ペリーヌ「2人のベッド」【ストパン】 (29)

個室をもらえることになったのは、少し前のこと。
改装が進んで一部屋空けることができたとおっしゃる中佐に、構わない旨を申し上げると、

「501は501なんだけど、尉官と下士官が相部屋というのも、ちょっとね……」

と、やわらかくたしなめられた。




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同室の同僚達に伝えると、さも残念そうに眉をハの字にする豆狸と、怒られたような表情を浮かべるリーネさん。
宮藤さんには「清々しますわ」と、リーネさんには「こんな些細なことで移ろう関係ではありませんわ」と言って、荷物を移し替えた。

独りの時間が欲しかったのは正直なところ。
同年代とはいえあの子達は、誰かといる時間と独りでいる時間が、まるで砂糖とコーヒーのように引きたて合うことを、まだ知らないんですのね。

……とはいえ、誰の寝息が聞こえることもない部屋が、寂しく感じられたのは事実。
それはそんな時期のこと。
あの躾の悪い黒狐が、ベッドに潜り込んでくるようになったのは。


※ストライクウィッチーズのSSです。
※だいたい5000字ぐらいです。
※地の文有りなので苦手な方は……
※エイラとペリーヌがものっそ仲良いです。

よろしければ少しの間お付き合い下さい。

「よっ、ペリーヌ。来てやったゾ」

「………」

「おーい、ペリーヌ。起きてんだろ?」

「……なんですの、エイラさん。もう消灯時間は過ぎてましてよ」


真っ黒なモザイク画のように見える、入り口の方へと目を凝らす。
そこにはボウと浮かんでいる、白い影。

……手に取れる位置にある眼鏡をとって、もう一度そちらを見やる。
月明かりに照らされて彼女のプラチナブロンドが、少しだけ輝いた気がした。


「いやお前、いっつもそれ言うよな。なんか意味あんのか??」

「言外に、今日こそ追い返したいという気持ちが伝わりませんの?」

「まあそうツンツンすんなよ、ツンツン眼鏡」


そう言って彼女は、ニシシと悪びれもせず笑う。
どうしてだろう。
この情景を見るたびに、誰の画風と近いだろうかなんて考えてしまうのは。


「ツンツン……明日にでも大尉にお話を――」

「オイオイオイ、大尉はマズいだろ……」


そう言いながら歩いてくる彼女は、ベッドを回り込んで躊躇なく縁に腰かける。
カーテンを降ろさなくなったのは、彼女が手持ち無沙汰に引っ張ったりするからかもしれない。


「大尉はさ、普通に怒られてもメンドーだけど、顔を赤らめながら、寂しいなら姉代わりとしてだな、とか言い出しかねないダロ……」

「ふふっ、違いありませんわね」

「あ、笑ったな~、ペリーヌも同罪だかんナ」

「はいはい」


そんなことを言っているうちに、無遠慮にもぞもぞと入り込んでくる。
彼女の冷ややかな肌が私の腕にふれて、思わず引っ込めてしまう。


「もうっ、狭いですわよ! あんまり寄らないでくださいまし」

「いや、こんな広いベッドで、狭いとかあり得ないだろ……」


彼女がやってくるのは、夜間哨戒について行かず、疲れも溜まっていないたまの日のこと。
……あの宵っぱり娘がいない、そんな夜だけ。


「フフフ、ペリーヌ~、寂しかったんじゃないのか~??」

「誰がですの、ってもう、ひっつかないでくださいましっ」


彼女はベッドに侵入するに飽き足らず、寝たままこちらににじり寄ってくると、ピッタリと身体をくっつけてくる。
自然に肩と肩がぶつかって、腕が寄り添うようにのびて……その先で私たちは、手を重ねる。


「そう言いながら手をつなぐツンツン眼鏡なんダナ」

「はあ……もう慣れましたわ。それで、今日はどうしたんですの?」


だけど勘違いしてはいけない。
これは彼女一流の、ちょっと度を越えたスキンシップ。
きっとふざけて身体にふれたりするのと、そう変わらない。


「うぅ、それがさぁ、聞いてくれよ~。サーニャがさぁ~……」

「はいはい、サーニャさんが?」


間近で見る彼女の頬は、北欧人らしい雪を散らしたような白色で、手を伸ばしたくなるようなツヤがある。
けれどその目は優美とは違って、いたずらっ子のような丸い形だ。
今は本人の哀しい気持ちを表して、うるうると雫を湛えてはいるけれど、その活発な印象は変わらない。


彼女の愚痴はいつも……そう、友達というひいき目を加えても、やっぱり大事とは思えない内容だった。
今朝はベッドに入ってこなかったとか、ハルトマンさんの方が好きなんだとか、タロットの結果が悪かったとか。


「う~、いったいわたしはどうすればいいんダ~……」

「はぁもう、そんなに不安がることありませんわ。ただ座りが悪かったんですわよ」

「でもよぉ~、テーブルで並んでる時も、こっちはちょっとでも近づきたいのに、ガタッてズラされさぁ~……」


………
呆れた。

別にこんな風にあくせくしなくとも、あの宵っぱり娘も彼女を悪からず思っていることは当たり前のことなのに。
けれどそれを指摘したところで、やっぱり彼女はどこからから不安の種を持ってきて、それに丁寧に水をやり、芽が出た花が咲いたと騒ぐのだ。
ほんと、困った人。


「はいはい、大丈夫ですわよ。大丈夫。エイラさんのこと、サーニャさんが嫌いなわけありませんわ」

「うぅー、ほんとかよ~?」

「ええ、本当ですわ。ほら、撫でてあげますから、元気だしなさい」


そう言って私は、彼女の細い髪の毛に指を通す。
そしてゆっくりと、ゆっくりとすいてゆく。
……このときいつも、ちょっとおっかなびっくりなのは内緒だ。


「クソ~、ツンツン眼鏡のくせに~……」

「はいはい、言ってなさい」

「ぐぬぬ……」


唸っている彼女を無視して、そのまま撫で続ける。
気恥ずかしいのか、こちらから顔をそらして彼女は、枕元のほうへと目線を向けている。
その様子は私の心の真ん中を温かくして、とても幸せで……けれど、どうしてか痛みをともなうのだった。


「ふふ♪」

「む~……えーい、こうだ!」

「わっ、きゃっ、何をするんですの?!」

「へっへ~、生意気なツンツン眼鏡はぁ……こうだ!」


彼女は急に身体を持ち上げると、それをそのまま私の胸のあたりにすとんと落としてくる。
重さはあまり感じない、けれど彼女は私より大きいわけで……。
見事に身動きを封じられてしまった。


「ほーれ、おかえしダー」

「ちょっ、やめっ、もう、癖がつくからやめてくださいまし!」

「やーだよ。それにこの、ちょっと指に残る感じがいいんだって」

「もう……」


彼女の指が、私の髪の根本あたりをすいてゆく。
私の髪はくせっ毛で、指通しがいいとはいえなくて、それがすごく恥ずかしい。
そうでなくとも、いま彼女の顔が目と鼻の先にあるわけで、彼女の首のあたりが目前に迫っていて……それで下の方に目を逸らしたら、彼女の胸元に目が行って、赤面するのを感じる。


「……私の髪、あまり撫で心地がよくありませんでしょ?」

「ん、そーかぁ? あんまり考えたことないな」

「くせっ毛ですもの……」

「あーなー。サウナなんかだと、確かにゴワゴワしてるよな」


彼女は合点がいったという表情で、ウンウンと頷いている。
それはそれで気分がいいわけではなく、私も少しばかり憮然とした表情を表に出してみる。


「はは、そうふくれんなってペリーヌ。風船みたいダゾ」

「むー……」

「……ペリーヌの髪、私は好きだぞ。なんか綺麗で繊細なのに、実はしっかりとしてて、貴族みたいだなって思う」

「えっ?……」

「あ、そーいや貴族だったな、ってのがオチなんだけどサ。あんま気にスンナヨ。モワモワってしてるときのペリーヌも、けっこう悪く無いゾ」


………
もう、この黒狐は。
時々彼女は、いつか誰かに泣かれるんじゃないかってくらい、心に入り込んでくるようなことを言う。
たぶんそれは無意識で、自覚はないのだろうけど……だからこそタチが悪い。
あの宵っ張り娘の前でもこれを通せれば、もう少しうまくいくんでしょうにね。


「ほら、なんて顔してんだよ、もう。眼鏡とっちまうぞ、ペリーヌ」

「あ、ちょっと乱暴に……」

「へへっ、ペリーヌ~♪」


彼女は私の眼鏡を取り上げると、それをひょいと遠くの方へと置いてしまう。
その扱いに抗議をしようとした私の口のあたりに向かって、彼女の顔が落ちてくる。


「ふふ、あいかわらずスベスベだな~♪」

「ああ、もう、いつもいつもあなたは」

「なんだよー、これでも親愛表現だぞ?」


ふれあう頬と頬。
いつもそうなのだ。
彼女は油断をすると私の眼鏡をとってしまい、そして頬をすり寄せてくる。

ひんやりとした柔らかい感触。
私は心臓の音が彼女に伝わるんじゃないかと、本当は気がきじゃない。

「はー、和む~♪ やっぱ疲れた時はこれに限るな~」

「人をなんだと思ってますの?」

「んー? ペリーヌは和まないのか~?」

「……それは、和みますけど」


人肌には癒し効果があるんだぞと、彼女がお決まりの講釈を垂れている。
私はどうして彼女がこれをするのか、全く理解ができなかった。
頬ずりのたびに感じる、彼女の確かな感触。
体温。

……人の気も知らないで。


「そーいやさー、今日もサーニャの話を聞いてもらったけど、ペリーヌはなんかないのかよ?」

「何か……とは、なんですの?」

「とぼけんなよ~。坂本少佐~、少佐~、って、いっつも言ってるダロ?」


それはまあ、そうですけど。
でも今は……


「そうですわね……まあその、相談することでもありませんし」

「なんだよー、冷めたのか?」

「そんなことありませんわ」

「じゃあ、なんなんだよ?」

「その……恋と憧れの違いに、気づいたといいますか」

「ほ~」


彼女のにやにや笑いが目の前で広がる。
おおかた、からかいの種ができたと思ってるんでしょうけど。


「なんだなんだ、ツンツン眼鏡もついに恋に落ちたか~?」

「そういうわけではありませんわ。ただ、心境の変化といいますか」

「なーんだ、つまんねーの」


私は何も悟られることのないよう、理性を総動員して平然と答える。
そう、あくまで少し大人になったから。
そんな風に聞こえるように。


少し間が空く。
夜の帳がさっと身近になって、風の音が耳に入ってくる。


「ん……」


彼女は少し思案すると、くるりと身体を回して、私の胸のあたりを枕にして寝転がった。
最初はとても恥ずかしかったこれも、今では少し慣れてしまった。
あいかわらず高鳴る胸の音だけは、心配でしょうがないですけれども。


「ペリーヌ……」

「何ですの?」

「……お前、やっぱ胸ちっさいよな」


………


「……トネール、、、」

「わ、冗談冗談! 本気で怒んなよ!」

「……冗談ですわ」

「は、ふぅ……」

「でも淑女に身体のことであけすけに言うなんて、冗談じゃありませんわよ」

「まぁそういうなよ。寝心地はいいぞ」

「はぁ……本当に、冗談じゃありませんわ」


そう言ってから2人とも黙りこむ。
眠気があたりを満たし、1日が終わっていくのを感じる時間。
そしてもう1つ確かに感じるのは、冷ややかな彼女の素肌の奥に隠された、確かな体温。


「……ペリーヌ?」

「……何ですの?」

「私さ、不安なんだ……」

「……そうですの」

「………」

「………」


眠りに落ちそうだった。
だからきっと油断した。
彼女がそれを言った瞬間に、私は何も身構えていなかったのだから。


「なあペリーヌ……」

「なんですの?」

「お前が……サーニャだったらなぁ」









「もう、部屋にお戻りなさい」

「ん、そうかぁ?」

「言ってることがむちゃくちゃですわ。きっともう眠いんでしょう」

「……ペリーヌが寝たら、戻るさ」


そう来ますの。
彼女は部屋に戻らなくてはいけない。
だってサーニャさんが夜間哨戒を終えて、帰ってくるのですから。

あの子が帰ってくる部屋に、彼女はいなくてはならない。
それが2人の絆の形だから。
だから彼女は、私の部屋で起床の時まで眠らない。


「じゃあ寝ますわよ。明日も早いんですから」

「ん、そうだな……」

「お休みなさいませ」

「お休み」


目を瞑る。
けれど彼女は帰らない。
彼女は本当に、私が眠らないうちには帰らないのだ。

それが何の主義かは分からないけれど、私は少し嫌がらせをすることにする。
あんなに酷いことを言ったのだから、当然だと思う。
だから私は寝ぼけたふりをして、今は横に眠る彼女の腕を、離れないようにと、強く抱き締めながら眠った。




・・
・・・
・・




チリリリリリリリリリリリ………

耳慣れない音で目が覚める。
けれど全く知らないわけじゃなく、ぼやけた視界の中に眼鏡を探す。
あった。
そして音の所在は……


「……あのですね。人をこんな時間に起こすの、やめてくださらない」

「……えへへ。悪いナ」


それは彼女が持ち込んだ懐中時計だった。
彼女はもちろん、サーニャさんが帰る前に部屋に戻る。
だから普段は夜の内にここを出て行くのだが、こうやって保険をかけているというわけだ。


「だってペリーヌ。私の腕を抱き枕にしやがってよ、出られなかったんだよ」

「まあ、そうなら仕方……なくないですわ。そもそも夜中に相手をさせられてるんですから」

「なんかお前その言い方、エロいな」

「まっ……!」


日の出とともにサーニャさんは帰ってくる。
起床時間は早いとはいえ、まだもう一眠りしたくなるようなこの時間で、起こされる方はたまったものじゃない。
けれどまあ、これも自分が招いているとも思えば、そう強くも責められませんけど。
……だって、日の出までは一緒に居たいじゃないですの。


「ふぁ~……さって、私は部屋に戻るな」

「はい、ではまた後で」

「そだな。今日はネウロイも来そうだし、忙しくなるかな~……」


そういって彼女は身軽な動きで起き上がると、入り口の方へといってしまう。
カーテンの隙間から吹き込んでくる朝日に照らされて、彼女の背中がいっそう白く見えていた。
それはやっぱり、とても綺麗な光景だった。
思わず上体を起こして、目で追ってしまうくらいに。


「んじゃペリーヌ、またな~」

「もう来ないでくださいまし」

「またまたそんなこと言って、ホントは寂しいんだろ」

「誰がですの」

「ははっ、んじゃな~」


そう言って彼女は最後に笑みを浮かべると、そっと扉を開けて廊下へと出て行く。
壊れ物を扱うように扉が閉められると、部屋には静けさが舞い戻ってくる。

………

今度はいつ、彼女はやってくるのだろう。
早く来て欲しい。
いやもう、来て欲しくない。

私の気持ちは裏腹で、どうしていいかも分からず、ただ私は膝をぎゅっと抱きしめて、感情が溢れてしまわないよう抑える。
この気持ちをどこへやればいいのだろう。
この関係を壊したくない。
けれども、分かって欲しいこの気持ち。

………

それは、黒狐の気まぐれによって起こされる、たまの夜のこと。
あの宵っ張り娘とではない、私と彼女の――

2人のベッド。

これで終わりです。

最近“三期アルマデ”の人がストパンSSを書き続けているのを読んで、自分も挑戦してみたくなりました。
読んでくださった方、ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年09月13日 (土) 12:52:23   ID: BdUc1Qin

いやはや素晴らしいね

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