歓びを私に与えてくれた」

店長「そこで肉欲という単語が出てこなければ良い話だったんだけどなあ」




#5

女エルフ「ああ、そうだ。その友達に頼まれていたのだ、これを」

女騎士「と、友達に頼まれ物だと! ぼっちが夢にまで見たシチュエーションを、
     貴様という女は!」

店長「木箱入りの酒瓶ですか。やあ、何ともすごい物を」

女エルフ「届ける際に同行を頼みたくてな。貴重な品なので」

女騎士「確かに珍しい造形ではあるが、ガラス瓶の酒など王都でも探せば
     それなりに手に入るだろう?」

女エルフ「ふふん。これだから仕事一本で生きてきた処女は」

女騎士「貴様とて同類だろうが。むしろ歳の分だけ取り返しのつかない状況で
     色々血迷っていたくせに!」

店長「すごい──これ、吹きガラスの瓶なんですよ」

女騎士「ふ、ふきがらす?」

店長「この国のガラス職人は融けたガラスを砂の型に流し込んで瓶を作って
    ますけど、こいつは鉄型の内部でガラスを吹いて整形して……しかも
    宝石のようにカットしてあるんです」

女エルフ「さすが店長、物の価値を知る男だ」

女騎士「ぐぬぬ。しかし所詮はガラスだろう?」

店長「とんでもない。このガラス製法は歯車王国時代の末期に失伝した代物で、
    ガラスカットも含めて完全な形状を保ってるものは貴重極まりないんですよ」

女騎士「つ、つまり」

店長「はい。超一級の歴史遺産です。自動人形の駆動部品一式よりも貴重でしょうね、
    好事家と錬金術師と工房職人の奪い合い必至モンですわ」

女エルフ「友達もそんなことを言っていた」

店長「吹きガラスの製法復活を試みている職人さんは沢山いるんですけど、完成品が
    手元にないから苦労しているんです。王都にあるドワーフ工房の親方も、ずっと
    探してたんですよ」

女エルフ「実はな。その親方に、この瓶と中身の酒を渡してほしいと言付けを預かっているのだ」

店長「なんと」

女騎士「いや貴様が行けよ」

女エルフ「い、行ける訳ないだろう。私はエルフだぞ、ドワーフとは犬猿の仲なのに届け物など
      やっているのが知られたらエルフの評判が地に落ちるではないか」

店長「これ以上ないほど落ちまくってますけどね、エルフ」

女騎士「色街の娼婦ギルドから苦情が来まくってるからな」

女エルフ「わ、私は悪くないんだぞ!」



#6

女騎士「──ガラスの事は正直わからんが、私は木箱の造形が好きだな。
     素朴ではあるが、可憐な山百合の花の彫り物だな」

女エルフ「あ、それは私が彫った」

女騎士「前言撤回する」

女エルフ「あのな。ドワーフほどではないがエルフの木工と織物は高く評価されて」

女騎士「貴様が小遣い稼ぎに木製のご立派様を王都の耳年増や人妻に
     売りまくって荒稼ぎしていたのは知っている」

店長「へー」

女エルフ「お、おい店長。なんで距離を置く」

店長「うちの宿、掃除もサービスでやってますけど女性の冒険者で愛用されてる
    方多くてですね」

女騎士「聞きたくなかったそんな生々しい話」

女エルフ「そ、そもそもだ。あれは重い生理痛や望まぬ性病に苦しむ女性のために、
      患部に的確に膏薬を塗布するための伝統的な医療器具で」

店長「粘膜の感度を高める香辛料入りローションも爆発的に売れてますな」

女騎士「き、貴様という女はあ!」

女エルフ「湯船に適量混ぜると身体が暖まる、冷え性対策の入浴剤だ」

店長「このひとアカデミーでなにを勉強してきたんでしょうね、ほんと」



#7

 某所。とある森。
 トンカントンカントンカン。キリキリキリ。

オーク「ふむ。鉱山からの毒水はほぼ止まったとみていいでぶう」

カエル執事「砒素とカドミウムについては途中に遊水池を設けたのが
        良い方向に働いたようですな」

オーク「底に溜まった重金属の泥はブロブを放流しておくでぶう」

カエル執事「有機汚泥に関しては野生種のスライムでも何とか対処
        できそうですね。金属塩が多いので環境変異した固有亜種が
        いた可能性が高かったのですが」

オーク「元々住んでいたブロブにスライムは鉱山採掘時に根絶やしにされた
     ようだからぶう。今は銀も錫も掘り尽くしたし、蒸留酒の樽やチーズを
     熟成させる場所として再利用だぶう」

カエル執事「麓の村人達の重金属汚染もようやく完治の目処が立ちましたし、
        土壌の重金属除去も今年中に終わりそうですな」

オーク「次の春からは、この地で育つ芋と豆で暮らしていけるようになるといいでぶう」

カエル執事「──御主人」

オーク「なんだぶう」

カエル執事「そろそろ現実見ましょうよ」

オーク「なんのことでぶう」

女エルフ「驚いたか、ここのチーズは石灰質を多く含む牧草で育った乳を使って
       いるので独特の風味があるのだ。これを熟成することで王都でも目に
       かかれぬ品が」

女騎士「なんだこの濃厚な甘味と酒精の強烈な葡萄酒は! そうか、陰干しした
     葡萄を仕込み、発酵の途中で火入れをしたのだな。むう、王都の晩餐会
     でも滅多に味わえぬ……チーズとの相性も抜群だ」

カエル執事「残念美女が二倍に増えて、試作のチーズとデザートワインが片っ端
        から食い散らかされているのですが」

オーク「米で作ったワインに手をつけない内は大丈夫だぶう」

女エルフ「米のワイン!」

女騎士「なにそれのみたい」

カエル執事「なるほどこれが藪蛇というものなのですな」

以上、投下終了。

本日のお話。

女エルフさん:王都の冒険者(♂)にはディードリット級の扱い。王都の冒険者(♀)にとっては
         性具の伝道者。
         女エルフさんが製造販売したディry民族医療具によって梅毒などの性交渉由来の
         患者が劇的に減少したのは事実。色街の女にとってはまさに救世主だったが処女なので
         あまり嬉しくない。
         酒が好き。

女騎士さん:ギリギリ婚期を焦らずに済む。そこそこ手柄を立てているのか、巡回と称して冒険者の宿で
        ランチをとるのが日課。
        高根の花扱いされている。酒が好き。


店長さん:別支店の店長がOLさんとくっついたと聞いて心底うらやましいと思った人。

カエル執事:麓の村で畑の土を掘ったら水銀の玉がボロボロ出てきて悲鳴を上げ、オークに直訴して
        環境保全を始めた自動人形。十年に及ぶ彼の熱意がようやく実を結ぶ。

オークさん:日に二度、麓の村を訪ねて重金属汚染に苦しむ村人を治療してきた。びびで・ばびで・ぶう。
        十年にわたり、およそ百名の村人の安全な水と食料を提供し、土壌の浄化と汚染源の対処に
        従事してきた。豚は綺麗好きなのだ。

>>別支店の店長がOLさんとくっついたと聞いて心底うらやましいと思った人。
え?




え?

おつ

いいな残念な女達

【第十八話 ドラゴンとバナナ祭り】


 ドラゴンはバナナを食べる。
 鈴木京一郎もまた例外ではない。

『確かに僕もバナナは大好きですが』

 お中元です。
 そういって宅配業者が置いていったバナナは中型トラック一台分あった。

『こんなにあると、お中元のお返しが大変な事になりますよね』

「お兄様、そういう問題ではなくてよ」

 塾から帰ってきた花子が、玄関前に積まれたバナナの箱を前に茫然とつぶやく。

「梅雨明けとはいえ蒸し暑い今の時期にバナナを放置していたら、あっという間に
 小バエが大繁殖して御近所迷惑ですわ!」

『既に野次馬が沢山いるよね』

 なにしろバナナである。

「これ、懸賞か何かで当てたのですか?」

『関西に住んでる小太郎君がね、怪我したら見舞いにバナナばっかり届いて食べ
 きれないからって一部お裾分けしてくれたんだ』

「え、一部?」

『うん。身体のバナナっぽい部分を怪我したから、早く良くなるようにって皆して
 バナナを送ってきたみたい』

「ちなみにお兄様は何を贈られたのですか?」

『ハマグリの時雨煮と昆布の佃煮』

 塩気のある食べ物は久しぶりだよって泣くほど感謝されたよと京一郎は言い、
そりゃあそうでしょうねと花子はうなずいた。

『御近所や近くの児童施設や老人ホームにもお裾分けするとして、それでもかなり
 残りそうだよね』

「ですわね」

『あっちだと、綺麗な女の人がバナナを剥いて食べさせてくれる模擬店を始めたら
 しいけど、僕がバナナの皮を剥いても――』

「お兄様、準備万端ですわ!」

「京ちゃんのバナナをくちいっぱいに、はふう」

「鈴木先輩が自分のバナナの皮をむきむきして女の子に食べさせてくれるサービスは
 ここっすか、幾ら払えばいいっすか。い、今は5000円しか手持ちにないけど、半月後
 にはバイト代が入るから必ず残りの――」

『正気に戻って、お願い』

 何故か花子がパンツを脱ぎながら興奮し、ネグリジェ姿の渡辺夏子が柵を飛び越え、
先日成層圏デートした後輩の北緒小路ふたばが荒い息で駆けつけてくる。
 京一郎は三人を説得しようと試みたが、それが完了する前にバナナはすべて食べ
尽くされてしまったという。


【十九話へ】

以上、投下終了。

乙でした

そんな大量のバナナ、いったい誰が食べ尽くしたのん…

誰が どこで食べ尽くしたんだ…

+魔王様のクリスマス+

魔王「か、勘違いするなよ。これはだな、異世界の文化を知らねば将来
   この国が外の世界と付き合っていく際に不幸な衝突を生む可能性が
   あると判断したからこそ実地を伴い学ぶべきであると考えただけで
   他意はないのだ他意は。そもそも異世界の神々と宗教に絡む行事を
   我々がそのまま導入してしまうと異界の神をこちらに引き込む可能性も
   少なからずあるのだから我々の本質を考えればそのようなリスクを
   無理に背負って国と民に危険を強いることなど出来るはずもない。
   それでも衣食住にそろそろ余裕が出始めた我が国は娯楽と言うものが
   慢性的に不足しているし国が肯定する形で男女交際の場を設けねば
   仕事仕事仕事で年がら年中働きづめで見合いの機会すらなくて
   喪女ってなんでしょーねえと目の下に隈を作ったOLさんが店長の首を
   ネクタイごと締め上げる様に心底恐怖した事とか、勇者たちが養鶏所の
   経営に乗り出して鶏卵を安定供給できるようになったものの廃鶏を
   そのまま挽肉にするのは芸がないので大型の石釜を作って調理した
   鶏の丸焼きが予想外に市民の評判を獲得していることとか、
   先代勇者が『クリスマスの勝負服といったらこれでしょ』といって
   ミニスカサンタ服を用意してきたけど一着余ったのでお裾分けして
   もらったとか、将来自分の息子が金髪巨乳のミニスカサンタ娘の色香に
   籠絡されてしまう予知夢を見てしまったとかその辺の諸々の事が不幸にも
   重なったのであって――つまり」

男「つまり?」

魔王「さ、サンタ娘は己自身を贈り物にするためプレゼントを詰めた袋を
   持ち歩かないのが作法と聞いたのだが、本当なのだろうか」

男「その情報はどちらから?」

魔王「アークデーモン達だが」

男「ちょっと彼らと話し合い(物理)してきますが夜には戻ります」

魔王「お、おお」

王妹「(ガチャン)おお、我が夫に姉上! 悪のドラゴンより聞いたが本日は
   ビキニサンタなる仮装で――」

側近「ぬ、ぬぬぬぬぬ布地の面積が小さすぎますこれえっ!」

男「……」

魔王「……うん、これは取り締まりが必要だ」


 ちなみに。
 この日の頑張りで魔王は長女を身ごもり、魔王国においてクリスマスという
伝統行事の根拠となったのはまた別のお話である。

クリスマスなので特別編。
面積の少ないマイクロビキニやスリングショットよりも、普通のミニスカサンタ服の方がエロスというお話。


魔王国も性なる夜になっちゃったのかw
全裸より半裸、モロ見えより見えそうで見えない
って事ですね分かります

クリスマスイブは明石家サンタを観る日です

>>215 >>217

 お知り合いの雌ドラゴン芹沢エリカさんがおいしく召し上がってくれました。

『ふももふも、もふもふもっふ。ふも、ももももふもふ』

 食べ物だけで空腹を満たせるのはドラゴンにとってとても贅沢な行為のようです。

アークデーモンさん…
生きてるか?

逃げて、超逃げて

そろそろ来ないかな

オークでいいかな。


 王都の外れ、職人街。深夜。
 トンテントンテン。

親方ドワーフ「いよぅ、旦那じゃねえか」

オーク「注文の品を届けにきたでぶう。松の炭、樫の炭、竹の炭。川底の砂鉄と、それを還元して得た純鉄と粗鉄。
     ドングリで肥えた三歳イノシシから採ったニカワと、五歳農耕馬の尻の革を薄く削いだもの」

親方ドワーフ「……」

オーク「どうしただぶう?」

親方ドワーフ「旦那、実はオークじゃなくてドワーフじゃねえのか?」

オーク「オークだって悪落ちする前はドワーフの親戚の真似事やっていたぶう。それに、この豚面をドワーフ
     呼ばわりしたら親方の娘さんが聞いたら泣くでぶう?」

親方ドワーフ「カカカっ。旦那がドワーフだったら真っ先に喜ぶのが、うちのお転婆よぉ。今だって氏族会に掛け合って」

オーク「?」

親方ドワーフ「氏族会もまんざらでもねえ。うちのお転婆はドワーフにあるまじき背丈に八頭身よ、見た目には
       人間の娘とどっこいだ。だったら別の種族に嫁いだって不都合はねえってな」

オーク「おお、お嬢さん結婚するでぶか。それは祝いの品を今度もってくるでぶよ」




親方ドワーフ「なに言ってやがる、結婚相手はd」

女ドワーフ「おとうさんあぶないうしろからはんまーがあたーっく!」

オーク「いまアタック言ったでぶう」

親方ドワーフ「言ったな」

女ドワーフ「やあやあ旦那じゃないか。人目を避けるためとはいえ夜中に王都まで大荷物を
      運んでくるとか大変じゃないか。さあさあ簡単だけど食事と酒の用意をしてあるんだ、
      今夜は飲んで食べて疲れ果てて眠りこけるまで騒ごうじゃないか」

親方ドワーフ「おいおい実の親の前でここまで露骨に行動するかい」

女ドワーフ「くくく。親父殿よ」

親方ドワーフ「なんでえ」

女ドワーフ「ええと『この工房に、百年は水漏れを起こさない素晴らしい酒樽を作る職人が
      いると聞いたぶう』だったかな」

親方ドワーフ「!」

オーク「懐かしいでぶね、もう十年も前の話でぶ」

女ドワーフ「くくく。そうさね。帝国の後継を巡って四半世紀も続いた内戦で、親父殿は不本意な
      出来映えの槍を大量生産させられていた。ようやく平和な時代が訪れたと思えば、
      親父殿は数打ちの武器を鍛えた三流鍛冶の烙印を押されて食うに困る有様だった」

オーク「困窮の時期でも親方は酒に逃げず、家族と弟子を養うためにどんな仕事でも請け負って
     いたんだぶう。その上で、鍛冶師としての精進も怠らなかった、本物の職人だったぶう」

女ドワーフ「それでも金策尽きて八方塞がりになった時に現れたのがオークの旦那だ。親父殿の
      腕を見込んで酒樽を大量に発注し、前金で全額渡すと共に必要な材料も置いていった。
      できあがった酒樽を見て旦那が『なんと、こいつは二百年は保つ仕事だぶう』って言った
      直後に号泣したのは誰だったかなあ」

親方ドワーフ「ぐ、ぐぐぐ」




女ドワーフ「くくく。わかる、わかるよ親父殿。職人ってのは精魂込めた仕事を正当に
      評価されることが至上の歓びなんだ。昔作った酒樽が百年保つと言われたときに、
      親父殿はそいつを乗り越えた代物を作ろうと持てる技術を尽くした。旦那は、
      そんな親父殿の仕事を見て、二百年は保つと断言したんだ。
      信頼され、
      信用され、
      理解され、
      評価された。
      明日を食う飯代にも事欠く日々ですら寡黙に鎚を振るっていた親父殿が、だよ。
      泣いたのさ。わたしだって母者だって、親父殿の泣き顔を生まれて初めて見たんだ。
      忘れるわけがない」

オーク「そうだったでぶか」

女ドワーフ「さあ辛気くさい話はここまでだよ。仕事だって終わったんだ、わたしの手料理でも」

女エルフ「いただこう」

女騎士「美味い酒に美味い飯それに人情噺。最高の宴になりそうだな」

女ドワーフ「──だれ、こいつら」

女エルフ「聞いて驚け、私はこいつのトモダチだ」

女騎士「友人です」

女ドワーフ「実際のところは?」

カエル執事「ぼっちの残念美女達です。友達と酒の匂いをかぎつけて御主人についてきました」

女ドワーフ「へへぇ」

カエル執事「お嬢様、つかぬ事をお伺いしますが手に持ったそのトゲ付き鉄球を振り回し始めているのはいかなる用途があって」

親方ドワーフ「逃げてェ! そこのおっぱいエルフと女騎士、超逃げてェ!」

女ドワーフ「やだなあ親父殿。わたしは冷静だよ、冷静沈着に獲物を仕留めるだけさあ☆」

カエル執事「これはもうだめかもしれませんな」

以上、どっとはらい。

乙!

オークさん相変わらずすごす

もげてしまえ

なんて高スペックなオーク



カエル執事『御主人の特技の一つに催眠術がございます』

女エルフ「なるほど、そうやって今までに幾人もの婦女子を手籠にしてきたのだろう」

女騎士「分かる、分かるぞ。女騎士の寿退社の三割が催眠術によるナンパからの逆襲
     そして御懐妊と呼ばれているほどだからな」

女ドワーフ「よし、この国はもう御仕舞だナ」

カエル執事「この国の行く末はともかくとして旦那様は既に皆様に催眠術をかけました」

女エルフ「そうか。最近あまい痺れが止まらないのは催眠術のせいだったのか」

女騎士「いや、それ単に幻覚性のキノコをうっかりかじった後遺症じゃないのか?」

女ドワーフ「催眠術にかかったんじゃ、ナニされても仕方ないよな」

カエル執事『はい。というわけで、皆様が苦手とされる野菜を中心とした料理を本日は
       用意させていただきました』

女エルフ「――あんなに苦手だったパセリが普通にうまい。そして悔しい」

女騎士「……これがトマトという野菜なのですね。巷では人肉果だの毒草だの言われてましたが
     なんという美味ですが釈然としない」

女ドワーフ「セロリと茄子を食べてもオエっと来ない。むしろもっと食べたい」

カエル執事『こちらにトウモロコシの粉のパンケーキを用意しました』

女エルフ「えー、トウモロコシなんて家畜の食糧じゃない。けど凄い美味しい」

女騎士「農民が飢えても手をつけないというのに屈辱だ――が、乾燥して粉にしたので消化は良さそうだ」

女ドワーフ「旦那は鬼畜だよう、こんなのが美味しいなんて」

カエル執事『ちなみにこちらのシロップ、トウモロコシの粉を蒸留酒用の麦芽で糖化させて煮詰めました」

女エルフ「なにげに砂糖相場が暴落する発言かましたわね今」

女騎士「ちなみに市場に卸す価格はいかほどに――げ」

女ドワーフ「蜂蜜の四分の一、赤砂糖の二十分の一か。いやそれは厳しいね」

カエル執事『なるほど。飼料用作物を原料にした糖蜜の普及には関係各所との折衝が必要のようですな』

オーク「のんびりやっていくでぶう」

以上、どっとはらい。

ウィスキーの醸造と蒸留と熟成ができるオークさんはデンプンの糖化を理解しているので
コーンシロップを使った甘いケーキやクッキーそれにキャンディーで地元の子供たちを
餌付けしている鬼畜でもあるという話。

流石オーク鬼畜だ



最近京一郎出番ないね

JTBの筆が進むのは解るけど、このスレも落とさないで欲しい。

JTB?

Japan
Table
Bang!
の略だろ。

つまりシオニーちゃん万歳なスレのことだ。

そんなのあるの!?
しかしすげぇオークさんすげぇ

J 女子高生
T ツインテール
B ボイン
だな

【第十九話 ドラゴンとロリコンと地雷女】

 ある時、バイト代の入った鈴木ドラゴン京一郎のもとに一通の手紙が届いた。

【あーちゃんの実家が可愛い下着の店を関東にも開いたので、マブダチ六割引クーポン送ります】

 大魔王の息子による直筆署名の入ったランジェリーショップの割引券が三枚、同封されていた。


「行きましょう、お兄様」

 最近ようやくAカップを卒業した妹の鈴木花子がクーポンの一枚目を握りしめて力説した。

「北欧発の、ちっぱいからでっぱいまで可愛いデザインと手頃な価格と品質で評判の下着店。
 ぷりちーからせくしーまで万事おっけーですわ!」

『お年玉も貯めてるし大丈夫だよね』

「何を言ってますの、このクーポンは使用者がお兄様御指名なのに私ひとりで行っても使える訳
 ないでしょう」

『あ』

 釈然としないものを感じながらクーポンを見る京一郎。確かに使用者として指名されているのは
鈴木京一郎その人であり、クーポンは一名につき一枚の使用と言明されている。では残る二枚をどうするか。
後日改めて花子と行くべきかと悩んでいると、お隣さんの幼馴染である
渡辺夏子と後輩の北緒小路ふたばが当たり前のようにやってきてテーブルの上のクーポン券を手にとった。

「G以上でも可愛いのが置いてるメーカーって貴重なのよ、京ちゃん」

「超地味か超セクシーかの二択しかないって女子高生には厳しいっすよ鈴木先輩」

 大丈夫、代金はばっちり用意してきたからと準備万端の女子高生二名と妹の花子に引っ張られ、ドラゴン
ではあるが同時に多感な男子高校生でもある鈴木京一郎は都内にあるというランジェリーショップまでやってきた。
 デパートやスーパーの下着売り場でさえ早足で通り抜けるのが雄という生き物である。それはドラゴンである
京一郎も例外ではない。同伴の殿方用にと店が用意した喫茶スペースは一種の隔離空間となっており、
空気清浄機が常時フル稼働している。そのような心遣いを尽くしたとしても世の中の多くの男性にとって
女性下着専門店なる場所は迂闊に踏み込むことのできない一種の聖域として機能する。
 つまり休日の昼下がりで売り場は満員御礼にも関わらず喫茶スペースにいる男性は、鈴木京一郎の他は
サラリーマンと思しき二十代半ばの青年が一人いるだけであった。

 顔見知りではない。
 京一郎はドラゴンなので著名ではあるが、それは相手が一方的に彼を知っているというだけの事。
 故に京一郎は青年に近い席に座りつつ会釈した。

『こんにちは、鈴木京一郎です』

 ドラゴンから丁寧に挨拶されると思わなかったのだろう、青年は少しだけ面喰ったような顔をしていたが、
穏やかでそして寂しそうな笑顔で深く頭を下げた。

「御丁寧にありがとうございます。横浜から来た真田と申します――その、芹沢エリカさんというドラゴンは御存じでしょうか」

『ええと、はい。バイト先の方です』

「何度かお世話になってまして。非常に情けない理由で、ですが」




『それは――』

 一体、と言いかけて。
 京一郎は、試着室から駆けて来る一人の少女の姿に気付いた。
 やや幼い面立ちの、髪をツインテールに縛った中学生くらいの少女だ。もっとも京一郎が彼女を中学生と判断できた
のは、ドラゴンの特性として生命の力を読みとった結果である。
 外見ならば。
 少なくともGカップどころではない乳房を可愛らしいブラでのみ覆い隠した姿は、超高校生級である。普段から力仕事をして
いるのか乳房以外が引き締まっているのも、そのグラマラスな肢体を強調している。

 その少女が。
 推定Hカップにして可愛らしいブラジャーとショーツのセットを試着したであろう女子中学生のツインテール少女が、
息と胸を弾ませて真田青年に抱きつくように駆け寄ったのである。

「すごいです、おにいさん! この店、わたしのサイズにぴったりなのに凄い可愛いのが一杯あるんです!
 おにいさん、見て下さい! ほら」

「あ、あのね。圭向子ちゃん、ここ、お店。ぼくの他に男のひとが」

『僕の事は愉快な置物とでも思ってください』

「――ッ!?」

 抱きついてからようやく隣にいる京一郎の存在に気付いたのだろう。少女は二重の意味で驚き、悲鳴を上げ。

『やはり年端もいかぬ少女にみだらけしからん行為を強いておったかこのロリコン性犯罪者こと真田圭
 にじゅうごさあああああいっ!』

 直後。
 実にタイミングよく別の試着室よりフリフリの下着を試着していた女ドラゴンこと芹沢エリカ(脱皮済み)が、プロレスの
教本に載るレベルの華麗なドロップキックを真田青年の首筋に叩きつけるのだった。



【二十話へ】

以上、更新。
長い間放置してすいません。

遠回しに催促しましたサーセン

>>247
むしろ催促された方が書く意欲にもなりますんでお気になさらず。

真田さん情報。
アカデミー出身でオークさんの後輩。エルフさんの先輩にあたる。
つまりオークさんが住んでいるのは「位相の違う」北海道「だった場所」らしい。

【第二十話 ドラゴンと漬け物天国】


 鈴木ドラゴン京一郎にとって、蕎麦は乗り越えるべき壁のひとつである。

『すすれないんです』

 骨格上の問題として、ドラゴン種は喉奥を膨らませて吐息を溜める。頬を膨らませるのは
苦手の極みであり、それは努力で解決できる問題ではない。

『竜革を脱いで人型となればいいだろうに』

 アルバイト先の上司でもある芹沢エリカ嬢が、青柳の貝柱をたっぷりと載せた汁蕎麦の
器を手に息を吹きかけながら笑う。プライベートの場では人の姿をとることが多い彼女は、
京一郎ほどではないが野菜や魚にも理解を示す。

『包茎でもあるまいに、脱げるのだろう』

『ほ、ほほほほ包茎とちゃうわ』

 ごま油でからりと揚げて塩を振った蕎麦をばりぼりとかじりながら京一郎は反論し、
隣の席にてざる蕎麦と格闘していた妹の花子をはじめとする女子高生三名が
がたんがたたんと勢いよく立ち上がる。

 が。

『座れ、耳年増共』

 という芹沢の一声にて消沈し、悔しそうにテーブルをたたく。

『人と共にあって十五もすぎれば立派な大人だ。発情しようがしまいが革を外して
人型にもなれるだろうに』

『そういう訳では』

『まだるっこしい。あんた達、この子を押さえてなさい』

 芹沢エリカが面倒そうに言えば三人娘は目を輝かせ慌てる京一郎の両腕にしがみつく。
 力を振るえば解くことなど造作もないが、竜にとっては狭い蕎麦屋の中でそんなことをして
しまえば彼女たちが傷つくのは必至である。故に京一郎は動けず、芹沢は両手をわきわきさせながら迫る。

『東洋の竜種とは違うから、首横の継ぎ目に沿って……よし、ファスナーが出てきたから一気に』

『や、やめっ』

 京一郎の懇願もむなしく、背中のファスナーは一気に引き下ろされ。

「……」

「……」

「……」

『……すいません、天蕎麦やめてこの子にお子さまランチ大至急』

『だからいやだったのにい!』

 贔屓目に見ても小学校高学年に届かない金茶髪の男の子と化した京一郎の姿に三人娘は悶絶し、
芹沢エリカは京一郎を自宅に連れ込み一緒に風呂に入ろうかと一瞬だけ血迷った。



 様々な危機を逃れ精神的に立ち直った鈴木京一郎が再び登校するのは、この十日後のことである。

以上、第二十話でした。

ぱっと見ショタか


ファスナーwwww

ショタといえば前スレのショタ勇者はもう二十代中盤~後半くらいなんだよな

まだー?

【第二十一話 ドラゴンと道草の旅人】


 あるとき鈴木ドラゴン京一郎は夢の中で見知らぬ草原にいた。
 
 地平線の彼方まで広がる膝丈の草原は潮を含む風に揺れ、昇る陽を受けて黄金色に
染まっている。金色に染まる草原に照らされてか、薄墨を垂らした夜闇は西の奥にと
押し込まれ、金と黒のまだら雲が空の蒼に色彩を与える。

 美しい光景だ。

 京一郎は息をするのも忘れて景色を見る。
 この草原はどこまで続いているのだろう。あの地平線の向こうには、潮風の源があるのだろうか。
 どんな海だろうか。
 穏やかなのか、激しいのか。魚はいるのか。同族の竜は。
 夢であると自覚しながらも、京一郎は前に進もうとして、気付く。

 目の前に並ぶ、朽ちた杭。

 周りには羊の群れ。草の色と同じ金毛の羊たちは、杭のこちら側で草を食む。杭は低く
羊を止める役目をはたしているとは思えない。それでも羊たちは大人しく、こちら側が世界の
全てだと言わんばかりである。

「見に行けばいいじゃないか」

 羊と共にいた牧童の少年が、京一郎を見て笑い、背丈よりも長い杖を杭の向こう側へと指し示す。
石を削り磨いた黒と白の小剣を腰帯に差し、碧色の瞳が畏れもなくドラゴンである京一郎に向けられる。

「ここは村の境。羊たちにとっては世界の果て。こっち側が世界の全て」
『うん』
「でも、君はドラゴンだろう?」
『そうだよ』
「君には翼がある」
『うん』
「君には力強い手と足がある」
『うん、うん』
「ちなみに僕の妹もドラゴンなんだけど、いま君の背後で食欲を抑えきれずにいるから早いうちに
飛び出してくれると嬉しい」

 牧童の少年が呟くと、京一郎の背後であんぎゃーという咆哮と共に空気が震え周囲に紫色の
プラズマがまき散らされた。

『あ、ありがとう。命の恩人だよ、えーと君の名前は』
「ニコ」

 慌てて翼を広げ飛び上がった京一郎が見たものは、彼の十倍ほどはある紫に輝く美しいドラゴンが
羊の群れに踏まれて身動きできない姿だった。ニコと名乗った牧童の少年は京一郎が海を目指して
飛んだのを見届け、足元の草を一枚毟って草笛を鳴らした。

 冥鳴と、竜をねじ伏せる羊が吠える。

 竜はしばらくあんぎゃあんぎゃと鳴いていたが、やがて五歳ほどの童女に化けると少年に抱きつく。
童女は飴玉ひとつで機嫌を直すまで泣きじゃくり、牧童の少年ニコは小さく小さく息を吐いた。

というわけで更新しました。

幼女か?
幼女なんか?

冥鳴と吠える羊・・・
すごく黒そうだww

何方か夢占いできる人はいませんか?

>>258
いえす幼女。
だいすきなもの:おにいちゃん(味覚的に)と胸を張って主張できる幼女でドラゴン。

>>259
メイオウとか叫んだり、ナノーとか叫んだりします。めえめえ鳴いてるので羊です。
気力130に達すると黄金色に輝いて超級覇王電影弾とか使います。羊なので問題ありません。

>>260
謎の占い師フランソワ・ウッドベルさんに聞いてみました。
「これはですね。家族と言う意味のない一線を乗り越えて義理の妹と結ばれたいという潜在的願望ですね」

謎の占い師ずんばら☆サマーさんに聞いてみました。
「杭と柵。つまりお隣の家に住んでいる素敵な女性との進展を望んでいるようですね」

大魔王の息子さんにも聞いてみました。
『あ、京やん寝てる時に精神だけ異世界に召喚されてるやん』
 だそうです。

占い師wwwwww

GWなので即興でなにか書こうと思います。

【とある世界】

魔王「どうも、はじめまして」

東の国王「ままままま魔王じゃと(制服を着たアカデミーの女生徒にしか見えん)」

魔王「はい。今度魔王の座に就くことになりました。よろしくお願いします」

西の国王「目的はなんだ!(うちの娘と同い年くらいか?)」

魔王「就任の挨拶と、あとは提案に」

南の国王「提案だと?(童顔で巨乳でミニスカートか……さては淫魔の類いか)」

魔王「はい。東西南北の国とは隔絶した大陸でひっそり暮らしたいんですが」

北の国王「ひっそり暮らす?(眼鏡、イエス、眼鏡)」

魔王「はい。勇者さんが先代の魔王と好戦派を軒並み倒されましたので。
    人間に迷惑を書けない範囲で暮らすことを考えると、今の人類では
    到達困難な大陸に移り住むことが最上かと」

東の国王「言葉だけでは信用ならぬ」

魔王「それもそうですね」

西の国王「それに貴様のように言葉の通じる魔王ならば、話し合いによる共存も
       試す価値はあるのではないか?」

南の国王「あ、おいテメエ。抜け駆けか」

北の国王「むしろ我が国の辺境部は開拓も済んでいないから、そこに友好的な
       魔族を住まわせるのはどうだろう」

東の国王「……余の国は狭いので魔族を受け入れる土地がないのは悔やまれる。
       だが移り住む際に見届け人を派遣することで約定への同意を表明しよう」

魔王「まあ。どなたが見届け人に?」

東の国王「無論、余である。政務は息子に継がせた、枯れた老人ならば失っても
       大した損失ではあるまい」

西の国王「おいおい、都で評判の踊り子を囲って屋敷まで用意させた好色爺がなんか
       枯れたことぬかしてるんですけどー」

南の国王「あー、わかるわー。ロマンスグレイとかナルシー入った老人が若い子に
       スタミナはないがテクは極上じゃぞーとか言って寝床でハメ倒そうって顔の
       典型的なエロ老人やなー」

北の国王「おいおい。東のは来月にも初孫が生まれるとか言ってなかったか?」

魔王「まあ、それはおめでとうございます」


大臣「……という遣り取りが東西南北の国王様の間で繰り広げられましてな」

勇者「はあ」

大臣「見届け人ということで勇者様が魔王の移住先についていくという事で決着を」

魔王「不束者ですがよろしくお願いいたします」

勇者「……あのさ」

大臣「なんですかな」

勇者「この新しい魔王さん、おれアカデミーで毎日見てるんですけど」

魔王「お恥ずかしながら魔王就任まではこちらに留学して生徒会の役員などを務めておりました」

勇者「っていうか次期会長候補の筆頭だろうがよ!」

大臣「なるほど、それでアカデミーの制服姿だったのですね」

魔王「ドレスコードなどを考えた場合、アカデミーの制服ならば謁見にも耐えられるとの話を聞きまして」

勇者「こいつ学内にファンクラブとかあるんだけど」

大臣「カリスマ性抜群ですな」

魔王「困りました。移住の際にはアカデミーを辞めることになるのですが」


勇者「そうだな。穏当な理由つけないとファンクラブの連中が黙ってないぞ」

魔王「そうではなくて、勇者様がアカデミーを辞めてしまうことが問題で」

勇者「王様たちの決めた事に庶民は反論できねーって」

魔王「あら。確か先代魔王を倒した褒美に御姫様との結婚が」

大臣「姫様は勇者様の仲間である戦士様と結ばれましたな」

勇者「もともと幼馴染だったんだし、順当だろ」

魔王「でも貴族の位は授与されたのでは?」

大臣「貴族になったのは賢者様と僧侶様ですね」

勇者「三代前の先祖が叛逆者で、その罪を帳消しにしてもらって俺はめでたく平民に返り咲いたんだよ」

魔王「……勇者様、先代魔王を倒してメリットなどあったのですか?」

勇者「卒業までの生活費と授業料を免除された。あと申し訳程度の年金」

大臣「涙なしには語れませんね」

勇者「この国にいる限り、贅沢しなきゃ一生食っていける程度には金をもらえるのってすげえラッキーじゃないのかな」

魔王「ということは、見届け人になると年金中止ですか」

勇者「え」

大臣「年金は停止ですが代わりに遠隔地手当が支給される予定です」


勇者「そっか、じゃあオッケー」

魔王「軽っ」

勇者「拒否権ないなら、せめて前向きに考える。あと、俺の今後の人生が楽しくなれるような
    ガールフレンド紹介してくれると嬉しいっす魔王サン」

魔王「はい。一名だけしか紹介できませんが、それでよければ」

大臣「青春だなー」

勇者「ところで一緒に新大陸に行く穏健派の魔族ってどこにいるんだ?」

魔王「今は彼らは私の体内に」

大臣「体内ですか」

魔王「はい。生命の核とも言うべき状態に還元され、私が長い年月をかけて少しずつ産んでいきます」

勇者「……なんか、すげえな」

魔王「人間だって男女の交わりで子を成すではありませんか。魔族は寿命が長いので、人間よりは
    多く子を産めるというだけです」

大臣「なるほど。ちなみに新天地に子を成す相手に相当するオスがいなかった場合はどうされるので」

魔王「勇者様、不束者ですがよろしくお願いしますね」

勇者「よろしくお願いされてしまった!」

大臣「あー、こら王様たちには口が裂けても報告できんわ」


 こうして魔王は勇者とふたり新天地に旅立ち、産めよ増やせよの日々を過ごしたという。
 そんな話。

ふぅ

勇者もげろ


【旅立ちの準備】

勇者「事情を説明したら退学じゃなくて卒業証書を貰えた」

魔王「嬉しそうですね」

勇者「アカデミー卒業資格持ってると、役場の書類選考パスしていきなり二次の面接から
    受験できるんだ。役場以外でも就職活動では便宜を図ってくれて」

魔王「……世界を救った勇者なのに、世知辛いですね」

勇者「前にも言ったけど、俺は叛逆者の血筋だから。王様もその辺苦慮してて、対外的には
    姫様と結婚した戦士がうちの国の正式な勇者なんすよ」

魔王「確かにかわら版を見ても、勇者様の顔は載っておりませんね。戦士、僧侶、賢者に
    お供の少年兵とばかり」

勇者「少年兵なのは事実だしね。アカデミー卒業資格を手に入れて適当な役場で警らか倉庫番に
    就いて定時出勤定時退社に夏冬の賞与と公務員住宅を夢見て戦ってたし」

魔王「……先代の魔王に少しだけ同情します。ろくでなしだったけど」

勇者「そう? 魔族としての本能を抑えきれそうにないから倒しに来てくれって王様に連絡付けるあたり
    歴代の魔王の中でも最も友好的だったって聞いてるすよ?」

魔王「確かに、世界征服などは企まなかったのですが」

勇者「?」


魔王「雄の魔物が魔王を継承した場合、色々と厄介な事がありまして」

勇者「言いづらい事なら聞かないすよ。人目が気になるなら、向こうの大陸についてからでも」

魔王「やはり勇者様は優しいのですね」

勇者「面倒事を後回しにしてるだけすよ。今もほら、現実逃避してるじゃない」

魔王「そうですね」


戦士「――話は済んだかい、両名とも」


勇者「別れの挨拶しに来たら魔王ともども拘束されるとは思わなんだ」

魔王「びっくりです」

戦士「私の方が死ぬほど驚いたわい。姫との結婚も決まり、勇者殿を騎士として応急に召し上げる準備を
    進めていたら!」

魔王「まあ。戦士様は勇者様の就職先の斡旋準備をされていたのですね」

勇者「そんなこと言われても、今回の件を決めたのは王様だからねえ」

戦士「その件については王宮を代表して謝罪する。あのままでは陛下御自ら魔王に同道しかねない
    状況だったのだ」

勇者「フリーダムだよな、この国」


魔王「穏健派とはいえ魔族をアカデミーに通わせて下さるのですから、度量が広いのでしょう」

戦士「そのアカデミーのマドンナが実は次代の魔王で、便所飯の常連である勇者殿と一緒に
    愛の逃避行ですか」

勇者「便所飯は否定しないが愛の逃避行だけは魔王の名誉にかけて否定するぞ」

魔王「普通は逆だと思うのですが」

戦士「いいんですよ魔王。勇者殿は我らと共に旅に出ていた時も似たような生活でしたから」

魔王「まあ」

勇者「街に泊まる度に国の金でホテルのロイヤルスイート貸し切る生活に慣れたくない」

魔王「まあまあ」

戦士「だからといって馬小屋とか農家の納屋で寝たりするから、世間様には勇者殿は小間使いの
    少年兵だって誤解されてしまったんですよ!」

勇者「いいじゃん。姫様と結ばれるのは白馬に乗った勇者様なんだから。それとも俺が姫様と
    結婚した方がいいのか?」

魔王「だめです」

戦士「そ、そうです。たとえ勇者殿と言えど、そればかりは認められません」

勇者「じゃあ、俺は勇者一行の小間使いってことで。口裏合わせよろしく」

戦士「……あなたと言う人は、最後の最後まで」

はよ


魔王「ずっと、こんな感じだったんですか?」

戦士「ミスリルの具足も、クリスタルの盾も、オリハルコンの神剣も! 王宮や神殿でかき集めた
    国宝級の武具を全部突っぱねて、野鍛冶に作らせた地味で武骨で根性曲がりな鋼の
    小剣で戦い抜いたのですよ! 鎧だって旅装束に革帯を手足の数か所に巻き付けた程度で」

勇者「さすがに小剣は最後には折れたんだけどね。先代魔王の武器と相討ちで」

魔王「……先代魔王の武器って、確か真竜の瞳を媒体にした虐殺の長槍ですよね」

戦士「なんですかその物騒な名前は」

魔王「有り余る魔力を破壊エネルギーに変換し、なおかつをそれを物質化寸前まで圧縮させたという
   先代魔王が十四歳の頃に一晩悩み抜いて考案した浪漫兵器ですね」

勇者「そんな中二武器だったんかい」

戦士「一生懸命考えた最強の武器が、銀貨三枚で手に入れた山刀と相討ちですか」

魔王「むごいですね」

勇者「え、俺が悪いの?」

戦士「いちど先代魔王の破壊に謝りに行くべきですな勇者殿は」

魔王「私もそれをお勧めします」

勇者「……仕方ない、大陸に行く前に寄るか」

魔王「そうですね」


勇者「そういうわけで、結婚式には顔出せないけど幸せにな」

戦士「お待ちを、勇者殿」

魔王「?」

戦士「あなたの事だ、適当に蚤の市で鉈でも買って武器にするのではありませんか」

勇者「野良仕事も考えたら鉈かスコップかなあ」

魔王「まあ、スコップ!」

戦士「……では、こちらをお持ちください」

勇者「小剣、にしてはバランスが妙だな」

魔王「この刀身はオリハルコンですね」

勇者「あ」

戦士「そうです。国が用意して、あなたが私に押し付け、最後の戦いにて根元より折れた
    オリハルコンの神剣。その折れた刀身を鍛え直して小剣の拵えをつけました」

魔王「柄や鞘に使われているのはミスリルとクリスタルかしら」

戦士「はい。やはり同じく最後の闘いにて砕けてしまったミスリルの具足とクリスタルの盾。
    その残骸の一部より無事な素材を再利用して、なんとか小剣一つ分にできました」

勇者「素材は凄いけど、地味だな」

戦士「だからこその、勇者の剣なのです」


魔王「勇者のために用意され、しかし勇者が使うことなく破壊された武具防具に
    もう一度チャンスを与えると?」

戦士「名ばかりの勇者の剣など、無念さで宝物庫で妖怪に変じても不思議ではありません」

勇者「藪を払ったり薪を切ったりするけど、いいのか」

戦士「……時と場合によるかと」

魔王「木材を切ったところでオリハルコンが欠けたり折れることはないでしょう」

戦士「ですな」

勇者「ありがとう。じゃあ、こいつ借りていくわ」

戦士「はい。向こうで落ち着いたら返していただきに参上します」

魔王「その時は歓迎いたしますわ」

勇者「ああ。またな」

戦士「はい。また――あの頃のように、旅先で馬鹿をやったり、笑い合いましょう」

あれ?これ勇者とんでもスペック?


姫「……よろしかったのですか、戦士様」

戦士「なにが、でしょうか」

姫「あなたは、勇者様にこう言ってほしかったのではありませんか。お前の力が必要だ、
  一緒に来てほしい――と」

戦士「かの大陸には、ホテルもスイートルームもないでしょうから」

姫「まあ」

戦士「ですから、この国のために身命を尽くすつもりです。姫」

 という話。

ちなみに虐殺の長槍云々は、あくまで先代魔王様の黒歴史ノートに記された設定だけなので
実際の破壊力は一切不明。

勇者はある意味でとんでもスペックですが詳細はまた別の話に。

もうこれそのまま続けちまえよwwwwww

まさかこの短剣、前スレの勇者が持ってた「鎮公」の元になった剣?

来てた~

続き期待してます

>>283
GWスペシャルなので適当に終わります。

>>284
ちんこソードとはちょっと違います。素材のみ優秀でエンチャントの類いは一般的な武具の水準のようです。
おかげで魔王と闘った際に折れました。

>>285
もう少しだけ続きますですはい。

なんだか大魔王が呼んでる気がした

【生き残った英雄ほど処遇に困るものはないという話】

魔王「辺境の開拓村の領主ですか」

僧侶「ええ。戦争で土地を得たわけでもなく、所帯を持っているので貴族令嬢を嫁がせるわけにも
    いかない。
    恩給として金銭を与えようとすれば国が傾き、それは巡り巡って国内の不和の種となります」

魔王「だから一族で辺境の地に移り住んで開拓の許可を?」

僧侶「産めよ増やせよ地に満ちよ。宗派こそ様々ですが、世界を守る神々の教えの第一義はそこに
    あると解釈しております。
    ならば荒れ地を拓き畑を作り家畜を育て人を養うのもまた神の教え」

魔王「失礼ながら先代魔王と戦う前は、魔族殲滅を旗印に教会でも最も過激な思想をお持ちだったと
    伺っておりますが」

僧侶「――信じていた神が、女装癖どころかリアル性転換してミニスカレオタード姿で武道館ライブを
    している映像を見れば、そら信仰も砕けてしまおうというものです」

魔王(あかん、地雷踏み抜いた)

僧侶「先代魔王を倒す戦いに赴く際、降臨された神の御姿……勇者がまっとうに魔王と闘うこと自体が
    昨今では稀らしくて異界の神々なども応援に駆け付けられたそうなのですが」

魔王(あかん、あかん。このひと聖職者なのに周辺に暗黒オーラ漂ってるがな)

僧侶「そもそも世界征服を試みない魔王という存在を目にして疑問に思うべきだったのです。我々は
    今でこそ神の教えと呼ばれるものにしたがって反映していますが、そもそもこの教義も」

魔王(勇者さまー! 早く来て、来てえええ!)


勇者「おっちゃん、そこまで。そうやって極端から極端に走るから、教会での居場所を失くすんすよ」

僧侶「……おお、勇者殿」

勇者「都で枢機卿になってたはずが、いつの間にか辺境伯だろ。挨拶に行こうとして驚いたすよ」

僧侶「はっはっは。親睦会で大司教様と感情的な宗教談議(物理)をしてしまいましてな」

僧侶娘「お父様が首の皮一枚で助かったのは、処分したら勇者様を確実に敵に廻すとの配慮が
     あったからなんですよ」

魔王(む。手をつないでる。むむむ)

勇者「僧侶娘ちゃんも、しばらく見ない内に大きくなって俺驚いたすよ」

僧侶娘「これでも暴走しがちなお父様を補佐して開拓村の指揮を執っていますから」

僧侶「恥ずかしながら人の上に立つ才は私より上とみております」

勇者「おっちゃんは異教徒を殴ってる時よりも街角で子供相手に説法してる時の方が楽しそう
    だったしね。楽隠居して日曜教会やるのもいいんじゃないすか?」

魔王「そうですね。聖職者は宗教活動のみならず教育や道徳それに倫理を司る者として重視
    されています。特に辺境のような場所では文化水準の担い手でもあるかと」

僧侶「確かに。娘もあと2年で成人。であれば、どこぞより良き人でも見つけて所帯を持たせるのも
    悪くないですな」

僧侶娘「はいはーい。それじゃあ、勇者様をお婿さんにします!」

魔王「へ」

感情的な宗教談議(物理)ってなんかワクワクするな


勇者「残念。俺これから魔王さんと一緒に別大陸に移り住むんですよ」

僧侶娘「……ふーん。それって、魔王さんと結婚するってことなんですか?」

魔王「け、けけけけ」

僧侶「穏健派魔族の行く末を見届ける任務ですが、その辺はどうなのでしょうね」

勇者「魔王さん美人だし付き合えればラッキーだけど、そこまで夢見てないって」

僧侶娘「むー、相変わらずボッチ飯なの?」

勇者「食事てのは空腹を凌げて身体を動かす栄養を補給するだけすよ。だから
    廊下で干し芋でも齧ってりゃ十分なんす」

魔王「……け?」

僧侶「聞いて下さいよ、魔王さん。勇者殿は旅の途中とうとう食堂で一度も食事を
    しなかったんです」

勇者「おっちゃんたちもホテルノロイヤルスイートで飯食ってたじゃん」

僧侶「ある程度の位にいると、適度に散在するのも仕事の一環でして」

勇者「当時は俺って身分的には奴隷以下だったからねー、まっとうにテーブルマナーは
    叩き込まれてたけど食堂も辛かった」

僧侶娘「勇者様、家庭のご飯にも慣れてなかったんだよね」

勇者「叛逆者の血筋って、そんだけ厳しいんすよ。普通なら初等教育も受けられない」


魔王「勇者様、実は壮絶な人生を送ってたんですか?」

勇者「叛逆者の血筋にうっかり勇者認定きちゃったから、【やり直し】をすべく教会や社交界から
    暗殺者が向けられてたんすよ。そうでなけりゃ日蔭者でも最低限の互助組織が
    機能してるんですけどね――その辺の話が王宮に伝わって保護されたのが十歳の頃で」

僧侶「暗殺に関与した貴族および教会上層部が軒並み粛清の対象となった、忌まわしい事件です」

勇者「だから俺が僧侶娘ちゃんとこに婿入りしたら、そういう過激な連中が適当に叛意アリとみなして
    攻め滅ぼされちゃうのがオチす。
    魔王サンについていって別大陸に移り住むってのは、実は有難い話でもあるんす」

僧侶「この国にとどまるとすれば役場の警らか倉庫番でしょうなあ。表舞台に立つことなく生涯を
    終えるように仕向けられたでしょう」

勇者「それはそれで魅力的な余生だけどね」

僧侶娘「むー」

魔王「わかりました。勇者様は必ず幸せにします」

勇者「俺けっこー幸せっすよ」

魔王「どこがですか!」

勇者「両親には死に別れたけど、一族は叛逆者から市民に復帰できたし。王様とか騎士団長は十歳の
    俺に頭を下げて謝って、人としての教育をしてくれたし。戦士や僧侶や賢者は、俺の身の上を知った
    上で仲間として扱ってくれた。もう、それで十分じゃね?」

僧侶「十分なものですか!」


勇者「十分だって。俺の身の上を知って、戦士も賢者もおっちゃんも涙ぁ流してくれた」

魔王「……勇者様は、勇者様は馬鹿です!」

勇者「はは。魔王さんまで泣いてくれた。もう人生報われてるって」

魔王「報いるのはこれからです。人生って楽しいって、一生かけて教えますから!」

僧侶「よろしくお願いします。勇者殿は不幸の基準がぶっ壊れた御方ですので」

僧侶娘「なんだか勇者様がお父様の息子みたいな扱いなんですけど」

勇者「礼儀作法とか読み書きを教えてくれたの、おっちゃんだしね」

魔王「勇者様!」

勇者「は、はい」

魔王「魔族繁栄と勇者様の幸せ、とても困難ですが必ず両立させますから!」

勇者「あの、なんかおかしくないすか」

僧侶「うちの主神の嗜好に比べればよほどマトモかと」

僧侶娘「女装はまだしも、疑似妊娠プレイとかないわー」

という話。

ちなみに宗教談議(物理)は白いマットのジャングルに今日も嵐が吹き荒れるノリで
繰り広げられたルール無用のデスマッチだったようです。


僧侶はきっと、正義のバンチをブチかましたんだな

相手はアフロですねわかります

【幕間・魔王様と勇者の食事】


魔王「アカデミーの食堂で昼を済ませましょう」

勇者「じゃあ俺は干し芋をかじりながら近所を散歩してくるっす」

魔王「ダメです。勇者様はわたしと一緒に食べるんです」

勇者「何故」

魔王「向こうの大陸に行ったら、人間と食卓を囲む可能性は限りなくゼロなんですよ」

勇者「今までの人生でも限りなくゼロで、いまさら優雅に食事をしてもなんというか気恥ずかしいです」

魔王「学生向けのカフェが優雅であってたまるものですか」

勇者「そ、そう? 今こうしてテーブルに着くだけでも落ち着かないすけど」

魔王「ちなみに勇者様の基準でカフェのどのへんが優雅なのですか」

勇者「料理が皿に盛りつけられてて、スプーンの他に食事専用のフォークとナイフがある」

魔王「……あの、勇者様にとって今までで最も豪華な食事とはどのような料理なのか教えていただけますか?」

勇者「石みたいに堅い黒パンを空豆やネギと一緒に柔らかく炊いたパン粥だけど」


魔王「勇者様! それを豪華と判断した理由は!」

勇者「暖炉の火で3時間。とろとろの弱火でゆっくり煮込むなんて、平和で
    時間に余裕がなけりゃ作れない料理だもの」

魔王「……」

勇者「あの、泣かれても困る」

魔王「聞いてください、勇者様」

勇者「あ、はい」

魔王「先代の魔王は、ろくでなしではありましたが! それでもギリギリまで
    人間の国を襲わず、理性の尽きた時に使いを寄越して討たれることを
    望みました! 人間の国は、この国は! 少なくとも百年間は戦火に
    見舞われることなく平和を謳歌していたはずです! その点において
    先代の魔王の治世は賢君のそれであり、人間の王達でさえ高く評価
    していました!」

勇者「すごいすよね。この百年で人口は三倍まで増えたし開拓や農耕技術も
    発達した。衛生や予防接種の概念は魔王からもたらされたって聞いてるすよ」

魔王「そうです、そうなんです。魔族は人間なしには存在できないから、ヒトが
    繁栄してるほうが望ましいって当たり前の結論を出せたのは先代の
    魔王の功績なんです。
    それなのに、どうして勇者様はそういう殺伐として不毛な半生を送られ
    たのですか! 勇者といえば神々と精霊に祝福され、人類の英知と奇跡の
    力を宿した希望の象徴でしょう!」

勇者「うん、だからさ」


魔王「だから?」

勇者「俺みたいな叛逆者の血筋に勇者の祝福が降りるのが我慢ならんって
    人たちが多かったんすよ」

魔王「勇者様の御先祖様は、それほどまでに大きな罪を犯したのですか?」

勇者「子孫きっちり残せてるんだから、恩赦があれば名誉回復する程度の罪すよ」

魔王「それなのに、勇者様だけが、そんなひどい人生を強いられたんですか?」

勇者「イケメンで家柄が良くて適度に不幸を背負ってて、あとは神秘的な出生の秘密がある」

魔王「?」

勇者「この国の人が勇者って肩書きを背負った奴に求めてる最低条件す」

魔王「……まるでおとぎ話の主人公ですね」

勇者「悪い奴たおしてお姫様とハッピーエンドだから、そうっすね。勇者の幻想が崩れるから
    俺はなかった事にしてイケメン君が勇者に指名されるようにいろんな人が頑張ったす。
    無駄に終わったけど」

魔王「……真実の勇者は見栄えはそこそこ、叛逆者の血筋で不幸のどん底、
    さりとて神秘的な出生の秘密はなし」

勇者「でも魔王さんがハッピーエンドになれるように協力するから、勘弁してください」

魔王「勇者様もまとめてハッピーエンドを目指します。まずは一緒の食事から」

勇者「勘弁してください」

以上、幕間。

勇者だから仕方ない

あぁ、勇者なら仕方ないな

【魔族の殖やし方】

賢者「来るのが遅い」

魔王「来る予定など最初からなかったのですが」

勇者「……誰?」

賢者「あなたと一緒に魔王を倒しに行った賢者」

勇者「俺の仲間だった賢者は長身イケメンのキザ男で、ねーちゃんみたいな
    むちむちばいんの露出狂じゃないぞ?」

魔王(勇者様は貧乳好き。よしっ)

賢者「勇者パーティーが男ばかりだったので、魔法と薬で性別を偽っていた」

勇者「すげえな、さすが賢者」

魔王「信じるの早っ」

賢者「眼の下のホクロと髪の色はいじっていないので、勇者なら気付くと信じていた」

勇者「あと匂い。イケメンの時も同じ香水使ってたもんな」

賢者「勇者、すごい。やはり運命の人」

魔王「……アカデミー首席の才女が勇者様の冒険仲間だとは、最初は信じたく
    ありませんでしたわ」


賢者「私も万難排して勇者をアカデミーに招き入れたら、よもや留学生の
    尻軽女が次代の魔王だとは予測もできなかった」

魔王「だ、誰が尻軽ですか! 留学生と言う身分なので注目を集めることは
    ありましたが特定不特定を問わず殿方と交際などしていません」

賢者「そうね。貴女はアカデミーに来てからずっと交配に適した異性の情報を
    かき集め、勇者の存在を知ってからは彼を探り続けていた」

魔王「な――」

勇者「そっか、賢者と魔王は知り合いだったのか」

賢者「非常に不愉快ですが首席なので留学生が来た時には挨拶や簡単な
    案内などをしていました」

魔王「先代魔王を倒した賢者は長髪で好色なイケメンと聞いていたので、
    そちらにしか注意していなかったのが敗因でした」

勇者「うん。賢者は凄かったすよ。正統派美男子の戦士と並んで、行く先々で
    女の子の黄色い声援を受けてたし」

賢者「私は同性からの飢えた視線よりも勇者に信頼される日々に価値を
    見出していた」

魔王「ぐぬぬぬぬ」

勇者「それで、なんで俺と魔王さんが縛られて賢者のラボに拉致られてんの?」

賢者「勇者がアカデミーを辞めて魔王と駆け落ちすると聞いた」

勇者「王様の命令で、魔王さんが同族増やすのを見届けるんだってば」

賢者「……ほほう」

魔王「う、嘘は言っていないですよ」

勇者「賢者?」


賢者「勇者、あなたは魔族の増やし方を知っている?」

勇者「人間と同じ姿だから、人間と同じじゃないの? 魔族の男を見つけて」

魔王「……」

賢者「そう。基本は同じ。人間との混血が存在するように、個体として確立した
    魔族は人間や動物のように形態に則った生殖方法をとる」

勇者「それで、魔族の増やし方と俺が縛られる事の因果関係は」

賢者「魔族の大発生には、実はある法則性が隠されている」

勇者「そうなの?」

魔王「法則性といいますか、そのですね。男が魔王になった場合には魔族が
    大発生しやすいんです」

賢者「勇者というシステムによって魔王が討たれた場合、生存する魔族は
    あらゆる場所から姿を消す」

勇者「そういや魔王を倒したら、魔王城は無人になってたな」

賢者「そう。我々は今までそれが魔王と共に全ての魔族が全滅したと思って
    いたが、実状は違う」

魔王「定期的に魔族が現れて魔王が出現する以上、絶滅するわけありませんよね」

勇者「あ」

賢者「そう。姿を消した魔族達は次代の魔王に吸収され、次代の魔王に忠誠を誓う
    新世代の魔族として誕生する」

勇者「な、なんだってー!」

賢者「さすが勇者。いつもながら要所を押さえた反応、やはり相性は抜群」


勇者「だ、だってさ。それって、魔族は魔王の子供ってことなんだよな?」

賢者「少なくとも第一世代あるいは始祖魔族と呼ばれる種の起源に
    位置する魔族は魔王を父または母に持つと推測している」

魔王「……大体合ってます」

勇者「でも、魔族ってドラゴンみたいなのとかスライムっぽいのとか
    機械人形とか──いたすよ。あれも」

賢者「それこそが魔族大発生の謎を解く鍵なの。おそらく男の魔王が
    放つ精に還元された魔族が宿っていると私は考える」

勇者「……え、と。それって」

賢者「勇者が討ち取った先代魔王は、スライムからダッチワイフから
    ゴーレムから鳥からドラゴンからセイウチからカエルにガス状生命や
    腐った死体に至るまでエッチしまくって荒廃した結果、おびただしい
    量の魔族を世に解き放ったという仮説」

勇者「なにそれ怖い」

賢者「おそらく魔族の因子は男の魔王は精子に宿り、女の魔王の場合は
    卵細胞に宿ると考える。男の魔王由来の魔族は個体能力は母体に
    左右されるが数と多様性に勝り、女の魔王由来の魔族は個体数こそ
    少ないが魔王を母体とするため強力な能力を得やすい」

魔王「せ、先代魔王の名誉にかけて訂正しますが。スライム系や昆虫や
    単細胞系の魔族はですね、子作りの際にこぼれ落ちた子種が土壌の
    微生物や小動物に付着した結果なんです」

賢者「余計にたちが悪いともいう」


勇者「……じゃあ、向こうの大陸に渡ったら魔王さんもドラゴンとかライオンとか
   亀とかそういうのとエッチするんすか」

魔王「しませんっ!」

賢者「ちなみに各種動物のちんちんをスケッチした図鑑がここに」

勇者「うわぁ」

魔王「ですから、他の生き物とエッチするつもりはありません!」

賢者「交配相手は勇者限定か」

魔王「──いけませんか」

賢者「アカデミーに籍を置くイケメン百人分の精液サンプルを提供する用意が
   ある。勇者を諦めてくれんかな」

魔王「私は、勇者様も含めて幸せになると決意しています。この国に留まっても
    勇者様に未来はありません」

勇者「あれー、俺たしか魔族の見届けをする仕事って聞いたような」

魔王「末永く見届けていただくための一環です」

賢者「勇者。私の下で三年ほど我慢してくれればクーデターを起こして
    君を迫害した連中に遙かな眠りの旅を捧げるぞ」

勇者「魔王さん、とりあえず俺が国に留まると虐殺が起こるとわかったから逃げよう」

魔王「はいっ!」

勇者「子孫繁栄については別の機会にきっちり話し合うすよ?」

魔王「そこは問答無用で一意専心していただくわけには」

勇者「だめっすよ」

賢者「ちっ」

以上、投下終了。

賢者もくればいいのにと思った俺は今賢者になろうとしている
……ふぅ

時代はちっぱい
つまり魔王最強ということですね

【マドンナとボッチ学生のファーストコンタクト未遂の歴史】


老魔法使い「なぬ、履修登録を取り下げたい?」

勇者「はあ。特選魔法コースなのに、どういうわけか見学者が異様に
    多くて教室に入れないんです」

老魔法使い「しかし今期の特選魔法コースは勇者君の勇者魔法の
    実演と解析というテーマなんじゃが」

勇者「教室に入れないのではどうしようもありません」

老魔法使い「ふむう。特選魔法コースはマイナーすぎて習得も使用の
    機会も稀な魔法の解析を旨とした、魔法科の中でも趣味特化の
    不人気授業なのじゃが」

助手「なんでも先日編入してきた魔族の凄い綺麗な留学生さんが履修
    希望してて、ファンクラブの学生達が教室を半ば占拠しているそうです」

老魔法使い「……なんでそんな子が、マイナーな授業を」

助手「それがさっぱり」

勇者「つまり、それって今期の特選魔法コースが受けられないって事ですよね」

助手「留学生以外の履修希望者は先生の個室でゼミ形式で授業を
    進めた方が良さそうですね。君が勇者であることを口外しない
    生徒を厳選した授業でしたが、外野がこうも多くては」

老魔法使い「勇者君はそれで良いかね」

勇者「あの、それだと留学生の魔族の子が八分られて」

老魔法使い「向こうの教室で教える授業内容は変わらん予定だよ」

助手「勇者魔法を目にできる機会は稀少です。賢者ちゃ──賢者君が
    せっかく紹介してくれたのですから、勇者魔法の詳細を可能な
    限り調べたいのです」

勇者「はあ」



武闘家「済まない」

勇者「ここもですか」

武闘家「闘気ではなく魔法の力を体術に応用したマイナーきわまりない
    コースなのだが、留学生のかわいい子が自称親衛隊を名乗る
    大量の野郎共にエスコートされて来てな。今は見学者選抜の
    トーナメント戦が行われている」

勇者「け、見学者の選抜すか」

武闘家「うむ。留学生の子の両隣を守るべきナイトを選ぶそうだ。やつら
    道場を勝手に使ってトーナメントを始めてしまったので、魔法体術の
    授業を始められんのだ」

勇者「じゃあ魔法体術の履修は来期に」

武闘家「まあ待て。マイナーすぎる上に件の騒ぎで、今期の履修予定者は
    君しか残っておらんのだ。ここで取り下げられると授業中止なのだよ」

勇者「どうするっすか」

武闘家「職員寮の裏に空き地があるから、そこで実践形式で授業を進めよう。
    たぶんトーナメントは来年まで続くから」

勇者「どんだけ参加者いるんですか」

武闘家「謎の乱入者とか後出し設定とか言い始めてたからなあ、訳わからん
    伝説の武器と奥義のオンパレードだった。ありゃあ見せ物として金とれる
    レベルのオモシロだから、授業は別のところでやっておくべ」

勇者「うっす」



勇者「こんな感じで、最初に履修していた科目に野次馬さんが
    大勢きて困ったんす。そのときに、留学生ですごい綺麗な
    人が来てるって聞いたすよ」

魔王「あ、あはは」

勇者「あんなマイナーな授業にも積極的に顔出すなんて勉強
    熱心だなあって、俺すごい感心したすよ」

魔王「そ、そうなんですよ。せっかく人間の国の大きなアカデミーに
    留学したんですからね」

勇者「さすがアカデミーのマドンナすね」

魔王「ははは……しくしくしく」



以上、幕間。

魔王は勇者に会いたかったのか

魔王ちゃんカワエエ(*´д`*)

【魔王が勇者を必要とする切実な事情】


勇者「それにしても」

賢者「なんだい勇者。王からの任務に嫌気が差した? ああ、それは重畳。
    ちょっと待ってて、いま城の真上に直径500メートルくらいの隕石を召喚するから」

勇者「嫌気も差してないし城への叛逆もしないし首都消失にも興味ないすから、
    イイ笑顔で物騒なことを言いながら現れないでほしいす」

賢者「ははは。堅物の戦士ならば剣を抜き、融通の利かない僧侶なら血の涙を
    流して拳を固めているところなのに。君は相変わらず勇者だなあ」

勇者「賢者も男だった頃とやってることは変わらないすね」

賢者「いやいや、女体に戻ってからは君を想う度に毎日が排卵日さ。そろそろ処女懐妊
    しても不思議じゃない」

勇者「賢者はやっぱりすごいすね。ところで魔王さん知らないすか? 飲み物買って
    くるって行ったきりなんすけど」

賢者「あ、学園のマドンナのことね」

勇者「なんすか、その曖昧な表情は」

賢者「今のところは無事だと思うけど、君の力が必要だと思って呼びに来た次第さ」

勇者「はあ」

賢者「なあ勇者、君は魔王のことをどう思う?」

勇者「勉強熱心で社交的すよね」

賢者「その辺少しばかり致命的な誤解を含んでいるような気もするが、なるほど。
    では異性としての魔王は、勇者はどのように見ている?」

勇者「そりゃあ、美人すよね」


賢者「君が知る美人と比べてみた場合は?」

勇者「うーん。戦士のところにいる姫様は、儚げだけど芯の強そうな
    美人す。僧侶娘ちゃんは、たくましくて明るいけど甘えたがりの
    部分もある美人す。賢者は──」

賢者「わたしは?」

勇者「豪快で豪華で華やかなだけど、辛い時に強がってたすよね。
    負けず嫌いで、だけど絶対に仲間を見捨てなかったす」

賢者「勇者、三日待ってほしい。その間に王宮にちょほいと襲撃かけて
    クソッタレな王様に命令の撤回をさせてくるから」

勇者「魔王さんについてのコメントはいらないすか?」

賢者「……聞いておこう」

勇者「魔王さんは、努力家で辛抱強いすね。正直いって、噂と本人の
    イメージが一致しないす」

賢者「そうだなあ。アレが親衛隊を百人単位で従え学内を引っかき回す、
    アカデミーのマドンナと呼ばれた女と言われても信じられないだろう。
    少なくとも勇者にとっては」

勇者「図書館の司書とか購買部でアルバイトしてても違和感ないす」

賢者「君の評価はそれほど間違っていない」

勇者「そうなんすか」

賢者「ああ。勇者と一緒にいるときの魔王については、わたしも似たような
    感想を抱いた」

勇者「?」

賢者「いいかい勇者、魔王というのは王様なんだよ。継承の経緯は不明でも、
    彼女が次代の魔族を束ねる王という事実は変わらない」

勇者「でも、今は魔王ひとりすよね?」


賢者「ああ。彼女が魔族を増やすには、オスが必要だ。どんな環境であれ
    彼女は魔族の繁栄のためオスを引き寄せ、従え、精を注ぎ込ませる
    宿命を背負う。ある意味でカリスマとも言えるが、私に言わせれば
    周囲の異性を問答無用で発情して支配する能力など呪い以外の
    何物でもない」

勇者「え、俺そういうの何も感じなかったすよ」

賢者「君は勇者だからな。先代魔王を倒したほどの勇者の力は魔王の
    支配力を中和し、彼女は君の傍では普通の少女でいられる」

勇者「勇者の力って、すごいんすね」

賢者「本来は魔王の力に畏怖したり仲間が恐慌状態に陥らないようにする
    ための加護なのだが、一種の魅了攻撃と見なされたのだろうね」

勇者「……あれ? ということは現在行方知れずの魔王さんは」

賢者「レイプされたか妊娠してるか精液注ぎ込まれているか強姦されて
    いるか絶賛肉便器か、まあ好きな予想を選びたまえ」

勇者「笑えない冗談す」

賢者「彼女は次代の魔族を一刻も早く大量に産む宿命と本能を抱えて
    いるんだ、種族的に見れば如何なる陵辱行為も国民栄誉賞級の貢献だよ」

勇者「……」

賢者「ましてアカデミーに来る男は、一定水準以上の冒険者かそれに比する
    素養と経験の持ち主だ。婿探しにアカデミーに潜り込む貴族女子だって
    いるくらいだし、魔王にとっては父親を特定できない程度で結果オーライ
    かもしれないよ」

勇者「魔王さんにその気があれば、いつでも子作りできたすよね?」

賢者「もちろん」

勇者「……魔王さん、探してくるす」



学生A「魔王さんを見るとむらむらする」

学生B「うん。勃起が止まらない」

学生C「なんだか魔王さんからいい匂いがする」

学生A「魔王さん、初エッチに備えて予習復習するけど参考資料を
     間違えてとんでもない変態プレイを実行しそうだよな」

学生B「わかるわかる。キスしたら相手の前でわざと失禁して興奮度
     急上昇!とか女性週刊誌の記事に付箋紙つけて何度も読んでそう」

学生C「痛くて膜が破れなかった時に備えて、後ろの穴を自力で開発してたり」

学生A「いつの間にか後ろの穴で日常的にひとりえっちしたり」

学生B「好きな人の前で尻穴から極大ビーズを抜きながら失禁して
     処女喪失を懇願とか、どんだけ上級者なんだろうな魔王さん」

学生C「さすが魔王さん、清純そうな顔してとんだいやらしさんだ!」

魔王(あかん)

学生A「見ろ、魔王さんがガクガクふるえているぞ!」

学生B「ま、まさか地味で清潔そうな服装の下には派手でエナメル地で
     拘束着っぽい際どいランジェリーが装着されてて、なおかつ
     リモコン制御式のマジカルアンカーが魔王さんの窮屈な臓物を
     内側から拡張しつつ絶妙な周波数の超振動を!」

学生C「あれか。鬼畜な彼氏の命令で道行く男性の精液百人分を注ぎ
     込まれるまで故郷に戻れないっていう噂は真実だったのか!」

魔王「そんな真実はどこにもありません!」


学生A「まあまあ。実際に注いでみればいいじゃないか」

学生B「そうそう。魔王さんなら百人分の精液を注がれても笑顔で
     だぶるピースしてくれますって」

学生C「さあだあ。まずは俺たちが十日ほど我慢したこってり濃厚な」

勇者「うす、魔王さん。麦茶の屋台があるから、そっちに行くのはどうすか」

魔王「勇者様!」

学生A「む。君は便所飯常連ボッチだけど案外イイ奴な勇者君」

勇者「ども」

学生B「このタイミングで。このタイミングで──タイミング」

学生C「よし、死のう」

学生A「ああ。紳士にあるまじき振る舞いをした、言葉で謝罪した
     ところで許されるものではない」

学生B「すまんが勇者君、我々の墓には
    『卑劣なる性犯罪者ここに屍を晒す』
     とでも書いたアイスの棒でも墓標の代わりに立てておいてくれ」

学生C「しからば、れっつ自害」

魔王「勇者様、止めてください!」

賢者「ここで死なせてあげるのも優しさだよ」

勇者「とりあえず半殺しにして身動きできないようにするす」


 死ぬほど痛い目に遭ったので、死ぬ気は失せた模様。

以上、投下終了。

なんとなく魔王×賢者もいいかもっておもた

途中まで普通に読んでたけど、途中から
ああ>>1はこういうやつだった
と改めて実感した

いいぞもっとやれ

面白いんだよなこれ

【移住準備あれこれ】


賢者「小型犬の群を使って検証したところ、魔王と勇者の距離が
    50メートル離れると小型犬が一気に発情してちんこばっきばきに
    勃起させることが判明した」

魔王「ひいい、愛らしい外見に似合わないご立派な肉棒が!肉棒が!」

勇者「……よくこんな状態で今まで無事だったすね」

魔王「せ、先日までは普通だったんです! 懐かれたり後ろをついてきたりとか、
    そういうのは日常茶飯事でしたが」

賢者「シンプルに考えれば勇者と出会ったことが原因だが」

勇者「大臣さんから紹介されたのは先週すよ」

賢者「先日と言えば、ああ。僧侶たちの開拓村から帰ってきて、勇者が
    学生寮を引き払って魔王の部屋に連れ込まれたな」

魔王「つ、連れ込んでなんていません」

勇者「ベランダで寝袋敷こうとしたら怒られたす」

魔王「あ、当たり前です」

賢者「一つのベッドで寝たと!」

勇者「絨毯ふっかふかで気持ちよかったす」

魔王「……まるで野営しているような寝方でした」

賢者「うむ。旅の頃から全く変わっていないな!」


勇者「人のいない大陸でも危険な動物とかいても不思議じゃない
    すよ。それに備えて野営の勘を鈍らせるわけにはいかないす」

賢者「正論ではある」

勇者「そもそも前人未踏の大陸で暮らすんで、必要な道具を
    とにかくかき集めないといけないわけで」

魔王「開拓は魔王パワーを使いますし、必要な物資も魔王テレポート&
    アポートのちょっとした応用でどうにでも」

賢者「勇者の傍でそれ使えるの?」

魔王「ご、五十メートル以上離れていただければ」

勇者「野生動物のオスに貞操奪われそうになりながら物資補充すか」

魔王「……ど、どうしましょう」

賢者「まあまあ。勇者の傍にいると魔王カリスマが封印されているだけで
    他の魔王能力は使えるかも知れないし調べてみればいい」



勇者「で」

賢者「カリスマのみ選択的封印とか、そんな美味い話は
    ないって事よ」

魔王「しくしくしくしく」

勇者「要するに貞操の危機を排除できる環境さえ最初に
    造ってしまえば、魔王テレポートとか使えるすよ」

魔王「えぐえぐえぐえぐ」

勇者「しょ、食料とか家財道具とかは勇者バッグと携帯式勇者ハウスに
    入れて運べるす。ここ数年は豊作豊漁が続いてて食料相場も
    安定しているから市場でも不足はないし」

賢者「あ」

魔王「ゆ、勇者バッグ? 勇者ハウス?」

勇者「うす。先代魔王と戦う前に、謎のむっちり美人さんが寄越してくれたす」

魔王「むっちり、ですか」

賢者「は、ははは」

勇者「その美人さんが言うには
    『魔王などと言う恐ろしい存在と戦うのはやめて、自分とどこか
     魔物のいない世界に逃げて人という種を残しましょう。それこそが
     勇者に課せられし使命のはずです』と」

魔王「……へえ」



勇者「なんか思い詰めたように潤んだ目で懇願してきたん
    すけどね。その人が笑顔で家族といられるように頑張るのが
    勇者の仕事すよ。そしたら、旅の役に立つからって
    勇者バッグと勇者ハウスをくれたんす」

魔王「賢者さん、ちょっと食堂の裏でお話を」

賢者「た、旅の途中でちょっと弱気になっただけだから! 
    未遂だから、変装してハグされただけだから!」

魔王「怒ってませんよ、怒る理由なんてある訳ないじゃないですか。
    ただ個人的に、その善意の第三者がどの程度の覚悟を
    決めて勇者様を誘惑しようとしたのか物理的に尋問したいだけで」

賢者「だったら何で処刑BGMが流れ始めてるのよおお!」



魔王「勇者バッグと勇者ハウスの鑑定を賢者さんにお願い
    したところ、ご厚意で日持ちする食料三年分と水それに
    燃料を提供していただけました」

勇者「ありがとうす」

賢者「な、なあに。勇者バッグの中では腐敗も発酵も停止
    するからね。わは、わはは、わは」

魔王「ふふふ」

賢者「──勇者の傍にいる限り魔王としては無力なのに、
    いい笑顔じゃないか」

魔王「普通の女の子として生きること、もう無理だって諦めて
    いましたから」

賢者「そうかい」

魔王「そうなんですよ」

勇者「???」

以上、投下終了。

勇者バッグと勇者ハウスは四次元ポケット的なもの?ギップル的なもの?

補足

勇者バッグ:
四次元ポケットに近いもの。いわゆるホールディング・バッグ。無限袋。
中華的だとなんでも吸い込む瓢箪。

勇者ハウス:
その昔の漫画、ドラゴンボールに出てきたホイポイカプセルに近い代物。
庭付き一戸建て(ただし20名くらいが過ごせる)、管理人兼メイドの人工精霊付。
マジックアイテムなので、たとえ海中だろうが宇宙だろうが、ハウス内部は快適。
人類絶滅してもこのハウスに男女一組が逃げ込めば庭で開墾しつつ
子孫を残せてしまう仕様。

野宿生活の長い上に食事にあまり関心を持たない勇者はこの二つをほぼ
使わずに旅を終えていました。

もう両方嫁に貰えば良いんじゃね?

最初のほうに童顔で巨乳と書いてあるけど
結局魔王は巨乳なのか貧乳なのか

今話に出てる魔王は前スレの魔王とは別人でしょ?
スレの始めの方に名前が上がってる魔王は前スレの魔王で貧乳。
そういうことじゃないの?

>>265では「童顔で巨乳」とあるが、
>>304では「勇者さまは貧乳好き。よしっ」
ってなってるから、どっちなんだって事じゃない?

魔王さんのおっぱいはDカップくらいで、服装によっては大きくも見えるし
普通っぽくも見える適度なサイズです。

賢者さんのおっぱいはH~Jカップくらいで、魔法の力で垂れずにいますが
頑張っても普通サイズには見えないおっぱいさんです。

二人が並べば魔王さんは貧乳扱いされてしまいますが、童顔と言う事もアリ
Dカップで相応の服を着用していればおっぱいの大きな子として見られると
いうことで。

ちなみに姫様はGくらいで、僧侶娘さんはBくらいです。

僧侶娘はもらっていきます

【前日譚】


先代魔王「オナ禁も百年続くと色々と厳しくなるな」

側近「仕方ありませんがな。精子が土の上とか腐った生ゴミの上に
    一滴でも落ちると、またぞろ微生物由来で得体の知れない
    魔族が誕生してしまいますから」

先代魔王「しかも第一世代だから、下手な雑魚モンスターより強いんじゃよねえ」

側近「十三代前の魔王でしたか。うっかり夢精したパンツを焼却せず
    放置したら、鋼のイナゴが大発生して人間達の国を襲って餓死と
    疫病をまき散らしたというのは」

先代魔王「人間達には死んでも言えんわな」

側近「……健康的で知性あふれる魔族の少女を后として手配しました」

先代魔王「おい」

側近「僭越ながら。精霊神の醜聞とこれに伴う精霊力の不安定化、それより
    大地の環境を守るために陛下は力を使いすぎました。おそらく次の
    発情期を迎えたら理性を失い大地に無数の魔族を解き放つことになるのは必至」

先代魔王「だったら歴代の魔王に倣い、勇者と戦って討たれるわい」

側近「我々には! 陛下が必要なのです!」

先代魔王「頑張ってるけどよ。魔王として国を形にするまで二百年、そっから周りの
    国に迷惑かけないように頑張ってさらに百年。そろそろ潮時ってもんじゃねえか?」

側近「次の発情期を乗り越えれば、さらに百年は耐えられるはずです」

先代魔王「それを乗り越えるために、何も知らねえ若い子のコブクロと卵を犠牲に
    するってのかい。おらぁよ、そういうやり方を教えてきたつもりはねえぞ」

側近「陛下、どちらへ」

先代魔王「手配したって言っただろ。帰すにしても責任者が頭下げて床に額こすりつけて
    謝んないでどうすんだよ」

側近「陛下あ!」



先代魔王「そう言うわけでだ。悪ぃな嬢ちゃん、うちの馬鹿が
    気を利かせすぎてよ。こんな爺の愛人に、嬢ちゃんみたいな
    若くて可愛い子を寄越すとか何考えてるんだか」

少女「王様は、それでいいの?」

先代魔王「あんまり良くねえなあ」

少女「それなら、やっぱり私が」

先代魔王「嬢ちゃん。魔王の子供を産むってどんだけ辛いか
    知ってるかい?」

少女「う、ううん?」

先代魔王「魔王の精子はよ、嬢ちゃんの身体の中に入ったら卵巣の中で
    眠ってる卵子の一つ一つに潜り込んで──嬢ちゃんの場合だと、
    そうだな。大体だが30万個の卵が受精するわな」

少女「……え」

先代魔王「いちおう魔王パワーで出産期間と妊娠期間を短縮してやるけどよ、
    妊娠から出産まで2時間で片付いたとしても今から70年間ずっと
    妊娠しっぱなしの出産しっぱなしだぜい」

少女「え、え、え?」

先代魔王「飯食って眠っている間も、どんどん子供が産まれてくるぞ。
    魔王パワーで痛みも消してやれるけどよ、最後の一人を生み終える頃には
    最初の子供は孫が産まれてても不思議じゃねえわ」

少女「冗談、ですよね」

先代魔王「牛とやったときはよ。魔王パワーで出産終えるまでは無事だったけど、
    最後の一頭が産み落とされたら老衰で死んだぜい」



少女「……」

先代魔王「そんなわけだからよ、なあ嬢ちゃん」

少女「は、はい」

先代魔王「爺が死んだら、嬢ちゃんが次の魔王だ」

少女「え」

側近「……へ?」

先代魔王「大事にしてくれる男を見つけて、のんびり子供を
    少しずつ産め。女の子が魔王になりゃ、大発生は防げる
    わけでよ。その代わり魔族の増え方はのんびりした具合に
    なっちまうが」

側近「陛下!」

先代魔王「おお、そうだ。人間の国にあるアカデミーに留学してこい、
    嬢ちゃん。見た目は人間と変わりないし、一個の国じゃなくて
    複数の国のアカデミーを渡り歩け。そのうち魔王の継承が
    自動的に行われるから、そうしたらよ。この地図にある大陸を目指せ」

少女「……大陸?」

先代魔王「おう。海流と岩礁の都合でな、まっとうな船じゃあたどり着けねえ。
    空を飛んでも厳しい。魔王を継承したらテレポートで行けるように座標は
    打ち込んでる──人間がいないそこを、次代の魔族の住居にしてくれや」

側近「陛下」

少女「わかりました。いつか魔王を継いだ日には」

先代魔王「おう。いい男見つけろよ」

少女「努力します」

以上、投下終了。


ろくでなしの魔王なんていなかったんや・・・

オナ禁100年すればこんな紳士になれるのか……


鋼のイナゴってまさか前スレの「神?」が使ったすぐに爆発したヤツと関係あり?

>>鋼のイナゴ

あくまで飢饉と疫病の象徴として出しただけで、似て非なるモノです。
とはいえ「神?」が干渉した可能性も否定できませんという話。

【前日譚2】


先代魔王「強ぇな、坊主」

勇者「爺さんの方が強いすよ。あのおっそろしい武器を壊せた
    のに、戦士が突っ込んだオルハルコンの剣をぶち折るし」

先代魔王「魔王たるもの勇者以外の剣で倒れる訳にもいかんて」

勇者「そういうもんすか」

先代魔王「おうとも。坊主こそ、城で金貨50枚もらって旅立った
    頃と同じ装備で来たじゃねえか」

勇者「詳しいすね」

先代魔王「これでも坊主が来るまでに何組かの勇者と戦ったからな」

戦士「なんだと」

先代魔王「勇者と名乗るだけあって、強えな。どいつもこいつも」

僧侶「全て倒したというのですか」

先代魔王「おう。一度全滅させて復活治療させてから、うちの側近とか
    将軍とかが腕試しを兼ねて鬱憤晴らしに戦ってるぞ」

賢者「文字通りバケモノじみた強さだな」

先代魔王「化けるって意味じゃあ、そこの別嬪の兄ちゃんもたいした
    もんじゃねえか」

賢者「ふ、ふざけるな!」

先代魔王「はは、は。それじゃあ勇者よ、そろそろ本気で戦ってくれねえか」



戦士「!」

勇者「俺はいつも本気すよ」

先代魔王「ああ、確かに本気じゃな。わしを半殺し程度にとどめて、
    死なずに事態を解決できねえかって本気で考えてる」

僧侶「勇者殿」

先代魔王「結果から先に言うとよ、不可能だ。お前さん達が強すぎて
    嬉しくてな、小便とか色々ちびってたら百年我慢してたモノも
    一緒に出やがった」

賢者「おい」

先代魔王「出てくる魔族が地虫か菌かは知らねえが、次の勇者を
    待つ余裕はねえよ。わしを倒せば大発生する魔族も消える」

勇者「……」

先代魔王「なあ勇者よ。精霊と神々より祝福され、万民の期待を背負い、
    平和をもたらす希望の象徴が勇者の在り方ではないのかね」

戦士「……」

先代魔王「ここでわしを討てなくば、貴様を愛する者達が苦しみ死んで
    いくことになるぞ? 坊主にもそういう相手の一人や二人、いるだろ?」

僧侶「……」



先代魔王「貴様の勝利を信じ支えているのは、ここにいる
    仲間だけではあるまい? 彼らの努力を裏切っても
    良いのか?」

賢者「……貴様、言ってはならん事を」

勇者「……」

先代魔王「──あれ、わしひょっとして失言?」

戦士「フォローできない範囲で」

先代魔王「どんだけやばかったりする?」

僧侶「ここで勇者殿が貴殿を殺さず人類見殺しに走っても
    止められない程度で」

先代魔王「……でも勇者って、貴様等の国でも花形というか
    人気者じゃよね? 平民出でも貴族に準ずる扱いを
    受けて、出征前にお姫様と結婚の約束とか……」

賢者「もうやめて! 勇者のライフはとっくにゼロよ!」

戦士「やめろお、やめるんだ畜生おお!」

僧侶「おのれ卑劣なる魔王め! 勇者殿の心の傷を的確に
    攻撃し、戦う理由を根底より否定する作戦に走るとは!」

先代魔王「ゑー」

勇者「あの、気にしてないす。俺ここでくたばっても、次の
    勇者が即座に加護受けて乗り込める準備整ってるす」

先代魔王「お、おい坊主。目からハイライト消えてるぞ」



戦士「勇者はこれまでの旅で不必要な魔族討伐を避けて
    いるため、教会から魔族に内通していると見なされ、
    弾劾裁判を起こされているのだ」

僧侶「現状では無事に帰ったとしても人類への叛逆という
    罪で死刑。戦士殿が姫君と婚姻することで恩赦が
    降りれば、辛うじて無罪放免の公算が高く」

賢者「報奨金だって過去に勇者の先祖がやらかした罪の
    帳消しという名目で九割方の没収が確定──身柄に
    関してはわた、俺様がアカデミーで保護する予定だし、
    功労者年金だけは支給されるように掛け合ったけど」

先代魔王「……」

勇者「人類のためとか、そういう立派な理由じゃないすよ。
    でも、どうせ死ぬなら、少しは胸を張りたいじゃないすか」

先代魔王「……坊主、お前さん乳のでかい娘は好きか?」

勇者「え」

先代魔王「あ、いや。それほど大きくもないか。寄せて上げれば
    そこそこに谷間ができてたし、人並み以上にはあったはず。うん」

勇者「話が見えないす」

先代魔王「ははは。あー、いや、なあ。今ちょいと『縁』て奴を
    結ばせてもらった。わし魔王の力てのはよ、殴る蹴る
    よりもこういう小細工の方が得意なのよ」

戦士「……まさか、呪いを」

先代魔王「馬鹿野郎。今ちょいと魔王パワーで坊主の過去を
    覗いたけどよ、どんな呪いを用意したら坊主にこれ以上の
    苦しみを与えられるんだよ。あんな仕打ち、わしじゃ思いつかねえぞ」

僧侶「返す言葉もない」

的確に傷口に塩を揉み込んでやがるwwwwww



先代魔王「なあ坊主、わしに勝てたら褒美やるわ。今すぐは
    無理だし金銭的にイイ思いが出来るわけでもねえが、
    わしと相討ち狙いで突っ込む必要はねえぞ」

賢者「相討ち狙い、だと?」

先代魔王「おう。坊主の頭の中にはよ、お前ら仲間への感謝の
    気持ちと、お人好しの仲間に迷惑をかけないために
    どうやって姿を消すか死ぬかって事ばかりよ」

勇者「……スゴいすね、魔王て」

先代魔王「あれだけの目に遭ってなお世界を恨まぬ坊主ほどでもない」

勇者「そうすか」

先代魔王「だからよ、正真正銘の本気で戦っていいんだぜ」

勇者「──はい」

先代魔王「よしよし。若いモンに希望持たせて散るのが魔王の
    醍醐味ってもんよ」

以上、投下終了。

先代魔王は勇者パワーの勇者ソード(大張)で倒されました。多分。

この魔王の子供なら産めるな

ろくでなしのていぎがみだれる

この先代魔王と前スレ大魔王が組んだらどうなるやら



【前日譚3】


魔王「──アカデミーに籍を置いていた同族もみんな、消えて
    しまいましたね」

賢者「あんたが残ってるということは、魔王の後継者かしら」

魔王「先代とは、そういう約束でした。私を拘束しますか?」

賢者「冗談。勇者パーティーは解散したし、今のあたしはアカデミーの
    学生だもの。曲がりなりにも同級生を教会や騎士団に売り飛ばす
    ような外道じゃないし、連中だって魔族根絶なんて毛頭考えていないわよ」

魔王「そうですか」

賢者「……意外と冷静なんだね」

魔王「先代の魔王は、人の手の及ばない大陸に魔族を移す計画を
    練ってたんですよ。大発生があっても人間に迷惑をかけないようにって」

賢者「ふうん」

魔王「でも男性の魔王がいる限り、どういう手段を講じても世界の
    危機は続く。だから一度いまの体制を壊して、人類と敵対
    しない形で魔族の国を立て直さなきゃいけないって言ってました」

賢者「ああ、あのセクハラ爺ならそう言うわ。あいつ死ぬ直前に野郎共を
    まとめて呼んで、百年分貯めたエロ本の大鑑賞会を開きながら
    亜人の部下や国民に感謝と謝罪の言葉を口にしてたもの」

魔王「あのロクデナシらしい最期ですね」



賢者「痛覚遮断させたのもあるけど、心臓の動きを止めても
    半日くらい生きててね。勇者それに付き合って、色々
    あったけど魔王城の近くにある丘の共同墓地の片隅に
    セクハラ爺の墓を作ったわ」

魔王「遺体も残らないのに、ですか」

賢者「百年分のエロ本を棺にみっちり詰めておいたから」

魔王「うわぁ」

賢者「それで、あんたはどうするの」

魔王「故郷を一度訪ねて諸々の片付けを終えたら、正式に
    魔王継承の挨拶を各国にしようかと」

賢者「そう」

魔王「はい」

賢者「辛い物を見るわよ」

魔王「そうですね。目深にフードでも被り声色を老婆のように
    変え、魔族と悟られぬようにして訪ねようと思います」



魔王「略奪されているかと思いましたが、手つかずなの
    ですね──確かに、戦争ではない以上は侵攻の
    大義名分がないか──おや」

勇者「……」

魔王「あれは」


勇者「……」

魔王「もし、そこの方」

勇者「……あ、はい」

魔王「見たところ旅人のようですが、この廃都で何をなされて
    おりますか?」

勇者「墓碑を集めているす」

魔王「墓碑?」

勇者「この都に住んでいた魔族の人たちが、自分たちの名前を
    刻んだ小さな碑を、王様のお墓に一緒に納めてほしいて
    言ってたす」

魔王「貴方は、その墓碑を集めているのですか」

勇者「無視することも出来たけど、放っておけなかったす。この
    都に住んでいた人たち、本当に、あの爺さんのことを慕ってて」

魔王「……あの方をご存知なのですね」



勇者「婆さんもここの元住人すか? 亜人の住人とかは、明日にも
    東西南北の救助隊が来るすから郊外のキャンプに行くと飯と
    寝床があるすよ」

魔王「そう、ですか」

勇者「魔王討伐に来た勇者さん達のキャンプだけど、みんなイイ人
    たちすよ。盗賊とかが押し入らないのは、今まで彼らがここを
    守ってくれてたからす」

魔王「──では、そのキャンプの中に。陛下を討った方が?」

勇者「手を汚したのは俺すよ」

魔王「!」

勇者「心臓を止めたのは俺す。ですから、えーと。これ、どうぞ」

魔王「……このナイフを、どうしろと」

勇者「集めてた墓碑は、これで最後す。あとはこれを爺さんの墓に
    納めれば、俺の仕事は終わりす」

魔王「つまり」

勇者「爺さんの敵を討ってください。俺は身内も身寄りもないから、
    復讐はそこで仕舞す。同じナイフはキャンプに保護された
    亜人達にも渡してあるす」

魔王「……貴方は、それでいいのですか」

勇者「この都を歩き回って思ったすけどね、あの爺さんやっぱスゴい
    王様すよ。ニンゲンの国よりも綺麗で、整ってて、活気があった。
    俺とか勇者が来る前に、ニンゲンの国から来てた旅行者や
    商売人を、わざわざ自分とこの騎士を護衛につけて故郷に
    帰してたんすよ」



魔王「あの方のやりそうなことですね」

勇者「この国の政治手法とか法律とか、ニンゲンの国が手本に
    してきたのも納得す。ニンゲンの国に攻め込む必要もなくて、
    でも魔族の大発生を自分で抑え込めないから勇者達を招いて」

魔王「悔やんでますか、貴方は」

勇者「ケジメすよ。悔やむのは、それが済んで俺が生きてたら許される話です」

魔王「そう」



魔王「これが、陛下のお墓ですか」

勇者「共同墓地の片隅に、目立たないように用意されていたす」

魔王「あの方らしいですね」

勇者「……消えた魔族の人たちの墓碑も、これで全部一緒に
    埋めたす。後は」

魔王「後は?」

勇者「清算の時す」

亜人「──少年兵よ、埋葬を終えたのか」

勇者「あい。全部片づけました」

魔王(魔族と共に暮らしていた亜人の長……ならば私の存在も
    察するでしょうね)

亜人「御婦人。この少年兵より短剣を受け取っているなら、こちらに
    渡していただけませんか」

魔王「……どうぞ」

亜人「ふんぬっ」

勇者「あ、折れた」

亜人「左様。汝がキャンプにて託した短剣もすべてへし折り、塚を
    建てて供養した」

魔王「それが皆さんの結論ですか」



亜人「ええ、そうですとも。御婦人、かの先王は笑って息を
    引き取られました。憎しみも呪いの言葉もなく、この
    少年兵の背を叩き、前に進んで生きよと激励して逝ったのです」

魔王「貴方も陛下の最期を?」

亜人「消えずに残った亜人の民一同、陛下のお招きを受けて
    最期のご挨拶をさせていただきました」

勇者「……」

亜人「聞け少年兵よ。陛下は君の罪をも背負って逝かれた。
    君は敬意を持って陛下の臨終に立ち会い、我らはそれを
    確かに見届けた」

魔王「……」

亜人「少年兵よ。君は神々や精霊より祝福を受けた勇者では
    ないと言う。だが、それならば。少年兵よ、我らが君を勇者と呼ぼう」

勇者「え」

亜人「君は陛下の誇りを守り、魔族を悪の烙印より守り、彼らの
    名誉を守った。たとえ君の故郷が君の活躍を認めず歴史より
    君の名を消し去っても、我ら亜人の民は君を勇者と認め語り継ごう」

魔王「それが皆さんの結論ならば、私が唱える異などありません」

亜人「では勇者よ、故郷に帰るといい。君の友が待っている。
    そして亡き陛下が仰っていた、縁を結んだ少女との出会いを待て」

勇者「……それ、爺さんのハッタリというか悪戯じゃないすかね」

亜人「それはそれで丁度よい。陛下の復讐と思ってくれ」

勇者「はは。そうすね」



魔王「──縁を結んだ、少女?」

勇者「では俺は国に帰るす。賢者がアカデミーへ紹介してく
    れたから、読み書きから勉強し直しすよ」

魔王「え、あの。ねえ、勇者様。その辺について詳」

勇者「ばーさんもお元気で。もしその子に心当たりあったら、
    爺さんの遺言とか気にせず自由に生きてほしいって
    伝えてほしいす」

魔王「あ、はい」

亜人「達者でな」




魔王「……肝心なところを聞けずに別れてしまいました」

亜人「その辺については我らから説明をしましょう、新王陛下」

以上、投下終了。

返信などは夜以降に。

亜人イケメンだな

>>先代魔王のろくでなし部分

セクハラ満載なマジックアイテムとか作ったり、自分では読まないのに百年分の
エロ本を保存して若い役人に読ませて感想聞かせたり、そういう部分もあったりします。
繁殖第一できちんとした嫁さんはいなかった模様。



>>先代魔王と前スレ大魔王が組んだら

大魔王「メイドさんっすよ」
先代魔王「割烹着も捨てがたいんじゃよ」
大魔王「ぐぬぬぬ」
先代魔王「むむむむ」

 ガシッ

大魔王「貴方にもっと早く出会いたかった」
先代魔王「わしも心底そう思う」



>>亜人

魔族とも呼べずこの世界に完全に定着した、精霊に近い種族です。
エルフ、ドワーフ、オークなど。


本日中に次の話投下予定です。

【道程】


魔王「食料、道具、医薬品、嗜好品。基礎加工を済ませた
    建築資材も含めて調達完了ですね」

勇者「勇者バッグがなければ大型船ひとつは必要な量すね」

魔王「新しく魔族の国を興す訳ですから、二人旅よりも物資が
    必要なのは事実です。あとは先代魔王の指示された場所に
    魔王テレポートで行くだけなのですが」

勇者「そうすね」

魔王「……」

勇者「魔王さん?」

魔王「……どうしましょう」

勇者「え?」

賢者「勇者が近くにいないと、人間どころか動植物含めてあらゆる
    オスに種付けされるものね。でも勇者から離れないと魔王
    としての能力は封じ込められたまま」

勇者「あ」



魔王「地図と遠見の魔法で確認しましたが、激しい海流と
    険しい岩礁に阻まれて目的の新大陸に船舶で向かう
    のは不可能です」

賢者「途中に補給基地になるような小島もないから、飛行船や
    騎竜による移動も無理だ。前人未踏というだけはある」

勇者「そんな場所に、先代の魔王はどうやって行ったんすか」

魔王「視覚認識できればテレポートの魔法は可能なんです。
    だから遠見の魔法で新大陸の位置を把握した上で転移
    したかと」

賢者「座標マーカーがあれば人間の転移魔法でも到達可能
    だけど、実際にその場所に行かなければマーカー設置は
    できないの」

勇者「八方ふさがりすか」

魔王「──実は、考えている対策がひとつあります」

賢者「……奇遇ね。あたしも案がひとつだけあるわ」

勇者「そ、それじゃあ。まずは賢者から」

魔王「……」

勇者「あの、こいつ旅の時も凄いアイディアで幾つも窮地を乗り
    越えてきたんすよ。だから、間違いないす」

賢者「ふふん。簡単なことだ。先行して魔王とあたしが新大陸に
    行き、あたしが座標マーカーを設置する。勇者はあたしの
    転送魔法で連れてくればいい」

勇者「おお」



魔王「それだと、かの地に人間を招き入れることになります!」

賢者「あたしも一緒に移り住めばいい」

魔王「な」

勇者「なんだってー!」

賢者「ああ、勇者。その反応を見たかった」

勇者「冗談やってる場合じゃないすよ。よほどのことがない
    限り、こっちには戻ってくる予定ないすよ?」

賢者「先代魔王を倒す旅も同じ覚悟だったよ」

勇者「賢者は貴族になったばかりすよ。この国を、世界を
    救った英雄のひとりすよ!」

賢者「賢者を名乗る者が、未知の大陸に行くチャンスを
    捨てられると思うかな?」

魔王「無理ですね。ええ、それは無理ですとも」

賢者「それにこれは魔王のためでもある」

勇者「魔王さんの?」

賢者「ああ。君もアカデミーの教養講義の中で学んだと
    思うが、近親交配を繰り返すと誕生する子供に障害や
    不利な変異を起こす確率が高くなる。人間同士ならば
    病気や奇形という形だろうが、勇者と魔王の交配では
    どのような結果になるのか予想も立たない」

勇者「俺と魔王さんが?」



魔王「け、こ、ここここ交配。うん、近親交配のリスクは、確かに。
    考えないでもなかったことですが、っががががが」

賢者「だから、そこにあたしの血が入ればリスクの軽減は可能って
    事なのよ」

勇者「賢者、結婚してたすか?」

賢者「ええ、これからする予定。だから勇者、ちょほいとそこの区役所まで──」

魔王「だめーっ!」

賢者「なにがダメなのよ説明しなさいよ合理的に簡潔に400字詰め
    原稿用紙5枚以上10枚未満の内容で横書きにした要約文で
    アカデミーでもお局様の称号をほしいままにしている四十代女子(笑)の
    女尊男卑主義を隠そうともしない自称男女同権主義者の非常勤講師3名を
    納得させてから反論してもらおうじゃないの」

勇者「なにその無茶ぶり」

魔王「そ、そもそもです。賢者さんの案だけで、私の出す対策を聞いてませんよね」

勇者「そうすね」

賢者「なるほど、確かに」

魔王「私のは、正確には対策と呼べる程度のモノでもありません。現状の魔王
    としての能力が封じ込められている原因が、単純に力量差だけでは説明
    できないという事なんです。おそらくは先代魔王による封印かと」

勇者「封印?」



魔王「ええ、本来あるべき力が大きく制限され、その結果として
    勇者様と共にいると完封されてしまう」

賢者「心当たりは?」

魔王「先代魔王の残留する何らかの力が、私と勇者様の間に
    作用してます。おそらく先代が勇者様と相対した際に何か
    されたかと」

勇者「……アレ、本当だったすか」

賢者「あー」

魔王「ご存知なのですね」

賢者「いや。あれはセクハラ爺の最後の悪足掻きだから。
    学術的には30年前に否定された妄言だから」

魔王「勇者様」

勇者「えーとですね。爺さんが言うには、
    『今ちょいと「縁」て奴を結ばせてもらった。魔王の力てのはよ、
    殴る蹴るよりもこういう小細工の方が得意』
    だと」

魔王「縁を結ぶ相手について、具体的には」

勇者「確か
    『おっぱいの大きな娘は好きか』
    と最初に訊かれて、その後に
    『寄せて上げればそこそこに谷間ができてたし、人並み以上には
    あったはず』
    ってフォローしていたすよ」

魔王「あのロクデナシのセクハラ爺! 亜人の長が肝心なところを曖昧に
    言ってたと思ったら!」

賢者「かける言葉もない」



勇者「そうすね。じゃあ、教会かどこかで先代魔王の仕掛けた
    リミッターを外せばいいすか」

魔王「……これは呪いとは違うので、解呪は無理ですね。あ、
    でも神の祝福は割とアリかもしれないんですが、その。
    つまり」

賢者「……」

魔王「向こうの大陸に行って半年も過ごせば自然とムードが
    高まってお互いに理解も深まるからと気長に構えていた
    のですが、現状では予断も許さず、こちらが油断していると
    ピンチがパンチでありまして」

勇者「魔王さん?」

魔王「勇者様!」

勇者「はい、なんすか?」

魔王「わ、私とですね。勇者と魔王なんて肩書き以上の関係に、
    なって……くださると、その。非常に嬉しいというか今後の
    人生設計がはかどると申しましょうか、具体的には明るい
    家族計画が穴だらけになって、その隙間は実は心のスキマで
    漏れてくるものは本音と子種と幸せな未来予想図なんですよ」

賢者「なにその処女をこじらせたような遠回しのプロポーズは」

魔王「しょ、処女なんだから仕方ないでしょ!」



勇者「……」

魔王「あの。勇者、さま?」

賢者「いかん。アカデミーのマドンナが実は股間に蜘蛛の巣張った
    古漬け処女だったのと、喪女に求婚された衝撃で意識を
    失っているどころか心臓が停止している!」

魔王「勇者様あああっ!?」





なんとか息を吹き返したそうです。

以上、とりあえず投下終了。

乙です
いつもおもろい

おお、北海道から帰ってきたら話が進んでた

【外堀と内堀】


東の国王「おおゆうしゃよ、しんでしまうとはなさけない」

西の国王「魔王討伐の旅では死ななかったのに、美女
    二人に告白されて心停止とか斬新だなおい」

南の国王「所持現金が金貨4枚というのはさすがにどうかと思う」

北の国王「結婚の報告は旅立つ前にするように」



勇者「……なんだったんすか、今のは」

僧侶「廃都となった魔族の国を今後どのように扱うか、各国で
    話し合いが行われているのですよ勇者どの」

勇者「あ。僧侶が復活させてくれたんすか」

僧侶「最初は娘が復活の儀式に乗り気でしたが、顛末を聞いた
    後に勇者殿の顔に落書きをして帰って行きました」

勇者「怒らせるようなことあったすか」

僧侶「馬がいればけしかけてたところです」

勇者「馬すか」

僧侶「我が娘に求婚されたときは笑って受け流していたのに、
    賢者殿と魔王殿からの告白には心停止ですからな。
    身内贔屓をするつもりはありませんが、娘が二人に大きく
    劣っているのは乳の大きさくらいで」

勇者「おっさん、笑顔なのに額に青筋浮いてるす」

僧侶「いいですか勇者殿、これは重要な選択なんです」



勇者「はあ」

僧侶「気立てがよくて外見マジ好みだけど全滅させた魔族の末裔で
    種族再興に燃える魔王殿。やや電波で横暴ワガママで名誉と
    手柄と破壊欲求のために勇者一行に参加し性別を偽ってきたけど、
    実は勇者殿のことを病的に愛してくれるかもしれないムッチムチ・
    バインバイーンな賢者殿」

勇者「……」

僧侶「……」

勇者「僧侶のおっさん。今の説明だと賢者のこと、ひとつも誉めてないすね」

僧侶「いやいや! 二十代後半で確実に垂れそうな乳とか、運動不足
    だからそのうち駄肉どころではすまなさそうな尻とか、体毛濃そう
    だけど毎日2時間かけてムダ毛を処理してそうだとか、そんなことは」

賢者「──ほほう」

僧侶「ゲェ、賢者殿!」

賢者「いま愛に恵まれない勇者のためにボキン活動してるのだけど、僧侶は
    どれだけボキンしてくれるのかしら」

僧侶「は、ははは。現在手持ちがあまり」

賢者「そう。手はイヤなのね、じゃあ肋骨をボッキボキのボキン活動しちゃおうかしら」

魔王「ちなみに賢者さんは毎年何度かセクハラ教官や学生をターゲットに
    街角ボキン活動を」

僧侶「ゆ、勇者殿! 今こそ勇気ある誓いを二人の前で! 立ち会いますから
    見届けますからヘルプヘルプヘルプ!」

僧侶娘「今すぐ楽にして差し上げますわ」

僧侶「オーケイ笑顔で金属バットを握りしめるのはやめようかマイドーター」

僧侶娘「ちなみに勇者様は相談相手を求めて戦士様のもとへ行かれました」

僧侶「では拙僧も」

僧侶娘「ええ、永遠の戦士が集う庭へとお旅立ちくださいませ」

賢者「それって精霊神の信仰で言うところの天国なんだよねマイドーター!」

僧侶娘「変態神には変態僧侶がぴったりということですわ」

賢者「あ、フルスイング」



戦士「つまり、仲間や雇用主として信用していた妙齢の美女二名より求婚され、思考
    停止と共に心臓も止まってしまったと」

勇者「心臓止めて半日も生きてた前の魔王のすごさを痛感するす」

戦士「それで私にどうしろと」

勇者「幼馴染の姫様と恋を実らせた、恋愛の達人に助言を求めに来たすよ」

戦士「そうか。では、しばし待たれよ」

勇者「待つのは平気すけど、仕事の最中でしたか。すいません」

戦士「あ、いや。君という本物の勇者が訪ねてきて、化けの皮を剥がすと鼻息荒く
    決闘を申し込んできた女騎士がいただろう?」

勇者「副隊長とか呼ばれてたすね」

戦士「ああ。あれでも由緒ある騎士の家系で、勇者認定の序列では第五位にある
    ほどの腕前を持っている」

勇者「エリート街道まっしぐらすね。俺と大差ない年頃にも見えるのに、精霊の力を
    宿したミスリルの剣とか持ってるし」

戦士「うん。そのミスリルの剣をな、君、食堂でヤキソバを頼んだ時に貰った
    割り箸で断ち切っただろ。しかも根本から」

勇者「剣にアオノリつかないように切った筈なんすけど」

戦士「純ミスリルの剣とか我が国にも五振りとない代物なのに、なんで竹の割り箸で
断ち切るかね。半ば腕試しの場に家宝の剣を持ち出したアレも阿呆きわまりないのだが」



勇者「べ、弁償しなきゃまずいすかね」

戦士「力量差も分からずに自分から喧嘩をふっかけ、家宝の剣を
    持ち出し、その上で割り箸で冷や奴のように武器を切断された
    のだ。アレは即座に恥じて自害しようとしたので騎士団全員で
    止めているが、本来であれば私が手討ちにしなければならん醜聞だ」

勇者「剣一振り折れただけなのに大変すね」

戦士「仮にも人類と世界を救い、これから魔族を救おうとしている君に
    暴言を放ち勝負を持ちかけた阿呆だぞ。国内だけならまだしも、
    来訪されてる三国の王に知られてもみろ。即座に外交問題へと
    発展し、魔族領の統治交渉の場で不利な材料となる」

勇者「じゃあ、どうするすか?」

戦士「彼女は訓練中の事故で命を落としたことになる」

勇者「不許可す」

戦士「……君なら、そう言うと思った」

勇者「こんな馬鹿らしい理由で死なせるために、先代魔王の爺さんは
    俺と戦った訳じゃないすよ」



戦士「というわけで、これがその阿呆だ」

女騎士「……わたしは。騎士として、剣の道に生きる者として筋を
    通した事を悔いはしない。そして敗者は死と屈辱が与えられる
    ことも覚悟の上だ。勇者を騙る小僧よ、わたしの躯を辱め
    ゲスな欲望を満たすといい」

王女「──勇者様、御慈悲を。たとえ咎人に堕ちようと騎士の誇りを持ち
    数多の民を救う力と使命をもって生まれた者にございます」

勇者「では最初の要求通り、女騎士にはエッチなバニーさん装備の
    服を着ていただくす」

女騎士「……え?」

王女「は?」

戦士「エッチなバニーさん装備一式をここへ」

騎士「ははっ」

勇者「俺は女騎士さんにエッチなバニーさん装備の着用を要求し、
    彼女はそれをセクハラとして拒絶し決闘を挑んだす」

戦士「堅物故に女騎士は錯乱し聞くに堪えない暴言を吐いたが、
    勇者殿の理不尽なる要求を考えれば致し方ない話である」

騎士「しかし決闘の勝敗によってエッチなバニーさん装備の装着を
    約束した以上、女騎士にはこのエッチなバニーさん装備を着用し、
    騎士団及び城兵募集の勧誘会にて作詞・戦士、作曲・勇者による
    君のテーマソング『うさうさナイトでりゅんりゅんりゅん』を熱唱していただく」

王女「あの、これ……ガーターベルト丸見えですよね」

勇者「エッチなバニーさん装備すから」



女騎士「む、胸の谷間どころかへそと背中もほぼ丸見えではないか!」

戦士「エッチなバニーさん装備だからな」

騎士「このエッチなバニーさん耳とバニーさん尻尾は、装着者の
    精神状態や興奮度によって自在に動く優れモノである」

勇者「これで防御力が下手なスーツアーマーより上なんだから、
    先代魔王のコレクションは凄いすよね」

女騎士「魔王のお手製かよ、それえ!」

戦士「竜革、一角獣のたてがみ、銀水晶、黒真珠、黄金羊の毛。
    魔族の国でも滅多に手に入らぬ最高の素材を駆使し、先代魔王が
    暇と欲望を込めるだけ込めて作り上げた伝説の装備でもある」

王女「──素材だけで国家予算数年分ですわね」

騎士「なお卓越した縫製技術によりバストアップ効果とウエスト
    引き締め効果が認められるが、この装備はアンダーウェアの
    着用が認められていない」

女騎士「ま、待って……だって、これ、ショーツの素材もすっけすけの
    レースで。前が二股になって」

勇者「エッチなバニーさん装備の名は伊達じゃないすよ」

戦士「ちなみに先ほど国王陛下より『エッチなバニーさん装備の
    女騎士が見られれば前後の問題は忘れることにする』という
    東西南北の国家代表署名入りの書状が届いている」

王女「うわー、この署名と花押は紛れもなく本物ですわ」

騎士「では女騎士を試着室へ連行せよ」

城兵「イーッ!」

女騎士「やめろおオオ! ぶっとばすぞおおおお! っていうか
    衣装のアレさ加減でスルーしたけど、なんだそのぶっとんだ歌はあああ!」



戦士「行ったか」

勇者「行ったすね」

騎士「行きましたな」

姫「控えめに言って、皆様最低の屑でしたわね」

勇者「無くなった先代魔王秘蔵のコレクションだと、オークの
    慰み者になる展開ばっかでしたす」

騎士「おそるべし先代魔王」

勇者「ちなみに気位の高いお姫様とセットでオークの慰み者に
    なったコレクションがこちら」

姫「ふおおおおおお」

戦士「姫様、鼻血はなぢ」

姫「このような破廉恥けしからん品物は厳重封印の上、王家の
    管理下に置きます。ところで重要な話があるのでわたくしは
    戦士様と二時間ほど退室してきますのでごきげんよう」

騎士「姫様がわくわくした目で戦士殿を見られた後に手を引いて
    出ていかれましたな」

勇者「お世継ぎ誕生も時間の問題すね」





勇者「しまった。相談にのって貰う時間がお楽しみタイムに化けたす」

以上、投下終了。

なんだこの安心出来るカオスはwwwwwwww

きっとその竹はオリハルコンか何かを吸収して育ったんだろうなぁ(遠い目)

ちょっと勧誘会に行ってくる

ノリダー懐かしいなあ

>城兵「イーッ!」

城の兵士ノリ良いなw
よく滅びなかったなこの国w

>『うさうさナイトでりゅんりゅんりゅん』

スレ主はサターンのセングラを発売日に買ったクチか?w

【二兎】


魔王「今更ですけど、賢者さんならお相手に困らなかった
    のでは」

賢者「……ふむ。やはり説明が必要か」

魔王「?」

賢者「この国はアカデミーがあるので偏見は多少は薄れて
    いるが、それでも魔法技能者は警戒される傾向にある」

魔王「魔法技能者、ですか」

賢者「そうだ。魔法使いの女は総じて魔女の系譜となり、成人
    すればまともな男は近づかなくなる。僧侶の女は神の愛を
    説く関係で結婚するケースも多いが、神聖視されるあまりに
    生涯独身を強いられる者もいる」

魔王「っわあ」

賢者「賢者という職は変わり者でね。真理を追い求める過程で
    世俗との関わりを捨て去ると思われてるし、そうしている者もいる」

魔王「私も、そういう風に見ていました」

賢者「真理到達の道の一つに、天地と合一する方法があるのよ。
    仙の道とあたし達は呼んでいる──仙に至れば不老不死となり
    人としての限界を超える」

魔王「仙、ですか」

賢者「歴史に名を残す賢者の中には、そのような者が多い。世俗の
    中で人としての生を全うする大賢者も多いのだが、ね」

魔王「賢者さんは、後者ですか」

賢者「まあね。先代魔王の暴走を止める勇者を補佐するのが、
    あたしの賢者としての使命だったと理解している」



魔王「真理の到達や不老不死は」

賢者「勇者のいない世界で永遠に生きるなんて、ねえ。あたしに
    とって勇者は世俗であり真理であり、帰るべき日常と
    到達すべき目標だったの」

魔王「──惚気、ですか」

賢者「はじめは嫉妬だったのよ」

魔王「え」

賢者「世俗と関わりを断ち、一つの真理を求めて生きる。勇者の
    半生は、仙に至る道そのものだった。いいえ、既に半ば仙と
    呼んでもいい」

魔王「勇者様が、賢者の究極点に? 確かに、あの淡泊さで
    三十路まで生きれば悟りの一つや二つ容易に開くとは
    思いますが」

賢者「童貞のまま二十歳を迎えた時点で精霊神が婿に迎え
    入れる予定だったと聞いてるわ」

魔王「はははは、笑えない冗談ですね」
 
賢者「こうして童貞捨てたわけだし、あの性転換ビッチ神の思惑は
    脆くも崩れたから結果オーライなんだけど」

魔王「それで、賢者さんは勇者様のどの辺に惹かれたのですか」

賢者「む、それを聞くかね君は」

魔王「だって、ほら。一応は姉妹の契りを交わしたわけですし」

賢者「……そうね。魔王ほどじゃないけど、世界を救おうって肩書き
    背負っちゃうとね。普通の人はどん引きするのよ。まして子爵で
    アカデミーの主席で賢者よ。俗世離れて塔に籠もって数百年とか、
    そういうイメージ抱かれても仕方ないの」

魔王「ええ、私もそう思ってました」



賢者「でもさ。君が勇者を連れてきた時に」

魔王「あなたが拉致してきたじゃないですか」

賢者「……あたしが勇者と再会した時にさ、性別変わっても
    直ぐにあたしだって信じてくれたじゃない。正直その時
    までは、よき旅の仲間として二人の門出を祝って身を引く
    とか考えてたのよ」

魔王「今でも遅くないですよ」

賢者「無理。いや、昨日だったら可能性はあった、でも今日は
    絶対に無理。誰がなんと言おうとも」

魔王「どこが賢き者なんでしょうね。色ボケじゃないですか」

賢者「うるせー。性転換してたとは言え十代の引き締まった
    胸板とか腹筋とか脇とか背中とか、刺激が強すぎたのよ!」

魔王「……見まくったのですか」

賢者「怪我した時に、治療のためとはいえ実際に触れてさ。傷口
    洗って、薬塗って、回復魔法唱えて。その都度に回復の熱と
    痛みを堪えて我慢する勇者の表情を間近で見てたら、そんなの
    悟りなんて開ける訳ないじゃない!」

魔王「賢者というよりは悪の女幹部が性癖暴露しているようにしか
    見えませんね」

賢者「……そこに脱ぎ捨てた衣装は、先代魔王お手製であるからして。
    ある意味で悪の女幹部と言えるのではなかろうかと、あたしは考える」

魔王「幹部ですか転職ですかクラスチェンジですか」



賢者「うむ。賢者から新妻、妊婦を経て悪の女幹部にでもなるんじゃ
    ないかな。いろいろと計算してみたが、勇者に与えられし
    人類種繁栄の加護が機能しているならば懐妊は間違いないかと思う」

魔王「じ、人類種繁栄の加護ですってえ!」

賢者「そう。勇者とは場合によっては人類最後の一人になる可能性がある
    故に、パートナーが性別年齢血縁関係いかなる状態であろうと交わって
    健康な子を残すことができる。らしい」

魔王「……なんですか、その無茶苦茶な加護は」

賢者「性転換手術を受けた精霊神が子供を産むために勇者に与えた加護とも
    言われているが、実の姉妹や娘あるいは女装男子もしくは自動人形と
    添い遂げて子孫まで残している歴代勇者の記録から推測してみた」

魔王「勇者様にそんな素敵な加護が備わっていたとは」

賢者「ところで魔王。先ほどより気になっていたが、君のソコから本来こぼれ
    落ちるべき液体が一滴も見当たらない事に心当たりはないか?」

魔王「──心当たりと言いますか、行為の前後に私の体内より細胞組織の
    一部と共に転移が発生したのは自覚しています。それと、魔力が随分と
    どこかに送り込まれていますね」

賢者「なるほど。おそらくは先代魔王が勇者との間に仕掛けた『縁』とやらの一環か。
    ところで」

魔王「はい」



勇者「俺ってケダモノすケダモノすケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノ
    ケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノ──」




魔王「部屋の片隅で膝抱えてたそがれている我らが勇者様をどうしたものでしょう」

賢者「誘った時のようにバニーさんを装備したらいいんじゃないかな」





手のつけられないケダモノになってそれどころじゃなくなったそうです。
(魔王と賢者、ハイライトの消えた目で証言)

以上、投下終了。

>>安心できるカオス
この世界の場合魔王から
「このままだとワシ世界を滅ぼすから、暴走する前に殺しにKITE☆」
という親書を世界各地に送り届ける仕様になっている程度にはカオスです。


>>竹
普通の竹です。
前作勇者が習得しつつあった剣の境地を今作勇者は既にマスターしているようです。
武器を選ばず状態。

>>勧誘会
ミニスカートを上から着用する事だけはかろうじて許可されましたが、それが
かえって女騎士のM気を覚醒することに。

>>ノリダーとか「イーッ!」とか
国王のイメージは故・岡田真澄氏で。
滅びそうになる度に先代魔王が技術とか食糧とか資源を融通してくれてました。
代わりに気高い女騎士(歴代)が恥ずかしいコスチュームを着て感謝祭の
ステージなどで電波ソングを歌ってたそうです、伝統的に。

>>りゅん
リアルタイムでセンチメンタルグラフティの存在は知ってましたが、むしろ暗黒舞踊とか
超クソゲーでのアレでしか知らなかったとも言えます。
ネタとしてはウサミン星人の 自称17歳の電波ソングとか近いかもしれません。


追記。勇者は魔王と賢者においしくいただかれてしまいました。

乙でした


女騎士はMだったのか
はずかしい、でも感じちゃうビクンビクンとか
勧誘会でやってるかと思うとハアハア
…俺も勧誘会行ってくる
あと精霊神は性隷神と改名するべき



魔王コレクションはとても恐ろしいですね

勇者下手したらティッシュからでも子どもが生まれんじゃねぇか?


【そして新大陸】


魔王「食料および資材は多めに用意しました」

賢者「爵位返上して報奨金に変えてもらったので、将来を
    見越して衣類なども揃えられたのが大きいな」

勇者「上機嫌すね」

賢者「未知の大陸を前に興奮を隠せない」

魔王「新たなる魔族の歴史を作ろうという、その偉大な一歩に
    震えてます」

勇者「……結局あの後、亜人の集落を訪ねて報告したり、賢者も
    アカデミー出て行くからって各方面に頭下げて回って。
    出発予定から半月も遅れたすね」

賢者「象牙の塔に籠もるのも賢者なら、未知の荒野を踏破する
    のも賢者なのだよ」

魔王「うん。やはり『妻』と『夫』という契約形態は、『魔王』と『勇者』
    よりも上位に作用するようです。結ばれただけではまだ
    封じられていた魔王の力が、結婚指輪を装備することで
    十全に機能しているのを実感します」

勇者「……」

賢者「勇者の気が変わらない内に、人生の墓場という名の新大陸へ
    テレポートしようか」

魔王「おっけーですわ」




魔王「……ここが先代の示した座標なのですが」

賢者「建物の中じゃないか」

勇者「というか、ヒトの気配がたくさんあるすよ」

魔王「先代の話では、人が住んでいない大陸とばかり」

 ダダダダダダダダ、ガチャ

ドラゴン娘「あ! やっぱりいた、パパとママだ!」

デーモン娘「本当だ! ようやく到着したのね!」

鳥娘「父上、母上! お会いしとうございました!」

 ワイワイワイガヤガヤガヤ

勇者「……パパ?」

魔王「……ママ?」

賢者「ほぼ全裸の半人半魔の子供が、えーと軽く200名はいるね」

勇者「とりあえず、服すね」

魔王「たぶん食事の用意も」

賢者「携帯型勇者ハウスを起動させよう。人工精霊のメイドは裁縫も
    できるはずだから」



ドラゴン娘「ここが、あたしたちの生まれた部屋」

勇者「巨大なガラスの筒と、満たされた液体の中に
    子供が入ってるす」

デーモン娘「還元された卵からヒトガタに戻るまで
    4日かかるんだ」

魔王「これはホムンクルスの製造機にも似ているけど、
    もっと洗練された施設ですね」

鳥娘「先代の陛下が遺された資料によると、母上が
    殿方と交わられた際に排出される卵を父上の
    精と共に転送し、受精したものを赤子から幼児まで
    育て上げる人工子宮です」

勇者「……君たちは、生まれる前の記憶があるすか?」

ドラゴン娘「割と。だけどパパとママの子供だって強烈な
    刷り込みもあるよ」

魔王「──この部屋にある人工子宮のカプセルは48基。
    4日で誕生するとして、故郷にいた魔族は15万を
    越えていたから……」

デーモン娘「執事の話だと、三年あれば全員復活するって」

賢者「執事?」

カエル執事『お呼びでございますかな奥様方』

勇者「……モンスターとは違うすね」

カエル執事『強いて言えばマジックアイテムでございます』

賢者「ホムンクルスとは違う、けど手の平サイズのゴーレム
    なんて聞いたこともない」



カエル執事『遠い遠い時と次元の果て、電車で一時間ほど
    進んだ世界にて作られました。オリハルコンの歯車と
    ミスリルのゼンマイにて動き、歯車の神秘的な黄金比に
    よって永久稼動を実現した自動人形でございます』

勇者「説明はさっぱり理解できないけど敵ではなさそうすね」

カエル執事『それはもう。我が主が先代魔王の呼びかけに
    応じて派遣された、言わば名代でございます。尻を振り
    乳を揺らし愛想という名の媚びを売って永年奉仕契約を
    もぎ取る女中人形達とは開発コンセプトからして次元の
    異なる水準にございます』

賢者「……異世界の、機械人形?」

カエル執事『対神性両棲獣型可変決戦兵器ジェノサイダー参型
    という浪漫ネームを先代魔王様より下賜されましたが、
    あくまでも浪漫ネームですので。お気軽にカエル執事と
    お呼び下さい』

魔王「割烹着の似合うカエルさんとか初めて見ました」

カエル執事『これは失礼を。なにしろ二百名を越える幼子の
    離乳食を用意しておりまして』

勇者「……」

賢者「……」

魔王「……」



カエル執事『どこからお話しすればよろしいでしょうかね。先代魔王様より、
    この地に皆様が住まうための館と都市の建築を依頼されまして』

ドラゴン娘「しつじー! でっかい亀がおそってきたー」

カエル執事『では今夜のメニューは亀のフルコースで』

デーモン娘「執事しつじー! 森の向こうに巨大な人面岩があったー! 
    なんか中に金色のおっきなゴーレムがはいってたー!」

カエル執事『お嬢様、いろいろとギリギリですので元あった場所に戻して
    下さいませ』

鳥娘「しつじどの、元はおっさんっぽい女神が白いレースのドレスを着て
    押しかけてきたでござる」

カエル執事『勇者様の来訪を察知されましたか。ちょほいと虐殺して参ります
    ので魔王様達を応接間にご案内願います』

魔王「……とりあえず、みんなの食事を。あとは服を」

勇者「勇者ハウスを起動させるす」

賢者「状況把握しつつ臨機応変に行動するしかないね」





カエル執事『いかがですかな、女エルフ殿より拝借した
    前立腺悶絶健康器具の効き目は』

精霊神『んほほほほほうううう──っ!? しゅごい、しゅごいのお! 
    前立腺みるく止まらないのおお! はあああああああ、
    んんんん、ら・むううううううううっ!?』

カエル執事『神谷明に謝れ』



勇者「飯と着替えを用意している最中に、更に48名増えたすね」

賢者「周辺に食用かつ無害だと判明している果物や芋類を確認
    できたわ。調理器具もあるし、保存食を切り崩しつつ当面は
    採取を続けて耕作地を開墾しましょ」

魔王「……300名からの我が子に、乳房を……最初から離乳食でも
    平気なのに、一口で良いからって……みんな生前のテクを
    総動員して……悔しいっ、でも勇者様相手に鬱憤を晴らすので
    平気です」

勇者「しばらくは襲ってくる亀を退治しつつ、周辺地域の調査すね」

賢者「──穏やかな草原に一軒家を建てて、麦を育てながら一人
    また一人と子を産み育てるのかと思っていたのよ。直前までは」

魔王「……小さくても綺麗な白い家で、人なつっこい番犬がいて、
    羊とか野牛を飼い慣らして。少しずつ家族が増えていって、
    町が出来ていく……そんな風に考えていた時期がありました」

勇者「暖かいとは言え大聖堂みたいな場所に300人分の毛布を
    敷いて寝るとは思わなかったす」

カエル執事『外壁は白いですし、畑に適した土地もございますし、
    巨大な亀のほかにも鎧牛とか黄金羊とか発見しております
    はい……全長30メートルくらいありますが、軒並み』

魔王「この大陸からヒトが消えた理由が何となくわかりました」

賢者「奇遇ね。あたしも理解できた気がする」

勇者「それにしても窓の外から見る森は巨木だらけだし、動物は
    みんな怪獣サイズだし。何があったんすかね」

賢者「……仮説ではあるが、おそらく精霊の力が極めて強いから
    生命が様々な形で強化されている」

魔王「精霊の力」

カエル執事「ということは」





精霊神「ひぎいいいいい! ゆううでえええいいいい!みゃおおおおおん!
    きむっこほおおおおおほりいいいいいゆふじいいいいい!
    とりやまっああん!きらああ!ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺえええええっ!
    も!も!も! もょもと───ッッ!!!!」


 こうして新大陸における過剰な精霊力は程良く押さえ込まれ、
魔王と勇者と賢者そして子供たちは力を合わせて新しい国を
作り上げていったと歴史書には記されている。




カエル執事『アルバイト終わったので戻りましたご主人』

オーク「ご苦労様でぶ」


<この話、とりあえずおしまい>

以上、投下終了


>>精霊神
素敵なお嫁さん計画のため受肉したのが彼(?)の不幸でした。
主に前立腺ぱんち。

>>魔王コレクション
えっちな下着や、男心をくすぐる淫語全集などが揃っております。

>>ティッシュから勇者誕生
先代魔王の時はそういう危機が何度か。


今後はまた月一投下になる予定です。

この執事が後にオークさんに仕えるのかと思えばバイトかよwwwwwwwwwwww

>対神性両棲獣型可変決戦兵器ジェノサイダー参型

すげー心躍る

乙!
嬌声がふっかつのじゅもんとか新しいなww

ふっかつのじゅもん唱えるなwwwwwwwwww

オークさんの手引きでしたか…
なぜこいつが来たのか不思議だったけど納得

>>415
俺はてっきりオークさん死んでるくらい時間経過してると思ったぜ
俺の感動返せw

レス返しです。

>>バイト
先代魔王が優秀な執事を探して方々に連絡付けたところ、大魔王から紹介状を書いてもらって
住み込みで働いていました。
今でもパートタイムで働きに行ったり、オークさんの家に勇者夫妻が遊びに行ったりしているそうです。

>>対神性(以下略)
名前は先代魔王が勝手につけた厨二さんですが、設計時の使用目的は名前の通りでした。
前作において神を自称する連中からの侵略に対抗するために創られた動物型の人形兵器群。
執事の場合は斧とハンマーに変形します。

>>ふっかつのじゅもん
みさくらなんこつは天才だなあと思いました。

>>オークさんとの関係
並行していない世界なので、異なる時間と世界軸にあります。
店長とOLさんは先代魔王の事をよくご存知のようです。

なお、勇者と魔王と賢者が再興した魔族の国では、金貨の表にカエルの紋様が
刻まれているそうです。諸外国には滅多に出廻らぬこの金貨、知恵と幸運の
御守りとして人気があるとか。

カエルの金貨ときいたらマリオRPG思い出した

IDがどらごんっぽい

ほんとだ

まだかな

>>423
おお、本当にドラゴンっぽい。

>>425
①いもうと×どらごん の続き
②前作の番外編
③この前の魔王様の番外編
④オークさんと残念なエルフ達
⑤オークさんにはお兄さんがいたようです

現状書けるのは①~⑤のどれかです。リクエストあれば自由枠も。
先着2レスまで。

3

4

2見たかったなー
いつかやってほしい

せっかくだから>>427->>429まで採用。
気長に待ってて下さい。

そのうち5もお願いします

1が気にならないわけではないのです

遅かったか…
2が気になったけど仕方ない

ごめんリロってなかったorz

>>430
なんですと!ありがとうございます!


>>431
そうそう 1が気にならないわけじゃないんだよね
ただ他に魅力的なのも多いからその中で選ぶと……ってなってるだけ
欲を言えば全部読みたいって皆思ってるはず


番外編その1 オークさんカエル執事のバイト先へ挨拶に向かう


オーク『ふむ。女性型魔王の卵子を核にした転生秘儀と思ったが、先代魔王の
     死と共に還元された個体群が受精卵でありながら擬似卵巣を形成して
     優先的に排出されているでぶね』

賢者「お、おう」

カエル執事『奥様、無理に理解した振りをされなくても』

賢者「いやいやいや、あたし賢者だし。アカデミー首席として、さっぱりわかりま
     せんとか言えないし」

カエル執事『その割にベッドの上では「こんなの知らない! こんなの初めて!」
     と毎晩のように』

賢者「!?!?!?!?!?」

オーク『──人工子宮工場が機能停止したのは、還元された魔族が一通り再生
     されたためと考えるのが妥当でぶ。だから本来の卵子と精子が受精し、
     魔王自身の肉体で妊娠を開始したでぶよ』

賢者「ばかばかっ! このエロ蛙! むっつり人形!」

カエル執事『ははは、臨月間近で暴れられると勇者殿が心配されますぞう』

賢者「ぐぬぬぬ」



オーク『つまり還元されなかった魔族……たとえば先代の魔王などが
     実子として誕生する可能性があるでぶけど』

勇者「あの爺さんが生まれてくるすか」

オーク『診断の結果だと女の子みたいでぶよ』

魔王「魔力の感じからみて、間違いなく先代の転生体なんですが」

オーク『きっと母親似の美少女でぶよ』

勇者「割と渋めの爺さんだったすよ、先代は」

オーク『勇者と魔王の遺伝パターンと、この土地での栄養条件その他を
     加味して……13歳くらいになると、こんな感じになると思われるでぶ』

賢者「──なんというか、プリティーよね」

カエル執事『キュアキュアって感じでありますな』

魔王「あの、この未来予想図に描かれた素っ頓狂な衣装の出所は」

オーク『うちの工房で鋭意製作中でぶ』

勇者「いや別に作らんでもいいと思うすよ」

オーク『こちらのお嬢さん方に来ていただけない場合、我が家に居候している
     エルフと女騎士とドワーフの三人娘が着用してしまうでぶ』



カエル執事『旦那様、旦那様』

オーク『なんでぶか』

カエル執事『あの三名が着用するのは、年齢的に宗教テロ以外の
     ナニモノでもないかと』

女エルフ「ほほう」

カエル執事『』

女騎士「宗教テロと申すか」

オーク『』

女ドワーフ「ふむふむ。身体のラインを際立てつつもフリルとリボンで
     可愛さを演出するコスチュームだぁね。色は決まっていないけど」

女エルフ「ピンクで」

女騎士「白で」

女ドワーフ「じゃあ、わたし黒基調で」

オーク『』

カエル執事『旦那様、異世界から大魔王召還してあのコスチュームを
     焼き払って貰うというのはどうでしょう』

オーク『おいばかやめるでぶ』

カエル執事『世の中には「死なば諸共」という言葉もございまして』

以上、本日の投下完了。
女エルフさんはド天然淫乱ピンクだと思います。


ピンクはIN-RANの学説は正しいと思います

異世界大魔王のメラ(物理)でいいかな?

オーク生命科学系もいけるのかとかドワーフ娘居候してるのかとか話進む度に良い意味でのツッコミどころが増えていくwwww

オークさん異世界の大魔王とも知り合いなんか

隠避のエルフ
どこもおかしくなどない



番外編2 大魔王一家の里帰り


 魔王国が立憲君主制への移行を宣言したのは、魔界崩壊より
十年が経過した頃であった。
 選挙の概念、代議制の概念、憲法の制定と君主の立ち位置。
 到底十年で実施できるものではない。国民の教育どころか、
果たして誰が国民なのかという戸籍制度の再構築さえ求められ
ていた魔王国である。
 試行錯誤を経て国民はいくつかの権利を獲得したが、試行錯誤
故に奇異なるものが多々生み出されていた。

大魔王の息子『結婚加入権?』

半魚人大臣「左様でございます。加入権一口につき伴侶を一名、
     家族として受け入れることが可能になります」

大魔王の長女『男でも女でも?』

半魚人大臣「卵生魔族は生態の仕組み上、複数の夫を受け
     入れる必要がありますので」



大魔王の次女『それは分かったけど』

 大魔王の次女──末っ子にしては見事な肢体を持つ少女は、
半魚人大臣に案内された役所の掲示板を見た。

<本日の結婚加入権相場>

 そう書かれた値札が見てる間にどんどん書き換えられている。
大魔王の子供達は言語翻訳機能が故障したかと翻訳機を停止して
原語の解読を辞書片手に行ったが、やはり結婚加入権と書かれている。

半魚人大臣「旧魔界時代の遺跡などがダンジョンという形でこちらに
     転移していたのが判明し、一攫千金を狙う冒険者や闘技場の
     猛者達が移住してくるようになりまして」

大魔王の長女『それについては父上から話を聞いている。歯車王国
     時代の自動人形達が発掘されたとか』

半魚人大臣「おかげで自動人形相手に結婚するため加入権を買い
     求める層と、ダンジョン攻略資金のために加入権を売り払う
     層が相当おりまして一時期は小豆相場もかくやという有様でした」

 自動人形と結婚、という言葉に大魔王の子供達が固まる。
 歯車王国時代の自動人形といえば高性能マジックアイテムの中でも
最高峰のブランドに数えられる逸品である。かの時代にのみ生産された
歯車式永久機関によって半永久的に駆動する自動人形は、数多の世界と
時代において英雄達を導き助けてきた存在でもある。

 とはいえ、マジックアイテムに違いはない。



大魔王の次女『結婚、できるのですか』

半魚人大臣「そこが加入権の売りでございまして」

大魔王の息子『売りというのは』

半魚人大臣『この結婚加入権は一種の奇跡使用権でしてな。相手が
     人形であれ同性であれ二次元の絵画であれ、同意の下に
     加入権を用いて婚姻してしまえば「子作り可能な状態」に変質
     するのですよ』

大魔王の長女『つまり、たとえば婚姻が認められぬ近しい血縁関係に
     あっても?』

半魚人大臣「もちろんでございます」

大魔王の次女『生半可な魔力とか簡単に抵抗しちゃうような種族でも
     大丈夫なの?』

半魚人大臣「原則同意の下であれば、種族特性とかお構いなしでしょうな」

 沈黙が訪れた。
 騒がしかった役所の戸籍課がいつの間にか誰一人として声を立てぬほど
緊張した空気に支配され、好奇と恐怖と同情の視線が大魔王の息子に
向けられていた。

大魔王の息子『俺あーちゃん家に婿入りしてるで、余った結婚加入権売るわ』

 力つき膝から崩れ落ちる姉妹の横で、大魔王の息子は淡々と、自らの
結婚加入権を売却する。

 なお、この加入権は役所預かりとなり、現在でも市長執務室の金庫奥にて
厳重に封印されているという。

以上、本日の投下終了。
魔王国では法的な手続きをすれば喪男さんが売り払った権利を買って
一夫多妻制できますよという話。

ちょっとうちの和紙人形たんに結婚加入権使って求婚してこようかな……

すいません、結婚加入権二つください

加入権(物理)の使い手なら
前に居たような気が…

相場はいくらでしょうか?
仕事探してきます。



番外編3 魔王様のキッチンあぽかりぷす



オーク『では今日は店で売っている総菜に一手間加えた家庭料理をやろうと思うでぶ』

魔王『よろしく頼む』

王妹『よいよい、くるしゅうない』

側近『頑張ります』




カエル執事『……先ほどから動悸と震えが止まりません。これはもしや恋!?』

女エルフ「恐怖じゃないかな」

女騎士「見た目は綺麗なおねーさん達なんだけどなー、エプロン可愛いし」

女ドワーフ「むしろ神々しい気配が漂ってるのに、台所周辺だけ原初の混沌さえ
     裸足で逃げ出す状況だにゃー」




オーク『それでは街の総菜屋や屋台でも手に入るカツレツを使用
     するでぶ。屋台などの安い店では古くなった油で揚げて
     いるからギトギトでそのまま食べると腹を壊すでぶよ。
     だから──』

魔王『中和だな。この場合は酸化した油脂を除去するのが望ましい
     から、衣の中に残留する劣化した油脂分の分子に特異的に
     作用する空間破砕振動波を発生させてしまえばいい』

王妹『姉上。それをやると衣の周囲にある物質がプラズマ化して
      焦げてしまうぞ』

側近『そういう問題ではないような』




カエル執事『あかん』

女エルフ「いま台所に小さな太陽が」

女騎士「わたしは何も見なかった」

女ドワーフ「おなじく」




オーク『底の厚い鉄製のフライパンを弱火で熱し、衣が
     焦げないように金網を敷いたらカツレツを乗せて
     じっくり加熱するでぶ。フライパンの底にある程度の
     油が落ちたら紙に吸わせ、上等の油をカツレツに
     かけ回して同様に加熱するでぶよ』

魔王『つまり熱した空気でカツレツに残留する固化油脂分を
     融解除去し、上質の油脂に置換すると。ふむふむ。
     こうか?』

王妹『姉上、理解しているのか?』

魔王『置換する際に香料を含んだ油脂を吹きかければ
     カツレツもすばらしい味に変換されそうではないか?』

側近『陛下。応用というのは基礎が備わってからですよ』




カエル執事『あばばばばば』

女エルフ「魔王さんたちの鍋からプラズマが飛び交い、得体の
     知れない小人の男女が長柄の矛でフライパンの中身を
     かき混ぜている件」

女騎士「滴の先から大小さまざまな島や無数の小人が誕生しているな」

女ドワーフ「なんか鍋の中が急に暗くなったら、鍋の中で
     ストリップショーと宴会が始まってたにゃー」




オーク『カツレツにはいろんなソースが合うでぶが、今回は
     クリームを溶かし込んで葉の平たいパセリの葉を
     たっぷり加えて焼き上げた半熟のオムレツをソース
     代わりに使うでぶ』

魔王『ふむ、事前にスパイスとバターを加えたライスの上に
     カツレツを乗せ、その上に柔らかいオムレツを突き崩して
     ソースに代わりにしたと。ではこんな感じで、えいやっ』

王妹『そこまで理解しているのに姉上はなぜ実践の場で学習成果を
     反映しないのだろう』

側近『それ以前に最近は信仰者が恐ろしく増加してしまったので、
     何かを作ろうとする度に天地創造まがいの現象が発生して』




カエル執事『神を自称する数多の精神寄生体達が万単位の生け贄を
     捧げてなお成し得ぬことがああああああ』

女エルフ「カツレツの上で高度な文明を築き上げた小人さんが、
     一夜にしてオムレツの海の底に沈んだわね」

女騎士「フライドポテトを刻んで建造した箱船が肉汁と溶き卵の海で
     遭難してるわ」

女ドワーフ「たいたにーっく!」





オーク『これで出来上がりでぶ。衣の歯ごたえを残したい
     なら蓋をせずにそのまま食べて、カツレツをふんわりと
     させるなら、オムレツと一緒に蓋をして余熱が廻るのを
     しばし待つでぶ』

魔王『直ぐ食べてもいいのだが、パパと子供達が帰ってきたら
     一緒に食べたいので蓋をしよう』

王妹『今の発言だけなら、よくできたお母さんなのになあ』

側近『なんだかんだいって私たち全員、似たような水準の腕前ですから』




カエル執事『かくして大魔王とその子供達が帰還したのでございます』

女エルフ「うわー、あのデタラメ男があそまで悲壮な顔するの初めて見たかも」

女騎士「蓋をした容器の中に、何があるんだろうなあ」

女ドワーフ「調理終了から30分かあ」




大魔王『ここにモンス○ーボールが三つあるじゃろう』

魔王『誰がポケモンか』

王妹『三人とも同じ材料と調理工程を経ているので、
     できあがったモノに大きな違いはないはず』

側近『フリですね、よくわかります』

大魔王の息子『親父殿、親父殿』

大魔王『なんだいマイサン』

大魔王の息子『一番左のカツ丼、蓋が吹き飛んでキノコ雲が
     立ち上ってるで』

魔王『あ、それ余が作ったのだ』

オーク『全面核戦争で文明崩壊したようなカツ丼でぶ』

カエル執事『ガイガーカウンターの針が振り切れておりますな』

女エルフ「二番目のカツ丼、小さな赤いボール掴んだ白い人形が
     蓋を少しずつ持ち上げてるわね」

女騎士「直前に蓋が爆破されて半分は外に落ちたが、残りが
     丼の中に沈みそうだったからな」

大魔王の長女『残るは最後のカツ丼だが、何処へいった?』

大魔王の次女『さきほど丼に手足が生えて逃げ出そうとしたので
     確保しました』


カツ丼だったもの「キーキーキー」


オーク『なんで錬金術師達が追い求めてやまない新造生命体が
     台所の片隅で誕生するでぶかね』

カエル執事『二回り小さなカツ丼が十個ほど、大魔王の次女様に
     向かって突撃をかけておりますな。ええと、ママを返せとかなんとか』

女エルフ「新種族誕生っ!?」

女騎士「おいおい異端審問官が見たら卒倒する光景だぞコレ」

女ドワーフ「銀貨一枚分のお総菜で天地創造よりえぐいものを見る羽目に
     なるとは、オークの旦那も大変だねっ」

オーク『他人事みたいに言うなでぶ』

 

以上、投下終了。
魔王さんたちはゴッド力が強すぎて、うっかり調理するだけでもこういう感じに
なっているようです。

乙!!
黒胡椒振りかけたら有形無形がウヨウヨでるかな?


三人ともいつの間にか信仰の対象になっちゃったんだな
肉体あるから存在するのに力使わないとはいえすげーなw
まあ結婚加入権の力の元の方々なんだろうが

ふと思ったんだが、精霊神も結婚加入権手に入れようと躍起になってるんだろうか…

俺らは三人の料理から誕生したのか……

>>449-453
結婚加入権は魔王国に籍を得た時点で自動的に一枠が与えられます。
しかし加入権を行使できるのは魔王国内限定(行使した後は出国しても
問題なし)なので、まずは魔王国を探して移住しましょう。
ちなみに売却時の相場は固定電話加入権~NTT株の間位を変動しています。
【多次元世界の歩き方2013年版より】

>>461
黒コショウふりかける行為そのものには作用しませんが、調理という創造行為を
魔王さん達が意識した時点で黒コショウは超進化を始めます。
大腸菌の分裂速度を人間の300年と見る感じで進化しているようです。

>>462
はい。魔王さんは元々の属性から、新しい世界では太陽の化身と同一視され
豊穣とか諸々の御利益があると崇められてゴッドパワーが流入してしまいました。
王妹は月、側近さんは星を司る者とみなされているようです。
ゴッドパワーが強すぎてこのままじゃマズイってことで結婚加入権を製造したら
子宝とか恋愛成就などの信仰も集めるようになったようです。

>精霊神は結婚加入権は通用するのか
通用した場合、魔王さんが精霊神より格上であると精霊神自身が認めることに
なってしまうため、周りの神様たちが必死に食い止めています。

>>463
料理以外でも色々誕生してしまうのでひょっとしたら……

精霊神自体は欲しがってんのか・・・
もう世も末だな、いやわかってたけど

NTT株価…
http://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=9432.T

まぁ、当然単元価格だとは思うが50万程度か…

よし、3つぐらい買って来よう!

あとは、魔王国を探すだけだな。


>>466
値段の相場であって、NTT株じゃないぞ

嫁の加護を受けてる大魔王は、更に力を増してるんだろうか…

物の試しに掌編というかプロローグ部分投下。

 


 南蛮国の成り立ちには幾つもの説があり、歴史学者達にとって
彼の国は鬼門であると同時に浪漫の地である。

 そもそも彼の地に先住文明が在ったことは、南蛮国から各国に
届けられた各種の報告書と発掘品展示により明らかとなっている。
 文化資料の保護と研究を目的として南蛮国王より託されたそれらの
遺物──羊皮紙ではなく植物由来の紙と粘土板に記された複数種の
象形文字それに極彩色の陶磁器片──は、歴史学者のみならず
言語学者や錬金術師達に衝撃を与えた。

 紙と粘土板に刻まれた複数種の象形文字は、それぞれが独自の
言語であると推測された。というのも紙片の裏に走り書きのように
記された文字がエルフの古語であると判明し、途中までそれらの
象形文字群を解読しようとした形跡が見られたからである。

 最古の霊長種族を自称し他を見下していた節のあるエルフ達に
とって、これは恐ろしい事実であった。
 自己が優生主であると信じて疑わぬ一部の血気盛んなエルフは、
これらの言語は南蛮国の捏造であると主張した。が、粘土板と一緒に
提出された陶磁器片がエルフ達の国宝である王冠に象眼された彩陶と
同一種であると判明し──南蛮国にエルフ達のルーツがあると
思いこむようになった。



 が、そもそも彼の国を南蛮と称し蔑んできたのは他ならぬ
エルフ達である。
 自身が最古の種族であり神代からの奇跡を継承するもの
として他種族にも多大なる影響力を行使してきたエルフ達は、
魔族でありながら精霊神より加護と祝福を受けた新興国を
まっとうな国家として認めなかった。

 なにしろエルフである。

 生命と光と高貴なる血筋として君臨してきた彼らは、密林を
開拓し巨大なる獣達と戦って日々の糧を得る魔族達を南方の
蛮族──つまり南蛮と名付け、その呼称を周辺国にも強要してきた。

 それを、である。
 今更の、この扱いである。

 各国はエルフ達の恥知らずな振る舞いを公然と非難した。故に
各国は南蛮という侮蔑的な俗称ではなく、二人の魔女に導かれて
国を興した初代の逸話にちなみ、新たな名で呼ぶことにした。




「サンドウィッチ公国へようこそ」

 南蛮国唯一の、空の玄関。
 ドラゴン達が管理する大陸横断ジェット気流路線より分岐した、
一本のローカル線の端の端。入国審査に手続き料金それに
手間賃を考えると転送門を利用した正規ルートの方がよほど
快適かつ安価であり、日に五本という地方路線としては破格の
待遇ながら片道二十時間の旅を硬式飛行船で過ごそうという
旅行者は大抵が訳ありと言えた。

 たとえば重度の硬式飛行船マニア。

 ジュラルミン合金を外殻に貼り合わせた双胴式の硬式飛行船は、
運用コストの問題もあってサンドウィッチ公国路線でのみ試用
されている。巨人族が客として乗り込む際は、浮力を稼ぐために
気嚢にヘリウムではなく水素を詰め込むという噂さえ真剣に飛び
交う路線の名物飛行船である。マニアは噂を確かめるべく巨人族を
誘ってはこの路線に乗り込むため、サンドウィッチ公国路線に乗る
客は航空事故保険の対象外とされている。

 それ以外となれば、やはり転送門を利用したくない層が飛行船の
乗客となる。

 なにしろ転送門利用者は様々な検査を受けた上で政府の公文書
として出発記録が残される。家出、駆け落ち、その他諸々。
 後ろめたい事情を山ほど抱え、しかし新天地でまっとうに頑張ろう
という努力の方向性を間違えた者が硬式飛行船の乗客には多い。



 ひとりの女が双胴式飛行船より空港に降り立った。

 女。

 少女と呼ぶにはややトウが立ち、しかし年増には程遠い
青臭さが面立ちや肢体に見え隠れする。黒地のアンダースーツに
白革の鎧、巡回牧師に愛用者が多い六尺棒。これだけならば
巡礼の武装神官とも見える。

 が、女の胸甲には二対の翼を象った紋様があった。
 空港にて迎えの馬車を待つ旅行者たちが、少しだけ驚く。翼の
紋様を許されるのは受肉した天使のみであり、二対の翼ともなれば
高位天使の可能性があったからだ。

 天使。
 正確に言えば天使であった者は、様々な理由で受肉する。神託に
より人を導くべく降り立つもの、情愛を知り天使でいられなくなったもの、
天使としての権能を喪失したため返り咲くために功徳を積むもの。
 いずれにせよ彼女たちは自らの意志では天使に戻ることはできず、
しかし天使の力を僅かに保持し、経験により成長させることもできる。
そのため各地の神殿やアカデミーは元天使を発見するや手厚く保護し、
よき協力者であろうとする。
 つまり天使であること自体が一種の身分保障であり、転送門でも
待たされることはほぼない。

 なんか、よほどのことをやったんだろうな。

 他の乗客も空港スタッフも、女の身の上に興味はあったが過度の
干渉は避けた。飛行船利用客の暗黙の了解であり、新天地において
世話になるかもしれない相手の機嫌を損ねる行為は避けるべきとの
考えがあった。

 彼らが知り得た情報は、女がアンジェと名乗る聖騎士という事だった。
アンジェとは受肉した天使たちが好んで使う名の一つであり、本名とも
偽名とも解釈できるものである。

 彼らが驚いたのは、アンジェが騎士を名乗ったことである。
 この世界において騎士とは、国家または貴族を主にもち、貴族に
準ずる扱いを受ける武官を指す。宗教国家ならば武官と神官を兼務し、
魔法国家であれば武官と魔法使いの組み合わせとなる。前者は神聖騎士、
後者は魔法騎士と呼ばれ、騎士とは別物であると認識されている。

 受肉したとはいえ天使が神ではない誰かを主と認めたのか。
 天使なのに、ただの武官なのか。

 これが神聖騎士ならば、仕えるべき神より指示を受けて降臨したとも
解釈できる。だがアンジェはあくまでも騎士であると主張した。よほどの
事情なのだろうと彼らは考え、だからこそ硬式飛行船に乗って来たの
だろうと納得した。



 サンドウィッチ公国の主たる産業は砂糖およびその
加工品の輸出である。
 蜂蜜より糖度が高い樹液を内包するため海浜でも
貪欲に成長する固有種のサボテンは、良質の精糖原料
であると同時に上等の家畜飼料でもある。そして濃度の
高い糖であるため物理的な損傷や虫あるいは動物による
捕食で果皮に傷を受けた場合、そこから空気中の酵母が
浸入してサボテン内部に度数の高いアルコールを生み出す
ことが知られている。
 天然物でありながらアルコール度数40を越えるサボテン
由来のエタノールは僅かな加工で燃料としての利用が可能な
ほど高品質であり、遺跡から発掘された内燃機関のエネルギー
源として有望視されている。

 しかしながら諸外国が現在注目しているのは、ジュラルミンを
はじめとする軽合金の精錬加工技術と、その原料となる
ボーキサイト類の鉱脈である。

 アカデミーがアルミニウム金属の存在を公にして半世紀。
 加工素材としてアルミニウムやジュラルミンの板材棒材を安定
生産しているのはサンドウィッチ公国のみである。軍需物資でも
あるため各国もアルミニウムの精錬について研究を進めているが、
精錬に必要な「発電施設」の概念すら把握しきれずに技術顧問である
アカデミーと衝突を繰り返していた。

 もっともアカデミーとしても輸出される加工品から推察される公国の
発電施設の規模を試算し「マジありえねえ」と幾度も叫んでおり、
デタラメなからくりがあると睨み彼の国へのスパイもとい研修生を
派遣しようと試みた。もちろん、各国も同様である。

 が、サンドウィッチ公国は原則として魔族たちの国である。そもそも
蛮族と蔑まされた原因の一つが、魔に近しい者達を人や亜人たちから
隔離するように興したからだ。硬式飛行船による航路が確立するまでは、
公国を訪ねる人間は素性から厳しく審査され、特別な事情がない限りは
四十八時間のみの滞在が許されるほどだった。

 空路が開き飛行船の密航者達が勝手に住み着こうとし──全長
二十メートルを越える巨大な爬虫類や猛獣達が当たり前のように生息する
魔境と判明し──主立った国は間喋を諦め、代わりに浪漫と冒険に飢えた
物好き達が大挙し、人間を捨ててもいいから移住させてくれと懇願する事態
となった。
 結局この自殺志願者達──北方小国の姫君が鼻血を噴きながら公国
大使を招いた晩餐会で廃嫡宣言する例もあって──つまり冒険者という職業が、
サンドウィッチ公国にのみ誕生することになる。



「エレクトロン鉱石というものを知っているだろうか」

 冒険者の店。
 アカデミーの公国支部が副業として営み各地に設置した
派出所は、職業安定所と雑貨店を兼ね備えた施設である。
 情報は正確だが対応がお役所仕事なので「浪漫を分かって
いない!」と多くの冒険者はこの施設を嫌悪し、代行業者でも
ある隣接の酒場兼宿屋を愛用する。

 だから騎士アンジェが公設の冒険者の店を訪ねたことは、
店にとってもちょっとした事件だった。

「エレクトロン鉱石ですか」
「そうだ。希少ではあるが写真撮影の瞬間照明以外に用途のない
エネルギー鉱石。その採掘業者と現場を知りたい」

 アンジェの発した言葉に、アームカバーをかけた中年の小人が
唸り、分厚いメガネを押し上げる。

「情報料が発生する案件です。そして身分証明と所定の申請書、
市役所を経由して冒険者庁の決裁待ちとなりますので一週間を
目処に再びこちらへ」
「待って。情報は首都にしかないの?」
「いいえ。当施設三階、自由閲覧書架の強度資料集の最新版を
探れば自力でも小一時間で発見できる情報ですよ」
「……」
「申し訳ありません、騎士様。これがアカデミーの定めた方式です」
「ちなみに自由閲覧書架の使用料は?」
「冒険者互助会から維持費用が寄付されているので、冒険者の
方なら無料。地域サービスと言うことで地元住人と旅行者にも無料で
開放されております」
「なるほど」
「ええ」

 こりゃ誰もこの施設を使いたがらないわけだとアンジェは嘆息しつつ、
上階への階段に向かうことにした。



 自由閲覧書架と名付けられた私設図書館は、郷土資料から
児童書果ては魔道書の類まで雑多に収集された混沌だった。
 善意の寄付により集められた書物は最低限の修繕こそさえて
いるが、配置などは利用者の善意に委ねられ、司書と呼ばれる
者は存在しなかった。

 ホビットの事務員が予告したとおり、一時間ほどで目的の資料を
見つけたアンジェは、これも浪漫なのかしらと頭を抱えつつ情報を
帳面に書き留めた。硬式飛行船の空港で手に入れた上質紙の
帳面は、インクも滲まずペン先が引っかかることもないのできわめて
便利だ。アカデミーにいる旧友が知れば箱単位で買い求めるだろうと
思い、そして自分がとんでもない場所に来たことを改めて実感した。

 彼女、アンジェは奇跡の力を行使できない。
 天使だった頃、彼女は神を自称するものと契約し、その力を振るって
いた。二対の翼が示すように彼女は上級の天使とされ一つの軍団を
任されるほどの地位にいた。
 過去形である。
 彼女の契約主たる自称神が「肉体を持つ女神」の襲撃を企て、敵に
廻してはいけない者の逆鱗に触れた。アンジェと上司部下達は揃って
辞表を叩きつけ、天使としての権能を捨てることを引き替えに生存を
認められ、ついでに受肉して地上世界へと流された。本来なら魂どころか
存在根元レベルで消滅されてもおかしくない状況だった。

 だから、今度の人生では真面目に生きよう。
 そう思っての騎士就職であり、充実した数年間だった。武官とは言え
業務の多くは荘園管理をする辺境伯の補佐であり、サンドウィッチ公国と
違い野生種のモンスターとの遭遇さえ滅多に起こらない職場だった。

 良い職場だったんだけどなー。

 跡継ぎと目された辺境伯の息子が盆暗で、アカデミー崩れの錬金術師と
手を組んでアルミニウム精錬を学びに行くと書き置き残して出奔したのが
一ヶ月前である。
 本来なら即座に追いかけるべきだったが、跡継ぎの失踪に乗じて突如として
始まった後継者争い等に辺境伯が心労で倒れ、その業務などを代行している
内に一ヶ月もの足止めを喰らったのである。
 正直、あの盆暗は生きていまい。
 サンドウィッチ公国の野生動物の凶悪さを学んでいたアンジェは、床に伏せて
力なく呟く辺境伯の言葉に頷きかけて、それでも亡骸を見つけねばお家騒動は
終息しませんと告げた。
 生きていたとしても今回の件で跡継ぎの資格は失うだろう、その手続きのため
にも盆暗はせめて生首だけでも持ち帰らねばならない。

 そして盆暗の首を持ち帰った時点で、自分も解職だろう。

 お家騒動を終わらせる際に、誰かが責を負わねばならない。立場を考えて
アンジェは自身がそうだろうと確信し、覚悟も決めていた。あの盆暗ではあるが
それなりに善人で、辺境の地に産業を興そうと頑張っていた男を思い出し──
あの胡散臭い錬金術師を切り捨てなかった自分の責任だと、奥歯を強く噛みしめた。

 あの盆暗は辺境伯の後継には相応しくはない。

 相応しくはないが、人間として嫌いにはなれなかった。
 荘園農夫の子供達を集めては読み書きを教え、農夫の誰かが病気になれば
自分の温室で育てていた薬草を躊躇わずに供出できるような暗愚だった。産後の
肥立ちが悪い農夫の妻がいれば滋養のある食べ物をこっそり届けるような愚鈍であった。
 ああ、畜生。
 天使らしからぬ悪態を胸の内に吐いて、アンジェは空腹を満たすために
冒険者の店に隣接する酒場を訪ねた。



 アルコールを燃料にしたランプが壁の数カ所に架かっている。
 半地下のそこは酒場ではあるが、食堂としての機能も重視した
作りのようだった。いかにも荒くれ者と見える人間や亜人、それに
混じって舞踏会に出てきそうな礼装の貴人や可愛らしい衣装の
少女など、戯作に見る物語の一場面を切り出したような光景である。

 浪漫だなあ。

 童話や物語に憧れ、夢にまで見た生き方を求めて南蛮の地まで
来た連中が殆どである。魔族もいるが殆どが店員としてであり、
彼らの方がよほど地に足の着いた生活をしていることが滑稽ですらあった。

 そんな彼らが、視線を一斉にアンジェへと向けた。
 鎧に刻まれた二対の翼。
 無造作に後ろに束ねた蜂蜜色の長い髪、翡翠色の瞳。場違いでもあり、
この上なく相応しい容姿でもある。

 おかしい。
 自分は軽く食事をするために入店したはずだ。

 魔族のウェイターに案内されてカウンター席に座り、日替わり定食を
注文しつつアンジェは言いようのないむずがゆさを覚える。敵意でも好奇でも
なく、奇妙な期待をされているような感覚。

 何故。

 浪漫への理解が足りないアンジェは首を傾げ、そして隣の椅子に座る男の
顔が豚面であると気が付いた。
 亜人とも魔族とも言えない、少しばかり凶悪な面構え。
 肥満と言うよりは筋肉の分厚い鎧を全身にまとったような体躯。ゴブリン種
よりは大きく頑丈で、トロウルよりは小柄。人より頭一つ大きい程度の身の丈と
豚のような鼻。地下世界の鬼と呼ばれることもあるそれは、幾つかの世界に
おいて光の神と敵対する種族の象徴でもあった。
 が。

「隣を失礼するよ、オーク殿」
「サンドウィッチ公国へようこそ、騎士殿」

 今の自分には関係ないとアンジェは軽く会釈し、食事を続けていたオークも
また流暢な共通語で答え、ミントの葉を沈めた冷水を美味そうに飲み干した。

以上、投下終了。
オークさんのおにいさんが最後に出てきたという話。


この国って勇者と魔王が開拓した国?

>>478
95%くらいの確率で、勇者と魔王と賢者が開拓した国です。
たぶん300年くらい後の話。

オークさん長生きね
それとも同一人物じゃないのか

乙、待ってました
南蛮国って聞いてゲゲーベン思い出した

>>480
おにいさんって書いてあるから兄じゃね?
長生きには違いないが

>奇妙な期待

おい作中に俺らが登場してるぞ

オーク種って長生きなのか

オークは平行世界じゃない別の世界からの来訪者だから、時間の流れる早さが違うだけでは?
こちらの世界では300年経ってても、オークの世界では数年しか経ってないのかも…

舞ってる




 おとぎ話において、オークの牡は女の敵だ。
 下卑で、粗暴で、欲望に忠実で腕力以外に解決手段を持たない
ものとされる。食欲旺盛で、飢えていたら馬糞混じりの土くれを
喰らってでも生きていく。しかし性欲については選り好みが激しく、
種族を問わずとにかく美しいモノを奪い取る。
それこそが勲章であるかのように、おとぎ話のオーク達は女に執着する。

 もちろん、おとぎ話の中でのことだ。

 そもそもオークという存在は、外見が類似した複数種のモンスターの総称である。
 原始的な狩猟生活を営みホモサピエンスと異なる霊長種、
 地獄の鬼を祖とし時として悪魔をも従える亜人の系譜、
 野獣に死者の魂が宿って変異したもの、
 それに世界樹の系譜とされる樫や楢それに針葉樹達の精霊など。

 魚竜イクチオサウルスと哺乳類イルカのように、形態や生息域が近似して
いるからこそ別種の存在を認知されにくい。多くの知的種族にとって、豚面の
山鬼然としたものはひとまとめにオークと呼んで駆逐対象となっており、
分類学的に調査するような奇特な者はまずいない。

 しかるに、このオークは何者だろうか。
 騎士アンジェは、沢庵漬けと田螺の塩煮で麦飯を喰らう隣席のオークを
横目で見た。肉とビールで食事の代わりとする大勢の冒険者と違い、彼は
酒を飲まず代わりに香草を沈めた水をヤカンごと頼んでいる。
 質の良い井戸水だが一度沸騰させ、茶葉代わりに香草を落とした後に冷やした
代物である。辺境ならば民間療法の薬茶として年寄りや病人が好んで飲むものだが、
屈強そうなオークが食事の供とする光景はアンジェにとってなかなか衝撃的なものだった。



 そもそもなぜ麦飯を食う。
 鉱山労働者や港湾関係者など重労働を課せられる者──かろうじて
殺人を犯していない中程度の犯罪者が主である──が、食事そのものが
罰則の一環と信じて疑わないのが麦飯だ。

 栄養のバランスなどを知っていれば悪いものではないと理解を示せるが、
南方地域であればそこいらに自生している芋やバナナを焼いて食った方が
はるかに美味くまた栄養のバランスも良い。

 そして南方ならば麦よりも米の方が栽培が容易で普及率も高い。
 沢庵漬けが出回っているのも、精白米が食料として認知されているからに
他ならない。

 理解に苦しむ。

 アンジェの前に用意された日替わり定食──ナマズのフライに蒸し焼きにして
バターを乗せた芋、それに香辛料が効いた豆とトマトのスープ──よりも、
麦飯定食の方が銀貨一枚分ほど高いのだ。つまり貧困のために麦飯を
選んだという線はない。

 しばし考え、そして大柄ではあるが肥満には程遠いオークの体躯を見て、
彼女は一つの仮説を立てた。重労働環境であり同時に厳しい自己管理を
徹底して鍛えこむ場所。

 たとえば軍隊。
 騎士隊とは別に火薬式射出武器や火砲を用いて野戦に特化した組織戦闘は、
巨獣の多いサンドウィッチ公国で発達している。浪漫を追い求める冒険者は
軍隊組織を邪道と罵るが、元軍人の冒険者となると

「それはそれで実に浪漫」

 という反応になる。ますますアンジェには分からない世界である。

 しかし軍隊出身と推察すれば、後は楽だった。
 美味でもない麦飯を食べるのも訓練の一環であり、自己節制の結果として
よくあるオークとは比較にならぬほど鍛えこまれ無駄のなくなった体躯なのだろう。
優れた戦士は種族に関係なく尊敬に値する。彼女も武技をもって騎士の地位を
得た身である。

 であれば。
 アンジェは食事を前に姿勢を正し、その上で隣席のオークが食事を終えるのを
待った。礼を尽くし作法に則り、現場に立つ者から情報を得たい。その相手として
オークは交渉可能な相手に見えたのだ。




 麦飯を喰らい終えたオークは、視線に気付いたのか傍らに
置いた革張りの大きなケースを手に取り、アンジェの前で開いて見せた。

 長柄の戦斧と彼女が予測をたてたそれは、およそ破壊活動とは縁のない
木製のシンプルな楽器だった。
 リュートより一回り大きく、その胴はバイオリンにも似ている。太さの異なる
鋼の線を弦として仕立て、戯れにオークが指先で弦を弾けばリュートよりも
甘く深い音色が響き、酒場の喧噪を一瞬で消し去り酔客達の耳目を一気に集めた。

「──アコースティック、ギター?」
「ほう!」

 呆然としたアンジェの呟きは望外の反応だったのか、オークは牙をむき出しに
して凄みのある笑みを浮かべる。

 ギター。

 その言葉に反応する酔客がいた。
 野戦服に身を包み狙撃用のボウガンを分解していた小鬼ゴブリン。煙草代わりに
かじっていたのは里芋の茎を干した保存食で、冒険者達が非常食兼ロープとして
愛用している品だ。

 眼帯に組み込んだレンズを磨いていた、半人半蛇のラミア。隻眼かと思ったが、
高度なカラクリ仕掛けの眼帯を愛用しているようだ。ゴブリンと同じ仕立ての野戦服を
肩にひっかけており、こちらはナマズの揚げ物に固そうなトマトを皿に盛っていた。
 蛇女の好物と言えば──生きたネズミや山盛りのゆで卵を一瞬だけ想像した
アンジェは少しばかりの罪悪感を胸の内に抱いた。

 他にも数名、いずれも同じ意匠の野戦服を身につけ、幾多の戦場を生き抜いてきた
兵の風格を漂わせていた。おそらく彼らは名のしれた傭兵団で、この酒場を拠点の
一つとしているのだろう──少し目立ちすぎたかとアンジェは内心で焦ったが、表情には
出さずにオークよりギターを受け取った。

 形は、ギターだ。
 彼女が受肉する前、数多の世界を渡り歩いていたときに見かけ、時に演奏したことの
ある楽器、それのもっとも原始的かつ美しい形のものによく似せてあった。
 張られた弦の具合は握った指への食い込みでわかる。音叉もなく調律するのは困難だが、
天使だった頃に得た知識と技術がそれを成功に導いた。このギターはどこかの遺跡で
発掘した異界の器物か古代文明の資料から再構築したレプリカ品なのだろう。




「弾けるかね」
「人前で披露できるほどの腕前ではない」

 素直に述べた。
 なにしろ天使時代にはそういう超絶技巧を誇り不世出とされた天才達を
何人も見てきた。芸術家は魂を悪魔に売ってなお神々に愛される特権階級である。

 神々はそれらの技巧を配下の天使に焼き付けることもあるが、アンジェは
個人的な嗜好として基礎的な技術を学んでいた。

「調律できるのに、かね」
「信仰に篤いバイオリン職人にニスの調合を伝えたり、難聴のピアノ演奏家を
作曲家に転向させたり、天使の仕事は案外と芸術の知識と技術を要するのものだ」

 スラム街の修道院を聖歌隊で立て直す仕事も大変だった。
 下手に一作目を当てると無理矢理続編出そうとして、安易なヒューマニズムと
取って付けたような家族愛で一作目の感動も台無しにする。
 大リーグを舞台にした野球映画の三作目など深夜のB級時間帯でしか見たことないわ、
などと愚痴もこぼす。

「このギター、所有者は」
「縁あって先日譲り受けた」

 オークの回答にそうかと理解を示し、調律を終えたギターを返却する。戦友の形見か、
それとも何かの報酬で得たのか。真新しいニスの塗装面には指紋も傷もない。張られた
弦も新品同然で、ギターを収納していたソフトレザーのケースも同様だ。盗品の可能性も
あるが、楽器そのものの珍しさはあっても部品に高価な素材は使われていない。価値を
知らぬ質屋に持ち込んでも定食一つ分の値もつかないだろう。

「実はな、騎士殿」
「ふむ?」
「我が輩はギター奏者として身を立てていこうかと考えて──」
「人生相談は天使だった頃からの得意分野だ。殊に戦争体験者が天啓を受けて宗教や
音楽に走ってその後の人生をドブに捨てる様を何度も見ているから、貴殿のような悩み
には一通り答えられるぞ」

 息つく暇も惜しんでアンジェはまくし立てた。

「戦い続ける事への忌避ならば、生き物を育む仕事はどうだ。動物が血生臭いのならば
植物などがオススメだ。果樹園ならば作物次第で加工品にも手を出せる。最初こそ
住み込みで仕事を覚えねばならんが貴殿ほどの体躯と体力の持ち主ならば先方も大歓迎だろう」
「騎士殿」
「なんだいオーク殿」
「我が輩、そもそも軍楽隊の所属である」

 ぴし、と。
 なにか固いものに亀裂が走ったような音が聞こえた。信念とか常識とかそういうものが
物質化していたら、きっとそんな破砕音を出したに違いない。




「嘘だ」

 理性を振り絞り、騎士アンジェはオークをみる。
 確かに粗野な振る舞いはなく、その所作には品がある。軍隊指揮官であると
紹介されたらまず間違いなく信じるに足る雰囲気がある。

「初対面とはいえ受肉天使の騎士殿に嘘をつく利がなかろう」

 鼻を鳴らすこともなくオークは至極真面目に答え、周りにいた酔客達がひどく
同情的な視線をアンジェに向けた。

 あんたは悪くない。
 間違ってもいない。
 そう言いたげである。

 おそらくは普段からこの調子なのだろうオークの振る舞いに、アンジェは目眩を
感じた。生真面目な者ほどある日突然とんでもない方向に突き抜けていく、元の
性格が性格なので突き抜け始めたらあっという間である。

「私は、今までの職歴の中で幾つか学んだことがある」
「謹聴しよう騎士殿」
「貴殿の指の太さでは、この六弦のギターを1本ずつ分けて押さえて演奏するのは
困難だ。ドワーフやホビットの職人並に器用であれば可能性もあるが」

 貴殿はいかほどか。
 言葉に出さずアンジェは問い、オークは己の指先を見つめる。平均的なオークの
例に漏れず、小指ですら直径3センチは下らず、折り曲げるだけで指の節々に
力こぶが生まれる隆々とした手だ。リンゴどころかイノシシの頭蓋骨さえ握って砕く握力は、
器用という言葉とは遠く離れた世界の産物である。

「お、音楽は技巧ではない。魂に訴えかける情熱だと聞いている」
「それは基礎をしっかり身につけたイケメンに限る話だ、オーク殿」

 アンジェはオークの美醜を知らない。
 仮に知ったところで音楽の基礎を身につけていなければ、イケメンであろうとも
音楽においてテクを凌駕するハートなどという戯れ言を認める気にはなれない。
イケメンという言葉にうなだれるオークの前に、アンジェは帳面より切り出した3センチ四方の
紙を二枚用意し、その内の一枚を素早く折って一羽の鶴を完成させた。東洋の紙兵術でも
広く用いられる技法で、複数の世界にて確認されている工芸品の一つである。

「貴殿がギター演奏者として身を立てるのであれば、最低限の水準としてこれと
同じものを折り上げてほしい」

 あ、これは無理だ。
 オークならずとも酒場にいた全員が納得した。たとえ紙片の大きさが二倍いや
十倍あったとしても、オークにこのような繊細な紙工芸品を折り上げることは不可能である。
 そしてギターの弦の間隔とオークの指の太さ長さを考えれば、アンジェがオークに要求した
指先の器用さは決して無茶なものではなかった。

「制限時間は、この砂時計から砂が尽きるまで」

 アンジェの言葉より五秒後。
 紙片は三つにちぎれ、オークの挑戦は終了した。
 崩れ落ちるオークに同情の視線を向けつつ、今日はまともな情報収集を諦めようとアンジェは
大きく肩を落とし、ウェイターにビールを注文した。飲まねばやってられない、それが嘘偽らざる
彼女の本音であった。

以上、投下終了。

>オーク種
今回の話でも説明しましたが、脳筋豚面は総じてオークと呼ばれているけど
実は色んな種族の集合体です。

リアルタイム乙!

相変わらずすごく面白いのにそれを表現する言葉が思い付かないくらい面白いわ
更新ある度に見入ってしまう

乙、待ってた
オークさんのお兄さんなんだからどこか突き抜けてる所ありそうだな
本人にとっては価値を感じない、不本意な部分かもしれないけど

オークさん乙

そろそろ新作来ないかな



「楽士隊に配属されていたのは事実なのだ」

 カウンター席ではなく丸テーブルの端。
 失意にうなだれるオークの横でアンジェは素朴な疑問を口にした。
 肺活量や筋力に問題はない。戦場における軍楽隊の役目として兵士を
鼓舞する太鼓や、戦闘の開始と終了を告げる角笛は、ある意味で戦場の
花形ともいえる。太鼓のリズム一つで槍兵たちの勢いが変わり、行軍速度が
増した例もある。

「しかし器楽演奏を学ぶ前に戦争が勃発。我々は使い走りとして方々を転戦し、
気付けば楽士としての技術を学ぶこともなく終戦を迎えてしまった」

 野戦服姿のゴブリンがばつの悪そうな顔でアンジェの言葉を肯定した。
 オークが十度目の再挑戦のためにカウンターから丸テーブルに移動した際、
ごく自然な流れで合流した。周りの客も何も言わなかったし、着衣の揃いを見れば
アンジェが異論を挟む必要を感じることもなかった。

「では終戦後に改めて楽士隊として訓練し直せば良かったのに」
「隊長には致命的なまでに音楽センスがないのが露呈してね」

 同じく眼帯のラミアが、こら飲まなきゃやってらんねーわよというヤケクソな
笑顔でビールのジョッキを掲げながら続けた。

「指は太くて不器用、声はガラガラでひっどい音痴。リズム感も微妙で、自慢
できるのは肺活量くらいかしら」
「ラミア軍曹、言葉が過ぎるぞ」

 指を折りつつオークの音楽センスについて眼帯ラミアが語る度に、オークの身体が
内側に折り畳まれるようにして沈んでいく。たまらずゴブリンが悲鳴じみた声を
上げるが、事実を言ってるんだから仕方がないじゃないと眼帯ラミアは反論し、
他の野戦服──銀色の骨人形、片角のミノタウロス、狼男に迷彩柄の包帯男が
どっと笑った。

「ゴブリン曹長。俺たちも弁護したいがモノには限度があらぁ」

 骨人形、魔法により命を吹き込まれた人造生命体は上等なビロードで銀骨を
磨きながら笑う。


「隊長、吠えるの上手」
「ミノさん、それフォローになってねえ」
「んだんだ」

 野戦服の七名はしょぼくれたオークを肴に安い酒を呷る。こういう時は
下手に値の張ったブドウ酒よりも自家製のビールをぬるく飲むのがロマン
てものよと眼帯ラミアが片っ端よりジョッキを空けていく。

「正直に言えば音楽隊の養成所で学び直すことも考えた」
「でもそれをせずに冒険者になった?」
「軍楽隊時代の部下を養って行くには冒険者の稼ぎが必要だったのだ。それに」
「それに?」

 アンジェの問いに、オークは名残惜しそうにギターを撫でた。そっと撫でたつもりが
オークの指に触れた弦の一本がばつんと大きな音を立てて断ち切れる。

「……金属疲労か」
「さっき新しい弦に張り直したばかりだっての」
「そうそう、我が輩が冒険者を続けている理由だったな」
「力業で話題を誤魔化そうとするあたり君の音楽センスの無さが伝わってくるよ」

 アンジェの指摘を全力で無視しつつオークはギターケースのポケットより
分厚い紙束を取り出した。百枚近いそれは、単色から最大五色まで重ね刷りした
版画のチラシで、吟遊詩人や巡回牧師が版元に託されて旅先で配る瓦版だった。
 為政者たちの慶事醜聞、各地の災害。
 サンドウィッチ公国において鉱石ラジオと無線放送の発達により速報性を必要と
しなくなった瓦版は、情報の分析や読み込みに加えて文字ならではの娯楽性を
重視し、冒険者という花形を得て大衆的な物語文学を花開かせている。

「我が輩は、とある冒険者たちを追いかけている」
「──竜の騎士団?」

 瓦版にでかでかと記された単語を拾い上げると、オークをはじめとして野戦服の
集団が重々しく頷く。

「うむ。黄金に輝く竜と、それに付き従う麗しき女冒険者たち──ピンクブロンドの
少女騎士、ポニーテールに巨乳で二振りの妖刀を使いこなす女サムライ、職業
不明の謎の少女そして敵か味方か女竜剣士! 香辛料の匂いと共に現れたという
彼らは、我が輩が吟遊詩人としてデビューするにもっとも相応しい題材といえる!」

 鼻息荒くオークは力説し、広げた両の掌でテーブルを叩く。

「吟遊詩人とな」
「おうよ」

 ジト目を自覚しつつ低い声でオークに問えば、無骨という文字に服を着せたような
男は牙を見せる。これが我が輩のチャームポイントであるという小声のアピールに
対して八方より空いたジョッキが飛んできたが、オークは首の動きだけで器用に避けきった。

「吟遊詩人とは──広場の噴水前で竪琴弾きながらポエム刻んだ陶片売ったり、
識字率の低い地域では恋文を代筆したり代読している、青春産廃マッチポンプ
一歩手前の駄目人間の事かオーク殿」

 あいつら冒険者扱いされているけど、別の意味で冒険しすぎなんだよとアンジェが
空になったジョッキをテーブルに置く。


「私が仕えていた辺境伯の家にも女の吟遊詩人が出入りしていたがな。
チップに金貨渡すと、重ねた金貨の厚みの分だけスカートの丈を短くして
くるような奴だった」

 アンジェの言葉に酒場の別の一角でがたんがたたんと立ち上がる音が
聞こえ、あまり耳にしたくないような議論が始まっていた。

「個人的経験に基づく偏見で申し訳ないが、オーク殿はバナナの叩き売りは
サマになっても、甘酸っぱい恋歌を奏でるのは得意には見えぬ」
「……ここにラミア軍曹の協力を仰ぎピンクブロンドの少女騎士を讃えた
歌詞の試作があるのだが」
「ぎゃあああ! 名前を出さない約束で作詞したのにいいああああ!」

 震える声で差し出されたメモ帳の中身を一瞥したアンジェ。絶叫してメモ帳を
奪うべく蛇身で跳躍しようとしてミノタウロスに取り押さえられるラミア軍曹。
ゴブリン曹長は瞑目し、包帯男がいそいそとラミアの豊満な上半身に麻縄で
亀甲の編み目を刻む。

「やめて天使サマ! それ素面じゃないときに書いたの! 本気じゃないの!
 ジンジャービールを飲んだらゲップが出るのと同じくらいのノリと勢いで!」
「──すまない、この店でもっとも強い酒を。ジョッキで」
「いやああああっ!」

 崩れ落ちるラミア軍曹の横を通ってウェイターが大きなガラスジョッキに
かち割り氷を満たし、そこにバナナ焼酎をなみなみと注いだ物を運んできた。
 香草と柑橘の輪切りなど入っているが、そのまま着火すると氷ごと爆発する
ほどの度数がある代物だ。
 まともに飲めば喉の粘膜が焼けてしまうような代物を、アンジェは表情を全く
変えずに一気にあおった。氷をばりぼりとかみ砕き、途中で柑橘の皮と実と種も
お構いなしに飲み込んで、しかし視線はメモ帳に記されたラミア軍曹入魂の
ポエムに注がれている。
 なんという地獄絵図。
 事情を知らぬ者が酒場を見れば、半人半蛇の美女が屈強な男たちに組み
伏せられ陵辱を受けているようでもある。

「どうかね、騎士殿。我らがラミア軍曹が乙女力を全開にして書き上げた渾身の力作は」
「単独で完成させた詩ではないと判断した」

 アンジェの指摘に、ラミア軍曹の動きが止まる。
 オークもまた表情を変え、メモに視線を落とす。

「筆跡はラミア軍曹のものだけである」
「言語は種族共通でも、可聴音域や発声器官の違いから各種族によって方言とも
呼ぶべき独自の単語や言い回しが存在するのはご存じか」

 ああ、これは別に言語学の講義ではなかったな。ここ十数年で染み着いてしまった
習性に内心舌打ちし、アンジェは周囲を見る。野戦服の脳筋──ごく一部内蔵が存在しない
のもいた──達はきょとんとし、外野の中に紛れ込んだ魔術師達が面白そうに反応して
いるのが分かる。

「このポエムは人類共通言語の四行詩を基準にしているが、行末の母音を重ね、なおかつ
それを四節仕立ての構成としている」
「その通りであるが、つまり?」
「母音を五種類に限定した言語構成と四節仕立ての四行詩は、私が仕官していた
ニュートンジョン辺境伯周辺の方言だ。三十の母音を認識して言語を組み立てている
ラミア種は五段階の韻を踏む概念が希薄で、むしろ行頭の子音を揃えることに美しさを
見出している──だから、この詩はラミア族の彼女が完成したとは信じがたい。
 共同執筆者かとも思ったが、行頭の子音を揃えていない点を見るに詩のアイディアは
ともかく実際の執筆はゴーストライターの手によるものだろう」


「まさか盗作か!」
「違うわよ隊長! 文字を揃えるのに行き詰まってたから定食三日分で
オリバーに代筆を──あう」

 墓穴を掘ったラミア軍曹の両肩を、アンジェが掴む。その一言を待って
いたといわんばかりにラミア軍曹の肩を掴む指に力を込め、叫ぶように問う。

「オリバー・ウィルキンストン・チャーチル! 略してオリバーW.C.! 
 便所飯の常連オリバー! この街にいるのか!」

「そんな不名誉な称号をもらった覚えは、ねえ!」

 アンジェの叫びに応じるように、厠に通じる扉が大きく開いて顔中に口紅の
痕をつけた人間の青年が姿を見せた。年の頃は二十代前半、それと見て分かる
女好きである。とはいえ現在の彼に群がっているのは、昆虫のような薄羽根を
背中より生やし身の丈や容姿は人間の童女と変わらぬ妖精フェアリー種の少女達だった。
 その数およそ十二名。半数が服を脱いで青年の手足にしがみつき、残り
半数は顔や首筋それに背中に張り付いていた。

「失礼した、ペドリバー・ロリスキンシップ・ハーレム」
「誰だよそれ!」

 怒号と共に、顔に貼り付いたフェアリー少女を引き剥がす青年オリバー。視界の
前に現れたのは鎧に身を包んだ元天使の女騎士アンジェの姿だった。
 笑顔である。

「……アンジェ、教官」
「貴様とアイザック様を追いかけるに当たり練兵所の教官職を辞している、今は
ニュートンジョン辺境伯に仕官しているだけの一騎士だ」

 剣を鞘ごと腰帯より外して隣にいたオークに預け、笑顔のままアンジェは
オリバーに向かって歩く。踵を返して逃げようとするオリバーだが、発情して
しがみつくフェアリーの少女達が手足に絡み付いている上、酒場の客達が
集まっているので逃げ場は早々に封じ込められてしまった。

「アイザック様の生死も含め、貴様に問わねばならんことは沢山ある。しかし
かつて教官だったものとして、媚薬を用いて妖精の童女を発情させる下郎に
拳を見舞わねばならん」
「待ってください教官! これは──」
「エレクトロン鉱石の暴発による魔力酔いであろう」

 オリバーに迫る拳を止めたのは、オークの一言だった。

「……魔力酔い?」
「フェアリー種は背中の羽根より魔力を吸収放出する性質上、他種族に比べて
魔力に対する感受性が高い。我が弟からの受け売りではあるが」

 エレクトロン鉱石という単語にアンジェは振り返る。

「フェアリー種の魔力許容量は相当のはずだし、魔力が余れば羽根より放出されるだろう」
「その通りだ、騎士殿。しかし全方位的に魔力が満たされた空間ではフェアリー種は
余剰魔力を発散できず内側に溜めて酩酊状態となる。もっとも通常の方法では
フェアリー種を魔力酔いにさせるのは困難だ」
「つまり、エレクトロン鉱石の暴発とやらがフェアリー種を酩酊させるほどの魔力を
生み出すと言いたいのか」

 アンジェの知る限り、この世界においてエレクトロン鉱石は写真撮影に
おける瞬間発光の素材程度にしか認識されていない。それもアルミニウム
精錬に伴い出回るようになったマグネシウム粉末の方が、瞬間的な発光量は
上である。
 その疑問に答えたのはオークではなく青年オリバーだった。

「過飽和状態に熱を蓄積させたフロギストン鉱石を術式により相転移させると、
熱がそのまま電気に変換されるんです。でも術式が甘いと電気に変換されなかった
エネルギーが疑似魔力として爆発的に放出されて」
「あのな。オリバー」
「はい教官」
「今の話をこの国の外に持ち込むなよ。即座にフロギストン鉱床保有国を巡って
世界大戦が起こる」
「え」
「え、じゃない。おかしいと思わんのか。そもそも熱エネルギーの電力効率は
どの程度なんだ」
「自分の術式は制度が甘いから、熱エネルギーからの変換効率は平均して
80%止まりです」
「……」
「教官?」
「……辺境伯の工房でアカデミーの技師と共に試製しているボーキサイト精錬用の
火力発電装置は、最高でも18%だ」

 辺境伯の下で目にした書類の数字を思い出しながら額をおさえるアンジェに、
文字通り頭を抱えてしまうオリバー。

「オーク殿、あなたもこれをご存じなのか」
「以前そちらのオリバーと今は不在のアイザックより受けた依頼で、エレクトロン鉱石の
出所をゴブリン曹長と共に調査した。遠方に住む弟の助力もあり、使用される術式を
推測して副作用なども害あるものではないと判断している」
「本当です、教官。俺とアイザックはオーク隊長に調査して貰った後はずっとフロギストンの
クズ鉱石で実験やってて危ない橋は渡ってません」

 その言葉に反応する者がふたつ。

「アイザックなら三日前にエレクトロン精錬所がある鉱山町に出かけたわよ」

 ポエムを披露されて力尽きていたラミア軍曹がむくりと起き上がりオリバーを見る。
あからさまに肉体関係ありますよー、そのうち責任とらせますからねーてな視線を
送りながら。オリバーの背後に回ったミノタウロスががっちりと羽交い締めしてはいはい
色男は逃げちゃいけませんからねーなどとはやし立ててもいる。

「あの盆暗、よりにもよって」
「騎士殿?」
「すまん、誰でもいい。アイザック様は何か術式とは異なる数式のようなものを
紙片に残していなかったか」

 反応したもう一人、アンジェの反応は予想外とも言えた。酒場を訪れてからの
ふてぶてしささえある態度は消え、そこに騒動と浪漫の種を察してか冒険者達の
空気が一気に変わる。

「これで、良いかね」

 足の速い冒険者の一人が、アイザックとオリバーの間借りしている部屋より幾つかの
帳面を持ってきた。テーブルの上に広げられたそれは最初でこそボーキサイトからの
アルミニウム精錬に関する技術文書だったが、途中から精錬に使用する電力と、
導入されるエレクトロン鉱石の関係に移り、そこから先は解読が困難な暗号めいた数式が続く。

「弟に尋ねてみようか。奴ならば詳細を理解できるだろうが」
「いや、アイザック様は大まかではあるが結論を出したようだ」




 帳面の最後部分。
 四桁の数字で記入されたそれの意味を考え、アンジェはそこに視線を
落としたまま問いかけた。

「オーク殿」
「うむ」
「調査されたのならご存じだろうが、この国で現行技術によるアルミニウム
精錬が大々的に行われたのは何年前だろうか」
「現在の大型精錬工場が完成したのは十一年前と記憶している」
「そうか」
「……教官。アイザックのメモ、最後に書いてある4000って」

 何ですか。
 オリバーの顔が青ざめていた。彼もまたアルミニウム精錬のため調査を
していたのだから、アイザックの残した計算式の意味をある程度理解できたのだろう。

「大雑把な数字ではあるが」

 一呼吸を置いた後、アンジェは忌々しそうに呟き気味に答えた。

「この国がアルミニウム精錬を始めてから、世界が滅亡するまでの所要日数だ」

 それとほぼ同時刻。
 遠く遠く彼方にて、何かが限界を迎えて破裂した。あまりにも遠く、破裂音が
国中に届くには今しばらくの時間が必要なほどだった。

 

以上、本日の投下終了。

待ってました、乙

一円玉もって妖精さんのとこ行ってくる

周期的に考えて、次は20日~1ヶ月後か

そういえば妹ドラゴンっていう官能小説あったよね

一か月弱して誰かが催促するとかきこまれるパターンのような

>>509
そこに気付くとは天才か……。
すいません現在は別作業で手を離せない状況です。


オークさん豆知識
カエル執事を従えているオークさんはCV置鮎龍太郎
現在のお話に出ているオーク隊長はCV稲田徹
というイメージで執筆しております。

>>510
そろそろ続きプリーズ
もしくはどこかで書いてるなら、そのサイトのヒント

>>511
続きはもうしばしお待ちを。本当に申し訳ありません。
Pixivにてフィンランド人で関西弁でHカップな女子高生が出てくる話や
女子中学生がツインテールでボインな話とかそういうのを書いております。
「あほねん」が検索のヒントという事で。

>>512
了解
全裸にはならんが大人しく待ってます

まだかい?


 ニュートンジョン辺境伯の一子アイザックが教育係として騎士アンジェと
出会ったのは、彼が12歳の頃である。

 辺境伯とはいっても多種族に高度に知的なモンスターと共存する社会において、
辺境というのは異文明との最接近領を意味する場合が多い。
 異教徒異民族など序の口で、言語が通じないけどあからさまに社会性をもって
行動しているならば見た目が大怪獣であっても交渉の余地がある。意思疎通と
価値観の共有が可能ならば、莫大な利益を生む事もあり──たとえばブラキオサウルス種の
亜竜一族が親方と呼ばれ土木工事や運送の現場で引っ張りだこなのは、辺境伯領が
異種族に対して寛容な土地柄ならではの名物的光景である。

 そういう土地に生まれ育ったアイザックは、控えめに言えば貴族らしからぬ少年だった。
 権威という点で王都に集約される文化は洗練されている。アカデミーの最も大きな支部が
存在し、数々の役所も王城の周辺にある。当然ながら軍隊・騎士団も王都を活動の拠点とし、
政治経済の中心が王都である以上は主だった貴族は子弟を王都に送り諸々を学ばせると
共に人脈の構築を図らせる。

 アイザックの生まれ育った辺境伯領は、その対極に位置する。アカデミーの先遣隊が歓喜と
発狂の叫びを繰り返しながら異文化に接し、方言や新言語をまとめた辞書が週替わりで改訂を
行い王都に送り込まれ、新たなる来訪者を迎え入れる度に本草学者と薬師が押し寄せてくる。
 伝統的な穀類豆類の栽培を荘園で行う一方で、来訪者達のもたらした芋や瓜などは私的な
農地で試験栽培が行われている。

 権威を無視し刺激的な知と革新性を求めるならば、辺境伯領は浪漫あふれる土地だ。後に
アイザックの参謀として名を残すオリバー・ウィルキンストン・チャーチルもまた王都のアカデミー
支部にて落第し、放校免除の代わりに現地調査を命じられた人間である。オリバーは現地調査の
傍ら小遣い稼ぎと人脈構築の意味でアイザックの最初の家庭教師となり、彼に基礎的な学問と
錬金術を教えた。



「辺境伯領にボーキサイトと石炭の露天鉱床がある」

 様々な事情を経て辺境伯の下に仕官した騎士アンジェに会ったアイザックは、
自作と思しき領内地図の数か所に印をつけ予測される鉱床規模を示しながら
博識にして勇猛と紹介された騎士アンジェに本来であれば機密に分類される情報を提供した。

「亜竜の親方達に頑張ってもらえば露天扱いだが、崩れやすい岩質なので真っ当な
坑道を作って盗掘するのはほぼ不可能なんだ」

 だから魔法で岩盤補強して掘り進めるような真似をしないと盗掘は不可能。おまけに
露天掘り以外の方法で採掘しても、加工前のボーキサイトや燃料としての価値が暴落
している石炭を売っても採算割れである。
 とはいえボーキサイトを精錬して得られるアルミニウム材は飛行船の骨格にも不可欠な
素材であり、各国が自国での安定生産を目指している重要物資でもある。辺境伯領で
精錬可能となれば、生産量にもよるがサンドウィッチ公国から輸入するよりも安価で
提供できるかもしれない。そう考えたアイザックは一人でも多くの協力者を求めているのだという。

「アンジェ。君は異界の天使だったと聞いている。その知識を提供しろとは言えないが、納得
 できる範囲で僕達に協力してはくれないだろうか」
「了解です若。市場で売られているカラス麦5kgの袋の値段から、相手を逆上させない手紙の
 書き方まで懇切丁寧に御教示します」
「そうじゃなくて、この世界にない冶金技術を」

 12歳にしては聡明で、そして生意気な部分もある面持の少年は、やや不機嫌そうに主張した。
 元天使とも騎士とも見えない、女性文官用の制服に身を包んだアンジェは「不健康に白い肌ですね。
医務室で検査を受けてから適切な運動をカリキュラムに組み込みましょう」と少年の手をとった。

「確かに私には異界で培った幾つかの技術を知っております。しかし基礎を疎かにして一足飛びに
手に入れた技術で身を滅ぼした例もまた、知っております」
「僕に基礎を学べと」
「産業レベルの金属精錬は体力勝負の部分もあります。可能ならば身体も鍛えましょう」

 もっとも世間一般の常識を叩き込むのが先決ですが。
 女子更衣室を除いていたのがばれて簀巻きになっていたオリバーの足を左手に、親友の惨状に
悲鳴をあげそうになったアイザックの手を右手に握り、アンジェは笑顔で医務室へと連行した。

 以後6年間、アンジェは辺境伯領の荘園監督の傍らでアイザックとオリバーに様々な事を教えていく。

短いですが投下終了。

( 三)<おつ!

6年も教えたら応用物理から材料学まで備えたアインシュタインになっちゃう

待ってた、乙

まだかい?


 ニュートンジョン伯爵が一子アイザックに対するアカデミーの評価は
「焼き栗を選んだ男」という一風変わったものである。
 アカデミーが彼の存在を知ったのは家庭教師として赴任したオリバー・WCの
指導教官への書簡である。

『休火山の再活性化に伴う大規模森林火災と地熱災害、これに対処すべく
投入した結果得られた蓄熱フロギストン鉱石の有効活用に関する所見』

 なる長ったらしい題名と共に記されたのは、アカデミーの最新理論に来訪者達の
知識を組み込んだ、化石燃料とフロギストン鉱石による熱回生方式火力発電の
製造レポートだった。蒸気タービンの機構は原始的で発電コイルも粗末なものだったが、
本来であれば火災時に供えて設置するフロギストン鉱石槽を石炭ボイラーに直結し
燃焼時の余熱廃熱を強制吸着させた物を第二のボイラーとして稼働させた。
 吸熱限界と魔術による放熱制御はアカデミーでも研究中の課題である。
 アイザックとアカデミーの間で交わされた書簡は二十通に及び、十度目の報告書を
届ける頃にはアカデミーの工学院が実地検証としてオリバーと共に火力発電所の
改良に取り組み、最終となる二十度目の書簡の中でアカデミーはアイザックに対して
工学士と基礎錬金術に関する学位認定書を贈った。

 つまりアイザックの社会的な評価は実践派の工学士が先である。そして辺境伯家の
後継者、つまり特別な事情なくとも王族への拝謁を許された立場であるアイザックは、
年若い王子や王女の教育係として王都に招かれるだけの価値を自ら証明した。
 事実この時期を前後して十七歳になったアイザックとその従者である騎士アンジェは
都を訪ね、宮殿雀達の嫉妬と羨望の眼差しを涼しく流して国王に拝謁し、王族が私的に
抱えていたいくつかの問題を解決したとして「国庫ではなく王個人の資産」より
銀貨五十枚という栄誉に与っている。このときに解決した問題の正体は明かされていないが、
故郷に戻る二人を見送るために国王は供回りのもの数名のみ引き連れて都の正門まで
忍びで現れ、騎士や大臣達をひどく慌てさせている。


「焼き栗の季節来たならば、余にも届けさせよ」

 国王はそう言ってアイザックを抱擁した。この話がいくつかの痛快なる
噂話──王都では毒草であると恐れられていたトマトと馬鈴薯を用いた
辺境料理の披露──などと共にアカデミーへと伝わり、彼は王室にて
高待遇を約束されながらも辺境伯領の発展をもって王室への忠義の証
とした、と解釈された。
 御年二十を迎え美しさと気性の激しきことで知られる姫将軍との一方的な
ロマンスより逃げたという、まことしやかに語られる冗談のような仮説もある。
 この仮説については現在も検証中だが、エレクトロン鉱石を用いた
アルミニウム精錬法の調査にサンドウィッチ公国へ行き消息が途絶えた際、
この姫将軍が至極まじめな顔で騎士団詰め所に辞表を提出し国外脱出を
試みたという未確認情報も流れている。



 さて、そのニュートンジョンソン辺境伯が一子アイザックの現在はというと。

「くくく。若人よ、よくぞ我らヘル暗黒神教団の邪神復活計画を察知した。
エレクトロン転換炉より放出される莫大な魔力を用いた神性召還と疑似肉体の
構築──ジュラルミン製造の優良国営企業とは、我らが神を現世に顕現させる
ための隠れ蓑よ!」
「そうか。では急いで邪神を顕現させてくれ」
「え」
「だから、周辺地域一帯の魔力が過飽和になって特異点化する前に、神を顕現
して魔力を枯渇させてくれ」

 新進気鋭の重工業会社社長として近年注目されていた青年実業家が
邪神崇拝者としての素顔を露わにしたアルミニウム精錬炉前で。
 三日ほど徹夜の後に駅馬車を乗り継いで駆け込んだアイザックは、心底安堵
した顔で邪神崇拝者達の企みを歓迎した。



「え、なんで?」
「おいこら邪神崇拝者。俺は邪魔しないって言ってるんだから、とっとと
邪悪な神と眷属48体でも顕現させてアイドルコンサート開けよ」
「止めないの、か?」
「一刻を争うんだよ、さっさと儀式行って邪神顕現のためにありったけの
魔力を使えって!」
「……やだ」

 見た目ならば三十代後半。
 鷲鼻と整えた髭が色気を醸し出す、いかにもプレイボーイ然とした青年
実業家は、アイザックの言葉に幼児退行したかのように拒否を示した。
 彼の背後にていかにも実用性に乏しい儀式用の大剣を掲げていた黒い
山高三角頭巾の邪神崇拝者達も、うんうんと頷いている。

「邪神だぞ、顕現したら世界が滅びるか我らの支配下になるかもしれな
いんだぞ!? 当然、この秘密に気付いた心ある若者が冒険者とか雇って
殴り込んでくるのが筋だろう!
 それがなんだ!
 カムフラージュで行った慈善事業は国家の犯罪率を大幅に下げ、雇用を

生み出し! 治安を乱してやろうと大量に栽培して流通させた麻薬は! 
外科治療用の麻酔薬として野戦病院や終末医療の治療院で大活躍だ! 
村落を襲撃して奴隷を確保しようと思ったら突発性の死病に冒されていた

村で! 分かるか! 邪神ってのはな、正常な人間を恐怖させたり絶望
させるのが大好きだから! 防疫とか治療とか医療法面にも特化してる
んだよ! ふざけんな! ラスボス準二級検定にどんだけ苦労したと!」
「ええと」
「こっちはな、若造! 邪神復活の儀式を行う祭壇まで十二の関門を用意
してだ、五人集、四天王、三幹部を配置して待ってたんだよ! 途中で
パワーアップアイテムとか邪神顕現阻止の秘密とか、何名か正義の側に
寝返るとか悲恋の果てに散る女戦士とか!
 なんで一人でくるんだよ!
 しかも事前に早馬と魔法通信でアポイントとった上で、菓子折り持参で! 
礼儀正しすぎて受付嬢が直通の廊下使ってここまで案内したじゃねえか!」
「完璧な社員教育だったと思う」
「ええい浪漫を理解しない人種はこれだから! ……ところで、だ」

 丸腰どころか略式とはいえ正装で現れたアイザックを前に青年実業家は
襟を正し、咳払いをした。



「君が先程からこちらに説明している魔力特異点現象について、具体的な
危険性を教えてくれ」
「それほど難しい理屈じゃない。魔力が一ヶ所に特定水準以上収束された
場合、純化しすぎた魔力の持つ浸食力によって存在固定されていた物質や
空間が『それ以前の要素』との平衡状態になり、莫大な量の魔力を周辺に
放出しながら連鎖自壊する特異点が発生する」
「つまり」
「放置したら世界そのものが消滅する」
「荒唐無稽すぎて信用できん。その場合世界が滅ぶまでの所要時間は」
「特異点が直径1メートルに成長するまでは、周辺の物資量にもよるけど
おそらく48時間。直径が1メートルを超えた瞬間、特異点の膨張速度は音速を突破する」
「音速?」
「……火薬式の先込銃の弾丸と同じくらいの早さで物質と空間が崩壊する
エリアが生まれる。基本的に質量や魔術由来のエネルギーをぶち込んでも
特異点拡大を食い止めるのが精一杯で、要するに特異点周辺の広範囲の
魔力を枯渇させるのが唯一の方法」

 これが計算式だと、紙片を取り出しアイザックは青年実業家に突きつける。
錬金術の素人でも分かるようにと緑の恐竜と赤い雪男のマンガ付で説明された
それは、そのまま出版社に持ち込める水準だった。

「詳しくはここに」
「わかった、内容はさっぱりだが当社の福利厚生部門である巡回牧師用の
紙芝居作家としてスカウトしようじゃないか」

 暗黒神崇拝者とは別方面の社会的地位よりアイザックの才能を見抜いた実業家は、
目の前の侵入者に敵対の意志がないことをようやく納得した。フロギストンから
エレクトロンへ転換し、その際に過剰に放出される魔力についての技術を独力で
開発した彼らである。アイザックの提示したメモに一定の説得力があることを即座に
理解する。建前上は暗黒神を顕現させてその威をもって世界征服を企み、
その過程において勇者達と戦い果てることを夢見ているような酔狂人どもだ。
世界そのものが消滅すると言われては仕方がない。


「よし、ヘル様顕現の儀式を発動する。それと青年、特異点とやらの
発生に前後して何か留意すべき事項はあるかね」
「特異点が発生する魔力溜まりでは通常ではあり得ない密度の魔力が
蓄積しているから」

 かつてフロギストン鉱石のみで発電施設を作ろうとした際、アンジェに
注意された事柄を思い出しながらアイザックは直近の問題となるであろう
ことを指摘した。

「その影響を受けて死体がアンデッド化したり生物がミュータント化
することが予想される」
「分かった。幸いにも付近に墓地やその類の遺跡は確認されていない。
アルミニウム精錬用のエレクトロン転換装置は地下の石炭の廃坑道に
設置しているが、動物の死骸などが無いよう兵士を──」
「まってくれ」
「なんだね」
「石炭の、廃坑?」

 ぎぎぎ、と硬直するアイザックに青年実業家は首を傾げる。

「問題なかろう?」
「──火力発電所を作る際に、オリバーから聞いたことがある。石炭とは
古代の植物が大量に積み重なり石化した代物だと」
「む」
「植物が堆積する際、うっかり太古の動物達が巻き込まれる場合がある
こと。実際、巨大な巻き貝とか分類不能な巨大生物が見つかることも」
「つまり」
「早いところ周辺の魔力を枯渇させないと」

 直後。
 地面が揺れた。
 正確には地面を突き破り、アルミニウム精錬用の巨大な電解炉を包み
込むように異形の樹木が現れる。

「なるほどこれが浪漫に曰くフラグ乙というものかあ!」



 吹き飛ばされながら歓喜の声を上げる邪神崇拝者達。青年実業家の袖を
掴んで引き寄せていたアイザックは運良く樹木から逃れていたが、傾いた
電解炉の中身が漏出するのは時間の問題だった。

「特異点は地下だ。融けたアルミニウムが流れ込んだら打つ手もなくなる!
 早く神を!」
「待て待て、この状況でインスタントな召喚をしても浪漫が」
「ばっかだなー、ここで世界のピンチを暗黒神が颯爽と解決すれば世間の
評価も一気に変わって『地味で根暗な邪神』から『闇を守護し世界を裏から
支えてきた寡黙なる女神』にステップアップするぞ」
「それは浪漫だ。実に浪漫だ。大変結構な浪漫じゃあないか」
「ならば召喚だ」

 アイザックの言葉にころりと表情を変えて陽気に笑った青年実業家は、
術式を複雑に組み込んだ紙片を取り出した。

「本来ならば勇者との一騎打ちの果てに破れた私が自らの命と引き替えに
ヘル様を顕現させるために用意したとっておきの一枚だが、ここが勝負札の
切り場所だ。おいでませ、ヘル暗黒神!」

 これだから浪漫主義者はと呆れるアイザックにひきずられつつ青年実業家が
発動させた術式紙片は空中に複雑な紋様の魔法陣を描く。十六段もの法円を
組み合わせた魔法陣が起動するや、雨後のタケノコのごとく突き出てきた
巨大植物は動きを止め、傾いていた電解炉も元の位置に戻る。

「よし、やったか!」
「召喚した私が言うのもアレだが、普通は邪神召喚とか阻止せんでいいのかね」
「むしろ至極まっとうにアルミニウム精錬かまされて無自覚に特異点を発生
させられる方が怖い」
『まったくじゃ。恒星間航行船の燃料装甲材が軽金属精錬の蓄電池代わりに
されるとは余達にとっても意外すぎる展開じゃったわ』
「ですよねー。フロギストン鉱石が天然産出されるって話をしたときアンジェも目を
丸くして驚いていたし」



「なるほど。ときに若人、質問がある」
「奇遇だね、僕もあんたに訊きたいことがある」
『なんじゃなんじゃ、男同士で見つめ合って。そなたらアレか、そういう趣味か』

 男二人は沈黙し、見た。
 アイザックの胸元にしがみつく、小さな女の子。
 デフォルメされた頭身で、そのくせメリハリのついた体型は彼らの知る亜人種には
該当する物はない。それが黒タイツに黒のレオタードついでに黒のウサ耳ヘアバンドを
装着しているのだ。登記のように真っ白な肌と艶やかな黒髪は、これが7頭身以上
あればと青年実業家が思わず唸るほどである。

「君は、誰だい」
『ご指名いただきました、キャバレー暗黒神殿のウサミちゃんです──ではなくて。
この場合は太陽の三姉妹が眷属、風魔王が直臣の一、夜兎埜神こと死神ヘルでも
良し。私のことは好きに呼ぶのじゃ』
「若人、召喚に失敗したようだ。急いで次の術式を用意させる」
「よしきた。魔力は多少は減ったようだが爆発的に消費して枯渇させないとまずい、
いったん退却して作戦会議だ」
「応」
『おいこらまて二人とも、私の顕現で特異点そのものは消滅しているぞ。もっとも範囲外に
拡散していた魔力が収束して再度特異点にならぬよう地下の化石獣たちに注ぎ込んで
カンブリア爆発も真っ青の生命混沌が誕生しているからな、逃げるに越したことはない』
「え」
「は」

 ウサ耳少女のすっとぼけた説明の直後。
 動きを止めた古代樹の代わりに、全長数メートルを超える巨大な外骨格生物が
無数に地面から飛び出してきた。

『この世界においては約三億年ほど昔の時代に君臨した魚類や両生類ついでに爬虫類の
一部と昆虫類が、悠久の時を経て蘇り大地に君臨する!』
「おお、なんという浪漫!」
「言ってる場合かあ!」

 妙な部分で浪漫を刺激されたか感涙する青年実業家の襟首をつかみウサ耳少女を
貼り付かせたまま、アイザックは力の限り走り出しその場からの逃走を開始した。

以上、投下終了。

中々カオスで

乙~

カンブリア桜に浪漫の嵐!


ウサミちゃん…
七頭身無いのか…七頭身無いのか…

おつ
ガチャン、ムクの起源をみた気がした

大地に君臨かぁ……魚類がどうやって?

いまさらだが、11/09は「いいオーク」の日だったらしいね

いまさらだが、11/09は「いいオーク」の日だったらしいね

ああ、連投すまそ

12BEASTって漫画を読んだ。
NINJAの末裔の兄弟がいて弟のクラスメートに手を出すような兄貴がハーレムを目指して異世界に行き、弟がその尻拭いをする話だった。
俺はこの先の展開を知っているような気がする

一月経ったな
師走は忙しいか

待つ

年も明けたし、そろそろ続きが読みたい

もう少し待ってね。
DASH鎮守府ショックとかあって(自業自得とも言う)



 走る。
 走る、走る。とにかく走る。
 アイザック・ニュートンジョンと元邪神崇拝者(三分前に棄教した)トニオ・ラマンチャと
愉快な秘密結社の面々は、膨大な魔力を消費して顕現した邪神を名乗るウサ耳の
少女を抱えて走る。そのまま放置したのでは再び特異点が発生するとばかりにウサ耳少女は
巨大ニンジンに姿を変えた魔力塊を抱え奮闘中だ。そのあふれ出す魔力がこちらの身体にも
作用しているのだろう、お世辞にも体育会とは言えない面々がオリンピック選手も顔負けの
速度とスタミナで走り続けているが、息切れする気配さえない。
 故に走る。
 今走らねば何時走るのだと言わんばかりに走る。
 追いかけてくるのは、太古の浪漫だ。
 彼らが通り抜けると石畳もアスファルトも砕け、生あるものは巨大化し、その残骸は莫大な
量の魔力を得て人造の生命となって甦る。ウサ耳少女は特異点になりかけていた魔力の塊に
かじり付いて必死に消費しているが、消費の結果として大地の記憶がフルカラー3Dで
再現されているのは別の意味で問題である。
 こんな状況でなければ!
 走りながらアイザックはカメラもスケッチブックも紛失してしまったことを心底後悔した。辺境伯の
書庫の中に置かれた巨大なアンモナイトの化石や、師でもある騎士アンジェが教えてくれた
異界知識としての生命進化の物証がここにあるのだ。
 もちろん空を飛ぶ魚がまっとうな生命とは考えていない。飽和する魔力を力場として半ばゴーレムと
化した古代魚たちが泳いでいるのだ。単なる浮遊魔法を越えた現象に秘密結社の三角頭巾共は
アイザックと似たような表情で走っている。



「収束した魔力が安全水準に戻るには! あとどれくらい!」
『核炎魔法で地表を五回くらい灰燼に帰すくらいの消費を』
「できるかあ!!」

 アイザックの頭に張り付いて離れないウサ耳邪神に問いかけたトニオが
泣きそうな顔で叫ぶ。時刻は真夜中だというのに昼よりなお明るい。空には
冷光ではあるが太陽より大きな光の珠がいくつも浮かんでいる。

「さっき唱えたのはなあ! 半径三十メートルの空間を照らして逃走時の
目印にするつもりだったんだ! それが!」
『地平線まですっきり明るいねえ』
「こんな状況でそんな広域破壊魔法など使って見ろ!」

 正面に広がるのは太古の密林。ソテツや巨大菌類の樹などが複雑に入り
組んだそれは、おそらくはこの近辺の地下にも石炭層があったという証明である。
地図上は開拓途中の荒野だったはずだが、領主に隠れて開拓民が違法炭田を
地下に作っているという噂をトニオは聞いていた。先刻通過した大理石造りの
大衆浴場は、おそらく贅沢でおぞましい漁師鍋が浴槽いっぱいに作られていることだろう。

「総帥、活路を開きます!」
「おい馬鹿やめろ!」

 三角頭巾の一人がごくごく初歩的な『魔法の弾丸』を放つ。通常ならば日干し
煉瓦を三個重ねたのを砕く程度のそれは、発射時の直径にして五メートル、放った
場所から密林をぶち抜きその先にある丘陵の三割をえぐりとって大気圏を突破した。
オゾンの臭いが充満し、ぶち抜かれた密林の地面はガラス状に溶融している。

「なんじゃこらあああ!」
「せやから言ったやないかどあほー!」

 絶叫する三角頭巾に、アイザックが辺境訛で叫び返す。
 人類の魔法史においても類例を見ない規模の破壊規模である。痴漢撃退用にと
アカデミーでは威力を抑えた使いきりの呪符も製造されており、魔法の弾丸というのは
本来はごくごく初歩的な魔法にすぎない。もちろん達人がこれを唱えれば亜竜をも
討ち滅ぼすと言われているが、今回唱えた三角頭巾は素人に毛が生えた程度の腕前である。



「──万が一に核炎を唱えたら」

 アイザックの呟きに、走っていた全員が息を呑む。
 戦争以外には用途はないが戦時に唱えれば軍法会議が待っていると言われて
いるのが核炎の魔法である。近年は制御技術をアカデミーが開発することで効果
範囲の縮小に成功し、超大型目標への適用を認められるようになった。魔法使いが
軍や国に仕える上で一流という概念の基準ともされる有名魔法で、使う機会は
ないまでも習得者は驚くほど多い。

「青年! およそでいい、その場合の破壊力を!」
「──月が、砕ける。かも」
『地上を粉微塵にした後の余波でね』

 悲鳴を上げるトニオ。沈痛な面持ちのアイザック。ただひとりウサ耳少女だけが
のほほんとしながら魔力の塊にかじりついている。

「迅速に魔力を消費する方法は!」
『えー』

 三角頭巾の言葉に、ウサ耳少女が耳を揺らしながら勿体ぶった口調で語り始める。

『私としてはー、人間のー、ちょっと向こう見ずだけど正義感がそこそこあってー、
行動力のある男の子をー、私のゴッデスパワーで眷属として迎え入れるようにしたらー、
一気に魔力消費できるかなー。なんて』
「おっさん御指名だぞ」
「私は三十過ぎだ、男の子と呼ばれる道理はないな」

 露骨に乳房をアイザックに押し当てるウサ耳少女。アイザックは現実逃避し、トニオは
彼を現実に引き戻そうとした。

「考えてもみたまえ青年。死を司る神とはいえ特殊性癖向きのバニーガールの美少女だ。
君がババア専でもない限り、断る理由はない」

 区役所への書類提出は任せてくれと胸を叩き爽やかで胡散臭い笑顔を見せるトニオ。

「命がけで特異点暴走を阻止するために来た君が、どうしてこのような些細な問題で躊躇するのだ!」
「些細なら代わってくれよ」

 魔力の塊をいじるよりもこっちが大事だと言わんばかりにアイザックの顔を掴んで
唇を重ねようとするウサ耳少女と、放出される魔力により増加した筋力をフル稼働して
必死に抵抗するアイザック。
 走りながらよくもまあ器用な真似をと三角頭巾達も感心するほどだ。

「魔力塊を餌に古代魚共を誘導しつつ、エネルギー枯渇を待つ。現実的に選択できる
方法としてはベストの筈なのに!」
『ダーリン新婚旅行は草津が良いっちゃよ』
「邪神をハニー呼ばわりする趣味も経歴もない!」
『はっはっは、制御も出来ないのに邪神を呼ぶからだよ少年。そして私に出会うまで
後生大事に童貞を守っていた己の潔癖さを呪うがいい!』

 童貞かー。
 童貞じゃ仕方ないっすね。
 いやあ商売女相手でも大丈夫で良かった。
 ウサ耳少女に半ば覆い被されているアイザックを指さしながら安堵するのはトニオと
三角頭巾達だ。浪漫を追及する過程で「とらわれのエルフさんプレイ」とか「捕虜になった
気高き女騎士プレイ」などを堪能してきた彼がその性癖を天に感謝した瞬間でもある。

以上、投下終了。
お待たせしてすいませんでした。


相変わらずのカオスっぷりで安心した

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