幸子「ボクのシンデレラストーリー」 (34)

—まずは少しだけ、昔のお話を振り返りましょう。

ゴロゴロッ、とタイヤを鳴らす旅行鞄を引っ張りながら、わき目も振らずにビル群の中を駆け抜ける一人の少女。

142cmの体には大きすぎる鞄に振り回され、時折よろめきながら歩く姿は自然とすれ違う人々の目を引きます。

周囲の視線を集める理由は、何もその危なげな挙動だけではありません。

足元がふわりと広がったレースのフリルワンピースと、水色のリボンが可愛らしいキャプリーヌハット。

白を基調としたコーディネートに、首元の赤いリボン付チョーカーがキュートなアクセントになっています。

そんな深窓のお嬢様然とした身なりは、雑多な都会の中で一層際立つのは尚のこと。

それらの衣装を着こなす(自称)カワイイ容姿と、優雅な中にも強い意志の宿った眼差し。

……最後に、ピンクの蛍光色が眩しい足元のランニングシューズ、これが止めだったのかも知れません。

幸子「さ、さすがはボク。カワイイだけでなく、不足の事態にも用意がいいですねっ!」ハァハァ

ですが少女はそんな視線には目もくれず☆印の付いた地図を片手に、目的地へ向かってひた走り続けます。

幸子「お婆さん、あの後は大丈夫だったでしょうか……って、今はボクがピンチなんでしたっ」ハァハァ

これはそんな(自称)セクシーな少女がアイドルの道を志し、花開く迄の様子を描いたお話です。

もし最後までお付き合い頂けましたら、幸いです。


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期待、支援

【イメージイラスト】

・ネオラントとさちこ | 林檎ゆゆ [pixiv]
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幸子はネオラントカワイイ

・背中の小さな羽は、カワイイボクが天使だって証拠です! | 倉林 文[pixiv]
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=36318311
天使が舞い降りたー

*作者様に飛び込みでリンク許可頂きました。ありがとうございます。


幸子「ま、ま……間に合ったぁ!」ゼェゼェ

肩を大きく上下させながら膝に手をつき、汗を拭いながらも不敵な笑みが顔に浮かぶ。

幸子「プロデューサーさん、ボクに会えるのを楽しみに待っているんでしょうね。ふふーん!」

そう。ボクこそは、混沌としたアイドル界に旋風を巻き起こす台風の目!現世に舞い降りた天使!!

その名も 輿 水 幸 子 です!!!

心の中でドン!と効果音を鳴らし、目的地のビル前で仁王立ちになるボク。

あぁ駄目ですよプロデューサーさん!いくらボクがカワイイからって手の甲にキスなんて!

「あの、お嬢さん?」トントン

幸子「まずは足からでしょう?仕方のない人ですね!…もう、何ですか?これからって時に」

警備員「入り口の前に立たれますと、通行の妨げになりますので。移動願えますか?」

じとっ、と周りの方々から睨まれ我に返るボク。

な、なんですか……そんな目で見なくてもいいのに。ここはビシッっと言ってあげないと行けませんね!

幸子「あのですね、ボクをよく見」

?「はいはい、分かったから早くどこうなー」ヒョイ

幸子「っひゃあぁぁあ!?」

瞬間後ろから両脇を支えられ、体を宙に持ち上げられたかと思うと抵抗空しく隅っこに持ち運ばれてしまうボク。

幸子「なな何てことするですか、あなた!ボクがカワイイから誘拐しようっていうんですね!気持ちはわかりますけ……ど」


高い高い状態から開放され怒鳴りつけようとすると、先程まで頭の中にいた男性が呆れ顔でボクを見下ろしている。

P「おまえは相変わらずだな。どこに居ても目立つヤツめ」

幸子「で、出ましたねプロデューサーさん!あ、ボクに会うのを待ちきれなかったんですか?お迎えなんて気が利くじゃないですか」フフン

P「騒がしいと思って来てみただけだ。それより受付時間押してきてるぞ、遅れるなよ?」

言うが早いか、踵を返しボクを置いていってしまうPさん。

幸子「あ、待ってくださいよ!……行っちゃった。久しぶりに会えたと思ったのに、もう」

でも時計を見ると、確かに急いだ方がいい時間だ。

いつの間にか隣に置かれていた鞄を手に取って、改めてボクは事務所へと走り始めました。

幸子「ふーーっ、は〜」

受付を終え待合室、その隅っこに移動したボクは大きく大きく、深呼吸をひとつ。

幸子「大丈夫に決まっています。ボクは、カワイイんだから!」

これは、一つのおまじないみたいなもの。

お父さん、お母さんからたくさんもらってきた言葉を胸に、ボクはいよいよアイドルプロダクション
”シンデレラガールズ”の所属テストに臨みます!

幸子「あ、その前に。人、人、人…あー、っん。うん、おまじないって大事ですよね」

ちひろ「はい、次の方どうぞ。書類、こちらに受け取りますね。簡単に自己紹介をして頂けますか?」

幸子「こしみずさちこ、14歳です。出身は山梨県です。本日は、よろしくお願いします」ペコ

そして、いよいよ始まったボクのテスト。

途中で噛んでしまわないように、はっきりとした発声を心がけた自己紹介と深いお辞儀。

……ふふん、礼儀作法は小さい頃から鍛えられているので余裕ですね!

ちひろ「はい、丁寧にありがとうございます」ニコ

今日、この場にいらっしゃるのは女性が二人と、男性一人。

先ずは笑顔が素敵な事務員の女性。名札に「ちひろ」と書いてあり、柔らかな印象に少しだけ緊張が癒される。

次に男性の方は、言うまでもなく先程のプロデューサーさん。

ただ先程までと違うのは、その鋭い目線。何やらこちらを値踏みするような視線を感じ、少しだけ気後れしてしまう。

P「久しぶりだな、幸子。今日は期待させてもらうよ」

幸子「はい、ご期待に沿えるよう頑張ります!」

試験の場なので、さすがに丁寧な言葉で返しておく。Pさんは一瞬おや、という顔をしたもののすぐに素面に戻る。

そして最後に、もう一人の審査員と思われる女性。

みく「なかなか礼儀正しいね、よろしくにゃ。みくのジャッジは厳しいよ!」

この人が何とこのプロダクションの看板アイドル、前川みくさん!

そのシンボルである猫耳と、語尾の”にゃ”。何より彼女はボクも注目しているアイドル、見間違い様もない。

ただ画面でよく見る笑顔とは違い、今は獲物を狙うような鋭い目つきでボクを眺めている。

新進気鋭のプロダクションと言っても門戸は広いと聞いていたし、テストももっと穏やかな感じかと思っていたけれど。

まるで、撮影でも始まるかのような緊張感。それだけボクの才能にかけている、って所でしょうか。

予想以上にピリッとした空気に、身が引き締まる。


P「早速だけど、テストを始めようか。少し予定を変えるが、ダンスから見せてもらってもいいかな?」

穏やかで、その割りにはっきりと通る声。有無を言わせぬ口調で、プロデューサーさんはそう言い放つ。

(あれ、最初は面接からの筈なんじゃ)

事前に貰っていた案内との違いに早くも緊張をぶり返しそうになりながら、慌てて問いに答える。

どちらにせよ今のボクには選択肢がないのだから。全く、あわてんぼうな人ですね!

幸子「っはい、お願いします!」

P「じゃあまずは、トンベ・パドブレ…プレパレーションから、ピルエット。いけるかな?」

指示に合わせステップをこなしていくけれど、いつもの高い所から床へ足が伸びる感覚からは程遠く、体が重い。

泥に捕らわれたような感覚に襲われ、次第にボクへの視線も厳しいものになって来るような気さえして来る。


幸子「っは、は……」

P「ごめん。一度ストップしていいかな」

止められた……もしかして、こんなに早くに、もう。背中を汗が伝うような、嫌な感触。

幸子「あの、まだっ!」

考えるよりも先に、口が動いていた。

P「あぁ、心配しないでいい。少し固くなってるみたいだから一度、息を整えてくれ」

幸子「……はいっ」フーッ

気を取り直して、深呼吸。大丈夫、ボクはカワイイんだから!

緊張をやっつけるように思いながら、目の前のプロデューサーさんを見据える。

……睨んでるみたいに見えてしまったかも。

P「なんだ、もう切り替えは出来たみたいだな」

幸子「—ボクは、カワイイですから!」

自分に言い聞かすように、言葉に出して答える。テスト中の発言としては良くないかも知れないけど、
言ってしまったものは仕方ない。

こうなったら、思いっきりボクらしく行きましょう!


——

幸子「どうですか、プロデューサーさん!さ、次はボーカルですか?演技ですか?何でも言ってくれて構いませんよっ」

その後は開き直ったのが功を奏したのか小さなミスは出たものの、最後まで力強く踊りきることがでたボク。

汗も拭わず、今度は逆にPさんをせっついてあげる。

P「……やはり、大したタマだ。これなら試す必要も無かったかもしれないな」

軽く微笑んだ後、とたんに柔らかい口調になるプロデューサーさん。

あ、いつものPさんの顔だ……。

ちひろ「もう、Pさんは意地悪なんですから。もう十分納得できましたか?」

続けてくす、っと笑いながら事務員さんがPさんへ顔を向ける。

ちひろ「でも。少し、やりすぎなんじゃないですか?」ジトッ

みく「Pちゃんは女の子をイジメるのが大スキだからにゃー」

P「いや、期待以上だったもので、つい。それとみく、私語は慎むように」

みく「なんでみくだけ!ひどいにゃ!」


幸子「え?えっ、どういう……ことですか?」

さっきまでとは全く違う、一変して穏やかな雰囲気に戸惑ってしまうボク。

ちひろ「ごめんね、幸子ちゃん。本当は事前の資料だけでも充分だったのにPさんがテスト形式でやりたいって聞かなくて」

P「どうしても、ここの空気に慣れる前に経験しておいて欲しかったんだ」

P「幸子は高いポテンシャルを持っているが、周りから強いプレッシャーの中でパフォーマンスをした経験が乏しいようだったからな。
意地が悪いとは思ったが、あえて緊張を高める演出をさせてもらった」

P「まあ単純に反応を見たかった、てのも否定はしない。担当アイドルの魅力をいち早く把握しておくのもプロデューサーの仕事だ」シレッ

みく「本音が出たにゃー。ま、Pちゃんの気持ちも少しは分かるけどにゃ。みくも最初はやられたし、愛の洗礼ってやつかにゃ?」

飽きれたように肩をすくめて笑い合うみくさんと事務員さん。

P「あれはおまえが突っかかってきたんだろうが。全く」ガシガシ

みく「髪が乱れるにゃっ、撫でるならもっと優しくするにゃ!」フー

……な、何を担当アイドル(予定)の前で他の女の子といちゃついてるんでしょうか……

暫くは呆気にとられていたけれど、その光景をきっかけにふつふつと怒りがこみ上げてくる。

幸子「—じゃあ、ボクは。プロデューサーさんの思いつきであんな目に遭わされたっていうことですか……?」ジワッ

P「えっ。だからもちろん、テストとしての意味もあったんだぞ?プレッシャーの中でどう対応するか、とかだな」

みく「Pチャン、みくにも頭もふもふさせるにゃ!お返しだよ!」

少し慌てながら弁解し始めるプロデューサーさん。そんな台詞は頭に入らず、さっきまで必死になっていた自分と目の前で戯れる
二人の姿を眺めていると余計に惨めになってくる気がして、抑えがきかなくなる。

幸子「おかしいとは思ったんです。二人とも目付きがコワいし、進行も予定と違うし、そもそも……」フルフル

P・ちひろ「?」

幸子「ボクは、スカウトされて来たハズなのにっ!失望しました、みくさんのファンやめます!」フギャーッ!

みく「え…ひどくない?」

P・ちひろ「」


ちひろ「あぁもう、泣かしちゃって。これで辞退なんてされちゃったら、大変ですよ?」フフッ

P「参ったな……ここまでとは、期待以上かも知れん。なんて言ってる場合じゃないか」

P「幸子、悪かった。頼むから、泣き止んでくれないかな」ナデナデ

幸子「泣いてまぜん!プロデューサーさんは優しい人だと思ってたのに゛っ」ゴシゴシ

みく「さっちゃん酷いにゃ!みくのファンやめるだなんて!」

幸子「だって!みくさんだって知っててPさんに協力したんじゃないですか、知りませんっ」グス

みく「ふぇぇ……正論すぎるにゃ」

—その後、暴走してしまったボク(とみくさん)が落ち着くまで、Pさんは延々と付き合わされるのでした。

みく「ごめんにゃさっちゃん。みくはイヤだって言ったのに、Pチャンがどうしてもやれって。ひどいよにゃ?」

幸子「ボクこそ言葉が過ぎました、頭に血が昇ってしまってごめんなさい……もう一度ファンになっても良いですか?」

みく「もちろんだにゃ!みくもさっちゃんのファンになってもいいかにゃ?」


幸子「ふふーん、もちろんです!カワイイボクのファン第2号になれるなんて光栄なことですよ、感謝してくださいね!」ドヤァ

みく「お、おぅ…にゃ。ん?2号てことは愛人だにゃ!本妻はどこに居るにゃ!?」

幸子「変な言い方しないで下さい!い、1号はプロデューサーさんですけど。ボクの魅力に気付いてくれた御褒美ですから♪」フフン

みく「へぇー、御褒美かにゃぁ。にゃるほど、にゃるほど」ニヨ

にやぁ、と顔を綻ばせると流し目でボクにしなだれかかるみくさん。

幸子「何ですか、その満面の笑顔は。ま、またイジメる気じゃないでしょうね?」

みく「そんなんじゃないけどにゃー。でも、ライバルは多いかもしれないよ?」クスッ

たじろぐボクに、そっと耳打ち。

幸子「な、なっ……//」カァァ

こうしていつの間にか、意気投合していたボクとみくさん。きっとカワイイ者同志、通じるものがあるんでしょうね!

P「うんうん。これぞ雨降って地固まる、って奴だな。幸子、これからよろしくな!」

幸子・みく『誰のせいだと思ってるん(ですか!)(だにゃ!)』

P「大変申し訳御座いませんでした」ペコー

初日から、箱をひっくり返したような大騒ぎ。

でも初めて頭を撫でてもらったの、そういえばあの時でした。最初から優しくしてくれればよかったのに!

でもたまには弱いところも見せちゃうボク、やっぱりカワイイですよね!

……さ、さすがに少し恥ずかしいですが//

少し休憩いたしますm(__)m
イメージイラスト�

非常にクール | 林檎ゆゆ [pixiv]
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=35682185
勢いづいたもののすぐひるんじゃう幸子可愛い

\ここにはいないぞ!/ | イテス [pixiv]
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=35884598
\ここにもいないぞ!/

面白そう
期待

>>19
ありがとう(´・ω・)見てくれてる人がいて、嬉しいです

只今速報落ちてたから見れなかったぜ。
期待して支援

>>2もありがとう。それでは、続けます。

>>21 ありがとうございます。落ちてたんだ、少し心配。


こうして晴れてプロダクションの所属アイドルとなったボクですが、活動が始まってからの道なりも決して平坦ではありませんでした。

連日の厳しいレッスンもさることながら、思い出すだけでお腹が痛くなるお仕事の思い出だってあります。

あれはライブバトルと言われる、地域毎のパフォーマンス対決のエリアボスを務める役柄でした。

当時、実績もない新人アイドルがボス役に抜擢されるのは異例なことで。

P「本当に、大丈夫か?正直、少し早すぎるとも思ったんだが。……チャンスであることは間違いないが、難しいぞ」

幸子「プロデューサーさんはボクについて来てくれればいいんです!ボクがアイドル界を席捲する様を見せてあげますよっ」フフーン

まだ何も知らなかったボクが、やっと舞い込んだ大きなお仕事に少し調子に乗ってしまったのも仕方ないことだと思います。

—そんなボクを心配そうに見つめるPさんに、何の疑問も抱かなかったことも。


——

幸子「こんなにカワイイアイドルのボクに挑もうなんて…ヒドいことを考えますね! ま、ボクが一番ですけど♪」

そしていざ、バトルが始まってみると。

「ん…そうだ宿題あるから帰んなきゃ…ふ、ふふーん!」

「………あなたに花を持たせてやるボクって本当に優しいですね!」

「むー……たまたまなんですからねーっ。ちぇっ!」

先輩方との実力差は大きく、ボクの自信はあっという間に打ち崩されてしまいました。

初戦から一度も勝利することなく、捨て台詞だけが増えていく日々。

今でこそ落ち着いてお話できますが、当時のボクの落ち込みは相当なもので。

幸子「ぐすっ、なんで皆、ボクのカワイさを分かってくれないんですか……」

夜毎そんな泣き言をつぶやいては、一人で枕を濡らしていました。

でも、きっと頑張ってお仕事を取って来てくれたPさんには悟られたくなかったから。

幸子「心配なんて必要ないです。そんなことをしている暇があるんだったら、スケジュール調整でもしておいてください!」

幸子「カワイイボクはすぐに有名になってしまいますからね!ぼうっとしてる暇はありませんよ?」

そんなことを言いながら、必死に強がっていました。

それからもう少し後、ライブバトルでの連敗が二桁に乗ったさなか。

帰りの車内でボクはすっかり意気消沈していました。

その気配を察してか、いつものように喋りかけようとはせず黙々と運転を続けるPさん。

もしかしたらボクはこのまま、誰にも気付かれずに消えていってしまうのかな?

負の思考がループして、そんな悲しい考えまで頭に浮かんできてしまう。

P「…残念だったな、幸子」

すると、とうとうPさんが重い口を開きました。

P「だが、そう気にする事はないぞ。段々パフォーマンスの質は上がっているよ。それに、何より…」

幸子「—もう、イヤです」


P「幸子…?」

穏やかなPさんの声を聞いていると、緊張の糸が切れてしまい堰を切ったように言葉が溢れ出す。

幸子「もう、やだぁ……。皆、ボクの事わかってくれない……」ポロ

幸子「プロデューサーさん、ボク、ダメな子ですか?頑張ってるのに、誰にも見て、貰えない」ポロポロ

こんな弱気な言葉、聞かせたくないのに。一度言い出してしまうと、どうしても止められない。

Pさんがはっと息を呑む顔を見るのが余計に辛くて。ボクは、顔を手で覆って泣き崩れてしまう。

P「……辛い思いをさせてすまん。全ては、俺の責任だ。だが今の壁を越えたら、必ずおまえをトップアイドルにして見せるから」

P「もう少しだけ、一緒に頑張ってくれないか?」

幸子「—イヤですっ。やだ、やだっ……」

頭を振りながら、駄々をこねるように泣き続けてしまう。Pさんの困った顔を見るのが辛くて、とても顔なんて上げられない。


P「そう、か。……泣いてばかりいると、目に悪いぞ」

幸子「そんなの、気にしません。ボクは、もう…」

それを言ったら、楽になるのかな。気持ちは折れている筈なのに、何故か最後の言葉を紡ぐのが憚られる。

P「少し、休憩しようか」

短い沈黙の後にふっ、と息を吐くとハンドルを切って進路を変えるPさん。

暫くして微かなブレーキ音を鳴らし、止まった車。周りを見渡すと、大きな公園の駐車場の様でした。

とうとう鼻まで詰まってきてしまいふう、ふうと口を開けて息をする。静かな車内ではその音がとても耳障りに感じられた。

怒られるのかな。…それとも、もう愛想を尽かされた、とか。

イヤな考えばかりが頭を巡り、やり切れなくなってまた涙で視界が滲んできてしまう。


P「なあ幸子。知ってるか?」

ハンドルから手を離し、シートベルトを外したPさんはそんなボクの手を取って。

P「ここのツボな、目に良いんだってさ」

幸子「ふぇっ!?ん……ぅ」

体をすくませたボクを気にする様子もなく、いきなり手のマッサージを始めたのでした。

余りに突飛なPさんの行動にまともな反応もできず、成すがままのボク。

P「小指の第一関節、中央ら辺な。ドライアイにも効くらしいぞ」モミモミ

そんなボクを尻目に、つらつらとツボの解説をしながら指圧をするPさん。

P「後は、手のひらの真ん中より少し下。胃が悪いときに、いいらしい」グッグッ


幸子「ぁ、少し……いたい、です」

P「ここは少し強めに押した方がいいんだと。ちょっとだけ、我慢な」ギュー

幸子「そ、そんなことよりっ。何でマッサージなんですか?いきなり、もう」クス

いたって真面目な顔で続けるPさんに気が抜けて、つい笑ってしまうボク。

P「実は最近凝っててな。ついでに疲労回復と、背が伸びなくなるツボを押してやろう」グリー

幸子「最後おかしいですよねっ!まったく……もうちょっと、上手に慰められないんですか?」フフッ

P「……幸子は、強い子だな」

幸子「ボ、ボクはカワイイですからね!えっと、さっき慰めてくれてた時なんて言いかけたんですか?
Pさんが頑張って考えた台詞、仕方ないので聞いてあげても良いですよっ?」プイ

手を握ったまま近距離で見つめてくるPさんに恥ずかしくなり、取り留めない事を口走って顔を逸らしてしまうボク。

うぅ、何でこんなに顔が熱いんでしょう。泣いたからだけじゃ、ないですよね。

すいません、所用のため続きは夜に書き込ませて頂きます。残り半分位、またお付き合い頂けましたら幸いですm(__)m

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