ロボメイド「100年休まずに」(89)

メイド「気温25C°、湿度61%」

メイド「人間の皆さんには過ごしやすい一日になりそうですね」

メイド「そう思いませんか?ご主人様」



メイド「さて、それでは書斎のお掃除から始めましょうか」

メイド「頑張りますよ」

~書斎~

メイド「……」ピピピ

メイド「書籍のダメージを判定」

メイド「ダメージ基準値と照合……基準値を下回っています」

メイド「雑菌含有率2%」

メイド「清掃内容確定、清掃開始します」

メイド「……」テキパキ

メイド「……」テキパキ


メイド「……」テキパキ



メイド「……」テキパキ


メイド「清掃を完了しました」

メイド「続いて広間から庭園にかけての清掃に移ります」

メイド「……おっと、換気を忘れていました」

カチャカチャ

キイィ……


サァァァァァァァァァア

メイド「……風が気持ち良いですね」

メイド「なんて、分かるわけないんですが」

メイド「冗談を言ったのに、お嬢様は笑って下さらないんですね……」



メイド「もっとジョークを勉強しますね」

メイド「では、今度こそ広間から庭園にかけての清掃に移ります」

~広間~

メイド「奥様、おはようございます。」ペコリ

メイド「清掃を開始したいのですが宜しいでしょうか」


メイド「……清掃を開始しますね」

メイド「スキャン開始」ピュィィン

メイド「……」ピュピュピュィ

メイド「……今日は空気中の塵が多いですね」

メイド「空気清浄モードを起動」コォォォォオオ

メイド「同時にミストを起動、湿度の上昇を計ります」シュゥゥゥ

メイド「掃き掃除に移ります」テキパキ

メイド「奥様、いつも通り換気は無しで宜しいでしょうか」コォォォォオオ


メイド「……換気は控えさせていただきますね」シュゥゥゥ




メイド「奥様、清掃が完了しましたが紅茶はいかがでしょうか」


メイド「……庭園の掃除に移りますね」

メイド「奥様、恐縮ですが健康には適度な運動が1番とされています。宜しければ私と庭園へと参りませんか?バラやコスモスが綺麗ですよ」


メイド「……」

メイド「……それでは、私は庭園へ参りますね」

~庭園~

メイド「気温30C°、湿度70%」

メイド「いつも通りです」

メイド「チョコ、貴方は本当にここが好きですね」

メイド「犬には少し暑いと思うのですが、貴方は不思議ですね」

メイド「ご飯と水は変えてありますからね」


メイド「では、お手入れをしましょうか」

メイド「過去データを参照。レイアウトをロードします」ウィィィン

メイド「春らしいコーディネートにしましょう」

メイド「腕部シザーを展開します」カシャガシャーン

メイド「では、開始します」チョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキ


メイド「……」チョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキ


メイド「ふぅ、こんなものでしょう」

メイド「……別に疲れは感じていませんが、溜息を吐くのは中々癖になりますね」

メイド「チョコ、剪定が終わりましたよ」

メイド「たまには走り回った方が犬らしいですよ」


メイド「……では、私は寝室へ向かいます。またね、チョコ」ナデナデ

~寝室~

メイド「坊っちゃま、お体の具合はどうでしょうか」

メイド「カーテンを開けますね」シャッ

メイド「本日はミルクティーとプレーンティーが入っておりますが、どちらになさいますか?」


メイド「……いつも通りミルクティーに致しますね」

メイド「砂糖は3個……でしょう?」

メイド「うふふ、覚えていますよ」

メイド「……」

メイド「それでは、失礼しますね」


メイド「お仕事が終わってしまいました」

メイド「……自分のメンテナンスでもしましょうか」

メイド「自室に戻ります」スタスタ

~メイドの部屋~

メイド「……」ヌギヌギ

メイド「……文句を言うのはどうかと思うのですが、なぜメイド服はこんなに着脱の手間が多いのでしょうか」スルスル

メイド「考えた人の気持ちが分からないです」パサッ

メイド「……」

メイド「ご主人様達が、美しいと仰言って下さったこの身体」

メイド「でも、どれだけ人に似ていても私は人ではないのですね」

メイド「……」

メイド「不思議です。それを思考すると全身の回路が微弱なパルスを発します」

メイド「……故障の原因になりそうな事は避けましょうか」

メイド「メンテナンスを開始しましょう」

メイド「全身の機能を展開します」ガパァァ

メイド「……ふふふ、夜中にこの姿を見せた時のお嬢様の驚いた顔は忘れられません」

メイド「各部機能を独立。外部デバイスに接続し、データのバックアップを取ります」

メイド「前腕部、チェック」

メイド「上腕部、チェック」

メイド「脚部、チェック………」

…………
……

メイド「……頭部チェックは少し抵抗があります」

メイド「……」

メイド「頭部、チェック」キュゥゥ……


頭部を接続して電源が一時的にオフになる時、私はどこに存在しているのでしょうか。

黒い

黒い空間。
何もない空間。

私の思い出が、記録が流れる空間。
初めて電源を入れられて、あの一家と出会った日。
初めてのお仕事。
初めての失敗。
初めての……

初めての思い出が終わると、そこからは日常の思い出が溢れて来ます。

当然、あの日の事も。

私にはプログラムされていない事の起きたあの日。
私には、理解できない。
理解させてもらえない。

あの日からどれだけ経っただろう。
私は、休まない。
私は、休めない。

私は繰り返す。
それが無意味だと、意味などない事と知りながら。

メイド「……」キュゥゥン

メイド「……頭部チェック完了」


ポタッ


メイド「おや」

メイド「オイルでしょうか?」

メイド「……冷却水ですね」フキフキ

メイド「一体どこから……?」

メイド「……」

メイド「……アイカメラが曇っていますね」フキフキ

メイド「故障が近いのでしょうか」

メイド「……私はその日まで、全力を尽くすまでです」

メイド「さあ、お昼ご飯をつくりましょう!」

…………
……

~キッチン~

メイド「あら、食材がもうありませんね……」

メイド「……」

メイド「採りに行かなければいけませんね」

メイド「お肉が手にはいれば良いのですが……」

メイド「外部パーツを遠隔起動。玄関まで移動」ピッ

メイド「さて、照準が狂ってないと良いですね」

…………
……

メイド「外部パーツ接続」キィィイン

ガチャン、ガション、ウイイイイ、キリリリッ

メイド(戦闘モード)「接続、同期を確認」

メイド(戦闘モード)「メイド!行きます!」ゴッ!!

メイド(戦闘モード)「目標、湖」ゴォォォオ


メイド(戦闘モード)「腕が鳴りますね」ォォオオオン

「はぁ……はぁ」

「ああ……」ヘタ

「もうダメだ……」

「うう……シェルターから出るんじゃなかった」

「母さん……父さん……」

「はぁ……はぁ……」

「水が……飲みたい……」

「水……」

~湖上空~
メイド「目的地確認、着陸します」シュボボボボ

メイド「さて、早速釣りですね」ウィィィン

メイド「ソナー発信」ピコーーーン、コーンコーン……

メイド「近くに熱反応が……?」

メイド「温度35.8C°」

メイド「まさか……そんな」

メイド「外部パーツを一時的にパージ、温源へ向かいます」ガシャーン

メイド「……っ」タッタッタッ


メイド「ソナー発信」ピコーーーン、コーンコーン……

メイド「南南西、20mの場所ですね」タッタッタッ


メイド「大丈夫ですか!!」

「え……ああ……」

メイド「しっかりしてください」

メイド「介抱モードを起動、対象の状態をスキャンします」

「うう……」

メイド「全身の水分濃度が低下しています」

メイド「さあ、こちらをどうぞ……」ガチャン

パカッ

メイド「湿度調整機能用の水ですが、飲料水の基準はクリアしていますよ」

「あ、ありがとう……」ゴク…ゴクッ

「っ……はぁ……」

「あんたが天使に見えるよ……」

メイド「お褒めに預かり光栄です。体調は大丈夫ですか?」

「ああ……少し疲れているが、生死に問題はないと思う」


メイド「本来ならば、貴方の安全を考えて一刻も早く邸宅へお連れしたいのですが、ご主人様方の食事の食材を採りに来ておりまして……」

「ああ、構わないよ……僕も手伝おう」

メイド「いえ、体調のすぐれない方を働かせるのは道徳に反します」

メイド「ここでお休みになっていて下さい、すぐ終わらせますので」

「分かった、待ってるよ」

メイド「はい、それでは」タッタッタッ

「……綺麗だなぁ」ボソッ

……………
……


メイド「只今戻りました」

「随分早いね」

メイド「作業効率を普段の3倍にしましたので」

メイド「バッテリーの消費が早いのが難点ですが……」

「君はロボットなんだね」

メイド「はい、個人用二足歩行メイドA-1028型と申します」

「……メイドさんでいいかな」


メイド「お好きにお呼び下さい」

「分かった……僕は男。シェルターから出て来たんだ」

メイド「男様ですね、記録しました」

男「君のご主人達に迷惑にならないかな」

メイド「心優しい方なので、大丈夫だと思います」

男「そう願うよ」

メイド「では、ゆっくり参りましょう」

…………
……


~玄関~

メイド「ここが邸宅です」

男「大きいね」

メイド「はい、外観はすこし古ぼけていますが中はピカピカですよ」

男「それは楽しみだ」

メイド「それでは、中へどうぞ」

男「お邪魔します」


ギィィイイ

バタン


男「わあ」

メイド「まずはご主人様にお通ししますね」

男「うん、分かった」

コン、コン

メイド「ご主人様、行き倒れていた方をお連れしました。」


ガチャ、キィィ

男「お邪魔しています、この度は……」

男「え……?」

メイド「どうかなさりましたか?」

男「……」

男「君のプログラムに、死というプログラムはあるかい?」

メイド「いいえ、言語としてのプログラムはありますが、現象としてはプログラムされていません」

男「……分かった」

メイド「……認識はしております」

メイド「辞書などの情報を参照にした結果、一つの結論には至りました」

メイド「しかし、私は理解する事ができません」

メイド「認識しかできないのです」


男「……」

男「それで、今でも食事を作っていたのかい?」

メイド「ええ、それが私の務めですので」

男「……」

男「すこし失礼するよ」

ギュッ

メイド「……なんでしょうか」

男「僕の自己満足かもしれない。でも、今はこうしていたいんだ」

メイド「わかりました、私には対象し兼ねますが……」

男「じっとしていてくれたらそれでいい」

男「今までよく頑張ったね」ギュゥ

メイド「お褒めに預かり光栄です」

男「……」

メイド「……すこし、モータがむずむずします」

男「不思議だね」スッ

メイド「ええ、ここ数年不思議な事が起きるんです」

男「……お腹が空いたな、温かい食事をお願いできるかい?」

メイド「かしこまりました、5人分なので時間がかかるかもしれませんが、お待ちください」

男「いや、僕の分だけでいいよ」

メイド「ご主人様方を蔑ろにはできません」

男「……」

メイド「宜しければ邸宅内を散策なさって下さい」

メイド「……ご主人様方がいらっしゃいますが、皆様清潔ですのでお気になさらず」

男「……うん、分かった」

~広間~

男「……」

男(広いなあ……)

男「……!」

男(あのロッキングチェアに座ってる……いや、乗ってるのは……)

男(……女性物の服に編みかけの編み物)

男(奥様かな……)

男「……」ナム

男(綺麗な骨だな……だが)スッ

男「……やっぱり、細かい斑点が」

男「……」

~庭園~

男(少し蒸されるな)

男「……」

男(犬の骨か……)

男(犬には斑点は無いな……データ通りだ)

男「……」スゥゥ

男「薔薇の良い香り……」

男(デザインは……一世代前だが、美しい庭園だ)

~寝室~

男「……」ナム

男(この骨には……斑点が無い?)

男(別の死因があるのか……?)

男(いや、あのメイドが看病をしくじるとは思えない)

男(……なぜだ?)

男「……」

男「……併発か」

男「相当苦しかったろう、可哀想に……」

男「……」

~書斎~

男「うわ……図書館みたいだ」

男(窓際の机の上に……あれも女性か)

男(娘さんかな)

男(……この子は1番斑点が酷いな)

男(窓際みたいだししょうがないか)

男(……)

男(俺は、あとどれくらい生きられるのだろうか……)

「男様、いらっしゃいますか?」

男「あ、はい!」


メイド「こちらに居らしたんですね」

男「今、一通り散策し終えた所だよ」

メイド「まあ、食事の後に案内しましょうと思っていたのですが……」

男「あはは、次は案内つきでお願いしたいな」

メイド「では、そうさせていただきますね」

男「うん、それじゃあご飯を呼ばれようかな」

メイド「はい、こちらへどうぞ」スッ

今更気付いた
>>34

メイド「わかりました、私には対象し兼ねますが……」×
メイド「わかりました、私には対処し兼ねますが……」○

~広間~

男「いただきます」

メイド「はい、おあがり下さい」ニコッ

男「……」パクッ

男「ん!美味い!!」

メイド「お口にお合いして何よりです」

男「凄い美味しいよ!」パクパクモグモグ

メイド「……」ニコニコ

メイド「さ、私も食事をしてきますね」

男「充電かい?」

メイド「ふふ、正解です」

メイド「最初にお通しした部屋におりますので……」

男「うん、ありがとう」

メイド「では」ペコリ


メイド「……♪」

メイド「なぜでしょうか、電力の変換効率が凄く良いですね」

メイド「調子が良いことは良いことです」


カチャ、キィ、パタン


メイド「コネクタ展開」パカッ

メイド「接続……んっ……」プシュッ

メイド「電力供給開始」

メイド「いただきます」ビビビィィィ

メイド「……」

メイド「……♪」

~広間~

メイド「只今戻りました」

男「お帰りなさい、僕も丁度食べ終わったよ」

メイド「かしこまりました、お皿をお下げしますね」

男「ああ、そのくらい自分でやるよ」

メイド「いけません、私のお仕事が無くなってしまいます」

男「あはは、じゃあお願いしようかな」

メイド「かしこまりました」ペコリ

男「それと……洗い物が終わったら、少し話をしたいんだけど」

メイド「かしこまりました、紅茶はお好きですか?」

男「ん?好きだけど……」

メイド「では、洗い物が終わりましたらお持ちしますね。ゆっくりお話をしましょう」

男「うん、待ってるよ」

メイド「では」

男「うん」

~キッチン~

メイド「胸部展開」シュルシュル……カパッ

メイド「食器格納」カチャカチャ、パタン

メイド「洗浄開始」ウイイイイン、ブルブルブルブル

メイド「さささささささてててててて、、、こここここううううちちちちゃゃゃゃををををを」ブルブルブルブルブルブル

メイド「……」ブルブルブルブルブルブル

メイド「こここここううううちゃゃゃゃ」ブルブルブルブルブルブル、ゴォォォ

メイド「……」ザァァアッ、ザァァアッ

メイド「紅茶を淹れましょょょょううううううう」ザァァアッ、ブルブルブルブルブルブル

メイド「……」ブルブルブルブルブルブル

~広間~

男「……」キョロキョロ

メイド「お待たせしました」

男「ああ、はい」

メイド「紅茶はミルクとプレーンがございますが……」

男「ミルクでお願いするよ」

メイド「角砂糖は……」

男「3個お願い」

メイド「……はい、かしこまりました」

男「どうかした?」

メイド「いえ、坊っちゃまと同じ事をおっしゃるので……」カチャカチャ

男「それは、子供部屋の?」

メイド「ええ、聡明な方です」カタン

男「何か病気を?」

メイド「ええ……肺が弱く、よく血痰を」

男「喘息かい?」

メイド「いえ……原因不明です」

男「そうか……」

男「それじゃあ、お話しようか」

メイド「はい」

男「まず、君はペストを知っているかい?」

メイド「はい、存じております」

男「それじゃあ黒斑菌については?」

メイド「黒斑菌……ですか」

メイド「データベースには存在しません」

男「……」

男「……君がご主人の死を認識したのはいつ頃?」

メイド「さあ……明確な記録はメモリを消費しますので、古い不要な記録から削除しております」

男「それじゃあ、君がご主人に仕え始めたのは?」

メイド「116年前です」

男「……」

メイド「ああ、この年数から逆引きすれば先程の答えを求める事が可能ですね」

メイド「最期に命受けたのは訳99年ほど前になります」

メイド「なので……恐らく認識したのは100年ほど前でしょう」

男「100年……」

メイド「疑問はありました」

メイド「毎月更新されるはずのデータベースの更新がストップしていましたので」

メイド「そうですか、あれから100年も経っていたのですか……」

男「その間ずっとこの屋敷を?」

メイド「はい」

男「辛くはなかったの?」

メイド「人間の感情はわかりません。ただこの邸宅を綺麗に保ち、ご主人様方の身の回りのお世話をさせて頂くのが私の役目ですから」

男「……」

メイド「所で、先程仰られた黒斑菌とは何なのでしょうか」

男「終末を招いた菌の名前だよ」

メイド「終末……」

男「人類が作り出した最狂最悪の生物兵器……それが黒斑菌さ」

メイド「詳しくお願いできますでしょうか」

男「うん、僕も歴史として認識しているだけだからあまり詳しくはないけれど……」

男「終末が訪れたのは訳90年前。一発のミサイルからだった」

男「どこからか発射されたそのミサイルは、衛星軌道上を周回し、次々に衛星を破壊した」

男「地上は混乱し、情報が錯乱した」

男「そして、衛星を破壊し終えたミサイルは当時のロシア上空で爆発。消滅した」

男「しかし、その数ヶ月後。ロシアで大量の疫病感染者が続出」

男「当時、原因は不明。致死率は100%だった」

男「ロシアから始まり、継いでアメリカ、ロシア、中国……」

男「次々に感染者が現れ、世界中がパニックに包まれた」

男「そんな中、日本だけは感染をまのがれていた。島国だったし、検疫も厳しかったからね」

男「でも、約100年前。ついに日本に初めての感染者が現れた」

男「そこからは……もうあっという間さ」

男「感染しなかった者はとにかく菌を寄せ付けないコロニーを作った」

男「シェルターと名付けられなそのコロニーで押し込められた生活を始めたんだ」

メイド「……シェルター」

男「僕はそのシェルターで生まれて、育ったんだ」

男「人間を、人類を滅ぼした菌」

男「それが黒斑菌なんだ」

男「そうそう、黒斑菌は人間にしか効かない菌でね」

男「熱心な宗教家は神の裁きだと言っていたよ」

メイド「……」

??ミサイルが爆発したのが90年前なのに日本に感染が拡がったのが100年前?

間違い?それともミサイルと感染は別物?

>>61
ごめんなさい、その数字は逆ですね

100年前、ミサイルが爆発し
日本では90年前に感染が拡大しました

メイド「……男さんは、ご主人様方が黒斑病で亡くなられたと言いたいのでしょうか」

男「そこなんだ。ひっかかっている点がある」

男「日本で感染が広がったのは90年前」

男「でも、骨を見る限りこの一家は100年前に黒斑病で亡くなっているんだ」

男「それを、解明したくてね」

メイド「では、当時の残っているデータをロードします。何が手がかりがあるかもしれません」

男「うん、よろしく」

メイド「……」ウィィィ

男「……」

メイド「……明確な年数表記は残っていませんが、過去にご主人様に対して来客がありました」

メイド「私が対応させていただいたのですが、突き飛ばされて侵入された記憶があります」

男「……怪しいね」

メイド「音声記録を解析。お部屋から聞こえていたご主人様と侵入者の会話を復元します」

メイド「……」サァァァア


メイド「『……て、いつ……』」

メイド「『かえ……そんな……』」

メイド「『家族……か?』」

メイド「『…………』」

メイド「『わ…た……』」

メイド「『……むよ』」

メイド「不鮮明ですが、以上です」

男「言い争ってるようだね」

メイド「ええ」

男「家族って単語があったけど、それを言ったのはどっち?」

メイド「恐らく侵入者です」

男「なるほど……」

男「ご主人は何かを頼まれていたね」

メイド「ここから数日間のデータを解析します。少々お待ちください」ウイイイイン

男「……」

メイド「……ご主人様は、侵入者が帰った後に私にコーヒーを要求しました」

メイド「その日から指定の部屋に毎日10時、15時、20時、27時にコーヒーをお持ちするよう言われました」

メイド「お部屋にコーヒーを持っていくと、いつも悲しそうな表情をして必死に作業をされていました」

男「作業とは?」

メイド「無菌ビニルで部屋を覆い、ご主人様自身も防護服のような物を着て、顕微鏡を覗かれていました」

男「……大体、分かったよ」

メイド「男様は聡明ですね」

男「ありがとう」

男「ご主人が作業していた部屋に案内してくれるかい?」

メイド「かしこまりました」

~作業部屋~

メイド「この部屋は立ち入りを禁止されていましたので、恐らく相当汚れていると思われます。お気をつけ下さい」

男「うん、分かったよ」


ガチャ、キィィ


男「これは……」

メイド「……!」ウィンィィ

男「……」

男(巨大な顕微鏡に様々な器具)

男(間違いない、黒斑菌はここで生まれたんだ)

メイド「男様……」

男「なんだい?」

メイド「黒斑菌はここで生まれたのですね」

男「……そうだね」

メイド「ご主人様は……世界を滅ぼした方なのですね」

男「……そう、なるかな」

メイド「……」

男「悲しいかい?」

メイド「今、ロックのかかっていた記録が解放されました……」

男「……」

メイド「先程お話しした侵入者が再び訪ねてきた後、ご主人様は何かをお渡しになられました」

メイド「侵入者は家を出た後、空いていた窓にご主人様から渡された物の中身を放り投げました」

メイド「私がそれを片付けに行くと、それを見たご主人様が膝から崩れておられました」

メイド「ご主人様は私に謝罪をした後、全てをお話下さいました」

メイド「自分がこれから世界を滅ぼす事」

メイド「家族を巻き込む事」

メイド「そして、ワクチンの事」

男「!!!」

メイド「全てをお話下さった後、激しく涙を流されていました」

メイド「家族のために、家族を守るためだったのに」

メイド「ちくしょう、ちくしょう」

メイド「そう仰られていました」

男「ワクチンは!?」

メイド「その日から、ご主人様はワクチンの制作にとりかかったようです」

メイド「この部屋にずっと籠り、作業をなさっていました」

男「……他の家族は?」

メイド「まず、奥様が体調不良を訴え、次にお嬢様、そして坊っちゃまでした」

メイド「激しい倦怠感と全身の痛みでその場を動けず、私が触れようとしても拒まれました」

メイド「私はなす術なく、苦しむ皆様を眺めるだけでした」

男「まって、坊っちゃんも?」

メイド「ええ」

メイド「坊っちゃまは、2日苦しんだ後に私を呼ばれました」

メイド「『持病にこの謎の病気、僕はもう十分苦しんだ。君の手で、僕を楽にしておくれ』」

メイド「そう仰られました」

メイド「そして……私は……私が……」

メイド「……」

男「いい、もう言わなくていい」

男「……そして、皆死んだのか」

メイド「ええ、恐らくそうです」

メイド「この部屋から出て来られた時のご主人様の顔が忘れられません」

メイド「ワクチンが出来た、と地面を這うように出て来られたご主人様に全てをお伝えすると、旦那様は暫く固まっていました」

メイド「そして、そのまま私にワクチンの説明をされ、最後にそれを守り切るために私の記録にロックをかけました」

男「……世界に、ワクチンを配布する事はできなかったのかな」

メイド「ご主人様は、もう意識が殆ど無い状態でした」

メイド「きっともう、正常な思考はできなかったのでしょう」

男「……」

メイド「ワクチンは、こちらに」ピッ


プシュゥン


男「これが……」

メイド「男様、お使い下さい」

男「え?」

メイド「男様の挙動を計算させていただきました。発病直前の奥様やお嬢様の挙動と95%一致しています」

メイド「ご自分でも、分かっていらしたのでしょう?」

男「……」

メイド「ワクチンは1gあれば量産可能です。ご心配なさらずお使い下さい」

男「それじゃあ……」

メイド「注射器をご用意致しますね」

メイド「上腕展開」カパッ

メイド「ワクチンをこちらへ」

男「うん」

メイド「……」ゴクゴク

男「え、ちょ!」

メイド「何か?」ウィンウィンウィン

男「ああ、そこから補充するのか……びっくりしたよ」

メイド「ふふ、男様は楽しい方ですね」

メイド「さ、腕を」

男「……」スッ


プス
チューーッ


男「う……」

メイド「はい、終わりました」

メイド「ワクチンの量産を開始しますね」

メイド「そちらのベッドで横になられてお待ちください」

男「うう……」

男(凄い倦怠感だ……黒斑病はもっと酷いのか……)ヨロヨロ


ドサッ


男「は………ぁ」

メイド「……」テキパキ

メイド「……」ポロ

メイド「……」ポロポロ

メイド「何でしょう、冷却水が漏れます」フキフキ

メイド「故障でしょうか」ポロポロ

メイド「何故こんなにご主人様方の記録が出てくるのでしょうか」ポロポロ

メイド「何故でしょう」フキフキ

メイド「ワクチンを……作らなきゃ」ポロポロポロ

メイド「………うぅ」ポロポロポロ

………………
……



「そして、量産化したワクチンは世界中のコロニーへと運ばれましたとさ」

「へぇー!男って人、凄いんだね」

「ええ、それはもう」

「自分の命と引き換えにワクチンを探しに来たのですから」

「かっこいいなぁ」

「このお話しは、きっと学校で習いますよ」

「えへへ、じゃあ僕は皆より進んでるんだ」

「ふふ、そうですね」

「さあ、そろそろ暗くなってきましたよ」

「夜の森は危険です、早いうちにお帰りなさい」

「えー……」

「仕方のない子ですね、お家まで送ってあげますよ」

「えへへ、ありがとう!」

「ねえ、もっとお話しして?」テクテク

「そうですね……」スタスタ

「ねえ、なんでお姉ちゃんはそんなにもの知りなの?」

「それは、私は長い間働いていますので」

「どのくらい?」

「そうですね、200年ほどでしょうか」

「200年!!」

「ふふ、ほら、そろそろお家ですよ」

「……うーん」


サァァアアア


「風が気持ちいいですね」

「あー!嘘なんだー!、お姉ちゃんロボットだからわかんないはずなのにー!」

「あら、ばれましたか」

「うふふ、お姉ちゃん面白い」

「お褒めに預かり光栄です。さあ、お家へお入りなさい、私は用事が済んだら戻りますので」

「うん、わかった!また後でね!」タタタ

「ええ、また後で」






「……風が気持ちいいですね」



「ねぇ、男様?」






おわり

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