いもうと×どらごん (548)


 このスレは>>1が書いた小話その他を投下するスレです。

 予定としては

「いもうと×どらごん」

 ほか短い話(主に前スレの短編)を考えております。


前スレ
男「ベホマズン(物理)」 魔王「それはおかしい」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1333058732(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)

【第十三話 ドラゴンと小市民の集い】

 魔王という種族は、厳密には存在しない。
 魔王とは、魔物の王様であり、魔人を束ねるものであり、領地もしくは領民の存在があって初めて魔王と呼ばれる。
 とはいえ魔王を親に持つ者は、素性がどうであれ只ならぬ力を持つ血筋としてみなされやすい。そして魔王の力を
求めるものにとって、生産性の点で魔王の息子に対する潜在的な需要と期待は高い。
 まして「彼」は肩書きでこそ魔王の息子だが、魔王すら超越した「人間」を父に持ち、力に対して高い自制ができて
いると評判だった。いずれ故郷の世界に戻る日が来れば、勇猛にして武門の誉れ高き四氏族を眷属に従え、神と人と
魔を結ぶ三界の王として君臨することさえ期待されていた。

 その彼が中学三年生の時に、家族の前で宣言した。

『市役所の職員、目指します』

 朝食時の一家団欒の場は、ものの見事に凍りついた。魔王の息子を学校に誘うついでに朝食に呼ばれていた
幼馴染の少女アーちゃんだけが、彼の隣でもぎゅっと口を動かしている。
 
『市役所に勤めて、アーちゃんをお嫁さんにして、30年ローンで家を買って、子供二人くらい作って、商店街の振興に
 力を注ぎたいです』

「ん。ええよ」

 口の中の飯を呑み込んで数秒、北欧人を両親に持ちながらも大阪生まれで大阪育ちの金髪碧眼少女アーちゃんは
「なにを今更のことを言ってるんやこいつは」とでも言いたげな、しかしまんざらでもない顔で答えた。

 最初に反応したのは姉である長女だった。

『父上、母上! 弟が乱心した!』

 無事に市内の私立高校に合格し、入学三カ月で生徒会長の座を掴んだ長女が周囲にプラズマを撒き散らしながら
絶叫する。同級生達に「えー、半分しか血がつながってないならOKでしょ」だの「近親相姦いうんは人間とか動物の
理屈やん。魔王とか神様の類ならその辺とか問題にならんとちゃうの?」などなどさんざん炊きつけられ、程良く脳内が
ピンク色に染まり始めていただけに、弟のこの宣言に相当のショックを受けていた。

『ひょっとして、これが噂の中二病ですか兄さん?』

 同様に、妹である次女もまた適度に錯乱していた。
 念願かなって魔王の息子と同じ中学に通い始めたものの「えー、中一なのにまだ処女なの?」とか「大抵の子は親戚の
お兄さんとか弟相手で済ませちゃってるよ」とか、なぜか成年マークが見つからない少女向けコミック誌で得られた知識を
基にした女子中学生トークに適度に汚染され、兄である魔王の息子を異性として意識し始め得ていた頃である。姉ほどの
動揺はなかったが、それでも幼馴染である少女に身内が奪われたという感覚は否定しない。

 これが第一次「魔王の息子が大阪から出奔むしろ駆け落ちですよ店長ぉ!」事件の発端であった。



 さて、現在。
 秋葉原の、とある喫茶店にて。

『今回こっちに来たのも、大阪離れてアーちゃんと静かに暮らせんやろかと思ってなんや』

『うん、無理』

 窓の外を見ながら鈴木ドラゴン京一郎はきっぱり答えた。
 喫茶店を囲むように硬化プラスチックの盾を構えた機動隊員が並んでいる。

「こーちゃん、やっぱ東京はせわしないなあ」

『せやねえ。スーさんみたいな気持ちのええヒトもおるけど、茶の一杯もゆっくり飲めへんのは大変や』

『言いたいことはなんとなくわかるけど、君らに言われるのはかなり心外らしいて都知事さんがバリケードの向う側で叫んでるね』

 後半年で任期満了、再び国政にとか言ってたけど多分無理だなあ。
 一刻も早く魔王の息子達を羽田空港に向かわせるべく罵声を浴びせ続ける都知事の醜態を横目で見つつ、京一郎は
妹である鈴木花子の頬についた抹茶アイスを紙ナプキンで丁寧に拭き取った。



【十四話へ】

というわけで投下しました。

ミーちゃんは北欧から家出して日本に来た腐女子さん。
アーちゃんは、ミーちゃんの親戚ですが大阪生まれの大阪育ち。
アーちゃんの従兄の娘がミーちゃんです。

 唐突に思いついた小ネタ。

魔王「ずっと疑問だったのだが、お前のソレはいかなる流派なのだ?」

勇者「あ、それは僕も気になってました」

男「流派、と呼べるほど立派なものではないですが」

王妹「嘘つけ」

男「地元ではミノフスキー忍術とは呼ばれてましたね」

側近「なんという不穏な名称」

男「最終奥義が『忍法黒歴史』か『忍法無限力発動』かで亜流が幾つか成立しておりまして」

店長「どっちも世界が滅ぶじゃないですか、やだー!」

 どっとはらい。

せっかくなので同じ世界観の、時代とか舞台が違う話を投下しようと思います。
SS形式で。

掌編:ホワイトオークの森

#1

オーク「猪用の罠を仕掛けたら旅人が引っ掛かっていた件ぶう」

女エルフ「くっ、このような見え透いた罠に! その豚面、貴様はオークッ!?」

オーク「似たようなモンだぶう」

女エルフ「よ、よせ近づくな! 知ってるんだぞ、貴様たちがエルフの女を
     見付けたら、見付けたら……み、見付けたら」

オーク「赤面しながら服を脱ぎ始めるのはいいけど、その前に罠を外しても
    いいかぶう?」

カエル執事「御主人、別の場所に仕掛けた罠にイノシシが引っ掛かっておりました」

オーク「それは重畳だぶう。そこの旅人さんの手当てを頼むぶう、俺様は猪を
    仕留めてくるだぶう」

カエル執事「今夜は臓物料理ですな」

女エルフ「い、い、いやらしいことをするのね! 知ってるのよ、王都で流行ってる
     春画本の中でエルフ族の女達が何匹ものオーク達に囲まれてっ」

オーク「じゃあ後は頼んだぶう。本格的な手当は腑分けの後でやっておいてくれぶう」

カエル執事「吉報をお待ちしております」

女エルフ「穴と言う穴に、けがらわしくもご立派な!」

カエル執事「旅人殿、そろそろ罠を外しても構いませんかな」

女エルフ「あ、はい。よろしくお願いします」



#2


カエル執事「鋼線を編んだ単純なくくり罠ですが、暴れたので足首の辺りを捻って
      しまったようですね」

女エルフ「……あなた、ひょっとして自動人形? 全長30センチくらいしかないけど、まさか」

カエル執事「然様でございます。歯車王国の時代に製造されたカエル執事にございます」

女エルフ「嘘よ、あの時代に作られた自動人形はドラゴン戦争で全て破壊されたって
     アカデミーでは教えているわ」

カエル執事「確かに我々はドラゴンと神々の闘争において一体残らず破壊されましたな」

女エルフ「破壊されたのよね。つまり」

カエル執事「壊れたモノは、直す事ができるということですな」

女エルフ「それこそ信じられない話よ。歯車王国時代の技術はアカデミーでも復活できていない
     分野で、だから私達のような冒険者が当時の遺跡を調査しているのに」

カエル執事「ええ。アカデミーが歯車王国の文化発掘を開始して既に50年。自動人形をゼロから
      創造する技術は未だ完成しておりませんが、表立っていないだけで実用化したものは
      案外と出回っているのですよ。たとえば、この罠に使用した鋼線」

女エルフ「……透明な蝋を塗って刃を通りにくくしている工夫がしているわね」

カエル執事「自動人形の筋肉筒に使用される特殊樹脂でコーティングした代物で、これにより
      金属臭を封じ込める事に成功しております」

女エルフ「???」

カエル執事「つまり、誤って人間がかかっても無駄に暴れなければ擦り傷を作りにくい工夫です」

女エルフ「あ」

カエル執事「捻挫が悪化するといけませんので御主人を待ちましょうか」

オーク「おーい、大物がかかってたでぶう」

カエル執事「御婦人、猪は平気ですかな」

女エルフ「え、ええ。冒険者家業をやってるとベジタリアンだなんて言ってられないし」

カエル執事「失礼。猪と一緒にリアカーで運んでもよろしいでしょうか」

女エルフ「……よろしくおねがいします」



#3


カエル執事「簡易かまどの準備できました」

オーク「では血を鍋に集めたら、腑分けを進めるでぶう」

女エルフ「い、生き血を集めるのね」

カエル執事「森の土に血だまりを作れば、そこに良くない種類の蠅が集います。
      病毒を抱えた虫が増えれば草木も獣も良い思いはしないでしょう」

オーク「新鮮な血に塩水とスパイス足して湯煎にかけると、美味い血豆腐ができるんだぶう」

カエル執事「麓の村では高価な肉の代わりに貴重なタンパク源として食べられております」

女エルフ「あ、それ食べたわ。うすい麦粥に添えてあって、慣れると病みつきになりそうな味よね」

カエル執事「おほめ頂き恐縮であります」

女エルフ「まさか、あんた達が作ったの!?」

オーク「作り方を教えただけだぶう」

女エルフ(オークが人間の村と交流? そんなの聞いた事ないわ)

カエル執事「良いレバーですな、寄生虫もいない。胃の中にはドングリに蛇ですか」

オーク「腸と膀胱の中身は土に埋めて……びびで・ばびで・ぶう」

女エルフ「お、オークが魔法を!?」

カエル執事「獲物の腸内にある糞尿を浄化して水と炭酸ガスに分解する御主人様の得意魔法です」

女エルフ「なにそれ怖い」

カエル執事「船や城塞都市などの閉鎖空間において環境系を維持する貴重な魔法ですが、
      この時代では下水処理程度の価値しかないですからなあ」

女エルフ「いやいやいや。上下水道が整ってるところなんて王都の一部だけよ、そんな
     便利魔法あったらアカデミーが飛びついてるってば」



#4

オーク「腑分けに皮剥ぎも終わった、肉はどうだぶう?」

カエル執事「既に香辛料と塩をまぶして樽に漬けこんでおります。血豆腐も笹の葉で包み、虫よけの
      香草を散らしました」

オーク「では骨くらいは埋めておくでぶう。森の獣達の取り分だぶう」

女エルフ「え、えーと」

カエル執事「念のために足首を添え木で固定して、我々はこのまま麓の村に向かいますので
      そこの宿まで運べばよろしいですかな」

女エルフ「あの、完璧な応急処置ありがとうございます」

オーク「では行くでぶう」

 ガラガラガラ。

女エルフ「ゴムのついた車輪! 車軸の上に板バネ!? ナニこの荷車!」

オーク「荷車だぶう?」

カエル執事「積載量はTSUMERUMADEでございますな」

オーク「途中でアケビとサルナシが生っているのを見付けたでぶう。採って土産にしようでぶう」

カエル執事「良いですな。蜂蜜や干し杏とは違った甘味を知るのは児童の情操教育に大変よろしいかと」



#5


女エルフ「……」

カエル執事「そういえば、冒険者殿はいかなる目的があって森へ?」

女エルフ「こ、このあたりの森に変わり者のオークが一匹だけで棲んでいると聞いて」

カエル執事「退治しに来たと?」

女エルフ「い、いや」

カエル執事「失礼ながら、仮にもエルフでありながら森の罠に気付かぬあたり冒険者としての
      技量は厳しいものが……たとえ御主人でなくともオーク一匹仕留める前に
      返り討ちに遭って、運が良くても手籠にされてしまうかと」

女エルフ「そ、そうよね。うん。そうなんだ」

カエル執事「まさか」

女エルフ「――普通にしてるだけなのに高慢て陰口叩かれて、愛想良くしてみたらビッチ
     呼ばわりされてさ。アカデミーじゃ恋人どころか友達も満足にできずに、エルフの
     イメージあるから便所飯もできずにオープンカフェで胃薬肴に紅茶ばっかり飲んでたわ。
     冒険者になれば粗暴だけど実は優しい系の戦士とかオープン助平な魔法使いとかが
     声かけてきてくれると思ってたのに! 信じてたのに!」

カエル執事「高根の花ですなあ」

女エルフ「いくら長命種だからって八十歳間近なのに処女は嫌なのよ! メンタリティは人間と
     あんまり変わらないんだから!」

カエル執事「だから性欲旺盛なオーク相手に? 複数だと怖いから単独で棲んでいる御主人に?」

女エルフ「追い詰められた喪女って怖いのよー。道具とオークのどっちで膜を破るか三日三晩
     悩み抜いた経験とかある?」

カエル執事「御主人、この御婦人とても残念です」

オーク「話を振るなでぶう」



#6

カエル執事「そんな訳でして。オトモダチもしくは結婚を前提に付き合ってくれる
      殿方を探している女冒険者さんをお連れしました」

宿の主人「あいよ、それじゃあ依頼書を貼っておくね」

女エルフ「やめてーっ! その依頼書、全国区なのーっ! 取り返しがつかなくなるのーっ!
     いやーっ、社会的に犯される―ッ!?」

カエル執事「オークにレイプされるために国の反対側まで旅してきた方の台詞とも
      思えぬうろたえっぷりですな」

宿の主人「世の中には色んな趣味の方がいるからねえ」

オーク「こっちを見ないでほしいでぶう」

宿の主人「ははは。それじゃあ、血豆腐と香辛料漬けの猪肉はウチで引き取ろう。
     なめした皮は村の職人に渡せば良いのかな」

オーク「陰干しした胆嚢は薬師に渡してほしいでぶう。臓物で欲しい部位はあるかでぶう?」

宿の主人「おたくの処理した臓物は臭みもないからね、売ってくれるなら全部欲しいところだ」

オーク「いいでぶよ」

カエル執事「御主人。今日のシチューが」

オーク「燻製にしたウサギの肉で我慢だぶう。ああ、それと」

 どん。

オーク「譲り受けた燕麦のビール、蒸留して樽に詰めたので一つ持ってきた。山葡萄の酒樽を
    再利用したので香りが移っているかもしれんが勘弁してほしいでぶう」

宿の主人「こいつは凄い。お代は?」

オーク「余り物で金はとれんでぶう」



#7

カエル執事「御主人、少々勿体ない話でしたな」

オーク「なにがだぶう?」

カエル執事「昨日助けたエルフの旅人、うまくいけば御主人に嫁いだかも
      しれませんぞ」

オーク「阿呆な事を言ってないで、畑を荒らすウサギ用の罠の確認に行くでぶう」

女エルフ「……くっ」

カエル執事「御主人」

オーク「言うなでぶう」

女エルフ「この高貴にして鮮烈なる白騎士の異名を持つ私が、こんな簡単にっ!」

カエル執事「でも、昨日の旅人の方がバニーガールの仮装してウサギの罠に」

女エルフ「ふあああんっ、ウサギは年中発情してるのほおおっ!?」

オーク「素に返ると死にたくなるだろうから、そういうのはやめておいたほうがいいでぶよ」

女エルフ「あい、すいません」

以上、投下終了。

残念エルフさんふたたび。

#1

 王都。冒険者の店。

女エルフ「……」

剣士「見ろ、エルフさんが帰ってきたみたいだ」

戦士「いつ見ても綺麗だな。エルフだけあって血なまぐさい依頼を好まず届け物や
    捜し物を中心に仕事をするストイックさがたまらん」

剣士「ああ。刀身に銀で百合を象眼した剣が血で汚れず銀が黒ずまないから、
    白百合の妖精とはよくいったものだ」

女エルフ「……」

魔法使い「見ろよ、あれはチコリを焙煎した黒の薬湯じゃないか。常習性の強い
      珈琲ではなく、身体によいチコリを選ぶあたりただ者じゃないぞ」

戦士「珈琲中毒になって戦場にまで豆を持ち込み命を落とした将軍の話を聞いたことがある。
    エルフさんはお淑やかに見えて鋼の意思で自己を節制してるんだな」

剣士「どうやら我々とは次元の異なる高みに彼女はいるようだ」

魔法使い「よっしゃ。俺たちも仕事こなしていつかエルフさんと一緒に依頼受けられるようになろうぜ」

剣士「ふ。では行くか」

女エルフ「……」

店長「……まいどー」

女エルフ「……シクシクシク」

店長「代用珈琲、お代わり淹れますね」

女エルフ「お願いします」

#2

女エルフ「ちがうのよー、ぼっちだから戦うの怖くてにげてるのよー。逃げ足が
      半端ないから一人旅できちゃうだけなのー、友達・仲間・彼氏、絶賛
      募集中なのよおおおお」

店長「泣くほどぼっちが嫌ならさっきの冒険者のテーブルに声かければいいのに」

女エルフ「それができれば苦労しないわよ!」

店長「まあ知ってて言ってるんですけどね。あいつらエルフさんを清楚で高潔で
    博愛の人だと崇拝してるから、今のエルフさんの姿を見たらショックを受けて
    邪神信仰に転向しかねないし」

女エルフ「他にもエルフの女とかいるじゃないの! なんで私だけ!?」

店長「そらあ、ねえ。色街の商売女よりきわどい格好にアニメ声で甘えながら、尻と乳を
    ばいんばいん揺らしてフトモモ見せつけて前途有望そうな若者のちんちん狙ってるのが
    王都の一般的なエルフで」

女エルフ「なんじゃあそらああ!」

店長「僕も詳しいこと知りませんけどね。異世界の店からそういう薄っぺらい春画本が
    一時期ものすごい出回って、婚期を焦るエルフの娘さん達が飛びついたとか」

女エルフ「滅びてよ、そんな異世界!」

店長「エルフだけじゃなくてデミヒューマン系の女の子達が、その影響受けましてねえ。
    今じゃあ女吸血鬼なんて火薬式の弩を振り回しながら闇の秩序とやらに従って、
    レオタードもしくは全裸にマント姿で悪人を次々と」

女エルフ「訳が分からないわよ!」

店長「昔ながらのエルフとかデミヒューマンを追い求める古株の冒険者達にとって、
    女エルフさんは最後の砦みたいなものですから」

女エルフ「……その異世界文明、滅びないかしら」

店長「あ、既に滅びてますよ」

女エルフ「え」

店長「もともと少子化が進んでいたのですが過剰な女尊男卑の思想が蔓延し、そこに住む
    男達の半分は女達を捨てて女装した美少年との恋愛に走ったとか」

女エルフ「……それ、女は黙って見てた訳?」

店長「女達は娯楽として男同士の恋愛を鑑賞する文化的な下地があったようで、彼女らは
    歓喜の内に滅亡の道を選んだそうです」

女エルフ「ないわー、それないわー」

店長「ちなみに残り半分の男達は幻想と虚構の女に走り、空想の中に理想の異性を見い
    だしたとか。その時に彼らが遺した書物こそが」

女エルフ「滅びる滅びる、こっちの文明も滅びるからそれ!」

店長「そこに気付くとはやはり天才ですな」



#3

店長「そういえば王都ではしばらく見かけませんでしたが」

女エルフ「ああ。友達の家に逗留していたのだ」

 ガタン、ガタタン。

店長「あ、すいません。物凄い音がして聞き逃してしまいました」

女エルフ「友達の家にいたと言っただけだ」

店長「古代エルフ語でトモダチって現代共通語に翻訳すると何でしたっけ。えーと、
    無抵抗の民を虐殺して明日を生きるための種籾を奪う行為だったかな」

女エルフ「と、友達はトモダチだもん。現代語で友人でフレンドで一緒に食事したり
      馬鹿騒ぎできる相手だもん!」

 ガラッ

女騎士「この店に邪神召喚を企てた恐るべき犯罪者がいると聞いた!」

店長「騎士様、この女エルフさんです」

女エルフ「ちがーう! 私はただ友達の家で」

女騎士「つまり、友達がほしくて邪神を召喚したと」

女エルフ「するか!」

女騎士「馬鹿な、邪神の眷属以外に貴様の友人になろうという物好きがいるものか」

店長「騎士様、騎士様。女エルフさんを罵りながら血を吐くのは何故ですか」

女騎士「ううっ、ぐすっ……王都で陛下と民草のために日夜がんばっている私に友も
     恋人もできないのに、こんな破廉恥きわまりない猥褻新生物に一緒に食事
     したり酒を飲んだり夜中にボードゲームを楽しむような友人ができるわけがないだろう!」

女エルフ「……がんばっ」

女騎士「ちくしょう同情するなら友達をよこせ!」



#4

女騎士「友達……貴様のようなぼっち歴が長い女が新たに友達を得ようとすると、
     トモダチ料は莫大な額になると聞いていたのだが」

女エルフ「一つ言っておくぞ女騎士」

女騎士「な、なんだ。いちおう月に金貨一枚までならトモダチ料として」

女エルフ「友達は売り買いするものではない」

女騎士「な、なんだってー!」

店長「おいそこのぼっち騎士、いま懐から金貨の袋を出そうとしたぞ」

女騎士「か、金で友情を買えない……そうか、貴様はその無駄に大きな乳を駆使して」

女エルフ「言っておくがな女騎士、私の友達に私の色仕掛けはいっさい通用しなかった!」

女騎士「な」

店長「なんだってー!」

女エルフ「フフフ、友達はいいぞう。女騎士、友情とは肉欲をも凌駕する歓びを私に与えてくれた」

店長「そこで肉欲という単語が出てこなければ良い話だったんだけどなあ」




#5

女エルフ「ああ、そうだ。その友達に頼まれていたのだ、これを」

女騎士「と、友達に頼まれ物だと! ぼっちが夢にまで見たシチュエーションを、
     貴様という女は!」

店長「木箱入りの酒瓶ですか。やあ、何ともすごい物を」

女エルフ「届ける際に同行を頼みたくてな。貴重な品なので」

女騎士「確かに珍しい造形ではあるが、ガラス瓶の酒など王都でも探せば
     それなりに手に入るだろう?」

女エルフ「ふふん。これだから仕事一本で生きてきた処女は」

女騎士「貴様とて同類だろうが。むしろ歳の分だけ取り返しのつかない状況で
     色々血迷っていたくせに!」

店長「すごい──これ、吹きガラスの瓶なんですよ」

女騎士「ふ、ふきがらす?」

店長「この国のガラス職人は融けたガラスを砂の型に流し込んで瓶を作って
    ますけど、こいつは鉄型の内部でガラスを吹いて整形して……しかも
    宝石のようにカットしてあるんです」

女エルフ「さすが店長、物の価値を知る男だ」

女騎士「ぐぬぬ。しかし所詮はガラスだろう?」

店長「とんでもない。このガラス製法は歯車王国時代の末期に失伝した代物で、
    ガラスカットも含めて完全な形状を保ってるものは貴重極まりないんですよ」

女騎士「つ、つまり」

店長「はい。超一級の歴史遺産です。自動人形の駆動部品一式よりも貴重でしょうね、
    好事家と錬金術師と工房職人の奪い合い必至モンですわ」

女エルフ「友達もそんなことを言っていた」

店長「吹きガラスの製法復活を試みている職人さんは沢山いるんですけど、完成品が
    手元にないから苦労しているんです。王都にあるドワーフ工房の親方も、ずっと
    探してたんですよ」

女エルフ「実はな。その親方に、この瓶と中身の酒を渡してほしいと言付けを預かっているのだ」

店長「なんと」

女騎士「いや貴様が行けよ」

女エルフ「い、行ける訳ないだろう。私はエルフだぞ、ドワーフとは犬猿の仲なのに届け物など
      やっているのが知られたらエルフの評判が地に落ちるではないか」

店長「これ以上ないほど落ちまくってますけどね、エルフ」

女騎士「色街の娼婦ギルドから苦情が来まくってるからな」

女エルフ「わ、私は悪くないんだぞ!」



#6

女騎士「──ガラスの事は正直わからんが、私は木箱の造形が好きだな。
     素朴ではあるが、可憐な山百合の花の彫り物だな」

女エルフ「あ、それは私が彫った」

女騎士「前言撤回する」

女エルフ「あのな。ドワーフほどではないがエルフの木工と織物は高く評価されて」

女騎士「貴様が小遣い稼ぎに木製のご立派様を王都の耳年増や人妻に
     売りまくって荒稼ぎしていたのは知っている」

店長「へー」

女エルフ「お、おい店長。なんで距離を置く」

店長「うちの宿、掃除もサービスでやってますけど女性の冒険者で愛用されてる
    方多くてですね」

女騎士「聞きたくなかったそんな生々しい話」

女エルフ「そ、そもそもだ。あれは重い生理痛や望まぬ性病に苦しむ女性のために、
      患部に的確に膏薬を塗布するための伝統的な医療器具で」

店長「粘膜の感度を高める香辛料入りローションも爆発的に売れてますな」

女騎士「き、貴様という女はあ!」

女エルフ「湯船に適量混ぜると身体が暖まる、冷え性対策の入浴剤だ」

店長「このひとアカデミーでなにを勉強してきたんでしょうね、ほんと」



#7

 某所。とある森。
 トンカントンカントンカン。キリキリキリ。

オーク「ふむ。鉱山からの毒水はほぼ止まったとみていいでぶう」

カエル執事「砒素とカドミウムについては途中に遊水池を設けたのが
        良い方向に働いたようですな」

オーク「底に溜まった重金属の泥はブロブを放流しておくでぶう」

カエル執事「有機汚泥に関しては野生種のスライムでも何とか対処
        できそうですね。金属塩が多いので環境変異した固有亜種が
        いた可能性が高かったのですが」

オーク「元々住んでいたブロブにスライムは鉱山採掘時に根絶やしにされた
     ようだからぶう。今は銀も錫も掘り尽くしたし、蒸留酒の樽やチーズを
     熟成させる場所として再利用だぶう」

カエル執事「麓の村人達の重金属汚染もようやく完治の目処が立ちましたし、
        土壌の重金属除去も今年中に終わりそうですな」

オーク「次の春からは、この地で育つ芋と豆で暮らしていけるようになるといいでぶう」

カエル執事「──御主人」

オーク「なんだぶう」

カエル執事「そろそろ現実見ましょうよ」

オーク「なんのことでぶう」

女エルフ「驚いたか、ここのチーズは石灰質を多く含む牧草で育った乳を使って
       いるので独特の風味があるのだ。これを熟成することで王都でも目に
       かかれぬ品が」

女騎士「なんだこの濃厚な甘味と酒精の強烈な葡萄酒は! そうか、陰干しした
     葡萄を仕込み、発酵の途中で火入れをしたのだな。むう、王都の晩餐会
     でも滅多に味わえぬ……チーズとの相性も抜群だ」

カエル執事「残念美女が二倍に増えて、試作のチーズとデザートワインが片っ端
        から食い散らかされているのですが」

オーク「米で作ったワインに手をつけない内は大丈夫だぶう」

女エルフ「米のワイン!」

女騎士「なにそれのみたい」

カエル執事「なるほどこれが藪蛇というものなのですな」

以上、投下終了。

本日のお話。

女エルフさん:王都の冒険者(♂)にはディードリット級の扱い。王都の冒険者(♀)にとっては
         性具の伝道者。
         女エルフさんが製造販売したディry民族医療具によって梅毒などの性交渉由来の
         患者が劇的に減少したのは事実。色街の女にとってはまさに救世主だったが処女なので
         あまり嬉しくない。
         酒が好き。

女騎士さん:ギリギリ婚期を焦らずに済む。そこそこ手柄を立てているのか、巡回と称して冒険者の宿で
        ランチをとるのが日課。
        高根の花扱いされている。酒が好き。


店長さん:別支店の店長がOLさんとくっついたと聞いて心底うらやましいと思った人。

カエル執事:麓の村で畑の土を掘ったら水銀の玉がボロボロ出てきて悲鳴を上げ、オークに直訴して
        環境保全を始めた自動人形。十年に及ぶ彼の熱意がようやく実を結ぶ。

オークさん:日に二度、麓の村を訪ねて重金属汚染に苦しむ村人を治療してきた。びびで・ばびで・ぶう。
        十年にわたり、およそ百名の村人の安全な水と食料を提供し、土壌の浄化と汚染源の対処に
        従事してきた。豚は綺麗好きなのだ。

そんな大量のバナナ、いったい誰が食べ尽くしたのん…

誰が どこで食べ尽くしたんだ…

+魔王様のクリスマス+

魔王「か、勘違いするなよ。これはだな、異世界の文化を知らねば将来
   この国が外の世界と付き合っていく際に不幸な衝突を生む可能性が
   あると判断したからこそ実地を伴い学ぶべきであると考えただけで
   他意はないのだ他意は。そもそも異世界の神々と宗教に絡む行事を
   我々がそのまま導入してしまうと異界の神をこちらに引き込む可能性も
   少なからずあるのだから我々の本質を考えればそのようなリスクを
   無理に背負って国と民に危険を強いることなど出来るはずもない。
   それでも衣食住にそろそろ余裕が出始めた我が国は娯楽と言うものが
   慢性的に不足しているし国が肯定する形で男女交際の場を設けねば
   仕事仕事仕事で年がら年中働きづめで見合いの機会すらなくて
   喪女ってなんでしょーねえと目の下に隈を作ったOLさんが店長の首を
   ネクタイごと締め上げる様に心底恐怖した事とか、勇者たちが養鶏所の
   経営に乗り出して鶏卵を安定供給できるようになったものの廃鶏を
   そのまま挽肉にするのは芸がないので大型の石釜を作って調理した
   鶏の丸焼きが予想外に市民の評判を獲得していることとか、
   先代勇者が『クリスマスの勝負服といったらこれでしょ』といって
   ミニスカサンタ服を用意してきたけど一着余ったのでお裾分けして
   もらったとか、将来自分の息子が金髪巨乳のミニスカサンタ娘の色香に
   籠絡されてしまう予知夢を見てしまったとかその辺の諸々の事が不幸にも
   重なったのであって――つまり」

男「つまり?」

魔王「さ、サンタ娘は己自身を贈り物にするためプレゼントを詰めた袋を
   持ち歩かないのが作法と聞いたのだが、本当なのだろうか」

男「その情報はどちらから?」

魔王「アークデーモン達だが」

男「ちょっと彼らと話し合い(物理)してきますが夜には戻ります」

魔王「お、おお」

王妹「(ガチャン)おお、我が夫に姉上! 悪のドラゴンより聞いたが本日は
   ビキニサンタなる仮装で――」

側近「ぬ、ぬぬぬぬぬ布地の面積が小さすぎますこれえっ!」

男「……」

魔王「……うん、これは取り締まりが必要だ」


 ちなみに。
 この日の頑張りで魔王は長女を身ごもり、魔王国においてクリスマスという
伝統行事の根拠となったのはまた別のお話である。

クリスマスなので特別編。
面積の少ないマイクロビキニやスリングショットよりも、普通のミニスカサンタ服の方がエロスというお話。

>>215 >>217

 お知り合いの雌ドラゴン芹沢エリカさんがおいしく召し上がってくれました。

『ふももふも、もふもふもっふ。ふも、ももももふもふ』

 食べ物だけで空腹を満たせるのはドラゴンにとってとても贅沢な行為のようです。

オークでいいかな。


 王都の外れ、職人街。深夜。
 トンテントンテン。

親方ドワーフ「いよぅ、旦那じゃねえか」

オーク「注文の品を届けにきたでぶう。松の炭、樫の炭、竹の炭。川底の砂鉄と、それを還元して得た純鉄と粗鉄。
     ドングリで肥えた三歳イノシシから採ったニカワと、五歳農耕馬の尻の革を薄く削いだもの」

親方ドワーフ「……」

オーク「どうしただぶう?」

親方ドワーフ「旦那、実はオークじゃなくてドワーフじゃねえのか?」

オーク「オークだって悪落ちする前はドワーフの親戚の真似事やっていたぶう。それに、この豚面をドワーフ
     呼ばわりしたら親方の娘さんが聞いたら泣くでぶう?」

親方ドワーフ「カカカっ。旦那がドワーフだったら真っ先に喜ぶのが、うちのお転婆よぉ。今だって氏族会に掛け合って」

オーク「?」

親方ドワーフ「氏族会もまんざらでもねえ。うちのお転婆はドワーフにあるまじき背丈に八頭身よ、見た目には
       人間の娘とどっこいだ。だったら別の種族に嫁いだって不都合はねえってな」

オーク「おお、お嬢さん結婚するでぶか。それは祝いの品を今度もってくるでぶよ」




親方ドワーフ「なに言ってやがる、結婚相手はd」

女ドワーフ「おとうさんあぶないうしろからはんまーがあたーっく!」

オーク「いまアタック言ったでぶう」

親方ドワーフ「言ったな」

女ドワーフ「やあやあ旦那じゃないか。人目を避けるためとはいえ夜中に王都まで大荷物を
      運んでくるとか大変じゃないか。さあさあ簡単だけど食事と酒の用意をしてあるんだ、
      今夜は飲んで食べて疲れ果てて眠りこけるまで騒ごうじゃないか」

親方ドワーフ「おいおい実の親の前でここまで露骨に行動するかい」

女ドワーフ「くくく。親父殿よ」

親方ドワーフ「なんでえ」

女ドワーフ「ええと『この工房に、百年は水漏れを起こさない素晴らしい酒樽を作る職人が
      いると聞いたぶう』だったかな」

親方ドワーフ「!」

オーク「懐かしいでぶね、もう十年も前の話でぶ」

女ドワーフ「くくく。そうさね。帝国の後継を巡って四半世紀も続いた内戦で、親父殿は不本意な
      出来映えの槍を大量生産させられていた。ようやく平和な時代が訪れたと思えば、
      親父殿は数打ちの武器を鍛えた三流鍛冶の烙印を押されて食うに困る有様だった」

オーク「困窮の時期でも親方は酒に逃げず、家族と弟子を養うためにどんな仕事でも請け負って
     いたんだぶう。その上で、鍛冶師としての精進も怠らなかった、本物の職人だったぶう」

女ドワーフ「それでも金策尽きて八方塞がりになった時に現れたのがオークの旦那だ。親父殿の
      腕を見込んで酒樽を大量に発注し、前金で全額渡すと共に必要な材料も置いていった。
      できあがった酒樽を見て旦那が『なんと、こいつは二百年は保つ仕事だぶう』って言った
      直後に号泣したのは誰だったかなあ」

親方ドワーフ「ぐ、ぐぐぐ」




女ドワーフ「くくく。わかる、わかるよ親父殿。職人ってのは精魂込めた仕事を正当に
      評価されることが至上の歓びなんだ。昔作った酒樽が百年保つと言われたときに、
      親父殿はそいつを乗り越えた代物を作ろうと持てる技術を尽くした。旦那は、
      そんな親父殿の仕事を見て、二百年は保つと断言したんだ。
      信頼され、
      信用され、
      理解され、
      評価された。
      明日を食う飯代にも事欠く日々ですら寡黙に鎚を振るっていた親父殿が、だよ。
      泣いたのさ。わたしだって母者だって、親父殿の泣き顔を生まれて初めて見たんだ。
      忘れるわけがない」

オーク「そうだったでぶか」

女ドワーフ「さあ辛気くさい話はここまでだよ。仕事だって終わったんだ、わたしの手料理でも」

女エルフ「いただこう」

女騎士「美味い酒に美味い飯それに人情噺。最高の宴になりそうだな」

女ドワーフ「──だれ、こいつら」

女エルフ「聞いて驚け、私はこいつのトモダチだ」

女騎士「友人です」

女ドワーフ「実際のところは?」

カエル執事「ぼっちの残念美女達です。友達と酒の匂いをかぎつけて御主人についてきました」

女ドワーフ「へへぇ」

カエル執事「お嬢様、つかぬ事をお伺いしますが手に持ったそのトゲ付き鉄球を振り回し始めているのはいかなる用途があって」

親方ドワーフ「逃げてェ! そこのおっぱいエルフと女騎士、超逃げてェ!」

女ドワーフ「やだなあ親父殿。わたしは冷静だよ、冷静沈着に獲物を仕留めるだけさあ☆」

カエル執事「これはもうだめかもしれませんな」

以上、どっとはらい。



カエル執事『御主人の特技の一つに催眠術がございます』

女エルフ「なるほど、そうやって今までに幾人もの婦女子を手籠にしてきたのだろう」

女騎士「分かる、分かるぞ。女騎士の寿退社の三割が催眠術によるナンパからの逆襲
     そして御懐妊と呼ばれているほどだからな」

女ドワーフ「よし、この国はもう御仕舞だナ」

カエル執事「この国の行く末はともかくとして旦那様は既に皆様に催眠術をかけました」

女エルフ「そうか。最近あまい痺れが止まらないのは催眠術のせいだったのか」

女騎士「いや、それ単に幻覚性のキノコをうっかりかじった後遺症じゃないのか?」

女ドワーフ「催眠術にかかったんじゃ、ナニされても仕方ないよな」

カエル執事『はい。というわけで、皆様が苦手とされる野菜を中心とした料理を本日は
       用意させていただきました』

女エルフ「――あんなに苦手だったパセリが普通にうまい。そして悔しい」

女騎士「……これがトマトという野菜なのですね。巷では人肉果だの毒草だの言われてましたが
     なんという美味ですが釈然としない」

女ドワーフ「セロリと茄子を食べてもオエっと来ない。むしろもっと食べたい」

カエル執事『こちらにトウモロコシの粉のパンケーキを用意しました』

女エルフ「えー、トウモロコシなんて家畜の食糧じゃない。けど凄い美味しい」

女騎士「農民が飢えても手をつけないというのに屈辱だ――が、乾燥して粉にしたので消化は良さそうだ」

女ドワーフ「旦那は鬼畜だよう、こんなのが美味しいなんて」

カエル執事『ちなみにこちらのシロップ、トウモロコシの粉を蒸留酒用の麦芽で糖化させて煮詰めました」

女エルフ「なにげに砂糖相場が暴落する発言かましたわね今」

女騎士「ちなみに市場に卸す価格はいかほどに――げ」

女ドワーフ「蜂蜜の四分の一、赤砂糖の二十分の一か。いやそれは厳しいね」

カエル執事『なるほど。飼料用作物を原料にした糖蜜の普及には関係各所との折衝が必要のようですな』

オーク「のんびりやっていくでぶう」

以上、どっとはらい。

ウィスキーの醸造と蒸留と熟成ができるオークさんはデンプンの糖化を理解しているので
コーンシロップを使った甘いケーキやクッキーそれにキャンディーで地元の子供たちを
餌付けしている鬼畜でもあるという話。

GWなので即興でなにか書こうと思います。

【とある世界】

魔王「どうも、はじめまして」

東の国王「ままままま魔王じゃと(制服を着たアカデミーの女生徒にしか見えん)」

魔王「はい。今度魔王の座に就くことになりました。よろしくお願いします」

西の国王「目的はなんだ!(うちの娘と同い年くらいか?)」

魔王「就任の挨拶と、あとは提案に」

南の国王「提案だと?(童顔で巨乳でミニスカートか……さては淫魔の類いか)」

魔王「はい。東西南北の国とは隔絶した大陸でひっそり暮らしたいんですが」

北の国王「ひっそり暮らす?(眼鏡、イエス、眼鏡)」

魔王「はい。勇者さんが先代の魔王と好戦派を軒並み倒されましたので。
    人間に迷惑を書けない範囲で暮らすことを考えると、今の人類では
    到達困難な大陸に移り住むことが最上かと」

東の国王「言葉だけでは信用ならぬ」

魔王「それもそうですね」

西の国王「それに貴様のように言葉の通じる魔王ならば、話し合いによる共存も
       試す価値はあるのではないか?」

南の国王「あ、おいテメエ。抜け駆けか」

北の国王「むしろ我が国の辺境部は開拓も済んでいないから、そこに友好的な
       魔族を住まわせるのはどうだろう」

東の国王「……余の国は狭いので魔族を受け入れる土地がないのは悔やまれる。
       だが移り住む際に見届け人を派遣することで約定への同意を表明しよう」

魔王「まあ。どなたが見届け人に?」

東の国王「無論、余である。政務は息子に継がせた、枯れた老人ならば失っても
       大した損失ではあるまい」

西の国王「おいおい、都で評判の踊り子を囲って屋敷まで用意させた好色爺がなんか
       枯れたことぬかしてるんですけどー」

南の国王「あー、わかるわー。ロマンスグレイとかナルシー入った老人が若い子に
       スタミナはないがテクは極上じゃぞーとか言って寝床でハメ倒そうって顔の
       典型的なエロ老人やなー」

北の国王「おいおい。東のは来月にも初孫が生まれるとか言ってなかったか?」

魔王「まあ、それはおめでとうございます」


大臣「……という遣り取りが東西南北の国王様の間で繰り広げられましてな」

勇者「はあ」

大臣「見届け人ということで勇者様が魔王の移住先についていくという事で決着を」

魔王「不束者ですがよろしくお願いいたします」

勇者「……あのさ」

大臣「なんですかな」

勇者「この新しい魔王さん、おれアカデミーで毎日見てるんですけど」

魔王「お恥ずかしながら魔王就任まではこちらに留学して生徒会の役員などを務めておりました」

勇者「っていうか次期会長候補の筆頭だろうがよ!」

大臣「なるほど、それでアカデミーの制服姿だったのですね」

魔王「ドレスコードなどを考えた場合、アカデミーの制服ならば謁見にも耐えられるとの話を聞きまして」

勇者「こいつ学内にファンクラブとかあるんだけど」

大臣「カリスマ性抜群ですな」

魔王「困りました。移住の際にはアカデミーを辞めることになるのですが」


勇者「そうだな。穏当な理由つけないとファンクラブの連中が黙ってないぞ」

魔王「そうではなくて、勇者様がアカデミーを辞めてしまうことが問題で」

勇者「王様たちの決めた事に庶民は反論できねーって」

魔王「あら。確か先代魔王を倒した褒美に御姫様との結婚が」

大臣「姫様は勇者様の仲間である戦士様と結ばれましたな」

勇者「もともと幼馴染だったんだし、順当だろ」

魔王「でも貴族の位は授与されたのでは?」

大臣「貴族になったのは賢者様と僧侶様ですね」

勇者「三代前の先祖が叛逆者で、その罪を帳消しにしてもらって俺はめでたく平民に返り咲いたんだよ」

魔王「……勇者様、先代魔王を倒してメリットなどあったのですか?」

勇者「卒業までの生活費と授業料を免除された。あと申し訳程度の年金」

大臣「涙なしには語れませんね」

勇者「この国にいる限り、贅沢しなきゃ一生食っていける程度には金をもらえるのってすげえラッキーじゃないのかな」

魔王「ということは、見届け人になると年金中止ですか」

勇者「え」

大臣「年金は停止ですが代わりに遠隔地手当が支給される予定です」


勇者「そっか、じゃあオッケー」

魔王「軽っ」

勇者「拒否権ないなら、せめて前向きに考える。あと、俺の今後の人生が楽しくなれるような
    ガールフレンド紹介してくれると嬉しいっす魔王サン」

魔王「はい。一名だけしか紹介できませんが、それでよければ」

大臣「青春だなー」

勇者「ところで一緒に新大陸に行く穏健派の魔族ってどこにいるんだ?」

魔王「今は彼らは私の体内に」

大臣「体内ですか」

魔王「はい。生命の核とも言うべき状態に還元され、私が長い年月をかけて少しずつ産んでいきます」

勇者「……なんか、すげえな」

魔王「人間だって男女の交わりで子を成すではありませんか。魔族は寿命が長いので、人間よりは
    多く子を産めるというだけです」

大臣「なるほど。ちなみに新天地に子を成す相手に相当するオスがいなかった場合はどうされるので」

魔王「勇者様、不束者ですがよろしくお願いしますね」

勇者「よろしくお願いされてしまった!」

大臣「あー、こら王様たちには口が裂けても報告できんわ」


 こうして魔王は勇者とふたり新天地に旅立ち、産めよ増やせよの日々を過ごしたという。
 そんな話。


【旅立ちの準備】

勇者「事情を説明したら退学じゃなくて卒業証書を貰えた」

魔王「嬉しそうですね」

勇者「アカデミー卒業資格持ってると、役場の書類選考パスしていきなり二次の面接から
    受験できるんだ。役場以外でも就職活動では便宜を図ってくれて」

魔王「……世界を救った勇者なのに、世知辛いですね」

勇者「前にも言ったけど、俺は叛逆者の血筋だから。王様もその辺苦慮してて、対外的には
    姫様と結婚した戦士がうちの国の正式な勇者なんすよ」

魔王「確かにかわら版を見ても、勇者様の顔は載っておりませんね。戦士、僧侶、賢者に
    お供の少年兵とばかり」

勇者「少年兵なのは事実だしね。アカデミー卒業資格を手に入れて適当な役場で警らか倉庫番に
    就いて定時出勤定時退社に夏冬の賞与と公務員住宅を夢見て戦ってたし」

魔王「……先代の魔王に少しだけ同情します。ろくでなしだったけど」

勇者「そう? 魔族としての本能を抑えきれそうにないから倒しに来てくれって王様に連絡付けるあたり
    歴代の魔王の中でも最も友好的だったって聞いてるすよ?」

魔王「確かに、世界征服などは企まなかったのですが」

勇者「?」


魔王「雄の魔物が魔王を継承した場合、色々と厄介な事がありまして」

勇者「言いづらい事なら聞かないすよ。人目が気になるなら、向こうの大陸についてからでも」

魔王「やはり勇者様は優しいのですね」

勇者「面倒事を後回しにしてるだけすよ。今もほら、現実逃避してるじゃない」

魔王「そうですね」


戦士「――話は済んだかい、両名とも」


勇者「別れの挨拶しに来たら魔王ともども拘束されるとは思わなんだ」

魔王「びっくりです」

戦士「私の方が死ぬほど驚いたわい。姫との結婚も決まり、勇者殿を騎士として応急に召し上げる準備を
    進めていたら!」

魔王「まあ。戦士様は勇者様の就職先の斡旋準備をされていたのですね」

勇者「そんなこと言われても、今回の件を決めたのは王様だからねえ」

戦士「その件については王宮を代表して謝罪する。あのままでは陛下御自ら魔王に同道しかねない
    状況だったのだ」

勇者「フリーダムだよな、この国」


魔王「穏健派とはいえ魔族をアカデミーに通わせて下さるのですから、度量が広いのでしょう」

戦士「そのアカデミーのマドンナが実は次代の魔王で、便所飯の常連である勇者殿と一緒に
    愛の逃避行ですか」

勇者「便所飯は否定しないが愛の逃避行だけは魔王の名誉にかけて否定するぞ」

魔王「普通は逆だと思うのですが」

戦士「いいんですよ魔王。勇者殿は我らと共に旅に出ていた時も似たような生活でしたから」

魔王「まあ」

勇者「街に泊まる度に国の金でホテルのロイヤルスイート貸し切る生活に慣れたくない」

魔王「まあまあ」

戦士「だからといって馬小屋とか農家の納屋で寝たりするから、世間様には勇者殿は小間使いの
    少年兵だって誤解されてしまったんですよ!」

勇者「いいじゃん。姫様と結ばれるのは白馬に乗った勇者様なんだから。それとも俺が姫様と
    結婚した方がいいのか?」

魔王「だめです」

戦士「そ、そうです。たとえ勇者殿と言えど、そればかりは認められません」

勇者「じゃあ、俺は勇者一行の小間使いってことで。口裏合わせよろしく」

戦士「……あなたと言う人は、最後の最後まで」


魔王「ずっと、こんな感じだったんですか?」

戦士「ミスリルの具足も、クリスタルの盾も、オリハルコンの神剣も! 王宮や神殿でかき集めた
    国宝級の武具を全部突っぱねて、野鍛冶に作らせた地味で武骨で根性曲がりな鋼の
    小剣で戦い抜いたのですよ! 鎧だって旅装束に革帯を手足の数か所に巻き付けた程度で」

勇者「さすがに小剣は最後には折れたんだけどね。先代魔王の武器と相討ちで」

魔王「……先代魔王の武器って、確か真竜の瞳を媒体にした虐殺の長槍ですよね」

戦士「なんですかその物騒な名前は」

魔王「有り余る魔力を破壊エネルギーに変換し、なおかつをそれを物質化寸前まで圧縮させたという
   先代魔王が十四歳の頃に一晩悩み抜いて考案した浪漫兵器ですね」

勇者「そんな中二武器だったんかい」

戦士「一生懸命考えた最強の武器が、銀貨三枚で手に入れた山刀と相討ちですか」

魔王「むごいですね」

勇者「え、俺が悪いの?」

戦士「いちど先代魔王の破壊に謝りに行くべきですな勇者殿は」

魔王「私もそれをお勧めします」

勇者「……仕方ない、大陸に行く前に寄るか」

魔王「そうですね」


勇者「そういうわけで、結婚式には顔出せないけど幸せにな」

戦士「お待ちを、勇者殿」

魔王「?」

戦士「あなたの事だ、適当に蚤の市で鉈でも買って武器にするのではありませんか」

勇者「野良仕事も考えたら鉈かスコップかなあ」

魔王「まあ、スコップ!」

戦士「……では、こちらをお持ちください」

勇者「小剣、にしてはバランスが妙だな」

魔王「この刀身はオリハルコンですね」

勇者「あ」

戦士「そうです。国が用意して、あなたが私に押し付け、最後の戦いにて根元より折れた
    オリハルコンの神剣。その折れた刀身を鍛え直して小剣の拵えをつけました」

魔王「柄や鞘に使われているのはミスリルとクリスタルかしら」

戦士「はい。やはり同じく最後の闘いにて砕けてしまったミスリルの具足とクリスタルの盾。
    その残骸の一部より無事な素材を再利用して、なんとか小剣一つ分にできました」

勇者「素材は凄いけど、地味だな」

戦士「だからこその、勇者の剣なのです」


魔王「勇者のために用意され、しかし勇者が使うことなく破壊された武具防具に
    もう一度チャンスを与えると?」

戦士「名ばかりの勇者の剣など、無念さで宝物庫で妖怪に変じても不思議ではありません」

勇者「藪を払ったり薪を切ったりするけど、いいのか」

戦士「……時と場合によるかと」

魔王「木材を切ったところでオリハルコンが欠けたり折れることはないでしょう」

戦士「ですな」

勇者「ありがとう。じゃあ、こいつ借りていくわ」

戦士「はい。向こうで落ち着いたら返していただきに参上します」

魔王「その時は歓迎いたしますわ」

勇者「ああ。またな」

戦士「はい。また――あの頃のように、旅先で馬鹿をやったり、笑い合いましょう」


姫「……よろしかったのですか、戦士様」

戦士「なにが、でしょうか」

姫「あなたは、勇者様にこう言ってほしかったのではありませんか。お前の力が必要だ、
  一緒に来てほしい――と」

戦士「かの大陸には、ホテルもスイートルームもないでしょうから」

姫「まあ」

戦士「ですから、この国のために身命を尽くすつもりです。姫」

 という話。

ちなみに虐殺の長槍云々は、あくまで先代魔王様の黒歴史ノートに記された設定だけなので
実際の破壊力は一切不明。

勇者はある意味でとんでもスペックですが詳細はまた別の話に。

もうこれそのまま続けちまえよwwwwww

まさかこの短剣、前スレの勇者が持ってた「鎮公」の元になった剣?

来てた~

続き期待してます

>>283
GWスペシャルなので適当に終わります。

>>284
ちんこソードとはちょっと違います。素材のみ優秀でエンチャントの類いは一般的な武具の水準のようです。
おかげで魔王と闘った際に折れました。

>>285
もう少しだけ続きますですはい。

【生き残った英雄ほど処遇に困るものはないという話】

魔王「辺境の開拓村の領主ですか」

僧侶「ええ。戦争で土地を得たわけでもなく、所帯を持っているので貴族令嬢を嫁がせるわけにも
    いかない。
    恩給として金銭を与えようとすれば国が傾き、それは巡り巡って国内の不和の種となります」

魔王「だから一族で辺境の地に移り住んで開拓の許可を?」

僧侶「産めよ増やせよ地に満ちよ。宗派こそ様々ですが、世界を守る神々の教えの第一義はそこに
    あると解釈しております。
    ならば荒れ地を拓き畑を作り家畜を育て人を養うのもまた神の教え」

魔王「失礼ながら先代魔王と戦う前は、魔族殲滅を旗印に教会でも最も過激な思想をお持ちだったと
    伺っておりますが」

僧侶「――信じていた神が、女装癖どころかリアル性転換してミニスカレオタード姿で武道館ライブを
    している映像を見れば、そら信仰も砕けてしまおうというものです」

魔王(あかん、地雷踏み抜いた)

僧侶「先代魔王を倒す戦いに赴く際、降臨された神の御姿……勇者がまっとうに魔王と闘うこと自体が
    昨今では稀らしくて異界の神々なども応援に駆け付けられたそうなのですが」

魔王(あかん、あかん。このひと聖職者なのに周辺に暗黒オーラ漂ってるがな)

僧侶「そもそも世界征服を試みない魔王という存在を目にして疑問に思うべきだったのです。我々は
    今でこそ神の教えと呼ばれるものにしたがって反映していますが、そもそもこの教義も」

魔王(勇者さまー! 早く来て、来てえええ!)


勇者「おっちゃん、そこまで。そうやって極端から極端に走るから、教会での居場所を失くすんすよ」

僧侶「……おお、勇者殿」

勇者「都で枢機卿になってたはずが、いつの間にか辺境伯だろ。挨拶に行こうとして驚いたすよ」

僧侶「はっはっは。親睦会で大司教様と感情的な宗教談議(物理)をしてしまいましてな」

僧侶娘「お父様が首の皮一枚で助かったのは、処分したら勇者様を確実に敵に廻すとの配慮が
     あったからなんですよ」

魔王(む。手をつないでる。むむむ)

勇者「僧侶娘ちゃんも、しばらく見ない内に大きくなって俺驚いたすよ」

僧侶娘「これでも暴走しがちなお父様を補佐して開拓村の指揮を執っていますから」

僧侶「恥ずかしながら人の上に立つ才は私より上とみております」

勇者「おっちゃんは異教徒を殴ってる時よりも街角で子供相手に説法してる時の方が楽しそう
    だったしね。楽隠居して日曜教会やるのもいいんじゃないすか?」

魔王「そうですね。聖職者は宗教活動のみならず教育や道徳それに倫理を司る者として重視
    されています。特に辺境のような場所では文化水準の担い手でもあるかと」

僧侶「確かに。娘もあと2年で成人。であれば、どこぞより良き人でも見つけて所帯を持たせるのも
    悪くないですな」

僧侶娘「はいはーい。それじゃあ、勇者様をお婿さんにします!」

魔王「へ」


勇者「残念。俺これから魔王さんと一緒に別大陸に移り住むんですよ」

僧侶娘「……ふーん。それって、魔王さんと結婚するってことなんですか?」

魔王「け、けけけけ」

僧侶「穏健派魔族の行く末を見届ける任務ですが、その辺はどうなのでしょうね」

勇者「魔王さん美人だし付き合えればラッキーだけど、そこまで夢見てないって」

僧侶娘「むー、相変わらずボッチ飯なの?」

勇者「食事てのは空腹を凌げて身体を動かす栄養を補給するだけすよ。だから
    廊下で干し芋でも齧ってりゃ十分なんす」

魔王「……け?」

僧侶「聞いて下さいよ、魔王さん。勇者殿は旅の途中とうとう食堂で一度も食事を
    しなかったんです」

勇者「おっちゃんたちもホテルノロイヤルスイートで飯食ってたじゃん」

僧侶「ある程度の位にいると、適度に散在するのも仕事の一環でして」

勇者「当時は俺って身分的には奴隷以下だったからねー、まっとうにテーブルマナーは
    叩き込まれてたけど食堂も辛かった」

僧侶娘「勇者様、家庭のご飯にも慣れてなかったんだよね」

勇者「叛逆者の血筋って、そんだけ厳しいんすよ。普通なら初等教育も受けられない」


魔王「勇者様、実は壮絶な人生を送ってたんですか?」

勇者「叛逆者の血筋にうっかり勇者認定きちゃったから、【やり直し】をすべく教会や社交界から
    暗殺者が向けられてたんすよ。そうでなけりゃ日蔭者でも最低限の互助組織が
    機能してるんですけどね――その辺の話が王宮に伝わって保護されたのが十歳の頃で」

僧侶「暗殺に関与した貴族および教会上層部が軒並み粛清の対象となった、忌まわしい事件です」

勇者「だから俺が僧侶娘ちゃんとこに婿入りしたら、そういう過激な連中が適当に叛意アリとみなして
    攻め滅ぼされちゃうのがオチす。
    魔王サンについていって別大陸に移り住むってのは、実は有難い話でもあるんす」

僧侶「この国にとどまるとすれば役場の警らか倉庫番でしょうなあ。表舞台に立つことなく生涯を
    終えるように仕向けられたでしょう」

勇者「それはそれで魅力的な余生だけどね」

僧侶娘「むー」

魔王「わかりました。勇者様は必ず幸せにします」

勇者「俺けっこー幸せっすよ」

魔王「どこがですか!」

勇者「両親には死に別れたけど、一族は叛逆者から市民に復帰できたし。王様とか騎士団長は十歳の
    俺に頭を下げて謝って、人としての教育をしてくれたし。戦士や僧侶や賢者は、俺の身の上を知った
    上で仲間として扱ってくれた。もう、それで十分じゃね?」

僧侶「十分なものですか!」


勇者「十分だって。俺の身の上を知って、戦士も賢者もおっちゃんも涙ぁ流してくれた」

魔王「……勇者様は、勇者様は馬鹿です!」

勇者「はは。魔王さんまで泣いてくれた。もう人生報われてるって」

魔王「報いるのはこれからです。人生って楽しいって、一生かけて教えますから!」

僧侶「よろしくお願いします。勇者殿は不幸の基準がぶっ壊れた御方ですので」

僧侶娘「なんだか勇者様がお父様の息子みたいな扱いなんですけど」

勇者「礼儀作法とか読み書きを教えてくれたの、おっちゃんだしね」

魔王「勇者様!」

勇者「は、はい」

魔王「魔族繁栄と勇者様の幸せ、とても困難ですが必ず両立させますから!」

勇者「あの、なんかおかしくないすか」

僧侶「うちの主神の嗜好に比べればよほどマトモかと」

僧侶娘「女装はまだしも、疑似妊娠プレイとかないわー」

という話。

ちなみに宗教談議(物理)は白いマットのジャングルに今日も嵐が吹き荒れるノリで
繰り広げられたルール無用のデスマッチだったようです。

【幕間・魔王様と勇者の食事】


魔王「アカデミーの食堂で昼を済ませましょう」

勇者「じゃあ俺は干し芋をかじりながら近所を散歩してくるっす」

魔王「ダメです。勇者様はわたしと一緒に食べるんです」

勇者「何故」

魔王「向こうの大陸に行ったら、人間と食卓を囲む可能性は限りなくゼロなんですよ」

勇者「今までの人生でも限りなくゼロで、いまさら優雅に食事をしてもなんというか気恥ずかしいです」

魔王「学生向けのカフェが優雅であってたまるものですか」

勇者「そ、そう? 今こうしてテーブルに着くだけでも落ち着かないすけど」

魔王「ちなみに勇者様の基準でカフェのどのへんが優雅なのですか」

勇者「料理が皿に盛りつけられてて、スプーンの他に食事専用のフォークとナイフがある」

魔王「……あの、勇者様にとって今までで最も豪華な食事とはどのような料理なのか教えていただけますか?」

勇者「石みたいに堅い黒パンを空豆やネギと一緒に柔らかく炊いたパン粥だけど」


魔王「勇者様! それを豪華と判断した理由は!」

勇者「暖炉の火で3時間。とろとろの弱火でゆっくり煮込むなんて、平和で
    時間に余裕がなけりゃ作れない料理だもの」

魔王「……」

勇者「あの、泣かれても困る」

魔王「聞いてください、勇者様」

勇者「あ、はい」

魔王「先代の魔王は、ろくでなしではありましたが! それでもギリギリまで
    人間の国を襲わず、理性の尽きた時に使いを寄越して討たれることを
    望みました! 人間の国は、この国は! 少なくとも百年間は戦火に
    見舞われることなく平和を謳歌していたはずです! その点において
    先代の魔王の治世は賢君のそれであり、人間の王達でさえ高く評価
    していました!」

勇者「すごいすよね。この百年で人口は三倍まで増えたし開拓や農耕技術も
    発達した。衛生や予防接種の概念は魔王からもたらされたって聞いてるすよ」

魔王「そうです、そうなんです。魔族は人間なしには存在できないから、ヒトが
    繁栄してるほうが望ましいって当たり前の結論を出せたのは先代の
    魔王の功績なんです。
    それなのに、どうして勇者様はそういう殺伐として不毛な半生を送られ
    たのですか! 勇者といえば神々と精霊に祝福され、人類の英知と奇跡の
    力を宿した希望の象徴でしょう!」

勇者「うん、だからさ」


魔王「だから?」

勇者「俺みたいな叛逆者の血筋に勇者の祝福が降りるのが我慢ならんって
    人たちが多かったんすよ」

魔王「勇者様の御先祖様は、それほどまでに大きな罪を犯したのですか?」

勇者「子孫きっちり残せてるんだから、恩赦があれば名誉回復する程度の罪すよ」

魔王「それなのに、勇者様だけが、そんなひどい人生を強いられたんですか?」

勇者「イケメンで家柄が良くて適度に不幸を背負ってて、あとは神秘的な出生の秘密がある」

魔王「?」

勇者「この国の人が勇者って肩書きを背負った奴に求めてる最低条件す」

魔王「……まるでおとぎ話の主人公ですね」

勇者「悪い奴たおしてお姫様とハッピーエンドだから、そうっすね。勇者の幻想が崩れるから
    俺はなかった事にしてイケメン君が勇者に指名されるようにいろんな人が頑張ったす。
    無駄に終わったけど」

魔王「……真実の勇者は見栄えはそこそこ、叛逆者の血筋で不幸のどん底、
    さりとて神秘的な出生の秘密はなし」

勇者「でも魔王さんがハッピーエンドになれるように協力するから、勘弁してください」

魔王「勇者様もまとめてハッピーエンドを目指します。まずは一緒の食事から」

勇者「勘弁してください」

以上、幕間。

【魔族の殖やし方】

賢者「来るのが遅い」

魔王「来る予定など最初からなかったのですが」

勇者「……誰?」

賢者「あなたと一緒に魔王を倒しに行った賢者」

勇者「俺の仲間だった賢者は長身イケメンのキザ男で、ねーちゃんみたいな
    むちむちばいんの露出狂じゃないぞ?」

魔王(勇者様は貧乳好き。よしっ)

賢者「勇者パーティーが男ばかりだったので、魔法と薬で性別を偽っていた」

勇者「すげえな、さすが賢者」

魔王「信じるの早っ」

賢者「眼の下のホクロと髪の色はいじっていないので、勇者なら気付くと信じていた」

勇者「あと匂い。イケメンの時も同じ香水使ってたもんな」

賢者「勇者、すごい。やはり運命の人」

魔王「……アカデミー首席の才女が勇者様の冒険仲間だとは、最初は信じたく
    ありませんでしたわ」


賢者「私も万難排して勇者をアカデミーに招き入れたら、よもや留学生の
    尻軽女が次代の魔王だとは予測もできなかった」

魔王「だ、誰が尻軽ですか! 留学生と言う身分なので注目を集めることは
    ありましたが特定不特定を問わず殿方と交際などしていません」

賢者「そうね。貴女はアカデミーに来てからずっと交配に適した異性の情報を
    かき集め、勇者の存在を知ってからは彼を探り続けていた」

魔王「な――」

勇者「そっか、賢者と魔王は知り合いだったのか」

賢者「非常に不愉快ですが首席なので留学生が来た時には挨拶や簡単な
    案内などをしていました」

魔王「先代魔王を倒した賢者は長髪で好色なイケメンと聞いていたので、
    そちらにしか注意していなかったのが敗因でした」

勇者「うん。賢者は凄かったすよ。正統派美男子の戦士と並んで、行く先々で
    女の子の黄色い声援を受けてたし」

賢者「私は同性からの飢えた視線よりも勇者に信頼される日々に価値を
    見出していた」

魔王「ぐぬぬぬぬ」

勇者「それで、なんで俺と魔王さんが縛られて賢者のラボに拉致られてんの?」

賢者「勇者がアカデミーを辞めて魔王と駆け落ちすると聞いた」

勇者「王様の命令で、魔王さんが同族増やすのを見届けるんだってば」

賢者「……ほほう」

魔王「う、嘘は言っていないですよ」

勇者「賢者?」


賢者「勇者、あなたは魔族の増やし方を知っている?」

勇者「人間と同じ姿だから、人間と同じじゃないの? 魔族の男を見つけて」

魔王「……」

賢者「そう。基本は同じ。人間との混血が存在するように、個体として確立した
    魔族は人間や動物のように形態に則った生殖方法をとる」

勇者「それで、魔族の増やし方と俺が縛られる事の因果関係は」

賢者「魔族の大発生には、実はある法則性が隠されている」

勇者「そうなの?」

魔王「法則性といいますか、そのですね。男が魔王になった場合には魔族が
    大発生しやすいんです」

賢者「勇者というシステムによって魔王が討たれた場合、生存する魔族は
    あらゆる場所から姿を消す」

勇者「そういや魔王を倒したら、魔王城は無人になってたな」

賢者「そう。我々は今までそれが魔王と共に全ての魔族が全滅したと思って
    いたが、実状は違う」

魔王「定期的に魔族が現れて魔王が出現する以上、絶滅するわけありませんよね」

勇者「あ」

賢者「そう。姿を消した魔族達は次代の魔王に吸収され、次代の魔王に忠誠を誓う
    新世代の魔族として誕生する」

勇者「な、なんだってー!」

賢者「さすが勇者。いつもながら要所を押さえた反応、やはり相性は抜群」


勇者「だ、だってさ。それって、魔族は魔王の子供ってことなんだよな?」

賢者「少なくとも第一世代あるいは始祖魔族と呼ばれる種の起源に
    位置する魔族は魔王を父または母に持つと推測している」

魔王「……大体合ってます」

勇者「でも、魔族ってドラゴンみたいなのとかスライムっぽいのとか
    機械人形とか──いたすよ。あれも」

賢者「それこそが魔族大発生の謎を解く鍵なの。おそらく男の魔王が
    放つ精に還元された魔族が宿っていると私は考える」

勇者「……え、と。それって」

賢者「勇者が討ち取った先代魔王は、スライムからダッチワイフから
    ゴーレムから鳥からドラゴンからセイウチからカエルにガス状生命や
    腐った死体に至るまでエッチしまくって荒廃した結果、おびただしい
    量の魔族を世に解き放ったという仮説」

勇者「なにそれ怖い」

賢者「おそらく魔族の因子は男の魔王は精子に宿り、女の魔王の場合は
    卵細胞に宿ると考える。男の魔王由来の魔族は個体能力は母体に
    左右されるが数と多様性に勝り、女の魔王由来の魔族は個体数こそ
    少ないが魔王を母体とするため強力な能力を得やすい」

魔王「せ、先代魔王の名誉にかけて訂正しますが。スライム系や昆虫や
    単細胞系の魔族はですね、子作りの際にこぼれ落ちた子種が土壌の
    微生物や小動物に付着した結果なんです」

賢者「余計にたちが悪いともいう」


勇者「……じゃあ、向こうの大陸に渡ったら魔王さんもドラゴンとかライオンとか
   亀とかそういうのとエッチするんすか」

魔王「しませんっ!」

賢者「ちなみに各種動物のちんちんをスケッチした図鑑がここに」

勇者「うわぁ」

魔王「ですから、他の生き物とエッチするつもりはありません!」

賢者「交配相手は勇者限定か」

魔王「──いけませんか」

賢者「アカデミーに籍を置くイケメン百人分の精液サンプルを提供する用意が
   ある。勇者を諦めてくれんかな」

魔王「私は、勇者様も含めて幸せになると決意しています。この国に留まっても
    勇者様に未来はありません」

勇者「あれー、俺たしか魔族の見届けをする仕事って聞いたような」

魔王「末永く見届けていただくための一環です」

賢者「勇者。私の下で三年ほど我慢してくれればクーデターを起こして
    君を迫害した連中に遙かな眠りの旅を捧げるぞ」

勇者「魔王さん、とりあえず俺が国に留まると虐殺が起こるとわかったから逃げよう」

魔王「はいっ!」

勇者「子孫繁栄については別の機会にきっちり話し合うすよ?」

魔王「そこは問答無用で一意専心していただくわけには」

勇者「だめっすよ」

賢者「ちっ」

以上、投下終了。

【マドンナとボッチ学生のファーストコンタクト未遂の歴史】


老魔法使い「なぬ、履修登録を取り下げたい?」

勇者「はあ。特選魔法コースなのに、どういうわけか見学者が異様に
    多くて教室に入れないんです」

老魔法使い「しかし今期の特選魔法コースは勇者君の勇者魔法の
    実演と解析というテーマなんじゃが」

勇者「教室に入れないのではどうしようもありません」

老魔法使い「ふむう。特選魔法コースはマイナーすぎて習得も使用の
    機会も稀な魔法の解析を旨とした、魔法科の中でも趣味特化の
    不人気授業なのじゃが」

助手「なんでも先日編入してきた魔族の凄い綺麗な留学生さんが履修
    希望してて、ファンクラブの学生達が教室を半ば占拠しているそうです」

老魔法使い「……なんでそんな子が、マイナーな授業を」

助手「それがさっぱり」

勇者「つまり、それって今期の特選魔法コースが受けられないって事ですよね」

助手「留学生以外の履修希望者は先生の個室でゼミ形式で授業を
    進めた方が良さそうですね。君が勇者であることを口外しない
    生徒を厳選した授業でしたが、外野がこうも多くては」

老魔法使い「勇者君はそれで良いかね」

勇者「あの、それだと留学生の魔族の子が八分られて」

老魔法使い「向こうの教室で教える授業内容は変わらん予定だよ」

助手「勇者魔法を目にできる機会は稀少です。賢者ちゃ──賢者君が
    せっかく紹介してくれたのですから、勇者魔法の詳細を可能な
    限り調べたいのです」

勇者「はあ」



武闘家「済まない」

勇者「ここもですか」

武闘家「闘気ではなく魔法の力を体術に応用したマイナーきわまりない
    コースなのだが、留学生のかわいい子が自称親衛隊を名乗る
    大量の野郎共にエスコートされて来てな。今は見学者選抜の
    トーナメント戦が行われている」

勇者「け、見学者の選抜すか」

武闘家「うむ。留学生の子の両隣を守るべきナイトを選ぶそうだ。やつら
    道場を勝手に使ってトーナメントを始めてしまったので、魔法体術の
    授業を始められんのだ」

勇者「じゃあ魔法体術の履修は来期に」

武闘家「まあ待て。マイナーすぎる上に件の騒ぎで、今期の履修予定者は
    君しか残っておらんのだ。ここで取り下げられると授業中止なのだよ」

勇者「どうするっすか」

武闘家「職員寮の裏に空き地があるから、そこで実践形式で授業を進めよう。
    たぶんトーナメントは来年まで続くから」

勇者「どんだけ参加者いるんですか」

武闘家「謎の乱入者とか後出し設定とか言い始めてたからなあ、訳わからん
    伝説の武器と奥義のオンパレードだった。ありゃあ見せ物として金とれる
    レベルのオモシロだから、授業は別のところでやっておくべ」

勇者「うっす」



勇者「こんな感じで、最初に履修していた科目に野次馬さんが
    大勢きて困ったんす。そのときに、留学生ですごい綺麗な
    人が来てるって聞いたすよ」

魔王「あ、あはは」

勇者「あんなマイナーな授業にも積極的に顔出すなんて勉強
    熱心だなあって、俺すごい感心したすよ」

魔王「そ、そうなんですよ。せっかく人間の国の大きなアカデミーに
    留学したんですからね」

勇者「さすがアカデミーのマドンナすね」

魔王「ははは……しくしくしく」



以上、幕間。

【魔王が勇者を必要とする切実な事情】


勇者「それにしても」

賢者「なんだい勇者。王からの任務に嫌気が差した? ああ、それは重畳。
    ちょっと待ってて、いま城の真上に直径500メートルくらいの隕石を召喚するから」

勇者「嫌気も差してないし城への叛逆もしないし首都消失にも興味ないすから、
    イイ笑顔で物騒なことを言いながら現れないでほしいす」

賢者「ははは。堅物の戦士ならば剣を抜き、融通の利かない僧侶なら血の涙を
    流して拳を固めているところなのに。君は相変わらず勇者だなあ」

勇者「賢者も男だった頃とやってることは変わらないすね」

賢者「いやいや、女体に戻ってからは君を想う度に毎日が排卵日さ。そろそろ処女懐妊
    しても不思議じゃない」

勇者「賢者はやっぱりすごいすね。ところで魔王さん知らないすか? 飲み物買って
    くるって行ったきりなんすけど」

賢者「あ、学園のマドンナのことね」

勇者「なんすか、その曖昧な表情は」

賢者「今のところは無事だと思うけど、君の力が必要だと思って呼びに来た次第さ」

勇者「はあ」

賢者「なあ勇者、君は魔王のことをどう思う?」

勇者「勉強熱心で社交的すよね」

賢者「その辺少しばかり致命的な誤解を含んでいるような気もするが、なるほど。
    では異性としての魔王は、勇者はどのように見ている?」

勇者「そりゃあ、美人すよね」


賢者「君が知る美人と比べてみた場合は?」

勇者「うーん。戦士のところにいる姫様は、儚げだけど芯の強そうな
    美人す。僧侶娘ちゃんは、たくましくて明るいけど甘えたがりの
    部分もある美人す。賢者は──」

賢者「わたしは?」

勇者「豪快で豪華で華やかなだけど、辛い時に強がってたすよね。
    負けず嫌いで、だけど絶対に仲間を見捨てなかったす」

賢者「勇者、三日待ってほしい。その間に王宮にちょほいと襲撃かけて
    クソッタレな王様に命令の撤回をさせてくるから」

勇者「魔王さんについてのコメントはいらないすか?」

賢者「……聞いておこう」

勇者「魔王さんは、努力家で辛抱強いすね。正直いって、噂と本人の
    イメージが一致しないす」

賢者「そうだなあ。アレが親衛隊を百人単位で従え学内を引っかき回す、
    アカデミーのマドンナと呼ばれた女と言われても信じられないだろう。
    少なくとも勇者にとっては」

勇者「図書館の司書とか購買部でアルバイトしてても違和感ないす」

賢者「君の評価はそれほど間違っていない」

勇者「そうなんすか」

賢者「ああ。勇者と一緒にいるときの魔王については、わたしも似たような
    感想を抱いた」

勇者「?」

賢者「いいかい勇者、魔王というのは王様なんだよ。継承の経緯は不明でも、
    彼女が次代の魔族を束ねる王という事実は変わらない」

勇者「でも、今は魔王ひとりすよね?」


賢者「ああ。彼女が魔族を増やすには、オスが必要だ。どんな環境であれ
    彼女は魔族の繁栄のためオスを引き寄せ、従え、精を注ぎ込ませる
    宿命を背負う。ある意味でカリスマとも言えるが、私に言わせれば
    周囲の異性を問答無用で発情して支配する能力など呪い以外の
    何物でもない」

勇者「え、俺そういうの何も感じなかったすよ」

賢者「君は勇者だからな。先代魔王を倒したほどの勇者の力は魔王の
    支配力を中和し、彼女は君の傍では普通の少女でいられる」

勇者「勇者の力って、すごいんすね」

賢者「本来は魔王の力に畏怖したり仲間が恐慌状態に陥らないようにする
    ための加護なのだが、一種の魅了攻撃と見なされたのだろうね」

勇者「……あれ? ということは現在行方知れずの魔王さんは」

賢者「レイプされたか妊娠してるか精液注ぎ込まれているか強姦されて
    いるか絶賛肉便器か、まあ好きな予想を選びたまえ」

勇者「笑えない冗談す」

賢者「彼女は次代の魔族を一刻も早く大量に産む宿命と本能を抱えて
    いるんだ、種族的に見れば如何なる陵辱行為も国民栄誉賞級の貢献だよ」

勇者「……」

賢者「ましてアカデミーに来る男は、一定水準以上の冒険者かそれに比する
    素養と経験の持ち主だ。婿探しにアカデミーに潜り込む貴族女子だって
    いるくらいだし、魔王にとっては父親を特定できない程度で結果オーライ
    かもしれないよ」

勇者「魔王さんにその気があれば、いつでも子作りできたすよね?」

賢者「もちろん」

勇者「……魔王さん、探してくるす」



学生A「魔王さんを見るとむらむらする」

学生B「うん。勃起が止まらない」

学生C「なんだか魔王さんからいい匂いがする」

学生A「魔王さん、初エッチに備えて予習復習するけど参考資料を
     間違えてとんでもない変態プレイを実行しそうだよな」

学生B「わかるわかる。キスしたら相手の前でわざと失禁して興奮度
     急上昇!とか女性週刊誌の記事に付箋紙つけて何度も読んでそう」

学生C「痛くて膜が破れなかった時に備えて、後ろの穴を自力で開発してたり」

学生A「いつの間にか後ろの穴で日常的にひとりえっちしたり」

学生B「好きな人の前で尻穴から極大ビーズを抜きながら失禁して
     処女喪失を懇願とか、どんだけ上級者なんだろうな魔王さん」

学生C「さすが魔王さん、清純そうな顔してとんだいやらしさんだ!」

魔王(あかん)

学生A「見ろ、魔王さんがガクガクふるえているぞ!」

学生B「ま、まさか地味で清潔そうな服装の下には派手でエナメル地で
     拘束着っぽい際どいランジェリーが装着されてて、なおかつ
     リモコン制御式のマジカルアンカーが魔王さんの窮屈な臓物を
     内側から拡張しつつ絶妙な周波数の超振動を!」

学生C「あれか。鬼畜な彼氏の命令で道行く男性の精液百人分を注ぎ
     込まれるまで故郷に戻れないっていう噂は真実だったのか!」

魔王「そんな真実はどこにもありません!」


学生A「まあまあ。実際に注いでみればいいじゃないか」

学生B「そうそう。魔王さんなら百人分の精液を注がれても笑顔で
     だぶるピースしてくれますって」

学生C「さあだあ。まずは俺たちが十日ほど我慢したこってり濃厚な」

勇者「うす、魔王さん。麦茶の屋台があるから、そっちに行くのはどうすか」

魔王「勇者様!」

学生A「む。君は便所飯常連ボッチだけど案外イイ奴な勇者君」

勇者「ども」

学生B「このタイミングで。このタイミングで──タイミング」

学生C「よし、死のう」

学生A「ああ。紳士にあるまじき振る舞いをした、言葉で謝罪した
     ところで許されるものではない」

学生B「すまんが勇者君、我々の墓には
    『卑劣なる性犯罪者ここに屍を晒す』
     とでも書いたアイスの棒でも墓標の代わりに立てておいてくれ」

学生C「しからば、れっつ自害」

魔王「勇者様、止めてください!」

賢者「ここで死なせてあげるのも優しさだよ」

勇者「とりあえず半殺しにして身動きできないようにするす」


 死ぬほど痛い目に遭ったので、死ぬ気は失せた模様。

以上、投下終了。

【移住準備あれこれ】


賢者「小型犬の群を使って検証したところ、魔王と勇者の距離が
    50メートル離れると小型犬が一気に発情してちんこばっきばきに
    勃起させることが判明した」

魔王「ひいい、愛らしい外見に似合わないご立派な肉棒が!肉棒が!」

勇者「……よくこんな状態で今まで無事だったすね」

魔王「せ、先日までは普通だったんです! 懐かれたり後ろをついてきたりとか、
    そういうのは日常茶飯事でしたが」

賢者「シンプルに考えれば勇者と出会ったことが原因だが」

勇者「大臣さんから紹介されたのは先週すよ」

賢者「先日と言えば、ああ。僧侶たちの開拓村から帰ってきて、勇者が
    学生寮を引き払って魔王の部屋に連れ込まれたな」

魔王「つ、連れ込んでなんていません」

勇者「ベランダで寝袋敷こうとしたら怒られたす」

魔王「あ、当たり前です」

賢者「一つのベッドで寝たと!」

勇者「絨毯ふっかふかで気持ちよかったす」

魔王「……まるで野営しているような寝方でした」

賢者「うむ。旅の頃から全く変わっていないな!」


勇者「人のいない大陸でも危険な動物とかいても不思議じゃない
    すよ。それに備えて野営の勘を鈍らせるわけにはいかないす」

賢者「正論ではある」

勇者「そもそも前人未踏の大陸で暮らすんで、必要な道具を
    とにかくかき集めないといけないわけで」

魔王「開拓は魔王パワーを使いますし、必要な物資も魔王テレポート&
    アポートのちょっとした応用でどうにでも」

賢者「勇者の傍でそれ使えるの?」

魔王「ご、五十メートル以上離れていただければ」

勇者「野生動物のオスに貞操奪われそうになりながら物資補充すか」

魔王「……ど、どうしましょう」

賢者「まあまあ。勇者の傍にいると魔王カリスマが封印されているだけで
    他の魔王能力は使えるかも知れないし調べてみればいい」



勇者「で」

賢者「カリスマのみ選択的封印とか、そんな美味い話は
    ないって事よ」

魔王「しくしくしくしく」

勇者「要するに貞操の危機を排除できる環境さえ最初に
    造ってしまえば、魔王テレポートとか使えるすよ」

魔王「えぐえぐえぐえぐ」

勇者「しょ、食料とか家財道具とかは勇者バッグと携帯式勇者ハウスに
    入れて運べるす。ここ数年は豊作豊漁が続いてて食料相場も
    安定しているから市場でも不足はないし」

賢者「あ」

魔王「ゆ、勇者バッグ? 勇者ハウス?」

勇者「うす。先代魔王と戦う前に、謎のむっちり美人さんが寄越してくれたす」

魔王「むっちり、ですか」

賢者「は、ははは」

勇者「その美人さんが言うには
    『魔王などと言う恐ろしい存在と戦うのはやめて、自分とどこか
     魔物のいない世界に逃げて人という種を残しましょう。それこそが
     勇者に課せられし使命のはずです』と」

魔王「……へえ」



勇者「なんか思い詰めたように潤んだ目で懇願してきたん
    すけどね。その人が笑顔で家族といられるように頑張るのが
    勇者の仕事すよ。そしたら、旅の役に立つからって
    勇者バッグと勇者ハウスをくれたんす」

魔王「賢者さん、ちょっと食堂の裏でお話を」

賢者「た、旅の途中でちょっと弱気になっただけだから! 
    未遂だから、変装してハグされただけだから!」

魔王「怒ってませんよ、怒る理由なんてある訳ないじゃないですか。
    ただ個人的に、その善意の第三者がどの程度の覚悟を
    決めて勇者様を誘惑しようとしたのか物理的に尋問したいだけで」

賢者「だったら何で処刑BGMが流れ始めてるのよおお!」



魔王「勇者バッグと勇者ハウスの鑑定を賢者さんにお願い
    したところ、ご厚意で日持ちする食料三年分と水それに
    燃料を提供していただけました」

勇者「ありがとうす」

賢者「な、なあに。勇者バッグの中では腐敗も発酵も停止
    するからね。わは、わはは、わは」

魔王「ふふふ」

賢者「──勇者の傍にいる限り魔王としては無力なのに、
    いい笑顔じゃないか」

魔王「普通の女の子として生きること、もう無理だって諦めて
    いましたから」

賢者「そうかい」

魔王「そうなんですよ」

勇者「???」

以上、投下終了。

>>265では「童顔で巨乳」とあるが、
>>304では「勇者さまは貧乳好き。よしっ」
ってなってるから、どっちなんだって事じゃない?

【前日譚】


先代魔王「オナ禁も百年続くと色々と厳しくなるな」

側近「仕方ありませんがな。精子が土の上とか腐った生ゴミの上に
    一滴でも落ちると、またぞろ微生物由来で得体の知れない
    魔族が誕生してしまいますから」

先代魔王「しかも第一世代だから、下手な雑魚モンスターより強いんじゃよねえ」

側近「十三代前の魔王でしたか。うっかり夢精したパンツを焼却せず
    放置したら、鋼のイナゴが大発生して人間達の国を襲って餓死と
    疫病をまき散らしたというのは」

先代魔王「人間達には死んでも言えんわな」

側近「……健康的で知性あふれる魔族の少女を后として手配しました」

先代魔王「おい」

側近「僭越ながら。精霊神の醜聞とこれに伴う精霊力の不安定化、それより
    大地の環境を守るために陛下は力を使いすぎました。おそらく次の
    発情期を迎えたら理性を失い大地に無数の魔族を解き放つことになるのは必至」

先代魔王「だったら歴代の魔王に倣い、勇者と戦って討たれるわい」

側近「我々には! 陛下が必要なのです!」

先代魔王「頑張ってるけどよ。魔王として国を形にするまで二百年、そっから周りの
    国に迷惑かけないように頑張ってさらに百年。そろそろ潮時ってもんじゃねえか?」

側近「次の発情期を乗り越えれば、さらに百年は耐えられるはずです」

先代魔王「それを乗り越えるために、何も知らねえ若い子のコブクロと卵を犠牲に
    するってのかい。おらぁよ、そういうやり方を教えてきたつもりはねえぞ」

側近「陛下、どちらへ」

先代魔王「手配したって言っただろ。帰すにしても責任者が頭下げて床に額こすりつけて
    謝んないでどうすんだよ」

側近「陛下あ!」



先代魔王「そう言うわけでだ。悪ぃな嬢ちゃん、うちの馬鹿が
    気を利かせすぎてよ。こんな爺の愛人に、嬢ちゃんみたいな
    若くて可愛い子を寄越すとか何考えてるんだか」

少女「王様は、それでいいの?」

先代魔王「あんまり良くねえなあ」

少女「それなら、やっぱり私が」

先代魔王「嬢ちゃん。魔王の子供を産むってどんだけ辛いか
    知ってるかい?」

少女「う、ううん?」

先代魔王「魔王の精子はよ、嬢ちゃんの身体の中に入ったら卵巣の中で
    眠ってる卵子の一つ一つに潜り込んで──嬢ちゃんの場合だと、
    そうだな。大体だが30万個の卵が受精するわな」

少女「……え」

先代魔王「いちおう魔王パワーで出産期間と妊娠期間を短縮してやるけどよ、
    妊娠から出産まで2時間で片付いたとしても今から70年間ずっと
    妊娠しっぱなしの出産しっぱなしだぜい」

少女「え、え、え?」

先代魔王「飯食って眠っている間も、どんどん子供が産まれてくるぞ。
    魔王パワーで痛みも消してやれるけどよ、最後の一人を生み終える頃には
    最初の子供は孫が産まれてても不思議じゃねえわ」

少女「冗談、ですよね」

先代魔王「牛とやったときはよ。魔王パワーで出産終えるまでは無事だったけど、
    最後の一頭が産み落とされたら老衰で死んだぜい」



少女「……」

先代魔王「そんなわけだからよ、なあ嬢ちゃん」

少女「は、はい」

先代魔王「爺が死んだら、嬢ちゃんが次の魔王だ」

少女「え」

側近「……へ?」

先代魔王「大事にしてくれる男を見つけて、のんびり子供を
    少しずつ産め。女の子が魔王になりゃ、大発生は防げる
    わけでよ。その代わり魔族の増え方はのんびりした具合に
    なっちまうが」

側近「陛下!」

先代魔王「おお、そうだ。人間の国にあるアカデミーに留学してこい、
    嬢ちゃん。見た目は人間と変わりないし、一個の国じゃなくて
    複数の国のアカデミーを渡り歩け。そのうち魔王の継承が
    自動的に行われるから、そうしたらよ。この地図にある大陸を目指せ」

少女「……大陸?」

先代魔王「おう。海流と岩礁の都合でな、まっとうな船じゃあたどり着けねえ。
    空を飛んでも厳しい。魔王を継承したらテレポートで行けるように座標は
    打ち込んでる──人間がいないそこを、次代の魔族の住居にしてくれや」

側近「陛下」

少女「わかりました。いつか魔王を継いだ日には」

先代魔王「おう。いい男見つけろよ」

少女「努力します」

以上、投下終了。

>>鋼のイナゴ

あくまで飢饉と疫病の象徴として出しただけで、似て非なるモノです。
とはいえ「神?」が干渉した可能性も否定できませんという話。

【前日譚2】


先代魔王「強ぇな、坊主」

勇者「爺さんの方が強いすよ。あのおっそろしい武器を壊せた
    のに、戦士が突っ込んだオルハルコンの剣をぶち折るし」

先代魔王「魔王たるもの勇者以外の剣で倒れる訳にもいかんて」

勇者「そういうもんすか」

先代魔王「おうとも。坊主こそ、城で金貨50枚もらって旅立った
    頃と同じ装備で来たじゃねえか」

勇者「詳しいすね」

先代魔王「これでも坊主が来るまでに何組かの勇者と戦ったからな」

戦士「なんだと」

先代魔王「勇者と名乗るだけあって、強えな。どいつもこいつも」

僧侶「全て倒したというのですか」

先代魔王「おう。一度全滅させて復活治療させてから、うちの側近とか
    将軍とかが腕試しを兼ねて鬱憤晴らしに戦ってるぞ」

賢者「文字通りバケモノじみた強さだな」

先代魔王「化けるって意味じゃあ、そこの別嬪の兄ちゃんもたいした
    もんじゃねえか」

賢者「ふ、ふざけるな!」

先代魔王「はは、は。それじゃあ勇者よ、そろそろ本気で戦ってくれねえか」



戦士「!」

勇者「俺はいつも本気すよ」

先代魔王「ああ、確かに本気じゃな。わしを半殺し程度にとどめて、
    死なずに事態を解決できねえかって本気で考えてる」

僧侶「勇者殿」

先代魔王「結果から先に言うとよ、不可能だ。お前さん達が強すぎて
    嬉しくてな、小便とか色々ちびってたら百年我慢してたモノも
    一緒に出やがった」

賢者「おい」

先代魔王「出てくる魔族が地虫か菌かは知らねえが、次の勇者を
    待つ余裕はねえよ。わしを倒せば大発生する魔族も消える」

勇者「……」

先代魔王「なあ勇者よ。精霊と神々より祝福され、万民の期待を背負い、
    平和をもたらす希望の象徴が勇者の在り方ではないのかね」

戦士「……」

先代魔王「ここでわしを討てなくば、貴様を愛する者達が苦しみ死んで
    いくことになるぞ? 坊主にもそういう相手の一人や二人、いるだろ?」

僧侶「……」



先代魔王「貴様の勝利を信じ支えているのは、ここにいる
    仲間だけではあるまい? 彼らの努力を裏切っても
    良いのか?」

賢者「……貴様、言ってはならん事を」

勇者「……」

先代魔王「──あれ、わしひょっとして失言?」

戦士「フォローできない範囲で」

先代魔王「どんだけやばかったりする?」

僧侶「ここで勇者殿が貴殿を殺さず人類見殺しに走っても
    止められない程度で」

先代魔王「……でも勇者って、貴様等の国でも花形というか
    人気者じゃよね? 平民出でも貴族に準ずる扱いを
    受けて、出征前にお姫様と結婚の約束とか……」

賢者「もうやめて! 勇者のライフはとっくにゼロよ!」

戦士「やめろお、やめるんだ畜生おお!」

僧侶「おのれ卑劣なる魔王め! 勇者殿の心の傷を的確に
    攻撃し、戦う理由を根底より否定する作戦に走るとは!」

先代魔王「ゑー」

勇者「あの、気にしてないす。俺ここでくたばっても、次の
    勇者が即座に加護受けて乗り込める準備整ってるす」

先代魔王「お、おい坊主。目からハイライト消えてるぞ」



戦士「勇者はこれまでの旅で不必要な魔族討伐を避けて
    いるため、教会から魔族に内通していると見なされ、
    弾劾裁判を起こされているのだ」

僧侶「現状では無事に帰ったとしても人類への叛逆という
    罪で死刑。戦士殿が姫君と婚姻することで恩赦が
    降りれば、辛うじて無罪放免の公算が高く」

賢者「報奨金だって過去に勇者の先祖がやらかした罪の
    帳消しという名目で九割方の没収が確定──身柄に
    関してはわた、俺様がアカデミーで保護する予定だし、
    功労者年金だけは支給されるように掛け合ったけど」

先代魔王「……」

勇者「人類のためとか、そういう立派な理由じゃないすよ。
    でも、どうせ死ぬなら、少しは胸を張りたいじゃないすか」

先代魔王「……坊主、お前さん乳のでかい娘は好きか?」

勇者「え」

先代魔王「あ、いや。それほど大きくもないか。寄せて上げれば
    そこそこに谷間ができてたし、人並み以上にはあったはず。うん」

勇者「話が見えないす」

先代魔王「ははは。あー、いや、なあ。今ちょいと『縁』て奴を
    結ばせてもらった。わし魔王の力てのはよ、殴る蹴る
    よりもこういう小細工の方が得意なのよ」

戦士「……まさか、呪いを」

先代魔王「馬鹿野郎。今ちょいと魔王パワーで坊主の過去を
    覗いたけどよ、どんな呪いを用意したら坊主にこれ以上の
    苦しみを与えられるんだよ。あんな仕打ち、わしじゃ思いつかねえぞ」

僧侶「返す言葉もない」



先代魔王「なあ坊主、わしに勝てたら褒美やるわ。今すぐは
    無理だし金銭的にイイ思いが出来るわけでもねえが、
    わしと相討ち狙いで突っ込む必要はねえぞ」

賢者「相討ち狙い、だと?」

先代魔王「おう。坊主の頭の中にはよ、お前ら仲間への感謝の
    気持ちと、お人好しの仲間に迷惑をかけないために
    どうやって姿を消すか死ぬかって事ばかりよ」

勇者「……スゴいすね、魔王て」

先代魔王「あれだけの目に遭ってなお世界を恨まぬ坊主ほどでもない」

勇者「そうすか」

先代魔王「だからよ、正真正銘の本気で戦っていいんだぜ」

勇者「──はい」

先代魔王「よしよし。若いモンに希望持たせて散るのが魔王の
    醍醐味ってもんよ」

以上、投下終了。

先代魔王は勇者パワーの勇者ソード(大張)で倒されました。多分。



【前日譚3】


魔王「──アカデミーに籍を置いていた同族もみんな、消えて
    しまいましたね」

賢者「あんたが残ってるということは、魔王の後継者かしら」

魔王「先代とは、そういう約束でした。私を拘束しますか?」

賢者「冗談。勇者パーティーは解散したし、今のあたしはアカデミーの
    学生だもの。曲がりなりにも同級生を教会や騎士団に売り飛ばす
    ような外道じゃないし、連中だって魔族根絶なんて毛頭考えていないわよ」

魔王「そうですか」

賢者「……意外と冷静なんだね」

魔王「先代の魔王は、人の手の及ばない大陸に魔族を移す計画を
    練ってたんですよ。大発生があっても人間に迷惑をかけないようにって」

賢者「ふうん」

魔王「でも男性の魔王がいる限り、どういう手段を講じても世界の
    危機は続く。だから一度いまの体制を壊して、人類と敵対
    しない形で魔族の国を立て直さなきゃいけないって言ってました」

賢者「ああ、あのセクハラ爺ならそう言うわ。あいつ死ぬ直前に野郎共を
    まとめて呼んで、百年分貯めたエロ本の大鑑賞会を開きながら
    亜人の部下や国民に感謝と謝罪の言葉を口にしてたもの」

魔王「あのロクデナシらしい最期ですね」



賢者「痛覚遮断させたのもあるけど、心臓の動きを止めても
    半日くらい生きててね。勇者それに付き合って、色々
    あったけど魔王城の近くにある丘の共同墓地の片隅に
    セクハラ爺の墓を作ったわ」

魔王「遺体も残らないのに、ですか」

賢者「百年分のエロ本を棺にみっちり詰めておいたから」

魔王「うわぁ」

賢者「それで、あんたはどうするの」

魔王「故郷を一度訪ねて諸々の片付けを終えたら、正式に
    魔王継承の挨拶を各国にしようかと」

賢者「そう」

魔王「はい」

賢者「辛い物を見るわよ」

魔王「そうですね。目深にフードでも被り声色を老婆のように
    変え、魔族と悟られぬようにして訪ねようと思います」



魔王「略奪されているかと思いましたが、手つかずなの
    ですね──確かに、戦争ではない以上は侵攻の
    大義名分がないか──おや」

勇者「……」

魔王「あれは」


勇者「……」

魔王「もし、そこの方」

勇者「……あ、はい」

魔王「見たところ旅人のようですが、この廃都で何をなされて
    おりますか?」

勇者「墓碑を集めているす」

魔王「墓碑?」

勇者「この都に住んでいた魔族の人たちが、自分たちの名前を
    刻んだ小さな碑を、王様のお墓に一緒に納めてほしいて
    言ってたす」

魔王「貴方は、その墓碑を集めているのですか」

勇者「無視することも出来たけど、放っておけなかったす。この
    都に住んでいた人たち、本当に、あの爺さんのことを慕ってて」

魔王「……あの方をご存知なのですね」



勇者「婆さんもここの元住人すか? 亜人の住人とかは、明日にも
    東西南北の救助隊が来るすから郊外のキャンプに行くと飯と
    寝床があるすよ」

魔王「そう、ですか」

勇者「魔王討伐に来た勇者さん達のキャンプだけど、みんなイイ人
    たちすよ。盗賊とかが押し入らないのは、今まで彼らがここを
    守ってくれてたからす」

魔王「──では、そのキャンプの中に。陛下を討った方が?」

勇者「手を汚したのは俺すよ」

魔王「!」

勇者「心臓を止めたのは俺す。ですから、えーと。これ、どうぞ」

魔王「……このナイフを、どうしろと」

勇者「集めてた墓碑は、これで最後す。あとはこれを爺さんの墓に
    納めれば、俺の仕事は終わりす」

魔王「つまり」

勇者「爺さんの敵を討ってください。俺は身内も身寄りもないから、
    復讐はそこで仕舞す。同じナイフはキャンプに保護された
    亜人達にも渡してあるす」

魔王「……貴方は、それでいいのですか」

勇者「この都を歩き回って思ったすけどね、あの爺さんやっぱスゴい
    王様すよ。ニンゲンの国よりも綺麗で、整ってて、活気があった。
    俺とか勇者が来る前に、ニンゲンの国から来てた旅行者や
    商売人を、わざわざ自分とこの騎士を護衛につけて故郷に
    帰してたんすよ」



魔王「あの方のやりそうなことですね」

勇者「この国の政治手法とか法律とか、ニンゲンの国が手本に
    してきたのも納得す。ニンゲンの国に攻め込む必要もなくて、
    でも魔族の大発生を自分で抑え込めないから勇者達を招いて」

魔王「悔やんでますか、貴方は」

勇者「ケジメすよ。悔やむのは、それが済んで俺が生きてたら許される話です」

魔王「そう」



魔王「これが、陛下のお墓ですか」

勇者「共同墓地の片隅に、目立たないように用意されていたす」

魔王「あの方らしいですね」

勇者「……消えた魔族の人たちの墓碑も、これで全部一緒に
    埋めたす。後は」

魔王「後は?」

勇者「清算の時す」

亜人「──少年兵よ、埋葬を終えたのか」

勇者「あい。全部片づけました」

魔王(魔族と共に暮らしていた亜人の長……ならば私の存在も
    察するでしょうね)

亜人「御婦人。この少年兵より短剣を受け取っているなら、こちらに
    渡していただけませんか」

魔王「……どうぞ」

亜人「ふんぬっ」

勇者「あ、折れた」

亜人「左様。汝がキャンプにて託した短剣もすべてへし折り、塚を
    建てて供養した」

魔王「それが皆さんの結論ですか」



亜人「ええ、そうですとも。御婦人、かの先王は笑って息を
    引き取られました。憎しみも呪いの言葉もなく、この
    少年兵の背を叩き、前に進んで生きよと激励して逝ったのです」

魔王「貴方も陛下の最期を?」

亜人「消えずに残った亜人の民一同、陛下のお招きを受けて
    最期のご挨拶をさせていただきました」

勇者「……」

亜人「聞け少年兵よ。陛下は君の罪をも背負って逝かれた。
    君は敬意を持って陛下の臨終に立ち会い、我らはそれを
    確かに見届けた」

魔王「……」

亜人「少年兵よ。君は神々や精霊より祝福を受けた勇者では
    ないと言う。だが、それならば。少年兵よ、我らが君を勇者と呼ぼう」

勇者「え」

亜人「君は陛下の誇りを守り、魔族を悪の烙印より守り、彼らの
    名誉を守った。たとえ君の故郷が君の活躍を認めず歴史より
    君の名を消し去っても、我ら亜人の民は君を勇者と認め語り継ごう」

魔王「それが皆さんの結論ならば、私が唱える異などありません」

亜人「では勇者よ、故郷に帰るといい。君の友が待っている。
    そして亡き陛下が仰っていた、縁を結んだ少女との出会いを待て」

勇者「……それ、爺さんのハッタリというか悪戯じゃないすかね」

亜人「それはそれで丁度よい。陛下の復讐と思ってくれ」

勇者「はは。そうすね」



魔王「──縁を結んだ、少女?」

勇者「では俺は国に帰るす。賢者がアカデミーへ紹介してく
    れたから、読み書きから勉強し直しすよ」

魔王「え、あの。ねえ、勇者様。その辺について詳」

勇者「ばーさんもお元気で。もしその子に心当たりあったら、
    爺さんの遺言とか気にせず自由に生きてほしいって
    伝えてほしいす」

魔王「あ、はい」

亜人「達者でな」




魔王「……肝心なところを聞けずに別れてしまいました」

亜人「その辺については我らから説明をしましょう、新王陛下」

以上、投下終了。

返信などは夜以降に。

>>先代魔王のろくでなし部分

セクハラ満載なマジックアイテムとか作ったり、自分では読まないのに百年分の
エロ本を保存して若い役人に読ませて感想聞かせたり、そういう部分もあったりします。
繁殖第一できちんとした嫁さんはいなかった模様。



>>先代魔王と前スレ大魔王が組んだら

大魔王「メイドさんっすよ」
先代魔王「割烹着も捨てがたいんじゃよ」
大魔王「ぐぬぬぬ」
先代魔王「むむむむ」

 ガシッ

大魔王「貴方にもっと早く出会いたかった」
先代魔王「わしも心底そう思う」



>>亜人

魔族とも呼べずこの世界に完全に定着した、精霊に近い種族です。
エルフ、ドワーフ、オークなど。


本日中に次の話投下予定です。

【道程】


魔王「食料、道具、医薬品、嗜好品。基礎加工を済ませた
    建築資材も含めて調達完了ですね」

勇者「勇者バッグがなければ大型船ひとつは必要な量すね」

魔王「新しく魔族の国を興す訳ですから、二人旅よりも物資が
    必要なのは事実です。あとは先代魔王の指示された場所に
    魔王テレポートで行くだけなのですが」

勇者「そうすね」

魔王「……」

勇者「魔王さん?」

魔王「……どうしましょう」

勇者「え?」

賢者「勇者が近くにいないと、人間どころか動植物含めてあらゆる
    オスに種付けされるものね。でも勇者から離れないと魔王
    としての能力は封じ込められたまま」

勇者「あ」



魔王「地図と遠見の魔法で確認しましたが、激しい海流と
    険しい岩礁に阻まれて目的の新大陸に船舶で向かう
    のは不可能です」

賢者「途中に補給基地になるような小島もないから、飛行船や
    騎竜による移動も無理だ。前人未踏というだけはある」

勇者「そんな場所に、先代の魔王はどうやって行ったんすか」

魔王「視覚認識できればテレポートの魔法は可能なんです。
    だから遠見の魔法で新大陸の位置を把握した上で転移
    したかと」

賢者「座標マーカーがあれば人間の転移魔法でも到達可能
    だけど、実際にその場所に行かなければマーカー設置は
    できないの」

勇者「八方ふさがりすか」

魔王「──実は、考えている対策がひとつあります」

賢者「……奇遇ね。あたしも案がひとつだけあるわ」

勇者「そ、それじゃあ。まずは賢者から」

魔王「……」

勇者「あの、こいつ旅の時も凄いアイディアで幾つも窮地を乗り
    越えてきたんすよ。だから、間違いないす」

賢者「ふふん。簡単なことだ。先行して魔王とあたしが新大陸に
    行き、あたしが座標マーカーを設置する。勇者はあたしの
    転送魔法で連れてくればいい」

勇者「おお」



魔王「それだと、かの地に人間を招き入れることになります!」

賢者「あたしも一緒に移り住めばいい」

魔王「な」

勇者「なんだってー!」

賢者「ああ、勇者。その反応を見たかった」

勇者「冗談やってる場合じゃないすよ。よほどのことがない
    限り、こっちには戻ってくる予定ないすよ?」

賢者「先代魔王を倒す旅も同じ覚悟だったよ」

勇者「賢者は貴族になったばかりすよ。この国を、世界を
    救った英雄のひとりすよ!」

賢者「賢者を名乗る者が、未知の大陸に行くチャンスを
    捨てられると思うかな?」

魔王「無理ですね。ええ、それは無理ですとも」

賢者「それにこれは魔王のためでもある」

勇者「魔王さんの?」

賢者「ああ。君もアカデミーの教養講義の中で学んだと
    思うが、近親交配を繰り返すと誕生する子供に障害や
    不利な変異を起こす確率が高くなる。人間同士ならば
    病気や奇形という形だろうが、勇者と魔王の交配では
    どのような結果になるのか予想も立たない」

勇者「俺と魔王さんが?」



魔王「け、こ、ここここ交配。うん、近親交配のリスクは、確かに。
    考えないでもなかったことですが、っががががが」

賢者「だから、そこにあたしの血が入ればリスクの軽減は可能って
    事なのよ」

勇者「賢者、結婚してたすか?」

賢者「ええ、これからする予定。だから勇者、ちょほいとそこの区役所まで──」

魔王「だめーっ!」

賢者「なにがダメなのよ説明しなさいよ合理的に簡潔に400字詰め
    原稿用紙5枚以上10枚未満の内容で横書きにした要約文で
    アカデミーでもお局様の称号をほしいままにしている四十代女子(笑)の
    女尊男卑主義を隠そうともしない自称男女同権主義者の非常勤講師3名を
    納得させてから反論してもらおうじゃないの」

勇者「なにその無茶ぶり」

魔王「そ、そもそもです。賢者さんの案だけで、私の出す対策を聞いてませんよね」

勇者「そうすね」

賢者「なるほど、確かに」

魔王「私のは、正確には対策と呼べる程度のモノでもありません。現状の魔王
    としての能力が封じ込められている原因が、単純に力量差だけでは説明
    できないという事なんです。おそらくは先代魔王による封印かと」

勇者「封印?」



魔王「ええ、本来あるべき力が大きく制限され、その結果として
    勇者様と共にいると完封されてしまう」

賢者「心当たりは?」

魔王「先代魔王の残留する何らかの力が、私と勇者様の間に
    作用してます。おそらく先代が勇者様と相対した際に何か
    されたかと」

勇者「……アレ、本当だったすか」

賢者「あー」

魔王「ご存知なのですね」

賢者「いや。あれはセクハラ爺の最後の悪足掻きだから。
    学術的には30年前に否定された妄言だから」

魔王「勇者様」

勇者「えーとですね。爺さんが言うには、
    『今ちょいと「縁」て奴を結ばせてもらった。魔王の力てのはよ、
    殴る蹴るよりもこういう小細工の方が得意』
    だと」

魔王「縁を結ぶ相手について、具体的には」

勇者「確か
    『おっぱいの大きな娘は好きか』
    と最初に訊かれて、その後に
    『寄せて上げればそこそこに谷間ができてたし、人並み以上には
    あったはず』
    ってフォローしていたすよ」

魔王「あのロクデナシのセクハラ爺! 亜人の長が肝心なところを曖昧に
    言ってたと思ったら!」

賢者「かける言葉もない」



勇者「そうすね。じゃあ、教会かどこかで先代魔王の仕掛けた
    リミッターを外せばいいすか」

魔王「……これは呪いとは違うので、解呪は無理ですね。あ、
    でも神の祝福は割とアリかもしれないんですが、その。
    つまり」

賢者「……」

魔王「向こうの大陸に行って半年も過ごせば自然とムードが
    高まってお互いに理解も深まるからと気長に構えていた
    のですが、現状では予断も許さず、こちらが油断していると
    ピンチがパンチでありまして」

勇者「魔王さん?」

魔王「勇者様!」

勇者「はい、なんすか?」

魔王「わ、私とですね。勇者と魔王なんて肩書き以上の関係に、
    なって……くださると、その。非常に嬉しいというか今後の
    人生設計がはかどると申しましょうか、具体的には明るい
    家族計画が穴だらけになって、その隙間は実は心のスキマで
    漏れてくるものは本音と子種と幸せな未来予想図なんですよ」

賢者「なにその処女をこじらせたような遠回しのプロポーズは」

魔王「しょ、処女なんだから仕方ないでしょ!」



勇者「……」

魔王「あの。勇者、さま?」

賢者「いかん。アカデミーのマドンナが実は股間に蜘蛛の巣張った
    古漬け処女だったのと、喪女に求婚された衝撃で意識を
    失っているどころか心臓が停止している!」

魔王「勇者様あああっ!?」





なんとか息を吹き返したそうです。

以上、とりあえず投下終了。

【外堀と内堀】


東の国王「おおゆうしゃよ、しんでしまうとはなさけない」

西の国王「魔王討伐の旅では死ななかったのに、美女
    二人に告白されて心停止とか斬新だなおい」

南の国王「所持現金が金貨4枚というのはさすがにどうかと思う」

北の国王「結婚の報告は旅立つ前にするように」



勇者「……なんだったんすか、今のは」

僧侶「廃都となった魔族の国を今後どのように扱うか、各国で
    話し合いが行われているのですよ勇者どの」

勇者「あ。僧侶が復活させてくれたんすか」

僧侶「最初は娘が復活の儀式に乗り気でしたが、顛末を聞いた
    後に勇者殿の顔に落書きをして帰って行きました」

勇者「怒らせるようなことあったすか」

僧侶「馬がいればけしかけてたところです」

勇者「馬すか」

僧侶「我が娘に求婚されたときは笑って受け流していたのに、
    賢者殿と魔王殿からの告白には心停止ですからな。
    身内贔屓をするつもりはありませんが、娘が二人に大きく
    劣っているのは乳の大きさくらいで」

勇者「おっさん、笑顔なのに額に青筋浮いてるす」

僧侶「いいですか勇者殿、これは重要な選択なんです」



勇者「はあ」

僧侶「気立てがよくて外見マジ好みだけど全滅させた魔族の末裔で
    種族再興に燃える魔王殿。やや電波で横暴ワガママで名誉と
    手柄と破壊欲求のために勇者一行に参加し性別を偽ってきたけど、
    実は勇者殿のことを病的に愛してくれるかもしれないムッチムチ・
    バインバイーンな賢者殿」

勇者「……」

僧侶「……」

勇者「僧侶のおっさん。今の説明だと賢者のこと、ひとつも誉めてないすね」

僧侶「いやいや! 二十代後半で確実に垂れそうな乳とか、運動不足
    だからそのうち駄肉どころではすまなさそうな尻とか、体毛濃そう
    だけど毎日2時間かけてムダ毛を処理してそうだとか、そんなことは」

賢者「──ほほう」

僧侶「ゲェ、賢者殿!」

賢者「いま愛に恵まれない勇者のためにボキン活動してるのだけど、僧侶は
    どれだけボキンしてくれるのかしら」

僧侶「は、ははは。現在手持ちがあまり」

賢者「そう。手はイヤなのね、じゃあ肋骨をボッキボキのボキン活動しちゃおうかしら」

魔王「ちなみに賢者さんは毎年何度かセクハラ教官や学生をターゲットに
    街角ボキン活動を」

僧侶「ゆ、勇者殿! 今こそ勇気ある誓いを二人の前で! 立ち会いますから
    見届けますからヘルプヘルプヘルプ!」

僧侶娘「今すぐ楽にして差し上げますわ」

僧侶「オーケイ笑顔で金属バットを握りしめるのはやめようかマイドーター」

僧侶娘「ちなみに勇者様は相談相手を求めて戦士様のもとへ行かれました」

僧侶「では拙僧も」

僧侶娘「ええ、永遠の戦士が集う庭へとお旅立ちくださいませ」

賢者「それって精霊神の信仰で言うところの天国なんだよねマイドーター!」

僧侶娘「変態神には変態僧侶がぴったりということですわ」

賢者「あ、フルスイング」



戦士「つまり、仲間や雇用主として信用していた妙齢の美女二名より求婚され、思考
    停止と共に心臓も止まってしまったと」

勇者「心臓止めて半日も生きてた前の魔王のすごさを痛感するす」

戦士「それで私にどうしろと」

勇者「幼馴染の姫様と恋を実らせた、恋愛の達人に助言を求めに来たすよ」

戦士「そうか。では、しばし待たれよ」

勇者「待つのは平気すけど、仕事の最中でしたか。すいません」

戦士「あ、いや。君という本物の勇者が訪ねてきて、化けの皮を剥がすと鼻息荒く
    決闘を申し込んできた女騎士がいただろう?」

勇者「副隊長とか呼ばれてたすね」

戦士「ああ。あれでも由緒ある騎士の家系で、勇者認定の序列では第五位にある
    ほどの腕前を持っている」

勇者「エリート街道まっしぐらすね。俺と大差ない年頃にも見えるのに、精霊の力を
    宿したミスリルの剣とか持ってるし」

戦士「うん。そのミスリルの剣をな、君、食堂でヤキソバを頼んだ時に貰った
    割り箸で断ち切っただろ。しかも根本から」

勇者「剣にアオノリつかないように切った筈なんすけど」

戦士「純ミスリルの剣とか我が国にも五振りとない代物なのに、なんで竹の割り箸で
断ち切るかね。半ば腕試しの場に家宝の剣を持ち出したアレも阿呆きわまりないのだが」



勇者「べ、弁償しなきゃまずいすかね」

戦士「力量差も分からずに自分から喧嘩をふっかけ、家宝の剣を
    持ち出し、その上で割り箸で冷や奴のように武器を切断された
    のだ。アレは即座に恥じて自害しようとしたので騎士団全員で
    止めているが、本来であれば私が手討ちにしなければならん醜聞だ」

勇者「剣一振り折れただけなのに大変すね」

戦士「仮にも人類と世界を救い、これから魔族を救おうとしている君に
    暴言を放ち勝負を持ちかけた阿呆だぞ。国内だけならまだしも、
    来訪されてる三国の王に知られてもみろ。即座に外交問題へと
    発展し、魔族領の統治交渉の場で不利な材料となる」

勇者「じゃあ、どうするすか?」

戦士「彼女は訓練中の事故で命を落としたことになる」

勇者「不許可す」

戦士「……君なら、そう言うと思った」

勇者「こんな馬鹿らしい理由で死なせるために、先代魔王の爺さんは
    俺と戦った訳じゃないすよ」



戦士「というわけで、これがその阿呆だ」

女騎士「……わたしは。騎士として、剣の道に生きる者として筋を
    通した事を悔いはしない。そして敗者は死と屈辱が与えられる
    ことも覚悟の上だ。勇者を騙る小僧よ、わたしの躯を辱め
    ゲスな欲望を満たすといい」

王女「──勇者様、御慈悲を。たとえ咎人に堕ちようと騎士の誇りを持ち
    数多の民を救う力と使命をもって生まれた者にございます」

勇者「では最初の要求通り、女騎士にはエッチなバニーさん装備の
    服を着ていただくす」

女騎士「……え?」

王女「は?」

戦士「エッチなバニーさん装備一式をここへ」

騎士「ははっ」

勇者「俺は女騎士さんにエッチなバニーさん装備の着用を要求し、
    彼女はそれをセクハラとして拒絶し決闘を挑んだす」

戦士「堅物故に女騎士は錯乱し聞くに堪えない暴言を吐いたが、
    勇者殿の理不尽なる要求を考えれば致し方ない話である」

騎士「しかし決闘の勝敗によってエッチなバニーさん装備の装着を
    約束した以上、女騎士にはこのエッチなバニーさん装備を着用し、
    騎士団及び城兵募集の勧誘会にて作詞・戦士、作曲・勇者による
    君のテーマソング『うさうさナイトでりゅんりゅんりゅん』を熱唱していただく」

王女「あの、これ……ガーターベルト丸見えですよね」

勇者「エッチなバニーさん装備すから」



女騎士「む、胸の谷間どころかへそと背中もほぼ丸見えではないか!」

戦士「エッチなバニーさん装備だからな」

騎士「このエッチなバニーさん耳とバニーさん尻尾は、装着者の
    精神状態や興奮度によって自在に動く優れモノである」

勇者「これで防御力が下手なスーツアーマーより上なんだから、
    先代魔王のコレクションは凄いすよね」

女騎士「魔王のお手製かよ、それえ!」

戦士「竜革、一角獣のたてがみ、銀水晶、黒真珠、黄金羊の毛。
    魔族の国でも滅多に手に入らぬ最高の素材を駆使し、先代魔王が
    暇と欲望を込めるだけ込めて作り上げた伝説の装備でもある」

王女「──素材だけで国家予算数年分ですわね」

騎士「なお卓越した縫製技術によりバストアップ効果とウエスト
    引き締め効果が認められるが、この装備はアンダーウェアの
    着用が認められていない」

女騎士「ま、待って……だって、これ、ショーツの素材もすっけすけの
    レースで。前が二股になって」

勇者「エッチなバニーさん装備の名は伊達じゃないすよ」

戦士「ちなみに先ほど国王陛下より『エッチなバニーさん装備の
    女騎士が見られれば前後の問題は忘れることにする』という
    東西南北の国家代表署名入りの書状が届いている」

王女「うわー、この署名と花押は紛れもなく本物ですわ」

騎士「では女騎士を試着室へ連行せよ」

城兵「イーッ!」

女騎士「やめろおオオ! ぶっとばすぞおおおお! っていうか
    衣装のアレさ加減でスルーしたけど、なんだそのぶっとんだ歌はあああ!」



戦士「行ったか」

勇者「行ったすね」

騎士「行きましたな」

姫「控えめに言って、皆様最低の屑でしたわね」

勇者「無くなった先代魔王秘蔵のコレクションだと、オークの
    慰み者になる展開ばっかでしたす」

騎士「おそるべし先代魔王」

勇者「ちなみに気位の高いお姫様とセットでオークの慰み者に
    なったコレクションがこちら」

姫「ふおおおおおお」

戦士「姫様、鼻血はなぢ」

姫「このような破廉恥けしからん品物は厳重封印の上、王家の
    管理下に置きます。ところで重要な話があるのでわたくしは
    戦士様と二時間ほど退室してきますのでごきげんよう」

騎士「姫様がわくわくした目で戦士殿を見られた後に手を引いて
    出ていかれましたな」

勇者「お世継ぎ誕生も時間の問題すね」





勇者「しまった。相談にのって貰う時間がお楽しみタイムに化けたす」

以上、投下終了。

【二兎】


魔王「今更ですけど、賢者さんならお相手に困らなかった
    のでは」

賢者「……ふむ。やはり説明が必要か」

魔王「?」

賢者「この国はアカデミーがあるので偏見は多少は薄れて
    いるが、それでも魔法技能者は警戒される傾向にある」

魔王「魔法技能者、ですか」

賢者「そうだ。魔法使いの女は総じて魔女の系譜となり、成人
    すればまともな男は近づかなくなる。僧侶の女は神の愛を
    説く関係で結婚するケースも多いが、神聖視されるあまりに
    生涯独身を強いられる者もいる」

魔王「っわあ」

賢者「賢者という職は変わり者でね。真理を追い求める過程で
    世俗との関わりを捨て去ると思われてるし、そうしている者もいる」

魔王「私も、そういう風に見ていました」

賢者「真理到達の道の一つに、天地と合一する方法があるのよ。
    仙の道とあたし達は呼んでいる──仙に至れば不老不死となり
    人としての限界を超える」

魔王「仙、ですか」

賢者「歴史に名を残す賢者の中には、そのような者が多い。世俗の
    中で人としての生を全うする大賢者も多いのだが、ね」

魔王「賢者さんは、後者ですか」

賢者「まあね。先代魔王の暴走を止める勇者を補佐するのが、
    あたしの賢者としての使命だったと理解している」



魔王「真理の到達や不老不死は」

賢者「勇者のいない世界で永遠に生きるなんて、ねえ。あたしに
    とって勇者は世俗であり真理であり、帰るべき日常と
    到達すべき目標だったの」

魔王「──惚気、ですか」

賢者「はじめは嫉妬だったのよ」

魔王「え」

賢者「世俗と関わりを断ち、一つの真理を求めて生きる。勇者の
    半生は、仙に至る道そのものだった。いいえ、既に半ば仙と
    呼んでもいい」

魔王「勇者様が、賢者の究極点に? 確かに、あの淡泊さで
    三十路まで生きれば悟りの一つや二つ容易に開くとは
    思いますが」

賢者「童貞のまま二十歳を迎えた時点で精霊神が婿に迎え
    入れる予定だったと聞いてるわ」

魔王「はははは、笑えない冗談ですね」
 
賢者「こうして童貞捨てたわけだし、あの性転換ビッチ神の思惑は
    脆くも崩れたから結果オーライなんだけど」

魔王「それで、賢者さんは勇者様のどの辺に惹かれたのですか」

賢者「む、それを聞くかね君は」

魔王「だって、ほら。一応は姉妹の契りを交わしたわけですし」

賢者「……そうね。魔王ほどじゃないけど、世界を救おうって肩書き
    背負っちゃうとね。普通の人はどん引きするのよ。まして子爵で
    アカデミーの主席で賢者よ。俗世離れて塔に籠もって数百年とか、
    そういうイメージ抱かれても仕方ないの」

魔王「ええ、私もそう思ってました」



賢者「でもさ。君が勇者を連れてきた時に」

魔王「あなたが拉致してきたじゃないですか」

賢者「……あたしが勇者と再会した時にさ、性別変わっても
    直ぐにあたしだって信じてくれたじゃない。正直その時
    までは、よき旅の仲間として二人の門出を祝って身を引く
    とか考えてたのよ」

魔王「今でも遅くないですよ」

賢者「無理。いや、昨日だったら可能性はあった、でも今日は
    絶対に無理。誰がなんと言おうとも」

魔王「どこが賢き者なんでしょうね。色ボケじゃないですか」

賢者「うるせー。性転換してたとは言え十代の引き締まった
    胸板とか腹筋とか脇とか背中とか、刺激が強すぎたのよ!」

魔王「……見まくったのですか」

賢者「怪我した時に、治療のためとはいえ実際に触れてさ。傷口
    洗って、薬塗って、回復魔法唱えて。その都度に回復の熱と
    痛みを堪えて我慢する勇者の表情を間近で見てたら、そんなの
    悟りなんて開ける訳ないじゃない!」

魔王「賢者というよりは悪の女幹部が性癖暴露しているようにしか
    見えませんね」

賢者「……そこに脱ぎ捨てた衣装は、先代魔王お手製であるからして。
    ある意味で悪の女幹部と言えるのではなかろうかと、あたしは考える」

魔王「幹部ですか転職ですかクラスチェンジですか」



賢者「うむ。賢者から新妻、妊婦を経て悪の女幹部にでもなるんじゃ
    ないかな。いろいろと計算してみたが、勇者に与えられし
    人類種繁栄の加護が機能しているならば懐妊は間違いないかと思う」

魔王「じ、人類種繁栄の加護ですってえ!」

賢者「そう。勇者とは場合によっては人類最後の一人になる可能性がある
    故に、パートナーが性別年齢血縁関係いかなる状態であろうと交わって
    健康な子を残すことができる。らしい」

魔王「……なんですか、その無茶苦茶な加護は」

賢者「性転換手術を受けた精霊神が子供を産むために勇者に与えた加護とも
    言われているが、実の姉妹や娘あるいは女装男子もしくは自動人形と
    添い遂げて子孫まで残している歴代勇者の記録から推測してみた」

魔王「勇者様にそんな素敵な加護が備わっていたとは」

賢者「ところで魔王。先ほどより気になっていたが、君のソコから本来こぼれ
    落ちるべき液体が一滴も見当たらない事に心当たりはないか?」

魔王「──心当たりと言いますか、行為の前後に私の体内より細胞組織の
    一部と共に転移が発生したのは自覚しています。それと、魔力が随分と
    どこかに送り込まれていますね」

賢者「なるほど。おそらくは先代魔王が勇者との間に仕掛けた『縁』とやらの一環か。
    ところで」

魔王「はい」



勇者「俺ってケダモノすケダモノすケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノ
    ケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノ──」




魔王「部屋の片隅で膝抱えてたそがれている我らが勇者様をどうしたものでしょう」

賢者「誘った時のようにバニーさんを装備したらいいんじゃないかな」





手のつけられないケダモノになってそれどころじゃなくなったそうです。
(魔王と賢者、ハイライトの消えた目で証言)

以上、投下終了。

>>安心できるカオス
この世界の場合魔王から
「このままだとワシ世界を滅ぼすから、暴走する前に殺しにKITE☆」
という親書を世界各地に送り届ける仕様になっている程度にはカオスです。


>>竹
普通の竹です。
前作勇者が習得しつつあった剣の境地を今作勇者は既にマスターしているようです。
武器を選ばず状態。

>>勧誘会
ミニスカートを上から着用する事だけはかろうじて許可されましたが、それが
かえって女騎士のM気を覚醒することに。

>>ノリダーとか「イーッ!」とか
国王のイメージは故・岡田真澄氏で。
滅びそうになる度に先代魔王が技術とか食糧とか資源を融通してくれてました。
代わりに気高い女騎士(歴代)が恥ずかしいコスチュームを着て感謝祭の
ステージなどで電波ソングを歌ってたそうです、伝統的に。

>>りゅん
リアルタイムでセンチメンタルグラフティの存在は知ってましたが、むしろ暗黒舞踊とか
超クソゲーでのアレでしか知らなかったとも言えます。
ネタとしてはウサミン星人の 自称17歳の電波ソングとか近いかもしれません。


追記。勇者は魔王と賢者においしくいただかれてしまいました。


【そして新大陸】


魔王「食料および資材は多めに用意しました」

賢者「爵位返上して報奨金に変えてもらったので、将来を
    見越して衣類なども揃えられたのが大きいな」

勇者「上機嫌すね」

賢者「未知の大陸を前に興奮を隠せない」

魔王「新たなる魔族の歴史を作ろうという、その偉大な一歩に
    震えてます」

勇者「……結局あの後、亜人の集落を訪ねて報告したり、賢者も
    アカデミー出て行くからって各方面に頭下げて回って。
    出発予定から半月も遅れたすね」

賢者「象牙の塔に籠もるのも賢者なら、未知の荒野を踏破する
    のも賢者なのだよ」

魔王「うん。やはり『妻』と『夫』という契約形態は、『魔王』と『勇者』
    よりも上位に作用するようです。結ばれただけではまだ
    封じられていた魔王の力が、結婚指輪を装備することで
    十全に機能しているのを実感します」

勇者「……」

賢者「勇者の気が変わらない内に、人生の墓場という名の新大陸へ
    テレポートしようか」

魔王「おっけーですわ」




魔王「……ここが先代の示した座標なのですが」

賢者「建物の中じゃないか」

勇者「というか、ヒトの気配がたくさんあるすよ」

魔王「先代の話では、人が住んでいない大陸とばかり」

 ダダダダダダダダ、ガチャ

ドラゴン娘「あ! やっぱりいた、パパとママだ!」

デーモン娘「本当だ! ようやく到着したのね!」

鳥娘「父上、母上! お会いしとうございました!」

 ワイワイワイガヤガヤガヤ

勇者「……パパ?」

魔王「……ママ?」

賢者「ほぼ全裸の半人半魔の子供が、えーと軽く200名はいるね」

勇者「とりあえず、服すね」

魔王「たぶん食事の用意も」

賢者「携帯型勇者ハウスを起動させよう。人工精霊のメイドは裁縫も
    できるはずだから」



ドラゴン娘「ここが、あたしたちの生まれた部屋」

勇者「巨大なガラスの筒と、満たされた液体の中に
    子供が入ってるす」

デーモン娘「還元された卵からヒトガタに戻るまで
    4日かかるんだ」

魔王「これはホムンクルスの製造機にも似ているけど、
    もっと洗練された施設ですね」

鳥娘「先代の陛下が遺された資料によると、母上が
    殿方と交わられた際に排出される卵を父上の
    精と共に転送し、受精したものを赤子から幼児まで
    育て上げる人工子宮です」

勇者「……君たちは、生まれる前の記憶があるすか?」

ドラゴン娘「割と。だけどパパとママの子供だって強烈な
    刷り込みもあるよ」

魔王「──この部屋にある人工子宮のカプセルは48基。
    4日で誕生するとして、故郷にいた魔族は15万を
    越えていたから……」

デーモン娘「執事の話だと、三年あれば全員復活するって」

賢者「執事?」

カエル執事『お呼びでございますかな奥様方』

勇者「……モンスターとは違うすね」

カエル執事『強いて言えばマジックアイテムでございます』

賢者「ホムンクルスとは違う、けど手の平サイズのゴーレム
    なんて聞いたこともない」



カエル執事『遠い遠い時と次元の果て、電車で一時間ほど
    進んだ世界にて作られました。オリハルコンの歯車と
    ミスリルのゼンマイにて動き、歯車の神秘的な黄金比に
    よって永久稼動を実現した自動人形でございます』

勇者「説明はさっぱり理解できないけど敵ではなさそうすね」

カエル執事『それはもう。我が主が先代魔王の呼びかけに
    応じて派遣された、言わば名代でございます。尻を振り
    乳を揺らし愛想という名の媚びを売って永年奉仕契約を
    もぎ取る女中人形達とは開発コンセプトからして次元の
    異なる水準にございます』

賢者「……異世界の、機械人形?」

カエル執事『対神性両棲獣型可変決戦兵器ジェノサイダー参型
    という浪漫ネームを先代魔王様より下賜されましたが、
    あくまでも浪漫ネームですので。お気軽にカエル執事と
    お呼び下さい』

魔王「割烹着の似合うカエルさんとか初めて見ました」

カエル執事『これは失礼を。なにしろ二百名を越える幼子の
    離乳食を用意しておりまして』

勇者「……」

賢者「……」

魔王「……」



カエル執事『どこからお話しすればよろしいでしょうかね。先代魔王様より、
    この地に皆様が住まうための館と都市の建築を依頼されまして』

ドラゴン娘「しつじー! でっかい亀がおそってきたー」

カエル執事『では今夜のメニューは亀のフルコースで』

デーモン娘「執事しつじー! 森の向こうに巨大な人面岩があったー! 
    なんか中に金色のおっきなゴーレムがはいってたー!」

カエル執事『お嬢様、いろいろとギリギリですので元あった場所に戻して
    下さいませ』

鳥娘「しつじどの、元はおっさんっぽい女神が白いレースのドレスを着て
    押しかけてきたでござる」

カエル執事『勇者様の来訪を察知されましたか。ちょほいと虐殺して参ります
    ので魔王様達を応接間にご案内願います』

魔王「……とりあえず、みんなの食事を。あとは服を」

勇者「勇者ハウスを起動させるす」

賢者「状況把握しつつ臨機応変に行動するしかないね」





カエル執事『いかがですかな、女エルフ殿より拝借した
    前立腺悶絶健康器具の効き目は』

精霊神『んほほほほほうううう──っ!? しゅごい、しゅごいのお! 
    前立腺みるく止まらないのおお! はあああああああ、
    んんんん、ら・むううううううううっ!?』

カエル執事『神谷明に謝れ』



勇者「飯と着替えを用意している最中に、更に48名増えたすね」

賢者「周辺に食用かつ無害だと判明している果物や芋類を確認
    できたわ。調理器具もあるし、保存食を切り崩しつつ当面は
    採取を続けて耕作地を開墾しましょ」

魔王「……300名からの我が子に、乳房を……最初から離乳食でも
    平気なのに、一口で良いからって……みんな生前のテクを
    総動員して……悔しいっ、でも勇者様相手に鬱憤を晴らすので
    平気です」

勇者「しばらくは襲ってくる亀を退治しつつ、周辺地域の調査すね」

賢者「──穏やかな草原に一軒家を建てて、麦を育てながら一人
    また一人と子を産み育てるのかと思っていたのよ。直前までは」

魔王「……小さくても綺麗な白い家で、人なつっこい番犬がいて、
    羊とか野牛を飼い慣らして。少しずつ家族が増えていって、
    町が出来ていく……そんな風に考えていた時期がありました」

勇者「暖かいとは言え大聖堂みたいな場所に300人分の毛布を
    敷いて寝るとは思わなかったす」

カエル執事『外壁は白いですし、畑に適した土地もございますし、
    巨大な亀のほかにも鎧牛とか黄金羊とか発見しております
    はい……全長30メートルくらいありますが、軒並み』

魔王「この大陸からヒトが消えた理由が何となくわかりました」

賢者「奇遇ね。あたしも理解できた気がする」

勇者「それにしても窓の外から見る森は巨木だらけだし、動物は
    みんな怪獣サイズだし。何があったんすかね」

賢者「……仮説ではあるが、おそらく精霊の力が極めて強いから
    生命が様々な形で強化されている」

魔王「精霊の力」

カエル執事「ということは」





精霊神「ひぎいいいいい! ゆううでえええいいいい!みゃおおおおおん!
    きむっこほおおおおおほりいいいいいゆふじいいいいい!
    とりやまっああん!きらああ!ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺえええええっ!
    も!も!も! もょもと───ッッ!!!!」


 こうして新大陸における過剰な精霊力は程良く押さえ込まれ、
魔王と勇者と賢者そして子供たちは力を合わせて新しい国を
作り上げていったと歴史書には記されている。




カエル執事『アルバイト終わったので戻りましたご主人』

オーク「ご苦労様でぶ」


<この話、とりあえずおしまい>

以上、投下終了


>>精霊神
素敵なお嫁さん計画のため受肉したのが彼(?)の不幸でした。
主に前立腺ぱんち。

>>魔王コレクション
えっちな下着や、男心をくすぐる淫語全集などが揃っております。

>>ティッシュから勇者誕生
先代魔王の時はそういう危機が何度か。


今後はまた月一投下になる予定です。


番外編その1 オークさんカエル執事のバイト先へ挨拶に向かう


オーク『ふむ。女性型魔王の卵子を核にした転生秘儀と思ったが、先代魔王の
     死と共に還元された個体群が受精卵でありながら擬似卵巣を形成して
     優先的に排出されているでぶね』

賢者「お、おう」

カエル執事『奥様、無理に理解した振りをされなくても』

賢者「いやいやいや、あたし賢者だし。アカデミー首席として、さっぱりわかりま
     せんとか言えないし」

カエル執事『その割にベッドの上では「こんなの知らない! こんなの初めて!」
     と毎晩のように』

賢者「!?!?!?!?!?」

オーク『──人工子宮工場が機能停止したのは、還元された魔族が一通り再生
     されたためと考えるのが妥当でぶ。だから本来の卵子と精子が受精し、
     魔王自身の肉体で妊娠を開始したでぶよ』

賢者「ばかばかっ! このエロ蛙! むっつり人形!」

カエル執事『ははは、臨月間近で暴れられると勇者殿が心配されますぞう』

賢者「ぐぬぬぬ」



オーク『つまり還元されなかった魔族……たとえば先代の魔王などが
     実子として誕生する可能性があるでぶけど』

勇者「あの爺さんが生まれてくるすか」

オーク『診断の結果だと女の子みたいでぶよ』

魔王「魔力の感じからみて、間違いなく先代の転生体なんですが」

オーク『きっと母親似の美少女でぶよ』

勇者「割と渋めの爺さんだったすよ、先代は」

オーク『勇者と魔王の遺伝パターンと、この土地での栄養条件その他を
     加味して……13歳くらいになると、こんな感じになると思われるでぶ』

賢者「──なんというか、プリティーよね」

カエル執事『キュアキュアって感じでありますな』

魔王「あの、この未来予想図に描かれた素っ頓狂な衣装の出所は」

オーク『うちの工房で鋭意製作中でぶ』

勇者「いや別に作らんでもいいと思うすよ」

オーク『こちらのお嬢さん方に来ていただけない場合、我が家に居候している
     エルフと女騎士とドワーフの三人娘が着用してしまうでぶ』



カエル執事『旦那様、旦那様』

オーク『なんでぶか』

カエル執事『あの三名が着用するのは、年齢的に宗教テロ以外の
     ナニモノでもないかと』

女エルフ「ほほう」

カエル執事『』

女騎士「宗教テロと申すか」

オーク『』

女ドワーフ「ふむふむ。身体のラインを際立てつつもフリルとリボンで
     可愛さを演出するコスチュームだぁね。色は決まっていないけど」

女エルフ「ピンクで」

女騎士「白で」

女ドワーフ「じゃあ、わたし黒基調で」

オーク『』

カエル執事『旦那様、異世界から大魔王召還してあのコスチュームを
     焼き払って貰うというのはどうでしょう』

オーク『おいばかやめるでぶ』

カエル執事『世の中には「死なば諸共」という言葉もございまして』

以上、本日の投下完了。
女エルフさんはド天然淫乱ピンクだと思います。



番外編2 大魔王一家の里帰り


 魔王国が立憲君主制への移行を宣言したのは、魔界崩壊より
十年が経過した頃であった。
 選挙の概念、代議制の概念、憲法の制定と君主の立ち位置。
 到底十年で実施できるものではない。国民の教育どころか、
果たして誰が国民なのかという戸籍制度の再構築さえ求められ
ていた魔王国である。
 試行錯誤を経て国民はいくつかの権利を獲得したが、試行錯誤
故に奇異なるものが多々生み出されていた。

大魔王の息子『結婚加入権?』

半魚人大臣「左様でございます。加入権一口につき伴侶を一名、
     家族として受け入れることが可能になります」

大魔王の長女『男でも女でも?』

半魚人大臣「卵生魔族は生態の仕組み上、複数の夫を受け
     入れる必要がありますので」



大魔王の次女『それは分かったけど』

 大魔王の次女──末っ子にしては見事な肢体を持つ少女は、
半魚人大臣に案内された役所の掲示板を見た。

<本日の結婚加入権相場>

 そう書かれた値札が見てる間にどんどん書き換えられている。
大魔王の子供達は言語翻訳機能が故障したかと翻訳機を停止して
原語の解読を辞書片手に行ったが、やはり結婚加入権と書かれている。

半魚人大臣「旧魔界時代の遺跡などがダンジョンという形でこちらに
     転移していたのが判明し、一攫千金を狙う冒険者や闘技場の
     猛者達が移住してくるようになりまして」

大魔王の長女『それについては父上から話を聞いている。歯車王国
     時代の自動人形達が発掘されたとか』

半魚人大臣「おかげで自動人形相手に結婚するため加入権を買い
     求める層と、ダンジョン攻略資金のために加入権を売り払う
     層が相当おりまして一時期は小豆相場もかくやという有様でした」

 自動人形と結婚、という言葉に大魔王の子供達が固まる。
 歯車王国時代の自動人形といえば高性能マジックアイテムの中でも
最高峰のブランドに数えられる逸品である。かの時代にのみ生産された
歯車式永久機関によって半永久的に駆動する自動人形は、数多の世界と
時代において英雄達を導き助けてきた存在でもある。

 とはいえ、マジックアイテムに違いはない。



大魔王の次女『結婚、できるのですか』

半魚人大臣「そこが加入権の売りでございまして」

大魔王の息子『売りというのは』

半魚人大臣『この結婚加入権は一種の奇跡使用権でしてな。相手が
     人形であれ同性であれ二次元の絵画であれ、同意の下に
     加入権を用いて婚姻してしまえば「子作り可能な状態」に変質
     するのですよ』

大魔王の長女『つまり、たとえば婚姻が認められぬ近しい血縁関係に
     あっても?』

半魚人大臣「もちろんでございます」

大魔王の次女『生半可な魔力とか簡単に抵抗しちゃうような種族でも
     大丈夫なの?』

半魚人大臣「原則同意の下であれば、種族特性とかお構いなしでしょうな」

 沈黙が訪れた。
 騒がしかった役所の戸籍課がいつの間にか誰一人として声を立てぬほど
緊張した空気に支配され、好奇と恐怖と同情の視線が大魔王の息子に
向けられていた。

大魔王の息子『俺あーちゃん家に婿入りしてるで、余った結婚加入権売るわ』

 力つき膝から崩れ落ちる姉妹の横で、大魔王の息子は淡々と、自らの
結婚加入権を売却する。

 なお、この加入権は役所預かりとなり、現在でも市長執務室の金庫奥にて
厳重に封印されているという。

以上、本日の投下終了。
魔王国では法的な手続きをすれば喪男さんが売り払った権利を買って
一夫多妻制できますよという話。



番外編3 魔王様のキッチンあぽかりぷす



オーク『では今日は店で売っている総菜に一手間加えた家庭料理をやろうと思うでぶ』

魔王『よろしく頼む』

王妹『よいよい、くるしゅうない』

側近『頑張ります』




カエル執事『……先ほどから動悸と震えが止まりません。これはもしや恋!?』

女エルフ「恐怖じゃないかな」

女騎士「見た目は綺麗なおねーさん達なんだけどなー、エプロン可愛いし」

女ドワーフ「むしろ神々しい気配が漂ってるのに、台所周辺だけ原初の混沌さえ
     裸足で逃げ出す状況だにゃー」




オーク『それでは街の総菜屋や屋台でも手に入るカツレツを使用
     するでぶ。屋台などの安い店では古くなった油で揚げて
     いるからギトギトでそのまま食べると腹を壊すでぶよ。
     だから──』

魔王『中和だな。この場合は酸化した油脂を除去するのが望ましい
     から、衣の中に残留する劣化した油脂分の分子に特異的に
     作用する空間破砕振動波を発生させてしまえばいい』

王妹『姉上。それをやると衣の周囲にある物質がプラズマ化して
      焦げてしまうぞ』

側近『そういう問題ではないような』




カエル執事『あかん』

女エルフ「いま台所に小さな太陽が」

女騎士「わたしは何も見なかった」

女ドワーフ「おなじく」




オーク『底の厚い鉄製のフライパンを弱火で熱し、衣が
     焦げないように金網を敷いたらカツレツを乗せて
     じっくり加熱するでぶ。フライパンの底にある程度の
     油が落ちたら紙に吸わせ、上等の油をカツレツに
     かけ回して同様に加熱するでぶよ』

魔王『つまり熱した空気でカツレツに残留する固化油脂分を
     融解除去し、上質の油脂に置換すると。ふむふむ。
     こうか?』

王妹『姉上、理解しているのか?』

魔王『置換する際に香料を含んだ油脂を吹きかければ
     カツレツもすばらしい味に変換されそうではないか?』

側近『陛下。応用というのは基礎が備わってからですよ』




カエル執事『あばばばばば』

女エルフ「魔王さんたちの鍋からプラズマが飛び交い、得体の
     知れない小人の男女が長柄の矛でフライパンの中身を
     かき混ぜている件」

女騎士「滴の先から大小さまざまな島や無数の小人が誕生しているな」

女ドワーフ「なんか鍋の中が急に暗くなったら、鍋の中で
     ストリップショーと宴会が始まってたにゃー」




オーク『カツレツにはいろんなソースが合うでぶが、今回は
     クリームを溶かし込んで葉の平たいパセリの葉を
     たっぷり加えて焼き上げた半熟のオムレツをソース
     代わりに使うでぶ』

魔王『ふむ、事前にスパイスとバターを加えたライスの上に
     カツレツを乗せ、その上に柔らかいオムレツを突き崩して
     ソースに代わりにしたと。ではこんな感じで、えいやっ』

王妹『そこまで理解しているのに姉上はなぜ実践の場で学習成果を
     反映しないのだろう』

側近『それ以前に最近は信仰者が恐ろしく増加してしまったので、
     何かを作ろうとする度に天地創造まがいの現象が発生して』




カエル執事『神を自称する数多の精神寄生体達が万単位の生け贄を
     捧げてなお成し得ぬことがああああああ』

女エルフ「カツレツの上で高度な文明を築き上げた小人さんが、
     一夜にしてオムレツの海の底に沈んだわね」

女騎士「フライドポテトを刻んで建造した箱船が肉汁と溶き卵の海で
     遭難してるわ」

女ドワーフ「たいたにーっく!」





オーク『これで出来上がりでぶ。衣の歯ごたえを残したい
     なら蓋をせずにそのまま食べて、カツレツをふんわりと
     させるなら、オムレツと一緒に蓋をして余熱が廻るのを
     しばし待つでぶ』

魔王『直ぐ食べてもいいのだが、パパと子供達が帰ってきたら
     一緒に食べたいので蓋をしよう』

王妹『今の発言だけなら、よくできたお母さんなのになあ』

側近『なんだかんだいって私たち全員、似たような水準の腕前ですから』




カエル執事『かくして大魔王とその子供達が帰還したのでございます』

女エルフ「うわー、あのデタラメ男があそまで悲壮な顔するの初めて見たかも」

女騎士「蓋をした容器の中に、何があるんだろうなあ」

女ドワーフ「調理終了から30分かあ」




大魔王『ここにモンス○ーボールが三つあるじゃろう』

魔王『誰がポケモンか』

王妹『三人とも同じ材料と調理工程を経ているので、
     できあがったモノに大きな違いはないはず』

側近『フリですね、よくわかります』

大魔王の息子『親父殿、親父殿』

大魔王『なんだいマイサン』

大魔王の息子『一番左のカツ丼、蓋が吹き飛んでキノコ雲が
     立ち上ってるで』

魔王『あ、それ余が作ったのだ』

オーク『全面核戦争で文明崩壊したようなカツ丼でぶ』

カエル執事『ガイガーカウンターの針が振り切れておりますな』

女エルフ「二番目のカツ丼、小さな赤いボール掴んだ白い人形が
     蓋を少しずつ持ち上げてるわね」

女騎士「直前に蓋が爆破されて半分は外に落ちたが、残りが
     丼の中に沈みそうだったからな」

大魔王の長女『残るは最後のカツ丼だが、何処へいった?』

大魔王の次女『さきほど丼に手足が生えて逃げ出そうとしたので
     確保しました』


カツ丼だったもの「キーキーキー」


オーク『なんで錬金術師達が追い求めてやまない新造生命体が
     台所の片隅で誕生するでぶかね』

カエル執事『二回り小さなカツ丼が十個ほど、大魔王の次女様に
     向かって突撃をかけておりますな。ええと、ママを返せとかなんとか』

女エルフ「新種族誕生っ!?」

女騎士「おいおい異端審問官が見たら卒倒する光景だぞコレ」

女ドワーフ「銀貨一枚分のお総菜で天地創造よりえぐいものを見る羽目に
     なるとは、オークの旦那も大変だねっ」

オーク『他人事みたいに言うなでぶ』

 

以上、投下終了。
魔王さんたちはゴッド力が強すぎて、うっかり調理するだけでもこういう感じに
なっているようです。

物の試しに掌編というかプロローグ部分投下。

 


 南蛮国の成り立ちには幾つもの説があり、歴史学者達にとって
彼の国は鬼門であると同時に浪漫の地である。

 そもそも彼の地に先住文明が在ったことは、南蛮国から各国に
届けられた各種の報告書と発掘品展示により明らかとなっている。
 文化資料の保護と研究を目的として南蛮国王より託されたそれらの
遺物──羊皮紙ではなく植物由来の紙と粘土板に記された複数種の
象形文字それに極彩色の陶磁器片──は、歴史学者のみならず
言語学者や錬金術師達に衝撃を与えた。

 紙と粘土板に刻まれた複数種の象形文字は、それぞれが独自の
言語であると推測された。というのも紙片の裏に走り書きのように
記された文字がエルフの古語であると判明し、途中までそれらの
象形文字群を解読しようとした形跡が見られたからである。

 最古の霊長種族を自称し他を見下していた節のあるエルフ達に
とって、これは恐ろしい事実であった。
 自己が優生主であると信じて疑わぬ一部の血気盛んなエルフは、
これらの言語は南蛮国の捏造であると主張した。が、粘土板と一緒に
提出された陶磁器片がエルフ達の国宝である王冠に象眼された彩陶と
同一種であると判明し──南蛮国にエルフ達のルーツがあると
思いこむようになった。



 が、そもそも彼の国を南蛮と称し蔑んできたのは他ならぬ
エルフ達である。
 自身が最古の種族であり神代からの奇跡を継承するもの
として他種族にも多大なる影響力を行使してきたエルフ達は、
魔族でありながら精霊神より加護と祝福を受けた新興国を
まっとうな国家として認めなかった。

 なにしろエルフである。

 生命と光と高貴なる血筋として君臨してきた彼らは、密林を
開拓し巨大なる獣達と戦って日々の糧を得る魔族達を南方の
蛮族──つまり南蛮と名付け、その呼称を周辺国にも強要してきた。

 それを、である。
 今更の、この扱いである。

 各国はエルフ達の恥知らずな振る舞いを公然と非難した。故に
各国は南蛮という侮蔑的な俗称ではなく、二人の魔女に導かれて
国を興した初代の逸話にちなみ、新たな名で呼ぶことにした。




「サンドウィッチ公国へようこそ」

 南蛮国唯一の、空の玄関。
 ドラゴン達が管理する大陸横断ジェット気流路線より分岐した、
一本のローカル線の端の端。入国審査に手続き料金それに
手間賃を考えると転送門を利用した正規ルートの方がよほど
快適かつ安価であり、日に五本という地方路線としては破格の
待遇ながら片道二十時間の旅を硬式飛行船で過ごそうという
旅行者は大抵が訳ありと言えた。

 たとえば重度の硬式飛行船マニア。

 ジュラルミン合金を外殻に貼り合わせた双胴式の硬式飛行船は、
運用コストの問題もあってサンドウィッチ公国路線でのみ試用
されている。巨人族が客として乗り込む際は、浮力を稼ぐために
気嚢にヘリウムではなく水素を詰め込むという噂さえ真剣に飛び
交う路線の名物飛行船である。マニアは噂を確かめるべく巨人族を
誘ってはこの路線に乗り込むため、サンドウィッチ公国路線に乗る
客は航空事故保険の対象外とされている。

 それ以外となれば、やはり転送門を利用したくない層が飛行船の
乗客となる。

 なにしろ転送門利用者は様々な検査を受けた上で政府の公文書
として出発記録が残される。家出、駆け落ち、その他諸々。
 後ろめたい事情を山ほど抱え、しかし新天地でまっとうに頑張ろう
という努力の方向性を間違えた者が硬式飛行船の乗客には多い。



 ひとりの女が双胴式飛行船より空港に降り立った。

 女。

 少女と呼ぶにはややトウが立ち、しかし年増には程遠い
青臭さが面立ちや肢体に見え隠れする。黒地のアンダースーツに
白革の鎧、巡回牧師に愛用者が多い六尺棒。これだけならば
巡礼の武装神官とも見える。

 が、女の胸甲には二対の翼を象った紋様があった。
 空港にて迎えの馬車を待つ旅行者たちが、少しだけ驚く。翼の
紋様を許されるのは受肉した天使のみであり、二対の翼ともなれば
高位天使の可能性があったからだ。

 天使。
 正確に言えば天使であった者は、様々な理由で受肉する。神託に
より人を導くべく降り立つもの、情愛を知り天使でいられなくなったもの、
天使としての権能を喪失したため返り咲くために功徳を積むもの。
 いずれにせよ彼女たちは自らの意志では天使に戻ることはできず、
しかし天使の力を僅かに保持し、経験により成長させることもできる。
そのため各地の神殿やアカデミーは元天使を発見するや手厚く保護し、
よき協力者であろうとする。
 つまり天使であること自体が一種の身分保障であり、転送門でも
待たされることはほぼない。

 なんか、よほどのことをやったんだろうな。

 他の乗客も空港スタッフも、女の身の上に興味はあったが過度の
干渉は避けた。飛行船利用客の暗黙の了解であり、新天地において
世話になるかもしれない相手の機嫌を損ねる行為は避けるべきとの
考えがあった。

 彼らが知り得た情報は、女がアンジェと名乗る聖騎士という事だった。
アンジェとは受肉した天使たちが好んで使う名の一つであり、本名とも
偽名とも解釈できるものである。

 彼らが驚いたのは、アンジェが騎士を名乗ったことである。
 この世界において騎士とは、国家または貴族を主にもち、貴族に
準ずる扱いを受ける武官を指す。宗教国家ならば武官と神官を兼務し、
魔法国家であれば武官と魔法使いの組み合わせとなる。前者は神聖騎士、
後者は魔法騎士と呼ばれ、騎士とは別物であると認識されている。

 受肉したとはいえ天使が神ではない誰かを主と認めたのか。
 天使なのに、ただの武官なのか。

 これが神聖騎士ならば、仕えるべき神より指示を受けて降臨したとも
解釈できる。だがアンジェはあくまでも騎士であると主張した。よほどの
事情なのだろうと彼らは考え、だからこそ硬式飛行船に乗って来たの
だろうと納得した。



 サンドウィッチ公国の主たる産業は砂糖およびその
加工品の輸出である。
 蜂蜜より糖度が高い樹液を内包するため海浜でも
貪欲に成長する固有種のサボテンは、良質の精糖原料
であると同時に上等の家畜飼料でもある。そして濃度の
高い糖であるため物理的な損傷や虫あるいは動物による
捕食で果皮に傷を受けた場合、そこから空気中の酵母が
浸入してサボテン内部に度数の高いアルコールを生み出す
ことが知られている。
 天然物でありながらアルコール度数40を越えるサボテン
由来のエタノールは僅かな加工で燃料としての利用が可能な
ほど高品質であり、遺跡から発掘された内燃機関のエネルギー
源として有望視されている。

 しかしながら諸外国が現在注目しているのは、ジュラルミンを
はじめとする軽合金の精錬加工技術と、その原料となる
ボーキサイト類の鉱脈である。

 アカデミーがアルミニウム金属の存在を公にして半世紀。
 加工素材としてアルミニウムやジュラルミンの板材棒材を安定
生産しているのはサンドウィッチ公国のみである。軍需物資でも
あるため各国もアルミニウムの精錬について研究を進めているが、
精錬に必要な「発電施設」の概念すら把握しきれずに技術顧問である
アカデミーと衝突を繰り返していた。

 もっともアカデミーとしても輸出される加工品から推察される公国の
発電施設の規模を試算し「マジありえねえ」と幾度も叫んでおり、
デタラメなからくりがあると睨み彼の国へのスパイもとい研修生を
派遣しようと試みた。もちろん、各国も同様である。

 が、サンドウィッチ公国は原則として魔族たちの国である。そもそも
蛮族と蔑まされた原因の一つが、魔に近しい者達を人や亜人たちから
隔離するように興したからだ。硬式飛行船による航路が確立するまでは、
公国を訪ねる人間は素性から厳しく審査され、特別な事情がない限りは
四十八時間のみの滞在が許されるほどだった。

 空路が開き飛行船の密航者達が勝手に住み着こうとし──全長
二十メートルを越える巨大な爬虫類や猛獣達が当たり前のように生息する
魔境と判明し──主立った国は間喋を諦め、代わりに浪漫と冒険に飢えた
物好き達が大挙し、人間を捨ててもいいから移住させてくれと懇願する事態
となった。
 結局この自殺志願者達──北方小国の姫君が鼻血を噴きながら公国
大使を招いた晩餐会で廃嫡宣言する例もあって──つまり冒険者という職業が、
サンドウィッチ公国にのみ誕生することになる。



「エレクトロン鉱石というものを知っているだろうか」

 冒険者の店。
 アカデミーの公国支部が副業として営み各地に設置した
派出所は、職業安定所と雑貨店を兼ね備えた施設である。
 情報は正確だが対応がお役所仕事なので「浪漫を分かって
いない!」と多くの冒険者はこの施設を嫌悪し、代行業者でも
ある隣接の酒場兼宿屋を愛用する。

 だから騎士アンジェが公設の冒険者の店を訪ねたことは、
店にとってもちょっとした事件だった。

「エレクトロン鉱石ですか」
「そうだ。希少ではあるが写真撮影の瞬間照明以外に用途のない
エネルギー鉱石。その採掘業者と現場を知りたい」

 アンジェの発した言葉に、アームカバーをかけた中年の小人が
唸り、分厚いメガネを押し上げる。

「情報料が発生する案件です。そして身分証明と所定の申請書、
市役所を経由して冒険者庁の決裁待ちとなりますので一週間を
目処に再びこちらへ」
「待って。情報は首都にしかないの?」
「いいえ。当施設三階、自由閲覧書架の強度資料集の最新版を
探れば自力でも小一時間で発見できる情報ですよ」
「……」
「申し訳ありません、騎士様。これがアカデミーの定めた方式です」
「ちなみに自由閲覧書架の使用料は?」
「冒険者互助会から維持費用が寄付されているので、冒険者の
方なら無料。地域サービスと言うことで地元住人と旅行者にも無料で
開放されております」
「なるほど」
「ええ」

 こりゃ誰もこの施設を使いたがらないわけだとアンジェは嘆息しつつ、
上階への階段に向かうことにした。



 自由閲覧書架と名付けられた私設図書館は、郷土資料から
児童書果ては魔道書の類まで雑多に収集された混沌だった。
 善意の寄付により集められた書物は最低限の修繕こそさえて
いるが、配置などは利用者の善意に委ねられ、司書と呼ばれる
者は存在しなかった。

 ホビットの事務員が予告したとおり、一時間ほどで目的の資料を
見つけたアンジェは、これも浪漫なのかしらと頭を抱えつつ情報を
帳面に書き留めた。硬式飛行船の空港で手に入れた上質紙の
帳面は、インクも滲まずペン先が引っかかることもないのできわめて
便利だ。アカデミーにいる旧友が知れば箱単位で買い求めるだろうと
思い、そして自分がとんでもない場所に来たことを改めて実感した。

 彼女、アンジェは奇跡の力を行使できない。
 天使だった頃、彼女は神を自称するものと契約し、その力を振るって
いた。二対の翼が示すように彼女は上級の天使とされ一つの軍団を
任されるほどの地位にいた。
 過去形である。
 彼女の契約主たる自称神が「肉体を持つ女神」の襲撃を企て、敵に
廻してはいけない者の逆鱗に触れた。アンジェと上司部下達は揃って
辞表を叩きつけ、天使としての権能を捨てることを引き替えに生存を
認められ、ついでに受肉して地上世界へと流された。本来なら魂どころか
存在根元レベルで消滅されてもおかしくない状況だった。

 だから、今度の人生では真面目に生きよう。
 そう思っての騎士就職であり、充実した数年間だった。武官とは言え
業務の多くは荘園管理をする辺境伯の補佐であり、サンドウィッチ公国と
違い野生種のモンスターとの遭遇さえ滅多に起こらない職場だった。

 良い職場だったんだけどなー。

 跡継ぎと目された辺境伯の息子が盆暗で、アカデミー崩れの錬金術師と
手を組んでアルミニウム精錬を学びに行くと書き置き残して出奔したのが
一ヶ月前である。
 本来なら即座に追いかけるべきだったが、跡継ぎの失踪に乗じて突如として
始まった後継者争い等に辺境伯が心労で倒れ、その業務などを代行している
内に一ヶ月もの足止めを喰らったのである。
 正直、あの盆暗は生きていまい。
 サンドウィッチ公国の野生動物の凶悪さを学んでいたアンジェは、床に伏せて
力なく呟く辺境伯の言葉に頷きかけて、それでも亡骸を見つけねばお家騒動は
終息しませんと告げた。
 生きていたとしても今回の件で跡継ぎの資格は失うだろう、その手続きのため
にも盆暗はせめて生首だけでも持ち帰らねばならない。

 そして盆暗の首を持ち帰った時点で、自分も解職だろう。

 お家騒動を終わらせる際に、誰かが責を負わねばならない。立場を考えて
アンジェは自身がそうだろうと確信し、覚悟も決めていた。あの盆暗ではあるが
それなりに善人で、辺境の地に産業を興そうと頑張っていた男を思い出し──
あの胡散臭い錬金術師を切り捨てなかった自分の責任だと、奥歯を強く噛みしめた。

 あの盆暗は辺境伯の後継には相応しくはない。

 相応しくはないが、人間として嫌いにはなれなかった。
 荘園農夫の子供達を集めては読み書きを教え、農夫の誰かが病気になれば
自分の温室で育てていた薬草を躊躇わずに供出できるような暗愚だった。産後の
肥立ちが悪い農夫の妻がいれば滋養のある食べ物をこっそり届けるような愚鈍であった。
 ああ、畜生。
 天使らしからぬ悪態を胸の内に吐いて、アンジェは空腹を満たすために
冒険者の店に隣接する酒場を訪ねた。



 アルコールを燃料にしたランプが壁の数カ所に架かっている。
 半地下のそこは酒場ではあるが、食堂としての機能も重視した
作りのようだった。いかにも荒くれ者と見える人間や亜人、それに
混じって舞踏会に出てきそうな礼装の貴人や可愛らしい衣装の
少女など、戯作に見る物語の一場面を切り出したような光景である。

 浪漫だなあ。

 童話や物語に憧れ、夢にまで見た生き方を求めて南蛮の地まで
来た連中が殆どである。魔族もいるが殆どが店員としてであり、
彼らの方がよほど地に足の着いた生活をしていることが滑稽ですらあった。

 そんな彼らが、視線を一斉にアンジェへと向けた。
 鎧に刻まれた二対の翼。
 無造作に後ろに束ねた蜂蜜色の長い髪、翡翠色の瞳。場違いでもあり、
この上なく相応しい容姿でもある。

 おかしい。
 自分は軽く食事をするために入店したはずだ。

 魔族のウェイターに案内されてカウンター席に座り、日替わり定食を
注文しつつアンジェは言いようのないむずがゆさを覚える。敵意でも好奇でも
なく、奇妙な期待をされているような感覚。

 何故。

 浪漫への理解が足りないアンジェは首を傾げ、そして隣の椅子に座る男の
顔が豚面であると気が付いた。
 亜人とも魔族とも言えない、少しばかり凶悪な面構え。
 肥満と言うよりは筋肉の分厚い鎧を全身にまとったような体躯。ゴブリン種
よりは大きく頑丈で、トロウルよりは小柄。人より頭一つ大きい程度の身の丈と
豚のような鼻。地下世界の鬼と呼ばれることもあるそれは、幾つかの世界に
おいて光の神と敵対する種族の象徴でもあった。
 が。

「隣を失礼するよ、オーク殿」
「サンドウィッチ公国へようこそ、騎士殿」

 今の自分には関係ないとアンジェは軽く会釈し、食事を続けていたオークも
また流暢な共通語で答え、ミントの葉を沈めた冷水を美味そうに飲み干した。

以上、投下終了。
オークさんのおにいさんが最後に出てきたという話。


この国って勇者と魔王が開拓した国?

>>478
95%くらいの確率で、勇者と魔王と賢者が開拓した国です。
たぶん300年くらい後の話。


 ニュートンジョン伯爵が一子アイザックに対するアカデミーの評価は
「焼き栗を選んだ男」という一風変わったものである。
 アカデミーが彼の存在を知ったのは家庭教師として赴任したオリバー・WCの
指導教官への書簡である。

『休火山の再活性化に伴う大規模森林火災と地熱災害、これに対処すべく
投入した結果得られた蓄熱フロギストン鉱石の有効活用に関する所見』

 なる長ったらしい題名と共に記されたのは、アカデミーの最新理論に来訪者達の
知識を組み込んだ、化石燃料とフロギストン鉱石による熱回生方式火力発電の
製造レポートだった。蒸気タービンの機構は原始的で発電コイルも粗末なものだったが、
本来であれば火災時に供えて設置するフロギストン鉱石槽を石炭ボイラーに直結し
燃焼時の余熱廃熱を強制吸着させた物を第二のボイラーとして稼働させた。
 吸熱限界と魔術による放熱制御はアカデミーでも研究中の課題である。
 アイザックとアカデミーの間で交わされた書簡は二十通に及び、十度目の報告書を
届ける頃にはアカデミーの工学院が実地検証としてオリバーと共に火力発電所の
改良に取り組み、最終となる二十度目の書簡の中でアカデミーはアイザックに対して
工学士と基礎錬金術に関する学位認定書を贈った。

 つまりアイザックの社会的な評価は実践派の工学士が先である。そして辺境伯家の
後継者、つまり特別な事情なくとも王族への拝謁を許された立場であるアイザックは、
年若い王子や王女の教育係として王都に招かれるだけの価値を自ら証明した。
 事実この時期を前後して十七歳になったアイザックとその従者である騎士アンジェは
都を訪ね、宮殿雀達の嫉妬と羨望の眼差しを涼しく流して国王に拝謁し、王族が私的に
抱えていたいくつかの問題を解決したとして「国庫ではなく王個人の資産」より
銀貨五十枚という栄誉に与っている。このときに解決した問題の正体は明かされていないが、
故郷に戻る二人を見送るために国王は供回りのもの数名のみ引き連れて都の正門まで
忍びで現れ、騎士や大臣達をひどく慌てさせている。


「焼き栗の季節来たならば、余にも届けさせよ」

 国王はそう言ってアイザックを抱擁した。この話がいくつかの痛快なる
噂話──王都では毒草であると恐れられていたトマトと馬鈴薯を用いた
辺境料理の披露──などと共にアカデミーへと伝わり、彼は王室にて
高待遇を約束されながらも辺境伯領の発展をもって王室への忠義の証
とした、と解釈された。
 御年二十を迎え美しさと気性の激しきことで知られる姫将軍との一方的な
ロマンスより逃げたという、まことしやかに語られる冗談のような仮説もある。
 この仮説については現在も検証中だが、エレクトロン鉱石を用いた
アルミニウム精錬法の調査にサンドウィッチ公国へ行き消息が途絶えた際、
この姫将軍が至極まじめな顔で騎士団詰め所に辞表を提出し国外脱出を
試みたという未確認情報も流れている。



 さて、そのニュートンジョンソン辺境伯が一子アイザックの現在はというと。

「くくく。若人よ、よくぞ我らヘル暗黒神教団の邪神復活計画を察知した。
エレクトロン転換炉より放出される莫大な魔力を用いた神性召還と疑似肉体の
構築──ジュラルミン製造の優良国営企業とは、我らが神を現世に顕現させる
ための隠れ蓑よ!」
「そうか。では急いで邪神を顕現させてくれ」
「え」
「だから、周辺地域一帯の魔力が過飽和になって特異点化する前に、神を顕現
して魔力を枯渇させてくれ」

 新進気鋭の重工業会社社長として近年注目されていた青年実業家が
邪神崇拝者としての素顔を露わにしたアルミニウム精錬炉前で。
 三日ほど徹夜の後に駅馬車を乗り継いで駆け込んだアイザックは、心底安堵
した顔で邪神崇拝者達の企みを歓迎した。



「え、なんで?」
「おいこら邪神崇拝者。俺は邪魔しないって言ってるんだから、とっとと
邪悪な神と眷属48体でも顕現させてアイドルコンサート開けよ」
「止めないの、か?」
「一刻を争うんだよ、さっさと儀式行って邪神顕現のためにありったけの
魔力を使えって!」
「……やだ」

 見た目ならば三十代後半。
 鷲鼻と整えた髭が色気を醸し出す、いかにもプレイボーイ然とした青年
実業家は、アイザックの言葉に幼児退行したかのように拒否を示した。
 彼の背後にていかにも実用性に乏しい儀式用の大剣を掲げていた黒い
山高三角頭巾の邪神崇拝者達も、うんうんと頷いている。

「邪神だぞ、顕現したら世界が滅びるか我らの支配下になるかもしれな
いんだぞ!? 当然、この秘密に気付いた心ある若者が冒険者とか雇って
殴り込んでくるのが筋だろう!
 それがなんだ!
 カムフラージュで行った慈善事業は国家の犯罪率を大幅に下げ、雇用を

生み出し! 治安を乱してやろうと大量に栽培して流通させた麻薬は! 
外科治療用の麻酔薬として野戦病院や終末医療の治療院で大活躍だ! 
村落を襲撃して奴隷を確保しようと思ったら突発性の死病に冒されていた

村で! 分かるか! 邪神ってのはな、正常な人間を恐怖させたり絶望
させるのが大好きだから! 防疫とか治療とか医療法面にも特化してる
んだよ! ふざけんな! ラスボス準二級検定にどんだけ苦労したと!」
「ええと」
「こっちはな、若造! 邪神復活の儀式を行う祭壇まで十二の関門を用意
してだ、五人集、四天王、三幹部を配置して待ってたんだよ! 途中で
パワーアップアイテムとか邪神顕現阻止の秘密とか、何名か正義の側に
寝返るとか悲恋の果てに散る女戦士とか!
 なんで一人でくるんだよ!
 しかも事前に早馬と魔法通信でアポイントとった上で、菓子折り持参で! 
礼儀正しすぎて受付嬢が直通の廊下使ってここまで案内したじゃねえか!」
「完璧な社員教育だったと思う」
「ええい浪漫を理解しない人種はこれだから! ……ところで、だ」

 丸腰どころか略式とはいえ正装で現れたアイザックを前に青年実業家は
襟を正し、咳払いをした。



「君が先程からこちらに説明している魔力特異点現象について、具体的な
危険性を教えてくれ」
「それほど難しい理屈じゃない。魔力が一ヶ所に特定水準以上収束された
場合、純化しすぎた魔力の持つ浸食力によって存在固定されていた物質や
空間が『それ以前の要素』との平衡状態になり、莫大な量の魔力を周辺に
放出しながら連鎖自壊する特異点が発生する」
「つまり」
「放置したら世界そのものが消滅する」
「荒唐無稽すぎて信用できん。その場合世界が滅ぶまでの所要時間は」
「特異点が直径1メートルに成長するまでは、周辺の物資量にもよるけど
おそらく48時間。直径が1メートルを超えた瞬間、特異点の膨張速度は音速を突破する」
「音速?」
「……火薬式の先込銃の弾丸と同じくらいの早さで物質と空間が崩壊する
エリアが生まれる。基本的に質量や魔術由来のエネルギーをぶち込んでも
特異点拡大を食い止めるのが精一杯で、要するに特異点周辺の広範囲の
魔力を枯渇させるのが唯一の方法」

 これが計算式だと、紙片を取り出しアイザックは青年実業家に突きつける。
錬金術の素人でも分かるようにと緑の恐竜と赤い雪男のマンガ付で説明された
それは、そのまま出版社に持ち込める水準だった。

「詳しくはここに」
「わかった、内容はさっぱりだが当社の福利厚生部門である巡回牧師用の
紙芝居作家としてスカウトしようじゃないか」

 暗黒神崇拝者とは別方面の社会的地位よりアイザックの才能を見抜いた実業家は、
目の前の侵入者に敵対の意志がないことをようやく納得した。フロギストンから
エレクトロンへ転換し、その際に過剰に放出される魔力についての技術を独力で
開発した彼らである。アイザックの提示したメモに一定の説得力があることを即座に
理解する。建前上は暗黒神を顕現させてその威をもって世界征服を企み、
その過程において勇者達と戦い果てることを夢見ているような酔狂人どもだ。
世界そのものが消滅すると言われては仕方がない。


「よし、ヘル様顕現の儀式を発動する。それと青年、特異点とやらの
発生に前後して何か留意すべき事項はあるかね」
「特異点が発生する魔力溜まりでは通常ではあり得ない密度の魔力が
蓄積しているから」

 かつてフロギストン鉱石のみで発電施設を作ろうとした際、アンジェに
注意された事柄を思い出しながらアイザックは直近の問題となるであろう
ことを指摘した。

「その影響を受けて死体がアンデッド化したり生物がミュータント化
することが予想される」
「分かった。幸いにも付近に墓地やその類の遺跡は確認されていない。
アルミニウム精錬用のエレクトロン転換装置は地下の石炭の廃坑道に
設置しているが、動物の死骸などが無いよう兵士を──」
「まってくれ」
「なんだね」
「石炭の、廃坑?」

 ぎぎぎ、と硬直するアイザックに青年実業家は首を傾げる。

「問題なかろう?」
「──火力発電所を作る際に、オリバーから聞いたことがある。石炭とは
古代の植物が大量に積み重なり石化した代物だと」
「む」
「植物が堆積する際、うっかり太古の動物達が巻き込まれる場合がある
こと。実際、巨大な巻き貝とか分類不能な巨大生物が見つかることも」
「つまり」
「早いところ周辺の魔力を枯渇させないと」

 直後。
 地面が揺れた。
 正確には地面を突き破り、アルミニウム精錬用の巨大な電解炉を包み
込むように異形の樹木が現れる。

「なるほどこれが浪漫に曰くフラグ乙というものかあ!」



 吹き飛ばされながら歓喜の声を上げる邪神崇拝者達。青年実業家の袖を
掴んで引き寄せていたアイザックは運良く樹木から逃れていたが、傾いた
電解炉の中身が漏出するのは時間の問題だった。

「特異点は地下だ。融けたアルミニウムが流れ込んだら打つ手もなくなる!
 早く神を!」
「待て待て、この状況でインスタントな召喚をしても浪漫が」
「ばっかだなー、ここで世界のピンチを暗黒神が颯爽と解決すれば世間の
評価も一気に変わって『地味で根暗な邪神』から『闇を守護し世界を裏から
支えてきた寡黙なる女神』にステップアップするぞ」
「それは浪漫だ。実に浪漫だ。大変結構な浪漫じゃあないか」
「ならば召喚だ」

 アイザックの言葉にころりと表情を変えて陽気に笑った青年実業家は、
術式を複雑に組み込んだ紙片を取り出した。

「本来ならば勇者との一騎打ちの果てに破れた私が自らの命と引き替えに
ヘル様を顕現させるために用意したとっておきの一枚だが、ここが勝負札の
切り場所だ。おいでませ、ヘル暗黒神!」

 これだから浪漫主義者はと呆れるアイザックにひきずられつつ青年実業家が
発動させた術式紙片は空中に複雑な紋様の魔法陣を描く。十六段もの法円を
組み合わせた魔法陣が起動するや、雨後のタケノコのごとく突き出てきた
巨大植物は動きを止め、傾いていた電解炉も元の位置に戻る。

「よし、やったか!」
「召喚した私が言うのもアレだが、普通は邪神召喚とか阻止せんでいいのかね」
「むしろ至極まっとうにアルミニウム精錬かまされて無自覚に特異点を発生
させられる方が怖い」
『まったくじゃ。恒星間航行船の燃料装甲材が軽金属精錬の蓄電池代わりに
されるとは余達にとっても意外すぎる展開じゃったわ』
「ですよねー。フロギストン鉱石が天然産出されるって話をしたときアンジェも目を
丸くして驚いていたし」



「なるほど。ときに若人、質問がある」
「奇遇だね、僕もあんたに訊きたいことがある」
『なんじゃなんじゃ、男同士で見つめ合って。そなたらアレか、そういう趣味か』

 男二人は沈黙し、見た。
 アイザックの胸元にしがみつく、小さな女の子。
 デフォルメされた頭身で、そのくせメリハリのついた体型は彼らの知る亜人種には
該当する物はない。それが黒タイツに黒のレオタードついでに黒のウサ耳ヘアバンドを
装着しているのだ。登記のように真っ白な肌と艶やかな黒髪は、これが7頭身以上
あればと青年実業家が思わず唸るほどである。

「君は、誰だい」
『ご指名いただきました、キャバレー暗黒神殿のウサミちゃんです──ではなくて。
この場合は太陽の三姉妹が眷属、風魔王が直臣の一、夜兎埜神こと死神ヘルでも
良し。私のことは好きに呼ぶのじゃ』
「若人、召喚に失敗したようだ。急いで次の術式を用意させる」
「よしきた。魔力は多少は減ったようだが爆発的に消費して枯渇させないとまずい、
いったん退却して作戦会議だ」
「応」
『おいこらまて二人とも、私の顕現で特異点そのものは消滅しているぞ。もっとも範囲外に
拡散していた魔力が収束して再度特異点にならぬよう地下の化石獣たちに注ぎ込んで
カンブリア爆発も真っ青の生命混沌が誕生しているからな、逃げるに越したことはない』
「え」
「は」

 ウサ耳少女のすっとぼけた説明の直後。
 動きを止めた古代樹の代わりに、全長数メートルを超える巨大な外骨格生物が
無数に地面から飛び出してきた。

『この世界においては約三億年ほど昔の時代に君臨した魚類や両生類ついでに爬虫類の
一部と昆虫類が、悠久の時を経て蘇り大地に君臨する!』
「おお、なんという浪漫!」
「言ってる場合かあ!」

 妙な部分で浪漫を刺激されたか感涙する青年実業家の襟首をつかみウサ耳少女を
貼り付かせたまま、アイザックは力の限り走り出しその場からの逃走を開始した。

以上、投下終了。

いまさらだが、11/09は「いいオーク」の日だったらしいね

いまさらだが、11/09は「いいオーク」の日だったらしいね

ああ、連投すまそ

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